出張の削減も 現地視察をオンラインで代替できる最新映像技術

書いてあること

  • 主な読者:コロナで海外や県外などへの移動がしにくく、現地視察ができない経営者など
  • 課題:「リモート視察」の方法としてVR(仮想現実)などの現状を知りたい
  • 解決策:VRでできること、メリットなどを把握し、自社で利用を検討する

1 コロナで注目「新しい見学様式」

新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大から、1年近くが経とうとしています。こうした中、外出の自粛が要請されたり、海外や県外などへの移動が制限されたりしています。ビジネスシーンにおいても、Zoomなどのオンラインツールが急速に普及するなどし、「リモート○○」と呼ばれる、「新しい生活様式」に対応するような取り組みが定着しつつあります。

その一つに、VR(Virtual Reality、仮想現実)などの技術を活用し、遠隔地にある工場や倉庫などの生産・物流拠点を、あたかも訪問したような体験ができる「リモート視察」を導入する動きも出てきました。

遠隔地訪問による感染リスクを抑え、さらに出張費用や訪問に掛かる時間まで削減できる、VR関連技術などを活用した取り組み事例や、導入のコツなどを確認してみましょう。

2 「リモート視察」こんなことができる

1)VR海外出張 NEWJI×floorvr

製造業向けに資材調達や購買業務を支援するNEWJI(ニュージ)は、VR関連の映像サービスを提供するfloorvr (フロアブイアール)と共同で、海外工場を国内からオンラインでリアルタイムに視察できる「NEWJI VR」のβ版を、2020年8月にリリースしています。

NEWJI VRは、海外との取引が増える製造業において、購買部門や品質管理部門による人的、経済的な負担の大きい海外出張を軽減するために開発されました。資材の調達先などを視察したい企業の担当者は、NEWJI から提供される専用ゴーグルを装着し、現地に設置された配信機材を通じて、現地の映像を360度シームレスに見ることができます。

海外との取引が多い総合商社や大手メーカーによるNEWJI VR体験事例が紹介されていますが、現場感が伝わってくることや、タイムラグのない高画質などが評価され、高い顧客満足度を獲得しているようです。

NEWJI VRの紹介ページでは、出張予算の簡単なコストダウンシミュレーションも行うことができ、出張予算が年間80万円以上掛かる場合には、コストメリットが見込めそうです。

■NEWJI■
https://company.newji.ai/
■floorvr■
https://floorvr.jp/
■NEWJI VR 紹介ページ(イメージ動画が再生できます)■
https://newji.jp/vr-factory

2)VR展示会 シンボシ

映像やスマートフォン向けアプリの制作を手掛けるシンボシは、仮想空間に展示会場を再現したVR展示会を提供しています。

このVR展示会はVR画像と、その画像に関連する説明動画を組み合わせて表示できるのが特徴です。VR展示会場は、実際の展示ブースを基に生成され、訪問者は仮想ブース内を「Google ストリートビュー」のように移動することができます。展示物の詳細情報は、仮想ブース内に「レ点マーク」で表示され、カタログなどが閲覧可能です。詳細情報には、PDF形式の説明資料の他に、オンラインショップなどのURLも添付できるため、仮想ブース内で商品を確認し、オンラインで注文を促すことも可能です。

また、VR展示会では訪問者数や展示商品の詳細情報のクリック数などのデータを収集することができるため、「展示会に出展してみたものの、効果がよく見えない」という、リアルな展示会にありがちな課題も解消できそうです。

■シンボシ■
https://www.simbosi.co.jp/

3)VRで不動産物件を内見 NURVE

 VRコンテンツのプラットフォームを提供しているNURVE(ナーブ)は、VRゴーグルを用いて、マンションやアパートの室内を内見できる「VR内見」を不動産業者などに提供しています。

VR内見は、部屋を探している顧客が、不動産会社の店頭でVRゴーグルを装着して部屋の様子を把握することができます。VR内見を使うことで、内見予定の現地までの移動時間を短縮でき、より多くの部屋を紹介することが可能です。

同社は、VR内見をさらに発展させ、顧客と不動産会社がオンラインで会話しながら部屋を内見でき、商談も同時に行える「パノラマオンライン商談ツール」の提供を、2020年7月から開始しています。

こうしたサービスに加え、旅行先のホテルなどをVRで事前に確認できるサービスなども同社は提供しています。

■NURVE■
https://www.nurve.jp/

(注)「VR内見」「パノラマオンライン商談ツール」は、ナーブ株式会社の登録商標です。

4)3Dホログラム会議 イトーキ×ホロラボ

オフィス関連家具の製造などを手掛けるイトーキは、3D映像などを制作するホロラボと共同で、リアルタイム遠隔3Dコミュニケーションシステム「HOLO-COMMUNICATION」の法人向けの提供を、2020年5月から開始しました。

Microsoftのゴーグル型デバイス「HoloLens 2」や、AIセンサーなどを搭載した開発者向けデバイス「Azure Kinect DK」で構成するHOLO-COMMUNICATIONは、遠隔地の会議参加者の姿を立体的に生成することができます。従来のウェブ会議システムに比べ、映像が3Dで生成されるため遠隔地の会議参加者同士がよりリアルに感じられ、対面での会議と遜色のないコミュニケーションを取ることができます。

HOLO-COMMUNICATIONは、3D映像のニーズ調査や遠隔地との会議などの目的に適したシステム一式の提供プランと、自社アプリの開発を想定した開発パッケージ付きのプランの2つがあります。

■イトーキ■
https://www.itoki.jp/
■ホロラボ■
https://hololab.co.jp/
■HOLO LAB HOLO-COMMUNICATION紹介ページ(イメージ動画が再生できます)■
https://hololab.co.jp/holo-communication/

3 「リモート視察」導入のコツ

実際に「リモート視察」に取り組んでいる企業の評価はどんなものがあるのでしょうか。画像が固まったり、乱れたりして何が映っているのか把握できないことや、「やっぱり現地に行って目で見るのが一番!」という意見もあるかもしれません。導入事例はまだ少ないものの、「リモート視察」導入を進めている企業からは次のような話が聞けました。

海外から産業資材などを輸入する商社の場合

  • 導入の背景

主に中国や東南アジアで製造した鉄鋼製品や樹脂製品などを輸入・販売しており、輸入前の製品の確認や、不良品発生時の現場確認などに海外工場へ視察することが多かった。こうした中、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて海外へ渡航することが困難になったため。

  • 導入の狙い

当初の目的としては現地視察の代替・補助を想定していたが、海外工場と国内でやり取りがスムーズに進むようになれば、顧客への工場紹介や現地視察の経験が少ない社員・新入社員への事前レクチャーにも活用できそうだと感じている。

  • 想定する運用方法

当面は、目視などで済むレベルの業務(製品の外観などのチェックや、不良品発生時の現場の状況確認など)での運用を想定している。不良品などの確認は、映像だけで安易に判断を下せない場合もあるため、実際に現地に足を運ぶ必要がある。

  • コスト感について

中小・中堅企業にとって、「リモート視察」の導入コストは、「正直安いものではない」ものの、毎回の渡航・滞在費、現地および国内の人員・日程調整などをトータルで考えると、メリットがあると感じている。特に、中小企業でも海外出張や海外とのやり取りが普段から多い企業の場合、検討に値するのでは。

  • 「リモート視察」試してみた“気付き”

本格導入はこれからではあるものの、当初の想定よりも活用方法は可能性があると感じている。例えば、これまでは海外工場を紹介する場合は、パンフレットや画像などで対応していたが、「リモート視察」であれば、その場で細かい質問などのやり取りなどができ、現地の詳細をより理解できると感じる。

また、経済産業省などの関係機関も、民間企業によるVR関連技術のビジネスシーンへの導入を支援しています。近畿経済産業局では、コンテンツ産業支援室が旗振りとなってセミナーの開催や、導入の手引書などを公開しています。

■経済産業省 近畿経済産業局 関西でのVR/AR/MR活用促進の取組■
https://www.kansai.meti.go.jp/3-2sashitsu/vr/index.html

4 大きく伸びるVR関連市場

これまで紹介してきたVRなどの技術は、実は長い歴史があり、古くは1960年代に発明された、ニューヨークの風景が再現されるシミュレーター「Sensorama(センソラマ)」まで遡るともいわれています。その後、幾度のブームと沈静化の波を乗り越え、近年の本格的なブームが到来しています。

VR関連技術などの市場規模としては、IDCやIHS Technologyなどが推計しています。

IDC Japanのプレスリリースによると、日本国内の「AR/VR関連市場」の市場規模は、2023年には34.2億ドル(約3600億円)、2018〜2023年の5年間の平均成長率(CARG)は21.5%と予想されています。

5 最後に:VR? MR? AR?「没入感」がキーワード

ここまで、VRなどの技術について紹介してきましたが、似たような言葉にMR(複合現実)、AR(拡張現実)などもメディアなどで見聞きすることもあるかと思います。さらに、これらを総称するものとしてXR(クロスリアリティ)もあります。

これらは、自身がどれだけ仮想の空間に入り込めるかという「没入感」の程度により分類することができます。簡潔にまとめると、以下のようになります。

画像1

VRなどの技術が本格的にビジネスシーンに浸透してきたのはつい最近で、新型コロナウイルス感染症のまん延を背景に、今後は用途も増えていきそうです。

前出の近畿経済産業局によると、従来は大企業が新規事業の一環としてVR関連技術の導入に関心を示していたものの、新型コロナウイルス感染症の影響で、展示会や商談会がキャンセルやオンライン開催となったことを受けて、自社製品のアピールをVR関連技術で検討する企業が増えつつあるそうです。

現時点では、中小企業が導入する事例は必ずしも多くはありませんが、今後も活用シーンの増加や導入コストの低下なども期待でき、動向を注視すべき分野といえるでしょう。

以上(2020年10月)

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画像:unsplash

採用活動のゴールは入社後の定着にあり/採用活動のデジタルシフトで攻めに転じる!リクルーティングDX最前線(5)

書いてあること

  • 主な読者:採用活動のデジタル化を検討したい経営者
  • 課題:デジタルは苦手。それに人を採用するのだから、リアルのほうがいい?
  • 解決策:コロナ禍で新人教育は混乱、新人は不安を感じがち。オンボーディングをサポートするデジタルツールを駆使することがエンゲージメント向上や離職防止のカギに

採用した新人が入社後すぐに辞めてしまうーー。増加傾向にある早期離職は採用現場における頭の痛い問題です。入社したての新人に“この職場ならやっていけそう”“この会社で頑張っていきたい”と感じてもらうことこそが、採用活動の真のゴールなのです。

最終回の本稿では、入社後にスポットを当てましょう。職場への早期順応、定着戦力化を早める「オンボーディング」という育成プログラムが、最近注目を集めています。オンボーディングをサポートするデジタルツールや、その活用が人事のDX(デジタルトランスフォーメーション)へとつながっていく未来について、解説していきます。

1 オンボーディングとは

オンボーディングとは、教育・育成プログラムのひとつです。新しく組織に入ったメンバーに対して、「業務に必要な知識・仕事の手順」や「オフィスルール」「企業理念や大切にしているカルチャー」などを指導しながら、職場への定着、自律した人材として戦力化を図ることを目的としています。

英語で表記するとon-boarding。もともとはon-board=飛行機や船に乗るという意味から生まれた造語で、入社した“職場にうまく乗り込めた状態”を表す言葉でした。欧米ではすでにさまざまな企業が取り入れていますが、日本においてはあまりなじみがなかった概念かもしれません。しかし、「飲み会で交流を深めること」や「メンターがついて会社のルールを教えること」も立派なオンボーディングの取り組みです。パーソルキャリアが行った「コロナ禍における中途採用者のオンボーディング実態調査」の分類を引用しながら、オンボーディングを整理してみました。

  • 入社前のオフィス見学
  • 人事・採用担当者との面談(入社前/入社後)
  • 配属先上司との面談(入社前/入社後)
  • 配属先メンバーとの顔合わせ(入社前/入社後)
  • 中途採用者同士の顔合わせ(入社前/入社後)
  • 歓迎会など、業務時間外に行う非公式イベント
  • 人事部主導の研修
  • 配属先主導の研修
  • OJT(On-The-Job-Training)

こうしてみても、新人の“スムーズな乗船”に向けて行うべき働きかけが実に多岐にわたっていることが分かります。

2 若者の価値観変化

なぜ、いまオンボーディングが注目を浴びているのでしょうか。それは離職の問題が見過ごせなくなってきているからです。厚生労働省が発表している新規大卒就職者の事業所規模別離職状況によると、平成29年3月卒の新卒社員のうち、1年目で離職した社員は全体の11.5%。約10人に1人が1年目で離職していることになります。

もっとも、この数値自体がこの30年間大きく変わっているわけではありません。多くの人事担当者が口をそろえるのは「なんの相談もなしに突然辞める」という離職傾向です。まだ戦力になっていない新人とはいえ、いきなり辞められるのは大きなダメージです。

突然辞める背景には、彼らが育ってきた環境が大きく影響しています。

  • ネットの普及により、探せばすぐにベストな情報が手に入る。
  • 学校で厳しい指導を受けたり、強制されたりすることが減少している。
  • 個性が尊重され、自分は自分、相手は相手と考える。競争はしない。
  • 危険は排除され、予想外の場面に出くわすことは少ない。
  • 面白いツールやコンテンツに囲まれて楽しい時間が過ごせる。

つまり、失敗することや否定されることを過度に恐れてチャレンジできず、結果的に受け身で自分基準の行動をとる傾向にあるのです。もちろん一括りにすることはできませんが、若手社員の顔を思い浮かべてみると、少なからず心当たりがあるのではないでしょうか。

3 コロナ禍というVUCAの時代

一方で、今の社会環境はVUCA(変動性・不確実性・複雑性・不透明性)と言われる時代。こうした状況への対応が求められるなか、いまの若者たちは、直面するであろう困難を自分で何とかする経験が積みにくい環境で育ってきたわけです。そこに、コロナ禍が直撃しました。

「新入社員導入研修も動画で見るばかりで、ちゃんと社会人としての基礎が身に付いたのか不安なまま。なのに配属されてOJTが始まってしまった。やっていけるんだろうか」

「正式に配属された! やっと仕事ができる! と思ったのにテレワーク継続で全然教えてもらえない。質問は自分からって教わったけど、遠慮してなかなか聞けない」

「上司や先輩社員がコロナへの対応にかかりっきり、自分はまともな仕事ができていないし、何のためにここに入社したのか…」

「テレワークでは仕事上のやりとりだけで雑談も少ないし、とても悩みの相談なんてできない。職場の人ってもっと仲間って感じがするもんだと思ってた」

「よく同期と助け合うって先輩たちから聞いてたけど、ソーシャルディスタンスのこともあるし、なかなか同期とも話せない…」

戸惑いを隠せない新入社員の声が多数寄せられています。

4 リモートでのオンボーディング

新人の突然離職を防ぐためにもオンボーディングの重要性が高まるなか、コロナ禍という不測の事態が加わったことで、どの企業でも新人教育は混乱をきたしています。特に難しいのが、テレワークが進むなかで、対面でのコミュニケーションが限定されてしまうことでしょう。オンラインツールを活用したリモートでのコミュニケーションは、対面でのコミュニケーションと比較すると、どうしても情報が伝わりにくい側面があります。

パーソルキャリアが整理したオンボーディングタスクを見ても分かるように、新人とのコミュニケーションは、業務コミュニケーションと組織コミュニケーションに大別されます。業務コミュニケーションにおいては、短い期間で業務を担えるようになるため、業務に直接つながる情報、知識を提供する必要があります。一方、組織コミュニケーションは、その組織において、新人メンバーがつながり、チームに迎え入れられていると感じられ、チームの一員として実感を持てるようになることです。

また組織コミュニケーションにおいては、単なるつながりだけでなく、会社や組織に対しての求心力を高めることも重要。いわゆるエンゲージメントの観点です。ミッション、ビジョン、バリューなど企業理念を語ることはもちろん、先輩社員が自分の言葉で会話を重ねることが、企業文化を伝えていく上ではとても有効だとされています。

こうしたオンボーディングのコミュニケーションをリモートで行っていくのは容易ではありません。だからこそ、いろいろなデジタルツールを使いこなす必要があるのです。かなり回り道をしましたが、ここからオンボーディングにおけるDXについて解説していきましょう。

5 コミュニケーションを支援するデジタルツール

リモートでのコミュニケーションを円滑にするには、WEB会議システムやチャットツールのようなデジタルコミュニケーションツールはもちろん、育成に使えるeラーニングツール、知見を提供する情報共有・ナレッジ蓄積ツールなど、目的やシーンに合わせてデジタルツールを駆使することが重要です。

加えてお勧めするのが、オンボーディングのクオリティを高めるコミュニケーションツールを活用すること。その代表格が社内SNSです。新人の見えにくいコンディションを知ることで、タイムリーにフォローできる。あるいは業務習熟度を把握することで、指導のレベルや役割付与の適正化が図れる。こんな機能が搭載されたツールがいくつも登場しています。

もう少し具体的に解説しましょう。例えば、仕事終わりに今日の業務の出来栄えや納得感、あるいは充実感を入力する社内SNSがあります。いわゆる日報のようなものと言えば分かりやすいでしょうか。ただ、もう少しくだけた感じのインターフェイスにすることで、気軽に本音が言いやすい仕掛けを作るなど、いくつも工夫が施されていたりします。

業務や職場に慣れきっていない新人の気持ちは、ただでさえ浮き沈みが激しくなりがちですから、コンディションを把握してタイムリーにフォローすることは、離職抑止に極めて重要です。

また、「感謝」の気持ちを贈りあう社内SNSもあります。いまの新人はフェイスブックやインスタグラムで「いいね」を送りあう世代ですから、こうした仕掛けは我々が思う以上にフィットするらしく、仲間への信頼、組織への帰属意識を高めるのに一役買ってくれるのです。

6 科学的なタレントマネジメント

とはいえ本連載で繰り返しお伝えしてきたように、デジタルツールの活用がすなわちDXということではありません。つまりご紹介した社内SNSの活用がゴールではないのです。もちろん新人のモチベーションを高める、あるいは組織へのエンゲージメントを高めることに効果はあるのですが、重要なのはその先にあります。

デジタルツール活用の本質的な価値は、データが蓄積されていくことにあります。個々の社員のコンディション変化をデータ上で付き合わせることで、離職の相関関係を解析していくことが可能になります。さらには職場の問題点を特定し離職防止策の検討につなげていくことができます。

実際に、蓄積されたデータから1on1(Yahoo!などが実践する1対1の面談)を支援するテックサービスもあります。例えば新人Aさんとの面談では、こんな内容をこんな言い方で伝えようとか、Bさんとの面談では、聞き役に徹してこういう感情を引き出そうとか、AIによって面談内容をアドバイスしてくれる技術がすでに登場しているのです。

タレントマネジメントやピープルアナリティクスという言葉も、かなり一般化してきました。属人的な人事から科学的な人事へと変革していくーー。これこそがDXで目指す世界観です。リクルーティングDXの終着点は、人事の本質的なDXにつながっていき完結するのです。

コロナ禍によって激変した採用市場。突然、現出した不況によって採用を絞る企業が続出するいまだからこそ、その逆をつくことでいい人材を獲得できるーー。空前の人手不足で採用に苦慮してきた企業の皆様に、そんな思いを伝えるべく本連載は始まりました。

勇気をもって積極採用に臨む際の武器がDXです。採用の勝ち組となるためには、デジタルツールを駆使しながら、組織変革までを見据えて取り組んでいくDXの視点こそが重要なのです。最後に、改めてこのメッセージをお贈りすることで、本連載を閉じさせていただきます。ご愛読ありがとうございました。

以上(2020年10月)
(執筆 平賀充記)

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画像:Inside Creative House-shutterstock

中小企業における戦略的な合併/弁護士が教える組織再編~事業再編・M&Aを学ぶ~(5)

書いてあること

  • 主な読者:複数の会社によるグループ会社の経営者
  • 課題:経営環境が変化する中で、グループ全体を見渡して最適な組織形態としたい
  • 解決策:グループ内に赤字会社があったり、複数の小規模な会社があったりする場合には、合併によりグループ全体にメリットが生じる

経営者は、経営環境が変化する中で、事業の形態を変えつつ経営をしなければなりません。2社以上の会社を1つにする合併も、有力な選択肢となります。このような合併は、株主総会の3分の2以上の賛成を得ることで行うことができます。では、実際に中小企業ではどのようなケースで、どのような合併が行われているのか、具体例をもってご紹介したいと思います。

1 不採算のグループ会社を整理、救済するための合併

1つ目は、収益が悪化した会社を救済するための合併です。

グループ会社であるX社とY社は、ともに不動産事業を営む会社ですが、X社の保有していた不動産価値が大きく下落し、金融機関からも借入金の返済を求められ、経常収支も赤字の状態です。他方、Y社は区画整理事業などを手掛けており、大型の案件が引き渡しとなることで利益を計上する見込みです。Y社は非常に多額の法人税の負担が見込まれる状態です。

このままの状態でX社とY社を単独で経営すると、X社は信用力の低下と収益の悪化により、資金ショートを起こす危険性があります。当然、X社が破綻することになれば、Y社にも大きな悪影響を与えることになるでしょう。

このようなケースでは、Y社がX社を救済するために合併をすることが有効な対策となります。

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1)信用力の強化

X社は赤字経営が続き、かつ、保有資産の価値が目減りし、信用力が低下していましたが、黒字経営を続けるY社と一体となることによって、信用力を回復することができます。

2)繰越欠損金の引き継ぎなど

さらに、過去においてもX社は赤字経営が続いていたとしたら、(多額の)繰越欠損金がある可能性があります。この繰越欠損金は、合併によってY社に引き継がれます。そうなるとY社の所得(税務上の利益)から控除することができるため、Y社の法人税の負担は軽減されます。また、X社が保有する不動産は、不動産市況の下落によって多額の含み損失があります。合併後、その不動産を売却することで資産の譲渡損失が計上され、法人税の負担も軽減することができます。

このような形でX社の繰越欠損金や含み損失をY社の利益と相殺することによって、X社とY社双方にメリットがあります。

3)具体的な手続きについて

X社とY社の例で示した合併は、次のようなステップで実施します。

  • ステップ1

まず、X社の株主が保有する株式をY社が買い取り、X社をY社の100%子会社とします。通常、X社は赤字経営が続いていますので、譲渡代金は低額になり、株式譲渡の負担は軽くなるケースが多くなります。

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  • ステップ2

Y社がX社を100%子会社にした後に、Y社が子会社となったX社を合併します。このように完全子会社を合併という手続きにすることにより、合併手続きを簡略化して実行することができます。

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2 会社の規模を大きくするための合併

2つ目は、複数の会社で同一の事業を営んでおり、事業規模を大きくすることによって、会社の信用力を高めるために合併です。

建設業を営んでいるX社、Y社、Z社は、それぞれ売上規模が10億円から15億円であり、単体で見ると地域内でもそれほど目立った企業規模ではありません。ところが、これを合併すると、単体で40億円の規模となり、地域内でも上位の建設会社となります。

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1)工事利益率の改善

建設会社の場合、企業規模が大きくなることで大規模な工事を受注できるようになります。例えば、これまで孫請けの立場だったものが、元請けの立場になれば、工事利益率が大きく改善できます。

2)間接部門の合理化

X社、Y社、Z社で別々に行っていた管理部門(経理や総務部門など)を統合することで、人件費を抑えて業務効率を上げることができます。

3)信用力の向上

会社の規模が拡大することによって、その地域でも上位の建設会社となることができ、信用力の向上に期待が持てます。信用力が向上すれば金融機関からの評価も高くなりますし、より優秀な人材を集めることも可能となります。

4)具体的な手続きについて

X社とY社とZ社の例で示した合併は、次のようなステップで実施します。

  • ステップ1

企業規模を大きくする合併の場合、まずは合併後に存続する会社(以下「合併存続会社」)を選定します。通常の場合、これまでの会社の伝統や、資産規模から合併存続会社を決定します。資産規模が大きい会社を合併存続会社に指定することによって、移転する資産規模を小さくすることができ、合併時に発生する移転コスト(不動産取得税・登録免許税)を抑えることができます。

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  • ステップ2

合併存続会社が決定した後は、3社の1株あたりの価値を精査し、合併比率を算定して、合併存続会社が合併消滅会社(合併により消滅する会社)を吸収する形で合体します。合併消滅会社の株主には、あらかじめ定められた合併比率に従って、合併存続会社の株式が新株発行されます。

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  • ステップ3

このような合併により、X社およびZ社の資産や一切の契約関係がY社に包括的に承継されます。具体的には、従業員の労働契約や取引先との取引条件なども、そのまま引き継がれることになります。また、X社およびZ社の株主にはY社の株式が新株発行され、Y社の株主に整理されます。

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3 リストラクチャリングとしての合併

最後に、グループ会社のリストラクチャリングとして合併を活用するケースをご紹介します。本体会社の事業と関連する事業を子会社に実施させるケースは多いと思いますが、その関連事業を整理する手法として合併が利用されるケースも多いです。

例えば、本体会社が、X社、Y社、Z社の3社で関連事業を営んでおり、そのうちのY社が慢性的な赤字に陥っているようなケースです。このような場合、グループ全体では黒字経営ができており、Y社の従業員の雇用も守りたいものです。また、Y社は、繰越欠損金がたまっているはずなので、それをグループの収益性の高い会社の利益と相殺させることが必要となります。

そこで、慢性的な赤字経営となっているY社を、本体会社と合併させることによって整理することになります。

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1)繰越欠損金の引継ぎ

Y社の繰越欠損金が本体会社に引き継がれ、本体会社の黒字部分と相殺させることによって、法人税の負担軽減がされる効果があります。

2)Y社の清算手続きの簡略化

Y社は慢性的な赤字に陥っているので、清算すると破産手続き、あるいは特別清算手続きを実施しなければなりません。しかし、グループ全体では黒字経営ができているにもかかわらず子会社を破産させると、グループ全体の信用力が低下する恐れがあります。その点、合併によって子会社を整理すれば、このような信用上の問題を最小限に抑えることができます。

3)税務否認事例に注意

合併を活用した子会社のリストラクチャリングについて、近年、税務の否認事例が出ているので、注意をしなければなりません。Y社のリストラクチャリングを実施する前に、Y社の事業を新設法人(新Y社)に事業譲渡し、Y社を繰越欠損金だけが残る会社にした上で合併した事案について、繰越欠損金の引継ぎが否認されています。税務当局は、事業譲渡によって事業の実体は新設法人に移転しており、その後の合併は、繰越欠損金を引き継ぐためだけに行われた税目的の合併だとして否認されています。

本来であれば、Y社の赤字はグループ内の赤字であり、本体会社に繰越欠損金が引き継がれるべき事例でしたが、厳しい判断もなされています。実際の手続きについては、法務および税務の両面からの検討が重要になります。

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以上(2020年10月)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 代表弁護士 福崎剛志)

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画像:pixabay

日本の水道崩壊、今そこにある危機を明らかに〜AI技術を活用したFractaの日本における取り組みについて〜/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、樋口 宣人さん(Fracta 日本法人代表)です。

道路上から突然水が吹き上がる、道路が陥没する、そんなニュースを毎年何度か見かけます。例えば今年の1月には横浜磯子区での水道管の破裂で、3万世帯で断水がありました。その記事はこちらです(読売新聞電子版から引用)。この破裂した水道管が敷設されたのは1973年、記事中にもある通り1973年から一度も交換していないそうです。
我々が最低限生きていくための大切な最後のインフラであるのが水道。世界トップレベルで誇らしい、日本の水道インフラ、安心安全、衛生的、その誇らしい水道に危機的状況が迫っている。そんな現状とこの社会課題と向き合い、日本のために、水道事業の未来のため、次世代に水道のツケをまわさないために、シリコンバレーが発端の日本人シリアルアントレプレナーが米国で起業、奮闘し導入が進んだAI技術を日本で展開中のFracta社、その日本法人の代表である樋口さんにお話を伺いました。

【Fracta 日本法人代表 樋口 宣人さん】

1 日本の水道の財務インパクトについて

1)日本の水道の年間予算について

危機だ、危機だと煽るつもりはありませんが、今の現状を把握しておくことは重要ですね。まずはアウトラインを。日本の水道における【2050年】と【水道崩壊】について。

◆マクロ要因としての人口減少

  • 2010年の1億2,800万人をピークに、2065年には8,800万人へ
  • 3兆2,450億円の水道料金収入は、2兆2,200億円へ
  • 水道資産をこのまま維持しようとすれば、水道料金は47%もの引き上げが必要

◆管路の老朽化

  • 水道関連資産の7割を占める水道管は老朽化が進む
  • 水道局の約4割で、水道管を中心とした台帳管理の整備がままならない状況に
  • 将来30年間の更新費は年平均約1兆6千億円、修繕費は同約2.3千億円との試算
    出所:令和元年度全国水道関係担当者会議資料 (2019)その1(会議資料)その2(パワーポイント資料編)

◆都会と地方の格差拡大

  • 人口密集度の違いが水道料金の総量の大小に直結
  • 一方で、配管の総延長は必ずしも地域の人口密集度に比例しない
  • 人口減は地方においてこそ顕著であり、半減すらあり得る (水道料金は2倍に)
  • 地方の水道局から経営は逼迫

上記のみならず、台風、地震などの自然災害、コロナウィルス等々への対処も今後増えていくことも考えれば危機が増大していることは明白ですね。

2)財務インパクトを解りやすく

こちらの動画をご覧ください。左右の違いをお解りいただけると思います。

【上記は3年前に行ったサンフランシスコのシミュレーション今後50年後】

街の有様が左と右でどう違うか一目瞭然だと思います。
 まだまだ健全な水道管を押し並べて交換していてしまうとコストは莫大に次代に掛かってしまいます。その財務インパクトを、Fracta社が2017年に試算しました。

サンフランシスコ(約270万人、約2,000km)にFractaを適用すれば、最大40%のコスト削減、すなわち年間20億円の削減を期待できます(※)。つまり50年で単純に計算すると最大20億円×50年で1,000億円のコストを下げていくこと、財務インパクトは莫大ですね。この長期間におけるインパクト、この理解が未来のために大切に感じ、対策を講じていくことが重要に思います。

  • ※試算方法

    ・サンフランシスコ(SFPUC)の給水収益は、500億円(2017年度)
    ・SFPUCの管路更新費30~50億と推測*
    →仮に管路更新費を40%**コスト削減できれば、最大20億円の削減となる。
    注1)*SFPUCからのヒアリングに基づいて、FRACTAが推計した。事業規模がほぼ同じ大阪市と対比しても、ほぼこの水準だと考えられる。

    注2)**SFでのタイムシフトスタディで得たFRACTA検証結果(2018)

3)日本の水道事業が抱える課題(行政とのジレンマ)

実際に同社を導入する際の予算感について、これがすごく簡単。

  • →1キロ10,000円程度(初期費用を除いて)
  • これに対して実際に道路を掘り起こして埋設された水道管を交換する費用は?
  • →1キロの水道管交換費用1億円
  • 市町村における水道管ってどのくらいの長さ?
  • →10万人都市の管路延長は約500~800キロ。FRACTAへ依頼した場合のコストは500〜800万円となります。これが毎年かかる費用となります。

米国でも相当の実績を引っ下げて、日本に持ち込んでいるこの技術、しかしながら、樋口さんは市町村の行政の壁もあると感じています。

行政側の方々と話していると、立場、立場で現状の認識が異なり、技術論に終始し、本来のあるべき姿に議論が及ばないことが見受けられます。技術的な優劣比較ではなく社会コストをいかに下げるか、全体最適の見地でもっとディスカッションができることを望んでいます。行政側の未来への財務戦略の根幹でもある水道インフラ、まさに茹でガエルにならないように早めの決断をしていくべきタイミングに感じます。

2 事業化までのスピード、Fracta社の米国での展開について

1)米国での展開、その当初から私は存じていました

私がなぜFracta社と懇意か? それは、創業者の加藤さんが仲良くしてくださっているからなんです。

【こちらは今年の1月に加藤さんが帰国された際の写真です。笑顔が爽やかですね。】

加藤さんとは、Google社に東大発ロボットベンチャーを売却後すぐにある方のご縁でお会いさせていただきました。かれこれ、6年ほど前になります。その後、私が独立する際、私を慮って連絡をいただきご自身の著書【未来を切り拓くための5ステップ―起業を目指す君たちへ―】を進呈くださり、応援、エールを贈ってくださいました。思い出すたびにアツいものが込み上がります。

それから、あらゆる管の中を自由に進んでいくロボットベンチャーに関わるようになった加藤さん、当初は日本発で活動されていましたが、海外で!ということから米国へ旅立つことに、その際にもお会いさせていただきました。米国の広い大地を縦横無尽に張り巡らされている【管】、その調査用にこの自律走行ロボットで事業化をしていこうと頑張っていたのですが、その自律走行するにも図面が必要だった、その図面データを作ること自体に【価値】があり大事だった。その図面データをアナログからデジタル化できれば大きなマーケットがある、大きな事業化が見えてくる、そこで自律走行ロボットからAIによる水道管調査へピボットしたことから快進撃がスタートとなります。そこから加藤さんの突進力、米国の水道事業者への突撃に次ぐ突撃で現在は全米27州63の水道事業者が採用、既に約12万kmの水道管データを学習済みだそうです。

2)AI技術を活用し水道管劣化を防ぐことはヘルスケアに似ている

 樋口さんのお話の中から、このAIによる水道管調査って、人の【ヘルスケア】に似ていると。私もそのとおりと思いました。私も受診している健康診断。3年に1度とかではなく毎年受診することで、経年のデータ状況がわかりやすくなっています。なにも過去データがなく、当てスッポのように年数ベース古い方から交換している現状は、米国、日本もほぼ同じ。ヘルスケア、健康診断と同様にAI調査を毎年受けることでどの部分から補修するのか、交換するのかを選択して工事計画を立てていく。まさに冒頭の動画シミュレーションの結果に繋がることだと思います。

樋口さんからもシミュレーションができることが大きい、手術するのか、しないのか、将来に向かって、今まさに健康診断をやるかやらないかで、水道での大切な部分の色分け、エリアによっては、優先的にまもるべき病院、工場、発電所、介護施設どこを優先するのかの判断軸もこの調査でえられることになります。

話を伺っていて、私は水道管のピンピンコロリを目指すものだと認識しました。

米国事例 ミシガン州における漏水リスクの予測診断の画像です

広大なエリアのミシガン州、同社の予測診断情報をサイト上でも開示しています。
 そのサイトはこちらです。

3 日本国内で進む事例

1)樋口さんはなぜ、Fracta社にジョインしたのか?

樋口さんとお会いしていて、米国にいる加藤さんと同じ様に、アツい感性をお持ちであることを感じます。その樋口さんのプロフィールについて。

Fracta 日本法人代表
東京大学工学部卒、スタンフォード大学院経営工学修士(MS)。
1990年三菱総合研究所入社。専門はオペレーションズリサーチ、意思決定分析。官公庁の政策立案並びに企業の戦略策定に関わる調査研究、コンサルティングに従事。その後、2000年ケンコーコム(株)を共同創業し常務取締役COO、2015年(株)ウォーターダイレクト代表取締役などベンチャー企業経営者を歴任。2019年9月よりFractaに参画。日本における事業開発責任者として事業統括にあたる。

樋口さんと以前にお話していて、官公庁向けの未来の街づくりに関するお仕事、スタートアップの立ち上げや中小規模の会社経営全般の切り盛り、水に関わること、そして最先端技術に関わること今までのご経験が今のお仕事の布石となり、巡り巡ってこれをやるべしって感じの縁が重なったものと仰っていました。

2)ファーストペンギンが出始めている日本の地方行政での実績について

2019年から日本では実証検証がスタートし、アメリカ同様日本においても有用性を確認しているそうです。実際の役務としての業務委託は今年から始まっていて10以上の自治体で何かしらの【実績】があります。インタビュー時点の9月初旬は2021年度の予算組が始まっているところにアプローチをしている状況だそうです。

実際の事例について。

・愛知県豊田市の事例。同市の発表サイトはこちら。こちらの事例については水道産業新聞記事【豊田市上下水道局の新展開ルポ】から抜粋いたします。豊田市は、愛知県のほぼ中央に位置する人口42万4000人の中核都市。水道は昭和31年に給水開始し、導・送・配水管の総延長は約3,656キロ。現在の年間整備・更新延長は約40キロで総延長に対する整備・更新率は1.1%となっている。豊田市担当者のFRACTA社導入へのコメントとして、『より具体的にどの路線から更新を行っていくのかの優先順位を決定するにあたって、前回の管網機能評価を実施してから5年が経過していることから、旧簡水地区も含めて再度行うことも検討しました。しかし、従来の手法で行う管網機能評価は、職員の経験によるところが大きいですが、旧簡水地区の漏水箇所を熟知している職員は少数であるため、十分な精査を行うことが不可能な状況です。加えて、今年度からストックマネジメント計画が開始し、整備路線の選定は市民などから注目される可能性が高く、優先順位付けの根拠を定めておく必要があるなかで、過去の漏水箇所と行った客観的な要因と土壌環境などの事実に基づいて破損確率を高精度に解析するAIを活用した水道管劣化予測に注目しました』さらに今回の取り組みが持続可能な水道経営につながることを期待し、『市民の皆さんに対して将来にわたって安全・安心な水道水を供給できるよう、今回の結果を上手く活用して効率的に管路の更新を進めていきたいと思います』と結んでいます。まさに決断をしたからこそ言えるコメントと感じますね。

・福島県会津若松市の事例。同市の資料はこちらです。会津若松市は上下水道局では、水道管更新計画の立案にあたり、工事台帳や竣工図面を基にして、布設年度や管種、管継手種類、漏水修理記録から導いた事故(漏水)率といった間接的な情報により、管路更新の優先度を決定してきた。優先度の高い管路は布設年度が古い管に偏っているが、古い管と位置づけられるものでも機能を維持している管路は多く、古い管は更新することにすぐに結び付けにくいのが現状となっている。そのため、有収率向上や管路更新の適正化を図るため、AIを用いた管路劣化度調査を行い、またその結果を基に新たな管路維持管理手法を策定することとした。同局担当者は、効率的な管路更新に向けて、『今回のAIによる診断法は、管路診断法のうち、市がこれまで実施困難だった直接診断法にとって代わる手法として位置づけられるもの。間接的な情報とAIによる診断の結果を組み合わせ、管路更新をの優先順位決定のための1つの要素とすることにより、管路劣化情報が加味された、より多角的な視点で捉える効率的な管路更新を目指したい』とコメントしています。(以上今年7月20日付水道産業新聞より)

福島民報の6月11日(論説)の最後には、市はスマートシティ会津若松の実現に向け、ICTオフィスを軸に事業を展開している。着実に成果を挙げているが、市民の隅々までスマートシティの恩恵が行き渡っているとは言えない状況にある。生活に身近な水道事業へのAIやICTの活用は、市民の理解に大きな役割を果たすだろう。と書かれています。

記事を拝見していて、スマートシティ構想にも合致し、まさに水道インフラのDX(デジタルトランスフォーメーション)を行うものであり、都市デザイン、都市開発への影響度も高いことを感じます。

3)Fracta社の日本における展開について

今年の8月に私のご縁で、樋口さんに登壇していただいたことがあります。そのイベントはこちらです。このイベントの企画開催者である平林さんに樋口さんのこと当日の感想をお聞きしました。『樋口さんは謙虚でクレイジーな方という印象でした。まず自分の話よりも人の話をよく聞いて、誰からでもなにかを学び取る姿勢が本当にステキな方だなと。一旦話し始めると淡々と話しているんですがよくよく聞いているとクレイジーな発想で現実にまで落とし込まれているのがとても印象的でした。例えば、いまの水道管診断のAI技術を他業界への展開のお話(この日本に導入しはじめのタイミングでそこまで描いているのか?)など』という平林さんも一瞬で樋口さんのファンになったのだと感じました。

    Fracta社の想いについて

  • 社会を支えるインフラが、社会の問題にならないために。
  • 多くの課題を解決し、社会益を創り出すために。
  • イノベーションで世界を変えていく

上記の想いを水道インフラからまず実現していく、日本国中で社会益を実現しながら。この挑戦を初めたばかりですが、8月の終わりにまた新たなリリースも有りました。【フラクタ、AIで水処理のコスト削減 栗田工業と:日本経済新聞】記事はこちら。このスピード感と展開力まさにワクワクドキドキの連続、楽しみが尽きない感じです。水道管ビジネスを基礎にこの先には、ガス管、下水道、さらにトンネル、橋梁、人がなかなか近づけないようなインフラにもこの技術は転用可能と感じます。

このようなフルスロットルで駆け抜ける米国発スタートアップ企業と日本の自治体が取り組みを加速すること、またここに地域金融機関とも連携強化することで地方の活性化が進むことを願いたいと思います。

以上(2020年9月作成)

家賃の減額交渉。借主はどのような交渉をすべき?

書いてあること

  • 主な読者:オフィスや店舗の家賃の減額交渉をしたいと考える経営者
  • 課題:どのような根拠を持って貸主と交渉すべきか知りたい
  • 解決策:賃貸借契約の期間延長を条件にするなど、貸主側のデメリットを少しでも補う交渉条件を考えておく

コロナ禍の影響などによるテレワークの普及でオフィスの在り方が見直され、オフィス市況も悪化しているようです。現在(2020年8月時点)は、緊急事態宣言が解除されているものの、第2波が警戒されており、経済活動が再び以前のように戻るには相当な期間が必要といわれています。

このような状況において、どうにか経営を維持していくために固定費であるオフィスや店舗の家賃(賃料)の減額ができないかと検討する企業や店舗が急増しています。この記事では、借主・テナント側が家賃の減額交渉を行うことについての法的根拠、家賃の減額を求める際の注意点について説明します。

1 家賃の減額等の交渉にあたっての法的根拠

まず、減額交渉を行うにあたって、賃借人はどのような法的根拠に基づいて減額請求ができるのかを説明します。

1)賃貸借契約書に基づく減額交渉

減額交渉を行うにあたって、まずは賃貸借契約書を確認する必要があります。一般的な賃貸借契約書には、一定の場合には賃料を協議の上、改定することができると定められている場合が多いでしょう。

契約書に賃料改定の規定があれば、まずは当該規定を根拠に賃料減額の申し入れをすることになります。

もっとも、賃貸借契約書に規定されている賃料減額の申し入れ事由は、後述する借地借家法に規定されている内容と同じく「租税公課の増減」、「土地建物の価格の増減その他の経済事情の変動」といった事情により「近傍同種の建物賃料と比較して不相当な賃料になった場合」などが規定されているのみであることが多いと思われます。

このような限定がある場合、後述の通り、賃料減額の申し入れができるかどうかには不透明な面があることは否定できず、賃貸借契約を根拠に賃料減額の申し入れをすることは難しい可能性があります。

なお、賃貸借契約書において賃料の減額を認めないとする「賃料不減額特約」が規定されている場合がありますが、この規定は無効と解されています(定期建物賃貸借契約の場合を除きます)。よって、貸主側が当該特約を理由に減額交渉に一切応じないと主張されたとしても、法的な根拠を伝えながら、粘り強く交渉してみる価値はあるでしょう。

2)民法第611条第1項に基づく減額交渉

2020年4月1日に施行された改正民法第611条第1項によると、「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益することができなくなった場合」に「使用収益できなくなった部分に応じて」賃料減額が認められると規定されています。民法改正前においては、法律上、「滅失」のみが賃料減額事由として規定されていましたが、法改正によって、「使用収益ができなくなった場合」が広く賃料減額事由として認められることになりました(なお、上記施行日前に締結された賃貸借契約については、原則として改正前民法が適用されます)。

そのため、この条項は、今回の新型コロナウイルス感染症の拡大による自主的な営業自粛、緊急事態宣言の発出を受けてなされた緊急事態措置等を理由とする休業、国が提言する新しい生活様式の実践としてなされる身体的距離(フィジカルディスタンス)の確保のための対策による恒常的な店舗の一部使用制限といったことを理由に、賃料減額請求をすることができる根拠にはなりうるでしょう。

ただし、これらの事情はいずれも自主的な決定であり、直接的な強制力を伴うものではありません。そのため、客観的に賃借物の使用収益ができなくなっているわけではないという理由で民法第611条第1項を理由に賃料減額請求をする根拠にすることはできないという見解もあります。

3)借地借家法第32条に基づく減額交渉

前述した民法に基づく賃料減額請求のほか、借地借家法第32条に基づく請求も考えられます。同法では、「租税その他の負担の増減」、「土地建物の価格の増減その他の経済事情の変動」といった事情により「近傍同種の建物賃料と比較して不相当な賃料になった場合」に賃料減額請求が認められると規定されています。

これは、あくまで一般的な事情変更の原則が認められる例示的な要素を示しているにすぎないものといわれています。賃料減額請求が認められる「経済事情の変動」とは、土地建物の価格の増減のほか、物価や所得水準の変動、経済活動の状況その他契約当事者が賃料を決定したさまざまな要素を総合考慮して決定されるべきものと考えられています。そして、「経済事情の変動」によって継続的な賃料が不相当となった場合に減額を認める規定と考えられています。

このような法の趣旨に鑑みると、今回のコロナ禍のように必ずしも土地建物の価格が増減しておらず、物価や所得水準の変動が今後どうなるかが不明で、現在の経済活動の停滞が長期継続的なものなのかが明らかではないような場合、借地借家法に基づく賃料減額請求が認められるかどうかは、不透明な面があることは否定できないといえるでしょう。

2 減額交渉にあたっての注意点

賃料減額交渉の法的根拠については前章で紹介した通りですが、次に、実際に賃貸人(貸主)と交渉を行うにあたって、どのような準備・心持ちで交渉をすればよいか、考えてみましょう。

1)賃料相場を理解しておく

まず、対象物件における賃料相場をきちんと理解しておくとよいでしょう。後述する通り、借主が、貸主と対立することは望ましいことではなく、良好で継続的な信頼関係を築いていくことが望ましいといえます。

そのため、自身が経済的に厳しい状況に立たされているからといって、対象物件について、合理的な賃料水準を大幅に超えるような減額請求をすることはお勧めできません。まずは、自身が交渉する減額賃料が、賃料相場と比べてどの程度の水準であるのかをきちんと理解し、その上で減額交渉をすることが望ましいといえるでしょう。

2)減額を求める理由を説明する

また、法的な根拠を示すだけではなく、賃料減額交渉に至った理由をきちんと説明することが必要です。賃料の減額は、貸主側からすると売上・利益の減少であり、損失になります。それでもなお、賃料の減額を認めてもよいと考える理由は、賃料減額請求に合理性があるからといえるでしょう。

3)貸主側のデメリット軽減を考える

2)に加えて、賃料減額という貸主側のデメリットを少しでも補う交渉条件を考えておくとよいでしょう。例えば、今後のウィズコロナ、アフターコロナにおいては、長期的な賃貸借契約を締結せずに、柔軟にオフィススペースを縮小できるような契約形態を検討する企業が増えるといわれています。そのため、賃料減額を提案することと併せて賃貸借契約の期間延長を条件にする(長期的に安定した賃貸借契約を締結する)、固定賃料に加えて歩合賃料制(一定の売上を超えた場合には、それに比例して追加で賃料を支払う)を導入するなどが考えられるでしょう。

3 最後に

以上の通り、本稿では賃料減額請求を行うための法的根拠と賃料減額交渉を行う際の留意点を説明しました。いうまでもなく、賃料減額交渉は、貸主と借主とで利益が相反するもので、賃料減額がなされること=貸主が損失を被ることになります。

そのため、賃料減額を強く主張することは、貸主との継続的な信頼関係を破壊することになりかねません。そのため、自らの利益や経済状況だけでなく、貸主の置かれている経済状況や考えを慮って、バランスの良い交渉をしていく必要があることを忘れてはいけないでしょう。どうしても賃料減額が難しい場合には、一時的に賃料納入を猶予してもらうことを考えてもよいかもしれません。

また、今後、あらたに賃貸借契約を再締結する場合には、新型コロナウイルス感染症の拡大による景気の急激な悪化などの未曽有の緊急事態が生じた場合に、円滑に貸主と賃料改定について協議できるように、現在の契約条項を見直して、協議の申し入れができるような条項を付加しておくことも必要といえるでしょう。

以上(2020年9月)
(執筆 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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画像:Gorodenkoff-shutterstock

経営効率を高めるための分社化戦略/弁護士が教える組織再編~事業再編・M&Aを学ぶ~(4)

書いてあること

  • 主な読者:複数の後継者のいる事業承継を控えた中小企業の経営者
  • 課題:強引な事業承継は、将来の内部対立などが発生する可能性がある
  • 解決策:1つの会社を複数の会社にする会社分割を活用して、それぞれの後継者に独立した会社の経営者として事業承継を行うことができる

事業承継やM&Aを行う場面において、会社分割を活用するシーンが見られます。会社分割というのは、簡単にいえば、会社の一事業を、既にある会社、または新しく作った会社に移すことです。

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既にある会社に承継させる会社分割を「吸収分割」、新たに設立する会社に承継させる会社分割を「新設分割」といいます。事業承継やM&Aで会社分割を行う際には、既存の会社を利用するのか、新たに会社を設立するのかは、その会社の実情に合わせて判断していくことになります。

1 複数の後継者に事業承継できる

複数の事業を行っている経営者に、後継者となる意思や経営能力がある子供が複数いる場合、よく会社分割が検討されます。子供たちが現時点で仲が悪いわけでなくても、共同して経営を行えば、将来意見が食い違って対立することもあり得ます。そのため、会社を分け、それぞれの子供が独立して経営ができる体制を整えるわけです。

具体的なスキーム例として、甲社に事業Aと事業Bという2つの主力事業があり、100%の株式を保有する経営者に長男と次男の2人の子供がいる場合を考えてみましょう。

長男と次男で共同経営することが難しいのであれば、事前にどちらがどの事業を承継するのかを決めておく必要があります。そして、事業Aに関する資産や債権債務(以下「資産など」)を新たに設立した乙社に会社分割によって承継させます。その際、新たな乙社株式は経営者に交付します。その上で、経営者は甲社株式を長男に、乙社株式を次男に譲渡することにより、長男が甲社株式100%、次男が乙社株式100%を保有する株主となり、名実共に、それぞれ独立した会社の経営者となります。

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税コストについては、税制上のルールを満たす形(適格分割。本稿では詳細な説明は省略します)で行えば、甲社においては、簿価により資産などを引き継ぐことになり、譲渡益や譲渡損は認識されません。そのため、法人税は課税されず、乙社においても新設分割の場合は資本等取引にあたり法人税の課税は生じません(税制上のルールを満たさない場合には、資産などは時価により引き継がれるため、譲渡益や譲渡損が認識されることになります)。

ただし、経営者から長男と次男に対し株式を譲渡する際に、譲渡益が発生する場合は、所得税が課税されることになりますので注意が必要です。

2 親族内承継と親族外承継のハイブリッドが可能

現経営者の株式を相続する子供などに、現在行っている中心事業を引き継ぐ意思や経営能力がない場合があります。こうしたケースで、中心事業とは別に不動産事業などを営んでいるようなときは、会社分割によって、事業承継による経営のリスクを分散する方法が取られます。

いずれかの事業を別会社として分割(本ケースでは中心事業を営む会社を別会社として分割)し、不動産事業を営む会社(甲社)は創業家が、中心事業を営む会社(乙社)は親族ではない経営陣などの中で、後継者となり得る人が経営するという体制を取ります。

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この場合における税コストについても、税制上のルールを満たす形で行うことで法人税の課税が生じません。

ただし、経営者から創業家の親族と親族外の経営者に対し株式を譲渡する場合について、譲渡益が発生する場合は、所得税が課税されることになりますので、注意が必要です 。

なお、経営陣が甲社株式の一定割合を保有している場合などには、それぞれの会社株式の調整が必要になるなど、複雑な法務上の問題が生じる可能性があるため、弁護士などの専門家と相談しながら進めるようにしましょう。

3 中心事業とそれ以外の事業の業績を会社単位で把握する

例えば、収益不動産を保有している会社では、継続して一定の賃料収入が得られているため、会社の売上と利益が底上げされます。収益不動産からの賃料収入により、中心事業の赤字を埋め合わせているような場合、組織全体で中心事業の収益状況に対する危機意識を持てないと悩む経営者もいます。

そのような場合、会社分割により分割した不動産事業会社(乙社)の株式を、分割した元の会社(甲社)に交付する形の会社分割(いわゆる「分社型分割」)をすることで、中心事業を行う甲社の子会社として、不動産事業を行う乙社を位置付けます。これにより、中心事業の収益状況が組織全体に正確に認識され、危機意識を持って改善に向かうことができます。このように、会社分割は経営の改善・効率化のための手段としても用いられています。

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以上(2020年9月)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 神田芳明)

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画像:GaudiLab-Shutterstock

フリーウエアでコスト削減 注意するべきポイントは?

書いてあること

  • 主な読者:ソフトウエアの費用を抑えたいと考える経営者、IT担当者
  • 課題:ソフトウエアを無償のものに切り替えたいが、トラブルなどが不安
  • 解決策:導入企業の声を聞いたり勉強会に参加したりして情報収集する

業務で使うソフトウエアを無償ソフトウエアに切り替えることで、コスト削減ができるケースがあります。特に最近は、テレワークにより複数のデバイスを使う機会が増えていてソフトウエアのライセンス料も膨らみがちなので、ソフトウエアを見直すチャンスです。

無償ソフトウエアを導入する際に検討したいポイントを紹介します。

1 ソフトウエアは無償でも、見えないコストが発生する

中小企業の場合、無償ソフトウエアに精通する人材がおらず、運用体制も確立されていないことがあります。ソフトウエアが無償でも、それを使ったオペレーションの構築にはパワーが必要です。そのため、無償ソフトウエアを使うなら、ITサポートを行う企業に相談したり、ユーザー会などに参加したりして情報を集めることが不可欠です。

以降で無償ソフトウエアを使った場合のコスト削減効果などを紹介していきますが、その前に大切なことは、

  • 運用体制を整備し、オペレーションにしっかりと落とし込まないと、後々、有償ソフトウエアを使うよりもコストが掛かってしまう

ということです。経営者はこの点を十分に認識する必要があります。

2 どれだけコストを削減できるのか?

無償というだけに、気になるのはコスト削減効果でしょう。例えば、マイクロソフトのオフィスソフトウエア「Microsoft 365 Business Standard」の1人当たりの月額料金は1360円で、従業員が50人なら年間81万6000円となります。

これを、グーグルの文書作成サービス「Googleドキュメント」や表計算サービス「Googleスプレッドシート」などの無償ソフトウエアに切り替えれば、ほぼコストを削減できます。実際に一部の自治体や企業が無償のオフィスソフトウエアを導入してコストを削減した事例もあります。簡易な文書作成や表計算しかしないなら、無償ソフトウエアで十分なケースがあります。

3 無償ソフトウエアの種類

1)フリーソフト/フリーウエア

一般的に、購入や利用における費用が掛からないソフトウエアを指します。例えば、キングソフトのウイルス対策ソフトウエア「KINGSOFT Internet Security」、アドビシステムズのPDF閲覧ソフトウエア「Acrobat Reader DC」などがあります。また、ガイアックスのグループウエア「iQube」のように、無償で利用できる代わりに人数を制限するものも多数あります。

その他、無償で利用できる期間や機能、容量を制限するもの、無償の代わりに広告が表示されるものもあります。前述の「Googleドキュメント」や「Googleスプレッドシート」の場合、さらに便利な機能を使いたければ「G Suite」という有償プランを用意しています。

2)オープンソースソフトウエア(OSS)

ソフトウエアをプログラムした記述(ソースコード)を公開するソフトウエアを指します。例えば、Mozilla Foundationのウェブブラウザー「Firefox」、日立製作所のBI(Business Intelligence)ソフトウエア「Pentaho」、グーグルのモバイル用OS「Android」、WordPress FoundationのCMSソフトウエア「WordPress」などがあります。

利用者はソースコードを書き換え、ソフトウエアに必要な機能を追加することができます。独自に機能を強化し、サポートを付与して有償ソフトウエアとして販売するといったことも可能です。

ライセンス料が掛からないものが多いことから「OSS=無償」と思われがちですが、必ずしも費用が全く掛からないわけではありません。導入や保守、新機能などの開発は外部に委託するケースが多く、これらに掛かる費用を考慮する必要があります。

多くのOSSが、世界中の開発者が集まるコミュニティーなどによって開発されています。バグの修正もコミュニティーが主導で対応するため、コミュニティーの円熟度がソフトウエアの品質向上や機能強化に大きく影響します。

4 目利きのポイント

1)互換性があるか

無償ソフトウエアに切り替える場合、これまで使っていたソフトウエアと同様にファイルを閲覧、作成できるかといった互換性を確認します。例えばマイクロソフトのオフィスソフトウエアを無償のオフィスソフトウエアに変えると、ファイルを閲覧できるものの文書や表のレイアウトが一部崩れたり、操作方法が違ったりするなど、使いにくいものもあるので注意が必要です。

2)無償のまま使い続けるか

無償ソフトウエアの中には、利用者数が増えたり機能を追加したりすると有償になるものが少なくありません。事業の拡大によってソフトウエアの利用者数が増えたり、どうしても必要な機能が有償版にしかなかったりする場合、有償ソフトウエアに切り替えることも検討すべきです。コスト削減を図る一方で、業務の効率性が損なわれないよう注意しましょう。

3)稼働環境を満たしているか

無償ソフトウエアが安定稼働するPCやサーバーのスペックを確認します。プロセッサやメモリーの推奨環境、ディスクの空き容量などを確認し、自社で使用するPCなどで問題なく稼働するかをチェックします。メニューが英語の海外製ソフトウエアの場合、日本語化ツールの有無も確認しておくのが望ましいでしょう。

4)他システムと連携できるか

自社で使用中の既存ソフトウエアとの連携を想定する場合、問題なく連携するかを事前に検証します。例えば、収集した数値情報を抽出、変換、格納するETLツールを介して分析ソフトウエアに移行できるか、無償ソフトウエアが備えるアダプターを介してデータ移行できるかなどを確認します。連携できない場合、別途ツールが必要かどうかも含めて代替案を検討します。

5)導入している企業はあるか

導入を検討している無償ソフトウエアの導入状況(企業、業種、規模など)を調査します。導入企業名が分かるなら、導入中や運用後の課題をヒアリングするとよいでしょう。特にOSSの場合、導入事例が公式ウェブサイトやニュース系ウェブサイトで数多く紹介されているので、参考にしましょう。IT担当者が上司などに無償ソフトウエアの導入を提言するときの資料にもなるので、他企業の動向も把握しておくべきです。

以上(2020年9月)

pj40030
画像:pexels

この勘定科目が危ない?勘定科目ごとの税務調査対策

書いてあること

  • 主な読者:税務調査のポイントを勘定科目ごとに知りたい経営者・経理担当者
  • 課題:どういった視点で調査するのかを知りたい
  • 解決策:勘定科目ごとの指摘の特徴を知る。とはいえ、日ごろから、しっかり運営することが最も重要

税務調査とは、申告内容に間違いがないかを確認する手続きです。日ごろから会計・税務を正しく認識した上で処理を継続していれば過度に心配する必要はありませんが、それでも経営者が気になるのは、「どの費用が危ないの?」といったところでしょう。本稿では、税務調査の際に指摘を受けやすい点を勘定科目ごとに整理します。

なお、新型コロナウィルスの影響により、今後の税務調査の方法が変わる可能性があります。2020年4月に緊急事態宣言が発出された際は、一時的な措置ではあるものの、会社の同意のもと、調査官と会社が双方にアクセスできるサーバーに必要書類を保存するといった形で資料の提示や質問のやり取りをする方法が取られた事例もありました。この辺りの動向についても注視しておきましょう。

1 勘定科目別 税務調査のポイント

1)売上・仕入・棚卸資産の主なポイント

1.期ずれ

物品の引渡しや役務の提供が完了しているものは、原則、その完了した時点で「売上」 として計上する必要があります。これに従わず、請求書が発行された日や売上代金が入金された日で売上計上している場合、税務調査で指摘される恐れがあります。税務職員は、売上計上のタイミングのずれを納品書や在庫表等で確認し、経理処理の誤りを指摘してきます。

また、原則として「仕入」は売上に対応して計上する必要があり、まだ計上されていない売上に対する「仕入」は、決算時には「棚卸資産」として経理処理しなければなりません。

2.売上の除外・仕入の架空計上

税負担は決して軽いものではありません。そういった中で税負担を回避しようと「売上」を意図的に除外、または架空の「仕入」を計上することをもくろむ経営者がまれにいます。税務職員は、反面調査や入金記録等さまざまな観点から調査を行い、巧みに売上除外や架空経費を検出することにたけています。税務調査でこれらが検出された場合、悪質であるとして、本来納める税金から当初納めた税金の差額(不足額)に加えて、重加算税が課されます。

2)人件費の主なポイント

1.役員給与

役員給与は、税務上のルールが厳格に定められています。役員への給与は「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」のいずれかに該当しないと、税務上の費用(以下「損金」)として認められません。例えば「定期同額給与」は、原則として会計期間開始の日から3カ月を経過する日までに1回だけ改定することが認められています。この時期以外で役員に対して特別手当の支給や、報酬を改定した場合には、原則としてその改定した額等は、損金の額に算入されません。

2.その他の人件費

経営者の親族等に給料を払うケースはよくあることですが、実際に業務に携わっていない人に支給した給料や、業務に見合っていない高額な給与は損金の額に算入されません。税務調査時には、タイムカードの提示や業務内容の聴取等が行われます。

また、給与は経営者の親族等に限らず雇用している従業員等全てにおいて、一定額を超えて支払う場合、「源泉所得税」を徴収する必要があり、定期的に税務署に納めなければなりません。いくら徴収するかは、給与が支給される者の状況および支払額により決定されます。日雇い等、単発で支払う給与についても源泉所得税を徴収する必要があります。徴収していない場合、税務調査時において源泉徴収義務違反として指摘されます。

3)販売費及び一般管理費の主なポイント

1.交際費

交際費は損金として扱うことに対して、一定の制限が設けられています。会計上は交際費として経理処理していなくても、支出の内容が、接待・供応・慰安・金品贈与等に該当すると認められる場合には、税務上の交際費として取り扱われます。

また、交際費のうち、「社外の者との飲食その他これに類する行為のために要する費用」に該当する場合は、帳簿書類で次の事項を記録しておく必要があります。

  • その飲食があった年月日
  • その飲食に参加した取引先・得意先の氏名や名称と接待側との関係
  • その飲食の支払金額と支払先の名称および所在地
  • その他飲食費であることを明らかにするために必要な事項

2.修繕費

保有する固定資産等を修理して多額の出費があった場合、費用ではなく、資産として計上しなければならないケースがあり、これを資本的支出といいます。具体的には、固定資産の価値を高め、または、耐久性が増すことになると認められる部分がある場合は、資本的支出として資産計上しなければなりません。資本的支出に該当する場合、減価償却資産として、適正な耐用年数に従って毎期償却します。

3.退職金

退職金を支給した場合には、退職金を受給した従業員から「退職所得の受給に関する申告書」を受領しておく必要があります。これを受領することにより、退職金に対する源泉徴収税額の優遇措置が適用されます。もし、受領していない場合は、一律20.42%(復興特別所得税含む)の税率による源泉徴収を行う必要があります。なお、受領した申告書は税務署への提出は不要で、会社で保管します。

4.役員の個人的支出

会社の事業に関係のない個人的な支出は、損金として認められません。また、役員の支出した経費が、税務調査により個人的な支出であると指摘された場合、その支出が損金として認められないだけでなく、その役員に対する給与(賞与)であると指摘される恐れもあります。この場合、会社において源泉所得税の徴収漏れを指摘される他、その役員の所得税・住民税について追徴課税が行われることになります。

4)固定資産の取得、売却に関連する主なポイント

固定資産を取得した場合、その取得代金の他、取付工事費用や運搬費等の付随費用も、資産の取得価額(資産に計上する価額)に含まれる点に留意しましょう。また、耐用年数が適正に定められているか、減価償却が事業の用に供した日から正しく実施されているかという点も、税務調査の対象とされます。

固定資産を売却する場合、売却価格は時価とする必要があります。第三者へ売却する場合には、明らかな寄附・受贈の意思がない限り、通常、取引当事者間で交渉して決定される価格が時価として認められます。一方、グループ法人や親族等の同族関係者間で行われる売買については、取引価格を決定する過程において恣意性が働きやすいことから、その売買価格の妥当性が税務調査の対象とされます。

5)ソフトウエア、研究開発に関連する主なポイント

支出した金額が税務上の研究開発費(試験研究費)に該当する場合は、その支出金額は支出した時点で損金として取扱われます。

ソフトウエアの制作に要した支出であっても、税務上の研究開発費に該当する場合は、支出した時点で損金として取扱われます。それ以外のソフトウエアの制作に要した支出は固定資産に該当し、自社で制作した場合は、原材料費だけでなく労務費や間接経費も取得原価を構成します。

実務上、税務調査で無用な疑義を持たれないよう、開発しているソフトウエアごとにプロジェクトコードを付し、プロジェクトごとに開発フェーズ(研究→開発→製造)を分け、支出したコストをプロジェクト別および開発フェーズ別に配分し、適正な原価計算が行われる管理体制を構築しておくことが重要と考えられます。

2 税務調査時の最近の傾向や、経営者の心構え

近年は問題点の所在をつかむためにヒアリングする時間が増えていると感じます。これは、2013年1月の国税通則法の改正により、税務職員は納税者から提出された資料を、必要に応じて預かることができるようになったことが影響していると考えられます(それまでの現場での調査は資料閲覧が中心だった)。加えて、税務署側も納税者側への説明責任が強化されたことから、反面調査の割合も増え、その分、調査終了までの期間が長くなってきているとも感じます。

また、国税通則法を理解しないまま、税務調査の対応をしている税務職員や税理士がいることも確かです。ルールにのっとっていない税務調査には、経営者として対応する必要はありません。財務・経理の担当者は、税務職員から誤解を受けることのないようにポイントを押さえた会計・税務処理を心掛け、健全な税務調査対応を意識する必要があると考えられます。

何よりも大切なのは、指摘される事項がないように心掛け、また、それをチェックする体制を構築しておくことです。

なお、税務調査の全体の流れや税務調査後の手続き、税理士に聞いた税務調査の舞台裏については、以下のコンテンツをご参照ください。

▶ 30080 「税務調査」がよく分かる 手続きの流れを徹底解説
▶ 30092 税務調査で指摘されたら? 税務調査後の手続き
▶ 30034 ウソかホントか? 税務調査の舞台裏
▶ 30051 続・ウソかホントか? 税務調査の舞台裏

以上(2020年9月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:igorstevanovic-shutterstock

目標管理で最も大切な「目標」の設定方法

書いてあること

  • 主な読者:アフターコロナに勝ち残るために社員の底上げをしたい経営者
  • 課題:目標管理制度が機能不全を起こしている上に、社員も学習しない
  • 解決策:上司と部下の相性を踏まえる。学習して目標を達成した社員は厚遇する

多くの会社が導入している目標管理が、機能不全を起こしています。皆がオフィスで働くのが当たり前だったこれまでは、上司のサポートを受けながら目標を達成する部下が多かったのですが、リモートワークなど働き方が劇的に変わる中で、指導の仕方が変化してきました。

また、そもそも目標管理が形骸化しているという問題もあります。目標を達成しなくても、給料や賞与がそれほど減るわけではないため、自分の目標さえ覚えていない社員がいる状況ですが、こうした社員は今後、戦力にならなくなるでしょう。

経営者は管理職としっかり話し合い、今後の目標管理を見直す必要があります。目標管理が機能するか否かによって、会社の業績は影響を受けるでしょう。

1 上司と部下が格好をつけずに「自分のタイプ」を宣言する

リモートワークなどが進む中で、「これまでのような密接な指導が難しくなった」という話をよく聞きますが、少し誤解があります。確かに対面する機会は減りましたが、オンラインでも部下を指導することはできます。実際、さまざまなツールを駆使して、むしろこれまで以上に密接にコミュニケーションを取っているケースがあります。

またもう1つ大事なことは、リモートワークなど働き方が変わる中で、次のような論調が高まっていることです。

  • 上司は、もっと自由に部下の可能性を引き伸ばさなければならない
  • 部下は、もっと自発的に自分と会社の可能性を広げなければならない

こうなると、例えば、本当は細かく部下を管理したい上司が、「マイクロマネジメントをする自分は格好良くない」と無理をしてしまいます。同様に部下も、本当は細かく指示をしてもらいたいのに、「指示がなければ動けない自分は格好良くない」と無理をしてしまいます。

上司と部下が無理をすることでコミュニケーションが難しくなっている面があるのは確かなので、上司も部下も世間のはやりに流されることなく、自分のタイプを再認識し、明らかにしましょう。

その上で、上司と部下のタイプ別の相性をまとめると次のようになります。

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経営者は、少なくとも「?」がつく組み合わせを、チーム編成の変更によって変える必要があります。例えば、委任型の上司が受動型の部下を指導すると、上司は「任せた!」と部下に権限を与えますが、部下は1人では何も動くことができません。同様に、管理型の上司が能動型の部下を指導すると、上司は「あれはどうなった?」と細かく連絡を取りますが、部下にとっては口うるさい限りでしょう。

オフィスにいれば、対面のコミュニケーションによってこうした問題はある程度解決されますが、リモートだとそれが難しくなります。そのため、上司と部下が本来のタイプを宣言した上で、チームを変える必要があります。

ただし、上司も部下も、格好をつけたがって、なかなか自分のタイプを正直に宣言しないかもしれません。経営者が1on1などで、「あなたはどのタイプか」をしっかりと聞くことも必要です。

もう1つ、読者にお伝えしたい重要な問題があります。それは、そもそも管理職としての資質がない社員の処遇です。管理職にもまた、それをフォローする上級の管理職がいます。例えば、部下に業務をうまく割り振れない管理職を見かねて、上級の管理職が業務の割り振りについて積極的に指示を出すといった具合です。

こうした人材は、上級の管理職のサポートを受けながら仕事をしているだけなのに、さも「自分は管理職としての責務を果たしている」かのような振る舞いをしていることが多くあります。しかし、そうした管理職を放置しておくと、プロジェクトは滞り、人材も育ちません。場合によっては、降格などの厳しい処遇も検討しなければならないでしょう。

2 スペシャリストもゼネラリストも必要

目標管理は、自社における既存の職務の習熟に主眼が置かれます。その結果、自社だけで通用する常識を習得することにあります。それを「たすき掛け、マルチタスク」の名の下に複数担当することになると、ゼネラリストが育ちます。今のところ、ゼネラリストの存在は貴重なのですが、今後のキャリアについては検討の余地があり、目標管理と密接に関係してきます。

図表2は、メディア事業を営む会社の職務の例ですが、ウェブ制作などいわゆるエンジニア領域を除いたものです。縦軸のレベルは、数字が大きいほど専門性が高まることを意味します。

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ありがちな目標管理では、「営業から登録(コンテンツの登録)まで、ある程度対応できる人材」を育てようとします。各職務のレベルがせいぜい2~3といったところですが、一応、一貫して対応できる、いわゆるゼネラリストです。そして、足りない部分(レベル4~5)はエース級の人材がカバーします。この体制は潰しが利きますが、これは「対面のコミュニケーションによって各人の忙しさを細かく管理し、人材を上手に融通できる場合」というのが前提です。つまり、全体のプロジェクトマネジャーがいて、うまくやりくりしているイメージです。

しかし、今、状況は変わってきています。まず、「ジョブ型」と呼ばれるように特定の職務についてレベル5までこなせる人材が必要となります。執筆でいえば、内容が薄く、専門性もなく、編集長から真っ赤に修正されるような原稿しか書けない人材は、今後戦力になりにくくなるでしょう。

また、図表2では、マーケティングという職務を加えています。これは1つの例ですが、これまであまり意識していなかった領域にも踏み込んでいかなければ、会社は勝ち残れません。例えば、これまで触ったこともない「マーケティングオートメーション」に習熟したり、さまざまな指標を分析し、施策を立案したりすることが求められるのです。

3 学習に基づく目標の設定

目標を設定する際は、実務レベルについて説明できるように落とし込むのが前提です。会社の中期経営計画などからドリルダウンしているものの、曖昧な目標だと、冒頭で紹介したように目標管理が形骸化してしまうからです。

  • 良い例:ツールに習熟し、○○メディアでコンバージョンを○件獲得する
  • 悪い例:デジタルマーケティングに対応できるように学習する

これを踏まえた上で、目標の設定には2つの方向性があります。1つはスペシャリストとして職務の専門性を高め、いわゆる「T型人材」を目指すことです。もう1つは、図表2で示したマーケティングのように、新しい職務領域を開拓することです。

そして、このいずれにも共通しているのは、「学習」です。1つの分野を掘り下げるにしても、新しい分野を開拓するにしても、実際に一定の時間を費やして学習しなければ達成できないものです。この目標管理を1回行ってみると、本当に学習する社員と口だけの社員が明確になってきます。

なお、一概には言えませんが、学習する社員の目標管理は、図表1の分類でいえば、次のような組み合わせで行うのがよいでしょう。

  • 自ら学習できる社員:委任型の上司と能動型の部下
  • 学習したいが自分で進めるのが難しい社員:管理型の上司と受動型の部下

問題は、学習しない社員です。専門分野がない場合、こうした社員は他の社員のサポートに回ってもらうしかありません。これが中途半端なゼネラリストの今後の役割となっていくでしょう。しかし、こうした社員が行う職務は業務効率化の中で廃止されたり、外部委託されたりする可能性があります。特に中高年社員の場合、自らの価値観をなかなか変えられないこともあるようなので、経営者はじっくりと話し合い、学習する癖をつけてもらう必要があります。

4 できたか、できなかったかが基準となる

目標を設定したら、それを達成できたか、できなかったかという基準で評価し、しっかりと報酬などに反映する必要があります。「達成できていないが、頑張っている」のは大切ですが、あくまでも評価の基準は、

  • できたか、できなかったか

であり、できた社員には、評価が分かりやすく伝わる処遇をするのが理想です。

以上(2020年9月)

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画像:NicoElNino-shutterstock

大幅減収、引当金増額、特損…今から見直すべきタックスプランニングの要点

書いてあること

  • 主な読者:新型コロナウイルス感染症の影響で、収益が大きく変動した経営者・経理担当者
  • 課題:実態に即したタックスプランの見直しと、利用できる制度の検討
  • 解決策:役員報酬の減額、欠損金の繰戻し還付。ただし、専門家への相談が必要

新型コロナウイルス感染症の拡大により、当初予想した収益計画を見直しせざるを得ない会社もあるでしょう。このときに注意が必要なのがタックスプランです。売上が大きく変動したり、欠損金の発生が見込まれたりする時期に検討すべき主な項目を解説します。新型コロナウイルス感染症の拡大に関する特例措置も含みます。

1 役員報酬の減額

業績の悪化により、役員報酬の減額を検討する場合、注意が必要です。「役員報酬の減額」は利益操作につながる恐れがあるため、税法上厳しく規制されているからです。税務調査でも重点的に調べられる項目です。

役員報酬は、決算後3カ月以内に開催される定期株主総会などで決議し、その決議した額を、毎月同額支給しなければ、損金の額に算入できません。これを定期同額給与といいます。そのため、原則事業年度の途中では、支給時期も、支給金額も変えることはできません。

しかし、業績悪化など一定の理由がある場合には、役員報酬の減額が認められます。新型コロナウイルス感染症の影響による業績悪化についても、役員報酬の減額が認められるケースの1つです。ただ、どれほどの業績が悪化したら認められるのかなど、明確な基準があるわけではないので、税理士などの専門家に相談するようにしましょう。

2 青色欠損金の繰戻し還付(適用対象の拡大)

青色欠損金の繰戻し還付とは、欠損金(税務上の損失)が発生した場合に、過去(その欠損金が生じた事業年度開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度)に納付した法人税の還付が受けられる制度です。

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通常、制度の対象は資本金1億円以下の法人など一定の法人ですが、新型コロナウイルス感染症の影響により、特例的に適用対象の範囲が拡大されました。2020年2月1日から2022年1月31日までの間に終了する事業年度に生じた欠損金額については、資本金1億円超から10億円以下の法人にも適用されます。ただし、大規模法人(資本金10億円超の法人など)の100%子会社など一定の法人は適用対象外です。

3 災害損失欠損金の繰戻し還付

災害損失欠損金の繰戻し還付とは、災害のあった事業年度(またはその事業年度の中間申告時)において災害損失欠損金が発生した場合、過去(その事業年度開始の日前1年以内、青色申告法人は前2年以内に開始した事業年度)に納付した法人税のうち、災害損失欠損金額に対応する部分の還付が受けられる制度です。

災害損失欠損金が発生した全ての法人が適用対象であり、本決算時だけでなく、中間決算時においても還付請求することができます。その場合は、半期末(3月決算の場合は9月30日時点)に仮決算による中間申告をする必要があります。

なお、災害損失欠損金とは、棚卸資産や固定資産などで発生した損失(資産の滅失による損失や原状回復費用など)の金額で、保険金などにより補填された金額を除いて計算されます。新型コロナウイルス感染症の影響による災害損失欠損金は、次のような費用や損失が該当します。

  • 飲食業者等の食材の廃棄損
  • 感染者が確認されたことにより廃棄処分した器具備品等の除却損
  • 施設や備品などを消毒するために支出した費用
  • 感染発生の防止のため、配備するマスク、消毒液、空気清浄機等の購入費用
  • イベント等の中止により、廃棄せざるを得なくなった商品等の廃棄損

本制度は、前述した青色欠損金の繰戻し還付と併せて受けることができます。欠損金が発生し、かつ前事業年度で法人税を納付している場合には、還付申請を忘れないようにしましょう

4 テレワーク導入のための設備投資に対する優遇税制

青色申告書を提出する中小企業者などが在宅勤務を含むテレワーク導入の際に行った設備投資に対して、優遇税制(中小企業経営強化税制)の適用を受けることができます。

具体的には、即時償却(購入時に全額を損金に算入できる)、または設備投資額の7%(資本金が3000万円以下の法人などは10%)の税額控除(法人税額から控除)を受けることができます。

なお、中小企業経営強化税制の適用を受けるためには、一定の経営計画(経営力向上計画)を作成し、指定期間内に、経済産業大臣の認定が必要になります。また、対象となるデジタル化設備とは遠隔操作、可視化、自動制御化のいずれかを可能にする設備で次のものを指します。

  • 機械装置(160万円以上)
  • 工具(30万円以上)
  • 器具備品(30万円以上)
  • 建物附属設備(60万円以上)
  • ソフトウェア(70万円以上)

5 固定資産税等の軽減

新型コロナウイルス感染症の影響で収入が減少している中小企業者・小規模事業者(資本金が1億円以下の事業者など)に対しては、収入の減少の度合いに応じて、固定資産税・都市計画税をゼロまたは2分の1とする措置があります。この措置を受けるためには、税理士など(認定経営革新等支援機関)の確認を受けた申告書などを市町村(東京都の場合は都)の窓口に提出しなければなりません。

減免対象と要件は次の通りです。

  • 事業用家屋及び設備等の償却資産に対する固定資産税(通常、取得額または評価額の1.4%)
  • 事業用家屋に対する都市計画税(通常、評価額の0.3%)

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6 納税猶予の特例

2020年2月以降の任意で設定した一定期間(1カ月以上)において、収入が大幅に減少(対前年同期比おおむね20%以上)した全ての事業者について、無担保かつ延滞税なしで納税を1年間猶予することができます。基本的に、2020年2月1日から2021年2月1日までに納期限が到来する法人税や消費税、固定資産税など全ての税金納税が対象になっています。

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以上(2020年9月)
(南青山税理士法人 税理士 窪田博行)

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