目次
1 投資判断の精度を一段引き上げられる2指標
投資評価の判断で使う主な指標には、
- 回収期間法
- 投資利益率法
- 正味現在価値法
- 内部利益率法
の4つがあります。
前回(第4回)解説した回収期間法は「安全性」やどれだけ早く元が取れるかという「時間的な価値」に着目した指標であり、投資利益率法はどれだけ儲かるかという「収益性」に着目した指標でした。つまり、回収期間法では収益性が考慮されず、投資利益率法では安全性や時間的な価値が反映されません。
シリーズ最終回となる今回は、正味現在価値法と内部利益率法を解説します。いずれも
時間的な価値と収益性の両方を考慮した指標
で、投資判断の精度を一段引き上げてくれます。前回(第4回)と同じシミュレーション例(A案・B案・C案)を使いながら、考え方と計算の流れ、そして実務で使えるExcel関数までを整理していきます。
2 「時間的な価値」と「収益性」を両立した正味現在価値法
正味現在価値法は、
資金調達コストを基準に、将来得られるキャッシュ・フロー(回収額)を今の価値(現在価値)に直し、その合計が当初の投資額をどれだけ上回るかを見る指標
です。
時間的な価値を考慮するというアプローチは、キャッシュ・フローを得られるのが早いほうがいいという考え方に立っています。同じ1万円でも、「今すぐ手に入る1万円」と「1年後にもらえる1万円」では、どちらの価値が高いでしょうか。多くの人は、今すぐ手に入る1万円のほうがありがたいと感じるはずです。この感覚を数字で表したものが、割引計算です。
例えば、利率が5%とすると、今の1万円は、1年後には利息500円分増えて1万500円になります。つまり、今の1万円と1年後の1万500円は同じ価値だといえるのです。計算式にすると
1万円×(1+0.05)=1万500円
となります。これは、今の1万円を1年後の価値に直した計算です。
では逆に、1年後にもらえる1万円を、今の価値ではいくらかを考えてみましょう。この場合は、1万円を(1+0.05)で割ります。
1万円/(1+0.05)=約9524円
になります。2年後、3年後……の1万円も、年数分だけ割り引いていきます。例えば、5年後の1万円の計算は(1+0.05)で5回割り、
1万円÷(1+0.05)÷(1+0.05)÷(1+0.05)÷(1+0.05)÷(1+0.05)=約7835円
です。

このように求めた今の価値を、正味現在価値(Net Present Value。通称「NPV」)といいます。なお、ここでは預金利息を使いましたが、企業の場合は借入金利などの資金調達コストを使うのが一般的です。なぜなら、少なくともその資金調達コストを超える分を、必ず稼がないといけないからです。
早速、次の事例(A案・B案・C案)を使って現在価値を計算し、比べてみましょう。ここでは、資金調達コストを10%とします。

A案で見てみましょう。具体的には次のような数字になります。
-100+25/(1+0.1)+35/(1+0.1)2+50/(1+0.1)3+30/(1+0.1)4+35/(1+0.1)5
=-100+22.7+28.9+37.6+20.5+21.7(小数点第一位未満四捨五入で表記)
=-100+131.4
=31.4
ここで見ていただきたいのは、キャッシュ・フローの単純合計(割引計算をしない各年のキャッシュ・フローの合計)はC案のほうが大きいですが、正味現在価値(NPV)ではA案のほうが大きくなっています。これは、C案のキャッシュ・フローが4年目と5年目に多く、時間的な価値を考慮するとA案の方が有利であることを示しています。
正味現在価値法は、「収益性(どれだけ大きいか)」だけでなく、「時間的な価値(どれだけ早いか)」も合わせて評価できる点が特徴です。また、「大きさ」に時間調整は必要ですが、合計した数値で有利かどうかを判断できる点も、直感的で理解しやすいと言えます。
3 もう1つの重要指標「内部利益率法」
内部利益率法は、
回収額の正味現在価値の合計と当初の投資額が一致する利率を求める指標
で、Internal Rate of Return(インターナル レイト オブ リターン)、頭文字からIRRと呼ばれます。考え方は、先ほどの正味現在価値法と似ていますが、利率そのものを答えとして求める点が異なります。
事例(A案)を使って内部利益率法の式を書くと次のようになり、xを求めることになります。
-100+25/(1+x)+35/(1+x)2+50/(1+x)3+30/(1+x)4+35/(1+x)5=0
この「x」はどのように求めればよいのか。結論から言うと、実務ではExcelを使って計算するしかありません。正味現在価値は手計算できないこともありませんが、内部利益率を手計算で求めることは一般的には難しいです。実務では、ExcelのIRR関数(内部利益率を求めるための関数)を使うのが前提になります。IRR関数については、第5章で紹介します。
早速、事例(A案・B案・C案)を使って計算した内部利益率を比べてみましょう。

ここでも、先ほどと同様、A案が最も利益率が高い(A案21.1>C案17.5>B案12.4)ため、A案が有利であることを示しています。
内部利益率法は、将来に入ってくるキャッシュ・フローを全て同じ重みで扱うのではなく、回収までに時間がかかるほど割引は大きくなる仕組みになっています。そのため、資金の回収が早い投資ほど有利に評価されやすく、同時に、投資全体の利回りも確認できるので収益性も加味されています。このことから、内部利益率法は「時間的な価値」と「収益性」の両方を1つの数値で判断できる指標といえます。
4 特徴が似た2つの指標の使い分けと投資効率の判断基準
正味現在価値法も内部利益率法いずれも、「時間的な価値」「収益性」両方を含めて評価できる指標です。この2つの指標がそれぞれ向いているのは、
- 正味現在価値法は、投資額が同じか、または近い案件を比較するケース
- 内部利益率法は、投資額の大きさが異なる案件を比較するケース
です。
なお、投資効率の目安としては、経済産業省が公表した『伊藤レポート2014』で示された ROE8%以上というものがあります。この数値を、資本効率改善の最低基準として参考にすることで、個別の投資案件が一般的に求められる利益水準と比べて十分かどうかを確認することができます。中小企業においても、この数値を一つの基準としておくと、投資判断がしやすくなります。
5 ダウンロードした実務で使えるExcel例とその解説
1)正味現在価値法
実務では、Excelを活用することがおすすめです。次のExcelでは、年ごとのキャッシュ・フロー(CF_青色背景の箇所)と割引率(下図のD5セル)を入力して正味現在価値を計算します。なお、Excelには、本リポートの計算例で使用した事例(A案・B案・C案)の数値を入れております。
前述したように、手計算ではそれぞれの年度のキャッシュ・フローを現在価値に直し、全ての数字を合計します。しかし、Excelでは、NPV関数(正味現在価値を計算するための関数。A案の場合はC5セル)を使って一発でNPVの合計額(A案の場合は、D3からH3までの各CFを、D5に入力した割引率で割り引いた正味現在価値の合計額)が算出できます(A案の場合はC5セル)。複製する場合にはご参考ください。
=C3+NPV(D5,D3:H3)
2)内部利益率法
内部利益率法は、Excelを使うことが必須です。前述の通り、IRR関数を使っています(A案の場合はC6セル)。複製する場合にはご参考ください。
=IRR(C3:H3)
6 4指標が計算できるシミュレーション用Excelシート
最後に、これまで解説してきた4指標に加え損益計算やキャッシュ・フロー計算が計算できるExcelシートをご提供します(ダウンロードしてお使いください)。各項目の前提条件を変えることで、複数のパターンを試算することができます。また、各指標の計算式も入力されているので、シミュレーションごとの指標計算も自動で行えます。
以上(2026年1月作成)
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