書いてあること
- 主な読者:万一に備えて担保を設定したい経営者
- 課題:担保にどのような種類があるのか、またどのように設定すればよいのか分からない
- 解決策:物的担保は不動産などであり、取引の状態によって決定する。人的担保は経営者個人の連帯保証などであり、改正民法に注意する
1 債権保全の基本は担保の設定
万一、取引先から売掛金が回収できなくなる場合に備えて「債権保全」を講じます。債権保全とは、
債権を確実に回収するための施策であり、基本的な方法が「担保の設定」
です。ただ、実際に担保を設定したことがない人にとっては、具体的な担保の種類や設定方法が分からないと思います。
そこで、この記事で担保に関する基本を紹介します。一口に担保といっても、さまざまな種類と決まりがあるので整理していきます。また、一部の内容は民法改正に関係するので、その点も踏まえます。
この記事で紹介する担保の種類は次の通りです。
- 物的担保:抵当権、根抵当権、質権、譲渡担保、所有権留保
- 人的担保:普通保証(単純保証)、連帯保証、根保証
2 物的担保の種類と設定
1)物的担保とは
物的担保とは、
債務者や債務者以外の第三者が持つ特定の財産から、優先的に弁済を受けられるもの
です。物的担保の主な対象は不動産と債権ですが、その他にも機械、商品、有価証券、ゴルフクラブ会員権、現金、船舶、自動車、工場財団などが物的担保の対象になります。
なお、工場財団とは、工場抵当法に基づき、工場に属する土地、工作物、機械、器具、地上権などの全部または一部で組成されているものです。
1.不動産
不動産は担保の代表格です。安定性があり、登記制度による対抗力があるなど、担保に適しています。不動産を担保に設定する場合、登記と実態の両方をチェックしましょう。登記のチェックは不動産鑑定士や司法書士、土地家屋調査士などに依頼できます。また、実態のチェックは、実際に目で確かめる必要があります。
2.債権
取引先が有する債権も担保に設定されます。具体的には、売掛金や貸付金、金融機関に対する預金債権、不動産賃貸借契約などに伴う敷金・保証金・建設協力金の各種返還請求権などです。これらの債権は換金性に優れていて有用なものもありますが、不動産に比べると流動性が高く、知らぬ間に価値が減少したり、毀損したりしている場合があるので、担保として不安定な側面がある点に注意しましょう。
2)物的担保の代表的な設定方法
1.抵当権
抵当権とは、
抵当権者(ここでは債権者。以下、同様)が、抵当権設定者(目的物の所有者=通常は債務者)から目的物の占有の移転を受けることなく、一定額の債権のために目的物を担保に取り、他の債権者に先立って優先的に自己の債権の弁済を受ける権利のこと
です。抵当権の目的物は登記・登録が可能な財産に限られ、不動産が典型です。
抵当権が設定された後も、抵当権設定者は引き続き抵当物件を使用できます。しかし、債務が弁済されないときは、
抵当権者はその物件を競売にかけ、その代金を債権に充当すること
ができます。抵当権設定の効力は、抵当権者と抵当権設定者との間で「抵当権設定契約」を交わすことで発生します。しかし、第三者に対して権利の存在を主張し、他の債権者に対して優先権を持つためには、
登記・登録などの対抗要件を備えること
が必要です。
2.根抵当権
根抵当権とは、
抵当権の一種で、設定契約に定められた不特定の債務をまとめて担保する権利のこと
です。根抵当権の特徴は、優先的に弁済を受けられる金額について、一定限度である「極度額」を定めることです。極度額は、
元本・利息・遅延損害金を含めた当該根抵当権により担保される債務の総枠
を意味するので、通常は元本予想額より少し多めに設定します。
3.質権
質権とは、
質権者(ここでは債権者。以降、同様)に目的物の占有を移転させ、質権者は、他の債権者に先立って優先的に自己の債権の弁済を受ける権利のこと
です。質権の対象となるのは、不動産・動産・財産権です。中でも、
売掛金・貸付金・銀行預金・火災保険金などの債権を質権の対象とする「債権質」は、権利者と質権設定者(目的物の所有者=通常は債務者)にも便利な担保権
です。債権質において、債務者が売掛金・貸付金などの債権を持っている場合、それらを担保に設定することができます。
債権質設定の効力は、質権者と質権設定者との間で「債権質権契約」を交わすことで発生します。また、売掛金など「指名債権」の場合、質権設定者から第三債務者(売掛金の債務者)に対し、確定日付のある通知をするか、第三債務者からの確定日付のある承諾がなければ対抗できません。
指名債権とは、
債権者が誰であるか特定しており、債権の成立・譲渡のために証書の作成・交付を要しないもの
です。
4.譲渡担保
譲渡担保とは、
債権者が債務者に対して有する債権を担保するために、物の「所有者または権利者」(債務者)が、物の所有権または権利を債権者に移転すること
です。譲渡担保権の対象は、動産や債権、不動産などのように財産的価値および譲渡性があるものです。譲渡担保権も抵当権と同様に、物件の所有者と債権者との間で契約を交わして設定しますし、通常、債務者は譲渡担保権の設定後も、目的物を使用し続けることができます。
また、担保の目的物を個々の動産に限定せず、経済活動の過程で流動する動産を一括して設定することもできます。そのため、
- 集合動産:特定の倉庫内にある商品など
- 集合債権:特定の取引先との間の継続的取引により発生する売上債権など
の財産についても担保に設定できます。この場合、契約において担保の対象となるものの種類、量的範囲、所在場所を特定しておく必要があります。
なお、譲渡担保権の実行は、通常、
- 目的物を換価して代金を取得する方法(処分清算)
- 目的物を取得して、目的物の評価額と債権との差額を清算する方法(帰属清算)
のいずれかになります。
5.所有権留保
所有権留保とは、
売買の目的物の所有権を自社が保有したままにする特約
です。所有権留保特約を付けることで、売主は代金が全額支払われるまで、取引先の他の債権者に対して売買目的物の所有権を主張できます。
ただし、所有権留保の対象が動産の場合、取引先から当該目的物を譲り受けた第三者に「即時取得」されてしまう恐れがあるので、ここは注意が必要です。即時取得とは、簡単にいうと、
無過失で権利者と信じる者から取引によって動産を取得して占有した人は、その動産の所有権を取得し、すぐにその動産を使ったり、売ったりすることができる
ということです。売主が買主に動産を売り、さらに買主が代金を支払い終える前に第三者にその動産を売った場合、その第三者が即時取得するケースがあるということです。
3 人的担保の種類と設定
1)人的担保とは
人的担保とは、
債務者以外の第三者から、債務者に代わって弁済を受けることができるもの
です。人的担保の代表的な制度が「保証」です。
保証とは、
主債務者が債務の弁済ができない場合に、主債務者に代わって保証人が債権者に弁済すること
であり、代表者個人の連帯保証などがあります。保証にはさまざまな種類があるので整理しましょう。
2)保証の種類
1.普通保証(単純保証)
普通保証とは、
主債務者が債務を履行できない場合に、これを補充する二次的な債務のこと
です。ただ、普通保証の保証人は「催告の抗弁権」と「検索の抗弁権」を持っているため、担保というには難があります。
催告の抗弁権とは、
債権者が主債務者に請求せずに保証人に請求してきた際、まず主債務者に請求するよう求める権利
です。
検索の抗弁権とは、
債権者が主債務者に対して請求しても弁済しないので、保証人に請求してきたときに、主債務者に弁済の資力があり、かつ執行が容易であることを証明して、まずは主債務者の財産から執行するよう求める権利
です。なお、保証契約は書面によるものでなければ無効になりますので、注意が必要です。
2.連帯保証
普通保証と違い、連帯保証人は「催告の抗弁権」と「検索の抗弁権」を持っていません。そこで、取引先への債権について相手の経営者が連帯保証人となっていれば、
取引先が債務不履行を起こした際、すぐに連帯保証人である経営者に弁済を求めることが可能
となります。債権者から見ると、普通保証より連帯保証のほうが有利です。
連帯保証も書面によるものでなければ無効です。また、契約を交わす前に次の点をチェックすべきです。
- 保証人の支払能力は問題ないか(支払能力がなければ意味がない)
- 保証人の保証意思は確認したか(債権者の面前で保証意思を確認し、署名なつ印してもらう)
- 「連帯保証」である旨を明記しているか(保証にはさまざまな種類がある)
- 連帯保証書の免責事項に留意すること(経営者が自己破産すると、税金などを除き免責される)
3.根保証
根保証とは、
債権者と債務者が継続的な取引を行う場合、将来発生するかもしれない不特定の債務をまとめて保証してもらうこと
です。根保証も書面によるものでなければ無効です。また、個人が根保証契約を交わした場合、その保証人を保護するため、
極度額の定めを書面でしなければ無効
となります。
4 【改正民法】人的担保に関連する改正ポイント
1)根保証における保証人保護の拡大
改正前民法では、保証人が法人の場合を除き、貸金等債務の根保証契約については、極度額の定めを書面でしなければ無効でした。改正民法では、個人による全ての根保証について、極度額の定めを書面でしなければ無効となります。
2)情報提供義務に関する規定の新設
改正民法では、保証人保護の観点から「保証契約を締結するとき」「保証人から情報提供を求められたとき」「主債務者が期限の利益を喪失したとき」に、主債務者の情報を保証人に提供しなければなりません。情報提供義務の概要は次の通りです。
3)個人保証人の保護規定の新設
改正民法により、事業のために借り入れた資金の債務保証は、次の2つに該当する場合を除いて無効とされます。
- 保証契約締結前1カ月以内に、保証意思を表示した公正証書を作成(公証人による保証意思の確認手続)
- いわゆる「経営者等の保証」
ここでいう「経営者等の保証」とは、次のケースをいいます。
- 主債務者が法人で、保証人が当該法人の理事、取締役、執行役などである
- 主債務者が法人で、保証人が当該法人の株式等の過半数を有している
- 主債務者が個人で、保証人が共同事業者、または事業に従事している配偶者である
以上(2023年9月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)
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画像:Mariko Mitsuda