海外での製造物責任トラブル対策として確認すべき7つのこと

1 海外PLトラブルへの備えは万全ですか?

海外展開をしている企業の皆さん、自社が輸出した製品が原因となり、日本国外で発生する海外PL(製造物責任(Product Liability、以下「PL」))トラブルへの備えは万全ですか?

日本からの輸出の多くを占めるのは米国や中国ですが、これらの国では、訴訟を含むPLトラブルが日本よりも多く起きています。

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国にもよりますが、海外PLトラブルが発生すると次のような事態が起こり得ます。

  • 集団訴訟制度(クラスアクション)があり、原告側が訴訟を起こすハードルが低い
  • 懲罰的損害賠償(裁判所の裁量により、実際に起きた損害の補填に加えて、制裁金を上乗せして賠償請求をする制度)が認められる場合がある
  • 完成品だけに限らず、部品や原材料メーカーなどで製造に一部でも関わっていれば、訴えられる恐れがある
  • 訴訟の証拠開示手続き(ディスカバリー)への対応だけでも、被告側が負担する労力・費用は多大になる

また、欧州連合(EU)では、製造物責任法の原則にあたる「Product Liability Directive (製造物責任指令)」が全面的に改正され、2024年12月8日に発効しています。この改正では、実体のある製品に限らず、ソフトウェア・AIといった無体物に対しても製造物責任が問われることになりました。

こうした観点からも、海外向けに製品を輸出するメーカーや越境ECの出店者は、海外PLトラブルに備えなければなりません。次に挙げるポイントについて、抜け漏れや不備がないか、いま一度確認してみましょう。

  • 輸出先の法制度に合わせて、製造工程の確認と見直しを図る
  • 契約で自社の免責条項などを設定する
  • 文書管理を徹底する
  • 取扱説明書や品質表示ラベルを見直す
  • ISO9000シリーズの認証を取得する
  • 海外PLトラブルを想定した対応マニュアルを作成する
  • 海外PL保険への加入を検討する

それぞれのポイントについて、以降で詳しく解説します。

2 輸出先の法制度に合わせて、製造工程の確認と見直しを図る

輸出先の国に合わせて、自社の製品が現地の法制度に沿った安全基準や品質基準を満たしているのかを確認しましょう。見直すべき点は次の通りです。

  • 製造ラインの設計
  • 設備や機器などの整備
  • 安全対策ポリシー、作業手順書の作成
  • 従業員の教育や訓練の実施、品質管理・安全対策専門部署の設置
  • 検査の実施

この確認や見直しは、

自社の完成品だけでなく、サプライヤーから調達している部品についても行う

必要があります。サプライヤーに対しては、仕様や品質の基準を書面で示したり、定期的に検査を実施したりして、品質を保つようにしていきます。

3 契約で自社の免責条項などを設定する

商社などの取引先を通じて自社の製品を輸出している場合、取引先とのコミュニケーションを密に取りましょう。例えば、取引先からは「米国向けの輸出」と聞いていたのに、実際は、中国やその他の国々にも輸出されていて、中国でPLトラブルが発生したといったケースも起こり得ます。

また、被害者への対応などで取引先が費用を負担していれば、自社も負担を求められる恐れがあります。

取引先との契約には、輸出先の国、販売方法、製品の用途などを指定し、契約に反した場合のPLトラブルは自社が責任を負わないよう、免責条項を設定

しておきましょう。ただし、こうした免責条項が有効なのは、自社と取引先(契約の当事者)間だけです。契約関係にない被害者から、自社に直接、損害賠償などを求められた場合は対抗できません。そこで、

取引先が契約に反した際のPLトラブルによって自社が損害賠償金を負担した場合に、取引先に求償できるような補償条項を設定

することも検討すべきです。

また、取引先が上記のような補償条項に応じない場合に備えて、

自社の損害賠償責任の制限・免責条項を設定

することを検討すべきでしょう。

4 文書管理を徹底する

訴訟の際、米国などでは広範な証拠開示手続き(ディスカバリー)が求められ、短期間で訴訟に関連した大量の文書提出が必要になることもあります。また、訴訟の際は、自社に責任がないことを証明するために、日ごろから安全性の確保に万全を尽くしていたと示す証拠が必要になることもあります。

そのため、

日ごろから製造活動全般に関する文書や、取引先などとのやり取りを文書として残し、適切に保管

しておくことが重要です。

5 取扱説明書や品質表示ラベルを見直す

製造工程の見直しなどに比べて、取扱説明書や品質表示ラベルは後回しにされがちですが、米国などでは取扱説明書や品質表示ラベルの「表示上の欠陥」を指摘する訴訟も多いとされています。そのため、

  • 製品の使用方法を分かりやすく説明しているか
  • 危険な使用方法などについて注意喚起する表示になっているか

などを確認しましょう。

6 ISO9000シリーズの認証を取得する

JETRO(日本貿易振興機構)は、輸出製品の製造事業所はISO9000シリーズの認証を取得しておくことが望ましいとしています。ISO9000シリーズは、ISO (国際標準化機構)が定めた品質マネジメントシステムに関する国際規格で、ISO9001、ISO9004、ISO9011などがあります。

ISO9001は、製品やサービスの品質を向上させ、顧客満足度を高めていくことを目的としています。この規格に基づいて社内で品質管理の仕組みを見直して改善したり、顧客や第三者機関が品質管理状況を審査したりします。認証の取得には、審査費用、マネジメントシステム構築費用、設備投資、諸経費などが掛かります。

7 海外PLトラブルを想定した対応マニュアルを作成する

海外PLトラブルが発生した場合の対応についてマニュアルを作成しておきます。海外PLトラブルに特化したものではありませんが、経済産業省「消費生活用製品のリコールハンドブック」では、事故への対応などについて紹介しています。こうした資料を参考に、製品の不具合が発見された場合のリコール対応などの手順について定めたマニュアルを作成したり、輸出先の国の実情に詳しい弁護士に対応を相談したりするなどしておきましょう。

■経済産業省「消費生活用製品のリコールハンドブック」■

https://www.meti.go.jp/product_safety/producer/recalltorikumi.html

8 海外PL保険への加入を検討する

細心の注意を払っていても、海外PLトラブルの発生リスクをゼロにすることはできません。また、海外PLトラブルへの対応は広範囲に及びます。そこで、

海外展開する際には、訴訟に発展した場合に備えて、海外PL保険に加入する

ことも検討しましょう。PL保険とは、PLトラブルが起きたときに損害賠償金や訴訟費用などを補償するものです。

通常のPL保険の補償範囲は「日本国内での事故や訴訟」に限定されているので、海外PLトラブルに備えるのであれば、海外PL保険への加入が必要です。海外PL保険には、

  • 損害賠償金や訴訟費用などの費用面での補償
  • 示談交渉や訴訟を担当する弁護士の選定

などを代行してくれるものもあります。

例えば、日本商工会議所では、会員を対象とした「中小企業海外PL保険制度」を提供しています。安心して自社のビジネスを拡大していくための一策として、海外PL保険への加入を検討しましょう。

■日本商工会議所「中小企業海外PL保険制度」■

https://hoken.jcci.or.jp/overseas-pl

以上(2025年3月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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【入社1年目の教科書】頑張っているからといって勝手に残業するのは自己中な振る舞い

書いてあること

  • 主な読者:「残業」のルールについて知りたい新入社員
  • 課題:頑張って仕事をしたいのだから、いくら残業してもいいでしょ?
  • 解決策:残業できる時間には上限がある。また、残業する前には必ず申請をする

まいったな……。もうすぐ定時なのに仕事が終わらない。先輩から「残業するときは、必ず事前に申請するように!」と言われているけど、何だか面倒くさい……。そんなことをするくらいなら、仕事に集中したほうが効率的じゃない? それに頑張って仕事をするわけだから誰も文句はないよね。遅くまで働いているわけだし……もう、残業申請はしなくていいよね?

1 残業は「例外的」な働き方!

仕事は就業時間内に終わらせることが基本です。皆さんの会社でも、「始業は9時、終業は18時」といった決まりがあると思いますが、それが就業時間です。また、就業時間のうち休憩を除いた時間(仕事をしている時間)が労働時間です。

労働時間については、労働基準法という法律により、

原則1日8時間、1週40時間までという上限が決められており、これを「法定労働時間」

といいます。そして、法定労働時間を超えて働くことが「残業」です。本来、残業は例外的なものなので、残業には上限が決まっています。

残業の上限は、会社の「36協定」に定められています。本来、残業は認められない行為なのですが、会社と労働組合(あるいは社員の代表)が書面で約束することで、会社は社員に残業を命じることができます。ただ、無制限に残業を認めるわけにはいかないので、上限があるのです。例えば、36協定で「残業は1日3時間まで」と定められていたら、3時間を超える残業は認められません。イメージは次の通りです。

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また、36協定では、1日単位だけでなく、1カ月単位などでも残業の上限が定められています。例えば、36協定で「残業は1日3時間、1カ月45時間まで」と定められている場合、1日3時間の残業を15日繰り返すと、1カ月の上限45時間に達してしまいます。ですから、「自分が今月何時間残業しているのか」などを把握して、36協定に違反しないよう注意しなければなりません。

2 残業は事前に許可を得る

どうしても仕事が終わらないことはあります。そのようなとき、残業すべきかどうか迷ったら、「○○の業務のため、○時間残業したいです」と先輩に相談してみましょう。また、仕事は終わっているけれど、もう少し頑張りたいと思うときも、そのことを正直に先輩に伝えてみてください。先輩は残業すべきか否かのアドバイスをしてくれるでしょう。

やってはいけないのは、誰にも相談せずに勝手に残業をすることです。皆さんが勝手に残業すると、会社が皆さんの労働時間を正確に把握できません。そうなると、残業代を正しく支払えなくなったり、働き過ぎている社員を見つけられず、その社員が体調を崩してしまったりする恐れがあります。

なお、残業をする場合は、所定の手続きがあるはずなので、こちらも確実に行ってください。面倒かもしれませんが、残業する権利を得るための責務です。

3 健康管理も仕事のうち

残業のルールについて紹介してきましたが、良い仕事をするためには休憩も必要です。労働基準法では、労働時間が6時間を超える場合は最低45分、8時間を超える場合は最低60分の休憩を与えることが会社に義務付けられています。会社によっては就業規則などで、これより長い休憩を設定していることがあります。また、「残業が○時間を超える場合、○分の休憩を与える」など、残業に特化したルールを設けていることもあります。

仕事が忙しくなってくると休憩をおろそかにしがちですが、そのようなときこそ休憩をとりましょう。集中力はそんなに続くものではないので、休憩をとることが効率化につながります。そして何より、皆さんの健康が第一であることを忘れてはなりません。

以上(2025年1月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

オーナー企業でよくある「役員借入金」が会社の信用力低下を招くって本当?

1 会社が個人から借り入れる「役員借入金」

役員借入金とは、

会社が経営者や役員などの個人から借り入れすること

です。役員借入金は、

  • 「他から調達できないので、経営者から借りる」など、資金移動が伴うケース
  • 「未払いの役員報酬を役員借入金として計上する」など、資金移動を伴わないケース

があります。

役員借入金は資金的に厳しい中で行われることが多く、返済が長期化・固定化しがちです。また、役員借入金は無利子が一般的で、返済要請も強くありません。こうした事情から、ついつい役員借入金に頼りたくなりますが、自己資本比率や相続などの面で問題が生じます。

この記事では、役員借入金の問題を指摘した上で、それを減らす方法を紹介します。なお、実際に役員借入金を削減するとさまざまな影響が出てくるので、早い段階から税理士などの専門家に相談することが大切です。

2 役員借入金に潜む問題

1)企業における問題点

役員借入金が増加すると、

「自己資本比率(自己資本÷総資本×100)」が低下

する恐れがあります。自己資本比率は会社の信用力(資金調達時など)に大きく関係します。

2)経営者における問題点

経営者に相続が発生した場合、原則として、役員借入金は額面評価されます。現金は手元にないのに相続税額が高額になり、納税資金が不足する恐れがあります。また、未払いの役員報酬を役員借入金として計上している場合、所得税・住民税・社会保険料は役員報酬総額に基づいて計算されるので、実質的に経営者の持ち出しになることがあります。

相続人の立場では、会社からの早期の返済を期待できない場合、換金性の乏しい貸付金債権を相続することになります。

3 役員借入金を削減する方法

1)役員報酬を使った削減

役員報酬を減額し、その分を役員借入金の返済に充てれば、役員借入金を削減できます。会社としても新たな資金負担がありません。この方法の注意点は次の通りです。

1.役員報酬の損金算入

法人税法上、損金に算入できる役員報酬には「定期同額給与」などの要件があります。役員報酬の金額を変更する場合、時期や金額に注意しないと損金に算入できなくなります。また、役員借入金の返済に充てる金額は損金に算入できません。

2.役員退職慰労金も要注意

多くの場合、役員退職慰労金は「退任時報酬×在任期間×功績倍率」といったように、役員報酬に基づいて算出されます。そのため、役員報酬が減額されると役員退職慰労金も減ります。役員退職慰労金規程などを確認した上で検討しなければなりません。

2)役員借入金の資本化(債務の株式化:Debt Equity Swap)

債務の株式化(Debt Equity Swap。以下「DES」)とは、

役員借入金の現物出資を受ける形で、資本金に振り替える方法

です。資本金は増えますが、一方で相続時に評価額を圧縮し、相続税の負担を減らせる可能性があります。この方法の注意点は次の通りです。

1.資本金増加による影響

資本金は税制の特例措置などの適用基準になっています。資本金が増加すると特例措置の適用から外れる恐れがあります。1つの基準は、

資本金1億円(中小企業向けの税制上の特例措置の対象基準)

です。資本金1億円を対象とした主な税制上の特例措置は次の通りです。

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なお、特例措置には資本金以外の要件があるので確認してください。また、ここでは資本金1億円を例にしましたが、「法人住民税(均等割)」は資本金等の額が1000万円を超えることで税額が高くなるケースがあります。

2.債務消滅益の発生

DESでは、対象債権となる役員借入金が時価評価されます。時価が額面を上回る場合、会社はその金額を債務消滅益として計上しなければなりません。そのため、「繰越欠損金」の有無などによっては、法人税に係る課税所得が増加し、法人税などが増えることがあります。

3.相続時の財産評価

法人税法で定める同族会社に該当する会社が、相続対策だけを目的にDESを行った場合、相続税法第64条第1項に基づき、相続税回避と認定され、DESが行われなかったものとして課税価格が計算される恐れがあります。この問題を回避するには、客観的・合理的な再生計画を策定し、当該計画に基づいてDESを行う必要があります。

3)経営者による債務免除

経営者に、役員借入金に関する債務を免除してもらう方法です。この方法の注意点は次の通りです。

1.債務消滅益の発生

免除された債務は、債務消滅益として計上しなければなりません。そのため、「繰越欠損金」の有無などによっては、法人税に係る課税所得が増加し、法人税などが増えることがあります。

2.他の株主に対する影響(贈与税)

債務免除によって株主の保有株式の価値が増加した場合、同族会社においては、その増加分に対して贈与税の課税対象となる恐れがあります。

以上(2025年2月更新)
(監修 税理士 石田和也)

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画像:maroke-Adobe Stock

“身内”との取引に要注意! 経営者が知っておきたい税務リスク

1 オーナー経営者と会社の取引上のリスクを知っていますか

オーナー経営者(個人)と会社との取引や金銭授受は日常的に行われています。例えば、会社から個人には役員報酬が支払われ、個人が所有する不動産を会社が賃借していれば、地代家賃が生じます。また、会社の資金繰りが苦しくなったときには、個人は資金を会社へ貸付ける場合もあります。

このような取引は、純然たる第三者間との取引とは異なり、個人と会社の双方に都合が良い条件で取引が行われることがあるため、税務調査などでも重点的にチェックされる項目の1つです。本稿では、個人と同族会社との取引のうち、「金銭の貸借」「不動産の賃貸借・売買」について、税務リスクやその対策を解説します。

2 個人と会社は別人格

個人が会社に100%出資していれば、その会社は100%個人の持ち物ともいえるかもしれませんが、個人と会社はあくまでも別人格です。別人格であれば、取引や資金を混同するわけにはいきません。また、会社は営利を追求する組織であるため、会社の利益を追求していく必要がありますが、個人は必ずしも利益の追求のみを目的としているわけではありません。

そのため、税務では個人と法人との取引に関し、特に「会社の利益を減少させるような取引が行われるようなとき」に、いくつかの制限規定が設けられています。もし、制限規定に該当する取引を行ったときは、その実際取引を修正するような税計算を行う必要があります。

3 金銭の貸借

1)個人が会社へ貸付ける場合

中小企業では、金融機関からの借入れによる方法の他、個人の私財を会社に貸付けることが、よく見受けられます。また、会社経費を一時的に個人が負担することもあります。このような取引が度重なると、個人のお金と会社のお金が混同し、知らないうちに、個人から会社への貸付けが生じてしまう可能性があります。そのため、資金の出所や貸借に関する取引はしっかりと帳簿に記載しておく必要があります。

個人が会社へ貸付ける取引では、税務上、次の点に注意しなければなりません。

  • 貸付けに対する利息の収受があるかどうか
  • その利息が適正な利率に基づく金額であるかどうか

原則的には、個人が会社へ貸付ける取引では、会社が適正な利率以下の利息額を支払い、利息を収受した個人側では、雑所得として確定申告をしていれば税務上の問題は生じないと思われます。

しかし、例外的に、無利息や低い利率で個人が法人に貸付けを行っている場合で、その取引が個人の所得(税負担)を不当に減少させると判断されるときは、「同族会社の行為計算の否認」という制限規定を受けることがあります。これは、適正利率による利息の収受があったものとして、実際取引が修正され、税計算が行われるものです。その他、個人からの貸付けが多くなると、個人の相続発生時に、その貸付けは相続財産を構成することになり、相続税の税負担が増える点にも注意すべきでしょう。

なお、適正な利率としては次のものが参考となります。

  • 金融機関など外部から借入れをして貸付けをしている場合:その借入利率
  • 自己資金による場合:国税庁の定める特例基準割合(2024年中は0.9%)

2)会社が個人へ貸付ける場合

会社は利益の追求を目的とする組織であるため、常に、取引に経済合理性(営利性)の有無が税務上求められます。そのため、会社が個人へ金銭を貸付けた場合には、その収受すべき利息の額が適正利率か否かの検討が必要となります。なお、この場合の適正利率についても前述した適正利率が参考になります。

もし、会社が個人に対し、無利息または適正利率よりも低い利率により貸付けている場合には、適正利率による利息額と実際の利息額との差額に相当する部分が、その個人に供与した経済的利益となり、原則、給与所得として個人側において給与課税されることになります。

4 不動産の賃貸借・売買

個人と法人の間で不動産の賃貸借や売買を行う場合にも、第三者との取引にはない税務上の制約が生じることがあります。

1)個人が会社から社宅を賃借している場合

個人が会社から社宅として建物を借りる際の賃借料は、貸与する社宅の床面積に区分して、次のように計算した賃料を「通常の賃貸料」とします。

  1. 132平方メートル以下の木造家屋または99平方メートル以下の木造家屋以外の家屋で
    ない場合
    {その年度の家屋の固定資産税の課税標準額×12%(木造家屋以外の家屋については10%)+その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×6%}×1/12
  2. 132平方メートル以下の木造家屋または99平方メートル以下の木造家屋以外の家屋の
    場合
    その年度の家屋の固定資産税の課税標準額×0.2%+12円×当該家屋の総床面積(平方メートル)/3.3(平方メートル)+その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×0.22%

ただし、会社が第三者から賃借した家屋で前述1.を貸与する場合には、会社が家主に支払う家賃の50%以上と、前述1.の算式により計算された賃料とのいずれか多い金額が、「通常の賃借料」となります。「通常の賃借料」に満たない金額のみの収受である場合には、「通常の賃貸料」と実際の賃貸料との差額は、個人に供与した経済的利益となり、原則、給与所得として個人側において給与課税されることになります。

なお、床面積が240平方メートル以上あるいは豪華な社宅については説明を省略します。

2)会社が個人から土地を賃借する場合

会社と個人の間での土地の賃借取引のうち、その土地の上に家屋を建てる目的で土地を賃借する場合には、税務上の借地権が生じることがあるので注意が必要です。具体的には、土地の賃借に際して、権利金支払いの取引慣行がある地域において、権利金を収受しない場合には、借地権の認定課税(権利金があったものと見なして課税される)を受けることがあります。ただし、次の場合には認定課税を受けません。

  • 相当の地代(その土地の更地価額のおおむね年6%程度)を収受しているとき
  • 土地の無償返還に関する届出書を提出しているとき

土地の賃借に関する取引は、個人の相続にも関連します。また、都市部の地価は高いので、手続きを誤ってしまうと借地権の認定課税が生じ、後で思いもよらない多額の課税処分を受けることになるので注意が必要です。

3)不動産の売買

不動産の売買をする場合、独立した第三者間において通常行われる取引(時価取引)である限り、税務上の問題は生じませんが、個人と会社の間での取引は恣意性が介入する可能性が高くなります。もし、個人と法人の間での取引による売買価額が適正でないと判断された場合には、その不動産の譲渡に関する取引は税務上修正され、所得税・法人税・贈与税などの税負担が生じる可能性があります。

なお、不動産を個人と法人の間で売買する際の売買価額については、不動産鑑定士による鑑定評価額の他、相続税評価額を0.8で割り戻した金額(路線価が地価公示価格の80%を目安に設定されているため、路線価地域に所在する土地については時価に置き換えることができる)などを参考にして決定するのがよいでしょう。

5 まとめ

個人と会社の取引は、法人税と給与所得課税による源泉所得税などに関係してくるだけではなく、実は、個人に相続が生じた場合の相続税とも密接に関係してきます。

そのため、法人との取引は、個人の相続税対策を検討する際には注意しなければなりません。また、その際、関係会社を含めて対策を広げていくと、関係会社間の取引に関してグループ法人税制が関係してくることもあります。よって、1つの税目だけではなく、幅広い視点から検討・確認していく必要があります。

以上(2025年2月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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【入社1年目の教科書】ネット上に公開されている無料画像でも無断で利用してはいけません

書いてあること

  • 主な読者:画像などの利用で注意すべきルールを知りたい新入社員
  • 課題:ネット上に公開されている画像をプレゼン資料で使いたいけど、ダメなの?
  • 解決策:画像などを利用する場合は創作者の許可が必要。無料でも無断利用は違法

先輩からプレゼン資料に使う画像の検索を頼まれた。先輩が頑張って資料を作ってたから、格好いい画像を選ばないとな〜。どれどれ、この画像なんて無料だし、いいんじゃないかな! んっ? 「商用利用の場合は、著作権表示をしていただくようお願い申し上げます」だって。画像は無料で利用できるんだよね、これってどういう意味なの!?

1 他人のものを使うときは著作権に注意する

プレゼン資料やチラシを作るとき、「お、イメージ通り!」という画像がネット上に公開されていたら、使いたくなりますよね。でも注意してください。たとえネット上に公開されている画像でも、無断で利用すると著作権の侵害になることがあります。著作権とは、

画像・動画・文章・音楽などを創作した人に与えられる権利のこと

です。著作権には、自分の作品であることを表示する権利、無断で作品を利用されない権利など、さまざまな権利が含まれます。プロが創作したものに限らず、個人がSNSで公開している画像などにも著作権はあるので、基本的に、

自分以外の人が創作した画像などを利用する場合、許可を得る必要がある

と覚えておきましょう。通常は、創作した人が著作権を持っているので、創作した人に許可を得なければなりません。あるいは、創作した人が出版社など他者に著作権の一部を譲渡している場合もあります。

2 画像サイトなどの利用は「利用条件」を確認してから

画像や動画などの素材を提供しているサイトは、有料サイトと無料サイトがあります。有料サイトの場合は、通常、ビジネスでも使えます。つまり、プレゼン資料に掲載しても問題ありません。これは、有料サイトの運営者が事前に画像を撮った人や、画像に映っている人などから許可を得ているので、皆さんはお金を支払う代わりに、個別に許可を得る必要はないということです。

ただし、サイトによっては「利用時は『画像提供:○○』など著作権の表示が必要」「印刷物で利用する場合は、1万部以下までとする」などが設けられていることもあるので、各サイトの利用条件を必ず確認しましょう。

3 相手の許可が不要な「引用」と「私的利用」

著作権には、創作した人の許可を得なくてもよいケースがあります。とはいえ、ビジネスではトラブルを避けるためにも許可を得るのが基本なので、参考程度に知っておいてください。まずは「引用」です。引用とは、

自分の主張などを補強するために、他人の画像などを利用すること

です。引用には、「かぎかっこをつけるなど、自分の著作物と引用部分とが区別されていること」「出所が記載されていること」など幾つかのルールがあります。次は「私的利用」です。私的利用とは、

個人または家族内で動画観賞を楽しむこと

です。ただ、基本的にビジネスは私的利用には該当しません。

以上(2025年1月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

2025年4月法令改正で、障害者雇用のルールはどう変わる?

1 障害者雇用は義務ではなくチャンス!

「障害者雇用は大切だけど、ウチには頼める仕事がないから無理……」。こんなイメージがある障害者雇用ですが、状況は変わってきました。その背景には、

  • 職業能力の開発次第で障害者は十分な戦力になることを体感する会社が増えてきた
  • 働き方のルールが柔軟になる中で障害者の活躍フィールドが広がってきた
  • 障害者に特化した採用支援サービスが充実し、障害者と出会える機会が増えた

などの変化があり、会社で働く障害者の数もこの10年間で1.5倍以上に増えています。

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障害者雇用は、人材採用と社会貢献という2つの課題を同時に解決できる可能性を秘めています。もし、興味をもっていただけたなら、この記事を読み進めてください。以降で、障害者雇用を検討するための第一歩として、「障害者雇用促進法」とその関係法令に定められている、

  • 会社が雇用する障害者の数を決める「障害者雇用率制度」(2025年4月法令改正あり)
  • 不当な差別を防ぐ「障害者差別の禁止や合理的配慮の提供義務」

について分かりやすく説明します。

2 「障害者雇用率制度」とは?

1)社員が40人以上になると障害者の雇用義務が発生

障害者雇用率制度とは、

常時雇用する社員数が一定数以上の会社は、社員数に一定の割合(障害者雇用率)を掛けた人数以上の障害者を雇用しなければならない

というルールです。この制度の「常時雇用する社員」とは、

  • 1週間の所定労働時間が原則20時間以上(例外あり。詳細は後述)
  • 1年を超えて雇用される見込みがある、または1年を超えて雇用されている

の両方を満たす社員です。常時雇用する障害者でない社員は、正社員は1人当たり「1人」、パート等の短時間労働者は1人当たり「0.5人」とカウントします(雇用率の算定における障害者のカウント方法は後述)。

2024年4月以降、社員が40人以上の会社(民間企業)には、社員数の2.5%に相当する人数以上の障害者を常時雇用する義務が課せられています。2026年7月からは、社員が37.5人以上の会社に対し、社員数の2.7%に相当する人数以上の障害者を常時雇用する義務が課せられます。

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例えば、現時点で常時雇用する社員数が40人の会社は、

40人×2.5%(障害者雇用率)=1人以上(小数点以下の端数が発生する場合、切り捨て)

の障害者を常時雇用する義務があります。

また、常時雇用する社員数が40人以上の会社は、毎年6月1日時点での障害者の雇用状況を所轄ハローワークに報告する義務があります。その際、自社の障害者雇用率が法定基準を下回っていると、

ハローワークから行政指導(障害者の雇入れ計画の作成命令、実施勧告、特別指導)が入り、指導に従わない場合、厚生労働省ウェブサイトで「会社名を公表」される

というペナルティーが課せられることがあるので注意が必要です。

2)一部の業種に適用される「除外率制度」とは?(2025年4月法令改正あり)

どの会社も基本的には、1)のルールに基づき自社が雇用すべき障害者の人数を算定しますが、実は法令上、一般的に障害者の就業が困難なため、1)のルールをそのまま適用することになじまないとされている業種があります。こうした業種については「除外率制度」といって

「常時雇用する社員数」を計算する際、業種ごとに設定される「除外率」に相当する社員数を、算定対象から控除できる制度

が適用されます。

例えば、建設業は一般的に障害者の就業が困難とされる業種で、2025年3月までは除外率が「20%」に設定されています。仮に常時雇用する社員を200人とした場合、

200人×20%(除外率)=40人(小数点以下の端数が発生する場合、切り捨て)

を算定対象から控除できます。すると、通常の会社と建設業とでは、雇用すべき障害者の人数が次のように変わってくるわけです

  • 通常の会社:200人×2.5%(障害者雇用率)=5人以上
  • 建設業:(200人-40人)×2.5%(障害者雇用率)=4人以上

もっとも、障害者雇用を促進する観点から、この除外率制度は2002年の法改正以降、段階的に廃止が進められています。直近では、

2025年4月から業種ごとの除外率が10%ずつ引き下げられます(例:建設業は「20%→10%」に引き下げ)。また、除外率が10%以下の業種は除外率制度の適用対象外

となります。

業種ごとの除外率の新旧対照表は次の通りです。なお、赤字の業種は2025年4月から追記されるものです。

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3)障害者の人数は雇用率算定上、何人としてカウントする?

障害者雇用率制度の対象となる障害者(常時雇用する社員)は、

  • 身体障害者:原則、身体障害者手帳の1~6級に該当する人
  • 知的障害者:知的障害者判定機関により知的障害があると判定された人
  • 精神障害者:精神障害者保健福祉手帳を所持する人

のいずれかです。そして、障害の内容や週の所定労働時間によって、「何人としてカウントするか」が決まります。

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4)「障害者雇用納付金制度」も併せて活用!

「障害者雇用納付金制度」とは、

  • 常時雇用する社員数が100人超:障害者雇用率が法定基準を下回ると「納付金」を納めるが、法定基準を上回ると「調整金」がもらえる
  • 常時雇用する社員数が100人以下:常時雇用する障害者が一定数を超えると「報奨金」がもらえる(「納付金」の支払いはない)

という制度です。「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構」が管轄しており、会社からの申告・申請に基づいて、納付・支給が行われます。

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この他、フリーランスで在宅勤務の障害者などに仕事を発注するともらえる「在宅就業者特例調整金」「在宅就業者特例報奨金」などもあります。詳細はこちらをご確認ください。

■高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者雇用納付金制度の概要」■

https://www.jeed.go.jp/disability/about_levy_grant_system.html

3 「障害者差別の禁止や合理的配慮の提供義務」とは

1)障害者差別の禁止

募集・採用、賃金、配置、昇進などの雇用に関するあらゆる局面で、

  • 障害者であることを理由に障害者を排除すること
  • 障害者に対してのみ不利な条件を設けること
  • 障害のない人を優先すること

など、「障害者だから」という理由だけで差別することは禁止されています。

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2)合理的配慮の提供義務

会社は障害の特性などに応じて、障害者が働く上で必要な配慮(合理的配慮)をしなければなりません。主に、

  • 募集・採用において、障害者にもそうでない人にも均等に機会を与える
  • 採用後、障害者が働く上で支障となる問題を改善し、能力を発揮しやすくする

という観点から配慮が求められます。ただし、会社にとって過重な負担を強いる配慮(職場内に階段昇降機やエレベーターを取り付けるなど)までは求められません。イメージは「今の会社が提供できる最大限の配慮をする」です。

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障害者の状態や職場の状況などによって求められる合理的配慮の内容は異なります。ですから、具体的にどのような対応をとるかについては、会社と障害者とでよく話し合って決定する必要があります。

3)苦情処理・紛争解決援助

会社は、前述した「障害者差別の禁止」「合理的配慮の提供義務」について、障害者から苦情を受けたときは、自主的に解決する努力をしなければなりません。もし、自主的な解決が難しい場合、

都道府県労働局長による助言・指導・勧告や調停制度の対象

となります。調停制度では、都道府県労働局に設けられた障害者雇用調停会議にて問題の解決を図ります。

以上(2025年3月更新)
(監修 弁護士 八幡優里)

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相続3つの入口~単純承認・限定承認・相続放棄~

1 借金を相続しないための選択肢

「相続=税金(相続税)」と考えられがちですが、実際は「相続財産をどのように引き継ぐのか(または引き継がないのか)」を決めることからスタートします。当然のことですが、

相続の対象には、現金や不動産などのプラスの財産(資産や権利など。以下「資産」)だけでなく、借金(保証人である場合も)などの負債も含まれる

ことになりますが、世間的に資産家とされる人でも、多額の借金を抱えている可能性があるわけです。オーナー会社の経営者であれば、会社名義の借入に経営者自身の個人保証が付いているケースも珍しくありません。仮に、

資産以上の借金などがあったら、あなたは相続と同時にその借金を背負う

ことになってしまいます。そのため、相続人(相続により資産・負債を引き継ぐ親族など)は、

  • 単純承認:相続財産のすべて(資産も負債もすべて)を受け継ぐ
  • 限定承認:負債は受け継いだ資産の範囲内で支払い、資産を超える負債は負担しない
  • 相続放棄:相続財産のすべてを受け継がない

の3つの対応から、いずれか1つを慎重に決めなければなりません。では、その選択をどのようにすればよいのか、そのポイントをご紹介します。

2 猶予はたったの“3カ月”

父や母が亡くなったとき、その財産や負債を相続するか否かを判断する機会が与えられています。具体的には、

自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に、相続を承認するか放棄するかを決定することができます。この3カ月の期間を「熟慮期間」

と呼びます。

仮に熟慮期間中に、相続財産が債務超過である(資産よりも負債のほうが大きくなる)ことが分かった場合、その相続を放棄すれば、父や母の資産を相続しない代わりに、負債を引き継ぐ義務もなくなります。逆に、引き継ぐべき負債があっても資産を相続したいという場合は、この熟慮期間中に相続放棄をしなければ、相続を承認したこととなり資産を相続することになります。

ちなみに、「自己のために相続の開始があったことを知った」とは、

  • 相続開始の原因たる事実が生じ
  • それによって自分が相続人になったことを知った

という意味で、相続財産の内容を知ったかどうかは関係ありません。ですから、親族が死亡したことによってご自身が相続人となったことを知った場合には、その遺産の内容が分からなくても、熟慮期間中に何もしなければ相続を承認したことになります。

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3 単純承認とは

単純承認とは、

相続人が被相続人(亡くなった人)の権利および義務の全てを受け継ぐこと

です。つまり、相続財産が債務超過になる場合、相続人は被相続人の負債を、自身の財産から弁済しなければならないことになります。単純承認は、

  • 法律上自動的に単純承認したとみなされる場合(法定単純承認)
  • 被相続人の意思表示による場合

に分けられます。実際は、ほとんどの単純承認が法定単純承認で、被相続人が意思表示をするケースはまずありません。例えば、次の場合には法定単純承認が生じた(相続人は単純承認をした)ものとみなされます。

  • 相続財産の全部または一部を処分した場合
  • 熟慮期間が経過した場合
  • 背信行為(債権者をだましたり、裏切る行為)があった場合

1)相続財産の全部または一部を処分した場合

限定承認や相続放棄をするか検討している期間(熟慮期間中)であっても、相続人が相続財産を処分した場合には、単純承認したものとみなされます。例えば、

  • 被相続人の預金を引き出して使用した場合
  • 相続財産に該当する家や土地を売却・取り壊した場合
  • 遺品を売却・廃棄した場合

などがそうです。なお、単純承認したものとみなされる処分行為は、

  • 相続人が相続開始の事実および自身が相続人であることを知った後に行ったもの
  • 被相続人の死亡が間近であると予測して行ったもの

です。もし、相続を知らず(死亡を予測せず)に処分してしまった場合で相続放棄をする場合には、財産を処分した時点で相続を知らなかったことなどを客観的に証明できなければなりません。

2)熟慮期間が経過した場合

相続人が限定承認や相続放棄をしないまま熟慮期間が経過したときは、単純承認したものとみなされます。

3)背信行為(債権者をだましたり、裏切る行為)があった場合

限定承認や相続放棄をした後でも、相続人が、相続財産の全部または一部を、

  • 債権者に見つからないように隠したり、こっそり使ったりした場合
  • 債権者をだます目的で、相続財産の目録に記載しなかった場合

には、単純承認したものとみなされます。

4)法定単純承認の取り消しはできない

もし、相続財産を処分したこと自体が、「間違っていた」「だまされた」ことを理由に取り消される場合でも、債権者の権利を保護するため、法定単純承認の効果を取り消すことはできないとするのが裁判所の立場です。

ですから、相続直後(相続財産の資産と負債のバランスが確定していない段階)に相続財産の処分は行わないほうがよいでしょう。もし、どうしても処分が必要な場合には、弁護士などの専門家に相談した上で行うようにしましょう。

4 限定承認とは

限定承認とは、

負債については、相続財産の中で資産の限度においてのみ弁済する責任を負う相続のこと

です。限定承認は、相続財産が債務超過になるかどうかが分からず、単純承認をするか相続放棄をするか決めかねる場合に有利な選択肢となります。限定承認をするには、熟慮期間内に、

  • 限定承認の申述書と相続財産の目録を作成し
  • 家庭裁判所に提出

して申し出ます。家庭裁判所が申し出を受理すれば、限定承認が成立します。また、限定承認は、相続人全員が共同で行わなければならず、一部の相続人だけではできません。

限定承認が認められると、まず、相続財産の中の資産から相続した債務の弁済を行い、その後、残った財産の清算手続き(処分や換金化など)を行います。もし残った資産があれば、その資産を相続人は引き継ぐことができます。

このように限定承認は、相続財産の清算手続きとなりますので、相続人は清算手続きが完了するまで、財産を得ることができないことに注意しなければなりません。

5 相続放棄とは

相続放棄とは、

相続人が被相続人(亡くなった人)の権利および義務のすべてを受け継がないこと

です。相続放棄は、相続財産が債務超過である場合によく行われます。例えば、父が会社の借入について連帯保証をしており、多額の連帯保証債務を承継してしまうケースです。それ以外には、亡くなった父や母と、生前から疎遠になっていたケースなどがあります。

相続放棄するには、熟慮期間内に

  • 相続放棄申述書を作成し、
  • 家庭裁判所に提出

して申し出ます。家庭裁判所が申し出を受理すれば、相続放棄が成立します。

相続放棄をした人は、その相続に関してはじめから相続人ではなかったものとみなされるため、もちろん、相続を放棄した人の子も相続(代襲相続)することができません。また、相続を放棄すると、他の相続人の相続分が増加することになります。

例えば、子3人が相続人である場合、子1人当たりの相続分は全体の3分の1ですが、1人が相続放棄をすると、相続分は全体の2分の1に増加します。前述した通り、相続放棄は相続財産が債務超過である場合が多いので、相続分の増加は、受け継ぐ債務負担が増えることにつながるため、事前に他の相続人への意思表示は明確にしておくようにしましょう。

6 相続放棄をしても、生命保険金と死亡退職金は受け取れる

相続放棄をした場合でも、

  • 生命保険金(受取人が相続人である場合)
  • 死亡退職金

は相続人固有の財産とみなされるため、受け取ることができます。ただし、相続放棄をすると、税法で認められている生命保険金の非課税(500万円×法定相続人の数)の適用を受けられない点には注意しましょう。

父や母に多額の負債がある場合には、生命保険契約を締結して一定額を受け取りつつ、一方で相続放棄をすることによって、負債の受け継ぎを免れることができます。

以上(2025年3月作成)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 福崎剛志)

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取引先との契約で欠かせない 「反社チェック」

1 サプライチェーン全体に求められるコンプライアンス遵守

今や毎日のように耳にする「コンプライアンス」。この言葉には、単に法令を守るだけでなく、社会的規範や企業倫理に従い、公正・公平に業務を行うという意味が込められています。そして、この言葉が市民権を得るようになった現在では、

自社だけでなく、取引先、取引先の取引先、さらにその先まで、サプライチェーン全体でコンプライアンスを遵守していくことが求められる

ようになりました。その一環として、特に、新規取引先との契約時に行われることが多いのが「反社チェック」です。

全ての都道府県で暴力団排除条例が施行されたのが2011年10月。時を経て、契約書に「反社会的勢力の排除に関する条項」を盛り込むことは、当然のこととなっています。しかし、

本当に取引を開始して問題がないのか、事前にきちんとチェックできているでしょうか?

取引開始後も、取引先の情報や契約情報に変更がないか定期的に確認することが大切です。最近は、効率的かつ誰がやっても同じ結果を導き出せる、

反社チェックに特化したツールやサービスもが登場

しています。こうしたツールなども活用して、業務効率化を図ってみてはいかがでしょうか?

2 反社チェックに便利なツールやサービス

反社チェックには、「新聞・雑誌・インターネットなどの記事検索」「業界団体への問い合わせ」「警察や暴力追放運動推進センターへの相談」「調査会社や興信所への依頼」など、相当な手間や費用がかかるため、

  • 契約書に「反社会的勢力の排除に関する条項」が盛り込んであるから大丈夫なはずだ
  • 「反社会的勢力でないことに関する表明・確約書」も取りつけているから安心だ

という判断をしている会社も少なくありませんが、これでは十分とは言い切れません。「反社会的勢力の排除に関する条項」がある場合、取引先が反社会的勢力と関係していたことが発覚した際には契約が解除できるものの、あくまで事後対応となるからです。

取引が始まる前にできる限りリスクを排除する意味で、反社チェックをしておくに越したことはありません。

反社チェックに特化したツールやサービスは、簡単に言うと「新聞・雑誌・インターネットなどの記事検索」「登記情報の確認」を自動化したもので、チェックしたい取引先の会社名や代表者、役員などの氏名を入力すると結果が出てきます。

また、これらのツールでは、反社会的勢力との関係だけではなく、逮捕報道の有無や過去の破産情報、行政処分の有無などが判明することもあり、取引の開始を検討する情報となります。

例えば、次のようなツールやサービスがあります。導入を検討する際は料金(従量課金制、月額定額制の違い)や情報量を確認した上で、自社に合ったツールなどを選ぶとよいでしょう。無料で試すことができるものもあります。

■Sansan「リスクチェック」■
https://jp.sansan.com/function/compliance/
■ソーシャルワイヤー「RISK EYES」■
https://www.riskeyes.jp/
■オープン「RoboRoboコンプライアンスチェック」■
https://roborobo.co.jp/lp/risk-check/
■KYCコンサルティング「Risk Analyze」■
https://riskanalyze.jp/
■エス・ピー・ネットワーク「SP RISK SEARCHR」■
https://info.sp-network.co.jp/service/anti-social/sp-risk-search
■ジー・サーチ「Gチェッカー」■
https://db.g-search.or.jp/compliance/gchecker/
■日本経済新聞社「日経リスク&コンプライアンス」■
https://nkbb.nikkei.co.jp/rc/
■東京商工リサーチ「ネガティブ情報チェックオンラインサービス」■
https://www.tsr-net.co.jp/service/detail/negative-check.html

3 コンプライアンス違反で、最悪の場合、会社の倒産も

例えば、九州地方のある設備工事会社は、社長が付き合いで会食を重ねていた相手が暴力団関係者だったことが発覚。その後、行政処分(排除措置、社名の公表)を受け、それから、わずか2週間足らずで倒産してしまいました。

指名停止で公共工事の受注ができなくなるだけでなく、対外的な信用が失墜し、手形が不渡りとなり、銀行が同社の口座を凍結したという真偽不明の情報が流れるなどしたそうです。また、同社の社員は、突然仕事を失い、再就職しようにも「反社会的勢力と関係のあった会社に所属していた」ということで、辛酸をなめることになったそうです。

その他、経営コンサルタントと称して、会社の資金を吸い上げられ、破綻してしまうといったこともあります。こうした事態に陥らないようにするためにも、反社チェックは重要です。

4 参考

行政機関や業界団体などが会社のネガティブ情報を公表しています(反社会的勢力との関係に限りません)。無料の範囲で反社チェックを行う際に、参考にしてください。

■国土交通省「ネガティブ情報等検索サイト」■
https://www.mlit.go.jp/nega-inf/
■金融庁「行政処分事例集」■
https://www.fsa.go.jp/status/s_jirei/kouhyou.html
■金融庁「課徴金納付命令等一覧」■
https://www.fsa.go.jp/policy/kachoukin/05.html
■産業廃棄物処理事業振興財団「産業廃棄物処理業・処理施設 許可取消処分情報」■
https://www2.sanpainet.or.jp/shobun/
■日本貸金業協会「ヤミ金(悪質業者)の実例検索」■
https://www.j-fsa.or.jp/personal/bad_contractor/search/
■安全衛生優良企業マーク推進機構「優ジロウ ホワイト・ブラック企業検索」■
https://shem.or.jp/yujiro_serch

以上(2025年3月作成)
(監修 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

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【朝礼】指輪物語に学べ! 「小さな勇気の声」に耳を傾けよう

【ポイント】

  • 指輪物語の主人公フロドは、小さく非力な種族でありながら、勇気を示した
  • 部下の中にも、経験が少ないなりに何かにチャレンジをしようとしている人がいる
  • 一見頼りなさそうでも、チャレンジする部下の言葉に耳を傾ける管理職であってほしい

今日は、管理職の皆さんに集まっていただきました。私は時折、皆さんから「部下があまり主張をせず、物足りない」という声を聞きます。確かにおとなしい若手は多いですが、一方で、部下が主張をしているのに、皆さんがそれを聞き逃しているというケースもあるかもしれません。今日はそんなテーマで、J.R.R.トールキン氏のファンタジー小説「指輪物語」の話をしたいと思います。

指輪物語は、人間、エルフ、ドワーフなど、さまざまな種族が暮らす「中つ国(なかつくに)」を舞台に、巨悪サウロンの指輪を手にした主人公フロドが、その指輪を破壊するため旅をする物語です。この話には武器や魔法の使い手が多く登場しますが、フロドはホビットという平和を愛する種族で、背丈も人間の子どもぐらいしかありません。しかし、そんな彼が実は誰よりも勇敢なのです。

私が好きなのが、故郷を旅立ったフロドがエルフの暮らす「裂け谷(さけだに)」にたどり着き、指輪の今後を話し合う会議に出席するシーンです。会議にはさまざまな種族が集まり、指輪を「滅びの山」と呼ばれる火山の中に投げ込めば、サウロンを滅ぼせることが明らかになります。しかし、滅びの山はサウロンの軍の本拠地にあり、誰がそこに指輪を持っていくかという話になると、皆が黙ってしまいます。それでも、誰かがやらなければならない。そこで、フロドはこう言うのです。

「わたしが指輪を持って行きます。でも、わたしは道を知りませんが……」(*)

小さく非力なホビットの、自信なさげで頼りない言葉です。しかし、これを聞いたさまざまな種族がフロドの勇気に感銘を受け、彼を含む9人により、指輪を運ぶ「旅の仲間」が結成されるのです。

管理職の皆さん、経験豊富な皆さんからすると、部下の言葉は自信なさげで頼りないものに聞こえるかもしれません。ですが、そんなときこそ、部下の話を聞くようにしてください。もしかしたら、彼らは経験が少ないなりに勇気を出して、何かにチャレンジしようとしているのかもしれません。部下から聞こえてくる「小さな勇気の声」に、注意深く耳を傾けてください。

【参考文献】(*)「新版 指輪物語〈2〉/旅の仲間〈下〉」(J.R.R.トールキン(著)、瀬田貞二(翻訳)、田中明子(翻訳)、評論社、1992年5月)

以上(2025年3月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

【規程・文例集】「役員退職慰労金規程」のひな型

1 役員退職慰労金とは

役員退職慰労金とは、勇退した役員の在任中の功労に報いることを目的に支給される退職金です。役員退職慰労金を支給するためには、定款に定めるか、株主総会の決議が必要です(会社法第361条の「報酬等」に含まれます)。

ただし、実務上、定款で役員退職慰労金の具体的な金額を明示することはほとんどなく、株主総会において「取締役会に一任する」旨の決議がなされます。その上で、内規や取締役会で承認された「役員退職慰労金規程」に基づいて役員退職慰労金の金額が決められることが一般的です。

2 役員退職慰労金規程のひな型

以下で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【役員退職慰労金規程のひな型】

第1条(目的)

本規程は、当社の取締役または監査役(以下「役員」という)が退任した場合に、当該役員またはその遺族に対して退職慰労金を支給し、役員在任期間中の功労に報いることを目的とする。

第2条(適用範囲等)

1)本規程は役員の全員に適用する。

2)本規程に定める退任の時期は以下の通りとする。

  1. 任期が満了したとき
  2. 定時または臨時株主総会で解任されたとき
  3. 取締役会で辞任が承認されたとき
  4. 会社法第331条第1項または定款に定める欠格事由に該当し資格を喪失したとき
  5. 死亡したとき

第3条(非常勤役員の取り扱い)

非常勤役員については、その功労実績に基づき本規程以外の取り扱いをすることができる。

第4条(支給算定基準)

退職慰労金の支給算定基準は、退任時の最終報酬月額に役員在任期間(年数)および役位別功績倍率を乗じて得られた額の累計額とする。ただし、この額に1000円未満の端数が生じたときは1000円に切り上げるものとする。

退職慰労金の支給額=退任時の最終報酬月額×役員在任期間(年数)×役位別功績倍率

第5条(在任期間の計算)

1)在任期間は就任の日から起算し、退任の日までとする。

2)在任期間の計算において1年未満は月割り計算とする。

3)在任期間の計算において1カ月未満の端数は1カ月とする。

第6条(役位別功績倍率)

第4条における役位別功績倍率は以下の通りとする。

  • 会長:○
  • 社長:○
  • 副社長:〇
  • 専務取締役:○
  • 常務取締役:○
  • 取締役:○
  • 監査役:○

第7条(特別功労金)

1)在任中、特に功労のあった役員に対しては、退職慰労金の他に、その支給額の○%の範囲において、特別功労金を支給することがある。

2)特別功労金の支給は、取締役会において決定する。

第8条(特別減額・不支給)

役員が次の各号に該当する場合は、退職慰労金を減額し、または支給しないことができる。

  1. 在任中または退職に当たり、所定の手続きおよび事務処理等をせず、会社の業務運営に重大な支障を来したと取締役会が認めたとき。
  2. 在任中または退職に当たり、会社の社会的信用を傷つけ、または在職中に知り得た機密を漏らして会社に損害を与えたと取締役会が認めたとき。
  3. 定款に基づき、役員を解任されたとき。
  4. その他会社に重大な損害を与える等の事由により、取締役会が減額または不支給が適当と認めたとき。

第9条(使用人兼務役員の取り扱い)

役員が従業員を兼務している場合、この者に対して支給する役員の退職慰労金には、従業員としての退職金は含まないものとする。

第10条(支給時期)

退職慰労金は、役員が業務の引き継ぎを完全に終了させ、かつ、会社に対して返済すべき債務があるときは、その債務を返済した日から○カ月以内に一時金として支給する。

第11条(退職慰労金の支給一時差し止めおよび返納)

役員が次の各号に該当する場合は、退職慰労金の支給を一時差し止め、および支給した退職慰労金を返納させることができる。

  1. 退職慰労金の支給前に公訴を提起された場合。
  2. 在任期間中の業務に関し禁錮以上の刑に処せられたとき。

第12条(遺族の範囲)

1)役員が死亡したときは、退職慰労金はその遺族に支給する。

2)前項に規定する遺族は、配偶者を第1順位とし、配偶者がいない場合には、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順位とする。該当者が複数いる場合は、全員から委任を受けた代表者に対して支給する。

第13条(相談役・顧問)

本規程は、退職した役員を相談役・顧問として任用し、相当額の報酬を支給することを妨げるものではない。

第14条(改廃)

本規程の改廃は、取締役会決議において行うものとする。

附則

本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2025年2月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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