特定施設入居者生活介護サービス事業の概要

書いてあること

  • 主な読者:特定施設入居者生活介護サービス事業を新たに手掛けたい経営者
  • 課題:申請に当たって必要な書類や、設備基準について知りたい
  • 解決策:介護保険法や厚生労働省令「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」に基づき、手続きや必要なものを確認する

1 特定施設入居者生活介護事業における指定の申請

1)居宅サービス介護事業としての特定施設入居者生活介護

「特定施設入居者生活介護」とは、有料老人ホームやケアハウスなど厚生労働省令で定める特定施設に入居している要介護者等について、特定施設サービス計画に基づき、入浴、排せつ、食事などの介護、その他の日常生活上の世話、機能訓練および療養上の世話を行うことです。

特定施設入居者生活介護は介護保険制度における居宅サービスの1つです。居宅サービス事業者は都道府県知事(指定都市・中核市は各市長)より指定を受ける必要があります(介護保険法第41条第1項、同第70条第1項および第2項、同第203条の2)。入居定員が29人以下の小規模施設は地域密着型サービスを行う施設として市町村長への申請になります(介護保険法第78条の2第1項)。

2)提出事項

特定施設入居者生活介護を行うために事業者の指定を受けようとする者(居宅サービス事業者)は、次に掲げる事項を記載した申請書または書類を、当該指定に係る事業所の所在地を管轄する都道府県知事に提出しなければなりません(介護保険法施行規則第123条)。特定施設入居者生活介護に係る居宅サービス事業者の指定に当たって必要となる提出事項は次の通りです。

  • 事業所の名称及び所在地
  • 申請者の名称及び主たる事務所の所在地並びにその代表者の氏名、生年月日、住所及び職名
  • 当該申請に係る事業の開始の予定年月日
  • 申請者の定款、寄附行為等及びその登記事項証明書又は条例等
  • 建物の構造概要及び平面図(各室の用途を明示するものとする)並びに設備の概要
  • 利用者の推定数(要介護者及び要支援者のそれぞれに係る推定数を明示するものとする)
  • 事業所の管理者の氏名、生年月日、住所及び経歴
  • 運営規程
  • 利用者からの苦情を処理するために講ずる措置の概要
  • 当該申請に係る事業に係る従業者の勤務の体制及び勤務形態
  • 当該申請に係る事業に係る資産の状況
  • 指定居宅サービス等基準第192条の2に規定する受託居宅サービス事業者が事業を行う事業所の名称及び所在地並びに当該事業者の名称及び所在地
  • 指定居宅サービス等基準第191条第1項に規定する協力医療機関の名称及び診療科名並びに当該協力医療機関との契約の内容(同条第2項に規定する協力歯科医療機関があるときは、その名称及び当該協力歯科医療機関との契約の内容を含む)
  • 当該申請に係る事業に係る居宅介護サービス費の請求に関する事項
  • 誓約書
  • 役員の氏名、生年月日及び住所
  • 介護支援専門員(介護支援専門員として業務を行う者に限る)の氏名及びその登録番号
  • その他指定に関し必要と認める事項

事業所の所在地を含む区域における利用定員の総数が、都道府県の介護保険事業支援計画に定める合計数に達しているか、新たに指定することによってこれを超えることになる場合などには、都道府県知事は事業者の指定をしないことができます(介護保険法第70条第4項)。

2 特定施設入居者生活介護の事業基準、介護報酬

1)特定施設入居者生活介護の基本方針

特定施設入居者生活介護事業の人員、設備、運営に関する基準は、厚生労働省令「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(以下「基準」)」に規定されています。

居宅サービスに該当する特定施設入居者生活介護の事業は、特定施設サービス計画に基づき、入浴、排せつ、食事などの介護、その他の日常生活上の世話、機能訓練および療養上の世話を行うことです。これにより、入居者が要介護状態などとなった場合でも、当該指定特定施設においてその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるようにするものでなければなりません(基準第174条第1項)。

指定特定施設入居者生活介護事業者は、安定的かつ継続的な事業運営に努めなければなりません(基準第174条第2項)。

2)特定施設入居者生活介護の設備に関する基準

指定特定施設の介護居室、一時介護室、浴室、便所、食堂および機能訓練室は、次の基準を満たさなければなりません(基準第177条第4項)。

  • 1居室の定員は1人とする。ただし、利用者の処遇上必要と認められる場合は2人とすることができるものとする。プライバシーの保護に配慮し、介護を行える適当な広さであること。地階に設けてはならないこと。一以上の出入り口は、避難上有効な空き地、廊下または広間に直接面して設けること。
  • 一時介護室は、介護を行うために適当な広さを有すること。
  • 浴室は、身体の不自由な者が入浴するのに適したものとすること。
  • 便所は、居室のある階ごとに設置し、非常用設備を備えていること。
  • 食堂は、機能を十分に発揮し得る適当な広さを有すること。
  • 機能訓練室は、機能を十分に発揮し得る適当な広さを有すること。

指定特定施設は、利用者が車いすで円滑に移動することが可能な空間と構造を有するものでなければなりません(基準第177条第5項)。

指定特定施設の建物は、建築基準法に規定する耐火建築物または準耐火建築物でなければなりません(基準第177条第1項)。

指定特定施設は、一時介護室(一時的に利用者を移して指定特定施設入居者生活介護を行うための室)、浴室、便所、食堂および機能訓練室を有しなければなりません。ただし、他に利用者を一時的に移して介護を行うための室が確保されている場合には一時介護室を、他に機能訓練を行うために適当な広さの場所が確保できる場合には機能訓練室を設けないことができるものとします(基準第177条第3項)。

3)特定施設入居者生活介護の介護報酬

要介護者に対する「特定施設入居者生活介護」、要支援者に対する「介護予防特定施設入居者生活介護」の各サービスを提供した事業者には介護報酬が支払われます。

  • 介護予防特定施設入居者生活介護(介護予防給付)
  • 地域密着型特定施設入居者生活介護(定員29人以下):市町村が指定・監督権限を持ちます。
  • 地域密着型以外の特定施設入居者生活介護(定員30人以上):都道府県が指定・監督権限を持ちます。

特定施設入居者生活介護の介護報酬(1日当たり)は次の通りです。

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2018年4月の介護報酬改定において、特定施設入居者生活介護に新設された加算としては、退院・退所時連携加算、入居継続支援加算、生活機能向上連携加算、若年性認知症入居者受入加算、口腔衛生管理体制加算などがあります。

  • 退院・退所時連携加算:30単位/日
  • ※入居から30日以内に限る
  • 入居継続支援加算:36単位/日
  • 生活機能向上連携加算:200単位/月
  • ※個別機能訓練加算を算定している場合は100単位/月
  • 若年性認知症入居者受入加算:120単位/日
  • 口腔衛生管理体制加算:30単位/月

3 有料老人ホームとケアハウスの状況

特定施設入居者生活介護の指定を受けてサービスを行っているのは、主に有料老人ホームとケアハウスです。厚生労働省「社会福祉施設等調査」によると、有料老人ホームとケアハウスの施設数、定員、在所者数の推移(各年10月1日調査)は次の通りです。

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有料老人ホームは増加し続けています。これは介護専用型ではなく外部サービスを利用する「住宅型」の有料老人ホームが増加していることなどが理由にあります。

4 介護費の推移

国民健康保険中央会によると、特定施設入居者生活介護の介護費の推移は次の通りです。

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特定施設入居者生活介護の利用は拡大を続けています。指定を受ける主な施設は有料老人ホームですが、低所得者対策などからも、ケアハウスなど有料老人ホーム以外の施設の充実の重要性も高まっています。

以上(2018年10月)

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訪問介護事業の開業手続き

書いてあること

  • 主な読者:コスト削減を進めたい経営者
  • 課題:どのような手順で、何を対象に削減していけばよいのか迷う
  • 解決策:利益に貢献しないコストを科目ごとにあぶり出し、アプローチする

1 訪問介護事業の概要と動向

1)訪問介護

「訪問介護」は居宅サービスの1つで、「要介護者であって、居宅において介護を受けるものについて、その者の居宅において介護福祉士その他政令で定める者により行われる入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活上の世話であって、厚生労働省令で定めるもの」をいいます(介護保険法第8条第2項)。

訪問介護事業者となるには、都道府県知事(指定都市・中核市は各市長)より指定を受けなければなりません。指定条件は、申請者が法人であり、厚生労働省令で定める基準を満たしていることです。

訪問介護サービスは「身体介護」「生活援助」に大別されます。身体介護とは「起床介助、排せつ介助、食事介助、衣服の着脱、体位交換、入浴介助」などの身体に触れる介護です。また、生活援助とは「調理、洗濯、掃除」などの身体に触れない介護です。

身体介護サービスの「入浴介護」は、利用者の自宅浴室において入浴を介助するサービスですが、別の介護サービスである「訪問入浴介護」は、特殊浴槽などの入浴設備とともに利用者宅を訪問して入浴サービスを行うものです。

訪問介護サービスの介護報酬は次の通りです。

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2)訪問介護事業者数の推移

訪問介護事業者数の推移(各年度末時点)は次の通りです。

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2015年度の介護保険法改定により、介護予防訪問介護は2018年3月をもって終了し、訪問介護に相当するサービスの提供は市町村による新しい総合事業「介護予防・日常生活支援総合事業」へ移行されました(2017年度の2948事業者については、2018年3月になってもなお、総合事業に移行せずに介護予防訪問介護サービスを提供していた事業者数です)。

介護予防・日常生活支援総合事業は、利用者の状態・意向を市町村が判断し、介護予防サービスと生活支援サービスを一体的に提供するものです。

これは、市町村が責任主体となって実施している「地域支援事業」を再編成するに当たり、全国一律のサービスの種類・内容・運営基準・単価によるのではなく、市町村の判断でボランティア、NPO、民間企業、社会福祉法人、協同組合などの地域資源を効果的に活用できるようにしていくことが目的です。

2 訪問介護事業者の指定申請

1)介護保険法の指定居宅サービス事業者としての指定申請の流れ

指定手続きの流れは、次の通りです。

  • 指定申請(都道府県知事に提出)
  • 申請の審査(書面審査)
  • 事業者指定(指定通知書の交付)

都道府県知事(指定都市・中核市は各市長)による居宅サービス事業の指定は、居宅サービス事業を行う者の申請により、居宅サービスの種類および当該居宅サービスの種類に関わる居宅サービス事業を行う事業所ごとに行います(介護保険法第70条第1項、第203条の2)。

2)申請書と必要書類

訪問介護に関わる指定居宅サービス事業者の指定を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した申請書または書類を都道府県知事に提出しなければなりません(介護保険法施行規則第114条第1項)。

  • 事業所の名称及び所在地
  • 申請者の名称及び主たる事務所の所在地並びにその代表者の氏名、生年月日、住所及び職名
  • 当該申請に係る事業の開始の予定年月日
  • 申請者の定款、寄附行為等及びその登記事項証明書又は条例等
  • 事業所の平面図
  • 利用者の推定数
  • 事業所の管理者及びサービス提供責任者の氏名、生年月日、住所及び経歴
  • 運営規程
  • 利用者からの苦情を処理するために講ずる措置の概要
  • 当該申請に係る事業に係る従業者の勤務の体制及び勤務形態
  • 当該申請に係る事業に係る資産の状況
  • 当該申請に係る事業に係る居宅介護サービス費の請求に関する事項
  • 介護保険法第70条第2項各号に該当しないことを誓約する書面
  • 役員の氏名、生年月日及び住所
  • その他指定に関し必要と認める事項

3 指定を受けるための基準

申請者は法人であることと、厚生労働省令で定める基準「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(以下「基準」)」を満たしていなければなりません。

1)人員に関する基準(基準第5条)

指定訪問介護事業者は、指定訪問介護事業所ごとに置くべき訪問介護員などの員数は、常勤換算方法で2.5人以上としなければなりません。

指定訪問介護事業者は、指定訪問介護事業所ごとに、常勤の訪問介護員等のうち、利用者の数が40またはその端数を増すごとに1人以上の者をサービス提供責任者としなければなりません。

利用者の数は、前3カ月の平均値とします。ただし、新規に指定を受ける場合は、推定数によります。

指定訪問介護事業者は、指定訪問介護事業所ごとにもっぱらその職務に従事する常勤の管理者を置かなければなりません。ただし、指定訪問介護事業所の管理上支障がない場合は、当該指定訪問介護事業所の他の職務に従事し、または同一敷地内にある他の事業所、施設などの職務に従事することができるものとします。

2)指定訪問介護の基本取扱方針(基準第22条)

指定訪問介護は、利用者の要介護状態の軽減または悪化の防止に資するよう、その目標を設定し、計画的に行われなければなりません。

指定訪問介護事業者は、自らその提供する指定訪問介護の質の評価を行い、常にその改善を図らなければなりません。

3)指定訪問介護の具体的取扱方針(基準第23条)

訪問介護員等の行う指定訪問介護の方針は、次に掲げるところによるものとされています。

  • 指定訪問介護の提供に当たっては、第24条第1項に規定する訪問介護計画に基づき、利用者が日常生活を営むのに必要な援助を行う。
  • 指定訪問介護の提供に当たっては、懇切丁寧に行うことを旨とし、利用者またはその家族に対し、サービスの提供方法等について、理解しやすいように説明を行う。
  • 指定訪問介護の提供に当たっては、介護技術の進歩に対応し、適切な介護技術をもってサービスの提供を行う。
  • 常に利用者の心身の状況、その置かれている環境等の的確な把握に努め、利用者またはその家族に対し、適切な相談および助言を行う。

4)訪問介護計画の作成(基準第24条)

サービス提供責任者は、利用者の日常生活全般の状況および希望を踏まえて、指定訪問介護の目標、当該目標を達成するための具体的なサービスの内容などを記載した訪問介護計画を作成しなければなりません。

訪問介護計画は、既に居宅サービス計画が作成されている場合は、当該計画の内容に沿って作成しなければなりません。

サービス提供責任者は、訪問介護計画の作成に当たっては、その内容について利用者またはその家族に対して説明し、利用者の同意を得なければなりません。

サービス提供責任者は、訪問介護計画を作成した際には、当該訪問介護計画を利用者に交付しなければなりません。

サービス提供責任者は、訪問介護計画の作成後、当該訪問介護計画の実施状況の把握を行い、必要に応じて当該訪問介護計画の変更を行うものとします。

訪問介護計画の変更は訪問介護計画の作成と同様の手続き、方法による必要があります。

以上(2018年10月)

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【事業承継】後継者候補となる従業員の見極めポイント

書いてあること

  • 主な読者:主な読者:後継者候補を見つけたい経営者
  • 課題:後継者候補を見つける際の参考となる考え方が知りたい
  • ポイント:ポジティブ、謙虚、勤勉を基準とする

1 経営者の根本的な仕事は2つ

経営者にとって「100年企業」は1つの夢です。この夢を実現するために経営者がやるべきことは、「利益を出し続ける」「人を育てる」です。企業は利益を出し続けなければ存続できません。そして、利益の出る事業を立ち上げて遂行するのは「人」です。そのため、経営者は人を育てなければなりません。

経営者が将来の経営幹部の卵を見いだすに当たって参考になるように、経営幹部に求められる素養をまとめます。

2 ポジティブであること

1)ポジティブだからつかめるチャンスがある

将来の経営幹部に求められる最も基本的な条件は、ポジティブ(前向き)であることです。ポジティブな経営幹部は組織に明るさと活力を与え、ビジネスのちょっとした変化からチャンスを見いだす可能性が高まるからです。

ビジネスでは「規制改革が行われた」「相手の担当者が変わった」など、常に変化があります。ここで、「新しい規制に対応すればチャンス」とポジティブになるのと、「この忙しいのに厄介だ……」とネガティブになるのとでは、次の行動の質が違います。

実際に規制改革がチャンスになるかどうかは分かりません。しかし、やってみなければ何も起こりません。であるならば、前に進むために行動を起こしたほうが可能性も広がります。

経営幹部が組織に与える影響は大きいものです。ポジティブな経営幹部が率いる組織は明るく積極的で、ネガティブな経営幹部が率いる組織は暗く消極的です。ビジネスチャンスをつかめるのは、ポジティブな経営幹部が率いる組織です。

2)失敗しても立ち上がる強さを組織に浸透させる

従業員がポジティブであるか否かは、日ごろの言動を見ていればある程度分かりますし、経営者があえて難題を任せてみるのも一策です。そのとき、「よし! やってやる」と前向きに取り組む姿勢が見られれば合格です。

中には、内心はやる気に満ちているのに、それを表に出さない従業員もいます。こうした従業員は、「やる気を見せたのに、失敗したら恥ずかしい……」と考えているのかもしれませんが、このような考え方は経営幹部としてはふさわしくありません。

「一勝九敗」という経営者がいるように、失敗することのほうが多いのです。そのため、経営幹部には、失敗しても何度でも立ち上がる心の強さが必要であり、それを組織に見せることで「折れない組織」をつくることができます。

3 謙虚であり、短慮でないこと

1)謙虚でなければ成長できない

経営幹部は、常に新しいことにチャレンジしなければなりません。とはいえ、自分一人でできること、学べることは限られています。そのため、経営幹部はたくさんの人と出会い、謙虚な姿勢で人と接し、多くのことを吸収していく姿勢が求められます。

従業員の謙虚さが垣間見られる1つの例は、上司からちょっと面倒な指示を受けたときです。指示の内容をよく考えもせず、反射的に「でも……」「難しいですね……」などと言っているようでは失格です(きちんと考えた上での回答ならば問題ありません)。

部下の立場で考えれば、上司の指示は大概面倒なものであり、「なぜ、そんな細かいことまで指摘されなければならないんだ」と感じることが少なくないはずです。しかし、上司は何らかの目的や意図がなければ部下に指示を出しません。

親の説教のありがたさが、年を取ってから分かるのと同じで、その場では分からないかもしれませんが、上司の指導は部下の成長を促すものです。この点をわきまえ、上司の面倒な指示に聞く耳を持てる従業員が経営幹部に向いているといえるでしょう。

2)短慮は単なる思考停止

ただし、謙虚に相手の話を聞くとはいっても、相手が言っていることや、目に見えたことだけで全部を把握したつもりになり、単純に物事を判断してしまうのでは短慮であると言わざるを得ません。

周囲の人が常に正しいことを教えてくれるわけではありません。上司の指示もしかりです。経営幹部になることを期待されている従業員であれば、相手の話を受け入れつつ、「本当にそうなのか? もっと良い方法はないのか?」と考える姿勢が必要です。

これは相手の話を聞くときに限ったことではありません。例えば、「Aさんが新規取引先を獲得して1000万円を売り上げた」としましょう。まずは同僚の成功を祝福する素直さと、次は自分が売り上げてやるという意気込みが必要です。

ただし、「Aさんはすごい! 1000万円の売り上げのおかげで今月の目標が達成できた。自分も頑張ろう!」と漠然と考え、それで終わっているようでは、経営幹部としては物足りません。

企業経営の観点からいえば、1000万円を売り上げた理由やその手法を分析し、横展開して再現することが重要です。成功は一瞬にして次の取り組みのプロセスに組み込んでいかなければならないのです。

Aさんがどのような営業手法を取ったのか、あるいはAさんの他にその活動を側面サポートしたBさんの功績が大きいのではないかなど、物事の本質を捉える姿勢は常に求められます。

これはとても大切です。経営幹部になると、自分の部下だけではなく、顧客や取引先も評価しなければならなくなります。経営幹部の役割は、目に見えることを正確に把握しつつ、それを深掘りして将来を見据えた戦略を検討・遂行することです。

4 勤勉であること

1)意気込みだけでは太刀打ちできない?

ビジネスは決断の連続です。正しい決断ができる確率を高めるには、会計・法務・労務など多分野にわたる正確な知識が不可欠です。そのため、経営幹部には、ビジネスの多分野にわたる正確な知識を貪欲に吸収し続ける勤勉さが求められます。

決断すべき事項や局面によって異なりますが、経営幹部として最低でもその分野の入門書と初級の専門書をそれぞれ1冊読むべきです。それらを読んだ上で生じた疑問を解消するため、専門家からコメントをもらう程度のことも必要でしょう。

一方、何かを決断する際、情熱や意気込みが重要だとする従業員がいます。確かに情熱や意気込みは不可欠ですが、知識が圧倒的に不足している状態で動くのは危険過ぎます。知識と情熱のバランスを取る必要があります。

2)勤勉+勉強好き=指導力

経営幹部は勤勉でなければ務まりませんが、加えて勉強好きであることが理想的です。自分が知らないことを一から勉強するのは楽ではありませんが、勤勉でしかも勉強好きな従業員であれば、楽しみながらコツコツと取り組むことができるでしょう。

一生懸命に勉強すれば「分からないことが分かるようになる」という、ごく当たり前のことを経験している従業員が経営幹部になれば、自身の経験も踏まえ、勤勉であることの大切さを部下に教えることができます。

部下がその影響を受けて勤勉になれば、組織全体の知識量が増えていきます。そうして蓄えられた知識や物事を学ぶ姿勢は、何か新しいことを始めるときだけではなく、既存事業の見直しの際にも役立ちます。

一方、勤勉でない人は知らないことから逃げる癖がついています。そうした従業員が経営幹部になると、自分が知らないことは部下に丸投げし、部下から上がってきた報告書の質を判断することもできず、そのまま上司や顧客に提出してしまいます。

従業員が勉強家であるか否かは、日ごろの仕事への取り組みを見ていれば分かります。知識は勉強量に比例して増えていくため、勉強している従業員の発言や報告書の内容は明らかにレベルアップしていきます。

これに対して、いつも同じことばかりを言っている従業員は勉強していない可能性があります。発言に進歩がないのは、勉強して自分の知識や意見をブラッシュアップしていない証拠だといえるでしょう。

5 全体の利益を考えられること

1)24時間仕事のことを考えられるか?

「24時間仕事のことを考えられるか?」というと、違法な長時間労働を強制したり、人権を無視したような言動を繰り返したりする「ブラック企業」を連想する人がいるかもしれません。

ここでいう「24時間仕事のことを考えられるか?」というのは、文字通りに24時間働くということではなく、「どれだけ当事者意識を持って仕事に取り組むことができるか」ということの1つの例えです。

経営者にとって仕事は自分の一部であり、夢の中で出てきたアイデアを枕元に置いてある紙にメモをすることもあるほどです。文字通り、「寝ていても仕事のことを考えている」わけです。経営幹部にも、こうしたマインドが求められます。

2)全体を意識して行動できるか

全体を意識して働くことは、当事者意識を持って働くということに他なりません。従業員が当事者意識を持つと、視野が広がり、自分のことだけではなく全体の利益を意識できるようになっていきます。こうした従業員の意識の変化は、ちょっとした行動にも表れます。

例えば、定期的に社内清掃をしている場合、従業員の動きを確認してみましょう。全体のことを考えている従業員は、いつも共用スペースの掃除から始めます。自分のデスクは日ごろから整理整頓されているので、すぐに共用スペースの掃除ができるのです。

自分を犠牲にするわけではありません。しかし、仕事と真剣に向き合うと、会社や同僚のために自分は何をすべきかを考え、それが言動に表れてきます。社内外の全体に目を配れる視野の広さや部下への配慮は、経営幹部が人を導く上で不可欠な素養です。

以上(2020年7月)

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歴史を未来に残す「社史」と「自分史」の制作

書いてあること

  • 主な読者:社史や自分史を制作したいと考える経営者
  • 課題:何を載せればいいのか分からない、どう作ればいいのか分からない
  • 解決策:制作の目的を明確にし、何を載せるべきか、どう進めるべきかを固める

1 「社史」制作を考える

周年記念事業などとして、社史の刊行を行う企業は少なくありません。それは次のような意義・メリットがあるからです。

1)未来への道標

社史制作は企業の未来への新たな道標を打ち立てる試みです。また、資料や情報の整理と保存という一面もあります。

2)歴史に残す

社史を残すことは、会社の歩んできた事実を残すことです。読んだ人がそこから多くを学ぶことで、最終的に会社に対する好意・親しみなどにつながります。

3)社員教育

特に若い社員にとって、自社の歴史への深い知識は仕事への意欲と誇りの源泉となります。その意味で社史は絶好の社員教育のテキストになります。

4)OB社員・取引先への謝恩、または社外へのPRのツール

社史の制作は、創業期から事業発展に尽くしてきた先輩の苦労をしのび、また、貴重なパートナーシップを長期間保ってきた取引先や関係者に謝意を表す上で、またとない機会となります。さらに、改めて広く社業をPRする強力なツールにもなります。

5)この他のメリット

「業界史としての意義がある」「経営上のヒントが得られる」「実際の業務に資料として活用できる」などのメリットも挙げられます。

2 社史の制作スタイル

現在では、社史の制作スタイルが多様化し、電子書籍など多様な媒体への挑戦も見られ、有用かつ利用しやすい社史の制作が進んでいます。

また、若い社員を意識して、読みやすさや親しみやすさを追求するビジュアル化の傾向も強くなっています。さらに、社歴を詳細に記録した「本格的社史」と併せ、創業期の苦労話などに重点を置き、読みやすくリライトした「普及版」を制作する企業もあります。

「社員のモラル向上」「企業の歴史の継承」といった観点からすれば、社内で取り組むことが望ましいといえますが、中には制作をアウトソーシングする企業もあります。

アウトソーシングのメリットは、スケジュールや品質の面で一定水準のレベルを期待できることです。

アウトソーシングする場合には、次のようなタイミングがあります。

1)社史の発刊が決まる前

社史の発刊のメリットやコストについて意見を聞くことができます。この時点での相談は、無料であるのが一般的なようです。

2)社史の発刊が決まったとき

制作過程全般についてアドバイスを受けながら話を進めます。この段階で、アウトソーシング先に見積書・企画書を提出してもらい、正式に制作を委託することになります。

3)資料収集が一段落したとき

資料収集の作業を通して社史に対するコンセプトが明確になっていくことが多いため、アウトソーシング先に企画案を提出する際に方向付けがしやすいことがメリットです。また、実際の資料に基づいて立案できることもメリットといえます。

4)原稿作成が一段落したとき

この段階で外部スタッフを導入すると、原稿内容のチェックやリライトをしてもらえるメリットがあります。

なお、アウトソーシング先に求められるポイントは次の通りです。

  • 社史についての制作キャリアがあり、ノウハウが体系化されている
  • 見積もりの細目についてきちんと説明ができる(コスト管理についてのノウハウがある)
  • 契約書を用意している
  • 書籍印刷についての管理が行き届いている
  • 企業の風土をよく理解できる
  • 社史を執筆するライターを豊富に抱えており、ライター管理も行き届いている(ただし、ライターは取材したことを原稿に起こしますが、社史の原稿をすべて記述してくれるわけではありません。多くの場合、社史編さんの担当部門が社史に掲載する原稿を各部門に依頼し、当該部門で原稿を作成することになります)

3 社史完成までの一般的なスケジュール

社史の完成までに要する期間は、資料の多寡や求めるレベルの高さなどによって決まりますが、最低1年程度と長期間に渡ることが多いようです。

その間に進められる作業は次の通りです。

  • 企画立案(基本コンセプト、製本形式やページ数、部数などを決定)
  • 資料収集・取材・撮影
  • 原稿作成(内容チェックと修正)
  • 編集・レイアウト作成
  • 校正作業
  • ブックデザイン決定(サンプル本を制作して検討)
  • 印刷製本
  • 納品

4 「自分史」の制作

「自分史」とは、個人が過去を振り返り、まとめたものです。経営者のみならず、一般の人の中にも自分史を制作する人は多く見られます。自分史は、次の2つのタイプに大別されます。

  • 過去の人生に起こった出来事について主に語るもの
  • その出来事に対する自分の感想を語るもの

実際の自分史ではこの2つが混然一体となっているケースが一般的ですが、詳細に見ると、やはりどちらかに力点が置かれているものです。

なお、自分史をまとめる際は、家族や知人のプライバシーに触れることもあるので、これらの人物に関する描写や掲載については、事前に本人の了解を得る必要があります。

自分史を製作する際の費用は大きく2つに分けられます。

  • ハード面:印刷費・紙代・製本などの費用
  • ソフト面:編集・装丁・校正・原稿作成などの費用

このうちハード面については、投入した予算の額が本の出来栄えに直結します。一方、ソフト面については若干の節約が可能です。例えば、原稿を自分で書くのであれば、原稿作成費用を省くことが可能です。

現在、さまざまな業態の企業が自分史の制作を扱っています。出版社もあれば編集プロダクションもあり、また印刷会社や新聞社の一部が自分史の制作を手掛けているケースもあります。

自分史の制作は、社史に比べるとハードルが高くないとはいえ、やはり読者を想定して書かないと客観性や統一性を欠く原稿になってしまうため、的確なアドバイスをしてくれる編集者の存在が不可欠です。

5 専門業者の活用

社史および自分史の制作に専門業者を利用する場合には、印刷会社・ライター・ブックデザイナー・レイアウター・編集者・カメラマンなどが関係してきます。

社史編さんの担当者や自分史の著者がこれらを自分で指揮して作業を進めることもできますが、最近では印刷会社、出版社、書店などが行っている「自費出版サービス」を利用するケースも増えています。

自費出版サービスの窓口には、主に次のものがあります。

1)印刷会社

自費出版を版下作成から印刷・製本といった「原稿を本の形にする」作業と捉えられば、最も安い費用でできるのは印刷会社となります。

しかし、自費出版に関わる作業は単純な版下作成や印刷・製本作業だけではなく、カバーデザインやタイトル・版型の決定・装丁のイメージ・文章の校正など、「編集」に関する作業が少なくありません。そして、多くの印刷会社ではこうした編集作業に関するノウハウを持っておらず、書籍づくりに関する具体的なノウハウについての助言は、多くを期待できないのが実情です。そのため、印刷会社を窓口に自費出版を行った場合は、こうした編集に関連する作業は原則として自分で行うことになります。

ただし、自社内に編集部門などがあり、編集に関するノウハウを持つ印刷会社も少数あります。こうした印刷会社であれば自費出版に関するアドバイスも期待できます。なお、印刷会社は出版社と異なり取次会社(注)に口座を持っていないため、取次会社を通した書籍の書店流通はできません。印刷会社を窓口とした自費出版を行い、なおかつ書店流通を行う場合には、自分自身で本を書店に持ち込んで陳列販売してもらうための交渉が必要となります。

印刷会社を窓口とした自費出版は、基本的には書店流通を考慮しない私家本として、費用を極力安くしたい場合や、デザインや編集に関するある程度のノウハウをもつ場合に適しているといえるでしょう。

(注)「取次会社」とは、出版社・小売書店の中間にあって、書籍・雑誌などの出版物を出版社から仕入れ、小売書店に卸売する販売会社のことをいいます。

2)自費出版専門会社

私家本を専門に取り扱う会社もあります、これは一種の編集プロダクションといえ、印刷会社での自費出版とは逆に編集に関するノウハウ提供を期待して利用するものです。

自費出版専門会社では、文章作成・原稿整理・校正・カバーデザイン・装丁などの編集作業を含めて自費出版を請け負ってくれます。

ただし、一般的な出版社ではないため、主要な取次会社の口座は持っていないのが通常です。こうした自費出版専門会社で出版した書籍を書店流通させるためには、印刷会社を通じた自費出版と同様に書店と直接交渉する必要があります。

3)出版社の自費出版部門や子会社

中小出版社の自費出版部門や大手新聞社・出版社の子会社が自費出版業務を行っているケースもあります。

これらの企業は書籍づくりに関してはプロであり、原稿作成から印刷・製本に至るまで総合的なノウハウの提供が期待できます。また、取次会社に口座を持っているため、出版物の書店流通も可能です。

ただし、書店流通を行う場合には、最低印刷部数の制限があります。また、「印刷部数のうち、書店配本を行うのは20%以内」といった制限が設けられるケースも多く見られます。なお、取次会社を通した書店流通のサービスは行わない会社もあります。

4)書店

書店で自費出版を行っているケースもあります。例えば、創英社/三省堂書店の自費出版サービスでは、打合せ・見積作成・編集作業・校正・印刷・製本・納品・配本まで一括して提供しています。また、当該自費出版物にはISBNコードを付与することが可能で、全国の書店に流通させることができます。

また、創英社/三省堂書店のISBNコード付きの自費出版物は三省堂書店グループで一定期間の陳列販売をすることができます。

6 印刷にかかる費用

印刷にかかる費用については、出版社から受けるサービスの内容や印刷方法について大きく異なるため、一概にはいえない面があります。

1)社史

社史や自分史などの受託出版を数多く手掛けている日本経済新聞出版社日経事業出版センター(以下「日経事業出版センター」)によると、社史の製作費の一例は次の通りです。

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費用はハード部門(印刷関係、製本代、製函代、用紙代など)とソフト部門(原稿料、写真撮影費、レイアウト・デザイン料、編集費、校正費など)に分かれます。総ページ数やカラーページの量、通史本文ページの執筆に伴う原稿料、撮影費などでハード・ソフト部門の費用が異なります。

2)自分史

日経事業出版センターによると、自費出版の製作費の一例は次の通りです。

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費用はハード部門(印刷関係費、製本代、製函代、用紙代など)とソフト部門(原稿料、写真撮影費、レイアウト・デザイン料、編集費など)に分かれます。

ハード部門ではページ数、カラーページの量、ソフト部門では原稿ができているか否か(ライターに依頼する場合)によって費用は大きく異なります。

7 社史の電子化・電子書籍化

インターネットの普及に伴い、社史および自分史を電子化・電子書籍化して出版・公開しているケースも見られます。電子媒体とすることで、パソコンやスマートフォンなどがあればいつでもどこでも閲覧することができます。また、音声データや動画も閲覧することができます。

最近では、自分で作成できるソフトも登場し、個人でも簡単に電子書籍による自分史を作成することができます。

現在のところ、社史および自分史においては、紙による書籍の出版が主流となっていますが、電子媒体のメリットである「文字の大きさを拡大できる」「音声データや動画も閲覧できる」「検索性に優れている」といった点を鑑みると、今後は電子書籍の利用がさらに進展する可能性もあります。

以上(2018年10月)

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経営者たる風格をまとうための処方箋

書いてあること

  • 主な読者:経営者として恥ずかしくない立ち居振る舞いをしたい経営者
  • 課題:心がけているつもりだが、本当に経営者として相応しいか疑問
  • ポイント:評価は周囲がしてくれるもの。日々、真摯に活動する

1 ビジネスにおいて重要な「印象」の効用

1)「見た目」が重要?

人は出会ってからわずか数分間の第一印象で、相手のイメージを固めているそうです。第一印象の決め手は人それぞれで、出会った状況にも影響を受けます。しかし、一説では「見た目」が大きな影響を与えるようです。

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表情やしぐさなど、見た目に関することが55%と高く、話の内容に関することが7%と低いのは意外です。これは、米国の心理学者であるアルバート・メラビアンが行った非言語コミュニケーションに関する実験結果を応用した考え方だといわれています。

この考え方には、さまざまな説があったり、前提条件があったりするため、「『見た目』が一番」と単純に結論付けることはできません。しかし、日ごろ、自分が相手のどこを見ているのかという実体験からも、「見た目」の重要度が分かります。

2)「好印象」がもたらすメリット

第一印象は強烈に刷り込まれます。仮に、第一印象が「しっかりしていそうな人」であれば、わずか数分のうちに、ある程度、相手の信頼を得られます。逆に、第一印象が「頼りない人」であれば、それを覆すのには苦労します。

一方、深く話し込んでいくうちに、最初のイメージが変わってくるのはよくあります。ただし、これは相手との付き合いが長く続くことが前提であるため、やはり最初に「もう一度、この人に会いたい」と相手に思ってもらうことが重要です。

2 「好印象」は経営者にこそ必要

相手に与える印象の大切さは、経営者こそ認識しなければなりません。経営者は、その存在自体が企業のブランドであり、周囲の人は経営者自身が思っている以上に経営者のことをよく見ているからです。そして、周囲の人は、経営者の「見た目」「しぐさ」「話の内容」などから、経営者自身や企業の実力を推し量っています。加えて、経営者はその対外的な立場(役職)上、出会ったときから高いハードルを相手から課せられています。にもかかわらず経営者の印象が悪いと、相手はがっかりします。

そうならないために、経営者は印象と言動の一貫性を心掛けましょう。つまり、相手が抱いている「この経営者ならこんな言動をしてくれそうだ」といった期待を裏切らない言動を取るのです。印象と言動が一貫した経営者は、相手から見て頼もしく感じられます。その頼もしさは、経営者にふさわしい風格へとつながります。

風格のある経営者は、対内的にも対外的にも強い求心力を発揮します。人を引き付ける魅力を持つことは、ビジネスの可能性を広げる上でとても重要な要素です。以降では、風格のある経営者になっていくための心構えを紹介します。

3 ギャップを認識し、理想の自分像を固める

1)鏡の姿は本物ではない?

日ごろから大勢の人と接し、また皆の手本にならなければならない経営者は、自分が周囲にどのような印象を与えているのかを気にしています。そのため、例えば見た目については、髪形やひげの手入れをしっかりしていますし、身に着けるスーツや小物にもこだわります。

そして、毎朝、鏡に自分の姿を映し、清潔感があるかなどをチェックするわけですが、鏡に映っている自分の姿を見て、「これでよし!」と考えるのは早計かもしれません。なぜなら、鏡に映っているのは、自分を鏡に映す数十秒のためにポーズを決めた“よそ行き”の姿だからです。

鏡に映ったよそ行きの姿は、背筋がピンと伸び、引き締まった真剣な顔あるいは爽やかな笑顔のはずです。しかし、よほど意識していなければ、その姿を長時間キープすることはできません。ふと気を抜いたときの姿は、頼りないものかもしれません。

話し方やしぐさも同様です。気が緩むと、無意識のうちに経営者にふさわしくない言葉遣いになってしまったり、へらへらと軽い印象を与えるしぐさになっていることがあります。そして、そうした経営者の姿を周りの人たちは確実に見ています。経営者が考える自分の姿と、周りの人たちが見ている実際の姿にはギャップを認識しましょう。

2)理想のモデルを見つけ、徹底的にまねる

経営者は理想の姿を明確にイメージしましょう。例えば、「ビジネスに情熱を燃やす、熱い経営者」といった感じです。ただ、これでは漠然としているので、伝説の経営者、現役の経営者の他、ドラマの主人公など「あの人のようになりたい」という具体的なモデルを決めます。そして、話し方や声の大きさなどを徹底的にまねしてみましょう。それを継続していくと、役者が役作りをするように、自分自身に理想のモデルが刷り込まれていきます。

なお、手本とするモデルは、身近にいるメンターが理想です。ビジネスは刻々と変化し、1つとして同じ状況はありません。伝説の経営者の姿勢から学ぶのも大事ですが、経営者にとっては「今、そのとき、どのように行動すべきか」が重要です。その都度、相談できるメンターが手本であれば、実際に話をしながら学び、すぐに実践することができます。

4 見た目や話し方にこだわるが、型にははまらない

1)「見た目」に投資する

「自分は服装にこだわりがないし、それは仕事の質に関係ない」と考える経営者もいます。しかし、それはあくまでも経営者の個人的な考え方です。服装がだらしなければ、周囲はマイナスの印象を持ちます。

今では、夏場のクールビズやスーパークールビズが普及し、ノータイ、ノージャケットでも違和感がなくなりました。また、業種によって異なりますが、会談にジーンズ姿で現れる経営者もいます。しかし、いくら時代の流れとはいえ、大切な会談の場にジーンズ姿やよれよれのワイシャツで現れる経営者がいたら、違和感を覚える人が少なくないでしょう。

また、「服装など見た目に気を使えない人は、仕事も大ざっぱで、細かなことに気が付かないのでは?」と考えられてしまいます。華美な格好をする必要はありませんが、経営者にふさわしい格好を心掛けなければなりません。イメージコンサルタントに相談すれば、パーソナルカラーや似合う髪形などを診断してくれるので、そうしたサービスを利用するのも1つの方法です。

2)マナーにこだわり過ぎない

正しい言葉遣いや礼儀正しい立ち居振る舞いは、相手にプラスの印象を与えます。ただし、マナーを意識し過ぎるのも問題です。例えば、せっかく面白い話をしているのに、表情は真面目なまま、手は膝の上かテーブルの上で重ねられたままだと、相手はロボットと話をしているような感覚になってしまうかもしれません。

また、相手が「もう、かなり打ち解けたつもり。あるいは打ち解けていきたい」と考えて、少しラフな話し方を織り交ぜてきているのに、こちらが常に真面目なだけの一本調子だと、相手が「この経営者は、こちらと打ち解けるつもりがないかもしれない」と勘違いします。同様に、経営者が終始表情を変えずに真面目な顔をしていると、相手に「この経営者には余裕がないのではないか?」と思われることもあります。

マナーを重んじるのは大切です。しかし、しゃくし定規では面白みがなく、相手と深く打ち解ける機会をなくしてしまうことがあるので注意が必要です。難しいのは、どの辺りまでマナーを崩してよいかというレベル感ですが、基本的に基準は相手にあります。

つまり、相手が打ち解けてきたら、相手よりも少しだけ礼儀正しくしていればよいのです。これであれば、常に相手よりも礼儀正しいことになるため、相手から「失礼だ!」と思われることはないでしょう。

5 常に謙虚な姿勢で、物事に応じて力強く主張する

1)本業はしっかり突っ込む、それ以外も人より突っ込む

相手と話をする際は、話の内容や相手の立場(こちらとの力関係)に応じて、話す時間と聞く時間のバランスを考えましょう。中には、相手が話している話題を強引に自分の話題に置き換え、自分の話ばかりをする経営者もいるようですが、これでは相手に自分勝手な印象を与えてしまいます。

ただし、どのようなシーンであっても、経営者は「自分の会社の本業」(以下「本業」)については、時間をかけてしっかりと話さなければなりません。経営者たるもの、本業について誇りを持ち、誰にも負けないくらいに深く突っ込んで考えていて当然です。

逆にそこが不十分で、本業について質問を受けても「よく分からないのですが……」とか、「そこについては情報が不足しておりまして……」といったような回答しかできないようでは、相手に不信感を与えてしまいます。

加えて、本業に関係のないことについても、他の人よりも少しだけ深く突っ込んで情報収集し、自分なりの考えをまとめておく習慣をつけましょう。相手は、「経営者なのだから、自分なりの主張があって当たり前」と考えています。新聞の一面やテレビのニュースで報じられた内容をそのまま話すのではなく、そこに自分なりの考えを加えると発言に重みが出てきて、相手は「やはり、経営者は物事を深く考えているな」とプラスの印象を持ちます。

2)威張るのは論外、しかし主張を控え過ぎるのも影が薄い

経営者の社内での権限は大きなものであり、大抵のことについては自分が思うように社員に指示することができます。社員を導くことは経営者の役割であり、強いリーダーシップを発揮したいものです。社外の人に対しても同様です。企業を代表する経営者の影響力は社外でも強く、皆、経営者がどのような発言をするのか注意深く見ています。

しかし、これを「自分の力」と勘違いしてはいけません。社内と社外を問わず、経営者という役職に対して敬意を払っている人も多く、必ずしも経営者自身の人間性を認めているわけではありません。そのため、経営者は謙虚な姿勢を崩すことなく、どのような相手に対しても真摯に接することが基本です。

6 自信は周囲が与えてくれるもの

経営者は自分に自信を持ちたいと思っています。企業経営の根幹に関わる決断をしなければならない経営者にとって、自分の能力や決断をどれだけ信じられるかが勝負の分かれ道になることもあります。

しかし、経営者の実感としては、「よし、うまくいったぞ!!」という感情は一瞬にして過ぎ去ります。逆に「あのとき、こうしていれば違う結果になったかもしれない……」という感情に支配される時間が長くなりがちです。

このようなとき、もっと自分や社員を信じて頑張ろうと自分自身を奮い立たせます。ただし、無理やり自信を持とうとしてみても、なかなか自分の意識の中に定着していきません。そのような自信は、から元気のようなものだからです。

自信は周囲が与えてくれるものです。例えば、会社の業績が好調ならば、自分のやってきたことは間違いなかったと自信を持つことができます。あるいは、社外の人から「この前の商品は着眼点が素晴らしいですね。ぜひ、話を聞かせてください」などと言われると、素直にうれしい気持ちになり、そうした成功体験は大きな自信となります。

そして、周囲から与えられた自信を定着させていくために必要なのが、たゆまぬ努力です。自信が持てるような成功体験をしたら、それに慢心することなく成功の要因を探り、次にもっと素晴らしい成功を収めることができるように努力しなければなりません。

こうした取り組みを通じて、周囲から与えられた自信が自分の中に定着し、いざというときに「あのときも頑張れた。今回だって成功させてみせる!!」というポジティブな考え方につながっていきます。

そうしたポジティブで情熱的な経営者は、周囲に「元気」を与えます。相手に好印象を与える要素には、「見た目」「しぐさ」「話の内容」などがありますが、それ以上に、経営者の場合は「情熱」が求められるでしょう。

以上(2019年4月)

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タフな交渉だからこそ前に出る/成功する経営者に欠かせない思考習慣

書いてあること

  • 主な読者:さらに成長するためのヒントが欲しい経営者
  • 課題:自分の考え方をバージョンアップするためにもがいている
  • 解決策:他の経営者の思考習慣も聞いてみる

1 経営者ならではの考え方

社員には理解してもらえないが、経営者仲間で話をすると「そうそう!」と分かり合える、経営者ならではの考え方があります。会社の成長、自分と家族の生活、社員とその家族の生活、社会への貢献などについて責任を負う経営者は逃げられません。

それが社員との視点の高さや広さの違いとなり、経営者ならではの考え方につながっています。経営者が社員と同じレベルで考えているようでは物足りませんが、その一方で、独り善がりになるのも問題です。

今回は、「経営者の英才教育が部下を潰すこともある」「縁の下の力持ちの生産性を高める」「タフな交渉だからこそ前に出る」という3つの思考習慣を取り上げます。経営者ならではの考え方と、独り善がりにならないためのポイントを紹介します。

2 経営者の英才教育が部下を潰すこともある

部下を平等に扱おうと考える上司は少なくありません。今どきは、パワーハラスメントなどの問題もあるので、日ごろの接し方はもちろん、処遇もあまり差をつけないほうが無難であるという考えが広まっているためかもしれません。

しかし、多くの経営者はこのようには考えません。部下の能力や就業姿勢、会社への貢献度には顕著な差があるため、そもそも平等に扱うこと自体が平等ではないのです。実際、経営者は「見込みがある!」と感じた社員に英才教育をします。

例えば、今のその社員の実力では対応が難しい仕事を任せてみたり、年上のメンバーがいるチームをマネジメントさせたりします。そして、壁にぶつかった社員がどのように対応するのかを観察し、必要に応じてサポートしながら、困難に向き合う考え方や、それを克服する手法を教えていきます。

ただし、経営者の英才教育を受けて成長できるのは、素養と熱意がある社員だけです。「困難を乗り越えて成長したい。足りないことは勉強する」と考える部下は、経営者の指導を意気に感じて仕事に打ち込むでしょう。

しかし、そうした気持ちがない、あるいは壁を突破できずに気持ちが後ろ向きになってしまった部下は、経営者の期待をプレッシャーに感じます。その部下はやがてやる気を失い、ボタンの掛け違いが起こるとパワーハラスメント問題に発展したり、会社を辞めてしまうこともあります。

良い意味でひいきをするのが経営者の考え方ですが、場合によっては優秀な社員を失ってしまう恐れがあることも忘れないようにしましょう。

3 縁の下の力持ちの生産性を高める

パレートの法則は、俗に「28の法則」や「262の法則」と呼ばれるもので、「収益の80%は、上位20%の顧客から生まれている」というのが基本的な考え方です。最も効果が大きいところに注力するのが経営の定石なので、収益を上げるには上位20%の顧客にアプローチすることになります。

また、パレートの法則は社員の働きぶりに当てはめて議論されることもあります。その内容は「社員は優秀な20%、普通の60%、いまひとつの20%に分かれる」というもので、定石通りなら、優秀な20%の社員を重視したマネジメントをすることになります。

しかし、多くの経営者はそうした組織運営ではうまくいかないことを知っていて、普通の60%やいまひとつの20%に配慮します。なぜなら、優秀な20%の社員が輝けるのは、その他80%の社員のサポートがあるからです。それに、優秀な20%は放っておいても成果を上げます。経営者はそうした社員に権限を与え、任せておけばよいのです。

手が掛かるのは残りの80%の社員です。優秀な20%が立ち上げたビジネスを、実務家としてこなすのは普通の60%の社員、さらに役割分担の隙間に生じる、単純だが面倒な仕事をしているのはいまひとつの20%の社員です。そうなると、普通の60%の社員といまひとつの20%の社員をマネジメントすれば、全体の生産性が高まりやすくなるのです。

ただし、20%、60%、20%の割合を意識し過ぎてはいけません。この割合は社員の能力を相対的に比較した結果です。仮にドリームチームであっても、20%、60%、20%が生じます。

また、上位20%にいる社員が常にそこに居続けられるわけではありません。とても優秀な社員が入ってくれば、それに押し出されて普通の社員になる優秀な社員が出てきます。この社員のフォローを怠ると、直前まで優秀な社員のグループにいた貴重な戦力がやる気を失ってしまいかねません。

経営者は、縁の下の力持ちになっている社員のマネジメントをすると同時に、相対的に生じる20%、60%、20%だけではなく、個々の社員の業務遂行力の総和を高める努力をしなければなりません。

4 タフな交渉だからこそ前に出る

大幅な減額要請やライセンス契約の打ち切りなど、ビジネスではタフな交渉に臨まなければならないことがあります。このようなとき、「今回は守勢に回らざるを得ない」と身構える人が多いでしょう。相手を怒らせないことが肝心だと思っているからです。

しかし、経営者はそのようなときこそ強気に出るという選択肢も持っています。日ごろ、相手の要求をできるだけ受け入れながら低姿勢でビジネスを進めるのは、こびへつらうわけではなく、いざというときにきちんと主張するためです。大幅な減額要請などを受けたとしたらそれは緊急事態です。

また、相手もそれなりに検討しての結果のはずなので、こちらが気を使ったところで要求が緩和されることはほぼないでしょう。また、相手の要求を簡単に受け入れて、「すんなりと減額できた」と軽い印象を残すのもよくありません。

そのため、社員から見て守るしかないというときに、経営者は前に出る選択をすることがあるのです。普段はおとなしいこちらが強く主張すると、相手の機嫌を損ねるかもしれません。結果的に大きな減額を受け入れざるを得なくなったとしても、そこに至るまでのプロセスは全く違ったものになります。その場は厳しい結果になっても、こちらの誠意と熱意を伝えることで、次につながる可能性があります。

ゼロサムの交渉で損失を食い止めることを重視するか、最悪の事態も覚悟した上でプラスサムを目指すのか。どちらが正しいかはケース・バイ・ケースですが、大事な局面でこそ、経営者ならではの発想で進むべき道を決断しなければなりません。

ただし、こうした交渉ができる前提は、日ごろからきちんとサービスを提供していることです。ミスが頻発しているなど、相手のこちらに対する評価が低い状態で強い交渉に臨めば、その場で契約解消の話が出てきても不思議ではありません。このようなときこそ、経営者は窓口になっている社員の言葉に真摯に耳を傾けなければなりません。

以上(2020年7月)

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不確定な未来に何を夢見るかが勝負/成功する経営者に欠かせない思考習慣

書いてあること

  • 主な読者:さらに成長するためのヒントが欲しい経営者
  • 課題:自分の考え方をバージョンアップするためにもがいている
  • 解決策:他の経営者の思考習慣も聞いてみる

1 経営者ならではの考え方

社員には理解してもらえないが、経営者仲間で話をすると「そうそう!」と分かり合える、経営者ならではの考え方があります。会社の成長、自分と家族の生活、社員とその家族の生活、社会への貢献などについて責任を負う経営者は逃げられません。

それが社員との視点の高さや広さの違いとなり、経営者ならではの考え方につながっています。経営者が社員と同じレベルで考えているようでは物足りませんが、その一方で、独り善がりになるのも問題です。

今回は、「誰かに相談されたら全力で答える」「“生煮え”の状態でビジネスをスタートさせる」「不確定な未来に何を夢見るかが勝負」という3つの思考習慣を取り上げます。経営者ならではの考え方と、独り善がりにならないためのポイントを紹介します。

2 誰かに相談されたら全力で答える

ビジネスに関して、他人からアドバイスを求められることがあります。自分の得意分野や、かつて経験したことがある事柄ならば、自信を持って回答できるでしょう。しかし、そうではない場合、多くの人は「間違えたことを言ったら格好悪い」などと考え、いつものように話せなくなります。

この点、多くの経営者は、そうした態度を取ることは逆に相手に対して失礼であると考えています。相手と自分の立場を入れ替えて考えれば、その理由は明らかです。人は、本当に悩んでいて、「その人に相談したい!」と思うから、真剣にアドバイスを求めてくるのです。にもかかわらず、自信なさげだったり、“逃げを打って”当たり障りのないことしか言わなかったりするのは、相手の思いを軽んじることにつながります。

多くの経営者にはメンターがいます。そして、本気で悩んだときにメンターにアドバイスを求めます。日ごろ、こうした経験をしている経営者は、自分がアドバイスを求められれば、当たり前のように全力で答えるのです。

ただし、たとえ経営者に「相手に礼を尽くす」という思いがあっても、的を射ない話ばかりでは、相手の問題解決にはつながりません。少し見方を変えると、その相手は別の誰かに相談したほうが有意義なアドバイスを得られた可能性があり、この点において機会損失が発生していることになるのです。

大切なのは、相手の問題解決をサポートすることです。もし、有意義な回答ができそうもないときには、「私も少し考えてみるから、日を改めて話そう」と言って、経営者自身の考えをまとめる時間を確保したり、「その点については、私よりも○○さんのほうが、良いアドバイスをしてくれると思うよ」といったように、別の選択肢を示したりすることも大切です。

3 “生煮え”の状態でビジネスをスタートさせる

多くの社員は、ビジネスプランは細部まで徹底的に練り込んだほうが成功の確率が高くなると考えています。同時に、社員は失敗を過度に恐れて弱気になり、その時点では見えるはずのないものまで見ようとしていることもあります。

経営者も、細部まで練り込んだビジネスプランのほうが好ましいことは分かっています。ただし、そこまで調査するには時間がかかり、他社に先を越されてしまうリスクがあることを懸念しています。また、そもそもその時点でどんなに考えてみたところで、「やってみなければ分からない」ことがビジネスには多いことも知っています。

そのため経営者は、“生煮え”の状態でビジネスのスタートを切ります。ここでいう“生煮え”とは、思いつきに近く、突っ込みどころ満載の状態のことではありません。もっと詰めなければならないところはあるものの、それは実際にビジネスを進めながら解決していけばカバーできると思えるレベルです。社員が「失敗したくない」と考えるのに対し、経営者は「やってみなければ、成功も失敗もない」と考えています。

このことを感覚的に理解している社員もいます。しかし、“生煮え”のレベルは分からないことが多々あり、多くはそこで思考停止となり、活動を前提とした準備をしません。そうした状態で、経営者がアクセルやブレーキを踏むことになるため、社員は驚いてしまいます。経営者にとっては当たり前のタイミングでも、社員にとっては急発進、急停止に感じられることがあります。これではトラブルが起こりかねません。

そこで経営者は、できるだけ明確にアクセルとブレーキを踏む根拠、つまり“生煮え”のレベル感を社員に示し、社員が態勢を整える時間を与えた上で、実際にアクセルとブレーキを踏むように心掛けなければなりません。経営のかじ取りは経営者の役割ですが、現場でオペレーションをするのは社員です。現場が混乱した状態では、ビジネスで良い成果を期待するのは難しいのです。

4 不確定な未来に何を夢見るかが勝負

ビジネスは不確定要素の連続です。これがビジネスの難しさであり、面白さでもあるのですが、このことを言い訳にする社員が少なくありません。「先のことなど分からないのだから、もう少し先が見えてきてから動こう」といった具合です。

確かに未来のことは誰にも分かりませんが、経営者がこのことを言い訳にすることはありません。むしろ、ビジネスチャンスであると前向きに捉えています。なぜなら、未来を誰も知らないということは、大企業も中小企業も平等な状態にあるということであり、発想と行動力次第では、大企業に先駆けて成功できるチャンスがあるということだからです。

そのため、経営者は寸暇を惜しんで情報収集をします。そして、自分なりに未来のイメージを固めていきます。例えば、将来人口推計のように、今の人口動態からある程度明らかになることがあります。また、特にテクノロジーの進化によって実現するだろうという仮説が立てられるものもあります。自動運転のようなものです。

こうした断片的な情報をつなぎ合わせて、例えば「未来の世界に、『あらかじめスマートフォンやカーナビゲーションに病院や介護施設を登録しておけば、高齢者が運転しなくても、自動運転で安全に目的地に行けるサービス』があれば、きっと市場に受け入れられるだろう」などと、具体的なビジネスプランに落とし込んでいくのです。

未来は分からなくて当然であり、やらないことの言い訳にはなりません。また、分からないといいつつも、既に実現することが明らかな未来があるのも事実です。経営者は、情報収集を通じて国内外の新旧のビジネスモデルを知ることに余念がなく、常に想像力を膨らませてリアルのビジネスに結び付けるヒントを探っています。これはとても大切なことなのです。

ただし、不確定要素を独り善がりにつなぎ合わせて、都合の良い未来像ばかりを思い描くのはいけません。自分の考えについて社内外の人から意見を求め、行きつ戻りつの“思考実験”を繰り返すことを忘れないようにしましょう。

以上(2020年7月)

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実践的な業務改善に使える5S活用法

書いてあること

  • 主な読者:効果的な業務改善策を打ち出せずにいる経営者
  • 課題:業務改善の取り組み方法が分からない
  • 解決策:「5S」の考え方を業務改善に転用する

1 言われるまでもない「業務改善」

現在、働き方改革の文脈で「業務改善」が叫ばれていますが、経営者に言わせれば、経営を始めた瞬間から意識している課題でしょう。しかし、これがなかなかうまくいきません。

業務の見える化や標準化などを進めるといっても抜本的な改革には至らず、局所的に改善されれば、別の場所で問題が出てきます。また、そもそも“削る”ことが前提の業務改善は、従業員にとっては楽しくないのです。

とはいえ、限られた人員で効率性や生産性を追求することが求められる経営に、業務改善は必須です。こうした問題意識を持つ経営者にご提案したいのが、職場環境の改善に使われる「5S」を応用した業務改善です。早速、見ていきましょう。

2 5Sの考えに基づく業務改善策

「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」を表す5Sは、考え方がシンプルで分かりやすいため、従業員は業務改善という漠然とした施策であっても、取り組むべき内容をイメージしやすくなります。

5Sによる職場改善活動を経験済みの企業ならなじみもあり、業務改善のハードルを下げる効果が見込めるでしょう。5Sの5つのキーワードを業務改善に置き換えると、次のようになります。

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以降では、業務改善の進め方に合わせ、「清掃」「整頓」「整理」「清潔」「しつけ」の順に並び替えて、企業が取り組むべき業務改善策と、成功に導くポイントを紹介していきます。

1)清掃(無駄な業務を取り除く)

今ある業務を「清掃」し、無駄な業務を取り除きます。そのためには業務の担当者以外でも業務の実態を把握できるよう、図表を使って表すことが大切です。

業務の全体像を俯瞰(ふかん)できるようにします。具体的には、業務を粒度に応じて3段階(大・中・小)程度に分類し、業務を構成する全ての「作業」を抽出します。例えば「受注業務」の場合、次のように業務を分類します。

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業務に関与しない従業員に図表を見せ、気になる点を指摘してもらいます。図表2の例で言えば、「『見積書の作成』は営業部で同様の作業をしているはず」「『次の納品日の確認』は受注業務には不要ではないか」などです。別の業務で同様の作業をしている従業員がいれば、「『電話による注文確認』は優良顧客に限り営業担当者の私が電話している。電話が重複しないか」などの指摘もあるでしょう。

こうして全社で業務(作業)内容や範囲を共有・修正し、何が必要で何が不要なのかを線引きします。業務の前後の工程を把握しておくと、重複する作業を見つけられるため、無駄な作業を絞り込みやすくなります。

特に、次の点に注意して業務の「清掃」を進めましょう。

  • 業務担当者以外でも業務内容を把握できるよう、可視化する
  • 作業内容を一番理解している現場の担当者主導で業務を分解する
  • 全社で業務(作業)内容や範囲の認識の違いを埋める

2)整頓(業務を標準化する)

次に、効率的な業務に「整頓」し、業務をきれいに直します。生産性の向上や属人的な作業の排除などといった、目的に照らした業務の理想型を目指します。

こうした業務像を描くときに欠かせないのが「業務マニュアル」です。何のための業務(作業)なのかを明示するとともに、どの手順で進めるのが効率的なのかを示します。担当者不在でも業務が停滞しないようにしたり、特定の従業員が持つ属人的かつ効率的な作業手法を、他の従業員に引き継いだりする上でも必要です。

業務マニュアルは、業務(作業)内容を事細かく説明するのが基本です。起こりがちなトラブルを例示したり、抜け漏れを防ぐチェックリストをつくったりしてもよいでしょう。例えば図表2の「該当商品の在庫状況確認」なら、「在庫システムと実際の在庫数が合っているか、物流センターに電話で現在の在庫数を確認する」「在庫を確保する際は、物流センターに確保数量と出荷日を報告する」などのチェックリスト例が考えられます。

特に、次の点に注意して業務の「整頓」を進めましょう。

  • 各業務の最も効率的な手順を示した業務マニュアルを作成する
  • 業務マニュアルが形骸化しないよう、手順を確認する機会を定期的に設ける
  • 作業が複雑すぎて効率化できなければ、外部委託による効率化を検討する

3)整理(業務に適した体制をつくる)

次に、標準化した業務を適切に運用できるよう、組織や部署を「整理」します。組織や部署の役割を明確にし、所属スタッフが、何のための業務なのかを理解して取り組めるようにします。

業務マニュアル同様、組織や部署ごとの役割を文書化します。部署をまたがる業務に備え、組織や部署ごとの役割分担や業務分掌を明確にすることも必要です。別々の部署が同じ作業をすることによる無駄の発生を防ぎます。

また、無駄を省いてシンプルになった業務は、これまでと同じ作業時間をかけずに済むかもしれません。経営者は業務改善によって生まれた空き時間をどう活かすのかを、事前に踏まえておくことも必要です。

特に、次の点に注意して組織や部署の「整理」を進めましょう。

  • 組織や部署ごとの役割を文書化する
  • 場合によっては、業務改善を推進する専門チームの設置を検討する
  • 新たな業務に最も適した組織や部署に再編する

4)清潔(従業員の不快感を取り除く)

次に、実際に業務改善に取り組む従業員の気持ちに目を向けます。不快感を抱いたまま取り組んでいる従業員の気持ちを、業務改善に「清潔(=真っすぐ)」に向き合うように意識を変えます。

これまでの業務内容や進め方を見直す業務改善は、少なからず現場からの抵抗を受けます。中には、やらされ感を抱いたり、面倒だと思ったりする従業員も少なくないでしょう。こうした従業員のモチベーションは施策の成否に影響します。

従業員の意識を変えるため、経営者が関与していることを表明するのが効果的です。経営者自ら、なぜ必要な取り組みなのかを、自社の置かれている危機的状況とともに説明します。こうした訴えにより、業務改善の必要性を従業員に感じ取ってもらいます。

特に、次の点に注意して従業員の気持ちを「清潔(=真っすぐ)」に変えましょう。

  • 経営者が従業員に対し、取り組みの重要性や意義を説明する
  • 従業員にアンケートを実施し、取り組みの満足度を調査する
  • 従業員に無理や負荷がかからないスケジュールを計画する

5)しつけ(改善を定着させるルールをつくる)

最後は、改善した業務内容や進め方が定着するための「しつけ」、つまりルールをつくります。業務を改善して終わりではなく、見直した業務の不備や改善点などを洗い出します。これらの課題を集約し、どのように修正するか、誰が主導して見直すかなどを決め、継続的な施策として取り組むようにします。こうしたPDCAを繰り返すことで、業務の質を徐々に高めていきます。

業務に費やす時間が、改善前後でどの程度短縮したのかを比較してもよいでしょう。思ったより短縮していない、かえって時間がかかるなどの事態を想定した対策も踏まえておくべきです。目標とする短縮時間を事前に定め、改善後の効果を検証するのも有効です。

特に、次の点に注意して改善定着に向けた「しつけ」を検討しましょう。

  • 一度の取り組みで終わらせず、継続的な施策として位置付ける
  • 改善による効果が十分でないことを前提に、対策や体制を準備する
  • 時間やコストなどの定量データによる分析・検証を実施する

3 業務の5Sを成功に導くポイント

1)高い効果を見込める業務から着手する

業務改善は、全ての業務を対象に取り組み始めると失敗します。業務の無駄を洗い出すだけで膨大な時間を要し、従業員が疲弊してしまうためです。

まずは、特に改善が必要な業務から手を加え、短期間に高い効果を見込めるようにするのが望ましいでしょう。スピード感を持って取り組むことで、従業員が業務改善の目的や効果を見失わないようにします。

その後、成功事例を他の業務や組織に横展開し、対象領域を徐々に拡大させます。期間や対象を絞った施策を複数回に分けて取り組めば、継続的な成果も見込めます。

2)業務改善の目的を明確にする

なぜ業務改善するのか、なぜその業務が必要なのかといった目的や狙い、目標を明確に示すことが重要です。目的が不明瞭なまま進めると、取り組み自体が目的化し、業務改善による十分な効果を見込みにくくなります。前述したように文書化し、全従業員が理解した上で進めることが大切です。

以上(2020年7月)

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いまさら聞けない「のれん」の基礎知識

書いてあること

  • 主な読者:M&Aを検討している中小企業の経営者
  • 課題:「のれん」の実態や、財務上どのように影響するのか分からない
  • 解決策:のれんは超過収益力(買収価額と買収企業の純資産額の差額)をいい、財務上無形固定資産に計上する。税務上の取り扱いも要注意

1 「のれん」とは何か?

「のれん」とは、超過収益力を表したものとよくいわれます。会計的には、被取得企業または取得した事業の買収価額が、取得した資産および引き受けた負債の純額(以下、「純資産価額」)を超過する額と表現されます。図表1の通り、純資産価額を超過する買収価額のM&Aが成立するのは、そこに超過収益力の価値が含まれているためと考えられます。

なお、被取得企業または取得した事業の買収価額が純資産価額を下回ることもあり得ます。この場合の不足額は、「負ののれん」といわれ、マイナスの超過収益力として買収価額の算定に当たり減額要素となります。

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2 「のれん」はなぜ発生するのか?

M&Aにおける買収価額は、被取得企業または取得した事業の純資産価額と一致するとは限りません。買収価額は、被取得企業または取得した事業の資産および負債の買収時の時価評価額(以下、「時価純資産価額」)のみで決定されるものではなく、被取得企業または取得した事業の収益性・成長性、仕入先・販売先ルート、優れた営業力・技術力・人員、ブランド等の無形の価値も反映して決められるためです。

時価純資産価額に無形の価値を反映したものが買収価額となるため、この無形の価値が「のれん」として認識されることになります。

「負ののれん」の発生原因には、M&A実施後に大規模なリストラクチャリングに関連する費用の発生が見込まれる等、被取得企業または取得した事業に関連して発生する費用負担額を、買収価額の算定に当たって減額した場合等が考えられます。

●設例1

  • 被取得企業の貸借対照表(以下、「BS」)の純資産価額は10でした。これを時価評価した結果、保有する土地の時価が10増加していたため、時価純資産価額は20となりました。
    被取得企業の得意先には大口顧客が多く、今後も高い収益性が見込める状況です。
    買収価額が20であれば、時価純資産価額20と同額のため「のれん」は発生しません。
    買収価額が50であれば、高い収益性という無形の価値が反映されていると考えられ、時価純資産価額20を超過する30が「のれん」として認識されます。

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3 「のれん」の会計上の取扱い

「のれん」は無形固定資産に計上し、20年以内の効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却します。「のれん」の償却費は販売費及び一般管理費に計上します。実務上は、償却期間を5年とするケースが多く見受けられます。

償却期間を長く設定することで、1年当たりの償却負担額を少なくすることが可能ですが、「のれん」は減損会計の適用対象でもあるため、償却期間の途中に「のれん」の価値が損なわれた場合、一時に多額の減損損失を負担することもあります。

なお、「負ののれん」は発生した事業年度に全額を特別利益に計上することとなります。

●設例2

  • 設例1の「のれん」30を5年間で償却した場合、1年当たりの償却負担額は6となります(図表3、黒色の長い棒部分)。10年間で償却した場合、1年当たりの償却負担額は3となります(図表3、オレンジ色の短い棒部分)。
    償却する総額はいずれも30で同額ですが、5年間で償却した場合、前半の5年間は10年間で償却した場合より1年当たりの償却負担額は3多くなります。後半の5年間は1年当たりの償却負担額は3少なくなります。

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「のれん」を10年間で償却した場合、1年当たりの償却負担額は3(図表4、オレンジ色の短い棒部分)となりますが、5年目に「のれん」の価値が全部損なわれ、未償却残高15が全て減損損失となった場合、償却負担額3に加え減損損失15(図表4、赤色の長い棒部分)を一時に負担するため、5年目の損益に大きな影響を及ぼす懸念があります。「のれん」自体を個別に売却するのは困難であることを考慮すると、合理的に説明ができる範囲内で、なるべく短期間で償却することが健全な対応と考えられます。

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4 「のれん」の税務上の取扱い

純粋な第三者間による組織再編のような非適格組織再編において、組織再編の対価の額が移転を受けた資産および負債の時価純資産価額を超過する額を「資産調整勘定」として計上します。「資産調整勘定」は5年間にわたり月割りで均等に償却し、償却額は損金の額に算入します。また、組織再編の対価の額が移転を受けた資産および負債の時価純資産価額を下回る額は「差額負債調整勘定」として計上します。「差額負債調整勘定」も5年間にわたり月割りで均等に償却し、償却額は益金の額に算入します。

「資産調整勘定」は会計上の「のれん」に、「差額負債調整勘定」は会計上の「負ののれん」に対応する概念となります。ただし、会計および税務において、償却期間の考え方が異なっているため、同一の償却期間とならない場合、申告調整および税効果会計の適用が必要になります。

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5 M&Aを考える中小企業経営者が知っておきたい「のれん」に関するリスクと対策

前述の通り「のれん」は、被取得企業または取得した事業の無形の価値であり、買収価額と時価純資産価額の差額として把握されます。被取得企業または取得した事業を過大に評価した場合、割高な買収価額となり、結果として「のれん」も多額となります。この場合、被取得企業または取得した事業の収益力は買収時の見込みを下回ることが多く、「のれん」償却額に比較し十分な売上が確保できないばかりか、「のれん」の価値の毀損による減損損失の計上で、業績が圧迫されるリスクがあります。

このリスクを低減するためには、被取得企業または取得した事業を適切に評価した買収価額を算定することが何よりも重要です。以下は、中小企業におけるM&Aの実務で広く普及している主な買収価額の算定式です。

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算定式から分かる通り、時価純資産価額の算定に当たって資産および負債の時価評価を適切に実施する必要があります。また、「のれん」の算定に当たっては、適切な営業利益の算定および妥当な倍率を判断することが欠かせません。

ただし、いずれの算定に当たっても専門的な技能を要する局面が多いことから、金額的重要性が乏しいM&Aを除き、公認会計士や税理士等による財務的・税務的なリスクの詳細調査(デューデリジェンス)を実施した上で判断することが、中小企業のM&Aにおいて効果的な対策と考えられます。

以上(2020年7月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 米山泰弘)

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画像:unsplash

経理担当者でも迷う社会保険の会計・税務処理を徹底解説

書いてあること

  • 主な読者:社会・労働保険の会計上の取り扱いの整理がしたい経理担当者
  • 課題:社会・労働保険は労務の分野であることに加え、保険の種類ごとに保険料の負担者や納期限などが異なるため、会計の処理が複雑でわかりにくい
  • 解決策:社会・労働保険の基礎知識をまとめ、事例を用いながら会計処理を解説する

1 社会・労働保険と会計処理

多くの中小企業は、独立した経理部門や人事部門を設置していません。しかし、労務、会計、税務の業務は少しずつ重なるため、担当者は幅広い知識を持っていないとスムーズに業務を処理できません。

例えば、社会・労働保険は労務の分野であることに加え、保険の種類ごとに保険料の負担者や納期限などが異なるため、会計の処理が複雑になります。また、保険料を損金算入するタイミング、つまり税務上の注意が必要です。

ここでは、中小企業の担当者が迷いがちな社会・労働保険の会計処理についての流れを紹介します。

2 社会・労働保険の基礎知識

1)社会保険

社会保険とは、健康保険、厚生年金保険、介護保険をいいます。社会保険は、被保険者の月額報酬(会社から受ける毎月の給与など)を区切りのよい幅で区分した「標準報酬月額」を設定し、この標準報酬月額に基づいて保険料の額を計算します(注)。

標準報酬月額の算定方法には毎年1回行う「定時決定」、昇給などにより標準報酬月額が大幅に変動した場合に行う「随時改定」などがあります。

なお、社会保険料は、毎月、会社と従業員が半分ずつ負担します。従業員負担分については、会社が給与から徴収し、会社負担分と併せて発生月の翌月末に納付(10月保険料の場合は、11月末日)します。

(注)賞与が支給される場合、賞与分は「標準賞与額」に基づき保険料を計算します。

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2)労働保険

労働保険とは、雇用保険、労災保険をいいます。労働保険は、一般的な事業の場合、毎年4月1日から翌年3月31日までに対象となる被保険者に支払った賃金総額に保険料率を乗じて算出します。申告手続きの際は、労働保険に加えて石綿健康被害救済法に基づく一般拠出金(確定分のみ)の申告も同時に行います。

保険料は算定期間の初めに賃金総額の見込額を基に「概算保険料」を算出して申告・納付します。その後、算定期間終了後における実際の賃金総額を基に確定保険料の申告を行い、概算保険料との差額分を精算します(以下「年度更新」)。

年度更新は、原則として年1回、6月1日から7月10日までの間に行われます。ただし、次のいずれかの場合には年3回の分割納付が認められています。

  • 概算保険料が40万円(労災保険か雇用保険のどちらか一方の保険関係のみ成立している場合は20万円)以上の場合
  • 労働保険事務組合に労働保険事務を委託している場合

なお、雇用保険料は会社と従業員が一定の割合で双方負担しますが、労災保険料については全額会社が負担します。

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3 会計上の取り扱い

1)社会保険料の取り扱い

社会保険料の会計処理の方法は、預り金(負債)として処理する方法と、従業員負担分を法定福利費(費用)のマイナスとして処理する方法とに大別されます。それぞれの方法で処理した場合の社会保険料の発生月、給与支給日、社会保険料の納付月の会計処理を紹介します。

なお、それぞれの事例の前提として、10月分の社会保険料を500万円(会社と従業員で折半)とします。また、社会保険料の取り扱い以外の項目については簡略して紹介します。勘定科目については、会社ごとに異なる場合があります。

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2)労働保険料の取り扱い

労働保険は毎年7月に納付する概算保険料と確定保険料の差額の調整が必要です。なお、労働保険のうち、雇用保険の会計処理の方法は、概算保険料を納付時に資産で処理する方法と、納付時に法定福利費(費用)で処理する方法とに大別されます。

ここでは、概算保険料納付時、会社負担分の月次計上時、給与支給日、翌年の年度更新時の会計処理を紹介します。なお、概算保険料を納付時に資産計上する方法においては、翌年の年度更新時に確定保険料が概算保険料を上回った場合と、下回った場合(次期の概算保険料納付額に充当する方法と還付を受ける方法)において、処理が異なるため注意してください。

それぞれの事例は前提として、2019年7月に算定した概算保険料250万円(うち、従業員負担分の雇用保険料が60万円)とします。また、労働保険料の取り扱い以外の項目については、簡略して紹介しています。勘定科目については、会社ごとに異なる場合があります。

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4 税務上の取り扱い

1)税務上の考え方

社会・労働保険料ともに、会社負担分の金額については損金(税務上の費用)に算入でき、従業員負担分については損金に算入することはできません。

税務上の取り扱いで注意すべきなのは、会社負担分を損金に算入するタイミングです。社会・労働保険料は、発生時期と納付時期が一致しなかったり、概算額を計上したりするため、会計上、未払費用勘定や前払費用勘定などを用いて処理しました。税務上、損金に算入するためには、原則、債務が法律的に確定していなければなりません。つまり、いつの時点で社会・労働保険料が税法上確定していると見なされるのかが重要なポイントとなります。

2)社会保険料の損金算入時期

社会保険料は、その算定の対象となった月の末日が属する事業年度に損金に算入することができます。つまり、10月の社会保険料であれば、10月31日が事業年度内にあるかどうかがポイントとなります。

注意が必要なのは、決算月の取り扱いです。例えば、3月末決算法人であった場合、3月の社会保険料の算定の対象となった月末は3月31日であるため、その事業年度の損金に算入することができます。ただし、決算日が月末ではなく、月の中途である場合(例えば3月20日など)には、3月の社会保険料はその事業年度の損金に算入することはできません。

3)労働保険料の損金算入時期

労働保険料は、概算保険料、概算保険料と確定保険料の差額について、それぞれ損金算入時期が決められています。

概算保険料については、申告書を提出した日または納付日の属する事業年度に損金に算入することができます。原則的には、6月1日から7月10日までの間のいずれかの日(申告または納付した日)となります。なお、一定の要件を満たし、分割納付の適用を受けている会社はそれぞれ納付した日となります。

概算保険料と確定保険料の差額については、申告書を提出した日、または不足額を納付した日の属する事業年度の損金に算入することができます。原則的には、6月1日から7月10日までの間のいずれかの日(申告または納付した日)となります。

以上(2019年10月)
(監修 税理士法人コレド会計 税理士 石田和也)
(監修 社会保険労務士コレド事務所 社会保険労務士 古田美奈子)

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