1 プライベートでの事故などに対応する保険給付は?
社員がけがや病気をすると、医療費や仕事を休んでいる間の生活費など、さまざまな出費がかさみます。けがや病気が重くて障害が残った場合は、より手厚い生活保障が求められますし、亡くなった場合は、社員の遺族に対する保障も必要になってきます。
会社の制度(見舞金や弔慰金)や民間の保険などの「備え」をする会社もありますが、まず押さえておきたいのが、法律で定められた保険給付(社会・労働保険の給付)です。
この記事では、プライベートでの事故など(労災認定されなかった業務中や通勤中の事故などを含む)が起きた場合に支給されるものとして、
健康保険と国民年金・厚生年金保険の給付(傷病、障害、死亡に対するもの)
を紹介します。「療養が必要か」「休業が必要か」など、給付の特徴に注目したチャート図も載せているので、「保険給付って何だか種類が多くて苦手……」という人もぜひご一読ください。
2028年4月施行の「遺族厚生年金」「遺族基礎年金」の支給ルール改正
についても第4章で触れています。
なお、この記事の社員は、65歳未満で健康保険、国民年金・厚生年金保険の加入要件を満たしている人です(保険料の未納もなし)。健康保険の保険者は、全国健康保険協会(以下「協会けんぽ」)とします。
また、労働災害(業務上の事由または通勤途上により発生した事故など)による傷病、障害、死亡に対する給付については、こちらをご確認ください。
(注)以降で紹介する給付の内容は2026年6月時点のもので、将来変更される可能性があります。
2 傷病に対する主な給付(プライベート編)
1)給付の種類を整理しよう
社員がプライベートの事故などで傷病を負った場合、健康保険の給付を受けられます。主な給付は図表1の通りです。なお、傷病がもとで障害を負った場合の給付については第3章を、亡くなった場合の給付については第4章をご参照ください。

2)給付の支給要件、支給額、支給期間を知ろう
各給付の支給要件、支給額、支給期間は次の通りです。
| 1. 療養の給付 | |
| 支給条件 | 診察・薬剤の支給・治療などを受けた場合に支給 |
| 支給内容 | 通常は現物給付。社員は保険医療機関等に一部負担金(原則として費用の3割)を支払う。やむを得ず自費受診した場合は療養費(基準額から一部負担金を引いた額)を後日還付 |
| 支給期間 | 診察・薬剤等の支給・治療などを受けるたびに支給(期間制限なし) |
| 2. 傷病手当金 | |
| 支給条件 | 療養のため連続3日以上休んだ場合、4日目以降から支給(公休日・有給休暇取得日等を含む) |
| 支給額 | 日額 = 支給開始日以前直近12カ月間の各月の標準報酬月額の平均 ÷ 30日 × 2/3 |
| 支給期間 | 支給開始日から通算最大1年6カ月 ※出勤等で不支給となる期間を除いて通算1年6カ月。1年6カ月を超えると支給停止 ※障害厚生年金・障害手当金の支給を受けるようになった場合、全部または一部が支給停止 |
| 3. 入院時食事療養費 | |
| 支給条件 | 保険医療機関に入院した場合、入院中の食費について支給 |
| 支給額 | (1食につき)厚生労働大臣の算出基準による食事療養費-標準負担額 ※標準普段額:原則550円/食。社員は標準負担額のみを入院先に支払う(給付は入院先の医療機関に直接支給) |
| 支給期間 | 入院して食事の提供を受ける期間 |
| 4. 入院時生活療養費 | |
| 支給条件 | 65歳以上の社員が医療療養病床(長期療養が必要な患者のための病床)に入院した場合、食費・居住費について支給 |
| 支給額 | (1食または1日につき) 厚生労働大臣の算出基準による生活療養費-標準負担額 ※標準負担額:食費は原則550円/食(管理栄養士等がいない病院では510円/食)、居住費は原則430円/日。社員は標準負担額のみ支払う |
| 支給期間 | 入院して食事の提供などを受ける期間 |
| 5. 保険外併用療養費 | |
| 支給条件 | 「評価療養」(先進医療など)または「選定療養」(特別の療養環境など)を受けた場合、通常の治療と共通する部分の医療費について支給 |
| 支給額 | 通常の治療と共通する部分の医療費-その部分の一部負担金(原則として3割) ※通常の治療と共通しない部分(先進医療費用等)は全額自己負担。 |
| 支給期間 | 評価療養または選定療養を受けるたびに支給(期間制限なし) |
| 6. 高額療養費 | |
| 支給条件 | 同じ月(1日~月末)に支払った医療費の自己負担額が自己負担限度額を超えた場合に支給 ※自己負担額は世帯で合算可(70歳未満は21,000円以上のものに限る) |
| 支給額 | 月額= 同じ月に支払った医療費の自己負担額-自己負担限度額 ※自己負担限度額は年齢・所得に応じて細かく区分 ※3カ月以上高額療養費の支給を受けた場合、4カ月目から「多数該当」で限度額が軽減 |
| (例)70歳未満・標準報酬月額28万~50万円の場合: 自己負担限度額 = 80,100円 +(総医療費-267,000円)× 0.01 |
|
| 支給期間 | 同一月に支払った自己負担額が自己負担限度額を超えるたびに支給(期間制限なし) ※限度額適用認定を利用すると窓口での支払いを自己負担限度額に抑えられる。 |
3 障害に対する主な給付(プライベート編)
1)給付の種類を整理しよう
社員がプライベートで起こした事故などで障害を負った場合、国民年金・厚生年金保険の給付を受けられます。主な給付は図表2の通りです。

なお、以降では「治癒」という言葉が頻繁に出てきますが、
「治癒」という言葉には、「傷病が完治した」という意味の他に、「症状が固定された(症状の回復・改善が期待できなくなった)」という意味もあります
ので、ご注意ください。
2)給付の支給要件、支給額、支給期間を知ろう
各給付の支給要件、支給額、支給期間は次の通りです。
| 1. 障害厚生年金 | ||
| 支給条件 | 初診日から1年6カ月が経過した日(それまでに治癒した場合はその日)の時点で、厚生年金保険の障害等級1~3級に該当する場合 ※初診日時点で厚生年金保険に加入し、保険料納付要件を満たしていること |
|
| 支給額 | 等級 | 年金額(年額) |
| 1級 | 報酬比例部分の年金額 × 1.25 + 配偶者加給年金額(243,800円) | |
| 2級 | 報酬比例部分の年金額 + 配偶者加給年金額(243,800円) | |
| 3級 | 報酬比例部分の年金額 ※最低保障額:635,500円 |
|
| (※)配偶者加給年金は、配偶者が老齢厚生年金等の受給権を持つ場合や障害年金受給中は支給停止になることがあります | ||
| 支給期間 | 支給要件を満たす間、継続(期間制限なし) ※障害等級3級に満たなくなった場合は支給停止 ※社員が「老齢厚生年金」など他の年金の支給も受けられるようになった場合は、どちらの年金を受け取るかを選択しなければならないケースがある |
|
| 2. 障害基礎年金 | ||
| 支給条件 | 初診日から1年6カ月が経過した日(それまでに治癒した場合はその日)の時点で、国民年金の障害等級1~2級に該当する場合 ※初診日時点で国民年金に加入し、保険料納付要件を満たしていること |
|
| 支給額 | 等級 | 年金額(年額) |
| 1級 | 1,059,125円 + 子の加算 | |
| 2級 | 847,300円 + 子の加算 | |
| ※子の加算は、第2子までは子1人につき243,800円、第3子以降は子1人につき81,300円が加算されます。子は18歳到達年度末日以前、または20歳未満で障害等級1~2級に該当する子に限ります | ||
| 支給期間 | 支給要件を満たす間、継続(期間制限なし) ※障害等級2級未満になった場合は支給停止 ※社員が「老齢厚生年金」など他の年金の支給も受けられるようになった場合は、どちらの年金を受け取るかを選択しなければならないケースがある |
|
| 3. 障害手当金 | ||
| 支給条件 | 初診日から5年以内に傷病が治癒し、障害等級3級よりやや軽い障害が残った場合 ※初診日時点で厚生年金保険に加入し、保険料納付要件を満たしていること |
|
| 支給額 | 支給額(一時金)= 報酬比例部分の年金額 × 2 ※最低保障額 1,271,000円 |
|
| 支給期間 | 1回のみ支給 | |
4 死亡に対する主な給付(プライベート編)
1)給付の種類を整理しよう
社員がプライベートで起こした事故などで亡くなった場合、健康保険、国民年金・厚生年金保険の給付を受けられます。主な給付は図表3の通りです。

2)給付の支給要件、支給額、支給期間を知ろう
各給付の支給要件、支給額、支給期間は次の通りです。
| 1. 埋葬料(埋葬費) | |
| 支給対象 | 社員により生計を維持されていた人で埋葬を行う者 上記に該当する人がいない場合、埋葬を行った者 |
| 支給額 | 社員により生計を維持されていた人で埋葬を行う者 → 埋葬料(5万円) 上記に該当する人がいない場合、埋葬を行った者 → 埋葬費(埋葬に要した費用、上限5万円) |
| 支給期間 | 1回のみ支給 |
| 2. 遺族厚生年金 | |
| 支給条件 | 社員により生計を維持されていた配偶者・子 ・父母・ 孫・ 祖父母に支給(受給権者となる順位は次の通り) ①子のある配偶者 ②18歳到達年度末日以前、または20歳未満で障害等級1~2級の子 ③子のない配偶者(夫の場合は55歳以上) ④55歳以上の父母 ⑤18歳到達年度末日以前、または20歳未満で障害等級1~2級の孫 ⑥55歳以上の祖父母 |
| 支給額 | 支給額(年額)= 報酬比例部分の年金額 × 3/4 + 中高齢寡婦加算額635,500円(妻のみ) ※中高齢寡婦加算は要件を満たす妻に40歳~65歳の間加算 |
| 支給期間 | 受給権者に該当する間、継続(原則として期間制限なし) ※子のない30歳未満の妻は5年間のみ。夫・父母・祖父母の受給開始は60歳から ※【2028年4月改正】60歳未満は原則5年間の有期給付、60歳以上は無期給付(男女共通)に変更(20年かけて段階的に引き上げ) |
| 3. 遺族基礎年金 | |
| 支給条件 | 亡くなった社員の収入によって生計を維持していた「子のある配偶者」または「子」に支給 ※子:18歳到達年度末日以前、または20歳未満で国民年金の障害等級1~2級に該当する子 |
| 支給額 | 支給額(年額)= 847,300円 + 子の加算 ※第1・2子は子1人につき243,800円、第3子以降は子1人につき81,300円が加算 ※子が受給する場合は第2子以降が加算対象 |
| 支給期間 | 受給権者に該当する間、継続(原則として期間制限なし) ※配偶者または子が死亡した場合、子が18歳到達年度末日を迎えた場合などは支給停止 ※【2028年4月改正】子に生計を同じくする父または母がいる場合でも、要件に該当すれば受け取れるようになる |
さて、遺族厚生年金については、少し先の話しにはなりますが、2028年4月以降に支給ルールの改正があります。上記の通り、現行のルールでは、子のない配偶者が遺族厚生年金を受け取る場合、
- 妻:配偶者の死亡時、30歳未満である場合は5年間の有期給付、30歳以上は無期給付
- 夫:配偶者の死亡時、55歳未満である場合は給付なし、55歳以上は原則60歳から無期給付
というルールがありますが、女性の就業率向上など社会的変化に加え、男女差をなくすために
どちらも60歳未満は原則5年間の有期給付、60歳以上は無期給付
という運用に変わります。夫の場合は改正法の2028年4月から、妻の場合はまず40歳未満までを2028年4月から有期給付の対象とし、以後20年かけて段階的に年齢の引き上げを行います。

また、子の遺族基礎年金に関する要件が緩和され、
生計を同じくする父または母がいても、一定の条件下で子が遺族基礎年金を受給できる
ようになります。
以上(2026年6月更新)
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画像:ChatGPT














