債権者代位権、詐害行為取消権、債権譲渡/改正民法が分かる(4)

書いてあること

  • 主な読者:2020年4月に改正された民法のポイントを知りたい経営者
  • 課題:改正の断片的な情報しか把握していないので、全体像が知りたい
  • 解決策:債権者代位権、詐害行為取消権、債権譲渡のポイントを紹介(シリーズの他のコンテンツもあります)

1 債権者代位権

1)債権者代位権とは

「債権者代位権」とは、債権者が自己の債権について十分な弁済を受けるために、債務者が他人に対して持つ権利を代わって行使する権利であり、債権回収策の1つとして利用されます。

例えば、債権者(A)が債務者(B)に債権を持ち、債務者(B)がBの取引相手(C)に唯一の財産である債権(売掛金300万円)を有する場合、民法上の要件を満たせば、債権者(A)は債務者(B)に対する債権を回収するため、債務者(B)に代わってBの取引相手(C)に対する権利を行使できます。

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(注)同じ者でも「債権者」や「債務者」など、立場によって異なる場合がありますが、便宜上、以降では、「債権者(A)」など、図表の表記に基づいて記載しています。

このとき、債権者(A)がBの取引相手(C)から受領した金銭などは、自己の財産とはならず、債務者(B)に返還しなければなりません。ただし、この返還すべき債務と、自身の債務者(B)に対する債権を相殺することができます。これにより、債権者(A)は、事実上、他の債務者に優先して債権を回収することができます。これを「事実上の優先弁済機能」といいます。

なお、改正民法では、債権者代位権が行使された場合、債務者(B)の処分権限は制限されないものと規定されました(改正民法第423条の5)。つまり、当該債権については、Bの取引相手(C)が債権者(B)に対してのみ、支払いをすればよいこととなり、債権者(A)から見ると、事実上の優先弁済機能が制限されます。

2)債務者(B)の取引相手(C)に対する権利を差押さえる

旧民法では、債権者(A)は、債権者代位権の行使に着手し、債務者(B)に対し、その旨を内容証明郵便などで通知するだけで、債務者(B)の処分権限を失わせることができました。

しかし、改正民法では債務者(B)の処分権限は制限されません。そのため、内容証明郵便などで通知するだけでは、債務者(B)とBの取引相手(C)との間で債権債務が処分されてしまう恐れがあります。そこで、債権者(A)の立場であれば、債権者代位権行使を確実にするため、債務者(B)の取引相手(C)に対する債権の仮差押さえを検討する必要が生じる場合もあるでしょう。

改正民法施行日前に、債務者に属する被代位権利が生じた場合に係る債権者代位については、旧民法が適用されます(附則第18条第1項)。前述の例でいうと、(B)(C)間の権利発生が2020年3月以前であれば旧民法が、2020年4月以降であれば改正民法が適用されます。

2 詐害行為取消権

1)詐害行為取消権とは

「詐害行為取消権」とは、債権者が債務者の行為を一定の要件の下、取消すことができる権利です。詐害行為取消権を行使するためには、裁判所に取消しの訴えを提起する必要があります。この詐害行為取消権も、債権回収策の1つです。

例えば、債権者(A)が債務者(B)に債権を有し、債務者(B)が唯一の財産である不動産を受益者(C)に無償で譲渡(贈与)した場合、民法上の要件を満たせば、債権者(A)は債務者(B)への債権を回収するため、債務者(B)が行った受益者(C)に対する贈与行為を取消すことができます。

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2)詐害行為取消権の要件と効果

1.詐害行為取消権の要件(改正民法第424条~第424条の5)

詐害行為取消権は、典型的には、債務者が債権者への債務弁済ができなくなるような財産処分(財産減少行為)を行った場合に、当該財産処分行為を取消して、債務者のもとに当該財産を取り戻す権利として認められています。

改正民法においては、前述の場合の他、破産法における否認権の行使に関する規定を参考に、一見すると、債権者への債務弁済ができなくなるような財産処分行為とはいえないものの、実質的にみて、その恐れがある場合を類型化して、一定の要件のもと、詐害行為取消権を認めています。具体的には、以下のような場合になります。

  • a.相当の対価を得て財産を処分した場合(例:不動産を市場価格で売却し、現金化する場合)
  • b.特定の債権者に対して担保の供与などを行った場合(例:特定の債権者に対して、事後的に債務者が有する不動産に抵当権を設定する場合)
  • c.過大な代物弁済を行った場合(例:1000万円の金銭債権しか有しない債権者に対して、1500万円の価値がある不動産を代物弁済する場合)

また、転得者(例えば、債務者(B)が受益者(C)に対して不動産を贈与した場合、その不動産をさらに受益者(C)から譲り受けた転得者(D)や、転得者(D)からさらに譲り受けた者)に対する詐害行為取消権が認められるための要件が明確になりました。

さらに、受益者および転得者のうち1人でも善意の者がいれば、債権者は詐害行為取消権を行使できないこととされました。これにより、詐害行為取消権を行使する際は、財産を保有している転得者だけでなく、その前者(例えば、転得者(D)に不動産を贈与した受益者(C))の全員が詐害行為について悪意であることを確認する必要があります。

ただし、転得者(D)は自ら悪意だと認めることはないでしょうから、この点が訴訟でどう判断されるかがポイントとなります。そのため、行為の態様、財産状況、債務者と受益者との関係(いくらで譲渡したか、譲渡を受けたシチュエーションは自然なものか、同居の親族など事情をよく知っている人ではないか)などを確認し、訴訟(詐害行為取消訴訟)でどう判断される見込みなのかを弁護士と協議した上で進めることになるでしょう。

2.詐害行為取消権の行使の方法および範囲(改正民法第424条の6~9)とその効果(改正民法第425条~第425条の4)

改正民法では、受益者(C)または転得者(D)を被告として訴訟を提起すると、その判決の効力が債務者(B)に及ぶこととされ(改正民法第425条)、その前提として債権者(A)から債務者(B)に対して訴訟告知することが必要とされました(改正民法第424条の7第2項)。

実務上、訴訟において債務者(B)への訴訟告知を忘れないように注意しましょう。また、債務者(B)が所在不明の場合などは、住民票の調査や、住民票上の住所の現地調査などによる所在調査をする必要があり、債務者(B)への送達が速やかにできなければ、その分訴訟に時間がかかってしまいます。

3.詐害行為取消権の期間の制限(改正民法第426条)

改正民法では、詐害行為取消訴訟を提起する期間の制限が変更されました。出訴期間(提訴手続きを取ることのできる期間)は「債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年」および「行為の時から10年」です。

旧民法では内容証明郵便で請求をするだけで、6カ月間時効完成を防ぐことができましたが、改正民法では期間内に提訴手続きを取らなければならないため、十分注意しましょう。

3 債権譲渡

1)債権譲渡とは

「債権譲渡」とは、債権者が保有する債権を第三者に譲渡することをいいます。債権譲渡も、債権回収の方策の1つとして利用されています。

例えば、債権者(A)が債務者(B)に債権を持ち、債権者(A)がこの回収をしたいと考えたとします。しかし、「支払期限が到来していない」「債務者(B)の資力が不十分で支払ってくれない」といった場合に、債権者(A)は債権を第三者の(C)に譲渡して債権譲渡対価を得て、回収を図ることがあります。

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2)債務者(B)の立場は要注意

前述のケースにおいて、債務者(B)としては、譲渡制限があることを理由に譲受人(C)への支払いを拒絶し、譲渡人(A)への支払いをすることも考えられます。しかし、譲渡制限の意思表示がなされたことについて譲受人(C)の悪意または重過失がなければ、支払拒絶は認められず、譲受人(C)に対して支払うこととなります。とはいえ、債務者(B)の立場から、譲受人(C)に悪意または重過失があるか否かを判断するのは容易ではありません。

また、債務者(B)が譲受人(C)に支払うべき債権金額を譲渡人(A)に支払った場合、間違った者に対する弁済となってしまい、譲受人(C)からの当該債権に関する支払いを拒むことができません。その結果、既に債権者ではない譲渡人(A)に支払い、現時点での債権者である譲受人(C)にも支払うという二重払いのリスクが顕在化します。この場合、債務者(B)は、譲渡人(A)に対して、「理由のない支払いだから金銭を返還せよ」と請求するでしょうが、譲渡人(A)が無資力の場合、債権の回収は困難となります。

そのため、誰に支払うべきかを安易に判断して弁済するのではなく、改正民法第466条の2に基づき、供託という手段を取るほうが賢明な場合もあるでしょう。

また、譲受人(C)は、譲渡人(A)に破産手続開始決定があったとき、債務者(B)が本来弁済を受けることができない譲渡人(A)に弁済をしてしまうと、債権回収が不能になるなどの無用な争いに巻き込まれる恐れがあることから、改正民法においては、譲受人(C)が債務者(B)に対して、債権全額に相当する金銭を供託するよう求めることができる規定が新設されました(改正民法第466条の3)。そのため、譲受人(C)は、かかる制度を利用して、確実に債権回収ができるように策を講じることも一つでしょう。

債務者(B)の立場で、譲受人(C)から供託請求があった場合、たとえ譲渡人(A)に裁判所の選任した破産管財人から債権金額を支払うよう請求があったとしても、その支払請求に応じてはならず、譲受人(C)の請求通り供託しなければなりません。

以上(2020年11月)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

pj60134
画像:photo-ac

【朝礼】アフターコロナに必要なのは「代替を作れる人」

今朝は、アフターコロナに勝ち抜くための働き方についてお話しします。私が考えるキーワードは「代替性」ですが、「代替の利かない人材になってほしい」という、よく言われる論調とは少し違います。とても大事なことなので、しっかり聞いてください。

代替性について考える上では、セミナーと講演の違いが参考になります。私の知人に、自らセミナー講師や講演家として活躍する一方で、コンサルタントとして、他のセミナー講師に、セミナーの構成の組み立て方や話し方などを教えている人がいます。以前、その知人と話をしていたとき、セミナーと講演の違いは、「再現性と属人性の違いである」という結論に至りました。

セミナーとは、内容を正しく相手に伝え、理解してもらうためのものです。大切なのは、分かりやすい構成と正しく伝える技術です。これらを徹底し、誰がセミナー講師になったとしても同じ結果が出せるようにすることが理想です。つまり、セミナー講師は代替が利くほうがよいのです。

一方、講演とは、受講者に考えるきっかけを与えるためのものです。大切なのは、受講者の共感を得ることであり、共感は講演家のキャラクターなどから生まれます。受講者は、その講演家の話を聞きたいわけで、極端にいえば、話の内容がそれほど良くなくても、「その講演家」の言葉であれば共感できます。つまり、講演家は代替が利かない存在といえます。

この話だと、代替の利くセミナー講師より、代替の利かない講演家のほうが格上に思えます。しかし、企業経営では別の考え方が必要です。

例えるなら、私が行うトップセールスは講演です。私の立場とキャラクターによって実現しているもので、他人にはまねができないからです。私に限らず、組織には講演家のような存在も必要ですが、技能の横展開が難しい以上、企業全体の成長幅は限定的です。そのため企業経営では、1人が10の仕事をこなす体制から、10人がそれぞれ1の仕事をこなせる体制に移行することを重視します。そして、1の仕事を2に増やし、10人を20人にすることで成長していくのです。

つまり、皆さんにセミナー講師のようになってもらい、再現性の高い業務をこなしてほしいのです。そのためには担当者の代替性が不可欠であり、これに気付いている一部の企業は、改めてマニュアル作成を進めています。このマニュアルがしっかりしているからこそ、代替が利きます。

リモートワークだと個人プレーが増えるため、個人の能力にフォーカスされがちです。しかし、企業が今重視するのはチームプレーです。アフターコロナで生き残るのは、代替の利かない人材よりも、「代替を作れる人」です。また同時に、アフターコロナで淘汰されるのは、能力の低い人以上に、代替を作れない人です。代替を作れば、今の業務の引き継ぎが容易となり、レベルのより高い業務にも取り組みやすくなるのです。

以上(2020年10月)

pj17024
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】結局、他人のせいにしていませんか?

最近、「心理的安全性」「エンゲージメント」などの言葉をよく聞きます。社員が安心して発言できる雰囲気づくりや、会社への愛着心を高めてもらう施策が、これからの組織運営上、重要なテーマになると私も認識しています。

だからこそ、今朝はあえて皆さんに苦言を呈したいと思います。

当社の行動指針に「少しのムダと思いやり」というものがあります。困っている同僚がいたら、率先してサポートできる組織でありたい。また、忙しいときに手を差し伸べられた人は、「自分でやったほうが早い」などと言って相手の厚意を台なしにせず、自分の仕事を説明し、一緒に仕事をしてもらいたい。説明などで多少のムダが出て通常より時間がかかってもいい。互いを思いやる気持ちを持った組織こそ、私が求める理想の姿です。そして、この考えを定着させるために、組織への貢献を把握し、賞与査定に反映しているのです。

ここで考えたいのは、同僚をサポートするときの皆さんの気持ちです。「賞与が上がるぞ!」と期待していますか。あるいは、「大して賞与に反映されない」と不満ですか。それとも、元来の優しい性格で、リターンなどは求めていませんか。

この手の話をするとき、よく取り上げられるのが「コブラ効果」です。19世紀、イギリスはインドを支配していました。当時のインドにはコブラが多く生息していて危険だったので、イギリス政府はコブラ退治に報奨金を出しました。

すると市民は率先してコブラを退治し、その数は順調に減っていきました。ところが、もっと報奨金をもらいたいと考えた市民は、なんと自分たちでコブラを飼育し始めたのです。それを知り憤慨したイギリス政府は、報奨金を廃止します。すると市民は、無価値となったコブラを野に放ってしまいます。その結果、皮肉にも、コブラの数が以前よりも増えてしまいました。

行動の対価としてリターンを求め、リターンがなくなれば態度が変わることを私は否定しません。むしろ、人間として自然です。ただ、忘れてならないのは、「相手も、こちらにリターンを求めていることがある」という事実です。

話を戻しますが、会社が心理的安全性などを確保しようと取り組むのはなぜなのか、皆さんは少しでも考えたことがありますか。

それは、皆さんに「当たり前のことが、当たり前のようにできる戦力になってほしい」と期待しているからです。会社から見ると、会議で一言も発言しないとか、十分な顧客対応ができない社員は戦力外です。そして、皆さんがそれをできない理由が、心理的安全性にあると聞けば、会社は本気で心理的安全性を確保しようとするわけです。

皆さんが会社にリターンを求めるように、会社も皆さんに求めています。心理的安全性もエンゲージメントも、会社の努力だけでは決して高まりません。会社と皆さんの相互理解、そしてたゆまぬ努力が不可欠なのです。

以上(2020年10月)

pj17025
画像:Mariko Mitsuda

【規程・文例集】「自転車通勤規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:自転車通勤制度の導入を検討している経営者
  • 課題:保険への加入など、リスク管理を含めて制度を整備したい
  • 解決策:自転車通勤は許可制とする。本稿で紹介するひな型を参考に制度を整備する

1 自転車通勤制度を導入するには

1)自転車通勤のリスク。どこに注意して許可すべき?

自転車通勤には、健康増進、通勤ラッシュの回避など、企業と従業員に双方にさまざまなメリットがあります。特に、コロナ禍では「密を避けられる」という点で、自転車通勤を希望する従業員が増えているようです。

一方、電車通勤に比べ車両や歩行者との交通事故を起こしやすいなど、自転車通勤特有のリスクもあります。そのため、自転車通勤は許可制とし、「保険に加入している」など一定の要件を満たす従業員についてのみ認めるのがよいでしょう。

自転車通勤を希望する従業員がいた場合、具体的には次の点などを確認します。

1.保険への加入

自転車による交通事故が増加傾向にあることや、事故による賠償金が高額化しているとされます。そのため、東京都など全国各地の自治体では、保険への加入を義務化しています。

保険への加入が義務付けられていない地域であっても、従業員の自転車通勤を承認する場合、従業員の保険への加入は必須としたほうがよいでしょう。その際は、保険の契約期間が通勤許可期間をカバーしているかについても確認します。

2.駐輪場の確保

企業で駐輪場を整備していない場合、従業員が自ら駐輪場を確保している旨を証明する書類を提出してもらうなどして、駐輪場を確保していることを確認する必要があります。

3.合理的な通勤経路

通勤に必要以上に時間を掛けて疲弊し、業務に支障が出るようでは本末転倒です。どの程度の距離まで自転車通勤を認めるかは企業によって異なりますが、疲労によって業務に支障がないよう、距離にして10キロメートル、時間にして1時間程度を目安に、通勤距離・時間の限度を決めるのがよいでしょう。

自転車通勤を許可するかを検討する際は、自宅から会社までの通勤経路を申告してもらいます。従業員の通勤経路を把握しておくと、万一、事故が起こったとき、労働者災害補償保険(以下「労災保険」)の通勤災害として認定されずに、従業員が不利益を被ることを防ぐこともできるでしょう。後述の通勤手当を幾ら支給するか決める際の基準にもなります。

1.から3.の内容を確認するに当たっては、保険証書のコピー、駐輪場の契約書、通勤経路を示した資料を「自転車通勤許可申請書」「誓約書」とともに提出させ、総務部などの担当部署で確認した上で自転車通勤の可否を判断するとよいでしょう。詳細は第2章をご確認ください。

2)通勤手当の取り扱い

自転車通勤者に対する通勤手当の支給方法の一つとして、通勤距離に応じて一定額を支給する方法があります。通勤手当の計算方法は、1キロメートル当たりの支給額を設定した上で、通勤距離に応じた額を支給する方法や、数キロメートルごとにテーブルを設けて、テーブルごとに支給額を変更する方法などが考えられます。

1カ月当たりの非課税限度額は次の通りです。

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通勤距離ごとの非課税限度額を基準に、自動車通勤をする従業員などと公平性が保たれるように自転車通勤の手当の額を決めるとよいでしょう。

次章では、ここまでの内容を踏まえた自転車通勤規程のひな型を紹介します。

2 自転車通勤規程のひな型

以降で紹介するひな型などは一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、自転車活用推進官民連携協議会が公表している「自転車通勤導入に関する手引き」を参考にしたり、必要に応じて専門家のアドバイスを受けたりすることをお勧めします。

■自転車活用推進官民連携協議会が公表している「自転車通勤導入に関する手引き」■
https://www.jitensha-kyogikai.jp/project/

【自転車通勤規程のひな型】

第1条(総則)
本規程は、従業員が通勤のために自転車を使用する場合の取り扱いについて定める。

第2条(適用範囲)
1)本規程は、従業員が所有者または使用者となっており、専ら通勤のために使用する自転車について適用する。
2)本規程は、会社の許可を得た上で業務に使用する自転車については適用しない。

第3条(許可条件)
1)自転車による通勤を希望する者は、会社に申請して許可を受けなければならない。
2)自転車による通勤は、次の各号を全て満たす従業員に認める。
1.自宅から会社までの直線距離が10キロメートル未満の者であり、自転車による通勤時間が1時間を超えない者。
2.安全運転に支障のない者。
3.自転車保険に加入している者。
3)従業員の自宅から会社までの経路については、安全且つ合理的 でなければならない。
4)自転車通勤の許可期間は1年以内とし、毎年4月1日に更新する。
5)更新は自動更新とせず、所定の承認手続きを取らなければならない。

第4条(許可)
1)自転車通勤を希望する者で第3条第2項各号の要件を満たした者は、所定の書類を添えて「自転車通勤許可申請書」を提出し、総務部長の承認を得なければならない。
2)「自転車通勤許可申請書」の記載内容に変更があった場合には、速やかに総務部長に報告し、再度、自転車通勤の許可を受けなければならない。

第5条(禁止事項)
1)運転に際しては、次の各号に該当する行為をしてはならない。
 1.自転車を業務に使用すること。
 2.労働時間中に私用で自転車を使用すること。
 3.許可を受けた自転車を他者に使用させること。
 4.飲酒運転をすること。
 5.過度の疲労等、安全運転が困難と予想される状態で運転すること。
 6.整備不良の自転車を使用すること。
 7.安全のための装備(ヘルメット、グローブ)をせずに運転すること。
 8.携帯電話を使用しながら運転すること。
 9.傘を差しながら運転すること。
 10.夜間、無灯火で運転すること。
 11.2人乗りをすること。
 13.その他、道路交通法等の各種法令により禁止されている行為や会社が不適と認める行為をすること。
2)第1項各号に該当する行為をした場合には、自転車通勤の許可を取り消すことがある。

第6条(安全教育)
自転車通勤を許可された従業員は、会社が主催する安全教育を年に1回受けなければならない。

第7条(事故等の取り扱い)
1)自転車での通勤途中に事故を起こした場合は、速やかに上長に報告し、その指示に従わなければならない。
2)第1項における事故について、会社は第三者に対する賠償責任を負わない。また、事故に伴う物損についてもその補償を行わない。
3)第1項における事故により会社が損害を受けたとき、会社は当該従業員に対して、賠償請求を行うことがある。
4)駐輪場内での自転車の破損・盗難等について、会社は一切の補償を行わない。

第8条(通勤手当等)
1)自転車による片道の通勤距離が2キロメートル以上の場合には、通勤距離に応じて、1キロメートル当たり400円を通勤手当として支給する。
2)通勤に使用する自転車の修理費その他一切の費用については、従業員の自己負担とする。

第9条(自転車の無断駐輪禁止)
1)自転車通勤をする従業員は、原則として会社の指定する駐輪場に通勤で使用する自転車を駐輪するものとする。
2)会社指定の駐輪場を利用しない特別な理由がある場合には、第4条に定める書類に加え、利用しない理由等を記載した事由書及び代替として利用する駐輪場の利用許可証等を添付した上で総務部長に提出し、許可を得るものとする。
3)会社の指定する駐輪場もしくは事前に許可を得ている駐輪場以外の場所に駐輪してはならない。

第10条(罰則)
従業員等が故意または重大な過失により、本規程に違反した場合、就業規則に照らして処分を決定する。

第11条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則
本規程は、○年○月○日より実施する。

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以上(2020年11月)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:ESB Professional-shutterstock

リアル商談会に参加してビジネスの可能性を広げよう~事前準備編~

書いてあること

  • 主な読者:商談会への参加を検討する経営者
  • 課題:商談会に出展するためには、何を準備すればよいか分からない。大変そうに思える
  • 解決策:商談会のルールや雰囲気を把握した上で、必要な設備、準備する備品などを整理。感染症対策に必要なものも用意する

1 事前準備では、まず出展条件などを確認する

本稿では、リアル商談会に出展する際に必要な事前準備を見ていきます。商談会で良い出会いを果たし、その後、最終的に取引につなげるには、この事前準備の段階が非常に重要です。なお、本稿では「商談会」は全て、特別なことわりがない限り「リアル商談会」を指します。

1)商談会のルールや雰囲気を把握する

出展準備の前に、商談会のルールや固有の雰囲気を把握しておきましょう。これはブース作りなどにも役に立ちます。ルールは、主催者が準備している資料をよく読み、不明な点は主催者に確認しましょう。

注意が必要なのは各商談会固有の雰囲気です。例えば、ブースであれば「おしゃれで洗練されたブースが多い」「手作り感のあるブースが多い」「派手な装飾はなく『実質重視』のブースが多い」などのような違いがあります。また、商談会によっては、「大企業中心」「中小企業中心」といったように来場者層も異なります。こうした雰囲気はルールを確認するだけでは分かりにくい点があります。そのため、定期的に開催されている商談会であれば、出展前に、その商談会に足を運んで雰囲気を肌で感じておくとよいでしょう。また、主催者や出展経験者に話を聞くことや、以前に開催された際の映像や画像などを確認することも大切です。

2)ブースの備品、使用可能な設備などを確認する

通常、主催者は出展企業に、テーブル、椅子、パネル、スポットライトなどの照明器具、社名の入った看板といった備品などを提供しています。また、電源(コンセント数)などの設備は、使用できる数などが制限されていることがあります。

足りない備品があれば自社で準備しなければなりませんし、使用できる設備に制限があれば、ブースでの展示内容や展示方法などが制限されることもあります。備品や使用可能な設備などについては、必ず確認しましょう。

3)関連サービスの提供・あっせんの有無を確認する

商談会によっては、出展費用とは別料金で、主催者が関連サービスを提供・あっせんしている場合があります。例えば、オリジナルブース施工業者のあっせん、展示に必要な機器の貸し出し、搬入・搬出作業の補助など行っている場合があります。

また、備品の中には、申し出のあった出展者にのみ無料で貸し出す場合もあるようです。こうした関連サービスを上手に活用することで、負担を軽減しながら準備を進められる場合もあるので、忘れずに確認するようにしましょう。

2 自社で準備する物品の確認・手配を行う

1)ブース作りに必要な備品を準備する

展示する製品などブース作りに必要となる備品を準備します。主催者側が用意する備品は、通常、最低限度のものに限られるので、種類や数を確認しましょう。

ブース作りに関して準備する備品(例)は次の通りです。

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特に最近は、アルコール消毒液やマスクといった感染症対策に必要な備品の準備も欠かせません。来場者も、ブースにいる社員も、どちらも安心して参加できるように心掛けることが大切です。

2)来場者への配布物を準備する

会社案内や製品パンフレットなど、来場者への配布物を準備します。配布物として準備するもの(例)は次の通りです。

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この他にも、名刺交換などを通じて顧客情報を得るためのツールとして、簡単なアンケートを実施してもよいでしょう。

3)商談シートを準備する

商談会当日の商談内容を整理する「商談シート」を準備します。商談シートは、短時間で記載できるように、記載項目を絞り込んだシンプルなフォーマットにします。また、記載の手間を省き、後で見ても商談のポイントが分かりやすいように、可能な項目についてはチェックボックスを設けておくとよいでしょう。また、商談シートは、パソコンやスマホで簡単に入力できるような方法を検討するのも一策です。

4)人の手配をする

商談会には、さまざまな役割の人が必要となります。例えば、ブースへの来場者に製品の説明をしたり質問に答えたりする「説明担当」、来場者と商談を行う「商談担当」などが考えられます。また、場合によっては、商談会前日や終了後にブースへの機器類の搬入・搬出などをする人員も必要かもしれません。最小限で最大のパフォーマンスを発揮できるよう、役割分担やスケジュールなども、事前に決めておくことが大切です。

3 商談会への出展をPRする

1)招待状や案内状でご案内

既存の顧客や見込み客へは招待状や案内状などでご案内します。ただし、中には、「人がたくさん集まる場所に行くのはちょっと……」という考えの人もいます。強引に会場に呼ぶことのないようにしましょう。そういう人には、「当日、出展の模様をライブ中継します」といった案内方法もよいかもしれません。

一方、ご招待・ご案内して来てくださった方に対しては、感謝の気持ちを込めて、ノベルティーグッズなどのプレゼントを用意することも考えましょう。

2)自社ウェブサイトやSNSなどへの情報掲載

来場者は、事前に参加企業を確認し、興味があれば、会社概要や製品に関する情報収集を行います。そのため、主催者は、参加企業や展示製品の概要をパンフレットや商談会専用のウェブサイト・SNSなど(以下「ウェブサイトなど」)で紹介しています。しかし、多くの来場者は、それらとは別に当該企業のウェブサイトなどを閲覧します。また、会場で気になったブースがあれば、帰社後に当該企業のウェブサイトなどを閲覧します。

こうした情報ニーズに応えるため、自社のウェブサイトなどで商談会のパンフレットなどには掲載しきれない、より詳しい情報を掲載するようにします。また、会社概要や商談会当日に展示する製品以外の情報も、必要があれば掲載しておきましょう。

4 商談に関する事前準備を行う

事前マッチング制などによって、商談会当日の商談予定企業が事前に決まっている場合は、当該企業に関する情報収集を行います(「事前マッチング制」活用のポイントは後述参照)。商談会の参加企業の中に興味のある企業があれば、そこに対しても同じです。

基本的な情報は当該企業のウェブサイトやパンフレットなどを参考にします。また、商談会当日に、より踏み込んだ商談に至る可能性がある場合などは、帝国データバンクや東京商工リサーチなどの信用情報も確認するとよいでしょう。

5 その他の準備事項を確認する

ここまで、一般的に必要となる事前準備の事項を紹介しましたが、他にも、確認したほうがよいことがあります。例えば、ブース作りに使用する物品をレンタルするなど、社外から調達する場合は、それらを手配する必要があります。また、招待客に対する交通や宿泊の手配が必要になることもあります。商談会当日の商談が事前に決まっている場合は、スケジュール調整も必要です。このように、事前に準備すべき事項は多岐にわたるので、一覧表などを作成して漏れがないように進めていくようにしましょう。

6 事前マッチング制活用のポイント

1)事前マッチング制の概要

商談会当日に活発な商談が行われるように、事前マッチング制を導入しているケースがあります。事前マッチング制は、おおむね次のような流れです。

  • ブース出展者や商談会への来場予定者などが、事前に商談ニーズなどを記載したシートを作成・登録する
  • 商談ニーズなどを出展者や来場予定者などで共有し、興味のある企業に対して、商談会当日に行う商談を申し込む
  • 商談を申し込まれた企業が了承すれば、商談会当日に商談を行う

また、主催者がニーズの近い企業同士をマッチングしてくれる場合もあります。

2)商談ニーズを分かりやすく記載する

事前マッチング制を上手に活用するためには、シートに自社の商談ニーズを分かりやすく記載することが大切です。そのためには、「商談ニーズが一目で分かるタイトルとする」「自社のニーズを明確にし、取引実績など信頼性を高める情報を掲載する」などに留意するとよいでしょう。参考として、以下に、食品加工業者に関する商談ニーズの記載例(タイトル20文字以内、本文200文字以内)を紹介します。

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「悪い例」は、タイトルからは販売製品が分からず、商談ニーズをイメージすることができません。また、本文は事業内容や取扱製品は分かるものの、希望する取引先や取引実績などが不明確になっています。一方、「良い例」は、タイトルから製品の種類が一目で判断できます。本文には、事業内容、取扱製品、取引実績、希望取引先などが分かりやすくまとめられています。

3)幅広い相手と商談を行う

商談の申し込みを行う場合や、申し込まれた商談に対して了承するか否かを判断する場合は、自社のニーズに合っているか否かということを厳格に判断するのではなく、「参考になりそうな企業、面白そうと思う企業であれば、商談を申し込む(商談の申し込みを了承する)」というイメージで間口を広くするようにしましょう。

以上(2020年11月)

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リアル商談会に参加してビジネスの可能性を広げよう~商談会の概要~

書いてあること

  • 主な読者:商談会への参加を検討する経営者
  • 課題:商談会に参加したことがないので不安。何を準備したらいいかも分からない
  • 解決策:まずは、商談会の種類や特徴を知る。事前・当日・後日など時系列でどのようなことが必要か整理することも大切

1 商談会に参加してビジネスチャンスをつかもう!

商談会の主催者やスタイルはさまざまです。例えば、一般的には自治体や商工会議所、金融機関、コンサルティング会社などが主催するものが挙げられます。さらに、本稿で取り上げるのは実際に会場に出展・参加する「リアル商談会」ですが、今年2020年は、インターネット上での「オンライン商談会」「ウェブ展示会」も数多く開催されるようになっています。

商談会で、見込み先やアライアンス先候補と出会い、その後、最終的に取引につなげていくには、集客方法や商談会後のフォロー方法などについて、事前に準備することが大切です。本稿では、そうした準備をするために必要な基礎情報(商談会の種類、特徴など)をまとめていますので、商談会への参加を検討する際に、ぜひ、ご一読いただければと思います。

(注)開催されている商談会は「展示会」「ビジネスフェア」「ビジネスマッチング」など、さまざまな名称が用いられていますが、本稿では「商談会」として統一表記します。特別なことわりのない限り、本稿での「商談会」は「リアル商談会」を指しています。

2 商談会の来場者像を理解する

商談会への出展検討や、出展決定後の計画立案に際しては、まず、「来場者は何を目的に来るのか」という特徴を認識しておきましょう。

商談会では、「商談会で具体的な商談をしたい」「その場で、製品の購入先を決定したい」といった来場者は多くはありません。新製品、関連業界、競合他社などの情報収集を目的とした来場者がほとんどです。

例えば、「自社が販売できるような目新しい製品はないか」「最近の業界のトレンドはどのようなものか」「競合他社はどのような製品を展示しているか」といった意識で来場しています。こうした来場者は、事前に興味のあるブースをいくつか決めており、それらのブースを中心に会場全体を見学します。

ただし、興味のあるブースを見つけても、通常はその場では担当者の説明を立ち話程度で聞いたり、資料をもらったりして会社に帰ります。そして、社内でじっくりと検討し、本当に興味のある会社に対しては、改めて連絡を取り、商談に至るというケースが多いようです。

3 商談会の特徴と参加目的の検討

1)商談会の種類を把握する

商談会への参加を検討する際には、来場者の特徴などを把握し、自社の目的に合った商談会を選ぶようにする必要があります。ここでは、商談会の分類例を見てみましょう。

1.出展企業の立地と業種による分類

商談会の特徴は、出展企業の立地と業種によって大まかに分類することができます。出展企業の特性に基づく商談会の分類は次の通りです(あくまで一例です)。

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この図表1は、従来の一般的な内容をまとめたものですが、今は状況が変わってきています。例えば、これまで、全国各地から企業が出展・参加する「全国-総合型」「全国-業種特化型」は、規模が大きく、東京や大阪といった大都市での開催が多いのが一般的でした。

しかし、最近では、新型コロナウイルス感染症対策などの面でも、オンライン商談会が定着してきているため、全国区=大都市開催という常識は、変わりつつあります。むしろ、リアルで開催する商談会の場合には、「実際に会場に行くなら、東京や大阪などへ出かけていくより、地元や近場開催のほうがよい」という人も多いかもしれません。今後、立地や業種によって商談会を分類するやり方については、見直していく必要があるでしょう。

2.ターゲットによる分類

業種による分類と似ていますが、「誰(どの地域の企業)に向けてアピールする商談会か」というターゲットを明確にしている商談会があります。分かりやすいところでいえば、海外市場などが挙げられます。その他、特定業界や特定の職種(バイヤー向け、人事担当者向けなど)をターゲットにしているケースもあります。

2)商談会への出展目的を明確にしよう

商談会の主な特徴は次の通りです。

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これは、一般的な特徴を整理したものです。出展を検討する際には、各商談会の特徴を把握した上で、例えば、「営業エリアなどの活動地域が限られているので、自社の活動地域を対象にした『特定地域型』の商談会に出展する」といったように、自社の目的や予算に合った商談会を選択するようにしましょう。

4 商談会への参加に際して検討・実施すべき主な事項

商談会への出展に際しては、ここまで紹介した点を勘案しながら、計画的に準備を進めていきます。商談会の事前準備から終了後に検討・実施すべき主な事項は次の通りです。

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以上(2020年11月)

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リモートワーク導入時に再確認 固定資産管理を徹底しよう

書いてあること

  • 主な読者:固定資産管理が曖昧な中小企業の経理や総務担当者
  • 課題:固定資産管理が徹底されていないと、会計・税務のミスや、無駄な支出につながる恐れがある
  • 解決策:帳簿管理と現物管理を徹底することで、適切な会計処理や、固定資産税の節約ができる可能性がある

1 固定資産管理が必要な理由

1)会計上、事業を行った上での諸問題

在宅勤務の広がりにより、パソコンなど会社の固定資産が社外に持ち出される機会が増える中、固定資産管理の重要性が高まっています。特に中小企業においては、固定資産管理に十分に手が回らず、固定資産台帳に載っているのに現物がないケースや、現物があるのに固定資産台帳に載っていないケースがよく見られます。

会社の固定資産管理が適切に行われていない場合、会社として固定資産の紛失や故障などを把握できず、会計上の影響はもとより、事業を行っていく上でもさまざまな問題が生じます。

まず、固定資産周りの会計処理(減価償却など)が実態と異なってしまうことにより、会社の決算や法人税などの計算に誤りが生じる恐れがあります。また、必要ない固定資産や処分済みの固定資産を資産計上し続けている場合、固定資産税を過大に支払ってしまうこともあります。なぜなら、固定資産税は、毎年1月に会社が会計上の固定資産をもとに作成し、市町村に提出する償却資産申告書により計算されるからです。

事業を行っていく上でも、すでに会社にある固定資産を重複して購入してしまうなど無駄な出費や、紛失・盗難に気付かないといった問題が生じる可能性があります。

2)在宅勤務により増える会社資産の家庭内使用

在宅勤務により、外部への資産持ち出し(家庭内使用)が増える中で、従業員が会社の資産を使っていることの意識が薄い可能性もあります。例えば、会社から貸与されているパソコンを私用で使ったり、従業員が退職時に貸与されているパソコンを返却せず、会社側もそれに気付かず私物化してしまったりすることがあり得ます。会社の資産を使っているということを従業員へ認識してもらうことも、適切な固定資産管理を行うために大切です。

2 固定資産管理のイロハ

固定資産管理には、主に帳簿管理と現物管理があります。

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1)帳簿管理

帳簿管理では、固定資産台帳を作成します。固定資産台帳の記載内容は特に決められているわけではありません。一般的に次のような項目があればよいでしょう。

  • 管理番号、資産名、管理部門、設置場所、取得年月日、数量、取得価額、耐用年数、償却方法、期首帳簿価額、当期減価償却額、期末帳簿価額、減価償却累計額

重要なのは固定資産台帳の記録ルールの徹底です。固定資産の取得時、移動時、処分時には、社内稟議(りんぎ)や許可申請を行うなど、必要な申請手続きをとるようにしましょう(詳細は後述)。

よく見られる事例は、減価償却資産については台帳を作成しているものの、減価償却の対象外である固定資産については台帳を作成していないケースです。適切な固定資産管理のためには、減価償却の対象外である固定資産(減価償却が終了している固定資産など)についても、台帳に記載する必要があります。

また、管理が徹底されていない事例として、取得時の記載漏れはないとしても、移動や処分については手続きが不十分で、設置場所が不明になっていたり、処分済みの固定資産が台帳に載ったままであったりするケースがあります。

リース資産を使用している場合には、リース資産台帳を作成します。主な記載内容は次の通りです。

  • 管理番号、資産名、管理部門、設置場所、数量、契約開始日、契約終了日、支払回数、支払間隔、支払リース料、リース料総額

なお、小規模な会社であれば、固定資産台帳やリース資産台帳はエクセルで作成していることが多いですが、固定資産管理業務が煩雑になるようなら、費用対効果を勘案してシステムの導入を検討することをお勧めします。

2)現物管理

現物管理の主な内容には、固定資産現物への管理ラベルの貼付があります。管理ラベルには資産の品目名や管理番号などを記載することで、固定資産台帳と照合できるようにします。なお、管理ラベル自体は、市販されているものを利用するといいでしょう。

また、年に1~2回程度で現物実査を行います。現物実査では固定資産台帳と現物との突合を行い、合わないものがあればその原因を調べます。なお、現物実査ではあるかないかだけを調べるのではなく、現物の状態も確認し、処分する必要がないかなどを検討します。

中小企業では、この現物実査が不十分なケースが多く、税務調査などで初めて固定資産の紛失や廃棄が発見されることがあります。現場と経理などの部署間の電話連絡や申請書ベースのコミュニケーションだけでは、どうしても漏れが生じることがあります。現場に足を運び、実物を確認することは大切です。

3)より効率的に行うために

固定資産管理をより効率的に行うためには、固定資産管理規程を整備するなど、管理ルールを作成し、担当者に対して周知徹底する必要があります。発注、検収、移動、処分ごとに担当者を分け、権限や責任を明確にする(職務分掌)などのルールを作り、社内で共有しましょう。中小企業の場合は、人手の問題から業務分担がこの通りにできないこともあります。その場合は、最低限「入り(取得)」と「出(廃棄や売却など)」は別の担当者を設けるなど、適切な固定資産管理に加え、社内不正を予防するためのルールを考えるようにしましょう。

以上(2020年11月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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続・用語が分かれば理解しやすい! 民法改正を読み解く用語集

書いてあること

  • 主な読者:分かるようで分からない民法の用語を正しく理解したいビジネスパーソン
  • 課題:日常で使用している用語と意味が違ったり、聞き慣れなかったりする用語が多い
  • 解決策:弁護士がピックアップした、要注意な用語から押さえる

このシリーズでは、民法で頻出する次の用語の意味を、前後編に分けてご紹介しています。

  • 前編で紹介している用語
    法律全般(内容証明郵便、公正証書、供託、確定期限、条件付法律行為(停止条件・解除条件)、信義則、権利の濫用、善意、悪意、権限、権原、重過失、錯誤、心裡留保、取消し、無効、地位の移転、地位の留保、特定物・不特定物)、時効(時効、時効期間、時効の完成、時効の完成猶予と更新)、保証(保証、根保証、極度額、個人貸金等根保証契約)
  • 後編で紹介している用語
    債権総論(債権者代位権、詐害行為取消権(債権者取消権))、取引総論(無過失責任、契約不適合責任、危険負担、不可抗力、反対給付)、契約各論(双務契約、要物契約、有名契約(典型契約)、無名契約(非典型契約)、定型約款、消費貸借契約、委任契約、請負契約)、執行・保全(仮差押え、差押え)
本稿は後編です。
前編については、次のコンテンツに記載されています。合わせてお読みください。

1 債権総論

1)債権者代位権

債権者代位権とは、債権者が自己の債権について十分な弁済を受けるために、債務者が他人に対して持つ権利(被代位権利)を代わって行使する権利のことをいいます。例えば、債権者が債務者に債権を有し、債務者が取引相手に唯一の財産である債権を有する場合、民法上の要件を満たせば、債権者は債務者に対する債権を回収するため、債務者に代わって取引相手に対する権利を行使できます。これにより、事実上他の債権者よりも優先して弁済を受けられるようになります(事実上の優先弁済機能)。

2)詐害行為取消権(債権者取消権)

詐害行為取消権とは、債権者が債務者の行為を一定の要件の下、取消すことができる権利です。詐害行為取消権を行使するためには、裁判所に取消しの訴えを提起する必要があります。典型的には、債務者が債権者への債務弁済ができなくなるような財産処分(財産減少行為)を行った場合に、当該財産処分行為を取り消して、債務者の元に当該財産を取り戻す権利として認められています。

2 取引総論

1)無過失責任

損害の発生について故意・過失がなくても損害賠償の責任を負うことをいいます。民法上の原則は、損害賠償責任を負うのは故意・過失がある場合と考えられているため、無過失責任は例外的な場合といえるでしょう。

2)契約不適合責任

契約不適合責任とは、例えば、商品に品質不良や品物違い、数量不足などの契約内容に適合しない不備があった場合に、売主が買主に対して負う責任のことをいいます。契約不適合がある場合、買主は売主に対して追完(目的物の修補、代替物の引渡しまたは不足分の引渡し)を請求でき、これにもかかわらず追完がなされないときは、不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができるとされました。

3)危険負担

危険負担とは、売買等の双務契約が成立した後に、一方の債務が債務者の責めに帰することができない事由で履行ができなくなってしまった場合に、そのリスクを当事者のいずれが負担するかという問題をいいます。改正民法においては、債務者主義が原則となり、債務の履行不能についてのリスクは債務者が負担しなければならないことになりました。例えば、ある商品の引渡し前に震災により商品が滅失してしまい、買主(債権者)は商品を受け取れなくなった場合、売主(債務者)への支払義務がなくなります。

4)不可抗力

不可抗力とは、外部から発生した事実で、通常要求される注意や予防を講じても、損害を防止できない力や事態をいいます。

5)反対給付

例えば、売買契約において、買主の金銭給付(代金支払い)に対し売主が売買目的物を買主に交付する給付のことを反対給付といいます。

3 契約各論

1)双務契約

契約の当事者の双方が、互いに対価的な債務を負担する契約をいいます。

2)要物契約

契約を締結する当事者の合意の他に、目的物の引渡しが契約を有効に成立させるための要件となっている契約をいいます。

3)有名契約(典型契約)

売買契約、賃貸借契約等の、法律に名称や内容が規定されている契約類型をいいます。

4)無名契約(非典型契約)

有名契約以外の契約類型をいいます。契約自由の原則の下、当事者間に合意があれば、基本的にはどのような内容の契約も有効と考えられています。

5)定型約款

ある特定の者が、不特定多数を相手方とし、取引内容の全部または一部が画一的であることが双方にとって合理的な取引において、取引契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体を定型約款といいます。鉄道・バス・航空機などの旅客運送で定められている運送約款や電気の供給取引などにおいて定められている電気供給約款などがこれに該当します。

6)消費貸借契約

消費貸借契約とは、借りた物と同じ物を、同じ数量を返却することを約束して、物や金銭を貸借する契約をいいます。

旧民法において、消費貸借契約は、要物契約であるとされていました。しかし、実務上、判例で無名契約としての諾成的消費貸借契約が認められていたこともあり、改正民法では、書面または電磁的記録による諾成的消費貸借の規定が設けられました。

7)委任契約

委任契約とは、一定の法律行為としての事務を行うことを委託する契約をいいます。報酬は原則無償となりますが、契約内容で報酬について特約がある場合は、それに応じて報酬を支払うことになります。

8)請負契約

請負契約とは、仕事を完成する契約をいいます。請負人は、業務を行うだけではなく、発注側が求めた仕事を完成させて、納品する必要があります。

4 執行・保全

1)仮差押え

訴訟を提起して判決を得る前に、あらかじめ相手方の財産を保全しておくために暫定的に行う差押えを仮差押えといいます。これにより債務者は、仮差押えの対象となった財産の処分を禁止されます。仮差押えが認められると債務者が観念して任意の弁済に応じることも少なくなく、それゆえ、仮差押えは、債権回収の有効な手段の1つと考えられています。

2)差押え

法律に基づく強制力をともなった債権回収方法で、債務者が有する特定の有体物または権利について、事実上・法律上の処分を禁止し、回収することをいいます。

「信義則」「時効期間」などは次のコンテンツに記載されています。合わせてお読みください。

以上(2020年11月)
(執筆 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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画像:Akira Kaelyn-shutterstock

法定利率/改正民法が分かる(3)

書いてあること

  • 主な読者:2020年4月に改正された民法のポイントを知りたい経営者
  • 課題:改正の断片的な情報しか把握していないので、全体像が知りたい
  • 解決策:法定利率のポイントを紹介(シリーズの他のコンテンツもあります)

1 法定利率の改正

1)法定利率とは

法定利率とは、利息の発生に関する当事者の合意があるものの、利率が合意によって定められていない場合や、法律の規定により利息が発生する場合に適用される利率です。旧民法では年5分(5%)でしたが、改正民法では変更されました。

簡単にまとめると、「当初の法定利率を年3%とする。その後、市場金利の過去5年間の平均値が、前回法定利率を見直したときより1%以上変動したら、その分だけ法定利率を加減する」となります。より厳密には、次の通りです。

  • 改正民法施行後、法定利率は(まず)年3%とする。
  • その後、3年を1期として、1期ごとに法定利率を見直す。
  • 各期の法定利率は、「法定利率に変更があった期のうち直近のものの基準割合」と、「当期の基準割合」との差に相当する割合(その割合に1%未満の端数があるときは、これを切り捨てる)を、直近変動期の法定利率に加算・減算した割合とする。
  • この基準割合は、短期貸付けの平均利率の過去5年間(厳密には「各期の初日の属する年の6年前の年の1月から前々年の12月まで」)の平均値とする(法務大臣が告示する)。

債権の利率は、別段の意思表示がない限り、その利息が生じた最初の時点の法定利率で固定し、その後は変動しません(改正民法第404条第1項)。また、民法の改正に伴い、商法で定められていた、いわゆる商事法定利率・年6%は廃止されました。

2)契約で利率、遅延損害金を定める

法定利率は1期(3年)ごとに見直されるので、取引相手との合意によって利率を定めておかなければ、たとえ同じ取引先・同じ取引内容であっても債権ごとに利率が異なる可能性があります。

実務上、契約書では、約定利率、遅延損害金利率を定めていることが一般的です。しかし、注文書と受注書だけで取引をしている場合や、契約書締結の負担感を下げるため、あえて簡便な契約書を用いているような場合、利率、遅延損害金の定めがないこともあります。注文書などの書面を確認し、約定利率、遅延損害金利率を定めるようにしましょう。

2020年4月1日より前に利息が生じた場合、旧民法の法定利率、2020年4月1日以降に利息が生じた場合、改正民法の法定利率の規定が適用されます。

2 中間利息の控除の改正

中間利息の控除の計算において、損害賠償の請求権が生じた時点の法定利率が適用されることになりました(改正民法第417条の2)。中間利息の控除の概念に関する詳細は割愛しますが、これは逸失利益の請求額などに大きく影響します。

交通事故の逸失利益の場合で考えてみましょう。被害者が将来30年間にわたり得るはずだった収入を年3%の場合の現在価値に割り引くと、年収約19.6年分となります。利率年5%で計算した場合は年収約15.4年分であり、約4.2年分も賠償額が大きくなります(19.6年-15.4年)。年収500万円の方を前提とすれば、単純計算で、賠償額が2100万円近く変わることになります。これは、労災事故が起きたといった場合に会社が負うべき賠償額についても同じです。

このような賠償義務のリスクを軽減するため、損害保険への加入や、すでに加入している場合は補償内容の見直しの検討も必要かもしれません。

以上(2020年11月)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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時効/改正民法が分かる(2)

書いてあること

  • 主な読者:2020年4月に改正された民法のポイントを知りたい経営者
  • 課題:改正の断片的な情報しか把握していないので、全体像を知りたい
  • 解決策:時効のポイントを紹介(シリーズの他のコンテンツもあります)

1 原則的な消滅時効期間と起算点の改正

1)消滅時効とは

消滅時効とは、一定期間行使されない権利を消滅させることです。改正民法第166条第1項では、次のいずれか早い時点で消滅時効が完成すると定められました。

  • 旧民法と同じく、権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年間の時効期間
  • 権利を行使することができることを知った時(例えば、代金などを請求することができることを知った時。債権者の主観を基準とするので、主観的起算点という)から、「5年」が経過した場合

まず、確定期限の定めのある債権です。これは、合意内容として弁済期が○年○月○日と定まっている場合であり、債権者は具体的な弁済期を認識しています。弁済期に支払いがなければ、即座に債務者に対して支払いを命じることができます。つまり、「権利を行使することができることを知った時」が、弁済期(厳密には弁済期が経過した翌日)であり、この日から5年間で消滅時効が完成します。

次に、不確定期限の定めのある債権や条件の定めのある債権です。例えば、Aさん(債務者)が新しい車を買ったら、Bさん(債権者)に古い車をあげるという約束をしたとします。Bさん(債権者)は、Aさん(債務者)から車を買ったと聞いて初めて、条件の成就を知ります。この場合、「債務者が車を購入したときから10年間」「債務者が車を購入したことを知ったときから5年間」のいずれか早いタイミングで消滅時効が完成します。

最後に、期限の定めのない債権です。例えば、代金について、いつでも請求されたら支払うと合意した場合です。この場合、原則としていつでも権利を行使でき、債権者もそのことを合意時から知っているので、合意時から5年間で消滅時効が完成します。

2)実務上の留意点

時効期間と起算点の判断は複雑ですが、債権者は「これまでの消滅時効期間に加えて、『知った時から5年』という消滅時効期間が追加された。これによって消滅時効の完成が早くなることがある」ことを押さえておきましょう。また、条件が成就した場合や期間の定めがない場合、この事実を債権者に知らせることで、そこから5年で消滅時効が完成するという点も重要です。

補足ですが、改正民法では商行為によって生じた債権についての規定は削除され、同債権についても改正民法第166条第1項が適用されます。

3)経過措置

2020年4月1日より前に債権が生じた場合またはその発生原因である法律行為が既に行われている場合、その債権の消滅時効の期間については、旧民法が適用されます(附則第10条第4項、第1項)。

2 職業別の短期消滅時効の廃止

旧民法で定められていた、職業別の短期消滅時効については廃止され、前述した「1 原則的な消滅時効期間と起算点の改正」の内容に統一されました。職業別の短期消滅時効とは、「医師の診療報酬債権や工事に関する債権は3年間、生産者や卸売商人・小売商人が売却した代金債権などは2年間、旅館や飲食店の宿泊料や飲食料については1年間」とされていた消滅時効のことです。

3 生命・身体侵害による損害賠償請求の消滅時効の改正

改正民法では、人の生命または身体の侵害による(債務不履行を理由とする)損害賠償請求権の消滅時効は、「主観的起算点から5年間、権利を行使することができる時から20年間」とされました(改正民法第167条)。生命・身体という法益の重要性を考慮し、これらの侵害による損害賠償請求権の行使については長い消滅時効期間が定められました。

また、人の生命または身体を害する「不法行為を理由とする」損害賠償請求権についても、「1.被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から5年間」「2.不法行為の時から20年間」の、いずれか早い時点という時効期間が設けられています(改正民法第724条の2および改正民法第724条)。旧民法より時効期間が長くなり、被害者救済の余地が広がりました。

なお、改正民法第724条の2の規定については、経過措置に注意しましょう。旧民法の3年の短期消滅時効が改正民法の施行日(2020年4月1日)時点で完成していない場合、時効期間は5年間になります(改正民法が適用されます)。

4 協議を行う旨の合意による時効の完成猶予の新設

改正民法では、協議が行われている場合に、時効が完成しないよう猶予する制度が新設されました(改正民法第151条)。この制度を利用する場合、「協議を行う旨の合意が存在すること」および「その合意が書面でされること」が必要です(合意は電磁的記録によるものも含みます(改正民法第151条第4項))。この合意があれば、次のいずれか早い時まで時効は完成しません。

  • その合意があった時から1年を経過した時(改正民法第151条第1項第1号)
  • 合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る)を定めたときは、その期間を経過した時(改正民法第151条第1項第2号)
  • 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6カ月を経過した時(改正民法第151条第1項第3号)

なお、この制度を利用して書面で合意したものの協議が整わず、さらに協議を続けたい場合は、猶予期間中に再度書面による合意をすることで、猶予期間をさらに延長することができます。延長は通算して5年間までです(改正民法第151条第2項)。

時効完成が迫っているが協議が継続している場合、これまでのように訴訟提起をするのではなく、協議の合意書面を作成します。合意書面の例は次の通りです。

【協議合意書(例)】

甲および乙は、甲が乙に対して主張する○○に係る○○請求権(以下「本件請求権」という。)につき協議が続いているところ、本件請求権の時効の完成猶予のため、本件請求権の存否、内容、履行条件などについて協議を行う旨を以下の通り合意する。

第1条
甲および乙は、本件請求権について協議を行う旨相互に確認する。

第2条
甲および乙は、本合意書締結日から10カ月が経過するまで(【○年○月○日まで】)または協議が成立するまでのいずれか短い期間、前条の協議を行う。

第3条
甲および乙は、乙が、本合意により、本請求権につき何らの承認をしたものでもなく、消滅時効の援用権を放棄したものでもないことを確認する。

本合意書の締結を証するため本書2通を作成し、甲乙記名捺印の上各自1通を保有する。

○年○月○日
  甲・・・
  乙・・・

なお、この規定は、改正民法の施行日前に権利についての協議を行う旨の合意が書面でなされた場合は適用されません(附則第10条第3項)。

5 天災などによる時効の完成猶予の改正

時効期間の満了前に、天災その他避けることができない事変のために時効中断手続きを行うことができないときは、その障害が消滅した時から一定期間が過ぎるまで、時効は完成しません。改正民法では、この時効完成猶予期間を、「その障害が消滅した時から3カ月を経過するまでの間」としました(改正民法第161条)。実務上も、その障害が消滅したときから3カ月以内に、時効中断のための対応を行う必要があります。

以上(2020年11月)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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