スタートアップでも問題になりがちな人事労務の落とし穴

スタートアップや中小企業では、人事労務に精通した人材が確保できておらず、労使間の紛争が生じてから初めて、法令に反する取扱いなどが顕在化するケースが散見されます。今回は、スタートアップや中小企業において、落とし穴となりがちな人事労務の論点について、解説します。

1 業務委託と雇用の問題について

創業初期のスタートアップなどでは、業務委託の形式でエンジニアや営業担当などの人材を登用するケースが珍しくありません。もっとも、これらの人材が、労働基準法所定の「労働者」に該当すると判断される場合、契約書の形式を問わず、労働時間の規制(法定労働時間週40時間、1日8時間)、時間外労働の割増賃金、解雇規制などの規律が適用されることとなります。業務委託の人材が「労働者」に該当する場合、それまでの取扱いが違法となる可能性が高いことはもちろんですが、後の資金調達時のDDや上場審査においてマイナス評価を受けることもあるため、重要な論点の一つとして認識しておく必要があります。

「労働者性」の判断基準は、厚生労働省が「労働基準法研究会報告」(昭和60年12月19日)において公表しており、裁判例もおおむねこれに沿った判断をしているため、非常に参考になります。

~「労働者性」の判断基準の要点~

    以下の(1)指揮監督下の労働、(2)報酬の労務対償性を中心的に検討し、判断に困難が生じる場合には、(3)判断を補強する要素も加味して、「労働者性」の判断を行う。

    (1)指揮監督下の労働

    ①仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
    ②業務遂行上の指揮監督の有無
    業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無を重要な要素としつつ、通常予定されている業務以外の業務への従事を命じられることがある場合には、指揮命令を補強する要素として考慮する。
    ③拘束性の有無
    勤務場所及び勤務時間の指定・管理の有無を考慮する。
    ④代替制の有無
    労務提供の代替性が認められる場合には指揮監督を否定する補強的な要素として考慮する。

    (2)報酬の労務対償性

    ⑤時間給を基礎としているか否か、欠勤した場合の報酬の控除の有無等

    (3)判断を補強する要素

    ⑥事業者性の有無
    機械・器具の費用等の負担の有無、報酬の額等を考慮する。

    ⑦専属性の有無
    他社の業務に従事することの制約、時間的困難性、報酬の固定給部分の存否、程度等を考慮する。

「労働者性」については、上記のとおり、諸要素を勘案した上で個別具体的に判断するほかありませんが、紛争に至らずとも、資金調達時のDDや上場審査において論点となりやすい事項です。そのため、自社においてきちんとアセスメントを行った上で、「労働者」に該当しないといえるのであれば、その理由についてきちんと整理しておく必要があるといえます。

2 固定残業代制度について

法定時間外労働については、通常の労働時間における賃金に25%以上を乗じた割増賃金を支給しなければならないというのが、労働基準法所定の時間外労働の割増賃金に関する規律です。
しかし、実務では、(1)基本給の中にX時間分の時間外労働の割増賃金が含まれているという基本給組込型の固定残業代制度や、(2)一定の手当が時間外労働の割増賃金の趣旨で支給される定額支給型の固定残業代制度が採用されている例もあるでしょう。
このような労働基準法所定の計算方法によらない割増賃金の支給方法も、直ちに違法となるものではありませんが、適法な割増賃金の支給が認められるためには、少なくとも、

  • 固定残業代が基本給と判別できること
  • 固定残業代が時間外労働等に対する手当であることが明確であること
  • 支給された固定残業代が労働基準法所定の計算方法による割増賃金の金額を上回っていること

3つの要件を充足する必要があります。

上の1.と2.の要件を充足しない場合には、そもそも、割増賃金の支払いがなされていないことになるため、直ちに是正が必要です。また、3.の要件との関係では、固定残業代が労働基準法所定の算定方法による割増賃金を下回っている場合、当然、不足分の支払いをしなければなりません。そのため、割増賃金の計算の便宜のために固定残業代を導入しているからといって、労働時間の把握や給与計算を省くことはできず、従業員の労働時間を適切に把握し、割増賃金の支給に不足がないか、都度、検証しなければなりません。

固定残業代について、適法な割増賃金の支給が認められない場合、支給していた固定残業代を含む賃金を基礎として割増賃金が算定され、未払賃金を請求されてしまうリスクが生じるため、固定残業代制度を導入する場合、または、既にしている場合には、一度検証を行うべきです。

3 労働時間の把握について

1)労働時間と安全配慮

企業が適正に労働時間を把握し、適正な賃金を支払うべきであることはもちろんですが、昨今では、長時間労働により精神障害を発病し、労働災害の問題に発展するケースも世間の耳目を集めるところとなっており、従業員の健康への配慮という観点からも、労働時間の適正な把握は企業の重要な課題の一つとなっているといえます。
働き方改革関連法による改正労働安全衛生法は、2019年4月1日より、企業に対し、タイムカード、パソコンの使用時間の記録などの客観的な方法、その他適切な方法により、従業員(※管理監督者を含みます。)の労働時間の状況を把握する義務を課しています。

特に、長時間労働と精神障害の労働災害の問題については、厚生労働省が公表している「心理的負荷による精神障害の認定基準」(平成23年12月26日基発1226第1号、改正令和2年5月29日基発0529第1号)により、ある程度客観的な基準が設けられており、

  • 発病直前の1か月におおむね160時間を超えるような、またはこれに満たない期間にこれと同程度の(例えば3週間におおむね120時間以上の)時間外労働を行った(休憩時間は少ないが手待時間が多い場合等、労働密度が特に低い場合を除く)
  • 発病直前の連続した2か月間に、1月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行い、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった
  • 発病直前の連続した3か月間に、1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行い、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった

のいずれかに該当する場合には、業務による強い心理的負荷が認められるものとして、精神障害が業務上のものであると認められる可能性が高くなるため、労働災害の発生を未然に防ぐという意味でも、労働時間の適正な把握は極めて重要な意味があるといえます。

2)労働時間の適正な把握

2021年2月19日付の東京都新型コロナウイルス感染症対策本部の報道発表資料によると、都内企業(従業員30人以上)のテレワーク導入率は64.8%に上っており、新型コロナウイルスの感染拡大防止の動きも相まって、テレワークが普及しているところですが、テレワークを導入している場合であっても、労働時間の適正な把握は必要です。

労働時間の把握については、厚生労働省が「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)において、その方法論を公表しています。同ガイドラインは、テレワークの場合においても通用するとされていることから(厚生労働省「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(平成30年2月22日策定))、これに従い、労働時間の把握を行うことが望ましいといえます。

ガイドライン上には、タイムカードやパソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録することが、原則的な労働時間の把握方法として挙げられています。しかし、テレワークの場合には、フレックスタイム制の併用などにより、いわゆる中抜け時間などが発生し、客観的な記録のみから労働時間を把握することが困難となりがちであることから、自己申告制を採用するか、これを併用する必要が生じると思われます。

自己申告制を用いる場合には、従業員・管理職いずれに対しても、適正な自己申告が行われるように制度の趣旨・内容を十分に説明し、必要に応じて自己申告の内容と実態に食い違いがないか調査を行うなど、自己申告制度の適正な運用を担保しつつ、適正な自己申告を阻害する要因が生じないよう配慮していくことが望ましいといえます。自己申告制を採用する際の留意点の詳細については、ガイドライン4項(3)「自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置」に記載があるので、是非こちらをご参考にしてください。

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4 解雇に関する規制

少々昔の調査ですが、独立行政法人労働政策研究・研修機構が2012年10月に実施した「従業員の採用と退職に関する実態調査」によると、過去5年間に解雇を実施した企業が挙げた解雇理由としては、「仕事に必要な能力の欠如」が28%と、最も多い「本人の非行」30.8%に次いで2番目に多いものとなっています。特にリソースが限られ、少人数で急速に事業を成長させなければならない初期のスタートアップにおいては、採用した人員のパフォーマンス不足を理由に、解雇が検討されるケースが少なからずあるのではないかと思います。

しかし、企業は、従業員を自由に解雇することはできず、労働契約法に従い、当該解雇について、

  • 客観的合理的理由があること
  • 社会的相当性が認められること

の2つの要件を充足しなければ、仮に解雇を行ったとしても、無効となってしまいます。

能力不足や成績不良などを理由とする解雇の有効性に関する裁判例は多数存在しており、有効・無効いずれの判断がなされた事例も複数存在しています。もっとも、一般的に、裁判例は、a)能力不足や成績不良の程度が重大なものであるか、b)能力不足や成績不良について改善の機会を与えてもなおその見込みがなかったのか等の事情を慎重に検討する傾向にあるため、少なくともこれら2つの事項については、仮に裁判に至った場合であっても裁判所を説得できるだけの根拠を予め準備しておく必要があります。
上記a)との関係でいえば、そもそもの前提として能力不足や成績不良の事実が客観的に存在することが必要となり、経営者や管理職が主観的に能力不足や成績不良を感じているというだけでは解雇の有効性を基礎づける事情としては足りないものといえます。
また、上記b)との関係でいえば、スタートアップの事業スピードを前提とすると、即時に人材の適否を判断したいというニーズがあることも理解できますが、一般論としては、能力不足や成績不良があるからといって直ちに解雇に踏み切ることは難しく、継続的な指導や教育を行った上で、最終的な判断に踏み切る必要があるということもいえるでしょう。

解雇の有効性については、当事者間で折り合いが付かない限り、最終的には裁判所の判断に委ねざるを得ません。解雇が無効と判断される場合、従業員としての地位が継続していることとなるため、原則として、解雇日から現在に至るまでの賃金を利息付きで全て支払わなければならないこととなります。裁判では、判決に至るまでに1年以上の期間を有することも珍しくないため、仮に解雇の無効が判断されれば、原則として1年分以上の給与を利息付きで支払わなければならなくなります。
このように解雇を行うに際しては、非常に大きなリスクを伴うため、解雇を検討する段階において、まず、労働紛争の経験を有する弁護士への相談を行うことを強くお勧めします。

なお、懲戒解雇と普通解雇が混用されることがありますが、懲戒解雇は、単に労働契約を終了させるだけではなく、懲戒処分の中でも最も重いものなので、普通解雇に比してより厳格にその有効性が審査されます。就業規則に定められた懲戒事由に形式的に当てはまるというだけでは、懲戒解雇を有効とする事情としては不足している可能性があるので、より慎重な検討と判断が求められることに留意しましょう。

5 まとめ

今回取り上げた論点は、あくまでスタートアップや中小企業において落とし穴となりがちな代表的な論点に過ぎません。人事労務に関する論点は、これら以外にも無数に存在しており、既存の論点に加えて、働き方改革関連法など、法改正にも対応していかなければならない分野です。リソースが限られている企業では、人事労務を完全に内製化することが難しいところもあるかと思いますが、本稿を一助として危機意識を持っていただき、必要に応じて外部の専門家からの協力も得ながら、リスクコントロールを図っていただけますと幸いです。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年3月8日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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大切な「ロゴ」を模倣から守るために知っておくべき法律の知識

書いてあること

  • 主な読者:ロゴの模倣などを防止するために、知的財産化したい経営者
  • 課題:知的財産にはいろいろな種類があり、何をしたらよいのか分からない
  • 解決策:商標法による保護を受けることが基本

1 自社のロゴを守るのは商標法・著作権法・不正競争防止法

企業やサービスのロゴには、さまざま思いが込められています。また、他の企業やサービスとの違いを分かりやすく識別するものでもあります。そのため、ロゴの模倣などを防止することはとても大切です。法的には、商標法・著作権法・不正競争防止法によって保護できます。

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基本は商標法によって半永久的に保護することなので、弁護士や弁理士に相談することが先決となります。商標法の詳細や、著作権法・不正競争防止法についても知りたい方は、次章からまとめていますので、参考にしてください。

2 商標法におけるロゴの保護

1)商標とは

商標法では、商標(商品・サービスに付される目印)を保護しています。商標には、企業名や商品名などビジネスで使用する目印全般が該当し、文字だけや図形だけで構成されたロゴ、文字と図形を組み合わせたロゴの他、コマーシャルなどで流れるサウンドロゴなども該当します。

商標は特許庁に出願し、審査と登録を経た上で、権利(商標権)が発生します。商標権を侵害された場合、侵害行為の差止めを求めること、損害賠償を請求することなどができます。登録する際は、商標とともに、その商標を使用している(使用を予定している)商品または役務を指定します。

2)商標法では何が守られる?

商標が登録されると、指定商品・指定役務について登録商標を使用する権利を専有できます(専用権)。さらに、他人による類似範囲の使用を排除することができます(禁止権)。

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例えば、自社が「XYZ」という商標を、指定商品のノートブックで登録した場合、他者は「XYZ」という商標をノートブックで使用することはできません。この効力はノートブックと類似の商品であるルーズリーフ用紙にも及ぶので、他者がルーズリーフ用紙に「XYZ」という商標の使用することを禁止できます。類似の商品か否かは、特許庁が作成する「類似商品・役務審査基準」に基づいて判断されます。商標自体が類似しているか否かは、商標の外観、称呼(読み)および観念(意味)という3つの点から主に判断されます。一方、靴などの非類似の商品の場合、他人は「XYZ」という商標を使用することができます。

3)商標法でロゴを保護する場合の注意点

ノートブックと靴で説明した非類似の商品の課題を解消するには、ノートブックだけでなく、靴も指定して商標を使用する商品・役務の指定を増やす方法があります。ただし、商標を出願料や登録料などは区分数(指定商品・指定役務の数)に応じて変わるので、多くの商品・役務を指定すると費用が高くなります。

また、多くの商品・役務を指定して商標を登録しても、実際に使用していなければ登録を取り消される恐れがあります。3年以上使われていない登録された商標に対して、誰でも取り消しを求めることができる「不使用取消審判」という制度があるからです(ただし、被請求者を害することを目的としている場合は、権利濫用となり認められません)。

ちなみに、ロゴのデザインを検討する際に、文字だけのものと図形があるものとでは、どちらのほうが効力の及ぶ範囲が広いのか疑問を持つかもしれません。結論はどちらも登録することです。文字と図形はそれぞれが違う商標となるからです。

4)登録できない商標

全てのロゴが商標として登録できるわけではありません。自他商品・役務を識別できない商標、公益性に反する商標、他人の登録商標または周知・著名商標などと紛らわしい商標などは、商標として登録することができません。登録された商標は工業所有権情報・研修館が運営する「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」で公開されています。ロゴの登録を検討する際は、他人が既に登録していないかを調べておきましょう。

3 著作権法におけるロゴの保護

著作権法では、著作者(著作物を創作した人)などの権利を保護しています。著作物の定義は「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」です。

ロゴが著作物として認められれば、著作権法で保護されます。その場合、商標法のような登録は不要で、著作物を創作した時点から自動的に権利(著作権)が発生します。著作権を侵害された場合、侵害行為の差止めを求めることや、損害賠償を請求することなどができます。となると、「ロゴは商標登録していなくても、著作権法で保護されるので問題ない」と考えるかもしれませんが、一般的に、ロゴは著作物として認められないことが多いとされます。

特に、文字だけのロゴの場合はハードルが高いです。例えば、アサヒスーパードライなどのパッケージで目にする「Asahi」のロゴは、図案化されたデザイン性の高い書体が使用されており、著作物として認められそうです。しかし、裁判例ではAsahiのロゴに対して著作権による保護を認めていません(東京高判平8.1.25)。文字は万人共有の文化的財産であり、また、本来的には情報伝達という実用的機能を有するものであることなどから、著作権の保護の対象には当たらないと判断されています。

一方、図形を使ったロゴの場合、キャラクターなどは著作物として認められる可能性がありますが、シンプルな図形の組み合わせなどは創作性が低いと判断され、著作物として認められない恐れがあります。

4 不正競争防止法におけるロゴの保護

不正競争防止法は知財だけを保護する法律ではありませんが、商標などの知財に対するさまざまな侵害行為を不正競争行為として定めて規制しています。特徴は、商標法では保護の対象としていない商標についても保護していることです。例えば、商標法では、商標の登録が必要であり、商標の指定商品・指定役務と非類似の商品(例えば、ノートブックと靴)については保護されません。この点、不正競争防止法では、登録していない商標や、指定商品・指定役務と非類似の商品における商標についても、侵害行為の差止めや、損害賠償を請求することなどができます。

とはいえ、ロゴに関する不正競争行為が成立する要件のハードルは高いです。例えば、ロゴが広く知られていなければならないので、限られた市場で営業していたり、ロゴを作成してそれほど時間を経ていなかったりする場合は保護を受けられません。

一方、別の視点で重要なのは、他者のロゴの権利を侵害しないことです。知っておきたいのは「周知表示混同惹起行為」「著名表示冒用行為」です。周知表示混同惹起行為とは、「他人の商品・営業の表示(以下「商品等表示」)として需要者の間に周知されているものと同一、または類似の表示を使用し、他人の商品・営業と混同を生じさせる行為」です。また、著名表示冒用行為とは、「他人の商品等表示として著名なものを、自己の商品・営業の表示として使用する行為」です。

以上(2021年2月)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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画像:unsplash

データをクラウドに預ける際に知っておきたいQ&A

書いてあること

  • 主な読者:クラウドの利用を検討しているが、よく理解できていない経営者
  • 課題:サービス自体は便利そうだが、情報漏洩のリスクなどセキュリティー面が心配
  • 解決策:多くのクラウドは、データの暗号化など一定のセキュリティー機能を備えている。自社のセキュリティー要件を満たせるかを利用前にクラウド事業者に確認する

1 そもそもクラウドって何?

クラウドは、サーバーが内蔵するCPU(プロセッサ)やストレージなどといったハードウエアのリソース、またはアプリケーションが備える各種機能などをインターネット経由で提供するという概念、サービスを指します。

クラウドには、SaaS(Software as a Service、サース)、PaaS(Platform as a Service、パース)、IaaS(Infrastructure as a Service、イアースまたはアイアース)の3種類があります。

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SaaSは、アプリケーションが備える各種機能を提供するサービスです。具体的には、メールやチャット、路線検索などの個人向けのサービス、グループウエアやCRM(顧客関係管理)、資材調達などの企業向けのサービスを提供します。対応している分野が幅広いため、一般的には「クラウド=SaaS」と解釈されることが多いようです。

PaaSは、アプリケーションを開発したり稼働させたりする環境を提供するサービスです。具体的には、アプリケーションの開発ツール、データベースなどを提供します。アプリケーションの開発に携わるエンジニアなどの利用を想定しています。

IaaSは、ハードウエアのリソースを利用者に提供するサービスです。CPUによる演算処理能力、メモリーやストレージといったデータ記憶能力などを提供します。SaaSやPaaSの土台を構成するサービスで、必要な処理性能や容量を利用者が自由に組み合わせられるのが特徴です。

2 クラウドのメリットは?

クラウドは、サーバーやストレージ、アプリケーションなどの導入費が掛からず、CPUの性能やメモリー、ストレージの容量といったハードウエアのリソースを柔軟に変えられます。そのため、企業は事業の成長スピードに応じて、必要な性能のハードウエアを都度調達できます。

例えば、利用するユーザー数が増えればハードウエアのリソースを動的に追加し、減れば元に戻すといった運用が可能です。オンプレミス(自社保有)のサーバーなどは、事業がどの程度成長するかを予測して機種を選択するため、予測が外れた場合、導入した機種の性能が実情に合わなくなってしまう恐れがありますが、クラウドではその心配がないわけです。

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また、大事なデータをオフィス以外の別の場所に退避しておけるのもメリットです。被災によるデータ喪失のリスクを低減することで、事業の早期再開が見込めるようになります。

3 クラウドのセキュリティーって大丈夫?

多くのクラウドが、保管するデータを暗号化したり、データにアクセスする利用者を認証したりするセキュリティー機能を備えています。クラウドを利用する企業ごとに異なるセキュリティーポリシーを満たせるように、利用者がこうした機能を選択利用できるのが一般的です。「オンプレミスだから安心、クラウドだから危険」という考えではなく、オンプレミスとクラウドのどちらの運用形態でも必要なセキュリティー対策を施さなければなりません。

クラウドを利用する場合、クラウド事業者がどんなセキュリティー機能を提供しているのかを把握し、自社のセキュリティー要件を満たせるのかを確認することが大切です。中には、データを事前に暗号化してからクラウド上のストレージに保管したり、クラウド利用者や権限を社内で制限したりするなど、利用する企業側でセキュリティー対策を事前に講じた上で運用しなければならないこともあります。特にSaaSを利用する場合、セキュリティー機能のレベルはSaaSごとに大きく異なるため注意が必要です。

4 クラウドに預けたデータはどこに保管される?

データはクラウド事業者が利用するストレージに保管されることが大半です。ストレージが実際にどこにあるのかはクラウド事業者によって異なるため、データをクラウドに保管する場合は、国内か海外かを事前に確認する必要があります。もっとも国内でSaaSを利用する場合、多くのサービスがデータを国内に保管していると考えてよいでしょう。知らない間にデータが海外にあるストレージに保管されていた、ということはありません。

クラウド上のストレージがある場所は、国内なら東日本か西日本かといったおよその地域は分かるものの、セキュリティー上の理由から住所まで把握できることは原則ありません。クラウドを検討する上でデータ保管先の住所を事前に知りたい場合、SaaS事業者などと機密保持契約(NDA)を締結すれば教えてくれることがあります。

SaaSを利用するときはデータの所在を明らかにするため、SaaS事業者に対し、自社独自のPaaSやIaaSを使っているのか、どの事業者のPaaSやIaaSを使っているのかを確認しておくのが望ましいでしょう。

5 クラウド事業者がデータを見ているってホント?

クラウド事業者の従業員が、クラウドに保管されているデータを見ることはありません。クラウド事業者がセキュリティー上のリスクをわずかでも高める行為はしません。

もっとも、利用者の「振る舞い」を監視するクラウド事業者はあるかもしれません。例えば、アクセス数が増えるのはいつごろか、どんな機能が多く利用されているのかなどの情報を、サービス改善などに役立てるクラウド事業者は少なくないようです。

また、データを海外に保管する場合、その国の「検閲」によってデータを見られる可能性があります。どの国が、いつ、どの企業の、どんなデータを検閲するのかは不明ですが、データを海外に保管する可能性がある場合、こうしたリスクも踏まえておくべきです。

6 データのバックアップは自前でしないとダメ?

クラウド事業者が、利用者から預かるデータを自らバックアップすることは原則ありません。ただし、クラウド事業者の中にはバックアップサービスをオプションとして提供している事業者もあります。利用者はこうしたサービスを申し込むことで、バックアップ環境を容易に構築できます。

バックアップ用のデータを社内に設置するオンプレミスのストレージに保管したり、別のクラウドと契約して異なる地域に保管したりすることもありますが、いずれにせよ、データの容量や使用頻度、重要度などに応じて、自社の要件を満たすバックアップ環境を構築することが大切です。

7 災害が発生してもクラウドを利用し続けられる?

災害時にクラウドを利用できるかどうかは、クラウドの提供元となるサーバーやストレージ、アプリケーションなどが無事かどうかに依存します。これらを設置する施設(データセンターなど)が被災せず、インターネットが断絶していなければ、これまで通り利用できます。しかし、施設への電力供給が途絶えたり、インターネットが断絶したりすると利用できなくなる可能性があります。

なお、クラウド事業者が利用するデータセンターの中には、特定エリア内に複数の施設を設置していることがあります。エリア内にある特定のデータセンターが被災したからといって、クラウドが必ずしも利用できなくなるわけではありません。

また、データセンターの中には、無停電電源装置(UPS)と呼ぶ自家発電装置を設置するとともに燃料を備蓄し、数日程度はサービスを提供し続けられるようにする施設があります。2つの電力会社と契約し、どちらかの電力供給が途絶えても一方の電力を使うことで停電を回避する施設もあります。

クラウドの利用を検討する際は、サービスの提供元となるデータセンターの設備にも目を向けるべきでしょう。SaaSを利用するときはSaaS事業者に対し、データセンターの設備や災害発生時の対応内容を確認しましょう。

8 クラウドを解約する前に確認することは?

クラウドは一般的に、不要になったタイミングで自由に解約できます。月額課金の場合、残りの契約期間分の料金は返金されないものの、違約金などは発生しないケースが大半です。時間単位の使用料を課すクラウドなら、無駄な料金はほぼ発生しません。サービス利用料の支払日や支払い方法によって利用期間が異なることもあるため、解約を申し出たときのサービス終了日を事前に確認しておくとよいでしょう。

解約することを想定し、データの取り出し方を事前に把握しておくのが望ましいでしょう。データ容量が大きい場合、インターネット経由ではなくDVDメディアなどに記録して取り出せるのか、ファイル形式をcsvなどに指定できるのか、いつまでに取り出せばよいのかなどを確認します。他のクラウドに切り替えるなら、新たに利用するクラウドにデータを直接アップロードできる方法も調べておくとよいでしょう。また、解約するクラウドを他の自社システムなどと連携して使用中の場合、解約によって連携先のシステムに影響が出ないかも調べておくようにします。

以上(2021年2月)

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異常検知や運用保守向上! 製造現場における新テクノロジーの動向

書いてあること

  • 主な読者:生産設備の効率的な運用を検討したい製造業の経営者
  • 課題:最新のテクノロジーは気になるが、導入すると何ができるのかよく分からない
  • 解決策:具体的な用途やニーズを整理した上で、IoTやデジタルツインなどのテクノロジーが、自社にとってどのように役立つかを検討する

1 テクノロジーの活用で不測の事態に備える

組み立て機械や搬送機械、検査機器などの生産設備が突然動かなくなったら、生産計画の見直しを迫られるのはもちろん、関係者にも迷惑を掛けることになります。一方、新型コロナウイルス感染症の影響で、製造現場でも従業員同士の距離を空けるソーシャルディスタンス(社会的距離)が実施されています。そのため、少人数での作業が求められ、生産や管理などの「自動化」への動きがこれまで以上に高まっています。

今、製造業には「柔軟な製造現場」の構築が求められています。過去の経験や勘に頼って対応するのではなく、生産設備の異常や人員配置、生産量、納期などへの影響をデータに基づき検証し、高い精度で効果的な代替策を打ち出す柔軟性が望まれます。

そこで本稿では、製造業がデータに基づく柔軟性を身に付けるために活用できるテクノロジーを整理します。テクノロジーのメリット・デメリットを把握し、変化に適応できる製造現場を構築する際のヒントとしてお役立てください。

2 自社に必要なテクノロジーを検討しよう

生産工程の無駄を洗い出すため、多くの製造現場は可視化に取り組んでいます。生産設備の稼働状況や製造物の出荷・在庫状況などをエクセルで管理したり、従業員の業務内容をカメラで確認したりするケースは多いでしょう。

しかし現在、収集するデータの種類や頻度を増やし、さまざまなデータを使って精緻な現状把握に努めようとする機運が高まっています。IoTの導入コンサルティングなどを手掛ける中小企業診断士の高安篤史氏によると、「ある程度のシステム化や情報共有体制を確立した企業の中には、次のステップとして、より多くのデータを収集、活用しようと模索する動きが見られる。とりわけ自治体などの支援を受けた地方の中小企業がこうしたデータ活用に前向きだ。データを十分活用できずにいる中小企業は今なお多いが、中には経営者主導で、ITを駆使した変革を推進するケースも散見される」とのことです。

データ活用時に必要な主要テクノロジー/システムと導入効果の関係は次の通りです。データ活用のステータスに応じて必要なテクノロジーは異なります。次章以降で、各段階で必要となるテクノロジーの動向を見ていきましょう。

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3 生産設備の予知保全に役立つIoT

収集データをもっと増やしたいと模索する企業が、新たな一手として導入を検討したいのが「IoT」です。生産設備や生産ラインにセンサーを取り付け、振動や音、電流などの変化から稼働状況を把握できるようにします。

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切削時の振動が普段より大きい、電流の負荷がいつもより高いなどの異常をデータから探ることで、故障する前に部品の交換や修理を実施する予知保全を可能にします。生産設備の突然の故障を回避し、保守費を削減する効果も見込めます。

温度や臭い、位置などを調べるさまざまなセンサーを利用できること、センサーを搭載するIoT機器が1台数千円程度で購入できること、クラウドサービスを使って各種データを容易に一元管理できることなどが、IoTの利用を後押ししています。

もっとも、生産設備の稼働状況を計測するIoT機器の取り付けには注意が必要です。前述の高安氏によると、「IoT機器をどこに取り付ければ稼働状況を正確に計測できるかなどのノウハウは、生産設備を取り扱うメーカーさえ十分持ち合わせていない。1台の生産設備に振動を計測するIoT機器を十数台取り付け、どのIoT機器が異常検知に役立つデータを収集できるかを試行錯誤しながら運用するケースは少なくない」とのことです。

IoTを導入する場合、目的や用途を明確に絞り込むことが大切です。例えば、工作機械の温度変化から故障の予兆を探れるようにしたいのか、生産ラインの停止時間から効率性を高める施策を検討したいのかなどです。

まずは計測対象となる生産設備を限定し、目的を満たすために必要なデータだけを収集します。導入当初、製造現場の全体的な改善は見込みにくいものの、計測対象となる生産設備を段階的に増やして、全体最適を目指すアプローチを試みるのが望ましいでしょう。

IoTの導入を支援するサービスを活用するのも手です。IoT機器の取り付け、データの収集・管理、BIを使った分析環境などをワンストップで提供し、導入から運用までの手間を軽減できます。自治体などが実施するIoT導入支援セミナーなどに参加し、想定される課題や支援サービスを提供する企業などを事前に確認してもよいでしょう。

4 シミュレーション環境を仮想空間に構築するデジタルツイン

生産設備の稼働状況をIoTによって把握できるようになったら、データ活用の次のステップとして検討したいのが「デジタルツイン」です。実際の生産設備などを仮想空間に再現し、仮想の生産設備を使ってシミュレーションできるようにします。IoTなどで収集した各種データを仮想空間に送信し、実際のデータに基づきシミュレーションするのが特徴です。

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生産計画を見直すに当たり、生産ラインをどう調整すればロスを最小化できるか、生産設備の負荷がどれくらい高まると故障を引き起こすかなど、さまざまな変化に応じた影響を調べるのに役立ちます。製造物の設計・開発段階において、多品種少量生産となる製造物の試作用金型を何度も作り直すことなく、仮想空間に再現した試作品を使ってシミュレーションするといった用途にも向きます。また、海外の部品調達先が新型コロナウイルス感染症の影響で事業停止に追い込まれたなどの場合、他社から調達した代替部品で製品の品質をこれまで同様に維持できるのかなどを調べることもできます。

デジタルツインによるシミュレーション環境を構築するには、一般的にIoTなどを使って集めたデータを収集、蓄積する機能、生産設備などを3Dモデルで再現するモデリングツール、強度や伝熱、流体などを調べる解析ツールを備えるクラウドサービスを利用します。

シーメンスやゼネラル・エレクトリック、日立製作所などがIoT向けのクラウドサービスに解析ツールなどを実装し、デジタルツイン向けのクラウドサービスとして提供しています。デジタルツイン向けのクラウドサービスを提供するベンダーは、一般的にどうモデリングするのか、どう解析するのかなど、ユーザー企業が戸惑う取り組みを支援するサービスやメニューを用意しています。デジタルツインは現状、導入事例が必ずしも多くないことから、ベンダーに事前相談するのはもちろん、導入ノウハウや支援サービスを活用するのが現実的です。

また、導入に当たっては、価格が高いハードルとなります。デジタルツイン用のクラウドサービスの場合、データ量や接続時間に応じた従量課金を採用するケースが一般的です。生産設備の稼働状況を計測するデータの容量は必ずしも大きくありませんが、ほぼリアルタイムにデータを収集したり、カメラを使った映像データを扱ったりする場合、データ量の増加に伴って利用料が高額になりかねないので注意が必要です。

解析ツールの価格にも気を付けます。解析ツールは数十万円のものから、高度なシミュレーションを実施できる数千万円超のものまでさまざまです。何を解析するのか、どのくらいのデータ量や頻度で解析するのかを事前に想定し、必要な解析ツールを絞り込むことが大切です。前述のクラウドサービスを提供するベンダーに、どんな解析が可能なのかを事前に確認しておくのも手です。

5 デジタルツインを支えるMRと5G

1)製造現場に仮想空間を持ち込めるMR

仮想空間に再現した生産設備などの稼働状況を確認しやすくするテクノロジーとして注目されているのが「MR(複合現実)」です。実際にはないものがあたかも目の前にあるかのように再現されます。AR(拡張現実)やVR(仮想現実)よりも、ものの形状や配置を正確に再現するのが特徴です。

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例えば、今後納入予定の工作機械を従業員の目の前にあるかのように配置し、実際に工作機械がない場所で事前トレーニングを実施するといった用途に向きます。経験豊富な保守点検要員が、遠隔地から現場の従業員に業務内容を指示するという使い方も考えられます。

デジタルツインとMRを連携させる取り組みも模索され始めています。仮想空間の生産設備を用いたシミュレーション結果を、従業員が専用ゴーグルを使って作業しながら確認できるようにする利用シーンが想定されています。専用ゴーグルの高画質化、小型軽量化によって長時間装着しても疲れにくい製品が登場しており、従業員の作業負担を軽減できるようにもなっています。

2)データ収集の遅延を解消する5G

製造現場と仮想空間とのデータのやり取りを低遅延で行えるようにする「5G」も注目すべきテクノロジーです。デジタルツインは最新の稼働状況に基づくシミュレーションを想定するため、「超高速」「多数同時接続」「超低遅延」といった特徴を持つ5Gは、データをほぼリアルタイムにやり取りするデジタルツインに向く通信方式といえます。

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例えば、5Gを使える通信網を工場内に整備し、ロボットなどの生産設備の振動や異音などをほぼリアルタイムに収集できるようにし、分析結果からロボットの故障時期を高い確度で予測するといった用途が見込めます。

もっとも、データ伝送に用いる通信方式には幾つかの種類があり、データの伝送速度、無線の通信距離、消費電力などを加味して最適なものを選ぶことが大切です。汎用性が高いが電波干渉を受けやすいWi-Fi、低速だが短距離通信に向くBluetooth、同じく低速だが低消費電力という特性を持つZigBeeなど、5G以外の通信方式にも目を向け検討するようにしましょう。

以上(2021年2月)

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【朝礼】「自分はツイている」と思ったほうがいい3つの理由

皆さんは自分のことを、「ツイている」と思いますか、それとも「ツイていない」と思っていますか。私は、自分が幸運に恵まれ、「持っている」人間だと思っています。正確に言うと、そう思うようにしています。

宝くじの1等が当たりでもしない限り、自分がツイていると実感できないかもしれません。ですが、「自分はツイている」と思ったほうが得だから、そう思っているのです。特に今のような逆風のときほど、「ツイている」と思っている人の価値は高まるものです。その理由は後ほど話します。

もし「世の中は思い通りにならないことばかりで、自分がツイているとは思えない」と感じている人がいたら、その人は、物事の捉え方を変えてみるべきです。例えば、コロナ禍で業績が下がって「ツイていない」と思うのは簡単です。それを、「それでも会社は存続し、仕事ができるのは運がいい」「コロナ禍で世の中が変化して、自分たちも変われるチャンスをもらった」という考えに改めてみませんか。そうすれば、「もう少し頑張ってみよう」という気持ちになりやすいでしょう。

このように、前向きになれるということが、自分が幸運だと思ったほうがいい1つ目の理由です。そして、なんとか頑張ってこの危機を乗り越えたときに、「やはり自分はツイている。自分の運を信じていれば大丈夫だ」と思えるようになれますし、そうなると、その後はもっと自分を信じて頑張れるという、好循環が生まれます。

例えば、明治から昭和初期にかけて日銀総裁や総理大臣、大蔵大臣を歴任した高橋是清は、10代前半に米国で奴隷として扱われたり、30代半ばでペルーの銀山開発などの失敗で全財産を失ったりしています。そんな不幸に見舞われた是清ですが、子供の頃から「自分は運がいい」と思い込むほど、生来の楽天家だったので、失敗をして窮地に陥っても努力できたと語っています。

自分がツイていると思ったほうがいい2つ目の理由は、自分を見失わないということです。人は何かに成功すると、「全て自分の実力だ」と有頂天になり、周囲が見えなくなってしまいがちです。「成功したのは、運が味方したからだ。油断していると風向きが変わって、今度は失敗してしまうかもしれない」と気を緩めずにいれば、その後も努力を怠ることはないでしょう。

3つ目の理由は、幸運だと思われている人の周りには、人が集まってくるということです。誰しも、「自分はツイていない」と暗い顔をしてうつむく人よりも、自信にあふれた明るい表情の人と一緒に働きたいと思うものです。日露戦争の日本海海戦でバルチック艦隊を破った東郷平八郎は、「運のいい男だから」という理由で連合艦隊の司令長官に抜てきされたといわれています。

今のような、先行きが不透明なときほど、「自分はツイている」と思っている人を心強く感じるものです。今日から、物事の捉え方を前向きに変えてみましょう。

以上(2021年2月)

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画像:Mariko Mitsuda

役員が病欠!? いざという時に困らない会社法の手続き

書いてあること

  • 主な読者:役員の病欠など定例化されていない会社法の手続きを知っておきたい経営者
  • 課題:会社法の手続きは複雑で、何をすべきか分からない
  • 解決策:機関設計ごとの役員の人数、役員の任期など確認すべきポイントを知る

1 会社法上の手続きは定時株主総会だけではない

会社経営において、会社法上の手続きは「例年同様に、定時株主総会を開催する」といったルーティン化されているものが少なくありません。そのため、通常業務では、会社法を意識することは多くないでしょう。

しかし、会社法にはさまざまな定めがあります。役員が病気になったときなど、通常と少しでも違うことが起こったときは会社法を確認して、正しい手続きを取ることが必要です。そうしないと、それが後にトラブルの種となり、会社経営に大きな影響を及ぼしかねないからです。

会社法の手続きは、会社の機関設計などによって異なります。本稿では、中小企業に多く見られる「取締役会+監査役」、かつ全ての株式を譲渡制限株式としている会社(非公開会社)を前提に、原則的な各種手続きなどを紹介していきます。

2 役員が病気になったり、死亡してしまったりした場合

1)すぐに役員を変更・選任する必要はない

役員(取締役・監査役)が病気で長期間実務に携わることができなくなったり、事故で不幸にも死亡してしまったりした場合、その役員(以下「対象役員」)に代わる人を、必ずしもすぐに選任する必要はありません。

まず、会社法と定款で決められている「役員の最低人数」を確認しましょう。会社法では、機関設計などによって役員の最低人数を定めています。「取締役会+監査役」の場合、取締役は最低3人、監査役は最低1人です(会社法第331条第5項、第335条第3項の反対解釈)。

また、役員の定員は、会社法の定めの範囲内であれば、定款で別の定め方ができます。例えば「最低人数を会社法より多くする」「最大人数を決める」などですが、仮に定款で取締役を「5人以上」と定めている場合、実際にその人数を下回らないようにしなければなりません。

以上を確認し、役員の最低人数を下回ることになった場合は、新たな役員を選任しなければなりません。

また、対象役員が長期間実務に携わることができない場合、実際の経営上の問題はさておき、会社法上は、対象役員がその地位にある限り、必ずしも法的問題とはなりません。会社法では、役員の欠格事由を定めていますが、これは成年被後見人もしくは被保佐人や、一定の法令に反して刑に処された場合などであり、実務に携わることができるか否かは問われていません(会社法第331条、第335条第1項)。

2)取締役や監査役の選任

取締役や監査役の選任には株主総会の普通決議が必要です。普通決議とは、株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う決議です(定款で別の定めをすることができます。会社法第341条、会社法第309条第1項)。株主総会の開催は、以降で紹介する事項でも必要になりますが、手続きの概要は後述します。

その他、頻繁に利用されている制度ではありませんが、会社法上、株主総会決議によって事前に補欠の取締役や監査役を選任しておくこともできます(会社法第329条第3項)。取締役が欠けたとき、速やかに臨時株主総会を開催しなければならない手間を考えれば、取締役を多めに選任しておくか、この補欠を定めておくということも一考に値します。

3)対象役員が代表取締役の場合

取締役会を設置している場合、代表取締役を1人以上選任しなければなりません(会社法第362条第3項)。代表取締役は1人でも複数人でもよいため、対象役員が唯一の代表取締役であり、その人が死亡してしまった場合は、取締役の中から代表取締役を新たに選任しなければなりません。

また、対象役員が長期間実務に携わることができなくなった場合でも、前述した役員の場合と同様、会社法上は、対象役員がその地位にある限り、法的には必ずしも問題ではありません。なお、代表取締役の選任は取締役会の決議が必要です。

3 役員の任期を伸長(短縮)する場合

会社法施行前、株式会社の取締役の任期は2年、監査役の任期は4年とされていました。会社法施行後(2006年5月)も、原則は変わっていませんが(会社法第332条第1項、第336条第1項)、非公開会社の場合、定款に定めることで取締役・監査役ともに最長10年まで任期を伸長することができます(会社法第332条第2項、第336条第2項)。小規模なオーナー会社などでは、長期間、役員を続けるケースが少なくありません。こうした場合、任期を伸長することで役員の選任(重任)手続き、登記費用などの負担を軽減できます。

役員の任期を伸長する場合は、その旨を定款に定める必要があります。定款を変更する場合は、株主総会における特別決議が必要です(会社法第466条、会社法第309条第2項第11号)。特別決議とは、株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行う決議をいいます(定款で別の定めをすることができます。会社法第309条第2項)。

なお、同様の手続きで、役員の任期を短縮することもできます。ただし、取締役は2年を下回る任期にすることができますが、監査役は4年を下回る任期にすることはできません(取締役については会社法第332条第1項但書があるが、監査役については会社法第336条第1項には同様の但書がない)。

4 本店を移転する場合

会社の本店の所在地は定款に定める必要があります(会社法第27条第3号)。実務上、本店所在地に実質的な本社機能があるとは限らず、創業の地を本店所在地にしておき、実質的な本社機能は別の支店に存在するという場合も少なくありません。

いずれにしても、本店の移転に伴って、定款を変更する必要があるか否かは、本店の所在地の記載方法によって変わります。一般的に、本店の所在地は次のいずれかで定められています。

  • 最小行政区画まで:東京都中央区
  • 番地や建物名まで:東京都中央区○○町○○丁目○番○号 ○○ビルディング

定款に定めている事項を変更する場合、定款変更の手続き(株主総会における特別決議)が必要です。上記の例では、東京都中央区から東京都渋谷区に移転する場合、いずれの場合も定款の変更が必要です。一方、東京都中央区の中で移転する場合、最小行政区画までしか決めていない場合は定款の変更が不要です。

なお、以上は定款での本店所在地の定め方についてであって、法人登記に記載する「本店」については、建物名は必須でないものの、番地等まで記載する必要があります。

5 譲渡制限株式について譲渡承認請求があった場合

中小企業では、全株式を譲渡制限株式とし、非公開会社としているケースが多く見られます。この場合、株主が株式を譲渡するためには、会社の承認が必要です。まず、譲渡を希望する株主または譲受人(以下「請求者」)が、会社に譲渡承認を請求します(会社法第136条、第137条)。会社は、この請求について取締役会で承認するか否かを決定し(会社法第139条)、請求者に、2週間以内に当該決定の内容を通知します(会社法第139条第2項、第145条第1号。譲渡後株主の名義変更の手続きなどがありますが、本稿では省略します)。

もし、2週間以内に通知をしなかったときは、会社が譲渡を承認したものと見なされます(会社法第145条第1号)。

なお、会社が譲渡を承認しない場合、請求者はその株式について会社または指定買取人による買取りを請求することができます(会社法第140条)。この場合の手続きは次の通りです。

1.会社が株式を買取る場合

株式の買取りを行う旨や買取株式数について、株主総会の特別決議が必要となります(会社法第140条第2項、第309条第2項第1号)。その後会社は、株主総会で決議した事項を、請求者に対して通知しなければなりません(会社法第141条第1項)。

2.指定買取人が買取る場合

指定買取人の指定は取締役会で行うことができます(会社法第140条第5項)。その後、指定買取人が請求者に対して、指定買取人として指定を受けた旨や買取株式数などを通知しなければなりません(会社法第142条第1項)。

6 機関設計を変更する場合

機関設計の変更は、会社が成長してガバナンス強化を図る必要がある場合などに行われます。ただし、こうした目的以外にも、取締役会の最低人数(3人)を維持できないなど会社の課題を解消するために機関設計を変更する場合があります。非公開会社であれば「取締役会+監査役」から「取締役のみ」に変更します(「取締役のみ」は非公開会社だけに認められています)。

また、会社法施行前は、株式会社では取締役会の設置が必須であり、最低3人の取締役が必要とされていました。このため、事実上経営に関与しない経営者の親族や知人などを便宜上、取締役とするケースが見られました。現在も当時のままで、こうした取締役がいる会社もあるようです。この場合、経営実態に合った形に機関設計を変更することも考えられるでしょう。

機関設計は、「取締役のみ」とする場合以外は、定款に定めなければなりません。従って、本稿で例示している「取締役会+監査役」の会社が機関設計を変更する場合は、定款を変更しなければなりません。定款を変更する場合は、株主総会における特別決議が必要となります(会社法第466条、会社法第309条第2項第11号)。

7 臨時株主総会の開催手続き

本稿で紹介した多くのケースで必要となるのが株主総会での決議です。決算後3カ月以内に開催する定時株主総会に合わせて決議をすることもできますが、急を要する場合は、臨時株主総会を開催する必要があります。

毎年、開催している定時株主総会では実務的な問題は少ないと思われるので、ここでは臨時株主総会開催の基本的な手続きを紹介します。なお、会社法では一定の要件を満たす場合、手続きの省略などが認められています。また、定款の定めによっても、手続きが変わる場合もありますが、ここでは原則的な内容とします。

臨時株主総会開催の基本的な手続き(取締役会設置会社・非公開会社の場合)は次の通りです。

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臨時株主総会開催の手続きは、基本的には定時株主総会と同じです。ただし、定時株主総会と違って注意が必要なのは「基準日公告」です。定時株主総会の基準日は、定款で事業年度末(3月31日)などと定めていることが一般的です。そのため、基準日公告は不要になります。

一方、臨時株主総会の場合は、定款の定めとは別に、取締役会で基準日などを決めた上で公告を行う必要があります。

また、これは定時株主総会も同じですが、取締役会設置会社の場合は、取締役会で決定した議題(株主総会の目的事項)以外は、株主総会では決議することができません(会社法第309条第5項)。そのため、取締役会で議題の決定漏れがないように注意する必要があります。

以上(2021年2月)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 栗原功佑)

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【株主総会(5)】「開催当日」の議事をスムーズに進行する方法と「開催後」に必要な手続き

書いてあること

  • 主な読者:株主総会をスムーズに運営するためのポイントが知りたい経営者、実務担当者
  • 課題:株主総会の進行手順や、総会後に必要な書類および手続きなどを把握したい
  • 解決策:議事進行シナリオがあると便利。議事録の作成、決議通知書の発送、公告の実施、書類の保管を行う

1 議事進行シナリオを作成する

定時株主総会(以下「株主総会」)をスムーズに進めるための準備には、

株主からの質疑を想定した想定問答集の作成、議事進行のリハーサル

があります。しかし、特に難しい議案がない限り、株主が少ない中小企業がそこまでやる必要はなく、議事進行手順などを整理した「議事進行シナリオ」を作成しておけば十分でしょう。

株主総会の運営方式には、

  • 一括上程方式:議案を全て上程した後に質疑応答を行って採決する方式
  • 個別上程方式:議案ごとに上程、質疑応答、採決を行う方式

がありますが、一括上程方式のほうがシンプルで、運営もスムーズといえます。

この記事では、中小企業に多く見られる「非公開会社」で、機関設計は「取締役会・監査役設置会社」を想定し、株主総会の当日の運営などについて紹介します。なお、非公開会社とは、

全ての株式の譲渡について、会社の承認が必要となる旨を定款に定めている会社

のことです。

2 一括上程方式の場合の議事進行シナリオの例

1)株主総会の進め方

では、具体的に当日の議事進行についてご紹介します。一括上程方式の場合の議事進行シナリオは次の通りです。中小企業の場合、ここまできっちり行う必要はないと思いますが、一つの例として参考にしていただければと思います。

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2)株主総会の議長

通常、株主総会の議事運営をする議長は定款に定められており、一般的には代表取締役が務めます。定款で定められていない場合は株主総会で選任します。

3)決議要件の確認

株主総会の決議には、普通決議、特別決議、特殊決議の3種類があり、決められる内容や必要な要件が違います。ここでは、取締役の選任などで求められる普通決議について触れます。普通決議とは、

議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席(定足数)し、出席した株主の議決権の過半数の賛成(決議要件)による決議

です。定足数については、定款に定めることで変更・排除することができます。ただし、決議要件は変更できません。

4)採決

採決の具体的な方法は法令で定められていません。また、決議の賛否が明らかになれば、賛否の具体的な数を確定する必要もありません。そのため、採決の方法などを定款に定めていないのであれば、議長の合理的な裁量に委ねます。例えば、

異議の有無を出席者全体に尋ねる、挙手、拍手、起立、記名投票など、賛否を判定できる方法であれば問題ない

といえます。

3 議事録の作成

1)記載事項

取締役は、株主総会の議事録を作成しなくてはなりません。議事録に記載する主な事項は次の通りです。

  • 株主総会の日時および場所
  • 株主総会の議事の経過の要領およびその結果
  • 株主総会において述べられた意見または発言があるときはそれらの内容の概要
  • 株主総会に出席した取締役などの氏名または名称
  • 議長がいるときは議長の氏名
  • 議事録作成者の氏名

法令では、議事録に株主総会に出席した取締役などの氏名または名称を記載することが求められています。実際は、議事録が原本であることを判別しやすくするために、出席した取締役等の署名または記名押印をする会社が多いです。

2)作成期限

議事録の作成期限は決まっていませんが、一般的に、

株主総会後、2週間以内に作成

します。これは、商業登記の添付書類として議事録が必要な場合があり、登記事項に変更があった際は2週間以内に変更の登記をしなければならないためです。

4 決議通知書などの発送

多くの場合、株主総会の後、全株主に株主総会での決議結果を知らせるための「決議通知書」や、事業報告書、配当金関係書類などを送付します。ただ、これらの書類の提供は法令で求められてはおらず、株主との良好な関係を維持・構築するための取り組みです。

5 公告の実施

株主総会の後、遅滞なく株主総会で承認を受けた計算書類を公告しなければなりません。非大会社の場合、貸借対照表を計算書類として公告します(損益計算書は不要です)。大会社とは「資本金が5億円以上または負債総額が200億円以上の会社」のことなので、これ以外が非大会社となります。

公告の方法は、「官報」「日刊新聞紙」「電子公告」の中から選んで定款に定めることができます。定款に定めがない場合は官報で公告します。公告方法が官報または日刊新聞紙の場合、貸借対照表の要旨を公告すれば大丈夫です。

なお、公告方法を官報または日刊新聞紙としている場合でも、決算公告のみをインターネットのホームページに掲載して対応することができます。この場合、貸借対照表などが掲載されるウェブページのURLを登記する必要があります。

6 書面などの備え置き

株主総会に関連する書面などの中には、一定期間、本店や支店に備え置かなければならないものがあります。備え置きが必要となる主な書面などは次の通りです。また、これらの書面などについては、株主などからの請求があれば開示しなければなりません。

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7 株主総会議事録の例

【第○回定時株主総会議事録】

 ○年○月○日 午前○時、住所○○○○○○○ 当社本社○階第○会議室において、第○回定時株主総会を開催した。

出席した取締役:○○○○、○○○○、○○○○
出席した監査役:○○○○

 定刻、代表取締役社長○○○○議長が席に着き、開会を宣言した。引き続き、議長は出席株主数およびその議決権個数を次の通り報告し、本総会の議案の決議に必要な定足数を充足している旨を告げた。

議決権を有する株主数:○名
総株主の議決権:○個
出席株主数:○名(議決権行使書を含む)
その議決権個数:○個

【議事の進行方法】

 議長は、本総会の議事の進め方について、監査報告、報告事項の報告、決議事項の内容の説明の後に、報告事項および決議事項に関する質疑や動議などを一括して受け付け、その後に決議事項について採決に入る旨を説明し、議場に諮ったところ、出席株主の多数の賛成により了承された。

【監査報告】

 議長は、監査役に対し、事業報告、計算書類、議案の監査結果についての監査報告を求めた。監査役○○○○氏は、監査の結果は「第○回定時株主総会招集ご通知」に添付した監査報告書謄本(別添)の通りであり、特に指摘すべき事項はない旨、また、本総会の各議案に関しても法令・定款に違反する事項および不当な事項はない旨を報告した。

【報告事項】

 議長は、第○期事業年度(○年○月○日から○年○月○日まで)の事業報告の内容を説明し、報告を行った。

【決議事項】

第1号議案:第○期事業年度に係る計算書類承認の件
 議長は、決議事項の議案審議に入る旨を述べ、第1号議案を上程した。議長は、第○期事業年度に係る計算書類(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書および個別注記表)は「第○回定時株主総会招集ご通知」に添付した計算書類の通りである旨の説明を行った。

第2号議案:取締役3名選任の件
 議長は本議案を上程し、現在の当会社取締役である○○○○氏、○○○○氏、○○○○氏の全員の任期が本総会終結のときをもって満了となるので、取締役3名の選任を行いたい旨、その候補者3名は「第○回定時株主総会招集ご通知」記載の通りである旨を述べた。

【質疑と説明】

議長は株主に質疑を求めたところ、株主からの次の質疑に対して議長が次の説明をした。

  • 株主番号○:(質疑内容の要点を記載)
  • 議長:(説明内容の要点を記載)

【採決】

以上をもって質疑を終わり、議案の採決に入った。
第1号議案:満場一致をもって原案の通り承認可決された。
第2号議案:満場一致をもって原案の通り承認可決された。なお、選任された各取締役は、その場で就任を承諾した。
議長は以上をもって本日の議事を終了した旨を告げ、午前○時に閉会を宣した。

上記、議事の経過および結果を明確にするため、本議事録を作成する。

○年○月○日
株式会社○○○

             

議事録の作成者 代表取締役 ○○○○ 印

8 決議通知書の例

○年○月○日

株主各位

住所:○○○○○○○
社名:株式会社○○○
代表取締役 ○○○○

第○回 定時株主総会 決議ご通知

拝啓 平素は格別のご高配を承り厚く御礼申し上げます。
さて、本日開催の当社第○回定時株主総会において、下記の通り報告並びに決議がなされましたので、ご通知申し上げます。

敬具

報告事項

第○期(○年○月○日から○年○月○日まで)の事業報告、計算書類および監査役の監査結果報告の件
本件は、上記書類の内容を報告いたしました。

決議事項

第1号議案: 第○期事業年度に係る計算書類承認の件
本件は、原案の通り承認可決されました。
第2号議案: 取締役3名選任の件
本件は、原案の通り承認可決され、○○○○、○○○○、○○○○が就任いたしました。

以上

以上(2022年4月)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】固い結束力で繁栄した最強集団の悲劇

突然ですが、皆さんは最強の肉食動物は何だと思いますか? 単体で戦えばライオンやトラかもしれませんが、集団では「リカオン」が最強だと私は思っています。なぜなら、リカオンの狩りの成功率が、70%とも80%ともいわれるほど高いからです。対してチーターの狩りの成功率は50%、ライオンは30%、トラに至っては10%とされているので、リカオンのすごさが分かります。

リカオンはアフリカに生息するイヌ科の動物で、10頭から数十頭の群れで生活しています。体長は1メートルほど、体重は30キログラムほどと小柄ですが、群れの結束力がすごいのです。

リカオンの結束力を支えている習性の1つが、狩りに行くかどうかを、くしゃみによる投票で決めることです。群れの誰もが最初にくしゃみをすることで狩りに行くことを提案できますし、リーダーの同意も必須ではありません。ただし、ある群れでは、最初にリーダーがくしゃみをした場合は、3頭程度がくしゃみで同意すると狩りに行きますが、経験が浅く序列の低いリカオンが提案した場合、10頭ほどの同意が必要といいます。

この誰もが提案者になれる方法は、メンバーの意思を尊重する民主的、かつ合理的なもので、学ぶべき点があります。私は皆さんにも、積極的に提案し、意欲的に仕事を進めてほしいと思います。

とはいえ、組織として我が社が目指すのは、リカオンのような集団ではありません。リカオンは、生き残るには決定的な弱点があるからです。

リカオンは体格で勝るライオンなどに襲われることを避けるため、縄張りを持たず広範囲に移動して、天敵と接触する機会を減らしています。

問題は、環境の変化により身を守るのが難しくなっているのに、その生活スタイルを変えられていないことです。人間の生活領域の拡大に伴い、リカオンは広範囲に移動することがあだとなって、人間との接触機会が増えました。そのため、家畜を食べる「害獣」として駆除されたり、人間が飼っている犬の病気に感染したりしています。今では最盛期の1%に当たる5000頭ほどにまで減少しているとの報告もあり、絶滅危惧種に指定されています。同じく数を減らしているライオンやチーターと比べても、圧倒的に負けています。

私は、リカオンの結束力の強さが「集団的な思考停止」を招き、それが広範囲での移動スタイルを変えられない要因になっていると思います。外部環境の変化への対応でなく、集団の和を最優先してきたため、仲間に生活スタイルの変化を強いる提案は、出しにくかったのかもしれません。

会社という組織も同じです。単なる仲良し集団で居心地の良さに安住していては、組織は前に進めません。時には私や同僚への批判をしてもいいのです。会社のために改善すべきと思ったら、一時的に集団の結束を乱すことを恐れず異を唱え、皆と違う方向に進むことで、会社を変えてください。私もそうしています。それこそが、会社の永続につながる、真の組織貢献です。

以上(2021年1月)

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画像:Mariko Mitsuda

子会社を閉じる(解散・清算)ときの税務の留意点

書いてあること

  • 主な読者:子会社の業績が悪化し、その対応を判断しなければならない経営者
  • 課題:解散・清算の税務は、通常ほとんど触れない特殊分野であり、よく分からない
  • 解決策:100%子会社の子会社株式清算損や評価損といった損金の扱いに注意する

1 子会社整理の際に検討される主な方法

子会社の業績が悪化し、事業の継続が困難になってしまった場合、経営者は子会社の整理を決断しなければなりません。子会社を整理する際の主な方法をまとめた上で、「解散・清算」に注目し、税務上の留意点などを解説します。最後に、解散・清算の手続きもまとめます。

1)親会社が吸収合併する

合併には吸収合併と新設合併とがありますが、一般的には親会社が子会社を吸収合併するケースが多いです。この場合、重複コスト(経理や総務といった管理業務など)をカットできる一方、子会社の負うリスクを引き継ぐことになります。主なメリット・デメリットを整理すると次のようになります。経営者は税理士などの専門家に相談しつつ、考えられるメリットとデメリットをできるだけ網羅的に把握することが大切です。

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2)買い手がいる場合、子会社の経営権や事業を譲渡する

合併によるメリットが見込めない場合は解散・清算手続きを検討するのがほとんどですが、買い手がいる場合は経営権や事業の譲渡も検討できます。経営権の譲渡とは、株式を譲渡することです。また、事業譲渡とは、子会社が営んでいる事業のうち、買い手の希望している事業に関連する資産や負債を譲渡することです。

3)子会社を解散・清算する

合併によるメリットが見込めず、経営権や事業の買い手も現れない場合は、子会社を解散・清算する検討に入ります。

1.解散

解散とは、事業活動をやめて会社を消滅させることです。なお、会社は解散しただけでは消滅することはなく、続けて「清算」という手続きが必要になります。

2.清算

清算とは、会社の財産を換金したり、債権・債務を整理したりすることです。これらの手続きを経て、最終的に残った財産を株主に分配したところで手続きは終了し、会社は消滅します。なお、清算には「通常清算」と「特別清算」とがあります。「通常清算」は、会社の財産で全ての債務を返済することができるとき(債務超過でないとき)に取られる方法で、「特別清算」は債務超過を疑われる会社が裁判所の監督下のもとで進められる方法です。

2 子会社を清算するときの税務上の主な留意点

1)子会社に対する債権の免除

子会社が債務超過の状態にある場合、特別清算を避けるため、親会社から子会社に対する貸付金(子会社側では借入金)などの債権(子会社側では債務)を免除することが多いです。この債権の免除による損失(貸倒損失)は親会社の損金(税務上の費用)とすることができますが、免除の金額が過剰な場合、損金として認められないケースがあります。

2)子会社株式清算損は損金にできない

残余財産の分配がある場合、親会社は、子会社株式の帳簿価額と残余財産分配額(全ての資産を現金化し、負債の弁済・納税した後に残る財産の価額)の差額は、損益計算書に損失として計上することになります。税務上もこの損失は損金となります。

ただし、持株割合が100%の子会社(以下「100%子会社」)の株式については、この損失は例外として損金になりません。

3)子会社株式評価損を損金にできない

子会社が解散して清算手続きに入った場合、親会社が子会社株式評価損を計上することがあります。この評価損については、子会社の財務状況などによっては税務上も損金になります。

ただし、子会社株式清算損と同じように、100%子会社の株式について計上した評価損は損金になりません。

4)100%子会社の繰越欠損金は親会社に引き継ぐことができる

100%子会社の株式については、親会社側で子会社株式清算損や評価損を損金にすることはできません。その代わり、100%子会社の有している繰越欠損金を親会社に引き継ぐことができます。繰越欠損金とは、残余財産が確定した日の翌日前10年以内に開始した事業年度で生じた欠損金(税務計算上の純損失)で、税務計算上で所得と相殺していない未処理のものをいいます。

5)税理士などへの相談

解散や清算に関連する税務は、事業が続いている段階では触れることのない特殊分野です。損金の取り扱いも通常時と異なる点が多く、思わぬ課税が生じる可能性もあります。解散や清算をするときは税理士などの専門家へ相談し、誤った処理をしないようにすることが重要です。

3 子会社の解散・清算実務(通常清算の場合)の流れ

1)株主総会による解散決議と清算人の選任

会社を解散する場合、株主総会で解散決議を行い、承認を得る必要があります。同時に、その後の清算事務を執行する「清算人」の選任も併せて行います。清算人になるのに資格などは必要なく、一般的には代表取締役だった人が清算人になるケースが多いです。

2)登記手続き

解散が承認されてから2週間以内に、解散登記と清算人の選任登記を行わなければなりません。

3)官報公告

債権者に会社の解散を通知するとともに、債権の申し出をするよう、官報に公告を出す必要があります。なお、官報公告は、申し込みから実際に掲載されるまで10営業日前後の日数がかかります。

4)貸借対照表と財産目録の作成

清算人は、解散日の貸借対照表と財産目録を作成し、株主総会の承認を得ます。また、株主総会で承認された後は、必要な税務申告書を作成して提出します。

5)債権の回収や債務の弁済

解散日現在で未回収の債権を回収し、保有する財産を換価した上、債務の弁済を行います。なお、3)の公告から2カ月間(債権の申し出期間)は債務を勝手に弁済することはできません。従って、債務については、債権の申し出期間が経過してから弁済するようにしましょう。

6)清算確定申告

債権の回収・財産の換価を行った上、全ての債務を弁済したところで残った財産の金額が確定(残余財産の確定)したら、1カ月以内に必要な税務申告(清算確定申告)をします。この清算確定申告が、会社が行う最後の確定申告手続きになります。

7)残余財産の分配

必要な税務手続き・納税が完了したら、株主の持株割合に応じて残余財産を分配します。

8)決算報告書の作成と株主総会の承認

清算手続き中に得た収入の額や債務の弁済額などを記載した決算報告書を作成し、株主総会の承認を得たら清算は結了し、会社は消滅することになります。

9)清算結了の登記と税務届出書の提出

8)の株主総会の承認を受けて清算が結了したら清算結了登記を行うとともに、必要な税務届出書を税務署や県税・市税事務所に提出することで、全ての手続きは終了となります。

4 解散・清算で経営者が考えるべきこととは?

1)債権者への通知

会社を解散した場合、国が発行する官報で「解散した旨」や「債権の申し出をしてほしい旨」などを通知(公告)する必要があります。なお、経営者が解散を決断する前に取引先などにその事実が知れ渡ってしまうと、信用不安に陥るリスクがあるので注意しましょう。

2)従業員の解雇

会社が従業員を雇用している場合は、清算手続き中に従業員を解雇しなければいけません。解雇は早い段階で行うほうが給与や法定福利費の負担を抑えられます。しかし、経営者が解散を決断する前に解雇予定であることを知られると、従業員の動揺も大きく、解散までの期間の業務に支障が出ることがあります。従って、従業員に解雇通知を出すタイミングは慎重に決める必要があります。

3)保有財産の換価

負債(買掛金や借入金)の弁済に充てるため、保有している固定資産などは売却して現金化(換価)しなければなりません。なお、不動産などについては売却に時間がかかる一方、慌てて売却すると、安い金額でしか売れないこともあります。このような売却に時間がかかる資産は解散・清算を決定する前の段階で現金化する判断が必要です。

4)各種契約の解除

事務所のテナント契約やリース契約などがある場合には、解約手続きをする必要があります。契約内容によっては、事前に解約通知を行わないと違約金が取られる場合があるので、あらかじめ確認しておきましょう。

5)その他

会社を解散した場合は、税務署や社会保険事務所などに届け出をしなければなりません。また、許認可を必要とする事業を行っている場合、各業法に従って廃業届などを提出する義務があるケースがあります。

以上(2021年2月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:pixabay

22年卒の採用動向を知る/2022年新卒採用必勝法〜優秀なコア人材を採用するなら今がチャンス〜(1)

コロナウイルスの感染拡大によって、2020年の採用市場は激変しました。働きたい人に幾つの仕事があるかを示す有効求人倍率は、2020年1月の1.49倍から11月の1.04倍まで急降下。バブル期をしのぐ“空前の人手不足”といわれたビフォーコロナの時代から一転、企業業績の悪化が採用意欲を一気に奪っていきました。
またコロナ禍は、採用活動の方法にも大きな影響を与えました。中でも(現在の大学4年生、大学院2年生の)新卒採用は混迷を極めました。シーズンが始まる2020年2月、感染拡大によって会社説明会は軒並み中止。採用活動の真っただ中にあたる4月には緊急事態宣言が発出され、オンライン面接など新たな形での採用活動を余儀なくされたのです。

しかし見方を変えれば、この状況はまたとないチャンスです。他社が採用に慎重になる不況期は競争相手が減ります。ウィズコロナで採用活動に混乱を来たしている企業が多い中、いち早くノウハウを会得することができれば、採用の勝ち組になれます。
自社の未来を担っていく優秀なコア人材を獲得するために、この好機を逃さないでほしいーー。こういった思いから、本連載「2022年新卒採用必勝法」を立ち上げました。第1回目の本稿では、まず21年卒採用の総括、そしてウィズコロナ2期目となる22年卒の採用動向を探ってみます。

1 21年卒では、学生の中小志向が鮮明

リクルートワークス研究所が2020年8月に発表した大卒求人倍率調査によると、21年3月卒業予定の大学生・大学院生対象の大卒求人倍率は1.53倍と、前年の1.83倍より0.3ポイント低下しました。ここまで求人倍率が低下するのは、リーマンショックの甚大な影響を受けた年以来10年ぶりです。
内訳を詳しく見てみましょう。2022年3月卒と2021年3月卒の求人倍率を従業員規模別に見ると、次のようになっています。

2020年3月卒と2021年3月卒の有効求人倍率の比較を示したです

従業員規模が小さい企業ほど求人倍率の低下幅が大きくなっていることが分かります。また従業員規模300~999人企業(0.86倍)と1000~4999人企業(1.14倍)を比べると、求人倍率が逆転しています。なんと統計調査を開始した2010年卒以来、初めてのことだそうです。
この理由は、企業の採用意欲が減退しただけではありません。学生の志望が大企業から中小企業へシフトしているのです。この調査によると、従業員規模1000人以上企業を希望する学生が28.8%減少する中、1000人未満の企業を希望する学生は前年比44.7%増加しています。300人未満の企業においては、8社で1人の学生を奪い合っていた状況から3社で競う状況となり、絶望的ともいえる採用環境が大幅に改善しています。

2 22年卒はやはり不透明感が漂う

では、22年卒の採用動向はどうなんでしょうか。
「就職人気ランキング」で上位の常連だったJTBは22年卒採用を見合わせることを決めました。ANAホールディングスも例年の10分の1以下に圧縮すると発表しました。こうしたニュースが、2020年秋から相次いで報道されるようになっています。年頭からの緊急事態宣言もあり、今後もJTBやANAのようにコロナ禍による業績悪化で採用を控える企業が出てくる可能性も否定はできません。

採用担当者を対象とした22年卒の採用計画に関するマイナビの調査「2021年卒マイナビ企業新卒内定状況調査」(2020年9/4~10/5)によると、これまで継続的に新卒採用を行ってきた企業のうち、78.3%が採用を行うと回答しました。約8割が新卒採用継続という数字は、ほぼ例年並みです。
しかし内訳を見てみると、「実施する予定で概ね詳細も決まっている」とした企業は25.2%にとどまります。一方、「例年どおり検討中で、詳細は決まっていないが実施する予定」と答えた企業が44.2%、「例年より検討が遅れていて詳細は決まっていないが実施する予定」としたのが8.9%。5割以上の企業が実施はする予定だが詳細は決まっていないと回答し、採用計画に関する不透明感が漂っています。

またリクルートワークス研究所「2022年新卒採用見通しに関する調査」(2020年10/7~11/12)によると、例年と「変わらない」が45.0%でしたが、「減る」が11.6%、「増える」が7.7%と、「増えるー減る」がマイナス3.9ポイントとなりました。マイナスとなったのは2011年ぶりで、10年間続いた採用数増加のトレンドが途切れたことになります。
「わからない」と回答した企業も21年卒調査の19.7%から26.1%へと増加。マイナビの調査と同じく、コロナ禍により状況が見通せない中で、採用計画の遅れが見られます。

リーマンショック後の大卒求人倍率推移を改めて遡ってみると、直後(09年卒→10年卒)において0.52ポイント低下していますが、その翌年(10年卒→11年卒)においても0.34ポイント低下しています。やはり新卒採用意欲の低下傾向は2021年も続くと予測するのが妥当といえそうです。

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3 就職活動の早期化に対応せよ

採用競合が減る。逆に学生の中小企業志向が高まる。こうした傾向が21年卒採用においても続きそうな中、この機を逃さないためにはどうすればいいのか。そのカギを握るキーワードは2つあります。それが新卒採用の「早期化」と「オンライン採用」です。

ご存じのように、「採用指針(就職・採用活動のルール)」を定めていた経団連は、21年春入社以降の学生に対しては指針をつくらないことを決定しました。そして、その代わりに政府がルールの策定を主導し、3年生の3月に企業の採用情報を解禁、4年生の6月には面接を開始することになりました。
22年卒についても、そのルールを踏襲する形になるとみられます。しかし経団連に加盟していない外資系やベンチャー企業はもちろん、経団連に加盟している企業ですら、優秀な学生を囲い込むため、先行して説明会や選考を行っています。ルールが形骸化されている状況は、さらに進行しているのです。

リクルートワークス研究所は、「早めに内々定を出す中小企業も増加しており、中小企業を第一希望とする学生数を押し上げている可能性もある」と指摘。学生の中小企業志向を、この就職活動の早期化に関連付けて分析しています。
確かに、コロナ禍で不安が増す学生にとって、いち早く自分を採用してくれることは、何物にも代え難い安心感なのかもしれません。いずれにせよ、早く学生と会うこと。採用の勝ち組への第一歩はここからです。

4 オンライン採用が明暗を分ける

もう一つのキーワードがオンライン採用です。人事領域の調査機関であるHR総研が実施した調査によると「2022年卒採用でより重要になると思われる施策」については、「オンラインでの自社セミナー・説明会」が最多で42%、次いで「オンラインでの面接」が38%、「自社採用ホームページ」が31%などと、オンラインを活用した採用活動の施策が上位3つを独占しています。21年卒採用で急激に広まり、もはや主要な採用手法の一つとなったオンライン採用は、ウィズコロナの22年卒採用で、より強化すべき施策と認識されていることがうかがえます。

採用ホームページを整備し、オンライン説明会の準備をする。これらの施策にもノウハウは必要ですが、最も重要なのがオンライン面接のノウハウといえます。
オンライン面接を実施して良かった点を同調査に寄せられた人事担当者の声からピックアップすると、「面接官の拘束時間が少ない」「移動時間・費用がかからない」などコスト削減・業務効率化につながったとするのが圧倒的でした。「場所の制約を受けないので在宅時でも対応できる」「会場の設定がいらない」「日程調整がしやすい」ことで、「辞退率が下がった」「遠方の学生も昨年より多く集まった」など、機会獲得を歓迎する声もありました。一方で、オンライン面接を実施して悪かった点としては、「学生の本音」「雰囲気」「熱意」などを推し量りづらいという声が多く上げられています。
つまり、学生との出会いが増えるという大きなメリットを享受するには、非対面での選考スキルを獲得する必要があるわけです。しかし逆にいうと、モニター越しの面接手法を攻略できれば、22年卒の採用において大きなアドバンテージを手にすることが可能というわけです。

例えば、面接を録画し複数の人事担当者で判断したり、手軽に面接できるメリットを生かし、面接回数を増やして「マッチング」の精度を高めたりして、オンライン面接を上手に活用している企業もあります(このあたりは次回に詳しく解説します)。ぜひオンライン面接のノウハウ吸収に前のめりになっていただきたい。

22年卒の新卒採用シーンは、やはり不透明感が漂っています。学生の中小企業志向も垣間見えます。この機を逃さず未来を担う優秀人材を獲得するために、学生との早期接触、オンライン採用の確立を急いでください!

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年2月17日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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