ヒント4[採用4]:入社日までに「入社後のギャップを最小化する」/武田斉紀の『人が辞めない会社、10のヒント』(5)

1 「好きな人は好き」にさせる事実の一行は見つかりましたか?

今シリーズの狙いは、経営者、人事担当者、現場の皆さんのお悩みである「社員を採ってもすぐに辞めてしまう上に、そもそも採れない」という課題を解決すること。『人が辞めない会社、10のヒント』と題して、毎回1つずつご紹介していきます。

『人が辞めない会社』に変わるための課題、その原因と解決策は会社によってさまざまです。

今回ご提示するヒントが皆さんの抱える原因に明らかに当てはまらない場合は、読み飛ばしてくださって結構です。ですが、ヒントの1~9までが該当しなくても、10が当てはまるかもしれません。

全社共通の原因もあれば、部署ごとの固有の原因も存在することでしょう。原因が1つだけというケースは少ないので、何回分か読んでいただければ「これはうちにも当てはまるな」というものを見つけていただけるのではと思います。

第2回から前回の第4回までは、採用は会社の入り口であり、『人が辞めない会社』に変わるための重要な最初の一歩であることをお話ししてきました。

自社を必要以上に大きく見せることなく、会社が“目指すこと”、“大切にしたいこと”を明示する。それを体現している社内の事実を見つけ出し、分かりやすい一行キャッチフレーズにしてアピールする。そうすればSNSの時代、「好きな人は好き」という人が全国、世界から集まってくれます。

「好きな人は好き」で集まってくれた人は、会社が“目指すこと”、“大切にしたいこと”に強く共感してくれた人材です。あとはその中から、自社で予め設定した「求める人材像」の資質・性格、経験やスキルなどの基準に沿って、本当に“採用したい人材”を絞り込んでいけばいいのです。

ただ、本当に“採用したい人材”を絞り込めて相思相愛で内定まで出せたとして、その人材が入社後すぐに辞めてしまう可能性はないでしょうか。

ということで、

今回は採用編の最後となるヒント4:入社日までに「入社後のギャップを最小化する」です。

あなたの会社では、これから入社してくる人材に対して、入社後のギャップが極力ないよう、事前に必要な情報や、入社後のイメージを十分に伝えられていますか。良いことだけでなく、悪いことも全てです。

2 内定者に伝えるべき全ての情報を、入社前に伝えられていますか?

残念なことに、私がこれまで採用をご支援してきた会社で、内定者に対して入社後のギャップが極力ないよう「入社日までに伝えるべき情報」をきちんと整理し、全て伝えきれている所はほぼ皆無でした。

原因は主に2つ。1つは、「マイナス情報を伝えたら、入社してくれなくなるのではないか」という懸念です。

担当者としては苦労して内定までこぎつけた候補者には、辞退せず入社して欲しいと願うもの。「〇名入社させた」という実績を見せたい気持ちもあるでしょう。

でも本当は分かっているはずです。入社後にギャップを感じてすぐに辞めてしまった場合、本人にも会社にもデメリットしかないということを。

本人は何より悔しいでしょう。「なぜ、そういう情報を入社前に教えてくれなかったのだ」と。事前に「〇〇について気になるので教えてください」と質問していたら、なおさらでしょう。履歴書には「〇〇社 4月入社 5月退社」というように“傷”を付けてしまいます。

会社にとっても「入社者がすぐに辞めた」という事実はマイナスでしかありません。事前に分かっていれば、他の適した候補者を採用し入社してもらうこともできたでしょう。二重の損失です。どこかの部署が欠員となり、再募集をかけなければなりません。

もう1つの原因は、採用する側が自社のことをよく知っているつもりで、実はよく分かっていないというものです。

つまり、内定者に対して入社後のギャップが極力ないように「入社日までに伝えるべき情報」をきちんと整理できていないのです。

前者の原因については、採用担当者とその上司に考え直していただくしかありません。何人入社させたかも大事ですが、そこから何人が辞めずに残ったかのほうがより大事なのですから。

3 「入社日までに伝えるべき情報」を、5×3のマトリクスで整理する

後者の原因を解決するポイントは、改めて内定者、あるいは応募者、採用候補者に対して「入社日までに伝えるべき情報」を整理することです。次の5×3のマトリクスで情報を網羅してみることをお勧めします。

【縦軸の項目】
1)企業理念(目的・価値観)・ビジョンなど…各々の内容および社内での共有度
2)会社情報…基本情報(売上・利益・従業員数の推移、拠点など)/歴史沿革のポイント/事業内容と業績・比率、業界でのポジション、強みなど
3)仕事情報…配属可能性/仕事内容/勤務地/勤務日と時間および残業/教育/異動/キャリアステップなど
4)待遇情報…入社時と将来の給与・年収・諸手当・昇給賞与・報償制度/人事評価制度/休日休暇/福利厚生など
5)企業文化、職場環境…特徴キーワード、具体的エピソード、社外・業界でのイメージなど

【横軸の項目】
A.一般に+(プラス)情報…ほぼ万人にとってプラスと思える情報
B. [〇〇な人]に+(プラス)情報…人によってはマイナスだが、〇〇な人ならプラスに感じてくれそうな情報
C.一般に-(マイナス)情報…ほぼ万人にとってマイナスと思える情報

縦軸の5項目は分かりやすいと思いますので、横軸のほうを補足しましょう。少し「社員を採ってもすぐに辞めてしまう」ではなく、「そもそも採れない」の解決策の話になってしまいますが。

A.は、ふだん自社の強みとして前面に打ち出しているものでよいのですが、他にも例えば

 例)毎週2回まで当日申請でリモートワークできる制度あり など

小さなことと思えても、できる限りたくさんピックアップしましょう。A.の情報は全て採用時の武器になります。小さくても独自だったり、量があったりすれば勝ちきれるのです。

B.の例を挙げてみましょう。

例)企業相手の仕事(いわゆるto B)で一般に分かりにくい →一般顧客ではなくプロ相手の仕事がしたい人には成長を感じられて楽しい職場
例)休日が土日ではない →平日休みたい人にはプラス(旅行好きなど)。加えて例えば「イベントが土日の際は〇回まで優先的に他の曜日と交替できる制度あり」だとお子様など家族のイベントや推し活時にも対応できてデメリットが軽減される
例)古い業界 →会社としては業界を改革したいと思っていて、同志を探している

B.ではどれだけプラスに感じてくれる「〇〇な人」をイメージできるかが重要です。「こんな事実を伝えたらみんな他社に行ってしまう」と考えないことです。どう伝えようとマイナスに感じる人は他社に行きます。けれどプラスに感じる人にとってはA.以上に「好きな人は好き」と引きつける可能性が高いのがB.の情報です。

最後にC.の例を挙げますが、ほぼ万人にとってマイナスである以上、伝えてプラスに感じてもらうことは無理としても、ゼロに近づける努力をするべきです。以下の→部分のようにできる限りマイナスをひっくり返せるかもしれない事実を拾ってみてください。

例)初任給が安い →平均年齢が若く昇進は早い、課長の年収は悪くない
例)三交替制で生活が不規則 →慣れれば意外と便利、管理職以上は時間固定勤務
例)急対応が多く海外旅行など無理 →複数担当制を試験的に導入中、既に海外旅行経験者もいる

細かすぎると思える内容でも、入社後にギャップを感じて退職につながりそうな項目は丁寧に拾ってみてください。同時にB.やC.に当たる情報については、プラスに感じてくれる「〇〇な人」をイメージしたり、あまりマイナスに感じないですむトークを用意したりしましょう。

なお、過去にすぐに退職した人の理由が分かれば、それに関わる情報も必ず入れておきましょう。同じような人を二度と生まないために。

4 全て伝えるにしても、どの情報をいつ伝えるかのタイミングは重要!

採用担当者でC.情報を先に伝える人はいないでしょう。募集時に伝えるべきはA.情報ないしはB.情報です。

A.情報を1つ掲げたくらいでは大手企業、人気企業にはかなわないかもしれませんが、独自色のあるA.情報やたくさんのA.情報なら戦えるかもしれません。腹をくくってB.情報にこだわって伝えれば「好きな人は好き」という人材がSNSなどを通じて集まってくれる可能性があります。

また、仕事内容への悪いイメージが原因でそもそも人が集まらないという業界・業種の会社へのアドバイスとしては、入社までに最終的に仕事内容を見せる前に、仕事の前提となる“高次”の情報提供から入ることをお勧めします。

例えば、1)の掲げている企業理念への熱い思いや、2)の会社情報で社会からいかに強く期待され感謝されている会社であるか、あるいはその歴史といった情報です。それらの情報があるかないかで、仕事内容は同じでも全く違った見え方になるからです。

そろそろ「社員を採ってもすぐに辞めてしまう」話のほうに戻しましょう。

ここで天秤(てんびん)ばかりをイメージしてみてください。就職希望者は候補とした会社ごとにこの天秤ばかりを持っています。片方の皿がプラス情報、反対がマイナス情報です。

本人は候補とした各社を回るたびに、その天秤ばかりの左右に新たに知った情報を乗せていきます。ささいなように見えて本人にとっては重い情報もあれば、重要そうに見えて本人にとっては軽い情報もあります。そして、最終的に自分を選んでくれた会社の中で、プラスのほうに一番傾いた会社を選ぶのです。

ところが最終的に選んだ会社から内定をもらい、入社したところが知らされていなかったマイナス情報が飛び込んできたらどうでしょう。たくさんの天秤ばかりを並べ、迷いながら時間をかけて自分が信じた1つを選んだだけにショックは大きい。

そのショック度とマイナス情報の程度によっては、天秤ばかりはマイナス側に完全に傾いてしまい、彼らは退職を決意するのです。

ではどうすればよいか。簡単に言えば、出会いから入社までの間に「入社日までに伝えるべき情報」を全て伝えつつ、天秤ばかりをなるべくマイナス側に傾かせないようにすることです。プラス情報を先に伝えておいて、マイナス情報を小出しにし、マイナス側に傾き過ぎないようにするのです。

採用プロセスにおいて、候補者一人ひとりの自社用天秤ばかりの現状は、頻繁に声をかけたり、相手の表情を確認したりしながら、次の情報を選んで乗せるしかありません。

本人は就職活動中に自社だけでなく、他社とも日々接触しています。自社の天秤ばかりの状態は、他社で得られた情報と比較されることでも傾きが変わります(マイナス側だけでなく、ラッキーにもプラス側に傾くこともあります)。

候補者一人ひとりの天秤ばかりを頻繁にいちいち確認することなど面倒に思えるかもしれません。が、とりわけ中小企業で採用に成功している会社はそこまで丁寧に対応しているのです。

とはいえ、伝えるべき大きなマイナス情報が残っているときはどうすればいいのでしょうか。まず、対策を考えましょう。現時点でできていないことでも、トップが何とかしたいと真剣に考えているのであれば(できればいつまでにかを約束)、それを説明することで説得できるかもしれません。

そうして、プラス側の傾きを維持しつつ、マイナス情報も丁寧に伝えていくしかないのです。本人のマイナスの傾きが大きくなってしまうようなら、残っているA.やB.の情報を順次投入しましょう。

それでも傾きが戻らず他社に行ってしまうのであれば、最後は諦めるしかありません。残念ながらそれが現在の貴社の採用力です。今後もっと採用力を上げていく努力をすればいいでしょう。

すでにお分かりと思いますが、「入社日までに伝えるべき情報」を全て伝えるにしても、どの情報をいつ伝えるかのタイミングはとても重要!なのです。

5  伝えるべき情報を、全て伝えきれているかチェックする

5×3のマトリクスに整理した情報は、基本的には全てを、内定者全員に入社までに伝えましょう。

採用実務を担当した人なら分かると思いますが、どの内定者や採用候補者にどの情報を伝えているのか、あるいは伝えていないのかを把握しておくことは大変です。ですが、そこは5×3の一覧表を意識しつつ、丁寧にチェックしていくしかありません。

全項目をチェックしていくのは厳しいですが、多くの退職者の退職理由に関係していると思われる重要情報については、伝え漏らしてはいけません。相手の志向や価値観などを見極めながら、個々に適したタイミングを判断して伝えましょう。

「これについて伝えておくね」と話して、仮に本人が他の社員や周囲からすでに同じ情報を得ていたのであれば、「そう、で、どう思った?」と本人の受け止め方を確認すればいいでしょう。「全然気になりません」という人もいれば、「早く聞いていたら他社に変えていました」という人もいます。

互いの貴重な時間を無駄にしないためにも、タイミングとともに全ての伝えるべき情報を伝えきれているかのチェックに努めてください。とりわけ外してはいけない情報については赤字にするなど注意しておきましょう。

6 入社後のギャップが少なければ少ないほど、人は辞めない

入社までにかかる時間は、採用する側にとってもそうですが、採用される側にとっても膨大です。それだけの時間をかけて、実に多くの候補の中から、自分の行きたい会社を絞り込んできたわけです。

最後に決めた会社に入社して、思っていたこととのギャップさえなければ辞めたくなるわけがありません。なぜなら自分で描いた中で一番の理想の職場であるはずだからです。

もちろん、いくら伝えるべき情報を、5×3のマトリクスで整理してタイミングよく伝えきれたとしても、本人の入社後のギャップを100%埋めることは不可能です。

理由の1つ目は、情報伝達が完璧なケースはまずないということ。人はそれぞれ背景や個性も異なり、こちらが意図したことと相手の情報の受け取り方がずれることは当たり前にあるからです。

「この点は内定する前に話したよね」「えっ? そうでしたっけ。記憶になくて今びっくりしているのですが……」といった会話は珍しくありません。担当者はできる限り内定者の記憶に残るようなコミュニケーションを心がけましょう。

理由の2つ目は、たとえ本人の入社後のギャップがゼロに近かったとしても、配属された職場の状況は個々に異なるかもしれないということ。

職種別採用ではない場合、配属された仕事内容と本人のイメージにギャップが生まれることもあるでしょう。また制度や社風なども、月日を経て内定時から変わっている場合もあります。

これらについても、入社後に採用担当者や配属された職場のメンバーおよび上司が本人に声をかけ続ければ、理解を得られ、退職防止につなげることができます。

第2回から今回第5回まで、『人が辞めない会社』に変わるためには[採用]という入り口が肝心ということでお話ししてきました。

人材獲得の入り口である採用においては、自社を「必要以上に大きく見せることなく」、求める人材像として「会社が“目指すこと”、“大切にしたいこと”を明示」してみましょう。ネットやSNSの力で、あなたの会社が本当に“採用したい人材”にアプローチすることができます。

そうして内定までこぎつけた人材に、「入社日までに伝えるべき情報」を整理して全て伝え、入社後のギャップが少なければ少ないほど、人は辞めないのです。

第5回を最後までお読みいただきありがとうございました。次回からはしばらく[仕事]についてのヒントをご紹介していきます。

毎回ご紹介するヒントを参考にしながら、自社を退職する一人ひとりの「辞める理由」と、働いている一人ひとりの「辞めない理由」を丁寧に拾ってみましょう。見えてきた自社ならではの“課題”を解消し“強み”を活かせれば、『人が辞めない会社』へと変われるはずです。

<ご質問を承ります>

ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mailto:brightinfo@brightside.co.jp
https://www.brightside.co.jp/

※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。

『新スペシャリストになろう!』
https://amzn.asia/d/e8GZwTB
『なぜ社長の話はわかりにくいのか』
https://amzn.asia/d/8YUKdlx

以上(2025年11月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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「ファシリテーションツール」活用ハンドブック(2025年11月号)

管理職や指導者には、組織の潤滑油として「職場のコミュニケーション活動」を活発にすることが求められます。しかし、現実には「会議で部下の意見を引き出せない」「意見が対立し混乱する」「意見をまとめきれない」といった悩みを抱える人も少なくありません。これらのコミュニケーションの問題点を改善し、円滑に進めていくのが「ファシリテーション」です。ファシリテーションには「コミュニケーションを促進する働き」があり、そのコミュニケーションの促進役を「ファシリテーター」、促進するスキルを「ファシリテーションスキル」と呼びます。

本冊子では、ファシリテーションのスキルを「場づくり・場の構造化スキル」「対話スキル」「整理・誘発・統合スキル」の3つで分け、シーンに応じて職場で活用できる「ファシリテーションツール」を紹介していきます。


11/8(土)、11/9(日)徳島・香川「トモニマルシェ」開催!

11/8(土)、11/9(日)に東京交通会館1Fピロティ(JR有楽町駅前)にて徳島・香川「トモニマルシェ」を開催いたします!


また、11/3(月)~11/9(日)にトモニ市場では、「トモニ市場感謝祭」も行われます!

11/8(土)の13時~と15時~には、徳島県マスコットキャラクター「すだちくん」がトモニ市場店頭に登場予定です。


ご家族・ご友人をお誘い合わせの上、ぜひお越しください!

【開催概要】

  • 日時 2025年11月8日(土)11:00~17:30、2025年11月9日(日)11:00~17:30
  • 場所 東京交通会館1Fピロティ(JR有楽町駅前)東京都千代田区有楽町2丁目10番1号
  • 主催 東京交通会館(交通会館マルシェ事務局)
  • 共催 トモニホールディングス、徳島大正銀行、香川銀行

場所

当行及びとくぎんトモニリンクアップ株式会社と鳴門市が「ゼロカーボンシティの実現に向けた連携協定」を締結しました!

当行及びとくぎんトモニリンクアップ株式会社は、鳴門市と「ゼロカーボンシティの実現に向けた連携協定」を令和7年9月29日に締結いたしました。

3者は、脱炭素経営の普及啓発や事業者支援を通じて、鳴門市の温室効果ガス排出量実質ゼロの実現に向けて連携して取り組みます。

連携内容
(1)カーボンニュートラルに関する普及啓発に関すること
(2)事業者間の情報・意見交換の場づくりに関すること
(3)脱炭素経営の取組を進める事業者の支援に関すること
(4)その他、鳴門市のゼロカーボンシティの実現に必要なこと

ゼロカーボンシティの実現に向けた連携協定


以上(2025年10月作成)

【ハラスメント対策】行為者の処分と被害者のケア 事実が確認できなくても対応する!

1 行為者の処分と被害者のケア

事実確認の結果、ハラスメントがあったことが明らかになったら、すぐに行為者の処分と被害者のケアをします。

  • 行為者の処分の基本は、行為の内容と懲戒処分の重さを釣り合わせること
  • 被害者のケアの基本は、被害者がつらくないよう、行為者と被害者とを引き離す

です。以降で詳しく見ていきましょう。

2 行為者の処分:行為の内容と処分の重さを釣り合わせる

まずは行為者の処分について見ていきましょう。懲戒処分を検討する場合、その根拠となるのが就業規則です。一般的には、ハラスメントを就業規則の「服務規律違反」に当たるとして、「戒告(口頭注意)、けん責(始末書の提出)、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇」などの懲戒処分を適用します。ただ、

行為者のやったことに対して重すぎる懲戒処分は無効になる

ので、どの処分を適用するかは、次の事項などを踏まえて慎重に判断する必要があります。

1.行為の悪質性・重大性

言動の内容・質や頻度・量を考慮します。犯罪に当たるようなハラスメントをした場合などは、情状が悪くなります。

2.結果(被害)の重大性

被害者に与えた身体や精神への被害(苦痛)の大きさなどを考慮します。ハラスメントが原因で被害者が休職や退職をした場合などは、情状が悪くなります。

3.懲罰歴や指導・注意歴

過去に懲罰歴や指導・注意歴がない状態で、反省や改善の機会を与えないまま厳しい懲戒処分を科すと、懲戒権の濫用として処分が無効となることがあります。

次章でハラスメントに関する懲戒処分の事例を紹介しますが、実際に処分の内容を検討する際は、事前に弁護士などの専門家に相談するのが無難です。

3 事例に見るハラスメントの懲戒処分

1)懲戒解雇の事例

犯罪になるようなハラスメントについては、懲戒解雇が認められやすい傾向にあります。例えば、嫌がる女性社員に無理やりキスをするなど、強制わいせつ罪(現行法では、不同意わいせつ罪)に当たり得る行為をした部長について、懲戒解雇が認められた裁判例があります(東京地裁平成22年12月27日判決)。

逆に犯罪に当たらないようなハラスメントの場合、懲戒解雇が認められにくくなります。例えば、慰安旅行の宴会で女性社員の肩を抱いたり、「胸が大きいね、何カップかな」などと発言したりした支店長への懲戒解雇が有効かを争った裁判例があります。裁判では、ハラスメント自体は悪質と判断されましたが、行為者の会社への貢献、反省の程度、指導・注意歴がないなどの事情から、懲戒解雇は認められませんでした(東京地裁平成21年4月24日判決)。

2)出勤停止の事例

女性の派遣社員に対し、「もうそんな歳になったん。結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで」などのセクハラ発言を、1年余りにわたって繰り返した課長代理について、10日間の出勤停止処分が有効かを争った裁判例があります(大阪高裁平成26年3月28日判決、最高裁第一小平成27年2月26日判決)。この裁判では、大阪高裁と最高裁とで意見が分かれました。

大阪高裁では、被害者がはっきりと拒否しなかったため、課長代理が自分の発言を許されていると勘違いしたこと、会社から警告や注意を受けなかったことなどから、出勤停止処分は認められませんでした。

一方、最高裁では、課長代理は部下を指導する立場にあることや、セクハラの被害者は職場の人間関係が悪くなることなどを心配して行為を拒否できないケースが多いこと、この事案のセクハラ発言の多くが周囲に人のいない状況で行われ、会社が警告や注意をする機会がなかったことなどから、出勤停止処分が認められました。

3)降格の事例

成果の低い部下に「(一定の成績が上がらなければ)会社を辞めると一筆書け」「会社に泣きついて居座りたい気持ちは分かるが迷惑なんだ」などの発言を繰り返し、退職を迫った役員補佐について、降格処分が認められた裁判例があります(東京地裁平成27年8月7日判決)。

4 被害者のケア:行為者と被害者とを引き離す

ハラスメントの事実が確認できても、行為者が自主退職したり、解雇されたりするとは限りません。行為者が会社に残る場合、被害者がつらくないよう、行為者と被害者とを引き離すことが重要です。一般的な方法は「配置転換」ですが、この際、

被害者ではなく、行為者を配置転換することがポイント

です。被害者を配置転換してしまうと、被害者はハラスメントだけではなく、仕事の内容についても被害を受けることになりかねません。「せっかく勇気を出して相談をしたのに、不利益な取り扱いを受けた!」と被害者が会社を訴える恐れもあります。

中小企業では、社員数の関係で配置転換が難しいケースがありますが、その場合、席替えや業務上の関わりをなくすなどして、行為者と被害者の接点を減らします。また、定期的に状況を確認し、被害者が望むなら、会社が行為者と被害者との関係を修復するように努めます。

なお、被害者が「行為者の処分を社内に公表してほしい」と求めてきても、それは行為者のプライバシー情報なので公表できません。

5 ハラスメントの事実が確認できなかったら?

ハラスメントは、

被害者が主張する事実が確認できない、確認できた事実がハラスメントであると判断できないなど、いわゆる「グレーゾーン」のケースが多い

です。とはいえ、簡単に対応を打ち切ると、

  • 行為者は「自分は正しい」と思い込み、また同じような言動を繰り返す
  • 被害者は「自分はないがしろにされた」と会社を信用しなくなり、外部に相談する

といったように事態が悪化します。

そこで、被害者には、

事実確認の調査や調査結果を丁寧に説明し、会社が真剣に対応したことを伝える

ようにします。被害者が調査結果に納得できない場合、再調査を求められることがありますが、そのときはどのような点に不満があるのかなど、被害者の意見を丁寧に聞きましょう。

また、行為者には、

今回はハラスメントに当たらないと判断したけれど、次は違う判断になるかもしれないから、言動を改めたほうがいい

などと注意・指導します。

とにかく、

ハラスメントの事実が確認できなくても、行為者と被害者への対応は必要である

ことを押さえておきましょう。

以上(2025年10月更新)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)

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【規程・文例集】 株式移転計画書のひな型

1 株式移転計画書に定めるべき内容

中小企業のM&Aのスキームとして株式移転が採用されることは基本的にはなく、株式移転が採用されるのは、

  • 事業承継の準備段階として、グループ経営を行っている企業において、複数の会社を一つの会社の管理下に置くために株式移転によって新たな親会社を設立する場合
  • 所有と経営を分離するために、グループ経営を行っている複数の会社の持ち株会社となるホールディング会社を設立するために株式移転を行う場合

などになるでしょう。同じような理由で株式交換というスキームが用いられる場合も少なくありませんが、株式移転は新たに設立する会社を親会社にすることに対して、株式交換は既に存在する会社を親会社にするという大きな違いがあります。

株式移転を行うときには、株式移転計画書を作成する必要があり、次の事項(法定記載事項)を定めなければなりません(会社法第773条)。なお、新株予約権を発行している場合などには別途追加で定めるべき事項がありますが、この記事では省略します。

  • 設立する会社の目的、商号、本店の所在地および発行可能株式総数(第2条)
  • 完全親会社の定款で定める事項(第2条)
  • 完全親会社の設立時取締役等役員の氏名(第3条)
  • 株式移転に際して完全子会社の株主に対して交付する完全親会社の株式の数または算定方法および割当てに関する事項(第4条)
  • 完全親会社の資本金および準備金の額に関する事項(第5条)

2 株式移転計画書

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際に就業規則を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【株式移転計画書のひな型】

株式会社○○(以下「当社」という。)は、単独株式移転の方法により、当社を株式移転完全子会社とする株式移転設立完全親会社(以下「本持株会社」という。)を設立するための株式移転を行うにあたり、次のとおり株式移転計画(以下「本計画」という。)を定める。

第1条(株式移転)

本計画の定めるところに従い、当社は、本持株会社成立日(第7条に定義する。)において、当社の発行済株式の全部を本持株会社に取得させる株式移転(以下「本株式移転」という。)を行う。

第2条(本持株会社の目的、商号、本店の所在地、発行可能株式総数その他定款で定める事項)

本持株会社の目的、商号、本店の所在地及び発行可能株式総数は、次のとおりとする。

1.目的

本持株会社の目的は、別紙1「株式会社○○定款」第○○条に記載のとおりとする。

2.商号

本持株会社の商号は、「株式会社○○」と称し、英文では、「○○」と表示する。

3.本店の所在地

本持株会社の本店の所在地は、○○とし、本店の所在場所は、○○とする。

4.発行可能株式総数

本持株会社の発行可能株式総数は、○○株とする。

5.前項に定めるもののほか、本持株会社の定款で定める事項は、別紙1「株式会社○○定款」に記載のとおりとする。

第3条(本持株会社の設立時取締役の氏名及び設立時会計監査人の名称)

1)本持株会社の設立時取締役(設立時監査等委員である設立時取締役を除く)の氏名は、次のとおりとする。

1.取締役 ○○

2.取締役 ○○

3.取締役 ○○

4.取締役 ○○

2)本持株会社の設立時監査等委員である設立時取締役の氏名は、次のとおりとする。

1.取締役 ○○

2.取締役 ○○

3.取締役 ○○

4.取締役 ○○

3)本持株会社の設立時会計監査人の名称は、次のとおりとする。

○○

第4条(本株式移転に際して交付する株式及びその割当て)

1)本持株会社は、本株式移転に際して、当社の発行済株式の全部を取得する時点の直前時(以下「基準時」という。)における当社の株主に対し、その保有する当社の普通株式に代わり、当社が基準時に発行している普通株式の合計に1を乗じて得られる数の合計に相当する数の本持株会社の普通株式を交付する。

2)本持株会社は、前項の定めにより交付される本持株会社の普通株式を、基準時における当社の株主に対し、その保有する当社の普通株式1株につき、本持株会社の普通株式1株をもって割り当てる。

第5条(本持株会社の資本金及び準備金に関する事項)

本持株会社の設立時における資本金及び準備金の額は、次のとおりとする。

1.資本金の額 ○○円

2.資本準備金の額 ○○円

3.利益準備金の額 ○○円

第6条(本株式移転に際して交付する新株予約権及びその割当て)

1)本持株会社は、本株式移転に際して、基準時における当社が発行している各新株予約権の新株予約権者に対して、それぞれの保有する当社の新株予約権に代わり、基準時における当該新株予約権の総数と同数の本持株会社の新株予約権をそれぞれ交付する。

2)本持株会社は、本株式移転に際して、基準時における当社の新株予約権者に対して、その保有する新株予約権1個につき、本持株会社の新株予約権を1個を割り当てる。

第7条(本持株会社の成立日)

本持株会社の設立の登記をすべき日(以下「本持株会社成立日」という。)は、○○年○○月○○日とする。ただし、本株式移転の手続の進行上の必要性その他の事由により必要な場合は、当社の取締役会の決議により本持株会社成立日を変更することができる。

第8条(本計画承認株主総会)

当社は、○○年○○月○○日を開催日として定時株主総会を招集し、本計画の承認及び本株式移転に必要な事項に関する決議を求めるものとする。ただし、本株式移転の手続の進行上の必要性その他の事由により必要な場合には、当社の取締役会の決議により当該株主総会の開催日を変更することができる。

第9条(本計画の効力)

本計画は、第8条に定める当社の株主総会において本計画の承認及び本株式移転に必要な事項に関する決議が得られなかった場合、本持株会社成立日までに本株式移転についての国内外の法令に定める関係官庁の許認可等が得られなかった場合、または、次条に基づき本株式移転を中止する場合には、その効力を失うものとする。

第10条(本計画の変更等)

本計画の作成後、本持株会社成立日に至るまでの間において、天災地変その他の事由により当社の財産または経営状態に重大な変動が生じた場合、本株式移転の実行に重大な支障となる事態が発生した場合、その他本計画の目的の達成が困難となった場合は、当社の取締役会の決議により、本株式移転の条件その他本計画の内容を変更し、または本株式移転を中止することができる。

○○年○○月○○日

株式会社○○

代表取締役 ○○

以上(2025年9月作成)
(執筆 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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鳴門市と「持続可能な地域社会の形成とWell-being向上に向けた共創」に関する連携協定を締結しました!

当行及びとくぎんトモニリンクアップ株式会社は、株式会社サーキュレーション、株式会社RCGと連携し、鳴門市と「持続可能な地域社会の形成とWell-being向上に向けた共創」に関する連携協定を令和7年9月30日に締結しました。

地域資源の活用や多様なライフスタイルの推進を通じて、鳴門市のまちづくりに貢献していきます。

連携内容
(1)Well-beingの向上に関すること
(2)地域資源を活用したまちづくりの推進に関すること
(3)住民参加型の地域活動の推進に関すること
(4)企業版ふるさと納税を活用した関係人口の拡大に関すること
(5)その他、本協定の目的達成に必要な事項

締結式の様子

ネットワーク・コミュニティ

集合写真


以上(2025年10月作成)

【中小企業のためのM&A】 M&Aで大切な法律の視点。会計処理や税金だけではない大切なポイント

1 成功するM&Aのために法的な整理も忘れずに

M&Aをする経営者が気にするのは、

M&A後の会計処理や税務上のインパクト

であることが多く、法的な整理は後回しにされがちです。しかし、M&Aのスキーム(手法)によって、

  • 承継する権利関係やリスクの負担度合いが異なる
  • クロージングまでのスケジュールが大きく異なる

などといった注意点があり、法的な整理をきちんと確認しないとM&Aで失敗してしまうこともあります。そうならないように、この記事では、M&Aについて最低限知っておくべき法的な注意点を、スキームごとに整理します。

2 株式譲渡を進める際の注意点

1)株券発行会社の場合は、株券の交付やこれまでの株主の異動に注意する

株式譲渡は、他のスキームに比べて譲渡手続きが簡便といえ、M&Aに慣れていない経営者でも理解しやすい手法です。ただし、株式譲渡では対象会社を包括的に譲り受けるため、その分、リスクも大きくなるので、十分に注意しましょう。

例えば、株券発行会社では、法律上、株券を交付しなければ株式譲渡の効力が生じません。特に2004年以前は株券の発行が義務付けられていました。しかし、こうした決まりを知らずに、当事者間の意思表示だけで株式を譲渡している場合が多々ありました。そのため、以下の点には十分に注意しましょう。

  • 株券発行会社で、現在の株主が設立時から変更されているときは、当該株主が株券の交付を受けて、適法に株式を譲り受けているかを確認する
  • 現在の株主名簿に記載されている株主が株券を所持していない場合、その理由を確認する(株券不所持に過ぎないのか、株券を紛失したのかなど)

2)会社に内在する問題を包括的に承継することを理解する

中小企業のM&Aでは、簿外債務が問題になることが少なくありません。意図せずとも、

  • 正しく会計処理をしていなかった
  • 未払残業代があった(みなし残業代を支払っていたが、法律上、みなし残業代とは認められない状態だった)

などのケースがあるからです。この他、必要な許認可を取得していなかったり、許認可の有効期間が切れていたりすることもあります。M&A後に飛躍的に売り上げが伸びるなどして注目を浴びるようになった際にこうした問題が露呈し、買収した親会社のレピュテーションが低下することもあります。

そのため、

デューデリジェンス(DD)をしても見つからないリスクについては、株式譲渡契約書で表明保証に関する定めや損失補償条項を設けるなどしてケアする

ことが大切です。

3 事業譲渡を進める際の注意点

1)取引先との契約は全て締結し直す必要がある

事業譲渡は、前述した株式譲渡と異なり、対象会社の全てを包括的に承継するのではなく、当事者間で合意した事業に関する権利義務だけを切り出して承継するスキームです。

一見すると大変使い勝手が良いスキームのように感じますが、

譲渡対象になった契約などが自動的に譲渡先に移転するわけではないため、全て譲渡先と新たに契約を締結し直す

必要があります。これは大変煩雑な手続きとなることもあり、それが理由で事業譲渡を断念する場合もあります。

2)譲渡対象を明確にして締結をする必要がある

事業譲渡のポイントは、当事者間で、どの事業のどの取引・権利義務・資産等を譲渡対象にするかを明確にすることです。譲渡対象によって譲渡金額も変わるため、後々、譲渡を受けたと考える譲渡先会社と、譲渡をしていないと考える譲渡会社でトラブルになることもあります。

特に中小企業の場合、個人の資産と会社の資産が明確に分かれていない場合も多いので、譲渡対象を明確にすることがより重要になります。

4 会社分割を進める際の注意点

1)手続きに時間がかかる

法律上、会社分割の進め方は決まっています。単に会社分割契約を締結するだけでなく、労働契約承継法で定められた労働者保護の手続き、会社法で定められた債権者保護の手続き(債権者保護のための公告・催告などを行う)などを経る必要があります。そのため、最短で手続きを進めようと思っても、1カ月半~2カ月程度はかかります。

また、求められる手続きも色々とあるため、会社分割を選択する場合は専門家に相談することをお勧めします。

2)債権者や労働者の理解が得られないと思わぬ落とし穴がある

会社分割は、法律上の手続きを踏むことで、取引先から個別の承諾を得ることなく、契約等を承継会社に承継させることができます。

ただし、労働者保護の手続きにより、承継会社に承継される事業に主として従事する労働者は、自分の意思で承継会社に移籍するか否かを決めることができます。また、債権者保護手続きにより債権者から異議を出された場合、当該債権者に対して、債務を弁済する、相当の担保を提供するといったことが必要になります。

以上から、会社分割においては、場合によっては、事前に労働者や債権者に根回しをしておく必要があります。

3)分割対象を明確にして締結をする必要がある

会社分割も事業譲渡と同じように、何を分割対象にするかを当事者間で決めることができます。そのため、分割内容を明確にしておかなければ、分割会社と承継会社との間で認識のずれが生じ、トラブルになることがあります。

5 合併を進める際の注意点

1)手続きに時間がかかる

会社分割と同じく、法律上、合併の進め方は決まっています。そのため、最短で手続きを進めようと思っても、1カ月半~2カ月程度はかかります。

2)債権者の理解が得られないと思わぬ落とし穴がある

会社分割と同じく、合併においても債権者保護手続きなどを経る必要があります。そのため、債権者から同意が得られないと、合併手続きを進めるにあたって影響が出てきます。

3)会社に内在する問題を包括的に承継することを理解する

合併の場合には、会社に内在する簿外債務等のリスクを全て承継することになりますので、その点に留意し、きちんとデューディリジェンスを行うなどの対策を講じることが必要になるといえるでしょう。

以上(2025年9月作成)
(執筆 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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画像:Mariko Mitsuda

【規程・文例集】 株式交換契約書のひな型

1 株式交換契約書に定めるべき内容

中小企業のM&Aのスキームとして株式交換が採用されることはそれほど多くはありませんが、

  • 自社株を用いて現金を用いることなく、譲渡企業を完全子会社化することを計画している場合
  • 株主全員と交渉を行うことなく、株主総会決議でもって完全子会社化することを計画している場合

などに採用されることがあります。同じような理由で株式移転というスキームが用いられる場合も少なくありませんが、株式移転は新たに設立する会社を親会社にすることに対して、株式交換は既に存在する会社を親会社にするという違いがあります。また、株式交付というスキームが用いられる場合がありますが、このスキームは株式交換と異なり、譲渡企業の株式の全部ではなく一部を取得するスキームであるという点で違いがあります。

株式交換を行うときには、株式交換契約書を作成する必要があり、次の事項(法定記載事項)を定めなければなりません(会社法第768条)。なお、新株予約権を発行している場合などには別途追加で定めるべき事項がありますが、この記事では省略します。

  • 完全親会社および完全子会社の商号および住所(第2条)
  • 完全子会社の株主に対して交付する対価の内容等および割当てに関する事項(第3条)
  • 効力発生日(第5条)

2 株式交換契約書のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際に就業規則を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【株式交換契約書のひな型】

株式会社○○(以下「甲」という。)及び株式会社○○(以下「乙」という。)は、○○年○○月○○日(以下「本契約締結日」という。)、以下のとおり株式交換契約(以下「本契約」という。)を締結する。

第1条(株式交換の方法)

甲及び乙は、本契約に従い、乙を甲の株式交換完全親会社、甲を乙の株式交換完全子会社とする株式交換(以下「本株式交換」という。)を行い、乙は、本株式交換により甲の発行済株式の全部を取得する。

第2条(当事者の商号及び住所)

甲及び乙の商号及び住所は、それぞれ次のとおりである。

甲: 株式交換完全子会社

    商号:株式会社○○

    住所:○○

乙: 株式交換完全親会社

    商号:株式会社○○

    住所:○○

第3条(株式交換に際して交付する株式及びその割当て)

1)乙は、本株式交換に際して、本株式交換により乙が甲の発行済株式の全部を取得する時点の直前時(以下「基準時」という。)において甲の株主名簿に記載または記録された甲の株主(以下「本割当対象株主」という。)に対し、その保有する甲の普通株式の合計に○○を乗じて得た数の乙の普通株式を交付する。

2)乙は、本株式交換に際して、基準時における甲の各株主に対して、その有する甲の普通株式1株につき、乙の普通株式○○株の割合をもって、乙の普通株式を割り当てる。

3)前二項の規定に従って本割当対象株主に対して割り当てるべき乙の普通株式の数に、1に満たない端数がある場合には、甲は会社法第234条その他関係法令の規定に従って処理する。

第4条(乙の資本金及び準備金の額)

本株式交換により増加すべき乙の資本金及び準備金の額は以下のとおりとする。

1.資本金の額    ○○円

2.資本準備金の額  ○○円

3.利益準備金の額  ○○円

第5条(本効力発生日)

本株式交換がその効力を生ずる日(以下「本効力発生日」という。)は、○○年○○月○○日とする。但し、本株式交換の手続の進行上の必要性その他の事由により必要な場合には、甲及び乙は、協議し合意の上、これを変更することができる。

第6条(株主総会の承認)

1)甲及び乙は、○○年○○月○○日に開催予定の株主総会において、本契約の承認及び本株式交換に必要な事項に関する株主総会の決議を求めるものとする。

2)本株式交換の手続の進行上の必要性その他の事由により必要な場合には、甲及び乙は、協議し合意の上、株主総会の開催日を変更することができる。

第7条(事業の運営)

甲及び乙は、本契約締結日から本効力発生日までの間、それぞれ善良な管理者の注意をもって自らの業務の遂行並びに財産の管理及び運営を行い、その財産若しくは権利義務に重大な影響を及ぼす行為を行おうとする場合については、あらかじめ甲乙協議し合意の上、これを行う。

第8条(本株式交換の条件変更及び中止)

本契約締結日以降本効力発生日に至るまでの間において、本株式交換の実行に重大な支障となる事態が生じ又は明らかとなった場合その他本契約の目的の達成が困難となった場合には、甲及び乙は、誠実に協議し合意の上、本株式交換の条件その他の本契約の内容を変更し、又は本株式交換を中止し、若しくは本契約を解除することができる。

第9条(本契約の効力)

本契約は、本効力発生日の前日までに、甲又は乙の株主総会における承認が得られないとき又は前条に従い本株式交換が中止され、若しくは本契約が解除されたときは、その効力を失う。

第10条(準拠法及び裁判管轄)

本契約は、日本法に準拠し、同法に従って解釈されるものとし、本契約に起因し又はこれに関連する一切の紛争については、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

第11条(誠実協議)

甲及び乙は、本契約の条項の解釈につき疑義が生じた場合及び本契約に定めのない事項については、誠意をもって協議して解決する。

本契約締結の証として本書面2通を作成し、甲乙記名捺印のうえ、各1通を保有するものとする。

○○年○○月○○日

以上(2025年9月作成)
(執筆 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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【参加無料】ネイチャーポジティブ普及促進・実践研究会「徳島プロジェクトを考える」開催!

令和7年11月14日、徳島県と徳島ネイチャーポジティブ経済移行推進本部が主催する、ネイチャーポジティブ普及促進・実践研究会「徳島プロジェクトを考える」が、文化の森総合公園内の徳島21世紀館イベントホールで開催されます。

詳細はチラシか徳島ネイチャーポジティブ経済移行推進本部公式サイトにて、ご確認いただけます。


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【ネイチャーポジティブとは?】
ネイチャーポジティブとは日本語訳で「自然再興」といい、「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させる」ことを指します。これまでの自然環境保全の取り組みだけでなく、経済から社会、政治、技術までの全てにまたがって改善を促していくことで、自然が豊かになっていくプラスの状態にしていこうというのがネイチャーポジティブの趣旨です。国内では、2023年3月に閣議決定した生物多様性国家戦略2023-2030において2030年までにネイチャーポジティブを達成するという目標が掲げられています。
【徳島ネイチャーポジティブ経済移行推進本部とは?】
徳島県内でネイチャーポジティブの取り組みを推進し「未来に引き継げる徳島」の実現を図ることを目的として、徳島大学、徳島県、株式会社徳島大正銀行、とくぎんトモニリンクアップ株式会社(徳島大正銀行子会社)の4者で2025年4月28日に設立した組織です。
県内外の多数の事業者様のご協賛により事業を行ってまいります。
推進本部へのご入会も可能です。ご入会は、推進本部のリーフレットか、実践研究会のチラシの二次元コードから行うことができます。

以上(2025年10月作成)