忘年会の帰り道、酔って転んで骨折! これって「労災」?

1 忘年会の帰り道は「通勤」といえるのか?

12月に入り、いよいよ忘年会という会社も多いでしょう。1年の締めくくりということで、ハメを外す社員は少なくないかもしれませんが、もしも社員が

「忘年会の帰りに転んで骨折しました……。これって労災(労働災害)ですよね?」

と言ってきたら、経営者や労務担当者の皆さんはどう返しますか? 

通勤に伴う労災のことを「通勤災害」といいますが、

「そもそも忘年会の帰り道って『通勤』なの? 仕事をしているわけでもないのに。でも、会社のイベントではあるな……。じゃあ、通勤か?」

と、いろいろ疑問が湧いてきて、答えに困ってしまうのではないでしょうか。

労災になるかどうかの判断は、慣れないとなかなか難しいものです。とはいえ、安易に「労災じゃないから、健康保険で治療してよ」などと発言すると、「労災かくし」として違法になってしまうこともあります。やはり、基本的なルールは押さえておきたいところです。

この記事では、通勤災害の基本ルールを5つのポイントから整理し、判断に迷いやすいケースをクイズ形式で解説します。

2 「通勤」と認められるための5つのポイント

通勤災害は、社員が「通勤」に伴い被災した場合に認められます。通勤に当たるかどうかの判断のポイントは5つあります。

1)「就業に関して」行われる移動であること

「就業に関して」とは、その移動が仕事と密接に関係しているということです。被災当日に就業することとなっていたこと、または現実に就業していたことが必要です。通勤ラッシュを避けるための多少の早出や遅刻など、合理的な範囲の変動は問題ありません。

2)「住居」と「就業の場所」の間の往復であること

「住居」とは、社員が実際に生活し、就業の拠点としている場所です。自宅の他、単身赴任先のアパートや、天災や交通事情でやむを得ず宿泊したホテルなども含まれる場合があります。「就業の場所」とは、業務を開始・終了する場所を指します。営業担当者が直行・直帰する場合などは、「最初・最後の訪問先」が就業の場所になります。

3)「合理的な経路・方法」での移動であること

「合理的な経路・方法」とは、一般的に利用される通勤ルート(電車・バス・自転車・自家用車など)で移動し、著しい遠回りや危険な経路をとっていないということです。天候や交通事情により一時的に迂回する場合など、やむを得ない範囲であれば合理的と認められます。

4)「逸脱・中断」がないこと(または例外に該当すること)

「逸脱」とは通勤経路を外れること、「中断」とは通勤途中で通勤に関係のない行為をすることです。逸脱・中断をしている間と、その後の移動は原則「通勤」と認められません。

ただし、通勤途中の公園でたばこを吸う、缶ジュースを購入して飲むなどの「ささいな行為」は逸脱・中断には当たりません。また、次の日常生活上必要な行為は、逸脱・中断には当たるものの、通勤経路に戻った後の移動が例外的に「通勤」と認められます。

食事・日用品の購入、職業訓練や学校教育への参加、選挙の投票、病院・診療所での受診、家族など要介護者の介護 など

5)「業務の性質をもつ行為」は通勤災害ではなく業務災害に

1)~4)のいずれかに当てはまっている場合でも、会社の指示で移動している場合(例:休日呼び出し、会社の車で出勤中など)は、通勤ではなく業務そのものの一環と判断され、「業務災害」として扱われます。どちらに該当するかは、指揮命令の有無で区別されます。

ここからは、実際によくあるケースを通して、クイズ形式で理解を深めていきましょう。

3 ケース1:忘年会の帰り道、酔って転倒したら?

1)クイズ

鈴木さんは、オフィスでの業務を終え、会社の忘年会に参加しました。参加は自由、費用は会費制(参加者の自己負担)です。忘年会が終わった後、鈴木さんは家に帰ろうとしましたが、帰り道の途中、駅の階段で酔って転倒し、足を骨折してしまいました。さて、これは通勤災害になるでしょうか?

A:会社のイベントの帰り道だから、通勤災害になる

B:業務とは関係ないから、通勤災害にならない

2)答え:B

通勤災害は、「住居」と「就業の場所(業務を開始・終了する場所)」の間の往復をしていないと成立しません。忘年会が業務であれば、その会場も「就業の場所」になり得ますが、実際は「参加が強制」「参加しない場合、社員に不利益がある(人事評価など)」といったケースでなければ、業務として認められる可能性は低いです。鈴木さんが参加した忘年会は、自由参加で、費用も自己負担ですからなおさらです。

【社労士からのアドバイス】

  • 飲み会の参加が任意か、実質的に強制だったかを確認しましょう
  • 忘年会や懇親会などの社内イベントでは、「参加の自由度」「業務との関連性」を明確にしておきましょう

4 ケース2:出勤前にコンビニに寄って転倒したら?

1)クイズ

佐藤さんは出勤前に、駅前のコンビニに立ち寄り、5分ほど滞在して肉まんと温かいお茶を購入しました。しかし、店を出たところで通行人とぶつかり、転んで手をついた瞬間に手首を骨折してしまいました。これは通勤災害になるでしょうか?

A:最小限度の必要な寄り道だから、通勤災害になる

B:寄り道をしているから、通勤災害にならない

2)答え:A

通勤途中の日常生活上必要な行為(食事・トイレ・ATM等)を、最小限度の範囲で行う寄り道は、通勤の一部として扱われやすいです。今回のように、5分程度・経路上の店舗での購入は合理性が高いといえます。

【社労士からのアドバイス】

  • 所要時間が短時間か、立ち寄り先が経路上かをメモで残しましょう
  • 長居(カフェで30分等)や別駅までの移動は逸脱と判断されやすいです

5 ケース3:終電を逃してタクシーで帰宅中、事故に遭ったら?

1)クイズ

神谷さんは、残業が長引き終電を逃したため、タクシーを使うことにしました。しかし、タクシー乗車中に後ろから追突される事故に遭い、首を強く痛めてしまいました。これは通勤災害になるでしょうか?

A:残業でやむを得ずタクシーを使ったのだから、通勤災害になる

B:電車が本来の通勤手段なのだから、通勤災害にならない

2)答え:A

業務都合で終電を逃した場合のタクシー利用は、合理的な経路の変更として扱われやすいです。ちなみに、私的理由(飲酒等)による終電逃しは通勤から逸脱しているとみなされるので、その帰り道の事故は通勤災害の対象外です。

【社労士からのアドバイス】

  • 勤怠記録・残業命令の有無を確認しましょう
  • 帰宅目的で直帰しているか(寄り道なし)を社員にヒアリングしましょう

6 ケース4:休日、会社に忘れ物を取りに行って転倒したら?

1)クイズ

青木さんは、会社に自分のノートパソコンを忘れたことに金曜日の夜に気づきました。土曜日は休日ですが、青木さんは翌朝、いつもの通勤ルートで私物を取りに会社へ向かう途中に、自転車で転倒してけがをしてしまいました。これは通勤災害になるでしょうか?

A:会社への行き来だから、通勤災害になる

B:休日だから、通勤災害にならない

2)答え:B(原則)

私的目的の移動は通勤になりません。ただし、「月曜までに資料を仕上げてくるように」といった会社からの指示があるなど、業務上の必要性が明確なら、通勤災害になることがあります。

【社労士からのアドバイス】

  • 忘れ物が業務必需か、指示・承認の有無を確認しましょう
  • 会社から指示があった場合、日時・経路を記録しましょう(チャット・メールの保存)

7 ケース5:子どもを保育園に送っていて事故に遭ったら?

1)クイズ

南さんはある朝、いつも子どもの送迎をしている妻が体調を崩したため、いつもの通勤経路から外れ、自宅から少し離れた保育園に子どもを預けに行きました。そのまま会社へ向かう途中で、自らの不注意から事故に遭ってしまいました。さて、通勤災害になるでしょうか?

A:子どもの送迎のために通勤経路を変更するのは合理的であり、通勤災害になる

B:いつもの通勤経路から外れているので、通勤災害にならない

2)答え:A

子どもの送迎や親の介護など、家庭の事情により通常の経路を一時的に変えることは、その人にとってやむを得ない、現実的な行動といえます。共働き家庭で、他に子どもを預ける手段がない場合、保育園に立ち寄るルートは「就業のために必要な経路」と判断されるのが一般的です。

【社労士からのアドバイス】

  • 通勤経路の申請用紙に「保育園・託児所・介護施設への立ち寄り」の欄を設けておき、定期的に「通勤経路の確認・更新」を行いましょう
  • 事故が起きた際は、「合理的な理由の有無」「経路の実態」をヒアリングし、通勤災害として労災申請の検討を行いましょう
  • 事故が発生したときは、「どこで・何のために経路を変えたのか」を具体的に記録しておくと、判断がスムーズになります

8 ケース6:在宅勤務中、郵便物を出しに外出して転倒したら?

1)クイズ

木村さんは在宅勤務中、取引先へ書類を郵送するために郵便局へ向かいました。しかし、雨に濡れた地面で足を滑らせて、けがを負ってしまいました。これは業務災害、通勤災害どちらに該当するでしょうか。

A:業務災害になる

B:通勤災害になる

C:どちらも対象外

2)答え:A(原則)

在宅勤務の場合、「どこからが通勤か」が曖昧になりやすいです。このケースでは、業務の一環として就業時間中に外出しているので、通勤ではなく業務とみなされます。なお、終業後に投函して直帰するパターンは、通勤災害の余地があります。

【社労士からのアドバイス】

  • テレワーク規程に業務外出の連絡・承認・記録を明記しましょう
  • 目的(業務/私用)と時刻(就業中か就業後か)を区別しましょう
  • 在宅勤務のルールを明確化し、「外出時の連絡・記録方法」を定めておくことで、認定トラブルを防ぐことができます

以上(2025年12月作成)

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画像:Gemini

なぜ「いい人材ほど」あなたの会社を選ばないのか?

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「ストレスを感じたらお酒や甘いもの、買い物で発散する」という人も多いだろう。けれど、これらは一瞬は心地よくなるものの、長期的には状況を悪化させるおそれがある。日々忙殺されてストレスを解消する暇がないと思っている人にこそ読んでほしいのが、『瞬間ストレスリセット――科学的に「脳がラクになる」75の方法』(ジェニファー・L・タイツ著、久山葉子訳)だ。

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「年末ギリギリに買って失敗…」NISAでやりがちな“落とし穴”に注意!

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【書籍ダイジェスト】『伊藤忠 商人の心得』

本書では、伊藤忠商事の現会長兼CEOを務める岡藤正広氏を中心に、2021年から社長COOを務める石井敬太氏など要人の言葉を集約。そこから、伊藤忠ならではの「商売」「ビジネス」における考え方や戦略のエッセンスを導き出している。
伊藤忠のルーツには近江商人の「三方よし」という考え方がある。「売り手や買い手だけでなく、世間にもよい」という意味がよく知られているが、岡藤氏の実践してきた軌跡からは少し違う意味が見出だせるようだ。

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【中堅社員のスピーチ例】「若手×ベテラン×中堅」が生む無限の力

【ポイント】

  • 中堅社員の役割は、若手社員とベテラン社員の「橋渡し役」
  • 若手社員とベテラン社員、両者の考え方に目を向けることで会社に変化が生まれる
  • 若手社員の勢い、ベテラン社員の経験、中堅社員のマネジメント力で壁を乗り越えよう

皆さん、おはようございます。まもなく、2025年が終わりを迎えます。今年を振り返ってみて、私が特に印象に残っているのは3人の社員です。

1人目は、入社2年目の若手社員Aさん。Aさんは、部署を横断したDX化の課題に対して、最新のデジタルツールを活用した画期的な解決策を提案してくれました。それまでは「DX化は必要だけど、日々の業務も忙しいし……」と取り組みが後回しになっていたのですが、Aさんが「それではダメだ!」と声を上げてくれたのです。

2人目は、私の大先輩であるベテラン社員Bさん。Bさんはどちらかと言うと、AさんのDX化の提案には反対の立場でした。ですが、それは感情的な理由からではなく、Aさんの提案したデジタルツールをそのまま使うと、既存の業務にいくつか支障が生じるからという合理的なものでした。長年の豊富な経験を基に、Aさんの提案のリスクを正直に指摘してくれたのです。

3人目は、私の同期である中堅社員Cさん。Cさんは「Aさんの提案を実現したい」と彼を後押ししつつ、「既存の業務に支障が生じない方法を一緒に考えよう」と、Bさんの意見も踏まえて、落としどころを探ってくれました。

そして、3人のおかげでわが社のDX化は一歩前進しました。特にCさんのマネジメント力には、同じ中堅社員として感嘆するばかりです。もしも、非常に表面的で意地悪な物の見方をする人がいたら、DXの提案をしたAさんを「生意気な若造」、あるいはその提案に異を唱えたBさんを「変化を嫌う老害」で片付けてしまっていたかもしれません。ですが、Cさんは若手とベテラン、両者の考えに目を向けて「橋渡し役」を果たし、それが結果として、会社が変わるきっかけとなったのです。

来年、私たちの会社はさらなる変化の波に直面するでしょう。しかし、若手社員の勢い、ベテラン社員の経験、そして、中堅社員のマネジメント力。これらの要素が強固に組み合わされば、乗り越えられない壁はないと思います。来年も「勢いある後輩たち」「経験豊富なベテランの先輩方」と一緒に仕事ができることを楽しみにしています。1年間、本当にお疲れさまでした!

以上(2025年12月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

誤解しやすい 労務管理シリーズ 第1回 有期雇用契約者編

労働人口の減少や、ライフスタイルの多様化により、一律的な働き方だけでは、実状にそぐわない場面も出てくるでしょう。どうぞ転ばぬ先の杖として、有期雇用の注意点をご理解いただき、貴社の人員確保・定着に寄与することができれば幸甚です。

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「社長の愛人問題」 弁護士が事例からリスクを解説

1 社長の愛人問題を真面目に考える

テレビやネットでは、連日のように政治家や芸能人の愛人問題など不適切な関係が報じられています。世間のコンプライアンス意識が昔より厳しくなり、当事者がそれまで積み上げてきたキャリアを一瞬で失うケースも……。人ごとであれば「またこんなくだらない話か」と流して終わりですが、もし皆さん自身が当事者になったとしたら、どうでしょう?

SNSの拡散力が増し、内部通報制度も普及した昨今。個人の不祥事は会社のリスクに直結します。特に社長は会社の“顔”であり、そのイメージが揺らげば、取引先の信頼や社内の士気、業績にも多大な影響が出ます。

この記事では、弁護士に寄せられた「社長の不適切な関係」に関する実際の相談をもとに、そこに潜む法的リスクや会社への影響、対応のポイントを解説します。紹介する事例は実情が特定されないようにしていますが、ゴシップではなく、会社防衛のための実務的な内容としてお読みいただけます。

2 社員との親密な関係が社内で噂になってしまった

社長の不適切な関係の典型的な相手は「自社の社員」です。なかには、社長が気に入った社員に片っ端から声をかけ、事実上の愛人関係を迫る(見返りとして、仕事面で便宜を図る)なんて深刻なケースも報告されています。そして、社長が特定の社員と親密になると、その噂はあっという間に社内に広がります。最初に紹介する事例は、まさにそんなケースです。

【事例1】

ある会社では、社長が特定の社員に、他の社員には任さない重要な仕事を次々に振っていました。しかも、その理由については「適任だから」という曖昧な説明しかありません。さらに、「社長とその社員が2人きりで打ち合わせを行い、他の関係部署に相談せず、物事を決めてしまう」「社長の出張には、決まってその社員だけが同行」なんてこともしばしば……。

他の社員は、次第に不信感を募らせていきます。「どうも様子がおかしい」「私的な関係があるのではないか」「業務が公平に扱われていないのではないか」といった声が広まり、ついには「愛人関係にあるのではないか」「公私混同が起きているのではないか」という通報が、内部通報窓口に寄せられる事態にまで発展してしまいました。

1)不適切な関係がもたらすリスク

このようなケースでは、次のリスクが生じます。

1.セクシュアルハラスメント(男女雇用機会均等法第11条)

「社長に逆らったら、降格や減給になるのでは……」といった不安から、社員が社長の誘いを断れないケースは多く、「社長が権力を盾に、不適切な関係を迫った(セクシュアルハラスメント)」と判断される恐れがあります。

2.パワーハラスメント(労働施策総合推進法第30条の2)

特定の社員を特別扱いし、他の社員を不当に冷遇することは、「『社長>社員』という力関係を利用した権限の濫用(パワーハラスメント)」と判断される恐れがあります。

3.善管注意義務違反(会社法第330条、民法第644条)

取締役は会社の利益のために行動する義務を負います。特定の社員を不当に優遇することは、会社の利益のために業務を行っているとは判断されず、会社の信用を損なう行為であり、取締役としての責任を追及される恐れがあります。

4.内部通報への不当な干渉(公益通報者保護法第3条、第5条、第11条、第12条)

「会社の評判に悪影響があるから」「経営陣の信用に関わるから」などと言って通報をもみ消したり、通報者に対して降格や減給などの不利益な取扱いをしたりする行為は違法です。

2)基本的な対応方針

会社が取るべき対応は次の通りです。

  • 中立性、独立性を担保した社内調査の実施(人事部・コンプライアンス部門による事実調査等)
  • 外部弁護士などの関与(社長が当事者であるため、公正性の確保が不可欠)
  • 調査の非通知・非公表(調査対象者の介入を避けるため、調査開始を知らせないこともある)

社長が知らないうちに調査が進められることもあるわけですが、とにかく調査の結果、社員との関係が不適切と認定されれば、次の対応が取られることも想定されます。

  • 社長の報酬減額(会社法第361条)
  • 取締役の解任(会社法第339条)
  • 当該社員の配置転換や業務の再配分
  • 社内ガバナンス体制の見直し

3 SNSで不適切な言動を暴露されてしまった

近年、YouTubeチャンネルなどで、出演者の「不適切とも奇妙とも取れるLINEのやり取り」を紹介する暴露系の企画が人気を集めています。エンタメとして見ているうちはいいですが、自身が当事者になった場合を想像できますか? 次に紹介する事例は、まさに暴露されてしまった社長の話です。

【事例2】

ある会社の社長は、取引先の社員に好意を寄せていました。仕事の打ち合わせとして一緒に食事に行くこともありました。これくらいならいいのですが、社長の思いはエスカレート。ついに、相手に肉体関係を迫る内容のLINEを送るようになりました。その言葉遣いは品性や倫理観を疑われるようなものでした。

そうした不適切なLINEがなぜかSNSを通じて外部に漏洩し、瞬く間に広まってしまったのだから、さぁ大変。社内では「なぜこんなメッセージを送ったのか」「会社の代表というより、人として下品だ!」と動揺が広がり、取引先や顧客からも疑念の声が寄せられました。予想以上に早く情報が拡散し、会社は広報に社内調査、再発防止策の検討など、様々な対応に追われることになりました。

1)不適切な関係がもたらすリスク

このようなケースでは、次のリスクが生じます。

1.会社のレピュテーションリスク

SNS拡散はいわゆる「デジタルタトゥー」となり、ブランド価値を毀損し、株主や取引先に重大な影響を与えます。また、その後の採用活動などにも悪影響を及ぼします。

2.取締役の解任(会社法第339条)

社会的信用の喪失は、取締役としての適格性を欠くと判断される恐れがあります。

3.善管注意義務違反(会社法第330条、民法第644条)

不適切な私生活の行為でも、会社価値を下げられることになれば、責任問題になる場合がありえます。

2)基本的な対応方針

会社が取るべき対応は次の通りです。

  • SNS事業者に対する投稿の削除請求・仮処分の申し立て
  • 悪質な投稿だった場合、発信者情報請求や対象となる相手へのコンタクトを通じて、投稿者を特定した上で損害賠償請求

情報の拡散度合いや投稿内容の悪質性にもよりますが、自社ウェブサイトに会社としてのコメントを出して「火消し」をすることも検討します。ただし、事実関係を十分に調査することなく、見切り発車で対応したり、辻つまの合わない弁明をしたりすることは、かえって反感を招くので慎重に対応しましょう。

4 「同意」のはずが刑事事件になってしまった

「不同意わいせつ」などに関する報道で、加害者が「(被害者の)同意があると思った」と供述している場面をよく見かけます。人間関係における「同意」は、契約書などの書面があるわけではなく、曖昧な言動の上に成り立っています。しかも、お互いに好意があったとしても、「何を、どこまで許容できるか」は異なるので、「同意」についての認識が双方でしばしば食い違うのです。次に紹介する事例も、誤解や思い込みがトラブルに発展したケースです。

【事例3】

ある会社の社長は、いきつけのお店の店員と2人きりで食事に行く関係になりました。かねてより、その店員から好意を示すような言葉や態度があり、食事の時間はとてもムードの良いものでした(社長はそう感じていました)。“脈あり”と受け取った社長は、食事の帰りに相手にキスをし、さらにホテルで肉体関係を持ちました。

後日、思いがけない事態となります。なんと相手の店員が、キスをされたことは「不同意わいせつ」、肉体関係を持ったことは「不同意性交等」であるとして、警察に被害届を提出したのです。社長は「相手は自分に好意を持っている」と思い込んでいましたが、店員の主張は全く違っていたようです。ホテルで肉体関係まで持った相手からの被害届、それほどまでに「同意」は曖昧なものであると認識せざるを得ない事例です。

1)不適切な関係がもたらすリスク

このようなケースでは、次のリスクが生じます。

1.不同意わいせつ(刑法第176条)、不同意性交等(刑法第177条)

2023年の刑法改正で、「強制わいせつ」は「不同意わいせつ」、「強制性交等」は「不同意性交等」に名称が変わり、暴行・脅迫の有無にかかわらず、相手の自由意思による同意がなければ犯罪が成立することになりました。また、雇用関係や力関係がある場合、「自由な意思による同意かどうか」が厳しく判断されることになりました。人間関係やコミュニケーションが複雑化する現代において、「同意」はなおさら慎重に扱うべきテーマになっています。

2.会社のレピュテーションリスク

社会的な影響力を持つ社長が、刑法に抵触する行為をしていたことが明るみに出れば、組織全体の信用やブランドイメージに深刻な影響を与えるのは避けられません。

2)基本的な対応方針

会社が取るべき対応は次の通りです。

  • 捜査にはできるかぎり誠実に協力する
  • 会社としても事実調査を実施する
  • 捜査終結前に会社としての見解を発信するのは避ける
  • 逮捕されたとしても即有罪ではないため、冷静かつ慎重に対応をする

5 不倫がバレて離婚、財産分与の問題になってしまった

社長の不倫に関する相談は、想像以上に多く寄せられます。特に深刻なのは、不倫が発覚して配偶者に知られ、離婚協議へと発展した場合です。一般的な夫婦の離婚とは異なり、社長には会社の経営権という極めて重要な要素が絡んでくるからです。最後の事例、社長とその配偶者の離婚問題をご覧ください。

【事例4】

ある会社では、社長の不倫が発覚し、配偶者との離婚協議に発展しました。離婚協議の争点は「財産分与」。社長が保有している会社の株式のうち、「配偶者が受け取るべき割合」をめぐって社長と配偶者が争うことになったのです。

離婚協議の結果、社長は「株式の半数」を配偶者に分与しなければならなくなりました。それまでは株式の大半を所有するオーナー社長だったのに、株式の分与によって議決権が分散し、経営に対する主導権を維持できなくなってしまったのです。

1)不適切な関係がもたらすリスク

このようなケースでは、次のリスクが生じます。

1.財産分与(民法第768条)

財産分与とは、夫婦が婚姻中に築いた財産を清算・分配することです。「婚姻中に築いた財産」なので、会社の株式も個人名義で保有していれば分与対象に含まれます。財産分与の割合は「財産の2分の1(原則)」ですので、株式が対象であればその半数を分与しなければなりません。財産形成に当たっての夫婦の貢献度によって、配偶者の財産分与の割合が下がることはありますが、一方で、婚姻関係を破綻させた責任などによって、割合が上がることもあります。

2.経営権(議決権)の分散によるガバナンス崩壊

株式が個人資産として分与対象になれば、配偶者に株式が移転します。株式の移転は単に財産の移動というだけではなく、「会社の支配権」を根本から揺るがす重大な問題です。特にオーナー社長の場合は深刻です。

2)基本的な対応方針

会社が取るべき対応は次の通りです。

  • 法的にどこまで拘束できるかは分かりませんが、「株式は財産分与の対象から除外する」といった婚前または婚後契約を締結する
  • 財産分与の際に株式を分与せずに、代償金(現金)で合意ができるように協議する

6 最後は社長次第

社長の不適切な関係は、私生活の問題にとどまらず、会社経営の根幹を揺るがすリスクになり得ます。この記事では4つの事例を紹介しましたが、こうした相談が寄せられることは本当に多いです。もちろん、問題の程度は社長と相手との実際の関係など事実に基づきますが、この手の問題は注目され、噂も広まりやすいです。愛人問題は私的なことだといえなくもないですが、社長は「公」の存在という一面もあり、そのことは無視できません。

そのため、社長にはトラブルを避けるための自律とリスク感覚が求められます。また、問題が起きた際には隠蔽するのではなく、覚悟を決めて、迅速で透明性の高い対応を取ることが不可欠です。

以上(2025年12月作成)

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画像:Gemini

企業の「心の健康投資」を支える サービス導入促進事業のご紹介

経済産業省では、従業員のストレスや不調の予防・改善に課題を抱える中小企業を対象に、「先端技術活用メンタルヘルスサービス開発支援事業費補助金」を実施し、先端的なメンタルヘルスサービスを導入する際のサービス利用料の一部を補助しています。

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