少人数私募債の概要

書いてあること

  • 主な読者:少人数私募債の発行を検討している経営者
  • 課題:制度の内容や、どのような準備が必要なのかよく分からない
  • 解決策:少人数私募債は、縁故者との信頼関係があれば無担保でも社債を引受けてもらえるなどのメリットがある。一方で、縁故者を引受人とすることから事前の準備が非常に重要であり、弁護士や公認会計士などの専門家や関係先との連携が必須

1 少人数私募債とは

1)少人数私募債とは

少人数私募債は、金融商品取引法上の概念で、同法に規定されている有価証券届出書・有価証券報告書の開示規制が課されず、社債管理者の設置も不要となるように設計されている社債を指します。一般に、親族・従業員・取引先など、自社にとって身近な者(縁故者)を対象として発行されています。

少人数私募債は、直接金融による資金調達手段として中小企業でも活用されています。メリットとしては、次のような点が挙げられます。

  • 縁故者との信頼関係があれば無担保でも社債を引受けてもらえる
  • 発行企業が自由に発行条件を決定できる
  • 利息の固定化・低金利化が可能である
  • 通常の社債より手続きが簡単である

一方で、少人数私募債は社債ですから、会社から見ると投資家に対する債務です。そのため、償還期日に償還原資を確保しておかなければなりません。

2)少人数私募債に係る法律

社債は、金融商品取引法上の「有価証券」になりますので、社債取得の申込みを勧誘することは、「有価証券の募集」に該当します。そのため、金融商品取引法上、少人数私募債に該当するための要件である、1.募集人数が50名未満であること、2.譲渡制限や分割禁止が定められていること等の構成要件を満たす形で社債を発行する場合、当該社債の発行は、同法における「有価証券の私募」の一類型となります。

このように社債発行が「有価証券の私募」に該当すれば、上述した金融商品取引法上の開示規制は課されないことになります。

なお、この場合であっても、発行する社債は、会社法上の「社債」として、同法の規定に服することにはなります。

以降では、まず金融商品取引法および会社法における少人数私募債を構成する要件を見た上で、会社法上の社債発行手続きを見ていくものとします。

また、少人数私募債では、縁故者を引受人とすることから事前の準備が非常に重要となります。そのため、弁護士や公認会計士などの専門家や関係先との連携を密にし、計画的に進めていくことが必須となります。

2 金融商品取引法と少人数私募債

1)金融商品取引法における規定

新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘(取得勧誘)のうち、金融商品取引法第2条第3項各号の規定に該当するものを「有価証券の募集(公募)」といい、係る有価証券の募集に該当しないものを「有価証券の私募」といいます。

少人数私募債に該当するためには、「有価証券の私募」の要件を満たすことが必要となります。

【金融商品取引法第2条第3項】
この法律において、「有価証券の募集」とは、新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘(これに類するものとして内閣府令で定めるもの(次項において「取得勧誘類似行為」という。)を含む。以下「取得勧誘」という。)のうち、当該取得勧誘が第一項に掲げる有価証券又は前項の規定により有価証券とみなされる有価証券表示権利若しくは特定電子記録債権(次項及び第六項、次条第四項及び第五項並びに第二十三条の十三第四項において「第一項有価証券」という。)に係るものである場合にあっては第一号及び第二号に掲げる場合、当該取得勧誘が前項の規定により有価証券とみなされる同項各号に掲げる権利(次項、次条第四項及び第五項並びに第二十三条の十三第四項において「第二項有価証券」という。)に係るものである場合にあっては第三号に掲げる場合に該当するものをいい、「有価証券の私募」とは、取得勧誘であって有価証券の募集に該当しないものをいう。

  • 一 多数の者(適格機関投資家(有価証券に対する投資に係る専門的知識及び経験を有する者として内閣府令で定める者をいう。以下同じ。)が含まれる場合であって、当該有価証券がその取得者である適格機関投資家から適格機関投資家以外の者に譲渡されるおそれが少ないものとして政令で定める場合に該当するときは、当該適格機関投資家を除く。)を相手方として行う場合として政令で定める場合(特定投資家のみを相手方とする場合を除く。)
  • 二 前号に掲げる場合のほか、次に掲げる場合のいずれにも該当しない場合
  • イ 適格機関投資家のみを相手方として行う場合であって、当該有価証券がその取得者から適格機関投資家以外の者に譲渡されるおそれが少ないものとして政令で定める場合
  • ロ 特定投資家のみを相手方として行う場合であって、次に掲げる要件のすべてに該当するとき(イに掲げる場合を除く。)。
  • (1)当該取得勧誘の相手方が国、日本銀行及び適格機関投資家以外の者である場合にあっては、金融商品取引業者等(第三十四条に規定する金融商品取引業者等をいう。次項、第四条第一項第四号及び第三項、第二十七条の三十二の二並びに第二十七条の三十四の二において同じ。)が顧客からの委託により又は自己のために当該取得勧誘を行うこと。
  • (2)当該有価証券がその取得者から特定投資家等(特定投資家又は非居住者(外国為替及び外国貿易法(昭和二十四年法律第二百二十八号)第六条第一項第六号に規定する非居住者をいい、政令で定める者に限る。)をいう。以下同じ。)以外の者に譲渡されるおそれが少ないものとして政令で定める場合に該当すること。
  • ハ 前号に掲げる場合並びにイ及びロに掲げる場合以外の場合(当該有価証券と種類を同じくする有価証券の発行及び勧誘の状況等を勘案して政令で定める要件に該当する場合を除く。)であつて、当該有価証券が多数の者に所有されるおそれが少ないものとして政令で定める場合
  • 三 その取得勧誘に応じることにより相当程度多数の者が当該取得勧誘に係る有価証券を所有することとなる場合として政令で定める場合

【金融商品取引法施行令第1条の5(勧誘の相手方が多数である場合)】
法第二条第三項第一号に規定する多数の者を相手方として行う場合として政令で定める場合は、五十名以上の者を相手方として有価証券の取得勧誘を行う場合とする。

そこで、金融商品取引法における少人数私募債を発行するための要件(「有価証券の私募」に該当するための要件)を見ていきます。

2)「有価証券の私募」

先に紹介した金融商品取引法、同施行令にある通り、社債などにおける「有価証券の募集」とは、次のものをいいます。

  • 50名以上の多数の者を相手方とするもの
  • 次に掲げる要件(イ・ロ・ハ)のいずれにも該当しないもの
  • イ 適格機関投資家のみを相手方とする場合(いわゆるプロ私募)であって、発行する当該有価証券がその取得者から適格機関投資家以外の者に譲渡されるおそれが少ないもの
  • ロ イに該当しない場合であって、
    • 当該取得勧誘の相手が、国、日本銀行及び適格機関投資家以外の者である場合にあっては、金融商品取引業者又は登録金融機関が顧客からの委託により又は自己のために当該取得勧誘行為を行い、かつ
    • 当該社債の発行者とその社債の取得勧誘に応じてその社債を取得しようとする者(取得者)との間及びその社債勧誘を行う者とその取得者との間において、取得者がその社債を特定投資家等以外の者に譲渡されるおそれが少ないもの
  • ハ 50名以上の者を相手方とする場合及びイ・ロ以外の場合であって、発行する当該有価証券がその取得者から多数の者に譲渡されるおそれが少ないもの

簡単にいうと、50名以上の者を相手方とするもの、および発行する有価証券が第三者へ譲渡されることが予定されているものは、「有価証券の募集」に当たると理解いただければと思います。

この有価証券の募集の規定を充足しない(該当しない)ものが「有価証券の私募」に当たります。つまり、新たな有価証券(社債)の発行を少人数私募債とするための主な要件は次の通りと考えることができます。

  • 取得勧誘が50名未満であること、および発行する社債が多数の者へ譲渡されるおそれが少ないこと(譲渡制限や分割制限が付されていることが取得者に分かるようになっていること)等(金融商品取引法施行令第1条の7、金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令第13条第3項第1号)

なお、この50名未満とは、当該有価証券の発行される日以前の6カ月以内通算の人数であることに注意が必要です。過去6カ月以内に同種の社債が発行されている場合にはそのときの勧誘人数との通算が50名未満でなければなりません。通算で50名以上となる場合は、少人数向け勧誘に該当しないものとなります(金融商品取引法施行令第1条の6)。

3 会社法と少人数私募債

1)社債とは

社債とは、会社法の規定により、会社が行う割当てにより、発生する当該会社を債務者とする金銭債権であって、第676条各号に掲げる事項についての定めに従い償還されるものをいいます(会社法第2条第23号)。社債(少人数私募債)の発行に際しては、次の規定に基づき行うこととなります。

【会社法第4編社債(第676条~第742条)】
第1章 総則(第676条~第701条)
募集社債に関する事項の決定、募集社債の申込み、募集社債の割当て、募集社債の申込み及び割当てに関する特則、募集社債の社債権者、社債原簿、社債原簿記載事項を記載した書面の交付等、社債原簿管理人、社債原簿の備置き及び閲覧等、社債権者に対する通知等、共有者による権利の行使、社債券を発行する場合の社債の譲渡、社債の譲渡の対抗要件、権利の推定等、社債権者の請求によらない社債原簿記載事項の記載又は記録、社債権者の請求による社債原簿記載事項の記載又は記録、社債券を発行する場合の社債の質入れ、社債の質入れの対抗要件、質権に関する社債原簿の記載等、質権に関する社債原簿の記載事項を記載した書面の交付等、信託財産に属する社債についての対抗要件等、社債券の発行、社債券の記載事項、記名式と無記名式との間の転換、社債券の喪失、利札が欠けている場合における社債の償還、社債の償還請求権等の消滅時効

第2章 社債管理者(第702条~第714条)
社債管理者の設置、社債管理者の資格、社債管理者の義務、社債管理者の権限等、特別代理人の選任、社債管理者等の行為の方式、二以上の社債管理者がある場合の特則、社債管理者の責任、社債管理者の辞任、社債管理者が辞任した場合の責任、社債管理者の解任、社債管理者の事務の承継

第3章 社債権者集会(第715条~第742条)
社債権者集会の構成、社債権者集会の権限、社債権者集会の招集、社債権者による招集の請求、社債権者集会の招集の決定、社債権者集会の招集の通知、社債権者集会参考書類及び議決権行使書面の交付等、議決権の額等、社債権者集会の決議、議決権の代理行使、書面による議決権の行使、電磁的方法による議決権の行使、議決権の不統一行使、社債発行会社の代表者の出席等、延期又は続行の決議、議事録、社債権者集会の決議の認可の申立て、社債権者集会の決議の不認可、社債権者集会の決議の効力、社債権者集会の決議の認可又は不認可の決定の公告、代表社債権者の選任等、社債権者集会の決議の執行、代表社債権者等の解任等、社債の利息の支払等を怠ったことによる期限の利益の喪失、債権者の異議手続の特則、社債管理者等の報酬等、社債権者集会等の費用の負担

2)少人数私募債と社債管理者

会社法上、会社が社債を発行する場合には、社債管理者(銀行、信託銀行など)を定め、社債権者のために、弁済の受領、債権の保全その他の社債の管理を行うことを委託しなければなりません(会社法第702条)。

ただし、各社債の金額が1億円以上である場合、その他社債権者の保護に欠けるおそれがないものとして次の会社法施行規則の要件を満たす場合は、社債管理者の設置を要しないものとされています。

【会社法施行規則第169条(社債管理者を設置することを要しない場合)】
法第702条に規定する法務省令で定める場合は、ある種類(法第681条第1号に規定する種類をいう。以下この条において同じ。)の社債の総額を当該種類の各社債の金額の最低額で除して得た数が50を下回る場合とする。

すなわち、社債発行額を社債の最低額で割った数が50未満である場合には、社債管理者の設置が不要となります。例えば、社債発行額を1000万円とする場合、社債管理者の設置を不要とするためには、1口の債権額は1000万円の50分の1である20万円よりも大きくしなければなりません。次章で、会社法における少人数私募債(社債)の発行手続きを紹介しますが、一般的に少人数私募債を設計する際に社債管理者を置かない形とするため、係る一般的な場合を前提に説明します。

4 会社法における少人数私募債(社債)の発行手続き

1)募集社債に関する事項の決定

会社は、その発行する社債を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集社債(当該募集に応じて当該社債の引受けの申込みをした者に対して割り当てる社債をいいます)について次に掲げる事項を定めなければなりません(会社法第676条、会社法施行規則第162条)。

  • 募集社債の総額
  • 各募集社債の金額
  • 募集社債の利率
  • 募集社債の償還の方法及び期限
  • 利息支払の方法及び期限
  • 社債券を発行するときは、その旨
  • 社債権者が第698条の規定による請求の全部又は一部をすることができないこととするときは、その旨
  • 各募集社債の払込金額(各募集社債と引換えに払い込む金銭の額)若しくはその最低金額又はこれらの算定方法
  • 募集社債と引換えにする金銭の払込みの期日
  • 一定の日までに募集社債の総額について割当てを受ける者を定めていない場合において、募集社債の全部を発行しないこととするときはその旨及びその一定の日
  • 数回に分けて募集社債と引換えに金銭の払込みをさせるときは、その旨及び各払込みの期日における払込金額(法第676条第9号に規定する払込金額をいう)
  • 他の会社と合同して募集社債を発行するときは、その旨及び各会社の負担部分
  • 募集社債と引換えにする金銭の払込みに代えて金銭以外の財産を給付する旨の契約を締結するときは、その契約の内容

なお、取締役会設置会社にあっては募集社債に関する事項の決定は取締役会の決議事項となります(会社法第362条第4項第5号)。なお、会社法施行規則第99条に定める事項(2以上の社債引受人の募集に係る募集事項の決定を委任するときはその旨、募集社債の総額の上限、募集社債の利率の上限その他の利率に関する事項の要綱、募集社債の払込金額の総額の最低金額その他の払込金額に関する事項の要綱)以外のものは、取締役会で定めないでその決定を取締役に委任することができます。

また、会社法では、頻繁な流通を予定していない社債券について、原則不発行とするものとされました。そのため、社債券を発行する場合、募集事項に社債券を発行する旨を定めることが必要となります。

2)募集社債の申込み

会社は、会社法第676条の募集に応じて募集社債の引受けの申込みをしようとする者に対し、次に掲げる事項を通知しなければなりません(会社法第677条第1項、会社法施行規則第163条)。

  • 会社の商号
  • 当該募集に係り、決定した募集社債に関する事項(「1)募集社債に関する事項の決定」における記載参照)
  • 社債原簿管理人を定めたときは、その氏名又は名称及び住所

なお、この事項について変更があった場合、会社は直ちにその旨および当該変更があった事項を、会社の募集に応じて募集社債の引受けの申込みをした者(以下「申込者」)に通知しなければなりません(会社法第677条第5項)。

この会社の募集に応じる申込者は、次に掲げる事項を記載した書面を会社に交付しなければなりません(会社法第677条第2項)。

  • 申込みをする者の氏名又は名称及び住所
  • 引き受けようとする募集社債の金額及び金額ごとの数
  • 会社が各募集社債の払込金額(各募集社債と引換えに払い込む金銭の額)若しくはその最低金額又はこれらの算定方法(会社法第676条第9号)を定めたときは、希望する払込金額

3)募集社債の割当て

会社は、申込者の中から募集社債の割当てを受ける者を定め、かつ、その者に割り当てる募集社債の金額および金額ごとの数を定めなければなりません。この場合において、会社は、当該申込者に割り当てる募集社債の金額ごとの数を、申込者が引き受けようとする募集社債の金額および金額ごとの数よりも減少することができます(会社法第678条第1項)。また、会社は、募集社債と引換えにする金銭の払込期日の前日までに、申込者に対し、当該申込者に割り当てる募集社債の金額および金額ごとの数を通知しなければなりません(会社法第678条第2項)。

4)社債原簿

会社は、社債を発行した日以後遅滞なく、社債原簿を作成し、これに次に掲げる事項(「社債原簿記載事項」)を記載または記録しなければなりません(会社法第681条、会社法施行規則第165条、同第166条)。

  • 1.第676条第3号から第8号までに掲げる事項その他の社債の内容を特定するものとして法務省令で定める事項
    • 社債の利率
    • 社債の償還の方法及び期限
    • 利息支払の方法及び期限
    • 社債券を発行するときは、その旨
    • 社債権者が法第698条の規定による請求の全部又は一部をすることができないこととするときは、その旨
    • 他の会社と合同して募集社債を発行するときは、その旨及び各会社の負担部分
    • 社債原簿管理人を定めたときは、その氏名又は名称及び住所
    • 社債が担保付社債であるときは、担保付社債信託法第19条第1項第1号、第11号及び第13号に掲げる事項
  • 2.種類ごとの社債の総額及び各社債の金額
  • 3.各社債と引換えに払い込まれた金銭の額及び払込みの日
  • 4.社債権者(無記名社債の社債権者を除く)の氏名又は名称及び住所
  • 5.前号の社債権者が各社債を取得した日
  • 6.社債券を発行したときは、社債券の番号、発行の日、社債券が記名式か、又は無記名式かの別及び無記名式の社債券の数
  • 7.募集社債と引換えにする金銭の払込みに代えて金銭以外の財産の給付があったときは、その財産の価額及び給付の日
  • 8.社債権者が募集社債と引換えにする金銭の払込みをする債務と会社に対する債権とを相殺したときは、その債権の額及び相殺をした日

5)その他

  • 社債原簿記載事項を記載した書面の交付(会社法第682条)
    社債権者(無記名社債の社債権者を除く)は,社債発行会社に対し、社債原簿記載事項を記載した書面または電磁的記録の提供の請求を受けた場合、当該書面の交付または電磁的記録の提供を請求することができます(ただし、社債券を発行する旨の定めがある場合を除きます)。
  • 社債原簿の備置き及び閲覧等(会社法第684条)
    社債発行会社は、社債原簿をその本店(社債原簿管理人がある場合にあっては、その営業所)に備え置かなければなりません。また、社債発行会社の営業時間内に、社債権者等から理由を明らかにして社債原簿の閲覧謄写を請求された場合には、原則としてこの請求に応じなければなりません。
  • 社債券の発行、社債券の記載事項(会社法第696条、同第697条)

社債発行会社は、社債券を発行する旨の定めがある社債を発行した日以後遅滞なく、当該社債に係る社債券を発行しなければなりません(会社法第696条)。社債券には、社債発行会社の商号、当該社債券に係る社債の金額、当該社債券に係る社債の種類およびその番号を記載し、社債発行会社の代表者がこれに署名し、または記名押印しなければなりません(会社法第697条第1項)。また、社債券には利札を付することができます(会社法第697条第2項)。

社債権者は、募集事項で定められ、社債原簿に記載された内容の利息の支払いを受け、定められた社債の期限が到来したときに償還を受ける権利を有します。この他、社債権者は、団体として発行会社に対し権利の行使等の行動をとることができます。その1つが、会社法第715条から第742条にまとめられている社債権者集会で、会社法に規定する事項および社債権者の利害に関する事項について決議をすることができるものとされています。

社債発行に際しては、こうした社債権者に認められる権利や制度についても十分に理解しておくことが必要となります。

以上(2019年8月)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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持株会社を活用した事業承継/弁護士が教える組織再編~事業再編・M&Aを学ぶ~(2)

書いてあること

  • 主な読者:持株会社の設立によって、事業承継をスムーズに進めたい
  • 課題:後継者がまだ若くて不安。持株会社設立のメリットもよく理解できていない
  • 解決策:株式移転による持株会社を設立することで、経営を安定させることができる

事業承継で持株会社(ホールディングス、HD)を活用するケースが増えています。持株会社とは、事業会社(既存ビジネスを行っている会社)を所有・管理するために存在する会社です。持株会社を設立すると、事業会社を管理・統括する組織体制(以下「持株会社体制」)を築くことができます。事業会社の所有と経営の分離を図り、事業会社の経営自体は第三者(後継者)に任せ、先代の経営者は持株会社の立場から、事業会社の経営を見守ることができるからです。

また、一族で複数の事業会社を経営している場合も、持株会社体制であれば複数の事業会社を持株会社1つで管理することが可能で、グループ全体の経営の効率化を図ることができます。

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持株会社の設立には多くのメリットがありますが、設立にあたり多大なコストをかけてしまっては意味がありません。シリーズ第2回では、コストをかけない持株会社の設立方法と、持株会社体制の効果を解説します。

1 低コストの設立方法

持株会社の作り方は大きく分けて次の2つです。いずれの方法によるかで、コスト面で大きな違いが出てきます。比較して見てみましょう。

  • 株式を売買させて持株会社を設立する方法
  • 組織再編(株式移転、株式交換等)により持株会社を設立する方法

1)コスト大!株式売買による持株会社の設立方法

1.の方法では、まず後継者が将来的に持株会社となる会社(「X社」)を設立します(1)。次に、X社は事業会社の株主から事業会社の株式を買い取るために、金融機関から融資を受けます(2)。X社はその資金で事業会社の株式を買い取ります(3)。これにより、X社は事業会社の持株会社となります。

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この方法では、X社は事業会社の株式を買い取るために多額の資金が必要になり、後継者は事業を引き継いだ直後から、多額の借入金の返済をしていかなければなりません。また、株式の売買により売却益が生じた場合には、税コスト(売買益による納税額の増加)を負担することになります。

2)これで安心。株式移転による持株会社の設立方法

2.の方法では、まず株主が事業会社の株式を持株会社とするために設立した会社(「X社」)に出資(現物出資といいます)し(1)、その対価としてX社の株式を引き受けます(2)。つまり、株主はX社から新株発行を受けるのです。

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これにより株式移転前の事業会社の株主が持株会社の株主に、また持株会社が事業会社の株主となり、次のような組織が出来上がります。

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株式移転であれば、株式を売買しないため、資金が必要ありません。また、一定の要件を満たすことで税コストを生じさせることなく持株会社を設立することができます。

3)株式移転に必要な主な手続き

株式移転に必要な主な手続きは次の通りです。会社ごとの事情にもよりますが、一般的に2カ月程度で完了します。

  • 株式移転計画の作成
  • 事前開示事項の作成及び備置き
  • (一定の場合に)債権者に対する催告・公告、株券・新株予約権証券の提出手続
  • 株主総会の招集通知、株主総会の承認決議
  • 設立登記の申請
  • 事後開示事項の作成及び備置き

2 後継者不足もこれで解決!後継者育成まで可能

持株会社の代表に先代の経営者が就任することで、事業会社の経営を後継者に任せたとしても、事業会社の経営を指導・管理することができます。例えば、事業会社の代表(後継者)を持株会社の意思(つまり先代の経営者の意思)で選任・交代させることもできます。

先代の経営者からすれば、後継者はまだ若く、経験も足りないことが少なくないと思うかもしれません。持株会社体制であれば、そのような後継者に実際に経営を任せたまま育成することができます。詳細な説明は省略しますが、種類株式(権利の内容が異なる株式)を併用することで、より強固なバックアップ体制を作ることができます。

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また、複数の事業会社がある場合には、それぞれの事業会社に将来のグループ全体の後継者候補を代表に置き、経営能力を比較したり、若い人材を登用するチャンスを作ったりするなどさまざまな活用方法があります。

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3 財務体質、改善できます~不動産移転による資金調達~

せっかく設立した持株会社を他にも有効活用したいものです。そこで考えられるのが不動産の活用です。例えば、事業会社(A社)の本社や工場の土地建物を持株会社(B社)に売却することで、A社の財務改善を図ることができます。

具体的には、A社が所有している事業用資産以外の不動産をB社に売却するにあたり、持株会社B社が金融機関から借り入れを行います。すると、その資金は売買代金としてA社に流れるため、A社は手元の現預金を増加させることができます。つまり、A社を財務的に強い会社とした上で、後継者へ経営のバトンを渡すことができるのです。また、後継者は借入金返済の負担を背負うことなく経営に集中することができます。

なお、B社は、A社より取得した不動産を賃貸したり、A社から配当を得たりして金融機関に対する返済を行うことになります。

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4 敵対的株主も真っ青?持株会社の意外な効果

株式が分散してしまい、敵対的な株主が存在する中小企業もあるでしょう。株式移転により持株会社を設立した場合、従前の事業会社の株主は全員持株会社の株主に移行します。つまり、従前の株主は事業会社の株主ではなくなり、新たに持株会社が事業会社の株主となります。そのため、従前の事業会社の株主は、事業会社の経営に口出しすることが難しくなります。

また、会社法上も、少数株主は原則として会計帳簿の閲覧をすることができますが、持株会社のような親会社の株主が子会社である事業会社の会計帳簿を閲覧するには、「裁判所の許可」という要件が必要になります(閲覧するためのハードルが高くなっているのです)。

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このように、仮に敵対的な株主が事業会社に存在していた場合でも、その株主の立場を弱体化させることができるのです。

5 否認注意!株価上昇抑制効果

持株会社の設立により、事業承継の対象となる株式の株価上昇を抑制することができるといわれることがあります(本稿では詳細な説明は省略しますが、株価評価の計算上、一定額を控除することができる場合があります)。確かにそのような効果がある場合もありますが、節税目的のみでの株式移転は、課税当局に否認される可能性がありますので注意が必要です。あくまで、組織再編は会社組織全体を見直し、組織に良い変化を生むことを第一目的に検討・実施することが大切です。

以上(2020年7月)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 加藤憲田郎)

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ビジネスで印鑑はどこまで必要? 印鑑レスで業務の効率化

書いてあること

  • 主な読者:業務効率化の一環で、印鑑が必要な業務を見直したい経営者
  • 課題:印鑑が本当に必要なのか分からない。また、押印していないと顧客や取引先が書類を受領してくれないかもしれない
  • 解決策:印鑑が必要な書類と不要な書類を把握する。その上で、顧客などと交渉する

見積書、発注書、請求書、納品書、契約書、会議の議事録、日常業務の報告書……。

とにかく、ビジネスではたくさん「印鑑」が使われます。押印するのは当たり前ということで、その必要性が議論されることは少なかったのですが、コロナ禍において「押印のために出社しなければならない」という問題が発生し、印鑑の必要性が再確認されることとなりました。

実は多くのビジネス業務において印鑑は法的には不要です。印鑑のない文書にも法的な効果が認められ、実際に“印鑑レス化”を進めている企業もたくさんあるのです。

今回は「ビジネスで印鑑がどこまで必要か」「印鑑の法的な意味」「印鑑レス化する方法」など、ビジネスと印鑑について解説します。

1 仕事に入り込んでいる印鑑の正体(「印鑑とは?」)

1)そもそも「印鑑」とは

一般に印鑑というと、「印材に名前が彫刻された棒状の道具」を示すことが多くなっています。つまり「押印するための『はんこ』」を印鑑と呼びます。

実は、厳密には「市区町村等の役所や銀行で登録した『はんこ』」のみが「印鑑」とされ、押印するための道具は「印章」といいます。

ただ企業内でも、印鑑というと押印するための印章を指すことが多く、実印や銀行印、三文判(実印以外の印章)のいずれも印鑑と呼んでいます。本稿でも、便宜上、印鑑については押印するための印章や三文判も含めたものとして解説します。

2)印鑑の種類

企業の日常業務で使用する印鑑には以下のような種類があります。

1.認印

印鑑登録をしていない、いわゆる「三文判」です。

2.銀行印

銀行預金を開設するときに銀行に届け出る印鑑です。この印鑑がないと、通帳による出金や振込などができません。

3.実印

役所や法務局に届け出ている印鑑です。個人の実印は市区町村役場、会社印は法務局で登録します。

4.スタンプ印

朱肉を使わず、押すだけで押印できる簡易な印鑑です。日常業務で請求書や見積書、請書作成などの際に使用されます。

3)実印と認印、法律的な効果は同じ

実印は信用性が高いので法的な効力が強いと思われているかもしれません。しかし、多くのケースにおいて法的な効果は実印でも認印でも同じです。

例えば、契約書は実印でなくても作成できます。ただ信用性を高めるため、実印を使用するケースがあるだけです。

4)印鑑がなくても文書は有効?

印鑑がなくてもほとんどの文書は有効です。見積書、発注書、請求書など、印鑑がなくても本人が作成したものであれば、法的な効力が認められます。

5)印鑑の効果

では印鑑には何の効力もないのでしょうか?

法律では「押印」があると「文書が真正」であることが推定されます(民事訴訟法228条4項)。文書が真正とは、本人の意思に基づいて文書が作成されたという意味です。つまり押印があると本人の意思に基づいて文書が作成されたと推定されるので、名義人は「勝手に偽造された」と主張しにくくなります。偽造されたと主張したいなら、印鑑で表示された名義人が偽造された事実を証明しなければなりません。

もしも契約書等に自署がされておらず、記名(例:自署ではなくゴム印が押されている場合や名前等が印字されている場合)されているだけで印鑑がなかったら、反対に「この文書を本人が作成したものである」と主張する人が、その事実を証明する必要があります。

このように印鑑による押印があると、法的に文書の効力が認められやすくなることは確かです。なお、この場合の印鑑は、実印である必要はありません。

2 本当に印鑑が必要な業務と実はいらない業務

企業では、実は印鑑が不要な業務はたくさんあります。印鑑が必要な業務と不要な業務を振り分けてみましょう。

1)法律上、電子署名が認められている

文書に「押印」があると本人の意思に基づいて作成されたことが推定されるので、文書が真正なものであると主張しやすくなります。そうなると押印がない文書は法的な効力が弱くなり、不安を感じるかもしれません。

しかし、その心配はありません。2001年4月1日に「電子署名法」が施行され、電子署名が手書きの署名や押印と同等に通用する法的基盤が整備されました。電子署名とは、ネット上のやり取りで利用できる署名です。きちんと認定を受けた認証機関で手続きを行って電子文書をやり取りすれば、電子署名にも印鑑と同じ効力が認められます。

今は法律も「印鑑を必須とはしていない」のです。

また、請求書や領収書などの文書にはそもそも印鑑は不要です。印鑑の効力は「本人が作成したと推定する」ことなので、作成者が明らかであれば印鑑がなくても事業に支障は発生しません。

2)印鑑が不要な文書

見積書、発注書、請求書、納品書、会議の議事録、日常業務の報告書など、ほとんどの文書に印鑑は不要です。実務上、「本人が作成したこと」が争いになる危惧がないのであれば、ネット上で簡単に利用できる簡易なデジタル印鑑(印鑑の画像を貼り付けるサービス)などで対応すればよいでしょう。

また、契約書も基本的に物理的な印鑑による押印は不要ですが、将来のトラブルを防ぐために「電子署名」を利用しましょう。電子署名は「印鑑」と同じ効力が認められるので、後に相手が「そんな契約はしていない」と言い出すトラブルを防止できます。

3)印鑑が必要な文書

一方、法律上、印鑑が必要な文書もあります。ただし、実印でなくても大丈夫です。

1.不動産における35条書面、37条書面

宅地建物取引業法上、不動産会社が作成する重要事項説明書や契約内容を説明する書面で、署名(記名)押印が必要です。

2.概要書面

特定商取引法により、事業者が消費者へ契約内容の概要やクーリングオフなどについて説明するための書面です。電子署名では対応できません。

3.クーリングオフの通知書

消費者がクーリングオフを行うには、書面で通知書を送らねばならないので署名押印が必要です。ただし、電子内容証明郵便を利用すれば押印は不要となります。

4.定期借地契約、定期借家契約の書面

契約期間が終了したら土地や建物を返還する定期借地契約や定期借家契約では、書面による契約書作成が必要です。両者が署名押印しなければなりません。

4)必ず実印が必要な文書

以下のような文書には「実印」での押印が必要です。

  • 不動産の登記申請書
  • 遺産分割協議書
  • 自動車の名義変更書類

上記のような文書に認印を使うと名義変更や登記申請が受け付けてもらえません。必ず実印を使いましょう。

5)押印のために従業員を出社させることは問題?

新型コロナウイルス感染症の影響でリモートワークが進む中、企業が報告書や議事録に押印するためだけに従業員を出社させることに問題はないのでしょうか?

使用者には従業員に対する「安全配慮義務」が課されます。安全配慮義務とは「雇用者が被用者の身体や生命を保護し、安全な環境で働けるよう配慮すべき義務」です。そのため、危険防止のための対策(例えば、従業員が出社する際の体調に関する状況把握、飛沫感染を防止するための物理的措置等)を講じることなく漫然と従業員を出社させた場合は、企業は安全配慮義務違反となって、従業員から損害賠償請求をされる恐れがあります。

6)企業の「印鑑レス化」

全国的に、電子署名等の導入によって印鑑を業務から排除する企業が増えています。電子署名を利用するとペーパーレス化が進むので、文書管理も簡単になり、物理的なスペースも不要となってコスト削減ができます。

印鑑レス化はリモートワークとも好相性です。在宅勤務を増やしているなら、これを機会に印鑑レス化を進めてみるのもよいでしょう。

3 もし取引先から印鑑なしの書類受け取りを拒絶されたら?

繰り返しになりますが、見積書、発注書、請求書、納品書などの文書に印鑑が不要です。ただ相手企業の理解を得られるとは限りません。もしも「印鑑なしの書類を受け取れない」と拒絶されたらどうすればよいのでしょうか?

その場合、まずは印鑑が不要である理由を説明してみましょう。電子署名が法律上有効であることなども伝えてみます。それでも相手が押印を求めるのであれば、応じる他はないでしょう。

印鑑レス化は、まずは社内から始め、理解を得られる顧客や取引先に広げていくのがよいでしょう。

以上(2020年7月)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

pj60180
画像:Mariko Mitsuda

ルール明確化で加速する「混合介護」の動向

書いてあること

  • 主な読者:混合介護を提供したい介護事業者
  • 課題:混合介護として提供できるサービスが分からない
  • 解決策:提供できるサービスのルールを知っておく

1 曖昧だったルールが明確に

2018年9月、「混合介護」のルールが明確になりました。混合介護とは、介護保険法の介護保険サービス(法定。利用者がサービス料の1~3割を負担)と介護保険外サービス(法定外。利用者がサービス料の10割を負担)を組み合わせて提供することです。

現行の介護保険制度では、介護保険サービスと介護保険外サービスを明確に区分するなどの条件で、混合介護を認めています。しかし、区分に関する明確なルールがないため自治体によって判断が異なるなど、介護事業者が混乱していました。

そこで、2018年9月に厚生労働省と国土交通省が混合介護のルールを整理し、指針として都道府県に通知しました。指針では、訪問介護の前後や途中でペットの世話や草むしりなど、混合介護として提供できるサービスのルールが明文化されました。

ルールが明確になったことで介護事業者は混合介護を提供しやすくなるため、ビジネスの選択肢が広がっていくと期待されます。指針の内容を分かりやすく整理した上で、実際に混合介護を提供する際のポイントを確認していきましょう。

2 混合介護のイメージ

介護保険サービスは、利用者の身体介護や生活援助などに限定されます。「ヘルパーさんに、ペットの世話もしてもらいたい」といった利用者のニーズには対応できません。そこで、この点を介護保険外サービスで補うのです。イメージは次の通りです。

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混合介護サービスのメニュー内容や料金は、介護事業者が自由に設計できます。介護報酬とは別の形での収益を確保することで、職員の待遇を改善したり、人材を確保しやすくなったりする可能性があります。

3 混合介護のルールを整理する

1)通知の概要

2018年9月に通知された指針は、厚生労働省「介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供する場合の取扱いについて」と、国土交通省「通所介護等に係る送迎に関する道路運送法上の取扱いについて」です。

訪問介護と通所介護において、介護事業者と自治体の解釈・判断によって運用されてきたローカルルールを整理し、個別具体的に明文化したものです。

指針に法的拘束力はないものの、厚生労働省は各自治体に対して、原則指針通りにルールを設定するよう要請しています。そのため、介護事業者と自治体がルールについて交渉したり、判断したりする際には、指針が大きな根拠になります。

2)共通のルール

指針では、訪問介護、通所介護にかかわらず混合介護を提供する上で、次のような事項を遵守するよう求めています。

  • 介護保険外サービスの事業の目的、運営方針、利用料等を、指定訪問/通所介護事業所の運営規程とは別に定める
  • 契約の締結に当たり、利用者に対し、上記の概要その他の利用者のサービスの選択に資すると認められる重要事項を記した文書をもって丁寧に説明を行い、介護保険外サービスの内容、提供時間、利用料等について、利用者の同意を得る
  • 介護保険外サービスの提供時間は、介護保険サービスの提供時間には含めない
  • 契約の締結前後に、利用者の担当の介護支援専門員(ケアマネジャー)に対し、サービスの内容や提供時間等を報告すること。その際、当該ケアマネジャーは、必要に応じて事業者から提供されたサービスの内容や提供時間等の介護保険外サービスに関する情報を居宅サービス計画(週間サービス計画表、ケアプラン)に記載する
  • 介護保険外サービスの利用料は、介護保険サービスの利用料とは別に費用請求すること。また、両サービスの会計を区分する

3)訪問介護において明確になったルール

指針では、提供できる介護保険外サービスとして「訪問介護の前後や途中に、草むしり、ペットの世話、利用者の趣味や娯楽のための外出への同行、要介護者以外(要介護者の家族など)のための食事の調理、洗濯、買い物など」等を明文化しています。

また、ケアマネジャーやヘルパーとの連絡調整業務を行うサービス提供責任者について、従来は「専ら指定訪問介護に従事すること」とされていました(「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(以下「指定居宅サービス等基準」)による)。

これが指針では、「業務に支障がない範囲で保険外サービスにも従事することは可能」と明文化されました。指定居宅サービス等基準でも、介護保険外サービスへの従事が禁止されていたわけではありません。しかし、指針で改めて明文化されたことで、介護事業者は抵抗感なくサービス提供責任者を混合介護に従事させることができるでしょう。

他に、訪問介護で混合介護を提供する上でのルールとして、利用者の認知機能が低下している恐れがあることを踏まえ、介護保険外サービスの提供時に、利用者の状況に応じて、別サービスであることが理解しやすくなるような配慮を行うこととしています。

4)通所介護において明確になったルール

通所介護は、利用者に必要な日常生活上の世話並びに機能訓練を行う介護保険サービスです。内容が多岐にわたるため、介護保険外サービスと区分することは基本的には困難とされてきました。

そのため、混合介護として提供できる介護保険外サービスは理美容サービスと、緊急のやむを得ない場合に限り併設医療機関を受診させることに限定されていました。

指針では、これらに加え、次のサービスも「明確に区分することが可能」として、提供が認められています。

  • 通所介護事業所内において、健康診断、予防接種若しくは採血(巡回検診等)を行うこと
  • 利用者個人の希望により通所介護事業所から外出する際に、介護保険外サービスとして個別に同行支援を行うこと
  • 物販・移動販売やレンタルサービス
  • 買い物等代行サービス

ただし、上記サービスを提供するに当たっては、次の点に留意することが求められます。

  • 利用者に対して特定の事業者によるサービスを利用させることの対償として、当該事業者から「紹介料」のような形で、金品その他の財産上の収益を収受してはならない
  • 物販・移動販売やレンタルサービスを行う際に、高額な商品を販売しようとする場合には、あらかじめその旨を利用者の家族やケアマネジャーに対して連絡する。また、認知機能が低下している利用者に対しては、高額な商品等の販売を行わない
  • 介護保険外サービスとして個別に同行支援を行う際に、事業所の保有する車両を利用して行う送迎については、道路運送法に基づく許可・登録を行う

5)通所介護施設を利用した混合介護

指針では、事業所の人員や設備を活用して、次のような混合介護が提供可能であることを明確にしています。

  • 通所介護を提供していない夜間および深夜に介護保険外サービスとして宿泊サービス(お泊りデイ)を提供する
  • 通所介護事業所の設備を、通所介護を提供していない時間帯に、地域交流会や住民向け説明会等に活用する
  • 通所介護事業所において、通所介護の利用者とそれ以外の地域住民が混在している状況下で、体操教室などの介護保険サービスを、地域住民向けに介護保険外サービスとして同時に提供する
  • 通所介護事業所において、通所介護を提供する部屋とは別室で、通所介護に従事する職員とは別の人員が、体操教室などを地域住民向けに提供する

お泊りデイを提供する際には、指定居宅サービス等基準などに定める届け出、公表、人員、宿泊室床面積、設備などの基準を守るよう定めています。

また、通所介護の利用者と地域住民に対して同時一体的にサービスを提供する場合、利用者と地域住民の合計数に対し、通所介護事業所の人員基準を満たすように職員が配置され、利用者と地域住民の合計数が通所介護事業所の利用定員を超えないようにする必要があります。

4 「同時一体的な提供」「指名料」は認められず

指針では、次の混合介護については提供不可としており、引き続き課題の整理等を行うとしています。

  • 「利用者の食事と、同居家族の食事を同時に調理する」「利用者を含めた家族全員の衣服を同時に洗濯する」といった、訪問介護と介護保険外サービスの同時一体的な提供
  • 特定の介護職員による介護サービスを受けるための指名料や、繁忙期・繁忙時間帯に介護サービスを受けるための時間指定料の徴収

提供不可の理由としては、利用者本人のニーズにかかわらず家族の意向によってサービス提供が左右されたり、指名料・時間指定料を支払える利用者へのサービス提供が優先され、社会保険制度の公平性を確保できなくなったりする恐れがあることなどが挙げられます。

5 ヒアリングから得られた混合介護の現状

1)先行事例を参考にする

東京都豊島区では、2018年8月から国家戦略特区を活用して、訪問介護と介護保険外サービスの柔軟な組み合わせを可能にする「選択的介護モデル事業」を実施しています。2019年12月からは、通所介護・居宅介護支援についても、同事業を実施しています。

同事業は、国の指針とおおむね同じルールで混合介護を提供しており、今後、介護事業者が混合介護を提供していく上での先行事例として注目されています。

■東京都豊島区「選択的介護モデル事業について」■
https://www.city.toshima.lg.jp/428/kaigo/1807100923.html

2)ルール明確化によるメリット

モデル事業に参加した介護事業者へのヒアリングによると、ルール明確化によって次のようなメリットが得られているようです。

  • サービス提供責任者が混合介護に従事できるようになり、実質的に混合介護に割ける人員を増やすことにつながった
  • 混合介護を提供する際にケアマネジャーが関わるようになったことで、これまで介護事業者が担っていた混合介護に関するクレームの対応や利用者への説明を、ケアマネジャーと連携して対応できるようになり負担が減った

3)短時間で対応可能な困り事ニーズを捉える

モデル事業に参加した介護事業者や豊島区へのヒアリングによると、混合介護には、次のような利用ニーズがあるようです。

  • 独居の高齢者を中心に、センサーやWEBカメラを定期的にチェックする見守りサービスの需要が高い。夜間の転倒などが心配という利用者家族に対し、ケアマネジャーよりサービスを提案するケースがある
  • 介護保険サービスを提供中に、「窓を拭いてほしい」「エアコンのフィルターを掃除してほしい」といった、清掃に関する依頼を突発的に受けることが多い
  • ペットの餌を買いに行けない、ペットの散歩ができないという利用者が多く、ペットの世話に関するサービスの需要も高い

利用者の傾向として、ヘルパーが1時間滞在しただけでも疲れてしまう人が多いため、ヘルパーの短い滞在時間の中で対応できる介護保険外サービスの需要が高いようです。一方、訪問介護で疲れてしまった利用者が、その前後または途中に外出することは少ないため、外出への同行サービスの需要は低いようです。

6 今後の可能性

介護保険外サービスの提供は、介護報酬の改定などの影響を受けないという点で、経営の安定化につながります。利用者のニーズに合ったサービスや、既存の人員や施設を活用したサービスを展開することにより、他事業所との差異化を図ることもできるでしょう。

また、今回の指針では、訪問介護における同時一体的な提供や指名料などの徴収は認められませんでしたが、厚生労働省は引き続き検討していくとしており、今後の動向が注目されます。

以上(2020年2月)

pj50255
画像:GagliardiPhotography-shutterstock

【規程・文例集】「職務発明規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:最新法令に対応し、運営上で無理のない会社規程のひな型が欲しい経営者、実務担当者
  • 課題:法令改正へのキャッチアップが難しい。また、内規として運用してきたが法的に適切か判断が難しい
  • 解決策:弁護士や社会保険労務士、公認会計士などの専門家が監修したひな型を利用する

1 職務発明制度とは

1)職務発明制度とは

原則として、従業員が職務の範囲内で行った発明(職務発明)についての特許を受ける権利は従業員に帰属します。しかし、特に研究開発に力を注いでいるなど技術系の企業にとっては、従業員が発明した知的財産は、競争力の源であり企業の重要な財産となるべきものです。

後述する通り、現在の特許法においては、職務発明については、契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ企業に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、企業に当初から特許を受ける権利を帰属させることが認められています。

このような職務発明の取り扱いなどについての取り決めを、一般的に「職務発明制度」といいます。

2)職務発明規程等を修正・整備するための注意点

2016年4月1日に施行された改正特許法では、従前に比べて職務発明制度が次のように変わりました。

  • 職務発明に関する特許を受ける権利を、あらかじめ企業(会社)の帰属とすることができるようになった。

  • 従業員等は、特許を受ける権利を会社に帰属させた場合には、「相当の金銭その他の経済上の利益」を受ける権利を有するものとされた。発明者である従業員に対して付与する相当の利益について、金銭に限らないインセンティブ(ストックオプション、留学機会の付与等)も認められるようになった。

  • 相当の利益を決定するための手続きなどの基準を示した、「特許法第35条第6項に基づく発明を奨励するための相当の金銭その他の経済上の利益について定める場合に考慮すべき使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況等に関する指針」(以下「ガイドライン」)が経済産業省告示として公布された。

なお、上記の内容は全ての企業に対応を義務付けるものではありません。あくまで、個々の企業の裁量に委ねられています。

ただし、「職務発明は、あらかじめ法人帰属としたい」「相当の利益を巡るリスクを軽減したい」などの意向がある場合、あらかじめ職務発明規程等を整備または修正する必要があります。

また、職務発明規程等を整備・修正するとは、文言の調整にとどまらないものです。特許庁では、上記の「相当の利益」を決定するための手続きなどの基準を示した、ガイドラインを告示しています。このガイドラインに示された手続きを経ることで、企業は「相当の利益を追加的に支払うよう求められる」といったリスクを軽減することが期待できます。

このガイドラインに示された手続きのポイントは、「企業が一方的に職務発明規程等の内容を定めるのではなく、従業員の意見をしっかりと踏まえて、職務発明規程等を整備、修正する必要がある」という点です。

本稿では、特許庁が公表している「中小企業向け職務発明規程ひな形」を参考に、2015年の特許法の改正に対応した職務発明規程のひな型について紹介します。

なお、ひな型では、相当の利益に関する条項を盛り込んでいます。相当の利益は金銭に限らない「企業が負担する留学機会の付与」なども含まれます。ガイドラインに示された手続きを踏む過程で、従業員と話し合い、相当の利益に関する条項を規定していくことが求められます。

2 職務発明規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【職務発明規程のひな型】

第1条(目的)
本規程は、○○株式会社(以下「会社」という。)の役員および従業員(以下「従業者等」)が行った職務発明の取り扱いについて、必要な事項を定めるものとする。

第2条(適用範囲)
本規程は、従業者等に適用されるものとする。

第3条(定義)
本規程において「職務発明」とは、その性質上会社の業務範囲に属し、かつ、従業者等がこれをするに至った行為が当該従業者等の会社における現在または過去の職務範囲に属する発明をいう。

第4条(届出)
1)会社の業務範囲に属する発明を行った従業者等は、速やかに発明届を作成し、所属長を経由して会社に届け出なければならない。
2)前項の発明が2人以上の者によって共同でなされたものであるときは、前項の発明届を連名で作成するとともに、各発明者が当該発明の完成に寄与した程度(寄与率)を記入するものとする。

第5条(権利帰属)
職務発明については、その発明が完成したときに、会社が特許を受ける権利を取得する。

第6条(権利の処分)
1)会社は、職務発明について特許を受ける権利を取得したときは、当該職務発明について特許出願を行い、もしくは行わず、またはその他処分する方法を決定する。
2)出願の有無、取下げまたは放棄、形態および内容その他一切の職務発明の処分については、会社の判断するところによる。

第7条(協力義務)
職務発明に関与した従業者等は、会社の行う特許出願その他特許を受けるために必要な措置に協力しなければならない。

第8条(相当の利益)
会社は、第5条の規定により職務発明について特許を受ける権利を取得したときは、発明者に対し次の各号に掲げる相当の利益を支払うものとする。ただし、発明者が複数あるときは、会社は、各発明者の寄与率に応じて按分した金額を支払う。
  1.出願時支払金 ○円
  2.登録時支払金 ○円

(注)前述の通り、相当の利益は金銭に限らないため、1.企業が負担する留学機会の付与、2.ストックオプションの付与、3.金銭的処遇の向上を伴う昇進・昇格、4.法令または就業規則所定の日数・期間を超える有給休暇の付与、5.職務発明についての特許権に係る専用実施権の設定または通常実施権の許諾といった内容を規定することも考えられます。

第9条(支払手続)
1)第8条に定める相当の利益は、出願時支払金については出願後速やかに支払うものとし、登録時支払金については登録後速やかに支払うものとする。
2)発明者は、会社から付与された相当の利益の内容に意見があるときは、その相当の利益の内容の通知を受けた日から○日以内に、会社に対して書面により意見の申出を行い、説明を求めることができる。

第10条(実用新案および意匠への準用)
本規程の規定は、従業者等のした考案または意匠の創作であって、その性質上会社の業務範囲に属し、かつ、従業者等がこれをするに至った行為が当該従業者等の会社における現在または過去の職務範囲に属するものに準用する。

第11条(秘密保持)
1)職務発明に関与した従業者等は、職務発明に関して、その内容その他会社の利害に関係する事項について、当該事項が公知となるまでの間、厳に秘密を保持しなければならない。
2)前項の規定は、従業者等が会社を退職した後も適用する。

第12条(適用)
本規程は、○年○月○日以降に完成した発明に適用する。

以上(2020年5月)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)

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【規程・文例集】「慶弔見舞金規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:最新法令に対応し、運営上で無理のない会社規程のひな型が欲しい経営者、実務担当者
  • 課題:法令改正へのキャッチアップが難しい。また、内規として運用してきたが法的に適切か判断が難しい
  • 解決策:弁護士や社会保険労務士、公認会計士などの専門家が監修したひな型を利用する

1 慶弔見舞金規程とは

慶弔見舞金規程とは、従業員の慶弔事の祝金・弔慰金や、従業員が病気や天災・火災などの災害に見舞われたときなどの見舞金の支給について定めるものです。一般的には慶弔見舞金規程を定める際のポイントとして、次の2点が挙げられます。

1)支給する額を明示する

祝金は全従業員一律にし、弔慰金は職位ごとに支給する額を決めておくのが一般的ですが、企業によっては祝金の支給額を勤続年数によって区分する場合もあります。また、従業員本人の死亡時の弔慰金について、業務上の死亡と業務外の死亡で支給額に差をつけることもあります。

労務行政研究所『労政時報』第3934号(17.7.28)の「慶弔見舞金の支給実態」(2017年1~3月調査)によると、本人死亡弔慰金の支給水準は次の通りです。

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2)支給する際のルールを明示する

慶弔見舞金規程で明示するルールとしては、例えば、次のようなものが挙げられます。

  • 従業員同士が結婚する際の結婚祝金、夫婦ともに同じ会社で勤務している場合にどちらかの父母などが亡くなった場合の弔慰金など、支給事由に該当する従業員が2名以上の場合の取り扱い
  • 従業員が行う申請のルール

この他、弔事の場合は、弔事についての連絡、通夜や告別式の参列・手伝いなどについてルールを定めることがあります。次章の慶弔見舞金規程のひな型では紹介していませんが、企業の規模によってはこうしたルールを定めておいてもよいでしょう。

2 慶弔見舞金規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。特に、弔慰金などの金額については、企業の規模・業種・保険加入の有無などによって異なることに注意が必要です。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【慶弔見舞金規程のひな型】

第1条(目的)
本規程は、従業員(短時間勤務従業員を除く)とその家族の慶弔、被災および従業員の傷病などを事由に支給する祝金・弔慰金・見舞金(以下「慶弔見舞金」)について定める。

第2条(慶弔見舞金の種類)
慶弔見舞金の種類は次の通りとする。
  1.慶事:結婚祝金、家族結婚祝金、出産祝金。
  2.弔事:弔慰金。
  3.見舞:傷病見舞金、災害見舞金。

第3条(重複支給の制限)
同一世帯2名以上の従業員が、本規程による慶弔見舞金の同一の支給事由に該当する場合、多額の金額に該当する従業員1名に対して慶弔見舞金を支給する。

第4条(届出)
従業員が本規程の慶弔見舞金の支給を受けようとするときは、別途定める「慶弔見舞金申請書」(省略)を総務部に届け出なければならない。なお、会社は、「慶弔見舞金申請書」と共に、必要最小限度の各種証明書の提出を求めることがある。

第5条(結婚祝金および家族結婚祝金)
1)従業員が結婚した場合は、次の結婚祝金を支給する。
  結婚祝金:2万円。
2)既に会社から結婚祝金の支給を受けたことがある従業員が再度結婚した場合は、第5条第1項に定める額の50%を支給する。
3)従業員の子女が結婚した場合は、次の結婚祝金を支給する。
  家族結婚祝金:1万円。

第6条(出産祝金)
1)従業員またはその家族が子を出産した場合は次の出産祝金を支給する。
  ・第1子:1万円。
  ・第2子以降:1万5000円。
2)双子以上の場合は人数に応じた金額とする。

第7条(弔慰金)
従業員またはその家族が死亡した場合は別表第1「弔慰金」に定める弔慰金を支給する。なお、従業員本人が死亡した場合は、民法における相続権者に対し相続順位に基づいて支給する。

第8条(弔電・祝電)
従業員またはその家族が死亡した場合は弔電、結婚した場合は祝電を会社より発信する。

第9条(供花)
従業員またはその家族が死亡した場合は生花または花輪を会社より贈る。ただし、生花または花輪に代え、供花料1万円を贈ることができる。

第10条(傷病見舞金)
従業員が、業務上または業務外の傷病により出勤できないときは、別表第2「傷病見舞金」に定める傷病見舞金を支給するものとし、その期間は暦によって計算する。

第11条(災害見舞金)
従業員が、火災・風水害・地震などの不測の災害により、本人が居住する住宅が損失を被ったときは、別表第3「災害見舞金」に定める災害見舞金を支給する。

第12条(社会保険制度との関係)
本規程の慶弔見舞金は、労働者災害補償保険法、健康保険法、その他社会保険制度に基づく給付とは関係なく支給する。

第13条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則
本規程は、○年○月○日より実施する。

■別表第1「弔慰金」■

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■別表第2「傷病見舞金」■

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■別表第3「災害見舞金」■

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以上(2018年10月)

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画像:ESB Professional-shutterstock

【規程・文例集】「携帯電話の利用管理規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:最新法令に対応し、運営上で無理のない会社規程のひな型が欲しい経営者、実務担当者
  • 課題:法令改正へのキャッチアップが難しい。また、内規として運用してきたが法的に適切か判断が難しい
  • 解決策:弁護士や社会保険労務士、公認会計士などの専門家が監修したひな型を利用する

1 携帯電話(スマートフォン)のルールを定めていますか?

現在、携帯電話は多くの人々の生活にとって不可欠なものとなっており、ビジネスシーンにおいても営業活動などに役立てられています。

従業員が業務上で利用する携帯電話の形態は「1.会社が所有する携帯電話を従業員に貸与する」「2.従業員個人が所有する携帯電話を業務用として利用し、業務に関する通話料を会社が負担する」の2つに大別されます。

「1.会社が所有する携帯電話を従業員に貸与する」場合、会社名義で契約するため、電話会社や契約プランによっては、基本利用料や、従業員間の通話料が割引される法人向けの特典などが受けられるメリットがあります。

また、「2.従業員個人が所有する携帯電話を業務用として利用し、業務に関する通話料を会社が負担する」場合、会社で携帯電話を用意する必要がなく、従業員は使い慣れた携帯電話を業務でも利用することができます。

いずれの形態にせよ、業務で利用する携帯電話について、利用・管理などのルールを定めておく必要があります。その根拠となるのが、携帯電話の利用管理規程です。

また、利用が拡大しているスマートフォンは、従来型の携帯電話に比べて、ウイルス感染などのリスクが高いなどの点に留意が必要です。スマートフォンのセキュリティー対策を講じる場合は、日本スマートフォンセキュリティ協会発行のガイドラインが参考になります。

以降では、携帯電話の利用管理規程のひな型について紹介します。

2 携帯電話の利用管理規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【携帯電話の利用管理規程のひな型】

第1条(目的)
本規程は、携帯電話およびスマートフォン(以下「携帯電話」)を効率的かつ安全に業務に利用するため、その適正な管理について定めることを目的とする。

第2条(適用)
本規程は、役員および従業員(以下「従業員等」)に適用されるものとする。

第3条(用語の定義)
本規程における各用語の定義は、次に定めるところによる。
  1.携帯電話
   業務上の連絡に用いる携帯電話とし、第2号の社用携帯電話と第3号の私用携帯電話のことをいう。
  2.社用携帯電話
   会社が契約し、従業員等に貸与する携帯電話をいう。
  3.私用携帯電話
   従業員等が個人的に所有する携帯電話であって、業務に利用する通話料を会社が負担するものをいう。

第4条(管理者)
携帯電話の利用・管理に関する事項は総務部門が掌握する。

第5条(利用対象者)
携帯電話の利用対象者は、次に該当する者とする。
  1.顧客との電話連絡が業務上必要不可欠と会社が認めた従業員等。
  2.電話連絡が業務上の重要な位置を占めると会社が認めた従業員等。
  3.その他会社が特に認めた従業員等。

第6条(申請)
携帯電話の利用のために必要な申請は次の通りとする。
  1.申請内容
   新規利用、携帯電話の盗難・紛失、社用携帯電話の破損・返還。
  2.申請者
   携帯電話を利用する従業員等(以下「利用者」)が行うものとする。
  3.申請方法等
   所定の「申請用紙」(省略)に記入の上、部門長に提出する。部門長が申請内容を確認した後、部門長から総務部門に提出する。
  4.提出時期
   申請は、その事由が発生後、速やかに行うこととする。

第7条(審査)
1)総務部門は、利用者の部門長から提出された申請内容を審査する。
2)申請が妥当と認められる場合には、総務部門の長が携帯電話の利用を許可する。

第8条(遵守事項)
携帯電話の利用に当たっては、次の事項を遵守すること。
  1.社用携帯電話の私用は厳禁とする。
  2.自動車の運転中、病院内、航空機内での携帯電話の利用は厳禁とする。
  3.電車、バス等公共の場所においては、状況に配慮して携帯電話を利用すること。
  4.申請なく社用携帯電話の電話番号、機種、付加サービス等の変更をしないこと。
  5.社用携帯電話を無断で他人に貸与しないこと。

第9条(社用携帯電話の利用状況の確認)
1)会社は必要に応じて、貸与した社用携帯電話の利用状況および通話記録を、加入電話会社に照会する。
2)前項において明らかに私用であると会社が認めた場合は、当該私用通話料金部分を利用者から徴収する。

第10条(私用携帯電話の利用状況の確認)
1)私用携帯電話の利用者は、業務利用部分の通話状況、通話料金を明確にした請求書を作成し、部門長、総務部門を経由して経理部門に届け出るものとする。
2)請求書には、加入電話会社より送付された、通話記録の明細書を添付しなければならない。
3)請求分は毎賃金計算期間の末日に締め切り、別途「賃金規程」(省略)に定める賃金支払日に支給する。

第11条(返還)
社用携帯電話を利用すべき事由がなくなった場合は、直ちに会社に返還しなければならない。

第12条(利用の中止)
本規程に反する携帯電話の利用が認められる場合、その他会社が利用の中止を必要と認めた場合には、利用者は携帯電話の利用を中止しなければならない。

第13条(賠償)
第9条および第10条並びに第11条について、不正や重大な過失が認められる場合は、会社は利用者に対して相当分の賠償を求めることがある。

第14条(罰則)
従業員等が故意または重大な過失により、本規程に違反した場合、就業規則に照らして処分を決定する。

第15条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則
本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2018年10月)

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【規程・文例集】「リコール対応に関する規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:最新法令に対応し、運営上で無理のない会社規程のひな型が欲しい経営者、実務担当者
  • 課題:法令改正へのキャッチアップが難しい。また、内規として運用してきたが法的に適切か判断が難しい
  • 解決策:弁護士や社会保険労務士、公認会計士などの専門家が監修したひな型を利用する

1 求められるリコールへの備え

安全な製品を供給することは企業の責務ですが、製品事故の発生を完全になくすことは難しいと言わざるを得ません。例えば、サプライチェーンが複雑化する中、完成品メーカーが気付かないうちに、サプライヤーが部品の材料や仕様を勝手に変えてしまう、いわゆる「サイレントチェンジ」が発生しており、経済産業省などが注意を促しています。また、足元では、一部の素材メーカーによる製品の品質データ改ざんが相次いで発覚し、問題となっています。

企業は日ごろから製品事故の発生を想定してリコール対応のための準備を行い、製品事故の発生またはその兆候を発見した段階で、迅速かつ的確なリコールを自主的に実施できるようにしておく必要があります。

準備を怠ると、リコール対応に長い時間がかかる上、結果的に「製品事故の発生を隠そうとした」と受け止められかねません。

消費者への人的危害が発生・拡大する可能性があることに気付きながらリコールなどの対応を行わず、死亡事故や火災など重大な被害を引き起こしてしまった場合、行政処分の対象となるばかりか、損害賠償責任や刑事責任を問われることになります。

訴訟に備える意味でも、企業には、迅速かつ的確なリコールを実施できる体制の整備が求められます。

リコールに備えるためには、あらかじめルールを定め、「消費者の安全確保」を重視する企業としての姿勢を従業員などが全員で共有することが不可欠です。その根拠となるのがリコール対応に関する規程です。以降では、経済産業省「消費生活用製品のリコールハンドブック2016」を基に、リコール対応に関する規程のひな型について紹介します。

2 リコール対応に関する規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【リコール対応に関する規程のひな型】

第1条(目的)
本規程は、製品の使用者の生命または身体への危害の拡大防止の観点から、事故発生に伴う使用者への危険や損害発生防止の際に、当該製品の点検・修理・回収等の事故対策を迅速、適切かつ効果的に行うための社内基準として定めるものである。

第2条(対象製品)
本規程の対象とする製品は、当社が取り扱う国内向けの製品とする。ただし、その他の製品についても、本規程に準じて適用するものとする。

第3条(用語の定義)
本規程において各用語の定義は、次に定めるところによる。
 1.事故
  製品の使用に伴い、人的危害を生じた事故および人的危害を生じる蓋然性の高い物的事故をいう。また、これらの製品事故(人的事故や火災等)の発生に結びつく恐れがある製品欠陥や不具合を事故等という。
 2.拡大
  同様の事象が複数発生することをいう。
 3.リコール
  製品の使用による事故発生の拡大可能性を最小限にするための対応であって、具体的には流通および販売段階からの回収並びに顧客の保有する製品の交換、改修(部品の交換、修理、適切な者による直接訪問での修理または点検を含む)または引き取りを実施することをいう。
 4.事故の発生を予見させる欠陥等の兆候に関する情報
  事故を発生させる蓋然性が高い欠陥に関する情報および欠陥か否かは明確に判別できないものの、同様の事故の発生を予見させる情報をいう。
 5.従業員等
  当社の役員および従業員をいう。

第4条(製品安全基本方針)
当社が製造・販売した全ての製品の安全性に対する消費者の信頼を確保することが当社の経営上の重要課題であるとの認識の下、次の通り、製品安全に関する基本方針を定め、誠実に製品安全の確保に努める。
 1.消費生活用製品安全法その他の製品安全に関する関係法令・各種基準等に定められた事項を遵守する。
 2.製品安全基本方針に基づき、品質保証体制をはじめとした組織構築を行い、継続的な改善を実施して「顧客視点」に基づいた「安全」「安心」の確保と維持に努める。
 3.製品安全管理について各事業部を横断的に統括する製品安全管理室を設置する。併せて各事業部内での品質保証体制および安全管理体制を構築する。製品の設計・製造・出荷の全ての段階において、常に適正な品質管理および安全管理を行い、その向上に努める。
 4.当社製品に係る事故について、その情報を顧客や販売会社、業界団体等から積極的に収集するとともに、製品の使用に伴うリスクの洗い出しを常に行い、そのリスクを評価し、その結果を製品の設計、部品、警告ラベル、取扱説明書にフィードバックするなど、継続的な製品安全の向上に努める。
 5.当社製品に関する不測の事故が発生した場合、直ちに原因究明を行い、安全上の問題があることが判明したときは、速やかに製品の回収、その他の危害の発生・拡大の防止措置を講じ、適切な情報提供方法を用いて迅速に消費者に告知する。
 6.製品安全に関する関係法令、各種基準等に関する社内研修を行い、製品安全に関する全社的な取り組みを継続的に行うとともに、関係法令遵守と製品安全の確保について周知徹底を図る。また、定期的な内部監査を実施し、製品安全管理に関する各種規程・手順等の遵守の状況の確認や適正な体制整備を行う。

第5条(製品安全責任者)
1)各部門長を、各部門における製品安全責任者とする。
2)各部門の製品安全責任者は、各担当部門における製品の安全性を確保するよう、従業員を指導・監督し、製品安全管理室と常に連絡を取るものとする。

第6条(原因究明)
1)当社製品に事故の発生または事故の発生を予見させる欠陥等の兆候を発見した場合、可能な限り速やかに問題の製品を入手し、事実関係を確実に把握する。
2)必要に応じて再現実験等の調査を実施し、原因の究明を行う。
3)当社内での原因の究明が困難な場合、製品の種類や事故の状況に応じ、公共または民間の適切な原因究明機関を利用し、原因の究明に努める。

第7条(被害想定)
事実関係に基づき人的危害の発生および拡大の可能性を検討し、被害を想定する。

第8条(リコール実施の判断)
1)消費者の安全確保の観点から、全ての事故および事故の発生を予見させる欠陥等の兆候に関する情報について、リコール実施の要否を検討する。
2)リコール実施の要否および方法は、製品安全管理室が原因究明や被害想定の結果を基に判定し、取締役会においてリコールを実施するか否かの判断と決定を行う。
3)リコール実施の判断は、消費者の利益を第一に考え、事故の拡大防止のため迅速かつ的確に対応するものとする。ただし、具体的な対応はリコールの他、使用方法等に関する注意喚起、原因が究明されるまでの製造、流通または販売の停止等の暫定的な対応の選択肢も考慮し、製品や事故状況に応じた最適な対応方法を決定する。
4)リコール実施を不要と判断した場合においては、事故が拡大する可能性がないか継続監視を行う。
5)継続監視の結果、リコール実施について再び審議が必要と判断した場合は、製品安全責任者による会合を招集し、事故情報の内容および分析結果を審議し、その内容および結果を取締役会に報告する。

第9条(リコール体制の確立)
1)リコール実施を決定した場合、直ちに製品安全管理室にリコール対策本部を設置する。
2)各関係部門の製品安全責任者をリコール対策本部のメンバーとして招集し、具体的なリコール計画の策定、実施を行う。
3)製品使用者等からの問い合わせに確実に対応するため、リコール対策本部の指揮下にリコール対応窓口を設置し、要員を配置する。

第10条(リコール計画の策定)
リコール実施を決定した場合、迅速かつ的確に事故の拡大を防止するため、リコール計画を策定する。リコール計画には次の事項を定める。
 1.目的
 2.リコールの種類
  ・製品の交換
  ・部品の交換
  ・修理
  ・点検
  ・引き取り(返金)
 3.具体的な目標
  ・リコール対象数
  ・リコール実施期間
 4.責任母体
  ・責任者
  ・対応組織と役割分担
 5.対象製品
  ・品名、型番、ロット番号、シリアル番号等
  ・稼働状況(販売台数、市場稼働台数、在庫台数等)
 6.情報提供方法
  ・記者発表実施の有無
  ・社告等の情報提供方法(媒体、時期、内容)
  ・社内外に対するリコール進捗状況の情報提供に関する透明性確保の方法
 7.製品使用者への対応
  ・既に被害が発生している場合、当該被害者の救済方法を含めた対応方針
  ・まだ被害が発生していない場合、被害を予測した被害者への対応方針
 8.官公庁・公的機関への報告
 9.社内への情報伝達
  ・関係部門への連絡と主旨の徹底方法
  ・従業員等への伝達方法
 10.原因究明
  ・原因究明の結果
  ・実施状況(実施機関、時間的目標等)
  ・原因が部品供給会社等の関連会社製品にある場合の原因追究の範囲および方法等
 11.関係者からの意見聴取
  ・法的な責任の有無の確認
  ・将来的な信用や風評への対応方法等
 12.対策および再発防止策
  ・リコール実施状況のモニタリング・評価および見直し方法

第11条(販売会社等への事故対策協力要請)
リコール実施に先立ち、対象製品を供給した販売会社、委託等により対象製品の設置・修理を行っている設置・修理業者等に対し、事故対策の実施に関する連絡を行うとともに、対策の実施について協力を依頼するものとする。

第12条(関係機関等へのリコールの報告)
リコール実施を決定した場合、次の関係機関等に情報提供を行う。
 1.無用な混乱、誤った情報の流出を避けるため、従業員等に対し必要な情報提供を行う。
 2.製品使用者への対応を適切に行うため、販売会社等に対し必要な情報提供を行い、協力を要請する。
 3.関係行政機関等に対し、リコール実施前にリコール計画等を報告する。その際、報告先、書式は関係行政機関等の通達に基づく。
 4.第3号の報告は、業界団体および、関連会社が加盟している関連団体等に対し、必要に応じ速やかに行う。
 5.対象製品について、使用者団体や、常日ごろ情報提供等を行っている関連団体がある場合、これらの団体に対し情報提供を行い、協力を要請する。
 6.法的責任判断のため、弁護士に速やかに事実関係を報告する。
 7.迅速な被害者救済のため、保険会社に速やかに事実関係を報告する。
 8.必要に応じ新聞・テレビ等に情報提供を行い、協力を要請する。

第13条(リコール実施の製品使用者への通知方法・手段)
製品使用者への通知方法は次の通りとする。
 1.保守点検契約等により顧客名簿が作成され、対象製品の所在が特定される場合、ダイレクトメール、電話、FAX、Eメール、直接訪問等により、速やかに製品使用者に対し直接連絡し、通知を図る。
 2.製品使用者を確実に特定できない場合、ウェブサイト、新聞社告、記者発表等、最適な情報提供媒体を決定し、事故の重大性や緊急性によって複数の通知方法から効果的な方法を選択し、または組み合わせて、適宜に通知を図る。
 3.製品使用者に対し通知を図る際には、次の点を考慮する。
  ・高齢者を考慮した文字の大きさや分かりやすい表現方法を用いる。
  ・広告、宣伝と誤解されない体裁とする。
  ・リコール目標の達成まで継続的に実施する。
  ・通知方法、手段は最適な方法を模索し続ける。
  ・情報提供に際して、必要に応じ関係行政機関等と相談をして対応する。

第14条(リコール実施の製品使用者への通知内容)
製品使用者への通知内容は次の通りとし、簡潔かつ正確に記載する。
 1.会社名、製品名、機種名、モデル名
 2.事故の内容(現象、原因、過去の事故の件数および概要)
 3.危険性の有無と発生が予想される危害等の内容
 4.リコールの内容
  ・リコールの種類
 製品の交換、部品の交換、修理、点検、引き取り(返金)
  ・使用の中止
  ・製品使用者への依頼内容(連絡要請や着払いでの返送依頼)
  ・簡潔な謝辞
 5.製品の識別方法:名称、型番、シリアル番号、製造場所等
 6.対象製品の情報
  ・製品の製造(輸入)期間、販売期間、該当商品の販売台数、対象台数
  ・製品の型番、シリアル番号(表示箇所の写真やイラストによる説明)
  ・その他、製品を限定する情報(販売地域、販路経路等)
 7.対策の開始時期と未対策品の注意事項
 8.連絡先
  ・連絡先名(返送を依頼する場合は送付先名、住所)
  ・電話番号(フリーダイヤル)
  ・連絡可能曜日および時間帯
  ・FAX番号
  ・Eメールアドレス
  ・自社ホームページのアドレス
  ・連絡可能な問い合わせ事項の明示等
 9.日付(社告公表日)
 10.住所(本社所在地または顧客対応窓口)
 11.会社名(クレーム送付先または顧客対応窓口)

第15条(事故対策の公表)
1)製品使用者を確実に特定できない場合、適切かつ効果的な事故対応を行うために、事故対策内容を原則として記者発表等により公表する。
2)公表の時期は、切迫した危害等の恐れがある場合は、直ちに公表を行うものとする。切迫した危害等の恐れが少ない場合には、対策措置の諸準備を速やかに実施し、準備が整い次第直ちに行うものとする。
3)公表内容は第14条と同等の内容とする。

第16条(進捗状況の評価および修正)
1)策定したリコール計画通りにリコールが履行されているか否か、リコール対策本部において進捗状況を評価する。
2)リコールの進捗状況によって、逐次最適な対応方法の検討および修正を行う。リコール計画通りにリコールが進まない場合、製品使用者への通知方法・手段を再度検討する等、対応策を講じる。

第17条(対策状況の報告)
1)対策状況について、リコール計画の報告を行った関係機関等に対し報告を行う。
2)対策状況の報告は、リコール計画の報告後1カ月経過するごとに行うことを基本とし、報告先が報告頻度について特別の指示を行った場合には、それに従う。

第18条(教育等)
1)日ごろより、従業員等に対し、必要な教育・研修を実施し、消費者の安全確保の観点から企業の社会的責任の重要性を認識させるよう努める。
2)リコール完了後、リコール対策本部は、一連のリコール対応について記録をまとめ、関係機関等に報告を行う。また、一連のリコール対応で明らかになった問題点や課題を整理し、従業員等に周知する。
3)リコール対策本部は、前項の終了をもって解散できるものとする。

第19条(罰則)
従業員等が故意または重大な過失により、本規程に違反した場合、就業規則に照らして処分を決定する。

第20条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則
本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2018年11月)

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ヒューマンエラー対策の基本

書いてあること

  • 主な読者:「個人情報の漏洩」など、ヒューマンエラーによる事故の防止を図りたい経営者
  • 課題:ヒューマンエラー防止策を講じても、事故が発生することもある
  • 解決策:防止策を着実に実行させるために、社内にチェック機関を設け、定期的に内部監査をすることが効果的

1 ヒューマンエラーの脅威

十分な対策を講じていても、事故発生のリスクは常にあります。その原因はさまざまで、「ヒューマンエラー(人間の誤認識や誤動作によって引き起こされるミス)」もその1つです。

「個人情報の漏洩」など、ヒューマンエラーによる事故はさまざまな分野で起こり得ます。これらの事故は、「信頼の失墜」「多額の賠償責任の発生」「顧客の安全性の損失」など、取り返しのつかない大きな損害を顧客や企業に与える恐れがあります。

IT化の進展でヒューマンエラーは起こりやすくなり、また想定される被害も大きなものになっています。企業は、日ごろからヒューマンエラーに対する適切な対応をしなければなりません。

2 ヒューマンエラーの類型と対策

1)情報処理のプロセスは3つ

人間による情報処理のプロセスは、「1.入力のプロセス(情報を自身の中に取り込むプロセス)」「2.媒介のプロセス(取り込んだ情報を判断するプロセス)」「3.出力のプロセス(判断に基づいて行動を決定、実行するプロセス)」の3つです。

ヒューマンエラーは、この全てのプロセスで発生する可能性があります。また、各プロセスで生じた個々のエラーは軽微でも、一連の情報処理のプロセスの中でそれらが連鎖することにより、より大きな事故を発生させる恐れがあります。

2)入力エラー

情報を入力するプロセスで発生するエラーです。集中力の欠如、見落とし、見間違い、聞き間違いなどにより、情報を正しく知覚・認知できないことをいいます。例としては、「数字の入力ミス」などがあります。

入力エラーを防止するために、指さし確認を行う、複数の担当者が読み合わせを行うなどの対策が効果的です。また、作業と作業の間に休憩時間を設けたり、集中力の高い朝に間違いやすい業務を行ったりします。

3)媒介エラー

情報を媒介するプロセスで発生するエラーです。油断、誤った知識、経験への依存などにより、情報を正しく判断・決定できないことをいいます。例としては、「正しいはずだという思い込みにより、誤った数字のまま次工程に進める」ことなどがあります。

媒介エラーを防止するために、上司が定期的にチェックして間違いを修正したり、勉強会を行って正しい知識を習得できる機会を設けます。また、マニュアルを作成し、業務や確認事項の統一化を図るなどします。

4)出力エラー

行動を出力するプロセスで発生するエラーです。やり忘れ、やり間違い、勘違いなどにより、作業を計画通りに正しく実行できないことをいいます。例としては、「数字の最終チェックを忘れてしまう」ことなどがあります。

出力エラーを防止するには、「ToDoリスト」(やるべき事柄をまとめたリスト)を作成する、余裕のあるスケジュールを組んで抜け漏れをなくすなどします。また、1つの業務を複数の社員が担当できるようにして、互いに確認し合うのもよいでしょう。

5)ヒューマンエラーの検知

以上のような対策を講じてもヒューマンエラーは発生します。そうしたヒューマンエラーがどのような状況で起こったのか、対策に問題がなかったのかを確認し、改善していくことが大切です。

また、ヒューマンエラーが発生した場合を想定し、損害の拡大を防ぐための対応も検討しなければなりません。具体的には、報告経路を定めて周知したり、クレーム対応の訓練をしたりします。マニュアル化するのもよいでしょう。

3 防止対策の運用上の留意点

過去に発生したヒューマンエラーによる事故を検証してみると、「決められた通りに防止対策を実行しなかったためヒューマンエラーが発生し、しかもその検知が遅れたために損害が拡大してしまった」というケースが多く見られます。

決められた通りに防止対策が実行されないのは、次のような担当者の主観的な判断や、油断によります。「エラーが出ていたが、経験から問題ないと判断した」「自分が確認したので大丈夫と油断し、ダブルチェックをしなかった」。

この他、防止対策が実行されているものの形骸化していて、動作としての指さし確認はしているが、無意識に指を指しているだけで全く確認をしていないということもあります。

こうした問題を改善するために、社内にチェック機関を設け、定期的に内部監査をすることが効果的です。加えて、ヒューマンエラーが起きたときの被害をイメージが湧きやすいように数字などを交えて共有するとよいでしょう。

以上(2018年10月)

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【規程・文例集】苦情対応力を上げるマニュアル作成のポイント

書いてあること

  • 主な読者:自社の苦情対応力を上げたい経営者
  • 課題:苦情対応マニュアルなどを整備しておらず、自社として統一された対応ができていない
  • 解決策:マニュアルを作成することをゴールにしないように注意する。また、苦情対応責任者を明確化するなどして、マニュアルを整備する

1 苦情対応力を高めることの重要性

苦情というと、どうしても「悪いもの」「避けたいもの」というイメージがあり、苦情に対して、消極的な姿勢をとってしまいがちです。しかし、苦情対応をおろそかにすると、企業イメージの低下、顧客喪失など企業経営に大きな影響を及ぼす事態になりかねません。

また、苦情の背景には、企業経営を脅かすような重大な問題が潜んでいる可能性もあります。こうした類の苦情を、初期の段階で察知・分析することなく見過ごしてしまうと、取り返しのつかない事態に陥るケースもあります。

このように考えると、苦情対応は企業にとって重要な経営課題であり、組織全体で取り組むべきものと認識し、適切に対応していくことが重要です。

苦情対応に組織全体で取り組むためには、従業員教育など、行うべきことは多々ありますが、本稿では、従業員が苦情対応を行う際の指針となる苦情対応マニュアル(以下「マニュアル」)作成に焦点を当てて見ていきます。

マニュアルを作成することで、期待できる効果は次の通りです。

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ただし、マニュアルは、それを作成するだけで適切な苦情対応に結び付くものではありません。マニュアルを従業員全員に周知させ、必要に応じて内容を見直しながら運用していくという一連の流れが企業の苦情対応力を高めていくのです。

そのため、「マニュアルを作成する際には、マニュアルを作成することそのものを目的としないこと」「マニュアルに頼りすぎた苦情対応をしないこと」に注意する必要があります。

こうした点も考慮しながら、以降では中堅・中小企業におけるマニュアルの基本的な作成手順とその留意点について見ていきます。

2 責任の明確化

1)苦情対応責任者の明確化

まずは、苦情対応の責任者は誰かということを明確にします。

責任者を明確にし、苦情が発生した場合には情報が全て苦情対応責任者の下へ集まるようにしておくことで、苦情対応の効率的な管理が行えるようになります。

なお、苦情対応責任者は、経営トップもしくはそれに近い階層の者が就くほうが望ましいでしょう。苦情対応への取り組みは、企業イメージを大きく左右することがあります。経営トップ自らが苦情対応責任者として率先して苦情対応に取り組むことで、苦情対応を「企業活動における重要な取り組みの1つ」と捉え、高い意識を持って苦情対応に取り組む姿勢を内外に示すことができます。

また、経営トップ自らが苦情対応責任者を務めることは、苦情処理の迅速化という点でも意味を持ちます。対応者が自身で判断できない苦情に対して、経営トップに直接指示を仰ぐことができる仕組みをつくっておくことで、社内手続きを簡素化し、迅速な対応が可能になるのです。仮に一般の従業員が苦情対応責任者を務める場合、苦情受領の報告を受けた苦情対応責任者がその上司に、上司がさらに経営トップに指示を仰ぐ、といった社内手続きが生じる可能性があります。その場合、苦情への対応に時間がかかり、顧客の気分を害してしまう恐れがあります。経営トップが自ら苦情対応責任者となり、苦情への対応方針を決定・指示することで迅速な対応が可能となります。

2)苦情対応責任部門の設置

苦情対応責任部門の主な役割はマニュアルの作成や運用、修正や見直しなど、苦情対応に関するプロセス全体の統括を行うことです。マニュアル作成に関しては、実際に苦情対応を行っている現場の従業員の意見をマニュアルに取り入れることで、現実に即した「生きたマニュアル」を作成することができます。苦情対応責任部門には、顧客からの苦情を受けることが多い従業員(営業、お客様センターなど)をメンバーとして組み入れるとよいでしょう。

3 マニュアル作成・運用の手順

苦情対応責任者および苦情対応責任部門が中心となってマニュアルの作成を進めます。マニュアルに盛り込む項目は業種によって多少の違いはありますが、基本的には次のような項目を盛り込みます。

1)マニュアルの目的

まず、苦情に対する組織の考え方を記載します。冒頭にこうした考え方を盛り込むことで、従業員の苦情対応に対する意識の統一を図ります。ここで記載する内容としては、例えば「苦情を受領した際には、お客様第一の立場で迅速かつ丁寧な対応を心掛ける」「お客様からの苦情には誠意をもって対応し、当社の商品・サービスをより適切にご利用いただけることを目指す」などとします。

この項目は単文でも構いませんし、複数行に分けても構いません。ただし、苦情対応に対する組織の考え方を示すものとなるため、「できるだけ分かりやすく、従業員全員が共有できる内容にすること」が大切です。

2)苦情対応の具体的な手順

次に、苦情が発生した場合の対応手順について記載します。この項目はマニュアルの中核となる部分なので、慎重に検討しましょう。具体的な項目としては「受領」「内容の調査」「対応の検討」「苦情対応の実施」などがあります。手順については、従業員が苦情対応の流れを理解しやすくなるような工夫が必要です。例えば、「苦情の受領から終了まで時系列に並べる」「実際の苦情対応例を併せて記載しておく」「『お客様への対応』と『社内の対応』に分けて手順を記載する」などがあります。

3)苦情対応報告書の作成手順

次に、苦情が発生した場合の対応手順について記載します。苦情対応報告書は、苦情対応に関する情報を管理するために必要となる重要な書類です。ただし、担当者によって報告書の記載内容・項目に大きな差があるようでは、情報を適切に管理することはできません。あらかじめ「苦情発生状況」「苦情内容」「苦情原因」「お客様のご要望」「対応」「対応結果」「備考」などの記載項目を盛り込んだ苦情対応報告書フォーマットを作成しておき、苦情が発生したら、直接苦情対応に当たった担当者に記載・報告をさせるようにします。

4)苦情情報のデータベース化の手順

最後に、苦情情報をデータベース化する際の手順を記載します。

データベース化の目的は、「苦情内容やその対応方法を全社で共有し、苦情の再発防止に役立てること」が挙げられます。そこで、苦情対応者から提出された苦情対応報告書を基に苦情内容と対応方法などを蓄積し、従業員が誰でもアクセスできるようにしておくことが必要です。そうすることで、従業員が以前の苦情対応情報を参考に、よりスムーズな苦情対応を行うことが期待できます。

5)マニュアルの周知・実施

マニュアルを作成したら、苦情対応の勉強会などを開催し、従業員全員にマニュアルの浸透を図ります。従業員の苦情対応のレベルアップを図るためには、こうした勉強会を定期的に開くことが理想的ですが、まとまった時間をとることが難しいという場合もあるでしょう。そうした場合には、朝礼などの時間を利用して通知するだけでも効果が期待できます。1回当たりの時間は少しずつでも、継続して取り組むことが重要です。

4 マニュアル作成・運用上の留意点

1)マニュアルは精密に作りすぎない

マニュアルは、精密に作りすぎないようにしましょう。マニュアルで多くを規定しようとすると、マニュアル作成に時間や手間がかかる上、従業員が覚えにくく、浸透しづらいなどの問題点が出る恐れがあります。

しかも、精密なマニュアルがあると、従業員は全てマニュアルに従って苦情対応を行うことになります。マニュアル通りの対応は、顧客に「機械的な対応」という印象を与えかねません。企業に対して苦情を申し出る顧客は、「自分の話を聞いてほしい」「自分が怒っている理由を理解してほしい」と考えています。そうした顧客に対して「機械的な対応」をしてしまうと、「本当に悪いと思っているのか」と、余計に顧客を興奮させてしまう可能性もあります。

また、従業員がマニュアル通りの対応に慣れてしまうと、マニュアルにない(想定していない)苦情に対して、対応できなくなる恐れもあります。

こうした問題を防ぐために、マニュアルには、「苦情に対する基本的な考え方」「苦情が発生したときにどういう手順で対応するのか」「苦情対応を終了した後の社内処理はどうするのか」など基本的な事項についてのみ記載するのがよいでしょう。

なお、実際の苦情対応に際しては、従業員にある程度の裁量を与え、柔軟に対応させ、もし、運用していて不足などがあれば、その都度見直していけばいいのです。もともと簡潔に作ってあるマニュアルであれば、見直しも簡単に行えます。

2)マニュアルは定期的に見直しをする

マニュアルは一度作成したら終わりというものではなく、苦情対応を常に質の高いものとするためにも、定期的に見直しを行うことが重要です。企業を取り巻く環境は、刻一刻と変化しています。作成時点では非の打ちどころのないマニュアルだったとしても、環境が変化すれば、不都合が出てくる可能性があります。作成したマニュアルを見直すことなく使い続けていては、顧客の要求に応え切れなくなる可能性があります。

そのため、データベース化された苦情対応の情報や、実際に苦情を受ける従業員の意見を定期的に集約して内容を見直すなど、常に鮮度の高いマニュアルにすることが大切です。また、「同業他社の苦情対応事例」などの身近な事例は、適切な苦情対応をするために大変参考となります。日ごろから苦情対応に対するアンテナを張っておきましょう。

3)従業員を評価する仕組みが必要

どんなに素晴らしいマニュアルを作ったとしても、実際の現場で顧客に対応する従業員が高い意識を持っていなければ意味がありません。経営トップは、朝礼や研修などあらゆる機会を使って、従業員に苦情対応の重要性や苦情対応に当たっての心構えなどを伝えていくことが大切です。

また、苦情対応に対する従業員の高い意識を保つためには、「苦情対応を行った従業員をしっかりと評価する」ことも忘れてはなりません。苦情対応は、対応する従業員にとって大きな負担となりますが、苦情対応を行った従業員を評価する仕組みが整っている企業は多くはありません。

確かに、苦情対応は利益に直結するものではないため、評価の対象となりにくい面はあるのですが、これでは、従業員に「苦情対応は割に合わない」という意識が生まれても仕方ありません。従業員がそうした意識を持つと、苦情対応に対する意識が低下してしまう恐れがあります。

こうした事態を防ぐために、苦情対応を行った従業員を評価する仕組みづくりが必要です。こうした仕組みとしては「半年間の苦情対応件数が最も多かった従業員を表彰する」「データベースに蓄積された苦情対応情報から、『参考となる対応』を従業員に選択させ、最も選択された数が多かった従業員に特別手当を支給する」などが考えられます。

4)JIS規格も参考に

苦情対応については、JIS規格「JIS Q 10002:2005 品質マネジメント-顧客満足-組織における苦情対応のための指針」が制定されています。この規格は、組織内部における製品やサービスに関する苦情対応プロセスの指針について標準化を行い、生産および使用の合理化、品質の向上を図ることを目的として制定されたものです。

同規格には、苦情対応の「基本原則」「苦情対応の枠組み」「計画および設計」「苦情対応プロセスの実施」「維持および改善」などの規定事項の他に、苦情対応プロセスの構築や維持に大きく経営資源を投資することが難しい小規模企業のための指針、苦情の受け付けおよび苦情のフォローアップをする際のフォーマットなども添付されています。マニュアルの作成に当たっては、こうした規格を参考にするのもよいでしょう。

なお、同規格は日本工業標準調査会のウェブサイトで閲覧することができます。

■日本工業標準調査会■
http://www.jisc.go.jp/

5 マニュアル項目例

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6 苦情対応報告書例

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以上(2018年4月)

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