目次
1 従業員個々の将来の“希望”に答えることは、会社を成長させるチャンス
今シリーズの狙いは、経営者、人事担当者、現場の皆さんのお悩みである「社員を採ってもすぐに辞めてしまう上に、そもそも採れない」という課題を解決することです。『人が辞めない会社、10のヒント』と題して、毎回1つずつご紹介してきました。
『人が辞めない会社』に変わるための課題、その原因と解決策は会社によってさまざまです。
全社共通の原因以外に、部署ごとの固有の原因も存在することでしょう。ご紹介した10のヒントの中から、「これはうちにも当てはまるな」というものを見つけていただけたでしょうか。
さて今回は最終回、シリーズ全体を振り返りながらおさらいをしていきましょう。
全体の前に、まずは前回第11回のヒント10を振り返ります。
前回、皆さんに「あなたの職場にはどんな”希望”がありますか?」と問いかけました。”希望”とはすなわち、”未来(将来)への期待”です。それは従業員一人ひとり異なり、何かのきっかけで変化することもあり得ます。
未来のイメージが既にある人にとっては、「自分はこんな感じで努力していけば、自分が目指すこんな姿になれそうだ」と思えること。ない人にとっては、「自分は将来、こんな感じやこんな感じになれるかもしれない。それは自分にとってきっと幸せに違いない」と思えることです。
そして、上司や会社が、従業員一人ひとり異なり、かつ時として変化する”希望”=”未来(将来)への期待”にできる限り応えていく。そのためには一人ひとりの現在の”希望”を把握しておく必要があり、定期的な1 on 1ミーティングの場を活用することをお薦めしました。
1 on 1ミーティングを未導入のケースや、導入済みでも他の1 on 1の目的との関係性についても触れました。いずれにしても
目指すべきゴールは「部下一人ひとりが、仕事を通して未来の”希望”をイメージできるように支援する」ことです。
一方で、会社や部署、上司から本人に求める期待もあるでしょう。また会社や部署、上司としてできることとできないことはあるでしょうが、できる限り本人の”希望”と一致できるように支援すること。既存の社内制度だけに縛られることなく新たな提案も含めて、どれだけ会社側が頑張ってくれたかを従業員は見ています。
そこで会社側が頑張れば、目の前の従業員の”希望”に応えられるだけでなく、同じような課題を抱える他の従業員も救えるかもしれません。
より多くの“希望”に応えてくれる会社にこそ、より多くの優秀な人材が集まり、長くとどまって活躍してくれるはずです。
従業員個々の将来の“希望”に応えられるよう努力することは、会社を成長させるチャンスでもあります。中小企業だから、予算がないからとすぐに諦めるのではなく、知恵と工夫、一人ひとりへの寄り添い次第で可能であると考えましょう。
2 『人が辞めない会社、10のヒント』ヒント1~4[採用編]を振り返る
ここからは、シリーズ『人が辞めない会社、10のヒント』全体を振り返ってみましょう。最初はヒント1~4 [採用編]です。
★ヒント5以降も含めて、短い行数では各回の全てはまとめられませんので、詳しい解決策や解説、事例などは各回をもう一度読み直してみてください。
■第2回 ヒント1[採用1]:自社を大きく見せていませんか?
〇「普通に募集しても応募がないから」と、自社を必要以上に大きく見せて人材を採用すると、入社後にギャップが生まれて「こんなはずじゃなかった」と辞めてしまいます。
〇「少しくらい大きく見せないと人が集まらない」と嘆く前に、「働き続けている人がいる以上、全ての会社には”他社にない魅力”がある」と信じて、ささいなことでもいいので自社ならではの魅力を本気で探しましょう。
■第3回 ヒント2[採用2]:会社が”目指すこと”、”大切にしたいこと”を明示する
〇採用活動を始める前にやるべきことの1つは「求める人材像」を明示しておくこと。中でも「価値観」は容易に変わらないだけに特別で、あらかじめ会社が目指すことや大切にしたい「価値観」を整理して、応募者が共感できるか否かを採用決定前に互いに確認しましょう。
〇「求める人材像」の他の要素、「興味関心」「将来像」などは情報提供次第で後から高められますし、「スキル」も特に若手の場合は入社後に鍛えることができます。
■第4回 ヒント3[採用3]:「好きな人は好き」を分かりやすい一行で打ち出せ!
〇ヒント1で見つけた「好きな人は好き」と思える”他社にない魅力”を分かりやすい一行で打ち出し、ヒント2の「求める人材像」、特に会社が目指すことや大切にしたい「価値観」を明示して募集。「好きな人は好き」に反応し、かつ会社が目指すことや大切にしたい「価値観」に共感した人材なら、検討している他社(競合先)があっても優先順位は高い。
〇本当に採用したい人材なら、会社としてできる限りのことはしつつ、背伸びした待遇を用意するよりも、「最後は人」と信じてこちらの熱い思いを伝えるほうが成功します。
■第5回 ヒント4[採用4]:入社日までに「入社後のギャップを最小化する」
〇内定者に対して、入社後のギャップが極力ないよう、事前に必要な情報や入社後のイメージを十分に伝えられていますか。入社前に伝えておくべき情報をプラスもマイナスも含めて整理し、タイミングを計って伝えましょう(第5回の「5×3のマトリクス」参照)。
〇内定後、入社までに有償のアルバイトで半日単位でもいいのでお試しで働いてもらうのもいいでしょう。単純かつ単調な仕事ではなく、しっかりフォローのできる先輩を付けた上で入社後に任せる可能性のある仕事を一部でも体験してもらいましょう。
以上、ヒント1~4[採用編]をかいつまんでご説明しました。
「社員を採ってもすぐに辞めてしまう上に、そもそも採れない」という課題解決には、まず入口が重要なのだとお分かりいただけたでしょうか。
「採れない」からといって、数合わせに無理やり採用しても結局は互いに”合わない”ことに気付いて辞めてしまう。双方にとってお金も時間も無駄になり、SNS上でも悪い噂になりかねません。
「好きな人は好き」と思える”他社にない魅力”を見つけて、会社が目指すことや大切にしたい「価値観」とセットで明示し募集する。これはと思う人材には会社側の熱い思いを伝える。内定後は、本人の入社後のギャップを最小化できるように情報提供していく。
以上、皆さんの会社では、実行できているでしょうか?
3 『人が辞めない会社、10のヒント』ヒント5~8[仕事編]を振り返る
次に[仕事編]です。
■第6回 ヒント5[仕事1]:事前にいくら伝えても、入社後のギャップは必ずある
〇[採用編]の入社日までに「入社後のギャップを最小化する」努力をしても、実際に職場に入り仕事を始めてみると、ギャップは何かしらあるものです。新卒では入社後に配属や職種が決まることが多いのも原因の1つ。中途の場合はたとえ職種は同じでも、前職の企業文化や仕事の進め方とのギャップに戸惑うことでしょう。
〇解決には、会社、人事、上司や職場、メンターなどが一体となって、入社初日から丁寧に、定期的なフォローを続けることです。
■第7回 ヒント6[仕事2]:仕事の意義を共有できれば、人は簡単には辞めない
〇入社して職場や仕事に少しずつ慣れてきたら、前向きで優秀な人ほど「早く戦力になりたい」と考え、次に”仕事の意義=やりがい”を求め始めます。それが求められないと、「こんなはずじゃなかった」と隣の芝生も青く見えてくるのです。
〇本人の適応状況を確認しながら、”仕事の意義”を伝え、それを感じられる小さな成功体験の機会を用意してあげましょう。それらを職場のチームでも共有しましょう。
■第8回 ヒント7[仕事3]:上司は”仕事のやりがいは一人ひとり違う”と知るべき
〇個人が「何に対して”仕事の意義=やりがい”を感じるか」は人によって異なります。同じ成果に対して同じように褒めても、本人の反応が違うのはそのせいです。
〇やりがいの感じ方には、6つのモチベーションタイプ(MT)があり(第6回参照)、多くの人はそのいずれも持っているが優先順位が異なります。メンバー個々のメインMTを知り、それに応じた褒め方やアドバイスをするとモチベーションアップに効果的です。
■第9回 ヒント8[仕事4]:一人ひとりの”存在価値”や”存在意義”を演出する
〇人は「自分は大事な戦力なのだ」と思えれば簡単には辞めないものです。戦力化するための近道は、個々の強みや経験・知識・スキルへの期待を伝えながら徐々に「仕事を任せ」、本人に自律的に考えさせてトライさせる。そして事後に一緒に「振り返る」ことです。
〇メンバー個々のトライはチーム内でも共有し、協力者も得ていければ既存社員も含めて一人ひとりの”存在価値”や”存在意義”を演出できます。
入社前に「入社後のギャップを最小化する」努力をしても入社後のギャップは何かしらあるものという前提で、関係者が一体となって入社初日から丁寧に、定期的なフォローを続ける。
職場や仕事に少しずつ慣れてきたら、”仕事の意義”を伝え、それを感じられる小さな成功体験の機会を用意する。メンバー個々のメインMTに応じた声掛けをしながらモチベーションを高め、一日も早く一人ひとりの”存在価値”や”存在意義”を演出してあげる。
以上、皆さんの会社では、実行できているでしょうか?
4 『人が辞めない会社、10のヒント』ヒント9~10[職場編]を振り返る
最後に[職場編]です。
■第10回 ヒント9[職場1]:”ウェルカムな職場”は人が辞めない
〇皆さんの会社や職場は「若手やよそ者に冷たい」でしょうか。それとも基本的な価値観さえ共有できれば、個性や違いを広く受け入れ歓迎できる「ウェルカムな」状態でしょうか。
〇「ウェルカム」は「甘い」のではなく、互いが”プロ”を求める関係です。「ウェルカムな会社」では、「一日も早く同じ”プロ”として一緒にいい仕事をしたい」と考え、新たな人材を戦力化までみんなでフォローします。「ウェルカム」を会社の文化にまで育てられれば、簡単に人は辞めないし、自然に人も育ちます。
■第11回 ヒント10[職場2]:あなたの職場にはどんな”希望”がありますか?
〇”ウェルカムな職場”を通して新たな人材が「自分は今の仕事で大事な戦力なのだ」と感じられるための”環境づくり”を進めながら、同時にもっと先の”希望”=”未来(将来)への期待”が持てる状態を目指しましょう。
〇”希望”は一人ひとり異なり、変化もするので、定期的な1 on 1ミーティングの場を活かして個別に把握します。そして会社や上司としての本人への期待との接点を探りながら、個々の”希望”をできるだけ満たせるように尽力していきましょう。
採用を決めた以上、新たな人材を受け入れる側の会社や職場は戦力化を諦めてはいけない。”ウェルカムな職場”を通して彼らが「自分は今の仕事で大事な戦力なのだ」と感じられ、同時にもっと先の”希望”が持てる状態を目指して、個別に支援して続けていく。
以上、皆さんの会社では、実行できているでしょうか?
5 人が辞める原因は、ほぼ100%会社側にある?
ここまでヒント1~4[採用編]、ヒント5~8[仕事編]、ヒント9~10[職場編]を振り返ってきました。各編の最後には、「以上、皆さんの会社では、実行できているでしょうか?」と疑問符を付けてみました。
改めて、『人が辞めない会社』に変わるための解決策は、会社や職場によってさまざまです。一方で社員が辞めない理由、辞める理由も一人ひとり異なります。簡潔に言えば第1回で触れたように、退職する一人ひとりの「辞める理由」を解消し、働いている一人ひとりの「辞めない理由」を高めていくことです。
はたして皆さんの会社では、10のヒントの全てを「辞める理由」ではなく、「辞めない理由」となるように高められているでしょうか。
あるテレビのコメンテーターの方が言っていました、「昔から一緒ですよ、辞めるやつは辞めるんです」と。それは結果を語っているに過ぎません。言葉の裏には「辞める原因は、会社の側ではなくて本人にあるのだから放っておけばいい」との意図を感じます。
「辞めるやつは辞める」、辞める原因は本人にあるとやり過ごしている限り、今回のシリーズのテーマ「採っても辞めてしまう上に、そもそも採れない」という課題は永遠に解決されないだろうと確信します。
もちろん応募する側も自分の人生の話ですから、よりよく事前に研究するべきです。
そして入社を決めた以上は、可能な限り自ら周囲に働きかけながらギャップを解消し、自分で選んだことに責任をもって仕事に集中するべきでしょう。
一方で、会社側は十分な対応ができているでしょうか。
大手から中堅中小、スタートアップまで、あらゆる業種のさまざまな会社を見てきた私にとって、今回提示した『人が辞めない会社、10のヒント』を全て満たしていると感じた会社はほんの一握りです。
あなたの会社や職場では、どうでしょうか?
10のヒントを全て満たせていないとすれば、会社としてまだやれることはあるはずです。本人にも問題があったとしても、「辞めるやつは辞める」は言い訳に過ぎません。原因は、ほぼ100%会社側にあるといえるのではないでしょうか。
近年は「働き方」に対する意識が大きく変わり、とりわけ成長意欲の高い若手社員は入社後すぐにキャリアパスの見極めを行い、「成長機会が十分でない」と判断すると早々に転職を選ぶ傾向があるそうです。
私からすれば、本人が思い描く成長機会をどれだけ用意できるかは、内定前の段階で伝えた上で本人に判断させるのがベストと考えます(その上で会社として採用を決めるかは別として)。
入社前の説明と異なる、あるいは超過労働やハラスメント満載のいわゆるブラック企業は論外です。が、ホワイトすぎて”労働環境は良くても成長ややりがいが感じられない”ブラックとの中間に見える「ゆるブラック(パープルとも)」企業も敬遠される傾向にあります。
会社側が一方的に面接をして採否を決めるという採用はとうの昔に終わっています。現在は「会社側と応募者側の双方が、入社前から入社後まで、互いをよく知り選び合う」時代です。「社員を採ってもすぐに辞めてしまう上に、そもそも採れない」という課題解決のためには会社側は認識を改めつつ、従来以上の幅広い準備や対応が求められているのです。
さらにはAIの浸透による組織や業務見直しの流れもあります。AIの時代に、どんな人材が必要不可欠となり争奪戦となるのか。あるいは既存の人材を社内でいかに育成していかなければならないのか。
人材の採用と育成の課題は尽きませんね。
本シリーズを最後までお読みいただきありがとうございました。「社員を採ってもすぐに辞めてしまう上に、そもそも採れない」という課題解決の一助になれていれば幸いです。
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※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。
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以上(2026年6月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
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