数々の名曲を生み出した音楽家・ベートーヴェン。彼の言葉から見える、「こだわり」を貫くことの大切さとは?

一時間の交響曲を書いたとしても、それはまだまだ、私には短すぎると思われるだろう

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンは、「楽聖」とも呼ばれる伝説的な音楽家です。交響曲第5番《運命》、ピアノ・ソナタ第14番《月光》など、彼が作り出した名曲は、誰しも一度は耳にしたことがあるでしょう。特に交響曲第9番(以下「第九」)は「人類最高の芸術作品」ともいわれ、日本では毎年、12月になると各地で演奏会が行われるのが恒例となっています。そして今年2024年は、ベートーヴェンが第九を作り出してからちょうど200年という記念すべき年です。

冒頭の言葉はベートーヴェンが第九を完成させるずっと前、交響曲第3番《英雄》の初演の際、「曲が長すぎる」との観客からの苦情に対して返した言葉です。《英雄》は演奏時間が約50分にも及び、内容も複雑で型破り。しかしベートーヴェンは、この苦情に全く耳を貸しませんでした。この言葉から約20年後に発表される第九の演奏時間はなんと約63分。1時間以上にも及ぶ傑作の姿が、当時の彼にはもう見えていたのでしょう。

ベートーヴェンは「こだわりの人」であり、自らの生業に決してぶれない軸を持っていました。彼は大学でフリードリヒ・フォン・シラーの「歓喜(フロイデ)」という詩に出会ったとき、その詩に曲を付ける構想を練り始めました。この「歓喜」が、現在の第九の第4楽章、歓びの歌の歌詞に当たります。構想を練り始めてから初演までは、約30年以上。しかも、初演までの間に、ベートーヴェンは病気で聴力を失っています。ですが、音楽家として致命的なハンデを抱えながらも、彼の軸がぶれることはなく、理想とする音楽の実現に生涯をかけて挑み、「こだわり」を貫き通しました。自身のこだわりについて、彼は生涯頑固でした。

一方で彼には、新しい才能や良いと思うものをどんどん吸収する、素直で好奇心旺盛な一面もありました。死の床にあっても、当時新鋭であったシューベルトの楽譜を毎日、何時間も読んで楽しんでいたそうです。

「こだわり」を貫くことは会社経営に不可欠な要素です。例えば、「わが社は、社会のためにこんなことを成し遂げるんだ!」という経営者の思いは会社の方向性を決める軸であり、そこがぶれないからこそ、社員は経営者についていきます。とはいえ、「自分がこうしたい」と思うだけでは、ただの独りよがりになってしまいます。ベートーヴェンが若きシューベルトを尊敬していたように、良いと思うものを素直に受け入れる柔軟な姿勢があって初めて、自分の「こだわり」をどうやって社会の中で実現すべきかが見えてくるのです。

ベートーヴェンが彼の「こだわり」を追求し、何十年もかけて実現して完成させた第九は、ベルリンの壁崩壊時の演奏や欧州連合の歌としての採用など、世界における特別な曲になりました。ベートーヴェンが大切にした「こだわり」は、今も確かに人の心に響き続けています。

出典:「ベートーヴェンは怒っている! 闘う音楽家の言葉」(野口剛夫(著)、アルファベータブックス、2020年12月)

以上(2024年12月作成)

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税務調査の先にある税金“加算税”(2024年改正対応)

書いてあること

  • 主な読者:税務調査を受けた経験があまりない経営者
  • 課題:毎年納税の発生する法人税等とは異なり、税務調査などが入り、正しく申告・納税されていなかったときに、臨時的に課される加算税のことはあまり分かっていない
  • 解決策:加算税には過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税、重加算税がある。また、納税が遅れたことによる利子的な性格の延滞税も課される

1 最大の課税割合は50%。厳格化が進む加算税

加算税とは、

税務調査などで間違えが見つかったり、そもそも申告・納税を忘れていたりした場合に課される税金

です。毎年、申告・納税をしている法人税や所得税などと違って馴染なじみがないため、どのくらいの率(以下「課税割合」)が課されるのか、どういったときに課されるのかを知らない人も多いです。しかし近年、インターネットを介した取引が当たり前になり、高額な所得があっても無申告を繰り返す人が増えていることなどを背景に厳格化が進んでおり、しっかりと認識しなければならなくなってきています。

加算税には、

  • 過少申告加算税:正しい金額を申告していないと課される
  • 無申告加算税:期限内に申告をしていないと課される
  • 不納付加算税:源泉所得税の納付が遅れると課される
  • 重加算税:悪意を持って申告・納税をごまかすと課される

の4つの税金が設けられています。このうち最も重いのが重加算税で、最高課税割合は50%(一定の場合に限る)になります。

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それぞれの詳細を見ていきましょう。

2 【過少申告加算税】正しい金額を申告していないと課される

過少申告加算税は、

申告期限内に行った確定申告で納めた税金が少なかったり、還付される税金が多かったりすることを理由に、修正申告などをした場合

に課されます。

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ただし、税務調査が行われる前に行った修正申告(期限後申告に係るものは除く)には、過少申告加算税は免除されます。

過少申告加算税は、

新たに納付すべき税額×10%(新たに納付すべき税額が、期限内に確定申告をした納税額または50万円のいずれか多い金額を超える部分は15%)

の算式で計算した金額が課されます。また、帳簿を提示しなかった場合など一定要件に応じて、それぞれの課税割合に5または10%加えた割合となります。ただし、優良な電子帳簿システムの導入や保存(訂正や削除履歴が確認できるなど)が行われていると認められた場合には軽減され、新たに納付すべき税額に5%の課税割合を乗じて計算した金額が課されます。

3 【無申告加算税】期限内に申告をしていないと課される

無申告加算税は、

申告期限内に確定申告をせず期限後に行った場合や、期限後の確定申告について修正申告などをした場合

に課されます。

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ただし、期限後の申告であっても、

申告期限から1カ月以内に自主的に申告をし、かつ、過去5年間に無申告加算税や重加算税が課されたことがない場合

には、無申告加算税が免除されます。申告忘れに気付いたら早めに、かつ、日ごろから適切な税務処理・手続きを取っておきましょう。

無申告加算税は、

納付すべき税額×15%(納付すべき税額が50万円超300万円以下の部分については20%、300万円超の部分については30%)

の算式で計算した金額が課されます。また、帳簿を提示しなかった場合など一定要件に応じて、それぞれの課税割合に5または10%加えた割合となります。ただし、税務調査が行われる前に自主的に期限後申告などをした場合には軽減され、納付すべき税額に10%の課税割合を乗じて計算した金額が課されます。

なお、直近2年間(前年と前々年)に無申告加算税や無申告加算税に対する重加算税が課されていた納税者が、再び無申告を行った場合には、上記の15~30%の課税割合にそれぞれ10%が加算されます。

2024年1月の改正で、上記の

  • 無申告を繰り返す納税者に対する10%加算
  • 300万円超の部分の課税割合(30%)の設定

が行われ、無申告の繰り返しや高額な納税者の無申告に対して、従来よりも罰金が重くなりました。

4 【不納付加算税】源泉所得税の納付が遅れると課される

不納付加算税は、

源泉所得税が納付期限を過ぎた場合

に課されます。

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ただし、期限後の納税であっても、

過去1年間は期限通り納税をしており、かつ、今回の納付も期限から1カ月以内に納付した場合

には、不納付加算税は免除されます。

不納付加算税は、

新たに納付すべき税額×10%

の算式で計算した金額が課されます。ただし、税務調査が行われる前に自主的に納税した場合には軽減され、新たに納付すべき税額に5%の課税割合を乗じて計算した金額が課されます。

5 【重加算税】悪意を持って申告・納税をごまかすと課される

重加算税は、

上記のそれぞれの加算税が課されることになった事実が、意図的に隠蔽や、ごまかしたと判断された場合

に課されます。

重加算税は、

新たに納付すべき税額×課税割合

の算式で計算した金額が課されます。この課税割合は、元となる加算税(過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税)ごとに異なります。

  • 過少申告加算税・不納付加算税に代えて課される場合:35%
  • 無申告加算税に代えて課される場合:40%

さらに、過去5年以内に、無申告加算税または重加算税を課されたことがある納税者が、再び無申告を行った場合には、上記の15~30%の課税割合にそれぞれ10%が加算されます。

2024年1月の改正で、上記の

意図的な仮装・隠蔽を繰り返す納税者に対する10%加算

が行われ、無申告加算税に代えて課される場合には、最高50%の課税割合が適用されることになります。

以上(2024年11月作成)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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えっ!こんなときどうする?「企業の守り方」~フリーランスとの取引~

1 フリーランスとは?

最近、「フリーランス」という言葉を見聞きすることが多くなりましたが、そもそも「フリーランス」とは、どのように定義されているのかご存じですか?40年前から使われ始めた「フリー・アルバイター」を語源とした「フリーター」という言葉もありますが、「フリーター」とは異なる点は、実際に働く際の契約形態です。

「フリーランス」は企業や店舗には雇用されず、案件ごとに業務委託契約を締結するのが一般的で、「従業員を雇用しない個人もしくは法人」と定義されています。一方、「フリーター」は企業や店舗と雇用契約を締結することになり、非正規雇用ではあるものの、正社員や契約社員と同じ雇用契約という形態のため、「フリーター」は、労働者として法律の保護が受けられることになります。

「フリーランス」として働く人は、総務省の2022年の就業構造基本調査では257万人(いずれも副業を含む)がいるとされており、今後も増加すると見込まれています。これまで発注側の企業との取引におけるトラブルが増えていること、そもそも組織対応ができる企業側と個人として業務を受ける「フリーランス」との間に交渉力や情報収集力の格差が生じやすくなっていることを踏まえて、令和6年11月1日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下 「フリーランス新法」)」が施行されました。
参考:フリーランス・トラブル110番【厚生労働省委託事業・第二東京弁護士会運営】

2 フリーランス新法とは?

「フリーランス新法」の趣旨は、主に個人として業務を受ける弱い立場であるフリーランス(当該法律では、「特定受託事業者」と称しています)が安心して業務を行えるような環境を整備することです。そのため、「取引の適正化」や「就業環境の整備」を図る目的として、発注側である企業に課せられる義務や禁止行為を下記のように定めています。

詳細は、厚生労働省のリーフレットをご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/001261528.pdf

◆義務

  1. ①取引条件の明示義務
  2. ②期日における報酬支払義務(60日以内)
  3. ③募集情報の的確表示義務
  4. ④育児介護等と業務の両立に対する配慮義務
  5. ⑤ハラスメント対策に係る体制整備義務
  6. ⑥中途解除等の事前予告・理由開示義務

◆禁止行為

  1. ①受領拒否の禁止
  2. ②報酬の減額の禁止
  3. ③返品の禁止
  4. ④買いたたきの禁止
  5. ⑤購入・利用強制の禁止
  6. ⑥不当な経済上の利益の提供要請の禁止
  7. ⑦不当な給付内容の変更・やり直しの禁止

【発注側】フリーランスへの業務依頼と取引条件明示の方法

【発注側】フリーランスへの発注における契約トラブル経験

出典:プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会
「フリーランス白書2024」

3 フリーランスでも時には社員!?

本法施行以前からも、フリーランスの労働者性を争った訴訟は少なくありません。遡ること40年前の昭和60年12月19日に労働基準法上の労働者の判断基準について「形式的な契約いかんにかかわらず、実態的な使用従属性」などを「総合的に勘案する」と整理されています。現在でも、実質的な雇用関係にあることはわかっていても、社会保険料の負担を避けるなどの理由で、社員をフリーランスと偽装するようなケースは少なくありません。

この法律施行以降は、発注者側の義務や禁止行為が明記されていることにより、発注者側である企業が本法に規定されている義務を履行しない限り、司法の場ではフリーランス保護に寄った判断を下す傾向が強くなるのではないかと思います。

以前、広告会社と業務委託契約を締結していたフリーランスカメラマンが、車で現場に向かう途中に渋滞をしている高速道路でトラックによる追突事故で負傷した事例で、労働者性が認められ労災から休業補償の支給が開始されました。その広告会社は、当時契約をしている複数カメラマンを専用アプリでシフト表を作ってスケジュールを管理していました。事故にあったフリーランスカメラマンは、事実上の雇用に当たるのではとして労災申請を行いました。その結果、実態として会社の指揮命令下で働く労働者と変わらないとして労災認定されたものです。最終的に会社側は労災保険料の支払いを求められています。

4 企業側の対策

企業側からしますと、昨今の人材不足で費用をかけてまで社員を採用して、さらに給与以外の福利厚生費や法定福利費、賞与、退職金などさまざまな人件費を負担することを考えれば、専門的なスキルやノウハウをすでに保有し報酬以外の費用負担も発生しないフリーランスに必要な業務を委託する方を選択することも自然な成り行きです。

ただし、上述の発注者側の義務を「①取引条件の明示義務」から順番に見ていくと、フリーランスと契約する際には、社員を雇用する場合とほぼ同様の義務を課されることになることが分かります。雇用契約のないフリーランスに対しても「④育児介護等と業務の両立に対する配慮義務」「⑤ハラスメント対策に係る体制整備義務」までもが企業側に求められています。

実際に、数年前に美容関係のフリーライターの女性が、エステサロンを運営する会社の代表取締役からセクハラを受けたとして損害賠償を求めて訴訟した事件がありました。裁判所は、その代表取締役の行為をハラスメントと認定し、その会社にも安全配慮義務違反が認められて150万円の支払いを命じた事件があります。社内だけではなく、社外であってもセクハラ、パワハラ等の要件は成立してしまいます。

本法の施行に伴い、フリーランスも労災保険に任意で特別加入することができるようになります。フリーランスと取引をする際には、労災保険の特別加入の有無を確認すること、未加入の場合には特別加入を推奨することをお勧めします。

また、すでに各種ハラスメントに関する社員教育を実施しているとは思いますが、改めてハラスメントは社内だけではなく社外にも及ぶことを周知するような研修を実施してください。

さらにハラスメントを起因とする損害賠償請求に備える保険にすでに加入をしているかも改めて確認していただくことなどで一定程度の企業防衛を図ることは可能と考えます。

労災保険の加入意向

出典:プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会
「フリーランス白書2024」

5 最後に

フリーランス新法違反が発覚した場合、公正取引委員会、中小企業庁長官、厚生労働大臣は違反事業者に対して助言、指導、報告徴収・立入検査、勧告、公表、命令という行政指導を行います。また、命令違反や検査拒否などがあった場合、50万円以下の罰金に処されるおそれがあり、企業の場合は行為者と法人両方が処罰の対象となることも忘れないでください。

以上(2024年10月作成)

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【2024年版】年末調整の改正点と書き方の解説

書いてあること

  • 主な読者:年末調整を提出する従業員、確認する経理担当者
  • 課題:年に1度の作業のため、書き方を忘れている。さらに改正が入り、記載項目が追加されている
  • 解決策:2024年の改正点は、定額減税の対象者かどうかをチェックする欄が追加されていることのみ

1 2024年の年末調整の作業に係る改正は「定額減税」

年末調整は、役員、従業員・パート社員(以下「従業員」)の源泉所得税の最終調整を行うものです。年に1度の作業である上、改正も頻繁に行われるため、毎年よく分からず、前年と同じような作業を繰り返すだけという方も多いのではないでしょうか。

しかし、確定申告を自分でしない場合、自身が源泉所得税の還付を受けられる唯一の作業になるため、改正点を踏まえた上で、正確な書類を作成するようにしましょう。

今回(2024年末)の年末調整の作業に係る改正は、

定額減税の対象者かどうかをチェックする欄の追加

です。

定額減税は、2024年6月以降、会社から支給される従業員の給与、賞与から、所得税と個人の住民税に一定額の減税(税額控除)が行われる制度で、減税額は1人当たり(従業員およびその家族を含む)所得税3万円、住民税1万円となります。対象が2024年12月31日時点の状況を基準としていることから、会社側は今回の年末調整で、

  • 所得税の定額減税対象者であるかどうか
  • 定額減税対象者の場合の減税額

を確認しなければなりません。

それに加え、

  • 6月2日以降に入社した従業員や役員(前職で定額減税の処理が終わっている人は除く)に対しては、年末調整で定額減税額を控除
  • 年末調整時に、合計所得金額が1805万円を超えると分かっている役員や従業員については、この制度の対象外であるため、定額減税額を控除しない

という年末調整が必要なため、チェック欄の記入ミスには注意しましょう。

以降では、2024年の年末調整でほとんどの従業員が記入しなければならない主な申告書である、

  • 令和6年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼  年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書 
  • 令和6年分 給与所得者の保険料控除申告書
  • 令和7年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(扶養控除等申告書)

の書き方について、項目ごとに詳しく解説していきます。

2 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書

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1)給与所得者の基礎控除申告書【対象:従業員全員】

「あなたの本年中の合計所得金額の見積額の計算」の欄には、給与明細書などを参考に、2024年中の給与所得の「収入金額」を記載します。その金額を申告書の裏面に掲載されている「給与所得の金額の計算方法」に当てはめて所得金額を計算します。また、給与所得以外に所得がある場合は、2024年中の合計所得金額の見積額を記載します。

次に、控除額の計算の判定欄のA~Dのいずれかを「区分Ⅰ」に転記し(合計所得金額の見積額が1000万円超の人は空欄)、かつ合計所得金額の見積額に当てはめ、左の「控除額の計算」の表を参考に「基礎控除の額」に転記します。

最後に、

「本人定額減税対象」欄に、上記判定欄がA~Dのいずれかに該当する場合は、チェックを付ける

ことを忘れずに行います。

2)給与所得者の配偶者控除等申告書・年末調整に係る定額減税のための申告書【対象:年間所得が133万円以下の配偶者がいる人】

配偶者に関する事項を記載し、「配偶者の本年中の合計所得金額の見積額の計算」の欄には、上記1)と同様に配偶者の給与明細書などを参考に、2024年中の給与所得の「収入金額」を記載します。その金額を申告書の裏面に掲載されている「給与所得の金額の計算方法」に当てはめて所得金額を計算します。また、給与所得以外に所得がある場合は、2024年中の合計所得金額の見積額を記載します。

次に、「配偶者の本年中の合計所得金額の見積額の計算」の判定欄の①~④のいずれかを区分Ⅱに転記します。区分Ⅰ・Ⅱに記載したアルファベットと数字を基に、配偶者控除の額または配偶者特別控除の額である一覧表の中から該当する金額をそれぞれ転記します。

なお、区分Ⅱの欄が①または②の場合は配偶者控除の額の欄に、③または④の場合は、配偶者特別控除の額の欄に金額を転記します。

最後に、

「配偶者定額減税対象」欄に、基礎控除申告書の判定欄が(A)~(D)のいずれかに該当し、かつ上記判定欄が①または②に該当する場合には、チェックを付ける

ことを忘れずに行います。

3)所得金額調整控除申告書【対象:給与等の収入金額が850万円を超える人】

給与等の収入金額が850万円を超え、かつ扶養親族が特別障害者であること、または23歳未満(2002年1月2日以後生まれ)などに該当する場合は、要件欄のいずれか該当する項目にチェックを付けます。要件欄の指示に沿って「☆扶養親族等」の欄に該当する扶養親族等に関する事項と、「★特別障害者」の欄に障害の状態や交付を受けている手帳の種類などを記載します。

3 給与所得者の保険料控除申告書

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1)生命保険料控除【対象:生命保険に加入している人】

生命保険料控除の欄には、2024年中に支払った一般の生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料に関する事項を記載します。

それぞれの区分ごとに、保険会社から郵送される「保険料控除証明書」の内容を転記します。なお、保険料控除証明書をインターネット上で電子発行できるサービスもあるため、各社のウェブサイトなどから電子発行を受けることもできます(ID取得のため、証券番号などの登録が必要)。

一般の生命保険料と個人年金保険料については、保険の契約時により、取り扱い(所得控除額)が異なります。2011年12月31日以前に契約したものは旧保険契約として、2012年1月1日以後に契約したものは新保険契約として取り扱われます。

それぞれ旧保険契約に係る所得控除額は最高5万円、新保険契約に係る所得控除額は最高4万円となります。

実務上は、保険会社から郵送される「保険料控除証明書」に記載されている内容を、申告書に転記してもらうことになります。月払いにより保険料を払い込んでいる場合は、控除証明書の発行日までの保険料の他、年間(12月31日まで)の見積払込保険料が記載されていることが多くあります。12月31日まで保険を継続しているのであれば、年間払込保険料を申告書に転記すれば問題はありません(後述の地震保険・社会保険・小規模企業共済も同様)。

もし、発行日から12月31日までの間に解約し、実際の年間払込保険料と、保険料控除証明書に記載してある見積払込保険料に相違がある場合は、実際の年間払込保険料を申告するようにしましょう。

2)地震保険料控除【対象:地震保険に加入している人】

地震保険料控除の欄には、2024年中に支払った地震保険料に関する事項を記載します。地震保険料と一緒に支払いをしている火災保険料は対象になりません。ただし、2006年12月31日以前に契約した長期損害保険契約等については、一定の金額が控除の対象になります。

3)社会保険料控除【対象:国民健康保険など一定の保険に加入している人】

社会保険料控除の欄には、2024年中に支払った従業員本人または従業員本人と生計を一にしている親族分の、次の保険料に関する事項を記載します。

  • 国民健康保険の保険料や国民健康保険税
  • 健康保険、厚生年金保険や船員保険の保険料
  • 介護保険法の規定による介護保険の保険料
  • 国民年金の保険料や国民年金基金の加入員として負担する掛金
  • 農業年金の保険料や雇用保険の労働保険料など

4)小規模企業共済等掛金控除【対象:小規模企業共済やiDeCoに加入している人】

小規模企業共済等掛金控除の欄には、2024年中に支払った小規模企業共済と確定拠出年金の掛金の金額を記載します。なお、個人型確定拠出年金(iDeCo)の掛金は、この欄の「個人型」に記載することになります。

4 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(扶養控除等申告書)

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1)氏名・個人番号(マイナンバー)・生年月日等【対象:従業員全員】

従業員の氏名、個人番号(マイナンバー)、住所又は居所、生年月日、世帯主の氏名と続柄、配偶者の有無を記載します。マイナンバーについては記述を省略する会社もあります。

2)源泉控除対象配偶者【対象:翌年の合計所得金額(見積額)が95万円以下の配偶者がいる人】

源泉控除対象配偶者の欄には、次の要件を満たした配偶者がいる場合に記載します。

  • 従業員(合計所得金額が900万円(給与所得だけの場合は給与等の収入金額が1095万円)以下の人に限る)と生計を一にする配偶者
  • その配偶者が青色事業専従者として給与の支払いを受ける人及び白色事業専従者でないこと
  • その配偶者の2024年中の合計所得金額(見積額)が95万円(給与所得だけの場合は給与等の収入金額が150万円)以下であること

なお、非居住者である親族(国外に住んでいる親族)の項目については、該当する親族がいる場合に、該当チェック欄にチェックマークを記入し、チェック欄の区分に応じた添付書類(パスポートやビザなど)も併せて提出することになります(下記「3)控除対象扶養親族(16歳以上)」の欄についても同様)。

3)控除対象扶養親族(16歳以上)【対象:16歳以上の扶養親族がいる人】

控除対象扶養親族(16歳以上)の欄には、扶養控除の対象である次の親族がいる場合に記載します。

  • 16歳以上(2010年1月1日以前生まれ)の親族
  • 上記の親族が従業員と生計を一にしていること
  • 上記の親族の年間の合計所得金額が48万円(給与所得だけの場合は給与等の収入金額が103万円)以下であること

なお、19歳以上23歳未満(2003年1月2日~2007年1月1月生まれ)の親族を「特定扶養親族」といい、70歳以上(1956年1月1日以前生まれ)の親族を「老人扶養親族」といいます。これらに該当する親族がいる場合は、チェックマークを付す箇所があるので忘れないようにしましょう。

また、非居住扶養親族がいる場合は、生計を一にする事実として、1年間に実際に送金した金額を記載する欄があります。この欄には、2024年末に見積額ではなく実際の送金額を追加で記載すると同時に、送金関係書類を提出しなければならない点に注意しましょう。

4)障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生【対象:左のいずれかに該当する人】

障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生の欄には、従業員本人が障害者である場合(生計を一にする配偶者や扶養親族が障害者の場合を含む)や、寡婦、ひとり親である場合、学校に通いながら働いている場合に記載します。

障害者とは、身体障害者手帳に身体上の障害がある者として記載されている人など、一定の障害者をいいます。

寡婦とは、合計所得金額の見積額が500万円以下で、夫と死別または離婚した後に再婚をしていない人などをいいます。

ひとり親とは、合計所得金額の見積額が500万円以下で、現在婚姻しておらず(未婚や配偶者の生死が明らかでない場合で、かつ事実上婚姻関係にあるパートナーなどがいない状況)、生計を一にする子供がいる人をいいます。なお、2019年までの年末調整項目であった「寡夫」はひとり親に含まれます。

勤労学生とは、合計所得金額の見積額が75万円(給与所得だけの場合は給与等の収入金額が130万円)以下で、大学などの学生や一定の要件を備えた専修学校の生徒などをいいます。ただし、給与所得等以外の所得が10万円を超える人を除きます。

5)他の所得者が控除を受ける扶養親族等【対象:夫または妻が、子供の扶養控除の適用を受けている人】

他の所得者が控除を受ける扶養親族等の欄には、夫婦が共働きなど、この申告書を提出する人以外の人が、家族を扶養親族としている場合に記載します。例えば、子供(控除対象親族)がいる共働きの夫婦のうち、夫が扶養控除を受ける場合に、その妻はこの欄に夫と子供の氏名等を記載します。

6)16歳未満の扶養親族【対象:16歳未満の扶養親族がいる人】

16歳未満の扶養親族の欄には、16歳未満(2010年1月2日以後生まれ)の扶養親族がいる場合に記載します。

7)退職手当等を有する配偶者・扶養親族【対象:2025年中に左に該当する配偶者・扶養親族がいる人】

退職手当等を有する配偶者・扶養親族の欄には、2025年中に退職所得をもらう予定のある配偶者・扶養親族がいる場合に記載します。この欄については、2025年末に記載してもらう欄となりますので、2024年末においては空欄で提出することになります。

なお、扶養控除等(異動)申告書は、その年、最初に給与をもらう日の前日(中途採用の場合は、就職後最初の給与の支払いを受ける日の前日)までに提出してもらいます。そのため、実務上は、年末調整の際に配布される申告書は翌年分(令和5年の場合は令和6年分)であるのが一般的です。

もし、年の中途で扶養親族の状況などに変化があった場合には、その都度、異動申告をしてもらう必要があります(2024年中のものは、2023年末に提出してもらった令和6年分を修正)。この場合、年末調整の対象となる年分の扶養控除等(異動)申告書に訂正する部分を二重線で消し、余白に新しい情報を記載し、「異動月日及び事由」の欄にもその旨を記載します。

以上(2024年11月作成)
(監修 税理士 石田和也)

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画像:琢也 栂-Adobe Stock

【人事部DX】賃金の支払いや社会保険料の納付をオンラインで行う

書いてあること

  • 主な読者:賃金や社会・労働保険の手続きをオンラインで行うことになった人事労務担当者
  • 課題:具体的な業務が整理されていない。何がオンライン化可能なのか分からない
  • 解決策:健康保険「被扶養者状況リストの提出」など一部を除いて、オンライン化が可能

1 手続きの多くはオンライン化できる

この記事では、人事労務の仕事を紙からデータに切り替えたい人向けに、

賃金や社会・労働保険の手続きはどこまでオンライン化できるのか

をまとめます。一般的な賃金や社会・労働保険の手続きは、原則オンライン化が可能ですが、図表の赤字部分に注意が必要です。

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【法定書類(算定基礎届など)の提出】

健康保険の「被扶養者状況リスト」は、オンラインで提出できない。

以降では、「賃金の手続き」「社会保険の手続き」「労働保険の手続き」の3段階に分けて、労務管理のオンライン化のポイントを見ていきます。

2 賃金の手続き

1)賃金の支払い

給与明細は、社員の同意を得れば、PDFデータで交付したり、クラウド給与計算ソフトなどを用いてウェブ上で公開したりできます。賃金の振込についても、ネットバンキングを活用すれば、個々の社員の口座にオンラインで賃金を振り込めます。その際にお勧めしたいのが

「全銀協規定フォーマット」などを使った一括振込

です。これは全国銀行協会連合会(現:一般社団法人全国銀行協会)が定めた、多くの給与計算ソフトからCSV形式で振込データを出力できるフォーマットです。フォーマットをネットバンキングに読み込ませれば、社員数に関係なく一括振込が可能です。

また、労働基準法上、賃金は通貨で支払うのが原則ですが、労使協定の締結をした上で、賃金のデジタル払いを希望する個々の社員の同意を得れば、一定の要件の下、電子マネーによる「賃金のデジタル払い」(資金移動業者の口座への賃金支払)も可能です。

ただし、デジタル払いが認められるのは、厚生労働省の指定を受けた「資金移動業者」を利用する場合に限定されます。2024年8月9日時点で指定を受けている資金移動業者は「PayPay」の1社のみです。詳細については、下記をご確認ください。

■厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03_00028.html

2)法定書類の保管

次の書類は、社内で保管する義務がありますが、全てデータでの保管が可能です。

  1. 労働者名簿、賃金台帳、出勤簿(法定三帳簿)
  2. 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
  3. 給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書
  4. 給与所得者の保険料控除申告書
  5. 給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書
  6. 源泉徴収簿(作成は任意。年末調整の根拠資料として使用する場合には保管が必要)

1.は、常に会社に備え付けておかなければならない書類です。所轄労働基準監督署の調査などで提出を求められることがあるため、データで保管する場合であっても、すぐに画面上に表示したり、プリントアウトしたりできるようにしておく必要があります。

2.は、扶養親族の有無などを申告する際に、3.、4.、5.は、年末調整時に社員が会社に提出する書類です。いずれの書類についても、社員からデータでの提出を受けることが可能ですが、そのためには、

  • 社員からデータでの提出を受ける具体的な方法(電子メール等で送信する、USBメモリに保存して提供するなど)を定めておくこと
  • 提出されたデータが社員本人のものであると確認できるようにしておくこと(社員のマイナンバーカードなどで電子署名を行い、電子証明書を申告書情報と併せて送信する、申告書データそのものにパスワードを付す、社員に割り当てられた電子メールアドレスから送信するなど)

といった対応が必要です。具体的な方法は、国税庁ウェブサイトでご確認ください。

■国税庁「年末調整手続の電子化に関するパンフレット」(措置の内容については、「よくある質問」の問2-9に記載)■

https://www.nta.go.jp/users/gensen/nenmatsu/nencho_pamph.htm

また、税務署の調査などで提出を求められることがあるため、データで保管する場合であっても、上記と同様に、すぐに画面上に表示したり、プリントアウトしたりできるようにしておく必要があります。

6.は、毎月の源泉所得税の納付や年末調整を正確に行うために会社が任意に作成する書類です。税務署への提出義務はありませんが、年末調整の根拠として利用した場合には、紙またはデータでの保管が必要です。

3 社会保険の手続き

1)社会保険料の納付

社会保険料は、「口座振替」、「金融機関の窓口で納付」、「電子納付(Pay-easy)」のいずれかの方法で納付します。会社が毎月納付する社会保険料の額は、日本年金機構から送られてくる

  • 保険料納入告知額・領収済額通知書(口座振替の場合)
  • 保険料納入告知書(窓口納付、電子納付の場合)

に記載されています。上記各書類は、原則、紙で郵送されてきますが、原本を保管する義務はないため、スキャンをして、電子データで保管しても問題ありません。

また、保険料納入告知額・領収済額通知書については、「オンライン事業所年金情報サービス」を利用すれば、電子データで受け取ることも可能です。

上記の納付方法の中で、最も手間がかからないのは口座振替です。日本年金機構に必要書類(下記URL)を提出すると口座振替が可能になり、毎月末に納付すべき社会保険料が自動で引き落としされますので、会社側に振込の手間はかかりません。

■日本年金機構「健康保険厚生年金保険 保険料口座振替納付(変更)申出書」■

https://www.nenkin.go.jp/shinsei/kounen/hokenryo.html

口座振替を行わない場合は、ネットバンキングの口座を開設して、Pay-easyで電子納付を行うのがおすすめです。次の3つの手続きだけで、オンラインでの納付が完了します。

  1. ネットバンキングにログインする
  2. 操作画面から「Pay-easyによる支払」のメニューを選択する
  3. 「収納機関番号(00500)」、「納付番号(16桁)」、「確認番号(6桁)」を入力する

2)法定書類の提出

次の書類は、社会保険関連の手続きで定期的に提出が必要です。5.以外はオンラインでの提出が可能です。

  1. 算定基礎届
  2. 月額変更届
  3. 賞与支払届
  4. 被扶養者(異動)届
  5. 被扶養者状況リスト

1.は、毎年7月1日から7月10日(土日祝日に当たる場合には、翌営業日まで)の間に、2.は、2等級以上の社会保険料の等級変更があった場合に、3.は、賞与を支払った場合に、それぞれ日本年金機構に提出する必要がある書類です。なお、これらの各書類は、会社が電子証明書を取得していれば、「電子政府の総合窓口(e-Gov)」経由での電子申請が可能です。

■電子政府の総合窓口(e-Gov)■

https://www.e-gov.go.jp/

4.は、「子どもが生まれた」、「配偶者や子どもが就職した」などで被扶養者に変化があった場合に、日本年金機構に提出する必要がある書類です。1.から3.と同じく電子申請が可能ですが、健康保険被保険者証の受取や返却については、郵送での対応になります。

5.は、被扶養者(異動)届の提出漏れにより、被扶養者のままになっている配偶者や子どもがいないかを確認する書類で、健康保険の保険者(協会けんぽなど)から紙で送られてきます。こちらは必要事項を記入して、返信用封筒で保険者に返送することになります。

なお、1.から4.の書類については、提出後に次の通知書が発行されます。

  1. 算定基礎届 → 標準報酬決定通知書
  2. 月額変更届 → 標準報酬改定通知書
  3. 賞与支払届 → 標準賞与額決定通知書
  4. 被扶養者(異動)届 → 健康保険被扶養者(異動)決定通知書

電子申請で手続きしていれば、各通知書はブラウザー上で閲覧できる「XML」という形式で発行されます。データが正式な公文書として扱われますので、データのまま保管して問題ありません。

4 労働保険の手続き

1)労働保険料の申告

労働保険料は、毎年6月1日から7月10日(土日祝日に当たる場合には、翌営業日まで)までの間に1年分をまとめて申告・納付し、翌年度の当初に確定申告の上精算することになっています。1年分の賃金の見込額に基づいて予納し、翌年度に過不足額の精算が行われる仕組みです。

労働保険料を申告する場合、

労働保険概算・確定保険料/石綿健康被害救済法一般拠出金申告書

を所轄都道府県労働局又は所轄労働基準監督に提出する必要があります。この申告書はe-Gov経由での電子申請による提出が可能です。ただし、e-Govには保険料額を自動計算する機能などがないため、紙で申告する場合と同様、給与計算ソフトやエクセルなどで保険料額を計算する手間は発生します。

2)労働保険料の納付

労働保険料は、電子申請を行っている場合には、e-GovやPay-easyでの電子納付が、口座振替依頼書を金融機関に提出している場合には、口座振替による納付が、それぞれ可能です。

以上(2024年11月更新)
(監修 のぞみ総合法律事務所 弁護士 曽田駿希)

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【賃金データ集】 賃金体系・形態管理と支給額の検討

書いてあること

  • 主な読者:賃金体系や賃金支給額の見直しを考えている経営者
  • 課題:自社の賃金体系や賃金支給額が妥当か分からない。判断基準が欲しい
  • 解決策:統計資料における同規模・同業種の企業のデータなどを参考にする

【賃金データ集】シリーズとは?

【賃金データ集】シリーズは、基本給や諸手当など賃金の主要な構成要素ごとの近年のトレンドを、モデル支給額を中心とした関連データとともに紹介します。経営者や実務家の方々が賃金支給水準の決定や改定を行う際の参考としてご活用ください。なお、モデル支給額などのデータを紹介する際は、基本的に出所に記載されている用語を使用するものとします。また、データは公表後に修正されることがあります。

この記事で取り上げるのは「賃金体系・形態管理と支給額の検討」です。

なお、以降で紹介する図表データのExcelファイルは、全てこちらからダウンロードできます。

こちらからダウンロード

1 所定内給与額の推移と賃金マネジメントの重要性

2023年の男性の所定内給与額は35万900円です。一方、2023年の女性の所定内給与額は26万2600円で、男性の所定内給与の74.8%の水準です。同じ計算をすると、1980年の女性の所定内給与は男性の58.9%の水準だったので、約40年間で15.9ポイント上昇したことが分かります。

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2 賃金体系の管理

1)賃金体系の一例

賃金をマネジメントする上で、最初に知っておきたいのが「賃金体系」です。賃金体系とは、賃金の要素である基本給や諸手当の組み合わせのことです。賃金体系を理解することで賃金の全体像が把握できるようになります。

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2)基準内賃金

現金給与の「毎月きまって支給する給与」の中心は「基準内賃金」で、概要は次の通りです。

通常の労働に対して支払われる基本給や諸手当のことで、基準外賃金の算定基礎になるもの

なお、諸手当のうち、家族手当、住宅手当、通勤手当などは基準外賃金の計算の基礎から除外できるため、基準内賃金に含めないケースがあります。

また、基準内賃金と似た言葉に「所定内給与(賃金)」があります。基準内賃金と所定内給与はほぼ同義ですが、所定内給与は企業が就業規則などに定めた所定労働時間の労働に対する賃金で、家族手当、住宅手当、通勤手当などが含まれます。

1.属人給、仕事給、総合(決定)給

基準内賃金の中心は「基本給」です。基本給は次のように大別されますが、一般的なのは属人給と仕事給です。

  • 属人給:年齢など労働者の属人的な要素によって決定される賃金
  • 仕事給:業績・成果や保有能力など仕事に関係する要素によって決定される賃金
  • 総合(決定)給:勤続年数と担当職務を評価する賃金

基本給の要素を属人給と仕事給に振り分けることが難しい場合、「本給」などの名目で設定されるのが典型ですが、運用しやすい一方、評価基準が曖昧になりがちという問題があります。

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2.基本給の体系

基本給の体系は、属人給や仕事給などをどのように組み合わせるかによって次のように大別されます。

  • 単一型体系:1つの基本給の要素によって構築された体系
  • 併存型体系:複数の基本給の要素によって構築された体系

単一型体系の場合、「研究職は100%職務給」「営業職は100%成果給」といった運用ができますが、配置転換で職務が変更された場合、労働者がケガなどをした場合などに問題が生じるため、これを導入する企業と対象となる労働者は限られます。このような事情から、多くの企業は併存型体系を導入しており、属人給と仕事給の割合を調整することで賃金制度をマネジメントしています。

3)基準外賃金

現金給与の「毎月きまって支給する給与」のもう1つの要素が「基準外賃金」で、概要は次の通りです。

通常の労働以外に対して支払われる賃金で、時間外労働手当(いわゆる「残業手当」)など

基準外賃金は、通常よりも割り増しした金額を支払わなければならず、その割増率は労働基準法で定められています。いわゆる「残業」が慢性化している企業では、基準外賃金が大きな負担になります。特に、2023年4月1日からは、中小企業に対する割増賃金率の猶予措置が廃止され、従業員の残業(時間外労働)が1カ月で60時間を超える場合、その時間については50%以上の割増賃金の支払いが必要になったため、注意が必要です。

また、基準外賃金と似た言葉に「所定外給与(賃金)」がありますが、これは基準外賃金と同じ意味です。

3 賃金形態の管理

1)賃金形態の種類と賃金支払いの5原則

賃金は労働の単位(時間や出来高)に応じて支払うという考え方があり、それを類型化したものが「賃金形態」です。具体的には、次のようなパターンがあります。

  • 時間給、日給、月給など時間によって計算されるパターン
  • 出来高給のように販売個数などによって計算されるパターン

賃金形態を管理することで、雇用形態(正社員やパートなど)、職務の難易度、成果を上げるまでの期間などに応じて賃金をマネジメントしやすくなります。

注意が必要なのは、労働基準法の「賃金支払いの5原則」です。賃金支払いの5原則は次の通りで、一部、例外があるものの、順守しなければなりません。そのため、年俸制を導入した場合でも、年俸を12等分して毎月支払うことになります(賞与を支払う場合はさらに細かく分けて賞与相当分を確保します)。

  1. 通貨払いの原則
  2. 直接払いの原則
  3. 全額払いの原則
  4. 毎月1回以上払いの原則
  5. 一定期日払いの原則

2)賃金形態の状況

厚生労働省「平成26年就労条件総合調査」によると、主な賃金形態で最も割合が高いのは「月給」の80.9%です。

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4 賃金支給額を決定する際の視点とこれまでの変遷

1)賃金支給額を決定する際の視点

労働者が労働力を提供し、企業がその対償として賃金を支払うことは労働契約の基本です。賃金支給額はこの点を前提としつつ、次の視点を考慮して決定されます。

1.企業の賃金支給能力(コスト)

労働者の労働力を購入するという「人件費」の視点です。他のコストと賃金(人件費)を全く同様に捉えることはできませんが、賃金が販売費・一般管理費(製造業などでは売上原価)の多くを占めているのは事実であり、これを適正水準に保つ必要があります。

2.労働力の市場価値

賃金には、労働力の需給状況に応じて変化する市場性があります。具体的には、労働者数全体、特定の業界の就業者、特定の技能の習得者などが変化の要因になります。現在のような「売り手市場」だと、一般的に賃金は上昇します。

3.他社の支給額

賃金は企業規模、業種、地域によって支給水準が異なります。この水準を下回ると労働者の不満足につながり、他社に転職してしまうこともあります。企業は、モデル賃金に関する情報を収集し、自社との違いを確認しておく必要があります。

4.雇用を巡るトレンド

景気動向、雇用環境、人事制度の変化などによって賃金のトレンドが生じます。分かりやすいのは、人手不足への対策として賃上げを検討するケースです。

5.労働者の生活保障

賃金は労働者にとって「生活の糧」であり、労働者の年齢、家族構成、居住地域などを考慮する必要があります。

6.労働者の貢献度

企業への貢献度は、労働者の職務遂行能力、担当職務の難易度、具体的に達成した成果(売り上げや研究成果など)などによって変わるため、これを加味して賃金を決定します。

7.利益分配

企業業績に連動し、利益分配の意味合いで支給する賃金です。毎月きまって支給される「業績給」と、臨時的に支払われる「賞与・期末一時金」の場合があります。

2)日本企業における賃金制度の変遷とこれからの動き

賃金支給額は前述した視点を考慮した上で決定され、それを実現するための仕組みが賃金制度として構築されます。これまでの日本企業の賃金制度は、その時々の状況に応じて年功主義から能力主義・成果主義へと変化してきました。主な流れを、基本給の構成要素の変化を中心に確認してみましょう。

1.年功主義(年齢給、勤続給)

戦後の日本の賃金体系に大きな影響を与えたのが、1946年に電力関係企業の労働組合が提案した、いわゆる「電産型賃金体系」です。これには、労働者の年齢、家族構成、勤続年数などに重きを置いた、生活防衛的・安定的な賃金制度であるといった特徴があり、基本給の中心は「年齢給」「勤続給」でした。

電産型賃金体系には、「職能給」などといった能力給も組み込まれてはいるものの、その割合はそれほど高くありませんでした。

2.能力主義(職能給、職務給)

家族構成や勤続年数などによって賃金の大部分が決定される電産型賃金体系への不満が高まり、1950年代後半から1980年代にかけて、基本給に「職能給」「職務給」が取り入れられるようになりました。

中でも職能給は、いわゆる「職能資格制度」として多くの日本企業に定着しました。しかし、職能資格制度が年功的に運用されるようになり、能力主義がほぼ有名無実化し、問題となりました。

3.成果主義(成果給、業績給)

1990年代に入ると、脱年功主義がより鮮明なものとなり、成果主義が注目されるようになりました。ここで基本給の要素として注目されたのが、「成果給」「業績給」です。

成果主義では、従業員が個人(あるいはチーム)で目標を達成するために取ったプロセスとその結果を評価するのが基本です。しかし、1990年代当時は、結果を必要以上に重視する企業が多く、「過酷な目標設定による従業員のストレス過多」「自分の成績につながらない仕事を嫌う従業員の発生」「確実に達成できそうな低い目標を掲げる従業員の発生」などの問題が生じ、多くの企業で成果主義の導入は失敗に終わりました。

もっとも、近年は業務管理ツールの発達に伴い、評価の中心を結果に置きつつ、プロセスについてもある程度評価する、バランスの取れた成果主義を導入している企業もあります。

5 賃金支給額を決定する際の考え方

賃金支給額を検討する際は「適正人件費」に注目します。適正人件費の算出方式はいくつかありますが、例えば、「売上高×付加価値率×労働分配率」によって求めます。付加価値は売上高から原価(製造業は材料費や外注加工費、小売業は売上原価)を差し引いたもので(業種によって異なります)、その割合が付加価値率です。また、労働分配率とは、付加価値に占める人件費の割合です。自社の過去3年分のデータと将来の利益目標を参考に付加価値率などを設定すれば、適正人件費の目安を把握することができます。

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また、世間相場を確認するためには、自社の「適正人件費」だけではなく、他社の賃金支給状況も確認します。世間相場と大きな違いがある場合は、必要に応じて見直しを検討します。

1)売上高労務費比率、売上高人件費比率

中小企業庁「令和4年中小企業実態基本調査(令和3年度決算実績)」によると、合計の売上高労務費比率は6.56%、売上高人件費比率は10.23%です。

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2)賃金支給額

厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、企業規模計、産業計の「きまって支給する現金給与額」は34万6700円で、そのうちの31万8300円が所定内給与額です。差額の2万8400円は時間外労働手当などです。また、「年間賞与その他特別給与額」は90万9000円です。

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6 情報インデックス(この記事で紹介したデータの出所)

この記事で紹介した統計資料は以下の通りです。調査内容は個別のURLからご確認ください。なお、内容はここ数年の公表実績に基づくものであり、調査年(度)によって異なることがあります。

■賃金構造基本統計調査■
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html

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■就労条件総合調査■
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/11-23.html

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■企業活動基本調査■
https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kikatu/

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■中小企業実態基本調査■
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/kihon/

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以上(2024年10月更新)

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画像:ChatGPT

【入社1年目の教科書】最強の「コミュ力」は元気な挨拶!後は少々の敬語が使えればよし

書いてあること

  • 主な読者:挨拶など基本的なコミュニケーションの取り方を知りたい新入社員
  • 課題:元気な挨拶はいいけど「やる気アピール」と思われたくない。敬語も分からない
  • 解決策:相手に真摯に伝える気持ちを持つことが一番大切

新入社員なんだし、先輩にはかわいがってもらいたい。仲間からも嫌われたくない。となると、やっぱり「コミュ力」が重要。といっても、共通の話題とかないし、あまり深い付き合いになるのもちょっとな~。ひとまず「挨拶」をしっかりとやっておこう。面と向かって挨拶するのって照れくさいけれど、チャットだけで挨拶ってわけにもいかないだろうし……。

1 新入社員のアイスブレークは「挨拶」

皆さん、「アイスブレーク」をご存じですか? アイスブレークとは、場の雰囲気を和ませるために行う“つかみ”です。文字通り、「アイス」は氷のことで、この氷を溶かしてコミュニケーションを円滑にしようということです。皆さんの先輩が、本格的な商談に入る前に最近の出来事や趣味などの雑談をしていると思いますが、これがアイスブレークなのです。

そして、新入社員の皆さんも最強のアイスブレークができます。それが、「笑顔で明るい挨拶」です。元気な挨拶をされて嫌な気分になる人はいません。挨拶された相手は、「お、この新入社員はしっかりしているな!」と、勝手に「コミュ力期待できそう認定」をしてくれます。ですから皆さん、「おはようございます!」などの挨拶を欠かさないようにしてください。

ちなみに、チャットツールなどで連絡をするときも、「おはようございます」「こんにちは」「こんばんは」と挨拶した後に本題に入れば印象が良くなりますよ!

2 心配ご無用。挨拶では「悪目立ち」しない

元気に挨拶をすると、「アピールが強すぎて、悪目立ちするんじゃないか?」と考えている人は安心してください。その心配はご無用です。先輩からすれば、挨拶は社会人の常識なので、「挨拶ができている新入社員」と認識はされますが、イコール「アピールが強すぎ」とはなりません。つまり、挨拶は特別ではないのです。

また、「挨拶しても相手がリアクションしてくれなかったらどうしよう?」と心配するかもしれませんが、これも心配ご無用。集中していて挨拶が聞こえないのか、挨拶を返す習慣がないといったところでしょうが、そうした相手のリアクションは気にしなくていいです。皆さんは爽やかな挨拶を続けるだけで、確実にコミュ力が高まります。

3 仕事でよく使う挨拶を確認

挨拶が大事なことは分かっても、シーンによっては「この場合、なんて言えばいいのだろう?」と迷うことがありますよね。ということで、よく使う挨拶のフレーズを覚えておきましょう。

  • お礼を伝えるとき:ありがとうございます
  • 謝罪するとき:(大変)申し訳ございません
  • 朝、皆と会ったとき:おはようございます
  • 仕事を頼むとき:よろしくお願いいたします
  • 仕事を頼まれたとき:承知しました
  • 相手を待たせるとき:○分程度、お待ちいただけますか
  • 自分が外出するとき:行ってきます
  • 自分が外出から戻ったとき:戻りました
  • 誰かが外出するとき:行ってらっしゃい
  • 誰かが外出から戻ったとき:お帰りなさい
  • お客様がいらっしゃったとき:いらっしゃいませ
  • お客様が帰られるとき:ありがとうございました
  • 自分が業務を終了するとき:お先に失礼いたします
  • 相手が業務を終了するとき:お疲れさまです

どの挨拶も、相手に聞こえるようにします。とはいえ、大声を出す必要はなく、普通に話すときよりも、少し声を張るくらいで大丈夫です。

4 敬語は使ってマスターせよ!

新入社員に限らず、「敬語」は大きな壁です。文化庁「敬語おもしろ相談室」によると、敬語には次の5種類がありますが、正直、よく分かりませんよね。これ、きっと先輩も同じですから安心してください。

  1. 尊敬語:相手の行為や状態などを立てて述べるもの 例)いらっしゃる
  2. 謙譲語I:自分の行為や状態などを謙(へりくだ)らせて述べるもの 例)伺う
  3. 謙譲語II:自分の行為や状態などを相手に丁寧に述べるもの 例)参る
  4. 丁寧語:相手に対して丁寧に述べるもの 例)です、ます
  5. 美化語:物事を美化して述べるもの 例)お料理

敬語を軽んじてはいけません。しかし、ぎこちない敬語でロボットのように話すよりも、多少間違えてもいいので誠意を持って伝えるほうが大切です。それに、使っていくうちに敬語に慣れてきます。「これは尊敬語で、こっちは謙譲語I」なんて意識することもなく、なじんでくるのです。それでも100点満点にはならないでしょうが、そんなに気にしなくていいです。繰り返しますが、大切なのは誠意を持って伝えることだからです。

なお、新入社員向けの書籍などでは「二重敬語に注意!」と紹介されることが多いので、念のため、触れておきましょう。二重敬語とは、1つの言葉に同じ種類の敬語を二重に使ってしまうことです。例えば、「お読みになられる」は、「お○○」と「なられる」という尊敬語が重複しているので間違っています。正しくは「お読みになる」です。といっても、二重敬語は丁寧にしようという思いから出てくるのが通常なので、やはり、そんなに気にする必要はありません。敬語に慣れてくると、二重敬語についても「ん? 今のは変だったかな?」と気づくようになりますから安心してください。

■文化庁「敬語おもしろ相談室」■

https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kokugo_shisaku/keigo/index.html

5 よく使う敬語を紹介

敬語で難しいのは尊敬語と謙譲語なので、ビジネスでよく使うフレーズを紹介しておきます。軽く眺めて、雰囲気をつかんでください。

  • 読む:(尊敬語)お読みになる、(謙譲語)拝読する
  • 言う:(尊敬語)おっしゃる、(謙譲語)申し上げる
  • 見る:(尊敬語)ご覧になる、(謙譲語)拝見する
  • する:(尊敬語)なさる、(謙譲語)いたす
  • 知っている:(尊敬語)ご存じ、(謙譲語)承知する、存じ上げる
  • 行く:(尊敬語)いらっしゃる、おいでになる、(謙譲語)伺う、参上する
  • 来る:(尊敬語)おいでになる、みえる、(謙譲語)参る
  • 知る:(尊敬語)お知りになる、(謙譲語)存じ上げる
  • 聞く:(尊敬語)お聞きになる、(謙譲語)伺う
  • 食べる:(尊敬語)召し上がる、(謙譲語)いただく
  • 飲む:(尊敬語)お飲みになる、(謙譲語)いただく
  • 見せる:(尊敬語)お見せになる、(謙譲語)お目に掛ける

6 「クッション言葉」でマイルドに!

新入社員にはあまり関係ないことですが、こちらの言葉がストレートすぎると事務的な印象やきつい印象を相手に与えてしまいます。そこで「クッション言葉」を使ってマイルドな印象にします。ビジネスでよく使うクッション言葉には次のようなものがあります。

  • 恐れ入りますが
  • 失礼ですが
  • 申し訳ございませんが
  • あいにくでございますが
  • 勝手ばかりで恐縮ですが
  • ご多用中に恐縮ですが

余談ですが、「こんなことを言うのはなんなんだけど」など、先輩が皆さんにクッション言葉を使ってきたら、わりときついことを伝えようとしているかもしれませんね。

7 オンラインのときほど格別の配慮を

今どきは、オンラインで話すことも多くなっています。その際の挨拶や敬語の考え方はこれまでと同じです。ただ、オンラインでは相手の“呼吸”を感じにくいので、対面のときよりもコミュニケーションが難しくなります。大切なポイントを紹介します。

  • オンライン会議の5分前にはスタンバイしておく
  • 特に初対面の相手にはビデオオン(顔出し)が理想的
  • 相手の話が終わって、一呼吸おいてから話を始める
  • 相手の話には、大きくうなずく
  • 途中から参加してくる人への挨拶も忘れない
  • 途中で退出する際の挨拶も、チャット機能を使うなど会話を遮らないよう注意する

以上(2024年12月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

【人事部DX】社員の退職手続きをオンラインで行う

書いてあること

  • 主な読者:退職手続きをオンラインで行うことになった人事労務担当者
  • 課題:具体的な業務が整理されていない。何がオンライン可能なのか分からない
  • 解決策:原則全てオンライン化が可能

1 手続きは原則全てオンライン化できる

この記事では、人事労務の仕事を紙からデータに切り替えたい人向けに、

退職手続きはどこまでオンライン化できるのか

をまとめます。一般的な退職手続きは、原則全てオンライン化が可能ですが、図表の赤字に注意が必要です。

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【社会保険関連、税務関連の書類の取得】

健康保険関連の制度改正がある(2024年12月2日以降、健康保険被保険者証が廃止される。経過措置あり)

【法定書類(社会・労働保険関連、税務関連)の提出】

税務関連の書類は、電子証明書がないとオンラインで提出できない

以降では「退職前または退職日当日の手続き」と「退職後の手続き」の2段階に分けて、労務管理のオンライン化のポイントを見ていきます。

2 退職前または退職日当日の手続き

1)退職届の取得

退職届は、雇用保険の資格喪失手続きを行ったり、退職理由をめぐる労使トラブルを防止したりするために必要な書類です。社員本人が自分の意思で退職したことの証拠となるため、通常は直筆で署名捺印のあるものが望ましいとされています。

ただし、「一身上の都合で退職します」と記載されたメールなど、電子的な手段で退職の意思表示があった場合でも、直筆でない、署名捺印がないという理由だけで、退職届としての有効性が否定されることはありません。ポイントは、

社会通念上、本人が作成、送信したものに間違いないと推定できること

です。例えば、発信元のメールアドレスが、社員本人が管理し、他の人がログインできないものであれば、そのメールを退職届と同様に扱っても差し支えないでしょう。逆に、誰が管理しているか特定できないフリーメールなどを使用した場合、退職届として扱うのは難しくなります。

退職届を電子化する手堅い方法は、電子契約書ソフトを利用することです。例えば、

  • 退職する社員本人が管理をしているメールアドレスに会社側で作成した退職届のフォーマットを送って電子署名をしてもらう
  • 「退職合意書」を作成し会社と社員が相互に電子署名を取り交わす

といった形が想定されます。メールアドレスで社員本人を特定していることに加え、電子契約書ソフトによる電子署名が客観的かつ強固な証拠となるので、直筆で署名捺印がされた退職届と同等の証拠能力をオンラインで担保できます。

2)社会保険関連、税務関連の書類の取得

1.健康保険被保険者証(2024年12月2日以降、不要に)

従来は、退職する社員の健康保険被保険者証(本人分と被扶養者分)の現物を回収し、保険者(全国健康保険協会または健康保険組合)に返却しなければなりませんでしたが、

2024年12月2日以降は、健康保険被保険者証とマイナンバーの一体化に伴い、健康保険被保険者証が発行されなくなる(経過措置により、既存の健康保険被保険者証は最長1年間使用できる)という制度改正により、回収は不要(社員が自分で破棄してよい)

になりました。

2.退職所得の受給に関する申告書

退職金の支給を受ける社員は、「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出すると、退職所得控除の適用を受けられます。その場合、退職金に対する所得税が非課税または軽減された税額となります。提出しない場合は、支給額に対し一律20.42%が課税されます。

「退職所得の受給に関する申告書」は、オンラインでの提出も認められています。オンラインでの提出方法としては、「社員が押印したものをスキャナー保存してもらって、PDFなどでメール送信してもらう」という方法がありますが、

社員本人から間違いなく提出されたものであると識別できる必要

があります。識別性を持たせるためには、PDFそのものにパスワードを付すことや、当該社員がIDやパスワードを管理しているメールアドレスから送信させることが考えられます。

会社が税務調査などで「退職所得の受給に関する申告書」の提示を求められた際には、本人を識別できる方法で適正にPDFで受領していれば、原本の提示は必要ありません。

3)法定書類(雇用保険被保険者離職証明書)の作成

退職した社員が基本手当(いわゆる「失業手当」)を受給するためには、会社が所轄ハローワークに「雇用保険被保険者離職証明書」を提出する必要があります。雇用保険被保険者離職証明書は電子申請を前提として、「電子政府の総合窓口(e-Gov)」上またはその他の業務ソフト上で作成することができます。

手書きの離職証明書では、社員に「記載内容について異議がない」旨の署名捺印をしてもらいますが、電子申請の場合、社員側に異議がないことをどう証明するかが問題となります。解決策としては、例えば「離職証明書の記載内容に関する確認書」という書類を作成して社員に署名捺印をしてもらい、PDFで電子申請データに添付するという方法があります。

なお、e-Govで電子申請を行うには電子証明書が必要ですが、電子証明書を持っていない場合、GビズID(1つのIDでさまざまな行政サービスにアクセスできるサービス)による手続きも可能です。

■電子政府の総合窓口(e-Gov)■

https://www.e-gov.go.jp/

■GビズID■

https://gbiz-id.go.jp/top/

3 退職後の手続き

1)退職日までの給与、退職金の支払い

給与明細や退職金支給明細書は、社員の同意があればPDFなどで交付できます。この同意は入社時に得ておけば、途中で社員が撤回しない限り退職時まで有効です。

メールで給与明細を提供する際、最終給与や退職金の支払日は退職日後になることが通常なので、会社から付与されたメールアドレスが既に使用できなくなっていると、退職した社員に給与や退職金の明細を送付できません。そのため、セキュリティーに配慮しつつ、退職後も一定期間、メールアドレスを削除しないなどの対応が求められます。

同様に、クラウド給与計算ソフトなどを用いて、ウェブ上で給与明細などを公開している場合も、一定期間は退職した社員のアカウントを削除しないようにする配慮が必要です。例えば、退職後3カ月はアカウントを有効にしておいて、その間にダウンロードしてもらいます。

2)法定書類(社会・労働保険関連、税務関連)の提出

1.社会・労働保険関連

次の法定書類を提出する必要があります。

  • 健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届
  • 雇用保険被保険者資格喪失届
  • 雇用保険被保険者離職証明書

これらは全て電子申請が可能です。e-Govのインターフェースに直接情報を入力するか、業務ソフトを利用してAPI経由で申請をします。電子申請が受理されると、被保険者資格の喪失に関する通知や離職票の事業主控えがPDFで発行されます。PDFが原本扱いとなるので、データのまま社内のサーバーやクラウドストレージなどに保管しておけば大丈夫です。

なお、これまで現物の返却が必要だった「健康保険被保険者証」については、前述した通り、2024年12月2日以降、返却が不要になりました。

2.税務関連

税務関連では、次の法定書類を提出する必要があります。

  • 給与所得の源泉徴収票
  • 給与支払報告書
  • 特別徴収に係る給与所得者異動届出書
  • 退職所得の源泉徴収票

給与所得の源泉徴収票は、「国税電子申告・納税システム(e-Tax)」経由で電子申請が可能です。なお、提出のタイミングは社員の退職時ではなく、年末調整時となります。また、退職した年の給与等の支払金額が250万円(役員の場合は50万円)を超える場合のみ、提出が必要です。

給与支払報告書は、「地方税ポータルシステム(eLTAX)」経由で電子申請が可能です。こちらも、提出のタイミングは年末調整時となります。給与の支払金額の多寡にかかわらず、全ての退職者について提出が必要となるので注意しましょう。

特別徴収に係る給与所得者異動届出書は、eLTAX経由で電子申請が可能です。特別徴収を停止して、普通徴収に切り替えるための届出書ですので、提出のタイミングは退職時となります。

退職所得の源泉徴収票もe-Tax経由で所轄税務署にオンライン提出が可能です。ただし、提出義務があるのは受給者が法人の役員である場合のみで、社員が退職した場合は提出不要です。

なお、e-TaxまたはeLTAX経由で電子申請を行う場合、

現状は電子証明書の取得が必須(GビズIDは不可)ですが、e-Taxについては、2026年9月24日以降、GビズIDとの連携が可能になる予定

です。

■国税電子申告・納税システム(e-Tax)■

https://www.e-tax.nta.go.jp/

■地方税ポータルシステム(eLTAX)■

https://www.eltax.lta.go.jp/

3)社員への書類の送付

退職した社員本人には、次の書類を送付します。

  • 雇用保険被保険者資格喪失確認通知書(被保険者通知用)
  • 雇用保険被保険者離職票-1
  • 雇用保険被保険者離職票-2
  • 給与所得の源泉徴収票
  • 退職所得の源泉徴収票
  • 退職証明書(社員から請求があった場合)

これらの書類は、全てPDFでの送付が可能です。「雇用保険被保険者資格喪失確認通知書(被保険者通知用)・雇用保険被保険者離職票-1」「雇用保険被保険者離職票-2」は、e-Gov経由で電子申請をした場合、所轄ハローワークからPDFで発行されます。これを原本として扱い、そのまま退職者本人にメールなどで送付できます。

「給与所得の源泉徴収票」「退職所得の源泉徴収票」については、社員本人の同意を前提に、PDFで交付できます。ただし、本人から依頼があった場合は書面で交付します。

退職証明書に関しては、法令を解釈する限りでは書面に限るのか、PDFによるオンライン交付も可能なのかは明確になっていません。実務上の対応としては、少なくとも本人の同意がある場合は、PDFで交付をして差し支えないと考えてよいでしょう。

以上(2024年11月更新)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)

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画像:Stokkete-shutterstock

【書籍ダイジェスト】『夢を叶えるために脳はある』

本書は、ベストセラーを含む数々の脳にかかわる著書のある東京大学教授が、3日間にわたり高校生を対象に行った連続講義の記録。なぜ脳は存在するのか、僕らはなぜこんなに大きな脳を持ってしまったのか、時間はなぜ存在するのか、この世界は現実なのか、人工知能にとって人間とはなにか、そして「私」とはなにか、といった根源的な問いを、最先端のものも含む数々の研究成果をもとにわかりやすく解きほぐしている。
タイトルの『夢を叶えるために脳はある』の意味は、前向きな精神論ではなく、世界のあり方を示す意外なものだった。

書籍ダイジェストは、こちらからお読みいただけます。pdf

【朝礼】実は小心者? 藤原道長に学ぶ「勇気の見せどころ」

【ポイント】

  • 藤原道長の日記を読むと、豪胆に見えた彼の意外と小心者な一面が見えてくる
  • 道長は「いざというときに見せる勇気」で、人々を引き付けたのかもしれない
  • 何かにチャレンジする際はあえて言葉にすると、自分を奮い立たせることができる

今日は、平安時代の貴族「藤原道長」について話をします。皆さんもご存じ、自分の娘たちを天皇の后(きさき)にし、生まれてくる皇子の外祖父となって長期政権を築いた人物です。2024年の大河ドラマ「光る君へ」でも活躍が描かれていますね。そんな道長の人柄に関する話です。

世間でよくいわれる道長のイメージは「豪胆」。若い頃に行った肝試しで、兄たちが逃げ出す中で一人だけやり遂げた話や、弓の実力を競う競射の場で、「私の家から天皇や后が立つなら、この矢よ、当たれ!」と言って的の中心を射抜いた話があります。後年、道長の三女が天皇の后になった際、「この世をば 我が世とぞ思ふ(う) 望月の かけたることも なしと思へ(え)ば」という、藤原氏の栄華を喜ぶ歌を詠んだ話も有名です。

一方、道長の日記とされる「御堂関白記(みどうかんぱくき)」からは、彼の意外と「小心者」な一面が垣間見えます。例えば、ある年の正月に朝廷の儀式で手違いがあり、「私は儀式を主宰するのにふさわしくない」と吐露する場面や、天皇から難しい人事の注文を受け、承知してしまった後で「どうしよう……」と悩む場面があります。

本当のところは分かりませんが、私は道長のことを「本来は小心者で、『やるときはやる』タイプのリーダーだった」と考えています。道長は歴史上、特に優れた政策を実施しているわけではないのですが、それでも彼が長期にわたって政治の頂点に君臨できたのは、家柄などとは別に、普段は気が小さくても、ここぞというタイミングで「勇気」を見せる人柄が人々に慕われたからなのかもしれません。

道長の言葉にも注目です。弓の競射のエピソードで、彼が「私の家から天皇や后が立つ」と口にしたのは、「自分が実現したいこと」を明確に言葉にすることで、小心者である自分を奮い立たせるためかもしれません。後年の望月の歌も、見方を変えると、「藤原氏を永く栄えさせていく」という、道長の決意表明にも思えてきます。

普段は謙虚な人間が、いざというときに見せる勇気は人々を引き付けます。あえて言葉に出して、時には大胆なチャレンジをしてみましょう。

以上(2024年11月作成)

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画像:Mariko Mitsuda