1 なぜ、会社は社史を編さんするのか?
創業時の思いは、放っておけば必ず風化します。「なぜこの会社を始めたのか」「どうやって成長してきたのか」を語れる社員は、年々減っていく。自分がこれまで守ってきた会社は、将来どうなってしまうのか……。これは多くの経営者が抱えている不安かもしれません。
その不安を和らげ、次世代への継承を後押ししてくれるのが「社史」です。
社史は、会社の生い立ちや、これまで乗り越えてきた出来事を一冊にまとめたもの
です。社員にとって、歴代の経営者が守ってきたものを自分ごととして受け止めるきっかけになります。実際に社史を編さんした会社からは、「会社が歩んできた道を正史として残すことができる」「社員の帰属意識やモチベーションが高まる」といった声もあがっています。

リソースが限られている中小企業の場合、社史の編さんを一から十まで全部こなすことは困難で、一般的には
自費出版専門会社、出版社の自費出版部門などの外部委託先と協力して編さんを進行
します。この記事では、社内と外部委託先が二人三脚で編さんすることを前提に、最近の社史の形態や編さんの流れ、費用などを紹介します。自社の歩みを社内外の関係者と共有し、採用活動にも使える社史の編さんを検討する際の参考となれば幸いです。
2 社史の基本
1)社史の内容
社史と一口に言っても、盛り込む内容に決まった正解があるわけではありませんが、多くの社史に共通して盛り込まれる要素としては、次のようなものが挙げられます。
1.創業の経緯
創業者の思い、社名の由来、創業当時の社会の状況などをまとめます。例えば、創業者がなぜこの事業を始めたのかなど、会社の原点となる出来事なども交えて書きます。
2.会社の沿革
設立から現在までの主な出来事を時系列でまとめます。単なる年表の羅列ではなく、例えば、主要な出来事に一言コメントを付した「年表+解説」形式でまとめる、それぞれの時代の写真を入れ込んで絵巻方式にするなどの工夫をすると、印象に残りやすくなります。
3.主力製品・サービスの開発秘話や事業展開の歴史
自社の看板となる製品・サービスが生まれた背景や、事業を広げてきた経緯をまとめます。開発当時の担当者へのインタビューを通じて、開発時の苦労や試行錯誤、顧客からの反応など、当事者にしか語れない臨場感のあるエピソードを盛り込むと、読み応えが出てきます。
4.危機や転換点(経営難、業界の変化など)をどう乗り越えたか
経営難や業界構造の変化などで会社が危機に陥った時期があった場合、直面した危機の詳細と、いかにそれを乗り越えたかをまとめます。例えば、経営危機当時の資金繰りの状況や、社内の雰囲気まで踏み込んで書くとよいでしょう。
5.経営者やキーパーソンへのインタビュー、社員の声
経営者やキーパーソン、社員の生の声をまとめます。例えば、歴代経営者や在籍年数の長い社員へのインタビューはもちろん、若手社員と経営者の対談企画、座談会企画など、さまざまな形式が考えられます。
6.今後のビジョンや将来への展望
これまでの歩みを踏まえた、今後の事業展開や会社としての目指す姿をまとめます。過去の振り返りだけで終わらせずに、未来につながるメッセージを最後に記載することで、読み手に前向きな印象を残すことができます。
これらの要素をどの程度、どのような切り口で盛り込むかによって、社史の性格は大きく変わります。例えば、会社のスピリッツをもとに歩んできた歴史を多く掲載すれば「次世代の社員のための参考書」のような社史になり、未来への展望を多く掲載すれば、「採用活動やブランディングに生きる社史」になります。
つまり、
社史に何を掲載するかを考えることは、「何のために社史を作るのか」という目的を改めて言語化する作業
でもあります。まずは自社が伝えたい要素は何かを整理しておくと、その後の編さん作業がスムーズに進むでしょう。
2)社史の構成
発行形態によって詳細は異なりますが、書籍の社史の場合、一般的には次のような構成が考えられます。

本文については、例えば、
- 社内向けの資料として社史を編さんする場合:製品開発、プロジェクトの歴史、会社の利益の変遷など、自社の足跡が分かる情報が主体
- 社外向けの人材募集やブランディングを目的に社史を編さんする場合:社員インタビューや製品・サービスのPR、未来への展望など、自社の雰囲気や事業内容が伝わる情報が主体
など、目的により内容が大きく異なります。
3)社史の発行形態
社史と言うと、百科事典のような分厚い書籍を想像するかもしれませんが、昨今では、想定する読み手や活用シーンに応じたさまざまな形態での編さんが可能です。
それぞれの形態の特徴は、次の通りです。

また、最近は創業期の苦労話など重要な部分のみを読みやすくリライトして編さんする場合もあります。
社史を誰に読んでもらいたいか、編さんした社史をどのように活用したいのかで適した発行形態が異なるので、読み手と活用シーンを外部委託先の担当者と一緒に検討しましょう。
3 社史編さんの流れ
1)書籍の社史の例
発行形態によって編さん過程や工程は異なりますが、ここでは書籍タイプの社史を編さんすることを想定して、手順の一例を紹介します。

社史の完成までにかかる期間は、社史の発行形態や求めるレベルによっても異なりますが、最短でも1年程度と長期になる場合が多いため、入念な準備が欠かせません。スケジュールの管理や進行については、外部委託先の担当者と共に段取りをして、進めていきましょう。
2)必要な情報の集め方
情報収集の考え方をまとめると、次のようになります。

このような情報を収集する方法としては主に、
1.文書としてまとめられた資料やデータに当たる
2.関係者へのインタビュー
の2つがあります。
1.資料やデータに当たる
例えば、社内にある次のような資料から情報収集することが可能です。
- 会社設立時の登記簿
- 各種会議の議事録
- 会計関係書類
- 就業規則などの規程
- 社内報
- 社員手帳
- 会社案内
2.関係者へのインタビュー
社内、社外を問わず、
会社に関わってきた人はそれぞれの出来事の主役であり、その人から直に聞いた話は大きな情報源
になります。インタビューの際には聞きたい内容が分かるよう、あらかじめ関連資料を対象者に渡すなどしてインタビューの目的をはっきりさせておくことが大切です。外部委託先の担当者が同席し、聞き取りや原稿化までサポートしてくれるケースもあります。
例えば、インタビュー対象には次のような人物が挙げられます。
- 社内:経営陣、管理職、一般社員など
- 社外:社員の家族、OB・OG、取引先、業界団体、エンドユーザーなど
また、情報を収集するときには
近くの情報から遠くの情報へ、社内から社外に広げていく
ことを意識すると、情報収集がしやすくなるでしょう。
4 社史編さんの費用
ここでは、社史を編さんする際、外部委託先と協力して編さんを進めることを前提に、社史編さんの費用について紹介します。
社史や自分史などの受託出版を数多く手掛けている、株式会社日経BPマーケティングによると、社史の製作費の一例は次の通りです。

費用はハード部門(印刷関係、製本代、製函代、用紙代など)とソフト部門(原稿料、写真撮影費、レイアウト・デザイン料、編集費、校正費など)に分かれます。総ページ数やカラーページの量、通史本文ページの執筆に伴う原稿料、撮影費などでハード・ソフト部門の費用が異なります。
5 参考:社史編さんに役立つ情報
1)出版文化社「社史編集室」
企画編集方針、編さん過程、情報収集などに関するノウハウやコラムを紹介しています。
■出版文化社「社史編集室」■
https://www.shashi.co.jp/index.html
2)日本ビジネスアート「社史の教科書」「周年の教科書」
「社史入門」として社史を編さんしていくための基本的なステップや、実際に社史を編さんした会社のノウハウを紹介しています。
■日本ビジネスアート「社史の教科書」■
https://shashi-kyokasho.com/
■日本ビジネスアート「周年の教科書」■
https://jba-anniversary.com/
3)神奈川県立川崎図書館「すごい社史」
開館当初から65年以上、さまざまな会社の社史を収集しており、社史およそ2万冊を所蔵しています。特色のあるさまざまな社史をウェブサイト「すごい社史」上で公開しています(随時更新)。
■神奈川県立川崎図書館「すごい社史」■
https://www.klnet.pref.kanagawa.jp/find-books/kawasaki/shashi-shiryo/sugoi-shashi/
以上(2026年8月更新)
pj00724
画像:日本情報マート
















