1 展示会への出展、何から始めればいい?
新規営業先を獲得するには、日々の営業活動ももちろん大切ですが、
自社の商品・サービスを必要としている顧客が集まる「展示会」に出展する方法
もあります。ただ、これまで展示会に出展したことがない人は、「興味はあるけど、なんだか時間も手間も人手も必要で大変そう」「何をしたらいいか分からない」と思う人もいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、
展示会へ出展する際に、展示会の選定から開催後の挨拶・営業まで自社で行う準備として必要なモノ・コトやその手順を網羅的に説明し、「何をしたらいいか分からない不安」を解決
します。展示会に出展するに当たり、出展決定前から開催後にかけてやるべきことは次の通りです。次章以降で、それぞれの事項について詳しく解説していきます。

また、こちらから実際に展示会に出展する際に使える仕様書(マニュアル)と、シフト表のテンプレートをダウンロードできますので、お役立ていただけますと幸いです。
仕様書ダウンロード
シフト表ダウンロード
2 出展決定前
そもそもどのような展示会に出展するのか、ブース位置はどうするのかなどを検討します。
1)展示会の選定
まず、出展する展示会を選定しましょう。展示会の種類としては、
- ビジネスショー(例えば金融IT、介護産業など、テーマに沿って多くの企業が集まるB to B向けの展示会。主に新規の取引先を開拓するために開催される)
- パブリックショー(ビジネスショーと同じくテーマに沿って企業が集まるが、展示販売を主な目的とするB to C向けの展示会。商品・サービスの購入だけでなく、新製品情報の発表の場としても使われる)
- プライベートショー(単一企業が開催するクローズドなB to B向けの展示会。自社グループの商材アピールや新製品の発表などにも使われる)
- オンライン展示会(時間や場所にとらわれず自社の商品・サービスをアピールでき、リアル開催と比べると、比較的コストが低い)
などが挙げられます。出展する目的によって展示会の形態が違いますので、それぞれの特徴を確認した上で、どの展示会に出展するか検討するとよいでしょう。
2)ブース位置の選定
ブースの場所選びも重要です。会場や動線(会場における、来場者が移動するであろう経路)にもよりますが、
- 同じ分野(例えば管理部門、DXなど)の企業が集まっているところに出展すると、部門担当者が通りかかる可能性が高い
- 会場の奥側は人の流れが悪い
- MAPの近くは目的地が決まっている人が多く、声をかけても断られやすい
などのポイントがあります。例えば、次のような会場であった場合、☆印がついている位置に人通りが多くなります。

展示会によって事情は違ってくるので、展示会主催者側の意見も聞いた上で、ブースの場所を検討していきましょう。
3)セミナー出演の検討
展示会で自社の商品・サービスをPRしたい場合、自社のブースで説明するのとは別に、セミナー(講演)を開催するのもよいでしょう。多くの展示会では出展者が登壇するセミナーを企画しているので、そこに申し込みます。
セミナーは、自社の商品・サービスをより深く、細かく、新規顧客に伝えるチャンス
です。セミナーへの参加者は、自社の商品・サービスに何らかの関心があって、自ら話を聞きに来ている人たちです。セミナーの間は必ず話を聞いているので、内容次第ではさらに自社に関心を持ってもらえる可能性がありますし、参加者と名刺交換などをすれば、セミナー後に改めてアプローチをかけられます。なお、セミナーの規模にもよりますが、名刺交換はセミナー前の、参加者が着席したときがチャンスです。セミナーの後だと、参加者は(次のセミナーに参加するためなどで)急いで退場するので、名刺交換ができないことも多いです。
3 開催前準備(モノ関連)
ここからは、B to Bの新規顧客開拓などを目的に行われる「ビジネスショー」への出展を前提として、順を追って紹介していきます。
出展が決定したら、最初に準備するべきはノベルティーなどの製作物です。これらは、自社の商品・サービスを来場者に知ってもらう上で欠かせません。ただし、
会場によっては、ノベルティーの配布や装飾物のカスタマイズが禁止されているケース
があるので、実際に出展する際は、あらかじめ主催者側に確認を取るようにしてください。
1)ノベルティーの製作
ノベルティーとは、企業の名前やURLを入れて配布する贈呈用の品物のことです。
- 飲食物(菓子類やドリップバッグコーヒーなど)
- 事務用品(ボールペン、メモ帳、カレンダーなど)
- 日用品(タオル、カイロ、タンブラーなど)
などを配布するのが一般的です。
ノベルティーを作る際は、
宣伝効果が高まるよう、自社のロゴや商品・サービス名などが目立つデザインにする
ことがポイントです。パッと見たときの分かりやすさやインパクトが大切なので、必要に応じて、
- 自社サイトなどのQRコードを印刷する(印刷可能箇所が少ない場合)
- デザイナーにノベルティーのデザインを外注する
といった対応を検討しましょう。なお、飲食物ならパッケージや外箱、それ以外であればノベルティー本体にデザインを印刷するのが定石ですが、OPP袋(透明袋)にノベルティーと自社のチラシを一緒に封入し、配布することも可能です。
2)装飾物の製作
装飾物とは、ブースなどに設置するパネルやポスターのことです。準備する際は、
- 主催者側に発注する方法(デザイン入稿から先は設営から撤去まで主催者側で行う)
- 自社で用意する方法(デザイン入稿後外部業者に印刷を依頼し、その後は搬入から設営、撤去まで自社で行う)
があります。
それぞれのメリット・デメリットを次の図表にまとめましたので、より自社に合った方法を検討しましょう。

パネルは偶然通りかかった人にも自社の商品・サービスの内容が伝わるよう、文字は少なく、イラストや写真を使い、簡潔で分かりやすいデザインにすることを心がけましょう。
また、自社で設営などを行う場合、会場によっては発泡スチロールや可燃性の布など、特定の素材の使用が禁止されているケースもあります。パネルの素材や取り付け時に使う器具なども含めて、主催者側のマニュアルなどをよく確認して準備を進めましょう。
3)配布物の製作
配布物とは、自社の商品・サービスの概要が分かるチラシやパンフレットのことです。時間がない来場者の場合、資料やチラシを受け取ってそのまま帰ってしまうこともあるので、
人が説明しなくても、読むだけで自社商品・サービスの内容が理解できるもの
になるよう心がけましょう。
例えば、
- 文章だけで説明せず、イラストや写真などの「絵」で魅せる
- 「商品・サービスを実際に利用してどうだったか」「自社に対してどのような印象を持ったか」といった、“リアルな声”を資料に掲載する
などの方法が考えられます。
4)ブース内備品の準備
ブース内備品とは、来客への説明用に、自社サイトや商品・サービスの資料などを映すPCやディスプレーのことです。
会場によっては、「たこ足配線」が禁止されているケース
があるので、PCやディスプレーの搬入方法なども含め、主催者側のマニュアルなどをよく確認して当日必要なものをそろえていきます。
また、会場やブースの位置によってはインターネット回線がつながりづらいこともあるので、
ブースの位置が確定し次第、会場へ下見に行き、ネットの環境を確認した上でWi-Fiルーターなどの準備をする
ことをお勧めします。
説明用とは別にディスプレーを配置し、商品・サービスの概要が分かる動画を流しておくと、来場者の目に留まりやすくなります。ただ、
ブース外に聞こえるような大きい音声の再生は禁止されていることもある
ので、主催者側に確認の上、準備するとよいでしょう。
4 開催前準備(ヒト関連)
1)シフト作成
展示会の開催に合わせて社員のスケジュールを調整し、シフトを組みます。必要な人数はブースの広さにもよりますが、例えば、ブースの大きさが2m×2mの場合、
ブース内外に3人(ブース内:説明役の社員1人、ブース外:呼び込み役の社員2人)
がいる状況が望ましいでしょう。2m×2mのブースであれば、ブース内に入れるのは2人(来客1人+説明役の社員1人)が目安です。実際のブースの広さなどを考慮して、人数を調整することになります。
2)オペレーション作成
オペレーションとは、展示会の来場者やブースへの来客に対して、自社の人員がどのように対応するか、その手順や声かけ・説明のパターンなどを示したものです。
声かけとブース説明の一貫性を持たせるために、仕様書にオペレーションを記載して、当日参加する社員にシフトと共に事前に共有
しておくと、当日の運営がスムーズに進みます。
例えば、仕様書には以下のようなオペレーションとそれぞれの内容を記載します。

あくまで一例ですが、自社のことを全く知らない来客Bにはまず事業内容を理解してもらい、ニーズを引き出す必要があるので、上の図表のようにオペレーションが分かれます。
3)事前告知
展示会開催前の告知も集客には欠かせません。
- 自社サイトやSNSで告知する
- 電話やメールなどで周知する
など、既存の取引先や営業先に働きかけて、自社で完結させる告知の方法もありますが、展示会によっては、
事前に展示会の公式サイトに宣伝枠を取り、自社のブースの概要を掲載することも可能
ですので、費用感や効果を含めて主催者側に相談し、検討してみるのも1つの方法です。
4)設営
パネルなどの設営を主催者側に委託するとしても、展示に使うPCなどは、ほとんどの場合、自社での設営が必須です。例えば、東京で開催される展示会に、東北や関西などの企業が出展する場合、
設営日(おおよそ開催の1~2日前)には設営役の社員を前乗りさせ、PCのセッティングや装飾品のチェックなどを済ませておく
とよいでしょう。
5 当日・開催後
1)当日のブース運営
イベント当日の運営については、
事前に社員に共有したオペレーションを基本に、臨機応変に対応していく
ことが大切です。
特に通路での声かけや備品の位置などについては、ルール上禁止している展示会もありますが、来客や周囲のブースの状況などを見て対応を変えていくのがよいでしょう。
自社のことを知らない来場者に興味を持ってもらうのは難しいですが、時間がありそうな人には積極的に声かけしましょう。ブースまで呼んで詳しい説明ができると、営業のチャンスもさらに広がります。
声かけのポイントとしては、次のようなものがあります。
- どこに行くか迷っている素振りの来場者に集中して声をかける(行き先が決まっている人よりも話を聞いてもらいやすく、丁寧な説明ができる)
- 相手に断り文句を出させない(例えば、「◯◯に興味ありますか?」と声をかけるより、「次、どこを見るか決まっていますか?」と聞くほうが、相手は断りにくい)
- 相手と同じ方向を向き、進行方向を片足半分ほど塞ぐ(向き合うと敵対心を抱かれやすいので、同じ方向を向いて足止めする)
その他、「時間がない」と断られたときのために、例えば「3分で説明します」といった決まり文句(また、実際にその時間内に商品・サービスを紹介できるオペレーション)も用意しておくと、話を聞いてもらえる可能性が高くなるでしょう。
2)当日のセミナー運営
当日のセミナー運営について気を付けるべきポイントは、
参加者と名刺を交換する時間・人員を確保する
ことです。セミナー終了後はそのまま帰ってしまう参加者も多く、一斉に声をかけることは難しいため、来場した順に声をかけて名刺を交換する人員を用意しておくとよいでしょう。
また、忘れがちなのが登壇者の水分補給用の飲み物です。長時間しゃべ続ける場には必要ですが、セミナー会場の近くにコンビニエンスストアや自動販売機がない場合もあります。
あらかじめ、セミナー登壇者の水分補給が認められているか会場に確認を取った上で、人数分を購入しておくなど、準備を万全にしましょう。
3)撤去
展示会が終了したら、当然ながら、自社から持ち込んだものは自社で片付けます。基本的に、シフトに入っていた人材がそのまま撤去作業に当たるでしょうから、開催時間後も余裕を持ったスケジュールを確保しておきましょう。
撤去作業時は周りも慌ただしくて焦りがちですが、
パネルやポスターなどを剥がす際に壁を傷つけたり、汚したりしないようにする
など、丁寧な作業を心がけましょう。主催者側の備品を破損させると弁済を求められることもあります。
なお、展示会が2日にわたる場合などは、1日目はブースを撤去せず、備品などをそのまま置いておけることが多いです。ただし、盗難などのトラブルを防ぐため、
持ち込んだディスプレーを保護するためにシートや布を被せる、収納できるものは鍵付きの棚(レンタルできる場合もある)にしまう
などの対応が必要になります。
4)開催後の挨拶・営業
展示会で交換した名刺の管理や、再度の営業などをスムーズに進めるために、
事前に営業先管理用のExcelシートや、ブースやセミナーへの来場の感謝を伝えるメールの型などを作成しておく
ことをお勧めします。
例えば以下の例のように、名前や企業名などの基本的な情報だけでなく、下の図表の「連絡」欄のように個別のフラグを立てておくなど、あらかじめ営業のパターンを決めておくと管理がしやすくなります。

また、このリードの強弱の違いによって、メールの文面を数パターン用意しておくという方法も考えられます。例えば、
- メールα(挨拶/オンライン・訪問打診の頭出し/より詳しい自社商品・サービス説明資料をPDFで添付)
- メールβ(挨拶/ブースで配布した事業内容の資料をPDFで添付)
という具合です。
展示会は新規顧客獲得のための糸口をつかむために出展するもので、撤収作業が済めば終わる、というわけではありません。チャンスを実利にまでつなげられるよう、チーム一丸となって営業活動に取り組みましょう。
以上(2025年1月作成)
pj70129
画像:Mosy Studio-Adobe Stock
○○さんのアイデアを実現するご提案を持ってきました
年始から相手の心をつかんでスタートダッシュ!
新年は、「ご挨拶」ということで、普段はなかなか対面で会えない相手と話ができるチャンスです。文字通りの形式的な挨拶で終わらせず、新年の営業案件に育てていきましょう。競合他社も「ご挨拶」に来ているはずですから、差をつけられる会話にしたいものです。
そのために効果的なのが冒頭のフレーズです。このフレーズに含まれる大切なキーワードは、
ご提案
であり、伝えたいニュアンスは、
個別的、具体的
であることです。
1つ目の要所は「ご提案」ですが、精緻なものは必要なく、口頭でも構いません。大切なことは、こちらがこれまでの取引先との会話をきちんと把握していて、年末年始もいろいろと考えていたことが伝わればいいのです。例えば、
帰省したときの話です。私の友人が○○さんの仰っていた××の研究をする仕事についていまして、特別に聞けたのですが、ポイントは……
といった感じで十分であり、むしろ、情報の鮮度と特別感が重要なのです。「友人の件」は、「この年末に読んだ本」「見た記事」などに言い換えることもできます。ここで提供する情報が素晴らしいものであるに越したことはありません。しかし、残念ながらそうでなかったとしても、相手が嫌がることはなく、「年明け早々に有り難う!」ということになるはずです。
2つ目の要所は、「個別的」「具体的」な点です。「これまでお聞きした内容」(〇〇さんのアイデア)を踏まえたご提案なので、「使い回しの挨拶」でないことは明白です。そして、1つでも具体的なポイントを伝えるようにすれば、会話の流れでたまたまたどり着いた「思いつき」ではないことも伝わります。
いかがでしょう。新年のご挨拶では長居はできないため、込み入った話は難しいでしょう。ですから、競合他社も形式的な挨拶をし、相手もそれに応じるだけになりがちです。そうした中で、「ご提案、個別的、具体的」な話ができたら、相手の印象に強く残ることでしょう。
「これまでお聞きした内容」が無くても商談の場づくりはできる
「これまでお聞きした内容」について、記憶が曖昧な場合もあります。そうしたときは最初に「昨年、こんなことをおっしゃっておられましたよね?」という振り返りをするのも有効です。
また、残念ながら相手との関係が希薄で、「これまでお聞きした内容」が無い場合もあるでしょう。そのときは、次のように話をしてみるのも一策です。
年末に時間が取れたので、他社の事例も踏まえつつ、○○さんの会社で発生しているかもしれない課題とその解決策を、私なりに考えてみました。例えばこういう課題はありませんか?
相手が「あ〜、その課題は確かにあるね」であるとか、「確かにそれはあるかも。他社さんの事例ってどんな感じなの?」などと会話がはずみ、提案の糸口が見えてくるかもしれません。
年始の営業最強フレーズを使って相手のハートをつかみスタートダッシュを決めるには、年末(昨年)のうちから種まきしておくのが理想です。ただ、それができなかった場合でも、ここまで紹介してきた内容を心がければ巻き返せます。ぜひ、この2025年は初回訪問から具体的な商談づくりをしていきましょう!
以上(2025年1月作成)
pj70130
画像:ChatGPT
1 成長市場の宇宙ビジネスについて知る
2024年10月24日、宇宙輸送・衛星通信事業を手掛けるSpaceXは、同社が開発したロケット「Falcon9」の同年100回目となる打ち上げに成功しました。これは3日に1回、打ち上げを行っているというペースです。
宇宙技術に関する事業全般を「宇宙ビジネス」「宇宙産業」などと呼びますが、
世界の宇宙ビジネスの市場規模は、2022年時点で54兆円(ちなみに日本は約4兆円)、2040年には140兆円にまで成長すると予測されており、今まさに急速に成長している市場
です(経済産業省「国内外の宇宙産業の動向を踏まえた経済産業省の取組と今後について」)。
成長の理由はさまざまありますが、特に注目すべきは、
SpaceXに代表される民間企業のロケット打ち上げと、衛星データの利用ビジネス
です。通信速度やデータ精度が向上したことで、マーケティング、医療、農業など、活用できる分野の幅が広がっており、そこに民間企業が次々に参入してきているのです。
日本はロケット打ち上げに有利な立地なので今後の成長が期待されていますが、ロケット打ち上げ体制や衛星製造では、まだまだ研究・整備の段階にあります。しかし、新規事業者が参入するには、実績が重視される傾向にあることから、将来的な参入を視野に入れ、今のうちから業界について知っておくことが大切です。
この記事では、そんな宇宙ビジネスの現在地を
- 宇宙ビジネスの全体像
- 民間主導の宇宙ビジネスの動向
- 宇宙ビジネスの規制・制度(宇宙法)
という流れで探っていきます。
2 宇宙ビジネスの全体像
宇宙ビジネスについては、明確な定義があるわけではありませんが、経済産業省の資料では「民間衛星サービス」「衛星用地上機器」「衛星製造」「宇宙輸送」「政府の宇宙予算(宇宙科学・探査など)」の5つに分けて紹介されています。

近年は、衛星データの利用幅が増えたことや、打ち上げリスクが減ったこともあり、民間からの投資が増え、さまざまなベンチャー企業が登場しています。その数は、経済産業省によると、国内だけでも約100社あるとされます。
また、ロケット・衛星の打ち上げ数が増加したことで、発射場となるスペースポート(宇宙港)の不足やスペースデブリ(宇宙ゴミ)の増加など、新たな課題も生まれています。
図表1の5種類の宇宙ビジネスから、「政府の宇宙予算(宇宙科学・探査など)」を除外したもの(民間主導の宇宙ビジネス4種類)の商流を表したのが図表2です。

これらの中で、近年、特に盛り上がっているのが民間衛星サービスです。
民間衛星サービスは、大きく「通信・放送衛星サービス」「地球観測衛星サービス」「測位衛星サービス」「軌道上サービス」に分かれます。これらは衛星を活用して通信やデータ収集をしたり、衛星の活動を支援したりするビジネスで、近年は多くの民間企業が参入しています。
電子部品の小型化、汎用部品を多用した設計などによって、超小型の衛星を従来よりも早く、安価に打ち上げられるようになったから
です。
衛星を周回させる高度は、大きく、
- 静止軌道:高度3万6000キロメートル付近
- 中軌道:高度2000キロメートルから3万6000キロメートル
- 低軌道:高度200キロメートルから2000キロメートル
に分かれます。低軌道上の衛星は地表により近く、大容量データの高速通信や精密な観測に対応できますが、1機では地表の狭い範囲しかカバーできません。そのため、安価な小型衛星を大量に打ち上げて一体的に運用する「衛星コンステレーション」体制が主流になっています。
これに対し、日本の宇宙ビジネスは対応が遅れているのが現状です。このことについて、経済産業省の宇宙産業課にヒアリングしたところ、次の回答が得られました。
「日本の宇宙ビジネスは、民間企業が参入するようになってからまだ日が浅く、サプライチェーン体制や発射場(スペースポート)の整備が追い付いていません。これらが進みにくい原因に、宇宙利用・衛星製造・宇宙輸送の3分野が“三すくみ”になっていることが挙げられます。
この課題を解決するには、特定分野の成長を期待するのではなく、全体的な底上げを支援する必要があります。そのためにも、中小企業の皆様の参入が欠かせませんが、参入障壁の高さやリスクを感じ、参入をためらってしまう事業者様も多いと聞きます。
しかし、実際は想像よりも要求される品質が低くてもよいケースもあります。まずは、地方の各産業局が主催する宇宙航空産業などの企業マッチングイベントなどに参加し、ぜひ商談を進めてみていただきたいです」
次章からは、「民間衛星サービス → 衛星用地上機器 → 衛星製造 → 宇宙輸送」の順に、宇宙ビジネスの動向を紹介していきます。
3 (民間衛星サービス)通信・放送衛星サービスの動向
1)通信・放送衛星サービスとは
衛星通信とは、地上から衛星を介し、送信先へデータを送る通信方式のことです。
主に、衛星テレビや衛星ラジオなどで利用されるほか、高速通信に対応した衛星ブロードバンドの登場によって、インターネットや携帯電話でも利用され始めています。
移動する船舶や車両、通信回線を引けない山間地、インフラが破壊された被災地などとも通信できることから、近年、注目を集めている分野でもあります。
2)通信・放送衛星サービスの課題
通信・放送衛星サービスの課題は、
サービスが一部の事業者に依存してしまう状況にあること
です。2020年以降、SpaceXとOneWeb(英国)の衛星打ち上げ数が急激に増加しており、特にSpaceXは2023年6月時点で累計4500機超の通信衛星を打ち上げています。なお、内閣府の調査によると、日本の商業衛星の打ち上げ計画数は、2023年から10年間で合計280機以上です。
経済産業省の宇宙産業課へのヒアリングでは、次の回答が得られました。
「衛星間通信技術による地球観測衛星(第4章)の支援体制を確立することが、通信衛星サービス分野における課題です。
この課題を解決するには、衛星コンステレーション体制(第2章)を構築するとともに、光通信による衛星間通信技術を向上させる必要があります。大量の衛星を打ち上げるためのサプライチェーンや技術・設備などが求められます。これが実現すると、観測衛星データのリアルタイム性が向上してデータの利用シーンが増え、市場が活性化するでしょう」
4 (民間衛星サービス)地球観測衛星サービスの動向
1)地球観測衛星サービスとは
地球観測とは、衛星に搭載されたリモートセンシングセンサーを利用して、地上について調べることです。センサーは、大きく
- 光学センサー:視覚的に分かりやすい
- マイクロ波センサー:夜間、悪天候に影響されにくい
の2つに分かれます。
主に、気象観測・都市開発・農業・エネルギーの分野で利用されており、センサーやデータ解析AIの発達によって、土地の肥沃度や石油残量の調査、都市部の夜間の明るさに基づくGDP予測、洪水の被害規模予測など、幅広い分野で活用され始めています。
近年は、小型衛星コンステレーションによる衛星間通信リレーの進展によって、観測から利用までのリードタイムが大幅に短縮され、よりリアルタイムなデータ利用ができるようになり、さらに幅広い分野での活用が見込まれています。
2)地球観測衛星サービスの課題
地球観測衛星サービスの課題には、次のようなものがあります。
- 民需が不足しており、官需もなかなか拡大できていない
- データが高額で、まだ提供速度や量が不足している
- 観測データを利用する事業の開発研究が進んでいない
経済産業省の宇宙産業課へのヒアリングでは、次の回答が得られました。
「防災や農業などの分野で成果が出始めていますが、利用量も活用シーンもまだまだ少ないのが現状です。例えば、北海道の農場の観測サービスに留まらず、全国や海外へサービスが広がることなどを期待しています。また、複数のデータを複合的に利用するサービスが生まれることで、利用量が増えることにも期待しています」
5 (民間衛星サービス)測位衛星サービスの動向
1)測位衛星サービスとは
衛星測位システム(GNSS、正式名称「Global Navigation Satellite System(全球測位衛星システム)」)は、衛星から電波を受信することで位置測定や航法(移動ルートを導く方法)、時刻配信をするシステムです。有名なものは米国のGPSですが、日本を含む各地域でも独自のシステムが管理・運用されています。
各地域で運用・管理されている衛星測位システムの名称と機数は次の通りです。
- 米国:GPS(31機)
- ロシア:GLONASS(26機)
- EU:Galileo(28機)
- 中国:北斗(45機)
- 日本:準天頂衛星システム QZSS(4機)
主に、カーナビやスマートフォンの地図アプリ、フィットネス機器、測量などで活用されており、精度が高まることで、自動車・農業トラクター・船舶などの自動運転、3D地図の作成、ドローン管制によるインフラのメンテナンスなどの分野でも活用が見込まれています。
2)測位衛星サービスの課題
前述の通り、日本の測位衛星機数は世界各地に比べて少ない状況にあります、内閣府によると、日本は現在、7機体制の構築に向けた整備を行っており、さらに、11機体制にむけた検討・開発にも着手している段階です。
この計画を実現していく上で、測位衛星サービスの課題には、次のようなものがあります。
- 高品質な測位サービスの安定的供給のためのリスク対応(抗たん性)・精度の向上
- 持続的なサービスに向けた、開発・運用におけるコストの縮小
内閣府 宇宙開発戦略推進事務局へのヒアリングでは、次の回答が得られました。
「今後の測位衛星の打ち上げは、測位情報の高精度化と安定的な提供を目的としたもので、搭載機器の機能を向上させるとともに、衛星に不具合が発生したときのバックアップとしての役割を遂行する能力が求められます。また、測位情報を持続的に提供するため、小型化による2機同時打ち上げなどのコストダウン策も検討されているところです」
6 (民間衛星サービス)軌道上サービスの動向
1)軌道上サービスとは
軌道上サービスは、衛星や宇宙ステーションに対して、宇宙空間で提供されるサービスの総称です。サービス内容には、次のようなものがあります。
- スペースデブリ(宇宙ゴミ)の観測・監視・除去・削減
- 衛星の燃料補給・修理・交換・寿命延長
- 軌道上での製造・組み立て
近年、注目を浴びているのが、スペースデブリの除去ビジネスです。
スペースデブリとは、故障や寿命で不要になったロケット・衛星の残骸などのことで、主に、残っていた燃料の爆発や、スペースデブリ同士の衝突によって発生します。ESA(欧州宇宙機関、European Space Agency)によると、その数は2024年9月時点で次のようになっています。
- 10センチメートル以上:約4万個
- 1センチメートル以上10センチメートル未満:約110万個
- 1ミリメートル以上1センチメートル未満:約1億3000万個
スペースデブリは秒速7~8キロメートルで移動しているとされ、微小なものでも衝突すれば、衛星や宇宙ステーションが大きく破損しかねません。実際、過去には衝突事故が何度も起こっており、衛星が大破してしまったケースもあります。ロケット・衛星の打ち上げ数が増える今、スペースデブリの除去は需要が急速に高まっているのです。
スペースデブリの除去は、対象となる物体に近づき、動きを推定しながら捕獲し、軌道を変えて大気圏に突入させて、スペースデブリを燃やし尽くす技術です。まだ実証・実験段階ではあるものの、日本のベンチャー企業のアストロスケールホールディングス(東京都墨田区)が欧米企業に先行しています。
2)軌道上サービスの課題
軌道上サービスの課題には、次のようなものがあります。
- 多くの企業が技術開発・研究段階か、契約締結(未実装)段階にある
- 分野自体が新しく、国際的なルールや目標が未整備
経済産業省の宇宙産業課へのヒアリングでは、次の回答が得られました。
「軌道上サービスは、比較的新しいサービスです。すでに国内の有力な企業が登場していますが、分野自体が発展途上であり、ルール作りの段階にあると考えています。例えば、スペースデブリの除去目標や、衛星が寿命を迎えるまでに除去すべきスペースデブリ数などがそうです。これらが決まってこそ、求められる技術や必要な投資額が決まってきます」
7 衛星用地上機器の動向
1)衛星用地上機器とは
衛星用地上機器とは、パラボラアンテナや衛星対応のテレビ・ラジオなどの製造分野です。
中でも、衛星測位システムに利用されるGNSSチップセットとナビゲーション・デバイスの製造が、市場規模が最も大きい分野となっています。
近年の衛星測位システムは、衛星だけでなく、利用者のものとは別の受信機も利用することで、位置情報の誤差を数メートル単位から数センチメートル単位まで縮小させることに成功しました。これにより、自動車・農業トラクター・船舶などの自動運転、3D地図の作成、ドローン管制によるインフラのメンテナンスなどの分野でも活用が見込まれています。
2)衛星用地上機器の課題
この分野の中で最も市場規模が大きいGNSSチップセットとナビゲーション・デバイスには、次のような課題があります。
- アンテナの故障やケーブルの断線、大規模な太陽フレア発生などによる受信中断
- 意図的にGNSS信号を妨害するジャミングへの対策
- 偽物の信号を放送することによる悪意あるなりすまし(スプーフィング)への対策
経済産業省の宇宙産業課へのヒアリングでは、次の回答が得られました。
「宇宙ビジネスの中では比較的昔からあり、すでに産業として確立している分野です。現在は安定性を求めるための改善や物理的な障害を起こさない対策などが課題となっています」
8 衛星製造の動向
1)衛星製造とは
衛星製造とは、その名の通り、衛星の開発・製造を担う分野です。
内閣府「宇宙輸送を取り巻く環境認識と将来像」によると、世界の衛星の年間打ち上げ数は10年間(2013年~2022年)で206機から2368機に急増しています。これは、衛星の小型化により低価格化したことに加え、ロケット1機に積載できる数が増えたためです。
衛星の部品やコンポーネントは、精度や消費電力、出力において高品質であることに加え、宇宙空間の過酷な環境(真空や放射線など)に耐えるため、軽量かつ高耐久でなければなりません。そのため、専用に開発された特殊なものが大半でした。しかし、近年の衛星開発では、コストダウンを目的とし、一般的な市販品を利用するケースもあります。

2)衛星製造の課題
衛星製造の課題には、次のようなものがあります。
- コアとなる部品・コンポーネントの一部は海外依存度が高い
- 国際競争力のある国産の部品・コンポーネントが少ない
- 自動車用部品など、安価で性能の良い一般的な市販品が使いこなせていない
経済産業省の宇宙産業課へのヒアリングでは、次の回答が得られました。
「日本の衛星製造は、サプライチェーンが脆弱であることが課題です。これは、『宇宙用製品の製造経験が少ないこと』『コストダウンのための量産体制を構築できていないこと』が原因と考えられます。これを解消するには、衛星データの利用ビジネスが拡大しなければなりませんが、そのためには高性能かつ低価格な衛星を打ち上げることが欠かせません。どこかの分野が大きく成長することを期待するのではなく、全体的な支援が必要になると考えています」
9 宇宙輸送の動向
1)宇宙輸送とは
宇宙輸送とは、ロケットの製造・打ち上げサービスの総称です。
世界のロケットの打ち上げ数は、順調に伸びていますが、成長の大部分を占めているのがSpaceX(米国)です。同社はロケットの低価格化で圧倒的な競争力を実現し、“一強”状態にあります。加えて、さらなる低価格化、ひいては競争力向上に向けた開発を進めており、2024年10月にはロケットブースターを再利用するべく、発射台での回収に成功しました。
また、中国も着実に打ち上げ数を増やしており、2018年以降、存在感を増しています。
一方、日本は、ロケットの性能面において世界各国に劣ってはいないものの、製造や発射場が制約となり、打ち上げ数は伸びていません。これに対し、政府は2030年前半までに年30機の打ち上げを目指すとしています。

なお、日本の稼働中のスペースポートは次の4港です。
- 鹿児島県熊毛郡南種子町「種子島宇宙センター」:JAXAが運営
- 鹿児島県肝属郡肝付町「内之浦宇宙空間観測所」:JAXAが運営
- 北海道広尾郡大樹町「北海道スペースポート(HOSPO)」
- 和歌山県東牟婁郡串本町「スペースポート紀伊」
さらに、大分県国東市「大分空港」と沖縄県宮古島市「下地島空港」が宇宙港としての開港に向けて整備を進めています。
2)宇宙輸送の課題
宇宙輸送の課題には、次のようなものがあります。
- 国内のスペースポートの整備
- ロケット製造のサプライチェーンの強化
- ロケットや打ち上げサービスの安定的な販売先の確保
- 再使用往還飛行や有人飛行の技術研究
- 安全基準や許認可の仕組み、国際間ルールの整備
経済産業省の宇宙産業課へのヒアリングでは、次の回答が得られました。
「課題の内容は衛星製造(第8章)とおおむね同じですが、それに加えて、SpaceXを中心とする海外企業に国内の打ち上げ需要が取り込まれていることが大きな課題です。この課題を解決するため、日米欧の宇宙機関や企業が新型ロケット開発に取り組んでいます。当該企業からは『特定分野での技術を持った企業が不足している』などの声が聞こえてくるので、中小企業の皆様はぜひマッチングイベントや商談会に参加していただきたいです」
10 宇宙ビジネスの規制・制度(宇宙法)
宇宙法とは、宇宙活動に関連する法律の総称です。これには「宇宙基本法」「衛星リモセン法」「宇宙活動法」「宇宙資源法」があります。
1)宇宙基本法
日本における宇宙開発・利用に関する基本理念や基本的施策などを定めた法律で、2008年8月に施行されました。この法律に基づいて、以降の法律が制定されています。
2)衛星リモセン法
正式名称は「衛星リモートセンシング記録の適正な取扱いの確保に関する法律」で、2017年11月に施行されました。宇宙からの観測情報がテロリストなどに渡れば、安全保障上の脅威となることから、同法では次のことについて定められています。
- 衛星リモセン装置の使用についての許可制度(内閣総理大臣の許可)
- 衛星リモセン記録保有者の義務(特定の記録取り扱い方法の規制)
- 衛星リモセン記録を取り扱う者の認定制度(内閣総理大臣の認定)
3)宇宙活動法
正式名称は「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律」で、2018年11月に施行されました。同法では次のことについて定められています。
- 衛星の打ち上げについての許可制度(内閣総理大臣の許可)
- 衛星の管理についての許可制度(打ち上げ段階と打ち上げ後の許可)
- 第三者損害賠償制度(無過失での損害賠償責任)
4)宇宙資源法
正式名称は「宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動の促進に関する法律」で、2021年12月に施行されました。同法では次のことについて定められています。
- 宇宙資源ビジネスを行うための許可要件
- 宇宙資源の所有権を取得する方法
なお、国際条約の「月その他の天体における国家活動を律する協定(通称「月協定」)」(1984年発効)では、領有の禁止が定められていますが、日本やアメリカ、中国、ロシアは同条約に批准していません。
以上(2025年1月作成)
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