周りに遠慮して休まない社員に上手に休暇を取らせる方法とは?

1 仕事をしながら休暇を取ってもいい!

適度に休み、心身のコンディションを整えて仕事のパフォーマンスを上げる。何の異論もないところですが、なぜか休まない社員がいます。どうやら、

  • 周囲が忙しそうなのに自分だけ休めない
  • 休むといっても引き継ぎをするのが面倒

などと考えているようなのです。こうした社員は、

この会社は、いざというときに周囲のサポートを当てにできない

と考えており、ちょっとした気持ちの変化で文句を言ったり、ライフイベント(結婚や出産、介護など)の発生によって転職を決意したりします。そうならないために、

  • 雰囲気づくり:休暇を歓迎し、上司も快く部下の休暇を承認する
  • 休暇制度の見直し:半日休暇などを検討する

を進めることをご提案します。なお、休暇取得を促進するのは、決して甘い組織をつくりたいわけではなく、メリハリのある働き方の実現するためです。

2 休暇を取りやすい雰囲気づくり

1)休暇は楽しい!

「休暇は楽しい!」という雰囲気をつくりましょう。「え、そんなことでいいの?」と思われるかもしれませんが、とにかく休暇を取得する社員には明るく接し、プライベートに深入りしない程度に「いいね! どこに行くの?」「何の映画を見るの?」など、休暇を歓迎します。

もちろん、経営者自身も休みを取りましょう。差し支えなければ、自分の休暇の過ごし方をみんなに話して、

仕事もプライベートも大切にする会社であることをアピール

します。

2)上司(管理職)を巻き込む

休暇を申請したら上司がいい顔をしなかった。あるいは、上司がいつも残業しているのに自分だけ休むのは気が引ける……。こんな職場では部下は畏縮して休暇を取得できません。

そこで、経営者は、上司に部下の休暇取得を促進するように指示します。人事考課の中に、

部下の年休(年次有給休暇)の取得率を対前年度比で◯%向上させる

ことを加えるのもよいでしょう。

また、部下が遠慮しないで済むよう、上司自身にも休暇を取らせましょう。例えば、マネジメントが苦手で1人で仕事を抱え込んでしまう上司には、「それは君がやる仕事ではない」と伝え、部下に振るよう指導します。そうすれば、休暇のための時間は案外簡単に捻出できるものです。

3 休暇制度の中身を見直す

1)半日単位・時間単位の休暇にしてみる

半日単位や時間単位の休暇は、比較的、取得しやすいです。仕事とプライベートの用事(子どもの送り迎えや家族の介護など)を交互にこなす社員は多いですし、旅行先でレジャーを楽しみながら合間に仕事をしたい社員にとってもうれしいものです。

年休については半日単位で付与できますし、過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)と労使協定を締結すれば1時間単位でも付与できます。会社が独自に就業規則等で定める特別休暇についても、内容によっては半日単位・時間単位を検討してみましょう。

2)休暇取得日をあらかじめ指定する

休暇取得日をあらかじめ指定するのも一策です。年休の場合、

付与日数が年10日以上の社員(基本は正社員)については、そのうち5日まで会社が休暇取得日を指定して取得させる義務

があります。会社命令であれば、社員も周囲に遠慮せず休むことができます。

また、会社が年休取得日を計画的に割り振る「計画的付与」という制度もあります(労使協定の締結が必要)。社員が休暇を取得する日が事前に分かるので、同僚は協力してフォローすることができます。ただし、一度割り振った休暇取得日を後から変更することはできません。

休暇取得日を指定する場合は、ゴールデンウイークや夏季休暇、年末年始などに合わせて長期休暇を実現させるのもよいでしょう。例えば“年末年始が10連休以上”となれば、社員はそれを1つのゴールとして頑張ることができます。なかなか休暇が取得できない社員でも、夏季休暇や年末年始などであれば休みを取りやすいでしょう。

3)取得時季や目的が明確な特別休暇を利用する

休暇には、法令で定められている「法定休暇」と、会社が独自に設定する「特別休暇」があります。特別休暇は、取得時季や取得目的が明確な場合が多いことが特徴です。原則としていつでも取得できる年休よりも、特別休暇のほうが取得しやすいという社員も少なくないようです。

例えば、次のような特別休暇があります。

画像1

ちなみに、図表の赤字の休暇は、「働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)」という助成金と関わりがあります。

図表の赤字の休暇のいずれか(有給のものに限る)を導入し、就業規則等で前述した「年休の5日取得」の規定を整備するなど一定の取り組みをすると、最大920万円

を受給できる可能性があります。興味のある人は、厚生労働省のウェブサイトをご確認ください。なお、2025年度の助成金の申請期限は、2025年11月28日までです。

■厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120692.html

以上(2025年5月更新)

pj00373
画像:pixabay

令和6年の交通事故の特徴と対策(2025/5号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

警察庁公表の「令和6年における交通事故の発生状況について」によると、全体の交通事故件数、死傷者数は昨年から減少しましたが、「30日以内死者数」や「ながら運転・飲酒運転などによる死亡・重傷事故件数」は増加するなど、重大事故の危険性が減っているとはいえません。今回はそれらの事故の特徴と対策について考えます。

交通事故の特徴と対策

1 交通事故の発生状況とその特徴

令和6年中の交通事故死傷者数は減少しました(前年比21,215人減少)。一方で「30日以内死者数」は2年連続で増加しました(図1)。

図1 交通事故死傷者数と30日以内死者数の推移

交通事故死傷者数

出典:警察庁「令和6年における交通事故の発生状況について」から当社作成

いわゆる「ながら運転」事故による死亡・重傷事故件数についても増加傾向が続いており、ながら運転の厳罰化(令和元年の道路交通法改正)以前の水準を超えて増加しています(図2)。

図2 自動車運転中の携帯電話等による死亡・重傷事故件数の推移

「ながら運転」事故による死亡・重傷事故件数

出典:警察庁「令和6年における交通事故の発生状況について」から当社作成

その他、以下のような傾向が現れていました(いずれもグラフ掲載は省略)。

  • 自転車乗用中事故の死傷者数は減少し、特に若年層に「負傷者」が、また高齢者層に「死者」が多い (昨年同様の傾向)
  • 自動車の単独事故件数では75歳以上の高齢者運転者による事故が75歳未満の約2.5倍
  • 飲酒運転による死亡事故件数は前年比25%増加

2 携帯電話等使用による交通事故の増加

携帯電話等を操作しながら運転したことによる死傷事故件数は、20~30歳代が全体の半数以上を占めます(図3)。この年齢層はいわゆる「デジタルネイティブ世代」と重なる形です。デジタル環境に慣れ親しんでいる世代の方々に対し「ながら運転」の危険性について、交通安全教育のほか、職場や同乗中の同僚の方からも注意喚起等をすることで、理解・浸透を進めることが期待されます。

図3 運転者年齢層別携帯電話等使用による死傷事故件数

死傷事故件数

出典:警察庁「令和6年における交通事故の発生状況について」から当社作成

3 自転車との事故を防ぐには

今回の警察庁資料では自転車事故にも焦点が当てられています。なかでも15~19歳の年齢層では「負傷者」が多くなっており、これに関連して自転車乗用中の「ながら運転」による事故が増加傾向にあること、その約6割を19歳以下が占めること、などの分析が報告されています。一方で65歳以上の年齢層では「死者」が多かったことに関連し、特に飲酒運転による死傷事故は50代以上が6割を占めていたことが取り上げられています。

ながら運転・飲酒運転は共に法令違反ですが、車を運転する側の立場から、自転車との事故を防止するためには、例えば以下のような対策が考えられます。

  • 法令理解が不十分な/法令遵守意識が低い自転車利用者が多いことを踏まえた危険予測運転
  • 生活道路等で見通しの悪い交差点通過時や、構内・駐車場から公道へ出る際は「構え運転」で

【構え運転(構えブレーキ)とは】

構えブレーキ

構え運転(または構えブレーキ)とは、アクセルから足を離して、足先をブレーキペダルに触れる程度に置き、いつでも踏み込める状態で前進する運転です。アクセル→ブレーキへのペダルの踏みかえ動作が省略できるので、不意の出来事に対して素早くブレーキ対応できます。

以上(2025年5月)

sj09148
画像:amanaimages

「自分はまだ若い!」と思っている高齢社員の労災はどう防ぐ?

1 休業4日以上の労災は60歳以上が29.3%

人材不足の日本では高齢社員に頼る部分がますます大きくなっていきますが、問題は若年社員よりも労働災害(労災)に遭いやすいことです。2023年に発生した労災によって4日以上休まなければならない死傷者数は、60歳以上が3万9702人(全体の29.3%)と最多です。

画像1

人間は加齢とともに身体機能が低下していくので、高齢社員を多く抱える会社ほど、労災のリスクが高まります。具体的な対策のポイントは、

  • 身体機能の中で、特に低下しやすいものを押さえる(平衡機能、聴力など)
  • 高齢社員に「労災に遭う危険がある」と気付かせる(健康診断、体力テストなど)
  • 身体機能に配慮し、高齢社員の働き方改革を図る(役割分担、労働時間など)

です。以降でそれぞれ紹介するので、確認していきましょう。

また、厚生労働省「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)」では、高齢社員が安全に働ける職場環境づくりや労災防止のポイントなどがまとめられていますので、こちらも併せてご確認ください。

■厚生労働省「エイジフレンドリーガイドライン」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10178.html

2 身体機能の中で、特に低下しやすいものを押さえる

まずは、加齢とともに身体機能がどの程度低下するのかを押さえましょう。図表2は、20~24歳ないし最高期の身体機能を100とした場合の、55~59歳における各種機能の水準です。赤字の身体機能は、水準が50未満に低下しているもので、特に注意が必要です。

画像2

赤字の機能に注目した場合、業務では次のような問題が生じることが考えられます。

  • 夜勤後体重回復:夜勤で減少した体重が回復しにくく、疲れやだるさを感じる
  • 平衡機能:直立姿勢時の重心動揺が大きくなり、転倒しやすくなる
  • 皮膚振動覚:振動に対する感覚が鈍化し、機械の異常などに気付きにくくなる
  • 聴力:騒音時の声などが聞こえにくく、「危ない」と言われても気付かない
  • 薄明順応:暗い場所で作業をしようとしても、目が慣れず、物が見えにくい

3 高齢社員に「労災に遭う危険がある」と気付かせる

高齢社員の中には「自分はまだ若い!」と思っていて、体の衰えを自覚していない人が少なくありません。ですから、高齢社員に対し「労災に遭う危険がある」と気付かせることが大切です。次のような点がポイントです。

1)就業規則などに盛り込み、経営者の姿勢を示す

就業規則(本則や安全衛生管理規程など)に高齢社員の労災防止に関する事項を定めます。安全委員会や衛生委員会の設置義務がある会社なら、委員会の調査審議事項に盛り込むのもよいでしょう。何より大切なのは、

経営者が本気で高齢社員の労災防止に取り組もうとしていると、社内に周知すること

です。こうして高齢社員が健康を意識するようになると、自分の状態などについて相談したくなるかもしれないので、「相談窓口」などを設置するとさらに効果的です。

2)健康診断を実施する

高齢社員の健康状態は、毎年実施する定期健康診断である程度把握できます。パート等(週の所定労働時間が正社員の4分の3未満の社員)については、定期健康診断の実施義務はありませんが、高齢のパート等が多いなら、対象に含めるのが望ましいです。定期健康診断では、

聴力、自覚症状や他覚症状(所見)の有無などが確認できますし、健診機関によっては「平衡機能検査」などのオプション検査も実施

します。高齢社員も今の健康状態が分かれば、無理をせず慎重に行動するようになるでしょう。

3)体力テストなどを実施する

高齢社員が自分の状態を正しく把握できるよう、体力テストなどを実施するのもよいでしょう。例えば、厚生労働省「職場のあんぜんサイト」では、転倒防止の観点から、筋力、敏捷性、静的バランスなどを簡単にセルフチェックできるテストとして、

  • 2ステップテスト[歩行能力・下肢筋力]
  • 座位ステッピングテスト[下肢の敏捷性]
  • ファンクショナルリーチ[動的バランス能力]
  • 閉眼片足立ち[静的バランス能力]
  • 開眼片足立ち[静的バランス能力]

を紹介しています。

例えば、図表3は「2ステップテスト[歩行能力・下肢筋力]」の内容です。「評価値」が低いほど転倒のリスクが高まります。

画像3

■厚生労働省「職場のあんぜんサイト(身体的能力のセルフチェック)■
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/information/tentou1501_14.html

4 身体機能に配慮し、高齢社員の働き方改革を図る

高齢社員に気付きを促すといっても、本人の努力だけで労災をゼロにするのは困難です。健康診断の結果などから高齢社員の傾向をつかんで、会社側でも労働条件を工夫し、労災が起きにくい環境を整えることが大切です。次のような点がポイントです。

1)社内設備を変える

高齢社員が働きやすいよう、社内設備の改善をしていきます。例えば、転倒を防ぐなら、転びやすい場所に手すりを設置する、暗くて作業がしにくい場所の照明を増やすといった具合です。

2)役割分担を変える

人手不足の会社などでは、高齢社員も多くの業務を担当せざるを得ませんが、労災リスクの高い業務については、部分的に若手に任せることを検討してみましょう。例えば、運送業の会社で、高齢社員が梱包・運搬・開梱の全てを担当している場合、

高齢社員は、梱包と開梱だけに専念してもらい、運搬は若手社員に任せる

などして、転倒や腰痛などのリスクを低減します。役割変更が難しい場合は、高齢社員にアシストスーツの着用を義務付けるなどして、身体への負担軽減を図りましょう。

3)労働時間を変える

高齢社員の身体機能を考慮して、労働時間を工夫することも大切です。例えば、疲れが取れにくいという高齢社員の場合、

夜勤はやめて日中の短い時間に勤務する(高齢社員が複数いる場合はシフト制にする)

などすれば、労災対策になるでしょう。

4)雇用の仕方に注目する

高齢社員を継続雇用する場合、1年ごとなどに労働契約を更新するのが一般的です。もし、健康状態を考慮して雇用継続が難しいという判断になったのなら、「雇止め(労働契約を更新しない)」という選択もやむを得ません。

ただし、雇止めにはルールがあるので、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」などに注意しましょう。また、フリーランスのように、雇用以外の方法で、高齢社員が自分のペースで働ける選択肢を用意しておくのも1つの手です。

以上(2025年5月更新)

pj60120
画像:pixabay

若手部下Jさんが部署の業務に「タイパ悪くないですか?」、どう声をかけますか?/武田斉紀の『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』【実践編】(11)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:コミュニケーションに関わる知識やノウハウは、頭では理解できても、実際の場面で使いこなせるようになるまでには高いハードルがあるものです。
  • 解決策:前回シリーズ『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』での知識やノウハウを聞いただけではまだ一歩を踏み出せない、あるいはトライしてみたがうまくいかないという方のために、新シリーズでは【実践編】として社内の“あるある”場面を想定した質問に対して一緒に考えながら、実践イメージを膨らませていただきます。またリーダー側の視点とは別に、若手社員側の視点による上司世代との上手な付き合い方のヒントも紹介していきます。リーダー世代と若手社員とのコミュニケーションギャップを埋めることは、世界を舞台にスピーディな成長をめざす日本企業にとっても喫緊の課題だからです。

1 若手部下Jさんが部署の業務に「タイパ悪くないですか?」、どう声をかけますか?

今シリーズは、前シリーズ『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』の実践編としてお送りしています。毎回実際にありそうなさまざまなシチュエーションを想定して、その際にどんなコミュニケーションを取るのが望ましいかを一緒に考えていきます。

前回第10回のテーマは「モチベーションの育て方」でした。部署の目標達成の締め切り日が迫る中、目標未達のメンバーの1人から突然新しい企画の提案をされた際のコミュニケーションのあり方について、上司、部下、それぞれの立場から考えてみました。

今回は最後の課題[事例10]です。以下に再掲しますので、前回皆さんが考えてみた解答を思い出してみてください。まだ考えていなかった方もぜひ考えてみてください。自ら考えないで、解説だけを読んでいても身に付きませんよ。

—————————

Q.若手部下のJさんに対して、あなたはこの後、最初にどんな声をかけますか? また、それを考える際に注意するべきポイントを3つほど挙げてください。書かれているさまざまな要素を考慮してみましょう。

[事例10]

〇若手部下のJさんは、配属から間もないこともあって、部署全体の業務の流れはもとより、自身の業務にさえ精通できていません。そんなある日、Jさんは上司のあなたに「この業務ってタイパ悪くないですか?」と問いかけてきました。

〇そればかりか「先に先輩に話してみたんですが、“つべこべ言わずに自分の仕事を早く覚えろ”と怒られました。納得いかないです」と不満そうです。

—————————

テーマは「仕事の任せ方」です。「タイパ」はご存じかと思いますが、「タイムパフォーマンス」のことです。起こっている事象を整理することから始め、現場で起こっていることの可能性を探ってみましょう。皆さんの職場でも似たようなケースはありませんか。

2 「思い込み」や「偏見」は互いの距離を遠くする

昭和世代の読者の皆さんの中に、「タイパ」と聞くと「今どきの若い連中は、二言目にはタイパ、タイパだ」と目くじらを立てている人はいませんか。

今の時代、仕事をする上で「タイパ」への意識は常に必要です。

「タイパ」とはすなわち「生産性」のこと。同じ付加価値をどれだけ短い時間で生み出せるか、あるいは同じ時間でどれだけ多くの付加価値を生み出せるかを問うています。そして日本企業の「生産性」は先進国の中でもかなり低いほうだといわれ続けています。

「働き方改革」も「タイパ」が目指す施策の1つです。社内の人材を活かし、結果として生産性と付加価値を高めていく。残業が当たり前の世界をなくし、健康な生活を維持しながら、“いかに短時間で高い成果を上げられるか”が求められているのです。

また「今どきの若い連中は」という偏見は、いつの時代にもあること。生きてきた時代や背景、常識が違う以上、世代間ギャップは生まれて当然なのです。頭ごなしに「今どきの若い連中は」と考えるのではなく、自分たちが若い頃も年配者の言葉が理解できなかったことを思い出してください。

かくいう私も心の中で「今どきの若い連中は」と全く思わないわけではありません。が、「いかんいかん、またやってる」と凝り固まりがちな思考を自戒し、「世代間のギャップなんていつの時代にもあるものだ」と思い直すようにしています。

放っておけば、組織内の世代間ギャップはますます広がり、組織としての力は落ちていくばかりです。

一呼吸おいて、「世代間ギャップなどあって当たり前」と考え、人生経験が豊富で包容力のある先輩のほうから歩み寄っていきましょう。

先ほど、“今の時代、仕事をする上で「タイパ」への意識は常に必要です”と言いましたが、全てを「タイパ」で考えてくださいと言っているのではありません。

例えば「部下からの相談や悩みを聞く」場合や「チームでキックオフミーティングや達成会を行う」場合などは、それ自体が直接付加価値を生むわけではありません。「タイパ」を意識するならば、かける時間は短ければ短いほどいいのでしょうか。

他人である上司と部下、メンバー同士が互いに分かり合うにはそれなりの時間がかかります。

一人ひとりが仕事に集中できるようにサポートし合い、協力し合って高いパフォーマンス(付加価値)を上げるには、それぞれに必要な時間があるでしょう。組織としての付加価値をより高めていきたいのであれば、そこをないがしろにしてはいけません。

今の時代の上司には、常に「タイパ」を意識しつつも、時間をかけるべきところと効率良く進めるべきところをうまく使い分けてマネジメントすることが求められています。

3 若手社員や新参社員の話の「傾聴」をお薦めする3つの理由

「今どきの若い連中は」という負の感情が首をもたげても、一呼吸おいて、世代間ギャップはあって当たり前と考え、先輩のほうから歩み寄ろうと思い直せたとしましょう。さて、次にどんな行動を取ればいいでしょうか。

皆さんに考えていただく課題も今回が最後です。「この業務ってタイパ悪くないですか?」と問いかけてきた若手部下Jさんに対して取るべき行動について、毎回読んでくださった皆さんならもうお気付きですね。そう、「傾聴」してみる、です。

シリーズでそう書いてあるからとか、若手社員のモチベーションのために必要と言われたからしょうがないなどと後ろ向きに考えないでください。

若手社員や、異動・中途入社で加わった新参社員の声を「傾聴」することは、あなたの組織に3つのメリットをもたらす可能性があります。

メリット【1】組織には常に新たな視点が必要

組織というものは、つくった瞬間から保守的になりがちです。複数の人間が集まって一緒に仕事をするには共通のルールが必要で、それを定めて動き始めます。けれども外部環境の変化によってルールは次第に古くなり、陳腐化していきます。

昔からいる人ほど、そのことに気付きません。たとえ気付いていたとしても「いったん決めたんだし、慣れているからいいじゃないか」と、重い腰を下ろしたまま変えたがらないのです。これでは変化に対応できません。

そこに入ってきた若手社員や新参社員は、“よそ者”ならではの異なる視点を持っています。あなたの組織においては常識で当たり前だと思っていたことに対して、「皆さん(王様)、裸んぼうになってますよ」と気付かせてくれる存在なのです。

メリット【2】若手社員のほうが知識・経験がありうる時代

例えば、皆さんはご自身のスマホや人気のSNS、動画などをうまく使いこなせていますか?

私の場合、パソコンやパワーポイントなら若手社員に自信をもって使い方を教えられますが、スマホやSNSを使い倒せているかと問われれば自信がありません。動画を撮影し、編集ソフトを使ってアップしたことはありますが、自在に使いこなしているとまでは言えません。

デジタルやインターネットの急速な進化と普及は、昭和世代にとっては社会に出てから仕事の一部として体験してきたものです。いまだ人生や生活と一体化するまでに至っていないでしょう。

一方で、若手社員の多くは中学生、高校生の時代からそれらが生活の一部であり、違和感なく使いこなせるのです。“年を取っているほど経験が深い”という年功の価値観が全ての時代は終わりました。ことデジタルやネットの世界では完全に崩れているのです。

昭和世代は自らもキャッチアップするべく勉強を続けながらも、追いつけないのであれば若手社員に頭を下げて任せるか、彼らから学ぶしかないのです。

メリット【3】人材育成や組織変革のチャンス

【1】の冒頭で触れたように、組織はつくった瞬間から保守的になりがちです。既存のメンバーの誰かが見直すべき点に気付いたとしても言い出しづらいでしょう。上司から提案したとしても同じやり方でやってきた仲間ですから、「まあまあ、これまでのやり方でみんな慣れてますし」と却下されそうです。

一方で、配属されたばかりの若手社員や新参社員を迎え入れるのは非日常です。既存のメンバーも、少なくとも新しいものが来たという認識があります。そこで、上司が彼らから得た新たな視点をメンバーに提示し、後押ししたらどうでしょう。

新しいやり方への理解を組織全体で共有した上で、新参メンバーをその導入のためのリーダーに据え、既存メンバーのトップをサポート役に任命してみるのです。人材育成や組織変革の良いチャンスとなるかもしれません。

4 上司が最初にかけるべき言葉とは?

部下のJさんに最初にかける言葉は次のようなイメージです。

「お、提案ですか? いいですね、大歓迎ですよ。良い提案なら私からもみんなに後押ししますから、内容を聞かせてくれますか?」

部下からの提案は、相手が新人だろうと、その社員の現状の業績が振るわなかろうと、ウェルカムで臨みましょう。それでこそ彼らは上司を信頼し、何でも相談しやすくなります。

こちらが今多忙なら「いいですね、大歓迎です」と返した上で、別に時間を設ければ済む話です。

ちなみに「いいですね」は承認であり、「褒める」の一環です。

先ほど挙げた3つのメリットをイメージしながら、Jさんの提案を「傾聴」してみましょう。「傾聴」の結果については、いくつかのパターンが考えられます。

<すでに全く同じ提案があり、検討した結果不採用となっている場合>…過去の経緯を説明した上で、「とはいえその時はその時です。今ならまた違う結論になるかもしれないとすれば、どんな可能性があると思う?」と本人に問うてもう一度考えてもらいましょう。

<すでに似た提案があり、検討した結果不採用となっている場合>…過去の経緯を説明した上で、「その時と今回の提案の共通点と違う点はどこだと思う?」「違う点を前面に押し出して提案したら、何が変えられるだろう?」と本人に問うてもう一度考えてもらいましょう。

<過去にない新しい提案だが、組織で検討するまでもなくほぼ結論が見えている場合>…「なるほど、提案は新しいと思います。ありがとう。ただ、この点はこういう結果にならないかと想像したんだがどうだろう?」と本人に問うてもう一度考えてもらいましょう。

<過去にない新しい提案で、組織で検討する価値があると判断した場合>…「なるほど、いいですね。

先輩はそこまでの話を聞いて否定したのですか?」と確認し、いずれにしても「私も後押ししますから、次回のミーティングに向けて分かりやすい発表資料にまとめてくれますか?」と本人に依頼しましょう。

資料をもとに、事前打合せをしてミーティングに臨みます。

前者3つの場合は、Jさんにした質問の答えを聞く機会を改めて作って、本人と擦り合わせてみましょう。

あなたとしては、他のメンバーに提案しても不採用になるだろうと判断すれば、その旨を正直に伝えます。それでも本人がみんなに提案したいというなら、提案すること自体の後押しはしてあげたいところです。それにより「提案自体はどんどんしていいんだ」という「前向き発想」の機運が組織に広がります。

Jさんが今回その提案をすることで、次回以降の提案がしづらくなりそうだと判断すれば、あえて今回はさせないという選択肢もあります。Jさんにはこう説明してはどうでしょう。

「従来のやり方を変えたがらない人は多いものです。特に今まで部署にいなかった人からの提案には抵抗を感じるかもしれません。提案は最初が肝心です。誰もが変えざるを得ないなと思えるくらいの提案から先にしませんか。そうすれば他の提案も通りやすくなりますよ」

5 部下からの相談や提案を、誰もが“ウェルカム”できる風土に

ポイントを整理しましょう。

【今回の3つのポイント】

1 相手が誰であろうと例外なく「提案はウェルカムである」という姿勢を示し「褒め」た上で、提案の概要を聞かせてもらう

2 部下からの提案は、「新たな視点」「若手社員からの学び」「人材育成や組織変革のチャンス」であると認識する

3 忌憚(きたん)なくJさんと話し合った上で、他のメンバーへの提案のしかたを一緒に考える。提案をすることになれば、上司として「前向き発想」で後押しする

私がかつて勤めていたリクルートでは、上司はどんな相談や提案にも耳を貸してくれました。先輩たちもしかりです。

新人のうちは慣れないので、近くの先輩に聞けば分かる内容を上司に直接聞いていました。それでも上司は私からの相談や提案を、「どうした?」「なになに?」と本当にうれしそうに聞いてくれたのです。

上司は話を「傾聴」してくれた上で「〇〇については、まず自分で考えてからもう一度相談にきて」などと質問を返されることもしばしばです。それによって「まず自分で考えてみる」という訓練も身に付きました。

やがて上司の忙しさとともに、周囲の先輩たちが「まず上司でなく自分に相談して」とやきもきしながら見ていたことに気付きます。次第にこの話なら上司を煩わせるまでもなくこの先輩に、あの話ならあの先輩に相談すればいいと分かるようになってきます。

先輩たちも上司と同様、私の相談や提案をしっかりと受け止めて、的確な質問や答えを返してくれました。もっと良い相談相手がいると思えば、「そういう話だったら〇〇部の〇〇さんに相談すればいいよ。自分から連絡入れておくから」と言ってくれるのです。

「自分に相談されたのだから自分で解決して手柄にしよう」などとは考えないのです。「あくまで相談者優先、問題が早く解決するほうがいいじゃない」と最善の方法を一緒に考えてくれました。

また同社では、基本的に「誰が誰に相談・提案してもよい」という文化が根付いていました。新人が部長や役員にいきなり相談・提案をしにいっても誰も文句を言いません。直属の上司が「何やってるんだ、まずは自分に相談するのが筋だろう」などと怒ってきません。

部長や役員はというと、やはり私の上司や先輩たちと同じようにうれしそうに話を聞いてくれるのです。新人が直接相談に来たからといって、直属の上司を叱責することも一切ありません。本人が必要と思ったからその人に相談・提案に行ったまでと判断するのです。

そうした組織で人が育たないわけがありません。私自身は「できるだけ自分で考えてみよう。でも考えても分からなかったら、まず先輩に、必要と思えば上司や上席に直接相談すればいい」と、安心して仕事に取り組めました。

困ったときに相談できる人、自分の話を真剣に聞いてくれる人が周囲にたくさんいることは、どんなに心強いことでしょう。

6 周囲への相談、提案の前にまず自分で考えよう「自分はどうしたいのか?」

最後に、逆に皆さんがJさんの立場だとして、できることを考えてみましょう。

「この業務ってタイパ悪くないですか?」とただの感想を言うだけなら誰にでもできます。それでは何も変わりませんし、あなた自身も周囲から理解されません。あなたが本気で「現状を変えたい」なら、その思いを周囲に伝えられない限り、人は動いてくれません。

ただの感想でも職場の一員=当事者として述べる以上は、「では具体的にどうすればいいか」もセットにするべきでしょう。まだ仕事に慣れていなくて具体案が的外れだったとしても構いません。他人事ではなく、当事者意識をもって真剣に考えたことが重要なのです。

たとえ適切な具体策が思いつかなかったとしても、当事者の一人として真剣に考えたのであれば、あなたの「現状を変えたい」という気持ちだけはきっと周囲に伝わります。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。「傾聴」「褒める」「前向き発想」の『新たな3つのコミュニケーション習慣』について、皆さんの現場で実践していくイメージを持っていただけたでしょうか。

次回はシリーズ最終回です。全体を振り返り、【実践編】をまとめます。お楽しみに。

<ご質問を承ります>

ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mail to: brightinfo@brightside.co.jp

※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。

『新スペシャリストになろう!』https://amzn.asia/d/e8GZwTB

『なぜ社長の話はわかりにくいのか』https://amzn.asia/d/8YUKdlx

以上(2025年5月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

pj90272
画像:PureSolution-Adobe Stock

【5/30金曜までお申し込み】2025年度 きらやかマネジメントスクールのご案内

きらやか銀行では、2025年度のきらやかマネジメントスクールを2025年6月12日(木)~2026年3月12日(木)の期間で開催いたします。

定員やセミナーカリキュラム、受講料などの詳細は、下記のご案内をご覧ください。

お申し込み締め切りは5月30日(金)です。

※※月一回で、全10回開催ですが、途中で参加する方が変わっても大丈夫です。

※※参加できない回があった場合は、後日、資料を共有いたします。

FAXでのお申し込みはこちらから

Webからのお申し込みフォームはこちらから

画像1

画像2

FAXでのお申し込みはこちらから

Webからのお申し込みフォームはこちらから

【補足】下記の補足をご確認ください。

お申し込み締め切りは5月30日(金)です。

※※途中で参加する方が変わっても大丈夫です。

※※参加できない回があった場合は、後日、資料を共有いたします。

1.法人名・業種・所在地等は参加企業名簿として、参加者に配付いたします。
2.E-Mailアドレスは、事務局からの連絡及び受講者様相互の連絡等に利用いたします。
3.受講料:1企業参加者1名につき 150,000円
(参加者は受講内容によって都度、変更いただいても結構です)
*但し、1企業2名同時参加の場合は300,000円
4.参加申込みの手続き
(1) 参加申込書については、FAXまたは取引営業店に通知いただくか、Webフォームでお申し込み下さい。
(2) 受講料のお支払いは受付後、専用振込用紙を郵送いたしますので、その用紙にて最寄りのきらやか銀行本支店より、6月6日(金)までにお振込みをお願い申し上げます。

徳島大正銀行と香川銀行の新入行員が阿波おどりを体験しました!

令和7年4月16日(水)徳島大正銀行 研修会館にて、徳島大正銀行59名、香川銀行48名の新入行員が、とくぎん阿波おどりクラブが講師を務める阿波おどり研修に参加しました!

令和7年度、トモニホールディングスに入社した同期行員との親睦・相互理解を目的としたカリキュラムの一環です。

画像1

画像2



■とくぎん阿波おどりクラブによる圧巻の演舞を目の前で鑑賞する新入行員たち

画像3

■男踊りの芳蔵 義行さんより、阿波おどりの歴史やとくぎん阿波おどりクラブの活動を教えてもらいました

画像4

■鳴り物が聞こえてくると自然と身体が動き出す

画像5

画像6



■最後は、全員で中庭に出て輪踊り! きちんと踊れていても踊れていなくても、楽しかったら大丈夫!!

初めての社会人生活、新しい環境、仲間、これから始まる営業店での勤務。研修も折り返しを迎え、緊張でかたくなった身も心も阿波おどりでほぐしてリフレッシュ!とくぎんサクセスクラブは、今後も令和7年度 新入行員を応援しています。

以上(2025年5月作成)

全国で導入が進む「ラーケーション」、自社にはどんな影響が?

1 ラーケーションとは

昨今、「ラーケーション」という取り組みが、全国に波及しつつあります。ラーケーションとは、Learning(学習)とVacation(休暇)を組み合わせた造語で、端的に言うと、

子ども(小・中・高生)が、平日に欠席扱いにならず、家族と校外学習に行ける仕組み

です。

「ラーケーション」制度の導入にいち早く取り組んだのは愛知県(名古屋市を除きます)です。県内では、土曜日に働いている保護者の割合は2人に1人、日曜日に働いている保護者の割合は3人に1人。そういった保護者と子どもたちは休みの日程が合わず、家族で一緒に出かけられない、という問題がありました。

そこで愛知県は2023年から、仕事のある土日祝日以外の、学校のある平日でも家族が一緒に出かけるために、また、保護者の年次有給休暇(以下「年休」)取得を推奨するために、『休み方改革』の一環として、ラーケーション制度を制定しました。

さらに、最近は愛知県以外の自治体でも、

サービス業・飲食業・宿泊業などの従事者が多い観光地を中心に、ラーケーションを導入

する動きがあり、実際、温泉やそれにまつわる産業が盛んな大分県別府市や、日光東照宮などで有名な栃木県日光市、ビーチリゾートとしての需要が高い沖縄県座間味村などに、続々と制度が導入されています(制度の名称は自治体によって異なります)。

自社が所在している自治体でラーケーション制度が導入されたり、あるいは従業員が居住している近隣の自治体で実施されたりした場合、

自社従業員の休暇取得・シフト調整などに少なからず影響する可能性

も考えられますので、あらかじめ制度の仕組みを理解しておくことで、自社でもいざというときにスムーズな対応ができるでしょう。

この記事では、ラーケーションの仕組みと自社で起こり得る影響について、

  • ラーケーションの仕組み
  • 自社従業員の休暇
  • 職場体験

の、3つのポイントに整理し、紹介していきます。

2 ラーケーションの仕組み

まずは、ラーケーションの仕組みについて簡単に解説します。実施自治体によって多少の差異はありますが、大まかには図表1の通りです。

画像1

「校外学習」の内容については、「子どもと一緒に、校外で体験や探求の学び・活動を行う」こととされており、愛知県の資料の中では、「水族館に行き、なぜラッコが絶滅危惧種に指定されているのか学ぶ」「自然豊かな山の中で満天の星空を見る」などが具体例として挙げられています。

自治体により、ラーケーション制度の詳細の条件は違います。また、制度の詳細は、各自治体のウェブサイトなどで確認してください。

3 自社従業員の休暇

ラーケーションは元々、土日祝日に休暇を取ることが難しい保護者が、子どもと一緒に校外学習に出かけるための制度です。自社所在地や周辺自治体でラーケーション制度が導入された場合、自社に最も影響が出るのは従業員の休暇です。

基本的には年次有給休暇(以下「年休」)で対応することになるでしょうが、休暇を連続で取得する場合などは、シフトの調整や業務の引き継ぎが必要になる可能性があります。ラーケーション制度の場合は、親(従業員)は子どもが通う学校に取得日や学習計画書などを前もって提出する必要があるため、会社は「できるだけ取得日が決まった時点で知らせてほしい」旨を従業員に周知しておきましょう。

会社として、従業員のラーケーション制度の利用を推進したいということであれば、

  • 年休の他に、「ラーケーション休暇」などの特別休暇(法律に定めがなく、就業規則等で会社が独自に定める休暇)を設ける
  • 年休や特別休暇が、ラーケーションに利用できることを改めて周知する

といった取り組みも大切です。

まだ、自社所在地やその周辺の自治体でラーケーション制度が導入されていないという場合でも、周辺情報に気を配っておき、新たに制度が導入された際は、ラーケーションの存在を知らない従業員向けに、内容を分かりやすく周知するようにしましょう。

4 職場体験

自社所在地やその周辺の自治体でラーケーション制度が導入された場合、職場体験の需要が生まれる可能性があります。例えば、茨城県では、高校生がラーケーション制度を使って、小学校教員の職場体験に行ったという事例が報告されています。

職場体験を実施した結果、従業員から「新人教育の参考になった」「新鮮な気持ちになった」との声が上がったという話

もあります。

ですから、今後、ラーケーションが日本中に導入されていくことを見越して、

  • 職場体験の制度を整えておく
  • 周囲の学校と連携して職場体験の募集をする

などの準備をしておくというのは、良い考えかもしれません。実際に職場体験の内容を考える際には、

見学や雑用だけでなく、危険が及ばない範囲での実作業を体験させる

というポイントを押さえると、職場体験をする側の満足度も上がります。

具体的には図表2のように、実際に従業員が行っている業務を体験できる職場体験を行うと、より明確に、仕事の魅力が伝わります。

画像2

職場体験をしたからといって、即座に自社の人手不足などが解決するとは限りませんが、前述した通り、従業員に新しい刺激を与える他、

一般的に「汚い」「きつい」などのイメージを持たれやすい業界などにとっては、そのイメージを払拭し、業界全体を活性化させていくきっかけ

にもなることと考えられます。

以上(2025年4月作成)

pj00753
画像:星野スウ-Adobe Stock

【株主総会】中小企業の株主総会の全て

1 中小企業の株主総会の全て

【株主総会】シリーズでは、中小企業が株主総会を開催する際の留意点、文書作成の参考となる文面例、オンラインで株主総会を開催する場合のポイントなどを紹介しています。

今の株主総会の進め方に不安がある場合や、開催方法を見直したい場合などにぜひご活用ください。

2 株主総会ってどういうもの?

株主総会は、株式会社の「最高意思決定機関」といわれ、主に経営に関わる重要なことを決定します。株主総会で決められる主な議案と留意点などを紹介します。

1)株主総会は必ず開催しなければならない

株主総会の開催は、株式会社の義務です。株主が経営者とその親族などに限られているオーナー企業などでは、実際の株主総会を開催せず、議事録だけを作成しているケースがありますが、実はこれは会社法違反です。株主総会の位置付けや、株主総会で決められる事項などの基本的なルールを紹介します。

2)株主総会で行われる決議は3種類

株主総会で行われる決議は、「普通決議」「特別決議」「特殊決議」の3種類です。ほとんどの事項は普通決議で決まりますが、多くの株主に影響を及ぼすような重大な事項は、特別決議などで決めます。3つの決議の概要とそれぞれの決議で決められる要件を網羅的に紹介します。

3 株主総会当日までに準備しておくことは?

株主総会当日までに準備しておくことは多岐にわたります。スケジュール例を参考に、事前にやることをリストアップすると抜け漏れもなくなります。開催前と開催後に必要な準備と手続きを紹介します。

1)スケジュールを確認し、必要な書類は文面例を参考に作成しよう

株主総会のスケジュールは、会社法などで細かく決められています。例えば、株主の権利行使は基準日(多くの場合、事業年度の末日)から3カ月以内とされているため、株主総会はそれまでに開催する必要がありますし、開催日の原則2週間前には、株主に招集通知を送らなければなりません。抜け漏れのないよう、参考となるスケジュール例や招集通知の文面例を紹介します。

2)当日は「議事進行シナリオ」を準備し、開催後は議事録の速やかな作成を

株主が少ない中小企業の場合は、議事進行手順などを整理した「議事進行シナリオ」を作成しておくと当日の進行がスムーズです。開催当日の議事進行シナリオ例や株主総会後に必要な手続きを紹介します。

3)取締役と株主の同意があれば、取締役会と株主総会の招集手続や決議を省略できる

株主総会の実務のうち、取締役会の招集手続や決議、株主総会の招集手続、株主総会の決議については、取締役と株主の同意があれば省略できます(ただし、株主総会議事録の作成は省略不可。株主総会の書面決議を行った場合も同様)。具体的な省略の方法を紹介します。

4)株式実務をしっかりこなして、株式に関するトラブルの発生を抑えよう

株式に関するトラブルは、解決が難しいとされています。例えば、株主名簿に記載されていない株主は、会社が株主として認めない限り、株主総会で議決権を行使できません。そのため、株主名簿の管理・印鑑の登録といった株式管理や、株式を譲渡する際の手続きなどの株式実務は、慎重に行う必要があります。各実務の書式づくりで参考になるひな型を紹介します。

4 中小企業が開催できるオンライン株主総会は出席型

株主総会は、必ずしもリアル(対面形式)で開催する必要はなく、テレビ会議システムなどを使ってオンラインで行うこともできます。オンライン株主総会は制約が多いですが、遠方の株主などがいる場合は効率化につながる可能性もあります。中小企業が開催できるのは、リアルの会場を準備した上でオンラインでも中継する形態です。開催の留意点や招集通知、議事録の作成例を紹介します。

以上(2025年4月更新)

pj60342
画像:Mariko Mitsuda

登用時に活用したい 管理職教本(2025年5月号)

管理職は「経営側の一員」として大きな役割・責任を担うことが期待されています。そのため、新任の管理職の人のなかには、「自分は果たして管理職としての務めを全うすることができるだろうか?」と不安に感じている人も多いのではないでしょうか。
この「管理職教本」は、そうした不安を抱える新任管理職が、一般職から管理職の働き方にスムーズにシフトするために、初めに理解しておきたいこと、実践すべきことを重点的に解説しています。管理職として活躍するための土台形成に、ぜひこの「教本」を役立てていただければ幸いです。

続きを読む


助成金(最大1億円)でDXや新事業展開のための人材を育成!

1 人材開発支援助成金を使いながら人材育成!

DX(デジタル・トランスフォーメーション)や新事業展開をもっと推し進めたい。でも、そのための人材を育てるにはお金がかかる……。こうした悩みをお持ちの経営者の方、

DX人材などを育成する一定の訓練等を実施した場合に、最大1億円が支給

されるのをご存じですか。この記事で紹介する人材開発支援助成金がそうです。ビジネス環境が複雑化し、上記のような人材の育成はますます重要になっています。以降では、人材開発支援助成金のうち主要なものを4つ取り上げ、制度概要と併せて専門家がポイントを説明するので参考にしてください。

なお、助成金の内容は2025年4月14日時点のもので、将来変更される可能性があります。また、申請書の書き方や添付書類については、全コースまとめてこちらに記載されていますので、ご確認ください。

■厚生労働省「人材開発支援助成金」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html

2 事業展開等リスキリング支援コース(最大1億円)

1)事業展開等リスキリング支援コースとは?

新規事業の立ち上げのような事業展開等に伴い、雇用保険の被保険者である自社の社員に対し新たな分野で必要となる知識・技能を習得させるための訓練等を実施した場合、助成金を受け取れるコースです。

2)助成金を受け取るには?

10時間以上のOFF-JT(会社の事業活動と区別して行われる訓練。これと反対に、事業活動と区別せずに行われる訓練がOJT)で、次のいずれかに該当する職務関連の訓練を実施する必要があります。

  • 会社が事業展開を行うに当たり、新たな分野で必要となる専門的な知識・技能の習得をさせるための訓練
  • 事業展開は行わないが、社内のDX化やグリーン・カーボンニュートラル化を進めるに当たり、関連業務に従事させる上で必要な専門的な知識・技能を習得させるための訓練

また、実施に当たっては、まず事業展開等の内容を記載した「事業展開等実施計画(様式が決まっています)」を作成し、訓練の内容やスケジュールを記載した「職業訓練実施計画(同じく様式が決まっています)」と一緒に都道府県労働局に届け出る必要があります。なお、事業展開については、訓練開始日から3年以内に実施する予定であること、または6カ月前までに実施したものである必要があります。

3)受け取れる金額はいくら?

図表1の額を受け取れます。

画像1

要件を満たした場合、1年度につき最大1億円を受け取れる計算になります。

4)専門家のワンポイントアドバイス

職業訓練実施計画を作成した場合、必要書類とともに訓練開始日の6カ月前から1カ月前までの間に都道府県労働局に提出する必要があります。提出後、訓練を実施することになりますが、

訓練終了日の翌日から2カ月以内に支給申請をしないと、助成金が受け取れなくなる

ので注意しましょう。なお、e-ラーニング、通信制、定額制サービスによる訓練・育児休業中の訓練については、経費助成のみとなります(定額制サービスによる訓練に対する経費助成は、1人当たり月額2万円)。

3 人材育成支援コース(最大1000万円)

1)人材育成支援コースとは?

雇用保険の被保険者である自社の社員に対し、職務に関連した知識・技能を習得させるための訓練等を実施した場合、助成金を受け取れるコースです。

2)助成金を受け取るには?

このコースは「人材育成訓練」「認定実習併用職業訓練」「有期実習型訓練」に分かれていて、いずれも事業展開等リスキリング支援コースと同じく、職業訓練実施計画の届け出が必要です。なお、「認定実習併用職業訓練」については厚生労働大臣の認定を、「有期実習型訓練」についてはキャリアコンサルタント等による面接を事前に受ける必要があります。

1.人材育成訓練

10時間以上のOFF-JT訓練が対象です。職業訓練実施計画に基づき事業内訓練を実施するか、対象者が事業外訓練を受講する必要があります。

  • 事業内訓練(会社自らが企画・主催・運営する訓練計画により行う訓練等)
  • 事業外訓練(社外の教育訓練機関等に受講料を支払い受講させる訓練等)

2.認定実習併用職業訓練

新卒者等のために実施するOJTとOFF-JTを組み合わせた訓練が対象です。訓練開始日において、15歳以上45歳未満であることが条件とされています。職業訓練実施計画に基づき、社内におけるOJTと教育訓練機関等で行われるOFF-JTを受講し、訓練終了後にジョブ・カードによる対象者の評価を実施する必要があります。

3.有期実習型訓練

有期雇用者等の正社員転換を目的として実施する、OJTとOFF-JTを組み合わせた訓練が対象です。職業訓練実施計画に基づき、社内におけるOJTと教育訓練機関等で行われるOFF-JTを受講、訓練終了後にジョブ・カードによる対象者の評価を実施する必要があります。

3)受け取れる金額はいくら?

訓練それぞれについて、図表2の額を受け取れます。

画像2

要件を満たした場合、1年度につき最大1000万円を受け取れる計算になります。

4)専門家のワンポイントアドバイス

事業展開等リスキリング支援コースと同じく、支給申請のスケジュールに注意が必要です。なお、有期実習型訓練については、原則として支給申請期間(訓練終了日の翌日から2カ月以内で支給申請日まで)の間に対象者の正社員転換を果たす必要がありますが、2025年度からは、結果的に正社員転換が実施されなかった場合も、次の要件を満たすと助成を受けられるようになっています。

  • 職業能力開発推進者を選任していること
  • 事業内職業能力開発計画を策定・周知していること
  • 定期的なキャリアコンサルティングの機会の確保等について定めていること

4 人への投資促進コース(最大3500万円)

1)人への投資促進コースとは?

雇用保険の被保険者である自社の社員に対するデジタル人材・高度人材を育成する訓練、社員が自発的に行う訓練、定額制訓練(サブスクリプション型)等を実施した場合、助成金を受け取れるコースです。

2)助成金を受け取るには?

このコースは、「高度デジタル人材訓練」「情報技術分野認定実習併用職業訓練」「成長分野等人材訓練」「定額制訓練」「自発的職業能力開発訓練」「長期教育訓練休暇等制度」に分かれています。

「高度デジタル人材訓練」「情報技術分野認定実習併用職業訓練」「成長分野等人材訓練」「定額制訓練」「自発的職業能力訓練」については、「職業訓練実施計画届(様式が決まっています)」を作成し、都道府県労働局に届け出た上で、

  • 事業内訓練(会社自らが企画・主催・運営する訓練計画により行う訓練等)
  • 事業外訓練(社外の教育訓練機関等に受講料を支払い受講させる訓練等)

のいずれか(高度デジタル人材訓練・情報技術分野認定実習併用職業訓練以外は事業外訓練のみ)を、原則としてOFF-JTにより実施する必要があります。

なお、「情報技術分野認定実習併用職業訓練」に関しては、「職業実施計画届」とは別に厚生労働大臣の認定を受ける必要があります。

一方、「長期教育訓練休暇等制度」については、「制度導入・適用計画届(こちらも様式が決まっています)」を作成し、都道府県労働局に届け出た上で、

  • 長期教育訓練休暇制度
  • 教育訓練短時間勤務等制度

のいずれかを新たに導入し(既に導入している場合も対象)、計画期間内に各制度に基づいた制度を一定回数適用させることが必要となります。

1.高度デジタル人材訓練

高度デジタル人材(ITSS(ITスキル標準)・DSS-P(DX推進スキル標準)レベル3・4となる訓練または大学への入学(情報工学・情報科学)等)を育成するための訓練が対象です。

2.情報技術分野認定実習併用職業訓練

IT分野未経験者の即戦力化のためのOJTとOFF-JTを組み合わせた訓練が対象です。訓練開始日において、社員が15歳以上45歳未満であることが要件とされています。

3.成長分野等人材訓練

成長分野等(デジタル、クリーンエネルギー、人工知能、量子、バイオ、宇宙等の成長が期待される分野等)に関する、海外を含む大学院での訓練が対象です。

4.定額制訓練

サブスクリプション型の研修サービスによる訓練が対象です。

5.自発的職業能力開発訓練

社員が自発的に受講した訓練で、会社が訓練費用を負担するものが対象です。

6.長期教育訓練休暇等制度

働きながら訓練を受講するための長期教育訓練休暇制度や短時間勤務等制度(所定労働時間の短縮・所定外労働時間の免除)を導入し、社員がそれらを利用して訓練を受けた場合に助成を受けられます。なお、既に制度を導入している場合でも助成の対象となります。

3)受け取れる金額はいくら?

図表3の額を受け取れます。

画像3

要件を満たした場合、1年度につき最大3500万円を受け取れる計算になります。

4)専門家のワンポイントアドバイス

長期教育訓練休暇等制度を除く訓練等は、図表3の通り1年度当たりの受講回数が決まっています。また、賃金助成については、次のように限度時間が決められています。

  • 高度デジタル人材訓練:原則1200時間(大学院、大学、専門実践教育訓練は1600時間)
  • 情報技術分野認定実習併用職業訓練:1200時間
  • 成長分野等人材訓練:原則1200時間(大学院、大学、専門実践教育訓練は1600時間)
  • 長期教育訓練休暇等制度:1600時間(中小企業以外は1200時間)

なお、このコースでは職業訓練実施計画届や制度導入・適用計画を届け出てから訓練等を実施しますが、

計画を届け出る前に訓練を実施したり、制度を導入したりすると、助成対象外になる

ので注意が必要です。また、届け出後に計画内容に変更が生じた場合、所定期日までに変更届を提出しなければなりません。

5 教育訓練休暇等付与コース(最大36万円)

1)教育訓練休暇等付与コースとは?

有給の教育訓練休暇制度(3年間で5日以上の取得が可能な制度)を導入し、対象者が当該休暇を取得して教育訓練等を受けた場合、助成金を受け取れるコースです。

人への投資促進コースの長期教育訓練休暇等制度は、長期の教育訓練休暇を対象としていますが、こちらは短期の教育訓練休暇を想定しています。

2)助成金を受け取るには?

人への投資促進コース(長期教育訓練休暇等制度コース)と同じく、事前に制度導入・適用計画を届け出た上で、有給の教育訓練休暇制度(3年間で5日以上の取得が可能な制度)を導入し、対象者が実際に休暇を取得して訓練を受ける必要があります。

なお、制度を導入するだけでなく、就業規則等への規定及び監督署への届け出(10人未満の場合は、申立書の提出)が必要となります。

3)受け取れる金額はいくら?

図表4の額を受け取れます。

画像4

1社につき1回までの支給となりますが、要件を満たした場合、最大36万円を受け取れる計算になります。

4)専門家のワンポイントアドバイス

人への投資促進コースと同じく、制度導入・適用計画を届け出る前に制度を導入すると、助成対象外になる点に注意が必要です。また、就業規則の届け出義務がある場合は、就業規則において規定した制度施行日までに監督署に届け出していない場合についても助成対象外となります。

以上(2025年5月作成)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

pj00746
画像:78art-Adobe Stock