2026年から始まる! 変わる! 注目制度15選

目次

2026年も、多くの分野で新たな制度や規制の改正が予定されています。経営者にとって、法改正や制度変更は日々のビジネスに直結する重要な情報です。

この記事で、2026年に施行される主な制度改正を15項目取り上げ、それぞれの概要と中小企業に関連する要点を施行日順に紹介します。

1 下請法が改正され「取適法」に名称変更、禁止行為なども追加(2026年1月1日から)

下請代金支払遅延等防止法(下請法)が改正され、法律名が「中小受託取引適正化法(取適法)」に変更されます。大きな改正点は

  • 発注者がやってはいけない新たな「禁止行為」が追加される(「協議に応じない一方的な代金決定」「手形による代金支払い」が新たに禁止に)
  • 適用対象となる「取引の範囲」が拡大される(「特定運送委託」が追加。さらに、資本金が少ない会社でも「従業員数」に応じて取適法の適用を受けるようになる)

です。

「手形による取引を頻繁に行っている会社」などはいち早く決済手段を見直す必要がありますし、「新たに取適法の適用を受けるようになる会社」も、禁止行為などを改めて押さえておく必要があります。

公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)関係」
https://www.jftc.go.jp/partnership_package/toritekihou.html

取適法については、こちらのコンテンツもご確認ください。

2 新たな源泉徴収税額表が適用開始、給与計算に注意(2026年1月1日以後支払い分から)

2026年1月1日以後支払い分の給与から、新たな源泉徴収税額表が適用されます。令和7年度税制改正に伴い、社員の所得税に関して

  • 基礎控除額の引き上げ(一律48万円→合計所得金額に応じ58万~95万円)
  • 給与所得控除の最低保障額の引き上げ(55万円→65万円)
  • 特定親族特別控除の創設(特定親族の合計所得金額に応じ最大63万円を控除)

などが行われています(これらの改正については、2025年12月に行われた年末調整から適用)。

給与計算については新たな源泉徴収税額表に基づき源泉徴収が行われているか(給与計算ソフトなどがアップデートされているか)を確認する必要があります。また、社員から提出を受ける扶養控除等申告書については、源泉控除対象親族の記載が正しく行われているかを確認する必要があります。

国税庁「令和8年分 源泉徴収税額表」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/zeigakuhyo2026/01.htm

3 職場の安全衛生対策が強化、ストレスチェックの対象も拡大(2026年1月1日から順次)

2026年1月1日から、労働安全衛生法等が段階的に施行されます。多様な人材が、安全に、安心して働き続けられるよう職場環境を整えるための改正です。内容は多岐にわたりますが、例えば次のような項目があります(カッコ内は施行日)。

  • フォークリフト等の特定自主検査・技能講習の不正防止対策の強化(2026年1月1日)
  • 混在作業場所において、個人事業者等(一人親方・フリーランス等)に対しても事故防止のために必要な指導や連絡調整等を行うことが義務化(2026年4月1日)
  • SDS(安全データシートの交付)について、化学物質の成分に営業秘密情報が含まれる場合、条件付きで代替化学名等の通知が可能に(2026年4月1日)
  • 高年齢労働者の労災防止を図るための措置が努力義務化(2026年4月1日)
  • 治療と仕事の両立支援に関する措置が努力義務化(2026年4月1日)
  • 常時50人未満の事業場でもストレスチェックが義務化(2025年5月14日から3年以内に政令で定める日から)

建設業や製造業では、適切な検査体制の整備や、外部講習機関の信頼性確保など、安全管理に関する社内チェックを一段と徹底する必要があるでしょう。ホワイトカラーの会社も(社員数50人未満の場合は)ストレスチェックの実務などを事前に確認しておきましょう。

厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/an-eihou/index_00001.html

4 自転車の交通違反にも「青切符」が適用(2026年4月1日から)

2026年4月1日から、自転車の交通違反についても、自動車の場合と同じく「青切符(交通反則通告制度)」が適用されるようになります。

青切符は、比較的軽微な交通違反の場合に交付されるもので、違反行為に応じた反則金を納付した場合、刑事罰が免除されるという制度

です。4月1日以降、「反則行為」という軽微な違反行為については、青切符での対応になります。一方、「非反則行為」という重大な違反行為(酒酔い運転など)については、これまで通り「赤切符(交通切符、刑事罰の対象)」での対応になります。

青切符の対象となる反則行為は

  • 信号無視(反則金:6000円、点滅信号を無視した場合は5000円)
  • 一時不停止(反則金:5000円)
  • 右側通行(反則金:6000円)
  • 携帯電話使用等(保持)(反則金:1万2000円)
  • 遮断踏切立入り(反則金:7000円)
  • 制動装置(ブレーキ)不良(反則金:5000円)

など113種類に及ぶため、特に社員が業務や通勤で自転車を使用する会社は、新制度に基づく交通ルールの徹底指導が必要です。

警察庁「自転車は車のなかま~自転車はルールを守って安全運転~」
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/bicycle/info.html

自転車の交通ルールについては、こちらのコンテンツもご確認ください。

5 物流業界にメス、「白トラ」規制の強化(2026年4月1日から)

2026年4月1日から、物流業界で問題となっていた違法な「白トラ(白ナンバーのトラックでの有償運送)」の規制が大幅に強化されます。具体的には、次のような改正が行われます。

  • 荷主が無許可の白トラ業者に運送を依頼した場合、処罰の対象に(100万円以下の罰金)
  • 貨物自動車運送事業者・貨物利用運送事業者に対して、再委託回数を原則2回(2次下請け)までとすることが努力義務化
  • 貨物自動車運送事業者だけでなく、貨物利用運送事業者についても運送契約締結時の書面交付等が義務化

荷主となる会社は、自社の貨物輸送について、違法業者に運送を依頼していないか十分注意する必要があります。物流コスト優先で無許可業者に頼ることがないよう、調達先の見直しや契約管理の強化が求められます。

国土交通省「違法な『白トラ』への規制が令和8年4月1日から強化されます」
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha04_hh_000346.html

6 民法改正、離婚後の「共同親権」導入(2026年4月1日から)

2026年4月1日から、民法改正により、離婚後の子の養育に関する制度が大幅に見直されます。最大の変更点は、離婚後の親権について「共同親権」の選択肢が導入されることです。

従来は父母のどちらか一方が親権者となる単独親権のみでしたが、改正後は父母の話し合いによって共同親権とすることも可能

になります(ただし、DVや虐待の恐れなど、子の利益を害すると家庭裁判所が判断した場合は単独親権が選択されます)。また、経済面では

「法定養育費制度」が導入され、離婚時に養育費の取り決めがなくても、離婚後に子を扶養しない親に対し、暫定的に子一人につき月額2万円の養育費支払い義務が発生する

ようになる見通しです。

会社としても、社員が離婚したり、ひとり親になったりした際の社内制度(休暇や扶養手当等)の見直しなどが必要になるかもしれません。

法務省「民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について〔令和8年4月1日施行〕」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00357.html

7 子ども・子育て支援金制度がスタート、社会保険料と併せて給与天引きを(2026年4月1日施行)

2026年4月1日から、「子ども・子育て支援金制度」がスタートします。この制度は

社会全体で子どもと子育て世帯を支えるため、全ての医療保険加入者(企業の従業員等)と会社が毎月一定額の拠出を行い、その財源を子育て支援施策に充てる

というものです。会社が全額負担する「子ども・子育て拠出金」とはまた別の制度で、子ども・子育て支援金の場合、会社と社員(健康保険の被保険者)が折半で負担することになります。こども家庭庁の試算によると、保険者が協会けんぽの場合、被保険者1人当たり支援金額は、

  • 2026年度見込み額:月額450円
  • 2027年度見込み額:月額550円
  • 2028年度見込み額:月額700円

と段階的に引き上げられる予定です(会社も同額を拠出)。

会社としては、社会保険料と併せて支援金の徴収が始まるため、給与計算システムの対応や、社員への説明(給与明細への項目追加など)が必要になるでしょう。

こども家庭庁「子ども・子育て支援金制度について」
https://www.cfa.go.jp/policies/kodomokosodateshienkinseido

8 在職老齢年金の見直し、60歳以上の働き方に影響(2026年4月1日から)

2026年4月1日から、在職老齢年金の支給停止調整額が「51万円→62万円」に引き上げられる見通しです。在職老齢年金とは、

働きながら老齢年金をもらうと、年金額がカットされることがあるという制度

です。厚生年金保険に加入しながら老齢年金をもらう60歳以上の社員が対象で、賃金と年金の合計額が支給停止調整額を超えると、老齢年金の一部または全額が支給停止となります。

支給停止調整額が引き上げられると、高齢社員は年金額を減らされにくくなり、より多く働けるようになります。ただ、60歳以降も働く社員が増えることによる人件費の上昇なども想定されるので、会社への影響は事前に検討しておく必要があります。

なお、在職老齢年金の見直しは「年金制度改正法」の改正項目の1つで、この他にも

  • 私的年金の見直し(2026年12月1日から)
  • 標準報酬月額の上限引き上げ(2027年9月1日から段階的に)
  • 社会保険の適用拡大(2027年10月1日から段階的に)
  • 遺族年金制度の見直し(2028年4月1日から)

などの予定が控えています。

厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00017.html

年金制度改正法については、こちらのコンテンツもご確認ください。

9 防衛特別法人税がスタート、法人税の申告時に注意(2026年4月1日以後開始の事業年度から)

2026年4月1日以後開始の事業年度から、防衛特別法人税の課税が始まります。防衛特別法人税とは、

文字通り「日本の防衛力強化等のために必要な財源を確保するための税金」で、基準法人税額から500万円を差し引いた金額に対し、4%の税率で課税

されます。

基礎控除として常に年500万円が控除されるため、所得金額が約2400万円以下であれば防衛特別法人税は発生しませんが、税額が0円であっても申告は必要です。

国税庁「防衛特別法人税が創設されました」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0025004-109_1.pdf

10 民事裁判手続がデジタル化、訴状提出も裁判記録の閲覧もオンラインで可能に(2026年5月21日から)

2026年5月21日から、日本の民事裁判が本格的なIT化(デジタル化)を迎えます。これまでの民事裁判は、紙の書類を裁判所に持参(または郵送)したり、訴訟記録を閲覧するために裁判所に出向いたりする必要がありましたが、

  • 訴状、準備書面、証拠等をオンラインで提出する
  • 判決書等を裁判所からオンラインで受け取る
  • 裁判記録をオンラインで閲覧する(当事者の場合)

といったことができるようになります。

この改正により、仮に会社が民事裁判の当事者になった場合、手続きの負担が大幅に軽減されることになります。一方、デジタル化に対応するために、システムへの事前登録や電子ファイル形式での文書管理などの準備、社内の情報システム部門との連携(機密文書の電子提出時のセキュリティ確保など)、顧問弁護士との手続のすり合わせなどが必要になってくるでしょう。

最高裁判所「民事裁判手続のデジタル化」
https://www.courts.go.jp/saiban/minjidejitaruka/index.html

11 事業全体が担保に? 企業価値担保権が創設(2026年5月25日から)

2026年5月25日に「事業性融資の推進等に関する法律」(事業性融資推進法)が施行され、「企業価値担保権」が創設されます。企業価値担保権とは、

会社が金融機関から融資を受けるに当たって、有形資産(土地・工場等)だけでなく、ノウハウや顧客基盤等の無形資産を含む「事業全体」を担保にできる制度

です。会社は「借り手」として自社の総資産を担保目的財産とし、新設される「企業価値担保権信託会社」が「担保権者」となり、債務の弁済が滞った際は、裁判所への申立てにより、担保権の実行手続を開始します(事業は解体せず、事業譲渡などで対応)。金融機関は「貸し手」となり、債務が弁済されない場合、事業譲渡の対価から融資を回収します(金融機関が「担保権者兼貸し手」になることもある)。

この制度が創設されることで、有形資産に乏しい中小企業やスタートアップも、事業実態や将来性に着目した融資が受けやすくなります。一方、制度を利用するに当たっては、経営者が金融機関に対し、自社のビジネスの継続性や収益性、事業計画などをこれまで以上に丁寧に説明できるようになる必要があります(事業性評価への対応)。

金融庁「企業価値担保権(旧:事業成長担保権)について」
https://www.fsa.go.jp/policy/kigyoukachi-tanpo/index.html

12 防災気象情報のルールが改善、BCPなどの見直しを忘れずに(2026年5月下旬から(予定))

2026年5月下旬(予定)より、河川氾濫・大雨・土砂災害・高潮の防災気象情報について、

  • 警報・注意報の情報名に「レベル」(1~5の5段階。「5」が最も警戒レベルが高い)が追加される(例:レベル3大雨警報、レベル2高潮注意報など)
  • 河川の氾濫の危険度の伝え方が変わる(特別警報の新設など)
  • 「警戒レベル4相当」の情報は「危険情報」として発表される

ようになります。これにより、自治体が発令する避難指示等(警戒レベル4相当)や住民がとるべき行動(レベル5は既に災害発生)と、気象庁の出す警報・注意報が対応づけられ、非常に分かりやすくなります。

防災気象情報の名称・レベルが変わるため、BCP(事業継続計画)や社員向けの防災マニュアルの見直しが必要です。例えば、「警戒レベル4危険警報発表で在宅勤務推奨」など、新しい名称に合わせて社内ルールを更新しましょう。防災訓練などでも新情報を盛り込み、周知を図ることが望まれます。

気象庁「新たな防災気象情報について(令和8年~)」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/keiho-update2026/

13 カスハラ・就活セクハラの防止措置が義務化(2026年10月1日から)

2026年10月1日から、カスハラ(カスタマーハラスメント)と就活セクハラについて、防止措置を講じることが義務付けられるようになります。

  • カスハラ:顧客等(顧客や取引先、見込み客なども含む)が社員に対し、悪質な嫌がらせ(暴行やひどい暴言、不当な要求など)をすること
  • 就活セクハラ:採用面接やインターンシップで、役員や社員が就活生に対し、性的な嫌がらせ(食事やデートへの執拗な誘い、不必要な身体への接触など)をすること

防止措置の詳細は今後厚生労働省の指針で定められる予定ですが、社内のハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラなど)を防止するのと同じように

  • ハラスメントに対する会社の方針の明確化、周知・啓発
  • ハラスメントに関する相談体制の整備・周知
  • ハラスメント事案が発生した場合の迅速・適切な対応

などが求められます。また、カスハラについては、顧客等からクレームがあった場合の対応フローなどを確認しておくこと、就活セクハラについては、社内規程に「社外の人間に対するハラスメントは許されない」旨を明記して社員に徹底させることなどが大切です。

厚生労働省「令和7年の労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)等の一部改正について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00003.html

カスハラや就活セクハラへの対応については、こちらのコンテンツもご確認ください。

14 酒税改正でビール業界の市場構造が変わる?(2026年10月1日から)

2026年10月1日、段階的に行われてきた酒税の見直しが、ついに最終段階を迎えます。今回の改正では、

ビール系飲料の税率が、1キロリットル当たり「15万5000円」(350ミリリットル換算で「54.25円」)に一本化

されます。現在、ビールの税率は350ミリリットル換算で63.35円、発泡酒や「第3のビール」(新ジャンル)はそれより低税率ですが、種類による税額格差が解消される形になります。また、

その他の発泡性酒類(チューハイ等)、低アルコール分の蒸留酒類及びリキュールに係る特例税率の税率も、1キロリットル当たり「10万円」(350ミリリットル換算で「35円」)に引き上げ

られます。現在の税率は、350ミリリットル換算で28円です。

飲食業や酒販業では、ビール系飲料については、発泡酒や第3のビールが相対的に値上がりし、低価格帯の優位性が消えるため、クラフトビールや地域発ブランドが再注目される可能性があります。チューハイ等については、税率引き上げによって「安く・気軽に」楽しめたカテゴリーの在り方が変わり、“客から選ばれる理由”を改めて模索する必要が出てくると考えられます。

財務省「酒税に関する資料」
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/d08.htm

15 インバウンド向け、免税店での販売はリファンド方式に変更(2026年11月1日から)

2026年11月1日から、訪日外国人(インバウンド)向けの消費税免税販売制度が「リファンド方式」へと変更されます。現行の制度では、免税店で商品を購入する際にパスポートを提示すればその場で消費税が免除(不課税販売)されますが、リファンド方式の場合、

インバウンドは購入時にいったん消費税を支払い、出国時(購入日から90日以内)に税関で確認を受けることで、税額分が出国後に返金される

ようになります。

基本的に国内販売と同様に税込価格で販売できるようになるので、販売時の手続きは簡素化されますが、一方、

出国したインバウンドへの返金は、免税店を経営する事業者が自ら行うか、承認送受信事業者などに委託するかのいずれかが必要になる

などの実務が別途発生します。そのため、新制度での手続きを事前に確認・対応しておく必要があります。

国税庁「輸出物品販売場制度のリファンド方式への見直し」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/menzei/201805/format/002.htm

以上(2025年12月作成)

pj60379
画像:Mariko Mitsuda

【年金制度改正法】社会保険の適用拡大にiDeCo拡充! 2026年度から始まる5つの改正(iDeCo拡充の施行日を追記)

1 改正ポイントは5つ、施行日順に紹介!

物価上昇や人手不足が続く中、国の年金制度も「時代に合わせた形」へと変わろうとしています。2025年6月20日公布の年金制度改正法では、在職老齢年金の見直し、社会保険の適用拡大、iDeCo(イデコ)の拡充など、働き方の多様化に対応する仕組みが盛り込まれました。

中小企業が押さえておきたい改正ポイントは次の5つで、2026年4月から順次スタートします。次章以降で、改正のポイントや中小企業で想定される問題、今のうちからやっておいたほうがいいことを社会保険労務士が分かりやすく解説します。ぜひご確認ください。

1)在職老齢年金の見直し

2026年4月から、在職老齢年金の支給停止調整額が「51万円→62万円」に引き上げられます。

2)標準報酬月額の上限引き上げ

2027年9月から2029年9月にかけて、厚生年金保険料については、標準報酬月額の上限(現在65万円)が75万円に段階的に引き上げられます。

3)社会保険の適用拡大

2027年10月から2035年10月にかけて、社会保険に加入する短時間労働者の範囲が段階的に拡大されます。対象は「厚生年金保険の被保険者数」「賃金」の要件です。

4)遺族年金制度の見直し

2028年4月から、子のない配偶者が遺族厚生年金を受け取る場合のルール、子が遺族基礎年金を受け取る場合のルールや加算額などが改正されます。

5)私的年金の見直し

2025年6月20日から3年以内に、iDeCoの加入可能年齢が引き上げられ、さらに企業型DCの拠出限度額が拡充されます(追記:2025年12月24日「令和7年政令第442号」により、施行日は「2026年12月1日」に決まりました)。

2 在職老齢年金の見直し

午前中の配送を終えたある運送会社。休憩室で、こんな会話が交わされていました。内容は「在職老齢年金」に関することのようです。

社長:佐藤さん、来月から少し出勤日を増やせない? 若いドライバーが体調崩しちゃってね。

佐藤:社長、ありがたいお話ですけど……これ以上働くと、年金が減っちゃうんですよ。

社長:ああ、在職老齢年金ってヤツだな。

佐藤:はい。月の給料と年金を合わせて51万円を超えると、超えた分に応じて年金が減るんです。だから、出勤日を増やすのは……まあ、基準額が51万円よりも上がったら考えますけど。

1)在職老齢年金の見直しとは?

在職老齢年金とは、

働きながら老齢年金をもらうと、年金額がカットされることがあるという制度

です。厚生年金保険に加入しながら老齢年金をもらう60歳以上の従業員が対象で、賃金と年金の合計額が「支給停止調整額」というボーダーラインを超えると、十分な収入があるとみなされ、老齢年金の一部または全額が支給停止となる仕組みです。

今回の改正では、2026年4月からこの支給停止調整額が「月51万円→62万円」に引き上げられることになりました。簡単に言うと、

  • 賃金(ボーナスを含む年収の1/12)と、老齢厚生年金の合計額が月62万円以下の場合、年金は全額支給される
  • 合計額が月62万円を超える場合、超えた分の1/2の額が年金から差し引かれる

という仕組みになります。これにより、年金を減らされずに働ける範囲が広がり、約20万人が新たに年金を全額受給できる見込みです。具体的には次のようなイメージです(図表の「50万円」は2024年度の金額です)。

在職老齢年金の見直し

2)60歳以降の働き方を見直そう、賃金だけでなく健康・安全対策にも注意!

在職老齢年金の引き上げにより、シニア層は年金額を減らさずに働けることになりますが、次のような問題が起きることも想定されます。

  • 60歳以降も働く従業員が増えることで、人件費が上昇する
  • シニア層が増えることで、健康・安全面での配慮がより重要になる
  • 在職老齢年金に関する従業員からの問い合わせが増える

会社が今のうちにやっておいたほうがいいこととしては、次のようなものが挙げられます。

1.対象者の確認(賃金設計や再雇用契約と照合)

在職老齢年金の対象となるのは、「厚生年金保険に加入しながら老齢年金をもらう従業員」、基本的には正社員です。定年を60歳よりも上に設定している場合、在職老齢年金の適用を受ける従業員が出てくる可能性があるため、賃金設計と照合しながら対象者を確認しましょう。短時間労働者(嘱託など)の場合も、一定の要件を満たせば厚生年金保険の被保険者になるので、再雇用契約の内容にも注意が必要です。

2.年金額と働き方の関係の説明 + 労働条件の見直し(必要に応じて)

在職老齢年金の対象者本人に、「賃金と年金の合計が一定額を超えると支給が調整される」仕組みを説明しましょう。説明が難しい場合は、本人から年金事務所に問い合わせてもらうのも手です。場合によっては、

  • 正社員のまま、在職老齢年金の適用下で働くのか(賃金は変わらないが、年金が減る)
  • 嘱託などに雇用形態を変えて働くのか(賃金は減るが、年金は変わらない)

などについて、従業員の希望を聞きつつ、労働条件を見直します。前者の場合、シニア層の賃金テーブルを見直して、在職老齢年金の適用を受けない設計にすることも考えられますが、賃金額を引き下げることが「労働条件の不利益変更」に該当するケースもあるので、このあたりは専門家に相談しながら慎重に進めましょう。

3.健康・安全対策の強化

シニア層の健康管理、労災防止も大切です。軽作業への転換や朝方シフトへの変更などを検討しましょう。シニア人材が安心して働けるようになれば、企業にとっても熟練の技術や経験を活かすチャンスが増えます。一方、加齢による身体機能の低下は誰しも避けられないので、例えば、1年ごとに再雇用契約を更新するのであれば、更新前に健康診断や体力テストを実施し、更新の可否を検討するのも手です。

3 標準報酬月額の上限引き上げ

とある週末。取引先とのゴルフコンペに参加した管理職たちの間で、昼休憩の雑談が始まりました。内容は「標準報酬月額」に関することのようです。

課長:いや~、昇進で給料上がったのはいいけど、その分社会保険料も上がっちゃいました。

部長:世知辛いよね~。でも、標準報酬月額の上限を超えると、保険料が頭打ちになるから、少し余裕が出てくると思うよ。

課長:でも、この前「保険料の上限が引き上げられる」ってニュースで見ましたよ。あれ、うちの管理職はモロに対象じゃないですか?

部長:まあ、制度を安定させるためだから仕方ないけど、管理職の手取りは確実に減るね……。

1)標準報酬月額の上限引き上げとは?

標準報酬月額とは、

報酬(正確には所定の方法で計算した報酬月額)を一定の金額幅で等級別に区分したもの

で、社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料)を決める基準です。これまで厚生年金保険料については、標準報酬月額の上限が65万円に設定されており、それを超えても保険料は増えませんでした。しかし、近年の賃金上昇により、高収入層の保険料負担が実際の収入に見合わない状態となってきたため、厚生年金保険料の標準報酬月額の上限が、

68万円(2027年9月~)→71万円(2028年9月~)→75万円(2029年9月~)

と段階的に引き上げられることになりました。

標準報酬月額の上限引き上げ

例えば、賃金が月75万円以上の方は、保険料が月9100円上がり、代わりに将来受け取れる年金は月約5100円増える見込みです。

2)昇給スケジュールの調整や労働条件の見直しを検討!

標準報酬月額の上限引き上げにより、高収入層の従業員は将来受け取れる年金が増えることになりますが、一方、会社においては次のような問題が想定されます。

  • 高収入層の従業員の社会保険料(会社負担分)が上昇し、人件費を圧迫する
  • すでに標準報酬月額が65万円を超えている従業員は、社会保険料(本人負担分)が上昇することで、手取りが減る可能性がある

会社が今のうちにやっておいたほうがいいこととしては、次のようなものが挙げられます。

1.高収入層の賃金データを確認 + 昇給スケジュールの調整(必要に応じて)

まずは、上限引き上げの対象となる標準報酬月額が68万円(2027年9月~)、71万円(2028年9月~)、75万円(2029年9月~)の従業員を洗い出し、会社の人件費にどの程度の影響が出るのかを試算しましょう。昇給時期がある程度柔軟な賃金設計になっている場合、対象となる従業員の数、人件費への影響を考慮しながら、昇給スケジュールを調整するのもよいでしょう。

2.従業員への説明 + 労働条件の見直し(必要に応じて)

すでに標準報酬月額が65万円を超えている従業員については、法改正によって社会保険料の本人負担が増えること、同時に将来の年金が増える可能性があることを説明しましょう。手取りの減少が従業員に与える影響が大きいのであれば、手当などを別途支給するのも一つの手です。

4 社会保険の適用拡大

ある日の昼下がり。金属金型の町工場で、こんな会話が交わされていました。内容は「社会保険の適用拡大」に関することのようです。

社長:田中さん、いよいよ社会保険に入ってもらうことになるかもしれないよ。

田中:え? うちは人数少ないから、社会保険には入らなくてもいいって……。

社長:そう……うちは従業員が36人だから、いわゆる「106万円の壁」の対象外だったんだ。でも、その規模要件がだんだん小さくなるらしい。

田中:つまり、私のようなパートでも、週20時間働いたら、社会保険に入らないといけないってことですか? 夫の扶養から外れるのはちょっと困ります……。

1)社会保険の適用拡大とは?

社会保険の適用拡大とは、

社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入する短時間労働者の範囲が拡大されること

です。現行の制度では、次の5つの条件を全て満たす短時間労働者が、社会保険に加入します。

  • 従業員51人以上の企業に勤めている
  • 所定内賃金が月額8.8万円以上(年収約106万円以上)
  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 学生でない
  • 2カ月を超えて雇用される見込みがある

このうち1.の企業規模要件(従業員51人以上)が、10年かけて段階的に縮小・撤廃されることになりました。直近では、2027年10月から、企業規模要件が「従業員51人以上→従業員36人以上」に変わり、2035年10月には要件自体が撤廃されます。

社会保険の適用拡大

さらに、2.の賃金要件(月額8.8万円以上)、いわゆる「106万円の壁」についても、最低賃金の動向などを踏まえ、2025年6月20日から3年以内に撤廃されることが決定しました。

社会保険の適用拡大

つまり、2035年10月以降は、一部の個人事業所(注)を除く「全ての会社」において、

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 学生でない
  • 2カ月を超えて雇用される見込みがある

を満たす短時間労働者が全員、社会保険に加入することになるわけです。

(注)個人事業所についても、これまで社会保険の適用対象外だった、従業員が常時5人以上の農業・林業・漁業、宿泊・飲食サービス業などについては、2029年10月以降、適用対象となります(既存の個人事業所、5人未満の個人事業所は引き続き対象外)。

2)まずは現状の把握、助成金や保険料支援制度も活用しよう!

社会保険の適用拡大によって、今まで以上に多くの従業員が社会保険に加入できるようになりますが、同時に次のような問題が起きることも想定されます。

  • 被保険者の増加により、会社負担分の保険料が上昇する
  • 扶養から外れることを避けたいパート・アルバイトが、勤務時間を減らす「働き控え」を起こす
  • 労務担当者が「加入義務があるかどうか」を判断しにくくなる

会社が今のうちにやっておいたほうがいいこととしては、次のようなものが挙げられます。

1.対象者の洗い出し + 人件費のシミュレーション

所定内賃金・勤務時間を一覧化し、社会保険に加入する見込みのパート・アルバイトを把握しましょう。対象者を洗い出したら、社会保険料(会社負担分+本人負担分)がどれだけ増えるかを試算してみましょう。

2.従業員への説明強化 + 労働条件の見直し(必要に応じて)

社会保険に加入すると、保険料負担が発生する代わりに、「将来の年金額が増える」「傷病手当金や出産手当金が受け取れる」などのメリットがあります。パート・アルバイトにメリットを具体的に伝えた上で、「それでも扶養から外れたくない」という従業員については、個別に相談をし、必要に応じて労働条件を見直しましょう(労働時間を短くするなど)。

3.キャリアアップ助成金などの活用を検討

新たに社会保険に加入するパート・アルバイトの中には「社会保険料が天引きされるなら、労働時間を延ばすなどして賃金を増やしたい」という人もいるでしょう。こうなると会社における人件費負担の増加は避けられませんが、厚生労働省の「キャリアアップ助成金」を活用することで、こうした負担を軽減できる場合があります。具体的には、

  • 短時間労働者を正社員化すると助成が受けられる「正社員化コース」
  • 社会保険加入時に手当支給・賃上げ・労働時間延長を行うと助成が受けられる「社会保険適用時処理改善コース」

などがあります。社内の労務体制を見直すことは、採用や人材定着にもプラスに働きますから、こうした助成金の活用もぜひ検討してみてください。

■厚生労働省「キャリアアップ助成金」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html

5 遺族年金制度の見直し

ある日の午後。総務部では、年末調整に向けた扶養の範囲確認が進められていました。新人の中村さんが、ふと気になったことを先輩の渡辺さんに尋ねます。内容は「遺族年金制度」に関することのようです。

中村:渡辺さんのお母さんって、今も遺族厚生年金をもらってるんですよね?

渡辺:うん。父が亡くなってからずっとだよ。もう5年以上になるかな。

中村:遺族厚生年金って、たしか「妻のほうが亡くなった場合、夫はもらえない」って聞いたことあるんですけど……何か不公平ですよね?

渡辺:今まではそうだったけど、今度の制度改正で変わるらしいよ。男女関係なく支給されるようになるみたい。

1)遺族年金制度の見直しとは?

従業員が亡くなると、従業員により生計を維持されていた家族には、厚生年金保険の「遺族厚生年金」が支給されます。優先順位は、

子のある配偶者・子 > 子のない配偶者 > 父母 > 孫 > 祖父母

で、最も優先順位の高い家族が受け取れます。

これまでの遺族厚生年金は、夫に先立たれた妻を主な対象としており、子のない配偶者が遺族厚生年金を受け取る場合、

  • 妻:配偶者の死亡時、30歳未満である場合は5年間の有期給付、30歳以上は無期給付
  • 夫:配偶者の死亡時、55歳未満である場合は給付なし、55歳以上は原則60歳から無期給付

というように、性別によって給付内容が異なりました。今回はこの点が改正され、

どちらも60歳未満は5年間の有期給付(配慮が必要な場合は継続給付。最長65歳まで)、60歳以上は無期給付

という運用に変わります。また、有期給付については収入要件の撤廃により、年収850万円以上の方も受け取れるようになります。

夫の場合は改正法の2028年4月から、妻の場合はまず40歳未満までを2028年4月から有期給付の対象とし、以後20年かけて段階的に年齢の引き上げを行います。

遺族年金制度の見直し

遺族厚生年金の他に、国民年金の「遺族基礎年金」についても改正があります。現行の制度では、子どもと生計を同じくする父または母がいる場合、子どもには遺族基礎年金が支給されませんが、2028年4月からは、一定の要件に該当した場合は、年金を受け取れるようになります。

遺族年金制度の見直し

また、遺族基礎年金では、18歳到達年度の末日までの子どもの数を基に「83万1700円+子の加算額」を受け取れますが、「子の加算額」も年間23万9300円(3人目以降は7万9800円)から28万1700円(一律)に増額されます。

2)会社の遺族補償制度との関係が複雑に……状況確認とマニュアル整備が不可欠!

遺族年金制度の見直しにより、保険給付を受けられる対象者の範囲が広がる半面、次のような問題が起きることも想定されます。

  • 遺族厚生年金を受け取っている家族が、扶養に入れなくなることがある
  • 「誰が対象で、誰が対象外か」が複雑化し、誤った説明をするリスクが高まる

会社が今のうちにやっておいたほうがいいこととしては、次のようなものが挙げられます。

1.従業員の被扶養者の状況確認

遺族年金(遺族厚生年金・遺族基礎年金)は、税法上は非課税所得ですが、社会保険上の被扶養者の判断においては収入とみなされます。今回の法改正によって、遺族年金の支給対象が広がるわけですが、結果として「これまで遺族年金をもらえなかった家族が、もらえるようになることで社会保険の扶養から外れる」というケースも考えられます。年末調整などにも影響しますので、従業員の被扶養者の状況は定期的に確認するようにしましょう。

2.社内制度との照合+従業員向け説明資料の見直し

多くの会社は遺族年金とは別に、弔慰金・死亡退職金等の社内制度を独自に設けています。その場合、遺族年金と社内制度とで、支給対象となる遺族の範囲や優先順位が異なるケースがあり、それが従業員の死亡時に混乱を招く恐れがあります。社内制度については、「誰が・いつ・どんな条件で支給対象になるか」を簡潔にまとめた説明資料を用意するなどして、「もしものとき」に適切な対応が取れるようにしておきましょう。

6 iDeCoの加入年齢引き上げ・企業型DCの拠出枠拡大

ある学習塾の職員室。来年度も再任用が決まったベテラン講師・高橋さんが、若手講師の相談を受けながら笑っています。内容は「iDeCo(イデコ)」に関することのようです。

若手:高橋先生、まだ現役なんですね! いつまで働く予定なんですか?

高橋:体が動くうちはね。最近は「年金 + 少し仕事」が一番いいと思ってるよ。iDeCoの掛金を増やそうと思ってるんだ。

若手:でも、iDeCoって60歳までしか入れないんですよね?

高橋:ああ、そうなんだけど、来年から変わるらしい。70歳近くまで入れるようになるとか。

1)iDeCoの加入年齢引き上げ・企業型DCの拠出枠拡大とは?

iDeCoは、従業員が自分で掛金を拠出して運用する、個人型の確定拠出年金です。現行の制度では、会社員(国民年金の第2号被保険者)の場合、iDeCoに加入できるのは65歳までですが、

2025年6月20日から3年以内に、加入可能年齢が70歳に引き上げ

られることになりました(追記:2025年12月24日「令和7年政令第442号」により、施行日は「2026年12月1日」に決まりました)。

企業型DCは、会社が掛金を拠出するものの、運用は従業員が自分の責任で行うという確定拠出年金です。企業型DCには、会社が拠出している掛金に、従業員自身が掛金を上乗せすることができる「マッチング拠出」という仕組みがあります。現行の制度では、従業員の掛金が会社の掛金を超えられないという制限がありますが、

2025年6月20日から3年以内に、この掛金に関する制限が撤廃

されることになりました(追記:2025年12月24日「令和7年政令第442号」により、施行日は「2026年12月1日」に決まりました)。

さらに、企業年金制度全体の透明性を高めるため、運用状況や残高をオンラインで確認できる「見える化」も進む予定です。これらの改正は、長く働く人の老後資金づくりを後押しするのが目的となっています。

iDeCoの加入年齢引き上げ

2)必要に応じて退職金制度や福利厚生の見直しを!

iDeCoや企業型DCの制度拡充によって、これらの利用が進むことが期待されますが、同時に会社においては、次のような問題が起きることも想定されます。

  • 従業員から「自分はiDeCoや企業型DCを利用できるのか」「他の会社は導入しているのに、なぜうちの会社では企業型DCを導入しないのか」などの問い合わせが増える
  • 投資未経験者には「損をするのでは?」という心理的ハードルがあり、制度を導入しても、社内で理解・利用が進まない可能性がある

会社が今のうちにやっておいたほうがいいこととしては、次のようなものが挙げられます。

1.退職金制度の見直し(必要に応じて)

現在、多くの会社が導入している退職金制度は、退職時に一括で支払う「退職一時金」ですが、企業型DCを導入した場合、退職金は年金で支払われるため、会社側の支払い負担は平準化されます。従業員アンケートなどで退職金制度に対する従業員のニーズを拾いつつ、会社側の人件費負担も考慮しながら、必要に応じて退職金制度の見直しを行いましょう。

2.従業員への説明 + 福利厚生の見直し(必要に応じて)

iDeCoや企業型DCについて、「投資は難しそう……」「運用に失敗したらどうしよう……」と不安を抱く従業員もいるでしょう。いきなり難しい投資の話をするのではなく、まずは「老後資金を国の制度で積み立てられる制度」である旨を伝え、苦手意識を取り払いましょう。最近は、iDeCoや企業型DCの将来的な受取額を試算できるシミュレーションシステムも多いので、こうしたものを従業員に勧めてみるのもよいでしょう。また、iDeCoについては、

拠出限度額の範囲(月額0.5万~2.3万円)で、iDeCoに加入する従業員の掛金に追加して、会社が掛金を拠出できる「iDeCo+(イデコプラス)」という制度

があるので、こうした制度を導入し、従業員の不安を軽減するのもよいでしょう。

以上(2025年12月作成)

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画像:beeboys-Adobe Stock

【税の勘所】押さえておきたい税金の「パーセンテージ」

1 押さえておきたい税金の「パーセンテージ」

この記事では、主な税金(法人税・所得税・消費税・相続税・贈与税)に関する「パーセンテージ」を整理します。

押さえておきたい税金の「パーセンテージ」

2 95%未満:消費税

95%未満は、消費税の仕入税額控除が一部できなくなる課税売上割合です。

課税売上割合とは、全体の売上高のうち、課税売上高(消費税が課される売上高)が占める割合で、消費税の仕入税額控除の計算などに使用されます。消費税の仕入税額控除の計算方法には、

  1. 全額控除方式:課税仕入れ等に係る消費税額の全額を控除
  2. 個別対応方式:課税仕入れ等に係る消費税額の一部を控除
  3. 一括比例配分方式:課税仕入れ等に係る消費税額の一部を控除

の3つがあります。

全額控除方式を適用することができるのは、課税期間における課税売上割合が95%以上で、かつ課税売上高が5億円以下の事業者に限られます。そのため、課税期間における課税売上割合が95%未満の場合、または課税売上高が5億円超の場合は、個別対応方式か一括比例配分方式のいずれかを利用することになり、課税仕入れ等に係る消費税額が一部控除できなくなります。

3 55%:相続税、贈与税

55%は、相続税と贈与税の最高税率です。

1)【相続税】相続税の最高税率

相続税の税率は、次の通り8段階に区分されており、最高税率は55%です。

相続税の税率

2)【贈与税】贈与税の最高税率

2015年以降の贈与税の税率は、次の通り「一般贈与財産」と「特例贈与財産」に区分されましたが、いずれのケースも8段階に区分されており、最高税率は55%です。

贈与税の税率

4 45%:所得税

45%は、所得税の最高税率です。

所得税の税率は、分離課税(株式等の譲渡で生じた所得などと、他の所得を分離して計算)に対するものなどを除くと、次の通り7段階に区分されており、最高税率は45%です。

所得税の税率

5 29.74%:法人税

29.74%は、法人実効税率(外形標準課税適用法人)です。

法人実効税率とは、法人税だけでなく、地方法人税、法人住民税、法人事業税の税率を考慮した、実際に法人が負担する税率です。法人実効税率は次の算式で計算されます。

法人実効税率

標準税率を適用した場合の今後の法人実効税率は次の通りとなります。

法人実効税率

6 15%(19%):法人税

15%(19%)は、法人税の軽減税率です。

普通法人で資本金が1億円以下の法人(中小法人)の場合、年800万円以下の所得金額部分については、通常よりも低い税率(軽減税率)が適用されます。ただし、資本金が1億円以下でも、資本金が5億円以上の法人と完全支配関係にある場合、軽減税率が適用されません。

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以上(2025年11月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:Dilok-Adobe Stock

これからの不動産の在り方。箱としてのビジネスでありながら、人のぬくもりがある。リクリー髙室氏が語る、不動産価値の再創造と「投資」としての新しいオフィス戦略/岡目八目リポート

年間1,000人以上の経営者と会い、人と人のご縁をつなぐ「代表世話人」杉浦佳浩さん。ベンチャーやユニークな企業の目利きとして知られる杉浦さんが今回紹介するのは、Reqree(リクリー)株式会社(以下「リクリー社」)代表取締役の髙室 直樹(たかむろ なおき)さんです。

不動産という「箱」を扱うビジネスでありながら、確かな「人のぬくもり」が通っている。髙室さんの話から、そのことがとても印象に残っています。

不動産はこれまで、「立地」「建物のスペック」そして「賃料」という3つの要素で評価されるのが当たり前でした。しかし、リクリー社はそこに「人の介在」という新しい視点を加えることで、物件が持つ価値を再定義しています。大手デベロッパーや不動産ファンド、そして今、地域の未来を担う金融機関からも注目を集めるリクリー社の取り組みについて、じっくりとお話を伺いました。

1 価値の再創造を目指す「リクリー」の原点

髙室さんはまず、社名に込めた想いから教えてくれました。

「『リクリー』という社名は、不動産の価値を再創造するという意味の英語『Recreate』に由来しています」

リクリーの原点

(出所:リクリー株式会社コーポレートサイトより)

リクリー社は、主にプライム市場上場のデベロッパーや、国内外の不動産ファンドを運営するアセットマネジメント会社をクライアントに持ち、オフィスビルや賃貸レジデンスの収益を最大化する支援を行っています。

ただし、リクリー社が行っているのは、単なる建物の改修やデザインではありません。オーナーが取得した物件に対し、どのようにハードとソフトの両面から付加価値を付け、長期的な収益を生み出すか。そのための全体的なディレクションを一手に引き受けています。

具体的な事例として髙室さんが教えてくれた西新宿(東京)のオフィスビルの話は、とても驚きでした。新宿駅から徒歩約15分、1990年竣工という、スペックだけを見れば決して恵まれた条件ではない物件です。しかし、リクリー社が介在することで、このビルは驚くべき変化を遂げました。髙室さんは西新宿のオフィスビルの賃料について次のように言っています。

「以前は坪単価18,000円から20,000円程度だった賃料が、現在では約33,000円から36,000円で契約されています」

賃料が約1.8倍という、不動産マーケットの常識では考えにくい賃料の数字。これを実現したのは、リクリー社が提唱する「これからの不動産に求められる価値」でした。この約1.8倍の賃料を実現できるようになった「付加価値がどのようなものか」は、後ほどご紹介します。

リクリーの実績

(出所:リクリー株式会社の資料から抜粋)

2 不動産収益を最大化する「3つのサービス」

リクリー社がサービスを提供するのは、「不動産収益を最大化する」のが目的です。サービスは、大きく3つの柱「企画コンサルティング」「オペレーションマネジメント」「プロモーションコンサルティング」で構成されています。

1)企画コンサルティング

1つ目は「企画コンサルティング」です。運営やリーシング(賃貸募集)の視点から、物件にどのような機能を持たせるか、どこに何を配置しどのように運営していくかなどをディレクションしていきます。例えば、先にお伝えした西新宿のビルでは、壁を取り払ってラグジュアリーな「ビジネスラウンジ」を設け、さらにワークアウト(ジム)エリアやゴルフブース、シャワールームまで、テナントが共有で使える充実した設備を配置しました。

さらに、この西新宿のビルで注目なのは「セットアップオフィス」という提供形態です。「通常、オフィスを借りる場合はテナント側が内装工事を行いますが、当社が行っているのはあらかじめ内装を仕上げた状態で貸し出す方式です。入り口を入るとテレブースやミーティングスペースなどが最初から備え付けられていて、テナント側が自分たちで作れば数千万円かかるような設備が整っています」と話す髙室さん。

セットアップオフィスは、スピード感を重視する成長企業にとって、初期投資を抑えつつ一等地のオフィス機能を享受できる極めて合理的な仕組みです。また、屋上には「ルーフトップテラス」もあり、夜は美しくライトアップされます。

「夏にはビールサーバーを用意して交流会を開き、1階のラウンジでもコミュニティマネージャーがケータリングやドリンクを用意してテナント間の交流会を開催することもあります」

オフィスが単なる仕事場ということではなく、チームでコミュニケーションが図れる企画や他社とも交流を図れる企画があるのは、オフィスで働く社員が意欲的になるためにとても効果があります。こうした社員満足度の向上につながる付加価値があるため、約1.8倍の賃料約33,000円〜36,000円が実現できているのだと思います。そしてポイントとなるのは「コミュニティマネージャー」の存在です。これは2つ目のサービス「オペレーションマネジメント」で登場してきます。

2)オペレーションマネジメント

リクリー社では、物件に正社員の「コミュニティマネージャー」を常駐させ、内覧時のアテンドから入居後のイベント企画、日々のきめ細かな受付対応までを担います。内覧時のアテンドでは、さまざまな付加価値のある機能を分かりやすく伝えるためにトークスクリプトも用意されています。

入居後も、例えばコーヒーマシンのメンテナンスや美観管理、イベント企画などを行い、ゲスト対応も含めた共有スペースの運営も対応します。どんなに豪華な箱を作っても、そこに「人」がいなければ、ただの無機質な空間で終わってしまいます。コミュニティマネージャーの常駐は、まさに「人のぬくもり」が感じられるサービスといえます。これは、これからの不動産に欠かせないサービスに思えます。

オペレーションマネジメント

(出所:リクリー株式会社の資料から抜粋)

3)プロモーションコンサルティング

オフィスビルの新しい付加価値の魅力を伝えることも大事です。リクリー社では、そうした「プロモーションコンサルティング」も行っています。髙室さんはこう言います。

「従来の比較表には載らない付加価値を、パンフレットやウェブ、SNSを通じて正しく伝えていく。そうでなければ、他物件と比べて賃料だけが高く見えてしまい、魅力が伝わらないからです」

企画コンサルティング、オペレーションマネジメント、プロモーションコンサルティング。この3つのサイクルが回ることで、不動産という「箱」に命が吹き込まれ、他にはない「付加価値」が生まれるのだと感じました。なんといっても、魅力的なオフィスは、そこで働く社員にとって大きな効果があります。そろそろ多くの経営者が、オフィスの価値向上の意義に気づき始めているのではないでしょうか。

3 従来の常識を覆す「6つの価値軸」

髙室さんは、不動産の評価軸を従来の「立地・建物・価格」の3軸に、さらに3つの「新価値軸」を加えた「6軸」で捉え直しています。

【3つの新価値軸】

  • 合理的価値: 豪華なラウンジやジムをビル側が用意し、各テナントが共有することで、自前で用意する場合と比較して圧倒的なコストメリットを提供すること。
  • 機能的価値: コロナ禍を経て多様化した働き方に対応し、集中もリラックスも、そして交流もできる環境を機能的に整えること。
  • 感情的価値: コミュニティマネージャーの挨拶や何気ない会話、交流会などを通じて生まれる、人との心地よいつながりがあること。

特に「感情的価値」について、髙室さんはこう言います。

「通常のオフィスビルは鉄とコンクリートとガラスでできた無機質な空間で、入っただけで笑顔になることはあまりありませんが、コミュニティマネージャーが『こんにちは』『おはようございます』と声を掛けることで、緩やかな人とのつながりが生まれます」

この視点、何かハッとさせられるところがあります。鉄とガラスの「箱」に「挨拶」というぬくもりが加わるだけで、そこは人が生き生きと働く温度感のある場所に変わるのです。この「感情的価値」こそが、リクリー社が選ばれ続ける真の理由だと確信しました。

これからのビルの価値軸

(出所:リクリー株式会社の資料から抜粋)

4 「ハイエンドオフィスビル」という新ジャンル

先ほども少し触れましたが、経営者がオフィスに求めるニーズは劇的に変化してきています。髙室さんは、現在のニーズを

「採用強化(リクルート)」「エンゲージメント強化」「エンパワーメント」の3点

に集約しています。

優秀な人材を採用するために魅力的な空間を整え、社員が「ここで働きたい」と心から思える環境を作る。そして、異なる知識や人が交流することで、AI時代に不可欠なクリエイティビティを引き出す場にする。

リクリー社では、これら3点に寄与するオフィスを「ハイエンドオフィスビル」と呼び、新しい賃貸オフィスのジャンルとして提供しています。

「オフィスを単なるコストではなく投資と捉え、賃料という形でその投資をしていただくという考え方です」

この髙室さんの一言は、全ての経営者に刺さる言葉ではないでしょうか。オフィスを「削るべき固定費」と見るか、「成長のための投資」と見るか。この意識の差が、これからの企業の競争力に大きな差を生むのだと思います。

ハイエンドオフィスビル

(出所:リクリー株式会社の資料から抜粋)

5 住まいに「つながり」を。賃貸レジデンスでの新しい豊かさの形

リクリー社が扱っているのはオフィスビルだけではありません。同社の考え方は、賃貸レジデンス(マンション)においても大きな力を発揮しています。

水天宮前(東京)にある事例では、単身者向けのワンルームマンションに、入居者専用のビジネスラウンジを設けました。

在宅勤務が広がる中、狭い自室で一人、朝から晩まで仕事をするのは、精神的にも決して楽なことではありません。しかし、1階に降りれば快適なラウンジがあり、そこにはコミュニティマネージャーがいます。髙室さんはコミュニティマネージャーのいる効果について、次のように話してくれました。

「人は社会的な生き物なので誰かと話すことが大切です。無機質なワンルームではご近所 付き合いも少なく孤独になりがちですが、1階にコミュニティマネージャーがいれば 『今日は在宅なんですね』といった何気ない会話が生まれます」

リクリー社の賃貸レジデンスでは、屋上で花火を見ながらのビール会など、緩やかなつながりを作るための交流会も開催されています。

また、コスト面でも、ラウンジやジムを活用することで、外部のコワーキングスペースやフィットネスジムに通う費用と時間を節約でき、極めて「合理的」な住まい方となっています。「住む場所」に「働く機能」と「人のつながり」が加わる。これは、これからの時代の住まいのスタンダードになる、そうなったら理想的だと感じます。

6 感情的価値の担い手「コミュニティマネージャー」の重要性

リクリー社の付加価値の核心を担うのは、間違いなく、物件に常駐するコミュニティマネージャーの方々です。髙室さんは、コミュニティマネージャーの方々を単なる「受付」とは定義していません。

リクリー社におけるコミュニティマネージャーの定義は、非常に志の高いものです。

「関わるすべての人への感情的価値を、人間関係の価値まで昇華させ、人生に彩りを与え、可能性を最大化する価値ある存在」

この定義を体現するために、リクリー社では非常に質の高い、独自の研修プログラムを多数用意しています。

「ビジネスマインド、経営者としての視点、コミュニケーション能力、信頼関係の構築、タイムマネジメントなど、さまざまな研修を行います。さらに、外部講師による認知科学の研修など、考え方や解釈力、視野を広げるための研修も取り入れています」と髙室さん。かなり分野が幅広いことが分かります!

単なる接客スキルの向上ではなく、入居企業や個人の可能性を広げる「エンパワーメント」を目指す。そのための教育に心血を注いでいるからこそ、リクリー社が手がける物件には、他には真似できない「人の温度」が宿っているのです。

コミュニティマネージャーの方に対するテナントおよびテナントオフィスメンバーの声を見てみましょう。心から喜んでいる様子がよく分かると思います。

コミュニティマネージャー

(出所:リクリー株式会社の資料から抜粋)

7 地域金融機関が自ら取り組む「地域貢献と収益」の新しい形

そして、このリクリー社の取り組みは今、金融機関にとっても大きなヒントとなっています。

例えば、石川県の北國銀行や、大阪の大阪シティ信用金庫など、地域の雄である金融機関が、自社ビルの建て替えや活用においてリクリー社をパートナーに選んでいます。

銀行の店舗は街の一等地にありますが、時代の変化とともに余剰スペースが課題となっています。そこを単なる「貸しスペース」にするのではなく、地域に新しいビジネスの風を吹き込み、人々が集う「公共性」のある場へと再構築する動きが加速しています。

髙室さんは、設計段階から運営を見据えたアドバイスを行っています。音漏れを防ぐための換気ダクトの位置や、内覧時の導線など、実際の現場でしか分からないようなことをしっかり提供しています。

「金融機関は利益だけでなく地域社会への貢献も重要です。そのため、シェアオフィスやビジネスラウンジを作ることで地域に貢献しつつ収益も得られる方法として関心が高まっています」

そう語る高村さん。この取り組みは、全国の金融機関にとって「自分たちも地域のために何ができるか」を考える際、かなり具体的な解決策になるはずです。地域に新しいビジネスが育つ場所を生み出し、そこから未来の顧客を創出していく。それこそが、特に地域の金融機関が果たすべき本来の役割ではないでしょうか。

8 不動産の未来に流れる「人のぬくもり」

髙室さんのお話を伺って、不動産の価値を最後に決めるのは「そこに流れる人の時間である」ということが、改めて感じられます。

建物のハードウェアは、完成した瞬間から経年劣化が始まります。しかし、そこで提供されるホスピタリティや、育まれる人間関係は、教育や工夫、そして情熱次第で、どこまでも磨き続け、価値を高めることができます。

「建物のハードは作ったときがピークで経年劣化していきますが、ホスピタリティやお客様との関係性はどこまでも向上させられると考えています」

髙室さんのこの言葉は、不動産業界のみならず、全てのビジネスに対しての“力強いエール”のように聞こえます。

リクリー社の不動産の付加価値を高める方法は、経営者にとっては「社員の可能性を育てる投資」として、金融機関にとっては「地域を豊かにするプラットフォーム」となります。「箱」としてのビジネスでありながら、人のぬくもりがある。リクリー社が取り組む「不動産の再創造」は、これからの日本における働き方、そして社会のあり方を、優しく、力強く示してくれていると感じました。

髙室さん、そしてリクリー社の皆さま、新しい不動産の考え方を本当にありがとうございます!

リクリー社コーポレートサイトはこちら

2025年11月には、リクリー社の公式Instagramが開設されています! このお知らせは下記からご確認いただけます。Instagramでは、物件の素晴らしさが具体的に分かります!

https://reqree.co.jp/news/581/

              

以上(2025年12月作成)

退職金制度、このままで大丈夫? 制度の方向性は「廃止or変更」

1 退職金制度の導入率は10年間で14.7ポイント低下

中小企業の退職金制度の導入率は、2024年時点で64.2%です。2014年は78.9%だったので、10年間で14.7ポイント低下しました(東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情」)。

退職金制度の導入率

退職金制度には、一時金で支給する「退職一時金」、年金形式で支給する「退職年金(企業年金)」があります。中小企業の76.1%は退職一時金のみの導入で、基本的には長く働くほど金額が増える仕組みになっています。

ただ、最近は定年まで同じ会社で働き続ける人が減ってきた関係で、従来の退職金制度が実情に合わなくなってきている面があり、それが導入率低下の一因にもなっています。とはいえ、経営者としては「従業員の頑張りに、何らかの形で報いたい」という思いもあるでしょう。

そこで、この記事では、退職金制度の見直しの方向性として、

  • 退職金制度の廃止(制度を廃止して賃金に上乗せするなど)
  • 退職金制度の変更(支払いの負担が少ない制度などに移行する)

の2つを紹介します。

2 退職金制度の廃止の方向性

1)退職金前払い制度

退職金制度を廃止して、その分を賃金に上乗せする方法です。次のように、「会社に勤め続けるか分からないから、それなら賃金が増えたほうがよい」と考える社員に寄り添ったものになります。

退職金前払い制度

常用雇用の社員1人1カ月当たりの労働費用(社員を雇用することで発生する費用)を見てみましょう。現金給与額(賃金)と退職給付等の費用(退職金)の関係は次のようになっています。

常用雇用の社員1人1カ月当たりの労働費用

退職給付等の費用を現金給与額に回せば、他社を上回る賃金水準にすることもできるかもしれません。ただし、次のような注意点があります。

  • 賃金の上げ幅によっては、社会保険の標準報酬月額(月例賃金を一定の金額幅で区分したもの)が上がり、社員と会社の社会保険料負担が増える
  • 退職一時金には「退職所得控除」、退職年金には「公的年金等控除」という非課税枠が設けられているが、現金給与として前払いする場合、その分の金額は「給与所得」として課税対象になる(手取りがさほど増えない可能性がある)
  • 退職金制度を完全に廃止することで、対外的なアピールポイントが下がる

2)iDeCo+(イデコプラス)

iDeCo(イデコ)とは、社員が自分で掛金を拠出して運用し、60歳以降に受け取る個人型確定拠出年金です。このiDeCoの制度の中に、

拠出限度額の範囲内(0.5万円以上、2.3万円以下)で、iDeCoに加入する社員の掛金に追加して、会社が掛金を拠出できる「iDeCo+(イデコプラス)」

という制度があります(正式名は「中小事業主掛金納付制度」)。

会社が拠出した掛金は全額損金に算入されます。つまり、

給与扱いにならないため、標準報酬月額に影響せず、社会保険料も増えない

ということです。また、個人の運用をサポートする制度なので、通常の退職金制度より事務負担が軽くなります。

ただし、次の点に注意が必要です。

  • 対象は、社員(厚生年金の被保険者)が300人以下で、企業型確定拠出年金(企業型DC)、確定給付企業年金(DB)、厚生年金基金を実施していない中小企業に限定される
  • 導入するには、過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)の同意が必要になる
  • 会社が、掛金(社員拠出分と会社拠出分)をまとめて実施機関に納付する必要がある(社員拠出分の掛金は、給与天引き)

なお、iDeCoについて1点、制度改正があります。現行のルールでは、会社員(国民年金の第2号被保険者)の場合、iDeCoに加入できるのが65歳までとなっていますが、

2025年6月20日から3年以内に、加入可能年齢が70歳に引き上げ

られることが決まっています。iDeCo+を活用することで、社内の退職金制度を廃止した後も、社員への将来に向けた補助を継続させることが可能となります。また、iDeCo+を導入していることは採用面などにおいて、自社アピールに利用することができます。

3 退職金制度の変更の方向性

中小企業が導入できる退職金制度には次のようなものがあります。それぞれ特徴があるので、支払いの負担などを考慮して、自社に合ったものを選定しましょう。

退職金制度

退職金制度の選択肢は、退職一時金と退職年金のどちらを採用するか、または併用するかです。支払いの負担を考えると、年金形式で支給する退職年金は、退職一時金に比べて負担を平準化しやすいですが、一方で、退職年金には「60歳以降など、一定の年齢にならないと引き出せない」というルールがあり、退職金を早くもらいたい社員からは敬遠されるかもしれません。

また、退職金の準備を自社で行うか、外部機関で行うかも重要です。例えば、中小企業退職金共済制度を利用していない場合、中小企業は自社で引当金を積むケースが多いですが、その場合、損金算入が認められません。一方、外部機関に積み立てる場合、損金に算入できる部分があるため、税法上のメリットがあります。

退職金制度の種類は、どれも一長一短です。1つの退職金制度に絞り込むのではなく、退職金前払い制度なども含め、複数の仕組みを組み合わせるのも一策です。

なお、図表4のうち、企業型確定拠出年金(企業型DC)について1点、制度改正があります。企業型DCには、会社が拠出している掛金に、社員自身が掛金を上乗せすることができる「マッチング拠出」という仕組みがあります。現行のルールでは、社員の掛金が会社の掛金を超えられないという制限がありますが、

2025年6月20日から3年以内に、この掛金に関する制限が撤廃

られることが決まっています。

4 廃止と制度変更の「折衷案」

ここまで、退職金制度の廃止と変更の方向性について考えてきましたが「折衷案」として、

賃上げと退職金制度の実施を同時に実施する

という方法もあります。

廃止と制度変更の「折衷案」

例えば、企業型DCを導入している場合、

賃金の一部を、引き続き賃金(手当など)として受け取るか、企業型DCの掛金にするかを社員が選択できる「選択制DC」

という制度があります。今の収入を多くしたい社員などは賃金として受け取り、将来に備えたい社員などは掛金にすることを選択します。掛金にすることを選択した場合、当然賃金は減りますが、その分、社会保険料負担なども下がる可能性があります。

退職金前払い制度に似ていますが、こちらは社員に受け取り方の選択肢を与えることで、実質的に賃上げと退職金制度の縮小を同時に実施するイメージです。

以上(2025年12月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:Ljupco Smokovski-shutterstock

雇用環境・均等部(室)の是正指導

労働時間や賃金などについて違法が見つかると、企業は労働基準監督署から是正指導を受ける場合があり、多くの企業ではこの点について注意を払っていると思われます。しかし、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)の是正指導については、見落としがちです。本稿では、雇用環境・均等部(室)の是正指導についてポイントをお伝えします。労務管理の参考にしてください。

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雇用環境・均等部(室)の是正指導

労働時間や賃金などについて違法が見つかると、企業は労働基準監督署から是正指導を受ける場合があり、多くの企業ではこの点について注意を払っていると思われます。しかし、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)の是正指導については、見落としがちです。本稿では、雇用環境・均等部(室)の是正指導についてポイントをお伝えします。労務管理の参考にしてください。

1 是正指導44,436件

都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)は、男女雇用機会均等法、労働施策総合推進法(パワーハラスメント関係)、パートタイム・有期雇用労働法、育児・介護休業法に関して違反を見つけると、企業に是正指導を行います。

厚生労働省のまとめによると、この4つの法律にかかわる令和6年度の是正指導は、全国で44,436件に上りました。

令和6年度の都道府県労働局雇用環境・均等部(室)における雇用均等関係法令の施行状況

※厚生労働省「令和6年度の都道府県労働局雇用環境・均等部(室)における雇用均等関係法令の施行状況について」より

令和6年度は、パートタイム・有期雇用労働法の是正指導が圧倒的に多く28,299件でした。このうち、労働条件の文書交付の違反が最多(6,899件)でした。企業はパートや有期雇用労働者を雇い入れる際と契約更新の際に、基本的な労働条件に加えて、昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無、相談窓口についても文書の交付などにより明示する義務があります。違反が改善されなければ、10万円以下の過料の対象になります。

次に多かったのは、雇用管理の改善措置の説明違反(4,612件)でした。パートや有期雇用労働者を雇う際、正社員との間で不合理な待遇差を設けないことや、基本給額は何を勘案して決めたかなどを必ず説明しましょう。

3番目は、正社員への転換に関する違反(3,821件)でした。企業は、パートや有期雇用労働者が正社員に転換できるよう、試験制度を設けるなどの対策をとらなければなりません。

2 ハラスメントも要注意

育児・介護休業法に関する是正指導は8,330件で、このうち最多は、休業等に関するハラスメント防止措置の違反(育児1,391件、介護1,341件)でした。

男女雇用機会均等法に基づく是正指導は5,087件でした。このうち1,364件が妊娠・出産等に関するハラスメント措置義務、1,302件がセクシュアルハラスメント措置義務の違反でした。

労働施策総合推進法(パワーハラスメント関係)の是正指導は2,720件で、このうち1,698件がパワハラ防止措置の違反でした。

企業には、これらのハラスメントを防ぐため、相談窓口の整備や、ハラスメント発生時の適切な対応などが義務づけられています。相談窓口がない中小企業が多いので、注意してください。

3 さいごに

これら4つの法律では、違反に対し罰則を設けているケースは少ないです。しかし、労働者の関心は高く、労使間トラブル(紛争)になりかねません。社内で解決できないと、都道府県労働局で、局長による解決援助や調停会議による調停に持ち込まれます。最悪の場合、民事訴訟に発展しますので注意してください。

※本内容は2025年12月10日時点での内容です。

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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「思いやり・ゆずり合い」運転(2026/1号)【交通安全ニュース】

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活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

車を運転するとき、交通法規を守ることはもちろん、周囲の状況を的確に把握しなければなりません。さらに、他車に迷惑をかけないような配慮も必要です。

そこで今回は、交通事故を防止する上で重要な基本姿勢ともいえる、「思いやり・ゆずり合い」運転について考えます。

「思いやり・ゆずり合い」運転

他車へ配慮した運転とは

車を運転をしていて、不安や怒りなどを感じることはないでしょうか。

次のようなケースを例に、思い出してみましょう。

他車へ配慮した運転とは

他車への配慮を考えるには、相手を「思いやり」そして「ゆずり合う」気持ちが大切です。

「思いやり・ゆずり合い」運転チェック

「思いやり・ゆずり合い」運転の例を以下に示します。

  • 駐車枠の中央に真っすぐ停車している。
  • 前の車と十分な車間距離を保って走行している。
  • 停車するとき、急ブレーキにならないよう徐々に減速し停車している。
  • 交差点で青信号に変わったとき、急発進せず周囲の安全を確認をしてから発進している。
  • 狭い道路で対向車が接近しているときは、率先して道をゆずるようにしている。
  • 渋滞中の道路を走行しているときに、脇道から合流待ちをしている他車を見かけたら、道をゆずるようにしている。
  • 優先道路を走行しているときでも、他車の状況に応じて安全に減速し道をゆずるようにしている。

この他にも、どのような「思いやり・ゆずり合い」運転があるか思い浮かべてみましょう。

「思いやり・ゆずり合い」運転による効果

「思いやり・ゆずり合い」運転は、交通事故防止だけではなく、様々な効果が期待できます。

「思いやり・ゆずり合い」を意識して、自分の気持ちの変化を感じてみてはいかがでしょうか。

「思いやり・ゆずり合い」運転による効果

以上(2026年1月)

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2026年度税制改正大綱のポイント~年収の壁178万円・租特メリハリ付け・物価高対応~

(要旨)

  • 2026年度税制改正大綱が決定。今回改正の特徴として、①所得課税の控除の見直し(いわゆる年収の壁)、②租特のメリハリ付け、③物価上昇に伴う複数の基準額の引き上げ、が挙げられる。
  • 昨年来議論されてきた所得税の「年収の壁」については、物価上昇に伴う引き上げに加え、低中所得層に限定して特例措置を上乗せする形で課税最低限を178万円とする。国民民主党が従来から求めてきた課税最低限の水準だが、所得制限や住民税が除外されている点等で当初の国民民主党案とは大きく異なる内容である。
  • 租税特別措置のメリハリ付けの方針のもと、大企業向けの賃上げ税制を25年度末で廃止とするなど賃上げ促進税制を縮小。また、所得税以外にも物価上昇に応じた基準額の見直しが複数実施される点も特徴。マイカー通勤の通勤手当や少額減価償却資産の基準額が物価上昇を踏まえて引き上げられる。
  • 所得税の基礎控除については、住民税や課税ブラケットの見直しがなされておらず、ブラケット・クリープ対策として不十分な点が課題。また働き控え解消の観点では社保の壁への対応が重要であり、今後検討される給付付き税額控除がその役割を担うことが期待される。法人課税について、改正のベクトルは法人負担増方向になりつつある。2027年度予算以降本稼働する高市政権の日本版DOGEは更なる租特の見直しを主たる議論に据えるだろう。

2026年度税制改正大綱が決定

2026年度の税制改正大綱が閣議決定された。今後の国会の審議を経て、大綱の内容に基づいて税制改正が決定されていく見込みだ。今回の改正の主な内容は本稿末尾の参考資料に整理した。改正内容は多岐にわたるが、本稿ではその中でも3つのポイントに絞って、今回の大綱の内容の特徴をまとめていく。

基礎控除・給与所得控除最低額を引き上げ:2年に1度物価で改定、当初案とは異なる「178万円」

今回、所得税関連において大きな改正となったのが所得税の基礎控除等の引き上げだ。いわゆる「年収の壁」の見直しの議論である。今回の控除の見直しは大きく2つの改正に分けられる。①控除額の物価連動の枠組みの整備、②昨年の三党合意:“178万円を目指す”を踏まえた基礎控除の特例措置の拡充である。

①に関しては、所得税の基礎控除及び給与所得控除の最低額について、「消費者物価の上昇率」を用いて2年に1度見直すことが明記された。これに基づき、2026年分の基礎控除(所得税、本則部分)と給与所得控除は双方4万円の引き上げがなされ、それぞれ62万円(現行:58万円)、69万円(現行:65万円)とする。これらは恒久措置となる。控除額をインフレに応じて引き上げることは、控除多くの国で行われている措置だ。諸外国でもこれに伴う財源確保などは基本的に要しておらず、今回大綱でも同様に「これらの引上げは、物価調整を行うものであることを踏まえ、特段の財源確保措置を要しない」旨も示された。

②については、昨年に設けられた基礎控除の特例措置を拡大することで、給与収入665万円相当までの人の基礎控除(特例)の額を42万円まで引き上げる(従来は年収に応じて37~5万円)。さらに、給与所得控除にも特例措置として5万円の引き上げがなされる。これにより、引き上げられた基礎控除(本則)、給与所得控除最低額との合計は178万円に達することになる。年収帯ごとの基礎控除(所得税)改正の概要を資料1にまとめた。特例措置部分は2026年・2027年の時限措置として実施されることになる。

資料1.基礎控除(所得税)改正の全体像

基礎控除(所得税)改正の全体像

(注)年収は給与収入の場合。赤字が今回改正部分。

(出所)自由民主党、日本維新の会「令和8年度税制改正大綱」より第一生命経済研究所が作成。

控除額の引き上げによって、各家計には減税効果が及ぶ。それらを試算したものが資料2である。特例措置の拡充の恩恵が及ぶ年収665万円以下の層の恩恵が特に大きいほか、基礎控除の本則部分の引き上げによって、高年収帯にも減税効果が及ぶことがわかる。昨年来「178万円」の実現を求めていた国民民主党の当初案では、中間層世帯でも10万円超の減税がなされる内容となっていた。これは103→178万円への引き上げのすべてについて、住民税を含む基礎控除の引き上げで実施するものであったことに由来する。また、178万円の根拠としていた「最低賃金上昇率で控除額の引き上げを行う」という仕組みについても取り入れられてはいない(消費者物価上昇率を採用)。所得税の課税最低限は178万円に引き上げられることとなったが、“引き上げ方”は国民民主党の当初案とは大きく異なる内容である。

なお、「今後、生活保護基準額が178万円に達するまでは課税最低限178万円を維持しつつ、(中略)基礎控除の本則部分と給与所得控除の最低保証額の引上げに応じて、同額を特例措置からそれぞれ振り替えていくことする」とされた。178万円のための特例措置部分については、“引き上げの先取り”として整理するイメージだ。

資料2.年収別の減税額試算

(25年と26年の比較、24年と26年の比較)

年収別の減税額試算

(注)単身の給与所得者を想定、住民税、復興特別所得税を勘案。一定の前提を置いた試算である。

(出所)税制改正の内容をもとに第一生命経済研究所が作成。

租税特別措置のメリハリ付け:大企業向け賃上げ促進税制は廃止に

各税の租税特別措置については、法人税を中心に見直しが行われる。昨年の税制改正大綱においても、過去に実施されてきた法人税率の引き下げについて、設備投資促進や雇用賃上げ促進等の効果が薄かったと評価してメリハリ付けの必要性が示されていた。今回、これらが改めて記述されるとともに、いくつかの租税特別措置の見直し・縮小が実行に移されることになる。

象徴的なものが賃上げ促進税制の縮小だ。一定の雇用や賃金の増加の要件を満たした企業に対する減税措置として実施されてきたが、大企業向けを2026年3月末で廃止、中堅企業(常時使用従業員2,000人以下)向けは2026年度に継続雇用者給与等支給額の増加要件を現行の3%以上から4%以上に引き上げたうえで2027年3月末に廃止、中小企業向けは現行制度を維持することが示された。一定の賃上げが定着しつつあることを受け、政策の必要性が薄れたとの判断のもとで制度の縮小が行われる。

また、研究開発税制については、AI・量子・半導体・バイオ・フュージョンエネルギー・宇宙の6分野を「戦略技術領域」として指定し、これらの分野では40%(認定機関との共同・委託研究は50%)の高い税額控除率を適用する一方、海外への委託研究については税額控除の対象を段階的に縮小し、2025年度は70%、2026年度は60%、2027年度は50%まで引き下げる。国内の研究開発基盤強化の観点から、国内での研究活動を促進する狙いがある。

設備投資減税については、新たに「特定生産性向上設備等投資促進税制」が創設された。投資額35億円以上(中小企業は5億円以上)で年平均投資利益率(ROI)15%以上という要件を設定したうえで、即時償却または7%(建物等は4%)の税額控除を可能とする。これにより、真に生産性向上に寄与する大規模投資に支援を集中させる方針が明確になっている。

物価高対応:マイカー通勤、少額減価償却資産などの基準額を引き上げ

物価高を受けた対応が複数盛り込まれたことも今回の改正の特徴だ。先の基礎控除等の引き上げもその一環であるが、ほかにもいくつかの改正がなされている。

まず、長年据え置かれてきた各種の税制上の基準額が物価上昇を踏まえて網羅的に見直された。マイカー通勤の通勤手当に係る所得税非課税限度額は、片道65km以上の長距離通勤者について新たに距離区分を細分化し、最大で月額66,400円まで引き上げられる(現行は55km以上で一律38,700円)。また、駐車場料金についても月額5,000円を上限に非課税限度額への加算が可能となる。

食事支給に係る非課税限度額も大幅に引き上げられる。使用者負担額の上限が月額3,500円から7,500円へと2倍以上に、深夜勤務の夜食代も1回300円から650円へと引き上げられる。これらは1980年代から据え置かれていた基準であり、実態との乖離が著しくなっていた。

また、少額減価償却資産の取得価額の損金算入特例の対象が30万円未満から40万円未満に引き上げられる。これにより、中小企業がパソコンやソフトウェアなどのIT機器を導入する際の税負担が軽減される。さらに、農業者年金の保険料上限が月額6.7万円から7.4万円に、厚生農業協同組合連合会の差額ベッド料金基準が5,000円以下から1万円以下に引き上げられるなど、物価上昇に対応した水準への調整が幅広く実施される。

今後の焦点:所得課税で積み残された課題と日本版DOGEの本稼働

今回大きな改正となったのは所得税の控除の見直しである。特に、日本でも物価上昇が定着しつつある中で、控除の自動調整の仕組みを整えた点は経済情勢に応じた適切な改正である。多くの先進国では基準額を物価上昇率等に応じて見直しており、日本でもその導入を行った点は評価したい。

しかし一方で、今回の改正対象は国税の所得税のみにとどまった。本来であれば、もう一つの所得課税である住民税の基礎控除も引き上げ対象に加えることがインフレ調整として適切な対応となる。大綱では「個人住民税については、「地域社会の会費」的な性格を踏まえ、所得税の諸控除の見直しのほか、地方税財源への影響や税務手続簡素化の観点等を踏まえつつ、その非課税限度額や基礎控除等について必要な対応を検討する」とされた。住民税の所得割は一律10%であり、“住民税の控除額が調整されない”ことで生じる負担は低中所得者にとってより大きい。

また弊著「『年収の壁』の議論が見落とす課題」(25.12.15)でも論じている通り、住民税のほかにも積み残された課題は多い。改正がなされた所得税についても課税最低限の引き上げのみにとどまっており、本来純粋なインフレ調整を実施するためには所得税の税率の上昇する所得の基準額も物価等に合わせて引き上げる必要がある。アメリカなどでは課税最低限のみでなくこの基準額も毎年自動調整がなされている。住民税の課税最低限や税率変更の基準額の調整が不在となっていることで、インフレとともに所得課税の実効税率が引き上がってしまう「ブラケット・クリープ」の問題は部分的にしか解消されていない。この問題に対して早期に解決を図るべきであろう。

さらに、控除のインフレ調整の問題と働き控えを生む年収の壁の問題は本来切り分けて考えるべきものである。手取り収入の急減につながるのは社会保険の壁(106万円・130万円・週20時間の壁)である。今後、給付付き税額控除の導入が本格的に議論されていくことになるが、社会保険料の負担が急増するこの社保の壁を解決する方向で進めることが望ましいだろう。

法人課税については、昨年の大綱に続いて従来の法人税率引き下げの効果を疑問視する旨の記載が盛り込まれたほか、今回は大企業向け賃上げ促進税制の廃止などが具体化された。インセンティブを強化しつつも、ベクトルとしては法人負担増を求める方向になりつつあると考えられる。社会保険料の増加に伴う家計の可処分所得の圧縮や個人消費の伸び悩みなどが日本経済の課題となる中で、特に法人課税関連の租特の圧縮は今後も実行されていく可能性が高そうだ。高市政権で発足した日本版DOGE(租税特別措置・補助金見直し担当室)は2027年度予算以降に本格的に稼働するスケジュールであり、この点が今後主たる議論となることが見込まれる。

参考資料.2026年度税制改正大綱の主な改正内容

1.物価高への対応

1.1物価上昇に連動して基礎控除等を引き上げる仕組みの創設

(物価上昇に伴う控除額の引き上げ)
物価上昇に対応し、所得税の人的控除等について自動的に調整する仕組みを新たに創設。

  • 令和8年度税制改正では、令和5年10月~令和7年10月の2年間の消費者物価指数(総合)の上昇率6.0%を踏まえ引上げを実施
  • 基礎控除(本則):58万円 → 62万円(+4万円)
  • 対象:合計所得金額2,350万円以下の個人
  • 給与所得控除の最低保障額:65万円 → 69万円(+4万円)

(今後の調整ルール)

  • 見直し前の控除額に、税制改正時点の直近2年間のCPI(総合)上昇率を乗じて調整
  • 初年度は源泉徴収では対応せず、年末調整から適用

1.2「三党合意」を踏まえた更なる対応(課税最低限178万円)

(基礎控除の特例〔時限措置〕)
物価高への迅速な対応として、所得税の課税最低限を178万円とする特例措置を、令和8年・9年分に限り実施。

  • 給与収入200万円相当以下
    • 基礎控除特例:37万円 → 42万円(+5万円)
  • 給与収入200万円超~475万円相当以下
    • 基礎控除特例:30万円 → 42万円(+12万円)
  • 給与収入475万円超~665万円相当以下
    • 基礎控除特例:10万円 → 42万円(+32万円)
  • 給与所得控除の最低保障額についても一律5万円引上げ

1.3税制上の基準額の点検・見直し

物価上昇を踏まえ、長期間据え置かれてきた税制上の各種基準額を網羅的に見直し。

  • (マイカー通勤の通勤手当非課税限度額)
    • 通勤距離65km以上の非課税限度額を引上げ
    • 駐車場料金相当額を月額5,000円まで加算可能
  • (食事支給の非課税限度額)
    • 使用者負担上限:月額3,500円 → 7,500円
    • 深夜勤務の夜食代:1回300円以下 → 650円以下
  • (中小企業者等の少額減価償却資産)
    • 取得価額基準:30万円未満 → 40万円未満
  • (厚生農業協同組合連合会の差額ベッド料金)
    • 病室差額料の平均額:5,000円以下 → 1万円以下

2.「強い経済」の実現に向けた対応

2.1大胆な設備投資の促進に向けた税制措置の創設

国内における高付加価値化型の大規模設備投資を促進するため、新たな税制措置を創設。

  • 投資下限額:取得価額の合計額が35億円以上(中小企業等は5億円以上)
  • ROI(投下資本利益率)15%以上を要件
  • 認定計画に基づく設備投資について、税額控除(7%、建物は4%)又は即時償却を選択適用

2.2研究開発税制の抜本強化

(重点産業技術試験研究費〔戦略技術領域型〕)

  • 基本税額控除率:40%
  • 認定機関との共同・委託研究:50%
  • 控除上限:法人税額の10%
  • 3年間の繰越控除を可能

(一般試験研究費)

  • 試験研究費の増減割合に応じ、8.5%~14%の税額控除率
  • 原則上限:法人税額の10%

(中小企業技術基盤強化税制)

  • 新たに3年間の繰越税額控除を導入
  • 増減試験研究費割合12%超等の特例を3年間延長

(海外委託研究の見直し)

  • 海外委託研究について、
    • 控除対象割合を段階的に縮減
      • 令和8年度:70%
      • 令和9年度:60%
      • 令和10年度:50%
    • 医薬品等の臨床試験は制限対象外

2.3住宅ローン控除の拡充

  • 適用期限を5年間延長(令和12年12月31日まで)
  • 既存住宅の優遇拡充:
    • 認定住宅・ZEH水準省エネ住宅:借入限度額3,500万円
  • 省エネ基準適合以上の既存住宅:
    • 控除期間を10年間→13年間に拡充
  • 子育て世帯等向け特例:
    • 認定住宅:借入限度額最大5,000万円
    • 対象を省エネ基準適合以上の既存住宅にも拡大
  • 床面積要件の緩和:
    • 40㎡以上50㎡未満も対象(合計所得金額1,000万円以下の年)
  • 災害レッドゾーンでの新築は適用対象外(建替えを除く)

2.4オープンイノベーション促進税制(M&A型)の拡充

  • 適用期限を2年間延長

(増資特定株式)

  • 株式取得価額要件:
    • 中小企業者以外:1億円以上 → 2億円以上

(買収による過半数取得)

  • 取得価額要件:5億円以上 → 7億円以上
  • 吸収合併時の特別勘定:
    • 合併日の翌事業年度から5年間で均等取崩し

(段階的買収への対応【新設】)

  • 対象:3年以内に過半数取得が見込まれる株式取得
  • 取得価額要件:3億円以上
  • 税制措置:
    • 取得価額の20%以下を特別勘定として損金算入
  • 上限額:200億円

3.資産形成の促進と金融を通じた経済成長

3.1 NISAの拡充

  • つみたて投資枠の対象年齢を0歳まで拡大
  • 0~17歳:
    • 年間投資枠:60万円
    • 非課税保有限度額:600万円
  • 12歳以降は子の同意を条件に払出し可能
  • 積立枠の対象商品の拡充:
    • 債券比率50%超の投資信託

3.2暗号資産の分離課税化

  • 投資家保護の法整備等を前提に、
    • 資産形成に資する暗号資産を分離課税の対象とする
  • 対象取引:
    • 現物取引、デリバティブ取引、ETF
  • 3年間の損失繰越控除制度を創設

3.3ふるさと納税の見直し

(特例控除額の上限設定:令和10年度分以後)

  • 上限額:
    • 住民税所得割額の2割と定額上限(道府県民税77.2万円+市町村民税115.8万円)のいずれか低い額

(制度運用の適正化)

  • 寄附金活用可能額:
    • (寄附金総額-募集費用)≧ 寄附金総額の60%(経過措置あり)
  • 使途に関する公表義務を新設
  • 指定取消しの強化:
    • 再指定禁止期間:2年 → 最大3年
    • 遡及期間:1年 → 最大4年

4.租税特別措置等の見直し・適正化

4.1賃上げ促進税制の見直し

  • 大企業向け措置:適用期限を待たず令和7年度末で廃止
  • 中堅企業向け措置:要件を強化しつつ令和8年度は継続。その後廃止。
  • 中小企業向け措置:令和8年度は現行制度を維持、必要な見直しを検討
  • 教育訓練費増加による上乗せ要件は廃止

4.2租税特別措置の不適用措置の強化

  • 大企業の研究開発税制等の適用の際、設備投資と賃上げについて、双方の要件を同時に満たすことを要求

4.3教育資金一括贈与の廃止

  • 適用期限(令和8年3月末)をもって延長せず廃止
  • 格差固定化懸念、教育無償化の進展、NISA拡充等を踏まえた判断

5.地方の伸びしろの活用・暮らしの安定

5.1中小企業支援

  • 少額減価償却資産の特例(再掲):
    • 取得価額基準:30万円未満 → 40万円未満
    • 適用期間を3年間延長
  • 中小企業技術基盤強化税制:
    • 3年間の繰越税額控除を導入
  • 事業承継税制:
    • 法人版:特例承継計画の提出期限を令和9年9月末まで延長
    • 個人版:提出期限を令和10年9月末まで延長

5.2ひとり親控除の拡充

  • 所得税:35万円 → 38万円(令和9年分以後)
  • 個人住民税:30万円 → 33万円(令和10年度分以後)

6.自動車関係諸税の見直し

6.1電気自動車への課税の見直し

  • 保有段階:
    • EVの自動車税について車両重量課税方式を検討
    • 令和9年度税制改正で結論
  • 利用段階(令和10年5月1日施行):
    • EV・PHEVに重量税の特例加算を車検時に徴収
    • 新車の新規検査分は課税免除

6.2軽油引取税の当分の間税率の廃止

  • 令和8年4月1日に廃止

6.3自動車重量税のエコカー減税

  • 適用期限を2年間延長
  • 燃費基準を段階的に強化

6.4環境性能割の廃止

  • 令和8年3月31日に廃止
  • 減収分は国の責任で手当

7.防衛力強化に係る財源確保

7.1防衛特別所得税(仮称)の創設

  • 所得税額に対し税率1%の付加税
  • 課税期間:令和9年1月以後
  • 家計負担増回避のため、
    • 復興特別所得税の税率を1%引下げ
    • 課税期間を令和29年まで延長

8.財源確保措置

8.1当分の間税率廃止・教育無償化の財源

  • 令和8年度税制改正により、約1.2兆円(平年度)を確保
  • 主な内訳:
    • 賃上げ促進税制の見直し
    • 超高所得者負担の適正化
    • 教育資金一括贈与の廃止

9.税負担の公平性確保

9.1極めて高い水準の所得に対する負担の適正化

  • 基準所得金額:3億3,000万円 → 1億6,500万円
  • 税率:22.5% → 30%
  • 適用:令和9年分以後の所得税

9.2租税回避への対応強化

  • 貸付用不動産の評価を利用した租税回避への対応
  • マンションの投機的取引の実態把握

<今後の検討事項>

  • 法人税率の在り方(メリハリある体系の構築)
  • 高校生年代の扶養控除の在り方
  • 自動車関係諸税(車体課税・燃料課税の一体的検討) など


以上(2026年1月)
(執筆 第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 星野 卓也)

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画像:photoAC

本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

【残業代の計算問題】 変形労働時間制やみなし労働時間制の場合はどう計算する?

1 変形労働時間制などは残業代の計算が複雑

残業代の計算は意外と複雑で、特に「変形労働時間制」や「みなし労働時間制」を導入している会社は要注意です。

変形労働時間制

1カ月や1年など一定の期間内において、総労働時間を定め、その期間を平均して法定労働時間を超えない範囲で、1日10時間や1日6時間など労働時間を弾力的に設定したり、始業・終業時刻の決定を社員に委ねたりできる制度です。日によって社員の労働時間が異なるので、残業時間の計算がしにくいケースがあります。

みなし労働時間制

労働時間が把握しにくかったり、仕事が専門的で会社が具体的な指示を出しにくかったりする場合に、実際の労働時間ではなく労使協定などで定めた特定の時間(みなし労働時間)を働いたとみなす制度です。残業代が発生しないと思われがちですが、実は法定労働時間を超えるみなし労働時間を定めた場合など、残業代が発生するケースがあります。

そこで、この記事では間違えやすい残業代の計算ルールを問題形式で3つ紹介します。次の用語は重要なので、問題に取り組む前に押さえておきましょう。

基本的な用語

なお、残業代については明確な定義がないので、この記事では

所定外労働(時間外労働、休日労働、深夜労働、所定外の法定内労働)に対する賃金

を残業代として扱います。

2 1カ月単位の変形労働時間制における残業代の計算

1)問題

Aさんが勤める会社では、「1カ月単位の変形労働時間制」を導入しています。

1カ月単位の変形労働時間制

1カ月以内の一定の期間(「変形期間」といいます)における週の平均労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)以内であれば、法定労働時間を超える所定労働時間を設定できる制度です。

変形期間内の所定労働時間の合計が、

法定労働時間の総枠=週の法定労働時間×変形期間の暦日数÷7日

を超えると、超過時間分の労働が時間外労働になります。

Aさんの労働条件は次の通りです。

  • 変形期間:毎月1日から末日の1カ月(31日)
  • 法定労働時間:1日8時間、1週40時間
  • 法定労働時間の総枠:177.1時間(40時間×31日÷7日)
  • 所定労働時間:後述のシフト表の通り
  • 法定休日:日曜日
  • 賃金体系:日給月給制(1カ月単位で賃金を計算し、その後不就労分の賃金を控除する)
  • 1時間当たりの賃金額:2000円(便宜上、これを残業代の算定基礎額とする)
  • 割増賃金率:時間外労働が25%、休日労働が35%、深夜労働が25%

Aさんの労働条件

ある月に、Aさんは次の勤怠管理表の通り働きました。この月のAさんの残業代はいくらになるでしょうか? 本来のシフト表と比較し、赤字の部分に注目しながら考えてみてください。

Aさんの残業代はいくら

2)答え:6万550円

1カ月単位の変形労働時間制で時間外労働になるのは次の3つのケースです。

  • (1日単位)所定労働時間が8時間を超える日はその所定労働時間、それ以外の日は8時間を超えて働いた時間
  • (1週単位)週の所定労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超える週はその所定労働時間、それ以外の週は40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えて働いた時間。ただし、1.で計算した時間を除く
  • (変形期間全体)法定労働時間の総枠を超えて働いた時間。ただし、1.または2.で計算した時間を除く

また、法定休日に働いた場合はその時間全てが休日労働、原則として22~5時の間に働いた場合はその時間全てが深夜労働になります。

これを基に考えると、この月のAさんの所定外労働は次の通りとなります。

Aさんの所定外労働

次に1日単位、1週単位、変形期間単位で所定外労働がどう発生するのかを見ていきましょう。

1日単位

2日(月)

休憩1時間を除くと、9~19時(9時間)が所定労働時間、9~21時(11時間)が実労働時間です。所定労働時間が8時間を超えるので、2時間(11時間-9時間)が時間外労働になります。

4日(水)

休憩1時間を除くと、9~16時(6時間)が所定労働時間、9~21時(11時間)が実労働時間です。所定労働時間が8時間を超えないので、3時間(11時間-8時間)が時間外労働になります。

18日(水)

休憩1時間を除くと、9~15時(5時間)が所定労働時間、9~17時(7時間)が実労働時間です。実労働時間は所定労働時間を超えますが、8時間を超えないので時間外労働にはなりません。

29日(日)

休憩1時間を除くと、9~18時(8時間)全てが休日労働になります。

31日(火)

休憩1時間を除くと、9~16時(6時間)が所定労働時間、9~23時(13時間)が実労働時間です。所定労働時間が8時間を超えないので、5時間(13時間-8時間)が時間外労働になります。また、22~23時の1時間は深夜労働になります。

1週単位

1日(日)から7日(土)の第1週は、実労働時間(47時間)から所定労働時間(40時間)を差し引くと、7時間になります。ただし、

1日単位で計算した5時間(2日(月)の2時間、4日(水)の3時間)

の時間外労働は除くため、ここでは2時間(7時間-5時間)が時間外労働になります。

変形期間単位

変形期間内の実労働時間(190時間、休日労働を除く)から法定労働時間の総枠(177.1時間)を差し引くと、12.9時間になります。ただし、

  • 1日単位で計算した10時間(2日(月)の2時間、4日(水)の3時間、31日(火)の5時間)
  • 1週単位で計算した2時間(第1週の2時間)

の時間外労働は除くため、ここでは0.9時間(12.9時間-12時間)が時間外労働になります。

また、これとは別に所定外の法定内労働も発生します。法定労働時間の総枠(177.1時間)からシフト表に定めた労働時間の合計(174時間)を差し引いた時間(3.1時間)がそうです。

以上から、この月のAさんの残業代は

6万550円=2000円×(12.9時間×1.25+8時間×1.35+1時間×0.25+3.1時間×1)

となります。

3 フレックスタイム制における残業代の計算

1)問題

Bさんが勤める会社では、「フレックスタイム制」を導入しています。

フレックスタイム制

3カ月以内の一定期間(「清算期間」といいます)についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で始業・終業時刻の決定を社員に委ねる制度です。

あらかじめ

清算期間内の総労働時間(1日8時間×清算期間内の所定労働日数など)

を定めます。この総労働時間が所定労働時間になります。また、清算期間内の実労働時間が、

法定労働時間の総枠=週の法定労働時間×清算期間の暦日数÷7日

を超えると、超過時間分の労働が時間外労働になります。なお、清算期間が1カ月超3カ月以内の場合のみ、「清算期間の開始日から1カ月ごとに区分した各期間の実労働時間が、週平均50時間を超えた場合も時間外労働になる」というルールがありますが、ここでは詳細は割愛します。

Bさんの労働条件は次の通りです。

  • 清算期間:毎月1日から末日の1カ月(31日)
  • 法定労働時間:1日8時間、1週40時間
  • 法定労働時間の総枠:177.1時間(40時間×31日÷7日)
  • 総労働時間:176時間(8時間×清算期間内の所定労働日数(22日))
  • コアタイム:10~15時
  • フレキシブルタイム:6~10時、15~19時(ただし、上司から許可を得た場合はフレキシブルタイム外の時間も働くことが可能)
  • 法定休日:日曜日
  • 賃金体系:月給制(総労働時間分の賃金を、実労働時間との過不足に応じて調整する)
  • 1時間当たりの賃金額:2000円(便宜上、これを残業代の算定基礎額とする)
  • 割増賃金率:時間外労働が25%、休日労働が35%、深夜労働が25%

ある月に、Bさんは次の勤怠管理表の通り働きました。この月のBさんの残業代はいくらになるでしょうか? 赤字の部分に注目しながら考えてみてください。

Bさんの労働条件

2)答え:3万9050円

清算期間が1カ月以内の場合、法定労働時間の総枠を超えて働いた時間が時間外労働になります。また、法定休日に働いた場合はその時間全てが休日労働、22~5時の間に働いた場合はその時間全てが深夜労働になります。

これを基に考えると、この月のBさんの所定外労働は次の通りとなります。

Bさんの所定外労働

29日(日)

休憩1時間を除くと、9~18時(8時間)が休日労働になります。

30日(月)

22~23時(1時間)が深夜労働になります。なお、時間外労働については清算期間単位で判断するので、1日単位では発生しません。

清算期間単位

清算期間内の実労働時間(183時間、休日労働を除く)から法定労働時間の総枠(177.1時間)を引いた5.9時間が時間外労働になります。また、法定労働時間の総枠(177.1時間)から清算期間内の総労働時間(176時間)を引いた1.1時間が所定外の法定内労働となります。

以上から、この月のBさんの残業代は

3万9050円=2000円×(5.9時間×1.25+8時間×1.35+1時間×0.25+1.1時間×1)

となります。

4 みなし労働時間制における残業代の計算

1)問題

Cさんが勤める会社では、「事業場外労働に関するみなし労働時間制」を導入しています。

事業場外労働に関するみなし労働時間制

社員が事業場外で働き、労働時間の把握が困難な場合に、所定労働時間または業務に通常必要な時間を働いたものとみなす制度です。

法定労働時間を超える時間を業務に通常必要な時間として定めると、超過時間分の労働が時間外労働になります。また、原則として社員の労働時間の把握は不要ですが、社員が事業場内と事業場外の両方で働くときは、

  • 所定労働時間をみなし労働時間とした場合、事業場内の労働時間の把握は不要で、「みなし労働時間を働いた」とみなす
  • 業務に通常必要な時間をみなし労働時間とした場合、事業場内の労働時間を把握しなければならず、「事業場内の労働時間とみなし労働時間の合計時間を働いた」とみなす

という、少し変わったルールが適用されます。

Cさんの労働条件は次の通りです。

  • 法定労働時間:1日8時間、1週40時間
  • 所定労働時間:9~18時の8時間(休憩1時間)
  • みなし労働時間:9時間(業務遂行に通常必要となる時間)
  • 法定休日:日曜日
  • 賃金体系:月給制(原則としてみなし労働時間分の賃金を支払う)
  • 1時間当たりの賃金額:2000円(便宜上、これを残業代の算定基礎額とする)
  • 割増賃金率:時間外労働が25%、休日労働が35%、深夜労働が25%

Cさんは、事業場外労働に関するみなし労働時間制の適用を受けており、通常は勤怠管理表に記入しません.一方、事業場内で働いた時間については、勤怠管理表に記入しています。ある月に、Cさんが事業場内で次の勤怠管理表の通り働きました。この月のCさんの残業代は事業場外の労働も含めいくらになるでしょうか? 赤字の部分に注目しながら考えてみてください。

Cさんの残業代

2)答え:12万7900円

今回の事例では、業務遂行に通常必要となる時間(9時間)をみなし労働時間としているので、事業場内で仕事をした場合、「事業場内の労働時間とみなし労働時間(9時間)の合計時間を働いた」とみなします。

また、法定休日に働いた場合はその時間全てが休日労働、22~5時の間に働いた場合はその時間全てが深夜労働になります。

これを基に考えると、この月のCさんの所定外労働は次の通りとなります。

Cさんの所定外労働

4日(水)

9~10時(1時間)+みなし労働時間(9時間)の計10時間を働いたとみなされます。ですから、2時間(10時間-8時間)が時間外労働になります。

14日(土)

9~11時(2時間)+みなし労働時間(9時間)の計11時間を働いたとみなされます。なお、13日(金)の時点で、第2週の時間外労働を除いたみなし労働時間の合計が40時間(8時間×5日)で法定労働時間に達しているので、11時間全てが時間外労働になります。

22日(日)

9~12時(3時間)+みなし労働時間(9時間)の計12時間を働いたとみなされます。ですから、12時間全てが休日労働になります。

31日(火)

19~23時(4時間)+みなし労働時間(9時間)の計13時間を働いたとみなされます。ですから、5時間(13時間-8時間)が時間外労働になります。また、22~23時(1時間)は、深夜労働になります。

他20日間については、1日当たり1時間(9時間-8時間)の時間外労働が20日分発生します。

以上から、この月のCさんの残業代は

12万7900円=2000円×(38時間×1.25+12時間×1.35+1時間×0.25)

となります。

以上(2025年11月更新)

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