目次
1 居抜き物件で痛い目に遭わないために必要なこと
「居抜き物件だから初期費用を抑えられた」――そう喜んでいたのも束の間、数年後、
税務調査で「この厨房設備、減価償却の処理が間違っています」「経費に計上しすぎています」などと指摘され、追徴課税(後から追加で徴収されるお金)が発生してしまう。
飲食店の開業支援の現場では、こうしたケースは決して珍しくありません。
居抜き物件とは、前のテナントが使用していた厨房設備や内装、什器などをそのまま引き継いで借りる物件のこと
です。設備を新たに購入する必要が少ないため開業コストを抑えられ、短期間で開業できるため、飲食店や小規模店舗の経営者にとって非常に魅力的な選択肢となっています。
しかし、そのまま引き継げるという手軽さの裏には、見落としやすい税務上の注意点があります。取得した設備の評価や減価償却の方法、契約書への記載内容、固定資産税(償却資産税)の申告などを誤ると、後になって追徴課税を受ける可能性があるのです。
居抜き物件で失敗しないためには、特に次の3つのポイントを押さえておくことが重要です。
- 有償・無償にかかわらず取得設備の「時価」を把握し、リース資産の有無も確認する
- 引き継ぐ設備は1点ごとに金額を明記した契約書を作成し、設備リストを残す
- 固定資産税(償却資産税)特有の申告ルールを確認する
この記事では、居抜き物件を活用して飲食店や小規模店舗の開業を検討している経営者に向けて、税務処理で損をしないために知っておきたい基礎知識と実務上のポイントを分かりやすく解説します。
2 取得設備の「時価」を把握し、リース資産の有無も確認する
前のテナントから設備を引き継ぐ場合は、「有償」と「無償」の違いだけでなく、その価格が時価と比べて妥当かどうかまで確認することが重要です。
- 有償で譲り受けた場合:
原則として支払額が取得価額となる - 無償で譲り受けた場合や、時価より著しく安い価格で取得した場合:
税務上は時価で取得したものとして、時価と支払額との差額が「受贈益」として課税対象になる可能性がある
特に居抜き物件では、設備を一括で譲り受けるケースが多く、「厨房設備一式」「内装一式」といった曖昧な契約内容のまま取引が行われることも少なくありません。
しかし、税務調査では「その価格は適正だったか」「時価をどのように算定したのか」を説明できることが求められます。契約書に設備ごとの内訳を記載したり、中古市場の相場や見積書など、価格の根拠となる資料を保存したりしておくと、後日の税務調査で指摘されるリスクを大きく減らせます。ポイントは、価格交渉だけでなく、その価格を客観的に説明できる証拠を残しておくことです。
また、
設備の中にリース資産が含まれていないかを必ず確認
しましょう。業務用冷蔵庫や食器洗浄機、空調設備などは、前のテナントではなくリース会社が所有しているケースが少なくありません。
このような資産は新旧テナント間で勝手に譲渡できないため、譲渡対象に含める場合はリース会社の承諾や名義変更の手続きが必要になります。契約によっては引き継ぎ自体が認められないこともあるため、
設備リストや契約書を確認し、残債やリース料を誰が負担するのかまで明確にしておく
ことが重要です。所有権の確認を怠ると、引渡し後に設備の返還を求められたり、想定外の費用を負担したりする恐れがあるため、契約前に管理会社や前のテナントへ確認し、不明な点は専門家へ相談するようにしましょう。
3 契約書には設備ごとの金額を明記し、設備リストを作成する
税務調査で指摘を受けやすいのは、
前のテナントとの契約で「残置物一式〇〇万円」とだけ決めてしまい、後で「この設備はいくらで引き継いだものか」が分からなくなり、正しい税務処理ができなくなってしまう
というパターンです。
そのため、契約書では
厨房設備、空調、内装、什器などを「一式〇〇万円」とまとめるのではなく、「冷蔵庫〇万円」「エアコン〇万円」「内装造作〇万円」と設備ごとの金額を明記すること
が重要です。税務上は設備1台ごとの取得価額によって処理方法が異なります。内訳が不明確な契約では適切な処理ができず、税務調査で経費計上を否認されるリスクがあります。

設備リストには名称や数量だけでなく、型番、製造年、所有権の帰属まで記載しておくと安心です。リース資産が含まれていないか、どの設備を引き継ぎ、どの設備を撤去するのかを契約前に確認しておけば、後日のトラブルも防げます。また、引き渡された設備の故障などの責任(契約不適合責任)や、退去時の原状回復義務についても、賃貸借契約との整合性を含めて契約書で明確にしておきましょう。
併せて、耐用年数(何年かけて経費にするかを示す年数)を取得初年度に正確に申告することが大切です。居抜き物件で取得した設備は中古資産となるため、
新品と同じ耐用年数ではなく、中古資産の耐用年数を適用する
のが一般的です。法定耐用年数を経過した設備は
法定耐用年数×20%(最低2年)
という簡便法で計算します。
(注)耐用年数が残っている設備は「(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20%」。(1年未満の端数は切り捨て、算出年数が2年に満たない場合は2年)
重要なのは、この耐用年数の判断は取得初年度の確定申告時に行う必要があり、原則として過去に遡って変更することができない点です。後の修正申告や税務リスクを防ぐには、設備の取得時期や製造年、使用開始時期が分かる資料も併せて保管し、不明な場合は税理士に確認した上で処理を進めることが重要です。
4 固定資産税(償却資産税)特有の申告ルールを確認する
固定資産税は本来、土地や建物の所有者に課税される税金です。そのため、テナントとして店舗を借りている場合、建物や土地にかかる固定資産税はオーナー(大家)が負担し、テナントが直接支払うことはありません。しかし、居抜き物件の場合、
テナントが取得した設備について、別途「償却資産」として固定資産税の申告が必要になるケースがある
ため注意が必要です。厨房機器や業務用エアコン、レジ設備などの他、施工した内装工事や電気設備工事などの建物附属設備も、テナント側が取得した資産であれば申告対象となることがあります。
一方で、すべての設備が申告対象となるわけではありません。次の資産などは、原則として償却資産税の対象外です。

しかし、一定の要件を満たす中小企業向けの少額減価償却資産の特例を適用し、
40万円未満(2026年4月1日以降取得分。それ以前の取得分は30万円未満)の資産を法人税上は全額経費にした場合でも、償却資産税では申告対象
となる点は見落とされやすいポイントです。また、帳簿上は減価償却が終わっていても、事業で使用し続けている限り申告が必要になる場合があります。
実務では、「法人税では経費になったから申告も不要」と誤解してしまうケースが少なくありません。しかし、法人税と償却資産税ではルールが異なるため、会計処理だけを見て判断すると申告漏れにつながる恐れがあります。
特に居抜き物件では、前のテナントから引き継いだ設備、自社で追加した設備、オーナー所有の設備が混在しやすく、「誰が所有している設備なのか」が曖昧になりがちです。そのため、設備ごとの所有者、取得日、取得価額、耐用年数などを固定資産台帳や設備リストで整理し、取得時点から適切に管理しておくことが重要です。
また、償却資産税には
課税標準額の合計が150万円未満であれば課税されない「免税点」があります
が、課税されない場合でも原則として申告義務はあります。「税金が発生しない=申告しなくてよい」と誤解しないよう注意しましょう。申告は毎年1月1日時点で所有している償却資産について、1月31日までに資産所在地の市区町村へ行います(eLTAXによる電子申告も利用できます)。
居抜き物件に限らずですが、設備を取得・譲り受けたタイミング(できれば計画のタイミング)で税理士や市区町村へ確認することで、後日の税務調査や追徴課税のリスクを大きく減らすことができます。併せて経営者自身も、「設備を購入したら法人税だけでなく償却資産税も確認する」という習慣を持つことが、実務上の最も有効な対策といえるでしょう。
以上(2026年8月作成)
(監修 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)
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画像:日本情報マート




















