2025年もそろそろ終わりが近づいてきた。NISA(少額投資非課税制度)口座で株や投資信託などを買っている人は、そろそろ残りの“非課税枠”を意識したいところ。ムダなく使い切りたいのであれば、年末ギリギリになる前に行動すべきだ。また、現時点で成績がビミョーな保有株や投資信託への対応も検討したほうがいいだろう。ここでは、NISA口座の仕組みを改めて復習するとともに、今ある資産を見直す際の考え方も紹介!
【書籍ダイジェスト】『伊藤忠 商人の心得』
本書では、伊藤忠商事の現会長兼CEOを務める岡藤正広氏を中心に、2021年から社長COOを務める石井敬太氏など要人の言葉を集約。そこから、伊藤忠ならではの「商売」「ビジネス」における考え方や戦略のエッセンスを導き出している。
伊藤忠のルーツには近江商人の「三方よし」という考え方がある。「売り手や買い手だけでなく、世間にもよい」という意味がよく知られているが、岡藤氏の実践してきた軌跡からは少し違う意味が見出だせるようだ。
【中堅社員のスピーチ例】「若手×ベテラン×中堅」が生む無限の力
【ポイント】
- 中堅社員の役割は、若手社員とベテラン社員の「橋渡し役」
- 若手社員とベテラン社員、両者の考え方に目を向けることで会社に変化が生まれる
- 若手社員の勢い、ベテラン社員の経験、中堅社員のマネジメント力で壁を乗り越えよう
皆さん、おはようございます。まもなく、2025年が終わりを迎えます。今年を振り返ってみて、私が特に印象に残っているのは3人の社員です。
1人目は、入社2年目の若手社員Aさん。Aさんは、部署を横断したDX化の課題に対して、最新のデジタルツールを活用した画期的な解決策を提案してくれました。それまでは「DX化は必要だけど、日々の業務も忙しいし……」と取り組みが後回しになっていたのですが、Aさんが「それではダメだ!」と声を上げてくれたのです。
2人目は、私の大先輩であるベテラン社員Bさん。Bさんはどちらかと言うと、AさんのDX化の提案には反対の立場でした。ですが、それは感情的な理由からではなく、Aさんの提案したデジタルツールをそのまま使うと、既存の業務にいくつか支障が生じるからという合理的なものでした。長年の豊富な経験を基に、Aさんの提案のリスクを正直に指摘してくれたのです。
3人目は、私の同期である中堅社員Cさん。Cさんは「Aさんの提案を実現したい」と彼を後押ししつつ、「既存の業務に支障が生じない方法を一緒に考えよう」と、Bさんの意見も踏まえて、落としどころを探ってくれました。
そして、3人のおかげでわが社のDX化は一歩前進しました。特にCさんのマネジメント力には、同じ中堅社員として感嘆するばかりです。もしも、非常に表面的で意地悪な物の見方をする人がいたら、DXの提案をしたAさんを「生意気な若造」、あるいはその提案に異を唱えたBさんを「変化を嫌う老害」で片付けてしまっていたかもしれません。ですが、Cさんは若手とベテラン、両者の考えに目を向けて「橋渡し役」を果たし、それが結果として、会社が変わるきっかけとなったのです。
来年、私たちの会社はさらなる変化の波に直面するでしょう。しかし、若手社員の勢い、ベテラン社員の経験、そして、中堅社員のマネジメント力。これらの要素が強固に組み合わされば、乗り越えられない壁はないと思います。来年も「勢いある後輩たち」「経験豊富なベテランの先輩方」と一緒に仕事ができることを楽しみにしています。1年間、本当にお疲れさまでした!
以上(2025年12月作成)
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画像:Mariko Mitsuda
誤解しやすい 労務管理シリーズ 第1回 有期雇用契約者編
労働人口の減少や、ライフスタイルの多様化により、一律的な働き方だけでは、実状にそぐわない場面も出てくるでしょう。どうぞ転ばぬ先の杖として、有期雇用の注意点をご理解いただき、貴社の人員確保・定着に寄与することができれば幸甚です。
「社長の愛人問題」 弁護士が事例からリスクを解説
目次
1 社長の愛人問題を真面目に考える
テレビやネットでは、連日のように政治家や芸能人の愛人問題など不適切な関係が報じられています。世間のコンプライアンス意識が昔より厳しくなり、当事者がそれまで積み上げてきたキャリアを一瞬で失うケースも……。人ごとであれば「またこんなくだらない話か」と流して終わりですが、もし皆さん自身が当事者になったとしたら、どうでしょう?
SNSの拡散力が増し、内部通報制度も普及した昨今。個人の不祥事は会社のリスクに直結します。特に社長は会社の“顔”であり、そのイメージが揺らげば、取引先の信頼や社内の士気、業績にも多大な影響が出ます。
この記事では、弁護士に寄せられた「社長の不適切な関係」に関する実際の相談をもとに、そこに潜む法的リスクや会社への影響、対応のポイントを解説します。紹介する事例は実情が特定されないようにしていますが、ゴシップではなく、会社防衛のための実務的な内容としてお読みいただけます。
2 社員との親密な関係が社内で噂になってしまった
社長の不適切な関係の典型的な相手は「自社の社員」です。なかには、社長が気に入った社員に片っ端から声をかけ、事実上の愛人関係を迫る(見返りとして、仕事面で便宜を図る)なんて深刻なケースも報告されています。そして、社長が特定の社員と親密になると、その噂はあっという間に社内に広がります。最初に紹介する事例は、まさにそんなケースです。
【事例1】
ある会社では、社長が特定の社員に、他の社員には任さない重要な仕事を次々に振っていました。しかも、その理由については「適任だから」という曖昧な説明しかありません。さらに、「社長とその社員が2人きりで打ち合わせを行い、他の関係部署に相談せず、物事を決めてしまう」「社長の出張には、決まってその社員だけが同行」なんてこともしばしば……。
他の社員は、次第に不信感を募らせていきます。「どうも様子がおかしい」「私的な関係があるのではないか」「業務が公平に扱われていないのではないか」といった声が広まり、ついには「愛人関係にあるのではないか」「公私混同が起きているのではないか」という通報が、内部通報窓口に寄せられる事態にまで発展してしまいました。
1)不適切な関係がもたらすリスク
このようなケースでは、次のリスクが生じます。
1.セクシュアルハラスメント(男女雇用機会均等法第11条)
「社長に逆らったら、降格や減給になるのでは……」といった不安から、社員が社長の誘いを断れないケースは多く、「社長が権力を盾に、不適切な関係を迫った(セクシュアルハラスメント)」と判断される恐れがあります。
2.パワーハラスメント(労働施策総合推進法第30条の2)
特定の社員を特別扱いし、他の社員を不当に冷遇することは、「『社長>社員』という力関係を利用した権限の濫用(パワーハラスメント)」と判断される恐れがあります。
3.善管注意義務違反(会社法第330条、民法第644条)
取締役は会社の利益のために行動する義務を負います。特定の社員を不当に優遇することは、会社の利益のために業務を行っているとは判断されず、会社の信用を損なう行為であり、取締役としての責任を追及される恐れがあります。
4.内部通報への不当な干渉(公益通報者保護法第3条、第5条、第11条、第12条)
「会社の評判に悪影響があるから」「経営陣の信用に関わるから」などと言って通報をもみ消したり、通報者に対して降格や減給などの不利益な取扱いをしたりする行為は違法です。
2)基本的な対応方針
会社が取るべき対応は次の通りです。
- 中立性、独立性を担保した社内調査の実施(人事部・コンプライアンス部門による事実調査等)
- 外部弁護士などの関与(社長が当事者であるため、公正性の確保が不可欠)
- 調査の非通知・非公表(調査対象者の介入を避けるため、調査開始を知らせないこともある)
社長が知らないうちに調査が進められることもあるわけですが、とにかく調査の結果、社員との関係が不適切と認定されれば、次の対応が取られることも想定されます。
- 社長の報酬減額(会社法第361条)
- 取締役の解任(会社法第339条)
- 当該社員の配置転換や業務の再配分
- 社内ガバナンス体制の見直し
3 SNSで不適切な言動を暴露されてしまった
近年、YouTubeチャンネルなどで、出演者の「不適切とも奇妙とも取れるLINEのやり取り」を紹介する暴露系の企画が人気を集めています。エンタメとして見ているうちはいいですが、自身が当事者になった場合を想像できますか? 次に紹介する事例は、まさに暴露されてしまった社長の話です。
【事例2】
ある会社の社長は、取引先の社員に好意を寄せていました。仕事の打ち合わせとして一緒に食事に行くこともありました。これくらいならいいのですが、社長の思いはエスカレート。ついに、相手に肉体関係を迫る内容のLINEを送るようになりました。その言葉遣いは品性や倫理観を疑われるようなものでした。
そうした不適切なLINEがなぜかSNSを通じて外部に漏洩し、瞬く間に広まってしまったのだから、さぁ大変。社内では「なぜこんなメッセージを送ったのか」「会社の代表というより、人として下品だ!」と動揺が広がり、取引先や顧客からも疑念の声が寄せられました。予想以上に早く情報が拡散し、会社は広報に社内調査、再発防止策の検討など、様々な対応に追われることになりました。
1)不適切な関係がもたらすリスク
このようなケースでは、次のリスクが生じます。
1.会社のレピュテーションリスク
SNS拡散はいわゆる「デジタルタトゥー」となり、ブランド価値を毀損し、株主や取引先に重大な影響を与えます。また、その後の採用活動などにも悪影響を及ぼします。
2.取締役の解任(会社法第339条)
社会的信用の喪失は、取締役としての適格性を欠くと判断される恐れがあります。
3.善管注意義務違反(会社法第330条、民法第644条)
不適切な私生活の行為でも、会社価値を下げられることになれば、責任問題になる場合がありえます。
2)基本的な対応方針
会社が取るべき対応は次の通りです。
- SNS事業者に対する投稿の削除請求・仮処分の申し立て
- 悪質な投稿だった場合、発信者情報請求や対象となる相手へのコンタクトを通じて、投稿者を特定した上で損害賠償請求
情報の拡散度合いや投稿内容の悪質性にもよりますが、自社ウェブサイトに会社としてのコメントを出して「火消し」をすることも検討します。ただし、事実関係を十分に調査することなく、見切り発車で対応したり、辻つまの合わない弁明をしたりすることは、かえって反感を招くので慎重に対応しましょう。
4 「同意」のはずが刑事事件になってしまった
「不同意わいせつ」などに関する報道で、加害者が「(被害者の)同意があると思った」と供述している場面をよく見かけます。人間関係における「同意」は、契約書などの書面があるわけではなく、曖昧な言動の上に成り立っています。しかも、お互いに好意があったとしても、「何を、どこまで許容できるか」は異なるので、「同意」についての認識が双方でしばしば食い違うのです。次に紹介する事例も、誤解や思い込みがトラブルに発展したケースです。
【事例3】
ある会社の社長は、いきつけのお店の店員と2人きりで食事に行く関係になりました。かねてより、その店員から好意を示すような言葉や態度があり、食事の時間はとてもムードの良いものでした(社長はそう感じていました)。“脈あり”と受け取った社長は、食事の帰りに相手にキスをし、さらにホテルで肉体関係を持ちました。
後日、思いがけない事態となります。なんと相手の店員が、キスをされたことは「不同意わいせつ」、肉体関係を持ったことは「不同意性交等」であるとして、警察に被害届を提出したのです。社長は「相手は自分に好意を持っている」と思い込んでいましたが、店員の主張は全く違っていたようです。ホテルで肉体関係まで持った相手からの被害届、それほどまでに「同意」は曖昧なものであると認識せざるを得ない事例です。
1)不適切な関係がもたらすリスク
このようなケースでは、次のリスクが生じます。
1.不同意わいせつ(刑法第176条)、不同意性交等(刑法第177条)
2023年の刑法改正で、「強制わいせつ」は「不同意わいせつ」、「強制性交等」は「不同意性交等」に名称が変わり、暴行・脅迫の有無にかかわらず、相手の自由意思による同意がなければ犯罪が成立することになりました。また、雇用関係や力関係がある場合、「自由な意思による同意かどうか」が厳しく判断されることになりました。人間関係やコミュニケーションが複雑化する現代において、「同意」はなおさら慎重に扱うべきテーマになっています。
2.会社のレピュテーションリスク
社会的な影響力を持つ社長が、刑法に抵触する行為をしていたことが明るみに出れば、組織全体の信用やブランドイメージに深刻な影響を与えるのは避けられません。
2)基本的な対応方針
会社が取るべき対応は次の通りです。
- 捜査にはできるかぎり誠実に協力する
- 会社としても事実調査を実施する
- 捜査終結前に会社としての見解を発信するのは避ける
- 逮捕されたとしても即有罪ではないため、冷静かつ慎重に対応をする
5 不倫がバレて離婚、財産分与の問題になってしまった
社長の不倫に関する相談は、想像以上に多く寄せられます。特に深刻なのは、不倫が発覚して配偶者に知られ、離婚協議へと発展した場合です。一般的な夫婦の離婚とは異なり、社長には会社の経営権という極めて重要な要素が絡んでくるからです。最後の事例、社長とその配偶者の離婚問題をご覧ください。
【事例4】
ある会社では、社長の不倫が発覚し、配偶者との離婚協議に発展しました。離婚協議の争点は「財産分与」。社長が保有している会社の株式のうち、「配偶者が受け取るべき割合」をめぐって社長と配偶者が争うことになったのです。
離婚協議の結果、社長は「株式の半数」を配偶者に分与しなければならなくなりました。それまでは株式の大半を所有するオーナー社長だったのに、株式の分与によって議決権が分散し、経営に対する主導権を維持できなくなってしまったのです。
1)不適切な関係がもたらすリスク
このようなケースでは、次のリスクが生じます。
1.財産分与(民法第768条)
財産分与とは、夫婦が婚姻中に築いた財産を清算・分配することです。「婚姻中に築いた財産」なので、会社の株式も個人名義で保有していれば分与対象に含まれます。財産分与の割合は「財産の2分の1(原則)」ですので、株式が対象であればその半数を分与しなければなりません。財産形成に当たっての夫婦の貢献度によって、配偶者の財産分与の割合が下がることはありますが、一方で、婚姻関係を破綻させた責任などによって、割合が上がることもあります。
2.経営権(議決権)の分散によるガバナンス崩壊
株式が個人資産として分与対象になれば、配偶者に株式が移転します。株式の移転は単に財産の移動というだけではなく、「会社の支配権」を根本から揺るがす重大な問題です。特にオーナー社長の場合は深刻です。
2)基本的な対応方針
会社が取るべき対応は次の通りです。
- 法的にどこまで拘束できるかは分かりませんが、「株式は財産分与の対象から除外する」といった婚前または婚後契約を締結する
- 財産分与の際に株式を分与せずに、代償金(現金)で合意ができるように協議する
6 最後は社長次第
社長の不適切な関係は、私生活の問題にとどまらず、会社経営の根幹を揺るがすリスクになり得ます。この記事では4つの事例を紹介しましたが、こうした相談が寄せられることは本当に多いです。もちろん、問題の程度は社長と相手との実際の関係など事実に基づきますが、この手の問題は注目され、噂も広まりやすいです。愛人問題は私的なことだといえなくもないですが、社長は「公」の存在という一面もあり、そのことは無視できません。
そのため、社長にはトラブルを避けるための自律とリスク感覚が求められます。また、問題が起きた際には隠蔽するのではなく、覚悟を決めて、迅速で透明性の高い対応を取ることが不可欠です。
以上(2025年12月作成)
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画像:Gemini
企業の「心の健康投資」を支える サービス導入促進事業のご紹介
経済産業省では、従業員のストレスや不調の予防・改善に課題を抱える中小企業を対象に、「先端技術活用メンタルヘルスサービス開発支援事業費補助金」を実施し、先端的なメンタルヘルスサービスを導入する際のサービス利用料の一部を補助しています。
ハローワークインターネットサービスと民間採用ツールの上手な使い方
労働人口の減少や若年層の就労意識の多様化、さらにオンライン化による採用チャネルの拡大など、従来の手法だけでは人材確保が難しくなっています。本レポートでは、必要とする人材像を明確にし、ハローワークと民間採用ツールを上手く活用しながら、両者を効果的に使い分けるためのポイントを整理していきたいと思います。
外国人労働者の社会保障制度と労務管理
主に現場で働く外国人労働者を雇用するにあたって押さえておきたい「在留資格」について、外国人労働者との労働契約の注意点、社会保険料の徴収、所得税の源泉徴収の実務、そして、新しく始まる育成就労制度に向けた対応についてご説明します。
回収期間法と投資利益率法の考え方/設備投資の成果チェック(4)
目次
1 勘や感覚ではなく、指標を使った客観的な判断を
設備投資の判断を「なんとなく」といった勘や感覚で決めていませんか? お金をかける以上、その投資がいつ回収できて、どれだけ利益を生むのかを数字で確かめることが大切です。会社にとって資金は最重要のリソースです。だからこそ、指標を使うだけで勘や感覚だけに頼らない客観的な判断が求められます。投資評価の判断で使う主な指標には、
- 回収期間法
- 投資利益率法
- 現在価値法
- 内部利益率法
の4つがあります。今回はこれらのうち、回収期間法と投資利益率法の2つについて、考え方やシミュレーション例を用いた計算方法を整理します。末尾に実務でそのまま使えるExcel(ダウンロード用)も用意しています。Excel内で使われている関数についても解説しておりますので、ご活用ください。
2 収支がトントンになる指標「回収期間法」
回収期間法は、
投資したお金が何年で戻ってくるかという「回収期間」を使って、投資のリスクの大きさを測る指標
です。金利の低い時代には、中小企業で最もよく使われてきたシンプルな指標になります。回収期間は、ざっくり言えば「投資後、何年たったら収支がトントンになるのかを予想した期間」です。例えば、新しい工場を建てるための投資の回収期間が2年と予測されるなら、順調にいけば2年後には、投資で出ていった金額と同じ金額が入ってくる(元がとれる)という意味です。
ここでいう「回収」とは、支払ったお金が回収できること、つまり、収支がトントンになることです。管理会計上の有名な指標に「損益分岐点売上高(損益計算書上の収支がトントン、つまり利益がゼロになる売上高のこと)」がありますが、回収期間を「投資版の損益分岐点売上高」と考えると分かりやすいかもしれません。
判断の仕方は、とてもシンプルです。例えば、回収期間が2年と4年の案があった場合には、当然回収期間が短い2年のほうが良いとされます。この数年の間(コロナ禍や紛争などを要因とした経済環境の変化)で痛感した方も多いと思いますが、遠い将来ほど予測することは難しいものです。回収期間においても、先は分からないので、長くないほうが安全という考え方がベースにあります。
では、一般的にどのくらいの回収期間が良いのか。これは、業種が回収期間の判断に大きな影響を与えます。製造業で設備投資が大きな業種であれば10年を超えても良いケースもあります。一方で、AIなど新しく移り変わりの早い業界であれば2、3年で回収したいと考えることも合理性があります。また、小売業など店舗を持つ業態は、賃貸借契約に合わせて5、6年を目安にしているようです。
早速、次の事例(A案、B案、C案)を使って回収期間を計算し、比べてみましょう。

A案の場合の計算式を解説すると、機械の購入代金、つまり投資額(-100)に、回収額を1年目から順に足していくと(25+35+50)、3年目でプラス(10>0)になります。もし、比較する案件の中でプラスになる年目が同じであれば、小数点以下の端数をみて判断する必要があるため、追加の計算が必要になります。
最初の2年と、3年目は40だけあれば良いので、40を1年分の50で割って0.8年…との合計(2+(50-10)/50=2.8)で、この投資の回収期間は2.8年となります。
このようにA~C案の回収期間を計算すると、最も回収期間が短くなるA案が良い案であると判断できます。
3 どれだけ効率良く稼ぐかが分かる指標「投資利益率法」
投資利益率法は、
投資額に対してどれだけの見返りがあるか(追加のキャッシュ・フローが生まれたか)を示す指標
です。英語ではReturn on Investment(リターン オン インベストメント)、略称をROI(アールオーアイ)といい、実務では非常によく使われる指標です。具体的には、
年間のキャッシュ・フロー÷投資額
の算式で計算します。計算結果は%で表され、投資に対してどれだけの追加のキャッシュ・フローが生まれたか、投資の効率が良いかどうかを一目で確認できます。
判断の仕方は、例えば投資利益率が4%と6%の案があった場合には、6%のほうが大きなリターンがあることを示しているため良いとされます。
では、一般的に投資利益率は何%以上であれば良いのか。まず大前提として、自社の資金調達コスト(借入金の金利など)を必ず上回っていなければなりません。さらに、全社の利益率を下げないようにするためには、現在の利益率との比較も欠かせません。
中小企業の利益率は、一般的に5%前後といわれているので、このあたりを基準として設定しておくのが良いでしょう。筆者の感覚で言うと、投資計画段階では10%を見込めるような投資案件でなければ、なかなか踏み出せないというのが経営者の本音ではないでしょうか。
早速、次の事例(A案・B案・C案)を使って投資利益率を計算し、比べてみましょう。

A案の場合、まず、期間全体の合計キャッシュ・フローを出します。-100+25+35+50+30+35=75です。そして、年あたりのキャッシュ・フローを計算するため、効果が出る年数(5年)で割ります。75÷5で15と計算されます、これを投資額100で割ると、15/100=15%と投資利益率を求めることができます。
このようにA~C案の投資利益率を計算すると、最も投資利益率が大きくなるC案が良い案であると判断できます。
4 回収期間法と投資利益率法の合わせ技で、判断の精度が高まる
ここまで見てきたように、回収期間法は「どれだけ早く元がとれるか」という安全性や時間的な価値を重視した指標であり、投資利益率法は「投資がどれだけ儲かるか」という収益性に焦点を当てた指標です。言い換えると、回収期間法では収益性が考慮されず、投資利益率法では安全性や時間的な価値が反映されません。このため、どちらか一方だけの方法を用いて判断するには不十分なケースもあり、両者は組み合わせることで、「早く回収できて、かつ儲ける投資かどうか」をバランス良く評価できるようになります。
投資は一度決めると後戻りが難しいからこそ、複数の視点で評価することがリスク管理につながるのです。次回は、時間的な価値と収益性の両方を考慮した指標を紹介したいと思います。
5 ダウンロードして実務で使えるExcelとその解説
1)回収期間法
実務では、エクセルを活用することがおすすめです。次のExcelでは、各期間のキャッシュ・フロー(CF。青色背景の箇所)を入力すると、その他のマスは自動計算になっています。なお、Excelには、本リポートの計算例で使用した事例(A案、B案、C案)の数値を入れております。
【図表ダウンロード_WS:3(DL対応)投資評価の例 (回収期間)】
このExcelでは累計キャッシュ・フロー(累計CF)が翌年にマイナスからプラスに転じる年目を特定し、それに端数部分(プラスに転じるのに必要なキャッシュ・フロー÷その年のキャッシュ・フロー)を合算することで回収期間が求められます。
Excel関数上のポイントは、累計CFがプラスに転じる年を確認できる回収期間のセル(A案の場合はF5セル)にあります。複製する場合にはご参考ください。

(注1)AND(G4>0,F4<0),F2
翌年の累計キャッシュ・フロー(G4)がプラスで、当年の累計キャッシュ・フロー(F4)がマイナスなら、当年の年数を表示
(注2)IF(AND(ISNUMBER(E5),E5=E2),(F3-F4)/F3,””
そうでない場合は、前年の回収期間に数値が入っていて、それが前年の年目と同じであれば、 当年CFから累計CFを引いた金額を当年CFで割る
2)投資利益率法
【図表ダウンロード_WS:4(DL対応投資評価の例 (投資利益率法)】
投資利益もエクセルで計算しましょう。キャッシュ・フローの合計を年数で割ります。
Excel関数上のポイントは、期間に含まれるデータ個数を数えるのにCOUNT関数を使っています(A案の場合はC6セル)。複製する場合にはご参考ください。
‘=I3/(COUNT(C3:H3)-1)/(-C3)
ここで、0年目、投資年の1年分を引いているところを注意してください。5年間にわたって効果があるので5で割ります。その結果を、0年目のキャッシュ・フロー、つまり投資額で割ると、投資利益率が計算されます。
以上(2025年12月作成)
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画像:apinan-Adobe Stock
「社長の離婚問題」弁護士が教えるお金のリスク
目次
1 何も知らないと大ごとになるのが社長の離婚
「結婚した3組に1組が離婚する」と言われる現代、知り合いや家族から離婚をした、もしくは離婚の危機にあるという話を聞く機会もあるでしょう。
社長の離婚の場合、
離婚に際して夫婦間で決めるべき条件(別居中の婚姻費用、財産分与の対象や割合、親権者の指定、養育費など)をめぐり、長期間にわたってこじれがち
です。社長の離婚特有の「お金」に関する問題を知らないがゆえに、その都度、大ごとになってしまうからです。
例えば、財産分与は夫婦の資産を合算して(基本的に)互いに2分の1ずつ分け合うのですが、
婚姻後に築いた個人名義の資産は全て財産分与の対象となる
というルールがあります。婚姻後に購入した個人名義の土地に自社ビルなどが建っている場合などは、その評価額は高くなり、財産分与で支払う額も莫大なものになってしまいます。一方、会社名義の資産は財産分与の対象にならないので、このことを知っていれば事前に対策を講じることができます。
離婚は、社長にとっても身近なリスクです。仮に今、夫婦関係が円満であっても、先々のリスク管理の一つとしてこうした情報を知っておくに越したことはないでしょう。
この記事では、社長の離婚問題に詳しい弁護士監修の下、特にこじれがちな
別居中の婚姻費用、財産分与、親権者の指定、養育費
について分かりやすく解説し、どうすればリスクを抑えられるかも紹介します。
この記事を読むことで、自身のリスクに備えるだけでなく、離婚のリスクを抱えている社長仲間や親しい取引先に対して、有用なアドバイスをしたり、理解ある相談者になったりすることもできるでしょう。
2 財産分与……の前に別居の問題が立ちはだかる
1)別居期間中に相手の生活費を支払わなければならない
社長の離婚で大きな問題として取り上げられるのは財産分与なのですが、これはあくまで法的に婚姻関係を解消するに至った段階の問題です。実はその前、離婚に至るまでの段階で大きな問題となるのが、
別居期間中の婚姻費用の支払い
です。
婚姻費用とは夫婦がお互いに分担し合うべき生活費のことです。民法では「夫婦はお互いに扶助し合わなければならない」と定めており、それは別居期間中にも適用されます。
具体的な金額はお互いの合意の上で決められるのですが、裁判所が相場を発表しています。
■裁判所「養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究 標準算定方式・算定表(令和元年版)」■
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/
例えば、子どもがいない夫婦で妻が専業主婦などで収入はゼロ、夫が役員報酬として2000万円もらっているケースだと、妻には月30万円程度の婚姻費用を支払うことになります。年間にすると360万円、別居期間が3年以上になれば1000万円を超えます。
離婚におけるお金の問題というと財産分与を真っ先にイメージしがちですが、その前に、長い別居期間中の経済的負担も大きいことを知っておく必要があります。
2)社長は別居期間が長くなりがち
弁護士へのヒアリングによると、
「協議離婚(夫婦が話し合いにより、離婚に合意する)でない場合、調停離婚や裁判離婚になる。調停離婚であれば半年から1年程度で離婚が成立することも多いが、社長の場合、調停では解決せず、離婚が成立するまで5~6年掛かるケースも珍しくない(それ以上の時間がかかることもある)」
とのことです。
ここまで長引く理由は、後述する財産分与の手続きに時間が掛かるというのもあるのですが、一番は別居期間が長くなるそうです。
「相手側からすれば、離婚時の財産分与に加え、別居期間が長ければ長いほど婚姻費用を多く受け取れる。社長が男性の場合、妻が専業主婦というケースが多く、婚姻費用も多額になりやすい。だから、妻は別居して生活費をもらい続けるほうが有利と判断し、離婚をせずに別居期間を長引かせる選択をすることが多い」
押さえておきたいのは、夫側が早く離婚したいと思っても、
簡単には離婚できない(妻が協議離婚に応じてくれない)
ということです。
基本的に、離婚はお互いの合意がないとできません。一方が離婚に応じなければ「調停」、それでも合意に至らなければ「裁判」をすることになりますが、裁判になっても、法律上に定められている離婚事由がないと認められません。
また、不貞を働いたり暴力を働いたりすると、その人は「有責配偶者」とみなされます。そうすると、有責配偶者からの離婚申し立ては基本的に認められません。
そのため、夫側に有責の疑いがある場合、探偵を雇って不貞の証拠を集めて夫を有責配偶者であることを明白にすることで夫側からの離婚申し立てをできなくさせ、別居期間を長引かせるケースも多いようです。
弁護士へのヒアリングによると、
「消極的な理由により、気が付けば結果的に長い別居を選択していたという社長も一定数いる」
とのことです。消極的な理由としては、次のようなものが挙げられるそうです。
- 離婚による財産分与で現状の資産を減少することは避けたい
- 持ち株などがあり、財産分与によって会社の経営に影響が出ることは避けたい
- 別居して婚姻費用を払い続けるほうが、離婚するよりは世間体的にいい
- 長くて面倒な調停、裁判をするぐらいなら、現状維持でいい
3)「離婚後に近い状態」を早めに作るのがポイント
2)で紹介したものの他、同居のままだったり、生活費などを全て社長が支払っていたりするために、妻が離婚後の生活をイメージできず、とりあえず現状維持(離婚しない)を選択するというケースも多いようです。
弁護士へのヒアリングによると、
「弁護士としての経験上、明確な離婚事由がない場合などは、社長に対し、まず『離婚後に近い状態』にするよう勧めることが多い」
とのことです。
「例えば、同居中はライフラインや通信費などの支払いを社長名義のクレジットカードや口座から行っていることが多いので、それをやめる。そして、すみやかに別居するとともに、婚姻費用を支払い、自分の支払いは自分でしてもらうようにする。こうすることで、離婚事由となる別居期間を稼ぐとともに、離婚を受け入れられない相手に『離婚後の状態に慣れてもらう』」
4)婚姻費用を低く抑えようとする際には注意が必要
別居期間中の婚姻費用は、社長側の収入に左右されます。そのため婚姻費用を抑えようと自身の役員報酬を下げようと考えることがあります。ですが、そういった、婚姻費用を下げる目的での収入の操作は裁判所では認められないケースがあるようです。
一方、会社の資産状況などでやむを得ないと認められるケースもあり、ここは一概にはいえない複雑な問題があります。一度税理士や弁護士に相談するのがいいでしょう。
3 財産分与で揉めないための注意点
1)会社名義の資産は財産分与の対象外
別居期間を経て、離婚の条件を詰める段階になると、いよいよ財産分与の問題が浮き彫りになります。
財産分与は、
夫婦どちらの名義の資産であっても、婚姻後に築いた個人の名義のものは合算して対象になるが、会社名義のものは対象外になる
というのが基本です。
会社名義の資産は社長個人のものとは別で会社のもの、とみなされますが、
会社名義の資産ではあるが、実質は家族のために使うなどして個人と会社の区別が曖昧
といった場合には、夫婦の共有財産であるとして財産分与の対象になる場合もあるので、迷ったらその都度弁護士に相談したほうがいいでしょう。
2)揉めがちなのは財産分与の対象の特定と評価額
財産分与の対象になるのは、預貯金や不動産(自宅の土地・建物など)の他、株、保険といった資産などです。自動車・家具・貴金属類・絵画といった動産についても婚姻中に築いたものは共有資産としてみなされるので、対象は多岐にわたります。
これらの時価などを評価した上で分与することになるのですが、この財産分与の対象物を特定し、評価するのがまず一苦労で、かなりの時間を要します。
その上で、
特に評価で時間を要するのが非上場株式
です。
上場企業の株式であれば離婚時の時価を評価額にすることができますが、非上場会社の株式の場合は市場で取引されていないので、評価自体が難航したり、評価方法をめぐって揉めたりするケースもあります。
3)自社株も2分の1を渡さないといけない?
社長が保有する自社株も、個人名義のものであれば財産分与の対象となります。そうなると財産分与によって2分の1の株式を譲渡してしまっては会社の経営権に影響が出てしまいます。
そのため、現実には、
社長が自社株を100%保有する代わりに、自社株の評価額の2分の1に相当する金銭を支払う
という合意をするケースがほとんどです。
中小企業は基本的に非上場会社なので、相手側としても、買い主を見つけるのも大変な株式よりも、現金でもらったほうがいいという判断になるからです。
相手が役員などで自社株を保有している場合も、それをすべてこちらがもらう代わりに対価を支払うということになります。
弁護士へのヒアリングによると、
「相手が妻の場合、例えば子どもが小さければ離婚後もずっと養育費をもらっていかなければならないので、夫の会社には安泰でいてほしい。また、妻自身が、離婚後に夫の会社と関わることも望まない。そのため、夫の株主比率が下がることを望む人はほとんどおらず、株式の譲渡自体で揉めることはほぼない」
とのことです。
仮に自社株の評価額が高くなり、その他の資産の評価額以上になって2分の1を現金で工面するのが難しい場合は、足りない分を分割で支払うことになります。
なお、財産分与における株式の評価額は、
別居開始日の保有株数×離婚成立日の評価額
となるので注意が必要です。
4)財産分与の割合でも揉めがち
財産分与の割合は「夫婦で2分の1ずつ」が妥当というのが原則です。
しかし、相手が専業主婦(主夫)の場合、「妻(夫)は家にいるだけで資産形成に貢献していない」といった理由で、社長が財産分与の割合を修正することを求めるケースがあります。
確かに、例えばスポーツ選手や特殊技能を持った職人など、本人の特殊な資質によって高額な所得を得て資産を築いた場合などは、相手方への財産分与の割合が減らされることもあります。
ただし、この寄与度(貢献度)については双方で揉め、調停・裁判が長引くことが多いです。また、「夫婦で2分の1ずつ」の原則により認められないケースも多々あります。この点も、迷ったら弁護士に相談するようにしましょう。
5)財産分与の対象から外すのは円満なときに
財産分与の対象となる資産を減らそうと、別居前に慌てて個人名義の資産を売却したり、会社の名義にしたりしても、その資産が財産分与の対象とされてしまうことがあります。
弁護士へのヒアリングによると、
「裁判になると、別居と財産分与を見越し、財産分与の対象となる財産から外すために財産を隠したり名義を変更したりするなどしたと評価されるものは、対象内に戻されるという例外が起こる場合がある。社長の場合、財産分与によって会社経営に影響を与えることを避ける方法を日ごろから検討、対策しておくのがベスト」
とのことです。
また、次のようなコメントもいただきました。
「別居後の稼ぎで作った財産は夫婦共有財産とはされないのが原則なので、稼ぎが多い場合、すみやかに別居して財産を増やし、それを離婚時の財産分与に上乗せする『解決金』の原資にするという考え方もできる」
4 配偶者が会社で働いている場合、離婚で解雇はできない
配偶者を役員にして役員報酬を払っていたり、事務員として雇用したりしているケースは多いでしょう。その場合、離婚を理由に解任・解雇はできません。
役員の場合、別居した時点で実質その役割を果たさないという理由で解任したいと考えても、基本的には任期があるので、任期満了を待ってそこで解任することになります。
雇用している場合でも、解雇するには会社に多大な損害を与えたり、長期にわたる無断欠勤をしたりなど、合理的な理由が必要です。どうしても解雇したい場合は、退職金を提示するなどして、合意の上で退職してもらうことになります。
5 親権問題で揉めがちなのは子どもとの面会交流
1)親権問題は妻側が有利になりやすい
夫が社長の場合、経済力の高さから子どもの親権獲得に有利に思われがちですが、実際は妻側が有利になりやすいといわれます。
裁判所は、次の点を重視してどちらが親権者にふさわしいかを判断するからです。
- これまで(同居中)どちらが主に子どもの面倒を見ていたか
- 現在(別居時)どちらが子どもの面倒を見ているか
多忙な社長は、あまり家におらず、帰りが遅いことも多いため、子と関わる時間が持てず、親権問題だと一般社員よりも認められない可能性が高いといわれます。
2)面会交流は相手が合意すれば自由にできるが……
親権者の指定については、双方で合意ができ、あまり揉めることはないようです。一方で揉めやすいのが、離婚後に子どもと非親権者が会う面会交流についてです。
離婚裁判まで進んだ場合、一般的に裁判所は「月1回数時間」程度の面会交流しか認めないといわれます。
しかし、社長の場合、
- 家族での会合が多く、そこに子どもを連れて行きたい
- 海外や国内への数泊の旅行へ一緒に行きたい
といった要望がかなり多いそうです。この場合、
親権者と子どもが合意すれば面会交流は自由
にできます。
ただし、離婚に至るほど夫婦関係が悪化し、また調停や裁判を経てさらに険悪になっている場合、親権者側が面会交流を認めなかったり、慎重になったりするケースがほとんどです。
こうしたとき、面会交流で揉めないためのポイントの一つが、養育費です。詳しくは次の章で解説します。
6 養育費は子どもの学費問題
養育費の金額は、第2章で紹介した算定表が目安になります。例えば0歳~14歳の子どもが1人いて妻の収入はゼロ、夫が役員報酬として2000万円もらっているケースだと、妻には月25万円程度の養育費を支払うことになります。
ここで揉めがちなのが、妻側がこれでは足りないと要望するケースです。主な理由として多いのが、子どもの学費です。
算定表はもともと公立学校に通わせることを念頭に算出されていますが、夫が社長の場合、妻は私学や習い事、海外留学などに年間数百万円超を掛けることも少なくありません。
弁護士へのヒアリングによると、社長の離婚ではこの学費問題で揉めるケースがかなり多いようです。
「社長が、自力でここまで来たという感覚があり、ある程度の学費は出すが後は子どもの自己判断でというマインドを持っている場合、習い事や留学など、際限なく良い教育を受けさせたいという妻側との教育観の違いが浮き彫りになり揉めてしまう」
現実としてこの養育費で揉めてしまうと、その後の面会交流の交渉で妻側が慎重になってしまう場合があります。
弁護士へのヒアリングによると、
「最終的には学費を含めて算定表よりも多めに養育費を払うというところに落ち着くことが多い」
とのことです。
学費の心配がなくなることで子どもとの関係が円満になったり、成長したときに非親権者の家から学校に通ったり、面会交流も制限なく自由にできるようになったりするケースも多いようです。
7 結婚する前なら夫婦財産契約という選択肢も
こうした社長特有の離婚リスクに備え、これから結婚する若い社長の中には夫婦財産契約(婚前契約、プレナップとも)を結ぶ人が増えています。
夫婦財産契約とは、
離婚時の財産分与で揉めることがないように資産の帰属などを決めておく契約書
です。
この契約は、「婚姻後に取得した株式も財産分与の対象外とする」といった内容を定めることもできます。
ただし、夫婦財産契約は当然、お互いの合意が必要になります。婚姻前に離婚を前提とした取り決めをするというのは、感情的に受け入れられないかもしれません。
実際に契約を結んでいるケースでは、
社長の結婚は家族だけでなく会社経営にも大きく関わる出来事なので、会社のリスク管理のためにも結んでおきたい
と切り出すことが多いようです。
なお、夫婦財産契約は婚姻後に結ぶことはできません。また、結んだ後に契約内容を変更することも基本的にはできないので、その点は留意しておきましょう。
また、夫婦財産契約は会社の規模や目的によって内容も大きく変わってくるので、結ぶ際は弁護士に相談するのがいいでしょう。
以上(2025年12月更新)
(監修 弁護士 坂東利国)
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