投資評価に必要なコストの考え方/設備投資の成果チェック(3)

1 見落としてはいけない投資評価特有のコスト

投資の判断を誤る原因の1つに、

「お金を集め、利用することにかかるコスト(以下「資金調達コスト)」を意識せずに計画を立ててしまう

ことがあります。同じ1000万円の設備投資であっても、その資金をどのように調達したかによって、実際の採算性は大きく変わります。銀行から借りた資金であれば利息が発生し、株主からの出資であれば配当が必要になるように、資金を調達する方法によってコストの内容が変わってくるからです。

投資評価は、「この設備を導入すれば売上が増えるか」という一面的な判断ではありません。

資金調達コストを正しく把握し、その分を差し引いても利益を生むかどうかを見極める

ことが大切です。

今回は、投資評価の判断において欠かせない「資金調達コスト」の考え方やその具体的な計算方法と、資金調達コスト以外に投資評価やファイナンスで使う独特のコストである「機会コスト」「埋没コスト」を解説します。

2 資金調達コストはどのように使われるのか

投資案件の採算性を評価する際、問題となるのが、

  • 将来その投資から得られるキャッシュ・フロー
  • 現時点で投資のため支払われるキャッシュ・フロー

とで、時点(将来と現時点)が異なる点です。なぜなら、現在の100万円は、利息や配当が発生することで、1年後に受け取る100万円に比べ、その価値が高くなるからです。

この問題を解消するために、「将来その投資から得られるキャッシュ・フロー」を「現時点の価値」に換算する必要があります。この「将来のお金の価値を現時点の価値に換算すること」を「現在価値に割り引く」といいます。

資金調達コストは、将来のキャッシュ・フローを現在価値に調整する際に用いる率(割引率)として使われます。また、それ以外にも投資利益率、内部収益率を使った具体的な投資の評価方法で投資案件を採択するかどうかの判断基準として使われます。

3 資金調達コストの具体的な計算方法

事例として、

  • 投資額は100万円
  • 資金調達コストは10%
  • 投資案件はA案(利益率は15%)、B案(利益率は8%)、C案(利益率は17%)の3案

とした場合で、投資案件にかかる5年間のキャッシュ・フローの推移を見てみましょう。

5年間のキャッシュ・フローの推移

この投資案件を選ぶ際に、B案は選ぶことはまずありません。なぜなら、投資するための資金を集めてくる資金調達コスト(10%)よりも利益率(8%)が低いので、予定通りいったとしてもマイナス2%(=8%-10%)になってしまい、やらないほうがマシだからです。

では、その他の案はどうでしょうか。A案、C案については、どちらも利益率が資金調達コスト(10%)を上回っており、どちらを選ぶかは会社の経営状況次第です。この事例では、A案のように「投資後初期(1~3年目)からある程度リターンが見込めるのがよいのか」、C案のように「最初は少ないリターンで耐える期間は長いものの5年目の総額が大きいキャッシュ・フローを得られるほうがよいのか」といった判断になります。

4 資金調達コストの具体的な中身と計算方法(WACC)

それでは、資金調達コストの中身を見てみましょう。資金調達コストは、資金調達の方法により異なるため、貸借対照表に注目します。

貸借対照表

貸借対照表は、企業の財政状態を表しています。左側(借方)が、資金の利用状況を、右側(貸方)は利用している資金の調達方法を表しています。資金調達コストは、貸方の資金の調達方法ごとに決まっています。

買掛金などの営業活動にかかる項目は、企業間の信用で得られた資金なので資金調達コストはかかりません。そのため、計算でも考慮しません。

次に、金融機関からの借入金は、支払う利息が資金調達コストです。例えば、年利2.0%なら、借入金の資金調達コストは2.0%になります(詳細な解説は後述)。昨今、この金利は上がっていく傾向にあるので、今後借入金に係る資金調達コストは高くなっていくというのが、現在の一般的な見方ではないでしょうか。

ただし、支払利息は税金計算上の費用(損金)になるため、節約効果があります。そのため、実際の資金調達コストは、

支払利息-税金の節約効果(利息×税率)

で考えます。ただし、税金の節約効果を考慮しなければならないのは、利益が出て税金を払っている会社だけです。

一方、資本(株主の出資に内部留保を加え、株主資本と呼ぶ)は、支払う配当金が資金調達コストです。配当金は損金にならないため、配当金の全額が資金調達コストになります。

それでは、実際に計算例を使って資金調達コストを算出してみましょう。投資評価では、会社全体で資金の調達方法を加重平均した資金調達コストを用います。これを「加重平均資本コスト」といいます。英語ではweighted average cost of capital、頭文字をとってWACC(ワック)と世間では呼ばれ、次の算式で計算されます。

WACC=借入利率×(1-実効税率)×負債シェア+資本金配当率×株主資本シェア

例えば、借入金4000万円、資本6000万円、借入利率5%、資本金配当金10%、実効税率30%の場合は次のようになります。

7.4%=5%×(1-30%)×0.4(注1)+10%×0.6(注2)

(注1)負債シェア0.4=4000万円/(4000万円+6000万円)

(注2)株主資本シェア0.6=6000万円/(4000万円+6000万円)

5 中小企業における資金調達コストの考え方

中小企業の場合、配当を支払うことは稀です。なぜなら、経営者と株主が同じであることが多いため、株主の資本に対して資金調達コストを要求されないケースが多いからです。このような場合に、筆者は、

借入金による資金調達コストをベースに考えるのがよい

と考えています。中小企業では、会社に資金を残すか、経営者兼株主に還元していくかは比較的自由であり、その状況に応じて資金調達コストを変えていくのは現実的ではないためです。

無借金経営の場合はどうでしょうか。この場合も、

一般的な借入金の利息、または、安全な運用利回りとして定期預金などの利息を参考に資金調達コストを考える

ようにしましょう。資金は資本金、内部留保を使えばよいだけですが、少なくとも預金で置いておくよりも利益率は高くないと事業をする意味がないからです。

もちろん、資金調達コストは判断をする上での最低限の基準なので、定期預金などの利息をそのまま資金調達コストとして設定するのではなく、一定の+α(上乗せ幅)を乗せて目指すべき目標とすることになります。

6 投資評価時に必要な「機会コスト」と「埋没コスト」

投資評価の場面では、機会コストと埋没コストという考え方も大切です。

まず、機会コストとは、

ある案を選択した場合に「他の選択肢を選べば得られたはずの利益や収益」のこと

です。例えば、新しい製造ラインに1000万円の投資をすることを決めたとします。しかし、その同じ1000万円で不動産投資に回していれば年間で5%の利益が見込めたかもしれません。この場合、新しい製造ラインへの設備投資の機会コストは、不動産投資をしなかったために得ることのできなかった5%の利益です。このように、得られなかったメリットをコストと考えます。

機会コストは、実際には支出をすることがないイメージ上のコストであり、何かの意思決定、選択をすると必ず何かを失っているということを強く意識するためのコストといえます。ぜひ、皆さんの判断の際には気にしてみましょう。

次に、埋没コストとは、

投資によって、どの案を選んだとしても「変わらない費用」のこと

です。例えば、新店舗を出店するかどうかを検討する際に、本社の管理部門の費用(本社の人件費や賃料など)は出店してもしなくても発生するため、埋没コストに該当します。

また、「ここまで資金を使ってしまったのだから、途中でやめるのはもったいない」と考えてしまう心理も、埋没コストに関係します。途中まで進めた段階で、そこまでに払った資金は戻ってきません。大切なのは、その案件を継続するかどうかは、これからの収入と費用を冷静に比較して考えることです。例えば、ギャンブルで、こんなに時間とお金をかけたのだから、当たるまでやらないともったいないと考え続けてしまうケースがあるようです。この“こんなにかけた時間とお金”が埋没コストです。続けても、やめても変わらないコストです。経営判断でも同じで、過去の支出に引きずられないという考え方が、正しい意思決定を行う上で非常に重要です。

以上(2025年11月作成)

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2026年1月、下請法が改正され「取適法」へ! 新たな禁止行為や取引内容は?

1 取引の適正化に向け、下請法は「取適法」へ

2026年1月1日、下請代金支払遅延等防止法(下請法)が改正され、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(中小受託取引適正化法=取適法(とりてきほう))になります。この法改正は、発注者と受注者の対等な関係づくりを促し、人件費や原材料費、エネルギーコストの上昇を反映できる適正な価格交渉につなげる狙いがあります。

まず、注目されるのが法律名と内容から「下請け」という用語がなくなることです。これは、「下請け」という用語自体が取引の実態にそぐわなくなってきていることもありますが、発注者が上で受注者が下という従属的なイメージを払拭するという意味合いがあります。

今回の法改正の内容は多岐にわたりますが、まず押さえておきたいのは、

  • 発注者がやってはいけない「禁止行為」が追加される
  • 適用対象となる「取引の範囲」が広がる

ということです。以降で詳しく見ていきましょう。

(注)この記事では便宜上、下請法(取適法)の用語である親事業者(委託事業者)を「発注者」、下請事業者(中小受託事業者)を「受注者」、下請代金(製造委託等代金)を「代金」と呼びます。

2 取適法で追加された新たな禁止行為とは?

取適法では、下請法でも禁止されてきた発注者による「受領拒否」「代金の支払い遅延」「代金の減額」「返品」「買いたたき」などに加え、

  • 協議に応じない一方的な代金決定の禁止
  • 手形による代金支払いの禁止

という、新たな禁止行為が定められています。

受注者の了解を得ていても、発注者に悪意がなくても、禁止行為に及べば法令違反

です。これまでの取引慣行が違法とみなされるリスクもあり、早期の対応が不可欠といえるでしょう。

1)協議に応じない一方的な代金決定の禁止

発注者が一方的に代金を決定し、受注者の利益を不当に害する行為は禁止されます。例えば、次のようなものが禁止行為に該当します。

  • 受注者が代金の額の引き上げについて協議を求めたにもかかわらず、発注者が無視する、拒否する、回答を先延ばしにするなどして応じない
  • 発注者が代金の額の引き下げを要請する場合に、受注者が説明を求めたにもかかわらず、具体的な理由の説明や根拠となる資料の提供をしない

発注者にとって重要なのは、

  • 代金について価格交渉の機会を確保すること
  • 交渉材料として必要なデータ(原価データなど)を整えておくこと

です。「これまでそうだったから」という屁理屈は通用しませんし、代金の決定プロセスが不透明な場合、優良な受注者は取引に応じず離れていってしまう恐れがあります。

2)手形による支払いの禁止

代金の支払い手段として手形を用いることで、受注者に資金繰りの負担を強いる商習慣が続くことが問題視され、取適法では、

  • 代金の支払い手段として手形(紙の手形)を用いることは全面禁止
  • 電子記録債権や一括請求方式(ファクタリング等)についても、支払い期日までに、代金に相当する金銭(手数料等を含む満額)を得ることが困難なものは使用禁止

となります。

これまで、代金の支払い手段として手形を用いてきた発注者は、

振込などによる支払いの増加に備えて、資金を確保しておかなければならない

ことになります。発注者は、物品等の受領後、60日以内で定められている支払い期日までに、代金を支払わなければ支払い遅延となるからです。なお、紙の手形は2026年度末(2027年3月末)までに廃止される予定であり、代替の支払い手段への移行が必要です。

3 対象となる取引の範囲も広がる?

取適法では、適用対象となる取引の範囲を、「取引の内容」と「資本金基準」(資本金の額あるいは出資の総額)または「従業員基準」(常時使用する従業員の数)によって定めています。

「法律の対象取引」=「取引の内容」+「資本金基準」または「従業員基準」

「取引の内容」については、下請法の「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」の他に、「特定運送委託」が新たに追加されました。特定運送委託とは、

販売する物品、製造を請け負った物品、修理を請け負った物品、作成を請け負った情報成果物(例:作成を請け負ったデザインに基づいて製造されたペットボトル)が記載されるなどした物品の引き渡しに必要な運送を、他の事業者に委託すること

です。

「従業員基準」は、今回の法改正で新たに追加されたもので、

従業員数が多く事業規模が大きいものの、減資等により資本金額が少額となっていた事業者を適用対象とする

ことで、より多くの取引関係における不公正な慣行を是正しようという目的があります。

具体的な考え方は図表の通りです。黒字が「資本金基準」、赤字が「従業員基準」で、適用対象となる取引の発注者がどちらか1つでも該当する場合、取適法の適用を受けます。

適用対象

基準を満たす事業者を「優先的地位にある」ものとして取り扱うことで、取引に係る発注者の不当な行為を、より迅速かつ効果的に規制することが狙いです。

なお、詳しくは触れませんが、取適法とフリーランス・事業者間取引適正化等法のいずれにも違反する行為については、原則としてフリーランス・事業者間取引適正化等法を優先して適用することとされています。

4 参考

公正取引委員会・中小企業庁は、2026年1月1日の改正法施行までに広く十分な周知を行うため、適用対象となる事業者をはじめとする関係者を対象に説明会を開催しています(一部地域では既に開催が終了しています)。

2026年1月施行!~下請法は取適法へ~改正ポイント説明会の実施について
https://www.jftc.go.jp/event/kousyukai/toriteki.html

また、中小企業庁は、「適正取引支援サイト」を通じて、基本的な知識とともに、法改正のポイントを重点的に学ぶ無料のオンライン講習会を開催しています(受講には参加申し込みが必要です)。

中小受託取引適正化法(下請法)講習会
https://tekitorisupport.go.jp/shitauke/

上記のオンライン講習会に加え、中小企業庁は、「みんなのパブリックレッスン」を通じて、下請法・取適法の内容や価格交渉についての無料のeラーニングも提供しています(利用規約に同意の上、新規利用登録が必要です)。

みんなのパブリックレッスン
https://minpub.learning-ware.jp/login

以上(2025年11月作成)
(監修 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

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2026年から「約束手形」が一部禁止 資金ショートしない代替案

1 2026年1月から、下請取引での約束手形(紙)の使用は不可!

約束手形とは、

手形の「振出人」が、約束の期日までに定められた金額を支払うことを「受取人」に約束する有価証券

です。手形自体は江戸時代から続く決済手段で、卸売業などでも利用が多くなっています。

ただ、この約束手形について、2027年3月末をめどに紙を廃止し、全て電子化する方針が示されています(注)。「ペーパーレス化」が社会的に進む中で、紙の手形や小切手もデジタル化して、作業負担の軽減や効率化を図ることが求められるようになったためです。

(注)内閣官房「成長戦略実行計画(2021年6月18日)」において「5年後の約束手形の利用の廃止に向けた取組を促進する」旨が、全銀協(全国銀行協会)ウェブサイトにおいて「政府方針をもとに、2027年3月末までに紙の手形・小切手の交換が廃止となる」旨が明記されています。

さらに廃止に先んじて、2026年1月からは下請法改め取適法(中小受託取引適正化法)により、

下請取引において、代金の支払い手段として手形(紙の手形)を用いることが全面禁止

されるため、各社における支払い業務の見直しは急務となっています。

約束手形廃止のスケジュール

以降で次の内容を紹介するので、支払い業務の見直しの参考にしてください。

  • 約束手形の廃止で事務負担や資金繰りはどうなるのか?
  • 約束手形に代わる決済手段は何か?
  • 約束手形を廃止するためには?

また、2026年1月施行の取適法の内容については、次のコンテンツをご確認ください。

2 約束手形の廃止で事務負担や資金繰りはどうなるのか

約束手形を廃止すると、振出側・受取側ともに事務負担やコストが減る一方、資金繰りでは振出側にはマイナスの、受取側にはプラスの影響が出ます。

1)振出側の影響

1.事務作業などの負担やコストが減る

手形帳や印紙の購入コストがなくなります。また、手形の作成や発送事務などの実務負担がなくなります。

2.支払期日の短縮で資金繰りが悪化?

2024年11月以降、約束手形の支払期日は「交付日から60日以内」と決められていますが、約束手形を廃止した場合、それよりも短い期日での支払いを求められる可能性があります。例えば、少し古いデータになりますが、2020年度の中小企業庁の調査によると、銀行振込の平均支払期日は約50日とされています(中小企業庁「約束手形をはじめとする支払条件の改善に向けた検討会報告書(2021年3月)」)。

支払期日が短くなるということは、資金繰りに影響が出やすくなるということです。ですから、手元資金を確保する計画をしっかり立てておく必要があります。

2)受取側の影響

1.事務作業の負担やコスト、紛失・盗難リスクが減る

振出側から受け取った約束手形は、受取側が支払期日まで管理する必要があります。その管理や支払期日になってから行う取立などの事務負担、取立手数料や領収書の印紙代などのコストが低減されます。また、約束手形を管理している間の紛失や盗難のリスクもなくなります。

2.支払期日の短縮で資金繰りが改善する

支払期日が短縮されれば、資金繰りが改善されます。また、支払期日前に割り引いて手形を買い取ってもらう「手形割引」や、手数料を支払うことで、期日前に債権を買い取ってもらうなどの「ファクタリング」を利用せずに済みます。

3 約束手形に代わる決済手段は何か

約束手形に代わる決済手段として代表的なものは、銀行決済(インターネットバンキング)、電子記録債権、クレジットカードなどです。

1)銀行決済(インターネットバンキング)

インターネットバンキングは、銀行決済をインターネットで行うものです。パソコンやスマートフォンを使い、銀行窓口やATMに行かなくても振込手続きが行えます。法人口座を開設すれば、複数の振込先に一括で振込手続きができるので、事務負担を軽減できます。また、振込手数料が発生する場合もありますが、同一金融機関内での振込であれば無料、もしくは低コストで済むケースもあります。

代表的な支払期日は「月末締め翌月末払い」で、締め日から30日前後の入金となります。

2)電子記録債権(でんさい)

電子記録債権は、例えば、手形の作成・保管などのコストの低減や売掛債権の二重譲渡リスクなどの回避を可能とする新たな金銭債権で、電子債権記録機関で記録(振出)、譲渡(支払)ができます。

国内最大規模の電子債権記録機関が、でんさいネット(全銀電子債権ネットワーク)で、都市銀行、地方銀行、信用金庫、信用組合、JAなど国内490の金融機関が参加しています(2025年10月23日時点)。でんさいネットが取り扱う電子記録債権を「でんさい」といいます。

でんさいは、取引金融機関のインターネットバンキングなどを通じて、でんさいネットに「発生記録請求」を行うことで振出となり、支払期日になると受取側の決済口座に振り込まれます。

ただし、振出・受取の双方がでんさいネットを利用している必要があります。支払期日は、発生日(銀行営業日)から起算して3〜7銀行営業日を経過した日以降、最長で10年後までです。

なお、前述した取適法により、2026年1月からは

電子記録債権や一括請求方式(ファクタリング等)についても、支払い期日までに、代金に相当する金銭(手数料等を含む満額)を得ることが困難なものは使用禁止

となりますので、注意が必要です。

3)クレジットカード

多数の取引先に対して、少額のサービスや商品を提供する会社にとって便利です。代金はクレジット会社が立て替え、後から支払請求が来る決済手段です。クレジット会社によって引き落としや入金の時期が異なります。

4 約束手形を廃止するためには

1)約束手形を廃止するための手続き

振出側・受取側で手形決済のメリット・デメリットが異なるため、双方での調整が必要です。双方がやるべきことの流れを紹介します。

約束手形を廃止するためには

2)約束手形の廃止が進まない場合は、公正取引などに相談を

約束手形は業界の取引慣行として長年利用されてきたため、「やめにくい事情」があります。万が一、振出側が難色を示したら、いったん引き下がり、公正取引委員会「相談・申告等の窓口」や、中小企業庁「下請かけこみ寺」などに相談するのも一策です。

公正取引委員会「相談・申告等窓口」
https://www.jftc.go.jp/shitauke/madoguti.html
中小企業庁「下請かけこみ寺」
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/kakekomi.html

以上(2025年11月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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【高齢者雇用】法改正で変わる高齢社員の働き方、どうマネジメントする?

1 法改正の動向を押さえつつ、自社の方針を決めよう

日本の65歳以上人口は、1950年には総人口の5%にも満たなかったものの、その後はどんどん増加し、2024年10月時点では29.3%に達しています。一方で総人口は減少局面に入り、2056年には1億人を下回ると予測されています(内閣府「令和7年版高齢社会白書」)。

こうした少子高齢化の進行により、多くの会社が深刻な人手不足に直面しています。実際、製造業や建設業、運輸業などではその傾向が顕著で、長年の経験や技術を持つベテラン人材は、単なる「戦力の穴埋め」ではなく、若手の育成や品質の安定に欠かせない存在になっています。

会社にとって「高齢社員をどのように雇用し続けるか」は、今や避けて通れない経営課題。特に2025年・2026年は高年齢者雇用・給付制度において重要な節目を迎えています。すでに施行済の内容も含め、押さえておきたいものは次の3つです。

  • 1.高年齢者雇用確保措置の経過措置が終了(2025年3月31日)
  • 2.高年齢雇用継続給付の縮小(2025年4月1日)
  • 3.在職老齢年金の支給停止調整額の見直し(2026年4月1日)

これらの制度改正は相互に影響し合うため、就業規則・処遇制度の見直しや社員への説明を怠ると、誤解や不満がトラブルに直結するリスクがあります。まずは3つの改正点について、詳しく見ていきましょう。

2 高年齢者雇用確保措置の経過措置が終了(2025年3月31日)

会社は高年齢者雇用安定法により、社員を65歳まで雇用するために

  • 定年の引き上げ(65歳まで)
  • 定年制の廃止
  • 継続雇用制度(65歳まで)の導入

のいずれかの措置を実施する義務があります。このうち、継続雇用制度(65歳まで)については、以前は労使協定(2012年度以前に締結されたものに限る)により、例えば、「希望者のうち62歳以上のみを継続雇用の対象とする」といった基準を設けることが認められていました。

しかし、2025年3月31日をもってこの経過措置は終了し、

定年後も働くことを希望する社員は全員、継続雇用(65歳まで)の対象

になりました

経過措置の流れ

3 高年齢雇用継続給付の縮小(2025年4月1日)

高年齢雇用継続給付とは、

賃金が「60歳時点の75%未満」に低下した状態で働く場合に支給される雇用保険給付

です。雇用保険の被保険者であった期間が5年以上ある、60歳以上65歳未満の社員が対象です。

社員を定年後に再雇用すると、定年前と比べ賃金がガクッと下がることがあります。こうした場合に、社員の仕事へのモチベーションが下がらないよう、高年齢雇用継続給付が減った分の賃金を補填するわけです。

この高年齢雇用継続給付は、以前は賃金低下率に応じて最大15%が支給されていましたが、

2025年4月1日以降に60歳になった新規受給者からは、最大給付率が「10%」に引き下げ

られています(2025年3月31日以前に60歳になった人の給付率は最大15%のまま)。

高年齢雇用継続給付

例えば、60歳時点の賃金が月額40万円、再雇用後が月額24万円(60歳時点の60%)の場合、

  • 改正前の給付額:3.6万円給付(24万円×15%)
  • 改正後の給付額:2.4万円給付(24万円×10%)

となり、月額1.2万円、年額14.4万円もの差が出てしまいます。

高年齢雇用継続給付の縮小により、60歳以降の社員は従来よりも実質収入が下がる可能性があります。社員のモチベーション低下を防ぐためには、会社としては「給付ありき」の賃金設計を避け、職務給・役割給の導入や評価制度の見直しなどを検討する必要があります。

4 在職老齢年金の支給停止調整額の見直し(2026年4月1日)

在職老齢年金とは、

年金を受け取りながら働くと、賃金が一定以上の場合、年金の一部がカットされる制度

です。厚生年金保険に加入しながら年金をもらう60歳以上の社員が対象で、賃金(ボーナスを含む)と年金の合計額が「支給停止調整額」というボーダーラインを超えると、十分な収入があるとみなされ、老齢年金の一部または全額が支給停止となる仕組みです。

ただ、「せっかく働いても年金が減ってしまうのは困る」という声が多く寄せられているのに加え、近年の賃金上昇の影響もあって、支給停止調整額は段階的に引き上げられています。

2026年4月1日からは、支給停止調整額は「51万円→62万円」になる予定

です。簡単に言うと、

  • 賃金(ボーナスを含む年収の1/12)と、老齢厚生年金の合計額が月62万円以下の場合、年金は全額支給される
  • 合計額が月62万円を超える場合、超えた分の1/2の額が年金から差し引かれる

という仕組みになります。なお、支給停止を受けるのは年金のうち老齢厚生年金(厚生年金保険)だけで、老齢基礎年金(国民年金)は対象になりません。具体的には次のようなイメージです(図表3の「50万円」は2024年度の金額です)。

在職老齢年金

5 これからの高齢者雇用をどう考える?

制度改正の内容を踏まえた上で、企業は「高齢社員をどのような形で雇い続けるか」という方針を検討する必要があります。代表的な視点をいくつか紹介します。

1)70歳までの雇用機会をどう確保するか

高年齢者雇用安定法では、65歳までの雇用確保は義務ですが、70歳までは「努力義務」とされています。とはいえ、単なる「努力」ではなく、実際に具体的な措置を検討・導入することが求められています。例えば、

  • 定年を70歳に延長する
  • 継続雇用制度の対象を70歳まで広げる
  • グループ会社や他社での再就職を支援する
  • フリーランスや業務委託での就業機会を設ける

などの方法が考えられます。70歳までの就業機会をどう設計するかは、今後の人材戦略に直結する大きなテーマです。

高齢者雇用の基本的な考え方については、次の記事をご確認ください。

2)高齢社員の待遇はこのままでよいか

定年後の社員を再雇用する場合、賃金は定年前よりも下がるのが一般的ですが、

「パートや嘱託だから」というだけで賃金を下げるのは、同一労働同一賃金違反

です。仕事内容や役職、労働時間、責任、ノルマなどが定年前とどう変わるのかを考慮した上で、待遇を決めるようにしないといけません。

特に、2025年4月1日以降は高年齢雇用継続給付が新規受給者から縮小されているため、「給付で差額を補う」従来型の設計では社員の不満が残りやすくなります。今後は、職務や責任に応じた合理的な賃金制度へ移行し、処遇に納得感を持たせる人事制度を整えることが重要です。

在職老齢年金にも注意しましょう。法改正でボーダーライン(支給停止調整額)が段階的に引き上げられているとはいえ、高所得であればあるほど老齢年金のカット幅が大きくなるのは変わりません。カットされた分の年金は退職後も戻ってきませんから、賃金設計を考える際は確認が必要です。

高齢社員の待遇については、次の記事をご確認ください。

3)シニア労災をどう防ぐか?

厚生労働省「令和6年 労働災害発生状況について」によると、労働災害による休業4日以上の死傷者のうち、60歳以上の割合は30.0%に上ります。いわゆる「シニア労災」が深刻化しており、とくに転倒や骨折といった事故が増加傾向にあります。

シニア労災

高齢社員の多くは、「自分はまだ若い」と思っているケースが少なくないので、健康診断や体力テストで自分の体の状態を正しく理解してもらうことが大切です。また、時短勤務やフレックスタイム制、在宅勤務制度、あるいは労働時間の枠にとらわれないフリーランスなど、加齢に合わせて自分のペースで稼働できる働き方を提案してみるのもよいでしょう。

高齢社員の健康を考慮した働き方については、次の記事をご確認ください。

以上(2025年10月更新)

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経営者が「なってみたいキャラクター・歴史上の人物」、1位はあの戦国武将!

1 もしも、自分が◯◯だったら……

もしも、自分が〇〇(憧れのキャラクターや尊敬する歴史上の人物)になって会社を経営するとしたら? キャラクターや人物を選ぶ視点・発想はまさに人それぞれ。それは、経営者1人1人の理想とするリーダー像の表れかもしれません。

今回は、中小企業の経営者214人に「なってみたいキャラクター・歴史上の人物」についてアンケートを実施し、

  • もし、自分以外のキャラクター・歴史上の人物などになって経営を行えるとしたら、試してみたいと思いますか?
  • なれるとしたら、誰・何になってみたいですか?
  • 前問で答えたキャラクターや歴史上の人物になりたい理由を教えて下さい。

という3つの質問をしました。経営者の素顔や価値観が垣間見える結果が集まりましたので、この記事で個性豊かな回答をご紹介します。

アンケートは2025年8月に、インターネットを通じて行いました。回答の中で、明らかに誤字と思われる表記などは修正しています。

2 自分以外の誰かになって経営を行えるとしたら?

自分以外の誰かになって経営を行えるとしたら?

アンケートの結果、

「誰かになって経営をしてみたい」と答えた人は、計44.9%

でした!

また、

「なってみたいキャラクター/歴史上の人物が思いつく」と答えた人は、21.5%

でした。次章からは、実際に経営者がどんな人物になって経営を行ってみたいのか、その理由を紹介していきます!

3 歴史上の人物になってみたい経営者たち

歴史上の人物になってみたい経営者たち

歴史上の人物で、経営者に一番人気だったのは、

誰もが知る戦国武将で三英傑の1人、織田信長

でした! ちなみに次に票が多かったのは、同じく三英傑の1人で、戦国の世の最終勝利者となった徳川家康です。

織田信長、徳川家康になってみたい経営者たちの、「なってみたい理由」は次の通りです。

織田信長

「奇抜な発想・行動がどこまで実現可能か試してみたい」「豪胆さ」「自分にはない個性の持ち主」「決断力」「天才的な経営者になれるから」

徳川家康

「戦略家としての思想を学びたいから」「数百年先を見越した治世」「忍耐力がすごいから」「長期ビジョン」

その他の人物を挙げた経営者たちの回答は次の通りです。

空海

「死してなお影響力を持つ」

楠木正成

「我国の伝統護持」

豊臣秀吉

「農民から武士として出世する能力が素晴らしい」「天下統一」

上杉鷹山

「日本を立て直したい」「藩の財政等を再建したから」

坂本龍馬

「革新的な考え方と人を巻き込む力」

土方歳三

「非常に行動力もあるが冷静で適応力が高い」

西郷隆盛

「敬天愛人」

大久保利通

「変化の時代を感じたい」

渋沢栄一

「複数の会社の起業に取り組みたい」

秋山真之

「知力、胆力が素晴らしい」

4 あのキャラクターになってみたい経営者たち

あのキャラクターになってみたい経営者たち

また、歴史上の人物と比べると少数派ですが、漫画やドラマのキャラクターになってみたい経営者たちも。回答は次の通りです。

江戸川コナン(漫画「名探偵コナン」)

「頭が良さそう」

古代進(アニメ「宇宙戦艦ヤマト」)

「憧れ」

猛やん(ドラマ「どてらい男」)

「商いをうまくやりたい」

以上(2025年10月作成)

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画像:日本情報マート

大盛況だった 『食の魅力』発見商談会2025 イベントレポート  きらやか銀行のお客さま5社へのインタビュー動画あり

今年の夏に行われた取り組みで、とても盛況だったものがありますのでご紹介します。

2025年7月4日(金)、東京都立産業貿易センター浜松町館で『食の魅力』発見商談会2025が開催されました。

全国から集まった食に関する出展社156社(初出展58社)、来場者2526名と大盛況で、2フロア(上の階と下の階)ともに熱気、活気あふれるイベントでした!(出展社数、来場者数は商談会公式ページより)

この『食の魅力』発見商談会の特徴は、大きく下記の2点です。

  • 出展社が地域の食に関する企業に特化していること
  • 来場者が食品バイヤーのみ(完全BtoB)であること

このため、出展社にとっては、純粋に、新規開拓やビジネスチャンスにつながる貴重な商談会となります。

また、主催銀行(地方銀行)や事務局のサポートが厚いこともポイントです。出展社は原則として主催銀行のお客さまであり、銀行の担当者が出展ブースに入って、出展社と一緒になって動いている姿も、あちこちで見られました。

朝10時からスタートした商談会は時間が経つにつれ、来場する食品バイヤーもどんどん増えていき、会場内もますます活況に!

「内容の濃い商談ができた」という出展社、来場者もいたようです。

「食」と分野を絞った、そして、「食品バイヤーのみ」と来場者も絞った商談会は、ビジネスの話になりやすいのかもしれません。大盛況のうちに幕を閉じました。

きらやか銀行のお客さまは下記の5社が出展されました(五十音順)。

株式会社アイオイ(初出展):ブランド鶏肉

アイオイ

三和漬物食品株式会社:漬物、酢の物など

三和漬物

株式会社タスクフーズ:いも煮、牛すじなど

タスクフーズ

有限会社達商:和菓子、洋菓子

達商

有限会社ティーズファクトリー:クラフトコーラなど

ティーズファクトリー

きらやか銀行のお客さま5社に、それぞれ、おすすめ商品などをインタビューしてご紹介いただきました! 出展中のお忙しいところ、インタビューにご対応いただき有り難うございます。

5社へのインタビュー動画はこちらです。


『食の魅力』発見商談会2025の開催報告は、こちらの商談会公式ページからもご確認いただけます。

https://rickie-bs.com/news_20250708/

以上(2025年8月)

いよいよカスハラ防止措置が義務化! 悪質クレームを退ける4つのポイント

1 理不尽なカスハラには毅然と対応する

カスハラ(カスタマーハラスメント)とは、

顧客などが、社員に悪質な嫌がらせ(土下座の強要など)をすること

です。「お客様は神様です」などというように、日本の会社は昔から、顧客を大切にする傾向がありますか、「土下座などを強要されそれに応じることが、本当に顧客を大切にすることなの?」という当然の疑問があり、実際にカスハラが社会問題化する中、

改正労働施策総合推進法(施行日は2026年10月1日を予定)において、「1.カスハラの定義」を明確化する旨、「2.一定のカスハラ防止措置の実施」を会社に義務付ける旨

が定められました。

1.カスハラの定義

次の3つを全て満たす場合、カスハラになることが定められました。

  • 顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行う
  • 社会通念上許容される範囲を超えた言動により、
  • 社員の就業環境を害すること

2.一定のカスハラ防止措置の実施

通常のパワハラやセクハラと同様に、カスハラについても次のような防止措置が義務付けられることになりました。

  • カスハラを許さない旨の方針等の明確化、周知・啓発
  • カスハラに関する社員からの相談体制の整備・周知
  • カスハラ事案が発生した後の迅速かつ適切な対応・抑止のための措置

国が法律による規制に踏み切ったことで、会社においてもこれまで以上のカスハラ対策が求められることになるでしょう。大切なのは、

正当なクレームには真摯に、理不尽なカスハラには毅然と対応すること

です。とはいえ、上記のカスハラ防止措置などについては、これから指針で詳細が定められるという段階なので、現状では厚生労働省が公表している「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」などを参考にしながら、会社としての対応方針を決めておくのが妥当です。

■厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」■
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf

この記事では同マニュアルをもとに、カスハラ対応のポイントとして、次の4つを紹介します。

  • どのような言動がカスハラになるのかを押さえる
  • 類型別に大まかな対応方針を決める
  • 社員は事実を正確に会社に報告する
  • 上司または経営者が具体的な対応を決める

2 どのような言動がカスハラになるのかを押さえる

また、これとは別に厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、

顧客などからのクレームのうち、要求の内容が妥当でない、または要求の実現方法が社会通念上相当でない言動で、就業の妨げになるものがカスハラになり得る

とされています。

同マニュアルによると、カスハラになる可能性がある言動の例は次の通りです。

カスハラになる可能性がある言動の例

法的には、カスハラは

民法の「不法行為」(故意・過失によって他人の権利や法律上の利益を侵害する行為)

に該当する可能性があります。また、言動の内容によっては、刑法(傷害罪、脅迫罪、強要罪、名誉毀損罪、不退去罪など)や軽犯罪法が適用されることもあります。逆に図表1のような言動に当たらない(要求の内容・実現方法に問題がない)場合、カスハラではなく正当なクレームということになります。より詳細なカスハラの具体例を知りたい場合、こちらもご参照ください。

■厚生労働省「第9回雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会」(参考資料1「カスタマーハラスメント事例集」を参照)■
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_40906.html

3 類型別に大まかな対応方針を決める

正当なクレームならば誠実に対応を検討する必要がありますが、カスハラの場合、要求には応じず、法的措置なども含めて厳正に対処します。前述した通り、カスハラは幾つかの類型に分類できるので、大まかな対応方針は事前に決めておくことができます。

カスハラの類型に応じた対応方針の例は次の通りです。

対応方針

これらは大枠の方針なので、実際にどのように対応すべきかは、

  • カスハラが初めて行われたのか、繰り返し行われているのか(初めての場合、内容によっては注意だけで済ませることも検討)
  • 対応した社員に落ち度はなかったのか(正当なクレームだったのに、社員の対応不十分でカスハラに発展した場合、社員の対応については謝罪が必要)

なども考慮して慎重に判断します。そのためには、カスハラ対応における社内の役割分担を明確にする必要があります。次章以降で見ていきましょう。

4 社員は事実を正確に会社に報告する

顧客などから電話や対面などで会社に対してクレームがあった場合、まずは窓口の社員が初期対応に当たります。ここで社員に求められるのは、

顧客などを不用意に刺激しないよう注意しつつ、会社が顧客などへの対応を検討するために必要な情報を集めること

です。ポイントは次の2つです。

  • 限定的な謝罪:不快感を与えたことについてだけ謝罪する
  • 事実の把握:顧客などの要求の内容や問題が発生した経緯を正確に把握する

1.では、顧客などに対し、「このたびは不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ありません」など、不快感を与えたことだけを謝ります。正確に状況が把握できていない段階では、不用意に会社の非を認めたり、相手の要求に応じたりするべきではありません。

2.では、顧客などの住所・名前・連絡先などを確認した上で、話を一通り聞き、要求の内容や問題が発生した経緯を確認します。事実を正確に把握するため、必要に応じて会話を録音するなどして証拠に残します。また、現場対応は1人で行わず、可能な限り複数名で対応するのがよいでしょう。

1.と2.が完了したら、社員は顧客などから確認した情報を上司に報告し、今後の対応について相談します。ただし、身体的な攻撃や性的な言動を受けたなど緊急性が高いときは、1.と2.の状況に関係なく、即座に上司に報告します。

5 上司または経営者が具体的な対応を決める

カスハラに関する社内対応の流れは次の通りです。

社内対応の流れ

上司は社員から、顧客などの要求の内容や問題が発生した経緯について話を聞き、

カスハラであれば、その内容に基づいて顧客などへの具体的な対応を決定

します。ただし、

  • 顧客などが重要な取引先である
  • 弁護士、警察などに相談すべき案件である(訴訟手続が必要、犯罪行為に当たるなど)

などといった場合は、必要に応じて経営者が判断します。詳細が決まったら、状況に応じて適切な人が対応します。顧客などが取引先(会社)の場合は、社内にハラスメント相談窓口があるでしょうから、必要に応じて窓口担当者とも連携しましょう。

なお、社員がすでにカスハラによって精神的ショックを受けている場合、顧客などから引き離す、医師による面談を実施するといった措置も併せて検討します。

この他、上司または経営者が具体的な対応を決定したり、社員が前述の初期対応を行ったりする上で支障がないよう、定期的に社内で対応ルールの教育・研修を実施するとよいでしょう。

以上(2025年11月更新)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

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画像:Maki_Japan-Adobe Stock

【規程・文例集】カスハラ対策にもなる「苦情対応マニュアル」のひな型

1 重要なのは、苦情対応の方針を共有しておくこと

会社が商品・サービスを提供する上で、お客様からの不平・不満(以下「苦情」)は避けられないものですが、苦情の内容は様々であり、その対応に絶対の正解はありません。とはいえ、

臨機応変な対応は大切ですが、まずは会社としての対応方針や対応例を定めておく

ことが望ましいです。そこで必要になるのが「苦情対応マニュアル」です。

昨今は、暴力、暴言、土下座の要求など、いわゆる「カスハラ(カスタマーハラスメント、お客様による著しい迷惑行為)」が問題になっています。直近では、

2025年6月11日公布の改正労働施策総合推進法により、カスハラの定義が明確化され、防止措置についても実施が義務化(公布日から1年6か月以内に施行予定)

されることになりました。防止措置の詳細はこれから指針で定められる予定ですが、いずれにせよ対策は必須となります。苦情はお客様からの貴重な意見であり、尊重すべきものですが、

カスハラは決して許容せず、会社として毅然とした対応をし、従業員を守る姿勢を示す

ことも必要です。

カスハラに対する姿勢も含め、会社としての苦情対応の方針をマニュアルに示しておくことは、苦情対応に当たる従業員にとって安心材料になります。

2 苦情対応マニュアルのひな型

以下で紹介するひな型は、苦情対応に関する一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業の業務内容や形態、対応方針などによって定めるべき内容は異なってきます。実際にこうした規程を作成する際には、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【苦情対応マニュアルのひな型】

第1章(はじめに)

第1条(目的)

本マニュアルは、当社が提供する商品・サービスなどへの苦情に対する対応手順および留意点について定め、苦情への適切な対応および円滑かつ円満な解決を図ることを目的とする。

第2条(定義)

1)苦情とは、当社が提供する商品・サービスやそれらの提供に伴う諸活動などに対してお客様から寄せられる不平・不満の表明のことをいう。

2)カスタマーハラスメントとは、1)の苦情のうち、次のいずれかに該当する言動であって、従業員の就業環境を害するものをいう。

  1. 要求の内容が妥当性を欠く言動(当社が提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない要求、当社が提供する商品・サービスの内容とは無関係の要求など)
  2. 要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動(暴力、脅迫、誹謗中傷、暴言、土下座の要求、セクシュアルハラスメントなど)

第3条(苦情対応の基本方針)

1)苦情は、お客様からの貴重な意見であり、前向きに捉え、尊重する。

2)苦情を受領した際には、公正・真摯な態度で、丁寧に話を聞く。

3)苦情がカスタマーハラスメントに当たる場合には、毅然とした態度で対応する。当社は、カスタマーハラスメントを許容せず、従業員の安全確保および心身の健康への配慮のため、次の通り対応する。

  1. カスタマーハラスメントの発生時には、対応した従業員の安全確保および心身の健康への配慮を最優先に行動する。
  2. カスタマーハラスメントへの対応を現場任せにすることなく、会社全体の問題として組織的に対応する。責任者は、カスタマーハラスメントの報告を受けた場合、対応した従業員を一人にせず、必要に応じてその従業員を一時的に顧客対応業務から外すなどの措置を講じる。
  3. 当社は、対応した従業員にメンタル不調の兆候がある場合、産業医やカウンセラーとの面談機会を提供するなど、精神的ケアのための支援を行う。
  4. 従業員の身体に危害が加えられる、またはその危険性が高いと判断される場合には、躊躇なく警察に通報する。

4)プライバシーや人権の尊重に努め、知り得た情報(個人情報等)の管理を徹底する。

第2章(苦情対応の手順)

苦情対応は次の手順で行う。

苦情対応の手順

第3章(担当者等の職務)

苦情の受付を担当する従業員(以下「担当者」)、苦情解決に責任を有する従業員(以下「責任者」)をあらかじめ定め、担当者以外の従業員に苦情があった場合には、速やかに担当者に引き継ぐ。担当者・責任者が行う職務は、次のとおりとする。

1)苦情の受理

  1. 苦情受理時、担当者は、お客様の話を十分に聞き、苦情内容とお客様の要求の把握に努める。その際、お客様の話を否定するような発言はしない。
  2. 担当者は、お客様に不愉快な思いをさせたこと、手間を取らせたことについて謝罪する。ただし、問題の発生原因など、責任の所在が不明なことについては、不用意に謝罪することは避ける。
  3. 担当者は、お客様のプライバシーや名誉に配慮し、別室で話を聞くことができる。その際は、責任者などを交え、必ず複数名で話を聞くこととする。また、必要に応じてお客様との会話を録音する。
  4. 担当者は、苦情の内容を責任者に報告する。
  5. 苦情の申出が、電子メールや手紙など、直接の対話を伴わない手段で行われた場合には、担当者は受理した旨をお客様に通知し、責任者に報告する。
  6. 担当者は、苦情の受理に当たってカスタマーハラスメントやそれに類似する言動があった場合、本章第6項の「苦情対応の中断および終了」に従う。

2)苦情内容の評価・調査

  1. 責任者は、受理した苦情について、妥当性、重大性、複雑性、即時処置の必要性などの点から評価する。
  2. 責任者は、必要に応じて担当者などに事情聴取を行い、苦情の内容、原因およびお客様の状況などの客観的な事実の調査を行う。

3)苦情対応方法の検討

  1. 責任者は、必要に応じて担当者などを交え、適切な苦情対応方法(解決策)の検討を行う。
  2. 当社のみで対応することが困難な場合には、関係機関や専門家などへ苦情内容を報告し、協力を求めることができる。
  3. 検討や対応に時間がかかる場合には、お客様に回答期日の目安を伝える。

4)苦情対応の実施

  1. 担当者または責任者は、検討された苦情対応方法をお客様に提案する。
  2. 上記対応でお客様の了承を得られれば、迅速かつ確実にその対応を行う。お客様の了承を得られない場合には、必要に応じてお客様と話し合いながら、再度対応方法の検討を行う。
  3. 問題の発生原因などに関するお客様への報告は、文書を用いて行う。

5)苦情情報の記録

  1. 担当者は、苦情の内容、対応経過などを別途定める「苦情対応報告書」にまとめ、責任者に提出する。
  2. 責任者は、苦情対応報告書を受領し、保管する。
  3. 責任者は、苦情対応についてお客様に改善を約束した事項がある場合には、その実施状況について記録するとともに、必要に応じて当社の商品・サービスなどにも反映し、再発防止に努める。

6)苦情対応の中断および終了

  1. 担当者は、お客様の言動がカスタマーハラスメントに該当すると判断し、中止を求めたにもかかわらず、改善がなされない場合には、お客様にその旨を伝えた上で、対応を中断または終了することができる。
  2. 対応を終了した後もお客様が退去しない場合、または電話を繰り返し行う場合には、速やかに責任者に報告し、警察への通報を含めた対応を検討する。

第4章(マニュアルの見直し)

本マニュアルは、当社への苦情の状況や社会の情勢などに応じ、定期的に見直しを行う。

■苦情対応報告書■

苦情対応報告書

以上(2025年11月更新)
(監修 のぞみ総合法律事務所 弁護士 坪井諒介)

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画像:ESB Professional-shutterstock

AI導入による働き方への影響

仕事に人工知能(AI)を活用する職場が増えつつあります。AIは生産性の向上や人手不足の緩和などにつながるため、少子高齢化が進む日本では、今後も企業が積極的に導入していくと考えられます。本稿では、独立行政法人労働政策研究・研修機構が公表した「AIの職場導入による働き方への影響等に関する調査」の結果から、AIと働き方に関する最新事情をお知らせします。

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AI導入による働き方への影響

仕事に人工知能(AI)を活用する職場が増えつつあります。AIは生産性の向上や人手不足の緩和などにつながるため、少子高齢化が進む日本では、今後も企業が積極的に導入していくと考えられます。本稿では、独立行政法人労働政策研究・研修機構が公表した「AIの職場導入による働き方への影響等に関する調査」の結果から、AIと働き方に関する最新事情をお知らせします。

1 残業時間が減少

調査は、同機構が2024年5~6月、全国の労働者を対象に実施し、22,000人から有効回答を得ました。22,000人のうち、勤務先の企業でAIが使われていると答えた労働者は2,833人(有効回答数に占める割合12.9%)。2,833人のうち、自身がAIを利用していると答えた労働者は1,854人(同8.4%)でした。この1,854人に、AIを利用する前後で仕事の質や働き方がどう変わったかを尋ねたところ、次のようにAIの効果を感じさせる回答が得られました。

(単位=%。端数処理の関係で合計が100%にならない場合がある)

AIを利用する前後で仕事の質がどう変わったか

AIを利用する前後で働き方がどう変わったか

※独立行政法人労働政策研究・研修機構「AIの職場導入による働き方への影響等に関する調査」の結果より

「仕事のパフォーマンス」については、「かなり改善した」「少し改善した」が計60.6%で、改善効果が表れています。

「上司や管理者による従業員へのマネジメントの公平性」「メンタルヘルスとウェルビーイング(生活満足度や幸福度等)」「職場における安全性と身体の健康」の変化については、いずれも「わからない」が4割強。それでも、「改善した」が「悪化した」よりも多く、一定の効果が見て取れます。

「月間の総残業時間」の変化については、「わからない」が44.8%でしたが、「減少した」も計28.5%で、「増加した」を上回りました。

「年次有給休暇の取得日数」「平均的な賃金総額(税金と社会保険料を差し引く前の額面)」「職場で上司・同僚・部下と話す機会」の変化については、「増加した」が「減少した」を上回ったもの、「わからない」が5割前後を占めています。「仕事で新しい事を学ぶ機会」については、「増加した」が計40.5%に達し、効果が出ているようです。

2 仕事が失われる不安

一方、AI導入に伴う不安もみられました。AI によって今後2年以内に自身の仕事が失われる不安について尋ねたところ、全有効回答22,000人のうち、「極めて心配」「かなり心配」「ある程度、心配」「わずかながら心配」が計 43.7%、「(2年を超えて)今後10年以内」では計 50.7%でした。

また、今後10年間を見据え、自身の産業分野の賃金にAIが影響を与えるかについても質問しました。全有効回答22,000人のうち、「わからない」が44.6%、「賃金に影響を与えないと思う」が24.1%でしたが、AIは「賃金を減少させると思う」も22.6%を占め、「賃金を増加させると思う」の8.7%を大幅に上回っています。

さらに、AIの利用に伴い勤務先が訓練の提供や資金の援助をしてきたかを聞いたところ、勤務先の企業でAIが使われている労働者2,833人の62.8%が「いいえ」と答えました。企業の支援が十分とは言えないようです。

3 さいごに

AIは企業活動に大きなプラス効果を及ぼします。その反面、ChatGPTなどの生成AIについては、機密情報の誤入力や意図しない情報漏洩などのリスクもあります。セキュリティインシデントが発生してしまうと、企業に甚大な損害を与えるので、回避しなければなりません。

そのためには、社内規定やガイドラインを定め、生成AIを利用できる対象従業員、入力可能な情報の範囲、生成された結果の活用方法などを明確にしておく必要があります。適切なAI活用に向け、従業員に学習やリスキリングの機会を提供することも欠かせません。ご対応につきましては注意して進めてみてください。

※本内容は2025年10月10日時点での内容です。

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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画像:photo-ac