【債権回収】担保権の実行など訴訟ではない方法で債権を回収する

1 訴訟によらない債権回収

債権回収の1つの分かれ目は法的手段を取るか否かですが、この判断をする際は、

スピード回収、コスト、回収可能性

の3つを考慮してください。訴訟には時間とコストがかかりますが、通常、時間がたつほど債権回収は難しくなります。また、取引先に資産がなければ、コストをかけたわりに多くを回収できません。

このような場合は、訴訟によらない債権回収を検討することになります。具体的には、担保権の実行、仮差押えや仮処分のような民事保全などとなります。それぞれのメリットとデメリットを確認していきましょう。

自社の債権回収の方法

2 担保権の実行の概要

担保権とは、

債権者が債務者に対して有する債権を担保するために、債務者または第三者の財産に対して、その財産から強制的に弁済を受けることができる権利

です。取引先が約束通りに支払わない場合、契約で担保権の設定を受けているときは、それを実行して債権回収をします。メリットは次の通りです。

  • 確定判決などの「債務名義」が不要である
  • 強制執行に比べて迅速かつ低コストで行うことができる
  • 倒産手続においても優先されるものがある
  • 法律上当然に発生するものがある

担保権には、契約締結によって成立する担保権(約定担保権)だけではなく、法律上当然に発生する担保権(法定担保権)があります。そのため、契約で担保権を設定していなくても成立している可能性があります。

また、担保権の実行には債務名義が不要です。債務名義とは、簡単に言うと、

強制執行をする根拠となる文書であり、債権債務の存在を公に認めるもの

です。そのため、訴訟や支払督促などの手続を経ることなく、低コストかつスピーディーに債権回収を行うことができます。

ただし、約定担保権を実行するには、事前に取引先と契約を交わしておく必要があります。また、法定担保権については、知らないと見逃してしまう恐れがあるため、日ごろの債権管理で確認しなければなりません。

3 担保権の実行の流れ

1)抵当権・根抵当権を実行

不動産は財産の中でも安定性があり、登記制度による対抗力があるため、担保としてよく用いられています。不動産に設定されるのは、抵当権(根抵当権を含む)が多いです。取引先が支払いを遅延した場合、債権者は抵当権を実行して不動産を競売にかけ、その売却代金を債権に充当することができます。これを、担保不動産競売といいます。主な流れは次の通りです。

担保不動産競売の主な流れ

競売手続は順調に進んだとしても、申立てから配当までに半年以上かかります。また、物件にもよりますが、競売手続で売却される金額は市場価格の7~8割程度になることが多いとされています。そのため、直ちに競売を申し立てるのではなく、取引先に対して不動産の任意売却を促すことも検討しましょう。

この他、抵当権の実行方法として「担保不動産収益執行」があります。担保不動産収益執行とは、簡単に言うと、

当該不動産から生じる賃料などを債権者に配当すること

です。そのため、担保不動産収益執行は、目的となる不動産が賃貸物件で、毎月賃料収入があるような場合に限られます。

2)動産売買先取特権を実行

商品などの動産を売買した場合、当該動産の代金が未払いであれば、売却した動産の上に「動産売買先取特権」が成立します。これは、取引先と担保に関する契約を交わしていなくても発生する法定担保権です。

売却した動産が取引先の手元にある場合、動産競売の申立てができます。動産競売の申立ては、

裁判所の執行官が債務者の住居や占有する場所に立ち入って目的物を差押え、当該目的物を売却して、配当を行う

という流れになります。債権者は、売却代金から配当を受けて債権に充当することができます。

しかし、取引先が既に当該動産を第三者に転売していた場合、動産競売の申立てはできないのですが、第三者から取引先への支払いが未了であれば、取引先が第三者に対して有する転売代金債権を差し押さえて、債権を回収することが可能です。

3)留保所有権を実行

売買契約において、

売買代金が支払われるまでの間、目的物の所有権を売主のもとにとどめておく

という条件を付すことがあります(所有権留保)。この場合、取引先が代金の支払いを怠ったときは、債権者は所有権に基づいて売買目的物を取り戻し、売買代金に充当することができます。

ただし、取引先が倒産手続に入った場合、あらかじめ取引先から「占有改定」などの方法により、対抗要件を備えておく必要があります。占有改定とは、

民法が定める引渡し方法の一つであり、現実の所持は買主のまま、目的物の買主と売主の合意によって、売主が占有を取得する

というものです。

4)譲渡担保権を実行

取引先の商品や機械などの動産に譲渡担保権を設定している場合、裁判所を介することなく、実行手続を進めることができます。債権者は取引先に譲渡担保権を実行する旨を通知した上で、担保の目的となっている動産を引き揚げ、自ら換価して回収することもできます。

ただし、取引先に無断で倉庫に立ち入って商品や機械を引き揚げることは、建造物侵入や窃盗に該当するため、引き揚げに当たっては、取引先の同意を得る必要があります。また、担保権が実行される前に取引先が担保目的物を処分してしまう恐れがある場合、動産の処分禁止の仮処分を申し立てることも考えられます。

4 仮差押え・仮処分の概要と流れ

1)仮差押え・仮処分の概要

仮差押えと仮処分は「民事保全」と呼ばれます。まず、仮差押えとは、

売上債権などの金銭債権を保全するために、取引先の保有している財産を暫定的に差押える制度

です。仮差押えは金銭債権を対象としています。一方、仮処分とは、

仮差押えと異なり、取引先に対して有する金銭債権以外の権利を保全する制度

です。例えば、譲渡担保権を設定している取引先の物件が第三者に譲渡される恐れがある場合、それを阻止するために利用されます。

民事保全による債権回収には、次のようなメリットがあります。

  • 判決が出るまでの間、取引先の財産や自身の権利を保全することができる
  • 取引先にプレッシャーをかけて、任意の支払いを促すことができる

民事保全では、判決が出るまでの間、取引先の財産や行動に制限をかけることになります。そのため、

申立てをする債権者は担保金を供託

しなければなりません。担保金は、

一般的に被保全権利の2割から3割程度の金額となることが多い

ようです。また、担保金は、勝訴するまで供託したままですし、敗訴した場合は相手への損害賠償に充てられてしまう可能性もあります。

注意が必要なのは、仮差押えや仮処分には、

取引先が破産などの法的倒産手続を開始した場合は効力を失う

というデメリットがあることです。そのため、破産の恐れがある取引先に対して、費用をかけて民事保全手続を行うのは得策ではありません。取引先に資産があり、処分や隠匿の恐れがないようならば、仮差押えなどを申し立てず、訴訟を提起したほうがよいかもしれません。

2)仮差押え・仮処分の流れ

仮差押えの申立人は、

自らが取引先に対して有する売掛金請求権などの金銭債権(被保全権利)の存在と、判決を待っていたのでは強制執行をすることができなくなる恐れ(保全の必要性)を主張して、仮差押命令の申立て

を行います。裁判所は、申立人の主張と提出する証拠書類だけを見て、取引先の主張を聞かずに判断します。

仮差押えの対象となる財産に制限はないため、取引先が所有している不動産、動産、債権その他の財産に対して仮差押えを行うことができます。また、仮差押えの申立てに当たり、裁判所から担保金の供託を命じられたら、すぐに供託できるように事前に準備しておく必要があります。

仮処分の流れも仮差押えと同様です。やはり、裁判所から担保金の供託が命じられますので、事前に担保金を準備しておかなければなりません。

5 保証人からの回収の概要と流れ

1)保証人からの回収の概要

保証人からの回収とは、

取引先との契約において、代表取締役その他第三者との間で保証契約を交わしている場合、保証人から債権を回収すること

です。

保証には、普通保証(単純保証)、連帯保証、根保証などがあり、それぞれ保証人の権利や負担する義務が異なります。また、いずれも保証人との間であらかじめ保証契約を交わす必要があります。資力のある保証人と保証契約を交わしておくことで、取引先に代わって債権回収ができます。

なお、保証人が個人である場合、事業性のある貸金等債務を保証するときは、公正証書を作成する必要があります。また、保証契約締結前に、公正証書により保証債務を履行する意思を確認しなければ、保証契約は無効です。なお、この公正証書は、契約締結の日前1か月以内に作成する必要があります。

ただし、次の者が保証をするときは、公正証書を作成する必要はありません。

  • 主債務者が法人である場合の理事、取締役、執行役等
  • 主債務者が法人である場合の総株主の議決権の過半数を有する者等
  • 主債務者が個人である場合の共同事業者又は主債務者が行う事業に現に従事している主債務者の配偶者

2)保証人からの回収の流れ

まずは保証人に対して、請求書を内容証明郵便等で送付します。これに対して、保証人が任意に支払いに応じない場合は、取引先に対する債権回収と同様に、訴訟や民事保全などの法的手続を検討することになります。

以上(2026年9月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田賢生)

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画像:Mariko Mitsuda

【人事はつらいよ】社員が2週間の無断欠勤……音信不通なのに解雇不可ってどういうこと?

1 2週間以上も無断欠勤しているのに解雇できないの?

A社の社長は悩んでいます。これまで真面目に働いてくれていた社員のBさんが、ここ数日、無断欠勤をしているのです。電話をしても応答がなく、自宅にも行ってみましたが留守でした。遠方に住んでいるBさんの家族にも連絡しましたが、誰も行方を知りません……。

2週間たっても連絡が取れず、限界と判断した社長は、就業規則にのっとってBさんを解雇することに決め、解雇通知書(解雇する旨を社員に通知する書類)を作成しました。ですが、ここで問題が……。Bさんの行方が分からないので解雇通知書を本人に届けられません。そこで、社長はBさんの家族を頼ることにしました。

「申し訳ありませんが、Bさん本人と連絡が取れないため、この解雇通知書をご家族にお預けします。もしもBさんから連絡がありましたら、本人にお渡しください」

Bさんの家族に何とか了承してもらい、これで一段落かと思われましたが、しばらくしてA社に一本の電話が入りました。電話の主は、Bさんの代理人を名乗る弁護士。どうやら家族の前に現れたBさんが、解雇通知書を渡されて憤慨し、弁護士に相談したようです。弁護士が言うには、「Bさんの家族に解雇通知書を預けても、Bさん本人に通知したことにはならない。だから解雇は無効だ」とのこと。社長は釈然としません。

「Bさんと連絡が取れないから家族に頼んだのに、『本人に通知しなければ解雇できない』とはどういうことだ? 本人と連絡が取れるまでずっと待っていないといけないのか?」

2 「客観的合理性」と「社会的相当性」がカギ

労働契約法により、会社が社員を解雇する(労働契約を一方的に解消する)には、

1.客観的に見て解雇はやむを得ないといえるだけの理由がある(客観的合理性)

2.社員の行為に照らして、解雇を選択することが適当であるといえる(社会的相当性)

の2つの要件を満たさなければなりません。過去の裁判例(東京地裁平成12年10月27日判決)では、このルールを無断欠勤に当てはめた上で、

事前の届けがなかった等の諸般の事情を考慮した上で、2週間にわたる欠勤は、正当な理由のある欠勤であったと認めることはできない

という判断がされており、多くの会社がこれにならって就業規則などを整備しています。ただ、実際は無断欠勤が2週間以上続いていても、解雇が無効になるケースがあります。例えば、会社が社員に精神疾患があるとの疑いをもっていたのに、精神科医による健康診断を実施して、その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応をとることなく解雇した場合などがそうです(最高裁第二小法廷平成24年4月27日判決)。

また、

解雇予告や解雇予告手当の支払いなど、解雇の手続にも注意

が必要です。労働基準法には、社員を解雇する場合、少なくとも解雇する日の30日前に解雇予告をする必要があり、30日を待たずに解雇する場合、短縮する日数分の解雇予告手当を支払わなければならないというルールがあります(ただし、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合、社員の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合を除く)。

解雇予告期間と解雇予告手当の関係

難しいのは、

解雇予告や解雇予告手当の支払いは、原則として社員本人に通知しなければ、効力を生じない

ことです。無断欠勤の場合、欠勤開始から2週間が経過した後に解雇予告などを行うため、

  • 解雇予告手当を支払わなければ、欠勤開始から44日(2週間+30日)後
  • 解雇予告手当を支払えば、最短で欠勤開始から14日(2週間)後

に解雇が成立することになります。しかし、解雇を成立させるには、社員を解雇するという会社の意思表示を、書面などで社員本人に到達させなければなりません。

冒頭の事例では、A社の社長が、Bさん本人と連絡がつかないという理由で、遠方に住んでいるBさんの家族に解雇通知書を預けていますが、解雇を成立させる前提として、社員本人が家族と同居していることが明らかであることなどが必要になります。

実際は解雇予告・解雇予告手当がない解雇であっても、客観的に合理的理由があり、社会的相当性が認められる解雇であれば、社員本人に書面が到達していなくても、解雇自体は有効と判断されるケースが多いです。ただ、解雇をめぐってトラブルになった際のリスクを減らすためにも、上記のルールは覚えておきましょう。

3 連絡が取れなければ、公示送達や内容証明郵便を使おう

では、社員本人と連絡が取れるまで解雇は一切認められないのかというと、そうではありません。こうした場合の対策として、

公示送達や内容証明郵便を使って解雇を通知する

という方法があります。

公示送達は、相手の所在が不明で意思表示が到達しない場合、簡易裁判所に意思表示の公示送達の申立てを行って裁判所の掲示板に掲示し、その旨を官報などに掲載すれば、意思表示が相手に到達したとみなされる制度です。社員を解雇する場合の公示送達の流れは次の通りです。

社員を解雇する場合の公示送達の流れ

内容証明郵便は、郵便を出した内容や発送日、相手が受け取った日付などを郵便局が証明するサービスです。無断欠勤が続く社員の自宅に解雇通知書などを内容証明郵便で送れば、社員が受け取った時点で、社員を解雇するという会社の意思表示が到達したとみなされます。なお、過去の判例には、

内容証明郵便が本人不在で届かず、留置期間の経過により戻ってきたとしても、不在配達通知書の記載等から通知の内容が十分推知できたり(内容の推知可能性)、受領しようとすれば内容証明郵便を受領できたり(郵便物の受領可能性)する場合、遅くとも留置期間の満了時点で意思表示が到達したと認められる

としたものがあります(最高裁第一小法廷平成10年6月11日判決)。とはいえ、それなりに条件が厳しいので、状況にもよりますが、自宅訪問、電話、ショートメール、SNS、住民票調査(弁護士に依頼)など、可能な限り連絡を試みるのがよいでしょう。

4 無断欠勤の理由によっては解雇が無効になることもある

社員側に無断欠勤が続いてもやむを得ない正当な理由がある場合、解雇の手続が適正に行われていても無効になることがあります。具体的には、

  • 傷病にかかっている、逮捕されているなどの理由で、欠勤の連絡ができない
  • 社内でハラスメントなどの被害を受けていて、出勤が苦痛になっている

といったケースです。

社員の事情を正確に推し量るのは難しいですが、社員の同僚や上司、家族などに「最近、変わったことがなかったか」をヒアリングするなどして、可能な限り情報を収集するようにしましょう。仮に、社員が上のようなケースに該当する可能性が高い場合、解雇通知を出さずに休職制度を適用するなどして様子を見ます。

また、公示送達などを使って解雇を通知した後で、音信不通になっていた社員と連絡が取れるようになった場合、無断欠勤の理由を確認し、その理由によっては解雇の撤回を検討します。会社が解雇の意思表示を一方的に取り消すことはできませんが、社員が同意した場合については撤回が認められています。

解雇はトラブルが起きやすい分野です。特に無断欠勤の場合、社員とコミュニケーションが取れない関係で一層トラブルのリスクが高まりますが、「会社としてやるべきことはやった」と言えるよう、手続のポイントを押さえておきましょう。

以上(2026年10月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)

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画像:metamorworks-shutterstock

【経営者アンケート】社員から「それ、ハラスメントです」と言われたことはある?

社員から「社長、ハラスメントです!」と指摘を受けたことはありますか。正直、「そんなことでハラスメントだなんて大げさな……」と違和感を覚えることも多いかもしれません。ことを荒立てたくないとの思いから、ハラスメント問題を放置してしまうケースも多いと聞きます。

はたして、他の社長はどう考えているのか、277人の経営者にアンケートを実施したところ、赤裸々な実態が明らかになりました(実施期間は2026年8月12日から8月18日まで)。

ハラスメントについて皆さんはどのように感じていますか? 是非、結果をご確認ください。

1 その指摘は「言いがかり」?

「社員から経営者自身の言動についてハラスメントを指摘されたことがあるか」を聞いたところ、48人の経営者が「ある」と回答。ハラスメントについて社員から指摘を受けたときの正直な本音を聞きました。

指摘を受けたとき、正直なところどう感じることが多かったですか?(n=48、複数回答)

「大げさ」「言いがかり」と感じた人が計89.6%に上りました。経営者の多くが、「ハラスメントだ」という指摘を額面通りには受け止めていないようです。

2 やはり対策は話し合いが最多!

さらに、指摘を受けたときの対応について聞きました。

指摘に対して、実際にどう対応しましたか?(n=48、複数回答)

最も多かったのは「話し合いの場を設けた」で、「大げさ」と感じつつも一方的に切り捨てず、対話で解決しようとする経営者が多いようです。一方、次のような理由から「特に何もしなかった(聞き流した)」と回答した経営者も22.9%いました。

相談や行動を起こさなかった理由を教えてください(n=11、複数回答)

「ことを荒立てないためには、沈黙しているほうがよいと思ったから」が72.7%に上ります。中小企業は社員数の関係上、会社側の対応次第ではハラスメントの問題が、当事者が誰かなども含めて社内に知れわたってしまうリスクもあるため、経営者も行動を起こしにくいのかもしれません。

3 経営者だってパフォーマンスは落ちる……

ハラスメントの指摘が、自身の仕事の効率(パフォーマンス)に及ぼした影響について聞きました。

指摘を受けた経験は、ご自身の仕事の効率(パフォーマンス)に悪影響を及ぼしましたか?(n=48)

効率(パフォーマンス)の低下を経験した人は計58.3%に上ります。指摘された内容が本当にハラスメントかどうかはともかく、指摘されたこと自体が日々の業務に少なからぬ影響を与えているようです。

ハラスメントは、違法なのかどうなのかの判断が難しい、いわゆる「グレーゾーンの問題」があり、その後の対応も簡単ではありません。大切なのは、法的な知識の習得はもちろん、現場で使える実践力を高めることです。

以上(2026年10月作成)

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画像:日本情報マート

「経営者より先に一歩を踏み出し、道をひらき、そして一緒に登る」―社名を「株式会社みちひらき」へ。“やりたい”を止めない世界にする

Kalep,中小企業事例集は、読者の皆さまの経営にお役立ていただけるような中小企業、ベンチャー企業の事例をご紹介するシリーズです。経営者へのインタビューを通して、AIに聞いても分からない企業の取り組みや、人物の魅力に迫っていきます。

今回は、2026年10月1日に社名を「株式会社みちひらき」(旧 株式会社おしごとマーケティング)に新しく変更された、代表の齋藤 正秋(さいとう まさあき)さんにお話を伺いました。

新しい社名に込めた思いと、そこにつながるこれまでの歩み。例えば、大学生時代からすでに今の取り組みの原点となるような「就活生に情報提供していた」お話、そして採用・教育研修会社の起業、日本初・民間の託児所付きコールセンターの立ち上げ、オンライン商談システム「meet in(ミートイン)」の経営など。

数々の事業を実現し、推進されてきた齋藤さん。今回、普段はほとんど語ることのない、これまでの歩みからお話していただきました。過去からつながって今、社名が変わることで、ご自身のやりたいこと、未来に向けてやるべきことがより明確になったといいます。痺れるような泥臭いお話もありました!

1 なぜ今、社名を変えるのか

――最初に、これまでの「おしごとマーケティング」という社名に込めていた思いを教えてください。

「おしごとマーケティング」を登記したのは2017年10月2日です。いわゆる「HR(Human Resources(ヒューマン リソーシーズ))」の領域で、採用の支援や新人・マネージャー研修などを行なっていました。社名には、

人が成長し、活躍できる場(仕事)をマーケティングし続けたい

という思いを込めていました。

しかし、社名に「マーケティング」というワードが入っていると、名刺交換をする度に「Webマーケティングの会社ですか?」と勘違いされます。また、AIで検索してみると「人材紹介・派遣会社」としてヒットしてしまいます。

「webマーケティングの会社ではない」と言っても伝わらない。「いわゆる人材紹介系ではありません」と説明を始めると、それだけで自己紹介が終わってしまう。

こうした状況でしたので、2023年に前職を離れてからおよそ3年がたった今、現在やっていることに社名を合わせようと決めました。それが「株式会社みちひらき」です。

株式会社みちひらき 代表 齋藤 正秋さん

2 「みちひらき」の由来と、ロゴマークに込めた思い

――「株式会社みちひらき」という社名は、どのように決まったのでしょうか?

本当に悩みました。横文字ではなく日本語がいい。漢字よりも、日本特有で自由自在のひらがながいい。こうした字面についてはもちろんのこと、それ以上に自分のやっていることを一言で表すと何なのか、について深く考えました。

元来、私は「人の役に立ちたい(認められたい)」という思いが強いです。それに、「自ら動き」勝手に領域を広げていってしまう性格です。新卒で採用支援の仕事をしていたときも、単に求人広告を売るだけではなく、広告の書き方のコツを教えたり、採用した人が辞めないように採用後の研修をしたりしました。頼まれていないのに、その会社の事業拡大に役立ちそうな人を紹介したりもしました。

ここで再認識したのは、

採用しただけではだめで、その後、活躍しないと意味がない。もちろん、会社も成長しなければならない。一つの断面だけではなく、物事の本質にアプローチし、伴走し、一緒に事業を推進していく。これが私のしてきたことだ!

ということです。例えるなら、険しいジャングルに先頭で分け入り、「成長のヒント」を見つけ、仕掛ける存在です。これだと思いました。

まず動いて道をひらく。それなら「みちひらき」だと。

そして、「ひらく」は、次のように連なっていきます。

会社の未来をひらく

社員の心をひらく

お客様の心もひらく

株式会社みちひらきのホームページ

(出所:株式会社みちひらきのホームページより抜粋)

――確かに、齋藤さんと一緒に仕事をして、道がひらけていく感覚を覚えます。「また改めて会議しましょう」ではなく、「週に1度ミーティングをしましょう」「営業先として、△△さんに声をかけましょう」「金額は○万円にしましょう」と、一つひとつが非常に明確で具体的です。しかも、答えを与えるのではなく、相手の中に入っていかれますよね。

そうです。例えて表現すると、

相手の中に具体的な火種をつくる。そして、その火を消さない。

ということだと思います。

――ロゴマークにはどのような意味があるのでしょうか?

ロゴは記号ではなく、ひとつの情景というイメージで作りました。

経営者の前にあるのは、閉じた扉というより、その先が見えていない状態です。やりたいことはある。けれど、そこへ至る道がまだない。山やジャングルと同じで、はじめから道なんてありません。

ロゴで表現している情景は、扉がひらいて、奥に光が見えて、足元からその光へ道が伸びていく。光と、まだ誰も歩いていない場所。これから道を切り拓いていく。道はまっすぐではなくうねりながら、足元から奥の光へ向かって伸びていきます。

歩いた分だけ、そこが道になる。

そうした思いを込めています。

株式会社みちひらきのロゴマーク

(出所:齋藤さんよりご提供)

3 「とにかく真剣に勉強した」大学デビュー

――ここからは、齋藤さんのこれまでの歩みを振り返っていきたいと思います。どのような学生時代を過ごしたのですか?

過去のことを人に話す機会はあまりないのですが、改めて振り返ってみると、全部が「今」につながっている、と分かるかもしれませんね。

大学受験はうまくいかなかったのです。模試では合格圏だった志望校に落ちてしまい、何とか「滑り止めの滑り止め」に合格しました。

そのころ、高校時代の友人が病気で亡くなったという知らせが届きました。人生で初めてお葬式に参列し、とても衝撃を受けました。

それまでの私はのらりくらりとなんとなく生きていましたが、友人のことがあり、

これではダメだ、頑張らないといけないと思ったのです。

そこからは「大学デビュー」で、真剣に勉学に励みました。

第二外国語は、他の学生が英語やフランス語、中国語を選ぶ中、当時、誰も選ばなかったハングルを選びました。学年トップになって先生に褒められたりして、「勉強って面白いな」と初めて思いました。そうして、大学2年生の時には卒業に必要な単位を取得し終えていました。

――就職活動はいかがでしたか?

就職氷河期だったこともあり、大学3年生から活動を始めました。景気に左右されない業界、ビジネスは何かと考えた結果、製薬メーカーを目指しました。誰もが知る外資系製薬会社から無事に内定をいただくことができたのですが、内定式に行くと有名大学卒の人ばかりです。内定者と会話をした瞬間「ここではない」と感じました。もっとがむしゃらに成長できる場に身を置かなければと思って内定を辞退しました。せっかくいただいた内定を断った私に、父がこう言ってくれたのを覚えています。

「自分の好きな道を選べばいい。やりたいことをやりなさい。」

ところで、私は内定を7社ほどいただいていたこともあり、就職できずに悩んでいる友人知人に、「内定をもらうコツ」をアドバイスしていました。そのときの友人知人の中には、某航空会社のキャビンアテンダントになった人や、倍率の非常に高い有名企業に入社した人もいました。

――すごいですね。どのようなアドバイスをされていたのですか?

例えば、自己紹介文を書くときは結論から書いて、その後に理由を書く。また、強みを書くときは、安易に「コミュニケーション能力」などとせず、自分のしてきたことをしっかり棚卸ししてみることです。そうすると、

アルバイトや部活、サークルの経験の中に、本人も気づいていない強みがあるものです。

例えば、野球部で補欠だった人にベンチで何をしていたかを聞くと、メンバーがいつでも活躍できるように掃除や準備をしていたりする。「レギュラーじゃなかったから強みではない」と考えがちですが、実は縁の下の力持ちでチームを支える献身的な姿は会社に受けがいいものなのです。

こうした「内定をもらうコツ」をアドバイスしたりする取り組みが面白くなり、「人」にかかわる仕事や就職に携わる仕事をしようと決めました。そこで選んだのは、当時、インターネット上で「ブラック企業ランキング」の上位に入っていた採用支援のベンチャー企業です。

――なぜ、あえてブラック企業を選んだのですか?

高校までの私は、何かをやりきったことがありませんでした。初めてやりきったのが大学での勉学ですが、それでは過去の負債は返せないと考えました。

他の人に追いつくためには、厳しいところ(会社)に入らないといけないと思いました。

亡くなった高校時代の友人のことは、その後もずっと心の支えでした。楽なほうに逃げそうになると、そばにいて叱咤激励してくれているような気がして背筋が伸びる。就職して数年後、入社した会社でナンバー1になれたことを、その友人のご家族に報告しました。「本当に頑張れる心の支えになっています」とお伝えしまして、とても喜んでくださいました。本当に有り難いことです。

その友人のおかげで、本当に道がひらけたと思います。

インタビューに答える齋藤 正秋さん

4 トップ営業、24歳での起業、そしてリーマンショック

――入社したブラック企業では、どのように働かれたのですか?

入社してみると、有名大学卒業の人たちがたくさんいました。頭もよく運動もできる人たちばかりで、大学の偏差値では自分が一番下でした。

だからこそ、とにかく誰よりも働こうと。

「人が寝ているときほど頑張る」という気持ちで、ひたすら働きました。

営業でトップの実績も上げました。2年目で課長代理になりましたので、個人としてトップを取っただけでなく、5、6人のチームとしてもトップを取ることができました。

――そこから24歳で研修会社を起業されたのですよね。どのような経緯で起業されたのですか?

採用支援の会社では、3年間で100社ほどの採用を支援しました。すると、採用しても辞めていく人が多いことに気づきました。あれほど頑張って採用したにもかかわらず、採用したほとんどの人が辞めてしまう現実があります。

採用した人の入社後が気になって、「採用の先」を見たくなりました。

そこで、採用だけでなく、教育研修も手がける会社を先輩と立ち上げたのです。

――どのような教育研修だったのですか?

山にこもって2泊3日、睡眠時間をけずり、たくさん食べて、たくさん動く。体力も頭も限界まで追い込むという、今なら賛否両論のある研修です。しかし当時は、この研修を耐えた新人の離職率は低く、活躍してくれるとクライアントからは好評でした。「あの厳しい研修に比べたら、現場の仕事のほうがマシ」という声もあったほどです。

またそのとき、一つの大切な気づきを得ました。参加者から嫌われてしまう研修講師は、口で言うだけで自分は厳しい環境に身を置いていなかったのです。参加者からすると「あの講師は言うだけでいいから楽なものだ」ということです。

そこで、私は講師でありながら参加者と一緒に走る、食べる、睡眠時間も短く

を実践しました。そうすると参加者にこちらの本気度が伝わり、より真剣かつ前向きに研修メニューに取り組んでくれました。

小手先のテクニックではない。本当に「皆で成長しよう」という本気の気持ちが伝わることが大事なのだ、そう思いました。

――講師も走る、食べる、睡眠時間を削るというのはすごいですね。その後、リーマンショックが起きます。どのような状況でしたか?

当時は、都内にマンションを保有し、高級時計を何本も持ち、高級な車もバイクもある。メディアにも取り上げてもらって、自分を勝ち組だと完全に勘違いしていました。

ところがリーマンショックが襲ってきます。不動産や金融関係のクライアントが倒産したり、採用をやめてしまったり、8割程のクライアントがいなくなりました。マンションも車もバイクも全部売り払い、残ったのは数百万円の借金。ボロボロの六畳一間のアパートに引っ越しせざるを得ず、手取りも数万円で、食べるお金にも困るくらいになりました。

――かなりの変化ですね。その落差を、どう受け止めたのですか?

恥ずかしい話ですが、泣いていました。シャワーを浴びながら叫んでいました。どこに吐き出したらいいか分かりませんでした。

そこから、小さなIT企業に入れていただいて、テレアポ(テレフォンアポインター。電話で商談や訪問のアポイントを取る仕事)からやり直しました。そこで恩師との出会いがありました。年齢は2~3歳しか変わらないのですが、視座が高く、視野も広い。最初のころは、私が未熟すぎて全く会話になりませんでした。その恩師に、こう言われました。

「今持っているものは、全部切り離したほうがいい」

根本から叩き直してもらいました。天狗になっていた鼻を根元からポキッと折ってもらったのです。この経験は本当にかけがえのないもので、本当に感謝しています。

その後、その恩師が独立・起業することになりました。当然、恩師に着いていくつもりだったのですが、こう言われてしまいました。

「お前は来るな。お前は自分でできるから」

正直、寂しい気持ちがありました。しかし、今思えば、いろいろと考えてくれていたのだと思います。それで、もう一度起業することになりました。

5 「業界を変えたい」――採用から教育、定着まで

――再び、採用と教育の世界に戻って来られたのですね。

IT企業を辞めた後、元大手企業の人事責任者だった方と共同で会社を立ち上げました。そこから7年間、採用から教育研修までを手がけました。

再び人材業界に戻ってきたのは、人材業界を変えたかったからです。

この業界に携わる人の多くは、実は人事を知りません。人を採用したことも、育てたこともない人たちが、「こうしたほうがいいですよ」と提案したりしています。

しかも、人が辞めれば辞めるほど儲かるビジネスになっている。

この構図に痛烈な違和感を覚えていました。そこで、「この業界を変えたい!」という強い思いで7年間走り続けました。おかげさまでクライアントは増え、リピート率も高かったです。10人ほどの会社で、30~40社のクライアントを全力で支援しました。

しかし、業界は何一つ変わりませんでした。

そこに私は打ちひしがれていました。

6 病気の発覚と、ゼロからの新規事業立ち上げ

――そのようなときに、大きな転機が訪れたのですね。

はい。34歳のとき、結婚して子どもを授かりました。これからが大事と人間ドックを受けたところ病気が見つかりました。早期発見だったので手術をして根治したのですが、あのときは亡くなった高校時代の友人のことも思い出し、死を意識しました。

そのとき、

「今のままではダメだ」

と思い、共同経営していた会社の役員を退任して1人で「株式会社おしごとマーケティング」を立ち上げたのです。

――その後、すぐに別の会社に入られますね。

最初は1人社長として公私ともに充実した日々を過ごしていたのですが、半年ほど事業を進めていくうちに強烈な危機感が襲ってきました。「このままでは、ワガママになり価値のない存在になってしまうのではないか」と考えるようになりました。前述した恩師にそのことを相談すると、

「それ正解だよ」

と言われました。

それで武者修行に出ることを決意します。修行の行き先は、新卒で入った会社の同期が社長を務める営業支援の会社です。本気で上場を目指していて、これはとても修行になると思いました。

――そこで任されたのが、託児所付きのコールセンターですね。

はい。当時、社長は「社会的意義のある仕事をしたい」という私の思いをよく理解していて、「これは齋藤さんにしかできない」と、託児所付きのコールセンターを任せてくれたのです。

待機児童を抱えて働けない人たちが、働けるようにしたい。

そうした思いもありました。

場所は待機児童が多かった埼玉県さいたま市です。文字通り「ゼロからのスタート」はとにかく大変で、駅前のカフェで200人を面接したり、オープン前日に徹夜で椅子やテーブルを組み立てたりして、なんとかオープンに間に合わせました。

――すごい状況ですね。オープン後はいかがでしたか?

大盛況でした。ただ、100人ほどのお母さんたちが一気に集まると、子どものしつけ方も考え方が違う。派閥もできます。その間に挟まれての調整が人生最大級の困難でした。

――どのように乗り越えたのですか?

挨拶する、目を見て話す、感謝する。

こうした基本の行動ルールを決め、これが守れない人は辞めてもらいました。また、意外だったのですが、2~3割の人は目立って意見を言うわけではないのですが、この場所を良くしたいという強い気持ちを持っていることが分かりました。こうした人たちと一緒に再度組織を作り上げ、1年でなんとか安定させることができました。

インタビューに答える齋藤 正秋さん(2)

7 「日本初」「日本一」を生んだ取り組み

――そこから、オンライン商談システム「meet in(ミートイン)」の事業にもつながるわけですね。

はい。コールセンターが安定したので、そこをmeet inのマーケティングセンターにしました。お母さんたちが電話で月に200~300件の経営者のアポイントを取ってくれますので、そこにひたすら営業します。パソコンに不慣れな人でも使えるオンラインツールというのが、当時はまだ珍しかったのです。meet inの社長は、約6年ほど務めました。

――齋藤さんが手がけられた事業には、「日本初」「日本一」がいくつもありますよね。

有り難いことに、このmeet inは、実質的に日本最大級の規模でした。

託児所付きのコールセンターもそうです。民間で託児所付きのコールセンターを立ち上げて収益化したのは、日本で初めてだったと思います(他は補助金で運営されていて赤字と聞いています)。大手企業もよく視察に来てくれていました。

もう一つが、経営者交流会の「CXOサミット」です。コロナ禍でリアルな交流会が難しかった2022年ごろに、月に1回100~150名、年に1回500名規模、年間で2000名以上の経営者が集まる交流会になりました。

当時としては日本一の規模でした。

――しかもコロナ禍に。どのようにして、そこまで人を集めたのですか?

実は、クレーム解消のための苦肉の策でもありました。

当時は別事業部の責任者を兼任していたのですが、規模が大きい分、クレームも多く寄せられていました。そこで、クレームをくださったお客さまに「お食事にご招待します。その場でご縁をおつなぎしますので、ぜひ来てください」とお声がけをして、交流会を開催したのです。この交流会はかなり評判が良かったです。

さらに、パフォーマンスマネジメントシステム「コレドウ」の立ち上げです。パフォーマンスマネジメントという考え方自体が、日本ではまだあまり定着していません。このマネジメントシステムは日本初であり、今のところ日本一です。

8 「みちひらき」で目指すこと

――いよいよ「みちひらき」がスタートですね。何をやっていかれたいですか?

さまざまな経験を通じ、今、改めて実感していることは「やればできる」ということです。

世の中には、素晴らしいビジネスアイデアがありますし、改善するためのツールもある。それなのに、一歩を踏み出すきっかけがなくてストップしている。

私は、そうしたビジネスを止めたくない。誰かが動けないときに、代わりに動かしたいと思います。振り返ってみると、自分はそれを動かしてきた人生です。

ただし、一緒に進んでいくのは、志のある人や良いことをやろうとしている人です。「もっとお金を稼ぎたい」というだけの人、努力しない人には協力しないと決めています。

――ご自身を一言で表すと、どんな存在でしょうか?

経営者をお助けしたいと思っています。ただ、一人でやろうとは思っていません。ブランディングや企画、カスタマーサクセス、人事と、それぞれに信頼できる仲間がいます。チームですね。

何かあったら、困ったときの「お助け隊」。そうしたイメージです。

仲間を選ぶときに大事にしているのは、その人がどこを向いているかです。矢印がどこに向いているか。自分に矢印が向いていたり、自分が目立ったりすることではなく、相手のため、相手の組織がどうなるかに向いている人。自分に矢印が向いている人をよくないと思っているわけではありません。それはそれで考え方ですので。

ただ、目線が相手に向いている人と一緒に進めたいです。

――物事を判断するときに大切にしていることはありますか?

頭で考えるより、心で感じてから頭で考えます。

心は嘘をつかないからです。

頭で考えると、いろいろな理屈づけや理由づけをして、真実をねじ曲げてしまうことがあります。

「なにか引っかかる」「なにかが違う」という違和感は真実なので、それを大事にします。

――お忙しい中、どのようにインプットをされているのですか?

移動時間に、本やYouTubeです。

例えば、今、気になっているのは国際情勢です。世界の中に日本があって、日本の中に経済や政治があって、その中に私たちがいる。大元を見落としてはいけないと思っています。

9 「空を見て仕事がしたい」

――これまでのお話をお聞きしてきて、波乱万丈の人生、思いを共有していただいたと感じています。齋藤さんという人を形づくってきたものは何でしょうか?

おそらく両親です。母は専業主婦で、とても面倒見が良く、捨て猫を拾ってきては父に「また猫が増えた」と言われていました。猫だけではなく動物全般です。放っておけない、そういう性分です。

父は路線バスの運転手で、いつも一緒に遊んでくれました。あるとき、母に「危ないからバイクは絶対に乗らないように」と言われていたのに、父は私を連れ出してバイクを買ってしまい、一緒に母に怒られたり(笑)。

そういう父には名言があります。もともと父はテレビ局関係の編集でスタジオに篭って仕事をしていたそうです。そのときに、こう思ったそうです。

「空を見て仕事がしたい」

そして、長距離トラックのドライバーになりました。その後、家族のために必ず家に帰れる路線バスの運転手になり、35年ほど勤めました。父は「バス運転手以上のものはない」と言っていました。地域のお客さまとも触れ合いができて、いつも日が当たるところで働ける、そして家族との時間も大事にできるから、と。

「空を見て仕事がしたい」という父の言葉には、父の生き方が凝縮されていると思います。

私の家はずっと、やりたいことをやってきた家族です。

気づけば、私も父に似てきました。妻に「たくさんあるから、これ以上ぬいぐるみを増やさないように」と言われたのに、私は娘を連れ出してUFOキャッチャーでぬいぐるみを増やしてしまい、妻に怒られるという(笑)。

「空を見て仕事がしたい」

10 経営者へのメッセージ

――最後に、経営者へのメッセージをお願いします。

「”やりたい”を止めないでほしい」

これが伝えたいことです。「あきらめないでほしい」とも思います。

――齋藤さんは、とにかく飛び込んで、やりきるところまでやりますよね。

はい。もちろん、やりきってダメだと思ったら、やめます。

しかし、1度はしっかりやってみる。

昔からそうです。やってもいないのに「怪しいな」と言う人がいますよね。私は、皆が怪しいと言う場所にも実際に行ってみます。やってみます。本当に怪しいこともありますが、怪しくないこともあって驚きます。

飛び込んでみて、自分の目で見る。それでも怪しかったら、怪しい。

それでいいと思っています。

まずは、やってみること。

やりたいことがあるなら、止めないでほしいです。

「みちひらき」という名前に込めた想い(株式会社みちひらきのホームページより)

(出所:株式会社みちひらきのホームページより抜粋)

【編集後記】

「まずはやってみる」「やりたいことがあるなら止めないでほしい」。とても勇気が出る言葉をいただきました。

齋藤さんは、答えを与える人ではありません。相手の中に入っていって、「週に1回集まりましょう」「あの人に声をかけましょう」と、最初の一歩を具体的に一緒に踏み出してくれる人です。

そして、つけた火を消さない。山の研修で参加者と一緒に走っていたころから、その姿勢は変わっていないのだと思います。

リーマンショックですべてを失ったときも、病気が見つかったときも、齋藤さんはあえて難しい方、厳しい方を選んで進んできている印象です。

富士山を一緒に登り、経営者の先に立って、そして一緒に太陽を見に行く。「みちひらき」という社名は、齋藤さんがこれまで歩んできた道そのものです。やりたいことがあるのに最初の一歩が踏み出せないときは、まず齋藤さんに話してみるのがいいと思いました。

齋藤さんはまず自分で動く。やってみる。やりきる。これはなかなかできることではありません。そしてまっすぐに筋を通す。厳しくも温かい。温かいからこそ厳しい。そんな齋藤さんが、きっと、経営者の、組織の、働く人の心に、消えない火をつけてくれるはずです。

以上(2026年10月作成)
(聞き手 日本情報マート 代表取締役 松田泰敏)

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画像:日本情報マート

社会保険適用拡大に向けて

2026年10月、これまでパート・アルバイト従業員の働き方に大きな影響を与えてきた「106万円の壁」が撤廃されます。「106万円の壁」とは、パート・アルバイトなど短時間労働者の社会保険加入要件の一つである「月額賃金8.8万円以上(年収換算で約106万円)」という基準を指します。今回の見直しでは、この賃金要件が撤廃され、これまで月額賃金の要件によって社会保険加入の対象外となっていた従業員についても、加入対象となる可能性があります。また、来年(2027年)10月には企業規模要件についても見直しが行われ、対象となる企業の範囲が拡大されます。

本稿では、改正後の短時間労働者の加入要件について概要をおさらいするとともに、各社で取り組むべきことを紹介します。

1 改正後の社会保険加入要件

今回の見直しで賃金要件が撤廃されることにより、企業規模要件を満たす事業所で働く短時間労働者のうち、以下の条件に該当する従業員が社会保険の加入対象となります。

  • 週の所定労働時間が20時間以上である
  • 2か月を超えて雇用される見込みがある
  • 学生ではない

なお、企業規模要件は段階的に見直されており、現在は厚生年金保険の被保険者数51人以上の企業が対象ですが、2027年10月からは36人以上の企業が対象となります。

ここでいう「厚生年金保険の被保険者数」とは、会社に在籍するすべての従業員数ではなく、厚生年金保険に加入している従業員数を指します。具体的には、フルタイムで働く従業員と、週の所定労働時間および月の所定労働日数がフルタイム従業員の4分の3以上である従業員を合わせた人数で判断します。また、一時的に超えても即対象とはならず、「直近12ヶ月のうち6ヶ月以上で被保険者が51人(2027年10月からは36人)以上」であることも条件です。

2 保険料調整制度の活用

適用拡大で新たに社会保険の加入対象となる比較的小規模な企業の短時間労働者を対象に「保険料調整制度」が設けられます。この制度は、社会保険加入による従業員の手取り収入の減少を抑えるため、事業主が被保険者の保険料を一時的に負担する仕組みです。制度を利用した場合、被保険者の保険料負担は軽減されますが、将来受け取る年金額に影響はありません。

制度の基本的な要件と、適用イメージは次のとおりです。

【制度の基本的な要件】

  • 軽減期間は通算3年間
  • 対象事業所は①2026年10月以降に任意特定適用事業所になった事業所、②2027年10月以降適用拡大になった事業所
  • 対象被保険者は短時間労働者かつ標準報酬月額126,000円以下の被保険者

対象となる被保険者が負担する保険料のイメージ

事業主が追加負担した保険料は、一旦納付した後に還付(3カ月後の保険料額から追加負担分を差し引き)するため、最終的に事業主が納付する保険料は増えません。制度を利用した場合のイメージは次の図をご参照ください。

制度の利用を検討する場合は、自社が対象になるかを事前に確認し、手続きを進める必要があります。

制度を利用した場合のイメージ

3 さいごに

社会保険の適用拡大に向けては、単に加入対象者を確認するだけでなく、人件費への影響確認、人員配置や勤務シフト変更、従業員説明、給与計算など、様々な実務対応が求められます。

一方で、社会保険への加入による福利厚生の充実は、従業員の安心感につながり、貴重な人材の確保や定着に寄与する可能性もあります。

今回の適用拡大を機に、自社の加入状況や対応状況を確認し、従業員にとっても企業にとっても適切な雇用環境を整えていくことが重要です。

※本内容は2026年9月10日時点での内容です。

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)
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道路標識、忘れていませんか?(2026/10号)【交通安全ニュース】

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※ボタンを押すとSOMPOリスクマネジメント(株)のサイトへ移動します。

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

運転免許を取得する際の学科試験(自動車等の運転に関する法令の知識)に合格したドライバーでも、道路標識について、時間の経過とともに意味を忘れたり、新しく制定されたことを知らなかったりすることはないでしょうか。

そこで、今号では道路標識の認知度を紹介し、正しく理解することの重要性をあらためて考えます。

一時停止は「赤信号」

道路標識の認知度分布

道路標識毎の認知度を調査するために、SOMPOリスクマネジメントで運用しているeラーニング「標識クイズ」の正解率※の分析を行いました。

※1,312人に90種の道路標識(規制標識、指示標識、警戒標識)から10問ずつをランダム出題。 選択肢3つからの択一選択方式。(当社調べ)

データの種類の多さを面積で表す「ツリーマップ」で見ると、正解率70%以上が61種で全体の68%を占めています(    部) 。一方で、正解率40%未満が7種15%(    部)と、認知度が低い道路標識もあります。

正解率のツリーマップと道路標識の例

正解率のツリーマップと道路標識の例

正解率ワースト5の道路標識

正解率ワースト5の道路標識についてあらためて確認してみましょう。

正解率ワースト5の道路標識

道路標識の重要性

道路標識は、次のような役割があります。

規制標識|指示標識|警戒標識の役割

道路標識を理解することは、危険の事前回避、スムーズな交通、交通違反の防止につながることから重要です。この機会に、復習してみてはいかがでしょうか。

■国土交通省「道路標識等」 https://www.mlit.go.jp/road/sign/sign/

以上(2026年10月)

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事業計画書のヒミツ 銀行の融資担当者はここを見る!

事業計画書は、社長の頭の中にある事業の見通しや考えを言葉にして整理するためのもので、金融機関から融資を受ける際に、融資担当者への説明資料としても用いられます。ただ、事業の内容がどんなに魅力的でも、計画書にうまく落とし込めていなければ、相手には伝わりません。

そこで、元政府系金融機関の融資担当者が金融機関側の目線で作成した「伝わりやすい事業計画書」のテンプレートを紹介します。テンプレートは下記からパワーポイントでダウンロードできますので、ぜひご活用ください。


こちらからダウンロード

また、上記のテンプレートについて、「金融機関が各項目を確認する際、何に注目するのか」など解説を追記した冊子も作成しました。下記からPDFでダウンロードできますので、手元に置いてポイントを確認しながら、テンプレートに御社の事業計画を記載していってください。


こちらからダウンロード

以上(2026年10月作成)

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社員がキラキラ働き出す! 事業計画を策定する本当の意義

1 多くの社長が理解していない事業計画の意義

 皆さんの会社では事業計画を策定していますか?

 もし策定していないとしたら、その理由は次のようなものかもしれません。

  • 手間と時間がかかる
  • どうせ計画通りには進まない
  • 全て自分(社長)の頭の中にあるから大丈夫

この理由を見て「大体、そんな感じ」と思った皆さん、少しお付き合いください。今のままだと、いずれ皆さんの会社に次のような停滞ムードが蔓延してしまうかもしれません。

  • 経営方針は社長が決めていて、社員は指示に従うだけ
  • 足元の業務に追われ、目線を上げて検討できない
  • 良くも悪くも安定していて刺激がなく、社員に向上心が芽生えない

事業計画がない会社の社員は、

働くことの目標が曖昧で、判断の拠り所もない。そのため、「目標を達成するぞ!」という気持ちになりにくい

です。現在は、過去からの積み重ねで業績が安定するほど甘い時代ではありません。まさに個々の社員の頑張りと組織としての団結が必要であり、それらの大元になるのが事業計画なのです。

 もちろん、事業計画さえあれば万全というわけではありませんが、

社長の頭の中にある見通しや、今、力を入れている事業の重要さが社員に共有されれば、社員は日々の頑張りが「何のためであるのか」を理解できる

ようになります。積極的な社員は目標達成のために必要な能力を得ようと自発的に勉強しますし、社外とのつながりも広めていくでしょう。こうした社員がいる中小企業は強いです。

 このように、事業計画は、

事業を定義し、その進捗を管理するだけでなく、組織を作り、社員の成長を促すもの

です。この記事では、「事業計画(利益計画・販売計画)」の一般的な内容を紹介しますが、

裏ミッションとして「社長にしかできない組織作り」

を意識していただければ幸いです。

2 事業計画で社員は全てを理解する

 事業計画とは、

当期の経営目標を達成するための計画

です。事業計画に必ず盛り込まれるのは、

  • 利益計画:目標となる売上高や利益をまとめたもの
  • 販売計画:顧客別や商品別の売上高(販売数量)をまとめたもの

です。詳細な「数字」が記載されているので、金融機関などとコミュニケーションを図る際も役立ちます。また、「どの程度いけそうなのか?」という社長の肌感覚も盛り込まれるため、事業計画の策定に社員を巻き込めば、社員にビジネスの感覚を教えることができます。大企業では、

社長→(ここが遠い)→経理本部→本部長→部長→課長→社員

といったコミュニケーションになりがちですが、中小企業では、

社長→全ての社員

といったコミュニケーションも可能です。社員からすれば、

利益計画・販売計画といった具体的な数値について、社長がどのような思いやロジックで考えているかを間近で見ることができる

という、貴重な学びになるわけです。

3 利益計画策定のポイント

1)利益計画は具体的な行動まで落とし込む

 ここからは、少し実務的な話をします。

 利益計画とは、目標となる売上高や利益をまとめたもので、いわば計画年度の予測損益計算書(予測P/L)です。事業計画の策定は利益計画から検討するのが一般的ですが、それは会社が達成すべきゴールを示すのが利益計画になるからです。

 ゴールが決まると現状とのギャップも明らかになりますが、それだけでは社員はそのギャップを埋める具体的な行動を起こしません。ですから、利益計画の数字を達成するための具体的な行動まで落とし込む必要があります。例えば、当期純利益を前年度比20%増に設定する場合、

どの商品の販売を強化すべきなのか(販売計画)を、全社的な課題と位置付けた上で、具体的に検討していく

ことになります。

2)フォーマットは損益計算書に合わせる

 利益計画の進捗管理をスムーズに行うために、利益計画のフォーマットは損益計算書と同じにするのが基本です。また、実現性・妥当性のある利益計画にするために、科目は細かな単位まで落とし込みます。細分化の基準は、

経理が使用している勘定科目や補助科目

です。さらに、年度の金額を月次で細分化します。支店(店舗)や部門が複数ある場合は、「支店(店舗)別・部門別」でも細分化するとよいでしょう。

3)当期純利益から逆算するのが基本

 損益計算書は「売上高-費用=利益」という構成になっていますが、利益計画では、

目標利益=達成可能売上高-許容費用

と考えます。言葉を変えると、まず獲得すべき目標利益があり、それを達成可能な売上高の中で実現するために許容できる費用を算出します。会社の状況などによりますが、達成すべき目標当期純利益は、「企業(社長)の目標額」「過去数年間の実績額」「資金計画(借入金計画、資金調達計画など)」などを勘案して検討します。

 借入金の返済などを考慮した当期純利益は、次の計算式で算出できます。

目標当期純利益=予定借入金返済額+予定配当金額+目標社内留保額-予定減価償却費

 目標当期純利益を決定したら、損益計算書を下から上っていくイメージで費用を検討します。

  • 法人税などを加えて税引前当期純利益を算出する
  • 特別損益がある場合はこれを加減して経常利益を算出する
  • 営業外損益を加減して営業利益を算出する
  • 販売費・一般管理費を加えて売上総利益を算出する
  • 最後に売上原価を加えて必要な売上高を算出する

といった具合です。この際、不要な費用は削減していきますが、実現性・妥当性が重要です。無理に費用を削減して、見た目だけ筋肉体質の利益計画としても意味がありません。また、支出額を予測しにくい費用は、前年度実績を目安に計上するとよいでしょう。

4 販売計画策定のポイント

1)「顧客別」と「商品別」に検討する

 販売計画は、利益計画で策定した売上高や売上総利益(粗利益)などを、顧客別・商品別に展開した計画であり、

  • 顧客別販売計画:顧客別に売上高などを検討する
  • 商品別販売計画:商品別に売上高などを検討する

が基本となります。

 例えば、小売業など不特定多数、あるいは小口取引が中心の会社は、顧客別販売計画の策定にあまり意味がなく、商品別販売計画がメインとなります。一方、製造・卸売業など大口顧客との継続取引が中心の会社は、顧客別販売計画と商品別販売計画の両方を策定します。

2)実現性・妥当性がある計画を策定する

 販売計画でも実現性・妥当性が求められます。社員を巻き込みながら販売計画を策定する場合、「目標利益を達成する!」という強い思いが社員に芽生えるのはよいのですが、実現が難しいチャレンジングな販売計画になってしまうことがあります。

 気持ちは大事です。しかし、確たる根拠もないまま希望的観測に基づいて見積もられた販売計画は意味がなく、時間が進むほどに未達成が大きくなってきつくなります。必ず具体的なアクションプランとセットで考えましょう。

3)攻める順番を決める

 販売計画の実現性・妥当性を高める戦略の考え方は、確実性の高いところを攻めることです。販売先(既存顧客・新規顧客)と商品(既存商品・新商品)に分けた場合、次のようになります。

  • 既存顧客への既存商品の販売額
  • 既存顧客への新商品の販売額
  • 新規顧客への既存商品の販売額
  • 新規顧客への新商品の販売額

 これは、過去の販売実績や市場のトレンドなどに基づいて優先順位を付ける考え方です。「1.既存顧客への既存商品の販売額」は、最も確実性が高くなります。逆に「4.新規顧客への新商品の販売額」は未知であり、販売計画の精度は落ちます。

 ただ、これはあくまでも一例です。新規事業にチャレンジしている場合などは、当然、「4.新規顧客への新商品の販売額」を検討することになります。

5 社長と社員が一緒に事業計画を遂行する

 事業計画は策定して終わりではなく、遂行しなければ意味がありません。教科書的に言えば、

月次単位で実績を把握して、事業計画との差異を分析して対策を講じる

ことになるのですが、この説明に具体性はありません。

 事業計画の遂行についても、月次で全社ミーティングを行い、全社的に共有するのが望ましいでしょう。メンバーはいずれ絞っていけばよいですが、当初は会社が本気で事業計画を運営していることを周知するため、全社員に参加してもらいます。そうする中で、自社に合った方針が固まっていきます。例えば、計画と実績にプラスマイナス5%の差異が生じた場合、その理由を追及する会社がありますが、ただそれをまねするだけでは現場の実務負担が増すだけです。

 中小企業には中小企業のやり方、自社には自社のやり方があります。「プラスマイナス15%になった差異から注目する」など、自社にとって無理のないルールを決めればよいですし、見るべき数字を絞ってもよいでしょう。とにかく、

社長と社員にとって事業計画が常に意識される存在

になれば成功です。

 また、会社にはチャレンジしなければならないときがあります。そうしたときこそ、この記事で紹介したように全社一丸となって事業計画を策定し、推進していければ理想的です。それが会社と社員の大きな成長につながります。

以上(2026年9月更新)

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2026年10月、「カスハラ」対策義務化! 弁護士が教える4つの鉄則

1 2026年10月1日、カスハラ防止措置が義務化!

顧客が店員などに対してささいなミスで土下座を強要したり、弁償を要求したりする。あるいは「お気に入り」だからと言い寄り、長時間拘束する。こういった言動は、

カスハラ(カスタマーハラスメント、顧客等による悪質な嫌がらせ)

の典型例です。「お客様は神様です」という言葉に象徴されるように、日本の会社は昔から顧客を大切にする文化があります。しかし、「理不尽な要求にも応じ続けることが本当に顧客を大切にすることなのか」という問題があり、そんな中、改正労働施策総合推進法により、

2026年10月1日から、カスハラ防止措置が義務化

されることになりました。

厚生労働省の「カスハラ防止指針」(正式名称は「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」)によると、全ての会社に次のカスハラ防止措置が義務付けられることになります。

(図表1)【カスハラ防止措置(2026年10月1日から義務化)】

カテゴリ No. 措置の内容
方針の明確化・周知啓発 ① カスハラには毅然とした態度で対応し、社員を保護する旨の方針を明確化し、社員に周知・啓発する
② カスハラの内容と対処の内容を社員に周知する
相談体制の整備 ③ 相談窓口をあらかじめ定め、社員に周知する
④ 相談窓口担当者が適切に対応できるようにする
事後の迅速かつ適切な対応 ⑤ 事実関係を迅速かつ正確に確認する
⑥ 被害者に対する配慮のための措置を適正に行う
⑦ 再発防止に向けた措置を講ずる
カスハラ抑止のための措置 ⑧ 特に悪質なカスハラへの対処の方針をあらかじめ定め、社員に周知し、当該対処を行うことができる体制を整備する
その他の措置 ⑨ 相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、社員に周知する
⑩ 相談したこと等を理由として不利益な取扱いをされない旨を定め、社員に周知・啓発する

(出所:厚生労働省「カスハラ防止指針」を基に作成)

ご覧の通り、会社には、社員からの相談窓口の整備や相談対応などが求められるようになります。対策不備がある場合には、行政による助言・指導・勧告等の対象となり、勧告に従わない場合には会社名公表の対象となる可能性があります。それに、カスハラから社員を守らなかったことで、社員が会社に怒りを向けて訴訟トラブルなどに発展するリスクもあります。

この記事では、中小企業が今すぐ取り組むべき4つの鉄則を紹介します。なお、カスハラの定義や防止措置の詳細についてはこちらもご確認ください。

■厚生労働省「カスタマーハラスメント及び求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が事業主の義務となります!」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html

2 鉄則1 「これはカスハラか?」——判断基準を会社で共有する

カスハラへの対応で最初につまずくのが、

「これはカスハラなのか、それとも正当なクレームなのか」という判断

です。ここを曖昧にしたまま対応すると、社員が萎縮して正当なクレームにも対応できなくなったり、逆にカスハラを見過ごしてしまったりします。

厚生労働省「カスハラ防止指針」では、「次の3つをすべて満たす場合にカスハラが成立する」と定義しています。

  • 顧客、取引の相手方、施設の利用者その他会社の事業に関係を有する者が、
  • 社会通念上許容される範囲を超えた言動により、
  • 社員の就業環境を害すること

では、具体的にどのような言動がカスハラになり得るのか。図表2を見てください。

(図表2)【カスハラになる可能性がある言動の例】

イ 言動の「内容」が許容範囲を超えるもの
①要求に理由がない・無関係な要求
①要求に理由がない・無関係な要求
性的な要求、プライバシーに関わる要求、商品・サービスと無関係な要求など

②契約を著しく超えるサービスの要求
②契約を著しく超えるサービスの要求
契約内容を著しく超えたサービスの提供を要求すること

③対応が著しく困難・不可能な要求
③対応が著しく困難・不可能な要求
契約金額の著しい減額など、対応が著しく困難または不可能な要求

④不当な損害賠償要求
④不当な損害賠償要求
商品・サービスと無関係な不当な損害賠償を要求すること

ロ 言動の「手段・態様」が許容範囲を超えるもの
①身体的な攻撃
①身体的な攻撃
殴る・蹴る・叩くなどの暴行、物を投げつける、わざとぶつかるなど

②精神的な攻撃
②精神的な攻撃
脅迫・暴言・土下座の強要・盗撮・SNSへの投稿をほのめかすなど

③威圧的な言動
③威圧的な言動
大声で威圧する、必要以上に距離を詰める、反社会的な言動など

④継続的・執拗な言動
④継続的・執拗な言動
同じ質問を執拗に繰り返す、揚げ足取り、同じメールを繰り返し送るなど

⑤拘束的な言動
⑤拘束的な言動
長時間の居座りや電話で社員を拘束すること

(出所:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」「カスハラ防止指針」を基に作成)

カスハラ防止指針によると、カスハラは図表2の通り、

  • 言動の「内容」が許容範囲を超えるもの
  • 言動の「手段・態様」が許容範囲を超えるもの

に大別されます。暴力・暴言、土下座の強要、長時間の居座り、SNSへの書き込みをちらつかせた脅しなどは、カスハラに該当し得る典型的な言動です。これらは法的には、

民法の「不法行為」(故意・過失によって他人の権利や法律上の利益を侵害する行為)

に該当する可能性があります。また、言動の内容によっては、刑法(傷害罪、脅迫罪、強要罪、名誉毀損罪、不退去罪など)や軽犯罪法が適用されることもあります。

逆に図表2のような言動に当たらない(言動の「内容」「手段・態様」に問題がない)場合、カスハラではなく正当なクレームということになります。カスハラ対策は「理不尽な要求から社員を守る」ためのものですから、正当なクレームには真摯に対応しなければなりません。

顧客等の言動について、社員が安易に「それ、カスハラですよね?」と発言してしまってトラブルになるケースもある

ので注意しましょう。

なお、カスハラの対象となる「顧客等」の範囲は意外と広く、対面での顧客だけでなく、取引先の担当者、施設の近隣住民、電話やSNS上でのやり取りも含まれます。「うちは対面販売がないから関係ない」とはなりません。

3 鉄則2 類型別に「うちの対応方針」を事前に決めておく

冒頭で紹介した通り、今回の法改正では、カスハラを防止するために

  • 方針の明確化・周知啓発
  • 相談体制の整備
  • 事後の迅速かつ適切な対応
  • カスハラ抑止のための措置
  • その他の措置

を実施しなければなりません。基本的な対応は、社内のハラスメント(パワハラやセクハラ)の防止措置と同じですから粛々と進めましょう。ただ、事業主の方針等や相談窓口の設置はもちろん大切ですが、それ以上に社員が気にしているのは、

いざ現場でカスハラが起きたとき、どう対応すればいいのか

でしょう。前章で紹介した通り、カスハラにはいくつかの類型があるので、類型ごとの対応方針をあらかじめ決めておくことが重要です。

(図表3)【カスハラの類型に応じた対応方針の例】

イ 言動の「内容」が許容範囲を超えるもの
①要求に理由がない・無関係な要求
①要求に理由がない・無関係な要求
要求の根拠と商品・サービスとの関係を確認する。無関係な要求には「対応しかねます」と毅然と断り、同じ説明を繰り返さない。上司が対応を引き継ぎ、書面で回答する方法も有効。

②契約を著しく超えるサービスの要求
②契約を著しく超えるサービスの要求
契約書・約款・規程を根拠に提供範囲を明示し、「できかねます」と伝える。繰り返し要求される場合は複数名で対応し、最終回答を書面で通知することを検討する。

③対応が著しく困難・不可能な要求
③対応が著しく困難・不可能な要求
根拠を示して明確に断る。過大な値引き・返金要求は応じない旨を伝え、上司が対応を引き継ぐ。要求内容を記録・保存し、必要に応じて顧問弁護士や外部機関に相談する。

④不当な損害賠償要求
④不当な損害賠償要求
要求の根拠を確認し、商品・サービスと無関係な損害賠償には応じない。金額が大きい場合や法的手続きを示唆される場合は、速やかに顧問弁護士・外部機関に相談する。

ロ 言動の「手段・態様」が許容範囲を超えるもの
①身体的な攻撃
①身体的な攻撃
複数名で対応し、安全な場所に移動する。状況に応じて即座に警察(110番)へ通報する。被害状況を記録・保存し、被害を受けた従業員の心身のケアを最優先する。

②精神的な攻撃
②精神的な攻撃
上司が対応を引き継ぎ、一人で対峙させない。土下座要求には絶対に応じない。脅迫・SNS投稿のほのめかしは内容を記録・保全し、必要に応じて警察・弁護士に相談する。

③威圧的な言動
③威圧的な言動
複数名で対応し、冷静に「そのような言い方はお控えください」と伝える。改善しない場合は「対応を一時中断します」と告げて距離を置く。やり取りの内容を記録する。

④継続的・執拗な言動
④継続的・執拗な言動
「すでに回答済みです」と繰り返し伝える。電話は一定時間経過後に「本日の対応はここまでです」と告げて終了できる旨を社内ルールとして定め、着信拒否等の措置も検討する。

⑤拘束的な言動
⑤拘束的な言動
最初に「対応時間は○分です」と伝え、時間を区切って対応する。退去しない場合は「退去をお願いします」と毅然と告げ、応じなければ警察への通報を行う。

(出所:厚生労働省「カスハラ防止指針」「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を基に作成)

類型によって対応の中身がかなり異なります。例えば暴力など身体的な攻撃は複数名で対応しつつ即座に警察に通報しますが、土下座の強要は上司が対応を引き継いで要求に一切応じない、執拗な電話は一定時間経過後に電話を切ることを毅然と伝える、といった具合です。

また、カスハラ特有の防止措置(義務)の内容として、会社には

特に悪質なカスハラへの抑止措置を講じる

ことが義務付けられます。繰り返し悪質な行為を行う相手に対しては、警告文の発出、商品・サービスの提供拒否、店舗への出入り禁止といった対処方針をあらかじめ定め、社員に周知しておく必要があります。

なお、図表3はあくまで大枠の方針です。実際の対応は、

  • カスハラが初めて行われたのか、繰り返し行われているのか(初めての場合、内容によっては注意だけで済ませることも検討)
  • 対応した社員に落ち度はなかったのか(正当なクレームに対する社員の対応不備が原因でトラブルが拡大した場合には、事実関係を確認した上で、会社として必要な説明や謝罪を行うことも検討)

なども考慮して慎重に判断します。

そのためには、カスハラ対応における社内の役割分担を明確にする必要があります。次章以降で見ていきましょう。

4 鉄則3 社員は事実を正確に会社に報告する

顧客等から電話や対面などで会社に対してクレームがあった場合、まずは窓口の社員が初期対応に当たります。ここで社員に求められるのは、

顧客等を不用意に刺激しないよう注意しつつ、会社が顧客等への対応を検討するために必要な情報を集めること

です。ポイントは次の2つです。

  • 限定的な謝罪:不快感を与えたことについてだけ謝罪する
  • 事実の把握:顧客等の要求の内容や問題が発生した経緯を正確に把握する

1.では、顧客等に対し、「このたびは不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ありません」など、不快感を与えたことだけを謝ります。正確に状況が把握できていない段階では、不用意に会社の非を認めたり、相手の要求に応じたりするべきではありません。

2.では、顧客等の住所・名前・連絡先などを確認した上で、話を一通り聞き、要求の内容や問題が発生した経緯を確認します。事実を正確に把握するため、必要に応じて会話を録音するなどして証拠に残します。また、現場対応は1人で行わず、可能な限り複数名で対応するのがよいでしょう。

1.と2.が完了したら、社員は顧客等から確認した情報を上司に報告し、今後の対応について相談します。ただし、身体的な攻撃や性的な言動を受けたなど緊急性が高いときは、1.と2.の状況に関係なく、即座に上司に報告します。

5 鉄則4 上司または経営者が具体的な対応を決める

カスハラに関する社内対応の流れは次の通りです。

カスハラに関する社内対応の流れ

上司は社員から、顧客等の要求の内容や問題が発生した経緯について話を聞き、

カスハラであれば、その内容に基づいて顧客等への具体的な対応を決定

します。ただし、

  • 顧客等が重要な取引先である
  • 弁護士、警察などに相談すべき案件である(訴訟手続が必要、犯罪行為に当たるなど)

などといった場合は、必要に応じて経営者が判断します。詳細が決まったら、状況に応じて適切な人が対応します。顧客等が取引先(会社)の場合は、社内にハラスメント相談窓口があるでしょうから、必要に応じて窓口担当者とも連携しましょう。

なお、社員がすでにカスハラによって精神的ショックを受けている場合、顧客等から引き離す、医師による面談を実施するといった措置も併せて検討します。

この他、上司または経営者が具体的な対応を決定したり、社員が前述の初期対応を行ったりする上で支障がないよう、定期的に社内で対応ルールの教育・研修を実施するとよいでしょう。

以上(2026年9月更新)
(監修 弁護士 坂東利国)

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画像:ChatGPT

2026年10月、「就活ハラスメント」対策義務化! 種類やポイントは?

1 いわゆる「就活セクハラ」への対策が義務化!

「就活ハラスメント」とは、

  • インターンシップやOB・OG訪問などの後、食事やデートに執拗に誘う
  • 「内定を出すから」と言って、他社の選考を辞退するよう要求する

などの就活生に対するセクハラ(セクシュアルハラスメント)やパワハラ(パワーハラスメント)のことです。

会社は、職場におけるハラスメントについて一定の防止措置を講じる義務を負っていますが、就活ハラスメントについてはこれまで、「(ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化等をする際に)同様の方針を併せて示すのが望ましい」というレベルにとどまっており、各社の対応にバラツキがありました。

しかし、改正男女雇用機会均等法により、

2026年10月1日から、いわゆる「就活セクハラ(後述)」について、セクハラを防止するために必要な措置を講じることが義務化

されることになりました。就活生を対象とするハラスメント規制も強化されつつあるのです。

また、就活生は応募する会社について知人と情報交換したり、SNSのグループに参加したりしています。「自社が就活ハラスメントをしている」との情報が出回ったら、そのような会社に応募しようとする学生はいなくなってしまうかもしれません。

ハラスメントにもいろいろありますが、今、経営者が注目すべきものの1つに就活ハラスメントがあるのです。改めてリスクや防止策を紹介します。

■厚生労働省「カスタマーハラスメント及び求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が事業主の義務となります!」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html

2 就活ハラスメントの4つの種類

1)就活セクハラ(就活生に対するセクシュアルハラスメント)

就活生に対する身体的な接触や言葉による性的な嫌がらせです。

  • 不必要に体に触る
  • 「内定を出すから」と言って性的な関係を要求する
  • 性的な冗談を言う、恋愛経験などを尋ねる
  • 職場内に性的な内容を含むポスターなどを掲示する
  • オンラインの採用面接で、体全体や部屋の様子などを見せるよう要求する
  • インターンシップやOB・OG訪問などの後、食事やデートに執拗に誘う

2)オワハラ(就活終われハラスメント)

就活生の内定辞退を回避するための嫌がらせです。

  • 「内定を出すから」と言って、他社の選考を辞退するよう要求する
  • 他社の選考と日程が重なることを知りながら、内定者懇親会に連れ出すなど、他社での就活を妨害する
  • 内定を辞退しようとした場合、「ふざけるな」「嘘つきだ」と罵る。または「訴える」「内定を辞退するやつだと他の会社に言いふらす」などの発言をする

3)圧迫面接

就活生のストレス耐性や状況判断能力を試すため、採用面接で必要以上に否定的な発言をしたり、嫌な態度を取ったりする嫌がらせです。

  • 採用担当者の質問に就活生が回答した際、正当な回答かどうかに関係なく否定する
  • 「それで?」「理由は?」といった発言を必要以上に繰り返し、回答をできなくさせる
  • 就活生の適性に関係なく、「ウチの会社には向いていない、通用しない」と言う
  • 就活生の発言中にため息をつく、携帯電話を触るなど、あからさまに嫌な態度を取る

4)その他

1)から3)以外の就活ハラスメントとしては、パワハラを含め、次のようなものがあります。

  • 「男のくせに覇気がない」「女はすぐ辞めるから困る」などと、差別的な発言をする
  • 結婚したり妊娠したりした場合に、会社を辞めるかどうかを聞く
  • 内定した学生に、内定者でつくるSNS交流サイトに毎日の書き込みを強要する。書き込みをしないと「やる自信がないなら辞退しろ」など、威圧的な態度を取る
  • インターンシップに参加した学生に対し、人格を否定するような暴言を吐く

3 就活ハラスメントのリスク

1)就活ハラスメントは民法の「不法行為」になり得る

就活ハラスメントによって、就活生が精神的な苦痛を受けた場合、

民法の「不法行為」(故意・過失によって他人の権利や法律上の利益を侵害する行為)

が成立する可能性があります。ハラスメントを行った社員は損害賠償を請求される恐れがあり、会社も就活生から使用者責任を問われ損害賠償を請求される恐れがあります。

また、言動によっては刑法が適用される可能性もあります。

  • 不必要に体に触る(不同意わいせつ罪)
  • 内定を辞退しようとした就活生に「内定を辞退するやつだと他の会社に言いふらす」などと発言する(脅迫罪)
  • 人格否定や差別的な発言をする(侮辱罪)

2)会社のイメージが低下し、採用ができなくなる?

就活生がSNSに「就活ハラスメントを受けた!」と書き込んで、それが拡散されれば、ハラスメントが横行している会社だと見られ、会社のイメージは低下します。また、大学のキャリアセンターなどでは、就活ハラスメントに関する就活生からの相談を受け付けているので、大学に定期的に求人を出している会社の場合、今後の大学との関係にも影響が出るかもしれません。

就活ハラスメントに関する就活生からの相談は、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)でも受け付けていて、就活ハラスメントをした会社には、助言や指導が入る可能性もあります。

4 就活ハラスメントの防止のポイント

1)「会社と就活生は対等」という意識を持つ

就活ハラスメントが起きやすい会社は、就活生に対して「雇ってやる」「試してやる」といった上から目線の態度を取っているケースが少なくありません。雇用が懸かっている就活生は、こうした会社の態度を拒否することができず、それが就活ハラスメントの問題を深刻化させるのです。

会社として就活生に適性があるかを見極めることは大切ですが、入社した場合は、会社も労務を提供してもらう立場になるわけですから、常に「会社と就活生は対等」という意識を持って採用活動に臨むことが大切です。

2)「業務上必要ない対応」「行き過ぎた対応」を洗い出して排除する

就活ハラスメントが違法になる(民法上の不法行為などに当たる)場合、次の1.か2.に該当している可能性が高いです。

1.会社の対応(採用面接での質問など)が、業務上必要ない

2.業務上必要があったとしても、行き過ぎている

就活セクハラなどは1.に当てはまります。オワハラや圧迫面接などは、1.に当てはまるケースもあると思いますが、仮に「内定辞退を防ぎたい」「就活生のストレス耐性や状況判断能力を試したい」という会社の思惑があったとしても、2.に該当する可能性が高いです。

就活生に対する不法行為や不適切な言動が行われないように、第2章で紹介したような言動を排除していった上で、就活生への対応の仕方を模索していきましょう。例えば、

  • 就活生を内定者懇親会に連れていきたいのであれば、オワハラにならないよう本人のスケジュールを考慮する。就活セクハラ(個人的な食事やデートの誘い)にならないよう時間を区切り、2人以上の社員で参加し、個室はできるだけ避ける
  • 場の雰囲気を和ませたいのであれば、就活セクハラ(性的な冗談など)や差別的な発言(「男は○○だから、女は○○だから」など)に該当しないジョークを織り交ぜる
  • 就活生のストレス耐性や状況判断能力を試したいのであれば、圧迫面接という形ではなく課題などを与えてみる

といった具合です。

3)就活セクハラの防止措置を、就活ハラスメント全般に適用する

第2章の1)で紹介した「就活セクハラ」については、冒頭で紹介した通り、2026年10月1日から、防止措置を講じることが会社に義務付けられます。改正男女雇用機会均等法では、

  • 就活生からの相談に応じ、対応するための体制の整備などが求められること
  • 防止措置を講じない場合、厚生労働大臣による勧告が行われ、それにも従わなければ「企業名公表」の対象になること

などが定められています。オワハラなど他の就活ハラスメントについては、特に防止措置は義務付けられていませんが、

若者雇用促進法に基づく事業主等指針に、会社は就活ハラスメントに対して「必要な注意を払うよう配慮する」取組を行うのが望ましい

という記載があり、前述したリスクの観点からもやはり防止措置を講じたほうがよいでしょう。

就活セクハラについては、2026年2月26日に公布された厚生労働省の指針により、

1.ハラスメントに対する対応方針(ハラスメントを許さない旨など。就業規則等の文書に規定)の策定、周知徹底

2. 求職活動等に関するルール(面談の時間・場所、実施体制、連絡に用いるSNSの種類など)を明確化し、社員と就活生の双方に周知する

3.ハラスメントに関する相談窓口の設置、運用

4.ハラスメントに関する相談があった場合の事実確認、行為者の処分、再発防止策の検討

5.プライバシーの保護、相談者などに不利益な取扱いをしない旨の周知徹底など

の5つの措置を講じることが会社に求められており、これを就活ハラスメント全般に適用するのが望ましいです。

基本的なポイントは、既に法制化されている職場のハラスメント(社員に対するハラスメント)の防止措置と同じですが、例えば、

  • 指針が想定している求職活動の範囲が幅広く(採用面接、就職説明会、OB・OG訪問、インターンシップ、教育実習など)、従業員が通常就業している場所でハラスメントが行われるとは限らない
  • 就活生に対し、あらかじめ会社のパンフレットやウェブサイトを通じて、相談窓口の存在を周知する必要がある

など、就活ハラスメント特有の注意点もあるので気をつけましょう。

指針の詳細については、こちらをご確認ください。

■厚生労働省「事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第52号)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662589.pdf

以上(2026年9月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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画像:ChatGPT