【賃金データ集】地域別のモデル支給額

【賃金データ集】シリーズとは?

【賃金データ集】シリーズは、基本給や諸手当など賃金の主要な構成要素ごとの近年のトレンドを、モデル支給額を中心とした関連データとともに紹介します。経営者や実務家の方々が賃金支給水準の決定や改定を行う際の参考としてご活用ください。なお、モデル支給額などのデータを紹介する際は、基本的に出所に記載されている用語を使用するものとします。また、データは公表後に修正されることがあります。

この記事で取り上げるのは地域別の「基本給」です。

総額人件費の内訳と「基本給」の位置付け

なお、以降で紹介する図表データのExcelファイルは、全てこちらからダウンロードできます。

こちらからダウンロード

1 都道府県ごとの賃金格差

 賃金支給額は、産業の集積度合いや人口などによって地域ごとに格差があります。厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、東京都を100.0(43万4300円)とした場合の道府県ごとの賃金比率は、東京都に次いで高い神奈川県の89.5%(38万8700円)から最も低い青森県の65.2%(28万3000円)まで、24.3ポイントの差があります。

2 厚生労働省の統計資料によるモデル支給額

都道府県別、性別の賃金支給額

鉱業、砕石業、砂利採取場~電気・ガス・熱供給・水道業まで

情報通信業~金融業、保険業まで

不動産業、物品賃貸業~生活関連サービス、娯楽業まで

教育、学習支援業~サービス業(他に分類されないもの)まで

3 東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額1

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額2

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額3

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額4

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額5

4 情報インデックス(この記事で紹介したデータの出所)

この記事で紹介した統計資料は次の通りです。調査内容は個別のURLからご確認ください。なお、内容はここ数年の公表実績に基づくものであり、調査年(度)によって異なることがあります。

■賃金構造基本統計調査■
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html

画像9

■中小企業の賃金事情■
http://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp/toukei/koyou/chingin/

画像10

以上(2025年8月更新)

pj17907
画像:ChatGPT

【オーナー企業の事業承継(2)】経営権の承継とオーナー個人の相続

1 オーナーか個人か。立場で異なる2つの事業承継問題

事業承継では代表の座を移すことに加えて、経営権(オーナーが所有する自社株式など)を円滑に承継させなければなりません。これはオーナーにとって、

  • オーナー経営者の立場では、経営権の承継の問題
  • 個人としては、オーナー個人の相続問題

といった違いがあります。従って、自社株式の円滑な承継のためには、オーナーの相続についてもスムーズに行われるよう事前の対策が必要なのです。

2 経営権の承継の問題とは

株式会社の場合、会社法上、定款の変更や役員の選任といった経営に関する重要な事項の決定には、株主総会で承認されなければなりません。承認に必要な議決権の割合は、決定事項に応じて会社法に定められています。もし、オーナーや意思を同じくするオーナー以外の株主(家族や役員など)だけで、承認に必要な議決権の割合を確保できていないと、

オーナーや取締役会で重要事項を決定しても、株主総会で承認が得られない可能性

が出てきます。従って、事業承継対策の1つとして自社株式が分散するのを避けることが大切です。後継者が会社の重要事項を決定できるように、後継者と意思を同じくする後継者以外の株主(家族や役員など)に、持株比率(議決権)を集約しておく必要があります。これが経営権の承継の問題です。

なお、承認に必要な議決権の割合ごとの決議内容等は次の通りです。

承認に必要な議決権の割合ごとの決議内容

経営の安定化のためには、最低でも議決権の2分の1超、理想は議決権の3分の2以上の確保が必要です。また、社外株主(オーナーと意見を異にする可能性のある株主)に議決権の3分の1超を保有させないことです。

また、オーナーの個人所有の土地や建物などを会社が賃借して事業に使用している場合や、経営上重要なオーナー所有の財産(自社株式以外)がある場合には、これらの資産も後継者に承継しておいたほうが経営の安定化につながります。

3 経営権の承継の問題対策:株式の集約・分散防止

1)譲渡制限株式

株主が自身の所有する自社株式を譲渡しようとする場合には、会社の承認を必要とする旨を定款に定めることができます。この株式を譲渡制限株式といいます。この場合の会社の承認とは取締役会設置会社においては取締役会、未設置会社においては原則株主総会の承認となります。

譲渡制限株式を譲渡する場合の手続きは次の通りです。

  • 譲渡制限株式の株主が株式を他人に譲渡しようとするときは、会社に対し、その株数、譲受人の氏名・名称等を明示して、これを承認するか否かの決定を請求します(会社法第136条、第138条第1号)。
  • 会社は、譲渡承認の請求を受けたときは、2週間以内に株主総会または取締役会においてこれを承認するか否かを決議し(会社法第145条第1号)、その結果を承認請求者に通知します(会社法第139条)。
  • 会社が譲渡を承認しない旨を決定したときは、会社がこの株式を買い取るか、または買取人を指定します(会社法第140条)。なお、会社が株式を買い取るとき、会社は40日以内に、また、買取人を指定したときは指定買取人は10日以内に、買い取る旨およびその株式数を承認請求者に通知しなければなりません(会社法第145条第2号)。

2)株式の売渡請求権

譲渡制限は相続や合併などの一般承継による取得には適用されません。このため相続や合併などにより、譲渡制限株式を相続した株主に対して会社がその株式を売り渡すよう請求できる旨を定款に定めることができます(会社法第174条)。なお、この売渡請求は相続などがあったことを知った日から1年以内に、株主総会の特別決議を経て請求する必要があります(会社法第176条第1項)。

4 経営権の承継の問題対策:種類株式の活用

会社法では定款に定めることにより、権利の内容が異なる複数の株式を発行することを認めています。前述の譲渡制限株式もそのうちの1つですが、この他、議決権制限株式や拒否権付株式(黄金株)、取得条項付株式などを活用すると後継者に議決権を集中させたり、逆に未熟な後継者の議決権行使を抑制したりすることができます。なお、種類株式の活用に関する詳細については、以下のコンテンツをご参照ください。

5 オーナー個人の相続問題とは

通常、相続が発生すると

  • 相続人全員で遺産分割協議を行う
  • 分割の内容を記した遺産分割協議書に署名なつ印をする
  • 相続した財産の名義変更を行う

ことになります。この分割協議は相続税の申告期限(相続発生後10カ月)以内をめどに行われますが、相続人全員の合意を必要とするため、しばしば協議が難航することがあります。いわゆる「争続」の発生です。特にオーナーの相続財産は自社株式や会社で使用する資産の占める割合が高いことが多いので、これを後継者に集約しようとすると、他の相続人の相続する資産とのバランスが崩れ、合意を形成するのに難航しがちです。

事業承継では、オーナーに万一のことがあった場合に、こうした「争続」を避け円滑に経営を後継者に承継するため、遺言を残しておくことも一法です。

6 オーナー個人の相続問題対策:遺言の作成

1)公正証書遺言

公正証書遺言とは、遺言者が証人2人以上の立ち会いの下、公証人の面前で、遺言の内容を伝え、それに基づいて、公証人が遺言者の意向を文章にまとめて作成するものです。公証人は裁判官、検察官などの法律実務に携わってきた法律の専門家で、法律的に見てきちんと整理した内容の遺言を作成します。そのため、要件の不備で遺言が無効になるのを避けることができるため、3種類のうちで最もお勧めの遺言書です。また、原本が公証役場に保管されるため、遺言書の破棄や、隠匿や改ざんの心配もありません。なお、公正証書遺言の作成に当たっては手数料が必要になります。

公正証書遺言

2)自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、遺言者が自筆で遺言内容の全てを書くものです。もし、要件に不備があれば遺言全体が無効になる場合があるので、慎重に作成しましょう。作成に当たっての注意点は次の通りです。

  • 図表などを含む全文を自筆する
  • 年月日の日付を自筆する
  • 氏名を自筆する
  • 押印は認印・母印でも有効だが、実印が望ましい
  • 加除訂正箇所は、その箇所に押印の上署名が必要
  • 封印をするのが望ましい

なお、民法改正により、財産目録については自筆ではなく、パソコンでも作成できます。また、法務局に遺言書を保管でき、その遺言書については、家庭裁判所の検認も不要となります。

3)秘密証書遺言

遺言者が、遺言の内容を記載した書面に署名押印をした上で、これを封じ、遺言書に押印した印章と同じもので封印し、公証人および証人2人の前にその封書を提出し、自己の遺言であることを証明してもらう方法です。遺言の内容を誰にも明らかにせず秘密にすることができますが、公証人がその内容を確認できないため、自筆証書遺言と同様に要件に不備があれば遺言全体が無効になりますし、家庭裁判所の検認も必要です。

7 オーナー個人の相続問題対策:遺留分への対応と民法の特例

1)遺留分と遺留分侵害額請求権

民法では遺言の内容にかかわらず、相続人の最低限の相続分を保障するために「遺留分」が定められています(民法第5編第8章)。遺留分は、相続人のうち、配偶者、子、直系尊属(被相続人の父母)にだけ認められており(兄弟姉妹は対象外)、その割合は法定相続割合の2分の1(直系尊属のみが法定相続人のときは3分の1)です。なお、遺留分算定の基礎となる財産は、

(相続開始時点で被相続人が有していた財産の価額)+(生前贈与した財産のうち、相続開始前1年以内に贈与した一定の財産の価額)-(債務の価額)

となります。なお、相続人に対する生前贈与については、特段の事情がない限り、相続開始前10年以内(2019年6月30日以前に発生した相続にしては無期限)の贈与について、遺留分算定の対象となります。オーナーが遺言を作成し、後継者に対して自社株式や事業用資産を集中して相続させたり(遺贈)、生前に贈与したりすると、他の相続人の「遺留分」を侵害する場合があります。遺留分を侵害された相続人は、遺贈や生前贈与を受けた後継者に請求して遺留分を取り戻す権利が認められています。これを「遺留分侵害額請求権」といいます。遺留分侵害額請求権を行使された後継者は、遺留分に相当する金銭を支払わなければならないため、多額の資金調達を強いられたりすることがあります。このような事態を避けるため遺言の作成に当たっては、専門家とも相談の上、他の相続人の遺留分に十分配慮しなければなりません。

遺留分と遺留分侵害額請求権

2)遺留分に関する民法の特例

民法では、被相続人の生前に、遺留分を有する相続人が自分の遺留分を放棄することが認められています。ただし、そのためには、それぞれの相続人が自分で家庭裁判所に申し立てをして許可を受けなければなりません。これらの作業負担が大きいことや、家庭裁判所による許可・不許可の判断が相続人ごとにバラバラになる可能性があることなどから、自社株式の分散防止対策としては利用しにくいものとなっています。そこで、「中小企業の経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)」では、一定の要件を満たす中小企業の後継者が、オーナーの遺留分を持つ権利者全員が合意し、所要の手続きを経ることで、遺留分に関する民法の特例の適用を受けることができるよう定められています。この特例を受けるための一定の要件と所要の手続きは次の通りです。これらを満たすことにより、「除外合意」と「固定合意」の適用を受けることができます。

「除外合意」と「固定合意」の適用

1.除外合意

除外合意とは、

後継者が旧オーナーからの贈与により取得した自社株式の全部または一部について、その価額を遺留分を算定するための価額に算入しない旨を合意すること

をいいます。

後継者が旧オーナーからの贈与により取得した自社株式の全部または一部について、遺留分を算定するための財産の価額に算入すべき価額を、当該合意時における価額とする旨を合意すること

をいいます。固定合意により、将来の遺留分侵害額請求権に対応した価額を合意時点の価額に固定することができ、将来の相続発生に備えての資金対策などが立てやすくなります。原則として、遺留分の価額の算定時期は相続開始時点です。しかし、この場合、後継者がオーナーの生前に自社株式の贈与を受けて事業を引き継ぎ、会社の業績を向上させ、株価が上昇すると、相続時にその株価の増加分が遺留分算定財産に加算されてしまいます。すなわち、後継者が経営努力をすればするほど遺留分侵害額請求の対象財産が増加してしまうという矛盾した結果となってしまいます。そこで、譲渡を受けた株式の価額を後継者とその他の推定相続人との間で合意した価額で固定し、経営努力による価額の上昇分を後継者に取得させることとしたのがこの固定合意です。

固定合意とは

以上(2025年8月更新)

pj30043
画像:soo hee kim-shutterstock

「確定拠出年金」の見直しが企業に与える影響とは?

2025年6月13日に成立した「年金制度改正法」が企業にどのような具体的な影響を与えるのか、そして企業が今後、福利厚生制度や退職給付制度をどのように見直していくべきか、深く掘り下げて説明します。

この記事は、こちらからお読みいただけます。pdf

育児・介護企業法の2025年10月改正に伴う就業規則等見直しのポイント

育児・介護による離職防止をさらに一歩進めるため、育児・介護休業法の段階的な改正が予定されています。2025年10月施行の改正内容は、仕事と育児の両立を可能とする措置を義務付けるもので、早期の準備が必要です。

この記事は、こちらからお読みいただけます。pdf

貴社の「未来」を育む! 中小企業のための指導者採用・育成術

中小企業における指導者人材の必要性を再確認しながら、理想的な人物像の明確化、効果的な採用の工夫、現場での育成設計など、限られたリソースでも実践できる方法を具体的にご紹介します。

この記事は、こちらからお読みいただけます。pdf

省エネ対策の第一歩! 「省エネ診断」と「省エネ最適化診断」のご紹介

エネルギー価格の高騰やカーボンニュートラルへの対応が求められる中、小規模な事業所や中小企業でも取り組める省エネ診断事業が注目を集めています。国の支援を活用すれば、費用負担を抑えて専門家による診断を受けることが可能です。

この記事は、こちらからお読みいただけます。pdf


ウチの子に残業させるな! 会社版モンスターペアレントへの対応

1 社員本人の労働問題に、親が介入してくる?

 社員本人の労働条件や処遇について、その社員の親が本人に代わり、会社に苦情を申し立ててくることがあるのをご存じでしょうか? 例えば、社員の配属先や人事評価に対する不満を会社にぶつけてきたり、社内の人間関係に口を出してきたりといった具合です。

社員本人の労働問題に介入してくる親を、この記事では「会社版モンスターペアレント」

と呼ぶことにします。

一般的に、モンスターペアレントとは、学校に対して理不尽な要求を繰り返す親を指す言葉です。少子化が進み、親が昔よりも子どもに対して過干渉になったことなどが原因といわれますが、子どもが社会人になった後もその過干渉が続き、会社版モンスターペアレントになってしまうケースがあるのです。ハラスメントに対する規制などが強化され、かつてより社員の権利が主張されやすくなったことも、こうした状況に拍車をかけているといえるでしょう。

会社版モンスターペアレントは、相手方が社員の親ということで、会社としても強く出にくい面がありますが、押さえておきたいポイントは、

労働契約は会社と社員本人との間で成立するものであるため、親は、当該労働契約に関しては第三者に他ならず、原則として労働条件に介入することはできない

ということです。社員の親の話を真摯に聞くのは大切ですが、親が何を言ってきたとしても、最終的には「会社と社員本人の問題」であるということを念頭において対応しましょう。

この記事では、会社版モンスターペアレントの具体的なケースとその対応例を3つ紹介します。

2 (事例1)残業について苦情を言ってくる親

1)ケース

新入社員のAさんは、入社して半年間が経過し、業務にも慣れてきました。Aさんの上司(課長)も頼もしく思っていましたが、あるとき、Aさんの親から、

「うちの息子のAが毎日遅くまで残業していると聞きました。同期の子は残業がないと言っているのに、Aばかり残業させるのはおかしいです!」

と電話がかかってきました。会社はどのように対応すべきでしょうか?

2)対応例

前述した通り、

労働契約は会社と社員本人との間で成立するものであるため、親は、当該労働契約に関しては第三者に他ならず、原則として労働条件に介入することはできません。

つまり、この事例の場合、Aさんの労働条件について、会社が当事者ではないAさんの親と交渉する必要はありません。ただし、

Aさん本人が会社に直接言い出せない不満や不安を、親が代弁している可能性は考慮

する必要があります。親のクレームをただ門前払いするだけでなく、Aさん本人との対話を通じて、根本的な問題(Aさん自身の不満、会社への不信感、コミュニケーション不足など)を特定し、解決に努める必要があります。具体的には次のステップで進めることが考えられます。

1.親への対応

会社としては、

「Aさんの労働条件については、Aさんご本人と会社の間の労働契約に関する事項ですので、Aさんご本人からの申し出でなければ、詳細なご説明は致しかねます。一般的に、労働時間や残業は、業務の必要性に応じて発生するもので、部署や担当業務、進行度合いによって異なります。同期の方と全く同じ時間になることはありません」

などと、労働契約の当事者がAさん本人である旨、本人からの申し出でなければ詳細な説明をすることができない旨をAさんの親に伝えます。

2.Aさん本人への対応

親からの連絡があったことをAさん本人に伝え、Aさん自身の残業に対する認識や不満等を直接ヒアリングします。Aさん自身が残業について不満を持っている場合、その内容を真摯に聞き、適切な労働時間管理が行われているか、課長からAさんに対する業務の配分が正当といえるものかを確認します。労働時間管理や業務の配分に問題がないと判断した場合、業務の必要性に応じた残業命令は会社の業務命令権の範囲内であり、不当ではないことをAさんに説明します。また、労働時間や残業に関する規定が就業規則等に明記されていることを、必要に応じてAさんに説明します。もちろん、労働時間管理や業務の配分に問題があると判断した場合は、速やかに是正する必要があります。

3.親からクレームが繰り返される場合の対応

親から会社に対し頻繁に電話があり、会社の業務に支障をきたす場合は、迷惑行為である旨を伝えます。それでも繰り返される場合は、弁護士に相談し、法的措置を検討します。

3 (事例2)給与や評価に関する不満を言ってくる親

1)ケース

新入社員Bさんの給与や評価について、Bさんの親が、

「うちのBは毎日遅くまで頑張っているのに、給料が同期より低いと聞きました。評価も納得がいかないと。正当な評価をして、もっと給料を上げるべきです!」

と、会社に苦情を申し立ててきました。会社はどのように対応すべきでしょうか?

2)対応例

給与や評価は会社の経営判断と人事裁量に属する事項ですので、まずは、労働契約の当事者であるBさん本人と会社の問題であることをBさんの親に伝えます。もっとも、Bさん本人が会社に直接言い出せない不満や不安を、Bさんの親が代弁している可能性も考慮する必要があります。具体的には次のステップで対応します。

1.親への対応

会社としては、

「一般的に、給与や評価については、当社の評価制度に基づき、業務実績や貢献度を総合的に判断して決定しております。Bさんの個別の評価内容については、Bさんご本人と会社の間の労働契約に関する事項ですので、Bさんご本人以外にはお伝えできません。Bさんご本人には、評価面談を通じてご説明しておりますので、ご不明な点があればご本人から改めてご相談いただくようお伝えください」

などと、Bさんの給与や評価に関する情報は開示できない旨をBさんの親に伝えます。

2.Bさん本人への対応

親からの連絡があったことをBさんに伝え、Bさん自身の給与や評価に対する認識・不満等を直接ヒアリングします。その上で、会社の評価制度や賃金決定の仕組みについて、Bさんに丁寧に説明し、疑問点を解消する機会を設けます。親からの給与や評価に関する苦情は、多くの場合、社員自身が会社の評価基準や自身の評価理由を十分に理解していないことが原因です。

3.給与・評価制度に問題がある場合の対応

会社の人事評価制度や賃金規定の内容が不明確な場合、不公平感が生じやすいです。社内でも、制度や規定の内容を確認し、不明確な部分があると判断した場合、改訂を検討します。また、仮にBさんが「同期と比べて不公平」と感じている場合、それが性別、年齢、雇用形態などによる不当な差別(例:賃金における男女差別)に該当しないかを確認し、該当する可能性がある場合、速やかに是正する必要があります。Bさんの業務実績や貢献度に見合わない評価や給与であると会社が判断する場合、評価の見直しや今後の成長に向けた具体的なフィードバック、目標設定など、改善策を検討し、Bさん本人に説明します。

4 (事例3)異動に関する要求をしてくる親

1)ケース

新入社員Cさんの親が、Cさんの体調不良や業務への不満を理由に、異動について、

「うちのCは今の部署での仕事が合わないようです。精神的に参ってしまっているので、すぐに部署を異動させてください! それが無理なら、もう辞めさせます!」

と、苦情を申し立ててきました。会社はどのように対応すべきでしょうか?

2)対応例

異動命令は会社の業務命令権に基づき行われるものであり、また、会社を退職するか否かは社員本人が決定する事項です。まずは、これらの事項は、労働契約の当事者であるCさん本人と会社の問題であることを伝えます。もっとも、事例1と2と同様に、Cさん本人が会社に直接言い出せない不満や不安を、Cさんの親が代弁している可能性も考慮する必要があります。具体的には次のステップで対応します。

1.親への対応

会社としては、

「異動については、Cさんご本人の意思を加味しながら、会社の人事権に基づき判断しております。また、退職についても、Cさんご本人からの正式な申し出が必要です。いずれにしましても、Cさんご本人と会社の間の労働契約に関する事項ですので、Cさんご本人と直接面談して対応を検討させていただきます」

などと、異動や退職は、親がCさんに代わって要求できるものではないことを伝えます。

2.Cさん本人への対応

親からの連絡があったことをCさん本人に伝え、Cさん自身の異動や退職についての意向を直接ヒアリングします。会社は、業務上の必要性やCさんの心身の状態・業務状況・家庭事情等を考慮して、異動を検討します。会社が異動の必要がないと判断した場合、その旨を、理由と併せてCさんに伝えます。その際に、Cさん自身が退職を希望した場合、法律(民法や労働法など)や社内規程に則り、適切な手続き(退職届の提出、退職日の調整など)を進めます。なお、Cさんに退職を促す場合(退職勧奨する場合)、強要とみなされないよう慎重に行う必要があります。不適切な退職勧奨は、不法行為として損害賠償の対象となる可能性がありますので、留意が必要です

(監修 のぞみ総合法律事務所 弁護士 曽田駿希)

pj00783
画像:友紀 寺崎-Adobe Stock

「仕事を任せたのに、なぜ?」できる若手が次々と辞める職場の共通点とは?

仕事を確実に任せることができる部下は現場の核とも言える存在です。もし、辞めてしまうと大きな痛手ですよね。周りへの影響も大きく、下手をすれば、それが引き金となり退職の連鎖が起こるかもしれません。

この記事は、こちらからお読みいただけます。

AIを使って「悩みの要因」を深掘りしたいとき、賢い人だけがやっている「すごい聞き方」とは?

いま、ビジネスパーソンの間で「AI」が急速に浸透している。一部ではAIと対話して仕事を進めることが、すでに当たり前になっている。しかし一方で、「AIなんて仕事の役には立たない」「使ってみたけど、期待外れだった」という声も聞こえる。
「それは使い方の問題。AIの力を引き出すには適切な“聞き方”が必要です」。そう語るのは、グーグル、マイクロソフト、NTTドコモ、富士通、KDDIなどを含む600社以上、のべ2万人以上に発想や思考の研修をしてきた石井力重氏だ。

この記事は、こちらからお読みいただけます。

「せかせか常習者」は気を付けろ!「倍速行動」が日常にもたらす怖い不調の数々

近年、動画やドラマを倍速視聴する人が増えている。タイムパフォーマンスの向上には確かに有効な視聴方法だが、この風潮に内科医の著者は警鐘を鳴らす。倍速視聴のリスクと、そこから抜け出す方法とは。

この記事は、こちらからお読みいただけます。