【朝礼】ナポレオンが辞書から「不可能」の文字を消した理由

おはようございます。皆さんは日ごろから「有言実行」、つまり自分の考えを口にし、それを実行することを意識していますか。私の感覚ですが、失敗して「あいつは口先だけだ」と言われたくないなどの理由から、有言実行に苦手意識を持っている人が多いのではないでしょうか。今日はそんな皆さんに、フランスの軍人、ナポレオン・ボナパルトの話をしたいと思います。

ナポレオンは、18、19世紀にフランス革命後の混乱を収め、皇帝になった人物です。歴史に詳しくなくても、「余(よ)の辞書に不可能の文字はない」という言葉は、ご存じでしょう。まさに有言実行を宣言しているような言葉です。この言葉が生まれた背景とされる2つの説を基に、有言実行のためのヒントを探ってみましょう。

1つは、イタリアに侵攻したオーストリア軍の虚を突くため、アルプスの峠から奇襲を仕掛けたときにナポレオンが発したという説です。当時のアルプスは氷河で覆われた難所で、多くの部下が峠を越えることに難色を示しました。しかし、ナポレオンはこの言葉とともに部下の反対を押し切ってアルプス越えを敢行し、オーストリア軍への奇襲を成功させます。ナポレオンは、部下の多くが不可能だと思っていたことを、自身の宣言通り可能にしたわけです。しかし、失敗すれば多くの部下の命を失いかねない危険な作戦、そのプレッシャーは尋常ではなかったはずです。彼は、なぜこのプレッシャーに打ち勝てたのでしょうか。

そこで出てくるのが、もう1つの説です。実は、ナポレオンは「余の辞書に不可能の文字はない」という言葉を、日ごろからよく口にしていたといわれています。ナポレオンの軍人としてのキャリアは常に成功に彩られたものではなく、戦争で大敗を喫したり、政敵に追い詰められたりしたこともありました。時には周囲から「不可能なことばかりじゃないか」と揶揄(やゆ)されたかもしれませんが、彼は失敗や挫折を経験しても、この強気な姿勢を崩しませんでした。つまり、ナポレオンはあえて「不可能はない」と口にすることで、絶対に負けられないというプレッシャーを自分に与え続けたのです。そして、そのプレッシャーに打ち勝つことで、重要な局面でも決断を恐れない「自信」と、周囲からの「信頼」を得ていったわけです。

「自信」や「信頼」は、自分で勝ち取ることでしか得られません。そして、プレッシャーが大きいほど、それを乗り越えたときに得られる自信や信頼も大きくなります。我が国では長らく、何も言わず黙々と仕事をこなす「不言実行」が美徳とされてきましたが、うがった見方をすれば、不言実行は有言実行に比べてプレッシャーから逃げやすい働き方であるともいえます。

皆さんがビジネスパーソンとしてこれまで以上の成長を目指すのであれば、ぜひとも有言実行を実践する勇気を持ってください。期待しています。

以上(2021年3月)

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画像:Mariko Mitsuda

店舗経営者が知っておきたい、接触機会を減らして接客できるIT関連ツール

書いてあること

  • 主な読者:感染症への警戒感により来店客数が回復しない店舗経営者
  • 課題:感染リスクを下げるため、来店客同士や店員との接触機会を減らす方法を知りたい
  • 解決策:店舗の混雑状況を伝えたり、携帯端末でオーダーや受け取り予約ができたりするアプリなど、接触機会を減らすIT関連ツールを活用する

1 リアル店舗の「感染リスク」への根強い警戒感

店舗経営者の皆さんにとって、頭の痛い存在となっている新型コロナウイルス感染症。マスクの着用、入店前の手指の消毒、店舗内の換気、透明シートやアクリル板の設置、適切な距離を保つための目印……。こうした「アナログ」な手法は、感染リスクに対して一定の効果はあるでしょうが、それだけでお客様の警戒感を完全に払拭することは難しいかもしれません。「同じものを買うなら、今まで通りネット注文と宅配でいい」という人もいるはずです。

そこで本稿で提案するのが、来店客と店員など、人との接触機会そのものを減らすのに効果のあるIT関連ツールの導入です。アナログな感染予防対策だけでない「一歩先行く店舗」というPRにもなりますし、店舗内の作業の省力化や売り上げの増加につながるケースもあります。こうしたツールの中には、政府や自治体からの補助金対象となるものもありますので、ぜひ導入をご検討ください。

2 接触機会を減らすIT関連ツールの一覧

まずは、接触機会を減らすIT関連ツールを一覧にして紹介します。ツールを囲んだ枠の色はツール導入のための難易度のレベルを示しており、縦軸は非接触のレベル、横軸には非接触の対象(来店客同士、来店客と店員、複数の来店客と商品)の広がりを表しています。

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次章からは、図表で紹介したIT関連ツールを詳しく説明していきます。導入のための難易度の低い順に挙げていきます。

なお、一部で商品例を紹介していますが、さまざまな商品がある中の一例であることをご承知おきください。

3 簡単に導入できるアプリなどでネット注文などに対応する

1)オフピーク時の購入客に多めのポイントを付与するシステム

来店客が店舗での感染リスクで最も警戒するのが、店舗内の“密”の状態です。ピーク時の来店客の一部をオフピーク時に誘導することができれば、店舗内の“密”を緩和することができます。来店時間を誘導するには、何らかの特典を設定することが効果的です。

来店客への特典で一般的なのが、ポイントです。情報システム会社などが提供するポイント管理システムを導入すれば、購入時間帯だけでなく、その日の天候や購入商品ごと、顧客のランク(過去の購入量)などによってポイントを増減させることも可能になります。また、顧客分析や効果的な販促プロモーションもできるようになり、売り上げアップにつながることも期待できます。

タブレット端末などを使って、購入客のスマートフォン(以下「スマホ」)にQRコードをスキャンしてもらうだけでポイントの付与・利用ができるシステムや、登録した顧客の電話番号を入力するだけでポイントを付与できるアプリなど、初期投資がほとんど不要なサービスもあります。

■クレアンスメアード「ポイント管理システム」■
https://www.creansmaerd.co.jp/service/point/p_center.html
■punto■
https://puntoapp.jp/
■P+KACHI FREE■
https://p-kachifree.jp/

2)インターネットでのオーダーと受け取り予約

店舗内の密への対策の1つが、来店客の滞在時間を減らすことです。「目的買い」する来店客が増えて滞在時間が減れば、店舗のジャンルによっては回転数が増えて売り上げを伸ばすことも期待できます。また、ネットであればオーダーのやり取りが不要になるので、来店客と店員との接触機会を減らすことができます。さらに、購入客はネット上の商品リストを選んで注文するので、複数の来店客が同じ商品を手に取る機会も減ることになります。

「モバイルオーダー」とも呼ばれる、スマホなどの個人の端末から注文を受け付け、指定の時間に店舗で商品を渡すシステムは、まさに「目的買い」する人にうってつけのシステムです。既にハンバーガーショップをはじめとする多くの飲食チェーンや、家電、家具などさまざまなジャンルの店舗が導入しています。自社のウェブサイトにオーダーおよび予約受け取りのための入力欄を設けるだけで導入できますし、モバイルオーダーの専用アプリや、顧客にQRコードを読み込んでもらうだけでオーダーが可能となるシステムも販売されています。

■O:der Platform■
https://business.oderapp.jp/
■PLATFORM■
https://pltfrm.jp/

モバイルオーダーには、主に飲食店向けに、店舗でのオーダーのみに用いるタイプもあります。後述するオーダー用のタッチパネルと違い、複数の来店客が接触する機会を減らすことができます。

■Smart Order■
https://smart-order.info/
■dinii■
https://www.dinii.jp/

3)顧客に店舗の混雑状況を伝えるシステム

来店客の中には、ある程度来店時間をずらしてでも密を避けたいと考えている人もいるでしょう。そうした来店客のために、店舗の混雑状況をスマホに伝えるシステムを導入してはいかがでしょうか。アプリなどを活用すれば、店舗内の混雑状況をより正確に、タイムリーに伝えることができます。さらに、ネットを通じて顧客との接点を持つチャンスにもなります。

自社のウェブサイトで店舗の混雑状況を告知する他、TwitterなどのSNSを通じてリアルタイムで混雑状況を発信しているケースもあるようです。既存の顧客に対しては、メールアドレスや電話番号を登録してもらい、メールやショートメールで混雑状況を伝えることもできます。また、自社の専用アプリを提供したり、インターネット会員などになってもらったりすると、混雑状況を伝えるだけでなく、プロモーションも行えるようになります。

「頻繁に店舗の混雑状況を更新する手間が面倒だ」という方には、さらに高度なサービスもあります。AIが店舗内の映像を基に混雑状況を分析し、自動でウェブサイトなどに情報提供したり、LINEを通じて顧客からの問い合わせに自動回答したりするシステムも販売されています。

■VACAN「AIS」■
https://corp.vacan.com/service/vacan-ais
■アイテル■
https://www.aitell.net/

4 タッチパネルやキャッシュレス決済などに対応する

1)デジタルサイネージ(電子看板)の導入

店頭にディスプレーを設置し、商品情報などを告知することで、来店客の滞在時間や接客時間、来店客が商品を手にする機会を減らすことができます。また、店舗内の混雑状況を表示することで、店舗内の密を減らす効果も期待できるでしょう。

紙のポスターでも一定の効果があるでしょうが、デジタルサイネージであれば、新鮮な情報や複数の情報を告知できるメリットがあります。この他、デジタルサイネージを導入することで、新規の顧客の呼び込みや、他社からの広告収入が得られる可能性もあります。

ただし、ディスプレーを購入するには、屋内用のコンパクトなサイズのものでも少なくとも10万円は見積もっておく必要がありますし、電気代などの維持費もかかります。

■SONY「BRAVIA デジタルサイネージ」■
https://www.sony.jp/bravia-biz/signage/about.html
■RICOH「デジタルサイネージ」■
https://www.ricoh.co.jp/signage/

2)タッチパネルでのセルフオーダー

主に飲食店で、タッチパネルを使ったオーダーシステムが広がっています。タッチパネルを導入することで、来店客と店員との接触機会を減らすことができます。居酒屋などオーダーが頻繁に行われる店舗の場合、人件費の削減にもつながりますし、注文の漏れや間違いの防止にも役立ちます。

■メニウくん■
https://www.meniu-kun.com/
■イデアシステム「タッチパネル注文システム」■
http://www.idea-gr.co.jp/monitoring-system/touch-panel/

3)キャッシュレス決済

政府も推奨しているキャッシュレス決済を導入することで、現金の受け渡しがなくなり、来店客とレジ担当の店員との接触機会を減らすことができます。決済方法はクレジットカードや電子マネー、スマホによるQRコードなど多岐にわたります。

また、POSシステムや会計ソフトと連動させることで、在庫管理や経理などの省力化にもつながります。

4)非接触タイプのパネルでのオーダー

前述のタッチパネルの、非接触タイプのものです。パネルに触れずに入力できるので、複数の来店客が同じパネルを触れずに済みます。まだ一部の店舗でしか導入されておらず、コスト面でもハードルは高そうですが、今後は普及が進む可能性があります。

■博報堂プロダクツ ニュースリリース■
https://www.h-products.co.jp/topics/entry/2020/07/08/100000
■三菱電機「空中タッチ操作ディスプレイ」■
https://www.mitsubishielectric.co.jp/me/convention/ceatec2020/industry/

5)ロボット接客・配膳

従来は店員が行っていた接客や、飲食店での配膳(下膳)をロボットが行うことで、来店客と店員の接触機会を減らすことができます。初期投資(リース方式もあります)は必要ですが、人件費の削減や店員の負担軽減にもつながります。

接客ロボットには、人が遠隔操作するタイプ(分身ロボット)のものもあり、働き方改革や、外出困難な人の雇用に役立つことも期待されています。

■ソフトバンクロボティクス「SERVI」■
https://www.softbankrobotics.com/jp/product/servi/
■オリィ研究所「OriHime-D」■
https://orylab.com/product/orihime-d/

5 遠隔接客や無人店舗など店舗運営そのものを見直す

1)遠隔接客

来店客に対し、店舗内に設置したモニターを通じて店員が店舗外から接客をする「遠隔接客」を行うことで、来店客と接客する店員の接触機会をなくすことができます。来店客が呼び鈴を押すタイプだけでなく、店員が店内の映像を見ながら店員側から来店客へ声掛けできるタイプもあります。

また、店員が「顔出し」をせずアバターを使って接客ができる機能が付いたシステムや、接客を行わないときはモニターを前述のデジタルサイネージとして使用できるシステムも販売されています。

店舗の省人化や、ロボット接客と同様に働き方改革に役立つことも期待されます。特に複数の店舗を展開している場合は、作業の効率化にもつながります。

■えんかくさんリアル■
https://www.beeats.co.jp/products/solution/clomoni/enkakusan_real/
■BRING「バタラク」■
https://bring-corp.jp/service/vataraku/

2)無人店舗・セルフ決済

米国や中国で普及が広がっている無人店舗ですが、日本でも2020年3月の山手線・高輪ゲートウェイ駅の開業に合わせてウォークスルー型(購入商品のスキャンが不要)の無人コンビニがオープンするなど、一部で運用が始まっています。来店客と店員との接触機会がなくなり、人件費も大幅に削減できます。無人店舗とはいかないまでも、レジでの決済をセルフ方式にすることでも、来店客と店員との接触機会を大幅に減らすことができます。

2020年11月に東京・中目黒にオープンした持ち帰り専門ハンバーガーショップは、店舗内のセルフレジや専用のアプリおよびインターネットで注文・決済をした後、店舗内のロッカーで商品を受け取るシステムを採用しています。

ただし、無人店舗やセルフ決済の店舗は来店客と店員との接点が大きく減ってしまうので、他店との差異化や、接客サービスによる付加価値の提供が難しくなるというデメリットもあります。

3)店舗内への自動販売機(システム)の導入

店頭を含む店舗内に自動販売機(システム)を導入するという、一見不思議な光景ですが、感染リスクを下げるのには効果があるでしょう。当初は省人化などの目的から始まった動きですが、コロナ下で非接触という効果も注目され、ロッカー型の自動販売機を導入する店舗も現れているようです。

店舗内の自動販売機の先駆けとしては、コンビニの「コンビニ自販機」があります。当初は深夜時間帯の省人化を主目的として始まったものでした。また、東京・赤坂の老舗ようかん店は店舗内に自動販売機を設置しましたが、設置当時は接客を受けたくない人や急いで購入したい人などを想定していたようです。

回転ずしチェーンの一部の店舗では、持ち帰り用のすしを、店舗内の「自動土産ロッカー」で受け取れるサービスを提供しています。ロッカーは温度管理されており、決済時に発行するQRコードをかざすことで開けることができます。注文はモバイルオーダーや電話・FAXでも可能ですが、店舗内で注文をする場合、タッチパネルで注文してセルフレジで決済するため、注文から受け取りまで店員を介さずに店舗内で行うことが可能となっています。

4)オンライン接客

一部の顧客に対して来店前にオンラインを通じて接客を行うことで、来店客の滞在時間や来店客そのものを減らすことができます。チャットツールで顧客からの質問に回答するタイプの他、Zoomなどのオンライン会議システムを活用して、商品を見てもらいながら説明することも可能です。オンライン会議システムに予約管理機能などが付いたものも販売されています。

完全予約制の時間限定でオンライン接客を行っているところが多いようです。例えば住宅関連の「オンラインショールーム」では、コンシェルジュが商品について説明する際に、紹介動画に加えて、3D画面による商品の完成予想イメージを活用して、商品の色をシミュレーションすることができます。

以上(2021年5月)

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画像:whyframeshot-Adobe Stock

よく分かるトラック運送業界の動向

書いてあること

  • 主な読者:トラック運送業者、荷主などトラック運送業者と取引のある企業
  • 課題:ドライバーの確保のための労働条件の改善、適正な運賃・料金の収受に向けた取り組みなどが進んでいない
  • 解決策:「標準的な運賃」を使用するために料金表を活用する、テレマティクスなどITの活用による生産性の向上などに取り組むなど

1 厳しい経営環境に置かれる運送業界

物流業界全体の市場規模は約24兆円で、トラック運送業界はその6割・約14.5兆円を占めます(全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業-現状と課題-2020」)。

産業活動や国民生活に欠かせないトラック運送業者ですが、その99%は中小企業であり、厳しい経営環境の中、黒字事業者の割合は54%です。車両10台以下の区分では、50%が赤字となっています(全日本トラック協会「経営分析報告書(概要版)―平成30年度決算版―」・本稿執筆時点で最新)。これは新型コロナウイルス感染症の影響が出る前のデータです。コロナ禍で物量が減る中、運賃値下げにより物量を確保しようとする動きもあり、2019年度以降はさらなる悪化が見込まれます。

また、運賃以外にも、若年ドライバーの不足など、トラック運送業界はさまざまな課題を抱えています。トラック運送業界を取り巻く環境をまとめると次のようになります。

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2 運賃の値上げに向けた取り組み

1)「標準的な運賃」を活用する

トラック運送業者は、荷主に対して取引上の立場が弱く、運送業務や付帯するサービスに対して適正な運賃・料金を収受するのが難しいのが実情です。

従来、運賃交渉はいわゆる「運賃タリフ」を基準に行われてきました。運賃タリフとは、かつて国土交通省が発表していたトラック配送料金の標準料金表に当たるものです。この運賃タリフは1999年を最後に作られていませんが、当時の料金のまま長年参考として使われてきました。

そこで、運賃タリフに代わる新たな参考として、国土交通省では、改正貨物自動車運送事業法を施行し、それに伴い2020年4月から「標準的な運賃の告示制度」を導入しました。標準タリフと比較すると、今回の標準的な運賃は2〜3割割程度の値上げとなっています。

一部のトラック運送業者からは荷主に一蹴されて、交渉材料にならないのではとの懸念もあるようです。しかし、自社の運賃・料金の数的根拠を荷主に示すことは重要です。業界団体である全日本トラック協会によると、標準的な運賃を目標値として工夫し、運賃交渉に役立て実際に利益率の向上などにつなげた事例もあります。

なお、運賃を見直した場合、その運賃の設定後30日以内に運輸局への届け出が必要です。

■全日本トラック協会「一般貨物自動車運送事業に係る標準的な運賃について」■
https://www.jta.or.jp/rodotaisaku/hatarakikata/kaisei_jigyoho_202008.html

2)荷主の幅を広げる

コロナ禍で、工場の稼働が低迷し、産業用資材を運ぶトラックは余る一方、日用品が多い宅配や食料品では不足気味になるなど、トラックの輸送能力に偏りが生じています。

特定の荷主に依存している場合、荷主の経営環境の影響を受けやすくなります。仕様の違いもあり、余った車両を宅配などに転用するのは難しいですが、「PickGo」「トラクルGO」などの荷主と運送業者をマッチングするサービスを利用して、荷主の幅を広げることを検討してもよいでしょう。こうしたマッチングサービスは、短期的に自社の需要が減少しているときにも利用できます。

3 ITを活用した生産性向上に向けた取り組み

1)配車支援・計画システムなどの活用

トラック運送業者にとって、利益率の向上や労働条件の改善などにつながる生産性向上に向けた取り組みは急務です。生産性向上の方法として挙げられるのが、テレマティクスなどとも呼ばれるITの活用です。テレマティクスとは、自動車などと通信システムを組み合わせて、リアルタイムに情報サービスを提供するものを指します。配車支援・計画システムなどが含まれます。

配車支援・計画システムとは、受注情報(荷物)を各車両に効率的に割り当てるシステムです。受注情報を元に、配送当日の荷物のピッキング作業、積み込み作業、トラックの配車や配送ルートなどの段取りを計算します。その結果をパソコンの画面や紙面に出力し、ドライバー、倉庫係などに指示を行うなどの一連の業務を支援します。配車担当者が配車するものから、AIにより自動的に配送ルートを割り当てるものまであります。

国土交通省では、配車支援・計画システムなどの導入効果やツールの活用事例などを紹介したガイドブックを公表しており、参考になります。また、配車支援・計画システムなどはIT導入補助金の対象となる場合があるので、導入時は補助金の申請を検討してもよいでしょう。

■国土交通省「中小トラック運送業のためのITツール活用ガイドブック」■
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk4_000099.html
■IT導入補助金■
https://www.it-hojo.jp/

2)求荷求車情報ネットワークシステムの活用

配車支援・計画システムの他にも、WebKIT(KIT:Kyodo Information of Transport)の活用などを検討してもよいでしょう。これは、全日本トラック協会が開発し、日本貨物運送協同組合連合会(日貨協連)が運営している求荷求車情報ネットワークシステムです。インターネットを利用し、トラック運送業同士が協力して仕事や車両を融通し合うことで輸送効率の向上を図るもので、WebKITの活用によって、トラック運送業者には「帰り便の荷物の確保」「融通配車」「積合せ輸送」などビジネスチャンスが広がります。

WebKITへの加入条件は、トラック協会の会員であることと協同組合に加入していることで、WebKITを利用している協同組合などで加入を受け付けています。

4 若年ドライバー確保に向けた取り組み

1)荷主の協力を得ながらドライバーの労働条件を改善

ドライバーの高齢化が進む一方、次代を担う若年ドライバーの確保はトラック運送業界全体の課題です。若年ドライバーが不足する要因として挙げられるのが、他の産業と比較した場合の労働環境、「低賃金」と「長時間労働」です。これらを解消するためには、前述した適正な運賃・料金の収受や生産性の向上に取り組んでいくことが求められます。ただし、自社単独で取り組むには限界があり、荷主の協力が不可欠です。

前述した改正貨物自動車運送事業法の施行、それに伴う「標準的な運賃の告示制度」が導入された背景には、ドライバーの賃上げの原資としても、運賃の値上げが不可欠であることが挙げられます。貨物自動車運送事業法の改正には、運賃の値上げ以外にも、荷主の協力を得ながら、過労運転や法令遵守を進めるための措置が盛り込まれています。

また、長時間労働を改善するために、テレマティクスを活用した生産性の向上などが重要な取り組みになってきます。この他、荷待ち時間の削減や荷役作業の効率化などに取り組んだ成果をまとめたガイドラインが公表されているので、長時間労働の改善に取り組む際の参考にするとよいでしょう。

なお、2019年4月から働き方改革関連法が施行され、時間外労働の上限規制などが設けられました。トラック運送業の場合、2024年4月から時間外労働の上限時間が年960時間以内となり、将来的には上限時間を年720時間以内とすることを目指すとされています。

■国土交通省「荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン」■
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk4_000107.html

2)福利厚生の充実

応募数の増加や入社後の定着率の向上などのための方法として、福利厚生の充実があります。慶弔見舞金の支給、社内イベントの実施、資格取得の支援などが代表的なものですが、福利厚生をアウトソーシングして、「カフェテリアプラン」を導入する方法もあります。カフェテリアプランとは、多様な福利厚生メニューの中から、好みのメニューだけを従業員が選んで利用するものです。

ユニークなものでは、腰痛などに悩むドライバーが多いことから、定期的に出張マッサージや整体を事業所に手配しているトラック運送業者もあります。また、体のケアだけでなく、心のケアに力を入れるトラック運送業者もあります。ドライバーは交通事故のリスク、荷主からのクレームや時間厳守のプレッシャーといったストレスの多い環境に置かれがちです。チャットや電話などで、産業医のカウンセリング、弁護士の法律相談などが受けられるようにすることで、悩みやメンタルヘルス不調の予防・解消につなげています。

5 トラック運送業者の関連データ

1)トラック運送業者数の推移と車両数・従業員数規模別の内訳

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2)トラック運送による国内貨物輸送量の推移

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以上(2021年4月)

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画像:unsplash

リモートワークが進まない2つの理由

書いてあること

  • 主な読者:リモートワークの導入に踏み切れない経営者
  • 課題:労働時間の管理や情報セキュリティの確保が難しい
  • 解決策:労働時間は電話などでも管理できる。情報セキュリティは総務省のガイドラインなどを参考にする

1 リモートワークに踏み切れない不安

コロナ禍の影響で、リモートワーク(テレワーク)の導入を検討する企業が増えています。しかし、あと一歩が踏み出せないのは、「従業員の労働時間を正確に把握できない」「オフィス以外での業務は情報漏洩のリスクが高い」などの不安があるからではないでしょうか。

しかし、こうした不安は経営者の杞憂(きゆう)かもしれません。例えば、労働時間は電話でも管理できますし、情報セキュリティは総務省のガイドラインを参考にすることでリスクが低減できます。以降では、「労働時間管理」「情報セキュリティ」の2つの側面から、リモートワークに関するありがちな疑問と実務を紹介します。

2 労働時間管理に関する疑問と実務のポイント

1)始業・終業時刻の把握方法

リモートワークの場合、オフィスに備え付けのタイムカードなどを使った労働時間管理はできません。そこで、従業員からの自己申告(始業・終業時の電話連絡など)や、新しい勤怠管理システムの導入によって始業・終業時刻を把握することになります。

注意が必要なのは、実際は業務が終了していない従業員が、管理職への遠慮などから嘘の始業・終業時刻を打刻して、サービス残業をするケースです。リモートワークだと管理職の目が届きにくく、過重労働が発生しやすくなります。そのため、「就業時間の途中で従業員から業務状況を報告させ、その状況を基に管理職が残業命令を出す」「深夜・休日などに、外部から社内システムに入れないようアクセス制限を行う」などの対策が必須です。

2)「中抜け」の時間の管理方法

「中抜け」の時間とは、使用者の業務の指示が及ばない従業員の自由な時間です。リモートワークでは、「子どもの保育園への送迎」「自宅での家族の介護」などによる中抜けが生じやすいと考えられます。この中抜け時間について、使用者が業務の指示をしないこととし、労働者が労働から離れ、自由に利用することを認めている場合、中抜け時間の取り扱いとしては、「休憩時間として扱い、終業時刻を繰り下げる」「時間単位の年次有給休暇として扱う」などの方法が考えられます。

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「休憩時間として扱い、終業時刻を繰り下げる」場合、中抜けの時間の賃金は無給とし、終業時刻を繰り下げた時間(1時間)を含めた8時間の労働に対する賃金を支払います。「時間単位の年次有給休暇として扱う」場合、中抜けの時間の賃金は有給とし、7時間の労働と1時間の年次有給休暇(合計8時間)に対する賃金を支払います。

3 情報セキュリティに関する疑問と実務のポイント

1)情報資産はどのような脅威にさらされる?

リモートワークでは、情報のやり取りにインターネットを利用したり、第三者が立ち入る可能性のある場所で作業を行ったりすることになります。そのため、自社の情報資産がさまざまな「脅威」にさらされやすくなります。脅威に対する「脆弱性」(情報セキュリティ上の欠陥)が存在すると、情報漏洩、重要情報の消失などの事故につながります。

総務省「テレワークセキュリティガイドライン(第5版)」(案)によると、リモートワークにおける代表的な脅威と脆弱性の例は次の通りです。

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2)事故を防ぐには、どのようなセキュリティ対策が必要?

総務省「テレワークセキュリティガイドライン(第5版)」(案)には、情報漏洩、重要情報の消失、作業中断などの事故を防ぐためのセキュリティ対策が記載されています。セキュリティ対策の中心となるのは、社内のシステム管理者です。

例えば、図表2の4つの脅威の場合、システム管理者が実施すべきセキュリティ対策の例は次の通りです。

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図表3はシステム管理者が実施すべきセキュリティ対策ですが、ガイドラインでは経営者や従業員が実施すべき対策についても記載しています。システム管理者、経営者、従業員の三者の努力なくして事故は防げないため、ガイドラインには一度目を通しておきましょう。

  • 経営者が実施すべきセキュリティ対策:情報セキュリティポリシーの策定など
  • 従業員が実施すべきセキュリティ対策:情報セキュリティ関連規程の確認、遵守など

以上(2021年4月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ)

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画像:pixabay

【朝礼】自分の心に潜む「鬼」を滅ぼそう

映画やコミックなどで大人気の「鬼滅の刃」は、皆さんの多くがご存じでしょう。今朝は、鬼滅の刃で登場する「鬼」を例にして、会社をより良くするための1つの考え方について話をします。

鬼滅の刃で登場する鬼は、人間を食べることによって、永遠の命や強靭(きょうじん)な肉体を得ていきます。その一方で、鬼として“成長”するほど人間性を失ってしまいます。身内を含めた他者を犠牲にしないと生きることができず、人間としての尊厳を失っていくわけですから、鬼は悲しく、むなしい生き物だといえます。

相手を犠牲にするだけの関係性しか持てない「鬼」のような存在は、身近にもいます。この機会に、我が社に鬼がいないか確認してみましょう。

まず、我が社と取引先との関係を考えてみます。主客の関係は良いのですが、主従の関係になっていませんか。正当な取引ですから、本来は我が社と取引先の両者が得をする関係であるべきです。調達先に対して、価格や納期などの面で無理強いをしていませんか。逆に納入先から、言われるままの存在になっていませんか。納入先に対し、有益な価値を提供し、その正当な対価を得る、という対等な関係が作れているでしょうか。

次は、我が社と社会との関係です。私たちは事業を営む上で、インフラなどの公共サービスやコミュニティー内の人のつながりなど、地域社会から有形無形の恩恵を受けています。そこに目を向けず、自社の利益だけを求めていないでしょうか。

環境問題への対応はどうでしょうか。忙しさに流されて、電力や紙などの資源を浪費していませんか。リサイクルに取り組めば減らせるゴミを出し、必要以上に環境に負荷をかけていませんか。

最後に、私たちにとって最も身近な、社内の同僚との関係を考えてみます。例えば、社内で何らかのトラブルがあったとします。そのとき、原因を同僚の誰か一人に集約して、問題を矮小(わいしょう)化させていませんか。本来はトラブルの未然防止や事後対応のため、自分に何ができたのかを省みるべきなのに、自分に火の粉が降りかからないようにすることばかり考えていませんか。そればかりか、思い通りに仕事が進まないのを、同僚の誰かのせいにしていないでしょうか。

社会の一員として、我が社も皆さんも、誰かと競争をするのは当然であり、その結果、利益を得ることも損をすることもあります。ですが、競争と誰かを犠牲にすることとは、全く違います。社会の規範にのっとり、会社や社会がより良くなることと矛盾しない範囲内で競い合うのが競争です。それを逸脱すれば、鬼と同類だといえます。

こういう私も含めて、誰もが鬼になる可能性があります。私が恐れるのは、知らないうちに鬼が私たちの心の中や社内に巣くっていき、社風として根付いてしまうことです。初期の段階で鬼の存在に気付きさえすれば、簡単に修正できます。皆さん、自分の中に鬼になる要素がないかどうか、見つめ直してみてください。

以上(2021年3月)

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画像:Mariko Mitsuda

「全世界をご縁つなぎ」する会社!人は誰かの力になれる。誰もが当たり前の幸せを感じる日々を作りたい/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、後藤 学さん(株式会社Helte(ヘルテ)の代表)です。

オンラインが日常的になった現在、日本と海外、海外と海外を「対話」でつなぐ。シニアの心の健康にも有効。そんな素晴らしい対話アプリ「Sail(セイル)」を展開している後藤さん。自治体(神戸市、藤沢市など)からも注目されており、地方創生などにもつながっていく、これからますます日本と、世界でも必要とされていく後藤さんと「Sail」についてご紹介していきます。

1 世界118カ国の人と「対話」ができる25分間の異文化交流

後藤さんのやっておられるオンラインコミュニケーションサービス「Sail」は、Helteのウェブサイトと同社資料で次のように紹介されています。

Sailのサービスコンセプトを説明した画像です

(出所:Helteのウェブサイト公開情報)

Sailのサービス概要を説明した画像です

(出所:後藤さんにご提供いただいたHelteの資料)

「Sail」は、シニア層を中心とした日本の方々と、世界中の若者(2021年4月11日時点で118カ国が参加)とがオンライン上で気軽につながって、「日本語で」対話ができるアプリです。動画で実際のご活用例を見ていただくのが一番分かりやすいと思いますので、こちらに動画を2つご紹介します。

●【異国の人との25分間】NHK放送日本語で世界をひろげるアプリ
(出所:Helteウェブサイト公開動画)

●NHK「あしたも晴れ!人生レシピ」 2020年1月17日・24日放送

アプリの操作が簡単かつ日本語で会話できること、好きな食べ物の話などどのような対話でも良いこと、孤独の解消ややりがいにもつながっていくことなど、使う人の目線に立って開発されている点も、「Sail」が注目されているポイントです。人間が生きていく上で大切な「対話」が自然に生まれるようにサービス設計されています。

今はコロナ禍で、なかなか海外旅行に行けなくなっていますが、「Sail」で異文化の人と対話すると、「旅先で人と触れ合う」という旅の醍醐味も味わえます。旅行だけではなく、誰かと会うのすらままならないときでも、このアプリがあれば人とつながれると思うと、孤独感が解消されるのもよく分かります。日本では無料で使えますので(2021年4月11日時点)、この記事を読んでおられる方々の中にも、ご両親やご親戚、ご友人におすすめしたい、ご自身でも使ってみたいと思われる方が多いのではないでしょうか。これからの時代にとても必要なこのサービスは今、メディアでも注目されており、日本経済新聞などでも取り上げられています。素晴らしいことですね。

●日本経済新聞電子版「アプリで外国人とつながる~日本語で会話、互いに刺激」2021年4月1日
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO70526780R30C21A3KNTP00/?unlock=1

●「Sail」のご活用に関する数字

(出所:Helteのウェブサイト公開資料2021年4月14日時点や後藤さんからお聞きしたもの)

2 「Sail」を生み出した後藤さんのストーリー

なぜ、後藤さんは「Sail」を立ち上げようと思われたのでしょうか。後藤さんにそのことをお聞きすると、色々とお話ししてくださった中で、「振り返ると自己肯定感が低かった幼い頃の原体験が関係していると思う」「過去を受け入れ、気持ちを整理できるようになったのは、本当につい最近のこと」といった答えが返ってきました。ここでは、後藤さんの「原体験」などを振り返ってみます。

1)30カ国のバックパッカー経験から出てきた「日本語を学びたい人に学べる環境を提供したい」

後藤さんが「Sail」を立ち上げたのは、【国籍、年齢、宗教をかぎらず、人の「ワクワク感」を大切にしたい】という気持ちからですが、それには、ご自身が若い頃(21~22歳頃)に海外、特にインドでの生活のインパクトが大きかったそうです。

30カ国をバックパッカーとして巡った後藤さんは、さまざまな国で貧困問題があるのを目の当たりにし、それを変えるために必要なこととして「教育」に関心を抱きます。また、特にアジアの国々で日本語を学びたいといってくれる人、日本に感謝してくれている人が多かったこともあり、「日本語を学びたい人に提供したい」という思いが強まります。これまで経験したことのない異文化に触れたとき、ただ圧倒されて終わるだけでなく、「世界中にある問題・課題を解決するために自分ができることはなんだろう」と考え行動しようとする。この頃から、後藤さんは「立ち止まらず、世の中のために自分ができることを考える」ことを実践しておられたのですね。

2)「Sail」誕生のきっかけとなった「ある出会い」

後藤さんが「Sail」で「シニア層✕若者」というターゲットにしたのは、お母さまを通じたある出会いからでした。当時、米国に住んでいたお母さまが紹介してくれたのが、米国南部に住んでいる年配の白人女性です。

もともと英語を勉強したかった後藤さんですが、その女性とは、「人種問題をどう感じていたか」やこれまでの経験、哲学などさまざまな対話をすることになりました。後藤さんはこの体験から、「人生経験が豊かな方とさまざまな対話をすると学びが多い」と気づき、この気づきを具現化したいと思いました。お母さまがつないだこのご縁が、いわば「Sail」の原点だったのではないでしょうか。ここから「教育」✕「日本語を学びたい人に学べる場所を提供したい」✕「人生経験が豊かな方と対話する」が形になっていったのです。

3)後藤さんが語る「すべての出来事の根源にある原体験」

米国人女性との出会いも含め、「今の起業、サービスはすべて原体験から来ている」と後藤さん。その原体験とは、後藤さんの幼い頃に遡ります。後藤さんのお母さまが世界中を飛び回るフリーランスのカメラマンだったこともあり、6~12歳の頃はなかなか一緒にいられず、そのことで劣等感があり、自己肯定感が低かったといいます。「母に迎えに来てもらいたかったし、野球をやっていたので、その応援に両親そろって来てほしかった」と後藤さん。この点については、後藤さんがお話ししてくださった内容を、後藤さんの言葉でご紹介したいと思います。

本当にすごいですね。後藤さんのように素晴らしい起業家に共通するのは、若い頃から濃い時間を過ごし、しかもそれを受け入れ、咀嚼(そしゃく)した上で自分なりにアウトプットし、世の中に恩返ししようとされていることだと思います。

3 【「Sail」=帆を上げて進む】ことを決意した後藤さん

濃い時間から得た熱い思いが込められている「Sail」。ただし、最初からこの構想があって起業したわけではありません。後藤さんは2014年に大手IT企業に就職しましたが、「とにかく自分自身で困っている人を助けたい。今やっていることをリセットしたい」と強烈に思い詰め、2015年3月に退職しています。

ここから2016年に起業するまで、ビジネスモデルをひたすら考え続ける日々が続きます。海外で目の当たりにした教育問題、米国南部に住む女性との密度の濃い対話、海外には日本語を学びたい人がたくさんいること、これからの日本の課題=高齢者が増える。こうした自分の中にあることやこれからの世の中の課題に向き合い続け、日本の高齢化などの裏付け数字も情報収集した上で、「Sail」が出来上がっていきました。

泥舟でもいいからとにかく行こう。
船は帆がないと出航できない。帆を上げて、ワクワクする風を感じながら前に進みたい。

こうした思いから、「Sail」というサービス名を付け、後藤さんは帆を上げました。真面目に地道に、思い込んだらとことん命がけ。後藤さんの決意と信念、そして胆力が表れているサービス名称ですね。

後藤さんのエピソードは数々ありますが、印象深いのは「オンラインする海外側の人を初めて集める」ときの話です。とにかく使ってくれそうな人、しかも海外の人を集める必要がありました。並大抵のことではありません。タイのバンコクへ行った後藤さんは、なんのツテもコネもないまま、バンコク中の日本語学科のある大学をひたすらトゥクトゥクで回り突撃する日々。手土産を持って行っても会ってもらえない……。それでもめげず、どうにか潜り込んでプレゼンしたこともあると笑う後藤さん。信念に基づく地道ながらすごいパワーを感じるお話です。

4 これからますます進展しそうな行政との取り組み

後藤さんが「Sail」を本格的にスタートした大きなきっかけは、お母さまつながりで出会ったフランス人投資家が投資をしてくれて、「この事業は良いので全力でやれ」とアドバイスしてくれたことです。「今、自分が打席に立たせてもらっているだけでとてもありがたいです。こうしてお世話になった方々に、早くホームランを打って恩返ししたい!」と後藤さん。

高校球児だった後藤さんは、何かと野球の例えが多いです。「ホームランを打って恩返しをしたい」というのものその一つ。起業家ならば“ビジネスで恩返し”ということで、現状のビジネスについても改めてお伺いしました。

現状は、行政とのさまざまな取り組みが進んでいます。後藤さんが、「社会的な課題を解決するために行政との連携を深めることが大事」と活動してきた結果が出てきた状態といえるでしょう。

ある行政とは「ソーシャルインパクトボンド」の仕組みを使った取り組みが検討されています。ソーシャルインパクトボンドは聞きなれない仕組みですが、官民一体となって社会課題を解決していこうというスキームです。「Sailは高齢者の心身の健康に有効!」ということで興味を持ってくれる自治体も多くいます。また、行政以外にも、大手自動車メーカーが興味を持ってくれて取り組みを検討したりと、どんどん広がっていっています。まさにご縁がつながっていく感じがいいですね。

自治体との取組の説明画像です

(出所:後藤さんにご提供いただいたHelteの資料)

5 今後の後藤さん、そして課題とやるべきことが明確に見えているHelteの展望

最後に、後藤さんの夢はなんですか?とお聞きしてみました。

まさに、「全世界をご縁つなぎする」ということですね。まっすぐに誠実に真心を込めて、目の前の人を大切に。常に感謝の気持ちを忘れない。嘘をつかない。立場で人を判断せず常にフラットな気持ちで真摯に向き合う。こうした後藤さんの姿勢があるからこそ、苦しいとき、局面局面で出会うべき人に出会えるのかもしれません。

後藤さんは、目標も課題も明確です。

やるべきことが明確に見えていて決まっている後藤さん。日々、「Sail」を使ってくださっているお客さまと対話し向き合っているからこそと思います。これもすごいことです。

「自分の作った事業で人の役に立つことができて、何かを変えることができたら本当に素晴らしい」

最後に、後藤さんは、満面の笑みでこう言ってくださいました。日本全国、地方からも世界とつながれる、世界と世界がつながれる。そう思えた素晴らしい笑顔でした。心から応援したいと思います! 有り難うございました。

以上(2021年4月作成)

ジョブ型雇用で注目される「役割等級制度」とは?

書いてあること

  • 主な読者:ジョブ型雇用を取り入れている(取り入れたい)経営者
  • 課題:ジョブ型雇用で必要な分だけ即戦力が採用できるのは良いが、一方で企業の歴史や文化、顧客への思いなどを受け継ぐ若手も必要
  • 解決策:ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用を併用する。ジョブ型雇用に対応した人事制度として「役割等級制度」を導入する

1 「ジョブ型」の論点は企業の成長スピードである!

コロナ禍だからこそ、「今がチャンス!」とばかりに採用を進める中小企業が数多くあります。しかも、いわゆる「ジョブ型雇用」(以下「ジョブ型」)を取り入れる中小企業が増えてきています。

ジョブ型とは、「仕事に人を割り当てる」という考え方です。

例えば、営業やマーケティングを行う人材が欲しいのであれば、そうした人材をフルタイムに限らず採用していく方法です。ジョブ型が注目されるのは、「社員の成長をゆっくりと待っている時間がない」からです。経営者は新規事業を「今すぐにやりたい」のであり、即戦力が必要です。そうした人材は成果と賃金の関係も明確なので、経営の合理化にもつながります。

一方、これまで多くの日本企業が取り入れてきたのが「メンバーシップ型雇用」(以下「メンバーシップ型」)です。

メンバーシップ型とは、「人に仕事を割り当てる」という考え方です。

何ができるわけではないけれど、ビジョンなどに共感しているはずの人材を採用し、ジョブローテションを通じて適性を見つけていく方法です。企業が長く続くためには、長い時間をかけて社員のメンバーシップを育む必要があります。今は技能がなくても、経営者の「イズム」を受け継いでくれる社員は育てなければなりません。

ジョブ型とメンバーシップ型を二者択一で考えるのは間違いです。技能がある人材も思いがある人材も両方必要なのです。とはいえ、足元ではジョブ型は普及していくでしょうから、そうなるとジョブ型を受け入れるための人事制度が必要になります。2020年は「リモートワークをやりたいが制度が整っていない」と、スピードを落とさざるを得なかった経営者もいるでしょう。同じ轍を踏まないために、ジョブ型に対応した人事制度が必要です。本稿で紹介する「役割等級制度」はジョブ型に対応した制度です。

2 役割等級制度を提案する理由

役割等級制度とは、仕事(ジョブ)に等級を設け、それに基づいて賃金を支払う仕組みです。もともとは、同一労働同一賃金を実現するために注目された制度です。つまり、正社員とパートの役割を整理することで不合理な待遇格差をなくそうというものです。

この役割等級制度は、

  • ジョブ型で雇用されるのは、正社員とは限らない
  • 役割まで視野に入れることで、既存社員の納得を得やすい

といった点で、ジョブ型にもなじみやすいといえます。

ジョブ型では、特定の仕事を行う社員を雇用します。その仕事がフルタイムで頼むほどの量でなければ、パートタイムとしての雇用となります。この点、雇用期間や労働時間の長短ではなく、仕事の内容で評価できる役割等級制度は、ジョブ型になじみやすいです。

これだけだと「職務給」と変わりませんが、役割等級制度は役割にも注目することがポイントです。例えば、新規事業のためのマーケティング担当が必要になったとします。これまでの日本企業は、既存社員の中から可能性がありそうな社員を登用しますが、所詮は素人なので、成果は限られます。一方、社員は未経験のことに戸惑いつつも、企業への思いや帰属意識があるので頑張るわけです。「君に任せるぞ!(企業)」と、「一から勉強します(社員)」というのが、ある意味で日本企業の労使の良いところでもありました。

しかし、効率性という意味では、やはり問題があるわけで、ジョブ型でマーケティングの専門家を採用すれば、断然、成果が上がるわけです。ただ、ジョブ型の社員に企業への思いなどがあるとは限りません。役割等級制度では、この思いを「役割」に置き換えます。そうすると、単純に実務をこなすわけでなく、企業の歴史や文化、顧客への思いなどを業務に落とし込むための役割を既存社員が担います。ここまでを含めて評価することで既存社員の納得を得やすくなるわけです。

3 役割等級制度の具体例

役割等級制度では、「社員に求められる部門間共通の役割」を等級別に設定します。また、「部門間共通の役割を果たすために必要な資格・知識や期待される姿勢・行動」を部門・等級別に設定することで、役割を仕事(ジョブ)に落とし込みます。イメージは次の通りです。

画像1

具体的な資格・知識や姿勢・行動の内容は「役割基準書」で定義します。例えば、図表2は電気機械器具製造業の技術系職種を想定した、技術部門4等級(課長レベル)の役割基準書のイメージです。

画像2

このように、役割等級制度は部門・等級ごとに職務を考慮し、具体的な役割基準書を作成します。これは、職務等級制度で作成する「職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)」と似ています。しかし、職務等級制度は、あくまで職務だけをベースに等級を設定するものです。この点は前述した通りで、役割等級制度は企業の歴史や文化、顧客への思いなどを「期待される姿勢・行動」などに落とし込みます。

4 役割等級制度を構築するための4つの工程

1)社員の職務をリストアップする

既存の職務については、各社員にリストアップしてもらいます。就業場所や取り扱うサービスの種類、他の社員からサポートを受けているかなども明確にします。ジョブ型で新たに生まれる職務は経営者や部門長がリストアップします。

2)重要度や難易度に応じて職務内容をグルーピングする

リストアップされた職務内容を基に、経営者や部門長がグルーピングします。重要度や難易度の評価は難しいので、例えば、厚生労働省「職業能力評価基準について」などを参考にします。ジョブ型で新たに生まれる職務については、知見のない人が作るよりも、その分野の専門家に相談するのがよいでしょう。時間単位で専門家に相談できるサービスもあるので、そうしたものを利用するのも一策です。

3)グルーピングの内容を基に役割等級の格付けを行う

格付けは賃金支給額と密接に結び付くものなので、既存の制度との対応関係に注意しながら行います。職能資格制度を導入している場合、「職能資格制度の○等級は、役割等級制度の○等級に相当する」などルールを決めていきます。

4)各等級について、部門間共通の役割を定義しつつ、役割基準書を作成する

部門間共通の役割を定義し、その内容を基に各部門長が役割基準書を作成します。役割基準書は、グルーピングした職務内容の重要度や難易度に沿った内容になっているかを確認しながら作成します。

以上(2021年4月)

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画像:pixabay

【朝礼】徳川慶喜に学ぶ「勝負の引き際」

新年度が始まり、「今期はあのクライアントから必ず契約を勝ち取る」「あの競合他社には絶対に負けない」など、熱い闘争心を持ってスタートを切った人も多いでしょう。ビジネスは常に競争です。ぜひその闘争心を大事にし、勝利に貪欲になってください。とはいえ、常に勝ち続けられるほど甘くないのがビジネスというもの。時には「勝負の引き際」を見極めて撤退することも大事です。今日は、江戸幕府最後の将軍、徳川慶喜(とくがわよしのぶ)を題材に、勝負の引き際について話をします。

慶喜が将軍に就任した当時、日本では薩摩(さつま)と長州が結託して幕府を倒そうとしていました。武力衝突を避けたい慶喜は、先手を打って朝廷に政権を返上し、自らの手で幕府を終わらせます。徳川家には莫大な領地があり、慶喜には幕府がなくなった後も、新政府の下で徳川家による政治を続けられるという目算があったのです。

しかし、武力倒幕にこだわる薩摩と長州は、官位と領地の返上を迫るなどして慶喜を挑発します。武力衝突を避けたかった慶喜も、挑発に怒る家臣たちを抑えきれず、新政府軍と旧幕府軍との間で「戊辰(ぼしん)戦争」という内戦が勃発します。旧幕府軍は兵の数では上回っていましたが、武器の性能の差などから劣勢となり、さらに新政府軍が、旧幕府軍が朝廷の敵であることを表す「錦の御旗(にしきのみはた)」を掲げたことで、兵の多くが戦意を失ってしまいます。

戊辰戦争が始まった当初、慶喜は大坂にいましたが、この錦の御旗が掲げられたタイミングでひそかに江戸に戻り、恭順する意向を示します。徹底抗戦を訴える家臣もいましたし、慶喜と交流のあったフランスが援助を申し出る一幕もありましたが、慶喜はこれらを全て拒否し、恭順を貫きます。慶喜の中には「この戦いにはもう勝てない。だったら兵の命を無駄にしない選択をすることが、将来的に日本のためになる」という思いがあったのでしょう。実際、慶喜の選択は、内戦の長期化を防いで国力の疲弊を最小限に食い止め、さらに外国の軍事介入を防いで日本の国家としての独立を守ったとして、高く評価されています。

ビジネスに置き換えて考えてみましょう。例えば、営業がクライアントにサービスを提案する際、契約を取りたい一心で、価格を下げたり納期を短縮したりすることがあります。しかし、行き過ぎた条件の調整は自分たちの首を絞めることになりますし、クライアントが他社のサービスを利用する腹積もりの場合、あまり食い下がると「しつこい会社だ」と嫌われるリスクすらあります。こうした場合は、「勝負を続けることが、本当にクライアントや自社のためになるのか」を考えてみてください。状況次第では、別のサービスを提案する、提案を諦めて自社の利益につながる他のクライアントを探すといった選択肢もあるはずです。勝負を続けるより引いたほうが損失が少ないなら、撤退も立派な戦略なのです。

以上(2021年4月)

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画像:Mariko Mitsuda

気分だけセキュリティー? PPAP(パスワード付きzipのメール送信)の無意味を暴く

書いてあること

  • 主な読者:パスワード付きzipファイルをメールで送信(PPAP)している会社の経営者
  • 課題:PPAP廃止の流れに備えたいが、依存度が高いのでいきなり全面廃止するのは困難
  • 解決策:社内の一部からでもよいので、クラウドサービスを活用したPPAPに頼らない安全なファイル送信環境を用意する

1 PPAP廃止論にどう対応する?

セキュリティーのためになってもいないし、受け取る側も大迷惑!!

政府や民間企業の間で廃止論が高まっている「PPAP」。これは、ファイルをパスワード付きのzipに変換してメールを送信し、直後に解凍パスワードを別々のメールで送信するやり方です。PPAPという通称は、次の言葉の頭文字を取ったもので、数年前に人気を集めたお笑い芸人のネタになぞらえて揶揄(やゆ)されたものです(日本情報経済社会推進協会に所属していた大泰司章氏(現・PPAP総研)によって問題提議・命名)。

Password付きzipファイルを送ります

Passwordを送ります

An号化(暗号化)

Protocol(プロトコル、手順)

今、多くの人が抱くのは、同じ相手に間髪を入れずにファイルとパスワードを送るPPAPは本当に意味があるのかということです。

この疑問は的中しており、PPAPは安全ではありません。本稿ではその理由を説明した上で、クラウドサービスを活用した安全なファイル送信方法を紹介します。コストもかかるので、いきなり全社的にファイル送受信ルールを変更したりすることは難しいかもしれませんが、本稿が実効性のある安全なファイル送信環境を備えるきっかけになれば幸いです。また、ここでは特に触れませんが、PPAPでファイルを受け取る側の迷惑(手間やリスク)も考えるべきでしょう。

2 PPAPはなぜ安全でないのか

実はセキュリティー業界では以前から、PPAPについて「セキュリティー対策をしている感覚は得られるだろうが、実際には面倒なだけでセキュリティー対策効果がほとんどない」と指摘されていました。その理由をご説明します。

1)盗聴(盗み見)対策にならない

電子メールのセキュリティーの仕組みは、よくハガキに例えられます。電子メールが相手先に届くまでには、複数の電子メール配送サーバーを経由するのですが、原理的にはその間の通信全ての暗号化を保証することができない仕組みになっています。従って、普通にメールを送信すると、まるで機密情報を書き込んだハガキのように、通信経路上のどこかで盗み見られるリスクが生じてしまいます。

そこで、苦肉の策で広まったのがPPAPですが、パスワードも同じ経路で送信しているということは、ハガキを1枚から2枚にしただけで、同じ時刻に同じポストに投函(とうかん)しているようなものです。盗聴に対する効果がない、形だけの対策になってしまっているのです。

2)誤送信対策にならない

PPAPは誤送信対策になるという見方も正しくありません。1通目を送信した後、2通目のメールを送るまでに誤送信に気付く猶予があるといいますが、どうですか? 2通のメールアドレスを、コピーアンドペースト機能を使ってすぐに入力している人がいたら、効果は全くありません。

1通目で誤送信に気付き、誤送信先にパスワードが届かなかったので安全だというのも間違いです。実は、今やパスワード付きzipは、十分長く複雑なパスワードでない限り、パスワード総当たり攻撃で簡単に破られてしまいます。あるリポートによれば、一般に市販されているPCとツールで英大小文字+数字(62文字種)を使った7桁のパスワードの解析にかかる時間は、わずか15分でした。このツールは「zipパスワード忘れの解析ツール」という名目で簡単に手に入るものです。

たとえ暗号化していたとしても、ファイルの誤送信は情報漏洩事故として対応すべき事案ということになりますし、PPAPが誤送信対策になっていないといわれている理由にもなります。

3)受信者のウイルス感染リスクを高める

近年、Emotet(エモテット)やIcedID(アイスドアイディー)と呼ばれるマルウェア(悪意あるプログラム)が、主に添付ファイルを介してウイルスへの感染を狙う攻撃メールの被害が拡大しています。感染すると、個人や自社の情報漏洩だけでなく、過去のメール送受信先にもウイルスを感染させてしまう恐れがあります。

このマルウェアが最近、暗号化されたパスワード付きzipを隠れみのにして攻撃したケースが確認されています。暗号化されたパスワード付きzipによって、企業のセキュリティー検知を擦り抜けるためです。皮肉なことに、情報漏洩対策として行っているPPAPが、逆に受信側のウイルス感染リスクを高める危険な存在となってしまっているのです。

3 ファイルを安全に送るには

PPAPに代わって安全にファイルを送るには、主に3つの方法があります。それぞれ従来のPPAPと比べたメリット・デメリットを挙げるとともに、送信の方法を紹介します。

画像1

1)PPAP(従来の方法)

前述の通り、パスワード付きのzipファイルに変換して、ファイルとパスワードを別々のメールで送信するやり方です。

2)PPAP+(複雑なパスワードをメール以外の経路で送信する)

現状の形骸化したPPAPの課題の対策として、次のような手順を踏む方法です。

  • パスワードは十分長くて推測できない複雑な文字列にする(例:英大小文字+数字+記号(96文字種)を使用し、12桁以上)
  • パスワードをメール以外の経路で送信する(例:事前の取り決め、電話、SMS、ビジネスチャットツールなど)

3)ファイル転送サービス

メールへのファイル添付に代わる方法として20年以上前から使われているのが、ファイル転送サービスです。ファイル送信に特化したこのクラウドサービスは、おおむね次のステップでファイルを送信します。

  • 送信者はファイルをクラウドサービス上にアップロードしパスワードを設定
  • 送信者が入力した宛先(メールアドレス)に専用URLが記載されたメールが自動送信
  • 受信者は当該URLからクラウドサービスにアクセス
  • 受信者は送信者からメール等で別途連絡を受けたパスワードを入力してダウンロード

4)クラウドストレージサービス

ファイルサーバーを仮想化して、クラウド上に大量のファイルを貯蔵し、社内外でファイルやフォルダを共有(コラボレーション)できるのがクラウドストレージサービスです。共有リンクと呼ばれる機能を使えば、ファイルを送信する目的でも利用できます。

なお、政府はPPAPの代わりに、「今後は主に内閣府が利用する民間のストレージサービスでファイルを共有し、パスワードをメールで送信する」との方針を表明しています。

  • 送信者はファイルをクラウドサービス上にアップロード
  • 送信者は共有リンク(1.のファイルに直接アクセス可能なURL)を作成し、パスワードを設定
  • 送信者は宛先に共有リンクとパスワードをメール等で送信
  • 受信者は共有リンクにアクセスし、パスワードを入力してダウンロード

4 PPAP依存から脱するための考え方

ファイル送受信の運用変更、ツールの導入などにはコストがつきものです。その他にも、企業にはなかなかPPAP脱却に踏み切れない事情があることでしょう。ここでは、企業が抱える課題を解決するための考え方について述べてみたいと思います。

1)手間も費用もかけたくない。今のまま何もしなくていいのではないか

2020年11月、河野太郎規制改革・行政改革担当大臣とのオープン対話を行った平井卓也デジタル改革担当大臣は、PPAP全廃を決めた理由を、次のように述べました。

zipファイルのパスワードの扱いを見ていると、セキュリティレベルを担保するための暗号化ではない。全ての文書をzipファイル化するのは何でもハンコを押すのに似ている。そのやり方を今までやってきたからみんなやっていたと思う

PPAP廃止論のきっかけは、セキュリティー事故ではありません。ハンコのように、本来の目的や必要性について十分議論せず、無駄な作業に多くの企業が時間を浪費している現状が課題となったのです。

時間の無駄はすなわち人件費の無駄。どうせコストがかかるなら、より本質的な部分に割くべきという政府のメッセージがPPAP廃止論だと理解しましょう。そう理解できれば、何もしないことがPPAPの解決にならないことはお分かりいただけると思います。

2)PPAPをやめるとファイルの誤送信が怖い

PPAPが誤送信対策にならないのは前述の通りです。添付ファイルの有無にかかわらずメールには誤送信リスクがつきものですので、PPAP対策とは切り離し、メール誤送信を予防する設定や対策ツールの導入を検討しましょう。

3)自社の環境では添付ファイルが自動的にPPAPで送られるようになっている

企業のメール環境によっては、メールにそのままファイルを添付すれば、自動的にPPAPで送信する仕組みが整っている場合があります。送信する手間はかからなくとも、受信者の手間やウイルス検知不可のリスクは残ります。また、PPAPを受け取れない企業が今後増えてくると見込まれますので、代替手段の検討は必要です。

4)結局社員はPPAPで送ってしまうのではないか

PPAPに代わるファイル送受信の新しいルールやツールを導入したとしても、それだけでは社員がPPAPでファイルを送ってしまうことを機械的にやめることはできません。例えばメールサーバーの設定を調整し、送信メールに添付されたファイルを削除することも一つの方法です。設定の仕方によっては、ファイル拡張子がzipなどの特定ファイルのみ削除するなども可能な場合がありますので、ご利用のメールサーバーの設定をご確認ください。

5)メール以外の方法だと受け取ってもらえない

取引先も同じように、PPAPから抜け出すことの難しさに直面しています。社内ルール上、ファイルをやりとりできるクラウドサービスの利用が禁止されている企業もありますので、こうした取引先宛には、短期的にはPPAPの利用はやむを得ません。

しかし、取引先によっては逆にPPAPだと受け取れない、と断られるケースも今後考えられますので、PPAPに依存しない環境の検討は必要です。そもそもPPAPは気休めにしかならないわけですから。

以上(2021年4月)
(執筆 セキュリティコンサルタント 土屋亨)

https://www.nri-secure.co.jp/

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画像:Adobe Stock-deepagopi2011

株主総会前に確認 会社法改正で必要な対応

書いてあること

  • 主な読者:株主総会前に例年と違う手続きがあるのかを知りたい経営者
  • 課題:会社法が改正されたため、自社がその影響を受ける可能性がある
  • 解決策:会社補償、役員等賠償責任保険の契約は、株主総会または取締役会での対応が必要

1 【改正会社法の施行】2021年の株主総会はいつもと違う?

中小企業の場合、株主の多くは親族や友人などの関係者なので、毎年特に問題なく株主総会が開催できます。しかし、2021年は少し状況が違います。なぜなら、2021年3月1日に改正会社法が施行された影響で、一部の会社では例年通りの準備や手続きでは不十分になったからです。具体的には次の対応が必要です。

  • 会社補償、役員等賠償責任保険の契約内容を株主総会または取締役会で決議
  • 株主提案権の行使の濫用に備えて、株式取扱規程を整備

これがどういうことなのか、早速、確認していきましょう。なお、本稿で対象としているのは、いわゆる「非公開会社」です。非公開会社とは、全ての株式の譲渡について、会社の承認が必要となる旨を定款に定めている会社です。

また、「株主総会の決議」とは、普通決議を指します。普通決議には、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席(定足数)し、出席した株主の議決権の過半数の賛成(決議要件)が必要です。

2 会社補償と役員等賠償責任保険に関連した対応

1)会社補償の契約内容は、株主総会または取締役会の決議が必要

会社補償とは、役員が業務上の賠償責任を負った場合の弁護士費用や、賠償金などを会社が負担する契約です。細かな定義は次の通りです。

役員等がその職務の執行に関し、法令の規定に違反したことが疑われ、または責任の追及に係る請求を受けたことに対処するために支出する費用や、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合における損失(いわゆる賠償金または和解金)の全部または一部を、株式会社が当該役員等に対して補償すること

会社補償を契約することで、取締役はリスクを恐れずに職務を執行できます。これまでは、会社補償の内容をどのように定めるべきか法律上明らかではなかったのですが、2021年3月1日以降変わりました。具体的には、会社補償の内容は株主総会の決議(取締役会設置会社は取締役会の決議)で決めることになりました。

ここまでのポイントを整理すると、次のようになります。

  • 会社補償の契約内容を株主総会または(取締役会設置会社は)取締役会で決議する
  • 上記の決議をした後、会社と役員が会社補償を契約する

2)会社補償の契約内容

会社補償の契約内容は次の通りです。全ての費用・責任が補償契約の対象になるわけではないので、その点に注意しましょう。

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3)役員等賠償責任保険の契約内容は、株主総会または取締役会の決議が必要

役員等賠償責任保険とは、取締役が業務上の賠償責任を負った場合の弁護士費用や、賠償金などを一定の範囲で補償する保険です。いわゆる「D&O保険(会社役員賠償責任保険)」などが該当します。細かな定義は次の通りです。

株式会社が、保険者との間で締結する保険契約のうち取締役等がその職務の執行に関し責任を負うこと、または当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が填補することを約するものであって、取締役等を被保険者とするもの

なお、以下の保険は役員等賠償責任保険には含まれません。

  • 主に法人に生じる損害を填補する保険で、取締役は付随的に被保険者になっている性質の保険。具体的には「PL保険、企業総合賠償責任保険」など
  • 取締役自身に生じる損害を填補するが、取締役の職務執行の適正性が阻害される懸念が小さい性質の保険。具体的には「自動車賠償責任保険、海外旅行保険」など

会社補償の場合と同様に、役員等賠償責任保険を契約することで、取締役はリスクを恐れずに職務を執行できます。これまでは、役員等賠償責任保険の内容をどのように定めるべきか法律上明らかではなかったのですが、2021年3月1日以降変わりました。具体的には、役員等賠償責任保険の内容は株主総会の決議(取締役会設置会社は取締役会の決議)で決めることになりました。新規契約だけでなく、契約の更新・更改も含みます。

ここまでのポイントを整理すると、次のようになります。

  • 役員等賠償責任保険の基本的な内容を株主総会または(取締役会設置会社は)取締役会で決議する
  • 決議する役員等賠償責任保険の基本的な内容とは、「保険会社、被保険者、保険料、保険期間、保険金の支払事由および支払限度額、保険金により填補される損害の範囲、保険会社の主な免責事由、主な特約条項など」のこと
  • 役員等賠償責任保険の更新時は、同様の決議をする

なお、(中小企業の場合、該当しない場合が多いと思われますが)株主総会に「取締役の選任」に関する議案を上程する場合で株主総会参考書類を交付しなければならない会社は、株主総会参考書類に取締役の候補者と補償契約および役員等賠償責任保険契約の締結状況(締結予定を含む)を記載しなければなりません。

3 株主提案権の濫用的な行使の制限に関連した対応

株主は株主総会の議案を提案できます。とはいえ、さまつな議案や会社を困惑させる目的の議案の提案があると、株主総会の意思決定機関としての機能が阻害されてしまいます。そこで会社法が改正され、「株主提案権の濫用的な行使が制限」されました。具体的には次の通りです。

取締役会設置会社の株主が、議案を提案し、招集通知に記載請求(議案要領通知請求)する場合、株主が記載請求できる議案数は10までとする。10を超過した場合、どの議案を選ぶかは、原則として取締役が決められる(株主が議案相互間の優先順位を定めている場合を除く)

ただし、取締役が恣意的に議案を決定することにもリスクがあります。例えば、株主から「議案の要領を株主総会の招集通知に記載する」ことが求められる、「取締役や会社に対して損害賠償請求がされる」などの恐れがあります。こうした株主からの指摘を避けるために、取締役会設置会社においては、あらかじめ株式取扱規程の中で、議案を選ぶ際の決定方法を定めておくとよいでしょう。

また、実際に株主から株主提案権の濫用的な行使がされてしまった場合は、まず株主にどの議案を優先するかを確認し、その確認が取れない場合は、株式取扱規程に従って対応することが望ましいでしょう。

以上(2021年4月)
(執筆 TMI総合法律事務所 弁護士 池田賢生、田椽史也)

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