【規程・文例集】「リコール対応に関する規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:最新法令に対応し、運営上で無理のない会社規程のひな型が欲しい経営者、実務担当者
  • 課題:法令改正へのキャッチアップが難しい。また、内規として運用してきたが法的に適切か判断が難しい
  • 解決策:弁護士や社会保険労務士、公認会計士などの専門家が監修したひな型を利用する

1 求められるリコールへの備え

安全な製品を供給することは企業の責務ですが、製品事故の発生を完全になくすことは難しいと言わざるを得ません。例えば、サプライチェーンが複雑化する中、完成品メーカーが気付かないうちに、サプライヤーが部品の材料や仕様を勝手に変えてしまう、いわゆる「サイレントチェンジ」が発生しており、経済産業省などが注意を促しています。また、足元では、一部の素材メーカーによる製品の品質データ改ざんが相次いで発覚し、問題となっています。

企業は日ごろから製品事故の発生を想定してリコール対応のための準備を行い、製品事故の発生またはその兆候を発見した段階で、迅速かつ的確なリコールを自主的に実施できるようにしておく必要があります。

準備を怠ると、リコール対応に長い時間がかかる上、結果的に「製品事故の発生を隠そうとした」と受け止められかねません。

消費者への人的危害が発生・拡大する可能性があることに気付きながらリコールなどの対応を行わず、死亡事故や火災など重大な被害を引き起こしてしまった場合、行政処分の対象となるばかりか、損害賠償責任や刑事責任を問われることになります。

訴訟に備える意味でも、企業には、迅速かつ的確なリコールを実施できる体制の整備が求められます。

リコールに備えるためには、あらかじめルールを定め、「消費者の安全確保」を重視する企業としての姿勢を従業員などが全員で共有することが不可欠です。その根拠となるのがリコール対応に関する規程です。以降では、経済産業省「消費生活用製品のリコールハンドブック2016」を基に、リコール対応に関する規程のひな型について紹介します。

2 リコール対応に関する規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【リコール対応に関する規程のひな型】

第1条(目的)
本規程は、製品の使用者の生命または身体への危害の拡大防止の観点から、事故発生に伴う使用者への危険や損害発生防止の際に、当該製品の点検・修理・回収等の事故対策を迅速、適切かつ効果的に行うための社内基準として定めるものである。

第2条(対象製品)
本規程の対象とする製品は、当社が取り扱う国内向けの製品とする。ただし、その他の製品についても、本規程に準じて適用するものとする。

第3条(用語の定義)
本規程において各用語の定義は、次に定めるところによる。
 1.事故
  製品の使用に伴い、人的危害を生じた事故および人的危害を生じる蓋然性の高い物的事故をいう。また、これらの製品事故(人的事故や火災等)の発生に結びつく恐れがある製品欠陥や不具合を事故等という。
 2.拡大
  同様の事象が複数発生することをいう。
 3.リコール
  製品の使用による事故発生の拡大可能性を最小限にするための対応であって、具体的には流通および販売段階からの回収並びに顧客の保有する製品の交換、改修(部品の交換、修理、適切な者による直接訪問での修理または点検を含む)または引き取りを実施することをいう。
 4.事故の発生を予見させる欠陥等の兆候に関する情報
  事故を発生させる蓋然性が高い欠陥に関する情報および欠陥か否かは明確に判別できないものの、同様の事故の発生を予見させる情報をいう。
 5.従業員等
  当社の役員および従業員をいう。

第4条(製品安全基本方針)
当社が製造・販売した全ての製品の安全性に対する消費者の信頼を確保することが当社の経営上の重要課題であるとの認識の下、次の通り、製品安全に関する基本方針を定め、誠実に製品安全の確保に努める。
 1.消費生活用製品安全法その他の製品安全に関する関係法令・各種基準等に定められた事項を遵守する。
 2.製品安全基本方針に基づき、品質保証体制をはじめとした組織構築を行い、継続的な改善を実施して「顧客視点」に基づいた「安全」「安心」の確保と維持に努める。
 3.製品安全管理について各事業部を横断的に統括する製品安全管理室を設置する。併せて各事業部内での品質保証体制および安全管理体制を構築する。製品の設計・製造・出荷の全ての段階において、常に適正な品質管理および安全管理を行い、その向上に努める。
 4.当社製品に係る事故について、その情報を顧客や販売会社、業界団体等から積極的に収集するとともに、製品の使用に伴うリスクの洗い出しを常に行い、そのリスクを評価し、その結果を製品の設計、部品、警告ラベル、取扱説明書にフィードバックするなど、継続的な製品安全の向上に努める。
 5.当社製品に関する不測の事故が発生した場合、直ちに原因究明を行い、安全上の問題があることが判明したときは、速やかに製品の回収、その他の危害の発生・拡大の防止措置を講じ、適切な情報提供方法を用いて迅速に消費者に告知する。
 6.製品安全に関する関係法令、各種基準等に関する社内研修を行い、製品安全に関する全社的な取り組みを継続的に行うとともに、関係法令遵守と製品安全の確保について周知徹底を図る。また、定期的な内部監査を実施し、製品安全管理に関する各種規程・手順等の遵守の状況の確認や適正な体制整備を行う。

第5条(製品安全責任者)
1)各部門長を、各部門における製品安全責任者とする。
2)各部門の製品安全責任者は、各担当部門における製品の安全性を確保するよう、従業員を指導・監督し、製品安全管理室と常に連絡を取るものとする。

第6条(原因究明)
1)当社製品に事故の発生または事故の発生を予見させる欠陥等の兆候を発見した場合、可能な限り速やかに問題の製品を入手し、事実関係を確実に把握する。
2)必要に応じて再現実験等の調査を実施し、原因の究明を行う。
3)当社内での原因の究明が困難な場合、製品の種類や事故の状況に応じ、公共または民間の適切な原因究明機関を利用し、原因の究明に努める。

第7条(被害想定)
事実関係に基づき人的危害の発生および拡大の可能性を検討し、被害を想定する。

第8条(リコール実施の判断)
1)消費者の安全確保の観点から、全ての事故および事故の発生を予見させる欠陥等の兆候に関する情報について、リコール実施の要否を検討する。
2)リコール実施の要否および方法は、製品安全管理室が原因究明や被害想定の結果を基に判定し、取締役会においてリコールを実施するか否かの判断と決定を行う。
3)リコール実施の判断は、消費者の利益を第一に考え、事故の拡大防止のため迅速かつ的確に対応するものとする。ただし、具体的な対応はリコールの他、使用方法等に関する注意喚起、原因が究明されるまでの製造、流通または販売の停止等の暫定的な対応の選択肢も考慮し、製品や事故状況に応じた最適な対応方法を決定する。
4)リコール実施を不要と判断した場合においては、事故が拡大する可能性がないか継続監視を行う。
5)継続監視の結果、リコール実施について再び審議が必要と判断した場合は、製品安全責任者による会合を招集し、事故情報の内容および分析結果を審議し、その内容および結果を取締役会に報告する。

第9条(リコール体制の確立)
1)リコール実施を決定した場合、直ちに製品安全管理室にリコール対策本部を設置する。
2)各関係部門の製品安全責任者をリコール対策本部のメンバーとして招集し、具体的なリコール計画の策定、実施を行う。
3)製品使用者等からの問い合わせに確実に対応するため、リコール対策本部の指揮下にリコール対応窓口を設置し、要員を配置する。

第10条(リコール計画の策定)
リコール実施を決定した場合、迅速かつ的確に事故の拡大を防止するため、リコール計画を策定する。リコール計画には次の事項を定める。
 1.目的
 2.リコールの種類
  ・製品の交換
  ・部品の交換
  ・修理
  ・点検
  ・引き取り(返金)
 3.具体的な目標
  ・リコール対象数
  ・リコール実施期間
 4.責任母体
  ・責任者
  ・対応組織と役割分担
 5.対象製品
  ・品名、型番、ロット番号、シリアル番号等
  ・稼働状況(販売台数、市場稼働台数、在庫台数等)
 6.情報提供方法
  ・記者発表実施の有無
  ・社告等の情報提供方法(媒体、時期、内容)
  ・社内外に対するリコール進捗状況の情報提供に関する透明性確保の方法
 7.製品使用者への対応
  ・既に被害が発生している場合、当該被害者の救済方法を含めた対応方針
  ・まだ被害が発生していない場合、被害を予測した被害者への対応方針
 8.官公庁・公的機関への報告
 9.社内への情報伝達
  ・関係部門への連絡と主旨の徹底方法
  ・従業員等への伝達方法
 10.原因究明
  ・原因究明の結果
  ・実施状況(実施機関、時間的目標等)
  ・原因が部品供給会社等の関連会社製品にある場合の原因追究の範囲および方法等
 11.関係者からの意見聴取
  ・法的な責任の有無の確認
  ・将来的な信用や風評への対応方法等
 12.対策および再発防止策
  ・リコール実施状況のモニタリング・評価および見直し方法

第11条(販売会社等への事故対策協力要請)
リコール実施に先立ち、対象製品を供給した販売会社、委託等により対象製品の設置・修理を行っている設置・修理業者等に対し、事故対策の実施に関する連絡を行うとともに、対策の実施について協力を依頼するものとする。

第12条(関係機関等へのリコールの報告)
リコール実施を決定した場合、次の関係機関等に情報提供を行う。
 1.無用な混乱、誤った情報の流出を避けるため、従業員等に対し必要な情報提供を行う。
 2.製品使用者への対応を適切に行うため、販売会社等に対し必要な情報提供を行い、協力を要請する。
 3.関係行政機関等に対し、リコール実施前にリコール計画等を報告する。その際、報告先、書式は関係行政機関等の通達に基づく。
 4.第3号の報告は、業界団体および、関連会社が加盟している関連団体等に対し、必要に応じ速やかに行う。
 5.対象製品について、使用者団体や、常日ごろ情報提供等を行っている関連団体がある場合、これらの団体に対し情報提供を行い、協力を要請する。
 6.法的責任判断のため、弁護士に速やかに事実関係を報告する。
 7.迅速な被害者救済のため、保険会社に速やかに事実関係を報告する。
 8.必要に応じ新聞・テレビ等に情報提供を行い、協力を要請する。

第13条(リコール実施の製品使用者への通知方法・手段)
製品使用者への通知方法は次の通りとする。
 1.保守点検契約等により顧客名簿が作成され、対象製品の所在が特定される場合、ダイレクトメール、電話、FAX、Eメール、直接訪問等により、速やかに製品使用者に対し直接連絡し、通知を図る。
 2.製品使用者を確実に特定できない場合、ウェブサイト、新聞社告、記者発表等、最適な情報提供媒体を決定し、事故の重大性や緊急性によって複数の通知方法から効果的な方法を選択し、または組み合わせて、適宜に通知を図る。
 3.製品使用者に対し通知を図る際には、次の点を考慮する。
  ・高齢者を考慮した文字の大きさや分かりやすい表現方法を用いる。
  ・広告、宣伝と誤解されない体裁とする。
  ・リコール目標の達成まで継続的に実施する。
  ・通知方法、手段は最適な方法を模索し続ける。
  ・情報提供に際して、必要に応じ関係行政機関等と相談をして対応する。

第14条(リコール実施の製品使用者への通知内容)
製品使用者への通知内容は次の通りとし、簡潔かつ正確に記載する。
 1.会社名、製品名、機種名、モデル名
 2.事故の内容(現象、原因、過去の事故の件数および概要)
 3.危険性の有無と発生が予想される危害等の内容
 4.リコールの内容
  ・リコールの種類
 製品の交換、部品の交換、修理、点検、引き取り(返金)
  ・使用の中止
  ・製品使用者への依頼内容(連絡要請や着払いでの返送依頼)
  ・簡潔な謝辞
 5.製品の識別方法:名称、型番、シリアル番号、製造場所等
 6.対象製品の情報
  ・製品の製造(輸入)期間、販売期間、該当商品の販売台数、対象台数
  ・製品の型番、シリアル番号(表示箇所の写真やイラストによる説明)
  ・その他、製品を限定する情報(販売地域、販路経路等)
 7.対策の開始時期と未対策品の注意事項
 8.連絡先
  ・連絡先名(返送を依頼する場合は送付先名、住所)
  ・電話番号(フリーダイヤル)
  ・連絡可能曜日および時間帯
  ・FAX番号
  ・Eメールアドレス
  ・自社ホームページのアドレス
  ・連絡可能な問い合わせ事項の明示等
 9.日付(社告公表日)
 10.住所(本社所在地または顧客対応窓口)
 11.会社名(クレーム送付先または顧客対応窓口)

第15条(事故対策の公表)
1)製品使用者を確実に特定できない場合、適切かつ効果的な事故対応を行うために、事故対策内容を原則として記者発表等により公表する。
2)公表の時期は、切迫した危害等の恐れがある場合は、直ちに公表を行うものとする。切迫した危害等の恐れが少ない場合には、対策措置の諸準備を速やかに実施し、準備が整い次第直ちに行うものとする。
3)公表内容は第14条と同等の内容とする。

第16条(進捗状況の評価および修正)
1)策定したリコール計画通りにリコールが履行されているか否か、リコール対策本部において進捗状況を評価する。
2)リコールの進捗状況によって、逐次最適な対応方法の検討および修正を行う。リコール計画通りにリコールが進まない場合、製品使用者への通知方法・手段を再度検討する等、対応策を講じる。

第17条(対策状況の報告)
1)対策状況について、リコール計画の報告を行った関係機関等に対し報告を行う。
2)対策状況の報告は、リコール計画の報告後1カ月経過するごとに行うことを基本とし、報告先が報告頻度について特別の指示を行った場合には、それに従う。

第18条(教育等)
1)日ごろより、従業員等に対し、必要な教育・研修を実施し、消費者の安全確保の観点から企業の社会的責任の重要性を認識させるよう努める。
2)リコール完了後、リコール対策本部は、一連のリコール対応について記録をまとめ、関係機関等に報告を行う。また、一連のリコール対応で明らかになった問題点や課題を整理し、従業員等に周知する。
3)リコール対策本部は、前項の終了をもって解散できるものとする。

第19条(罰則)
従業員等が故意または重大な過失により、本規程に違反した場合、就業規則に照らして処分を決定する。

第20条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則
本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2018年11月)

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ヒューマンエラー対策の基本

書いてあること

  • 主な読者:「個人情報の漏洩」など、ヒューマンエラーによる事故の防止を図りたい経営者
  • 課題:ヒューマンエラー防止策を講じても、事故が発生することもある
  • 解決策:防止策を着実に実行させるために、社内にチェック機関を設け、定期的に内部監査をすることが効果的

1 ヒューマンエラーの脅威

十分な対策を講じていても、事故発生のリスクは常にあります。その原因はさまざまで、「ヒューマンエラー(人間の誤認識や誤動作によって引き起こされるミス)」もその1つです。

「個人情報の漏洩」など、ヒューマンエラーによる事故はさまざまな分野で起こり得ます。これらの事故は、「信頼の失墜」「多額の賠償責任の発生」「顧客の安全性の損失」など、取り返しのつかない大きな損害を顧客や企業に与える恐れがあります。

IT化の進展でヒューマンエラーは起こりやすくなり、また想定される被害も大きなものになっています。企業は、日ごろからヒューマンエラーに対する適切な対応をしなければなりません。

2 ヒューマンエラーの類型と対策

1)情報処理のプロセスは3つ

人間による情報処理のプロセスは、「1.入力のプロセス(情報を自身の中に取り込むプロセス)」「2.媒介のプロセス(取り込んだ情報を判断するプロセス)」「3.出力のプロセス(判断に基づいて行動を決定、実行するプロセス)」の3つです。

ヒューマンエラーは、この全てのプロセスで発生する可能性があります。また、各プロセスで生じた個々のエラーは軽微でも、一連の情報処理のプロセスの中でそれらが連鎖することにより、より大きな事故を発生させる恐れがあります。

2)入力エラー

情報を入力するプロセスで発生するエラーです。集中力の欠如、見落とし、見間違い、聞き間違いなどにより、情報を正しく知覚・認知できないことをいいます。例としては、「数字の入力ミス」などがあります。

入力エラーを防止するために、指さし確認を行う、複数の担当者が読み合わせを行うなどの対策が効果的です。また、作業と作業の間に休憩時間を設けたり、集中力の高い朝に間違いやすい業務を行ったりします。

3)媒介エラー

情報を媒介するプロセスで発生するエラーです。油断、誤った知識、経験への依存などにより、情報を正しく判断・決定できないことをいいます。例としては、「正しいはずだという思い込みにより、誤った数字のまま次工程に進める」ことなどがあります。

媒介エラーを防止するために、上司が定期的にチェックして間違いを修正したり、勉強会を行って正しい知識を習得できる機会を設けます。また、マニュアルを作成し、業務や確認事項の統一化を図るなどします。

4)出力エラー

行動を出力するプロセスで発生するエラーです。やり忘れ、やり間違い、勘違いなどにより、作業を計画通りに正しく実行できないことをいいます。例としては、「数字の最終チェックを忘れてしまう」ことなどがあります。

出力エラーを防止するには、「ToDoリスト」(やるべき事柄をまとめたリスト)を作成する、余裕のあるスケジュールを組んで抜け漏れをなくすなどします。また、1つの業務を複数の社員が担当できるようにして、互いに確認し合うのもよいでしょう。

5)ヒューマンエラーの検知

以上のような対策を講じてもヒューマンエラーは発生します。そうしたヒューマンエラーがどのような状況で起こったのか、対策に問題がなかったのかを確認し、改善していくことが大切です。

また、ヒューマンエラーが発生した場合を想定し、損害の拡大を防ぐための対応も検討しなければなりません。具体的には、報告経路を定めて周知したり、クレーム対応の訓練をしたりします。マニュアル化するのもよいでしょう。

3 防止対策の運用上の留意点

過去に発生したヒューマンエラーによる事故を検証してみると、「決められた通りに防止対策を実行しなかったためヒューマンエラーが発生し、しかもその検知が遅れたために損害が拡大してしまった」というケースが多く見られます。

決められた通りに防止対策が実行されないのは、次のような担当者の主観的な判断や、油断によります。「エラーが出ていたが、経験から問題ないと判断した」「自分が確認したので大丈夫と油断し、ダブルチェックをしなかった」。

この他、防止対策が実行されているものの形骸化していて、動作としての指さし確認はしているが、無意識に指を指しているだけで全く確認をしていないということもあります。

こうした問題を改善するために、社内にチェック機関を設け、定期的に内部監査をすることが効果的です。加えて、ヒューマンエラーが起きたときの被害をイメージが湧きやすいように数字などを交えて共有するとよいでしょう。

以上(2018年10月)

pj60022
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【規程・文例集】苦情対応力を上げるマニュアル作成のポイント

書いてあること

  • 主な読者:自社の苦情対応力を上げたい経営者
  • 課題:苦情対応マニュアルなどを整備しておらず、自社として統一された対応ができていない
  • 解決策:マニュアルを作成することをゴールにしないように注意する。また、苦情対応責任者を明確化するなどして、マニュアルを整備する

1 苦情対応力を高めることの重要性

苦情というと、どうしても「悪いもの」「避けたいもの」というイメージがあり、苦情に対して、消極的な姿勢をとってしまいがちです。しかし、苦情対応をおろそかにすると、企業イメージの低下、顧客喪失など企業経営に大きな影響を及ぼす事態になりかねません。

また、苦情の背景には、企業経営を脅かすような重大な問題が潜んでいる可能性もあります。こうした類の苦情を、初期の段階で察知・分析することなく見過ごしてしまうと、取り返しのつかない事態に陥るケースもあります。

このように考えると、苦情対応は企業にとって重要な経営課題であり、組織全体で取り組むべきものと認識し、適切に対応していくことが重要です。

苦情対応に組織全体で取り組むためには、従業員教育など、行うべきことは多々ありますが、本稿では、従業員が苦情対応を行う際の指針となる苦情対応マニュアル(以下「マニュアル」)作成に焦点を当てて見ていきます。

マニュアルを作成することで、期待できる効果は次の通りです。

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ただし、マニュアルは、それを作成するだけで適切な苦情対応に結び付くものではありません。マニュアルを従業員全員に周知させ、必要に応じて内容を見直しながら運用していくという一連の流れが企業の苦情対応力を高めていくのです。

そのため、「マニュアルを作成する際には、マニュアルを作成することそのものを目的としないこと」「マニュアルに頼りすぎた苦情対応をしないこと」に注意する必要があります。

こうした点も考慮しながら、以降では中堅・中小企業におけるマニュアルの基本的な作成手順とその留意点について見ていきます。

2 責任の明確化

1)苦情対応責任者の明確化

まずは、苦情対応の責任者は誰かということを明確にします。

責任者を明確にし、苦情が発生した場合には情報が全て苦情対応責任者の下へ集まるようにしておくことで、苦情対応の効率的な管理が行えるようになります。

なお、苦情対応責任者は、経営トップもしくはそれに近い階層の者が就くほうが望ましいでしょう。苦情対応への取り組みは、企業イメージを大きく左右することがあります。経営トップ自らが苦情対応責任者として率先して苦情対応に取り組むことで、苦情対応を「企業活動における重要な取り組みの1つ」と捉え、高い意識を持って苦情対応に取り組む姿勢を内外に示すことができます。

また、経営トップ自らが苦情対応責任者を務めることは、苦情処理の迅速化という点でも意味を持ちます。対応者が自身で判断できない苦情に対して、経営トップに直接指示を仰ぐことができる仕組みをつくっておくことで、社内手続きを簡素化し、迅速な対応が可能になるのです。仮に一般の従業員が苦情対応責任者を務める場合、苦情受領の報告を受けた苦情対応責任者がその上司に、上司がさらに経営トップに指示を仰ぐ、といった社内手続きが生じる可能性があります。その場合、苦情への対応に時間がかかり、顧客の気分を害してしまう恐れがあります。経営トップが自ら苦情対応責任者となり、苦情への対応方針を決定・指示することで迅速な対応が可能となります。

2)苦情対応責任部門の設置

苦情対応責任部門の主な役割はマニュアルの作成や運用、修正や見直しなど、苦情対応に関するプロセス全体の統括を行うことです。マニュアル作成に関しては、実際に苦情対応を行っている現場の従業員の意見をマニュアルに取り入れることで、現実に即した「生きたマニュアル」を作成することができます。苦情対応責任部門には、顧客からの苦情を受けることが多い従業員(営業、お客様センターなど)をメンバーとして組み入れるとよいでしょう。

3 マニュアル作成・運用の手順

苦情対応責任者および苦情対応責任部門が中心となってマニュアルの作成を進めます。マニュアルに盛り込む項目は業種によって多少の違いはありますが、基本的には次のような項目を盛り込みます。

1)マニュアルの目的

まず、苦情に対する組織の考え方を記載します。冒頭にこうした考え方を盛り込むことで、従業員の苦情対応に対する意識の統一を図ります。ここで記載する内容としては、例えば「苦情を受領した際には、お客様第一の立場で迅速かつ丁寧な対応を心掛ける」「お客様からの苦情には誠意をもって対応し、当社の商品・サービスをより適切にご利用いただけることを目指す」などとします。

この項目は単文でも構いませんし、複数行に分けても構いません。ただし、苦情対応に対する組織の考え方を示すものとなるため、「できるだけ分かりやすく、従業員全員が共有できる内容にすること」が大切です。

2)苦情対応の具体的な手順

次に、苦情が発生した場合の対応手順について記載します。この項目はマニュアルの中核となる部分なので、慎重に検討しましょう。具体的な項目としては「受領」「内容の調査」「対応の検討」「苦情対応の実施」などがあります。手順については、従業員が苦情対応の流れを理解しやすくなるような工夫が必要です。例えば、「苦情の受領から終了まで時系列に並べる」「実際の苦情対応例を併せて記載しておく」「『お客様への対応』と『社内の対応』に分けて手順を記載する」などがあります。

3)苦情対応報告書の作成手順

次に、苦情が発生した場合の対応手順について記載します。苦情対応報告書は、苦情対応に関する情報を管理するために必要となる重要な書類です。ただし、担当者によって報告書の記載内容・項目に大きな差があるようでは、情報を適切に管理することはできません。あらかじめ「苦情発生状況」「苦情内容」「苦情原因」「お客様のご要望」「対応」「対応結果」「備考」などの記載項目を盛り込んだ苦情対応報告書フォーマットを作成しておき、苦情が発生したら、直接苦情対応に当たった担当者に記載・報告をさせるようにします。

4)苦情情報のデータベース化の手順

最後に、苦情情報をデータベース化する際の手順を記載します。

データベース化の目的は、「苦情内容やその対応方法を全社で共有し、苦情の再発防止に役立てること」が挙げられます。そこで、苦情対応者から提出された苦情対応報告書を基に苦情内容と対応方法などを蓄積し、従業員が誰でもアクセスできるようにしておくことが必要です。そうすることで、従業員が以前の苦情対応情報を参考に、よりスムーズな苦情対応を行うことが期待できます。

5)マニュアルの周知・実施

マニュアルを作成したら、苦情対応の勉強会などを開催し、従業員全員にマニュアルの浸透を図ります。従業員の苦情対応のレベルアップを図るためには、こうした勉強会を定期的に開くことが理想的ですが、まとまった時間をとることが難しいという場合もあるでしょう。そうした場合には、朝礼などの時間を利用して通知するだけでも効果が期待できます。1回当たりの時間は少しずつでも、継続して取り組むことが重要です。

4 マニュアル作成・運用上の留意点

1)マニュアルは精密に作りすぎない

マニュアルは、精密に作りすぎないようにしましょう。マニュアルで多くを規定しようとすると、マニュアル作成に時間や手間がかかる上、従業員が覚えにくく、浸透しづらいなどの問題点が出る恐れがあります。

しかも、精密なマニュアルがあると、従業員は全てマニュアルに従って苦情対応を行うことになります。マニュアル通りの対応は、顧客に「機械的な対応」という印象を与えかねません。企業に対して苦情を申し出る顧客は、「自分の話を聞いてほしい」「自分が怒っている理由を理解してほしい」と考えています。そうした顧客に対して「機械的な対応」をしてしまうと、「本当に悪いと思っているのか」と、余計に顧客を興奮させてしまう可能性もあります。

また、従業員がマニュアル通りの対応に慣れてしまうと、マニュアルにない(想定していない)苦情に対して、対応できなくなる恐れもあります。

こうした問題を防ぐために、マニュアルには、「苦情に対する基本的な考え方」「苦情が発生したときにどういう手順で対応するのか」「苦情対応を終了した後の社内処理はどうするのか」など基本的な事項についてのみ記載するのがよいでしょう。

なお、実際の苦情対応に際しては、従業員にある程度の裁量を与え、柔軟に対応させ、もし、運用していて不足などがあれば、その都度見直していけばいいのです。もともと簡潔に作ってあるマニュアルであれば、見直しも簡単に行えます。

2)マニュアルは定期的に見直しをする

マニュアルは一度作成したら終わりというものではなく、苦情対応を常に質の高いものとするためにも、定期的に見直しを行うことが重要です。企業を取り巻く環境は、刻一刻と変化しています。作成時点では非の打ちどころのないマニュアルだったとしても、環境が変化すれば、不都合が出てくる可能性があります。作成したマニュアルを見直すことなく使い続けていては、顧客の要求に応え切れなくなる可能性があります。

そのため、データベース化された苦情対応の情報や、実際に苦情を受ける従業員の意見を定期的に集約して内容を見直すなど、常に鮮度の高いマニュアルにすることが大切です。また、「同業他社の苦情対応事例」などの身近な事例は、適切な苦情対応をするために大変参考となります。日ごろから苦情対応に対するアンテナを張っておきましょう。

3)従業員を評価する仕組みが必要

どんなに素晴らしいマニュアルを作ったとしても、実際の現場で顧客に対応する従業員が高い意識を持っていなければ意味がありません。経営トップは、朝礼や研修などあらゆる機会を使って、従業員に苦情対応の重要性や苦情対応に当たっての心構えなどを伝えていくことが大切です。

また、苦情対応に対する従業員の高い意識を保つためには、「苦情対応を行った従業員をしっかりと評価する」ことも忘れてはなりません。苦情対応は、対応する従業員にとって大きな負担となりますが、苦情対応を行った従業員を評価する仕組みが整っている企業は多くはありません。

確かに、苦情対応は利益に直結するものではないため、評価の対象となりにくい面はあるのですが、これでは、従業員に「苦情対応は割に合わない」という意識が生まれても仕方ありません。従業員がそうした意識を持つと、苦情対応に対する意識が低下してしまう恐れがあります。

こうした事態を防ぐために、苦情対応を行った従業員を評価する仕組みづくりが必要です。こうした仕組みとしては「半年間の苦情対応件数が最も多かった従業員を表彰する」「データベースに蓄積された苦情対応情報から、『参考となる対応』を従業員に選択させ、最も選択された数が多かった従業員に特別手当を支給する」などが考えられます。

4)JIS規格も参考に

苦情対応については、JIS規格「JIS Q 10002:2005 品質マネジメント-顧客満足-組織における苦情対応のための指針」が制定されています。この規格は、組織内部における製品やサービスに関する苦情対応プロセスの指針について標準化を行い、生産および使用の合理化、品質の向上を図ることを目的として制定されたものです。

同規格には、苦情対応の「基本原則」「苦情対応の枠組み」「計画および設計」「苦情対応プロセスの実施」「維持および改善」などの規定事項の他に、苦情対応プロセスの構築や維持に大きく経営資源を投資することが難しい小規模企業のための指針、苦情の受け付けおよび苦情のフォローアップをする際のフォーマットなども添付されています。マニュアルの作成に当たっては、こうした規格を参考にするのもよいでしょう。

なお、同規格は日本工業標準調査会のウェブサイトで閲覧することができます。

■日本工業標準調査会■
http://www.jisc.go.jp/

5 マニュアル項目例

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6 苦情対応報告書例

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以上(2018年4月)

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困ったときに役立つ 中小企業を守る法律の知識

書いてあること

  • 主な読者:大企業との取引が多い中小企業の経営者、窓口担当者
  • 課題:取引上弱い立場にあるので、大企業からの要望・要請を断れない
  • 解決策:独禁法、下請法などの中小企業を守る法律を知ることで、トラブルを避けることができる

1 知っておきたい中小企業を守る法律とは?

取引において、できる限り自社の利益となるように相手と交渉をすることは当然のことです。これは、中小企業と大企業間の取引であっても何ら変わりはありません。

しかし、一方が理由もなく、有利な契約条件を押しつける形となることは不合理であり、認められるべきではありません。とはいえ、取引当事者間で会社の規模が大きく違う場合には、こうしたケースが少なからず見受けられます。

このような場合に、弱い立場にある当事者を保護する取引関係の法律として、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(以下「独禁法」)や「下請代金支払遅延等防止法」(以下「下請法」)があります。

最近では、通販サイトなどを運営し、市場で大きな地位を占めているIT企業、いわゆるデジタル・プラットフォーマーが、蓄積データを活用して市場を寡占化したり、その優位性によって取引先である中小企業に対して、一方的に不利益を与えたりすることが問題視されています。2020年2月には、公正取引委員会が大手の通販サイト運営会社に対する緊急停止命令の申立てを行いました(後日、申立ての命令を取り下げました)。

また、昨今では、著作物やノウハウなどの知的財産権に関連するトラブルが増えており、大企業が取引先である中小企業の知的財産権を侵害するケースも指摘されています。このような場合に、「著作権法」や「不正競争防止法」といった、自社の知的財産権を守る法律についても知っておく必要があります。

本稿では、中小企業が取引で不利な立場に置かれたり、自社の権利を侵害されたりといった、トラブル時に知っておくと役に立つ法律の知識を簡潔に説明します。

2 取引で困ったときに役立つ「独禁法」の知識

1)独禁法の概要

独禁法は、公正かつ自由な競争を阻害する行為などを禁止するために定められた法律です。独禁法において禁止されている違反類型のうち、中小企業を守る内容として、「不当な取引制限」と「不公正な取引方法」の2つを押さえておきましょう。

なお、「私的独占」も重要な違反類型ではありますが、実際の違反事例はそれほど多くありませんので、本稿では割愛します。

2)不当な取引制限

「不当な取引制限」とは、他の事業者と共同して、相互にその事業活動を拘束し、または遂行することにより、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいいます。カルテルや入札談合などの価格協定が典型的な例といえるでしょう。

例えば、大企業が結託して、小売店に販売する製品・部品の金額が下落しないように販売価格を擦り合わせている場合には、この違反類型に該当します。なお、ここでの「擦り合わせ」とは、互いに自身の意向を明確にして合意する必要はなく、歩調をそろえる黙示の意思があればよいとされています。

3)不公正な取引方法

不公正な取引方法とは、例えば、自由な競争が妨げられていること、競争の中心が本来重要な要素となるべき価格・品質・サービスになっていないこと、取引主体が不合理な理由で自主的な判断が困難になっていることなどにより、競争秩序に悪影響を及ぼす取引をいいます。

具体的な内容は、後述する下請法で禁止されている行為と重なるところもありますが、取引拒絶、不当廉売、不当高価購入、抱き合わせ販売、再販売価格維持、優越的地位の濫用などが規定されています。不公正な取引方法については業種ごとにさまざまなガイドラインが公表されていますので、詳細は公正取引委員会のウェブサイトを参照ください。

3 取引で困ったときに役立つ「下請法」の知識

1)下請法の概要

下請法は、独禁法によって禁止されている優越的地位の濫用に該当する行為形態のうち、適用対象や違反行為を類型化して規制しています。下請法では、個別具体的な判断が必要な優越的地位の濫用に該当する行為を類型化することで、簡易迅速に下請事業者を保護することを目的に規定されています。

商慣行の中で、自社に不利益だとは思いつつも、長年にわたって行っていた取引が、実は下請法に違反していたという場合もあります。

また、2019年10月から消費税率引き上げが実施されました。税率引き上げ時に、代金から税率引き上げ分相当額の全部または一部を差し引いて支払うように要請されることなどがあったかもしれませんが、こうした行為は下請法に違反します。

以降で紹介する内容を参考に、自社の取引を見直してみるのは有用なことだといえるでしょう。

2)下請法が適用される取引当事者・取引内容

下請法上、中小企業を下請事業者、大企業を親事業者と呼んでおり、具体的には次の関係にある事業者間における取引が下請法の適用対象となります。

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また、取引当事者についてだけでなく、下請法が適用される取引内容についても、次の通り4つに類型化されています。これらの類型に該当する場合に下請法が適用されることになります。

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3)親事業者に課されている義務事項

下請法が適用される取引当事者・取引内容の場合に、親事業者は次の4つの義務が課されています。なお、書面への記載事項などの詳細は、公正取引委員会のウェブサイトを参照ください。

  • 書面交付:発注後直ちに、書面(3条書面)を交付しなければいけません。
  • 支払期日の定め:成果物(役務提供)の受領日から60日以内のできる限り短い期間内に代金の支払期日を定めなければいけません。
  • 書類作成・保存:委託内容に関する事項が記載されている書類を作成し、2年間保存しなければいけません。
  • 遅延利息の支払:代金を支払期日までに支払わなかった場合、成果物(役務提供)の受領日から60日を経過した日から支払日までの期間について、年率14.6%の遅延利息を支払わなければいけません。

4)こんな場合には下請法で守られる

前述した通り、下請法は適用される場合が具体的に定められています。そのため、例えば、取引先から次のような行為があった場合には、下請法違反の可能性がありますので、対応を検討されることをお勧めします(なお、下請法では11の禁止行為が類型的に規定されていますので、一度見直してみるとよいでしょう)。

  • 消費税率引き上げのタイミングで販売価格低減を要請された場合
  • 発注者側の都合で商品を返品された場合
  • 従業員の派遣や、不要な在庫商品の購入を求められた場合
  • 少量発注にもかかわらず、大量発注を前提とした単価設定を求められた場合
  • 製品の図面などの技術情報の提供を求められた場合
  • 事後的な仕様変更や工程変更による追加費用を一方的に負担させられた場合

4 知的財産を侵害されたときに役立つ「著作権法」の知識

自社の知的財産を守る権利の中でも、最も知っておく必要があるのは著作権の知識でしょう。著作権は著作物に対して生じる権利です。小説や楽曲、絵画といったものだけでなく、ダンスの振り付けやゲームソフト、コンピュータープログラムといったさまざまなものが著作物に該当し、これらには著作権があります。著作権は原則として、著作者の死後70年の間保護されます(団体名義や無名の場合は著作物公表後70年)。

著作権には主に次のような権利があります。

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中小企業においても、自社で制作している商品の設計書、図面、マニュアルなどがあれば、それは著作物であり著作権によって保護されます。それ以外にも取引先に提案した企画書といったものも保護対象になります。これらのものが、知らない間に勝手に利用されている場合、著作権侵害の可能性がありますので、侵害行為の差し止め等を検討するとよいでしょう。

また、場合によっては、きちんと著作権の利用許諾契約を締結して、許諾料を支払ってもらうなどして、自社の知的財産を活用したビジネスを確立していくことが、将来的に有益となることもあります。

5 知的財産を侵害されたときに役立つ「不正競争防止法」の知識

不正競争防止法は、もともとは事業者間の公正な競争を確保するための法律であり、知的財産を保護することを直接の目的にしているものではありません。ただし、未登録の商標や商品形態の模倣、営業秘密の不正取得に関しての規定など、実質的には知的財産を保護する機能を有した法律といえます。

この法律では、9つの行為類型を不正競争と定義して禁止しています。そのうち、自社を守る権利として、次に紹介する行為類型については知っておくとよいでしょう。

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例えば、秘密として管理していた商品の設計情報を、業務提携していた大手メーカーが他の提携先企業に流出させて類似の商品製造を行っていた場合や、自社のヒット商品と類似の粗悪品が出回っているような場合に、不正競争防止法に基づいて差し止めや損害賠償請求等をしていくことができます。

6 まずは自社を守る法律を知ることが第一歩

中小企業においては、取引先とのパワーバランスなどから、法律に定めがあっても、声を出して取引先からの不利な要請などを是正することが難しく、権利が保護されにくい現状があることは否めません。もっとも、近年では、親事業者が下請法違反で摘発される事例などが多く出始めており、社会全体の流れとして、中小企業の保護の見直しが図られていることは事実です。

そのため、まずはきちんと自社を守る法律の内容を知っておき、いつでも法律に基づく保護を受けられる知識と体制を整えておくことが必要といえるでしょう。

本稿を「中小企業を守る法律」の知識を整理する一助にしていただければと思います。

以上(2020年5月)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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差し戻しにならない登記手続きのコツ

書いてあること

  • 主な読者:面倒?な登記を一回で済ませたい担当者
  • 課題:登記に行っても細かな指摘を受けて、二度手間、三度手間となる!!!
  • ポイント:手続きの基本ポイントを押さえ、抜け漏れをなくす

1 二度手間は避けたい「登記」の手続き

商業登記(以下「登記」)事項の変更手続きは所管の法務局(注)に必要書類を提出して行います。登記実務を司法書士に依頼することもありますが、中小企業では「役員に関する登記手続き」など、定期的に発生するものは社内の担当者が行うのが一般的です。

登記は厳格な手続きが求められ、わずかでも書類に不備があると処理をしてもらえません。必ず補正(書類に不備がある場合に修正をすること)などをして正しい内容の書類を提出しなければなりません。

また、最近、添付書類などが一部変更されているので、スムーズに手続きを進めるためには、こうした点にも注意が必要です(詳細後述)。そうしないと、何度も法務局に足を運ぶなど、二度手間になりかねません。

このリポートでは、全ての株式会社(以下「会社」)が定期的に行っている役員変更の登記手続きのポイントを紹介します。想定するのは、中小企業に多い「取締役会+監査役」の機関設計の会社の手続きです。なお、登記手続きは法務局の窓口での申請の他、郵送やオンライン申請も可能ですが、窓口での申請の場合について紹介します。

(注)商業登記法では、登記の事務を行う法務局、地方法務局などをまとめて「登記所」としていますが、本稿では「法務局」にて統一しています。

2 登記に関する基礎知識

1)登記すべき事項は多岐にわたる

登記すべき事項は多岐にわたります。巻末に例として、会社の場合の登記すべき事項を掲載しているので、必要に応じて参照してください。

2)「登記事項証明書」と「登記簿謄本」の違い

自社の登記事項を確認したり、取引先の与信管理を行ったりするときなどに、登記事項を証明する書類を取得することがあります。この書類を「登記事項証明書」や「登記簿謄本」などと呼ぶことがあります。

法務局は登記事項を磁気ディスクに記録しており、その内容を用紙に印刷し、証明したものが登記事項証明書です。登記事務をコンピューターで処理していない時代は、登記事項を直接登記用紙に記載しており、その用紙を複写し、証明したので、登記簿謄本と呼んでいました。

現在、法務局が管轄する登記情報について原則コンピューター化が完了しています。名称が異なるだけで、どちらも証明内容は同じです。 実務上は、登記事項証明書を扱うことが多くなるため、以降では登記事項証明書を前提に説明します。

3)実務で主に利用する登記事項証明書の3種類

  • 現在事項証明書
    主に現在効力を有する登記事項が記載された証明書です。その他に会社成立の年月日、取締役、監査役、代表取締役などの就任年月日、会社の商号、本店の登記の変更に関する事項で現に効力を有するもの、直前のものが記載されています。
  • 履歴事項証明書
    現在事項証明書の記載事項に加えて、当該証明書の交付の請求のあった日の3年前の日の属する年の1月1日から請求の日までの間に抹消された事項が記載された書面です。
  • 閉鎖事項証明書
    履歴事項証明書に記載されていない事項(閉鎖した登記記録に記録されている事項)が記載された書面です。

それぞれの証明書には、該当する事項が全て記載されているもの(全部証明書)と、一部だけ記載されているもの(一部証明書)があります。

3 役員変更の登記手続き

役員(取締役・監査役)変更の登記手続きに必要な書類は、役員が新任か重任(役員の任期満了の後、同じ人が再度就任すること)かによって異なります。ここでは、「全ての役員が重任の場合」と「新任役員がいる場合」の登記手続きのポイントを紹介します。なお、各書面の記載例などは、法務局「商業・法人登記申請手続」に掲載されています。

■法務局「商業・法人登記申請手続」■
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/touki2.html

1)全ての役員が重任の場合

全ての役員が重任の場合は、次の書類が必要となります。

  • 変更登記申請書
  • 株主総会議事録
  • 株主リスト
  • 取締役会議事録(代表取締役を選任する場合)
  • 就任承諾書

1.手続きのポイント1:株主リスト

2016年10月1日以降、登記すべき事項に次の手続きを要する場合は、いわゆる「株主リスト」の添付が必要となります。

  • 株主総会(種類株主総会を含む)の決議
  • 株主全員(種類株主全員を含む)の同意

役員の選任には株主総会の普通決議が必要となるため、後述する新任役員がいる場合も含めて登記手続きには、株主リストは必須となります。株主リストの記載事項は、上記2つのケースによって異なりますが、「株主総会(種類株主総会を含む)の決議を要する場合」は、次の通りです。

【株主リストの記載事項】

「議決権数上位10名の株主」、または「議決権割合が2/3に達するまでの株主」のいずれか少ないほうの株主について、次の事項を記載して代表者が証明をします。

  • 株主の氏名、または名称
  • 住所
  • 株式数(種類株式発行会社は、種類株式の種類および数)
  • 議決権数
  • 議決権数割合

(注1)自己株式などの当該事項について議決権行使できない株式は除きます。

(注2)株主総会に欠席し、または議決権を行使しなかった株主を含みます。

(注3)議決権割合が2/3に達するまでの株主は、議決権割合の多いほうから加算します。

2.手続きのポイント2:就任承諾書の省略

就任承諾書は、選任された人が、その就任を承諾する旨を記載した書面です。役員および代表取締役の就任の登記手続きの際に、原則、添付しなければなりません。ただし、一定の場合は、添付を省略することができます。

具体的には、役員の場合であれば、選任された人が株主総会の席上で就任を承諾し、株主総会議事録にその旨の記載がある場合は、変更登記申請書に「就任承諾書は、株主総会議事録の記載を援用する」と記載をすることで、就任承諾書の添付を省略できます。

代表取締役の場合も、取締役会議事録に同様の記載などをすることで、就任承諾書の添付を省略できます。

3.手続きのポイント3:原本還付

初めて実務を担当する人が、忘れがちなのが「原本還付」の準備です。この手続きでいえば、株主総会議事録・取締役会議事録・就任承諾書は、原則、原本が必要になります。しかし、これらの書類の原本は会社でも保管しなければならないため、原本を返却してもらう必要があります。この手続きを原本還付といいます。

原本還付を受ける場合は、次の書類を準備します。

  • 書類原本
  • コピーした当該書類の欄外に「これは、原本の写しである」などと記載した上で、代表取締役の署名・捺印をした書面

法務局の窓口では、双方の書面に相違がないことを確認した後に、原本を返却してくれます。

ここでは、株主総会議事録・取締役会議事録・就任承諾書を原本還付の対象としましたが、その他、返却してもらいたい書類がある場合は、同様の手続きで原本還付を受けることができます。

2)新任役員がいる場合

新任役員がいる場合は、次の書類が必要となります。

  • 変更登記申請書
  • 株主総会議事録
  • 株主リスト
  • 取締役会議事録(代表取締役を選任する場合)
  • 就任承諾書
  • 新任役員の本人確認証明書など

1.手続きのポイント1:本人確認証明書など

1.~5.については、前述した「全ての役員が重任の場合」の書類と同じです。注意が必要なのは6.の書類です。2015年2月27日から、新任役員については次のいずれかの書類が必要となりました。

  • 新任役員の印鑑証明書
  • 新任役員の本人確認証明書

また、株主総会議事録に新任役員の住所の記載がない場合には、別途、その役員が住所を記載し、記名押印した就任承諾書を添付しなければなりません。本人確認証明書の例は次の通りです。

  • 住民票記載事項証明書(マイナンバーが記載されていないもの)
  • 戸籍の附票
  • 住基カード(住所が記載されているもの)のコピー(注1)
  • 運転免許証などのコピー(注1)
  • マイナンバーカードの表面のコピー(注2)

(注1)裏面もコピーし、本人が「原本と相違がない」と記載した上で、記名押印が必要です。

(注2)表面(氏名、住所、生年月日および性別が記載されている面)のみをコピーし、本人が「原本と相違がない」と記載した上で、記名押印が必要です。

実務上は、書面取得の手続きが不要で、常時携帯していることの多い運転免許証のコピーを使うことが多いようです。

なお、法務局によるチェックでは、就任承諾書などに記載した新任役員の住所などと、本人確認証明書などの記載内容の整合性を確認します。そのため、役員が就任に伴って転居した場合などは、本人確認証明書などの住所が転居前のものとなっていたりしないか(住所が相違していないか)確認するようにしましょう。

ちなみに、就任承諾書に押印した印鑑と、本人確認証明書に押印した印鑑は相違していても問題ありません。

2.手続きのポイント2:辞任を伴う場合の添付書類

新任役員の就任が前任役員の任期満了に伴う場合は、原則、前述の書類で登記手続きをすることができます。一方、前任役員が任期途中で辞任した場合は、当該役員の辞任届を添付しなければなりません。

辞任届に押印する印鑑は、当該役員が代表取締役など(法務局で印鑑の届出を行った人)ではない場合は、どの印鑑でも問題ありません。しかし、当該役員が代表取締役などの場合は、2015年2月27日から次のいずれかでなければならないため、注意が必要です。

  • 法務局に届出を行った印鑑による押印
  • 代表取締役などの個人の実印による押印+当該実印の印鑑証明書

4 (参考)株式会社の場合の登記すべき事項

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以上(2019年4月)
(監修 ベリーベスト法律事務所 弁護士 高橋敬太郎)

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【規程・文例集】「出張旅費規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:最新法令に対応し、運営上で無理のない会社規程のひな型が欲しい経営者、実務担当者
  • 課題:法令改正へのキャッチアップが難しい。また、内規として運用してきたが法的に適切か判断が難しい
  • 解決策:弁護士や社会保険労務士、公認会計士などの専門家が監修したひな型を利用する

1 出張旅費規程とは

業務を進める上で、顧客との商談や支社などでの会議や打ち合わせ、研修などで出張する場合があります。出張旅費規程は出張に関わる旅費(交通費・宿泊を伴う出張の宿泊費・日当)の支給などについて定めるものです。支給する旅費の額などは企業によって異なりますが、職位ごとに支給する旅費の額を定めておくのが一般的です。

出張旅費規程を定める際のポイントとしては、主に次の2点が挙げられます。

  • 支給する旅費の額は、実際の交通機関の料金や宿泊料金の相場などを考慮した上で、分かりやすく一覧表にして明示する
  • 旅費の支給に関するルールを明示する

上記のうち、2.については、例えば「交通費は最短の経路で計算すること」「ハイヤーなどは会社が必要と認めた場合にのみ利用することができること」「出張から帰ったら旅費の精算をするための手続きを行うこと」などが挙げられます。

また、人事異動で従業員やその家族が新任地に向かうための引っ越し費用(交通費や家財道具の荷造り、運送に関わる費用など)について、出張旅費規程で定める場合があります。

例えば、「会社が引っ越しに関わる費用をどこまで負担するか」などは定めておいたほうがよい項目です。ピアノなど、いわゆるぜいたく品などは運送費が高額になるため、企業と従業員とでトラブルになりやすいといわれるからです。

以降で紹介する出張旅費規程では省略していますが、「ピアノについては1台分までは会社が負担する」「高額な骨董(こっとう)品は本人負担とする」などのように、別途内規を設けて詳細に定めておいたほうがよいでしょう。

この他、企業によっては国内だけではなく、海外へ出張する場合があります。以降で紹介する出張旅費規程のひな型では紹介していませんが、業務内容によっては、海外出張についても定めておく必要があります。

2 出張旅費規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【出張旅費規程のひな型】

第1条(目的)
本規程は、役員および従業員(以下「従業員等」)が会社の業務のために出張する場合の手続きおよびその旅費、並びに転勤のために居住地を変更する場合の交通費等の支給について定める。

第2条(出張の定義)
本規程で定める出張とは、会社の出張命令による国内出張をいう。

第3条(出張の区分)
1)出張の区分は次の通りとする。
1.日帰り出張
 出張する従業員等(以下「出張者」)の勤務地より片道150キロメートル以上かつ片道2時間以上の地域で出発の当日帰着できる出張。
2.宿泊出張
 通常、宿泊を必要とする地域への出張として会社が認めた地域への出張。
2)日帰り出張であっても、業務の都合上または交通不便等のため日帰りが困難な場合は宿泊出張として取り扱うことがある。

第4条(旅費の種類)
本規程で定める旅費の種類は次の通りとする。
1.交通費
2.宿泊費
3.日当

第5条(出張中の傷病・災難)
出張中の傷病(ただし業務外を除く)のため、または不慮の災難等によりやむを得ず出張した地域へ滞在したときは、医師の診断書、または事実の証明のある場合に限り、原則として7日以内において別表第1「旅費」(以下「別表第1」)に定める日当および宿泊費を支給する。

第6条(出張中の勤務)
出張中の勤務に関しては、特別の事情がある場合を除いて就業規則に定める所定労働時間を勤務し、休日に休務したものとみなす。ただし、業務の都合によりやむを得ず出発の日が休日となる場合または出張期間内に休日がある場合の旅費の取り扱いは次の通りとする。
1.宿泊費
 休日の宿泊費は別表第1に定める宿泊費を支給する。
2.日当
 休日勤務の場合の日当は別表第1に定める日当を支給する。
 移動のみの場合の日当は別表第1に定める日当の50%を支給する。
 完全休日の場合の日当は支給しない。

第7条(旅費の計算)
旅費の計算は最短の経路または時間によらなければならない。ただし、天災その他やむを得ない事由で順路を変更した場合は、実際の経路により旅費を計算し支給する。

第8条(タクシー、ハイヤー、レンタカー、航空機等の利用)
タクシー、ハイヤー、レンタカー、航空機等は緊急または特別の必要のある場合において所属長の許可を受けて利用できるものとし、航空機については会社が認める航空会社の航空機を利用するものとする。

第9条(交通費)
1)交通費のうち、鉄道運賃、船舶運賃、航空運賃については、別表第1に定める職位に応じた等級の額を支給する。
2)バス運賃についてはその実費を支給する。
3)社有自動車を利用した場合、あるいは他社の自動車に便乗した場合、交通費は支給しない。ただし、燃料費、通行料、駐車料等は実費を支給する。
4)タクシー、ハイヤー、レンタカー、航空機等の利用については第8条に基づいて会社が必要と認めた場合であって、第14条第1項および第2項に定める手続きを行う際に領収書を添付したときには実費を支給する。
5)出張区間と通勤手当の認定区間が重複する場合には、それに該当する区間の交通費は支給しない。ただし、特に会社が必要と認めた場合にはこの限りではない。

第10条(宿泊費)
1)宿泊費は宿泊した夜数(午前0時を過ぎるごとに1夜とする)に応じて別表第1に定める額を上限とする実費を支給する。
2)宿泊研修等で宿泊費込みの受講料を会社が負担している場合は、宿泊費を支給しない。

第11条(日当)
1)日当は出張の初日から最終日まで、暦日により出張日数に応じて別表第1に定める額を支給する。ただし、午後出発の場合および午前帰着の場合には、その日については別表第1に定める日当の50%を支給する。
2)第3条第1項第1号の日帰り出張の場合は、その日について別表第1に定める日当の50%を支給する。

第12条(出張の手続き)
出張者は、出発の前日までに出発の日時、行き先、訪問先および用件について、別途定める「出張承認申請書」(省略)を所属長に提出し、承認を得なければならない。この手続きをしない者に対しては、旅費の支給をしないことがある。

第13条(旅費の仮払い)
出張者は、第12条に定める承認を得た場合には、出発前に別途定める「仮払申請書」(省略)を所属長に提出し、承認を得た上で旅費の仮払いを受けることができる。

第14条(帰社の報告および旅費の精算)
1)出張者が出張先から帰着したときは、3営業日以内に別途定める「旅費請求書」(省略)および「出張報告書」(省略)を所属長に提出し、承認を得た上で旅費の精算をしなければならない。
2)出張先からの帰着が予定より遅延するときは、電話その他によりその旨を所属長に報告しなければならない。
3)第14条第1項および第2項に定める手続きをしない者に対しては、旅費の支給をしないことがある。

第15条(転勤旅費の種類)
本規程で定める転勤旅費の種類は次の通りとする。
1.本人交通費
 会社から転勤を命ぜられ転勤する者(以下「転勤者」)の旧任地から新任地までの交通費。
2.荷造り運送費
 家財道具等の荷造り、運送に要する費用。
3.家族交通費
 転勤者の家族の旧任地から新任地までの交通費。
4.宿泊費
 転勤者及びその家族の新任地における宿泊費。

第16条(転勤者本人の交通費)
転勤者には、第9条に定める交通費を支給する。

第17条(荷造り、運送費等)
赴任および帰任に伴う荷造り、運送などの費用は会社が実費を支給する。

第18条(家族の交通費)
1)転勤者が配偶者、転勤者の父母および子を帯同するときは、帯同する家族1人につき、転勤者本人と同等の交通費の実費を支給する。ただし、子については、12歳未満の者は半額、6歳未満の者には支給しない。
2)転勤者が赴任した後、3カ月を経ても移転しない家族に関する交通費は、原則として支給しない。

第19条(転勤者の宿泊費)
転勤者およびその家族が、新任地に赴任してから新しい住居に入居するまでは、会社が認める宿泊施設に宿泊するものとし、その宿泊費は会社が負担する。

第20条(罰則)
役員および従業員が故意または重大な過失により、本規程に違反した場合、就業規則に照らして処分を決定する。

第21条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則
本規程は、○年○月○日より実施する。

■別表第1「旅費」■

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以上(2019年4月)

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小売業の仕入・販売計画策定のポイント

書いてあること

  • 主な読者:仕入・販売計画を策定する小売業の経営者
  • 課題:店舗運営や商品展開の基本を踏まえたうえで、仕入・販売計画を策定したい
  • 解決策:売れ筋商品や死に筋商品の考え方や価格設定の基本を整理したうえで、仕入・販売計画を策定する際のポイントを解説する

1 店舗運営の考え方

1)最寄り品と買回り品

買い物行動から見た商品区分は、最寄り品と買回り品に大別されます。最寄り品とは、最寄りの店舗で購入する商品のことであり、食品、日常雑貨、家庭用品などが該当します。最寄り品は、値ごろ感が重要な要素です。一方、買回り品とは、地域の複数の店舗を訪れて、ニーズにより近いものを買い求める商品のことであり、家具や家電製品などが該当します。買回り品は、機能・性能・使い勝手などの比較優位性が重要な要素です。

2)店内における滞留時間と売上高の関係

一般的に、売上高は店内における滞留時間に比例するといわれています。店内の滞留時間が長くなればなるほど販売機会が増えるためです。ただし、滞留時間が売上高に結び付かないケースもあります。食品や日用品などの場合、お客様は一定の時間内に効率よく買い物を済ませたいと考えます。ルーティンとしての買い物はできるだけ短時間で済ませたいと思うのです。こうした店では、想定した時間内で一通りの買い物ができるような工夫が必要です。商品陳列は整然と、通路は広く、店の奥まで見通せるなど、見やすい売場、動きやすい売場が求められます。

3)専門的な品ぞろえとターゲットの絞り込み

小売店の集客力は品ぞろえに比例します。また、豊富な品ぞろえを可能にするのは物理的な店舗規模の大きさです。つまり、小売店の集客力は店舗規模に比例します。

従って、中小の小売店が大規模店に対抗するには独自の品ぞろえをする必要があります。例えば、取扱商品を絞り込み、得意な専門分野に特化することで大型店など競合店との差異化につながり、集客力・販売力の向上につながります。こうした品ぞろえは、ターゲットを絞り込むことにもつながります。ターゲットは、居住地域・年齢・性別・職業・収入・趣味などで絞り込まれていきます。ターゲットを絞り込むほど、売場づくりや品ぞろえがより個性的になっていきます。

2 商品展開の考え方

1)お客様の求める視点

お客様には、経済合理性を追求する一面と、安全で快適な生活環境を求める一面があります。経済合理性を求めるお客様は、家計を中心に考えた消費行動を取ることになり、経済合理性を求めるお客様は、地域の小売店の中から少しでも安い商品を購入しようとします。一方、安全で快適な生活環境を求めるお客様は、高い商品でも、それを購入することで生活が豊かになったり、快適になったりすることを重視するでしょう。

価格を下げても商品が売れないときは、快適な生活環境を求めるお客様の視点を意識した品ぞろえをしてみるのも一策です。例えば、実演販売を検討してみてください。売場に陳列するだけでは販売が難しい商品も、実演で使い方を示すことで商品の特徴がお客様に伝わり、購買意欲をかき立てることができます。

2)売れ筋商品と死に筋商品

商品には売り上げに大きく貢献する売れ筋商品と、売れ行きの悪い死に筋商品があります。各商品の売上高に占める割合を示したABCZ分析のイメージは次の通りです。

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売上高80%を占める商品がA商品群、残り20%の80%に当たる16%(20%×80%)を占める商品がB商品群です。さらに、残り4%を占める商品がC商品群とZ商品群です。売れ筋商品はA商品群、死に筋商品はZ商品群とC商品群の一部です。売れ筋商品は欠品による販売機会の損失を防ぐ必要があります。また、死に筋商品は早期に発見して値引き販売などで処分し、新商品を投入するなど次の売れ筋商品を育成することが大切です。

ABCZ分析によって売れ筋商品と死に筋商品を把握し、販売数量だけではなく、次のような商品のマトリックス表を使って利益率も考慮した商品展開をする必要があります。

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3 価格設定の考え方

1)価格設定の際の留意点

お客様にとって、価格は重要な購入基準です。低価格販売は販売戦略の1つですが、安くすれば売れるというものではなく、価格以上の付加価値があるかどうかが購入判断の要素となります。また、価格帯と品ぞろえによってターゲットが決まります。その際に意識しておきたいのが、プライスゾーン、プライスライン、プライスポイントです。

プライスゾーンとは、1つの商品カテゴリーの中で、一番安い価格から一番高い価格までの金額の幅のことです。一般的に、プライスゾーンが広いほど専門性が高くなります。しかし、ターゲットを絞り込んだ品ぞろえをする場合、プライスゾーンの幅は狭くなります。

プライスラインとは、価格の種類のことです。例えば、ビジネススーツの価格が3万円と4万円の2つの価格に統一されていたら、ビジネススーツのプライスラインは2ラインということになります。仕入原価に一定の値入率を自動的に乗せた場合、プライスラインが多くなってしまいます。プライスラインとその数は計画的に設定することが重要です。

プライスポイントとは、販売数量が最も多い価格です。プライスポイントの置き方で、競合他店との差異化を図ることができます。

2)低価格販売の限界

同じ商品なら安いほうが売れます。例えば、価格を10%引き下げたところ、販売数量が1.2倍に増えたとします。単価1000円の商品を1000個販売しているが、100円値下げして900円にすることで、値下げ前の売上高100万円(1000円×1000個)の1.2倍の数量が売れるとすると、値下げ後の売上高は108万円(900円×1000個×1.2)となります。

ここで問題となるのが利益です。例えば、値下げ前の商品1個当たりの粗利益が300円の場合、1000個販売することで30万円(300円×1000個)の粗利益を獲得できます。一方、1000円の単価を100円値引きして900円で販売した場合、商品1個当たりの粗利益は200円に下がります。これを1200個(1000個×1.2)販売した場合の粗利益は24万円(200円×1200個)となるので、売上高は8万円の増収ですが、粗利益は6万円の減益となります。

この場合、商品の値下げによるメリットは見込めませんが、競合店が10%の値下げをしてきた場合、それに合わせて値下げをせざるを得ないこともあります。

4 仕入・販売計画策定のポイント

1)販売計画

企業には経営計画があり、それに基づき販売計画が立てられます。販売計画は、「年間・月間・週間・日」などの期間、「売場の部門・カテゴリー・品種・品目」などの種類ごとに設定します。

1年は、四季(春夏秋冬)、月(12カ月)、週(52週)、日(365日)に分けることができます。小売業では季節のイベントを利用したフェアなどが頻繁に実施されます。売場のマンネリ化を防ぐためには、月単位よりももっと短い週単位などでフェアを実施するケースが多く、売場の販売計画もフェア単位で把握する必要があります。

また、死に筋商品を極力減らし、売り上げに貢献する商品の品ぞろえを増やすことで、売場効率が高まり、売上高アップにつながります。従って、カテゴリーごとにどれだけの売場面積を割り振るかは重要な問題です。売場基準面積は、次式で計算できます。

売場基準面積=総売場面積×(売上高比率+販売数量比率)/2

例えば、売場面積100坪の店で、売場全体の売上高が1080万円で販売数量が1140個、また、A~Fの商品カテゴリーごとの売上高と販売数量が次のような状況であるとします。

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この数値を、先の計算式を用いて各カテゴリーごとの売場基準面積を算出すると次のようになります。その結果、Bに27.0坪、Dに26.8坪を割り振ることになります。これと大きく異なる場合、各売場を再度振り分ける必要があります。ただし、販売戦略上、ある商品の販売数量を増加させたい場合、その商品の売場面積を広くする必要があります。

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2)仕入商品の選定

仕入管理では、商品を安定供給できるサプライヤーの確保が重要です。また、取引先の倒産などの事態を考慮し、リスク分散のため仕入先は複数確保しておくべきでしょう。

新商品を仕入れる場合、商品の選定基準を設けましょう。商品の選定基準は各社によって異なります。自社の商品選定基準は、品質・トレンド・自社のターゲット・プライスゾーン・プライスライン・プライスポイントなどを考慮して定めるようにします。

なお、仕入担当者の個人的な嗜好が強く出るのはよくありません。例えば、仕入商品の選定に当たり、複数の担当者による品評会を開き、仕入商品の選定を行うと、気まぐれな要素が少なくなります。

3)仕入計画の策定

販売計画を達成するには、欠品による販売機会損失を起こさない仕入計画が不可欠です。とはいえ、計画は予測の域を出ないため、計画の変更の事態も考慮する必要があります。例えば、100個売れると予想した商品の販売が50個にとどまった場合、残りの50個は過剰在庫として残ります。欠品を起こさず、過剰在庫を抱えないように、仕入頻度と仕入数量を調整する必要があります。売場やバックヤードスペースを考慮すると、1回に大量仕入するのは得策ではなく、少量多頻度で仕入れたいものです。しかし、少量多頻度の納品には物流費が掛かるため、仕入コストに影響します。

商品を仕入れる場合、発注から入荷までのリードタイムを計算し、入荷直前の在庫量が最低在庫量を下回らないように、また、入荷時点に在庫量が最大在庫量を上回らないように日数と数量を計算して発注する必要があります。商品在庫の入出庫による変動は次の通りです。

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4)経済的発注量

経済的発注量とは、在庫管理費用と発注費用の合計が最少になる最も経済的な発注量のことです。在庫管理費用を考えると、在庫量は極力減らし、その分発注回数を増やしたいものです。逆に発注費用が大きい場合、発注する回数を極力減らし、1回の発注量を多くしたいものです。両者の最適バランスを考慮した発注量が経済的発注量です。

在庫管理費用には、在庫管理に要する人件費、倉庫料、光熱費などが含まれます。発注費用には人件費、通信費、物流コストなどが挙げられます。一般に数量がまとまったほうが物流コストは低減します。従って、1回当たりの発注量を増やしたほうが仕入価格の割引につながります。

経済的発注量と1日当たり在庫総費用は次式で算出することができます。 
経済的発注量
=√(2×1日当たり販売数量×1回当たり発注費用/1日当たり在庫1個の保管費用)
1日当たり在庫総費用
=√(2×1日当たり販売数量×1回当たり発注費用×1日当たり在庫1個の保管費用)

例えば、1日当たり販売数量が100個、1回当たりの発注費用が2000円、1日当たり在庫1個の保管費用が3円の場合の経済的発注量と1日当たりの在庫総費用は次のようになります。

経済的発注量=√{(2×100個×2000円)/3円}≒365個
1日当たり在庫総費用=√(2×100個×2000円×3円)≒1095円

以上(2019年4月)

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金融機関担当者も注目 「事業性評価」で自社の強みと課題を分析する

書いてあること

  • 主な読者:金融機関との関係を強化し、成長につなげたい経営者
  • 課題:金融機関が自社をどう評価しているか知りたい。自社のさらなる成長につなげたい
  • 解決策:金融機関の営業担当者と一緒に、ローカルベンチマーク(ロカベン)を元に自社の強みと課題を把握するところからスタートする

1 金融機関による「事業性評価」とは

1)金融機関は“本気で”取引先企業のことを知ろうとしている

現在、金融機関は、金融庁の号令のもと、企業の事業内容や成長性などを分析・評価する「事業性評価」に基づく融資に取り組んでいます。その目的は、「金融機関が、財務データや担保・保証のみに依存する融資体制を見直し、本業支援を通じて企業の成長に貢献していく」ことにあります。

つまり、事業性評価とは、金融機関が企業のことをよく知り、“本当にその企業にとって必要なこと(課題)は何か”を本気で考え、それを解決し成長を支援するということに他なりません。こうした金融機関の姿勢は、経営者にとっても大きな意味があります。

2)経営者にとっての「事業性評価」の意味

事業性評価では、金融機関担当者はまず、事業内容をよく知るために経営者にヒアリングなどを行います。そのとき、金融機関担当者が特に重視するのは、企業の「強み」と「課題」です。これらを知ることが企業の今後の成長を促す第一歩だからです。

経営者にとっても、自社の強みと課題の把握・分析が欠かせないのは言うまでもありません。多くの金融機関では、企業の現状や事業内容などを整理する項目を立てています。経営者もそうした項目を活用して自社の現状を“見える化”すると、強みと課題を整理しやすくなるでしょう。

また、資金ニーズに対応する金融機関担当者と一緒に強みと課題を把握・分析することで、実効性のある具体策が実施できる可能性が高まります。

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この他、事業性評価に基づく支援として、企業の人材不足に対応する施策を打ち出している金融機関が増えています。これは、金融機関による人材紹介業務への参入が可能になったためです。今後も人材紹介業務を行う金融機関は増えるものと考えられます。

2 強みと課題を把握・分析するきっかけになる“ロカベン”

1)“ロカベン”で着目されている4つの視点

自社の強みと課題を把握・分析するには、まず現状をつかむことが必要です。その際、定量面(財務面)と定性面(非財務面)の両方からアプローチすることになりますが、特に難しいのは定性面の把握・分析です。

定量面は財務情報から明らかにしやすいといえますが、技術力や人材力、営業ノウハウ、ネットワークなど財務情報には表れない「知的資産」などは、改めて自社の現状をひもといてみなければ明らかにできないからです。

こうした定性面の把握に参考となるのが、経済産業省が提示している「ローカルベンチマーク(ロカベン)」という経営状態を把握するためのツールです。経営者と金融機関担当者の双方がロカベンを使って現状把握すれば、同じ目線に立って課題を話し合うことができるため、ロカベンは“事業性評価の入り口”になるといえるでしょう。

ロカベンでは、企業の定性面をチェックする項目として、「経営者」「事業」「企業を取り巻く環境・関係者」「内部管理体制」という4つの視点を挙げています。

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企業には、「創業期→成長期→成熟期→転換期(事業承継期、衰退期)」といったライフサイクルがあり、それぞれのライフステージによって課題は変わってきます。例えば創業期には資金調達が大きな課題になり、成長期には販路や経営規模の拡大、安定した仕入れ先の確保などが主な課題になるでしょう。その他、業種や規模によっても課題は異なります。そこで、図表2で紹介した項目のうち、自社に当てはまるものを中心に現状把握してみるのが現実的かもしれません。

また、強みと課題を把握・分析する際には「ヒト・モノ・カネ」といった経営資源について明らかにすることになりますが、それらは「事業」「企業を取り巻く環境・関係者」にある項目を中心に明らかにすると整理しやすくなります。

自社の強みと課題を考える際に、特に重要なのは、「事業」に挙げられている「顧客から選んでもらっている理由は把握できているか」という点です。次項ではこの点を掘り下げる方法を見てみましょう。

2)バリューチェーンで自社の強みと課題を明らかに

強みと課題の把握・分析というと、多くの場合、企業の外部環境と内部環境から事業機会や課題を見つける「SWOT分析」を連想するかもしれません。しかしここでは、より自社の事業内容を掘り下げるために、事業を分解して分析する「バリューチェーン」を取り上げてみます。ロカベンでも、強みと課題を知るためにバリューチェーンの考え方を取り入れ、「業務フロー」や「商流」などを整理し、優位性を分析する方法を提示しています。

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業務フローや商流などを明らかにする際に重要なのは、「他社にない製造工程」「短納期なデリバリー」などのように、分解した業務のどの部分で付加価値を生み出しているかを挙げることです。それが「顧客提供価値=なぜ自社が選ばれているか」という自社の強みだからです。同時に「コスト負担が大きい」「ミスが発生しやすい」など、それぞれの業務の課題も明らかにしていきます。挙げられた課題については、その理由を掘り下げ、本質的な問題点を探し出す用にします。

また、課題の洗い出しには「比較」が必要です。自社の現状と、自社の理想型や業界上位企業のバリューチェーンなどを比較すれば、現状の課題が見えてくるでしょう。

3 強みと課題を把握・分析するために、経営者が忘れてはならない3つのポイント

1)全社的に実践する

自社の強みと課題を把握・分析するためには、経営者1人の視点では限界があります。経営者は、顧客からのリピートやクレームの状況について、リピート率やクレーム件数などの数字やおおよその内容は分かっているでしょう。

しかし、日々現場でやり取りされている顧客と社員の生の声までは把握できていないかもしれません。また、市場環境や顧客、競合についても、経営者は俯瞰(ふかん)的に捉えることはできているかもしれませんが、現場の状況を肌で感じている営業担当者は、経営者とは違った視点で捉えている場合もあるでしょう。そのため、自社の強みと課題の把握・分析は、全社員を巻き込んで現場の声も取り入れて行う必要があります。

企業規模にもよりますが、経営者が各部門長と各部門の社員数名にヒアリングを行ったり、各部門ごとに社員同士で話し合ってバリューチェーンや3C分析などを実践させてもよいでしょう。こうして全社員に自社の強みと課題を分析させれば、社員がどのように現状を認識しているかを知ることもできます。

また、社員に自社の強みと課題などについて考えさせることは、社員自身にとっても大きな意味があります。例えば、ある企業では、自社の強みと課題を明らかにしようと、経営者が経営幹部や社員と協力して知的資産報告書(目に見えない資産を明らかにする報告書)を作成したところ、社員一人一人が経営の視点を持って業務に取り組むようになったといいます。全社員を巻き込む強みと課題の分析は、社員教育にもつながり、それが企業の強みになっていくのかもしれません。

2)外部の視点を取り入れる

自社の強みと課題は、外部の視点を取り入れ客観的に捉えることも大切です。外部の視点は、経営者や社員が気付いていなかった強みや課題を提示してくれる可能性があるからです。そうした意味では、さまざまな業種、規模の企業について知っている金融機関担当者は、外部の頼れる情報源ともいえるでしょう。同業種、同規模、同じライフステージの企業がどのような強みと課題を持っているのか、どのようにして改善したかなどを金融機関担当者に聞いてみるとよいでしょう。

また、各都道府県にあり、無料で相談できる「よろず支援拠点」などの外部機関を活用するのも一策です。例えば、東京都よろず支援拠点では、相談しに来た経営者が思いもよらなかったアドバイスによって売り上げが向上した例があるといいます。ある居酒屋の経営者は自店舗の強みを「地酒と料理」と考えていましたが、東京都よろず支援拠点の専門家が強みとして注目したのは、「高齢者が多い高層マンションの1階にある」という立地でした。そこで、居酒屋の事業を継続しながら、店内のメニューを高層マンションに住む世帯向けにそのまま届ける宅配事業にチャレンジすることにしました。「出来立ての良さをそのままに……」というチラシ訴求のせいか、多くのマンション住民からの宅配注文が入り、結果的に宅配ユーザーが居酒屋利用客へ進化する好循環が生まれました。このように、外部の視点を取り入れれば、社内では見えない“新しい強み”が発見できるかもしれません。

3)財務面も必ずチェックする

本稿では、多くの金融機関担当者が注目している定性面からの強みと課題を明らかにする方法を紹介してきましたが、先にも述べた通り、定量面(財務面)からのアプローチも欠かせません。

特に、課題は、財務情報について他社比較や時系列比較をすることで明らかになる場合があります。分かりやすい例を挙げると、売り上げは右肩上がりにもかかわらず、利益が横ばいもしくは減少しているなどのケースです。この場合、仕入れ原価が年々膨れ上がっているなどの課題があるのかもしれません。

このように財務情報から明らかになった課題について、バリューチェーンなどで定性面から分析し、その要因を見つけるという流れで進めると、「顧客の要望に対して仕入れ先を変えることだけで対応していた。しかし、工夫すれば自社で対応できそうなので、まずそれを考えるべきだ」など、改善すべき本当の課題が発見しやすくなるでしょう。

4 企業の未来をつくろう!

ここまで、金融機関が行っている「事業性評価」を基に、自社の強みと課題を分析する方法について見てきました。繰り返しになりますが、事業性評価は金融機関が企業の将来のために、本気で、伸ばすべき強みと改善すべき課題を見つけ支援するというものです。これは、過去(財務情報による実績)だけではなく、企業の未来を見据えて行う取り組みといえます。

金融機関担当者は、これまで以上に企業のことをよく知ろうと、経営者に何度も会い、ヒアリングし、工場見学にも来るでしょう。経営者も企業の未来をつくるために、こうした事業性評価の取り組みを活用し、自社の強みと課題の分析に本気で取り組んでいくことが求められているのです。

以上(2019年4月)

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企業を困らせる悪質クレーム(カスタマーハラスメント)を退ける!

書いてあること

  • 主な読者:利用客からのクレームに悩む経営者
  • 課題:威圧的なクレームにどう対処すればいいのか分からない
  • 解決策:不用意に謝らない、即答しないなど、対応時のルールを徹底することが大事

1 強要や暴言といった脅威が企業のリスクに

「おいっ! どうなってんだ? 責任者を呼べっ!」。威圧的な態度で理不尽な要求を突き付ける利用客。ひたすら頭を下げる店員。店内には怒号が鳴り響き、周囲にいた他の利用客はその場を離れ始める……。

誰もが遭遇したことがあるかもしれないシーンです。第三者であれば「あぁ~、やだやだ」で終わりますが、もし皆さんの会社が当事者になったら、そして従業員が店員だったら、どのような指示を出しますか?

「クレームはありがたい」とは言うものの、強要や暴言などの悪質クレーム、いわゆる「カスタマーハラスメント」は脅威です。対応を誤ればイメージ低下や顧客離れを招きかねません。企業はカスタマーハラスメント対策を真剣に講じる必要があります。

2 カスタマーハラスメントが生まれる要因

1)増加するも抜本的な解決策を見いだせず

社会問題化しつつあるカスタマーハラスメントは、自社の商品開発や業務改善に役立つクレームとは異なり、「店員への土下座の強要」などのように、常識的に許される範囲を超えているのが特徴です。

カスタマーハラスメントを受けたことのある人は少なくありません。流通業などの労働組合であるUAゼンセンが2017年に実施したアンケート調査によると、「ある」と答えた人の割合は73.9%を占めます。「増えている」と答えた人の割合は49.9%で、「減っている」(3.3%)を大きく上回っています。

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中でも「暴言」「何回も同じ内容を繰り返すクレーム」「権威的(説教)態度」の割合が高くなっています。「辞めろ」「死ね」と怒鳴られたり、同じ問い合わせを何回もされたり、「お前は私の会社なら首だ」と叱られたりするなどの例があるようです。

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こうしたカスタマーハラスメントへの対応は、「謝り続けた」と答えた人の割合が37.8%で最も高く、抜本的な解決策を見いだせずにいる企業は少なくないようです。

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2)利用客が企業や店員より強い立場に

「お客様は神様」といった考えが接客業を中心に根強く残っていることが、カスタマーハラスメントを生む要因の1つと考えられます。「利用客の要望に応えるのがサービス」という考えが根底にあるため、店員は多少理不尽でも要望を聞き入れたり、利用客の発言を否定しなくなったりします。その結果、「多少の無理を聞いて当たり前」「客の要望を満たすのが店員の仕事」と解釈した利用客を増長させてしまうのです。

SNSやブログサイトの影響力が拡大したことも要因です。「食べ物に異物が混入していた」「店員が失礼な態度を取った」などの失態は、SNSなどを介して容易に拡散される時代です。たった一度の失態も、企業の信用を大きく失墜しかねません。そのため企業は、拡散による信用低下を恐れるあまり、利用客の要望に常に応えようとします。こうした取り組みが利用客をかえって増長させ、さらなる悪質クレームを誘発させるのです。

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その他、UAゼンセンへのヒアリングによると、格差社会による歪みが一部の人のストレスを増加させ、反抗できない店員に強い態度を取らせてしまうことも要因になり得るそうです。消費者庁に代表される消費者偏重の保護体制も要因といえます。

消費者の立場が企業や店員より強い一方、企業や店員は消費者に言い返せず恐れているという構図が、カスタマーハラスメントを生む素地になっていると考えられます。

3 カスタマーハラスメントがもたらす弊害

1)企業のイメージ低下

言いがかりをつける利用客が店舗に頻出したり、SNSやブログサイトで自社商品やサービスの評価を下げられたりすると、自社や自社ブランドのイメージが損なわれかねません。イメージ低下は売り上げに影響し、企業の業績低迷にも直結します。一度低下したイメージを回復するのは難しいことから、長期的なダメージを被ります。

社会的な責任を負う可能性もあります。もし経営者による謝罪要求を受け入れれば、企業としての信頼が大きく失墜します。顧客離れはもとより、取引先や商談先と築き上げてきた関係も崩れかねません。

2)従業員の心的負担増加

暴言や暴力、威嚇などの行為は、対応する店員などにとって大きなストレスです。悪質な嫌がらせなどが続けば、心の病を患って長期離脱する店員も現れるでしょう。ストレスを強く受ける職場で働きたくないと考える店員が、離職する恐れもあります。

利用客による過度な要求は店員を疲弊させる他、働くモチベーションを低下させます。こうした職場環境を抱える企業は、従業員の離職率増加と定着率減少に悩まされる他、人材獲得が難しくなるといった課題に直面することになります。

3)利用客への影響拡大

自社商品やサービスのファンだった優良な利用客が、一部の言いがかりを発端とした風評被害で離れてしまう可能性があります。中でもSNSやブログサイトに投稿された口コミの影響力は甚大で、たとえ誤った情報でも真実と受け止められかねません。誤った情報を信じる利用客の中には、少なからず不信感を芽生えさせてしまう人もいるでしょう。

悪質なクレーム対応に時間を割かれると、他の利用客の満足度も低下します。店舗を訪れる利用客に商品などを十分に説明できなくなるため、利用客の商品知識やブランドへの理解が定着しにくくなることが懸念されます。

4 カスタマーハラスメントの傾向

1)クレームの悪質性の有無を見極める

利用客のクレームが悪質かどうか判別しにくいことが、店員や企業の対応を難しくしています。利用客が一方的に謝罪を要求したとしても、店員や企業に落ち度があれば一概に悪質とは言えません。10分で済む接客に1時間以上かかっても、利用客の主張に正当性があれば、それは必要な時間といえるでしょう。

「このクレームは悪質である」と断言しにくいことに加え、クレームは状況に応じた個別性が高いため、多くの企業が具体的な対策を講じるのに苦慮しています。

とはいえ、カスタマーハラスメントの対応を場当たり的にしのぐのは好ましくありません。そこで次の言動が見られる場合、カスタマーハラスメントを疑い、注意深く対応することが望まれます。

  • 大声で怒鳴る、威嚇する
  • 一般的には無理な要求を突き付ける
  • 店員の人格を否定する、名誉を毀損する
  • 責任者や経営者による対応を執拗に迫る
  • 危害を加える、器物を破損する

その他、店員や企業側の落ち度を理由に高額な賠償を請求したり、理不尽な要求を何回も何時間もし続けたりするケースも、状況によっては悪質性が疑われます。悪質性の有無を早期に見極め、不当な強要や暴言が続くようなら、毅然とした態度で拒否することが大切です。

2)カスタマーハラスメントの主な例

カスタマーハラスメントに該当する行為を分類すると、「暴言」「説教」「威嚇・脅迫」「拘束」「セクハラ行為」「暴力」などがあります。次の具体的な悪質クレーム例を参考に、自社でどのような対策を講じるのかを分類ごとに検討してみましょう。

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5 カスタマーハラスメントを退ける具体策

1)不用意に謝らない

「申し訳ございません」「すみません」などの発言に注意します。言いがかりをつける利用客の中には、「謝罪=非を認めた」と受け止める人がいるからです。不用意な謝罪は利用客をさらに増長させ、経営者の謝罪や高額な賠償などを要求する事態につながりかねません。

とはいえ、店員や企業に落ち度があれば謝罪は必要です。全ての言いがかりに対して「謝罪しない」という姿勢ではなく、利用客の気持ちをくみ取った配慮を示すことが大切です。謝罪する場合、漠然ではなく何について謝るのかを明確に示すことも必要です。

2)即答しない

利用客からの要求に対し、「分かりました」「そのようにします」などの即答は避けるべきです。事態を早急に収拾しようと、要求を安易に受け入れるのは禁物です。利用客の主張を正しく認識し、店員個人としての判断ではなく、事実確認や原因を踏まえた上で、企業として判断するのが望ましいでしょう。

曖昧な返事にも注意します。「結構です」「検討します」といった発言は肯定と受け取られます。拒否する場合、「即答できません」「約束しかねます」などときっぱり否定します。

3)トップを出さない

「店長を出せ」「社長を呼んでこい」などの要求は原則、のむべきではありません。意思決定者が対応すると即答を迫られるからです。再び言いがかりをつけに現れたとき、「前回は店長が対応した。今回も店員ではなく店長に代われ」などと、責任者の対応が常態化する懸念もあります。

もっとも、判断の難しい要求は店長やエリア統括マネジャーなどに代わるケースがあります。責任者としての見解を求められたり、解決まで長期化しそうだったりする場合、責任者に対応を引き継ぐことも必要です。

4)対応時間を短くする

言いがかりをつける利用客の中には店員を何時間も拘束し、理不尽な要求をし続けるケースがあります。店舗の営業時間終了後も店員を拘束し続けることは珍しくありません。長時間の拘束によって業務が停滞しないよう、できるだけ短い時間で対応を打ち切ります。

「○時○分までお話をうかがいます」などと、対応可能な時間を事前に伝えても構いません。対応時間を過ぎても帰らない場合、警察に通報するなどの措置を検討します。対応時間は長くても30分程度を目安にするとよいでしょう。

6 企業としての対策を講じる

1)全社で情報を共有する

過去に対応したカスタマーハラスメントの事案は、全社で共有することが大切です。利用客の具体的な要求、態度、行為などを記録し、どんなケースが多いのかを把握できるようにします。加えて、過去の事案に応じた対策も周知します。

店員が「クレームは接客対応した自身のミス」と受け止めて、報告をためらうことがないようにします。具体的には、クレームに関する相談窓口を用意するとよいでしょう。どう対処すべきかアドバイスを受けられるようにするとともに、店員の心をケアするために有効です。女性店員が相談しやすいよう女性の窓口担当者を配置するのも一案です。

2)マニュアルを作成する

接客や電話応対に不慣れな若手社員の場合、カスタマーハラスメントに対して誤った対応をする恐れがあります。企業としてどう臨むのかをマニュアルで標準化し、経験の浅い社員でも適切に対応できるようにします。

特に、利用客の要求に応えるか否かを明確に定めることが必要です。企業によっては「お客様の要求には徹底的に応える」といった方針を打ち出すケースが見られるものの、悪質で理不尽と思われる要求は断る方針も示すべきです。

店員の中には「たとえ悪質であっても要求に応えないと会社に迷惑をかける」と思う人がいます。カスタマーハラスメントには毅然とした態度で臨むという企業方針を打ち出すことが、従業員を保護するためには必要です。

3)2人以上で対応する

言いがかりをつける利用客の対応は、担当者1人を孤立させず2人以上を配置できるようにします。できるだけ多人数で対応し、利用客が威圧的な態度や恫喝(どうかつ)しにくい雰囲気をつくります。

状況に応じて利用客の要求をメモします。利用客の要求を正しく把握するとともに、訴訟になったときの証拠とします。会話の録音やカメラによる録画も有効です。「録音/録画する」という行為自体が、暴言や威嚇の抑止力にもなります。

4)外部と連携する

利用客の暴力やセクハラ行為などを想定し、警察との支援体制を確立します。近隣の警察署の担当部署や問い合わせ窓口などを事前に確認し、非常時にはすぐ通報できるようにします。

弁護士への相談体制も検討します。顧客や消費者とのクレーム対応や、カスタマーハラスメントを含むハラスメント全般に精通する法律事務所は少なくありません。こうした専門家のアドバイスを受けられる体制づくりも視野に入れましょう。悪質クレームを続ける利用客に対し、法的措置に踏み切るなどの強い姿勢を示せるようにします。

なお、カスタマーハラスメントに関する弁護士への電話相談が無料になる保険も登場しています。体制や対策を自社で講じられない場合、こうしたサービスの活用を検討してもよいでしょう。

以上(2018年12月)

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反社会的勢力の活動への対策ポイント

書いてあること

  • 主な読者:反社会勢力からの被害の防止に備えたい経営者
  • 課題:具体的にどのような対策をしておけばよいのか分からない
  • 解決策:ケースごとの具体的な対応要領を押さえておく。相談窓口も確認しておく

1 反社会的勢力の活動の状況

暴力団やその関連企業など(以下「反社会的勢力」)は、組織の実態を隠し、企業活動を装ったり、共生者(注)を利用したりするなどして、活動を不透明化させています。反社会的勢力は、企業などに対してさまざまな手段で不当な要求を行い、活動の資金源としており、証券取引や不動産取引などを通じて資金獲得活動を巧妙化させています。

暴力団関係相談受理件数の推移は次の通りです。ただし、これはあくまで警察と暴追センターに寄せられた相談受理件数であり、実際には、警察や暴追センターに相談していないケースもあると考えられます。

(注)暴力団に利益を供与することにより、暴力団の威力、情報力、資金力などを利用し自らの利益拡大を図る者。

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2 反社会的勢力の活動への対策のポイント

1)反社会的勢力による被害を防止するための基本原則

政府は、2007年6月に「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ。以下「指針」)を公表し、反社会的勢力による被害を防止するための基本原則として、次の5項目を示しています。

  • 組織としての対応
  • 外部専門機関との連携
  • 取引を含めた一切の関係遮断
  • 有事における民事と刑事の法的対応
  • 裏取引や資金提供の禁止

2)経営トップのコミットメント

企業が組織として対策を進める上で重要なのは、「反社会的勢力とは一切の関係を持たない」という基本方針と、経営トップによるコミットメントです。多くの企業が、倫理規程として定める企業行動指針や、就業規則など従業員が順守しなければならない義務を定めた規程の中で、反社会的勢力との関係遮断について明文化しています。

反社会的勢力の活動をリスクとして認識し、一切の関係を遮断することは、反社会的勢力の活動資金源を絶つことにつながります。

3)取引先の状況を確認する

新規取引先や既存取引先が反社会的勢力と関係していないか、調べ直すことも大切です。すぐに実行できる方法として新聞記事や雑誌記事を検索し、取引先の企業情報を収集・分析することが挙げられます。

また、専門会社のデータベースを利用するのもよいでしょう。例えば、企業の危機管理を総合的に支援するエス・ピー・ネットワークでは、反社会的勢力に係る独自のデータベースを使った情報分析サービスを提供しています。

この他、所轄の警察署や都道府県警察本部の暴力団対策主管課に照会する方法も考えられます。警察では、取引などの相手方が反社会的勢力でないことを確認するなど、暴力団排除条例に定められた事業者の義務を履行するために必要と認められる場合には、可能な限り情報提供を行っています。

4)契約書や取引約款に「暴力団排除条項」を盛り込む

暴力団排除条項は、取引先が反社会的勢力と認められる場合には一方的に契約を解除できることを定めるもので、反社会的勢力との関係遮断のために有効です。ただし、現行の契約書や取引約款に暴力団排除条項を盛り込む場合、「コンプライアンスを重視する企業の姿勢を示す一環として、暴力団排除条項を盛り込むことになりました」と説明するなど、取引先に失礼のないようにしなければなりません。

5)日ごろからの対策

反社会的勢力の活動への対策を進めることは、企業の社会的責任の観点からも重要です。基本方針に基づいて、反社会的勢力への応対の方法を検討します。また、責任体制を明確にし、経営トップ以外で直接応対に当たる責任者を選任し、日ごろの心構え、具体的な応対要領を従業員に徹底します。

3 具体的な応対要領

1)相手を確認する

初対面の段階で、名刺をもらうか面会カードに記載を求めるなどの方法で相手の氏名、勤務先などを確認します。相手がこれに応じなければ、「お引き取りください」などと面談を断ります。

2)相手より有利な人数や場所で短時間で応対する

反社会的勢力の常とう手段は、大声や脅し文句で不安・恐怖を与え、懐柔するそぶりで困惑させ、要求に応じざるを得ないようにするものです。面談の際には、相手より多い人数で社内で応対することで心理的に優位な状態を保ちます。

反社会的勢力が指定する場所(暴力団の組事務所など)に出向いてはいけません。また、応対時間は、あらかじめ15分などと決め、それ以上に長引くようならば「お引き取りください」と言って面談を打ち切ります。なお、茶菓を出す必要はありません。

3)用件を確認する

初期段階で、相手の用件や要求内容を確認することが重要です。反社会的勢力は、恐喝や威力業務妨害などの罪に問われることを恐れて、「誠意を見せろ」などと要求内容を明示しない場合が多いので、「具体的にどうすればよいのですか」などと聞き返し、要求内容と根拠を相手自身から明確に引き出します。

なお、「お前では話にならない。社長(最高責任者)を出せ」と言われても、応対の責任者が「当社では、私がその担当者ですので、まず私が話を伺い、報告することになっています」と言って最高責任者には取り次がないようにします。

4)言動に注意する

反社会的勢力は巧みに論争に持ち込んで、相手の失言を誘い、言葉尻を捕らえて因縁をつけてきます。不用意な発言をしないように慎重に言葉を選び、発言は必要最小限にとどめます。また、相手の不当な要求に対しては、曖昧な返答をしないで明確に断ります。その場を逃れようとして「検討します」「善処します」などと言うのは禁物です。

5)応対内容を記録する

反社会的勢力との電話や面会の際には、応対内容を録音したり、メモを取ったりして正確に記録に残すことが重要です。また、事前に「正確を期すため、会話の内容を録音させていただきます」と告げることは、相手をけん制する上で効果的です。

6)わび状などの書類作成は拒否する

反社会的勢力は、「一筆書けば許してやる」などとわび状や念書を書かせようとします。わび状や念書は、相手の不当な要求に対して、非を認めた証拠となります。相手に有利な交渉材料を与えるだけなので、わび状や念書の作成には絶対に応じてはいけません。

7)警察に通報する

反社会的勢力が暴行や器物損壊など不法行為に及んだときは、直ちに警察に通報します。受傷事故などを防止するために、気付かれないように通報するとよいでしょう。通報することを相手にとがめられたら、「警察にそうするように指導を受けている」と答えます。

4 ケースを想定した対応策

1)見知らぬ団体などから機関紙・図書などが送り付けられ、料金を請求される

売買契約を結んでいない機関紙・図書が送り付けられてきた場合、相手に返送するのが基本です。

開封前であれば、メモ用紙に「受取拒否」と記載し、受取人の名前を記載して押印した上、郵便物などの宛名面に貼り付け、郵便局などを通じて返送します。

開封後であっても、購読拒否の意思を相手に明確に伝える文書を同封し、簡易書留や宅配便で送付します。なお、後日、言い掛かりをつけられる可能性もあるため、書留郵便物受領書や宅配便の送付依頼書、同封した文書の控えを保管しておくとよいでしょう。

2)見知らぬ団体などから電話があり、機関紙・図書などの購入を要求される

電話による機関紙・図書の購入要求に対しては「必要ありません」と明確に拒否することが基本です。

相手が「同業他社の多くが協賛している」「今回限りで構わない」などと強引に購入を要求してきても、その場しのぎに要求に応じてはいけません。また、「結構です」などといった、どちらとも取れる返答をするのは禁物です。なお、機関紙・図書などを購入するかしないかは、各企業の自由意思であり、購入を拒否する理由を告げる必要はありません。

今まで機関紙・図書の購読をしている場合でも、購入に至った経緯や現状での必要性を改めて確認し、必要のないものであれば購入を断るべきです。

5 主な相談先

各都道府県に設置されている暴力追放運動推進センターでは、反社会的勢力の活動に対する企業の対応について、弁護士や警察出身者など専門知識や経験を有する暴力追放相談委員による相談を受け付けています。

また、暴力追放運動推進センターや警察署では、暴力団対策法に基づき、事業所ごとに選任された不当要求防止責任者に対して、暴力団の情勢や暴力団からの不当な要求の対処方法などに関する講習を実施しています。

反社会的勢力の活動に関しては、所轄の警察や暴力追放運動推進センターの担当者との連携を密にし、ささいなことでも早期に相談するとよいでしょう。各都道府県の暴力追放運動推進センターは次のウェブサイトで確認することができます。

■全国暴力追放運動推進センター「都道府県暴追センター連絡先一覧表」■
http://fc00081020171709.web3.blks.jp/center/index.html

日本弁護士連合会や各地の弁護士会でも、反社会的勢力の活動に関する相談を受け付けています。

■日本弁護士連合会■
https://www.nichibenren.or.jp/

以上(2018年10月)

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