「大学×企業の可能性を広げる」近畿大学リエゾンセンターに聞く産学連携の今と未来(2)

令和4年3月24日、近畿大学と徳島大正銀行は「産学連携包括契約」を締結しました。
産学連携・交流を円滑に推進するための組織が近畿大学リエゾンセンター(KLC)です。
「とくぎんサクセスクラブnavi」(とくさくnavi)では、KLCのコーディネーター武田和也さんへのインタビューを3回連載でお届けします。産学連携の『今』、地域企業とのつながり方や未来の可能性に迫ります。

【第2回】

第2回では、実際に企業と行われた産学連携の事例を中心に紹介します。産学連携のメリットや、とくぎんサクセスクラブ会員企業さまとのエピソードも交え、その実態に迫ります。

―近畿大学ではこれまでにどのような産学連携の取り組みがありましたか。

現在、年間で250~300程の相談事案をコーディネートしています。相談の件数はどんどん増えてきました。私は全ての相談に目を通していますが、以前は理系ネタが多かったんです。町工場から、こういう機械加工をしているけれど加工がうまくいかない、プラスチックの成型するときのプラスチックの流れ方がうまくいかない、そのような技術的な相談が多かったんです。最近では、文系ネタも増えて、自社商品を展開したい、などのビジネスの相談が多いです。デザインの相談も多くなっていますね。
近畿大学が学生を増やそうと広報にも力を入れて、その宣伝で大学の名前が知れ渡っていくにつれて、KLCへの相談の数も増えていきましたね。
ご相談をいただく地域は近畿地区が一番多く、次に関東、と続きます。海外からのご相談もあるんですよ。四国からのご相談は少ないので、今回を機にぜひ増えてほしいです。
以前は直接面談ばかりでしたが、コロナ以降はWeb面談も増えました。遠方であったり、ご都合で難しい際はwebでも対応することができます。

―大学と企業のどのような橋渡しを目指しているのですか。

なるべくお断りしないようにしています。どうしても先生がいらっしゃらない場合や、分析装置だけを貸し出してほしい、なんてご依頼の時はお断りをすることもあります。ただ、お断りするときも、その分析ならあそこの研究機関でできますよ、とご紹介したり情報をお渡しするようにしています。
ご相談を引き受けるときは、企業も大学もWIN WINになるように。また、どんぴしゃの先生でなくてもある程度情報をお渡しすることもできるので、関連の先生をご紹介するようにしていますね。

近畿大学内にあるKLCショールーム

―企業がKLCを活用することでどんなメリットがありますか。

企業内に研究部門や部署がなくても委託することができます。得意な分野を持っている先生と企業が希望しているものが合致するなら研究を依頼するのもありなんじゃないでしょうか。また、いつも同じ頭で考えていると似たような商品展開になることがありますよね。
ちょっと違うアイデアがほしい、そんな時に大学を利用してもらうのもいいと思います。学生たちのアイデアは常識に縛られていません。奇抜なアイデアになるかもしれませんが、それが社内の起爆剤になるかもしれないですね。
また、企業にとっては、近畿大学との共同研究という謳い方ができるので、そちらもメリットになるのではないでしょうか。
新潟のおせんべい屋さんからのご相談の例です。若い人たちにおせんべいを食べてもらいたいのでビジネス展開を考えてほしいとご依頼を受けました。また、おせんべい屋さんはお得感のある大きなパッケージでなければ売れないというイメージを持っていました。そこで、学生たちの鞄の中身をみせてもらい、テーブルの上に出して、どんなお菓子をもっているかの傾向を調べると、小さくてかわいいお菓子が入っていたんです。お徳用サイズを持ち歩く学生はなかなかいないので、小さくても売れるんではないかとヒントを得て、小さいパッケージの商品を開発しました。そして生まれた商品は、小さくて持ち運びしやすく、若者でも親しみやすいと好評でした。パッケージのキャラクターも学生たちの案です。

共同研究により開発された様々な商品

共同研究により、これまでに様々な商品が開発されています。次回はリエゾンセンターが描く産学連携の進め方や、企業へのメッセージをご紹介します。
近畿大学産学連携についてのご相談は、お取引のある営業店にお問合せください。または、とくぎんサクセスクラブnaviのお問合せフォームからご連絡ください。

以上(2025年6月作成)

画像:近畿大学リエゾンセンター

【分かりやすい原価計算(6)】設備などの初期投資は超・固定費~投資の判断を左右する「回収期間」~

1 設備などの初期投資は、超・固定費

「設備投資がなかったら、どんなに楽だっただろう」という嘆きを聞くことがあります。この設備投資というものが、どうしてその後の状況の変化で大きな問題になるのか、投資するときにはどのようなことに気を付ければよいかを一緒に考えていきましょう。これも原価計算が解決する課題です。

費用をかけるときはそれが変動費であるか固定費であるかを理解しておく必要があります。そして、今回は固定費の中の固定費ともいえる「初期投資」について説明したいと思います。

固定費は、売上の増減によらず一定額発生する費用であり、何か手を打たなければ将来にわたり発生し続けるものです。これに対して、初期投資は、

設備や新規事業など多額のお金がいっぺんに出ていってしまうもの

です。支払ったら最後、もう取り返すことはできません。実は、この特徴が通常の固定費(基本的に将来にわたって発生が続く費用)以上にやっかいなのです。

どういうことかというと、初期投資を支払った後で、状況が想定と違ってしまうケースがあります。例えば、海外から観光客が増えているからとホテルを建設中にコロナ禍に見舞われた会社は、既に建設に要した初期投資を取り戻すことはできません。また、仮にホテルはなんとか開業できたとしても、人の動きが抑制され宿泊客が激減している状況では、建設にかかった初期投資をすぐに取り戻すことは不可能です。このように、過去に支払ってしまったものというのは、当たり前の話ではありますが、どうにもできないのです。

初期投資のために銀行から借入をする場合も、考え方は同じです。なぜなら、自社から実際にお金が出ていくタイミングが銀行からの借入によって後ろ倒しになるだけで、結局自社で負担せざるを得ないのは同じだからです。

そうは言っても、経営をする以上は投資をしないというわけにはいきません。では、どうすればよいでしょうか。それは、初期投資が必要になった場合には、その案件の自社にとっての負担の大きさ、つまりリスクの大きさを客観的に理解しておくと判断がしやすくなります。

2 リスクは「回収期間」でつかもう

初期投資のリスクの大きさを測る指標として「回収期間」を使います。ざっくり言えば、回収期間とは「投資後、何年たったら収支がトントンになる予想なのか」を示しています。

例えば、新工場建設にかかる投資の回収期間が2年という場合には、新工場が予定どおりに操業し売上につながれば、投資で出ていった金額と同じ金額が入ってきて元がとれるのが、2年後ということです。

「回収」という言葉の意味は、かけたお金が回収できる、つまり、収支がトントンになることを意味します。ちなみに、有名な「損益分岐点売上高」は、損益計算書上の収支がトントン、つまり利益がゼロになる売上高のことです。回収期間というのは、「投資版の損益分岐点売上高」と考えると分かりやすいかもしれません。

次に、判断の仕方です。回収期間が2年と4年であればどちらがいいでしょうか。答えは2年です。

この数年の間で痛感した方も多いと思いますが、遠い将来ほど予測することは難しいものです。回収期間においても、先は分からないので、長くないほうが安全という考え方がベースにあります。回収期間は簡単に計算できますので、ぜひ勘を鍛えるために次の数値例を参考にしてください。

3 事例で確認。回収期間で見る投資リスク判断

機械の購入代金が100万円であり、手元に残るお金が年30万円という投資案件があったとします。まず、投資のマイナスと投資してからの収支のプラスを前から足していき、プラスになるところを見つけます。

画像1

この場合、

-100万円(機械の購入代金。つまり初期投資額)に30万円+30万円+30万円+30万円で4年目でプラス

になります。プラスになる年数が同じであれば、その中でも小数点以下がどれくらいになるかの端数を見て判断します。

最初の3年と、4年目は10万円だけあればよいので、10万円を1年分の30万円で割って0.33…、3.33年となります。

この投資の回収期間は、3.33年と評価します。

4 実務の手順の肝は、予測数値の洗い出し

実際の実務の手順は、

  1. 投資額を見積もる
  2. 変化する収入と費用の金額を洗い出す
  3. 「回収期間」を計算
  4. 計算結果をもとに経営者と検討

となります。上記で見たように計算自体は簡単ですが、肝となるのは1.と2.の手順です。

1.については、業者に設備の見積もりを依頼するなどして投資額を見積もります。

2.については、製品の増産や新製品の販売によって売上が増える場合はその金額を変化する収入として予測します。また、それにともなって増加する仕入などが変化する費用です。あるいは、人を増やさないといけないのであれば、人件費の増加も変化する費用になります。ここでポイントとなるのは投資によって変化するものを考えるということです。投資してもしなくてもかかる費用は、考える必要がありません。なぜなら、投資してもしなくても変わらないので、投資の判断には影響がないからです。このように数値を予測するところが大事になります。

5 回収期間は何年がベスト!?

投資の検討をする際、回収期間は短いほうが安全でよいのは分かると思います。では、実際の判断に用いるときには、具体的に何年までならよいのでしょうか。実は、この点については、各社の資金状況や事業の種類によって大きく異なります。そのため、個別に判断していくしかないのです。そして、同じ業種でも扱うジャンルによっては、回収期間の目安は異なるべきです。

飲食業で考えてみましょう。飲食業は、出店のために6カ月分の敷金や什器備品を必要とするなど初期投資が多い業種の1つです。そのため、回収期間が指標として重視される傾向にあります。

例えば、タピオカ屋を出店するとしましょう。数年前に流行したのはまだ記憶に新しいですが、タピオカのような新メニューを主に扱う場合には、その流行が数年、数十年にわたって続くかどうかはその時点では分かりません。とすると、回収期間としてはできるだけ早く、数カ月から1年程度、長くても2年以内を目指したほうが安全でしょう。

一方、出す店がラーメン屋だった場合は話が変わります。ラーメンは、人気が安定しているジャンルといえるため、タピオカに比べれば、長い期間需要が見込めるでしょう。もちろん、回収期間は短いほうがいいものの、3~5年程度の回収期間であれば、許容できることも多いといえます。

このように、同じ飲食業でも主力のメニューが違えば、顧客や市場の状況はまったく異なります。その結果、回収期間の目安にも大きな影響を与えるのです。そこで、自社が取り組む事業の性質を十分理解した上で、目安は各自が設定するしかありません。逆に、目安がイメージできないようであれば、その事業や業種に関する情報収集が十分ではない可能性がありますので、再考したほうがいいかもしれません。

いかがでしょうか。固定費の中の固定費である「初期投資」の判断に役立つ手法として、回収期間を押さえて、次の一手につなげてほしいと思います。

以上(2025年5月更新)

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画像:Shutter z-shutterstock

クラウドソーシングや在籍出向の労務管理のポイントは?

1 「人は欲しいが先行きは心配」な社長へのご提案

人手不足と働き方改革が同時に進む日本では、働き手の確保がますます難しくなりました。一方、先行きが不透明な中で新たに社員を雇用すると、後々の負担になってしまうという心配もあります。「人は欲しいが先行きは心配」、そんな社長にご提案したいことが2つあります。

1つは、

「業務委託」や「在籍出向」など、雇用によらない方法で働き手を確保すること

です。業務委託(この記事では主にクラウドソーシングを紹介)については、仲介業者が数多く存在しており、必要なときだけ随時仕事を依頼したいという会社に向いています。直接雇用ではないので、負担も軽いです。在籍出向は、親会社と子会社などのグループ間で社員を行き来させる制度ですが、こちらも出向期間を決めることで、必要なときだけ働き手を確保できます。

もう1つは、

「副業の解禁」など、働き方の自由度を上げて今いる働き手を会社に定着させること

です。人手不足なのに副業を解禁するというのは矛盾しているように思えますが、働き方改革の視点では、現在雇用している社員が会社から離れていかないための工夫が大切です。それに、御社が副業人材を受け入れることもあるでしょうから、副業について最低限の知識を得ておくことは重要なのです。

以降で、業務委託、在籍出向、副業それぞれの労務管理のポイントを紹介します。

業務委託、在籍出向、副業の労務管理上の違い

2 業務委託

1)概要

業務委託とは、

外部の法人や個人に自社の業務を委託する契約(請負契約や準委任契約)の総称

です。業務委託契約の形態はさまざまですが、ここではその一例として「クラウドソーシング」を紹介します。

クラウドソーシングでは、仕事を受けるフリーランス(個人)と仕事を依頼する会社が、それぞれ仲介業者の運営する人材プラットフォームに登録し、オンライン上で両者がマッチングすることなどにより、業務委託契約が締結されます。契約締結後、フリーランスは会社から依頼された仕事をこなし、会社は仕事に対する報酬をフリーランスに支払います。

クラウドソーシングのイメージ

なお、フリーランスに仕事を頼む場合のルールについては、2024年11月に「フリーランス・事業者間取引適正化等法」が施行されたことで、規制が厳しくなっています。細かい内容については、厚生労働省ウェブサイトのリーフレットなども併せてご確認ください。

■厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00002.html

2)業務上の指示

業務委託契約では、会社はフリーランスに対し、稼働する場所や時間、業務の進め方などについて具体的な指示を出すことができません。不用意に指示を出すと、フリーランスが労働基準法上の「労働者」とみなされる恐れがあり、その場合、

  • 稼働時間に応じて、時間外労働や休日労働の割増賃金を支払わなければならなくなる
  • 業務委託契約を解消した場合、フリーランスから不当解雇を主張される

などのリスクが生じます。

会社は、業務の進め方について注文があれば、必ずフリーランスと協議し合意を得るようにします。ただし、会社の注文を受けるか否かはフリーランスに決める権利があるので、会社が一方的に命令することはできません。トラブルを防ぎたいのであれば、業務委託契約を結ぶ時点で、業務の内容をできるだけ明確にしておく必要があります。

なお、2024年11月からは、会社がフリーランスに仕事を頼む際、

書面(契約書や発注書)、電磁的方法(メールやSNS)で取引条件を明示することが義務化(口約束はNG)

されています。クラウドソーシングの場合は、仲介業者がフォーマットなどを用意してくれていることも多いですが、注意しましょう。

3)報酬の支払い

会社は、仕事の完成などを確認したら、業務委託契約に基づいてフリーランスに報酬を支払います。クラウドソーシングのように仲介業者を挟む場合、例えば

  1. 会社が仲介業者に対し、フリーランスに支払う分の報酬を預ける
  2. 仕事の完成などの後、会社から預かった報酬を、仲介業者がフリーランスに支払う

といった流れで支払いが行われます。仲介業者は、会社から預かった報酬から、人材プラットフォームの利用料などを差し引いてフリーランスに支払う場合があります。

なお、2024年11月からは、

フリーランスから「給付を受領した日」から起算し、原則60日以内のできる限り短い期間内で報酬の支払期日を定め、期日までに報酬を支払うこと

が義務化されていますので、支払い遅延がないように注意しましょう。「給付を受領した日」とは、フリーランスが仕事を完成させ、納品等を終えた日という意味です。

4)労働時間管理

フリーランスは労働者ではないため、労働時間管理という概念はありません。

そのため、会社はフリーランスに「何時から何時まで働くように」と指示することはできません。万が一こうした指示を出すと、フリーランスが労働者に該当する恐れがあり、「稼働時間に応じて割増賃金を支払わなければならなくなる」などのリスクが出てきます。

5)社会労働保険の適用

社会保険(健康保険・厚生年金保険)と労働保険(雇用保険・労災保険)は、労働者でないフリーランスには原則として適用されません。ただし、フリーランスが個人で国民健康保険に加入したり、エンジニアなど特定の職種に該当する場合に、労災保険に特別加入(会社ではなく特別加入団体の労災保険に加入)したりすることは可能です。

そのため、会社では社会労働保険の実務は基本的に発生しません。ただし、労働災害に関しては、自社の労災保険には加入しなくても、フリーランスの安全や健康が損なわれないよう業務委託契約の内容に配慮したり、自社の社内で作業をする場合に事故などが起きないよう配慮したりする必要があります。

なお、建設業のように労災事故の発生率が高い業種では、フリーランスに仕事を発注する際、労災保険に加入していることを発注の条件にしているケースも多いです。

3 在籍出向

1)概要

在籍出向とは、

社員が出向元(社員を送る側の会社)との労働契約を維持したまま、出向先(社員を受け入れる側の会社)とも労働契約を締結して働くこと

です。基本的には、親会社と子会社などのグループ間で活用される制度です。

在籍出向では、出向元から出向を命じられた社員は、出向先の指揮命令を受けて働きます。出向社員への賃金を出向元が支払う場合、出向先は通常、出向元に出向負担金を支払います。

在籍出向のイメージ

2)業務上の指示

社員に業務上の指示を出せるのは、原則として出向先です。

自社が出向元の場合、社員の業務については、原則として口を出さないようにします。ただし、出向先が出向契約にない業務を命じている場合などは必要に応じて改善を求めます。

自社が出向先の場合、出向契約にない業務を社員に命じる必要があれば、その都度出向元と相談します。

3)賃金の支払い

出向契約により異なりますが、賃金は、出向元が支払うことが多いです。

自社が出向元の場合、出向元が賃金を全額負担するのであれば、賃金支払いの実務は基本的に従前通りです。なお、通常は出向負担金を賃金に補填します。

自社が出向先の場合、出向元が賃金を全額負担するのであれば、特に注意点はありません。

4)労働時間管理

出向契約により異なりますが、労働時間は出向先が管理します。時間外労働や休日労働については、出向先の36協定(労働基準法第36条に基づく労使協定)が適用されます。なお、

出向元が賃金を全額負担するのであれば、出向元も社員の始業・終業時刻や時間外労働や休日労働の時間を把握する必要

があります。

自社が出向元の場合、出向先または社員から、毎月末日など給与計算の締日に勤怠実績(勤怠管理表など)を提出してもらい、それに基づいて賃金を支払います。

自社が出向先の場合、出向中の始業・終業時刻を管理し、社員が自社の36協定に違反しないよう注意します。

5)社会労働保険の適用

社会保険と雇用保険は、出向元が賃金を全額負担するのであれば、出向元で加入します。労災保険は、出向先の労災保険が適用されるのが一般的です。

自社が出向元の場合、社会労働保険の実務は基本的に従前通りです。

自社が出向先の場合、社員が自社で負傷などをしたときは、労災保険関連の手続きを速やかに行います。また、出向元が賃金を支払っている場合でも、労災保険に係る保険料は出向先が納付します。

4 副業

1)概要

副業とは、

社員が本業先(先に社員と労働契約を締結した会社)と副業先(後から社員と労働契約を締結した会社)の両方で仕事をすること

です。副業中は、社員は副業先の指揮命令を受けて働きます。なお、本業先と副業先の間に金銭のやり取りは発生しません。

副業のイメージ

2)業務上の指示

社員の業務の内容は、副業先と社員の労働契約で定めます。副業中における業務上の指示も、副業先が出します。

自社が本業先の場合、副業中の社員の業務については、口を出さないようにします。本業先の経営者が副業先の経営者に対し、「ウチの社員の成長のために、〇〇の方法で業務をやらせてみてくれないか?」といった相談をするような場合も、決定権限はあくまで副業先にあることを忘れてはいけません。

自社が副業先の場合、自社の労働契約や就業規則に基づいて、通常の社員と同じように業務を行わせればいいので、特に注意点はありません。

3)賃金の支払い

賃金は、副業先での労働については副業先が支払います。

自社が本業先の場合、副業先での労働について賃金を支払うことはありません。ただし、社員が本業先と副業先の両方で働く場合、後述の時間外労働のルールを理解して割増賃金を支払う必要があります。

自社が副業先の場合、同じく割増賃金の問題を除けば、特に注意点はありません。

4)労働時間管理

労働時間は、本業先と副業先がそれぞれの就業先での労働時間を管理します。

時間外労働については、社員が1日の間に本業先と副業先の両方で働く場合、両社の労働時間を通算し、法定労働時間(原則として1日8時間、1週40時間)と照らし合わせて判断します。例えば、1日の中で本業先で5時間、副業先で4時間働いた場合

  • 1日の労働時間は通算9時間
  • 時間外労働は1時間(9時間-8時間)

となります。なお、この場合、

時間外労働は原則として労働契約の締結時期が遅い会社で発生したと判断(例外あり)

されます。一般的には、副業先で1時間の時間外労働が発生することになるでしょう。

社員が1日ごとに就業場所を変えている場合は、通常の労働時間管理と同じです。例えば、月曜日に本業先で10時間(副業先での勤務なし)、火曜日に副業先で9時間(本業先での勤務なし)働いた場合、

  • 月曜日については本業先で2時間(10時間-8時間)の時間外労働
  • 火曜日については副業先で1時間(9時間-8時間)の時間外労働

が発生します。

自社が本業先の場合も副業先の場合も、こうした時間外労働のルールに注意して労働時間管理を行いましょう。なお、自社は自社以外の就業場所での労働時間を、社員からの自己申告などによって把握する必要があります。ただ、この点については、

労働基準法の遵守などに支障がなければ、「一定の日数分の労働時間をまとめて申告させる」などの対応でも問題ない

とされています。詳細については厚生労働省のガイドラインをご確認ください。

■厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html

5)社会労働保険の適用

社会保険の適用要件は、本業先と副業先それぞれにおいて判断されます。社員が本業先と副業先の両方でそれぞれ被保険者要件を満たす場合、

  • 本業先か副業先を「主たる事業所」として選択し、報酬月額を合算し社会保険料を算定
  • 社会保険料は、本業先と副業先の報酬月額に応じて案分

されます。特に、社会保険の適用拡大に伴い、副業先が特定適用事業所に該当している場合等は、短時間勤務であったとしても被保険者要件を満たしているケースも出てきますので、注意する必要があります。

雇用保険は、それぞれの会社において被保険者要件を満たす場合、

賃金額が多いほうの会社で加入

します。ただし、65歳以上で一定の条件を満たす社員に限り、本業先と副業先それぞれで被保険者要件を満たさない場合であっても、本業先と副業先の労働時間を合算して、雇用保険に加入することがあります(原則として、対象となる社員自身が手続きを行います)。

労災保険は、副業中は副業先の労災保険が適用されますが、労災保険給付の支給額については、本業先と副業先の賃金額の合計を基に算定されます。

自社が本業先の場合も副業先の場合も、社員が社会保険の被保険者要件を満たすか、自社以外で雇用保険に加入していないかを確認しましょう。

また、自社が本業先の場合も副業先の場合も、社員が自社で負傷などをしたときは、労災保険関連の手続きを速やかに行います。自社で起きた労働災害でない場合も、社員から事業主の証明を求められる場合がありますので、その際は適切に対応します。

以上(2025年5月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:Mono-Adobe Stock

(後編)若手・中堅社員400人アンケート 社長の頼もしかった/残念だった瞬間

1 若手・中堅社員は「社長」のことを、こう見ている!

「いまどきの若手・中堅社員には、社長に対する敬意というものが感じられない!」

社長の皆さん、そんな思いをされたことはありませんか? この記事では、20代、30代、40代の社員400人から回答を得た、自社の社長をどのように見ているかに関するアンケートの結果を、前後編に分けてお送りします。

次の2点の質問について、得られた回答を6つの項目に分類して紹介します。

  • 「あなたの会社の社長を頼もしいと感じた瞬間はどのようなときでしょうか?」
  • 「あなたの会社の社長を残念だと感じた瞬間はどのようなときでしょうか?」

後編も、「納得できない!」と感じる回答が少なくないかもしれません。でも、もし1つでも「なるほど」と思えるものがあれば、他山の石として、参考にしてみてはいかがでしょうか。若手・中堅社員との距離が少し縮むかもしれません。

アンケートは2025年4月に、インターネットを通じて行いました。回答の中で、明らかに誤字と思われる表記などは修正しています。また、前編についてはこちらをご確認ください。

2 社長は「Cool Head, but Warm Heart(冷静な頭脳と温かい心)」で

1)第1選:冷静に、よく考えて行動しないと…

熟慮の末の決断なのに、「コイツ、何も考えてないな」と思われていたら、つらすぎます。

頼もしかった/残念だった瞬間その1

2)第2選:現場の人の気持ちを大事にしましょう!

強い会社は強い現場から。いつまでも現場の気持ちを忘れない社長でいたいものです。

頼もしかった/残念だった瞬間その2

3)第3選:リーダーにコミュニケーション能力は欠かせません

社員との連絡は、少なすぎても多すぎてもダメ? 社員との距離感は難しいです。

頼もしかった/残念だった瞬間その3

4)第4選:変わり、変える勇気を持ち続けましょう

いつまでも、しなやかに時代の変化に柔軟に対応し続けたいものです。

頼もしかった/残念だった瞬間その4

3 社長は器が大きくないと!

1)第5選:器の大きさって何だろう?

「細かいところに気を使って、何が悪い!」と言うと、若手・中堅社員からはさらに「器が小さい」と評価されてしまうのでしょうか?

頼もしかった/残念だった瞬間その5

2)第6選:ビジネスパーソンに報いるには、やっぱり「これ」です!

社長の評価も、最後はやはり金次第?

頼もしかった/残念だった瞬間その6

以上(2025年6月更新)

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画像:いらすとや

(前編)若手・中堅社員400人アンケート 社長の頼もしかった/残念だった瞬間

1 若手・中堅社員は「社長」のことを、こう見ている!

「いまどきの若手・中堅社員は、社長(自分)のことを何だと思っているのか!」

社長の皆さん、そんないら立ちを感じることはありませんか? 若手・中堅社員の自分への態度が、理解できないこともあるでしょう。この記事では、20代、30代、40代の社員400人から回答を得た、自社の社長をどのように見ているかに関するアンケートの結果を、前後編に分けてお送りします。

次の2点の質問について、得られた回答を7つの項目に分類して紹介します。

  • 「あなたの会社の社長を頼もしいと感じた瞬間はどのようなときでしょうか?」
  • 「あなたの会社の社長を残念だと感じた瞬間はどのようなときでしょうか?」

回答内容の中には、「人の気持ちも知らないで…」と感じる意見が少なくないかもしれません。でも、もし1つでも「なるほど」と思えるものがあれば、他山の石として、参考にしてみてはいかがでしょうか。若手・中堅社員との距離が少し縮むかもしれません。アンケートは2025年4月に、インターネットを通じて行いました。回答の中で、明らかに誤字と思われる表記などは修正しています。また、後編についてはこちらをご確認ください。

2 社長の仕事ぶりが注目されています

1)第1選:仕事ができてこそ社長たるもの

社長は、名監督兼名選手であることが求められているようです。

頼もしかった/残念だった瞬間その1

2)第2選:仕事への向き合い方も見られています

社員の前ではつらい顔ができないのが、社長のつらいところです。

頼もしかった/残念だった瞬間その2

3 組織のトップとしての自覚が求められています

1)第3選:社員は社長のリーダーシップに期待しています

やはり社長には、トップとしての力量が求められているようです。

頼もしかった/残念だった瞬間その3

2)第4選:社員を大切に扱っていますか?

社長から「大事だ」と言われると、お世辞だと思っていても社員はうれしいものです。そして、社員を怒りのはけ口にするのは、控えたほうがよさそうです。

頼もしかった/残念だった瞬間その4

3)第5選:話し上手に聞き上手

話すのも上手、聞くのも上手。社長のハードルは高い!

頼もしかった/残念だった瞬間その5

4 「社長として」よりも「人として」?

1)第6選:“人間力”が重要です

トップでいるには、1人の人間として尊敬されることも重要です。

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2)第7選:他にはこんなところも……

社長はこんなところまで見られています。

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以上(2025年6月更新)

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画像:いらすとや

カーボンクレジットを活用した「地域の脱炭素」から日本の脱炭素の実現へ。圧倒的な深さとスピード感、そして多くの人を巻き込む力。地域金融機関や自治体とのスピード連携の根底にあるのは「自分は黒子。周りを良くする、周りを喜ばせたい」という仕事への姿勢/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、下村 雄一郎さん(株式会社バイウィル 代表取締役社長)です。

「日本の脱炭素を、カーボンクレジットで真剣に目指す」

と大きな夢を掲げ、着実にしかも迅速に事業を進めている下村さん。

この日本で、カーボンクレジットが環境的にも大きな意味があり、そしてちゃんと経済的にもメリットがあるものとして普及していくようカーボンクレジットの創出と流通に尽力しているわけですが、ポイントの一つは、

自治体や地域金融機関と連携し、地域企業を巻き込んで、「地域を主役」に進めている

ところです。

こうした下村さんたちの取り組みはとても注目されており、日本の林業界では知らない人がいないくらいの林業会社の代表や元環境省事務次官、元金融担当大臣といったそうそうたる顔ぶれが顧問に名を連ねています。

下村さんたちは、地方銀行など日本全国の地域金融機関や自治体、地方のテレビ局などとかなりのスピード感を持って連携してきています。「自分のことよりまず周りのこと。人を喜ばせたい」という下村さんの仕事に取り組む姿勢が、多くの人を惹きつけ巻き込んでいるからこそ、すごい勢いで賛同され、連携がどんどん広がっているのではないかと感じます。

この記事では、下村さんのそうした仕事への姿勢やカーボンクレジットの事例などをお伝えします。新しい年を迎えた今、多くの経営者の方や、地域金融機関の方に、

  • 2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする)に向け、継続していける地域の脱炭素活動とはどういうものなのか
  • 人とかかわってビジネスを進めるときに大切なことは何か

などのご参考になりましたら幸いです。

【プレスリリース】経営体制強化のため、顧問7名を招聘(2024年9月)
https://www.bywill.co.jp/news/20240905-2
【プレスリリース】元大和証券 専務取締役の丸尾浩一氏と元日本郵政 専務執行役CCOの早川真崇氏がバイウィルのアドバイザーに就任(2025年4月25日)
https://www.bywill.co.jp/news/20250425

1 バイウィルのパーパスと下村さんのプロフィール

事業開始からたったの2年あまりで、カーボンクレジットについて地方銀行など119のパートナー(2025年5月7日時点)と提携してきた下村さんたちバイウィル。掲げるパーパスは次の通りです。

バイウィルのパーパス

(出所:株式会社バイウィルのコーポレートサイトから抜粋)

注目度も高く快進撃を続けているバイウィルの根底には、「下村さんの描く大きなあるべき姿=夢」「環境的意義に加え、経済的にもメリットがある分かりやすい仕組み」、そして何より「地域が主役」「人のために」といった「下村さんの仕事の姿勢」がありました。

まずは下村さんのプロフィールからご紹介します。

下村さんのプロフィール

(出所:株式会社バイウィル会社紹介・サービス紹介資料より抜粋)

プロフィールからも分かる通り、ビジネスのプロフェッショナルな下村さん。それだけではありません。コンサルティング会社の後「夢ある人を“勝手に”応援する会社」をつくったりするなど、とにかく常に「人のために」の姿勢を貫いている方でもあります。

2 下村さんが注目される理由を紐解くと「姿勢」が見えてきた

下村さんが行っているカーボンクレジットが注目されているのにはさまざまな理由がありますが、ここでは次のような、下村さんの「仕事に取り組む姿勢」に焦点を当ててみたいと思います。

  • 地域が主役、自分たちは黒子に徹する
  • 自分よりも周り。人を喜ばせたい
  • 大義と実利

1)地域が主役、自分たちは黒子に徹する

下村さんがバイウィルの社長になってからは、カーボンクレジットに絞って事業を展開しています。なぜカーボンクレジットを選択したかについて、下村さんは、次のように話しています。

「カーボンクレジットに取り組んだ結果、CO2の削減量などを増やした分が環境価値になり、さらにはそれが経済価値になって、お金として循環するという……。『環境の取り組みそのもの』がサステナブルであってほしい、という願いも込めてカーボンクレジットを選択しました」

意義もあり、かつ、経済的メリットもあるということが、環境の取り組みを継続していくためには重要だと下村さんは繰り返します。

カーボンクレジットを選択した下村さん、

どうせやるならいくとこまでいったるか!

と決めて、大きな夢「日本の脱炭素を、カーボンクレジットで真剣に目指す」を掲げます。「日本の」とはいえ、日本には47都道府県それぞれ地域があります。そこで下村さんは「地域の脱炭素」から日本の脱炭素を実現しようと考えます。ここでも下村さんは大事なキーワードを話しています。

とにかく地元、地域の方々が主役。私たち(バイウィル)は黒子に徹する。そうしたほうが地域の脱炭素は進む

「地域が、地元が主役」を繰り返す下村さん。地域の方々が主役ということは、旗振り役も地域の方々です。地方銀行や自治体が旗振りして自主的に進めていくのを、下村さんたちは後ろで支援する。そういう仕組みやモデルを作って、地方銀行や自治体との連携を増やしてきたといいます。これは、地方銀行や自治体にとっては、本当にうれしい、地域のことを本当に考えている取り組みといえるのではないでしょうか。

こうした「地域が主役、自分たちは黒子」という思いについて、下村さんは、次のように説明してくれました。

「自分がまだ20代、30代だったら『自分たちのサービスや商品が一番』と掲げて世の中に広げていくのかもしれないですし、若いころは、実際にそれに近いことをしていたと思います。

ただ、自分が40代になって色々な方にお世話になって生きてきたからこそ、『やりたいことは日本の脱炭素であり、地域の脱炭素であり、地域にお金が循環する仕組み。その仕組みの中で自分たちが目立つ必要はなく、地域の皆さんが前に立っていただくのがよい』と考えるようになった。そういう、地域の方が主役になるビジネスをつくりたい」

こうした考えを伝えてきたことが、わずか2年足らずで66もの地方銀行や自治体との連携を実現しているのだと思います。

サービス紹介

(出所:株式会社バイウィル会社紹介・サービス紹介資料より抜粋)

また、地域の脱炭素を継続して実現していくために、実際に地方銀行などに利益を出すということも、連携が進んできた理由といえるでしょう。ここも、下村さんの「自分は黒子として働き、周り、相手(地方銀行など)を喜ばせたい」という姿勢が貫かれているように思えます。

2)自分よりも周り。人を喜ばせたい

バイウィルでカーボンクレジットを手掛けているから、ということではなく、下村さんは、「自分よりも周りの人がよくなるように。人を立てる。人を喜ばせたい。人のために」という姿勢を、もっと前から持っていて、ずっとその姿勢で仕事に取り組んでいると思います。

ご自分からはお話になりませんが、下村さんは、以前のコンサル会社時代にもそういうことをやってきています。当時、コンサル会社における関西の責任者として、全く縁もゆかりもない関西エリアに一人で乗り込んで来た下村さん。にもかかわらず、当時、地方銀行(コンサル時代も地方銀行とはかかわっていました)と徹底的に黒子の立場で、ほとんど常駐くらいの勢いで現場に入っていました。自分は黒子に徹して、銀行(相手、かかわった人)と真摯に向き合って喜ばせるという下村さんの姿勢は、当時からとてもあったように思います。

コンサル会社の最後の2年9カ月、下村さんはメガバンクに出向しており、法人戦略部で銀行内部のことにも取り組んでいました。そこでも、ものすごくたくさんの方から慕われて頼りにされ、「(銀行に)残ってほしい」と盛んに言われていました。昔から「自分よりも周りの方々が良くなるようにする」という姿勢だった下村さん。こういう仕事の姿勢があるので、今、まさに全国の多くの地方銀行が賛同しているという素晴らしい結果につながっているのではないでしょうか。

「自分よりも周りに良くなってほしい、喜んでほしい」という姿勢の理由を聞いてみると、「自分ではなく周りの方がすごい方が多かったので。そういう方々と接して、そういう方々に憧れていくうちに、唯我独尊のようなビジネスをしたいとは全く思わなくなりました」という答えが返ってくる下村さんです。

3)大義と実利

2年あまりという短期間で多くの連携先を獲得している下村さんたちですが、特に一般的には時間がかかりそうな地域金融機関と数多く連携していることを考えると、圧倒的なスピード感です。

なぜここまで地域金融機関の賛同を得ているのか。下村さんは、「大義と実利」という言葉を地域金融機関に対してずっと言ってきたと語ります。

「地域金融機関さんからよく伺っていたのは、やはり、『地元のため、ということから逃れられない』ということです。それならば、地域の脱炭素というのは、地元に対する『大義』として掲げられる。金融庁も求めているとなると、『大義』はとても立ちやすいです。

一方、『大義』が立っても『実利』が無ければ、金融機関としては動けない。この場合の『実利』は、カーボンクレジットの発行です。発行して流通に回すと、そこに差益が生まれますので、そこを銀行さんに取っていただく。

ですので、例えば、その県のカーボンニュートラルを、その地方銀行さん主導で進めていただくのが大義。実利は実際にカーボンクレジットを発行・流通させた際の差益。こうして『大義』と『実利』を絡めながら、地域金融機関さんにお話させていただきました。

(連携を進めるのは)それでも難しいところはありましたが、ご縁がつながったり、ハブになってくださった金融機関さんがあったりしましたので、それと、やはり大義と実利。これを丁寧にお伝えしながらここまで来られたと思います」

ここにも、「地域金融機関を喜ばせたい、地域金融機関のためになることは何かを考える」という下村さんの気持ち、そしてそれを伝え実践し続ける真っ直ぐさ、あたたかさを感じます。これが地域金融機関に伝わっているからこそ、これほど多く賛同を得ているのだと思います。

3 今取り組んでいる事例と、顧問団の話

下村さんたちが今取り組んでいることや、2024年9月と2025年4月にリリースした顧問の方々について聞いてみました。

1)地域脱炭素推進コンソーシアム

地域金融機関や自治体、地方のテレビ局など、連携先を増やしているバイウィルは、2025年にはなんと、70~80くらいの自治体と連携協定する予定だそうです。こうした自治体との連携協定においても、「自治体とバイウィルではなく、地域金融機関に入ってもらうことに意義がある」と言う下村さんです。

また、バイウィルでは、「地域脱炭素推進コンソーシアム」も設立しています。カーボンクレジットについてまだまだ不明確な法的、会計的、税務的部分などについて地域金融機関と一緒にワーキンググループを立ち上げて、地域に脱炭素が浸透していくような取り組みを進めています。

地域脱炭素推進コンソーシアム

(出所:株式会社バイウィル会社紹介・サービス紹介資料より抜粋)

2)地域の脱炭素活動の取り組み事例

バイウィルでは、北は稚内(わっかない)から、南は屋久島(やくしま)まで、地域の脱炭素活動を行っています。

下村さんが「地域の脱炭素活動」をもう少し開いて説明してくださったのが次の内容です。

「例えば、自治体では『ゼロカーボンシティ』という、自治体参加でCO2排出量をゼロにしようという動きがすでに行われています。それに対して環境省なども補助金を出したりしている。ただ、どうしても体制などの問題でうまくいかないことがあります。そうしたときに、例えばこのカーボンクレジットは、『自分たちが持っている財産価値(森を持っていたり、電気をすべてLEDにしていたり)をまず、ちゃんと価値化しよう』というものです」

具体的な例として挙がったのは、バイウィルの連携先である中部圏の地域の事例です。

その地域では、まず市(自治体)が率先してLEDに変えた効果をクレジット化しようとしています。商工会議所と地元の地方銀行とで地元の企業に対してセミナーを開催し、「市も脱炭素の取り組みを行ってそれを価値に変えたので、地元の企業さんたちも一緒にやりましょう!」と呼びかけようとしています。

また、この市の場合、クレジットを買ってくれる側の大企業もあるのが大きな特徴です。

つまり、市がハブとなり、地元企業を巻き込んでクレジット化して価値を創出しようとしていたり、クレジットを買ってくれる側の地元の大企業も巻き込んで流通に回そうとしていたりしているのです。このとき、地元企業とつながりがある地元の地方銀行は、地域の現場で地元企業と連携を取り地域の流通に回す、ということをしています。

このような、自治体、地域金融機関、地元企業を巻き込んだ動きをしているのが、下村さんたちの地域の脱炭素活動の事例です。

なお、下村さんいわく、こうした地域の脱炭素事例は、地域ごとに特徴がいろいろあるそうです。例えば鹿児島だったら牛・豚系のメタンに注目しているとか、静岡だったらお茶に注目しているなど。地域特性を活かしながら、自治体や地方銀行に、自分たちで率先して創出し、流通に回すという仕組みをつくってもらいつつ進めているといいます。自治体も地方銀行も地元企業も巻き込みつつ、こうした地に足の着いたオペレーションに落とし込んでいるというのは、なかなか他にはないことで、他では実現しにくいのではないかと思います。

どうしてここまで、自治体と地方銀行が動けるのか、その理由は、

「分かりやすさと、大義と実利にこだわっているから。分かりやすくして、大義もあってお金にもなりますよ、というところがあるからです」

という下村さん。

「例えば、先ほど例に挙げた市の場合は、『LED化した人、この指とまれ』と言っているだけです。難しいこと、複雑なことをやろうとしているわけでは全くありません。

現場で地元企業と接する銀行の営業担当者にも、『地元企業の方に対して営業する必要はありません。LEDについて、この質問とこの質問だけしてください』というものを定めているんです」

この分かりやすさ、現場での取り組みやすさ、動きやすさ。これもすべて、周りをよくしたいという下村さんの気持ちが細部にまでも表れているということではないでしょうか。

バイウィルには、メンバーとして銀行出身者やメーカーの営業出身者がいて、ひたすら全国各地を回り、そこで得た情報を定期的に情報交換して地域ごとのプランとモデルをつくる、そしてそれを持ってまたひたすら全国を回る、ということを繰り返しているのも大きな強み、スピーディさの一因です。

3)そうそうたる顧問の方々

この記事の冒頭でもご紹介しましたが、バイウィルには、2024年9月、2025年4月にプレスリリースしたそうそうたる顧問団、アドバイザーの方々がいます。

例えば、林業の世界ではおそらく誰もが知っている林業の大家、速水林業の9代目代表の速水亨さんがおられます。速水さんは、森林認証システム「FSC認証」を日本で普及させて山の価値を高めていこうという活動を進めています。

下村さん曰く、速水さんは「山の持ち主、林家の方々にお金が戻ってくる仕組みがあるのであれば、それを広めて山の価値を高めていくことに活かしたい」ということで、日本の林業の未来のために、顧問として参画してくださっているそうです。

また、元環境省事務次官の中井徳太郎さんは、日本製鉄の顧問もされています。中井さんは環境省時代から地域内で価値と経済が循環することを考えてこられました。中井さんは、バイウィルには大義があり、その大義が世の中のためになるということで応援したいと参画してくださっているそうです。

顧問の方々のプロフィールなどは、こちらからご確認いただけます。

https://www.bywill.co.jp/advisor

4 今後について

下村さん曰く、バイウィルは今後、次のように進化していく方針です。

今後について

(出所:株式会社バイウィル会社紹介・サービス紹介資料より抜粋)

「いかに脱炭素の取り組みが進んでいくのかという創出側と、お金に換えられる流通側、この両方をもっともっと進めていかなければならないと思っています。

今まで進めてきたのは、(上記)資料の1-1、いわば『気づかれていなかった脱炭素の取り組みを価値化すること、誰かがやったこと』。そして今は、1-2、『我々が直接かかわって、脱炭素の取り組みを加速させていく』ことを行っています。

2-1では『作られた価値は金融機関を通して価値に代わり、流通に回す』ということを行ってきました。今後は、2-2の『大企業などをもっと巻き込み、先行投資してその結果得たクレジットを分配する』という仕組みも作っていきたいです。

また、2-3の『我々が流通プラットフォームを作り、情報を細分化、リッチに(森なら森、生物多様性ならその分野など)しながら個別の価値をつくり、その取り組みから生まれたクレジットを買う理由を作っていく』ということも進めていきます。

例えばのイメージですが、畜産分野でいうと私たちがメタンガスを発酵させる機械を買って地域に設置する。そうすると地域の方々の手間も減るし、CO2の発生も抑えられるし、価値に変わる。私たちバイウィルが実際に協力することで取り組みが加速する。こうして、いかに脱炭素の取り組みが加速するか(資料の向かって左側)、いかに価値に変わるか(資料の向かって右側)の2つを、地域の皆さんと協力して作っていく。これが、今後取り組んでいきたいことです」

「今後」と言いつつも、下村さんにさらに伺うと、なにかものすごいスピードで既に動いていることが分かります。例えば、

  • 資料の2-2は事例ができたので普及させるターン
  • 左側の1-1はもうやっている
  • 1-2はまず林業から進めていくことは決めている、具体的なテーマももう決まる
  • 1-3については、省が関わったり法整備が必要だったりするので明確な時期が未定ではあるものの2年以内には新しい枠組みを国と作っていきたい

とのことです!

圧倒的なスピード感と深さ、全社的な行動力。その根底にある下村さんの「人のために。周りを喜ばせたい、良くしたい」という仕事への姿勢。脱炭素の世界に、ものすごい方が表れたと感じます。2025年、さらに地域の脱炭素活動が大きく進化していきそうです。

下村さん、たくさんのお話を本当に有り難うございます!

以上(2025年5月作成)

「採用活動」で使える助成金! 早期再就職支援等助成金など4種類を紹介

1 採用活動を強力にサポートする助成金を使いこなす!

最新の主要調査によると、2024年の中途採用費用(年間平均)は650.6万円です。これは前年(2023年:629.7万円)より20.9万円の増加となっています(社員数3名以上の会社を対象とした、マイナビ「中途採用状況調査2025年版(2024年実績)」)。人手不足を背景に、中途採用に力を入れている企業が多いことが伺えます。

一方、中小企業などでは

「採用活動にそこまでお金をかけられない」と、積極的に取り組めずにいる会社

が少なくありません。そもそも採用活動に割けるリソースが限られる上に、入社した社員がすぐに辞めてしまうことも多い昨今、慎重にならざるを得ないのは無理からぬことです。

しかし、諦めないでください。

採用活動をサポートするための助成金を上手に活用し、採用コストに充当すること

でこの問題を打開できる可能性があります。国や自治体が実施する助成金の中には、一定の条件に該当する社員を雇い入れたり、訓練したりすることで受給できるものがあります。

この記事では、

採用活動に関する中小企業向けの助成金を4つ紹介

します。支給額や要件などの情報に加え、専門家のワンポイントアドバイスも載せています。なお、助成金の内容は、2025年5月16日時点のもので将来変更される可能性があります。また、申請書の書き方や添付書類等については、各章で紹介しているURLをご参照ください。

2 早期再就職支援等助成金(雇入れ支援コース)

1)早期再就職支援等助成金(雇入れ支援コース)とは?

会社都合などでやむを得ず離職した社員を、離職日の翌日から3カ月以内に無期雇用社員(週20時間以上勤務)として採用し、かつ給与を5%以上アップさせ、6カ月を超えて継続雇用すると、助成金を受け取れる制度です。

■厚生労働省「早期再就職支援等助成金(雇入れ支援コース)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000082805.html

2)助成金を受け取るには?

次の要件などを満たす必要があります(詳細は厚生労働省ウェブサイトをご参照ください)。

【会社側の要件】

  • 対象者を、離職日の翌日から3カ月以内に、雇用保険被保険者となる無期雇用社員(週の所定労働時間が20時間以上)として雇用する
  • 採用時に、社員の所定内賃金を離職前よりも5%以上アップさせる
  • 採用後、6カ月を超えて雇用する
  • 採用日の前後6カ月間に、解雇や雇止めを行っていない

【社員側の要件】

  • 再就職援助計画の対象者」「求職活動支援書の対象者」「雇用保険の特定受給資格者」のいずれかである(主に倒産や事業縮小など会社都合で離職した人が該当)

3)受け取れる金額はいくら?

雇い入れにかかった費用の一部を定額で受給(早期雇入れ支援)できます。生産指標等により一定の成長性が認められる会社は、「優遇助成」が受けられます。

早期再就職支援等助成金(雇入れ支援コース)

4)専門家のワンポイントアドバイス

離職から3カ月以内に社員を雇用するという要件があるので、タイミングを意識して採用計画を立てることが重要です。また、訓練を実施して人材育成支援を受ける場合は、訓練前に「職業訓練計画」を立てて都道府県労働局の認定を受ける必要がある点に注意が必要です。

3 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)

1)特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)とは?

60歳以上の高年齢者や障害者など、就職が特に困難とされる人材を社員として雇い入れた場合、所定の金額(定額)を受け取れるというものです。

■厚生労働省「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/tokutei_konnan.html

2)助成金を受け取るには?

次の要件などを満たす必要があります(詳細は厚生労働省ウェブサイトをご参照ください)。

【会社側の要件】

  • ハローワーク等からの紹介により、対象者を所定労働時間が週20時間以上の雇用保険被保険者として雇用すること
  • 雇入れ日の前後6カ月間に解雇等を行っていないこと

【社員側の要件】

  • 「高年齢者(60歳以上の者)」「身体・知的・精神障害者」「母子家庭の母等」「ウクライナ避難民」「補完的保護対象者」といった、就職が困難とされる者であること

有期雇用社員の場合は、契約が「自動更新」であることを契約書に明記し、労働者が希望する限り更新可能であること(更新条件は就業規則の解雇要件以内)、かつ65歳以上まで継続して2年以上(一部は3年以上)雇用することが確実である必要があります。

3)受け取れる金額はいくら?

対象社員に支払われた賃金の一部に相当する額として、次の金額が支給対象期(6カ月)ごとに定額で(ただし、対象期に支払われた賃金額を上限として)支給されます。なお、「短時間労働者」とは、週の所定労働時間が20時間以上30時間未満である者をいいます。

特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)

また、「成長分野等人材確保・育成コース」では、未経験者の訓練や賃金引き上げなどの育成施策を実施した場合に、上記の助成額の1.5倍が受給可能です。2024年10月1日より要件が緩和され、より利用しやすくなっています。

通常の1.5倍の助成が受けられるメニュー

■特定求職者雇用開発助成金「成長分野等人材確保・育成コース」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/tokutei_seichou_00008.html

4)専門家のワンポイントアドバイス

特定就職困難者コースは、ハローワーク等からの紹介により人材を雇用することが必須の要件です。そのため、求人を出す際は事前にハローワークに求人票を提出し、「助成金対象となる人材を雇用したい」とはっきり伝えておくことが重要です。

また、有期雇用での採用の場合は「自動更新」であることの記載漏れや、就業規則の解雇条件を超えた条件を設けると助成金が受け取れません。雇用契約書や就業規則をよく確認し、適切な条件で雇用契約を結ぶよう注意しましょう。

4 特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)

1)特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)とは?

「就職氷河期世代(おおむね1993年~2004年ごろに就職活動を行っていた人)」で、で、正規雇用の機会を逃したことや、非正規雇用や子育てによる離職などにより正社員としてのキャリア形成が難しかった人を、正社員として雇用する場合に助成金が支給される制度です。

■厚生労働省「特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158169_00001.html

2)助成金を受け取るには?

次の要件などを満たす必要があります(詳細は厚生労働省ウェブサイトをご参照ください)。

【会社側の要件】

  • ハローワークまたは一定の要件を満たす民間職業紹介事業者から紹介された対象者を、正社員(期間の定めがなく、所定労働時間が週30時間以上、かつ昇給・賞与・退職金など長期雇用を前提とした待遇のある雇用)として雇い入れること

【社員側の要件(次の全ての要件を満たす必要あり)】

  • 1968年4月2日から1988年4月1日の間に生まれている
  • 雇入れ前の過去5年間において、正社員として雇用された期間が通算1年以下である
  • 雇入れ前の過去1年間において、正社員として雇用されたことがない(ただし、過去1年以内に会社都合の解雇等により離職した場合は対象になる)
  • ハローワーク等の紹介の時点で「失業中」または「非正規雇用労働者など安定した職業に就いていない状態」であり、ハローワーク等で就労に向けた支援を受けている
  • 正社員として雇用されることを自ら希望している

3)受け取れる金額はいくら?

対象社員に支払われた賃金の一部に相当する額として、次の金額が支給対象期(6カ月)ごとに定額で支給されます。ただし、支給対象期ごとに対象社員に支払った賃金額が図表4の額を下回る場合、その賃金額が支給額の上限となります。

特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)

さらに、就職氷河期世代の未経験者を雇い入れ、職業訓練や賃金引上げなどの人材育成に取り組んだ場合、通常の1.5倍の助成が受けられる「成長分野等人材確保・育成コース」の対象にもなります。

4)専門家のワンポイントアドバイス

本助成金は「ハローワーク等からの紹介」が必須条件です。求人時にその点を明記し、採用ルートが助成金の要件に合致するかを必ず確認しましょう。また、非正規雇用期間が長い方や離職期間が長かった方が対象となるため、入社後のOJTやOFF-JTなどの人材育成を丁寧に実施することで、社員の早期戦力化と定着を促進できます。

5 トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)

1)トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)とは?

職業経験の不足やスキル不足等により就職に不安がある方を「トライアル雇用(試行雇用)」として一定期間雇用した場合に助成金が支給される制度です。原則として3カ月間の試用期間中に対象者の適性を確認し、期間終了後に無期雇用契約(正社員等)へ移行することを目的としています。

トライアル雇用のイメージ

■厚生労働省「トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/newpage_16286.html

2)助成金を受け取るには?

次の要件などを満たす必要があります(詳細は厚生労働省ウェブサイトをご参照ください)。

【会社側の要件】

  • ハローワークまたは一定の要件を満たす民間職業紹介事業者から紹介された対象者を雇い入れること
  • 対象者を、有期雇用契約で所定労働時間が週30時間以上(日雇労働者などの場合は週20時間以上)の雇用保険被保険者として、原則3カ月間トライアル雇用すること
  • トライアル雇用終了後、無期雇用契約(所定労働時間が週30時間以上)への転換を前提としていること

【社員側の要件(次のいずれかの要件を満たす必要あり)】

  • 紹介日の前日から過去2年以内に、2回以上離職や転職を繰り返している
  • 紹介日の前日時点で、離職している期間が1年を超えている
  • 妊娠、出産・育児を理由に離職し、紹介日の前日時点で、安定した職業に就いていない期間が1年を超えている
  • 紹介日時点で60歳未満であり、ハローワーク等で担当者制の個別支援を受けている
  • 就職援助に特別な配慮が必要な者に該当する(母子家庭の母等、父子家庭の父、生活保護受給者など)

3)受け取れる金額はいくら?

対象者1人につき、月額4万円(母子家庭の母等または父子家庭の父の場合、月額5万円)が最大3カ月分支給されます。トライアル期間中に雇用期間が1カ月未満の月があった場合や、社員の都合による休暇、会社都合による休業等が発生した場合は、その月について以下の計算式により助成額が調整されます。

実際に就労した日数÷就労予定日数

トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)

また、トライアル雇用終了後に対象社員を無期雇用として継続雇用する場合、特定求職者雇用開発助成金の対象にもなり得ます。

4)専門家のワンポイントアドバイス

トライアル雇用を開始してから2週間以内に、対象社員を紹介したハローワーク等に「トライアル雇用実施計画書」を提出し、必ず認定を受ける必要があります。これを怠ると助成金が受け取れないため注意しましょう。

また、助成金の申請はトライアル雇用終了後の無期雇用契約移行後2カ月以内に行う必要があります。トライアル期間中の社員の適性確認や能力評価は丁寧に実施し、無期雇用契約への円滑な移行と社員の定着を図りましょう。

以上(2025年6月更新)

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画像:ChatGPT

【分かりやすい原価計算(5)】在庫と資金繰りの関係~在庫はまさにお金そのもの~

1 利益は出ているのに資金が増えない原因は?

原価は月末や決算期末に残っていると、在庫として貸借対照表に載ってきます。今回はこの在庫と資金繰りの関係を見ていきます。

経営者は、売上や利益と同じように、またはそれ以上に資金繰り、つまりお金が足りているかどうかについて気にするものです。利益が増えて、資金も増えていれば分かりやすいのですが、現実にはその逆であるケースが多く起こります。例えば、決算のときに、今期は売上が好調で利益も増え、その結果、税金もこれだけかかりますとなったとします。でも、「そんな状況なのに資金は全然ない。税金の支払いのために銀行借入などの資金繰りを考えなければいけないなんて。本当に利益は出ているのだろうか……」と、経営者が疑問や不安に思うこともあるようです。

このような状況になる原因として、1つは、

大きな機械を導入して資金を使ってしまっていること

があります。また、

従来、運転資金・設備投資などの借入金があり、その返済をしているため利益のわりに資金が少なくなっていること

もあります。借入金の返済は資金が出ていきますが、借りたものを返すだけなので、費用にはならないのです。

このように大きめの話が原因であると気付きやすいですが、もっと日常的に潜んでいる原因があります。それが、

在庫の残高が資金繰りに影響していること

です。この記事では、在庫の残高管理について、資金繰りとの関係も含めて見ていきたいと思います。

2 在庫と資金の奇妙な関係

卸売業、小売業や製造業では、通常在庫を抱えています。仕入れてすぐに売れたり、作ってすぐに売れたりすればよいのですが、

現実には売れるまでのタイムラグが発生

します。その間は在庫として会社に保管しなければなりません。

建設業にも未成工事支出金(仕掛中の工事にかかった決算時点の費用総額で、貸借対照表に資産として計上)という在庫があります。期末の仕掛中の工事については、売上は翌期になりますが、それにかかった費用も売上に合わせて翌期に計上します。このため、期末までにかかった費用は未成工事支出金として、翌期に持ち越されます。

在庫には仕入高に加え、材料費、外注費、人件費、経費、作るのにかかった費用を漏れなく含めます。材料費や外注費といった社外に支払ったものは分かりやすいのですが、人件費は忘れがちです。この人件費を漏らしてしまうと、利益がゆがんでしまって経営の判断材料として使えなくなりますし、税務調査などでも指摘されてしまうことになります。

この在庫は貸借対照表の資産の科目になり、現預金(資金)とはトレードオフの関係になります。つまり、

在庫が増えれば、資金はその分減ってしまうのです。逆に、在庫が減れば、資金はその分余裕が出てきます。

このことは、在庫を買う(=増やす)と資金が減り、在庫を売る(=減らす)と資金が増えることからも分かると思います。

そのため、在庫は資金そのものであり、日々の残高管理が必要になります。在庫の残高分析として、まずは、前期末(または、前月や前年同月)との比較をしましょう。

また、異常を感じたときや年に1回くらいは、在庫を月次の売上原価で割ることで、月の売上原価の何カ月分、在庫が残っているのか(在庫の回転期間)を見ておくことも意味があります。

在庫の残高分析方法

なお、製造業では製造原価を計算する必要があります。実務では、分母を求めやすい1カ月の売上高の金額にしておくこともあります。簡便的な方法ですが、継続すれば異常値の発見をするのには役立つはずです。

3 在庫の残高分析のコツ。滞留分は勘定科目を分ける

在庫の残高分析をするにあたって、実務でのコツを1つ紹介します。長年たまってしまっているものや、

特別な事情のものは別の勘定科目に振り替えておく

ということです。

例えば、昔の規格だけど、修理などのために、どうしても持っておかないといけないような部品や材料がある場合は、「長期保有在庫」などの名称で固定資産に振り替えておきます。そもそも、すぐに使ったり売れたりしないのですから、回転期間の計算に含めるのは違和感がありますよね。特殊な科目だけ分けて管理すればよいわけです。

4 在庫と同じくらい重要な減価償却費

せっかくなので、資金繰りの話で在庫と同じくらい重要なものとして、減価償却費の考え方を紹介します。減価償却費は、機械などの将来にわたって使い続けられる一定額以上のものを、固定資産として資産に計上し、毎年費用化していく会計処理の方法です。つまり、過去に支払った金額を按分した費用です。これは、損益計算書に費用として計上され、製造現場にあるものであれば原価を構成します。しかし、費用としてあげたタイミングでは支払いがないため、非資金費用と呼ばれます。

このため、減価償却費の金額だけ損益計算書の利益に足すことで、簡便的な資金繰りを示す材料として使えます。つまり、手元に残る資金をおおむね把握することができるのです。資金繰りが気になる場合には、このような調整後利益というのがあるのを覚えておいてください。

調整後利益の算出方法

以上(2025年5月更新)

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環境保全と安全運転(2025/6号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

6月は環境省が「環境月間」※とし、みんなで環境のことを考えようと様々な行事や取り組みが行われます。自動車と環境保全の関係では、まずエコドライブが思い浮かぶ方も多いのではないでしょうか。今号では、環境保全の観点から安全運転について考えます。

環境保全と安全運転

※環境省「環境の日&環境月間」https://www.env.go.jp/guide/envmonth (2025.5.7閲覧)

1 エコドライブに取り組もう

環境に配慮した自動車利用「エコドライブ」は、燃料の節約やCO2排出量の削減に有効です。環境省による「エコドライブ10のすすめ」では以下の取組が推奨されています。

燃費を把握

1)自分の燃費を把握しよう

日々の燃費を把握すると、自分のエコドライブ効果が実感できます

eスタート

2)ふんわりアクセル「eスタート」

やさしい発進(最初の5秒で時速20km程度が目安)を心掛けると燃費改善(10%程度)

車間距離にゆとり

3)車間距離にゆとりをもって、加速・減速の少ない運転

車間距離が短くなると、ムダな加速・減速の機会が多くなり、燃費が悪化(市街地で2%程度、郊外では6%程度)

減速時は早めにアクセルを離そう

4)減速時は早めにアクセルを離そう

これによりエンジンブレーキが作動し、燃費が改善(2%程度)

エアコンの使用は適切に

5)エアコンの使用は適切に

冷房の場合は車内を冷やしすぎないように。例えば車内の温度設定を外気と同じ25℃の設定でエアコンをONしたままだと燃費が悪化(12%程度)

ムダなアイドリングはやめよう

6)ムダなアイドリングはやめよう

10分間のアイドリング(エアコンOFFの場合)で、130cc程度の燃料を消費

渋滞を避け、余裕をもって出発しよう

7)渋滞を避け、余裕をもって出発しよう

出発前に、渋滞・交通規制などの道路交通情報や、地図・カーナビなどを活用して、行き先やルートをあらかじめ確認しましょう

タイヤの空気圧から始める点検・整備

8)タイヤの空気圧から始める点検・整備

空気圧が適正値より不足すると、燃費が悪化(市街地で2%程度、郊外で4%程度)(適正値より50kPa(0.5kg/cm2)不足時)

不要な荷物はおろそう

9)不要な荷物はおろそう

例えば100kgの荷物を載せて走ると燃費が悪化(3%程度)。スキーキャリアなどの外装品による空気抵抗も燃費に影響

走行の妨げとなる駐車はやめよう

10)走行の妨げとなる駐車はやめよう

交差点付近などの交通の妨げになる場所での駐車は、渋滞をもたらします

2 カーエアコンの「フィルター」点検

エアコンのフィルター、きちんと交換していますか?交換の目安は、一般的に1年に1回、または走行距離1万~2万kmとされています。フィルターを交換しないままでいると目詰まりを起こし、エアコンの効きが悪くなってしまいます。そうなるとエンジンが余分な力を使うようになり、燃費が悪化する原因にもなります。

さらに、エアコンの性能低下によってフロントガラスの曇りが取れにくくなり、視界不良から安全運転に支障をきたす恐れもあります。

フィルター点検

湿度の高くなる6月はフィルターにカビが発生する場合もあり、これは悪臭の原因となります。車内環境を清潔に保つためにも、この機会にエアコンのフィルターを点検してみましょう。難しい場合は整備業者に相談しましょう。

3 タイヤの摩耗とエコドライブ

車が走行し続けることでタイヤは摩耗していきますが、それにより生じる粉じんは、大気汚染やマイクロプラスチックとして海洋汚染につながる可能性があります。

日本自動車タイヤ協会によると、国内大手4社が製造するタイヤ摩耗量は乗用車用タイヤで2005年から2020年の15年間で16.6%減少、トラック・バス用タイヤでは2008年から2018年の10年間で9.7%減少したそうです。その背景には損傷しにくい新素材の開発や、接地面のデザインの工夫・改良などメーカーによる努力の積み重ねがあります。

タイヤの摩耗とエコドライブ

出典:JATMAホームページ「TRWP提言の取り組み」
https://www.jatma.or.jp/environment_recycle/trwpreductioninitiatives.html

一方で、車の重さに加えアクセルやブレーキの操作の良し悪しもタイヤの摩耗を左右します。急加速や急減速が多く乱暴な運転ほどタイヤはすり減りやすくなります。穏やかな運転は安全、燃費の面だけでなく、粉じんのリスクを抑える意味でも環境に優しいエコドライブに繋がります。

「環境月間」の6月、環境保全と安全運転について考えてみてはいかがでしょうか

以上(2025年6月)

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画像:amanaimages

2025年度から拡充の「IT導入補助金」でDXを推進しよう!

1 IT導入補助金2025の概要

「IT導入補助金」とは、

中小企業・小規模事業者等が、業務効率化や生産性向上を目的としてITツール(ソフトウェア、クラウドサービス等)を導入する際、費用の一部を国が補助する制度

です。2025年度は「通常枠」「複数社連携IT導入枠」「インボイス枠(インボイス対応類型)」「インボイス枠(電子取引類型)」「セキュリティ対策推進枠」の5つの申請枠が用意され、

2024年度よりも内容が拡充(最低賃金近傍の事業者への補助率引き上げなど)

されています。

IT導入補助金2025の概要

採択率も高く、2023年度は9万3211件のうち7万742件(75.9%)、2024年度は7万1767件のうち5万175件(69.9%)の申請が採択されています。とはいえ、申請する際には、

IT導入補助金事務局に登録された「IT導入支援事業者」(ITツールを提供するベンダー)と、パートナーシップを組んで申請することが必要となる

ため、ある程度、準備に時間がかかります。以降で、2025年5月23日時点における各申請枠の内容、申請の流れなどを簡単に紹介します。詳細は、公式ウェブサイトをご確認ください。

■IT導入補助金2025■
https://it-shien.smrj.go.jp/

2 各申請枠の内容

1)通常枠

働き方改革、賃上げ等に対応するため、生産性向上・業務効率化に役立つITツールの導入を支援します。補助の対象は次の通りです。

  • ソフトウェア(必須):ソフトウェア購入費、クラウド利用料(最大2年分)
  • オプション:機能拡張、データ連携ツール、セキュリティ
  • 役務:導入コンサルティング・活用コンサルティング、導入決定・マニュアル設定・導入研修、保守サポート

補助率と補助額は次の通りです。赤字部分は、2025年度から拡充されている内容です。

通常枠

補助額の欄の「業務プロセス」とは、

ソフトウェアを導入することによる、特定の業務工程の生産性向上・効率化に資する機能

のことで、このプロセスの数によって補助額が変わります。なお、業務プロセスの他に、業種・業務が限定されず、生産性向上への寄与が認められる「汎用プロセス」がありますが、こちらは単体での使用は不可となっています。

業務プロセス

2)複数社連携IT導入枠

商業集積地やサプライチェーンに関連する複数の中小企業・小規模事業者等が連携し、ITツールを導入する場合、「通常枠」よりも補助率を引き上げて支援します。補助の対象は次の通りです。

  • 基盤導入経費:「会計・受発注・決済」の機能を保有するソフトウェアとそのオプション、役務およびそれらの使用に資するハードウェア
  • 消費動向等分析経費:異業種間の連携や地域における人流分析・商取引等の面的なデジタル化に資するソフトウェアとそのオプション、役務、ハードウェア
  • その他経費:参画事業者のとりまとめに係る事務費、専門家費

補助率と補助額は次の通りです。複数の事業者が連携するタイプの申請枠であるため、補助額はその連携したグループ構成員数によって変動します。

複数社連携IT導入枠

3)インボイス枠(インボイス対応類型)

インボイス制度への対応を強力に推進するため、インボイス制度に対応した会計ソフト等を導入する場合、「通常枠」よりも補助率を引き上げて優先的に支援します。補助の対象は次の通りです。

  • ソフトウェア(必須):インボイス制度に対応しており、かつ「会計」「受発注」「決済」の機能を1種類以上有するソフトウェア
  • オプション:機能拡張、データ連携ツール、セキュリティ
  • 役務:導入コンサルティング・活用コンサルティング、導入設定・マニュアル設定・導入研修、保守サポート
  • ハードウェア(単体での使用は不可):PC・タブレット・プリンター・スキャナー・複合機、POSレジ・モバイルPOSレジ・券売機

補助率と補助額は次の通りです。

インボイス枠(インボイス対応類型)

4)インボイス枠(電子取引類型)

インボイス制度への対応を強力に推進するため、インボイス制度に対応した受発注ソフトを導入する場合、「通常枠」よりも補助率を引き上げて優先的に支援します。補助の対象は次の通りです。

  • 受発注ソフト:インボイス制度に対応した「受発注」の機能を有しているものであり、かつ取引関係における発注側の事業者としてITツールを導入する者が、当該取引関係における受注側の事業者に対してアカウントを無償で発行し、利用させることのできる機能を有するクラウド型のソフトウェア

補助率と補助額は次の通りです。

インボイス枠(電子取引類型)

5)セキュリティ対策推進枠

サイバーセキュリティ対策において、生産性向上を阻害するリスク(例:サイバーインシデントにより、事業継続が困難になる)や、潜在的リスク(例:供給制約やそれに起因する価格高騰)を低減するため、ITツールの導入を支援します。補助の対象は次の通りです。

  • ITツールの導入費用およびサービス(最大2年分):独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公表する「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されており、かつIT導入支援事業者によりITツール登録されたサービス
■IPA「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」■
https://www.ipa.go.jp/security/otasuketai-pr/index.html#service_area

補助率と補助額は次の通りです。赤字部分は、2025年度から拡充されている内容です。

セキュリティ対策推進枠

3 交付申請の手続き

交付申請の手続きの流れは次の通りです。中小企業・小規模事業者等がやるべきことを簡単に整理しましょう。

交付申請の手続きの流れ

1)GビズIDの取得

IT導入補助金の申請は電子申請となるため、GビズID(1つのIDで複数の行政サービスにアクセスできるサービス)のプライムアカウントが必要です。アカウント発行までの期間は、おおむね2週間です。

■GビズID(gBizID)■
https://gbiz-id.go.jp/top/

2)SECURITY ACTION宣言の実施

SECURITY ACTION宣言とは、中小企業・小規模事業者等が情報セキュリティ対策に取り組むことを自己宣言する制度です。取り組み目標に応じて「★一つ星」と「★★二つ星」のロゴマークがあり、宣言するには、中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン付録の

  • 「情報セキュリティ5か条」に取り組むこと(★一つ星)
  • 「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」で自社の状況を把握した上で、情報セキュリティ基本方針を定め、外部に公開すること(★★二つ星)

が必要です。

■SECURITY ACTION セキュリティ対策自己宣言■
https://www.ipa.go.jp/security/security-action/

3)ITツールの選定

第1章でも述べた通り、IT導入補助金事務局に登録された「IT導入支援事業者」からのサポートを受けて申請します。そのため、申請前に自社の業種や事業規模、経営課題に沿って導入したいITツールやIT導入支援事業者を選ぶ必要があります。ITツール・IT導入支援事業者は、こちらから検索できます。

■IT導入補助金2025「ITツール・IT導入支援事業者検索(コンソーシアム含む)」■
https://it-shien.smrj.go.jp/search/

4)交付申請

IT導入支援事業者と相談しながら、交付申請の事業計画を策定し、次の流れで交付申請を行います(複数社連携IT導入枠については手続きが異なるため、公募要領を別途ご確認ください)。

  • IT導入支援事業者から「申請マイページ」の招待を受け、代表者氏名等の申請者基本情報を入力する
  • 交付申請に必要となる情報入力・書類添付を行う
  • IT導入支援事業者にて、導入するITツール情報、事業計画値を入力する
  • 申請マイページ上で入力内容の最終確認後、申請に対する宣誓を行い事務局へ提出する
■IT導入補助金2025「申請マイページログイン」■
https://portal.shinsei.it-shien.smrj.go.jp/

5)交付決定

提出した書類が審査され、交付が決定されます。

4 交付決定後の手続き

交付決定後の手続きの流れは次の通りです。中小企業・小規模事業者等がやるべきことを簡単に整理しましょう。

交付決定後の手続きの流れ

1)ITツールの契約・発注・支払い

交付申請を完了し、事務局から交付決定を受けたら、ITツールの契約・発注・支払いを行います。なお、交付決定前に契約・発注・支払いを行った場合、補助金の交付を受けることができないので注意が必要です。

2)事業実績内容を事務局へ報告

補助事業の完了後、IT導入支援事業者と連携して、実際にITツールの契約・発注、納品、支払い等を行ったことが分かる証憑(しょうひょう)を提出します。証憑の提出の流れは次の通りです。

  • 申請マイページから必要情報の入力・証憑の添付を行い、事業実績報告を作成する
  • 事業実績報告の作成後、内容の確認・必要情報の入力を行う(これはIT導入支援事業者が行う)
  • 最終確認後、事務局に事業実績報告を提出する

3)補助金決定額を確認・承認

補助事業者が申請マイページから確定検査の結果・補助金交付決定額を確認し、内容に相違がなければ承認(SMS認証が必要)を行います。承認を行うと、補助金が交付されます。

4)事業実施の効果を報告

定められた期限内に補助事業者が申請マイページから必要な情報を入力し、IT導入支援事業者の確認を経て提出します。

5 不正行為にご注意を!

次の不正行為は、交付決定取消、補助金の返還請求、IT導入支援事業者登録取消の対象となります。自社が不正行為をしないだけでなく、IT導入支援事業者等が該当する行為をしていないかにも注意しましょう。

1)ITツールを実質無償で提供する、減額する等の販売行為

  • 会計ソフトの購入費用を後日、IT導入支援事業者もしくは第三者から返金される
  • その他営業先への紹介料と称して、IT導入支援事業者もしくは第三者から「紹介料やコンサル料等」を受け取る など

2)補助対象者以外が申請手続きを代理で行う行為

  • 補助対象者がGビズID(法人・個人事業主向け共通認証システム)等を他者に共有し、申請マイページの開設やその後の交付申請における手続き等を行わせる など

3)ITツールが導入されていない、役務(導入研修・コンサルティング等)が実際に遂行されていない行為

  • 会計ソフトを購入したが、試供版のみが提供されており、利用可能なソフトウェアが導入されていない
  • 在庫管理ソフトの購入とソフトウェア導入研修を10時間受講したという内容で補助金を受給したが、実際は導入手順をメールで共有されたのみで導入研修が行われていない など

4)同じ内容で国から他の補助金や助成金を受給する行為

  • 1つの顧客管理システムについて、「IT導入補助金」と「ものづくり補助金」の両方に申請し、顧客管理システム購入費用に対してそれぞれの補助金を受給する など

5)補助事業者として不適切な行為

  • 補助金の受給要件を満たすため、社員を過少申告するなど企業実態を偽装して申請する など

以上(2025年6月作成)

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