書いてあること
- 主な読者:ハラスメント防止規程を整備したい経営者、人事労務担当者
- 課題:一口にハラスメントといっても種類がさまざまで、対応の方針が立てにくい
- 解決策:ハラスメントの定義さえ明確であれば、対応の方針は基本的に同じで構わない
1 どのハラスメントも対応の方針は基本的に同じ
ハラスメントは、放置すると被害を受けた社員の心身を蝕むだけでなく、訴訟などのトラブルにも発展しかねない重大な問題です。特に次のハラスメントは、法令により一定の防止措置を講じることが会社に義務付けられています。
- パワハラ(パワーハラスメント)
- セクハラ(セクシュアルハラスメント)
- マタハラ等(妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント)
一定の防止措置とは次の5つのことですが、根幹となるのは1.のハラスメントの方針です。
- ハラスメントの方針(ハラスメントを行ってはならない旨など。就業規則等の文書に規定)の明確化、周知・啓発
- ハラスメントに関する相談窓口の設置・運用
- 事実確認、被害者に対する配慮のための適正な措置、行為者への適正な措置と再発防止に向けた措置の実施
- 相談者や行為者のプライバシーを保護、相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨の周知・啓発
- 業務体制の整備など、マタハラ等の原因や背景となる要因を解消するための措置の実施
ハラスメントの方針は「ハラスメント防止規程」などの形で定めますが、内容に問題があると、事案が発生した際の対応でトラブルが起きます。次章で専門家が監修したハラスメント防止規程のひな型を紹介しますのでご確認ください。
なお、2024年11月1日からは、フリーランスに対するハラスメントについても防止措置を講じることが義務付けられますので、
ハラスメント防止規程に「フリーランスに対するハラスメントを許さない旨」を明記
しておきましょう。
ちなみに、ハラスメントの種類(パワハラ、セクハラなど)ごとに規程を分ける必要はなく、1つにまとめて差し支えありません。ただし、どのようなハラスメントを防止の対象とするのかは明確に定義しておきましょう。
2 「ハラスメント防止規程」のひな型
以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
なお、前述した「フリーランスに対するハラスメントを許さない旨」については、第1条(目的)第3項をご確認ください。
【ハラスメント防止規程のひな型】
第1条(目的)
1)本規程は、職場におけるハラスメントの防止、並びにこれらのハラスメントが発生した後の雇用管理上の対応について定めるものであり、役員および従業員(以下「従業員等」)に適用される。
2)本規程における「職場」とは、会社内に限らず、取引先、出張先など、すべての業務遂行場所をいい、また、就業時間内に限らず、実質的に職場の延長とみなされるものを含むものとする。
3)本規程における「ハラスメント」とは、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント、その他これらに準ずるすべての行為をいい、当社の従業員等に対して行われるものだけでなく、取引先の従業員等や当社から業務を委託するフリーランスなど、当社の従業員等以外に対して行われるものも対象とする。
第2条(パワーハラスメントの定義)
1)パワーハラスメントとは、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超え、相手の就業環境を害することをいう。
2)すべての従業員はパワーハラスメントに該当する以下のような行為を行ってはならない。
- 殴打、足蹴りするなどの身体的暴力行為。
- 相手やその親族、友人などの人格や尊厳を傷つける行為。
- 業務遂行に関係のない要求を相手にしたり、自らの固定観念を相手に押し付けたりするような行為。
- 業務遂行に関係のない事項について、執拗に相手から説明を求めること。
- 違法行為を強要すること。
- 相手を無視することや誹謗中傷すること、その他相手の名誉を傷つける噂を社内外に流布すること。
- 業務遂行上の指導であっても、相手の人格や尊厳を侵害する言動を繰り返しとること。また、必要以上に叱責を繰り返すこと。
- 業務遂行上の指導であっても、客観的に実現が不可能な内容を相手に求めて過度の精神的な苦痛を与えること。
- 故意に情報を与えない、連絡事項を伝えない等の行為を繰り返し、職務遂行を妨害すること。
- 解雇や降格など相手に雇用不安を与えるような言動をとること。
- 能力や経験とかけ離れた程度の低い業務を命じる、あるいは業務を与えないこと。
- 特定の従業員を業務から外す、集団で無視するなど人間関係を切り離すこと。
- その他、相手の人格や尊厳を侵害する言動をとること。
第3条(セクシュアルハラスメントの定義)
1)セクシュアルハラスメントとは、職場における性的な言動に対する従業員等の対応などにより相手の労働条件に関して不利益を与えること、または性的な言動により相手の就業環境を害することをいう。
2)すべての従業員等はセクシュアルハラスメントに該当する以下のような行為を行ってはならない。なお、相手の性別・性的指向・性自認は問わない。
- 不必要な身体への接触。
- 性的および身体上の事柄に関する不必要な質問・発言。
- 性的な内容に関する噂を社内外に流布すること。
- 交際・性的関係の強要。
- わいせつ図画の閲覧、配布、掲示。
- 性的な言動への抗議または拒否などを行った相手に対して、解雇、不当な人事考課、配置転換などの不利益を与える行為。
- 性的な言動により、相手の就業意欲を低下せしめ、能力の発揮を阻害する行為。
- その他、相手に不快感を与える性的な言動。
第4条(妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント)
1)妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントとは、従業員等の妊娠または出産、産前産後休業、育児休業(出生時育児休業を含む)、介護休業の請求、その他の妊娠または出産の事由に関する言動により、相手の就業環境が害されることをいう。
2)すべての従業員等は妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントに該当する以下のような行為を行ってはならない。
- 部下の妊娠・出産、育児・介護に関する制度や措置の利用等に関し、解雇その他不利益な取扱いを示唆する言動。
- 部下または同僚の妊娠・出産、育児・介護に関する制度や措置の利用を阻害する言動。
- 部下または同僚が妊娠・出産、育児・介護に関する制度や措置を利用したことによる嫌がらせ等。
- 部下が妊娠・出産等したことにより、解雇その他の不利益な取扱いを示唆する言動。
- 部下または同僚が妊娠・出産等したことに対する嫌がらせ等。
第5条(ハラスメントの防止)
1)すべての従業員等は、国籍、信条、性別、性的指向、性自認、職務上の地位・権限・職権、雇用形態に関係なく、職場において相手の人格や尊厳を尊重し、ハラスメントあるいはそれらと疑われる行為をしてはならない。
2)管理者は、他の従業員等がハラスメント(疑い例を含む)を受けていることを知ったときは、それを黙認してはならず、速やかに「ハラスメント相談窓口」(第6条にて定義。以降同様)に通知しなければならない。
3)従業員等は、他の従業員等がハラスメント(疑い例を含む)を受けていることを知ったときは、速やかに上司および「ハラスメント相談窓口」に通知しなければならない。
第6条(「ハラスメント相談窓口」の設置)
1)会社は「ハラスメント相談窓口」を設置する。「ハラスメント相談窓口」は、次の各号に定める業務を行うものとする。
- ハラスメントに関する従業員等やその親族からの相談の受け付け。
- 教育指導によるハラスメントの未然防止。
- ハラスメントの事実関係の確認など早期解決、再発防止。
- その他、ハラスメントの未然防止、早期解決に資する業務。
2)「ハラスメント相談窓口」の責任者(以下「窓口責任者」)は総務部長とし、「ハラスメント相談窓口」の担当者(以下「窓口担当者」)は会社が個別に指名した従業員等とする。
3)会社は、窓口責任者および窓口担当者に別途定める「ハラスメント相談対応マニュアル」(省略)を配布する。窓口責任者および窓口担当者は当該マニュアルに基づき、ハラスメントの防止および対応に当たらなければならない。また、窓口責任者および窓口担当者は、会社が指定するハラスメント防止教育を受講しなければならない。
4)会社は、窓口責任者および窓口担当者の名前を、人事異動などの変更の都度、周知させる。
第7条(ハラスメントへの対応)
1)ハラスメント(疑い例を含む)の相談や報告があった場合、窓口担当者は、相談者からの事実確認の後、窓口責任者へ報告する。
2)窓口担当者は、相談者の人権に配慮した上で、必要に応じて相談者、ハラスメントの疑いのある言動をした者(以下「行為者」)、被害者、上司並びに他の従業員等から事実関係を聴取し、関係する資料の提出を求める。
3)前項の聴取や関係する資料の提出を求められた従業員等は、正当な理由がない限り、調査に協力すべき義務を負い、事実を隠ぺいせず、真実を述べなければならない。また、聴取の対象となる事実関係や聴取を受けていることについて社内外で口外する等、会社の調査を妨害する行為をしてはならない。
4)窓口担当者は、窓口責任者に事実関係を報告する。
5)ハラスメントの早期解決に困難な状況が生じた場合、窓口責任者は、法令に基づく紛争解決援助および調停など、中立的第三者機関を利用することができる。
6)会社によるハラスメントの調査を適正に進めるため、または被害拡大を避けるために必要と会社が判断する場合には、問題解決のための措置を講ずるまでの間、暫定的に行為者に対し、相談者等に対する接触の禁止、勤務場所の変更、自宅待機等の緊急措置を命じることがある。自宅待機の期間中、会社は労働基準法第26条の「休業手当」を支払うものとする。また、会社が必要と判断する場合には、相談者その他従業員等に対し、勤務場所の変更等を命じることがある。
7)ハラスメントの事実が確定した場合、会社は行為者については就業規則に照らして処分を決定する。また、ハラスメントの被害者および行為者の配置転換など、被害者の労働条件上の不利益の回復等のために必要な措置を講じるものとする。
第8条(不利益な取扱いの禁止)
会社はハラスメントに関する相談や報告を行ったこと、または事実関係の確認に協力したことなどを理由として不利益な取扱いを行ってはならない。
第9条(プライバシーの保護)
1)何人も、ハラスメントに関する相談および聴取などで知り得た情報を、みだりに第三者に漏洩してはならない。
2)窓口責任者および窓口担当者は、ハラスメントへの対応に当たって、被害者および行為者など関係する従業員等のプライバシーの保護に十分に留意しなければならない。
第10条(再発防止の義務)
窓口責任者は、ハラスメント(疑い例を含む)の事案が生じたときは、改めてハラスメント防止を周知徹底すると同時に、研修を実施するなど、適切な再発防止策を講じなければならない。また、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントに関しては、業務体制の整備など、発生の原因や背景となる要因を解消するために必要な措置を講じなければならない。
第11条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。
附則
本規程は、○年○月○日より実施する。
以上(2024年11月更新)
(監修 弁護士 八幡優里)
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画像:ESB Professional-shutterstock