【賃上げ疲れの経営者へ】社員の働きぶりに見合った賃金の払い方

1 賃金原資は有限! 社員の働きぶりに見合った形で配分する

2026年7月3日に「2026年春闘」の最終回答集計が公表され、日本企業の賃上げ率(平均賃金方式、定期昇給相当分を含む、加重平均)は

2024年、2025年、2026年と3年連続で5%超え

となりました(日本労働組合総連合会「2026年春闘第7回(最終)回答集計」)。

一方で、多くの中小企業では、人手不足と物価高等によるコスト増によって収益が圧迫され、「賃上げ疲れ」が顕在化しています。「もう、最低賃金に合わせるのが精一杯だ!」と、そんな悲鳴を上げる経営者の方々に対し、社労士である筆者が提案しているのは、

ベースアップのように全員一律に給料を底上げする設計を見直すこと

です。

生成AIをはじめとする技術の進展によって、かつて社員が担っていた定型業務の一部は、AI・RPA・チャットボットなどで代替可能になりつつあります。そんな状況にあって、業務内容や貢献度を問わない一律の底上げは、社員を「自分の時間を切り売りするだけの働き方」に甘んじさせ、自ら付加価値を生み出そうとする自立心を阻害するリスクがあります。

限られた賃金原資だからこそ、社員の働きぶりに見合った形で「適正に分配する」決断

が必要です。

この記事では、賃金の「一律底上げ」から「適正な分配」へと発想を切り替え、

ジョブ型・手当重視型・成果型などを組み合わせた、柔軟な賃金設計のポイント

を紹介します。まず自社の現状(固定費率・評価制度の有無・職務の明確さ)を棚卸しし、どの設計から着手するかを検討してみてください。

2 柔軟に賃金を動かしやすい設計の考え方

1)経営側から見た賃金の役割

賃金には、「人件費管理」と「社員のモチベーション管理」という2つの役割があります。総額人件費は、収益計画・労働分配率・生産性のバランスで決まり、個々の社員については、職務内容・成果・能力・役割を評価軸にし、等級・職務ランクごとの期待成果とのギャップで「賃金が高すぎる/低すぎる」を判断するのが基本です。

実務では、次の2つの視点で確認するとよいでしょう。

  • 賃金水準の確認:同業他社の相場・社内分布との比較
  • 価値の見える化:売上・利益貢献だけでなく、品質・生産性・マネジメント・専門性など、職務別に“価値指標”を定義する

2)賃下げとなる場合は「労働条件の不利益変更」のルールに注意

賃金の「一律底上げ」をやめ、「適正な分配」を行う設計に切り替えた場合、期待成果とのギャップによって「賃金が下がる(賃下げとなる)」社員が出てくることになります。ここで、避けて通れないのが、労働契約法の「労働条件の不利益変更」の問題です。

まず、賃金の支給ルールを「個別の労働契約」によって定めている場合、

会社は個別の労働契約の内容を勝手に変更することはできず、社員との合意が必須

です。

また、支給ルールを「就業規則(賃金規程など)」で定めている場合も注意が必要です。通常、就業規則は過半数労働組合(または過半数代表者)の意見を聴いた上で変更することができますが、変更が社員にとって不利益に働く場合、

社員の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性(業績悪化や職務変更など)、内容の相当性、労働組合等との交渉の状況などに照らして合理的な変更でないと無効

になります。特に、

賃金の場合は、評価制度と支給ルールが不透明なせいでトラブルになるケースが多いので、事前に社員に対し、変更内容の詳細を明示することが不可欠

です。

【社労士の実務メモ】

社労士として相談を受ける中でよくあるのが、「口頭で合意したから大丈夫」と思い込んでいるケースです。しかし、賃金の不利益変更は口頭合意だけでは法的に無効と判断されるリスクがあります。個別の労働契約で賃金のルールを決めている場合、書面(労働条件通知書や覚書)で個別に合意を取りましょう。

就業規則の改定については、一応、合理的な理由・対応であれば、個別の合意がなくても過半数労働組合(または過半数代表者)の意見を聴いた上で変更が可能ですが、賃金は社員の生活に直結する労働条件なので、やはり書面で個別に合意を取ったほうがよいです。なお、改定時は、労働基準監督署への届け出と、変更後の周知もセットで行うことが必須です。

3)柔軟に賃金を動かしやすい設計の考え方

日本企業の多くは、長く勤めればその分、基本給が増えていく年功的な制度を導入しています。しかし、基本給は一度金額を上げると下げにくい上に、賞与や退職金の算定基準になっていることも多いです。そのため、人の入れ替わりが少ない企業では、既存社員の高齢化に伴って、年々コストが膨らんでいきます。

対策として有効なのが、二層構造の設計です。具体的には、

  • 基本給は生活保障・能力等級に応じた「安定部分(固定)」
  • 手当・成果給は役職手当・職務手当・インセンティブなど、業績や役割の変化に応じて調整できる「柔軟部分(変動)」

として設計します。職務・成果・手当などの「変動要素」を増やすことで、働きぶりに応じた配分調整がしやすくなります。

以降で柔軟に賃金を動かしやすい設計の例をいくつか紹介します。

3 賃金設計の例:ジョブ型

1)ジョブ型の基本イメージ

ジョブ型とは、職務記述書(ジョブディスクリプション)によって仕事内容・責任範囲を明確に定義し、そのジョブ(役割)の市場価値・社内価値に応じて賃金を設定する設計です。

あらかじめ決められた職務要件を「満たしていること」を前提に賃金を支払い、要件を満たせなくなった場合にはジョブグレードを下げ、対応する賃金レンジに移行します。

例えば、次のようなイメージです。

  • 営業職:担当売上規模や新規開拓の有無に応じてグレード1~3を設定し、担当規模が縮小した場合にはグレードを見直す
  • 経理・バックオフィス職:日常経理のみ/月次決算まで/決算・資金繰り・予算管理まで、と担当範囲に応じてグレードを分ける
  • 現場リーダー・監督職:担当人数・ライン数などマネジメント範囲を職務要件として定義し、組織変更に応じてグレードを調整する

ジョブグレードと賃金レンジのイメージ

(出所:筆者作成)

2)導入時の注意点

ジョブ型という考え方自体はそこまで新しいものではありませんが、実際にジョブ型を導入している中小企業はいまだに少数派です。中小企業の場合、社員一人ひとりが担当する業務が広く、いわゆる「なんでも屋」になりやすいからです。

そのため、多くの中小企業はジョブ型の代わりに、能力評価に基づいて社員の賃金を決定する「職能型」を導入しています。しかし、この職能型も、「なんでも屋」になりがちな社員の能力をどう評価するかが難しく、結局年功的な評価(「○年勤めているのだからこのぐらいはできるだろう」という、上長の主観的な評価)に陥りやすいという側面を持っています。

「なんでも屋」が多いために職務定義が難しく、「誰が何の責任を負っているか」が分かりにくい。この問題が解決されないままジョブ型を導入しても、かえって混乱を招きます。

この問題を解決する上でのポイントは、

  • コア業務と周辺業務を分ける:コア業務に対してジョブグレードを定義し、周辺業務は付随業務として扱う
  • 段階的に導入する:いきなり全社員をジョブ型にせず、管理職・専門職など職務が比較的明確な層から始める

です。特に「職能型」から「ジョブ型」に変えるときは、

「能力評価を完全に捨てる」のではなく、「職務要求を満たすための能力」という形で位置づけ直す

のが現実的です。また、賃金レンジの移行時には、既得権の扱いと移行後の昇給余地をどうするかで揉めやすいです。移行措置(経過措置)と丁寧な説明プロセスを事前に設計しておきましょう。

【社労士の実務メモ】

ジョブ型への移行で最もトラブルになりやすいのは、「新制度では現在の賃金が維持できない社員」への対応です。社員にとって不利益な変更になるため、受け入れられないケースもあるでしょう。

実務上は、一定期間(例:2~3年)は現行賃金を保証する調整給を設ける手法がよく使われます。調整給は「新制度の賃金レンジと現行賃金の差額を埋めるもの」として位置づけ、昇給や賞与の原資を優先的に充てることで段階的に解消していく設計が一般的です。

また、ジョブディスクリプションは作成して終わりではなく、年1回以上の見直しを就業規則や運用ルールに明記しておくことが、後々の紛争リスクを下げる上で重要です。

4 賃金設計の例:手当重視型

1)手当重視型の基本イメージ

基本給は生活保障・安定性という性格が強く、一度上げると法的にも心理的にも下げにくい「固定費」として機能します。

一方、役職手当・職務手当・資格手当・インセンティブ手当などは、要件を満たさなければ支給停止にできるため、「役割が変わった」「業績が変わった」際に比較的柔軟に調整しやすい要素です。

具体的な手当の設計イメージは次の通りです。

1.役職手当

管理職としての責任範囲(マネジメント範囲・部門規模など)を明確に定義し、その役割を担っている間に限って支給します。

2.職務手当

ジョブ型の考え方と組み合わせて活用するもので、特定の職務(プロジェクト責任者・専門業務など)に就いている間だけ支給します。

3.インセンティブ報酬

業績目標・KPI達成・プロジェクト完遂・改善提案などの成果に対して、賞与・一時金・成功報酬といった形で短期的に支給します。

2)導入時の注意点

賃金全体に対する手当比率が高すぎると収入の変動が大きくなり過ぎて、生活不安や離職リスクを高める可能性があります。基本給と手当のバランス設計が重要です。

また、「手当を減らせばいつでもコスト削減できる」という発想だけで設計すると、社員から「都合のいい調整弁」と見なされ、モチベーション低下や不信感につながります。

手当の要件・評価指標・支給停止条件を事前に明示し、評価制度と連動させることで、「納得できる変動」にすることがポイント

です。

【社労士の実務メモ】

手当設計で見落とされがちなのが、割増賃金(残業代)の計算基礎への影響です。役職手当や職務手当は、原則として割増賃金の基礎となる「通常の労働時間の賃金」に算入する必要があります(労働基準法第37条)。

「管理職だから残業代は不要」と判断していたケースでも、実態として管理監督者に該当しないと判断されると、未払い残業代のリスクが生じます。

手当を新設・変更する際は、割増賃金の計算への影響と管理監督者の要件を必ず社労士に確認した上で、就業規則に反映させてください。

5 賃金設計の例:成果・変動報酬型

1)成果・変動報酬型の基本イメージ

成果・変動報酬型は、文字通り「業績や成果に連動して、報酬が変わる」という賃金設計です。大きなメリットは、賞与(ボーナス)の原資配分と直接連動させやすい点にあります。基本給の変更は手続きも心理的ハードルも高いですが、賞与は「今期の業績・成果に応じた配分」として社員にも説明しやすいです。

「まずは賞与を成果連動に切り替える」ことから始め、運用に慣れてから基本給の見直しなどへと段階的にシフトしていく中小企業が多いです。実務では、基本給レンジ・昇給テーブルに加えて、賞与テーブルやインセンティブ報酬を成果指標に連動させる手法が一般的です。

「総額人件費のうち、固定的に支給する賞与(最低保証部分)と変動部分(成果連動賞与+インセンティブ)を分ける」ことで、業績や個人の成果に応じた柔軟な調整が可能

になります。

具体的な仕組みの例を3つ紹介します。

1.評価ランク別賞与テーブル

賞与については「一律何カ月分」とするのではなく、基準賞与額を定めた上で、個人評価係数と会社の業績係数を掛け合わせて支給額を決める方法があります。

例えば、基準賞与額を「基本給の2.0カ月分」とし、個人評価係数をS=1.30、A=1.15、B=1.00、C=0.85、D=0.60と設定した場合の評価ランク別賞与テーブルのイメージは次の通りです。

評価ランク別賞与テーブル(例)

さらに、会社全体の業績に応じて業績係数を0.8~1.2の範囲で設定すれば、原資総額をコントロールしながら、成果に応じたメリハリのある配分が可能になります。

2.ポイント制報酬

プロジェクト完遂・改善提案・資格取得などの行動・成果にポイントを付与し、年間ポイント合計に応じてインセンティブ額を決める仕組みです。

例えば、1ポイント=100円として、年間1000ポイント(10万円)を上限とするポイント制を設計します。

  • プロジェクト完遂:1件当たり200ポイント
  • 改善提案の採用:1件当たり50ポイント
  • 業務に直結する資格取得:1件当たり200ポイント

といったルールをあらかじめ定めておきます。

年間の合計ポイントに応じてインセンティブの額を決めれば、「どの行動が評価されるのか」「どれくらい頑張ればどの程度の報酬になるのか」が見えやすくなります。

3.チーム成果連動型

チーム成果連動型の賞与は、まず「会社全体の業績に応じた賞与原資」を決め、そのうえで部署ごとの売上比率や達成度に応じて「部署別賞与枠」を配分する設計が実務上取り入れやすい方法です。

例えば、会社全体の賞与原資が2000万円、部署Aの売上構成比が30%・達成度120%の場合、

基準枠600万円(=賞与原資2000万円×30%)×達成度係数1.2=720万円

を部署Aの賞与枠とします。その上で、部署内では評価ランクに応じてS=1.3、A=1.1、B=1.0、C=0.8といった係数を設定し、リーダーが評価結果に基づいて枠内で配分します。こうすることで、チーム全体の成果と個人評価の両方を反映した運用が可能になります。

2)導入時の注意点

次の点に注意が必要です。

  • 短期成果に偏りすぎない:長期的な育成・品質・安全などが犠牲になるため、定性的な評価項目とのバランスが重要
  • 評価と報酬の連動を明確に説明する:「何を頑張れば報われるのか」が見えないと、制度への不信感につながる

【社労士の実務メモ】

成果連動賞与を導入する際、「賞与は会社の裁量で支給するもの」と思っている経営者は多いですが、就業規則や雇用契約書に「賞与○カ月分を支給する」などの支給を約束する文言がある場合、それは固定的な支払い義務として扱われるリスクがあります。

成果連動賞与に切り替えるなら、就業規則の賞与条項を「業績・評価に応じて支給することがある」という裁量型・業績連動型の文言に改定することが先決です。

また、評価結果と賞与額の対応表(賞与テーブル)は、社員への説明資料として開示するとともに、就業規則の別規程(賃金規程・賞与規程)に根拠を持たせておくことで、後々の「言った・言わない」トラブルを防げます。

以上(2026年7月作成)

pj00832
画像:ChatGPT

経営のヒントとなる言葉(豊田喜一郎)

「一本のピンもその働きは国家につながる」(*)

出所:「心に響く名経営者の言葉 決断力と先見力を高める」(PHP研究所)

冒頭の言葉は、

「たとえどんなに小さな点であっても、決してゆるがせにしたり妥協したりしてはならない」

ということを表しています。

大学を卒業後、豊田氏は父親である豊田佐吉(とよださきち)氏が設立した豊田紡織株式会社に入社し、佐吉氏とともに自動織機の研究に取り組んでいました。こうした中、1924年、豊田佐吉氏は、画期的な自動織機(無停止杼換(ひがえ)式豊田自動織機(G型)。以下「G型自動織機」)を発明しました。G型自動織機は大きな評判となり、1929年には織機の本場である英国のプラット社と特許権譲渡の契約が結ばれることとなりました。

世界的に有名なプラット社がG型自動織機を評価したのは喜ばしいことでしたが、契約のために英国を訪れた豊田氏は、かつては英国の花形産業であった紡績業がすっかり衰退している状況を目の当たりにし、将来に対する大きな不安を感じました。このため、自社の技術を生かせる新たな事業を模索し、その過程で自動車に着目しました。

日本では、1923年の関東大震災を契機として、都市交通としての自動車への注目が高まっていました。こうした中、1926年に設立された株式会社豊田自動織機製作所(現株式会社豊田自動織機。以下「豊田自動織機製作所」)で働いていた豊田氏は、1930年には小型エンジンの研究を開始し、1933年に豊田自動織機製作所に自動車部が設置されると、自身が中心となって本格的に自動車事業へ進出しました。

しかし、自動車事業への進出は困難を極めました。当時、フォードなどの海外の大手自動車メーカーは、部品の大半を社外から調達し、社内でそれらの部品を組み立てていました。しかし、日本で流通していた部品は品質が低かったため、自動車事業への参入に際しては、部品の大半を自社で製造しなくてはなりませんでした。このため、豊田氏は非常な苦労を重ねた末、1934年にはようやくA型エンジンの試作に成功し、1935年にはA1型試作乗用車およびG1型トラックを完成することができました。

その後、1937年にトヨタ自動車が設立されると豊田氏は副社長に就任し、1938年には挙母(ころも)工場が竣工して本格的な自動車製造が始まることとなりました。

ところが、挙母工場が稼働し始めると同時に、次々に問題が発生しました。試作品の生産段階では問題がなかったにもかかわらず、量産体制に入った途端に自動車の品質が低下してしまったのです。これは、政府からの指示を受け、量産体制の確立を急いだことによるものでした。

豊田氏は、すぐに問題の解決を図りました。発生した不良品は、材質や設計、製造方法など多面的かつ徹底的に見直しを行いました。また、各従業員の作業工程を書き出し、ムダを省いて合理化を図りました。さらに、工場全体の作業方法を見直し、各部署の生産量に偏りが生じないよう、進行状況を管理しました。こうした取り組みにより、品質問題は次第に改善に向かっていきました。

その後、豊田氏は同社の社長に就任し、以降は自動車事業のトップとしてさまざまな車両やエンジンの試作に取り組みました。トヨタ自動車は、挙母工場の稼働で明らかになった問題を基に製造現場の管理を充実させ、以降は自動車製造の一貫した体制整備を行うこととなります。

経営者であると同時に技術者でもあった豊田氏は、品質問題の解決に向けて、従業員に対し次のように述べています。

「豊田自動織機は本来、発明と研究をモットーとせる会社なり。そこより出立せる当社が、不良なる車を社会に送ると云ふ事は、当社として最も恥ず可きことなり」(*)

 

豊田氏の父親である豊田佐吉氏は、生涯を発明と研究に費やしました。そして豊田氏もまた、優れた技術者として自動織機の研究に取り組み、そして新たな分野である自動車事業へと進出しました。豊田氏は「発明と研究」という二つのモットーを佐吉氏から受け継ぎ、それを誇りとして小さな点にも妥協することなく仕事に取り組みました。その姿勢が、今日のトヨタ自動車の「お客様第一・品質第一」という理念の源流となっています。

小さな妥協は、やがて大きな妥協となります。たとえ小さな点であっても、決してゆるがせにせずに全力で取り組むことが、成功への一歩を固めるのです。

【本文脚注】

本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を担保するものではありません。また、本文中では内容に即した肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思われるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。

【経歴】

豊田喜一郎(1894~1952)。静岡県生まれ。東京帝国大学工学部卒。1929年、豊田自動織機製作所(現株式会社豊田自動織機)の技師に就任。1937年、トヨタ自動車工業株式会社(現トヨタ自動車株式会社)を設立し、副社長に就任。1941年、同社社長に就任。

【参考文献】

(*)「心に響く名経営者の言葉 決断力と先見力を高める」(江上 隆夫、PHP研究所、2014年)
「トヨタウェブサイト」(トヨタ自動車株式会社)

以上(2026年7月更新)

pj15117
画像:日本情報マート

財務3表のつながりを図解でわかりやすく解説

1 企業活動を数字で示すのが財務3表

一般的に、企業の事業は次のような流れで進みます。

  • 銀行からの借入や投資家からの出資によって資金を調達する
  • その資金を元手に商品を仕入れたり、製造に必要な機械設備を購入したりする
  • 商品やサービスを顧客に販売して利益を上げることで、投資を回収する

この事業活動のサイクルを、経営成績、財政状態、現金の流れの観点から数字で示したものが、財務3表となります。

  • 損益計算書:一定期間の企業の経営成績を表すもの
  • 貸借対照表:企業の期末日など、一定時点の財政状態を表すもの
  • キャッシュフロー計算書:一定期間の企業の現金の流れを表すもの

また、この財務3表はそれぞれが独立しているわけではなく、そのつながりを理解することで会社の状況がよりよく見えてくるようになります。早速、確認していきましょう。

2 事業活動を数字にするためのルール”複式簿記”

それぞれの財務3表の説明の前に、複式簿記の考え方を押さえておきましょう。

決算書は日々の仕訳を基に作成されます。この仕訳を記録・集計して記帳するのが複式簿記です。複式簿記では、全ての事業活動を原因と結果の両面で捉えて、「資産・負債・純資産・収益・費用」といった5つの要素に分類します。

これら5つの要素は、2つの側面(左右)でそれぞれ記帳する場所が次のように決まっています。

5つの要素の記帳場所

例えば、銀行から現金を借り入れるという取引は、現金を資産の場所に、借入金を負債の場所に記帳します。このように、複式簿記に従って、全ての取引を決まった場所に記帳していくことで、事業活動が数字でまとめられます。これら5つの要素を上下に区切ると、資産・負債・純資産の部分が貸借対照表に、収益・費用の部分が損益計算書になります。そして、作成された貸借対照表と損益計算書を基に、キャッシュフロー計算書を作成していきます。

3 貸借対照表とは

貸借対照表とは、

ある時点における会社の財政状態を表す財務諸表

です。財政状態とは、「会社がどのようにお金を調達し、そのお金を何に投資しているのか」の状態です。貸借対照表は次の3つの要素で構成され、左側に資産、右側に負債と純資産が計上されます。

  • 資産:手元にある現金や会社が購入した商品、土地・建物などの財産
  • 負債:銀行からの借入金や買掛金などの債務
  • 純資産:投資家からの出資金や、会社が稼いだ利益の積み立て分など

貸借対照表の構成要素

4 損益計算書とは

損益計算書とは、

一定期間における会社の業績(どれだけの利益を上げたか、そのもうけの内訳は何かなど)を表す財務諸表

です。

損益計算書は次の2つの要素で構成され、さらにその2つの要素の差額として利益(または損失)を計算します。なお、図表1の損益計算書は右に収益、左に費用と横形の表でしたが、通常の損益計算書は上に収益、下に費用が記載されます。

  • 収益:商品の売り上げなど事業活動により稼いだ成果
  • 費用:商品の仕入れや人件費の支払いなど、会社の事業活動上のコスト

損益計算書の構成要素

5 キャッシュフロー計算書とは

キャッシュフロー計算書とは、

一定期間のキャッシュの増減を表す財務諸表

です。キャッシュフロー計算書は、キャッシュの増減を次の3つの区分に分けて表示し、その期間におけるキャッシュの増減を明確にします。

  • 営業活動によるキャッシュフロー:売り上げ、仕入れ、経費など主に本業によるキャッシュの動きを示す
  • 投資活動によるキャッシュフロー:固定資産や有価証券の取得・売却などによるキャッシュの動きを示す
  • 財務活動によるキャッシュフロー:借り入れや返済、増資などによるキャッシュの動きを示す

なお、キャッシュフロー計算書には、直接法と間接法の2通りがあります。直接法は、商品の販売や仕入れ、経費の支出など、主要となる取引を個々に合算していく方法です。従来の損益計算とは別で新たに営業活動によるキャッシュフローを計算するための手続きを一から行う必要があり、計算手続きに労力がかかります。

一方で、間接法は損益計算書の税引前当期純利益を基に加減して計算できるため、直接法と比べると労力が少なくすみます。以降では、間接法を基にキャッシュフロー計算書の構成を紹介していきます。

キャッシュフロー計算書の構成要素

6 財務3表のつながり

貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書は別々の目的で作成されるものの、それぞれがつながっています。そのつながりを読み解くことで、事業活動の流れが把握できます。財務3表のつながりを理解するときのポイントは次の3つです。

  • 貸借対照表(純資産)と、損益計算書(税引後当期純利益または損失)はつながっている
  • 損益計算書の税引前当期純利益または損失とキャッシュフロー計算書の営業活動によるキャッシュフローはつながっている
  • 貸借対照表(資産(現金))とキャッシュフロー計算書の現金の残高は一致する

具体的なつながりのイメージは次の通りです。

財務3表のつながりの全体像

7 事例で確認。財務3表のつながり

ここでは、設立1年目の株式会社の基本的な取引を基に、それぞれの取引がどのように財務3表に反映されているのかを、財務3表のつながりを見ていきながら説明します。なお、便宜上、取引ごとに損益計算書の利益(または損失)を計算して、貸借対照表の純資産(株主資本)に反映させており、その都度、キャッシュフロー計算書を作成しています。

1)会社設立時の資金の準備(お金を調達する)

会社の設立に当たって、資金の調達をします。内訳は、銀行からの借り入れが400万円、投資家からの出資が600万円です。

取引1:資金の準備

資金調達した1000万円(400万円+600万円)は、貸借対照表の「資産(現金)」に計上します。

銀行から借り入れた400万円は、貸借対照表の「負債(借入金)」に計上します。投資家から出資を受けた600万円は、貸借対照表の「純資産(資本金)」に計上します。

また、現金が増加したため、キャッシュフロー計算書の「財務活動によるキャッシュフロー」に、それぞれの取引による増加分(プラス400万円とプラス600万円)を記載します。

2)備品を現金で購入(お金を投資する)

会社を運営するためには、パソコンなどの備品が必要です。ここでは、パソコン30万円を現金で購入しました。

取引2:備品の購入

購入したパソコン30万円は、貸借対照表の「資産(備品)」に計上します。

購入の際に支払った現金30万円を、貸借対照表の「資産(現金)」から減少させます。

また、現金が減少したため、キャッシュフロー計算書の「投資活動によるキャッシュフロー」に、備品の購入による減少分(マイナス30万円)を記載します。

3)商品を現金で仕入れ(お金を投資する)

商品を200万円分(100個×単価2万円)、現金で仕入れます。

取引3:商品の仕入れ

仕入れた商品の200万円は、貸借対照表の資産(たな卸資産)に計上します。仕入れに支払った現金200万円を、貸借対照表の「資産(現金)」から減少させます。

また、現金が減少したため、キャッシュフロー計算書の「営業活動によるキャッシュフロー」に、たな卸資産の増減(マイナス200万円)を記載します。

4)商品を現金で売り上げ(投資を回収する)

商品50個を300万円で売り上げ、代金を現金で受け取りました。

取引4:商品の売り上げ

商品の売り上げ300万円は、損益計算書の「収益(売上)」に計上し、費用(売上原価)100万円との差額200万円が利益となります。この利益は貸借対照表の「純資産(利益剰余金)」にも計上されます。

売り上げで受け取った現金300万円は、貸借対照表の「資産(現金)」を増加させます。さらに、売り上げた商品(100万円=50個×単価2万円)を「資産(たな卸資産)」から減少させます。

また、損益計算書上の利益はキャッシュフロー計算書の「営業活動によるキャッシュフロー」にプラス200万円を、たな卸資産の増減については「営業活動によるキャッシュフロー」にマイナス100万円(△200万円+100万円)を記載します。

5)決算日

資産(備品)30万円は、便宜上5年間使用できるものとした場合には、その期間を通して6万円ずつ減価償却費として費用計上します。事業年度を通して利益が出ると、会社は法人税等を納付しなければなりません。法人税等とは法人税・法人事業税・法人住民税をいいます。実際に法人税等を計算する場合には、税法上のさまざまな調整が必要になりますが、ここでは簡略化して法人税等を60万円とします。

取引5:法人税等の計上

法人税等60万円は、損益計算書の「利益(税引前)」の下に計上し、最終的な利益である税引後の利益が計算されます。

法人税等60万円を、貸借対照表の「負債(未払法人税等)」に計上します。法人税等の支払いは、決算日の翌日から2カ月以内と定められており、例えば3月決算の会社については、5月末までとなります。そのため、法人税等の支払いは翌期になり、決算を確定する時点では未払いとなり、貸借対照表の「負債(未払法人税等)」に計上します。

従って、設立1年目においては、法人税等の支払いによる現金の増減はなく、キャッシュフロー計算書には影響しません。

以上(2026年7月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

pj00212
画像:Rummy & Rummy-Adobe Stock

運転資金の計算方法と資金繰り改善のシミュレーション

1 運転資金の計算は「売掛金+棚卸資産(在庫)−買掛金」で、まずはざっくりと!

運転資金とは、日々会社を経営するために必要な資金です。「資金繰り」の目的の1つは、運転資金が不足しないように管理することです。

運転資金を意識することはとても重要ですが、皆さんは「運転資金の計算方法」や「毎月必要な運転資金額」を把握していますか。また、いざというときに備えて、運転資金の調達先を確保していますか。

会社を経営していくためには様々な資金が必要となりますが、大別すると、

  • 運転資金:会社を経営するために、「継続的に」必要となる資金
  • 設備資金:土地・建物やPCなどを調達するために、「そのときだけ」必要となる資金

になります。運転資金は継続的に発生するものだからこそ、足りなくなると資金ショートを起こし、最悪の場合は倒産してしまいます。

となると、気になるのは自社にいくらの運転資金が必要なのかということだと思いますので、実際に計算してみましょう。まずは皆さんの会社の貸借対照表(BS)をご準備ください。そして、貸借対照表の中から「売掛金」「棚卸資産(在庫)」「買掛金」の3つの数字を見つけて、次のように計算してみてください。

運転資金=売掛金+棚卸資産(在庫)−買掛金

これが、自社に必要な運転資金をざっくりと示す目安です。図で示すと、次のようなイメージになります。

運転資金のイメージ

なぜ、この計算式で運転資金が分かるのかを簡単に説明します。

1.売掛金とは、既に販売しているが、まだもらっていないお金。「売上債権」ともいう

2.棚卸資産(在庫)とは、既に調達しているが、まだお金になっていない商品など

3.買掛金とは、既に購入しているが、まだ払っていないお金。「仕入債務」ともいう

整理すると、売掛金と棚卸資産(在庫)はまだお金になっていない資産です。一方、買掛金は手元にあるお金で、支払期日までは自由に使えます。売掛金と棚卸資産(在庫)が入ってくるまでの間、買掛金で賄えればよく、足りないようなら、その部分を補うのが運転資金となるわけです。

2 「運転資金回転期間」で、もう少し細かく!

先の「運転資金=売掛金+棚卸資産(在庫)−買掛金」は、ざっくりと運転資金を計算するものですが、もう少し細かく計算する方法もあります。それは、財務分析で一般的な「回転期間」を用いるものです。回転期間とは会社経営の効率性を知るためのもので、売掛金や棚卸資産(在庫)などの資産を回収するための期間や、買掛金などの負債を支払うまでの期間を把握することができます。

具体的には次の3つの回転期間を用います。なお、以下では日ごとの指標としています。月間で計算する場合は、「÷365日」の部分を「÷12カ月」としてください。

1.売上債権回転期間=売上債権÷(売上高÷365日)

2.仕入債務回転期間=仕入債務÷(売上原価÷365日)

3.棚卸資産回転期間=棚卸資産÷(売上原価÷365日)

売上債権回転期間は、売掛金を回収するまでの期間を示すもので、数値は小さいほど好ましいです。反対に仕入債務回転期間は、買掛金を支払うまでの期間を示すもので、数値は大きいほど好ましいです。また、棚卸資産回転期間は、在庫が売れるまでの期間を示すもので、数値は小さいほど好ましいです。

これら3つの回転期間を使って、運転資金回転期間を次のように求めます。

運転資金回転期間=売上債権回転期間+棚卸資産回転期間−仕入債務回転期間

ここで出てきた期間の運転資金が必要ということになります。例えば、計算した結果が、

運転資金回転期間=30日

1日当たりの売上高=10万円

となった場合、

運転資金=300万円(30日×10万円)

となります。

3 固定的にかかる費用も賄う。「固定費」と「変動費」について

ここまで運転資金の計算方法について解説してきましたが、

会社経営にはオフィス賃料や人件費などのコストもかかる

ことに注意が必要です。こうした、売上に関係なくかかる費用を「固定費」と呼びます。教科書的には、

固定費は、売上が増えても変わらない点は好ましく、逆に売上が減っても変わらない点は好ましくない

という二面性があります。なお、実際の経営においては、売上が増えれば仕事も増えるので社員を雇ったりするため、実際は固定費も増えます。同様に売上が減ればコスト削減をするため、やはり固定費は減ります。

一方、売上高の増減に比例する費用を「変動費」と呼びます。ここまで触れてきた売上原価は、典型的な変動費です。

代表的な固定費と変動費の例

4 運転資金が不足する原因とは?

1)原因1:決済サイトのバランスが悪い

資金繰りは、手元にお金があればあるほど楽になるもので、逆もしかりです。では、皆さんが販売する側になった場合、

  • パターンA:売掛金の決済サイトは60日、買掛金の決済サイトは30日
  • パターンB:売掛金の決済サイトは30日、買掛金の決済サイトは60日

では、どちらが好ましいといえるでしょうか?

話を単純にするために、

  • 販売は、60日ごとに250万円
  • 仕入れは、60日ごとに50万円
  • 固定費は、30日ごとに80万円

という前提で、パターンAとパターンBをシミュレーションしてみましょう。

シミュレーション例(1)

当然ですが、買掛金の決済サイトが、売掛金の決済サイトよりも長いパターンBのほうが資金繰りは楽になっています。

また、注目したいのはパターンAです。損益計算書(PL)では、

  • 年間の売上高:1500万円(250万円×6回)
  • 年間の費用:1260万円(50万円×6回+80万円×12カ月)

※なお、7回目の仕入れは在庫の状態であり費用(売上原価)に計上されません。

  • 年間の営業利益:240万円(1500万円−1260万円)

となるのですが、キャッシュはマイナス10万円となっていることです。これが「勘定合って銭足らず」の状態で、黒字倒産の原因となります。

対して、パターンBは、

年間の営業利益:240万円(1500万円−1260万円)

と同額ですが、キャッシュはプラス240万円となっています。

この大きな違いは決済サイトによるものです。

となると、売掛金の決済サイトは短く、買掛金の決済サイトは長くすればよいということになりますが、これは取引相手と表裏の関係であることを忘れてはなりません。自社が楽になれば、相手が苦労することになるかもしれません。

このことを念頭に置き無茶な要求はせず、双方にとってバランスの良い決済サイトを契約によって決めることが、スムーズな取引のために必要です。

2)原因2:棚卸資産回転期間が悪い

棚卸資産は、すぐに販売してキャッシュに変えたほうが効率的です。これを定量的に示す財務分析の指標が、前述した「棚卸資産回転期間」です。

棚卸資産回転期間=棚卸資産÷(売上原価÷365日)

前述のパターンAとパターンBで、売掛金と買掛金の決済サイトを変えず、棚卸資産回転期間が2分の1になった場合で考えてみましょう。

話を単純にするために、

  • 販売は、30日ごとに250万円
  • 仕入れは、30日ごとに50万円
  • 固定費は、30日ごとに145万円(売上高が増えるので、固定費も増やしています)

という前提で、パターンAとパターンBをシミュレーションしてみましょう。

シミュレーション例(2)

棚卸資産回転期間を2分の1にしたことで、パターンAとパターンBともに資金繰りが楽になっています。

3)原因3:売上が増えた

売上が増えれば変動費も増えます。また、固定費についても、どこかのタイミングで上げざるを得ません。

例えば、売上増に対応するため人員増・設備増・家賃増などの投資を行った結果、これに伴う支出の増加が売上の増加を上回る場合などがあります。売上だけではなく利益にも注目し、変動費と固定費をコントロールしなければ、資金繰りが厳しくなる恐れがあります。

この辺りは、損益分岐点の考え方が役立ちます。

4)原因4:売上が減った

売上が減れば変動費も減ります。しかし、一定期間、固定費はそのままとなるので、資金繰りが厳しくなります。

5)原因5:スポットや季節的要因で資金が必要になった

賞与の支払い、急な仕入れなど、会社経営ではスポットで資金が必要になることがあります。こうしたときは資金繰りが厳しくなります。

また、スポットではありませんが、季節的要因で資金が必要になることもあります。

5 運転資金の主な調達方法

1)公的な融資制度

日本政策金融公庫や地方自治体が行う公的な融資制度です。基本的には低金利で融資を受けることができ、かつ創業時などで実績がない会社にとっても窓口を広げているため、有効な選択肢となります。

2)ファクタリング

売上債権を現金化するファクタリングという資金調達方法です。自社が所有している売掛金を専門のファクタリング会社に売却することで、すぐに資金を手に入れることができます。手数料などの分、目減りしてしまうものの、資金回収の待ち時間を短縮できます。

3)クラウドファンディング

インターネットを通じて、不特定多数の人から資金を調達するのがクラウドファンディングです。クラウドファンディングの主な型は次の3種類です。

  • 購入型(製品やサービスを受ける権利を購入してもらって、資金を調達する方法)
  • 寄付型(製品やサービスなどのリターンは発生しない、寄付と同様な形で資金を調達する方法)
  • 投資型(将来的に株式や利子、配当をリターンとして、投資してもらい資金を調達する方法)

4)設備のリース・レンタルサービス

設備投資に関連する運転資金を節約するために、リースやレンタルのサービスを利用する方法です。これにより初期投資を抑えつつ、必要な機材や設備をそろえることができます。

6 運転資金の種類

ここまでの説明で間接的に触れていることではありますが、運転資金には、いくつかの種類があるので補足しておきます。

1)経常運転資金(正味運転資金、所要運転資金)

経常運転資金、正味運転資金、所要運転資金などと呼ばれるものです。いわゆる「運転資金」というときは、この経常運転資金を指します。求め方は、前述した通りです。改めて紹介すると、次のようになります。

1.運転資金=売掛金+棚卸資産(在庫)−買掛金

2.運転資金=運転資金回転期間×1日当たりの売上高

2)増加運転資金

売上の増加に伴い必要となる資金です。売上が増えると仕入れなどが増え、運転資金が必要になることがあります。

3)減少運転資金

売上の減少に伴い必要となる資金です。売上が減っても、一定期間、固定費は変わらないため、運転資金の確保が難しくなります。

4)スポット、季節運転資金

賞与の支払いや急な仕入れ、季節的要因によって必要となる運転資金です。

以上(2026年7月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

pj35180
画像:ururu-Adobe Stock

出張中、「新幹線の移動時間は労働時間ですよね?」と社員に聞かれたら?

1 会社の指揮命令下に置かれているかどうかが重要

出張の多い社員から、「出張先までの新幹線や飛行機の移動時間って、労働時間ですよね?その分の残業代は出ますか?」と聞かれることがあります。「移動中は仕事をしていないのだから関係ないだろう」と思うかもしれませんが、一概にそうとは言えません。

労働基準法上の「労働時間」とは、社員が会社の指揮命令下に置かれている時間をいい、労働契約や就業規則の定め方にかかわらず、客観的な実態によって判断されます(最高裁平成12年3月9日判決)。つまり、移動時間が「社員が自由に使える時間か、会社の指示や管理下に置かれた時間か」によって結論が変わってくるのです。

そして、出張の移動時間以外にも、育児や介護のための中抜け、勤務時間外のメール・チャット対応、タバコ休憩など、日常の中で労働時間かどうか判断に迷うケースはさまざまあります。判断が複雑なものもあるので、事例別にイメージをつかんだほうが無難です。以降でいくつかの事例について、法令や裁判例に基づく解釈を紹介するので参考にしてください。

2 テレワークや出張での移動時間

テレワークは、就業場所(自宅やサテライトオフィスなど)を、就業規則や雇用契約書で明示(限定)した上で実施します。とはいえ、社員が「より集中しやすい場所で作業したい」など、自分の都合でカフェや図書館に移動して作業することもあります。このように

社員自身の都合で就業場所を移動し、その間自由に利用できる時間は、労働時間として扱わなくてもよい

とされています。ただし、移動時間中に会社から指示を受けてノートPCなどで業務を行う場合や、会社がテレワークをやめて急遽出社するよう命じるなど、会社都合で就業場所を指定した場合は、会社の指揮命令下にあるとみなされ、労働時間になります。

出張の場合も基本的な考え方は同じです。行政解釈でも、出張の際の休日の移動は、物品の監視等の特別な指示がある場合を除き、労働時間として扱わなくてよいとされています。自宅から出張先までの移動時間は、通常は労働時間になりません。しかし、上司と打ち合わせをしながら出張先に向かったり、会社から移動手段を指定されたり、会社から指示を受けてお金や製品を管理したりなど、会社の指揮命令下にあるとみなされる状況では労働時間になります。

この他、建設業などの場合、一旦会社に集合してから現場に向かうことがありますが、この移動時間が労働時間に当たるのかも、移動の態様によって判断が分かれます。例えば、

  • 「会社に集合し、資材を積み込んでから現場に向かうよう、会社から命令されている」など、移動時間が自由時間とはいえないので、労働時間になる
  • 「現場に直行したい人は直行する」「会社に集合したい人は、集合してから向かう(車両運転者や集合時刻については各自が任意で決定)」など、移動の仕方を社員が自由に決められる場合、労働時間にならない

といった具合です。

3 中抜け

「子どもの保育園への送迎」「家族の介護」など、社員が私用で業務を中断することがあります。こうした中抜けの時間は、

会社から指示を受けず、社員が自由に利用できる場合、労働時間として扱わなくてもよい

とされています。労働時間を計算する場合、社員から1日の始業・終業時刻と一緒に中抜けの時間を報告してもらうなどして対応しましょう。

中抜けの時間は、「休憩時間(無給)」にすることも、社員の求めに応じて「時間単位年休(1時間単位で取得できる年次有給休暇)」とすることも可能です。ただし、どちらの場合も就業規則等で定め、事前に社員に周知しなければなりません。また、時間単位年休を導入するには労使協定の締結が別途必要です。中抜け時間の取り扱いは、厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」にも記載があります。ちなみに、時間単位年休の時間は、社員の自由な行動が保障されていれば、労働時間になりません。例えば、就業時間が9時から18時までの会社(所定労働時間:8時間)で、社員が

  • 9時から11時まで、2時間の時間単位年休を取得
  • 11時から20時まで、8時間勤務(1時間休憩)

した場合、実際の労働時間は11時から20時までの8時間なので、法定労働時間内(原則として1日8時間、1週40時間)ということで残業は発生せず、割増賃金を支払う必要はありません。

4 勤務時間外のメール・チャット対応

スマートフォンの普及により、勤務時間外や休日でも、上司や取引先からメールやチャットが届くことは珍しくありません。「通知が来ただけ」なのか「対応まで求められているか」で、労働時間になるかどうかが変わります。

具体的な対応(返信、資料作成など)を求められておらず、翌営業日の確認で差し支えない場合、労働時間として扱わなくてもよい

とされています。一方、

上司から「今すぐ確認して対応してほしい」と即時対応を求められ、実際に資料修正や顧客対応などの業務を行った場合、その対応に要した時間は労働時間になる

と考えられます。

ちなみに、対応を求められていない通知の受信であっても、こうした連絡が常態化すると社員のプライベートを圧迫し、精神的な負担につながります。「休日・夜間の連絡は翌営業日の確認でよい」旨をルール化し、緊急時以外は送信を控える、あるいは予約送信機能を活用するといった工夫が望ましいでしょう。

近年は、勤務時間外の業務連絡を遮断する「つながらない権利」への関心も高まっています。関連する制度として、終業から次の始業までに一定の休息時間を確保する「勤務間インターバル制度」があり、労働時間等設定改善法で導入が会社の努力義務とされています。時間外の連絡ルールとセットで導入を検討する価値があるでしょう。

5 持ち帰り残業

タイムカードを打刻して退勤した後、自宅でパソコンを開いて仕事を続ける、いわゆる「持ち帰り残業」をする社員がいます。この場合の労働時間の判断は、

自宅での作業は会社の直接の指揮命令下から離れているため、原則として労働時間にならない

とされています。ただし、

所定時間内に到底終わらない業務量であることを会社が把握しながら、自宅での作業を黙認している場合、黙示の指示があったとして労働時間になる

と判断される可能性があります。実際、退勤後のメール送信履歴やファイルの更新履歴といった客観的な記録をもとに、自宅での作業を労働時間と認定した裁判例もあります。

持ち帰り残業を防ぐには、「持ち帰り残業を禁止する」旨を社内で明確にした上で、業務量が適正かを定期的に確認し、パソコンのログイン時刻とタイムカードの打刻時刻に大きな乖離がないかをチェックする運用が有効です。

厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」でも、自己申告された労働時間とパソコンの使用時間等の客観的な記録に著しい乖離がある場合には、実態調査を行って労働時間を補正するよう求められています。

6 タバコ休憩

喫煙する社員が頻繁に離席してタバコ休憩を取ることについて、非喫煙の社員から「不公平だ」という声が上がることがあります。休憩時間として扱えるかどうかは、

電話対応や来客対応などの業務から完全に解放されているかどうかで判断する

とされています。喫煙室に移動し、その間は一切の業務対応を求められない状態であれば「休憩時間」として扱い、その時間分の賃金を控除しても問題ありません。一方、電話が鳴ったらすぐ対応する必要があるなど、業務からの解放が保障されていない場合は休憩時間とはいえず、労働時間として扱う必要があります。

実際のオフィスでは、業務からの完全な解放が保障されているとはいえないため、タバコ休憩は労働時間として扱わざるを得ないケースが大半です。もっとも、賃金を支払うこととは別に、勤務時間中の頻繁な離席は職務専念義務の観点から注意・指導の対象とすることができます。

ただし、数分単位の喫煙時間をすべて正確に記録し、その都度賃金から控除するのは、管理コストの面で現実的ではありません。実務では、非喫煙者に「禁煙手当」を支給したり、喫煙の有無にかかわらず利用できる「特別休暇」を設けたりするなど、待遇面で公平感を確保する対応が広がっています。

なお、健康増進法により、事務所や工場などは原則屋内禁煙とする必要があり、屋内に喫煙場所を設ける場合は、基準を満たす喫煙専用室の設置が求められます。労務管理と併せて、喫煙環境の整備状況も確認しておきましょう。

以上(2026年9月更新)
(監修 社会保険労務士 柴田充輝)

pj00831
画像:ChatGPT

【賃金データ集】賃金改定の動向

【賃金データ集】シリーズとは?

【賃金データ集】シリーズは、基本給や諸手当など賃金の主要な構成要素ごとの近年のトレンドを、モデル支給額を中心とした関連データとともに紹介します。経営者や実務家の方々が賃金支給水準の決定や改定を行う際の参考としてご活用ください。なお、モデル支給額などのデータを紹介する際は、基本的に出所に記載されている用語を使用するものとします。また、データは公表後に修正されることがあります。

この記事で取り上げるのは「賃金改定の動向」です。

なお、以降で紹介する図表データのExcelファイルは、全てこちらからダウンロードできます。

こちらからダウンロード

1 賃金改定の概要

毎年、1月ごろから注目され始める「春闘」(日本経済団体連合会では「春季労使交渉」、日本労働組合総連合会では「春季生活闘争」)は、日本独特の労使闘争であり、1956年ごろから現在の形になったといわれます。

春闘では、全国中央組織である労働団体や産業別・雇用形態別組織の指導・調整の下、労働組合が結束して企業との団体交渉に臨みます。中心となる交渉のテーマは、基本給や一時金(賞与)の引き上げ要求ですが、この記事では基本給に注目します。まずは、春闘で話題になる定期昇給やベースアップの仕組みを確認してみましょう。

定期昇給、ベースアップ、賃金改善のイメージ

2 賃金改定の潮流

1)近年の春闘の傾向

日本労働組合総連合会(以下「連合」)が公表している、2022年春闘から2026年春闘までの賃上げ率(平均賃金方式、定期昇給相当分を含む、加重平均)の動向をお知らせします。

大企業と中小企業の賃上げ額の推移

注目すべきは、

2024年、2025年、2026年と3年連続で、加重平均で5%台の賃上げ

が実現していることです。

2024年春闘は、連合が「経済も賃金も物価も安定的に上昇する経済社会へとステージ転換をはかる正念場である」として、賃上げ目標(定期昇給相当分を含む)を2023年の「5%程度」から「5%以上」に改めました。加重平均での5%超えは33年ぶりでした。

2025年春闘は、「賃上げと価格転嫁・適正取引における格差解消をセットで進めていく」という方針が示され、多くの中小組合で格差是正を含めた積極的な要求が提出されました。

2026年春闘は、「実質賃金の持続的な上昇を伴う『賃上げノルム』の確立に向け、3年連続の5%以上の賃上げを目指す」という方針が示され、実現に至りました。

3 厚生労働省の統計資料による賃金改定の状況

民間主要企業における春季賃上げ状況の推移

民間主要企業における春季賃上げ状況の推移

4 日本経済団体連合会の統計資料による賃金改定の状況

昇給とベースアップの実施状況の推移

賃上げ額および賃上げ率の推移

春季労使交渉・大手企業業種別妥結結果(加重平均)

春季労使交渉・中小企業業種別妥結結果(加重平均)

5 地域ごとの状況(東京、大阪、愛知、千葉)

東京都内企業の春季賃上げ要求・妥結状況(加重平均)

大阪府内企業の春季賃上げ要求・妥結状況

愛知県内企業の春季賃上げ要求・妥結状況

6 情報インデックス(この記事で紹介したデータの出所)

この記事で紹介した統計資料は次の通りです。調査内容は個別のURLからご確認ください。なお、内容はここ数年の公表実績に基づくものであり、調査年(度)によって異なることがあります。

■民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/shuntou/roushi-c1.html

民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況

■1~6月実施分 昇給・ベースアップ実施状況調査結果■
https://www.keidanren.or.jp/policy/index09.html

昇給・ベースアップ実施状況調査結果

■春季労使交渉・大手企業業種別妥結結果、春季労使交渉・中小企業業種別妥結結果■
http://www.keidanren.or.jp/policy/index09.html

春季労使交渉・大手企業業種別妥結結果、春季労使交渉・中小企業業種別妥結結果15

■経済要求・妥結状況調査■
http://www.hataraku.metro.tokyo.jp/sodan/chousa/youkyu-daketsu/

経済要求・妥結状況調査

■春季賃上げ要求・妥協状況■
http://www.pref.osaka.lg.jp/sogorodo/chousa/

春季賃上げ要求・妥協状況

■県内企業の春季賃上げ、夏季一時金及び年末一時金要求・妥結状況調査結果■
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/rodofukushi/0000052467.html

県内企業の春季賃上げ、夏季一時金及び年末一時金要求・妥結状況調査結果

以上(2026年7月更新)

pj17902
画像:ChatGPT

インボイス制度の2026年問題! 2026年10月から消費税負担が増える?

1 改正により多少緩和された「インボイス制度の2026年問題」

2026年10月に、インボイス制度が大きな転換期を迎えることをご存じでしょうか。具体的には、

1.仕入先に免税事業者などがある会社が影響を受ける

免税事業者などからの仕入れに係る経過措置(以下「インボイス経過措置」)の控除率が縮小

2.インボイス制度の導入を機に、課税事業者となった小規模事業者が影響を受ける

免税事業者が課税事業者を選択した場合の2割特例(以下「インボイス2割特例」)の廃止

の2つです。適切な準備を怠ると、消費税負担が増えるだけでなく、既存の取引関係にも変化が生じることになりかねません。

2026年度税制改正により、控除率(経過措置)の縮小幅の変更と廃止までの期間が延長され、その影響は多少緩和されたものの、制度縮小と廃止という方向性そのものは変わっていません。このインボイス制度の経過措置の控除率縮小やインボイス2割特例の廃止のポイントを知り、対策を講じるようにしましょう。

2 インボイス経過措置による控除率の縮小について

1)内容は?

インボイス制度の下では、適格請求書発行事業者として登録した事業者しか「適格請求書(インボイス)」を発行できず、買い手側(課税事業者)はインボイスを保存することで、仕入税額控除を受けられます。つまり、インボイスが発行できない免税事業者(あるいは適格請求書発行事業者の登録をしていない事業者)からの仕入れについては、原則控除が受けられません。

しかし、制度導入直後の急激な税負担の増加などの影響を避けるため、導入後の数年間は、インボイスが発行できない事業者からの仕入れでも、一定額の控除を受けられるインボイス経過措置が設けられています。一定額の控除率は段階的に縮小され、最終的にはなくなります。

インボイス経過措置による控除率の縮小

この経過措置による控除率の第一段階の縮小(80%→70%)が、2026年10月に到来します。

2)控除率が縮小することの影響は?

1.消費税負担の増加

免税事業者から商品やサービスを仕入れている場合、これまで80%控除できていた消費税が、2026年10月からは70%の控除しかできなくなります。つまり、控除できない10%分がそのまま消費税の納税負担として上乗せされるのです。免税事業者との取引が多いほど、納税額の増加になります。

納税額の増加は、会社の資金繰りに直接影響します。特に、利益率の低い事業や、運転資金がタイトな企業にとっては、予期せぬ支出増が経営を圧迫する可能性があります。

2.仕入れコストの増加と価格交渉の必要性

仕入税額控除が縮小されるということは、免税事業者からの仕入れコストは当然上がります。そのため、こうしたコスト増を加味した価格交渉や取引先の選定基準の見直しが必要になります。また、現時点では2031年10月以降、この経過措置が終わることになっているので、段階的に行われる控除率の縮小だけでなく、経過措置の完全終了も視野に入れることが大切です。

3)取るべき対応は?

1.消費税の納税シミュレーションをして、資金繰りへの影響を把握

2026年10月以降の消費税の納税額がどう変化するか、シミュレーションしましょう。現在の取引状況(免税事業者からの仕入額の見込みや前年度取引実績値など)に基づいて、経過措置の控除率が70%・50%・30%となる場合(余裕があれば、2031年の経過措置の完全終了の場合も併せて)の納税額を計算し、資金繰りへの影響を把握しましょう。

2.取引先との具体的な協議と、価格・取引条件の再検討

まずは、免税事業者の取引先に対し、適格請求書発行事業者への登録を促すことを検討しましょう。もし取引先が登録しない選択をした場合には、価格の見直しや取引条件の再交渉が必要になる可能性があります。ただし、その際は、

独占禁止法や取適法に違反しないよう細心の注意が必要

です。例えば、一方的に値引きを要求したり、取引価格を据え置いたまま消費税分を負担させたりすることは、優越的地位の濫用とみなされるリスクがあります。交渉担当者は、取引先との良好な関係を維持しつつ、デリケートな交渉を誠実かつ丁寧に、そして法的なリスクを理解した上で進める必要があります。

3 インボイス2割特例の廃止について

1)内容は?

インボイス2割特例とは、免税事業者がインボイス制度の導入を機に、課税事業者を選択した場合、

納税額を、売上に係る消費税(仮受消費税)の2割とする制度

です。この特例を適用すると、売上に係る消費税額の20%だけを納税すればよいことになります。つまり、80%の消費税額が免除される計算です。例えば、売上に係る消費税が50万円であれば、納税額は10万円で済みます。この特例は、事前の届け出が不要で、複雑な消費税の納税計算の簡便さも特徴です。

この制度を適用できるのは、2023年10月1日から2026年9月30日までの日の属する課税期間です。最短で影響が出るのは課税期間の開始日を10月1日としている会社(事業年度を10月~翌年9月としている会社など)です。この場合、2026年10月1日以降の取引について、特例を適用できなくなり、通常の課税事業者と同様の処理が必要になります。

なお、2026年度税制改正により、小規模個人事業者限定で、納税額を売上に係る消費税の3割とする制度(インボイス3割特例)が創設されます。税率は増えたものの、簡便な納税計算は継続されます。ただし、法人は対象外のため、従前どおり、通常の課税事業者と同様の処理が必要になります。

2)その影響は?

1.消費税負担の大幅増、キャッシュフローの悪化、利益率の低下

インボイス2割特例の廃止により、これまで売上に係る消費税額の20%で済んでいた納税が、通常の計算方法に戻ります。納税額が大幅に増える可能性があり、特に仕入れが少ない事業や、これまで消費税を価格に含んでいながら納税していなかった事業では、影響が大きくなります 。

納税額の増加は、手元の資金(キャッシュフロー)を直接圧迫します。これまで免税事業者だった会社は、消費税の納税を考慮した資金繰り計画を新たに立てる必要が出てきますし、また価格に含んでいた消費税相当額を納税に回すことになり、実質的な利益率が低下します。

2.経理業務の複雑化

インボイス2割特例では、売上に係る消費税額に20%を掛けるだけで消費税の計算が済みましたが、廃止後は、

売上に係る消費税額から仕入にかかる消費税額を差し引く「原則課税」または、売上に係る消費税額に一定割合を乗じて計算する「簡易課税制度」

で計算しなければなりません。特に原則課税の場合は、仕入取引一つ一つのインボイスの保存、税率ごとの区分経理など経理業務が複雑化し、小規模事業者にとっては大きな負担となります。

3)取るべき対応は?

1.原価管理の徹底と価格戦略の見直し

消費税の負担が増える分、まずは仕入れや経費などのコストを見直して、削減できるところがないか確認しましょう。また、商品やサービスの価格に消費税の負担を上乗せする「価格の見直し」も大切な対応の1つです。その際は、周りの競合や市場の動きにも注意しながら、自社の商品やサービスの魅力を保てるように、無理のない価格の付け方を考えることが大切です。

2.会計ソフト・請求書発行システムの導入・活用

インボイス2割特例廃止後の複雑な消費税計算や、インボイスの保存・管理には、会計ソフトや請求書発行システムの導入が不可欠といっても過言ではありません。これらのシステムは、請求書の作成・発行、受領したインボイスの内容チェック、税率ごとの区分経理、消費税の自動計算などを効率化し、経理業務の負担を大幅に軽減します。なお、インボイス制度に対応したシステムを導入する際は、デジタル化・AI導入補助金(インボイス枠)が申請可能かどうかチェックするようにしましょう。

以上(2026年8月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

pj30226
画像:hiyo-Adobe Stock

【税務調査】インボイス導入で要注意。あなたの会社の消費税が調査される!

1 インボイス制度で消費税の税務調査が増える?

消費税の税務調査は法人税や所得税と併せて調査されるケースが一般的ですが、インボイス制度が始まって以降、消費税に関する処理が適切かどうか税務調査の中でもその重要性は高まっています。

インボイス制度は、

請求書に適用される税率や消費税額などを記載し、適切に相手に知らせるもの

です。ポイントは仕入税額控除です。仕入税額控除とは、「預かった消費税(仮受消費税)」から「支払った消費税(仮払消費税)」を差し引くことです。そして、仕入税額控除を受けられる支払いが、

インボイス発行事業者(「課税事業者」で、かつ適格請求書発行事業者の申請・承認を受けた事業者)に対するものに限定

されます。ここの運用が税務調査で重点的に確認されることがあります。

また、インボイス制度導入に伴い、いわゆる「免税事業者」から課税事業者に変わるケースが多くありました。免税事業者は消費税の申告・納税に慣れていないためミスが生じやすく、この点を税務調査で指摘されるかもしれません。

この記事では、消費税の税務調査で指摘を受けやすい項目や注意点を説明するので、参考にしてください。

2 本当に「免税事業者」でよいか?

免税事業者は消費税の申告・納税の必要がありませんが、税務調査で実は課税事業者であることが判明するケースがあります。そうなったら、

期限後申告をして、課税事業者であった期間分の申告・納税

をしなければなりません。期限後申告をしたり、納付税額につき決定を受けたりすると、その申告によって納める税金の他に無申告加算税や延滞税が課されます。もし、課税事業者であることを意図的に隠していたり、仮装していたりして悪質であると判断された場合には、さらに重加算税が課される可能性があります。

もう一度、確認しておきましょう。消費税の申告義務は、

原則として、基準期間(その事業年度の前々事業年度)の課税売上高が1000万円を超える

場合に生じます。ただし、

  • 設立1年目や2年目の会社(基準期間がない会社)
  • 売上が急拡大した会社

などの場合は特例の判定方法もあります。

なお、申告義務の有無の判定の詳細は、以下のコンテンツで説明しています。

3 本当に「仕入税額控除」の対象か?

仕入税額控除の適用については、

  • 帳簿および請求書などがしっかり保存されているか
  • 非課税取引や不課税取引を課税取引として処理し、仕入税額控除の対象としていないか

が調査されます。以下で、一般的な会社で多く見られる問題を紹介します。

なお、仕入税額控除や、非課税取引・不課税取引の詳細は、以下のコンテンツで説明しています。

1)交際費(祝い金や香典など)

祝い金や香典など、商品やサービスなどの見返りを求めない現金の支出は不課税取引となり、支払った消費税は控除できません。課税取引か不課税取引かは、会計処理システムに入力する際に同時に登録していると思いますが、日々の取引で生じがちな不課税取引については、入力時の注意事項としてメモを残しておくと抜け漏れがなくなります。

2)外注費

従業員やパートに対する給与は不課税取引となり、支払った消費税は控除できません。問題は、自社の従業員以外に対する支払いなどが外注費か給与か分かりにくい場合です。外注費になるか給与になるかは、基本的には、

請負契約に基づくものか(外注費)、雇用契約に基づくものか(給与)

によって判断できますが、最終的には実態に応じた判断が必要です。外注費は課税取引となり、支払った消費税は控除できます。働き方が多様化している昨今、明確な契約の有無で消費税の判断をするようにしましょう。

3)諸会費

業界団体(同業者団体や組合など)に支払う会費は不課税取引となり、支払った消費税は控除できません。ただし、業界団体が主催するセミナーや講演会に参加するための特別会費は課税取引となり、支払った消費税は控除できます。消費税の取り扱いを取引先ではなく、支出の内容ごとに判断するようにしましょう。

4)旅費交通費(海外出張)

海外出張にかかる旅費交通費(航空チケット代や現地のホテル代・飲食代など)は、免税取引または不課税取引となり、支払った消費税は控除できません。海外出張の場合は、出発前・到着後の支出(国内での支出)と、現地での支出を明確に区分して整理しましょう。

4 本当に「簡易課税制度」を適用してよいか?

消費税には、小規模事業者だけが適用を受けられる「簡易課税制度」があります。簡易課税制度が適用できるのは、

  • 基準期間の課税売上高が5000万円以下
  • 期日までに簡易課税を適用する旨の届出書を提出している

の2つを満たした事業者です。

簡易課税制度の適用を受けると、

預かった消費税×みなし仕入率(業種ごとに決められている)

の計算式で仕入税額控除の計算ができます。簡易課税制度の適用を受けるのは事業者の判断です。また、適用を受けるためには、

納税地の所轄税務署長に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出

する必要があります。

税務調査では、

  • 簡易課税制度の適用ができる会社か否か
  • 業種によって異なるみなし仕入率の適用が妥当か否か

が確認されます。例えば、製造業として申告していたところ、税務調査で小売業だと判断された場合、申告誤りとなり追加で納税が必要になります。

なお、簡易課税制度の詳細は、以下のコンテンツで説明しています。

5 本当にその「課税売上割合」で正しいか?

課税売上割合とは、

総売上高に対する課税売上高の占める割合

です。課税売上割合については、

  • 課税売上高が適正に集計されているか否か
  • 課税取引を非課税取引や不課税取引として取り扱っていないか否か
  • 以上を踏まえ、課税売上割合が95%以上か未満か

が調査されます。

もし課税売上割合が95%未満だと、課税仕入額の全額控除の対象になりません。注意が必要なのは、その事業年度に土地を売却(非課税取引)したり、住宅の貸し付け(非課税取引)事業を新たに開始したりした場合です。金額が大きい非課税取引があると、売上高に占める課税売上割合が下がり、95%未満になることがあるのです。実際に95%未満となっていると、支払った消費税が一部しか控除できなくなります。

多額の取引や、スポット的なイベントが生じたときは、消費税のみならず、税金の計算に大きく影響を及ぼす場合があるので、顧問税理士などの専門家に相談するとよいでしょう。

以上(2026年7月更新)
(監修 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)

pj30127
画像:ChatGPT

用がないのに「早出」する社員でも賃金は支払わないとダメ?

1 「業務外の早出」を放っておいたら、困った事態に?

ある朝、A社長がいつもより早く会社に来て仕事をしていると、まだ始業前だというのに、社員のBさんとCさんが出社してきました。驚いたA社長が声をかけると、2人は照れくさそうにこう答えました。

A社長「2人とも、ずいぶん早いね。始業は9時からだよ? 何か急ぎの用事でもあるのかい?」

Bさん「いえ、実は通勤ラッシュが少し苦手で……」

Cさん「最近、朝早く目が覚めてしまうもので、会社で読書でもしようかなと……」

特に用事がなくても、朝早くから出勤してくる社員は意外と多いものです。少しくらいなら問題ありませんが、あまり行き過ぎると、次のような困りごとが生じてしまう恐れがあります。

  • 早出のタイミングで勤怠を打刻すると、その分の賃金を支払わなければならなくなる
  • 始業前に万が一事故などが起きても、会社としてすぐには対応できない
  • 朝から空調設備を稼働させることになり、その分コストがかさんでしまう

一方で、社員にとっては「通勤ラッシュを避けられる」「朝の時間を自己啓発に充てられる」「(夏場は)涼しい時間帯に作業できる」といったメリットがあるのも事実です。そう考えると、

労務管理上のポイントをきちんと押さえたうえで、業務外の早出を認めてあげる

という選択肢も、十分に考えられるでしょう。

2 押さえておきたいのは「労働時間管理」と「安全管理」

業務外の早出を認めるかどうかを考える際に、まず押さえておきたいポイントは次の2つです。

1)労働時間管理:働いていない時間には、賃金を支払う必要はありません

業務外の早出に関しては、

基本的には労働時間には当たらず、賃金を支払う義務もありません。

これは、「ノーワーク・ノーペイの原則(働いていない時間には給料が発生しないという考え方)」にもとづくものです。ただし、完全月給制(1カ月単位で計算し、労働時間にかかわらず定額の賃金を支給する仕組み)のような例外もありますので、自社の給与体系と照らし合わせて確認しておくと安心です。

2)安全管理:業務外の早出でも、労災が認められることがあります

早出中に起きた事故でも、次のようなケースでは労災と認められる可能性があります。

  • 業務災害:業務にあたっていなくても、会社の施設や設備が原因で事故が起きた場合
  • 通勤災害:出勤日に、いつもより早く通勤している途中で事故が起きた場合

さらに、会社側に落ち度があった場合には、「社員の安全管理を怠った(安全配慮義務違反)」として行政指導の対象になったり、けがをした社員から損害賠償を求められたりするリスクもありますので、注意が必要です。

3 カギとなるのは、ルールを作って社員にしっかり伝えること

業務外の早出を認める場合には、会社がルールをはっきりと定め、社員にきちんと守ってもらう必要があります。これから紹介するようなルールを就業規則などに明文化し、社員にしっかりと周知していきましょう。

1)「事前申請」のルールで、早出をきちんと把握・区別しましょう

早出を希望する社員には、

理由を問わず「事前申請」をしてもらう

ようにしましょう(社員が早出を希望するときは、前日までに申請してもらうなど)。

その際、申請書(紙)や申請フォーム(Web)に「業務上の早出」「業務外の早出」のチェック欄を用意しておき、早出の時間については

  • 「業務上の早出」であれば、労働時間としてカウントする(賃金を支払う)
  • 「業務外の早出」であれば、労働時間としてカウントしない(賃金は支払わない)

というように、申請内容に応じて取り扱いを分けるとよいでしょう。

ただ、社員の中には、本当は業務外の早出なのに、業務上の早出だと偽って申請し、賃金を多くもらおうとするケースがあるかもしれません。その防止策として

業務上の早出をする場合には、「申請の際に業務内容もあわせて記載してもらう」「上司が成果物を確認する」

といった対応も必要になってくるでしょう。逆に、本当は業務上の早出なのに、「仕事が遅れていることを上司に知られたくない」「会社に余計な負担をかけたくない」といった理由から、業務外の早出として申請してしまう社員もいるかもしれません。こうした社員がいないかどうか、定期的に実態を確認してみることも大切です。

併せて勤怠管理システムについても、早出の時間が自動的に労働時間へ含まれてしまわないよう、設定をよく確認しておく必要があります。

2)「時差出勤制度」で、コストと柔軟性を両立させましょう

業務外の早出をする社員が増えると、社内の照明や冷暖房にかかる水道光熱費もかさんでしまいます。そこで、「時差出勤制度」の導入も検討してみるとよいでしょう。

時差出勤制度とは、所定労働時間を変えずに、始業・終業の時刻だけを変更するしくみ

です。例えば、1日の所定労働時間が8時間、休憩が1時間の社員であれば、始業・終業時刻だけを「9時始業、18時終業」から「8時始業、17時終業」に変更するようなイメージです。所定労働時間は8時間のまま変わりませんので、水道光熱費の問題も最小限に抑えることができます。なお、時差出勤制度を導入する際は、就業規則の変更・届け出が必要になりますので、忘れないようにしましょう。

さらに柔軟な制度を目指すのであれば、社員自身に始業・終業の時刻を管理してもらう「フレックスタイム制」を導入するのもひとつの方法です。ただし、「導入の要件が細かい」「社員が制度をきちんと理解し、適切に運用することが求められる」「社員の稼働する時間帯が時差出勤制度以上にばらつきやすい」といった注意点もありますので、押さえておきましょう。

3)危険な場所には、なるべく立ち入らせないようにしましょう

始業時刻前は、どうしても安全管理が手薄になりがちで、建設業や製造業では早出した社員が事故を起こしてしまうリスクが高まります(例えば、上司の目が届かないところで作業場に立ち入り、けがをしてしまうといったケースです)。

そこで、業務外の早出をする社員については、

事務室や休憩室など、安全な「待機場所」を決めておき、作業場には立ち入らせない

ようにルール化するとよいでしょう。出社してから始業までの時間は待機場所で過ごしてもらい、作業場などには立ち入らないよう、しっかりと伝えておくことが大切です。待機場所を決めることが難しい場合には、社員が行動してよい範囲をあらかじめ厳格に決めておくようにしましょう。

この他、早出のときの私物の持ち込みや、設備の利用(Wi-Fi、飲食など)に関するルールも、安全管理や情報管理の観点から整えておく必要があります。

4)場合によっては、早出そのものを禁止することも考えましょう

例えば、荒天や災害の際には、社員が「早めに出社しておこう」と考えることがありますが、それによって事故に遭ってしまうと、安全配慮義務違反として会社が責任を問われることもあります。ですから、

防災気象情報などの内容に応じて、社員に自宅待機を指示する(早出そのものを禁止する)

といった対応も必要になってくるでしょう。

以上(2026年7月更新)

pj00681
画像:SunnySide-Adobe Stock

【中堅社員のスピーチ例】「いつもの自分」に、新しいインプットを

【ポイント】

  • 自分の中から出てくるアイデアが、過去の経験の焼き直しになっていないか?
  • インプットの元が書籍であれば、専門家の知識が整理された体系的知識を吸収できる
  • 全く異なる分野の知見に触れることで、日常の課題を解決するヒントが見つかる

皆さん、おはようございます。7月に入り、いよいよ夏本番ですね。日中の日差しが厳しくなり、外回りの方はもちろん、オフィスにいても体力の消耗を感じやすい時期です。こうした暑い時期は、休日を涼しい室内で過ごすことが増えるのですが、私には今月、意識的に取り組みたいと思っていることがあります。それが「アウトプットのためのインプット」です。

中堅社員である私たちは、ある程度仕事を1人で進め、自分なりにアイデアを出して解決策を導き出せるようになっています。ただ、そのアイデアが「過去の経験の焼き直し」に過ぎないというケースは、意外と多いものです。今まで自分がやってきた仕事の枠の中でしか物事を考えられないと、そこから出てくるアイデアは、小さな変化しか起こせません。新しい風を入れなければ、部屋の空気はいつの間にか淀んでしまいます。

私自身、最近の自分を振り返ると、実務に必要な情報だけを効率よく拾うことばかりに集中し、まとまった知識や新しい視点を取り入れる時間が疎かになっていました。アウトプットを絞り出すばかりで、中身を補充できていなかったのです。これは、水を足さずにポンプだけを動かし続けているような状態かもしれません。

そこで、私は今月から、自分の専門外の分野の書籍を1冊読むことに決めました。例えば、他業界の成功事例や、一見仕事とは無関係に思える古典、最新テクノロジーの解説書など。ネットで断片的な情報をつまみ食いするのとは違い、1冊を通して読むことで、思わぬ角度から日常の課題へのヒントが見つかることがあります。

もし皆さんの中で、「最近この本が面白かった」「この著者の考え方が使えそう」といったおすすめがあれば、ぜひ休憩時間に教えてください。お互いにインプットを持ち寄って、チームとしてより良いアウトプットにつなげていけたらと思っています。暑さに負けず、今週も一緒に頑張りましょう。

以上(2026年7月作成)

pj17254
画像:Mariko Mitsuda