「特別休暇の買い取り」は福利厚生としてアリ? ナシ? 経営者と社員にアンケート!

書いてあること

  • 主な読者:新しい形の福利厚生を模索している経営者、労務担当者
  • 課題:社員が特別休暇(夏季休暇など)を使わない場合、その休暇を買い取ろうと思うが、どの程度ニーズがあるのか分からない
  • 解決策:独自アンケートによると、実は経営者よりも社員のほうが買い取りに前向き。ただ、「休暇として取得しづらくなる可能性」などには注意

1 これからは「休む」「休まない」も個人の自由?

2024年6月、神奈川県横浜市が「市営バスの運転手が夏季休暇を返上する場合、特別手当を支給する制度」を開始したことがニュースになりました。2024年問題などで運転手不足が深刻化する中、「夏季休暇の買い取り」を実施し、これを解消しようというのが市の意図です。

夏季休暇とは、一般的には7~9月の間に与える休暇のことで、

法律で定められた「法定休暇」ではなく、会社が独自に実施する「特別休暇」に該当

します。法定休暇の代表格である年次有給休暇(年休)は、社員の疲労回復やリフレッシュの観点から、「買い取りは基本的に不可(休暇として与えるのが原則)」とされていますが、

特別休暇は会社独自の制度なので、これを買い取るルールを設けることは特に問題ない

と考えられています(ただし、就業規則等への定めは必要です)。

少し前までは、働き方改革の名の下、「とにかく社員を休ませることが大事」という風潮がありましたが、最近は「働きたい人が自分の意思で働くのは自由」という声もよく聞きます。そういった意味で「特別休暇の買い取り」は今後、新しい形の福利厚生になる可能性があります。ただ、「実際のところ、どの程度社員にニーズがあるの?」と気になる人も多いでしょう。

そこで、この記事では、経営者303人と社員313人それぞれに独自アンケートを実施し、「特別休暇の買い取りに賛成か、反対か」や、その理由などを聞きました。すると、

買い取りに「賛成」の人の割合はそれぞれ、経営者が38.3%、社員が66.5%となっていて、実は社員のほうが買い取りに前向きであること

が分かりました。以降でアンケート結果の詳細を紹介します。早速見ていきましょう。

2 「特別休暇の買い取り」に関するアンケート結果

経営者303人と社員313人に対し、「特別休暇の買い取り」に関するアンケート調査を実施しました(実施期間は2024年7月16日から7月17日まで)。

1)特別休暇の買い取りについてどう思う?

まず、回答者全員に、特別休暇の買い取りに「賛成」か「反対」かを聞きました。

画像1

前述した通り、実は経営者よりも社員のほうが、買い取りに前向きのようです。

2)特別休暇の買い取りに「賛成」の理由は?

1)で特別休暇の買い取りに「賛成」と答えた人に、その理由を聞きました。

画像2

経営者も社員も「忙しい人にとってはありがたい制度だと思うから」が1位、「働き方・休み方の幅が広がるから」が2位となっています。

会社として、社員が過重労働などにならないように配慮するのは当然ですが、「忙しくて休めないなら、代わりに金銭で補填するのも1つの方法」「働きたい人が自分の意思で働くのは自由」という感覚は、経営者と社員である程度一致しているようです。

3)特別休暇の買い取りに「反対」の理由は?

1)で特別休暇の買い取りに「反対」と答えた人に、その理由を聞きました。

画像3

経営者も社員も「休暇の意味がなくなりそうだから」の割合が圧倒的に高くなっています。

法定の年休については、前述した通り「社員の疲労回復やリフレッシュを図るなら、買い取らずに休暇として与えるべき」というのが基本的な考え方ですが、特別休暇についても同じように考える人が多いようです。

4)特別休暇を買い取るとしたら「いくら」?

1)で特別休暇の買い取りに「賛成」と答えた人に、買い取り金額はどの程度が妥当だと思うかを聞きました。

画像4

経営者も社員も「1日働いた場合の賃金と同じ」の割合が圧倒的に高くなっています。一方、「1日働いた場合の賃金よりも多く」の割合は、社員のほうが経営者よりもやや高く、仮に福利厚生として実践するのであれば、このあたりのニーズをくむのも1つの考え方です。

なお、1日当たりの賃金額は社員ごとに異なる可能性がありますが、冒頭で紹介した横浜市のケースでは、「1日当たり1万円」という定額での買い取りを実施しているようです。

3 特別休暇の買い取りは、あくまで社員主導で行う

前述した通り、特別休暇は法律の制度ではないので、会社が就業規則等で自由にルールを決められます。とはいえ、例えば「会社は社員の意思に関係なく、休暇を買い取ることができる」といった、休暇制度を有名無実化させるような運用はトラブルになりかねません。

特別休暇の買い取りは、社員が希望する場合にのみ実施する

など、買い取りについては社員が選択できる制度設計にしておきましょう。

なお、本アンケートでは、特別休暇の買い取りに前向きな社員が多かったですが、このあたりの傾向は、会社によって異なる可能性があります。実施を検討する場合、自社の社員のニーズをアンケートなどで調査し、制度設計について社会保険労務士などの専門家に相談した上で行うようにしてください。

以上(2024年8月作成)

pj00719
画像:Vadym-Adobe Stock

【かんたん会社法(15)】企業再編の1つである「株式交換」「株式移転」「株式交付」

書いてあること

  • 主な読者:企業再編の1つとして「株式交換」などの基本を知りたい人
  • 課題:株式交換などの手続きはとても複雑そうで、とっつき難い
  • 解決策:株式交換と株式移転は100%の親子関係になるが、株式交付は100%ではない

1 さまざまな企業再編

いわゆる「M&A(Mergers and Acquisitions)」は、事業拡大、選択と集中、事業承継などさまざまな目的で実施されます。M&Aには、合併と買収という2つの意味がありますが、両方の意味を含むものとして、「企業再編」という言葉が使われることが多くあります。主な企業再編には次の7つの手法があります。

  1. 株式譲渡:会社の株式の全部または一部を他の会社に譲渡する
  2. 事業譲渡:事業の全部または一部を他の会社に譲渡する
  3. 合併:複数の会社が1つになる。吸収合併と新設合併とがある
  4. 会社分割:事業の全部または一部を他の会社に譲渡。吸収分割と新設分割とがある
  5. 株式交換:既にある会社を100%子会社にする
  6. 株式移転:会社を新規設立し、その会社を100%親会社にする
  7. 株式交付:既にある会社を子会社にする(100%子会社に限らない)

ここで紹介するのは株式交換、株式移転、株式交付です。株式交換の手続きを中心とし、株式移転と株式交付についてはポイントを絞って紹介します。

2 株式交換、株式移転、株式交付とは

株式交換、株式移転、株式交付は、いずれも自社株を買収対価とする企業再編の手法です。株式交換と株式移転は、完全親子関係になります。株式交付は株式交換に似ていますが、完全親子関係にとらわれずに実施することができます。

株式交換は、既存のA社とB社との間で、B社(株式交換完全子会社)株式の全部をA社(株式交換完全親会社)に移転し、B社株主にはA社の株式等が交付される制度です。

株式移転は、新たに設立されたA社(株式移転設立完全親会社)に既存のB社(株式移転完全子会社)株式の全部が移転し、B社株主はA社の株式等の交付を受ける制度です。株式移転は、いわば新会社の設立と株式の交換を1つの手続きで行うものです。

株式交付は、既存のA社とB社との間で、B社(株式交付子会社)株式をA社(株式交付親会社)に移転し、B社株主にはA社の株式等が交付される制度です。

3 株式交換の手続き

1)株式交換契約の締結

株式交換を行う際は、完全親会社となる会社と完全子会社となる会社が「株式交換契約」を締結します。株式交換契約で定める事項は次の通りです。

  • 株式交換完全子会社および株式交換完全親会社の商号・住所
  • 株主に交付する株式交換完全親会社の金銭等に関する事項など
  • 新株予約権者に株式交換完全親会社の新株予約権を交付する場合はその事項など
  • 株式交換の効力発生日

2)株式交換契約等に関する事前開示

株式交換完全子会社および株式交換完全親会社は、株主総会の開催前に、株式交換契約等に関する事項(株式交換比率の相当性等)を開示しなければなりません。これは、株主が株式交換を承認するか否か、債権者が異議を述べるか否かを判断するための資料です。事前開示する期間は、一定の日(さまざまありますが、例えば株主総会の2週間前)から効力発生日後6カ月を経過する日までです。

3)株主総会の承認

株式交換契約は、株式交換完全子会社および株式交換完全親会社が、それぞれ株主総会の特別決議によって承認を得なければなりません。

ただし、株式交換完全親会社において株主総会の承認決議を省略できるケースがあります。まず、簡易株式交換の場合です。簡易株式交換とは、株式交換完全親会社が株式交換完全子会社の株主に交付する金銭などの額が、株式交換完全親会社の純資産額の20%以下の場合です。この場合、株式交換完全親会社の株主に与える影響が小さいと考えられ、株主総会の承認決議は不要となるのです。ちなみに、株式交換完全子会社は、原則として、株主総会の承認決議を省略できません。

また、略式株式交換の場合も株主総会の承認決議が不要になります。略式株式交換とは、特別支配関係にある会社の株式交換です。特別支配関係とは、相手の会社の議決権の90%以上を有しているケースです。株式交換において、

  • 株式交換完全親会社が特別支配会社である場合は、株式交換完全子会社における株主総会の承認決議が不要
  • 株式交換完全子会社が特別支配会社である場合は、株式交換完全親会社における株主総会の承認決議が不要

となります。

4)株主通知

株式交換について、次のことを株主に通知します(一定の場合には公告で代用することができます)。

  • 株式交換完全子会社:株式交換の効力発生日の20日前までに、株式交換をする旨、株式交換完全親会社の商号・住所
  • 株式交換完全親会社:株式交換の効力発生日の20日前までに、株式交換をする旨、株式交換完全子会社の商号・住所

5)反対株主の買取請求

上記の株主通知を受けた株主のうち、株式交換に反対する株主は、自身の有する株式を公正な価格で買い取るよう会社(株式交換完全親会社、株式交換完全子会社)に請求できます。会社との協議が不調に終わった場合、会社または株主は裁判所に対して価格の決定の申し立てをすることができます。

6)新株予約権の買取請求

株式交換完全子会社が新株予約権を発行している場合、これを残しておくと株式交換後に新株予約権が行使され、完全親会社による支配という目的が達成できなくなります。そこで株式交換完全親会社は、株式交換完全子会社の新株予約権者に対してその新株予約権に代えて当該完全親会社の新株予約権を交付することができます。ただし、新株予約権の内容として、株式交換に際し新株予約権が交付される旨が定められていたものの、その取扱いがされないもの、または異なる取り扱いがされる場合、株式交換完全子会社の新株予約権者が不利益を被る可能性があるため、新株予約権の買取請求権が認められています。

7)債権者の保護

株式交換完全親会社の株式を対価とする株式交換では、株式交換完全子会社においては株主が入れ替わるだけで会社財産の流出はありません。また、株式交換完全親会社においても株式交換完全子会社の株式を取得して資産および資本金の額が増加します。このような理由から、債権者の利益が害される恐れは基本的にありません。

ただし、株式交換完全親会社が対価として株式以外の財産を交付するなど、会社財産の流出が生じ、債権者の利害に関わる場合には、債権者の保護手続きが定められています。

8)登記

株式交換完全親会社は、通常、株式または新株予約権の発行を行うため、2週間以内に変更の登記が必要です。株式交換完全子会社の新株予約権者に対して株式交換の対価として新株予約権が交付される場合には、株式交換完全子会社においても、新株予約権の消滅につき変更の登記が必要です。

9)書面などの備え置き

株式交換完全子会社および株式交換完全親会社は、株式交換の効力発生日後遅滞なく、株式交換契約の内容およびその他法務省令で定める事項を記載した書面または電磁的記録を作成しなければなりません。

これらの書面または電磁的記録は、株式交換の効力発生日から6カ月間、本店に備え置かなければなりません。

以上(2024年8月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田賢生)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 梶原大暉)

pj60078
画像:Mariko Mitsuda

交通量の多い高速道路​での留意点​(2024/08号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

8月は、夏季休暇などを利用して帰省や行楽ドライブを計画されている人も多いことでしょう。長距離の移動に欠かせないのが高速道路ですが、8月の高速道路は交通量が多く、渋滞も発生しやすくなります。

そこで今回は、高速道路における渋滞の発生原因や発生箇所、渋滞に差し掛かった時の留意点について考えてみましょう。

高速道路​での留意点

1.渋滞の発生傾向

月別の全国の高速道路の交通量をみると、8月が最も多くなっており(図1)、特にお盆の時期を中心に長い渋滞が発生しています。

月別の全国高速道路の交通量

出典:独立行政法人 日本高速道路保有・債務返済機構「各高速道路会社の交通量データ」を基に当社作成。
「全国高速道路の交通量」は東日本高速道路、中日本高速道路、西日本高速道路、首都高速道路、阪神高速道路、本四高速道路、の合計値。

この時期には各高速道路会社から渋滞予測等の交通情報が発表されますので、事前にこれらの情報を確認し渋滞を回避できる運行計画を立てることが大切です。

渋滞の発生原因は「交通集中」(自然渋滞)が7割以上を占めています(図2)。

また、渋滞の発生箇所は「上り坂・サグ部※」がほぼ6割を占めています(図3)。

交通渋滞の発生箇所

出典:NEXCO東日本「高速道路の渋滞対策」
https://www.e-nexco.co.jp/activity/safety/detail_07.html

※サグ部・・・道路の、下り坂から上り坂にさしかかる凹型構造の箇所

上り坂・サグ部では速度が無意識のうちに低下することがあります。1台の車の速度が落ちると、後続車も速度を落とし、その後ろの車も速度を落とし…と連鎖していくことで車がつながり(交通集中)、渋滞が発生します。

緩やかな下りや上りは識別しにくく、そのような箇所には渋滞発生を注意喚起する看板が設置されることもあります。それらを見落とさないようにし、こまめにスピードメーターで速度を確認する習慣をつけるとよいでしょう。

2.渋滞に差し掛かった時の留意点

図4は高速道路の平均速度調査の一例ですが、渋滞時(40km/h以下)は第一走行車線が最も速くなっています。追越車線へ強引に車線変更する車が見受けられますが、リスク(事故・あおり運転の誘発要因にもなる)があるだけで何のメリットもありません。頻繁な車線変更も同様です。

高速道路の平均速度

出典:ウェザーニュース「渋滞の高速道路、最も速く進む車線は”左車線”」https://weathernews.jp/s/topics/202305/020075/

渋滞時に路肩を走行する車を見かけることがありますが、路肩は緊急車両の通行路であり、走行は禁止されています。

急ぎの要因の一つとしてトイレも考えられますので、高速道路を走行するときは携帯トイレも備えておきましょう。

また渋滞時には、二輪車が車の間を縫うように走行することがあります。少しでも車が動いているときや停止状態から動き出すときは、後方や側方から二輪車が接近していないか確認しましょう。

コラム 運転支援装置「追従型クルーズコントロール」の留意点

追従型クルーズコントロール※は、運転者がセットした車速を維持するとともに、カメラ・レーダー等のセンサーで先行車を認識すると、その速度に応じて速度を自動調節し、車間距離を適正に保ちつつ走行する運転支援装置です。

追従型クルーズコントロール

以下は追従型クルーズコントロール利用時の留意点です。

  • 居眠り運転や機能の過信による前方不注意などに陥る危険があります。運転の主役はあくまでも運転者自身。装置に頼って油断することのないよう緊張感をもって運転しましょう。
  • 急カーブや急こう配などでセンサーの検知範囲を超えたり、センサーへの着雪・汚れ、逆光などで対象物を認識できなかったりする場合、装置が正しく機能しない場合があります。
  • この装置は車が一定の速度で流れやすい高速道路向きです。一般道路での使用や、高速道路であっても都市高速など急カーブが多いところ、合流・分流時、料金所付近での使用は控えましょう。

※車種によって機能や操作方法が異なります。利用する前に必ず機能詳細を確認しておきましょう。

以上(2024年8月)

sj09120
画像:amanaimages

まだまだある!社労士に相談が多い事例10選!生成AI、通勤手当、社内不倫など

働き方にも“新時代”が到来している今、私たち社労士のもとに多く寄せられる相談事例トップ10と、その解決策を検討することで、よりよい職場環境についてともに考えてみたいと思います。

この記事は、こちらからお読みいただけます。pdf

自社所有でなくとも所有者との共同申請で申請可能! 事務所等の省エネ化を支援する「脱炭素ビルリノベ事業」のご紹介

中小企業等を支援する国や自治体の補助金・助成金事業では、雇用・人材開発・IT補助・コロナ支援など幅広いジャンルの支援があります。
本レポートでは、おすすめの補助金・助成金について支援の内容や対象条件、申請方法等についてわかりやすく紹介します。

この記事は、こちらからお読みいただけます。pdf


令和6年度新設・改正 助成金のプロがおすすめする注目の雇用関係助成金5選

令和6年度に注目すべき厚生労働省の雇用関係助成金を5つ選び、その詳細と活用方法について解説します。これらの助成金は、企業が人材を確保し、定着させ、また働きやすい環境を整備し、結果として事業の持続的な成長を実現するための重要な手助けになります。

この記事は、こちらからお読みいただけます。pdf

あなたはどのタイプ? チャートで分かる相性のよさそうな金融商品と資産運用のポイント

書いてあること

  • 主な読者:創業期、成長期を経て成熟期を迎え、資金繰りにもある程度の余裕がある会社の経営者(40~60歳代)
  • 課題:老後の生活にいくら必要になるのか予想がつかない。資金不足に備えて、資産運用を検討したいが、どうしたらよいか分からない
  • 解決策:老後の資金がいくらになるかシミュレーションしてみる。金融商品の特徴を押さえ、家計で「当面使う予定のないお金」を投資に振り向けてみる

1 老後の資金はいくら必要?

「人生100年時代」と言われる今、老後の資金はいくら必要になるでしょう?
突然そんな質問をされたとき、明確な根拠をもって答えられるでしょうか。

数年前、話題となった「老後資金2000万円問題」を思い出された方もいるでしょう。そのきっかけとなったのは、金融庁の金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(2019年6月)です。そこでは、「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1,300万円~2,000万円になる」ということが書かれています。報告書に使われた統計データ等の前提条件下では、公的年金を中心とした収入だけでは資金不足に陥る恐れがあるというわけです。

とはいえ、実際に老後に必要となるお金は、年金や貯蓄額、保有資産、生活スタイル、健康状態などによっても大きく異なります。老後の生活にいくら必要になるのかは、
ご自身やご家族がどのように暮らしたいのか、最低でも守りたい生活水準はどれくらいか
によります。生活水準を下げるのは、なかなか難しいことですし、そうした事態はなるべく避けたいものです。

この記事では、老後の生活に必要なお金をシミュレーションしてみるためのツール、そして将来的な資金不足に備え、それを補うために、家計で「当面使う予定のないお金」を投資に振り向けようとする際、押さえておきたい主な金融商品の特徴を紹介します。


なお、以降で紹介するのは情報提供のみを目的とするものであり、取引の申し込みや勧誘、あっせん、推奨、助言、金融商品を含む商品やサービスの販売等を目的として提供されるものではありません。

また、実際の個人の資産運用についてはファイナンシャルプランナーなど専門家に相談するとよいでしょう。


2 老後の生活に必要なお金をシミュレーションしてみる

ここでは、生命保険文化センターがウェブサイトを通じて無償提供しているシミュレーションツールを紹介します。シミュレーションには前提条件がありますので、あくまで、ライフイベントなどに応じて必要になるお金の目安を把握するためのものとしてご活用ください。

1)生命保険文化センター「e-ライフプランニング」

基本情報(生年月日、性別、配偶者の有無、家計を主に担う方はご自身か配偶者か、子どもの有無)を入力し、「ライフプランを作る」「リスクに備える」などのメニューに進み、必要情報(家計の収支・資産や将来のリスクなど)を入力することで、退職後のセカンドライフ、老後生活資金の不足などについて結果を確認できます。

■生命保険文化センター「e-ライフプランニング」■
https://www.jili.or.jp/e-life/

2)不足するかもしれないお金をどのようにカバーするか

老後の生活に必要なお金をシミュレーションしてみた結果、将来的に生活資金が不足するかもしれないことが分かったとしたら、どうすればよいでしょうか。

まずは、ご自身の家計を、大まかに次のように分けて、それぞれどれくらいの金額がかかっているのかを整理してみましょう。

  • 生活に必要な当座のお金・生活予備資金:生活費、急な出費に備えるお金など
  • 使い道と時期が見えているお金:子どもの教育資金、住宅購入・リフォーム資金など
  • 当面使う予定のないお金

そして、まずは、ムダな出費をできる限り抑えるようにしましょう。その上で、「当面使う予定のないお金」があるならば、それを預貯金だけでなく、バランスよく他の金融商品に振り向けることを検討してみましょう。日本ではマイナス金利政策が解消されたとはいえ、預金金利は低い水準が続いており、銀行にお金を預けていてもさほど増えないのが実情だからです。

3 ご自身と相性のよさそうな金融商品の見つけ方

金融商品にはたくさんの種類があり、商品によって特徴もさまざまです。ご自身と相性のよさそうな金融商品を見つけるために押さえておきたいのが「リスク許容度」です。

リスク許容度とは、投資によって損失が出るリスクをどこまで受け入れられるかを示す限度のことで、年齢(=運用できる期間)、家族構成(=予定されるライフイベント)、収入や保有資産の状況、これまでの投資経験、ご自身の性格などによって個人差があります。

試しにご自身の性格がどんなタイプか、次の簡単な質問に「はいいいえ」で答えていってみてください。

性格診断チャート

いかがだったでしょうか? 割と当たっているという方もいれば、全然違うという方もいるかもしれません。

リスク許容度の診断テストを、ウェブサイトを通じて提供している金融機関などもあるので、ご興味のある方は「リスク許容度 診断」などのキーワードで検索してみてください。

4 押さえておきたい主な金融商品の特徴

金融商品は「安全性」「収益性」「流動性」という3つの観点で整理すると、特徴が分かりやすくなります。それぞれ簡単に言うと、次のような意味合いです。

  • 安全性:元本が保証されているか
  • 収益性:どれくらいの収益が期待できるか
  • 流動性:必要なときにすぐに現金化できるか

主な金融商品の特徴を押さえて、ご自身と相性のよさそうな金融商品を見つけてください。

1)預貯金

預金(銀行や信用金庫などに預けている日本円)と貯金(ゆうちょ銀行に預けている日本円)は、必要なときに引き出すことができ、万一、金融機関が破綻しても預金保険の対象として1000万円まで(とその利息)は全額保護されます。普通預金の金利は、年率0.02%ほど(2024年7月31日時点)で、預けていてもさほど増えません。

2)株式

株式会社が発行する「株式」は、会社が利益を上げるとその一部を配当として株主に還元します。「この会社は成長しそう」と多くの人が思い、株式を購入したがると株価が上がります。購入時よりも株価が上がったタイミングで売却することで利益を得ることもできます。一方、会社の業績が下がると、一般的には株価も下がります。会社が破綻してしまうと株式の価値はゼロになります。株式は比較的簡単に売却して現金化できますが、手元に現金が入るまでは時間がかかります。

先述したチャートで「好奇心旺盛でいろいろ挑戦したいタイプ」となった方は、株式を中心とした資産運用に興味を持つかもしれません。

3)債券

国が発行する国債、地方公共団体が発行する地方債、株式会社などが発行する社債といった「債券」は、利子を支払う時期や利率、満期日があらかじめ決められており、満期日に購入した元本(額面金額)が払い戻されます(償還といいます)。

債券の発行者が破綻するとお金が返ってこない恐れがあるため、格付け会社が、発行者の信用力によって債券を格付けします。収益性は、一般的に預貯金よりも高く、株式より低くなります。満期日前に売却して現金化できますが、金利などの影響を受けて価格が変動し、売却価格が額面を下回って元本割れとなる可能性もあります。

先述したチャートで「堅実で無理はしたくないタイプ」となった方は、債券を中心とした資産運用に興味を持つかもしれません。

4)投資信託

投資信託は、多くの人からお金を集めて、専門家である資産運用会社が株式や債券などで運用するもので「ファンド」ともいいます。運用により利益が出ると配当として、また値上がり益を分配金として保有者に還元します。少額から投資できるものも多いですが、安全性や収益性は投資信託が何にどれだけ投資しているかによります。株式同様、比較的簡単に売却して現金化できますが、手元に現金が入るまでは時間がかかります。

先述したチャートで「大ざっぱだけれどバランスを重視するタイプ」となった方は、投資信託を中心とした資産運用に興味を持つかもしれません。

5 リスクとリターンはトレードオフの関係

リスクという言葉は、「危険」「良くないことが起こる恐れ」という意味合いで使われていますが、資産運用の世界では、リターンのブレの大きさを指すことが一般的です。

そして、リスクの小さな資産からは得られるリターンも小さく、リスクの大きな資産からは大きいリターンが得られると言われています。

ローリスク・ハイリターンの金融商品があれば理想的ですが、現実には存在し得ないので、そのようなことをうたう商品を見つけたら詐欺を疑ってかかったほうが無難です。だまされないように気をつけましょう。

また、ハイリスク・ハイリターンの金融商品の中でも、リスクが高い商品(例えば、FX、信用取引、先物取引など)は、損失が生じたときの影響も大きくなるので注意が必要です。老後の生活に必要なお金をカバーするのには不向きでしょう。

以上(2024年8月作成)

dl24081
画像:photo-ac

【かんたん会社法(14)】企業再編の1つである「会社分割」

書いてあること

  • 主な読者:企業再編の1つとして「会社分割」の基本を知りたい人
  • 課題:会社分割の手続きはとても複雑そうで、とっつき難い
  • 解決策:通常、会社分割では事業を承継させる側が事業を選択し、対価は株式などとなる

1 さまざまな企業再編

「M&A(Mergers and Acquisitions)」は、企業が成長や競争力を高めるための戦略であり、具体的には、新市場の開拓、競争相手の排除、コスト削減、経済規模の拡大などさまざまな目的で実施されます。M&Aには、合併と買収という2つの意味がありますが、両方の意味を含むものとして、「企業再編」という言葉が使われることがあります。主な企業再編には次の7つの手法があります。

  1. 株式譲渡:会社の株式の全部または一部を他の会社に譲渡する
  2. 事業譲渡:事業の全部または一部を他の会社に譲渡する
  3. 合併:複数の会社を1つにする。吸収合併と新設合併とがある
  4. 会社分割:事業の全部または一部を他の会社に分割して承継する。吸収分割と新設分割とがある
  5. 株式交換:既にある会社を100%子会社にするために、子会社となる会社の株主の株式と親会社となる会社の株式を交換する
  6. 株式移転:既にある複数の会社が新規に100%親会社を設立するために、それぞれが保有する株式を100%親会社に移転し、対価として100%親会社の株式の交付を受ける
  7. 株式交付:既にある会社を子会社(100%子会社とは限らない)にするために当該子会社の株式を譲り受け、対価として自社株式を交付する

ここで紹介するのは上記のうち、会社分割です。吸収分割の手続きを中心とし、新設分割についてはポイントを絞って紹介します。

2 会社分割とは

会社分割とは、事業の権利義務の全部または一部を別の会社に譲渡することで、

  • 吸収分割:存在する会社に、事業を譲渡する
  • 新設分割:新たに会社を設立し、事業を譲渡する

があります。事業を譲渡するという意味では、別の組織再編の手法である「事業譲渡」に似ています。ただし、会社分割の特徴は、

  1. 包括承継のため、債務や契約上の地位の移転等について、相手方の同意が不要
  2. 通常、対価は金銭ではなく株式となるのが通常(事業譲渡では、対価は金銭が通常)

ことであり、この点で事業譲渡と異なります。

以降では、

  • 吸収分割:事業を承継させる側「吸収分割会社」、承継する側「吸収分割承継会社」
  • 新設分割:事業を承継させる側「新設分割会社」、承継する新会社「新設分割設立会社」

として、手続きのポイントを紹介します。なお、全ての会社は株式会社である想定とします。

3 会社分割の手続き

1)分割契約の締結、または分割計画の作成

吸収分割の場合、吸収分割会社と吸収分割承継会社は「吸収分割契約」を締結します。吸収分割契約で定める事項は次の通りです。

  • 吸収分割会社と吸収分割承継会社の商号、住所
  • 吸収分割承継会社が吸収分割会社から承継する資産、債務、雇用契約など権利義務の内容
  • 吸収分割承継会社が承継する株式に関する事項
  • 権利義務の全部または一部の代わりに金銭などを交付する場合はその事項。株式を交付する場合はその数または算定方法など
  • 吸収分割会社の新株予約権者に吸収分割承継会社の新株予約権を交付する場合、その新株予約権の内容や数、新株予約権者への割当に関する事項
  • 吸収分割の効力発生日
  • 吸収分割会社が、吸収分割の効力発生日に、全部取得条項付種類株式の取得(取得対価が吸収分割承継会社の株式のみであるもの)、剰余金の配当(配当財産が吸収分割承継会社の株式のみのもの)をするときはその旨

新設分割会社では「新設分割計画」を作成する必要がありますが、その内容は吸収分割契約で定める事項と似ています。違いとしては、新設分割計画では新設分割設立会社に関する事項(商号、本店の所在地、発行可能株式総数など)を定めなければなりません。また、新設分割の場合、対価として金銭等の交付をすることはできません。新設分割設立会社は、新設分割会社に株式、社債、新株予約権を交付しなければなりません。

2)分割契約・計画の事前開示

吸収分割の吸収分割会社と吸収分割承継会社、新設分割の新設分割会社と新設分割設立会社は、分割契約、分割計画の内容などを記載した書面を、事前に本店に備え置かなければなりません。これは、株主が会社分割を承認するか否か、債権者が異議を述べるか否かを判断するための資料です。事前開示する期間は、一定の日から効力発生日後6カ月を経過する日までです。一定の日とは、次の1.~5.のいずれか早い日を指します。

  1. 吸収分割の承認に関する株主総会の2週間前の日
  2. 反対株主の株式買取請求に関する通知または公告のいずれか早い日
  3. 新株予約権買取請求に関する通知または公告のいずれか早い日
  4. 債権者異議手続の公告または催告のいずれか早い日
  5. 上記1.~4.以外の場合には、吸収分割契約の締結の日から2週間を経過した日

3)株主総会の承認

1.吸収分割

吸収分割の場合、吸収分割会社と吸収分割承継会社がそれぞれ株主総会の特別決議で吸収分割契約を承認します。

ただし、吸収分割会社における株主総会の承認決議を省略できる場合があります。まず、簡易吸収分割の場合です。簡易分割とは、吸収分割会社が吸収分割承継会社に承継させる資産の額が、吸収分割会社の総資産額の20%以下の場合です。この場合、吸収分割会社の株主に与える影響が小さいと考えられ、株主総会の承認決議は不要となるのです。

また、略式吸収分割の場合も株主総会の承認決議は不要になります。略式吸収分割とは、特別支配関係にある会社の吸収分割です。特別支配関係とは、相手の会社の議決権の90%以上を有しているケースです。具体的には、吸収分割会社が吸収分割承継会社を特別支配している場合、吸収分割会社における株主総会の承認決議は不要です。

視点を変えて、吸収分割承継会社における株主総会の承認決議を省略できる場合もあります。考え方は先と同じで、承継会社における簡易吸収分割および略式吸収分割です。前者は、吸収分割承継会社が吸収分割会社に分割対価として交付する株式等の額が、吸収分割承継会社の総資産額の20%以下の場合です。後者は、吸収分割承継会社が吸収分割会社を特別支配している場合です。

2.新設分割

新設分割の場合、新設分割会社が株主総会の特別決議で新設分割計画を承認します。ただし、簡易新設分割の場合、新設分割会社における承認決議を省略できます。簡易新設分割とは、新設分割設立会社に承継させる資産の額が、新設分割会社の総資産の20%以下の場合です。

4)株主通知

会社分割について、次のことを株主に通知します(一定の場合には公告で代用することができます)。

  • 吸収分割の吸収分割会社:効力発生日の20日前までに、吸収分割をする旨、吸収分割承継会社の商号および住所
  • 吸収分割の吸収分割承継会社:効力発生日の20日前までに、吸収分割をする旨、吸収分割会社の商号および住所
  • 新設分割の新設分割会社:株主総会の承認決議の日から2週間以内に、新設分割をする旨、新設分割会社と新設分割設立会社の商号、住所

5)反対株主の買取請求

上記の株主通知を受けた株主のうち、分割に反対する株主は、自身の有する株式を公正な価格で買い取るよう会社に請求できます。請求する相手は、吸収合併の場合は吸収分割会社、吸収分割承継会社となります。同様に新設分割の場合は新設分割会社となります。ただし、簡易合併の場合、原則として、株式買取請求権は認められません。同様に略式合併の場合、特別支配会社は株式買取請求権を有しません。

6)新株予約権の買取請求

吸収分割会社および新設分割会社の新株予約権者は、その新株予約権と同条件の新株予約権が交付される場合を除き、新株予約権の公正な価格での買取請求ができます。

7)債権者の保護

吸収分割および新設分割の分割会社、承継会社は、次に掲げる事項を官報に公告しなければなりません。

  • 分割をする旨
  • 分割会社、承継会社そして設立会社の商号および住所
  • 分割会社、承継会社の計算書類に関する事項
  • 分割に異議のある債権者が、一定の期間内(1カ月以上の期間)に異議を述べられる旨

同時に、知れたる債権者に個別の通知をしなければなりません。知れたる債権者の範囲に明確な定義はありませんが、実務上、少額の債権者は除くこともあります。また、定款で日刊新聞紙または電子公告による公告方法を定めている場合、官報への公告に加えてこれらの方法による公告を行った場合、債権者に対する個別の催告は必要ありません。また、分割後も分割会社に全額を請求できる債権者については、債権者保護手続きは必要ありません。

債権者が一定の期間内に異議を述べなかった場合は、分割について承認したものとみなされます。一方、異議を述べた債権者に対しては、分割をしてもその債権者を害する恐れがない場合を除き、弁済、相当の担保提供、弁済のための相当の財産の信託をしなければなりません。

8)登記

吸収分割の場合、吸収分割会社および吸収分割承継会社は、分割の効力が生じた日から2週間以内に、その本店の所在地において、変更の登記をします。

新設分割の場合は、新設分割設立が設立された日に新設分割の効力が発生します。つまり、登記が効力発生の要件となります。この登記は、株主総会の承認決議など会社法で定められている所定の日から2週間以内に、本店の所在地で行わなければなりません。

9)書面などの備え置き

吸収分割の場合、吸収分割会社および吸収分割承継会社は効力が発生した後遅滞なく(新設分割の場合、新設会社および新設分割設立会社の設立登記の日から遅滞なく)、分割により承継した権利義務その他の分割に関する事項を記載した書面または電磁的記録を作成しなければなりません。

これらの書面または電磁的記録は、吸収分割では効力発生日から6カ月間、新設分割では成立の日から6カ月間、本店に備え置かなければなりません。

以上(2024年8月更新)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

pj60077
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】オーケストラに学ぶチーム作りの基礎、ポイントは「対話」

おはようございます。皆さんは、オーケストラの生演奏を聞いたことがありますか。実は、私には趣味でチェロをやっている友人がいて、その友人が参加するアマチュアオーケストラを見に行くことがあります。私自身は音楽にあまり明るくないのですが、何十人もの演奏者が、寸分の乱れもなく統率されたメロディーを奏でる姿には、いつも圧倒されます。演奏する楽器はそれぞれ違うのに、彼らが奏でるメロディーは、まるで歯車のようにカッチリとかみ合い、人々を感動させるのです。今日は、オーケストラの演奏者がどのように“いい音楽”を作り上げているのか、彼らの「練習」をテーマに話をしたいと思います。

学生や社会人が集まるアマチュアオーケストラの場合、自分の楽器の「個人練習」を行うのと併せ、「チームでの練習」として、

  1. 演奏者全員が集まって「合奏」
  2. 管楽器と弦楽器の演奏者に分かれて「分奏」
  3. 同じ楽器の演奏者が集まって「パート練習」
  4. 再び演奏者全員が集まって「合奏」

という流れを繰り返し行うそうです。自分の楽器を演奏するだけでは、曲の流れや全体像が分かりませんし、演奏の速さや抑揚の付け方も演奏者1人1人で異なります。だから、まずは全員が集まって「合奏」することで曲のイメージをつかみ、その後、小さなチームに分かれて「分奏」「パート練習」を行うことで、1人1人の細かい“ズレ”を解消して、演奏の精度を高めるのです。

友人いわく「“いい音楽”を作り上げる上で大切なのは、チームがやりたいことと個人がやりたいことをできるだけ一致させ、演奏者全員が同じ方向を向いて練習すること」なのだそうです。曲を楽譜通りに再現することももちろん大切ですが、楽譜に表現されない部分については、「こんな風に演奏したい」「このパートには特に力を入れたい」といった、演奏者それぞれのこだわりがあります。

そういった部分は、演奏者同士で「対話」を繰り返して、お互いのこだわりを共有します。一方、全員の曲に対するこだわりを拾い上げることは難しいので、最終的には経験・知識量が豊富な指揮者が、トップダウンで演奏のイメージを伝え、チームを統率するそうです。

こうしたオーケストラのチームワークには、私たちも学ぶべきところが多々あるはずです。社員の皆さんには、日々さまざまな仕事をしていただいていますが、皆さんはその仕事の先にある「会社がやりたいこと」のイメージをちゃんとつかめているでしょうか。一方、経営者である私、あるいは皆さんの上司は「皆さんがやりたいこと」、すなわち仕事に対するこだわりをちゃんと拾い上げられているでしょうか。お互いに足りない部分があるはずです。

大切なのは「対話の繰り返し」です。お互いが納得して“いい会社”を作っていけるよう、しっかり「練習」していきましょう。

以上(2024年9月作成)

pj17194
画像:Mariko Mitsuda

トラックドライバー向け指導項目 「法定12項目」と安全教育事例をカンタン解説

書いてあること

  • 主な読者:トラック運送会社の経営者、管理職
  • 課題:ドライバーへの安全教育は今の方法でいいのか? ドライバーに指導しなければならない「法定12項目」の内容と、どのような指導方法があるかを改めて確認したい
  • 解決策:他社事例にあるような動画教育やコンテストなどを実施するのも一策。「いつでも見返せる」「競うことで意欲を盛り上げる工夫」などがポイント

1 トラックの事故は大きな事故になる

日本国内の貨物輸送量の約90%は、トラック輸送が占めているといわれます。災害時には救援輸送を担うなど社会的な使命も大きく、トラックは産業や生活に必要な大事なものです。

一方で、トラックは大事故を引き起こす恐れもあります。国土交通省が発表している走行距離1億キロあたりの交通事故件数でみると自家用車のほうが2倍近く多いのに対し、交通「死亡」事故件数はトラックのほうが多くなっています(ここ数年は減少傾向にあります)。

画像1

運送会社はとにかく安全が第一、ドライバーへの安全教育は欠かせません。2024年問題に直面している中、各社には効率的に事業を行うことに加え、高い安全性が求められます。

そこで、この記事ではトラックドライバーへの指導項目として決められている「法定12項目」の内容を確認した上で、実際に指導に取り組んでいる運送会社や協会などにヒアリングした内容を紹介します。

こうした事例なども参考にして、今行っている指導方法を改めて見直してみましょう。自社のドライバーが「ちゃんと関心を持って安全教育に参加する、指導内容をしっかり身に付ける」ように工夫することが大切です。

2 法定12項目とは

法定12項目とは、国土交通省が定める指導項目で(貨物自動車運送事業輸送安全規則第10条)、年に1回、必ず全ドライバーに指導を実施する必要があります。

また、指導内容は具体的に記録し、指導で使用した資料の写しとともに3年間保存することが必要です。法定12項目の内容は以下の通りです。

画像2

運転時の心構えからトラックの構造や荷物の積載方法、安全運転や健康管理まで、トラックドライバーとして身に付けておくべき項目が盛り込まれています。法定12項目の指導や指導記録の保持を怠ると、車両使用停止など行政処分の対象となる場合もあるので注意しましょう。

3 法定12項目をどのように指導すればいいのか

運送会社や協会などが行っている、法定12項目をはじめとした安全教育の事例を紹介します。

1)運送会社の取り組み事例

1.西濃運輸(岐阜県大垣市)

西濃運輸は、月ごとに重点を置く法定項目を決めて各エリアで指導を行っています。

本社から各エリアに重要な点をまとめた資料(国土交通省が公表している資料を基に作成)を送り、各店所の責任者(運行管理者・安全推進インストラクター)の下、討議またはミーティングで理解させる(初任ドライバーについては安全推進インスタラクターが解説を行う)という仕組みです。

さらに、初任ドライバーについては、Googleフォームを使った確認テストを解いてもらうことで、法定12項目の教育を受講していることを確認・管理します。他にも、安全推進インストラクター制度やセーフティーライセンス制度といった独自の資格を作り、資格取得を昇進条件にしています。

「ドライバーへの教育ができることを証明する安全推進インストラクター制度はドライバーの10分の1弱程度(697人/10897人中)、自分自身が安全運転をできることを証明するセーフティーライセンス制度はドライバーの10分の2弱程度(1542人/10897人中)程度が取得しています。これらの制度を作ったことでドライバーの安全運転への意識が向上し、全国トラックドライバーコンテストでは自社ドライバーが2連覇を達成しています」(西濃運輸)

2.西部運輸(広島県福山市)

西部運輸は、YouTube配信でドライバーへの法定12項目の指導を行っています。

法定12項目の解説や指導について視聴できるYouTube動画のQRコードが載ったアンケート用紙を配布し、ドライバーはQRコードから動画を見てアンケート用紙に感想を記載し提出する仕組みです。動画は、提携の保険会社が提供する「法定12項目を1項目ずつ解説する」計12本の動画を利用しています。

また、法定12項目とは別に自社でヒヤリハット映像などを用いた安全教育の動画も作成していて、これらの動画と法定12項目の動画を月ごとに分けて配信しています。

「YouTubeでの動画は好きな時に視聴できるためドライバーに好評です。また、気になる部分を何度も繰り返し視聴しているドライバーもいます。今年の安全教育は構内事故の削減を目標に動画を作成していて、2024年1月~4月の構内事故の件数は前年同月比で40%減少しています」(西部運輸)

3.ジャパンロジスティクスパートナーズ(神奈川県横浜市)

ジャパンロジスティクスパートナーズは、毎月実施する部署ごとの安全会議で1項目ずつ法定12項目の教育を行っています。

安全教育の支援などを行っている会社ディ・クリエイトより提供されるドラレコ映像を基に資料を作成し、各部署で講習を実施する仕組みです。また、前月の安全会議の内容を基に振り返りテストも実施していて、テストの順位を車庫に提示しています。

「振り返りテストを実施する仕組みを作ったことで、ドライバーがより前向きに安全会議に参加するようになりました。また、毎月の安全会議や振り返りテストの実施などの取り組みを続けた結果、事故件数は減少し、2021年度以降の年間事故件数(製品事故除く)は1桁を継続しています」(ジャパンロジスティクスパートナーズ)

同社は、他にも「法定速度を超過した際にデジタコが鳴った回数をドライバーへ周知することで、安全運転の意識向上を目指す」という取り組みも実施しています。この取り組みにより、3年間でスピード超過(デジタコが鳴った回数)が96%減少しました。

さらに、トレーナー養成講座を1年かけて受講したトレーナーが社内に複数人いるため、協力会社のドライバーなどに指導教育・講演も行っています。

2)協会の取り組み事例

トラック協会でも、会員運送会社が法定12項目の指導をスムーズに行えるように支援をしていますので紹介します。

1.全日本トラック協会(東京都新宿区)

全日本トラック協会は、会員事業者向けに「事業用トラックドライバー研修テキスト」を提供しています。また、経営者や管理者を対象にした「プラン2025目標達成セミナー~削減目標達成への取り組み」で事故防止をテーマにセミナーも行っています。

「トラック業界として安全は一丁目一番地です。安全な業界を作っていく上で、法定12項目は各運送事業者が最低限やらなくてはいけない項目となっています。ぜひ、全日本トラック協会が会員事業者様向けに提供している研修テキストやセミナーなども活用しながら事故削減に取り組んでいただきたいです」(全日本トラック協会)

2.神奈川県トラック協会(神奈川県横浜市)

神奈川県トラック協会は、会員事業者の運行管理者などを対象とした「安全教育リーダー養成講座」を開催していて、法定12項目の一部やドライバーへの添乗教育・安全教育の方法を学べます。また、初任ドライバーなどを対象に「初任運転者安全教育講習」も開催していて、自動車教習所において実車を用いて、法定12項目の一部に関する指導を受けることが可能です。

「コンプライアンス遵守という観点でも、法定12項目に基づいた指導は、各運送事業者が必ず実施しなくてはならないことです。神奈川県トラック協会では、ドライバーへの法定12項目に基づいた指導をサポートするための講習や講座を実施しているので、ぜひご利用ください」(神奈川県トラック協会)

3)運送会社の安全教育をサポートする会社による取り組み事例

法定12項目の指導をより効率的かつ効果的に行うために、運送会社の安全教育をサポートする民間のサービスもあります。例えば、VR動画で法定12項目に関して効果的な教育が行えるサービスを提供する「WacWac」もその1つです。運輸安全マネジメントに沿ってご活用ください。

WacWac(東京都練馬区)

WacWacは、VR動画を視聴することで安全教育を行い、さらに受講実績をシステムで自動的に管理できるサービス「らくらく監査システム」を提供する会社です。

VRゴーグルを着けてトラック事故を疑似体験することで、安全運転のポイントをリアルに学べます。また、視聴履歴は自動的に管理システムに転送されるため、教育履歴の管理を効率的に行うことができます。

「導入している企業様の車両台数は20~1500台までと幅広く、さまざまな企業で事故削減の実績があります。業務効率化も可能なので、法定12項目の指導サポートとして、ぜひらくらく監査システムをご利用ください」(WacWac)

らくらく監査システム(VRプラン)の利用料金は次の通りとなっています。

画像3

以上(2024年7月作成)

pj50540
画像:Nuad Contributor-Adobe Stock