1 「ジョブ型」の論点は企業の成長スピードである!
近年、耳にする機会が増えた「ジョブ型雇用」(以下ジョブ型)。
ジョブ型とは、「仕事に人を割り当てる」という考え方
です。
例えば、営業やマーケティングを行う人材が欲しいのであれば、そうした人材をフルタイムに限らず採用していく方法です。ジョブ型が注目されるのは、「社員の成長をゆっくりと待っている時間がない」からです。
経営者は新規事業を「今すぐにやりたい」と考えており、即戦力が必要
です。
そうした人材は成果と賃金の関係も明確なので、経営の合理化にもつながります。
一方、これまで多くの日本企業が取り入れてきたのが「メンバーシップ型雇用」(以下「メンバーシップ型」)です。
メンバーシップ型とは、「人に仕事を割り当てる」という考え方
です。
何ができるわけではないけれど、ビジョンなどに共感しているはずの人材を採用し、ジョブローテションを通じて適性を見つけていく方法です。企業が長く続くためには、長い時間をかけて社員のメンバーシップを育む必要があります。今は技能がなくても、
経営者の「イズム」を受け継いでくれる社員は育てなければならない
のです。
ジョブ型とメンバーシップ型を二者択一で考えるのは間違いです。技能がある人材も、思いがある人材も両方必要なのです。とはいえ、足元ではジョブ型は普及していくでしょうから、ジョブ型を受け入れるための人事制度が必要になります。この記事で紹介する
「役割等級制度」は、ジョブ型にフォーカスしつつ、メンバーシップ型で大事にしたい「思いがある人材」も置き去りにしない、ハイブリッド型の制度
です。
2 役割等級制度を提案する理由
役割等級制度とは、
仕事(ジョブ)に等級を設け、それに基づいて賃金を支払う仕組み
です。
もともとは、同一労働同一賃金を実現するために注目された制度です。つまり、正社員とパートの役割を整理することで不合理な待遇格差をなくそうというものです。
この役割等級制度が、ジョブ型雇用になじみやすい理由は次の2点です。
1)雇用形態を問わない柔軟性
ジョブ型で雇用されるのは、正社員とは限りません。特定の仕事がフルタイムで頼むほどの量でなければ、パートタイムとしての雇用となります。役割等級制度は、雇用期間や労働時間の長短ではなく、仕事の内容で評価できるため、ジョブ型になじみやすいのです。
2)「役割」まで評価することで、既存社員の納得を得やすい
役割等級制度は単なる「職務給」ではなく、「役割」にも注目します。
例えば、新規事業のためのマーケティング担当が必要になったとします。通常なら、まず既存社員の中から可能性がありそうな社員を登用することを考えるでしょうが、所詮は素人なので成果は限られます。一方、社員は未経験のことに戸惑いつつも、企業への思いや帰属意識があるので頑張るわけです。「君に任せるぞ!(企業)」と、「一から勉強します!(社員)」というのが、ある意味で日本企業の労使の良いところでした。
しかし、効率性を考えると、ジョブ型でマーケティングの専門家を採用すれば、断然成果が上がります。ただ、ジョブ型の社員に企業への強い思いがあるとは限りません。
役割等級制度では、この「思い」を「役割」に置き換えます。つまり、単純に実務をこなすだけでなく、企業の歴史や文化、顧客への思いなどを業務に落とし込むための役割を既存社員が担います。ここまでを含めて評価することで、既存社員の納得を得やすくなるのです。
3 役割等級制度の具体例
役割等級制度では、「社員に求められる部門間共通の役割」を等級別に設定します。また、「部門間共通の役割を果たすために必要な資格・知識や期待される姿勢・行動」を部門・等級別に設定することで、役割を仕事(ジョブ)に落とし込みます。イメージは次の通りです。

具体的な資格・知識や姿勢・行動の内容は「役割基準書」で定義します。例えば、図表2は電気機械器具製造業の技術系職種を想定した、技術部門4等級(課長レベル)の役割基準書のイメージです。

このように、役割等級制度は部門・等級ごとに職務を考慮し、具体的な役割基準書を作成します。これは、職務等級制度で作成する「職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)」と似ています。しかし、職務等級制度は、あくまで職務だけをベースに等級を設定するものです。この点は前述した通りで、役割等級制度は企業の歴史や文化、顧客への思いなどを「期待される姿勢・行動」などに落とし込みます。
4 役割等級制度を構築するための4つの工程
1)社員の職務をリストアップする
既存の職務については、各社員にリストアップしてもらいます。就業場所や取り扱うサービスの種類、他の社員からサポートを受けているかなども明確にします。ジョブ型で新たに生まれる職務は経営者や部門長がリストアップします。
単に業務をリストアップするだけでなく、「自社が5年後にどうありたいか」などのビジョンから逆算することが大切です。若手人材の定着やDX推進スキルの確保など、優先課題を明確にしましょう。
2)重要度や難易度に応じて職務内容をグルーピングする
リストアップされた職務内容を基に、経営者や部門長がグルーピングします。重要度や難易度の評価は難しいので、例えば、厚生労働省「職業能力評価基準」などを参考にします。
■厚生労働省「職業能力評価基準」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/ability_skill/syokunou/index.html
ジョブ型で新たに生まれる職務については、知見のない人が作るよりも、その分野の専門家に相談するのがよいでしょう。時間単位で専門家に相談できるサービスもあるので、そうしたものを利用するのも一策です。
なお、等級数は細分化しすぎないことが大切です。中小企業では、一般社員層で3~5段階、管理職層で2~3段階程度が標準的な目安です。現場で違いが実感できない細かすぎるグレード分けは避けましょう。
3)グルーピングの内容を基に役割等級の格付けを行う
格付けは賃金支給額と密接に結び付くものなので、既存の制度との対応関係に注意しながら行います。職能資格制度を導入している場合、「職能資格制度の○等級は、役割等級制度の○等級に相当する」などルールを決めていきます。
賃金テーブルの改定で不利益が出る層には経過措置(調整給など)を設けるなど、ソフトランディングの工夫を検討しましょう。
4)各等級について, 部門間共通の役割を定義しつつ、役割基準書を作成する
部門間共通の役割を定義し、その内容を基に各部門長が役割基準書を作成します。役割基準書は、グルーピングした職務内容の重要度や難易度に沿った内容になっているかを確認しながら作成します。
役割基準書は「誰が読んでも理解できる簡潔な言葉」で記述することが重要です。「この等級の人は具体的にどんな業務・責任を負い、何ができれば昇格なのか」を例示するなど視覚化しましょう。
以上(2026年2月更新)
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