リモートワークに合わせた賃金支給。「通勤手当の支給停止」と「在宅勤務手当の設置」のポイント

書いてあること

  • 主な読者:リモートワークにマッチした賃金体系にしたい経営者
  • 課題:変更が後手に回りがちなので、スピーディーに実施できる対策を講じたい
  • 解決策:手当に注目する。具体的には通勤手当を支給停止し、在宅勤務手当を設置する

1 リモートワークに合わせた「手当」の見直し

社員の働き方がオフィスワークからリモートワーク(在宅勤務)へとシフトするのに合わせ、労働条件も見直す必要があります。中でも「賃金」は重要な要素です。賃金と聞くと、まず「基本給」の見直し、つまり勤続給や能力給の配分の見直しを思い浮かべる人もいるでしょうが、ここは人事評価制度と併せて計画的に変更しなければなりません。

それよりも、足元で着手するとよいのは「手当」の見直しです。実際、リモートワークをする多くの企業で実施しているのが、

通勤手当の支給停止と、在宅勤務手当の設置

です。リモートワークに伴う賃金制度の見直しの手始めとして、これらの手当について整理していきましょう。

2 通勤手当の支給停止

リモートワークで通勤しなくなる社員を想定し、就業規則に、

リモートワークに多く従事する社員には通勤手当は支給しない

などと定めて、通勤手当の支給を停止します。一方、リモートワークといっても週に数日出勤する場合は、実際に通勤に要した費用(往復運賃)を支給します。大切なのは、「週◯日以上出勤する社員は、引き続き通勤手当を支給する」といったように、

通勤手当の対象となる社員、ならない社員を明確にする

ことです。

さて、問題は通勤手当の支給停止を含め、賃金の減額は「労働条件の不利益変更」になることです。そのため、本来は社員と合意して就業規則を変更し、不利益変更を進めることになります。ただし、その必要性や社員が受ける不利益などを考慮して合理的といえる場合、社員の合意がなくても就業規則を変更することができます(過半数労働組合等からの意見聴取など、就業規則を変更するための所定の手続きは必要です)。

必要性という面では、そもそも社員が通勤をしなくなるわけなので、問題になるケースは少ないでしょう。また、もともと通勤手当は実費請求に近いものなので、通勤費の支出がなくなった社員の不利益も大きくないといえます。

3 在宅勤務手当の設置

1)実費支給は非課税というものの……

国税庁は、「在宅勤務に必要な実費を社員に支給したら非課税、在宅勤務手当として定額支給したら給与課税」としています。実費支給のほうが税金は得ですが、計算は手間です。例えば電気料金のうち業務使用部分を計算する際、まず自宅と業務に使用した部屋の床面積を算出しなければならない、といった具合です。詳細は、国税庁「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」を参照ください。

2)在宅勤務手当の相場

在宅勤務手当の支給額は、1カ月当たり3000~1万円程度が多いようです。グローバル人材の人材紹介業を営むエンワールド・ジャパンが実施した調査では、全体では「3,000円以上~5,000円未満」が38%、「5,000円以上~10,000円未満」が37%となっています。

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なお、リモートワークの頻度や業務に必要な設備などが社員によって異なる場合、その違いに応じて支給額に差を設けることは問題ありません。その場合、支給額の決定方法などを就業規則に定め、社員に説明できるようにしておきましょう。

以上(2021年6月)

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画像:beeboys-Adobe Stock

フリマアプリ全盛時代 二次流通市場に参入するには?

書いてあること

  • 主な読者:新品以外の商品で、顧客の開拓やブランディングを検討する経営者
  • 課題:二次流通市場を利用し、販路拡大や自社商品のブランディングをしたい
  • 解決策:二次流通市場での取り組み例、成功のコツを知る

1 アプリや「オフプライスストア」が二次流通市場で台頭

近年、不用になったブランド品などをスマホで出品・販売する「フリマアプリ」が注目を集めています。代表的なのはメルカリやヤフオク!などで、「タンスの中のモノを処分したい」「ブランド品を安く買いたい」などの理由から利用者が増えています。新品の状態で消費者の手に届く一次流通市場に対し、こうした取引は「二次流通市場」と呼ばれます。

二次流通市場を通じた取引には、アパレル業界を中心にメーカーも期待を寄せています。一次流通市場で販売が難しくなった商品は値下げ販売し、最終的に廃棄処分するのが一般的です。とはいえ、安易な値下げ販売はブランド価値を下げることになりかねません。特に、アパレル業界では、売れ残った商品は、まだ着られるものでも廃棄処分してきました。一方、世界的な環境意識の高まりの中、こうした商習慣に批判が集まるようになり、一部のメーカーでは、自ら二次流通市場に参入する動きもあります。

二次流通には、大まかに以下のようなものがあります。特に昨今では、今回紹介するプラットフォームと、オフプライスストアの存在感が高まってきています。

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2 各社の取り組み・狙い

今回紹介する各社の取り組みを「想定する顧客(一般消費者向け、法人向け)」、「目的(自社のブランディング・商品価値の維持、在庫処分)」で分類すると、次のようになります。

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1)リーバイス:自社商品の中古品販売プラットフォーム「LEVI’S SecondHand」

デニムの世界的ブランドのリーバイスは、米国国内で自社の中古品の販売プラットフォームを開設しました。「LEVI’S SecondHand」は、自社の店舗に顧客が持ち込んだ商品を、状態やアイテムに応じて5~35ドルのギフトカードと交換します。再販不可能な状態の商品でも、リサイクル用の素材として引き取ります。同社と提携する企業がクリーニングを行い、プラットフォーム上で再販されます。

同社の取り組みは、自社の商品を責任を持って引き取り、再販することで、「循環型社会」の実現に貢献するとともに、ギフトカードとの交換で自社商品のリピート購入につながる取り組みといえます。

2)アンドブリッジ:出店攻勢のオフプライスストア「&Bridge」

「タケオキクチ」などのブランドを傘下に持つアパレル大手のワールドは、小売業や製造業などの在庫評価や動産担保融資(ABL)などを提供するゴードン・ブラザーズ・ジャパンとアンドブリッジを設立し、余剰在庫となった商品を定価の数十%オフで販売するオフプライスストア「&Bridge(アンドブリッジ)」を展開しています。

アンドブリッジでは、アウトレットモールにブランドごとに出店する従来の戦略と一線を画し、ワールド傘下のさまざまなブランドの商品を一つの店舗で取りそろえ、アクセスしやすいショッピングセンターや都心部に出店する他、オンラインストアも展開しています。

ワールドの2021年3月期の決算資料によると、今後も出店を加速し市場での認知度向上を図っていく方針です。同社はアンドブリッジなどの「デジタル事業」セグメントの売上構成比を、現行の5.3%から7.5%へ引き上げる計画です。

3)ファイン:ブランドタグを付け替えるオフプライスストア「Rename」

ブランドの価値を維持したまま価格を大幅に引き下げて販売するオフプライスストアと対照的に、あえて「ブランドタグを取る」オフプライスストアも登場しています。

ファインが運営するオフプライスストア「Rename(リネーム)」は、元のブランドのタグを切り取り、リネームのタグに付け替えて再販します。このメリットとして、タグを切り取って再販することで、ブランドの価値を維持しながら在庫を処分できます。顧客は、ブランド名に左右されずに、優れたデザインで高品質な商品をお手ごろ価格で買うことができます。

リネームは、これまでに150以上のブランドを取り扱っており、有名ブランドの廃盤になったライセンス商品の取り扱い、破産したメーカーの在庫の現金化なども手掛けています。

また、同社は工場で余剰となった生地を工場の閑散期に服として製造し販売する「Rename X(リネームクロス)」も展開しています。

4)エクイップ:中古計測器のマーケットプレイス「Ekuipp」

エクイップは、主に製造業で使用される中古計測器・測定器のオンラインマーケットプレイス「Ekuipp(エクイップ)」を運営しています。製造業では、計測器などが使用されないまま倉庫内に保管されたり、廃棄されたりすることが多くあります。

出品者はEkuippに出品することで機材を現金化でき、購入者は流通量や用途が限定される機材を「掘り出し物」として安価に調達できます。また、提携企業による校正(計測の狂いの調整・修理)を依頼することもできます。出品時には出品者の社名は表示されないため、秘匿性をある程度保持したまま、機材の売却を行うことができるのもメリットの一つといえます。

5)日本メディックス:自社商品の「オフィシャル中古」

前述のリーバイスのように、法人向けの自社の中古品を買い取り、「お墨付き」として二次流通市場へ送り出す企業もあります。

医療機関の製造・販売や輸入を行う日本メディックスは、オークションサイトの登場などで、品質を保証されていない中古医療機器の流通が増加していることなどを受け、耐用期間内の自社の中古品に検査やメンテナンスを施し、「オフィシャル中古」として販売しています。また、品質を保証するため、全ての中古品に半年間の無償修理期間を設けています。

品質不良が人命に関わることもある医療機器を自社で保証することで、保証外の中古品による自社へのリスクを低減しつつ、自社商品の評判を維持する取り組みといえるでしょう。

3 二次流通市場の関連動向

1)推定市場規模

環境省の「平成30年度リユース市場規模調査報告書」によると、国内の二次流通市場(リユース品)の市場規模は、以下のように推定されています。

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直近の市場規模の推定はまだ公表されていませんが、2020年以降は、新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、外出の機会や通勤することが減った人がスーツを出品したり、収入が減少した人が不用な日用品などを出品したりする動きも出ており、市場のさらなる拡大が想定されます。

2)利用者の動向

二次流通市場を利用するユーザーは、中古品の購入時にどんなことを重視しているのでしょうか。メルカリのプレスリリース「2020年度フリマアプリ利用者と非利用者の消費行動」から、その動向を見てみましょう。

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回答の上位を見ると、「価格」がトップにあり、値段面でのメリットに魅力を感じている回答者が90%近くに達しています。その後には「品質・機能」「信頼性(販売者・販売店)」と続いており、「信頼できる売り手から安く買いたい」意向がうかがえます。

これは、法人向けの事例として紹介した、エクイップや日本メディックスの取り組みにも通じるものがあるといえるでしょう。

以上(2021年6月)

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画像:pexels

【朝礼】私がなりたい50歳の姿を考えてみた

私は最近、自分があと20年くらいたって50歳になったときに、どうなっていたいかを考えるようになりました。けさはそのことについて、私なりの考えをお話ししてみますので、皆さんから忌憚(きたん)のないご意見やアドバイスをいただければと思います。

私が50歳の自分の姿について考え始めたきっかけは、プライベートで参加しているスポーツサークルの大会中止が相次いだことです。

私がそのサークルに参加したのは、今から5年前です。当初は、仲間との交流や健康づくりのために参加したのですが、練習を重ね、市民大会にも出場するうちに、「地区大会でベスト8に入る」という目標が生まれました。私の実力からすると「野望」に近い目標なのですが、知らず知らずのうちに、「上達して、地区大会ベスト8に入りたい」という思いが強くなり、練習日数を増やしたり、上手な人のプレーを勉強したりするようになりました。すると、サークルのメンバーも、この「野望」に近い目標を応援してくれるようになり、私はますます練習に打ち込むようになりました。

ところがコロナ禍で、ここ1年ほど大会が開催されなくなったことで、私の練習に打ち込む意欲が下がった気がします。目標があるのとないのとでは、モチベーションに大きな違いがあると気付きました。特に長期の大きな目標は、一歩一歩前に進んでいくための励みになります。山の頂上を見て意気込む登山者と同じかもしれません。

そう考えると、会社員としての私も同じなのではないかと感じました。今の仕事のモチベーションを高めるためには、将来の自分のなりたい姿を考えることがプラスになると思ったのです。これまでも、目の前の仕事の成果を出す、という小さな目標は常に考えてきました。ですが、私のような怠け心のある人間にとっては、それだと目の前の仕事さえできればいい、という考えに陥りがちでした。ですが、「自分を理想の姿に引き上げる」という気持ちになると、「将来のために、今もっとできることはないか」と考えて仕事に取り組めるようになりました。私より若い人たちも、50歳の自分の姿を考えてみてはどうでしょうか。

ちなみに、私がなりたい50歳の姿は、実力があって指導力もある、元プロ野球選手のイチローさんのような人です。イチローさんのように、大きな記録を残し、チームを引っ張れる人になっていたいです。具体的な目標は2つあって、1つは、私の後輩たちが新入社員に仕事の説明をするときに、「この仕事は、○○さん(私のこと)が開拓した仕事です」と言われるような成果を残すことです。もう1つは、今お付き合いしている全ての取引先に、「□□会社の○○さん」ではなく、「○○さんの□□会社」と言われるようになることです。皆さんの前で話すのは少し恥ずかしいですが、20年くらい先の話なので、先輩の方々も後輩の皆さんも、私のこれからの成長を長い目で見ていただければと思います。

以上(2021年5月)

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画像:Mariko Mitsuda

ドラッカーに学ぶ「どんぶり勘定式」資金繰り表作成のポイント/資金繰りの基本(5)

P・Fドラッカーが「イノベーションと企業家精神(エッセンシャル版)」という本の中(174~175ページ)で、「企業家は利益を重視する。だがそれは間違っている」と述べています。さらにドラッカーは「利益は虚構である」とまで言っています。ちなみに、虚構とは「事実ではないことを事実らしくつくり上げること(フィクション)」という意味です。
つまりドラッカーによると企業は「利益よりも、キャッシュ、資本、管理が重要である」と言っているのです。確かに、利益は=フィクション(作り話)で、キャッシュは=ノンフィクション(実話)と考えるとわかりやすいですよね。このドラッカーの主張に筆者は大いに共感したものですが、実際の中小企業の状況を見てみるとどうでしょうか? 残念なことにいまだに「利益を重視すること」が常識になっているように感じます。

筆者は、昔から中小企業の社長が大好きで、その大好きな中小企業社長の会社が成長するために「会計の常識を変えることができる!」と信じて日々努力と工夫を続けています。
もし、あなたの中で、会計の常識がドラッカーの言うように「利益重視」から「キャッシュ=残高重視」に変われば、1.資金繰りの悩みがゼロになり、2.本来やるべき仕事(経営)に今よりも集中できるようになります。その結果、3.あなたの会社が成長するための基礎・土台がより強固になっていくことでしょう(利益がなくてもいいと言っているわけではありません)。
そのような効果を得るために、私は「どんぶり大福帳®」という中小企業向けの資金繰り表を作りました。形になるまでに25年も掛かりましたが、中小企業の社長が心の底から納得して経営判断できる材料としての数字を「どんぶり大福帳®」を通じて提供できるようになっています。
「どんぶり大福帳®」は簡単シンプルですので、会計の専門知識は一切不要です。「どんぶり大福帳®」を導入すれば、エクセルだけで誰でも簡単に自分の会社の預金残高を1年先まで未来予測できるようになります。

この記事は、利益重視ではなく、キャッシュ=残高重視を本質とする「どんぶり大福帳®」という資金繰り表の考え方から作成のコツまでを、ドラッカーの主張を交えながら紹介していきたいと思います。

1 なぜ「どんぶり勘定」なのか?

1)中小企業は「どんぶり勘定」でOK!

一般的には「『どんぶり勘定』はダメです」と言われていますが、筆者は、「中小企業は『どんぶり勘定』でOKです」と言い続けています。とはいえ「中小企業は思い切り適当でいいです。いい加減でOKです」と言っているわけではありません。その意味するところは、

「損益」ではなく「お金の動き」だけをそのまましっかりと見ていきましょう

ということです。

2)「どんぶり勘定」の語源

ところで、「どんぶり勘定」と聞いて、あなたはどのようなどんぶりを想像しますか? カツ丼でしょうか? 親子丼でしょうか? 牛丼でしょうか? 丼(どんぶり)にはさまざまなものがありますよね。実は、どんぶり勘定の「どんぶり」とは、カツ丼などの器のどんぶりのことではありません。ご存知でしたでしょうか?

昔、職人さんが前掛け(エプロンのようなもの)をしていました。その前掛けのお腹の部分に大きなポケットが付いていました。その「ドラえもん」のポケットのような大きなポケットのことを「どんぶり」と呼んだそうです。

そして、職人さんはその「どんぶり」に紙幣や硬貨を入れてお金の出し入れをしていました。そのお金の出し入れの様子がはたから見たら適当でいい加減に見えたことから、適当でいい加減なお金の出し入れのことを「どんぶり勘定」というようになったのがどんぶり勘定の語源です。

3)職人さんはいい加減だったのか?

確かに、職人さんがポケットからお金の出し入れをしているところをはたから見たら「適当でいい加減」に見えるかもしれません。でも、職人さんは、本当にいい加減にお金の出し入れをしていたのでしょうか? 筆者はひょっとしたら違うのではないかと考えるようになりました。
職人さんは、お金が足りなくなったら、仕事の道具や材料を買うことも出来なくなるし、生活もできなくなるから困りますよね。ですから、職人さんは実はしっかりと「お金の流れ」をわかりながらお金の出し入れをしていたはずです。例えば「今日はこれだけの入りがあって、これだけの出があった。残りはこれくらいあるから明日はあれを買える」というように。

4)そもそも「お金の流れ」とは何なのか?

よくよく考えてみると「お金の流れ」とはいったい何のことなのでしょうか? 紙幣や硬貨や預金のことをお金と呼びますが、そのようなお金は川にある水のようには流れていません。そこで20年以上「お金の流れ」とは何なのか? ということを考え続けて、以下のような結論にたどり着きました。お金の流れとは「入り」と「出」と「残り」のことだったのです。つまり、企業のお金の流れをつかむには、「損益」を追いかけるではなく、ただ単純に、お金の「入り」と「出」と「残り」の3要素だけを見ていけば事足りるということなのです。職人さんの「どんぶり勘定」は本質的には理にかなったお金の管理方法だったのです。
ですから、わたしたちも職人さんと同じように、どんぶり勘定で、お金の「入り」と「出」と「残り」をそのまま見ていけばいいわけです。

2 「どんぶり勘定」の効果

このように、どんぶり勘定でお金の「入り」と「出」と「残り」を管理していると、以下のような効果が期待できます。

  • 資金繰りのストレスがゼロになります。
  • 本来やるべき仕事(経営)に今よりも集中できるようになります。
  • 会社が成長するための基礎・土台がより強固になります。

「利益重視」で損益を追いかけている会社は、もしかすると財務上の見通しを持たずにお金を回しているのかもしれません。その場合、事業が成功するほど危険になるという悪循環に陥る傾向があります。それに対して、「どんぶり勘定」で残高を重視しながらお金を管理している会社は、先を見越しながらお金を回しているため、余計なストレスがなくなり本来やるべきことに集中でき、事業が急成長しても軌道に乗って善循環の経営ができる傾向があります。
つまり、何のために「どんぶり勘定」でお金の流れを管理するのか? の答えは、「気持ちに余裕を持ち、先を見越しながらお金を回し、本来やるべきことに集中して、事業を成長しやすくするため」ということができます。

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3 「どんぶり勘定」の肝

「どんぶり勘定」で特に意識していただきたい肝は、以下の2つです。

1)予測する

「どんぶり勘定」は、お金の「入り」と「出」と「残り」を管理することと言いましたが、その際には、お金の「入り」と「出」と「残り」を予測することが重要になります。過去の数字だけを見ていてもあまり意味はありません。見込みの数字を予測することが肝になります。

ドラッカーも前出の書籍(175ページ)で、「資金のマネジメントはキャッシュフローの予測によって容易に行える。ここでいう予測とは、希望的観測ではなく最悪のケースを想定した予測である」と言っています。

2)簡単シンプルに

資金繰り表を作成しようとするとき、最初は簡単シンプルに作ろうと思っていても、なぜかだんだん「損益」寄りになってしまい複雑(かつ難しい)になってしまいがちです。複雑になれば、使いこなせず挫折したり、作成した人にしか理解できなかったりするケースに陥りがちです。
例えば、会社の資金繰りのことは、ベテランの財務担当者一人の頭の中だけにあり、社長を含め他の誰にも分からない、という会社をよく見かけます。会社の大事なお金の情報を共有できないので、そのような会社の社長はとても困っています。ですから、資金繰り表は、誰にでも簡単に理解できるように簡単シンプルにすることがとても重要になります。資金繰り表を簡単シンプルに作成するコツは「損益」とはまったく別の物を作っているということを強く意識することです。

4 「どんぶり大福帳®」の7つの特徴とは?

ここまでお話をしてきた「どんぶり勘定」の考え方を、実務において実際に効果が得られるように形にしたものが「どんぶり大福帳®」です。25年間の試行錯誤を繰り返した末に誕生した中小企業向けの資金繰り表がそれです。

「どんぶり大福帳®」には以下に掲げる7つの特徴があります。

1)エクセルで作成
2)簡単シンプル
3)1年先まで残高予測できる
4)日ベースの日繰り表が基本
5)日繰り表と月繰り表が連動
6)通帳ベース
7)同業他社比較できる

次に、7つの特徴を簡単にひとつずつ解説していきましょう。

1)エクセルで作成

高価なソフトウエアは必要なく、普段お使いのエクセルで作成しますので、誰にでも簡単に操作することができます。

2)シンプルな形

資金繰り表は形が大事です。下表は、よく見かける資金繰り表のひな型ですが、「収入」「支出」の収支が、Ⅰ営業資金収支とⅡ財務等資金収支とがあり、収支(「入り」「出」)が2段構成になってしまっています。このように2段階構成になると計算がとても複雑で難解になり会計の専門家である税理士でも数字を合わせるのがとても難しくなります。

ありがちな資金繰り表の画像です

ですから「どんぶり大福帳®」は下表のように「入り」と「出」を1段構成にしています。1段構成であれば誰でも簡単に数字を合わせることができます。

どんぶり大福帳の画像です

そして、見やすいように色分けをしています。白色は「入り」、黄色は「仕入」、緑色は「経費」、青色は「税金」、茶色は「返済」としています。

3)1年先までの残高を予測できる

上の図表の一番下にある行の数字が「預金残高」です。「入り」も「出」も1年先までの見込みの数字を入力しているので、1年先の見込みの「預金残高」を常に見ながら経営していくことができます。
まずは、直近1年分の過去の数字を通帳からそのまま入力し、その入力した数字を足したり引いたりして将来1年分の数字に調整するのが、実際に予測(見込み)の数字を入力するときのコツです。
ドラッカーは前述の書籍の中(175ページ)で、「常に先を見て、どれだけの資金が、いつ頃、何のために必要になるかを知っておかなければならない。一年の余裕があれば手当は可能である」と言っています。まったくその通りだと思いますし、「どんぶり大福帳®」であればそれが可能になります。

4)日ベースの日繰り表が基本

「5日ごと」の資金繰り表や「月ベース」の資金繰り表をよく見かけますが、それだと「〇月〇日にいくらお金が足りなくなるのか?」「〇月〇日にいくらお金が余っているのか?」という最も大事なことが分かりません。ですから、資金繰り表は「日ベース」の日繰り表にすることが基本中の基本といえます。

日繰り表の画像です

なお、この「どんぶり大福帳®」は、

こちらからダウンロード
できます。

5)日繰り表と月繰り表が連動

下の図表は、9月決算のクライアント企業のものです。画面の下にあるタブを見ていただきたいのですが、10月タブから9月タブまでが、それぞれ1カ月間の日繰り表です。そして全体像タブが1年間を見通せる月繰り表となっています。日繰り表の月の合計額の数字が全体像タブの月繰り表に飛んでくるようにリンクを貼っています。数字を入力するのは日繰り表のみで、月繰り表の全体像シートは入力せずに見るだけです。

どんぶり大福帳の記載例を示した画像です

6)通帳ベース

日繰り表は通帳ベースで管理すべきです。口座ごとに「入り」と「出」と「残り」の表を作るのが一番ストレスのない管理方法です。下の図表は3個の口座(A口座、B口座、C口座)を使っているクライアント企業の事例です。3個の口座を使っているのですから3個の表が必要になります。もし10個の口座を使っているのであれば、10個の表を作成することになります。複数の口座を使っているのに1個の表で管理しようとすると作成が非常に困難になり、挫折してしまいます。

日繰り表は通帳ベースで管理した場合の記載例を示した画像です

また、項目について、勘定科目(決算書の項目)を使用する会社が多いのですが、勘定科目を使用すると、資金繰り表とは別のところで集計をしないといけなくなるので、面倒ですし、ミスが増えます。そこで、「どんぶり大福帳®」では、「通帳」に記載されている項目をそのまま使用するようにしています。あくまでも「通帳ベース」ということが基本になります。

7)同業他社と比較できる

下の図表のように、全体像シートの数字を整理して、粗利益率や労働分配率などの指標をあらかじめ自動計算されるようにしておけば、簡単に同業他社の数字と比較できるようなるので、経営課題が浮き彫りになります。

同業他社の数字との比較した記載例を示した画像です

5 まとめ

ドラッカーは前述の書籍の中(174ページ)で、「挫折の原因はいつも同じである。第一に、今日のためのキャッシュがない。第二に、事業拡大のための資本がない。第三に、支出や、在庫や、債権を管理できない。おまけに、これら三つの症状は同時に起こる。1つでも起こると体力を損なう。財務上の危機は、立て直しに非常な労力と苦痛を伴う。しかし、これら3つの症状はいずれも予防できる」と言っています。

ドラッカーは実務の現場で実際に行われている具体的な手法についてまでは述べていませんので、その具体的な手法について、当記事で「どんぶり大福帳®」を例にして述べさせていただきました。「どんぶり大福帳®」を導入すれば、あなたもドラッカーが提唱しているお金の管理が簡単にできるようになります。変化の時代にはとくにお金の分析と予測と管理が大事になります。ぜひ参考にしていただいて、成果を出していただけると幸いです。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年6月21日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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レンタルガレージを開設する際の留意点や費用感について

書いてあること

  • 主な読者:遊休地をレンタルガレージに活用しようと考えている経営者
  • 課題:倉庫業の登録の要否、具体的な費用感などが分からない
  • 解決策:倉庫業の登録は不要(建設時の許可などには注意)。ガレージの購入・設置価格は車2台分が入るサイズで70万円台後半が相場。レンタル料金は事業者により異なるが、車が入るサイズで月額1万円台のところなどがある

1 レンタルガレージの経営について

1)レンタルガレージとは

レンタルガレージとは、シャッター付きの車庫を自動車やバイクの所有者(以下「利用者」)向けに貸し出すサービスです。利用者が収納物の管理責任を負うため、運営者は事業を開始するに当たって倉庫業の登録を受ける必要はありません(登録を受けた倉庫業者がレンタルガレージを展開するケースもあります)。

一般的に、車両の保管を主目的とする月極契約のレンタルガレージや、車両の整備を目的とし工具などの貸し出しも行う時間貸しのレンタルガレージがありますが、この記事では、前者に注目して見ていきます。

2)利用者から見たレンタルガレージのメリット

1.車両の盗難を防止できる

青空駐車場ではないため、車両や夏用・冬用タイヤなどをイタズラや盗難被害から守ることができます。

2.車両のメンテナンスの手間が減る

紫外線や風雨による塗装やタイヤなどの劣化や、飛来物による車両のキズ・ヘコミを心配する必要がなくなります。花粉や黄砂の付着も気にすることが少なくなり、洗車にかかる時間やコストを減らせます。

3.都合の良い時間に出し入れができる

運営者に収納物を寄託するわけではないので、好きな時間に車両の出し入れができます。

3)運営者から見たレンタルガレージのメリット

1.遊休地活用策としては比較的初期費用を抑えられる

簡単に言ってしまうと、シャッター付きの車庫を設置するだけで事業を開始できるため、土地活用でよく事例に挙がるアパート経営などよりも初期費用を抑えられます。

2.管理の手間が掛かりにくい

ガレージの鍵を渡した後は利用者が収納物の管理責任を負うため、荷物の出し入れ時に立ち会いは不要です。

3.地域の防犯に貢献できる

レンタルガレージの利用が増えれば、自動車やバイクの盗難が減ることが期待でき、地域の防犯に貢献できます。

2 レンタルガレージを開設する際の留意点

1)建築確認申請の有無

ガレージは、自社所有の敷地内だからといって勝手に設置できるわけではありません。柱、屋根があり、その場所に固定して収納や駐車のために用いるものは、建築物として扱われるためです。

一般的には、次のいずれかの条件に該当する場合は、設置の前に最寄りの自治体への建築確認申請(建物を建てる前に、その場所の地盤や建築物が建築基準法に適合するかどうか確認すること)が必要です。

  • 敷地が防火地域、準防火地域(建物の密集地や、幹線道路沿いなど、火災の被害が起きやすい場所や、火災を防ぐために予防が必要な場所を指します)
  • 新築の物件、もしくは、床面積が10平方メートルを超える増築

2)固定資産税に注意

ガレージを設置した場合、原則として次の条件を満たすため、建物として見なされ固定資産税が発生します。

  • 屋根があり、3方向以上が壁や建具で囲われていること(外気との分断性)
  • 基礎等で土地に固定されていること(土地への定着性)
  • 居住、作業、貯蔵等に利用できる状態にあること(用途性)

こうしたことから、ガレージを設置してレンタルガレージを運営するのはアパート経営と比べると節税効果が少ないといわれています。

3 ガレージの費用感について

1)ガレージの購入・設置価格

車用のガレージを購入する場合、2台分が入るサイズで70万円台後半が相場のようです。例えば、稲葉製作所(東京都大田区)が扱う「ガレーディア」シリーズは、一般型で78万1000円(税抜き)となっています。

なお、商品価格と合わせて組み立て工事費や基礎工事費などが別途必要となることに注意が必要です。このため、外構(エクステリア)専門の業者にガレージの購入と施工まで一括で依頼して費用を抑えるのも一策です。

また、バイク用のガレージでは、例えばデイトナ(静岡県周智郡森町)が取り扱う「デイトナガレージ」は一番小さいサイズで34万5950円(税込み価格、配送料、設置費用込み)としています。

2)ガレージのレンタル料金

ガレージを貸し出す場合、利用期間は最短で1カ月からとしており、事業者によって異なりますが、車が入るサイズで最低で1万円台後半、バイク用のサイズで最低で1万円台前半の月額賃料を設定しているようです。また、契約時には月額の賃料と併せて、メンテナンス費(退去時の鍵の取り替えや掃除)、管理費を利用者からもらう場合が一般的です。

他にも、事業者によってはオプションとしてバイクを出し入れするためのスロープやメンテナンス用品を置くための棚板を貸し出す場合もあります。

4 レンタルガレージ等を展開する企業の事例

ここでは、レンタルガレージやそれに類似するサービス(トランクルームやレンタルボックス)を提供している企業の事例を紹介します。

1)イナバクリエイト(東京都大田区)

前述した稲葉製作所のグループ会社である同社では、「イナバボックス」というトランクルームを運営しています。出入り口のカードキーや物置のピッキング対応キーをはじめ、万が一の際にはガードマンが対応するなど、防犯システムが徹底されています。

利用料は店舗やサイズによって異なりますが、例えば静岡県の掛川下俣南店では車が入るサイズのトランクルームが月額2万7500円(税込み)から、静岡県の藤枝店のバイクガレージが月額1万1000円(税込み)からとなっています。

2)エリアリンク(東京都千代田区)

トランクルームの「ハローストレージ」を展開する同社では、バイク専用のトランクルームを提供しています。

トランクルームは、盗難防止用の車止めを備えた屋外駐車場タイプ、小物やヘルメットなどのバイク用品も収納可能で、二重ロックで防犯性の高いボックスタイプ、電源コンセントが設置され、屋内のスペースを共同で利用するガレージタイプの3種類があります。

月額使用料は店舗やサイズによって異なりますが、例えば東京都足立区の六木店で月額1万1000円(税込み)からとなっています。

3)ガレージングデイズ(広島県広島市)

ガレージハウスなどの不動産の賃貸、売買の仲介などを手掛ける同社では、車・バイク用のシャッター付きレンタルガレージを提供しています。

共用の水道をはじめ、照明やコンセントを完備しているため、洗車や長時間の作業をする場合にも向いています。

月額の賃料は広さや場所によって異なりますが、2万5000円(税込み)からとなっています。

4)さくら屋(栃木県足利市)

賃貸不動産事業などを手掛ける同社では、車用の月極駐車場、レンタルガレージ、バイク用のレンタルボックスを提供しています。

レンタルガレージは車高が低い車にも対応するスロープ設計で、24時間録画の防犯カメラも設置されています。

月極駐車場は月額5500円(税込み)から、レンタルガレージは月額2万2000円(税込み)から、レンタルボックスは月額1万3200円(税込み)となっています。

5)ユーティライズ(東京都千代田区)

「ドッとあ~るコンテナ」というトランクルームを運営する同社では、バイク用のガレージや屋外型トランクルーム(コンテナ)を展開しています。

バイク用のガレージは奥行きが広くバイクを出し入れしやすいだけでなく、棚も設置されているため、バイク用品の保管やメンテナンスにも便利です。屋外型トランクルームは棚やラック、バイクを出し入れするためのスロープを自由に設置することができます。

利用料は月額7150円(税込み)となっています。

6)ライゼ(大阪府大阪市)

大阪、兵庫、京都、奈良で店舗を展開する同社では、「ライゼホビー」という車を格納、メンテナンスできるシャッター付きレンタルガレージを提供しています。

ガレージは単独の車庫だけでなく、ロフト付きでグッズの収納に便利なタイプや、1階がシャッターガレージで2階がフリースペースになっているメゾネットタイプもあります。

利用料は店舗や広さによって異なりますが、車が入るガレージが月額1万9800円(税込み)から、バイク用ガレージが月額1万6500円(税込み)からとなっています。

以上(2021年6月)

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画像:moonrise-Adobe Stock

【朝礼】“常識”を疑え、そして覆せ!

おはようございます。皆さん、今日の朝食は何でしたか。私はけさ、マクドナルドでハンバーガーを食べました。ハンバーガーを頬張ると、子どもの頃に初めて食べたときの思い出がよみがえるようで、とても懐かしい気分になりました。

マクドナルドが日本で初めてオープンしたのは今から50年前、1971年のことでした。マクドナルドのハンバーガーは、なぜ50年もの間、日本人に愛され続けてきたのでしょうか。その理由を探るため、今日は、日本マクドナルドの創業者である藤田田(ふじたでん)氏の話をします。

日本マクドナルドの創業前、本場米国のマクドナルドのリーダー、レイ・クロック氏の下には、日本の大手商社などから、チェーン展開の依頼が多く寄せられていました。大手商社などの中には、ハンバーガー・ビジネスを、自社が手掛ける事業の1つぐらいにしか考えていないところも多く、クロック氏はこれらの依頼を全て断っていました。しかし、藤田氏と出会い、「彼ならこのビジネスに本気で取り組んでくれる」と確信したクロック氏は、日本でのチェーン展開を自ら依頼します。これが、日本マクドナルド誕生のきっかけです。

藤田氏がハンバーガー・ビジネスをやると言い出した頃、藤田氏の周りでは「パン食の習慣がない日本人に、ハンバーガーは受け入れられない」という考え方が主流でした。藤田氏がすごいのは、この“常識”を、真っ向から覆した点です。

藤田氏は、日本人の米の消費量が年々減少しているという統計から、食の西欧化がさらに進むことを予見し、国内で店舗を急速に展開します。さらに、子どもにターゲットを絞ることで、「彼らが成人して親になったとき、日本人の食習慣にハンバーガーが定着する」というプランを立て、この思惑を見事に的中させます。藤田氏は、「パン食の習慣がない日本人に、ハンバーガーは受け入れられない」という“常識”を疑ってかかっただけでなく、自分が思い描く未来を“常識”にしてしまったわけです。

さて、私は日ごろから皆さんに対し、会社の新しいビジネスについて、積極的に意見を出してほしいとお伝えしています。幸い意見を出してくれる人が多く、そのことには感謝しているのですが、私が「このビジネスをやろうと思った根拠はある?」と質問すると、言葉に詰まってしまう人がほとんどです。もしかしたら、「何か新しいことをやらなければ……」という焦りだけが先走っているのかもしれません。まずは、自分や会社、顧客や市場を取り巻く状況について、見落としている情報がないかチェックしてみましょう。客観的なデータがあれば、何が会社にとって必要なのかが分かるはずです。そして、何かビジネスチャンスを見つけたら、今度はそれを確実な未来にするためのプランを考えてみてください。難しいとは思いますが、“常識”を疑うだけでなく、覆すまでを私は皆さんに期待しているのです。

以上(2021年5月)

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画像:Mariko Mitsuda

第21回 エイターリンク株式会社 代表取締役 田邉 勇二氏/森若幸次郎(John Kojiro Moriwaka)氏によるイノベーションフィロソフィー

かつてナポレオン・ヒルは、偉大な多くの成功者たちにインタビューすることで、成功哲学を築き、世の中に広められました。私Johnも、経営者やイノベーター支援者などとの対談を通じて、ビジョンや戦略、成功だけではなく、失敗から再チャレンジに挑んだマインドを聞き出し、「イノベーション哲学」を体系化し、皆さまのお役に立ちたいと思います。

第21回に登場していただきましたのは、「ワイヤレス給電で配線のない世界へ」をビジョンとし、FA・ロボット・スマートハウスなど、幅広い領域へ独自のワイヤレス充電技術を提供するスタンフォード大学発ディープテックスタートアップのエイターリンク株式会社 代表取締役 田邉 勇二氏です。(以下インタビューでは「田邉」)

1 「日本の大手企業で経営に携わるのは、文系出身の方ばかり。僕はそこに違和感を覚えたのです」(田邉)

John

田邉さん、この度は貴重なお時間を本当に愛りがとう(愛+ありがとう)ございます!
早速ですが、田邉さんのご経歴についてお聞かせください。

田邉

生まれは、シリコンバレーのサニベールという街です。父が現地でビジネスをしていた関係で、家族で住んでいました。

4歳の時に家族で日本に戻り、エンジニアリングを学んで大学院の博士課程まで進みました。研究をしながらアメリカでスタートアップを立ち上げたりはしましたが、基本的にはずっとアカデミア領域におりました。

日本にいた頃は、北九州に当時新設されたばかりだった早稲田大学の大学院に通っており、トヨタ自動車さんと共同でアンテナの研究に取り組んでいました。
具体的には、車の中にあるワイヤーハーネスを無線化することにより、車の重量を軽くするプロジェクト、居眠り運転防止のために運転手の生体信号を取得するプロジェクトなどに参加していました。

今振り返ると、とても良い経験を積めたと思っています。

その後、研究員としてスタンフォードへ行ったのは、30歳を過ぎていました。

John

生まれがシリコンバレーなのですね!
日本でエンジニアとしてすばらしいご研究やご実績を積まれていたようですが、どのような想いからスタンフォードへ行かれたのですか?

田邉

エンジニアとしての視野を広げたいという想いからです。

日本の大学院時代、さまざまなおもしろいプロジェクトに参画させてもらっていたのですが、「日本ではエンジニアがあまりリスペクトされていない」「マネジメント層を目指すエンジニアが少ない」といった想いもありました。

日本の大手企業で経営に携わるのは、文系出身の方ばかり。僕はそこに違和感を覚えたのです。

シリコンバレーのスタートアップや、エンジニアたちがどう活躍しているかということにも興味があり、渡米を決意しました。野球選手であれば、メジャーリーグを目指すのは当然のことかなというのもありました。

そして、渡米後スタンフォードで出会ったのが、体内に埋め込む医療機器などの小型化に取り組んでいたエイダプーン教授(写真真ん中)でした。

スタンフォード大学工学部研究室のメンバーの画像です

スタンフォード大学工学部研究室のメンバー

彼女は機器の小型化について理論的な研究を重ねており、それを検証するための実際のハードウェア作り、実証実験に長けた人間を探していました。

僕はまさにハードウェアサイドの人間でしたので、彼女のニーズと合致し、一緒に働くことになったのです。

John

起業の聖地シリコンバレーで生まれ、日本で研究しながらもアメリカでスタートアップを立ち上げられたご経験を持つ、田邉さんだからこそ感じられた違和感を見て見ぬ振りをせずに、実際に渡米して確かめたというのもすばらしいです。良い出会いに繋がってよかったですね。
具体的にどういった医療機器を作られていたのですか?

田邉

我々が論文で発表した中で一番分かりやすいのは、心臓のペースメーカーですね。

心臓の中に超小型のペースメーカーをカテーテルを通して埋め込み、体の外からワイヤレスで給電して、心拍を制御します。体内のデバイスはその電波をキャッチして電子信号に変換し、心臓をペーシングするというものです。

心臓は左心室・右心室、左心房・右心房という4部屋に分かれていますが、左心室・右心室、右心房の3部屋を同時にハッキングするというのが重要なポイントでした。特に、左心室は体表面からの距離が10cm以上と深く、ワイヤレス給電によりペーシングするのは困難を極めました。何度となく、諦めようかと議論をしていましたが、問題の本質がワイヤレス給電による電力量ではなく電極にあることが分かったので、解決することができました。

僕たちは豚を使った実験で、世界で初めて3部屋同時ハッキングに成功することができました。
著名な科学誌である「Nature」で論文を発表し、話題となりました。

John

動物実験で世界初となる成果を出されたなんて、すごいですね!今後、長い道のりだとは思いますが、実装まで何年程度かかるとお考えですか?

田邉

そうですね。まだ動物実験を経た段階ですので、社会実装は10年以上先ということになります。

この研究を元に医療機器のスタートアップ企業を立ち上げたのが、僕にとって初めての起業でした。

当時の僕はまだ会社の経営などは全く分からない状態でしたが、教授や大学の知財部などの後押しを受け、学生を含む3人で会社を立ち上げました。

会社立ち上げ後は、この技術を心臓だけでなく、膀胱へ電気刺激を与えて排尿をコントロールするなどに応用していきました。

現在、僕は完全にこの事業から離れてしまいましたが、企業としてはシリーズBのフェーズに入り、50億円ほどを調達していると聞いています。今は、ただの株主となっています。

John

初めて起業する時に、周囲にサポートしてくれるプロフェッショナルがいたことは有り難いことですよね。さすが、ゼロイチを得意とするスタンフォード大学です。起業が非常に身近になりますよね。

2 「スタンフォードでは、日本でいう『大企業へ入ること』と同じくらい、『スタートアップを自ら立ち上げること』に価値があると考えられています」(田邉)

田邉

はい。スタンフォードでは、大学全体がスタートアップを推奨しているのです。
教授の9割以上は、実際に何かしらのスタートアップに携わっているようです。
それが日本の大学と大きく異なる点ですね。

スタンフォードでは、日本でいう「大企業へ入ること」と同じくらい、「スタートアップを自ら立ち上げること」に価値があると考えられています。

むしろ、「起業をしていない」ということは社会に何もインパクトを与えていないと思われてしまうほど、世界を変えるということが大事であると教わりました。

Apple創業者のスティーブ・ジョブズが「Change the world」という言葉を残していますが、スタンフォードの学生たちの中には、それが文化として根づいているのです。

研究をしているというよりも、ビジネスの種を探している学生ばかりでしたね。

John

社会にインパクトを与えるかどうかを評価するというということは、日本にももっと必要ですね。過去に何を成したかも大切ですが、将来何を成したいのかも見なければ、若者がビジョンを持つことは難しくなります。

「こんな世界にしたい」という強烈なビジョンがあれば、たとえ本人にそれを成し遂げるためのスキルが不足していたとしても、必要なスキルを持った仲間を集めることができます。「今の自分にできること、これまでやってきたこと」にとらわれ過ぎずに、世界に対して自分は影響を与えられる、よりよい世界にするんだと信じる力を若者たちに育んでいって貰いたいです。

田邉さんから見て、アメリカと日本の違いはどこからきていると思いますか?

田邉

さまざまな要因があると思いますが、根幹にあるのはエデュケーション(教育)の違いではないでしょうか。

日本は先進国で唯一、文部科学省が大学も含めて全てのカリキュラムを決めている国で、教育の自由度が極めて低いのです。

アメリカの場合は個々のカリキュラムをそれぞれの大学・教育機関で決めています。州立の教育機関の場合はある程度決まったカリキュラムがあるかもしれませんが、それでも「こう教えなさい」といった指示はない。

根幹から大きく異なっています。

John

では、アメリカでは各大学の方針や先生によって、内容も大きく異なるということですね。

スタンフォードはその中でも、特に優れたカリキュラムを構築できているということでしょうか。

田邉

スタンフォードに限らず、一般的なトップスクールはそれぞれ自由に、特色のあるカリキュラムを組んでいると思いますよ。

スタンフォードの強み・特徴を挙げるとするなら、全米でもトップクラスのダイバーシティ(多様性)だと僕は思います。人種の偏りなくさまざまな学生が在籍しています。

もう1つの大きな特徴は、学生数に対する教授の多さ
学生が約1万5000名(学部生6000名、大学院生9000名)なのに対し、教授が約2000〜3000名、研究員が約2万5000名も在籍しているのです。

人数で見ると、学生2~3名(研究室に配属されるのは大体大学院生)に対して教授が1名つく、というバランスですね。

その分、学費の高さも有名ではありますが、スタンフォードが大学のトップだと言われるのにはそうした背景があると思います。なので、コスパは高いと言われています。

John

学生2〜3名に対して教授が1名、すごく贅沢ですね!
そして、それだけ多くの学生や研究者が在籍しているとは、もはや一つの街のようです。

私も以前、スタンフォードのエグゼクティブ教育プログラムでM&Aなどを学んだことがあります。授業の内容が良いことはもちろんですが、敷地内に教会や美術館があり、自然豊かでした。広大な敷地内を自転車で移動した時の気分の良さも未だに覚えています。学生の能力を最大限に伸ばすために、環境への投資もしっかり行われていて感動しました。

3 「最終的には『世の中から配線をなくしたい』という想いを、当時から持っていました」(田邉)

John

1社目を起業された後、どのような活動や研究を経て、現在のお立場になられたのですか?

田邉

その後も、「ワイヤレスで、電力を小さなデバイスへ送る」という技術を根幹に、埋め込み型の医療機器をはじめ、さまざまなアプリケーションの研究に参加していました。

具体的な例を挙げますと、オプトジェネティクスと言われる光遺伝学の研究です。

これは体の中で刺激したい細胞を選択し、光に反応するタンパク質を神経側に出現させLED光などを当てることにより、神経を精度よく選択的にコントロールできる技術です。

例えば、慢性的な体の痛みを和らげたり、心拍や呼吸をコントロールしたりすることも可能です。

実験では、生きたマウスの脳に光を照射し、動きを操作することにも成功しています。

John

そんな技術があるのですね!非常に興味深いです。

田邉さんの「これを成し遂げたい」という目標は何だったのでしょうか?

田邉

最終的には「世の中から配線をなくしたい」という想いを、当時から持っていました。

現在あるワイヤレス給電と言われる給電は、磁界結合方式といって、距離が近くないと使えないものが多いのです。

身近な製品としては、電動歯ブラシなどをイメージしていただくと分かりやすいかと思います。
電動歯ブラシは、台座部分と歯ブラシの下の部分双方にコイルがあり、歯ブラシを台座に置くことによって、充電ができる仕組みになっていますよね。
これが、その台座なしに部屋のどこに置いても充電されるようになったらすごく便利だと思いませんか?

部屋の中に充電したいデバイスをいくつ置いても、ハブとなる充電器1つで全てが充電されていく。わずらわしい配線や、都度プラグインするといった問題が全て解消されるのです。

医療機器への応用ももちろん重要ですが、より多くの人々の暮らしを変えるために、このワイヤレス給電の技術を応用していきたいという想いから、エイターリンク株式会社を立ち上げました。

John

配線のない世界が実現すれば、相当なインパクトを与えますね!人々は今よりずっと快適な生活ができます。

エイターリンクの事業について、もう少し詳しく教えていただけますか。

田邉

エイターリンクはスタンフォード発のスタートアップとしてアメリカではじめに立ち上げた会社で、2018年には独自のワイヤレス給電技術で特許を取得、2020年8月に日本法人を設立し本社移転しています。

先ほどお伝えしたように、現存するワイヤレス給電と言われる技術は近距離でないと充電されないのですが、1〜20メートル程度離れてもワイヤレス給電できるような製品の開発を目指しています。

現在5Gの時代に入り、IoT機器も増えてきていますが、さらに2029年6Gの時代になると、そうした機器が爆発的に増えるであろうと予測されています。
僕たちの事業は、この時代を狙ったものです。

6G時代のイメージ図の画像です

6G時代のイメージ図(出展Nature Electronics volume 3, pages20〜29 (2020))

John

具体的に、6G時代においてどのようなサービスを提供されるおつもりなのですか?

田邉

IoT機器への給電と、それらの機器からデータを収集する過程で、僕たちの技術が役立ちます。

アンテナから電磁波を送り、受けた電磁波を電気信号に変換するという技術が根幹となります。

医療分野、FA機器、スマート家電などさまざまな分野への応用ができるので、現在複数の国内大手企業と実証実験や製品開発を行っている段階です。
2021年には上市が決まっている製品もあるので、非常に楽しみです。

John

非常にわくわくするお話です! どのようにしてそうした大手企業とネットワークを作られたのですか?

田邉

共同創業者の1人である岩佐さん(写真右)が商社の出身でして、その経歴を生かして精力的にビジネスディベロップメントとセールス活動をしてくれています。

岩佐さんとの画像です

2017年、シリコンバレーにて岩佐さんとの初めての出会い

彼は当初、商社マンとして、在籍していた商社でエイターリンクの製品を扱いたいと言ってくれていたのですが、大手企業でしたので会社側はスタートアップの僕たちとの取引に難色を示していたようです。

岩佐さんは製品に惚れ込んでくれていたので、「会社でできないなら、メンバーとして販売したい」とジョインしてくれました。本当に、彼が当時勤めていた商社を辞めてしまったときには、大きな責任を感じました(笑)

John

すばらしい出会いですね。きっと岩佐さんは製品はもちろん、田邉さんの世の中から配線をなくすという想いにも共感し、惚れ込まれたのでしょうね。

今後の展望について、お聞かせいただけますか?

田邉

まずはプロダクトマーケットフィットを達成させ、現在やりとりしているクライアントの要望を一つ一つ叶えていくところからですね。

企業によって、ワイヤレス技術を給電だけに使うのか、データの取得までしたいのかなど、要望が異なりますので丁寧に進めていきたいです。

そして、ゆくゆくはワイヤレス給電の分野で日本だけでなく世界をリードしていく存在になりたいです。

John

お話を伺っていて、田邉さんには、まだ私たちが見えていない未来が見えているのだなと感じます。

田邉さんたちが目指しているという2029年の6G時代、私たちの暮らしはどのように変わっているのでしょうか?
また、課題と感じていることもあれば教えてください。

田邉

ガラケーからスマホへと移り変わった時と、同じような変化が起こるだろうと予想しています。

スマホが出始めた当初、「本当にこれが世の中に浸透するのか」と懐疑的な見方もありました。しかし、今ではどうでしょうか?
生活する上でなくてはならない存在になっていますよね。

それと同じように、デバイスにコネクターや配線はないのが当たり前。部屋のどこにデバイスを置いてもワイヤレスで充電できる。そんな世界になるでしょう。

僕自身も、テレビ裏の配線や、スマートフォンの配線が絡まったりするのが日常においてすごくストレスなので、そうした問題を解決したいという気持ちで取り組んでいます。

課題としては、現在の技術レベルではワイヤレスで送れる電力量が少ないという点です。
そのため、スマートフォンなどの消費電力が大きいデバイスは、ワイヤレスでの充電がまだ困難です。ただし、将来的にはスマートフォンはなくなっていて、例えばスマートコンタクトレンズにARビジョンを投影させるような通信機器、究極的には、脳に直接電極を埋め込んでテレパシーのように以心伝心が可能となる通信デバイスなどが可能となるかもしれません。いずれにしましても、デバイスの消費電力はムーアの法則に伴って、どんどん下がって来ているので、中長距離のワイヤレス給電によるアプリケーションの幅は大きく拡がると考えています。

なお、大電力を必要とされる電気自動車の充電などとは相性が良くなさそうです。

John

電力量の課題が解決し、身の回りの全ての製品がワイヤレス充電となった未来を想像すると、とても楽しみです。部屋のどこに置いていても充電ができるとなると、もしかしたら「充電する」という感覚すら、なくなるのかもしれませんね。

4 「失敗を通し、大事なことに関しては、即決してしまう前にしっかりと確認をするということを学びました」(田邉)

John

ここまで田邉さんの順風満帆なキャリアのお話を伺ってきましたが、多くの方の学びとなるよう、失敗やご苦労されたお話も、お伺いできたらと思います。

今だから話せる失敗などがあれば、教えていただけないでしょうか?

田邉

最大の失敗は、1社目の起業の時ですね。
契約書が読めなかったというのが致命的でした。

今考えると恐ろしいことですが、出資元との契約に際し、弁護士に見せないまま契約書にサインをしてしまったのです。

結果的に出資元に非常に有利な条件となってしまっていて、僕たち(私とエイダ)はほとんど技術を提供するだけ、というような状況になってしまいました。

そういうことを何も知らずに会社を立ち上げてしまっていたのです。

John

契約書の問題は難しいですよね。特にスタートアップだと、勢い任せに話を進めてしまったり、弁護士費用の捻出を勿体無いと考えてしまいがちで、失敗に気が付いた時には手遅れになるケースもありますよね。

田邉

本当に、後から振り返ると恐ろしいです。
今でも、僕はあれこれ考えたり悩んだりする前に、まずはやってみるというタイプではあるのですが(笑)。

失敗を通し、大事なことに関しては、即決してしまう前にしっかりと確認をするということを学びました。

今の会社では、資金調達についても、日本の国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(略称・NEDO)の研究開発型スタートアップ支援事業にアプライするなど以前と異なる手法をとるようにしています。また、シリーズAのクローズに向けて、投資契約などは穴があくほど読み込んでいます。

John

失敗から学ばれ、新たな戦略を立てられた田邉さんは、さすがです。これから起業したい方、スタートアップで働かれている方にとって、非常に有意義な学びのシェアをしていただき、感謝致します。

5 「自分ができること、楽しいこと、世の中に貢献できること。この3つが合わさっていることをしたいと考えた時に、ワイヤレス給電の分野があったのです」(田邉)

John

研究者としてすばらしいご実績を持ちながら、パッションを持ってスタートアップの経営に取り組まれている田邉さんですが、その原動力はどこから来るものなのでしょうか?

田邉

一番大きいのは、楽しいからですかね(笑)。

自分ができること、楽しいこと、世の中に貢献できること。この3つが合わさっていることをしたいと考えた時に、ワイヤレス給電の分野があったのです。

お金だけが目的なのであれば、スタートアップは全くおすすめできないと思っています。お金が欲しいだけなら、GAFAのような大企業に勤めていたほうが、収入の面では安定して稼げて良いでしょうね。

10年ほど大企業に勤めてリタイア、という方もシリコンバレーではよく目にしてきました。すでに資産を持っているのであれば、SP500などの投信に入れておしまいかなと思います。

John

そうでしょうね。
僕も田邉さんと同様、自分なりのもっともおもしろい生き方をしたいなと思っているタイプです。自分の心に正直に、情熱に従っていたいし、そういう生き方をしている人々を尊敬しています。なので、田邉さんとお話していて、心から楽しかったです。

まだまだお話をお聞きしたいのですが、最後の質問です。
田邉さんにとっての「イノベーションの哲学」を教えてください。

田邉

イノベーションとは、後からついてくるもの」。
それが僕のイノベーションの哲学です。

イノベーションは、それを目指して作られるものではないと思うのです。

例えば、スマートフォンやコンピューターの開発者たちは、「イノベーションを起こしてやるぞ」という気持ちでチップ開発やスマートフォンの開発に取り組んでいたわけではないはず。

作っている当時は「爆発的にヒットするだろう」という考えではなく、「世の中を変えたい、もっと便利にしたい」といった気持ちのほうが強かったと思います。

イノベーションというのは、後になって「これはイノベーションだったよね」と分かるものであり、あくまで結果論なのです。狙ったり、計画して作るものではないと考えています。

John

かっこいいですね! ぜひ、ワイヤレスで配線のない世界を実現していただきたいと思います。

本日は貴重なお時間をいただき、愛りがとうございました!

田邊氏のイノベーションフィロソフィーを示した画像です

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年6月11日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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運輸安全マネジメントのポイント

書いてあること

  • 主な読者:輸送安全に取り組む運輸事業者の経営者、安全統括管理者
  • 課題:全社的な安全管理体制を構築し、安全に関する取り組みを進めていきたい
  • 解決策:国土交通省のガイドラインを参考にPDCAサイクルの仕組みを導入し、安全管理体制の継続的改善を図る

1 運輸安全マネジメントは全社一丸で

運輸事業者にとって輸送の安全確保は何よりも重要です。経営トップから現場のドライバーまで全社一丸となって安全管理体制を構築し、継続的に改善を繰り返していくことが求められます。

コロナ禍の下、タクシーやトラックなどを含む「自動車運転の職業」の有効求職者数(パートタイムを含む常用)は、2020年4月以降、前年同月と比べて増加し、それまでのドライバー不足の状況は一転、買い手市場になっています。しかし、人材の確保・定着のためにも、全従業員に安全意識を浸透させ、事故・トラブルを防止する組織風土を目指す取り組みは欠かせません。

本稿では、国土交通省「運輸事業者における安全管理の進め方に関するガイドライン~輸送の安全性の更なる向上に向けて~」(以下「ガイドライン」)を基に、PDCAサイクルの仕組みを導入した運輸安全マネジメントのポイントについて紹介します。

■国土交通省「運輸事業者における安全管理の進め方に関するガイドライン~輸送の安全性の更なる向上に向けて~」■
https://www.mlit.go.jp/unyuanzen/content/20200615.pdf

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2 経営トップのリーダーシップが不可欠

運輸安全マネジメントには、経営トップの熱意、強力なリーダーシップが不可欠です。事業者の規模によっては、経営トップ自らが全ての現場の直接指導や管理をするのは困難かもしれませんが、経営トップには次のような項目に主体的に関与することが求められます。

  • 関係法令などの遵守と安全最優先の原則を事業者内部へ徹底する
  • 安全方針を策定する
  • 安全統括管理者に指示するなどして、安全重点施策を策定する
  • 安全統括管理者に指示するなどして、重大な事故などへの対応を実施する
  • 安全管理体制を構築・改善するために、かつ、輸送の安全を確保するために、安全統括管理者に指示するなどして、必要な要員、情報、輸送施設など(車両、船舶、航空機および施設をいう)が使用できるようにする
  • マネジメントレビューを実施する

3 Plan(計画:安全方針の策定)

ガイドラインでは、安全方針に明記すべき内容として「関係法令等の遵守」「安全最優先の原則」「安全管理体制の継続的改善等の実施」の3点を挙げ、全従業員を対象に周知徹底させることを求めています。

この安全方針を受け、会社が安全について目指す目標(到達レベル)およびその目標を達成するための具体的な手段を安全重点施策として設定します。

安全重点施策の設定に当たっては、次のような点に注意すべきとされています。

  • 目標年次を設定すること
  • 可能な限り、数値目標などの具体的目標とすること
  • 輸送現場の安全に関する課題を具体的かつ詳細に把握し、それら課題の解決、改善に直結するものとすること
  • 取り組み計画の実施に当たって責任者、手段、実施期間などを明らかにすること
  • 現場の実態を踏まえた改善効果が高まるよう配慮すること
  • 従業員が理解しやすいよう配慮すること

4 Do(実施)

1)安全統括管理者の選任と届け出

安全統括管理者は、中心的に安全管理体制を実施するキーマンです。経営トップの直下に位置し、安全管理体制に改善の余地がある場合などは、経営トップに直接報告するなどします。

経営トップは、次の事項に関する責任と権限を安全統括管理者に与えることが求められます。

  • 安全管理体制に必要な手順および方法の確立、実施、維持、改善
  • 安全重点施策の進捗状況や事故の発生状況など、安全管理体制の適切な運営のために必要な情報の経営トップへの報告
  • 安全方針の事業者内部への周知徹底

なお、経営トップはその責務において安全統括管理者を選任し、国土交通省に届け出なければなりません。

2)要員の責任・権限の明確化

安全管理体制を適切に実施する上で、各要員の責任と権限を明確にして、事業者内に周知徹底させることは非常に重要です。

ガイドラインでは、安全管理体制の運営上必要な責任・権限の他、関係法令などで定められている責任・権限を、必要とされる要員に与えることとされています。

3)情報伝達およびコミュニケーションの確保

情報の偏在などを防止するために、「経営管理部門と現場」と「現場同士」の上下左右の情報伝達とコミュニケーションの実現が重要となります。

コミュニケーションは、経営管理部門から現場に対するトップダウンのコミュニケーション、現場から経営管理部門に対するボトムアップのコミュニケーションの双方を確保することが重要です。

ガイドラインでは、具体的な方法として、次を挙げています。

  • 情報のデータベース化とそれに対する容易なアクセス手段の確保
  • 経営トップなどへ意見できる目安箱などのヘルプラインの設置

4)事故、ヒヤリ・ハット情報などの収集・活用

実際に発生した事故に関する情報だけではなく、事故につながりかねないヒヤリ・ハット体験などの情報も適時適切に経営トップに報告される体制を構築することは、安全管理体制を適切に実施する上で非常に重要です。

また、収集された情報は、一定の観点(類似事例を集めるなど)から分類・整理した上で、その結果を踏まえて情報を分析し、対策を検討・実施することが求められます。

5)重大な事故などへの対応

重大な事故などが発生した場合の対応方法をあらかじめ定めておくことで、万一の際に適切かつ柔軟に必要な対応が取れる体制を構築します。

ガイドラインでは、具体的な方法として「責任者の選任」「対応手順などの設定と周知」「全社的な事故対応訓練の実施」などを挙げています。なお、ガイドラインでは、対応手順が過度に緻密なものにならないように注意すべきとしています。

6)関係法令などの遵守

輸送の安全を確保するためには、関係法令などを遵守し、適切に業務を遂行することが不可欠です。

ガイドラインでは次の事項などについて、安全統括管理者が定期的に確認するなどして、関係法令を遵守することを求めています。

  • 輸送に従事する要員の確保
  • 輸送施設の確保や作業環境の整備
  • 安全な輸送サービスの実施およびその監視
  • 事故などへの対応
  • 事故などの是正措置および予防措置

7)安全管理体制の構築・改善に必要な教育・訓練などの実施

安全管理体制を適切に実施するためには、経営管理部門の要員、内部監査の担当者、各部門の責任者などに「ガイドラインの内容」「安全管理規程の内容」「関係法令」などについて教育・訓練することが非常に重要となります。

5 Check(評価:内部監査の実施)

安全管理体制が適切に実施され、機能していることを確認するために、少なくとも1年ごとに内部監査を実施することが必要です。

基本的に、内部監査の対象は、安全管理体制の実施に直接的に関わる経営管理部門となりますが、必要に応じて現場も対象となります。内部監査を実施する内部監査員として適しているのは、安全管理規程を熟知している者となります。

なお、内部監査の客観性・独立性を確保するために、ガイドラインでは、内部監査を受ける部門の業務に従事していない者が監査を実施することを求めています。

6 Act(改善:マネジメントレビューと継続的改善)

「マネジメントレビュー」は、内部監査の結果や安全統括管理者からの報告などを踏まえ、安全管理体制の適切性・妥当性、達成の度合い、改善の機会、変更の必要性などを検討するものです。

ガイドラインでは、経営トップは、安全管理体制の機能全般に関し、少なくとも1年ごとに「マネジメントレビュー」を行い、「今後の取り組み目標や計画」「取り組み方法の見直しや改善」などを決定することとされています。

「継続的改善」は、「マネジメントレビュー」などを通じて明らかになった安全管理体制の課題への対応であり、「是正措置(顕在化した課題の再発防止のために、その原因の除去などを行う)」と「予防措置(潜在的課題の顕在化防止のために、その原因の除去などを行う)」の2つに大別されます。ガイドラインでは、具体的な手順として、次を挙げています。

  • 課題の内容の確認
  • 原因の特定
  • 措置の必要性の検討
  • 措置の検討・実施
  • 措置の有効性の評価

7 運輸安全マネジメント認定セミナー

国土交通省では、運輸安全マネジメント制度の普及・啓発を図るため、民間機関などが実施する運輸安全マネジメントセミナーの中で、一定の基準を満たし、事業者の安全管理体制の構築・強化に有効であるものを認定しています。

この「認定セミナー」は、ワークショップなどを取り入れ、中小規模の事業者が取り組みやすい内容となっています。開催情報など詳細は、認定を受けている各事業者にお問い合わせください。

■国土交通省「運輸安全マネジメント認定セミナー」■
https://www.mlit.go.jp/unyuanzen/certif.html

以上(2021年6月)

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画像:pixabay

労災の「法定補償の支給額」と「法定外補償の相場」

書いてあること

  • 主な読者:労働災害の発生に備えておきたい経営者
  • 課題:労働災害が発生した場合、社員の治療費や休業中の生活費などが心配
  • 解決策:まずは「法定補償(労災保険の給付)」について理解し、それだけでは不十分と思われる場合、「法定外補償(私的な保険など)」への加入を検討する

1 労災の法定補償だけで、社員やその家族を守りきれる?

足場から転落する、有害物質にさらされる、長時間労働で疲弊する、ハラスメントで精神を病むなど、社員がけがや病気になるリスクはさまざまです。社員の事故等が労働災害(労災)として認定されれば、社員や遺族は労災保険から保険給付が受けられます。いわゆる労災の「法定補償」です。法定補償は手厚いといえますが、被害の大きさによっては治療費や生活費を賄うのに不十分なケースもあります。

そこで、民間の保険会社が提供する労災の「法定外補償」(私的な保険など)に加入する会社があります。例えば、

製造業・建設業・運輸業など労災が発生しやすい業種では、法定補償を基本としつつ、法定外補償にも加入して、手厚い補償体制を実現

しています。

法定外補償に加入するか否かはさておき、「労災に対する備えはどの程度か?」を把握することは重要です。ということで、この記事では、

労災の「法定補償の支給額」「法定外補償の相場」

を紹介していきます。

2 労災の法定補償の支給額

1)労災の法定補償

労災の法定補償では、業務に関連して発生する業務災害、通勤途中(単身赴任先と帰省先住居間の移動中等を含む)で発生する通勤災害に対して保険給付を行います。保険給付には、定額支給のものや、「給付基礎日額の○○日分」などの形で支給額を計算するものがあります。なお、給付基礎日額は原則として次の方法で計算します。

給付基礎日額=労災発生以前3カ月間の賃金総額(3カ月を超える期間ごとに支払われる賞与等を除く)÷その期間の総日数

2)主な保険給付

労災の法定補償の主な保険給付は次の通りです。なお、業務災害の場合、保険給付の名称に「補償」という文言が付きます。例えば、業務災害によって療養が必要な場合は療養補償給付と呼ばれます。ただし、葬祭に要した費用については、業務災害では葬祭料、通勤災害では葬祭給付と呼ばれます。

1.療養(補償)給付

労災による傷病のため、労災指定病院等で療養を受けるときに、必要な療養の給付(現物給付)が受けられます。労災指定病院等以外で療養を受けたときは、必要な療養の費用が支給されます。

2.休業(補償)給付

労災による傷病の療養のため労働することができず、賃金を受けられないときに、休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の60%相当額が支給されます。休業(補償)給付の支給期間に制限はありませんが、社員が療養を開始してから1年6カ月が経過し、傷病(補償)年金の支給を受けるようになると支給されなくなります。

3.傷病(補償)年金

労災による傷病が療養開始後1年6カ月を経過した日または同日後において、「傷病が治っていないこと」「傷病による障害の程度が厚生労働省令で定める傷病等級に該当すること」のいずれも満たしたときに、傷病の程度に応じ、給付基礎日額の313日~245日分の年金が支給されます。

4.障害(補償)年金

労災による傷病が治った後に「障害等級第1級~第7級」に該当する障害が残ったときに、障害の程度に応じ、給付基礎日額の313日~131日分の年金が支給されます。

5.障害(補償)一時金

労災による傷病が治った後に「障害等級第8級~第14級」に該当する障害が残ったときに、障害の程度に応じ、給付基礎日額の503日~56日分の一時金が支給されます。

6.介護(補償)給付

傷病(補償)年金か障害(補償)年金の受給者のうち、第1級の者または第2級の「精神神経・胸腹部臓器の障害」を有している者であって、現に介護を受けているときに支給されます。常時介護を要する状態か、随時介護を要する状態かなどによって支給額が異なります(最大で17万1650円)

7.遺族(補償)年金

労災により死亡したときに、受給権者および受給権者と生計を同じくしている遺族の人数等に応じ、給付基礎日額の245日~153日分の年金が支給されます。

8.遺族(補償)一時金

労災により死亡した当時、遺族(補償)年金を受け得る遺族がいないときに、給付基礎日額の1000日分の一時金が受給権者に支給されます。

また、遺族(補償)年金を受けている者が失権し、かつ、他にこれを受け得る者がいない場合であって、既に支給された合計額が給付基礎日額の1000日分に満たないときに、給付基礎日額の1000日分から既に支給した年金の合計額を差し引いた額が受給権者に支給されます。

9.葬祭料(葬祭給付)

労災により死亡した者の葬祭を行うときに、31万5000円に給付基礎日額の30日分を加えた額が支給されます。その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分が葬祭を行う者に対して支給されます。

3 労災の法定外補償の相場

1)業務災害の障害補償

業務災害の障害補償の給付額の推移は次の通りです。

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2018年の障害等級1級の給付額は3182万円です。2008年から緩やかな増加傾向にありましたが、2018年は減少しています。

2)通勤災害の障害補償

通勤災害の障害補償の給付額の推移は次の通りです。

画像2

2018年の障害等級1級の給付額は1879万円です。業務災害と同様、通勤災害も2018年は減少しています。

3)業務・通勤災害の遺族補償

業務・通勤災害の遺族補償の給付額の推移は次の通りです。

画像3

2018年の遺族補償の給付額は業務災害で3262万円、通勤災害で1930万円です。いずれも、2008年から緩やかな増加傾向にありましたが、2018年は減少しています。

4 参考:労災の発生状況について

1)労災の発生状況の推移

労災の発生状況の推移は次の通りです。

画像4

2020年の死傷者数(全産業)は13万1156人です。製造業、建設業、陸上貨物運送事業などは労働者の職業柄、労災が発生しやすい傾向にありますが、商業などの第三次産業で死傷者数が増えている点は見逃せません。

2)労災と認定された過労死等の状況

長期間の過重業務による脳・心臓疾患や精神障害も労災の認定基準の1つです。近年の状況は次の通りです。

画像5

2019年度は、脳・心臓疾患が936件、精神障害が2060件の労災認定の請求がありました。

これらの事案と2016年度以前に労災認定の請求がされた事案の中でまだ方針が決定していない事案を含め、保険給付をするか否か(労災として認定するか否か)が決定されたのが決定件数であり、脳・心臓疾患が684件、精神障害が1586件となります。

さらにこのうち、保険給付が決定したのが(労災として認定されたのが)支給決定件数であり、脳・心臓疾患が216件、精神障害が509件となります。

以上(2021年6月)
(監修 弁護士 八幡優里)

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画像:amorn-Adobe Stock

まだ日本で語れる人の少ない「iPaaS」を実現している会社。これからのビジネスを大きく変える「RPAの民主化」の原点には「思い」と「出会い」があった/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、嶋田 光敏さん(BizteX(ビズテックス)株式会社の代表取締役CEO)です。

今、盛んに注目されているDX(デジタルトランスフォーメーション)。嶋田さんが取り組まれていることは、いわば「究極のDX」「DXのあるべき姿」と言えるかもしれません。嶋田さんが法人向けにご提供されているRPAは、「誰もが簡単に自動化を実現できて、本業のスピードアップが図れるようにするもの」であり、ビジネスの進め方を大きく変えていく可能性を秘めているからです。

以降では、嶋田さんが取り組まれてきた「RPAの民主化」やiPaaS(アイパース。異なるアプリケーション同士を連携させるクラウドサービス)のサービス、それらをご提供するにいたる「思い」などをご紹介していきます。

1 「RPAの民主化」にチャレンジし続ける

嶋田さんが創業したBizteX社は、BtoBでRPAをご提供されています。同社のミッションや主な事業は、嶋田さんの言葉や同社資料をお借りすると次の通りです。

●BizteX株式会社でやっておられること(嶋田さんより)
当社は「オートメーションテクノロジーで新しいワークスタイルを実現する」をミッションに、国内初のクラウドRPA「BizteX cobit」、複数のシステムを連携しデータ統合/自動化を実現するiPaaS「BizteX Connect」を大手企業様にご提供しDXの推進を行っています。

BizteX社のプロダクト説明の画像です

(出所:嶋田さんご提供のBizteX社資料)

ここ数年でRPAは広く知られるようになりました。ただ、まだ「なんだか難しそう」「とてもコストがかかりそう」といったイメージがあるかもしれません。それに対して嶋田さんは、「誰でもすぐに安価で簡単に使えるRPAの実現=RPAの民主化」にチャレンジし続けておられます。その原点には、「RPAをもっと手軽に簡単に使えるようにすれば、多くの人の役に立つ」という思いがあるからです。

こうした思いを大切にして、形にされてきた嶋田さん。2017年からクラウドRPA「BizteX cobit」を始められ、リリース3年で作られたRPAのロボットは約3.7万台、約2000種類のクラウドサービスの自動化を行ってこられました。かなりすごい実績をお持ちです。「誰でもすぐに簡単に使える」というお考えはUIにも生かされており、グッドデザイン賞をはじめさまざまな賞も受賞されています。「難しいものを、誰でもすぐに簡単に使えるものに」は非常に大切な考え方だと思いますし、またそれを実現し続けておられるのは、本当に素晴らしいことですね。

嶋田さんの「RPAの民主化」はさらに進化してきています。今回、特に注目したいのは2020年5月リリースのiPaaS「BizteX Connect」です。この「BizteX Connect」はさまざまなアプリケーションと連携して自動化を図れるもので、「誰でもすぐに簡単に」をこれまで以上に進化させており、社会を大きく変えていく力を持つサービスだと感じます。すでに導入されている大手企業もおられます。

●BizteX Connectのサービスページ
https://service.biztex.co.jp/connect/

●ニュースリリース
iPaaS「BizteX Connect」、株式会社サイバーエージェントへ導入~iPaaS+クラウドRPAでSaaS連携や更なる業務効率化を支援~(2021年3月)
https://www.biztex.co.jp/posts/2021-03-17-233-news/

クラウドRPA「BizteX cobit」そして今回のiPaaS「BizteX Connect」を実現した背景には、嶋田さんのこれまでの歩みから築かれた「思い」と、素晴らしき仲間などとの「出会い」がありました。次章では、そのあたりを振り返ってみたいと思います。

2 「思い」と「出会い」。嶋田さんの起業までのストーリー

1)超原点は幼少のころの思い

今回、嶋田さんは、これまでの歩みを振り返るお話を色々とお聞かせくださいました。四国は香川県ご出身の嶋田さん、「やりたいことができずにモヤモヤした幼少期を過ごしたことが、今振り返れば起業につながる原体験です」と語ります。誰もが知る超有名なサッカー漫画を読んでサッカーを始めますが、小学校・中学校当時は、通っている学校にサッカー部がなかったのだそうです。サッカーがやりたいのに部活がない! まさに「モヤモヤした思い」です。

高校はサッカー強豪校に入り、今までやれなかったサッカーに取り組めた嶋田さん。最初はサッカー素人だったのでグラウンドのはじっこでリフティングするところからスタートし、高校3年生ではなんと副キャプテン&ベンチ入りするまでになったというから驚きです。この体験から「何もないところからチャレンジして上り詰める」「ゼロイチ」が好きになり、自信もついたとのこと。これぞ起業家精神の原点、とても貴重なお話です。

2)全国で営業ナンバーワンを達成していた時代

アパレルでの営業やサッカーコーチなどを経て、嶋田さんは「J-PHONE(当時)」で、地元四国にて中小企業向けに携帯電話などの通信商材を営業する仕事に就きます。この法人営業の経験で、「中小企業の働き方を変えること」「お客さまの役に立つこと」に喜びを感じるようになったといいます。その後、会社がVodafone、ソフトバンクに買収されていく中で、国内企業→外資企業→ベンチャー企業という変遷を、転職せずに辿ることができたことも嶋田さんにとっては良い経験になったようです。

Vodafoneがソフトバンクに買収されたのが、ちょうど嶋田さんが30歳のタイミングだったそうです。当時の嶋田さん、なんと営業成績で全国ナンバーワン! 300名くらい営業担当者がいた中での第一位ですので本当にすごいことだと思います。こうして自分で売上を作れるようになったことが自信につながり、嶋田さんは「将来自分も経営者になりたい」と思うようになりました。そこから、孫さんのような素晴らしい経営者の下で経営を学びたいと、自ら志願して東京へ転勤することとなるのです。東京では、起業につながる出会いが、嶋田さんを待っていました。

3)起業につながった大きな出会い

嶋田さんは東京で、孫さん主催のソフトバンクアカデミア、それからグロービス経営大学院でビジネスや帝王学などを学びます。ここでの「2つの出会い」がのちの嶋田さんの起業に大きく関わっています。

●出会いその1:孫さん、グロービス学長・堀義人さんの「名言」との出会い
・嶋田さんが特に好きな孫さんの名言

「自分の登る山を決めろ」
孫さんの込めた意味「自分がこの先、命を懸けて、人生を懸けて登る山を見つけられたら、半分成功したようなものだ」

・嶋田さんが特に好きな堀さんの名言

「志を語れ」
堀さんの込めた意味「学んだ知識を勉強で終わらせるのではなく、世の中でどう使うのかが大事だから、自分の課題感や、やりたいことをちゃんと語ることが大切」

嶋田さんは、孫さんの「登る山」と堀さんの「志」は同じものだと感じ、自分でも「登る山=志」を決めて歩いていこうと強く思ったそうです。起業に向けた決意が固まってきた背景には素晴らしい名言の後押しがあったということですね。今、起業を考えられている多くの方々にも非常に参考になる言葉だと思います。

●出会いその2:厳しく、そして熱く背中を押してくれた人物との出会い

嶋田さんの起業ストーリーを語るにはどうしても欠かせない1人の人物がいます。それは、株式会社ZENKIGENの代表取締役、野澤 比日樹さんです(以前、この「岡目八目リポート」でもご紹介させていただきました)。嶋田さんと野澤さんの出会いはソフトバンクアカデミアで、野澤さんは1期生で外部から入られ、嶋田さんは内部からの2期生として入っておられました。

2014年に40歳のタイミングでグロービス経営大学院を卒業された嶋田さんは、2015年には起業したいと思っていましたが、なかなか踏み切れずにいたとのこと。そこで登場するのが野澤さんです。2015年4月、嶋田さんは野澤さんから、

「嶋田さんはもう会社を辞めろ」

と言われたのだそうです。「嶋田さんは勉強もしているし、将来やりたいことを語っているが、1ミリもそれに向かって本気で行動していない。本気で行動するんだったら退路を断って(会社を辞めて)、もう起業したほうがいい。そうすると本当の意味で前に進める新しい扉が開く」と続けたという野澤さん。それを受けて、その場で「分かった、(同2015年の)6月までに辞める」と宣言した嶋田さんがまたすごいです……。

実際には、(2015年の)6月に上司に気持ちを伝え退職したのは同年10月だったそうですが、野澤さんの厳しくも熱い一言が、嶋田さんの初めの一歩、大きな決断につながったのは間違いありません。素晴らしいご関係ですね。どういうコミュニティにいて、どういう人と一緒に学び行動しているか。こうしたことが、起業家や経営者にとってとても重要なのだと改めて感じるエピソードです。

3 高い技術力の背景にも、大切な仲間との出会いがありました

起業以来、「RPAの民主化」に取り組まれてきた嶋田さんですが、最初は仲間を探すことからのスタートでした。嶋田さんいわく、「RPAはお客さまのシステムをレコーディングして自動化するもの。それは技術難易度の高い領域」です。BizteX社が高い技術力のもとに進化し続けられるのは、嶋田さんのやりたいことを形にできるエンジニアの方との出会いがあったからでしょう。

BizteX社の立ち上げ当初、嶋田さんは「エンジニアのナンパ」もしていたそうです。カフェに行き、隣でMacを開いてプログラミングしているエンジニアに「何のコードを書いてるの?」と話しかけたり……。全く知らない人、しかも自分とは得意な領域が明らかに違いそうな人に声をかけるのはかなり勇気がいると思いますが、そこはさすが、とにかく「方法を問わず、目的に向かってどんどんやっていく」タイプの嶋田さんです。

こうして嶋田さんは、現在取締役兼CTOをやっておられる袖山さんと当時の顧問をしてくださっていた方からのご紹介で出会います。嶋田さんが袖山さんと一緒に仕事をしたいと思ったのは技術力もさることながら、考え方が素晴らしいと思ったのだそうです。そのことがうかがえる袖山さんのエピソードを一つご紹介します。「CTOって何が大事だと思う?」という議論に対して、袖山さんが答えていた内容は下記の通りだったそうです。

    ●袖山さんの答えていた内容

    「(CTOに大事なことは)3つある。1つは技術力。2つ目はエンジニアが活躍する文化を作れること。3つ目が自分より優秀なエンジニアをハイアリングする力だ」

逆に、袖山さんは嶋田さんについて、次のようにおっしゃっているそうです。

    ●嶋田さんが、袖山さんから言われた「嶋田さんと組んだ理由」

    • 初めから壮大なことを言いつつ、事業計画や企画書をしっかり作っていたので、その両方があったことがとても良かった
    • (うまくいかないことも)いろいろあるけど、当時の4年前から言っていることが変わらないよね

お聞きしていると、ちょっと胸が熱くなりますね。やはり、経営がしっかりされていると仲間も盤石になっていくということなのだと改めて感じます。

4 今、BizteX社の注目は「iPaaS」という新しい分野のクラウドサービス

さて、こうして「思い」や「出会い」が源泉となっている嶋田さんたちBizteX社、すごいところはいくつもありますが、やはり「誰でもすぐに簡単に使える」にこだわっているところが大きな特徴です。この点について、同社の2つのメーンプロダクト、クラウドRPA「BizteX cobit」とiPaaS「BizteX Connect」それぞれに関して、嶋田さんは次のように言っておられます。

    ●嶋田さんによる2つのプロダクトの特徴

    1.クラウドRPA「BizteX cobit」:

    • このクラウドRPAを着想した当初の課題感としても、当時のRPAはオンプレミス型(社内で構築するようなタイプ)で、その分構築期間も長くて、(金額も)高くて、難しいというものでした。
    • それを誰でも使える「民主化」に持っていきたいと思ったので、クラウド型のサービスにして、URLからアクセスしたらすぐ利用が可能で、低コストで、UIも簡単で使いやすいというポジショニングを取りました。

    2.iPaaS「BizteX Connect」:

    • iPaaSは「Integration Platform as a Service」の略で、システムの持っているAPIを活用するものです。
    • 例えば、顧客情報がSalesforceに入っていて、その顧客情報を使ってクラウド会計のfreeeにログインして請求書を発行する、という業務があったとします。両方ともAPIがあるので、APIでこれらを連携しようとすると、エンジニアの方が早くても2~3週間かけてコードを書く必要があります。
    • しかし、これをiPaaS「BizteX Connect」を利用すればプロダクト上であらかじめSalesforceとfreeeのAPIを繋いでおくと、あとはBizteX Connect上でポチポチとクリックすれば両者のシステムを繋ぐことができる。
      そういうプロダクトです。

iPaaS「BizteX Connect」については、

「エンジニアが3週間くらいかかってコードを書いてAPI連携させるものが、BizteX Connectを使うと、エンジニアではない人でも10~15分でできる」

と表現するのが一番分かりやすいかもしれません。このすごさ。生産性が向上するどころではありません。ビジネスの進め方、かかわるプレーヤーなどが大きく変わる可能性があります。

iPaaS「BizteX Connect」は非常に技術レベルの高いプロダクトで、日本国内のスタートアップ界では、BizteX社ともう1社の合計2社しか持っていない技術なのだそうです。

iPaaSを説明した画像です

RPAとiPaaSの違いを説明した画像です

BizteX Connectを説明した画像です

(出所:いずれも嶋田さんご提供のBizteX社資料)

5 RPA業界の現状と今後

現在BizteX社では、さまざまなパートナー企業と組んで「どのお客さまに、どういう業務の自動化をご提供できるのか」を具体的に提示する取り組みを始めておられます。そのほうが、RPAや自動化という言葉だけを聞くよりも、お客さまが具体的に活用方法をイメージできるからです。こうして具体的な活用イメージが分かるようになり、大手企業だけでなく地方の中小企業などにも広く導入されていくようになれば、日本全体の生産性向上に大きく貢献していくことでしょう。

海外と日本のRPA業界の現状と今後について嶋田さんにお尋ねしたところ、次のようなご回答をいただきました。

    ●嶋田さんによる海外と日本のRPA業界の今後

    【海外】

    • 海外では、RPAの領域は日本よりかなり進んでいて、10年ほど前からRPAの会社が出てきています。
    • 特に欧米を中心に、RPAだけでなくSaaSも日本より早く広がっているので、それらのシステム間連携にAPIを使ったほうがいいのではないかというところで、日本よりも6~7年ほど早くiPaaSの領域に広がっています。

    【日本】

    • 日本では、ここ数年RPAが注目されていますが、BizteX社で手掛けている領域で言うと、今後3~5年くらいにかけてとても盛り上がると予想されています。特に地方の中小企業に関しては、これからというところだと思います。
    • 日本でも(海外と同様に)RPAが広がった後はiPaaSが広がってくるでしょうし、SaaSが広がれば広がるほど、API連携の必要性というものも出てくると思っています。
    • また、日本の状況をマクロで見た時に、「労働人口が減っている」「働き方を改善しなければいけない」「DXしなければいけない」となった時に、エンジニアのリソースというのがとても貴重な時代になります。このとき、iPaaSの領域(エンジニアがコードを書くことなく、誰でも10分でRPAが実現できる世界)が非常に重要になるでしょう。

日本ではまだあまり語れる人のいないiPaaSのお話などは、とても勉強になります。そして嶋田さんのお話をお聞きしていると、言葉だけが独り歩きをしがちなRPAやDXなどの本来の意味、「働くすべての人の効率化を図り、意欲的に気持ちよく働ける環境を実現する」ということが、とても腹落ちする気がします。

6 BizteX社が実現したい世界

最後に、嶋田さんに改めて「BizteX社がこれから実現したい世界」を聞いてみました。

    ●嶋田さんのご回答

    BizteX社はオフィスワークの定型業務をRPAで補い、貴重なエンジニアのリソースをiPaaSで補うことができるので、人が本当に時間と労力を使うべき「企画やアイデア」のところ、そしてエンジニアも本来やるべき「自社のサービスを創ること」に時間を割けるようになります。私たちはそれをお支えしたいし、これからその重要性が増してくると思っています。

時代を先読みし、それに加えてお客さまのやっていることも把握し、適したサービスをご提供してお客さま、ひいては日本全体の生産性向上に貢献していかれる。素晴らしいですね。今回、改めてこれからの時代を見据えた新しい仕組みの重要性・必要性を実感しましたし、これからの世の中に非常に役に立つ、世の中のためになることを率先して推し進められている嶋田さんたちを、心から応援したいと思います!

以上(2021年6月作成)