【朝礼】デジタル時代だからこそ熱くなれ!

ビジネスのデジタル化が急速に進んでいます。その影響もあり、「感情を表に出さず、とにかく機械のように働くこと」を【効率化】と考える人もいるようです。しかし、私はそうした働き方には反対であり、デジタル化が進む時代だからこそ、「よりウエットに、人と人とのつながりを深める」ことを重視したいと考えます。それが私の信条であると同時に、今後のビジネスの可能性を広げていくために欠かせない、重要な要素であると信じているからです。

私には、尊敬してやまないビジネスの恩師がいます。今から20年ほど前、その恩師から「君は本当にすごいな!」と褒められたことがあります。それは、私が電話とメール、提案書のやりとりだけで、一度も相手と会うことなく数百万円の契約を獲得したからです。今でこそオンラインでの商談が普及していますが、当時はそのような発想は全くありません。「とにかく会って話そう」というのが通常です。しかもその相手は、社会的に非常に“おかたい”業界の人です。常識的に考えて、相手が一度も会ったことのない私と契約をするなんて考えられません。

にもかかわらず私が契約できたのは、もちろん会社の実績もありますが、それ以上に私の本気の姿勢と熱意が伝わり、私自身を信頼してもらえたからだと思っています。

皆さん、私はどうやって会ったことのない相手の信頼を得たと思いますか。

「人のどこを見て、信頼するか」は人それぞれですが、自己分析をしてみると、電話などのやりとりだからこそ、挨拶をきちんとするとか、時間などの約束を守るといったことに注意していました。そして、ここが重要なのですが、相手から難しい要求をされても、その難題と真正面から向き合う姿勢を決して崩しませんでした。夜遅くまで電話で話したり、一日に何十通もメールでやりとりしたりしました。互いの上司を説得するための作戦を一緒に考えたことも何度もありました。そうした中で強固な信頼関係が生まれ、「あなたと、このプロジェクトを成功させたい!」と互いに思えるようになったのです。

表面だけを捉えれば、電話やメールだけの営業は効率的に映り、そこばかりが注目されます。しかし、この例で私が心掛けたのは、泥臭いコミュニケーションを通じて、私の熱意を示すことでした。電話やメールは手段にすぎません。

これからのビジネスでは、画面越しでしか話したことのない相手と提携することが普通になります。そのとき、皆さんは相手のどこを評価して「組んでもいい!」と判断しますか。逆に、相手からの信頼をどのように勝ち取りますか。ましてや今は「個」を尊重する時代です。聞こえはいいですが、要は「会社の看板を外した状態で、皆さんが、どれだけ清く正しく存在感を示せるか」ということです。感情を奮い立たせ、熱い思いを伝えることがその答えになるはずです。

以上(2021年1月)

pj17038
画像:Mariko Mitsuda

少しの工夫で感染予防 非接触型オフィスのレイアウト

書いてあること

  • 主な読者:感染症を防ぎ、安心して働けるオフィスを整備したい経営者
  • 課題:オフィスでの感染リスクを低減したいが、どのような設備が必要か分からない。また、施工期間やコスト面などでハードルが高く感じる
  • 解決策:パーテーションの設置や対面にならないデスク配置など、コストを掛けずすぐに実現できる感染症対策に取り組む

1 ちょっとした設備の工夫で、感染リスクを減らせます

リモートワークが難しく、出社による業務を余儀なくされている企業では、オフィスでの感染リスクを少しでも低減したいものです。とはいえ、オフィスの感染症対策は、タッチパネル式の受付や自動ドアへの取り換えなど、大掛かりな改装が必要なケースが多く、「導入コストも高いのでは?」と感じているかもしれません。

しかし、例えば次のような設備なら、コストを掛けずすぐに導入できるものもあります。

画像1

紹介した設備の一部は、地方自治体によっては、感染症予防対策の助成対象としているものもあります。

それぞれの設備がどう役に立つのか、「飛沫感染を防ぎたい」「接触感染を防ぎたい」「ソーシャルディスタンスを取りたい」「外からのウイルス持ち込みを防ぎたい」「室内にウイルスを増やさない」の5つの目的から見ていきましょう。

なお、以降で紹介する設備の事例では、一部商品例を紹介していますが、さまざまな商品がある中の一例であることをご承知おきください。

2 感染症対策で導入されている設備の事例

1)飛沫感染を防ぎたい

1.ロールスクリーン

天井にレールを取り付け、対面や隣り合うデスクの間に透明なスクリーンをブラインドのようにつり下げます。パーテーションと比べてデスクの作業スペースを狭めることなく設置できます。

商品例として、三企(東京都荒川区)が扱う「クラウドスクリーン」があります。価格は22万円(税別)からで、3~5時間で施工が可能といいます。

■三企「クラウドスクリーン」■
https://screen.engineer/

2.パーテーション(据え置き式)

デスクの間や受付など、対面や隣り合う場所に間仕切りとして設置します。各企業がさまざまな商品を取り扱っていますが、板の部分が透明なものを選べば圧迫感が少なくて済みます。また、ブックエンドやアクリル板など身近な材料を使って作ることも可能です。

商品例として、グランド印刷(福岡県北九州市)が扱う「飛沫防止用ダンボールパーテーション」があります。外枠がダンボール製なので、アクリル板の製品よりも軽く取り扱いが簡単です 。同社ウェブサイトによると、価格は受付に設置するタイプで2500円(税別)です。

■グランド印刷「飛沫防止用ダンボールパーテーション」■
https://grand-in.co.jp/ct_useful/1901/

3.パーテーション(可動式)

キャスター付きのパーテーションを組み合わせて、大掛かりな改装をせずに空間を仕切ったり、個室を作ったりすることができます。パネル部分が半透明になっており圧迫感の少ないものや、ホワイトボードが付いたものなど、さまざまな商品があります。

2)接触感染を防ぎたい

1.ドアオープナー(アームハンドル、フットハンドル)

既設のドアハンドルに専用の部品を取り付けることで、手で触らずに肘や足などでドアを開け閉めできるようにするものです。また、ドアハンドルの形状によって取り付けが難しい場合は、携帯用のドアオープナーを持ち歩くのも一つの方法です。

商品例として、nomos(岩手県滝沢市)が扱うハンズフリードアオープナー「Reknob(リノブ)」があります。ドアノブ部分に取り付けることで、腕や手首を引っ掛けてドアを開閉することができるようになります。丸ノブ用と開き戸用の2種類があり、ドライバー1本で簡単に取り付けできます。同社ウェブサイトによると、価格は2200円(税込)です。

■nomos「Reknob(リノブ)」■
https://www.nomos-reknobstore.com/

2.蓋付き、ペダル式ごみ箱

使い捨てマスクや使用済みのティッシュなど、廃棄物からのウイルスの浮遊、拡散を防ぐためには、蓋付きのごみ箱が欠かせません。また、ごみを捨てる際に手で直接触れることがないよう、足踏みペダルで蓋を開け閉めできるものを選ぶのが理想的です。

3.自動点灯照明

センサーなどを後付けし、スイッチに手をかざすだけで照明を自動点灯式にする方法です。通常のオフィスに限らず、工場などの特に衛生面に注意が必要な場所にも適しています。

商品例として、HOYEN(鳥取県鳥取市)が扱う「非接触照明スイッチ 手かざしセンサー beSwitch(ビースイッチ)」があります。価格は1万2000円(税込)です。

■HOYEN「非接触照明スイッチ 手かざしセンサー beSwitch(ビースイッチ)」」■
http://hoyen.co.jp/beswitch

4.レバー式水栓ハンドル

トイレや洗面台などの蛇口をレバーハンドルに取り換え、手で触らずに腕や肘で開け閉めする方法です。通常の蛇口よりも開け閉めに力が必要ないので、操作が楽になります。

商品例として、カクダイ(大阪府大阪市)が扱う「GAONA レバーハンドル」があります。抗菌効果のある銅合金製で、銅イオンの効果が持続するといいます。同社ウェブサイトによると、価格はオープン価格としています。

■カクダイ「GAONA レバーハンドル」■
http://gaona.jp/product/10181/

5.全自動トイレ

政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議は2020年5月の「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」で、トイレは「比較的感染リスクが高いと考えられる」と分析しています。これに基づき、提言では「トイレの蓋を閉めて汚物を流す」ことを推奨しています。

商品例として、パナソニックが取り扱うトイレ「アラウーノ S160シリーズ」には、便座から立ち上がると自動的に蓋が閉まって洗浄をする機能を備えた便器があります。価格は、25万9000円(メーカー希望小売価格、税別、取り付け設置費用は含まない)からとなっています。

また、蓋の開閉や洗浄が手動のトイレでも、表示などによって蓋を閉めてから洗浄することを促せば、感染症予防に効果が期待できます。

■パナソニック「アラウーノ S160シリーズ」■
https://sumai.panasonic.jp/toilet/alauno/alauno-s160/spec/

3)ソーシャルディスタンスを取りたい

1.フロアサイン・誘導シール

床面などに動線を表示することで、オフィスへの出入りやオフィス内を移動する際に、社員同士や来訪者と近接する頻度を下げることができます。例えば、進行方向や通行禁止マークを床や壁に貼り付けることで、出入り口や廊下などを一方通行にする方法があります。また、複合機の前やロッカールーム、洗面所など人が滞留しやすい場所には足形のマークを表示しておくことで、距離を取るよう促すこともできます。

こうした表示用のフロアサインや誘導シールは自社で作ることも可能ですし、インターネットなどで購入することもできます。

2.デスクのフリーアドレス化

社員の業務の内容によっては、全日、もしくは週に何日かリモートワークができる人がいたり、出社日をグループごとの交代制にしたりしている会社もあるでしょう。そうした会社のオフィスでは、不在社員のスペースを、ソーシャルディスタンスを取るために有効活用することができます。

例えば、固定していたデスクをフリーアドレス化(自由な席に座れるようにすること)によって、業務中の社員間の距離を広げることができます。ただし、席を使用する前後はデスクや椅子の除菌消毒を徹底しましょう。強制的に業務中の社員間の距離を空けるために、一部のデスクはバツ印を付けて使用不可とすることも一策です。

3.キャスター付きデスク・椅子

各社員に固有のデスクがあってフリーアドレス化が難しいようであれば、キャスターの付いたデスクや椅子を使用することで、一定程度のソーシャルディスタンスが確保しやすくなります。その際、パソコンなどは充電機能が充実したもの、社内の通信回線がWi-Fiなど無線機能を備えていれば、配線コードを気にせずに済みます。

4)外からのウイルス持ち込みを防ぎたい

1.検温器

新型コロナウイルス感染者の入室を防ぐための、最も初歩的な手段が検温です。オフィスの入り口に非接触式の温度検知器のスタンドを置いておき、社員や来訪者が入室する際にチェックできるようにしましょう。

カメラタイプの検温器には、入室者の画像を記録・管理ができるタイプや、AI機能を使って社員の出退勤管理ができるもの、検温と同時にマスクの未着用者を検知して警告を発する機能を備えたものもあります。

2.アルコールディスペンサー

オフィスの入室時に手のアルコール消毒を行うことは、感染症予防の基本です。接触を避けるために、足踏みペダル式や、手を近づけると自動的に噴射するタイプもあります。また、前述のスタンド式の温度検知器との一体型も販売されています。

なお、アルコール消毒以外の水溶液に関する、新型コロナウイルスの消毒・除菌方法については、厚生労働省のウェブサイトで触れていますので参考にしてください。

■新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について(厚生労働省・経済産業省・消費者庁特設ページ)■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/syoudoku_00001.html

3.消毒マット

少しでもウイルスの持ち込みの可能性を下げることを徹底したいのであれば、入り口などのマットなどを消毒マットにするのも一つの手です。マットに消毒液を噴霧するタイプや、消毒液を吸水する部分と足拭き部分が一体化したマットもあります。

4.除菌ボックス

殺菌効果が高いとされる紫外線を照射し、スマートフォンや事務用品などを除菌するものです。水洗いできないものにも使え、不特定多数で使用するものなどを除菌するのに便利です。

5)室内にウイルスを増やさない

1.銅製、真ちゅう製ドアハンドル

抗菌効果があるとされる銅や銅を含む真ちゅうを原料としたドアハンドルなどに付け替えます。

商品例として、ROOF GENERAL STORE(大阪府富田林市)が扱う「真鍮ドアノブ TYPE1」があります。同社ECサイトによると1万5180円(税込)です。

■ROOF GENERAL STORE「真鍮ドアノブ TYPE1」■
https://www.roofgeneralstore.com/product/77

2.抗ウイルス壁紙

表面に抗ウイルス成分が塗布された、抗ウイルス壁紙に張り替えます。抗ウイルス壁紙は、単に抗菌効果があるだけでなく、ウイルスを不活化させることも期待できます。広いスペースの壁紙を張り替えるには専門の企業などに施工を依頼する必要がありますが、休憩スペースの一角の壁紙を張り替える場合は、DIYも可能です。DIYグッズなどを扱うECサイトなどでは、のり付きの抗ウイルス壁紙なども販売されています。

商品例として、RESTA(兵庫県神戸市)のECサイトでは、シンコール・サンゲツ・東リなどの抗ウイルス壁紙が1メートル当たり・291円(税込)~販売されています。

■RESTA「シンコール ベスト 抗ウイルス壁紙」■
https://www.diy-shop.jp/item.php?cc=0000055092

3.抗ウイルスシート

スイッチ類のボタン、手すりやドアハンドルなど、不特定多数の人が頻繁に触れる場所に抗ウイルスシートを貼り付けます。

商品例として、エレコム(大阪府大阪市)が扱う「抗菌・抗ウイルスシート 曲面用」があります。同社ECサイトによると価格は2枚・A4サイズで5040円(税別)です。

■エレコム「抗菌・抗ウイルスシート 曲面用」■
https://www.elecom.co.jp/products/IPM-AVSSR1000.html

4.サーキュレーター

サーキュレーターを設置し、空気の流れをつくり、ウイルスの動線上に人が入らないよう管理しながら、吸排気を効果的に行うようにします。また、窓が少ない室内などでは、サーキュレーターを窓に向けて設置し、室内の空気を外へと排気することで、空気の流れをつくりだすことができます。

商品例として、アイリスオーヤマ(宮城県仙台市)が扱う「サーキュレーターアイ 18畳」があります。同社ECサイトによると価格は1万800円(税別)です。

■アイリスオーヤマ「サーキュレーターアイ 18畳」■
https://www.irisplaza.co.jp/index.php?KB=SHOSAI&SID=H282763F

5.CCFL抗菌ライト

点灯することで、室内の殺菌・除菌などに効果のある抗菌ライトに付け替える方法です。

商品例として、堀内製作所(山梨県山梨市)が扱う「CCFL 抗菌ライト」があります。同社ウェブサイトによると、価格は電球形で6500円(税別)です。

■堀内製作所「CCFL 抗菌ライト」■
https://www.horiuchi-s.com/lp/ccfl/

6)トータルで施工する場合の参考例

一部の設備を導入するだけでなく、オフィス全体を非接触型オフィスに変更したい場合、専門の企業にトータルで施工を依頼する方法もあります。

店舗デザイン、設計を手掛けるROOM810(東京都荒川区)では、テレワークが難しい職種でも安心して働けるオフィス環境を実現する「非接触型オフィス」を企業向けに提供しています。この非接触型オフィスでは、ロールスクリーンやフロアサインをはじめ、自動点灯照明や抗ウイルス壁紙などの感染症対策に効果のある製品の導入をトータルで提案しています。

同社によると、オフィスの規模や顧客の予算によって異なりますが、設計料の目安は50万円+坪単価2万円からとしており、現地の診断、設計から施工完了までの期間は最短で2カ月程度としています。

画像2

3 対面にならないデスクの配置例

前章で挙げた設備の導入と併せて、デスクが対面にならない配置にすることも感染症対策として有効です。ここでは、オフィスコム(東京都千代田区)が提案する、対面にならないデスクの配置例を紹介します。

1)かざぐるま型レイアウト

4席が別々の方向にするレイアウトです。パーテーションを最低限の2方向に設置します。圧迫感の少ない配置です。

画像3

2)背中合わせ型レイアウト

島型レイアウト(デスクが対面になる配置)とは逆で、デスクと椅子が背中合わせになるレイアウトです。対面にならないことで、視線を気にせず作業ができる配置です。

画像4

3)スクール型レイアウト

学校の教室のようにデスクを一方向にしたレイアウトです。席の間に通路ができるので距離を保てる他、動線を分けることが可能です。

画像5

4)ブース型(縦・横)レイアウト

4方向にパネルを置くことで、疑似的に小さな個室が作れるレイアウトです。隣の人と向き合って座る縦型と隣の人と同じ方向に座る横型の2パターンがあります。

画像6

画像7

5)ジグザグ型レイアウト

交互にデスクを配置することで隣り合わないようにするレイアウトです。対向席は置かずに、パネルやパーテーションで飛沫を遮断し、距離を保つことができます。

画像8

以上(2021年2月)

pj80103
画像:jertam2020-shutterstock

「キャッシュ・フロー」と「資金繰り」の違いとは?/資金繰りの基本(3)

新型コロナウイルス感染症の影響により、経営課題としての重要度がより高まっている資金繰り。すでに影響を受けている会社だけでなく、今はまだそれほど受けていない会社においても、不確実な未来に向けた対策は欠かせません。

このシリーズでは、中小企業の経営者向けに、資金繰りの基本や資金繰りを行う上でのポイントを専門家が分かりやすく解説します。

1 勘違いされやすい「キャッシュ・フロー」と「資金繰り」

「キャッシュ・フロー」と「資金繰り」。果たしてそれらの意味の違いをはっきりと区別できていますか? その意味の違いが曖昧になっていると、先々の経営判断を間違えてしまう危険性があります。そうならないために、「キャッシュ・フロー」と「資金繰り」の違いを明らかにしていきましょう。

2 「キャッシュ・フロー」の意味にだまされるな!

まずは、キャッシュ・フローです。キャッシュとは「お金」のことですよね。そこは問題ないと思います。フローは「流れ」のことです。ですから、キャッシュ・フローとは「お金の流れ」を意味します。
中小企業も「キャッシュ・フロー経営」をしていくことが大事ですが、実際にはどのようにして自社のキャッシュ・フロー(お金の流れ)を見ながら経営をしていけばいいのでしょうか?
残念ながら、決算書を見てもキャッシュ・フロー(お金の流れ)は分かりません。決算書とは、貸借対照表と損益計算書のことです。貸借対照表は「資産と借金のバランス」を見るための表です。損益計算書は「儲け」を見るための表です。ですから、貸借対照表と損益計算書を見たところで、キャッシュ・フロー(お金の流れ)は誰にも分からないのです。そこで「キャッシュ・フロー計算書」という中小企業にはあまり馴染みのないものが登場してきます。

1)99%の人が勘違いしている「キャッシュ・フロー計算書」とは?

「キャッシュ・フロー計算書」は「お金の流れが分かる表」ですよね。ところが実際は全く違います。「キャッシュ・フロー計算書」を見ても「お金の流れ」は分かりません。多くの人が「キャッシュ・フロー計算書」を見れば「お金の流れが分かる」と勘違いしています。

2)「キャッシュ・フロー計算書」の本当の姿とは?

では、「キャッシュ・フロー計算書」の本当の姿とは何なのでしょうか? それは「お金の増減バランスを見るための表」です。では、お金の何と何の増減バランスを見るのでしょうか? その答えは、次の3つです。

  • 「本業」によるお金の増減
  • 「株・不動産の売買や貸付」によるお金の増減
  • 「借入や増資」によるお金の増減

「キャッシュ・フロー計算書」とは、この3つの増減バランスを見るためのものなのです。
専門用語に置き換えると、1.は「営業活動によるキャッシュ・フロー」、2.は「投資活動によるキャッシュ・フロー」、3.は「財務活動によるキャッシュ・フロー」といいます。次の表が一般的な「キャッシュ・フロー計算書」のひな型です。見るべきポイントは赤枠で囲った3カ所です。その3カ所の数字の増減バランスを見るのです。

キャッシュ・フロー計算書」のひな型の画像です

3)「キャッシュ・フロー計算書」の簡単な事例!

「キャッシュ・フロー計算書」の本当の姿は、「お金の流れが分かる表」ではなく、「お金の増減バランスを見るための表」だということが分かりました。そして、「キャッシュ・フロー計算書」の一般的な「ひな型」も見ました。しかし、それでもまだイメージがはっきりと浮かんでこない方もいるかと思います。そこでイメージしやすいように、キャッシュ・フロー計算書の簡単な事例をご紹介したいと思います。

キャッシュ・フロー計算書の簡単な事例の画像です

まずは、一番下にある「キャッシュの増加額」を見てください。A社もB社も会社全体のお金の増減だけを見れば11億円の増加です。A社もB社も全く同じですので、これだけ見ていてもA社とB社の違いが分かりません。そこで、それらの内訳として、お金の3つの増減バランスについても見ていきたいと思います。
まずはA社から見ていきましょう。本業でのお金の増減を見ると2億円の赤字ということが分かります。ところが、株や不動産を売ったことによって5億円のお金が増えています。さらに借入をして8億円が増えています。その結果、会社全体で見ると11億円のお金が増えたということです。
次に、B社を見てみましょう。本業で9億円の黒字です。株や不動産を売ったことによって増えたお金は1億円しかありません。そして借入でも1億円しか増えていません。その結果、会社全体で見ると11億円のお金が増えたということです。
ここでちょっと考えてみてください。もしあなたが投資家であったなら、A社とB社のどちらの会社に投資をしたいと思いますか? 普通に考えれば本業に強いB社に投資しますよね。「キャッシュ・フロー計算書」は何を隠そう、この投資判断をするためのものなのです。

4)「キャッシュ・フロー計算書」は誰のもの?

ここまでお読みになれば、気付かれたことでしょう。「キャッシュ・フロー計算書」は投資家向けの情報であり、経営者向けの情報ではないということです。
特に勉強家の中小企業経営者にありがちなのですが、「うちもキャッシュ・フロー計算書を作ってキャッシュ・フロー経営をしないといけないと思っています」という考えです。このような方には筆者は常々こう言っています。「キャッシュ・フロー計算書は作らなくていいですよ。あれは投資家向けの情報であって経営者向けの情報ではないからです。上場会社は、法律により(投資家のために)作らないといけないことになっていますが、上場していない中小企業は作る義務はありません」と。

メールマガジンの登録ページです

3 「資金繰り」とはそもそもどういう意味なの?

ここから話がガラッと変わります。ここまでの話では「キャッシュ・フロー計算書」は、先々の経営判断の材料にはならないということでした。それでは、どのようにすれば、お金の流れをつかむことができるのでしょうか? 何を材料にして先々の経営判断をしていけばいいのでしょうか? その答えが「資金繰り」です。

1)「資金繰り」=「どうやってお金を借りるのか?」ではない!

中小企業経営者に「資金繰りはきちんとやっていますか?」と聞くと、「はい、やっています。金融機関には折り返しで融資できるように話はしています」という声をよく聞きます。「ということは資金繰り表をきちんと付けているのですね?」と聞くと、「え~、そういうのはあるにはあるけど……」と急に歯切れが悪くなることが多いのです。
「資金繰り」は「どうやってお金を借りるのか?」という意味ではありません。「資金繰り」は「予測」することです。何を予測するのかというと、お金の流れを予測します。お金の流れとは、先々の日々のお金の「入り」と「出」と「残り」のことです。そのお金の流れを予測した結果、例えば、4カ月後の仕入代金が1000万円足りなくなりそうであれば、お金を借りることを検討します。つまり、資金繰りは、まず予測ありきなのです。資金繰り=予測といってもいいでしょう。予測あっての借入ということになります。

2)「資金繰り表」が大事といわれる理由とは?

中小企業には、1年間の利益よりも1年間の返済額のほうが大きいケースがよく見られます。これは、会社全体のお金として見れば「入り」よりも「出」のほうが大きいことになります。つまり、利益が出ていて黒字であってもお金が減っていく体質なので、現金の残高が豊富にありません。そうすると、そのうち近い将来にお金が足りなくなってしまいます。ですから、「〇月〇日にいくらお金が足りなくなるのか?」をまずは知ることが大事になります。逆にお金があるときは、「〇月〇日にいくらお金が余っているのか?」を知ることも大事です。「〇月〇日にいくら足りなくなるのか?」「〇月〇日にいくらお金が余っているのか?」の2つのことが分かるもの、それが「資金繰り表」です。

3)これが「資金繰り表」の核心だ!

「5日ごと」の資金繰り表や「月ベース」の資金繰り表をよく見かけますが、それだと「〇月〇日にいくらお金が足りなくなるのか?」「〇月〇日にいくらお金が余っているのか?」が分かりません。ですから、資金繰り表は「日ベース」の日繰り表にするのが基本といえます。
次の表が、筆者がクライアント企業向けに作成し導入している資金繰り表です。参考にしてください。

資金繰り表の例を示した画像です

簡単に説明します。エクセルで、1カ月分を1シートとし、12シート(1年分)を作成し、見込み(予測)の数字を1年先まで入力してしまいます。実際に動いた実績の数字については、見込み(予測)の数字を上書きして修正します。そのようにしていけば、「〇月〇日にいくらお金が足りなくなるのか?」、あるいは「〇月〇日にいくらお金が余っているのか?」ということが、誰が見ても一目瞭然になります。そのため支払い直前ギリギリではなく、何カ月も前に打つ手が明確になります。対策が立てやすく、気持ちに余裕を持って資金繰りができるようになります。白色は「入り」、黄色は「仕入」、緑色は「経費」、青色は「税金」、茶色は「返済」としています。ちなみに、この資金繰り表は「どんぶり大福帳®」と名付けました。
なお、この「どんぶり大福帳®」は、こちらからダウンロードできます。

4)「資金繰り表」の応用編をご紹介!

「日繰り表」は、前述の通りですが、さらに次の月ベースの「月繰り表」をエクセルのシートに追加すれば、1年先までのお金の流れ、すなわち「入り」「出」「残り」が一目で分かるようになります。一番下の行は、預金口座残高の予測「合計額」になります。つまり、「1年先の決算はだいたいこれくらいの「入り」「出」「残り」でフィニッシュできそうだな」ということをイメージしながら経営していけるということです。筆者はこれを「全体像シート」と呼んでいます。

全体像シートの画像です

「日繰り表」の毎月の合計額が、この「全体像シート」に飛んでくるようにリンクを貼ります。この「全体像シート」を作るのはそれなりの工夫と根気が必要になってきますが、一度作ってしまえばとても便利です。色は日繰り表に合わせています。
また、上の全体像シートの数字について、色ごとの合計額を集計すれば、以下の「■まとめ(借入の入金などを度外視した正味の事業の動き)」の表のようになります。骨格は決算書の損益計算書に似ていますが、これは損益ではなく実際のキャッシュベース(預金)の動きになります。

さらに、「■指標」も自動計算されるように仕込んでおいて、かつ、同業他社の数字と簡単に比較できるようにしておけば、自社のどこに問題が潜んでいるのかが簡単に浮き彫りになります。やるべきことがはっきりとしますし、対策も立てやすくなります。その結果、利益が出やすく、お金が残りやすい体質に改善されていきます。

■まとめ(借入の入金などを度外視した正味の事業の動き)の表の画像です

4 まとめ

「キャッシュ・フロー計算書」は、過去のお金の増減バランスを表すものであり、どの会社に投資をしようかという判断材料として役立ちます。つまり「キャッシュ・フロー計算書」は投資家向けの情報であり、経営者向けの情報ではないということがはっきりと理解できました。
そして、「資金繰り表」は、「〇月〇日にいくらお金が足りなくなるのか?」「〇月〇日にいくらお金が余っているのか?」という日々のお金の「入り」「出」「残り」の見込み予測(お金の流れの予測)を表すものであり、先々の経営判断の材料として役立ちます。「資金繰り表」の数字は紛れもなく経営者のための情報ということも理解できました。

2019年の水害、さらに追い打ちを掛けた2019年10月の消費税増税、そして、2020年の新型コロナウイルス感染症の拡大などにより経済は大打撃を受けています。先行きの見通しが立ちにくいときほど、今、経営者が本当にやるべきことは何か?を「資金繰り表」が教えてくれます。この機会にぜひ「資金繰り表」としっかり向き合っていただきたいと思います。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年2月9日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

【朝礼】議論に必要なのは「愛」「尊敬」「知識」

皆さんは、同僚やクライアントと正しく「議論」することができますか。議論とは、特定のテーマについて互いの意見を論じ合うことです。ビジネスでもしばしば議論することがありますが、これは互いに知恵を出し合い、より良い仕事をするためのものです。

ところが、ビジネスで行われる議論の多くは「勝負」になりがちです。「論破」という言葉に引っ張られるのか、「相手を言い負かすこと」が目的になっているのです。こういう間違った議論では雰囲気が険悪になり、相手から何か言われると自分自身を否定された気分になってしまいます。議論で否定するのは意見の内容や分析であり、相手自身ではないのですが、感情的になるとこの大原則を忘れがちです。しかし、論破されるのは悔しいかもしれませんが、自分にはなかった視点を得て、考え方を見直すきっかけになるわけですから、決して「負け」ではないのです。

また、経験上、議論が「勝負」になりがちなことを分かっている人は、衝突を避けるための努力をします。素晴らしいことですが、やはり方向性を間違えている人が多いように思います。よくあるのは、議論を深めるというよりも、相手をおだてて場を和ませ、折衷案に落とし込むケースです。しかし、こうした折衷案に魅力はありません。

どうすればビジネスでの議論がうまくいくでしょうか。議論の「さしすせそ」と「たちつてと」という興味深い指摘があるので紹介します。

まず、議論の「さしすせそ」は、議論を円滑に進めるための言葉です。具体的には、「さすがですね、知りませんでした、すごいですね、センスがいいですね、そうなんですね」と相手を肯定し、場の雰囲気を和らげる言葉です。

一方、議論の「たちつてと」は、研究者やエンジニアなどがよく使う言葉とされています。具体的には、「例えば? 違いは? つまり? 定義は? 統計的な裏付けは?」と質問し、状況を確認する言葉です。

ここで重要なのは、「さしすせそ」と「たちつてと」を対立項のように捉え、自分がどちらを使ったら有利かなどと考えないことです。「さしすせそ」も「たちつてと」も、議論を進めるためのきっかけにすぎません。議論の展開や雰囲気を考えて、「それは知りませんでした。ちなみに、統計的な裏付けはあるのですか?」と両方を組み合わせて使えばよいだけのことです。

議論には目的があります。お客様にとって良いサービスをつくるための議論であれば、まずお客様への愛がなければなりません。また、議論の相手は、共に良いサービスを検討する仲間であり、そこに尊敬がなければなりません。最後に、議論を深めるには準備、つまり知識が必要です。この「愛」「尊敬」「知識」を意識して議論すれば、くだらない勝ち負けにこだわることはなくなります。今年、皆さんの議論がバージョンアップすることを期待しています。

以上(2021年1月)

pj17037
画像:Mariko Mitsuda

第18回 株式会社フロンティア 山田 紀之氏/森若幸次郎(John Kojiro Moriwaka)氏によるイノベーションフィロソフィー

かつてナポレオン・ヒルは、偉大な多くの成功者たちにインタビューすることで、成功哲学を築き、世の中に広められました。私Johnも、経営者やイノベーター支援者などとの対談を通じて、ビジョンや戦略、成功だけではなく、失敗から再チャレンジに挑んだマインドを聞き出し、「イノベーション哲学」を体系化し、皆さまのお役に立ちたいと思います。

第18回に登場していただきましたのは、福岡市に本社を置き、2018年にはTOKYO PRO Market上場を果たされた株式会社フロンティア 代表取締役 山田紀之氏(以下インタビューでは「山田」)です。

1 「『空手を辞めたら、自分はただのサラリーマンになるのか』という想いが湧き、独立を決意しました」(山田)

John

本日は、大変お忙しいところを本当に愛りがとう(愛+ありがとう)ございます! 山田さんは山口県徳山市(現:周南市)ご出身とのこと、私も山口県出身ですので、同郷にまつわるお話ができることも大変楽しみにしておりました!

早速ですが、山田さんのバックグラウンドからお伺いしていきたいと思います。ご両親の代から山口県にお住まいなのですか?

山田

私の家は曽祖父の代から両親まで、家系全員が山口県生まれ、生粋の長州人です! 

私の祖父は元海軍将校で、戦艦大和に乗っていた時期もある日本軍の軍人でした。また、「山口県は総理大臣を多く輩出している県だ」というのを小さな頃から聞かされて育っていたので、私も小さい頃は「将来は総理大臣になる!」と言っていましたよ(笑)。

John

私も総理大臣になりたいと思っていた時期があります(笑)。
総理大臣になるか、社長になるか、いずれにせよ「自分で何かを成し遂げなくては」という気持ちが強かったですね。山口県出身なら共感して頂けると思いますが。

山田さんは、どのような経緯で起業に至ったのでしょうか。

山田

私は10歳の頃から空手を習っていました。19歳の時には、重量級で全国3位という成績を残したこともあります。

社会人になってからは、お客様にお金を払って見に来てもらうような大会にも出場し、空手の選手として活動しつつ、トヨタ系ディーラーのメカニックとして従事していました。

24歳の頃、空手の選手としての限界を感じて引退を決意しました。
それと同時に「空手を辞めたら、自分はただのサラリーマンになるのか」という想いが湧き、独立を決意しました。

仕事の勉強も頑張っていましたので、会社では管理職という立場をいただいていたのですが、退職して、26歳の時に中古車販売店を立ち上げました。

John

空手選手という自分がなくなった時に、管理職としてご活躍されていた会社を辞めるほど「何かを成し遂げたい、何者かになりたい」という熱意が沸き起こってきたのですね。素晴らしいです。「このままで終わっていいのか」という気持ちは私も強く共感します。

2 「いろんな自動車のアクセサリーを買い集めて、ハンドキャリーで日本へ持ち帰り、Yahooオークションで、国内向けに販売しました。これが、私が自動車部品に携わるようになった最初のきっかけです」(山田)

John

中古車販売店からのスタートということですが、それがどのように、現在の自動車部品の事業へと繋がっていったのでしょうか。

山田

中古車販売店を始めた当初から、「このまま日本国内で事業を展開していても、大きくなれないな」と感じ、海外に目を向けるようになりました。

創業した翌年には1人社員が加入してくれていたので、彼に「香港に行ってくる」と宣言して、香港へ旅立ちました。

彼は今も、当社のナンバー2として活躍してくれています。

John

創業2年目で海外進出する行動力も、初社員の方がナンバー2として現在も働かれているという環境も素晴らしいですね。
なぜ、香港だったのですか?

山田

香港は元々イギリス領でしたので、右ハンドルなのです。日本の中古車が多く走っているという話を聞き、すぐに海を渡る決意をしました。

しかし当然そううまくはいかず、2年間通って売れたのはワンボックスカー2台だけ(笑)。

当時はまだアリババなども出てきておらず、オンラインでのビジネスは難しい時代でしたから、露店で中古車雑誌を買って電話でアポイントを取り、電車とバスを乗り継いで現地へ赴き、つたない英語で交渉する、そんな日々でした。
今から18年前のことですね。

John

何がきっかけとなって、事業を転換されたのですか?

山田

きっかけは、広州市の自動車部品街を知ったことですね。

「このままじゃダメだ」と思っていたところで、中国人の通訳から「電車で2時間のところに、中国の広州市というところがある。自動車部品の街なので、よかったら行ってみないか」と声をかけられたのです。

香港から電車でトータル3時間ほどかけて部品街に行ってみると、「すごい! 日本人だ!」「日本人を初めて見た!」とお店の方々にびっくりされました(笑)。

そこでいろいろな自動車のアクセサリーを買い集めて、ハンドキャリーで日本へ持ち帰り、Yahooオークションで、日本国内向けに販売しました。

これが、私が自動車部品に携わるようになった、最初のきっかけです。

John

面白いご縁ですね。
どのような商品を取り扱ってらっしゃったのですか?

山田

車内を木目調にするアクセサリーや、窓に貼り付ける装飾パーツ、キーホルダーなどは人気がありましたね。
時には、100円の部品が10倍以上の値段で売れることもありました。

Yahooオークションからスタートし、Yahooショッピング、楽天、Amazonと販売チャネルも広げていきました。

SEO対策もこだわり、どのようなキーワードを入れたら買ってもらえるのか、一晩中知恵を絞ったりもしていましたよ。

しかし次第に、トータルコストについて考えるようになりました。
飛行機で仕入れに行き、手持ちで運んで販売するという方法だと、トータルで考えると利益はほとんど出ていなかったのです。

そこで、利益率を上げるために、単一商品を中国で大量に作ってもらい、コンテナごと仕入れて販売する、という方向へシフトしていきました。

それが、私が自動車部品メーカーとなるきっかけです。

John

思い切ったご決断をされましたね。

3 「現在も当社の主力商品となっている雨避けのサイドバイザーに着目しました。特に、アフターマーケットにおいて、サイドバイザーを作っている業者はいないということに気がついたのです」(山田)

John

少数の商品を輸入して販売するスタイルから、まとまった数を製造して販売するスタイルへ転換されることで利益率が上がる一方で、在庫を持つリスクも伴いますよね。

初めはどのようなものを作られたのですか?

山田

そうですね。
当然リスクはありますので、製造する前に自動車部品業界に向けたヒアリングを綿密に行いました。

ヒアリングの結果、現在も当社の主力商品となっている雨避けのサイドバイザーに着目しました。特に、アフターマーケットにおいて、サイドバイザーを作っている業者はいないということに気がついたのです

「もし作ってくれるのであれば、1000ロット単位で買う」というお申し出もいただき、開発に着手しました。

今と違って、当時はインターネットで生産拠点を探すことが難しい時代でしたので、中国人の通訳さんと一緒に電話帳を開き、そういった商品を作れそうな工場を探すところから始め、候補となる工場を全てタクシーで見て回りました。

中国以外にも、マレーシア、台湾などへ行きサイドバイザー工場なども見ましたが、中でももっともコストを抑えられる、広州の工場に決定しました。

しかし、初めて広州の工場に発注した1000セットのサイドバイザーが、何と1000セット全て不良品だったのです(笑)。

John

全て不良品ですか!? 大ピンチですね! 初めてコンテナ輸入に着手され、今後の社運を託すための大切な製品ですから、ショックも大きかったと思いますが、どのように対応されたのですか?

山田

「何とかしなくては!」と必死でしたので、自動車整備工場で、1人で1000セット全て2次加工しました

車は4枚窓がありますので、1セットあたり4枚。
だから、1000セットになると1人で4000枚の2次加工ということです。

昼間の仕事を終えてから、毎晩作業を行い、12月でしたので大晦日も作業していました。

2次加工を終えて何とか出荷し、幸いお客様からは追加で1000セット発注をいただくことができました。

追加発注の際は広州の工場まで出向いて、前回の不良品について厳重に注意したのですが、次の1000セットもまた全て不良品(笑)。
再度、自分で2次加工することになりました。

John

考えるだけで気が遠くなりそうです。よくやり抜かれましたね。工場の方は厳重注意では改善されなかったということですが、その後どうされたのでしょうか。

山田

最終候補に挙げていた別の工場に変更しました。
そして、自社で商品管理の担当を1人雇ったのです。

何度も広州の自動車部品街に通っていましたので、現地で仲の良い方もできていました。その人に「誰か良い人はいないか」と尋ね、中国人で生産管理ができそうな方を紹介してもらったのです。

この時、私はあえて年齢が高く日本語が上手ではない方を選びました。
そういう方なら、他の日本企業からヘッドハントされにくく、長く勤めてくれるだろうと考えたためです。

その読みは当たり、彼は今でもしっかりと当社で働いてくれています。
今も日本語はほとんど上達していませんが(笑)。

John

あえて日本語が苦手な方を選んで、山田さんたちが努力してコミュニケーションをとるという選択をされたことで、長く関係が築けたと。逆転の発想ですね、勉強になります。

サイドバイザーの画像です

ナンバーフレームの画像です

フロアマットの画像です

上から順に「サイドバイザー」「ナンバーフレーム」「フロアマット」。
車両購入時に必ず装着する3点セット。この3点セットを作っている企業です。

4 「会社をいかに継続して成長させるかを考えた時に、上場の過程こそが組織強化につながると思いました」(山田)

John

製造ラインも整い、その後はどのように舵を切られたのですか?

山田

それからは、サイドバイザーの領域に注力しました。
アフターマーケットでサイドバイザーを作るメーカーは、いまだに当社を含め2社しかないのです。

日本では現在約420万台の新車が発売されていますが、我々のようなサイドバイザーのアフターマーケットのシェアは、全体の3%と言われています。

全体で3%、さらにその中に2社しかいないわけですので、いかにクオリティを上げ、利益率を高めるかの勝負になってきます

車の販売をしていた会社は売却し、香港へ製造拠点を設けて、連結子会社化しました。今では、当社は企画だけを行うファブレスのスタイルを取っています。

得意なのはプラスチックと電子機器
電子部品メーカー様ともお付き合いがあり、玩具・ゲームなどの発注も一部請け負っています。不良品の少なさ、安定した製造ラインと企画力をご評価いただいています。

John

なるほど。柱となるサイドバイザーの事業を確立しつつ、幅広く展開されているのですね。

主力製品であるサイドバイザーの強み、特徴についてお話しいただけますか? クオリティにこだわられているとのことですが。

山田

当社のサイドバイザーは、製造は中国ですが、素材は全て日本製のものを使用しています。プラスチックや自動車用の両面テープを国内で仕入れて、現地へ送って加工してもらっているのです。

また、もっとも重要な「いかに雨を入りにくくするか」という点は純正品以上にこだわり抜いていると自負しています。
新型車が出てから3〜4カ月間さまざまな検証を行い、開発に取り組みます。

もう1つ、これは業者様側のメリットとなりますが、取り付け時間が大手メーカーの純正品と比較して1/4の工数で済みます
工数が1/4ということは、人件費が1/4になるということですので、大きなメリットだと思います。
この技術は、現在特許申請中です。

世界中に売れる市場はありますが、まずは日本国内のマーケットシェア拡大に注力していきたいと思います。

John

メーカーにとっても、車の購入者にとってもメリットを生み出せているのですね。
貴社はBtoBの製品を扱っていらっしゃいますが、国内での販売先はどこで、どのように開拓されたのか教えていただけますか?

山田

自動車メーカーや、中古車販売店ですね。
特に中古車販売店については、皆さんがご存知のようなブランドは全て当社の製品を扱ってくださっています。

初めは地道にこちらから1件1件飛び込みで営業をかけていましたが、次第に評判を聞いてメーカーさんやお店からお声がけをいただけるようになりました。

John

地道な積み重ねがあったのですね。
会社のターニングポイントとなったのはいつ頃だったと思われますか?

山田

2020年で、当社は創業19年を迎えましたが、この19年間で上場準備とアベノミクスによる円安が重なった時期はもっとも厳しい時期で、会社の転換期でしたね。

円安というのは、輸入業者にとっては本当に厳しい。
また、上場準備にあたっては、上場コンサルタント、監査法人との契約などにコストがかかりました。

John

何年前から上場を目指していらっしゃったのですか?
また、上場しようと思われたきっかけは?

東証での画像です

山田

上場を決意したのは8年前、創業11年目の頃です。

会社の継続性を考えたことが上場を目指したきっかけでした。上場を目指すということは、これまで以上に組織体制を整え、強化していかなくてはなりません。

会社をいかに継続して成長させるかを考えた時に、上場の過程こそが組織強化につながると思いました

実際に上場準備を進める中で、経営理念を作り、経営戦略を考えていったので、非常に有意義な期間でした。

会社が大きくなるにつれて上場企業の経営者との接点も増えるようになり、彼らの話を聞いたりすることも非常に勉強になりましたし、影響を受けたと思います。

他にも本を読んだりセミナーに出たり、経営者としての勉強、上場に向けての勉強はかなり真面目に取り組みましたよ。

John

元々は空手一筋だったところから、経営者として成長しようと勉強を重ね、実際に上場を果たされた。

本当にすごいことですし、努力は報われるのだと感じます!

上場記念の盾の画像です

5 「上場準備室の立ち上げに2度にわたり失敗しましたが、福岡へ拠点を移し、0から採用活動を始めて、今の管理部を築き上げることができたのです」(山田)

John

現在、貴社は非常に順風満帆でいらっしゃいますが、山田さんの中で「この時期は1番大変だったな」と思われる時期はいつ頃でしたか?
また、どのようにそれを乗り越えられたのでしょうか?

山田

上場準備をしていた時期に、CFO含む管理部門の社員が全員退職という事態が2回ありました。

原因としては、やはり上場準備前の管理体制が煩雑であったことでしょうね。
管理体制がまだ出来上がっていない中ですので、監査法人が来るたびに、管理部門が責められてしまう。彼らにとっては大きなストレスだったと思います。

体裁を整えないとまず書類が出せない。
しかし、会計系の能力が必要だったのに、企画系の方を採用してしまったりという、ミスマッチもありました。

そもそも山口県でのリクルーティングは非常に難しいので、2度にわたり全員が退職してしまった時は、途方に暮れました。

そんな中、たまたま私が仕事で福岡の天神に行き、現地の知り合いから「うちのオフィスビルが天神にあり、今空いている部屋があるのですが、見にきませんか?」と声をかけてもらっていたのです。

「気分転換にちょっと見に行こうかな」とオフィス見学に行ったのですが、ビビッときました。オフィスの窓から神社が見えて、参道脇にあるオフィスビル。
そのロケーションが気に入り、5秒で契約を決め、福岡へ拠点を移しました。

上場準備室の立ち上げに2度にわたり失敗しましたが、福岡へ拠点を移し、0から採用活動を始めて、今の管理部を築き上げることができたのです

John

すごいストーリーですね! 鳥肌が立ちました。広州市の自動車部品街を通訳の方に教えてもらったという話もそうですが、チャンスを掴む人は山田さんのように人の話に耳を傾けていますよね。

採用は、やはり山口と比べると福岡のほうがスムーズなのでしょうか?
上場してから変わった部分もありますか?

山田

そうですね。
オフィスの利便性もあり、上場した現在では、募集をかければ30名ほど応募がくるほど、スムーズです。

上場して変わったところで言いますと、仕入れをする際にも先方のトップが商談に出てきてくれるようになり、交渉がスムーズに進みます。また、海外でも東証のマークの信頼度は非常に高く、その点でも上場して良かったと思います。

John

貴社のオフィスは、福岡でも著名なインキュベーションビルにあると伺っていますが、どのようなビルなのでしょうか。上場会社を生み出すことを目的としているのですよね。

山田

そうですね。初めから「起業家を育成する」というコンセプトでつくられた、インキュベーションビルでした。

ビルのオーナーさんは、福岡では有名なエンジェル投資家の方でした。
ビル設立の時から「IPOする会社を20社つくる」という目標があったのです。
入居の際にも、IPOを目指しているかどうかが審査基準の1つとなっていました。

当社が上場した際には香港でパーティーを開催してくれるなど、非常にお世話になりました。

John

力強い後押しが得られたわけですね。山田さんの話しぶりから、ビルのオーナー様への信頼が伝わってきます。

上場時の画像です

6 「中国以外の国でも言えることだと思いますが、相手の人種・文化・商習慣を勉強しなくては、良いスタートは切れません」(山田)

John

山田さんの会社では香港に拠点をお持ちですが、現在の香港情勢がビジネスに影響している部分はあるのでしょうか?

山田

今のところ我々には大きな影響はありません。
しかし、香港のスタッフが中国に渡れないなどのトラブルは起きていますし、今後どうなるかはわかりません。

ただ、不測の事態に対処するため、新たな拠点の模索というのは、実は常々行っています。同じ部品を中国以外の、アジアの別の国で作れないかという調査は、毎年行っているのですよ。

今後の中期計画において、日本回帰も含め、生産拠点の転向というのは考えていかなくてはと感じています。

John

常にあらゆる可能性に目を向けていらっしゃるのですね。

日本では、「海外に製造を任せてファブレス化したいが、うまくいかない」という声をよく聞くのですが、うまく成り立たせるポイントというのはあるのでしょうか?
納期への意識やクオリティなど、海外は日本とは違う点も課題ですよね。

山田

海外、特に中国の場合、納期とクオリティは100%の状態では出てこないと思っていたほうがいいですね。私の経験上ですが。

私の場合はデポジット(預かり金)を払って試作をし、すり合わせながら製造体制をつくっていくようにしています。

中国以外の国でも言えることだと思いますが、相手の人種・文化・商習慣を勉強しなくては、良いスタートは切れません

関係性ができてくると、少しずつデポジットもいらなくなり、納期を守ってくれるようになり、クオリティも上がってきます。

立ち上げ当初は、現地での日常会話や、遊びに行ける程度の中国語は覚えて、飲み会などのコミュニケーションも重ねましたよ。
最近では翻訳ソフトも発達していますし、距離は縮まっていると思いますので、積極的にコミュニケーションを取ってみるのが良いのではないでしょうか。

John

作ってくれる人たちの気持ちにも寄り添って、一緒に仕事をしていく仲間になるという共通認識を作っていかれたということですね。語学力は高いに越したことはないですが、「相手と人間関係を作りたい」という思いには語学力を超える力がありますね。

7 「自動車業界の中でも、特に自動車販売店で働く方々を幸せにしたいという想いがあります」(山田)

John

現在、貴社は上場2年目を迎えていますが、今後はどのような成長戦略を描かれているのですか?

山田

現在我々が上場しているTOKYO PRO Marketは流動性のない市場ですので、今後は流動性の持てる一般市場を目指していきたいというのは近々の目標ですね。

また、中長期的な目標としては、会社を100億円規模まで成長させたい
これまでの経験則から、私が現役の間に100億円は目指せる範囲だと思っています。

John

大きな目標ですね!

もう少しビジョン寄りのお話で、山田さんの経営目標、特に「ビジネスを通して誰を幸せにしたいのか」という面ではいかがですか?

山田

自動車業界の中でも、特に自動車販売店で働く方々を幸せにしたいという想いがあります。

自動車業界でもっとも人口が多いのは販売店です。
そしてコンシューマーとの窓口になり、直接関わる第一線でもあります。

しかしながら、1番利益率が低く苦労しているのも彼らなのです。
私自身も販売店の出身ですから、彼らを幸せにしたいという気持ちはとても強くあります。

販売店が利益率を高める方法は、整備や+αの売上を作ることですので、当社の作るサイドバイザーが、そうした利益率UPの一助となればと思っています。

彼らが幸せになれば、私も幸せに引退できますね。このビジョンを実現し、65歳で引退して海外で暮らすのが、私個人の夢です(笑)。

John

ご自身が販売でご苦労されていた時の想いが、今の事業に繋がっているのですね。

他にも山田さんのご経験から生まれた「ビジネスをする上で大切にしていること」はありますか?

山田

人間関係のつくり方は非常に大切にしています。
一緒にいる相手が気持ちよくいられる場をつくろうという想いを持って振る舞いますし、相手から何か学ぶかというのも常に心掛けています。

特に、成功している人の呼吸や仕草、話し方……。細かいところを観察し、一度完全に真似てみるようにしています

スポーツでも同じですよね。一流のスポーツ選手は皆さん、模倣からはじめて自分のものにしていますよね。

経営に関しても、同じことが言えると思っていて、意識的に実践をしています。

John

ハーバード・ビジネス・スクールでも同じことを学びましたよ。尊敬する経営者や有名人などに「なりきって演技をする」ワークショップがあるのですが、ハリウッドの演技指導者に一人一人指導を受けながら、自分がスピーチが上手いと思う人になりきって大勢の前でスピーチをしました。

普段の自分とは違う話し方や立ち居振る舞いを学ぶことによって、自分の殻が破れ、自信がつきましたし、普段から真似した人のようにあろうという心構えが出来ました。

これは、起業家を目指す学生の方々などにもどんどん伝えていきたい方法ですね。

では、名残惜しいですが、最後の質問です。
山田さんにとっての「イノベーションの哲学」は何でしょうか?

山田

イノベーションを起こすためには、開拓者たれ」、これが私のイノベーションの哲学です。

この想いは、社名の「フロンティア」にも表れています。
かつてアメリカ大陸を拓いた開拓者たちは、自ら新たな土地を見つけ、そこで新たな資源や需要を見出し、イノベーションを起こしてきました。

同じように新たな需要を見出して、イノベーションを起こし続けることこそが、企業が永続する手段だと思うのです。

社員たちにもこれは常々話していて、新しいものを考える習慣を持ち、フロンティア精神を持ってほしいと伝えています。

今市場にないものは、新しくつくる。市場がないのであればつくる。
そんな想いを持って日々取り組んでいます。

John

開拓者たれ! 力強く、素晴らしいお言葉ですね。

本日は貴重なお話を本当に愛りがとう(愛+ありがとう)ございました!

山田氏のイノベーションフィロソフィーを示した画像です

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年2月3日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

役員退職慰労金を使った自社株式の評価引き下げ

書いてあること

  • 主な読者:役員退職慰労金を使って自社株式の評価を引き下げたい経営者
  • 課題:税務上、適正な役員退職慰労金の決め方や自社株の評価方法が分からない
  • 解決策:役員退職慰労金の損金算入時期をきちんと把握し、純資産価額方式で評価する

1 役員退職慰労金と純資産価額方式で評価を下げる

株式の評価額は評価方式によって大きく変わります。そのため、株式を高額で譲渡したい場合と低額で譲渡したい場合とで評価方法を自由に選択できたら便利です。しかし、実際はそうはいかず、相続税法において「取引相場のない株式」は、「純資産価額方式」や「類似業種比準方式」などによって評価することになっています。

本稿でご提案するのは、役員退職慰労金(以下「役員退職金」)を支払うタイミングで、前述の純資産価額方式を採用することで自社株式の評価を下げる方法です。例えば、事業承継(代替わり)では、現在の経営者の退任と、新しい経営者の就任があります。現在の経営者には役員退職金が支払われる一方、新しい経営者には基本的に“安く”会社を渡したいものです。このようなときに検討する方法です。具体的には、役員退職金を内部留保から支払って純資産を減らし、(純資産価額方式で評価すると)自社株式の評価を下げるということです。

2 さまざまな面から検討しなければならない

1)純資産価額方式とは

純資産価額方式は、企業の純資産に着目した企業価値の評価する方法であり、算出方法は次の通りです(財産評価基本通達185)。評価差額は資産の含み益ですが、これに37%を乗じて評価差額に対する法人税等に相当する金額を算出します(財産評価基本通達186-2)。

画像1

一般的に、純資産価額方式は他に比べて株式の評価額を引き下げる手段が少ないと考えられますが、役員退職金の支払いを利用すれば大丈夫な場合もあります。内部留保から役員退職金を支払えば、その分だけ純資産は減少します。純資産価額方式で算定される株式評価額を引き下げられるというわけです。

2)基本的に役員退職金は損金になる

役員退職金を内部留保から支払って純資産を減らし、純資産価額方式で評価すると、自社株式の評価が下がるという方法ですが、役員退職金が税務上の損金になるかどうかも同時に考えなければなりません。純資産価額方式で評価額を下げたとしても、法人税等の納税が多額に発生してしまう可能性があるからです。

この点、役員退職金は、債務(支払い)が確定した日の属する事業年度の損金となります。役員退職金の支払いによる当期利益の大幅な減少を避けるため、毎期、有税で積み立てている場合は、役員退職金支給時に引当金と相殺し、引当金取崩額を損金計上することになります。具体的な取り扱いは法人税基本通達で定められています。

【法人税基本通達9-2-28(役員に対する退職給与の損金算入の時期)】
退職した役員に対する退職給与の額の損金算入の時期は、株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度とする。ただし、法人がその退職給与の額を支払った日の属する事業年度においてその支払った額につき損金経理をした場合には、これを認める。

損金になるか否かは重要なポイントなので、以降でもう少し説明します。

3)期中に退職した場合、支払いが確定したときに損金となる

役員が期中に退職した場合、内規により未払い計上することはできます。しかし、債務は確定していないので損金にはなりません。株主総会の決議や取締役会の決議で、役員退職金が具体的に確定した事業年度に損金計上するのが原則です。ただし、役員退職金の額が確定していても、会社の資金繰りの都合上、支払われない場合は、実際に支払った事業年度に損金計上することも認められています。

4)役員退職金を分割支給する場合、支給するべきときに損金となる

中小企業ではオーナー経営者や同族の役員が多く、役員在任期間が長くなりがちです。仮に在任1年当たりに換算した役員退職金が少額でも、在任期間が長期にわたると役員退職金は高額になります。このような場合、役員退職金を分割して支給することもあります。

税務上、役員退職金を分割支給する場合、支給するべきときに損金計上できます。株主総会の決議等による確定前に役員退職金の総額を費用で処理したとしても、未支給分は損金に算入できません。仮に、役員退職金5000万円を2分割支給(年間2500万円ずつ支給)する場合の税務上の取り扱いは、次のいずれかとなります。

  • 株主総会の決議等により、金額の確定した日の属する事業年度において一括して損金計上する。未払いの役員退職金分は未払い計上となる
  • 分割支給する日の属する事業年度ごと、2年間にわたって損金計上する

役員退職金を長期間で分割支給すると、支給額を恣意的に操作することで会社の利益を減少させるなどして課税を逃れることができます。これを防ぐため、役員退職金の分割支給は、資金繰りの悪化などの合理的な理由が求められるといわれています。また、長期間の分割支給は、退職年金支給と指摘される可能性もありますので、注意が必要です。

3 役員退職金による自社株式の評価引き下げは可能?

自社株式の評価が「ゼロ」であれば、譲渡であれ贈与であれ、原則課税はありません。例えば、創業者が後継者となる子供に自社株式を譲渡するとしましょう。その際、会社は創業者役員に多額な役員退職金を支払います。その金額が、貸借対照表上の純資産の部の合計に土地などの含み益または含み損を加減算した金額を上回った場合、創業者役員に役員退職金としてこの金額を支払った段階で、純資産価額方式で株式を評価すると、自社株式の評価は「ゼロ」となります。

会社は多額の役員退職金を支払うことになりますが、役員退職金規程が整備されていれば支払いの根拠ができます。また、退任役員への退職慰労金贈呈が株主総会の決議により承認されていれば、会社法上の問題はありません。

一方、会社が過大な役員退職金を支払った場合、法人税法上、役員退職金の損金計上が否認されるケースがあります。ただし、役員退職金が「不相当に高額であるか否か」の判定は企業規模や役員の在任期間などから税務署が下すため、会社では支払った役員退職金が「不相当に高額であるか否か」の判断をしにくいのが実情です。通達などで明らかにされていない事項もあります。税務署の判断と会社の税務上の処理が異なるリスクを低減するために、税理士などの専門家に相談しましょう。

以上(2021年2月)
(監修 税理士法人アイ・タックス 税理士 山田誠一朗)

pj30069
画像:pexels

回収原資を見つけ出す方法「財産開示制度」

こんにちは、弁護士の皆元大毅と申します。
今回は、「債権回収」をテーマとするりそなCollaborateの連載第2回になります。
第1回の「売掛金を回収する基本的な方法(債権回収)」では債権回収の方法について解説しましたが、そもそも相手方が「どこに、どのような財産を持っているのか」を把握していなければ、債権回収を実現することは難しいでしょう。
そこで、第2回は、企業が相手方の財産を調査する方法について解説していきたいと思います。特に、創業間もない経営者にとって、相手方から売掛金を回収することは会社の存続に関わる重大なことですので、少しでもご参考にしていただければ幸いです。

1 財産開示制度について

財産回収の実効性を高めるための方策として、民事執行法という法律の中に、裁判所の手続を通じて債務者の財産を明らかにする財産開示手続という制度が存在します。これは、債務者が裁判所に出頭し、債務者の財産状況を陳述することにより、債務者に自ら財産の所在を開示させる制度です。
 判決等の債務名義(第1回で詳細を解説しています)があるものの、相手方にどのような財産があるか分からないとき、企業がこの手続を利用することが考えられ、そこで得た情報をもとに債権回収のために強制執行手続を利用することになります。

    深掘りキーワード

    • 財産開示制度

    企業等(債権者)が相手方(債務者)の財産に関する情報を取得するため、相手方(債務者)が裁判所から呼出しを受けて、裁判所で自らの財産状況を陳述する手続を言います。

他方、財産開示制度は、債務者の不出頭や虚偽陳述に対して過料という行政罰しか存在しません。つまり懲役刑や罰金刑がなく、実際には相手方から財産状況を正確に聞き出せないケースがあり、そこまで使い勝手がよくないという指摘もされていました。
また、専門家からもこの制度の在り方を見直す必要があるとの指摘がなされ、このような経緯を踏まえて従前の財産開示制度は全般的な見直しを図られることになりました。その結果、2020年4月に民事執行法が改正され、これに伴い財産開示制度が改正されるとともに、官公庁や金融機関等からの情報取得手続が新設されることになりました。まずは、2020年4月1日から新しくなった財産開示制度の概要を解説したいと思います。

2 民事執行法の改正ポイント

1)財産開示制度の見直し:利用条件の緩和

2020年4月1日の民事執行法改正により、財産開示制度がより利用しやすくなりました。具体的には、これまで公正証書を用いて財産開示制度を利用することはできませんでしたが、これらの書類でも財産開示制度を利用できるようになりました

2)財産開示制度の見直し:罰則の強化

従来の手続では、財産開示を申し立てられた債務者が、次のような場合に30万円以下の過料(行政罰)が科されていました。

  • 裁判所の呼出しを受けたにもかかわらず、期日に出頭しない場合(出頭拒否)
  • 裁判所から呼出しを受けた期日で宣誓を拒んだ場合(宣誓拒否)
  • 裁判所から呼出しを受けた期日において陳述すべき事項を陳述しない場合(陳述拒否)
  • 裁判所から呼出しを受けた期日で供述を偽った場合(虚偽陳述)

しかしながら、過料(行政罰)だけでは制裁力に欠け、また、金額自体が低いこともあり、財産開示を強制させる機能は十分とは言えないという問題点がありました。
この点を踏まえて、民事執行法の改正により債務者への罰則が強化され、前述した1.出頭拒否、2.宣誓拒否、3.陳述拒否、4.虚偽陳述の場合には、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金に処されることになり、債務者に強い制裁が科されることになりました。
実際に、民事執行法の改正後、財産開示手続を無視した債務者が書類送検された事案も実際に存在します。これにより、現在、企業は、「無視すれば諦める」と考えていた相手方企業や個人に対し、相当のプレッシャーを与えながら財産調査を進めることができるようになりました。

3)情報取得手続の新設

2020年4月に創設された第三者からの情報取得手続により、企業は支払に応じない相手方の財産に関し、それぞれ関係機関に対して次のような開示を求められるようになりました。

  • 登記所に対して、不動産に関する情報
  • 市町村や日本年金機構等に対して、給与債権に関する情報
  • 銀行等に対して、預貯金債権等についての情報

この制度を利用すれば、企業は、相手方に知られず第三者(銀行、登記所等)から債権回収に必要な情報(不動産の所在地、預貯金の有無及び残高等)を取得することができます。相手方が企業のケースでは、給与債権は通常想定されませんので、以降では、不動産の情報取得手続と預貯金債権等の情報取得手続の概要について説明します。

    深掘りキーワード

    • 第三者からの情報取得手続

    債権者(企業等)の申立てにより、裁判所が金融機関や官公庁に問い合わせをし、債務者の預貯金口座、所有不動産、勤務先に関する情報を取得できる制度を言います。

3 情報取得手続でできること

1)登記所からの不動産に関する情報取得手続

この手続は、企業の申立てにより、裁判所が登記所に対して債務者の不動産に関する情報の提供を命じる制度です。
企業が相手方の所有地を正確に把握していない場合、この手続を通じて、登記所から、相手方が所有する土地または建物を差し押さえるために必要な情報を取得することができます。これにより、企業が相手方の不動産に関する情報を取得し、その情報をもとに不動産を売却処分するための強制執行手続を進めることができるようになります。

2)預貯金債権等の情報取得手続

この手続は、企業の申立てにより、裁判所が銀行や信用金庫等に対して債務者名義の銀行口座の有無とその残高情報の提供を命じる制度です。この制度は、企業が相手方に知られることなく銀行口座の有無とその残高を調査することができる点に大きな利点があります。他方、世界中に存在する全ての銀行を対象にして網羅的な探索をすることができないことに留意が必要です。
実際に、この制度を利用する場合には、企業が一定の手数料(一行につき約5000円程度)を支払った上で、企業自身が探索したい銀行を特定する必要がありますので、探索したい銀行が多ければ多いほど手続費用がかかります。
また、外国銀行の本店または海外支店に存在する預貯金に関する情報の取得は難しいため、相手方が外資系企業の場合には、この手続を利用しても銀行口座を特定するのが困難なケースもあります。

さて、第1回と第2回では、企業が相手方から強制的に債権回収を行う際に利用する裁判手続の概要について解説してきました。第3回は、回収原資となる財産を早期に確保する保全手続について解説します。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年2月2日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

【朝礼】営業の現場で使える「4H」

今日は、もうすぐ始まる新年度にスタートダッシュを決められるよう、皆さんに覚えておいてほしいことを話します。

皆さんは、「3H(さんえいち)」という言葉を聞いたことがありますか? 「初めて」「変更」「久しぶり」の最初の文字「H(えいち)」を取ったもので、人がミスや間違いを起こしがちな作業シーンを表しています。初めての作業、変更があった作業、久しぶりの作業はヒューマンエラーが起きがちなので注意しましょうということで、主に工場などで使われていると聞きます。

私は、この3Hは、営業の現場でも同じだと考えています。営業はお客さまとコミュニケーションを取るのが大事な仕事ですが、特にコミュニケーションを取ってほしい、気を配ってほしい場面があります。それが、この「3H」の「初めて」「変更」「久しぶり」なのです。

例えば、お客さまの窓口担当者が変わり、「初めて」の方が担当になったときを想像してください。新しい担当者は、恐らく、自分が担当することになった案件や業務を精査し、見直そうとします。つまり、こちらのアクション次第でチャンスにもピンチにもなるのです。「初めて」の担当者に対しては、挨拶と同時に、そのお客さまがこれまでどのように当社のサービスを使ってくださっていたか、課題は何か、他のお客さまはどう使っているか、当社ができることは何か、そうしたことを早めに、しっかりと説明しましょう。

お客さまがこれまでと違ったことを依頼してきたとき、つまり何か「変更」があったときも同様です。お客さまが新しいことを考えているかもしれませんし、こちらが気付いていない課題が出てきているかもしれません。必ず「なぜそうした変更があるのか」を尋ねましょう。これも、チャンスにもピンチにもつながります。

そして、営業ではなるべく「久しぶり」はないほうがいいのですが、疎遠になってしまったお客さまがいる場合、ホームページやプレスリリース、業界ニュースなどで新しい動きがあったら連絡を取るチャンスです。ニュースを見ましたと、「久しぶり」に連絡を取り、お客さまの近況を聞いてみてください。そこには、新しいチャンスが隠れているかもしれません。

以上が「初めて」「変更」「久しぶり」の「3H」ですが、私は、もう1つ加えて「当社の営業の4H」にしたいと思います。4つ目のHは「ハイブリッド」です。当社ではオンラインの営業も取り入れ、対面とオンラインの両方で、ハイブリッドな営業ができるようになっています。このことも、お客さまとコミュニケーションを取るチャンスです。「対面でもオンラインでもお話しできるようになりましたので、どちらでもご希望のほうで、ぜひお会いしたいです」と連絡を入れてみてください。お客さまと話をするきっかけになるでしょう。

お客さまとコミュニケーションを取る際の「4H」。新年度、ぜひ実践していきましょう!

以上(2021年2月)

pj17023
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】新しい生活様式に、歩くことを取り入れよう

今朝のテーマは、「皆さんの健康管理」です。これまで何度も話をしていることですが、年末のこの時期、改めてお伝えします。

特に、健康管理に関心が薄く、運動をしていない人はよく聞いてください。健康は自身だけの問題ではありません。健康を害すると、家族はもちろん、病欠に伴う業務の穴埋めをする上司や同僚にも迷惑を掛けることになります。

私は病気になることが悪いと言っているのではありません。避けられない病気もあります。ですが、日ごろから健康管理を怠るべきではないと言いたいのです。

私のお勧めは歩くことです。道具などを使う必要はなく、費用も掛かりません。何より体への負担も小さいので、無理なく行えます。例えばエスカレーターでなく階段を使ったり、目的地の1つ前の駅やバス停で降りて歩いてみたりと、自分の工夫次第で、ちょっとした時間を利用して実践できることもメリットです。

私は1日1万歩を目標に、いつも歩数計を携帯して歩いています。コロナ下で外出する機会が減っているため、歩数チェックを毎日行って歩くことを意識しなければ、目標は達成できません。私なりの新しい生活様式に、歩くことを取り入れようとしているのです。

私が歩くことで健康管理につなげようと考えたきっかけは、江戸後期に精密な日本地図を作成した伊能忠敬(いのうただたか)です。

忠敬は、当時では人生の晩年ともいえる55歳から70歳過ぎまでの約17年間かけて、全国を歩いて測量し、日本地図を作成しました。踏破した距離は、3万5000キロメートルとも、4万キロメートルともいわれています。1日の歩行距離は、40キロメートル程度に上ったそうです。

実は忠敬は、元来は体が強いほうではなく、持病のぜんそくに悩まされていたといいます。当初は測量中に発作が起きることもあったようですが、発作は次第になくなっていったそうです。歩き続けることで心肺機能が高まり、体が強くなったのかもしれません。歩くことは、何歳から始めても効果がある、という良い事例です。結局、忠敬は、当時では長命の73歳で亡くなりました。

古代ギリシャの医者で「医学の父」とも呼ばれるヒポクラテスも、「歩くことは人間にとって最良の薬である」という言葉を残しています。近年の研究では、1日8000歩歩くことが、がんや生活習慣病などにかかるリスクを低下させる、という報告もあるそうです。また、歩きなどの適度な運動には、免疫力を高める効果があるともいわれているので、風邪やインフルエンザなど、さまざまな感染症にかかるリスクを低減させることも期待できます。

私は、健康管理に努めることは、社会人としての最低限の義務だと思っています。皆さんは、そのために自分に何ができるか、考えてみてください。

以上(2020年12月)

pj17032
画像:Mariko Mitsuda

事業も素敵、ド真剣、それ以上にビジョンが素敵、さらに実践も。25歳女性起業家の巻〜【世界をまるごとハッピーに。】その活動を聞きました〜/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、大槻 祐依さん(株式会社FinT代表)です。

25歳女性起業家、そして可愛らしい、それだけでこのコーナーに取り上げた? 実はそうではありません。これだけ事業の内容もしっかりし、ビジョンもしっかりした経営者さんが、たまたま25歳の女性である。それが今回取り上げさせていただいた次第です。女性向けのメディア運営、SNSマーケティングと今どきの事業概要ですが、コンシューマー向けサービスでは名だたる企業から仕事を受注している、しかも単発仕事ではなく継続的に取引がある。それも理念に沿った運営をしている。だからこそ、社員さん、お客さん、取り巻く周囲の皆さんがハッピーである、その仕事への取り組み方姿勢に、インタビューしながらある意味感動すら覚えたのが今回の大槻さんです。

1 インタビューの感想を最初に

1)日本情報マートのお二人から

いつもこのリポートのインタビューの際に私に付き添ってくださって真剣にお話を聞いてくださる、松田さんと梅津さん、そのお二人が今回かなり感動の領域にまで喜んでくださいました。冒頭ではありますが、お二人のインタビューの感想から披露したいと思います。

●松田さんの感想
大槻さんとのインタビューを通じて、すごく温かいものを感じました。何を大切にすべきなのか? の中心に「愛」があって、それが全くブレないところから発するエネルギーは心地よかったです。地道な努力を積み重ねながら少しずつクライアントと信頼関係を構築していることからも、誠実な印象を受けます。

感じる力、挑戦する力、やり抜く力

これらを原動力として、「小さなことでもいいから、まずは一歩を踏み出す。失敗したってそれは成功のもと」と考える。
構えず、自然体でこう考えるようになる背景には、素晴らしい家庭がありました。
きっと会社のメンバーにとっても非常に働きやすい会社なのだろうなと思います。
とても良いお話をお伺いすることができ、学びの多い時間でした。本当にありがとうございます!

●梅津さんの感想
「世界をまるごとハッピーに」を掲げる大槻さんのインタビューをお伺いして、一番に思うのは、「大槻さんにお会いできて、まず、私がハッピーになりました!」ということです。

誰かをハッピーにしたい、世界をハッピーにしたい、そしてそれは自己犠牲ではなく、もちろん自分自身もハッピーでありたい。こうした大槻さんの本気の思いや熱量は、多くのことを学ばれて、具体的な実績もあるからこその、ずっしりとした厚みを感じましたし、心から感動しました。

愛×努力と実績。

大槻さんからは終始、ご両親、世界、メンバー、事業、コンテンツなど世の中全てに対する「愛」を感じました。その上で、努力され、勉強され、実績を積まれている。本当にすごい方です。
さらに、ご自身をよく知っておられるとも感じました。ご自身の考え方や課題などもよくわかっておられて、全てを素直に受け止め、全力で前向きに努力されていると感じました。

大槻さんがいてくださったら、これからの世界は大丈夫! と思いました! 多くのことを勉強させていただきました、素晴らしい時間でした。本当にありがとうございました!

2)大槻さんをご紹介くださった森岡さんのコメント

森岡さんは日本では珍しいAmazonブティックエージェンシーである株式会社ウブンを経営されています。大槻さんの先輩経営者で、私に素晴らしい若手経営者として大槻さんをご紹介くださいました。森岡さんから見た大槻さんについてコメントを寄せていただきました。

■大槻さんの経営者としての人となりと印象、事業や仕事ぶりについて

  • イーストベンチャーズのインターンを経て確かそのまま起業を実現している彼女。イーストベンチャーズから出資受けていることからも、「人となり」と「優秀さ」を信頼されて(≒期待されて)の出資と紹介してくださった人から聞いています。
  • スタートアップ・ベンチャーキャピタル界隈で起業する多くの若手経営者のように、「プロダクト=事業」といった起業家になるため、成りたくて起業と思っていたのですが、何度か話をするうちに「この子は起業の先の経営を見ていて、経営者として成長していきたいんだな」「物事の考え方が経営者としてのベースを持っているんだな」と感じることが多く、この子の下に将来優秀な起業家が集り、より会社や事業が成長していくんだなと感じました。

    多くの若手起業家は事業家どまりで、そこから先の経営者になれない人が多いのですが、既に経営者としての素質を持っていると感じています。
  • FinT社の名前の由来はフィンテック。創業後市況が悪く事業をピポットし今成長していることからも、事業ではなく経営目線で運営していることが伺えます。
  • 事業はメディア事業とSNSマーケティング支援事業を運営。
    若くして起業し、知名度もない大槻さん&FinTさんがまずやったのは、メディア事業の創造。
    メディアは20代の女性向けメディア(Sucle)
    下記リリースの通り、


https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000044523.html

自らメディアを立ち上げ、運営1年半でインスタフォロワー30万人突破させ、その運営ノウハウを生かして、企業のインスタマーケの支援をする形で、メディア事業→SNSマーケティング支援事業を一気に立ち上げました。

このやり方も見ても起業家、事業家とよりも経営者という言葉が似合うと思います。

彼女は自分自身が一番強い、そしてターゲット自体も自分である、「20代女性向けメディア」を普段使い慣れている「インスタ」を活用し、立ち上げ、収益化をしていき、【できそうなことをやってできることを増やしていきました】。
また、今度は【今できることからもう一度できそうなこと(=インスタマーケ支援)】をやり、まさにランチェスター戦略の連続(ニッチな領域×1番になれること)で、事業創造、推進をしていっているように感じます。

  • また、これは言っていいかわかりませんが、人と組織を見る目があり、事業が成長していなかったり、スタックしていると見るや課題と要因を見抜き、ボードメンバーの配置や役割変えなどもすぐに実行する「目利き」と「実行力」があると感じてます。

私の受けた彼女の印象は「謙虚」「肝っ玉が座っている」「短絡的ではなく長い目で物事を見られる優秀さがある」方と見ています。
実年齢は若いですが、落ち着いていてしっかりしていて自頭よく、将来が本当に楽しみな経営者の方です!

と皆さん、大槻さんのことを絶賛であり、ファンになる、それこそハッピーになる、特に冒頭のお二人はオンライン上で初めて、そして1時間でこの感想と。特に梅津さんはインタビュー後半感動のあまり涙ぐんでいらっしゃいました。大槻さんの考え方、事業への取り組み姿勢がなぜこうなっていったのか、大槻さんのプロフィールを深堀りしながらお話を進めたいと思います。

2 大きな影響、変化があった高校と大学時代のお話し そして起業へ

1)高校時代にホームステイを受け入れたことで世界が広がった

トビタテ留学JAPANのポスター画像です

こちらのポスターは、文部科学省の留学奨学金を活用してのプログラム。トビタテ留学JAPANのサイトはこちらです。この写真の主が大槻さん。当時大学2年生、ご自身もこのプログラムで留学経験があります。この留学や海外との関わりのスタートは高校生の時。それは1年生の時にホームステイを自ら応募し、受け入れて、オーストラリア人セーラさんに日本のお菓子に興味、日本流のファッションと、折角日本に興味を持って留学しているセーラさんに自身でいろんなプランを考えて、たくさんの体験を提供することをやっていたらものすごく喜んでもらったこと。
この経験ってもっと多くの日本に訪れる外国の人々に体験してほしい、紹介したいとこの頃から考えるようになっていたそうです。この経験が大学に入学と同時に大きく寄与することに。

2)大学入学とともに起業家養成講座へチャレンジ そして日本を代表する大学生へ

中高一貫の普通の女子高出身、ビジネスとは縁遠い中で大学生活をスタートしたと話す大槻さん(早稲田大学文化構想学部に入学)。簡単に単位が取れるかも、と思って友人たちと相談し、違う学部だった起業家養成講座を選択、そこの講義でたくさんのオモシロイビジネスマン、多様な経歴の方々のお話しを聞く機会を得たことが起業家への道の入口に。1年生の時に、大学内のビジネスプランコンテストに応募し、見事優勝! という栄冠を勝ち取ります。この時のビジネスプランの内容が、前述の高校時代のホームステイ経験を生かして、「訪日外国人旅行者向け日本文化体験企画運営会社」というインバウンドのプランを発表しました。外国の方々の本当に欲しい物を実現したい、世界と日本を本気でつなげたいという熱意をぶつけたそうです。
このコンテストチャレンジの際に、仕事帰りのお父様が何度もピッチの練習に付き合い、精度を上げていったことも大きいと振り返ります。素敵なお父様ですね。2015年2月、このコンテストのご褒美(副賞)にシリコンバレーへ招待のプログラムでたくさんの現地の起業家に会い、5週間滞在することになったそうです。帰国後、大学2年生時にベンチャーキャピタルでインターンを経験後、2年の途中からシンガポールへ留学(これがトビタテ留学JAPANのプログラム)し1年間、多岐にわたる経験ができたそうです。
なかなかここまでの経験を持つ大学生もお目にかかることは無いですが、ご本人も大学3回通ったくらいの経験をしたと話されていました。

大槻さん近影です

【最近の大槻さん】

3)起業への道

シンガポールから帰国後、IT系メディア会社でインターンの後に起業を決意します。当初は、シンガポールに留学していた際に感じた、お金のこと、お金の価値について日本の大学生は勉強していない人が多い。シンガポールでは当たり前だったファイナンスの知識を持ち合わせることが日本の学生には必要と、ファイナンスと学生を近づけることを事業目的としてFinTを立ち上げます(最初は学生向けフィンテックで起業だったんですね)。
大学生の仲間と一緒に共同創業者として起業するも、フィンテックが自分のやりたいことではないことに気づき半年ほどで解散、自分一人になって、自分のやりたいことは何かを考え、2017年12月に女性向けのメディア「Sucle(シュクレ)」を立ち上げたいとそこからやりたいことを仕事にしたことで勢いもつき1年でインスタのフォロワーが55万を超えています。(Sucleに関しては4つのメディアを展開。その合計数)
このメディアを運営しているといろんな方々から大槻さんに相談が舞い込むようになってきてボランティアでノウハウを提供していると気づけばそれが専門家となっていることに気づいたり、周囲からもその専門領域の事業化を進められ、コンサルしているうちにさらに自身のレベルも上がって今度は運用代行の事業化へと入っていきます。まさに関わるみんながハッピーになっていったと話します。

3 FinTの事業について

1)会社について、大切なビジョン、そこにお母さんも手伝っていることが大きい

現在のFinT社は、社員15名、業務委託を含めると40名。4期目に入ります。
会社のビジョン、HPの冒頭に掲げていらっしゃいます。

FinT社ビジョンの画像です

    【世界をまるごとハッピーに。】
    つくりたいのは、
    サイコーにハッピーな世界。
    簡単なことじゃない。
    でも、本気で思ってる。
    だから、まずは自分たちから
    ハッピーになる。
    誰かの犠牲の上に成り立つ幸せなんて、
    きっと長く続かないから。
    わたしたちは、
    好きなことや得意なことで、
    今日もみんなをハッピーにする。
    思いっきり、楽しみながら。

これからの時代、自分を犠牲にしたり、誰かを犠牲にすることをビジネスにしないことが本当に大切と思います。変な売り込みでは買う側、売る側、誰も幸せにならない、正直に向き合うことの大切さ。江戸時代の【近江商人】のように、陰徳善事の考え方にも近いと思います。

大槻さんにお話しを伺っていて時々、お母様のことが話題にでます。大槻さんの会社で大きな役割を果たされているのがお母様。大槻さんのお母様は普段税理士事務所にお勤めの傍ら、FinT社の経理部長の役割を担っているそうです。会社全体が丸裸です! と大槻さんは笑います。ちゃんとした大人がバックアップをしている体制もFinT社の強みに感じます。

ご両親が小さな頃から、機会提供をし続けられたこと、選択権を大槻さんに与えながら、自分で考える、一歩を踏み出す勇気を持つことができたことも、会社経営の大きな礎につながっていると感じました。素晴らしいご家族だと思いました。

2)事業概要について

FinT社の事業の柱は、2つ。自社メディアの運営(そこにノウハウの蓄積ができていることが大きい)、そしてクライアント企業のインスタを中心としたSNSマーケティング。クライアントは有名企業からも多数あり、現在までに累計80アカウントを超えているそうです。当初から売り込むのではなく知り合いからのご紹介の連続だったと。

FinT社の事業概要の説明資料を示した画像です

大手広告代理店でも、SNS上でキャンペーンを行ったり、フォロワーを買うようなことを提案するところがあることは私も聞いたことがあります。しかし、数があっても、なんの興味もない人々の集合体、FinT社のクライアントとその先のお客さんとのエンゲージメントを高めることが一番大切。そこにフォーカスして事業を進めているそうです。
クライアントには出版会社、アパレルブランド、美容、生活商材と幅広く、年齢層としては20代?40代向け女性向けの商材が中心領域となっています。

あと少しでフォロワー数が70万に近づいている、【わたしの節約(MATE)】、2019年の初めにスタート、0から半年間で30万フォロワーを獲得しています。詳細はこちらをご覧ください。
上記以外にも、10万、20万のフォロワーを獲得していたり、運用企業側(同業者)からの紹介まで最近は始まっているそうです。

3)大手企業からも発注が続く

得意なこと好きなことをみんながやっているからこそクライアントからの評価が高い。しかも緻密に丁寧に対応していることを伺いました。
大槻さんは、SNSを自社運用できる会社は自社でやった方が良いと話します。自社でリソースが割ける会社や、投下できる資金に余裕のないベンチャー企業のお客様は少ないとも。
80を超えるアカウントを運営していて、継続率も相当高いレベル。その中で事例を2つ以下にて。

メルカリの事例を示した画像です

・メルカリについての事例

SNS運用していなかったところ、一度話し合いをし、出品者が少ない、それを増やしたい、インスタの利用者に主婦が多く、ちょうど節約に親近感を持っている人が多く、出品者へのトリセツ的な立ち位置で真に利用したいというファン作りを行っているそうです。

サボンの事例を示した画像です

・サボンについての事例

きれいな世界感、いい写真だけにこだわってきたものの、さらにエンゲージメント ユーザーの口コミを増やしたい、FinT社では写真一枚一枚へのこだわりも工夫、口コミ3倍にもなっている、黄金式をみつけることに注力していると大槻さんは話します。具体的には、商品写真そのものにもこだわるが写真に写り込んでいる周りのモノ、時には蓋が閉じている、閉じていない、水道の蛇口が、金色とそうでないのとで反響が違う、その細かい一つずつ、ロジックを見出し、意味付けして工夫を重ねるという丁寧さ。
フォロワーを金銭で買うようなことは一切していない。これも商品への【愛】をもっているかどうか。

これだけの【仕事】をしているからこその単価でもあるそうで、月間50万円?100万円程度のコストが必要だそうです。

4)今後の展開について

大槻さんに今後の展開にコメントをいただきました。

    会社の大きな方向性としては、昨年掲げた「世界をまるごとハッピーに」というビジョンをもっと大きく社会に打ち出していきたいと考えています。
    昨今は新型コロナウイルスの影響があり、今世界はどこに行ってもみんなが苦しい状況にあります。この状況下で「世界をまるごとハッピーにする」とわたしが壮大なビジョン掲げている以上、会社として顧客のみなさまをいろいろな形でハッピーにしながら、全力でメンバーの好きなことや得意なことを生かしてハッピーになれる環境を整えたいという願望と、責任を感じています。経営者としても、この苦しい状況でも負けずにわたしが挑戦していくことが、他の誰かが何かをチャレンジする時のきっかけになるのであれば、それほど私がハッピーになることはありません。誰かの良きロールモデルとなれるよう、引き続き頑張っていきたいです。

    事業に関しましては、「SNSマーケティングといえばFinT」と言われるような実績と信頼を積み上げていきたいです。
    つい昨年、デジタルの広告費がテレビメディアの広告費を抜いたというニュースがありました。それに付随するようにしてSNSマーケティングもいよいよ多様化・本格化しており、社会の流れの変化を感じています。そんな中で、学生の頃から日常的に接していたSNSで様々な施策や取り組みができること、若いからこそ感覚的にわかる部分を生かせるSNSマーケティングに携われていることに、とても誇りに感じています。自分たちが得意とするSNSで企業様のサポートをすることは、まさにビジョンにもあるような「好きや得意を生かす」ということにもつながるからです。これから、より市場が大きくなることは予想されるため、既存の運用代行に止まらず、広告運用やライブ配信、インフルエンサー事業やタイアップの商品開発など、販売促進としてSNSでできることを幅広くカバーしていきたいです。

    最後になりましたが、このような機会を設けてくださり、本当にありがとうございました。
    聞き手がここまで素敵な方々で、褒めてくださったり、自分の振り返りとなる質問をしてくださると、「ハッピー」な取材になるのだと感じました。
    とてもポジティブな気分になれました。世界をまるごとハッピーにできるよう、愛を持って頑張ります!

自己犠牲なく、関わるみんながハッピーに、そしてSNS運用といえばFinT! て言われたい。この業界で日本一になりたいと話します。そのためにも何度も仮説検証を正しくやっていく、そして自社メディア、シュクレもガッツリ伸ばしたいとも。まだまだ海外に行き足りていないけども、世界や、世界の人々に課題がたくさんあることがわかった、その解消・解決のために自分たちでできること、いろんな事業をやっていきたい。古着、コスメ、好きや得意から事業を立ち上げられる、ちゃんと事業をやっていけたら良いなと思っていますと。

大学生の頃から誰かのロールモデルになりたい、これも大切にしているところ。留学生になった経験で、周囲の人にも影響を受けて行動を起こすことのきっかけになった。これからも私がチャレンジすることで周りのハッピーになったら良いと思う。

10年先20年先については、まだ全く見えていないところが課題ですときっぱり、未来視点を持ちながら、そのために今を一生懸命に頑張る、いろんな勉強、知識を得たいと超前向きに、視座を上げていく。

私自身もこのインタビューさせていただいてハッピーでした、大槻さんにまるごとハッピーにしてくださいました。
感じる力が強いこと、これはご両親の影響が大きい、これをやっては駄目だと単に否定するのではなく、選択の機会を広げ、失敗体験、成功体験の経験値を上げることができる環境を提供することが大切ですね。
また、まず一歩を踏み出すことが大事であること、失敗は成功のもと、大きなことだけをやるのではなく小さな成功体験を積み上げていく姿勢にも共感しました。

最後に、このリポートが良いところにフォーカスしていることに大槻さんから褒めてくださったことに感謝しています。ありがとうございました!

この記事を作成するにあたり、以下の記事を参考にさせていただきました。

早稲田ウィークリー【自分世代のトレンド発信で女子大生の心をつかむ早大生起業家】2018年7月

以上(2021年2月作成)