「自分はまだ若い!」と思っている高齢社員の労災はどう防ぐ?

1 2026年4月から、高齢社員の労災防止が努力義務化!

人材不足の日本では、高齢社員に頼らざるを得ない部分がますます大きくなっていますが、高齢社員は若年社員よりも労働災害(労災)に遭いやすいのが現実です。2024年に発生した労災によって4日以上の休業を余儀なくされた死傷者数は13万5718人、このうち60歳以上が4万654人と、全体の約30%を占めています。

年齢階級別の労災による死傷者数(休業4日以上)

2026年4月からは、労働安全衛生法において、

高齢社員に対する労災防止措置(高齢社員の特性に配慮した作業環境の改善、作業管理など)を講ずることが会社の努力義務

となりますが、この努力義務の存在を抜きにしても、人間は誰しも加齢とともに身体機能が低下していく以上、労災のリスクが高まります。ですから、高齢社員を多く抱える会社ほど対策は必須といえるでしょう。具体的な対策のポイントは、

  • 身体機能の中で、特に低下しやすいものを押さえる(平衡機能、聴力など)
  • 高齢社員に「労災に遭いやすい」ことを気付かせる(健康診断、体力テストなど)
  • 身体機能に配慮し、高齢社員の働き方改革を図る(役割分担、労働時間など)

です。以降でそれぞれについて、確認していきましょう。なお、厚生労働省「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)」では、高齢社員が安全に働ける職場環境づくりや労災防止のポイントなどがまとめられていますので、こちらも併せてご確認ください。

厚生労働省「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10178.html

2 身体機能の中で、特に低下しやすいものを押さえる

まずは、加齢とともに身体機能がどの程度低下するのかを押さえましょう。図表2は、20~24歳ないし最高期の身体機能を100とした場合の、55~59歳における各種機能の水準です。赤字の身体機能は、水準が50未満に低下しているもので、特に注意が必要です。

55~59歳における各種機能の水準

赤字の機能に注目した場合、業務において、次のような問題が生じることが考えられます。

  • 夜勤後体重回復:夜勤で減少した体重が回復しにくく、疲れやだるさを感じる
  • 平衡機能:直立姿勢時の重心動揺が大きくなり、転倒しやすくなる
  • 皮膚振動覚:振動に対する感覚が鈍化し、機械の異常などに気付きにくくなる
  • 聴力:騒音時の声などが聞こえにくく、「危ない」と言われても気付かない
  • 薄明順応:暗い場所で作業をしようとしても、目が慣れず、物が見えにくい

3 高齢社員に「労災に遭いやすい」ことを気付かせる

高齢社員の中には「自分はまだ若い!」と思っていて、体の衰えを自覚していない人が少なくありません。そのため、高齢社員に対し「労災に遭いやすい」ことを気付かせることが大切です。具体的には次の通りです。

1)就業規則などに盛り込み、経営者の姿勢を示す

就業規則その他社内規程(安全衛生管理規程など)において、高齢社員の労災防止に関する事項を定めたり、安全委員会や衛生委員会の設置義務がある会社であれば、委員会の調査審議事項に盛り込んだりして、

経営者が本気で高齢社員の労災防止に取り組ようとしていることを社内に周知すること

が重要です。高齢社員が健康を意識するようになると、自分の健康状態について、会社に相談したくなるかもしれませんので、「相談窓口」などを設置するとさらに効果的です。

2)健康診断を実施する

高齢社員の健康状態は、毎年実施する定期健康診断である程度把握できます。パート社員等(週の所定労働時間が正社員の4分の3未満の社員)については、定期健康診断の実施義務はありませんが、高齢のパート社員等が多い場合は、実施対象者に含めるのが望ましいでしょう。定期健康診断では、

聴力、自覚症状や他覚症状(所見)の有無などが確認できますし、健診機関によっては「平衡機能検査」などのオプション検査も実施

します。高齢社員も、今の自分の健康状態が分かれば、無理をせず慎重に行動するようになるのではないでしょうか。

3)体力テストを実施する

高齢社員が自分の健康状態を正しく把握できるよう、体力テストを実施するのもよいでしょう。例えば、厚生労働省「職場のあんぜんサイト」では、転倒防止の観点から、筋力、敏捷性、静的バランスなどを簡単にセルフチェックできるテストとして、

  • 2ステップテスト[歩行能力・下肢筋力]
  • 座位ステッピングテスト[下肢の敏捷性]
  • ファンクショナルリーチ[動的バランス能力]
  • 閉眼片足立ち[静的バランス能力]
  • 開眼片足立ち[静的バランス能力]

が紹介されています。例えば、図表3は「2ステップテスト[歩行能力・下肢筋力]」の内容です。「評価値」が低いほど転倒のリスクが高まります。

2ステップテスト[歩行能力・下肢筋力]

厚生労働省「職場のあんぜんサイト(身体的能力のセルフチェック)
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/information/tentou1501_14.html

4 身体機能に配慮し、高齢社員の働き方改革を図る

高齢社員に対して、気付きを促すといっても、本人の努力だけで労災をゼロにすることは困難です。健康診断の結果などから高齢社員の傾向をつかんで、会社側でも労働条件を工夫し、労災が起きにくい環境を整えることが大切です。具体的には次の通りです。

1)社内設備を変える

高齢社員が働きやすいよう、社内設備を改善しましょう。例えば、転倒防止対策として、転びやすい場所に手すりを設置する、暗くて作業がしにくい場所の照明を増やすといったことが考えられます。

2)役割分担を変える

人手不足の会社などでは、高齢社員も多くの業務を担当せざるを得ませんが、労災リスクの高い業務については、部分的に若手に任せることを検討してみましょう。例えば、運送業の会社で、高齢社員が梱包・運搬・開梱の全てを担当している場合、

高齢社員は、梱包と開梱だけに専念してもらい、運搬は若手社員に任せる

などして、転倒や腰痛などのリスクを低減します。役割変更が難しい場合は、高齢社員にアシストスーツの着用を義務付けるなどして、身体への負担軽減を図りましょう。

3)労働時間を変える

高齢社員の身体機能を考慮して、労働時間を工夫することも大切です。例えば、疲れが取れにくいという高齢社員の場合、

  • 夜勤はやめて日中の短い時間に勤務する(高齢社員が複数いる場合はシフト制にする)
  • 休日を増やす

ことなどが考えられます。

以上(2026年1月更新)
(監修 のぞみ総合法律事務所 弁護士 曽田駿希)

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画像:kei907-Adobe Stock

【2026年1月最新版】ビジネスマッチングサービス公開!


↑こちらから内容をご閲覧いただけます!↑

このたび、とくぎんサクセスクラブと香川ニュービジネスクラブ(香川銀行)と合同で、企業間の新たなビジネス機会創出を目的としたビジネスマッチングサービス「TOMONY BUSINESS INFORMATION 2026.1」を公開いたしました。

本サービスには、各地域で活躍する多様な業種の会員さまの事業内容、マッチング希望情報などを掲載しており、新たな取引先や提携先の開拓に向けたヒントやきっかけを見つけていただける構成となっております。

本サービスが、会員さまの更なる発展ならびに有益なビジネスパートナーとのご縁を築く一助となれば幸いです。是非ご一読いただき、有効にご活用くださいますようお願い申し上げます。

ご覧いただく中でご関心をお持ちの事項がございましたら、事務局までお問合せください。

【連絡先】とくぎんサクセスクラブ事務局(徳島大正銀行 法人推進部内)
TEL:088-656-1125

以上(2026年1月作成)

【朝礼】目標を確実に達成するための「SMARTの法則」

【ポイント】

  • 目標を立てても熱意が長続きしないという人は、目標の立て方に問題がある
  • S(具体的)・M(測定可能)・A(達成可能)・R(関連性)・T(期限)を意識する
  • 特にR(関連性)が重要、個人のスキルアップを組織の成果に結びつけよう

新年を迎え、皆さんも新たな目標を立てられたと思います。とはいえ、年初には意気込むものの、数カ月後には当初の熱意を失い、やがて目標自体を忘れてしまう、というのはよくある話です。そこで今日は、ジョージ・T・ドラン氏が提唱した目標設定の基本「SMARTの法則」を紹介します。

「S」はSpecific(具体的)。「営業力を上げる」ではなく、「新規顧客を月3件開拓する」。「スキルアップする」ではなく、「毎週5時間学習し、6月までに簿記2級を取得する」。誰が読んでも同じイメージを持てる言葉で表現することが重要です。

「M」はMeasurable(測定可能)。進捗が数値で見えなければ、今自分がどこにいるのか分かりません。「顧客訪問数」「受注率」「学習時間」など、測定できる指標を必ず設定してください。測定できなければ、改善もできません。

「A」はAchievable(達成可能)。高い目標は素晴らしいですが、初めから「不可能」と分かっている目標は、ただの願望です。現状のリソースとスキルで、努力を重ねれば届く。その絶妙なラインを見極めることが、継続の鍵です。

「R」はRelevant(関連性)。ここが最も重要です。仕事上の目標を立てる場合、その目標は会社の方針や部門の目標とつながっているでしょうか。個人のスキルアップが組織の成果に結びついて初めて、目標には「意味」が生まれます。自己満足で終わる目標では、周囲の協力も得られません。

「T」はTime-bound(期限)。「いつか」は永遠に来ません。「3月末までに」「第2四半期中に」と明確な期限を設定することで、逆算して今日すべきことが見えてきます。

私の今年の目標は、「毎月、部門の主要メンバー全員と1対1の面談を実施し、来年3月末までに従業員満足度調査のスコアを10ポイント向上させる」です。ちなみに、最も重要な「R」の部分は、会社の「人材定着率向上」という経営課題とひもづいています。皆さんもぜひ、このように目標を立ててみてください。SMARTな目標設定で、個人もチームも組織も成長する一年にしましょう。

以上(2026年1月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

【契約書の実務(2)】印鑑レスでも知っておくべき押印のルール

1 署名と記名の違い

署名と記名は似た言葉ですが、明確な違いがあります。

  • 署名:本人が自筆で自分の名前を記すこと
  • 記名:署名以外の方法(ゴム印、パソコンの印字など)で自分の名前を記すこと

署名または押印があると、その文書はその当事者の意思に基づいて真正に作成されたものだと推定されます。「『署名』または『記名+押印』」があればよいので、署名があれば押印は不要ですが、実務上は押印することが多いです。一方、記名の場合、押印がなければ署名と同様の効果はありません。端的に表すとこんな感じです。

  • 署名のみ:信用力が高い
  • 署名+押印:信用力が高い
  • 記名+押印:信用力が高い
  • 記名のみ:信用力が低い

契約当事者が個人の場合、戸籍上の姓名を記載するのが原則ですが、

  • 個人を明らかに特定できる場合、俗称やペンネームで署名等とすること
  • 個人事業主の場合、「○○商店」などの商号や屋号で署名等をすること

ができます。ただし、契約内容に関わる主体が明らかであることが求められるので、商号や屋号だけで契約をすることはできません。例えば、「○○商店こと□□□□」(「□□□□」は個人事業主名)などと記載する必要があります。

法人の場合、「商号」「代表資格」「代表者の氏名」を記載する必要があり、通常はそれに続いて「登録印(実印)」を押すことになります。ただし、実務的には「登録印(実印)」とは別に「認印(契約印)」を用意している会社が多いでしょう。

なお、一定の要件に該当する場合、契約当事者が代表者ではなく事業部長等でも、法律上有効なことがあります。例えば、

  • 事業部長等が会社法で定められた「支配人」に該当し、当該事業に関する包括的な代理権を有している
  • 個別の契約締結につき法人から代理権が与えられている

といった場合です。なお、会社法第10条および第11条で、支配人は会社等から選任された商業使用人で、「その事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する」とされています。

2 多くの場合、押印は不要

契約書に押印するのは当たり前と考えられていますが、実は多くのケースで押印が法的に求められているわけでありません。つまり、

押印がなくても契約は有効

になります(不動産会社が作成する重要事項説明書など、押印が必要な文書もあります)。にもかかわらず押印がされるのは、押印によってその文書が真正であると推定しているからです。

一方、電子契約も浸透しています。電子契約では押印はしませんが、

電子署名を利用して契約を締結

します。認定を受けた認証機関で手続きを行って電子文書をやり取りすれば、電子署名にも押印と同じ効力が認められます。

このような事情から「印鑑レス」が進んでいるわけですが、契約は相手の意向も大きく関係します。自社が押印不要である旨を説明しても、相手方が希望する場合、それに応じなければ契約が進まないことがあるのも事実です。そこで以降では、契約に伴う印鑑の利用に関する基本的なルールを紹介します。

3 押印に関する基本的なルール

1)押印に使用する印鑑の種類

通常のビジネスの契約書であれば、

登録印(実印)でも認印(契約印)でも、契約書の法的効力は同じ

です。ただし、重要な契約のときは、「第三者が勝手に押印をした」といったトラブルを避けるため印鑑登録されている印を使用し、併せて印鑑登録証明書を提出することもあります。また、法人の場合は登記簿謄本、個人の場合は運転免許証等の身分証明書、個人事業主の場合は開業届等を確認することも、トラブル防止の観点からは大切です。

2)押印する位置

署名や記名に掛からないように押印されている場合や、掛かるように押印されている場合がありますが、印影がはっきりしていれば、どちらでも問題ありません。

押印する位置

3)契印と割印に関する注意点

契印と割印は、どちらも契約書の偽造防止等のためにするものです。

契印は、複数ページの契約書を作成したときに、各ページが1つの書面を構成することを示します。また、勝手に差し替えられたりしないようにもしています。

割印は、複数の部数の契約書を作成したときに、各書面が同一または関連したものであることを示すために、各書面にまたがって押印することをいいます。

契印と割印

契印と割印

契印や割印がなくても、法的な問題はありません。また、押印する印鑑の種類や押印する者についても決まりはありません。ただし、契印や割印の意味を鑑みて、重要な契約の場合は署名等に使った印鑑を用いて、全ての契約当事者が契印や割印をするのがよいともいえます。

4 収入印紙と消印に関する注意点

1)印紙税とは

印紙税は、日常の経済取引に伴って作成する契約書や金銭の受領書などに課税される税金です。印紙税の対象となる文書を「課税文書」と呼びます。ビジネス上の契約書の多くは課税文書なので、印紙税の納付が必要になることが多くなります。課税文書は20種類あり、印紙税額が異なります。契約書がどの種類に該当するかは、契約書のタイトルではなく内容で判断します。

2)電子契約の場合の印紙の扱い

電子契約の場合、現時点では印紙税は課税されません。印紙税は課税文書の作成者が納税者となります。ここでいう「作成」とは、紙の書面にて交付することをいいます。つまり、電子契約は紙の書面ではないので課税文書の「作成」に該当せず、現状では印紙税は課税されない扱いです。

3)印紙税の納付の方法

印紙税は契約書に収入印紙を貼り付けることで納付します。貼り付ける場所は契約書上部の余白部分とするのが通常ですが、特に制限はありません。また、収入印紙は、原則として作成した契約書の全てに貼り付けます。

収入印紙を貼り付けたときは、収入印紙と契約書の双方に掛かるように押印します。これを「消印」と呼びます。消印は、収入印紙の再使用を防止するためのものなので、押印する印鑑は何でもよく、ボールペンなどでチェックを付けることでも問題ありません。

消印

4)印紙税の負担者

契約書は、契約当事者がそれぞれ1通ずつ保管するのが通常ですが、課税文書を2人以上の者が共同して作成した場合は連帯して印紙税を納める義務を負います。そのため、自己が所持している契約書のみに印紙を貼っても、印紙税の納付義務を完全に履行したことにはならず、他の者が所持している契約書にも印紙を貼る必要があります。

ただし、契約当事者間の関係では、各自が負担する割合を自由に決めることが可能であり、特定の契約当事者が全額負担するといった合意も可能であるので、事前に負担方法を相手方に確認しましょう。

5 契約締結日に関する注意点

契約書に記載する契約締結日は、契約内に特段の定めがない限り、

原則として契約の効力発生日となり、全ての契約当事者の署名等が完了した日

とするのが通常です。例えば、全ての契約当事者が集まって手続きをするときは、その日が契約締結日となります。また、郵送でやり取りするときは、最後の契約当事者が署名等をした日となります。

なお、契約締結日と効力発生日が違う場合は、契約の効力がいつから発生するかが分かるように記載します。

ただし、実務的には契約締結日を違う日にすることもあります。この場合、特に注意が必要なのが、過去の日付に遡って契約を締結する場合です。「過去の実態と乖離(かいり)している」「過去の法律や制度との整合性が取れていない」など、さまざまな問題が発生する恐れがあります。他にも、契約当事者間で争いが生じた場合に、相手方からだまされて契約を結ばされた、などの主張がなされる恐れもありますし、脱税目的で過去の日付に遡らせたのではないかと税務署に疑われる恐れもあります。

このように契約締結日は法律上重要な意味合いを持っています。いずれにしても、契約締結日については、必要に応じて相手方や上司、法務担当者と相談するようにしましょう。

以上(2026年1月更新)
(監修 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

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経営者を支える「参謀2.0」。参謀獲得の新たな動きを見逃すな!

1 「参謀2.0」を考える。なぜ、経営者には参謀が必要なのか?

いかに優れた経営者でも、1人でできることには限界があります。だからこそ、

自分とは違う視点で物事を捉えてくれる、時には「それは違うんじゃないですか?」と諫めてくれる「参謀」

の存在が欠かせないのです。

ここ数年で参謀の在り方も変わってきました。例えば、新規事業を立ち上げる際、コアとなる人物(参謀)を業務委託で外部から招聘(しょうへい)するケース、金融機関がDX参謀などとして、会社を強力にサポートするケースなどが出てきています。

  • 参謀は社内の人材に限らず、外部から招くこともできる
  • 特定分野に強い「ジョブ型参謀」を組み合わせて活用してもいい

というわけです。以降ではこの流れを踏まえて、経営者が参謀を獲得する上で押さえておきたい重要な視点を紹介します。

2 「内部×外部」で化学反応を起こす!

参謀は誰にでも務まるものではないので、選定や育成にはどうしても時間がかかります。とはいえ、経営者が使える時間は限られています。それに、経営者自身が参謀を育てると、どうしても考え方が似通ってしまい、「違う角度から見てくれる」という参謀の大事な役割が薄れてしまいます。

もし、御社が参謀の育成に困っているなら、参謀を「業務委託で外部から招聘する」のも一策です。実際、こうして参謀を獲得し、事業を成功に導いている経営者は数多くいます。

とはいえ、単に業務委託として使うだけだと、その参謀との契約が終わった後は何も残りません。ですから、

社内の参謀候補と外部から招聘した参謀とでチームをつくり、社内の参謀候補に新しい知見を吸収させること

が重要です。

これには別の意味もあります。外部から参謀が招聘されると、自社の参謀候補は面白くありません。しかし、一緒にチームを組ませれば、参謀候補は「経営者は自分に期待してくれているんだな」と自信を持てるわけです。

3 「ジョブ型」参謀はすでに存在する

経営者に「経営に必要な能力は?」と質問すれば、「人間力」「判断力」「リーダーシップ」などの答えが返ってくるでしょう。ですが、これではかなり抽象的です。具体的に掘り下げていくと、経営者の仕事は本当に幅広くて、実にさまざまな能力が必要なことが分かります。そして、経営者を支える参謀にも、同じように多様な力が求められます。

ただ、何もかもに精通した「オールマイティーな参謀」は、そうそういるものではありません。ですから、考え方を少し変えて

「ジョブ型参謀」のチームを意識してみましょう。「DXであればA参謀」「採用教育であればB参謀」といった具合

です。例えば、顧問税理士は、税務会計における社外参謀といえますが、DXには明るくないかもしれません。こういう場合は、別の分野で専門的な知見を持つ参謀を獲得し、組み合わせればよいのです。

また、参謀は必ずしも管理職クラス(部長や課長など)である必要はありません。通常の社員の中にも、経営者の目が届かないところで、コツコツと勉強を重ねている人がいます。気付けば、ある分野では社内の誰よりも詳しくなっている、なんてことも珍しくありません。そうした社員は、自分の得意とする分野において、ジョブ型参謀としての役割を立派に果たしてくれるでしょう。

4 参謀リーダーという考え方

参謀が複数いる場合、参謀を束ねる「参謀リーダー」がいると意見がまとまりやすくなります。この参謀リーダーは、DXや税務会計などに明るくなくても大丈夫です。むしろ必要なのは

コミュニケーション能力が高くて、いい意味で経営者をうまく使える器

です。次のような資質を持った人が、参謀リーダーに向いています。

1)イエスマンにも反対勢力にもならない

参謀リーダーは、経営者が喜びそうな意見をまとめる「イエスマン」ではありません。さまざまな情報に触れ、必要なら経営者に対し、「それ、ちょっと待った方がいいかもしれません」と異を唱えられる立場でなければなりません。

ただし、経営者を見下したり、反対勢力になったりすることは絶対にありません。敬意を持ちながらも、言うべきことは言える、そんな絶妙なバランス感覚が求められます。

2)現場(社員)の声を吸い上げる

経営者は現場の声を聞こうとしますが、社員の方は正直なところ、経営者に率直な意見を言うのをためらいがちです。特に悪い情報ほど、なかなか経営者の耳には届きません。

参謀リーダーは、経営者の目となり耳となって、普段は把握しにくい社内の本音や雰囲気をキャッチし、適切なタイミングで伝える必要があります。特に、経営方針に不満を持っている社員や、辞めそうな社員の動きには要注意です。

3)経営者の代弁者となる

経営者は社員に向けて、いろんなメッセージを発信します。理念を語ったり、新しい施策の内容や狙いを説明したり……。

ですが正直、多くの社員にとって、「社長が何を言いたいのか」を正確に理解するのは難しいものです。そこで、参謀リーダーが経営者の通訳役になって、メッセージの真意を分かりやすく伝えることが大切です。これで組織の一体感が高まり、施策の浸透度もグッと上がります

4)経営者をうまく使う

経営者でなければ対処できない課題があります。例えば、大事な交渉が行き詰まったときに、経営者が直接出ていくことで流れが変わることがあります。

参謀リーダーには、いつも経営者を頼るのではなく、「ここぞ!」という場面で、いい意味で経営者をうまく使って、物事を有利に進める器用さが求められます。経営者の時間と影響力を最大限に活かす「プロデューサー」のような役割です。

以上(2026年1月更新)

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ヒント6[仕事2]:仕事の意義を共有できれば、人は簡単には辞めない/武田斉紀の『人が辞めない会社、10のヒント』(7)

1 入社者へのフォローが実り落ち着いてきた頃に、新たな問題が……

今シリーズの狙いは、経営者、人事担当者、現場の皆さんのお悩みである「社員を採ってもすぐに辞めてしまう上に、そもそも採れない」という課題を解決することです。『人が辞めない会社、10のヒント』と題して、毎回1つずつご紹介していきます。

『人が辞めない会社』に変わるための課題、その原因と解決策は会社によってさまざまです。

今回ご提示するヒントが皆さんの抱える原因に明らかに当てはまらない場合は、読み飛ばしてくださって結構です。ですが、ヒントの1~9までが該当しなくても、10が当てはまるかもしれません。

全社共通の原因もあれば、部署ごとの固有の原因も存在することでしょう。原因が1つだけというケースは少ないので、何回分か読んでいただければ「これはうちにも当てはまるな」というものを見つけていただけるのではと思います。

『人が辞めない会社』に変わるために、前回第6回からは入社後のヒントについてお話ししています。第6回では、入社者にとっては誰しも「事前のイメージとのギャップはあるもの」と想定して対応するべきであると申し上げました。

入社初日を終えた時点からしばらくは、職場の上司だけでなく、人事や事前に設定したメンター(相談相手)も関わりながら定期的かつ丁寧なフォローを続けることが重要であると。

特に新卒採用の場合、正社員として働くことは初めてで、戦力になるまでには時間がかかります。中途採用の人も、前職との違いにしばらくは戸惑うかもしれません。それでもしっかりとしたフォローがあれば、よほど入社前の勘違いでもない限り、本人のギャップは解消されていくことでしょう。

入社者それぞれが仕事に慣れてくると、日々の小さな成功と挫折を繰り返しながら会社や所属する組織にもなじんできます。配属先の上司や、採用し配属に関わった人事としては、フォローしてきた努力が実り「これでもう大丈夫だろう」と思いたいところです。

ところがこの頃から、入社者には新たなモヤモヤが芽生え始めています。何でしょうか?

2 “仕事の意義=やりがい”の実感は、仕事に前向きな社員にこそ必須

とりわけ

仕事に対して前向きな「生活に必要なお金を稼ぐ手段」以上の価値を求めて入社した社員にとって、仕事に慣れてくるにつれて新たなモヤモヤが芽生え始めます。

それは「自分の仕事は何かの役に立っているのだろうか」という“仕事の意義=やりがい”の実感です。

会社として目指している企業理念やこだわっている存在意義(パーパスなど)については、入社前から説明してきたかもしれません。それらに強く共感して入社した社員ほど、仕事に慣れてくると、担当業務を通して“仕事の意義”を実感したいと思うようになってきます。

幸い顧客と接点のある部署に配属された場合は、すぐにお客様から「ありがとう」の言葉をいただくなどして、“仕事の意義”を実感できる場合もあるでしょう。

片や配属された部署や担当業務によっては、企業理念や存在意義(パーパスなど)につながる“仕事の意義”を実感しにくいことも多いはずです。

実感が得にくい仕事の場合、「日々取り組んでいる自分の仕事は何かの役に立っているのだろうか」という疑問が湧いてたまっていきます。自分が共感して入社したこの会社、仕事に求めていたものは何だったのだろうと。

やがては「こんなはずじゃなかった」と入社時点で選ばなかったほうの会社や第3の選択肢など、隣の芝生が青く見えるようになってくるのです。これはとても危険な状態です。

3 “仕事の意義”を感じられる、小さな成功体験の機会を用意する

仕事に対して最初から前向きな社員ばかりでもないでしょう。「仕事は生活に必要なお金を稼ぐ手段に過ぎない。さっさと終えてプライベートを充実させたい」と割り切って考える若手社員もいます。

ですが、彼らは気が付いていないのかもしれません。働く世代にとって「人生の約半分は仕事の時間」なのです。アルバイトで1日数時間働くのとは違います。働いている時間は、多少の残業や通勤時間なども考慮すると1日8時間以上。睡眠やトイレ、お風呂の時間を除くと、起きている時間の半分かそれ以上なのです。

よほどの好待遇であれば、単調で、時に体力的・精神的につらい日々も「お金のためと割り切って」我慢できるかもしれません。が、その前提となる好待遇は仕事への人並み以上の努力なくして得られません。

では好待遇はあきらめ、そこそこの給料を受け入れてプライベートの時間のために我慢して働くとしましょう。毎日8時間、起きている時間の半分以上となると我慢するには長すぎます。しかもそれが何十年と続くのです。

効率(コスパ、タイパ)良く稼ごうと思っていた人ほど、我慢できなくなります。来る日も来る日も8時間我慢しても給料が変わらないのであれば、お金以外の“何か”を求めたくなるはずです。

そんなとき、会社や上司が本人が担当している“仕事の意義=やりがい”を提示できたらどうでしょう。例えば本人が担当している仕事の質次第で、お客様が「ありがとう」と声をかけてくださることを伝えるのです。

声をかけられた本人はうれしいでしょう。褒められてうれしくない人はいません。その日一日くらいは何だか得した気分になれるのではないでしょうか。

お客様からの高い評価が続けば、会社からも評価されて待遇アップの可能性が高まるでしょう。より近道の効率(コスパ、タイパ)を求めていたはずが、少し遠回りに見えても“仕事の意義”に気付き追求することで、結果的に効率が良くなるのです。

仕事を通した小さな手応え、成功体験に出会わせてあげるだけで本人のやる気を引き出せる上に、待遇も上がる可能性があることを伝えられます。

そのためには“仕事の意義=やりがい”を提示してあげることが近道です。

4 部下に、担当する“仕事の意義”を伝えられていますか?

新卒、中途に限らず新人が「こんなはずじゃなかった」と感じて退職を考える理由の最たるものは「仕事のイメージ」のギャップだそうです。「自分はこんな仕事をしたくてこの会社を選んだわけじゃなかった」と感じてしまうのです。

あなたは部下に対して、その人が担当する仕事内容や手順を説明するだけでなく、“仕事の意義”についてしっかりと伝えられていますか。

「教会のレンガ積みの話」を聞いたことがある人は多いでしょう。

旅人が道を歩いているとレンガを積んでいる人たちがいる。彼らに何をしているのかと聞くと、ある人は「ただレンガを積んでいるだけですよ」と答え、ある人は「レンガを積んでこの町の新しい教会を建てるのです」と答え、ある人は「町の人々の心を支える場所を創っています」と答える。

三者三様であるものの、2人目、3人目の人には仕事に対する誇りややりがいがあり、2人目の人は、仕事=やりがいを、3人目の人は、仕事=生きがいと思えるまでのものを感じているはずです。

客観的に見ればただレンガを積んでいるだけの仕事でも、その先にある仕事の意義をどう感じているかは、人によって全然違うという例え話です。

レンガを積むという仕事をどう捉えるか。「ただレンガを積む仕事」→「町の教会を建てる仕事」→「町の人々の心を支える場所を創る仕事」と視点を変えていくことを、「抽象の階段(または、はしご)」を登ると呼びます。

抽象の階段(はしご)を登って視点を高くして見直してみるだけで、仕事自体は変わらなくても、仕事の持つ意義は全く違って見えるのです。

一人の仕事だけで教会が建つわけではありません。ならば一人くらい手を抜いてサボってもいいのでしょうか、それで良い教会は建つでしょうか。一人ひとりの良い仕事が積み重なって初めて、町の人々に末永く愛される良い教会が生まれます。

あなたの仕事や、あなたの部下が担当する“仕事の意義”とは何でしょう。それを一人ひとりに伝えられていますか。また小さなことからでもいいので、個々の“仕事の意義”を実感できる機会を用意できていますか。

5 宅配会社の仕事は、「ただ荷物を届けているだけ」ではなかった

「教会のレンガ積みの話」は分かりやすいのですが、新人の場合、いきなり「目の前の自分の担当業務の意義は?」と聞かれても、すぐにイメージが湧かないかもしれません。あなたならどうしますか。

私は以前、ある大手宅配会社の部長クラスの方を対象に、自社の仕事の意義を考える研修を行ったことがあります。同社でも他の宅配会社と同じように、若手社員の何年かは自ら配送を担当するのが決まりです。

毎日大小の荷物を大量に抱えて、朝から晩まで一つひとつ丁寧に届ける。時間通り届くのが当たり前という感覚の人も珍しくなく、少し遅れると怒鳴られ、再配達を繰り返してようやく届けても「ありがとう」や「お疲れ様」の一言もない。誰しもが「やってられるか」という気持ちになるでしょう。

新卒1年目にしては給料が良かったとしても、そんな毎日が続くとどんどん心が削られます。いつなんどき退職を思い立っても不思議ではないでしょう。

現場を離れて管理職になったらなったで、毎日クレームやストレスにさらされている部下たちが辞めないよう、明日も前向きに取り組めるようにマネジメントしなければいけません。皆さんの職場と比べても、早期退職がより心配される職場ではないでしょうか。

私は部長の皆さんに質問しました。「そんな中で、皆さんはどうしてこれまで辞めずに働いて来られたのですか?」と。すると、一人ひとり、これまでの仕事人生を振り返って、答えを見つけようとしました。

ある人は、ずっと取引がなく、何度営業しても相手にしてもらえなかった会社の社長からある日突然電話があったそうです。「この荷物を今晩中に〇〇まで届けてもらえないだろうか」と。トラックの配送では間に合わないが、新幹線なら最終便で間に合うかもしれない。

彼は「分かりました。何とかしてみます」と返し、チームの仲間に翌朝の業務を分担してもらうことにして、荷物を受け取り新幹線に飛び乗りました。荷物はその日のうちに無事に届けることができ、現地から報告の電話を入れたところ、社長は電話口で何度もお礼の言葉をくださったそうです。

それ以来、仕事の依頼をくださるようになって、大切な取引先の一つになったそう。「荷物を届けるというのは、人と人との信頼なんだ」と改めて感じたことが、今まで仕事を続けて来られた理由かもしれませんとその部長は言いました。

別の部長は当時担当していた営業所の近くで、阪神淡路大震災を体験したそうです。道路も交通機関も寸断されて、担当エリアである淡路島に荷物を運べない。どうしたものかと所内で話し合っていると、誰かが「空路で四国に運んで、反対側から淡路島に運んだらどうだろう」と思いつきました。

さっそく営業所をあげて本社に働きかけて動き出し、他の宅配会社よりもいち早く島内に荷物を届けることができました。中には日々必要な医薬品もあって、震災で手元の薬が尽きていた人から涙を流して感謝されたそうです。

「あの日届けた際にいただいた感謝の言葉が、今でも自分の支えになっているんですよ」とその部長は言いました。会社が説明してきた“仕事の意義”、「ただ荷物を届けているのではない、心を届けているのだ」の言葉は、頭では分かっていたつもりでしたが、心の底から実感した瞬間だったそうです。

部長の皆さんは、それぞれが同じように特別なお客様との体験談を持っていました。順にエピソードを聞くたびに、他の部長も私も感動してしまいました。宅配は「ただ荷物を届けているだけ」の仕事ではなかったのです。

6 “仕事の意義”を1対1だけでなく、チームで共有する

“仕事の意義”を感じるには、個人の体験談やお客様の声が響きます。1対1だけでなく、チームで共有しましょう。

最高のサービスを提供することで知られる東京ディズニーリゾートやザ・リッツ・カールトンホテルでは、毎日のチームミーティングで、大切にするべき理念や行動原則を確認するだけでなく、現場の一人ひとりが体験したお客様とのエピソードを共有しているそうです。

クレームや失敗した対応の報告もあるでしょうが、それらは次にどうすればよいか、みんなで話し合って対策を考えます。同時にうれしかった体験も共有しているのです。ある人は「こんなお礼の言葉をいただいた」、ある人は「感謝のお手紙をいただいた」と。

前日につらい体験をしたメンバーも、私だけではないのだと少し気持ちが軽くなるでしょうし、次こそ頑張ろうと思えるでしょう。辞めたい気持ちがよぎったとしても、「自分もお礼の言葉をいただくまでは頑張ってみよう」「感謝のお手紙をいただけるまでは頑張ろう」と思い直せるのではないでしょうか。

そうして気持ちを立て直し、翌日からも前向きに仕事に取り組んでいくことで、遠くない日にお客様からうれしい反応をいただけるようになるはずです。次第に少々のことでは辞めたい気持ちにならなくなってきます。

気が付けば部署に新人が入ってきても、自ら“仕事の意義”を伝えられる人材に育っていることでしょう。こうした好循環が『人が辞めない会社』の実現につながるのです。

新しく仲間になった新卒や中途の社員には、なかなか仕事の意義が捉えにくいもの。彼らが担当する業務の意義について伝えるのは、先輩や上司, あるいは採用に関わった担当者の仕事です。

とはいえ、すでに長く働いている社員の皆さんでさえ、仕事の意義について改めて考えたことがないかもしれません。ならば、この機会にぜひ新たな仲間と共に、一緒に考え共有してみてください。

入社後のフォローを続けながらも仕事に慣れてきた頃には、社員一人ひとりの担当業務ごとの“仕事の意義=やりがい”を伝え、実感させてあげてください。本人が“仕事の意義”を実感できてそれを仲間と共有できれば、人は簡単には辞めません。

第7回を最後までお読みいただきありがとうございました。次回も[仕事]についてのヒントをご紹介します。

毎回ご紹介するヒントを参考にしながら、自社を退職する一人ひとりの「辞める理由」と、働いている一人ひとりの「辞めない理由」を丁寧に拾ってみましょう。見えてきた自社ならではの“課題”を解消し“強み”を活かせれば、『人が辞めない会社』へと変われるはずです。

<ご質問を承ります>

ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mailto:brightinfo@brightside.co.jp
https://www.brightside.co.jp/

※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。

『新スペシャリストになろう!』
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以上(2026年1月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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【健康経営】 会社が義務を負う「健康管理」4つの取り組み

1 安全配慮義務を果たすことが健康管理の基本

社員の「健康」維持は今や会社にとって当たり前に取り組まなければならない課題です。会社には、

安全配慮義務:事業に用いる物的施設・設備、人的組織の管理を十分に行う義務

が課せられていています。また、労働基準法や労働安全衛生法では、会社に対して、社員の健康管理に関する義務を課しています。主に次の4つの取り組みが挙げられますが、これらは法令で定められた健康管理の基本ですので、しっかり押さえていきましょう。

  • 安全衛生管理体制の構築
  • 健康診断やストレスチェック制度の実施
  • 長時間労働の抑制
  • 社員が病気・けがをした場合の対応

2 安全衛生管理体制の構築

安全衛生管理体制とは、

労働安全衛生法に基づいて会社が整備する、社員の安全と衛生を守るための体制

です。具体的な内容を紹介します。

1)総括安全衛生管理者などの選任

会社には、事業場の社員数や業種に応じて次の担当者を選任する義務があります。「化学物質管理者」「保護具着用管理責任者」は、厳密には安全衛生管理体制に含まれませんが、他の担当者などと連携して安全衛生管理の職務に当たるので、押さえておきましょう。なお、

表内のリスクアセスメント対象物とは、「ラベル表示、SDS等による通知」が義務付けられている危険・有害物質のこと

です。

総括安全衛生管理者などの選任

2)安全委員会などの設置

会社には、事業場の社員数や業種に応じて次の委員会を設置する義務があります。安全委員会と衛生委員会の両方の設置義務がある会社は、まとめて「安全衛生委員会」とすることもできます。

安全委員会などの設置

なお、自社が選任すべき担当者や設置すべき委員会、具体的な職務内容などを知りたい場合、次のURLにジャンプし、特定のキーワード(担当者や委員会)をクリックすると便利です。

厚生労働省「職場のあんぜんサイト」(「安全衛生キーワード」全用語一覧)
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo_index04.html

3 健康診断やストレスチェック制度の実施

1)健康診断の実施

会社には、法令で定められた健康診断(法定の健康診断)を実施する義務があります。法定の健康診断には、「一般健康診断」と「特殊健康診断等」があります。

  • 一般健康診断:定期的な健康診断(5種類)
  • 特殊健康診断等:特定の有害な業務に常時従事する社員または従事したことのある社員に行う健康診断(3種類)

それぞれの内容は次の通りです。

「一般健康診断」と「特殊健康診断等」

この他、図表3に含まれない(一般健康診断でも特殊健康診断等でもない)健康診断として、

  • リスクアセスメント対象物に関する健康診断
  • 濃度基準値設定物質(ばく露量が濃度基準値(厚生労働省が定める濃度の基準値)以下なら健康障害を生じないとされているリスクアセスメント対象物)に関する健康診断

があります。前者はリスクアセスメント(有害性のリスク診断)の結果に基づき、関係社員の意見を聴いた上で必要があると認められるときに実施が義務付けられ、後者は社員が濃度基準値を超えて濃度基準値設定物質にばく露した恐れがある場合に実施が義務付けられます。

2)ストレスチェック制度の実施

ストレスチェック制度とは、

  • ストレスチェック:社員が所定の質問に答えて自身のストレス状態を把握するもので、医師、保健師、必要な研修を修了した看護師、精神保健福祉士、歯科医師、公認心理師が実施する
  • 医師による面接指導:高ストレス者から申し出があった場合に医師が実施する

などの一連の施策です。社員数が常時50人以上の会社は、年1回以上、ストレスチェック制度を実施する義務があります。

社員数が常時50人未満の会社は現状、努力義務ですが、

2025年5月14日から3年以内に、常時50人未満の会社も義務化の対象

となりますので、今後の動向に注意が必要です。

4 長時間労働の抑制

1)適切な労働時間管理

会社には、次のいずれかの方法で、全社員(管理監督者を含む)の労働時間を把握し、労働時間の記録に関する書類を5年間(当面の間は3年間)保存する義務があります。

  • タイムカードの記録、パソコン等の電子計算機の使用時間の記録など客観的な記録を基礎として確認する方法
  • 使用者が自ら現認して確認する方法
  • 自己申告により確認する方法(社員への周知、定期的な労働実態의調査などが必要)

労働時間は原則として、

法定労働時間(原則、休憩時間を除き1日8時間、1週40時間)の範囲内

に収まるようにしなければなりません。通称「36協定(さぶろく協定)」と呼ばれる労使協定を締結して所轄労働基準監督署に届け出ると、

時間外労働(法定労働時間を超える労働、いわゆる残業)、休日労働(法定休日の労働)

を社員に命じられますが、労働基準法では、会社は図表4の「時間外労働の上限規制」を遵守しなければならないとされています。なお、2024年4月1日からは、それまで適用が猶予されていた建設業、自動車運転業務、医師、砂糖製造業(鹿児島県・沖縄県)にも、上限規制が全面適用されています(いわゆる「2024年問題」)。

時間外労働の上限規制

2)労働時間などに応じた医師による面接指導の実施

会社は、次の場合には、該当する社員に対し、医師による面接指導を実施しなければなりません。

医師による面接指導の実施

5 社員が病気・けがをした場合の対応

1)保険給付を申請するための事業主の証明

ここまで紹介した措置を講じていても、予期せぬ事由等により社員が病気・けがをすることはあります。その場合は早急に治療を受けさせ、必要に応じて休業・休業などの措置を取りましょう。その際、社員が一定の要件を満たしていれば、社員は、

  • 労働に起因した災害(業務災害または通勤災害)の場合、労災保険の給付
  • 私傷病の場合、健康保険の給付

を請求できます。

社員が病気・けがをした場合の対応

労災保険の給付を請求する場合、社員は所定の請求書に必要事項を記入して、所轄労働基準監督署(直接または医療機関経由)に提出します(傷病(補償)年金については不要)。その際、

会社も社員が申告した労働災害の発生日時や発生状況について間違いがない旨を請求書に記入する必要があります。これを「事業主の証明」

といいます。

一方、健康保険の給付を請求する場合、基本的に会社は手続きに関与しませんが、

傷病手当金を請求する場合には、勤務状況や賃金の支払い状況などについて、事業主の証明が必要

になります。

2)復職の可否の判断

社員が病気・けがのために長期間働けない場合、社員を一定期間休業させ、回復を待つことになります。休業期間は、

  • 私傷病と通勤災害の場合、一般的に就業規則等で定める期間
  • 業務災害の場合、原則として休業が必要なくなるまでの期間

です。私傷病と通勤災害の場合、就業規則等で定める期間を経過しても復職できないときは、就業規則の定めに従って、社員を解雇や退職扱いとします。ただし、

就業規則等の規定だけを理由に社員を解雇等すると、不当解雇と判断される恐れ

があります。そのため、休業期間中から社員、主治医と連絡を取り合い、復職の可能性等を慎重かつ十分に検討することが大切です。一方、業務災害の場合、原則として社員が休業する期間とその後30日間は解雇ができません。これを「解雇制限」といいます。ただし、療養開始から3年が経過し、次のいずれかに該当すると解雇制限が解除されます。もっとも、解雇制限が解除されても解雇が有効と認められるかは別問題であるため、注意が必要です。

  • 社員の負傷または疾病などが治癒しておらず、会社が平均賃金1200日分の打切補償を行った場合
  • 社員が労災保険の傷病補償年金を受けている(または受けることになった)場合

3)本来の就業スタイルに向けた支援

社員が病気やけがにより通常のパフォーマンスを発揮できなくなった場合、あるいは一定期間、職場から離脱を余儀なくされてしまった場合、本来の就業状況に戻るまで多くの時間や労力がかかることがあります。その支援も会社の責務の1つとして考えられます。これまで各社の裁量によるところであったこの部分について、2026年4月から

治療と仕事の両立を促進するために必要な措置を講じる努力義務が会社に課せられる

ことになっています。詳細は指針で改めて定められますが、現状、厚生労働省「治療と仕事の両立支援ガイドライン」に基づき、次の取り組みが法制化される予定です。

会社に求められる取り組み

以上(2026年1月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:pixabay

【書籍ダイジェスト】『メタトレンド投資』

本書は、Apple、Tesla、NVIDIAといった成功企業の株を早くから買い、成果を上げた著者が実践する投資手法を自ら明らかにしている。
伝説のプログラマーにして起業家・投資家でもある著者が勧めるのは、多くの投資家が用いるテクニカル分析やファンダメンタルズ分析によらず、景気サイクルや中銀の金利政策といったマクロトレンドよりも長期変化の潮流を読み取り、適切なタイミングで投資を行う「メタトレンド投資」である。

書籍ダイジェストは、こちらからお読みいただけます。pdf

【中堅社員のスピーチ例】千里を走る名馬の心得

【ポイント】

  • 馬に千里を走る才能があったとしても、才能を見いだせる伯楽は少ない
  • 「自分は力があるのに認めてもらえない」と不満を言うだけでは、状況は変わらない
  • 力に気付いてもらえるよう、仕事ぶりで信頼を積み上げることが大切

おはようございます。2026年の干支は「午(うま)」、馬です。この「馬」にちなんだことわざ「千里の馬は常に有れども伯楽(はくらく)は常には有らず」をもとに、今年一年の自分の働き方についてお話ししたいと思います。

このことわざは、1日に千里を走るほどの力を秘めた名馬はたくさんいるが、名馬を見つけ出せる伯楽(馬の素養を見分ける人)は限られている。転じて、世の中に有能な人は多いが、その才能を見いだせる人物は少ないという意味で使われます。伯楽に才能を見いだされなかった馬は、一生ただの馬で終わってしまうわけですが、ここで考えたいのが、「馬は馬で、伯楽が才能を見いだしてくれるのをただ待っているだけでいいのか」という問題です。

例えば、ビジネスの場合だと、よくあるのがこんなケースです。「自分はもっとできるはずなのに、上司は難しい案件や大事なプロジェクトを任せてくれない」「同じ人ばかり指名されていて、不公平だ」心の中でそう不満を抱えつつ、でも自分からは特に動かない——こういう状態です。

しかし、上司の立場からすると、「期限を守るか」「基本的な仕事の精度は安定しているか」「チームへの影響を考えて動けるか」といった「安心して任せられる材料」が見えない人に、いきなり難しい仕事は振りづらいものです。「力はある“かもしれない”けれど、実際はどうか分からない人」よりも、「これまでの仕事ぶりで信頼を積み上げている人」を選ぶのは当たり前です。

私自身にも、「評価してくれる人がいれば、本気を出せるのに」と考えていた時期がありました。でも、今は「評価されるに足る材料を、自分がどれだけ提示しているか」が問われていると感じています。だから、「気付いてもらえない」と言う前に、「気付いてもらえるよう努力をしているか」と、常に自問自答することを心がけています。

2026年は、「任されないことへの不満」ではなく、「任せたくなる存在になる準備」に時間を使う一年にしたいと思います。上司からの大きな仕事を“待つ”のではなく、「この人に振ろう」と自然に名前が挙がるような、信頼と実績を積み上げる“千里の馬”を目指します。

以上(2026年1月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

              

食の未来は水槽の中に!? 改めて注目される「陸上養殖」

1 新規参入が相次ぐ陸上養殖

陸上養殖とは、

陸上に人工的につくった環境下で食用の水産物を養殖する事業のこと

です。ヒラメ、クルマエビ、トラフグ、アワビ、ウニ……こうした高級食材を、今よりもっと手軽に口にできる日がやって来るかもしれません。さまざまな水産物の陸上養殖が実用化されているからです。

海に囲まれ、さまざまな水産物に恵まれている日本ですが、近年は気候変動に伴う海水温の上昇、海流の変化などにより、種類によっては不漁が長期化し、各方面に影響が及んでいます。こうした状況の中、陸上養殖は

水質や水温を管理できるため「安定供給が可能」になると期待

されています。

また、漁業権の取得が不要であり、漁業法による制約を受けないため、

外資系企業や大手企業を含む水産以外の異業種による新規参入も増加

しています。水産庁によると、2025年1月1日時点の陸上養殖業の届出件数は740件、前年から78件増加しました。

さて、一口に陸上養殖といってもさまざまですが、特に期待されているのは「閉鎖循環式」です。

閉鎖循環式とは、施設内に整備された水槽の水を循環させながら、水中に排せつされた当廃物や餌を取り除き、水質を保つことで河川や海洋と接触することなく養殖するもの

です。

閉鎖循環式の陸上養殖の現状は、簡潔に言うと、

  • 初期投資とランニングコスト(餌代、水質や水温を保つためのエネルギー代など)が高いため、中小企業にとっては参入のハードルが高い
  • 一方、そうした中でも、これまで廃棄してきた食品残渣(ざんさ)を餌として有効活用したり、養殖した水産物を地域の新たな特産品として売り出したりする中小企業も増え始めている

という具合です。

この記事では、主に「閉鎖循環式」の陸上養殖に焦点を当て、外部環境や、参入事例を紹介します。食の未来を考えるきっかけとして、新規事業を構想する際のヒントとしてお役立てください。

2 陸上養殖を取り巻く市場環境

1)外部環境と成長要因

陸上養殖を取り巻く外部環境を整理してみましょう。

陸上養殖を取り巻く外部環境

1.政治(Political)

政府は、2020年に魚類養殖を対象とした「養殖業成長産業化総合戦略」を策定、2021年には貝類・藻類養殖に対する記述を追加し改訂を行いました。また、「マーケットイン型養殖業等実証事業」など国や自治体が支援制度を充実させています。こういった点は追い風と考えられます。

2.経済(Economical)

資材価格や人件費の上昇により、規模にもよりますが、初期投資は数千万円から数億円にも上ります。また、円安や原材料高を背景に、餌代やエネルギー代が高騰しています。消費地と生産地が近接することで販売時の輸送コストは抑えられますが、逆風のほうが強いといえるでしょう。

3.社会(Social)

陸上養殖は「食の安全」「エシカル消費」「SDGs」といったキーワードにつながる点で高く評価されており、こういった点は追い風です。

4.技術(Technological)

後述する「好適環境水®」の実用化、サンマやウナギなどの完全養殖(人工ふ化から育った親魚が産んだ卵を再びふ化~稚魚~成魚まで育てること)の成功例が現れていることなどは、今後の事業化に向けた追い風と考えられます。

2)陸上養殖の参入分析

「閉鎖循環式」の陸上養殖については、以前は体系的な情報がありませんでしたが、「内水面漁業振興法施行令」の改正により、2023年4月から届出制となりました。

2025年1月1日時点での陸上養殖業の届出件数(都道府県別)は次の通りです。

2025年の陸上養殖業の届出件数(都道府県別)

クビレズタ(海ぶどう)の養殖が盛んな沖縄県の届出件数が最も多く、大分県、鹿児島県、熊本県など九州地方に多い傾向が見られます。ただし、岐阜県をはじめ、いわゆる「海なし県」でも陸上養殖業の届出があります。

また、水産庁によると、2023年度、陸上養殖業により生産された水産物の合計出荷数量は6392トンで、ヒラメ1786トン、トラフグ1324トン、ニジマス791トン、アユ773トン、クビレズタ(海ぶどう)536トンと主に魚類が上位を占めています。

閉鎖循環式の陸上養殖の競争環境は次のように考えられます。

閉鎖循環式の陸上養殖の競争環境

3 陸上養殖の事例

大手企業、ベンチャー企業、異業種の中小企業など、陸上養殖を手掛ける企業は多種多様です。ここでは、その事例を5つ紹介します。

1)NTTグリーン&フード

通信大手NTTのグループ会社「NTTグリーン&フード」は、2024年12月、静岡県磐田市にシロアシエビ(バナメイエビ)の陸上養殖プラント(磐田プラント)を竣工しました。同社は、2024年8月、同じく磐田市でエビの陸上養殖事業を展開する「海幸ゆきのや」の全持ち分を関西電力から譲受し完全子会社としており、生産量で国内最大級のエビの陸上養殖施設を有する事業者となりました。

磐田プラントは、スズキ部品製造が保有する建屋を活用し、主にバイオフロック方式(水槽内に浮遊する微生物の集合体によって水を浄化する方式)を採用しています。外部パートナーによる検証エリアでは完全閉鎖循環方式も導入し、リサイクル可能な素材でかつ断熱性にも優れた環境配慮型の養殖用・ナーサリー(稚エビ用)水槽などを設置しています。

なお、磐田市では、磐田プラントの完成をきっかけに「エビ」を軸にした産業振興と地域活性化を進める取り組みが始まっています。教育機関を巻き込んだ食育活動や、地元飲食店によるメニュー化を通じて、地域住民が一体となって、陸上養殖エビの一大産地化を目指しています。

NTTグリーン&フード

2)マルハニチロ養殖技術開発センター

水産大手マルハニチロは、2025年9月、養殖研究を行うグループ会社「マルハニチロ養殖技術開発センター」において、事業レベルに準じる飼育密度でのサンマの試験養殖を成功させました。

マルハニチロ養殖技術開発センター

マルハニチロ養殖技術開発センターでは、世界で初めてサンマ水槽内繁殖を成功させた「ふくしま海洋科学館」から支援を受け、サンマ養殖の研究に着手。その後、クロマグロやブリ、カンパチ、マダイの人工種苗生産などで長年培ってきた養殖技術や研究開発の知見を生かし、サンマ養殖に適した餌や飼育設備の検討を重ね、2024年6月に出荷目安である100グラムを超えるサイズへ成長させることに成功しました。また、同年8月には人工授精にも成功し、事業化に向けた技術の蓄積を継続しています。

なお、マルハニチロは2026年3月にUmios(ウミオス)に社名変更を予定しています。

3)海藻ラボ

海藻ラボ(徳島県海部郡海陽町)は、徳島大、徳島文理大などと協働して海藻の陸上養殖に取り組んでいます。通常、海藻の海面養殖では、海水温の影響を受けるため、年間の3、4カ月に限られますが、同社は異なる生育水温を必要とする、あおさ(ヒトエグサ)とミリンソウ(「あかねそう®」)の2種類の海藻を組み合わせた「陸上二毛作養殖システム」を採用し、同一施設による通年養殖を実現しました。これらの海藻は、陸上養殖海藻としては日本初の有機藻類JAS認証を取得しています。

海藻ラボ

同社のプロジェクト「海藻が拓く、輝く未来の『ブループラネット』 海藻が 人と海を 豊かに、健康に。」は、2025年に開催された大阪・関西万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」を体現するプロジェクトとしてベストプラクティスの1つに選ばれました。

4)北三陸ファクトリー

北三陸ファクトリー(岩手県九戸郡洋野町)では、磯焼けによって痩せた実入りの悪いウニを廃棄するのではなく、商品に変える「再生養殖」に取り組んでいます。
磯焼けは、大型の海藻の大部分が沿岸の一部で枯れてしまう現象で、ウニによる食害が一因とされています。同社は、北海道大学をはじめとした研究機関や事業者との協力のもと、ウニがおいしくなるための「餌」、ウニをおいしく育てるための「カゴ」、そしてウニそのものを高品質にし、価値のある水産物として再生するための「再生養殖」の仕組みを確立し、特許を取得しました。「再生養殖」を適切に運用することで、痩せた実入りの悪いウニも2カ月という短期間で出荷レベルの実入りに改善することができるといいます。

同社は、再生養殖を通じて商品化したウニを「豊かな自然と地域を様々な人と一緒に育む」という願いを込めて「はぐくむうに®」と名づけ、統一ブランドで販売しています。

北三陸ファクトリー

同社は、同じように磯焼けで困っている事業者に向けて、養殖事業開始から出荷販路確保に至るまでのコンサルティングも行っています。

5)エムテック

精密切削加工・複合加工、医療機器製造を手掛けるエムテック(茨城県ひたちなか市)は、2023年9月に新たにアクア事業部を発足し、シロアシエビ(バナメイエビ)の閉鎖循環型陸上養殖を始めました。

同社は、地域特産のサツマイモ「紅はるか」を干し芋に加工する際に発生する皮などの残渣を餌の一部として利用しています。また、養殖に使う濾過槽(ろかそう)などの設計開発・製造から販売を、同社も参画する共同受注体「GLIT(Guild for Leading Innovative Technology)」で担っています。生産されたエビは「はるか海老®」として、地元の日本料理店などに出荷され、好評を得ています。

エムテック

4 参考

1)まさに魔法の水「好適環境水®」

「好適環境水®」は、海水の中から魚類に必要な成分をナトリウム、カリウム、カルシウムなどに絞り込み、淡水魚も海水魚も同じ水槽で飼育できる人工飼育水です。岡山理科大学の山本俊政准教授(生命科学部生物科学科)が中心になって研究を進めています。

開発のきっかけは、2005年ごろ、学生が海水に住むプランクトンを淡水で育ててみようとしたことでした。淡水の中に少量残存していた海水によってプランクトンが大量に繁殖することをつかみ、本格的な研究が始まりました。試行錯誤の結果、魚にとって最低限必要な成分と、各組成間の黄金比を見つけ出すことに成功。2010年には、35トン水槽4基と140トン水槽を備えた実験場「生命動物教育センター」(現・生物生産教育研究センター)が完成しました。

岡山市の条例で魚類廃液を下水道に流せないことが判明したものの、同センターは土壌細菌を活用し、濾過装置を併設して水を循環させる閉鎖循環式を採用することでピンチを切り抜けたといいます。

「好適環境水®」で飼育すると成長速度が早まるというデータもあります。「好適環境水®」は、塩分濃度が海水の約4分の1に調整されており、体内の塩分濃度との浸透圧調整に関わるストレスが軽減されるのが理由ではないか、とみられています。また、全て人為的にコントロールされた環境で養殖するため、気象や赤潮などの影響を受けない上、病気が発生しにくいというメリットもあります。

岡山理科大学では「好適環境水®」による海水魚養殖の研究により、トラフグ、ヒラメ、クエ、クロマグロ、シマアジ、ウナギ、ウマヅラハギ、オニテナガエビ、クルマエビ、バナメイエビ、ブラックタイガーなどの陸上養殖に成功し、それらは随時出荷されています。

岡山理科大学「生物生産教育研究センター」
https://renkei.office.ous.ac.jp/ercop/

2)水産庁「養殖業事業性評価ガイドライン」

水産庁は、金融機関が養殖業の経営実態の評価を容易にする養殖業(魚類、貝類、藻類、陸上養殖およびその他養殖)に対する「養殖業事業性評価ガイドライン」を策定しました。

養殖業は、

  • 事業期間が複数年にまたがり事業内容の評価が困難
  • 代金回収までに餌代などに多額の運転資金が必要
  • 販売価格の暴落や自然災害の経営リスクが大きい

といった特徴のため、金融機関からすると従来の評価手法では養殖経営体の経営実態を適切に評価することが難しく、資金需要に応えにくい状況があります。

ガイドラインでは、養殖業における経営の特徴、金融事情、食の安全・環境配慮等の事業性評価を行うための基本的留意点を述べ、6つの事業性評価の項目(市場動向、経営事業継続力、販売力、動産価値、品質生産管理、リスク管理・対策)と評価手法を提示し、この評価項目と評価手法に基づき作成する「養殖業ビジネス評価書」の作り方を示し、養殖経営体の事業性が見える化されやすくなるようにしています。

この他に養殖水産物の動産登記上の留意点、第三者の評価機関を活用した事業性評価の実施の流れ、事業性評価に必要となる資料やデータの出典を含め、金融機関が養殖業の事業性評価に必要な融資の判断材料を提供しています。

水産庁「養殖業事業性評価の推進」
https://www.jfa.maff.go.jp/j/saibai/yousyoku/jigyoseihyoka.html

以上(2025年12月作成)

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画像:水産庁、岡山理科大学、NTTグリーン&フードほか