【オーナー企業の事業承継(7)】財産権と経営権の移転に関する対応策

1 自社株式の承継に含まれる2つの側面

オーナーにとって、自社株式の承継は会社を経営する権利(経営権)と自身の築き上げてきた財産(財産権)という2つの側面があります。このため、事業承継を検討する上では、経営権の承継に加えて、オーナーの財産の相続についても考慮しなくてはなりません。

また、自社株式の移転に伴う税負担を移転コストと考えれば、自社株式の評価が低いタイミングで株式の移転(承継)を行うのが基本です。しかし、そのタイミングで後継者が経営を引き継げる力量を備えているかどうかという問題が生じる可能性もあります。

そこで活用したいのが種類株式や信託です。それぞれの効果や留意点を認識し、自社に合った対策案として検討してみてください。

2 種類株式の活用した事業承継対策

1)種類株式とは

株主には剰余金の配当や残余財産の分配など、会社から直接に経済的利益を受ける権利や、株主総会の議決権など経営に参加する権利などが与えられています。

現行の会社法ではこういった

株主の権利を制限したり強化したりする、内容の異なる2種類以上の株式を発行すること

が認められています。こうした内容の異なる株式を発行した場合における株式を、種類株式といいます。

現在、発行が認められている種類株式の概要は次の通りです。

種類株式の概要

2)種類株式の活用例

1.配当優先無議決権株式の発行

配当優先無議決権株式とは、普通株に対して剰余金の配当について優先権を持つ一方、株主総会の決議については全く議決権を持たない種類株式です。

配当優先無議決権株式の活用の流れは次の通りです。

活用の流れ

配当優先無議決権株式を活用することにより、財産権としての株式(配当を得る権利など)は兄弟間での調整が可能となる一方、議決権は後継者である長男に集中させることができるので、経営権を安定させられます。

なお、配当優先無議決権株式の保有株主に対する支払い配当の負担が増加する可能性がある点には注意が必要です。

2.黄金株の発行

拒否権付株式(以下「黄金株」)とは、株主総会や取締役会での決議事項について、普通株式保有株主による決議とは別に、黄金株保有株主による決議が必要となる株式、つまり拒否権を持った種類株式です。

黄金株の活用の流れは次の通りです。

黄金株の活用の流れ

黄金株を活用することで、自社株式の評価が下がった時点などに大半の自社株式を後継者に承継しつつ、現オーナーの経営への影響力を残せるので、後継者の独断的な経営を阻止することができます。なお、次の点には注意が必要です。

  • 過度に拒否権を行使すると、後継者の経営意欲が低下したり、逆に前オーナーへの依存心が生じたりしてしまう可能性がある
  • 黄金株はその効力が強大であるがために、万一、後継者以外の第三者に譲渡されたり相続されたりすると、会社経営に重大な支障を来す恐れがあるため、後継者以外の者に承継されないような対応が必要となる

そのため、次のような対策を取る必要があります。

  • 黄金株を譲渡制限株式として発行する
  • 黄金株を相続の発生を条件とする取得条項付株式として発行する
  • 黄金株の発行と同時に公正証書遺言を作成しておく

3 信託を活用した事業承継対策

1)信託とは

信託とは、「委託者」が自ら所有する財産を、信頼できる「受託者」に託し、その財産から生じる成果を「受益者」に給付するものです。ここでは自己信託(委託者と受託者が同一人物)の活用例を解説します。なお、自己信託は公証人役場に自ら出向くか、行政書士や弁護士に依頼して公正証書を作成し設定を行います。

2)自己信託の活用例

自己信託の活用例は次の通りです。

自己信託の活用例

自己信託の仕組みを活用し、オーナーが委託者として自社株式を信託して自らがその受託者となり議決権を行使します。自社株式の名義人はオーナーのまま、後継者を受益者とすることにより、実質的な財産の帰属を後継者とすることができます。ただし、この段階で後継者には贈与税が課されます。

なお、自己信託の設定時において、信託契約はオーナー死亡時に終了させ、後継者が自社株式の名義人となるよう取り決めておきます。これによりオーナーが死亡した段階で後継者が自社株式の名義人となりますが、自己信託を設定したときに贈与税は課税済みであるため、上記の信託設定が相続開始前3年以内の贈与または相続時精算課税に該当しない限り、相続税は生じないこととなります。自己信託の活用のメリットには以下があります。

  • 財産の経済的な所有者は受益者である後継者となるため、税金面では生前贈与と同様の効果がある
  • 通常の信託では、財産の名義は委託者から受託者に移転し、財産の管理は財産の名義人である受託者が行うことになるが、自己信託の活用により委託者と受託者は同一人物となるため、オーナー自らが引き続き財産の管理(議決権の行使)を行うことができる
  • 贈与においては受贈者(贈与を受ける者)の受諾が必要だが、信託では必ずしも受益者への通知は必要とされていない

なお、信託の設定により財産の名義は「受託者(オーナー)」となりますが、税務上は実質課税の原則(実際にその資産を有しているとみなされる人に対する課税)により、委託者から受益者に贈与があったものとして、受益者に対して贈与税が課されるため、自社株式の評価額などに十分注意して信託を設定する必要があります。

4 少数株主への対応について

1)少数株主の存在

事業承継の検討に当たり、オーナーとしてスムーズな会社経営を行うためには株式(議決権)の過半数(できれば3分の2以上)を確保すべきであるといわれます。確かに会社としての意思決定をするにはそれでよいのですが、一方で「少数株主」の存在にも気を付けなければなりません。

2)「少数株主」の権利と潜在リスクへの対応

会社を経営していく上で、少数株主の意見を反映せざるを得ないというケースはまれですが、会社法では次の「少数株主」に対して、経営者としては無視できないそれぞれの権利を認めています。

  • 1単元以上の株式を有する株主
    株主代表訴訟(株主が会社に代わって取締役や役員などの責任を追及し、損害賠償を求める訴訟)を提起する権利
  • 総株主の議決権の3%以上、または発行済株式数の3%以上の株式を有する株主
    会計帳簿などの閲覧・謄写を請求する権利

また、株主に相続が生じた場合に、その相続人から「株式を(高値で)買い取ってほしい」と要求されることもよくあります。その背景には「少数株主」が存在する経緯と、少数株主の代替わりなどがあります。「少数株主」が存在する経緯としては、次のようなケースが多く見られます。

  • 1990年の商法改正前までは会社設立時には7名の発起人が必要だったため、会社設立時に発起人として名義を借りた
  • 相続税対策として、オーナーの持株比率を抑えるために、従業員・取引先などに自社株式を保有してもらい、将来、何か問題が生じたときは払込金額で買い取る口約束をしていた

しかし、時間の経過とともにオーナーや株主が代替わりしていくと、当初の経緯がうまく引き継がれず、株式保有の目的が分からなくなってしまうことがあります。また、株主が生前に何らかの恩恵をオーナーや会社から受けていたとしても、その株主の相続人までが会社に対して好意的とは限りません。そのため、上記の「少数株主」に認められている権利が敵対的に行使されるリスクが生じます。

従って、特に創業オーナーら、過去の経緯を熟知している世代から次の世代への事業承継に当たっては、問題を先送りすることなく当代のオーナーが責任を持って「少数株主」と交渉し、何らかの対応をしておくことが望まれます。

具体的な対応方法としては次のようなものが考えられます。ただし、会社ごとにその対策の有効性が異なるため、詳しくは税理士や公認会計士などの専門家に相談するようにしましょう。

対応方法

3)個人の「少数株主」からの買取価額について

オーナーが個人の「少数株主」から自社株式を買い取る場合、原則的評価方式による評価額よりも安い価格で買い取りをすると、個人の「少数株主」から贈与を受けたとして、買取価額と原則的評価方式による評価額の差額に対してオーナー側に贈与税が課されます。

この点について、オーナーの皆さんの中には「もともと旧商法下での額面株式のように安い金額で払い込まれたものであるにもかかわらず、贈与税を回避するために原則的評価方式による評価額で買い取らなければならない」と誤解している人が多くいます。

しかし、贈与税を課されたとしても、例えば、例外的評価方式である「配当還元方式」による評価額で買い取り、あえて贈与税を支払ったほうがキャッシュアウトの総額は少なくなる場合もあります。次の事例で見てみましょう。

買取価額

原則的評価方式による評価額(1000万円)で買い取れば、キャッシュアウトの総額は1000万円となりますが、例外的評価方式(配当還元方式)による評価額(100万円)で買い取って贈与税を支払う場合のキャッシュアウトの総額は291万円で済みます。

さらに、12月と1月のように年をまたいで2年に分けて買い取りを行うと、贈与税の基礎控除(110万円)が2回使える上、課税価格が下がるのに伴い贈与税率が低くなります。そのため、キャッシュアウトの総額は186万円にとどめることができます。

なお、例外的評価方式(配当還元方式)による評価額は、自社の配当額により異なるため、具体的に比較する場合には、税理士や公認会計士などの専門家に相談するようにしましょう。

以上(2025年8月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:soo hee kim-shutterstock

SNSの「いいね」がトラブルに? ソーシャルハラスメントの6類型

1 SNS上で引き起こされる「ソーシャルハラスメント」

今やSNSは社会インフラ。ビジネスにおいても社員同士の連絡や採用広報、マーケティングなど、さまざまな用途でSNSが活用されています。一方、そうした状況の中、社員による「悪口・誹謗中傷に当たる投稿をする」「SNSのフォローや『いいね』を強要する」など、

SNSに関するさまざまなハラスメント、「ソーシャルハラスメント」(以下「ソーハラ」)

が問題になっています。

ソーハラは、個人の尊厳を深く傷つけるだけでなく、会社のレピュテーションリスクや法的リスクにも直結する、看過できない課題ですが、法務・労務体制が十分でない中小企業では、ソーハラへの対応が後手に回りがちです。

そこで、この記事では、中小企業の経営者や労務担当者の皆様が、ソーハラの実態を理解し、具体的な防止策と対応策を講じるための実践的な情報を提供します。

2 具体的にどのような行為がソーハラになる?

ここでは、ソーハラの主なパターンをご紹介します。

1)悪口・誹謗中傷

匿名性や拡散性の高いSNSの特性を利用し、特定の個人や会社、商品に対して事実無根の悪口や根拠のない誹謗中傷を投稿する行為です。名誉毀損や侮辱罪に該当する可能性があり、会社イメージの著しい低下を招くこともあります。

2)不適切な写真・動画の投稿、拡散

酒席での不適切な行動や、業務とは関係のないプライベートな写真・動画を本人の許可なく撮影し、SNSに投稿・拡散する行為です。特に、身体的特徴や性的な内容を含む場合は、セクハラに該当することがあります。

3)「いいね」やフォローの強要

主に上司が部下に対し、自身の投稿への「いいね」やアカウントのフォローを執拗に求めたり、それらを業務評価に結びつけたりする行為です。部下は上司の意向に反する行動を取ることで不利益を被ることを恐れ、精神的な負担を感じるようになります。

4)プライベートの詮索・晒し

SNSに投稿された写真や情報から、社員のプライベートを執拗に詮索したり、本人の許可なく晒したりする行為です。個人のプライバシーを侵害するだけでなく、ストーカー行為に発展する可能性も孕んでいます。

5)オンライン上での監視・つきまとい

社員のSNSアカウントを密かに監視し、業務時間外の投稿内容を業務に関連付けて指摘したり、批判したりする行為です。また、特定の社員のSNSアカウントに頻繁にコメントやメッセージを送ったり、ライブ配信などに執拗に参加したりすることも含まれます。

6)業務時間外の連絡・業務指示

緊急性がないにもかかわらず、深夜や休日にSNSのメッセージ機能を通じて業務連絡や業務指示を行う行為です。社員は常に業務から解放されないというプレッシャーを感じ、心身の健康を損なう恐れがあります。

次章からは、上記のパターンごとに具体的な事例を挙げ、それが法的にどのような問題になり得るのか、またどのように対応すべきかについて解説します。ただし、対応策は一例ですので、実際に同様の事案が起きた場合、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

3 悪口・誹謗中傷

1)上司を逆恨みして誹謗中傷する若手社員

若手社員のAさんは、仕事のミスが多いことを理由に、上司のB課長からよく叱られます。鬱憤がたまっていたAさんは、SNSに「ウチのBって上司、マジで使えない」「Bはハラスメントをしている」といった投稿を度々行いました。B課長はその投稿を目にして、精神的に深く傷つき、会社に行きたくないと感じるようになりました。

2)法的にどのような問題になり得るのか?

Aさんの行為は、パワハラ6類型の「精神的な攻撃」に類似するハラスメント行為であり、B課長の人格権を侵害する不法行為となる可能性が高いです。。精神的な攻撃とは、侮辱、名誉毀損、ひどい暴言などがこれに当たります。会社が適切な対応を怠ると、会社の安全配慮義務違反につながり、B課長の精神的苦痛について、会社の責任が問われる可能性があります。

3)対応策は?

投稿内容がAさんのものであることが明らかな場合、Aさんに即投稿を削除するよう指示します。投稿が匿名であっても、B課長に対する誹謗中傷であることが明らかな場合、情報流通プラットフォーム対処法にのっとり、大規模プラットフォーム事業者(プロバイダ等)の削除申出窓口から、書き込みの削除を請求することが可能です。

投稿者がAさんであることが特定できた場合、どのような意図があったのかなどの事実確認をした上で、本件がハラスメントに該当することを説明し、再発防止のための指導を行います。悪質な場合や指導をしても投稿をやめない場合は、就業規則に基づき懲戒処分も検討します。

被害者であるB課長に対しては、精神的ケアを行い、必要であれば産業医面談やカウンセリングの機会を提供します。

3 不適切な写真・動画の投稿、拡散

1)悪ふざけで女性社員の動画を許可なくSNSに投稿した同僚

Cさんは、会社の飲み会で、居酒屋の店員に扮した同僚の女性社員Dさんが、酔った勢いで男性社員に抱きつかれている様子をスマートフォンで撮影し、本人の許可なく会社のSNSグループに投稿しました。Dさんは「セクハラ被害を受けた」と晒されたことで深く傷つき、会社を辞めたいと考えるようになりました。

2)法的にどのような問題になり得るのか?

この事例は、「環境型セクハラ」に該当する可能性が高いです。環境型セクハラは、性的な言動により就業環境が害され、社員の能力の発揮に悪影響が生じることを指します。性的な言動により、Dさんの就業環境が著しく害されたと判断されます。また、本人の許可なく動画を撮影し、拡散したことは、人格権を侵害するハラスメントに該当します。

3)対応策は?

まずはCさんに即座に動画を削除させ、拡散を防止します。さらに、Cさんにどのような意図があったのかなどの事実確認をした上で、本件がハラスメントに該当することを説明し、再発防止のための指導を行います。悪質な場合や指導をしても投稿をやめない場合は、就業規則に基づき懲戒処分も検討します。

被害者(Dさん)が安心して働けるよう、必要に応じて配置転換なども検討しますが、基本的に配置転換させる対象は行為者(Cさん)です。被害者を配置転換してしまうと、被害者はハラスメントだけではなく、仕事の内容についても被害を受けることになりかねません。

4 「いいね」やフォローの強要

1)部下に「いいね」やフォローを強要する上司

E課長は、自身のSNSアカウントで日常の出来事や趣味に関する投稿を頻繁に行っています。E課長は部下のFさんに対し、業務時間中に「私の投稿に 『いいね』ついてないよ、早く押しといてね」「なんでフォローしてくれないの?」などと繰り返し発言し、露骨に「いいね」やフォローを強要しました。Fさんは、E課長との人間関係を悪化させたくない一心で、仕方なく「いいね」やフォローをしましたが、そのことでSNSの利用が苦痛になりました。

2)法的にどのような問題になり得るのか?

この事例は、E課長が、優越的な関係を背景として、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動をすることで、Fさんの就業環境が害されたとして、パワハラに該当する可能性があります。

3)対応策は?

E課長に対し、SNS活動は個人の自由であることを説明し、部下への干渉、「いいね」やフォローの強要を行わないよう指導します。悪質な場合や指導をしても改善が見られない場合は、就業規則に基づき懲戒処分も検討します。

なお、本件は上司から部下に対するソーハラですが、例えば会社の公式アカウントについて、「いいね」やフォローをするよう業務命令を出すのも、基本的には避けたほうがよいです。SNSは本来、個人がプライベートで自由に使用するものです。そこに業務命令が介入する余地がどの程度あるかは疑問の残るところです。

5 プライベートの詮索・晒し

1)部下のSNS投稿について執拗に質問し、周囲に言いふらす上司

営業部の女性Gさんが、業務時間外に友人と旅行に行った写真を個人のSNSに投稿しました。数日後、上司のH課長がGさんに対し、業務中に「この前の旅行、楽しかったみたいだね。彼氏と行ったの?」「写真の背景、〇〇だよね?どんな店だった?」などと執拗に質問してきました。さらに、H課長は、GさんのSNS投稿を他の社員に見せながら、「彼女にもついに彼氏ができたらしいぞ」などと吹聴しました。

2)法的にどのような問題になり得るのか?

この事例は、パワハラ6類型の「個の侵害」に該当する可能性が高いです。「個の侵害」とは、私的なことに過度に立ち入る言動を指します。また、性的な要素が含まれる場合や、職場環境を害するような場合は「環境型セクハラ」に該当する可能性もあります。

3)対応策は?

まずはH課長に対し、個人のプライベートな情報に不必要に立ち入らないように注意し、業務に関係のない質問や情報共有を行わないよう指導します。悪質な場合や指導をしても投稿をやめない場合は、就業規則に基づき懲戒処分も検討します。

なお、被害者がハラスメントを受け流して意思をはっきりと伝えない場合があります。そして、このような場合に加害者を頭ごなしに叱責すると、「セクハラだと思わなかった。嫌なら嫌と言ってくれなければ分からないじゃないか」と反発してくることがあります。ですので、いきなり頭ごなしに叱責するのは得策とはいえないケースがあります。

6 オンライン上での監視・つきまとい

1)部下のSNSをフォローし、休日の過ごし方などを執拗に聞く上司

I課長は、部下のJさんのSNSアカウントをフォローし、業務時間外に投稿した内容(例えば、休日の過ごし方や趣味の活動など)について、職場で全て把握しているかのように話しかけてきます。「週末は〇〇に行ってきたんだね。仕事の疲れは取れた?」など、一見気遣うような言葉も、Jさんにとっては監視されているようで常に不快でした。

2)法的にどのような問題になり得るのか?

この事例は、業務とは無関係な私生活への過度な干渉「であり、部下が当惑や不快の念を示したのにやめないような場合は、パワハラ6類型の「個の侵害」に該当する可能性が高いです。上司としては部下との雑談のつもりであっても、部下のプライベートに必要以上に踏み込むのは避けるべきです

3)対応策は?

 基本的な対応は「5 プライベートの詮索・晒し」と同じです。

7 業務時間外の連絡・業務指示

1)深夜や休日でもおかまいなしに連絡を入れる上司

K課長は、部下のLさんに対し、休日や深夜でもSNSのメッセージ機能で業務に関する連絡や指示を頻繁に送ってきます。例えば、夜11時に「明後日までにこの資料を修正しておいて」とメッセージを送ったり、休日に「〇〇の進捗ってどうなってる?」と聞いたりします。しかも、メッセージへの返事が遅いと叱るので、Lさんは気持ちが休まりません。

2)法的にどのような問題になり得るのか?

この事例は、パワハラ6類型の「過大な要求」に該当する可能性があります。「過大な要求」とは、業務上明らかに不要なことや遂行不可能なこと、あるいは業務とは関係のないことを強制することです。業務時間外の過度な連絡や指示は、社員の心身の健康を害し、過重労働につながる恐れがあります。

3)対応策は?

まずK課長に対し、業務時間外の連絡・指示を控えるよう指導します。

その上で、就業規則等で「原則、勤務時間外には連絡しない(緊急の案件などを除く)」などのルールを定め、社内に周知します。SNSの通知についても、勤務時間外では通知をオフにすることを推奨し、社員が安心してプライベートを過ごせるよう配慮します。

以上(2025年8月作成)
(監修 弁護士 坂東利国)

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画像:Robert Kneschke-Adobe Stock

経営状態を見える化する 「予実管理」の手引き(2025年9月号)

先が見通せないVUCAの時代に、企業が生き残り持続的な成長を遂げるために、「予実管理」を行なう必要性が高まっています。また、生成AIや各種ITツールの発達を追い風に、中小企業においても、正確かつ効果的な予実管理が可能になってきています。本冊子を教材として社内教育に活用したり、各事業部門の実務担当者に読んでもらったりして、予実管理の精度を高めましょう。


【朝礼】「実るほど頭を垂れる稲穂かな」の精神を大切に!

【ポイント】

  • 会社はチームであり、成果が出たときこそ、謙虚な姿勢を忘れてはならない
  • 謙虚さとは、自分の現状に満足せず、常に学び続け、高みを目指す姿勢の表れでもある
  • 謙虚さを忘れなければ、会社全体の稲穂もより一層豊かに実っていく

おはようございます。この9月は、私たちにとって上期の総決算、つまりこの半年間の努力の成果を振り返り、下期へとつなげる大切な1カ月です。さて、この実りの秋にちなんで、今日皆さんと共有したいことわざがあります。それは、「実るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな」です。稲が実れば実るほどその重みで穂が垂れ下がる様子から転じて、「学問や徳が深まり、人間として大きく成長した人ほど、自らを誇示することなく、謙虚な姿勢でいるものだ」という教えを示しています。

私たちもこの上期、さまざまな目標を掲げ、日々業務に励んできました。それぞれが困難に直面しながらも、知恵を絞り、工夫を凝らし、時には協力し合いながら、多くの成果を上げてきたことと思います。企画が形になったこと、お客様に喜んでいただけたこと、プロジェクトを成功させたことなど、一人ひとりの努力が実を結び、会社としても着実に成長できた半年間だったと思います。

まさに、私たちの努力の「稲穂」が豊かに実った時期といえます。しかし、ここで大切なのが、この「実るほど頭を垂れる稲穂かな」の精神です。成果が出たときこそ、私たちは謙虚な姿勢を忘れてはなりません。例えば、皆さんのプロジェクトが成功したとします。その成功は、個人の能力だけでなく、チームメンバーの協力、他部署のサポート、あるいは上司の適切な指示、そして何よりもお客様からの信頼があってこそ成り立ったものです。自分一人の力ではない、という感謝の気持ちを持つことが、さらなる成長への第一歩となります。

ただ、謙虚さとは、単に控えめであればよいのではありません。それは、自分の現状に満足せず、常に学び続け、高みを目指す姿勢の表れでもあります。上期に素晴らしい成果を出せたからこそ、私たちはその成功体験から何を学び、何を改善できるのかを冷静に見つめ直す必要があります。課題や反省点と真摯に向き合うことで、下期にはさらに大きな実りを得られるはずです。

私たち一人ひとりが、自分の「実り」をしっかりと受け止めつつも、決しておごることなく、常に学びの姿勢を持ち続けること。そして、周囲への感謝を忘れず、互いに協力し合うことで、会社全体の稲穂もより一層豊かに実っていくことでしょう。

以上(2025年9月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

商品開発×人財開発×デザインで挑む! 徳島発・新商品開発プロジェクト


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徳島県産業国際化支援機構(以下「機構」)は、県内中小企業の競争力強化と県産品の販路拡大を目的に、「徳島セレクト商品開発実践業」を展開します。

事業では、商品開発・人財開発・デザインの専門講師を迎え、魅力的な加工品の創出と国内外へのプロモーションを支援。ヒット商品を手がけてきた講師の助言を受けながら、新商品の開発や既存商品のリニューアルにも取り組みます。

売れる商品づくりに本気で挑戦したい事業者さまにとって、絶好の機会です。ご興味のある方はぜひご参加ください。


【開催概要】

  • 参加対象 県内食品製造事業者
  • 定員 5事業者
  • 会場 とくしま産業振興機構 セミナー室
  • 申込方法 機構または徳島県ホームページに掲載の申込書に必要事項をご記入の上、FAXまたはE-mailにて申込
問合わせ先
公益社団法人徳島県産業国際化支援機構 販路開拓・海外進出課
TEL:088-676-3001
FAX:088-676-3040
E-mail:yamamotog@tokushima-bussan.com

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以上(2025年8月作成)

教育訓練休暇給付金 10月スタート

今年10月1日、教育訓練休暇給付金がスタートします。従業員が業務に必要な知識・技術を身につけるため無給の休暇を取って学ぶ場合に、雇用保険から従業員に給付金が出る制度です。従業員が給付金を受け取るには、会社が就業規則を整備し、書類などの手続きを行わなければなりません。本稿では、教育訓練休暇給付金のしくみや、会社がやるべきことについてお伝えします。

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教育訓練休暇給付金 10月スタート

今年10月1日、教育訓練休暇給付金がスタートします。従業員が業務に必要な知識・技術を身につけるため無給の休暇を取って学ぶ場合に、雇用保険から従業員に給付金が出る制度です。従業員が給付金を受け取るには、会社が就業規則を整備し、書類などの手続きを行わなければなりません。本稿では、教育訓練休暇給付金のしくみや、会社がやるべきことについてお伝えします。

1 無給休暇を連続30日以上

給付金の対象は、雇用保険の一般被保険者です。65歳未満で、正社員または1年以上の雇用が見込まれるパート従業員が該当します。就業規則等に基づき、会社からの業務命令ではなく本人が自発的に希望し、連続30日以上、教育訓練を受けるため無給の休暇を取ることが条件です。

教育訓練にあてはまるのは、①学校教育法に基づく大学、大学院、専修学校等での勉強、②教育訓練給付金の指定講座を行う法人が提供する教育訓練等、③司法修習、語学留学、海外大学院での修士号の取得など職業安定局長が定めるもの――です。

さらに、①休暇開始前2年間に12か月以上、雇用保険の被保険者期間がある、②休暇開始前に5年以上、雇用保険の加入期間がある――という要件もクリアする必要があります。

給付日数は、雇用保険の加入期間に応じて異なります。給付金の日額は原則、休暇開始前6か月の賃金日額に応じて計算されます。

○給付日数

給付日数

○支給額のイメージ

支給額のイメージ

※給付月額は、給付金の日額×30日

2 就業規則等を整備

従業員が教育訓練休暇給付金を受け取るためには、まず、会社が、教育訓練休暇について就業規則や労働協約などに定め、従業員に周知する必要があります。規定する内容は、対象となる教育訓練、休暇の長さ、休暇取得の手続きのほか、休暇を与える対象者に勤続年数などの基準を設けるか、休暇を賞与や退職金の算定期間に入れるかなどです。

厚生労働省は、規程例をパンフレットで公表しています。ハローワークや、各都道府県の働き方改革推進支援センターでも相談に応じています。

○手続きの流れ

手続きの流れ

就業規則に基づき、従業員から教育訓練休暇を取りたいと申し出があったら、会社と従業員の間で休暇を取ることについて合意します。会社は合意後、従業員から提出された教育訓練休暇取得確認票に必要事項を記載し、休暇開始日から起算して10日以内に賃金月額証明書を作り、管轄のハローワークに提出しなければなりません。その際、教育訓練休暇が定められた就業規則等、賃金台帳、出勤簿の写しも添付します。

ハローワークから、賃金月額証明書、教育訓練休暇給付金支給申請書が交付されたら、速やかに従業員に渡してください。一連の流れは、離職票の交付手続きに似ています。

教育訓練に専念してもらうため、教育訓練休暇中に、会社が出勤を求めることはできません。また、解雇や雇止め、休業を予定している従業員は、教育訓練休暇給付金の支給対象にならないので、注意してください。

3 さいごに

教育訓練休暇を導入するかどうかは、各企業の裁量に任されています。さらに、教育訓練休暇給付金は、就業規則等に基づき会社と従業員が合意したうえで休暇を取ることが前提となっています。会社が休暇取得を拒み、合意しなければ、給付金は支給されません。

人員体制や繁忙の状況によっては、教育訓練休暇を導入するのが難しいケースもあるでしょう。無給とはいえ、連続30日以上の休暇を与えるのは、中小企業にとってハードルが高そうです。その一方で、従業員のスキルアップや資格取得を後押しする手段として、この給付金の活用を前向きに検討してみるのもよいでしょう。

※図表はすべて、厚生労働省のパンフレット「教育訓練休暇給付金のご案内」より

※本内容は2025年8月10日時点での内容です。

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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画像:photo-ac

単なるゲームじゃない! シニア向けeスポーツの市場動向と参入ポイント

1 拡大するシニア向けeスポーツ市場の可能性

高齢化が進む日本社会で、シニア層のニーズは多様化しています。健康維持、社会参加、生きがい創出などへの関心が高まる中、新たなビジネスチャンスとして注目されているのが、

シニア向けeスポーツ

です。eスポーツとは、「エレクトロニック・スポーツ」の略で、コンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦を、スポーツ競技として楽しむものです。

体力や年齢といった身体的な制約が少ないため、シニア層も気軽に楽しむことができます。

最近のシニア層は、日常的にスマートフォンやパソコンを使いこなしている人も多く、コンピューターゲームなどにもさほど抵抗感が少ない

という特徴があり、そうした意味で「シニア向けeスポーツ」は、今後ますます注目を集める可能性があります。

この記事では、中小企業の経営者がシニア向けeスポーツ市場への参入を検討する際に必要となる、市場の基本情報、具体的なメリット、参入時の注意点、参考事例を紹介します。

2 日本のeスポーツ市場規模の推移とシニア市場の展望

1)eスポーツ市場全体の成長予測

日本のeスポーツ市場は、近年急速な成長を遂げており、今後もその拡大が予測されています。日本eスポーツ協会の予測によると、市場規模は2019年の61億1800万円から右肩上がりに成長し、2025年で199億8200万円に達する見込みです。

日本のeスポーツ市場規模の推移

2)シニア層のeスポーツへの関心と潜在的ニーズ

eスポーツ市場全体が拡大していく中で、特に「シニア向け」が注目キーワードとなっています。eスポーツは身体的な制約を受けにくいため、「体力がなくても参加できる」「年齢や障害の有無に関わらずプレイできる」といった点で、運動するのは難しい人でも気軽に楽しめるのが強みです。

また、今のシニア層はデジタル分野への関心が強く、デジタルハルメクホールディングス(東京都千代田区)の「eスポーツに関する意識と実態調査(2025年2月)」によると、eスポーツへの関心が最も高いのは70代以上で、「プレイ/視聴」のいずれかに関心がある人の割合が約半数(52.6%)を占めています。

3)シニア向けeスポーツの多面的なメリット

シニア向けeスポーツは、プロを目指すような高い競技性だけでなく、自分のペースで「楽しい」と感じられる娯楽性も重要視されています。例えば、60歳以上の人だけが会員になることができ、スタッフが初心者にゲーム機の操作方法などを指導してくれるeスポーツ施設などがあります。シニア層が同じ施設に通う仲間同士で交流したり、自分の孫や会社の若手社員と一緒にオンラインゲームで遊んだりすることで、刺激を受けられるという面もあるでしょう。

シニア向けeスポーツの、単なる娯楽を超えたさまざまなメリットを見ていきましょう。

1.健康促進

eスポーツは、ストレス軽減、記憶力向上、認知症予防といった脳機能の活性化効果が期待されています。また、足腰が悪くてもプレイできるため、身体的な負担が少なく、リハビリテーションの一環としても活用可能です。

2.交流促進

同じ施設に通う仲間同士での交流はもちろん、自分の孫や会社の若手社員と一緒にオンラインゲームで遊ぶことで、世代を超えた新たなコミュニケーションが生まれます。これは孤立防止にも繋がり、社会とのつながりを創出する重要な要素となります。

3.生きがい創出

一般的に、eスポーツで求められる反射神経や動体視力は加齢とともに低下する傾向にあるため、プロゲーマーのピークは20~30代といわれていますが、なかには平均年齢65歳以上のプロeスポーツチームも存在します。「本気でプロの選手を目指す」などの目標を持つことで、新たな生きがいを得る人もいるでしょう。

シニア向けeスポーツが提供するこれらのメリットは、単なるエンターテイメントの枠を超え、認知症予防、リハビリ、孤立防止といった「健康・福祉サービス」としての側面を強く持っています。eスポーツを健康・福祉のツールとして位置づけると、新しいビジネスチャンスが見えてくるかもしれません。

3 シニア向けeスポーツ市場参入における競争環境分析

1)シニア向けeスポーツ事業参入の分析

シニア向けeスポーツ施設を開業する、もしくは関連のサービスを行うと仮定して、シニア向けeスポーツ事業の競争環境を、ビジネスフレームワークの「ファイブフォース分析」で考えてみます。

ファイブフォース分析

シニア層の中には、デジタルのゲームはとっつきにくい、ゲームは体に良くないといったマイナスイメージを抱えている方もいるかもしれません。一方で、そうしたシニア層に対して、「認知症の予防に効果がある」「シニア層同士、あるいは世代を超えた新たな出会いやコミュニケーションの場ができる」、そして、「これから仲間と本気でプロ選手を目指すワクワク&充実感を、改めて感じてみませんか」などのアピールをしていくことが、eスポーツを普及させる鍵になりそうです。

2)事業モデルと収益源の多様性

シニア向けeスポーツ事業の収益源は、次のようなものが考えられます。

1.施設運営

ゲーミングPCやチェアを備えたeスポーツカフェや、月額会員制のスポーツジムのような施設運営が基本的なモデルとして考えられます。例えば、60歳以上限定のeスポーツ施設「ISR e-Sports」では、月~金曜日は1000円、土曜日は2000円の利用料を設定しており、登録料や年会費は無料です。

2.イベント・大会主催

シニア限定のeスポーツ大会や配信イベントを企画・開催することも有効です。例えば、大会や配信イベントの参加費、観覧チケットの販売、グッズ販売などが収益源として挙げられます。

3.コンテンツ開発・プログラム提供

健康維持や認知機能向上をテーマにした独自のコンテンツ開発や、シニアのデジタルリテラシー向上支援を組み合わせたプログラム提供も考えられます。

4.スポンサー料・広告収入

eスポーツ市場全体で最も大きな収益源はスポンサー料や広告収入とされています。シニア向け市場の場合、健康関連企業や介護関連企業がスポンサーになってくれることが期待されます。

5.介護保険外サービスとの連携

介護施設でのeスポーツ導入事例が増加しており、今後は医療分野との連携も進む可能性があります。介護予防やリハビリテーションの一環としてのeスポーツ提供は、新たな収益源となり得ます。

4 シニア向けeスポーツの事例

1)日本初の60歳以上限定eスポーツ施設: ISR e-Sports (兵庫県神戸市)

ISR e-Sportsは、日本初の60歳以上限定eスポーツ施設として2020年に開業しました。この施設は、eスポーツによって同じ場所・同じ時間を参加者同士が共有することで新たなコミュニケーションが生まれることを大切にしています。シニア世代にとっては、生きがいづくりや孤立防止にもつながります。特筆すべきは、

プレイ前の準備体操やプレイ後のクールダウンタイムを設けるなど、シニアの身体に配慮した運営を行っている点

です。また、スタッフがゲームの操作方法を丁寧に指導し、初心者でも安心して楽しめる環境を提供しています。

■ISR e-Sports■
https://isr-group.co.jp/isr-parsonel/e-sports/

2)シニア向けeスポーツ関連サービス:ハッピーブレイン (熊本県合志市)

ハッピーブレインは、自治体や高齢者施設、重度障がい者向けにeスポーツの導入サービスを提供しています。特筆すべきは、

ボタン操作のみで楽しめる「UDe-スポーツ(ユーディイースポーツ)」を導入し、身体的な制約がある方でも参加しやすい工夫をしている点

です。施設内でのオフライン対戦に加え、Zoomを活用したオンライン対戦で他施設との交流も促進しています。

■ハッピーブレイン■
https://hb-e-sports.com/

3)リハビリ施設でのeスポーツ活用:友愛会(宮崎県小林市)

友愛会は、運営する通所リハビリテーション施設の「デイケアさとやま」(静岡県沼津市)でリハビリサービスの一環としてeスポーツを活用しています。この施設では、

eスポーツを「脳トレ」と位置づけ、利用者の注意・遂行機能、ワーキングメモリー、情報処理能力の改善に効果がある

と考えています。サービス提供に当たっては、日本アクティビティ協会が認定する「健康ゲーム指導士」(ゲームを通じて、健康寿命や社会参加寿命の延伸のために活動する人材)の養成講座をスタッフが受講するなどして、準備を整えたそうです。

■デイケアさとやま■
https://www.satoyama2.jp/daycare/index.html

4)シニア専門のeスポーツチーム運営:エスツー(秋田県秋田市)

エスツーは、平均年齢65歳以上のプロeスポーツチーム「マタギスナイパーズ」を運営しています。特筆すべきは、

「孫にも一目置かれる存在」をスローガンに掲げ、加齢や病気予防だけでなく、プロ選手を目指すという高い目標設定

です。若手の専属コーチを付け、仲間と切磋琢磨(せっさたくま)する姿は、シニア向けeスポーツの新しいあり方を示しています。また、国際交流試合も実施し、1万人以上が視聴するなど、国内外から注目を集めています。

■マタギスナイパーズ■
https://matagi-snps.com/
■エスツー■
https://www.esu2.co.jp/

5)自治体での事例

全国各地の自治体で、シニア向けeスポーツの講座や体験会、交流会が実施されています。

具体的な取り組みとして、群馬県太田市は、60歳以上の団体向けにゲーム機と講師を派遣する「シニアeスポーツ出前講座」を無料で提供しており、地域住民の健康増進と交流促進に貢献しています。また、横浜市青葉区では地域ケアプラザでeスポーツ体験会が開催され、「太鼓の達人」などを通じた交流が行われています。鳥取県では「ねんりんピックはばたけ鳥取2024」でeスポーツが初めて正式種目に採用されるなど、全国的な広がりを見せています。

■太田市「太田市シニアeスポーツ推進事業」■
https://www.city.ota.gunma.jp/page/1023988.html
■横浜市青葉区「高齢者の社会参加促進に向けたeスポーツの活用」■
https://www.city.yokohama.lg.jp/aoba/kenko-iryo-fukushi/fukushi_kaigo/koreisha_kaigo/kaigo-yobou/esports.html
■鳥取県「ねんりんピックはばたけ鳥取2024」■
https://www.pref.tottori.lg.jp/nenrin-wmg/

他にも、千葉大学予防医学センター 社会予防医学研究部門が作成した「高齢者のつながりと健康を育むデジタルアクティビティのすすめ ~介護予防・通いの場の新しいカタチとしてのeスポーツ導入ガイド」の中で、自治体によるシニア向けeスポーツの導入事例を紹介しています。自治体関係者向けの資料ではありますが、版権やゲーム機材に関するFAQなどもあるため、参考にすると良いでしょう。

■自治体関係者を対象とする「高齢者eスポーツ導入ガイド」公開のお知らせ■
https://jesu.or.jp/contents/news/news-250625/

5 シニア向けeスポーツ施設を開業する際の法的留意点

最後に、シニア向けeスポーツ施設を開業する際の法的留意点を紹介します。

シニア向けeスポーツ施設にゲーム機を設置して開業する場合、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)の適用を受けることがあります。風営法の適用を受ける場合、学校の近くには開業できなかったり、都道府県の公安委員会への営業許可申請が必要になったりします。

インターネットカフェなどが、パソコンのように汎用性のある機器を用いてeスポーツを楽しめる環境を提供する場合、その機器はゲーム以外の機能が現実に利用可能な状態である限り、「ゲーム機」には当たらない(風営法の適用を受けない)とされていますが、この辺りは専門家に確認するなどして慎重に判断する必要があります。

また、シニア向けeスポーツ施設を経営していて、ゲームの大会を開催したい場合、告知や大会での競技の様子をインターネット配信する際に著作権法違反に該当しないか、賞金を用意したい場合、刑法上の賭博罪に当たらないかなどに留意する必要があります。

日本eスポーツ連合では、eスポーツにまつわる法律上の課題や、大会を開く際の留意点などをまとめた「かんたんeスポーツマニュアル」を公開しているので、参考にするとよいでしょう。

■日本eスポーツ連合「規約・マニュアル」■
https://jesu.or.jp/contents/terms/

以上(2025年8月更新)

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画像:tkc-Adobe Stock

【事業承継】従業員持株会を活用するメリットと実務

1 事業承継に従業員持株会を活用する4つのメリット

従業員持株会を作ると、事業承継対策として次の4つのメリットがあります。

  • 事業承継コスト(贈与税など)を減らすことができる
  • 従業員の愛社精神や業績貢献意欲を向上させることができる
  • 株主権の管理が効率的にできる
  • 株式の分散防止ができる

1)事業承継コスト(贈与税など)を減らすことができる

社長が保有している自社株式を従業員持株会に売り渡せば、事業承継コスト(贈与税など)を減らすことができます。

例えば、株式の相続税評価額が1億円のX社の株式を社長が100%保有しているとします。これを後継者である長男に、相続時精算課税(毎年110万円までの非課税枠あり。非課税枠を除いて最大2500万円まで贈与税がかからず、毎年の非課税枠を除いた贈与財産が累計2500万円を超えた部分には税率20%が適用される制度)を活用して一括贈与する場合、

1478万円(=(1億円-110万円-2500万円)×20%)の贈与税の負担

となります。

これが従業員持株会を活用し、社長の株式を従業員持株会に30%売り渡すと、社長の保有割合は70%、相続税評価にして7000万円(1億円×70%)となります。従って、相続時精算課税を活用して一括贈与する場合、

878万円(=(7000万円-110万円-2500万円)×20%)の贈与税の負担

となり、

贈与税負担が約40%軽減

されます。

従業員持株会

社長が保有する自社株式を従業員持株会へ売り渡す場合、類似業種比準価額などで計算した場合よりも価額が安い、配当還元価額(自社の配当金額と資本金を基に算出する方法)を採用できます。

従って、従業員持株会を利用すると、社長は有利な譲渡対価で保有株式の割合を減らすことができるのです。

2)従業員の愛社精神や業績貢献意欲を向上させることができる

従業員持株会を通じて自社株式を保有する従業員に、業績に応じた配当を出すことで、愛社精神を高めたり、業績に対する意欲を向上させたりすることができるでしょう。

従業員持株会が保有する株式について、優先配当を行う仕組みを導入することもできます。具体的には、種類株式を設定するか、株式の属人的定めという制度(株主ごとに異なる取り扱いができる株式)を活用します。

3)株主権の管理が効率的にできる

従業員持株会は、従業員持株会規約などで株式の所有権を理事長に信託しているケースがあります。従業員持株会は民法上の組合なので、組合財産である株式は組合員の共有となりますが、株主名簿に組合員全員の名前を記載するのは事務作業的な負担が大きいです。そこで、形式的な所有権は従業員持株会の代表者である理事長にあるとするために、株式を理事長に信託譲渡する仕組みを取ります。

株式の所有権が理事長にある場合、他の組合員は理事長を通じて議決権を行使したり、閲覧権を行使したりすることになるので、不適切な株主権の行使を防げます。

4)株式の分散防止ができる

従業員持株会規約で、

会員(従業員)が会社を退職する際は、出資持分の払い戻しを受けてから退職し、株式を組合外に持ち出すことを禁止する

ことを定めれば、従業員の退職による株式の分散を防止できます。

2 従業員持株会を発足させるための手続き

1)従業員持株会の発足

従業員持株会は民法上の組合契約です。組合契約は、一定の事業を複数の者が共同で行うことを合意することで成立します。従業員持株会は株式を共同保有するものなので、そのルールとして従業員持株会規約を定めます。規約の主な内容は次の通りです。

  • 出資単位:従業員が持株会に金銭を出資する際の単位で、通常は額面金額とする
  • 参加資格:勤続5年以上や課長職以上など、各企業の事情に応じて設定する
  • 組合組織:理事や監事などの役員の選出方法、任期、理事会の運営方法などを定める
  • 退職時のルール:退社する際は出資持分が払い戻され、株式の持ち出しを禁止する

従業員持株会規約ができたら、このルールに従って株式を共同保有することに合意して従業員持株会が発足します。最初は少人数で合意して従業員持株会を発足させ、その後に参加資格がある従業員に持株会への出資を募集します。

2)奨励金の支給

従業員持株会は社長(会社)にもメリットが大きいため、従業員による出資金の一部を会社が奨励金として支援することがあります。出資金の10~30%程度の奨励金を支給するケースが多いです。

3)株式譲受け

こうして従業員持株会の実体ができると社長から株式の譲渡を受け、以後、共同で株式を保有していきます。

3 設立する前に再確認。従業員持株会の3つのポイント

1)経営権の弱体化の懸念

たとえ少数でも、株式を従業員に保有させることは経営権の弱体化につながります。1株でも保有すれば、株主総会議事録、取締役会議事録、株主名簿を見ることができますし、取締役に違法行為があれば、株主代表訴訟(株主が会社に代わって取締役などの責任を追及する訴訟)を提起して、会社の損害を回復するよう求めることができます。また、保有株式が3%を超えると会計帳簿を見ることができますし、取締役の解任訴訟を起こすこともできます。

こうしたデメリットを避けるには、従業員持株会の保有株式を議決権のない株式などに転換することが考えられます。とはいえ、全ての株主に与えられる権利を封じることはできません。

2)形骸化の懸念

従業員持株会を作ったけれども、従業員側のメリットが少なく、参加する従業員が減ってしまい、従業員持株会が形骸化してしまうことがあります。株主名簿上は従業員持株会が株式を保有しているにもかかわらず、従業員持株会の組合員が存在しないケースもあります。

このような状態となると従業員持株会は名義株とみなされ、実体は経営者がそれらの株式を保有しているとみなされる危険性もあります。その場合、上述した事業承継コスト(贈与税など)に関するメリットなどを受けることはできないので注意が必要です。

3)M&Aの対価により生まれる従業員間の不満

従業員持株会を作った後にM&Aが行われる場合、株式譲渡対価の何割かを従業員に交付することになります。従業員には雇用契約によって賃金や賞与が支給されていますが、もしも、M&Aが行われると、想定外の株式譲渡対価を得ることがあるのです。従業員持株会は、そもそも配当還元価額という非常に安い値段で株式を取得しているにもかかわらず、その何十倍もの株式譲渡代金を受領してしまうと、不公平感を抱く従業員が出ることも懸念されます。

以上(2025年9月更新)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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画像:Mariko Mitsuda

【事業承継】最も大切な後継者選び。後継者に備えてほしい9つの資質

1 「人(経営)の承継」が事業承継のスタート

事業承継にはさまざまな課題がありますが、最初に着手すべきなのは、

「人(経営)の承継」である後継者問題

です。後継者が決まらなければ、

借入金や債務保証の引き継ぎなどの具体的な話ができず、事業承継が進められない

からです。中小企業庁「事業承継ガイドライン」(以下「ガイドライン」)で紹介されている「事業承継計画書」の様式も、後継者が決まっていることが前提になっています。

これを裏付けるデータとして以下をご覧ください。後継者選びの方針や決定状況によって、事業承継の障害や課題が違っていることがお分かりいただけると思います。

事業承継における障害・課題

後継者の決定状況

このように、後継者選びは事業承継のスタート地点ともいえるわけですが、既に後継者を決めている会社は29.9%にすぎないのが実情です。本気で事業承継を進めるならば、まずは後継者選びを進めなければなりません。

2 3つある後継者選びのメリット・デメリット

「人(経営)の承継」の方法には、

  • 子どもなどへの親族内承継
  • 役員や従業員への親族外承継
  • M&Aによる第三者への親族外承継

の3つがあります。それぞれのメリット・デメリットは次の通りです。

3つある後継者選びのメリット・デメリット

最近は第三者を後継者とするケースが増えていますが、やはり親族や従業員を後継者にしたい経営者も多いです。このあたりは、

後継者候補となる親族の有無、事業の状態などを踏まえて慎重に検討

することになるでしょう。例えば、事業の状態が芳しくない、社内の結束が弱いといった場合、その苦労を親族には負わせたくないかもしれません。

いずれにしても、後継者に是非とも備えてほしいマインドがあるものです。経営者の考え方によって違ってくる面もありますが、主なものを9つにまとめて次章で紹介します。

3 後継者に備えてほしい9つの資質

1)健康である

心身が健康であることは大前提です。無理をして心身の調子を崩してしまったら、結果として多くの人に迷惑を掛けることになってしまいます。自分のことをよく理解し、必要に応じて肩の力が抜ける人でなければなりません。真面目なのはいいですが、集中していない状態で「ダラダラ」と続けるのは良くありません。

2)謙虚で、感謝の気持ちを忘れない

謙虚さも欠かせない資質です。経営者は社内外のさまざまな人に支えられて、経営者でいることができます。このことを常に忘れることなく、周囲に感謝の気持ちを伝えられる人でなければなりません。もし、後継者に指名されたことで有頂天になって偉ぶるような人は経営者に向きません。

3)理想の姿を描いている

経営者には「何がなんでもこれをやりたい!」「世の中のここを変えたい!」といった理想の姿があり、それが活動の原動力になると同時に、人物の奥行きにもなります。先代が描く理想の姿を承継したばかりの後継者が、すぐに自分の理想の姿を見つけることは難しいかもしれませんが、「全くない」というのでは物足りません。

4)基本的にポジティブ

経営は山あり谷ありです。基本はポジティブで、落ち込んでもすぐに立ち直れる、良い意味でのずうずうしさが必要です。コロナ禍で経営環境が激変する中でも、「本当に厳しい……」と動けなくなる人は経営者に向きません。「変化の中にはチャンスがある」とポジティブに考えてチャレンジする人でなければなりません。

5)失敗を恐れない

事業のほとんどは失敗します。この失敗を恐れていては、いつまでたってもチャレンジできません。失敗は失敗として、そこから学び、次に活かしていける人でなければなりません。そうした人が率いる組織は、チャレンジと学習を繰り返すことができます。これは組織が成長する上で不可欠なことです。

6)決断が速いが、短慮ではない

経営者は決断の連続であり、決められない人は経営者になれません。とはいえ、何を考えて判断したらよいのか分からないまま、ばくちのように右か左かを選択し続けたら会社は潰れます。論点を整理して考えられる人でなければなりません。一方、時間をかけて決断すべきことについては、どんと構えて考える落ち着きも必要です。

7)勤勉である

どのような会社でも、恐らく最も勉強しているのは経営者でしょう。自分の知識や技術をバージョンアップし続けないと、すぐに取り残されることを知っているからです。多忙な中でも時間を見つけ、勉強をする人でなければ経営者に向きません。いまだに一人でオンライン会議につなげない困った経営者になるような人を、後継者に選んではいけません。

8)ビジネスの知識がある

会社経営では、IT、法務、税務、労務、会計、営業、マーケティングなどの知識が必要です。とはいえ、一人で各分野のスペシャリストになることはできません。そこで、広く浅くでもよいので各分野の肝となる知識は押さえていなければなりません。そのためには、価値ある情報を教えてくれる社外の人脈が大切です。

9)趣味がある

ビジネスだけでは、人として面白みがないかもしれません。スポーツやアートなど何でもよいのですが、打ち込める趣味を持っていると、人としての深みが増します。それに、経営者の会食では意外なことにワインやアートなどの話がほとんどで、ビジネスの話は本当に少ないのです。そうした場についていくためにも趣味は必要です。

以上(2025年8月更新)

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画像:Mariko Mitsuda