社長が語る 私はこうしてコロナと戦っている

書いてあること

  • 主な読者:コロナ下での会社の存続に苦心する中、売り上げや利益の確保と従業員の安全への配慮との板挟みになっている経営者
  • 課題:他の社長の考えを聞いてみたい
  • 解決策:事業の継続と従業員の安全というバランスを図りつつ、会社をコロナ下に適応させるために奮戦する社長の取り組みと、背景にある思いを参考にする

1 悩みながら、正解なき問題と戦う社長たち

逆風が吹き荒れるコロナ下で、何とか会社を守りたい――。全ての社長に共通する、当然の思いです。「正解」はありません。しかし、何も対策を打たなければ、売り上げや利益は落ち込みます。もちろん、従業員の感染リスクを高めることなどできません。社長は悩みながらも会社の方針を決断し、組織を引っ張っています。本稿では、コロナと戦っている2人の社長へのインタビューを紹介します。

2 「ファミリー」の従業員を守るため店舗を一時閉鎖

顧客と店員との接触が避けられない店舗運営者にとって、売り上げの確保と、感染者を出さないことは、相反する課題です。「Rugby Online」のブランドでラグビー関連グッズを販売する店舗やECサイトを展開するエムアンドワイ企画サービス(東京都中央区)の小澤響平社長は、店舗の一時閉鎖を決断し、ネットのみでの販売にかじを切りました。

決断した大きな理由は、「『ファミリー』である従業員や、お客様の安全を担保できない限り、店舗を開けておくわけにはいかない。感染者を出してしまったら、テナントのオーナーや階下の飲食店にも迷惑が掛かる」との思いでした。

1)売上高はおよそ半減

「イケイケだった2019年から、一気に地獄に落ちた」。日本でのワールドカップの開催により、空前のラグビーブームとなった2019年を振り返り、小澤さんは2020年をこう評します。

同社の2019年度の売り上げおよび利益は、前年度対比で2倍超となり、過去最高を記録しました。ワールドカップの開催時期は、西武渋谷店に約300平方メートルの期間限定店舗の出店も実現。「念願だった」という百貨店への進出も果たしました。ワールドカップ後も、国内リーグである「トップリーグ」に注目が集まり、応援グッズなどの売れ行きは順調に伸びていました。

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ところが、新型コロナウイルス感染症により状況が一変します。2020年4月からトップリーグの全試合が中止となる中、小澤社長は一時、「ラグビー関連グッズを買ってくれる人は、もういなくなるのではないか」との危機感を抱いたといいます。国内でマスクの需給が逼迫した4月から5月にかけて、取引先である中国の工場のつてを使って、マスクの輸入販売を行うことにしたのは、マスク不足に悩む顧客に役立ちたいという思いとともに、少しでも売り上げにつなげたいという気持ちもあったそうです。

同社にとって最も痛手となったのは、毎年7、8月に開設している菅平高原(長野県上田市)への出店見送りを余儀なくされたことでした。ラグビーチームの夏合宿の本場である菅平高原の店舗は、同社にとって「年間売り上げの2割弱」を占める大きな存在でした。

同社の2020年度上期(4月~9月)の業績は、「売り上げは2019年度下期の半分程度、損益はトントン程度」だったといいます。2019年の勢いのまま、さらなる飛躍を期待していた2020年は、「ボロボロ」の状況となりました。

2)店舗は閉めても給料は下げずに払う

小澤さんが売り上げ以上に危惧したのは、従業員や顧客の安全を守ることでした。同社の店舗は東京駅からすぐのビルの3階にあります。約40平方メートルの売り場には、商品が所狭しと陳列されています。窓が開放できないため、「密になることは避けられない」状態でした。

小澤さんは、店舗の一時閉鎖と、従業員の出社停止を決断します。長距離の電車通勤者も含む従業員や、ラグビーを愛する来店客の安全、そして近隣の店舗などへ迷惑を掛けないことを第一に、感染者を出さないことを最優先します。

店舗の閉鎖は、2020年3月1日から9月4日まで断続的に行われました。6月は東京都による休業要請の解除を受けて営業を再開しましたが、7月に入ってからの都内の感染者数の増加に伴い、営業時間の短縮などで対応したものの、同月末から再び閉鎖。店舗を閉鎖した期間は、延べ5カ月近くに及びました。

店舗の閉鎖と従業員の出社停止に際して、小澤さんは従業員に、「出社しなくても、絶対に給料は下げずに払う」と約束しました。学生アルバイトにも、前年の支給額に応じた給料を支払うこととしました。小澤さんにとって従業員は、学生アルバイトも含め、「ファミリーのようなもの」といいます。正社員も学生アルバイトも、ラグビー関係のつながりがきっかけで同社に集まった、「単なる雇用の関係ではない」人ばかりであることも、その思いを強くさせています。小澤さんは、「彼らの収入を守ることは、社会や、ラグビーのコミュニティーを守ることにもつながる。採算うんぬんで契約を変更する考えは全くない」と言い切ります。

小澤さんが店舗を閉鎖する決断ができた大きな要因は、同社がネット販売に強みを持っていたことです。同社の事業は、ニュージーランド(以下「NZ」)にラグビー留学をしていた小澤さんが2000年、NZのラグビーボールを日本に並行輸入してネット販売したことから始まりました。このため、ネット販売のみでも事業を継続できる見通しがありました。ただし、ネット販売のための発送作業は、従業員が出社できないため、小澤さんと幹部の2人だけで行う日々が続きました。

また、ラグビーブームで好業績を収めた2019年の蓄えと信用力の向上により、当面の資金繰りへの懸念がなかったことも、店舗閉鎖の決断を後押ししました。従業員への給与の支払いには、雇用調整助成金なども活用したそうです。

3)新たな収益源の開拓を進める

同社は現在、コロナ下に対応するための収益構造の多様化に取り組み始めています。最も注力しているのが、ラグビーのコーチング動画の販売プロモーションです。ラグビーが盛んなNZでは、有名選手などが出演するラグビーのコーチング動画を、ネットを通じて配信するビジネスが定着しています。同社は2019年に、動画を作成しているNZの会社のパートナーとなり、日本でのプロモーション事業に携わっています。2020年からは、日本人の元ラグビー選手が出演する、日本向け専用動画もプロモーションしています。有料会員の視聴者を増やしていけば、サブスクリプション(定額制)の収入の一部を受け取ることができ、ラグビー関連グッズの小売りとは違う収益源になります。

また、今後の増加が予想される空きテナントを活用した、NZ関連のアンテナショップの開設も検討しています。ワインや蜂蜜など、NZ産の魅力的な商品を取り扱う店舗を集めた施設を運営することで、家賃収入という新たな収益が得られるようになります。「当社はNZの最強コンテンツであるオールブラックス(ラグビーのNZ代表チーム)のライセンスを持っているので、オールブラックスを活用した集客ができる強みがある。ラグビー以外でもNZに対する日本人の関心が高まれば、逆にNZへの興味からラグビーファンが増えることも期待できる」といいます。

今は弱気を見せたら終わり。今を生きるためだけに、安売りをしたり、現金化をしたりしていては先がない。今はピンチではあるが、少しチャンスでもあると思っている」。小澤さんは「前へ」進み続ける理由を、このように語っています。

3 事業構造の転換も含めた平時の危機対応策が奏功

製造業の中で、新型コロナウイルス感染症によるダメージが大きかった業種の1つが、自動車関連です。自動車部品を含むバネの設計・製造を行う沢根スプリング(静岡県浜松市)も少なからぬ影響を受けましたが、1つの業種や取引先に依存しない事業構造への転換を進めてきたため、大きなダメージを回避することができました。

その背景には、「会社を永続させる」という経営理念の下、社長の沢根孝佳さんの主導で、平時の役割を重視したBCP(事業継続計画)に取り組んできたことがあります。事業構造の転換を含む経営力強化は、危機対応力の強化と並ぶ同社のBCPの柱です。また、平時から従業員やその家族とのコミュニケーションを大切にしてきたため、コロナ下でも従業員の家族を含めた感染症対策を行うことができたといいます。

1)東日本大震災を機に策定したBCPを毎年更新

同社の2020年度上期(1月~6月)の業績は、「前年同期比で売上高は15%程度の減少、利益は半減した」といいます。特に自動車部品の売り上げは大きく落ち込みましたが、「かつては全売り上げの7~8割を占めていたが、3割を切るまでに減らしてきた」ことから、創業以来続いている黒字経営を揺るがすには至りませんでした。

同社がこれまで、大量生産型の下請け製造業からの転換を進めてきたことが、コロナ下で力を発揮したといえます。同社は、小口のスポット品については2時間以内の問い合わせの返答と、3日以内の商品発送という「世界最速工場」を売りに、取引先の拡大を進めてきました。2020年は小口のスポット品の売り上げが63%を占めており、売り上げを一番占める自動車部品の取引先でもその割合は13%にとどまっています。

事業構造を転換する原動力となっているのは、会社を永続させるという経営理念であり、それを具現化しているのがBCPへの取り組みです。

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沢根さんがBCPに取り組み始めたきっかけは、2011年の東日本大震災でした。同社がある静岡県浜松市は、東海地震が発生した際に、津波などの被災が想定されています。そのため、沢根さんは東日本大震災直後の東北地方に赴き、津波に遭った町工場を見学するとともに、町工場の経営者から「何をしておくことが大切か」を学びました。その際に記した「危機は計画どおりに発生しない」などの教訓は、今でも社内に掲示しています。そして翌2012年、社内でBCPを策定。それ以来、BCPを毎年更新しています。

2)問題解決予防型のBCPを重視

同社のBCPには、大きな特徴が2つあります。1つは、単に震災や水害などの災害対応だけではない点です。会社の永続という視点で考えた場合、リスクは災害だけでなく、SARSや鳥インフルエンザなどの感染症、バブル崩壊やリーマンショックなどの経済危機も、災害と同じリスクに位置付けられます。コロナ禍についても沢根さんは、「リスクの1つとして、感染症も想定していた」といいます。例えばマスクは、一部の製造工程で従業員が使用することもあり、大量に備蓄していました。中国で感染症が発生した当初は現地の関連会社にマスクを送り、日本で感染が拡大した際には、中国から送られてきた分も含めて、全従業員に1箱ずつ配布することができました。

もう1つの特徴は、問題が起きてから対処する「問題対処是正型」でなく、問題が起きる前に想定して対策を実施しておく「問題解決予防型」を重視している点です。沢根さんは、「重要だけれど緊急ではないことを、どれだけ平時にやれているかが大事」といいます。事業構造の転換は、その一環でもあります。また、県外の同業者4社との間で、大規模な災害時などの相互応援協定を結び、工場が稼働できなくなった際の生産の委託や、人的・物的支援を行うための体制も整備しています。さらに資金面では、静岡県信用保証協会からBCP特別保証を受けている他、金融機関からも融資枠を確保しているといいます。

3)従業員とその家族の理解と協力を得る

事業面では約8年かけて強化してきた平時のBCPが奏功しましたが、「従業員とその家族の安全を第一に考えた」という新型コロナウイルス感染症対策については、「目に見えるものではなく、専門の知識もないので、これで十分だという自信はなかった」といいます。とはいえ、「会社の永続のためには、事業を止めないことも大事」です。

最も重視したのは、従業員とその家族の理解と協力を得ることでした。家族も含めているのは、家族から従業員が感染する可能性もありますし、「家族に何かあれば、従業員は出社どころではない。家族も含めて会社のメンバー」という思いがあるからです。沢根さんは、平時から月1回のペースで従業員との懇談会を開催したり、給料袋に「社長だより」という家族向けのメッセージを入れたりして、コミュニケーションを図ってきました。

従業員とのコミュニケーションを通じ、沢根さんは、「コロナに対する不安の抱き方は、個人差があると感じた」といいます。そこで、従業員や家族の不安を軽くするためにも、「会社としてはこれだけの感染症の予防対策を取っている。経済を止めてもいけない」ということを繰り返し説明しました。また、従業員やその家族がPCR検査を受ける際の要件や、検査を受けた場合の会社の対応、陽性だった場合の対策などのルールを明確にし、家族にも周知を図るとともに協力を呼びかけました。

4)社会の変化は、会社も変化するチャンス

沢根さんは、「コロナ禍で世の中が変化している今は、会社にとってチャンスでもある」と捉えています。「10年はかかるといわれていたデジタル化が、コロナ禍を機に一気に進んだ。少し以前には考えもしなかったオンライン会議を、今では当たり前のようにするようになった」。こうした社会の変化に合わせて、同社もコロナ禍を機に、Web会議のクラウドサービスや非同期のコミュニケーションツールを導入。会議時間の短縮や議事録および社内メールの廃止につなげました。

事業面でも、コロナ禍が変化のきっかけを与えてくれました。自社で製造するコロナ対策グッズの販売を始めたことです。発端は、1日中マスクをしている工場の従業員が、耳の痛さを解消するためのワイヤを発案したことです。本業がバネの製造業ですから、ワイヤの加工はお手の物。従業員からの「こんなものできましたけど、もっと作りましょうか」との提案に、「皆困っているだろうから、ご近所にも配ろう。うまくいけば販売もできるのでは」と、新商品「痛くなイヤー」の製造が始まりました。さらに、新商品の配布先や購入者からの要望に応える形で、蒸れたり曇ったりしにくいフェースシールド、耳にかけずに使える蒸れにくいマウスガードも開発し、ラインアップが広がりました。

「ここで我々は学ぶことができた」と、沢根さんは言います。同社は消費者向けの取引をしていなかったため、個人からの代金回収ノウハウがありませんでした。コロナ対策グッズの販売を始めたことで、新たにクレジットカードの決済手段も追加導入につながりました。「事業にBtoCという多様性が生まれた。バネ製品には個人向けのものもあるので、販路の拡大にもつながっていく」。沢根さんは可能性の広がりを感じています。

5)会社の未来を描いて従業員に示す

沢根さんは2021年に社長交代することを明言しており、現在は10年後を見据えた「2030年ビジョン」の作成を始めています。沢根さんは、ジグソーパズルを例に、ビジョンの作成の重要性を強調します。

ジグソーパズルは、絵や写真が描かれているから完成できる。もし真っ白だったら、パーツを組み合わせるのは大変で、時間がかかるし、嫌になってしまう。コロナ禍は、ジグソーパズルが真っ白になった状態と同じです。「先が見通しにくいときこそ、未来への決断をして、夢を描き、それを従業員に説明をするのがトップの役割。会社が描いている未来はこのようなものだと示した上で、だから今はこのようなことをどんどん進めていこう、と従業員に訴えることが大事。これはトップにしかできない」。沢根さんは、こう考えています。

4 コロナ下の変化に会社を適応させる

2人の社長の共通点は、従業員の安全という守りを固める一方で、コロナ禍は「チャンスでもある」と捉え、攻めの気持ちも忘れていないことです。そして攻め方も、コロナ禍によって変化した社会や事業環境に、会社を適応させていくという点で共通しています。

誰もが分かる逆境にあり、後ろ向きになりがちなときだからこそ、従業員に攻め方を指し示し、少しでも前向きな気持ちにさせることが、トップに求められています。

以上(2020年11月)

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画像:インタビュー先より提供

PL法(製造物責任法)の概要と改正に伴い製造業者が留意すべきこと

書いてあること

  • 主な読者:製造業者や輸入業者の経営者
  • 課題:2020年のPL法改正の内容を理解し、製造業者や輸入業者がどのような対策を取らなければならないかを考える
  • 解決策:従来よりも消費者の権利を保護する方向で、PL法が運用されることとなるので、社内の製品安全管理体制と品質保証体制を再度見直し整備する。特に、書類の保存期間と製品の指示・警告表示の見直しは早急に行う

1 民法改正に伴い製造物責任法が改正されました

製造物責任法(Product Liability Act(以下「PL法」)は、製造物の欠陥が原因で、人の生命、身体、財産に被害が生じた場合、製造業者等に対して損害賠償を求められる法律です。

民法改正に伴いPL法が一部改正され、2020年4月1日から施行されました。本稿では、PL法の概要と改正のポイント、改正に伴い製造業者が留意すべきことなどをご提案します。

2 PL法の概要

1995年7月にPL法が施行されてから25年が経過しました。PL法施行以前は、欠陥商品による損害賠償の裁判において、民法の不法行為を根拠にせざるを得ませんでした。

不法行為では、加害事業者の「過失」の存在を被害者が主張立証しなければなりません。しかし、近代的な工場における製造工程のどこでどのような過失があったかということを、被害者である消費者に立証させることは、現実的には不可能を強いるに等しいことでした。

PL法の制定によって、被害者は「過失」に代わって、「通常有すべき安全性を欠いていること」という「欠陥」の存在を主張立証すればよいこととなり、被害者救済の道が開けていきました。裏を返せば、製造業に携わる方は、通常通り製造していただけであっても、「欠陥」の存在を主張立証された場合には、無過失であっても法的責任を負わなければなりません。

「欠陥」は、「製造上の欠陥」、「設計上の欠陥」と「指示・警告上の欠陥」の3つに分類されます。

3 どのような「製造物」がPL法の対象なのか

「製造物」とは、「製造又は加工された動産」のことです。家電製品、家具、食品や医薬品など幅広い製品を含みます。ただし、不動産やソフトウエアなどの無体物は、PL法の対象となりません。

また、「製造又は加工」されていない自然産物、例えば未加工の農林畜水産物はPL法の対象となりません。しかし、原材料に加熱、味付けなどをした場合はPL法の対象となります。

なお、「修理」などは、「動産」に本来存在する性質の回復や維持を行うことと考えられ、「製造又は加工」には当たらないと考えられています。

4 責任を負うのは「製造業者」だけではありません

PL法においては、製造業者だけではなく、輸入業者も責任を負います。なぜなら、輸入品の場合、消費者が直接海外の製造業者を訴えることは困難であるため、欠陥のある製造物を国内に持ち込んだ者が責任を負うことが合理的と考えられたからです。

また、自ら製造、加工又は輸入を行っていない場合であっても、「製造元〇〇」、「輸入元〇〇」などの肩書きで自己の氏名などを付している場合や、特に肩書きを付することなく自己の氏名・ブランドなどを付している場合なども、製造業者と同じ責任を負います。

5 民法改正に伴い消滅時効が改正されました

1)人の生命又は身体の侵害によるPL法に基づく損害賠償請求権の時効期間の長期化

人の生命又は身体の侵害によるPL法に基づく損害賠償請求権の時効期間は、被害者またはその法定代理人が損害および賠償義務者を「知った時から3年」でしたが、改正により「知った時から5年」に長期化されました。

人の生命又は身体という利益は、財産的な利益などと比べて保護すべき度合いが強いこと、被害が生じた後、通常の生活を送ることが困難な状況に陥るなど、被害者の速やかな権利行使が困難な場合が少なくないためです。

2)PL法に基づく損害賠償請求権に関する長期10年の権利消滅期間の意味の明記

PL法に基づく損害賠償請求権に関する権利消滅期間は「その製造業者等が当該製造物を引き渡した時から10年を経過したとき」とされています。この長期10年の権利消滅期間は、従前は「除斥期間」と考えられていましたが、「時効期間」であることが明記されました。

除斥期間の場合、時効期間と異なり原則として中断や停止が認められず、期間経過により権利は消滅してしまいます。そのため、長期間にわたって加害者に対する損害賠償請求をしなかったことに真にやむを得ない事情がある事案において、被害者の救済を図ることができないおそれがありました。「時効期間」と明記することで、そのような事案においても被害者の救済を図ることができるようになりました。

6 PL法改正に伴い製造業者が留意すること

今回の改正は、消費者側の権利をより強く保護するものです。加害者となり得る製造業者は、今回の改正を契機として、今まで以上に厳しい姿勢で、社内の体制や製品の表示を見直す必要があります。

1)製造業者におけるPL対策とは

製造業者におけるPL対策とは、「社内の製品安全活動が日常業務になっていれば、おのずからPLリスクの低い製品を市場に出せるという観点から、製品安全評価とISO9000シリーズ規格(注)による品質保証の方針を明らかにし、それを実施するための社内の製品安全管理体制と品質保証体制を整備・確立し、愚直に実践すること」でしょう。そして、具体的には、以下の多面的対策が必要と考えられます。

  • 製品事故の防止や安全性に関する法規や制度を、商品の企画担当者や研究者が熟知し、確実に遵守すること
  • 研究開発の段階で製品の安全性確保の検討を十分に行うとともに、必要な安全性試験を全項目行い、事前に危険を排除すること
  • 実際に使われる場における安全性評価を行い、問題点が見つかれば直ちに改善すること
  • 「指示・警告上の欠陥」は、比較的短期間かつ少ないコストでPL対策を実行できるという側面を持つので、検討すること
  • 消費者教育や啓発活動で、必要な情報を提供するなど、消費者自身に危険回避の努力をしてもらう活動を行うこと
  • 販売後、消費者から寄せられるクレームや問い合わせは、実際に使われる場における使用テストであると考え、その意見を商品の改善に活かすこと

(注)ISO9000シリーズとは品質保証の国際規格、つまり「よりよい製品やサービスを提供するための仕組みを評価するガイドライン」のことです。認証の対象は製品自体ではなく、製品の生産に使われる品質システム(生産の仕組み、あるいはプロセス)であることが大きな特徴です。その認証取得・登録は海外貿易の前提条件となっています。

2)PL法が適用された判例

「製造物の特性」を考慮して「欠陥」を判断した裁判で、裁判所の判断が分かれた判例があります。判断を分けたのは、具体的対策4.の内容である「指示・警告上の表示」が十分であるか否かです。

1.給食食器の破片により女児の右眼視力が低下

国立小学校に在学していた3年生の女児が、給食食器片付けの際、落とした強化耐熱ガラス製ボウルの破片を右眼に受けて角膜裂傷などを負った事案です。

裁判所による判断の概要は次の通りです(奈良地判平成15年10月8日)。

  • 商品カタログや取扱説明書等において、本件食器が陶磁器等よりも「丈夫で割れにくい」といった点を特長として、強調して記載するのであれば、併せて、それと表裏一体をなす、割れた場合の具体的態様や危険性の大きさをも記載するなどして、消費者に対し、商品購入の是非についての的確な選択をなしたり、また、本件食器の破損による危険を防止するために必要な情報を積極的に提供するべきである。
  • 本件食器が破損した場合の態様等について、取扱説明書等に十分な表示をしなかったことによりその表示において通常有すべき安全性を欠き、製造物責任法第3条にいう欠陥があるというべきである。

2.こんにゃく入りゼリーを喉に詰まらせ1歳児が死亡

1歳9カ月の幼児がこんにゃくゼリーを食べて喉に詰まらせて窒息し、その後に死亡した事案です。

裁判所による判断の概要は次の通りです(大阪高判平成24年5月25日)。

  • 本件警告表示においては、子どもや高齢者がこれを食すると喉に詰まらせる危険性があることが、外袋のピクトグラフ等の記載や外袋裏側の警告文に明確に表示されており(これは赤枠で一見しても相当に目立つ警告文であることが分かる。)、しかも、通常のゼリー菓子ではなく、こんにゃく入りであることも、外袋の表にも裏にも記載され、特に、子どもや高齢者は食べないでくださいと明確に表示されていたもので、本件こんにゃくゼリーの食べ方についての留意事項については、警告文として特に不十分な点はない。
  • 本件こんにゃくゼリーは、通常有すべき安全性に欠けていたとまではいえない。

3)PL法改正に伴い製造業者が行うべきこと

  • 長期10年の権利消滅期間が「除斥期間」ではなく「時効期間」と明記されたため、書類の保存期間を今までより長くしなければならない可能性があります。この機会に、保存する書類の内容と保存期間を見直しましょう。
  • 「指示・警告上の欠陥」は、紹介した判例のように、裁判で主張されることが多い半面、比較的短期間かつ少ないコストでPL対策を実行できるという側面を持ちます。検討しましょう。
  • 今後は、従来よりも消費者の権利を保護する方向でPL法が運用されます。社内の製品安全管理体制と品質保証体制を見直し、整備しましょう。必要ならば、PL法に詳しい弁護士などの専門家に協力してもらいましょう。

7 参考

1)民法改正に伴うPL法改正の説明を読みたい方に

■消費者庁「民法(債権関係)改正に伴う製造物責任(PL)法の一部改正」■
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/other/product_liability_act_amendment/

消滅時効においては、以下のように経過措置にも注意してください。

  • 生命又は身体を侵害した場合のPL法に基づく損害賠償請求権の消滅時効の期間は、2020年4月1日の施行日の時点で消滅時効が完成していない場合には、改正後の新しいPL法が適用されます。
  • 施行日において長期の権利消滅期間(10年)が経過していないときも、改正後の新しいPL法が適用され、除斥期間ではなく時効期間とされます。

2)PL法の詳しい解説が読みたい方に

■消費者庁「製造物責任(PL)法の逐条解説」■
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/other/product_liability_act_annotations/
■国民生活センター「製造物責任法(PL法)を学ぶ」■
https://warp.ndl.go.jp/

国立国会図書館 インターネット資料収集保存事業のウェブサイトで「製造物責任法(PL法)を学ぶ」でキーワード検索をかけると読めます。

3)PL法に基づく訴訟情報が見たい方に

■消費者庁「製造物責任(PL)法に基づく訴訟情報の収集」■
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/other/product_liability_act/

4)論考

『製造業におけるPL対策について』花王株式会社 小西一生
繊維製品消費科学 Vol.35 No.11(1994)584-589
https://doi.org/10.11419/senshoshi1960.35.584

以上(2020年11月)
(執筆 のぞみ総合法律事務所 弁護士 片岡由紀)

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「自宅の階段から転倒」など。事例で考えるリモートワークの労災

書いてあること

  • 主な読者:自宅でのけがや病気が労災に当たるかを知りたい経営者
  • 課題:自宅は仕事とプライベートの境目が曖昧で、労災の判断基準が分かりにくい
  • 解決策:「業務遂行性」「業務起因性」の基本を知り、事例で労災のイメージをつかむ

1 会社は安全衛生に配慮しているつもりなのに……

リモートワークは、オフィスに比べ社員の働きぶりが見えにくいため、会社は安全衛生にとても気を使います。チャットツールで体調の悪そうな社員がいないか確認したり、社員が就業環境(PC、机など)を整えられるようリモートワーク手当を支給したりといった具合です。

しかし、そうした配慮をしても、社員がリモートワーク中にけがや病気をすることがあります。内容によっては、労災を主張し、会社に損害賠償を求めてくる社員もいるかもしれません。

もちろん本当に労災であれば、会社としてしかるべき対応をしなければなりませんが、リモートワークは仕事とプライベートの境目が曖昧になりやすく、労災に当たるのかの判断が難しいケースが多くあります。特に判断が難しいのは、生活空間でもある自宅で被災した場合です。

そこで、「飲み物を取りに行こうとして階段から転倒したら?」「PCや机が身体に合わず腰痛になってしまったら?」など、自宅でのけがや病気が労災に当たるのかを検討していきます。

2 労災は「業務遂行性」「業務起因性」を基準に判断する

具体的な事例に入る前に、労災の基本を確認しておきましょう。労災には、業務上の事由により発生する「業務災害」と、通勤上の事由により発生する「通勤災害」とがあります。本稿で取り上げる、自宅でのリモートワーク中に発生する労災は、業務災害に当たります。

業務災害は、「業務遂行性」「業務起因性」という2つの条件を満たすと労災として認定されます。なお、病気の場合の「被災」とは、病気を発症する危険(有害因子)にさらされることをいいます。

  • 業務遂行性:社員が会社の支配下にあるときに被災したこと
  • 業務起因性:業務と被災との間に因果関係があること

業務遂行性は、業務に従事している場合、業務の準備や生理的行為(飲水、用便など)といった業務に付随する行為をしている場合に認められます。休憩やその他私用のために業務を中断している間に被災したときは、原則として対象外です(リモートワークの場合)。

ただし、業務遂行性が認められても、業務起因性が否定されれば、労災には当たりません。例えば、就業時間中なのにこっそり私用をしていてその行為が原因で被災した場合、故意に災害を発生させた場合などは、業務起因性が否定されます。

次章からはこの考え方を基に、自宅で発生し得るけがや病気が「労災に当たるのか」を検討していきます。なお、以降で紹介する内容は1つの考え方ですので、実務で同様の労災案件が発生した場合は、必ず所轄労働基準監督署などに判断を仰いでください。

3 飲み物を取りに行こうとして自宅の階段から転倒したら?

1)事例

Aさんは、自宅の2階にある自分の部屋でリモートワークをしています。ある日の就業時間中、喉が渇いたAさんは、自分の部屋を出て冷蔵庫のある1階に、飲み物を取りに行こうとしました。

しかし、1階に下りようとした際、誤って階段から転倒し、足首を捻挫してしまいました。

2)労災に当たる可能性:高い(業務遂行性:○、業務起因性:○)

喉が渇いたため飲み物を取りに行くことは生理的行為に該当し、業務に付随する行為ですので、業務遂行性が認められます。また、業務起因性が否定される事情もなく、本件が労災に当たる可能性は高いと考えられます。

なお、生理的行為の範囲については現状、明確な基準がありません。中央労働基準監督署へのヒアリング(2020年10月16日)によると、「例えば、喫煙するためにベランダに出ようとして転倒した場合、喫煙が生理的行為に該当するのかは現状明らかでない。実際に労災案件が発生した場合に個別に判断することになる」ということでした。

4 PCや机が身体に合わず腰痛になってしまったら?

1)事例

Bさんは、コロナ禍の影響で半年以上前からリモートワークをしています。しかし、リモートワークで使用するPCが小さく、さらに机の高さがオフィスよりも低いこともあって、腰をかがめた姿勢で仕事をする癖が付いてしまいました。

腰に負担が蓄積されていたBさんは、ある日の就業時間中にふと椅子から立ち上がろうとした際、ぎっくり腰になってしまいました。

2)労災に当たる可能性:低い(業務遂行性:○、業務起因性:×)

不適切な姿勢を継続したことによって腰に負担が蓄積され、それが原因で就業時間中にぎっくり腰を起こしているので、業務遂行性は認められるでしょう。一方、業務起因性が否定される事情があるため、本件が労災に当たる可能性は低いと考えられます。

腰痛の業務起因性の考え方については、厚生労働省「業務上腰痛の認定基準」に定められています。同基準では、腰痛を「災害性の原因による腰痛」(腰への外傷などによるもの)と「災害性の原因によらない腰痛」(蓄積された腰への負荷によるもの)とに区分しています。

災害性の原因による腰痛について業務起因性が認められるためには、次の条件をいずれも満たす必要があります。

  • 腰部の負傷または腰部の負傷を生ぜしめたと考えられる、通常の動作と異なる動作による腰部に対する急激な力の作用が、業務遂行中に突発的な出来事として生じたと明らかに認められるものであること
  • 腰部に作用した力が腰痛を発症させ、または腰痛の既往症もしくは基礎疾患を著しく増悪させたと医学的に認めるに足りるものであること)

本件は、椅子から立ち上がるという日常的な動作で生じたものなので、該当しません。

次に、災害性の原因によらない腰痛について業務起因性が認められるためには、次の条件のいずれかを満たす必要があります。

  • 次のような業務に約3カ月以上従事し、筋肉等の疲労を原因とした腰痛を発症した場合
    イ)20キログラム上の物品または重量が異なる物品を中腰姿勢で、繰り返し取り扱う業務(港湾荷役など)
    ロ)毎日数時間、腰に負担がかかる不自然な姿勢のまま行う業務(配電工など)
    ハ)長時間座ったままの姿勢で行う業務(長距離トラック運転手など)
    ニ)腰に大きな振動を継続して受ける業務(車輌系建設用機械の運転業務など)
  • 次のような業務に約10年以上従事し、骨の変化を原因とした腰痛を発症した場合
    イ)労働時間の約3分の1以上に及び、30キログラム以上の物品を取り扱う業務
    ロ)労働時間の半分以上に及んで、20キログラム以上の物品を取り扱う業務

リモートワークで行うデスク業務などの場合、一見、1.のハ)が該当するように思われますが、通常、業務の合間に立ち上がって腰を伸ばしたりできるケースがほとんどなので、業務起因性は否定される可能性が高いと考えられます。

5 リモートワークの孤独感からうつ病になってしまったら?

1)事例

Cさんは、コロナ禍の影響で半年以上前からリモートワークをしています。当初は、通勤せずに自宅で作業できる環境をありがたく思っていましたが、リモートワークが長引くにつれ、他のスタッフとのコミュニケーションが少ないことにストレスを感じるようになりました。

次第に疲労感や不眠などの症状が見られるようになっていたCさんは、医師の診断の結果、うつ病と診断されました。会社が念のためCさんの業務状況を調査したところ、発病の直前6カ月について毎月30時間の時間外労働が発生していることが分かりました。ただし、顧客や他の社員とのトラブルなど、他に業務上ストレスになりそうなことはありませんでした。

また、友人・家族関係など業務以外の人間関係でストレスになりそうなこともなく、精神障害の既往歴などもありませんでした。

2)労災に当たる可能性:低い(業務遂行性:○、業務起因性:×)

就業環境の変化によるストレスが原因でうつ病を発症しているため、業務遂行性は認められ得るでしょう。一方、業務起因性が否定される可能性が高く、本件が労災に当たる可能性は低いと考えられます。

うつ病などの精神障害の業務起因性の考え方については、厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準」に定められています。同基準では、次の3つを全て満たす場合に精神障害の業務起因性が認められるとしています。

  • 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
  • 認定基準の対象となる精神障害の発病前約6カ月の間に業務による強い心理的負荷が認められること
  • 業務以外の心理的負荷や個体側要因(既往歴など)により発病したと認められないこと

うつ病は、1.の精神障害に該当します。また、本件では業務以外の事情による精神的負荷や、精神障害の既往歴などもないため、3.についても満たすことになります。

2.については、まず発病前約6カ月の間に同基準の「特別な出来事」に該当する出来事があるかを検討します。特別な出来事には、生死にかかわる業務上のけがをしたこと、発病直前の1カ月に160時間超の時間外労働を行ったことなどが該当します。本件では、これらの特別な出来事はないので、次に「特別な出来事以外の出来事」について検討します。

特別な出来事以外の出来事については、同基準の中に、労働者に心理的負荷を与えると思われる出来事の類型と、類型ごとの心理的負荷の評価基準(強・中・弱の3段階で判断)が設定されているので、それに実際に起きた出来事を当てはめて判断します。

例えば、「勤務形態に変化があった」という出来事の類型がありますが、この類型の心理的負荷は原則として「弱」とされています。本件の場合、Cさんは就業環境の変化によりストレスを感じていますが、強い心理的負荷があるとは考えにくいということです。

また、時間外労働については、「1カ月に80時間以上の時間外労働を行った」という類型が設定されており、時間外労働が月80時間未満の場合、心理的負荷は原則として「弱」とされています。本件の場合、発病の直前6カ月の時間外労働は月30時間なので、これについても強い心理的負荷があるとは考えにくいということになります。

以上(2020年11月)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

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「いくらの印紙を貼るのか?」を分かりやすくまとめています

書いてあること

  • 主な読者:実務で印紙を取り扱う営業担当者、経理担当者
  • 課題:印紙が必要な文書、印紙の金額が分からない
  • 解決策:本稿で印紙が必要な文書の種類と、金額の一覧表を示す

1 課税文書とは

印紙税とは、「契約書」「手形」「領収書」などの文書(印紙税法別表第一の「課税物件表」に掲げる文書)に対して課される税金です。印紙税は、これらの文書を作成した人が、文書ごとに決められている金額の収入印紙を文書に貼り付け、消印して納付します。

印紙税が課税される文書を「課税文書」と呼びます。課税文書には「売買契約」「金銭消費貸借契約」「請負契約」などがあり、20種類(1号文書~20号文書)の区分で分けられています。その区分や記載された契約金額などによって印紙税額が異なります。ここで、国税庁「印紙税額一覧表」などを基に印紙税額をまとめているので、「いくらの印紙を貼ればよいか?」が分かります。

なお、印紙税の概要や実務上のポイントについては、以下のコンテンツをご参照ください。

▶ 30040 「印紙税」の概要と税理士が教える実務のポイント

2 課税文書に係る印紙税額

1)1号文書

1号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 不動産、鉱業権、無体財産権、船舶、航空機または営業権の譲渡に関する契約書(不動産売買契約書など)
  • 地上権、土地の賃借権の設定または譲渡に関する契約書(土地賃貸借契約書など)
  • 消費貸借に関する契約書(金銭借用証書、金銭消費賃貸借契約書など)
  • 運送に関する契約書(運送契約書、貨物運送引受書など)

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1号文書「不動産の譲渡に関する契約書」のうち、1997年4月1日から2022年3月31日までに作成されたものについては、契約書の作成年月日と記載された契約金額に応じ、次の通り印紙税額が軽減されています。

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2)2号文書

2号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 請負に関する契約書(工事請負契約書、工事注文請書、物品加工注文請書、広告契約書、映画俳優専属契約書、請負金額変更契約書など)

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「請負に関する契約書」のうち、建設工事(一定のものを除く)の請負に係る契約に基づき作成されるもので、1997年4月1日から2022年3月31日までに作成されるものについては、契約書の作成年月日および記載された契約金額に応じ、次の通り印紙税額が軽減されています。

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3)3号文書

3号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 約束手形、為替手形

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4)4号文書

4号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 株券・出資証券、社債券、投資信託、貸付信託、特定目的信託もしくは受益証券発行信託の受益証券

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5)5号文書

5号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 合併契約書または吸収分割契約書もしくは新設分割計画書

印紙税額:4万円
非課税文書:なし

6)6号文書

6号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 会社設立のときに作成される定款(原本)

印紙税額:4万円
非課税文書:株式会社または相互会社の定款のうち公証人法の規定により公証人の保存するもの以外のもの

7)7号文書

7号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 継続的取引の基本契約書(売買取引基本契約書、特約店契約書、代理店契約書、業務委託契約書など)

印紙税額:4000円
非課税文書:なし

8)8号文書

8号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 預金証書、貯金証書

印紙税額:200円
非課税文書:信用金庫その他特定の金融機関の作成するもので記載された預入額が1万円未満のもの

9)9号文書

9号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 倉荷証券、船荷証券、複合運送証券

印紙税額:200円

10)10号文書

10号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 保険証券

印紙税額:200円
非課税文書:なし

11)11号文書

11号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 信用状

印紙税額:200円
非課税文書:なし

12)12号文書

12号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 信託行為に関する契約書

印紙税額:200円
非課税文書:なし

13)13号文書

13号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 債務保証に関する契約書

印紙税額:200円
非課税文書:「身元保証ニ関スル法律」に定める身元保証に関する契約書(雇用関係のある経営者と従業員などとの間で、従業員などの行為により経営者が受けた損害を賠償することを約したもの)

14)14号文書

14号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 金銭または有価証券の寄託に関する契約書

印紙税額:200円
非課税文書:なし

15)15号文書

15号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 債権譲渡または債務引受けに関する契約書

印紙税額(記載された契約金額が1万円以上):200円
印紙税額(契約金額の記載のないもの):200円
非課税文書:記載された契約金額が1万円未満のもの

16)16号文書

16号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 配当金領収証、配当金振込通知書

印紙税額(記載された配当金額が3000円以上):200円
印紙税額(配当金額の記載のないもの):200円
非課税文書:記載された配当金額が3000円未満のもの

17)17号文書

17号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 売上代金に係る金銭または有価証券の受取書(商品販売代金の受取書、不動産の賃貸料の受取書、請負代金の受取書、広告料の受取書など)

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  • 売上代金以外の金銭または有価証券の受取書(借入金の受取書、保険金の受取書、損害賠償金の受取書、補償金の受取書、返還金の受取書など)

印紙税額:200円
非課税文書:上記同様

18)18号文書

18号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 預金通帳、貯金通帳、信託通帳、掛金通帳、保険料通帳

印紙税額:200円(1年ごと)
非課税文書:次の通り。

  • 信用金庫など特定の金融機関の作成する預貯金通帳
  • 所得税が非課税となる普通預金通帳など
  • 納税準備預金通帳

19)19号文書

19号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 消費貸借通帳、請負通帳、有価証券の預り通帳、金銭の受取通帳などの通帳(18号の通帳を除く)

印紙税額:400円(1年ごと)
非課税文書:なし

20)20号文書

20号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 判取帳

印紙税額:4000円(1年ごと)
非課税文書:なし

以上(2020年10月)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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中小企業が連結納税を導入する際の留意点

書いてあること

  • 主な読者:M&Aを検討している中小企業の経営者
  • 課題:連結納税制度の効果や具体的な手続きを知りたい
  • 解決策:その企業グループに属するそれぞれの法人の所得と欠損を通算して、グループ全体の所得金額を計算し、法人税額を求める

連結納税制度とは、100%親子関係(企業が別の企業の発行済株式の100%を保有している関係など)にある企業グループを一つの企業(納税単位)とみなして法人税の申告・納税を行う仕組みです。連結納税を導入するか否かは企業が決められるため、その効果や影響を理解して決定しましょう。

ちなみに、連結納税を導入した企業グループ(以下「連結納税グループ」)の親会社を「連結親法人」、その連結親法人に発行済株式の100%を直接または間接に保有される一定の国内子会社を「連結子法人」といいます(内国法人に限る)。連結納税を導入した場合には、適用対象の子会社を選ぶことはできず、連結子法人に該当する子会社は全て連結納税が強制で適用されます

なお、2020年度税制改正により、2022年4月1日以降に開始する事業年度から、連結納税制度は廃止され、新たに設立されるグループ通算制度(本稿では詳細な説明は省略)へ自動的に移行されます。グループ通算制度は連結納税制度と異なり、企業グループ内のそれぞれの企業が一つの納税単位となり、企業ごとに申告・納税を行うことになります。ただし、連結納税制度のメリットである企業グループ内の損益通算(詳細は後述)は行われるなど、引き継がれる点と変更される点が多々あるため、改正時の影響を考慮する必要があります。

1 連結納税制度の主な効果~黒字と赤字の相殺~

連結納税を導入した場合、連結納税グループ内のそれぞれの法人(そのグループの親会社およびその親会社に発行済株式の100%を直接または間接に保有される一定の国内子会社に限る)の所得と欠損(税金計算上の利益と損失)を通算して、グループ全体の所得金額を計算し、法人税額を求めます。

例えば、連結納税グループ内に黒字会社と赤字会社が両方ある場合、グループ内の黒字と赤字を相殺できるため、グループ全体の納税負担が軽減されます。つまり、同一グループ内に納税ポジションにある会社(黒字で納税が必要な会社)と、欠損ポジションにある会社(赤字で納税が不要で、欠損金を有する会社)がある場合は、連結納税制度を導入して黒字会社の所得と赤字会社の欠損金を通算させることができるのです。

加えて、連結納税導入時に、連結親法人において自社単体では消化しきれない繰越欠損金(過去分の欠損金で一定期間内のもの)を有している場合には、連結納税では、グループ内の連結子法人の課税所得から、これを繰越控除することが認められています。

2 連結納税の導入に当たっての検討事項

1)子会社が所有する一定の資産を時価で評価する

連結子法人となる子会社は、原則として、連結納税を導入する直前の事業年度末に所有している一定の資産(以下「特定資産」)を、時価評価しなければなりません。

これは、連結納税適用前の期間(以下「単体納税制度期間」)に生じた特定資産に係る含み損益(時価と帳簿価額の差額)を認識し、単体納税制度期間における課税関係を清算した後に連結納税制度へ移行させるためです。この含み損益は、税務申告においてのみ認識されるものであるため、財務諸表には反映されません。

なお、連結親法人に発行済株式の全部を5年超継続保有されている子会社など、一定の事由に該当する子会社(以下「特定連結子法人」)は、上記の時価評価をしなくてよいことになっており、含み損益を認識する必要がありません。

2)子会社が連結納税導入直前に有する繰越欠損金の制限措置

連結納税を導入した場合、原則として、連結子法人となる子会社が連結納税導入直前に有している繰越欠損金は、繰越控除することはできず、切り捨てられます。なお、地方税法(事業税・住民税)においては、切り捨てられることはなく、引き続き繰越控除の適用が認められます。

なお、特定連結子法人が有する繰越欠損金については、切り捨てられることなく、連結納税導入後においても、その特定連結子法人の単体所得(特定連結子法人単体で計算した税務上の利益)を限度として、繰越控除の適用が認められます。

3)みなし事業年度

連結納税を導入した場合、その連結納税グループに属する子会社(連結子法人)は、税務上、連結親法人となる親会社の事業年度に合わせて税務申告を行う必要があります。従って、親会社と決算期が異なる連結子法人については、「税務申告のための決算」と「会社法で定められる決算」を実施しなければなりません。そのため、事務手続きが煩雑となることから、事前に決算期の変更を検討しておくなどの対策が必要です。

なお、親会社と決算期が異なる連結子法人では、連結納税導入直前と導入後において、次の通り、みなし事業年度が生じることとなります。

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3 連結納税導入の手続き

連結納税を導入しようとする親会社および子会社は、連結納税の承認申請書を、親会社の納税地を所轄する税務署長を経由して、国税庁長官に提出しなければなりません。また、子会社はその承認申請書を提出した旨の届出書を、各所轄税務署長に提出する必要があります。

承認申請書の提出期限は、最初に連結納税制度を適用しようとする親会社の事業年度開始の日の3カ月前の日までです。

4 連結納税導入による中小企業特例税制への影響

1)中小法人の軽減税率

資本金が1億円以下の法人(以下「中小法人」)においては、所得金額のうち年800万円まで軽減税率を適用することが認められています。単体納税制度ではそれぞれの法人においてその適用が認められていますが、連結納税制度では、連結納税グループ全体で連結所得のうち年800万円までしかその適用が認められていません。従って、連結納税を導入することにより、企業グループで軽減税率が適用できる所得金額の総額が減少するため、納税負担の増加要因となる可能性がある点に留意が必要です。

なお、連結納税制度における軽減税率の適用判定は、連結親法人の資本金で行われるため、その連結親法人の資本金が1億円を超える場合には、連結納税グループ全体で軽減税率が適用されないこととなります。

2)交際費等に係る定額控除限度額制度

中小法人においては、年800万円に達するまでの交際費等については、損金の額に算入することが認められています。単体納税制度ではそれぞれの法人においてその適用が認められていますが、連結納税制度では、連結納税グループ全体で年800万円までしかその適用が認められていません。従って、上記4の1)と同様、企業グループで本制度の適用を受けることができる交際費等の総額が減少するため、納税負担の増加要因となる可能性がある点に留意する必要があります。

また、本制度の適用判定は、上記4の1)と同様に連結親法人の資本金で行われるため、その連結親法人の資本金が1億円を超える場合には、原則として、連結納税グループ全体で支出された交際費等の全額が損金の額に算入されないこととなります。

3)貸倒引当金

中小法人には、「貸倒引当金の損金算入制度」および「一括評価金銭債権に係る法定繰入率」の適用が認められています。これらは、適用を受けようとするそれぞれの法人ごとの資本金の額で判定されるため、その適用可否について、連結納税の導入が影響を及ぼすことはありません。

ただし、同一の連結納税グループに属する会社に対する金銭債権については、貸倒引当金の設定の対象外とされる点に留意する必要があります。

4)欠損金の繰戻し還付

連結納税を導入した場合であっても、連結親法人が中小法人に該当する限り、欠損金の繰戻し還付を適用することができます。なお、「繰戻し還付」または「繰越控除」のいずれを適用するかは、連結グループ全体で統一して選択する必要があります(それぞれの法人が個別にどちらかを選択することは認められない)。

5)留保金課税の不適用措置

中小法人には、留保金課税が課されません。連結納税制度を導入した場合には、連結納税グループ全体で留保金課税が課されることとなりますが、連結親法人の資本金が1億円以下である限り、留保金課税は課されません。

従って、単体納税導入時に留保金課税が課されていた資本金1億円超の子会社については、資本金1億円以下である親会社を連結親法人とする連結納税制度を導入することにより、結果的に留保金課税が課されなくなるといったケースも想定されます。

5 連結納税を導入する場合の留意点

1)増資による影響

上記で述べた通り、連結納税導入後も中小企業特例税制を適用することは認められていますが、その適用に際しては、連結親法人の資本金が1億円以下であることが要件とされています。

連結親法人について、資本金1億円超とする増資を行う場合には、連結納税グループ全体で中小企業特例税制(貸倒引当金を除く)を適用することができなくなるため、事前に十分な検討が必要です。

2)事務負担およびコストの増加

連結納税制度は単体納税制度に比べ、所得計算および税額計算が煩雑であり、かつ、高度な専門性が要求されます。加えて、連結納税グループに属する全ての会社の個別所得計算が終了しない限り、連結納税申告書を作成することができません。導入に際しては、連結納税に関する社内研修、経理業務のスケジュールやフローに与える影響、全社的な税務管理体制(税務情報の収集・計算システムなど)の見直しを事前に検討しておく必要があります。

また、連結納税申告書の作成に当たっては、専用ソフトの選定やその導入コストの検討が必要です。さらに、連結納税制度に精通した税務アドバイザーのサポートが必要な場合もあるので、新たに発生する専門家報酬等の追加コストの検討も欠かせません。

3)連結納税の取りやめ

連結納税の導入は、納税者自らの判断に委ねられていますが、その取りやめは原則として認められていません。従って、一旦導入した場合には、自らの判断で単体納税制度に戻ることはできないので、それを踏まえた上で事前の検討が必要です。

4)M&Aへの影響

近年、中小企業が関与するM&Aは増加傾向にあります。中小企業が買い手として他社を買収する場合、または、売り手として他社に買収される場合においても、選択される買収手段の大半は「株式取得」であるのが現状です。

連結納税を導入している会社が、100%株式取得により他社を買収する場合には、原則として、その買収対象とされる他社が有している資産について時価評価し、含み損益を認識しなければならず、含み益があるとその分、納税負担が増えることになります。また、その買収した他社が繰越欠損金を有している場合には、その繰越欠損金が切り捨てられてしまいます。状況によっては、買収スキームの選定に重要な影響を及ぼす可能性も想定されます。

今後、M&Aを予定しているのであれば、連結納税制度の導入が買収戦略にどのような影響を及ぼすか、専門家を交えて事前に十分な検討をしておくことが大切です。

以上(2020年10月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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スケジュール管理を阻む「先延ばし癖」を改善

書いてあること

  • 主な読者:先延ばし癖で、スケジュール管理がうまくいかないことに悩むビジネスパーソン
  • 課題:先延ばし癖があることは分かっているが、改善方法が分からない
  • 解決策:先延ばしにするメカニズムを知った上で、退屈に感じている場合は次に重要な仕事と入れ替えるなど工夫をする

1 スケジュール管理に悩んでいませんか?

2020年は多くの企業がリモートワークを実施していますが、家族がいるので集中しづらいなどの理由から、スケジュール管理に悩んでいるという人も多いのではないでしょうか。そもそも、あらゆる仕事には締め切りがあり、スケジュール管理は仕事の基本です。とはいえ、スケジュール管理を苦手とする人は大勢います。スケジュール管理ができない理由として、仕事の見込み時間が甘いなどが考えられますが、「先延ばしにしてしまう」というのもその1つです。

産業心理学者が記した「ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか」(*)によると、さまざまな調査において、「約95%の人が物事を先延ばしにすることがある」「約4人に1人が先延ばしが慢性的になっており、自分の特徴の1つである」と回答していることが紹介されています。先延ばし癖を改善することが、スケジュール管理の重要なポイントだといえるでしょう。

2 先延ばし癖を改善するための要素

先延ばし癖は、心理学や行動経済学などの分野でも関心を集めており、対策が研究されています。対策の1つとして挙げられるのが、モチベーションのコントロールです。高いモチベーションを保てれば、物事を先延ばしにすることなく、適切に対応できます。

前述した「ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか」によると、モチベーションを左右するのは、「価値の大きさ」「努力が報われる大きさ」「時間の長さ(遅れの大きさ)」という要素です。

日々の仕事においても、次のように感じる仕事は、先延ばしにしていないでしょうか。

  • 自分の成長につながるとは思えない(価値が小さい)
  • すぐやらなくても大丈夫(時間に余裕があるので、問題が切実に感じられない)
  • 自分には難し過ぎて解決できない(努力が報われない可能性が大きい)

以降では、「価値の大きさ」「時間の長さ(遅れの大きさ)」「努力が報われる大きさ」の各要素に注目しながら、先延ばし癖を改善するための行動を紹介します。

3 あえて先延ばしにする

組織への貢献度や緊急度が高い重要な仕事であっても、あまり自分が得意とすることでない場合、着手する気になれないことがあります。こうしたケースの改善策として、締め切りが目前に迫っている場合は別ですが、あえて少しだけ先延ばしにし、他の重要度の高い仕事と組み替える方法があります。こうすることで、結局何にも着手できない状態を防ぐことができます。

ただし、組み替える場合は、仕事の優先順位を正しく付けていることが前提です。組織への貢献度や緊急度が低い仕事ばかりに取り組んで達成感を得ることがないようにしましょう。

4 具体的にイメージする

「すぐやらなくても大丈夫」など、時間の余裕がある仕事は先延ばしにしがちです。しかも、余裕があることを言い訳にして、自分を甘やかしてしまいます。

これを避けるためには、「週の後半頑張れば間に合うだろうから、前半は違う仕事に取り組もう」とぼんやりと先延ばしするのではなく、何時間先延ばしにするのか、着手しない間にどのような仕事に取り組むのかを、明確にイメージします。

ある喫煙習慣に関する研究では、被験者に毎日1箱たばこを吸い続けるよう求めたところ、本数を減らす指示をしていないのに、全体的な喫煙量が徐々に減ったという結果があります。これは毎日同じ本数を吸い続けなければならないと自覚したことで、自制心が働いた結果だと考えられます。

何時間先延ばしにし、その間どんな仕事に取り組むのかを具体的にイメージすることで、「優先度の低い仕事に取り組んで、無駄な時間を過ごしている場合ではない」と認識することができます。また、先延ばしをしたことで起こるかもしれないトラブルやミスについても具体的にイメージするとよいでしょう。

5 仕事を小分けにしてみる

「自分には難し過ぎて解決できない」など、努力が報われないと諦めを感じる仕事は、先延ばしにしがちです。これを避けるためには、仕事を小分けにして取り組みます。

1つの固まりだと難しく感じる仕事でも、小分けにしてみると、思っていたよりも簡単だったということがあります。また、小分けにして1つずつ終わらせることで、進歩を感じられ、達成感が生まれます。

この際、取り組みやすい課題から少しずつ始めてみるのがコツです。例えば、企画書の作成に着手するなら、「グラフだけでも完成させる」などの視点で取り掛かります。

6 先延ばしが良い効果を生むことも?

先延ばし癖を克服することは簡単ではなく、改善策に取り組んでも劇的にスケジュール管理がうまくいくとは限りません。効果がすぐに表れないと、モチベーションを保つのが難しいと感じるかもしれませんが、諦めてはいけません。

人は年齢を重ねるほど、先延ばしにすることが減るという研究結果があります。これは年齢を重ねて物事の因果関係が理解できるようになることで、若い頃は無意味に感じていたことにも、意味を見いだせるようになるからだと考えられています。

任せられた仕事の中には、なぜ自分が取り組まなければならないのか、その目的を理解するのが難しいものがあるかもしれません。その場合、自分で考えることに加え、上司に相談して、目的やスケジュールを組み立てる際の難所などについて確認しましょう。上司はより高い視点から仕事を捉えているため、気付きを得られるはずです。

また、上司はスケジュール管理を教えるということにとどまらず、部下により多くの経験を積ませるようにします。経験に基づく広い視点は、計画倒れにならないスケジュール管理につながるでしょう。

一方、先延ばしには、悪い効果だけでなく、良い効果もあると説く人もいます。例えば、アイデアを出すといったような、創造性を発揮する類いの仕事の場合、先延ばしによってアイデアの質を高めることができるとの研究もあるようです。

しかし、単に先延ばしをするのではなく、「3時間後に、アイデア出しの時間をつくる」といったように、課題を認識した上で、一旦その仕事から離れて、息抜きをするなど他のことをするのが効果的だとされています。

【参考文献】

(*)「ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか」(ピアーズ・スティール(著)、池村千秋(訳)、阪急コミュニケーションズ、2012年7月)
「予想どおりに不合理 行動経済学が明かす『あなたがそれを選ぶわけ』」(ハヤカワ文庫 NF)(ダン・アリエリー(著)、熊谷淳子(訳)、早川書房、2013年8月)
「DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューオンライン(2017年10月31日)」(ダイヤモンド社、2017年10月)

以上(2020年10月)

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もし社員がユニオンに駆け込んだら?

書いてあること

  • 主な読者:「合同労働組合」(以下「ユニオン」)から団体交渉の申し入れがあった際、落ち着いて対応したい経営者
  • 課題:中小企業の多くは労働組合を持たないため、団体交渉に不慣れである
  • 解決策:専門家(弁護士や社会保険労務士)に交渉のポイントをヒアリングする

労働者が労働組合を結成し、労働条件の改善などを求めて使用者側と交渉を行うことを「団体交渉」といいます。「ウチには労働組合がないから、団体交渉とは無縁だ」と思ったら大間違いです。「ユニオン」といって、所属する企業に関係なく、個人単位で加入できる労働組合があるのです。

解雇、ハラスメント、賃金未払いなどの労働トラブルが発生すると、中小企業の社員がユニオンに駆け込み、そのユニオンが団体交渉という形で、企業に対し解雇の撤回などを求めてくることがあります。中小企業の経営者は、団体交渉に不慣れかもしれません。そこで、本稿ではユニオンから団体交渉の申し入れが来たときの対応のポイントを紹介します。

Q1 そもそもユニオンって何?

企業ごとに組織され、その企業の社員のみを組合員とする労働組合を「企業別労働組合」と呼びます。大企業で組織されることがほとんどで、中小企業で組織されることは少ないです。ユニオンは、こうした企業別労働組合を持たない中小企業の社員などが、所属する企業に関係なく、個人単位で加入できる労働組合です。

ユニオンの種類はさまざまで、全国規模で活動し、業種や雇用形態に関係なく加入できるものもあれば、特定の地域のみで活動し、特定の業種や雇用形態(パート、派遣社員など)の社員のみが加入できるものもあります。

ユニオンは、企業別労働組合と同様、労働組合法に基づき、団体交渉などの組合活動を行います。団体交渉の内容は、解雇、ハラスメント、賃金未払いなどの労働トラブルに関するものが多く、賃上げなどの待遇改善に関するものは少ないようです。

Q2 なぜ今、ユニオンへの対応が必要なの?

新型コロナウイルス感染症の影響で解雇や雇止めをされた労働者は増え続けており、2020年9月11日現在で累計5万4817人(見込み数を含む)に上ります。社員も、万が一解雇や雇止めをされたときのために情報を集めており、その過程でユニオンに行き当たる可能性があります。特に昨今は、スマホから無料で相談できるオンライン形式のユニオンなどが登場しており、相談のハードルが下がってきています。

解雇や雇止めが現状発生していないという企業も油断はできません。例えば、感染対策としてリモートワークを実施している企業では、労働時間を把握しにくいために賃金未払いが発生することがあります。リモートワークの“過渡期”は我慢していた社員も、いつまでたっても状況が改善されないようであれば、ユニオンに駆け込むかもしれません。

Q3 どうして社員はユニオンに駆け込むの?

一般的には、企業の処分(解雇など)や対応(ハラスメントの相談に応じてくれないなど)に不満のある社員が、「企業と直接話し合ってもらちが明かない」と、ユニオンに駆け込みます。

ユニオンの中には、担当する団体交渉の内容や実際の活動報告を組合ウェブサイトなどに掲載しているところがあり、労働トラブルに悩む中小企業の社員などは、こうした媒体を通じてユニオンに相談に行き、加入しているようです。

また、ユニオンに加入するには、組合費(月額数百円から数千円程度)を定期的に支払う必要があります。弁護士に依頼するよりも廉価に労働トラブルを解決できる可能性があるため、収入面に不安のある社員などが、弁護士の代わりにユニオンを頼るケースがあります。

この他、経営者に近い地位にいる管理職などが経営者とトラブルになり、社内に相談できる人間がいないために、ユニオンに加入するケースもあります(管理職向けのユニオンも存在します)。

Q4 ユニオンから団体交渉の申し入れがあったら?

社員がユニオンに加入すると、社員から事情を聞いたユニオンから企業に対し、「団体交渉申入書」が送付されます。通常は郵送やFAXで送付されてきますが、企業の交渉窓口担当者宛てに「団体交渉申入書」を添付したメールが送られてくるケースもあるようです。

団体交渉申入書の書式はユニオンによって異なりますが、その内容はおおむね次の通りです。

  • 団体交渉の日時・場所(企業側で決定するよう求められることもあります)
  • 要求内容(解雇の撤回、ハラスメントへの補償、未払い賃金の支払いなど)
  • ユニオンの連絡先
  • 回答の期限

企業は正当な理由なく団体交渉を拒否することができません。例えば、「団体交渉申入書が届いていることを知りながら放置する」ことは許されません。

団体交渉申入書が企業に届いたら、まず回答の期限を確認します。期限は「団体交渉申入書の到着から7〜10日程度」など、短いのが通常です。団体交渉に臨む前に、要求内容に関連する書類を集めるなどの事前準備が必要なため、次はユニオンに回答の期限の延長を依頼します。

具体的には、「回答書」という書面(書式は任意)で「期限までに回答することが難しい」ことをユニオンに伝えます。要求内容によって、団体交渉の事前準備にかかる時間が異なるため、「いつまでに回答するか」は具体的に記載せず、「めどが立ち次第、回答する」程度にとどめておくのが無難です。

回答の期限の延長を依頼したら、次のようにユニオンの要求内容に関連する書類を集めます。

  • 解雇:解雇理由証明書、就業規則(解雇事由に関する部分)のコピーなど
  • ハラスメント:ハラスメントの事実確認を行っている場合、記録のコピーなど
  • 賃金未払い:賃金台帳、タイムカードのコピーなど

上の書類は一例であり、労働トラブルの内容によって必要な書類が異なります。実務では、弁護士や社会保険労務士などの専門家に、必要な書類について相談するのが無難です。書類集めが終了し、団体交渉の準備が整ったら、再度回答書を作成し、団体交渉の日時・場所などをユニオンに連絡します。

Q5 団体交渉の日時・場所などはどうする?

団体交渉申入書には、団体交渉の日時・場所が記載されていることがありますが、企業には、団体交渉申入書の内容に従う義務まではありません。また最近は、日時・場所について、企業側で決定するよう求めてくるユニオンも多いようです。そこで、回答書に記載する団体交渉の日時・場所などのポイントを見ていきましょう。

1)日時

日時については、要求内容に関連する資料など団体交渉の準備が整っており、同席を求める場合は、弁護士や社会保険労務士などの専門家の都合のよい日程を選択するのがよいでしょう。

2)場所

場所については、外部の貸し会議室などを選択する企業が多いようです。企業のオフィスやユニオンの組合事務所を選択すると、いつまでも交渉が終わらないケースがありますが、外部の貸し会議室であれば、交渉の時間を区切ることができるからです。貸し会議室の利用料は、企業負担となることが多いようです。

なお、最近では、新型コロナウイルス感染症予防の観点から、貸し会議室などを利用せず、チャットツールなどを使ってオンラインで団体交渉を行うケースも少なくありません。

3)出席者

出席者については、経営者のように、ユニオンの要求内容に関する決定権限を持つ人が出席しないようにします。団体交渉の場で、要求内容の即時決定を求められないようにするためです。交渉役として適任なのは、人事労務担当者など、事情を理解していて交渉を進める能力はあるが、要求内容に関する決定権限を持たない人です。

また、交渉は2人以上で臨み、1人が交渉役、1人が書記を担当し、交渉役が話し合いに集中できるようにします。交渉に不安がある場合は、弁護士や社会保険労務士などの専門家に同席してもらうのもよいでしょう。

ただし、弁護士以外の専門家が企業に代わって交渉を行うことは非弁行為に当たるため、社会保険労務士などがユニオンと交渉することはできません。社会保険労務士などが同席する場合、受けられるサポートは企業の担当者への指導・アドバイス、情報提供などに限定されます。

Q6 団体交渉の流れは?

団体交渉当日、交渉役は団体交渉申入書のコピー(またはユニオンの要求内容が分かるもの)、要求内容の関連書類を持参します。この他の書類として、ユニオンから事前に就業規則のコピーなどを持ってくるよう求められる場合がありますが、直ちに応じる義務はないため、弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談して対応を決めましょう。

団体交渉には、企業とユニオンが事前に選出した人間が出席します。なお、ユニオン側はユニオンの交渉役と、社員本人が出席するのが通常です。

団体交渉は1回で終了することもありますが、企業もユニオンの要求全てに同意できるわけではないため、通常は何回か交渉を重ねて落としどころを見つけることになります。

例えばハラスメントの場合、ユニオンから企業に対して、社員に対する謝罪を求める傾向があります。しかし、ハラスメントに該当するかの法的判断は難しいものです。ここで安易に謝罪してしまうと、ユニオンは「企業がハラスメントを認めた」ことを活動報告などで発表するため、企業のイメージ失墜につながる恐れがあります。

一概には言えませんが、ハラスメントに当たるかが法的に明らかでない場合などは、「意図せず社員を傷つけた」という理由で、金銭を支払って決着させるのが妥当なケースもあります。

交渉のポイントは、企業がある程度ユニオンに歩み寄る姿勢です。例えば、交渉が何回目かに及んだ段階で、可能な範囲でユニオンの要求に応じる姿勢を見せると、ユニオンもある程度譲歩してくれることがあります。落としどころが見つかれば、団体交渉は終了し、企業は交渉結果の内容に基づく対応(上のハラスメントの例であれば、金銭の支払いなど)を取ります。

一方、何度交渉を重ねても、企業とユニオンの主張が相いれなければ団体交渉は打ち切りとなります。その後は労働審判や訴訟に移行することがあります。ただし、労働審判や訴訟に移行すると、ユニオンは労働トラブルに介入できなくなるため、できる限り団体交渉を継続しようとするユニオンも少なくありません。

Q7 団体交渉などでのNG行動は?

団体交渉で注意すべきなのは、ユニオンが労働協約(労働条件などについて、労働組合と使用者との間で締結する書面の協定)への署名を求めてきた場合です。「労働協約」と書かれておらず、「協定書」「合意書」「議事録」などの名称でも、企業とユニオンの双方の署名があれば、労働協約として成立し得ます。

問題なのは、労働協約の内容が労働条件になってしまうことです。労働協約に定める労働条件などに違反する労働契約は、その部分について無効となり、労働協約の基準が適用されます。労働協約の基準が適用されるのは、そのユニオンに加入している社員のみですが、仮にユニオンに自社の他の社員が加入すれば、その社員も適用対象となるのです。

もちろん、労働協約の内容が、企業とユニオンが合意した内容であれば問題ありません。しかし、例えば団体交渉の途中などで安易に労働協約に署名してしまうと、労働条件などが企業の意図しないものになってしまう恐れがあります。

この他、ユニオンに駆け込んだ社員への接触にも注意しましょう。社員にユニオンからの脱退を促すことは、不当労働行為となります。直接脱退を促さなくても、ユニオンの目の届かないところで「会って話をしよう」などと持ちかけると、不当労働行為を疑われる恐れがあるので、業務上必要な場合などを除き、当該社員への接触は避けたほうが無難です。

以上(2020年10月)
(監修 弁護士 田島直明)

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セールス時に要注意。消費者への説明義務は守っていますか?

書いてあること

  • 主な読者:BtoC、消費者相手のビジネスを展開する企業
  • 課題:消費者契約法の改正が頻繁に行われており、改正内容を十分にフォローできていない
  • 解決策:契約の取り消しに関する規定が強化される流れ。特に「過量契約の取り消し」「不実告知の契約取り消しにおける重要事項」の2つを押さえておく

1 見直しが進む消費者契約法

消費者契約法とは、消費者を保護すべく、不当な勧誘による契約の取り消しと不当な契約条項の無効等を規定している法律です。近時の改正で重要なのは2017年6月から適用された、「過量契約の取り消しの新設」「不実告知の契約取り消しにおける重要事項の拡大」の2つです。これらの概要と事業者の対応方法を紹介します。

なお、消費者契約法は2019年6月にも改正が行われていますが、基本的には2017年6月施行の改正法と同様に、不当な勧誘行為等をする悪質な事業者に対する規制を、より強化する方向の見直しです。この改正については、巻末で紹介していますので、併せてご確認ください。

2 過量契約の取り消し

1)過量契約とは

過量契約とは、「消費者が事業者から受ける物品、権利、役務などが、当該消費者にとっての通常の分量、回数、期間(以下「分量等」)を著しく超える」ケースを指します。取り消しの対象となる過量契約は、次のような場合です。

1つは、一度に大量の商品を販売する場合です。1回の販売における分量等が、消費者にとっての通常の分量等を著しく超えると過量契約になります(消費者契約法4条4項前段)。

  • 例:独居の高齢者であることを知っていながら、1人では消化することができない量の食品を販売するなど

もう1つは、同じような種類の商品を繰り返し販売する、いわゆる「次々販売」の場合です。過去に販売した分量等の合計が、消費者にとっての通常の分量等を著しく超えると過量契約になります(消費者契約法4条4項後段)。

  • 例:社交の場にほとんど出ない高齢者に、同じような種類の服を次々に販売するなど

2)事業者が勧誘の際に過量契約であることを知っていたかがポイント

過量契約の取り消しが認められるためには、「事業者が勧誘の際に過量契約に該当することを知っていたこと」が要件とされています。過量契約の取り消しは、合理的な判断をすることができない事情がある消費者に対し、その事情につけ込んで契約を締結させるという、事業者の行為の悪質性に着目したものです。そもそも事業者が過量契約であることを知らなければ、事業者の行為に取り消しを認めるまでの悪質性はないといえます。

例えば、消費者が自らレジに商品を持ってきた場合や、インターネットやテレビショッピングで購入した場合などについては、事業者は注文を受け付けただけで勧誘を行っていないため、過量契約にはならないことが多いといえます。

また、事業者が消費者の生活の状況など(独居であること、認知症であることなど)を把握しておらず、過量契約となることを知り得ない場合も過量契約にはなりません。なお、事業者に消費者の生活状況などを調査する義務はありません。

3)過量契約か否かを判断する際の視点

1.内容(性質、性能、大きさ、用途など)

例えば、生鮮食品のようにすぐに消費が必要なものは、缶詰のように比較的長期間の保存が前提とされるものと比べて、過量契約になりやすい傾向があります。

2.取引条件(価格、景品類提供の有無など)

例えば、何十万円もする高価品は、100円の商品と比べて、当該消費者にとっての通常必要とされる分量等が少なくなり、過量契約になりやすい傾向があります。

3.消費者の生活の状況(職業、世帯構成、交友関係、趣味嗜好等)

例えば、独居の消費者の場合、通常必要とされる分量等が少なくなり、過量契約になりやすい傾向があります。ただし、友人が遊びに来るなどの一時的な事情で大量購入をする場合もあるため、個別具体的な検討が必要になります。

4.消費者の認識

例えば、消費者が1カ月後の友人の来訪予定を翌日と勘違いして大量の食品を購入した場合などは、過量契約にはならないと考えられます。

ただし、その消費者が認知症などで合理的な判断ができず、来訪予定を誤認していることを事業者が客観的に分かっているような場合には、過量契約になると考えられます。

4)過量契約にならないよう事業者は何をすべきか?

誠実な企業活動をしている事業者が過敏になる必要はないでしょう。前述したように、過量契約の取り消しは、高齢者など合理的な判断ができない消費者につけ込む、事業者の行為の悪質性に着目して設けられた規定だからです。

過量販売規制の対応として、事業者は、取扱商品の内容や取引条件、ターゲットとなる消費者の特徴を社内で共有するようにしましょう。その上で、過去の販売実績と比べて明らかに販売量が多いケースでは、消費者に事情を確認する、現場の営業担当者が独断せずに必ず上司に相談するなどの方法で対応します。

3 不実告知の契約取り消しにおける重要事項

1)不実告知の重要事項とは

不実告知とは、事業者が消費者に対し、重要事項について、事実と異なることを告げることです。不実告知の「重要事項」の範囲は、次の通りです(消費者契約法4条1項1号)。

  • 物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容、および対価その他の取引条件であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの(消費者契約法4条5項1号及び2号)
  • 当該消費者契約の目的となるものが当該消費者の生命、身体、財産その他の重要な利益についての損害又は危険を回避するために通常必要であると判断される事情(消費者契約法4条5項3号)

2)不実告知となるケース

例えば、事業者が事実に反して、「(実際はシロアリがいないにもかかわらず)床下にシロアリがいて家が倒壊する恐れがある」として、リフォームをしたほうがよいと勧誘し、消費者とリフォーム契約を締結したとします。

「床下にシロアリがいる」ことは家が倒壊する恐れがあるので、「消費者の生命、身体、財産その他の重要な利益に対する損害や危険を回避するために必要な情報」といえます。この例のように、そうした事実がない場合、消費者は不実告知を理由に契約を取り消すことができます。

なお、不実告知は、それが故意であるか過失であるかを問いません。上の事例であれば、事業者が「床下にシロアリがいる」と勘違いして消費者にリフォームを勧めた場合でも、実際シロアリがいなければ不実告知になります。

3)重要事項を告知しなかった場合

事業者が、消費者の不利益となる事実について、偽るのではなく、あえて秘匿して告げなかった場合はどうなるのでしょうか。この場合は、消費者契約法の「不利益事実の不告知」に該当します(消費者契約法4条2項)。

不利益事実の不告知とは、事業者が消費者に対し、重要事項について利益となることだけを告げ、不利益になることを故意又は重大な過失によって伝えないことです。

例えば、事業者が「眺望・日当たりの良いマンション」の賃貸契約を消費者と締結する際に、「近い将来、眺望・日当たりを阻害する大きな建物が建つ」という情報を知っているにもかかわらず、あえて秘匿した場合、不利益事実の不告知となります。

ただし、不実告知の場合と異なり、不利益事実の不告知は、事業者が消費者の不利益となる事実について知らなかったために消費者に情報が伝わらなかった場合は、事業者に重大な過失があった場合を除き、契約の取り消しの対象とはなりません。すなわち事業者の故意又は重大な過失があったかどうかがポイントです。

また、不利益事実の不告知の場合、重要事項の範囲は「物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容、及び対価その他の取引条件であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの」に限られます。「当該消費者契約の目的となるものが当該消費者の生命、身体、財産その他の重要な利益についての損害または危険を回避するために通常必要であると判断される事情」が重要事項に含まれない点も、不実告知とは異なります。

4)不実告知にならないように企業は何をすべきか?

事業者が悪意なく不実告知をしてしまう恐れがあるケースとして、次の2つが考えられます。

1つは、成果を上げたい営業担当者が、ついつい自社にとって都合の良い方便を言ってしまうケースです。

もう1つは、経験の浅い営業担当者が自社の商品やサービスの内容、契約内容等について事実誤認をしているケースです。

いずれにしても、事実とは異なる情報や誇張された情報を消費者に伝えて勧誘することは、正しい企業活動とはいえませんし、企業のレピュテーションを下げる行為にすぎず、長期的な視点から見ても、企業にとってメリットはありません。営業担当者に対する再教育や情報提供を行う必要があります。

なお、「消費者の生命、身体、財産その他の重要な利益に対する損害または危険を回避するために必要な情報」に明らかに該当しない、ちょっとした社交辞令などは問題なく、むしろ消費者との関係構築に必要な場合もあります。ただし、そうした社交辞令などであっても、それをどのように受け取るかは消費者次第です。無用なトラブルを避けるためにも、適切な営業活動を心掛けることが大切だといえるでしょう。

4 2019年6月施行の改正内容

2019年6月の改正は大幅な改正点が盛り込まれたわけではありません。基本的には、不当な勧誘行為等をする悪質な事業者に対しての規制を、より強化する方向の見直しが行われました。

2019年6月の改正では、実際の被害事例などを踏まえています。また、2022年4月より民法が改正され、成年年齢が引き下げられます。これまで未成年者取消権で保護されていた18歳、19歳の若者が保護の対象から外れることになるため、消費者契約などの被害が拡大することが懸念されていることも踏まえて、次の内容が盛り込まれました。

  • 「不安をあおる告知」など取り消しうる不当な勧誘行為の追加
    例:就活中の学生の不安を知りつつ、「このままでは一生成功しない、この就職セミナーが必要」と告げ勧誘
  • 「事業者が自分の責任を自ら決める条項」など無効となる不当な契約条項の追加
    例:当社が過失のあることを認めた場合に限り、当社は損害賠償責任を負う
  • 「解釈に疑義が生じない明確で平易な条項の作成」などの事業者の努力義務の明示

以上(2020年10月)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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オンライン時代でも必要な「読書」による社員教育

書いてあること

  • 主な読者:社員に読書の習慣を身に付けてほしい経営者
  • 課題:オンラインでの情報収集がメインになり、社員が読書に意義を見いだせない
  • 解決策:「考える力」を育てるには、読書が必要不可欠であることを伝える。読書の習慣がない社員のために、定期的に読書会を実施する

文化庁「平成30年度『国語に関する世論調査』」によると、全国16歳以上の男女の47.3%が、1カ月に1冊も本を読まないとされています。経営者の中にも、「ウチの社員は全然本を読まない」と歯がゆく思っている人がいるでしょう。

一方、オンラインでの情報収集に慣れている社員は、「本当に読書なんて必要なの?」と疑問に思っているかもしれません。インターネットで検索したり、動画で配信されるオンライン講義を視聴したりすれば、本を読むよりも簡単に情報が手に入るからです。オンライン時代に読書はいらないのでしょうか? このことについて、本稿で考えていきたいと思います。

1 読書は「考える力」を育てるためのもの

読書とオンラインでの情報収集の違いのイメージは次の通りです。注目したいのは「学習に対する姿勢」です。

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例えば、インターネット検索の場合、誰にでも分かりやすい平易な文章で書かれたコンテンツが検索上位に来る傾向にあります。また、オンライン講義の場合、文字だけでなく、映像や音声も交えて講義が行われるため、理解がしやすくなっています。

しかし、その分、学習に対する姿勢は受動的になりがちです。つまり、知りたいことについての答えが簡単に与えられるため、「考える力」が育ちにくくなります。

一方、読書の場合、1回読めば理解できる簡単なものもありますが、オンラインのコンテンツに比べて文章が難解だったり、著者自身の思想が多分に含まれていたりして、理解するのに時間がかかることが少なくありません。

しかし、その分、「この言葉はどういう意味だろう」「著者はどういう経緯でこの思想に至ったのだろう」など疑問を持つ機会が増えるため、学習に対する姿勢は能動的になります。つまり、知りたいことについての答えを自分なりに探そうとするようになるため、「考える力」が育ちます。

2 社員に読書を習慣付ける読書会とは?

本来、読書は自主的に行うものですが、読書の習慣がない社員は、なかなか自ら本に当たろうとしません。そこで、社員が積極的に本を読むようになる仕組みをつくることが重要になります。

そのための1つの方法が「読書会」です。これは、あらかじめ課題図書として設定された本などについて、社員が各自の意見を発表したり討論したりする会です。事前に本を読んでこなければ、意見発表も討論もできないため、読書会を定期的に実施することで、普段本を読まない社員にも、読書の習慣が付くことが期待できます。

読書会の進め方は、おおむね次の通りです。

  • 各自で課題図書を読む
  • 本の要点や意見をA4用紙1枚程度に文書化する
  • グループを組んで自分の意見を発表し、それを参加者同士で討論する
  • 各自の意見を調整し、実務に即してまとめ直し、会社としての意見統一を図る
  • 実務に即してまとめ直された情報を共有する

参加者は4~5人で1つのグループを組みます。また、各自の意見を発表したり討論したりするための所要時間は、30分~1時間程度とします。

3 読書会の流れ

1)課題図書の選定

読書会の題材とする本は、次の基準によって経営者が選定するとよいでしょう。

  • 自社の業界や職種に関連したもの
  • 実務に活かせるヒントがあるもの

このような基準であれば、一般的なビジネス書から自己啓発系の本まで、幅広い分野から自由に選定できます。最初は簡易な本から始めても構いませんが、前述の通り、社員に「考える力」を身に付けさせることが目的なので、徐々に理解が難しい本なども取り入れていくとよいでしょう。

なお、読書会は社内研修の一環として行うため、題材とする本は会社の経費で購入します。

2)本の要点や意見を文書化する

各社員は、読書会開催前に、本の要点や意見を文書化します。文章量は1000文字程度がよいでしょう。本には重要なポイントとなる「キーワード」や「特定のセンテンス」があるので、これらを用いて文章を作成し、さらに文章量を最小限まで削ることで、その本の内容がより分かりやすくなります。

キーワードや特定のセンテンスは、その本を理解する上での「要」ともいえるものですので、本文中でも頻繁に使用されます。従って、キーワードや特定のセンテンスを見つけるためには、「よく出てくる言葉やセンテンス」に注目するとよいでしょう。

なお、鉛筆やマーカーペンなどを用いて、文章のポイントと思われるキーワードに印を付けたり、特定のセンテンスを意味別に色分けしたりすると、文章の構成や流れが分かりやすくなります。

3)討論会を行う

各自がまとめた要点や意見(A4用紙1枚程度)を他の参加者と共有します。それぞれを読み比べてみると、「自分が重要だとして取り上げた点を、他の参加者は取り上げていなかった」「自分が取り上げなかった点を、他の参加者は重要だとして取り上げていた」「他の参加者と同じ点を重要だとして取り上げたが、その理由が異なっていた」など、さまざまな気付きがあるでしょう。

これらの点について話し合うことで、例えば、「ポイントとなるキーワードを見落としていた」「ポイントとなる特定のセンテンスを読み違えていた」「文章の構成を読み違えていた」といったことが分かります。

次に「本の要点を、具体的にどのように実務に活用するか」について討論します。例えば「製造業における業務改善」という本を題材とした場合、自社が小売業であれば、その内容をそのまま実務に活用することは困難です。

そこで、本の内容のポイントとなるキーワードや特定のセンテンスを抽出して、自社の状況に当てはめて考えることが必要です。例えば、上記の「製造業における業務改善」を小売業の読書会で取り上げる場合、「セル生産方式」についての内容から「作業の習熟化」というポイントを抽出し、そのポイントを「小売業の人材育成」に活用する方法を検討するという流れが考えられます。

その際、参加者との意見調整や本の要点を実務に活用するためには、論理的思考力によって導かれた工夫と、それを伝えるコミュニケーション力が求められます。こうしたこともビジネスパーソンに必要とされる能力の強化に役立ちます。

4)フィードバックする

前述した「製造業における業務改善」のポイントを小売業が実務に活用してみたところ、不具合が出てきたとします。その場合は、実務に即した形にまとめ直し、再度実務に活用してみる必要があります。このように、絶えず「知識」と「経験」をフィードバックすることにより、社員の読書会の効果はさらに高まります。

以上(2020年10月)

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オンラインも踏まえたお客様の「生の声」の活かし方

書いてあること

  • 主な読者:商品開発や営業活動に悩む担当者を中心とした、幅広いビジネスパーソン
  • 課題:「お客様の声」を聞けていない。聞けてもどう活かすかイメージができない
  • 解決策:まず、基本的な活かし方「お客様のニーズ把握」「社員の誇り」「会社の未来」の3つを実践する

1 お客様の「生の声」は、集められても活かせない?

どのような商品・サービスにも、使ってくださるお客様がいます。企業は、良い意見も悪い意見も、お客様の「生の声」(お客様自身の声)を大事にしなければなりません。とはいえ、アンケートやヒアリングなどで「生の声」を知っても、それを活かせていない企業も多いのではないでしょうか。

そこで本稿では、基本的で分かりやすい「生の声」の3つの活かし方、「お客様のニーズ把握」「社員の誇り」「会社の未来」をご紹介します。どれも目新しいことではありませんが、改めて「なぜお客様の生の声を聞くのか」について、考えてみることができるでしょう。

なお、本稿でいう「生の声」は、直接会って話すことに加え、電話、メール、アンケート、オンラインミーティングなども含みます。本稿の後半で、お客様から「生の声」をいただく際のポイントもまとめていますので、御社の日ごろの活動にお役立てください。

2 「生の声」の3つの活かし方

1)お客様のニーズ把握

ここでは、お客様からいただいた「生の声」の活かし方を考えます。まず、第一に、「生の声」で、お客様のニーズを把握することができます。お客様と接する機会をたくさんつくれば、お客様の発する言葉、思い、好き(嫌い)などを共有できます。

実際に、あるサービス業では、お客様にインタビューをしたおかげで、なぜ自分たちのサービスを導入してくださったのかという思いや、お客様の仕事に対する情熱などが初めて分かりました。その後、社員たちはお客様のことを積極的に知ろうとするようになりました。

こうしてお客様の思いを知ることができるようになれば、会話の中で、お客様自身も気付いていなかったニーズが明らかになるかもしれません。それに対応してお客様に喜んでいただくことができれば、これほどうれしいことはないでしょう。

2)社員の誇り

どのような社員も、直接お客様から「ありがとう。これがとても役に立ったよ」と言われたら、うれしく感じるものです。また、逆に直接お叱りを受けたら、「申し訳ない、二度とこういうことをしてはいけない」と実感することができます。

つまり、お客様の「生の声」はある意味、経営者や上司の言葉より、ずっと社員の心に響くのです。実際にある製薬会社では、営業以外の社員が直接お客様と話す機会をつくったことで、自分たちの仕事の意義が感じられ、とても喜んだといいます。

社員に喜びと誇りを感じてもらうには、お客様とたくさん接することが一番です。そして、社員一人ひとりがいただいたお客様からの「生の声」を、多くの社員の目に触れるよう、社内で共有することも大切です。

お客様から言われてうれしかったことを朝礼で発表したり、社内報や社内ブログなどで紹介したりするのもよいでしょう。こうして、社員一人ひとりが、お客様から「生の声」をいただくことを誇りに思える風土づくりも欠かせません。今日からやってみましょう。

3)会社の未来

お客様からの「生の声」を常に確認していれば、それは、次のビジネスのヒントにもなります。実際に、お客様に「商品への不満足」などをヒアリングした結果を活かしてPB(プライベートブランド)商品を開発し、ヒットさせているオフィス用品メーカーもあります。

また、お客様からの「生の声」を、会社のウェブサイトやSNSなどで社外に向けて発信するのもよいでしょう。会社として大切にしているのは、お客様からの「生の声」と、それを誇りに思っている社員たちであることを、感謝とともに広く伝えるのです。

時には、「会社として大切にしていること」に賛同した人が、一緒に働きたいと言ってくれるかもしれません。このように、お客様からの「生の声」は、ビジネスのヒントや賛同してくれる人が見つかるなど、会社の未来につながる可能性を秘めています。

3 「生の声」をいただく際に実践したい6つのポイント

お客様から「生の声」をいただくときは、どうすればお客様が「生の声」を発しやすくなるかを考えることが大切です。中には、新型コロナウイルス感染症の予防のため、「対面じゃなくオンラインのほうがいい」というお客様もいるかもしれません。そうしたお客様には、安心して話せる環境づくりも重要です。ここでは、そうしたポイントを6つに分けてご紹介します。

1)準備をする

質問の項目などをあらかじめ決めておく他、お客様のことや、自分たち自身のことについてもしっかり予習しておきましょう。その際には、3C(Customer、Competitor、Company)の視点が参考になります。お客様にとっての顧客と競合、自分たちの競合、商品・サービスなどの状況を確認しておきます。

また、SNSなどでお客様が最近関心のありそうなこともチェックしておけば、アイスブレイクや質問などに使えます。話の主役はあくまでもお客様です。お客様が話してくださったことを深掘りする質問をするためにも、しっかりとした下準備が必要です。

2)雰囲気をつくる

「生の声」をいただくときは、何よりも、お客様が話しやすい雰囲気づくりが大切です。常に、「どうすればお客様が気持ち良く話ができるか」という視点で考えましょう。時に笑い、手をたたくなど、お客様の話にリアクションするのは、まず基本です。

また、関係性や状況にもよりますが、お客様のほうが緊張していたり、構えていたりする場合があります。服装や持ち物、最近の出来事など、お客様が軽いトーンで話ができそうな話題でアイスブレイクし、場をリラックスさせるのも一策です。

3)趣旨を伝える

お客様には、初めに趣旨をしっかりとお伝えしなければなりません。時間を割いてくださったことへのお礼とともに、「生の声」をいただくことで、今後もっとお客様の役に立てるようになりたいという目的を伝えましょう。

こうした前向きな趣旨をお伝えすれば、お客様も、自分(お客様)が言ったことが何につながるかが分かるので、日ごろ「もっとこうしてほしい」と思っていることや、至らない点(悪い点)を、より言いやすくなるかもしれません。

4)思いを聞く

「生の声」をいただくときは、商品・サービスの機能などのことだけでなく、できるだけ、お客様の思いを引き出したいものです。それが本当に「お客様のためになること」「お客様のニーズ」につながっていくからです。

そこで、「どのような思いで商品・サービスを導入してくださったのか」「日ごろ、どのようなことを考えて活用していただいているか」「お客様ご自身が実現したいことはどのようなことか」といったことを質問するようにしましょう。

5)継続する仕組みをつくる

お客様からいただいた「生の声」は、「いただきっぱなし」ではいけません。できるだけ対応を試み、実現を目指します。途中経過でもいいので、お客様にはいただいた「生の声」を、次にどのように活かそうとしているかをお知らせしましょう。

また、お客様から「生の声」をいただく取り組みは、「その後の報告」も含めて、実践し続け、バージョンアップし続けることが大切です。「月に一度は必ず『生の声』をいただく」など、定期的に継続する仕組みをつくりましょう。

6)オンラインなど非対面の選択肢も用意する

今どきは、ウェブ会議ツールを使ったオンラインミーティングなど、非対面でお客様から「生の声」をいただく用意も欠かせません。その際、お客様のご要望などによっては、事前にウェブ会議ツールを実際につないでリハーサルしてみるなどの準備が必要です。

また、オンラインミーティングでは、対面よりもリアクションを大きくすることを心掛けましょう。その他、背景をお客様ゆかりの土地の写真にする、質問項目が分かりやすいイラストを準備するなど、対面ではないオンラインだからこそ、細かい配慮が欠かせません。

以上(2020年10月)

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