歯学博士が教える「オーラルケア」 口の健康管理でカラダも快調!

書いてあること

  • 主な読者:最近、よく聞く「オーラルケア」について知りたい経営者
  • 課題:歯科健診は、会社に実施義務はないが、やったほうがいい? 費用はどのくらい?
  • 解決策:口の中をケアすることでカラダ全体が健康になる。無料で受診できる場合がある

1 口の中が健康ならカラダも健康~オーラルケアのススメ

「オーラルケア」とは、

歯や歯茎だけではなく、口の中(口腔)全体をケアし、虫歯や歯周病などを予防・治療すること

です。オーラルケアによって脳や心臓の病気、糖尿病などのリスク低減につながるとされているので、歯科医師による「歯科健診」を実施することをお勧めします。

この記事では、東京都向島歯科医師会 おおくぼ歯科医院(東京都墨田区)の院長を務める、歯学博士の大久保勝久(おおくぼかつひさ)氏からお聞きした、オーラルケアや歯科健診のポイントを紹介します。お伝えしたいことは次の通りです。

  • 口の中の健康は、カラダ全体の健康と密接に結びついている
  • 自治体が定める特定の年齢に該当すると、無料または安価で歯科健診を受診できる
  • 歯科健診の結果に応じて、歯科医師の他、理学療法士や管理栄養士など、さまざまな専門家のサポートが受けられる
  • 日ごろから口の中や口臭をチェックする癖を付けておくと、異常を見つけやすくなる

2 オーラルケアをおろそかにするとどうなる?

1)口の中の健康は、カラダの健康と密接に結びついている

口の中の環境は、カラダのさまざまな疾患と関係しています。

口は禍の門

虫歯や歯周病は歯や歯茎が痛むだけでなく、脳や心臓の病気につながる恐れがありますし、糖尿病とも関連性が深いとされています。

「歯の1本1本には血管が通っています。虫歯や歯周病になると、歯や歯茎から菌が入って血管から全身に運ばれます。例えば、菌が心臓の膜にこびりつくと、動脈硬化が進んで狭心症や心筋梗塞の原因になります。他の臓器でも同じような現象が起こり得ます。
 また、歯や歯茎から入る菌の中には、血糖値をコントロールするインスリンの働きを妨げるものがあり、これが糖尿病の原因になります。ちなみに、これを逆手に取って患者の歯石(歯垢(しこう)が硬くなったもの)を除去し、血糖値を下げるという治療法もあります」(大久保氏)

舌や喉のケアも大切です。歯科医師が注目しているのは、

物をうまく食べられなくなったり、飲み込めなくなったりする「嚥下(えんげ)障害」

です。嚥下障害は、嚥下機能(噛(か)んだり、飲み込んだりする機能)が、加齢などで衰えることによって起こります。

「嚥下機能が衰えると、食べ物や飲み物でむせやすくなり、放置しておくと、それらが肺に入って誤嚥性(ごえんせい)肺炎を起こす恐れがあります。特に高齢者は、誤嚥性肺炎により亡くなるケースが少なくありません」(大久保氏)

2)歯科健診が、重大な疾患の予防や早期発見につながる可能性がある

図表2は、東京都歯科医師会が「口腔機能の向上」が必要な特定高齢者を選別するために使用しているリーフレットです。

口の中の健康状態

高齢者向けの内容ですが、仮に「最近、固いものが食べにくくなった」「お茶や汁物等でむせることがある」など思い当たる節があったり、口の中がリーフレットの写真と似たような状態にあったりするなら、早めに歯科医師に相談したほうがいいでしょう。

「例えば、嚥下障害は加齢だけでなく、脳梗塞を患ったり口腔にがんができたりして起きることもあります。逆にいうと、口の中に違和感があると思ったタイミングで歯科医師に診てもらえば、そうした疾患を早期に発見し、重篤化を防げる可能性があります」(大久保氏)

逆に異常があるのに放置しておくと、症状は時間とともにさらに悪化します。

「30~40代の頃は、歯に物が挟まったり歯茎から血が出たりするぐらいだった人が、50~60代になって、歯がグラグラするようになり物が噛めなくなるケースなどがあります。オーラルケアは『症状が軽いうちから』が基本です。ですから、定期的に『歯科健診』を受け、口の中をこまめに歯科医師にチェックしてもらうことは、とても大切です」(大久保氏)

3 歯科健診は「口の中の健康診断」。その費用は?

1)歯科健診でチェックする項目は主に7つ

歯科健診は、正しくは「歯科健康診査」といい、主に虫歯・歯周病の予防と早期発見・治療のために、歯の健康状態を確認するプログラムのことを指します。要は「口の中の健康診断」で、

定期健康診断などと同じように、定期的(年1回など)に実施するのが望ましい

とされています。

日本では、乳幼児(1歳半・3歳)から高校生までは、自治体や学校による歯科健診の実施が義務付けられていますが、成人については義務付けられていません(例外として、一部の有害な業務に従事する社員については、会社による歯科健康診断の実施が義務付けられています)。

ただ、オーラルケアがカラダ全体の健康に影響することから、政府は歯科健診の重要性に注目していて、2023年の骨太の方針でも「生涯を通じた歯科健診(国民皆歯科健診)」に向けた取り組みなどを推進していくと表明しています。

日本歯科医師会では、歯科健診の主な内容として、次の7つを挙げています。基本的には歯や歯茎のケアが主体になりますが、「7.歯科相談」では嚥下機能などにも焦点を当て、口の中全体のケアを行います。

一般的な歯科健診の内容

2)定期健康診断の実施先に相談すれば、歯科医師を紹介してもらえる

歯科健診を実施するのは歯科医師です。どこの歯科医師に頼めばいいか分からない場合、ひとまず定期健康診断の実施先の医療機関に相談するのがよいそうです。

「定期健康診断の実施先で、法定項目以外のオプション検査を設けている医療機関はたくさんありますが、歯科健診をオプションにしているという話はあまり聞きません。ですが、こうした医療機関の多くは、同じ地域の歯科医師会とつながりがあるので、『歯科医師を紹介してほしい』と頼めば、応じてくれる可能性が高いです」(大久保氏)

社員に歯科健診を受けさせたい場合、定期健康診断と時期を合わせて、年1回など定期に実施するとよいでしょう。ただし、歯科健診を受けさせるためには、事前に「就業規則等に、歯科健診の受診を義務付ける規定を設ける」か「本人の同意を得る」必要があります。

3)歯科健診の費用は1人当たり8000円ぐらいだが、自治体によっては無料

前述した通り、成人に対する歯科健診の実施義務はありませんが、各自治体(市区町村)では

特定の年齢に該当する成人が、無料または安価で歯科健診を受けられる「成人歯科健診」

を実施しています。例えば、東京都墨田区の成人歯科健診の内容は次の通りです。

  • 対象:20歳、25歳、30歳、35歳、40歳、45歳、50歳、55歳、60歳、65歳、70歳の区民
  • 内容:問診、口腔内診査(歯や歯茎の状況、清掃状況など)、健診結果に基づく指導
  • 健診費用:無料
  • 受診方法:誕生月の下旬に、自治体が成人歯科健診の実施先の一覧と診査票を送付するので、電話予約して受診する(通知を受け取った日から、翌年の誕生日の前日まで)

特定の年齢に該当しなくても歯科健診は受けられますが、その場合は費用が発生します。

「医療機関によって異なるので一概にはいえませんが、費用負担が発生する場合、1人当たり8000円ぐらいになると思います」(大久保氏)

4)歯科健診後は、必要に応じて理学療法士などのサポートも受けられる

歯科健診後は、歯科医師から本人に対し、保健指導が行われます。保健指導の内容は、

  • 本人の口の中の健康状態や、食生活の注意点などに関する情報提供
  • 口の中の悩みに関する相談・カウンセリング
  • 治療のための受診などの推奨、医療機関などの紹介
  • 歯の正しい磨き方などの実技指導

など、さまざまです。なお、オーラルケアに関わるのは歯科医師だけでなく、口の中の健康状態に応じて、理学療法士や管理栄養士がサポートに入ることもあるそうです。

「例えば、嚥下障害の場合、嚥下機能の回復訓練が必要なら理学療法士に、専門的な栄養指導が必要なら管理栄養士に相談するケースがあります。かつてのオーラルケアは、歯科医師だけしか関与しない、ある意味閉鎖的な側面があったのですが、今はさまざまな職種の人を巻き込んで、地域全体でオーラルケアに取り組もうという流れに変わってきています」(大久保氏)

4 個人で行うオーラルケアのポイントは?

1)歯は「鏡を見つつ、奥歯から磨く」

歯磨きは、自分では磨けているつもりでも、実は一部の歯に歯ブラシがちゃんと届いていないケースが多いです。歯磨きのポイントはたくさんありますが、まずは「鏡を見つつ、奥歯から磨くこと」が大切です。

「前歯以外の歯は、基本的に自分がイメージするより、さらに奥にあります。ですから鏡を見つつ、奥歯から磨くようにすると、磨き残しが少なくなります。また、利き手の関係で歯ブラシが届きにくい箇所が出てきますから、奥歯から磨くのと併せて『一度右側から磨いたら、今度は左側から磨いてみる』など、歯磨きのルートを変えてみることも大切です」(大久保氏)

なお、自分に合った歯の磨き方は、「親知らずが生える途中か」「歯に詰め物があるか」「喫煙しているか」など、歯の状況や生活習慣によって変わります。日本歯科医師会ウェブサイトに、年齢や性別を選択した上でいくつかの質問に答えると、自分に合った正しい歯の磨き方を教えてくれるページがあるので、気になる人はのぞいてみてください。

■日本歯科医師会「あなたにピッタリな歯のみがき方を探してみよう!!」■

https://www.jda.or.jp/hamigaki/

2)水分はこまめに摂(と)る、ただし飲み方に気を付けて

水分が不足すると口の中に汚れが残りやすくなり、虫歯や歯周病の原因になります。ですから、日ごろから水分はこまめに摂ることが大切です。ただ、飲み物を飲む嚥下機能は加齢とともに落ちていいきます。そのため、高齢になったら、

  • 一度に多くの量を飲もうとせず、コップ1杯分くらいの量を数回に分けて飲む
  • 薬を飲む場合、「水→薬(粉薬)→水→薬(錠剤1、2錠)→水→薬(錠剤1、2錠)」といった順番で、少しずつ口に含むようにする

など、飲み方に気を付けましょう。

「夜も口の中に汚れがあると、寝ている間にそれが喉に入り、誤嚥性肺炎を起こす恐れがあります。夜、酒を飲んで帰宅するときなどは、歯磨きを忘れたまま寝てしまいがちですが、うがいをするだけでも最低限の効果はあるので、忘れないようにしましょう」(大久保氏)

3)嚥下機能の衰えに備えて、今から体操やマッサージを心掛ける

嚥下機能の衰えは、訓練次第である程度抑えることができます。例えば、

口を最大限に開き、10秒間その状態を保持する動きを、1日5回×2セット

やってみてください。「開口訓練」といいますが、これを繰り返すことで、食道の入り口部分の面積が広がるなどして、食べ物が喉に詰まりにくくなります。この他、有名なものとして、

  • 「パ」「タ」「カ」「ラ」の発音を素早く行い、口や舌の動きを良くする「パタカラ体操」
  • 耳下や顎下の特定の場所を指で押すことで、唾液が出やすくなる「唾液腺マッサージ」

などがあります。日本歯科医師会ウェブサイトで、「オーラルフレイル対策のための口腔体操」として紹介されているので、気になる人はのぞいてみてください。

■日本歯科医師会「オーラルフレイル対策のための口腔体操」■

https://www.jda.or.jp/oral_frail/gymnastics/

4)口の中の自覚症状に敏感になる

一番大切なのは「口の中の自覚症状に敏感になること」です。例えば、毎日歯磨きをする中で、「歯肉の色が赤い、腫れている」「歯の間に物が挟まりやすい」などの違和感を覚えたら、早めに歯科医師に相談してください。

また、目から入ってくる情報だけでなく、口臭にも注意が必要です。

「例えば、毎日ちゃんと歯を磨いているのに口臭がきつい場合、内臓疾患の恐れがあります。実際に口臭が気になって受診してみたら、初期のがんであることが分かり、早めに対処できたケースもあります。繰り返しになりますが、日ごろから口の中をこまめにケアすることが、カラダ全体の健康を守ることにつながるのです」(大久保氏)

 

大久保勝久(おおくぼ かつひさ)
公益社団法人 東京都向島歯科医師会 おおくぼ歯科医院院長。
大久保勝久
1985年に東京都墨田区で同医院を開業後、1992年に移転。以来、30年にわたって地域住民の口腔内の健康管理に積極的に取り組み、高齢者の訪問診療や介護予防にも注力。豊富な診療経験と、行政や多職種と連携した地域のネットワークを活かし、現在は子どもから大人まで生涯を通じての食事指導や災害時の食支援ネットワークにも携わっている。

 

 

以上(2024年1月)

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事例でわかる外国人雇用の労務リスク ~外国人技能実習制度と特定技能制度~

令和4年10月末現在、1,822,725人の外国人が日本で雇用されています(厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況のまとめ」より。)。このうちの422,308人(23.2%)を、在留資格「技能実習」、そして在留資格「特定技能」で占めています。いずれも企業の「現場」で働く、いわゆるブルーカラーの外国人労働者です。

この2つの制度、とりわけ「技能実習制度」では、これまで多くの労務管理上のトラブルが発生しています。ここでは2つの制度の最近の動きや、「企業」そして「外国人労働者」、各々に起因する様々なトラブル事例とその原因、対策等についてご説明します。

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事例でわかる外国人雇用の労務リスク ~外国人技能実習制度と特定技能制度~

令和4年10月末現在、1,822,725人の外国人が日本で雇用されています(厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況のまとめ」より。)。このうちの422,308人(23.2%)を、在留資格「技能実習」、そして在留資格「特定技能」で占めています。いずれも企業の「現場」で働く、いわゆるブルーカラーの外国人労働者です。

この2つの制度、とりわけ「技能実習制度」では、これまで多くの労務管理上のトラブルが発生しています。ここでは2つの制度の最近の動きや、「企業」そして「外国人労働者」、各々に起因する様々なトラブル事例とその原因、対策等についてご説明します。

1 はじめに ~「技能実習制度」と「特定技能制度」の最近の動き~

(1)外国人技能実習制度

「技能実習」は、我が国の技能・技術・知識を発展途上国に移転させる国際協力を目的とした制度として平成5年に創設されました。技能、技術等の習得段階によって「技能実習1号」(1年目)、「技能実習2号」(2年目~3年目)、そして「技能実習3号」(4年目~5年目)の区分に分かれて在留資格が存在します。なお、「第3号技能実習」は一定の基準を満たす「優良な監理団体」かつ「優良な実習実施者」でのみ実施することができるとされています。

令和4年10月現在、約343千人(18.9%)が技能実習生として働いていますが、同年11月に立ち上がった「外国人技能実習制度および特定技能制度の在り方に関する有識者会議」において、「現行の技能実習制度は廃止し、人材確保・人材育成を目的とした新しい制度を立ち上げる」ことが令和5年5月の中間報告書に明記されました。受入れ企業においては、これまでは多くの場合、原則3年間は自社において働く有期雇用労働者であったものが、今後は

① 同一の受入れ企業等において就労した期間が1年を超えていること
② 技能検定(基礎級)等および日本語能力A1相当以上の試験(日本語能力試験N5等)に合格していること

の2つの条件を満たしている場合、本人の意向による転籍を認める方向で、最終報告書作成に向けて検討が進められています(当分の間、分野によって1年を超える期間の設定を認めるなど、必要な経過措置を設けることも検討)。

ただ、新しい制度ができて直ぐに技能実習を廃止するのではなく「政府は、現行の技能実習制度から新たな制度への移行に当たっては、(中略)、現在も多くの技能実習生が受け入れられているという実態に留意し、移行期間を十分に確保すべきである。」とされる見込みです(注)。

(2)特定技能制度

特定技能制度とは、深刻な人手不足に対応するため、令和元年に制定された、一定の専門性・技能を有し、即戦力となる外国人を受け入れる制度です。特に国内で充分な人材が確保できない12分野を「特定産業分野」(介護業、ビルクリーニング業、素形材・産業機械・電気電子部品関連製造業、建設業、造船・舶用工業、自動車整備業、航空業、宿泊業、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業)とし、現場作業等で雇い入れることができます。なお、在留期間については、特定技能1号は5年を上限に、特定技能2号は上限なく日本に在留することができるとされています(特定技能2号については、要件を満たせば配偶者や子の帯同も可能。)。

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建設業2024年問題。人手不足を解決するための働き方改革のポイント

書いてあること

  • 主な読者:「建設業2024年問題」に危機意識を持っている経営者・人事労務担当者
  • 課題:長時間労働を改善したいが、業界の慣習などもあってどう対応していいか分からない
  • 解決策:人手不足の原因を掘り下げ、賃上げや業務のDX化、アウトソーシングなどを行う

1 建設業2024年問題をどうやったら乗り切れるのか?

建設業2024年問題とは、働き方改革関連法によって、

これまで適用を猶予されていた建設業にも、2024年4月1日から「時間外労働の上限規制」が適用されるようになること

です。労働基準法では時間外労働について「原則1カ月45時間、1年360時間までを上限とする」などのルールを設けています。建設業の1カ月の所定外労働時間(就業形態計、年平均)は、2019年以降は働き方改革の影響もあってやや減少したものの、2003年(9.8時間)から2022年(13.8時間)の20年間では増加傾向にあり、2022年時点では調査産業計(10.1時間)よりも3.7時間多くなっています。

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建設業の場合、例えば、

  • 社員の高齢化が進む一方、職場のイメージなどから若手がなかなか入ってこない
  • 工期の関係で、月曜日から土曜日の週6日勤務が当たり前になっている
  • 日中は現場で作業し、夜、会社に戻ってから事務作業を行うのが常態化している

といった会社などは、長時間労働に陥りやすい傾向があります。このままでは建設業2024年問題への対応が難しいのが実情です。そこで、この記事では、建設業2024年問題を乗り切るためのポイントを3つ紹介します。

  • 時間外労働の上限規制の内容を押さえる
  • 人手不足の原因を掘り下げて考え、働き方改革につなげる
  • 賃上げや業務のDX化、アウトソーシングなどの施策を打つ

2 時間外労働の上限規制の内容を押さえる

まずは、時間外労働の上限規制の内容を正確に押さえましょう。そもそも

時間外労働とは、法定労働時間(原則1日8時間、1週40時間)を超える労働のこと

です。本来、社員は法定労働時間しか働けませんが、会社が社員の代表(過半数労働組合または過半数代表者)と通称「36(さぶろく)協定」と呼ばれる労使協定を締結し、所轄労働基準監督署に届け出れば、原則36協定に定めた時間数の範囲内で社員に時間外労働を命じられます。

法改正前は、社員に命じられる時間外労働の時間数について具体的な上限が定められていなかったのですが、建設業の場合、2024年4月1日から図表2のように上限が設定されます。

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この上限規制は、

2024年4月1日以後に効力を発生する36協定について適用

されます。2024年3月31日以前に効力を発生した36協定がまだ有効な場合、その協定に定めた有効期限までは時間外労働の上限規制は適用されず、次に締結する36協定から適用されます。時間外労働の上限規制に違反した場合、労働基準法により、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象になります。

3 人手不足の原因を掘り下げて考え、働き方改革につなげる

建設業は、工期が決まっている上に、下請が元請に合わせて働かないといけないケースが多いため、長時間労働にメスを入れにくい業界といわれています。そこで、

今の状況のまま労働時間を減らすのではなく、人手を増やし1人当たりの作業量を減らす

という発想で長時間労働の改善を考えてみましょう。まずは人手不足の状況の整理です。建設業における職業別就業者数の推移を見ると、全体の就業者数は2003年(604万人)から2022年(479万人)にかけて125万人減少しています。就業者の多くを占める技能者も、2003年(401万人)から2022年(302万人)にかけて99万人減少しています。

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次に注目したいのが、

若手がなかなか入らず、就業者の高齢化が進行している

という状況です。建設業における55歳以上の就業者の割合は、2003年(26.0%)から2022年(35.9%)にかけて9.9ポイント増え、逆に29歳以下の割合は、2003年(17.7%)から2022年(11.7%)にかけて6.0ポイント減っています。しかも、55歳以上の割合は全産業を上回り、逆に29歳以下の割合は全産業を下回るという状態が20年間ずっと続いています。

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従って、人手不足の解消に当たってはまず

いかに若手の入職率を向上(または離職率を低下)させるか

を考えることが大切です。少々古いデータになりますが、若手の建設技能労働者が入職しない、または離職する原因としては、「収入の低さ」「仕事のきつさ」「休日の少なさ」「作業環境の厳しさ」などが関係しているケースが多いようです。

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これらの問題を解決し、若手の入職率を向上(または離職率を低下)させることができれば、人手不足の解消につながるでしょう。仮に即座に若手の採用などにつながらなくても、

「仕事のきつさ」「休日の少なさ」などを改善する取り組み自体が、既存社員の長時間労働の改善につながりやすい

ので、やってみる価値は十分あります。次章で具体的な取り組みの内容をいくつか紹介します。

4 賃上げや業務のDX化、アウトソーシングなどの施策を打つ

1)賃上げ

冒頭でも軽く触れましたが、建設業では「工期の関係で、月曜日から土曜日の週6日勤務が当たり前になっている」という会社が少なくありません。ただ、これは工期だけの問題ではなく、

建設業に日給制の会社が多く、週6日勤務しないと生活給を確保できない

という社員側の事情が絡んでいるケースもあるようです。もし、今よりも単時間労働分の賃金を上げることができれば、生活給を当てにしている既存社員の時間外労働を減らしつつ、前述した若手の「収入の低さ」「休日の少なさ」などに対する不満を解消できるでしょう。

厚生労働省が毎年3月ごろに公表する「賃金センサス(賃金構造基本統計調査)」には、賃金や賞与に関するデータが、会社の規模や産業、社員の属性(性別、年齢、勤続年数、役職、職種など)に応じて細かく分けられています。例えば、建設業の「所定内給与額(基本給など)」は、2022年時点で1カ月当たり33万5400円です(一般労働者の場合)。

自社の賃金が世間相場を下回っている場合、賃上げを検討してもよいかもしれません。ただ、基本給などの固定的な賃金は一度上げると簡単に下げられないので、慎重を期すなら、まずは

支給要件を満たす社員に対して支給する「手当」の増額

で対応するとよいでしょう。建設業であれば、現場作業に従事する社員に支給する「現場手当」や、建築士・土木施工管理技士などの有資格者に支給する「資格手当」などがそうです。雪が多い地域では、除雪作業を行う社員に手当を支給するケースなどもあります。

2)業務のDX化、アウトソーシング

建設業の会社の中には、業務のDX化を図ることで長時間労働の改善を図っているところが数多くあります。例えば、

  • 施工管理アプリを導入し、オンラインで図面上にメモや写真を残せるようにすることで、会社に資料を取りに戻ったり、印刷したりする手間を削減する
  • 測量や土量算出を、人力ではなくドローンやレーザースキャナーを活用して行うことで、現場の社員の負担を軽減する
  • 発注者・元請・下請間の連絡を、オンライン会議システムで行うようにすることで、日程調整や移動にかかる時間を削減する
  • 社員にタブレット端末を貸与し、現場での作業を終えた後、会社に戻らなくても事務作業を行えるようにする。クラウド勤怠管理システムも導入し、打刻も現場で行う

といった取り組みがあります。また、これまで現場の社員がやっていた業務を、別部署や外部の業者にアウトソーシングしている会社もあります。例えば、

  • 現場の社員が行っていた安全書類等のチェックを別部署に委託する
  • 3D施工図の設計を外部のCADオペレーターに委託する

といった取り組みがあります。業務のDX化、アウトソーシングの取り組みは、前述した若手の「仕事のきつさ」「作業環境の厳しさ」などの不満解消につながるでしょう。なお、これらの取り組みについては、国土交通省が詳細な事例集を公表していますので、興味がある人は下記URLからご確認ください。

■国土交通省「建設業における働き方改革推進のための事例集(下記URL下段)」■
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/tochi_fudousan_kensetsugyo_const_fr1_000001_00050.html

3)元請との関係調整

社内で働き方改革を推進したくても、取引先との関係が影響してなかなか前に進まないというのは、どの業界でもある話です。建設業の場合、前述した通り、下請が元請に合わせて働かないといけないケースが多いなど、「元請>下請」という力関係になりがちです。

下請法などにより、元請と下請は対等な関係で取引できるようにルールが整備されていますが、なかには力関係を盾に、元請が下請に理不尽な要求をのませようとする悪質なケースもあります。

社員を守るためにも、明らかに理不尽な要求に対しては泣き寝入りせず、毅然とした対応を取ることが大切です。もしも元請・下請間でトラブルになりそうなときは、次のような相談窓口を活用しましょう。

■中小企業庁「下請かけこみ寺」■
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/kakekomi.html
■公正取引委員会「独占禁止法相談ネットワーク」■
https://www.jftc.go.jp/soudan/index.html

4)「3K」のイメージを払拭する

採用活動社内の働き方改革を図ることができたら、それらを若手の求職者に上手に伝えることが大切です。

例えば、賃金額が世間相場よりも高かったり、ユニークな手当を導入したりしている場合、求人情報でしっかりPRしたいところです。

また、建設業は、いわゆる「3K(きつい・汚い・危険)」のイメージを持たれがちですが、前述した業務のDX化などが進む中で、社員の働き方は変わりつつあります。施工管理アプリやドローンを使って事業を行っている場合などは、その様子を動画で撮影して、会社のウェブサイトやSNSなどで視聴できるようにすると、若手が興味を持ちやすいかもしれません。

以上(2024年1月作成)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)

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画像:noppadon-Adobe Stock

【中堅社員のスピーチ例】今年こそ「竜頭竜尾」を貫こう

皆さん、あけましておめでとうございます。早速ですが、今日は私の新年の抱負を聞いていただきたいと思います。「私は今年2024年中に、今のわが社にない新サービスを立ち上げます!」

あれ……なんだか苦笑する声が聞こえますね。無理もありません。覚えてらっしゃる人もいるかと思いますが、実は私、昨年2023年の1月にも「新サービスを立ち上げる」という、今と全く同じ抱負を述べたのです。そして、あろうことか、本来なら2023年中に達成すべきだったその目標を、途中で投げ出してしまいました。

最初はわが社に何が足りないかを分析したり、同業他社が集まる展示会を見に行ったりと自分なりに動いていたのですが、途中から目の前の業務が忙しくなって次第にやる気が薄れ、諦めてしまったのです。昨年の1月に抱負を述べた自分を思い起こすと、正直「口だけで終わってしまった」と、恥ずかしい気持ちでいっぱいです。

「竜頭蛇尾(りゅうとうだび)」という四字熟語がありますよね。頭は立派な竜なのに、尾は細くて弱そうな蛇。最初は勢いが良くても、最後は尻すぼみで勢いがなくなってしまうという意味で使われます。昨年の私がまさにそれでした。新年の初めにあったエネルギーが、時間とともになくなっていく自覚があり、たびたび「業務が忙しいのは皆同じじゃないか、頑張れよ」と自分に言い聞かせるのですが、結局最後は気持ちが折れてしまって自己嫌悪になりました。

2024年も同じことを繰り返すわけにはいかない。どうにかやる気を持続させたい。色々考えた結果、私はその方法を一つ思いつきました。それは、「毎日を新年の初めのような気持ちで生きる」というものです。新年の初めのような節目のタイミングというのは、大げさに言うと自分が生まれ変わったような感覚になり、誰でもやる気に満ちあふれています。

だから、今年の私は「2024中に新サービスを立ち上げる」という目標を毎日自分に言い聞かせ、目標達成のために毎日やるべきことを決めて1日ずつ全力で取り組みます。42.195キロを走る際、1回きりの長距離走ではなく、全力の短距離走を何回も繰り返してゴールにたどり着くようなイメージです。何だか幼稚に聞こえるかもしれませんが、気持ちを強く持ち続けられない人間が志を貫くには、まず仕事に対する向き合い方を変えなければならないと考えました。

先程「竜頭蛇尾」という四字熟語についてお話ししましたが、今年の私のテーマは言ってみれば「竜頭竜尾(りゅうとうりゅうび)」です。頭は立派な竜で、尾も立派な竜。今年2024年の干支も「辰(たつ)」ですが、地上から天空を目指して登り続ける竜のように、目標に向かって走り続け、年の最後に「よく頑張ったな」と自分で自分を褒められる一年にしたいと思います。今年こそ口だけで終わらせず、来年この場で皆さんに良い報告ができるよう頑張ります。

以上(2024年1月)

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画像:Mariko Mitsuda

「【何を】褒めるか」の5つのターゲットとその活用テクを伝授/武田斉紀の『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』(7)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:最近話題のZ世代(1990年代後半以降生まれで会社においては20代前半くらいまで)だけでなく、それ以前の平成生まれ(30代前半くらいまで)の世代と、現在経営や管理職を担っている昭和世代との世代間ギャップが注目されています。それは価値観の違いやコミュニケーションの違いとして表れ、変化や多様性が求められる昨今、日本企業において深刻な経営の足かせとなりつつあるようです。
  • 解決策:まず会社においてZ世代を含む平成生まれと昭和生まれの世代背景を整理しながら、ギャップを埋めるための「価値観の変化」を明らかにします。その上で、筆者が多くの講演や企業研修で紹介してきた『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』を実践的に指南します。

1 相手を「褒める」ときに、【何を】褒めるのがベストか意識できていますか?

今シリーズでは、昭和生まれの管理職・リーダー世代と、平成生まれ、とりわけ「Z世代」との価値観に、ここ10年ほどで“真逆”といえるほどのギャップが生まれていることを取り上げています。

世界のビジネス上の価値観は、平成生まれや「Z世代」の価値観のほうに寄っており、会社の成長を今後も目指すためには管理職・リーダー側の皆さんが、価値観やコミュニケーション習慣を見直す必要に迫られているのです。

『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』その1の『傾聴』に続いて、前回第6回からは、その2『褒める』を取り上げています。

『褒める』は各社における35歳くらいから以下の平成生まれや、新人や若手の「Z世代」が育ってきた環境を象徴するキーワードの1つです。彼らは昭和生まれの『叱る』ではなく、『褒める』ことを優先した教育を経験しています。

同時に『褒める』は、『傾聴』と同様にグローバルで互いを尊重し合うDEI(=Diversity:多様性, Equity:公平性, Inclusion:包括性)にもつながっており、昭和世代にとって「人を褒めるなんて恥ずかしくて自分には無理」と逃げている場合ではなくなっているのです。

今回は、『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』その2の「褒める」について、「【何を】褒めるか」の5つのターゲットとその活用テクを伝授したいと思います。

皆さんは相手を「褒める」ときに、【何を】褒めるのがベストかを意識できていますか?

2 ①「見た目や持ち物」を褒める vs ②「内面や行動」を褒める

①「見た目や持ち物」を褒める [初対面向き]

見た目や持ち物は比較的簡単に【何を】が見つけられます。早ければ会った瞬間に見つけられるので、[初対面向き]ともいえます。

例えば、「髪形が決まっていますね。かっこいいなあ!」「素敵な時計ですね。こだわってますねー」「笑顔が素敵ですね!」といった感じ。相手は照れ臭そうですが、まんざらでもない様子でうれしそうです。

一瞬で気付けるほど目立っている見た目や持ち物は「ここを褒めて」と言っているようなものです。出会った瞬間から探すことを意識していればすぐに見つかります。

本人が普段からこだわっている可能性が高いので、そこを声に出して言うだけで、相手は「わかります?」という気持ちになって互いの距離が一気に縮まります。

なかんずく初対面同士が集う会合などで有効です

が、相手はうれしさのあまり褒めたこだわりポイントについて語り続けるかもしれません。その際はタイミングを見て「いやあ、私のほうが詳しくなくてすみません。勉強になりました、ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします」と告げて、次の方との出会いに進めばいいでしょう。

社内でも新人や異動してきた社員を迎える際に有効です。ただし①「見た目や持ち物」を褒めるには、注意するべき点もあります。特に意識してほしいのはセクハラ(セクシャルハラスメント)への配慮です。セクハラか否かの判断基準は、自分側ではなく相手の中にあります。

例えば、「おしゃれだね」まではよいとしても、その後に「今日はデートなの?」と続けると、セクハラになる可能性があります。「髪切った? 何かあったの?」も同様です。仕事に関係ないプライベートは個人の自由、余計な詮索をしてはいけません。

男性が女性の服装や髪形を褒めるのは、かなり高度なテクニックが必要なのでお薦めしません。パートナーや家族を褒めるときでも失敗しがちです。「その服、素敵だね」と褒めても「2回目だけど」と返されたり、「髪切った? 似合うね」と褒めても「切ってない、まとめただけだけど」と返されたりすることはママあります。

また、相手が複数いるのに1人だけに「おしゃれですね」「髪形が似合ってますね」と褒めると、他の人は自分はそうではないのかなと不機嫌になってしまうかもしれません。

②「内面や行動」を褒める

①とは対照的に、内面や行動はすぐにはわかりません。だからこそ、②の「内面や行動」を褒めるがはまると、相手は「普段から自分のことをよく見てくれているんだな」と感じて相互の信頼関係が高まります。組織においては上司と部下の関係構築に向いています。

例えば、「〇〇さんは後輩の面倒見がいいですね、優しいんですね」「〇〇さんはいつも仕事が丁寧ですね」「〇〇さんはいつも字がきれいですね」といった感じです。

「内面や行動」を褒めるポイントの見極めは、普段から相手の良いところを見つけてあげようと意識していれば、難しいことではありません。見つかったら素直に言葉に出して届ければいいのです。「内面や行動」は何度褒めてあげても構いません。

「何度も言っちゃうけど、〇〇さんは本当に仕事が丁寧ですね」と言えば、相手はそれを強みに感じて自信になり、もっと上を目指してくれることでしょう。褒めることで一人ひとりが育っていくのです。

3 ③「変化や成長」を褒める ④「貢献」を褒める

これらは②「内面や行動」を褒めるの発展形といえるでしょう。

③「変化や成長」を褒める

②の「内面や行動」の中でも、目立った③「変化や成長」を褒めます。それには長期的な関係が前提となりますが、半年、1年と長い付き合いだからこその大きな効果を発揮します。

例えば、「今日の朝会の司会、前回より良かったですよ」「企画書の書き方がこの1年ですごく上手になりましたね」といった感じです。褒められた本人はうれしくなって、もっと上を目指そうと心に誓うのではないでしょうか。

朝会など毎週、毎月実施するものであれば、長期でなく1週間、1カ月でも可能です。とにかく本人の「変化や成長」を、つぶさに観察しておいてあげることが大切なのです。

④「貢献」を褒める

「貢献」を測るにも③と同様に長期的な関係が前提となります。期間が長ければ長いほど、“褒める”ことの効果は大きいといえるのではないでしょうか。

例えば、「今回も目標達成できたのは〇〇さんのおかげですよ」「〇〇さんの気遣いで、私は救われました」といった感じです。

個人や組織への「貢献」を褒められることは、本人にとっては「この仕事をしていてよかった」とやりがいに思えるレベルの喜びでしょう。褒める側は、本人の貢献への感謝を正直に述べたまでですが、そのことが本人の仕事や会社へのエンゲージメントを想像以上に高めるケースがあるのです。

4 ⑤「ナンバーワン」だけでなく「オンリーワン」を褒める

結果を出した「ナンバーワン」のメンバーは、ラッキーがあったとしても褒めてあげましょう。それなりの数の競争相手がいればラッキーだけで「ナンバーワン」は取れません。ラッキーだって努力の結果かもしれないのですから。

そして

「ナンバーワン」のメンバーと同時に、プロセスも含めて「オンリーワン」の貢献や成長をしたメンバーを褒めることも重要です。

人は「誰にでもできる仕事」より、「自分にしかできない仕事」にやりがいや自身の存在価値を感じるものです。

例えば、「〇〇さんの気遣いあっての△課ですよ」「〇〇さんのサポートがあったから、頑張ってこられました」と、「オンリーワン」の言葉を添えられたらこの上ない喜びでしょう。④の「貢献」を褒めるの喜びに加えて、現在の仕事を“天職”とまで思えるかもしれません。

仕事や会社へのエンゲージメントはいうに及ばず、上を目指して自らどんどん成長して、周囲や会社により良い影響を与えてくれることでしょう。

もちろん、会社としては〇〇さんが病気で急に休むことになっても十分に回る組織でなければなりませんが、一人ひとりの「オンリーワン」の個性が生きている職場こそ、輝いている職場なのだと思います。

以上、今回は「【何を】褒めるか」の5つのターゲットとその活用テクをご紹介してみました。

最後までお読みいただきありがとうございました。次回は、「相手を【どのように】褒めればいいか」をテーマにお話ししていきたいと思います。

<ご質問を承ります>ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで
Mail to: brightinfo@brightside.co.jp

※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』(PHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。キャリア選択でお悩みの方にお薦めです。

https://www.amazon.co.jp/dp/B0CMCW1FVY/

以上(2024年1月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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社長の言葉と泥臭さが学生に受ける!インターンシップで採用するためのヒント

書いてあること

  • 主な読者:採用活動の一環としてインターンシップを実施したい経営者
  • 課題:インターンシップをしたことがないし、知名度がないので参加者が集まるのか不安
  • 解決策:大まかな流れを押さえつつ、「現場感」「短期集中」を意識する

1インターンシップは採用チャンス!

かつてはインターンシップを採用選考に組み込む「インターンシップ採用」は御法度でしたが、2025年卒生(2023年4月時点で学部3年生)からは条件付きで緩和されます。ということで、各社ともインターシップ採用を取り入れようとしています。そして、このインターシップ採用、実は中小企業にとってはチャンスです。なぜなら、

中小企業のインターンシップは実践的で、社長が泥臭く語りかけることができる

からです。特に、起業前の就業先を探している学生や、実業に触れたい学生には魅力的ですし、就業体験を経た上での採用なら入社後のミスマッチも防ぎやすくなります。

この記事では、中小企業がインターンシップ採用に取り組む際のポイントを3つ紹介します。

  • インターンシップ採用の大まかな流れをつかむ
  • 泥臭く、「現場感」を前面に出す
  • 「短期集中」を意識しつつ、ある程度柔軟に対応する

2 インターンシップ採用の大まかな流れをつかむ

文部科学省・厚生労働省・経済産業省「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」では、学生のキャリア形成支援活動が図表1の通り、4つに類型化されています。いわゆる「インターンシップ」はタイプ3とタイプ4ですが、タイプ4は主に理系大学院生を対象とするので、

多くの企業に関係するのはタイプ3の「汎用的能力・専門活用型インターンシップ」

です。

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2025年卒生から、タイプ3とタイプ4で得た学生の情報を採用活動で利用できるようになっています。具体的には、

インターンシップに参加した学生に求人案内を送る、選考過程を一部免除するなど

といったことができます。ただし、そのためには産学協議会(日本経済団体連合会と大学関係団体等の代表者により構成)基準に準拠した、図表2の5つの要件を満たす必要があります。

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5つの要件を満たすことが理想ですが、これらは法律のような強制力があるものではないので、しゃくし定規に従う必要はないともいえます。それよりも、中小企業は学生に自社の良さをアピールできるプログラムの検討に注力するべきでしょう。以降では、中小企業がインターンシップを実施する上でのポイントを紹介します。

3 泥臭く、「現場感」を前面に出す

インターンシップの参加者を集めるには、

大学のキャリアセンターや就活サイト、自社ウェブサイトなどで時期や期間、内容などの要項を告知する

といった方法があります。ただ、形式的な内容を出しても学生の興味はひけないので、より現場感のある発信をすべきです。例えば、外構工事業を営むある会社では、自社ウェブサイトで、

  • そもそも外構とは何なのか
  • スタッフの1日の仕事の流れ
  • 職場で達成感や満足感が得られる理由

などを、イラストや写真付きで分かりやすく紹介しています。また、SNSの動画サイトで自社の事業や社員の仕事内容をアニメーションで紹介しており、動画の最後にインターンシップや会社訪問を常時受け付けている旨と受付用の連絡先を記しています。こうした募集は、

業界に興味があるけど、自分が実際に仕事をするイメージが湧かない。もっと“現場感”のある話が聞きたい

という学生の興味をひくはずです。

こうして参加者を集めることができたら、時間がゆるす限り社長も参加者と交流しましょう。中小企業の魅力は社長の魅力でもあります。社長が語る内容は、学生にとってかなりエキサイティングなはずですし、恐らく大学の講義では教えてくれないもののはずです。

なお、最近はオンラインでインターンシップを行うケースも増えています。オンラインにするか対面にするかについては、内容によって次のように使い分けるとよいでしょう。オンラインと対面を交互に行うのもよいでしょう。

  • オンライン:会議や説明、情報収集、個人の作業など
  • 対面:職場の見学、クライアントへの訪問、社員のサポートなど

4 「短期集中」を意識しつつ、ある程度柔軟に対応する

インターンシップはやりたいが、本業が忙しくてなかなかリソースを割けないという会社は少なくありません。そんな場合におすすめしたいのが「1dayインターンシップ」です。

1dayインターンシップとは、文字通り、1日限りのプログラムであり、インターンシップにあまり時間を割けない場合に有効です。また、何日もかけてダラダラとインターンシップを行うよりも、充実した1日を過ごしてもらいつつ、自社に興味を持ってくれた学生に個別にアプローチするほうが中小企業にとっても効率的です。

例えば、情報通信業の会社が行う1dayインターンシップのプログラム例としては、

  • 午前:IT業界の現状や将来像に関する説明会
  • 午後:要件確認、設計、プログラム、テスト、完成報告を疑似体験

といったものが考えられます。一方、1dayインターンシップを基本としつつ、意欲のある学生に対しては必要に応じて中長期のインターンシップを実施するという方法もあります。例えば、建設業などを営むある会社では、

  • 工場見学、ものづくり体験:数時間から1日
  • より実践的な業務体験(ポンプの分解点検、レーザー加工など):5日から2週間

といった具合に、インターンシップの実施期間について複数の選択肢を設けています。会社が割くべきリソースは増えますが、選択肢を設けることで、より意欲のある学生を見つけやすくなるメリットがあります。なお、この会社ではインターンシップを実施する際、

会社が事前にあれこれ決めず、学生の希望に合わせてどんな内容にするかを検討していく

という方法を取っています。大企業の場合、参加人数の関係で日程や内容をある程度画一的にせざるを得ませんが、この辺りを柔軟に調整できるのは、中小企業ならではの強みといえます。

5 (参考)インターンシップの日数、学生側の要望など

最後に、「リクルート 就職みらい研究所」が2025年卒生に対して実施したアンケート調査(2023年9月実施)から「インターンシップ等の内容別参加日数」「インターンシップ等に参加して良かった点(参加日数別)」のデータを紹介します。インターンシップ等の内容別参加日数は図表3の通りです。どのような内容のインターンシップであっても、日数については「1日以下」で実施するケースが多いようです。

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インターンシップ等に参加して良かった点(複数回答)は図表4の通りです。参加日数に関係なく、学生はインターンシップを通じて「業種や仕事などについて具体的に知れる」ことを、特に期待しているようです。

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以上(2024年1月)

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画像:unsplash

【中堅社員のスピーチ例】ライト兄弟を成功に導いた「ライバル」

いよいよ12月になりました。今日は飛行機の発明で知られる、米国のライト兄弟の話をします。なぜ12月にライト兄弟なのかというと、今から120年前の1903年12月17日、この2人が世界初とされる、動力飛行機による飛行を成功させたからです。実は「世界初」という部分については諸説あるようですが、いずれにせよ「空気よりも重い機械を空に飛ばす」という、当時としては考えられないレベルの偉業を成し遂げた兄弟です。

ライト兄弟の本業は自転車屋で、元々は飛行機とは特に縁のない人たちでした。ですが、自転車の小売りや修理を請け負う傍ら、自分たちのオリジナル製品を作って成功を収めるなど、乗り物への造詣が深かった彼らは、あるときドイツの航空研究家オットー・リリエンタールがグライダーによる飛行を成功させたニュースを耳にし、空の世界に興味を持ちます。その後、リリエンタールが実験中に墜落死したことを知ると、「高い所から風に乗るグライダーではなく、平地から自力で飛び上がれる乗り物を作れないか」と考え、飛行機の発明に本格的に乗り出したのです。

まずはリリエンタールをはじめとする先駆者たちの航空資料などを基に飛行の基本を勉強するところから始め、さらに自分たちの本分である自転車を改良した装置を使って空気の抵抗を測定したり、自転車の部品を使って数百種類の翼の模型を作ったりと、飛行機を飛ばすための研究を地道に続けました。

そして、何百回にも及ぶ飛行実験のデータを蓄積し続け、とうとう1903年12月17日、ライト兄弟は12馬力のエンジンを搭載した飛行機「ライト・フライヤー」を空に飛ばすことに成功します。彼らが飛行機の発明に乗り出してから、約7年の歳月が過ぎていました。なぜ、彼らは最後まで諦めなかったのか。色々な考え方があるでしょうが、私はライト兄弟にとって負けたくない「ライバル」がいたからだと思っています。

それは、先ほどの話にもあったリリエンタールです。彼は、墜落による非業の死を遂げながらも、亡くなる直前に「成功のためには、犠牲を払わなければならない」という趣旨の言葉を残しています。リリエンタールは自分の死を悲観せず、最後まで人類が空を飛ぶ未来に思いを馳せていたのです。ライト兄弟は彼の死をきっかけに飛行機の発明に本格的に乗り出していますから、もしかしたら失敗でくじけそうになったとき、「リリエンタールだったらここで弱音は吐かない。我々も負けてたまるか」と、自分たちを奮い立たせていたのかもしれません。

誰かは内緒ですが、私にもこの会社に負けたくないライバルがいます。自分がくじけそうになったとき、「あの人だったらここで弱音は吐かない」と自分を奮い立たせるようにしています。もし皆さんの中に、私のことをそのように思っている人がいてくれたらうれしい限りです。これからもいい仲間、いいライバルでいてください。

以上(2023年12月)

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画像:Mariko Mitsuda

全国各地に広がる「子ども食堂」に企業はどんな支援ができる?

書いてあること

  • 主な読者:子ども食堂の支援を通して地域貢献などを検討している経営者
  • 課題:企業ができる支援策や、支援をする際の相談先を知りたい
  • 解決策:物品の寄付以外にも、場所の貸し出しや学習体験の提供といった支援策がある。子ども食堂を支援するNPO法人や地方自治体が相談先となる

1 全国各地で広がる子ども食堂 その役割は?

子どもが1人でも行けて、無料あるいは低価格でご飯が食べられる「子ども食堂」。発祥は、2012年に東京都大田区で「気まぐれ八百屋だんだん」を経営していた近藤博子氏が、家庭の事情で食事が作れない家の子どもに対して、「だんだんワンコインこども食堂」として低価格で夕食を提供したことだとされます。この活動が東京都豊島区で子どもを支援する「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」の栗林知絵子氏の目に留まり、子ども食堂を知ってもらうための講演会やシンポジウムの全国ツアーが行われました。

加えて、子どもの孤食問題の認知拡大、コロナ禍で経済的に困窮する家庭が増えたことなども背景に、子ども食堂は全国各地に広まっていきました。全国こども食堂支援センター・むすびえの「こども?堂全国箇所数調査2022結果」によると、2018年には2286カ所だった子ども食堂は、2022年に7363カ所となっています。

子ども食堂の箇所数の推移"

昨今は国や地方自治体が予算を投入したり、地域の子ども食堂をリストアップしたりして、寄付先を募るといった支援の動きもあります。しかし、元々は民間発の取り組みなので、費用や食材などの調達、開催場所の確保が課題であり、企業の支援が求められています。

一方、別の視点では、

子ども食堂を「食事の提供だけでなく、地域の大人と子どもが交流し、お互いに経験を広げることができる場所」

と捉え、子ども食堂と共同してイベントを開催し、地域貢献や企業の人材育成につなげるなどの新しい支援の形に取り組む企業も出てきています。

この記事では、子ども食堂への支援に取り組む企業の事例や、企業が子ども食堂への支援を検討する際に相談、問い合わせ先となる窓口団体などを紹介していきます。

2 子ども食堂の課題・企業による子ども食堂への支援事例

1)子ども食堂の課題

「こども食堂の現状&困りごとアンケートvol.8 結果報告」によると、子ども食堂での困りごと(上位10回答)は次の通りです。このアンケートは、全国こども食堂支援センター・むすびえが、全国各地の「子ども食堂の地域ネットワーク」および「子ども食堂ネットワーク」とつながる子ども食堂を対象に行ったものです。

子ども食堂での困りごと

子ども食堂の課題はさまざまですが、例えば、運営資金やスタッフ、会場の不足などは企業による支援の余地があるといえます。企業による具体的な支援策としては、次のようなものが挙げられます。

企業による子ども食堂への支援策の例

以降で実際の企業事例を見ていきましょう。

2)子ども食堂で出前授業を実施:エナリス(東京都千代田区)

電力の需給管理や電力卸取引などを手掛ける同社では、東京都港区にある「みなと子ども食堂」の中で開催している学習会で出前授業を開催しました。

授業は電力の需要予測をテーマに、電気に関する基礎知識を説明した後、自宅、コンビニ、学校で一日の中でいつ、どのようなときに電気を使うかのワークを行いました。

出前授業によって子どもに新しい興味が生まれ、子どもの未来や電力業界の成長の芽につなげることが狙いとしています。

3)自販機の設置、売上で子ども食堂を支援:ダイドードリンコ(大阪府大阪市)

同社では、売上金の一部を地域の子ども食堂に寄付できる寄付型の自動販売機を展開しています。同社の自販機設置について解説するウェブサイトでは自治体や企業での自販機導入事例を紹介しています。導入した企業によると、地域貢献の方法として寄付型の自販機の設置が検討しやすいことや、飲料を購入するだけで気軽に地域貢献につながるため、社員に意識付けができることがメリットといいます。

また、自治体によっては同社と協定を締結している場所もあります。例えば、愛媛県新居浜市では「こども食堂等子どもの居場所を支援するための協働に関する協定書」を締結し、地元企業に自販機を設置してもらうことで子ども食堂への支援に取り組んでいます。

4)飲食店と連携して子ども食堂を推進:テンポイノベーション(東京都新宿区)

飲食店物件に特化した不動産業を手掛ける同社では、東京都内の飲食店で子ども食堂を開催する取り組みである「お店のこども食堂『みせしょく』」を、2019年から取引先の飲食店と共同で展開しています。

子ども食堂は、地域のボランティアが運営するケースが一般的なため、食材の調達、開催場所の確保、開催の告知などの負担が大きく、継続して開催することが難しくなる場合があります。一方で、飲食店で子ども食堂を開催することによって、食材の調達や開催場所の確保といった課題を解決でき、いつ、どこでも子どもがおなかと心を満たせる環境が整うといったメリットがあります。

なお、子ども食堂の活動資金は同社の企業利益から充てられており、2023年8月末時点で57店舗の参加実績があります。

5)居酒屋でチャリティーメニューを展開:ファイブグループ(東京都武蔵野市)

居酒屋・ダイニング経営を手掛ける同社では、吉祥寺で子ども食堂を定期開催しています。

店舗に来店した顧客が「子ども食事券」を購入して店舗に置き、その食事券を使って子どもは無料で食事を摂ることができるという仕組みになっています。

また、活動費は顧客が購入する食事券以外にも、グループ店舗で展開しているチャリティーメニューの売上金額を充てています。

子ども食堂の活動を通じて、リピーターの来客が増えて店舗の売上に貢献したり、社会貢献の取り組みに共感したとして、入社を希望する学生が増えて人材確保につながったりするなど、地域貢献に限らず企業にとってもメリットが大きい事例といえるでしょう。

6)社員寮を子ども食堂の会場として提供:西松建設(東京都港区)

同社では、福岡県大野城市にある社員寮の食堂を子ども食堂の「おおのじょうこども食堂みずほ町」の会場として提供しています。

この子ども食堂はNPO法人チャイルドケアセンターが開催している子ども食堂で、子ども食堂を定期的に開催できる会場が確保できなかったり、食材や備品を保管する場所が無かったりしたという課題をきっかけに、西松建設がチャイルドケアセンターに支援を申し出たことで実現したそうです。

社員寮に外部の団体が入ることのリスク管理は、次のような対応を取っているといいます。

  • 施設のセキュリティ:建物の解錠・施錠は寮の管理人のみが行う
  • 食中毒、ケガなどのトラブル対策:保健所主催の食品衛生管理・食中毒予防関連の研修の受講、参加するスタッフや子どものNPO活動総合保険への加入
  • 運営団体の信頼確保:チャイルドケアセンターが子ども支援や子育て支援に取り組んできた実績を示す資料の確認

7)自社の運営施設で子ども食堂を開催:ラグジュアリー(福岡県福岡市)

賃貸管理や保育園の運営などを手掛ける同社では、同社が運営する「コワーキングサロン&カフェラウンジ 四季のいろ」で子ども食堂を開催しています。子ども食堂では、カレーなどの食事提供と併せて、書道や英会話、プログラミング教室も催しています。

学校の授業では教わらない体験を通じて子どもに学ぶ楽しさを知ってもらうとともに、施設に集まった子ども同士で一緒に学ぶことで、学校外でのコミュニティ作りや友達づくりを支援する狙いがあります。

3 子ども食堂を支援するときの相談、問い合わせ先となる団体

1)全国こども食堂支援センター・むすびえ

全国各地の子ども食堂を支える団体への支援、子ども食堂を応援したい企業・団体との協働事業、こども食堂が全国にどのくらいあるか調べるなどの調査研究を手掛けています。企業・団体が子ども食堂を支援するに当たり、次のような例があります。

  • 社内や施設内への寄付付き自動販売機の設置、古本の寄付
  • 寄付付き商品の企画や、イベントでの売り上げなどを寄付するための支援
  • 食材や備品などの物資、商品を子ども食堂に提供するための仲介
  • 子ども向けの食育、健康教育、アート体験など企業が手掛ける体験プログラムを子ども食堂に提供するための仲介
■全国こども食堂支援センターむすびえ■
https://musubie.org/

2)全国食支援活動協力会

「こども食堂サポートセンター」の運営や、子ども食堂への支援マッチングなどを手掛けています。同団体のウェブサイトでは、企業連携の事例を紹介しており、王将フードサービスによる商品売上代金の寄付や、アサヒ飲料による飲料と絵本の寄付といった事例があります。

■全国食支援活動協力会■
https://mow.jp/

3)地方自治体による子ども食堂の開設・寄付に関する相談窓口

市区町村によっては、ウェブサイト上で子ども食堂の開設や寄付に関する相談窓口をはじめ、その地域内にある子ども食堂の一覧や、どのような支援を必要としているかの情報を公開している場合があります。また、自社で子ども食堂を開設する場合の手続きや開設に伴う助成金制度がある場合もあるので、最寄りの自治体のウェブサイトを確認してみるとよいでしょう。

以上(2024年1月)

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画像:hasegawa risa-Adobe Stock

「解雇」の種類と基本ルール

書いてあること

  • 主な読者:「解雇」の基本的なルールを知りたい経営者
  • 課題:解雇にはさまざまな種類があり、また基準も曖昧なので分かりにくい
  • 解決策:就業規則に定める。会社や社員の状況から解雇が本当に妥当かを検討する

1 解雇のハードルは高い、ルールを押さえて慎重に

「解雇」とは、使用者(会社)が労働契約を一方的に解約することです。多くの会社にとって解雇は身近なものではないですが、雇用の考え方やルールが変化する中で、今後は解雇の在り方も変わっていくのではないかという声があります。例えば、「ジョブ型雇用が浸透していくと、能力が仕事に追いつかない社員を解雇する会社が増えるのではないか」といった具合です。

ただ、注意しておかなければならないのは、

少なくとも今の日本の法制度では、解雇が認められるハードルは高く、慎重に手続きを進めないと、社員と訴訟などのトラブルになるリスクがあること

です。トラブルを防ぐには、次のような解雇に関する基本ルールを押さえる必要があります。

  1. 解雇の種類(普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の3種類)
  2. 解雇全般に共通する基本的なルール(解雇権濫用法理など)

2 普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の違い

1)普通解雇

普通解雇とは、

病気やけが、能力不足などを理由に、社員を解雇すること

をいいます。「社員が会社に対し、労務を提供できなくなった場合に行われる」というのがポイントです。普通解雇が行われる主なケースは次の通りです。

  • 社員が病気やけがで就業不能になった
  • 社員の勤務成績が会社の求める水準に達しない状態が続いた

2)整理解雇

整理解雇とは、

経営危機の状態にある会社が、余剰人員の削減を目的として社員を解雇すること

です。「社員の能力不足などに関係なく、経営上の理由で実施される」というのがポイントです。整理解雇が行われる主なケースは次の通りです。

  • 会社の収益が不況による販売不振で著しく悪化した
  • 会社の設備などが災害で大きく損傷し、事業の縮小を余儀なくされた

3)懲戒解雇

懲戒解雇とは、

極めて悪質な規律違反や非行があったときに、就業規則にのっとり、懲戒処分として社員を解雇すること

です。「重大な問題行為をした社員を罰する目的で行われる」というのがポイントです。懲戒解雇が行われる主なケースは次の通りです。

  • 社員が会社の名誉を害する犯罪行為や重大なハラスメント行為をした
  • 社員が重要な経歴を詐称して入社した
  • 社員が正当な理由なく、無断で遅刻、早退、欠勤を繰り返した

3 解雇の基本的なルール

1)解雇権濫用法理

解雇権濫用法理とは、

「客観的に合理的な理由」を欠き、「社会通念上相当」であると認められない場合、解雇は不当解雇として無効になるというルール

です。この解雇権濫用法理は労働契約法第16条に明文化されています。

1.客観的に合理的な理由

客観的に合理的な理由とは、

客観的に見て解雇はやむを得ないといえるだけの具体的理由のこと

です。例えば、社員の著しい能力不足、契約義務違反、経営上の必要性などがそうです。なお、多くの裁判例では、「就業規則の解雇事由に該当するかどうか」が、解雇の客観性・合理性を肯定する重要な基準になっています。つまり、就業規則に解雇事由に関する規定がないと、不当解雇と判断されるリスクが高いということです。

2.社会通念上相当

社会通念上相当とは、

社員の行為や状況に照らして、解雇が妥当であるかということ

です。例えば、「たった1回の少額な納品ミスで能力不足と判断し、解雇する」というのは厳し過ぎて、社会通念上相当とはいえません。

2)解雇ができない期間

会社は次の期間中、社員を解雇することができません。

  1. 業務上の病気やけがで療養するために休業する期間と、休業終了後30日間
  2. 産前産後休業の期間と、休業終了後30日間(女性社員のみ)

ただし、1.の場合、療養開始後3年を経過しても治癒しなければ、平均賃金の1200日分の「打切補償」を支払うことで、解雇制限が解除されます。また、天災事変などによって事業の継続が不可能となった場合も同様です。なお、平均賃金とは、算定事由発生日(けがをした日や病気が判明した日など)以前の直近3カ月間の賃金総額(賞与等を除く)を、算定事由発生日以前の直近3カ月間の総日数で除した金額です。

3)解雇予告と解雇予告手当

原則として、解雇は事前に予告して行わなければなりません。これを「解雇予告」といいます。解雇予告は少なくとも30日前にしなければなりませんが、「解雇予告手当(平均賃金)」を支払えば、その日数分、解雇予告期間を短縮できます。

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また、例外として、懲戒解雇など社員に帰責性があって解雇する場合や、天災事変により事業の継続が不可能となった場合、解雇予告なしに解雇することが可能ですが、その際は会社を管轄する労働基準監督署の事後認定を受けなければなりません。

4)即時解雇が認められている社員(例外あり)

次の社員は、解雇予告や解雇予告手当の支払いを経ずに解雇することができます。ただし、一定の条件を満たすようになると、解雇予告などが必要となります。

  1. 日雇いの社員(1カ月を超えて使用された場合を除く)
  2. 2カ月以内の期間を定めて使用される社員(定めた期間を超えて使用された場合を除く)
  3. 4カ月以内の期間を定めて季節的業務に従事する社員(定めた期間を超えて使用された場合を除く)
  4. 試用期間中の社員(14日を超えて使用された場合を除く)

5)原則として契約期間中の解雇は認められない

パート等の有期契約社員を契約期間の中途で解雇することは、やむを得ない事由(天変地異や会社の倒産、パート等の重大な非違行為など)がある場合を除いて認められません。解雇する場合も、会社に過失があれば、損害賠償責任を負う恐れがあります。

6)その他

この他、労働基準法や育児・介護休業法、男女雇用機会均等法により、

  • 国籍、信条、社会的身分を理由とした解雇
  • 妊娠や出産などを理由とする解雇
  • 育児休業・介護休業などを取得したことを理由とする解雇

が禁止されています。

以上(2023年12月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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