勝てるチーム作りの心得 ~元ラグビー日本代表主将から学ぶ組織論~

書いてあること

  • 主な読者:組織がシャキッとしないと悩んでいる経営者
  • 課題:組織に活を入れる際の参考にできる成功事例を知りたい
  • 解決策:2019年のワールドカップでベスト8に躍進したラグビー日本代表の組織作りを参考にする。重要なのは「目標設定」と「コミュニケーション」

1 8年前に1勝もできなかったチームがW杯で8強に

皆さん、初めまして。元ラグビー日本代表の菊谷崇(きくたに たかし)です。私は日本代表主将として、2011年にニュージーランドで開催されたワールドカップ(以下「W杯」)に出場しました。この大会で日本代表は1次リーグで4試合を戦い、3敗1分け。そう、1試合も勝つことができませんでした。

それから8年後の2019年に、自国開催のW杯で日本代表が世界中に巻き起こした旋風は、皆さんも記憶に新しいことと思います。この8年間で日本代表はどうやって「勝つ組織」に変わっていったのでしょうか。

私は、2014年まで代表チームに身を置き、代表の引退後も、チームが変化し、成熟する様子を見守ってきました。1勝もできなかったチームに「勝者のメンタリティー」が備わり、ベスト8進出を果たすまでの過程について、私なりの分析と考察をお届けできればと思います。

2 「ローマは一日にして成らず」 8強の礎に2015年のW杯あり

2019年W杯の躍進は、イングランドで開催された2015年W杯が礎になっています。2015年W杯は、W杯で24年間勝利のなかった日本代表が、世界ランキング3位だった南アフリカ代表にラストワンプレーで逆転勝利した、「ブライトンの奇跡」が話題になった大会です。

その2015年W杯に向けて、2012年4月にエディー・ジョーンズさん(現イングランド代表監督)が、日本代表のヘッドコーチ(以下「HC」)に就任しました。エディーさんのHC就任こそ、それまでの7回のW杯で1勝(21敗2分け)しかできなかった日本代表に、強化のための“メス”が入った瞬間だったと思います。

エディーさんは、日系米国人の母親と日本人の妻がいて、東海大学や日本の社会人チームでの監督(HC)経験もあることから、日本人と日本ラグビーのことを熟知していました。

一方で、オーストラリア代表のHCとして2003年W杯で準優勝に導くなど、世界の強豪国のレベルもよく知っています。そのため、世界で勝てない日本代表が抱える課題を理解していました。HCに就任した時点で、勝つ組織にするというゴールから逆算して、日本代表を、「どこからどのようにして変えていけばよいのか」のプランができていたのだと思います。

画像1

3 エディーHCの「勝てるチーム作り」のポイント

エディーHC率いる日本代表(以下「エディーJAPAN」)で私が感じた、エディー流の「勝てるチーム作り」のポイントを紹介します。

1)大きなビジョンと2つの目標を掲げる

エディーHCが就任時に最初に掲げたのが、「日本のラグビーを変える」というビジョンでした。後にエディーHCは、「日本ではかつて、ラグビーはとても人気のあるスポーツでした。しかし、いつの間にか人気がなくなってしまった。私が就任した当初、誰もが日本はラグビーではうまくいかないと思っていました。そこで私は、もう一度ラグビーをポピュラーなスポーツにしたいと考えました。そのためには、世界の舞台で勝つことのできるチームにしたかったのです」と日本のメディアに伝えています。勝ちたいという思いは誰にもありますが、まず「なぜ勝たないといけないのか」を大きなビジョンで示すことで、勝つことの意義を、より強く意識できるようになりました。

さらに、具体的な目標は、「W杯ベスト8」という「結果目標」に加えて、日本代表が「憧れの存在になる」という「意義目標」の2つを掲げました。意義目標を掲げた経緯については後で話しますが、2つの目標があったからこそ、日本代表は、多様性豊かな選手全員が同じ方向にベクトルをそろえ、1つのチームにまとまることができたのだと思います。

2)組織の弱点を分析し、計画的に克服していく

世界のラグビーでは、「ティア1(ワン)」と呼ばれる強豪国と、日本などが該当するその下の中堅国「ティア2(ツー)」などにランク付けされています。

私が主将として出場した2011年W杯は、いわゆるティア1チームとの試合経験を積まないまま、大会に臨んでいました。それまで「勝利」という結果を世界に残していなかった日本代表は、ティア1チームと試合をするチャンスをもらえなかったのです。初戦の相手はティア1のフランスでしたが、過去にフランスと対戦した経験がある選手は1人だけ。強豪国との試合経験がなく、対戦相手の情報が映像しかないという厳しい環境では、「勝つ」と意気込んではいたものの、勝てると確信できる根拠に乏しい状態でした。

経験不足という日本代表の弱点を克服するために、エディーHCは、まずティア2チームとの対戦で着実に勝利を重ねていき、強豪国との試合を実現させる、というプランを立てました。そのプラン通り、エディーJAPANは2012年11月にティア2のルーマニア、ジョージアに勝利します。日本代表にとって、アウェーでヨーロッパチームに勝つのは初めての快挙でした。そして翌2013年6月には、ティア1であるウェールズを日本に迎え、第2試合で初勝利(トータル1勝1敗)を飾りました(注:執筆者は上記4試合にフル出場)。

ウェールズ戦での勝利によって世界的に日本代表の力が認められたことで、その後、毎年1~2回は世界ランキング上位チームとの対戦が組めるようになりました。より強度の高い試合を経験することが可能になり、そこで得た経験を基にチームの目標設定を毎年更新していくことで、チームの戦力が上がったように思います。

ちなみに、ウェールズ戦後に聞いた話ですが、この試合に勝たなければ、エディーHCと日本ラグビーフットボール協会との契約が終わっていた可能性もあったそうです。組織を変えるため、そして周囲の理解を得るためには、絶対に結果を残さなければならないタイミングがあるのかもしれません。

3)データを示した上での「世界一」ハードな練習

エディーJAPANは、世界一といえるハードな練習量が有名でした。日本代表は年間120日ほどの合宿を行いますが、「朝5時から朝食まで」「午前中」「夕方から夜まで」と1日3回の練習を行う「ラグビー漬け」の毎日でした。しかも、約4年間で休日はたった2日でした。

選手たちがハードな練習についていけたのは、それぞれの練習に、「なぜ」の説明がされていたため、納得して取り組めたからです。エディーHCは世界のトップレベルをベンチマークに、具体的な数字を示して、日本代表に足りない部分を理論的に説明しました。そのため、選手たちに「世界で勝つ」という意識が強まり、練習でも主体的に動く選手が増えていったのです。

図表は、エディーHCが示したデータと目標の代表的な例です。

画像2

図表の数字は、15人の選手が試合中の1分間に走る距離の平均値(メートル毎分)です。日本の最高峰であるトップリーグでは75メートル、世界ランキング1位のニュージーランド(以下「NZ」)代表は95メートルでした。エディーHCは、世界で勝つためには、この数値をNZ代表さえ上回る100~110メートルにしなければならない、という目標を示したのです。

なぜかというと、日本代表の選手たちはNZ代表の選手たちより体格で劣るため、ボールを止めずに、パスやランニングで勝負している時間を増やす必要があったからです。そして、試合で110メートル走るために、練習では120メートル走ることを目指しました。その結果、前述した2013年6月にウェールズに勝利した頃には、120メートル走れるようになっていたのです。

ハードな練習や、データで目標を示すことは、「それを乗り越えたときに、勝利への自信につながる」というメリットがあります。当時の日本代表キャプテンだった廣瀬俊朗(ひろせ としあき)さんは、ハードな練習について、「追い込まれても前を向ける選手をピックアップしたかったのだと思います」と語っていました。そのような過酷な時間を乗り越えたからこそ、これまでW杯で1勝しかしていなくても、自信を持ってW杯の開催地に乗り込むことができたのです。また、データでNZ代表を上回っているという「事実」が自信の裏付けとなり、想定範囲外のことが起こっても安定したプレーを続けられるようになったのだと思います。

4)リーダーグループを中心とした、主体性とコミュニケーションの重視

エディーHCが構築したチーム体制は、それまでと大きく変化しました。主将(キャプテン)という立場はあるものの、「リーダーグループ」という組織によって、選手が主体的に活動できる環境作りが進められました。チーム発足当初にエディーHCが指名したリーダーグループのメンバーと、グループ内での担当は、次の通りでした(敬称略)。

  • 主将(キャプテン):廣瀬俊朗
  • 日本人と外国人とのコミュニケーション担当:リーチ・マイケル
  • グラウンド内担当:五郎丸歩(ごろうまる あゆむ)
  • グラウンド外担当:菊谷崇

リーダーグループは、この4人に加えて、エディーHCが招聘(しょうへい)したメンタルコーチにサポートしてもらいました。当初は外部の人は不要だと思っていましたが、自分たちだけでは気付かなかったアドバイスをもらえ、有益だということが分かりました。例えば、プレーについて指導する立場である五郎丸さんが、選手を褒めることが得意でないことが分かると、「1日1回、人を褒めよう」というアドバイスをしてくれて、コミュニケーションが円滑になりました。

リーダーグループはまず、選手たちの意向を踏まえて「理想とする日本代表は何なのか」を話し合い、目標設定を行いました。エディーHCも合宿の開始時など定期的に参加し、目標や課題を確認します。ただし、目標の立案や、目標を実現させるための具体的な活動内容と実行プランを作成するのは、リーダーグループです。そして、選手たちに、それらを理解し、実行してもらうように説明をします。このような過程で、リーダーグループを中心に選手たちの主体性が向上し、日本代表としてのロイヤルティー(愛着心)が高くなったと思います。

リーダーグループの取り組みの一例が、日本代表が「憧れの存在になる」という「意義目標」を設定したことです。純粋にラグビーの人気が出てほしいと願う選手たちの思いに加えて、日本代表の価値向上を図るという目的がありました。

ラグビーの場合、国籍を問わず、その国に3年以上生活すれば代表資格を得られます。分かりやすく言うと、多くのスポーツの日本代表が「日本人の代表」なのに対し、ラグビーの日本代表は「日本地域の代表」という考え方ができます。このため、日本代表に外国人が多く入ることになるのですが、この考え方に戸惑う方も多く、ファン獲得に大きな壁となりました。「憧れの存在になる」には、この壁を取り払う必要がありました。

この問題についてリーダーグループで話し合った結果、試合前の国歌斉唱の際は、外国人も含めた選手全員で歌うことに決めました。そして、毎週のミーティング後にスタッフ、コーチを含め全員で国歌斉唱を練習することにしました。また、歌詞の意味を知るために、「さざれ石」がある宮崎県日向市の神社を参拝したりもしました。こうした活動の積み重ねが、多様性豊かな選手たちを1つのチームにまとめることにつながったのでしょう。そして、結果として2019年W杯でラグビーというスポーツが注目されるきっかけになったと思います。

5)ベテランの経験値や影響力を活用

すでにベテランとなっていた私を日本代表に呼んでくれたエディーHCは、ベテラン選手の経験値や影響力を、勝てるチーム作りに巧みに活用しました。

ラグビーでベテランの経験値が役に立つのは、実は試合中ではなく、練習後の体のメンテナンスや、試合前にやっておく準備などです。ベテランは試合の重要な局面でも周りを見渡す余裕や判断力があるというイメージを持たれているかと思いますが、それは試合に向けて行ってきた準備の量の問題であり、経験値とは別物です。

最もベテランの経験値が活きる場面は、2019年W杯での躍進の理由とも関連します。私は日本代表がベスト8に進めた要因の1つは、日本開催だったことだと思っています。なぜなら、W杯は開幕戦から決勝戦まで44日間を要し、事前キャンプを含めると2カ月近い長丁場だからです。

普段、日本で過ごしている日本代表メンバーは、日本での暮らしについて十分な経験値を持っています。ですが、他国の代表メンバーは、日本で過ごすという経験値がほとんどありません。気候、食事、ホテルでの生活、家族とのコミュニケーションなどは、選手のプレーを左右する重要な項目です。W杯で勝つには、外国での長期の生活に柔軟に対応できることが必要なのです。その点、ベテランには、長期の海外遠征時に必要な持ち物や海外での時間の使い方、海外でストレスをためない環境作りなど、若手選手にアドバイスできる経験値があります。

ベテランの影響力として最も大きいのは、練習に対する姿勢や、チームに貢献しようとする姿勢などを、若手選手に見せることです。海外遠征では帯同できるスタッフに限りがありますので、選手たちも裏方作業を行わなければなりません。そうしたときに、ベテラン選手が大きな荷物を運んだり、アイシングの準備をしたり、選手に水を渡したりと、裏方作業を積極的に行うことで、控えの若手選手もチームの勝利のために貢献しようという気持ちになってくれます。

また、前述のように、エディーJAPANはハードな練習量が有名でしたが、エディーHCから、練習では私のようなベテラン選手が、ひたむきに、積極的に取り組む姿勢を見せるように求められました。私としては、ある意味で若手選手を奮起させるための「見せしめ」のような立場ですので、代表復帰を後悔した時期も少なからずありました。

私自身は、エディーJAPANで3年間プレーし続け、当初のエディーHCの希望通りに、若手選手へ経験を伝え、役割を全うして代表を引退。ちょうど2015年W杯まで、残り1年を切った時期でした。

6)大一番で選手が力を発揮できる環境を設定する

エディーHCは、選手たちが自信を持ってW杯の開催地へ乗り込めるように、もう1つの「準備」をしていました。それは、2015年W杯の第1試合である南アフリカ戦の試合会場で、事前に2回、試合を行ったことです。W杯の第1試合という大一番を、慣れない環境でプレーするのではなく、自分たちのイメージをしっかり持った状態で挑めるようにするためです。このような環境を設定することも、マネジメントをする立場の人にとっての、重要な仕事だと感じました。

7)失敗者を責める組織でなく、失敗しないようサポートできる組織にする

エディーHC以前の日本のラグビーは、テクニック重視の練習が多く、状況判断を伴う練習が少なかったと思います。エディーHCは、「それでは試合でプレッシャーがかかったときに、練習で積み上げたことが発揮できない」という考えを持っていましたので、練習は常にゲーム中心で、状況判断が必要なメニューを取り入れていました。

エディーHCが重視したのは、ボールを保持している選手が行う状況判断を、ボールを持っていない選手がどうサポートするか、でした。特にラグビーは、前にいる選手にはボールをパスできませんので、味方は全員、ボール保持者の後方にいます。つまり、ボールを持っている選手は、味方を目視できない中で状況判断をしなければなりません。このため、常に後ろにいる味方が声をかけてサポートする必要があるのです。逆に言うと、ボールを保持していない人が言葉でサポートをすることで、プレーに良い影響を与えることができるわけです。それを15人という大所帯で行うわけですから、ラグビーは、コミュニケーションや対人関係のスキルが求められるスポーツといえるでしょう。

私は現役を引退してから3年になりますが、エディーHCの下で培った経験を活かし、ラグビーのコーチをしています。特にエディーHCの指導方法や考え方を取り入れているのが、自分で立ち上げた子供向けのラグビーアカデミーです。

ラグビーアカデミーの子供たちは、ミスをした選手に対し、「なんでパスをしない」「なんでそっちに行くんだ」と注意します。そんなときに私たちコーチは、「変わらない過去に激しく問いかけても未来は何も変わらない。未来に向けて、次に同じ場面が来たらどんな声かけをすればパスをしてもらえるか考えてみよう」と声かけをします。

皆さんも職場で、ミスをした社員に対して「なんで…」と言っていませんか? ミスという変わらない過去ではなく、未来に向けてミスをなくす改善策に目を向けるようにすると、コミュニケーションの取り方も変わってくるかもしれません。

4 終わりに:重要なのは目標設定とコミュニケーション

たくさんのエディー流の仕掛けを持って臨んだ2015年W杯で、「ブライトンの奇跡」を起こした日本代表。ジェイミー・ジョセフHCに引き継がれてからのさらなる活躍は、皆さんもご存じの通りと思います。

私は、エディーJAPANが残した、2015年W杯の実績と、主体性やコミュニケーションを重視するチーム作りという礎があったからこそ、ジェイミーJAPANは強豪国との対戦が可能となり、「One Team」と呼ばれるまでにチームが一体化したのだと思っています。

私が日本代表やトップリーグで経験して感じたのは、組織に必要なものは、「まとまり」と「目標設定」だということです。「まとまり」を作るためのキーになるのは、コミュニケーションだと思います。エディーJAPANと、その後の日本代表の活躍は、そのことを裏付けてくれています。

以上(2021年1月)
(執筆 元ラグビー日本代表主将 菊谷崇)

pj00470
画像:執筆者提供

銀行を作りたい、低所得層に機会提供をしていきたい、事業を通じて、片親世代を支援したい〜常に逆境を跳ね返して前向きに、ポジティブに行動を〜/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、東小薗 光輝さん(H.I.F.株式会社 代表)です。

この新型コロナウィルス感染症の影響下でたくさんの必要度が高いもの低いものが炙り出されたように感じます。かなり斜めからの意見となりますが、大学のあり方、必要度も見直されることになるように思います。研究系、専門領域は高い必要度を感じますが、ジェネラリストをたくさん輩出してきた普通の大学生には、そもそも大学にいく前に、起業してみる、他にも経験をした方が良いこともあるように思うのは私だけではなく、お若い方々に話を聞いてもそんな声が聞こえてきます。ただ入学するかしないか選択できる立場だと良いのですが、今回インタビューをさせていただいた東小薗さんは、大学に行っている場合ではないという10代を経験、そこから銀行を作りたい、片親世帯の支援を、事業を通じて行っていきたいと思ったという素晴らしい想いと高い志をもった起業家です。その東小薗さんに話を聞きました。

1 起業を目指そうと思った10代 そして準備に入った20代

1)目の前のチラシを手にして自衛隊へ

大阪府高槻市出身の東小薗さん。母子家庭出身ながらお母さんの頑張りもあり、大学進学を準備する高校3年生を迎えた時に、大学に行っている場合ではなくなってしまったそうです。それはお母さんの仕事中の交通事故。
その時に目に留まったのが、【日本を救うのは君だ】というチラシ。自衛隊の入隊勧誘チラシでした。これで生活の安定を手に入れながら3年間頑張ったそうです。
東小薗さんの社会人生活で仕事への糧となっているのが自衛隊(伊丹駐屯地)でのエピソードがあります。経営者となった今でも部下にも言っていること、それは、陸上自衛隊ならではの体力づくりの時間、かなりきつい、フラフラになるくらい、心臓が破裂するくらい走らされる、気絶するくらい、みんながもうだめです、めまいがします、助けて下さいと訴える。しかし教官からは、『1回そうなってくれ、そうなってから言ってくれ、人間は意外と強いんだよ、人間の強さと弱さをまず感じてくれ。そうなったらすぐに救護班を呼ぶから。』この経験が今のハードワーク、後々の仕事への姿勢に影響しているそうです。そんな簡単に人間は倒れない、案外人間は倒れないということ。この経験で気概が備わった。やりたいことを、やらねばならないことがあると人間は強いですね。まさに強靭な体力と精神力が備わったのだと感じました。

2)世の中を知るには金融を勉強したい

自衛隊での3年間の生活から企業人を目指すことになった東小薗さん、21歳の頃、社会を早く理解する、社会、会社の仕組みを理解するには金融業界が良いと思い、低所得層専門の消費者金融会社に入ります。当時社員500名ほどの会社で全国各地に事務所があったそうです。営業成績というものはなく貸付残と遅延率、お客さんとの対応、対面しながら審査と貸付を自分で見極めながら対応していたそうです。
この会社で、この人は、嘘をつく人か、そうでないか、キチンと返済できるかどうかを見る、判断する、その眼力を養うようになっていきました。
ちなみに審査ってどんなところを見ていたか?との問いに。この会社では紹介のみでの融資実行、リアル面談を通じてだったので、その借り入れする人の知り合い、紹介者、関係先を見たり、言動から嘘をつく・つかないを見極める。また面白いと思ったこと、返済に差が出たのは申込み書をきちんと書けるか、丁寧に書く人、ふりがなを書く・書かないでも大きな違いがあったそうです。人を見る真理と感じます。やはり丁寧が一番ですね。
この業界にいて、大きな学び、お金というツールでどれだけ将来の道が広がるかが分かった。東小薗さんが融資しなければ、子供さんの入学金が払えない、手術代が払えない。たった1万円かもしれないがそれがあったら人生も変わる。お金の価値の大切さ、金融に係る人間は全員大切にこの気持ちを持ったほうがよいと。
この会社を退職後いくつかのアルバイトを経験、その時から、自分自身で銀行を作りたい、あらゆる人々に機会提供ができる金融機関を作りたいと強く考えるようになったそうです。
その時に思いついたのが、HISへの入社。この時ハウステンボスを立て直した澤田さんがメディアを賑わせているところを見て、『この人なら自分の夢を叶えてもらえるかも、澤田さんなら銀行を作らせてくれるかも』と思ってHISへの入社を考えるようになります。

2 給与は要りませんとHISに入社 そして澤田経営道場2期生へ

1)銀行を作るためにHISへ

28歳でHISへ。面接時に『給与0円でいいです、僕の活躍を見て給与を決めて下さい』
旅行も経験したことがほとんどない。採用側のリスクを取らないということを提案した。大阪で契約社員として入社、法人営業部門に配属され、海外出張、ビザ手配等々を業務にしていました。成績優秀で1年で社員へ、その後2年で管理職へ。あまりに頑張るので、周囲の社員からあまり頑張らないで、と言われるほど。当の東小薗さんは控えめで自分の成績のことはあまり自慢することもなく、ただただ自分のよう広がるかがわかったに契約社員でもここまでできる、後進の自分と同じ立場の人にも『やればできる』ということを見せたかったと語ります。ちなみにこのスピード出世は後にも先にも東小薗さんだけだそうです。
正社員登用の面接時のエピソードで、面接官から、HISへの将来の自身の貢献について尋ねられた際に、銀行を作るためにHISに入ったこと、銀行をHISに作ることで大きな収益をもたらしたいと伝えたら昇格NGとなったそうです。旅行とは無縁という理由で。しかし当時の上司が掛け合って無事に正社員へ。それだけ期待されての登用だったと感じます。

2)澤田経営道場で学んだのは無力感

この道場のサイトに掲載されていた東小薗さんの卒業生コメントを以下に。

    →金融でお金で困る人がない世界を
    私は母子家庭の出で、金銭的理由で大学進学を諦めた過去があります。ただ、大人になってから色々と調べると、諦めなくても良い方法がありました。金融とは言葉の通り「お金を融通する」ことです。しかし日本は世界でも有数の豊かな国であるにも関わらず、法人も個人も「本来、融通されるべき人」にお金が十分に行き渡っているとは言えないと思っています。この課題を解決するために必要な仕組みを備えた金融事業を立ち上げようと思います。

    また、事業の中で支援できない方も出てくると思いますので事業収益で片親世帯など「本来、融通されるべき人」にできる限りの支援をしたいと思います。
    【座右の銘】
    不屈
    【趣味】
    猫と遊ぶ NINJA250 群れずに、極端を貫く事。

    https://sawadadojo.com/

こちらのコメント素敵ですね。この想いを不屈と貫くことでカタチに。
HISで管理職として頑張っていた時に、人事部付きで部署異動として澤田経営道場に入ることになったそうです。7名が選抜され、道場生としての2年を過ごします(2期生まではHIS社員で構成されていたそうです)。
HISで、経営道場で学んだこと、たくさんの多様な講師からたくさんの知識を得ることができたこと。さらにその上で、自分一人が頑張ったり、自分一人が優秀だったりしても所詮たった一人では大した力は発揮できない、無力さを感じた。自分一人分の営業力が優秀でも大したことはない。誰でも代わりはいる、これってすごい小さなお話し。大きいことを成し遂げるには、多種多様な人たちに会って、周囲の人を巻き込みながらその人々の力を借りてチームで、会社で事業をやっていくことが大切、これが一番大きな成果、このことを学べたことと話します。

3)道場から起業へ

澤田経営道場に通いながら、卒業約4カ月前にH.I.S Impact Finance株式会社(現H.I.F.株式会社)を設立、自身100%出資にて、その4カ月後(2018年3月)にエイチ・アイ・エス、ハウステンボスから出資を受け事業がスタートした東小薗さん、会社ビジョンを以下のように設定します。

BaaS(Banking as a Service)プラットフォームの提供により世界の人々、企業の将来的発展をサポートし、世界平和に貢献していきます。また、母子・父子家庭世帯の子供の為に最大限支援致します。

まさに思い描いたことを実行する力、素晴らしいと思います。このビジョンに賛同、共感して、HIS時代の後輩が社員第一号に。素晴らしい仲間づくり、理想的な参画だと思います。

3 HIFの事業について

1)起業後、4カ月ですぐに黒字化、営業開始半年で累損解消、安定的な事業成長へ

澤田経営道場を3月に卒業した後、4月から起業家としての第一歩を踏み出します。手堅いのは、まずはHIS社の困りごとを事業化してスタートしたこと。赤字を掘り続けるスタートアップを目指すのではなく、まずは自分の食い扶持は自分でとの考え方。HIS時代、自分が困っていたクライアント先への請求業務そこに付随する売掛金の回収業務。それを丸っとアウトソーシング(代行業務として)で引き受けることを始めます。最初のクライアントはHIS社、これで困りごとを解決しながら、ノウハウを溜めてグループ企業へそこからグループ外へ展開していきます。売上も初月から計上し、4カ月後の8月には黒字化、9月には累損を解消するまでに成長します。
黒字化の後に、予てからの【銀行業務】を目指す第一歩、【銀行代理業】をスタートするべく、9月からいろんな銀行に相談、通い出し、10行ほどを訪ねてGMOあおぞらネット銀行から【やりましょう】と合意、財務局に申請を出して2019年3月に認可が下りました。素晴らしいスタートですね。

いきなり銀行を創ろうとしても、最初に200億円以上が必要、システム構築に30億円、毎年のシステムメンテナンスに40億円が必要と並大抵のレベルで銀行をスタートすることは困難。銀行と組んで銀行代理業の道を選択しながら事業を拡大する、それも大切な戦略と思います。

2)HIF社の事業について

前述の通り、HIS社で自身も困っていた、請求業務のアウトソーシングサービスの提供からいまではバリエーションが広がっています。そこを説明したいと思います。

  • Fimpleサービス 売掛金を守り本業に集中できる環境を
  • Fimpleクレジットサービス 企業調査を安価に実現
  • 決済代行・間接コスト削減コンサルセットサービス 無料でコスト削減額シミュレーション

この3つについて。

Fimpleサービス比較表の画像です

1.Fimpleサービス 売掛金を守り本業に集中できる環境を

当初の事業である請求業務のアウトソースそこに少しずつサービスレベルを上げながら付加し、合計4つのサービス段階となっています。

 請求業務アウトソース→売掛債権の保証→左記2つを合体した売掛金未回収リスクがゼロになるサービス→売掛金サイトが短縮されるサービス(1〜7営業日で現金化)、それぞれが企業ニーズにマッチして事業を伸ばしています。

2.Fimpleクレジットサービス 企業調査を安価に実現

Fimpleクレジットの特徴を示した画像です

HIF社独自の調査項目や反社チェック、債権譲渡登記確認、過去入金遅延確認なども含む与信審査サービス。1社〜のスポットで利用可能な利便性(ライトプラン/1社で1,780円〜)。

3.決済代行・間接コスト削減コンサルセットサービス 無料でコスト削減額シミュレーション

Fimpleのサービスの特徴を示した画像です

請求代行で培った、請求データベースの構築で見えてきたのは、意外に請求額のバラツキから無駄なコスト、特に間接材のコストに【埋蔵金】が眠っていること。規模が拡大すれば見過ごされがちなコスト意識を一元化集約することで間接材のコストを低減しつつ請求代行のコスト(費用だけでなく労力も)も削減する提案をここ最近強化しています。これによりクライアント企業がさらに元気になる。体力が向上することで本業にコストも投下しやすくなると喜ばれているそうです。

3)一人親家庭へのベーシックインカムが事業の目的

経済的な支援が必要な一人親家庭、お子様が小学校から高校生の間、月額1万円年額12万円を給付する制度。日本国籍を保有し日本に在住している人に支給していく。自社事業とは紐付かないものの、この制度立ち上げるために起業した経緯もあり、本格的事業スタートから3年弱ですでに10世帯19人の家庭に給付をしているそうです。
ご本人からは、お金の大切さを自身の体験からも十分理解し、1万円で塾に行けなかったことも。1万円で苦労したことがない人には分からない、しかしこの1万円で機会を得られることもある。その支援を続けたいそうです。
お金に対しては、元々はこれほど崇高な思いや考えを持っていたわけではなく、お金持ちになりたい、お金軸で生活をしていきたいと思っていた。それもお金で困った子供時代、人生を憎んでいたから。ですが、消費者金融での仕事や澤田経営道場での経験からお金はツールとして大切にはするがお金軸で生きていくものではない、もっと大切なことに気づいた、そのために金融のあり方を節度をもって対応していく、お金軸はダサいと気付かされ、思い知らされたそうです。お金軸、金持ちに、金に困らない人生を目指すことはいつしか止めたし、ダサいと思えるようになりましたと話してくれました。

4)大きな事件に巻き込まれたが、さらに強固な組織へ

昨年末(2020年末)このインタビューをさせていただいた翌日にビックリするニュースが飛び込んできました。ニュース(金融のプロもだまされた、「スゴ腕詐欺師」の正体)はこちらです。
私なりにも過去の経験や、周囲の金融出身の方々にも聞きましたが、金融事件を詐欺で刑事にすることはなかなか困難なこと。
それを記事の通り立件されているところからも東小薗さんやその周囲の方々の姿勢を感じます。
また、2021年2月26日に15.9億円という大規模な資本増強に成功されたとのこと(リリースはこちらです)。
リスクを回避して、一気に成長に向けて舵を切れるビジネスモデルを構築されたとのことですから、大きな事件を克服して成長の糧にすることができたということではないでしょうか。

このインタビューを通じて、最後に東小薗さんからもコメントを寄せていただきました。

    →金銭的理由で未来を諦める人がいない社会を作るための手段として、私たちは事業拡大していかないといけない。そして世の中の企業や人にとってほんの少しでも役にたてるビジョナリーカンパニーを作る事が自分の使命です。

インタビューの最後に私からお母さんに一言とお伝えすると、

お母さんとは仲が悪かった、ほとんど会話も学生時代~社会人まで会話がなかったそうです。一人で働いて、一人で子育て、子供側からだと勝手に離婚して、なんでも勝手にと感じていました。でも最近会話ができるようになってきた。今は素直に有難うと伝えたい。

東小薗さんの事業への姿勢に共感し、応援していきたいと思いました。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年3月15日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

金融機関と上手に付き合うコツ(2021年1月時点)

「経営者が押さえておくべき資金調達のノウハウ」では、創業後5年以内の時期は資金調達が大きな課題であることを紹介しました。しかし、経営の苦労が5年で終わるわけではなく、特に資金繰りの問題は経営する限り続きます。
例えば、新型コロナウイルス感染症の影響で、世の中は一変しました。筆者の印象では、8割以上の中小企業が、業績悪化など大きな影響を受けています。日本政策金融公庫の「新型コロナウイルス特別貸付」をはじめとして、さまざまな金融機関で新型コロナ関連の融資制度が設けられました。金融機関は、かつてないほど多くの融資申込案件に対応しています。
多くの中小企業にとっては、先行きへの不安が根強くある今、資金調達先である金融機関との付き合い方がますます重要になっています。

1 金融機関も取引先の一つと考えよう

経営者の中には、「金融機関はなかなかお金を貸してくれないのでは……」と思う方もいるでしょう。しかし、コロナ禍では、中小企業を対象とした新型コロナ関連の融資制度が多様化したことで、取引のなかった金融機関へのアプローチがしやすい環境になりました(コロナ時代の金融機関との付き合い方の留意点などは第5章で後述します)。

ただし、どのような状況であっても、付き合い方の基本となる部分は変わりません。金融機関は「きちんと支払ってくれるかどうか」という観点で、企業の信用状況をチェックしています。
自社に置き替えて考えてみましょう。初めて取引する相手が、高額商品を「掛け(代金は後払い)で売ってください」と言ってきたら、「この相手は信用して大丈夫なのか?」と不安に感じて、すぐに売ることはできません。
また、長い付き合いの取引先であったとしても、売掛金の残高が膨らんでいたら、「このまま掛け売りを続けるのは危険かもしれない」と考えるのが普通です。

金融機関は融資という商品を売っています。融資を申し込む企業は、融資、つまりお金という商品を、掛けで買おうとしているともいえます。そして、多くの場合は、数百万円以上の高額になります。商品を提供する金融機関が、「きちんと支払ってくれるかどうか」という観点で、企業の信用状況をチェックするのは自然でしょう。

金融機関は、仕入先や外注先と同様に、取引先の一つと捉えるのが妥当です。できるだけ条件のいい資金を、適時に提供してもらうためには、信用を積み上げていくことが大切です。そのためには、お互いが信用できる関係を構築することが不可欠です。そうすれば、効果的な資金をタイムリーに提供してくれる存在になります。

2 どのような金融機関と付き合えばいいか

では、中小企業はどのような金融機関と付き合うのがいいでしょうか。
長年、中小企業の資金繰りを目の当たりにしてきた筆者は、日ごろから「2~3先の金融機関と付き合うのがいいですよ」とアドバイスしています。1先だけとの取引だと円滑に資金調達ができない場面が想定されるため、A銀行がNGでもB信用金庫が支援してくれるという体制を取っておくのが望ましいのです。

ただし、「複数の金融機関と取引する」といっても、最初から融資取引をするわけではありません。まずは預金口座をつくるなど、接点をもつことから始めましょう。新規に開設した預金口座を、決済口座(お客様・取引先からの振込の受け皿など、事業資金の入出金用口座)の1つにすれば信用構築につながり、必要時の資金調達の可能性が出てきます。

3 金融機関のサービスを利用する

「金融機関は敷居が高いイメージがある」という経営者が少なくありません。確かに、「お金を借りる立場」という意識が強いと、そう感じるでしょう。しかし、金融機関は中小企業向けにさまざまなサービスを提供しているので、むしろ「使い倒そう」というつもりで積極的にアプローチしたほうが有効です。

融資だけではなく、各種ビジネス情報の提供、セミナー、コンサルティング、ビジネスマッチングなど、金融機関の中小企業向けサービスには利用価値の高いものが数多くあります。こうしたサービスをうまく活用すれば、情報収集や人脈構築などに役立てることができます。
このあたりの取り組みは金融機関によって違うので、Webサイトなどでチェックしてみるとよいでしょう。また業務への取り組み姿勢については、定期的に発行しているディスクロージャー誌も公開されているので、読んでみるといいでしょう。

繰り返しますが、金融機関も取引先の一つです。商売では、新しい取引先を開拓しようとしたら、事前に相手のことをよく調べます。金融機関についても同じです。少なくとも、公開されている情報を収集しておけば、営業の担当者と接するときに、話のネタにもなります。

4 支店長や営業担当者との接し方

金融機関の窓口は融資や営業の担当者になります。場合によっては、支店長と話をすることもあります。経営者の中には緊張したり、「あまりこちらの手の内を明かさないほうがいいのではないか」などと身構えたりする人もいるでしょう。
しかし、堅苦しくならず、ざっくばらんな姿勢で話すのがよいでしょう。世間話やプライベートな話題を交えながら、事業の状況やこれから取り組みたい内容などを説明し、資金の必要性があるならその旨を伝えていきます。

金融機関の担当者は、数字の分析については詳しいですが、個別のビジネスについては経営者のほうが詳しくて当然です。そのため、ビジネスが斬新なものであればあるほど、事業内容はできるだけ分かりやすく説明することが大切です。

金融機関の担当者は頻繁に転勤があり、気心が知れた頃に異動してしまうことがあります。これに備え、自社の経営内容や課題、事業計画などを書面で渡しておきましょう。そうすれば、新しい担当者でもある程度、事前にこちらの情報に目を通せるので、全くのゼロからのスタートということにはなりません。

5 コロナ時代における留意点

1)金融機関の選択肢が広がる

中小企業にとっては、新型コロナ関連の融資制度が多様化したことで、取引のなかった金融機関にアプローチしやすくなりました。例えば、日本政策金融公庫、商工組合中央金庫、民間金融機関、信用保証協会など、融資の相談ができる先の選択肢が広がっています。
新型コロナ関連の融資制度は多様なので、制度の詳細説明を読んでも「どれが自社に適しているのだろう?」と分からないこともあります。そんなときに、制度の理解度が高く親切にアドバイスしてくれる担当者がいると、最適な判断ができます。

複数の金融機関へアプローチできる現在は「いい担当者」と出会えるチャンスでもあります。融資以外でも、貴重なアドバイスをしてくれる可能性もあるので、金融機関に対して、臆することなく、積極的にアプローチしましょう。

2)柔軟な審査判断にも限界がある

筆者が、各金融機関の対応を見て感じるのは、従来の「常識的基準」にとらわれない審査判断をしているということです。
例えば、飲食店などの「現金商売」に対しては、これまでは運転資金の融資は限定的でしたが、「当面の危機を乗り越えるための仕入資金や経費の補填」といった運転資金を融資するようになりました。
既に1回、コロナ特別貸付を融資した企業に対して、2回目の融資を実行したケースもみられます。

しかし、金融機関は、際限なく支援できるわけではありません。従来よりも柔軟な判断をする中でも、企業の経営状況を見て、「これくらいが限界です」という線を引かざるを得ないのです。その場面になると、しばらくは融資による資金調達は難しくなります。
さらなる融資を実現するには、非常に難しい課題ですが、業績を向上させて金融機関への信用力を高めることが求められます。知恵を絞って、この難局を乗り越え、しぶとく生き残る企業になりましょう。

次回は、資金調達のために大切になる事業計画書について解説します。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年1月5日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

資金調達につながる事業計画書の書き方(2021年1月時点)

意外なことに、きちんとした事業計画書を作成していない企業が少なくありません。しかし、事業計画書は企業がどこに向かっているのかを内外に示すことができますし、銀行から融資を受けるのに有効な場合もあります。
また、現在は新型コロナウイルス感染症の影響で、経営環境が激変しています。「新型コロナウイルス特別貸付」など、多種多様な融資制度を利用する際も、事業計画書は大きな役割を果たします。融資担当者を説得するためには、口頭で説明するだけではなく、端的に示した「事業計画書」を提出することが有効なのです(コロナ時代の事業計画書については第5章で後述します)。

1 作成する目的などによって効果的な事業計画書は異なる

事業計画書を作成する目的としては、自社内で事業計画を共有する、社外に対し企業の魅力を伝えて優秀な人材を確保する、金融機関やベンチャーキャピタルなどに見せるなどがあります。

事業計画書は、作成する目的や見せる相手に応じて、書式や記載する内容を工夫することが重要です。例えば社内で共有することが目的であれば、「業績が上がれば給料にも反映する」という趣旨を盛り込むと、社員のモチベーションを高める効果が期待できます。

資金調達が目的の場合、補助金、銀行融資、ベンチャーキャピタルの出資など、資金提供者によって効果的な内容が異なります。

2 銀行に事業計画書を提出するメリット

創業時や新規事業を立ち上げるときなど、何か大きな変化を伴う場面においては、銀行から事業計画書の提出依頼を受けることが多いものです。

しかし、私は、銀行から依頼がなくても、自ら積極的に事業計画書を提出すべきだと考えています。それは、次のようなメリットがあるからです。

1)融資担当者が自社のことを理解してくれる

銀行へ融資を依頼した際に、事業計画を口頭で説明するだけでは、時間がかかる上にうまく伝わらない可能性があります。融資担当者が知りたい情報を盛り込んだ事業計画書を提出すれば、事業計画が短時間で明確に伝わります。

2)融資の審査期間の短縮化

事業計画が融資担当者へ早く伝わると、融資の審査期間の短縮化が期待できます。

口頭で質問と回答のやり取りをすると、互いに相手が不在のときなどがあり、すぐに数日が経過してしまいます。事業計画書に審査のために必要な情報が記載されていれば、そうしたタイムラグがなくなるので、担当者が稟議(りんぎ)書を作成するスピードが上がります。

もちろん内容にもよりますが、稟議書が上司へ回ったときも、事業計画書があれば説得力が増すことが期待できるので、審査がスピーディーに行われるのです。

3)審査にパスする確率が高まる

最大のメリットは、審査にパスする可能性が高まるということです。もし決算書など数字に難があり、シリーズ第4回「銀行は決算書のどこをチェックしているのか?」で説明した信用格付が低い場合、審査のハードルは高くなります。

しかし、事業計画書に経営改善の具体策を記載し、今後の収益向上の見込を示すことができれば、銀行は過去の数字だけではなく将来を見据えた審査判断をしてくれるでしょう。

3 銀行のチェックポイントを押さえた事業計画書作成の留意点

私は金融機関にいたときに数多くの事業計画書を見ましたが、中には審査でプラスに働かないものも散見されました。

そのため、担当者から質問や追加資料を何度も求められることがあります。「また追加資料か。まとめて言ってくれよ」などと思うかもしれませんが、質問への回答や提出資料は、各段階での審査結果に影響するので、的確な回答や資料を提出しましょう。

せっかく事業計画書を提出するなら、銀行のチェックポイントを押さえて作成することが重要です。そこで、事業計画書を作成する際に留意していただきたいことを説明します。

1)「計画」だけを書くのではない

事業“計画書”なので、「今後の計画を書けばいい」と考えている経営者は少なくありませんが、それだけでは不十分です。融資担当者に理解してもらえるように、企業の定性情報(数字以外の情報)など、計画以外の情報も盛り込むことが重要です。例えば次のような項目です。

  • 企業の沿革
  • 代表者・経営陣のプロフィール
  • 従業員・パートの状況
  • 現状のビジネスモデルの概要・商品やサービスの内容
  • 取引先(販売先・仕入先・外注先)と取引条件(「月末締め翌月末回収」など)
  • 市場環境・競合状況・自社の特徴や強み
  • ここ数年の業績に関するコメント
  • 解決すべき問題点や課題
  • 新たに取り組む計画(設備投資・新規事業など)と具体的施策
  • 今回の借入金の資金使途と効果
  • 収支見通し
  • 当面の資金繰り計画

こうした項目があると、企業の概要が分かるとともに、これから取り組む施策と数値計画が理解しやすくなります。

1~5は、既に融資取引のある銀行であれば、ある程度把握していますが、最新の状況を伝えることに意義があります。また、これだけの項目を記載すると膨大な量になりがちですが、できるだけ簡潔明瞭にするほうが、忙しい銀行員には伝わりやすいものです。

融資を受ける目的の場合、PowerPointを使ってビジュアルに凝ったものを作成するよりも、シンプルに文字中心で読みやすく作成した資料のほうが適しています。私はクライアントへ、WordやExcelを使用して、多くても10ページ以内に収めるようにアドバイスしています。

2)数値計画は根拠が重要

事業計画書の最も重要な部分は数値計画(上記の9~12)ですが、単に今後5年くらいの数字を表にするだけでは意味がありません。
融資担当者がチェックするのは、数値計画の実現可能性です。特に向こう1年くらいの収支見込について、根拠があるかどうかが問われます。「売上が毎年10%増加する」といったものがよく見られますが、経済環境の変化が激しい中で、安定的に成長する事業はそれほど多くはありません。

根拠を説明するのは容易ではありませんが、例えば「設備投資によって取引先A社からの受注が月100万円増加する」など、できるだけ具体的な根拠や裏付けといったものを記載してください。当然、その根拠を求められることも想定しておかなければなりません。

3)過度な脚色やバラ色の計画はNG?

事業計画書を作成する際に、審査にプラスに働くようにと意識して作成しがちなのが、「過度な脚色やバラ色の計画」です。
「過度な脚色」とは、例えば、客観的な比較データが乏しいのに「うちの製品は競合他社のものと比較して圧倒的に性能がいい」などと書くことです。「バラ色の計画」とは、市場分析や競合分析が甘いのに、売上が大きく右肩上がりに伸びていく計画のことです。

これらがなぜNGかというと、うまく融資を受けられたとしても、来期の決算書を提出したときに結果が伴っていなければ信用が低下する懸念があるからです。銀行と長期的に良好な関係を構築するためには、客観的なデータや根拠に基づく、手堅い事業計画書を提出するのが鉄則です。

4 年に一度は事業計画書を作成しよう

私の経験では、ほとんどの経営者は、事業計画を常に考えています。しかし、頭の中にあるだけで、事業計画書としてまとめている経営者は3割にも満たないと感じています。紙に書き出すことに苦手意識があるからです。そのため、資金調達をするときになってから、頭を抱えながら事業計画書を書く経営者が多いのが実態です。

私は、経営者の方々に、「せっかく頭の中にあるのだから、年に一度は事業計画書にまとめましょう」とお勧めしています。タイミングとしては、融資を受けたいと思ったときではなく、決算が終わったときや年末年始など、区切りの良いときがベストです。毎年その時期になったら、事業計画書を作成すると決めて、恒例行事にするといいでしょう。

ある地方の老舗企業は、上場企業ではないにもかかわらず、毎年税務申告をした直後に、金融機関や取引先に集まってもらい「事業計画書発表会」を開催しています。その場で、前期決算の状況説明とともに、今期の取り組みと数値計画について発表しています。
この発表会により金融機関からの信用は厚く、業績がやや悪化したときでも資金調達は円滑にできています。

発表会の開催は大変だとしても、毎年1回は事業計画書を作成して、取引のある金融機関へ提出することをお勧めします。

融資が必要になってあわてて作成するよりも、実態に即した説得力あるものができるからです。もちろん、その際は今回解説した「銀行から融資を受けるために適した事業計画書」を意識した内容としてください。

5 コロナ時代における留意点

1)コロナ融資実現のためにも事業計画書を

筆者が知る範囲ですが、既に複数の新型コロナ関連の融資制度を利用して、相当額の金額を調達した企業もあります。
新型コロナ関連の融資制度は、手続きが簡略化されており、審査判断も従来よりも柔軟になっています。ただし、複数の制度の利用や2回目以降の申込の場合、借入額が増えてくるので、審査のハードルが上がってきます。

金融機関の融資担当者は、「この企業はかなり借入が増えているが、足下の業績や今後の見込はどうなんだろう」と考えます。融資担当者を説得するためには、口頭で説明するだけではなく、端的に示した「事業計画書」を提出することが有効です。

2)どんな項目を盛り込むべきか

コロナ関連融資の審査に有効な事業計画書の例を挙げると、以下のようなものが考えられます。

事業計画書の記載例を示した画像です

もし、2回目の申込であれば、「前回資金の使途とその効果」といった項目も入れるといいでしょう。
本来は、より詳細な事業計画書があるといいのですが、融資担当者に端的に理解してもらうためには、「箇条書きで1枚ペーパーにまとめたもの+数値計画」が有効です。

3)難局を乗り越えるための事業計画書を作成しよう

コロナ禍の難局を乗り越えるには、資金調達のためだけでなく、自社の内部で活用する事業計画書を作成することが不可欠といっても過言ではありません。
日常業務などで多忙だと思いますが、1日に短時間でも経営改善の方策を考えて、事業計画書に落とし込んでください。

アイデアを考えるときには、社員やスタッフも一緒にブレーンストーミングで出していくと、予想外のいい発想が生まれる可能性があります。
今こそ、冷静に自社の状況を見つめて、事業計画書に沿って行動していくことで、この厳しい時代を乗り越える糧となるはずです。

(注)読者の皆様へ:このリポートの記載内容は、あくまでも執筆者個人の見解であり、りそな銀行の見解を代表しているものではないことにご留意ください。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年1月5日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ビジネスマッチング応用編/新チャレンジには外部の力も借りてみよう(2)

書いてあること

  • 主な読者:ビジネスマッチング(商談会、紹介、ウェブサイトなど)に参加する経営者
  • 課題:ビジネスマッチングで、少しでも成果を上げたい
  • 解決策:事前に【誰の、何を、解決できるか】を明確に。「商談シート」の事前準備も有効

1 ビジネスマッチングで重要なのは「最初の商談」

ビジネスマッチングを利用することで、ビジネスの可能性を広げることができます。ビジネスマッチングの仕組みはさまざまですが、とにかく最初の商談が重要です。面識のない人同士が商談をするため、“最初のつかみ”ができないと、なかなか次に進めません。

最初の商談がうまくいくかどうかは、事前準備で変わってきます。そこで本稿では「ビジネスマッチング応用編」として、必要な事前準備を幾つかご提案します。ビジネスマッチングの基本的な仕組みなどを知りたい方は、以下のコンテンツをお読みください。

2 事前に【誰の、何を、解決できるか】を明らかにする

限られた時間でビジネスマッチングの相手に興味を持ってもらうためには、「何を伝えるか」が非常に重要です。そこでまず、事前に、商品やサービスが【誰の、何を、解決できるか】を明らかにしておきましょう。これが最も基本かつ重要で、これに尽きるといっても過言ではありません。相手が経営者の場合、「御社のサービスで何が実現できますか?」と単刀直入に聞かれたりします。要は、詳しい機能の説明よりも、「この商品やサービスは自分たちに関係があるかどうか」を知りたいということです。

よく、営業活動の中で、メリットは「できること」、ベネフィットは「メリットの結果、得られるいいこと、変化」と言いますが、ビジネスマッチングの「最初の商談」では、このベネフィットを伝えるのが大切です。そこに興味関心があれば、次に具体的な話に進めやすくなるからです。

例えば、「人々の興味関心を把握して、それぞれに合ったテーマのメールを自動配信するツール」の場合で考えてみましょう。メリットは「効率的にメールの開封数・クリック数を増やすことができる」であり、ベネフィットは「今より効率よく営業成果が上がり、新規事業の原資とリソースが捻出できる(興味関心に合った“滑らない”内容のメールを送って営業活動ができるから)」などになります。

こうした【誰の、何を、解決できるか】は、次のようなイメージで事前にまとめておくと、頭の中が整理でき、限られた時間の中でも慌てずに大切なことを伝えられるようになります。また、多くの会社(経営者)が参加する商談会の場合などは、もう一歩進めて、分かりやすいキャッチコピーも用意しておくとよいでしょう。

画像1

この【誰の、何を、解決できるか】は、商談会などだけではなく、ウェブサイトのビジネスマッチングサービスで案件を登録する際にも役に立ちます。ウェブサイト上では、上記のように整理しておいた内容を参考にする他、実績や金額例なども併せて登録しておくとよいでしょう。

3 「商談シート」を準備する

もう一つの事前準備としてお勧めしたいのは、「商談シート」です。商談シートにまとめた内容は、「営業活動のログ(履歴)」になるので、次回のビジネスマッチングや今後の営業活動、商品開発に役立てることができます。また、商談会や紹介された人と会うときに、相手に確認するのを忘れたり、こちらが伝え忘れたりするのを防ぐのにも使えます。

商談シートはエクセルなどの他、書き込みやすい紙ベースのものを手元に用意するのも一策です。今どきはオンラインでの商談会や紹介も多いので、手元でメモできるほうが活用しやすいかもしれません。商談シートには、例えば次の1)から4)の項目などを盛り込みましょう。

1)属性:相手の企業名、氏名、業種、事業概要、実績、社員数など

ビジネスマッチングする相手の基本情報です。紹介者がいる場合は、その情報も入れておきます。オンラインの場合、名刺情報が入手しにくいので、企業名や氏名はしっかり確認しましょう。その場でSNSでつながると、基本情報が入手しやすいかもしれません。

2)内容:相手(もしくはこちら側)の商品やサービスの提案内容、対する反応など

相手から提案のあった商品やサービスの内容、もしくはこちら側から提案した内容を入れておきます。重要なのは、それに対する反応です。相手からの提案であればこちら側の関心度を、こちら側からの提案であれば、相手の反応を忘れずに記録に残し、次につなげます。

3)確認:相手に確認したこと、相手から質問されたことなど

具体的な価格や仕様など相手に確認したことを入れておきます。逆に、相手から質問されたことを商談シートにメモしておけば、「どのようなことを聞かれやすいか」が分かるので、次回のビジネスマッチングにも役に立ちます。

4)次回:次回のアクション、ランクなど

資料をいつまでに送るのか、見積もりをいつまでに出すのかなど、次回のアクションも忘れずに残します。また、すぐにビジネスになりそうなのか、ひとまず情報交換にとどめて様子を見るのかなど、今後の進め方をランク付けしておくと営業の優先度がつけやすくなります。

商談シートの記入例は次の通りです。

画像2

4 紹介者には「思い」も伝える

ここまで紹介した内容のうち、【誰の、何を、解決できるか】は、ビジネスマッチングの紹介者に、自社の商品やサービスを説明する際にも役に立ちます。例えば、金融機関のビジネスマッチングを利用する場合、金融機関の担当者にもきちんと【誰の、何を、解決できるか】を伝えましょう。金融機関の担当者はさまざまな会社(経営者)を知っているため、商品やサービスで得られる「効果」だけでなく、「思い」が合いそうな先、経営者同士で共感できそうな先を紹介してくれることもあります。

以上(2021年1月)

pj70090
画像:vectorfusionart-shutterstock

ビジネスマッチング基礎編/新チャレンジには外部の力も借りてみよう(1)

書いてあること

  • 主な読者:ビジネス上の出会いを求めている経営者
  • 課題:信頼できる相手や会社と出会い、ビジネスの可能性を拡げたい
  • 解決策:金融機関のビジネスマッチングサービスで、新しく出会うチャンスを増やす

1 ビジネスマッチングサービスで出会いを広げよう!

経営者は常に既存事業の強化や新規事業の開発について考えています。それを実現しようとする上で、自身が進出しようとしている分野の専門家、自身が求めている技術を有する企業、自身が悩んでいることを経験したことのある経営者などとの出会いはとても貴重です。

本稿で紹介する「ビジネスマッチングサービス」とは、こうした出会いを加速させるための仕組みです。今どきは、プライベートな意味で人と人が出会うマッチングアプリが数多く登場していますが、ビジネスマッチングとは、まさにビジネス上の出会いを加速させる仕組みなのです。知らない相手とビジネスをすることには一定のリスクがありますが、銀行など金融機関が主催しているビジネスマッチングであれば安心です。

ビジネスマッチングサービスを利用したことのある経営者のアンケートでは、40%近くの経営者が「また使いたい」「良い出会いがあった」と回答しています(日本情報マート独自調べ。詳細後述)。ビジネスマッチングサービスをうまく活用すれば、新たなビジネスの可能性が大きく広がっていく可能性があります。ビジネスマッチングで大切な「最初の商談」の準備について知りたい方は、以下のコンテンツをお読みください。

2 ビジネスマッチングサービスの種類を知ろう!

1)ビジネスマッチングサービスでできること

改めて、ビジネスマッチングサービスで期待できることを整理すると次のようになります。

  • 販路を見つける:新しい営業先、市場の開拓などにつながる
  • 協業先を見つける:新しいコラボレーション、販売代理店契約などにつながる
  • 技術力を見つける:アイデアの商品化につながる他、新商品開発の可能性も広がる
  • 人を見つける:これまでにない知見、新しいリソースの獲得につながる
  • ニーズを見つける(知る):売りたい、買いたい案件などから、最近どのようなニーズがあるのか、どのような新しいビジネスがあるかなどを知る。ビジネスのヒントになる

そして、これらを実現するためのビジネスマッチングサービスにはさまざまな分類があります。以下で整理してみましょう。

2)最も大切なのは信頼できる相手を紹介してくれること

ビジネスマッチングサービスで最も重要なポイントは、信頼できる相手を紹介してくれることです。この点で最も優れているのは金融機関によるビジネスマッチングサービスです。金融機関は自らの顧客同士や、金融機関が審査をした相手などをビジネスマッチング先として紹介するため、反社会的勢力など好ましくない相手が紛れ込む恐れが小さいのです。

金融機関によるビジネスマッチングサービスにはさまざまな形態があるので、ここで整理してみましょう。

画像1

この「金融機関によるビジネスマッチングサービス」は、

  • 金融機関の顧客である中小企業と中小企業を結ぶ
  • 金融機関の顧客である中小企業と金融機関の業務提携先を結ぶ

が基本となります。複数の金融機関が提携して上の1.を行えば広域のビジネスマッチングとなります。また、ビジネスマッチングによって具体的な商売が成立した場合などに、金融機関が手数料を得るサービスを有償ビジネスマッチング、手数料を得ないサービスを無償ビジネスマッチングなどと呼びます。また、顕在化した企業の提携ニーズだけではなく、経営者同士を集めて交流してもらうことで“化学反応”が起こることを期待する交流会が開催されるケースも多くあります。

いずれにしても安心して相手と話せることや、ビジネスマッチング先の多様さが金融機関によるビジネスマッチングサービスの特徴です。

3)インターネットで完結するサービスの普及

ビジネスマッチングサービスは、仲介者などと呼ばれる「人」が介在することが多いのですが、ここ2~3年はウェブサイト上だけで完結するサービスも出てきています。かつてもこうしたインターネット上で売り買い情報をやりとりするサービスがありましたが、「商売は、実際に相手と会って行うもの」という意識が根強かったこともあり、なかなか活性化しないのが実情でした。

しかし、インターネットに抵抗のない比較的若手の経営者にとってはインターネット上で完結できるビジネスマッチングサービスのほうが便利な面もあり、普及してきています。新型コロナウイルス感染症で“オンライン”が一気に身近になったこともこうした動きに拍車を掛けています。

ただし、やはりどこかで仲介者が入ったほうがスムーズに話が進むのも事実です。この点、金融機関によるビジネスマッチングサービスでは、インターネットの仕組みを使いつつも、渉外担当者が適時のフォローをすることで出会いや商談がスムーズにいくようにしています。

4)その他の分類

この他、ビジネスマッチングサービスの特徴として、

  • 特定分野か、多分野か
  • メンバー限定か、オープンか
  • 地域限定か、全国か

などの違いがあるので、自社のニーズに合ったビジネスマッチングサービスを探してみるとよいでしょう。

3 ビジネスマッチングに関する経営者アンケート

最後に、ビジネスマッチングサービスに関する経営者アンケートの結果をご紹介します。実際に活用した経営者はどう感じたのか、また、多くの経営者はビジネスマッチングサービスについてどのようなイメージを持っているのか。今後のご参考になれば幸いです(2020年11月、日本情報マートが独自に行ったアンケートで、回答した経営者・役員は508人です)。

Q1 さまざまな人や会社、案件などと出会う可能性のあるビジネスマッチングサービスを使ったことがありますか?(以降全て出所は日本情報マート)

画像2

ビジネスマッチングサービスを「使ったことがある:70人 13.8%」に対して、「使ったことがない:315人 62.0%」です。業種や年代などにもよるかもしれませんが、今後の活用に期待したいところです。

Q2 ビジネスマッチングサービスを使ってみてどうでしたか? 近いものを全てお選びください。(Q1で使ったことがあると答えた70人が回答)

画像3

実際に活用すると、「情報収集できた」「出会いがあった」と感じているようです。

Q3 ビジネスマッチングサービスに対するイメージはどのようなものですか? 近いものを全てお選びください。(Q1で使ったことがある、使ったことがない、分からないと答えた406人が回答)

画像4

プラス回答「もう一つの営業ツール」「世界が広がる」がある一方で、「お金がかかる」「うさんくさい」といったマイナス回答があるのも事実です。初めてのビジネスマッチングサービスでは、「信頼できるよく知っている金融機関の担当者」が仲介者となってくれるものを活用するのがよいのかもしれません。

以上(2020年12月)

pj70089
画像:vectorfusionart-shutterstock

【朝礼】牛になりますか、馬になりますか

明けましておめでとうございます。今年のえとは「丑(うし)」です。そこで、けさは、「牛も千里、馬も千里」ということわざを紹介します。

このことわざは、歩くのが遅い牛でも、走るのが速い馬でも、いずれは千里に到達するというところからきています。それが転じて、「能力の違いがあっても、努力を怠らなければ、最終的には同じ結果にたどり着くことができる」という意味で用いられています。

このように言うと、皆さんの多くは、馬のほうが牛よりも先に千里に到達することをイメージするでしょう。しかし、それは牛と馬が「整備された平坦な道」を進むという前提に立った場合の話です。どういうことか、もう少し掘り下げて説明します。

実は牛には、進む速さで劣る代わりに、馬よりも優れている点があります。それは、体のバランスです。牛は多くの種類が、中指と薬指の2本の指で地面に立っています。これに対し、馬は多くの種類が、中指1本で地面に立っています。体を支える指が多い分、牛は体のバランスを取りやすくなっています。そのため、傾斜地や坂道のように足場の悪い場所を歩く能力が、馬よりも優れているのです。

つまり、冒頭のことわざに照らして考えると、仮に牛と馬が「整備されていない足場の悪い道」を進む場合であれば、牛のほうが馬よりも先に千里に到達する可能性もあるわけです。

さて、皆さん、会社には、事業を通じてお客様や社会に対して実現したいことがあります。例えるなら、千里の道の先にあるゴールです。そして、そのゴールにたどり着くためには、さまざまな道があります。

先ほどの整備された平坦な道と、整備されていない足場の悪い道で例えるなら、前者は「すでに開拓されている分野」、後者は「まだ開拓が進んでいない分野」といえるでしょう。皆さんなら、どちらの道を進んでゴールを目指しますか?

これには正解はありません。すでに開拓されている分野を突き進むのが得意な「馬」のような人もいるでしょうし、まだ開拓が進んでいない分野で、着実に前進を重ねていく「牛」のような人もいるでしょう。自分の得意とする分野で、少しでもゴールに近づけるよう、存分に力を発揮してもらえればと思います。

ただし、忘れないでほしいことがあります。それは、「どの道を進むかを決めるのは、皆さん一人ひとりである」ということです。たとえどんな道を選んでも、自分が一度「この道で頑張りたい」と思ったのなら、その選択に責任を持ってほしいのです。千里の長い道を進んでいる限り、必ずどこかでくじけそうになることがあります。そんなとき、皆さんを支えてくれるのは、「努力を続ける」という意志です。1年間、強い意志をもって業務にまい進してください。

以上(2021年1月)

pj17036
画像:Mariko Mitsuda

【SNS採用で成功】自社のノウハウを事業化した採用支援会社が解説

新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、採用市場で改めて注目されているのが、SNSを利用した就職・採用活動「SNS採用」です。多くの企業が対面での説明会や選考を取りやめ、SNSをはじめとするウェブ媒体を使った採用方法にシフトチェンジしています。
携帯電話販売を行うアロージャパンは、まだSNS採用がメジャーではなかった頃からLINEを活用した採用に取り組み始め、2015年からは子会社を通じて自社のノウハウを踏まえたコンサルティングなどの支援も行っています。
この記事では、アロージャパンなどの成功事例を基に、SNS採用を成功させるために実践すべきことを紹介します。

1 SNS採用の特徴・メリット

SNS採用は「ソーシャルリクルーティング」と呼ばれ、Twitter、Instagram、LINEなどのソーシャルネットワークサービス(以下「SNS」)を使った採用方法のことです。
SNS採用のメリットは、非対面で採用活動ができる、コストが低いといったことだけではありません。次のような特徴を活かすことで、企業は従来の採用方法にはないメリットが得られます。

1)応募の増加や、辞退率の低下が期待できる

SNS上では、DM(ダイレクトメッセージ)や、返信機能を用いて手軽にコンタクトをとることができます。
「株式会社○○、〇〇課、〇〇様――」。
SNSではこのような、いわゆるビジネスメールのような前置きが不要です。手軽にエントリーができるため、求職者側にとって、問い合わせのハードルが下がります。その手軽さから、人気企業のSNSには毎日100件近くDMが来ることもあります。言うまでもありませんが、採用で成功するための第一歩は、数多くの応募があることです。
また、企業と求職者とが手軽にコンタクトでき、互いに繋がる頻度や密度が高まることは、求職者の反応を見ることができるとともに、彼らのハートを掴みやすくなるというメリットもあります。法人向けコンサルティングを営む日本創造教育研究所(日創研)は、合同説明会などの参加者の多くが、次の選考に進んでくれないことが大きな課題でした。従来は合同説明会に30人が参加しても、次の選考に進むのは5人ほどでした。ところが、LINE採用のツールを導入し、参加者に対して説明会後もメッセージを送るようにしたことで、次の選考に進む人数が10人に増えました。
さらに同社では、従来は25人の内定者のうち8人が内定を辞退していましたが、LINE採用のツールの導入後は、内定辞退者が2人にまで減少しました。同社からのLINEを通じたメッセージが確実に届き、内定者へのフォローの効果を高めた結果、内定者の同社に対する帰属意識を強めることに繋がったことが要因といえるでしょう。

2)リアルな社内の雰囲気などが伝わりやすいので、ミスマッチが起こりにくい

SNSではナビ媒体(就活サイト)とは違い、企業と求職者の双方が情報の発信、または受け取ることができます。
ナビ媒体は企業側が一方的に情報を開示しており、掲載される情報量は限定的で、更新頻度もそこまで高くありません。一方、SNS上で発信される情報は鮮度が高く、実際の社員同士のやりとりや求職者の率直な感想が伝えやすいため、求職者に社内のリアルな雰囲気や、社風などを知ってもらうことができます。その上で応募してくれる求職者は、自社に共感してくれた、モチベーションの高い人材といえるでしょう。
また、企業にとっては、求職者のSNS上での投稿や、メッセージのやり取りから、面談時に比べて「飾っていない」状態の人となりや様子をうかがい知ることができます。これは選考時に、評価の参考になるでしょう。

3)自社が求める潜在層に直接アプローチが可能

良質な「求職者潜在層」に直接アプローチができるのも、SNS採用の特徴・メリットといえます。SNSのユーザーは、自分の興味・関心に近いアカウントをフォローし、情報収集をしています。こうしたユーザーの多くは、「いますぐには、就職・転職は検討していない」という人です。しかし、企業が日ごろからSNS上で情報発信をし、SNS採用に取り組んでいることが認知されていれば、こうしたユーザーの就職・転職先候補として検討対象に上がります
また、実際に企業説明会を実施する場合で考えてみましょう。従来であればナビ媒体に説明会日時を掲載し、応募のあった人を招待するだけでした。
一方、SNSの場合「会社説明会を開催しますよ」という情報を流した時点で、既読人数や「いいね」などの反応が見られ、実際にどのくらいの人数が興味を示しているのか知ることができます。さらに、SNSの特徴であるシェアや「いいね」は情報を拡散させることができるため、ターゲットの周辺にいるグループを含めて、広く情報を拡散させることができます。

2 スタートから運用までの具体的な流れと成功のための心得

1)目的に合ったSNSのアカウントを取得

これまでの採用活動と同様に、SNS採用でも「どういう人材がほしい」「どのくらいの年齢がよい」など、ある程度の求める要件を定めた上で採用計画を立てるやり方は変わりません。どこ(Where)の、誰(Who)に、どんな情報(How)を届けたいのか、を明確化した上で、運用するSNSを決めるのがよいでしょう。
まずSNSのアカウントを作成する前に、「自分たちが採用したいセグメントに合ったSNSはどれか」を判断します。例えば、比較的年齢が若くアクティブな層を狙いたいのであればInstagram。ピンポイントに情報発信し、コミュニケーションを目的とするのであればLINE。幅広いターゲットへの情報発信やファン化(ブランディング)をするのならTwitterなどです。後述しますが、アカウントの数が多すぎると投稿頻度が減って逆効果になることもありますので、運用するSNSの選択は重要です。

2)「毎日投稿」が原則

運用するSNSが決まった後は、投稿内容(投稿テーマ)を考えます。
ここで重要なのは「毎日投稿」することです。毎日投稿を行う理由は、SNSは常にアクティブであることが効果的だからです。今や日常生活に当たり前のように存在するSNSに対して、ユーザーが求めているのは「新鮮で有益な情報」であり、新鮮さをアピールするためには投稿頻度が高いことが重要です。
人員の確保が難しく、どうしても毎日投稿が困難な場合は、週2~3回の投稿でもよいでしょう。新鮮さは欠けてしまいますが、しっかりとアカウントが生きている証として、運用していくことに意味があります。

3)パッと見て「どんなアカウントなのか」判断ができるように

ターゲットと目的を決めて、投稿内容の方向性も決定したら、アカウントを開設します。
アカウント開設時には、アイコンやプロフィールの入力も必要になります。企業情報を発信するアカウントなら会社をアイコンにしましょう。発信者が明確で、人間味を出すのであれば顔写真などを使います。投稿内容に合わせたアイコンに設定し、プロフィールは「どんなアカウントなのか」を説明する内容を記載します。
また、TwitterやInstagramなどのSNSには、プロフィールにリンクを掲載することができます。複数のSNSを運用する場合は、URLを掲載して導線を確保しておくと、一度に複数のSNSのアカウントを見てくれる可能性があるので、効率的に運用することができます。
アカウント開設後はまだまだ認知度も低く、フォロワーや友達人数を一気に増やすことは難しいですが、積極的に投稿を行ったり、フォローしてくれた人に対してお礼のメッセージを送ったりするだけでもグッとファンが増えます。
手軽にコンタクトがとれるからこそ、企業がユーザーにとって身近な存在になり、ファン化しやすくなるのがSNS採用におけるメリットでもあります。

3 SNS採用の効果を高める、経営者など個人のブランディング

1)「社風を知ってから企業概要を知る」がSNSの在り方

SNSがどれだけ採用に有用かということは理解していただけたかと思いますが、1つポイントとして必ず知っておくべきことがあります。それは、ファーストインプレッションが今までとは逆になるということです。
従来のナビ媒体の場合、企業名や事業内容などの企業認知から入り、説明会や面接を経て働いている人や社風を知るといった流れですが、SNS採用ではそれが全く逆。働いている人や社風などを知ってから企業名、事業内容などの企業概要の認知にいたります。
つまり「会社認知→社風などを知る」ではなく、「社風などを知る→企業概要の認知」と、今までとは入口が逆になるのです。この点を意識した上で、SNS採用に取り組むことが大切です。それでは、実際にどのように情報発信をしていくべきなのか、以降では事例を挙げてポイントを紹介します。

2)23人の企業の社長に7.4万人のフォロワー

トゥモローゲート株式会社は従業員総数23人(2020年11月時点)という小規模な企業ながらも、SNS上で「ブラックな企業」というワードで非常に話題となりました。それを発信した西崎康平社長のツイートが有益なものであることも相まって、Twitterフォロワー数はなんと7.4万人(2020年11月時点)にも及んでいます。
これは「ブラックな企業」と銘打ってアピールし、過酷な労働を強いる「ブラック企業」を避けたい学生がインターネットで検索すると、トゥモローゲートにたどり着くという仕組みです。実際には、真っ黒なオフィス、真っ黒なHPなど、コーポレートカラーがブラックというだけなのですが、このようなプロモーション戦略で2000名もの学生からエントリーがありました。
また、アロージャパンでは「ざっきーとゆってぃー」という採用担当者の日常を配信するアカウントがTikTokで人気を博し、今では34万人(2020年11月時点)のフォロワーがいます。採用担当の普段の様子をSNSで知ることで、採用担当に興味を持った人が企業にも興味を持ち始めるという流れができています。アロージャパンへの選考に関する問い合わせは、TikTok運用前と比較して2倍以上に増えました。
このように、従来までの事業内容などから入る形は、SNS採用ではなかなか通用しづらいのが現状です。まずは、経営者の人となりや、社風を知ってもらうための情報発信がSNS採用を成功させる最も有効な手段なのではないでしょうか。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年12月29日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

【朝礼】逆風の今こそ「会社は誰のためのものか」を実感するとき

今朝は皆さんに、少し大きな視点に立って、我が社や皆さんの仕事の社会的な意義について考えてみてもらいたいと思います。

今、世界では改めて、会社は誰のためのものか、という議論がされています。以前なら教科書通り、会社は株主のもの、が正解でした。しかし今は、これまで以上に、会社の社会的な意義が問われるようになりました。会社は株主だけのためでなく、従業員、取引先、地域社会など、直接・間接の利害関係者に配慮することが求められています。

それでは皆さんは、民間の会社がなぜ地域社会にまで配慮すべきなのかを、考えたことがあるでしょうか。自社のイメージアップ、という目先の利益を得るためということも、もちろんあるでしょう。しかし私は、長い目で見たときに、自社の利益だけでなく、地域社会との共存共栄まで考えられる、誠実で志の高い会社であることこそが、我が社の存続にとって重要だと思っています。

それを理解するヒントが、老舗(しにせ)の会社の家訓にあります。老舗の会社には、「先義後利」「利他」などの家訓がある企業が少なくありません。近江商人の「三方よし」の教えも同じです。いずれも、社会の幸せを考えることを重視した教えです。家訓は基本的に外部にアピールするものではなく、代々、家中で伝えられてきたものです。老舗の会社の経営者が残した言葉は、イメージアップを図る目的ではなく、自社を長く存続させるために最も適切な教えのはずです。

私の経験上、どのような会社にも、順風のときと逆風のときがあります。そして私は、会社の存亡に関わるほどの逆風下で、誰かに手を差し伸べられて首の皮一枚で窮地を逃れた会社と、誰にも見向きもされずに消えていった会社を見てきました。生き残った会社に共通するのは、その会社が誠実であることを理解している多くの関係者が、「この会社を支えてあげたい」「できる限り存続のために協力したい」と思っていた、ということです。老舗の会社の経営者も同じように、会社の「生き死に」を見てきたからこそ、社会との共存共栄の思いを持つよう戒めたのだと思います。

ご存じの通り、我が社も今、厳しい逆風下にあります。それでも、なんとかやれているのは、皆さんの頑張りもありますが、それだけではありません。我が社がこれまで誠実に、高い志を持って事業に取り組んできたからこそ、「応援しているから頑張って」「うちも厳しいけど、長年お世話になっているので」と、取引を継続してくださっているお客様がいるからなのです。

私は、この逆風が一段落したら改めて、我が社が取引先や地域社会のために、何ができるかを考え、そして行動するつもりです。この逆風下でも、我が社は生かしてもらったという「感謝と恩返し」の気持ちを大切にしたいのです。皆さんも、我が社や仕事の社会的な意義を感じ、取引先など全ての関係者に対して誠実に、高い志で向き合ってください。

以上(2020年11月)

pj17029
画像:Mariko Mitsuda

借入金がないことは本当に良いことか?/起業3年目までにマスターしたい財務・資金繰りの基本(3)

起業コンサルタント(R)、税理士の中野です。創業間もない経営者のみなさまのために資金繰りの基本について解説していますが、前回は貸借対照表をどのように分析するかについて紹介しました。その中でも少し触れましたが、財政状態によっては、借入を考えたほうが賢明だという経営上のシーンがあります。
今回は、借入をすることによって、あるいはしないことによって、どんなことが違ってくるのかについて解説したいと思います。

1 「起業してから借入をしたことはない」は自慢できることか

起業してからこれまで、「無借金にこだわって経営してきた」という経営者もいらっしゃるかもしれません。借金をしてまで事業をしたくない、リスクが大きい、返済の心理的負担が大き過ぎるなど、理由はさまざまです。借入しない理由については、どれも納得できます。でも、本当にそれで良いのか、考えてみましょう。

2 事業展開が限定されないか

自己資金内だけでの事業であれば、事業規模もその範囲になります。例えば、次の通りです。

1)小売業

良い立地、良い店舗の確保が難しくなります。店頭在庫など品揃えにも影響する可能性があります。

2)卸売業、サービス業

取引条件が不利になったり、取扱い規模を縮小したりする必要に迫られます。

3)飲食業

店舗の立地や内装工事、スタッフ数などで制約を受け、他店との競争に勝てなくなる可能性があります。

4)IT系の業種

例えば、アプリを開発してサービス展開しようと考えている場合は、優秀な人員の確保や開発費、その後の販促費用を節約する期間が長く続くことになります。

5)EC(通信販売)

ECサイトの制作、ECモールへの出店などの初期費用や広告出稿など費用で制約を受ける可能性があります。仕入自体に掛ける資金が不足していれば、取引量自体が減り、結果として粗利が少なくなる可能性があります。

6)全ての業種

本来なら掛けるべき経費(税理士費用などの間接部門コスト、営業面での人件費など)の節約により、社長自らの時間を浪費してしまう可能性があります。創業当初にはマーケティングやサービス展開の仕組み作りなど、将来に向けた社長の大切な時間を確保しておくべきです。

このように、資金不足の中での経営では、自分がやりたいことが十分にできず、「不利な事業展開」を余儀なくされることもあります。一方、創業当初に借入をするのであれば、資金を潤沢にし、やりたいように事業を展開することが好ましいともいえます。

3 出資もあるのでは?

同じ起業家という枠組みでも、スモールビジネスではなく、いわゆるベンチャー企業の場合、エンジェルなどの個人投資家や大企業などから出資を集めて資金を強化しようという考え方をする場合もあります。もちろん、その方向性もあります。その場合、3つのことを考えることが必要です。

1)議決権(資本政策)の比率をどうするか

1つ目は、議決権(資本政策)の問題です。少しでも他人の出資が入れば、あるいは議決権を多く保有されればされるほど、経営判断上、出資者の意図に合った動きをすることを意識する必要があります。その議決権は起業当初の株価が低い状況のときほど、多くの比率を差し出さなければならないという問題があります。

2)出資を集めた後、思ったように成長しない

当初、出資を集めて息切れした場合も考える必要があります。例えば、あるITサービスの開発に1年半かかる計画で、起業当初、大企業数社から2000万円集めたとします。開発が終わり、いざフタを開けてみたら、思ったよりも売上が上がるペースが遅い。今までの売上はほとんど0だ。こんなケースがよくあります。そこで日本政策金融公庫などから創業融資を受けようというとき、このようなケースだとしても、実績として売上がほとんど0だという点を捉え、悪く評価されてしまいます。逆に、創業当初なら、事業計画書上の売上計画をもとに借りられる可能性が高いのです。

3)出資は景気変動に左右されやすい

上記のようなエンジェルなどの個人投資家や大企業、ベンチャーキャピタル(VC)からの出資は、景気変動に左右されやすいという性質があります。まさに現在がその状況で、VCなどでは、新規の出資を停止しているところも数多くあります。出資だけに頼るのは、危険だという理由のひとつです。

4 緊急事態では心の余裕もなくなる

今回のコロナ禍のような有事の際、自己資金だけで経営していると、先が見えない中で、手元資金が減っていくことを常に心配していなくてはなりません。営業どころではなくなるのです。「困ったら、その時点で借入をすればいいじゃないか」と思われるかもしれません。ただ、思い出してみてください。記憶に新しいところですが、令和2年3月~6月ごろの新型コロナ感染症の第一波のころ、新型コロナ感染症関連の融資制度は日本政策金融公庫や市区町村役場の窓口は混み合い、融資実行までに2カ月ということも珍しくなくなっていました。困った時点ですぐに借入をするということ自体、成り立たない可能性もあるという教訓です。有事に備え、日頃からいざというときのために先に動いておくという発想が重要なのです。

5 借入をしておくということ自体に意味がある

「借入をしておく」ということには別の重要な意味があります。金融機関から借入をして、返済実績を作っておくことです。金融機関と安定した取引実績があれば、本当に資金繰りが困ったときに、気軽に相談ができます。金融機関は融資先を簡単には見放すことはしません。さらには、今後の事業が計画通り、順調に推移したときに追加の資金が必要になります。増加運転資金、新店舗開設資金等々に対応するためにも金融機関は重要な位置づけです。ここで、取引金融機関での実績がものをいいます。さらに、その事実を他の金融機関へもアピールできるのです。「誘い水」効果とも言います。

6 経営はアクシデントの連続

会社を経営していれば、いろいろなアクシデントに見舞われる可能性があります。その度に、資金面での不安を感じることになります。今回のコロナ禍のような有事であれば、なおさらです。ただ、ある程度の資金力があれば安心でき、事業の展開の幅が広がることは間違いないです。社員・顧客は経営者の顔を見ています。常に自信のある、明るい顔でいるためにも、資金にゆとりを持ちましょう。「備えあれば憂いなし」です。今まで無借金で経営してきたという方も、これを機に借入を検討してみてはいかがでしょうか。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年12月28日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。