【かんたん会社法(12)】 企業再編の1つである「合併」

書いてあること

  • 主な読者:企業再編の1つとして「合併」の基本を知りたい人
  • 課題:合併の手続きはとても複雑そうで、とっつき難い
  • 解決策:合併のほとんどは吸収合併。手っ取り早い規模の拡大などに有効

1 さまざまな組織再編

「M&A(Mergers and Acquisitions)」は、企業が成長や競争力を高めるための戦略であり、具体的には、新市場の開拓、競争相手の排除、コスト削減、経済規模の拡大などさまざまな目的で実施されます。M&Aには、合併と買収という2つの意味がありますが、両方の意味を含むものとして、「企業再編」という言葉が使われることがあります。主な企業再編には次の7つの手法があります。

  • 株式譲渡:会社の株式の全部または一部を他の会社に譲渡する
  • 事業譲渡:事業の全部または一部を他の会社に譲渡する
  • 合併:複数の会社を1つにする。吸収合併と新設合併とがある
  • 会社分割:事業の全部または一部を他の会社に分割して承継する。吸収分割と新設分割とがある
  • 株式交換:既にある会社を100%子会社にするために、子会社となる会社の株主の株式と親会社となる会社の株式を交換する
  • 株式移転:既にある複数の会社が新規に100%親会社を設立するために、それぞれが保有する株式を100%親会社に移転し、対価として100%親会社の株式の交付を受ける
  • 株式交付:既にある会社を子会社(100%子会社とは限らない)にするために当該子会社の株式を譲り受け、対価として自社株式を交付する

ここで紹介するのは上記のうち、合併です。吸収合併の手続きを中心とし、新設合併についてはポイントを絞って紹介します。

2 合併とは

合併とは、複数の会社が1つになることであり、

  • 吸収合併:1社が存続会社となり、残りは消滅会社となり存続会社に吸収される
  • 新設合併:会社が全てなくなり、新たに設立された会社に権利義務を承継させる

があります。新設合併は後の権利義務の整理が面倒であるなどデメリットがあることから、実務上、あまり使われないスキームで、合併の多くは吸収合併で行われます。

事業譲渡とは異なり、合併では当事者の全ての事業が一つになります。手っ取り早く規模の拡大を目指したり、特定市場に参入したりする場合に有効です。なお、事業譲渡の対価は金銭となるのが通常です。対して吸収合併において、消滅会社の株主に交付するのは金銭や存続会社の株式、社債、新株予約権等となります。同様に新設合併の場合は、新たに設立される会社(以下「設立会社」)の株式、社債、新株予約権のどれかを交付します。

3 合併の手続き

1)合併契約とは

合併する際は「合併契約」を締結します。合併契約の内容は会社法で決まっていますが、吸収合併契約と新設合併契約とで内容が違います。吸収合併における合併契約で定める事項は次の通りです。

  • 存続会社と消滅会社の商号、住所
  • 消滅会社の株主に交付する存続会社の金銭等、株主への割当に関する事項。存続会社の株式を交付する場合は、その数や算定方法など
  • 消滅会社の新株予約権者に存続会社の新株予約権を交付する場合、その新株予約権の内容や数、新株予約権者への割当に関する事項
  • 吸収合併の効力発生日

新設合併における合併契約で定める内容の大部分は、吸収合併と同じです。加えて、設立会社の商号、本店の所在地、発行可能株式総数、設立時の取締役の氏名なども定めます。

2)合併契約の事前開示

合併契約を締結する当事者は、合併契約の内容や対価の相当性などを記載した書面または電磁的記録を、本店に備え置き、開示します。開示の期間は、一定の日(株主総会の日の2週間前等)から効力発生日後6カ月を経過する日までです(吸収合併の消滅会社については効力発生日まで、新設合併の消滅会社については設立会社の成立の日まで)。

3)株主総会の承認

合併しようとする会社は、株主総会の特別決議によって合併契約の承認を得なければなりません。

ただし、吸収合併契約の場合、株主総会の承認決議を省略できるケースがあります。まず、簡易合併の場合です。簡易合併とは、存続会社が合併対価として消滅会社の株主に交付する株式等の額が、存続会社の純資産の20%以下の場合です。この場合、存続会社の株主に与える影響が小さいと考えられ、株主総会の承認決議は不要となるのです。

また、略式合併の場合も株主総会の承認決議が不要になります。略式合併とは、特別支配関係にある会社の合併です。特別支配関係とは、相手の会社の議決権の90%以上を有しているケースです。吸収合併において、

  • 存続会社が特別支配会社である場合は、消滅会社における株主総会の承認決議が不要
  • 消滅会社が特別支配会社である場合は、存続会社における株主総会の承認決議が不要

となります。

4)株主通知

吸収合併における存続会社と消滅会社は、原則として、効力発生日の20日前までに、株主に次のことを通知します(一定の場合には公告で代用することができます)。

  • 存続会社:吸収合併をする旨並びに消滅会社の商号および住所
  • 消滅会社:吸収合併をする旨並びに存続会社の商号および住所

また、新設合併の消滅会社は、原則として、株主総会の承認決議の日から2週間以内に、株主に「新設合併をする旨並びに他の新設合併消滅会社および設立会社の商号および住所」を通知します(この通知は、公告で代用できます)。

5)反対株主の買取請求

上記の株主通知を受けた株主のうち、一定の要件を満たす反対株主は、自身の有する株式を公正な価格で買い取るよう会社に請求できます。ただし、簡易合併の場合は、原則として、株式買取請求権は認められません。同様に略式合併の場合、特別支配会社は株式買取請求権を有しません。

株式買取請求権は、吸収合併の場合は効力発生日の20日前から効力発生日の前日までの間、新設合併の場合は会社の通知または公告の日から20日以内に、それぞれ株式の数を明らかにして行使します。

6)新株予約権者の買取請求

吸収合併および新設合併の消滅会社の新株予約権者は、その新株予約権と同条件の新株予約権が交付される場合を除き、新株予約権の公正な価格での買取請求ができます。

なお、新株予約権者が新株予約権付社債に付された新株予約権の買取請求をする場合、別段の定めがない限り、新株予約権付社債の買取請求も一緒に行使しなければなりません。

7)債権者の保護

消滅会社と存続会社は、次に掲げる事項を官報に公告しなければなりません。

  • 合併をする旨
  • 存続会社、消滅会社の商号および住所
  • 存続会社、消滅会社の計算書類に関する事項
  • 合併に異議のある債権者が、一定の期間内(1カ月以上の期間)に異議を述べられる旨

同時に、知れたる債権者には個別に通知しなければなりません。知れたる債権者の範囲に明確な定義はありませんが、小さな株主は除いてよいと考えられます。また、定款で日刊新聞紙または電子公告による公告方法を定めている場合、官報への公告に加えてこれらの方法による公告を行った場合、債権者に対する個別の催告は必要ありません。

一定の期間内に債権者が異議を述べなかった場合、合併を承認したものとみなされます。一方、異議を述べた債権者に対しては、合併をしてもその債権者を害する恐れがない場合を除き、弁済、相当の担保提供、弁済のための相当の財産の信託をしなければなりません。

8)登記

吸収合併の場合、合併契約に定めた効力発生日に効力が生じ、存続会社は消滅会社の権利義務を包括的に承継します。このとき、効力発生日から2週間以内に、その本店の所在地において、消滅会社は解散の登記をし、存続会社は変更登記をします。消滅会社の解散は、登記の後でなければ第三者に対抗できません。

新設合併の場合、新設会社が設立された日に合併の効力が生じ、消滅会社の権利義務を包括的に承継します。つまり、登記が効力発生の要件となります。この登記は、株主総会の承認決議など会社法で定められている所定の日から2週間以内に、本店の所在地で行わなければなりません。

9)書面などの備え置き

吸収合併の存続会社は、合併効力が発生した後遅滞なく(新設合併の設立会社は、新設会社の設立登記の日から遅滞なく)、合併により承継した消滅会社の権利義務その他の合併に関する事項を記載した書面または電磁的記録を作成しなければなりません。

これらの書面または電磁的記録は、吸収合併では効力発生日から6カ月間、新設合併では設立会社の成立の日から6カ月間、本店に備え置かなければなりません。

以上(2024年8月)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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画像:Mariko Mitsuda

【管理会計】現金収支トントンの「キャッシュ・フロー分岐点売上高」で万全の資金繰り

書いてあること

  • 主な読者:資金ショートをしないように資金管理を強化したい経営者
  • 課題:キャッシュ・フロー計算書が作成されていないが、きちんと確認されていない
  • 解決策:営業活動によるキャッシュ・フローがトントンとなる分岐点を意識する

1 現金収支トントンの売上高を意識する

利益はあるのに資金ショートで倒産してしまう「黒字倒産」。経営者なら知っている事象だと思いますが、

資金ショートを防ぐために、適宜、キャッシュ・フロー計算書を確認している経営者はどれほどいるでしょうか?

もし、損益計算書の売上や利益は確認しているものの、キャッシュ・フロー計算書を確認していないのなら、この記事を読んで「キャッシュ・フロー分岐点売上高」を意識してください。損益分岐点売上高が利益とトントン(ゼロ)になる売上高であるのに対し、キャッシュ・フロー分岐点売上高とは、

現金収支がトントンで、資金不足にならないために最低限必要な売上高

です。キャッシュ・フロー分岐点売上高は、

キャッシュ・フロー分岐点売上高=(固定費±費用修正)/限界利益率

で計算できます。この指標を確認すれば、御社の資金繰りが強化されます。

2 キャッシュ・フローの流出・流入のイメージをつかむ

営業活動によるキャッシュ・フロー(以下「営業CF」)がマイナスになったら、投資活動によるキャッシュ・フロー(以下「投資CF」)、または財務活動によるキャッシュ・フロー(以下「財務CF」)をプラスにして、全体のバランスを取らなければなりません。

  • 投資CF:有価証券や土地・建物などを売却すればプラス
  • 財務CF:借入、社債発行、株式発行などをすればプラス

とはいえ、売却できる資産には限りがありますし、融資や出資を受け続けることも難しいです。つまり、

営業CFがプラスでないと企業活動の継続は困難になるので、営業CFをプラスに保ち続けることが重要

になります。イメージしやすいように図で示します。営業CFの流入が多い場合と少ない場合では、次のように顕著な違いが生じます。

画像1

3 キャッシュ・フロー分岐点売上高の計算

営業CFの流入と流出が同額になる売上高が、キャッシュ・フロー分岐点売上高です。その計算は損益分岐点売上高とほぼ同じです。

ここでは話を単純化するために、営業CFの流入と売上高を同額とします。また、費用と支出は同時に発生するものとしますが、減価償却資産の取得と減価償却費の計上のように、キャッシュの動きに大きなズレが生じる部分は修正します。

キャッシュ・フロー分岐点売上高の算出式は次の通りです。なお、限界利益率とは、売上高に占める限界利益(売上高−変動費)の割合です。

キャッシュ・フロー分岐点売上高=(固定費±費用修正)/限界利益率

費用修正では、支出しない費用をマイナスし、費用ではない支出をプラスします。分かりにくいかもしれませんが、具体的には次のような修正をします。

  • マイナスにする:減価償却費(支出しない費用)
  • プラスにする:借入金元本の返済額(費用ではない支出)

損益分岐点売上高とキャッシュ・フロー分岐点売上高の相違のイメージは次の通りです。利益を余剰キャッシュとしていますし、固定費もキャッシュの動きに合わせて修正している点がポイントです。

画像2

4 実際に計算してみよう

実際にキャッシュ・フロー分岐点売上高を計算してみましょう。条件は次の通りです。

  • 固定費:1億円。このうち減価償却費(支出を伴わない固定費)は3000万円
  • 変動費率:50%

この場合の損益分岐点売上高とキャッシュ・フロー分岐点売上高を計算してみましょう。まず損益分岐点売上高は、

2億円=1億円/(1-0.5)

となります。

次にキャッシュ・フロー分岐点売上高は、

1億4000万円=(1億円-3000万円)/(1-0.5)

となります。

計算の結果、損益分岐点売上高は2億円ですが、キャッシュ・フロー分岐点売上高は1億4000万円となりました。1億4000万円の売上高があれば収支トントンですが、これでは手元のキャッシュは0円のままです。そのため、再投資が必要な場合などは別途資金調達が必要です。

以上(2024年7月更新)
(監修 税理士 石田和也)

pj35051
画像:photo-ac

【管理会計】部門や支店が増えた場合に役立つ「貢献利益」による業績評価

書いてあること

  • 主な読者:感覚だけではなく、定量的な基準や根拠を持ってビジネスの判断をしたい人
  • 課題:事業規模が拡大する過程で、部門や支店ごとの業績が見えにくくなる
  • 解決策:部門別の貢献利益によって、部門や支店ごとの業績を把握する

1 質問:部門ごとの利益を把握していますか?

店舗販売部門、外商部門、卸売部門の3つの部門を持つA社。会社全体の利益はすぐに出てくるものの、部門ごとの利益は売上総利益(売上-売上原価)までしか把握できていません。

創業当初はシンプルだった組織も、事業規模が拡大していくにつれ、さまざまな部門が設置され、営業所なども増えてきます。ここで問題となるのが、部門や営業所ごとの業績が見えにくくなることです。こうした状況に直面した場合における判断の基準をご紹介します。

2 部門などごとに「貢献利益」を算出する

貢献利益とは、限界利益(売上高から変動費を引いた値)から管理可能固定費を引いた値です。管理可能固定費とは、各部門でコントロールできる固定費をいいます。

貢献利益は次のように計算します。

  • 限界利益=売上高-変動費
  • 貢献利益=限界利益-管理可能固定費

なお、限界利益については、下記の記事をご参照ください。

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管理会計では、費用は売上高の増減に合わせて変動する「変動費」と、売上高の増減に関係なく発生する「固定費」とに分けられます。売上高が伸びると変動費は増えますが、固定費は一定です。

例えば小売業の場合、売上原価などは売上高に合わせて増減する変動費になります。一方、人件費や減価償却費、賃借料などが固定費となり、その中には各部門で管理可能(コントロール可能)なものと管理不能(コントロール不能)なものがあります。

各部門で決裁権のある費用は管理可能固定費となります。例えば、消耗品費、会議費、交際費などについて、各部門や支店での判断が可能ならばコントロール可能な固定費となります。

部門や支店の要請で人員補充が行われる場合、人件費も管理可能固定費とします。一方、支店、営業所、工場などの開設に伴う賃借料や減価償却費、支払利息のように経営者の経営判断によるものは、各部門にとっては管理不能固定費とします。

3 事例を用いた「貢献利益」の計算例

1)事例前提条件

A社には、店販部門、外商部門、卸売部門の3つの販売部門があります。また、自社ビルを保有し、その中にこの3部門が設置されています。

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店舗販売部門は、自社ビル内の店舗で小売販売をしています。店販部門の売上高は10億円です。商品の値入率は55%(原価率45%)です。管理可能固定費は、人件費1億4400万円(480万円×30人)とします。

外商部門は、会員顧客(年間に一定金額以上を購入する優良顧客)向けに訪問販売と通信販売を行っています。掛率(小売価格に対する販売価格の割合)は90%です。管理可能固定費は、人件費7200万円(480万円×15人)、車両費・物流費4200万円(営業車7台分の減価償却費・管理費・燃料費700万円+代金引換を含む小口配送費用3500万円)とします(便宜上、配送費用は管理可能固定費に含めています)。

卸売部門は、百貨店等の大規模小売店や専門店に対して商品を卸売りしています。掛率は65%です。管理可能固定費は、人件費7200万円(480万円×15人)と交通費・物流費2700万円(営業交通費200万円+商品配送費用2500万円)とします。商品配送費用は、売上高に応じて変動する性質の費用ですが、ここでは管理可能固定費としています。

2)店販部門の貢献利益

店販部門の売上高は10億円、商品の値入率が55%なので、売上原価と限界利益は次のように算出することができます。

  • 売上原価=売上高10億円×売上原価率45%=4億5000万円
  • 限界利益=売上高10億円-売上原価4億5000万円=5億5000万円

店販部門の管理可能固定費は、人件費1億4400万円なので、貢献利益は次のように算出することができます。

  • 貢献利益=限界利益5億5000万円-管理可能固定費1億4400万円=4億600万円
  • 従業員1人当たり貢献利益=貢献利益4億600万円/従業員数30人≒1353万3300円

3)外商部門の貢献利益

外商部門の売上高は6億円、店販部門の販売価格に対して掛率90%で販売しているので、売上原価と限界利益は次のように算出することができます。

  • 売上原価=売上高6億円/90%×売上原価率45%≒3億円
  • 限界利益=売上高6億円-売上原価3億円=3億円

外商部門の管理可能固定費は、人件費7200万円と車両費・物流費4200万円なので、貢献利益は次のように算出することができます。

  • 貢献利益=限界利益3億円-管理可能固定費1億1400万円=1億8600万円
  • 従業員1人当たり貢献利益=貢献利益1億8600万円/従業員数15人≒1240万円

4)卸売部門の貢献利益

卸売部門の売上高は10億円、店販部門の販売価格に対して掛率65%で販売しているので、売上原価と限界利益は次のように算出することができます。

  • 売上原価=売上高10億円/65%×売上原価率45%≒6億9200万円
  • 限界利益=売上高10億円-売上原価6億9200万円=3億800万円

卸売部門の管理可能固定費は、人件費7200万円と交通費・物流費2700万円なので、貢献利益は次のように算出することができます。

  • 貢献利益=限界利益3億800万円-管理可能固定費9900万円=2億900万円
  • 従業員1人当たり貢献利益=貢献利益2億900万円/従業員数15人≒1393万3300円

5)各部門の比較

A社の部門別貢献利益を一覧で示すと次の通りです。

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3部門で貢献利益が最も大きいのが店販部門で、他2部門を大きく上回っています。次いで卸売部門、外商部門となっています。

店販部門は、売上高が大きく限界利益率が高いことが特徴で。卸売部門は、限界利益率は低いものの、それを売上高でカバーしている状況です。

従業員1人当たり貢献利益では、卸売部門が最も大きく、次いで店販部門、外商部門という結果になっています。

実際には、部門別に時系列で比較し、各事業部門の貢献利益の増減を比較評価するのが効果的です。

4 貢献利益を運用する際の注意点

1)目に見えないもう1つの貢献利益

部門別の貢献利益によって、部門や支店ごとの業績が把握できます。活用方法はさまざまで、例えば賞与の査定に差をつけることもできます。

ただし、慎重に運用しなければなりません。なぜなら、各部門は独立した組織であるようでいて他部門から少なからず影響を受けているものであり、各部門からのアシストについても考慮する必要があります。

各部門の貢献利益を比較する場合、他部門からの好影響(創業からの貢献度合いやブランド価値など)も考えなければなりません。これを考えずに、部門別貢献利益を他部門との比較のために用いると、部門間にあつれきが生じる危険があります。

2)適正な売上管理や労務管理が大前提

管理可能固定費というのは、各部門でコントロールが可能な費用です。部門別業績評価をする場合、各部門の売上管理や労務管理等が適正に行われていることが不可欠です。

例えば、各部門に未払いの残業代があるなどの場合が問題です。もし、部門内でサービス残業が常習化しているような場合、それを管理可能固定費に加味すると貢献利益は異なってきます。また、評価基準を利益に重きを置きすぎたときに生じる売上の粉飾もあります。不正へのきっかけとならないためにも、社員教育の徹底や管理体制の整備も同時に行っていきましょう。

5 練習問題

(問題1)

A事業部の売上高は5000万円(変動費率55%)、管理可能固定費は1500万円です。A事業部の貢献利益はいくらですか?

(問題1の回答)

A事業部の限界利益は、売上高の5000万円から変動費の2750万円を引いた2250万円となります。貢献利益は限界利益から、管理可能固定費を引いた利益なので750万円(2250万円-1500万円)となります。

問題1の答え:750万円

(問題2)

A事業部に係る費用項目は次の通りです。A事業部の管理可能固定費はいくらですか?

接待交際費180万円、福利厚生費30万円、器具備品の減価償却費80万円、

オフィス賃借料850万円、光熱費100万円、広告宣伝費130万円、旅費交通費200万円、

A事業部の役員給与1000万円、A事業部の従業員給与8640万円

(問題2の回答)

管理可能固定費とは、A事業部がコントロールできる費用です。上記の中では、接待交際費、福利厚生費、光熱費、広告宣伝費、旅費交通費、A事業部の従業員給与となります。なお、役員給与は株主総会(役員個人の給与額については取締役会または代表取締役)の決議事項であるため、管理不能固定費に該当します。

問題2の答え:9280万円

以上(2024年7月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

pj35047
画像:photo-ac

高齢社員のやる気がないのは人事考課のせい!? 期待する役割を明確に示すのがポイント

書いてあること

  • 主な読者:再雇用制度を採用している会社の経営者
  • 課題:再雇用後の高齢社員が、定年前との働き方のギャップでやる気を失ってしまう
  • 解決策:会社が高齢社員に期待する役割を明確に伝え、人事考課に落とし込む

1 なぜ、再雇用した高齢社員がやる気を失ってしまうのか?

日本人の健康寿命は、2019年時点で男性が72.68歳、女性が75.38歳といわれます。2022年時点で、日本の会社の72.3%は「60歳」を定年に設定していますが、この数値だけを見ると、多くの高齢社員は、定年後も健康に働ける状態にあるといえます(厚生労働省「令和4年厚生労働白書」「令和4年就労条件総合調査」)。

一方、肉体的には健康でありながら、会社から求められる働き方と自身の希望との折り合いがつかず、やる気を失ってしまう高齢社員が少なくありません。日本の会社の多くは、定年後も高齢社員を雇用する場合、

再雇用制度(定年時に一度雇用契約関係を終了させ、再び雇用する)

により、「嘱託」などの非正規社員として雇い直しますが、一部の会社では次のような理由から、高齢社員が仕事にやりがいを感じられないという問題が発生しています。

  • 契約が1年単位など有期契約になるのが一般的で、それゆえ重要な仕事を任せにくい
  • 社会・労働保険の給付があるからと、賃金を引き下げることが当たり前になっている
  • 再雇用に伴い、高齢社員のかつての部下が上司になり、関係がギクシャクしてしまう

きちんと戦力として活躍できるはずの高齢社員がやる気を失ってしまうのは、もったいないことです。そこで、この記事では「人事考課」の観点から、高齢社員にやる気を持って仕事をしてもらうためのポイントを3つ紹介します。

  • 会社と高齢社員の認識のギャップを埋める
  • 期待する役割などに応じて人事考課表を作る
  • 経営者が考課者になるなど、評価に納得感を持たせる

2 会社と高齢社員の認識のギャップを埋める

高齢社員の雇用形態が正社員から非正規社員になると、会社の労務管理の方針も本人に期待する役割も、定年前とは変わってきます。

もちろん、高齢社員も自分のポジションが定年前と違うことはある程度分かっていますが、会社の方針や期待を100%理解しているわけではないので、何の説明もないと、労使間で図表1のような認識のギャップが生じ、やる気を失ってしまいます。

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こうしたギャップを埋めるには、まず高齢社員を再雇用するタイミングで、

会社が期待する役割、賃金の支給額の根拠、再雇用後の指揮系統などについて説明

をする必要があります。例えば、期待する役割であれば、「定年前と同じ業務を担当してもらうけど、ベテランとしての経験を活かし、若手に仕事のノウハウを継承していってほしい」といった具合に、会社側の要望を明確に伝えます。

一方、高齢社員の希望する働き方についてもヒアリングし、場合によっては働き方の見直しを検討します。例えば、高齢社員が「定年前と同じように、バリバリ働きたい」と希望していて、それに見合った実力が今でも発揮できるなら、後進の指導を他の人に任せて、定年前と同じように働いてもらうという選択もあり得るかもしれません。

3 期待する役割などに応じて人事考課表を作る

高齢社員の人事考課を行う際、「正社員と同じ人事考課表を使っている」という会社は少なくないかもしれません。ですが、定年前後で会社の期待する役割などが変わってくるのであれば、人事考課表もそれに応じたものを用意しないと、評価がちぐはぐになってしまいます。

例えば、後進の指導という役割に重きを置く場合、図表2のように「指導・動機づけ」「統率・監督」などの項目で、その働きを評価できる人事考課表にしておきます。また、「成果」の項目などは、定年後にノルマなどの責任がなくなる場合、必要に応じて削除あるいは修正します。

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逆に、定年前と同じように働く高齢社員の場合であれば、正社員と同じ人事考課表を用いても差し支えないでしょう。

4 経営者が考課者になるなど、評価に納得感を持たせる

再雇用制度では、再雇用後に1年ごとなどの一定周期で契約を更新するのが一般的です。更新については、本人の体調や意欲などを考慮しつつ判断しますが、人事考課の結果も重要な要素です。高齢社員もこのことを分かっているので、自身の評価にはかなり敏感になります。

そういった意味で、高齢社員の人事考課は、

決して甘くは付けないが、ある程度の納得感を与えられるものである

必要があります。例えば、年下の上司が考課者になると、考課結果によっては、高齢社員が「自分よりも経験が浅いくせに、何を言っているんだ!」と反抗してくるかもしれません。もちろん、上司が安易に考課結果を覆すのはNGですので、評価に納得感を持たせたいのであれば、

一次考課者は年下の上司にしつつも、二次考課者については経営者など、高齢社員が話を受け入れやすい人物を配置する

などの形で対応するとよいでしょう。

また、第2章の図表1で紹介したような、期待する役割などについての認識のギャップが労使間で解消できていないために、人事考課が納得のいくものになっていないケースもあります。これは改善する必要がありますので、図表3の「評価フォローシート」などを使って、高齢社員本人に、人事考課にどの程度納得できているかをコメントしてもらうとよいでしょう。

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以上(2024年8月更新)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)

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画像:pixabay

2024年改正に対応。人生100年時代の老齢年金は「繰り上げて長くか、繰り下げて多く」が判断のポイント

書いてあること

  • 主な読者:老後の生活設計として、やはり「老齢年金」を頼りにしたい人
  • 課題:老齢年金は制度が複雑で、支給額がどのくらいになるのかよく分からない
  • 解決策:いつからもらうかで支給額が変わる。働きながらもらうと減額されることが多い

1 人生100年時代の必須知識

人生100年時代。老後の生活設計を考えると、やはり頼りにしたいのが「公的年金」です。ここでいう公的年金は、一定の年齢になったら支給を申請できる「老齢年金」のことで、

  • 国民年金から支給される「老齢基礎年金」
  • 厚生年金保険から支給される「老齢厚生年金」

に大別されます。気になるのは、「いつから、いくらもらえるのか?」ですよね。これを知るためには、次の3点を押さえることが肝要になります。

  1. 老齢年金は2階建て。原則65歳から支給
  2. 繰り上げと繰り下げで支給額が変わる
  3. 働きながらもらうと支給額が減る可能性がある

この記事では、制度が複雑な老齢年金について、この3つのポイントを掘り下げて説明します。なお、老齢年金やその他の制度の内容は、2024年4月1日時点のものです。

2 老齢年金は2階建て。原則65歳から支給

老齢年金には老齢基礎年金と老齢厚生年金があり、次のように2階建てのイメージです。どちらも、

原則65歳(正しくは、65歳に達する日(誕生日の前日)が属する月の翌月)から支給

されます。

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2024年4月1日時点で、65歳以降の支給額は次の通りです。

  • 老齢基礎年金:81万6000円×国民年金の保険料納付済月数など÷480月
  • 経過的加算:1701円×生年月日に応じた率×厚生年金保険の加入月数-81万6000円×(20歳以上60歳未満の厚生年金保険の加入月数÷(加入可能年数×12))
  • 報酬比例部分:2002年度以前の報酬の平均(a)+2003年度以降の報酬の平均(b)

    a=平均標準報酬月額×0.7125%×2002年度以前の厚生年金保険の加入月数

    b=平均標準報酬額×0.5481%×2003年度以降の厚生年金保険の加入月数

  • 加給年金:23万4800円(配偶者と第1子・第2子、配偶者のみ生年月日に応じた特別加算あり)、7万8300円(第3子以降)

報酬比例部分にある「平均標準報酬月額」と「平均標準報酬額」は紛らわしいですが、要は

2002年度以前と2003年度以降とに分けて、1カ月当たりの報酬の平均額を出している

ということです。

  • 2002年度以前は「標準報酬月額(月例賃金などの「報酬月額」を一定幅で区分したもの)」の平均額
  • 2003年度以降は「標準報酬月額+標準賞与額(賞与総額から1000円未満の端数を切り捨てたもの)」の平均額

を使って、報酬比例部分の額を計算します。

■日本年金機構「年金額の計算に用いる数値」■

https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/kyotsu/nenkingaku/20150401-01.html

3 繰り上げと繰り下げで支給額が変わる

1)繰り下げ受給・繰り上げ受給:繰り上げると減額、繰り下げると増額

老齢年金の繰り上げ受給と繰り下げ受給には、次のような真逆の性質があります。

  • 繰り上げ受給:65歳よりも早く老齢年金をもらう(60~64歳)。支給額は減る
  • 繰り下げ受給:65歳よりも遅く老齢年金をもらう(66~75歳)。支給額は増える

具体的に、どれだけ支給額が変わるのかのイメージは次の通りです(金額は概算です)。

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繰り上げ受給の場合、支給を1カ月繰り上げるごとに、1962年4月1日以前生まれの人は0.5%(最大30%)、1962年4月2日以後生まれの人は0.4%(最大24%)、支給額が減ります。

繰り下げ受給の場合、支給を1カ月繰り下げるごとに、生年月日に関係なく0.7%(最大84%)、支給額が増えます。

一度、繰り上げか繰り下げをした場合、それを取り消すことはできず、減額または増額された老齢年金が生涯支給されます。ただし、老齢年金のうち「加給年金」だけは、繰り上げ・繰り下げの対象外のため、減額や増額がされることはありません。また、繰り下げ期間中、加給年金は支給されません。

2)特別支給の老齢厚生年金:繰り上げ受給に似ているが別の制度

特別支給の老齢厚生年金とは、

65歳前の一定の年齢に達したときから老齢年金を特別にもらえる制度

です。老齢年金の繰り上げ受給に似ていますが、対象は、

  • 男性:1961年4月1日以前生まれ
  • 女性:1966年4月1日以前生まれ(男性の5年後)

に限定され、支給開始時期も性別と生年月日によって決まっています。

2024年4月1日以降に特別支給の老齢厚生年金の受給権が発生する場合、65歳前にもらえるのは「報酬比例部分」だけで、「定額部分(老齢基礎年金に相当する部分)」の支給は原則としてされない

という点に注意が必要です。

2024年4月1日以降に特別支給の老齢厚生年金をもらえる人は次の通りです。もともとこの制度は、1985年に老齢年金の支給開始時期(原則)が60歳から65歳に引き上げられた際、経過措置として設けられたものなので、将来的には対象者がいなくなります。

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4 働きながら老齢年金をもらうと支給額が減る可能性がある

1)在職老齢年金:減額されることがある

在職老齢年金とは、

60歳以降も働きながら老齢年金をもらう場合、支給額が減る制度

です。具体的には、老齢厚生年金の報酬比例部分の額と、賃金額に基づく「総報酬月額相当額」の合計が一定額を超えると支給額が減ります。

総報酬月額相当額:標準報酬月額+(過去1年間の標準賞与額÷12)

報酬比例部分と総報酬月額相当額の合計が50万円を超えるか否かで、次のように支給額が変わります。なお、

「50万円」という数字は、2024年4月1日から設定されたもの(改定前は48万円)で、今後も定期的に変更される可能性

があります。

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2)高年齢雇用継続給付:減額予定

高年齢雇用継続給付とは、雇用保険給付の1つで、

現在は、賃金額が60歳到達時の75%未満に低下した場合に、低下後の賃金に一定率を掛けた額の給付を受けられる制度

です。

高年齢雇用継続給付と老齢年金が併せて支給される場合、60歳到達時の賃金と比較した低下率を基に、老齢年金が次のように減額されます。

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なお、高年齢雇用継続給付は

2025年4月1日から、最大支給率が「15%から10%」に引き下げ

となります。賃金の低下率が64%未満の場合の支給率が10%で、64%以上の場合は厚生労働省令の定めに従って徐々に支給率が下がっていきます。ただし、2024年6月21日現在、支給率の逓減率の詳細については公表されていません。

以上(2024年8月更新)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)

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画像:pixabay

人生100年時代の羅針盤。「老齢年金のシミュレーション」を複数の条件でやってみた

書いてあること

  • 主な読者:老後の生活設計として、やはり「老齢年金」を頼りにしたい人
  • 課題:老齢年金は制度が複雑で、支給額がどのくらいになるのかよく分からない
  • 解決策:いつからもらうかで支給額が変わる。働きながらもらうと減額されることが多い

1 あなたの老齢年金はいくら?

人生100年時代。何だかんだといっても「老齢年金」にも頼りたいところです。皆さんが知りたいのは、「何歳になったらいくらもらえるのか?」ということだと思いますので、この記事で、2024年4月1日時点の制度に基づいた概算を示します。

モデルとなるのは、次の条件のAさんで、60歳以降の賞与はありません。

  • 生年月日:1964年4月2日(2029年4月1日に65歳)
  • 性別:男性
  • 生計維持関係にある家族:妻(2029年4月1日に60歳)
  • 国民年金保険料の納付済期間:2024年4月1日時点で40年(1984年4月1日加入)
  • 厚生年金保険の被保険者期間:2029年4月1日時点で42年(1987年4月1日加入)
  • 平均標準報酬月額(2003年3月31日まで):28万5000円
  • 平均標準報酬額(2003年4月1日以降):41万7000円

老齢年金は、原則として65歳からもらえます。Aさんの老齢年金の支給額(原則)は次の通りです。

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受給開始は2029年4月1日以降、支給額は月額19万9063円ですが、これだけで老後の生活を支えられるか気になります。そもそも老後の生活費はどのぐらいなのか、次の章で確認してみましょう。

2 老齢年金だけだと厳しい?

総務省「2023年家計調査」によると、1世帯1カ月当たりの実支出(2人以上、勤労者世帯)は次の通りです。

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Aさんの老齢年金の支給額(原則)は月額19万9063円でした。妻の老齢年金やその他の収入もあるので一概に言えませんが、

65~69歳の実支出(総額)が月額38万5137円であることを考えると、少なくともAさんの老齢年金だけで生活を支えるのは難しい

といえそうです。

3 働きながら老齢年金をもらうと支給額が減る?

60歳以降も厚生年金保険に加入したまま、働きながら老齢年金をもらうと、

「在職老齢年金」といって、賃金額に応じて老齢年金が減る仕組みの対象

になります。老齢年金と賃金の合計額が「支給停止調整額」というボーダーラインを超えると、老齢年金が減額されます。

ここでは、Aさんの60歳到達時の賃金などの前提条件を、次のように設定します。

  • 60歳到達時の賃金(月額):40万円
  • 基本月額:9万1915円(老齢厚生年金の報酬比例部分の額)
  • 総報酬月額相当額:41万円(日本年金機構「厚生年金保険料額表」を基に算定)

2024年4月1日以降の在職老齢年金の制度では、

基本月額と総報酬月額相当額の合計が50万円を超えると、老齢年金が減額される

ことになっています(改定前は48万円)。基本月額は老齢厚生年金の報酬比例部分のことなので、60歳以降の賃金が下がればその分基本月額も下がり、老齢年金は減りにくくなります。この点を強調し「賃金が維持されても、手放しで喜ぶべきではない」と示す記事もありますが、

老齢年金が減るだけで全体の収入は増えますし、会社もこの点を考慮して賃金を設定する

ため、それほど気にする必要はないかもしれません。Aさんが65歳から老齢年金をもらう場合の収入(月額)は次の通りです。

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賃金が60%に下がったとしても月額43万4492円なので、前述した月額38万5137円(65~69歳の1世帯1カ月当たりの実支出)を超えます。

4 60歳から老齢年金をもらう場合は?

60歳から65歳までの生活が不安な場合、「繰り上げ受給」といって、老齢年金をもらう時期を前倒しにすることができます。ここでは支給を60歳に繰り上げることを想定します。この場合、老齢年金(加給年金は繰り上げできず、65歳から満額を支給)は60歳からもらえますが、

支給を繰り上げた5年分、支給額が減る(Aさんの場合、24%の減額)

ので注意が必要です。また、老齢年金と「高年齢雇用継続給付」を同時にもらう場合も、老齢年金が減ります。高年齢雇用継続給付とは、雇用保険給付の1つで、

賃金額が60歳到達時の75%未満に低下した場合に、低下後の賃金に一定率を掛けた額の給付を受けられる制度(65歳になると支給停止)

です。Aさんが60歳から老齢年金をもらう場合の収入(月額)は次の通りです。

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支給を繰り上げた分、60~64歳の収入は安定しますが、65歳以降の老齢年金は減るので、慎重な判断が必要です。

5 75歳から老齢年金をもらう場合

老後の生活に余裕がありそうな場合、繰り上げ受給とは逆に、「繰り下げ受給」といって老齢年金をもらう時期を後ろ倒しにすることができます。ここでは支給を75歳に繰り下げることを想定します。この場合、老齢年金(加給年金を除く)は75歳からもらうことができ、

支給を繰り下げた10年分、支給額が増える(Aさんの場合、84%の増額)

ことになります。ただし、繰り下げ受給だと加給年金は一切もらえなくなるので注意する必要があります。Aさんが75歳から老齢年金をもらう場合の収入(月額)は次の通りです。

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支給を繰り下げた分、75歳以降の収入が多くなります。ただ、65~74歳の間は賃金や私的な年金などで生活しなければならないので、60歳以降も賃金が多い人や貯蓄に余裕がある人に向いているといえます。

以上(2024年8月更新)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)

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画像:takasu-Adobe Stock

2024年版「中小企業白書」の要点 中小企業が取り組むべき課題は人手不足と生産性向上

書いてあること

  • 主な読者:2024年版「中小企業白書」から、現在の中小企業の課題を知りたい経営者
  • 課題:現状、中小企業が抱えている課題と解決策の事例を知り、他社との競争に勝ちたい
  • 解決策:主な課題は「人手不足」「生産性向上」。取り組みは賃上げや省力化投資など

1 2024年を中小企業の飛躍の年に!

新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」)が5類に移行してから1年余り。このタイミングで発刊された2024年版「中小企業白書」(以下「白書」)をひもとくと、

中小企業の業況は、業種によるばらつきはあるものの、コロナ禍の落ち込みから回復してきている

とあります。

しかし、順風満帆ではありません。多くの中小企業は人材不足に直面していますし、過去最高水準となった賃上げにも対応しなければなりません。足りない人材を補うためにも、人件費を捻出するためにも、省力化投資などを通して生産性向上を目指す必要性がありそうです。

この記事では、「人手不足」と「生産性向上」の2つの課題を取り上げ、その解決のヒントを紹介します。また、この2つ以外にも、白書の中で紹介されている中小企業の課題(事業承継やBCP(事業継続計画)など)についても簡単に解説します。

なお、以降で紹介する図表の出所は全て白書であることや、分かりやすさを重視したことから、出所の記載や注釈は省略しています。詳細な内容を確認したい場合は、白書の本編をご覧ください。

■中小企業庁「中小企業白書」■
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/

2 人手不足:外国人雇用にも注目しつつ、職場環境を整備

コロナが5類に移行し、中小企業の事業活動が再び活発化しています。一方、時間外労働の上限規制などにより、少ない社員に頼る働き方は難しくなり、人手が必要になります。しかし、そんな中小企業の思いとは裏腹に、人手不足はますます深刻化しています。中小企業は、女性・高齢者の他、外国人労働者などの活用にも目を向ける時期にきています。また、自社の職場環境・制度を見直し、整備することなども必要でしょう。

1)外国人労働者の活用

日本人だけを対象とした採用活動では、人手不足の解消が難しくなってきた中、外国人労働者の活用が期待されています。実際、図表1の通り、外国人労働者の数・就業者全体に占める割合は共に上昇傾向にあります。

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また、白書の別のデータでは、2070年には日本の生産年齢人口(15~64歳の人口)のうち、14.9%が外国人になるという推計もあります。将来的な人材確保を見据えて、今のうちから外国人雇用に目を向け、検討してみる価値はあるでしょう。

厚生労働省では、各ハローワークに外国人雇用に関する相談を受け付ける「外国人雇用管理アドバイザー」を置いたり、外国人が働きやすい環境づくりに取り組んだ企業に、最大57万円を助成する「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」を設けたりしています。詳細は厚生労働省ウェブサイトをご確認ください。

■厚生労働省「外国人を雇用する事業主への支援策」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page11_00027.html

2)職場環境・制度の整備

自社の職場環境・制度を整備することも、人手不足を解消する上では不可欠です。既存社員の離職防止だけでなく、自社の取り組みを積極的にPRすることで、新規採用にもつながるでしょう。

実際、白書によると、人材を十分に確保できている企業では、働きやすい職場環境・制度の整備が進んでいます。図表2は、人材を十分に確保できている企業の取り組みをまとめたもので、特に、賃金や賞与の引き上げ(賃上げ)に取り組んでいる企業の割合が高いことが分かります。

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厚生労働省では、下記ページにて、人材確保につながる職場環境・制度のポイントや事例、相談窓口などを紹介しています。看護・介護・保育・建設については、その分野特有の人材確保対策を紹介しているのでご確認ください。

■厚生労働省「人材確保対策」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000053276.html

3)賃上げ

図表3の通り、最低賃金の改定率・春闘の賃上げ率は、2023年度時点で過去最高水準となっています。一方、物価上昇などの影響を受けて、防衛的賃上げ(業績の改善が見られない中で、離職防止などのために行う賃上げ)を実施する企業も多く、いかに収益を上げて、賃金の原資を確保するかが重要になってきます。

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賃金の原資確保のために行った施策には、人件費以外のコスト削減、価格転嫁、労働時間の削減などが挙げられます。

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厚生労働省では、賃上げを実施した企業の取り組み事例や、各地域における平均的な賃金額など、賃上げのために参考となる情報を掲載する「賃金引き上げ特設ページ」を開設しています。詳細については、こちらをご確認ください。

■厚生労働省「賃金引き上げ特設ページ」■
https://saiteichingin.mhlw.go.jp/chingin/

3 生産性向上:コスト削減と単価引き上げ

日本は就業者数が減少する中、OECD(経済協力開発機構)加盟国のうちで、労働生産性が平均より低くなっており、省力化投資などによる生産性向上が重要視されています。

1)省力化投資

生産性向上を図るための省力化(人間が行う作業を見直して効率化を図り、機械やシステムを導入することで作業負担を減らす取り組み)に向けた設備投資が注目されており、図表5のように、省力化投資を実施した企業は、売上高にプラスの変化が見られる傾向にあります。

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省力化投資の具体例として、

  • 製品製造時の全数検査を、人に代わって行う自動検査装置の導入
  • EDI(電子データ交換)を活用した販売管理システムの構築

に取り組む企業などがあります。

また、省力化投資を支援する取り組みもあります。例えば、経済産業省では、賃上げに向けて省力化等の大規模投資を行った場合、最大50億円を補助する「中堅・中小企業成長投資補助金」を実施しています。また、中小企業庁では、IoTやロボットなどを特定のカタログから選択・導入した場合、最大1500万円を補助する「中小企業省力化投資補助金」を実施しています。

■中堅・中小企業成長投資補助金■
https://seichotoushi-hojo.jp/
■中小企業省力化投資補助金■
https://shoryokuka.smrj.go.jp/

2)価格転嫁

生産性という言葉には様々な意味がありますが、1人当たりや1時間当たりで生み出す付加価値の額として捉えるのであれば、値上げの視点も重要です。

バブル期以降、日本企業は低コスト化・数量増加の取り組みを続けてきました。ですが、その結果、大企業の売上高や利益率は増加する一方、中小企業は発注側の売上原価低減の動きの中で低迷したままです。白書でも、「今後は低コスト化・数量増加以上に、単価の引き上げも重視されている」としています。

コスト増加分を十分に価格転嫁できていない企業は多いですが、その中でも取引先との価格協議を実施した企業は、自社の意向を価格に反映できている傾向があり、協議を実施できていない企業に比べて、価格転嫁に成功しやすいことが分かります。

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また、自社の商品やサービスについて、競合他社との差別化ができている企業ほど、価格転嫁も進んでいる傾向にあります。価格転嫁の協議を有利に運ぶために、いま一度、自社商品・サービスの強みを分析するのもよいでしょう。

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中小企業庁は、中小企業が取引先と適切に価格交渉・価格転嫁できる環境を整備するために、各都道府県のよろず支援拠点に「価格転嫁サポート窓口」を置いています。詳細については、こちらをご確認ください。

■中小企業庁「価格転嫁サポート窓口」■
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/tenka_support.html

4 その他の課題と解決のヒント

「人手不足」「生産性向上」以外にも、中小企業は以下のような課題を抱えています。それぞれの課題に対応する解決策の事例も簡潔に記載しますので、自社の問題を解決する際のヒントとしていただけましたら幸いです。

1)売上・受注の停滞、減少

コロナの5類移行の後も「宿泊」「交通」の消費が戻り切らないなど、コロナ禍の影響は続いており、現在も経営改善・再生支援のニーズは高いです。

各都道府県の「中小企業活性化協議会」では、企業の課題・問題点、ビジネスモデルに合わせ、収益力改善に向けた計画や、事業再生に必要な金融支援策の策定をサポートしています。2023年度には、中小企業の経営改善・再生支援を加速するための経済産業省「挑戦する中小企業応援パッケージ」の一環で、中小企業活性化協議会の専門家(弁護士)を倍増させるなどの体制強化も始まりました。詳細については、こちらをご確認ください。

■中小機構「中小企業活性化協議会」■
https://www.smrj.go.jp/sme/succession/revitalization/index.html
■経済産業省「挑戦する中小企業応援パッケージ」■
https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230830002/20230830002.html

2)事業承継・後継者不在への対応策

白書によると、2023年時点で54.5%の中小企業で後継者が不足しています。また、後継者が決まっている企業も、経営能力や相続税や贈与税などの問題を抱えていることがあります。

後継者不在の問題については第三者承継(M&A)を視野に入れることや、事業承継税制を利用するなどの取り組みが、解決策として挙げられます。また、各金融機関では、地域企業後継者の支援エコシステムの醸成・構築が進められていますので、問い合わせてみるのもよいでしょう。

なお、事業承継税制は、後継者が取得した一定の資産について、相続税や贈与税の納税を猶予する制度で、2025年度末まで、納税猶予の対象者などを大幅に拡充する特例措置が講じられています。詳細については、こちらをご確認ください。

■中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」■
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_zouyo_souzoku.html

3)脱炭素化への対応

近年は、中小企業が自社の取引先から、省エネルギーやCO2排出量削減目標の策定など、脱炭素化への対応要請を受けることも多いです。ただ、75.0%の中小企業が脱炭素化に当たって、取引先からのサポートを受けられていないというデータもあり、公的機関の補助金などの支援を利用するなど、外部からの協力を仰ぐことも重要になってきます。

経済産業省では、脱炭素化に向けて、一定の取り組みをする中小企業に対する補助金の支給(例:IT導入補助金、省エネ補助金)などを行っています。また、中小機構は、脱炭素化の取り組みについて、専門家のアドバイスなどが受けられる「カーボンニュートラル相談窓口」を設置しています。詳細については、こちらをご確認ください。

■経済産業省「中小企業等のカーボンニュートラル支援策」(下記URL中段)■
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/SME/index.html
■中小機構「カーボンニュートラルに関する支援」■
https://www.smrj.go.jp/sme/sdgs/favgos000001to2v.html

4)BCPの見直し

2024年1月に「令和6年能登半島地震」が発生し、広い範囲にわたって建物や設備の損傷などの被害を受け、災害への備えとして、BCPの策定・見直しが更に重要視されています。

中小企業庁では、中小企業向けにBCP策定の手引きなどをまとめています。詳細については、こちらをご確認ください。

■事業継続力強化計画(中小企業庁)■
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/keizokuryoku.html

以上(2024年8月作成)

pj80167
画像:ChatGPT

モスクの経営戦略 寄付金や物販等の収入増加策や注意すべき税制を紹介

書いてあること

  • 主な読者:宗教法人、特にモスク(ムスリム向け)の経営者
  • 課題:動向をはじめ、寄付や物販などの収入確保策、注意すべき税制を知りたい
  • 解決策:イスラムに関する講座などを開催して参加費用を集めたり、ハラールショップを併設して物販で収入を確保したりする事例がある

1 日本国内のイスラム関係団体、モスクの動向

1)モスクの起源について

モスクとは、ムスリム(イスラム教徒)の礼拝施設を指します。日本国内では、礼拝施設としてだけでなく、在住ムスリムのコミュニティーの場所でもあり、冠婚葬祭や、ムスリム以外の人に対してイスラム文化を伝える役割も担っています。

日本で最初に建設されたモスクは,1935年に神戸在住のインド系ムスリムや在日タタール人によって建設された「神戸モスク」といわれます。1990年代後半から2000年代にかけて、モスクの建設ラッシュが進み、早稲田大学の店田廣文名誉教授が代表を務める研究調査「滞日ムスリム調査プロジェクト」によると、2022年2月時点で国内に113カ所のモスクがあるとされています。

モスクが増えた背景として、次のようなことが挙げられます。

  • 自営業者として成功を収めたムスリムや留学生が各地に増加したことで、居住地の近くにモスクを求める声が増えたこと
  • モスク建設資金を確保するための情報発信の方法が多様化したこと(例:既存モスクの訪問、口コミ、メール、ウェブサイトなど)

2)イスラム関係の法人化について

前述の「滞日ムスリム調査プロジェクト」によると、2022年5月の時点でイスラム関係団体の宗教法人は30社、2022年2月時点でイスラム関係団体の一般社団法人は28社となっています。

■滞日ムスリム調査プロジェクト■
https://www.imemgs.com/

2 寄付金や物販等の収入増加策

1)寄付金について

礼拝の参加者に振る舞われる食事や礼拝堂、施設の維持修繕などのモスクの運営に必要な費用は、寄付金によって賄われています。例えば、日本イスラーム文化センターでは14軒のモスクを管理しており、月間の管理費を50万円としています。

ウェブサイトを開設しているモスクでは、銀行口座への振り込みに限らず、オンライン上で寄附ができるシステムを用意して寄付を募っています。

また、モスクの建設の際には、国内の寄付だけでなく、SNSによって同胞のイスラム教徒や母国の著名人に協力を仰ぎ、資金を集めているケースもあります。

2)寄付以外の収入確保策について

寄付によって資金を募るだけでなく、イスラムに関する講座や書道教室を開催して参加費用を集めたり、モスクにハラールショップを併設したりしており、お土産やハラールフード、書籍などの物販によって資金を確保しているところもあります(詳細は事例で後述)。

3 運営に当たり注意するべき税制、法規制

1)宗教法人に関する税務について

宗教団体の中には、「宗教法人」として法人格を持つ(法人化)ところもあります。法人化することで財産の管理が容易になったり、宗教活動に係るものは法人税等が非課税になったりするといったメリットがあります。

なお、モスクの維持管理や運営費用が寄付のみで厳しい場合には、さまざまな活動を通して収入を得る必要がありますが、活動内容によっては収益事業として課税対象になるケースもあるので、注意が必要です。

宗教法人に関する税務の詳細については、下記をご参照ください。

■国税庁「令和6年版宗教法人の税務(源泉徴収全般の項目にリンクがあります)」■
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/01.htm

2)宗教法人法

宗教法人の設立、管理、規則、解散などについて定めた法律です。法律違反があった場合、内容によっては罰則や解散命令の対象になります。例えば、所轄庁への書類の提出義務(毎会計年度終了後4カ月以内に、役員名簿や財産目録などの書類の写しを、所轄庁に提出する)に違反した場合は「10万円の過料」が科せられます。また、法令や定款に著しく違反し、または公共の福祉を害する行為をした場合は解散命令が出されることがあります。

宗教法人法の詳細や、宗教法人法に基づく各手続きについては、下記をご参照ください。

■宗教法人法■
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326AC0000000126
■文化庁「宗教法人と宗務行政」■
https://www.bunka.go.jp/seisaku/shukyohojin/index.html

3)法人等による寄付の不当な勧誘の防止等に関する法律

不当な宗教勧誘によって高額な寄付を迫られる問題を未然に防止するための法律です。宗教法人が寄付の勧誘を行う際に、寄付者の自由な意思を抑圧し、適切な判断が難しい状況に陥ることがないようにしたり、寄付者やその配偶者・親族の生活の維持を困難にしたりしないようにすることなどを求めています。

法人等による寄付の不当な勧誘の防止等に関する法律の詳細については、下記をご参照ください。

■消費者庁「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」■
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/donation_solicitation/

4 日本国内の宗教法人、モスクの活動事例

1)東京ジャーミイ・ディヤーナト トルコ文化センター(東京都渋谷区)

日本国内では最大規模とされているモスクです。礼拝には多くの外国人が訪れますが、東南アジアのムスリムが増えていることから、礼拝の説教は信者のニーズに合わせて、トルコ語、日本語、英語などで執り行われています。

また、施設内には書店やハラールマーケットを併設しており、そこで物販を行っている他、イスラムに関する基礎講座やアラビア語書道教室などのイベントも開催されています。

■東京ジャーミイ・ディヤーナト トルコ文化センター■
https://tokyocamii.org/ja/

2)岐阜ファティフモスク(岐阜県各務原市)

カラオケ店を改装して設立されたモスクで、東海地域に在住のトルコ、パキスタン、インドネシア出身のイスラム教徒が礼拝に訪れているといいます。

施設の完成記念や、2024年で日本とトルコの外交樹立から100年が経過した節目のタイミングで、イスラム教やトルコの文化を知ってもらうためのイベントを開催しています。イベントでは、ケバブやトルコアイスなど

手作りの伝統料理や、雑貨の販売、モスク内の見学などを通して、イスラム教徒と地元住民との交流が実現できたとしています。

■岐阜ファティフモスク(Facebookページ)■
https://www.facebook.com/jpgufatih

3)マスジド大塚(東京都豊島区)

日本イスラーム文化センターが管理、運営する施設です。パキスタンやバングラデシュ、ウズベキスタンやインドネシアの学生など、さまざまな国籍のムスリムが訪れるといいます。

イスラムに関する勉強会などのイベントをはじめ、炊き出しホームレス支援や災害に見舞われた被災地の支援といった慈善活動に積極的に取り組んでいます。子どもがクルアーン(コーラン)を学べる「子供向けクルアーンクラス」も運営しています。

■日本イスラーム文化センター「マスジド大塚」■
https://www.islam.or.jp/

4)名古屋イスラミックセンター名古屋モスク(愛知県名古屋市)

名古屋モスクと岐阜モスクを運営する宗教法人です。モスクは礼拝の場だけではなく、アラビア語のレッスンなどの勉強会や、警察や税関の職員が犯罪予防について話をする講義場としても活用されています。

また、教育機関向けにイスラム文化などを解説する講演、出張講義を行っています。

■名古屋イスラミックセンター名古屋モスク■
https://nagoyamosque.com/

以上(2024年7月作成)

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画像:vladimirzhoga-Adobe Stock

【かんたん会社法(11)】 企業再編の1つである「事業譲渡」

書いてあること

  • 主な読者:企業再編の1つとして「事業譲渡」の基本を知りたい人
  • 課題:事業譲渡の手続きはとても複雑そうで、とっつき難い
  • 解決策:通常、事業譲渡では買い手が事業を選択し、対価は金銭となる

1 さまざまな企業再編

「M&A(Mergers and Acquisitions)」は、企業が成長や競争力を高めるための戦略であり、具体的には、新市場の開拓、競争相手の排除、コスト削減、経済規模の拡大などさまざまな目的で実施されます。M&Aには、合併と買収という2つの意味がありますが、両方の意味を含むものとして、「企業再編」という言葉が使われることがあります。主な企業再編には次の7つの手法があります。

  • 株式譲渡:会社の株式の全部または一部を他の会社に譲渡する
  • 事業譲渡:事業の全部または一部を他の会社に譲渡する
  • 合併:複数の会社を1つにする。吸収合併と新設合併とがある
  • 会社分割:事業の全部または一部を他の会社に分割して承継する。吸収分割と新設分割とがある
  • 株式交換:既にある会社を100%子会社にするために、子会社となる会社の株主の株式と親会社となる会社の株式を交換する
  • 株式移転:既にある複数の会社が新規に100%親会社を設立するために、それぞれが保有する株式を100%親会社に移転し、対価として100%親会社の株式の交付を受ける
  • 株式交付:既にある会社を子会社(100%子会社とは限らない)にするために当該子会社の株式を譲り受け、対価として自社株式を交付する

ここで紹介するのは上記のうち、事業譲渡であり、基本的に譲渡会社(売り手)の立場で紹介します。

2 事業譲渡とは

事業譲渡とは、自社の全部または一部の事業を別の企業に売り渡すことです。事業そのものは存続し、事業を運営する会社が変わるイメージです。大きな特徴は、

  • 譲渡する事業の内容、範囲を自由に選択できる
  • 通常、対価は株式などではなく金銭となる

ことです。

また、事業譲渡では当該事業に従事する従業員、取引関係なども対象にするのが通常なので、譲受側は新たに従業員教育や営業をせずに事業を開始できます。一方で、従業員との雇用関係や取引先との売買契約などをすべて巻き直す必要があるため、実務が煩雑になる点はデメリットです。

3 事業譲渡の手続き

1)株主総会の特別決議

事業譲渡において、「事業の全部を譲渡する場合」「事業の【重要】な一部を譲渡する場合」などは、譲渡会社において株主総会の特別決議を経ることが必要です。この株主総会の招集の際は、通常、「事業譲渡を行う理由」「契約の内容の概要」「対価の算定の相当性に関する事項の概要」を記載した参考書類を株主に交付します。

なお、ここでいう【重要】とは、例えば、その事業の帳簿価額が会社の総資産の20%(定款の定めで引き下げることが可能)を超える場合などですが、基本的には個別の解釈によって決まります。

2)反対株主の買取請求

さらに、譲渡会社は、事業譲渡に反対する株主のために、株式買取請求の機会を与えなければなりません。具体的には、原則として、効力発生日の20日前までに事業譲渡を行う旨を株主に通知します。これを受け、事業譲渡に反対する株主は、事業譲渡の効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に、自己の有する株式を公正な価格で買い取るよう譲渡会社に請求できます。

譲渡会社は、反対株主との間で買取価格の協議が調った場合は、効力発生日から60日以内にその金額を支払います。一方、効力発生日から30日以内に協議が調わなかった場合、譲渡会社または株主はその期間の満了の日後30日以内であれば、裁判所に対して価格の決定の申し立てをすることができます。

3)上記以外の場合の手続き

事業譲渡に関して、上記と異なる場合として、

  • 簡易事業譲渡:「事業の重要な一部」の譲渡をしない事業譲渡
  • 略式事業譲渡:譲渡会社が譲受会社の特別支配会社である事業譲渡

があります。

簡易事業譲渡は、具体的には、譲渡資産について、その帳簿価額が、当該会社の総資産額の5分の1を超えないような事業譲渡を指します。このような場合は、「事業の重要な一部」の譲渡には該当しないため、株主総会決議は不要になります。

また、譲渡会社が譲受会社の特別支配会社である場合、略式事業譲渡に該当するため、株主総会決議は不要になります。なお、特別支配会社とは、単独である会社の議決権の90%以上を有する会社、または完全子会社などの保有分と合わせてある会社の議決権の90%以上を有する会社を指します。

4 事業譲渡における注意事項

1)競業禁止義務

事業譲渡の効力が生じたときは、譲渡契約の内容に従って財産の引き渡しなどを行います。合併などと違い、債権・債務や契約上の地位の移転については個別に相手方の同意を得なければなりません。

また、事業譲渡には会社法上、競業禁止義務が定められています。すなわち、譲渡会社は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一および隣接する市区町村の区域内で、事業譲渡を行った日から20年間、同一の事業を行うことはできません。もっとも、特約によってかかる義務を排除することができるため、実務上、事業譲渡契約においてこれよりも短い期間の競業避止義務の定めを置くことが多いでしょう。

なお、この競業禁止規定に関係なく、そもそも譲渡会社は不正競争の目的をもって同一の事業を行うことはできません。

2)商号の利用

譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合、譲受会社も譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負います。この弁済責任を負わないようにするためには、事業譲渡の後、遅滞なく、

譲受会社は、本店の所在地で譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨を登記するか、譲受会社および譲渡会社から第三者に対してその旨を通知する

必要があります。

また、譲受会社が商号を使用しない場合でも、譲受会社が譲渡会社の債務を引き受ける旨の広告(債務を引き受ける旨の明確な記載がなくても、社会通念上、債権者において、譲受人が譲渡人の事業によって生じた債務を引き受けたものと信じるものと認められる広告であればこれに該当します)を行ったときは、譲渡会社の債権者は、譲受会社に対して弁済の請求をすることができます。

以上(2024年8月更新)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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画像:Mariko Mitsuda

【熱中症対策】 いよいよ夏本番! 改めて確認したい「熱中症」の基礎

書いてあること

  • 主な読者:社員の「熱中症」対策を進めたい経営者
  • 課題:まずは熱中症に関する基本的な情報を知りたい
  • 解決策:熱中症で緊急搬送されている人数、2024年夏の暑さの予報、熱中症の主な症状、熱中症になりやすい人・環境を把握する

1 「熱中症」がいよいよ本格化、対策は必須!

2024年7月22日、今年最多となる41箇所の地域に「熱中症警戒アラート」が発表されました。全国的に気温が著しく上昇し、地域によっては40度に迫るほどの猛暑日が続いています。社員の熱中症対策は必須です。

例年、熱中症で救急搬送される人数は5月ごろから徐々に増え始め、7月~8月にピークを迎えます。総務省消防庁「救急搬送人員及び死亡者数(年別推移)」によると、2023年7月に救急搬送された人数は3万6549人、5月~9月の累計では9万1467人となっています。

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2024年6月時点の気象庁「全国の季節予報」によると、

2024年の7月から9月の東日本・西日本の平均気温は、30%の確率で平年並み、60%の確率で平年より高くなる見込み

です。コロナ禍を経て、日ごろからマスクを着用することもありますし、自宅でテレワークをする社員もいます。自宅はオフィスよりも空調設備が整っていないことが多いので、屋内でも社員が熱中症になるリスクは高まっているといえます。

そこで、熱中症対策の手始めとして、具体的な症状と熱中症になりやすい条件を確認していきましょう!

2 熱中症はどのような状態なのか?

熱中症の定義は次の通りです。

体温を平熱に保つために汗をかき、体内の水分や塩分(ナトリウムなど)の減少や血液の流れが滞るなどして、体温が上昇して重要な臓器が高温にさらされたりすることにより発症する障害の総称(環境省「熱中症環境保健マニュアル」)

暑い場所などで作業し続けると、体内で熱が発生して体温が上昇します。通常は体温調節機能が働き、汗をかいて熱を体外に逃がすことで体温が下がります。しかし、体内の水分や塩分のバランスが崩れると体温調節機能が働きません。その結果、体温が下がらず熱中症になることがあります。

熱中症の主な症状は次の通りです。

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熱中症は目まいなどの軽度な症状で済むこともあります。しかし、重症化すると意識障害などを起こし、最悪のケースでは死に至ることもあります。そのため、いち早く症状に気付き、重症化する前に対処しなければなりません。

3 どんな人が熱中症になりやすい?

個人の体質、普段の生活習慣、その日の体調など、さまざまな理由で熱中症になりやすい人がいます。例えば、寝不足や食欲不振などで体調が優れない、下痢や二日酔いなどで脱水症状気味といったときは注意が必要です。また、肥満の人や、運動習慣がなく体力や持久力のない人も熱中症になりやすいとされています。

その他、高齢者や持病のある人、体に障害のある人、(日焼けを防ぐために)暑い中でも厚手の長袖を着ている人なども注意が必要です。

感染症対策や業務上の必要性も含め、マスクを着用する人も注意が必要です。特に高温多湿の状況でマスクを着用していると、皮膚からの熱が逃げにくくなったり、喉が渇いていることに気付かなかったりすることから、体温調節がしづらく熱中症になるリスクが高まります。

4 高温多湿でなくても熱中症になりやすい条件は?

熱中症になりやすい条件は、

  • 風が弱い
  • 日差しが強い
  • 急に暑くなった日
  • 熱帯夜の翌日
  • 照り返しが強い場所
  • 熱波が襲来するとき

などです。オフィスであっても、熱が発生するサーバーや複合機などの業務機器が近くにある場所での作業は注意が必要です。また、テレワークの場合、電話やウェブ会議の音声を聞き取りやすくしたり、仕事に集中したりするためにドアや窓を閉め切ることがあり得ます。また、自室にエアコンがないという人もいます。こうした環境で長時間作業を続けると、熱中症になりやすくなります。

以上(2024年7月更新)

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