1 2025年度・2026年度の3大ニュース
2025年度は、育児・介護休業法の改正により、仕事と育児・介護の両立支援制度が大幅に拡充されました。また、65歳までの継続雇用についても、一部の従業員を対象から除外する経過措置が終了し、原則として希望者全員が対象となることになりました。いずれも、子育て世代や高年齢者が働きやすい環境を整備し、労働力の消失を防ぐことを目的とした改正内容になっています。
2026年度は、年金制度改正法による年金制度見直しや労働基準法の約40年ぶりの大改正(時期未定)など、人々の働き方や企業運営に大きな変化をもたらす制度変更が予定されています。
2025年度 2026年度の労務3大ニュースは次の通りです。
(図表1)【2025年度・2026年度の労務3大ニュース】
●2025年度
| 育児・介護に関する支援制度の拡充 |
2025年4月1日(一部は10月1日)より、育児・介護に関する支援制度が拡充されました。また、育児関連の雇用保険給付「出生後休業支援給付金」「育児時短就業給付金」が新設されました。 |
| 高年齢者の働き方に関する改正 |
2025年4月1日より、希望者全員を65歳まで継続雇用することが義務化されました(労使協定による除外が不可に)。また、60歳に達した従業員に対する高年齢雇用継続給付が縮小されました。 |
| パワーハラスメント防止指針の改正案に「自爆営業」が追加 |
2026年1月20日の労働政策審議会雇用環境・均等分科会で、自爆営業(従業員に不要な商品の購入を強要するなど)がパワハラに当たり得る旨などを記載した指針の改正案が「妥当」と答申されました。 |
●2026年度
| 年金制度改革のスタート(在職老齢年金の見直しなど) |
2026年4月1日より順次、在職老齢年金の見直し、社会保険の適用拡大、私的年金の見直し、標準報酬月額の上限引き上げ、遺族年金制度の見直しなどが行われます。 |
| 子ども・子育て支援金の徴収開始 |
2026年4月1日より、子育て支援施策全体に係る恒久的な財源を、社会全体で負担するための「子ども・子育て支援金制度」が始まります。従業員負担分を給与天引きにより徴収する実務が発生します。 |
| 労働基準法の大改正(時期未定) |
労働基準法の約40年ぶりの大改正に向け、政府内で活発な議論が行われています。内容は「連続勤務の上限規制」「法定休日の特定義務化」など多岐にわたります。 |
(出所:社会保険労務士法人AKJパートナーズ作成)
2 2025年度の総括
2025年度は、4月1日と10月1日の2度にわたり、改正育児・介護休業法が施行されました。これにより、3歳以上小学校就学前の子を育てる従業員に対し、「柔軟な働き方を実現するための措置等(短時間勤務やテレワーク)」を講じること、家族を介護する従業員に対し、支援制度の内容の個別周知・利用意向の確認を行うことなどが義務化されました。併せて育児関連の雇用保険給付も拡充されています。
また、「労使協定により、継続雇用の対象者を限定できる」という経過措置が終了し、2025年4月1日より、原則として希望者は全員、65歳までの継続雇用の対象になることとなりました。
上記の改正の根底にあるのは、少子高齢化が浸透する中で、いかに従業員が安心して働ける環境を整備し、労働力を確保するかという視点です。育児・介護支援制度の拡充などについては、企業から「制度が複雑化し、手続きが大変になった」といった声も上がっていますが、従業員に今まで以上に戦力として活躍してもらうには、経営者や労務担当者が制度への理解を深め、就業環境を整備していく必要があるでしょう。
3 2026年度の主なニュース
1)年金制度改革のスタート (在職老齢年金の見直しなど)
年金制度改正法により、社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化を図るための制度改革がスタートします。押さえておきたいのは次の5つの改正です。施行日順に紹介します (2027年度以降も含む)。
(図表2)【年金制度改革5つの改正】
| 1.在職老齢年金の見直し |
2026年4月1日より、在職老齢年金の支給停止調整額が「51万円→65万円」に引き上げられます。 |
| 2.私的年金の見直し |
2026年4月1日より、企業型DCの拠出限度額に係る制限が一部撤廃され、12月1日より、iDeCo(イデコ)の加入可能年齢が引き上げられます。 |
| 3.社会保険の適用拡大 |
2026年10月1日より、社会保険に加入するパート等(短時間労働者)の範囲が段階的に拡大されます。 |
| 4.標準報酬月額の上限引き上げ |
2027年9月1日より、厚生年金保険料の算定に関して、標準報酬月額の上限(現行65万円)が段階的に引き上げられます。 |
| 5.遺族年金制度の見直し |
2028年4月1日より、子のない配偶者が遺族厚生年金を受け取る場合のルールなどが改正されます。 |
(出所:社会保険労務士法人AKJパートナーズ作成)
1.在職老齢年金の見直し
2026年4月1日より、
在職老齢年金の支給停止調整額が「51万円→65万円」に引き上げ
られます。在職老齢年金とは、60歳以上の従業員が老齢厚生年金を受け取りながら働く場合、
賃金(総報酬月額相当額(注))+老齢厚生年金(基本月額) >支給停止調整額
となると、年金額の一部または全部が支給停止される制度です。
(注)総報酬月額相当額=(当該月の標準報酬月額+その月以前1年間の標準賞与額の合計) ÷ 12
現行の制度では、賃金と老齢厚生年金の合計が、支給停止調整額である51万円を超えると、超えた分の半額が減額されるのですが、2026年4月1日より、この金額が65万円に引き上げられます。例えば、賃金が月46万円、老齢厚生年金が月10万円の場合、現行の制度では、
(46万円+10万円-51万円) ÷2=2.5万円
が減額されてしまいますが、支給停止調整額が65万円に引き上げられると、
(46万円+10万円) <65万円
となるため、年金は減額されず、全額受け取れるようになります。
2.私的年金の見直し
2026年4月1日より、
企業型DCの「マッチング拠出(企業が拠出する掛金に、従業員が掛金を上乗せできる制度)」について、「従業員の掛金が企業の掛金を超えられないという制限」が撤廃
されます。
また、2026年12月1日より、
iDeCoについて、会社員(国民年金の第2号被保険者)の加入可能年齢が「65歳→70歳」に引き上げ
られます。
この他、2025年6月20日(年金制度改正法の公布日)から5年以内に、厚生労働省による企業年金の運用の見える化 (情報開示) も始まります。
3.社会保険の適用拡大
2026年10月1日より、
社会保険に加入するパート等(短時間労働者)の範囲が段階的に拡大
されます。
現行の制度では、次の条件を全て満たすパート等が社会保険に加入しますが、赤字の要件について改正が行われます。
- 従業員51人以上の企業に勤めている (2027年10月1日より「従業員36人以上」に変わり、2035年10月1日には要件自体が撤廃)
- 所定内賃金が月額8.8万円以上 (いわゆる「106万円の壁」。2026年10月1日より撤廃の予定)
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 学生でない
- 2ヵ月を超えて雇用される見込みがある
4.標準報酬月額の上限引き上げ
2027年9月1日より、
厚生年金保険料の算定に関して、標準報酬月額の上限が引き上げ
られます。
現行の制度では、厚生年金保険料の標準報酬月額の上限が65万円に設定されていますが、
68万円(2027年9月~) →71万円(2028年9月~) →75万円(2029年9月~)
と、段階的に引き上げられます。
5.遺族年金制度の見直し
2028年4月1日より、
子のない配偶者が遺族厚生年金を受け取る場合のルール、子が遺族基礎年金を受け取る場合のルールや加算額などが改正
されます。
現行の制度では、子のない配偶者が遺族厚生年金を受け取る場合、給付内容について男女(妻か夫か)で取扱いに差がありましたが、2028年4月1日から20年間で段階的に男女差を解消し、
どちらも60歳未満は5年間の有期給付(配慮が必要な場合は継続給付。最長65歳まで)、60歳以上は無期給付
となります。また、子の遺族基礎年金に関する要件が緩和され、
生計を同じくする父または母がいても、一定の条件下で子が遺族基礎年金を受給できる
ようになります。
2) 子ども・子育て支援金の徴収開始
2026年4月1日より、
「子ども・子育て支援金制度」がスタートし、企業では従業員の社会保険料と併せて支援金を徴収する実務が発生
します。子ども・子育て支援金は、出生後休業支援給付金や育児時短就業給付金、国民年金の第1号被保険者(自営業者やフリーランス)の育児期間中の保険料免除などの財源に充てられます。
被用者保険制度の場合、月額報酬・標準賞与額に対し、一般保険料率に国が一律で定める「子ども・子育て支援金率」を加えた率で支援金が徴収されます。
支援金率は、2026年度は0.23%ですが、段階的に引き上げ
られることになっています。被用者保険は労使折半であるため、企業側も同額を負担することとなります。なお、産前産後休業中や育児休業中は医療保険料や厚生年金保険料と同じように、子ども・子育て支援金も免除されます。
3) 労働基準法の大改正 (時期未定)
現在(2026年2月16日時点)、政府内において労働基準法の大幅改正に向けた議論が本格化しています。いずれも現時点では検討段階ではあるものの、法改正が実現した場合、企業実務に与える影響は小さくありません。主な改正点は7つです。
(図表3)【労働基準法7つの改正(検討段階)】
| 1.連続勤務の上限規制 |
13日を超える連続勤務を禁止することが検討されています。 |
| 2.法定休日の特定義務化 |
どの日、どの曜日を法定休日にするのかを、事前に特定するよう義務付けることが検討されています。 |
| 3.勤務間インターバル制度の実施義務化 |
実施を義務化(休息時間数は原則11時間を想定)することが検討されています。 |
| 4.年次有給休暇の賃金算定方式の一本化 |
賃金算定方式を「通常の賃金」に一本化することが検討されています。 |
| 5.つながらない権利に関するガイドラインの策定 |
各企業における社内ルールの検討を促していくために、「ガイドライン」を策定することが検討されています。 |
| 6.副業・兼業における労働時間の通算ルールの見直し |
割増賃金を計算する際、本業先と副業・兼業先の労働時間を通算しないという運用にすることが検討されています。 |
| 7.法定労働時間の特例措置の撤廃 |
法定労働時間について、週44時間の特例措置を撤廃することが検討されています。 |
(出所:社会保険労務士法人AKJパートナーズ作成)
1.連続勤務の上限規制
従業員の就業日数について、
13日を超える連続勤務を禁止する
ことが検討されています。
現行の制度では、企業は従業員に対し、「毎週1日または4週間を通じ4日以上の休日(法定休日)」を与える義務を負っていますが、休日の配置によっては理論上48日の連続勤務が可能になるため、健康確保の観点からこれを是正しようというものです。
2.法定休日の特定義務化
法定休日について、
どの日、どの曜日を法定休日にするのかを、事前に特定するよう義務付ける
ことが検討されています。
現行の制度では、法定休日を特定する義務はなく、特にシフト制の職場などでは、法定休日が週ごとに変わり、生活リズムが安定しにくくなるなどの問題が発生し得るため、健康確保の観点から見直しが検討されています。
3.勤務間インターバル制度の実施義務化
勤務間インターバル制度 (従業員が終業してから次に始業するまでに、一定時間の休息を取らせる制度)について、
実施を義務化する (休息時間数は原則11時間を想定)
ことが検討されています。
現行の制度では、実施は努力義務となっていますが、2024年1月時点の導入企業割合が5.7% (厚生労働省「令和6年就労条件総合調査」)と低水準であることなどから、義務化に踏み切る見通しです。一方で、実効性を高めるため、制度の適用除外とする職種等の設定や、実際に11時間の勤務間インターバルが確保できなかった場合の代替措置等も検討されています。
4.年次有給休暇の賃金算定方式の一本化
年次有給休暇(以下「年休」)について、
賃金算定方式を「通常の賃金」に一本化する
ことが検討されています。
現行の制度では、年休を取得した場合の賃金算定方式は、
- 通常の賃金(1日働いた場合の通常の賃金)
- 平均賃金(直近3ヵ月間の賃金総額(賞与等を除く) ÷ 直近3カ月間の総日数)
- 標準報酬日額(標準報酬月額÷30日)
のいずれかから企業が選択できますが、雇用形態や勤務状況によっては、年休取得時の賃金が大きく下がるケースがあるため、「通常の賃金」を基本とすべきとの方向性が示されています。
5.つながらない権利に関するガイドラインの策定
つながらない権利(従業員が、勤務時間外(平日の終業後や休日)の仕事に関する連絡への対応を断れる権利)について、
各企業における社内ルールの検討を促していくために「ガイドライン」を策定
することが検討されています。
現行の制度では、つながらない権利に関する法規制はありませんが、一方で、急なトラブルや取引先からの連絡で、勤務時間外の対応を余儀なくされ、私生活と仕事の境界が曖昧になっている人も少なくありません。場合によっては、過重労働や残業代未払いなどにもつながり得るため、政府はこの問題を解決する第一歩として、ガイドラインの策定に取り組もうとしています。
6.副業・兼業における労働時間の通算ルールの見直し
副業・兼業について、
割増賃金を計算する際、本業先と副業・兼業先の労働時間を通算しない
という運用にすることが検討されています。
現行の制度では、本業と副業・兼業の労働時間を通算して割増賃金を計算する必要があり、企業にとって大きな負担となっています。企業側の実務が煩雑だと、社会全体に副業・兼業が浸透していかないため、この問題を解消するために通算ルールの見直しが検討されています。
7.法定労働時間の特例措置の撤廃
法定労働時間について、
週44時間の特例措置を撤廃する
ことが検討されています。
法定労働時間は原則 「1日8時間、週40時間」ですが、現行の制度では、小売業・旅館業・娯楽業の一部などに「1日8時間、週44時間」という特例が認められています。ただ、実態として、対象事業場の87.2%はこの特例を利用しておらず (厚生労働省「労働基準関係法制研究会報告書(2025年1月8日)」)、制度としての役割は小さくなっています。このため、今後は実態を精査した上で、特例措置の撤廃が検討されています。
4 今後の対応について
2026年度のトピックスには、年金制度改革と労働基準法の大改正という2つの大きなものが含まれています。
年金制度改革では「社会保険の適用拡大」により、多くの企業のパート等が社会保険に加入することになります。被保険者が増えることによる人件費負担の増加は避けて通れないでしょう。「年収の壁」の問題がニュースを騒がせるようになっていますが、一方で、「社会保険料が引かれるのならもっと働きたい」と、より長い時間勤務を希望するパート等も増えるかもしれません。パート等を含む人材活用の仕組みについても、改めて考えなくてはなりません。
労働基準法の大改正については、まだ未知数な部分も多いですが、実施された場合、各企業における労働の在り方に大きな影響を与えます。「規制を加えるもの」「労働の自由度を与えるもの」の2つに分かれますが、経営体制を抜本的に見直さなければ対応が難しいケースもあるでしょう。
ここで取り上げた事項については、今のうちから対応策を検討しておき、改正法施行後もスムーズに移行できるよう準備をしておくことが望ましいです。
以上(2026年3月作成)
(監修 社会保険労務士法人AKJパートナーズ)
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画像:Mariko Mitsuda