せっかく賃上げしたのに社員から不満が……? 社労士が教える「トラブルになるかもしれない賃上げ4選」

1 最低賃金は「1500円」時代へ……?

2024年10月、全国の最低賃金(地域別最低賃金)が、全国加重平均で過去最高の1055円になりました。さらに、石破新内閣が「5年以内に最低賃金1500円」という目標を打ち出すなど、賃上げに向けた動きが加速しています。長期的な人手不足にこうした政府の動きも加わり、多くの会社が人材確保のために賃金のアップを検討していることでしょう。

ですが、ご用心。せっかくの賃上げも、方法を間違えると思わぬトラブルを招くことがあります。この記事では、社労士の視点から要注意な賃上げの例を4つ紹介します。

2 【ケース1】手当で賃上げをしたら、最低賃金を下回った……

1)ケーススタディー

東京都のある会社は、基本給こそ控えめですが、様々な手当によって賃上げを図っています。若手社員のAさんも平均27万円をキープしており、「同業他社と比べても遜色ない水準だ」と会社の社長は思っていました。

ところがある日、労働基準監督署から、1通の通知が届きました。

「え? Aさんが最低賃金を下回っている? それは何かの間違いでは?」

と、社長は驚きを隠せません。なぜ、Aさんは最低賃金を下回ってしまったのでしょうか?

2)何が問題だったのか?

日給制や月給制の社員の賃金を最低賃金と比較する場合、対象者の賃金を時給に換算する必要があります。ですが、時給に換算する際の計算方法は法令で次のように決まっていて、計算式を間違えると、最低賃金を下回ってしまうことがあります。

  1. 時給制の場合:時給≧最低賃金額(時間額)
  2. 日給制の場合:日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
  3. 月給制の場合:月給÷1カ月の平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)

また、最低賃金の計算に含まれるのは、「毎月支払われる基本給と諸手当(職務手当、役職手当、住宅手当など)」だけで、時間外勤務手当(残業代)や賞与、通勤手当、家族手当などは対象外です。このあたりもトラブルになりやすい点です。

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例えば、ケーススタディーのAさんについて、月給(27万円)の内訳が次の金額だとします。

【月給(27万円)の内訳】

  • 基本給:18万円
  • 職務手当:1万円
  • 時間外勤務手当:5万円
  • 休日出勤手当:2万円
  • 通勤手当:5000円
  • 家族手当:5000円

2024年10月から、東京都の最低賃金(地域別最低賃金)は1163円になっています。Aさんの月給を時給に換算した額が1163円を下回らなければOKですが、実態はどうでしょうか?

まずはAさんの月給(27万円)から、最低賃金の計算に含まれない時間外勤務手当(5万円)、休日出勤手当(2万円)、通勤手当(5000円)、家族手当(5000円)を除きます。

27万円-(5万円+2万円+5000円+5000円)=19万円

そして、この19万円を、Aさんの「1日の所定労働時間」「年間所定労働日数」を基準に、時給に換算します。1日の所定労働時間を8時間、年間所定労働日数を250日と仮定し、時給に換算してから東京都の最低賃金(1163円)と比較してみましょう。

(19万円×12カ月)÷(250日×8時間)=1140円<1163円

Aさんの月給の時給換算額は1140円で、東京都の最低賃金を下回ってしまいました。このように、月給が多くても、法令にのっとって時給換算すると最低賃金を下回ってしまうことがあるのです。これは違法な状態ですから、すぐに改善しなければなりません。

3)どうすれば改善できる?

最近は、基本給を引き上げる代わりに、手当を充実させる会社が少なくありません。基本給は引き上げると簡単に下げられないのに対し、手当は「就業規則等で定める要件を満たす場合のみ支給する(要件を満たさなくなれば支給が止まる)」ため、融通が利きやすいからです。

ですが、最低賃金の計算ルールを正しく理解していないと、ケーススタディーのように落とし穴にハマります。まずは法令にのっとって全社員の賃金を時給換算し、現状を把握するところから始めてみましょう。

また、近年は最低賃金の引き上げ幅が大きいため、気付かないうちに、社員の賃金が最低賃金を下回ってしまうことも想定されます。今どきは、社員の賃金が最低賃金以上かを自動チェックできる機能が付いた給与計算システムもあるので、導入を検討するのもよいでしょう。

3 【ケース2】手当を廃止して基本給に回したら残業代が……

1)ケーススタディー

ある会社の社長は、賃金制度の見直しを考えています。「これまで家族手当を社員に支給してきたけど、最近は独身者が増えてきて、あまり意味をなしていないな。他にも必要なさそうな手当がチラホラ……。よし、こういう手当は廃止して、その分基本給を引き上げよう!」

社長の提案は受け入れられ、「複数の手当の廃止」と「基本給の引き上げ」が同時に行われました。賃金制度はシンプルで分かりやすくなり、社長は上機嫌でしたが、数カ月後、人事部から提出された賃金の支給明細を見てがくぜんとします。

「手当を廃止して基本給に回してから、残業代がすごく増えている……なぜだ?」

社員の労働状況も確認しましたが、特に残業時間が増えたわけではないようです。手当を廃止した分の額が基本給に置き換わっただけですから、賃金全体の額も変わっていません。それなのに、なぜ残業代が増えてしまったのでしょうか?

2)何が問題だったのか?

ケース1とは逆に、手当を廃止して基本給を引き上げるパターンです。生活関連の手当(家族手当や住宅手当など、生活を補助するための手当)を見直して、基本給や職務関連の手当(役職、資格、業績などに応じて支給する手当)に組み入れる会社は珍しくありませんが、残業代のルールを理解していないと、ケーススタディーのような思わぬコストアップに直面します。

残業代、つまり時間外労働や休日労働の割増賃金を計算する場合、「基準外賃金」といって、割増賃金の計算基礎に含めなくてよい賃金があります。具体的には、次の7つの手当がそうです。

  1. 家族手当(扶養家族の人数に応じて支給されるものに限る)
  2. 通勤手当(通勤距離や通勤費用に応じて支給されるものに限る)
  3. 住宅手当(住宅に要する費用に応じて支給されるものに限る)
  4. 別居手当
  5. 子女教育手当
  6. 臨時に支払われた賃金
  7. 1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金

こうした手当を廃止して基本給に組み入れてしまうと、その分、割増賃金の計算基礎となる金額が上昇します。つまり、残業時間が変わらなくても単価が上がるので、残業代は増えてしまうということです。

なお、この他に、基本給をベースに賞与や退職金の額を計算(基本給×支給率〇%など)している場合なども、基本給の引き上げによって、会社の意図しないコストアップが起こり得ます。

3)どうすれば改善できる?

賃金体系の見直しを行う際は、基本給の引き上げによる影響を事前に試算することが大切です。残業代、賞与、退職金、他にも社会保険料など、影響を受ける項目を1つ1つ確認し、必要に応じて財務アドバイザーなどとも連携して、資金繰りをしていきましょう。

基本給の引き上げ幅にも注意が必要です。例えば、「3年かけて徐々に基本給を引き上げていく」「対象者を複数のカテゴリーに分けて、カテゴリーごとに賃上げの実施時期を決める」など、会社の負担が一時期に集中しないように、段階的な賃上げを行うことが大切です。

4 【ケース3】一部の社員だけ賃上げしたら職場に“溝”が……

1)ケーススタディー

東京都のとあるスーパーの休憩室。パートのBさんは、店長がこんなことを言っているのを耳にしました。

「東京都の最低賃金が1163円に上がったから、新人のCさんの時給を1150円から1200円に引き上げよう」

Bさんはとても不満です。彼女はCさんの教育係であり、スーパーで長く働いてきたベテラン。それなのに、Bさんの時給は「Cさんと同じ1200円」です。しかも「最低賃金を上回っているから」という理由で、今回Bさんは賃上げの対象にならず、時給は据え置きになりました。

「教育係である私が、Cさんと同じ時給だなんて……」

と、Bさんは鬱屈した毎日を過ごしています。

不満があるのはBさんだけではありません。他のパートも休憩室で、

「経験なんて関係ないってこと?」「これじゃ、やる気が出ないわ」

と言い合っています。活気のあった職場の雰囲気が、徐々に不穏なものに変わっていきました。最低賃金を考慮して行われたCさんの賃金設定が、思わぬ波紋を広げていたのです。

2)何が問題だったのか?

全社員の賃金を一律で引き上げることは、会社にとって少なくない負担です。そのため、なかには最低賃金をクリアすることだけを目的に、一部の社員だけを賃上げの対象とする会社もあります。

賃上げの対象者を限定すること自体は違法ではありませんが、当然こうした対応は、他の社員のモチベーションや職場の人間関係に影響を与えます。賃上げをする際は、単に法的な要件を満たすだけでなく、社員全体のバランスや公平性にも目を向けなければなりません。

3)どうすれば改善できる?

改善策としてまず挙げられるのは、勤続年数などに対応した「賃金テーブル(賃金表)」を整備することです。前述した通り、近年は最低賃金の大幅な引き上げが続いているので、この点を考慮するなら、例えば、

  • 勤続5年以上:最低賃金+50円
  • 勤続10年以上:最低賃金+100円
  • 勤続15年以上:最低賃金+150円

といった加給方式にするとよいでしょう。

仕事の内容や責任に応じて、別途手当を支給するのもよいでしょう。例えば、新人の教育係やシフトリーダーなどの役割を持つパートには、その役割に応じて「役割手当」などの追加の手当を支給すると、不公平感が薄まります。経験や技能に応じて支給する手当を導入するのもよいでしょう。

5 【ケース4】全社的な賃上げで一部の社員から不満が……

1)ケーススタディー

営業部のエースDさんは、次の昇給を楽しみにしています。今期の目標を大きく上回る売り上げを達成することができたからです。一方、同じ部署内にはDさんの同期Eさんがいますが、彼のほうは営業成績を伸ばせずにいます。

そんな中、社長が朝礼でこんな発表をしました。

「今回の昇給は、物価上昇に対応するために全員一律で1万円の賃上げをします!」

ほぼ全員が喜んでいましたが、Dさんは曇った表情をしていました。数日間元気のないDさんに、仲の良い先輩が「どうしたの?」と聞くと、彼はこんな不満を口にします。

「僕は後輩の指導をしながら、営業成績も伸ばしています。そんな僕と、いつも遅刻して、ろくに仕事もしないEさんが、同じ1万円アップなのはおかしくないですか?」

Dさんは「どうせ頑張っても評価されない」と感じ始め、少しずつモチベーションが低下。転職も考えるようになってしまいました……。

2)何が問題だったのか?

ケース3とは逆に、全社的な賃上げを行った結果、トラブルになるというパターンです。物価上昇が続く昨今、こうした賃上げを検討する会社も多いですが、勤務年数や能力差に関係なく一律で金額を引き上げると、ケーススタディーのように「どうせ同じ額しか上がらないのなら、頑張っても意味がない」と感じる社員が出てくることもあります。

特に、高いパフォーマンスを発揮している社員ほど、こうした賃上げを不公平だと感じやすいので、会社への貢献度が高い社員の転職を防ぐためにも対策は必須です。

3)どうすれば改善できる?

対策として考えられるのは、賃上げを「物価上昇に対応するための賃上げ」「個人の成果や能力を反映するための賃上げ」の2段階に分けて実施することです。

物価上昇に対応するための賃上げについては、金額を一律にして実施します。その後で、個人の成果や能力に応じた加算を行います。この加算はボーナスで対応してもよいでしょう。いずれにせよ、個人の成果や能力に応じて追加の賃上げを行うことで、努力した分が報われるという意識を社員に持たせることが大切です。

以上(2025年1月作成)

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画像:ChatGPT

効率的な営業ができる「展示会」 〜初めてでも失敗しない「展示会マニュアル」サンプル付き

1 展示会への出展、何から始めればいい?

新規営業先を獲得するには、日々の営業活動ももちろん大切ですが、

自社の商品・サービスを必要としている顧客が集まる「展示会」に出展する方法

もあります。ただ、これまで展示会に出展したことがない人は、「興味はあるけど、なんだか時間も手間も人手も必要で大変そう」「何をしたらいいか分からない」と思う人もいるのではないでしょうか。

そこでこの記事では、

展示会へ出展する際に、展示会の選定から開催後の挨拶・営業まで自社で行う準備として必要なモノ・コトやその手順を網羅的に説明し、「何をしたらいいか分からない不安」を解決

します。展示会に出展するに当たり、出展決定前から開催後にかけてやるべきことは次の通りです。次章以降で、それぞれの事項について詳しく解説していきます。

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また、こちらから実際に展示会に出展する際に使える仕様書(マニュアル)と、シフト表のテンプレートをダウンロードできますので、お役立ていただけますと幸いです。

仕様書ダウンロード

シフト表ダウンロード

2 出展決定前

そもそもどのような展示会に出展するのか、ブース位置はどうするのかなどを検討します。

1)展示会の選定

まず、出展する展示会を選定しましょう。展示会の種類としては、

などが挙げられます。出展する目的によって展示会の形態が違いますので、それぞれの特徴を確認した上で、どの展示会に出展するか検討するとよいでしょう。

2)ブース位置の選定

ブースの場所選びも重要です。会場や動線(会場における、来場者が移動するであろう経路)にもよりますが、

などのポイントがあります。例えば、次のような会場であった場合、☆印がついている位置に人通りが多くなります。

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展示会によって事情は違ってくるので、展示会主催者側の意見も聞いた上で、ブースの場所を検討していきましょう。

3)セミナー出演の検討

展示会で自社の商品・サービスをPRしたい場合、自社のブースで説明するのとは別に、セミナー(講演)を開催するのもよいでしょう。多くの展示会では出展者が登壇するセミナーを企画しているので、そこに申し込みます。

セミナーは、自社の商品・サービスをより深く、細かく、新規顧客に伝えるチャンス

です。セミナーへの参加者は、自社の商品・サービスに何らかの関心があって、自ら話を聞きに来ている人たちです。セミナーの間は必ず話を聞いているので、内容次第ではさらに自社に関心を持ってもらえる可能性がありますし、参加者と名刺交換などをすれば、セミナー後に改めてアプローチをかけられます。なお、セミナーの規模にもよりますが、名刺交換はセミナー前の、参加者が着席したときがチャンスです。セミナーの後だと、参加者は(次のセミナーに参加するためなどで)急いで退場するので、名刺交換ができないことも多いです。

3 開催前準備(モノ関連)

ここからは、B to Bの新規顧客開拓などを目的に行われる「ビジネスショー」への出展を前提として、順を追って紹介していきます。

出展が決定したら、最初に準備するべきはノベルティーなどの製作物です。これらは、自社の商品・サービスを来場者に知ってもらう上で欠かせません。ただし、

会場によっては、ノベルティーの配布や装飾物のカスタマイズが禁止されているケース

があるので、実際に出展する際は、あらかじめ主催者側に確認を取るようにしてください。

1)ノベルティーの製作

ノベルティーとは、企業の名前やURLを入れて配布する贈呈用の品物のことです。

などを配布するのが一般的です。

ノベルティーを作る際は、

宣伝効果が高まるよう、自社のロゴや商品・サービス名などが目立つデザインにする

ことがポイントです。パッと見たときの分かりやすさやインパクトが大切なので、必要に応じて、

といった対応を検討しましょう。なお、飲食物ならパッケージや外箱、それ以外であればノベルティー本体にデザインを印刷するのが定石ですが、OPP袋(透明袋)にノベルティーと自社のチラシを一緒に封入し、配布することも可能です。

2)装飾物の製作

装飾物とは、ブースなどに設置するパネルやポスターのことです。準備する際は、

  1. 主催者側に発注する方法(デザイン入稿から先は設営から撤去まで主催者側で行う)
  2. 自社で用意する方法(デザイン入稿後外部業者に印刷を依頼し、その後は搬入から設営、撤去まで自社で行う)

があります。

それぞれのメリット・デメリットを次の図表にまとめましたので、より自社に合った方法を検討しましょう。

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パネルは偶然通りかかった人にも自社の商品・サービスの内容が伝わるよう、文字は少なく、イラストや写真を使い、簡潔で分かりやすいデザインにすることを心がけましょう。

また、自社で設営などを行う場合、会場によっては発泡スチロールや可燃性の布など、特定の素材の使用が禁止されているケースもあります。パネルの素材や取り付け時に使う器具なども含めて、主催者側のマニュアルなどをよく確認して準備を進めましょう。

3)配布物の製作

配布物とは、自社の商品・サービスの概要が分かるチラシやパンフレットのことです。時間がない来場者の場合、資料やチラシを受け取ってそのまま帰ってしまうこともあるので、

人が説明しなくても、読むだけで自社商品・サービスの内容が理解できるもの

になるよう心がけましょう。

例えば、

などの方法が考えられます。

4)ブース内備品の準備

ブース内備品とは、来客への説明用に、自社サイトや商品・サービスの資料などを映すPCやディスプレーのことです。

会場によっては、「たこ足配線」が禁止されているケース

があるので、PCやディスプレーの搬入方法なども含め、主催者側のマニュアルなどをよく確認して当日必要なものをそろえていきます。

また、会場やブースの位置によってはインターネット回線がつながりづらいこともあるので、

ブースの位置が確定し次第、会場へ下見に行き、ネットの環境を確認した上でWi-Fiルーターなどの準備をする

ことをお勧めします。

説明用とは別にディスプレーを配置し、商品・サービスの概要が分かる動画を流しておくと、来場者の目に留まりやすくなります。ただ、

ブース外に聞こえるような大きい音声の再生は禁止されていることもある

ので、主催者側に確認の上、準備するとよいでしょう。

4 開催前準備(ヒト関連)

1)シフト作成

展示会の開催に合わせて社員のスケジュールを調整し、シフトを組みます。必要な人数はブースの広さにもよりますが、例えば、ブースの大きさが2m×2mの場合、

ブース内外に3人(ブース内:説明役の社員1人、ブース外:呼び込み役の社員2人)

がいる状況が望ましいでしょう。2m×2mのブースであれば、ブース内に入れるのは2人(来客1人+説明役の社員1人)が目安です。実際のブースの広さなどを考慮して、人数を調整することになります。

2)オペレーション作成

オペレーションとは、展示会の来場者やブースへの来客に対して、自社の人員がどのように対応するか、その手順や声かけ・説明のパターンなどを示したものです。

声かけとブース説明の一貫性を持たせるために、仕様書にオペレーションを記載して、当日参加する社員にシフトと共に事前に共有

しておくと、当日の運営がスムーズに進みます。

例えば、仕様書には以下のようなオペレーションとそれぞれの内容を記載します。

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あくまで一例ですが、自社のことを全く知らない来客Bにはまず事業内容を理解してもらい、ニーズを引き出す必要があるので、上の図表のようにオペレーションが分かれます。

3)事前告知

展示会開催前の告知も集客には欠かせません。

など、既存の取引先や営業先に働きかけて、自社で完結させる告知の方法もありますが、展示会によっては、

事前に展示会の公式サイトに宣伝枠を取り、自社のブースの概要を掲載することも可能

ですので、費用感や効果を含めて主催者側に相談し、検討してみるのも1つの方法です。

4)設営

パネルなどの設営を主催者側に委託するとしても、展示に使うPCなどは、ほとんどの場合、自社での設営が必須です。例えば、東京で開催される展示会に、東北や関西などの企業が出展する場合、

設営日(おおよそ開催の1~2日前)には設営役の社員を前乗りさせ、PCのセッティングや装飾品のチェックなどを済ませておく

とよいでしょう。

5 当日・開催後

1)当日のブース運営

イベント当日の運営については、

事前に社員に共有したオペレーションを基本に、臨機応変に対応していく

ことが大切です。

特に通路での声かけや備品の位置などについては、ルール上禁止している展示会もありますが、来客や周囲のブースの状況などを見て対応を変えていくのがよいでしょう。

自社のことを知らない来場者に興味を持ってもらうのは難しいですが、時間がありそうな人には積極的に声かけしましょう。ブースまで呼んで詳しい説明ができると、営業のチャンスもさらに広がります。

声かけのポイントとしては、次のようなものがあります。

その他、「時間がない」と断られたときのために、例えば「3分で説明します」といった決まり文句(また、実際にその時間内に商品・サービスを紹介できるオペレーション)も用意しておくと、話を聞いてもらえる可能性が高くなるでしょう。

2)当日のセミナー運営

当日のセミナー運営について気を付けるべきポイントは、

参加者と名刺を交換する時間・人員を確保する

ことです。セミナー終了後はそのまま帰ってしまう参加者も多く、一斉に声をかけることは難しいため、来場した順に声をかけて名刺を交換する人員を用意しておくとよいでしょう。

また、忘れがちなのが登壇者の水分補給用の飲み物です。長時間しゃべ続ける場には必要ですが、セミナー会場の近くにコンビニエンスストアや自動販売機がない場合もあります。

あらかじめ、セミナー登壇者の水分補給が認められているか会場に確認を取った上で、人数分を購入しておくなど、準備を万全にしましょう。

3)撤去

展示会が終了したら、当然ながら、自社から持ち込んだものは自社で片付けます。基本的に、シフトに入っていた人材がそのまま撤去作業に当たるでしょうから、開催時間後も余裕を持ったスケジュールを確保しておきましょう。

撤去作業時は周りも慌ただしくて焦りがちですが、

パネルやポスターなどを剥がす際に壁を傷つけたり、汚したりしないようにする

など、丁寧な作業を心がけましょう。主催者側の備品を破損させると弁済を求められることもあります。

なお、展示会が2日にわたる場合などは、1日目はブースを撤去せず、備品などをそのまま置いておけることが多いです。ただし、盗難などのトラブルを防ぐため、

持ち込んだディスプレーを保護するためにシートや布を被せる、収納できるものは鍵付きの棚(レンタルできる場合もある)にしまう

などの対応が必要になります。

4)開催後の挨拶・営業

展示会で交換した名刺の管理や、再度の営業などをスムーズに進めるために、

事前に営業先管理用のExcelシートや、ブースやセミナーへの来場の感謝を伝えるメールの型などを作成しておく

ことをお勧めします。

例えば以下の例のように、名前や企業名などの基本的な情報だけでなく、下の図表の「連絡」欄のように個別のフラグを立てておくなど、あらかじめ営業のパターンを決めておくと管理がしやすくなります。

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また、このリードの強弱の違いによって、メールの文面を数パターン用意しておくという方法も考えられます。例えば、

という具合です。

展示会は新規顧客獲得のための糸口をつかむために出展するもので、撤収作業が済めば終わる、というわけではありません。チャンスを実利にまでつなげられるよう、チーム一丸となって営業活動に取り組みましょう。

以上(2025年1月作成)

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画像:Mosy Studio-Adobe Stock

【中堅社員のスピーチ例】オロチ退治と“不退転”の意志

【ポイント】

  • 昔の人は、氾濫を繰り返す川の治水工事をオロチ退治に見立てたという説がある
  • 「何がなんでもやり遂げる。やり遂げなければ未来はない」という“不退転”の意志が大切
  • 精神論だけでは成功できないが、そもそも強い意志がなければ成功はあり得ない

おはようございます。2025年の干支は「巳(み)」、つまり蛇です。そこで今日は蛇にちなんだ話として、日本神話に登場するヤマタノオロチの話をしたいと思います。

ヤマタノオロチは、頭と尾が8つずつある巨大な蛇です。毎年人間の娘を食らうので人々から恐れられていましたが、神であるスサノオ(素戔嗚尊、すさのおのみこと)がこれを退治して尾を割き、三種の神器とされる「天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)」を得たとされています。

ヤマタノオロチ自体は架空の怪物ですが、面白いことにこの伝説にはモチーフがあります。島根県の出雲に斐伊川(ひいかわ)という川がありますが、何度も氾濫を繰り返す斐伊川とその支流をヤマタノオロチにたとえ、それらの治水工事をオロチ退治に見立てていたという説があるのです。

川の氾濫は、現代でも甚大な被害をもたらす天災です。ましてや重機なんて存在しない時代、その治水はとてつもない重労働だったことでしょう。並大抵の体力・精神力・リーダーシップでは達成できません。はっきりとしたことは分かりませんが、当時の人々は、そんな怪物のような川に立ち向かう出雲の民に強い敬意を感じ、それが転じてスサノオの伝説が生まれたのかもしれません。

仕事をしていれば、困難な業務にどうしても取り組まなければならないことがあります。私は過去にあるプロジェクトを任されたことがありますが、他のメンバーを統率しなければいけない立場なのにリーダーシップを発揮することができず、見かねた課長が指揮を執ってくださいました。

今、思うと「何かあっても、課長が助けてくれる」という甘えがあって、自分の責務から逃げていたのかもしれません。もしも課長がいなかったら、プロジェクト自体が頓挫(とんざ)していたかもしれない、私に足りなかったのは、その危機感です。出雲の民は「何がなんでもやり遂げる。やり遂げなければ未来はない」という“不退転”の意志で治水に取り組み、困難に打ち勝ちました。

精神論だけで成功できるほど世の中は甘くありませんが、そもそも強い意志がなければ成功はあり得ません。「気概」と「やり抜く」を今年の抱負に掲げ、1年間駆け抜けたいと思います。

以上(2025年1月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

【入社1年目の教科書】これが鉄板。上司も納得する社会人の常識「10選」

書いてあること

  • 主な読者:会社から求められている立ち居振る舞いや、社会人の常識を知りたい新入社員
  • 課題:会社の期待を裏切らないよう、社会人としての常識を身に付けたい
  • 解決策:社会人としての自覚をもつ。最初は仕事の出来に差はなく、人間性が注目される

ついに私も社会人。会社の仲間と楽しく働き、プライベートも充実させるのだ。先輩たちは優しそうなので、ひとまず安心。それなりにうまくやっていけるだろう。ところで、私は会社からどのように見られているのかな? そつなくやりたいけれど、社会人としての正解というか“常識”が分からないな……。

1 会社の一員としての自覚をもつ

おめでとうございます! 皆さんは立派な社会人になりました!!

最初が肝心、気を引き締めていきましょう。だって、周りの人は新人だからといって甘やかしてはくれません。プライベートでも、世間は皆さんを「A社の社員」と認識することがあります。ですから、法令を守ることはもちろん、SNSの投稿などにも最低限の注意が必要です。少し前に話題になった「バイトテロ」のようなことは論外です。問題が起きると、あなただけでなく、会社、顧客、取引先などにも迷惑がかかることを忘れないでください。

2 公私の区別をつける

社会人になるということは、「公」の時間をもつということです。この公の時間と私(プライベート)の時間は明確に区別しなければなりません。

例えば、勤務時間は仕事の時間です。やむを得ない場合は除き、プライベートの用事をしてはいけません。会社の備品も同じです。ボールペンなど一つひとつは安くても、会社のお金で買ったものを借りていることに変わりはなく、大切に使わないといけません。借りるという意味では、オフィスのデスクはもちろん、空間だった会社から与えられているスペースなので、整理整頓を心がけましょう。

会社で守るべきルールは会社が就業規則などで定めていて、皆さんが自分本位で決めるものではありません。皆さんの考えを主張するのは良いですが、会社のルールが前提となります。

3 笑顔で明るい挨拶を実践する

控えめな人や、目立ちたくないと考えている人は、どうやったら上手くコミュニケーションがとれるだろう? と不安を覚えているかもしれません。しかし、安心してください。最強のコミュニケーション術があります。

それは、笑顔で挨拶をすることです!

笑顔で明るい挨拶をされたら、皆さん、心がパァーっと明るくなりませんか。それで、こちらも笑顔になって明るい挨拶をお返しするはずです。挨拶に役職は関係ありません。社長も新入社員も、笑顔で明るく挨拶ができる会社は素敵です。「おはようございます」「行ってきます」「行ってらっしゃい」「お疲れさまでした」。どれも会社でよく使われる挨拶ですので、是非、実践してみてください。

4 謙虚な姿勢を貫く

入社してすぐに仕事ができる新入社員はいません。多少の差はあれ、ほぼ横一線です。そのような中で、先輩たちは皆さんのどこを見ているのでしょうか。一つは先に触れた「笑顔で明るい挨拶」ができているかどうかです。これは、「挨拶」という行為だけを見ているわけではなく、一緒に働く仲間や、大切なお客様などに丁寧に接することができているかの確認でもあります。

丁寧に接するとはつまり、「謙虚な姿勢で仕事と向き合っているか」ということにもつながります。人のせいにしたり、言い訳ばかりしたりしているようではダメですね。皆さんは、自然に「ありがとうございます」や「失礼しました」と言えますか? 感謝する姿、反省する姿を周囲はしっかり見ているものです。その真摯な姿勢が信頼となり、将来の皆さんの糧となります。

5 「情けは人のためならず」を実践する

最初、先輩たちは新入社員を先入観なく見ています。しかし、だんだんと皆さんの得意なこと、苦手なこと、努力の度合いなどを加味して評価するようになります。先輩たちが急に冷たくなるというわけではなく、「頑張っている人は信頼され、新しいことを任されるようになる」ということです。

ですので、忙しそうな先輩や同僚に「何かお手伝いできることはありますか?」と聞いてみるのも良いでしょう。そうすると「この新人は頼りになるな」と、いろいろな仕事を任されるようになります。それをコツコツとこなすことで仕事の幅が広がり、楽しくなっていきます。先輩などをサポートすると、自分も成長できる。まさに、「情けは人のためならず」ということです。

6 時間にシビアになる

時間は必ず守りましょう。時間を守らない人はビジネスの世界では信頼してもらえません。「誰かを待たせると、その人の時間を無駄にしてしまう」など、時間厳守の理由はいろいろと言われていますが、そうしたこと以前に、時間が守れない人は社会人失格なのです。まれに、「すいません。遅れちゃいました(笑)」みたいな人もいますが、まねしてはいけません。その人は、相当に仕事ができるから許されているのか、単に常識がないのかのいずれかです。

時間を守るための鉄則は、余裕のある準備につきます。例えば、雨降りの日に外出するなら、交通機関の遅れを見越して少し早く出発しましょう。オンラインミーティングでも、時間ギリギリではなく、余裕をもってアクセスし、ビデオオフで待つくらいの余裕が欲しいですね。もちろん、初めてのツールなら、事前に試しておくことも忘れずに!

7 予兆は「連絡せよ」のお告げと知る

何事も早めの連絡が一番。「遅れてから」ではなく、「遅れるかも」と感じたときが「連絡どき」です。結果として遅れずに仕事が終わったのならみんな幸せ。「遅れるって連絡したのに結局遅れなかった。恥ずかしい」なんてことを考える必要はありません。

連絡手段は会社のルールに従います。ただ、チャットツールを使っている場合は要注意。テキストだけだと、どうしてもニュアンスが伝わりにくいときがあるからです。ちょっとややこしいことを伝えるときは、電話やボイスメッセージを織り交ぜると良いです。

さらに、重要な事項を送って終わりにしてはいけません。「遠足は家に着くまで。連絡はリアクション(既読など)があるまで」と心得ましょう。もし、相手のリアクションがなければ、再度メッセージをするか、電話をするなどしてください。

8 こまめなメモは心の安定につながると心得る

会社にはたくさんのルールがありますが、いきなり全部は覚えられません。先輩に質問しながら、少しずつ慣れていきましょう。ポイントは「メモ」です。メモ帳でも、スマートフォンでもいいです。とにかく、メモを取って整理しておきます。情報の蓄積という意味もありますが、メモは心の安定にもつながります。だって、質問は何度してもいいと言われても、同じことを何度も聞くのは気が引けますよね。その点も、メモを取っておけば大丈夫なのです。

9 席次はルールよりも愛で行動する

社会人の常識といえば「席次」。こう言う人がいても不思議ではないくらい席次は一般的なこと。会議室で座るとき、円卓で食事をするとき、タクシーに乗るとき、オンラインで画面にうつるとき(?) とにかく、席次が付いて回るわけです。

席次には基本的なルールがあるので、これは押さえておかなければなりません。ただ、そのルールに縛られて融通が利かないのも考えものです。空調や採光などの影響で、上座が必ずしも快適であるとは限りません。たとえ下座となる席でも、「こちらのほうが景色が綺麗ですよ」などと相手を思いやる心が一番大切なのです。

10 失敗を恐れずに行動する

会社は自分で考え、行動する社員を求めています。中には「よっしゃ~!」と思うつわものもいるかもしれませんが、多くは「そう言われても……」といった感じですよね。

確かに、新入社員がいきなり行動するのはハードルが高い。ですので、まずは考えることから始めてみましょう。先輩たちの話を聞きながら、「自分は何をしたい?」「自分だったらどうする?」と考えてみるのです。

そうしていく中で、これならチャレンジできそうだというものが出てきたら、是非、行動に移してみてください。この「考える」から「行動に移す」の壁を越える経験は、先々、本当に皆さんのためになります。大切なポイントは、失敗は失敗ではなく、学習だと思うこと。「こうするとうまくいかない」ということを学び、賢くなったのです。誰だって最初からうまくできるわけではありません。「成功からも失敗からも学習して次に生かす」。これをいかに高速で、たくさん回すかが大切です。

以上(2024年12月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

2025年から始まる! 変わる! 注目制度13選

1 2025年の法改正を一覧表でチェック!

2025年は、行政手続きの電子化や、育児・介護支援、高齢者・障害者雇用など、さまざまな分野で法改正が行われます。内容をキャッチアップしきれず困っているという人向けに、2025年の主な法改正を一覧にまとめました。なお、この一覧に税制改正は含めません。

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2 2025年の主な法改正(13件)

1)安全衛生関連の一部の手続きは、電子申請が義務になります!(1月1日)

安全衛生関連の一部の手続きについて、「電子政府の総合窓口(e-Gov)」によるオンラインでの提出(電子申請)が義務化されます。労働災害による死亡や休業の際に提出する「労働者死傷病報告」、社員数が常時50人以上の会社の「定期健康診断結果報告」などがそうです。義務化されていない手続きでも電子申請が可能なものもあります。チェックしてみましょう。

■厚生労働省「労働局・労働基準監督署への申請・届出はオンラインをご活用ください」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/denshishinsei.html

2)マイナンバーカードに運転免許証が一体化できるようになります!(3月24日(予定))

希望者はマイナンバーカードのICチップに、運転免許証の情報を記録できるようになります。これを利用することで、住所や氏名の変更手続きが市区町村役場で完結できます。また、免許証の区分によっては、マイナポータルと連携させれば、免許証更新時の運転者講習をオンラインで受講できるようになり、その分更新料が安くなるなどのメリットもあります。

■警察庁「『道路交通法の一部を改正する法律の一部の施行に伴う関係政令の整備等及び経過措置に関する政令案』等に対する意見の募集について」■
https://www.npa.go.jp/news/release/2024/20240909002.html

3)育児・介護支援が強化! 対象者の拡大や制度の周知義務など(4月1日、10月1日)

育児関連では、子の看護休暇(改正後は「子の看護等休暇」)について、対象者が「小学校就学前の子を育てる社員」から「小学3年生修了までの子を育てる社員」に拡大され、子の看護以外に入園(入学)式などでも取得可能になるなどの改正があります。介護関連では、仕事と介護の両立支援制度について、会社から社員への個別の周知や意向確認が義務付けられるなどの改正があります。一部、10月1日に施行される改正内容もあります。

■厚生労働省「育児・介護休業法について」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html

4)高年齢雇用継続給付の最大給付率が引き下げられます(4月1日)

高年齢雇用継続給付とは、賃金が「60歳時点の75%未満」に低下した状態で働く場合に支給される雇用保険給付です。雇用保険の被保険者であった期間が5年以上ある、60歳以上65歳未満の社員が対象ですが、この給付の最大給付率が「15%→10%」に引き下げられます(1965年4月1日以前生まれの人は原則15%のまま)。高齢社員の賃金の見直しが必要かもしれません。

■厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000160564_00043.html

5)障害者雇用促進へ! 「除外率」が引き下げられます(4月1日)

社員数が常時40人以上の会社は、「社員数×2.5%(障害者雇用率)」を掛けた人数以上の障害者を雇用する義務があります。障害者の雇用が難しいとされる一部の業種(建設業、運送業など)については、社員数を計算する際、一定の「除外率」に相当する人数を社員数から除外できる制度があるのですが、その設定率が一律10ポイント引き下げられます。障害者がより多くの業種で働けるようにするための改正です。

■厚生労働省「事業主の方へ ~従業員を雇う場合のルールと支援策~(従業員のタイプ別のルールと支援策:障害者)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page10.html
■厚生労働省「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」■
https://www.mhlw.go.jp/content/001064502.pdf

6)車検は有効期間満了日の2カ月前から受けられるようになります!(4月1日)

自動車の継続審査(車検)が、車検証の有効期間満了日の「2カ月前」から受けられるようになります。改正前、車検を受けられるのは車検証の有効期間満了日の「1カ月前」からで、年度末の3月に整備作業や車検の予約が集中しがちでした。今回の改正で一定の解消が見込まれます。

■国土交通省「来年4月より、車検を受けられる期間が延びます」■
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha02_hh_000645.html

7)新たに着工する建築物について、省エネ基準への適合が義務になります!(4月1日)

2025年4月以降に着工する全ての建築物に「省エネ基準」への適合が義務付けられます(改正前は中・大規模(300平方メートル以上)の非住宅の新築、増改築だけが対象)。改正に伴い、行政庁などによる「省エネ適合性判定」と建築主事などによる「確認審査」を受ける手続きが追加されます。手続きの不備で着工などに遅れが生じないよう、注意が必要です。

■国土交通省「令和4年度改正建築物省エネ法の概要」■
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/shouenehou_r4.html
■国土交通省「【建築物省エネ法第10条】省エネ基準適合義務の対象拡大について」■
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/01.html

8)違法伐採防止に向けて、木材等の合法性確認が義務になります!(4月1日)

木材等の原木市場、製材工場等、輸入事業者に対して、「合法性確認(法令に適合して伐採された木材等か否かを確認すること)」が義務付けられます。素材生産販売事業者 (立木の伐採、販売等)や木材の輸出事業者には求めに応じて伐採届等による情報提供が義務付けられ、他の木材関連事業者(家具工場、製紙工場、建築業者等)や小売事業者にも合法性確認が取れた木材の利用に努めることがこれまで以上に求められます。

■林野庁「クリーンウッド法の概要」改正クリーンウッド法関連■
https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/goho/summary/summary.html#kaisei
■林野庁「クリーンウッド法に関する情報提供『クリーンウッド・ナビ』」■
https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/goho/

9)物流業界の効率化・取引適正化が努力義務になります!(5月14日までに)

いわゆる2024年問題への対策として、「荷主・物流事業者に対する規制」「トラック事業者の取引に対する規制」「軽トラック事業者に対する規制」が設けられます(一部は努力義務)。このうち「荷主・物流事業者に対する規制」の特定事業者に関する規制の施行日については公布の日から2年以内(2026年5月14日まで)となっていますが、取り組みが不十分であると判断された場合、勧告・命令措置が行われるので今のうちに内容を確認しておきましょう。

■国土交通省「改正物流法」■
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/seisakutokatsu_freight_mn1_000029.html

10)SNS上の誹謗中傷などの削除申請手続きが迅速化されます!(5月16日までに)

近年、大きな問題になっているインターネット上での誹謗中傷について、大規模プラットフォーム事業者に対し、「対応の迅速化」と「運営状況の透明化」が義務付けられます。対応の迅速化では、削除申請窓口の手続きを公表することや対応体制を整備することが求められ、運営状況の透明化では、削除基準を公表することなどが求められます。

■総務省「『国民を詐欺から守るための総合対策』に係る総務省の取組状況について」■
https://www.cao.go.jp/consumer/iinkai/2024/439/doc/20240708_shiryou1-3.pdf

11)産業廃棄物処理分野で再資源化の報告制度が創設されます!(11月28日までに)

特に処分量が多い産業廃棄物処分業者に対し、産業廃棄物の種類・処分方法ごとに、処分数量・再資源化した数量を環境大臣に報告することが義務けられます。この取り組みが不十分であると判断された場合、国は勧告・措置命令を出せるようになります。また、資源循環のための事業計画を提出し、環境大臣の認定を受けることで、廃棄物処理法上の許可を受けなくても、廃棄物処理施設を設置できるようになるなどの特例が設けられています。

■環境省「資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律案の閣議決定について」■
https://www.env.go.jp/press/press_02916.html

12)建設業の安すぎる見積もりや短すぎる工期が禁止されます!(12月13日までに)

建設業の2024年問題などを受け、材料費などを著しく下回る見積もりや短すぎる工期設定に対する規制が強化されます。材料費の見積もりについては、受注者が安すぎる見積もりを作成することに加え、注文者側が通常必要と認められる以上の変更を要求することが禁止されます。工期設定については、今回の改正で受注者となる建設業者が著しく短い工期の請負契約を締結することなどが新たに禁止の対象になりました。

■国土交通省「建設業の担い手確保を推進するため、改正建設業法の一部を施行します」■
https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo13_hh_000001_00250.html

13)危険な海外製品や子供用製品の規制が強化されます!(12月25日までに)

消費者が海外事業者から直接購入する機会が増えたことを受けて、製品の安全性に関わる規制が強化されます。内容は「海外事業者に対し、国内管理人の専任を求める」「ネットモール事業者に対し、国は違反品の出品削除要請とその公表ができるようになる」「届出事業者の公表」「法令等違反行為者の公表」です。また、危険な子供用製品に関する規制も盛り込まれています。

■経済産業省「消費生活用製品安全法の一部改正について」■
https://www.meti.go.jp/policy/consumer/seian/shouan/shouan_ichibu_kaisei.html

以上(2025年1月作成)

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画像:naka-Adobe Stock

【営業最強フレーズ集】年明け最初の訪問で使えるフレーズ「○○さんのアイデアを実現するご提案を持ってきました」

○○さんのアイデアを実現するご提案を持ってきました

年始から相手の心をつかんでスタートダッシュ!

新年は、「ご挨拶」ということで、普段はなかなか対面で会えない相手と話ができるチャンスです。文字通りの形式的な挨拶で終わらせず、新年の営業案件に育てていきましょう。競合他社も「ご挨拶」に来ているはずですから、差をつけられる会話にしたいものです。

そのために効果的なのが冒頭のフレーズです。このフレーズに含まれる大切なキーワードは、

ご提案

であり、伝えたいニュアンスは、

個別的、具体的

であることです。

1つ目の要所は「ご提案」ですが、精緻なものは必要なく、口頭でも構いません。大切なことは、こちらがこれまでの取引先との会話をきちんと把握していて、年末年始もいろいろと考えていたことが伝わればいいのです。例えば、

帰省したときの話です。私の友人が○○さんの仰っていた××の研究をする仕事についていまして、特別に聞けたのですが、ポイントは……

といった感じで十分であり、むしろ、情報の鮮度と特別感が重要なのです。「友人の件」は、「この年末に読んだ本」「見た記事」などに言い換えることもできます。ここで提供する情報が素晴らしいものであるに越したことはありません。しかし、残念ながらそうでなかったとしても、相手が嫌がることはなく、「年明け早々に有り難う!」ということになるはずです。

2つ目の要所は、「個別的」「具体的」な点です。「これまでお聞きした内容」(〇〇さんのアイデア)を踏まえたご提案なので、「使い回しの挨拶」でないことは明白です。そして、1つでも具体的なポイントを伝えるようにすれば、会話の流れでたまたまたどり着いた「思いつき」ではないことも伝わります。

いかがでしょう。新年のご挨拶では長居はできないため、込み入った話は難しいでしょう。ですから、競合他社も形式的な挨拶をし、相手もそれに応じるだけになりがちです。そうした中で、「ご提案、個別的、具体的」な話ができたら、相手の印象に強く残ることでしょう。

「これまでお聞きした内容」が無くても商談の場づくりはできる

「これまでお聞きした内容」について、記憶が曖昧な場合もあります。そうしたときは最初に「昨年、こんなことをおっしゃっておられましたよね?」という振り返りをするのも有効です。

また、残念ながら相手との関係が希薄で、「これまでお聞きした内容」が無い場合もあるでしょう。そのときは、次のように話をしてみるのも一策です。

年末に時間が取れたので、他社の事例も踏まえつつ、○○さんの会社で発生しているかもしれない課題とその解決策を、私なりに考えてみました。例えばこういう課題はありませんか?

相手が「あ〜、その課題は確かにあるね」であるとか、「確かにそれはあるかも。他社さんの事例ってどんな感じなの?」などと会話がはずみ、提案の糸口が見えてくるかもしれません。

年始の営業最強フレーズを使って相手のハートをつかみスタートダッシュを決めるには、年末(昨年)のうちから種まきしておくのが理想です。ただ、それができなかった場合でも、ここまで紹介してきた内容を心がければ巻き返せます。ぜひ、この2025年は初回訪問から具体的な商談づくりをしていきましょう!

以上(2025年1月作成)

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画像:ChatGPT

【朝礼】2025年は「言葉を大切にする人」になろう

【ポイント】

  • 「言葉を発する目的をよく考える」と、言葉選びが慎重になり、思いが相手に伝わる
  • 「相手の言葉の意味をよく考える」と、相手の真意が理解でき、自分の成長につながる
  • 「言葉を大切にする=言葉の先にあるものについて想像力をめぐらせる」ことが大切

皆さん、あけましておめでとうございます! 今日は私から皆さんに、「2025年は、こういう人になってほしい」というメッセージをお伝えします。今年、皆さんに目指してほしいのは

「言葉を大切にする人」になること

です。具体的には、今から言う2つのことを心がけてほしいと思っています。

1つは、「言葉を発する目的をよく考えること」。例えば、部下を指導する際、つい語気が強くなってしまう上司がいます。もちろん、時には厳しさも必要ですが、自分の感情をただぶつけるのは指導とは言いません。部下を指導するのは、「部下にこんなふうに成長してほしい」という目的があるからですよね。目的をよく考えれば言葉選びも慎重になり、思いは正しく相手に伝わるはずです。

もう1つは、「相手の言葉の意味をよく考えること」。今度は逆に、部下が上司の指導を受けたときについて考えてみましょう。「そのやり方は間違っている」と言われれば、誰だって良い思いはしません。ですが、ただ「叱られた」ということばかりを意識しているようでは、いつまでたっても成長しません。「上司はなぜ、自分に言葉をかけたのか」、その意味をよく考えましょう。

社外の人が相手でも同じです。例えば、取引先と話す際、相手の機嫌を損ねるようなことは誰しも言いたくないものです。ですが、多少耳の痛いことであっても、その発言をしないことで取引先が損を被る可能性があるなら、迷わず発言すべきです。「言葉を発する目的」をよく考えましょう。

営業に行ったとき、「今回は予算が……」などとやんわりと断られた経験がある人も少なくないでしょう。実は当社側の提案に問題があるものの、面と向かって言うと角が立つから、相手が言葉を選んでくれているだけのケースが多いです。「相手の言葉の意味」をよく考えて改善を図らないと、いつまでも同じことの繰り返しになってしまいます。

言葉を大切にするとは、「言葉の先にあるものについて想像力をめぐらせる」ということです。2025年はこの点を意識して、コミュニケーションをもう1段階レベルアップさせましょう。

以上(2025年1月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

2040年の市場規模は140兆円!急速成長する「宇宙ビジネス」の全容

1 成長市場の宇宙ビジネスについて知る

2024年10月24日、宇宙輸送・衛星通信事業を手掛けるSpaceXは、同社が開発したロケット「Falcon9」の同年100回目となる打ち上げに成功しました。これは3日に1回、打ち上げを行っているというペースです。

宇宙技術に関する事業全般を「宇宙ビジネス」「宇宙産業」などと呼びますが、

世界の宇宙ビジネスの市場規模は、2022年時点で54兆円(ちなみに日本は約4兆円)、2040年には140兆円にまで成長すると予測されており、今まさに急速に成長している市場

です(経済産業省「国内外の宇宙産業の動向を踏まえた経済産業省の取組と今後について」)。

成長の理由はさまざまありますが、特に注目すべきは、

SpaceXに代表される民間企業のロケット打ち上げと、衛星データの利用ビジネス

です。通信速度やデータ精度が向上したことで、マーケティング、医療、農業など、活用できる分野の幅が広がっており、そこに民間企業が次々に参入してきているのです。

日本はロケット打ち上げに有利な立地なので今後の成長が期待されていますが、ロケット打ち上げ体制や衛星製造では、まだまだ研究・整備の段階にあります。しかし、新規事業者が参入するには、実績が重視される傾向にあることから、将来的な参入を視野に入れ、今のうちから業界について知っておくことが大切です。

この記事では、そんな宇宙ビジネスの現在地を

  1. 宇宙ビジネスの全体像
  2. 民間主導の宇宙ビジネスの動向
  3. 宇宙ビジネスの規制・制度(宇宙法)

という流れで探っていきます。

2 宇宙ビジネスの全体像

宇宙ビジネスについては、明確な定義があるわけではありませんが、経済産業省の資料では「民間衛星サービス」「衛星用地上機器」「衛星製造」「宇宙輸送」「政府の宇宙予算(宇宙科学・探査など)」の5つに分けて紹介されています。

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近年は、衛星データの利用幅が増えたことや、打ち上げリスクが減ったこともあり、民間からの投資が増え、さまざまなベンチャー企業が登場しています。その数は、経済産業省によると、国内だけでも約100社あるとされます。

また、ロケット・衛星の打ち上げ数が増加したことで、発射場となるスペースポート(宇宙港)の不足やスペースデブリ(宇宙ゴミ)の増加など、新たな課題も生まれています。

図表1の5種類の宇宙ビジネスから、「政府の宇宙予算(宇宙科学・探査など)」を除外したもの(民間主導の宇宙ビジネス4種類)の商流を表したのが図表2です。

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これらの中で、近年、特に盛り上がっているのが民間衛星サービスです。

民間衛星サービスは、大きく「通信・放送衛星サービス」「地球観測衛星サービス」「測位衛星サービス」「軌道上サービス」に分かれます。これらは衛星を活用して通信やデータ収集をしたり、衛星の活動を支援したりするビジネスで、近年は多くの民間企業が参入しています。

電子部品の小型化、汎用部品を多用した設計などによって、超小型の衛星を従来よりも早く、安価に打ち上げられるようになったから

です。

衛星を周回させる高度は、大きく、

に分かれます。低軌道上の衛星は地表により近く、大容量データの高速通信や精密な観測に対応できますが、1機では地表の狭い範囲しかカバーできません。そのため、安価な小型衛星を大量に打ち上げて一体的に運用する「衛星コンステレーション」体制が主流になっています。

これに対し、日本の宇宙ビジネスは対応が遅れているのが現状です。このことについて、経済産業省の宇宙産業課にヒアリングしたところ、次の回答が得られました。

「日本の宇宙ビジネスは、民間企業が参入するようになってからまだ日が浅く、サプライチェーン体制や発射場(スペースポート)の整備が追い付いていません。これらが進みにくい原因に、宇宙利用・衛星製造・宇宙輸送の3分野が“三すくみ”になっていることが挙げられます。

この課題を解決するには、特定分野の成長を期待するのではなく、全体的な底上げを支援する必要があります。そのためにも、中小企業の皆様の参入が欠かせませんが、参入障壁の高さやリスクを感じ、参入をためらってしまう事業者様も多いと聞きます。

しかし、実際は想像よりも要求される品質が低くてもよいケースもあります。まずは、地方の各産業局が主催する宇宙航空産業などの企業マッチングイベントなどに参加し、ぜひ商談を進めてみていただきたいです」

次章からは、「民間衛星サービス → 衛星用地上機器 → 衛星製造 → 宇宙輸送」の順に、宇宙ビジネスの動向を紹介していきます。

3 (民間衛星サービス)通信・放送衛星サービスの動向

1)通信・放送衛星サービスとは

衛星通信とは、地上から衛星を介し、送信先へデータを送る通信方式のことです。

主に、衛星テレビや衛星ラジオなどで利用されるほか、高速通信に対応した衛星ブロードバンドの登場によって、インターネットや携帯電話でも利用され始めています。

移動する船舶や車両、通信回線を引けない山間地、インフラが破壊された被災地などとも通信できることから、近年、注目を集めている分野でもあります。

2)通信・放送衛星サービスの課題

通信・放送衛星サービスの課題は、

サービスが一部の事業者に依存してしまう状況にあること

です。2020年以降、SpaceXとOneWeb(英国)の衛星打ち上げ数が急激に増加しており、特にSpaceXは2023年6月時点で累計4500機超の通信衛星を打ち上げています。なお、内閣府の調査によると、日本の商業衛星の打ち上げ計画数は、2023年から10年間で合計280機以上です。

経済産業省の宇宙産業課へのヒアリングでは、次の回答が得られました。

「衛星間通信技術による地球観測衛星(第4章)の支援体制を確立することが、通信衛星サービス分野における課題です。

この課題を解決するには、衛星コンステレーション体制(第2章)を構築するとともに、光通信による衛星間通信技術を向上させる必要があります。大量の衛星を打ち上げるためのサプライチェーンや技術・設備などが求められます。これが実現すると、観測衛星データのリアルタイム性が向上してデータの利用シーンが増え、市場が活性化するでしょう」

4 (民間衛星サービス)地球観測衛星サービスの動向

1)地球観測衛星サービスとは

地球観測とは、衛星に搭載されたリモートセンシングセンサーを利用して、地上について調べることです。センサーは、大きく

の2つに分かれます。

主に、気象観測・都市開発・農業・エネルギーの分野で利用されており、センサーやデータ解析AIの発達によって、土地の肥沃度や石油残量の調査、都市部の夜間の明るさに基づくGDP予測、洪水の被害規模予測など、幅広い分野で活用され始めています。

近年は、小型衛星コンステレーションによる衛星間通信リレーの進展によって、観測から利用までのリードタイムが大幅に短縮され、よりリアルタイムなデータ利用ができるようになり、さらに幅広い分野での活用が見込まれています。

2)地球観測衛星サービスの課題

地球観測衛星サービスの課題には、次のようなものがあります。

  1. 民需が不足しており、官需もなかなか拡大できていない
  2. データが高額で、まだ提供速度や量が不足している
  3. 観測データを利用する事業の開発研究が進んでいない

経済産業省の宇宙産業課へのヒアリングでは、次の回答が得られました。

「防災や農業などの分野で成果が出始めていますが、利用量も活用シーンもまだまだ少ないのが現状です。例えば、北海道の農場の観測サービスに留まらず、全国や海外へサービスが広がることなどを期待しています。また、複数のデータを複合的に利用するサービスが生まれることで、利用量が増えることにも期待しています」

5 (民間衛星サービス)測位衛星サービスの動向

1)測位衛星サービスとは

衛星測位システム(GNSS、正式名称「Global Navigation Satellite System(全球測位衛星システム)」)は、衛星から電波を受信することで位置測定や航法(移動ルートを導く方法)、時刻配信をするシステムです。有名なものは米国のGPSですが、日本を含む各地域でも独自のシステムが管理・運用されています。

各地域で運用・管理されている衛星測位システムの名称と機数は次の通りです。

主に、カーナビやスマートフォンの地図アプリ、フィットネス機器、測量などで活用されており、精度が高まることで、自動車・農業トラクター・船舶などの自動運転、3D地図の作成、ドローン管制によるインフラのメンテナンスなどの分野でも活用が見込まれています。

2)測位衛星サービスの課題

前述の通り、日本の測位衛星機数は世界各地に比べて少ない状況にあります、内閣府によると、日本は現在、7機体制の構築に向けた整備を行っており、さらに、11機体制にむけた検討・開発にも着手している段階です。

この計画を実現していく上で、測位衛星サービスの課題には、次のようなものがあります。

  1. 高品質な測位サービスの安定的供給のためのリスク対応(抗たん性)・精度の向上
  2. 持続的なサービスに向けた、開発・運用におけるコストの縮小

内閣府 宇宙開発戦略推進事務局へのヒアリングでは、次の回答が得られました。

「今後の測位衛星の打ち上げは、測位情報の高精度化と安定的な提供を目的としたもので、搭載機器の機能を向上させるとともに、衛星に不具合が発生したときのバックアップとしての役割を遂行する能力が求められます。また、測位情報を持続的に提供するため、小型化による2機同時打ち上げなどのコストダウン策も検討されているところです」

6 (民間衛星サービス)軌道上サービスの動向

1)軌道上サービスとは

軌道上サービスは、衛星や宇宙ステーションに対して、宇宙空間で提供されるサービスの総称です。サービス内容には、次のようなものがあります。

近年、注目を浴びているのが、スペースデブリの除去ビジネスです。

スペースデブリとは、故障や寿命で不要になったロケット・衛星の残骸などのことで、主に、残っていた燃料の爆発や、スペースデブリ同士の衝突によって発生します。ESA(欧州宇宙機関、European Space Agency)によると、その数は2024年9月時点で次のようになっています。

スペースデブリは秒速7~8キロメートルで移動しているとされ、微小なものでも衝突すれば、衛星や宇宙ステーションが大きく破損しかねません。実際、過去には衝突事故が何度も起こっており、衛星が大破してしまったケースもあります。ロケット・衛星の打ち上げ数が増える今、スペースデブリの除去は需要が急速に高まっているのです。

スペースデブリの除去は、対象となる物体に近づき、動きを推定しながら捕獲し、軌道を変えて大気圏に突入させて、スペースデブリを燃やし尽くす技術です。まだ実証・実験段階ではあるものの、日本のベンチャー企業のアストロスケールホールディングス(東京都墨田区)が欧米企業に先行しています。

2)軌道上サービスの課題

軌道上サービスの課題には、次のようなものがあります。

経済産業省の宇宙産業課へのヒアリングでは、次の回答が得られました。

「軌道上サービスは、比較的新しいサービスです。すでに国内の有力な企業が登場していますが、分野自体が発展途上であり、ルール作りの段階にあると考えています。例えば、スペースデブリの除去目標や、衛星が寿命を迎えるまでに除去すべきスペースデブリ数などがそうです。これらが決まってこそ、求められる技術や必要な投資額が決まってきます」

7 衛星用地上機器の動向

1)衛星用地上機器とは

衛星用地上機器とは、パラボラアンテナや衛星対応のテレビ・ラジオなどの製造分野です。

中でも、衛星測位システムに利用されるGNSSチップセットとナビゲーション・デバイスの製造が、市場規模が最も大きい分野となっています。

近年の衛星測位システムは、衛星だけでなく、利用者のものとは別の受信機も利用することで、位置情報の誤差を数メートル単位から数センチメートル単位まで縮小させることに成功しました。これにより、自動車・農業トラクター・船舶などの自動運転、3D地図の作成、ドローン管制によるインフラのメンテナンスなどの分野でも活用が見込まれています。

2)衛星用地上機器の課題

この分野の中で最も市場規模が大きいGNSSチップセットとナビゲーション・デバイスには、次のような課題があります。

経済産業省の宇宙産業課へのヒアリングでは、次の回答が得られました。

「宇宙ビジネスの中では比較的昔からあり、すでに産業として確立している分野です。現在は安定性を求めるための改善や物理的な障害を起こさない対策などが課題となっています」

8 衛星製造の動向

1)衛星製造とは

衛星製造とは、その名の通り、衛星の開発・製造を担う分野です。

内閣府「宇宙輸送を取り巻く環境認識と将来像」によると、世界の衛星の年間打ち上げ数は10年間(2013年~2022年)で206機から2368機に急増しています。これは、衛星の小型化により低価格化したことに加え、ロケット1機に積載できる数が増えたためです。

衛星の部品やコンポーネントは、精度や消費電力、出力において高品質であることに加え、宇宙空間の過酷な環境(真空や放射線など)に耐えるため、軽量かつ高耐久でなければなりません。そのため、専用に開発された特殊なものが大半でした。しかし、近年の衛星開発では、コストダウンを目的とし、一般的な市販品を利用するケースもあります。

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2)衛星製造の課題

衛星製造の課題には、次のようなものがあります。

経済産業省の宇宙産業課へのヒアリングでは、次の回答が得られました。

「日本の衛星製造は、サプライチェーンが脆弱であることが課題です。これは、『宇宙用製品の製造経験が少ないこと』『コストダウンのための量産体制を構築できていないこと』が原因と考えられます。これを解消するには、衛星データの利用ビジネスが拡大しなければなりませんが、そのためには高性能かつ低価格な衛星を打ち上げることが欠かせません。どこかの分野が大きく成長することを期待するのではなく、全体的な支援が必要になると考えています」

9 宇宙輸送の動向

1)宇宙輸送とは

宇宙輸送とは、ロケットの製造・打ち上げサービスの総称です。

世界のロケットの打ち上げ数は、順調に伸びていますが、成長の大部分を占めているのがSpaceX(米国)です。同社はロケットの低価格化で圧倒的な競争力を実現し、“一強”状態にあります。加えて、さらなる低価格化、ひいては競争力向上に向けた開発を進めており、2024年10月にはロケットブースターを再利用するべく、発射台での回収に成功しました。

また、中国も着実に打ち上げ数を増やしており、2018年以降、存在感を増しています。

一方、日本は、ロケットの性能面において世界各国に劣ってはいないものの、製造や発射場が制約となり、打ち上げ数は伸びていません。これに対し、政府は2030年前半までに年30機の打ち上げを目指すとしています。

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なお、日本の稼働中のスペースポートは次の4港です。

さらに、大分県国東市「大分空港」と沖縄県宮古島市「下地島空港」が宇宙港としての開港に向けて整備を進めています。

2)宇宙輸送の課題

宇宙輸送の課題には、次のようなものがあります。

経済産業省の宇宙産業課へのヒアリングでは、次の回答が得られました。

「課題の内容は衛星製造(第8章)とおおむね同じですが、それに加えて、SpaceXを中心とする海外企業に国内の打ち上げ需要が取り込まれていることが大きな課題です。この課題を解決するため、日米欧の宇宙機関や企業が新型ロケット開発に取り組んでいます。当該企業からは『特定分野での技術を持った企業が不足している』などの声が聞こえてくるので、中小企業の皆様はぜひマッチングイベントや商談会に参加していただきたいです」

10 宇宙ビジネスの規制・制度(宇宙法)

宇宙法とは、宇宙活動に関連する法律の総称です。これには「宇宙基本法」「衛星リモセン法」「宇宙活動法」「宇宙資源法」があります。

1)宇宙基本法

日本における宇宙開発・利用に関する基本理念や基本的施策などを定めた法律で、2008年8月に施行されました。この法律に基づいて、以降の法律が制定されています。

2)衛星リモセン法

正式名称は「衛星リモートセンシング記録の適正な取扱いの確保に関する法律」で、2017年11月に施行されました。宇宙からの観測情報がテロリストなどに渡れば、安全保障上の脅威となることから、同法では次のことについて定められています。

3)宇宙活動法

正式名称は「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律」で、2018年11月に施行されました。同法では次のことについて定められています。

4)宇宙資源法

正式名称は「宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動の促進に関する法律」で、2021年12月に施行されました。同法では次のことについて定められています。

なお、国際条約の「月その他の天体における国家活動を律する協定(通称「月協定」)」(1984年発効)では、領有の禁止が定められていますが、日本やアメリカ、中国、ロシアは同条約に批准していません。

以上(2025年1月作成)

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画像:Natalia-Adobe Stock

【かんたん所得税 まとめ】副業解禁などで「確定申告」をする人が知っておきたい所得税の計算方法

書いてあること

  • 主な読者:副業解禁などにより所得税の確定申告が必要になった人、なりそうな人
  • 課題:これまでは会社が源泉徴収してくれていたので、確定申告のイメージがわかない
  • 解決策:所得は10種類で、他と総合するものと、分離するものとがある。所得控除もある

1 給与所得者も確定申告が必要な時代?

個人事業主やフリーランスにとって、所得税の確定申告は面倒な作業です。近年は副業や仮想通貨の取引などによって給料以外の所得を得る人が増え、給与所得者でも確定申告が必要なケースが増えているようです。原則として、給与所得者は源泉徴収と年末調整によって確定申告は不要ですが、

  • 2カ所以上から給与等の支払いを受けている一定の人
  • 給与所得、退職所得以外の所得(副業などの所得)が20万円を超える人
  • 給与等の年収が2000万円を超える人

などの場合は確定申告が必要です。

働き方改革など時代の変化によって、必要な知識も変わってきます。このシリーズでは、所得税の基本や計算フローの全体像を紹介していきます。

2 課税の対象となる「所得」は10種類

所得税とは、1年間(1月1日から12月31日)の個人の所得にかかる税金(法人の所得については法人税など)です。納税者が自分で1年間の所得とその税額を計算し、原則として、翌年2月16日から3月15日(15日が土日祝日の場合は翌日)までの間に税務署に確定申告をして納税します。これを申告納税方式といいます。所得は次の10種類に区分して計算します。

  • 利子所得:銀行預金の利子収入などに係る所得
  • 配当所得:株式の配当金収入などに係る所得
  • 不動産所得:貸家や土地の賃貸料収入に係る所得
  • 事業所得:個人事業に係る所得
  • 給与所得:給料や賞与に係る所得
  • 退職所得:退職金収入に係る所得
  • 山林所得:所有期間が5年を超える山林の売却に係る所得
  • 譲渡所得:土地、建物、株式等、書画、骨董品などの資産の売却に係る所得
  • 一時所得:クイズの賞金収入や生命保険の満期保険金などに係る所得
  • 雑所得:年金収入など他の所得のいずれにも該当しない所得

以降では、所得税の計算フローを4つのステップで紹介します。なお、それぞれの所得の詳細解説については、次のコンテンツをご参照ください。

3 第1ステップ:各種所得の金額の計算

所得を10種類に分類してそれぞれの金額を計算します。この記事では、各種所得の計算式だけを解説しています。

1)利子所得

イ.利子所得の金額(預貯金や公社債などの利子の額)

2)配当所得

イ.収入金額(株式の配当など)

ロ.負債の利子(借入金により取得した株式などについて、その借入金利子)

ハ.イ-ロ=配当所得の金額

3)不動産所得

イ.総収入金額(家賃収入、地代収入など)

ロ.必要経費(固定資産税、管理費、減価償却費など)

ハ.イ-ロ=不動産所得の金額

4)事業所得

イ.総収入金額(売上高、雑収入など)

ロ.必要経費(売上原価、販売費、一般管理費など)

ハ.イ-ロ=事業所得の金額

5)給与所得

イ.収入金額(給料や賞与の額)

ロ.給与所得控除額(収入金額に応じ一定の額を計算)

ハ.イ-ロ=給与所得の金額

6)退職所得

イ.収入金額(退職金の額)

ロ.退職所得控除額(勤続年数に応じ一定の額を計算)

ハ.(イ-ロ)×1/2=退職所得の金額

特定役員退職手当等に該当する場合は、2分の1を乗じません。特定役員退職手当等とは、勤務年数が5年以下の役員等に支払われる退職金をいいます。

また、2022年1月1日以降に、役員等でない、勤続年数5年以下の社員に支給された退職金(短期退職手当等)で、短期退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額が300万円を超える部分については、2分の1を乗じることができません。

7)山林所得

イ.総収入金額(山林の売却収入など)

ロ.必要経費(植林費、育成費、管理費、伐採費、譲渡費用など)

ハ.特別控除額(「イ-ロ」の金額を限度として50万円を控除)

ニ.イ-ロ-ハ=山林所得の金額

8)譲渡所得

イ.譲渡(総)収入金額(土地・建物、株式等の売却金額)

ロ.取得費+譲渡費用

ハ.特別控除額(分離課税となるものを除き、「イ-ロ」の金額を限度として50万円を控除)

ニ.イ-ロ-ハ=譲渡所得の金額

9)一時所得

イ.総収入金額(保険金収入やクイズの賞金収入)

ロ.支出した金額(イの収入を得るために直接要した金額)

ハ.特別控除額(「イ-ロ」の金額を限度として50万円を控除)

ニ.イ-ロ-ハ=一時所得の金額

10)雑所得

イ.公的年金等の所得

a.収入金額(公的年金等の額)

b.公的年金等控除額(受給者の年齢と収入金額に応じ一定の額を計算)

c.a-b=公的年金等の所得

ロ.公的年金等以外の所得

a.総収入金額(生命保険の年金などの額)

b.必要経費(ロに係る費用を計上)

c.a-b=公的年金等以外の所得

ハ.イ+ロ=雑所得の金額

4 第2ステップ:「課税標準」の計算

1)総合課税

各種所得のうち、次の総合課税の対象となる所得の金額を合算します。

利子所得(一部除く)、配当所得(一部除く)、不動産所得、事業所得、給与所得、雑所得、一時所得、譲渡所得(土地・建物・株式等の譲渡を除く)

なお、譲渡所得(土地・建物・株式等の譲渡を除く)は、譲渡資産の所有期間が5年以下なら「総合短期譲渡所得」、5年超なら「総合長期譲渡所得」となります。そして、この総合長期譲渡所得と一時所得は、その2分の1を合算します。

2)分離課税

各種所得のうち、分離課税の対象となるのは次の通りです。

退職所得、山林所得、譲渡所得(土地・建物、株式等の譲渡)、利子所得(特定公社債等の申告分離課税を選択したもの)、配当所得(上場株式等の申告分離課税を選択したもの)

退職所得と山林所得は、それぞれ「退職所得金額」「山林所得金額」という別個の課税標準とされます。

譲渡所得のうち土地・建物等に係るものは、譲渡資産を譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年以下なら「分離短期譲渡所得」、5年超なら「分離長期譲渡所得」となり、それぞれ「短期譲渡所得の金額」「長期譲渡所得の金額」という別個の課税標準とされます。また、譲渡所得のうち株式等に係るものについては、「株式等に係る譲渡所得等の金額」という別個の課税標準とされます。

利子所得は、ほとんどが利子の支払いを受ける際、所得税等が源泉徴収されて課税が完結する源泉分離課税とされています。

3)損益通算:赤字と黒字の相殺

不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得の4つが赤字(損失の金額)の場合、一定の順序で他の黒字の所得と損益通算(相殺)できます。ただし、次の譲渡所得は損益通算できません。

  • ヨットやグランドピアノなど、生活に通常必要ない資産を売却した場合の赤字
  • 土地・建物等(一定の居住用財産を除く)を売却した場合の赤字
  • 株式等を売却した場合の赤字(上場株式等の譲渡損は、上場株式等に係る配当所得と損益通算ができる)

4)純損失の繰越控除

損益通算してもなお通算し切れない赤字を「純損失の金額」といい、青色申告者については、翌年以降3年間の繰越控除が認められます。

なお、「分離課税・総合課税」「損益通算」の詳細解説については、次のコンテンツをご参照ください。

5 第3ステップ:課税所得金額の計算

第2ステップの課税標準から所得控除額を控除して、「課税所得金額」を計算します。所得控除には次の15種類があります。

  • 雑損控除:災害により住宅や家財に多大な損害を受けた場合など
  • 医療費控除:原則として10万円超の医療費を支払った場合
  • 社会保険料控除:健康保険料、厚生年金保険料、国民年金保険料等を支払った場合
  • 小規模企業共済等掛金控除:小規模企業共済制度の掛金、個人型年金加入者掛金等を支払った場合
  • 生命保険料控除:生命保険料や個人年金保険料、介護医療保険料を支払った場合
  • 地震保険料控除:地震保険料を支払った場合
  • 寄附金控除:国、地方公共団体、一定の公益法人等に寄附金を支払った場合
  • 配偶者控除:自分の合計所得金額が1000万円以下で、同一生計の配偶者の合計所得金額が48万円以下である場合
  • 配偶者特別控除:自分の合計所得金額が1000万円以下で、同一生計の配偶者の合計所得金額が48万円超133万円以下である場合
  • 扶養控除:扶養親族(一定年齢の同一生計の親族等で合計所得金額が48万円以下)を有する場合
  • 障害者控除:本人または一定の親族等が障害者である場合
  • 寡婦控除:本人が寡婦(配偶者と死別等をした一定の女性)で、合計所得金額が48万円以下の扶養親族がいる場合など
  • ひとり親控除:一定のひとり親で合計所得金額が48万円以下の子供がいる場合
  • 勤労学生控除:本人が勤労学生(働きながら学校に通う一定の者)である場合
  • 基礎控除:全ての人に基礎控除が認められているが、合計所得金額が2500万円を超える人は適用対象外

なお、の詳細解説については、次のコンテンツをご参照ください。

6 第4ステップ:納付税額の計算

1)算出税額の計算

課税所得金額には、総合課税される「課税総所得金額」と分離課税される「課税短期譲渡所得金額」「課税長期譲渡所得金額」「株式に係る課税譲渡所得等の金額」「課税山林所得金額」「課税退職所得金額」などがあります。

課税総所得金額と所得税額の速算表は次の通りです。課税所得金額の大きさに応じて適用される超過累進税率により、所得税額が計算されます。超過累進税率とは、所得が高くなるほど税率が高くなる仕組みで、今の税率は5%~45%の7段階に区分されています。

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一方、分離課税される各課税所得については、それぞれに適用される税率で所得税額が計算されます。

2)税額控除額の控除

配当控除や住宅借入金等特別控除などの税額控除額を算出税額から控除します。配当控除は、配当所得がある場合に、法人税と所得税の二重課税を調整するために設けられています。また、住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)は、住宅をローンで購入し、一定の要件を満たした場合に認められるもので、住宅政策の一環として設けられています。

3)源泉徴収税額の控除

配当金や給料などの支払いを受ける場合、受取額からあらかじめ所得税が天引きされます。天引きされる所得税を源泉徴収税額といいます。天引きされた所得税は、前払税額として、納付税額の計算の際に控除します。

4)予定納税額の控除

予定納税とは、税額の前払制度のことです。前年に確定申告をして税金を納めた一定の者は、その納めた税額を基礎に7月(第1期)と11月(第2期)に、一定の前払税金を納めることが義務付けられています。予定納税額は前払税額として、納付税額の計算の際に控除します。

5)納付税額の計算

納付税額の計算式は次の通りです。また、分離課税による所得がある場合には、それぞれ算出した税額を合算します。こうして、第3期納付税額を翌年2月16日から3月15日までに確定申告をするとともに、国に納めることとなります。

  • 課税所得金額等(千円未満切り捨て)×超過累進税率等=算出税額
  • 算出税額-税額控除額-源泉徴収税額=申告納税額(百円未満切り捨て)
  • 申告納税額-予定納税額=第3期納付税額

6)復興特別所得税

2013年から2037年まで、復興特別所得税として、基準所得税額の2.1%が追加課税されます。

  • 基準所得税額=所得税額-所得税から差し引かれる金額(住宅借入金等特別控除等)

以上(2024年12月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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【かんたん所得税(7)】おトク情報! 住宅を売った時に受けられる所得税の特例とは?

書いてあること

  • 主な読者:住宅を売ったことで利益が出た人、または売ることを検討している人
  • 課題:住宅を売った時に、利益や損失が出たときに受けられる特例を知りたい
  • 解決策:利益が出たら特別控除、軽減税率など。損失が出たら他の所得と相殺など

1 住宅を売った時や買い換えた時には、税金優遇あり

住宅を売った時や買い換えた時の金額は多額で、その年の所得税に大きな影響を与えます。納税額を減らしたり、将来に所得を繰り延べたりできる特例もあるので、利用できるものは利用したいものです。

この記事では、2024年に住宅と住宅用土地(以下「居住用財産」)を売った時や買い換えた時の、お得な特例を紹介していきます。

2 居住用財産を売って利益が出た:3000万円特別控除

1)概要

居住用財産を売った場合、譲渡所得から3000万円を控除(譲渡益の金額が限度)できます。

2)要件

売った居住用財産が、次の要件を満たす必要があります。

  • 実際に住んでいるか、住まなくなった日から3年が経った年の12月31日までに売ること
  • 土地だけの場合は、火災などで住宅が消失したなど一定の事由に該当していること

また、売った相手が、配偶者や同一生計親族など特別の関係にある人ではいけません。さらに、売った年、前年もしくは前々年において、他の居住用財産の特例の適用を受けていてはいけません。ただし、この3000万円特別控除と軽減税率の特例(詳細は後述)は同時に適用を受けられます。

3 居住用財産を売って利益が出た:軽減税率の特例

1)概要

所有期間が10年を超える居住用財産を売った場合、通常(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)より低い税率(所得税・復興特別所得税10.21%、住民税4%。軽減税率という)で、所得税の納税額を計算することができます。

課税譲渡所得金額(税率を掛ける前の金額)が6000万円以下か否かで税率が違います。

1.課税譲渡所得金額が6000万円以下の場合

所得税:10.21%(復興特別所得税を含む)

住民税:4%

2.課税譲渡所得金額が6000万円超の場合

  • 6000万円以下の部分

    所得税:10.21%(復興特別所得税を含む)

    住民税:4%

  • 6000万円超の部分

    所得税:15.315%(復興特別所得税を含む)

    住民税:5%

2)要件

売った居住用財産が、次の要件を満たす必要があります。

  • 実際に住んでいるか、住まなくなった日から3年が経った年の12月31日までに売ること
  • 売った年の1月1日時点の所有期間が10年を超えていること

また、売った相手が、配偶者や同一生計親族など特別の関係にある人ではいけません。さらに、売った年、前年もしくは前々年において、他の居住用財産の特例の適用を受けていてはいけません。ただし、この軽減税率の特例と3000万円特別控除は同時に適用を受けられます。

4 居住用財産を買い換えた

1)概要

今まで住んでいた居住用財産を売って、新たに別の居住用財産に買い換えた場合の特例です。

売った金額が買い換えた金額より少ない場合、今まで住んでいた居住用財産を売って利益が出ても、その年には課税されません。ただし、新たに買い換えた居住用財産を将来売ったときに、まとめて計算されます(課税の繰り延べ)。

逆に、売った金額が買い換えた金額より多い場合、今まで住んでいた居住用財産を売って利益が出ても、その利益に課税されるのではなく、売った金額と買い換えた金額の差額を収入金額として譲渡所得を計算します。

2)要件

売った居住用財産が、次の要件を満たす必要があります。

  • 売った居住用財産の売却額が1億円以下であること
  • 売った人の居住期間が10年以上であること
  • 売った年の1月1日時点の所有期間が10年を超えていること
  • 実際に住んでいるか、住まなくなった日から3年が経った年の12月31日までに売ること
  • 土地だけの場合は、火災などで住宅が消失したなど一定の事由に該当していること

また、買い換えた居住用財産が、次の要件を満たす必要があります。

  • 住宅の床面積が50平方メートル以上であること
  • 土地の面積が500平方メートル以下であること
  • 中古である場合には築後25年以内のものであること。または構造が一定の安全基準を満たしているものであること
  • 以前住んでいた居住用財産を売った年か、その前年に取得している場合には、売った年の翌年12月31日までに住み始めていること
  • 以前住んでいた居住用財産を売った年の翌年に取得している場合(確定申告書に一定の書類の添付が必要)には、取得した年の翌年12月31日までに住み始めていること

また、売った相手が、配偶者や同一生計親族など特別の関係にある人ではいけません。さらに、売った年、前年もしくは前々年において、他の居住用財産の特例の適用を受けていてはいけません。

3)特例計算と具体例

この特例の適用を受ける場合、居住用財産の譲渡について、譲渡所得の金額と買換資産の取得価額は次のように計算します。

1.売った金額(A)が、買い換えた金額(B)より少ないケース

譲渡所得の金額=0円(譲渡はなかったものとみなす)

買換資産の取得価額=(譲渡資産の取得費+譲渡費用)+(B-A)

2.売った金額(A)が、買い換えた金額(B)より多いケース

譲渡所得の金額=(A-B)-(取得費+譲渡費用)×(A-B)/A

買換資産の取得価額=(譲渡資産の取得費+譲渡費用)×B/A

具体例を見ながら確認しましょう。居住者であるAさんは、2024年1月に自己所有の住宅を1000万円、その土地を5000万円で売りました。売るための諸費用(以下「譲渡費用」)は100万円でした。

この住宅と土地は、Aさんが2006年に取得してから住み続けていたもので、取得したときの購入代金や購入手数料の合計額(以下「取得費」。住宅の場合は、合計額から所有期間の減価償却費相当額を差し引いた金額)は住宅が700万円で、土地が2200万円です。

Aさんは、上記の売った代金と自己資金で新たに土地(面積250平方メートル)を取得し、その上に新築の住宅(床面積150平方メートル)に買い換え、2024年2月から住み始めています。

売った年の1月1日における所有期間が10年を超え、また居住期間が10年以上である居住用財産を売り、要件を満たす居住用財産を新たに取得し居住の用に供しているため、特例の適用を受けることができます。

その場合の譲渡所得の金額と買い換えた居住用財産の取得価額は、次のように計算されます。

1.売った金額が、買い換えた金額より少ないケース(買い換えた居住用財産の取得価額が住宅3000万円、土地4000万円である場合)

  • 譲渡所得の金額
    イ.1000万円+5000万円=6000万円
    ロ.3000万円+4000万円=7000万円
    ハ.イ.≦ロ.
    ∴譲渡はなかったものとされます(譲渡所得ゼロ)
  • 買い換えた居住用財産の取得価額(将来の売却時に使うもの)
    (700万円+2200万円+100万円)+(7000万円-6000万円)=4000万円

将来の譲渡時にまとめて課税するために、今回売った居住用財産の取得費・譲渡費用(700万円+2200万円+100万円)を買い換えた居住用財産に引き継がせます。また、取得価額は、売った居住用財産の対価を超える部分(7000万円-6000万円=1000万円)しか認識しません。

2.売った金額が、買い換えた金額より多いケース(買換資産の取得価額が住宅2000万円、土地3000万円である場合)

  • 譲渡所得の金額
    イ.1000万円+5000万円=6000万円
    ロ.2000万円+3000万円=5000万円
    ハ.イ.>ロ.
  • 収入金額
    6000万円-5000万円=1000万円
  • 収入金額から控除できる取得費および譲渡費用
    (700万円+2200万円+100万円)×(6000万円-5000万円)/6000万円
    =500万円
  • 譲渡所得の金額
    収入金額1000万円-取得費および譲渡費用500万円=500万円
  • 買換資産の取得価額
    (700万円+2200万円+100万円)×5000万円/6000万円=2500万円

買い換えた居住用財産の取得価額を超える部分のみが課税されます。この場合、譲渡資産の取得費と譲渡費用が今回の譲渡について計上する部分と買換資産に引き継がせる部分とに按分されます。

5 居住用財産を売って損失が出た

1)概要

居住用財産を売ったときの所得は、他の所得と合算できません(分離課税)。そのため、本来は損失が出ても他の所得の黒字と相殺(損益通算)できないのですが、居住用財産を売って損失が出た場合は、要件を満たすことで損益通算できます。また、損失が大きすぎて、1年分の他の所得では相殺しきれない場合、翌年以後3年間で相殺できます(以下「繰越控除」)。

この特例は、

  • 居住用財産を買い換え、その買い換えのために住宅ローンを組んだ場合(居住用財産の買い換え等の場合の譲渡損失の特例)
  • 居住用財産を売った金額以上の住宅ローンの残高がある場合(特定居住用財産の譲渡損失の特例)

に認められます。

2)適用:居住用財産を買い換え、その買い換えのために住宅ローンを組んだ場合

1.売った居住用財産と買い換えた居住用財産の要件

まず、売った居住用財産が、次の要件を満たす必要があります。

  • 売った年の1月1日時点の所有期間が5年を超えていること
  • 実際に住んでいるか、住まなくなった日から3年が経った年の12月31日までに売ること
  • 土地だけの場合、火災などで住宅が消失したなど一定の事由に該当していること

買い換えた居住用財産が、次の要件を満たす必要があります。

  • 住宅の床面積が50平方メートル以上であること
  • 売った年、またはその前年に買い換えたものであること。または、売った年の翌年中に取得する見込みであること
  • 買い換えた居住用財産を取得した年の12月31日時点に、償還期間が10年以上の住宅ローン(買い換えた居住用財産に係るもの)の残高があること
  • 以前住んでいた居住用財産を売った年の翌年12月31日までに住み始めていること。または、住み始める見込みであること。

2.売った相手が配偶者などではない

売った相手が、配偶者や同一生計親族など特別の関係にある人ではいけません。

3.その年分の合計所得金額が3000万円以下

合計所得金額(給与所得など他の所得も合わせた所得の合計額)が、3000万円を超えてはいけません。

4.直近3年間に居住用財産に係る他の特例を受けていない

売った年、前年もしくは前々年において、他の居住用財産の特例の適用を受けていてはいけません。

5.売った年の前年以前3年内に、この特例を受けていない

売った年の前年以前3年内の年に生じた他の居住用財産の譲渡損失の金額について、この特例(居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の特例)を受けていてはいけません。

3)適用:居住用財産を売った金額以上の住宅ローンの残高がある場合

1.売った居住用財産の要件

売った居住用財産が、次の要件を満たす必要があります。

  • 売った年の1月1日時点の所有期間が5年を超えていること
  • 実際に住んでいるか、住まなくなった日から3年が経った年の12月31日までに売ること
  • 土地だけの場合は、火災などで住宅が消失したなど一定の事由に該当していること
  • 売った居住用財産の売買契約日の前日において、償還期間が10年以上の住宅ローン(売った居住用財産に係るもの)の残高があること

2.売った金額が、住宅ローン残高を下回る

売った金額が、売買契約日の前日における住宅ローン残高を下回っている必要があります。

3.売った相手が配偶者などではない

売った相手が、配偶者や同一生計親族など特別の関係にある人ではいけません。

4.その年分の合計所得金額が3000万円以下

合計所得金額(給与所得など他の所得も合わせた所得の合計額)が、3000万円を超えてはいけません。

5.直近3年間に居住用財産に係る他の特例を受けていない

売った年、前年もしくは前々年において、他の居住用財産の特例の適用を受けていてはいけません。

6.売った年の前年以前3年内に、この特例を受けていない

売った年の前年以前3年内の年に生じた他の居住用財産の譲渡損失の金額について、この特例(特定居住用財産の譲渡損失の特例)を受けていてはいけません。

以上(2024年12月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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