【入社1年目の教科書】売りたくても御用心。相手を惑わすセールストークは法律違反

書いてあること

  • 主な読者:売りたい気持ちが強くて、ついつい話を盛ってしまいがちな新入社員
  • 課題:相手を困惑させたり、勘違い(誤認)させたりする不当なセールストークは法律違反
  • 解決策:正しい情報を相手に魅力的に伝える力を鍛えるべし!

営業って本当に難しい……先週から一人で外回りをしているけど、なかなか売れないな。そういえば、他の会社に就職した大学時代の友達は成果を上げているようだけど、結構、「話を盛っている」って言っていたな。私は真面目すぎるかな? 嘘はダメだけど、ちょっと話を盛るぐらいなら大丈夫だよね……?

1 「売りたい!」気持ちに要注意

営業を担当することになったら、張り切って自分たちの商品やサービスを売り込みたいですよね。ただし、その「売りたい!」という気持ちに御用心。なぜなら、

相手を勘違いさせるようなセールストークや、実際よりもよく見せかける広告は法律違反

になることがあるからです。皆さんに悪気がなくても、売りたいという気持ちから話を盛ることがあるでしょうが、押さえるべきところは押さえていきましょう。

2 セールストークなどで禁止されていること

相手を困惑させたり、勘違い(誤認)させたりするセールストークなどは、「消費者契約法」という法律で禁止されています。こうした行為があった場合、

  • 相手は一方的に契約を取消すことができる
  • 相手が契約書にサインしていたり、代金を支払っていたりしていても、取消しの申し出があった場合、会社は応じなければならない

などのルールがあります。不当なセールストークなどの例は次の通りです。

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3 広告などで禁止されていること

実際よりもよく見せかける広告や表示は、「景品表示法(略称)」という法律で禁止されています。CM、チラシ、ダイレクトメールだけでなく、商品のパッケージ、料理のメニュー、口頭でのセールストークなども対象になります。こうした行為があった場合、

契約自体が取消されることはありませんが、会社は表示を改める、再発防止策を講じる

といった対応をしなければなりません。

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広告であるにもかかわらず、広告であることを隠す「ステルスマーケティング(ステマ)」も規制の対象です。インターネット広告なども対象になります。皆さんがこうした仕事を担当されている場合は注意しましょう。

4 正しい情報を魅力的に伝える練習を!

ここまで紹介してきた内容は、要するに「嘘をついてはいけない」ということに尽きますから、皆さんが「売りたい!」と思ったら、

正しい情報を相手に魅力的に伝える練習

をすればよいことになります。そして、そのために必要なのは相手のニーズを捉えることです。この辺りは先輩から徹底的に教わってください。事前準備をして、実際に営業し、課題を見つけて改善していくことで、皆さんの営業力は確実に高まります!

最後に、

「相手に誤解を与えてしまったかもしれない」と思ったら、恐れずにその場で相手に確認し、誤解を解く

ようにしましょう。皆さんは「一度言ったことを覆すようで嫌だ」と思うでしょうが、相手は皆さんのことを「正直で誠実な人」と評価してくれるかもしれません。そして何より、

皆さんが嘘つきにならずに済む

のです。

以上(2025年1月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

中小企業の逆張り採用法!〜ほどほどの中年採用に勝機あり

1 【ご提案】中年の採用をご検討ください

「人(社員)」に関することは、経営者にとって常に頭の痛い問題です。これからますます深刻になるのは採用ですが、御社は計画通りに採用できていますか? 特に、会社の活力となる若手を確保したい中小企業は、苦戦を強いられているかもしれません。採用は長らく売り手市場で、大企業志向が強い若手も多いからです。ただ、少し考えてみてください。

  • 今、若手が入ってきたら、きちんと教育するリソースと時間はありますか?
  • その若手が早期に離職しても、また若手を採用しますか?

中小企業には即戦力が必要で、なおかつ長く定着してもらわないと困ります。そこで、この記事では、人材不足を何とかしたい中小企業向けに、

採用対象を若手から40代の中年、それも「ほどほどの中年」に広げる“逆張り採用”

をご提案します。

2 将来の伸び代ではなく、「今」をつなぐ人材

1)なぜ、ほどほどの中年なのか?

よく知られていることですが、若手の採用には早期離職のリスクがあります。大卒の新入社員の場合、入社後3年以内に離職する割合は34.9%で、会社の規模が小さくなるほど悪化します(厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)」)。若手を採用しても、戦力になる3年後には3人に1人以上が辞めていく計算です。

また、人材紹介会社や大企業の採用担当者によると、ハイエンドの中年は大企業やスタートアップなどが狙っています。よほど奮発しなければ中小企業が獲得するのは困難です。それに、獲得できたとしても、「持て余す」「既存の社員とうまくいかない」といった懸念があります。

そこで、注目したいのがほどほどの中年です。ほどほどとは、

自社の本業について経験があり、即戦力として働けるレベル

です。基本的なビジネスマナーを習得している必要はありますが、本業の能力は普通でよいです。自社のやり方を教えれば、それに合わせられるくらいの器用さがあれば問題ありません。

このほどほどの中年には、組織変革などを求めるわけではなく、既存の事業で足りない部分を補う人材として働いてもらう

ことになります。もちろん、良い意味で化けて幹部に育てばいいですが、それよりも、最低限の教育で「今」の戦力になってもらうことが目的です。

2)狙い目の中年は?

ポテンシャル採用の若手と違い、中年のスキルはある程度分かります。それよりも大切なのは、転職の理由です。敬遠したいのは、「漠然と現状に不満を持ち、青い鳥を探している人材」です。転職のハードルが下がっている今、若手ほどではないにせよ中年も転職しますが、青い鳥を探している中年は、転職を「軽く」考えているかもしれません。

そうではなく、狙いたいのは、

  • 今の職場に不満があり、別の場所でもう一花咲かせようとしている中年
  • 「最後の転職」をし、転職先で勤め上げたいと考えている中年
  • フリーランスをやめ、会社に勤めて安定を求めたい中年

です。これが「最後のチャンス」「安定した生活を!」と考えているので、それなりの覚悟があります。また、人材紹介会社は「特別なスキルのない40代はなかなか面接にも進めないので、このチャンスを活かすように」と、中年にハッパを掛けているので、本気で向かってきます。

3 面接では淡々と能力を見極める

1)武勇伝は5~6掛けで判断する

中年はそれなりのキャリアを積んできているので、面接では豊富な実績を語るでしょう。上司や外部とやり合った武勇伝を披露してくることもあります。

しかし、こうした話は5~6掛けで聞きましょう。実績は、あくまで前職(現職)のやり方に基づくもので、自社のやり方やレベルにマッチしているとは限りません。武勇伝の内容も、本人が言っているだけで本当のところは分かりません。むしろ、「上司とよくやり合っていた。私は誰にでも異見が言える」と強調してくるのは、パフォーマンスの可能性もあります。

2)ビジネスの基礎知識と基礎体力はあるか?

ほどほどの中年は、通常、礼儀、礼節は問題ありません。また、前述した通り、その時点の本業のスキルもある程度分かります。加えて見極めたいのが、

ビジネスの基本知識と基礎体力

です。

例えば、40代の人材で「新聞の1面に載るようなニュースを知らない」「財務諸表が読めない」といったレベルだったらどうでしょうか。残念ながら、こうした中年は意外と多いです。また、戦力になるまで努力を続ける体力も大事です。このあたりは採用してみないと分からないですが、採用活動の中で難しめの課題を与えてみるなどすると、ある程度は見極められます。

3)こんな質問をしてきたら危険信号

例えば、面接の際に、

定年延長制度はありますか?

などと聞いてくることがあります。こちらとしては、「お、当社に骨を埋める覚悟なのか」と高い評価をしてしまいがちですが、むしろ警戒したほうがよいです。単に自身が利用できる制度を確認し、その年齢に達したときの身の振り方を考えているだけのケースが多いからです。

前述したような覚悟のある中年であれば、これまでの経験を活かす制度があるのか、あるいはどのように活かせる可能性があるのかを聞いてくるはずです。いきなり定年延長制度について聞いてくるようでは難しいのです。

4 中年はマネジメントしやすい? それとも難しい?

1)「昭和」のノリが合う?

入社した人材をどのようにマネジメントしていくかは重要なポイントですが、今の中年はノリが「昭和」なので、年配の経営者や上司とある意味で価値観が同じです。そのため、良しあしは別ですが、「根性でとにかくやる」というガッツがあります。特に、不退転の覚悟で転職してきた場合、ちょっとやそっとのことではくじけません。

また、中年は厳しく教育されてきた世代ともいえるため、誤解を恐れずに言えば、厳しめに叱責してもハラスメントを訴えてくることは少ないかもしれません。別の見方をすれば、本気で向き合い、ぶつかれる相手だということです。

2)中年の問題

一方、中年は自分の考えや、やり方をなかなか変えられません。何か新しいことを覚えるのにも時間がかかります。「はい!」と返事をして指示に従いますが、自分の考えと指示を融合させることができないので、指示とは違ったアウトプットをすることがよくあります。このように、若手とは違う理由で指示通りにはいかないことがあります。

3)フリーランスの場合、「組織で働ける人間か」を見極める

長年フリーランスとして働いてきた中年は、自分のワークスタイルを持っており、放っておいても商いをつくれる点で頼もしい存在です。しかし、組織の中で働いた経験が乏しいと、組織の一員としての意識が希薄です。自分のキャリアや人脈を守るために、組織を悪く言ってしまうこともあります。外部の人と接するポジションに就ける場合などは注意が必要です。

5 いざというときに備えておく

ここで、少し厳しい話をします。中年採用は長期育成が前提の若手採用とは全く違い、最初からやってほしい業務が明確です。その分、ミスマッチが生じたときの問題も分かりやすく、将来の伸び代が期待しにくいので、早期の対応が必要になります。

人材紹介会社は、「中年は採用コストが高いため、辞めないよう配慮しながら戦力化すべき」と言いますが、一概にそうとも言い切れません。確かに、採用コストはかかりますが、自社の業務や考え方にマッチしない中年は、会社にとって長期の負担になります。厳しい言い方ですが、

伸び代や変化が期待できない中年とミスマッチが生じたなら、目先の費用を惜しがるよりも、長期的な損失を回避する

ほうが得策かもしれません。

いずれにしても、万一を見据えた備えは必要です。中年の採用はジョブ型に近いため、

採用時にジョブディスクリプションを作成し、会社が中年に期待することを明確に伝える

ようにします。ジョブディスクリプションには目標も設定し、その達成状況を定期的に確認します。もし、目標の未達が続いたり、当初の想定をかなり下回る実力しかなかったりすれば、その後の方向について話し合うことになります。

6 長期的な人材不足に備える

人材不足が長期化する中、政府は多様な人材(高齢者・障がい者・外国人など)の活用や、DXによる効率化(より少ない人材で業務を回せる工夫)を推奨しています。こうした流れに乗ることも重要ですが、会社の風土の問題で多様な人材を受け入れにくいこともありますし、DXが進めにくいこともあります。

そのような場合は、特に、ほどほどの中年の採用は検討に値するでしょう。新しさや刺激はないかもしれませんが、

きちんと計算できる安定した戦力になりやすい

のが、この記事で紹介してきたほどほどの中年です。それに、ほどほどの中年は、今はまだ採用しやすいですが、今後は分かりません。人材不足が深刻化する中で、この記事に書いてあることに気付く経営者が増えていけば、当然、ほどほどの中年の採用も難しくなっていくかもしれないのです。

以上(2025年2月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

従業員から「賃金のデジタル払い」を希望されたら?知っておきたい基礎知識と実務対応

賃金のデジタル払いは、企業側には振込手数料の軽減、福利厚生面の充実、従業員満足度の向上などのメリットがあるほか、従業員側にも一定のメリットがあります。とくにキャッシュレス決済に慣れている若年層での希望・ニーズが増えており、求人採用や勤続面にもポジティブな傾向があるというデータがあります。
今後、在籍している従業員から「デジタルマネーで賃金を受け取りたい」という要望が出ることもあるかもしれません。

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もめない事業承継!~スムーズなバトンタッチのコツは!? ③複数株主・少数株主対策編

「もめない事業承継! ~スムーズなバトンタッチのコツは!?」の最終回は複数株主対策/少数株主対策です。早速ですが、社長、御社の株主とそれぞれの持株数について、把握していますか?

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「年収の壁」が動くとどうなる? 企業の実務対応と今後の動向!

社会の趨勢にあわせて目まぐるしく変化している「年収の壁」について、『令和7年度税制改正大綱』や厚生労働省の情報などをもとに最新動向および企業の実務対応についてご説明いたします(※2025年2月執筆時点の情報です)。

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地域中小企業等の経営人材確保を支援!地域企業経営人材確保支援事業給付金のご紹介

給付金とは、主に国や地方自治体などの行政から、事業や生活を支援するために給付されるお金のことです。給付条件を満たしてさえいれば、基本的に申請することで受給が可能です。本レポートでは、おすすめの給付金について支援の内容や対象条件、申請方法等についてわかりやすく紹介します。

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退職前の有休消化で「引き継ぎ」が……スムーズな解決法は?

1 増加する“引き継ぎなし退職”

ある日突然、社員から、

「今月末で退職します。今日から退職日まで有休(年次有給休暇)をいただきます」

と申し出があったらどうしますか? 今、退職を申し出た社員が、残りの有休を全て消化して出社しないケースは増えています。昨今話題の退職代行サービスを使って、会社とのコミュニケーションを完全に遮断するケースも多いです。

正直なところ、あまり戦力になっていない社員であれば、突然の退職でも残りの社員で十分にカバーできるので、むしろ論点は、負担がかかる残りの社員へのフォローとなります。

一方、管理職など幅広く仕事をしている社員が退職する場合や、テレワークなどの影響もあって組織がサイロ化し、そこそこ重要な業務を“自分色”に染めてしまっている社員が退職する場合は、引き継ぎが必須です。となると、「引き継ぎもせずに突然いなくなるなんて無責任だ!」という憤りはさておき、会社が冷静に対応しなければ、残された社員のためになりません。

では、どうすればよいのか。それは、

出社しない社員に対し、「引継書の記入を依頼する」「有休の買い取りを打診する」などの方法で、“引き継ぎなし退職”の問題を乗り切ること

です。以降で詳しく説明しますので、確認していきましょう。また、引継書については、次章でダウンロードして使えるひな型を紹介していますので、必要に応じてご活用ください。

2 引継書の記入を依頼する

社員が退職日まで出社してこない場合は、「引継書」の記入を求めましょう。

引継書とは、退職する際に現職者から後任者へ業務を円滑に引き継ぐための文書

です。社員には有休を取得する権利があるので難しいですが、出社して引き継ぎをするのに比べればハードルは低いですし、「後任者や取引先がどうしても困ってしまうから……」と説明すれば、応じてもらえる可能性はあります。

次の書面は、筆者が作成した簡易的な引継書のひな型です。下のボタンからワード形式でダウンロードできますので、自社の特性を踏まえて修正してください。

退職時引継書

作成日:           作成者:
  
所属部署:         退職予定日:

1.業務概要

  • 主な担当業務:
  • 業務の進め方:
  • 現在の進捗状況:
  • 重要なポイント:

2.業務の引継ぎ

  • 引き継ぎ担当者:
  • 引き継ぎのスケジュール:
  • 必要な資料・情報の所在:

3.アクセス権限・保管場所情報

  • システムアクセス権限:
  • システムID・パスワード:
  • 重要書類の保管場所:

4.注意点・問題点

  • 業務で注意すべき点:
  • 現在の課題:
  • 今後の対応方針:

5.関係者リスト

  • 主要連絡先(上司・同僚・取引先):
  • 相談・連絡が必要な場合の窓口:

6.その他

  • 特記事項:
  • 退職後の連絡先:

こちらからダウンロード

なお、引継書の作成は、社員が退職の意向を示した直後に着手させましょう。ケースによりますが、この時期であれば、まだ心理的な距離も近く、詳細な情報を引き出しやすいこともあるからです。

3 有休の買い取りを打診する

引継書の記入依頼と並行してもう一つ、必要に応じて検討したいのが「有休の買い取り」です。原則として有休の買い取りは禁止されていますが、退職時については、

会社が有休の買い取りを予約することや、本来なら請求できるはずの有休日数を減らしたり与えなかったりすることは違法である

という行政通達(昭和30年11月30日基収4718号)がある一方で、

結果的に取得されない有休について、日数に応じて賃金を支給することは違法ではない

とした裁判例(昭和29年3月19日神戸地裁判決)があります。

簡単に言えば、

会社と社員が合意すれば、有休の買い取りが認められる余地がある

ということです。あくまでも合意があればということなので、会社が「有休を買い取るから出社しろ!」と強制したり、社員に不利益となる情報をちらつかせて合意に持っていったりすることは認められません。しかし、条件(買い取る日数や金額など)も含めて交渉の余地は十分にあるはずです。

4 退職代行サービスの場合は相手の窓口に伝える

今や退職代行サービスのラッピングバスが繁華街を走る時代。社員が退職代行サービスを利用しても不思議ではありません。この場合、社員との直接的なやり取りは著しく制限されるので、引き継ぎだけでなく、会社備品の返却や退職金の支払いなどの問題も出てきます。

そのため、退職代行サービスを運営する業者(以下「退職代行業者」)には次のような対応で臨みましょう。

1)法的権限の確認

退職代行業者の正体が、「弁護士」「労働組合」「民間事業者」のいずれであるかによって法的権限が異なります。例えば、弁護士資格のない民間事業者が、退職の条件について会社と交渉することは、非弁行為に当たり認められません。まずは、退職代行業者の法的権限を確認しましょう。

2)社員本人の意思確認

退職の申し出が、社員本人の意思によるものかを確認しましょう。例えば、退職代行業者に対して、社員本人が自筆で記入した退職届の提出を求めることが可能です。

3)退職日や有休消化の意向の確認

いつ退職したいか、有休を消化する意向があるかなどについて、書面での確認を求めます。

4)会社備品の返却と引き継ぎの要求

会社備品の返却や引継書の作成を、退職代行業者を通じて社員に要求します。

5)直接連絡の提案

退職代行業者に対し、退職金や未払い給与の支払いについて、退職代行業者を介さず直接社員と連絡を取りたい旨を伝え、その方法を提案します。

5 複雑なケースの場合、専門家への相談も検討する

退職で問題が発生した場合、会社と社員の話し合いなどで解決するのが望ましいですが、次のような深刻な状況の場合においては、弁護士への相談が必要になるケースもあります。

1)重要な機密情報の持ち出しが疑われる場合

会社の機密情報が関係していたり、個人情報保護に関わる問題があったりする場合です。

2)意図的な業務妨害が行われている場合

重要書類の破棄や隠匿、システムへの故意の損害行為などがある場合です。

3)著しい損害が発生している場合

取引先との関係に重大な支障を来していたり、業務の長期停止で損害が出ていたりする場合です。

例えば、引き継ぎがされないことにより、業務が長期停止して大きな損害を被った場合(上記の3)に該当)などは、弁護士を通して損害賠償を請求できる可能性があります。

とはいえ、法的手段の検討は慎重に行う必要がありますので、あくまでも話し合いによる解決が困難な場合の最終手段として考えておきましょう。

以上(2025年3月作成)

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画像:k_yu-Adobe Stock

【書籍ダイジェスト】『Apple Vision Proが拓くミライの視界 スマホがなくなる日』

本書では、2024年2月にAppleが発売したApple Vision Proが実現しようとしている「空間コンピューティング」について、それがどういうものでどのようなインパクトを社会に与えるのか、「日本再興」を狙えるビジネスチャンスとしての側面も含めて解説している。
Apple Vision Proは、Meta(元Facebook)などの他社が既に開発しているヘッドマウント・ディスプレイに類するゴーグル型のVRデバイスだが、使用に違和感を感じさせない最新の技術が盛り込まれており、重量やバッテリーの持ちなどに課題があるものの、「あらゆる空間がインターネットの入口になる」未来を垣間見させてくれる、可能性に満ちた新商品なのだという。

書籍ダイジェストは、こちらからお読みいただけます。pdf

【中堅社員のスピーチ例】前に出て空を飛び続けよう!

【ポイント】

  • 雁(がん)は群れで長距離を飛ぶ際、先頭の鳥の後ろに「V字」を作るように列を組む
  • 仲間は先頭の鳥の気流に乗って飛べるが、飛び続けるには先頭を交代し回す必要がある
  • 部下や後輩が「前に出る意識」を持たないと、やがて組織が成り立たなくなってしまう

おはようございます。突然ですが、皆さんは「雁行(がんこう)」というのをご存じでしょうか。これは雁という渡り鳥が、群れで長距離を旅する際に見せる飛び方です。雁の群れは一列に並んで飛ぶのではなく、先頭の鳥の後ろから左右に広がり、アルファベットの「V」の形になるように列を組んで飛びます。このことを雁行、V字飛行などと呼ぶのです。

なぜ、V字に列を組むのかと思うでしょうが、これにはちゃんとした理由があります。雁が羽ばたくと、その後ろには体が浮きやすい気流ができます。だから、列の後ろを飛ぶ鳥は、仲間が作った気流に乗って、疲れずに飛び続けることができるのです。ただ、この飛び方だと、仲間の力を借りられない先頭の鳥には負担が集中します。そのまま放っておけば先頭の鳥は疲弊して羽ばたけなくなり、そうなると仲間も気流に乗って飛べなくなります。だから、雁たちは長距離を旅する際、先頭の役割を交代しながら順番に回し、ローテーションしながら飛行するのです。

私はこの雁行のシステムを初めて知ったとき、「雁ってとても賢い鳥なんだな」と感心すると同時に、ふと「自分の会社が雁の群れだとしたら、どんな状態だろう」と考えてみました。私たちの会社では、上司や先輩が、私のような若手の進むべき方向を照らして引っ張ってくれています。ですが、私自身はどうなのかというと、正直なところ、上司や先輩の指示にただ従うだけで、自分が皆を引っ張るという経験をあまりして来なかったように思います。雁の群れでいうなら、「先頭の役割を1人だけ交代せず、楽をし続けている状態」といえるかもしれません。

もちろん、会社の指揮系統に従うことは大切なのですが、いつまでも上司や先輩に引っ張ってもらっていては、その人たちに負担が集中します。そんな状態が続けば、やがて組織は成り立たなくなってしまうでしょう。だから、私たち若手は、ただ誰かに任せきりにするのではなく、定期的に「自分がやります!」と手を挙げて、チームを引っ張る意識を持たなければなりません。

もうすぐ新年度が始まりますが、新年度の私のテーマは「前に出る」です。チーム全体が空を飛び続けられるよう、積極的に手を挙げていきたいと思います。

以上(2025年3月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

【規程・文例集】「役員報酬規程」のひな型

1 役員報酬規程作成時の留意点

1)役員報酬決定の手続き

「役員報酬」は一般的な呼称であり、会社法では「取締役(会計参与、監査役)の報酬等」、法人税法では「役員給与」とされています。この記事では役員報酬と記述しています。

役員報酬決定の手続きは会社法に定められています。具体的には、定款に役員報酬の額または具体的な算定方法を定める場合は、その定めに従って役員報酬の額を決定します。しかし、定款に定めを置く例はほとんどなく、多くは株主総会の決議によって決めることとしています。株主総会で個々の取締役の報酬の確定額を決議することもできますが、実務上は、株主総会では取締役全員の報酬総額の最高限度のみを決議し、取締役会に個々の取締役の報酬額の決定を委任するケースが多いです。

2)役員報酬の支給方法・支給額を決定する際の留意点

役員報酬は税務上の扱いにも注意が必要です。法人税法では、一定の要件を満たす役員報酬についてのみ損金算入を認めています。具体的には「定期同額給与」「事前確定届出給与」「一定の業績連動給与」などを定めています(法人税法第34条第1項)。ただし、一定の業績連動給与を損金算入できるのは、有価証券報告書提出会社に限られるので、多くの企業では定期同額給与や事前確定届出給与とする必要があります。

詳細は省略しますが、定期同額給与は、支給時期が1カ月以内の一定期間ごとであり、支給時期ごとの支給額が同額であるもの、および継続的に供与される経済的な利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの(法人税法施行令第69条第1項)などをいいます。

また、事前確定届出給与は、事前に支給時期と支給額を確定させて、納税地の所轄税務署長に届け出を行ったものをいいます(同族会社に該当しない国内の会社では、定期給与を支給しない役員(非常勤役員等)に対し支払う年俸等の臨時給与は、届け出を行わなくとも、事前確定届出給与に当たるものとして損金算入できます(法人税法第34条第1項第2号))。

支給額に関しては、不相応に高額な役員報酬(過大役員給与)は、高額に当たるとされる部分は損金算入できません(法人税法第34条第2項)。不相応に高額な部分は、当該役員の職務内容、会社の収益、会社の使用人に対する給与の支給状況、同業種・類似規模の他社の役員に対する給与の支給の状況などと比較して判断されます(法人税法施行令第70条)。

役員報酬規程は、役員に対して役員報酬額の算定基準や支給時期などを明確にするという役割を持つと同時に、会社法や法人税法などの関連法令に関する遵守事項を明文化する意味でも重要な規程です。

2 役員報酬規程のひな型

以降で紹介するひな型は、一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容は異なってきます。実際にこうした規程を作成する際には、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【役員報酬規程のひな型】

第1章 総則

第1条(目的)

本規程は、株式会社○○の役員の報酬および賞与の支給基準などについて定めるものである。

第2条(役員の定義)

本規程における役員とは、株主総会で選任された取締役および監査役のことをいう。

第2章 報酬

第3条(報酬の体系)

役員報酬は、月額報酬および役員賞与として支給する。

第4条(月額報酬の決定方法)

1)取締役の月額報酬は、株主総会で決議された報酬総額の範囲内において、取締役会が本規程に従ってこれを決定する。

2)監査役の月額報酬は、株主総会で決議された報酬総額の範囲内において、監査役の協議で本規程に従ってこれを決定する。

第5条(月額報酬の支給基準)

役員の月額報酬は、次の事項を参考にしながら、役員の職位ごとにこれを決定する。

  1. 従業員の給与の最高額
  2. 役員報酬の世間一般的な水準
  3. 会社の業績

第6条(常勤役員の支給基準)

常勤役員の月額報酬は、原則として従業員の給与の最高額を基準(1.0)とし、次の各号に掲げる区分により、職位別にこれを決定する。

  1. 取締役会長:○.○程度
  2. 取締役社長:○.○程度
  3. 取締役副社長:○.○程度
  4. 専務取締役:○.○程度
  5. 常務取締役:○.○程度
  6. 取締役:○.○程度
  7. 監査役:○.○程度

第7条(非常勤役員の支給基準)

非常勤役員の月額報酬は、当該役員の会社への貢献度、社会的地位などを総合的に勘案した上、第5条所掲の事項も参考にして決定する。

第8条(報酬の改定)

役員報酬は、当該役員の職務内容、職務遂行状況、成果などを総合的に勘案して、原則として毎年度見直しを行うものとする。

第9条(報酬の減額措置)

役員報酬は、会社の業績その他必要に応じて、臨時に減額することができる。この場合、取締役の役員報酬については取締役会の協議により、監査役の役員報酬については監査役の協議によりそれぞれ決定した内容に従い役員報酬を減額する。

第10条(通勤手当)

通勤手当は、役員報酬とは別に、別途定める「賃金規程」(省略)第○条~第○条の定めに準じて支給する。ただし、役員のうち、社有車で送迎を行う者については、通勤手当は支給しない。

第3章 報酬の支給方法など

第11条(支給方法)

役員の月額報酬(使用人兼務役員の使用人部分給与を含む)および通勤手当は、毎月○日に役員本人の指定する金融機関の口座に振り込むことで支給する。

第12条(控除)

役員報酬を支給するに際しては、次の各号に掲げるものを控除する。

  1. 所得税その他の源泉徴収税
  2. 住民税
  3. 社会保険料
  4. その他、本人からの申し出があった立て替え金、貸付金、前払い金等

第4章 報酬に関するその他の事項

第13条(長期欠勤者の報酬)

病気療養など、やむを得ない事情により長期欠勤者の役員報酬は、原則として、任期中の減額は行わない。

第14条(就任・退任または解任時の報酬の取り扱い)

1)月の途中に就任・退任し、または解任された場合の役員報酬は、月額報酬を基に日割り計算を行う。

2)月額報酬の支給計算の期間は当月1日から末日までとする。

第5章 賞与

第15条(賞与の決定方法)

会社の業績が良好なときは、株主総会による決議を得て、役員に賞与を支給することができる。ただし、賞与の金額は、月額報酬と合計して、株主総会で決議された報酬総額の範囲内で決定しなければならない。

第16条(賞与の配分)

各役員への賞与の配分は、各役員の職務内容、職務遂行状況、成果などを総合的に勘案して、取締役の賞与は取締役会で、監査役の賞与は監査役の協議でそれぞれ決定する。

第17条(賞与の支給方法)

役員賞与は、取締役会がその都度決定した支給日において、役員本人の指定する金融機関の口座に振り込むことで支給する。

第6章 雑則

第18条(改廃)

本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則

本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2025年2月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 栗原功佑)

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