『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』その2は「褒める」/武田斉紀の『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』(6)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:最近話題のZ世代(1990年代後半以降生まれで会社においては20代前半くらいまで)だけでなく、それ以前の平成生まれ(30代前半くらいまで)の世代と、現在経営や管理職を担っている昭和世代との世代間ギャップが注目されています。それは価値観の違いやコミュニケーションの違いとして表れ、変化や多様性が求められる昨今、日本企業において深刻な経営の足かせとなりつつあるようです。
  • 解決策:まず会社においてZ世代を含む平成生まれと昭和生まれの世代背景を整理しながら、ギャップを埋めるための「価値観の変化」を明らかにします。その上で、筆者が多くの講演や企業研修で紹介してきた『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』を実践的に指南します。

1 『傾聴』はグローバル化の基本的価値観の1つ「インクルージョン」でもある

今シリーズでは、昭和生まれの管理職・リーダー世代と、平成生まれ、とりわけ「Z世代」との価値観に、ここ10年ほどで“真逆”といえるほどのギャップが生まれていることを取り上げています。

世界のビジネス上の価値観は、平成生まれや「Z世代」の価値観のほうに寄っており、会社の成長を今後も目指すためには管理職・リーダー側の皆さんが、価値観やコミュニケーション習慣を見直す必要に迫られているのです。

第3~5回では、『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』その1として『傾聴』を取り上げ、その基本“姿勢”と“技術”を紹介してきました。

気持ちに寄り添って相手の話を一旦全て受け留める『傾聴』は、グローバル化の基本的価値観とされる「DEI=Diversity, Equity, Inclusion)」の「I:インクルージョン」にも当たるといえるでしょう。

さて今回から、『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』その2として、「褒める」についてお話しします。

2 「日本人は褒めない、褒めるのが下手、苦手」の背景に3つの誤解

「褒める」の話をしようとすると、身構える日本人が多いのはなぜでしょう。「日本人は褒めない」「褒めるのが下手、苦手」という自覚があるからでしょうか。私は、背景に3つの誤解があるからと考えています。順にその誤解を解いていきましょう。

【誤解①】「褒める」なんて自分には無理と思い込んでいる

人を「褒める」なんて照れ臭いし、自分はそんなキャラじゃない、勘弁してくれと避けている人が多いようです。

挙げ句、私が「皆さん、もっと周りの人を褒めましょう」と言うと、「ふたこと目には褒めろという風潮がおかしい、何でも褒めりゃいいってものじゃない」と反論されることもあります。

しかしながら、すでに若い世代とのギャップについてお話ししたように、彼らは褒められて育ってきましたし、叱られることに慣れていません。同時にグローバルのインクルージョンの考え方も互いをリスペクト(尊敬)し合い、認め合うことを求めています。

無理とか、苦手と言ってずっと逃げてばかりいると、気が付けばあなたの周囲には誰も近寄ってこなくなっているかもしれません。「そんなこと言われても、無理なものは無理」でしょうか。

実はかくいう私も、かつては極端な“褒め下手”でした。

「自分が心からすごいと思っていないのに褒めるなんてできない」「お世辞すら言えない性分なのだからしょうがない」と考えていたのです。

時を経て現在。私が講演や研修の講師を務めていると、受講者や先方のスタッフから、「武田さんは参加者を褒めるのが本当に上手ですね」と言っていただけるようになりました。「昔はものすごく“褒め下手”だったのですよ」と告げると、意外な顔をされます。

お世辞が言えないのは今でも変わりません。ただ少しだけ勇気を出して、最初の一歩を踏み出してみただけなのです。

試しに身近な誰かに、相手の普段からいいなと心で思っていることを言葉にして褒めてみました。そんな私を見たことがない相手は、一瞬ぎょっとして気持ち悪がります。それでもめげずに繰り返し、他の人にも同じようによいと思っているところを言葉にして伝えてみました。

するとどうでしょう。私から褒められることにみんな慣れてきました。そして少し照れ臭そうにしながらも、素直なお礼の反応が返ってくるようになったのです。なぜでしょうか?

基本的に「褒められてうれしくない人はいない」からです。

中には「恥ずかしいので人前で褒めないでください」と言ってくる部下もいるかもしれません。ならば1on1ミーティングなど、1対1の機会に褒めてあげればいいでしょう。褒められることを拒否しているわけではありません。褒められること自体はみんなうれしいのです。

同じ点を何度も褒めてもいいのです。「〇〇さんは、いつも笑顔が素敵ですね」「〇〇さんはいつも気が利くなあ」。相手は「はいはい、前にも聞きましたよ」と言いながら、決して嫌がってはいないはずです。

そして、私は気が付いたのです。自分が周りの人を褒めれば褒めるほど、相手だけでなく自分も幸せな気持ちになれることに。チームの関係もぎくしゃくせず、一人ひとりが笑顔になり、どんどん元気になっていくことに。

何だってやってみるまでは、誰もが下手で、苦手なものです。お世辞でなくていいのです。まずあなたが周囲の人の普段からいいなと心で思っていることを、少しだけ勇気を出して言葉にして褒めてあげてみてください。

仲間たちも少しずつ慣れてきて、いずれは照れ臭そうにしながらもあなたに感謝の言葉を返し、あなたのまねをしてくれるようになります。その頃には、チームの雰囲気もすっかり変わっていると思います。そんな景色を見たくないですか?

3 他人を「褒める」と、自分はむしろ得をする

【誤解②】他人を「褒める」と、その分自分が損をする

これは褒めたがらない人が心の奥に秘めた本音ではないでしょうか。私も以前はそう考えていました。「なんでわざわざ人を褒めなきゃいけないの。相手を褒めたら、褒められていない自分が相対的に下がってしまい損をするだけなのに」と。

「褒める」のに損得勘定を持ち出すのは打算が過ぎるかもしれませんが、ただでさえ「褒める」ことに慣れていない人からすれば、わざわざ行動する気持ちになれない理由となり得るでしょう。相手がすごいなと思っても、自分が損をするかもと思えば素直に「すごいね」とは言いづらい。

ところが、実際はそんなことはないのだと私は知ってしまったのです。目からうろこが落ちるとはこのことでした。

他人を「褒める」と自分はむしろ得をすると分かったのです。

講演や研修の場で、私は会場の前のほうに座っている何人かをよく観察しておいて、心から素敵だなと思った点をその場で会場の皆さんに褒めて見せます。各々いきなり褒められて照れ臭そうですがうれしそうです。そこで会場の皆さんに質問します。

「さて皆さん、人を褒めている私を見ていてどんな印象でしたか。私の評価が下がったなと思いましたか? むしろ、武田さんていい人だなって思いませんでしたか?」。皆さん笑ってうなずいています。

読者の皆さんの職場ではどうでしょうか。

部下をよく「褒める」人、「褒める」のが上手な上司や社長を見たらどう思いますか? 人を褒めている分、本人の評価が下がっていると感じるでしょうか。むしろ評価はどんどん上がっているのではないでしょうか。

「あの人は、みんなを褒めて笑顔にしてくれる」「あの人は部下を褒めて伸ばすのがうまい」

他人を「褒める」とその分自分が損をするというのは単なる思い込みか、誤解であると分かっていただけたでしょうか。

4 多くの人は褒めても天狗(てんぐ)にはならない。なったら一言添えればいい

【誤解③】「褒める」と相手が慢心して天狗になってしまう

とりわけ謙虚な人が多い日本人は、少々褒めたくらいでは慢心したり、天狗になったりはしません。

プロのアスリートなど、道を究めている人に「今日はすごかったですね!」と声をかけるとこう答えるはずです。「ありがとうございます。でも、まだまだです。もっと、もっと上を目指したいので」と。

優秀な人ほど、理想は高く、それに対して自分の現在地がどのあたりかをちゃんと知っているからです。

とはいえ、中には小さな成功体験で天下を取ったくらいに捉えてしてしまう人もいるでしょう。本人は頑張って結果も出したというのに、そこで「天狗になってるんじゃないよ」と水を差すのもどうでしょうか。せっかく褒めたのに、本人に「あれは嘘だったのか」と思われてしまっては残念です。

そんなときは、褒めた後に次のような一言を添えてはどうでしょう。

「頑張ったね、おめでとう! でも〇〇さんの力はこんなものじゃない、もっとできるでしょう。楽しみだな。期待していますよ!」

まずは本人に「次はいつまでに何をやるか」を考えてもらいましょう。設定目標が十分でなければこちらの期待度を伝えて話し合って調整するといいでしょう。実現への方法論やプロセスが甘いと思えば、助言しながら一緒に考えてあげてください。

そして、また本人の頑張りをプロセスで、結果で「褒める」。これを繰り返していくことで、気が付けば自ずと本人は成長していると思います。

今回は「褒める」に関してのありがちな3つの誤解について解説してきました。いかがでしょう、誤解は解けましたか?

これからの時代は、「褒める」とみんなも自分もハッピーになれるし、人も育つのです。

最後までお読みいただきありがとうございました。次回は、「相手の【何を】褒めればいいか」をテーマにお話ししていきたいと思います。

<ご質問を承ります>

ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mail to: brightinfo@brightside.co.jp

以上(2023年12月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
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【経理人材の育成(8)】経理人材に身につけさせる4つのスキル

書いてあること

  • 主な読者:経理人材の育成や、経理部全体の効率化に悩む中小企業のマネジメント職
  • 課題:経理人材の育成に取り組んでいるものの、最終的なゴールがどこにあるか分からない
  • 解決策:会計知識、自社知識、業務設計力、コミュニケーション力の4つのスキルを身につけることが、経理人材育成のゴールといえる

1 会計知識

実際に経理実務を進めたり、経理人材の育成を行ったりするためには、漠然と会計知識を捉えるだけでは不十分です。具体的にその中身を理解しておく必要があります。

経理の仕事の中心はやはり決算です。月次でも年次でも決算を締めるために必要になる実務のための会計知識は、

  • 会計基準
  • 財務諸表論
  • 会計技術

の3つに分類できます。

「会計基準」は、仕訳を切るときの拠り所になる会計ルールのことで、税法も含まれます。この知識が必要なことを疑う方はいないでしょう。しかし、経理パーソンとして活躍するには、これだけでは不十分です。というのも、新しい取引や事柄などが出てきたときに、中身を理解して判断するには、もととなる考え方も押さえておかなければならないからです。

「財務諸表論(会計基準の体系や内容、その考え方を学ぶ学問)」がこれに該当します。財務諸表論はいわば、会計の憲法のような存在であるため、財務諸表論を理解することが会計上の判断をする際に非常に重要になってきます。経理パーソンは、簿記の勉強経験や資格をお持ちの方が非常に多いので、会計処理について問題になることは少ないようです。その一方で、財務諸表論を勉強する機会はほとんどないため、ベテランでも弱い方が多い印象があります。財務諸表論が分かると、会計の本質(なぜその処理が必要なのかといった理由付け)が分かり、実務に役立つ経理のセンスが身につきます。管理職の皆さんが財務諸表論も絡めて会計基準の説明をすることができれば、メンバーにとっても財務諸表論を学ぶきっかけになるかもしれません。なお、財務諸表論といっても、簡単な本を一冊読むだけでも違います。財務諸表論を押さえると、会計専門家の質問が予想でき、決算や監査時に振り回されることが減ります。

実務を回すには、上記のような理論だけではできません。会計システムやエクセルを皆さんの業務でも多用しているはずですので、これらのテクニックも身につけておく必要があります。例えば、何か数字を調べたいときにどのくらい時間がかかるかは、これらのテクニックの習得具合によって大きく変わります。これらテクニックに代表される「会計技術」は、実務の作業効率を大きく左右するのです。

なお、ある程度の規模の会社でもし監査を受けている場合には、「開示作成」や「監査対応」も、それぞれ独立した別のスキルです。少し応用的な内容になるので、まずは、決算を締めるための前述の3つのスキルに集中すると、効率的な人材育成となるでしょう。

2 自社知識

経理部門の育成というと、とかく会計面に目が行きがちです。しかし、日常の実務を回すためにより必要なのは、自社に関する知識だと断言できます。そもそも会計は自社の取引を記録するものですので、取引自体の情報をちゃんと入手できないと始まらないのです。

自社知識といっても、はじめは、経理に近いところからスタートさせるといいでしょう。例えば、事業ごとのおおよその売上金額やこの3年の推移を、メンバーの方はそらで言えますでしょうか? 損益計算書の売上は最も大事な勘定科目ですが、実際に質問すると答えられないことが多いものです。このようにして、決算書の主な勘定科目ごとに、大まかに説明ができることを最初の目標にするといいでしょう。

自社の次は、顧客です。例えば、顧客得意先トップ5の社名と年間の取引額は先ほどの決算書周りの理解と同様です。さらに、その得意先の顧客は誰なのかまで理解すると、商流が分かります。

最後は、業界や競合企業について把握しましょう。ここでも、自社の売上シェア、他社との利益額・利益率比較などの方法を通じると、経理パーソンの方にはなじみやすいでしょう。

経営学では、経営戦略を考える際に、3C(自社、顧客、競合)という枠組みを用います。会計が経営者に役立つ情報になるためには、会計だけでなく経営も最低限理解した経理パーソンを育てることが必須なのです。

会社全体に加えて、業務を行っている各部門についての理解は、日常業務の進捗に大きな差を生みます。私自身も経験がありますが、正しい部門や担当者にコンタクトしないと、いつまでたっても情報が出てこないため、業務が進みません。特に、経理は決算という期限がある場合が多いので、他の部門以上に社内の情報入手先がどこかということに敏感になる必要があるのです。

具体的には、各部門の業務内容をまず押さえましょう。その上で、経理と関係が深い部門については、各人の担当範囲をおおよそでいいので知っておくといいでしょう。あるいは、各人の担当範囲に詳しい各部門のキーパーソンを知っておくのも非常に有用です。経理実務には膨大な知識が必要になるので、情報の内容を押さえる代わりに、

「情報のありか」を知っておく

ことも手です。管理職の方であれば、ご自身の経験から身につけたこのような経験則を、言葉にして伝えることもポイントです。

担当者を知るだけでなく、関係性を深めることができれば、情報の入手はさらに容易になります。そのためには、各部門の繁忙時期を知り、それを避けて連絡するようにしましょう。また、同じ会社でも、実は部門によって、メール、チャット、電話、対面と日常よく使うコミュニケーション手段はさまざまです。できる限り相手に合わせた手段を用いたほうが、早く連絡が取れます。さらに、接している中で、その部門独自の用語が出てきたら、意味を理解して、説明に使えるようにすると、印象がかなり良くなります。経理は情報や書類が出てきてはじめて業務が進む仕事ですので、工夫すべきポイントだといえます。

3 業務設計力

前述の知識をもとに、実際に経理業務を行うには、業務設計力が必要になります。直近ではインボイス制度もそうでしたが、新たに仕組みを整えるなど、対応しなくてはいけない変化が経理周りにはしばしば発生します。そのときに、実際の仕組みや業務の流れに落とし込める能力が、業務設計力といえます。

業務設計力は、

  • 業務の把握
  • 問題の発見
  • 方法の提案

の3つのステップから構成されます。

業務の把握というのは、求められていることを適切に理解し、影響範囲を特定することです。インボイス制度であれば、消費税の税率ごとの集計と記載という趣旨を理解して、得意先への請求書の書式や、仕入先の登録状況、会計システムなどの経理の業務手順、社内への説明など、自社への影響の範囲を特定します。

次に、問題の発見は、特定された影響範囲の中で、どのような問題が起こりそうかを想像し、それを踏まえたスケジュールや進め方を考えます。

その後、具体的な方法を考えるのが、方法の提案です。ここでは、自社の実態に合った現実的な方法を考える必要があります。そのためには、他社事例などの情報収集も欠かせません。

皆さんがご存じの通り、税法や会計基準など従わざるを得ない変化が起こるのは経理の世界では珍しいことではありません。さらに、最近ではテクノロジーの変化と人材不足が相まって、業務の見直しが求められる会社も多いことでしょう。そう考えると、業務を設計から見直す機会というのはますます増えていくはずです。

このような変化に対応するには、前述の3つのステップを全うする力に加えて、変化を恐れないマインドもとても重要だと感じます。「経理部門の生産性を上げたいが、管理職が業務の見直しを嫌がっている。なぜこれほど保守的なのか」と、経営者から質問されたことが何度かあります。確かに、この一連の流れは正直なところ、骨が折れます。しかしながら、管理職自身も、経理を取り巻く状況を今一度理解して、スキルのみならずマインドを変える必要があるのかもしれません。

4 コミュニケーション力

どのような職種にも、コミュニケーション力は不可欠ですが、経理の場合、その必要性はさらに高いものです。なぜなら、経理業務には守らなくてはいけないルールがあるため、どうしても各部門などと意見の相違が起こりやすいからです。例えば、売上を上げるために取引をしたい営業部門と、ルールを守りリスクを避け期日どおり決算を締めたい経理部門とが対立しやすいのは、それぞれの役割を考えると仕方がない側面もあります。

経理部門にとって大事なことは、この立ち位置の難しさを理解した上で、場面や事柄に応じたコミュニケーションを取ることです。つまり、

言うべきときは言い、引くときは引く。

それには、経理業務の中で起きるトラブルや取り組みに関して、ことの重大さを正しく測ることが必要になります。私自身が管理職だった際に痛感したのは、ことの重大さを正しく測るのは、メンバーにとっては難易度が高いということでした。皆さんも、大したことはないと判断したメンバーからの報告が遅れ、事後の対処が大変になった経験をお持ちかもしれません。このことは、裏を返せば、ことの重大さの認識をメンバーとすり合わせることができれば、大きな問題が生じにくいともいえます。管理職の皆さんは、メンバーに対して、業務内で発生する事例を通じ、どのようなことが重大なのか判断してコミュニケーションを取る一連の過程を見せつつ、必要に応じて説明するとよいと思います。

さらに、対立した場合には、相手がなぜそのように主張するのかなど、相手のニーズを把握して、お互いの妥協点を見つけるのも、経理に求められるコミュニケ―ションの1つです。まず、相手のニーズをつかむには、前述のように各部門の業務を理解し、ある程度の関係性を作ることは欠かせないでしょう。また、妥協点を見つけるのが苦手という声を経理部門の管理職の方からもよく聞きますが、これは前述の会計技術同様、テクニックと割り切るといいと思います。初歩的なもので構いませんので、交渉術の本を一冊読んで自分にできそうな技を実践するだけでも、少しは話し合いが進めやすくなります。

今回ご紹介したこれら4つのスキルをバランスよく身につけることができれば、経理パーソンとして十分独り立ちして成果を出し会社に貢献することができるはずです。このゴールを達成するまでのルートは1つではありません。これまでの回で紹介してきた色々な事例や方法は、そのルートに当たるものでした。方法は、どの会社にも合った最適解というのはありません。管理職の皆さん自身やチームメンバー、会社や経理部の置かれた環境に合った方法を見つけることが最大のポイントです。

例えば、私の場合は、チームが若いメンバーの場合にはハレ感を大事に、月次決算の大事な日には部内全員で同じ色の服を着てくる、数字が無事に締まったら打ち上げをするなど、お祭り的な取り組みをしていたこともありました。また、キャリアを大事にするメンバーが多いときには、新しく取り組んでもらった業務は、職務経歴書上でどのように表現することができ、市場価値がどう変わるのかを1on1で助言しました。さらに、次の管理職のステップにつながるよう本質を捉えるスキルを身につけるべく、付箋と模造紙を使ったオフサイトミーティングを半日かけてやっていたこともあります。このような経験を通じて、やはり、メンバーの希望を最大限踏まえつつ、管理職である私自身の強みを生かせたときに、最も効果が出やすかったと感じます。

メンバーの人材育成のためには、まずは、ご自身の得意なことは何かを棚卸してみるのもとてもおすすめです。それを拠り所にして、会社とメンバーに合った人材育成を考えてみてください。つまり、ご自身のキャリア形成、メンバーの人材育成、会社の業務改善は、三位一体で進めることも十分可能なのです。

経理管理職の皆さんにとって、この連載が人材育成のヒントに少しでもなればこんなにうれしいことはありません。

以上(2023年12月作成)

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外国人労働者の雇用の必要性と、外国人雇用に関する利点と課題について

主な読者:人手不足に悩む経営者の皆様

ポイント:

  • 技能実習生の平均賃金は10年前の1.4倍となり、日本人の若者との格差は縮小
  • 言語や文化の違いもあり、外国人労働者の労災発生割合は過去10年で2倍
  • 外国人労働者の雇用に関する法改正で雇用機会が拡大
  • 利点と課題を踏まえたリスクコントロールが必要

1 外国人労働者の必要性とリスクについて

日本は少子高齢化による人手不足で、多くの企業が従業員の採用・雇用に苦戦していますが、その対策の一つとして、外国人労働者の受け入れが考えられます。しかし、外国人労働者の受け入れは、様々なメリット・デメリットがあり、リスク管理上の課題もあるため、慎重に検討することが必要です。

厚生労働省によると、外国人労働者は2022年10月末時点で約182万人と10年前の2.7倍に増えており、製造業や卸売・小売業、宿泊・飲食サービス業などに多くなっています。また、ものづくりや1次産業などの現場で働く人材へのニーズも強く、技能実習(34万3千人)や留学生のアルバイト(25万9千人)といった形で労働力を確保しています。特に日本人が集まりにくい業種を中心に採用のニーズは強く、技能実習生の平均賃金は10年前の1.4倍となり、日本人の若者との格差は縮小しています。

今後は新興国の賃金上昇で、海外の若者が期待する水準も上がることが想定される中で、生産性を高め日本国内で賃上げを進めなければ外国人材の確保は非常に厳しくなると想定されます。日本の人手不足が深刻化する中、外国人が日本の産業や経済、地域社会を支える担い手として共生できる社会、日本で働く外国人が能力を最大限に発揮できる多様性に富んだ活力ある社会を実現するためには、外国人を適正に受け入れ、技能実習制度や特定技能制度が直面する様々な課題を踏まえた新制度が必要と考えられます。

また、外国人労働者の労災発生割合は日本人を含めた全労働者よりも高く、増加傾向にあり、過去10年で2倍にまで増えています。最も労災発生率が高いのは、「技能実習」の3.79であり、労働者全体の1.6倍、外国人全体の1.4倍もの数値となっています。このように外国人雇用は必要不可欠ですが、一方では円安で日本の賃金水準の魅力が低下し、外国人雇用に関するリスクがどんどん高まっているため注意が必要です。

外国人雇用状況

(出所:厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和2年10月末現在)」)

2 外国人労働者の雇用に関する法改正の方向性について

そのような中で、政府の有識者会議は外国人雇用に関する技能実習と特定技能の両制度の見直しを議論しています。現行制度はトラブルが絶えないため、人権保護を重視した待遇改善が中心的なテーマですが、新制度のポイントは大きく5つと考えられます。

1つ目は「在留期間」であり、従来は5年間で、特定技能への移行は限定的でしたが、新制度では基本3年ですが、特定技能に移行することで延長を可能にする予定です。
2つ目は「制度の目的」であり、従来は「人材育成を通じた国際貢献」でしたが、新制度では「人材確保と人材育成」を目的とする予定です。
3つ目は「転職」ですが、従来は原則不可でしたが、同一企業で1年超の就労などの要件を満たせば本人の意向による転職を可能にします。
4つ目が「日本語能力」であり、従来は要件がありませんでしたが、就労開始前に基礎的能力を付けることを要件とするようです。
最後の5つ目が「特定技能への移行」であり、従来は移行できない職種がありましたが、新制度では全ての職種で移行を可能にする予定です。

今回の新制度への移行によって、外国人労働者を雇用し易くなる一方で、外国人雇用に関わるリスクによって企業側の責任が重くなり、外国人雇用のコストが一段と増す可能性があるため、人材確保に向けた生産性の向上が必要不可欠になると考えられます。また、日本企業側の問題点として、外国人労働者が労働環境を求めない安価な労働力という勘違いや、住宅・携帯等の手配や銀行口座の開設などの支援体制の不備、暴力的な指導・暴言や差別用語による精神的な攻撃や宗教上の行為を不当に制限するなどのパワハラや暴力行為等の人権侵害や差別、それらの精神的なケアが不十分な現状も残っているため、新制度に移行してもその辺りの認識を改めなければ国際的な人材獲得競争で不利になると考えられます。

外国人技能実習制度と新制度の比較

(出所:サクセスネット事務局作成)

3 外国人雇用の利点と課題について

外国人を採用する利点としては、人手不足の解消や若くて優秀な人材の確保、社内のグローバル化と活性化や新しいアイデア創出の可能性、求人広告費用等のコスト改善や助成金の活用等がありますが、課題としては、コミュニケーションの問題や価値観・慣習・文化の違い、在留資格の確認の必要性や外国人労働者特有の雇用に関する手続きや労務管理の煩雑さ等が挙げられるため、これらの利点と課題を踏まえた判断が求められます。

尚、外国人労働者であっても、日本で働く以上は、日本の労働基準法や労働社会保険関係法令が適用されるため、日本人を採用する場合と同等の義務と責任が生じますが、外国人の場合は、それに加えて、日本で働く資格を持たない人に就労させた場合は「不法就労助長罪」として3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金が科され、雇用対策法に基づき外国人労働者の雇入れ及び離職の際に必要となる外国人雇用状況の届出義務に違反があった場合も30万円以下の罰金が科されるというリスクも生じます。

また、業務上のリスクとしては前述の労働災害が考えられますが、外国人労働者は日本語能力が不十分で安全衛生における業務指示や標識などの理解が難しいために労働災害に繋がるというケースもあり、安全配慮義務を果たしていくためには日本人社員以上に安全衛生教育に取り組む必要があります。また、日本語によるコミュニケーションが不十分で、雇用に関する価値観などが異なると、労使間や従業員同士の衝突が起こり、ハラスメントや差別的行為、人権侵害等の雇用慣行に関わるリスクも高くなるので注意が必要です。

4 外国人雇用に対するリスク対策

上記のようなリスクをコントロールして外国人労働者を雇用するには、先ずは外国人労働者雇用についての正しい知識を得ることが必要です。不法就労になるケースや適用される労働関連法令、雇用対策法における必要な手続き、外国人労働者への正しい接し方(異文化コミュニケーションなど) といった知識を、現場含めて事前に勉強しておく必要があるでしょう。但し、知識を得ると言っても自社だけでは限界があるため、労働関連法令や外国人雇用に関する専門知識を有している社会保険労務士や外国人労働者を専門とする人材紹介サービス会社を活用して、コンサルティングや受け入れ態勢の構築支援を受けることでリスクをコントロールすることも有用と考えられます。

また、外国人雇用の業務的リスクへの対応については、コミュニケーション方法や雇用に関する価値観の違いから労災事故や雇用トラブルも日本人の場合よりも起こりやすいという特徴がありますので、より厳格に労働社会保険関係諸法令を遵守すると共に、安全配慮義務や職場環境配慮義務を果たしていく必要がありますが、それらを守っていても外国人労働者とのトラブルを100%なくすことは困難と考えられます。

そのため、それらのリスクに備えた財務的な備えは必要不可欠であり、労働災害に備えた上乗せの労災保険や使用者賠償責任保険、雇用慣行に関わるリスクに備えた雇用慣行賠償責任保険等を活用することが求められます。また、人権問題が重要視される中でそのような事故や事件が発生した場合、株主代表訴訟等に発展し、会社や取締役が賠償請求される可能性もあるため、それらを補償する会社役員賠償責任保険(D&O)等を検討することも必要となるでしょう。

外国人労働者のメリット・デメリット

(出所:ARICEホールディングスグループ作成)

以上(2023年12月)

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画像:photo-ac


提供:ARICEホールディングスグループ( HP:https://www.ariceservice.co.jp/
ARICEホールディングス株式会社(グループ会社の管理・マーケティング・戦略立案等)
株式会社A.I.P(損保13社、生保15社、少額短期3社を扱う全国展開型乗合代理店)
株式会社日本リスク総研(リスクマネジメントコンサルティング、教育・研修等)
トラスト社会保険労務士法人(社会保険労務士業、人事労務リスクマネジメント等)
株式会社アリスヘルプライン(内部通報制度構築支援・ガバナンス態勢の構築支援等)

なぜ、隣のお店は繁盛しているのか?データを使えば見えてくる顧客が本当に求めていること!

書いてあること

  • 主な読者:効率よく営業や販促などを行いたい営業担当者。営業DXを進めたい経営者
  • 課題:場当たり的で属人的な営業や販促が多く、時間と手間がかかる。社内にノウハウが蓄積されていかない。見当違いな営業をしたくない。
  • 解決策:データを使って「相手をよく知る」ことが営業効率化の第一歩。何より、営業担当者自身が、データを使って営業することが面白くなるはず!

1 データを使った営業活動は、効率的で何より “面白い”

「データを使った営業活動」とは、地図上の商圏データや、検索キーワード・閲覧ログ・購買履歴・人流などの行動データ、ユーザーが回答するアンケートデータなどを活かして「営業・販促・マーケティング」(この記事ではまとめて「営業活動」)を進めることです。もっと分かりやすく言うと、次のようなことです。

データを使って、相手のことをよく知ったり、相手にどのようなニーズや困りごとがあるか仮説を立てたりして、営業活動に取り組むこと

こうしたデータを使った営業活動は、的を射た営業、いわば“すべらない営業”を実現する可能性を高めるため、次のような課題の解決につながります。

  • 人手不足なので、営業活動の効率化を図りたい
  • 場当たり的なものではなく、確率の高い営業活動を行いたい
  • 営業活動を「見える化」して、ノウハウを社内で蓄積したい
  • 営業DX化を進めたいので、まずはその第一歩を踏み出したい
  • 失敗を怖がる若手営業担当者に、少しでもヒントを持たせたい

現在、「SalesTech(セールステック。営業×テクノロジー)」と呼ばれる、ITを活用して営業活動の効率化を図るツールがたくさん登場しています。この記事では、SalesTechのうち、データを使った営業活動の事例をいくつか紹介しますので、活用を検討してみてください。

データを使った営業活動は、何より「この人の属性や行動を考えると、この点にニーズがあるのかも」と仮説を立てられる点が、ワクワクして面白いのです。特に営業担当者の皆さんは、この面白さがよく分かるでしょう。きっと今日からあなたの営業活動が変わります!

2 データ×営業活動にはどのようなものがあるか?

データ×営業活動(データを使った営業活動)にはさまざまなものがあります。一部の事例をまとめたのが、以下のポジショニングマップです。分類の仕方は人によりますが、この記事では、次の4象限に分類しています(一部、象限が複数にわたるものもあります)。

横軸:「行動・購買」など人の行動を表すもの、「属性・嗜好」など人となりを表すもの

縦軸:「客観的」な数値やログで現れるもの、アンケート回答のような「主観的」なもの

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1)当たりそうな販促(後ほど具体的な事例をご紹介)

「どのような人が住んでいるか(世帯の種類など)」「どのような店舗があるか」といった地図上の商圏データを使って、どのエリアで、どのような販促方法が当たりそうかなどを予測・分析している例です。このデータ活用方法が、まずは一番イメージしやすいかもしれません。

2)当たりそうなニーズ(後ほど具体的な事例をご紹介)

ネットの検索キーワードや閲覧ログデータから、「こういうニーズがありそうだ」などを予測・分析している例です。ネット検索データの分析はもはや一般的で、今は「検索キーワード×他のデータ、独自の分析・コンサル」など、さらに付加価値を付けたものが登場しています。

3)組み合わせて予測

天候や属性といった「属性的」データと、購買POSデータや人流データという「行動的」なデータを組み合わせて、「どんな天気・気温のときに何が売れるか」「どの観光地にどんな人がどれくらい来そうか」などを予測・分析している例です。

4)評価アンケート

顧客にアンケートして、満足度などの回答を数値化。営業活動に加え、既存商品の向上、新商品の開発などにも活かしている例です。例えば、顧客が見ているウェブサイトの文章や画像に対して、ごく簡単にラジオボタンなどで評価をアンケートする方法もあります。

5)理由アンケート

顧客にアンケートして、購入した理由などの回答をデータ化。顕在・潜在ニーズの両方を分析して営業活動、商品開発に活かしている例です。パーティーグッズ購入理由の回答「一人で過ごすと思われたくなかったから」など、意外な潜在ニーズが判明した例もあります。

6)動画からも見える化

いまどきは、動画から、AIを使って「感情」という超主観的なものをデータ化することも可能になりつつあります。例えば、オンライン商談のレコーディングデータから「誰がいつポジティブ発言をしたか」が分かり、どの営業トークが効果的だったかなどを分析する例があります。

3 データ×営業活動の具体的事例

データを提供している側の企業へのヒアリングに基づき、具体的な事例をご紹介します。小さな企業や店舗でもイメージしやすい「商圏データを使った営業活動」と、今の時代に合った「検索キーワードなど行動履歴から興味・関心・ニーズを把握した上での営業活動」の事例です。

1)地図上の商圏データを使った事例:ゼンリンマーケティングソリューションズ

ゼンリンマーケティングソリューションズが提供しているのは、主に商圏データです。地図上で、駅ごとに住んでいる人の世帯の種類や年収などの属性、競合も含め他店舗の出店状況なども分かります。

2020年4月設立の同社は2023年に4年目を迎えており、「データを使った営業活動がしたい」との問い合わせは年々増えているそうです。月間約30件、1日に1件ペースで問い合わせがあり、大企業から中小企業、小規模店舗まで幅広い顧客がいます。現在、横須賀商工会議所など商工団体の黒子として、商圏データの提供や販促支援などの小規模事業者支援も行っています。

1.ゼンリンマーケティングソリューションズの商圏データの特徴

株主のゼンリンによる全国津々浦々にわたる地図データをはじめ、公的統計データや民間で生成されたデータの活用が、何と言っても大きな特徴です。また、単に統計データをそのまま使っているわけではなく、独自のデータの組み合わせや分析で、商圏データをつくっています。例えば、「住んでいる人の年収」は、住宅土地統計や家計調査、課税状況といった統計をベースに、家(部屋)の面積なども組み合わせた上、独自の分析を加えて推計しています。

2.商圏データの活用事例

例えば、静岡県の八百屋さんの事例があります。もともとは大手スーパーの近所に店舗があり、スーパーには無い商品を取り扱うなどして上手に集客していましたが、八百屋さん自身が移転。スーパーと離れてしまったことで、客数も減ってしまいました。

そこで、どうにか集客を増やそうと、商圏データを使って、ターゲットとしている20~30代の核家族がどのあたりに住んでいるかを把握。そのエリアに一極集中し、必ず目に止まるよう5000部のポスティングを2回実施したそうです。

このポスティングチラシの内容も工夫しました。野菜や果物は、まとまって買うと重たくなります。そこで、「宅配の定期便」を始め、チラシに記載したのです。それが奏効し、実際に問い合わせ・成約もありました。ゼンリンマーケティングソリューションズでは、このとき、チラシの作成やポスティングも行っています。商圏データを提供するだけでなく、実際に相談に乗る、チラシの作成やポスティングをするといった「実働」を行ってくれるのは、人手が少ない店舗側からしてみると、実効性のある「データ×営業活動」といえるでしょう(チラシの作成やポスティングは、別途費用が発生します)。

ゼンリンマーケティングソリューションズによると、「老舗のベーコン屋さんが高級ベーコンを訴求するために富裕層エリアを発見。そこに絞ってプロモーションを行った事例」「複数店舗を持つ中堅ローカルスーパーで、異動してきた店長がその地域の特徴(どのような人が住んでいるのか)を知るために使っている事例」など、この他にも事例はさまざまです。

3.中小企業や小規模店舗がデータをうまく営業活動に使うコツ

ゼンリンマーケティングソリューションズによると、データ×営業活動のメリットは、「成功の確度を上げ、失敗のリスクを減らす」点にあります。そして、うまくデータを活用するコツとしては、「比較が大事」としています。

例えば、ターゲットにしているエリアが自分のよく知っているエリアと比べてどうか(住んでいる人、乗降客数、駅周りの店舗など)。隣の駅と比べてどうか。また、店舗であれば、ベンチマークとしているお店と比べてどうか。こうした「比較」は、データを集めた後、自分でデータを分析し、判断するときに大いに役に立つと思われます。

ゼンリンマーケティングソリューションズの商圏データの詳細などは、こちらから閲覧&お問い合わせすることができます。

■ゼンリンマーケティングソリューションズ■

https://www.zenrin-ms.co.jp/

2)企業の興味・関心・ニーズをピンポイントに把握する事例:Sales Marker

Sales Marker(セールスマーカー)社が提供しているのは、社名と同じ「Sales Marker」というSaaSのサービスです。これは、ネット上での検索キーワードやフレーズなど相手(営業対象となる企業の担当者)の行動履歴データからニーズを把握・分析し、営業活動を行うもので、この営業手法を「インテントセールス」といいます。

インテントセールスは、日本ではその言葉自体がまだ新しく、Sales Marker社が日本初といわれています。同社によると、サービスリリースから1年半少しで導入社数は270社以上、最近では1日に1社は受注しているほどニーズが増えているそうです(実績は2023年11月時点)。

1.Sales Markerによるインテントセールスの特徴

インテントセールスは、何と言っても「インテント=意図、目的」の言葉通り、検索キーワードやフレーズなどの顧客の行動履歴データからニーズが把握でき、その「ニーズがある状態」で営業活動できるのが特徴です。手当たり次第、ローラー作戦、といった手法とは真逆で、言ってみれば「ニーズがありそうだと分かっている相手(企業)」にアプローチすることになるので、効率的で的を射た営業活動になります。

また、Sales Markerは、その企業の関心データ(インテントデータ)に、約500万法人の企業データベース(部署や担当者といったデータ)を掛け合わせているのも大きな特徴です。そのため、新規先であっても、「(自社に対して)ニーズがありそうな企業」の「どの部署の誰にアプローチすればいいか」が分かるわけです。まさに的を射た、効率的で新しい営業活動です。ちなみに、Sales Marker社によると、アプローチに必要な部署や担当者情報は、各企業のプレスリリースや人事異動情報などから随時更新されているそうです。

2.Sales Markerの活用事例

例えば、大阪府のデザイン会社の事例があります。なんとこのデザイン会社では、本業がデザイナーである1名が、Sales Markerを使って営業活動を行って成果を上げているそうです。つまり、営業やマーケティングが担当ではない「兼任」にもかかわらず、1名で成果を上げられていることになります。Sales Marker社によると、この状況は、「一般的な企業で言えば、新人の営業担当が一人で成果を上げられるようなイメージ」ということです。

このデザイン会社の事例は、Sales Markerのウェブサイトにも詳しく掲載されています。それによると、Sales MarkerのUIが分かりやすく使いやすいことに加え、日常的にSales Marker社のインテントセールスコンサルタントとアポ獲得率・商談率・受注率向上のための目線合わせをしていることも成功要因の一つといえるそうです。このおかげで、ターゲットに対するアプローチの仕方など営業的な進め方を相談しつつ、Sales Markerを運用していけるようです。

Sales Markerの事例の特徴は、営業活動の相手にも喜んでもらえるという点かもしれません。何しろ、その検索キーワードやフレーズを使ってネット上で検索していた相手からすれば、「ちょうど今、探していた(検索していた)ものを持っているところがアプローチしてくれた」ことになるからです。そして、相手に喜んでもらえると、営業活動が楽しく面白いものに感じられるでしょう。

3.中小企業などがインテントデータをうまく営業活動に使うコツ

Sales Marker社によると、インテントデータをうまく使うコツとしては、やはりコンサルティングを活用することだといいます。

Sales MarkerのUIが分かりやすいとはいえ、導入時も、導入後もすぐに使いこなせるとは限りません。また、中には、リソース不足で営業未経験の担当者がインテントデータを運用する場合もあるでしょう。特に、中小企業の場合はなおさらです。そうしたときも、インテントデータをただ発見するだけでなく、一緒に営業戦略からアプローチするメールの文面まで、コンサルタントに上手に相談しながら運用していくのがよいと思われます。

Sales Markerの詳細などは、こちらから閲覧&お問い合わせすることができます。

■Sales Marker社「Sales Marker」■

https://sales-marker.jp/

4 大事なのは「分析」と「出口」、そして「答え合わせ」

データ×営業活動は、これまで紹介した例の他にもさまざまです。そして、今後も、色々なデータ活用方法が出てくるでしょう。いずれの場合も、データ×営業活動で大事なのは、データを集めることではなく集めた後です。

「で、どうなの?」という分析

「で、どうする?」という出口

この2つをしっかり実践していかなければなりません。集めたデータを見て、次のように進めていくことが必要です。

「分析」の例:この人はこの検索キーワード、フレーズを使っているから、こういうニーズがあると思われる。しかも属性が経営者だから、このニーズは強い

「出口」の例:このエリアに住んでいる人は中高年者が多いから、この商品の訴求メリットはこの点にして、手に取ってもらいやすいポスティングを、来月から実行しよう

そして、忘れてならないのは「答え合わせ」です。データから見えた分析の結果は、何%くらい合っていたのか。出口で実践したこと(実際の営業活動)は、目標に対して何%くらい成果を上げることができたのか。こうした「データ×営業活動の結果データ」を蓄積し、泥臭く次の運用に活かしていくことが、何よりも大切です。

以上(2023年12月作成)

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画像:Irene-Adobe Stock

新たな世界目標「ネイチャーポジティブ」とは? ビジネスへの影響を解説!  

書いてあること

  • 主な読者:自社敷地内に遊休地がある経営者、新しいトレンドワードが気になる経営者
  • 課題:ネイチャーポジティブが何なのか、企業として何に取り組むべきかが分からない
  • 解決策:生物多様性の「回復」に重きを置いた概念。23の具体的な取組目標(ターゲット)を押さえる。自社敷地内に自然がある場合、動植物の調査、公表などから始める

1 新たなトレンドワードに? 「ネイチャーポジティブ」とは

今、「ネイチャーポジティブ」という言葉が世界的に注目を浴びています。SDGsと同じく地球環境を良くするための経済的な世界目標の一つで、簡単に言うと、

企業・経済活動によって生物多様性を維持するだけでなく、回復させる

というものです。2022年12月のCOP15(国連生物多様性条約第15回締約国会議)で世界目標として合意され、日本も2023年3月に、ネイチャーポジティブ実現に向けたロードマップとして「生物多様性国家戦略2023-2030」を閣議決定しました。

SDGsと同様、企業の経済活動に大きな影響をもたらすとされ、その経済効果は2030年時点で125兆円に及ぶ(ビジネス機会の創出が47兆円、サプライチェーン(供給網)への波及効果が78兆円)と推計されています(環境省「第4回ネイチャーポジティブ経済研究会(2023年3月6日)」)。

ただ、ネイチャーポジティブという言葉自体がまだ登場して間もなく、現状では事例などもあまり集まっていないため、「聞いたことはあるけど、具体的なイメージが湧かない」「企業(特に中小企業)にどんな影響やメリットがあるのか分からない」という人は少なくありません。

そこで、この記事では、書籍「自然再生をビジネスに活かすネイチャーポジティブ 企業成長につなげる環境世界目標」を上梓した日刊工業新聞記者・松木喬(まつきたかし)氏に、ネイチャーポジティブの中身や経営面についてインタビューしました。主に次のようなことが分かりましたので、以降で詳しく解説していきます。

  • ネイチャーポジティブは、SDGsの目標14(海の豊かさを守ろう)と目標15(陸の豊かさも守ろう)との関係が深く、23の具体的な取組目標(ターゲット)がある
  • 23のターゲットのうち、「情報開示」など企業に影響の大きいものが3つある
  • 企業の先進事例として、自社敷地内の自然を回復させたものなどがあるが、いきなり大きなことをやろうとせず、敷地内の動植物の調査、公表などから始めてもよい

2 気になるネイチャーポジティブの中身は?

前述の通り、ネイチャーポジティブは、

自然を減らさない「保護」や「配慮」は当然のものとして、さらに「回復」を企業活動の前提として求める

という概念です。もう少し具体的に解説すると、

SDGsの目標14(海の豊かさを守ろう)と目標15(陸の豊かさも守ろう)について、2030年までに達成すべき23のターゲットを掲げ、達成に向けた行動を企業に求めていく

というものです。日本自然保護協会が23のターゲット内容を簡略化したものが次の図表です。

画像1

実は、SDGsの17目標は2030年を達成期限としていながら、目標14と目標15については2020年までの目標しか定められていません。2010年のCOP10で合意された愛知目標がベースになっているからです。そこで前述したCOP15で「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が新たに合意され、2030年までに達成すべき23のターゲットが掲げられたのです。

次章では23のターゲットのうち、松木氏への取材を基に、特にビジネスへの影響が大きいと考えられる重要なものだけを取り上げて、その中身を解説します。23のターゲット全てについて詳しく知りたい場合、下記ウェブサイトの環境省仮訳をご確認ください。

■昆明・モントリオール生物多様性枠組(環境省仮訳(2023.3))

https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/treaty/gbf/kmgbf.html

3 ビジネスへの影響が大きいターゲット15、18、19

1)企業にとって最もキツい? ターゲット15「情報開示」

ターゲット15は、ビジネスによる生物多様性への影響を低減するため、大企業や金融機関に

  1. 生物多様性への依存や影響を定期的に評価し、透明性をもって開示する
  2. 持続可能な消費パターンを推進するために消費者に必要な情報を提供する
  3. 該当する場合は、アクセスと利益配分の規則や措置の遵守状況について報告する

の3つの取り組みを求めるものです。2023年9月には国際組織「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」により、情報開示のフレームワーク(最終版)が公開されました。開示は義務ではないものの、今後世界的に広まることで、企業は生物多様性に関する情報開示を迫られ、投資家や消費者に選別される時代がやってくると考えられます。

「雨の少ない地域で水を使い過ぎたり汚れたまま排水したりしていないか、希少種がいる森林を強引に伐採して工場を建設していないか、取引先の海外企業が河川や海を汚染しながら操業していないかなど、サプライチェーン全体で環境に配慮しているかを投資家や消費者が、投融資や消費行動の一つの目安として判断する時代になるかもしれません。特に金融機関は、法令違反がなくても社会から批判され、信用が失墜するレピュテーションリスクを気にしています。そして今後は『自然を回復しています』と開示する企業が、金融機関からの優遇を受けやすくなるといった流れが来るのではと予想しています」(松木氏)

情報開示は国際的なグローバル企業や一部上場企業が特に求められるという流れはありそうですが、中小企業も無関係ではありません。SDGsと同様、大企業のサプライチェーン上にある下請け企業や、大企業と取引をしている中小企業にも開示が推奨される可能性があります。

また、これまで企業でもサステナビリティ推進部や環境部といった専門部署しか知らなかったネイチャーポジティブという言葉が、財務部門にも認知されるようになるとみられます。

2)特に気になるお金の問題 ターゲット18「補助金」と19「資金動員」

ターゲット18は簡単に言うと、

生物多様性に有害な補助金を5000億ドル削減する

というものです。企業としては「有害な補助金」が何を指すのかが気になるところでしょう。松木氏は、「生物多様性は対象が明確ではないが」と前置きをしつつ、次のように述べています。国際社会の動きや日本政府の判断を注視する必要があるでしょう。

「大型漁船を建造する補助金が、魚介類の乱獲を助長するものとして有害となるかもしれないし、これに対する金融機関からの融資や損害保険会社の保険サービスも有害な補助金とみなされるかもしれない」(松木氏)

ターゲット19は簡単に言うと、

生物多様性の保全のため、少なくとも官民合計2000億ドル以上の資金を動員する

というものです。官民連携の取り組みですが、関連する企業はまだ明確になっておらず、こちらも日本政府の判断を注視する必要があります。

現時点では、環境省「第3回ネイチャーポジティブ経済研究会(2022年11月24日)」の資料(下記URL)が参考になります。同資料では、「ネイチャーポジティブなビジネスモデルに従事する機会」として、世界経済フォーラム(2020)が68種特定したもの(日本版では51種を対象として算定)を紹介しています。エコツーリズムや代替肉、食品廃棄物の利活用、住宅シェアリングなど、すでに日本政府が事業再構築補助金などを通じて推し進めている産業分野なども含まれています。

■環境省「第3回ネイチャーポジティブ経済研究会(2022年11月24日、資料5参照)」■

https://www.env.go.jp/nature/business/nature_positive_council/01_00003.html

4 具体的にネイチャーポジティブ経営とは何をするの?

こうした世界目標は内容が抽象的なのが特徴で、中小企業が経営面で何をすべきなのかは不明瞭なことが多いのが常です。そこで、この章では、先進事例をベースに「ネイチャーポジティブ経営」として評価される取り組みとして、次の3つを紹介します(1.が最もハードルが高く、3.が最もハードルが低くなります)。

  1. 自社の遊休地や敷地内の自然を回復させる。その土地本来の動植物を保全・再生しつつ、イベントなどを通して近隣住民や自治体と連携し、地域活性化にもつなげる
  2. 自社の遊休地や敷地内の自然に、どういう動植物がどの程度いるのかを把握して公表する
  3. 原材料や事務用品の調達について「自然を回復させている」「生物多様性に配慮している」企業のものを優先的に調達するようにする

1)自社の敷地内で自然を回復させた事例

まずは、自社工場の広大な敷地内に里山を復活させた実践事例を紹介します。資本的余裕のある大企業でないとハードルが高いと思われるかもしれませんが、中小企業も参考にできる部分があるのでご確認ください。

パナソニック草津拠点(滋賀県草津市)には、52万平方メートルの広大な敷地内に、840種の動植物が生息する1万4000平方メートルの緑地「共存の森」があります。従業員が2011年から整備し、半世紀前の地元に広がっていた自然風景を再現させました。

整備前は外来植物が多く、生物多様性の質が高い場所とはいえませんでした。そこで専門家の助言を得ながら外来植物を伐採し、代わりに鳥が運んできた種が発芽した苗を栽培。拠点内に自生するコナラからドングリを採り、自宅で育ててから移植する「森の里親活動」に参加するボランティア社員も募ったといいます。

そうした取り組みの結果、当初580種だった動植物は2016年には840種まで回復し、生物多様性の豊かな場所となりました。

「共存の森」が特徴的なのは、管理が最小限に抑えられているという点です。これは同社が滋賀県内の環境関連の企業に協力を仰いだ結果です。例えば、三東工業社(滋賀県栗東市)は将来の成長も織り込んだ森の造成工事などを行っています。また、生物多様性コンサルタントのラーゴ(滋賀県近江八幡市)は専門的なモニタリングによる動植物の識別・同定、データ化に大きく貢献しており、これらが面倒な管理を省く結果につながっています。

このように、敷地内の自然回復は自社だけでなく、近隣の企業を巻き込んだ取り組みとなります。さらに同社は近隣の小学校に環境学習の場を提供しており、環境保全に取り組む企業姿勢を地域全体に伝えることができています。

松木氏によると、こうしたネイチャーポジティブの取り組みは「担当社員がすごく楽しそう」なのが大きな特徴だといいます。

「従来のCO2削減のための節電などは、実際に成果が見えるのは総務部くらいのものです。しかしネイチャーポジティブは自然、木や動物を増やす取り組みなので、誰もが『見える』というのが大きい。『CO2を減らす』は我慢だが、『緑を増やす』は目に見えるのです。取り組みも分かりやすいので多くの従業員も参加でき、それが大きなモチベーションにつながっているようです」(松木氏)

また、「共存の森」などの取材を通して見えてくる可能性として松木氏は、「地場の造園業」への影響を挙げています。

「共存の森のような取り組みには、他企業や専門家の協力が欠かせません。地元にもともと植生していた木を植える際には、地域の造園業者に依頼するケースが多いのではないかと思います。造園業者は潜在植生の専門家なので、『この木は外来種でもともと地域にあった木じゃないから他に移したほうがいい、切ったほうがいい』といったアドバイスをしてくれます。もしかしたらネイチャーポジティブで最も直接的に影響を受ける中小企業は、造園業者かもしれません」(松木氏)

「共存の森」の取り組みは、大企業の資本力だからこそできると捉えられがちですが、

「このパナソニック草津拠点単体を地域の地場工場と捉えれば、地方の中小企業でも応用可能ではないか」(松木氏)

とのことです。地域活性化につなげやすいこの取り組みは、さらに企業の宣伝・ブランディングにも寄与します。例えば同じ性能・価格帯の商品がある場合、「自然を回復させている企業のほうが良さそう」といった新たな指標、価値・評価基準が生まれつつあります。

2)まずは自社敷地内の動植物を調査、公表する

自社敷地内の自然を回復させる取り組みの前段階ですが、敷地内の動植物を調査し、どういう木が何本あり、鳥や花はどんな種類があるのかを可視化して数で示すという取り組みもあります。これも立派なネイチャーポジティブ経営といえます。

頻度も、例えば年に一度数えるだけでもよく、もし植林や自然回復の取り組みなどを行うのであれば、「木が何本から何本に増えました」「外来種を何本から何本に減らしました」といった報告も可能になります。

そこまでいかなくても、定期的に自社敷地内の自然をモニタリングすることは、それだけで「生物多様性に配慮している企業」として評価されやすく、地域や世間に対して大きなアピールになるでしょう。

3)原材料や事務用品の調達でネイチャーポジティブ経営の企業を選ぶ

松木氏は、「一番ハードルの低いネイチャーポジティブ経営は調達」だと言います。

「自社内に余った敷地や緑地がなくても、例えば工場で使う備品をプラスチックから木材に変えたとか、紙は輸入パルプではなく国産材を使っているとか、そういったレベル感でも十分といえます。『国内の森林保全のために〇〇社から調達しています』などと表明することでも、十分にネイチャーポジティブ経営をしている企業とみなされるでしょう」(松木氏)

この章で紹介した3つの取り組みを読んで、もしかしたら「自社はすでにネイチャーポジティブ経営に取り組んでいる」「まだ取り組んでいないが、自社で実践可能かもしれない」と思った人もいるかもしれません。どこかイメージしにくかった「ネイチャーポジティブ」が、実は意外と身近なものだと気付いていただけたのなら幸いです。

松木喬(まつき たかし)
1976年生まれ、新潟県出身。松木喬
2002年、日刊工業新聞社入社。2009年から環境・CSR・エネルギー分野を取材。著書『SDGs経営 社会課題解決が企業を成長させる』『SDGsアクション〈ターゲット実践〉インプットからアウトプットまで』『自然再生をビジネスに活かす ネイチャーポジティブ』(すべて日刊工業新聞社刊)。日本環境協会理事、日本環境ジャーナリストの会会長、元新潟市産業振興財団技術「見える化」支援事業専門家、eco検定(環境社会検定試験)、環境プランナーベーシック合格

以上(2023年12月作成)

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画像:beeboys-Adobe Stock

経営者550人に聞きました 今年の忘年会は飲む? 飲まない? ジワリと広まる「ソバーキュリアス」

書いてあること

  • 主な読者:忘年会、新年会シーズンになり、たくさんの飲み会を控えている経営者など
  • 課題:飲みすぎると翌日のパフォーマンスが落ちるが、飲み会で飲まないというのも……
  • 解決策:シーン(相手や会食の重要度など)によって「飲む量」を使い分ける

1 お酒を飲まない経営者が増えている?

2023年も残すところあとわずかになりました。2023年はコロナ禍で自粛していた忘年会を復活させる会社も多く、年が明ければお正月や新年会などお酒を飲む機会が増えます。

大いに盛り上がりそうな年末年始です!

宴会好きにはたまらないシーズンですが、最近、お酒を飲めるけれど、量を控えたり、あえて飲まなかったりする人が増えてきていることをご存じですか。そうしたライフスタイルを「ソバーキュリアス」と呼び、今では若者だけではなく年配の人にも広まってきています。皆さんのまわりにも、飲み会でお酒は最初の1杯だけにしたり、全く飲まなかったりする人はいないでしょうか?

ソバーキュリアスが増えている背景にはどのような価値観の変化があるのか、実際に経営者はお酒を飲まなくなったのかを見ていきましょう。

2 ソバーキュリアスとは?

ソバーキュリアスとは、

「sober(しらふ)」と「curious(好奇心あふれる)」の造語で、お酒を飲めるけれど、あえて飲まない(量を控える)ライフスタイル

のことです。諸説ありますが、日本では2021年ごろから注目され始めたとされています。禁酒や断酒と似たイメージがあるかもしれませんが、両者は似て非なるものです。禁酒や断酒は、お酒が好きなのに健康のためなどそうせざるを得ない事情があってするわけですが、ソバーキュリアスはポジティブに自ら選択するライフスタイルです。

なぜ、今ソバーキュリアスが増えているのか。それは、次のようなメリットがあるからです。

1)健康への関心

まずは何といっても健康への関心の高まりです。アルコールが健康に与える影響はさまざまで、過剰摂取すればさまざまな問題を引き起こす恐れがあります。メンタルヘルスについても同様です。ストレスや不安を和らげるために過度にアルコールを摂取するのはよくありません。それに、飲酒は睡眠の質を落とすともいわれます。こうした問題を避けるために、あえて飲まない選択をしているのです。

2)時間の有効活用

「タイパ(タイムパフォーマンス)」という言葉があるくらい、現代はいかに有効に時間を使うかを重要視します。酔って寝てしまったり、翌日に二日酔いでパフォーマンスが落ちたりするくらいなら、お酒を飲まず、しらふで時間を有効に使いたいという価値観が広まっています。

3)お金の節約

お酒を飲むと、それなりにお金がかかります。忘年会や新年会のシーズンはなおさらで、2次会、3次会と続くと出費がかさみます。飲んだ後にお腹が減り、シメにラーメンやパフェを食べることも。家で飲む場合も同じでしょう。その点、お酒を飲まなければ、出費を抑えられます。

4)ノンアルコール飲料の浸透

今ではノンアルコール飲料の種類が豊富で、居酒屋などでも何らかのノンアルコール飲料が置いてあることが多いです。それに、何と言ってもおいしくなっていますので、お酒のようなテイストを楽しむことができます。

5)お酒をめぐる価値観の変化

以上、ソバーキュリアスが増えている理由をいくつか紹介しましたが、

根底には、お酒をめぐる価値観の変化

があります。飲み会を例にとれば、かつては「飲み会でお酒を飲まないなんて言語道断」という雰囲気がありましたが、今ではお酒を勧めすぎると「アルハラ」と呼ばれる時代です。あるいは、多少酔っていても「無礼講」でコミュニケーションをとることが親密な証しだった雰囲気も変わり、今ではしらふで相手に配慮しながら話せるスマートさのほうが大切だと考える人が増えているようです。

これは、どちらが良いか悪いかということではなく、個人の選択です。ソバーキュリアスも完全にお酒を飲まないとは限らず、これまで週5日飲んでいたところを週1回にするとか、会社での飲み会では飲まないようにするなど、さまざまな選択が考えられます。ある意味で、ソバーキュリアスはお酒に対する選択肢を増やし、個人の自由度を高めるものであるといえるため、世代を超えて広まりを見せつつあるのでしょう。

3 【経営者アンケート】飲む選択と飲まない選択

では、実際のところ経営者にソバーキュリアスは広まっているのでしょうか。お酒を飲める経営者550人を対象に独自アンケートを行いました(実施期間は2023年11月29日から11月30日まで)。その結果は次の通りです。

1)お酒を飲む頻度

お酒を飲む頻度については、「変わらず、飲んでいる」という経営者が51.6%と過半数なのに対し、「飲まなくなった」という経営者は8.0%にとどまります。一方、「会食の重要度によって、量を減らしたり、飲まなかったりする」という経営者が26.0%いることから、飲む量を使い分けている経営者が少なくないようです。

お酒を飲む頻度について

2)お酒を飲む理由

次にお酒を飲む理由について聞いてみました。「お酒が好きだから」という納得の理由を示す経営者が71.8%と、最も多くなっています。注目したいのは、「多少、酔ったほうが会話も弾んで楽しいから」という経営者が47.5%いることです。場を盛り上げるなどの目的で、あえてお酒を飲むというケースもあるのでしょう。

お酒を飲む理由

3)お酒を飲まない理由

逆にお酒を飲まない理由の上位は拮抗(きっこう)していて、「健康のため」が46.0%、「会食も仕事であり、会話に集中したいから」が44.4%、「次の日のパフォーマンスが良いため(二日酔いなどがないため)」が44.4%となっています。

お酒を飲まない理由

4)お酒の量を減らす、または飲まないシーン

前述した通り、飲む量を使い分けている経営者は少なくありません。具体的には、「大切なクライアントとの会食」でお酒の量を減らしたりする経営者は51.9%となっています。逆に「部下との1対1の会食」では、お酒の量を気にする経営者が少ないようです。

お酒の量を減らす、または飲まないシーン

5)ソバーキュリアスを知っているか

最後に、ソバーキュリアスという言葉を知っているか質問してみました。

すると、「ソバーキュリアスという言葉を知っている」という経営者は13.1%にとどまっていました。経営者は、ソバーキュリアスに関係なく、ビジネスシーンに応じて、既に飲む量を使い分けているということでしょう。

ソバーキュリアスを知っているか

いかがだったでしょうか。年末年始の飲み会シーズンの気になる話題を紹介しました。

2023年の忘年会、2024年のお正月や新年会。

皆さんは飲みますか? 飲みませんか?

いずれにしても健康第一!

2023年はお疲れさまです。2024年も頑張りましょう!

以上(2023年12月作成)

pj10077
画像:Mariko Mitsuda

【社長のモノサシ】会社の幹部が遅刻するのは本当に問題か?

書いてあること

  • 主な読者:遅刻を繰り返す幹部に他の社員が不満を覚えていて、会社の雰囲気が悪いことに悩んでいる会社の社長
  • 課題:社長としては、やることさえやってくれていれば、遅刻を理由に幹部を叱るつもりはない
  • 解決策:「なぜ、遅刻する幹部を叱らないのか?」 社長の考えを社員に伝える

1 【提案】社長のモノサシを社員に伝える

会社にはさまざまなルールがありますが、ある意味それらのルールの在り方を決定づけているのが「社長のモノサシ」です。社長のモノサシとは、

会社経営における社長の価値観や行動基準

であり、日々の判断はこのモノサシを基準に行われます。さて、皆さんの会社に遅刻を繰り返す幹部がいたとします。一般的に遅刻はいけないことですから、注意すべきでしょう。しかし、社長のモノサシで測れば、必ずしも常識通りにはなりません。例えば、

幹部なのだから、やることさえやっていれば多少の遅刻は問題ない

と考える社長も多いはずです。社長が自分の価値観に基づいて判断したなら、それが会社での「正解」なわけですが、社員がついて来られるかは別の問題です。次の事例で考えてみましょう。

ある会社に、遅刻を繰り返す幹部がいました。その姿を見た社員は、「幹部のくせに怠慢だ!」と強い不満を覚え、「それなら自分たちも好きにする」とサボりがちになっていきました。会社の雰囲気は悪くなり、退職する社員も出てきました。

一方、社長は「幹部なのだから、細かく管理しなくても、やることさえやっていればよい」と考えていました。しかし、その考えが社員に全く伝わっていませんでした。社員は、何も言わない社長を見て「問題幹部を放置している!」と不信感を抱きました。

社長の価値観はミッション・ビジョン・バリューといった言葉に置き換えられますが、概念的なため、なかなか日々の社長の判断と結び付けて考えることができません。そのため、社長が社員目線とは異なる判断をすると、社員はその理由が分からずに不満を覚えます。判断が“ブレない”ようにするためにも、社長は自分のモノサシに自信を持つべきですが、それを基準にスムーズに会社運営をするには、モノサシの尺度をしっかり社員に伝える必要があります。

2 「千里の道も一歩から」の千里は何キロメートル?

社長のモノサシがあるように、社員にも「社員のモノサシ」があります。ただ、2つのモノサシの尺度は全く違うので、互換性を持たせなければなりません。

「千里の道も一歩から」といいますが、千里とは何キロメートルでしょうか? 古く日本で用いられていた尺貫法に基づけば、1里は約3.9キロメートルなので、千里は約3900キロメートルとなります。現在は、長さを表す単位は国際的にメートル法に統一されているので混乱はありませんが、この「里」のような独特の尺度は、世界のあらゆる所で用いられています。

社長のモノサシと社員のモノサシの尺度は、里とキロメートルのように違いますから、これをすり合わせなければなりません。基本的に、社長が社員のモノサシに近い判断をすればもめません。つまり、社長が「幹部であっても遅刻は問題である!」と判断すれば、社員も「その通り!」と納得するでしょう。しかし、社員のモノサシと違う判断をすると前述した事例のようになりかねません。

そこで、次章では幹部の遅刻が問題にならない理由の例を紹介します。

3 幹部の遅刻が問題にならないケース

1)幹部の立場

まず押さえておきたいのは法令のルールです。次のようなルールを知らない社員がいるかもしれないので、しっかりと伝えておきましょう。

詳細は割愛しますが、遅刻を繰り返す幹部が、

  • 会社法上の「取締役」
  • 労働基準法上の「管理監督者」

に該当するなら、労働時間などの規制を受けないので、基本的に遅刻を指摘する必要もありません。これらの立場にある社員は文字通りの幹部であり、通常の社員とは求められていることが違います。毎朝、決まった時刻に出社することよりも、会社の発展のために資する成果を求められているということです。

2)幹部の働きぶり

また、幹部が取締役や管理監督者ではなかったとしても、次のように、細かく労働時間を管理しないケースがあります。

1.昼夜問わず、激務をこなしている

働き方改革が進む昨今ですが、リアルのビジネスでは、「昨夜は遅くまで得意先を接待していた」「サービス開始前の準備で、昨夜はほぼ徹夜だ」というケースがあります。このように働かざるを得なかった幹部が次の日に遅刻したとしても、細かく指摘する必要はないかもしれません。

2.既に十分な結果を出している

既に十分な結果を上げている場合も同様でしょう。例えば、計画1000万円のところ、既に2000万円を達成した幹部の遅刻をやり玉に挙げるのは酷かもしれません。先ほどの激務の場合もそうですが、しっかりと働いている幹部なら、より働きやすいように環境を整えてあげることが経営者の役目です。

3.幹部候補としての教育期間である

あえて指摘せずに幹部としての自覚があるかどうかを試すケースもあるかもしれません。幹部候補になって管理されなくなった状態で、どのように自分を律するのかをみて、本当に将来の幹部にするかを決めるということです。このケースであれば、遅刻癖が直らなければ幹部候補から外すという選択もあり得るでしょう。

4 日本の縦断距離と千里はどちらが長い?

ここまでお話しした「幹部の遅刻が問題にならないケース」はあくまでも例ですが、そういうことは社員に伝わっていなければ意味がありません。そして、伝え方にも工夫が必要です。

前述した通り、千里は約3900メートルですが、そう言われてもその長さにピンときません。遠そうだとは感じますが、具体的なイメージが湧かないのです。そこで、「日本の縦断距離(最北端と最南端の直線距離)は約2700キロメートルだから、千里はざっくりとその1.5倍」と言われたらどうでしょう。こちらのほうがイメージしやすいはずです。

社員が分かりやすいように、身近な例を使ったり、具体的な数字を使ったりして伝えるとよいでしょう。例えば、幹部が取締役であれば、

私(社長)と同じ取締役なので、何時間働いたかではなく、どれだけ成果を上げたかに対する責任が求められている

と伝えます。「社長と同じ」といわれれば、社員も納得するでしょう。

また、幹部が激務をこなしている場合、

Aさん(幹部)は、2000万円のプロジェクトを成功させるため、連日深夜まで働いている

といったように伝えます。「2000万円」という具体的な数字を示されれば、社員はプロジェクトの大きさを実感でき、幹部をサポートするようになるかもしれません。

この他、幹部にフレックスタイム制やみなし労働時間制といった自由度の高い働き方を適用して、制度的な裏付けをすることも一策です。

5 丁寧に伝えるが変える必要はない

社長の価値観や行動基準は、会社らしさの源泉です。社長のモノサシが理由で社員が不満を覚えることもあるでしょうが、それが社長の信じる方向ならば変える必要はありません。ただ、組織のいらぬ混乱を避けるために、社長のモノサシの尺度については、丁寧に社員に伝えるなどして浸透させる必要があります。そうすることが、それが社長の信じる道に組織を率いていきやすいベースを作ることにつながります。

以上(2024年1月)

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画像:Elnur-Adobe Stock

冬道への備え(2023/12号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

今シーズンは「暖冬」と言われています。

とはいえ、季節は冬。路面の積雪や凍結が生じやすい季節です。突然の大雪で車が走行できなくなったり、急に気温が下がって路面が凍結し、スリップ事故を起こしたりするリスクがあります。

突然の積雪等に慌てないよう冬道への備えを行いましょう。

冬道への備え

1.暖冬と走行リスク

今シーズンは暖冬の予想ですが、一時的に大雪となる可能性もあると言われています。また暖かい日が続くと冬道を走行する準備が遅れたり、気が緩んだりして事故につながるおそれもあります。

◆突然、大雪になった場合

夏タイヤでは、タイヤが雪にとられて前に進めない、坂道を登れない、脱輪するなど立ち往生するリスクがあります。幹線道路で立ち往生すると大渋滞を起こし、レッカー等の救援も期待できません。

立ち往生実績

出典:国土交通省「直轄国道における降雪による通行止め及び立ち往生実績(平成27年度)」
から当社作成

暖冬だった2020年は、12月に関越自動車道で2,000台超の大規模な立ち往生が発生しました。大雪の場合は、冬タイヤでも立ち往生するリスクがあり、チェーンを装着する必要があります(図1)。なお、立ち往生に関しては渋滞に長時間巻き込まれるリスクも想定する必要があります。

◆急な気温低下で路面凍結した場合

暖冬で比較的暖かい日が続くと油断しがちになるため、路面凍結に気が付かないでスリップ事故を起こすというリスクがあります。

凍結した路面は乾燥した路面より何倍も滑りやすくなります。(図2)

冬道走行とタイヤ

注)摩擦係数とは、タイヤと路面間の摩擦力の大きさを表す指数をいい、指数が小さいほど滑りやすいことを意味しています。

出典:一般社団法人日本自動車タイヤ協会「冬道走行とタイヤ」から当社作成
https://www.jatma.or.jp/tyre_user/winterroaddrivingandtyres.html

スリップ事故が多いのは交差点ですが、橋の上、トンネルの出入口付近、日陰で乾きにくい場所などは路面凍結に気が付かないことがあるので注意が必要です。

2.冬道の走行準備

積雪や路面凍結した道路の走行に向けて、早めのタイヤ交換やタイヤチェーンの携行が大切です。また、冬用タイヤやタイヤチェーンの摩耗状態や使用期限等にも留意することが必要です。

◆タイヤ交換の時期

初雪の1か月前が目安

「霜・雪・氷結の初終日の平均値」出典:気象庁「過去の気象データ検索」
https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php

◆タイヤの点検

  • 溝の深さ 1.6mmまで
  • 使用期限 3~5年間
  • 空気圧  車両指定空気圧

タイヤの点検

◆タイヤチェーンの携行時の状態確認

  • 摩耗状態 1/2まで
  • 使用期限 金属製 5~10年間
         ゴム・ウレタン製 5年間

◆タイヤチェーンの装着

チェーン規制情報が出たら早めの装着が重要

タイヤチェーンの装着

出典:国土交通省「チェーン規制Q&A」
https://www.mlit.go.jp/road/bosai/fuyumichi/tirechains.html

急な気温低下でエンジンがかからないといった事態に備え、バッテリー等の点検も必要です。

また、突然の大雪で立ち往生に巻き込まれるといった不測の事態も想定しておくとよいでしょう。

◆バッテリーの点検

電圧測定、バッテリー液の補充

バッテリーの点検

◆エンジンオイルの点検

粘度や汚れ具合の確認、補充、交換

◆不測の事態に対して準備するもの

スコップ、長靴、軍手、けん引ロープ
アイススクレーパー、解氷スプレー
食料、水、防寒具、携帯トイレ

準備するもの

3.事前の情報収集

冬道の運転には、事前の情報収集も大切です。

全国の道路における積雪や路面状態、閉鎖道路などの情報を下記のリンクから確認できます。

また、全国のライブカメラ映像も配信されているので、天候・積雪情報をリアルタイムで閲覧できます。

事前に情報収集することで、危険回避の判断や急な天候の変化に対してより適切な判断ができるようになります。冬道での事故やトラブルを回避するためにも、事前の情報収集を徹底しましょう。

事前の情報収集

オススメ!国土交通省 「冬の道路情報 雪みち情報リンク集」
https://www.mlit.go.jp/road/fuyumichi/fuyumichi.html

以上(2023年12月)

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画像:amanaimages

【朝礼】今年、あなたは何を学びましたか?

おはようございます。早くも12月になり、今年も終わりに近づいています。そろそろこの一年を振り返ってみましょう。ということで、皆さんにいくつか質問をします。

皆さんは、今年、何か新しいことにチャレンジしましたか? あるいは、「今年はこれを成し遂げた!」と自分で思えることはありますか? 昨年よりも今年、自分が進化したと感じることは何ですか?

いかがでしょうか? おそらく、すぐに答えられる人も、そうでない人もいると思います。これらの質問を通して私が皆さんに考えてもらいたいのは、

「自分は今年、何を学んだか?」

ということです。皆さんも実感していると思いますが、時の流れはとても速いものです。自分で意識して学ぼうとしなければ、何も変わらず前にも進まず、一日一日が、一年一年があっという間に過ぎ去ってしまいます。

一方、どこにいても、どれほど忙しくても、「学ぶ気」さえあれば、人は学ぶことができます。新しい知識を得る、訓練して習得する、初めてのことにチャレンジしてみる。そうして何かを学ぶことで、何歳になっても成長し、世界を広げ続けられると私は思います。そして、これが一番大事なことですが、学ぶことで、日々が楽しくなります。自分の毎日を楽しくすることができるのは、自分自身なのです。

フォード・モーターの創設者、自動車王のヘンリー・フォードはこう言っています。「20歳だろうと80歳だろうと、学ぶことをやめた者は老人である。学び続ける者は若くいられる。人生で一番大切なことは、若い精神を持ち続けることだ」。もし、今年を振り返っても、何も学んだことがないという人は、来年は何を学ぶか、何にチャレンジするか、今のうちから考えてみてください。

できれば、誰かの何かを読んだり聞いたりするだけでなく、自分で行動すること、経験することをテーマにするのがいいと思います。それも、楽にクリアできない、ちょっと苦労するぐらいの内容のほうが自分の血肉になるでしょう。

私は今年、新しく2つのことにチャレンジしました。体を鍛えることと、私たちの会社について動画で配信することです。体を鍛え始めたら筋肉の付き方が学べましたし、筋トレの時間をつくるため、より仕事の効率を考えるようになりました。動画配信では、「簡潔で相手に伝わる言葉選び」を学びましたが、これが大変でした。どうしたら相手に伝わるか、脳みそに汗をかくくらい考えなければならず、最初は独りよがりになってしまい、5分の動画を作るのにも撮り直しの連続でした。今は少しマシになりましたが、ここで満足せず、来年は、動画と当社のノウハウを組み合わせた新商品開発にチャレンジするつもりです。

皆さんは今年、何を学びましたか? そして来年は、何を学びますか?

以上(2023年12月)

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画像:Mariko Mitsuda

『傾聴』するだけで相手の心は開く/武田斉紀の『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』(5)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:最近話題のZ世代(1990年代後半以降生まれで会社においては20代前半くらいまで)だけでなく、それ以前の平成生まれ(30代前半くらいまで)の世代と、現在経営や管理職を担っている昭和世代との世代間ギャップが注目されています。それは価値観の違いやコミュニケーションの違いとして表れ、変化や多様性が求められる昨今、日本企業において深刻な経営の足かせとなりつつあるようです。
  • 解決策:まず会社においてZ世代を含む平成生まれと昭和生まれの世代背景を整理しながら、ギャップを埋めるための「価値観の変化」を明らかにします。その上で、筆者が多くの講演や企業研修で紹介してきた『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』を実践的に指南します。

1 『傾聴』には“姿勢”と“技術”が必要

今シリーズでは、ここ10年ほどで“真逆”と言えるほどに変化しているビジネス上の価値観を取り上げています。

それは30代後半~50代の昭和生まれ世代の管理職と、現場を任されている平成生まれ、とりわけ「Z世代」とのギャップであり、同時に「世界とのギャップ」として表れています。

シリーズでは、社内で現在リーダーを担っている皆さん、今後担っていくであろう皆さんが、このギャップを埋めるための必須のコミュニケーション習慣をご提案しています。

前々回より習慣その1として『傾聴』を取り上げています。「傾聴である」と「傾聴でない」状態を比較し、

傾聴の基本“姿勢”は、相手の話を真剣に聞こうとしている姿を見せることであるとご紹介しました。

姿勢1)相手のほうに体を向け、適度に視線を合わせながら聞く

姿勢2)最後まで聞こうとする(途中で遮る、決めつける、まとめたがる、結論を急がせるなどはNG)

前回、『傾聴』には“姿勢”と“技術”が必要と申し上げました。

今回は“技術”のほうを詳しく見ていきましょう。

2 『傾聴』の反応は、相手に届いてこそ価値がある

『傾聴』の“技術”の基本は「相手の話に反応する」ことです。

重要なのは、こちらがいくら真剣に聞いていたとしても、それが反応として相手に伝わらなければ相手はそう思えないという点です。

互いにとってストレスでしかなく、実にもったいない状態ですよね。

あなたの『傾聴』の気持ちは、反応を通して相手に届いてこそ価値があるのです。

もちろん、ただ反応すればよいのではなく、相手の話の内容によって対応を変えながら反応してこそ、『傾聴』は相手に届きます。内容によって時に大きく、時に小さく反応する。相手の気持ち、相手が感じてほしい気持ちに寄り添って反応することです。

相手の話の内容によって対応を変えながら反応することによって、相手は「この人は私の話を真剣に聞いてくれている。ならばもっと話して聞いてもらおう」という気持ちになれるのです。

反応の仕方は、次の3段階に分けられるでしょう。

1)頷(うなず)き・相槌(づち)

2)承認

3)共感

順に解説していきましょう。

1)頷き・相槌

対面であれば、相手の話のリズムに合わせて首を縦に振る(=頷く)だけで、相手への反応になります。さらには声に出して(=相槌)の反応をしてみましょう。

相槌は相手の話の間に「はい(関係性によっては、うん、ふむなど)」「なるほど」「そうですか」などを軽く差し込むのが基本ですが、より感情を込めた表現としては「へえー」「ほー」「うー(む)」などもあります。

部下や友だちなら「へえー」「ほー」でもいいけれど、上司や目上の人に「へえー」「ほー」と返したら怒られるのではないかと思われるでしょうか。そこは声の出し方です。

文字でお伝えするのはやや難しいのですが、話を聞いて思わず声が漏れてしまったように「へえー……」とか、同じく消え入るように「ほー……」と言えば失礼には当たらず、話の内容に動かされた思いがより相手に伝わるはずです。事前に自分で発声して確認してみてください。

あるアナウンサーの方は「は・ひ・ふ・へ・ほ」で反応するとよいとおっしゃっていました。「はー」「ひー」「ふー」「へー」「ほー」と驚いた、びっくりした、聞いてよかったといった気持ちを伝えられるというのです。

相槌の語源は、刀や農具を作るための鍛冶(かじ)屋で2人の職人が、金属を強くするためにカンカンと交互に打つタイミングを合わせることだそうです。会話での相槌もリズムよく打ち合えるといいですね。

3 「共感」≠「同意」という気付き

2)承認

「承認」とは文字通り、相手を認めることです。相手の話の中に出てくる事実や気持ちを、相手に伝わるように認めてあげればよいのです。

反応としては先ほどの「頷き・相槌」で出てきた「なるほど」「そうですか」をより丁寧に「なるほどー」「そうですかー」と返すのでもいいのですが、さらに一歩踏み込んで言葉を添えてみましょう。

相手「その時、私は思わず走り出してしまったんですよ」 → あなた「そうですかー。思わず走り出してしまったんですね」

相手の話し言葉をそのまま繰り返すことを「オウム返し」と呼びます。相手の言葉を繰り返すことであなたが今の話をちゃんと聞いてくれたことが伝わり、「承認」してくれたと感じられるのです。

「オウム返し」といっても、単に棒読みのように相手の言葉を繰り返すだけではダメです。

相手の気持ちに寄り添った「オウム返し」かどうかは相手に伝わります。相手のその時の気持ちを想像しながら繰り返してみましょう。

3)共感

「共感」は「承認」よりさらに一歩踏み込んだ反応です。例えば、

相手「その時、私は思わず走り出してしまったんですよ」 → あなた「そうですかー。思わず走り出してしまったんですね。そういう気持ちのとき、思わず体が動いてしまうことってありますよね」

ここで勘違いしがちなのが、

「共感」≠「同意」ということです。「共感」と「同意」は異なります。心の中では「同意」できていなくても、「共感」の気持ちを示すことはできます。

話を聞いていて「自分ならそこで絶対に走り出してしまったりしない」と思う人もいるでしょう。その思いに反して「そういう気持ちのとき、思わず体が動いてしまうことってありますよね」と声にすることには抵抗を覚えるかもしれません。

嘘をついてまで反応しましょうと言っているのではありません。言葉では「そういう気持ちのとき、思わず体が動いてしまうことってありますよね」と口にしても、心の中で「でも自分なら走り出さずに別の行動を取るだろうな」と思っていればいいのです。後で「気持ちは分かったけれど、自分はそうしないと思った」と説明することができるからです。

かくいう私も相手に合わせて自分に嘘をついたり、お世辞すらもろくに言えない性格です。けれど「共感」≠「同意」という事実に気付けたことで、相手に「共感」の姿勢を示すことに抵抗がなくなりました。「共感」を示すことで、相手もその先を話しやすくなって心を開いてくれるのであれば、互いにとってプラスではないでしょうか。

改めて相手から「あなたならどうしましたか?」と聞かれたり、相手に伝えたほうがよいと思えば、「あなたのその時の気持ちは分かったけれど、私なら違う行動をしたかもしれない」と話すでしょう。特に必要でなければ、心の中にしまっておきます。もし自分が同じような状況に置かれた際は、自身の信念に従って行動すればいいだけです。

4 「頷き・相槌」「承認」「共感」を使い分け、2~3割増しで反応する

『傾聴』の“技術”として、1)頷き・相槌 2)承認 3)共感の3つの反応の仕方を紹介してきましたが、これらの使い分けはどう考えればよいでしょう。

相手がより「聞いてくれている」と感じるのは、1)<2)<3)といえますが、相手の話には抑揚があります。ただ事実を伝える部分と、気持ちを分かってほしい部分では聞く側も反応を変えたほうが相手に気持ちを届けやすくなります。

従って基本“姿勢”から相手の話をよく聞くことを前提に、話の内容によって1)~3)を適宜変化させて反応したほうが、より高いレベルの『傾聴』が実現できるでしょう。

話を聞き始めた時点ではまだ内容がよく分からないわけですから、1)頷き・相槌から入り、次第に相手の気持ちが動いた瞬間だなと思ったら2)承認の反応を示す、さらにはここが山場だなと判断したら思いっきり3)共感の反応を示すのです。

もしも山場がこちらが思っていたところと違っていても構いません。後でもっと山場が訪れたら、さらに高い3)の共感を示せばいいでしょう。

反応を示す際には、私の経験上のアドバイスとして、「2~3割増しで反応する」ことを心がけてください。

聞く側は相手の話に1)~3)で反応しているつもりでも、意外と相手は気付かないものです。異なる人間の間で気持ちを伝えることは容易ではありません。こちらが反応している“つもり”の「2~3割増しで反応する」ことで、ようやく相手に届くと思ってください。

「2~3割増しで反応する」のは、最初は少し大げさに感じて照れくさいかもしれません。けれども「通常」と「2~3割増し」を試して、後者のほうが明らかに相手の反応が違うと知ることで「2~3割増しで反応する」ことの大切さが体感できるでしょう。

『傾聴』の“技術”はご紹介した1)~3)の他にもあります。例えば「メモを取る」のも有効です。

皆さんが上司に解決してほしいことを相談した際に、上司がメモを取らずに「分かった」と言うのと、メモを取った上で「分かった」と言うのではそれぞれどう感じるでしょうか。後者の方が、「この人は私の話を聞いてくれている。ちゃんと対応してくれそうだ」とより思えるのではないでしょうか。

5 『傾聴』時のNGな反応

『傾聴』の“技術”を紹介してきましたが、NGという意味での“技術”もあります。基本“姿勢”の2)でお話しした「途中で遮る、決めつける、まとめたがる、結論を急がせる」などがNGである以外に次のような反応もNGです。

×「はい、はい、はい」「で、で、で」とせっかちに迫る

これは「結論を急がせる」にもつながりますが、相手はとても話しづらくなります。

基本的には相手の話のペースを尊重すること。相手の話のリズムに合わせて反応して『傾聴』することでどんどん話も進み、結果的に深い話を早く聞き出せることになります。

×軽々しく「分かります」と反応する

友人同士の茶飲み話であれば、「分かる、分かるー」もいいでしょう。しかしその人ならではの深い体験や複雑な気持ちを簡単に分かろうはずもありません。話す本人の側もそこまでは期待していません。軽々しく言われると「あなたに分かるはずないでしょう」と反発を招く可能性さえあるでしょう。話はその先に続かなくなります。

ご紹介してきた“技術”は『傾聴』に有効ですが、まず基本“姿勢”が重要です。ただそれ以前に大前提として最も重要なことは、相手の話を聞くことは相手のためだけでなく自分自身のためであると知ることです。

相手が部下であれば、本人のやる気を引き出すのはもちろん、本人の成長、部署としての課題解決や業績向上にもつながるでしょうし、何より共に楽しく働けるようになるはずです。

相手がプライベートにおける大切な存在であれば、『傾聴』でより良い関係を築くことが互いにとってどれほど価値があるかは申し上げるまでもありません。

最後に……相手の話を一度真剣に聞いたくらいでは、相手の心はまだ十分に開かないかもしれません。

そこで「こっちはあなたのためにこんなに努力したのに」と不満を覚えてはいけません。あなたが相手の立場だったとして、これまでずっと『傾聴』してくれなかった相手が急にしてくれるようになったとしても、にわかには信じられないでしょう。

一度や二度であきらめないで、ひたすら『傾聴』してみてください。

遠くないうちに、「この人は私の話を真剣に聞いてくれるように変わったんだ」と伝わって、互いの関係性も変わっていくことでしょう。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。次回は、『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』その2に入ります。

<ご質問を承ります>

ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mail to: brightinfo@brightside.co.jp

以上(2023年11月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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