【ビジネス文書・法令文書】労務担当者がチェックしておきたい令和7年成立予定の法改正

令和7年の通常国会が1月24日から始まり、企業の労務や業務に影響を与える多くの法改正が予定されています。
本稿では、社会保険やハラスメント対策のほか、公益通報者保護制度や下請法の改正についても解説します。内容は令和7年2月20日時点の情報に基づいており、法案が未提出または未公開のものについては、審議会の資料をもとに説明しています。

ビジネス文書・法令文書 今月の特集は、こちらからお読みいただけます。pdf

全国初! 東京都などで「カスハラ」の防止条例が施行!

2025年4月1日より、東京都、群馬県、北海道などで「カスハラ(カスタマーハラスメント)」の防止条例が施行されました。カスハラとは、

顧客等が、就業者(社員など)に対し、著しい迷惑行為(土下座の強要など)をすること

で、法的には民法の「不法行為」(故意・過失によって他人の権利や法律上の利益を侵害する行為)などに該当する可能性があります。

2025年4月1日時点では、カスハラをピンポイントで取り締まる法律はないのですが、東京都などがカスハラの社会問題化を受け、全国で初めて防止条例を作った

のです。

例えば、「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」では、次の通り14の条文が定められています。

東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(要約)

この条例により東京都内の事業者(会社)には、努力義務ではあるものの、東京都の施策に協力しつつ、カスハラから就業者(社員)を守るための体制の整備、カスハラ防止のための手引きの作成などが求められるようになりました(赤字)

また、東京都はこの条例に加えてカスハラ防止に関する指針を定め、それに基づいてカスハラ防止につながる情報提供や啓発・教育などの防止施策を実施していくようです(青字)。

■東京都カスタマー・ハラスメント防止条例■

https://www.reiki.metro.tokyo.lg.jp/reiki/reiki_honbun/g101RG00005328.html

なお、冒頭で「カスハラをピンポイントで取り締まる法律はない」と言いましたが、実は

2025年通常国会において、カスハラ防止対策を強化するための「労働施策総合推進法」の改正案が提出

されているので、今後は状況が大きく変わっていくかもしれません。改正案の内容は下記URLの「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律案」の項で確認できますので、今後の動向に注意しておきましょう。

■厚生労働省「第217回国会(令和7年常会)提出法律案」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/topics/bukyoku/soumu/houritu/217.html

次のコンテンツで、厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」に基づく、カスハラの基本的な対応についてまとめているので、興味のある方はぜひご確認ください。

また、こちらはカスハラ防止に使える「職場ポスター」です。社員への周知や顧客への注意喚起のため、職場や店舗に貼ってご活用ください。

以上(2025年4月作成)

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画像:正樹 国府田-Adobe Stock

総務のお仕事 12カ月 一目で分かる「月別実務リスト」

1 実務の抜け漏れを防止するには?

人事部、経理部、法務部など、バックオフィス専門の部署がないことが多い中小企業では、経営者や管理職も例外なくこうした実務を行います。しかし、不慣れであり、片手間で処理することが多いので、どうしても抜け漏れが生じます。

一方、こうした実務は法令で定められたものが多く、放置しておくと思わぬペナルティを受けることがあります。これを避けるために、この記事では「3月末決算の中小企業」を対象に、

「人事労務」「会計・税務」「法務・その他総務」の主なお仕事を月別にリスト化

しました。

2 総務のお仕事リスト(対象:3月末決算の中小企業)

以降では、4月から順にリストを紹介しつつ、重要な実務(各リストの赤字部分)については別途ポイントを説明します。なお、リストの内容は中小企業における一例です。また、便宜上、社会保険の保険者は全国健康保険協会(協会けんぽ)とします。

1)4月のお仕事

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1.入社手続き(4月入社の場合)

社員が入社したら、「労働条件通知書の交付」「社会保険や雇用保険の資格取得手続き」「雇入時健康診断の実施」などの手続きが必要です。なお、全国健康保険協会における保険料率が変更になる可能性がありますので、必ず確認するようにして下さい。

手続きの詳細は、こちらのコンテンツをご確認ください。

2.決算書の作成

1年分の取引に関する仕訳に、決算整理仕訳(売上原価の算定、収益費用の見越し・繰延べ、減価償却の計上など)を加えて集計し、それぞれの勘定科目を決算日時点の数値に確定します。確定した数値を基に、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、キャッシュフロー計算書(中小企業の場合、作成は義務ではありません)、個別注記表を作成します。

3.3月決算法人の税務申告書の作成

2.で作成した決算書などの数値を基に、法人税(地方法人税を含む)、法人住民税、法人事業税、消費税(地方消費税を含む)の「税務申告書」を作成します。

法人税と消費税の申告書の作成が中心となります。法人税については、決算書の利益から法人税法上の所得を計算するので、さまざまな調整や税額計算が必要です。消費税については、消費税が課税されている売上・仕入かどうかなど、消費税独自の税額計算を行います。

2)5月のお仕事

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1.3月決算法人の確定申告

原則事業年度終了の日から2カ月が経過する日(3月末決算の場合は、5月31日)までに、作成した「確定申告書」を、各提出先に提出します。「国税電子申告・納税システム(e-Tax)」や「地方税ポータルシステム(eLTAX)」を利用していれば、システム上での電子申告が可能です。

2.確定申告による法人税等および消費税の納付

原則事業年度終了の日から2カ月が経過する日までに、1.で申告した納税額を、各納税先に納める必要があります。e-TaxやeLTAXを利用していれば、ダイレクト納付(口座振替)やインターネットバンキングなどを利用した電子納税が可能です。

3)6月のお仕事

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1.夏季賞与の支給、被保険者賞与支払届の提出

社会保険(健康保険・厚生年金保険)の被保険者に賞与を支給した場合、支給日から5日以内に、「被保険者賞与支払届」を所轄の日本年金機構事務センターに届け出ます。支給予定であるにも関わらず支給しなかった場合についても、「賞与不支給報告書」を同じく所轄の日本年金機構事務センターに届け出ます。

なお、賞与保険料は、通常の給与の社会保険料と併せて支給月の翌月末に納付します。賞与を年2回または3回支給している場合、支給のたびに同じ手続きが必要です(年4回以上支給している場合は対象外)。

2.定時株主総会の開催

中小企業の多くは「非公開会社(全株式の譲渡について会社の承認が必要となる旨を定款に定めている会社)」です。非公開会社は、定時株主総会開催の1週間前までに、「招集通知」を株主に送付します。ただし、議決権を行使できる全株主が同意した場合は省略できます。

また、総会後は、「議事録の作成」「決議通知書の発送」「計算書類の公告」などの他、取締役の変更などがあった場合、2週間以内に、所轄の法務局に「変更登記の申請」をします。

4)7月のお仕事

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1.算定基礎届の提出

毎年7月10日までに、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の被保険者の4、5、6月支給給与額を記載した「算定基礎届」を、所轄の日本年金機構事務センターに届け出ます。これにより9月分以降の社会保険料が改定されます(定時決定)。社会保険料は翌月末に納付するのが原則ですので、定時決定で標準報酬月額が変わった場合は、10月に支給する給与から社会保険料の控除額を変更します。

なお、定期昇給などで固定給が変わり、標準報酬月額が2等級以上変動した社員がいた場合、その社員については、変動月から起算して4カ月目から社会保険料が改定されます(随時改定)。例えば、給与が毎月末日締め、翌月払いの会社が、4月に定期昇給(昇給が反映された給与を支払うのは5月から)を行った結果、2等級以上の変動があった社員がいた場合、5、6、7月の給与支払い後、速やかに「月額変更届」を所轄の日本年金機構事務センターに届け出ます。この場合、随時改定が定時決定に優先し、昇給月から起算して4カ月目である8月から標準報酬月額が変わり、社会保険料の控除額を9月支給の給与から変更します。

2.労働保険年度更新申告書の提出

毎年7月10日までに、「労働保険年度更新申告書」を所轄の労働基準監督署に届け出ます。この申告書には、労働保険(雇用保険・労災保険)の前年度の確定保険料と当該年度の概算保険料を記載します。

また、当該年度の概算保険料も原則7月10日までに納付します(前年度に納付した概算保険料と確定保険料との間に過不足があれば、過不足を調整した額を納付します)。ただし、事前に保険料の口座振替の申し込みをしている場合、9月6日に引き落とされます。なお、労働保険料は「概算保険料が40万円以上」など所定の要件を満たす場合、3回まで分割納付が可能です。

5)8月のお仕事

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1.夏季休暇などの取得予定の確認

夏季休暇は法令で定められた休暇ではなく、会社が就業規則等で独自に設定する「特別休暇」の1つです。例えば、「7、8、9月の3カ月間で3日まで取得可」といった具合に定めるのですが、業務が多忙だと、周囲に遠慮して社員がなかなか休暇を取れないケースがあります。そのため、会社のほうから各社員に取得予定を確認するなどの配慮をするとよいでしょう。

2.建物、設備、社有車などの点検

夏季休暇などで休みを取る社員が増える間、建物、設備、社有車などの点検がおろそかにならないよう注意します。特に、建築基準法、電気事業法、道路運送車両法などで定められている「法定点検」については、所定の期限までに必ず実施します。

6)9月のお仕事

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1.定期健康診断、ストレスチェックの実施(9月実施の場合)

社員を雇用する全ての会社は、定期健康診断を1年以内に1回以上実施します。社員数が常時50人以上の場合、ストレスチェックの実施義務もあり、こちらも1年以内に1回以上実施となります(注)。

なお、社員数が常時50人以上の会社は、定期健康診断実施後に「定期健康診断結果報告書」を、ストレスチェック実施後に「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」を、すみやかに所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。

(注)ストレスチェックについては、昨今のメンタルヘルス不調の増加などを受けて、実施義務の対象を50人未満の会社にも広げることが検討されています。

2.防災訓練の実施、BCPや備蓄の確認など

9月1日の「防災の日」に防災訓練をする会社は多いです。テレワークをしている会社も、災害伝言板やSNSを使った安否確認訓練を実施するなどして、緊急時に備えましょう。また、BCP(事業継続計画)の内容が古くないか、災害用品の備蓄(水・食料、ヘルメット、救急セットなど)に問題がないかなども、併せて確認しましょう。

7)10月のお仕事

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1.年次有給休暇の付与(4月入社の場合)

労働基準法により、「入社後6カ月以上勤務し、全労働日の8割以上出勤した社員」には、年次有給休暇(以下「年休」)を付与します。例えば、4月1日入社の正社員の場合、10月1日付で10日の年休を付与します。以降1年ごとに労働基準法に基づく日数を付与しますが、年休は付与日から2年を経過すると時効により消滅するので、日数の管理に注意しましょう。また、10日以上の年休が付与される社員については、年5日以上の年休取得義務が課されますので、付与をする際にそのルールを共有化しておくのも重要です。

2.地域別最低賃金(毎年10月改定)の確認

最低賃金には、都道府県ごとに定められる「地域別最低賃金」、特定の産業について定められる「特定最低賃金」があり、このうち地域別最低賃金が毎年10月に改定されます(特定最低賃金は不定期改定)。地域別最低賃金は年々引き上げられていて(2024年10月時点で、全国加重平均で1055円)、社員(特にパート等)がこれを下回らないよう注意します。

8)11月のお仕事

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1.長時間労働の実態把握、改善

厚生労働省では毎年11月に「過重労働解消キャンペーン」を実施していて、キャンペーン中は労働基準監督署による長時間労働に対する監督指導が強化されます。長時間労働の改善は本来、継続的にやるべきものですが、特に11月は「勤怠打刻と実際の労働時間が乖離(かいり)していないか」などをしっかり確認しましょう。

2.中間申告による法人税等および消費税の納付

確定申告時の税額が一定額以上である場合などは、期中に複数回の納付が発生します。これを「中間申告・納付」といいます。税金ごとに、制度が異なります。

法人税、法人住民税、法人事業税については、その事業年度が6カ月を超えるとき、原則、その事業年度開始の日から6カ月を経過した日より2カ月以内(例えば、3月末決算法人の場合は11月末まで)に、中間申告・納付をします。

消費税については、確定申告時の消費税額によって中間申告の回数(なし、年1回、3回、11回)が変わってきます。この記事では、年1回のケースをモデルとしているため、11月末に消費税の中間申告・納付が必要です。

9)12月のお仕事

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1.年次有給休暇の取得推進

年末年始を休業とする会社は多いですが、仮に本来の予定よりも仕事納めを前倒しできそうであれば、前倒しする日数分、社員に年休の取得を推奨するのもよいでしょう。法律上、年10日以上の年休が付与される社員(主に正社員)については、社員の意見を尊重した上で、会社が時季を指定して年5日の年休を取得させます。業務が多忙で年休取得が滞っている社員については、この時季にまとまった日数を取得してもらうよう働きかけます。

2.年末調整

年末調整は、社員の源泉所得税の最終調整を行うものです。社員全員に

  • 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
  • 給与所得者の保険料控除申告書
  • 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(扶養控除等申告書)

を提出してもらい、その年分に受けられる所得控除などを社員ごとに集計し、正確な源泉所得税の金額を算定します。すでに源泉徴収している金額と差額がある場合、12月または1月支給給与で精算します。

10)1月のお仕事

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1.法定調書の提出

毎年1月31日までに、前年(1~12月)に行った一定の支払いごとの金額や内容を記載した「法定調書」を所轄の税務署に提出します。法定調書は全部で60種類あります。例えば、社員に支払った給与については「給与所得の源泉徴収票」、税理士など特定の人に支払った報酬については「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」などがあります。

2.償却資産の固定資産税の申告

毎年1月31日までに、当該年の1月1日時点で所有している償却資産について記載した「償却資産申告書」を各市区町村に提出します。償却資産とは、土地・建物以外の事業に使用するための資産で、法人税の計算上、減価償却の対象となる資産をいいます。

11)2月のお仕事

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1.賃上げに関する情報収集

毎年2月ごろになると春闘が始まり、賃上げ(定期昇給やベースアップ)に関する話題を耳にする機会が増えます。他社の動向に注視しつつ、自社の人件費負担なども考慮して、最終的にどの程度賃上げに取り組むのかを判断します。

2.新年度の予算編成

新年度の利益目標を定め、売上と費用に計上する金額を決めます。当年度業績の着地見込みや、経営者の意向、担当者からのヒアリングなどを基に具体的な数値に落とし込むとよいでしょう。作成した予算は全社で共有し、毎月の予算管理(目標達成度合いの把握や、予算と実績の差額分析など)を実施していきます。

12)3月のお仕事

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1.退職手続き(3月退職の場合)

社員が退職した場合、健康保険法、労働基準法などにより「社会保険や雇用保険の資格喪失手続き」「退職証明書の交付(必要な場合)」といった手続きが必要です。制度がある場合は、退職金の支払いも必要です。手続きの詳細については、こちらのコンテンツをご確認ください。

2.36協定の締結・届け出(4月起算の場合)

会社が社員に時間外労働や休日労働を命じるには、過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)と労働基準法第36条に基づく労使協定(通称「36協定」)を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出ます。36協定は、1月や4月を起算日として1年間の有効期間を定めるケースが多く、有効期間が切れた状態で社員に時間外労働や休日労働を命じるのは違法です。必ず有効期間が切れる前に内容を更新し、締結・届け出た上で、社員に周知しなければなりません。また、36協定で締結した内容を超える時間外労働や休日労働を命じる事も違法となりますので、協定内容を十分検討した上で締結する様にしてください。

3.期末棚卸の実施

期末時点の在庫を確定するため、帳簿記録に基づき調査を行う帳簿棚卸と、現物を実際にカウントする実地棚卸を実施します。期末棚卸をして、在庫を確定することで決算書に計上する売上原価が算定されます。

以上(2025年4月更新)
(監修 税理士 石田和也)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:beeboys-Adobe Stock

【労務のお仕事】社員が「入社」したとき

1 入社時の手続きの見落としに備えよう

社員の入社時は、労働条件通知書の交付や社会保険の手続きなど、やるべきことがたくさんあり、実務の抜け漏れが生じがちです。そこで、この記事では正社員を中途採用したことを想定し、必要な手続きをリストにまとめつつ、重要なポイントを紹介します。なお、便宜上、健康保険の保険者は全国健康保険協会(協会けんぽ)とします。

手続きリストは、

  1. 入社前または入社当日
  2. 入社後

の2段階に分かれています。また、

各手続きをオンライン化できるかについても記載

していますので、書類のペーパーレス化を検討したい場合などにもご活用いただけます。ただし、手続きで必要となる添付書類については省略していますので、その点は各書類の提出先などにご確認ください。

なお、退職時の手続きについて知りたい場合、こちらのコンテンツをご確認ください。

2 入社前または入社当日の手続き

一般的な入社前または入社当日の手続きは次の通りです。

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1)法定書類の交付:労働条件通知書

労働条件通知書は、社員に労働条件を明示するための書類です。労働条件には、必ず明示すべき事項(契約期間、就業場所、昇給に関する事項など)と、就業規則などに定めがある場合に明示すべき事項(退職金、賞与など)があります。

労働条件通知書は、労働契約を締結する際に書面で交付しなければなりませんが、社員が希望した場合はメールなどでも交付できます(退職金、賞与などの労働条件は口頭での明示も可)。

2)手続き書類の取得:マイナンバーカードのコピー

マイナンバーカードのコピーには、社会保険や税務の手続きで使用するマイナンバー(個人番号)が記載されています。マイナンバーは極めて機微な個人情報なので、マイナンバー法に従い、取り扱いには細心の注意を払います。例えば、マイナンバー取得の際に「利用目的を社員本人に通知する」「本人確認(番号確認・身元確認)をする」などの手続きが必要です。

メールなどでマイナンバーカードのコピーを受け取ることもできますが、その場合、添付ファイルにパスワードをかける、個人番号事務取扱担当者だけが閲覧できるメールアドレスに送信をしてもらうなどの配慮が必要です。

3)その他の書類の取得:誓約書・身元保証書

誓約書・身元保証書は、社員の故意や重過失による会社への損害リスクを減らすために取得します。損害賠償額や違約金の具体的な金額をあらかじめ定めることはできません。ただし、身元保証書については、極度額(連帯保証人の責任すべき限度額)を定める必要があります。

なお、誓約書・身元保証書などの書類は法的には本来必要のないものなので、社員からの提出方法は、会社が自由に決められます(PDFなどで提出してもらうことも可)。

3 入社後の手続き

一般的な入社後の手続きは次の通りです。

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1)法定書類の提出:社会労働保険関連

健康保険・厚生年金保険については、法定書類の提出後、資格取得に関する通知が会社に送付されます。到着を確認したら、

  • 資格取得に関する通知は社内で保管(退職日から2年間保管)
  • 所定の事項(資格取得や標準報酬月額など)は通知書(書式は任意)を作成して社員に交付

します。なお、従前は法定書類の提出後に「健康保険被保険者証」が交付されていましたが、

2024年12月2日以降は、マイナンバーカードが「マイナ保険証」として利用できるようになった関係で、新規の健康保険被保険者証は発行されない

ようになっています(既存社員の健康保険被保険者証は、経過措置により2025年12月1日まで使用可)。ちなみに、マイナンバーカードを保有していない場合、またはマイナンバーカードを保有しているがマイナ保険証登録をしていない場合、

マイナ保険証の代替となる「資格確認書」の交付

を受けられます。具体的には、健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届にチェック欄が設けられており、そこにチェックを入れることで交付を受けられます。

雇用保険については、次の書面が発行されます(1.から3.までは一体の書面です)。3.は社員に交付し、1.と2.は社内で保管します(退職日から4年間保管)。

  1. 雇用保険被保険者資格喪失届・氏名変更届
  2. 雇用保険被保険者資格取得等確認通知書(事業主通知用)
  3. 雇用保険被保険者資格取得等確認通知書(被保険者通知用)・雇用保険被保険者証

なお、法定書類の提出手続きは、社会労働保険関連は「電子政府の総合窓口(e-Gov)」から、税務関連は「地方税ポータルシステム(eLTAX)」から、電子申請で行えます(どちらも事前に電子証明書の取得が必要)。

■電子政府の総合窓口(e-Gov)■

https://www.e-gov.go.jp/

■地方税ポータルシステム(eLTAX)■

https://www.eltax.lta.go.jp/

2)法定帳簿の作成:労働者名簿、賃金台帳、出勤簿

法定帳簿には社員の氏名、生年月日、入社日などを記入します。社内にて保管されていれば特に提出の必要はなく、また、速やかに印刷などができる状態であれば、PDFなどで保管して差し支えありません。

3)雇入時健康診断

社員が入社3カ月前までに受診した健康診断書があれば、その診断項目については雇入時健康診断の受診が免除されます。なお、採血などを行う関係上、受診自体はオンライン化できませんが、診断結果についてはPDFなどでの保管も認められています。

以上(2025年4月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:pexels

【労務のお仕事】社員が「退職」したとき

1 退職時の手続きの見落としに備えよう

社員の退職時は、退職届の徴求や雇用保険の手続きなど、やるべきことがたくさんあり、実務の抜け漏れが生じがちです。そこで、この記事では正社員が自己都合退職したことを想定し、必要な手続きをリストにまとめつつ、重要なポイントを紹介します。なお、便宜上、健康保険の保険者は全国健康保険協会(協会けんぽ)とします。

手続きリストは、

  1. 退職前または退職当日
  2. 退職後

の2段階に分かれています。また、

各手続きをオンライン化できるかについても記載

していますので、書類のペーパーレス化を検討したい場合などにもご活用いただけます。ただし、手続きで必要となる添付書類については省略していますので、その点は各書類の提出先などにご確認ください。

なお、入社時の手続きについて知りたい場合、こちらのコンテンツをご確認ください。

2 退職前または退職当日の手続き

一般的な退職前または退職当日の手続きは次の通りです。

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1)手続き書類の取得:健康保険被保険者証、退職所得の受給に関する申告書

健康保険被保険者証を返却できない(紛失したなど)場合、「健康保険被保険者証回収不能届」を年金事務所に提出すれば返却が免除されます。ただし、健康保険被保険者証の返却も健康保険被保険者証回収不能届の提出も、手続きは訪庁または郵送でしか行えません。なお、

2024年12月2日以降は、マイナンバーカードが「マイナ保険証」として利用できるようになった関係で、新規の健康保険被保険者証が発行されなくなっていますが、2025年12月1日までに退職した既存社員の被保険者証については、引き続き返却手続きが必要

なので、注意してください。また、「高齢受給者証」の交付を受けている70~74歳の社員については高齢受給者証も併せて返却が必要です(健康保険被保険者証も高齢受給者証も、2025年12月2日以降は回収不要で、社員が自分で破棄してよい)。

なお、2024年12月2日以降に入社した社員については、マイナンバーカードを取得していない場合、またはマイナンバーカードを保有しているがマイナ保険証登録をしていない場合に限り、

保険証の代替となる「資格確認書」の交付

を受けられます。この交付を受けた社員が退職する場合、資格確認書の返却義務が生じますので、漏れが生じないようにきちんと状況を把握しておく必要があります。

退職所得の受給に関する申告書は、社員が正しい税額で、所得税の源泉徴収を受けるために必要な書類です。取得しない場合、退職金の支給額に対し、一律で20.42%が源泉徴収されます。こちらはPDFなど、オンラインでの取得が可能です。

2)法定書類の作成:雇用保険被保険者離職証明書

雇用保険被保険者離職証明書は3枚複写となっており、書面の名称は、

  • 「雇用保険被保険者離職証明書(事業主控)」(1枚目)
  • 「雇用保険被保険者離職証明書(安定所提出用)」(2枚目)
  • 「雇用保険被保険者離職票-2」(3枚目)

となっています。

雇用保険被保険者離職証明書(安定所提出用)と雇用保険被保険者離職票-2には、社員が離職理由に異議がないことなどを証明するための署名欄があります。社員本人の署名が原則ですが、帰郷その他やむを得ない理由により、社員本人の署名が困難な場合は、その理由を記載した上で会社の印を押印することが認められています。

なお、雇用保険被保険者離職証明書は、「電子政府の総合窓口(e-Gov)」上で作成し、電子申請で提出することもできます(事前に電子証明書の取得が必要)。その場合、「離職証明書の記載内容に関する確認書」という書類を作成して社員に署名なつ印をしてもらい、PDFで電子申請データに添付することで、離職理由に異議がないことなどを証明します。

■電子政府の総合窓口(e-Gov)■

https://www.e-gov.go.jp/

3)その他の書類の取得:退職届

退職届の取得は任意ですが、後述する「雇用保険被保険者資格喪失届」を所轄ハローワークに提出する際、退職の事実を客観的に証明する書類が必要となるため、取得しておくのが無難です。労務管理上の観点からも、退職の意思、退職日、退職理由などを明らかにしておくことで、社員とトラブルになるリスクを減らす上で有効です。

オンラインで退職届を取得する場合、社員の直筆で署名なつ印のある退職届をPDFなどにして送ってもらいます。なお、「一身上の都合で退職します」と記載されたメールなどを退職届の代わりにするのは、本人が作成したものであると証明することが難しくなるので避けたほうがよいでしょう。

3 退職後の手続き

一般的な退職後の手続きは次の通りです。

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1)給与・退職金の支払い

退職金に関する社員とのトラブルを防ぐため、退職金の支給の有無、支給する場合は支給額や支給時期などについて、退職時に本人に通知しておくとよいでしょう。なお、給与明細や退職金支給明細は、社員の同意があればPDFなどで交付できます。

2)法定書類の提出:社会労働保険関連

健康保険・厚生年金保険については、法定書類の提出後、資格喪失に関する通知が会社に送付されます。これは社内で保管します(退職日から2年間保管)。

雇用保険については、法定書類の提出後、次の書面が交付されます(1.と2.は一体の書面)。2.と4.は社員に交付し、1.と3.は社内で保管します(退職日から4年間保管)。

  1. 雇用保険被保険者資格喪失確認通知書(事業主通知用)
  2. 雇用保険被保険者資格喪失確認通知書(被保険者通知用)・雇用保険被保険者離職票-1
  3. 雇用保険被保険者離職証明書(事業主控)
  4. 雇用保険被保険者離職票-2

なお、法定書類の提出手続きは、社会労働保険関連は「電子政府の総合窓口(e-Gov)」から、税務関連は「地方税ポータルシステム(eLTAX)」から、電子申請で行えます(どちらも事前に電子証明書の取得が必要)。ただし、健康保険被保険者証(高齢受給者証、資格確認書)については、現物を年金事務所に訪庁または郵送で返却しなければなりません。

■電子政府の総合窓口(e-Gov)■

https://www.e-gov.go.jp/

■地方税ポータルシステム(eLTAX)■

https://www.eltax.lta.go.jp/

3)社員への書類送付:雇用保険被保険者離職票、退職証明書

2025年1月20日から、雇用保険被保険者離職票など雇用保険資格の喪失関係書類(本人控え分)を、マイナポータルで受け取れる行政システムがスタートしています。本人がマイナポータルからデータを直接取得できるので、会社からの送付作業のひと手間が減ります。ただし、サービスを利用するには、資格喪失の手続きを電子申請(e-Gov)で行うのに加え、「マイナンバーをハローワークに登録する」などの事前準備が必要になります。

■厚生労働省「被保険者の皆さまへ 2025年1月から、『離職票』をマイナポータルで受け取れるようになります!」■

https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001353163.pdf

■マイナポータル「離職票をマイナポータルで受け取る」■

https://img.myna.go.jp/manual/03-04/0230.html

退職証明書は、退職後であっても社員から請求があった場合は、必ず交付しなければなりません。実務上は、退職前に要否を確認しておくとよいでしょう。なお、退職証明書は、社員の同意があればPDFなどで交付できます。

なお、会社の中には、あらかじめ退職証明書を作成して退職時に本人に交付しているところも多いです。退職後、本人が国民健康保険に加入する場合などに、市区町村から前職の退職証明の提示を求められるケースがあるからです。

以上(2025年4月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:Andrey Popov-Adobe Stock

新入社員に理解させたい 経理・人事・総務の仕事12か月(2025年4月号)

4月になると、多くの会社に新入社員が入社してきます。経理・人事・総務部門も新入社員や、あるいは他部署からの異動で新しいスタッフを迎え入れることが少なくないでしょう。
未経験者が早く仕事に慣れるには、全体の流れをつかむことが肝要です。そこで、中小企業の経理・人事・総務を担当する人が会社のなかで担っている役割と、主にどのような業務をするのか、毎月の仕事と留意点についてまとめます。
※本冊子は、3月決算法人を想定したスケジュールに基づいています。

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戦わない人材採用のススメ PART.5~リファラル採用の活用~

1 はじめに

さて、今回はPART.5ということで、「戦わない人材採用のススメ」シリーズの最終回となります。今までお付き合いくださりありがとうございました。今回のテーマは「リファラル採用の活用」です。リファラル採用という言葉ご存じでしょうか?近頃、まあまあ聞くようになった言葉かな?と思います。

採用環境が厳しくなるにつれ、従来通りの採用(求人サイトなどを利用した採用=オーディション型採用)ではなかなか良い人材が採用できない、また、前回お話ししました不適格人材を誤って採用してしまうリスクが避けられないなどの背景から注目を浴びているものです。加えて、後ほど詳しくご紹介しますが、リファラル採用に続き、最近注目されているのが「アルムナイ採用」です。これは簡単に言うと、自社を過去に退職した人材を改めて採用するものです。例えば、転職した社員と転職後も一定の関係を持ち続けて、何年か後に改めて採用するようなケースです。この二つの採用方法に共通している最大のメリットは、「どんな人物か事前にわかっている」点にあります。繰り返しですが、不適格人材を採用してしまうと最悪の場合、会社が組織崩壊することもあり得ます。前回は、そのようなリスクを回避する採用面接の方法として、「できるだけ多くの人の目で見ること」「適性検査やリファレンスチェックの活用」などについてお伝えしましたが、(お伝えしておいてこんなこと言うのも何ですが…)これらを確実に実行したとしても、リスクを0にすることはできません。しかしながら、今回ご紹介するこの二つの方法であれば、少なくとも「不適格人材ではない」ということは断言できます。そこが最大の強みということになります。それでは、まずはリファラル採用についてみていきたいと思います。

<ご参考:実施中の人材採用手法と今後検討する手法>

実施中の人材採用手法と今後検討する手法

(出典:2023年度 リファラル採用 従業員規模別統計レポート TalentX社)

2 リファラル採用とは

リファラル(referral)という単語は、「紹介」「推薦」という意味を持っています。リファラル採用とは、自社の社員や自社のことをよく理解している友人や知人などの紹介から行う採用手法です。それって「縁故採用」のことでは?と思われた方もいらっしゃるかもですが、縁故採用は社長や役員などの親族や知人などからいわゆる裏口入社的な形での採用であるのに対し、リファラル採用は自社の関係者からの紹介という点では同じですが、自社の採用基準を満たした方のみを採用する(基準を満たさない場合は採用しない)という点が大きく異なります。それではリファラル採用のメリット、デメリットについて見ていきましょう。

(1)リファラル採用のメリット

① どんな人物かがあらかじめ分かっている

中小企業における採用の失敗は大きな経営リスクです。採用できても半年や1年などの短期で退職してしまうケースや不適格人材を誤って採用してしまうなどは絶対に避けなければなりません。求人サイトなどからの応募者はどんな方か分からないのに対し、リファラル採用の応募者は自社の関係者の誰かがよく知る人物ですので、間違っても不適格人材の可能性はないと言えます。この点が最大のメリットです。

② ミスマッチが起こりにくく定着しやすい

前記①とつながる部分ですが、応募する前や入社を決める前に、自社の関係者が応募者に対して自社の正確な情報を丁寧に伝えているため、入社後に「こんなはずじゃなかった」というミスマッチが起こりにくく、その結果、定着につながります。

③ 転職潜在層にアプローチできる

通常、求人サイト等から応募してくる応募者はすでに転職市場に出てしまっている人です。他社にも応募している可能性もあり、他社が自社よりも良い条件を出している場合は、採用したいと思ったとしても他社にいってしまうことも大いにありえます。その反面、リファラル採用の応募者については、転職市場に出る前の人ですので、基本的に競合他社は存在しません。「戦わない人材採用」の観点となります。

④ 採用コストの削減につながる

そもそもコスト削減のために行うものではありませんが、結果的に求人媒体や人材紹介などの業者を利用せずに採用活動ができるため、コスト削減につながります。ただし、詳しくは制度設計のところでお話ししますが、紹介者に対するインセンティブ(報酬)を支払う場合はその分の新たなコストが発生しますし、社員と応募者の会食代を負担するなどのコストも発生しますので注意が必要です。

(2)リファラル採用のデメリット

① 時間がかかる

今、他の会社などで活躍している人を採用するわけですので、すぐにというわけにはいきません。現在勤めている会社を辞めるのに一定の期間が必要ですし、アプローチした方が転職を考えていない場合には、その気になってもらうのにある程度の期間が必要となります。時には、初めてアプローチしてから1年がかり、2年がかりなんてこともあります。「人が足らないので今すぐにでも雇い入れたい」などの場合には不向きな手法と言えます。

② 配置や人間関係が難しい

自社の社員からの紹介であった場合、大きな会社であれば全く違う部署に配置することも可能でしょうが、中小企業の場合、紹介者の近くに配置せざるを得ないケースも考えられます。業務でわからないことを質問しやすいなど、それはそれで良い面でもあるわけですが、もともとの知り合いなのでかえってやりづらかったりするかも知れません。また、プライベートでの関係性が仕事に影響を与えることもあるかも知れません。さらに、紹介してもらった応募者が採用となれば良いですが、採用基準を満たさずに不採用となった場合は、紹介者と応募者の関係性に相当の配慮が必要になります。

3 リファラル採用の仕組みづくり

メリット、デメリットについてしっかりと理解したうえで、仕組みづくりに入ります。リファラル採用を成功させるためにはしっかりとした仕組みづくりが重要になります。紹介があった場合のインセンティブを決めるだけでは不十分です。まずは、社員に対して、自社の経営ビジョンや求める人物像をしっかりと伝え、紹介する側、される側の双方にとって分かりやすい制度にすることがスムーズな運用のためのポイントとなります。具体的には、採用条件や応募方法などの情報を社内イントラに掲載するなどして簡単に確認できるようにする。また、実際の社員の紹介活動や採用状況を目に見える形で伝えられるような仕組みもあった方がうまくいく確率がぐんと上がります。

これらすべてを独自に作り上げるのは相当な労力が必要になりますが、リファラル採用に特化した活動促進サービス(※)もありますので利用を検討されてみてはいかがでしょうか?その他、特にはっきりと決めておいた方が良い点は以下の二つです。

<※ MyReferのご紹介>

https://mytalent.jp/refer/

① インセンティブ(紹介報酬制度)

一般的には、採用決定時に1人当たり5万円~20万円程度の報酬を支給しているケースが多いと思いますが、職種や採用難易度、企業の採用ひっ迫度などに応じて金額を設定します。また、採用決定時ではなく応募獲得時に何かしらのインセンティブを設定する場合や、報酬を金銭以外のものに設定している場合もあり、会社の風土、文化、スタイルに合わせて制度設計します。

ここからは私の考えですが、インセンティブは高額にしない方が良いと思いますし、できれば「なし」とするか「お金以外」にした方が良いと思います。なぜなら、応募し採用された社員が、入社後に高額なインセンティブがあることを知った場合、「お金目当てで紹介したのか」と思われてしまう危険性があるからです。また、金額の多い少ないと紹介数は必ずしも連動しないので、(紹介していただいた方に感謝の気持ちを「形」で示すことは大切ですが)お金ではなく、リファラル採用の活動を行うことが会社に貢献しているんだという意義を感じていただくことの方が効果は高まると思います。そのためには制度導入にあたって、トップが社員に向けて制度導入の目的や意義をしっかりと伝えていただくことも重要なポイントとなります。

② 会食費用

候補者との会食費用を支給することで、社員が候補者に対して声を掛けるハードルを下げることができます。具体的には、カフェやランチ、夜の会食代を支給するなど、会食シーンや支給する費用は、それぞれの会社のスタンスに合わせて設定します。紹介者である自社社員の費用だけでなく、友人・知人の会食費も支給対象とすることで社員が友人を誘いやすくなり、リファラル採用を促進できます。

ただし、安易に会食制度を設計すると、単に会食することが目的となってしまって、会食の数は増えるが紹介は全く進まないなどの可能性もあります。よって、例えば会食費の申請は事前申請を必須にすることや、誰と会食を行ったのか、どんな内容だったのかについて報告させるなど、リファラル採用の成果につながるルール設定をすることが重要です。

4 アルムナイ採用

(1)アルムナイ採用とは

アルムナイとは、「卒業生」「同窓生」を意味する単語ですが、そこから派生して「退職者」という意味で使われています。アルムナイ採用とは、一度退職した社員を再び雇い入れる採用手法です。アルムナイは社内事情や企業文化を理解しているので、ミスマッチのリスクが低いことが最大の特徴です。また、外部での経験を経て視野が広がった人材が自社に加わることで、新たな気づきが組織の成長につながることも期待できます。それではアルムナイ採用についてのメリット、デメリットを見てみましょう。

(2)アルムナイ採用のメリット

① 即戦力としての活躍を期待できる

前述のとおり、すでに自社での勤務経験のある人材を雇い入れるため、即戦力としての活躍を期待できます。また、自社の退職後に得た知識や経験を生かして、業務フローを見直すことで業務効率をアップさせることや、新しいアイデアを取り入れることで競争力の強化につなげることなどが期待できます。

② 採用・教育コストの削減

リファラル採用同様に求人媒体や人材紹介会社を利用する必要がほぼないため、採用コストを削減できます。また、アルムナイはすでに企業文化や社内制度、業務内容を把握しているため、研修や教育にかかる時間と費用も抑えられます。

(3)アルムナイ採用のデメリット

① 既存社員の退職を誘発する

アルムナイ採用制度があると「退職しても戻れる」という安心感から、既存社員の退職に対するハードルを下げてしまう可能性があります。この心理が原因で離職率が高まり、結果的に、会社全体の定着率が低下し、人材の流出につながるかも知れません。既存社員のむやみな退職を防ぐには、アルムナイとして再雇用されるためには一定の条件があることを示し、この制度は無条件に利用できるものではないことを社員に周知します。具体的には、在職中の成績や評価、スキル要件等を明確にし、また、再雇用に際しても求められる基準があり必ず採用されるとは限らないとするなど、制度の利用について制約を設けることなどが考えられます。

② スキルギャップの可能性

アルムナイ社員の知識やスキルが、現在の自社が求める基準を満たさない可能性があります。特に、退職後の期間が長い場合は、時代の変化によりアルムナイ社員の持っている知識やスキルが時代遅れになっている可能性が高いです。このような場合は、アルムナイの再雇用にあたり、スキルや経験の現状をしっかりと確認し、必要に応じて研修を行うなどが必要となります。

(4)アルムナイ採用の仕組みづくり

アルムナイ採用を成功させるには、具体的なルール設定や社内体制の整備、退職者との関係構築など、綿密な準備が必要となります。

① 復職条件の設定

アルムナイ採用を導入する際は復職条件を設定して、どんな場合でも再雇用が認められるわけではないことを示すことが重要です。例えば、「一定期間以上の勤務経験があること」「役職等のランクが基準以上であること」「特定の退職理由(懲戒解雇など)ではないこと」など、具体的な条件を設定することで、採用基準が明確になり、既存社員の納得を得やすくなります。また、これらの制約がむやみな退職を防ぐことにもつながります。

② 制度の周知

アルムナイ採用を機能させるためには、既存社員へ制度の存在を周知することが重要です。また、退職者には退職時の面談で再雇用制度について説明し、希望する場合の手続き等を明確に示すことにより、復職への心理的なハードルを下げることができます。

③ 退職者との接点

制度の利用を促進するためには、退職者と定期的に接点を持ち続けることが大切です。退職後の会社の状況が全く分からなくては、再度入社したいとの動機の形成が難しくなります。よって、退職者を含めた懇親会などのイベントを開催したり、SNSを活用してこまめに情報提供を行うことなどにより、会社の最新状況が分かることによって応募の動機形成につなげることができます。

5 まとめ

いかがでしたでしょうか?今回はリファラル採用、アルムナイ採用について見てきました。いずれも企業規模に応じた制度設計が必要になりますし、一定規模以上の企業についてはアナログでの制度運用は難しいと思いますので、専用のサポートサービスなどの利用をお勧めします。

最後になりますが、採用環境はますます厳しくなる一方です。現時点では、人材採用には特に困っていない会社であっても、何年か後には必ず必要になるはずです。ただ、その頃は今とは比べ物にならないくらい厳しい状況になっていることも考えられます。よって、仮に今は困っていなくても、まずはできることから取り掛かっていただくべきだと思っています。そのために、この「戦わない人材採用のススメ」シリーズが何かしら皆さんのお役に立てる情報提供になれば幸いです。

以上(2025年4月作成)

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高年齢雇用継続給付の縮小

令和7年4月1日から、雇用保険の「高年齢雇用継続給付」が縮小され、最大15%の支給率が10%に下がります。高年齢雇用継続給付は、企業で働く高齢者を給与面で支援するための給付金です。中小・零細企業でも、受給者がいると思います。本稿では、高年齢雇用継続給付の支給率縮小について、概要をお伝えします。

1 基本的なしくみ

高年齢雇用継続給付は、60歳になった時点と比べて、賃金が75%未満に下がった状態で働き続ける高齢者に支給されます。高齢者とは、60歳以上65歳未満の雇用保険の一般被保険者を指します。60歳以降は一般的に、50歳代の時と比べて給与が下がります。そこで、給付金を支給して補填するのです。

令和7年3月31日までのルールでは、月の賃金が、60歳になった時点と比べて61%以下となった人に、下がった賃金の15%の給付金が支給されます。15%が最大の支給率です。60歳になった時点と比べて、75%以上の賃金がもらえる人には、給付金は支給されません。

例えば、60歳になった時点の賃金が月30万円の人が、60歳以降、賃金が下がった状態で働き続ける場合、給付金は以下のようになります。

  • 1.賃金が月26万円に低下
     →賃金が75%未満になっていないので、支給率は0%。給付金は支給されない
  • 2.賃金が月20万円に低下
     →低下率が66.67%なので、支給率は8.17%。支給額は20万×8.17%=月16,340円
  • 3.賃金が月18万円に低下
     →低下率が60%なので、支給率は15%。支給額は18万×15%=月27,000円

2 令和7年4月1日からの支給率

令和7年4月1日からは、月の賃金が、60歳になった時点と比べ64%以下になると、下がった賃金の10%相当の給付金がもらえます。10%が最大の支給率となります。

令和7年4月1日からの高年齢雇用継続給付の支給率

※厚生労働省のリーフレット「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」より

例えば、60歳になった時点の賃金が月30万円の人が、60歳以降、賃金が下がった状態で働き続ける場合、給付金は以下のようになります。

  • 1.賃金が月25万円に低下
     →賃金が75%未満に下がっていないので、支給率は0%。給付金は支給されない
  • 2.賃金が月21万円に低下
     →低下率が70%なので、支給率は4.16%。支給額は21万×4.16%=月8,736円
  • 3.賃金が月17万円に低下
     →低下率が56.67%なので、支給率は10%。支給額は17万×10%=月17,000円

新しい支給率(最大10%)が適用されるのは、令和7年4月1日以降に60歳になる人です。従って、令和7年3月31日以前に60歳になる人は、古い支給率(最大15%)が適用されます。雇用保険では、「60歳になる日」は「60歳の誕生日の前日」のことです。

3 さいごに

高年齢雇用継続給付は、平成7年4月に創設され、当時の支給率は最大25%でした。その後、政府の高齢者雇用法制の見直しもあって、65歳までの雇用が一般化してきたことから、平成15年5月に最大15%に引き下げられました。政府は今後、この給付金の廃止も検討しています。ただ、当面、この給付金は続きます。給付金の支給申請は、原則として企業がハローワークに対して行います。中小・零細企業も無関係ではありません。

※本内容は2025年3月10日時点での内容です。

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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事前にわかる入社と退職手続き実務

1 はじめに

新年度を迎える春は、人事労務担当者の皆さまにとって、1年のなかでも特に手続き業務が増える時期であると思います。その中心となるのが、入社と退社に関する手続きではないでしょうか。

中小企業では、採用計画に沿った人材確保が困難になってきているなか、厚生労働省が2月に公表した最新の人口動態統計速報では、昨年の出生数が720,988人と過去最少を記録しました。今後も少子高齢化による深刻な人手不足の流れが続くと予想され、それを裏付けるように2024年の人手不足倒産は、累計で342件発生したというショッキングなデータを帝国データバンクが公表しています。この数値は、調査開始以降過去最多であり、2年連続で大幅に更新したとされています。

このように、会社の存続にも影響を及ぼしかねない厳しい採用難の時代において、法令遵守のできていない企業に対する求職者からのエントリーは、今後より一層見通しづらくなるでしょう。まずは、皆さまの会社に入社された社員が安心して働き続けられるよう、正しい手続きを適切に行うことで、会社の土台をしっかりと固めていきたいものです。

そこで今回は、適切な手続きについて皆さまとともに確認しながら、この春、特に気を付けておきたいポイントについてもご紹介いたします。

2 入社手続き

(1)採用内定から入社までの流れ

人手不足でエントリー数自体が減少している昨今、これまでよりも選考基準を引き下げざるを得ないという声も聞こえてきています。採用判断の際、業務適性や定着率等を客観的に判断できる資料となり得る適性検査を実施するケースも増えており、当日中に結果が分かるものもありますので導入してみるのもよいでしょう。

さまざまなステップを経て採用内定を決定したあとは、採用内定通知を交付することが多いと思います。書面で採用選考結果を通知するとともに、入社日の案内や、マイナンバー等の提出内容を記載したり、内定誓約書の返送を求めたりするものが一般的です。

内定誓約書は、内定者が就職を承諾するとともに、他社への就職をしない旨を約束させたり、卒業できなかったときや、採用試験の過程に重大な偽りがあった等の内定取り消し事由に該当したりした場合の取り扱いについても記載することが多いです。内定については、法的に「解約権留保付労働契約」が成立したものと解釈されており、内定取り消し事由以外での内定取り消しは難しく、解雇同等の取り扱いとなりますので注意が必要です。

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2025年「賃上げ」に対する経営者315人の本音。御社はどうする?

1 2年連続で賃上げする企業は87.8%!

春闘をはじめ、「賃上げ」に関する話題が今年も世間を賑わせています。そこで、昨年に引き続き、経営者315人を対象に、賃上げに関する緊急アンケートを行いました(2025年3月19日から3月27日まで)。前回のアンケート結果については、こちらをご確認ください。

今回は、「2025年度に賃上げを実施する」という企業が全体の36.5%、そのうち

「2年連続(2024年度・2025年度)」で賃上げを実施するという企業が、なんと87.8%

もいました。ちなみに、2年連続で賃上げすると答えた企業の2024年度(昨年度)の賃上げ率は、「3%以上」が最も多かったです。

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2 賃上げを実施するか否か、何を基準に判断する?

ここからは、2025年度の賃上げの方針についての回答結果を紹介します。

まずは、賃上げをするか否かを判断するために重視する情報についてですが、「自社の業績」が圧倒的に多くなっています。

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3 賃上げする企業が求めている情報は?

では、具体的にどれだけの企業が賃上げをするのでしょうか?

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2025年度に賃上げを実施する企業は36.5%(このうち87.8%が2年連続での実施)で、2〜3年以内に実施するという企業は14.0%となっています。賃上げする企業が求めている情報は、助成金などに関する情報、社会保険料への影響に関する情報でした。少しでも賃上げの負担を軽減したいというところでしょう。

また、経営者が賃上げについて相談する相手は、顧問の税理士が最も多く、自社の取締役がこれに続きます。

賃上げを検討する際に参考となるリポートは以下の通りです。

4 どうやって、どの程度の賃上げをする?

賃上げの手法や賃上げ率はどうでしょうか。

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賃金の範囲としては、「基本給のみ」が最も多く、基本給の他に手当や賞与も上げるという企業が続きます。かつては、基本給は上げず、手当や賞与を上げて対応する企業が多かったですが、2025年はそれよりも踏み込んだ賃上げを検討する企業が増えています。

具体的な賃上げ率は、「3%以上」が最も多いですが、その次は「5%以上」となっており、賃上げに対する企業の意気込みがうかがえます。

賃上げの手法については、ベースアップで実施する企業が最も多く、定期昇給が続きます。両方を行うという企業も多く、やはり賃上げに本気で取り組む企業が増えている状況を垣間見ることができます。

5 賃上げ「しない企業」の経営者が考えていることは?

これまでとは逆に、賃上げをしない企業の状況を紹介します。

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なぜ、賃上げをしないのかについては、「業績の先行きが不透明だから」が圧倒的に多くなっています。前述した通り、賃上げをするか否かを判断するために最も重視される情報は「自社の業績」でした、やはり、業績が伴わない賃上げは難しいということでしょう。

どうなったら賃上げをするのかについては、これまで同様に業績が重視されていて、「業績好調が続くと確信できたとき」が圧倒的に多くなっています。

以上(2025年3月作成)

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画像:Mariko Mitsuda