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ウチの子に残業させるな! 会社版モンスターペアレントへの対応
1 社員本人の労働問題に、親が介入してくる?
社員本人の労働条件や処遇について、その社員の親が本人に代わり、会社に苦情を申し立ててくることがあるのをご存じでしょうか? 例えば、社員の配属先や人事評価に対する不満を会社にぶつけてきたり、社内の人間関係に口を出してきたりといった具合です。
社員本人の労働問題に介入してくる親を、この記事では「会社版モンスターペアレント」
と呼ぶことにします。
一般的に、モンスターペアレントとは、学校に対して理不尽な要求を繰り返す親を指す言葉です。少子化が進み、親が昔よりも子どもに対して過干渉になったことなどが原因といわれますが、子どもが社会人になった後もその過干渉が続き、会社版モンスターペアレントになってしまうケースがあるのです。ハラスメントに対する規制などが強化され、かつてより社員の権利が主張されやすくなったことも、こうした状況に拍車をかけているといえるでしょう。
会社版モンスターペアレントは、相手方が社員の親ということで、会社としても強く出にくい面がありますが、押さえておきたいポイントは、
労働契約は会社と社員本人との間で成立するものであるため、親は、当該労働契約に関しては第三者に他ならず、原則として労働条件に介入することはできない
ということです。社員の親の話を真摯に聞くのは大切ですが、親が何を言ってきたとしても、最終的には「会社と社員本人の問題」であるということを念頭において対応しましょう。
この記事では、会社版モンスターペアレントの具体的なケースとその対応例を3つ紹介します。
2 (事例1)残業について苦情を言ってくる親
1)ケース
新入社員のAさんは、入社して半年間が経過し、業務にも慣れてきました。Aさんの上司(課長)も頼もしく思っていましたが、あるとき、Aさんの親から、
「うちの息子のAが毎日遅くまで残業していると聞きました。同期の子は残業がないと言っているのに、Aばかり残業させるのはおかしいです!」
と電話がかかってきました。会社はどのように対応すべきでしょうか?
2)対応例
前述した通り、
労働契約は会社と社員本人との間で成立するものであるため、親は、当該労働契約に関しては第三者に他ならず、原則として労働条件に介入することはできません。
つまり、この事例の場合、Aさんの労働条件について、会社が当事者ではないAさんの親と交渉する必要はありません。ただし、
Aさん本人が会社に直接言い出せない不満や不安を、親が代弁している可能性は考慮
する必要があります。親のクレームをただ門前払いするだけでなく、Aさん本人との対話を通じて、根本的な問題(Aさん自身の不満、会社への不信感、コミュニケーション不足など)を特定し、解決に努める必要があります。具体的には次のステップで進めることが考えられます。
1.親への対応
会社としては、
「Aさんの労働条件については、Aさんご本人と会社の間の労働契約に関する事項ですので、Aさんご本人からの申し出でなければ、詳細なご説明は致しかねます。一般的に、労働時間や残業は、業務の必要性に応じて発生するもので、部署や担当業務、進行度合いによって異なります。同期の方と全く同じ時間になることはありません」
などと、労働契約の当事者がAさん本人である旨、本人からの申し出でなければ詳細な説明をすることができない旨をAさんの親に伝えます。
2.Aさん本人への対応
親からの連絡があったことをAさん本人に伝え、Aさん自身の残業に対する認識や不満等を直接ヒアリングします。Aさん自身が残業について不満を持っている場合、その内容を真摯に聞き、適切な労働時間管理が行われているか、課長からAさんに対する業務の配分が正当といえるものかを確認します。労働時間管理や業務の配分に問題がないと判断した場合、業務の必要性に応じた残業命令は会社の業務命令権の範囲内であり、不当ではないことをAさんに説明します。また、労働時間や残業に関する規定が就業規則等に明記されていることを、必要に応じてAさんに説明します。もちろん、労働時間管理や業務の配分に問題があると判断した場合は、速やかに是正する必要があります。
3.親からクレームが繰り返される場合の対応
親から会社に対し頻繁に電話があり、会社の業務に支障をきたす場合は、迷惑行為である旨を伝えます。それでも繰り返される場合は、弁護士に相談し、法的措置を検討します。
3 (事例2)給与や評価に関する不満を言ってくる親
1)ケース
新入社員Bさんの給与や評価について、Bさんの親が、
「うちのBは毎日遅くまで頑張っているのに、給料が同期より低いと聞きました。評価も納得がいかないと。正当な評価をして、もっと給料を上げるべきです!」
と、会社に苦情を申し立ててきました。会社はどのように対応すべきでしょうか?
2)対応例
給与や評価は会社の経営判断と人事裁量に属する事項ですので、まずは、労働契約の当事者であるBさん本人と会社の問題であることをBさんの親に伝えます。もっとも、Bさん本人が会社に直接言い出せない不満や不安を、Bさんの親が代弁している可能性も考慮する必要があります。具体的には次のステップで対応します。
1.親への対応
会社としては、
「一般的に、給与や評価については、当社の評価制度に基づき、業務実績や貢献度を総合的に判断して決定しております。Bさんの個別の評価内容については、Bさんご本人と会社の間の労働契約に関する事項ですので、Bさんご本人以外にはお伝えできません。Bさんご本人には、評価面談を通じてご説明しておりますので、ご不明な点があればご本人から改めてご相談いただくようお伝えください」
などと、Bさんの給与や評価に関する情報は開示できない旨をBさんの親に伝えます。
2.Bさん本人への対応
親からの連絡があったことをBさんに伝え、Bさん自身の給与や評価に対する認識・不満等を直接ヒアリングします。その上で、会社の評価制度や賃金決定の仕組みについて、Bさんに丁寧に説明し、疑問点を解消する機会を設けます。親からの給与や評価に関する苦情は、多くの場合、社員自身が会社の評価基準や自身の評価理由を十分に理解していないことが原因です。
3.給与・評価制度に問題がある場合の対応
会社の人事評価制度や賃金規定の内容が不明確な場合、不公平感が生じやすいです。社内でも、制度や規定の内容を確認し、不明確な部分があると判断した場合、改訂を検討します。また、仮にBさんが「同期と比べて不公平」と感じている場合、それが性別、年齢、雇用形態などによる不当な差別(例:賃金における男女差別)に該当しないかを確認し、該当する可能性がある場合、速やかに是正する必要があります。Bさんの業務実績や貢献度に見合わない評価や給与であると会社が判断する場合、評価の見直しや今後の成長に向けた具体的なフィードバック、目標設定など、改善策を検討し、Bさん本人に説明します。
4 (事例3)異動に関する要求をしてくる親
1)ケース
新入社員Cさんの親が、Cさんの体調不良や業務への不満を理由に、異動について、
「うちのCは今の部署での仕事が合わないようです。精神的に参ってしまっているので、すぐに部署を異動させてください! それが無理なら、もう辞めさせます!」
と、苦情を申し立ててきました。会社はどのように対応すべきでしょうか?
2)対応例
異動命令は会社の業務命令権に基づき行われるものであり、また、会社を退職するか否かは社員本人が決定する事項です。まずは、これらの事項は、労働契約の当事者であるCさん本人と会社の問題であることを伝えます。もっとも、事例1と2と同様に、Cさん本人が会社に直接言い出せない不満や不安を、Cさんの親が代弁している可能性も考慮する必要があります。具体的には次のステップで対応します。
1.親への対応
会社としては、
「異動については、Cさんご本人の意思を加味しながら、会社の人事権に基づき判断しております。また、退職についても、Cさんご本人からの正式な申し出が必要です。いずれにしましても、Cさんご本人と会社の間の労働契約に関する事項ですので、Cさんご本人と直接面談して対応を検討させていただきます」
などと、異動や退職は、親がCさんに代わって要求できるものではないことを伝えます。
2.Cさん本人への対応
親からの連絡があったことをCさん本人に伝え、Cさん自身の異動や退職についての意向を直接ヒアリングします。会社は、業務上の必要性やCさんの心身の状態・業務状況・家庭事情等を考慮して、異動を検討します。会社が異動の必要がないと判断した場合、その旨を、理由と併せてCさんに伝えます。その際に、Cさん自身が退職を希望した場合、法律(民法や労働法など)や社内規程に則り、適切な手続き(退職届の提出、退職日の調整など)を進めます。なお、Cさんに退職を促す場合(退職勧奨する場合)、強要とみなされないよう慎重に行う必要があります。不適切な退職勧奨は、不法行為として損害賠償の対象となる可能性がありますので、留意が必要です
(監修 のぞみ総合法律事務所 弁護士 曽田駿希)pj00783
画像:友紀 寺崎-Adobe Stock
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【朝礼】伊能忠敬、50歳の再出発! 勉強するのは何歳からでも遅くない
【ポイント】
- 伊能忠敬は50歳で隠居してから学問の道を志し、弟子とともに日本地図を完成させた
- AIが業務を肩代わりしてくれるようになり、私たちは「学び直し」の時間を作れる
- いくつになっても知的好奇心を忘れず、学び続ける姿勢が、未来を切り開く原動力となる
今日は、ある歴史上の人物の生涯から、学び続けることの意義について考えてみたいと思います。紹介するのは、伊能忠敬(いのうただたか)です。彼は、江戸時代後期に日本全国を歩いて測量し、弟子とともに日本で初めての正確な実測地図を完成させたことで知られています。
伊能忠敬の人生で特に注目すべきは、彼がこの偉大な地図作りの旅に出た年齢です。なんと、彼は50歳で家業を息子に譲って隠居した後、本格的に天文学や測量学の道を志しました。そして、55歳で測量の旅に出発し、そこから実に17年もの歳月をかけて、全国を歩き続けたのです。彼が亡くなったのは73歳。地図が完成したのは、彼の死後、弟子たちの手によってでした。
この伊能忠敬の生涯は、私たちに非常に力強いメッセージを送ってくれます。それは、「勉強するのは何歳からでも遅くない」というものです。彼は若い頃から学問、特に算術や天文学に強い関心を持っていましたが、家業の経営に忙しく、本格的に学ぶ時間はなかなか取れませんでした。しかし、隠居という人生の転機を迎え、時間ができた時に、彼は迷わず長年の夢だった学問の道を選んだのです。当時50代という年齢で、新たな分野に飛び込み、しかも当時の最新の知識と技術を習得し、それを実践して歴史に残る大事業を成し遂げた彼の情熱と行動力には、ただただ驚かされます。
近年、私たちの業務環境は目まぐるしく変化しています。特に、生成AIをはじめとする新しいテクノロジーの進化は目覚ましく、これまで人間が時間を割いて行っていたルーティンワークや情報整理の多くを、AIが肩代わりしてくれるようになってきています。伊能忠敬は隠居してようやく自由な時間を手に入れましたが、私たちは今、この瞬間にもそれができるわけです。もし、これまで「時間がないから」と諦めていたこと、あるいは漠然と「いつか学んでみたい」と考えていたことがあるなら、今こそがそのチャンスかもしれません。
これまで興味があった分野の深掘りでも、あるいは全く新しい挑戦でも構いません。伊能忠敬のように、いくつになっても知的好奇心を忘れず、学び続ける姿勢こそが、私たちの仕事や人生を豊かにし、未来を切り開く原動力となるはずです。
以上(2025年9月作成)
pj17229
画像:Mariko Mitsuda
3歳を過ぎても時短勤務OK? 10月施行の子育ての新ルール!
1 10月から始まる「新しい働き方」に備えよう
2025年10月1日から、育児・介護休業法の改正により、全ての会社に「柔軟な働き方を実現するための措置等」が新たに義務付けられます。これは、
「3歳以上小学校就学前の子」を育てる社員に対し、「短時間勤務」「テレワーク」などの措置を講じる制度
です。現行法でも、会社は3歳未満の子を育てる社員に対し、短時間勤務などの措置(所定労働時間の短縮措置等)を講じる義務を負っていますが、今回の改正内容である
「柔軟な働き方を実現するための措置等」の場合、会社が2つ以上の措置を実施し、社員がそのうち1つを選択して利用できる仕組みになっている点
が異なります(図表1)。

さて、今回の法改正により、特に中小企業では「制度導入の手間」「代替要員の確保」「職場内の不公平感」など、現実的な課題がつきまといます。「ウチは人手不足だから無理」などと尻込みしてしまうかもしれませんが、少子高齢化と人手不足が加速する今、労働力を確保する上でも、働きやすい環境整備は必須。会社としての姿勢が問われる大事な局面といえます。
この記事では、制度の概要を整理した上で、実際に起こり得る現場の課題とその対応策をご紹介します。
2 会社に求められる「いずれか2つ以上の措置」
2025年10月1日から、会社は図表2の5つの措置のうち、2つ以上の措置を整備・実施する義務を負います。社員は会社が講じた措置の中から、1つを選択して利用することができます。なお、4.の特別休暇と5.のテレワークは、原則時間単位で利用できるようにする必要があります。
ちなみに、2025年4月1日からは、「3歳未満の子を育てる社員のためにテレワークを導入すること」が努力義務化されており、5.のテレワークと混同するかもしれませんが、
5.のテレワークは、「3歳以上小学校就学前の子」を育てる社員が対象で、取り組みは義務(措置の1つとして選択する場合)
となります。

なお、措置は2つ以上実施する必要がありますが、
必ずしも会社全体で内容を統一する必要はなく、業務の性質や実施体制に照らして、事業所単位や事業所内のライン単位、職種ごとに決めてもよい
とされています。
制度導入時の注意点は次の通りです。
1)意見聴取
柔軟な働き方を実現するための措置等を講じるに当たって、会社は、
改正法の施行(2025年10月1日)よりも前に、過半数労働組合(ない場合は過半数代表)の意見を聴く義務
を負います。既に社内で導入している制度(テレワークなど)を「柔軟な働き方を実現するための措置等」として選択することは可能ですが、その場合も、職場のニーズを把握するため、過半数労働組合等への意見聴取は必須となっています。
2)個別の周知・意向確認
会社は、選択した制度(以下「対象措置」)について、
社員の子が3歳になるまでの間に、面談等により対象措置の内容を個別に周知し、利用の意向を確認する義務
を負います。具体的には、図表3の内容に沿って行います。なお、対象措置の利用を控えさせるような個別周知と意向確認は認められません。

では、これらの制度を導入したときに、実際の職場ではどんな問題が起きるのでしょうか。次章では、現場で想定される課題を挙げ、それぞれの対応策を見ていきます。
3 中小企業における現場の課題とその対応策
1)代替要員がいない! 短時間勤務制度の落とし穴
1.課題
短時間勤務制度を導入した場合、当然ながらその分の労働時間が減ります。1日8時間働いていた社員が6時間勤務になれば、2時間分の仕事を誰かが補う必要があるわけです。しかし、小規模事業者では「代替要員がいない」「残業では補えない」という声も多く聞かれます。
2.対応策
まずは「業務の棚卸しと再分配」から始めましょう。短時間勤務制度を利用する本人が抱えている業務の棚卸しをして、チーム内での再分配を検討します。思い切って「やめる業務」を決めることも必要です。
最近では、短時間・短期間の業務を請け負う「スキマ人材サービス」も普及しています。育児期間中だけ、業務の一部を外部委託するという考え方も現実的です。
あとは、「短時間正社員制度の導入」という方法もあります。代替要員を現行の正社員以外からも募るという考え方です。パート等の処遇を改善し、一定時間の労働で、責任ある業務を担ってもらう仕組みを検討してみましょう。
2)ハラスメントの温床に? 「ズルい」「甘えてる」の空気
1.課題
社員が対象措置を利用することで、そのフォローに回る他の社員などから「また早退か……」「こっちは残業なのに……」など心ない発言がされたり、本人を無視するなどの行為に出たりすることがあります。対象措置を利用した社員が会社に居づらくなるような言動は、
「妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント」に該当する恐れ
があります。会社はこのようなハラスメントについて防止措置を講じる義務を負っていますから、上のような空気が生まれる前に、社員を教育する必要があります。
2.対応策
まずは「社員研修」を実施し、「対象措置の利用は権利であり、サポートし合うのが企業文化である」ということを社内に周知しましょう。弁護士やコンサルティング会社などが、ハラスメント防止研修を随時実施しています。短時間のeラーニングでも構わないので、制度導入前に行いましょう。
また、「管理職の意識改革」も大切です。管理職が対象措置の利用に否定的・消極的だと、それが職場全体の空気に影響します。対象措置の利用について、「嫌みを言わない」「制度を利用しやすくする」ことが管理職の責任であると、社長が明確に伝えましょう。
加えて、「相談窓口の整備」についても見直しましょう。会社はハラスメントに関する相談窓口を設置する義務を負っていますが、社内の窓口だけでは対応できる自信がなければ、外部の専門家(弁護士や社労士)への相談窓口も用意しておくと、社員は安心できます。
3)「その制度、私も使えますか?」などの声への対応
1.課題
対象措置の内容を社内に周知した場合、「自分もテレワークを使いたい」「小学生の子どもでも対象ですか?」といった声が、社員から寄せられる可能性があります。ただ、
「柔軟な働き方を実現するための措置等」の対象は、「3歳以上小学校就学前の子」を育てる社員
であり、対象外の社員の声まで聞いていくと、対応しきれない、説明がつかないといった混乱に陥る恐れがあります。また、「〇〇さんは使えて、自分は使えないのはなぜか?」という不公平感にもつながりかねません。
2.対応策
まずは、「対象者や利用要件を明記した社内ルールを整備」するようにしましょう。制度の内容や申請の流れだけでなく、「対象は3歳以上小学校就学前の子を育てる社員」といったように、誰が使えるのかを明確にします。
次に準備したいのは「社員向けQ&A」です。事前に社員から寄せられそうな質問(例:「テレワークって週何回まで?」「事務職でも使える?」「副業中でも使える?」など)を想定し、あらかじめ答えを用意しておくと、混乱を未然に防げます。
こうした一連の取り組みの中で大切なのは、
会社が対応可能な範囲をはっきりさせること
です。例えば、「当社ではテレワーク制度は現在対象外」「短時間勤務制度のみ導入予定」といったように、できること・できないことを明確にします。曖昧な表現を避け、「検討中」よりも「〇年〇月に再検討予定」と記載するほうが誠実です。
4 法改正は「労働力確保のチャンス」
今回の法改正は会社の規模を問わないため、一見「中小企業泣かせ」と思える内容かもしれません。しかし、考え方によっては「柔軟な働き方ができる職場です」とアピールする絶好のチャンスでもあります。子育てや介護を抱える優秀な人材にとって、「働き続けられる会社かどうか」は、採用時の大きな判断基準になっています。
大切なのは、完璧な制度整備ではなく、「まずできることからやってみる」こと。1つの制度を導入すれば、確実に職場の雰囲気や社員の安心感は変わります。中小企業ならではの小回りを利かせて、人に優しい働き方を実現していきましょう。
以上(2025年9月作成)
pj00781
画像:Bfinity-Adobe Stock