ファクタリング活用の検討~売掛金の回収、与信管理など資金繰りの改善につながるって本当?

1 資金繰りの改善につながる「ファクタリング」のご提案

ファクタリングとは、

企業が持っている売掛金を、ファクター(ファクタリングのサービス提供企業)が買い取ったり、取引先が代金を支払えなくなった場合に備えて支払いを保証したりするサービス

です。

ファクタリングを活用すると、次のような経営上の悩みを解決できる可能性があります。例えば、

  • 売掛金の入金まで待てず、早く現金化したい
  • 売上の大半を1社との取引に頼っており、その会社が倒産すると大きな影響を受ける
  • 取引先の信用力を十分に判断できず、不安がある
  • 債権管理(売掛金の回収管理)の負担を減らしたい
  • 手形業務に代わる仕組みを導入し、事務負担を軽減したい

といったケースです。

特に、売掛金を買い取ってもらう買取型ファクタリング(詳しくは後ほど解説)は、入金を待たずに資金を受け取れるため、資金繰りの改善に効果があります。原材料費や人件費の上昇など、経営環境の変化が大きい現在では、資金調達の選択肢の一つとして検討する価値があるでしょう。また、紙の約束手形が2027年3月末をもって廃止される予定です。手形取引を利用している企業では、決済方法や資金調達方法の見直しが必要となるため、売掛金を活用できるファクタリングは、有力な選択肢の1つとして注目されています。

資金繰りに問題がない企業でも、ファクタリングは役立ちます。例えば、取引先の信用調査を専門会社に任せることで、新しい取引先との契約を安心かつスムーズに進められるようになります。

この記事では、ファクタリングの利用を検討する際の第一歩として、基本的な仕組みや種類について分かりやすく解説します。なお、ファクタリング会社によって利用できるサービスや仕組み、契約内容は異なるため、利用する際には内容をよく確認するようご留意ください。

2 ファクタリングのメリットと注意点

ファクタリングの種類にはさまざまな分類方法がありますが、引き受け方法という面から見ると、次の2つに分けられます。

  • 買取型:ファクターが、債権者から売上債権(請求書)を買い取るファクタリング
  • 保証型:ファクターが、債務者の代金支払いを保証するファクタリング

買取型・保証型のファクタリングには、それぞれ次のようなメリットがあります。ファクタリングの活用を検討する際に重要な点だと思いますので、ぜひご確認ください。

【買取型】

  • 売上債権を早期に現金化できる
  • 担保、保証人が不要である
  • 原則として、取引先が倒産しても回収する義務を負わない

【保証型】

  • 担保、保証人が不要である
  • ファクターから取引先の信用情報が提供される
  • 新規取引先との取引開始時のリスクヘッジにつながる

ファクタリングは銀行などからお金を借りる「融資」とは違いますので、担保や保証人は必要ありません。また、貸借対照表にも基本的には影響はありません(「借入金」にはなりません)。資金調達の選択肢として、また回収リスクの負担を軽減する保険のような存在として活用できます。

一方、ファクタリングには注意点が2つあります。1つ目は、手数料です。一般的に融資の利率などに比べて手数料は高くなる傾向にあります。2つ目は、取引先への対応です。取引先にファクタリングの活用を知られると、自社の経営状況の悪化を疑われる恐れがあります。

3 ファクタリングの仕組みをざっくりご紹介

買取型・保証型のファクタリングの仕組みは、次の通りです(一般的な流れです)。

ファクタリングの仕組み

図表1で紹介しているのは、債権者・債務者・ファクターの「3社間によるファクタリング」です。

この他に、債権者・ファクターの「2社間によるファクタリング」があります。この場合、基本的には債務者に知られることなくファクタリングを活用できますが、3社間に比べて手数料が高くなることが多いようです。

4 その他のファクタリングの種類

これまで見てきた他、ファクタリングは決済方法、申込み方法、対象となる取引の内容などさまざまな面で分類されます。その他の主な種類の一例は次の通りです。

(図表2)【ファクタリングの主な種類の一例】

種類 引き受け方法 取引形態 特徴
一括ファクタリング 買取型 2社間・3社間 債権者の売掛債権を一括して譲渡。ただし債権者側発信ではなく、債務者(支払企業)側が「支払手段」として支払業務で行うもの。債務者の支払業務を効率化できる
オンラインファクタリング 買取型・保証型 2社間・3社間 オンラインで申込みなどやり取りが完結する。早期にサービスが利用できる
国際ファクタリング 保証型 4社間 海外のファクターが信用調査を行った上で、債務者の信用リスクを保証する。L/Cの手続きなどが不要

(出所:各ファクターのウェブサイトなどを参考に日本情報マート作成)

1)一括ファクタリング

金融機関などのファクターが債務者(支払企業側)の決済を代行するサービスです。債権者が保有する売上債権をファクターに一括して譲渡するため、債務者は支払業務の効率化を図れます。

また、一部のファクターでは、電子記録債権(でんさい)を一括ファクタリングの仕組みに組み込んだサービスを提供しています。電子記録債権は、手形など紙媒体で管理されてきた債権を電子化したものです。

2)オンラインファクタリング

申込みから入金までなど一連の手続きがオンライン上で完結するサービスです。対面での手続きや書類の郵送などは不要です(一部書類の郵送などが必要な場合もあります)。種類として多いのは買取型のファクタリングです。

買取型の場合、オンライン上で決算書や売上債権の請求書などをアップロードし、審査を受けます。中には即日対応をうたっているファクターもあり、早期にサービスを活用することができます。

3)国際ファクタリング

輸出入の貿易にファクタリングを活用するサービスです。国際ファクタリングは、債権者・債務者・ファクターに加えて、ファクターの提携先である海外のファクターの4社間で行われます。海外のファクターが信用調査を行った上で、債務者の信用リスクを保証します。

輸出入を行う際の決済には従来、L/C(Letter of Credit、信用状)が使われてきましたが、国際ファクタリングを活用することで、手間とコストがかかるL/Cの手続きが不要になるなどのメリットがあります。

以上(2026年7月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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【2026年7月最新版】ビジネスマッチングサービス公開中!

とくぎんサクセスクラブと香川ニュービジネスクラブ(香川銀行)は合同で、企業間の新たなビジネス機会創出を目的としたビジネスマッチングサービス「TOMONY BUSINESS INFORMATION」を公開しております。

本サービスには、各地域で活躍する多様な業種の会員さまの事業内容、マッチング希望情報などを掲載しており、新たな取引先や提携先の開拓に向けたヒントやきっかけを見つけていただける構成となっております。

本サービスが、会員さまの更なる発展ならびに有益なビジネスパートナーとのご縁を築く一助となれば幸いです。是非ご一読いただき、有効にご活用くださいますようお願い申し上げます。

とくぎんサクセスクラブ
香川ニュービジネスクラブ

ご覧いただく中でご関心をお持ちの事項がございましたら、事務局までお問い合わせください。

【連絡先】とくぎんサクセスクラブ(徳島大正銀行 法人推進部内)
TEL:088-656-1125

以上(2026年7月作成)

経営のヒントとなる言葉(徳川家康)

「勝事(かつこと)ばかり知(しり)てまくる事をしらざれば害其身(そのみ)にいたる」(*)

出所:「東照公御遺訓」(久能山東照宮ウェブサイト)

冒頭の言葉は、

「敗北から学び、逆境を乗り越えた者が、最終的に大きな成功をつかむ」

ということを表しています。

織田信長(おだのぶなが)、豊臣秀吉(とよとみひでよし)とともに、戦国の三英傑の1人に数えられる家康。「鳴かぬなら鳴くまで待とう時鳥(ほととぎす)」という言葉でも知られ、三英傑の中でも特に忍耐強い武将というイメージがあるかもしれません。

しかし、生来の家康は、実はとても気が短い人物だったといわれています。家康の気の短さを象徴する戦(いくさ)の1つに、武田信玄(たけだしんげん)と対峙した三方ヶ原(みかたがはら)の戦い(1572年)があります。

この戦で、家康は上洛を目指す信玄が、敵である自分の居城を攻めずに素通りしようとしたことに腹を立て、兵力差があるにもかかわらず、武田軍に攻撃を仕掛けてしまいます。結果は大敗、家康は多くの家臣を失いながら、命からがら城へと逃げ帰ります。自分の短気な性格のせいで大きな敗北を味わった家康は、後年この戦での憔悴(しょうすい)した姿を肖像画として描かせ、自分への戒めとして生涯離さなかったといわれています。

信玄の死後、家康は同盟を結んでいた信長とともに武田氏を滅ぼし、大大名となりますが、本能寺の変(1582年)で信長が討たれると、その家臣である秀吉への臣従を余儀なくされます。しかし、家康はその立場を受け入れ、10年以上もの間、自分が天下を取るチャンスを虎視眈々(たんたん)と待ち続けたのです。

家康の中には、「気の短さを克服しなければ、三方ヶ原の戦いのような敗北を再び味わうことになる」という思いが少なからずあったのでしょう。過去の敗北を決して忘れまいとする家康の姿勢は、次の言葉からもうかがい知ることができます。

「こころに望(のぞみ)おこらば困窮したる時を思ひ出(いだ)すべし」(*)

秀吉の死後、家康は関ヶ原の戦い(1600年)で、秀吉の家臣だった石田三成(いしだみつなり)を倒し、征夷大将軍に任命されます(1603年)。武家としてトップの地位を手に入れた家康でしたが、豊臣家とこれに従う多くの大名が依然として天下取りの障害となっていました。そこで家康は、豊臣家を滅ぼす大坂冬の陣・夏の陣(1614年・1615年)までの間、再び忍耐の時期を過ごすことになります。

家康は征夷大将軍に就任した時点ですでに60歳を超えていました。「人生50年」といわれたこの時代に、高齢の身でチャンスを待ち続けるのは、勇気のいる選択だったかもしれません。しかし、短気な性格のせいで失敗した経験を忘れず、耐え忍んだことが、最終的に家康を天下人に押し上げ、250年以上にわたる江戸時代の礎を築いたのです。

ビジネスでも、競合の動きを見るためなど、あえて「待ち」に徹し、耐え忍ばなければならないときがあります。しかし、経営者にとって「待ち」に徹するというのは、ある意味、行動を起こすよりもつらいことです。

行動を起こせば、それに応じて何らかの結果が返ってきます。結果が良ければ「自分の行動は正しかった」、悪ければ「改めるべきところがあった」と振り返ることができるでしょう。

一方、「待ち」に徹するというのは、競合の動きなどに目を光らせながら、将来の成功のための下準備を進めることです。この下準備は、短期的に結果を出すためのものではないため、経営者は「『待ち』に徹するという選択が本当に正しいのか」について、確信を持つのが難しいのです。これはとても怖いことです。また、経営者が大きな行動を起こさない状態が続けば、「なぜ社長は動かないんだ……本当に大丈夫なのか?」と言い出す社員も出てくるでしょう。

そうしたとき、経営者に試されるのは「自分の直感を信じ抜く勇気」です。経営者がこれまでの人生で培ってきたビジネスの経験値は、並大抵のものではありません。たとえすぐに答えが見えなくても、自分の信じたタイミングが来るのを待つのです。

忍耐はいつか実を結びます。成功をつかんだときは、経営者は社員の手を取って「『待ち』に徹したかいがあった」と喜びを共有しましょう。社員は思うはずです。「この社長についてきてよかった」と。そのときこそ、「ここまで一緒に耐えてくれてありがとう」と、社員に心からの感謝を伝えることを忘れてはなりません。

【本文脚注】

本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を担保するものではありません。また、本文中では内容に即した肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思われるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。

【経歴】

とくがわいえやす(1542〜1616)。三河(みかわ)国(現愛知県)生まれ。豊臣秀吉(とよとみひでよし)没後に関ヶ原の戦いにおいて東軍を率いて、石田三成(いしだみつなり)と対戦し、勝利。征夷大将軍に任じられ、江戸幕府を開く。

【参考文献】

(*)「東照公御遺訓」(久能山東照宮ウェブサイト)

以上(2026年7月更新)

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画像:日本情報マート

「退職代行」で会社を去る社員……退職日や仕事の引き継ぎはどうなる?

退職代行とは、

会社に直接「退職(自主退職)したい」と言えない(言いたくない)社員が、他者(以下「退職代行者」)に依頼して、退職手続きなどを代行してもらうこと

です。入社したばかりの新入社員が退職代行を利用して辞めてしまうというニュース、皆さんも一度は目にしたことがあると思います。

「退職の手続きを人任せにするなんて非常識だ」と思うかもしれませんが、

退職代行であっても、社員本人の意思による申し出であれば、退職は成立する

ので、むげには扱えないのがつらいところです。

これまで社員に退職代行を使われた経験がない場合、「社員を通さずに退職について交渉していいの?」「仕事の引き継ぎはどうなるの?」など、いろいろと疑問もあるでしょう。この記事では、そんな経営者の疑問に答えるべく、退職代行の対応のポイントをまとめました。

Q1 なぜ、社員は自分で「退職したい」と言わないのか?

退職は本来、社員が自分の口で会社に申し出るのが礼儀です。社員に退職代行を使われると、経営者としては「なぜ自分の口で言わないの?」という腹立たしさもあり、同時に「最後なのに顔も見せてくれないのか……」という悲しさもあって、複雑な気持ちになります。

社員はなぜ、自分で退職を申し出ずに退職代行を使うのでしょうか? 人それぞれではありますが、例えば次のような理由が考えられます。

  • 人手不足で会社が非常に忙しいなど、「退職したい」と言えない雰囲気がある
  • 過去に退職を申し出たが、会社から引き留められ退職させてもらえなかった
  • 職場に問題(過重労働やハラスメントなど)があり、一刻も早く退職したい
  • うつ病などの精神疾患を患っていて、自分で退職手続きをしたくない
  • 自身がトラブルを起こして会社に居づらくなり、バツが悪いので黙って退職したい
  • 経営者や上司など、退職の窓口となる人間との折り合いが悪く、顔を合わせたくない

1.から4.は、「会社の対応に期待できない」という諦めや「自分の安全を守らなければ」という焦りから来るもので、退職代行を使われても仕方がないといえる面もあります(特に3.は、明らかに会社に問題がある)。5.と6.は、単純に「居心地が悪い」という不快感から来るもので、社員のわがままにも取れますが、直接「退職したい」と言いにくい心情は理解できるでしょう。

いずれにせよ、上のように

退職代行を使う社員は、会社に対して少なからずネガティブな感情を持っているケース

が多いです。「退職代行を使うなんて非常識だ」という考えも分かりますが、会社がこうした社員と直接退職について話をしようとすると、お互いの感情がヒートアップするなどして、かえってトラブルになることもあります。つまり、ポジティブに捉えるなら、

退職代行者が会社と社員の間に入ることで、退職手続きを円滑に進められる可能性がある

という考え方もできるわけです。

Q2 退職代行者って何者? 具体的に何ができる?

ここから退職代行の具体的な話に入ります。まずは「退職代行者とは何者で、具体的に何ができるのか」を確認していきましょう。一般的に、退職代行者は次の3種類に大別できます。

  • 弁護士:社員との委任契約により退職代行を行う法律の専門家
  • 労働組合:組合員となった社員について退職代行を行う労働者団体
  • 民間事業者:1.と2.のいずれにも該当せず、サービスとして退職代行を行う民間の会社

なお、2.の労働組合については、自社で労働組合を持たない中小企業の社員の場合、個人単位で加入できるユニオン(合同労働組合)が退職代行を行うことになります。

この3種類の退職代行者ですが、実は弁護士、労働組合、民間事業者それぞれで、退職代行で行えることが異なります。具体的には次の通りです。

退職代行で行えることの違い

お気付きかと思いますが、

民間事業者は「退職手続き」は代行できるが、会社との「交渉」は代行できない

のです。弁護士は弁護士法により、社員の代理として会社と直接交渉することが認められていますが、弁護士以外の者が同じことをすると非弁行為(違法)になるからです。ただし、労働組合は労働組合法により、労使関係や労働条件について会社と交渉すること(団体交渉)が認められているので違法になりません。言うなれば、

  • 弁護士、労働組合は、会社と直接交渉できる社員の代理
  • 民間事業者は、社員の要望を会社に伝えるだけのメッセンジャー

というイメージです。

なお、弁護士と労働組合については、退職に関する交渉がこじれて訴訟などに発展した際、弁護士は引き続き社員の代理として会社と争ったり、和解の交渉をしたりできるのに対し、労働組合にはその権限がないという違いがあります。

Q3 退職代行者から連絡が来たら、まず何をする?

社員が退職代行を使う場合、まずは退職代行者から会社に対し、「電話」「メール」「内容証明郵便」などで、社員に退職の意思があることや退職理由などについて連絡が来ます。

連絡が来たら、まずは退職代行者に対し、

  • 退職代行者が「弁護士」「労働組合」「民間事業者」のどれに当てはまるのか
  • 社員本人からの依頼であることを証明できるもの(委任状、本人直筆の退職届など)があるか

を確認しましょう。1.を確認するのは、退職代行者が退職について直接交渉できる相手なのかを判断するためです。2.を確認するのは、社員本人以外(社員の家族など)からの依頼だった場合、後々退職について本人とトラブルになる恐れがあるからです。

なお、民法上、

退職代行であっても、社員本人の意思による申し出であれば、退職は成立する

ので、社員本人からの依頼にもかかわらず、「退職代行を使っての退職は認めない」などと、退職代行者を拒絶することはできません。仮に拒絶したとしても、

  • 正社員等(無期雇用)の場合、退職の申し出から2週間が経過すれば退職できる
  • パート等(有期雇用)の場合、契約期間が満了すればいつでも退職できる(期間満了前の退職が認められる場合もある)

というルールがあるので、退職の成立自体を妨げることはできません。

Q4 退職に関する社員の要望には、どう答えればいいの?

退職代行者からの連絡が来る際は、社員に退職の意思があることや退職理由の他に、

退職に関する社員の要望(退職日、年次有給休暇の取得、未払い残業代の支払いなど)

も併せて伝えられます。

基本的に会社の選択肢は、

  • 社員の要望に異論がなければ、それに従う
  • 社員の要望に異論があれば、交渉して条件を決める

のいずれかになります。なお、2.については、退職代行者によって次のように対応が変わります。

  • 弁護士、労働組合:会社が退職代行者と直接交渉して条件を決める
  • 民間事業者:会社の要望を退職代行者から社員に伝えてもらい、社員からの回答を待つ

社員の要望に答える際は、口頭だと「言った、言わない」のトラブルになる恐れがあるので、

社員の要望に対する会社の回答を「回答書」などにまとめ、退職代行者に渡す

ようにしましょう。社内で検討すべき内容がある場合は、その内容についてだけ後日回答する旨を伝えます。

Q5 社員本人の口から退職理由を聞くのはNG?

退職代行者から連絡があった場合、経営者が特に気になるのは「なぜ、社員が退職することになったのか」でしょう。ただ、退職理由については、例えば

内容証明郵便で届いた書面に「一身上の都合により退職します」とだけ書かれているなど、表面的な理由しか分からないケース

が少なくありません。経営者としては、ちゃんとした退職理由を知りたいところですが、

退職代行者は、社員本人から伝えてよいと言われていること以外は基本的に話せない

ので、詳細を聞くのは難しいと考えられます。

「ならば、社員本人と直接話したい」という経営者もいるでしょうが、この点についても、

そもそも社員は会社とコミュニケーションを取りたくなくて退職代行を使っている

という事情があるので、基本的には避けるべきです。どうしても気になるのであれば、

退職代行者に「退職理由をもう少し詳しく知りたいと、社員に伝えてほしい」と依頼

するとよいでしょう。強要はできませんが、社員が同意した場合であれば、退職代行者もその範囲内で話をすることができます。

Q6 仕事の引き継ぎをしてほしいが、頼めるの?

多くの会社は、社員が退職する際に業務が滞らないよう、就業規則に

退職する社員は、会社の指示する期間内に速やかに後任者に業務の引き継ぎを行わなければならない

などの規定を設けています。退職代行の場合も、退職するまでは就業規則が適用されるので、

就業規則の内容を退職代行者に伝え、社員に引き継ぎをするよう働き掛けてもらうことは可能

です。ただ、問題は、会社とコミュニケーションを取りたくない社員が、

退職日までの間、年次有給休暇を使って休むなどして、引き継ぎを拒否するケース

があることです。年次有給休暇は、労働基準法で認められた社員の権利であり、会社も原則として取得を拒否できないので、こうしたケースでは引き継ぎが難航します。

難しいところですが、対応としては、

会社側で社員の担当業務に関する質問内容を取りまとめ、退職代行者経由で社員に渡し、回答してもらう

といった方法が考えられます。社内の人間と対面しない形での引き継ぎであれば、社員もある程度は応じてくれるかもしれません。

Q7 急な退職は正直迷惑……損害賠償は請求できるの?

通常の退職であれば、会社は社員と、退職日や引き継ぎなどについて綿密に話し合いながら、退職手続きを進めることができます。一方、退職代行の場合、退職代行者を挟んでの話し合いになる上に、会社もあまり社員を刺激したくないため、退職日や引き継ぎなどについては、通常の退職よりも会社が社員に譲歩せざるを得ない面があります。

経営者としては、「急な退職な上に、引き継ぎも不十分で迷惑が掛かった。少しは社員に補填してほしい」と考えるかもしれません。この点、民法上、

退職時に会社が具体的な損害を受けた場合であれば、社員に損害賠償を請求できる可能性

はあります。ただし、引き継ぎ不十分などを理由に請求が認められる可能性は低く、例えば、

社員が担当していた業務について、代替要員を急遽採用する必要に迫られたため、採用に掛かった費用の実額○○円を請求する

など、具体的な損害内容を会社側が立証する必要があります。

なお、損害賠償を請求せずに、退職時に発生した損害を賃金や退職金から差し引くことは、社員本人の自由な意思に基づく同意がなければ認められないので、注意が必要です。

以上(2026年7月更新)

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このタイミングで年休取るかね…… 取得日の変更はどこまで可能?

1 年休は社員の権利だけど、繁忙期はちょっと……

労働基準法で定められている「年休(年次有給休暇)」は本来、

社員が希望する時季に、自由に取得することができる

とされています。いわゆる「年5日の年休取得」が法律で義務付けられているのもあり、どの経営者も年休の取得自体に異議を唱えることはないでしょう。ただ、繁忙期の年休取得という話になってくると、人手不足に悩まされているのもあって、内心「それはちょっと勘弁してよ……」と思っている人が少なくないかもしれません。

労働基準法上は、「時季変更権」といって、一定の場合に、会社が社員の年休の取得時季を変更できるルールがあるのですが、

時季変更権が認められる範囲は限定的で、不用意に行使すると労働基準法違反になりかねない(罰則は6カ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)

という点に注意が必要です。以降で時季変更権の正しいルールを押さえていきましょう。

2 繁忙期というだけでは「時季変更権」は使えない?

まず、時季変更権とは、

社員が申請した時季に年休を与えると、「事業の正常な運営に支障が出る具体的な事情」がある場合に限り、会社が年休の取得時季を変更することができるというルール

のことです。あくまで変更を認めるだけで、年休の取得自体を拒否することはできません。

ただ、この「事業の正常な運営に支障が出る具体的な事情」というのがくせもので、単に会社が繁忙期というだけでは認められません。次のように、時季変更権が認められるケースと、そうでないケースがあります。

次に、各裁判例などをもとにした判断基準を、ざっくりまとめた図表を紹介します。

各裁判例などをもとにした判断基準

また、時季変更権を行使する場合は、年休の申請があった時点で速やかに行い、その理由を具体的に、かつ明確に伝える必要があります。漠然とした理由や、休暇直前の通知は違法と判断されるリスクが高いです。

トラブルを避けるため、書面での通知なども検討しましょう。そして、可能な限り、社員の希望に沿った代替日を複数提示するなど、誠実な対応を心掛けることが望ましいでしょう。

3 時季変更権が「認められる」ケース

1)代替人員の確保が困難な場合

申請された時季に代替要員を確保するための合理的な努力を尽くしても、それが不可能である場合が該当します。

2)同時期の取得希望者が重なる場合

特定の時期に複数の社員から年休の申請が集中し、全員に取得を認めると業務が回らなくなる場合です。例えば、夏季繁忙期に年休取得者が重なり、予備人員で対応できなかったために、時季変更権を行使したことが適法と認められた裁判例があります(前橋地裁高崎支部平成11年3月11日判決)。

3)業務の遂行上、本人の参加が不可欠な場合

特定の社員でなければ遂行できない業務や、重要な研修・会議など、本人の出勤が必須である場合がこれに当たります。例えば、職場全体の業務改善のための研修期間中に年休を請求したことについて、研修目的の達成が困難になるとして、時季変更権の行使が適法と認められた裁判例があります(最高裁平成12年3月31日判決)。

4)年休が長期間にわたる場合

1カ月など連続した長期の年休申請で、代替人員確保が困難な場合も、時季変更権の行使が認められる可能性があります。

5)年休取得の申請が休暇の直前だった場合

就業規則で定められた申請期限を著しく過ぎて直前に申請された場合も、時季変更権の行使が認められる可能性があります。

4 時季変更権の行使が「認められない」ケース

1)「繁忙期のため」など漠然とした理由

単に「繁忙期だから」「仕事が多くなりそうだから」といった抽象的な理由では認められません。具体的な事業運営への支障が出ることを説明する必要があります。例えば、抽象的に繁忙期であるといっても、年休を認めることによる具体的な支障が明らかでない場合、時季変更権は認められないと判断した裁判例があります(名古屋地裁平成5年7月7日判決)。

2)慢性的な人手不足

常に人手不足である状態は、会社が人員配置を見直すなどして解消すべき問題であり、時季変更権行使の正当な理由とは認められません。例えば、人員不足が9カ月以上に及び常態化したまま行使された時季変更権は認められないと判断した裁判例があります(西日本ジェイアールバス事件(名古屋高裁金沢支部平成10年3月16日判決))。

3)退職直前の年休申請

社員は退職日以降に年休を取得できないため、退職直前の年休申請に対して時季変更権を行使することは、事実上年休の取得を妨害する行為とみなされ、原則として認められません。

4)年休の取得理由に基づく時季変更権の行使

年休の利用目的は労働基準法の関知するところではないため、利用目的を理由に時季変更権を行使することは許されません。例えば、社員がデモ参加のために年休を申請し、会社がデモ参加を理由に時季変更権を行使したことが違法とされた裁判例があります(最高裁昭和62年7月10日判決)。

5)代替要員の確保努力を怠った場合

合理的な努力をすれば代替要員を確保できたにもかかわらず、その努力を怠った場合も、時季変更権の行使は認められません。

6)計画的付与制度で指定された日

労使協定で定められた計画的付与日に対しては、時季変更権を行使できません。

5 結局は計画が大事! 計画的付与でトラブルなく年休消化を

繁忙期における年休の課題を解決し、時季変更権の行使に頼る頻度を減らすためには、事前の「計画」が非常に重要になります。そこで導入を検討したいのが、

計画的付与(労使協定で定められた日に年休を与えられる制度)

です。会社全体で一斉に付与することも、チームや個人単位での交代制にすることもできます。導入するには「労使協定」(事業場の過半数労働組合、それがない場合は労働者の過半数代表との書面による協定)の締結が必要になります。

計画的付与の対象は、付与日数のうち5日以上の部分です。例えば、年休の付与日数が10日の社員の場合は5日まで、20日の社員の場合は15日までです。これにより、特定の時期に年休申請が集中するのを防ぐことで、繁忙期の業務運営への影響を軽減できます。

計画的付与には主に3つの方式があります。

1)一斉付与方式

会社全体または事業場全体で休業日を設け、一斉に年休を付与する方式です。夏季休暇や年末年始と組み合わせることで、大型連休にすることも可能です。

2)班・グループ別の交代制付与方式

流通・サービス業など一斉休業が難しい業態で、班やグループ別に交代で付与する方式です。

3)個人別付与方式

社員個人ごとに計画表を作成し、誕生日などをメモリアル休暇として推奨するなど、個人の希望も踏まえて計画する方式です。

時季変更権の行使が「事後的な対応」であるのに対し、計画的付与は「事前のリスク分散」であるという点が、根本的に異なります。特に中小企業では、人員の柔軟性が低い傾向にあるため、計画的付与は、時季変更権の行使に頼る頻度を減らすための有効な手段となります。

以上(2026年7月更新)

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【朝礼】「スピード」を求められるときにこそ押さえたい2つの心構え

【ポイント】

  • 仕事のスピードを無理に上げると、普段では考えられないミスを犯しやすくなる
  • 仕事のスピードは人それぞれなので、自分が安全に進められる速度を守ることが大切
  • 仕事のゴールを見失わず、最後まで気を抜かないようにしよう

ビジネスは時間との闘いの連続です。私たちは「早くやってくれ」「至急で頼む」などと言われることは日常茶飯事であり、何事も「スピード」を求められる日々を送っています。

例えば昼食を同じ値段、同じ味のものを飲食店で食べるのであれば、早く出てくるほうがよいのは確かです。通販で商品を買うときも、早く届いたほうがよいに決まっています。一方、気を付けなければいけないのは、「早い」だけではダメだということです。例えば、注文したものと違う品物が届いたり、盛り付けや梱包が雑だったりすると、せっかくの「早い」という強みも台無しです。

仕事でも同じです。早く仕事をこなそうとしてスピードを上げると、普段では考えられないミスを犯しやすくなります。そうならないために、次の2つの心構えを知っておきましょう。

1つ目は、自分が安全に進められる速度を守ることです。例えば、自動車の運転で考えると、ついスピードを上げたり、先を急いで無理な追い越しをかけたりしやすいものですが、無理をすると事故の原因となります。これを仕事で考えると、仕事のスピードは人それぞれで、自分に適したペースがあるはずですから、瞬間的にスピードを上げることよりも、自分の最高速度を長く持続させることを心がけたほうが結果的には良いのです。ただし、「今日よりも明日は5分早く」「明後日は明日よりも5分早く」といった具合に、安全な最高速度を少しずつ上げていく努力は必要です。

2つ目は、最後まで気を抜かないことです。例えば「今日中に顧客に提出」など時間を区切られた中で提案書を作るとき、私たちはどうしても提案書を期限内に完成させることのみを最優先に考え、資料が完成したらホッと一息ついてしまいます。しかし、そうすると集中力が切れてしまい、最後の最後で、封筒の宛先を間違えたり、入れるべき資料を入れ損ねたりなど、初歩的なミスを犯しやすくなります。ですから、取引先への提出が完了するまでが仕事だということを忘れないでください。ビジネスではスピード感が求められますが、早ければよいというものではありません。スピードと質を両立できるよう、自分のペースを守り、集中して走り抜けることを心がけましょう。今日の話は、自分を戒めるための交通安全のお守りのようなものと考えてください。

以上(2026年7月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

  

【書籍ダイジェスト】『東京ステーションホテル』

本書は、東京駅の建物の6割を占めるという、百余年の伝統がある「東京ステーションホテル」の魅力およびその“唯一無二の価値”を、入社3年目のスタッフから総支配人まで11人へのインタビューによって明らかにしている。
重要文化財にも指定されているレンガ造りの東京駅丸の内駅舎にある東京ステーションホテルは、JTB「サービス最優秀旅館・ホテル」受賞、「じゃらんアワード」泊まって良かった宿大賞総合部門1位(関東・甲信越エリア101~300室部門)などの他、米国の旅行誌が発表する世界的なアワード「コンデナスト・トラベラーリーダーズ・チョイス・アワード2024」では、日本のトップホテル部門において、第3位に選出され、東京のホテルでは1位となるなど高い評価を得ている。

書籍ダイジェストは、こちらからお読みいただけます。pdf

個人情報を取得・利用するときに守らなければならないルール【かんたん個人情報保護法(2)】

1 個人情報を取得・利用するときのルールは5つ

個人情報を取り扱う際は、個人情報保護法に基づく取得・利用のルールを守らなければなりません。具体的には、

  • 個人情報を取得するときのルールが2つ
  • 個人情報を利用するときのルールが3つ

あります。以降で確認していきましょう。

2 個人情報を取得するときのルール

1)不正の手段によって個人情報を取得してはならない

当然ですが、不正の手段(偽りなど)によって個人情報を取得してはなりません。

2)個人情報を取得した場合は、速やかに、その利用目的を本人に通知または公表する

あらかじめその利用目的を公表している場合を除いて、個人情報を取得した場合は、速やかに、本人に個人情報の利用目的を通知・公表しなければなりません。

利用目的の通知・公表の方法については、特に定めはありません。

  • 通知であれば、書面・メール等に記載する
  • 公表であれば、ウェブサイトの分かりやすい場所や、店舗に掲示する

といった方法が考えられます。本人に対して口頭で利用目的を通知する方法も認められます。

なお、取得の状況から見て利用目的が明らかな場合は、利用目的の明示は不要です。例えば、名刺交換した相手に自社の商品・サービスの案内を送るときなどがそうです。

3 個人情報を利用するときのルール

1)利用目的をできる限り特定しなければならない

個人情報の利用目的は、できる限り具体的に特定しなければなりません。

例えば、ネット通販で商品を購入しようとしたとき、氏名や住所などの個人情報を入力しますが、その利用目的として「当社の商品の配送およびアフターサービスのご案内のため」と書いてあれば、商品を購入した顧客は、どのような目的で自分の個人情報が使われるのか認識できます。「事業活動に用いるため」「マーケティング活動に用いるため」といった曖昧な表現はNGです。具体的に利用目的を特定しているとは言えないからです。

2)利用目的の範囲を超えて取り扱うときは、あらかじめ本人の同意を得る

あらかじめ本人の同意を得ないで、利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはなりません。

ただし、この同意を得るために個人情報を利用すること(メールを送ったり、電話をかけたりするなど)は目的外利用には該当しません。

3)違法または不当な行為につながるような利用方法はNG

違法または不当な行為とは、法令(個人情報保護法など)に違反する行為や、直ちに違法とはいえないものの、法令の制度趣旨や公序良俗に反する行為など、社会通念上適正とは認められない行為をいいます。

解釈の余地はありますが、個人情報についてこれまでと異なる取り扱いをしようとするときは、見切り発車にせず、弁護士や個人情報保護委員会に確認するのがよいでしょう。不適正な利用の具体例が、「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」に列挙されています。興味のある方は確認してみてください。

■ガイドライン3-2 不適正利用の禁止(法第19条関係)■

https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/#a3-2

4 要配慮個人情報を取得するときは「本人の同意が必要」

要配慮個人情報とは、

不当な差別や偏見などの不利益が生じないよう、取り扱いに特に配慮を要する個人情報

のことです。具体的には、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実、心身の機能の障害があること、医師等により行われた健康診断の結果などが該当します。

法令に基づく場合などの例外を除き、あらかじめ本人の同意を得ないで、要配慮個人情報を取得してはなりません。

実務上、あらかじめ本人の同意を得ておくほうがよいのは、

社員の健康情報(健康診断の結果や病歴など、健康に関する個人情報)を取得する場合

です。健康情報の多くは要配慮個人情報に該当しますが、そうでない場合も機微な情報が含まれ得ることなどから、要配慮個人情報に準じて取り扱うのが望ましいとされています。

例えば、定期健康診断の結果などは、労働安全衛生法に基づいて取得するものですが、「健康の確保のため」という利用目的を通知し、社員の同意を得て取得するとよいでしょう。

■個人情報保護委員会「雇用管理分野における個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」■

https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/ryuuijikou_health_condition_info/

なお、2026年7月10日に参議院本会議で可決、成立した「令和8年改正個人情報保護法」では、「統計作成等」(AI開発や統計作成など)を目的とする場合に限り、SNSなどで公開されている情報については、本人の同意を得ずに取得・他の事業者へ提供できる特例が新設されました。

以上(2026年7月更新)

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画像:日本情報マート

中小企業の株式に増税? 60年ぶりに改正議論が始まった非上場株の相続税評価

1 非上場株の評価額が上がる可能性も……改正議論が開始

60年ぶりとも言われる非上場株の相続税評価の見直し議論が始まっています。この動向は、中小企業の経営者にとって他人事ではありません。改正後に評価額が上がれば、事業承継時の税負担が増え、後継者が引き継ぎを断念するケースも出てくる可能性があるからです。

2026年4月、国税庁が「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を立ち上げ、2026年6月時点で3回開催されています。

見直しの方向性はまだ確定していませんが、関係者の多くが「評価額が上がる可能性が高い」

と見ています。「改正が決まってから考えよう」では遅いかもしれません。今、何が起きているのかを理解し、早めに備えることが経営者としての責任です。重要なのは「改正が決まってから動く」のではなく、今の評価額を把握し、選択肢を整理しておくことです。

2 そもそも「非上場株の評価」とは何か

株式市場に上場している会社の株は、市場で毎日売買されているので、その日の値段(株価)がすぐに分かります。しかし、中小企業などの非上場株は市場で取引されないため、「この株はいくらか」を計算するルールが必要です。

相続や贈与が起きたとき、非上場株の価格は国税庁が定めた通達(ガイドライン)に沿って計算されます。この評価額をもとに相続税・贈与税が計算されるため、評価額が高くなると税負担も重くなります。現在の主な評価方法は次の2つです。

非上場株式の主な評価方法

実際には、会社の規模に応じていずれかの評価方法、もしくはこの2つを併用する評価方法が使われます。大きな会社ほど1.の「類似業種比準方式」の影響が強く、小さな会社ほど2.の「純資産価額方式」の影響が強くなります。

3 なぜ今、改正議論が始まったのか

きっかけは、2024年に会計検査院(国のお金の使われ方などをチェックする機関)が公表した調査(会計検査院「令和5年度決算検査報告」)です。その報告書で、現在の評価方法には大きな問題があると指摘されました。

最大の問題は、

「類似業種比準方式」による評価額と「純資産価額方式」による評価額の間に、あまりにも大きなギャップが生じているケースがある

という点です。

例えば、ある事例では類似業種比準方式で算出した評価額が、M&A(会社の買収)による実際の売却価格のわずか8%程度にしかなっていなかったことが明らかになっています。これは極端な例ですが、評価額と実態の間に何倍もの差が開いているケースが珍しくないのです。

また、こうしたギャップを悪用した「節税スキーム」の横行も問題視されています。例えば、意図的に利益を圧縮したり、会社を分割して資産を子会社に移したりすることで、評価額を人為的に引き下げ、税負担を極端に減らす行為が増えているのです。

さらに、近年の裁判例でも、通達に基づく評価額と実態があまりにも乖離している場合、税務当局が「通達によらない評価」を行って課税するケースが増えており、納税者との間でトラブルが相次いでいます。

4 想定される改正スケジュール

現時点での見通しは次の通りです。ただし、議論の結果次第で変わる可能性があります。

想定される改正スケジュール

  • 2026年4月~(有識者会議の開始):国税庁により「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」が設置され、2026年4月20日に初会合(第1回)が開催されました。
  • 2026年秋~冬(議論の取りまとめ):これまでの議論(第1回~第3回など)を踏まえ、有識者会議としての評価制度の見直し案が策定・公表される予定です。
  • 2026年12月~2027年1月(税制改正大綱へ反映):取りまとめられた見直し方針が、2027年度税制改正大綱に記載される見通しです。
  • 2027年4月頃(パブリックコメントの実施):大綱に示された方針に基づき、具体的な「財産評価基本通達」の改正案について一般からの意見公募(パブリックコメント)が行われます。
  • 2028年1月1日(新たな評価ルールの適用開始(予定)):一部報道や国税庁資料に基づくと、早ければこのタイミングから新しい評価方法による申告が必要になると予測されています。

5 有識者会議ではどんな議論が行われているか

国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」は、2026年4月の第1回を皮切りに、5月・6月と続けて開催されています。法律・会社法・M&A実務・会計学などの専門家や、日本商工会議所・日本税理士会連合会も参加し、さまざまな立場から意見が交わされています。

■国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」■
https://www.nta.go.jp/about/council/kenkyu.htm#nai-hyoka

議論の焦点は大きく4つです。

1)評価額が大きく変わる「評価の崖」をなくす

現在の非上場株式の評価制度では、会社の規模や評価方法の違いによって、株価が大きく変わるケースがあります。このような極端な差は「評価の崖」と呼ばれ、公平性の観点から問題視されています。

実際に、会計検査院が2024年に公表した調査では、「類似業種比準方式」(同業他社の株価を参考にする方法)で計算した株価は、「純資産価額方式」(会社の資産や負債を基に計算する方法)で算出した株価の約4分の1にとどまっていました(会計検査院「令和5年度決算検査報告」)。

また、会社の規模が大きいほど株価が低く評価される傾向も見られます。そのため、事業内容や収益力が似ていても、会社規模の判定基準(従業員数や取引金額など一定の基準)をわずかに超えただけで、適用される評価ルールが変わり、株価が急激に上昇することがあります。今後の見直しでは、このような不自然な段差をなくし、よりなだらかで公平な評価制度にすることが検討されています。

2)評価額の恣意的な操作を防ぐ

現行の評価制度は計算ルールが明確である一方、その仕組みを利用して株価を意図的に低くする対策が行われるケースもあります。

代表的な例が配当金の調整です。株価計算の要素の一つに配当金額が含まれているため、あえて配当を出さないことで株価を下げる手法が利用されています。国税庁の分析では、評価の対象となった企業の8割超が、評価前の2年間に配当を実施していませんでした。

この他にも、

  • 親会社の資産を子会社へ移して親会社の株価を下げる方法
  • 創業者に議決権のない株式を持たせることで、後継者側の評価額を低くする方法
  • 高額な役員退職金を支払い、利益を一時的に減らす方法

など、さまざまな税負担を下げるスキームが指摘されています。

現在は、こうしたケースに対して税務当局が個別に判断する「総則6項」という特別なルールで対応しています。しかし、どのような場合に適用されるのか分かりにくく、予測が難しいという課題があります。そのため、個別対応に頼るのではなく、評価ルール自体を見直すべきだという議論が進められています。

3)実態を反映した評価へ見直す

現在の株価評価では、会社を解散した場合に残る資産価値を重視する「純資産価額方式」が大きな役割を担っています。

しかし、実際の会社の価値は、保有している資産だけで決まるものではありません。将来どれだけ利益を生み出せるかという「収益力」も重要な要素です。

例えば、会社法上の株価評価をめぐる裁判では、将来の利益やキャッシュフロー(事業活動で生み出すお金)を基に企業価値を算定する方法が広く使われています。一方、純資産価額は最低限の価値を示す指標として扱われることが多く、税務上の評価との違いが指摘されています。

また、専門家からは、研究開発力や人材力、ブランド力といった、貸借対照表には表れにくい価値も企業価値に反映すべきだという意見が出ています。

経済団体からも、「事業を継続している会社を、解散を前提とした価値だけで評価するのは実態に合わない」との声が上がっており、今後は収益力をより重視した評価方法が検討される可能性があります。

4)M&A・第三者承継の実態を反映する

近年、中小企業の事業承継では、親族への引き継ぎだけでなく、第三者へのM&A(企業の売却・買収)が急速に増えています。

M&Aの現場では、会社が保有する資産だけでなく、顧客基盤や技術力、ブランド力、将来の収益力なども考慮して企業価値が決まります。そのため、税務上の株価評価と実際の売買価格に大きな差が生じることがあります。

実際の裁判例では、税務上の評価額がM&Aによる買収価格の1割にも満たなかったケースもあり、現行制度が企業の実態を十分に反映していないとの指摘があります。

こうした背景から、今後の制度改正では、M&Aで使われる企業価値評価の考え方を税務評価にどこまで取り入れるかが重要な論点となっています。

ただし、M&Aの価格には買い手ごとの事情や期待される相乗効果(シナジー)が反映されるため、その価格をそのまま相続税や贈与税の評価額に使うべきではないという慎重な意見もあります。そのため、事業承継を妨げないよう配慮しながら、どのような評価方法が適切なのかが議論されています。

6 改正の方向性が固まっていない今、経営者がやるべきこと

1)ステップ1:自社株の現在の評価額を把握する

制度改正への対応を考える上で最初に行うべきことは、自社株が現在どのように評価されているのかを把握することです。

非上場株式の評価方法は会社規模によって異なります。まずは、自社が「大会社」「中会社」「小会社」のどれに該当し、どの評価方法が適用されているのかを確認しましょう。これまでにもあるように、現在は、「類似業種比準方式(上場企業の株価を参考にする方法)」が適用される会社ほど、株価が低く評価される傾向があります。

まずは現状の評価額を把握し、自社がどの程度現行ルールの恩恵を受けているのか確認することが重要です。

2)ステップ2:後継者への株式移転を急ぐかどうか検討する

今回の見直しでは、自社株の評価額が引き上げられる可能性が高いとみられています。評価額が上がれば、贈与税や相続税の負担も増えることになります。

そのため、後継者への株式移転を予定している場合は、現行ルールのうちに実行した方がよいかどうかの検討が必要です。

特に注目されているのが「相続時精算課税制度」です。この制度を利用して株式を贈与した場合、将来相続が発生した際も、原則として贈与時点の評価額を基準に税額を計算します。つまり、制度改正によって将来株価が上昇したとしても、その影響を受けにくくなる可能性があります。

ただし、この制度には一度選択すると原則として元に戻せないなどの注意点もあります。利用するかどうかは、将来の相続税や贈与税を含めた総合的なシミュレーションを行った上で判断することが大切です。

3)ステップ3:事業承継税制の活用を改めて検討する

事業承継税制の活用も改めて確認しましょう。事業承継税制は、一定の条件を満たした場合に、後継者が取得した自社株にかかる贈与税や相続税の納税を猶予できる制度です。

現在、専門家や経済団体の間では、今後の株価評価の見直しに合わせて、この制度をさらに使いやすくするべきだという議論も行われています。

そのため、株価評価の改正だけを見るのではなく、事業承継税制が今後どのように見直されるのかについても継続的に情報収集することが重要です。

4)ステップ4:顧問税理士と定期的に情報共有する

今回の見直しは法律改正ではなく、国税庁が定める評価ルールの見直しとして進められています。そのため、国会での法改正を待たずに制度内容が変更される可能性があります。今後、有識者会議による議論や税制改正大綱などを通じて具体的な方向性が明らかになっていく見込みです。

また近年は、株価を極端に引き下げる対策に対して、税務当局が通常の評価ルールとは異なる方法で課税するケースも増えています。「これまで問題なかった対策だから大丈夫」と考えるのではなく、現在行っている株価対策にリスクがないかを、顧問税理士などの専門家を通して定期的に確認することが重要です。

以上(2026年7月作成)
(監修 税理士 石田和也)

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画像:日本情報マート

【経営者インタビュー】残業多過ぎて労基署が入った会社が、10年かけて「残業ほぼゼロ・社員数3倍・売上4倍」になった理由

1 「残業当たり前」のブラック企業も大きく変われる

「2015年に私が会社を継いだときは、完全に今でいうブラック企業でした。ただ、当時は日本中でたくさん残業して働くことが美徳で、ブラック企業という言葉も考え方もほとんどなくて。それが当たり前の時代だったんです」

さらりと穏やかにそう語るのは、福島県福島市に本社を置くケーエフエスグループ代表取締役、小島清一郎氏(以下「小島代表」もしくは「代表」)です。

会報誌「ひとと、まちと。」をご紹介くださる小島代表

写真:会報誌「ひとと、まちと。」をご紹介くださる小島代表。
「人」「地域」を大事にしていることが伝わってくる

ケーエフエスグループは、会計事務所を母体としながら、現在は企業の「未来会計(管理会計)」や「経営計画策定」支援、経理などの「バックオフィス支援」、補助金申請や事業承継、M&Aなどコンサルティングまでを幅広く手掛けるプロフェッショナル集団です。

創業から事業承継まで、企業のライフステージごとにサポートしてもらえるサービスがあり、中小企業が丸ごとお世話になることができるイメージです。

■ケーエフエスグループのコーポレートサイト■
https://kfs-group.jp/

コーポレートサイトのスクリーンショット

■グループ会社・株式会社トトノエのバックオフィスアウトソーシングサービス「トトノエ」■
https://kfs-fukushima.com/totonoe/

トトノエ紹介サイトのスクリーンショット

現在はこうしたさまざまな中小企業支援で知られるケーエフエスグループですが、時計の針を10年前に戻すと、今の姿からは想像もつかない実態がありました。

深夜残業は当たり前、有給取得は“怠け者”とみなされ、勤怠管理さえ存在しない。さらに、当時は東日本大震災から数年後で、特に福島県では風評被害の影響も出ていました。

そんな矢先に降りかかったのが「労基署(労働基準監督署)の立ち入り調査」だったのです。

そこからの10年間で、小島代表は会社を大きく変貌させます。

残業はほぼゼロへ。
社員数は約3倍、そしてなんと、売上は4倍に。

厳しい状況から、ケーエフエスグループがいかにして高生産性企業へと生まれ変わったのか。小島代表はどのようなことを仕掛けてきたのか。以降ではその改革を紐解いていきます。

実は、同社の変革は単に残業削減、業務効率化だけの話ではありません。肝となるのは

「高付加価値化」

です。

「高付加価値化も実現し、同時に売上も上げていく、真の生産性向上の話」

です。結果的に、10年経って、売上は4倍にもなっています。小島代表が惜しみなく教えてくれた方法は、多くの中小企業に当てはまりますし、活用できる具体的なポイントもあると思います。業務効率化と高付加価値化は同時に実現できる、むしろ、同時に実現すべきだ、ということがよく分かります。ご参考になれば幸いです。

2 雨の日、突然の「労基署」

2015年当時、代表に就任したばかりのころは、時代的に「長時間労働こそが正義」という空気が蔓延していました。

「当時10年前は、社員も皆、ブラック企業という言葉もほとんど意識していなかったし、”有給を取るのは怠け者”みたいな感覚があったり。うちの会社だけではなくて、日本全体がそういう雰囲気でした」

こう振り返る小島代表です。実際に、ケーエフエスグループの社員たちも、残業が多くても疲弊しているという感覚もなく、深夜1時2時まで働くことが「普通」になっていたある日、衝撃的な出来事が起こります。

雨が降る日のことでした。

「その日が雨だったことを、私は覚えています。車が横付けで順番に来て、4人くらいのスーツを着た人が降りて、事務所にいきなり来て『労基署です』と。そんな状態だったんです」

労基署が入ったのは、おそらく、退職したナンバーツーの社員が労基署に訴えたと思われるそうです。

当時の先代社長は昭和気質な経営者だったこともあり、小島代表は、この労基署立ち入りのタイミングで、36歳にして経営のバトンを受け取りました。相手に対してファイティングポーズをとらない常に穏やかで優しい人柄、それでいて、強い芯と覚悟を持って仕事に向き合う姿勢、物事の本質を素早くとらえ疑問点に鋭く突っ込む視点も併せ持つのが小島代表です。

小島代表が会社を継いだのは、言葉を選ばずに言えば最悪のときでした。しかしだからこそ、「会社を潰してはならない」と腹を括ります。

「お客さまを守る、地域を守る。そのためには会社を潰してはならない。やるしかない」

その覚悟で、小島代表は労基署の是正勧告に向き合い、組織の大改革へと踏み出したのです。

継いで最初の大仕事が労基署への対応。これはかなり壮絶な日々だったと思います。

3 職人集団に「製造業」の仕組みを持ち込む

残業を減らすために小島代表が着手したのは、会計事務所によくみられる「属人化」にメスを入れることでした。

一般的に会計業務は、「このお客さまのことは、この担当者しか分からない」という状況になりがちです。すべてを担当者一人が抱え込むため仕事の中身がブラックボックス化し、手伝うことも管理することも難しい状態です。まさしく属人化です。

そこで小島代表は、このある意味「職人的な現場」に、

製造業の「工程管理(製販分離)」の考え方

を持ち込みました。分かりやすくいうと、

属人化している仕事の中にある、「誰がやっても同じ結果になる業務」を、切り離して見える化する

という方法です。「うちの会社の業務は属人化しているものが多いから、効率化は難しい」という中小企業は多いかもしれませんが、この工程管理の考え方であれば取り組めるかもしれません。具体的な方法について、次のように小島代表は教えてくれました。

「まず、『属人化の定義』ってめちゃくちゃ大事だと思っています。業務全部が属人化、つまり、その人しかできない特殊な業務なわけじゃないんですよね。
例えば、どんなお客さまに対してもお見積もりを出しますよね。同じように、どのお客さまにも請求書を発行します。お見積もり提出、請求書発行、これは誰がやっても同じ結果になります。仕事を分解していくと、こういう誰がやっても同じ結果になる業務が、4割くらいあることに気づきます。こういう業務は引き剥がせるんです。
まずは仕事を分解してフローをつくって、そのフローの中で引き剥がせるものを具体的に切り出していくことが大事です」

これは、実に分かりやすい話です。このほか、決算書などの資料を回収する、回収した資料のデータを入力するなども、誰がやっても同じ結果になる業務です。

こうした誰がやっても同じ結果になる業務を切り出した上で、そこにルールを定めました。例えば次のような具合です。

  • お客さまから2日以内に資料を回収する
  • 回収したら3日以内にデータ入力を終える
  • データ入力が終わったら次工程へ回す

これを「ラインシート」と呼ばれる工程表で管理し、製造ラインのように、「仕事がどこで止まっているか」を全員が見えるようにしたのです。とても分かりやすい、公平な見える化、透明化です。そして、小島代表は、

このルールを守ることを全員に徹底し、今も継続して徹底し続けている

のです。これがとても重要です。ルールの徹底は非常に難しいことですが、やり続けています。

こうした業務の透明化は、自分のやり方に誇りを持つベテラン社員たちの反発を招きました。

「やはり、できる人ほど自分の仕事を管理されたくないものです。2日以内に出してとか、3日以内に終わらせてと言われるのは、いい気持ちはしないでしょう。できる人ほど自分のやり方やペースに自信があり、慣れていますから、自分の手法でやりたいという感じがありました」

と続ける小島代表。「管理されたくない」「自分のペースでやらせてほしい」。この製造業の工程管理を取り入れてすぐの時期は、そう言って去っていく社員もいたそうです。

全員の業務の見える化を行うと、ある意味、残酷なほど進捗状況はつまびらかになります。例えば、ベテラン社員が資料の回収納期を1件も守れていない一方で、新入社員は全件クリアしているなど。しかもその状況は、全員に知れ渡ります。全員でルールを守ることを考えると、年次や役職にかかわらずこうして皆の進捗状況が明らかになるのは正しいことです。しかし、心情的には納得がいかない社員もいたかもしれません。

それでも小島代表は、「期限を守る」「進捗を見える化する」というルールを10年間徹底し続けて来たのです。結果、社員数は減るどころか約3倍になりました。特に経営者の方は、このすごさが分かるのではないでしょうか。

「誰がやっても同じ結果になる業務」について工程管理し、納期などルールを徹底し、効率化を図る。しかも進捗状況は全員で共有する。この方法は、ともすれば社員にとって厳しいだけのものになりかねません。しかし、小島代表が取り組んだ改革は、そうではないのが大きな特徴です。なぜなら、次のことも行っているからです。

  • 効率化だけでなく、「高付加価値化」も同時に実現する
  • 社員一人ひとりへの声かけも実践し続ける

以降では、改革の「肝」ともいえるこの2点についてみていきます。

4 「高付加価値化」で社員はワクワクできる

多くの企業が「時短」「効率化」だけを追い求めますが、小島代表はそれだけでは不十分だと語ります。

「生産性は、計算式で見ると『かけた時間や人』で『付加価値』を割る割り算なんです。時間や人の効率化だけ実施しても、生産性は上がらない。同時に付加価値を上げていく必要があります。そして結局、その生産性を上げることで賃上げが実現できるんです」

時間を減らすだけでは売上は上がりません。効率化して空いた時間で何をするか。どのようにして価値を高め売上を上げていくか。そこがとても重要だと小島代表は強調します。

例えばケーエフエスグループは、お客さまである法人の過去の数字をまとめるだけでなく、お客さまと共に未来を描く「未来会計(管理会計)」も提供し、現状とのギャップを埋めるよう伴走していく。そうしてお客さまに対する付加価値を高めてきました。

「高付加価値化」という言葉だけだと具体的に何をしていいか分からない社員が出てきそうですが、小島代表が社員に伝え、実際に浸透している考え方は次の通り、とても分かりやすいものです。

「1時間の中で、自分の付加価値を最大化するために何をすべきか」

例えば、1時間の中で、お客さまに合ったソリューションを提案してアップセルを図る、未来会計の取り組み事例を事例集にまとめ新規・既存のお客さまに配信する準備をする、などいろいろと考えられるでしょう。

「1時間の中で自分はお客さまのためにどのような付加価値を出せるか」、もっと直接的に「1時間の中でどのように売上に貢献できるか」というのは、社員にとってとても考えやすいですし、ワクワクして意欲的にもなってきます。

AIやアウトソーシングに任せられる業務は切り出し、社員は人間にしかできない付加価値を高めるコンサルティング業務などに注力し、売上に貢献できる仕組み。ケーエフエスグループは、これをやり続けて、労働時間を減らしながら、売上4倍という数字を実現してきたのです。

5 厳しいルールを支える「声かけ」「伴走」

ルール厳守を徹底することと同じくらい、いや、もしかしたらそれ以上に小島代表が大事にしてきたのが、「声かけ」による「伴走」です。代表は、「声かけは本当に重要です」と強調します。

「うちの会社は、今は残業がほとんどありません。1日8時間。それでも社員は皆、『忙しい』って言うんです。これってどういうことかと考えた時に私が思ったのは、やはり心の問題の『余裕』とスキルの問題の『余力』。これがすごく影響してきます」

気持ちがいっぱいいっぱいになってしまうと心に余裕がなくなり、仕事に追われている感覚になったり、困りごとを一人で抱え込んでしまったりしがちです。そこで小島代表は、社員が孤独に陥らないよう、組織全体に「声かけの連鎖」を作るよう率先して実践してきました。

代表自身が幹部に声をかけます。「困っていることはない?」「大丈夫か?」と、常に気にかける姿勢を示す。

すると、それを受けた幹部やマネージャーは、その接し方を真似て、自分の部下に同じように声をかけるようになります。

「進捗詰まってるところある?」
「いつでも隣にいるから、ちょっとしたことでもいいので相談してね」

そうして上司が部下に寄り添い、一緒に走る。そうして社員に心の余裕が出るようにします。

それと同時に、「スキルアップ」も大事です。社員のスキルを高めるよう、業務について、会計についてなどを教育していきスキルアップが実現できれば、「余力」が生まれます。

小島代表は、社員一人ひとりの「余裕」と「余力」を重視しており、「2割くらいは余裕、余力がある状態になるのがいいと思います。そのほうが社員も意欲的になりますし、幸せではないでしょうか」と語っています。

例えば、ケーエフエスグループの福島本部では、もし残業したい場合は、朝「残業申請」を出し、上司がOKを出さなければ残業することができません。これも単なる管理ではなく、「その仕事、本当に今日やる必要がある?」「今のスキルで本当に2時間で終わる?」とユニットリーダーが問いかけ、社員が自分の仕事に対してタイムマネジメントができるようになるまで指導する仕組みです。

もう一つ大事な仕組みがあります。同社では、毎月1日には、全社的に手を止めて全体会議をします。「今月のラインシート」を発行して「今月何をするか」が分かるようにします。そうすると、社員一人ひとりが今月何をしなければならないかが明確になり、マインドセットすることもできます。これも心の余裕につながっていきますし、難しそうなところはあらかじめ上司に相談することもできます。

できない人がいれば、切り捨てたりルールで縛ったりするのではなく、寄り添う。伴走する。スキルが足りないのであれば、その事実を認識させた上でスキルアップできるように指導し、とことん付き合います。

「一番は社員がやりがいを感じ、意欲があることが大事だと思っています。スキルは与えることができる。社員には、とことんつきあう。誰でも伸びるところはあります」

厳しさの中で、支援する姿勢を示し、実践しています。

この「徹底した声掛け」「伴走」があるからこそ、社員たちも改革という高い壁に挑むことができたのではないでしょうか。時間も労力もかかりますが、とても大事な点だと思います。

6 そして、改革後にかかってきた一本の電話

改革の道のりは決して平坦ではなく、大変なことも多々ありましたが無我夢中でやり続けてきた小島代表。着手から3年が過ぎたころには、社内もだいぶ改善され、売上も伸びてきていました。

そんなある時、思いがけない人物から、代表宛に一本の電話が入ります。

それは、かつて厳しい指導を行った労基署の担当者からの電話でした。

当時、是正勧告の最中にその担当者は、小島代表にこう声をかけていたといいます。

「労基署が入りましたが、これを機にしっかり対応して改善に取り組めば、きっといい会社になりますよ」

その言葉は、予言のように現実となりました。

数年後、小島代表が自らの改革の軌跡を綴った書籍『残業だらけで倒産寸前だった会社の経営者になった私が、3年間で売上を3倍にできた理由』を出版した際、その労基署の担当者がわざわざ電話をかけてきてくれたのです。そしてこう言ったそうです。

「書籍を出したのを見ましたよ。本当によかったですね」

この労基署の担当者もまた、会社の更生と成長を願っていた一人でした。

小島代表の「やるしかない」という覚悟と思い、必死でやり抜いてきたことが、社員たちにも、そして労基署の担当者にも届いたということなのかもしれません。小島代表が教えてくれたこのエピソードは、とても印象的です。

労基署担当者からの電話のきっかけとなった小島代表の著書

写真:労基署担当者からの電話の
きっかけとなった小島代表の著書

7 経営者は何を大切にして、どこを目指すのがいいか

雨の日の労基署立ち入りから始まった10年。

改革を成し遂げ、そして今もやり続けている小島代表。効率化と高付加価値化を同時に実現し、生産性を上げて、残業なし&賃上げで社員に還元したいと語ります。

最後に、小島代表に、同じように残業が多いことで悩む中小企業の経営者にメッセージをお願いしました。

  • 経営者自身が、「社員の豊かな生活」「理念の達成」といった「なんのために経営をしているか」ということを起点にして、どうすればいいかを自ら考え実践することが大事。働き方改革や法改正など外部環境の変化があるから、ということではなく。
  • 社員が残業がなくて働いているほうが、皆笑顔で明るくて。そういう状況のほうが、豊かでいいと思う。
  • 日本をよくするために、社員一人ひとりが豊かになること、こういうことを多くの経営者の方とともに実現できたらいいなと考えている。

こうした趣旨のことをメッセージとしてお話しくださいました。最後は、小島代表ご自身の言葉を、動画でそのままお伝えしたいと思います。ぜひ次の動画を見ていただければ幸いです。

小島代表が10年かけて証明し続けているのは、どんな状況からでも組織は変われること、そして「人を大切にする経営」こそが、結果として最強の成長戦略になり得るという事実でした。

■小島代表がメッセージとしてお話されている動画■
https://youtu.be/k7ROBZDpYEA

小島代表がメッセージとしてお話されている動画

以上(2026年7月作成)

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画像:日本情報マート