【朝礼】リモートワークは実践フェーズに突入します

今朝は、リモートワークを今後も当社の基本的な働き方として続けていく上で、皆さんに認識してほしい大事な話をします。

新型コロナウイルス感染症まん延の影響で、ビジネスの進め方も働き方も変化しました。特に最近、当社において大きく変わってきたと私が感じているのは、社外の人との関わり方です。当社は今までも、社外のさまざまなネットワークを活用して仕事を進めてきました。ここにきてリモートワークやオンライン会議が定着してきたこともあり、数カ月の間に、その動きが加速したと思っています。

これまでは、どうにか当社の中で進めようとしてきた仕事を、社外の知見ある人に依頼することでスピードアップし、より質の高い成果が得られるようになってきているのです。皆さんは、このことを、どれだけ実感を持って受け止められているでしょうか。

はっきり言いましょう。社外の人との仕事が加速すれば、社員である皆さんに求められることのレベルは一段も二段も上がります。「あなたは当社にいて、何を実現できるのですか?」という質問を、一人ひとりが突き付けられていることに他ならないからです。この大きな状況の変化を、皆さんは認識していますか?

皆さんの仕事ぶりを見聞きしていると、中には、この変化を本当に分かっているのかどうか、いささか疑問に思える人もいます。

私は、こうした変化を皆さんが認識できないのは、一義的には私に責任があると思ってきました。リモートワークの場合、会社が変わろうとしている空気感などを実感するのは難しいものです。それならば、組織を率いる者は、そうした空気感を言葉にして皆さんに伝えなければならない。そう思って私はこの数カ月、社外の人との仕事が加速すること、会社がこれから実践しようとしていること、営業状況などを一つひとつ具体的に、皆さんにアナウンスしてきました。

皆さん一人ひとりに求めるレベルやスピード感が大きく変わっていくということも、繰り返し伝えてきました。しかし、その「伝達フェーズ」は終わりです。これからは、もう遅いくらいですが、「実践フェーズ」に突入します。

私はもう、一つひとつの出来事を、具体的に皆さんにアナウンスすることはしません。会社が今後どう変わるのか、何をやろうとしているのかを、本当に知りたい人は、私や上司に自ら質問してきてください。社外の人に負けない知見を得て、自分に任せてほしい仕事があるなら、ぜひ自分から手を挙げて実績を見せてほしいのです。

指示や情報を与えられることを待っているだけでは、もう前に進めない、何も手に入らないことを、どうか認識してください。そういう段階は、もう終わりです。当社はこれからますます変わります。ついてこられるか否かは、皆さん次第です。肝に銘じてください。

以上(2020年10月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】働きアリが働く目的は?

先日読んだ本が興味深かったので、今朝はそのお話をします。テーマは「働きアリの働き方」です。アリについては、「女王アリは至れり尽くせりの世話を受けて幸せ。働きアリは一生働かなければならず、ブラック企業の社員みたい」といったイメージがあるかもしれません。

しかし、働きアリは無理やり働かされているわけではありません。女王アリに卵を産ませたほうが自分に近い遺伝子を残せるので、そこは女王アリに任せ、自分は他の仕事をしているのです。またこの労働は、滅私奉公ではありません。働きアリの役割は、幼虫を育てる、巣を掃除する、エサを見つけて運び込む、外敵が来たら戦うなどですが、女王アリから指図されているわけではなく、個々の裁量でやるべきことを決めています。

そのため、働きアリをよく観察していると、隊列から外れてフラフラとサボるアリもいます。ただ、こうしたアリも、巣が壊れる、外敵が襲ってくるなどの非常事態には率先して仲間を助けます。また、うろちょろと寄り道をする中で、エサへの近道を見つけることもあります。

こうした働きアリの生態には学ぶことも多いですが、私は違和感も覚えます。

その違和感とは、「女王アリと働きアリ」「種の保存」という、いつまでも変わらない価値観の中だけで動いているように見えるところです。

私たちはどうでしょうか。知らず知らずのうちに、いつまでも変わらない価値観に支配されていることはないでしょうか?

働きアリが本能で女王アリの世話をするように、私たちは生きるために働き、家族も養います。そのために一生懸命になることは、会社にとってありがたいことですが、これは最も基本的な「生理的欲求」です。そして次に、やりがいを見つけるために、「目的」を決めようとします。上司と部下の面談でよく見かける、「あなたの働く目的を決めましょう」といったものですが、この行為さえも、今、本当に必要なのかは疑問です。

極端に言えば、確固たる目的ややりがいがなくても、「こういうものがあったら便利かも」「今の仲間と一緒に働けるのは勉強になる」という気持ちが少しでもあり、それを軸に自分で行動できれば、それでいいのではないでしょうか。むしろ、「上司から言われたので目的を考えた」という既定路線の受け身な姿勢は、進化の邪魔になります。

働きアリの話から飛躍しているかもしれませんが、私はむしろ、働きアリの話にただ感心しているようではいけないと危機感を覚えました。皆さんはどうでしょうか。今、皆さんの価値観や「なぜ働くか」について、バージョンアップを図る時期に差し掛かっているのです。

以上(2020年10月)

pj17026
画像:Mariko Mitsuda

リアル商談会に参加してビジネスの可能性を広げよう~商談会終了後編~

書いてあること

  • 主な読者:商談会への参加を検討する経営者
  • 課題:商談会後にやるべきことを知っておきたい
  • 解決策:「どのような来場者に」「どういう方法でフォローをするか」を早く決めて実践。次回に活かせる社内用「商談会全体のチェックシート」も忘れないうちに用意

1 来場者へのフォローを行う

本稿では、リアル商談会の後にやるべきことをまとめます。その際の視点は2つです。1つは、対来場者へのフォロー、もう1つは、次回以降に向けた社内での情報共有です。なお、本稿では「商談会」は全て、特別な断りがない限り「リアル商談会」を指します。

1)来場者の確度分けを行う

商談会の会場で商談や名刺交換をした相手は、大切な見込み客であり、フォローする必要があります。このとき、全員を同じようにフォローするのではなく工夫が必要です。

例えば、確度などに応じて来場者を分類して、来場者の情報を整理してもよいでしょう。商談会当日に初めて会った来場者も多く、なかなか確度分けが難しいかもしれませんが、次の3つくらいには分けることを心掛けましょう。

  • 「具体的な商談を行った(あるいは行えそう)」など優先的にフォローする来場者
  • 情報収集に来た競合他社など、すぐにフォローする必要がない来場者
  • その他の来場者

また、商談会当日に作成した商談シートに記載した情報も整理し、フォローする際に参照できるようにします。

2)お礼状や資料請求者への資料を送付する

来場してくれた招待客や名刺交換を行った人などには、お礼状を送ります。ここでは「お礼状」としましたが、大切なのはブースに立ち寄ってくれた感謝の気持ちを伝えることであり、必ずしも手紙やはがきなどの書面で出す必要はありません。

そのため、対象者の数や相手のことも考慮しながら、手書きのお礼状、メール、SNS、チャットツール、電話などから、適した方法を選択するとよいでしょう。こうした、お礼の連絡は商談会終了翌日、もしくは2~3日後には先方に届けるのがよいでしょう。

また、商談会当日に準備していなかった資料などの送付を希望した来場者には、状況などにもよりますが、1週間以内など早い段階で当該資料を送付するようにします。

3)フォロー担当部署へ適切に情報提供を行う

商談会当日に商談した担当者が、必ずしも同じ相手のフォロー担当者になるとは限りません。この場合、フォロー担当者がスムーズにフォローできるように、商談会で得た情報を適切に引き継ぐ必要があります。

その際には、「確度の高い来場者を、その他の来場者と区分して優先的にフォローするように伝える」「相手とのコミュニケーションを通じて得た情報を正確に伝える」ようにします。

2 商談会の総括を行う

商談会に出展した効果や、出展に際しての反省点などを整理し、次回の商談会への参加を検討する際に必要となる情報をまとめます。具体的には、「名刺獲得件数、アンケート回収件数、商談件数などの出展効果に関する情報」「出展に掛かるコスト」については、整理、評価する必要があるでしょう。

また、商談会の中には年に一度など定期的に開催しているものもあります。主催者によるサポート内容や対応の善し悪しなど、「商談会自体に対する評価」も行っておくと、次回、参加を検討する際の参考になるでしょう。

3 商談会担当者向けのチェックシート

商談会の事前準備から商談会終了後までの主なポイントをまとめた、商談会担当者向けのチェックシート(例)は次の通りです。

なお、実際には、こうしたチェックシートだけではなく、具体的な物品名や必要数、手配先などを整理した一覧表を、別途作成しておくようにしましょう。

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以上(2020年11月)

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リアル商談会に参加してビジネスの可能性を広げよう~商談会当日編~

書いてあること

  • 主な読者:商談会への参加を検討する経営者
  • 課題:商談会の当日は慌ただしく、浮足立つ。どのようなことに気を付ければよいのか
  • 解決策:来場者への感謝を忘れず、立ち寄りやすい雰囲気やニーズの引き出し、そしてマナーを大切にする

1 商談会当日、ブースに来場者を呼び込むポイント

本稿では、リアル商談会当日に心掛けたいことをまとめます。商談会で来場者は、複数のブースを見て、たくさんの出展企業と出会います。そうした来場者に少しでも覚えてもらい、次につなげるために必要なことを考えてみましょう。なお、本稿では「商談会」は全て、特別なことわりがない限り「リアル商談会」を指します。

1)製品を分かりやすく展示する

商談会当日は、多くの来場者に興味を持ってもらい、商談をするのが主な目的です。まずは製品を、来場者に見やすく、分かりやすく展示することが大切です。具体的な留意点は展示する製品などによって異なりますが、「製品はブースの前面など来場者が見やすい場所に配置する」「製品名や製品の特徴を端的に示すキャッチコピーを目立つ位置に配置する」などは必ずやったほうがよいでしょう。

2)注目を集める装飾・演出やイベントを行う

来場者の印象に残るようにするには、ある程度の装飾・演出が必要になります。例えば、宣伝用の「のぼり」や「垂れ幕」などの装飾品が使われているケースが多いようです。また、担当者全員に「はっぴ」など共通の服装をさせれば、担当者が「動く広告塔」になると同時に、ブースの一体感や活気を演出することができるでしょう。

その他にも、簡単なイベントを開催するのも効果的です。例えば、製品の活用方法などをテーマにした短時間のプレゼンテーションや、製品のデモンストレーション、動画配信などを行うのもよいでしょう。

3)製品サンプルやノベルティーグッズを効果的に活用する

来場者してくれた方に感謝の気持ちを込めて、製品サンプルやノベルティーグッズなど(以下「サンプルなど」)をプレゼントとして用意しておくのもよいでしょう。例えば、「会社や製品のパンフレットなどの資料とセットにし、持ち帰りを促す」「名刺交換に応じてくれた人にお礼の意味を込めて配布する」といったように、目的を明確にするのも一策です。

4)立ち寄りやすい雰囲気をつくる

来場者にブースに立ち寄ってもらうためには、「立ち寄りやすい雰囲気づくり」にも注意が必要です。明るい色使い、楽しそうな雰囲気づくりなどを心掛けましょう。感染症対策の意味もあり、ブースに常駐しているのは少人数に限られるかもしれませんが、それでも、笑顔やあいさつを忘れずに、来場者を明るく出迎えることが大切です。

2 商談時に留意する事項

商談といっても、来場者の多くは、その場で取引を決定することは多くはないかもしれません。来場者の当日の主な目的は、資料では分かりにくい点を確認したり、「自社のニーズに適合した対応が可能か」といった点など、来場者が会社に帰って検討する際に必要な情報を収集したりすることです。

また、来場者の多くは、他のブースも見学する時間を確保したいと思っています。そのため、商談の時間はおおむね15分程度が目安で、長くても30分程度というケースが多いようです。

そこで、強引に商談を進めるのではなく、自社の製品やサービスを理解してもらった上で、「次につながる商談」を心掛けるとよいでしょう。具体的には次のような点に留意します。なお、これらの点を実践するには、当日に限らず、事前準備もしっかり行っておくことが大切です。

  • 商談する担当者は、製品について熟知した人を配置し、スムーズに商談を進められるようにする
  • 来場者が社内で検討する際に必要となりそうな情報を整理した資料を、事前に準備しておく
  • 「来場者が何を知りたい(実践したい)のか」など、商談会後のフォローの際に必要となる情報を収集する

3 商談会のルールやマナーの遵守

商談会には、さまざまなルールがあります。当たり前のことですが、こうしたルールは遵守しなければなりません。基本的なものは、主催者が提示するルールです。事前準備から事後のブース撤去に至るまで、商談会のルールは守らなければなりません。

また、商談会には明示されたルール以外にも、守るべきマナーがあります。マナーの基本は「他のブースや来場者に迷惑を掛けない」ということです。例えば、通路や隣のブースの邪魔になるような展示や装飾などを行わない、音響設備を使用する際には、周囲のブースの迷惑にならないように音量などを調節するといった配慮が必要です。

また、今の時代、感染症に関するマナーも、必須なものといえます。主催者側が「当日は必ずマスク着用」「ブースには◯人まで」など、感染症対策としてルールを設けている場合もあるので、必ず確認しておきましょう。そうしたルールがなかったとしても、来場者や他の出展者に安心してもらえるよう、言動には気を配ることが大切です。社内で事前に説明会を開催するなどして、当日どのような立ち居振る舞いが望ましいか、どのようなことがNGかなどについて、意識を共有しておきましょう。

以上(2020年11月)

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金銭消費貸借契約/改正民法が分かる(9)

書いてあること

  • 主な読者:2020年4月に改正された民法のポイントを知りたい経営者
  • 課題:改正の断片的な情報しか把握していないので、全体像が知りたい
  • 解決策:金銭消費貸借契約のポイントを紹介(シリーズの他のコンテンツもあります)

1 諾成的消費貸借契約の新設

お金を貸し付ける契約は、民法上、消費貸借契約に該当します。これは、借りたものと同じものを、同じ数量を返却することを約束して、物や金銭を借りる契約のことです。

旧民法では、消費貸借契約は、要物契約であるとされていました(旧民法第587条)。当事者の意思表示の合致に加えて、一方の当事者からの目的物の引き渡しその他の給付があって初めて成立する契約ということです。そのため、「お金を貸します」「お金を返します」という約束だけではなく、実際にお金の引き渡しがあって初めて契約が成立します。また、お金の引き渡しがされる以前に、貸主が「やっぱり貸せません」などと断った場合、契約が成立していないことから、借主はお金を貸してもらうよう請求することもできませんでした。

ところが、実務上は、判例(最高裁昭和48年3月16日)で無名契約としての諾成的消費貸借契約が認められていました。これは、「お金を貸します」という約束の時点で契約の効力が生じることで、住宅ローンや金融機関から融資を受けることを前提とする大型の開発プロジェクトのように、諾成的消費貸借契約に対するニーズがあります。そのため、改正民法ではこれまでの判例・実務上認められていた諾成的消費貸借契約を新設し、明文化しました。

ただし、当事者の「合意のみ」によって契約上の義務が生まれると、安易に金銭を借りる約束や貸す約束をしてしまった者に酷な結果が生じかねません。そこで、改正民法では、書面または電磁的記録による諾成的消費貸借の規定が設けられました(改正民法第587条の2)。

以降では、金銭消費貸借契約を締結する際の契約書の記載例や注意点を紹介します。

2 契約書の記載例

改正民法を踏まえた契約書を作成する場合、次のような記載例が考えられるでしょう。

【金銭消費貸借契約書】

貸主(以下「甲」という。)と、借主(以下「乙」という。)は、乙が、○年○月○日に支払期限が到来する仕入れ代金の返済に充てることを目的として、以下の通り、金銭消費貸借契約(以下「本契約」という。)を締結する。

第1条(諾成的金銭消費貸借契約)
甲は、乙に対し、金○○○○万円を貸し渡し、乙はこれを借り受けることを合意する。

第2条(金銭の授受)
甲は、乙に対し、前条の金員を、○年○月○日限り、乙の指定する口座に振り込む方法により貸し渡す。振込手数料は甲の負担とする。

第3条(返済期限・方法)

第4条(利息)

第5条(期限の利益の喪失・解除)

第6条(遅延損害金・損害賠償)
1)乙は、甲に対し、第3条に基づく返済を遅延した場合、遅延した日の翌日から支払い済みまで、残元金に対する年○パーセントの割合による遅延損害金を支払う。
2)甲が、本契約に基づき金銭を貸し渡す義務を怠った場合、甲は、これにより乙が被った損害を賠償する。

第7条(乙による解約)
乙は、甲から第2条記載の金員を受領する前に限り、本契約を一方的に解除することができる。ただし、甲がこれにより損害を被った場合には、当該損害について賠償する義務を負う。

第8条(一括返済)
乙は、期限の利益を放棄して、甲に対し何らの損害賠償をする義務を負うことなくいつでも一括にて返済することができる。ただし、乙は甲に対し、これにより甲が被った損害を賠償する。ただし、甲がこれにより損害を被った場合には、当該損害について賠償する義務を負う。

第9条(協議条項)

第10条(裁判管轄)

1)タイトル・頭書

表題(タイトル)は、通常通り、金銭消費貸借契約書でよいでしょう。

また、頭書部分については、金銭消費貸借の目的を書くとよいでしょう。改正民法では、利息付消費貸借契約においては、売買の規定が包括準用されます(改正民法第559条)。そのため、契約不適合責任が問題となります。詳細は本シリーズの第5回「債務の履行」にて解説しているため割愛しますが、旧民法の瑕疵(かし)担保責任が、改正民法では契約不適合責任となり、義務の履行が契約に適合しない場合には追完請求、契約解除、損害賠償請求などができます。

この契約不適合責任においては、合意の内容や契約書の記載だけでなく、契約をした目的や、締結に至る経緯など一切の事情が考慮されるといわれています。そこで、この点を踏まえて、契約をした動機・目的・契約締結に至る経緯を明確にすることが重要になります。

2)第1条~第2条

第1条~第2条は、改正民法では書面合意による消費貸借契約が認められたため、それを表した条項例です。

3)第3条~第5条

第3条~第5条については、現行の金銭消費貸借契約書と内容が変わらないため、記載を省略しています。

ただし、第5条の解除について若干補足します。改正民法第587条の2第3項において、書面でする消費貸借においては、借主が金銭などを受け取る前に、貸主または借主が破産手続き開始の決定を受けたときは、その効力が失われると定められました。

これは、当事者の一方が破産した場合に、貸し付けを履行させることは不合理であるためです。契約書の解除事由として当事者の一方が破産したということが記載されていない場合であっても、貸主または借主が破産手続き開始の決定を受けたときは、合意の効力が失われることに留意が必要です。

4)第6条

第6条について、諾成的消費貸借では、貸主の債務不履行に対する借主からの損害賠償が考えられます。まず、諾成的消費貸借契約においては、貸主が借主に対して貸し付けを行う義務が生じます。そして、貸主がこれを怠ることによって借主に損害が生じた場合には、貸主にはそれによる損害を賠償する義務が生じます。

ただし、何をもって損害とするか、損害をいくらと評価するかは、個々の事案における解釈・認定に委ねられ、紛争となる恐れがあります。そこで、賠償の内容を具体的に記載することも考えられます。

例えば、第6条において、次のような記載例も考えられます。

甲が本契約に違反した場合、乙は、甲に対し、損害賠償を請求することができる。この場合の損害賠償の額は、金○円とする。

甲が本契約に違反した場合、乙は、甲に対し、損害賠償を請求することができる。この場合の損害賠償の額は、乙が他で同額の資金を調達するために要した費用の額(本契約より不利な条件で借り受けたことによる経済的損失も損害と見なす)とする。

なお、これは借主側の視点になりますが、上記の記載例のように、事前に賠償額を予定する内容は、注意が必要です。賠償額が過大な場合には改正民法第90条や不当条項規制の問題から、無効となる可能性があります。

5)第7条

第7条については、改正民法第587条の2第2項の前段の内容を明記したものです。同項では、借主が目的物を受け取るまでは契約の解除ができることを定めています。これは、金銭などの引き渡し前に資金需要がなくなった借主を契約の拘束力から解放させるべきとの考えからです。

一方、改正民法第587条の2第2項の後段では、上記の場合であっても、貸主が損害を受けたときは借主に対して損害賠償請求権を有することを定めています。

もし損害賠償の話となった場合には、損害の内容や評価額で紛争になる可能性があるため、例えば、「ただし、その場合、乙は、甲に対し、違約金として金○円を支払う」のように、違約金額を定めておくことも一つの方法でしょう。

ただし、違約金額が過大である場合には改正民法第90条や不当条項規制の問題として無効となる可能性もあります。また、事業者が消費者に貸し付ける場合には、消費者契約法第9条により、一般的な損害額を超える部分については効力が否定される可能性がありますので、留意が必要です。

6)第8条

第8条について、改正民法第591条第2項、第3項では、消費貸借契約において、返還時期を定めた場合でも、借主は期限の利益を放棄して返還できること、および、借主が期限前返済をしたことで貸主に損害が生じた場合、貸主が借主に対して損害賠償請求権を有することが定められました。

旧民法においても、内容としては同様の理解がされていたものであり、契約実務上も一括返済の条項が置かれることが多いため、実務上の扱いに大きな影響を与えるものではありません。

なお、損害の内容および損害額については争いになる可能性があるため、例えば、次のような記載例とすることが考えられるでしょう。

(一括返済による賠償責任は無いとする場合)
第8条(一括返済)

乙は、期限の利益を放棄して、甲に対し何らの損害賠償をする義務を負うことなくいつでも一括にて返済することができる。この場合、乙は甲に対し、何ら損害を賠償する責めを負わない。

(一括返済による賠償責任を、甲が得られるはずだった利息を踏まえ算出する場合)
第8条(一括返済)

乙は、期限の利益を放棄して、甲に対し何らの損害賠償をする義務を負うことなくいつでも一括にて返済することができる。この場合、乙は甲に対し、当初の弁済期までの利息に相当する金員から中間利息を控除した金額を損害として賠償しなければならない。

以上(2020年11月)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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ソフトウエア開発の請負契約/改正民法が分かる(8)

書いてあること

  • 主な読者:2020年4月に改正された民法のポイントを知りたい経営者
  • 課題:改正の断片的な情報しか把握していないので、全体像が知りたい
  • 解決策:ソフトウエア開発の請負契約を紹介(シリーズの他のコンテンツもあります)

1 契約不適合責任についての改正

改正民法では、請負契約における「瑕疵(かし)担保責任」が廃止されて、「契約不適合責任」に改められました。これは、売買契約における売主の担保責任と同様の改正であり、「瑕疵」の概念そのものがなくなりました。

契約不適合責任に改められたことにより、目的物が契約内容から乖離(かいり)している場合、発注者に認められる請求の内容が増えました。これは請負人にとっては負担が大きくなる改正です。そこで、本稿では、主に請負人の視点からソフトウエア開発の請負契約を締結する際に注意すべき点をまとめます。

なお、今後も「瑕疵担保責任」という用語を契約書で使用する場合、法律上の定義がない用語となりますので、契約書において、「瑕疵」の定義(例:本契約その他甲乙間において合意した仕様・品質・数量などを有しないこと)を置く必要があるでしょう。

2 契約書の記載例

改正民法では、契約不適合がある場合に責任追及ができます。この契約不適合とは、契約の内容に適合しないことをいい、合意の内容や契約書の記載だけでなく、契約をした目的や締結に至る経緯など、一切の事情が考慮されます。

「瑕疵」と「不適合」の違いが具体的にどう表れるかについては、今後の解釈に委ねられています。ただし、いずれにしても、契約締結に至る経緯が契約内容の解釈に影響する可能性は高いといえます。そのため、契約書でも契約の趣旨、目的または内容を記載しておくことが有用です。例えば、請負人は契約時に契約の目的を次のように記載することが考えられます。

第○条(目的)
甲(*注文者)と乙(*請負人)は、甲が、自社で受注した複数の建築工事につき、それぞれの作業進捗、作業人員、予算、資材などを一元的に管理できるシステム(第○条で定義する。以下「本件システム」という。)の開発を希望しており、乙がかかる管理システムについて開発可能な技術者を多数雇用し、十分な開発実績を有していることから、乙に開発委託をすることが適切と考えて、本契約を締結するものである。

1)追完請求・代金(報酬)減額請求の追加に注意する

改正民法では、契約不適合がある場合、注文者は請負人に対して追完(目的物の修補、代替物の引き渡しまたは不足分の引き渡し)を請求できます(改正民法第562条)。請求したにもかかわらず追完がなされないときは、不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができます(改正民法第563条)。

例えば、システムの一部に不具合があったとします。このとき、まず注文者は、請負人(開発を請け負ったシステム会社)に対して、不具合を修補するよう求めることになります。

しかし、請負人が不具合を修補できず、注文者が自社で完成させたり、別のシステム会社に開発を委託して完成させたりしたとします。このような場合、請負人は不具合のあった部分の開発費に相当する費用を報酬から減額されることが考えられます。

第○条(契約不適合責任)
本件システムの成果物の納入日から1年以内に、当該成果物の仕様・品質・数量などについて、個別契約、仕様書などの定めと異なることまたは当該成果物が甲乙間で合意した水準に達していないこと(以下、総称して「契約不適合」という。)が判明した場合には、甲は、その選択に従って当該成果物の修補、代替物の引き渡しまたは不足分の引き渡しによる履行の追完を請求することができるものとする。なお、これらの履行の追完が不能である場合または追完によって契約の目的を達成できない場合においては、甲は、代金の減額を請求することができるものとする。

2)修補義務などが重くなり過ぎないよう工夫する

改正民法では、注文者が請負人に対して、プログラムの修補を求めたり、損害賠償を請求したりできる期間が大きく変わりました。具体的には、注文者が目的物の契約不適合を知ったときから1年以内に請負人に通知すればよいと定められました(改正民法第637条)。

例えば、請負人に落ち度があり、システムに大きな不具合があったとします。改正民法では、請負人の落ち度が分かったときから1年以内に、「開発していただいたシステムに○○という不具合がありました」という通知をしておけば、契約不適合を知ったときから5年以内(消滅時効、改正民法第166条第1項第1号)は、いつでもシステムの修補や賠償を求めることができます。

請負人としては、このような重い負担を避けるための特約を定めるかを、検討すべきでしょう。例えば、契約書に次のような条項を定めておくことが考えられます。ただし、修補や賠償の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実については、その責任を免れることができないとされているため注意が必要です(改正民法第572条)。

第○条(契約不適合の場合の修補義務)
1)本件システムの検収の合格から1年以内に、本件システムの成果物が本契約の内容に適合しないことが発見され、同期間内に乙(*請負人)に対してその旨の通知があった場合、乙は無償で当該不具合を修補するものとする。
2)乙の担保責任は、法令に反しない限り、前項の範囲に限られるものとし、前項の期間経過後に本件システムの不具合が判明した場合であっても、乙は何らの責任を負わないものとする。

3)注文者が受ける利益の割合に応じた報酬の改正に注意する

請負は、請負人が仕事の完成を約し、注文者がその結果に対して報酬を支払うことを約束することで、有効に成立する契約です。そして、報酬は仕事の目的物の引き渡し時または仕事終了時に支払われます(報酬後払いの原則。旧民法第633条、改正民法第633条)。

そのため、仕事が未完成の場合には報酬を請求できないのが原則です。しかし、それでは仕事の進捗状況や仕事が完成しなかった事情によっては、報酬の全部または一部を請求できず、不合理な場合があります。そのため、改正民法第634条で、一定の事由がある場合において報酬請求ができると定められました。

具体的には、次のように定められました。

  • 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき(改正民法第634条第1号)、または、請負が仕事の完成前に解除されたとき(改正民法第634条第2号)において、
  • すでに行われた仕事の結果のうち「可分」な部分の給付によって注文者が利益を受けるときには、その部分について完成があったと見なし、請負人は、「注文者が受ける利益の割合に応じて」報酬請求権を有する

例えば、システム開発が途中で頓挫し、プロジェクトが中止されて契約解除となったとします。改正民法では、プログラムの9割は出来上がっている。ただし、出来上がっている部分とそうでない部分の機能が連動しており、プログラム全体としては利用不可能というような場合、部分的な請求は認められないものと考えられます。

もし、上記のような法の定めとは異なる定めをしたい場合には、その旨を特約などで明記する必要があります。例えば、次のような条項を契約書に定めることが考えられるでしょう。

第○条(報酬)
甲(*注文者)は乙(*請負人)に対して、請負業務の対価として、以下に記載の成果物の検収合格後○営業日以内に、以下の通り対価を支払うものとする。

  • 要件定義…成果物:要件定義書、システムテスト仕様書
    金○円(消費税別)
  • 外部設計…成果物:基本設計書、結合テスト仕様書
    金○円(消費税別)
  • 内部設計…成果物:詳細設計書、単体テスト仕様書
    金○円(消費税別)
  • プログラミング…成果物:本件システムのソースコード一式
    金○円(消費税別)
  • システムテスト…成果物:テスト報告書
    金○円(消費税別)

以上(2020年11月)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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賃貸借契約/改正民法が分かる(7)

書いてあること

  • 主な読者:2020年4月に改正された民法のポイントを知りたい経営者
  • 課題:改正の断片的な情報しか把握していないので、全体像が知りたい
  • 解決策:賃貸借契約のポイントを紹介(シリーズの他のコンテンツもあります)

1 個人根保証の改正

1)極度額を定める

直接的には賃貸借契約に関する改正ではありませんが、賃貸借契約の締結にあたってきちんと知っておかなければいけない重要な改正民法の一つとして、個人の根保証に関する改正が挙げられます。具体的には、保証人の保護を拡充するために、全ての個人根保証契約に極度額を付すことが求められました。これにより、極度額の定めがなければ根保証契約が無効になります。

賃貸借契約の保証は、家賃の他、物件破壊などの賠償や、明け渡し遅延の損害金など、賃貸借に関して生ずる一切の金銭債務について責任を負うものであり、根保証にあたります。そのため、保証人が個人の場合、保証契約に極度額の記載が必要になります。例えば、契約書には、連帯保証人の条項を次の通り定めなければなりません。

第○条(連帯保証人)
連帯保証人丙は、本契約に基づく乙(*賃借人)の一切の債務を、乙と連帯して負担しなければならない。ただし、丙がこれにより、甲に対して負担する債務は、【○万円(または月額賃料の○カ月分)】を限度とする。

なお、2020年3月以前に締結された保証契約に係る保証債務については、旧民法が適用されます。保証債務が発生したとしても(例えば、改正民法施行後に賃料滞納が生じたとしても)、保証契約が改正民法の施行前であれば、保証人に対して責任を追及できます。一方、2020年4月以降の保証契約に係る保証債務については、改正民法に従った対応が必要です。

注意すべきは、既契約が更新または再契約によって続く場合です。このタイミングで新たな根保証契約が締結されたものと評価される可能性があるので、保証の効果が失われないよう、更新または再契約のタイミングで改正民法に従った対応が必要になります。

2)情報提供義務が履行されたことを確認する文言を入れる

改正民法では、主債務者は、事業のために負担する債務について保証人になろうとする者(個人のみ)に対し、財産・収支・負債の状況などの情報を提供しなければならないという義務が定められました(改正民法第465条の10第1項)。提供すべき情報(主債務者の財産などの状況)は、具体的には次の通りです。

  • 財産および収支の状況
  • 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額および履行状況
  • 主たる債務の担保として他に提供し、または提供しようとするものがあるときはその旨およびその内容

提供すべき情報を提供しなかったり、事実と異なる情報を提供したりしたために、保証人が上記事項を誤認し、保証契約を締結した場合、保証契約が取り消されることがあります(改正民法第465条の10第2項)。

このような理由による取り消しの主張を防ぐため、保証契約締結の手続きを見直す必要があります。契約書の中で係る義務が履行されたことを確認する文言を入れ、手続きが正しく履行された旨を書面に残すといった対応も検討するべきでしょう。また、契約書上においては、例えば、以下のような条項を設けておくことが考えられます。

第○条
連帯保証人丙は、本契約に基づく乙(*賃借人)の債務を保証するにあたり、乙に関する以下の情報提供を受け、当該事項を認識した上で乙の債務を保証するものである。

  • 財産および収支の状況
  • 本契約に基づく乙の債務以外に負担している債務の有無並びにその額および履行状況
  • 本契約に基づく乙の債務の担保として他に提供し、または提供しようとするものの有無およびその内容

なお、この情報提供義務は、改正民法上、事業用の賃貸借契約において個人が保証する場合にのみ求められています。居住用の賃貸借契約や、法人が保証人となる場合には不要です(少なくとも法令上要求されていません)。

3)主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務がある

改正民法では、債権者(賃貸人)は、保証人から求められたときは、遅滞なく、主たる債務(=家賃)の元本および利息、違約金、損害賠償などについて、不履行の有無・滞納額などに関する情報を提供しなければなりません(改正民法第458条の2)。

この義務に違反した場合、債務不履行の一般法理に従い、損害賠償請求や保証契約の解除ができることがあるので対応が必要です。なお、これは、2)と異なり、全ての保証契約が対象となります。つまり、居住用の賃貸借契約や、法人が保証人となる場合にも適用されます。

2 賃借人の修繕する権利についての改正

改正民法では、賃借人は、賃借物の修繕が必要である場合において、次のいずれかに該当する場合、自ら修繕することができることが明文化されました(改正民法第607条の2)。

  • 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、または賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間に必要な修繕をしないとき
  • 急迫の事情があるとき

ただし、賃借人の自由な修繕を認めてしまっては、紛争が複雑化することも考えられます。そこで、契約書において、例えば次のような特約を検討します。

【特約(例)】
賃借人は、民法第607条の2にかかわらず、増改築に及ぶものはもとより、耐震工事や建物の躯体(くたい)に影響する大規模修繕に関する修繕権を有しないものとし、修繕権を有するのは小規模修繕に限るものとする。ただし、賃借人が小規模修繕を行う場合には、緊急を要する場合を除き、工事費見積書を添えて事前に賃貸人に通知して、賃貸人に修繕の機会を与えるものとし、かつ、賃貸人の同意を得るものとする。

なお、賃借人が個人など消費者契約法に定める「消費者」の場合は、消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)により無効とならないかどうかの検討が必要です。

3 賃料の当然減額・契約解除についての改正

改正民法では、賃借物の一部が滅失その他の事由によって使用収益ができなくなった場合、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃借人からの請求を待たずに、賃料が減額されると規定されました(改正民法第611条第1項)。

しかし、具体的にどの程度賃料を減額するのかは、直ちに明らかになるとは限りませんし、実務上もこの点を巡る紛争はよく見られます。また、賃借人が故障をそのまま放置し、賃貸人もそれを認識していない状況で、後日、賃借人から、その間の賃料が当然に減額されていると不意打ち的に主張されて、建物賃貸借の現場が混乱する恐れもあります。そのため、契約書においては、次のような特約を入れることを検討するとよいでしょう。

【特約(例)】
賃借人は、本件賃貸物件に一部滅失を発見した場合には、発見から○日以内に、具体的な賃料減額割合を示して賃貸人に通知するものとし、この通知をしなかった場合には、特段の事情のない限り、通知以前の賃料減額を主張し得ないものとする。

また、旧民法では、賃借物の一部が「賃借人の過失によらないで滅失した場合」において、残存部分のみでは賃借人が賃借した目的を達することができないときに、賃借人は契約を解除できるとしていました。

これに対し、改正民法では、残存部分のみでは賃借人が賃借した目的を達することができないときには、賃借人に帰責事由があっても、契約の解除ができるようになりました。

4 不動産の賃貸人たる地位の移転についての改正

改正民法では、不動産の賃貸人たる地位の移転に関して、「賃貸人たる地位の留保」という新しい制度が規定されました(改正民法第605条の2第2項)。

例えば、建物所有者Aが、賃借人Bに対して賃貸している不動産を、第三者Cに譲渡するというケースを考えます。次の賃貸借の対抗要件を備えた場合、賃借人の承諾がなくても、賃貸人たる地位を旧所有者Aのもとに留保することができます。

  • AC間で賃貸人の地位をAに留保する旨の合意がなされること
  • Cを賃貸人、旧所有者Aを賃借人とする賃貸借契約が締結されること

なお、AC間の賃貸借契約が終了したときは、改めて賃貸人の地位が旧所有者Aから新所有者Cに当然に移転します。

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この改正は、次のような趣旨によるものです。例えば、賃貸不動産の信託による譲渡などの場面において、新所有者(信託の受託者:C)が修繕義務や費用償還義務など、賃貸人としての義務を負わないことを前提とするスキームを構築するニーズがあり、賃貸人たる地位自体を旧所有者(譲渡人:A)に留保する必要があります。改正民法によって、賃借人の同意を得ず、現在の賃貸借関係を維持しながら、賃貸借物件の譲渡ができるようになりました。

5 賃貸借の存続期間についての改正

賃貸借契約の存続期間が、最長50年とされました(改正民法第604条)。旧民法では最長20年だったため、大幅に長くなっています。この改正によって、例えば、建物所有を目的としない太陽光パネルの設置用地やゴルフ場の敷地の賃貸借期間の上限は、50年まで延長されました。

なお、借地契約や借家契約については、民法の特則である借地借家法が適用され、これまでと扱いは変わりません。

6 その他の改正

改正民法では、賃貸借契約終了後の収去義務および原状回復義務について改正民法第621条に規定が新設されたり、敷金について第622条の2においてその基本事項に関する規定が新設されたりしています。これらは実務の運用に合わせる形の改正内容であり、従前より契約において賃借物に損傷があった場合は、賃借人は賃貸人に対して原状回復義務を負うなどの規定を置いているのが一般的です。そのため、特段留意すべき事項はないでしょう。

これらの事項が民法上に明記されたこと自体は意義のあることですが、判例法理やこれまでの解釈を明文化したものであり、実務上の取り扱いに与える影響は小さいものと思われます。

以上(2020年11月)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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売買契約/改正民法が分かる(6)

書いてあること

  • 主な読者:2020年4月に改正された民法のポイントを知りたい経営者
  • 課題:改正の断片的な情報しか把握していないので、全体像が知りたい
  • 解決策:売買契約のポイントを紹介(シリーズの他のコンテンツもあります)

1 契約不適合責任の新設

改正民法では、「瑕疵(かし)担保責任」が廃止され、「契約不適合責任」となりました。これに伴い、目的物が契約内容から乖離(かいり)している場合、買主に認められる請求の内容が増えました。売主にとっては負担が大きくなる改正です。そこで、本稿では、売主の視点から売買契約を締結する際に注意すべき点をまとめます。なお、契約不適合責任などの考え方については、次の記事をご参照ください。

1)責任が生じる場合の判断が変わり得る

契約不適合責任においては、合意の内容や契約書の記載だけでなく、契約を締結した目的や、締結に至る経緯など一切の事情が考慮されます(具体的な解釈はこれから積み上げられていきます)。なお、契約不適合を知らないことに関する無過失要件(「隠れている」要件)は不要です。

実務上、この点を踏まえて、売主は契約をした動機・目的・契約締結に至る経緯を明確にすることが重要になります。そこで、例えば、契約書の第1条で記載することが多い「契約の目的」の箇所に契約の動機などを記載することが考えられます(これはあくまで例示です)。

第1条(契約の目的)
本契約は、乙が顧客からの依頼を受け、サッカー選手○○、○○、○○全員のサインが入ったユニホームの購入を望んでいたところ、甲がその条件を満たすユニホームを保有していたことから、本売買契約の締結に至ったものである。

買主の動機などに沿わない(可能性のある)事項については、売主はその内容を特記することが望ましいでしょう。

第1条(契約の目的)
本契約は、乙が江戸時代に○○の手により制作された茶器の購入を望んでいたところ、甲がその条件を満たす茶器(以下、「本物件」という。)を保有していたことから、本売買契約の締結に至った。本物件は、○○の蔵に所蔵されており、本物件が入っていた箱には○○の銘があり、△△氏による鑑定書が付されている。ただし、同鑑定書には、○○の弟子である□□の手による作である可能性があると指摘されている。乙はかかる事情を承知した上で、本物件の購入を望むものである。

不具合などによる代金減額があればそれも明記すると望ましいでしょう。後で、その不具合を理由に、買主から売買価格が不合理だと主張された際の説明にもなります。

第○条(支払い)
本契約の売買代金は、○○円とする。本物件(*家)には、2階南側の部屋に南東の角からの雨漏りがあるが、乙はこの修繕を自身で選定した業者に依頼することを望んだため、本来の価格から乙の申告した工事代金相当額70万円を減額して、上記金額で合意したものである。

2)「瑕疵」という用語を使わない

細かい点ですが、契約書の中で「瑕疵」という用語を使わないことが望ましいでしょう。瑕疵を使う場合は、定義条項を置くようにしましょう。例えば、「本契約において『瑕疵』とは、種類または品質に関して契約の内容に適合しない状態をいう」といった文言が考えられます。

3)契約不適合責任を負わないという特約を検討する

買主が契約不適合であることを知っていたものについては、売主が責任を負わない旨の特約や、そもそも契約不適合責任を負わない旨の特約を検討します。

ただし、他の法令との整合性には留意が必要です。例えば、消費者との契約では消費者契約法が問題になります。消費者契約法第8条で、消費者契約に該当する場合、事業者の責任を全部免除するような条項などは無効となります。

また、不動産売買の場合は、宅地建物取引業法(宅建業法)や住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)に反する定めは無効となるので、慎重な検討が必要です。

宅建業法第40条で、宅建業者が売主となる場合、民法(改正民法では第566条、旧民法では第570条において準用する第566条第3項)で定める責任期間を2年以上とする特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主に不利になる特約は無効となります。

品確法第95条では、新築住宅の売買の場合、構造耐力上主要な部分および雨水の浸入を防止する部分の瑕疵担保責任について(1)修補請求を認め、(2)瑕疵担保責任期間を10年間とされ、(3)(1)、(2)と異なる買主に不利な特約は無効となります。

【追完の内容を買主が指定できる場合】

第○条(目的物の不具合)
1)乙(*買主)は、本物件に何らかの不具合(物件自体の機能、品質、性能などの不具合のみならず、第1条に定めた契約の目的に適合しない場合を含む。)がある場合、自ら指定した方法による追完請求をすることができる。
2)乙は、本物件の不具合が是正不能と考える場合には、前項の追完請求を行うことなく、自らの選択により、売買代金の減額の請求または本契約の解除を行うことができる。

4)追完請求の内容を検討する

追完請求については、何が追完の内容になるかで解釈が分かれることがあるため、特約を検討する際には注意が必要です。

例えば、売った土地に土壌汚染があり、契約に適合していなかった場合、土壌汚染への対応(工事)を求めることができるようになります。ただし、何が「追完」になるかが難しい問題です。盛り土をすれば追完となるのか、汚染土壌を掘削除去して完全に汚染除去することが必要となるのか、紛争になる恐れがあります。

そのため、売主は契約書において、追完方法をあらかじめ具体的に規定しておく、買主(売主)が追完内容を指定できるように規定しておく、修補に過大の費用(○○円以上、売買代金の○%以上)を要する場合には修補を行わないと明記するなどの対応を検討すべきでしょう。

なお、追完方法を選択するのは、原則として買主ですが、例外的に「買主に不相当な負担を課するものでないとき」には、買主の選択した追完方法と異なる方法での履行の追完が認められています(改正民法第562条)。

5)権利行使の期間が変更されたことに留意

旧民法では、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求は瑕疵を知ってから1年以内に行わなければなりませんでした(旧民法第566条第3項等)。これに対して改正民法では、種類または品質に関する契約不適合を理由とする権利行使については、不適合の事実を知ってから1年以内に通知すればよく(改正民法第566条)、1年以内の権利行使は不要となりました。

そのため、種類または品質に関する契約不適合を理由とする権利行使については、通知さえしておけば、不適合の事実を知ってから5年以内、または不適合の事実があったときから10年以内という時効期間内に買主は権利行使をすればよいこととなりました(改正民法第166条)。

これにより、次のような違いが生じます。

旧民法では、買主は1年以内に権利行使することが必要でした。最高裁の判例で、具体的な不適合の内容、それに基づく損害賠償請求をする意思表明、請求する金額と根拠を示す必要があるとされていました(最判平成4年10月20日)。例えば、「購入した動産に○○という瑕疵があり、その修繕に少なくとも30万円かかるので、損害賠償として30万円を請求します」ということを、瑕疵を知ってから1年以内に示さなければなりませんでした。

これに対し、改正民法では、種類または品質に関する契約不適合を理由とする権利行使については、1年以内に契約不適合の通知だけをすればよくなりました。例えば、「購入した動産に○○という点で契約と異なる不備がありました」とだけ伝えておけば、知ってから5年以内であればいつでも買主は権利行使できます。

買主にとっては、1年以内の権利行使が必須でなくなるため、負担軽減となります。しかし、売主にとってはその間法的安定性が得られず、負担が重くなります。

当初は契約不適合の通知だけしかなかったとしても、買主からあらためて損害賠償などを権利行使される可能性が残っているということを売主は認識しておかなければなりません。

売主がこうしたリスクを低減するためには、契約書において権利行使の期間を制限することを検討すべきでしょう。

2 危険負担についての改正

改正民法では、危険負担における債権者主義(旧民法第534条)が廃止され、債務者主義に統一されました。改正前より、契約締結後引渡前の滅失・損傷について、契約で特約を定めることは、通常よく行われていることでしたが、ビジネスリスクを取引の実情に合わせて当事者間で調整する必要がある場合には、自社の契約書に、例えば次のような条項を設けておくことがよいでしょう。

第○条(所有権の移転)
○○(*売買目的物)の所有権は、第○条(代金の支払い)に定める代金のうち、○○年○月○日までに支払うべき分割金が支払われたときに甲(*売主)から乙(*買主)へ移転する。

第○条(危険負担)
1)乙(*買主)は、○○(*物件)の引渡までに、両当事者の責めに帰することのできない事由により○○が滅失、毀損した場合には、その限度で代金支払義務を免れる。
2)○○の所有権の移転後、甲(*売主)の責めに帰すべからざる事由により○○が滅失、毀損した場合、甲(*売主)は売買代金請求権を失わない。

以上(2020年11月)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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債務の履行/改正民法が分かる(5)

書いてあること

  • 主な読者:2020年4月に改正された民法のポイントを知りたい経営者
  • 課題:改正の断片的な情報しか把握していないので、全体像が知りたい
  • 解決策:契約不適合責任や危険負担など債務の履行のポイントを紹介(シリーズの他のコンテンツもあります)

1 契約不適合責任の新設

1)契約不適合責任とは

改正民法では、「瑕疵(かし)担保責任」が廃止され、「契約不適合責任」が新設されました。契約不適合責任とは、特定物(取引の目的物として当事者が物の個性に着目した物)の売買(例えば、中古カメラ)か、不特定物(例えば、新品のカメラ)で分けることなく、目的物が契約内容から乖離(かいり)していることに対する責任です。

この改正により、買主が請求できる内容が増えました。旧民法では、目的物の欠陥に関する買主の救済手段は損害賠償請求と解除の2種類でしたが、これらに加えて、追完請求権や代金減額請求が可能となりました。

追完請求権とは、「代替物を引き渡せ」「不足分を引き渡せ」「目的物を修補せよ」といった債務の完全履行を請求する権利です(改正民法第562条第1項)。改正民法では、売主が契約の内容に適合しない目的物を引き渡した場合、追完が不能であったり、不相当な負担が生じたりするときを除き、買主には追完請求権が認められました(買主の追完請求に対する売主の責任は無過失責任)。

また、売主が契約の内容に適合しない目的物を引き渡した場合、買主の責めに帰すべき場合を除き、新たに代金減額請求権が認められました(改正民法第563条第1項、第2項)。代金減額請求権は、基本的には履行の追完がなされないときの二次的な救済策との位置付けです。

なお、追完請求権または代金減額請求権を行使しても、損害賠償の請求および解除権を行使することはできます(改正民法第564条)。

2)実務上の留意点

売主は、買主に追完請求を許すことで、場合によっては大きな負担となったり、対応が煩雑になったりすることがあります。そこで、売買契約において、買主が契約不適合であることを知っていた場合(例えば、売買契約上は、商品は仕様書に基づくと定められているものの、複雑な仕様のため、実際には仕様書と異なる点があることを売主は知らず、買主だけがそれを認識していたような場合等)について、一定の場合には責任を負わない特約を置いたり、契約不適合責任そのものを排除する特約を置いたりすることが考えられます。

また、追完請求権そのものを排除しないとしても、追完請求権の内容を特定することも考えられます。例えば、デザイナーの装飾を付したカメラを販売した場合、代替物を用意するが、同水準の別のデザイナーの装飾となるなどです。他には、追完請求権は排除しないが、補修に過大の費用(○円以上、売買代金の○%以上)を要する場合には、補修を行わないと明記することも考えられます。

また、売主としては、契約の交渉経緯や契約の動機を証拠に残すことが必要です。買主は契約に適合しないと主張して責任を請求してきますが、「契約に適合するかどうか」の解釈は、合意の内容や契約書の記載内容だけでなく、契約の性質(有償か無償かを含む)、当事者が契約をした目的、契約締結に至る経緯をはじめ、一切の事情を考慮して評価・判断されると考えられます。そのため、契約過程でどのようなやり取りをしたかを記録しておくことや、契約書に契約締結過程について記載しておくことが重要です。

なお、細かい点ですが、瑕疵担保責任は廃止されたので、契約書の中では「瑕疵」という用語を使わないことが望ましく、従前のひな型を使いたいなどの理由により、「瑕疵」という用語を残す場合は、定義条項を置きましょう。例えば、「本契約において『瑕疵』とは、種類または品質に関して契約の内容に適合しない状態をいう」といった文言が考えられます。

2 危険負担における債権者主義の廃止

1)危険負担とは

危険負担とは、債務者の責めに帰することができない事由により、目的物が滅失・損傷などによって履行不能となった場合、その危険(リスク)を誰が負担するのかという問題を指します。旧民法では、債権者がその危険を負担することとなっていました(特定物に関する物権の設定または移転を目的とする双務契約における場合)。

例えば、売買契約の締結後に、売主が買主に建物を引き渡す前に、火災などにより当該建物が滅失したとします。このとき、建物は引き渡せないため売主の建物引渡義務は消滅しますが、債権者である買主の代金支払義務は消滅しませんでした(いわゆる債権者主義)。

改正民法では、この第534条を削除しました。前述の例でいうと、買主は、そのまま代金を支払わないか、契約を解除することができるようになりました。

2)実務上の留意点

改正によって条文などは大きく変わりました。しかし、旧民法の結論(債権者主義)は、通常の意思に反し合理性に欠けることから、以前から、契約締結後引渡前の滅失・損傷について旧民法第534条の適用を回避するために、契約で特約を定めることが一般的でした。そのため、実務への影響は実質的にはあまり大きくはないと思われます。

まずは、自社が標準的に使用している契約書などにおいて、そのような特約が盛り込まれているかを確認しましょう。

3 危険負担における債務者主義についての改正

特定物に関する物権の設定または移転を目的とする双務契約については、債権者主義が適用されます。それ以外の契約については、債務者主義が採用されており、それ自体は変わりません。債務者主義とは、当事者双方の責めに帰することができない事由により一方の債務の履行が不能となったときは、他方の反対給付債務も消滅するというものです。例えば、ある建物の補修について契約を締結したものの、工事前に不可抗力で建物が全壊してしまい、補修工事ができなくなった場合、債権者である建物オーナーの工事代金支払債務も消滅します。

この点について、旧民法では、自動的に債務が消滅していたのに対し、改正により、債権者が反対給付債務の履行を拒むことができると定めるにとどめ、自動的に債務が消滅しないこととなりました。ただし、債権者は、債務の履行が不能である場合は、債務者の帰責事由を問うことなく、契約解除をすることができ、これにより自己の反対給付債務を消滅させることが可能となります。

例えば、建物が全壊して補修工事ができなくなった場合、旧民法では、債務が自動的に消滅するので、債権者は特段の手続きは必要ありませんでした。これに対し、改正民法では債務は自動的に消滅しないため、自己の反対給付を拒むだけではなく、消滅させるには契約解除の手続きが必要となります。

なお、本稿で紹介した契約不適合責任や危険負担についての改正を踏まえた売買契約のポイントについては、次のコンテンツが参考になります。

以上(2020年11月)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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