我々には、いかに困難で危険な工事であっても、成し遂げなければならない事情があった
笹島信義(ささじまのぶよし)氏は、1956年から1963年にかけて行われた黒部ダムの建設において、最も困難な工事といわれる「大町2号トンネル工事」を成し遂げた作業班の中心人物です。この工事が難航を極めた理由は、作業班が着工2年目に遭遇した破砕帯(はさいたい)にあります。破砕帯とは、岩盤の中で岩が細かく砕けた、通常よりもろく崩れやすい地層のことですが、1957年、その破砕帯から人が吹き飛ばされるほど大量の地下水と土砂が噴出し、トンネル工事は中断を余儀なくされたのです。
冒頭の言葉は、笹島氏が自身の著書の中で、トンネル工事の今後を検討する委員会が開かれたときのことを振り返って述べた言葉です。委員会には、学者や技術者などの有識者が招かれましたが、破砕帯の脅威が未知数だったことなどから、工事の続行については否定的な意見が飛び交いました。しかし、笹島氏は有識者の前でも、「冬になれば、水が減り、トンネルを掘れるようになると思う」と言って、工事の続行を強く望みました。
笹島氏の心の内には、ある使命感がありました。それは「戦後の荒廃と虚脱から抜け出し、日本の産業を興隆させるために、何としても電力不足を解消する」というもの。当時の日本は日常的に停電が繰り返され、工場は停電のたびに作業を休止しなければならないなど、深刻な電力不足に陥っていました。だから、笹島氏は「この工事の本当の発注者は、国家であり国民である」と考えて、文字通り命がけで工事に取り組んでいたのです。
冬になると、笹島氏の言った通り坑内の水が減少し、工事再開が可能となりました。そして、破砕帯との遭遇から7カ月後、最後まで諦めなかった作業班はついに破砕帯を突破、1958年に大町2号トンネルは無事開通したのです。
ビジネスでは、経営者が会社の進むべき道を決める際、常に何らかのリスクが付いて回ります。ノーリスクで成功を得られるケースはゼロに等しく、時には「社員に負担を強いるかもしれない」「失敗したら会社が傾くかもしれない」といった大きなリスクを背負いつつ、困難なことに挑戦しなければならないケースもあります。
そんなときに経営者を支えるのは、「わが社はこの事業を通じて、社会のためにこんなことを成し遂げるんだ」という強い使命感です。笹島氏は、破砕帯との遭遇によりトンネル工事の危険性が新聞などで取り沙汰されるようになった際、作業員たちが家族から反対されて現場を離れてしまうことを危惧しましたが、実際はほとんどの作業員が現場に残ったそうです。それは、「自分たちがトンネル工事で日本を支えるんだ」という笹島氏の使命感が、作業員たちの誇りとなり、自分事として共有されていたからです。いつの時代も、経営者の本気の思いは社員を突き動かし、困難な壁を突破する力となるのです。
出典:「おれたちは地球の開拓者:トンネル1200本をつくった男:大事にしたい日本人の生き方」(笹島信義、ベストブック、2010年10月)
以上(2023年10月作成)
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事業承継やM&Aの事前準備としての効用も!中小企業にも求められる内部監査
書いてあること
- 主な読者:内部監査の実施を検討している中小企業の経営者
- 課題:内部監査を活用し、会社に存在する可能性のあるリスクをどう識別・対応すべきか
- 解決策:内部監査の概要や実施事項、ポイントなどを理解し、調査項目や留意点を確認する
1 なぜ、中小企業も内部監査を行ったほうがよいのか?
内部監査とは、
- 社内規程や業務マニュアルなどの自主ルールが、現状と照らして適切かの検証
- 企業の中の組織や個人が、当該ルールを守っているかの検証
- 当該ルールを逸脱した実務が行われている場合などに、改善や予防のための助言や勧告
を行う取り組みです。上場企業や会社法上の大会社にとって内部監査は義務ですが、中小企業は任意です。実際、内部監査を行っている中小企業は少ないのですが、この記事では、次のような理由から中小企業に内部監査の実施をご提案いたします。特に、長い間、担当者や業務の遂行方法が変わっていないような中小企業は、この記事を読んでみてください。
- 内部監査がないと不祥事が長期間見過ごされ、発覚したときの被害が甚大になる
- 事業承継やM&Aを控えている場合、後継者や買収元へ引き継ぐ会社の状態をチェックする意味合いで有用になる
2 内部監査の実施フロー
1)年度計画の立案
内部監査を担当する部門の年度計画を策定します。とはいえ、人的・時間的リソースには限りがあるので、
リスクの高い順番に内部監査の対象とする(リスク・アプローチ)
ようにします。通常、年度計画には、
- 内部監査のテーマ
- 内部監査の対象
- 内部監査を行う部門の社員(以下「内部監査部員」)
- 内部監査の実施に必要な費用
が織り込まれ、適切な承認者(経営者や取締役会など)に報告の上、承認を得ます。なお、内部監査は独立性の確保が重要になるため、内部監査部員は、監査を受ける部門とは関連のない人物にする必要があります。
2)業務計画の立案
業務計画は、年度計画で絞り込まれた内部監査のテーマのうち、重点的に見るべき具体的な項目を要約したものです。ここでも前述したリスク・アプローチに基づいて実施します。
リスクの高い項目を絞り込む際は、監査対象となる拠点の概要を把握する必要があるため、拠点の担当者に事前に監査があることを伝え、
予備調査:概要インタビューや関連規程類の閲覧
を行って、スムーズに本調査につなげることがあります。ただし、不正調査の場合は、事前通知をしないこともあります。
3)事前準備
計画が策定されたら、
- 内部監査部員の作業内容や作業に対応するリスクなどをまとめた内部監査手続書の作成
- 監査実施通知書(内部監査の概要)の作成と監査対象拠点への通知
- 監査対象拠点との日程調整
を行います。
限られたリソースで一定の要求水準を満たすには、内部監査部員の努力はもちろん、監査対象となる拠点が質問に正確に回答したり、依頼された資料をきちんとそろえたりするなど協力が不可欠です。
4)監査現場作業
実際に監査対象となる拠点に赴き、予備調査で得た情報と、事前準備で作成された内部監査手続書に基づいて監査手続を実施します。監査手続の手法はさまざまで、例えば、次のような作業が挙げられます(下記以外にも、再実施、分析、計算調べなどがあります)。
- 質問:内部監査部員が監査対象となる拠点の責任者や担当者に質問して、回答を得る
- 閲覧:関連規程やマニュアルなどの文書を読み、ルールの存在を確認する
- 照合:一致すべきデータ同士を突き合わせ、整合性を確認する
- 観察:実際に業務を実施している現場に赴き、業務・設備などの状況を確認する
「最もスムーズにリスクを確かめられる手続きはどれか?」を意識しながら選択するのですが、内部監査手続書通りに監査手続を進めても、想定外のリスクが判明するケースがあります。その場合、新たに判明したリスクの内容とその重要性を勘案しながら、追加の監査手続を実施すべきか否かを検討します。
また、内部監査は限られたリソースで行うため、全ての項目・取引に対して漏れなく監査手続を実施することは難しいです。そのため、取引全体の母集団からサンプル(判断に必要な一部の資料)を抽出して、監査手続を実施する「サンプリング」を採用するのが一般的です。
5)監査調書の作成
監査調査とは、
実施した内部監査手続とその結果を記録し、経営者に提出される内部監査報告書上の結論のベースとして使用されるもの
です。監査調書は、
- 個別の監査手続の実施内容と結果が記載される個別監査調書
- 個別監査調書の内容をまとめた総括監査調書
に大別されます。
個別監査調書は、実施された監査手続によって監査調書のフォーマットも変わりますが、例えば、次のような形式が挙げられます。
- 議事録:質問実施日、出席者・回答者、質問項目や議題、回答内容などをまとめたもの
- フローチャート:質問などによって把握した業務の流れを図にして可視化したもの
- 照合シート:照合した書類の結果をまとめたもの
監査手続が終了した段階で個別監査調書が作成され、総括監査調書に転記・要約します。総括監査調書は、内部監査部門の責任者が内部監査報告書の作成に際して、各監査項目について問題点が識別されたか否かを正確に判断できるように、簡潔に記載します。
6)結果の検討と報告書の作成
現場作業の最終日、監査現場作業の結果について、監査対象の拠点の責任者などと協議する講評会を開きます。特に、
不備事項に関する事実確認や、不備を解消するための改善活動(効果的かつ実現可能であること)
は重要な協議事項です。十分な協議を行わずに事実確認を誤ってしまうと、本来は不備ではない内容や、非現実的なスケジュール感での改善活動の実施案が報告書に記載されてしまいます。
講評会や監査調書をベースとして、最終成果物である内部監査報告書を作成・発行します。内部監査報告書のフォーマット例を紹介しますので、参考にしてください。
7)改善指示、フォローアップ監査
報告書に記載された不備が放置されたままでは問題です。そのため、拠点において計画通りに改善活動が行われているかを確認する、フォローアップ監査を実施します。フォローアップ監査では、
報告書に記載された「何を」「いつまでに」実施するかの改善案に基づいて、改善活動が行われているかを確認
します。フォローアップ監査も内部監査の一環であることを認識しましょう。
8)コンサルティング業務への発展
ここまで紹介してきた内部監査の実施フローは、主に整備された業務が想定通りに運用されているか否かを確認・報告する機能(保証機能)です。この他、内部監査には、会社の発展にとって最も有効な改善策を助言・勧告する機能(助言機能)もあります。特に「6)結果の検討と報告書の作成」において、報告書に改善提案を記載した場合は、助言機能の一例になります。
さらに、もう一歩進んだ助言機能として、コンサルティング業務も考えられます。さまざまな拠点などを独立した立場で把握する内部監査では、多くのノウハウが蓄積されるため、そのノウハウを活かしたコンサルティングを依頼されるケースが想定されます。例えば、
- 新規業務プロセスに必要な内部統制についてのコンサルティング
- 社内講師としてリスク管理体制、内部統制に関連した研修を実施
などが挙げられます。
なお、コンサルティング業務においては次の留意点を念頭に置きましょう。
- コンサルティング業務を受けても、当該部門が内部監査の範囲より外れることはない
- コンサルティング業務実施側が最終意思決定者になることは客観性を害するため、行った助言を最終的に採用するかの意思決定は当該部門の責任者が行う
- 独立性維持の観点より、コンサルティング業務を行った内部監査実施者は、対象部門の監査実施者から一定期間外すような工夫が必要
3 内部監査を意義あるものにするために必要なこと
1)内部監査の要件
内部監査の結果を歪めないために、
- 独立性
- 職業的懐疑心(入手した情報をそのままうのみにせず、客観的な判断を心掛けること)
- 専門的知識
- 会話・文章力
などが必要です。「内部監査人は、良心と信念に基づき、公正・普遍の立場で監査を行い、いかなる圧力にも負けない」ことが重要なので、特に独立性の確保に努めましょう。
そのために、内部監査部門を経営者直属にします。こうすることで、他部門の指揮命令系統から外れ、不必要な干渉を排除できるからです。また、リソースが限られた中小企業では難しい面もありますが、内部監査部門と他の部門との兼任は認めないのが基本です。
2)内部監査の体制
中小企業が単独で内部監査を実施することが、リソースや知識の面から難しいことがあります。その場合、公認会計士や弁護士などに内部監査をアウトソーシングすることが考えられます。外部委託の範囲によって、
- 内部監査に関する教育の支援のみ委託するパターン
- 特定分野の内部監査支援を委託するパターン
- 内部監査実施の全面的支援を委託するパターン
が考えられます。
3)内部監査に必要な規程の整備
内部監査の根拠となる規程の整備が必要です。一般的に、内部監査規程は、
- 総則
- 内部監査の計画
- 内部監査の実施
- 内部監査結果の報告
といった項目で構成されます。内部監査規程は会社の基本規程の1つです。そこでは詳細な内容は入れられないので、別途、内部監査マニュアルなどを作成して実務的なことを記載します。
4 子会社の内部監査
1)子会社の内部監査全般
最後に、難易度がやや上がる子会社の内部監査について触れておきます。中小企業でも子会社を持っているケースがあり、内部監査の対象とすることがあります。しかし、
親会社が子会社を自由に内部監査できる法令はないため、子会社は拒否できる
ことになっています。こうした問題を回避するために、あらかじめ親・子会社間で、親会社が監査を行うことを認める契約を締結するなど、スムーズに内部監査を行える環境作りが必要です。
子会社を内部監査する場合は、
- 親会社の内部監査部門が全ての子会社を一括して内部監査する方法
- 各子会社に対して内部監査部門を設置する方法
- 各地域に統括会社を設置して、その中に内部監査部門を持たせる方法
などがあります。どの方法を採用するにしても、内部監査の方針や要求水準が一定になるように注意しましょう。具体的には、規程やマニュアルの統一、定期的な品質評価レビューなどが挙げられます。
2)海外子会社の内部監査
海外に拠点を持つ中小企業も少なくないのですが、海外子会社の内部監査は国内子会社に比べて難しい面があります。距離や言語の壁が高く、対応できる人材の確保もままならないからです。ただ、壁が高いほど目が届きにくくなるということで、逆に内部監査が必要になってきます。
海外子会社に対する内部監査で最大の注意点は、法制度や商慣習が違うことです。内部監査の主目的の1つは法令遵守ですが、肝心の法制度を理解していないと、目指すべきところが明確になりません。その国独自の法制度を調べるのはなかなか難しいため、必要に応じて現地法務に精通した弁護士に相談することも検討します。
また、文化、価値観、言葉の違いにも注意しましょう。内部監査手続の多くはコミュニケーションや書類の閲覧によって行われるため、使用可能な言語(日本語、英語もしくは現地語)の確認と、通訳の要否などを検討する必要があります。
なお、これらの問題をクリアすることが難しい場合には、外部の専門家である公認会計士や弁護士に委託することも検討しましょう。
以上(2023年10月更新)
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指揮命令はNG。法令違反にならない外注契約のルール
書いてあること
- 主な読者:フリーランスなどに業務委託をしている企業の経営者
- 課題:請負と準委任の違い、労働者とフリーランスの違いなどが分からない
- 解決策:準委任は請負と違い、仕事の完成の義務を負わないため、履行された仕事の内容に応じて報酬を支払わなければならない。労働者と違い、フリーランスには指揮命令を下すことができないため、これを守らないと偽装請負になる恐れがある
1 請負と委任の違い
「業務委託」をしていても、契約内容である「請負」と「委任」との違いを明確に理解していない企業は意外と多いです。今後、フリーランスの権利保護がますます進むことは間違いないので、業務委託をするこちら側も、きちんとした知識を持っておくべきです。
この記事では、請負と委任の違いを明らかにした上で、相手(フリーランスを想定)と契約を交わす際のポイントをまとめます。
まず知っておくべきことは請負と委任との違いです。両方とも民法で定義されていますが、内容は次のように全く異なります。
- 請負:相手は仕事を完成させる義務を負い、自社は仕事が完成しなければ報酬を支払う必要がない
- 委任:相手は事務処理を遂行する義務を負い(仕事を完成させる義務は負わない)、自社は履行された仕事の割合で報酬を支払う
また、委任については「準委任」のほうが聞き慣れているかもしれませんので補足します。「準」がつかない委任は法律行為を対象とするもので、弁護士などが相手になります。一方、準委任は法律行為以外の事実行為が対象となります。この記事では準委任を前提に説明します。
準委任の報酬ですが、これは履行割合型と成果完成型に分かれます。履行割合型の例は、一般的な学習指導の契約です。学習塾は生徒が志望校に合格できるように教育しますが、仮に志望校に合格できなくても報酬は支払われます。一方、成果完成型の例は、経営コンサルティングの契約です(契約の定めにもよります)。自社が資金調達を目的にコンサルティングを依頼した場合、コンサルタントには交通費などの経費に加えて、資金調達に成功した際には成功報酬が支払われます。
2 契約全般で注意すべきポイント
1)契約書は実態で判断する
請負と準委任のいずれの場合でも、契約内容を明らかにしておくために契約書を作成しましょう。契約時、業務内容をできるだけ細分化し、何をもって業務が終了するかなどを明確にします。実務上、請負と準委任の双方の性質を持つ業務も考えられるので、そうした場合は弁護士などに相談するのが無難です。
また、下請法の規制を受ける取引の場合、下請事業者(ここではフリーランス)の成果物の内容や、下請代金の額などを記載した書面の交付が義務付けられています。
こうした親事業者(ここでは自社)の義務は、当事者間の合意に優先して適用される強行法規であり、契約で変更することはできません。そのため、自社の取引が下請法の規制対象となっているかどうかを確認しましょう。下請法に関しては、公正取引委員会ウェブサイトをご参照ください。
■公正取引委員会「下請法」■
https://www.jftc.go.jp/shitauke/
2)請負、準委任とも重い責任を負っている
請負ではフリーランスが仕事の完成義務を負っているのに対し、準委任ではそれがないので、請負のほうが準委任よりも責任が重いように思えますが、それは正しくありません。
準委任では、自社はフリーランスが持つ専門的な能力や知見に期待して契約しています。そのため、業務内容に問題があった場合、フリーランスに対して善管注意義務違反としての債務不履行責任を問い、問題箇所をやり直させることなどができます。このように、一概に準委任は請負よりも責任が軽いわけではありません。また、準委任であっても、
自社が業務内容の検査後や確認後に業務が終了する旨を定めることで、実質的に請負における仕事の完成と同等の契約内容にする
こともできます。
3 指揮命令などで注意すべきポイント
1)偽装請負になっていないか確認する
フリーランスが社員と大きく違うのは、フリーランスには企業が指揮命令を下して、業務を遂行させることができないことです。これを守らないと、偽装請負として問題になる恐れがあります。
偽装請負に該当するとして労働関係法令違反を指摘されると、罰則を受けたり、社会的な信用を失ったりする恐れがあります。また、フリーランスの労働者性が認められる場合は、自社が社会保険料や時間外手当を後日支給する必要があります。
2)業務の遂行方法の指示や、自社の名刺を持たせるのは避ける
実務では、偽装請負か否か(労働者性)について、次の要素を基に総合的に判断されます。
- 仕事の依頼への拒否の自由
- 業務遂行上の指揮監督の有無
- 時間的・場所的拘束性の有無、代替性の有無
- 報酬の算定・支払方法
- 機械・器具の負担や報酬の額等に表れた事業者性
- 専属性の程度等
例えば、フリーランスが自社のオフィスなどで業務を行う場合、フリーランスに対して業務の遂行方法を細かく指示したり、出退勤や休憩時間、休日や休暇などに関して指示したりすることは、偽装請負と見なされる恐れがあります。
また、自社の名刺を持たせる際にも気を付けなければなりません。取引先などが、フリーランスが従業員としての責任や権限を持っていると勘違いする可能性があります。フリーランスには自社の名刺を持たせないのが無難です。仮に持たせる場合は、細心の注意が必要です。
3)再委託・再委任の禁止や報告を義務付ける
自社はフリーランスに対して、業務の遂行方法を指示することはできませんが、再委託・再委任を禁止したり、業務の状況等に関する報告を求めたりすることはできます。ただし、請負と準委任では、再委託・再委任の禁止や報告の義務に関する法令上の取り決めが異なります。
請負では、再委託が原則可能であり、報告の義務は原則なしとされています。そのため、再委託の禁止や報告を求める場合、契約書でその旨を定めておくことが求められます。
一方、準委任では、フリーランスの専門的な能力や知見を見込んで業務を委任していることから、再委任は原則不可とされています。また、報告の義務についても民法で定められています。
請負、準委任のいずれの場合も、契約締結時にフリーランスに対して、契約書で再委託・再委任を禁止する旨や、報告を義務付ける旨を規定しておくとトラブルが避けられます。
4)行き過ぎた競業避止義務を避ける
自社はフリーランスに対して、営業上重要な情報などを漏洩しないよう、秘密保持義務に加えて、競業避止義務を課すことができます。競業避止義務とは、社員が自社と競合する企業などに所属したり、自ら会社を設立したりといった行為をしない義務のことです。
とはいえ、競業避止義務期間が5年を超えるなど、フリーランスに対して行き過ぎた義務を課すことは、市場の自由競争やフリーランスの取引の自由を侵害することになりかねないため、独占禁止法(独禁法)や民法で規制される場合があります。
具体的には、期間、業務範囲、場所的範囲、競業避止を定めることに対する対価の有無などの要素を考慮して判断されます。
4 報酬の支払いなどで注意すべきポイント
1)報酬の支払期日や減額に注意する
下請法の規制対象である取引では、業務の終了日から60日以内の、できる限り短い期間内を報酬支払いの期日として定め、報酬を支払わなければなりません。従って、毎月特定の日に締切日を設けている場合は、締切日の翌月末日までに支払う必要があります。
また、フリーランスの責任ではない理由から報酬を減額したり、通常支払われる対価(市場価格など)に比べて著しく低い報酬を定めたりすることは、下請法だけでなく、独禁法でも規制されます。
2)知的財産権の帰属を決めておく
請負、準委任とも、フリーランスが業務を遂行する中で生まれた発明や著作物、それらの知的財産権はフリーランスに帰属します。
そのため、競合他社が知的財産権を利用できないようにしたいなどの場合、契約時に自社が知的財産権を承継できるように定めておく必要があります。
権利を承継する際は、適切な対価を支払わなければなりません。特に、企業がフリーランスに対して、無償や低廉な価格で著作権などの知的財産権を譲渡させているという問題が指摘されていることから、十分な配慮が求められます。
3)報酬の請求は慎重に確認する
税務上で注意しなければならないのが、消費税や源泉所得税の扱いです。
フリーランスへの報酬は外注費として消費税の対象ですが、社員への給与は消費税の対象とはなりません。問題は偽装請負です。中には偽装請負であるにもかかわらず、外注費とすることで、消費税の納税額の負担を減らす悪質なケースがあるようで、外注費が多い企業は税務調査で指摘されることがあります。
また、フリーランスへの報酬は、一律に源泉徴収が必要になるわけではありません。源泉徴収の対象となるのは、原稿料やデザイン料などの一部の報酬です。自社が支払う報酬が源泉徴収の対象であるのかを確認しておく必要があります。
特に、フリーランスの中には、源泉所得税の知識に乏しい人もいて、源泉所得税を天引きしない金額で自社に報酬を請求してくることがあります。
そのため、フリーランスからの請求が正しい金額であることを自社で確認し、誤った金額を支払わないように注意しましょう。仮に源泉徴収漏れを指摘された場合、フリーランスではなく自社が追徴支払いをすることもあり得ます。
5 外注契約の形態と特徴のまとめ
最後に、外注契約の形態と特徴をまとめた表を紹介します。業務委託をする前に各項目を確認してみてください。
以上(2023年10月更新)
(監修 弁護士 田淵博雅)
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あなたの会社にも起こり得る不正会計 〜その検知と対策
書いてあること
- 主な読者:適切な会計処理を徹底したい経営者や経理担当者
- 課題:自身の何気ない一言が不正会計につながったり、思いもよらない従業員の不正が生じたりすることもあり、意外にも身近なもの
- 解決策:不正会計の兆しや防止策、もし不正を見つけたときに経営者が取るべき行動など、現場を知る公認会計士が教える
身近にある? 不正会計
不正会計と聞くと、ニュースをにぎわすような巨額な不正をイメージし、自社には関係ないと思っていませんか?
しかし、それは間違いかもしれません。なぜなら、経営者自身の何気ない一言が不正会計につながったり、思いもよらない従業員の不正が生じたりすることがあるなど、想像できない
不正会計は意外と身近にある
からなのです。また、コロナ禍や国際情勢の不安定化など、経済環境が悪化する時期は、不正会計が生まれやすい時期でもあります。昨今のテレワークの浸透により内部統制が脆弱化している会社は少なくないと思われます。
では、経営者が不正会計の兆しをキャッチしたり、防止したりするために、どのような知識が必要なのか、現場を知る公認会計士に不正会計の実態やその防止策などを聞きました。
Q1 代表的な不正会計とは?
不正会計とは、
決算書(貸借対照表や損益計算書など)に虚偽の表示をすること
です。代表的な不正会計は、「粉飾決算」「資産の流用」によるものです。
粉飾決算とは、
意図的に決算書(貸借対照表や損益計算書など)を操作して、会社の財務状況や損益状況を実際よりも良く見せること
です。詳細はQ2で解説しますが、「売上の水増し計上」や「売上の前倒し計上」による方法があります。粉飾決算によって赤字を黒字に見せる極端なケースもあります。
資産の流用とは、
会社の資産を盗み取ること
です。詳細はQ3で解説しますが、現金預金の「横領」、物的資産の「窃盗」などが挙げられます。多くは従業員の犯行で、この場合の被害は比較的少額です。しかし、資産の流用を容易に偽装できる経営者層が関与すると、被害が多額になることもあります。
Q2 粉飾決算の具体的な方法とは?
売上の水増し計上とは、
本来の取引金額に架空の取引金額を水増しして、売上を計上すること
です。売上の水増し計上では、その計上した売上の相手勘定として「売掛金」を用いることが一般的です。そのため、貸借対照表には架空の売掛金も計上されます。
売上の前倒し計上とは、
本来は決算日後(将来)に計上されるべき売上を、決算日前(現在)に計上すること
です。売上の前倒し計上では、決算日をまたいで売上の計上が前後するだけであるため、全体(年度で区切らず全ての期間)としては損益計算や代金の入金額は変わりません。しかし、決算日後(将来)の売上を取り込んでしまうため、当年度の決算と翌年度の決算のいずれの決算書も虚偽の表示となります。
売上の水増し計上、売上の前倒し計上ともに、会社の利益をよく見せることが目的で行われる不正会計です。例えば、決算時点で赤字が明らかである場合、既存取引の売上の水増し計上をすることでその原価を差し引いた利益が本来の利益に上乗せされ、赤字決算を黒字決算へと変えてしまうことができます。
中小企業の場合、融資元の金融機関や、入札審査を受ける際の官公庁に対して、会社の業績を少しでも良く見せようとして、粉飾決算に手を染めるケースがあります。
Q3 資産の流用(横領や窃盗)の具体的な方法とは?
横領とは、
自らの職位を利用して会社の資産を盗み取ること
です。例えば、出納業務と記帳業務を兼務する経理担当者が、無断で預金を解約してそれを盗み取るなどの行為です。業務によっては、同一人物が担当することで横領の発生リスクが高まります。
窃盗とは、会社の物品を盗み取ることです。例えば、会社の収入印紙や切手などを盗み取ることなどの行為です。なお、総務部の鍵のないロッカーに収入印紙や切手を保管している状況の中で、誰でも自由に取り出せるような場合には、窃盗の発生リスクが高まります。
これらの動機はさまざまで、個人的な事情(多額の借金を抱えている、遊ぶお金が不足しているなど)から実行されることが多いようです。
Q4 不正会計の基本的な防止策とは?
不正会計の防止策を考える上で重要な概念は「不正のトライアングル」です。不正のトライアングルとは、
不正を引き起こす3つの要素(動機・機会・正当化)のこと
です。これらを考慮した不正防止の仕組みをつくることが有効です。
1.動機
「従業員が行動を起こす、または行動を方向付ける」ことです。不正の防止策として、例えば従業員個人や部署に対して過度な目標が課されている場合、この目標が過大なプレッシャーになっていないかを見直します。
2.機会
「不正会計を起こせる立場にあり、それを実行できる能力がある」ことです。不正の防止策として、例えば職務分掌を明確にして、重要な決定についてはチェック・承認制度を社内ルール化することや業務相互チェックを掛けるなどのけん制機能を設けるようにします。
3.正当化
「不正会計をすることは悪くない≒仕方がない」と思うことです。不正の防止策として、例えば従業員に対して定期的に社内研修などを行い、不正会計の影響(個人・会社のダメージ)を啓蒙するようにします。
Q5 経営者が粉飾決算を防止するためにすべきことは?
売上の水増し計上は、
貸借対照表の「売掛金」に発見の糸口
があります。なぜなら、
その売掛金は架空のものであり、何もしなければ、現金回収されることなくいつまでも貸借対照表に計上し続けることになるから
です。仮に、本来の回収期間が過ぎて長期間滞留しているような売掛金が存在する場合には、売上の水増し計上が疑われます。また、
売上の前倒し計上を行った場合にも、上記同様「売掛金」がポイント
です。売上を前倒し計上すると、その分の売掛金残高が増えます。しかし、この増加は、当年度及び前年度の各月末の売掛金残高と比べることで異常な増加として発見することができます。
Q6 経営者が資産の流用を防止するためにすべきことは?
横領では、やはり、
担当者間のチェック体制が重要なポイント
です。経理担当者が出納業務と記帳業務の双方を兼務しているような場合、お金を取り扱う担当者(出納係)と、帳簿をつける担当者(記帳係)を分ける必要があるでしょう(職務分掌)。なお、人員が不足し、どうしても兼務しなければ業務が回らないような場合は、他者が定期的にチェック・照合することによって代替することもできます。
窃盗は、
適切な現物(切手や収入印紙など)の管理を行うことが最も重要
です。具体的には、現物を鍵の掛かる場所に保管し、現物を取り出した者が都度、日付・数量・氏名などを管理簿に記入し、総務担当者などが日々管理簿に照らして在庫数量を確認する体制が必要です。また、他者が定期的に管理簿を閲覧して異常な記録がないか確認しましょう。
Q7 不正会計の疑いがある場合、経営者がとるべき対処は?
「社内に不正会計の疑いがあるかもしれない」という情報を耳にしたら、経営者は、まずこの情報が正しいものであるかどうかを確かめましょう。相手の言うことをうのみにしてしまったり、逆に聞き流してしまったりしては後々大きな問題になりかねません。また、場合によっては刑事事件に発展する可能性もあるため、早めに顧問弁護士などに相談することが賢明です。
不正が事実だった場合は、被害が大きくならないうちに早めの対処が必要です(初動が大切)。また、不正は意図的に仕組まれ、見つからないように巧妙かつ複雑な手口で隠されていることがあるため、外部の専門家を交えてその対処方法(対象者へのヒアリング方法や被害額の算定方法など)を検討するのが望ましいでしょう。
Q8 専門家の立場から、中小企業の経営者にアドバイスを!
コンプライアンスとは、法令遵守を意味し、コーポレートガバナンス(企業統治)の基本原理の1つになります。
会社が企業活動を続けていくためには、会社の業績を維持・拡大していくことが必要で、基本的に会社は利益を追求していくことになります。しかし、利己的な利益追求をしていくと、法令すれすれ(グレーゾーン)の行動を取らざるを得ないこともあります。
さらに、目先の利益追求のために倫理観を失った行動を取れば、社会的な信用を大きく損ねてしまい、極端なケースでは会社の存続が危うくなることもあります。そうならないために、経営者が先頭に立ってコンプライアンスの重要性を社内に認識させることが求められます。
また、コンプライアンスの強化に励むことは、会社の存続に関わる重大問題の発展を事前に防止することのみならず、対外的にも社会的信用の認知度を高める積極的な取り組みと考えることもできます。
以上(2023年10月更新)
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その会計処理にピンときたら!不適切な会計処理の兆候と防止手段
書いてあること
- 主な読者:適切な会計処理を社内に徹底したい中小企業の経営者・経理担当者
- 課題:不適切会計は普段は目につきにくく、発覚する頃には手がつけられない金額になっていることも有り
- 解決策:不適切会計の典型例を紹介し、会計上の兆候や防止策を解説
1 不正会計は「嘘つき会計」
決算書は、
- 社内や社外の関係者に業績を示す資料
- 経営者が経営判断をする材料
になる重要な情報です。決算書は正直に作成されなければなりませんが、中には「嘘つき」な決算書もあります。これを「不正会計」(不適切な会計処理)といいます。意図的な不正会計は論外ですが、意図せず結果として不正会計になってしまっていることもあります。
しかし、関係者はそうした背景に関係なく、不適切な会計処理をした会社を信用しなくなります。そうならないためにも、経営者は典型的な方法とその兆候を知り、具体的な防止手段を取っておかなければなりません。この記事では、そのためのポイントを紹介します。
2 起こりやすい不適切な会計処理
1)売上高を大きく見せる方法
1.売上高の前倒し計上
売上高計上のタイミングは、
対象となる物品やサービスが受け渡された日
です。そのため、このタイミングより早く売上高を計上することで売上高を大きく見せることができます。これは、実際の販売取引に対して、売上高計上のタイミングのみを操作することが特色です。例えば、売買契約締結日や手付金受取日に売上高を計上することが考えられます。
2.売上高の架空計上
売上高の架空計上は、実際の販売取引がないにもかかわらず決算書でのみ売上高があったかのように会計処理するものです。売上高の前倒し計上と異なり、実際の販売取引自体を仮装していることが特色です。
なお、全くの架空販売取引として売上高を計上することの他に、実際の販売取引の金額に上乗せして架空の売上高を計上するケースも見られます。
2)費用を小さく見せる方法
1.棚卸資産の過大計上
対象となる物品の購入対価は販売されるまでの間、棚卸資産として資産に計上され、販売されたときに売上原価(費用)に振り替えられます。
棚卸資産の過大計上とは、販売されたものの、棚卸資産から売上原価への振り替えを過小とすることで、売上原価を減少させて差引としての利益を大きく見せるものです。売上原価への振り替えが過小であるため、振り替え後の棚卸資産は過大計上される結果となります。
2.架空資産の計上
会社運営に必要な諸費用は、その費用が発生した期の損益計算書に計上する必要があります。架空資産の計上とは、費用として計上すべきものを資産勘定として貸借対照表に計上することで、費用を減少させて差引としての利益を大きく見せるものです。資産勘定には計上されているものの実際の資産は存在しないため、架空資産となります。
例えば、本来は損益計算書の費用に計上される交際費を仮払金(資産)で、修繕費(費用)を固定資産(資産)で計上することが考えられます。
3 不適切な会計処理の兆候
1)売上高を大きく見せる場合
1.売上高の前倒し計上の兆候
売上高計上のタイミングが本来のタイミングより早いため、
売上高の相手勘定である売掛金が回収されるまでの期間が徐々に長期化
します。例えば、決済条件が月末締め翌月末払いのケースの場合、本来は翌月末には入金があり売掛金残高はなくなりますが、前倒しで売掛金が計上されると、取引先は本来の決済条件で支払うため入金は翌月末より後になり、回収までの期間が本来の決済条件よりも長期化します。回収までの期間が長期化している売掛金がある場合は、その原因を慎重に究明する必要があります。
2.売上高の架空計上の兆候
実際の販売取引がなく決算書のみで計上された売上高のため、取引先からの代金の支払いはありません。
架空売上高に対応する売掛金は回収できないことから、滞留債権となり長期間にわたって残高が減少しない
こととなります。残高が長期間にわたって減少しない売掛金がある場合は、その原因を慎重に究明する必要があります。
なお、架空売上の事実を隠蔽するため、正当な取引による回収代金を架空売上高の売掛金回収に充当することで、滞留債権化を回避することも考えられますが、この場合、正当な取引により発生した売掛金の回収までの期間が長期化するという影響が表れます。
2)費用を小さく見せる場合
1.棚卸資産の過大計上の兆候
売上原価に振り替えることなく棚卸資産として計上され続けるため、
滞留棚卸資産となり長期間にわたって残高が減少しない
こととなります。滞留している期間と、通常の販売までの期間とを比較して、不合理に長期化している棚卸資産がある場合は、その原因を慎重に究明する必要があります。
なお、棚卸資産の過大計上を隠蔽するため、過大な棚卸資産残高を棚卸減耗損や棚卸評価損によってなくすことが考えられます。不合理な棚卸減耗損や棚卸評価損が計上されている場合には、その原因を慎重に究明する必要があります。
2.架空資産の計上の兆候
現物が確認できない仮払金勘定が利用されることが多く、相手先や支出内容が不明な残高が徐々に増加します。
仮払金勘定は、一時的な支出を仮に処理する勘定科目のため、長期間にわたって多額な残高がある場合
には、その原因を慎重に究明する必要があります。
また、架空資産として固定資産勘定を利用する場合、不自然な金額が不自然なタイミングで計上されることが多くなります。
固定資産としては少額な金額が定期的に計上されている場合や決済されていない固定資産支出が計上されている場合
には、その原因を慎重に究明する必要があります。
4 不適切な会計処理の防止手段
不適切な会計処理の防止のためには、適切な内部統制を構築することが有効です。特に
職務分掌(仕事の役割分担や権限を明確にすること)の徹底
は、シンプルではありますが効果的と考えられます。例えば、伝票起票者と伝票承認者が区分されていれば、相互けん制によって不適切な会計処理は実行しにくくなります。また、資金担当者と記帳担当者が区分されていれば、入金内容を意図的に変更させて経理処理することは難しくなります。さらに、担当者の変更により後任者が前任者の不適切な会計処理に気付くことがありますので、人事異動を定期的に実施することも、不適切な会計処理の防止に効果的です。
特定の1人に任せきりにしないことが最も重要なポイントとなりますが、中小企業のように限られた人員で管理業務を実施している場合、複数名での対応が難しいことも考えられます。その場合、十分とはいえないまでも、例えば、
監査役などが既述の事項を重点的にヒアリングする
ことによって一定のけん制効果が期待できます。
以上(2023年10月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 米山泰弘)
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【SDGs】実は環境負荷が大きい音楽業界で本格化するSDGsへの挑戦
書いてあること
- 主な読者:音楽フェスなどイベントの主催企業、協賛企業、後援する地方自治体
- 課題:環境への負荷が大きいとされる音楽イベント業界で、少しでも環境負荷を軽減するための取り組みを進めたい
- 解決策:飲食物の提供にプラスチック容器を使わない、電力を電気自動車で供給するなどの取り組みで環境負荷の軽減につなげることができる
1 知っていますか? 実は環境への負荷が大きい音楽業界
かつてはCDやレコード製造で消費されるプラスチックの量が問題とされてきた音楽業界でしたが、今はストリーミングやダウンロードによる視聴が主流になり、プラスチックの消費量は減りつつあります。
ただし、デジタル化が進んだから環境への負荷が減ったとは言い切れません。特に環境への負荷が大きいとされているのは、
- 音楽のストリーミング、ダウンロードにかかる電力消費
- 音楽フェスでの二酸化炭素排出
- 音楽フェスでの飲食物の食べ残し、ごみの放置
です。
こうした問題を解決するため、音楽フェスでは再生可能エネルギーの導入やごみのリサイクルに取り組む事例も増えており、海外では「家で寝て過ごすよりもサステナブル」といわれるくらいに環境への負荷を減らすことが考えられた音楽フェスもあります。
そこでこの記事では、環境への負荷が高いとされている音楽イベント業界で、環境負荷を軽減するために実際に行われている先進事例について紹介します。
2 環境への負荷を軽減するための取り組み事例
環境への負荷を軽減するための取り組み事例には、目的に応じて次のようなものが挙げられます。
1)電力を再生可能エネルギーなどで賄う
音楽フェスでは、照明やスピーカーなどによる膨大な電力消費がつきものです。そうした電力消費を再生可能エネルギーなどで賄う取り組みがあります。
例えば、中津川THE SOLAR BUDOKAN 実行委員会などが主催する音楽フェスの「中津川 THE SOLAR BUDOKAN」では、コンサートの運営にかかる電力のすべてを太陽光発電で賄っています。同イベントでは、会期中の来場者の移動で発生したCO2排出量のカーボン・オフセット(削減しきれないCO2排出量を、カーボンクレジットを購入することで相殺すること)にも取り組んでおり、2022年の実績で、119万6000円(1トン当たり2000円)分を購入しています。購入代金はクラウドファンディング、リユースカップ、オリジナルグッズ、募金の収益で賄っているといいます。
他にも、電力を賄う方法として、サンライズプロモーション東京(東京都港区)などが主催となって2022年10月に開催した「BLUE EARTH MUSIC FEST 2022 in MITO supported by 茨城日産グループ」では、音楽ライブのメインステージの一部と会場外の無料エリアの電力を電気自動車で賄う取り組みを行った他、飲食物をプラスチック容器ではなく、紙の包装紙を使って提供するといった取り組みを実践しています。
2)飲食物の食べ残しをリサイクルする
音楽フェスでの飲食物の食べ残しの処理も問題の1つです。この問題の解決策として、食べ残しを堆肥に変える取り組みがあります。
ロックバンドの「くるり」が主催する音楽フェス「京都音楽博覧会」では、2022年に環境に配慮した新しい取り組みとして、コンポストの設置を行いました。これは、フードエリアで出た飲食物の食べ残しや食材の使い残しを微生物によって発酵・分解して堆肥としてリサイクルするものです。出来上がった堆肥はフェス会場の梅小路公園の指定管理者である京都市都市緑化協会に寄贈し、公園の樹木の肥料に使われました。
また、同イベントでは飲食物を提供する際の食器を使い捨てでないリユース容器を導入したり、フライヤー、チラシを配布したりしないことでごみの削減につなげています。
他にも、生ごみの堆肥化はウエス(北海道札幌市)が主催する音楽フェス「RISING SUN ROCK FESTIVAL in EZO」でも行われています。これは、NPO法人のezorock(北海道札幌市)が「RSRオーガニックファーム」という名称で取り組んでいる企画で、同イベントで回収された生ごみの一部を堆肥に変え、栽培したじゃがいもを翌年の会場で食材として無償で配布しています。
3)CDパッケージの脱プラスチックを進める
これまで、CDパッケージはプラスチック素材がメインとなっており、環境への負荷が問題となっていましたが、近年では植物を原材料にしたリサイクル可能なものが出ています。
その例として、ソニーグループ(東京都港区)が手掛ける「オリジナルブレンドマテリアル」があります。竹やさとうきび繊維を原料にしたパッケージで、外箱や内箱だけに限らず、クッションや商品保護シートも同素材で作ることができます。リサイクルが前提の素材のため、廃棄の際にも他の紙類と一緒に回収に出すことが可能です。これによって、既存のプラスチック製のCDトレイと比較して、約97%の石油系プラスチックの削減ができたとしています。
4)ごみのリサイクルを図る
会場内で出たごみを回収し、リサイクルを図るイベント内資源循環リサイクルに取り組んでいるイベントの1つに「フジロックフェスティバル」があります。
同イベントでは、「ごみゼロナビゲーション」活動として、ボランティアスタッフがごみの分別を呼びかけるだけでなく、食用に適さない古米、米菓メーカーなどで発生する破砕米などを材料にしたごみ袋を来場者に配布し、ごみの放置やポイ捨てを防いでいます。
他にも、同イベントでは来場者と一緒に森林保全活動を図る取り組みもあります。イベント内で使われる割り箸やフライヤーなどは会場周辺で伐採した間伐材を材料に用いることで、森林整備や保全活動につなげています。
5)カーボン・オフセットでCO2排出を相殺する
前述した、削減しきれないCO2排出量を、カーボンクレジットを購入することで相殺するカーボンオフセットも環境に配慮した取り組みの1つです。
例えば、滋賀ふるさと観光大使を務める西川貴教氏が発起人の「イナズマロック フェス」では、2022年の9月に開催された「イナズマロック フェス 2022」でカーボン・オフセットによる開催を実現しています。
これは、イベント期間中に来場者の移動や会場での電力使用に伴って排出される30トン分のCO2を、提携する滋賀銀行がカーボンクレジットを購入・提供することで埋め合わせをする仕組みです。購入したカーボンクレジットは、滋賀県の森林資源の整備に利用されます。
3 参考:海外での先進事例
1)観客の熱気をエネルギーに変換:SWG3
スコットランドにあるナイトクラブの「SWG3」では、観客の体温をエネルギーに変換するシステムの「BODYHEAT」を導入しています。このシステムは、ヒートポンプシステムを用いて観客から発生する熱を地下に開けた穴に保存し、冷暖房に使用するという仕組みです。
このシステムによって、年間で70トン分のCO2排出を抑えることができるとしています。
2)オーディオファイルの環境負荷軽減:MQA
レーベルやDSP向けデジタル配信業者である英国のMQAでは、ハイレゾ音源データのCO2排出量を従来から80%削減することを実現しています。環境への負荷で置き換えると、MQA形式の音楽ファイルの場合で日6時間、365日再生した場合に19本の木を植えることと同様の効果があるとしています。
以上(2023年10月作成)
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【債権回収(25)】取引先が「破産手続」を申立てたら債権はどうなるのか?
書いてあること
- 主な読者:取引先が「破産手続」を申立てた場合の対応を知りたい経営者
- 課題:何ができるのか分からないし、そもそも債権が回収できるのか不安
- 解決策:強制執行ができなくなる場合がある。一定の条件のもと、相殺と担保権の実行が認められる
1 「破産手続」の位置付け
取引先が破産手続を申立てた場合、自社の債権は大きな影響を受けます。そのため、取引先の破産手続の申立てに備えて、事前に何ができるのかを知っておく必要があります。その前提となる情報として倒産処理の手続を整理します。
会社が債務超過などで倒産した場合、その手続は、
- 私的整理:裁判所を利用しない
- 法的整理:裁判所を利用する
に大別されます。法的整理はさらに、
- 清算型:会社の清算を目的とする
- 再建型:会社の再建を目的とする
に大別されます。
破産手続とは、
会社を清算し、消滅させることを想定した制度
です。会社の全財産が債権額に応じて債権者に按分で弁済され、会社は消滅します。弁済しきれない残債務は実質的に免責されます。そのため、取引先が破産手続に進むと、
何らかの担保を設定していない限りは、全て破産手続上でしか回収できない
状態になります。また、回収できるのは、債権額の0~1%程度にとどまることも少なくないため、ほぼ回収できずに債権が消滅してしまう恐れもあります。
では、破産手続の基本的なポイントを紹介していきます。
2 破産手続における債権の分類
破産手続では、債権を5つに分類します。
商取引上の債権の多くは一般破産債権です。債権額のほとんどは弁済されないことになるため、取引先が破産をしてしまうと、最終的に貸倒損失として処理をすることになります。
3 破産手続の概要
破産手続の主な流れは次の通りです。図の黒塗りの部分については以降で詳しく紹介しています。
1)裁判所による包括的禁止命令・財産保全処分
裁判所は、破産手続の申立てを受けてから破産手続開始の決定があるまでの間、
全ての破産債権者に、破産債務者の財産に対する強制執行などの禁止を命ずる包括的禁止命令を出す
ことができます。包括的禁止命令が出ると、債権者は売掛金の回収や自社商品の引き揚げなどができません。
また、民事再生手続と同様、裁判所は職権で仮差押え・仮処分その他の必要な保全処分ができます。
2)破産債権の届出・調査・確定
債権者は、破産手続の開始決定後、裁判所が定める債権届出期間内に、裁判所に対して債権の内容および額などを届け出ます。この届出を怠ると、債権者は債権を失う恐れがあるため十分に注意する必要があります。
債権者からの届出を受けた裁判所は、債権の内容および額などについて調査期間を設けます。その調査期間において、破産管財人が作成した債権認否書の内容について、破産債務者が認め、かつ届出をした破産債権者の異議がなかったときは、その破産債権の内容は確定します。
3)債権者集会の決議
破産法では、破産債権者の意思を、債権者集会あるいは債権者委員会(破産債権者をもって構成する委員会)によって破産手続に反映させます。債権者集会は、破産管財人・債権者委員会・知れている破産債権者の総債権について、裁判所が評価した額の10%以上の破産債権を有する破産債権者の申立てまたは裁判所の職権で招集します。
債権者集会の決議は、債権者集会に出席または書面投票した者の議決権の総額の50%超の同意によってなされます。
債権者委員会は裁判所または破産管財人に意見を述べることができ、裁判所は債権者委員会から意見を求めることが可能です。また、破産管財人は財産の管理および処分に関して、債権者委員会の意見を聴取することとされています。
4)破産債権者に対する配当
破産管財人は、財産の換価の終了後、遅滞なく、裁判所書記官の許可を得た上で届出をした破産債権者に配当します。配当には、原則型である「最後配当」、最後配当に代わる簡便な手続である「簡易配当」と「同意配当」、換価終了前の例外的な手続である「中間配当」、最後配当の補充的な手続きである「追加配当」があります。通常、単に配当という場合は「最後配当」を指します。
破産管財人は、配当の手続に参加できる破産債権者の氏名または名称および住所、債権の額および配当できる金額を記載した「配当表」を裁判所に提出します。その後、破産管財人は遅滞なく、配当の手続に参加することができる債権の額および配当できる金額を公告、または破産債権者に通知します。
配当表に異議のある破産債権者は、破産管財人が裁判所に届出をした日から2週間以内(除斥期間)に、配当表の修正記載の基礎となる事実を提示します。破産管財人は、これを受けて配当表を更正します。さらに、配当表の記載に不服がある破産債権者は、除斥期間が経過した後1週間以内に限り、裁判所に異議を申立てることができます。
4 破産手続中の取引先から債権回収する手立て
1)債権債務の相殺
破産債権者が債務者に対して債務を有する場合、
破産手続によらずに、双方の債権債務を相殺
できます。相殺権を行使する場合、一般的に配当を受けるわけではない以上、破産債権の届出は必要ないと考えられています。
なお、破産債権者の公平・平等と相殺権行使の濫用防止の観点から、破産手続特有の相殺禁止に関する定めがあるので注意が必要です。
2)担保権の行使
破産手続開始の時点で、
債務者の財産に設定されている担保権(特別の先取特権、質権、抵当権、商事留置権)を有する者は、その目的である財産については「別除権」を有し、破産手続によらずに行使できる
とされています。そのため、上記に該当する担保権を有していれば、原則として競売などを通じて債権回収できる可能性があります。なお、担保権の実行手続を開始している場合、破産手続が開始されても影響を受けません。
以上(2023年9月更新)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)
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ガバナンスの根幹「子会社の不祥事防止」
書いてあること
- 主な読者:グループ経営を行う上場企業の子会社の役員、グループ経営を行う非上場企業の役員
- 課題:子会社の役員として注意すべきポイントが知りたい
- 解決策:「グループガイドライン」で示されている子会社の管理体制のポイントを理解する
1 今、グループ企業のガバナンスが注目されている
急速な産業構造の変化や少子高齢化に伴う国内市場の縮小などを背景に、日本企業のグローバル化や事業再編が進んでいます。その際、グループ経営を選択する企業も多いのですが、
- 「攻め」のガバナンス:収益向上のための、機動的な事業ポートフォリオマネジメント
- 「守り」のガバナンス:子会社不祥事問題を背景とした、子会社管理の実効性確保
が課題となります。
経済産業省は、2019年6月28日に主として単体の企業経営を念頭に作成されたコーポレートガバナンス・コードの趣旨を補完するものとして、グループ経営を行う企業におけるガバナンスの在り方を示す、「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)」(以下「グループガイドライン」)を公表しました。
グループガイドラインの主たる対象は、グループ経営を行う上場企業とその子会社からなる企業集団ですが、グループ経営を行う非上場企業やこれからグループ経営に取り組もうとする企業にとっても参考になる部分があります。
■経済産業省「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)(下記URL中段)」■
グループガイドラインは、あくまで一般的なベストプラクティスを示すものですが、これに沿った対応をすれば、「通常は(取締役等の)善管注意義務を十分に果たしていると評価されるであろうと考えられる」と解説されており、特に一般株主を有するグループ企業の親会社・子会社それぞれの取締役等にとっては、グループガバナンスに関する取締役等としての善管注意義務を果たす上で重要な指標となるでしょう。
そこでこの記事では、グループガイドラインを子会社側から見た場合に子会社に求められる取り組みや特に確認しておくべきポイントなどを紹介します。なお、この記事においては、主に親子上場ではないケースを想定します。
2 グループ本社による子会社の管理・監督
グループガイドライン中の2.3.3では、グループ本社による子会社の管理・監督について、特に実効的な方法として以下の4つの取り組みを提示しています。また、これらの取り組みを実践する上では、グループ全体での「ITシステムの統合」が有効とも指摘しています。
そこで、子会社側においては、これらの共通プラットフォームの整備やグループ管理規程の策定と子会社における社内規程化、グループ会社とのITシステムの統合などの取り組みが求められます。
1)グループとしての共通プラットフォームの整備・浸透
グループ子会社の管理・監督のためには、まず、親子間の意思決定権限の配分などに関するルールなど、グループ全体の基本的な枠組みを共通プラットフォームとして整備することが基本となります。また、ソフト面の対応として、グループ全体の経営理念・価値観・行動規範をグループ会社間で共有し、現場レベルに浸透させることが重要であり、経営トップが繰り返し、社内報やイントラなどの社内メディアを通じて直接メッセージを発信することが有効です。なお、海外子会社の場合には、共通プラットフォームを適用した上で、所在国の関係法令を踏まえた個別の調整を行う必要が考えられます。
2)リスクベースの子会社管理
子会社管理の具体的な運用においては、事業セグメントや子会社ごとのリスク(規模・特性)に応じて親会社の関与の強弱・方法を決定する、リスクベースアプローチが合理的であるとされています。
3)グループ管理規程の策定・周知
多数の子会社を実効的に管理するためには、明確な「グループ管理規程」(親会社の決裁・事前承認事項、報告事項、承認・報告ルートなどを具体的に定めたもの)を策定・周知すること、その子会社における遵守を担保する措置として、子会社において社内規程として導入する、親子間で管理契約を締結するなどの措置を講じることが必要であると指摘されています。
4)M&A後の海外子会社の管理・監督
異なる制度・言語・文化・商習慣を有する海外企業を適切に管理・監督することは特に難易度が高く、PMI(Post merger integration)はグループガバナンスの中でも特に重要課題であるといえます。そこで、M&A後の海外子会社の管理・監督においては、グループ本社が主導して、グローバルな経営体制の整備や海外子会社経営陣に適格な人材の配置などを通じて、適切な経営統合の在り方が検討されるべきであると指摘されています。
3 実効的な内部統制システムの構築・運用
昨今、企業不祥事の多くが子会社において発生していることから子会社管理の重要性が再認識されていますが、グループとしてのリスク管理を適切に行うためには、内部統制システムの構築・運用が重要課題となります。
グループガイドラインの中の4.6では、実効的な内部統制システムの構築・運用の在り方として、内部統制システム構築・運用のグローバルスタンダードの考え方である「3線ディフェンス」の導入、整備および適切な運用の検討の重要性が指摘されています。3線ディフェンスとは、
事業部門(第1線)、管理(本社)部門(第2線)、内部監査部門(第3線)という3つのグループ(防衛線)によって組織のコントロールとリスク管理を十分に機能させる体制
のことです。3線ディフェンスの運用例は下記の図をご参照ください。
特に、過去の子会社不祥事事案において、子会社のトップに管理部門の人事権限が集中していたために第2線によるけん制機能が発揮されなかったことを踏まえると、第2線のけん制機能の確保が重要であるといえます。管理部門と事業部門との間でレポートラインや人事評価権者などをできる限り分離して、親会社の管理部門と子会社の管理部門を直接のラインとして通貫させ「タテ串」を通すことを検討すべき、と指摘されています。
また、子会社業務に関する第3線の内部監査は、子会社の状況に応じて、子会社において実施して親会社の内部監査部門等が実施状況を監視・監督するか、親会社の内部監査部門が一元的に実施するかを適切に判断することが必要であり、子会社監査の実効性を高めるためには、親会社の監査役等や会計監査人が、子会社の監査役等や内部監査部門等とも連携して子会社に対する監査を行う「縦の連携」が重要であると指摘されています。
従って、内部統制システムの構築・運用に関して、子会社としては、第2線については親会社の管理部門と子会社の管理部門の連携を、第3線については親会社の監査役等や会計監査人と子会社の監査役等や内部監査部門等との縦のレポートラインの確保と連携を行うことが求められます。
4 不祥事等が発生したときの親会社との連携
いかに内部統制システムを適切に構築・運用しても不祥事等の発生を完全に回避することはできません。では、いざ不祥事等が発生またはその疑いを察知した場合、どのような対応が必要でしょうか。
この点、グループガイドラインの中の4.10では、有事対応の目的は「速やかに事実関係の調査、根本原因の究明、再発防止策の検討を行い、十分な説明責任を果たすことにより、ステークホルダーからの信頼回復とそれを通じた企業価値の維持・向上を図ることである」と説明しています。初動の対応として、被害の大きさ(人の身体の安全や健康に関わるものか)や影響範囲(不特定多数に及ぶか、継続しているか)などを踏まえて公表の要否を検討し、公表が必要と判断した場合には、迅速かつ適切に行うことが必要と指摘されています(上場会社の場合は、公表の要否やタイミングについて、金融商品取引所の適時開示ルールに従う必要があります)。
そして、不祥事等が子会社で発生した場合は、「子会社における不祥事等は、親会社の直接の関与があったような特殊な場合を除き、第一次的には子会社の取締役等の責任」としつつも、
- 事案の態様(子会社トップの関与など、組織ぐるみかどうか)や重大性(ステークホルダーへの影響の程度)
- 子会社における対応可能性(子会社自身によるガバナンスが有効に機能することが期待できるか、体制・リソースが十分か)
などを勘案し、グループ全体の企業価値を維持するために特に必要な場合には、グループとしての信頼回復に向けて、親会社が不祥事等の原因究明や事態の収束、再発防止策の作成に向けた対応を主導することも期待されています。
つまり、子会社において不祥事等の発生またはその疑いを察知した場合、子会社役員としては、親会社への迅速な報告と連携が求められます。
5 子会社経営陣の指名・報酬
子会社経営陣の指名・報酬について、グループガイドラインでは、グループとしての企業価値を向上させる観点から、グループ本社において統一的な人事・報酬政策を明確に示した上で、各子会社の事情に応じた最適な人事管理・報酬設計を行わせることで適切なガバナンス体制を構築することが期待されています。
6 まとめ
グループ経営の在り方は様々であり、グループガバナンスの在り方も一律ではありません。そこで、各企業グループにおいて、グループガイドラインを参考にして自らのグループ全体の企業価値向上のために最適なガバナンスの在り方を早急に検討・構築することが求められています。そして、子会社役員は、その構築を親会社に完全に委ねることなく、自らが子会社に対して負う善管注意義務を常に意識して積極的に取り組んでいくことが必要なのです。
以上(2023年10月更新)
(執筆 弁護士 鳥居江美)
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【債権回収(24)】取引先が「会社更生手続」を申立てたら債権はどうなるのか?
書いてあること
- 主な読者:取引先が「会社更生手続」を申立てた場合の対応を知りたい経営者
- 課題:何ができるのか分からないし、そもそも債権が回収できるのか不安
- 解決策:強制執行ができなくなる場合がある。一定の条件のもと、相殺と担保権の実行が認められ、中小企業の救済措置もある
1 「会社更生手続」の位置付け
取引先が会社更生手続を申立てた場合、自社もその影響を受けます。そのため、取引先の会社更生手続の申立てに備えて、事前に何ができるのかを知っておく必要があります。その前提となる情報として倒産処理の手続を整理します。
会社が債務超過などで倒産した場合、その手続は、
- 私的整理:裁判所を利用しない
- 法的整理:裁判所を利用する
に大別されます。法的整理はさらに、
- 清算型:会社の清算を目的とする
- 再建型:会社の再建を目的とする
に大別されます。
会社更生手続とは、
規模の大きな会社(株式会社に限る)の利用を想定した制度
です。そのため、多数の関係者の利害調整を行うことができるように、厳格な手続が定められています。なお、債権回収の可能性という観点で見ると、手続が厳格な分、民事再生手続よりも会社更生手続のほうが手続外で取り得る手立てが限られています。
では、会社更生手続の基本的なポイントを紹介していきます。なお、会社更生手続には、株主も利害関係者として参加できますが、この記事は債権者の視点を中心にしているので、株主に関する規定は省略します。
2 会社更生手続における債権の分類
会社更生手続では、債権を3つに分類します。
商取引上の債権の多くは更生債権です。また、更生債権の中には、一般の「先取特権」のように優先的取扱いのされる更生債権や、更生手続開始後の利息請求権などのように劣後的取扱いのされる更生債権があります。
民事再生手続との大きな違いは、
担保権が「更生担保権」として会社更生手続に取り込まれ、手続外での自由な権利行使が認められなくなる
ことです。つまり、担保権を行使することができなくなります。
3 会社更生手続の概要
会社更生手続の主な流れは次の通りです。図の網掛けについては以降で詳しく紹介しています。
1)更生債権等の届出
更生債権者は、定められた債権届出期間内に、裁判所に自身の債権の内容などを届け出ます。会社更生手続に取り込まれる担保権を有する者(更生担保権者)も届け出なければなりません。
また、民事再生手続においては、届出がない再生債権についても再生債務者が自認していれば再生債権に取り込まれますが、会社更生手続にはこうした制度がありません。その代わり、会社更生手続には、知れたる債権者が届出をしない場合、債権届出期間の末日を通知する旨の規定があります。
2)更生計画案の決議・認可
更生計画は、民事再生手続における再生計画に当たるものです。
ただし、更生計画では「更生担保権」「一般の先取特権その他一般の優先権がある更生債権」「更生債権」「約定劣後更生債権」「残余財産の分配に関し優先的内容を有する種類の株式」「これ以外の株式」の順で優先順位が定められます。原則として、上位の権利者のほうが債権の削減幅が小さくなる可能性が高いです。
また、可決の要件は、更生債権者・更生担保権者・株主ごとに異なる定めがなされています。議決権を行使する場合は、事前に確認をしておいたほうがよいでしょう。
4 会社更生手続中の取引先から債権回収する手立て
更生債権等は、原則、更生計画に基づいて権利の変更がなされ、それに従って弁済などを受けることになります。しかし、更生計画とは別に、債権回収を図ることができる手立てもあります。
民事再生手続と同じように、会社更生手続においても、
債権届出期間内であれば、双方の債権債務を相殺
できます(相殺の条件は、基本的には民事再生手続と同じです)。同様に、中小企業者の債権の弁済の許可や少額債権の弁済の許可が定められています(内容は、基本的には民事再生手続と同じです)。
以上(2023年9月更新)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)
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画像:Mariko Mitsuda
中小企業のコンプライアンス経営 〜信頼の獲得と不正の防止
書いてあること
- 主な読者:組織全体にコンプライアンスの意識を浸透させ、強化したい経営者
- 課題:「知らなかった、これくらいよいだろう」では済まされない。問題の芽を摘みたい
- 解決策:経営者がリーダーシップを発揮して、コンプライアンス経営を実践する
1 中小企業がコンプライアンス経営に取り組む意義
皆さんはコンプライアンス違反が原因で倒産する企業がどれくらいあると思いますか? 帝国データバンク「特別企画:コンプライアンス違反企業の倒産動向調査(2022年度)」によると、2022年度は実に300件の倒産がコンプライアンス違反で発生しています。長年にわたる粉飾決算の他、足元ではコロナ禍における助成金の不正受給も問題となっています。
「やってはいけないことだと知らなかった」「これくらいならいいだろうと思っていた」など、ちょっとした油断もあるでしょう。しかし、悪気がないといっても、不正は知らなかったでは済まされません。「不名誉な敗者」にならないためには、コンプライアンス経営が必要です。コンプライアンス経営とは、
法令や規則を遵守することはもちろん、社会規範に照らして企業としての倫理を遵守していくことで、広義には法令遵守などのために企業内の体制を整備することまで含む経営
であり、攻守の効果があります。
企業の不祥事が後を絶たない中、消費者は不誠実な企業に厳しい目を向けています。同時に、「ステークホルダー(利害関係者)や環境に配慮しながら持続可能な成長を目指す企業」を評価する傾向はますます強まっています。
この記事では、中小企業が想定すべきコンプライアンス違反のリスクにはどのようなものがあるかを押さえた上で、コンプライアンス経営を具体的にどのように進めていけばよいのか紹介します。最も大切なのは、経営者の強いリーダーシップです。経営者が社員の模範になるとともに、朝礼などの場を利用して企業(自社)が社会の一員として果たすべき役割を伝えましょう。
なお、会社法は、大企業(資本金5億円以上または負債200億円以上の株式会社)には法令遵守などのために企業内のコンプライアンス体制を整備することを義務付けています。事故や不祥事を防止するために経営者が組織の全ての活動を直接把握するのは現実的でないため、経営者が間接的に組織を監督するための体制の整備を求めるという趣旨です。
一方、中小企業にはこの義務はありません。しかし、中小企業であっても、コンプライアンス体制が機能した際には、業務品質や顧客対応の向上、事故や不祥事の防止が期待できますから、企業規模を問わず、体制を整備するのが望ましいといえるでしょう。
2 中小企業におけるコンプライアンス経営の進め方
1)リスクの想定と事例研究
コンプライアンス経営を行うにあたり、まずは自社の経営に関連する主な法令とリスクを想定しましょう。これにより、対策すべきリスクが明確になります。
加えて、過去に不祥事を起こした企業の「調査報告書」(不祥事の発生原因や状況が克明に記載された報告書)を研究すれば、コンプライアンス経営の参考になります。調査報告書では、「ワンマンな経営者」「利益至上主義」などさまざまな問題が指摘されています。これらの企業と同じ問題点があるとすれば、不祥事が起こる前に対策を取る必要があるかもしれません。
2)「内部通報窓口」設置の効果
経営者が独断で判断せず、現場の社員の声を聞く必要があります。そのために有効なものとして「内部通報窓口」があります。これは、社内でコンプライアンス違反などを発見した社員が通報をするための仕組みです。内部通報窓口については、改正「公益通報者保護法」により、2022年6月1日から社員301人以上の企業に設定が義務付けられています。
内部通報窓口や通報に適正に対応する体制が整っていない場合、社員が事故や不祥事などのコンプライアンス違反を突然社外に通報・公表する可能性があります。その場合には、自社による事実調査や、通報が事実であった場合の社内外への対応をどうするかなどといった必要な検討を行う妨げとなる上、企業の社会的信用が著しく低下するなどの事態もあり得ます。
また、社員300人以下の企業にとって内部通報窓口の設置は努力義務ですが、実際は設置する企業が増えています。
3)社内規程やマニュアルの整備
コンプライアンス経営のよりどころとなる書類(規程)を整備します。整備する書類はさまざまですが、「コンプライアンスガイドライン(企業倫理規程)」などと呼ばれる、コンプライアンス経営の目的や行動規範を定めたものが中心となります。この他、業務ごとに「業務遂行マニュアル」が作成されることもあります。こうした規程やマニュアルは、社員の日ごろの活動のよりどころにもなります。
4)社員教育
コンプライアンスガイドライン(企業倫理規程)などの書類は、整備するだけでは不十分です。そこで明らかにされている企業のコンプライアンス経営の考え方が、日々の活動に活かされなければなりません。企業は社員がコンプライアンスに対する高い意識を持つことができるよう、コンプライアンス教育を行う必要があります。
5)モニタリング
モニタリングとは、実際にコンプライアンス経営が行われているかを確認・改善する行為です。顧問弁護士に一任するとよいでしょう。なお、社内に法務部門のある企業では、法務がコンプライアンス部門を兼務する場合もありますし、コンプライアンスを別部門とする企業もあります。自社で無理なく機能できる手段を取りましょう。
3 ISO26000に基づくコンプライアンスへの対応
「ISO26000」は、ISO(国際標準化機構)が発行する国際規格です。規格の認証は不要で、民間・公的・非営利のさまざまな組織を対象とした「社会的責任に関する手引」として利用できます。組織の規模を問わず活用できるように作成されており、中小企業でもISO26000を参考としながら、自社に合わせた柔軟な対応が可能です。なお、ISO26000を基にした日本産業規格(JIS)「JIS Z 26000」も制定されています。
ISO26000では、社会的責任にまつわる課題とその説明、課題の解決に向けた行動や組織に期待されること、組織が社会的責任を遂行するための具体的な行動などが規定されています。組織が果たすべき社会的責任のうち、特に重要性が高い7項目は「社会的責任の中核主題」として、主題の解説・実践に当たってのポイント・具体的な取り組み方法がまとめられています。
ISO26000の中核主題ごとに、中小企業の留意すべき点と取り組み例は次の通りです。
4 コーポレートガバナンス
ここまで説明してきたコンプライアンスと同じく耳にする言葉として、コーポレートガバナンス(企業統治)というものがあります。定義は人によってさまざまですが、一般的には経営者の暴走を未然に防ぐため、経営者を監視・監督する体制をいいます。
経営者がコーポレートガバナンスの下で適正な経営を行っても、社員が経営者の意向を無視してコンプライアンスに反する不正を行えば企業に損失が出ます。コンプライアンス体制が構築されていても、経営者が暴走し不適切な事業を行えば同じことです。従って、コーポレートガバナンスは、コンプライアンスと併せて、企業の健全な運営・中長期的な成長のための両輪といえます。
日本取引所グループは、このコーポレートガバナンスの指針として「コーポレートガバナンス・コード」というものを発表しており、企業が上場する際にはガバナンスの構築・整備状況が審査対象になります。
他方、コーポレートガバナンス体制の構築・実施や、コーポレートガバナンス・コードの実施は、法的な義務ではありませんし、短期的に売上・利益の向上に直結するものでもないため、比較的小規模な企業がはじめから大企業のような重厚な体制を構築する必要はありません。中小企業が、コーポレートガバナンスにどの程度の手間やコストをかけるかは、企業の中長期的成長に不可欠なものだという観点から、規模・成長ステージに応じて、構築・整備していくことが重要です。
以上(2023年10月更新)
(監修 のぞみ総合法律事務所 弁護士 鈴木章太郎)
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