【図解】財務3表のつながりかた

書いてあること

  • 主な読者:貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書(財務3表)の基本が知りたい人
  • 課題:数字の羅列にしか見えなくて、とっつきにくい
  • 解決策:財務3表の基本を知り、実際の事業活動をイメージしながらつながりを意識する

1 事業活動と財務諸表

事業を始めるときは、銀行からお金を借りたり、投資家からお金を集めたりして(調達する)、それを元手に商品を仕入れたり、必要な備品や機械装置などを購入します(投資する)。そして、仕入れた商品や製造した製品を販売して利益を上げます(投資を回収する)。これら一連の事業活動が貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書(以下「財務3表」)に集計されています。

つまり、財務3表を読み、またそのつながりを理解することで会社の状況がよりよく見えてくるようになります。早速、確認していきましょう。

2 事業活動を数字にするためのルール“複式簿記”

複式簿記とは、全ての事業活動を2つの側面で捉えて、「資産・負債・純資産・収益・費用」といった5つの要素に分類する記帳方法です。これら5つの要素は、2つの側面(左右)でそれぞれ記帳する場所が次のように決まっています。

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例えば、銀行から現金を借り入れるという取引は、現金を資産の場所に、借入金を負債の場所に記帳します。このように、複式簿記に従って、全ての取引を決まった場所に記帳していくことで、事業活動が数字でまとめられます。これら5つの要素を上下に区切ると、資産・負債・純資産の部分が貸借対照表に、収益・費用の部分が損益計算書になります。そして、作成された貸借対照表と損益計算書を基に、キャッシュフロー計算書を作成していきます。

3 貸借対照表とは

貸借対照表とは、ある時点における会社の財政状態を表す財務諸表です。財政状態とは、「会社がどのようにお金を調達し、そのお金を何に投資しているのか」の状態です。貸借対照表は次の3つの要素で構成され、左側に資産、右側に負債と純資産が計上されます。

  • 資産:手元にある現金や会社が購入した商品、土地・建物などの財産
  • 負債:銀行からの借入金や買掛金などの債務
  • 純資産:投資家からの出資金や、会社が稼いだ利益の積み立て分など

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4 損益計算書とは

損益計算書とは、一定期間における会社の業績(どれだけもうけたか、そのもうけの内訳は何かなど)を表す財務諸表です。損益計算書は次の2つの要素で構成され、さらにその2つの要素の差額として利益(または損失)を計算します。なお、図表1の損益計算書は右に収益、左に費用と横形の表でしたが、通常の損益計算書は上に収益、下に費用が記載されます。

  • 収益:商品の売り上げなど事業活動により稼いだ成果
  • 費用:商品の仕入れや人件費の支払いなど、会社の事業活動上のコスト

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5 キャッシュフロー計算書とは

キャッシュフロー計算書とは、一定期間のキャッシュの増減を表す財務諸表です。キャッシュフロー計算書は、キャッシュの増減を次の3つの区分に分けて表示し、その期間におけるキャッシュの増減を明確にします。なお、キャッシュフロー計算書は、貸借対照表と損益計算書を基に作成されますが、本稿では詳細は省略します。

  • 営業活動によるキャッシュフロー:売り上げ、仕入れ、経費など主に本業によるキャッシュの動きを示す
  • 投資活動によるキャッシュフロー:固定資産や有価証券の取得・売却などによるキャッシュの動きを示す
  • 財務活動によるキャッシュフロー:借り入れや返済、増資などによるキャッシュの動きを示す

キャッシュフロー計算書には、直接法と間接法の2通りがあります。この2つは、営業活動によるキャッシュフローの計算において表示方法が異なります。

直接法は現金による収入・支出に係る取引を総額で集計し、その差額として、営業活動によるキャッシュフローを計算する方法です。間接法は損益計算書の利益または損失(正確には税引前当期純利益(または損失))から、減価償却費などの現金の増減に関わりのない項目などを調整して、営業活動によるキャッシュフローを計算する方法です。投資活動によるキャッシュフローと財務活動によるキャッシュフローの計算は直接法も間接法も同じです。本稿では一般的に採用されている間接法を用いています。

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6 財務3表のつながり

貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書は別々の目的で作成されるものの、それぞれがつながっています。そのつながりを読み解くことで、事業活動の流れが把握できます。財務3表のつながりを理解するときのポイントは次の3つです。

  • 貸借対照表(純資産)と、損益計算書(税引後当期純利益または損失)はつながっている
  • 損益計算書の税引前当期純利益または損失とキャッシュフロー計算書の営業活動によるキャッシュフローはつながっている
  • 貸借対照表(資産(現金))とキャッシュフロー計算書の現金の残高は一致する

具体的なつながりのイメージは次の通りです。

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7 事例で確認。財務3表のつながり

ここでは、設立1年目の株式会社の基本的な取引を基に、それぞれの取引がどのように財務3表に反映されているのかを、財務3表のつながりを見ていきながら説明します。なお、便宜上、取引ごとに損益計算書の利益(または損失)を計算して、貸借対照表の純資産(株主資本)に反映させており、その都度、キャッシュフロー計算書を作成しています。

1)会社設立時の資金の準備(お金を調達する)

会社の設立に当たって、資金の調達をします。内訳は、銀行からの借り入れが400万円、投資家からの出資が600万円です。

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資金調達した1000万円(400万円+600万円)は、貸借対照表の「資産(現金)」に計上します。

銀行から借り入れた400万円は、貸借対照表の「負債(借入金)」に計上します。

投資家から出資を受けた600万円は、貸借対照表の「純資産(資本金)」に計上します。

現金が増加したため、キャッシュフロー計算書の「財務活動によるキャッシュフロー」に、それぞれの取引による増加分(プラス400万円とプラス600万円)を記載します。

2)備品を現金で購入(お金を投資する)

会社を運営するためには、パソコンなどの備品が必要です。ここでは、パソコン30万円を現金で購入しました。

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購入したパソコン30万円は、貸借対照表の「資産(備品)」に計上します。

購入の際に支払った現金30万円を、貸借対照表の「資産(現金)」から減少させます。

また、現金が減少したため、キャッシュフロー計算書の「投資活動によるキャッシュフロー」に、備品の購入による減少分(マイナス30万円)を記載します。

3)商品を現金で仕入れ(お金を投資する)

商品200万円(100個×単価2万円)を現金で仕入れます。

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仕入れた商品の200万円は、貸借対照表の資産(たな卸資産)に計上します。

仕入れに支払った現金200万円を、貸借対照表の「資産(現金)」から減少させます。

また、現金が減少したため、キャッシュフロー計算書の「営業活動によるキャッシュフロー」に、たな卸資産の増減(マイナス200万円)を記載します。

4)商品を現金で売り上げ(投資を回収する)

商品(50個)を300万円で売り上げ、代金を現金で受け取りました。

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商品の売り上げ300万円は、損益計算書の「収益(売上)」に計上し、費用(売上原価)100万円との差額200万円が利益となります。この利益は貸借対照表の「純資産(利益剰余金)」にも計上されます。

売り上げで受け取った現金300万円は、貸借対照表の「資産(現金)」を増加させます。さらに、売り上げた商品(100万円=50個×単価2万円)を「資産(たな卸資産)」から減少させます。

また、損益計算書上の利益はキャッシュフロー計算書の「営業活動によるキャッシュフロー」にプラス200万円を、たな卸資産の増減については「営業活動によるキャッシュフロー」にマイナス100万円(△200万円+100万円)を記載します。

5)決算日

資産(備品)30万円は、便宜上5年間使用できるものとした場合には、その期間を通して6万円ずつ減価償却費として費用計上します。事業年度を通して利益が出ると、会社は法人税等を納付しなければなりません。法人税等とは法人税・法人事業税・法人住民税をいいます。実際に法人税等を計算する場合には、税法上のさまざまな調整が必要になりますが、ここでは簡略化して法人税等を60万円とします。

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法人税等60万円は、損益計算書の「利益(税引前)」の下に計上し、最終的な利益である税引後の利益が計算されます。

法人税等60万円を、貸借対照表の「負債(未払法人税等)」に計上します。法人税等の支払いは、決算日の翌日から2カ月以内と定められており、例えば3月決算の会社については、5月末までとなります。そのため、法人税等の支払いは翌期になり、決算を確定する時点では未払いとなり、貸借対照表の「負債(未払法人税等)」に計上します。

従って、設立1年目においては、法人税等の支払いによる現金の増減はなく、キャッシュフロー計算書には影響しません。

以上(2021年1月)
(監修 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)

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画像:pixta

「悪質な書き込み」で大迷惑。相手を名誉毀損で訴えることはできるのか?

書いてあること

  • 主な読者:ネガティブな書き込みをした相手を「名誉毀損」で訴えたい経営者
  • 課題:書き込んだ人をどうやって特定するのか? そもそも名誉毀損は成立するのか
  • 解決策:相手の特定はログが消去される前に速やかに行う。名誉毀損が成立するハードルは高いので、「削除請求」も検討する

1 悪質な書き込みをした相手を名誉毀損で訴えたい

もしネット上にネガティブな書き込みがされたら、腹が立ちますし、自社の信用が傷つくこともあります。そこで、自社に非がないことを対外的に示し、書き込んだ人に反省を促すために、書き込みをした人物を名誉毀損で訴えたいと考えるかもしれません。しかし、名誉毀損が成立するためにはさまざまな要件があり、そのハードルは決して低くはありません。相手を名誉毀損で訴えたい場合に相手を特定する手続や、名誉毀損の成立要件などについて解説していきます。

なお、名誉毀損よりもハードルが低い方法として、書き込みの削除があります。削除依頼などを含めた誹謗(ひぼう)中傷への基本的な対応については、以下のコンテンツをご確認ください。

2 ログが削除されないうちに対応。3~6カ月がリミット?

名誉毀損で訴えるためには、書き込みをした人物を特定しなければなりません。この作業はスピードがとても重要です。具体的には、次のような2段階を経て相手を特定します。

  • サイト管理者などに、発信者のIPアドレスやタイムスタンプなどを開示してもらい、それを基に経由プロバイダを割り出す
  • 経由プロバイダに、投稿に使用された通信端末の情報、契約者の氏名・住所などを開示してもらい、相手を特定する

通常、発信者のプライバシー保護の観点などから、サイト管理者などに任意で「発信者情報」を開示してもらうことは困難です。そのため、上記2段階の手続はそれぞれ裁判を経て、開示させることになるのです。

また、IPアドレスや発信者情報のログは長く保存されていません。経由プロバイダによって異なりますが、保存期間は通常3~6カ月程度とされており、人物を特定できるのは、書き込みがあってから半年程度が期限になると考えられます。ログが失われないようにすることが先決なので、迅速に弁護士に相談し、裁判手続の準備などをする必要があります。

3 名誉毀損が成立する場合とは

1)名誉とは

一般的に指す名誉には、社会的な評価(外部的名誉)、自尊心やプライド(名誉感情・主観的名誉。自己が自身に対して抱いている価値意識や感情)などが含まれます。しかし、法律上の概念では、名誉とは社会的な評価を指しており、これを低下させるような場合に名誉毀損が認められます。例えば、容姿に関して誹謗中傷された場合、自尊心やプライドは傷つくものの、社会的な評価が低下したとまではいえないため、名誉毀損には当たりません。

なお、名誉毀損ではないものの、名誉感情を大きく侵害された場合は、侮辱罪や不法行為に基づく損害賠償請求ができることもあります。ただ名誉毀損・名誉感情の考え方については民事上と刑事上で異なるところもあり、以降では主に民事上の考え方について解説します。

2)表現の類型

名誉毀損に関する表現には事実摘示型と意見論評型とがあり、どちらに該当するのかによって名誉毀損が成立する要件の内容が違います。

  • 事実摘示型:証拠を示せば判断できるもの。例)A店のラーメンは自家製スープを売りにしているが、実際には既製品を使っている
  • 意見論評型:事実の摘示を伴わず、意見や論評を述べるにとどまる。例)A店のラーメンはまずい

誹謗中傷された当事者としては、意見論評型の表現も名誉毀損に当たると考えがちですが、一般的に、意見論評型は名誉毀損の成立が認められにくいとされています。ただし、表現が人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱していたり、具体的な根拠やエピソードなどが盛り込まれていたりする場合などは、名誉毀損として認められることもあります。

3)名誉毀損が成立する要件

判例上、次のような要件を満たすものが名誉毀損に当たると考えられています。

  • 社会的評価を低下させる恐れのある事実を示したこと
  • 摘示事実が公共の利害に関する事実ではないこと
  • 摘示事実が真実ではないこと(もしくは真実であると信じたことについて相当な理由がないこと)
  • 摘示事実がもっぱら公益を図る目的のものではないことが明白であること

ただし、実際に名誉毀損に該当するのか否かは個々で異なります。書き込みをした人や、書き込まれたサイトが社会的評価の判断に影響を与えたり、書き込みの前後の文脈などが考慮されたりするため、一概に「○○という表現がなされているので名誉毀損である」とは言い切れません。また、ある表現が、特定の人の社会的評価を低下させるものであった場合、原則として名誉毀損に当たりますが、表現の自由や知る権利などを考慮して、違法性が否定されることがあります。

4 名誉毀損をした加害者が受ける法的責任

1)刑事上の責任

刑法では、名誉毀損罪が定められています。これに違反すると、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金が科される可能性があります。なお、刑法の名誉毀損罪は、事実摘示型の場合のみで、意見論評型の場合は侮辱罪で責任を問うことになります。

2)民事上の責任

民事上で名誉毀損行為が認められた場合、被害者は加害者に対して、次のような法的責任を問える可能性があります。

  • 財産的損害や精神的苦痛に対する損害賠償
  • 名誉を回復するのに適切な処分(謝罪広告などの掲載)
  • 差止めまたは削除請求

悪質な書き込みに対しては、削除依頼や名誉毀損以外の不法行為などに問える可能性もあります。名誉毀損だけではなく、他の方法で自社の評判を守る方法がないかについても併せて検討するとよいでしょう。

以上(2021年1月)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)

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画像:mako-Adobe Stock

【朝礼】うわべだけの発言は要らない

最近、私は「PMBOK」というプロジェクトマネジメントの手法を学んでいます。当社の新規事業であるウェブサービスの開発が進む中、私自身がプロジェクトマネジャーを務めるケースが増えたため、基本を学ぼうと思ったのです。

プロジェクトマネジメントの手法はさまざまですが、大きく2つに分けられます。1つ目は、最初に要件を“ガチガチ”に決め、上流工程から順番に進めていく「ウォーターフォール開発」です。もう1つは、わりと“フワッ”とした要件からでもよいのでまずは作り始め、走りながら改善していく「アジャイル開発」です。

私が学んでいるPMBOKは、ウォーターフォール開発の手法です。この手法は、要件定義が終わらなければ実装に入れないのでもどかしく、一度要件が決まると、基本的に後戻りができないという難点がありますが、学んだこともあります。

例えば、具体的なイメージを関係者間で共有する癖がつきました。要件定義が曖昧な状態でプロジェクトを進めると、後で必ずトラブルが起こります。そのため、プロジェクトマネジャーは、プロジェクトの関係者に対して、さまざまな角度からアプローチして必要な情報を集め、明確な方針を打ち出します。こうした進め方のため、情報収集の際に、関係者から「曖昧で表面的な発言」が出ると非常に気になります。こうした発言は、どんなに奇麗な言葉で説明されても、「まぁ、そうですよね」という結論しか導き出せません。

こうした発言は、実は新人よりもキャリアの長い人にありがちです。業種を問わず、長い間同じ業務に携わっていると、その分野のことを、それなりに話せるようになります。しかし、その時々で必要な知識を深め、常に自分の考えを持つようにしなければ、それはうわべだけの発言になってしまいます。発言通りに事を進めていくとどうなるのか、発言の後に続く行動はどのようなものか、という具体性が欠けてしまうのです。

先日あるクライアントに依頼され、ウェブコンサルタントとの定例ミーティングに参加したのですが、そのウェブコンサルタントは、まさにそうしたタイプでした。聞こえのよい言葉を並べ、「ここが重要です」「今後もウオッチします」などと言うものの、なぜ重要なのか、これまでウオッチしてきた結果はどうなのか、今後は具体的に何をウオッチするのかには一切触れません。要は何もしておらず、うわべだけで話しているのです。

さて、皆さんの話には具体的な中身があるでしょうか。細かいところにまで言及していれば具体的である、というわけではありません。ビジネスは突き詰めれば、「やるか、やらないか」です。

私が考える具体的な話とは、「やるか、やらないか」を決めるための判断材料になり得るかどうかです。これはつまり、発言者が当事者として、足元はもちろん、少し先の未来も見据え、「自発的に具体的な行動を起こすことを前提とした意見」かどうかということなのです。

以上(2020年11月)

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画像:Mariko Mitsuda

【再監修】完全子会社、連結子会社、持分法適用会社など。会社のつながりを徹底整理

会社の規模が拡大する過程の中で、会社分割や事業譲渡などの会社再編が行われることが珍しくありません。これによって、親会社、子会社、関連会社などが生まれるのですが、このような会社間の関係性について、正しく説明できる人は意外と少ないかもしれません。

最近では、NTTがドコモを完全子会社化して話題になりました。ドコモはもともとNTTの子会社です。完全子会社化する狙いとしては、完全に経営権を握ることで、他の株主の意向を気にすることなく、意思決定の迅速化や他子会社との経営統合を図れることなどが挙げられます。

分かった気になっているだけかもしれない親会社、子会社、持分法適用会社(関連会社)などの関係性。実は、これによって会社の支配状況が変わるなど、重要な意味を持っています。親会社や子会社などの言葉の定義に加え、会社をグループ化した場合のメリット・デメリットなどについて整理していきましょう。

1 親会社と子会社などの会社間のつながり

まずは会社間のつながりを図で整理してみましょう。親会社、子会社、関連会社などの会社間のつながりは次のようになっています。

親会社と子会社のつながりなどを示した画像です

親会社や子会社などは、会社法において定義されています。

1)親会社と子会社

まず、親会社と子会社の定義について見ていきましょう。
会社法では、親会社と子会社は次のように定義されています。

  • 親会社
    親会社とは、株式会社を子会社とする会社その他の当該株式会社の経営を支配している法人として法務省令で定めるもの(会社法第2条第4号)
  • 子会社
    子会社とは、会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるもの(会社法第2条第3号)

親子関係は、議決権の50%超を有する場合など、実質的に支配しているか否かという実質的基準で判断されます。詳細な基準については、会社法施行規則などで定められています。

また、親会社が100%の議決権を有している子会社を「完全子会社」、同一の会社を親会社とする子会社同士を「兄弟会社」と呼びます。

なお、子会社化する際の目的や方法などについて「やさしく知りたい! 組織内再編でグループ体制をどう変える?」の記事で、より詳細な内容を紹介していますので、ぜひご覧ください。

2)連結子会社と非連結子会社

次に、連結子会社と非連結子会社についての用語説明をします。
会社法上の大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上の会社)で、金融商品取引法上の規定で有価証券報告書を提出する必要がある会社は、連結計算書類の作成が義務付けられています。

連結計算書類とは、支配従属関係にある2社以上からなる企業集団の財産および損益の状況を示すために、必要かつ適当なものとして法務省令で定める書類で、連結貸借対照表・連結損益計算書・連結株主資本等変動計算書・連結注記表が含まれます。
連結計算書類を作成する際は、グループ全ての子会社を連結の範囲に含める必要がありますが、一部例外があります。連結子会社と非連結子会社は次のように定義されます。

  • 連結子会社
    連結子会社とは、連結の範囲に含められる子会社で、親会社に財務情報が合算される子会社
  • 非連結子会社
    非連結子会社とは、連結の範囲から除いた子会社のことで、親会社の支配が一時的である、または連結の範囲に含めると利害関係者の判断を著しく誤らせる恐れがある子会社。また、資産・売上高等から見て重要性の乏しい子会社も連結の範囲から除くことができる

3)関連会社と関係会社

続いて、関連会社と関係会社についての用語説明をします。
関連会社は、会社が子会社以外の他の会社等の財務および事業の方針の決定に対して、重要な影響を与えることができる場合における当該子会社以外の他の会社等(子会社を除く)(会社計算規則第2条第3項第18号)などとされています。
関連会社は、議決権の20%以上を有する場合など、財務・営業・事業の方針の決定に対して重要な影響を与えるか否かという影響力基準で判断されます。詳細な基準については、会社計算規則などで定められています。
また、関連会社と非連結子会社は原則として持分法が適用されるため、持分法適用会社と呼ばれます。持分法適用会社の純資産や損益は、部分的に連結計算書類に反映されます。

一方、関連会社と似た用語に関係会社があります。関係会社とは、当該会社の親会社、子会社および関連会社並びに当該株式会社が他の会社等の関連会社である場合における当該他の会社等(会社計算規則第2条第3項第22号)などとされています。

関係会社は関連会社を含めて、これまでに紹介してきた会社間のつながりを包括するものです。なお、会社法上の定義ではなく、一般的に使われる用語としてグループ会社というものがあります。グループ会社とは、会社間のつながりを包括して指しており、関係会社と同じと捉えられるでしょう。また、会社分割を行い、子会社を設立するなどした場合、会社や経営をグループ化するなどと表現します。

2 グループ化のメリット・デメリットとは

以下では、持株会社の説明とともに、そのメリットやデメリット、注意点について述べていきます。

1)持株会社(ホールディングカンパニー)とは

会社をグループ化する方法は、「事業持株会社」と「純粋持株会社」に大別されます。
事業持株会社とは、多くの会社が採用している形態であり、親会社が自らも事業活動を行います。親会社が本業に従事し、子会社が新規事業や周辺事業などに従事するパターンが多くなっています。

純粋持株会社とは、親会社が主たる事業を持たず、株式を所有することにより他の会社の事業活動を支配することのみを目的とします。一般的に、単に持株会社という場合は純粋持株会社のことを指します。
やや古いデータですが、平成25年から平成27年にかけて行われた経済産業省の調査(平成27年純粋持株会社実態調査-平成26年度実績-)によると、平成26年度末において485社の純粋持株会社が確認されていますが、必ずしも資本金が大きな企業ばかりではありません。485社のうち、資本金3000万円未満の企業が76社(15.7%)、資本金3000万円以上1億円未満の企業も79社(16.3%)あります。

2)持株会社を設立するメリット

1.意思決定が迅速になる

各子会社がそれぞれに合致した業務オペレーションを実現できます。例えば、各子会社の実情に即した稟議(りんぎ)手順をとることによって意思決定が迅速になり、おのおのの子会社がそれぞれ担当する事業に注力できます。

2.実情に即した人事制度の導入が可能になる

買収等によって人事制度の異なる企業がグループ内に入る場合、直ちに同じ人事制度を適用してしまうと、オペレーションが難しくなるばかりか、評価に対する不満も生じます。各子会社の実情に即した人事制度を導入することで、こうした問題を回避できます。

3.事業責任が明確になる

各子会社が個別に事業を行うことになるため、どの子会社がどれだけの利益または損失を出したのかが明確になります。例えば、全国展開している会社が、エリアごとに子会社を設立する場合などにおいて有効です。

4.事業ごとにリスクが分散できる

A事業、B事業、C事業のうち、B事業で大きな損失が出てしまったとします。1つの会社で全ての事業を行っていた場合、B事業の損失をもろに被ります。他方、それぞれの事業を別々の子会社で分散していた場合、B事業を行う子会社は大きな損失を出したとしても、A事業、C事業への影響を防ぐことができます。

この他、B事業において大規模なクレームが生じた場合、レピュテーションを含むクレームの影響が同グループの他の事業に及ぶことを、ある程度抑えることもできます。

3)持株会社を設立するデメリット

1.経営者の考えを浸透させることが困難になる

持株会社と各子会社は別の法人格となるため、子会社における細かな意思決定のプロセスに、原則として持株会社の経営者は関わりません。こうなると、経営者の考えや方針が伝わりにくくなります。
これを防ぐには、しっかりとした経営理念、経営ビジョンを掲げて、それらを各子会社に発信していく必要があります。

2.情報共有が困難になる

各子会社における裁量の幅が広がる代わりに、子会社にとって都合の悪い情報が親会社に共有されにくくなる可能性があります。これによって、コンプライアンス違反が見つかりづらくなったり、全社的な方針に合わない業務遂行がなされたりする恐れがあります。子会社の意思を尊重しつつも、きちんと監督していく必要があります。

3.管理部門の負担増加

管理部門に関する負担が増えます。各事業に係る人事、総務、経理などを、それぞれの子会社が別々に行うことになると、管理にかかるトータルコストは増加します。

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3 グループ化する場合は他にも注意点が……

グループ化の詳細な方法は割愛しますが、会社分割(会社法第2条第29号、第30号)、株式交換(会社法第2条第31号)、株式移転(会社法第2条第32号)、もしくは現物出資による会社設立、子会社への事業譲渡などを用いることとなります。その際は、会社法やその他関係する法令(労働契約承継法など)の手順に従って進める必要があります。

また、グループ化した場合、親会社の役員が子会社の役員を兼任できないことがあるため注意が必要です。例えば、親会社の監査役は子会社の取締役を兼任できない(会社法第335条第2項)ですし、社外取締役、社外監査役について厳しい就任要件があります(会社法第2条第15号、第16号)。
逆に、親会社の業務執行取締役が子会社の取締役や監査役に就任すること、親会社の取締役、監査役その他の従業員が、子会社の監査役に就任することなどは認められます。ただし、兼任が認められる場合でも、どちらかの会社の利益のために他方を害することのないようにしなければなりません。
会社法上も、一般的な条項として、善管注意義務(会社法第330条、民法第644条)、取締役の忠実義務(会社法第355条)が定められている他、取締役の兼任の場合には競業や利益相反取引の制限(会社法第356条、第365条)や、取締役会や株主総会での承認が必要になる等の規制があるため、これらに違反しないようにしなければなりません。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。関連する以下のタイトルも併せてお読みいただくと、より理解が深まると思いますので、よろしければご覧ください。

以上

(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年1月20日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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【朝礼】誰に喜んでもらうために仕事をしていますか?

私はいつも皆さんに、「やりたいことや夢を持つように」「自分の理想の姿を常に目指すように」とお伝えしています。与えられた業務をただこなすよりも、自分の目指すことのために働いたほうが楽しいですし、自発的に仕事に取り組んでもらったほうが、工夫も生まれやすいからです。

ただ、私が皆さんに「やりたいことは何?」「自分の理想の姿は?」と問いかけても、多くの人はピンとこないようです。話が大きくて遠すぎるように感じて、自分事に思えないのでしょう。そこで、今日はもっと身近な視点から、「仕事への向き合い方」に関する話をしたいと思います。

先日、当社のエンジニア2人があるプロジェクトの定例ミーティングをしていたときのことです。後輩エンジニアの仕事の進め方に疑問を感じた先輩エンジニアが、「仕事は誰のため、何のためにするものか?」という話を始めました。

先輩エンジニアはこう言いました。「私は、仕事は、お客様や一緒に働いているメンバーに喜んでもらうためにやるものだと思っている。どうすれば喜んでもらえるかを常に考え、行動すれば、おのずと物事を判断できるようになる」

すると、後輩エンジニアは、とてもスッキリした顔つきでこう言いました。「よく分かります! それでは、私はまず、先輩たちに喜んでもらえるように、工夫して仕事のスピードをもっと上げたいです」。私は、これを聞いてとても分かりやすい指導だと感心しました。

同時に、「やりたいことや夢、理想の姿といった大きなものより、もっと目の前にあるもの、身近なものを大切にするほうが、皆さんが共感できるのかもしれない」と感じました。

その後、後輩エンジニアの仕事への取り組み方は目に見えて変わりました。お客様の話に前より熱心に耳を傾けるようになり、先輩エンジニアをはじめ、一緒に働くメンバーのことを考え、段取りなどを工夫するようになったのです。まだまだ失敗もありますが、仕事に対する姿勢がこのように変わったことは、大きな進化だと私は思います。

「あの人に喜んでもらいたい、役に立ちたい」と、「顔の見える誰か」のために工夫し、喜んでもらうことで自信を持つ。そうすれば仕事が楽しくなり、もっと自分なりに工夫するようになる。「夢に向かって突き進むぞ!」と拳を突き上げるだけでなく、こうした足元の一つひとつの積み重ねが、皆さんの進化にとっては、とても大切なのだと思ったのです。

そこで、改めて皆さんに聞きたいと思います。皆さんは、誰に喜んでもらうために仕事をしていますか? 「難しい要望を言ってくるあのお客様」「一緒に苦労しているプロジェクトチームのメンバー」など、ぜひ、顔の見える誰かをイメージしてみてください。その「誰か」に喜んでもらうことを考えて行動していれば、おのずと仕事への取り組み方や周りへの気遣いの仕方が変わってくるでしょう。

以上(2020年11月)

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画像:Mariko Mitsuda

コロナ後に注目の新しい宿泊スタイル

書いてあること

  • 主な読者:コロナ後の新たな宿泊スタイルを取り入れたい宿泊業の経営者
  • 課題:密を避けるなど「新しい生活様式」に適したスタイルのヒントを得たい
  • 解決策:新たに登場したり、コロナ禍で注目されたりした宿泊スタイルを参考にする

1 新しい生活様式に有効な宿泊施設が相次ぎ登場

宿泊業は、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大で最も打撃を受けた業種の1つです。人の移動の制限、密になりやすい行楽地への外出の自粛、リアル店舗での接客サービスの回避など、マイナス要因がそろったことが背景にあります。東京五輪を控え、インバウンドブームに盛り上がっていた頃からの落ち込みは激しく、苦境に立たされている業者が少なくありません。

こうした中、国内旅行に注目が集まったり、人との接触を控えることができるオートキャンプなどの宿泊スタイルが再注目されたりしています。

本稿では、苦境に立つ宿泊業の方々が、コロナ後のV字回復を成功させるヒントになる、感染予防に効果的で、ユニークな宿泊スタイルの事例を紹介します。

2 他にはないサービスやレイアウトの宿泊施設

本稿で紹介する宿泊施設を、「ソフト面(アクティビティやサービス内容)・ハード面(立地やレイアウトなど)」と宿泊料金の「高価格・低価格」で分類すると、次のようになります。

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1)星野リゾートは「マイクロツーリズム」を提案

全国各地で高級リゾート施設を運営する星野リゾートは、「コロナ後の旅行スタイル」として、自宅から1~2時間の移動時間圏内で旅行をする「マイクロツーリズム」を提案しました。同社の各施設では、近隣からの旅行需要に応えるべく、さまざまな取り組みを行っています。

例えば、新型コロナウイルス感染症の感染者数が他の自治体より多い東京都にある「星のや東京」では、首都圏在住者向けに「ちょっとした息抜き」ができる温泉施設を提案しています。

同施設では、千代田区大手町の地下1500メートルから天然温泉を引き、高い壁が空に向けて開いた露天風呂を備えています。客室でのチェックインや館内の消毒などに加え、温泉の混雑状況をスマートフォンで確認することもでき、感染リスクの低減に取り組んでいます。

また、アクティビティなどのソフト面にも注力しており、「3密」になりがちな室内でのアクティビティに替わり、ホテルの屋上での体操や、貸し切り屋形船でのクルーズなどを新たに提供しています。

同施設の料金は、大人1名1泊で4万9000円からです。

2)本物のお城でお殿様体験「キャッスルステイ」

歴史的建造物などのビジネス面での利活用を模索するバリューマネジメントは、愛媛県大洲市にある大洲城を使い、「大洲城キャッスルステイ」として宿泊できるプランを提供しています。このプランは1日1組限定で、日本で初めて木造の天守閣で宿泊できるものです。

宿泊時には、宿泊者が甲冑に身を包み、鉄砲隊などから歓迎を受けるなどの「お殿様気分」を体験できます。城内では、月見や雅楽なども体験することができます。同施設の料金は、大人2名1泊で1泊100万円と高価ですが、他の宿泊者などとの接触もなく、唯一無二の宿泊体験ができることから、国内外の富裕層などが興味を持ちそうです。

加えて同社は、大洲城の城下町に残る町家などをリノベーションし、分散型ホテル「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」も運営しています。

観光庁も城や社寺を活用した体験型宿泊コンテンツ「城泊・寺泊」を推進しており、今後は全国の城や寺社などの建物や客室などのハード面を有効活用する、同種の事業の出現も予想されます。

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3)都内から車で2時間の山村が1つのホテルに「NIPPONIA 小菅 源流の村」

古民家ホテルの運営などを行うEDGEは、山梨県小菅村で、地域内に客室を点在させる、分散型ホテル「NIPPONIA 小菅 源流の村」を運営しています。

少子高齢化と過疎化が進む小菅村は、村の文化を残すため、村の情報発信施設の開業や、企業の誘致などを行うとともに、観光客の呼び込みに取り組んでおり、その事業の一環として、2020年8月に、2棟の古民家を新たな客室としてリノベーションし、営業を始めています。客室は「with コロナ」を意識し、客室内でチェックインやチェックアウトができる他、野外での農業体験などの感染リスクが低いアクティビティを体験できます。同施設の料金は、大人1名1泊で3万6800円からです。

過疎地域での、地元の特徴を生かした小規模で高価格、高品質なサービスを提供するスモールラグジュアリーホテルの運営は、「地方創生」×「コロナ後」の観光のヒントとなり得る事例といえそうです。

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4)名古屋のテレビ塔に宿泊「THE TOWER HOTEL NAGOYA」

アメーバホールディングスは、名古屋のシンボルでもあるテレビ塔をリノベーションし、都市型のオーベルジュ(フランス語で「地元の料理を提供する、宿泊施設付きのレストラン」)として「THE TOWER HOTEL NAGOYA」を2020年10月から運営しています。名古屋の文化、芸術や地産地消の食文化をホテルの特徴として打ち出しています。

宿泊フロアは、テレビ塔内の4~5階の全15室です。室内は、テレビ塔の鉄骨をデザインとして取り入れ、地元のアーティストの作品や家具などが備え付けられています。

また、ホテルに隣接するレストランには、東海3県の食材を用いたフランス料理店やカフェなどが入居しています。テレビ塔での非日常的な宿泊を体験しつつ、食事やアートなどで、地域の文化に触れることができます。名古屋の流行の中心地にあることから、地元や近隣の人たちが「ちょっと特別な体験」を得ることもでき、地域の特色も再発見できます。

同施設の料金は、大人2名1泊で1万円台から(期間限定価格)です。

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5)お茶の名産地で体験する“Tea tourism”「嬉野茶時プロジェクト」

温泉地として知られる佐賀県嬉野市にある旅館大村屋と和多屋別荘は、地元の名産品の嬉野茶や肥前吉田焼(陶磁器)の業者と協業した取り組みである「嬉野茶時(うれしのちゃどき)プロジェクト」を行っています。

これは、お茶をテーマに温泉旅館、お茶、陶磁器の3つの名産を組み合わせ、ホテルでおもてなしのノウハウを学んだ地元のお茶農家がお茶を提供するイベントです。イベントでは、四季に合わせて館内のラウンジでお茶農家がお茶を提供したり、広大なお茶畑の中に設置した野外茶室で地元の甘味や肥前吉田焼の茶器などを楽しんだりできます。

お茶畑に特設された茶室という非日常的な空間で、限られた顧客のために、その道のプロが洗練されたサービスを提供することで、遠方からの宿泊者はもちろん、近隣からの宿泊者にも「その土地の良さ」を再認識してもらうきっかけになります。野外での人数限定のイベントは、感染リスクを減らすことにも効果的です。

このイベントを通じ、これまで独自に事業を行っていた温泉旅館、お茶農家、製陶所が協力し、その土地の魅力を再提案した取り組みといえます。

宿泊料金は、旅館大村屋が大人1名1泊で1万5950円から、和多屋別荘が大人1名1泊で8800円からです。

6)The 絶景花火:日本初の「宿泊型花火大会」を2021年に計画

The 絶景花火は、花火大会という「3密」を避けることができる集客力の高いイベントと、同じく3密を避けられる宿泊形態として脚光を浴びるグランピングを連携したプロジェクトです。

新型コロナウイルス感染症の影響で全国の花火大会が軒並み中止となり、経営に打撃を受けている花火業界(煙火店など)を支援するためのプロジェクトとしてスタートしました。料金などの詳細なプランを2021年5月頃に公表する予定です。

当初は、富士山麓のキャンプ場のPICA富士ぐりんぱが、花火と宿泊(グランピング、キャンプ)を合わせた宿泊プランとして計画していましたが、感染拡大を受けて延期し、2020年は翌年の導入版の位置付けで、2020年10月にプレイベントとして「The 絶景花火」(プロローグ編)が開催されました。

3 宿泊代替ニーズを取り込む「オンライン宿泊」も注目

気軽に宿泊ができない状況を踏まえ、「宿泊代替ニーズ」を捉えた取り組みを行っている宿泊施設もあります。大掛かりな設備の導入や投資を必要としないため、小規模の事業者でも取り入れることができるといえそうです。

1)WhyKumano Hostel & Cafe Barの「オンライン宿泊」

ゲストハウスのWhyKumano(ワイ クマノ、和歌山県)は、世界遺産に指定された熊野古道のルート上にあり、多くの観光客でにぎわっていました。同施設では、2020年4月から「オンライン宿泊」を実施しています。

これは、オンライン宿泊の予約者と施設をビデオ会議アプリでつなぎ、施設の説明や熊野古道の説明、他の参加者との会話などを自宅でお酒を飲みながら体験することができるものです。

画面越しにお互いの自己紹介やこれまでの旅の経験の紹介などを、ホステルのダイニングで出会った旅行者たちと語り合うように、オンライン飲み会形式で体験できます。

翌日の「チェックアウト」の際には、施設から熊野や施設を紹介する動画のリンクがメールで送られ、リアルな旅への期待感を高めます。「宿泊料」は1人1500円ですが、実際の宿泊時に使えるワンドリンク券も付いています。

オンライン宿泊は、実際の宿泊に比べて収益性は劣るものの、「オンラインからリアルなファン、顧客を開拓する」ための有効な手法となりそうです。

同施設の取り組みは海外でも注目されており、台湾のメディアや現地の大学の講義のゲストとして紹介されるなど、国境を越えるオンラインツールの特徴を生かした「コロナ後のインバウンド需要」の取り込みもできるかもしれません。

2)てしま旅館の「VRてしま旅館 福ふく会席」

てしま旅館(山口県)は、地元名産のふぐ料理や温泉が売りの老舗旅館です。新型コロナウイルス感染症の拡大が本格化した2020年2月以降は、同施設でも宿泊のキャンセルが相次ぎました。

こうした中、売り上げを少しでも確保するため、旅館で提供しているふぐ料理(てっさ、てっちりなど)を、全国に向けて直送するサービスを開始しました。

このサービスを提供するに際し、単にふぐ料理を物販するだけでなく、同施設のウェブサイト内で客室や天然温泉、併設する猫の里親探しのための保護施設「猫庭」のVR映像などを配信しており、食後に楽しむこともできます。

施設の紹介にとどまらず、施設内での過ごし方や、提供される料理をオンラインとリアルで体験することができ、「コロナが落ち着いたら実際に行きたい」という気持ちをかき立ててくれそうです。

4 各施設に聞いた宿泊状況

これまで見てきた通り、各施設は創意工夫を凝らし、今回の危機を乗り切ろうとしています。上記の宿泊施設の運営者への取材から、顧客の動向や、取り組みのヒントを得ることができるかもしれません。

1)宿泊状況について

  • 新型コロナウイルス感染症の影響もあり、多くの宿泊施設では予約のキャンセルが増加している。特に、冬場にかけて新規感染者数が増加する中、遠方からの宿泊者によるキャンセルが続いている。
  • 宿泊施設の近郊からの予約は堅調に推移しており、政府の「Go Toトラベル」キャンペーンによる宿泊料の割引を背景に、家族連れなどの宿泊がコロナ前よりも増加していると感じる。ただ、「Go Toトラベル」の一時停止が2020年12月に決定したため、近郊からの予約に影響が出る恐れがある。
  • インスタグラムやユーチューブで宿泊施設の写真をシェアし、宿泊内容をレビューすることが近年では増えており、高額な宿泊施設の中には、話題性に注目したインスタグラマーやユーチューバーが宿泊し、そのときの様子をSNSでシェアするケースも見られる。

2)「コロナ後」に向けた取り組み

  • 感染拡大が続き、宿泊需要の劇的な回復は見込めない中、一部の宿泊施設では、ターゲットとする顧客層をシフトしているところも現れている。
  • 和多屋別荘は、コロナ前は主な顧客層を国内外の団体ツアーと想定し、宿泊数を意識した運営を行っていたが、現在では団体ツアー客や外国人観光客の需要が見込めないため、顧客層を個人客へシフトした。想定する個人客は、温泉だけでなく、お茶や陶磁器にこだわりがある人で、高品質なサービスを提供し、「コト消費」といわれるような、旅行体験全体の向上を目指している。

コロナ後の宿泊施設は、国内・近隣地域の需要の確保とインバウンド需要の再呼び込みを両立させる必要がありそうです。

以上(2021年1月)

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画像:pexels

【資金調達】スタートアップ企業が知っておくべきエクイティ・ファイナンスのポイント

前回は「シード・ファイナンスで使える5つのスキーム」として、具体的なエクイティ・ファイナンスの手法を紹介しました。それを踏まえた上で、今回はスタートアップがエクイティ・ファイナンスを行う際に見逃されがちなポイントを紹介しつつ、手続的な注意点についても解説します。なお、エクイティ・ファイナンスで重要な資本政策については「エクイティ・ファイナンスで必ず押さえておきたい資本政策」を参照ください。

1 エクイティ・ファイナンスの手続の流れ

1)概要

エクイティ・ファイナンスとは、投資家からの出資の対価として、会社の株式等を発行するファイナンス手法です。株式等の発行については、会社法に詳細な手続の定めが置かれています。それを遵守した上で、最終的に登記までが完了しなければ、有効にエクイティを発行することができません。
スタートアップがエクイティ・ファイナンスを行う際の実務的な手続の流れは、概ね以下の通りです。

手続概要を説明した画像です

上記手続概要の2.と3.の間の期間については、全株主の承諾により省略することができるため(会社法300条)、理論上は、1.から5.の手続を1日で行うことも可能です。しかし、設立当初のエンジェルラウンドはともかくとして、スタートアップは成長につれてステークホルダーが増えていくため、現実的には、各ステークホルダーとの調整等も含め、1日で手続を行うことが困難であるケースが多いでしょう。

2)既存の契約条件の確認

エクイティ・ファイナンスを行うに際して、投資契約や株主間契約等の既存契約が存在する場合、

  • エクイティ・ファイナンスを行うことが既存投資家の事前承諾事項となっていないか
  • 当該契約に次回以降のエクイティ・ファイナンスについて優先引受権が設定されていないか

について確認を行う必要があります。

事前承諾事項については、特に既存株主にCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)が存在する場合、CVCの母体企業と事業上コンフリクトが生じうる新規投資家からの出資を避けるニーズが強いため、次回のファイナンスを具体的に進める段階で、早めに担当者に相談を行っておくべきです。
また、優先引受権の設定がされている場合は、契約書上に当該ファイナンスで発行される株式等の発行決議の「~日前までに」発行する株式等の内容と条件について事前通知を行う義務が定められていることが一般的なので、手続を懈怠(けたい)しないことはもちろん、スケジュールの設定に際してはこの期間を必ず考慮するように注意しましょう。

3)種類株主総会決議の要否

前回までのエクイティ・ファイナンスにおいて、種類株式が発行されている場合、種類株主総会決議の要否についても注意する必要があります。
以下の定款条項例のように、種類株主総会を要するケースで定款で網羅的に制限が付されている場合、他の種類株式を発行する場合を除き(会社法322条3項但書)、種類株主総会を要しないものと判断することができます。しかし、少なくとも、会社法199条4項(株主総会決議により募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社の場合は取締役会)に委任する方法を採る場合は同法200条4項も)の決議を廃していない場合には、種類株主総会決議が必要となります。仮に、必要な種類株主総会決議を行わずに手続を行った場合、株式等の発行自体が無効となるため、懸念がある場合は必ず専門家に相談すべきポイントです。

  • 【定款条項例】
    (種類株主総会決議)
    A種優先株式について、会社法322条1項に関する決議を行う場合のほか、同法199条4項、同法200条4項、同法238条4項、同法795条4項等、法令上可能な範囲で、種類株主総会の決議を要しないものとする。

2 最恵待遇条項の処理

1)概要

投資契約又は株主間契約では、以下の条項例のように、次回以降のエクイティ・ファイナンスにおいて、当該契約の当事者である投資家に対する条件よりも有利な条件が設定された場合に、当該投資家に対しても有利な条件が自動的に設定される旨が規定されていることがあります。

  • 【条項例】
    (最恵待遇)
    発行会社又は経営株主が投資家以外の第三者との間で、本契約の投資家に対する内容よりも当該第三者に有利である契約(但し、種類株式の内容は、含まれない。以下「有利契約」という。)を締結する場合には、本契約の内容は有利契約の内容に変更され、又は、有利契約の内容が本契約に追加されるものとする。

2)対応

そもそも、有利不利の判断自体が相対的な問題であり、このような契約管理に煩雑さをもたらす条項がスタートアップにとって望ましいのか、という問題があることは別として、実際に、このような契約条項が付されているケースは少なからず存在します。そのため、債務不履行や契約違反に基づく株式買取請求を避けるための対応をしなければなりません。
契約管理の実務対応として、エクイティ・ファイナンスを行う度に、各既存投資家に、どの部分が有利に設定されており、今後どの条項が追加されて……などと確認していくのは非常に煩雑であり(有利不利の相対性の問題から既存投資家ごとに判断が異なる可能性もあり得ます。)、契約管理において過誤を誘発する可能性が極めて大きいものといえます。
従って、最恵待遇の適用のある既存投資家と合意が取れるのであれば、エクイティ・ファイナンスを行う度に、既存投資家の契約書上の位置付けを工夫しつつ、最新の投資契約・株主間契約と同様の内容の契約を締結し直すという方法を採る方がはるかに現実的であると考えます。なお、既存投資家が追加出資する場合は単純に同一の投資契約・株主間契約を締結すれば済みますが、既存投資家が追加出資を行わない場合、投資契約書上の投資家としてそのまま契約を締結すると齟齬が生じるため、出資と株式等の引受けそのものに係る条項が適用されないような工夫が必要です。

3 株式等の転換

みなし優先株式やJ-KISS、転換社債型新株予約権付社債が既に発行されている場合には、次回のエクイティ・ファイナンスが、これらの投資条件に定められている適格ファイナンス等に該当しないかを確認し、該当する場合には転換のための手続の準備を行っておく必要があります。
いずれも手続自体は単純なものですが(『シード・ファイナンスで使える5つのスキーム』参照)、J-KISSや転換社債型新株予約権付社債の転換により、発行される株式が種類株式となる場合には若干注意すべき点があります。
特にJ-KISSには、転換により発行される株式の種類及び数について、「その発行価額が転換価額と異なる場合には、1株あたり残余財産優先分配額及び当該種類株式の取得と引き換えに発行される普通株式の数の算出上用いられる取得価額は適切に調整される。」との一文が付されていることが一般的であり、転換社債型新株予約権付社債にも同趣旨の定めが付されていることがあります。
種類株式における残余財産の優先分配額や普通株式への転換比率は、出資額をベースに決定されることがほとんどであること、この一文の意味するところは、J-KISSや転換社債型新株予約権付社債の転換価額が発行される種類株式の発行価額と異なる場合(ディスカウントレートやバリュエーションキャップにより殆どの場合異なることになります。詳細は、『シード・ファイナンスで使える5つのスキーム』参照)、残余財産の優先分配額や普通株式への転換比率の内容を転換価額ベースに調整するということです。
従って、J-KISSや転換社債型新株予約権付社債の転換に伴い、種類株式を発行する場合には、適格ファイナンス等における種類株式とは別に、残余財産の優先分配額や普通株式への転換比率の内容を転換価額ベースとしたもう一つの種類株式を発行しなければならないことに注意が必要となります。

4 おわりに

今回は、スタートアップのエクイティ・ファイナンスについて、手続的なポイントを中心に解説を行いました。ダウンラウンドの場合の希釈化防止条項の適用等、スタートアップのエクイティ・ファイナンスの実行に際しては、他にも留意すべきポイントはいくつもありますが、基本的な知識として経営者の皆様がきちんと理解していただくべき点は今回紹介したもので足りるところかと思いますので、基本を理解していただいた上で、専門家との円滑な協力のもとファイナンスを実行していただければと思います。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年1月15日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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【例文付き】従業員の情報漏洩に備える秘密保持誓約書の作成方法

書いてあること

  • 主な読者:従業員の情報の持ち出しを防止したい経営者
  • 課題:「秘密保持誓約書」のひな型を流用するだけでは、法的な効力がない?
  • 解決策:最も重要なのは秘密情報の定義。また、物理的・技術的な防御も怠らない

1 自社にあった「秘密保持誓約書」を作成しよう

情報漏洩は会社の信用は著しく損なうため、会社はその防止に尽力しています。しかし、残念ながら従業員が情報を持ち出すケースも少なくありません。従業員による情報持ち出しや漏洩を防ぐには、心理的な抑止と、物理的・技術的な防御の両輪で取り組むべきです。

心理的な抑止とは、「秘密保持誓約書」の取り付けや、研修や周知を繰り返すことです。また、物理的・技術的な防御とは、そもそも従業員が情報を持ち出せないように、情報へのアクセスを制限したり、データの入った媒体や機器を持ち出したりできないようにしたりすることです。

本稿で紹介するのは、心理的な抑止である秘密保持誓約書です。多くの企業は一般的な「ひな型」を使っていると思いますが、これでは、いざというときに会社を守れないことがあります。具体的な定め方を、例文を示しながら弁護士が解説します。

2 最も重要なのは「秘密情報」の定め方

1)秘密保持契約:ひな型と修正例

秘密保持誓約書には「秘密保持の誓約」があります。まずは、ひな型でありがちな条文と修正後の条文を比較してみます。

  • ひな型:第1条(秘密保持の誓約)
  • 私は、業務上知り得た会社の機密事項、工業所有権、著作権秘密やノウハウの一切について、貴社の許可なく、第三者に開示しまたは自ら使用しないことを約束いたします。
  • 修正後:第1条(秘密保持の誓約)
  • 私は、就業規則および情報管理規程を遵守し、次に示される貴社の秘密情報について、貴社の許可なく、第三者に開示、漏洩しまたは自ら使用しないことを約束いたします。
     1)製品開発に関する技術資料、製造原価および販売における価格決定等の貴社製品に関する情報
     2)貴社の顧客に関する事項(氏名、住所、連絡先、決済方法、取引内容を含む全ての事項)
     3)取引先に関する事項(会社名、所在地、担当者名、連絡先、契約条件を含む全ての事項)
    (途中略)
     〇)その他、貴社が秘密保持の対象として指定した事項

ひな型の問題は、シチュエーションを選ばず、具体性にも乏しいことであり、これでは裁判で効果が認められない恐れがあります。例えば、東京地裁平成17年2月25日判決では、薬局において、仕入れや在庫管理等に使用する薬品リストが、営業秘密に該当するかが争われました。この会社の就業規則では、「会社の機密、ノウハウ、出願予定の権利等に関する書類、テープ、ディスク等」、「(その他)業務上機密とされる事項および会社に不利益となる事項」について、持ち出しや漏洩を禁じていましたが、裁判所は、「当該規定はその対象となる秘密を具体的に定めない、同義反復的な内容にすぎない」と述べています。

2)漏洩させたくない秘密情報をできるだけ具体的に定める

上記の裁判例も踏まえ、漏洩させたくない情報は秘密情報として定義し、できるだけ具体的に例示します。例えば、次のように定めます。

  • 顧客リスト、顧客情報、ID、パスワードその他顧客に関してシステムから得られる情報
  • 顧客に関する一切の情報(個人情報、申込書・契約書記載の情報、取引条件を含む)
  • 商品の仕入れ価格、卸価格、リベート額、販売価格、その他取引先の情報、取引内容および条件
  • 新商品・新製品の研究・開発に関する計画およびその内容
  • 設備投資計画およびその内容
  • 短期・中長期の販売計画・販売戦略に関する情報
  • 経営計画その他重要な業務執行に関する情報
  • 公表前の財務諸表およびその基礎データ、セグメント別(製品別等)の収支情報
  • 〇〇の運営において保有する運営ノウハウ
  • 従業員の個人情報(給与水準、保有スキル、経歴、研修受講暦等を含む)および従業員の個人情報が記載されているデータ、システム
  • 従業員教育に関する資料、営業マニュアル
  • セキュリティー管理の基礎となる情報(保安、警備、管理システム運営体制・ノウハウ等)

ただし、具体的にすると範囲が狭くなるので、必要な情報が抜ける恐れがあります。そこで、「その他、貴社が秘密として指定した事項」を秘密保持の範囲に含めるようにしましょう。このような文言を入れることで、個別に指定することで必要な事項が秘密保持の範囲から漏れてしまうことが防げますし、今は想定していない秘密情報が出てきたときにも対応できます。

3)秘密保持の内容(行動態様)についても確認する

秘密保持の内容(行為態様)についても確認し、特に注意させたい内容は明記します。

  • 他社に開示しない:第三者、特に貴社と競合する事業者に開示しないことを約束します
  • 就業の目的にのみ利用する:就業の目的にのみ使用し、当該目的以外に使用しません
  • 社外に持ち出さない:就業場所においてのみ使用し、持ち出しません
  • 複製をしない:全部または一部に限らず、また媒体の種類にかかわらず複製しません

4)就業規則や情報管理規程にも定める

就業規則や情報管理規程にも秘密保持について定めます。秘密保持違反を懲戒理由とするのが通常ですが、その場合、懲戒事由に秘密保持義務違反を含むことを就業規則に明記する必要があります。

3 その他、よくある重要な定めの規定例

1)退職時、退職後のケアを忘れずに

ひな型の中には、在職中の秘密保持についてのみ定め、退職後の秘密保持について定めていないものがあります。退職後の秘密保持も重要なので、次のように記載しましょう。秘密情報の返還についても忘れずに定めましょう。

  • 第◯条(退職後の秘密保持)
  • 私は、前条の秘密情報について、貴社を退職した後においても、第三者に開示、漏洩しまたは自ら使用しないことを約束いたします。
  • 第◯条(秘密情報の返還等)
  • 私は、在職中所持していた貴社等の資産(書類、備品、機器のみならず、電磁的または電子的記録媒体も含むがこれらに限定されません。)は、退職の際、貴社の指示に従い、直ちに全て返還または破棄します。在職中であっても、貴社等から指示のあったときは同様とします。

2)損賠賠償を定める。違約金はNG

秘密保持義務に違反した際の損害賠償義務を定めることには、一定の抑止力があります。なお、従業員に対する違約金を定めることは労働基準法で禁止されているので、あくまでも発生した損害に対する賠償となります

  • 第◯条(損害賠償)
  • 私は、第○条に違反した場合、法的な責任を負担するものであることを確認し、貴社が被った一切の被害を賠償することを約束します。

3)その他、会社の実情に応じて定める事項

その他、会社の実情や必要に応じて、次のような定めを置くことも考えられます。競業避止義務などは、必ずしも有効になるとは限らず、広範な定めは無効とする裁判例も多くありますが、先の損害賠償と同様に、規定を置くことが抑止力となります。

  • 第〇条(モニタリングへの同意)
  • 私は、貴社の機密情報の保護のため、貴社が必要に応じてモニタリング(監視カメラ、メール・ネットワークアクセスのモニタリングを含みます。)をすることにつき同意します。
  • 第〇条(所持品検査)
  • 私は、正当な事由がある場合、貴社入室時もしくは退室時、または在室時に、貴社が私個人の所有物・所持品を検査することにつき同意し、貴社の行う所持品検査に協力します。
  • 第〇条(ライセンス管理)
  • 私は、違法なソフトウェアや個人所有のソフトウェアを会社のパソコンにインストールしません。また、貴社の承諾なく、会社所有のソフトウェアを個人のパソコンに違法にインストールしません。
  • 第〇条(秘密情報の厳重な管理)
  • 私は、在職中、貴社の秘密情報について、貴社〇〇規程および貴社の監督に従い責任をもって厳重に管理します。
  • 第〇条(権利の帰属)
  • 私は、貴社に在職中に作成、考案したあらゆる知的財産権およびノウハウに関する一切の権利および利益が貴社等に属することを認め、当該知的財産権等について私に権利、利益が属することを一切主張致しません。
  • 第〇条(競業避止義務)
  • 私は、貴社を退職後、〇年間は、貴社と競合関係に立つ事業を行いません。
  • 第〇条(従業員および顧客の引き抜き)
  • 私は、貴社を退職した後、貴社の従業員および貴社顧客の不当な引き抜きを行いません。

以上(2020年12月)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

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第23回 【前編】弁護士が教える起業〜資金調達前のスタートアップ企業が おさえておくべき法務のポイント/イノベーションフォレスト(イノベーションの森)

スタートアップブームが訪れているといわれる現在。大手企業によるCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の設立、公共機関や大学・研究機関と民間の連携によるスタートアップ支援プログラムなど、スタートアップを取り巻く環境は、日々変化しつつあります。
また昨今では、わが国でもGoogleやAppleのような複数名の起業家による共同創業が増加傾向にあると言われています。

こうした変化の中、これから起業を志す人々は、どのような知識を持って市場へ参入していけばよいのでしょうか。

金融機関、上場企業からITスタートアップまで多岐に渡る企業の法務顧問を務め、各種ファンド(PE、VC、CVCなど)の組成も支援する弁護士・佐藤有紀氏に、中小・スタートアップが押さえておくべき法務のポイントを教えていただきました。

前後編に分けてお送りします。前編では「共同創業における株式配分と、ストックオプションについて」、後編では「資金調達にかかわる契約の注意点」を解説します。

佐藤先生、貴重な学びのシェア、愛りがとうございます!(愛+ありがとう)

1 佐藤先生がスタートアップ支援に注力する理由

弁護士になってから16年目となる佐藤先生。初めの8年間は外資系の法律事務所で投資ファンドなどをクライアントとし、日本の大手企業への投資案件、クロスボーダーのM&Aに携わっていました。

その際、日本と海外のカルチャーが全く異なることに、衝撃を受けたといいます。

例えば、日本企業は初めから相手側の立場も踏まえ、双方にとっての「落としどころ」を考えて契約書作成に当たります。しかし、外資系のファンドや企業は、そのような契約書を受け取ると、「この程度の条件で良いなら、もっと交渉しよう」と攻めの姿勢に転じてしまうのです。

日本にはそうした事態に対応できるような、投資・M&A領域に長けた弁護士がそれほど多くないのが実情。佐藤先生は次第に、日本企業側の課題を解決したいと考えるようになりました。

また、スタートアップ企業の多いカリフォルニアで多くの日本人起業家と知り合ったことが後押しとなり、「自分は、新規事業創出のサポートでこそもっとも価値を発揮できるのでは」という想いが生まれたといいます。

現在佐藤先生は日本へ帰国され、スタートアップ企業に寄り添う弁護士として精力的に活動中。資金調達や上場といったフェーズに合わせて、適切な支援・指導を行なっています。

企業法務に関する幅広い知見と企業に寄り添う姿勢から、未上場の頃から法務顧問として継続して支援しているクライアントも多数。ZUU・はてな・ネットプロテクションズといった著名な企業の社外役員としてもご活躍されています。

2 共同創業の場合は、初めに必ず「株式配分」の検討を。

冒頭に触れた通り、昨今日本でも一般的となりつつある共同創業。それぞれのスキルと知見を活かしながら、1つのビジョンの実現に向けて進むのは素晴らしいことですが、会社運営をしていく中で、共同創業者間でのトラブルが発生するケースも少なくありません。

トラブルを未然に防ぐためには、起業時に共同創業者間の争いが生じた場合どのような手続きや結果となるのかしっかりと創業者間契約において取り決めをしておくことが重要です。また、仮に創業者間契約を締結しない場合であっても、創業者の株式の配分を工夫しておくことが重要です。

では、具体的にどのように株式配分について考えていくのが良いのでしょうか。

1)株式配分は、「もしも」の事態を想定して決めるもの

具体的な株式配分の数字を決める前に、まずは創業者間で、会社の中長期的な計画を話し合ってみることをおすすめします。

特にポイントとなるのは、「資金調達を視野に入れているかどうか」。
創業メンバーだけで運営していく予定なのであれば、すぐに株式配分が問題として顕在化することはありません。

しかし、資金調達が前提であれば、株式配分はあらかじめ検討しておくべき事案となります。

理由は、共同創業のスタートアップが資金調達を行う際、外部の投資家から「仮に創業者間の関係性が悪化した場合、どのように対応する予定か?創業メンバーの株式はどうなるのか?」ということを懸念されるケースが多いからです。

株式配分は「もしも」の事態を想定して検討しておくべきもの。対外的に説明できるように整理しておくのが良いでしょう。

2)弁護士が勧める、創業者間の株式配分

対外的に説明しやすい株式配分とはどういったものなのでしょうか?
具体例は、以下の通りです。

【例】

  • 創業者が2名の場合
    代表取締役CEO(最高責任者)が最低でも51%以上を保有、もう1名が49%未満を保有
  • 創業者が3名の場合
    代表取締役CEOが70-80%を保有、残り2名が10-15%をそれぞれ保有

いずれのケースも、代表となるCEOが最低でも51%、できれば67%以上の株を保有するのが望ましいとされています。

ではなぜ、株式配分は均等ではいけないのでしょうか。
それには、会社法における「持ち株比率」とそれにより認められる株主の権限が関係しています。

会社法上、株主総会の特別決議には、3分の2(約67%)以上の賛成が必要になります。
つまり、代表取締役CEOが67%以上の株を保有していれば、仮に創業者間で経営上の意見が割れてしまった場合にも、代表取締役CEOが最終的な意思決定を行なうことができるのです。また、資金調達によって外部株主が入ってくることによって、創業者全員の議決権が相対的に低下してとしても、代表取締役CEOと外部株主の議決権の合計数が3分の2を上回るのであれば、創業者間にトラブルがったとしても、経営が混乱したり、事業が停滞したりすることを避けられるというメリットがあります。

3)立場の均等な共同創業者の場合はどうする?

創業間もないスタートアップの場合、「67%以上を保有した方がいいのは分かるけれど、互いに対等な立場で起業しているので、話し合いにくい……」というケースがあるかもしれません。

そのような場合、1名が最低でも51%以上の株を保有することで、他の創業者を解任するという手段をとることができます。

とはいえ、解任はあくまでも最終手段と考え、株式保有割合を調整することだけで対応するのではなく、前述のとおり「意見が分かれた際にはどうするか」「退職時には保有する株をどうするのか」などの内容を盛り込んだ創業者間契約を結んでおくのが望ましいでしょう。

4)「最終的な責任を負うのは誰か」を考え、適切な株式配分を

会社が大きくなるにつれ、ステークホルダーは増え、経営者の責任は大きくなっていきます。

対外的に誰が会社を代表し、ステークホルダーへの責任を負うのか。
共同創業とは言え、それぞれがどのような立場で、どの程度会社にコミットするのか、どれだけ会社と共に走り続けるのか。

上記のように、株式保有割合の配慮や創業者間契約の締結は、正にそのような問題に対する回答です。是非、弁護士と共に具体的な株式配分や創業者間契約を詰めていかれるのが良いでしょう。

また、弁護士への相談の際、複数名で来られると話し合いがスムーズに進まないケースも。まずは代表となる方がお1人で相談するのがおすすめです。

3 ストックオプションの導入に向け、知っておくべきポイントとは。

株式配分という話に付随し、ここからはストックオプションの考え方について説明していきます。

ストックオプションを導入する場合、一般的に総議決権数の5%から15%の範囲内、多くの場合10%をストックオプション分にとっておく、いわゆるオプションプールと考えるケースが多いです。

また、ストックオプションの権利を付与する対象者の範囲については、企業により大きく異なります。役員など限られた数名にしか付与しないケース、多くの社員にも付与するケースとさまざまであり、創業者の考え方が大きく反映されます。

ストックオプションは、付与対象者のモチベーションを向上させることによって企業価値の増大を図るいわば馬を走らせるためにぶら下げる人参のようなものです。付与対象者のモチベーションの向上に寄与する仕組みである一方で、「役員だけ付与されているので、若手の現場社員から不満の声が上がっている」「利益が上がったらすぐに退社してしまう」といったトラブルの元にもなりかねません。
他方、全ての社員にストックオプションを付与しても企業価値の増大に貢献するかというとそう単純ではありません。なぜなら、ストックオプションが如何なるものか理解していない社員、自分の仕事がどのように企業価値とかかわっているのか理解していない社員に付与したとしても無意味だからです。

多くの退職者を出すことなく、社員のモチベーション向上につながり、しかも企業価値の拡大につながるストックオプション制度を作るにはどうしたら良いのでしょうか。

1)ストックオプションの導入時は、付与の「タイミング」と「要件」を要検討

自社の目的や考え方に応じたストックオプション制度の導入に向け、経営者が検討すべきポイントは、大きく次の2つです。

1.ストックオプション付与のタイミング

前述の通り、ストックオプションは複数回に分けて付与することができます。
シリーズAの調達前後、シリーズBの調達前後、上場申請前期といった企業にとってフェーズが変わる節目に付与するというのが一般的とされています。

2.ストックオプションの要件

「マネージャー以上など一定の役職以上に対してのみストックオプションを付与する」といったルールを設けたり、「上場後○か月後に行使できる」といった行使要件を設けたりすることで、より適切なメンバーへストックオプションを付与し、退職者が出にくく、かつ企業価値の拡大につながるよう工夫することもできます。

2)M&AやEXITを見据えている企業には、生株の分配がおすすめの場合も。

社員のモチベーション向上や採用にも役立つストックオプション制度。
しかし、最近のスタートアップ企業は、上場ではなくM&AによるEXITをゴールとして目指すケースも増えてきています。
上記のような企業の場合、ストックオプションについてどのように考えたら良いのでしょうか?

結論から言いますと、ストックオプションは上場することが行使要件とされることが一般的であるため、上場しなかった場合には客観的には価値のないものとなってしまいます。
上場を目指していない企業であればこのような行使要件のストックオプション制度はマッチしないと言えるでしょう。

上場を目指していない企業が取締役・社員のためにM&Aによって入ってくる金銭の分配の方法を考えるのであれば、生株を分配するという方法があります。

また、すでにストックオプションを付与してしまっており、状況の変化によりM&AによるEXITを選択する場合には、付与したストックオプションを経営者が買い取る、又は買収者に買い取ってもらうという方法もあります。
これは、株式を保有しない取締役や社員に配慮した良い方法と言え、今後増えてくるのではと予想されています。

3)「信託型ストックオプション」は監査法人への連携・相談を

ストックオプション導入の際には、その種類と性質について正しく理解しておく必要があります。

現在、スタートアップ企業の中で浸透しているストックオプションの種類は、大きく次の3つになります。

  • 無償の税制適格ストックオプション
  • 有償ストックオプション
  • 信託型ストックオプション

中でも信託型ストックオプションは、信託を通じてストックオプションを取締役や従業員に交付する新しいスキームです。
「価値の評価が正しかったのか」を最終的に監査法人が判断し、監査を受け付けるかどうかにも関わる問題となることがあります。

そのため、信託型ストックオプションを導入する場合には、顧問の会計士だけではなく、IPO後の監査を引き受ける予定の監査法人と連携しながら進めるのが良いでしょう。

法律事務所では具体的な価格決定や会計に携わるわけではありませんが、このようなストックオプションの種類や特性により起こりうるトラブルを未然に防ぐ方法をアドバイスし、要項や契約書類を作成しています。

今回お届けする「弁護士が教える起業~資金調達前のスタートアップ企業が おさえておくべき法務のポイント」の前編はここまでです。後編では、「資金調達にかかわる契約の注意点」をお届けします。

佐藤先生とジョンさんの画像

以上

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【朝礼】今年は、「本気の年」にしよう

今日は、2021年を、皆さんがどのような年にしていくか、そのヒントになる出来事をお話ししたいと思います。

先日、私は当社の大事なお客さまから相談を受けました。そのお客さまの会社では、来年度に向けて新商品を開発しようとしており、それに関して、いわゆる「ユーザーインタビュー」のようなことをしたいとのことでした。

具体的には、新商品のターゲット層となる経営者何人かに、インタビュー形式で、新商品に関連したことを質問していくという内容です。インタビューの目的は、「新商品に、本当にニーズはあるか」「自分たちが想定している活用シーンは本当にあり得るか」「どのような機能が喜ばれそうか」などを明らかにすることでした。お客さまは、私に、「インタビュー相手となる経営者は初対面の人がいい。4~5人ほど紹介してもらえないだろうか」と相談してきたのです。

相手は、日ごろ大変お世話になっており、当社の新規事業立ち上げのきっかけもつくってくれたとても大事なお客さまです。皆さんなら、どういう人を紹介するでしょうか。

どんな人がいいか色々と考えましたが、私は結局、「本気の人」にしようと決めました。ビジネスや人に真っすぐ向き合い、心から感謝し、人に寄り添える人。世の中を良くしようと真剣に思い、困難に立ち向かっていける人。厳しいことでも、言うべきことは毅然と言える人。

それが私の考える「本気の人」であり、今回、私はそうした人たちをお客さまに紹介しました。自身のビジネスとは全く関係ないインタビューにもかかわらず、その人たちは忙しい中、時間を調整し、「少しでもお役に立てれば」と言いながらしっかりと答えてくれました。本当にありがたいことです。

インタビューをした後、お客さまは、こう話してくれました。「正直に言うと、甘く見ていた。予想を遥かに超えて皆さんが真剣に答えてくれたので、自分たちの考えが不十分なことがよく分かった。そこまで考えて商品をつくっていないと気付いたし、目が覚めた。そういう意味では厳しい内容だったが、インタビューとしては大成功。とても感謝している。ここからまた頑張りたい」。

「本気」は「本気」を生みます。インタビューを受けてくれた人たちの真摯な姿勢が良い影響となり、お客さまもギアを上げ、「本気」になったのではないか。私はそのように感じています。

さて、皆さん。私が言いたいことはもう分かるでしょう。今年はぜひ、「本気」の年にしてください。仕事の進め方、人との関わり方、働き方、生き方。今年はそれらが大きく変わり、皆さんも、さまざまなことを考えさせられたはずです。今年は、それを行動に移しましょう。本気で考え、本気で動く。そうすれば、必ず道は拓けます。2021年を、皆さん一人ひとりが、「本気で輝く年」にしていきましょう!

以上(2020年12月)

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画像:Mariko Mitsuda