【朝礼】管理職がスピードアップする3つのコツ

今日は管理職の皆さんに、「スピードアップ」についてお話しします。

先日、私は管理職と個人面談をして、新年度に向けた課題や抱負を聞きました。多くの管理職が「仕事のスピードを上げたい」「もっと効率的に仕事を進められるようにしたい」と語っていましたが、残念ながら、それを成し遂げるために、何をどう改善するかを説明できていませんでした。

はっきり言って、このことについて、私は大いに不満です。今年度、当社は新規事業や新しい働き方を進めてきました。ところが今年度が終わろうとしている今ごろになっても、まだ具体的なスピードアップ策を講じられていないのは、それこそ遅すぎます。そんなスピード感からは早く脱却する必要があることを、まずは認識してください。

仕事の内容にもよりますが、管理職の皆さんに実践してほしいスピードアップのコツは3つです。

まず1つ目は、「今、決める」です。管理職は日々、メンバーから相談されたり、判断や指示を求められたりしますが、その際「検討して後で回答します」と、判断を先延ばしにしている様子が多々見られます。ビジネスは次から次へと動きます。担当している案件も1つではありません。判断を先延ばしにしていると、そこで進みが遅くなりますし、「後で判断すべきこと」が山積みとなれば時間が足りず、結局何もかも遅れます。

もちろん内容にもよりますが、管理職は、その場で決めて回答することを心掛けてください。

例えば、「この件は誰に振るのか」「いつまでに完了すればいいのか」などは、その場で決められるはずです。「早く決める」のは管理職の重要な仕事と心得ましょう。

2つ目は、「自分の手から離す」です。例えば、社内外のメンバーに仕事をお願いするとき、準備にひどく時間がかかっている管理職が多いように見えます。時間と手間をかける必要はありません。社内外のメンバーに仕事をお願いするときに管理職がすべきことは、「ルールとスケジュールを決めて通知する」ことです。それさえできれば、後は次工程に任せたほうが仕事は早く進みます。とにかく、早く自分の手から離すのがスピードアップのコツです。

そして最後、3つ目は、「状況を早く発信する」です。「忙しい」「困っている」などの状況を早く周りに発信してサポートをお願いするなど、物事が滞らないようにしましょう。仕事が多い管理職ほど、状況を積極的に発信しなければなりません。私は、ある尊敬する人から、「相手に自分の居場所を発信するのは最低限の礼儀です」と言われたことがあります。「居場所」とは、文字通りの「場所」のことだけでなく、「今、手が空いているか、塞がっているか」などの状況も含まれると思っています。さて、管理職の皆さん、この3つのことを、今日から実践してください。そして、新年度を迎える前に、今よりスピードアップできるようになりましょう!

以上(2021年2月)

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画像:Mariko Mitsuda

【経理担当者向け】意外に複雑な商品(棚卸資産)会計

書いてあること

  • 主な読者:棚卸資産の会計処理の基礎を身につけたい経理担当者
  • 課題:棚卸資産の会計処理は複雑で、貸借対照表の金額の根拠が分からない
  • 解決策:期首から期末までの処理を一通り把握する

1 棚卸資産の会計処理は複雑

棚卸資産(商品など)は取得から売却まで一定の期間を有するため、会計上さまざまな取り決めがあります。特に在庫については、期末に評価方法の選定や実地棚卸、原価法・低価法と複雑な会計処理をしなければなりません。

複雑な棚卸資産の会計を理解するため、事例を用いて期首から期末までの棚卸資産に係る会計上の取り扱いや留意点を紹介します。なお、会計上の棚卸資産には商品以外に、製品・半製品・原材料・仕掛品などが含まれますが、本稿では、商品のみを対象にしています。

2 事例を見ながら1年間の会計処理の流れを押さえよう

1)期首

小売業を営むA社は、期首に100万円(商品α10個、単価10万円)の棚卸資産を持っています。

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期首の貸借対照表上の「棚卸資産(資産)」勘定には、前期末の棚卸資産の金額が記載されています。

2)棚卸資産の取得時

A社は、期中に商品β100万円(20個、単価5万円)を掛けで仕入れ、運送費など1万円を負担しました。

棚卸資産を取得したときには、取得原価を算定して、次の仕訳を行います。また、商品有高表などに取得数量などの記録を行います。

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棚卸資産を取得したときには、損益計算書の「仕入(費用)」勘定に計上し、直接「棚卸資産」勘定を増減させる仕訳は行いません。そのため、貸借対照表上の「棚卸資産(資産)」勘定に変動はありません。

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なお、商品有高表などへの取得数量・販売数量の記録方法には、「継続記録法」と「棚卸計算法」の2つがあります。

継続記録法とは、棚卸資産を取得したときには取得数量を、販売したときには販売数量を継続的に記録し、棚卸資産の在庫数量を常に帳簿上に反映しておく方法です。棚卸計算法とは、棚卸資産を取得したときには取得数量を記録しますが、販売したときには記録を行わず、期末に実地棚卸を行って期末の在庫数量を把握します。在庫数量から取得数量を差し引くことによって、間接的に販売数量を計算する方法です。

一般的には、継続記録法で、取得と販売の都度記録を行い、期末に実地棚卸を行う方法が多く採用されています(継続記録法と棚卸計算法の併用)。

3)棚卸資産の販売時

A社は期中に仕入れた商品β10個を単価15万円で販売しました。

商品を販売したときは、次の仕訳を行います。また、商品有高表などに販売数量などの記録を行います。

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棚卸資産を売却したときには、損益計算書の「売上(収益)」勘定に計上し、直接「棚卸資産」勘定を増減させる仕訳は行いません。そのため、貸借対照表上の「棚卸資産(資産)」勘定に変動はありません。

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なお、商品有高表などに記録する際の販売単価の計算方法には、個別法・先入先出法などがありますが、それぞれの方法には決算の期末在庫の評価方法と関連するため、詳細は後述します。

4)決算時

A社は決算を迎え、決算日における在庫(以下「期末棚卸資産」)の数量と単価を正確に把握して、期末棚卸資産の評価を行います。そして、正確な期末棚卸資産を基に、売上原価を算定します。

会計上、期末棚卸資産の評価に関する主な決算処理は次のプロセスで行われます。

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1.商品有高表などの書類から期末棚卸資産の金額を集計する

まず、商品有高表などから決算日における期末棚卸資産の数量を把握します。そして、次のいずれかの方法で算出した金額を取得価額とみなして期末の帳簿価額とします。

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なお、本事例においては個別法を用いて期末棚卸資産を評価します。その場合、A社の期末棚卸資産の評価額は次のようになります。

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2.実地棚卸を行い、帳簿上の数量と比較して減耗損の計算をする

帳簿上の数字だけでは、紛失や盗難などによる減少を把握することはできません。そのため、実際に期末棚卸資産の数量を数えて(実地棚卸)、帳簿上と実際の期末棚卸資産の数量の差額を期末棚卸資産の評価額に反映させます。

実地棚卸を行い、帳簿上の期末棚卸資産の数量(図表8)と実際の期末棚卸資産の数量が一致しない場合には、減耗損を把握して、帳簿上の期末棚卸資産の数量を調整し、実際の期末在庫数量に合わせます。

例えば、A社が決算日に実地棚卸を行った結果、実際の期末棚卸資産の数量は商品αが8個、商品βが10個だった場合には、減耗損を次の通り計算します。

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3.期末棚卸資産の単価の評価(原価法と低価法)

期末棚卸資産の単価を評価する方法には、原価法と低価法の2つがあります。

原価法は期末棚卸資産の単価を、上記の個別法・先入先出法などで算出した単価とする方法をいいます。低価法は期末棚卸資産の単価を、原価法による単価と、期末時点の時価とを比較して、いずれか低いほうの金額とする方法をいいます。

大企業などが適用する会計基準(「棚卸資産の評価に関する会計基準」)では、低価法の採用が強制されています。ただし、中小企業が適用する会計基準(「中小会計指針」「中小会計要領」)では、原価法と低価法の選択適用が認められています。しかし、原価法を採用した場合でも、時価が著しく下落し、回復の見込みがない場合には、評価損を計上しなければなりません。

例えば、原価法を採用しているA社が決算日に期末の在庫の時価を調べた結果、前期から売れ残っていた商品αの時価が4万円だと判明した場合(時価が著しく下落、かつ回復の見込みなし)には、評価損を次の通り計算します。

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4.売上原価を算定する

売上原価は次の算式で計算されます。なお、減耗損や原価法などによる評価損については、発生原因ごとに売上原価、営業外費用、特別損失(災害など臨時の事象が原因で発生し、多額である場合など)のいずれかに該当します。なお、本事例では売上原価に該当するものとします。

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売上原価を算定したのち、損益計算書では売上総利益(売上高-売上原価)が計算され、貸借対照表には期末の棚卸資産が「棚卸資産(資産)」として計上されます。

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3 経理担当者が知っておきたい会計処理上のポイント

1)取得時の付随費用の計上漏れ

棚卸資産を取得した際に、取得原価に含めなければならない付随費用の取り扱いには注意が必要です。付随費用は棚卸資産の取得のために支払った諸費用をいいます。付随費用は、商品の性質や購入取引の流れによって異なるため、具体的にどのような費用が該当するのかを商品ごとに把握しておかなければなりません。

また、税務上では付随費用が少額(棚卸資産の購入金額のおおむね3%以内の金額)であれば、取得原価に算入しなくてもよいため、その取り扱いには注意が必要です。

2)未着品・預け在庫などの計上漏れ

期末に棚卸資産を集計する際に注意したいのが、未着品・預け在庫といった決算日に自社の倉庫にない棚卸資産です。

未着品とは決算日前に注文したものの、翌期以後に入荷される棚卸資産をいいます。また、預け在庫とは外部の倉庫業者や外注先に預けている棚卸資産をいいます。これらの棚卸資産は、決算日に自社の倉庫に商品がないため、集計忘れが起こりやすく、その結果、期末棚卸資産の計上漏れにつながります。また、商品の取引の流れを正確に把握していなかったり、業務の引き継ぎがされていなかったりする場合もあるため、自社の倉庫以外にも棚卸資産がある可能性を認識する必要があります。

以上(2021年3月)
(監修 税理士 石田和也)

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画像:Fusionstudio-shutterstock

会計の基本ルール 7つの一般原則と3つの考え方

書いてあること

  • 主な読者:会計をこれから勉強しようとしている人や、基礎をもう一度確認したい人
  • 課題:会計処理の判断に迷った際、どのようなことを基準に判断すればよいのか知りたい
  • 解決策:会計処理の判断は、7つの一般原則と3つの考え方(主義)が基軸となる

会計は、会社で行う取引を記録し、決算書などの報告書にまとめて、株主や取引先(利害関係者)に報告するためのものです。

もし、その記録が事実でないもの(粉飾)であったり、決算書に記載された金額が独自ルールにのっとったもの(不適切会計)であったりした場合、会計は全く意味をなしません。そのため、会計には処理を行う上で外してはいけない基本原則や考え方(主義)があります。それが、以下で紹介する7つの一般原則と、3つの考え方(主義)です。会社の経理を行う上で何が正しいか迷ったり、自身の部署の営業利益などを考えたりする際にも役立ちます。

1 7つの一般原則

1)真実性の原則

企業会計は、企業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供するものでなければならない。

言葉の通り、決算書上に載せる会計情報は、すべて真実なものでなければなりません。

2)正規の簿記の原則

企業会計は、すべての取引につき、正規の簿記の原則に従って、正確な会計帳簿を作成しなければならない。

正規の簿記とは「すべての取引」を、「客観的に検証できる証拠(契約書や請求書など)」に基づき、「複式簿記のルール」に従って記録することをいいます。会計帳簿(試算表や総勘定元帳など)は、正規の簿記により記録されたデータを基に作成しなければなりません。

3)資本取引・損益取引区分の原則

資本取引と損益取引とを明瞭に区別し、特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない。

資本取引とは主に株式の発行により会社財産が増減する取引をいいます。損益取引とは商品やサービスの売買による損益(売上-費用)により、会社財産が増減する取引をいいます。

貸借対照表上では、出資による財産の増減と、事業活動の成果である損益による財産の増減を、明確に区別して記載しなければなりません。

4)明瞭性の原則

企業会計は、財務諸表によって、利害関係者に対し必要な会計事実を明瞭に表示し、企業の状況に関する判断を誤らせないようにしなければならない。

どの利害関係者でも分かるように、一般的に用いられている勘定科目で示すことや、ひと目で分からない部分は注記(決算書の下に記載する注意書き)することで、利害関係者の判断にミスリードが起きないよう、明瞭に表示しなければなりません。

5)継続性の原則

企業会計は、その処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない。

例えば、固定資産の減価償却方法には定額法や定率法など幾つかの方法が認められていますが、一度採用した償却方法は、よほどの理由がない限り変更してはいけません。定額法と定率法では減価償却費として計上される金額が異なります。もし年ごとに変更ができてしまえば、利益を大きく見せたいときは、定率法に比べ減価償却費を少なく計上できる(購入初期の場合に限る)定額法を採用するなど、利益操作が可能になってしまいます。

また、年ごとに計算方法が異なる金額では、期間比較をすることもできません。そのため、一度採用した会計処理の原則や手続きは、継続して適用しなければなりません。

6)保守主義の原則

企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない。

保守主義では、売上などの収益は遅く少なめに、費用や損失は早く多めに見積もって会計処理を行うことが求められています。つまり、自社にとって良いことは遠慮気味に、悪いことは早めに公表するということになります。もちろん、上記の真実性をゆがめるような会計処理をしてはいけません。

具体例には、取引先が倒産しそうという情報が入ったときに、なるべく早く貸倒引当金を計上して、将来生じそうな損失を利害関係者にいち早く報告することがあります。

7)単一性の原則

株主総会提出のため、信用目的のため、租税目的のため等種々の目的のために異なる形式の財務諸表を作成する必要がある場合、それらの内容は、信頼しうる会計記録に基づいて作成されたものであって、政策の考慮のために事実の真実な表示をゆがめてはならない。

会社が作成する決算書は1つだけしか認められません。例えば、株主総会用には利益を大きく、税務申告用には利益を小さくした2種類の決算書を作ることなどを禁じています。もちろん、裏帳簿や二重帳簿と呼ばれる複数の帳簿も作ってはいけません。

2 3つの考え方(主義)

1)発生主義

すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない。

費用と収益は、現金のやり取りではなく、取引が発生した事実に基づいて認識する考え方です。例えば、掛け仕入れや掛け売上をした際には、現金の支払いや受け取りは生じていません。しかし、掛け仕入れや掛け売上をした時点で費用や収益が発生しているとして、会計上の仕入(費用)や売上(収益)に計上されることになります。

また、身近な例で言えば、立替経費があります。自身が立て替えた電車代やタクシー代などの経費(費用)は、月次決算を組んでいる会社であれば、その月に計上しなければなりません。経費精算の締め切りが厳守されているのは、決算書を作る上でこの発生主義を守らなければならないからです。

2)実現主義

未実現収益は、原則として、当期の損益計算に計上してはならない。

実際に実現したものだけを収益として確定する考え方です。売上に関しては、いつ実現したのかを判断するために、納品基準(商品を納品したときに実現したとする)、出荷基準(商品を出荷したときに実現したとする)、検収基準(納品された商品に不良がないと認められたときに実現したとする)などの基準を設け、それぞれの時点で売上に計上されることになります。

上記の発生主義では、商品などの受け渡しがなくても、口約束だけで売上が計上できてしまうなど、利益操作が行われやすいというデメリットがあります。そのため、売上に関しては計上できる時期をより厳格になるように、発生主義ではなく実現主義で認識することになります。

3)費用・収益対応の原則

費用及び収益は、その発生源泉に従って明瞭に分類し、各収益項目とそれに関連する費用項目とを損益計算書に対応表示しなければならない。

特定の売上に対して個別に対応可能な費用は、売上の計上に合わせて認識する考え方です。例えば、建築やソフトウエアの開発など完成までに1年を超える事業がある場合、建築や開発にかかった費用は建設仮勘定(ソフトウエア開発の場合は、ソフトウエア仮勘定)などに一旦資産計上し、完成・納品(工事進行基準の場合は進捗度合い)などにより売上が立ったときに、費用計上(製造原価や減価償却など)することになります。

以上(2021年3月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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画像:MR Gao-Adobe Stock

経営効率化を図る「持株会社化」のメリットと具体的な手法を解説

書いてあること

  • 主な読者:持株会社を活用した経営統合を検討している経営者
  • 課題:持株会社化のメリットとデメリット、具体的な手法を知りたい
  • 解決策:現在の組織体制、株主との関係、各事業の好不調に応じて適切な方法を選択する

1 経営の先行きが不透明な中でのグループ経営

持株会社とは、他社の株式の相当割合を保有し、子会社として支配・管理することを主たる事業とする会社で、一般的には、

  • 純粋持株会社:子会社の活動を支配・管理することを主たる事業とする
  • 事業持株会社:子会社の支配・管理を行うだけでなく、自らも何らかの事業を行う

といったように分類されます。本稿では、持株会社が子会社の株式を100%保有して経営統合することを「持株会社化」とします。持株会社化によって、グループ間の役割を分離する、好調な事業への投資をする、不調な事業から徹底するなどの判断がしやすくなります。

持株会社化のメリットとデメリットを整理した上で、具体的な手法として「株式移転」「株式交換」「会社分割」の概要を紹介します。

2 持株会社化の一般的なメリットとデメリット

1)戦略立案と事業遂行を分離した効率化。ただし、運営が複雑になることも?

持株会社化の最大の特徴は、経営戦略と個別事業の分離です。グループ全体の経営戦略を持株会社が担い、個別事業の執行を子会社に委ねることで、権限・責任の明確化とグループ全体の戦略の最適化が図れます。

一方、子会社はグループ全体の方針や意思決定に従うため、この点で経営の自由度は低下します。また、重要な意思決定は、子会社のみならず、持株会社(場合によっては他の子会社)との調整が必要になります。会社法上も、取締役会等の機関は持株会社・各子会社に設置することになり、この点も経営判断の遅れや手続の煩雑化などの原因になります。

2)管理部門の効率化が見込める。ただし、管理体制の整備が不可欠?

子会社に配置すべき人事や総務、法務といった管理部門等を持株会社が包括して担当するなどして、グループ全体の業務を効率化できます。

ただし、グループ全体の管理体制が整っていないとこのメリットは享受できず、逆に混乱を招きます。そのため、管理部門等の重複業務の効率化という視点から、シェアードサービスを提供するなど、最適化を図る必要があるでしょう。

3)各企業が独立できる。ただし、一体感の醸成は困難?

持株会社化で個々の企業を傘下に収めることで、一体的な経営ができます。合併との違いは、企業文化の融合や人事制度の擦り合わせが不要な点です。つまり、個々の企業の個性を生かしつつ、経営の一体化が図れます。こうした特徴を踏まえ、将来の合併を見据えつつ、その前段階として持株会社化を図るケースなどがあります。

半面、グループとしての一体感の醸成を阻害することにもなります。こうした傾向は、意思決定の迅速化や各企業の自主性を重視して権限委譲を進めるほど顕著になりがちです。

4)機動的な事業再編が可能になる。ただし、維持には相応の負担が掛かる?

持株会社化によって、グループ内の事業の再構成を機動的に行えます。例えば、事業の拡大を図るために他社を取り込む場合、持株会社傘下の一事業会社とすることができます。また、不採算事業を切り離すときも、事業ごとに会社を分けておけば、その不採算事業を担当する会社の株式譲渡等を行って事業を切り離すことができます。

一方、持株会社の維持には相応の負担が生じます。純粋持株会社の収益源は子会社から受け取る剰余金の配当、子会社が支払う経営指導料やブランド使用料などに限られてしまいます。事業持株会社には本業の収益がありますが、費用の相当部分は子会社負担が一般的です。

5)税制上のメリットを受けられる

1.グループ法人税制の適用

子会社の株式を100%保有すると、グループ法人税制が強制的に適用されます。詳細は省略しますが、グループ法人税制では、100%グループ内における一定資産の譲渡に関する譲渡損益の繰り延べ、受取配当金の益金不算入、寄附金の損金・益金不算入等が定められています。

2.連結納税の導入

所定の手続をすれば、持株会社化によって法人税の連結納税ができます。連結納税とは、企業グループ内の個々の企業の所得と欠損を通算して法人税を課税する仕組みです。「景気動向の影響を受ける企業と常に安定している企業の損益を通算し、景気後退時の納税額を抑える」ことなどが可能です。

ただし、連結納税制度の適用を受ける際は、一定の要件に該当する連結子法人の繰越欠損金を引き継ぐことができない、子会社が保有する一定の資産については時価評価をする必要があるなどのデメリットもあります。

6)事業承継対策に活用することができる

純粋持株会社化は事業承継対策の面で効果が期待できます。詳細は省略しますが、純粋持株会社の株価評価は、純資産価額法となるため、純粋持株会社化することで株価の評価額を引き下げられる場合があります。また、複数の事業会社がある場合、相続の対象となる株式を純粋持株会社の株式のみにできるので、株式の分散防止や相続時の手続の簡素化などが図れます。

3 「株式移転」による持株会社化

株式移転とは、1または2以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることです。子会社の株主には、持株会社の株式などを交付することで、持株会社の傘下に複数の完全子会社を置くことが可能です。株式移転による持株会社化を「株式移転方式」ということもあります。

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株式移転の特徴は、持株会社(A社)を新設する点であり、持株会社と子会社はいずれも株式会社でなければなりません。また、子会社の株主に株式の対価として交付するものは、持株会社の株式や社債などとされています。一般的には、組織再編税制における適格要件を充足するために、持株会社の株式のみを交付することが多いようです。組織再編税制における適格要件は、1.完全支配関係内(100%グループ内)の組織再編、2.支配関係内(50%グループ内)の組織再編、3.共同事業を形成するための組織再編でそれぞれ異なります。しかし、いずれの場合であっても、対価要件(株式移転等の対価として、移転後の持株会社の株式等以外の資産が交付されないこと)が課されています。

これに加え、1.と2.の場合においては従前の支配関係継続が要件となります。また、2.と3.の場合には事業継続と従業者の引き継ぎ(おおむね80%)も要件となり、3.の場合はさらに事業の関連性、発行済株式の80%以上の継続保有、事業規模5倍以内または特定役員の継続就任が要件となります。

株主・債権者への対応としては、子会社の反対株主の株式買取請求権が認められています。

一方、債権者保護手続については、特定のケースに限定されています。債権者保護手続とは、合併などを行う場合、債権者に対して事前にその旨を知らせ、異議を述べる機会を設ける手続です。異議申立のあった債権者に対しては弁済などの措置を取らなければなりません。株式移転における債権者保護の対象は、交付される持株会社の新株予約権が、新株予約権付社債に付された新株予約権である場合の、新株予約権付社債権者に限られます。

4 「株式交換」による持株会社化

株式交換とは、株式会社がその発行済株式の全部を他の株式会社または合同会社に取得させることです。株式交換は、株式移転と同様、持株会社の100%子会社化により持株会社化を図るための方法です。株式移転と違うのは、持株会社は既存の会社であることです。株式交換は、主に事業持株会社化をするときに利用されます。

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子会社の株主に株式の対価として交付するものは、株式や社債などに限定されておらず、現金を交付することができます。ただし、組織再編成税制における適格要件の1つに、持株会社の株式のみとする旨が定められているのは株式移転と同じです。

株主・債権者への対応としては、株式移転と同様、子会社の反対株主の株式買取請求権が認められているだけでなく、持株会社の反対株主の株式買取請求権も認められています。

一方、債権者保護手続については、株式移転と同様、子会社の新株予約権付社債権者に対して必要である他、子会社の株主に株式移転の対価として持株会社の株式等以外の財産(現金等)を交付する場合は、持株会社の既存の債権者に対しても必要となります。

5 「会社分割」による持株会社化

会社分割とは、株式会社または合同会社が事業に関して有する権利義務の全部または一部を、分割後に他の会社に承継させる手続です。会社分割には、

  • 新設分割:事業に関して有する権利義務を新たに設立する新設会社に承継させる
  • 吸収分割:事業に関して有する権利義務を既存の承継会社に承継させる

といった手法があります。「新設分割」は、複数の事業部門を有する会社を事業部門ごとに分社化して独立採算制とする(カンパニー制)場合などに使われます。一方、「吸収分割」は、グループ会社において実質的に重複する事業を行っているケースなどにおいて、1つの会社に同一事業を集中して経営効率を上げる場合などに使われます。

会社分割では、純粋持株会社を創設させるための方法として「抜け殻方式」と呼ばれる方法があります。抜け殻方式とは、事業に関する権利義務の全部を他の会社に承継させて、親会社はグループ統括のみを行うようにする方式です。

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会社分割には、会社の一部の事業を切り分けて分社化する際に煩雑な手続を回避できるという大きなメリットがあります。

会社の一部の事業を他の会社に譲渡する方法には「事業譲渡」もあります。しかし、事業の包括承継ではないため、譲渡する事業に係る契約を全て個別に結び直す必要があります。債務も当然には承継されないため、個別の債権者の同意が必要です。これに対して、会社分割は事業を包括承継できるため、事業に関する契約は当然に引き継がれますし、個別の債権者の同意も不要です。また、事業承継の対価として必ずしも資金を用意する必要はなく、株式を割り当てることができます。

以上(2021年3月)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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【文例付き】渋沢栄一、豊臣秀吉の「名言」を使った若手社員に向けたスピーチ

書いてあること

  • 主な読者:朝礼などで若手社員に期待することを伝えたい経営者
  • 課題:若手社員は「失敗」や「目立つこと」を極度に嫌がるとの調査結果もあり、意識のギャップがある
  • 解決策:若手社員の傾向に配慮しつつ、先達の名言なども引用して伝えていく

1 「失敗」や「目立つこと」を極度に嫌がる令和の新入社員

清少納言や吉田兼好も随筆でこぼしていた、「最近の若者は……」という愚痴。世代間に意識のギャップがあるのは、いつの時代にも共通した人類の永遠のテーマなのかもしれません。とはいえ、若者は会社の未来を担う重要な存在。経営者の熱い思いを伝え、一緒に会社の未来を作っていきたいものです。そのためには、まずは若手社員との意識のギャップがあることを知っておくことが大切です。

日本能率協会マネジメントセンターが2020年11月に公表した「イマドキ若手社員の仕事に対する意識調査2020」(以下「若手社員の意識調査」)によると、最近の若手社員は、他の世代の人たちと比べて、「失敗」や「目立つこと」を極度に嫌がる傾向があるようです。一方の経営者には、若いうちにどんどん失敗してほしい、遠慮なく自分の意見を主張してほしいなどと考え、やはり両者にはギャップがあるかもしれません。

そこで本稿では、若手社員のこうした傾向を踏まえた上で、彼らの意識の変化を促すようなスピーチを、先達の名言を使った文例も添えて紹介します。

2 文例1 「成功か失敗か」より重要なことを気付かせる言葉

「成功失敗の如きは、謂わば丹精した人の身に残る糟粕(そうはく)のやうなものである」(渋沢栄一*)

1)文例

皆さんも理解されていると思いますが、社会人は結果が全てというのは、正しい考えです。ですが、その「結果」というものが何なのか、もう一度考え直してみてください。なぜなら私は、一時的な成功で利益を上げたり、プロジェクトを成功させたりすることだけが、結果だとは思っていないからです。

明治時代に金融業や鉄道・運輸業、製造業、エネルギー産業、宿泊業など約500社もの設立に関わった渋沢栄一は、「論語と算盤(そろばん)」の言葉で知られるように、ビジネスマンに倫理観や公益性を強く求めた人物です。

その渋沢は、「成功失敗の如きは、謂わば丹精した人の身に残る糟粕のやうなものである」と語っています。成功や失敗というものは、人としての責務を全うし、努力をした人の体に残った酒かすのように、価値の低いものだというのです。つまり、結果はどうであれ、それまでの努力が大切だということです。

私は渋沢の考えに賛同します。むしろ、真剣に向き合ってどんどん失敗してほしいと思います。失敗は失敗した人だけが経験できる貴重なものであり、その経験は次のチャレンジで必ず活きてくるからです。皆さんが高い志を持って努力し、自分を磨いていくことのほうが、会社にとってははるかに好ましいことなのです。

2)解説:「失敗=悪=恥」という意識にとらわれた若手社員を解放する

若手社員の意識調査によると、若手社員ほど「失敗を恐れない」人の割合が低く、「失敗したくない」人の割合が高くなっています。その背景には、「恥をかきたくない」「他人からの評価が気になる」といった思いもあるようです。

今の若手社員は、バブル崩壊で経済が長年低迷し、中国にGDPで抜かれ、少子高齢社会への対策が遅れるなど、日本の「失敗する姿」ばかりを見続けて育ちました。閉塞感から抜け出せない雰囲気の中で、世の中の厳しさを強く感じてきた若者たちが、「失敗=恥」と考えるのは自然なことでしょう。逆に、今の若手社員は、結果を出すことの重要さを痛感している、危機感をしっかりと持った世代、と見ることもできます。

かといって、「成功=善」「失敗=悪」という二元論にとらわれ過ぎることは、好ましくありません。自分の夢に向かって進むことや高い志を持つこと、挑戦すること、経験を積むことなど、二元論以外にも考え方があることを示してあげるのが大切です。

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3 文例2 「目立つ」ことや「主張する」ことを後押しする言葉

「自分が気に入らぬからといって、ほかの者も気に入らぬとはかぎりますまい」(豊臣秀吉**)

1)文例

織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の中で1人だけ採用するとしたら、私は迷わず秀吉を選びます。なぜなら、秀吉は「人たらし」との異名があるように、愛想がよく、周囲の人たちに気遣いができる人だったからです。ですが、人に合わせるだけでは自分がありません。空気を読む力を持っていた秀吉ですが、あえて空気に逆らうこともできたことが秀吉の素晴らしいところです。

秀吉が最初に仕えたのは、今川義元の家臣である松下之綱(ゆきつな)でした。一説によると、秀吉は之綱の配下として能力を発揮し出世するのですが、同僚たちの妬みを受け、無実の罪で訴えられます。秀吉は無実を主張し、之綱も無実だと分かっていましたが、「大勢の家臣には替えられない」と、秀吉を解雇したといいます。その後、信長の配下で秀吉が大活躍し、之綱の仕える今川家が没落したのは、皆さんご存じの通りです。

組織である以上、同僚に合わせることは必要ですが、その前提は各人が自分の意見を持ち、議論した結果です。之綱は秀吉のことを指して、「あのような男を誰が召し抱えるのか」と言ったそうです。秀吉はこれに反発し、「(あなたは)大将たるべき器量をお持ちでない方だ。自分が気に入らぬからといって、ほかの者も気に入らぬとはかぎりますまい」と言い返したそうです。

同僚に合わせるというのは、「自分を曲げる」ということではありません。皆さんも秀吉のように、正しいと思ったことは、私を含めたあらゆる社員に対して、遠慮せずに意見してください。この会社では、同僚の妬みという心配も無用です。秀吉のように、「きっと誰かが自分を評価してくれる」と信じて、自分の能力を存分に発揮してください。

2)解説:集団の空気に逆らう勇気も

若手社員の多くは、SNSを使いこなし、オンラインで「人とつながる」ことの経験が豊富です。グループ内で良好な関係を維持することにたけているといえます。彼らはメッセージの文面や絵文字だけでも集団の空気を読み、自らが目立つことを避け、相手に合わせ、主張しないことを身に付けてきたのです。

若手社員の意識調査でも、若手社員ほど目立つことや主張することを控え、周囲と同調しようとする傾向が顕著となっています。その点では、会社という組織で活動するには、非常に適した人材だといえるでしょう。

しかし、先々、会社の屋台骨を支える人材に成長してもらうには、周囲と同調しているだけでは困ります。価値観の違い、と言ってしまえばそれまでですが、時にはあえて空気に逆らって、自分が正しいと思った意見を主張する、周りから抜きん出る、ということの重要さも伝えておきたいものです。

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【参考文献】

(*)「青淵百話 乾」(渋沢栄一、国書刊行会、1986年4月)
(**)「名将言行録 現代語訳」(岡谷繁実、北小路健・中澤恵子訳、講談社、2013年6月)

以上(2021年3月)

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【朝礼】夢は無限、チャンスは有限

皆さん、おはようございます。早いもので2020年度も間もなく終わりを迎えます。今年度はコロナ禍の影響もあり、仕事でもプライベートでも「耐え忍ぶ」場面が多かったかもしれません。我が社は既に反転攻勢に出ていますが、来る2021年度、皆さんにはさらに攻めの姿勢に転じ、困難に「挑戦する」一年にしてほしいと思います。そこで、今日は挑戦をテーマにした話をします。

皆さんは、登山家の植村直己(うえむらなおみ)さんをご存じでしょうか。1970年に日本人で初めて世界最高峰のエベレスト登頂に成功し、さらに同年、北米大陸のマッキンリー登頂を成し遂げて、世界初の五大陸最高峰登頂者となった人です。日本列島3000キロを徒歩で縦断したり、北極圏1万2000キロを犬ゾリで完走したりと、登山以外にも数々の冒険に挑戦されました。こうした偉業だけを見ると、恐れを知らない人に思えるかもしれませんが、実は植村さんには、人一倍臆病な上に、高所恐怖症という意外な一面がありました。

では、こうしたハンディを持ちながら、なぜ植村さんは数々の偉業を成し遂げることができたのでしょうか。私は彼の自伝を読んで、1つ大きな理由があると感じました。それは、植村さんが「今しかない」という感覚を非常に大事にしていたことです。植村さんは大学4年生のとき、友人がアラスカの山で日本では見られない氷河を見てきた話を聞き、「外国の山に登りたい」という夢への情熱を燃やします。

就職してから渡航するという選択肢もあったのでしょうが、植村さんは「今、山に登ることが幸せになる道だ」と信じて疑わず、就職そっちのけでヨーロッパのアルプスに渡ります。そして、生まれて初めて氷河を目の当たりにした植村さんは、その美しさに魅入られ、登山家としての人生を本格的にスタートさせます。

登山家としての活動を本格的に開始した後も、「今しかない」を大事にする姿勢は変わりませんでした。エベレストの登山隊に推薦されたときにも、「このチャンスを逃してはならない」と二つ返事でこれを引き受けています。彼の自伝の中では、さまざまな局面で「チャンス」という言葉が登場しているのです。

さて、皆さんの中に、仕事あるいはプライベートで成し遂げたい夢や目標がありながら、「今は他のことが忙しいから」「まだタイミングじゃないから」と、それを先延ばしにしている人はいませんか? 夢を抱くことは誰にでもできます。しかし、その夢をかなえるチャンスは、いつまでも皆さんを待ってくれません。タイミングを逸して他の人に先を越されたり、コロナ禍のように予想できない事態に見舞われて、チャンスを逃したりすることは少なくありません。

夢は無限に広がりますが、チャンスは有限です。先延ばし癖が付いている人は、「今しかない」を大事にして、挑戦する2021年度にしてください。

以上(2021年2月)

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画像:Mariko Mitsuda

J.Y.Park氏~部下のヤル気を引き出す「フィードバックの神」~/2021年、最も学ぶべきマネジメントの三賢人

書いてあること

  • 主な読者:部下のヤル気を引き出したい経営者
  • 課題:耳の痛いことを伝えたいが、直接的に言うと傷ついてしまうのでは……
  • 解決策:J.Y.Park氏の言葉から「褒める→改善点の指摘→褒める」などのメソッドを学ぶ

コロナ禍は我々の働き方を大きく変えました。2020年4月、1度目の緊急事態宣言が発出されると、リモートワークが一気に広がりました。否応なしに普及したオンラインコミュニケーションに自己不全感を感じるビジネスパーソンも少なくありません。また、収入減を補うための副業が増えたことで、現職への帰属意識はおのずと低下せざるをえない状況です。いま、従業員から見た企業や組織への求心力は著しく揺らいでいます。
そして2021年は、2度目の緊急事態宣言発出から始まってしまいました。ウィズコロナの中で、企業にとって組織マネジメント力を高めることは至上命題です。

本連載では、最も旬といえる3人の指導者を「マネジメントの三賢人」として取り上げます。なにゆえ彼らのチームビルディングやメンバーコミュニケーションが素晴らしいのかを、そのメソッドの背後にある理論的裏付けとともに解説していきます。組織マネジメントの要諦について、理論だけでなく実際の事例とともに学ぶことで、実践につなげていきやすいと考えるからです。学んで真似て体得する。ぜひ組織変革の一助としてください。

  • 第一の賢人
    韓国人音楽プロデューサーのJ.Y.Park(パク・ジニョン)氏
    オーディション番組「Nizi Project」(ニジプロ)からデビューし、いきなり紅白歌合戦にも出場を果たした大注目ガールズグループ「NiziU」を世に出したプロデューサー。

学んで真似るポイント

  • 部下のヤル気を引き出す、そして成長を促すフィードバックのやり方
  • 部下の会社への愛着心を高めるには、組織の成果を追うだけでなく部下の成長にコミットすること
  • 成長を促すには、相手を傷つけず、耳の痛いことをきちんと伝える技術が最も重要
  • J.Y.Park氏から、部下の成長に伴走していくフィードバックについて学びます

1 プロデューサーの金言

「NiziU」を世に送り出したオーディション番組「Nizi Project」(ニジプロ)は、ソニーミュージックと韓国の大手芸能プロダクションJYPエンターテインメントによる合同オーディション・プロジェクトでした。命名の由来は、“虹”のようにメンバーそれぞれの個性が様々な色を放つようなガールズグループを発掘・育成、世に出したいというコンセプトにあります。
2019年7月中旬にスタートし、日本国内8都市とハワイ、LAにてグローバル・オーディションを開催。応募者は10,231人に及びました。総合プロデューサーのJ.Y.Park氏によって26人が選ばれ、東京合宿と韓国合宿を経て、最終デビューメンバー9人が決定。プレデビュー曲がストリーミング再生で1億回を突破するという驚異の数字を叩き出しました。

番組では、パート1として地域オーディションから東京合宿の模様を放送、パート2として、韓国にあるJYPトレーニングセンターにて6カ月間に及ぶデビューに向けた練習の模様を放送しました。ガールズグループ、韓流というキーワードもあいまって、当初から若い女性の間では話題になっていました。しかし徐々に、この韓国人プロデューサーの発する言葉が「とにかく感動的だ」と話題になり、年齢や性別を問わず注目を集めるようになっていったのです。J.Y.Park氏がフィードバックの神といわれる所以は、彼の言葉力にあります。

2 なぜフィードバックが重要なのか

フィードバックとは、もともと制御工学で使われている用語で、出力結果を入力側に戻し、出力値が目標値に一致するように調整することを指します。このことから、求める結果との「ずれ」と「その原因」を行動側に戻すことを、「フィードバックする」と表現するようになりました。
ビジネスにおけるフィードバックとは、行動や成果に対する評価内容を伝え、より良い結果へ導くための手法を指します。組織の生産性向上を図るためにも、フィードバックは不可欠ですが、昨今、よりその重要度がクローズアップされています。

冒頭でも述べたように、コロナ禍において、多くの企業が従業員の求心力を維持することに苦慮する中、従業員の会社に対する「愛着」「思い入れ」「絆」=「エンゲージメント」を高める取り組みが急務です。実は、従業員の成長実感がこのエンゲージメント向上に直結しているのです。
フィードバックには人材育成の役割を果たす側面もあります。企業と従業員とが相互に影響し合い、共に必要な存在として絆を深めながら成長できるような関係を築いていく。こうして組織への求心力を高めるために、フィードバックの重要度が増しているわけです。

3 耳の痛いことをきちんと伝える

しかし、フィードバックは意外と難しいコミュニケーションです。そもそも、求める結果との「ずれ」と「その原因」を行動側に戻すことが目的なわけですから、聞き手に耳の痛いことを伝えるシーンがどうしても多くなります。言い方を間違えれば、部下を混乱させ傷つけてしまいかねません。部下ができていないことを伝えるのは、けっこう勇気がいるものです。
読者の皆さんの中にも、「直接的に言うと傷ついちゃうかなぁ。でも遠回しに言っても伝わらないしなぁ……」といったような悩ましい経験をした方が相当数いるのではないでしょうか。実際にアメリカのある調査では、回答者の44%が「ネガティブなフィードバックはストレスを感じる」と答えています。
組織マネジメントの成否を左右するフィードバックですが、その効果は正しく行われてこそ発揮されるものです。要するに、伝え方が命なわけで、特に耳の痛いことをきちんと伝える「技術」がものすごく問われるのです。

4 「褒める→改善点の指摘→褒める」というサンドイッチ

「素質と成長の可能性を見たら13人の中で最高です」
「ただし才能がある人が夢を叶えられるわけではありません。自分自身に毎日ムチを打って、自分自身と戦って、毎日自分に勝てる人が夢を叶えられます」

オーディション中に、個人のテストで体力が最後まで続かなかったメンバーがいました。その時にJ.Y.Park氏が発した言葉です。この言葉がフィードバックの核心をついています。

相手の自尊心を傷つけないで、より効果がある言葉で話しかけることができるかどうか。これで、耳の痛い指摘の伝わり方に雲泥の差がでます。彼は「素質と成長の可能性を見たら13人の中で最高です」と、まず評価した上で、温かくも厳しい言葉を投げかけます。
人間は、もともと対立する2つの基本的欲求──「学び成長したい」という衝動と「現状のままの自分を受け入れられ愛されたい」という衝動──を抱えています。フィードバックは、その葛藤が起きやすい局面なのです。
改善点の指摘というネガティブなフィードバック(具)を、褒めるというポジティブなフィードバック(パン)で挟んで行う=サンドイッチのように「褒める→改善点の指摘→褒める」という順番で行う。これが改善点を指摘された部下のモチベーション低下、といったフィードバックによる悪影響を、最小限に抑えることができるポイントとされています。
彼の言葉は、まさにフィードバックのセオリーを体現しています。

5 状況Situation/行動Behavior/影響Impact

「僕たちはみんな1人1人顔が違うように、1人1人の心、精神も違います。見えない精神、心を見えるようにすることが芸術です。だから自分の精神、心、個性が見えなかったらそのパフォーマンスは芸術的な価値がないのです」

地域予選の最終審査で、ありのままの姿で表現ができていなかった候補者に対する指摘です。ダンスパフォーマンスをする上で切っても切り離せない芸術性について、彼なりの言葉で語っています。芸術の定義は人それぞれ違ってくるでしょうが、彼ははっきりと言語化し、聞いた人が次につなげられるように指摘しています。

たとえば「個性が大事だ」とはよく言われるけれど、それだけだと「じゃあ個性って何?」となってしまう人も多いはず。でも彼の言葉は的確です。「なるほど。ただうまさを見せるだけではなく、やるべきは芸術なんだ。この曲を通して自分が何を感じ、自分が何を伝えたくなったかを表現してみよう」と具体的に方向を変えられる指摘になっているのです。

この語りは、実は「SBI」というメソッドに通じています。「SBI」とは、部下の状況・状態(Situation)を、行動レベル(Behavior)で捉え、その影響(Impact)について客観的に伝えるというやり方。できるだけ具体的に伝えることで、軌道修正がしやすくなります。成長に向けたイメージが持てれば、耳の痛いことも飲み込みやすくなるものです。

6 心理的安全性

J.Y.Park氏は1人1人に対して、問いかけ、本人の口で語らせ、いいところがあったらしっかり褒め、改善すべきところがあったら、事実を穏やかに述べ、行動を是正させます。頭ごなしに怒ったりもしないし、わざと厳しい言葉をかけることもありません。
しかし彼の言葉がここまで響いてくるのは、言葉選びのセンスだけではありません。彼が発する金言の数々からは、「一人の人間としてあなたを尊重しています」という姿勢が漏れ出ているようです。

「皆さんがここで26位になっても、脱落したとしても、皆さんが特別ではないということではありません。1位になっても26位になっても同じように特別です。このオーディションはある特定の目的に合わせてそこに合う人を探すだけで、皆さんが特別かどうかとは全く関係ありません。1人1人が特別じゃなかったら生まれてこなかったはずです」

J.Y.Park氏は、最終合宿の冒頭でこう語りかけました。これは、まさに心理的安全性の提供です。心理的安全性(Psychological Safety)とは、“他人の反応におびえたり、羞恥心を感じたりすることなく、自然体の自分をさらけ出すことのできる環境を提供する”という心理学用語です。ご存じかもしれませんが、あのグーグルが、最もパフォーマンスを発揮するチームの条件として発表したことで、一気に注目を集めるようになりました。

彼の言葉によって、オーディションメンバーは「たとえ脱落しても、自分の存在そのものを否定されるのではない。だからこそ思い切ってパフォーマンスできる」と感じることができたはず。
また、こうした土壌が、耳の痛い指摘も受け入れることができやすくなるマインドセットにつながっていくのは言うまでもありません。心理的安全性がフィードバックの効果を高めるのです。

「Nizi Project」は、世の中で部下を持つ管理職には全員観てほしいコンテンツです。コロナ禍の今、まさに求められるマネジメントの理想形がそこにはあります。

(注)本稿で紹介しているJ.Y.Park氏の言葉は「Nizi Project」の番組内での発言を元に書き起こしています。

以上(2021年2月)
(執筆 平賀充記)

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画像:Halfpoint-Adobe Stock

中小企業こそファイナンス思考が役に立つ/経営者のためのファイナンス講座(1)

書いてあること

  • 主な読者:将来の意思決定に役立つファイナンス思考を身に付けたい経営者
  • 課題:ファイナンスの考え方がよく分からない
  • 解決策:「会計」は過去を見せるものであり、「ファイナンス」は将来を見せるもの

1 時代は会計から、会計+ファイナンスへ

近年、「ファイナンス」という言葉をよく聞くようになり、ベストセラー本も出ています。会計が会社や事業にとって必須というのは疑う余地がないものですが、会計と並ぶものとしてファイナンスが認識されるようになったのです。

そこで、この連載では、最近話題のファイナンスについて分かりやすく解説をしていきます。それも、中小企業の観点からファイナンスを捉えてみます。現時点で多くの方にとって、ファイナンスは「正体不明」であり、「うちみたいな中小企業には関係ない」と思っているかもしれません。実は、そんな難しい話でも新しい話でもないのです。ファイナンスの見方と具体例を知っていれば、会計に振り回されずに、より効率的で効果的な経営につながります。

2 ファイナンスとは、「お金」をモノサシに将来を考えること

ファイナンスという言葉は、日本語でいえば「財務」と訳されることが多いようです。しかし、財務という言葉から想像されるような、単なる資金繰りの話ではありません。本当の意味はもう少し広いのです。

ざっくりいえば、ファイナンスとは「お金」をモノサシとするものの見方のことです。これは、皆さんご存じの会計が、利益をモノサシとする見方なのと対照的です。会社を経営するうえでは、会計が扱う利益も大事ですが、ファイナンスが扱うお金も大事ということに、皆さん異論はないでしょう。「勘定合って銭足らず」というように、いくら利益が出ていても、資金が切れてしまったら会社は潰れてしまいます。そこで、利益よりもリアルなお金をモノサシに将来を考えるのがファイナンスの見方なのです。

会計では利益を計算するために、損益計算書などの決まったカタチがあります。一方、ファイナンスでは決算書のような決まったカタチがないので、余計に分かりにくくなっています。そこで、もう一つだけ、ファイナンスを理解するのに役に立つキーワードを紹介しましょう。それは、「将来」です。私がウォルト・ディズニー・ジャパンに勤めていたときの上司だった経営者は、よくこう言いました。「ファイナンスはサーチライト、会計はバックミラー」と。車に例えると、会計は後ろ=過去を見せるものであり、ファイナンスは前=将来を見せるものということです。さらに、「わたしが運転(=経営)を間違えないように、前をよく照らしてくれ」と続けるのが常でした。

3 年度末の節税対策も「ファイナンス」?

皆さんの身近な例で考えてみましょう。中小企業でも、年度末近くになって利益が出そうだと分かり、将来のために物品を購入する場合があります。なかには、頑張ってくれた感謝として従業員に決算賞与を出すうれしい会社も。実は、この取り組みはファイナンスの視点と共通するのです。

それは、決算が締まる前に利益が出るという「将来」を予想し、会社にとってより良い意思決定を行っているからです。もちろん、購入する物品が会社にとって必要なものであることが大前提ですが、利益が出ても税金で持っていかれてしまうなら、この際購入しようと考えるわけです。また、もう一つのキーワードである「お金」にも着目しています。今期だけの目先の数字にとらわれるのではなく、会社にとって必要なものを中長期の将来にわたって考える点で、まさにファイナンスが目指すところでもあります。

4 会計が中小企業の良さをダメにしてしまうこともある

会計の利益だけに目を向けていると、なかなかこのような判断にはつながらないかもしれません。なぜなら、会計の利益というのは、いろいろな決め事に基づいて計算されるバーチャルなものだからです。その一例として、勘定科目の使い方があります。

例えば、飲食業では、利益を出すには、原材料費は3割に抑えるべきだといわれます。皆さんは「俺の〇〇」という飲食店チェーンをご存じでしょうか。店の前に行列が絶えなかったこのチェーンは、その慣習的な考えを打ち破り、高級食材を惜しみなく使いました。当然原材料費は3割では収まりません。しかし、自由に食材を使えることを魅力に感じた高級店出身の料理人を多数起用できたことで話題を呼び、集客に大成功しました。事業としては、立食を中心に回転率を上げたことで、利益を生み出すことができたようです。

このような事業のモデルは、勘定科目にとらわれていたら、なかなか思いつかないでしょう。当然ですが、全体を俯瞰(ふかん)し、全体で利益が出ることこそが大事なのです。

公認会計士の私が言うのも変かもしれませんが、定着しすぎた感のある会計の見方に縛られているのかもしれません。特に個性的な事業が多い中小企業においては、その良さが失われてしまいかねないのです。

5 中小企業こそ、ファイナンスを始めよう

このような特性に加えて、リソースの面から考えても、中小企業がファイナンスの考え方を取り入れることはメリットが大きいといえます。

会計で扱うのは過去の結果ですので、良く見せようとしても限度がありますし、会計処理を工夫したところで事業の本質には関係ないことです。これは、例えば、お化粧で気になる箇所をカバーしようとするのと同じです。できることなら、素肌を整えて、化粧があまり必要ない状態をつくるほうがいいはずです。ファイナンスは「素肌美人」を目指す、会社のこれからの業績を良くするために役に立つ見方なのです。

人やお金などの制約が比較的大きい中小企業にとっては、見栄えよりも本質に焦点を当てられるほうが望ましいはずです。ですので、中小企業こそ、ファイナンスの見方をぜひ身に付けることで効果が高くなるといえます。

この連載では、ファイナンスを手軽に身に付けたい中小企業の経営者のために、具体的な事例を用いて、中小企業に関わる内容だけを選りすぐって、分かりやすく解説していきたいと思います。無理のない範囲で少しずつ進める指針になればうれしいです。

以上(2021年3月)
(執筆 管理会計ラボ 代表取締役 公認会計士 梅澤真由美)

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【朝礼】主張する気がない者はこの場から去れ

「自分の意見を主張する」。ここ数年のうちに、多くのビジネスパーソンに求められるようになった姿勢です。「主張」とは、自分の意見を相手に訴えることです。ここでいう意見は、「理想」と言い換えられる、ビジネスに対する皆さんの熱い思いです。そうした思いがぶつかり合うエネルギーはすがすがしく、その当事者になることはとても楽しいものです。ですので、私は皆さんにぜひ、主張してほしいと思っています。

一方で、多くのビジネスパーソンは正しく主張することができません。それは自分の意見を持っていないからですが、その背景には、これまで自分の意見を持つことを明示的に求められなかったことがあるでしょう。つまり、意見を持って主張するという発想がないわけです。

ただ、これまで朝礼の場で何度も話しているように、状況は変わりました。業績好調な企業では、「出るくいを歓迎する」文化を育んでおり、我が社もそのような組織を目指しています。自分の意見に完璧を求める必要はありません。人と話したり、本を読んだりする中で変わっていくからです。ですので、皆さん、まずは新年度に向けて、ビジネスにおける自分の存在意義を考えてください。

ここで皆さんにアドバイスですが、焦って正しくない主張をするのはやめたほうがよいです。後ろ向きの主張や、「意見なきポーズの主張」は周囲を不快にし、結果として皆さんから人が離れ、孤立してしまうことになるからです。

正しくない主張を、私は「逃亡」「怠惰」「迎合」の3つに分類しています。

「逃亡」とは、例えば「自分には意見があるが、言っても何も変わらないので言いません」と宣言するような人です。この宣言をもって主張しているつもりでしょうが、意見を言わないのなら、何ら主張していないのと同じです。

「怠惰」とは、上司や顧客からの依頼を面倒に思い、自分が楽をするために「やらない方法を主張する」ことです。言うまでもありませんが、こうした主張の意図は透けて見えるので、すぐに周囲の人から相手にされなくなります。

「迎合」とは、いわゆる「フリーライダー」で、「声の大きい人に乗っかって、自分の主張にすり替える」ことです。こうした人は、風見鶏のように意見が変わるので、相手が頭のいい人なら、自身の主張を通すために利用されるだけです。

これらの主張に遭遇すると、私は本当に嫌な気分になります。ぎこちなくてもいいので、真っすぐに自分の意見をぶつけてください。これに勝るものはないのです。また、主張し合うことは、これまでとはレベルの違う「熱いコミュニケーション」です。会社と社員の関係がドライになったといわれて久しいですが、明らかにその流れとは逆行することになるでしょう。しかし私は、この会社の未来について皆さんと主張し合い、議論したいと心から願っています。ここにいる皆さん、その準備はできていますか?

以上(2021年2月)

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画像:Mariko Mitsuda

大切な「ロゴ」を模倣から守るために知っておくべき法律の知識

書いてあること

  • 主な読者:ロゴの模倣などを防止するために、知的財産化したい経営者
  • 課題:知的財産にはいろいろな種類があり、何をしたらよいのか分からない
  • 解決策:商標法による保護を受けることが基本

1 自社のロゴを守るのは商標法・著作権法・不正競争防止法

企業やサービスのロゴには、さまざま思いが込められています。また、他の企業やサービスとの違いを分かりやすく識別するものでもあります。そのため、ロゴの模倣などを防止することはとても大切です。法的には、商標法・著作権法・不正競争防止法によって保護できます。

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基本は商標法によって半永久的に保護することなので、弁護士や弁理士に相談することが先決となります。商標法の詳細や、著作権法・不正競争防止法についても知りたい方は、次章からまとめていますので、参考にしてください。

2 商標法におけるロゴの保護

1)商標とは

商標法では、商標(商品・サービスに付される目印)を保護しています。商標には、企業名や商品名などビジネスで使用する目印全般が該当し、文字だけや図形だけで構成されたロゴ、文字と図形を組み合わせたロゴの他、コマーシャルなどで流れるサウンドロゴなども該当します。

商標は特許庁に出願し、審査と登録を経た上で、権利(商標権)が発生します。商標権を侵害された場合、侵害行為の差止めを求めること、損害賠償を請求することなどができます。登録する際は、商標とともに、その商標を使用している(使用を予定している)商品または役務を指定します。

2)商標法では何が守られる?

商標が登録されると、指定商品・指定役務について登録商標を使用する権利を専有できます(専用権)。さらに、他人による類似範囲の使用を排除することができます(禁止権)。

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例えば、自社が「XYZ」という商標を、指定商品のノートブックで登録した場合、他者は「XYZ」という商標をノートブックで使用することはできません。この効力はノートブックと類似の商品であるルーズリーフ用紙にも及ぶので、他者がルーズリーフ用紙に「XYZ」という商標の使用することを禁止できます。類似の商品か否かは、特許庁が作成する「類似商品・役務審査基準」に基づいて判断されます。商標自体が類似しているか否かは、商標の外観、称呼(読み)および観念(意味)という3つの点から主に判断されます。一方、靴などの非類似の商品の場合、他人は「XYZ」という商標を使用することができます。

3)商標法でロゴを保護する場合の注意点

ノートブックと靴で説明した非類似の商品の課題を解消するには、ノートブックだけでなく、靴も指定して商標を使用する商品・役務の指定を増やす方法があります。ただし、商標を出願料や登録料などは区分数(指定商品・指定役務の数)に応じて変わるので、多くの商品・役務を指定すると費用が高くなります。

また、多くの商品・役務を指定して商標を登録しても、実際に使用していなければ登録を取り消される恐れがあります。3年以上使われていない登録された商標に対して、誰でも取り消しを求めることができる「不使用取消審判」という制度があるからです(ただし、被請求者を害することを目的としている場合は、権利濫用となり認められません)。

ちなみに、ロゴのデザインを検討する際に、文字だけのものと図形があるものとでは、どちらのほうが効力の及ぶ範囲が広いのか疑問を持つかもしれません。結論はどちらも登録することです。文字と図形はそれぞれが違う商標となるからです。

4)登録できない商標

全てのロゴが商標として登録できるわけではありません。自他商品・役務を識別できない商標、公益性に反する商標、他人の登録商標または周知・著名商標などと紛らわしい商標などは、商標として登録することができません。登録された商標は工業所有権情報・研修館が運営する「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」で公開されています。ロゴの登録を検討する際は、他人が既に登録していないかを調べておきましょう。

3 著作権法におけるロゴの保護

著作権法では、著作者(著作物を創作した人)などの権利を保護しています。著作物の定義は「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」です。

ロゴが著作物として認められれば、著作権法で保護されます。その場合、商標法のような登録は不要で、著作物を創作した時点から自動的に権利(著作権)が発生します。著作権を侵害された場合、侵害行為の差止めを求めることや、損害賠償を請求することなどができます。となると、「ロゴは商標登録していなくても、著作権法で保護されるので問題ない」と考えるかもしれませんが、一般的に、ロゴは著作物として認められないことが多いとされます。

特に、文字だけのロゴの場合はハードルが高いです。例えば、アサヒスーパードライなどのパッケージで目にする「Asahi」のロゴは、図案化されたデザイン性の高い書体が使用されており、著作物として認められそうです。しかし、裁判例ではAsahiのロゴに対して著作権による保護を認めていません(東京高判平8.1.25)。文字は万人共有の文化的財産であり、また、本来的には情報伝達という実用的機能を有するものであることなどから、著作権の保護の対象には当たらないと判断されています。

一方、図形を使ったロゴの場合、キャラクターなどは著作物として認められる可能性がありますが、シンプルな図形の組み合わせなどは創作性が低いと判断され、著作物として認められない恐れがあります。

4 不正競争防止法におけるロゴの保護

不正競争防止法は知財だけを保護する法律ではありませんが、商標などの知財に対するさまざまな侵害行為を不正競争行為として定めて規制しています。特徴は、商標法では保護の対象としていない商標についても保護していることです。例えば、商標法では、商標の登録が必要であり、商標の指定商品・指定役務と非類似の商品(例えば、ノートブックと靴)については保護されません。この点、不正競争防止法では、登録していない商標や、指定商品・指定役務と非類似の商品における商標についても、侵害行為の差止めや、損害賠償を請求することなどができます。

とはいえ、ロゴに関する不正競争行為が成立する要件のハードルは高いです。例えば、ロゴが広く知られていなければならないので、限られた市場で営業していたり、ロゴを作成してそれほど時間を経ていなかったりする場合は保護を受けられません。

一方、別の視点で重要なのは、他者のロゴの権利を侵害しないことです。知っておきたいのは「周知表示混同惹起行為」「著名表示冒用行為」です。周知表示混同惹起行為とは、「他人の商品・営業の表示(以下「商品等表示」)として需要者の間に周知されているものと同一、または類似の表示を使用し、他人の商品・営業と混同を生じさせる行為」です。また、著名表示冒用行為とは、「他人の商品等表示として著名なものを、自己の商品・営業の表示として使用する行為」です。

以上(2021年2月)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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画像:unsplash