【規程・文例集】事業譲渡契約書のひな型

1 事業譲渡契約書に定めるべき内容

人事、総務、会計、法務などの管理部門に十分なリソースがない中小企業は、株式譲渡などで会社を丸ごと譲り受けるのが難しいことがあります。そのような場合に利用されるのが事業譲渡です。事業譲渡では、譲渡対象となる資産・負債、人材、のれんなどを比較的自由に選別できるメリットがありますが、反面、譲渡対象を明確にしておかないと後々トラブルになることも多いので要注意です。

事業譲渡契約において特に押さえておく必要のある主な事項は次の通りです。

1)譲渡対象(第2条第1項~第3項)

事業譲渡における権利義務の移転は個別承継なので、どの資産や負債、契約上の地位を移転させるのかを個別に特定する必要があります。なお、譲渡人と譲受人の認識に相違がない場合、譲渡対象について「○○事業に関する資産、負債及び契約上の地位の一切」などと定めることもありますが、明確性に欠けるので避けたほうが無難です。

2)事業譲渡の実行(クロージング)条件について

クロージング時には、譲渡対象となっている権利義務を個別に移転する必要があります。具体的には次の通りであり、こうしたことをクロージングの条件として設定することが多いです。

  • 不動産:所有権移転登記手続き
  • 契約:相手方当事者に契約上の地位を移転することについての承諾
  • 登録を要する特許、商標など:登録変更手続きなど
  • 雇用契約:従業員の個別の同意

3)競業避止義務について

会社法第21条第1項では、「当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村およびその隣接市町村の区域内において 譲渡の日から20年間は、同一の事業を行ってはならない」と定められています。この条項が適用されないようにするために、「当事者の別段の意思表示」として、事業譲渡契約において、法律とは異なる条件で競業避止義務を定めることがほとんどです。

通常は競業避止義務を20年よりも短い期間に設定しますが、仮にこれよりも長い期間として30年超とした場合、30年を超える期間の効力は認められないので注意が必要です(会社法第21条第2項)。

このほか、従業員の引き抜き等を制限する定めを置く場合もあります。

2 事業譲渡契約書のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際に就業規則を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【事業譲渡契約書のひな型】

○○(以下「売主」という。)と、○○(以下「買主」という。)は、売主が営む○○事業(以下「本件事業」という。)の譲渡(以下「本件事業譲渡」という。)に関し、次のとおり、事業譲渡契約(以下「本契約」という。)を締結する。

第1条(本件事業譲渡)

1)売主は、買主に対し、○○年○○月○○日又は本契約当事者間で別途合意した日(以下「譲渡日」という)をもって、売主の○○事業(以下「本件事業」という)を譲渡し、買主はこれを譲り受ける。

2)本件事業譲渡に係る対価は、金○○万円(税込)とする。

3)買主は、前項の譲渡対価を、譲渡日限り、売主が指定する振込口座に振り込む方法によって支払うものとする。なお、振込手数料は買主の負担とする。

第2条(資産・負債等)

1)売主及び買主は、本件事業に含まれる資産は以下の通り(以下「主要資産目録」という)とする。

  • 1.○○
  • 2.○○

2)売主及び買主は、本件事業に含まれる債務は以下の通り(以下「本件債務」という)とする。

  • 1.○○
  • 2.○○

3)売主は、買主に対し、譲渡日までに本件事業に係る営業上の秘密、ノウハウその他本件事業譲渡の目的を達成するために必要な事項をすべて引き渡すものとする。

4)売主は、譲渡日までに本件事業譲渡に必要な登記や登録、通知、承諾その他一切の手続きを完了する。

5)買主が売主から承継する債権債務は、譲渡日前日までに既に発生しているものに限ることとし、譲渡日以後に譲渡日前日までに発生した債権債務について、清算や事務処理が必要となった場合には甲乙間で別途協議してすみやかに対応するものとする。

第3条(譲渡承認等)

1)売主及び買主は、相互に相手方に対し、本件譲渡を承認する旨の取締役会の決議が完了していることを保証する。

2)売主は買主に対し、譲渡日までに本件事業譲渡を承認する株主総会の議事録の写しを交付する。

第4条(売主及び買主の表明保証)

1)売主は、買主に対し、本契約締結日及び本件事業譲渡実行日において、別紙1記載の事項が真実かつ正確であることを表明し、保証する。

2)買主は、売主に対し、本契約締結日及び本件事業譲渡実行日において、別紙2記載の事項が真実かつ正確であることを表明し、保証する。

第5条(買主の義務の前提条件)

買主による本件事業譲渡の対価の支払義務の履行は、買主が書面によって別途放棄しない限り、本件株式譲渡実行日までに、以下の全ての事項が充足されていることを条件とする。なお、かかる条件の全部または一部の放棄によって、買主の売主に対する賠償または補償等の請求が妨げられるものではないものとする。

  • 第4条第1項に定める売主の表明保証が、本契約締結日及び本件事業譲渡実行日(ただし、本件事業譲渡が実行される直前)において、真実かつ正確であること。
  • 本件事業譲渡に基づいて承継される契約上の当事者たる地位を移転することにつき、各相手方契約当事者から同意を得ていること。
  • 第10条1項に基づいて、雇用契約を終了させ、退職手続を完了させていること。同時に売主から買主に転籍することについて書面による同意を取得していること。
  • 売主が本契約に基づき、本件事業譲渡実行日までに履行又は遵守すべき事項のいずれにも違反していないこと。
  • 本契約締結日以降、本件事業の資産価値又は財政状態に関して、重大な悪影響を及ぼす事情が生じていないこと。
  • 地震、洪水、津波等の天災、内乱、戦争、暴動その他破壊的活動等の、本件事業譲渡の実行が不可能となるか、著しく困難となる事象が発生していないこと。

第6条(売主の義務の前提条件)

売主による本件事業の譲渡義務の履行は、売主が書面によって別途放棄しない限り、本件事業譲渡実行日までに、以下の全ての事項が充足されていることを条件とする。なお、かかる条件の全部または一部の放棄によって、売主の買主に対する賠償または補償等の請求が妨げられるものではないものとする。

  • 第4条第2項に定める買主の表明保証が、本契約締結日及び本件事業譲渡実行日(ただし、本件事業譲渡が実行される直前)において、真実かつ正確であること。
  • 買主が本契約に基づき本件事業譲渡実行日までに履行又は遵守すべき事項のいずれにも違反していないこと。
  • 本件事業譲渡の実行について、買主の社内手続その他必要とされる一切の手続を履践していること。
  • 本契約締結日以降、買主の事業、資産又は財政状態に関して、重大な悪影響を及ぼす事情が生じていないこと。
  • 地震、洪水、津波等の天災、内乱、戦争、暴動その他破壊的活動等の、本件事業譲渡の実行が不可能となるか、著しく困難となる事象が発生していないこと。

第7条(善管注意義務等)

1)売主は、譲渡日まで、本件事業に関する一切の法律、規則、規制、契約および他の規律事項を遵守し善良なる管理者の注意をもって本件事業を続行する。

2)売主は、譲渡日まで、従業員を含めて現在の組織体制及び取引相手との関係性を維持する。

3)売主は、譲渡日まで、以下の行為を行わない。ただし、売主及び買主が書面で合意する場合はのぞく。

  • 1.本件事業の価値を減少させるおそれのある行為
  • 2.本件事業の通常の範囲を超える負債を負う可能性がある行為
  • 3.定款変更
  • 4.その他本件事業に悪影響を及ぼす可能性のある一切の行為

4)買主が本件事業譲渡に関し会社法第22条第2項に基づく免責登記を行うこととしたときは、当該登記申請に必要となる売主の承諾書及び印鑑証明書の買主への提出その他の免責登記手続に必要な協力を行うものとする。なお、この場合の登記費用は買主の負担とする。

第8条(競業避止義務)

売主は、譲渡日後○○年間、本件事業と競合する可能性のある同種あるいは類似事業を行わない。

第9条(取引先の維持)

売主は、本件事業譲渡完了後においても、顧客が、買主との取引を停止又は終了したり、取引量を減じたりすることのないよう努める。

第10条(従業員)

1)本件事業に従事する売主の従業員は、従業員が希望する限り、買主が引継ぎ雇用する。この場合、売主は、譲渡日までに売主との雇用契約を終了させ、退職手続を完了させるものとし、同時に、対象従業員全員から、売主から買主に転籍することについて、書面による同意を取得するものとする。

2)買主が売主の従業員を引き継ぐ場合、売主の従業員には従前と同一の雇用条件が適用される。

3)売主及び買主は、本件事業譲渡に伴い、譲渡日までに発生した原因から生じる従業員の退職金、給与、未払残業代その他雇用契約に関連する一切の債務を買主が承継しないことを相互に確認する。

第11条(譲渡後の支援)

売主は、本件事業譲渡後、買主が経営を行うにあたり、買主に対して本件事業の事業引継ぎ及び経営における助言等の支援を行う。

第12条(補償)

1)本契約において別段の定めがある場合を除き、売主及び買主は、本契約に定める事項に違反したこと、又は本契約において表明及び保証した事項が真実ではなく若しくは不正確であったことに起因して、相手方に生じた損害、損失、費用(弁護士、公認会計士、税理士その他外部アドバイザーの報酬及び費用並びに加算税、延滞税並びに付帯する国税及び地方税を含むが、これに限られない。以下総称して「損害等」という。)等を補償するものとする。ただし、補償する損害等の総額は本件事業譲渡の対価を上限とする。また、損害等を被った当事者が認める場合には、損害等を生じさせないための必要な措置をもってこれに代えることができる。

2)第4条第1項に基づいて行われた売主の表明若しくは保証の違反、又は本契約に基づき履行若しくは遵守すべき売主の義務の違反に起因して、本件事業の価値若しくは時価純資産の減少があった場合、当該減少額(ただし、買主が本契約に基づき取得する株式数の割合に応じた額とする。)のいずれか大きい金額をもって、対象会社及び買主の被った損害等の額と推定する。ただし、買主がかかる金額以上の損害等が生じたことを立証の上売主に対し補償を請求することを妨げるものではない。

第13条(本契約の解除)

1)以下のいずれかに該当する場合、売主及び買主は、相手方に対し、書面をもって通知することにより、本契約を解除することができる。なお、本項に基づく解除は、解除を通知する当事者が前条に基づく補償を求めることを妨げるものではない。

  • 相手方が、本契約に関して重大な違反をし、本件事業譲渡実行日までに当該違反が治癒されないとき
  • 第4条各項に基づく本契約締結日及び本件事業譲渡実行日における相手方の表明保証が真実かつ正確でないことが判明したとき
  • 解除を通知する当事者の責めに帰すべからざる事由により、本件事業譲渡実行日までに、本件事業譲渡が実行されなかったとき
  • 相手方について、破産手続、民事再生手続、または会社更生手続の申立てを受け、若しくは自ら申立てたとき
  • 相手方について、差押え、仮差押え、仮処分若しくは競売の申立てがあったときまたは滞納処分を受けたとき

2)売主及び買主は、本契約の一部のみ解除することはできないものとし、また、売主及び買主のうち一部の当事者が本契約を解除した場合、他の当事者の解除の意思の有無にかかわらず、当然に本契約の全部が遡及的に消滅するものとする。

3)売主及び買主は、第3条に基づく本件事業譲渡の実行の全部が完了した後は、いかなる場合でも本契約を解除することはできないものとする。

第14条(公租公課の負担)

譲渡日の属する年度における、本件事業に関する固定資産税、都市計画税、償却資産税、消費税などの公租公課については、譲渡日の前日までの分を売主、譲渡日以降の分を買主が、それぞれ日割で按分して負担する。

第15条(費用)

本契約に別段の定めがある場合を除き、売主及び買主は、本契約の締結及び履行にあたって自己が支出し、又は支出することになる費用(弁護士、税理士、公認会計士、フィナンシャル・アドバイザーその他のアドバイザーにかかる費用を含む。)を自ら支払うものとする。

第16条(譲渡禁止)

売主及び買主は、相手方の事前の書面による承諾を得ることなく、本契約により生じた権利義務の全部若しくは一部又は本契約上の当事者たる地位を、第三者に譲渡し、担保に供し、又はその他の方法で処分してはならない。

第17条(適用法と裁判管轄)

本契約に関する解釈および紛争に対しては日本法を適用とし、東京地方裁判所を管轄裁判所とする。

第18条(協議条項)

本契約に記載の無い事項または本基本契約の内容に疑義が生じた場合の取扱いについては、買主および売主は、誠実に協議し、その解決を図るものとする。

以上、本契約の成立を証するため本書2通を作成し、買主売主が記名捺印し、各1通を保管する。

○○年○月○日

売主

買主

別紙1 売主の表明保証(第4条第1項)

1)組織及び構成

  • 1.売主は、日本法に準拠して適法かつ有効に設立され、適法かつ有効に存続している法人であり、本件事業を行うために必要な権限及び権能を有すること。
  • 2.売主が本契約を適法かつ有効に締結し、これを履行するために必要な権限及び権能を有していること。
  • 3.売主による本契約の締結及び履行は、その目的の範囲内の行為であり、売主は本契約の締結及び履行に関し、法令等及び売主の定款その他の内部規則において必要とされる内部手続を全て適法かつ有効に履践していること。

2)法令等との抵触等の不存在

本件事業譲渡の実行は、関連法令及び売主の定款その他社内規則、許認可等、売主が当事者となっている契約の何れにも違反するものではないこと。 [cite: 1]

3)計算書類

  • 1.売主の直近決算期日以後譲渡日までの間、本件事業部門の資産及び負債の状況、財政状態並びに経営成績に重大な影響を及ぼし、または重大な変動またはその原因となるような事実は何ら生じていないこと。
  • 2.売主の本件事業部門には、直近決算期日以後譲渡日までの間における通常の営業の範囲内において生じた債務以外には、いかなる債務若しくは偶発債務も存在しないこと。

4)資産の所有及び使用権限等

  • 1.本契約に基づく承継対象資産のすべてについて、質権その他担保権、その他一切の負担、制約が課せられ、又は設定されておらず、売主が適法かつ有効に所有、保有又は使用する権限を有していること。
  • 2.本契約に基づく承継対象資産について、法律上の負担等は存在せず、本件事業譲渡の実行により、買主が譲渡資産について完全な権利を売主から取得するものであること。
  • 3.また、本件事業は第三者の重要な権利及び権限を侵害するものではないこと。

5)契約関連事項

売主が当事者である契約は適法かつ有効に締結されており、売主及び相手方当事者はこれを完全に遵守し、かかる契約に基づく義務をその条件に従い履行しており、かかる契約下での解除事由、期限の利益喪失事由その他売主に重大な不利益を生じさせる原因となる事由は存在せず、また、そのおそれもないこと。

6)潜在債務等の不存在

本契約に定めのあるものを除き、本件事業譲渡において買主が承継する売主の債務は一切存在しないこと。また、本件事業譲渡において、第三者の債務を負担し若しくは保証し、または第三者の損失を補填若しくは担保する契約は存在せず、またそれらの契約を引き継ぐこともないこと。

7)法令の遵守

売主は関連法令等を遵守しており、関係法令に基づく関係官署、公的機関、その他公的機関に類する自主規制団体などからの指導・処分を受ける事由は存在しないこと。

8)許認可

売主は、本契約締結時点において、実施している本件事業の運営に必要なすべての許認可を有効に取得、保有しており、これらの許認可の無効、取消事由は存在しないこと。

9)知的財産権の侵害

売主は、本件事業を遂行するにあたり、第三者の特許権、意匠権、商標権、著作権その他知的財産権を侵害しておらず、また、侵害をしている旨の警告書その他通知等を第三者から受領していないこと。

10)紛争等

売主を当事者とする、民事、刑事または行政上の裁判手続、訴訟その他の争訟は係属しておらず、また、本件事業、譲渡資産または財務状況に重大な影響を及ぼす可能性のある紛争は存在せず、またそのおそれもないこと。

11)情報開示の正確性

売主が買主に対して開示した情報は、いずれも真実かつ正確であること。また、本件事業の運営又は価値に関連性を有する重要な文書及び情報を全て交付又は提供していること。

12)労働契約

売主は、本件事業を遂行するにあたり、労働関係法令を遵守しており、承継対象の従業員との間における雇用条件に関し違反を行なっておらず、当該従業員との間における紛争は存在しておらず、また、これらが発生するようなおそれもないこと。売主と当該従業員の間において、同盟罷業、ピケッティング、業務停止、怠業等の労使紛争は発生していないこと。

別紙2 買主の表明保証(第5条第2項)

1)日本法に準拠して適法かつ有効に設立され、適法かつ有効に存続している法人であり、現在行っている事業を行うために必要な権限及び権能を有すること。

2)本契約を締結し、本契約に規定された義務を履行する能力及び権能を有すること。また、買主による本契約の締結、本契約に規定された義務の履行については、買主内部において正式な手続による承認がなされていること。

3)買主による本契約の締結又はその履行は、法令もしくは定款その他の社内規則又は買主を当事者とする第三者との契約に違反するものではないこと。

以上(2025年9月作成)
(執筆 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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【かんたん消費税(3)】インボイス制度のデメリットを理解する上で欠かせない「免税事業者」のこと

1 インボイス制度下では、免税事業者は不利な立場に?

「インボイス制度」が始まった後(2023年10月1日以後)は、

免税事業者との取引については「仕入税額控除」が受けられず、自社の消費税負担が重くなっている

のです。仕入税額控除とは、

預かった消費税(仮受消費税)から支払った消費税(仮払消費税)を差し引く

ことです。これが免税事業者との取引ではできないので、国に納める消費税が増えることになるのです。

インボイス制度下

これは自社が免税事業者の場合も影響します。なぜなら、

自社が免税事業者の場合、反対に相手が仕入税額控除できない

ことになり、取引の縮小や停止を要請されてしまうかもしれません。

そのため、自社や取引先が免税事業者か否かを確認することが、非常に重要になりました。そこで、この記事では、どのようなときに免税事業者になるのかについて解説します。

なお、インボイス制度に向けた事前準備については、以下のコンテンツで詳しく紹介しているので参考にしてください。

2 免税事業者とは?

1)どんなときに免税事業者となるのか

業者は、消費税を負担する人(=消費者)から消費税を預かり、消費者に代わって申告し、納付します。つまり、

物を売ったり、サービスを提供したりしている事業者は、消費税の納税義務者になる

のです。

しかし、消費税の申告作業は非常に煩雑で、その事務負担は重いです。そのため、消費税の納税義務者の考え方について特例が設けられ、

小規模の会社については、消費税の納税義務が免除

されます。

では、小規模の会社かどうかはどうやって判断するのでしょうか。それは、原則、

基準期間の課税売上高が1000万円以下かどうか

で考えます。課税売上高とは、消費税が課税される取引金額の合計のことです。また、基準期間とは、一般的な1年決算法人の場合は、

申告しようとする事業年度の前々事業年度

のことです。

免税事業者

つまり、前々事業年度における課税売上高が1000万円以下の会社は小規模事業者になると判断され、納税義務が免除されるのです。この納税義務が免除される会社を「免税事業者」と呼びます。ちなみに、免税事業者以外は「課税事業者」と呼びます。

2)取引先は免税事業者なのか?

自社が免税事業者か否かは、過去に申告書を提出しているか否かなどを確認すれば、すぐに分かるでしょう。一方、取引先が免税事業者か否かについては、

得意先に「確認状」を送付するなどして、免税事業者かどうかを教えてもらう

ことになります。課税事業者であれば、通常は「適格請求書発行事業者の登録申請」を行っているはずですので、登録番号も併せて教えてもらうようにしましょう。なお、登録番号が分かれば、国税局が公表している「国税庁インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト」で検索することもできます。

第4章に、取引先に送付する「確認状」の文例を掲載しているので参考にしてください。

3 さまざまな納税義務の判定パターン

基準期間の課税売上高が1000万円以下なら、基本的に免税事業者になります。ただし、例外もあります。

1)設立したばかりの会社

設立したばかりの会社には基準期間(=前々事業年度)がありません。基準期間がなければ課税売上高もないため、基本的には免税事業者になります。ただし、

基準期間がなくても期首の資本金が1000万円以上だと免税事業者にはならない

ので注意してください。つまり、資本金が1000万円以上の会社は課税事業者になります。この例外のポイントは次の2つになります。

  • 1.資本金で判断するのは「基準期間がないとき」だけ
  • 2.判定のタイミングは、申告しようとする事業年度の期首。期中に増資して資本金が1000万円以上になっても、期首が1000万円未満なら免税事業者

設立したばかりの会社

2)設立時の親会社にも要注意

設立したばかりの会社で期首の資本金が1000万円未満でも、親会社などが大規模な会社だと、免税事業者にならない場合があります。具体的には、

持株割合が50%を超えている株主(個人含む)の課税売上高が5億円を超える場合は、課税事業者になる

ということです。なお、課税売上高が5億円を超えるかどうかは、

設立した法人の基準期間に相当する期間における株主側の課税売上高

で判定します。ただし、この特例も「基準期間がない事業年度」についてのみ適用されます。

3)売上が急拡大した会社の場合

消費税の納税義務は基準期間の課税売上高で判断するのが基本のため、当事業年度の課税売上高がどんなに大きくても、基準期間の課税売上高が1000万円以下なら納税義務はありません。しかし、売上が急拡大している場合は要注意です。なぜなら、

特定期間の課税売上高と給与支払総額のそれぞれが1000万円を超える場合は免税事業者にならない

ためです。特定期間とは、一般的な1年決算法人であれば、

前事業年度の上半期(6カ月間)

のことです。このため、前々事業年度の課税売上高が1000万円以下でも、前事業年度の売上が急拡大し、上半期だけで1000万円を超え、かつ、給与の支払総額も1000万円を超えるときは課税事業者になるのです。なお、この特例のポイントは、

上半期の課税売上高と給与支払総額の両方が1000万円を超えるときに課税事業者になる

という点です。つまり、どちらか1つが1000万円以下であれば免税事業者のままです。

売上が急拡大した会社の場合

4)課税事業者を選択した場合

本来は免税事業者に該当する会社でも、「消費税課税事業者選択届出書」を税務署に提出することで、自ら課税事業者になることができます。例えば、免税事業者でも申告書を提出することによって還付を受けられるような会社がこの選択をします。ただし、この選択をした場合には最低でも2事業年度は強制的に課税事業者になります。

4 確認状の文例

20××年××月××日

〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇御中

会社名 部署

適格請求書発行事業者登録番号のご通知とご依頼について

拝啓 貴社ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。平素より格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。

さて、2023年10月1日に導入された適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)上、税務署長に申請して登録を受けた課税事業者である「適格請求書発行事業者」が交付する「適格請求書」等の保存が仕入税額控除の要件となっております。

そこで、弊社の適格請求書発行事業者登録番号をご通知するとともに、貴社の登録番号等について、弊社までご連絡をお願い申し上げます。何卒ご主旨をご理解賜り、宜しくお願い申し上げます。

敬具

1. 弊社登録番号

T×××××× ××××××

2. 課税事業者のご確認及び登録番号に関するご依頼

課税事業者の場合、貴社の適格請求書発行事業者登録番号を以下の問合せ先まで、ご連絡願います。

また、課税事業者以外(免税事業者等)の場合は、その旨、ご連絡をお願い致します。

まだ、適格請求書発行事業者の登録がお済みでない場合には、登録のご検討をお願い申し上げます。

3. 問合せ先

部署 氏名

住所

電話番号

メールアドレス

以上(2025年10月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:kai-Adobe Stock

【高齢者雇用】定年後、フリーランスになった社員への仕事の頼み方

1 継続雇用と業務委託のハイブリッド

会社には社員が65歳まで働けるように措置を講じる「義務」がありますが、現在はこれに加え、70歳まで働ける機会を確保する「努力義務」も負っています。これを「70歳までの就業機会確保」といいます。

70歳までの就業機会確保

具体的な方法は、

  • 継続雇用制度などによる「雇用確保措置」
  • 業務委託契約などによる「創業支援等措置」

となりますが、現在、多くの会社は65歳までの継続雇用制度を導入しているので、これを70歳まで延長するのが最も簡単です。ただし、高年齢者の中には、セカンドライフの充実などのために、自由度が高い業務委託契約を希望する人もいるかもしれません。

人材を確保しつつ、こうした高年齢者の希望に沿うためには、

継続雇用制度をベースに、希望者は業務委託契約に切り替える

という設計も検討できます。そこで、この記事では、多くの人にとってまだなじみが薄いであろう、創業支援等措置の導入のステップや業務委託契約の注意点などを紹介していきます。

2 「創業支援等措置の計画」がカギ

高年齢者と業務委託契約を締結する流れは次の通りです。

  • 創業支援等措置の計画を策定する
  • 過半数労働組合等の同意を得る
  • 創業支援等措置の計画を社内に周知する
  • 個々の高年齢者と業務委託契約を締結する

「創業支援等措置の計画」(以下「計画」)では、次の12の事項を定めます。

創業支援等措置の計画

この計画を過半数労働組合等の同意を得た上で社内に周知すれば、業務委託契約を締結できるようになります。計画を作るのは面倒ですが、高年齢者との業務委託契約の内容は計画をベースに決定されるので、

契約内容への誤解などから、会社と高年齢者がトラブルになるリスクを低減

することができます。

なお、

創業支援等措置の制度を新設する場合には、労働基準法上の「退職に関する事項」として、就業規則を変更し、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要がある

ので注意しましょう。

3 創業支援等措置の計画を作成・運用する際のポイント

業務委託契約を交わす高年齢者は社員ではなく外部の人間となるので、

  • 1.独占禁止法、下請法(注)、フリーランス保護新法に違反しないこと
  • 2.実質的に「労働者」となるような指示等を行わないこと

に注意しましょう。なお、1.のフリーランス保護新法については、まだなじみが薄いという人もいるでしょうが、簡単に言うと、

「下請法に関係なく、会社はフリーランスを保護しなさい」という趣旨の法律

です。フリーランスは、取引する会社が一定の資本金要件を満たす場合には、下請法による保護を受けられますが、中小企業はその資本金要件を満たさないケースも多く、フリーランスが保護されにくいという問題があり、これを解決するためにフリーランス保護新法が制定されました。

以降では、上記1.と2.を踏まえつつ、計画に記載する12項目の中から、厚生労働省のパンフレットで留意点として挙げられている項目のポイントを紹介します。

(注)下請法(下請代金支払遅延等防止法)は、2026年1月1日より「取適法(中小受託取引適正化法)」という名称に変わります。

1)高年齢者が従事する業務の内容

フリーランス(高年齢者)が従事する業務の内容は、本人の知識・経験・能力等を考慮した上で定めます。「元社員だから」と会社が一方的に業務を決めてしまいがちですが、契約内容の一方的な決定や不当な契約条件の押し付けは独占禁止法や下請法違反となることがあります。

フリーランス(高年齢者)と社員の業務内容は同じでもよいですが、働き方(勤務時間・頻度、責任の重さなど)まで同じになると、「労働者」として労働基準法などの適用を受ける可能性があります。この場合、稼働時間に応じた割増賃金の支払などが必要になることがあります。

なお、業務内容については、フリーランス保護新法により

社員と同じように、書面やメールなどで明示すること

が義務付けられています。また、

フリーランス(高年齢者)に落ち度がないのに「納品物などの受領を拒絶する、返品する」「業務内容を変更させる、やり直させる」といった行為はフリーランス保護新法違反

となり得ますので、注意が必要です。

2)高年齢者に支払う金銭

フリーランス(高年齢者)に支払う金銭は、「1回の契約(または1活動など)当たり△△円以上」といった具合に定めます。業務の内容や当該業務の遂行に必要な知識・経験・能力、業務量などを考慮して金額を設定しましょう。

フリーランス(高年齢者)に支払う金銭を理由なく減額したり、支払を遅らせたりすることは、独占禁止法や下請法違反となることがあります。

なお、報酬については、フリーランス保護新法により、

  • 報酬の額、支払い期日等を書面やメールなどで明示すること
  • 報酬の支払い期日について、原則として、納品などの日から起算して60日以内で、かつ、できる限り短い期間内に設定すること

が義務付けられています。また、

フリーランス(高年齢者)に落ち度がないのに「報酬を減額する」行為もフリーランス保護新法違反

となり得ます。

3)契約を締結する頻度

契約を締結する頻度は、「○○に関する業務を1年当たり○回から△回まで」といった具合に定めます。適切な頻度は個々のフリーランス(高年齢者)のスキルや健康状態などによっても変わるので、65歳時点での業務量なども考慮して決めましょう。

4)契約に係る納品の方法

契約に係る納品は、「履行期限は発注後○日から△日とし、個別契約で定める期限までに○○により納品する」といった具合に定めます。成果物が契約で定められた基準を達成していないときは、やり直しを求めることができますが、フリーランス(高年齢者)は自己の責任と判断で委託業務を行うことになり、業務上の指揮命令関係があるわけではないため、社員と同じように指示できるわけではないことに注意が必要です。

また、納品された成果物の「検収(発注内容に沿っているかを検査すること)」も重要な問題です。会社側はちゃんと成果物をチェックしたつもりでも、フリーランス(高年齢者)にそれが伝わらないとトラブルになりかねないので、検収のルールは明確に決めておきましょう(フリーランス保護新法では、給付の内容について検査をする場合には、その検査を完了する期日を明示することが義務付けられています)。

5)契約の変更

契約の変更は、「委託業務の内容、実施方法など契約条件の変更を行う必要があると判断した場合は、甲乙協議の上、変更することができる」といった具合に定めます。例えば、業務の内容の場合、外部に発注する業務がなくなったときや、フリーランス(高年齢者)の健康状態が悪化したときなどに変更が必要になります。ただし、一方的に契約内容を変更することはできませんので、フリーランス(高年齢者)と合意した上で変更するようにしましょう。

6)安全・衛生

安全・衛生は、「必要な研修・教育・訓練を事前に実施する」、「機械器具・原材料による危害を防止するために必要な措置を講じる」など、会社が行う取り組みの内容を定めます。

フリーランス(高年齢者)には労働契約法や労働安全衛生法などが適用されないので、会社は安全衛生管理をしなくてもよいと思うかもしれませんが、フリーランス(高年齢者)に対しても、同種の業務に社員が従事する場合に適用される労働関係法令による保護の内容を踏まえて、適切な安全配慮を行うことが望ましいです。

また、事故防止の他に、ハラスメントなどの防止も大切です。フリーランス保護新法では、

フリーランスが、出産・育児などと業務を両立できるように必要な配慮をすること(6か月以上の業務委託の場合)や、フリーランスに対するハラスメント行為に関し、会社が必要な体制を整備するなどの措置を講じること

が義務付けられています。

7)その他(成果物の権利)

1)から6)までの留意点のほか、「納品された成果物の権利」も重要です。例えば、フリーランス(高年齢者)の成果物(文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの)が、本人の思想や感情を創作的に表現する「著作物」に該当する場合、

  • 著作権(著作財産権):著作物を勝手に複製されたり、配信されたりしない権利
  • 著作者人格権:著作物を勝手に公表されたり、内容を変更されたりしない権利

が認められます。著作権(著作財産権)については他人への譲渡もできますが、著作者人格権については譲渡不可なので、納品後にその内容を公表したり、変更したりするにはフリーランス(高年齢者)の同意が必要になります。

フリーランス(高年齢者)による制作物を、編集したり修正したりすることが想定される場合には、フリーランス(高年齢者)から、制作物に関する「著作権(著作権を含む知的財産権)を譲渡する」ことに加え、「著作者人格権を行使しない」ことについても同意を得た上で、契約書に記載することなどを検討するとよいかもしれません。なお、著作権の譲渡・許諾も「給付の内容」とする場合には、フリーランス保護新法により、その範囲を明確に記載することが求められます。

以上(2025年10月更新)
(監修 のぞみ総合法律事務所 弁護士 坪井諒介)

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冷酷と思われがちな大久保利通氏の信条に込められた熱い想い

為政清明

大久保利通氏は、西郷隆盛氏、木戸孝允氏と共に「維新の三傑」として数えられる、近代日本の礎を築いた政治家です。初代内務卿として、「殖産興業(生産を増やし、産業を興すこと)」の担い手となって活躍しました。

そんな大久保氏の信条は、「為政清明」。これは、「政治を行うものは,自らの心も態度も清く明るくなければならない」という意味です。非情な人物と思われがちな大久保氏ですが、それは個人的な感情にとらわれず、国家と真剣に向き合う彼の信条の裏返しでもありました。

例えば、親友であった西郷氏が征韓論(当時、鎖国をしていた朝鮮に対し、武力により開国を迫るという政策)を主張した際、大久保氏はこれに強く反対し、さらに政府を去った西郷氏を数年後、西南戦争で滅ぼします。大久保氏の非情さを象徴するエピソードとしてよく語られますが、大久保氏が征韓論に反対したのは、「今は朝鮮半島よりも日本の内政が最重要」と考えたから。親友を西南戦争で滅ぼしたのも、中央集権型の国家をつくる上で、西郷氏を担ぐ士族(旧武士)勢力との戦いを避けて通れないと判断したからでした。

一方、大久保氏には情の深い一面もありました。例えば、西郷氏が西南戦争で命を落とした際、大久保氏はその報告を受け、人目もはばからず涙を流したといいます。後に大久保氏自身が暗殺された際にも、生前の西郷氏から送られてきた手紙を所持していたといいます。大久保氏が西郷氏との友情と、国家を背負う立場とのはざまで、苦しみながらも信念を貫いたことがうかがい知れます。

ちなみに、「独裁者」と見られがちな大久保氏ですが、それも偏ったイメージのようです。富士製紙を創業した河瀬秀治氏は、大久保氏の印象について「部下がやるだけのことをやらせるという風であった」と語っています。大久保氏は河瀬氏に「万事仕事は君たちに任すから力一杯やれ。その代わり責任はおれが引き受けてやる」と伝えたそうです。信じて任せるが、責任は自分が取る。この覚悟と信頼の姿勢が、激動の時代にあった日本を強くしていったのでしょう。

情と判断力の両輪を備えたリーダー像は、現代の経営者にとっても、変わらぬ指針となります。人は、冷静な判断力「だけ」がある指導者にはついてきません。かといって、優しさや人望「だけ」では組織が成長しないことは、語るまでもないでしょう。情をもって人に接し、いざというときは信念と覚悟を示し、組織としての理を重んじた決断を下す。だからこそ、人々は「あの人がそう決めたのなら……」と判断に納得し、リーダーを信じてついてくるのではないでしょうか。

地元・鹿児島での初の慰霊祭開催など、近年、大久保氏への評価は見直されつつあります。時には涙をのみつつ、何よりも国家に対して誠実だった彼の行動は、まさに「為政清明」という言葉そのものだったといえるでしょう。

出典:かごしま文化財事典「為政清明 一幅」(鹿児島県教育庁文化財課)

以上(2025年10月作成)

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【ハラスメント対策】 もう「ハラスメント」とは言わせない!安心のシーン別セリフ集

1 ハラスメントと言わせない指導をお手伝いします

部下の指導は上司(管理職)の仕事。とはいえ、部下との関係が浅いうちに少し突っ込んだ指導をすると「ハラスメント!」と言われかねません。「そんなつもりはないのに……」と言いたいことも言えなくなってしまった経験もあるかもしれませんが、ご安心。

以降で、ハラスメントになる問題発言と、それをホワイト発言に変換した例を紹介するので、どこがいけないのか確認してみてください。この記事を読めば、

ハラスメントと言わせない指導

に一歩近づきます!

早速、パワハラ(パワーハラスメント)、セクハラ(セクシュアルハラスメント)、マタハラ(マタニティハラスメント)の順番で確認していきましょう。

2 パワハラ発言になりやすい言い方、なりにくい言い方

パワハラは、職場の優越的な関係(上司と部下など)を背景に、業務上必要のない(または行き過ぎた)言動によって相手の就業環境を害するハラスメントです。パワハラになりやすい言い方、なりにくい言い方の例は次の通りです。

パワハラになりやすい言い方、なりにくい言い方

赤字が問題発言です。退職をにおわせる発言(1.と2.)、相手を侮辱する言葉(3.と4.)は、パワハラの典型例です。短時間で仕事を終わらせることを強制する(5.と6.)、部下から仕事を取り上げる(7.)というのも、部下の業務量や納期の状況などによってはパワハラになります。「自分は正論を言っているから」と部下の言い分に耳を傾けない(8.)、休日や休暇などのプライベートに干渉する(9.と10.)というのもリスキーです。仲間はずれにしたり(11.)、業務外の場面で特定の役割を強要したりする(12.)のも慎みましょう。

これを踏まえ、図表右側の「パワハラになりにくい言い方」に言い換えていきます。ポイントは次の通りです。

  • 1.のセリフ:何ができていないのかを明確にしつつ、できていることは評価する
  • 2.のセリフ:「新人のお手本になる」というポジティブなメッセージに言い換える
  • 3.のセリフ:部下の勉強不足は事実として指摘しつつ、改善策も示す
  • 4.のセリフ:上司の指示に問題があったことは素直に認め、その上で部下に改善を促す
  • 5.のセリフ:残業を認めない理由を伝え、仕事を引き取った上で部下を帰らせる
  • 6.のセリフ:仕事の目標時間と併せて、目標を達成するためのヒントも伝える
  • 7.のセリフ:安易に仕事を取り上げず部下にやらせつつ、次回の目標を設定する
  • 8.のセリフ:教えたことのヒントを与えて、部下自身に思い出させる
  • 9.のセリフ:休日の過ごし方には干渉せず、遅刻したことについてのみ注意する
  • 10.のセリフ:有給休暇の取得は妨げず、一方で休み明けにやるべきことは伝える
  • 11.のセリフ:親睦会を任意参加にして、参加するかどうかは部下自身に決めさせる
  • 12.のセリフ:部下にもメリットがあることを伝え、「命令」ではなく「お願い」する

3 セクハラになりやすい言い方、なりにくい言い方

セクハラは、身体的な接触や性的な言葉によって就業環境を害したり、相手がこうした言動を拒否した場合に評価を下げるなどの嫌がらせをしたりするハラスメントです。セクハラになりやすい言い方、なりにくい言い方の例は次の通りです。

セクハラになりやすい言い方、なりにくい言い方

赤字が問題発言です。相手の容姿の特徴を指摘する発言(1.と2.)、恋愛や結婚など個人のプライベートに干渉する発言(3.と4.)、下心があると受け取られそうな発言(5.と6.)、「女性らしい」「男のくせに」など性差を強調する発言(7.と8.)は、セクハラと受け取られがちです。愛称やおばさん、お嬢さんなどと呼ぶ(9.と10.)のも、避けたほうが無難です。相手の体調を気遣う発言(11.と12.)は、業務上必要であっても、周囲に社員がいる状況などでは言い方に配慮が必要です。

これを踏まえ、図表右側の「セクハラになりにくい言い方」に言い換えていきます。ポイントは次の通りです。

  • 1.のセリフ:容姿の特徴的な部分を指摘するのではなく、容姿全体を褒める
  • 2.のセリフ:「雰囲気が変わった」「健康的」など、オブラートに包んだ表現にする
  • 3.のセリフ:具体的な休暇の過ごし方には触れず、楽しんでくるようにとだけ伝える
  • 4.のセリフ:「年齢」「結婚」に関するワードを使わずに、不安なことがないかを聞く
  • 5.のセリフ:部署の集まりであることを伝え、個人的な誘いと疑われないようにする
  • 6.のセリフ:部下の声や話し方が「仕事にどう役立っているか」という視点で褒める
  • 7.のセリフ:「女性らしい」というワードが、具体的に何を意味するかを考える
  • 8.のセリフ:個性を尊重しつつ、「元気があるとさらにいい」と遠回しに伝える
  • 9.のセリフ:職場の風土などにもよるが、「○○さん」などの呼称で統一する
  • 10.のセリフ:「○○さん」、名前が分からない場合は「清掃員さん」などと呼ぶ
  • 11.のセリフ:「生理痛」「更年期」というワードを使わずに、体調不良を気遣う
  • 12.のセリフ:「肌荒れ」というワードを使わずに、疲労が見えることを指摘する

4 マタハラになりやすい言い方、なりにくい言い方

マタハラは、妊娠等(妊娠や出産、育児休業の取得など)をした相手の就業環境を害する言動をしたり、育児休業などの取得を理由に評価を下げるなどの嫌がらせをしたりするハラスメントです。マタハラになりやすい言い方、なりにくい言い方の例は次の通りです。

マタハラになりやすい言い方、なりにくい言い方

赤字が問題発言です。妊娠・出産等への否定的な発言はマタハラの典型例です(1.)。また、相手を気遣ったつもりでも、退職や雇用形態の変更をにおわせる発言(2.と3.)、仕事を一方的に取り上げる発言(4.)、育児休業を取りにくくなる発言(5.と6.と7.)などは、マタハラと受け取られがちです。部下を必要としていないように取れる発言(8.)、育児休業中の過ごし方などに干渉する発言(9.と10.)、職場に復帰したばかりの部下を焦らせるような発言(11.)にも注意しましょう。なお、マタハラは、社員が妊娠・出産等で「働けない」ことを理由に行われるイメージがありますが、「働いている」ことを理由に行われる発言(12.)もマタハラになり得ます。

これを踏まえ、図表右側の「マタハラになりにくい言い方」に言い換えていきます。ポイントは次の通りです。

  • 1.のセリフ:部下のつらさに寄り添って、安心できる言葉をかける
  • 2.のセリフ:「復帰が大変」という話ではなく、「復帰のサポート」に関する話をする
  • 3.のセリフ:育児休業を取得しても、部下に不利益がないことを強調する
  • 4.のセリフ:妊娠中の業務について部下の要望を聴く(医師の指示がある場合はそれも)
  • 5.のセリフ:育児休業は、子どもを育てるための大切な休みであることを強調する
  • 6.のセリフ:家族のサポートを受けられるか、柔らかい言い方で確認する
  • 7.のセリフ:育児休業を取ることに「謝罪」は不要、「感謝」をするよう伝える
  • 8.のセリフ:部下が職場に戻ってくるのを待っていることを強調する
  • 9.のセリフ:育児休業中の連絡は原則せず、する場合も必要最低限にとどめる
  • 10.のセリフ:育児休業中の勉強は強制しない、プレッシャーがかかる言い方も避ける
  • 11.のセリフ:育児休業中のブランクに配慮して、徐々に仕事の感覚を取り戻させる
  • 12.のセリフ:自分の中の子育てのイメージを押し付けず、ポジティブな言葉をかける

以上(2025年11月更新)
(監修 弁護士 八幡優里)

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【規程・文例集】70歳雇用に対応 「定年再雇用規程」のひな型

1 70歳までの就業機会確保(努力義務)とは?

70歳までの就業機会確保とは、

70歳まで働くことを希望する社員に、会社がそうした機会を与える努力義務を負う

というもので、具体的には次の5つの措置のいずれかを実施することとされています(複数の措置を導入し、どの措置を適用するかは社員ごとに決定するといった対応も可能)。

70歳までの就業機会確保

もともと会社は「65歳までの雇用確保」の措置として、「定年廃止」「定年延長(65歳まで)」「継続雇用制度(65歳まで)の導入」のいずれかを実施する義務を負っています。

70歳までの就業機会確保の措置の内容を考える場合、まずは自社が実施している65歳までの雇用確保の措置をベースにするのがよいでしょう。世間一般に浸透しているのは、継続雇用制度の「再雇用制度(定年時に一度雇用契約関係を終了させ、再び雇用する)」です。

そこで、この記事では、

定年後、社員を70歳まで再雇用することを想定した、定年後の再雇用規程のひな型

を紹介します。なお、加齢により社内での就業継続が難しくなる社員などが出てくることが予想されるため、ひな型では定年後の再雇用を原則としつつ、

社員が希望する場合、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する

という選択肢も用意しています(実施に当たっては、創業支援等措置の計画の作成等が必要)。

2 定年後の再雇用規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【定年後の再雇用規程のひな型】

第1条(目的)

本規程は、定年後の再雇用について、対象となる従業員などについて定めるものである。労働条件については労働条件通知書によって個別に定めるものとする。なお、本規程に定めのない事項については、個別に労働条件通知書で定めたものを除き、「契約従業員用就業規則」(省略)を準用する。

第2条(定義)

定年後の再雇用とは、就業規則および契約従業員就業規則に定める定年に達した従業員を、最長で満70歳に達するまで継続雇用する制度である。

第3条(対象となる従業員)

1)定年に達した従業員のうち、再雇用を希望し、かつ各規則に定める退職事由および解雇事由に該当しない者は、満65歳に達するまで再雇用の対象とする。

2)前項にかかわらず、65歳に達した後も再雇用されることを希望し、各規則に定める退職事由および解雇事由に該当しない者のうち、会社の定める基準に該当する者については、満70歳まで再度の継続雇用の対象とすることがある。

第4条(再雇用の希望の聴取)

会社は、定年退職日の6カ月前までに、再雇用の希望の有無を聴取する。

第5条(再雇用期間および更新)

1)1回の再雇用期間は原則として1年間とする。ただし、契約の上限は従業員が満70歳に達するまでとし、それ以降の再雇用は行わない。

2)再雇用契約の更新を希望する従業員は、各契約期間満了の1カ月前までに会社に申し出るものとする。

3)会社は、第2項の申し出をした従業員について勤労意欲、就業態度、健康状態、会社の経営状況などを総合的に判断した上で労働条件を通知し、当該従業員がそれに合意した場合に再雇用契約を更新する。なお、更新に際し、労働条件は変更することがある。

4)65歳に達した者で、第2項の申し出をした従業員について、会社は、従業員の勤労意欲、就業態度、健康状態、会社の経営状況などを総合的に考慮し、就業の継続が難しいと判断した場合、再雇用契約の更新をしないことがある。その場合、会社は各契約期間満了の30日前までに、従業員に再雇用契約の更新をしない旨の予告をするものとする。

5)会社は、65歳に達した者で再雇用契約の更新をしない従業員が希望する場合、特定の業務について業務委託契約を締結することがある。

6)第5項の業務委託契約の上限は従業員が満70歳に達するまでとする。また、従業員が従事する業務、金銭の支払い、契約の締結頻度等の内容は、別途定める「創業支援等措置の計画」(省略)を基に決定するものとする。

第6条(賃金、昇給、賞与)

1)賃金は、業務内容および勤務時間数などを総合的に勘案し、個別に設定する。

2)昇給は原則として行わない。

3)賞与は個別に決定する。

第7条(退職金)

定年後の再雇用の従業員が退職した場合、退職金は支給しない。

第8条(年次有給休暇)

定年退職時に保有する年次有給休暇は引き継ぐものとする。また、年次有給休暇の勤続年数は定年退職前の勤続年数と通算する。

第9条(福利厚生)

再雇用者の福利厚生については、原則として、正社員と同一の扱いとする。

第10条(改廃)

本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則

本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2025年10月更新)

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【退職金制度】iDeCoと企業型DCが変わる? 加入可能年齢や限度額が引き上げ!

2025年6月20日、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律(年金制度改正法)」が公布され、「iDeCo(イデコ)」と「企業型DC(企業型確定拠出年金)」が改正されることになりました。

iDeCoは、社員が自分で掛金を拠出して運用する、個人型の確定拠出年金です。現行の制度では、会社員(国民年金の第2号被保険者)の場合、iDeCoに加入できるのは65歳までですが、

公布日(2025年6月20日)から3年以内に、加入可能年齢が70歳に引き上げ

られる予定です。

企業型DCは、会社が掛金を拠出するものの、運用は社員が自分の責任で行うという確定拠出年金です。企業型DCには、会社が拠出している掛金に、社員自身が掛金を上乗せすることができる「マッチング拠出」という仕組みがあります。現行の制度では、社員の掛金が会社の掛金を超えられないという制限がありますが、

公布日(2025年6月20日)から3年以内に、この掛金に関する制限が撤廃

されます。この他にも、「企業年金の運用の見える化」などの改正があります。

私的年金の見直し

現代は、昔に比べ定年まで働く社員が減る一方で、高齢化の進展により老後資金の心配をする社員が少なくなく、自社の退職金制度の在り方に迷っている会社も多いと思われます。

次の3本シリーズのコンテンツで、公的年金の減少などを見据え、退職金制度の在り方を考えるヒントを紹介していますので、興味のある人はぜひご確認ください。

以上(2025年10月作成)

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【規程・文例集】株式譲渡契約書のひな型

1 株式譲渡契約書に定めるべき内容

中小企業のM&Aで最もよく利用されるのが株式譲渡です。株式譲渡契約書は、合併や分割などの組織再編とは違い、契約書に必ず定めなければならない法定記載事項がありません。あくまで、契約当事者の認識の齟齬をなくし、株式譲渡をスムーズかつトラブルを未然に防止するために締結します。

そのような観点から契約が締結されるため、株式譲渡契約書に記載される主な事項は、支払条件や株式譲渡を実行するために契約当事者が遵守すべき事項になります。

1)支払条件について(第2条・第3条)

まず株式の売却価格を決めます。ここが合意できないと、その他の実行条件を決めることは難しいです。通常、株式譲渡の価格は、売主側の希望価格を参考にしつつ、買主側が独自に株式評価や対象会社のデューディリジェンスを行って決定します。

また、多くの場合、株式譲渡契約を締結してから株式譲渡を実行する(クロージング)までには一定の期間が必要です。問題は、その間に株式譲渡契約の締結時には想定していなかったことが生じて譲渡価格に影響を及ぼすことです。そこで、こうした事態を想定して「価格調整条項」を記載することがあります。

2)株式譲渡の実行(クロージング)条件について

株式の売却価格がおおよそ決まった後は、実際に譲渡をするための他の条件について決めていきます。主な記載事項は、契約当事者が行うべきことを定めた「クロージングの前提条件」や、双方が開示した情報や事実が正確であることを担保する「表明保証条項」などがあります。

1.クロージングの前提条件(第4条、第8条)

株式譲渡の目的はさまざまです。契約当事者は、自身の目的を実現するために相手方に行ってほしいことを株式譲渡契約において、クロージングの前提条件として定めることがよくあります。個別ケースによってさまざまな内容が考えられますので、契約条件の交渉を進めながら詰めていく必要があります。

2.表明保証条項(第6条、第7条)

株式譲渡を実行する上で、契約当事者が自ら網羅的に調査・検討ができればよいですが、実際は時間や費用、人的リソースなどの制約があり、難しいことがあります。そのため、それぞれが懸念している事項について、ある程度は調査をしつつも詳細については、「懸念事項がないこと」などを表明保証してもらう(その上で、表明保証違反があれば損失補償請求をできるようにしていることが通常です)という方法をとるのが一般的です。

2 株式譲渡契約書のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際に就業規則を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【株式譲渡契約書のひな型】

売主○○(以下「甲」という。)と買主○○(以下「乙」という。)は、甲が保有する○○株式会社(以下「対象会社」という。)の株式の譲渡について以下のとおり合意する。

第1条(譲渡の合意)

甲は、乙に対し、対象会社の普通株式○○株(以下「本件株式」という。)を譲り渡し、乙はこれを譲り受ける(以下「本件株式譲渡」という。)。

第2条(譲渡代金)

1)株式の譲渡代金は金○○円(1株当たり○○円)とする。ただし、次項に基づき調整を実施し、最終的な譲渡価格(以下「最終譲渡価格」という。)を決定するものとする。

2)最終譲渡価格は、次条1項の本件クロージング日時点の対象会社の純資産額が○○円を上回るときは、その差額を増額するものとし、下回るときは、その差額を減額するものとする。

第3条(支払方法)

乙は、甲に対し、令和○○年○○月○○日限り、前条の譲渡代金を支払う。

第4条(クロージング)

1)本件株式譲渡の実行(以下「本件クロージング」という)は、○年○月○日(以下「本件クロージング日」という。)に行うものとする。

2)本件クロージングにおいては、以下の手続きを実行する。

1.乙は、本件クロージング日において、次の事由がすべて充足されていることを条件として、甲が対象会社をして、株主名簿の名義書換を行わせることと引き換えに、第2条の金員を支払うものとする。

  • イ.第6条に規定される甲による表明保証が、重要な点において真実かつ正確であること
  • ロ.甲が、本件クロージング日までに本契約、法令及び社内規程等に基づいて必要となる手続をすべて履行していること
  • ハ.対象会社の取締役会が本件株式譲渡を承認していること

2.甲は、本件クロージング日において、次の事由がすべて充足されていることを条件として、乙から前項の金員の支払いを受けることと引き換えに、対象会社をして株主名簿の名義書換を行わせるとともに、乙に対して別途合意した必要書類を交付する。

  • イ.条に規定される乙による表明保証が、重要な点において真実かつ正確であること
  • ロ.本件クロージング日までに本契約、法令及び社内規程等に基づいて必要となる手続をすべて履行していること

第5条(譲渡承認)

甲は、本件クロージング日までに、対象会社をして、本件株式譲渡の承認に係る取締役会決議を行わせるものとする。

第6条(甲の表明保証)

甲は、乙に対し、本契約締結日及び本件クロージング日において、次の事項を表明・保証する。

1)甲は、本件株式の完全な権利者であり、対象会社の株主名簿に記載された株主であること。

2)本件株式には、質権や譲渡担保権等の担保権は設定されておらず、その他株主の権利を制限する何らの負担を存しないこと。

3)省略

第7条(乙の表明保証)

乙は、甲に対し、本契約締結日及び本件クロージング日において、次の事項を表明・保証する。

1)省略

第8条(甲の義務)

1)甲及び対象会社は、本契約締結以降、本件クロージング日までの間、対象会社の事業を善良な管理者の注意をもって行うものとする。

2)甲及び対象会社は、本契約締結以降、本件クロージング日までの間、乙の事前の書面による同意を得ることなく、以下の事項を行ってはならないものとする。

  • 1.定款その他の対象会社の社内規則等の変更
  • 2.新株又は新株予約権の発行
  • 3.省略

第9条(秘密保持)

1)甲及び乙は、本件株式譲渡の内容及び存在、並びに、本件株式譲渡に関する交渉の経緯(デュー・ディリジェンスを含む。)その他本件株式譲渡の検討に際して他の本契約当事者(以下「他の当事者」という。)より取得した情報に関してこれを第三者に開示してはならない。ただし、本条と同等以上の守秘義務を負う甲又は乙の役職員、弁護士、公認会計士、税理士、ファイナンシャルアドバイザー等の専門家に対して開示する場合、法令若しくは司法・行政機関、金融商品取引所、日本証券業協会の規則等に基づき開示が義務付けられる場合、又は、事前に他の当事者の書面による承諾を受けた場合はこの限りではない。

2)前項の規定に拘わらず、売主及び買主は、以下の各号に掲げる情報については秘密保持義務を負わないものとする。

  • 1.開示を受けた時点で、既に公知である情報
  • 2.開示を受けた時点で、既に保有していた情報
  • 3.開示を受けた後に、受領者の責めによらず公知となった情報
  • 4.開示を受けた後に、秘密保持義務を負うことなく、第三者より適法に入手した情報

第10条(費用負担)

本契約締結に要する費用は、甲乙折半とする。

第11条(管轄)

本契約上の紛争については、その第一審の管轄裁判所を○○地方裁判所とすることに同意する。

以上(2025年9月作成)
(執筆 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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画像:ESB Professional-shutterstock

制度があっても女性が辞めてしまうのはなぜ?/大門あゆみ弁護士の女性活躍ナビ(2)

1 その配慮は違法かもしれない

「女性の活躍推進」が叫ばれて久しいですが、多くの経営者がその重要性を認識し、様々な取り組みを進めていることでしょう。しかし、良かれと思って行った配慮が、実は法律に抵触し、女性のキャリアアップを阻む「落とし穴」になっているケースが少なくありません。例えば、

  • 「女性は家庭との両立が大変だろう」と責任の重い業務から外す
  • 「育児中の女性に転勤は酷だ」と本人の意向を確認せずに配置を決める

といった具合です。こうした一見「配慮」に見える行為が、実は差別(男女雇用機会均等法違反)と見なされるリスクをはらんでいるのです。

今回は、経営者が知らず知らずのうちに陥りがちな法的な落とし穴と、真に女性が活躍できる職場環境を構築するためのポイントを解説します。

2 男女雇用機会均等法違反のリスクと「無意識の偏見」

男女雇用機会均等法は、労働者が性別によって差別されることなく、その能力を十分に発揮できる職場環境の整備を目的としています。具体的には、募集・採用、配置、雇用形態の変更、昇進、降格、教育訓練、退職・解雇など、雇用管理のあらゆる段階で性別を理由とする差別を禁止しています。

これに違反する企業の措置は無効とされたり、不法行為として損害賠償請求の対象となったりする可能性があります。さらに、厚生労働大臣からの報告要求に虚偽の報告をすれば過料が科されます。また、厚生労働大臣からの助言・指導・勧告に従わない場合、厚生労働省ウェブサイトで企業名が公表されることもあり、そうなれば企業の社会的信用は大きく損なわれます。

問題なのは、

多くの差別が「意図せず」に行われている点です。その背景には、「無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)」

があります。例えば、

  • 管理職は男性の仕事
  • 女性には補助的業務が向いている

といった固定的な性別役割分担意識がそうで、こうした意識が評価や登用の機会に影響を与えているのです。実際に、コース別人事制度を導入した企業で、

総合職が全員男性、一般職が全員女性という運用実態から、女性に対する差別的な取り扱いが問題視され、裁判で違法と判断されたケース

もあります。

また、あるIT企業が開発したAI採用システムが、過去の応募者データ(ほとんどが男性)を学習した結果、女性を差別する判定を下すようになった事例があり、データに基づいた客観的な判断でさえも、元となる環境に偏りがあれば差別を生み出してしまう危険があります。

3 ハラスメント防止と「女性が辞めない職場づくり」

ハラスメントは、個人の尊厳を傷つけるだけでなく、被害者の休職や退職、職場全体の意欲や生産性の低下を招き、最終的には企業の貴重な人材の喪失と社会的信用の失墜につながる、極めて重大な経営リスクです。特に、セクシュアルハラスメントや、妊娠・出産・育児休業などを理由とするハラスメント(マタニティハラスメント等)は、女性が安心して働き続ける上で深刻な障壁となります。

セクハラ、パワハラといったハラスメントについて、法(男女雇用機会均等法、労働施策総合推進法)および厚生労働省の指針は、事業主に対し、職場におけるハラスメントを防止するため、以下の雇用管理上の措置を講じなければならないとしています。中小企業の経営者であっても、以下の対応が必要となります。

1)方針の明確化と周知・啓発

トップが「ハラスメントは断じて許さない」という明確なメッセージを発信し、社内報やポスター、研修などを通じて全社員に徹底します。経営者が直接語りかけることが、中小企業では特に高い効果を持ちます。

2)相談窓口の設置

社員が安心して相談できる窓口を設置し、その存在を周知します。プライバシー保護への配慮も必要です。

3)厳正な対処・再発防止

職場におけるハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応など、ハラスメントの相談があったときは、速やかに事実確認をし、被害者への配慮、行為者への処分等の措置を行い、改めて職場全体に対して再発防止のための措置を行います。

4)不利益な取扱いの禁止

相談者・行為者のプライバシーを保護するための必要な措置や相談したこと等を理由とする解雇その他不利益な取扱いをされない旨を就業規則等で定めます。

4 まとめ―「知らなかった」では済まされない時代に―

女性活躍を阻む差別やハラスメントは、「知らなかった」「そんなつもりはなかった」という言い訳が通用しない、重大なコンプライアンス違反です。ひとたび問題が顕在化すれば、損害賠償や行政処分といった直接的なコストだけでなく、企業の評判やブランドイメージの低下という、事業の存続を揺るがしかねない間接的な損害をもたらします。

重要なのは、制度を「作る」だけでなく、「機能させる」ことです。就業規則に立派な規定を盛り込んでも、社員が読んでいなければ意味がありません。相談窓口を設置しても、形骸化していては誰も利用しません。経営者は、制度が適切に運用されているか、現場の実態を定期的に確認する必要があります。例えば、管理職へのヒアリングを通じて実態を把握したり、ハラスメント研修を定期的に実施したりすることが有効です。また、単に「支援する」という掛け声だけでなく、育児中の社員がいる部署の人員を補充するなど、具体的な業務改善策を伴わせることが、制度を実質的なものにします。

経営トップ自らが強い意志を持って差別やハラスメントの根絶を訴え続け、制度の構築とその実効性ある運用の両輪を回していくこと。それこそが、多様な人材が定着し、企業の持続的な成長を支える「本当に強い職場」をつくるための鍵となるのです。

以上(2025年11月作成)
(執筆 法律事務所UNSEEN 弁護士 大門あゆみ)

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画像:法律事務所UNSEEN 弁護士 大門あゆみ

お金のやり取りがなくても税金が? 「みなし贈与」の落とし穴

1 「みなし贈与」とは何か?

通常の贈与は、一方が財産をあげて、もう一方が財産をもらうという当事者間の合意によって行われるやり取りをいいます。ただし、税金面では、

当事者間の合意がなくても「実質的に財産をタダまたは格安でもらった」とみなされて課税される

ケースがあります。これが「みなし贈与」です。重要な点は、当事者の「意図」ではなく、取引の「経済的な実態」に焦点が当てられることです。

みなし贈与は当事者間に「贈与のつもりがない」ケースが多く、税務調査で指摘されるまでその存在に気づかず、予期せぬ追徴課税が発生してしまうことがあります。取引の種類によっては追徴課税が多額になり、会社の経営を圧迫する事態に陥るケースもあります。

2 なぜ会社にとって重要なのか?

贈与と聞くと、個人間の取引をイメージする人が多いかもしれませんが、実は「みなし贈与」は個人と会社の間、あるいは関連会社間の取引においても広く適用されます。

中小企業では、経営者個人の資産と会社の資産が密接に関わっていたり、資金繰りの都合で関連会社間で融通し合ったりすることが少なくありません。例えば、次のような取引も見受けられます。

  • 創業者が会社の資金繰りを助けるために個人資産(土地や建物など)を安く譲渡する
  • 長年、社長個人が会社に貸し付けていた債務を免除する
  • グループ会社間でサービスを無償で提供する
  • 個人資産を会社に(第三者との取引に比べて)低価格で貸し付ける

いずれも会社を存続させたり、事業を円滑に運営したりするための「良かれと思って」の行為なのですが、こうした行為が税務上は「経済的な利益をタダで、または低額で渡された」とみなされてしまうのです。ちなみに、みなし贈与と呼びますが、贈与税が課されるわけではありません。みなし贈与は経済的な利益を受け取った側の所得となり、

  • 会社が利益を受け取った場合は法人税など
  • 個人が利益を受け取った場合は所得税など

が課されます。

3 会社で起こり得る「みなし贈与」の具体的なケース

1)会社への資産の低額譲渡

株主や役員、あるいは関連会社が、土地、建物、株式、知的財産などの資産を、その市場価格よりも著しく低い価格で会社に売却した場合に発生します。会社が市場価格と比べて安く資産を取得できた場合、その差額が会社にとっての経済的な利益「受贈益」とみなされます。

例えば、社長が個人的に所有する土地(市場価格5000万円)を、自身の会社に1000万円で売却したとします。この場合、会社は4000万円の経済的利益を得たことになり、この4000万円が受贈益として会社の利益に加算され、法人税の課税対象となります。

2)会社への債務免除

株主や役員、あるいは関連会社が、会社が負っている債務を免除した場合に発生します。債務が免除されると、会社は返済義務がなくなるため、その分だけ負債が減少し、会社の財務状況が改善されます。この債務の減少分が会社にとっての経済的な利益「債務免除益」とみなされます。

例えば、創業者個人が資金繰りに苦しむ会社に3000万円を貸し付け、後にその3000万円を会社の経営改善のために全額免除したとします。この場合、3000万円は債務免除益として扱われ、法人税の課税対象となります。

3)個人への債務免除

会社が、役員、従業員、または株主が会社に対して負っている債務を免除した場合に発生します。債務が免除されることで、個人は返済義務から解放され、その分だけ経済的な利益を得たとみなされます。

例えば、会社が従業員に500万円の社内融資を貸し付け、後にその従業員の功績をたたえて免除したとします。この場合、500万円は従業員にとって経済的な利益となり、所得税の課税対象となります。

4)個人への資産の低額譲渡・無償供与

会社が、役員、従業員などに対して、会社所有の資産(社用車、不動産、製品など)を市場価格よりも著しく低い価格で売却したり、あるいは無償で提供したりした場合に発生します。この場合、資産を受け取った個人が経済的な利益を得たとみなされます。

例えば、会社が所有する市場価格4000万円のマンションを、役員の1人に1000万円で売却したとします。この場合、役員は3000万円の経済的利益を得たことになり、この3000万円が役員の所得として、所得税の課税対象となります。

5)無償で役務提供

会社が個人や関連会社にサービスを無償で提供したり、逆に個人が会社に重要なサービスを無償で提供したりした場合も、「みなし贈与」の対象となる可能性があります。

例えば、役員が個人で別途経営する個人事業会社が会社から報酬を受け取らずに、市場価値に見合うような経営サービス(本来、委託手数料などが発生する業務)を提供し続けた場合などが考えられます。この場合、その役務の対価相当額が、役員への報酬として認定されたり、会社への寄付金とみなされたりして、法人税の課税対象となることがあります。

4 「みなし贈与」で損をしないための実践的対策

1)取引は必ず「時価」で行う

「みなし贈与」の課税は、原則として市場価値などの時価と実際の取引価額の差額に対して行われます。従って、この差額を発生させないことが、みなし贈与を回避する最も基本的で、最も重要な対策となります。

あらゆる資産(土地、建物、株式、機械設備、知的財産など)の譲渡、サービスの提供、貸付金の利息設定など、会社と株主、役員、従業員、あるいは関連会社との間で行われる全ての取引において、「時価」を意識し、その時価に基づいた適正な対価を設定することが大切です。

特に、不動産や非上場株式など、時価の算定が難しい資産については、専門家(不動産鑑定士、税理士など)による評価を事前に取得し、その評価額に基づいて取引を行うようにしましょう。評価の過程と結果は、税務調査に備えて詳細に文書化しておくことも大切です。

2)関連会社間取引の厳格化

複数の会社を経営している場合や、グループ会社が存在する場合、関連会社間での資金や資産、サービスのやり取りは頻繁に発生します。これらの取引も「みなし贈与」の対象となり得るため、第三者との取引と同様に厳格さをもって管理する必要があります。

具体的には、関連会社間であっても、全ての取引について正式な契約書を作成し、詳細な請求書を発行し、市場価格に基づいた適正な価格設定を行うようにしましょう。

3)債務免除は慎重に

会社が資金繰りに窮した際、株主や役員が会社への貸付金を免除することは、会社を救うための有効な手段となり得ます。しかし、前述の通り、これは会社にとって「債務免除益」となり、法人税の課税対象となります。

債務免除を検討する際には、その税務上の影響を十分に理解し、代替案も検討することが重要です。例えば、債務を株式に転換する「デット・エクイティ・スワップ(DES)」など、税務上より有利な選択肢がないかを、事前に税理士などの専門家と相談するようにしましょう。

4)役員・従業員への利益供与は適正に

会社が役員や従業員に対して、福利厚生やインセンティブとして経済的な利益を供与する場合も、曖昧な形で行うのではなく、その性質を明確にし、給与や賞与、あるいは適正な福利厚生費として適切に会計処理し、個人の所得税申告に正確に反映させるよう、本人への周知も忘れずに行いましょう。

5)専門家への早期相談

最も実践的で効果的な対策は、複雑な取引や関連会社間の取引を行う前に、必ず税理士や弁護士などの専門家に相談することです。

専門家であれば、「みなし贈与」のリスクを事前に特定し、時価の適切な算定方法についてアドバイスし、税務上最も効率的でリスクの低い取引スキームを提案することができます。また、万が一税務調査が入った場合でも、専門家の助言を受けて行った取引であれば、その正当性を主張しやすくなります。

以上(2025年10月作成)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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