経営者が知っておきたいコロナ後の採用事情

書いてあること

  • 主な読者:二極化が生じつつあるコロナ後の採用戦線で勝ちたい経営者
  • 課題:コロナを受けて求職者の考え方がどのように変わりつつあるのか分からない
  • 解決策:社員にとって「働きがい」のある企業となり、求職者に共感される発信を行う

1 企業選びのポイントは「知名度」より「働きがい」に

緩やかな景気回復を背景に、2015年ごろから続いてきた就職希望者優位の「売り手市場」ですが、新型コロナウイルス感染症の拡大を機に、企業優位の「買い手市場」へと変化しつつあります。しかし、2000年前後の就活氷河期と比べると、インターネットを活用して就職活動を行うことが当たり前の現在は、「買い手市場」の中身に大きな違いが出ています。

違いの根本にあるのは、求職者の企業選びのポイントが、企業の「知名度」より、自分の「働きがい」へと変化していることです。背景には、もちろん若い世代を中心とした価値観の変化もありますが、インターネットの普及に伴い、企業に関する情報収集が誰にでも容易にできるようになったことも大きな要素です。そして、求職者に共感される企業には応募が集まる一方で、共感されない企業はいつまでも「買い手市場」に参加できない、という二極化が生じつつあります。

1)求職者が自分で企業の情報を集め、評価する時代に

就活ナビサイトが就職活動の中心であった時代は、「テレビCMでよく見かける」「お店に行けば商品が置いてある」などの、BtoCのいわゆる有名企業に応募が集まる傾向がありました。

しかし、インターネットの普及に伴い、就活ナビサイトのみを活用して就職活動を行う学生は年々減少しています。就職情報の提供などを行うディスコが2019年7月に行った調査によると、志望企業の研究のために有益だった情報源として、約6割の就活生が「個別企業のホームページ」だったと答えています。さらに、「インターネット上の情報」も2割を超えています。

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つまり、求職者は、大手企業などが持つ一般的な知名度や、就活ナビサイトなどでの「与えられた」情報ではなく、自分で企業の情報を集める時代になったのです。そのことは、企業に対する評価を、自分の基準で行うということにもつながっていきます。

2)2人に1人は「企業理念、トップメッセージ」に注目

では、求職者は志望企業のウェブサイトから、どのような情報を集めているのでしょうか。

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前述のディスコの調査では、就活生がエントリーや本選考応募をするかどうか判断するときに、その企業の採用サイトの中でよく閲覧したコンテンツについて尋ねています。その結果は、1位こそ「事業内容、実績」でしたが、続いて「待遇、福利厚生、ワークライフバランス」、「企業理念、トップメッセージ」が上位に入りました。さらに、内定承諾・辞退を判断する際に最もよく閲覧しているのは、「事業内容、実績」ではなく、「待遇、福利厚生、ワークライフバランス」についてのコンテンツでした。

求職者が企業を選ぶ際に注目しているのは、「その企業で働くことに、自分にとってどのようなメリットがあるか」「その企業の考え方に自分が共感できるか」といった、自分自身にとっての「働きがい」に関わることだといえるでしょう。

3)SNSで“深い情報”を集める求職者が増加

求職者が自分で企業の情報を調べ、入社の是非を判断する傾向は、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、さらに強まっているといえます。その背景には、2つのことが影響しています。

1つ目は、就職活動をオンラインで行わざるを得ない状況になったことです。新型コロナウイルス感染症の拡大により、例年行われてきた企業説明会の中止が相次いだためです。

2つ目は、対面方式の代替という面も含めて、InstagramやTwitterなどのSNSを通じた情報のやり取りが増えていることです。

求職者の中には、志望企業の社員のSNSをチェックしたり、志望企業が運営するSNSのアカウントを探して、フォロワーの層を調べたりする人も増えてきました。このように、求職者には、企業側が提供することを意図していないような“深い情報”まで知ろうとする傾向が見られています。

2 採用戦線で勝つ条件は求職者から「共感」を得ること

1)求職者は社風が分かる情報を集めている

求職者は、志望企業やその社員が投稿するSNSから得た“深い情報”を、どのように活用しているのでしょうか。

求職者は、社員旅行の様子や仕事に関する投稿などを見て、「自分に合った社風か」を判断します。特に、「自分が将来働く企業のオフショット」を見ることで、企業の社風が自分に合っているかを判断する材料にしています。

また、入社後のギャップを避けるために、普段の何気ない投稿から仕事の内容をチェックし、自分に合った働き方ができるかどうかを見ている求職者もいます。これはSNSに限らず、対面による面接においてもいえることです。求職者は、面接でのやり取りだけでなく、オフィス内の雰囲気や、面接の前後に耳にする社員同士の何気ない会話などを通じて、社風を感じ取ろうとしている、と考えるべきです。

この他、SNSのコメント欄を閲覧することで、批判的な意見やファンのユーザーに対し、日ごろどのような対応をしているかという、志望企業の「素顔」をチェックしている求職者もいます。もし威圧的な返信をしていたり、一方的な意見を押し付けるようなコメントがあったりすると、企業の印象は大きく悪化しかねません。

二極化が生じつつある採用戦線で勝つには、求職者は企業よりもSNSなどを駆使した情報収集力に長けているということを前提に、求職者に「選ばれる」ための戦略を練ることが不可欠といえるでしょう。

2)小さくて無名でも「光る」企業が目立つ時代に

これまでは、予算の関係でテレビCMなどマスメディアに広告が打てなかった企業も、動画ウェブサイトなどインターネット上の媒体に安価で広告が出せるようになりました。新たな企業と「出合う」チャンスが格段に増えたことで、求職者にとっての、企業の知名度に対する概念が変わり始めています。

世間からはあまり名を知られていなくても、いわゆる「その世界の人たち」の間では有名だったり、インターネット広告に出てきたりする企業でも、求職者の印象に残るような「光る何か」を伝えられれば、“知名度のある企業”として認識されてきているのです。

小さな企業でも、チャレンジ精神の旺盛な人材を求めていることをうまく伝えられれば、それに共感した求職者が「やりたいこと」を実現させるために転職するというケースも、実際にあります。

これも実例ですが、ある就活サイトに、住宅メーカーの社長が高圧的な態度の求職者と面接をする、という企画が掲載されました。その社長が、下着一枚になりながらも自社の魅力や社員に対する思いを語った内容がインターネット上で話題となり、その年の求職者のエントリー数が増加したというケースもあります。

情報収集力に長けた求職者に対しては、「どのような手段で伝えるか」よりも、「どのような内容を伝えるか」が重要になります。インターネットやSNSが普及したことで、企業のトップが率先して自社や社員への思いなどを発信し、求職者の共感を得る手段は整っています。

二極化が生じつつあるコロナ後の採用戦線は、企業の将来を決める戦いともいえます。しかし、その戦いは、企業の大小とは関係なく、どの企業にも平等に勝つチャンスが与えられています。あとは経営者の皆さんの気持ちや行動次第といえるでしょう。

以上(2020年9月)
(執筆 株式会社アローリンク)
https://arrow-japan.co.jp/
https://www.careelink.net/

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画像:fizkes-shutterstock

社名変更を行う時に考えること

書いてあること

  • 主な読者:社名の変更を検討している企業の経営者
  • 課題:社名変更に際しての留意点を押さえておきたい
  • 解決策:必要な手続きを理解するとともに、他社の変更事例を参考にする

1 社名変更の意義と気を付けるべきこと

1)企業のブランドイメージ構築や方向性を左右する社名変更

企業は、合併やブランドイメージの構築などに際して、社名を変更することがあります。社名は、企業のブランドイメージや目指す方向性に関わる大切なものであるため、慎重に決定しなければなりません。

2)何のための社名変更か

社名変更には必ず理由があります。例えば、次に挙げるようなものがあります。こうした理由は1つではなく、いくつか重なっているケースもあります。

  • 企業合併、経営統合の一環
  • 経営者交代による旧来の企業イメージの一掃
  • 社名と事業の実態の一致
  • ブランドイメージの一新や向上

社名変更の理由はさまざまですが、重要なことは「社名変更は企業刷新のために実施する」ということです。一方で、社名変更を企業刷新の出発点とするはずが、「社名を変更する」という作業がゴールになってしまうケースもあります。このような社名変更はその後の具体的な行動と結びつきにくくなってしまいます。

3)社名変更の取り組みに当たって

社名変更に当たっては、「刷新すべき点」「刷新すべきでない点」を明確にする必要があります。この区分が十分ではない場合、社名変更前に持っていた良さを失ってしまう恐れがあります。これは、社名変更によって社員の意識が改革された際、残しておくべき企業の良い点が捨てられてしまう可能性があるためです。

例えば、手厚いアフターケアが売りの訪問販売を手掛けていた企業が、独自のアイデアをアピールしようと「企画」を含む社名に変更した結果、次に挙げるような状況に陥ってしまうことも考えられるのです。

  • 役職員が新規顧客獲得のための企画に集中
  • 既存顧客へのアフターケアに力を注がなくなる
  • 結果としてブランドイメージが落ちる

このような状況を避けるため、社名変更に際しては、「何を刷新し、何を残すのか」について明確にした上で、企業刷新を進めていく必要があります。

具体的なポイントとしては、次のような点が挙げられます。

  • 社名変更に合わせて経営理念や行動指針などを見直し、何を変えるのか明確にする
  • 社名変更の後も残すべき点についても明確にする
  • 社名変更によって刷新する点、残す点を全役職員で共有する

2 社名変更の手続き上の留意点

1)変更後の社名を決める際の基本的な留意点

社名変更の取り組みを開始して変更後の社名を検討する際、次に挙げる点に留意する必要があります。

  • 同一所在地に、変更後の商号(社名)と同じ商号の企業がないか確認する
    (例:会社所在地に「○◆企画」という商号の企業が既にある場合、「○◆企画」では登記できない。ただし、「株式会社○◆企画」と「○◆企画株式会社」、「○◆企画株式会社」と「○◆企画合資会社」は同一の商号には当たらない)
  • 株式会社など会社の種類を社名に含める
  • 法令によって制限されている名称、およびそれに類似する名称は使用しない
    (例:銀行、信用金庫、信用組合など)

2)社名に使用できる字

登記する社名については、通常の日本語である日本文字以外に、次の字が使用できます。

  • ローマ字(大文字および小文字)
  • アラビア数字
  • 字句を区切る際の符号(「&」(アンパサンド)、「’」(アポストロフィー)、「,」(コンマ)「-」(ハイフン)、「.」(ピリオド)、「・」(中点))。ただし、社名の先頭や末尾に用いることはできない
  • 空白(スペース)。ただし、ローマ字を用いて複数の単語を表記する場合に限り、当該単語の間を区切るために使用できる

社名を変更するに当たっては、司法書士などの専門家に相談する、登記所(法務局・地方法務局・その支局および出張所の総称)に直接問い合わせるなどして、細部まで確認しましょう。

3)社名(商号)変更の手続き上の留意点

社名は定款に必ず記載しなければならない事項です。そのため、社名変更に当たっては、株主総会の特別決議を経て、定款の社名に関わる箇所を変更する必要があります。

定款の変更後、必ず管轄の登記所に社名(商号)を変更した旨の登記(変更登記)を申請する必要があります。登記期間は、登記の事由が発生したときから2週間以内です。

管轄の登記所や申請の詳細については、法務局のウェブサイトで確認できます。

■法務局■
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/static/

3 社名変更により発生する主な手続きのチェックリスト

変更登記の申請手続き以外にも、社名変更によって生じる手続きは少なくありません。そのため、実際の変更に際しては、変更手続きチェックリストを作成し、確実に社名変更に関わる手続きを行えるようにします。

また、金融機関などに社名変更を届け出るに当たっては、登記簿・履歴事項全部証明書など、社名変更を証明する書類の提出を求められる場合があります。提出する必要がある手続きを事前に確認し、必要な部数をまとめて取得するようにしましょう。

社名変更により発生する手続きの項目(例)は次の通りです。

1.社外的な手続き

  • 印鑑登録の変更
  • 社会保険、労働保険に関する必要な届け出
  • 税務署、都道府県税事務所への届け出
  • 郵便局、電話(固定電話、携帯電話、インターネットプロバイダーなど)、水、ガス、電気などの変更通知
  • 不動産や社有車などの動産の名義変更(自社保有の場合)、貸し主への連絡・契約書の変更手続き(賃貸している場合)
  • 得意先への挨拶
  • 取引金融機関への挨拶、届け出
  • 仕入先への挨拶
  • 契約保険会社などへの届け出
  • クレジットカード会社、ETCなどの届け出
  • 各種加盟団体への届け出
  • 自社の社名を端的にあらわした、ホームページのドメインの再取得

2.社内的な手続き

  • 看板、広告塔などの変更
  • 名刺、社章などの変更
  • 社用箋や封筒の変更
  • 納品書、請求書、見積書、領収書などの伝票の変更
  • 会社案内の変更
  • 自社ウェブサイトの社名表記変更
  • 商品カタログ、販売促進ツールなどの変更

これらの手続き以外にも、都道府県や市区町村に社名変更を届け出るなど、自社が行っている事業などによっては社名変更に伴う手続きが生じる場合があります。そのため、司法書士や社会保険労務士などの専門家に相談して、漏れがないようにすることが望ましいでしょう。

4 社名変更をした企業の事例

1)認知度の高いブランド名に統一

石油元売りなどエネルギー関連を手掛けるJXTGホールディングス(当時)は2020年6月25日に、社名を「ENEOSホールディングス」に変更しました。同時に傘下の「JXTGエネルギー」の社名も「ENEOS」に変更しています。

同社は石油元売り業界による再編に伴い、最終的にかつての共同石油、日本鉱業、日本石油、三菱石油、九州石油、ゼネラル石油、東燃、三井石油、エッソ石油、モービル石油(いずれも旧社名)などが合流して誕生した経緯があり、再編の過程で社名がJXTGホールディングスとなりました。

ただ、同社が展開するサービスステーションは、2001年から「ENEOS」のブランド名を使用しています。社名とブランド名を統一することにより、「『ENEOS』の高い知名度を活用した成長事業の育成・新規事業の創出を推進するとともに、長期ビジョンで掲げる『アジアを代表するエネルギー・素材企業』の実現に向けたグローバルブランドへの飛躍」(同社プレスリリース)を目指すとしています。

2)発祥時のDNAを社名に込める

機械メーカーの東芝機械(当時)は2020年4月1日に、社名を「芝浦機械」に変更しました。社名変更のきっかけは、2017年3月に東芝グループから離脱したことです。同社の発祥は「芝浦製作所」であり、古くから「SHIBAURA」ブランドを使用していることから、新社名にしました。新社名には、「『ものづくり』を通じて社会に貢献することで進化を続けてきた、このDNAを忘れることなく、今後も、『お客様と共に更なる進化を遂げていく』との思いを込めて」(同社プレスリリース)います。

3)海外展開を見据えた社名に

ねじ商社の小林産業(当時)は2020年4月1日に、社名を「トルク」に変更しました。さらなる事業領域の拡大や、これからの海外展開を見据えて、変更を決めました。新社名は「駆動力」を意味する「Torque」に由来しており、「業界の基軸として力を発揮する存在になりたい」(同社ウェブサイト)、「世界に通用する存在になりたい」(同)との思いを込めています。

以上(2020年9月)

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画像:photo-ac

キャッシュレス決済の現状と今後の方向性

書いてあること

  • 主な読者:キャッシュレス決済の導入を進めたい小売業などの経営者
  • 課題:どのような種類のものを導入すればよいか分からない
  • 解決策:さまざまな決済手段の特徴や動向を把握する

1 キャッシュレス決済の現状

1)キャッシュレスによる主な支払い手段

経済産業省が2018年4月に策定した「キャッシュレス・ビジョン」によると、キャッシュレスの定義について、「物理的な現金(紙幣・硬貨)を使用しなくても活動できる状態」としています。キャッシュレス決済による主な支払い手段として、電子マネー、デビットカード、モバイルウォレット、クレジットカードがあります。

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2)日本と世界のキャッシュレスの状況

日本におけるキャッシュレス決済額と民間最終消費支出に占める比率は、図表2の通りです。

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キャッシュレス化が遅れていた日本ですが、ここ数年、キャッシュレス決済比率は高まっています。政府は前述の「キャッシュレス・ビジョン」では2025年までにキャッシュレス決済比率を40%程度に倍増させ、最終的には80%まで高めることを目標に掲げるなど、キャッシュレス決済の普及を進めています。

その一環として、政府は2019年10月の消費増税に合わせて、2020年6月までの間、中小零細事業者に限ってキャッシュレスで決済した場合は5%(フランチャイズ店は2%)分をポイントとして消費者に還元する「キャッシュレス・ポイント還元事業」を実施しました。

また、政府は2020年9月から2021年3月までの間、マイナンバーカードを取得し、マイキーIDを設定した人を対象にマイナポイントを付与する「マイナポイント事業」を行います。対象者は、マイナポイントにひも付けしたキャッシュレス決済サービスでチャージや決済をすると、最大5000円分(2万円以上のチャージや決済をした場合)のマイナポイントを取得できます。

新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、会計時の接触を避けるために、タッチ式(非接触)やコード決済など非接触型のキャッシュレス決済を導入する店舗や消費者も増えています。

とはいえ、世界的に見るとまだまだキャッシュレス決済比率は低いようです。世界の主要国のキャッシュレス決済比率は、図表3のようになっています。

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海外でキャッシュレス化が進んでいるのは、西欧諸国の一部や北米、東アジアの中国および韓国などです。中国はカードの種類ごとの取扱高が未公表で、法人による利用分や不動産関連の利用分も含んでいるので図表3には掲載していません。カード決済額としては民間最終消費支出を上回る216.2%という数値が出ています。

中国では、中央銀行である中国人民銀行の主導で200以上の金融機関が加盟している中国銀聯のクレジットカードとデビットカード「UnionPay(銀聯)カード」およびコード決済「UnionPay」、IT大手2社が主導するコード決済が広く利用されています。中国人観光客によるインバウンド需要の取り込みを目的として、中国のキャッシュレス決済を導入している日本の店舗も多くあります。

2 乱立するコード決済がキャッシュレス決済の主戦場に

1)スマートフォンで決済ができるコード決済

キャッシュレス決済の主戦場となっているのが、スマートフォンを使ったQRコードないしバーコードによる決済サービスです。スマートフォンに専用のアプリをインストールして、アプリが作成するコードを使って認証を行い、銀行口座やクレジットカードなどを通じて決済する方法です。クレジットカードや電子マネーと比べて、消費者側はスマートフォンだけで決済できる点が、店舗側は導入に当たっての費用を抑えることができ、決済手数料も低いことが、それぞれ魅力となっています。

2)コード決済の先進国・中国

コード決済の先進国は中国で、アリババグループの「Alipay(支付宝)」と、テンセントの「WeChat Pay(微信支付)」が勢力を二分しています。Alipayは決済だけでなく、タクシーや病院の予約、公共料金の支払い、資産運用商品や保険の購入などもできる生活アプリとして活用されています。一方のWeChat Payは個人間送金向けの機能が充実していることなどが特徴です。

また、両社は決済データを有効に利活用する点でも進んでいます。利用者に対して決済履歴を基に信用スコアを付与し、利用者が金融など各種サービスを受ける際に活用しています。信用スコアに関しては、利用者自身が職業や保有する車、不動産などの情報を書き込むことでスコアを上げることもできます。「キャッシュレス・ビジョン」などでも、キャッシュレス化のメリットの1つとして、決済データの利活用が挙げられています。

3)国内での乱立

国内では携帯電話のキャリアをはじめとするIT・通信系の大手企業の他、銀行などが参入しており、市場の急拡大とともにキャッシュレス決済サービスの主戦場となっています。主なコード決済サービスは次の通りです。

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参入業者は2018年末ごろから、大規模なキャッシュバックキャンペーンなどを実施して、消費者や加盟店の取り込みへの激しい競争を行ってきました。

3 コード決済の再編と規格統一の動き

乱立しているコード決済サービスですが、前述のように消費者や加盟店の取り込みへの激しい競争の結果、再編の動きが出ています。また、消費者や店舗の利便性を高めるため、電子マネーを含めて規格の統一を目指す動きもあります。

1)IT・通信系大手の3陣営への集約と銀行系が割り込む構図に

KDDIと楽天は2019年6月、それぞれが運営するau PAYおよび楽天ペイのQRコードを共通のものに統一しました。これにより、楽天ペイの加盟店でau PAYでの支払いができるようになりました。

2020年2月には、メルペイが独立系のコード決済サービス会社であるOrigamiの全株式を取得しました。Origamiが提供するOrigami Payはメルペイに統合され、2020年6月にサービスを終了しました。Origamiは2016年5月にOrigami Payの正式提供を開始した、国内におけるQRコード決済の先駆的な位置付けにありました。しかし、後発の大手によるキャッシュバックキャンペーンなどの激しい競争に巻き込まれ、顧客の取り込みに苦戦したようです。メルペイへの株式の売却額は1株1円との報道もあり、実質的な経営破綻ともみられています。

また、メルペイおよび親会社であるフリマアプリを展開するメルカリ、NTTドコモは2020年2月、キャッシュレスの推進などの業務提携に合意しました。具体的には、メルペイとd払いのそれぞれの顧客IDとなる「メルカリID」と「dアカウント」の連携、チャージしている残高やポイントの連携、加盟店の共通化などです。

この他、2019年11月にはPayPayの親会社であるソフトバンクグループ傘下のZホールディングスと、LINE Payを運営するLINEが、2020年10月に経営統合することで合意しています。

コード決済の再編は、IT・通信系大手の3陣営へ集約されつつあり、そこに後発の銀行系が割り込んでいく、という構図になっています。

2)乱立するコード決済への対策

さまざまなコード決済サービスが乱立する状況に対処するため、「キャッシュレス・ビジョン」の提言に基づいて2018年7月に発足した「キャッシュレス推進協議会」は2019年3月、コード決済の統一技術仕様ガイドラインを策定しました。新たな規格は「JPQR」と名付けられ、総務省が統一QRコードの「JPQR」普及事業を進めています。

統一するQRコードは、店舗側が提示して消費者が読み取るQRコード(静的QRコード)が対象です。2019年度は一部の県の店舗のみでJPQRの導入の受け付けをしていましたが、2020年度は全国の店舗で受け付けを行います。

JPQRには、図表4で紹介した決済サービスのうち、銀行系の一部を除く全てが参加しています。とはいえ、決済サービスの運営者はこれまで、キャッシュバックキャンペーンなどの先行投資によって加盟店を取り込んできた経緯があります。このため、投資回収の前段階で、加盟店に対して統一QRコードの導入を促すことに対し、実現性を疑問視する見方もあるようです。PayPayは加盟店の手数料は無料としていますが、JPQRを通じて加盟を申し込んだ店舗からは手数料を取ると報じられています。

この他、コード決済だけでなく、電子マネーなどとの相互利用に向けた動きも出ています。2020年6月に、インターネットイニシアティブ傘下で暗号資産(仮想通貨)取引所のディーカレットが事務局となって、デジタル通貨やデジタル決済のサービス、インフラの標準化の方向性を示すことを目的とした勉強会を発足しました。3メガバンクやnanacoを運営するセブン銀行、Suicaを運営するJR東日本、KDDI、NTTグループも参加しています。

以上(2020年8月)

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玄米粉および米ぬか粉の市場動向

書いてあること

  • 主な読者:玄米粉および米ぬか粉の新たな活用に関心のある、食品メーカーや飲食店などの経営者
  • 課題:市場規模や市場動向が分からない
  • 解決策:米粉全体の市場規模および市場動向や、市場関係者のコメントなどの定性的な面から、市場動向を把握する

1 玄米粉および米ぬか粉の市場動向

1)玄米粉および米ぬか粉とは

米を細かく砕いて粉状にしたものが米粉です。このうち、精米前の状態の米(玄米)を粉状にしたものが玄米粉です。また、玄米を精米する際に発生する米ぬかを、微細な粉状にしたものが米ぬか粉です。

米ぬかは食物繊維に加えてビタミンB1、ビタミンE、ナイアシンなどのビタミン類や、抗酸化物質であるフェルラ酸、フィチン酸、γ-オリザノール、血糖値の上昇を抑制するGABAなどの機能性成分を含んでいます。玄米粉は米ぬかを含んでおり、米ぬか粉は米ぬかそのものであるため、栄養価の高い食材として評価されています。

2)米粉の市場規模

玄米粉や米ぬか粉に関する市場規模を示した公的機関による資料は確認できませんでした。このため、玄米粉や米ぬか粉も含む米粉(新規需要分)全体の市場規模を基に、玄米粉や米ぬか粉の市場規模を推計します。

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2019年度の米粉の需要量は3万6000トンとなっています。近年では小麦粉の代替素材としてパンやパスタなどに使用されるケースが増えているようです。一方、新規需要米用としての米粉用米の生産量は2万8000トンしかありません。ここ数年、米粉用米は供給不足の状況にあります。

次に、玄米粉の需要量について推計します。一般の主食用の米の場合、全体に占める玄米の流通量の割合は3%程度ともいわれているようです。同じ3%を米粉の中の玄米粉にも当てはめてみると、年間の需要量は1000トン程度となります。米粉製造業者の中には、「製造している米粉のうち、玄米粉は1割弱程度」(大手米粉メーカー)の業者もある一方、「スポット的に売れる印象」(米粉メーカー)と話す業者もいます。

全体としては「米粉は白米の粉が多く、玄米粉の割合は3%もないのでは」(農林水産省穀物課)とみられます。さらに米ぬか粉については「玄米粉より、さらに少ないのでは」(同)と推測されます。

3)米粉(玄米粉・米ぬか粉)の需要の動向

近年、米粉が供給不足の状況にある背景について、日本米粉協会へのヒアリングによると、次のような事情があるようです。

  • 米粉に関しては2009年ごろに1回目のブームとなり、大手広告代理店なども入って大々的な宣伝を行った経緯がある。
  • しかし、当時は技術的に未熟であり、消費者の心を掴むような商品に育たなかった
  • このため、大量の米粉の在庫が発生し、2015年ごろまで、在庫調整に苦しむ事業者もあった。
  • 現在は米粉の製造技術なども進歩し、小麦粉の代替となる商品力がついている。
  • 欧米を中心としたグルテンフリー商品(後述)への需要の高まりにも適した商品であり、近年は需要が増している。
  • 一方で事業者は在庫調整に苦しんだ経験から、生産の拡大に踏み切れていない面がある。

また、同協会は、玄米粉や米ぬか粉の需要の動向については、次のような見方をしています。

  • 玄米や米ぬか自体は健康によいと脚光を浴びてはいるが、現状は精米による米粉が注目され、需要が伸びているところである。

玄米粉の需要動向について複数の米粉メーカーにヒアリングしたところ、次のようなコメントがありました。

  • 流通量は少ないが、健康面でのイメージはよいので、今後もニーズはあると思う。
  • 癖のない精米による米粉と比べて、玄米粉には玄米特有の独特な匂いがあるので、通常の小麦粉の代替としては使われにくい面がある。玄米粉は焙煎して、玄米独特の香ばしさを活かした商品が多い。
  • 玄米粉は、どら焼きや麺類にアクセントをつけるために、数%入れている。玄米は雑味が多いので、焙煎して雑味を取り、香りを引き立てている。

また、米ぬか粉の需要動向について複数の米粉メーカーにヒアリングしたところ、次のようなコメントがありました。

  • 米卸最大手の神明ホールディングス傘下の「神明きっちん」が2018年9月に発売した「飲める米糠」をテレビ広告などでも宣伝したことで、認知度も上がり、米ぬか粉の需要は増えている。それまでは米ぬか粉を製造しているのは一部の小規模の事業者だけだった。
  • 新型コロナウイルス感染症の影響で飲食店での需要が落ち込んでいるが、栄養価の高さと、玄米粉と違って糖質も少ないことで、注目度は高まっている。ベジタリアンレストランでの需要は増えている。

4)米粉用米の供給の動向

需要の伸びに対し、米粉用米の供給量も、徐々に増えているようです。農林水産省では、2030年度までに米粉用米の生産量および需要量を13万トンへと拡大させることを基本方針として掲げていて、2020年度予算に各種の支援策を盛り込んでいます。背景には、米の需要拡大や、食料自給率、需要が減少している主食用米生産者の事業転換の支援などがあります。主な支援策は次の通りです。

生産者(米粉用米)に対する支援

  • 戦略作物助成
    水田活用の直接支払交付金として、米粉用米の水田に対して、収量に応じて10アール当たり5万5000円~10万5000円を交付
  • 産地交付金(地域の裁量で活用が可能)
    米粉用米の3年以上の複数年契約をした水田に対して、10アール当たり1万2000円を交付

生産者、加工事業者(米粉製造業者)に対する支援

  • 農業生産機械の導入、加工施設の整備、集出荷貯蔵施設の整備などに対する交付金の交付や、低利での融資を実施

5)グルテンフリーの需要増への対応

農林水産省「米粉をめぐる状況について」によると、世界のグルテンフリー市場は、2019年の66億7260万ドルから、2024年には104億1940万ドルへと、1.5倍以上に成長するとの予測もあります。

国内では、日本米粉協会が2018年6月から、ノングルテン米粉の認証制度を開始しました。サンプル検査でグルテンの含有率が1ppm(0.0001%)以下であることなどの条件をクリアした製品に対し、同協会が認証を行うものです。欧米のグルテンフリー表示の基準が20ppm程度であるのと比べ、厳格な基準を採用しています。2019年9月からは、ノングルテン米粉を使用した加工食品を登録し、ノングルテン米粉使用マークを付与する制度も開始しています。

また、同協会や日本貿易振興機構(ジェトロ)では、米粉製品の海外輸出に無得たPR活動などにも取り組んでいます。

2 玄米粉および米ぬか粉の主要なメーカー

1)米粉の主要メーカー

玄米粉および米ぬか粉に関する売り上げを示した公的機関による資料は確認できませんでした。日本米粉協会へのヒアリングによると、米粉の主要なメーカーは、次の通りです。

■みたけ食品工業■
http://official.mitake-shokuhin.co.jp/
■新潟製粉■
http://www.niigata-seifun.jp/
■波里■
http://www.namisato.co.jp/
■日の本穀粉■
https://www.hi-kokufun.com/
■大潟村あきたこまち生産者協会■
https://akitakomachi.co.jp/
■熊本製粉■
https://www.bears-k.co.jp/

同協会によると、「全体では300~400社程度あるが、規模の小さな業者が多い。大手業者で生産量の6割程度を占め、さらに10社程度が加わると全体の8割程度のシェアを占めるのでは」とのことでした。

この他、一部の農協でも玄米粉を製造しているところがあるようです。

2)米粉の製造事業者数

前述のように、日本米粉協会へのヒアリングでは、米粉の製造業者は300~400社程度とみられるとのことですが、業者数を公表している公的機関の資料は確認できませんでした。農林水産省のウェブサイト「米粉の状況」上に掲載されている「米粉販売事業者一覧」には、70社が掲載されています。掲載されている70社の中には、玄米粉を製造している業者も含まれています。

■農林水産省ウェブサイト「米粉の状況」■
https://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/komeko/

3)米ぬか粉のメーカー

米ぬか粉は、小麦粉の代替などとして、パンやパスタなどの材料として用いられることの多い米粉とは異なり、サプリメントや栄養機能食品として、味噌汁やヨーグルトなどに混ぜて食べられることが多いようです。

このため、米粉製造業者よりも、農家を母体とする事業者や、健康食品を取り扱う事業者などが携わるケースもみられます。インターネットによる検索で確認された、米ぬか粉を製造販売しているメーカーは次の通りです。

■ジョイントファーム■
https://www.gensenmai.net/
■三和油脂■
https://sanwa-yushi.co.jp/
■ニチエー■
https://nichie-inc.co.jp/
■健幸一番楽らく農園■
https://rakuraku-nouen.com/
■インターウィンドウ■
https://www.uonuma-oryza.jp/

4)米ぬかの代表的な加工メーカーおよび加工技術

米ぬかの多くは、多くがたい肥や飼料、米油の原料として使われる他、漬け物の「ぬか床」や化粧品としても利用されます。米ぬかは劣化が早いという特徴があるため、米ぬかの加工に関しては、精米事業者(米卸業者)を中心に、米油メーカーなどが加工を行っているようです。代表的な米ぬか加工メーカーを紹介します。

1.木徳神糧

自社精米工場で発生した米ぬかを脱脂糠に加工し、飼料用などに販売しています。

■木徳神糧「事業案内」■
https://www.kitoku-shinryo.co.jp/html/business/

2.神明ホールディングス

精米直後の米ぬかをすぐに圧搾する「ナチュラル・プレス製法」の開発により、「薬剤不使用・長期保存可能な『食用脱脂米糠』の製造」(2018年9月のニュースリリース)を可能にしたといいます。

■神明ホールディングス「2018年度お知らせ」■
https://www.akafuji.co.jp/news/2018/

3.築野食品工業

米ぬかから機能性成分を抽出精製し、医薬品原料、化粧品原料、食品添加物、飼料添加物、工業用薬品を製造しています。

■築野食品工業「米ぬか加工原料」■
https://www.tsuno.co.jp/products/fine-chemicals/

4.まつや

玄米と米ぬかを配合し、手軽に扱える高度アルファ化粉(一度加熱した後に粉にしたもの)を開発しました。

■まつや「ニュース」■
https://www.niigata-matsuya.co.jp/news/

5.ジョイントファーム

米ぬかを180度の高温でアルファ化して細菌と水分を処理し、米ぬか粉を製造しています。

■ジョイントファーム「米ぬか粉の簡単ご利用方法」■
https://www.gensenmai.net/komenukako.html

3 玄米粉および米ぬか粉を使用した加工品

玄米粉および米ぬか粉を使用した加工品の市場規模に関する、公的機関による資料は確認できませんでした。ここでは、玄米粉および米ぬか粉を使用した加工品の一例を紹介します。

1)玄米粉を使用した加工品の一例

1.みたけ食品工業

米粉製造大手のみたけ食品工業は、自社の玄米粉を使用した玄米パンを販売しています。

■みたけ食品工業「玄米パン」■
https://mitake-shokuhin.co.jp/products/detail.php?product_id=253

2.マイセン

マイセンはパン、うどん、ラーメン、パスタの他、ドーナッツやクッキーなどを製造販売しています。

■マイセン■
https://www.maisen.co.jp/shopping/

3. 隆祥房

餃子の皮を製造販売している隆祥房は、米粉や玄米粉を使ったグルテンフリーの餃子の皮を製造販売しています。

■隆祥房「玄米粉入り米粉餃子皮」■
https://www.ryushobo.com/product/home/komeko_gyoza.htm

4.オーサワジャパン

「マクロビオティック」食品を取り扱うオーサワジャパンは、玄米粉を含有したパンやラーメン、やきそば、カレーやシチューのルー、クッキーやかりんとうなどを販売しています。

■オーサワジャパン■
https://www.ohsawa-japan.co.jp/

5. 常陸屋本舗

麦茶や麩などを製造販売している常陸屋本舗は、玄米粉入りの麩を製造販売しています。

■常陸屋本舗「玄米粉入り京小町麩」■
http://www.hitachiya-honpo.co.jp/html/YK_sai7.html

6.あぐりこまち

おかゆを始めとするレトルト介護食などを製造販売しているあぐりこまちは、玄米粉を使ったフルーツかゆを製造販売しています。

■あぐりこまち「玄米粉フルーツかゆ」(介護食)■
http://okayu.shop-pro.jp/?pid=127078221

2)米ぬか粉を使用した加工品

前述のように、米ぬか粉は加工品の素材としてでなく、サプリメントとして、粉末状のまま他の食品に混ぜる形で摂取する形が多いようです。神明きっちんの「飲める米糠」は、ココナッツシュガーやはちみつなどの味付けをした商品をラインアップに加えています。

■神明きっちん「飲める米糠」■
https://06ricebranoil.com/product_komenuka/

4 玄米粉および米ぬか粉市場の分析

これまで紹介してきた市場動向に関する情報を基に、玄米粉および米ぬか粉市場を取り巻く環境と成長要因について、ビジネスフレームワークのPEST分析を使ってまとめます。

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玄米粉および米ぬか粉市場は、米粉の市場拡大を奨励する政府などの後押しを背景に、小麦粉の代替としての米粉全体の需要の高まりや、玄米および米ぬかに含まれる高い栄養価への評価の高まりとともに、今後も成長していくとみられます。

5 玄米粉および米ぬか粉の残留農薬基準

稲作で用いられた農薬は、米の表皮の部分、つまり米ぬかの部分に多く残るとされています。このため、特に米ぬかに対しては、一部に残留農薬に対する懸念の声も聞かれます。

残留農薬については、食品衛生法に基づき、厚生労働省が販売や輸入が認められる基準値を定めています。玄米粉および米ぬか粉に関しては、米(玄米)と米ぬかに、それぞれ基準が定められています。残留農薬基準に関してはポジティブリスト制度が採用されており、基準が定められている成分に関しては基準値を下回ること、基準が定められていない成分に関しては、人の健康を損なう恐れのない成分を除いて全て一定水準(0.01ppm)を超えないことが決められています。

日本食品化学研究振興財団「残留農薬基準検索システム」によると、米(玄米)については317種類の成分に関する基準が定められています。一方、米ぬかに関しては、カルバリル(50ppm、2021年7月までは170ppm)、フルトラニル(10ppm)の2種類のみが定められており、残りの成分は一定水準を超えないことが義務付けられています。

■日本食品化学研究振興財団「残留農薬基準値検索システム」■
https://db.ffcr.or.jp/

以上(2020年8月)

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強い組織を作るための株式交換/弁護士が教える組織再編~事業再編・M&Aを学ぶ~(3)

書いてあること

  • 主な読者:事業承継を控えた複数の会社のオーナーである経営者
  • 課題:横並びの組織から中核会社を頂点とした組織を作りたい
  • 解決策:既存の会社のうち、いずれかを頂点とする「株式交換」の手法を解説

1人の経営者が中核となるA社の他、B社、C社のオーナーでもある「横並びの組織」の場合、事業承継が問題となりがちです。「後継者候補はいるものの、まだ会社の経営を担えるほどには成長できていない」などのケースがあるからです。このような場合、グループ経営の観点からA社を頂点とする持株会社体制に移行を提案する主なケースです。

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1 低コストで持株会社体制に移行する方法~株式交換~

持株会社体制に移行するには、経営者が持株会社に事業会社の株式を売買する方法があります。しかし、これは第2回(「持株会社を活用した事業承継/弁護士が教える組織再編~事業再編・M&Aを学ぶ~(2)」)で説明した通り、多額の買い取り資金を調達する必要があります。また、経営者は株式の売買によって売却代金を手に入れることができる一方で、売却益が生じた場合、税コスト(売却益による納税額の増加)を負担することになります。

そこで、新たな資金や税のコストなどをかけずに持株会社体制に移行する方法として、「株式交換」があります。株式交換は、経営者が保有するB社株式をA社に現物出資し、その対価としてA社からA社株式の新株発行を受けるというものです。A社はB社の持株会社として、その株式の100%を保有することになります。また、B社の旧株主はA社株式を保有することになります。

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1)株式交換に必要な主な手続き

株式交換に必要な主な手続きは次の通りです。会社ごとの事情にもよりますが、最短で1カ月半程度で完了します。

  • 取締役会の承認決議
  • 株式交換契約の締結
  • 事前開示書類の作成および備置き
  • (一定の場合に)債権者保護手続(催告・公告)、株券・新株予約権証券の提出手続
  • (一定の場合に)反対株主の株式買取請求
  • 株主総会の招集通知、株主総会の承認決議
  • 登記の申請
  • 事後開示書類の作成および備置き

2)株式交換を実施する上で注意する点

株式交換に反対する株主は、会社法上、会社に対して株式の買い取りを請求することができます。この権利を、株式買取請求権といいます。

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株式買取請求権を行使された場合、その買い取り金額は高額になる傾向にあります。反対株主の保有する株式数が多い場合には、短期間に多くの資金が社外に流出することになります。そうなると、会社経営において大きなダメージとなることは必至でしょう。

このような事態を避けるため、反対することが想定される株主がいる場合には、その株主に対して丁寧な説明をして理解してもらう必要があります。他の株主と折り合いが悪く説得が難しい場合には、そもそも株式交換を事実上実施できないケースもあるため、既存株主の動向は常日ごろから確認しておきましょう。

2 株式承継の手続きが簡便になります

持株会社体制のメリットとして、まずは株式承継の手続きが簡便になることが挙げられます。「横並びの組織」で経営している場合、オーナー経営者は各会社の株式をそれぞれ保有しています。1人の後継者に株式を承継させる場合には、当然ながら会社ごとに株式譲渡の手続きを行う必要があるため負担が大きくなります。これに対して、持株会社体制の場合、経営者が保有する株式は持株会社に一本化されているため、持株会社の株式さえ後継者に承継させればよいので手続きが非常に簡便です。

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3 後継者など将来の幹部候補生の育成ができます

持株会社体制では、後継者や将来の幹部候補生への権限委譲をスムーズに行うことができます。すなわち、経営者は持株会社の代表としてグループ全体を監督しつつ、子会社の経営を後継者や将来の幹部候補生に任せることができます。そうすることで、後継者など将来のグループ経営を担う者に経営の経験を段階的に積ませることができるのです。持株会社の監督を機能させるために、定期的にオーナー経営者や持株会社に子会社の状況を報告させるような仕組みを入れておくことが望ましいでしょう。

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4 グループの一体的経営ができる

「横並びの組織」だと、各会社がバラバラに経営されていることもあります。これを持株会社体制にすることで、持株会社に経営企画室などの戦略機能を持たせて、子会社にはそれぞれの役割を与えた上で、グループ全体を統一的な方針のもとで経営することができます。

新規事業を行う場合は、持株会社が新たな子会社を設立したり、M&Aで取得したりするなど手段の幅が広がります。また、各会社にそれぞれ設けられていた経理、総務などの管理部門を持株会社に移転させて、持株会社にグループ全体を管理・監督する機能を持たせることもできます。

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5 株式評価額が下がる

持株会社体制に移行した場合の税務上のメリットとして、グループ法人税制(グループ会社間における資産の売買や寄附など一定の取引が課税されない税制)の適用などもありますが、事業承継における最大のメリットは株式評価額が下がることでしょう。

後継者が株式を承継する際に生じる贈与税や相続税をいかに抑えるかが、事業承継における大きなポイントの1つです。承継した株式の評価額が思いのほか大きく、後継者に過大な贈与税・相続税が課せられて、結果として会社の財務状況を悪化させてしまったケースもよく見られます。

贈与税・相続税は承継した株式の税務上の株価をベースに計算されます。複数の会社を横並びで保有していて、これらの会社の株式を1人の後継者に承継させようとした場合、各会社の税務上の株価を単純に合計した額をベースとして、贈与税・相続税が計算されます。

これに対し、持株会社体制では、持株会社の税務上の株価のみをベースに贈与税・相続税が計算されます。詳細な説明は省略しますが、持株会社の税務上の株価は子会社の株価を直接的に反映した価格にならないため、「横並びの組織」よりも大きく株価が下がるケースが多いのです。ただし、子会社の株価によっては、持株会社の株式を評価する上で不利になるケースもありますので注意が必要です。

また、株式評価額の引き下げのみを目的とした株式交換はやめておいたほうがよいでしょう。税務当局から「税の負担を不当に減少させた」と指摘されるリスクがあります。株式評価額の効果が大きい分、否認された場合のインパクトもそれだけ大きなものとなります。株式交換による持株会社への移行は、前述の次世代の育成やグループの一体的経営などの明確な事業上の理由をもって行うべきでしょう。

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6 株式交換をステップに、次なる組織再編へ

株式交換を実施した後に、株式移転によって持株会社を新たに設立し、次のように三層の組織にすることもできます。この場合、持株会社自体は事業を行わず、グループの戦略や管理・監督に特化する役割を担うことになります。

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また、持株会社体制に移行後に、当初の組織構造が事業の進展によりそぐわなくなる場合もあるかもしれません。例えば、当初中核会社であったA社を頂点として持株会社体制に移行したものの、B社の事業が急成長し、B社がグループの中核会社となったようなケースです。そのような場合でも、株式交換によって、A社とB社の親子関係を逆転させるなど柔軟に組織構造を変えることができます。

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なお、同じく持株会社体制へ移行する手段として「株式移転」があります。株式交換が既存の会社を持株会社とするのに対して、株式移転は新しく設立した会社を持株会社とします。

以上(2020年8月)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 浜地保晴)

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画像:pixabay

オンラインコミュニケーションの【落とし穴】をChatwork山口副社長に教わる〜時間軸を縦から横へ、生産性向上にビジネスチャットの【今】を聞く〜/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、山口 勝幸さん(
Chatwork株式会社
 取締役副社長COO)です。

●会社HP
https://corp.chatwork.com/ja/

●製品サイト
https://go.chatwork.com/ja/

新型コロナウィルス感染症の発生から半年が経過、まだまだ長続きと言いますか、後戻りのない世界へ新しいワークスタイルの創出へと世界が変化しています。そんな中、ビジネスにおける流儀もこの半年で様々なシーンが一気に変化してきました。多種多様なオンラインツールの導入も加速度的に増えたという話を聞きます。私自身もオンラインコミュニケーションが、場所と時間を超越する便利ツールとして日常化して利用、活用し恩恵を被っていることは間違いありません。しかしながら、先日、山口さんのインタビューで得た気付き、オンラインツールが万能ではないこと、加えて自社製品ツールである【Chatwork】をも至上主義ではないことを話されていました。このあたりにフォーカスし、【Chatwork】をどんな風に使うことに意味があるのか、山口さん流の表現である時間軸を縦から横にしていくこととはどういうことなのか?生産性向上にビジネスチャットがどの様に活用されているかについて話を聞きました。

1 Chatwork社のここ最近の現況について

1)半年前のインタビュー記事からも成長を続けるChatwork

私自身、Chatwork株式会社の前進である、EC studio社時代からお世話になって12、3年が経過しているのですが、ここ数年特に昨年の株式上場以後は目覚ましい成長を遂げていらっしゃいます。嬉しい限りです。その成長の軌跡、概要をまとめていますのが、私が不定期で書かせていいただいている新幹線の雑誌【Wedge】のweb版のコーナー(オモロイ社長、オモロイ会社)で今年の1月7日に同社について文字数多く書かせていただいています。その記事はこちらです。この時は社長の山本さんにインタビューをさせていただきました。今回は副社長の山口さんにインタビューの機会をいただきました。

現在、Chatworkの導入企業社数は27.7万社以上(2020年7月末日時点)となります。私が前回インタビューさせていただいた時で、24.6万社(2019年12月末日時点)、たった半年ちょっとで3.1万社の増加、単月ベースで4000社以上が毎月増加していることになります。登録ID数は327.9万人(2020年3月末日時点)(前回は308万人(2019年12月末日時点)で、これも約20万人近くが増加しています)この数字に、山口さんはまだまだ白地(ユーザー増加の可能性がある)の多い環境だと話します。

2)ビジネスチャット市場の推移について

ビジネスチャット市場の推移の画像です

※同社資料より

2018年出典の上記資料で、2020年には112億円を突破する見込みとなっています。コロナ禍の影響を加味していないことからして今年はさらに市場の拡大は必至だと感じます。山口さんから、ご自分の肌感覚という前置きがありながら、日本におけるビジネスチャット浸透度はまだ20%程度ではないか? と話されていました。私も同感、都心の一部の企業で当たり前化しているとは思いますが、全産業、全業態におけるビジネスチャットの常時利用はまだまだと感じます。いまだに、FAXが全盛の場面、電話マストの場面を見かけることもあります。たまに驚くこともあります。この状況からもまだ始まったばかり、特に中小企業、非ITにはビジネスチャットの市場は大きく控えているのが現況と感じます。

3)最近金融機関との取組で気付くことも

オンラインカンファレンス開催案内の画像です

今年の7月21日に朝9時45分スタート、19時15分終了のオンラインカンファレンスが開催されました。当日の概要はこちらです。主催はChatwork社。オープニングとクロージングのトークが山口さん。錚々(そうそう)たる企業が登壇されています。総務省の方まで【テレワークの最新状況と総務省の取組】というタイトルで話されています。
このカンファレンスの申し込み者数は1,000名以上だったそうで、テレワークに対する企業側の関心の高さ、その熱量の大きさをも表していると思います。
山口さんは、ここ最近、金融機関との取組、特に地方銀行さんと連携したテレワークに関したオンラインセミナーへの参加社数が、昨年とは違い、明らかに増えたと話します。この参加者数の増加が前述のマーケットはまだまだあるということにもつながると思います。

2 コロナ禍におけるトピックスも伺いました

1)Chatworkを活用し、非対面で注文住宅が販売できる

人生の中で一番高い買い物と言えば、【住宅】。その住宅、特に注文住宅といえば、理想のイメージは? 予算はどのくらい? 設計事務所は? どこで建てるか? 建物の具体的な概要はどうするか?等々最終的に入居するまで1年ほどはかかると言われています。その間に何度も何度も繰り広げられるのが、【打ち合わせ】。休日に時間を創って、お互い調整しての面談が繰り返されて入居まで打ち合わせの【継続開催】が続きます。それがある注文住宅の工務店で行われたのが、【打ち合わせ】は全てChatwork上で行い、リアル面談をすることなく、お互い時間調整も不要の中で数千万円の住宅が販売されているという事実。工務店側も休日に集中的に打ち合わせに出向いていたことからも解放され、施主側も訪問時間に家族一同が待ち受けることから解放され、聞きたいことがあればチャットで質問、回答もチャットで。コロナ禍で自宅にいる施主さんも多く、余計に自宅についての関心、考えることも増え、工務店側も販売環境は普段より改善し、売り上げもコロナ前よりもChatworkを活用することで増加しているそうです。既成概念を超えチャットで住宅が売れる、買える時代となったこと、大きな変化に感じます。

2)コロナ初期 リモートワークでChatworkが大活躍(GMOインターネット株式会社)

今年の1月27日にリモートワークの意思決定をされたのが、GMOインターネット株式会社さん。社員約4000名が一斉にリモートワークに移行、社員数の多さも含めて、これは簡単なことではないと思いますね。

GMOインターネット株式会社のリモートワーク対応をまとめた画像です

※同社HP掲載記事から抜粋。

この短期間での決断から運用についての詳細はこちらをご覧ください。

私がこの記事から大切に感じましたことを2点ほど抜粋しました。

  • 同僚への気軽な呼びかけ”の役割をChatworkが担う
    Chatworkを通してのコミュニケーション頻度は以前より上がっています。やはり、会社に出勤していたときとは環境が大きく違い、在宅勤務では隣にいる人に「ちょっと」と気軽に話しかけることはできません。そうした気軽な呼びかけの役割をChatworkが担ってくれるようになっているのです。
    機能でいうと、リアクション機能がメンバー間でとても好評です。文字だけでは伝わらないニュアンスが表現できて、よりリアルでの会話に近い雰囲気がチャットで再現できます。既読の確認にも使えるのが便利ですね。以前は読んだことを伝えるのに「了解です」という一言がずらっと並ぶようなこともあり、投稿に「了解は不要です」とつけたりしていました(笑)。リアクション機能でそれもなくなり、より会話がスムーズになったと思います。

→私もリアクション機能をよく使っています。これで既読、理解したのかどうかがスムーズに理解、伝わると思います。この気遣いがリモートワークで大切と感じますね。

  • 私自身は在宅勤務に移行してもそれほど仕事の環境が変わったと感じませんでした。その理由は、以前からChatworkを使っていたからだと思います。ただ、テキストコミュニケーションだけでは不十分で、オンラインビデオ会議もあわせて導入すると良いと思います。

→コロナ初期では、リアル面談もできないことがストレスでした、それを軽減できたのが、ビデオ会議、私自身も多用することでコミュニケーションを円滑化できたのもこの機能でした。スマートフォンでも快適に活用できたことが大きかったと思います。

上記のGMOインターネット株式会社さん以外にも多数の活用事例がChatwork社のサイトには掲載があります。こちらをご覧ください。

3)私(杉浦)の活用事例についても

現在56歳、リアル面談重視で日々の活動を行って来てドブ板系だと自認しておりますが、非常事態宣言以降は全く訪問をすることも無く約2ヶ月間、大阪にて借りたオンライン部屋(一人個室)から、オンラインツール、チャットツールもちろんChatworkを多用して、多数の方々とビジネスコミュニケーションを行って来ました。

杉浦氏のオンライン部屋の画像です

※今年の5月の私のオンライン部屋の写真です。ここからたくさんのオンラインコミュニケーションを行いました。

順応性は高い方だと思うのですが、その中でも私が多用していたのが、音声録音でした。Chatwork上ではスマホから音声録音ができる様になっていて、文字では硬い、厳しい、上から目線となりがちな用件伝達の場面で、私の生声で届けることで、受け取った側の皆さんから、『ボイスメッセージ良いですね!』『ニュアンスが分かりやすくて理解が早いです!』等々、好評をいただいています。ただ全てをボイスメッセージに代替できるのでは無く、詳細な数値、客観性が高い項目については文字のほうが伝わりやすいと感じます。使い分けでコミュニケーション力もアップすると思いますね。
この様に私だけでも自分流の活用方法がありますが、Chatwork社では利用者のレベルや利用シーンによって活用できる【お役立ち資料】も準備されています。

Chatwork社の【お役立ち資料】関連の画像です

上記のお役立ち資料についてはこちらをご覧ください。

この様なお役立ち資料への準備を行いつつ、導入支援、導入サポートにも注力をしている、Chatwork社、カスタマーサクセスの専門部門も増強し、顧客満足度はかなりのハイレベル、サービス導入者の離脱(解約率)は他のSaaS事業者よりも圧倒的に低いものとなっています。

3 オンラインコミュニケーションの落とし穴と時間軸を縦から横に ビジネスチャットの役割について

1)オンラインツールが便利!でも手放しで喜んではいけない→使い分けが大切です。

このお話となった時、まさに私は手放しで喜んでいる派でした。そこに山口さんは警鐘を鳴らします。オンラインツールで時間と場所を超越して、こんなに便利なもの、恩恵を被れたことはまさに画期的、コロナより社会全体が仕事のあり方に変化をもたらしたことと感じます。しかし、なんでもオンライン会議を開催すれば良いものではない。オンライン→同期であること、これはリッチコミュニケーションであることに理解が足りないと山口さんは話します。時間と場所は選ばないことは大きな変革でありますが、参加者一同が、同じ時刻(同期)に【拘束】されていることが、まさに、贅沢である。内容によっては、同期で無くとも十分意思疎通が図れる、そこに気付いて運用ルールを定めるべきと話します。

  • 同期コミュニケーション→意識の共有として、ビデオ会議などを用いて、重要なことの「目的&背景」を共有する際や、意思決定を伴う「提案」や「相談」、人間関係の構築段階において有効です。
  • 非同期コミュニケーション→情報の共有として、チャットを用いて、スペック&量などの「確認」「調整」を行う際や、実行したことの「報告」、予定しているイベント等の「連絡」などに有効です。

ビジネスシーンでよくある課題をまとめた資料の画像です

2)1日に会議に何回参加できますか? 時間軸を縦から横へ、ビジネスチャットで実現

山口さんにお聞きした質問に、

  • 1日Chatwork上で何回程度チャットに参加されていますか?
  • 全てのチャット(会話・会議体)はどれくらいありますか?

この2つがありました。山口さんから、

→1日に参加するチャット数は300を超えています。
→全てのチャット数は5000を超えています。

これが回答でした。
今日は会議にたくさん参加した!と言っても10件以上のリアル会議に毎日参加している人は何人でしょうか?
1つのチャットを1つの会話や会議と見なすと山口さんは300回の会話・会議体に毎日参加していることになります。
これが時間軸を縦から横にするという考え方に通じます。リアル(オンラインであっても)の会議は必ずその場に一同が介さないと成り立ちません、しかし、横にして並列、並走していろんなチャットに乗り移る、見に行く、巡回するそんなイメージで、会議室にあたかも自由に出入りする感覚でコメントが必要であれば、対応、頷く程度、内容を見たことを相手に伝える程度であれば、前述のGMO社の方のコメントにもあった、リアクション機能で十分。この様な活用、チャットへの運用ルールを決めておけば一日300回の会話・会議に参加可能となる。非同期によるコミュニケーション活用が生産性向上を生み出す、これが毎月数千社が導入しているChatworkの強さだと感じます。人間の限界を超えていく感覚がこのあたりに感じ入ります。

これだけご自身でも使い倒している状況のChatworkですが、山口さんはこのツール至上主義とは微塵も思っていないとも話されます。
『リッチコミュニケーションには、オフラインやオンラインをどんどんやるべき、そうでない部分を補うのがビジネスチャットの領域です、この使い分けが一番大切。そしてビジネスチャットを活用して生産性向上を中小企業、非IT企業でますますお役に立っていきたい』と笑顔で語っていただきました。これからの同社の快進撃がますます楽しみに感じます。

インタビュー時の画像です

【終始笑顔で楽しいインタビューでした! 感謝。】

以上(2020年8月作成)

驚くほどいい人材に会える!を実現する人材のプール/採用活動のデジタルシフトで攻めに転じる!リクルーティングDX最前線(3)

書いてあること

  • 主な読者:採用活動のデジタル化を検討したい経営者
  • 課題:デジタルは苦手。それに人を採用するのだから、リアルのほうがいい?
  • 解決策:採用活動のデジタル化では、いい人材をプールし、アプローチすることがより容易に。プールすべき人材は、いますぐに入社できない人材、退職者、内定辞退者などであり、関係を切らさないことが大切

前回(第2回)は、「タレントプール」という採用手法を紹介させていただきました。デジタルツールを駆使することで、有望な候補者人材(タレント)をデータベース化(プール)し、その人材に継続的にアプローチしていくことで採用につなげる最も新しい採用手法のひとつです。

連載3回目の本稿では、タレントプールにおいてデータベース化すべき採用候補者に焦点を当てて解説します。求人メディア経由の一般的応募者にはいない潜在的な候補者をどう集めるか。今まではあまり対象とされていなかった「意外なタレント」について、お伝えしていきます。

1 タレントプールとは

本稿の理解を深めるためにも、まずはタレントプールについて簡単におさらいしておきます。人材サービスに頼ることなく自ら欲しい人材を見つけて採用するダイレクト・リクルーティングが広がりを見せる中、その進化形ともいえる採用手法がタレントプールです。

欲しい人材を直接スカウトするーー。魅力的な手法ながら、優秀な個人を一企業が見つけてくることは、これまで困難だとされていました。それがデジタル技術の進化によって可能になってきたのです。

デジタルマーケティングの手法を導入し、まず人材データベースを構築。そのデータベースに対しAIを駆使しコミュニケーションを取りながら関係を温める。オートメーション技術で採用候補者をあぶりだして採用につなげる。まさにリクルーティングDXともいうべき最先端の採用手法です。

2 紹介からデータベース化

こうしたタレントプール採用を成功させるカギを握るのが「人材データベース」の質にあることは、いうまでもありません。

有望なターゲットとして、最初に挙げられるのが関係者からの「紹介」ではないでしょうか。自社の幹部社員や優秀な社員による紹介であれば、ある程度のスキルレベルやカルチャーフィット感に期待が持てます。社員とのつながりを利用することで質の高い人材と出会える、マッチングの精度向上が実現できるとなれば、紹介された人材をプールするのは極めて有効でしょう。

実は「リファーラル採用」という紹介ベースの採用手法そのものも、昨今広がりを見せています。リファーラル(referral)は、「委託・推薦・紹介」といった意味を持つ言葉で、先述のように既に自社で働いている社員から人材の紹介を受けたり、人材を推薦してもらったりという採用手法を指します。少し横道に逸れますが、まずリファーラル採用について解説していきましょう。

3 縁故紹介のデジタル化

ご存知のように、紹介による採用は古くから存在します。厚生労働省の雇用動向調査によると、「縁故紹介」は日本では1995年まで入職する際の経路として長年1位の座にあって、最もポピュラーなマッチング手法だったのです。求人広告メディアの発達によって、1位の座を明け渡したものの、この紹介ルートは2013年くらいから再び上昇傾向に転じています。

縁故紹介が再ブレイクしたのは、従来の「口コミ」というアナログベースの紹介が、「SNS」を使ったデジタルベースの紹介へと変化してきたからです。口コミでは、せいぜい「知人からの紹介」に留まるところですが、SNSであれば、「知人の知人からの紹介」まで紹介の輪が一気に広がります。ソーシャルメディアの発達が、紹介による人づての採用活動を飛躍的に進化させているのです。

また社員の紹介にブレーキをかけていた障壁=業務負荷を解消するデジタルサービスも登場。こうした流れの中、元来、最もアナログな「紹介」という採用手法は「リファーラル採用」というジャンルとして確立され、一気に伸張していきました。

4 驚くほど優秀な層に出会える

ビフォーコロナのここ数年、日本は空前の人手不足でした。新しい採用手法や人材発掘ルートを確立するのが急務であり、また従来型の有料求人サービスにかかる採用コストの抑制も喫緊の課題でした。こうした人事の事情がリファーラル採用を後押しした一端であることは間違いありません。

それでも最大のポイントは、やはり紹介という採用ルートが活躍人材の獲得において有効だったからです。そしてこの延長線上にタレントプールという手法を置いて考えると、さらにその有効性が発揮されるのです。

ちょっと遠回りしましたが、ここからリファーラル採用にタレントプールを掛け合わせる手法の意義について解説しましょう。

リファーラル採用プロセスの中で、紹介してもらった候補者にSNSなどでオファーを送るとします。しかしタイミングの問題で現時点ではオファーを受けにくい、あるいは気持ちの高まりが足りず逡巡している、といったケースは少なくありません。こうした候補者こそタレントプールに登録してもらえばいいのです。

この“いますぐでなくてもいい”という観点は、「紹介」において極めて重要なファクターです。なぜなら紹介する社員にとって、彼らの持ち駒の数を圧倒的に増やしてくれるからです。そもそも、“いま求職中の知人がいる”という状態はそんなに多くはないでしょう。むしろ「いまの会社をすぐには辞めないだろうけど、アイツは仕事がデキる」「いつか一緒に働いてみたい」「ウチの会社にフィットしそうなのに」といった知人は、少なからずいるはずです。こういった潜在層が、優秀であり活躍してくれそうな“最も得難い人材たち”であることは言うまでもないでしょう。

いま求職中でないにせよコイツは仕事がデキる。そんな知人を社員から募る。彼らにオファーを送りつつ、機が熟していないなら自社の候補者データベースにプールする。ここからはAIが定期的にコミュニケーションを取りながら気持ちを高めていく。そして興味を持ってもらえた時点でオファーを送る。まさにリクルーティングオートメーションのテクノロジーで採用にこぎつけるというタレントプールの王道シナリオです。もちろん結果がでるケースばかりではないでしょう。しかし優秀人材が獲得できる千載一遇のチャンスであることは間違いありません。

5 退職者もプールせよ

リファーラル採用以外にも、意外な採用ターゲットは身近に存在します。

その代表格が退職者です。一度辞めた社員が、他社での勤務や独立など別の経験を経て、また自社に戻ってきて入社することを受け入れる企業は確実に増えています。アルムナイ(卒業生)リクルーティングとも呼ばれ、ビフォーコロナの超人手不足時代には注目の採用手法でした。

もちろんこの退職者の採用に乗り気になれない企業は少なくないでしょう。終身雇用が当たり前だった日本では、一社で長く働くことが正義で、辞めることは裏切りでした。そういう価値観がはびこっている職場では、辞めた時点で「二度と顔を出すな」となりがちです。ただ、もうそんな時代ではありません。

しかも退職者は即戦力です。業務経験もあり、社内ルールも、社風もわかっています。会社のことを嫌いになったわけではないけれど、どうしても新しいチャレンジをしたいというような前向きな退職もあります。また引っ越しや出産など、やむを得ない事情で退職する社員もいます。そういった人が戻ってきてくれると考えれば、むしろ嬉しい誤算ともいえます。

そんな退職者に対して、「もしも状況が変わったらいつでも復帰していいよ」と門戸を開いておくのです。その上で退職者データベースを構築していけば、これも立派なタレントプールになります。現に退職者対象のタレントプールサービスも存在します。

6 内定辞退者や不採用者も

最後にお伝えするタレント候補は、さらに意外な存在かもしれません。それは選考を終了したのちに、なんらかの理由で入社しなかった人たちです。彼らでさえ次の候補者になり得ます。

まずは内定辞退者。入社には至らなかったものの、こちらが採用の意志を示しているわけですから、人材のクオリティとしては申し分ないはずです。だから諦めなければいいのです。本人に許可をとった上ですが、プールに登録していきましょう。

よく新卒社員が3年で3割も辞めてしまうという報道を耳にします。確かに社員の離職に頭を抱える人事は少なくありません。ということはですよ。辞退して他の企業に行ってしまった内定者が、その職場で充実した日々を送っているとは限らないということです。その職場で悶々としていた場合には、こちらからのアプローチが「救いの声」に聞こえる可能性が、十分にあるわけです。内定を辞退された人に対して、一定期間がたったあとにコンタクトを取っていく。これはこれでアリだと思います。

選考後、入社しなかったもう一方は不採用者です。えっ? と思われるかもしれませんが、この人たちもプールすることをお勧めします。もちろん選考試験の出来があまりにも悪いとか、面接で箸にも棒にも掛からないといった人材までをプールしようとは言っていません。他の候補者との比較でしぶしぶ落としたとか、その時点では条件が合わなかったとか、実は人物的に及第点ながら不採用にするケースは意外と多いのです。彼らは実にもったいない存在です。

タレントプールという採用手法の中で、プールされるべきタレントをどこまで広げていけるのか。ただ広げればよいのではなく、もちろん優秀であってほしい、あるいは自社にフィットする人材であってほしいという前提の上での話です。本稿では、その観点からお勧めできるターゲットについて解説してきました。

社員からの紹介ルートが極めて有効である。このリファーラルからのタレントプールには誰しも異論がないでしょう。しかしながら「退職者」「内定辞退者」「不採用者」といったカテゴリーは、やや意外だったのではないでしょうか。筆者は彼らをサードターゲットと呼んで、貴重な人材資源であると位置づけています。重要なのは、どのルートからでも優秀な人材を獲得しようという貪欲さ。その本気度こそが、タレントプールという採用手法を成功に導くラストピースなのです。

以上(2020年8月)
(執筆 平賀充記)

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これから中小企業に必要な非対面営業の方法と、ハイブリッドの考え方

書いてあること

  • 主な読者:非対面営業に取り組みたい経営者
  • 課題:非対面営業のノウハウがない、どう取り組むべきか分からない
  • 解決策:非対面営業のメリット・デメリットを認識し、事例を参考に自社に合うやり方を検討する

新型コロナウイルス感染症のまん延を機に、営業活動の主戦場はオンラインによる「非対面営業」へと移りました。訪問、名刺交換、会食、展示会への出展など、当たり前のように行ってきた活動が少なくなる中、営業力を高める秘訣は、対面営業と非対面営業とのハイブリッド化を進めることです。

1 対面営業と非対面営業のハイブリッド化

非対面営業が注目されているからといって、対面営業がなくなるわけではありません。むしろ、「ここぞ!」というタイミングで対面営業を織り交ぜるハイブリッド化が重要となります。

対面営業には、「目の前で話をする安心感がある」「商品、サービスの説明がしやすい」「ディスカッションがしやすい」「その場の雰囲気を感じ取り、話の進め方や説明内容を最適化できる」といった、非対面では実現が難しい良い点、メリットがあります。このメリットを最大限に享受するためにも、対面営業の使いどころが大切なわけです。

ハイブリッド営業の基本は「非対面から対面へと結びつける」という流れにあります。BtoBにおけるマーケティングや営業活動が分かりやすいでしょう。BtoBのマーケティングでは、対面で行ういわゆる「フィールドセールス」だけではなく、次の流れで営業活動を行うケースが少なくありません。

  • コンテンツマーケティングを利用し、知ってもらう
  • 資料ダウンロードなどを通じて、今後関係性を構築するためのリード(メールアドレスなどをはじめとしたお客様情報)を獲得する
  • 電話やメール、オンライン会議などを利用し、ヒアリングする
  • 定期的な情報提供などを行い、関係性の構築・維持やセミナーなどに誘致する
  • 顧客が必要な状況で提案する

「1.コンテンツマーケティング」「2.~4.インサイドセールス」「5.フィールドセールス」にすみ分けることで、営業の効率化や再現性の向上を目指しています。また足元では、オープンセミナーを対面と非対面の両方で行ったり、遠方の顧客にはオンラインで、近隣の顧客には対面で商談したりと、必要に応じた使い分けがされています。

2 非対面営業で効果を上げる特徴的な事例

皆さんは、対面営業は慣れていると思いますので、ここでは非対面営業の効果的な事例を紹介します。こうした非対面営業を行って相手と信頼関係を築くことができれば、対面営業にも結びつけやすくなります。

1)コンテンツマーケティングと動画を組み合わせた事例

メールマガジンを使って顧客を囲い込んだり、資料をダウンロードしてもらってリード(見込み客)を獲得したりする手段に、記事を用いる「コンテンツマーケティング」に取り組む企業は少なくありません。最近は、動画を活用するケースが増えています。

動画のメリットである「情報の量」や「表現の幅」を増やせるのが特徴です。とりわけ非対面営業では、次のようなコミュニケーションが見込めます。

  • YouTubeなどのSNSを活用し、自社サイトやメディア、検索ユーザー以外にアプローチできる
  • 営業メールや定期的なメールマガジンなどに動画を掲載することで見込み客の興味を引ける。関係性も構築できる
  • 自社サイトに会社概要やサービス紹介、お客様事例の動画を掲載することで、詳細な情報をユーザーに伝えられる。営業活動時の説明を補足できる。営業活動の均質化を図れる

また、1つの動画コンテンツを複数の媒体で利用することで、コンテンツ制作の手間を軽減しながら、各媒体のユーザーにアプローチできるようになります。具体的には次の方法があります。

  • 動画を文章化することで、記事として利用できる
  • 動画を資料化することで、スライドシェアなどの資料共有サービスで利用できる
  • 動画を音声のみにすることで、Podcastなどの音声メディアで利用できる
  • 文章化、資料化、音声化した一部を切り出すことで、SNSでの発信に利用できる

・動画を活用したリード獲得事例

早期離職対策のための講演、研修を実施するA社では、以下のような施策を行い、動画コンテンツからリードを獲得、そしてオンラインでのオープンセミナーへの集客を実現しています。

  • 研修動画をYouTubeや人事系ポータルサイトに掲載
  • 研修用資料をダウンロードしてもらうことでリードを獲得
  • リードに対して、電話、オンライン会議を行い、ヒアリング
  • メールマガジンでの動画配信
  • 状況に応じた提案、またはライブ配信でのオープンセミナーへの誘致

こうした動画を使った施策を実施することで、主に次の効果を上げています。

  • 研修動画1本を公開したところ、数日でYouTube、人事系ポータルサイト合わせて50件余りのリードを獲得した。その後もYouTubeから継続してリードを獲得している
  • メールマガジンの開封率は20%をキープしつつ、動画掲載時にはクリック率が20%を超えることもある

2)オンラインセミナーやオンラインでの勉強会の活用事例

対面によるセミナーや勉強会の開催が難しくなる中、対面でのイベントをオンラインでの実施に切り替える企業もあります。オンラインでのセミナーや勉強会は対面でのイベントと比べ、次のようなメリットが挙げられます。単に対面の代替としてではなく、オンラインならではの効果を上げられるようになります。

  • 場所の制約がなくなる
  • オンラインだからこそ参加しやすい
  • 人数に制限がない

・知名度の高い方々での大規模コラボレーションセミナー

場所の制約がなくなることは、運営側にも大きなメリットがあります。著名な方に登壇を依頼する場合、これまでは開催場所への移動も含めてスケジュールを確保する必要がありましたが、オンラインであれば講演時間だけを確保すればよいので、引き受けてもらいやすくなります。

実際、ウェブマーケティング界隈では、著名な方々がコラボレーションしたイベントが幾つも開催されており、中には1000人以上が参加するイベントもありました。

3)小規模な勉強会を頻繁に開催する事例

逆に、小規模なセミナーを何度も繰り返す事例もあります。オンラインが対面よりもコミュニケ-ションが取りにくいのは事実なので、あえて3~5人程度の小規模セミナーや勉強会を複数回開催して関係性を構築し、個別商談につなげています。

・小規模勉強会を活用したアポイント獲得事例

ある商品の営業担当者の中には、次のような施策を行い、新規のアポイントの獲得、既存顧客へのフォローや追加契約を実現する人がいます。

  • 既存のお客様も新型コロナウイルス感染症の状況に不安を感じているため、既存顧客向けに3~5人の小規模の勉強会を開催する。また、同様の不安を抱えている人に勉強会を紹介する

このような勉強会を週2回、定期的に開催することで、次のような効果を得ています。

  • 既存顧客からの保証の見直し
  • 既存顧客へのフォロー
  • 新規顧客との接点の創出

3 非対面営業のデメリットを乗り越える

非対面営業のメリットを活かした事例は前述の通りですので、ここではデメリットを解消する施策について考えていきます。非対面営業の場合、サービス説明やクロージングにおいて、以下の要因により対面営業のようなクオリティーを出すことが難しくなります。また、対面での影響力(雰囲気としてなにかすごそう。話を聞いておいたほうがよさそう)が非対面では利かず、専門知識の高さやロジックが重視されます。

  • オンラインでのサービス説明が難しい(特に、資料とは別のメモ書きでの説明などが行いにくく、説明の難易度を上げてしまいます)
  • 非対面ではリアクションが分かりにくく、説明や内容を理解しているか判断できない
  • 自身や先方のITリテラシーの問題がある

しかし、次の内容を事前に行うことで、対面営業と同じとはならずとも、対面営業のクオリティーに近づけることができます。

  • ロールプレイングによる非対面営業の練習をする
  • 資料を作り込む。分かりやすさを重視する
  • 事前に論点、資料を共有し、オンラインの前に認識合わせをする
  • 面談中に細かな確認をする。「音声、途切れていませんか?」「ここまで質問ございませんか?」

この他、ツールによってはバーチャル背景という背景画像をあらかじめ用意しておいた画像に差し替える(合成する)機能があります。背景画像に会社のロゴやメインメッセージを入れて会社の情報などを伝えたり、名刺情報のQRコードを入れて名刺を交換したりすることもできます。非対面営業は“つかみ”が大事なので、バーチャル背景などを工夫するといった一手間が大事です。

4 非対面営業が進むことによる競合の変化

最後に補足をしておきます。非対面営業によって遠方の見込み客とも商談がしやすくなります。これは自社にとってメリットなわけですが、裏を返せば遠方にある競合他社も自社の顧客に商談をしやすくなるということです。

非対面営業は、オンラインツールを使うことなどもあり、とにかく攻めのイメージがあるかもしれません。しかし、新規開拓ではなく、既存深耕の守りもバランス良く行うことが必須です。既存顧客と「毎月第2水曜日」に定例オンラインミーティングの場を設けるなどといったことをするとよいでしょう。これまで以上に距離を縮めるチャンスとなります。

以上(2020年8月)

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「税務調査」がよく分かる 手続きの流れを徹底解説

書いてあること

  • 主な読者:税務調査について知りたい経営者・経理担当者
  • 課題:税務調査はどのように始まり、何をされ、どのように終わるのか
  • 解決策:調査対象の選定から更正・決定までの流れを解説

税務調査は、会社から提出された申告書などに記載されている金額が正確かどうかを税務署などの職員が判断するために行う一連の調査(証拠資料の収集、要件事実の認定、法令の解釈適用など)です。また、税務調査の一環として、オフィスや工場などに職員が出向いて調査を行うことを実地調査といいます。

一般的に税務調査という場合、この実地調査を指すことが多いですが、この他にも電話や文書での問い合わせ形式による税務調査や反面調査など、納税者と接触しない形で行われる調査も含まれます(「反面調査」については後述)。

以降では、税務調査の全体の流れに沿って、それぞれの手続きを解説していきます。なお、本記事では国税庁、国税局または税務署を「課税当局」、課税当局の職員を「調査職員」、調査を受ける者を「納税者」としています。

2 税務調査の流れ

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1)調査対象法人の選定

課税当局は、国税庁のオンラインシステム(KSKシステム)を活用して、データベースに蓄積された法人税の申告内容や各種資料情報などを基に、調査対象の会社を選んでいます。その事務年度(その年の7月からの1年間)における重点調査業種に該当しているかどうかや、業種・業態・事業規模といった観点から分析されます。

これら資料情報には、税法などの法令により提出が義務付けられている給与所得の源泉徴収票や利子等の支払調書の他、税務調査などの際に把握した裏取引や偽装取引に関する情報など、さまざまなものが含まれています。

2)書面添付の有無

税理士が税務代理業務を行い、税理士法第33条の2において規定されている書面(税理士が申告書の作成に関して計算し、整理し、または相談に応じた事項などを記したもの)を添付している場合、納税者への事前通知をする前に、税務代理権限証書(税理士または税理士法人が税務代理する場合に、その権限を有することを証する書面)を提出した税理士にあらかじめ意見聴取が行われます。

この意見聴取によって、調査職員の疑問点が解消されたときは実地調査が省略され、税理士に対し、現時点では調査に移行しない旨、口頭(電話)で連絡されます。一方、実地調査の必要があると認められたときは、事前通知前に税理士に対して、意見聴取結果と実地調査に移行する旨の連絡が行われます。

3)事前通知

税務調査が入るときには、原則として、課税当局から納税者に対して次に掲げる事項の事前通知があります。なお、税務代理権限証書を提出している場合は、顧問税理士に対して通知があります。

実際に実地調査が行われる場合は、事前通知の前段階で日程調整が行われます。

  • 実地調査を行う旨
  • 調査開始日時
  • 調査を行う場所
  • 調査の目的
  • 調査の対象となる税目
  • 調査の対象となる期間
  • 調査の対象となる帳簿書類その他の物件
  • 調査の相手方である納税者の氏名および住所または居所
  • 調査を行う調査職員の氏名および所属官署
  • 調査開始日時または調査開始場所の変更に関する事項
  • 上記4~7に掲げる事項以外について非違が疑われることとなった場合には、当該事項に関し調査を行うことができる旨

なお、事前通知を行うことを原則としていますが、事前通知なく税務調査が実施される場合もあります。これは、提出した申告書や過去の調査結果の内容、またはその営む事業内容などから、違法や不当な行為の疑いが強く、資料収集が難しい、また調査自体が適正に行えない恐れがあると認められる場合に限り行われるものです。

4)実地調査

1.実地調査とは

実地調査とは、調査職員が会社などで質問検査などを行うことをいいます。調査職員は「質問検査権」を与えられて実地調査が可能になります。ただし、「質問検査権」は、「調査について必要があるときは」と規定されており、納税者は明らかに必要のないとされる質問に対しては、これに応じる必要はありません。

しかし、必要に応じて帳簿書類等の提出が求められたときなど、質問検査権に基づく質問に対して答えない、または偽りの返答をした場合などには、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。

2.実地調査に必要なもの

実地調査時に必要な帳簿書類や物品には、税法上で備え付け、記帳または保存しなければならない帳簿書類(詳細は後述)の他、調査のため必要と認められるものも含まれます。具体的には、取締役会などの会議の議事録や稟議(りんぎ)書など紙で保管されている証憑(しょうひょう)書類、給与データ、電子メールなどのデジタル記録、金庫や固定資産台帳に記載されている機械装置などの物品も対象となります。

帳簿書類には「仕訳帳、総勘定元帳、その他必要な帳簿」「取引先から受け取った注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類等」「棚卸表、貸借対照表および損益計算書並びに決算に関して作成されたその他の書類」があります。

また、実際の物品なども対象であることから、必要に応じて工場、営業所、支店などで現物確認調査が行われることもあります。

これらの書類や物品はすぐに提出・案内しなければなりません。必要があるときは、調査職員は提出された物品を課税当局の庁舎に持ち帰ることができます。これを「留置き」といいます。留置きは、納税者の理解と協力の下、実施されるものであり、留置きが行われた場合、納税者は調査職員から預かり証を受け取ります。留置きされたものは、留め置く必要がなくなったときに返還されます。また、事業の遂行上の必要性のためなどの理由があるとき、納税者が返還の請求をすることもできます。

5)取引先等調査

取引先等調査とは、いわゆる反面調査のことをいいます。調査職員は、税務調査において必要であると合理的に判断される場合には、取引先や雇用主などに対し、質問や検査等を行うことができます。

6)調査結果説明

実地調査等や取引先等調査の結果、誤り・訂正がある場合等には、調査職員が、納税者に対して調査結果の内容・金額・理由を説明します。なお、法令上は説明の方法が明示されているわけではなく、多くの場合、口頭で行われています。

7)修正申告等の勧奨

調査結果説明の後、調査職員は納税者に対し修正申告または期限後申告(以下「修正申告等」)を勧奨することとしています。課税当局が職権で訂正(更正・決定)することも可能ですが、納税者が自ら理解して是正することが、申告納税制度の趣旨にかなうものと考えられているからです。

8)更正または決定をすべきと認められない旨の通知

実地調査等や取引先等調査の結果、誤り・訂正がない場合等は、課税当局は納税者に対し、その旨を「書面」により通知する必要があります。

9)修正申告等

納税者が自ら、修正申告書または期限後申告書(以下「修正申告書等」)を提出します。納税者は修正申告書等を提出した場合、再調査の請求や、審査請求といった不服申し立てはできません。

10)更正・決定

納税者が調査結果の内容説明に納得せず、修正申告等の勧奨に応じない場合、税務署長は職権で更正又は決定の処分を行います。これに対して納税者は、不服がある場合には、処分の通知を受けた日の翌日から3カ月以内に税務署長に対して再調査の請求をするか、国税不服審判所長に対して審査請求することが認められています。

なお、更正とは期限内に申告した申告書について、誤り・訂正があった場合に税務署の職権で税額等を計算する処分をいいます。一方、決定とは期限内に申告をしなかった者に対して、課税当局の職権で税額等を計算する処分をいいます。

3 実地調査の観点と対策のポイント

実地調査では、帳簿書類の確認などを通じて、法人税法などの法令にのっとって適切に税務処理されているかが調査されます。これは、税務申告書上の計算・転記誤り、記載漏れや故意によるものだけではありません。日常の経理処理のミスや決算手続きの際に漏れてしまった項目なども含まれます。例えば、請求書の発行の締め日が25日だった場合、決算手続きの際、決算月の26日から月末までの売り上げが集計から漏れていたとすると、いわゆる「期ズレ」として、売り上げの計上漏れの指摘を受けることになります。

また、法令上の適否以外に、要件事実の認定という観点からも調査されます。例えば、代表取締役1人で経営している青色申告法人の現金出納帳上の現金残高が200万円、実際の現金残高が10万円と大幅にズレていたとします。この場合、差額190万円について、未精算経費の存在など合理的な説明ができなければ、代表取締役による使い込みとして、いわゆる役員賞与(損金不算入。源泉所得税の納付漏れ)の認定・指摘をされる恐れがあります。

実地調査の対策としては、調査職員の質問に正確に回答できるよう、帳簿書類その他の物件を整理しておくことが肝要です。そのためには、帳簿の記帳や証憑書類の作成・保管、固定資産の管理などの整備を、日ごろから心掛けておく必要があります。また、正確な会計・経理処理の実践も不可欠です。

こうした取り組みは、基本的なことではあるものの、税務調査対策という観点からだけではなく、内部管理体制の充実という観点からも重要なポイントとなります。

以上(2020年8月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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決算書でよく見る“引当金”の性質と活用法

書いてあること

  • 主な読者:引当金の計上を検討している中小企業の経理担当者
  • 課題:中小企業の決算書に引当金の計上が必要なのかどうかの判断は難しい
  • 解決策:引当金の必要性や目的を認識した上で、「経営管理」「資金調達」の視点からビジネスにおける活用方法を解説

1 引当金の必要性

上場企業の有価証券報告書にある貸借対照表を見ると、なじみのある貸倒引当金から、何かしらイメージが湧きそうな退職給付引当金や、縁のある企業が少ないであろうポイント引当金まで、様々な名称の引当金が計上されています。(ポイント引当金は、早期適用が開始されている収益認識に関する会計基準の適用により、計上できる範囲が制限されます。)

一方で中小企業の計算書類にある貸借対照表を見ると、貸倒引当金と、この他には返品調整引当金あたりが計上されているくらいだと思います。この差は一体何なのでしょうか。中小企業にとって、引当金は必要なものなのでしょうか。

本稿では、引当金を税務と財務の視点から解説した上で、ビジネスにおいてどう生かすかを紹介します。

2 引当金とは

1)引当金の目的

引当金は、当期以前の事象に起因して将来発生する可能性が高い特定の費用または損失を、対応関係にある当期の収益に照らして見越し計上すること、つまり期間損益計算の適正化を目的とします。また保守主義の見地では、企業財政を健全にすることも目的として挙げられます。

例えば、売掛金に関する将来の貸し倒れが合理的に予測し見積もれるのであれば、回収見込みのない分を当期に費用計上することによって、次期の損益に影響を与えないことになり、期間損益計算が適正に行われることになります。また利用できる手持ち資金を保守的に考えることで、安全に経営を進めることができるようになります。

2)主な引当金の種類と分類

1.製品保証引当金

製品に欠陥があった場合に次期以降に保証しなければならない見積額を、当期の費用として計上する引当金です。

2.売上割戻引当金

将来において割戻しが発生すると見込まれる場合に、その見積額を当期の費用として計上する引当金です。

3.返品調整引当金

次期以降に商品が返品される可能性が高い場合に、その利益部分の見積額を当期の費用として計上する引当金です。

4.賞与引当金

従業員に支給する賞与をあらかじめ見積もった際に、当期の負担に帰属する部分を当期の費用として計上する引当金です。

5.工事補償引当金

製品保証引当金と同様の理由で、建設会社や工事会社が、その見積額を当期の費用として計上する引当金です。

6.退職給付引当金

労働協約や就業規則などに基づいて、当期の負担に帰属する部分を当期の費用として計上する引当金です。

7.修繕引当金

次期以降の修繕のための費用をあらかじめ見積もり計上し、当期の負担に帰属する部分を当期の費用として計上する引当金です。

8.特別修繕引当金

修繕引当金の中でも、大規模な修繕が行われる場合に設定される引当金です。

9.債務保証損失引当金

債務保証を行っており、次期以降に保証の履行の可能性が高い場合に、その見積額を当期の費用として計上する引当金です。

10.損害補償損失引当金

将来の訴訟や事故などによる補償に備えて、その見積額を当期の費用として計上する引当金です。

11.貸倒引当金

債権のうち回収不能が見込まれる見積額を、当期の費用として計上する引当金です。

引当金は大別して、評価性引当金負債性引当金の2つに分類されます。評価性引当金は、将来に特定の資産の滅失が認められる部分について引き当てるものであり、発現した際は支出を伴いません。一方で負債性引当金は将来に発現した際に支出を伴います。

上記引当金の中で評価性引当金に分類されるのは、売掛債権やその他の債権にまつわる貸倒引当金のみとなります。それ以外の引当金は負債性引当金に分類されます。

貸借対照表上における通常の表示箇所は、評価性引当金については資産の部にある特定の資産から控除する形式で表示され、負債性引当金については、その性質により流動負債または固定負債として表示されます。

3)引当金の計上要件

企業会計原則(注)注解18で次のように規定されており、これらは4つの要件に分かれます。

  • 将来の特定の費用又は損失であって、
  • その発生が当期以前の事象に起因し、
  • 発生の可能性が高く、かつ、
  • その金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとする。

貸倒引当金を例にすると、将来売り上げを回収できないリスクであるため1.を満たします。また、収益を認識し計上された売り上げに起因するため2.を満たします。さらに、過去の自社の実績や業界平均などの事例から、発生可能性を認めることができる部分について3.を満たし、同じく合理的に計算ができる部分について4.を満たすということになります。

(注)企業会計原則は1949年に企業会計制度対策調査会が公表した会計基準で、企業が従うべき会計規範としての役割を持っています。

4)税務の視点

税務では、実は税法にのっとり計上された貸倒引当金と返品調整引当金のみが引当金として認められ、それ以外の引当金については損金(税法上の費用に値するもの)として認められていません。

しかも、貸倒引当金の適用対象は中小企業に限られています。また、返品調整引当金は2018年度税制改正において、経過措置期間経過後に廃止されることになりました。

これは、税法が課税の公平や中立、簡素を基本の原則としており、会社ごとに判断や恣意性を持たせない公平的かつ共通のルールを策定する上で絞られた結果です。

3 引当金をビジネスに生かす

ここまで、引当金を制度の視点から解説してきました。では、ビジネスにおいてどのように活用するとよいのでしょうか。

1)経営管理

制度会計は過去・現在・未来や他企業との比較可能性の担保のために、期間を1年で区切り、ルールにのっとることを求めます。一方で、ビジネスで取り扱う投資やプロジェクトは、1年で区切るのは不自然なことのほうが通常であり、また経営方針によっては発生可能性が低いものも引当金として認めたり、独自の引当金を考慮すべきケースがあったりします。

例えば、新規事業を始めて開発に乗り出したが、システムの販売後にバグがどれくらい生じるか分からない場合に、経営の安全性のために合理的に見積もれなくてもルールを設定し、製品保証引当金を計上することで手持ち資金に余裕を持たせることができます。

また、現在のコロナ禍においては、少し先の未来でも不確実性が高く、見通しが難しい状況にあります。これを受け、売掛金や貸付金などの債権を個別管理し、独自に引当金を設定することで経営管理に資することもできます。

2)資金調達

中小企業においては、税務申告書を用いて銀行借り入れを実行するため、財務の視点が抜け落ちます。しかし、財務は必ずしも上場企業や大企業のような会社ばかりが必要になるものではありません。

銀行においても自社の税務申告書にある計算書類は、銀行のルールに基づく財務会計に引き直されています。

またM&Aという言葉がだいぶ浸透してきましたが、資本力のある会社とのコミュニケーションで、買収だけでなく出資などの資本提携や融資と併せた業務提携などの提案を受けたりする場合にも、やはり自社の計算書類は財務会計に引き直されます。

そこで先述の通り、税務と財務のギャップに引当金は大きく影響をしているため、この辺りについて共通言語で話せることが肝となります。つまり、このとき財務会計を意識して貸借対照表や損益計算書を作成できていたり説明ができたりすると、ビジネスモデルや実情の他に財務に関するリテラシーの高さを評価してもらえ、結果的に出資や融資の話がスムーズに進むことになります。

以上(2020年8月)
(執筆 合同会社gtra and company 代表執行役・公認会計士 朝倉厳太郎)

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