【規程・文例集】「営業秘密管理規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:最新法令に対応し、運営上で無理のない会社規程のひな型が欲しい経営者、実務担当者
  • 課題:法令改正へのキャッチアップが難しい。また、内規として運用してきたが法的に適切か判断が難しい
  • 解決策:弁護士や社会保険労務士、公認会計士などの専門家が監修したひな型を利用する

1 営業秘密とは

企業では、「発明」「顧客名簿」などのビジネス上有用な技術や情報を保有しています。これらの技術や情報の流出、他者の不正利用を防ぐための対策としては、特許を出願するなどの方法があります。しかし、特許として登録をすると、出願した発明内容などが一般に公開されてしまい、保護期間が満了すると、競合他社がその発明を利用した商品を販売することもできます。

そこで、発明の内容を知られたくないものや長期にわたって保護したいもの、特許などを取得することができない営業情報などについては、営業秘密として管理するのが得策です。

事業者間の公正な競争などについて定めた不正競争防止法によると、営業秘密とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」を指します(第2条第6項)。

営業秘密の3要件は次の通りです。

1.秘密として管理されていること(秘密管理性)

その情報に合法的かつ現実に接触することができる従業員等から見て、その情報が会社にとって秘密としたい情報であることが分かる程度に、アクセス制限やマル秘表示といった秘密管理措置がなされていること。

2.有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)

脱税情報や有害物質の垂れ流し情報などの公序良俗に反する内容の情報を、法律上の保護の範囲から除外することに主眼を置いた要件であり、それ以外の情報であれば有用性が認められることが多い。現実に利用されていなくてもよく、失敗した実験データというようなネガティブ・インフォメーションにも有用性が認められ得る。

3.公然と知られていないこと(非公知性)

合理的な努力の範囲内で入手可能な刊行物には記載されていないなど、保有者の管理下以外では一般に入手できないこと。
公知情報の組合せであっても、その組合せの容易性やコストに鑑み非公知性が認められ得る。

(経済産業省「不正競争防止法の概要(テキスト2019)」)

2 営業秘密の管理で注意すべきこと

近年では、企業同士のさまざまな形での連携が活発になっています。場合によっては、営業秘密に該当する重要な情報を連携先と共有したいこともあるでしょう。しかし、連携先と共有することで、前述した営業秘密の3要件を満たしていないことになる可能性があるため、注意が必要です。

なお、2019年7月から施行された改正不正競争防止法では、データ保護に関して新たに「限定提供データに係る不正競争行為」という概念が導入されました。

限定提供データとは、「業として特定の者に提供する情報(=限定的な外部提供)として電磁的方法により相当量蓄積され(=技術的管理性)、管理されている技術上又は営業上の情報(=有用性)であって、秘密として管理されているものを除くもの」(第2条第7項)のことです。当該データについて不正に取得、使用、開示等された場合においては、民事的救済措置を講じることができると規定されました。

従来は営業秘密として管理されていなければ、不正競争防止法による保護を受けられませんでしたが、限定提供データに係る不正競争行為が規定されたことにより、例えば、携帯電話会社が携帯電話の位置情報データを収集した人流データをイベント会社に提供する場合など、技術的管理性が認められれば、提供データは「限定提供データ」に該当し、不正競争防止法上の保護を受けることができるようになりました。

営業秘密ほどの強い保護は受けられませんが、重要な情報を他社と共有したいなどの場合、限定提供データとしての保護を念頭に管理することを検討してもよいでしょう。

3 営業秘密管理規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます(限定提供データについて営業秘密管理規程に盛り込むこともあります)。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

なお、営業秘密管理規程を独立して策定せずに就業規則に盛り込む場合もあります。その場合でも、規定する内容は以下を参考にしていただくことで問題ありません。

【営業秘密管理規程のひな型】

第1条(目的)
本規程は、営業秘密の管理に関して必要な事項を定め、営業秘密の適正な管理および活用を図ることを目的とする。

第2条(適用範囲)
本規程は、役員および従業員(嘱託や契約社員、パートおよびアルバイト等一切の従業員を含む。以下「従業員等」)に適用されるものとする。

第3条(用語の定義)
本規程における各用語の定義は、次に定めるところによる。
 1.営業秘密
 秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報であって、公然と知られていないもののうち、第6条第1項により指定されたものをいう。
 2.営業秘密資料
 営業秘密を記載・記録した文書、図画、写真、図書、磁気テープ、CD-ROM、DVD、ハードディスクドライブ等、サンプルおよび開発中の製品、これに係る機械・装置・設備、その他これらに関する一切の資料並びにその複写物および複製物をいう。
 3.営業秘密等
 営業秘密および営業秘密資料を総称したものをいう。

第4条(営業秘密等管理責任者)
1)会社の営業秘密等を管理するため、営業秘密等の統括責任者(以下「統括責任者」)および管理責任者(以下「管理責任者」)を置く。
2)統括責任者は、役員の中から取締役会の指名により決定する。
3)管理責任者は、各部門長および各部門内の業務分掌単位の長とし、所管する部門および業務分掌単位における秘密情報の管理の任に当たる。

第5条(営業秘密資料の管理)
1)従業員等は、管理責任者の指示に従って、営業秘密資料を金庫または施錠可能な設備に保管するなどの適切な方法で管理するものとする。
2)従業員等は、管理責任者に事前の承認を得たときを除いては、営業秘密資料の複写および複製は行ってはならない。
3)従業員等は、管理責任者に事前の承認を得たときを除いては、営業秘密資料を持ち出してはならない。

第6条(指定)
1)管理責任者は、会社が保有する情報について、営業秘密として指定するとともに第7条に定める営業秘密等の等級を指定し、秘密保持期間およびアクセスすることができる従業員等(以下「アクセス権者」)の範囲を特定するものとする。なお、アクセス権者は従業員等のうち、特段の事情のない限り、パートおよびアルバイトを除いた者とする。
2)管理責任者は、営業秘密資料について、第7条に定める営業秘密等の等級を記載する、パスワードを設定するなどの適切な方法で、営業秘密等である旨を明示する。
3)管理責任者は、統括責任者の指示の下、営業秘密について、日時の経過等により秘密性が低くなり、または秘密性がなくなった場合においては、その都度、第7条に定める営業秘密等の等級の変更または指定の解除を行うものとする。

第7条(営業秘密等の等級)
営業秘密として管理するため、次の通り営業秘密等の等級を設ける。
 1.極秘
 これを他に漏らすことにより会社が極めて重大な損失もしくは不利益を受ける、またはその恐れがある営業秘密等であり、原則として指定された者以外には開示してはならないもの。
 2.秘
 極秘ではないが、これを他に漏らすことにより会社が重大な損失もしくは不利益を受ける、またはその恐れがある営業秘密等であり、原則として業務上の取り扱い部門の者以外には開示してはならないもの。
 3.社外秘
 極秘、秘以外の営業秘密等であり、原則として社内の者以外には開示してはならないもの。

第8条(申告)
1)従業員等は、業務遂行の過程で営業秘密等を取得した場合には、遅滞なくその内容を管理責任者に申告しなければならない。
2)従業員等は、業務遂行の過程で営業秘密等となると考えられる情報または資料を創出した場合には、遅滞なく管理責任者に申告するものとする。
3)管理責任者は、従業員等から前2項の申告があった場合には、その申告された内容が営業秘密等に該当するかを検討し、統括責任者の指示の下、本規程に定義する営業秘密等に該当する場合には、遅滞なくこれを営業秘密等として指定するものとする。

第9条(秘密保持義務)
1)従業員等は、管理責任者の許可なく、アクセス権者以外の者に営業秘密等を開示してはならない。
2)従業員等は、管理責任者の許可なく、業務遂行以外の目的で営業秘密等を使用してはならない。
3)従業員等は、管理責任者の許可なく、不正に営業秘密等にアクセスしてはならない。

第10条(誓約書)
従業員等には、業務遂行以外の目的で営業秘密等を使用しない旨などを記載した秘密保持の誓約書を提出させるものとする。

第11条(退職者等)
1)退職などによりその身分を失った後においても元従業員等は、在職中に知り得た営業秘密等を開示、使用してはならない。
2)管理責任者は、退職などにより身分を失った元従業員等が在職中に知り得た営業秘密等を特定し、当該元従業員等が負う秘密保持義務等の内容を確認するものとする。
3)退職などにより身分を失った元従業員等は、営業秘密資料を持ち出してはならず、また自己の保管する営業秘密資料を全て会社に返還しなければならない。

第12条(営業秘密等の開示を伴う契約等)
人材派遣会社、受託加工業者、請負業者等の第三者に対し、会社の業務に係る製造委託、業務委託等をする場合、実施許諾、共同開発その他の営業秘密等の開示を伴う取引等を行う場合、当該会社との契約等において相手方に秘密保持義務等を課す他、秘密保持に十分留意するものとする。

第13条(第三者の秘密情報の取り扱い)
1)従業員等は、業務を遂行するに当たって、他社の営業秘密等を取得しようとする場合には、事前に管理責任者に申告するものとする。
2)従業員等は、他社が正当な権限を有しないとき、または正当な権限を有するか否かにつき疑義のあるときには、当該情報の開示を受けず、疑義がある旨を管理責任者に申告するものとする。

第14条(罰則)
従業員等が故意または重大な過失により、本規程に違反した場合、就業規則に照らして処分を決定する。

第15条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則
本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2020年9月)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)

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画像:ESB Professional-shutterstock

税務調査で指摘されたら? 税務調査後の手続き

書いてあること

  • 主な読者:税務調査について知りたい経営者・経理担当者
  • 課題:税務調査で指摘を受けた場合の税務署との手続きを詳しく知りたい
  • 解決策:指摘に納得する場合と、納得できない場合で手続きが異なる上、指摘内容によって附帯税が変わる

多くの企業は、数年に一度、税務申告の内容に誤りがないかどうかを調査するために、税務署などによる税務調査を受けます。税務調査において、もし税務署の調査官から申告の誤りを指摘された際、納税者がその指摘に納得する場合と、納得できない場合とで、その後の手続きが違ってきます。また、その誤りに対して課される税金(附帯税)も、誤りの種類によってさまざまです。具体的な手続きなどを紹介します。

1 申告の誤りを指摘され、納得する場合

税務調査により法人税の申告の誤りを指摘された場合の基本的な手続きの流れ(納得する場合)は、次の通りです。

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税務調査が行われた場合、申告内容の誤りについて指摘を受けることがあります。その後の手続きの概要は、次の通りです。

1)「修正申告」

「修正申告」とは、納税者が税務当局に対して提出する、当初の申告税額より増額する内容の申告書をいいます。

2)「期限後申告」

「期限後申告」とは、当初の期限内申告書を提出していない納税者が、税務当局が決定するまでの間に提出する申告書をいいます。

3)「更正の請求」

納税者が税務当局に対して、税を減額するなど「更正」を行ってもらうことを請求する手続きをいいます。

税務調査が行われた場合、調査官からは、指摘を受けた点について「修正申告」または「期限後申告」(以下「修正申告等」)をするよう勧められます。また、「修正申告等」の申告書(以下「修正申告書等」)を提出した場合には、後述する再調査の請求や審査請求ができません。その代わりに、「更正の請求」を行い追徴税額の減額を求めることができることを説明してもらえることになっています。なお、調査官が「修正申告書等」を準備してくれる場合もあります。指摘を受けた点について納得できる場合には、「修正申告書等」を提出し、追加で納税をして税務調査は終了となります。

なお、消費税の申告の誤りについて指摘を受け、追徴課税が生じる場合(消費税の納税額増加分、損金が大きくなる)に、他の指摘事項がないときは、法人税が減少することとなります。この場合、消費税については「修正申告書等」を提出した上で、法人税については「更正の請求」を行う必要があるのかといった疑問が生じますが、実務上は、調査官が、法人税について減額する「更正」を行ってくれることが多いようです。

2 申告の誤りを指摘され、納得できない場合

税務調査により法人税の申告の誤りを指摘された場合の手続きの流れ(納得できない場合)は、次の通りです。

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1)更正

指摘を受けた点について、「修正申告等」をすることに納得ができない場合には、調査官は「更正」を行い、納税者のもとに更正通知書が送られてきます。なお、追徴税額については、後日、追徴税額が確定してから納税すると、後述する延滞税等がかかるため、納得できない場合も納税をしておくことが望ましいです。

2)税務署に対する再調査の請求

納税者が、更正通知書の内容に納得できない場合には、通知を受けた日の翌日から3カ月以内に、所轄の税務署に対して「再調査の請求」をすることができます。税務当局は、更正の内容について再検討し、その結果(決定)を納税者に通知します。

3)国税不服審判所に対する「審査請求」

「決定」を受けても、まだ納得ができない場合には、「決定」の通知を受けた日の翌日から1カ月以内に、国税庁の機関である国税不服審判所に対し、「審査請求」をすることができます。また、「再調査の請求」を経ることなく、直接「審査請求」をすることもできます。国税不服審判所は内容について審査し、その結果(裁決)を納税者と税務署長に通知します。

4)税務訴訟

「裁決」を受けても、まだ納得ができない場合には、「裁決」の通知を受けた日の翌日から6カ月以内に、裁判所に訴訟を起こすことができます。判決によって、指摘を受けた内容の有無が確定することになります。

5)統計に見る指摘事項を覆せる可能性

国税庁が公表している「国税庁レポート2020」によると、2019年度における再調査の請求の処理件数は1513件で、このうち、納税者の主張の全部または一部が認められた割合は12.4%となっています。

また、2019年度における審査請求の処理件数は2846件で、このうち、納税者の請求の全部または一部が認められた割合は13.2%となっています。

さらに、2019年度における訴訟の終結件数は216件であり、このうち、納税者の請求の全部または一部が認められた割合は9.7%となっています。

3 「更正」の期限・「修正申告書」の提出期限

税務当局による「更正」の期限は次の通り定められているため、この期間を超えて「更正」をすることができません

  • 原則、法定申告期限から5年。
  • 法人税の欠損金に係るものは、法定申告期限から9年(2018年4月1日以後に開始する事業年度で生じた欠損金については10年)。
  • 偽りその他の不正の行為等によるものは、法定申告期限から7年。

一方、「修正申告書」の提出には期限がないため、税務当局による「更正」を受けるまでは、どの年度の「修正申告書」でも提出することができます。なお、税務当局による「更正」の期限は前述の通り定められているため、それより前の事業年度に遡って自ら「修正申告書」を提出する必要は実質的に無いということになります。

4 修正申告書等を提出した場合にかかる附帯税(法人税等)

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1)加算税

1.過少申告加算税

過少申告加算税とは、修正申告書等による税額と当初の申告税額との差額に対して課されるものです。過少申告加算税は、原則として追徴税額の10%(追徴税額が当初の申告税額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときは、その超える部分については15%)となります。

なお、税務当局による調査通知以後、その税務調査によって更正または決定(以下「更正等」)が行われることを認識していながら、修正申告書等を提出したもの(以下「予知したもの」)でないときは、追徴税額の5%(追徴税額が当初の申告税額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときは、その超える部分については10%)となります。また、税務当局による調査通知前で、かつ、更正等を予知したものでないときは、過少申告加算税は課されません。

2.無申告加算税

無申告加算税とは、「期限後申告」による税額に対して課されるものです。無申告加算税は、原則として追徴税額の15%(追徴税額が50万円を超えるときは、その超える部分については20%)となります。また、更正等が行われることを予知したものでないときは、追徴税額の10%(追徴税額が50万円を超えるときは、その超える部分については15%)に軽減されます。

なお、過去5年以内に無申告加算税または重加算税を課されたことがあるときは、追徴税額の25%(追徴税額が50万円を超えるときは、その超える部分の30%)となります。

3.不納付加算税

不納付加算税とは、源泉所得税の納付が遅れた場合に課されるものです。不納付加算税は、納期限後に納付した源泉所得税額の10%となります。ただし、告知があることを予知したものでないときは5%となります。

4.重加算税

重加算税とは、上記の「過少申告加算税」「無申告加算税」「不納付加算税」に代えて、仮装・隠蔽といったより悪質な申告の誤りに係る追徴税額に対して課されるものです。加算税は、過少申告加算税及び不納付加算税に代わるものは追徴税額の35%、無申告加算税に代わるものの場合には追徴税額の40%となります。

なお、過去5年以内に無申告加算税または重加算税を課されたことがあるときは、追徴税額の45%(無申告加算税の場合には追徴税額の50%)となります。

2)過怠税

過怠税とは、印紙税が課される文書(課税文書)につき、印紙の貼付がなかったことにより課されるものです。過怠税は原則として、本来の印紙税額の3倍に相当する額となります。

3)延滞税

延滞税とは、追徴税額に対して課される利息の性質を有するものです。延滞税は原則として、「年14.6%」と、「特例基準割合(銀行の新規の短期貸出約定平均金利を基礎として計算した割合で、2020年は1.6%)+年7.3%」とのいずれか低い割合で計算されます。ただし、特例により、納期限の翌日から2カ月を経過する日までの間は、「年7.3%」と「特例基準割合+年1%」とのいずれか低い割合で計算されます。

従って、現在は、納期限の翌日から2カ月を経過するまでの間は2.6%、それ以降は年8.9%となります。

5 修正申告書等を提出した場合にかかる附帯金(地方税)

地方税に係る附帯金は次の通りです。地方税についても、法人税等と同様に、「修正申告等」や「更正」の手続きがあります。ただし、住民税には、過少申告加算金・不申告加算金および重加算金は課されません

なお、各附帯税の意味合いは、法人税等と同じになるため、ここでは税額の算出方法のみを紹介します。

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1)加算金

1.過少申告加算金

過少申告加算金は、法人事業税の追徴税額の10%(追徴税額が当初の申告税額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときは、その超える部分については15%)となります。ただし、更正等があることを予知したものでないときは課されません。

2.不申告加算金

不申告加算金は、法人事業税の追徴税額の15%(追徴税額が50万円を超えるときは、その超える部分については20%)です。ただし、更正等があることを予知したものでないときは5%となります。

なお、過去5年以内に不申告加算金または重加算金を課されたことがあるときは、追徴税額の25%(追徴税額が50万円を超えるときは、その超える部分の30%)となります。

3.重加算金

法人事業税の追徴税額の35%です。ただし、無申告の場合には追徴税額の40%となります。

なお、過去5年以内に不申告加算金または重加算金を課されたことがあるときは、追徴税額の45%(無申告の場合には追徴税額の50%)となります。

2)延滞金

延滞金は原則として、「年14.6%」と「特例基準割合+年7.3%」とのいずれか低い割合です。ただし、特例により、納期限の翌日から1カ月を経過する日までの間は、「年7.3%」と「特例基準割合+年1%」とのいずれか低い割合で計算されます。

従って、現在は、納期限の翌日から1カ月を経過するまでの間は2.6%、それ以降は年8.9%となります。

6 いわゆる「所得隠し」があった場合

税務調査によって、事実の仮装・隠蔽の行為による申告漏れ(いわゆる「所得隠し」)の指摘を受けた場合には、追徴税額や上記の重加算税などの他、青色申告の取り消し処分も受けます。青色申告の取り消しは、過去の事業年度に遡って行われるため、税額控除などの青色申告の特典を受けていた場合には、適用を受けていない場合との差額について追徴税額が生じます。

また、法人の代表者等が刑事罰の対象ともなり、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金が科されます。さらには、こうした事実を報道されることなどによって、法人の社会的信用が下落するなど経営に与える悪影響は計り知れません。

なお、税務調査の全体の流れや勘定科目ごとの税務調査対策のポイント、税理士に聞いた税務調査の舞台裏については、以下のコンテンツをご参照ください。

▶ 30080 「税務調査」がよく分かる 手続きの流れを徹底解説
▶ 30091 この勘定科目が危ない? 勘定科目ごとの税務調査対策
▶ 30034 ウソかホントか? 税務調査の舞台裏
▶ 30051 続・ウソかホントか? 税務調査の舞台裏

以上(2020年9月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:Elnur-shutterstock

【朝礼】まだ50歳か、もう50歳か?

先日、50歳で動物病院を起業した人と話す機会がありました。そのときの話があまりにも素晴らしかったので、皆さんにもお伝えします。テーマは、「捉え方次第で行動が変わる」です。

その起業家は、業界平均の数倍の件数をこなせるように、動物病院のオペレーションを改善したり、特殊なトリミング技術でファンを獲得したりしているとのことでした。素晴らしい経営努力ですが、私が強く引き込まれたのは、その起業家のあふれるバイタリティーでした。

どんな技術を持っていても、50歳という年齢で起業するのは簡単ではありません。しかし、その起業家は「自分はまだ50歳。これからだ!」と考えて起業を決断しました。その決断の土台となっているのは、20代の頃から持ち続けている「グローバルに通用する経営者になりたい!」という夢だそうです。私がさらに驚いたのは、海外展開を見据え、既に英語が話せる社員を雇っていることです。その起業家はその社員を、海外第1号拠点の院長にする予定だと言っていました。

私は、これからの事業展開を楽しそうに話す起業家の姿を見て、この人は必ず海外展開を成し遂げるだろうと確信すると同時に、ぜひ、応援したい気持ちでいっぱいになりました。

人はいつでも新しいチャレンジをすることができます。しかし実際に行動する人としない人がいて、その違いは「まだ」と「もう」のような物事の捉え方の違いなのだと、改めて気付きました。

もし皆さんが、「もうダメだ」「もういっぱいいっぱいだ」「もう十分だ」など、後ろ向きの言葉をよく使うようだったら注意してください。行動も後ろ向きになってしまいます。仮に先の起業家が、「もう自分は50歳になってしまった……」と考えていたら、起業などしなかったでしょう。

別の角度から話をしましょう。いまだによく聞くフレーズに、「コロナの影響なので、仕方がないです」というものがあります。しかし、私の周囲に限っていえば、このように言う人のほとんどは大してコロナの影響を受けていません。彼らは、「コロナのせいで、得意先とコミュニケーションが取れない」と言っておけば、周りは「仕方がないね」と許してくれると決め込んでいるのです。

緊急事態宣言が発令された頃は、本当に「仕方がない状況」でした。しかし、多くの人はすぐに努力と工夫でビジネスを動かし始めました。状況は大きく変わったのです。

わずか数カ月で差が広がります。何年も「もう」と言い訳をしていたら、どれだけの可能性を潰してしまうのか、恐ろしくなります。しかし大丈夫です。新しいチャレンジは、いつだって始めることができます。この朝礼をきっかけに、「まだ」マインドの人はますます熱く、「もう」マインドの人は「まだ」への切り替えを進めることを期待します。完璧を求める必要も、失敗を恐れる必要もありません。チャレンジし続ける限り失敗ではなく、応援してくれる人も現れます。

以上(2020年9月)

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画像:Mariko Mitsuda

WEB面接はコロナ対策だけにあらず/採用活動のデジタルシフトで攻めに転じる!リクルーティングDX最前線(4)

書いてあること

  • 主な読者:採用活動のデジタル化を検討したい経営者
  • 課題:デジタルは苦手。それに人を採用するのだから、リアルのほうがいい?
  • 解決策:WEB面接の価値は、「非対面」という表面的なものだけではない。その本質は面接の構造化による選考力の向上。ミスマッチを減らし最適人材を見極めていくことにある

前回(第3回)までは、ダイレクト・リクルーティングの進化形として「タレントプール」「リクルーティングオートメーション」について解説してきました。こうした新しい採用手法がもたらしてくれる果実は、単なるデジタル化ではなく、これまで会えなかったいい人材に出会えること。つまり採用の効率化ではなく採用の質のアップグレードです。

これがまさにDX(デジタルトランスフォーメーション)の概念に相当するのです。

連載4回目の本稿では、リクルーティングDXの採用プロセス編。具体的には、昨今一気に普及した「WEB面接」について、DXの観点からその真価を解説していきましょう。

1 場所を問わずに面接できる

新型コロナウイルス感染症の拡大は、就活に大打撃を与えました。就活イベントや会社説明会が続々と中止。その後の選考過程も大幅な見直しを余儀なくされる中で、急速に広まったのがWEB面接でした。当初は、企業からも就活生からも非対面での選考を不安視する声が多く聞かれましたが、最終面接に至るまで全ての選考をWEB面接で完結したという企業も現れるほど、一気に馴染んだ感さえあります。

WEB面接の活用は、実はコロナ以前から徐々に増えてきていました。新卒採用であれば、全国で採用を行う企業の人事担当者は移動がなくなるため、生産性が上がります。地方の学生にとっても移動する必要がないので、交通費の負担が軽減され、エントリーや応募へのハードルが下がります。中途採用にしても、転職希望者は日中仕事が忙しく、面接を受けるための時間捻出に苦労していました。WEB面接だとスマホで行えるので、休憩時間を使ってカフェで面接を受けることができます。

場所を問わずに面接できる。スマホやタブレットなどの端末でも面接できる。リアルタイムでの面接はもちろん、録画した動画を企業に送る録画選考という方法もある。WEB面接は、その簡潔性や利便性に加えて、企業と応募者を時間と空間の制約から解放するツールとして注目されはじめていたのです。

2 面接できる人が増える

前述のように、遠方の求職者との接点が持てることで機会損失が少なくなることは、WEB面接という手法の最も分かりやすい価値です。面接を受けるために、わざわざ都会まで行かないといけない……。このように感じる地方の求職者が、応募に二の足を踏むというケースは少なくありませんでしたから、移動せずに面接を受けることができるという一点だけでも、母集団形成に大きく貢献してくれるのです。

また、移動時間と交通費という負担の軽減も大きな価値です。全国に赴いて面接を行っていたある企業は、1回の出張で約10万円かかっており、1カ月で4回の出張があったとのこと。WEB面接システムを導入したことによって年間で約500万円のコストカットを実現しました。

また面接辞退を抑止する効果も期待できます。ある調査によると、選考中に辞退した経験のある求職者は約7割で、そのうち約6割が面接前に辞退しているとのこと。面接前に辞退する理由はさまざまですが、共通しているのはその企業に対する熱が冷めたことでしょう。つまり面接までの時間が鍵を握っているのです。

WEB面接であれば、場所を問わずに面接することができるので、日程調整が極めてシンプル。面接官と応募者の時間調整だけでなく、面接場所の確保(ほとんどの場合が会議室の予約)といった煩雑な手間からも解放されるので、早期に接触することができます。鉄は熱いうちに打て。これは採用プロセスの鉄則なのです。

応募が増える×面接辞退が減る=面接できる数が増える。その上でコストまで減る。採用プロセスを効率化できる物理的な価値側面から見ても、WEB面接という手法を導入するメリットは小さくありません。

3 面接官トレーニング

ただ、単なる採用プロセスの効率化だけで終わってしまえば、DX(デジタルトランスフォーメーション)のレベルには達しません。面接という採用プロセスにおいて、選考のクオリティをアップグレードすることこそ、WEB面接が目指すゴールなのです。

名門大学の体育会キャプテン。明るく、快活。イコール即採用。新卒採用なんかだと、こうした風景が往々にしてまかり通っていました。ところが、そんな期待の新人が入社後は活躍するどころか、1年も経たずに退職する。そんなケースをよく耳にします。

入社後の育成に問題があったのかもしれませんが、考えておきたいのがミスマッチ採用の可能性です。会社と個人の認識や価値観にずれがあるのに採用してしまうことが、お互いにとって「不幸な出会い」になってしまうのは自明の理。極力避けたいものです。

こうしたミスマッチを解消するためにも、昨今、「構造化面接」という面接手法が注目されています。「構造化面接」とは、応募者に対しあらかじめ定められた同一の評価基準や質問を用いて進める面接のことを指します。簡単にいうと面接のマニュアル化です。担当する面接官の主観や心理的作用によって、その評価にバラツキが出てしまうことを防ぎ、本当にその職種に適した人物かどうかを客観的に見極めることが可能となると、あのグーグルも導入しています。

この「構造化面接」を進めていく際も、WEB面接は効力を発揮してくれます。WEB面接システムには録画機能が付いているサービスがあります。面接を録画することで面接官のスキルが可視化されますから、各面接官との振り返りを実施し、マニュアルの習得を促すことができるのです。

※録画する旨は、応募者に事前告知し許可を得ておきましょう。

4 AIが次世代面接の主役?

構造化面接を各面接官に習得させるよりもっと手っ取り早いのは、AIによる面接でしょう。実はAI面接システムはすでに登場しています。面接官をAIが担当することで、構造化された質問をブレなく発することができます。回答が浅いとAIは掘り下げた質問を繰り出していき、面接が終了するとAIがその回答を一定の指標で評価します。

もちろんAIとの面接がゴールとなるわけではありません。応募者を客観的に数値化したデータをもとに、文字起こしされた回答内容を見ながら、総合的に判断していくという活用が主流です。適性検査の代わりに導入する企業もあります。面接の全てがAIで完結するような恐ろしい近未来社会のイメージではありません。

しかしながら客観的に数値を選考の基準に取り入れるのは、ミスマッチの解消につながる科学的採用の第一歩ではないでしょうか。

5 データを活用する意志

AI面接は、導入によって多くのメリットが得られそうですが、どこまでをAIに頼るか、あるいはどこまで人間が担うかなどの課題があるのは否めません。

2人の採用候補者がいたとしましょう。入社後の退職率が高いというデータが示されている人のほうが、経験と勘では採用したいと感じたら……。つまりデジタルジャッジとアナログジャッジが相反した時、どのように判断すべきか。このあたりはまだまだ悩ましい問題です。

ただ1つだけ言えるのは、人事担当の中に、データ活用に精通した人材を配置する、あるいは育成していくという意思決定は必須になってくるということです。採用のDXに取り組む上では、テックツールの活用と合わせて、データ活用のスキルを備えることは、今後の前提条件になってくるでしょう。

自社で活躍している人材はどのようなタイプなのか? 逆に会社を辞めてしまった人はどのような価値観を持っていたのか? こうした情報を、応募者の属性データと照らし合わせて、退職者や活躍している社員との相関を把握できたら、可否判断の精度が格段に向上するでしょう。

こうした次世代型の選考を可能にするためにも、データに対峙する意識が極めて重要になってきます。最近はデータ活用について学べる講座も世の中に増えてきましたし、人事部門の方も“自分事”として取り組んでみてはいかがでしょうか。

6 まとめ

本稿では、リクルーティングDXの観点から「WEB面接」について解説させていただきました。改めて、そのメリットを分かりやすくまとめると、次の3つに集約することができます。

  • 遠隔地の求職者にとって移動する必要がなくなることで、応募の障壁が下がる
    →母集団拡大につながる
  • 人事担当者が支社間を移動する必要がないので、移動時間や交通費などが減る
    →コスト削減&生産性向上
  • 面接を録画して、面接官の振り返りや面接官育成の教材に役立てることができる
    →全社観点での面接スキルが均質化→選考力が向上

1.の母集団形成、2.のコスト削減(移動時間もコストの一部)は、物理的なメリットを実感しやすく、導入のきっかけになりやすい価値と言えます。しかし最も重要なのは、3.の面接スキルの向上だと考えます。

これまで属人的で見えづらかった面接が、可視化され、なおかつ全体的に標準化されていくのは画期的なことです。そして採用面接に客観性が持ち込まれることは、データを活用した選考の素地となっていき、ミスマッチの解消、ひいては入社後の最適配置といったピープルアナリティクスに接続していくことが可能になります。ここが「面接のDX」たる最大のポイント。そういった視座で「WEB面接」の可能性に期待していきましょう。

以上(2020年9月)
(執筆 平賀充記)

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画像:Вадим Пастух-Adobe Stock

経営者が知っておきたいコロナ後の採用事情

書いてあること

  • 主な読者:二極化が生じつつあるコロナ後の採用戦線で勝ちたい経営者
  • 課題:コロナを受けて求職者の考え方がどのように変わりつつあるのか分からない
  • 解決策:社員にとって「働きがい」のある企業となり、求職者に共感される発信を行う

1 企業選びのポイントは「知名度」より「働きがい」に

緩やかな景気回復を背景に、2015年ごろから続いてきた就職希望者優位の「売り手市場」ですが、新型コロナウイルス感染症の拡大を機に、企業優位の「買い手市場」へと変化しつつあります。しかし、2000年前後の就活氷河期と比べると、インターネットを活用して就職活動を行うことが当たり前の現在は、「買い手市場」の中身に大きな違いが出ています。

違いの根本にあるのは、求職者の企業選びのポイントが、企業の「知名度」より、自分の「働きがい」へと変化していることです。背景には、もちろん若い世代を中心とした価値観の変化もありますが、インターネットの普及に伴い、企業に関する情報収集が誰にでも容易にできるようになったことも大きな要素です。そして、求職者に共感される企業には応募が集まる一方で、共感されない企業はいつまでも「買い手市場」に参加できない、という二極化が生じつつあります。

1)求職者が自分で企業の情報を集め、評価する時代に

就活ナビサイトが就職活動の中心であった時代は、「テレビCMでよく見かける」「お店に行けば商品が置いてある」などの、BtoCのいわゆる有名企業に応募が集まる傾向がありました。

しかし、インターネットの普及に伴い、就活ナビサイトのみを活用して就職活動を行う学生は年々減少しています。就職情報の提供などを行うディスコが2019年7月に行った調査によると、志望企業の研究のために有益だった情報源として、約6割の就活生が「個別企業のホームページ」だったと答えています。さらに、「インターネット上の情報」も2割を超えています。

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つまり、求職者は、大手企業などが持つ一般的な知名度や、就活ナビサイトなどでの「与えられた」情報ではなく、自分で企業の情報を集める時代になったのです。そのことは、企業に対する評価を、自分の基準で行うということにもつながっていきます。

2)2人に1人は「企業理念、トップメッセージ」に注目

では、求職者は志望企業のウェブサイトから、どのような情報を集めているのでしょうか。

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前述のディスコの調査では、就活生がエントリーや本選考応募をするかどうか判断するときに、その企業の採用サイトの中でよく閲覧したコンテンツについて尋ねています。その結果は、1位こそ「事業内容、実績」でしたが、続いて「待遇、福利厚生、ワークライフバランス」、「企業理念、トップメッセージ」が上位に入りました。さらに、内定承諾・辞退を判断する際に最もよく閲覧しているのは、「事業内容、実績」ではなく、「待遇、福利厚生、ワークライフバランス」についてのコンテンツでした。

求職者が企業を選ぶ際に注目しているのは、「その企業で働くことに、自分にとってどのようなメリットがあるか」「その企業の考え方に自分が共感できるか」といった、自分自身にとっての「働きがい」に関わることだといえるでしょう。

3)SNSで“深い情報”を集める求職者が増加

求職者が自分で企業の情報を調べ、入社の是非を判断する傾向は、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、さらに強まっているといえます。その背景には、2つのことが影響しています。

1つ目は、就職活動をオンラインで行わざるを得ない状況になったことです。新型コロナウイルス感染症の拡大により、例年行われてきた企業説明会の中止が相次いだためです。

2つ目は、対面方式の代替という面も含めて、InstagramやTwitterなどのSNSを通じた情報のやり取りが増えていることです。

求職者の中には、志望企業の社員のSNSをチェックしたり、志望企業が運営するSNSのアカウントを探して、フォロワーの層を調べたりする人も増えてきました。このように、求職者には、企業側が提供することを意図していないような“深い情報”まで知ろうとする傾向が見られています。

2 採用戦線で勝つ条件は求職者から「共感」を得ること

1)求職者は社風が分かる情報を集めている

求職者は、志望企業やその社員が投稿するSNSから得た“深い情報”を、どのように活用しているのでしょうか。

求職者は、社員旅行の様子や仕事に関する投稿などを見て、「自分に合った社風か」を判断します。特に、「自分が将来働く企業のオフショット」を見ることで、企業の社風が自分に合っているかを判断する材料にしています。

また、入社後のギャップを避けるために、普段の何気ない投稿から仕事の内容をチェックし、自分に合った働き方ができるかどうかを見ている求職者もいます。これはSNSに限らず、対面による面接においてもいえることです。求職者は、面接でのやり取りだけでなく、オフィス内の雰囲気や、面接の前後に耳にする社員同士の何気ない会話などを通じて、社風を感じ取ろうとしている、と考えるべきです。

この他、SNSのコメント欄を閲覧することで、批判的な意見やファンのユーザーに対し、日ごろどのような対応をしているかという、志望企業の「素顔」をチェックしている求職者もいます。もし威圧的な返信をしていたり、一方的な意見を押し付けるようなコメントがあったりすると、企業の印象は大きく悪化しかねません。

二極化が生じつつある採用戦線で勝つには、求職者は企業よりもSNSなどを駆使した情報収集力に長けているということを前提に、求職者に「選ばれる」ための戦略を練ることが不可欠といえるでしょう。

2)小さくて無名でも「光る」企業が目立つ時代に

これまでは、予算の関係でテレビCMなどマスメディアに広告が打てなかった企業も、動画ウェブサイトなどインターネット上の媒体に安価で広告が出せるようになりました。新たな企業と「出合う」チャンスが格段に増えたことで、求職者にとっての、企業の知名度に対する概念が変わり始めています。

世間からはあまり名を知られていなくても、いわゆる「その世界の人たち」の間では有名だったり、インターネット広告に出てきたりする企業でも、求職者の印象に残るような「光る何か」を伝えられれば、“知名度のある企業”として認識されてきているのです。

小さな企業でも、チャレンジ精神の旺盛な人材を求めていることをうまく伝えられれば、それに共感した求職者が「やりたいこと」を実現させるために転職するというケースも、実際にあります。

これも実例ですが、ある就活サイトに、住宅メーカーの社長が高圧的な態度の求職者と面接をする、という企画が掲載されました。その社長が、下着一枚になりながらも自社の魅力や社員に対する思いを語った内容がインターネット上で話題となり、その年の求職者のエントリー数が増加したというケースもあります。

情報収集力に長けた求職者に対しては、「どのような手段で伝えるか」よりも、「どのような内容を伝えるか」が重要になります。インターネットやSNSが普及したことで、企業のトップが率先して自社や社員への思いなどを発信し、求職者の共感を得る手段は整っています。

二極化が生じつつあるコロナ後の採用戦線は、企業の将来を決める戦いともいえます。しかし、その戦いは、企業の大小とは関係なく、どの企業にも平等に勝つチャンスが与えられています。あとは経営者の皆さんの気持ちや行動次第といえるでしょう。

以上(2020年9月)
(執筆 株式会社アローリンク)
https://arrow-japan.co.jp/
https://www.careelink.net/

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画像:fizkes-shutterstock

社名変更を行う時に考えること

書いてあること

  • 主な読者:社名の変更を検討している企業の経営者
  • 課題:社名変更に際しての留意点を押さえておきたい
  • 解決策:必要な手続きを理解するとともに、他社の変更事例を参考にする

1 社名変更の意義と気を付けるべきこと

1)企業のブランドイメージ構築や方向性を左右する社名変更

企業は、合併やブランドイメージの構築などに際して、社名を変更することがあります。社名は、企業のブランドイメージや目指す方向性に関わる大切なものであるため、慎重に決定しなければなりません。

2)何のための社名変更か

社名変更には必ず理由があります。例えば、次に挙げるようなものがあります。こうした理由は1つではなく、いくつか重なっているケースもあります。

  • 企業合併、経営統合の一環
  • 経営者交代による旧来の企業イメージの一掃
  • 社名と事業の実態の一致
  • ブランドイメージの一新や向上

社名変更の理由はさまざまですが、重要なことは「社名変更は企業刷新のために実施する」ということです。一方で、社名変更を企業刷新の出発点とするはずが、「社名を変更する」という作業がゴールになってしまうケースもあります。このような社名変更はその後の具体的な行動と結びつきにくくなってしまいます。

3)社名変更の取り組みに当たって

社名変更に当たっては、「刷新すべき点」「刷新すべきでない点」を明確にする必要があります。この区分が十分ではない場合、社名変更前に持っていた良さを失ってしまう恐れがあります。これは、社名変更によって社員の意識が改革された際、残しておくべき企業の良い点が捨てられてしまう可能性があるためです。

例えば、手厚いアフターケアが売りの訪問販売を手掛けていた企業が、独自のアイデアをアピールしようと「企画」を含む社名に変更した結果、次に挙げるような状況に陥ってしまうことも考えられるのです。

  • 役職員が新規顧客獲得のための企画に集中
  • 既存顧客へのアフターケアに力を注がなくなる
  • 結果としてブランドイメージが落ちる

このような状況を避けるため、社名変更に際しては、「何を刷新し、何を残すのか」について明確にした上で、企業刷新を進めていく必要があります。

具体的なポイントとしては、次のような点が挙げられます。

  • 社名変更に合わせて経営理念や行動指針などを見直し、何を変えるのか明確にする
  • 社名変更の後も残すべき点についても明確にする
  • 社名変更によって刷新する点、残す点を全役職員で共有する

2 社名変更の手続き上の留意点

1)変更後の社名を決める際の基本的な留意点

社名変更の取り組みを開始して変更後の社名を検討する際、次に挙げる点に留意する必要があります。

  • 同一所在地に、変更後の商号(社名)と同じ商号の企業がないか確認する
    (例:会社所在地に「○◆企画」という商号の企業が既にある場合、「○◆企画」では登記できない。ただし、「株式会社○◆企画」と「○◆企画株式会社」、「○◆企画株式会社」と「○◆企画合資会社」は同一の商号には当たらない)
  • 株式会社など会社の種類を社名に含める
  • 法令によって制限されている名称、およびそれに類似する名称は使用しない
    (例:銀行、信用金庫、信用組合など)

2)社名に使用できる字

登記する社名については、通常の日本語である日本文字以外に、次の字が使用できます。

  • ローマ字(大文字および小文字)
  • アラビア数字
  • 字句を区切る際の符号(「&」(アンパサンド)、「’」(アポストロフィー)、「,」(コンマ)「-」(ハイフン)、「.」(ピリオド)、「・」(中点))。ただし、社名の先頭や末尾に用いることはできない
  • 空白(スペース)。ただし、ローマ字を用いて複数の単語を表記する場合に限り、当該単語の間を区切るために使用できる

社名を変更するに当たっては、司法書士などの専門家に相談する、登記所(法務局・地方法務局・その支局および出張所の総称)に直接問い合わせるなどして、細部まで確認しましょう。

3)社名(商号)変更の手続き上の留意点

社名は定款に必ず記載しなければならない事項です。そのため、社名変更に当たっては、株主総会の特別決議を経て、定款の社名に関わる箇所を変更する必要があります。

定款の変更後、必ず管轄の登記所に社名(商号)を変更した旨の登記(変更登記)を申請する必要があります。登記期間は、登記の事由が発生したときから2週間以内です。

管轄の登記所や申請の詳細については、法務局のウェブサイトで確認できます。

■法務局■
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/static/

3 社名変更により発生する主な手続きのチェックリスト

変更登記の申請手続き以外にも、社名変更によって生じる手続きは少なくありません。そのため、実際の変更に際しては、変更手続きチェックリストを作成し、確実に社名変更に関わる手続きを行えるようにします。

また、金融機関などに社名変更を届け出るに当たっては、登記簿・履歴事項全部証明書など、社名変更を証明する書類の提出を求められる場合があります。提出する必要がある手続きを事前に確認し、必要な部数をまとめて取得するようにしましょう。

社名変更により発生する手続きの項目(例)は次の通りです。

1.社外的な手続き

  • 印鑑登録の変更
  • 社会保険、労働保険に関する必要な届け出
  • 税務署、都道府県税事務所への届け出
  • 郵便局、電話(固定電話、携帯電話、インターネットプロバイダーなど)、水、ガス、電気などの変更通知
  • 不動産や社有車などの動産の名義変更(自社保有の場合)、貸し主への連絡・契約書の変更手続き(賃貸している場合)
  • 得意先への挨拶
  • 取引金融機関への挨拶、届け出
  • 仕入先への挨拶
  • 契約保険会社などへの届け出
  • クレジットカード会社、ETCなどの届け出
  • 各種加盟団体への届け出
  • 自社の社名を端的にあらわした、ホームページのドメインの再取得

2.社内的な手続き

  • 看板、広告塔などの変更
  • 名刺、社章などの変更
  • 社用箋や封筒の変更
  • 納品書、請求書、見積書、領収書などの伝票の変更
  • 会社案内の変更
  • 自社ウェブサイトの社名表記変更
  • 商品カタログ、販売促進ツールなどの変更

これらの手続き以外にも、都道府県や市区町村に社名変更を届け出るなど、自社が行っている事業などによっては社名変更に伴う手続きが生じる場合があります。そのため、司法書士や社会保険労務士などの専門家に相談して、漏れがないようにすることが望ましいでしょう。

4 社名変更をした企業の事例

1)認知度の高いブランド名に統一

石油元売りなどエネルギー関連を手掛けるJXTGホールディングス(当時)は2020年6月25日に、社名を「ENEOSホールディングス」に変更しました。同時に傘下の「JXTGエネルギー」の社名も「ENEOS」に変更しています。

同社は石油元売り業界による再編に伴い、最終的にかつての共同石油、日本鉱業、日本石油、三菱石油、九州石油、ゼネラル石油、東燃、三井石油、エッソ石油、モービル石油(いずれも旧社名)などが合流して誕生した経緯があり、再編の過程で社名がJXTGホールディングスとなりました。

ただ、同社が展開するサービスステーションは、2001年から「ENEOS」のブランド名を使用しています。社名とブランド名を統一することにより、「『ENEOS』の高い知名度を活用した成長事業の育成・新規事業の創出を推進するとともに、長期ビジョンで掲げる『アジアを代表するエネルギー・素材企業』の実現に向けたグローバルブランドへの飛躍」(同社プレスリリース)を目指すとしています。

2)発祥時のDNAを社名に込める

機械メーカーの東芝機械(当時)は2020年4月1日に、社名を「芝浦機械」に変更しました。社名変更のきっかけは、2017年3月に東芝グループから離脱したことです。同社の発祥は「芝浦製作所」であり、古くから「SHIBAURA」ブランドを使用していることから、新社名にしました。新社名には、「『ものづくり』を通じて社会に貢献することで進化を続けてきた、このDNAを忘れることなく、今後も、『お客様と共に更なる進化を遂げていく』との思いを込めて」(同社プレスリリース)います。

3)海外展開を見据えた社名に

ねじ商社の小林産業(当時)は2020年4月1日に、社名を「トルク」に変更しました。さらなる事業領域の拡大や、これからの海外展開を見据えて、変更を決めました。新社名は「駆動力」を意味する「Torque」に由来しており、「業界の基軸として力を発揮する存在になりたい」(同社ウェブサイト)、「世界に通用する存在になりたい」(同)との思いを込めています。

以上(2020年9月)

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画像:photo-ac

キャッシュレス決済の現状と今後の方向性

書いてあること

  • 主な読者:キャッシュレス決済の導入を進めたい小売業などの経営者
  • 課題:どのような種類のものを導入すればよいか分からない
  • 解決策:さまざまな決済手段の特徴や動向を把握する

1 キャッシュレス決済の現状

1)キャッシュレスによる主な支払い手段

経済産業省が2018年4月に策定した「キャッシュレス・ビジョン」によると、キャッシュレスの定義について、「物理的な現金(紙幣・硬貨)を使用しなくても活動できる状態」としています。キャッシュレス決済による主な支払い手段として、電子マネー、デビットカード、モバイルウォレット、クレジットカードがあります。

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2)日本と世界のキャッシュレスの状況

日本におけるキャッシュレス決済額と民間最終消費支出に占める比率は、図表2の通りです。

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キャッシュレス化が遅れていた日本ですが、ここ数年、キャッシュレス決済比率は高まっています。政府は前述の「キャッシュレス・ビジョン」では2025年までにキャッシュレス決済比率を40%程度に倍増させ、最終的には80%まで高めることを目標に掲げるなど、キャッシュレス決済の普及を進めています。

その一環として、政府は2019年10月の消費増税に合わせて、2020年6月までの間、中小零細事業者に限ってキャッシュレスで決済した場合は5%(フランチャイズ店は2%)分をポイントとして消費者に還元する「キャッシュレス・ポイント還元事業」を実施しました。

また、政府は2020年9月から2021年3月までの間、マイナンバーカードを取得し、マイキーIDを設定した人を対象にマイナポイントを付与する「マイナポイント事業」を行います。対象者は、マイナポイントにひも付けしたキャッシュレス決済サービスでチャージや決済をすると、最大5000円分(2万円以上のチャージや決済をした場合)のマイナポイントを取得できます。

新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、会計時の接触を避けるために、タッチ式(非接触)やコード決済など非接触型のキャッシュレス決済を導入する店舗や消費者も増えています。

とはいえ、世界的に見るとまだまだキャッシュレス決済比率は低いようです。世界の主要国のキャッシュレス決済比率は、図表3のようになっています。

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海外でキャッシュレス化が進んでいるのは、西欧諸国の一部や北米、東アジアの中国および韓国などです。中国はカードの種類ごとの取扱高が未公表で、法人による利用分や不動産関連の利用分も含んでいるので図表3には掲載していません。カード決済額としては民間最終消費支出を上回る216.2%という数値が出ています。

中国では、中央銀行である中国人民銀行の主導で200以上の金融機関が加盟している中国銀聯のクレジットカードとデビットカード「UnionPay(銀聯)カード」およびコード決済「UnionPay」、IT大手2社が主導するコード決済が広く利用されています。中国人観光客によるインバウンド需要の取り込みを目的として、中国のキャッシュレス決済を導入している日本の店舗も多くあります。

2 乱立するコード決済がキャッシュレス決済の主戦場に

1)スマートフォンで決済ができるコード決済

キャッシュレス決済の主戦場となっているのが、スマートフォンを使ったQRコードないしバーコードによる決済サービスです。スマートフォンに専用のアプリをインストールして、アプリが作成するコードを使って認証を行い、銀行口座やクレジットカードなどを通じて決済する方法です。クレジットカードや電子マネーと比べて、消費者側はスマートフォンだけで決済できる点が、店舗側は導入に当たっての費用を抑えることができ、決済手数料も低いことが、それぞれ魅力となっています。

2)コード決済の先進国・中国

コード決済の先進国は中国で、アリババグループの「Alipay(支付宝)」と、テンセントの「WeChat Pay(微信支付)」が勢力を二分しています。Alipayは決済だけでなく、タクシーや病院の予約、公共料金の支払い、資産運用商品や保険の購入などもできる生活アプリとして活用されています。一方のWeChat Payは個人間送金向けの機能が充実していることなどが特徴です。

また、両社は決済データを有効に利活用する点でも進んでいます。利用者に対して決済履歴を基に信用スコアを付与し、利用者が金融など各種サービスを受ける際に活用しています。信用スコアに関しては、利用者自身が職業や保有する車、不動産などの情報を書き込むことでスコアを上げることもできます。「キャッシュレス・ビジョン」などでも、キャッシュレス化のメリットの1つとして、決済データの利活用が挙げられています。

3)国内での乱立

国内では携帯電話のキャリアをはじめとするIT・通信系の大手企業の他、銀行などが参入しており、市場の急拡大とともにキャッシュレス決済サービスの主戦場となっています。主なコード決済サービスは次の通りです。

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参入業者は2018年末ごろから、大規模なキャッシュバックキャンペーンなどを実施して、消費者や加盟店の取り込みへの激しい競争を行ってきました。

3 コード決済の再編と規格統一の動き

乱立しているコード決済サービスですが、前述のように消費者や加盟店の取り込みへの激しい競争の結果、再編の動きが出ています。また、消費者や店舗の利便性を高めるため、電子マネーを含めて規格の統一を目指す動きもあります。

1)IT・通信系大手の3陣営への集約と銀行系が割り込む構図に

KDDIと楽天は2019年6月、それぞれが運営するau PAYおよび楽天ペイのQRコードを共通のものに統一しました。これにより、楽天ペイの加盟店でau PAYでの支払いができるようになりました。

2020年2月には、メルペイが独立系のコード決済サービス会社であるOrigamiの全株式を取得しました。Origamiが提供するOrigami Payはメルペイに統合され、2020年6月にサービスを終了しました。Origamiは2016年5月にOrigami Payの正式提供を開始した、国内におけるQRコード決済の先駆的な位置付けにありました。しかし、後発の大手によるキャッシュバックキャンペーンなどの激しい競争に巻き込まれ、顧客の取り込みに苦戦したようです。メルペイへの株式の売却額は1株1円との報道もあり、実質的な経営破綻ともみられています。

また、メルペイおよび親会社であるフリマアプリを展開するメルカリ、NTTドコモは2020年2月、キャッシュレスの推進などの業務提携に合意しました。具体的には、メルペイとd払いのそれぞれの顧客IDとなる「メルカリID」と「dアカウント」の連携、チャージしている残高やポイントの連携、加盟店の共通化などです。

この他、2019年11月にはPayPayの親会社であるソフトバンクグループ傘下のZホールディングスと、LINE Payを運営するLINEが、2020年10月に経営統合することで合意しています。

コード決済の再編は、IT・通信系大手の3陣営へ集約されつつあり、そこに後発の銀行系が割り込んでいく、という構図になっています。

2)乱立するコード決済への対策

さまざまなコード決済サービスが乱立する状況に対処するため、「キャッシュレス・ビジョン」の提言に基づいて2018年7月に発足した「キャッシュレス推進協議会」は2019年3月、コード決済の統一技術仕様ガイドラインを策定しました。新たな規格は「JPQR」と名付けられ、総務省が統一QRコードの「JPQR」普及事業を進めています。

統一するQRコードは、店舗側が提示して消費者が読み取るQRコード(静的QRコード)が対象です。2019年度は一部の県の店舗のみでJPQRの導入の受け付けをしていましたが、2020年度は全国の店舗で受け付けを行います。

JPQRには、図表4で紹介した決済サービスのうち、銀行系の一部を除く全てが参加しています。とはいえ、決済サービスの運営者はこれまで、キャッシュバックキャンペーンなどの先行投資によって加盟店を取り込んできた経緯があります。このため、投資回収の前段階で、加盟店に対して統一QRコードの導入を促すことに対し、実現性を疑問視する見方もあるようです。PayPayは加盟店の手数料は無料としていますが、JPQRを通じて加盟を申し込んだ店舗からは手数料を取ると報じられています。

この他、コード決済だけでなく、電子マネーなどとの相互利用に向けた動きも出ています。2020年6月に、インターネットイニシアティブ傘下で暗号資産(仮想通貨)取引所のディーカレットが事務局となって、デジタル通貨やデジタル決済のサービス、インフラの標準化の方向性を示すことを目的とした勉強会を発足しました。3メガバンクやnanacoを運営するセブン銀行、Suicaを運営するJR東日本、KDDI、NTTグループも参加しています。

以上(2020年8月)

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画像:photo-ac

玄米粉および米ぬか粉の市場動向

書いてあること

  • 主な読者:玄米粉および米ぬか粉の新たな活用に関心のある、食品メーカーや飲食店などの経営者
  • 課題:市場規模や市場動向が分からない
  • 解決策:米粉全体の市場規模および市場動向や、市場関係者のコメントなどの定性的な面から、市場動向を把握する

1 玄米粉および米ぬか粉の市場動向

1)玄米粉および米ぬか粉とは

米を細かく砕いて粉状にしたものが米粉です。このうち、精米前の状態の米(玄米)を粉状にしたものが玄米粉です。また、玄米を精米する際に発生する米ぬかを、微細な粉状にしたものが米ぬか粉です。

米ぬかは食物繊維に加えてビタミンB1、ビタミンE、ナイアシンなどのビタミン類や、抗酸化物質であるフェルラ酸、フィチン酸、γ-オリザノール、血糖値の上昇を抑制するGABAなどの機能性成分を含んでいます。玄米粉は米ぬかを含んでおり、米ぬか粉は米ぬかそのものであるため、栄養価の高い食材として評価されています。

2)米粉の市場規模

玄米粉や米ぬか粉に関する市場規模を示した公的機関による資料は確認できませんでした。このため、玄米粉や米ぬか粉も含む米粉(新規需要分)全体の市場規模を基に、玄米粉や米ぬか粉の市場規模を推計します。

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2019年度の米粉の需要量は3万6000トンとなっています。近年では小麦粉の代替素材としてパンやパスタなどに使用されるケースが増えているようです。一方、新規需要米用としての米粉用米の生産量は2万8000トンしかありません。ここ数年、米粉用米は供給不足の状況にあります。

次に、玄米粉の需要量について推計します。一般の主食用の米の場合、全体に占める玄米の流通量の割合は3%程度ともいわれているようです。同じ3%を米粉の中の玄米粉にも当てはめてみると、年間の需要量は1000トン程度となります。米粉製造業者の中には、「製造している米粉のうち、玄米粉は1割弱程度」(大手米粉メーカー)の業者もある一方、「スポット的に売れる印象」(米粉メーカー)と話す業者もいます。

全体としては「米粉は白米の粉が多く、玄米粉の割合は3%もないのでは」(農林水産省穀物課)とみられます。さらに米ぬか粉については「玄米粉より、さらに少ないのでは」(同)と推測されます。

3)米粉(玄米粉・米ぬか粉)の需要の動向

近年、米粉が供給不足の状況にある背景について、日本米粉協会へのヒアリングによると、次のような事情があるようです。

  • 米粉に関しては2009年ごろに1回目のブームとなり、大手広告代理店なども入って大々的な宣伝を行った経緯がある。
  • しかし、当時は技術的に未熟であり、消費者の心を掴むような商品に育たなかった
  • このため、大量の米粉の在庫が発生し、2015年ごろまで、在庫調整に苦しむ事業者もあった。
  • 現在は米粉の製造技術なども進歩し、小麦粉の代替となる商品力がついている。
  • 欧米を中心としたグルテンフリー商品(後述)への需要の高まりにも適した商品であり、近年は需要が増している。
  • 一方で事業者は在庫調整に苦しんだ経験から、生産の拡大に踏み切れていない面がある。

また、同協会は、玄米粉や米ぬか粉の需要の動向については、次のような見方をしています。

  • 玄米や米ぬか自体は健康によいと脚光を浴びてはいるが、現状は精米による米粉が注目され、需要が伸びているところである。

玄米粉の需要動向について複数の米粉メーカーにヒアリングしたところ、次のようなコメントがありました。

  • 流通量は少ないが、健康面でのイメージはよいので、今後もニーズはあると思う。
  • 癖のない精米による米粉と比べて、玄米粉には玄米特有の独特な匂いがあるので、通常の小麦粉の代替としては使われにくい面がある。玄米粉は焙煎して、玄米独特の香ばしさを活かした商品が多い。
  • 玄米粉は、どら焼きや麺類にアクセントをつけるために、数%入れている。玄米は雑味が多いので、焙煎して雑味を取り、香りを引き立てている。

また、米ぬか粉の需要動向について複数の米粉メーカーにヒアリングしたところ、次のようなコメントがありました。

  • 米卸最大手の神明ホールディングス傘下の「神明きっちん」が2018年9月に発売した「飲める米糠」をテレビ広告などでも宣伝したことで、認知度も上がり、米ぬか粉の需要は増えている。それまでは米ぬか粉を製造しているのは一部の小規模の事業者だけだった。
  • 新型コロナウイルス感染症の影響で飲食店での需要が落ち込んでいるが、栄養価の高さと、玄米粉と違って糖質も少ないことで、注目度は高まっている。ベジタリアンレストランでの需要は増えている。

4)米粉用米の供給の動向

需要の伸びに対し、米粉用米の供給量も、徐々に増えているようです。農林水産省では、2030年度までに米粉用米の生産量および需要量を13万トンへと拡大させることを基本方針として掲げていて、2020年度予算に各種の支援策を盛り込んでいます。背景には、米の需要拡大や、食料自給率、需要が減少している主食用米生産者の事業転換の支援などがあります。主な支援策は次の通りです。

生産者(米粉用米)に対する支援

  • 戦略作物助成
    水田活用の直接支払交付金として、米粉用米の水田に対して、収量に応じて10アール当たり5万5000円~10万5000円を交付
  • 産地交付金(地域の裁量で活用が可能)
    米粉用米の3年以上の複数年契約をした水田に対して、10アール当たり1万2000円を交付

生産者、加工事業者(米粉製造業者)に対する支援

  • 農業生産機械の導入、加工施設の整備、集出荷貯蔵施設の整備などに対する交付金の交付や、低利での融資を実施

5)グルテンフリーの需要増への対応

農林水産省「米粉をめぐる状況について」によると、世界のグルテンフリー市場は、2019年の66億7260万ドルから、2024年には104億1940万ドルへと、1.5倍以上に成長するとの予測もあります。

国内では、日本米粉協会が2018年6月から、ノングルテン米粉の認証制度を開始しました。サンプル検査でグルテンの含有率が1ppm(0.0001%)以下であることなどの条件をクリアした製品に対し、同協会が認証を行うものです。欧米のグルテンフリー表示の基準が20ppm程度であるのと比べ、厳格な基準を採用しています。2019年9月からは、ノングルテン米粉を使用した加工食品を登録し、ノングルテン米粉使用マークを付与する制度も開始しています。

また、同協会や日本貿易振興機構(ジェトロ)では、米粉製品の海外輸出に無得たPR活動などにも取り組んでいます。

2 玄米粉および米ぬか粉の主要なメーカー

1)米粉の主要メーカー

玄米粉および米ぬか粉に関する売り上げを示した公的機関による資料は確認できませんでした。日本米粉協会へのヒアリングによると、米粉の主要なメーカーは、次の通りです。

■みたけ食品工業■
http://official.mitake-shokuhin.co.jp/
■新潟製粉■
http://www.niigata-seifun.jp/
■波里■
http://www.namisato.co.jp/
■日の本穀粉■
https://www.hi-kokufun.com/
■大潟村あきたこまち生産者協会■
https://akitakomachi.co.jp/
■熊本製粉■
https://www.bears-k.co.jp/

同協会によると、「全体では300~400社程度あるが、規模の小さな業者が多い。大手業者で生産量の6割程度を占め、さらに10社程度が加わると全体の8割程度のシェアを占めるのでは」とのことでした。

この他、一部の農協でも玄米粉を製造しているところがあるようです。

2)米粉の製造事業者数

前述のように、日本米粉協会へのヒアリングでは、米粉の製造業者は300~400社程度とみられるとのことですが、業者数を公表している公的機関の資料は確認できませんでした。農林水産省のウェブサイト「米粉の状況」上に掲載されている「米粉販売事業者一覧」には、70社が掲載されています。掲載されている70社の中には、玄米粉を製造している業者も含まれています。

■農林水産省ウェブサイト「米粉の状況」■
https://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/komeko/

3)米ぬか粉のメーカー

米ぬか粉は、小麦粉の代替などとして、パンやパスタなどの材料として用いられることの多い米粉とは異なり、サプリメントや栄養機能食品として、味噌汁やヨーグルトなどに混ぜて食べられることが多いようです。

このため、米粉製造業者よりも、農家を母体とする事業者や、健康食品を取り扱う事業者などが携わるケースもみられます。インターネットによる検索で確認された、米ぬか粉を製造販売しているメーカーは次の通りです。

■ジョイントファーム■
https://www.gensenmai.net/
■三和油脂■
https://sanwa-yushi.co.jp/
■ニチエー■
https://nichie-inc.co.jp/
■健幸一番楽らく農園■
https://rakuraku-nouen.com/
■インターウィンドウ■
https://www.uonuma-oryza.jp/

4)米ぬかの代表的な加工メーカーおよび加工技術

米ぬかの多くは、多くがたい肥や飼料、米油の原料として使われる他、漬け物の「ぬか床」や化粧品としても利用されます。米ぬかは劣化が早いという特徴があるため、米ぬかの加工に関しては、精米事業者(米卸業者)を中心に、米油メーカーなどが加工を行っているようです。代表的な米ぬか加工メーカーを紹介します。

1.木徳神糧

自社精米工場で発生した米ぬかを脱脂糠に加工し、飼料用などに販売しています。

■木徳神糧「事業案内」■
https://www.kitoku-shinryo.co.jp/html/business/

2.神明ホールディングス

精米直後の米ぬかをすぐに圧搾する「ナチュラル・プレス製法」の開発により、「薬剤不使用・長期保存可能な『食用脱脂米糠』の製造」(2018年9月のニュースリリース)を可能にしたといいます。

■神明ホールディングス「2018年度お知らせ」■
https://www.akafuji.co.jp/news/2018/

3.築野食品工業

米ぬかから機能性成分を抽出精製し、医薬品原料、化粧品原料、食品添加物、飼料添加物、工業用薬品を製造しています。

■築野食品工業「米ぬか加工原料」■
https://www.tsuno.co.jp/products/fine-chemicals/

4.まつや

玄米と米ぬかを配合し、手軽に扱える高度アルファ化粉(一度加熱した後に粉にしたもの)を開発しました。

■まつや「ニュース」■
https://www.niigata-matsuya.co.jp/news/

5.ジョイントファーム

米ぬかを180度の高温でアルファ化して細菌と水分を処理し、米ぬか粉を製造しています。

■ジョイントファーム「米ぬか粉の簡単ご利用方法」■
https://www.gensenmai.net/komenukako.html

3 玄米粉および米ぬか粉を使用した加工品

玄米粉および米ぬか粉を使用した加工品の市場規模に関する、公的機関による資料は確認できませんでした。ここでは、玄米粉および米ぬか粉を使用した加工品の一例を紹介します。

1)玄米粉を使用した加工品の一例

1.みたけ食品工業

米粉製造大手のみたけ食品工業は、自社の玄米粉を使用した玄米パンを販売しています。

■みたけ食品工業「玄米パン」■
https://mitake-shokuhin.co.jp/products/detail.php?product_id=253

2.マイセン

マイセンはパン、うどん、ラーメン、パスタの他、ドーナッツやクッキーなどを製造販売しています。

■マイセン■
https://www.maisen.co.jp/shopping/

3. 隆祥房

餃子の皮を製造販売している隆祥房は、米粉や玄米粉を使ったグルテンフリーの餃子の皮を製造販売しています。

■隆祥房「玄米粉入り米粉餃子皮」■
https://www.ryushobo.com/product/home/komeko_gyoza.htm

4.オーサワジャパン

「マクロビオティック」食品を取り扱うオーサワジャパンは、玄米粉を含有したパンやラーメン、やきそば、カレーやシチューのルー、クッキーやかりんとうなどを販売しています。

■オーサワジャパン■
https://www.ohsawa-japan.co.jp/

5. 常陸屋本舗

麦茶や麩などを製造販売している常陸屋本舗は、玄米粉入りの麩を製造販売しています。

■常陸屋本舗「玄米粉入り京小町麩」■
http://www.hitachiya-honpo.co.jp/html/YK_sai7.html

6.あぐりこまち

おかゆを始めとするレトルト介護食などを製造販売しているあぐりこまちは、玄米粉を使ったフルーツかゆを製造販売しています。

■あぐりこまち「玄米粉フルーツかゆ」(介護食)■
http://okayu.shop-pro.jp/?pid=127078221

2)米ぬか粉を使用した加工品

前述のように、米ぬか粉は加工品の素材としてでなく、サプリメントとして、粉末状のまま他の食品に混ぜる形で摂取する形が多いようです。神明きっちんの「飲める米糠」は、ココナッツシュガーやはちみつなどの味付けをした商品をラインアップに加えています。

■神明きっちん「飲める米糠」■
https://06ricebranoil.com/product_komenuka/

4 玄米粉および米ぬか粉市場の分析

これまで紹介してきた市場動向に関する情報を基に、玄米粉および米ぬか粉市場を取り巻く環境と成長要因について、ビジネスフレームワークのPEST分析を使ってまとめます。

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玄米粉および米ぬか粉市場は、米粉の市場拡大を奨励する政府などの後押しを背景に、小麦粉の代替としての米粉全体の需要の高まりや、玄米および米ぬかに含まれる高い栄養価への評価の高まりとともに、今後も成長していくとみられます。

5 玄米粉および米ぬか粉の残留農薬基準

稲作で用いられた農薬は、米の表皮の部分、つまり米ぬかの部分に多く残るとされています。このため、特に米ぬかに対しては、一部に残留農薬に対する懸念の声も聞かれます。

残留農薬については、食品衛生法に基づき、厚生労働省が販売や輸入が認められる基準値を定めています。玄米粉および米ぬか粉に関しては、米(玄米)と米ぬかに、それぞれ基準が定められています。残留農薬基準に関してはポジティブリスト制度が採用されており、基準が定められている成分に関しては基準値を下回ること、基準が定められていない成分に関しては、人の健康を損なう恐れのない成分を除いて全て一定水準(0.01ppm)を超えないことが決められています。

日本食品化学研究振興財団「残留農薬基準検索システム」によると、米(玄米)については317種類の成分に関する基準が定められています。一方、米ぬかに関しては、カルバリル(50ppm、2021年7月までは170ppm)、フルトラニル(10ppm)の2種類のみが定められており、残りの成分は一定水準を超えないことが義務付けられています。

■日本食品化学研究振興財団「残留農薬基準値検索システム」■
https://db.ffcr.or.jp/

以上(2020年8月)

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強い組織を作るための株式交換/弁護士が教える組織再編~事業再編・M&Aを学ぶ~(3)

書いてあること

  • 主な読者:事業承継を控えた複数の会社のオーナーである経営者
  • 課題:横並びの組織から中核会社を頂点とした組織を作りたい
  • 解決策:既存の会社のうち、いずれかを頂点とする「株式交換」の手法を解説

1人の経営者が中核となるA社の他、B社、C社のオーナーでもある「横並びの組織」の場合、事業承継が問題となりがちです。「後継者候補はいるものの、まだ会社の経営を担えるほどには成長できていない」などのケースがあるからです。このような場合、グループ経営の観点からA社を頂点とする持株会社体制に移行を提案する主なケースです。

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1 低コストで持株会社体制に移行する方法~株式交換~

持株会社体制に移行するには、経営者が持株会社に事業会社の株式を売買する方法があります。しかし、これは第2回(「持株会社を活用した事業承継/弁護士が教える組織再編~事業再編・M&Aを学ぶ~(2)」)で説明した通り、多額の買い取り資金を調達する必要があります。また、経営者は株式の売買によって売却代金を手に入れることができる一方で、売却益が生じた場合、税コスト(売却益による納税額の増加)を負担することになります。

そこで、新たな資金や税のコストなどをかけずに持株会社体制に移行する方法として、「株式交換」があります。株式交換は、経営者が保有するB社株式をA社に現物出資し、その対価としてA社からA社株式の新株発行を受けるというものです。A社はB社の持株会社として、その株式の100%を保有することになります。また、B社の旧株主はA社株式を保有することになります。

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1)株式交換に必要な主な手続き

株式交換に必要な主な手続きは次の通りです。会社ごとの事情にもよりますが、最短で1カ月半程度で完了します。

  • 取締役会の承認決議
  • 株式交換契約の締結
  • 事前開示書類の作成および備置き
  • (一定の場合に)債権者保護手続(催告・公告)、株券・新株予約権証券の提出手続
  • (一定の場合に)反対株主の株式買取請求
  • 株主総会の招集通知、株主総会の承認決議
  • 登記の申請
  • 事後開示書類の作成および備置き

2)株式交換を実施する上で注意する点

株式交換に反対する株主は、会社法上、会社に対して株式の買い取りを請求することができます。この権利を、株式買取請求権といいます。

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株式買取請求権を行使された場合、その買い取り金額は高額になる傾向にあります。反対株主の保有する株式数が多い場合には、短期間に多くの資金が社外に流出することになります。そうなると、会社経営において大きなダメージとなることは必至でしょう。

このような事態を避けるため、反対することが想定される株主がいる場合には、その株主に対して丁寧な説明をして理解してもらう必要があります。他の株主と折り合いが悪く説得が難しい場合には、そもそも株式交換を事実上実施できないケースもあるため、既存株主の動向は常日ごろから確認しておきましょう。

2 株式承継の手続きが簡便になります

持株会社体制のメリットとして、まずは株式承継の手続きが簡便になることが挙げられます。「横並びの組織」で経営している場合、オーナー経営者は各会社の株式をそれぞれ保有しています。1人の後継者に株式を承継させる場合には、当然ながら会社ごとに株式譲渡の手続きを行う必要があるため負担が大きくなります。これに対して、持株会社体制の場合、経営者が保有する株式は持株会社に一本化されているため、持株会社の株式さえ後継者に承継させればよいので手続きが非常に簡便です。

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3 後継者など将来の幹部候補生の育成ができます

持株会社体制では、後継者や将来の幹部候補生への権限委譲をスムーズに行うことができます。すなわち、経営者は持株会社の代表としてグループ全体を監督しつつ、子会社の経営を後継者や将来の幹部候補生に任せることができます。そうすることで、後継者など将来のグループ経営を担う者に経営の経験を段階的に積ませることができるのです。持株会社の監督を機能させるために、定期的にオーナー経営者や持株会社に子会社の状況を報告させるような仕組みを入れておくことが望ましいでしょう。

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4 グループの一体的経営ができる

「横並びの組織」だと、各会社がバラバラに経営されていることもあります。これを持株会社体制にすることで、持株会社に経営企画室などの戦略機能を持たせて、子会社にはそれぞれの役割を与えた上で、グループ全体を統一的な方針のもとで経営することができます。

新規事業を行う場合は、持株会社が新たな子会社を設立したり、M&Aで取得したりするなど手段の幅が広がります。また、各会社にそれぞれ設けられていた経理、総務などの管理部門を持株会社に移転させて、持株会社にグループ全体を管理・監督する機能を持たせることもできます。

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5 株式評価額が下がる

持株会社体制に移行した場合の税務上のメリットとして、グループ法人税制(グループ会社間における資産の売買や寄附など一定の取引が課税されない税制)の適用などもありますが、事業承継における最大のメリットは株式評価額が下がることでしょう。

後継者が株式を承継する際に生じる贈与税や相続税をいかに抑えるかが、事業承継における大きなポイントの1つです。承継した株式の評価額が思いのほか大きく、後継者に過大な贈与税・相続税が課せられて、結果として会社の財務状況を悪化させてしまったケースもよく見られます。

贈与税・相続税は承継した株式の税務上の株価をベースに計算されます。複数の会社を横並びで保有していて、これらの会社の株式を1人の後継者に承継させようとした場合、各会社の税務上の株価を単純に合計した額をベースとして、贈与税・相続税が計算されます。

これに対し、持株会社体制では、持株会社の税務上の株価のみをベースに贈与税・相続税が計算されます。詳細な説明は省略しますが、持株会社の税務上の株価は子会社の株価を直接的に反映した価格にならないため、「横並びの組織」よりも大きく株価が下がるケースが多いのです。ただし、子会社の株価によっては、持株会社の株式を評価する上で不利になるケースもありますので注意が必要です。

また、株式評価額の引き下げのみを目的とした株式交換はやめておいたほうがよいでしょう。税務当局から「税の負担を不当に減少させた」と指摘されるリスクがあります。株式評価額の効果が大きい分、否認された場合のインパクトもそれだけ大きなものとなります。株式交換による持株会社への移行は、前述の次世代の育成やグループの一体的経営などの明確な事業上の理由をもって行うべきでしょう。

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6 株式交換をステップに、次なる組織再編へ

株式交換を実施した後に、株式移転によって持株会社を新たに設立し、次のように三層の組織にすることもできます。この場合、持株会社自体は事業を行わず、グループの戦略や管理・監督に特化する役割を担うことになります。

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また、持株会社体制に移行後に、当初の組織構造が事業の進展によりそぐわなくなる場合もあるかもしれません。例えば、当初中核会社であったA社を頂点として持株会社体制に移行したものの、B社の事業が急成長し、B社がグループの中核会社となったようなケースです。そのような場合でも、株式交換によって、A社とB社の親子関係を逆転させるなど柔軟に組織構造を変えることができます。

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なお、同じく持株会社体制へ移行する手段として「株式移転」があります。株式交換が既存の会社を持株会社とするのに対して、株式移転は新しく設立した会社を持株会社とします。

以上(2020年8月)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 浜地保晴)

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オンラインコミュニケーションの【落とし穴】をChatwork山口副社長に教わる〜時間軸を縦から横へ、生産性向上にビジネスチャットの【今】を聞く〜/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、山口 勝幸さん(
Chatwork株式会社
 取締役副社長COO)です。

●会社HP
https://corp.chatwork.com/ja/

●製品サイト
https://go.chatwork.com/ja/

新型コロナウィルス感染症の発生から半年が経過、まだまだ長続きと言いますか、後戻りのない世界へ新しいワークスタイルの創出へと世界が変化しています。そんな中、ビジネスにおける流儀もこの半年で様々なシーンが一気に変化してきました。多種多様なオンラインツールの導入も加速度的に増えたという話を聞きます。私自身もオンラインコミュニケーションが、場所と時間を超越する便利ツールとして日常化して利用、活用し恩恵を被っていることは間違いありません。しかしながら、先日、山口さんのインタビューで得た気付き、オンラインツールが万能ではないこと、加えて自社製品ツールである【Chatwork】をも至上主義ではないことを話されていました。このあたりにフォーカスし、【Chatwork】をどんな風に使うことに意味があるのか、山口さん流の表現である時間軸を縦から横にしていくこととはどういうことなのか?生産性向上にビジネスチャットがどの様に活用されているかについて話を聞きました。

1 Chatwork社のここ最近の現況について

1)半年前のインタビュー記事からも成長を続けるChatwork

私自身、Chatwork株式会社の前進である、EC studio社時代からお世話になって12、3年が経過しているのですが、ここ数年特に昨年の株式上場以後は目覚ましい成長を遂げていらっしゃいます。嬉しい限りです。その成長の軌跡、概要をまとめていますのが、私が不定期で書かせていいただいている新幹線の雑誌【Wedge】のweb版のコーナー(オモロイ社長、オモロイ会社)で今年の1月7日に同社について文字数多く書かせていただいています。その記事はこちらです。この時は社長の山本さんにインタビューをさせていただきました。今回は副社長の山口さんにインタビューの機会をいただきました。

現在、Chatworkの導入企業社数は27.7万社以上(2020年7月末日時点)となります。私が前回インタビューさせていただいた時で、24.6万社(2019年12月末日時点)、たった半年ちょっとで3.1万社の増加、単月ベースで4000社以上が毎月増加していることになります。登録ID数は327.9万人(2020年3月末日時点)(前回は308万人(2019年12月末日時点)で、これも約20万人近くが増加しています)この数字に、山口さんはまだまだ白地(ユーザー増加の可能性がある)の多い環境だと話します。

2)ビジネスチャット市場の推移について

ビジネスチャット市場の推移の画像です

※同社資料より

2018年出典の上記資料で、2020年には112億円を突破する見込みとなっています。コロナ禍の影響を加味していないことからして今年はさらに市場の拡大は必至だと感じます。山口さんから、ご自分の肌感覚という前置きがありながら、日本におけるビジネスチャット浸透度はまだ20%程度ではないか? と話されていました。私も同感、都心の一部の企業で当たり前化しているとは思いますが、全産業、全業態におけるビジネスチャットの常時利用はまだまだと感じます。いまだに、FAXが全盛の場面、電話マストの場面を見かけることもあります。たまに驚くこともあります。この状況からもまだ始まったばかり、特に中小企業、非ITにはビジネスチャットの市場は大きく控えているのが現況と感じます。

3)最近金融機関との取組で気付くことも

オンラインカンファレンス開催案内の画像です

今年の7月21日に朝9時45分スタート、19時15分終了のオンラインカンファレンスが開催されました。当日の概要はこちらです。主催はChatwork社。オープニングとクロージングのトークが山口さん。錚々(そうそう)たる企業が登壇されています。総務省の方まで【テレワークの最新状況と総務省の取組】というタイトルで話されています。
このカンファレンスの申し込み者数は1,000名以上だったそうで、テレワークに対する企業側の関心の高さ、その熱量の大きさをも表していると思います。
山口さんは、ここ最近、金融機関との取組、特に地方銀行さんと連携したテレワークに関したオンラインセミナーへの参加社数が、昨年とは違い、明らかに増えたと話します。この参加者数の増加が前述のマーケットはまだまだあるということにもつながると思います。

2 コロナ禍におけるトピックスも伺いました

1)Chatworkを活用し、非対面で注文住宅が販売できる

人生の中で一番高い買い物と言えば、【住宅】。その住宅、特に注文住宅といえば、理想のイメージは? 予算はどのくらい? 設計事務所は? どこで建てるか? 建物の具体的な概要はどうするか?等々最終的に入居するまで1年ほどはかかると言われています。その間に何度も何度も繰り広げられるのが、【打ち合わせ】。休日に時間を創って、お互い調整しての面談が繰り返されて入居まで打ち合わせの【継続開催】が続きます。それがある注文住宅の工務店で行われたのが、【打ち合わせ】は全てChatwork上で行い、リアル面談をすることなく、お互い時間調整も不要の中で数千万円の住宅が販売されているという事実。工務店側も休日に集中的に打ち合わせに出向いていたことからも解放され、施主側も訪問時間に家族一同が待ち受けることから解放され、聞きたいことがあればチャットで質問、回答もチャットで。コロナ禍で自宅にいる施主さんも多く、余計に自宅についての関心、考えることも増え、工務店側も販売環境は普段より改善し、売り上げもコロナ前よりもChatworkを活用することで増加しているそうです。既成概念を超えチャットで住宅が売れる、買える時代となったこと、大きな変化に感じます。

2)コロナ初期 リモートワークでChatworkが大活躍(GMOインターネット株式会社)

今年の1月27日にリモートワークの意思決定をされたのが、GMOインターネット株式会社さん。社員約4000名が一斉にリモートワークに移行、社員数の多さも含めて、これは簡単なことではないと思いますね。

GMOインターネット株式会社のリモートワーク対応をまとめた画像です

※同社HP掲載記事から抜粋。

この短期間での決断から運用についての詳細はこちらをご覧ください。

私がこの記事から大切に感じましたことを2点ほど抜粋しました。

  • 同僚への気軽な呼びかけ”の役割をChatworkが担う
    Chatworkを通してのコミュニケーション頻度は以前より上がっています。やはり、会社に出勤していたときとは環境が大きく違い、在宅勤務では隣にいる人に「ちょっと」と気軽に話しかけることはできません。そうした気軽な呼びかけの役割をChatworkが担ってくれるようになっているのです。
    機能でいうと、リアクション機能がメンバー間でとても好評です。文字だけでは伝わらないニュアンスが表現できて、よりリアルでの会話に近い雰囲気がチャットで再現できます。既読の確認にも使えるのが便利ですね。以前は読んだことを伝えるのに「了解です」という一言がずらっと並ぶようなこともあり、投稿に「了解は不要です」とつけたりしていました(笑)。リアクション機能でそれもなくなり、より会話がスムーズになったと思います。

→私もリアクション機能をよく使っています。これで既読、理解したのかどうかがスムーズに理解、伝わると思います。この気遣いがリモートワークで大切と感じますね。

  • 私自身は在宅勤務に移行してもそれほど仕事の環境が変わったと感じませんでした。その理由は、以前からChatworkを使っていたからだと思います。ただ、テキストコミュニケーションだけでは不十分で、オンラインビデオ会議もあわせて導入すると良いと思います。

→コロナ初期では、リアル面談もできないことがストレスでした、それを軽減できたのが、ビデオ会議、私自身も多用することでコミュニケーションを円滑化できたのもこの機能でした。スマートフォンでも快適に活用できたことが大きかったと思います。

上記のGMOインターネット株式会社さん以外にも多数の活用事例がChatwork社のサイトには掲載があります。こちらをご覧ください。

3)私(杉浦)の活用事例についても

現在56歳、リアル面談重視で日々の活動を行って来てドブ板系だと自認しておりますが、非常事態宣言以降は全く訪問をすることも無く約2ヶ月間、大阪にて借りたオンライン部屋(一人個室)から、オンラインツール、チャットツールもちろんChatworkを多用して、多数の方々とビジネスコミュニケーションを行って来ました。

杉浦氏のオンライン部屋の画像です

※今年の5月の私のオンライン部屋の写真です。ここからたくさんのオンラインコミュニケーションを行いました。

順応性は高い方だと思うのですが、その中でも私が多用していたのが、音声録音でした。Chatwork上ではスマホから音声録音ができる様になっていて、文字では硬い、厳しい、上から目線となりがちな用件伝達の場面で、私の生声で届けることで、受け取った側の皆さんから、『ボイスメッセージ良いですね!』『ニュアンスが分かりやすくて理解が早いです!』等々、好評をいただいています。ただ全てをボイスメッセージに代替できるのでは無く、詳細な数値、客観性が高い項目については文字のほうが伝わりやすいと感じます。使い分けでコミュニケーション力もアップすると思いますね。
この様に私だけでも自分流の活用方法がありますが、Chatwork社では利用者のレベルや利用シーンによって活用できる【お役立ち資料】も準備されています。

Chatwork社の【お役立ち資料】関連の画像です

上記のお役立ち資料についてはこちらをご覧ください。

この様なお役立ち資料への準備を行いつつ、導入支援、導入サポートにも注力をしている、Chatwork社、カスタマーサクセスの専門部門も増強し、顧客満足度はかなりのハイレベル、サービス導入者の離脱(解約率)は他のSaaS事業者よりも圧倒的に低いものとなっています。

3 オンラインコミュニケーションの落とし穴と時間軸を縦から横に ビジネスチャットの役割について

1)オンラインツールが便利!でも手放しで喜んではいけない→使い分けが大切です。

このお話となった時、まさに私は手放しで喜んでいる派でした。そこに山口さんは警鐘を鳴らします。オンラインツールで時間と場所を超越して、こんなに便利なもの、恩恵を被れたことはまさに画期的、コロナより社会全体が仕事のあり方に変化をもたらしたことと感じます。しかし、なんでもオンライン会議を開催すれば良いものではない。オンライン→同期であること、これはリッチコミュニケーションであることに理解が足りないと山口さんは話します。時間と場所は選ばないことは大きな変革でありますが、参加者一同が、同じ時刻(同期)に【拘束】されていることが、まさに、贅沢である。内容によっては、同期で無くとも十分意思疎通が図れる、そこに気付いて運用ルールを定めるべきと話します。

  • 同期コミュニケーション→意識の共有として、ビデオ会議などを用いて、重要なことの「目的&背景」を共有する際や、意思決定を伴う「提案」や「相談」、人間関係の構築段階において有効です。
  • 非同期コミュニケーション→情報の共有として、チャットを用いて、スペック&量などの「確認」「調整」を行う際や、実行したことの「報告」、予定しているイベント等の「連絡」などに有効です。

ビジネスシーンでよくある課題をまとめた資料の画像です

2)1日に会議に何回参加できますか? 時間軸を縦から横へ、ビジネスチャットで実現

山口さんにお聞きした質問に、

  • 1日Chatwork上で何回程度チャットに参加されていますか?
  • 全てのチャット(会話・会議体)はどれくらいありますか?

この2つがありました。山口さんから、

→1日に参加するチャット数は300を超えています。
→全てのチャット数は5000を超えています。

これが回答でした。
今日は会議にたくさん参加した!と言っても10件以上のリアル会議に毎日参加している人は何人でしょうか?
1つのチャットを1つの会話や会議と見なすと山口さんは300回の会話・会議体に毎日参加していることになります。
これが時間軸を縦から横にするという考え方に通じます。リアル(オンラインであっても)の会議は必ずその場に一同が介さないと成り立ちません、しかし、横にして並列、並走していろんなチャットに乗り移る、見に行く、巡回するそんなイメージで、会議室にあたかも自由に出入りする感覚でコメントが必要であれば、対応、頷く程度、内容を見たことを相手に伝える程度であれば、前述のGMO社の方のコメントにもあった、リアクション機能で十分。この様な活用、チャットへの運用ルールを決めておけば一日300回の会話・会議に参加可能となる。非同期によるコミュニケーション活用が生産性向上を生み出す、これが毎月数千社が導入しているChatworkの強さだと感じます。人間の限界を超えていく感覚がこのあたりに感じ入ります。

これだけご自身でも使い倒している状況のChatworkですが、山口さんはこのツール至上主義とは微塵も思っていないとも話されます。
『リッチコミュニケーションには、オフラインやオンラインをどんどんやるべき、そうでない部分を補うのがビジネスチャットの領域です、この使い分けが一番大切。そしてビジネスチャットを活用して生産性向上を中小企業、非IT企業でますますお役に立っていきたい』と笑顔で語っていただきました。これからの同社の快進撃がますます楽しみに感じます。

インタビュー時の画像です

【終始笑顔で楽しいインタビューでした! 感謝。】

以上(2020年8月作成)