労務の都市伝説「課長には残業代を払わなくてよい」は是か非か?

1 残業代が不要なのは「管理監督者」だけ

「管理職には残業代を支払う必要がない」。これは半分正解で、半分不正解です。労働基準法(以下「労基法」)上、残業代が不要な管理職と、そうでない管理職がいるからです。

  • 残業代が不要:監督もしくは管理の地位にある「管理監督者」
  • 残業代が必要:課長などの役付きだが、管理監督者には当たらない「名ばかり管理職」

労基法上、管理監督者には労働時間・休憩・休日の規定が適用されないので、そもそも残業という考え方がなく、残業代を支払わなくてもよいとされています(深夜労働の残業代を除く)。

「それなら、うちの管理職に残業代を支払う必要はない」と考える経営者の方もいそうですが、そう簡単ではありません。なぜなら、管理監督者と認められる要件が非常に厳しいからです。まずは図表1を見て、具体的な社員をイメージしながら◯×を付けてみてください。

管理監督者と認められる要件

いかがでしょうか。1つでも「×」が付いたら、管理監督者ではないと判断される恐れがあります。そして、管理監督者でないと判断された場合、その社員には残業代を支払わなければなりません。

働き方改革などで、社員の労働に対する権利意識は高まってきています。不要な労務トラブルを避けるためにも、このタイミングで管理監督者の要件を確認していきましょう。

2 管理監督者と名ばかり管理職の違い

管理監督者には、労基法の次の規定が適用されません。

  • (労働時間)原則として、休憩時間を除いて1日8時間、1週40時間
  • (休憩)労働時間が6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は1時間
  • (休日)1週間につき1日あるいは4週間当たり4日

つまり、管理監督者は

就業時間(始業から終業まで)と休憩時間、労働日と休日などの区別がない状態で働き、時間外・休日労働といった考え方がない

ということです。

ただし、深夜労働の規定は適用されるので、22時から翌日5時までの間に残業した場合は残業代の支払いが必要です。勤続年数に応じた年次有給休暇の付与については、管理監督者も対象となります。

また、労働安全衛生法の「労働時間の把握義務」は管理監督者にも適用されるので、

あくまで時間外・休日労働などの規制から外れるだけで、労働時間管理自体は必須

である点に注意が必要です。

一方、肩書きはあるが管理職の権限や実態がなく、残業代が支払われないなど待遇が不十分という社員は、名ばかり管理職です。このような社員は、管理監督者とは認められないので、時間外・休日労働、深夜労働全ての残業代を支払わないといけません。また、いわゆる「時間外労働の上限規制」(原則として月45時間、年360時間など)も適用されます。

3 管理監督者に該当するか否かが決まる3つの要素

法令上、管理監督者とは、

労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にある人

のことです。具体的には次の3つの要素を基に、管理職が経営者と一体的な立場にあるか(管理監督者性)を判断します。実態で判断するので、課長などの役付者であるかは関係ありません。

管理監督者に該当するか否かが決まる3つの要素

それぞれの要素について、重要なポイントを見ていきましょう。

1)職務内容と責任・権限

管理職が、経営者が主催する幹部会などへの参加、社員の採用、労働時間管理、人事考課など、経営上重要な職務に携わっている必要があります。ただし、経営者から指示を受けて職務を遂行するだけでは不十分で、次のように一定の責任・権限を与えなければなりません。

  • (経営者が主催する幹部会などへの参加)重要事項の決定に携わっている
  • (社員の採用)採用面接に参加後、採用の決定にも携わっている
  • (労働時間管理)部下の労働時間管理などについて、一定の権限を持っている
  • (人事考課)考課後の処遇の決定について、一定の権限を持っている

中小企業の場合、管理職の多くは現場の職務とマネジメントを兼務する「プレイングマネジャー」です。マネジメントの比重が小さいと、管理監督者として認められにくくなるので、その場合はマネジメントの比重を上げる必要があります。

2)勤務態様

時間帯や休日に関係なく経営上の判断や対応を求められるなど、イレギュラーな働き方をしている必要があります。ただし、イレギュラーな働き方をさせる以上、労働時間については管理職が自由に決められるようにしなければなりません。

具体的には、出退勤はもちろん、中抜けの自由も認め、遅刻、早退、中抜けなどによる減給がないようにします。ただし、管理監督者だからといって過重労働は認められません。健康管理や深夜労働の管理のためにも、出退勤時刻の把握は必須です。

3)待遇

賃金について、管理職と一般社員との間に相応の待遇格差を付ける必要があります。管理職の場合、基本給が高く、役職手当なども支払われるので、通常の賃金は、

管理職の基本給や手当>一般社員の基本給や手当

となります。しかし、一般社員に残業代などが支払われると、

管理職の基本給や手当<一般社員の基本給や手当+残業代など

といった逆転現象が起きることがあります。

そのため、管理職の賃金については、各社員の労働時間や残業代などを考慮した上で、一般社員と比較して高い水準を確保できるよう配慮しなければなりません。

4 小売業や飲食業などはより厳しくチェックされる

ここまでが、管理監督者の要件に関する基本的な考え方です。

多店舗展開する小売業や飲食業の店長などの場合、特に注意が必要です。名ばかり管理職の問題が起きやすいため、管理監督者の要件を本当に満たしているか、より厳しくチェックされる傾向があります。

厚生労働省からも、これらの業種について、前述した3つの要素「1.職務内容と責任・権限」「2.勤務態様」「3.待遇」それぞれについて、「管理監督者性を否定する要素」を示す通達が出されています(平成20年9月9日基発第0909001号)。簡単に言うと、管理職として取り扱っていたとしても、これらの要素に該当する場合、管理監督者ではないと判断されてしまう恐れがあるということです。第3章で紹介した内容と一部重なる部分もありますが、確認していきましょう。

管理監督者性を否定する要素

以上(2025年11月更新)

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画像:ChatGPT

2025年12月15日開催!やまがた未来(みら)くる人材&外国人材活用セミナーのご案内

2025年12月15日、きらやか銀行は、山形県の後援を受け、キャプラスクインターナショナル合同会社との共催で「やまがた未来(みら)くる人材&外国人材活用セミナー」を開催します。

このセミナーでは、副業・兼業プロ人材マッチング支援の状況や、全国でも年々拡大している外国人材受け入れの事例、鍵となるポイントは何か、人口減少時代にどのように対応していくかなどを紹介いたします。

このページの最後に、外国人材活用に役立つコンテンツも紹介しますので、ぜひご覧ください!


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お申し込みフォームはこちらから(外部サイトへリンク)(先着順)

お申し込み締め切りは2025年12月8日(月)17:00です。

開催概要

  • 日時:2025年12月15日(月) 15:30~17:00
  • 会場:きらやか銀行本社 3階大会議室(定員50名)、
    ZOOMでのオンライン(定員制限なし)
  • 参加費:無料

プログラム

  • 15:00-15:30 受付開始
  • 15:30-15:35 開会ご挨拶 きらやか銀行 取締役頭取 西塚 英樹
  • 15:40~16:00 やまがた未来(みら)くる人材活用事業を通じた山形県のプロ人材マッチング支援について
    山形県みらい企画創造部 移住定住・地域活力拡大課
    関係人口創出拡大主査 渡会 崇 氏
  • 16:00~16:50 県内企業における外国人材活躍事例について
    キャプラスクインターナショナル合同会社
    代表 森岡 拓也 氏
  • 16:50~17:00 質疑応答
  • 17:00 閉会挨拶
お問合わせ先
きらやか銀行 法人サポート部 担当:松田、鈴木
電話:023-628-3822(直通)

きらやか情報ステーションでは、外国人材活用に役立つコンテンツも公開しています。ぜひご覧ください!

女性が働きたくなる企業をつくるには?/大門あゆみ弁護士の女性活躍ナビ(3)

1 現状の課題

近年、女性の労働力人口は増加傾向にあり、企業にとって女性の活躍はますます重要になっています。しかし、多くの企業では、優秀な女性が結婚、妊娠、出産、育児、そして家族の介護といったライフイベントを機に、キャリアを諦め、離職してしまうという現実に直面しています。これは企業にとって大きな損失であり、労務管理上の重要な課題です。

2 制度はあるのに、なぜ利用されないのか?

「育児・介護休業規程はちゃんと整備しているのに、取得しないまま辞めていく」。多くの中小企業の経営者から、このような声が聞かれます。制度が形骸化してしまう背景には、いくつかの運用上の問題点があります。

1)周知不足と諦め

企業の実態調査やアンケートを取ると、社員が社内の両立支援制度を知らないと回答する割合も多いようです。そもそも制度が知られていなければ、利用にはつながりません。また、当初から企業に支援を期待しておらず、昇進などへの不安から、介護に直面していることなどを申告しないケースもあります。

2)「育児」と「介護」の特性の違い

育児は妊娠から出産、休業まである程度計画的に準備できますが、介護は「ある日突然」始まることも多く、終わりが見えにくいという特性があります。特に介護は、職場の基幹人材である40代以上の社員が直面するケースが多く、代替要員の確保が難しいという問題も深刻です。

3)利用しづらい職場の雰囲気

男性が育児休業を取得しない理由として、「職場が育休を取りづらい雰囲気であること」や「業務の都合」が多く挙げられています。これは女性にも当てはまる問題であり、制度の利用を阻む大きな壁となっています。

3 就活生の意識の変化

他方で、マイナビ「2026年卒 大学生のライフスタイル調査」によると、2026年卒の大学生の「育児休業を取って子育てしたい」割合は男子56.3%、女子58.2%となっており、男子学生の共働きや育児休業取得への希望が一定数あることが分かります。「男性育休は当たり前」の社会がすぐそこまで来ています。男性が家庭生活に参画することは、女性のキャリア継続を支える上でも不可欠です。

長時間労働を前提としない業務体制の構築や、テレワーク・フレックスタイム制といった柔軟な働き方の導入は、男女を問わず、全社員のワーク・ライフ・バランスを実現するために重要であり、「就職したい!」と思ってもらえる企業になるための大切な要素であることが分かります。

4 法令遵守と攻めの人事戦略としての両立支援

こうした課題に対し、国も法改正を進めています。改正育児・介護休業法が2025年4月と10月に施行され、次の取り組みなどが義務付けられました。法令を遵守することはもちろん、「攻めの人事戦略」として両立支援を強化することが、企業の持続的成長につながります。

  • 男性育休の取得促進:育休取得率の公表義務が社員1000人から300人超の企業に拡大
  • 柔軟な働き方の促進:子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充
  • 介護離職の防止:介護に直面した社員への個別周知・意向確認や、雇用環境の整備の義務付け

5 中小企業でもできる!実用的な取り組み

では、両立支援に向けて、実用的な取組みにはどのようなものが考えられるでしょうか。ご参考にいくつか例を紹介します。

1.両立支援ハンドブックの作成

自社の制度や相談窓口、公的支援などをまとめたハンドブックを作成・周知しましょう。厚生労働省のガイドラインも活用できます。

■厚生労働省「仕事と育児/仕事と介護の両立支援ガイド(企業向け)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/model.html

2.「育休復帰支援プラン」の策定

厚生労働省が提供するマニュアルを活用し、社員の円滑な育休取得と職場復帰をサポートするプランを策定します。代替要員の確保や、法定を上回る子の看護休暇制度なども有効です。

3.ジョブ・リターン制度の導入

ライフイベントで一度離職した社員が、再び活躍できる道を開く制度の構築も有用です。

4.外部支援の活用

中小企業は、社会保険労務士などの専門家から無料のアドバイスを受けられる事業や、ハローワークによる代替要員確保の支援などを活用できます。近年は、両立支援に取り組む事業主向けの助成金も拡充されているので、ぜひ利用を検討してみてください。

■厚生労働省「両立支援等助成金のご案内」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/ryouritsu01/index.html

6 まとめ―両立支援は「コスト」ではなく「未来への投資」―

仕事と家庭の両立支援は、「コスト」ではありません。企業のイメージアップ、社員のモチベーション向上、生産性の向上、そして何より優秀な人材の確保と定着につながる「未来への投資」です。実際に、女性管理職比率の高い企業が株式市場で高いリターンを生み出すという分析もあり、投資家も企業の女性活躍への取り組みに注目しています。

「くるみん認定」や「えるぼし認定」といった国の認定制度は、企業のイメージ向上や優秀な人材確保に直結し、公共調達で有利になることもあるなどのメリットもあります。学生もこうした情報を企業選びに活用しており、他社との大きな差別化につながります。

男女を問わず、すべての社員がライフステージの変化に対応しながら、安心して能力を発揮できる。そんな「就職したくなる企業・辞めたくない企業」をつくることこそが、これからの時代で発展し続けるための、経営戦略といえるでしょう。

以上(2025年12月作成)
(執筆 法律事務所UNSEEN 弁護士 大門あゆみ)

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画像:法律事務所UNSEEN 弁護士 大門あゆみ

【税務調査の真実(2)】オンラインの調査が増えているって本当?

もはや都市伝説? 税務調査にまつわる噂

「別に悪さをしているわけではないけれど、税務調査は嫌だ」。ほとんどの経営者はこう考えるでしょう。いきなり調査官がやって来て、あれこれと帳簿の提出を求められ、多額の税金を支払わされるイメージです。それに、とにかく「面倒」です。

こうした思いもあり、税務調査については、

「税務調査は突然やってくる」や「税務調査は断れる」

など、さまざまな臆測が飛び交いますが、これは本当なのでしょうか。この記事では、現役税理士に覆面インタビューを実施し、普段はなかなか聞くことのできない税務調査の舞台裏を徹底的に聞き出しました。

Q1 オンラインによる税務調査って本当に増えているの?

これまで大企業中心だったオンラインによる税務調査(以下「オンライン税務調査」)が、2025年9月以降、中小企業にも本格的に導入され始めます。最初は金沢・福岡国税局エリアから導入され、順次エリアが拡大される予定です。

画面越しの調査は実地調査に比べ一見ラクに感じますが、対面とは違い、相手の反応や表情が読み取りづらく、意図しない発言が誤解されるリスクがあります。また、資料をその場で提示して説明できないため、「誤送信」や「ファイルの誤共有」といったオンライン特有のトラブルも起こることもあり得ます。税理士の立会いもオンライン対応が可能になったものの、通信環境によっては調査官とのやり取りが途切れたり、調査の流れをコントロールしづらくなったりすることもあります。経営者は、発言内容だけでなく、送受信データや画面共有の管理にも十分注意を払う必要があります。

なお、オンライン税務調査については、納税者と顧問税理士の同意があった上で実施されます。

Q2 調査日数は会社ごとに違う?

調査日数は会社ごとに異なり、1日で終わる調査もあれば、5日以上続く調査もあります。一般的な中小企業の場合、大体2~3日の調査が多いようです。

調査日数は、会社の規模(売上高や資産規模など)、業種業態、同時に行われる調査税目など、さまざまな要因で決定されます。そのため、前回の調査が1日で終わったからといって、次回も同じ調査日数だとは限りません。

Q3 税務調査の間、経営者は何をする?

税務調査の対応は、基本的には税理士と自社の経理(税務)責任者が行います。経営者が調査官と話をするシーンは、通常、調査の冒頭で行われる会社概要の説明時(スケジュールの調整は可能)となります。

知っておいてもらいたいのは、この会話の中においても、調査官は目を光らせているということです。趣味の話や世間話などをして場の雰囲気を和らげ、経営者を油断させるのも、調査官の調査手法の1つです。例えば、週末の過ごし方を聞く中で、経営者のプライベートな趣味やその頻度などを把握し、個人資産(別荘やクルーザーなど)を会社の資産として計上していないかなどの判断材料とすることもあります。

Q4 調査官は何を見ている?

基本的に、調査官は提出を要求した帳簿や、売上・仕入関連資料、経費資料などを黙々と調べ続けます。その他、棚卸資産・固定資産の実物チェックや疑義のある取引の担当者へのヒアリングが行われます。最近では、従業員のパソコンや、サーバー内のデータをチェックすることもあります。例えば、表や文書ファイルの更新日時を見て、取引日と照らし合わせるなどです。

また、調査官にとっては、従業員同士の会話など、見聞きするもの全ての情報が税務調査の資料となります。例えば、トイレに行く際に社内の売店に立ち寄って、店員に世間話をしながら会社役員の勤務状況を聞いたり、喫煙室で従業員同士の会話を聞いていたりと、いろいろなところで調査官は会社の実態を知ろうとします。

Q5 社歴の浅い会社には税務調査は入らない?

税務調査が全くないわけではありませんが、設立後3年未満の会社に税務調査が入ることはまれだといえます。

モバイルアプリ開発などで、売上が急激に伸びた会社などは調査に入ることがあるかもしれませんが、設立直後の会社は売上規模が小さく、取引の動きも少ないことから、調査に入っても指摘事項があまりないと考えられます。また、過去の取引が少ないと、調査官側も事前に十分な分析ができないことなどから、調査対象になりにくいのではないでしょうか。

Q6 調査官によって調査の結果が左右される?

調査官によって調査の結果が左右されることは、少なからずあります。納税者側の反論に耳を傾けてくれる調査官もいれば、全く耳を傾けない調査官もいます。また、高圧的な態度の調査官もいれば、柔和な態度の調査官もいます。

ただ、耳を傾けない調査官だからといって、指摘を全て受け入れないといけないかといえば、そうではありません。そういうときのために、代理人として税理士がいますので、納得のいかない指摘に対しては、税理士と相談しながら理路整然と対応していきましょう。

Q7 前回調査と指摘が変わることってあるの?

前回の税務調査で指摘されなかった項目について、次の税務調査で指摘されることがあります。中には、前回の調査官から認められた経理処理について指摘される場合もあります。

調査ごとに指摘が変わるのは、前回の調査官が見落としていたり、判断が間違っていたりすることなどが考えられます。もし、前回の調査官に認められた経理処理について指摘された場合は、前回の調査で、調査官に対して話した取引の背景や、経理処理が認められた経緯などを詳細に説明しましょう。

Q8 税務調査対策としてワンポイントアドバイスを!

基本的なことですが、書類をしっかり保存・整理しておきましょう。言うまでもありませんが、契約書関係はすぐに提出できるようにしておいてください。調査官にとっても、提出依頼をした書類がすぐに出てくると、その会社に良い印象を抱くはずです。

万一、作成漏れなどにより契約書がない取引などがある場合は、税務調査の有無にかかわらず、すぐに作成するようにしてください。最終的に、調査官は書類を基に、その経理・税務処理が認められたものなのか、認められたものでないのかを判断することになるからです。

ただし、印紙を貼るべき契約書の作成を失念していた場合には注意が必要です。印紙のデザインは年度によって異なる場合があり、調査のために後付けで貼ったことが露呈する恐れもあります。

以上(2025年11月更新)

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画像:Andrey_Popov-shutterstock

【税務調査の真実(1)】AIで対象の会社を決めているって本当?

もはや都市伝説? 税務調査にまつわる噂

「別に悪さをしているわけではないけれど、税務調査は嫌だ」。ほとんどの経営者はこう考えるでしょう。いきなり調査官がやって来て、あれこれと帳簿の提出を求められ、多額の税金を支払わされるイメージです。それに、とにかく「面倒」です。

こうした思いもあり、税務調査については、

「税務調査は突然やってくる」や「税務調査は断れる」

など、さまざまな臆測が飛び交いますが、これは本当なのでしょうか。この記事では、現役税理士に覆面インタビューを実施し、普段はなかなか聞くことのできない税務調査の舞台裏を徹底的に聞き出しました。

Q1 対象になるのは、どんな会社? AIが決めているって本当?

基本的に、どのような会社も税務調査の対象になります。ただ、長い間(7年以上)、税務調査が入っていない会社や、直近3~5年の決算書類の比較・分析から異常な数値の動きが見られる会社は、調査の対象となりやすいようです。また、国税局・税務署側も毎年テーマを持って調査を行っているケースがみられます。例えば、ネット通販やクラウドサービスの利用を通じて、海外の取引先やプラットフォームと関わるケースが増えていることや、各国の税務当局の国際連携の強化を背景に、海外の業者や子会社との取引、暗号資産の海外利用などは、近年の調査で注目度が高まっている分野です。他にも、売上が急激に伸びている会社なども目につきやすいでしょう。

近年、税務署は膨大な申告データをAIで分析し、申告漏れや不正の可能性が高い納税者を調査対象として選定しているようです。一部報道では、2023年度の中小法人の追徴税額(法人税・消費税)の約8割はAI判定対象から発生したとも報じられています。

Q2 税務調査は突然やって来る?

税務調査は強制調査と任意調査とに大別されます。強制調査は、突然、やってきますが、これは悪さをしている場合に受ける調査です。通常は、事前に連絡があります。

強制調査とは、悪質な脱税の疑いがある者に対して行われる調査です。いわゆる「マルサ」(国税局査察部の通称)が担当し、査察調査とも呼ばれます。調査官は事前に実態を調べ、脱税が事実であることに確信を持った上で会社にやって来ます。納税者による帳簿などの証拠書類の隠蔽を防ぐために、事前の連絡はなく、突然やって来ます。

任意調査とは、調査に入るために会社の同意が必要な調査です。ほとんどの税務調査がこちらに該当し、強制調査のように突然やって来ることはありません。事前に会社や顧問税理士に対して調査の予告が来ます。基本的には電話で連絡が来た後に、事前準備資料リストその他の書類が送られてきます。

Q3 税務調査を断ることができる?

強制調査の場合は、裁判所の令状を持って調査に入るため断れません。会社側の都合で調査日を変更することもできません。

任意調査の場合も、原則として断ることはできません。ただし、事前予告の段階での日程調整は融通が利きます。調査官から日程が提案されますが、会社の繁忙期、立ち会いの税理士の都合などもろもろの正当な理由があれば、日程を調整できます。

Q4 税務調査が集中する時期はある?

調査官(税務職員)の人事異動は毎年7月に行われます。そこから1年間、調査官は与えられたノルマ(調査件数など)を基に税務調査を行っていくことになります。なるべく早くノルマを消化するため、年内、特に8〜9月に税務調査が多く行われます。

また、7月の人事異動に合わせて、調査官の評価が決まることを考えると、年内、遅くとも翌年の4月ごろまでに行われる調査に力が入ると考えられます。

Q5 税務調査が中止になることはある?

基本的に、一度予告された税務調査は必ず行われます。

ただし、4~6月ごろに予告された税務調査について、調査時期を7月以降で日程調整をお願いすると、まれに調査が実施されないことがあります。はっきりした理由は分かりませんが、調査の実施自体がうやむやになってしまうケースが過去にありました。明確ではありませんが、考えられるのは「7月に行われる調査官の人事異動により、新旧担当者間の引き継ぎがうまく行われていない」「そもそも重要性の高い調査対象ではない」といった理由です。

Q6 反面調査はどのように対応する?

反面調査とは、調査対象会社の取引先などに対して、取引状況などを確認する調査で、自社に対しては調査対象会社との契約書や請求書などの提出が求められます。反面調査の性質は、調査対象会社に対する税務調査が強制調査か任意調査かに準じます。調査対象会社に配慮して、事実と異なった回答をしたり、あやふやな回答をしたりすると、自分の首を絞めることにもなり得ます。事実を淡々と語り、求められた書類などは提出するようにしましょう。

Q7 繰越欠損金があると税務調査が入りにくい?

繰越欠損金がある会社は、税務調査後において修正申告をしても所得が発生しにくいので、税金を徴収できる可能性が低いという意味においては対象外となることが多いのではないでしょうか。

ただし、繰越欠損金のある会社に税務調査が入るケースもたくさんあります。そのため、繰越欠損金があるから、税務調査が来ないだろうという考えは正しくありません。

Q8 どういった科目を重点的に調査する?

売上・仕入関連の勘定の場合、期ズレに注意しましょう。例えば、3月決算の会社であれば、特に3月・4月の取引は重点的に調べられます。収益・費用を正確に計上するためには、日々の書類整理や、経理担当者だけでなく営業担当者など、従業員全体の期ズレに関する意識を高めることなどが大切です。

人件費では、役員、特に同族会社であれば身内に関連する報酬や給与でしょう。例えば、勤務実態(業務内容や出勤日数)に見合わない報酬・給与を支払っていないかが重点的に調べられます。

固定資産では、資本的支出(固定資産として計上しなければならない修繕費用など)を、費用計上していないかといった点も指摘されやすい箇所でしょう。

他には、外注委託費です。特に外注委託先に身内が経営している会社がある場合、委託業務の内容と金額が適正なものかがよく調べられます。

Q9 税務調査に臨む経営者にアドバイスを!

税務調査のあるなしにかかわらず、税務顧問としてお願いしたいのは、「イレギュラーなことをやるときは、事前に相談してほしい」ということです。事前に相談してくれさえすれば、多くの場合、税務的なリスクをかなり減らすことができます。もちろん、完全に違法な取引を合法にすることはできませんが、白黒つけがたい取引であれば、より白に近づけることは可能です。もし、事後に報告を受けた場合には、後付けで対策を練ることとなってしまい、十分な対応ができません。

また、税務・会計処理は日々の取引の積み重ねです。税務調査の予告が来てからまとめて書類を整理したとしても、どうしても抜け漏れが生じます。日々の税務・会計処理を、継続して適切に処理していれば、税務調査は決して恐れるものではないのです。

以上(2025年11月更新)

pj30034
画像:ChatGPT

【朝礼】自分なりの「祓い」で場を整え、勝負に臨もう!

【ポイント】

  • 神道では、神事の前に「祓(はら)い」で不浄を取り除き、神々を待つ準備をする
  • ビジネスでは、「勝負事の前に、勝負に臨むためのマインドをつくる」ことが大切
  • 「深呼吸をする」「意気込みを紙に書きだす」など自分なりの祓いをして、勝負に臨もう

おはようございます。突然ですが、皆さんは「神楽月(かぐらづき)」というのをご存じですか?語源は神前で舞や音楽を奉納する「神楽(かぐら)」で、稲の収穫後や冬至の月に神を祀(まつ)る行事が多かったため、旧暦の11月を神楽月と呼ぶことがあるそうです。

さて、神楽に限らず神道では、神事の前に「祓(はら)い」という儀式が行われます。細かい内容は、神事の内容あるいは地域などによって異なりますが、例えば神楽の場合だと、東西南北の四方を舞い清めることなどがあります。心身に付いた罪や穢(けが)れなどの不浄を取り除き、清らかな状態に戻すことで、神々を待つ準備をするわけです。

なぜ、急にこんな話をするのかというと、この祓いは、私たちが日々仕事をする上での心構えにも大きく関係するからです。皆さんは「お客様は神様です」という言葉の由来をご存じでしょうか? 演歌歌手の三波春夫さんがよく口にしていた言葉だそうで、「客の前で歌うときは、あたかも神前で祈るときのように雑念を払い、澄み切った心にならなければ完璧な芸を見せることはできない」という意味が込められています。

大切なのは「雑念を払って、澄み切った心になる」「完璧な芸を見せる」という部分。つまり、神道の祓いというのはビジネス的な見方をすると、「勝負事の前に、勝負に臨むためのマインドをつくる儀式」ともいえるわけです。私たちの仕事の場面に置き換えてみましょう。

例えば、商談やプレゼンの当日であれば、「本番前に深呼吸をして、頬を軽くたたく」「当日の朝、意気込みを紙に1行ぐらいで書きだしてみる」といった具合に、何か特定の行動をしてみましょう。なんだか古臭いと思うかもしれませんが、「100パーセントの力を発揮できる」と自分に言い聞かせてやってみると、意外とそれが効いてくることがあるのです。

仕事に忙殺され、メリハリがなくなると、いざというときに力を発揮するのも難しくなります。大切なのは自分なりの「祓い」で場を整え、勝負に臨むこと。勝負の前のわずかな時間を大切にしていきましょう。

以上(2025年11月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

                             

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王将の成長を支えるのが、「ぎょうざ倶楽部」と呼ばれる独自の会員制度だ。25年1月には、会計が10%オフになる「プラチナ会員」を新設。全体売上高の2割以上を王将の常連客であるロイヤルカスタマーが占めている。

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巨額赤字に陥った日立、川村隆氏を支えた儒学者の言葉「一燈を掲げよ」

リベラルアーツは逆境を乗り越える力になる。「一燈(灯火)を提げて暗夜を行く。暗夜を憂うること勿れ。只、一燈を頼め」。日立製作所が創業来の赤字に沈んだ直後の2009年、69歳で社長に就任した川村隆氏が頼みにしたのは、幕末の…

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ヤマハ、社長のギターに社員熱狂 社内ライブが年次・役職の壁崩す

楽器大手のヤマハでは、楽器好きならではの音楽イベントが社員の士気向上や一体感醸成に貢献。役職や年次を問わず、ボトムアップの提案が実現する企業文化が社員のモチベーション向上に結び付いている。

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工場内窃盗が多い中国でミスミの備品自販機が活躍 「性弱説」で従業員管理

従業員による物品や資材の窃盗被害が深刻な中国の工場で、ミスミの間接材自販機サービスが好調だ。日本国内でも社員による不正の件数は増加傾向にあり、「性善説」によるガバナンス維持が限界を迎えつつある。そうしたなか、先行する食品…

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新浪剛史氏から消えた「真摯さ」 保身が招くリーダーシップの終焉

新浪剛史氏の経済同友会での会見に違和感を覚えた。かつて感じていた「真摯さ」がなくなり保身に終始した印象を受けた。同友会のトップを続け一体、何をしたいのか。疑問を感じた会見だった。

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みずほFGはデジタル化で1万4000人削減 日本にも迫る「AI失職」の足音

みずほフィナンシャルグループは1万4000人の人員削減目標を2年前倒しで達成した。業務のデジタル化による人員削減が進む中、人工知能(AI)時代が到来すれば雇用にどんなインパクトをもたらすことになるのか。影響が大きい銀行や…

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経営者が認知症を発症した場合に会社が直面する4大リスク

1 単なる健康問題では済まない経営者の認知症リスク

日々精力的に活動している経営者の中には、「自分は認知症にならない」と考えがちな人が少なくありません。しかし、認知症は誰にでも起こり得るもので、決して他人事ではありません。しかも、いつ発症するかの予測はできませんから、何も対策をしていないと、会社は思わぬリスクに直面することになります。そうです、経営者の病は、経営者個人の健康問題にとどまらず、会社経営全般に関わる問題としての認識が必要なのです。

具体的に想定されるリスクは次の4つで、以降で順番に解説していきます。

  • 契約が無効になるリスク
  • 資金繰り悪化のリスク
  • 事業承継が進まないリスク
  • 経営者個人の資産管理トラブルが起こるリスク

なお、具体的な認知症対策については、次のコンテンツをご参照ください。

2 契約が無効になるリスク

中小企業やオーナー企業では、多くの場合、経営者自身が会社の重要な意思決定や契約を行っています。これらの契約が有効とされるためには、契約者自身が自分の行動の動機やその結果を正しく判断できる「意思能力」が必要です。

しかし、認知症が進み、正しい判断ができない(意思能力がない)となると、

契約や株式の売買、贈与、融資の契約などが法的に無効になる

ことがあります。例えば、「取引先との新規契約を結んだが、後に経営者の意思能力が問題となり、契約自体が無効と判断される」「金融機関との融資契約や保証契約を結んだが、経営者に意思能力がなかったとして、契約自体が無効と判断される」といった具合です。

さらに、経営者が会社の株式の過半数を持っている場合、判断力の低下は株主総会での議決権行使にも影響します。

決算承認や役員変更、会社のルール(定款)の変更など、会社経営に不可欠な決議ができなくなり、会社の経営機能が事実上ストップ

してしまいます。

こうした事態は、金融機関や取引先に信用不安を与えるだけでなく、会社の評判や新規取引のチャンスにも影響します。認知症による判断力低下は、単なる健康の問題ではなく、会社の法律行為や事業継続に直結する重大なリスクになります。

3 資金繰り悪化のリスク

もし、経営者が認知症などで判断力が低下すると、会社の資金繰りに大きな悪影響が出ます。

まず、経営者名義の預金口座についてです。金融機関は本人の判断力が不十分だとみなした場合、本人の財産をトラブルなどから守るために口座を凍結することがあります。これにより、生活費だけでなく、会社への貸付金や運転資金の入出金にも影響が出ます。特に、経営者個人の資金が会社の緊急資金や保証資金として使われている場合、

口座が凍結されると、会社への貸し付けや個人保証の実行ができず、資金ショートの発生リスクが高まる

ので注意が必要です。

さらに、経営者が保有する不動産や株式などの個人資産も、判断力が低下すると売却や担保設定ができなくなります。

個人資産が会社の資金繰りや融資の担保に使われている場合、資金調達が滞る

ことになり、会社の存続に影響します。

4 事業承継が進まないリスク

事業承継手続きの中心となる自社株式の譲渡や贈与は、経営者本人の意思に基づいて行う法律上の行為です。つまり、「自分が何を、なぜ、どんな目的で行っているのか」を正しく判断できる意思能力が必要になります。

しかし、もし経営者が認知症を発症すると、意思能力が失われ、

自社株式の譲渡や贈与といった行為は法的に無効になります。その結果、後継者に自社株式を移すことができず、事業承継そのものがストップ

してしまうのです。

さらに、自社株式を誰に承継するかを決めないまま経営者が亡くなってしまった場合、自社株式は相続財産となり、経営者の相続人間の遺産分割協議に委ねられます。場合によっては、会社経営に関与したことのない相続人や、複数の相続人が自社株式を相続し、一定数以上の議決権を保有するケースも考えられます。

会社の重要な決定を行うたびに、自社株式を相続した相続人全員の合意が必要となり、経営判断のスピード感が損なわれたり、なかには現場の感覚とずれた決議が行われたりする

こともあり得ます。

5 経営者個人の資産管理トラブルが起こるリスク

認知症が進むと、経営者自身が自分の財産を正確に把握することが難しくなります。例えば、どこの銀行にいくら預金があるのか、不動産の権利証や生命保険の書類がどこに保管されているのか、上場株式をどの証券会社で管理しているのかなどです。家族が本人に代わって管理しようとしても、全体像をつかむのに時間や手間がかかるケースが多いのです。

そして、見逃せないのが、重要書類や印鑑の管理が曖昧になるリスクです。

個人の銀行印や会社の実印が適切に管理されていないと、不正に使われたり、資産を勝手に引き出されたりする

ことがあります。なかには、家族や親族、さらには信頼していた社員が、経営者の判断力の低下に乗じて資産を流用してしまうトラブルも起こり得ます。こうした事態を防ぐには、早めに資産管理体制を整えることが欠かせません。

経営者の個人資産の管理が難しくなることは、一見すると家庭の問題のように見えます。しかし、中小企業では経営者個人の資産と会社の資金が密接に結びついているケースが多く、これは会社の資金繰りなどにも直結する経営課題です。さらに、財産の把握や管理をめぐって家族間で意見が割れると、相続トラブルや家族内の対立に発展し、結果的に会社の経営判断にも悪影響を及ぼします。

以上(2025年11月作成)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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【規程・文例集】社員をハラスメントから守る!「ハラスメント防止規程」のひな型

1 どのハラスメントも対応の方針は基本的に同じ

ハラスメントは、放置すると被害を受けた社員の心身を蝕むだけでなく、訴訟などのトラブルにも発展しかねない重大な問題です。特に次のハラスメントは、法令により一定の防止措置を講じることが会社に義務付けられています。

  • パワハラ(パワーハラスメント)
  • セクハラ(セクシュアルハラスメント)
  • マタハラ等(妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント)

一定の防止措置とは次の5つのことですが、根幹となるのは1.のハラスメントの方針です。

  • ハラスメントの方針(ハラスメントを行ってはならない旨など。就業規則等の文書に規定)の明確化、周知・啓発
  • ハラスメントに関する相談窓口の設置・運用
  • 事実確認、被害者に対する配慮のための適正な措置、行為者への適正な措置と再発防止に向けた措置の実施
  • 相談者や行為者のプライバシーを保護、相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨の周知・啓発
  • 業務体制の整備など、マタハラ等の原因や背景となる要因を解消するための措置の実施

ハラスメントの方針は「ハラスメント防止規程」などの形で定めますが、内容に問題があると、事案が発生した際の対応でトラブルが起きます。次章で専門家が監修したハラスメント防止規程のひな型を紹介しますのでご確認ください。

ちなみに、ハラスメントの種類(パワハラ、セクハラなど)ごとに規程を分ける必要はなく、1つにまとめて差し支えありません。ただし、どのようなハラスメントを防止の対象とするのかは明確に定義しておきましょう。また、直近の法改正として、

  • 2024年11月1日からは、フリーランスに対するハラスメント防止措置の義務化(施行済)
  • 2025年6月11日から1年6カ月以内に、「就活セクハラ」の防止措置の義務化(未施行)

があるので、

ハラスメント防止規程に「社外の人間に対するハラスメントも許さない旨」を明記

しておきましょう。

2 「ハラスメント防止規程」のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

なお、前述した「社外の人に対するハラスメントを許さない旨」については、第1条(目的)第3項をご確認ください。

【ハラスメント防止規程のひな型】

第1条(目的)

1)本規程は、職場におけるハラスメントの防止、並びにこれらのハラスメントが発生した後の雇用管理上の対応について定めるものであり、役員および従業員(以下「従業員等」)に適用される。

2)本規程における「職場」とは、会社内に限らず、取引先、出張先など、すべての業務遂行場所をいい、また、就業時間内に限らず、実質的に職場の延長とみなされるものを含むものとする。

3)本規程における「ハラスメント」とは、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント、その他これらに準ずるすべての行為をいい、当社の従業員等に対して行われるものの他、取引先の従業員等、当社から業務を委託するフリーランス、就活生など、当社の従業員等以外に対して行われるものも対象とする。

第2条(パワーハラスメントの定義)

1)パワーハラスメントとは、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超え、相手の就業環境を害することをいう。

2)すべての従業員はパワーハラスメントに該当する以下のような行為を行ってはならない。

  • 殴打、足蹴りするなどの身体的暴力行為。
  • 相手やその親族、友人などの人格や尊厳を傷つける行為。
  • 業務遂行に関係のない要求を相手にしたり、自らの固定観念を相手に押し付けたりするような行為。
  • 業務遂行に関係のない事項について、執拗に相手から説明を求めること。
  • 違法行為を強要すること。
  • 相手を無視することや誹謗中傷すること、その他相手の名誉を傷つける噂を社内外に流布すること。
  • 業務遂行上の指導であっても、相手の人格や尊厳を侵害する言動を繰り返しとること。また、必要以上に叱責を繰り返すこと。
  • 業務遂行上の指導であっても、客観的に実現が不可能な内容を相手に求めて過度の精神的な苦痛を与えること。
  • 故意に情報を与えない、連絡事項を伝えない等の行為を繰り返し、職務遂行を妨害すること。
  • 解雇や降格など相手に雇用不安を与えるような言動をとること。
  • 能力や経験とかけ離れた程度の低い業務を命じる、あるいは業務を与えないこと。
  • 特定の従業員を業務から外す、集団で無視するなど人間関係を切り離すこと。
  • 従業員に不要な商品の購入を強要したり、ノルマを達成できない場合に自腹で契約を結ばせたりすること。
  • その他、相手の人格や尊厳を侵害する言動をとること。

第3条(セクシュアルハラスメントの定義)

1)セクシュアルハラスメントとは、職場における性的な言動に対する従業員等の対応などにより相手の労働条件に関して不利益を与えること、または性的な言動により相手の就業環境を害することをいう。

2)すべての従業員等はセクシュアルハラスメントに該当する以下のような行為を行ってはならない。なお、相手の性別・性的指向・性自認は問わない。

  • 不必要な身体への接触。
  • 性的および身体上の事柄に関する不必要な質問・発言。
  • 性的な内容に関する噂を社内外に流布すること。
  • 交際・性的関係の強要。
  • わいせつ図画の閲覧、配布、掲示。
  • 性的な言動への抗議または拒否などを行った相手に対して、解雇、不当な人事考課、配置転換などの不利益を与える行為。
  • 性的な言動により、相手の就業意欲を低下せしめ、能力の発揮を阻害する行為。
  • その他、相手に不快感を与える性的な言動。

第4条(妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント)

1)妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントとは、従業員等の妊娠または出産、産前産後休業、育児休業(出生時育児休業を含む)、介護休業の請求、その他の妊娠または出産の事由に関する言動により、相手の就業環境が害されることをいう。

2)すべての従業員等は妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントに該当する以下のような行為を行ってはならない。

  • 部下の妊娠・出産、育児・介護に関する制度や措置の利用等に関し、解雇その他不利益な取扱いを示唆する言動。
  • 部下または同僚の妊娠・出産、育児・介護に関する制度や措置の利用を阻害する言動。
  • 部下または同僚が妊娠・出産、育児・介護に関する制度や措置を利用したことによる嫌がらせ等。
  • 部下が妊娠・出産等したことにより、解雇その他の不利益な取扱いを示唆する言動。
  • 部下または同僚が妊娠・出産等したことに対する嫌がらせ等。

第5条(ハラスメントの防止)

1)すべての従業員等は、国籍、信条、性別、性的指向、性自認、職務上の地位・権限・職権、雇用形態に関係なく、職場において相手の人格や尊厳を尊重し、ハラスメントあるいはそれらと疑われる行為をしてはならない。

2)管理者は、他の従業員等がハラスメント(疑い例を含む)を受けていることを知ったときは、それを黙認してはならず、速やかに「ハラスメント相談窓口」(第6条にて定義。以降同様)に通知しなければならない。

3)従業員等は、他の従業員等がハラスメント(疑い例を含む)を受けていることを知ったときは、速やかに上司および「ハラスメント相談窓口」に通知しなければならない。

第6条(「ハラスメント相談窓口」の設置)

1)会社は「ハラスメント相談窓口」を設置する。「ハラスメント相談窓口」は、次の各号に定める業務を行うものとする。

  • ハラスメントに関する従業員等やその親族からの相談の受け付け。
  • 教育指導によるハラスメントの未然防止。
  • ハラスメントの事実関係の確認など早期解決、再発防止。
  • その他、ハラスメントの未然防止、早期解決に資する業務。

2)「ハラスメント相談窓口」の責任者(以下「窓口責任者」)は総務部長とし、「ハラスメント相談窓口」の担当者(以下「窓口担当者」)は会社が個別に指名した従業員等とする。

3)会社は、窓口責任者および窓口担当者に別途定める「ハラスメント相談対応マニュアル」(省略)を配布する。窓口責任者および窓口担当者は当該マニュアルに基づき、ハラスメントの防止および対応に当たらなければならない。また、窓口責任者および窓口担当者は、会社が指定するハラスメント防止教育を受講しなければならない。

4)会社は、窓口責任者および窓口担当者の名前を、人事異動などの変更の都度、周知させる。

第7条(ハラスメントへの対応)

1)ハラスメント(疑い例を含む)の相談や報告があった場合、窓口担当者は、相談者からの事実確認の後、窓口責任者へ報告する。

2)窓口担当者は、相談者の人権に配慮した上で、必要に応じて相談者、ハラスメントの疑いのある言動をした者(以下「行為者」)、被害者、上司並びに他の従業員等から事実関係を聴取し、関係する資料の提出を求める。

3)前項の聴取や関係する資料の提出を求められた従業員等は、正当な理由がない限り、調査に協力すべき義務を負い、事実を隠ぺいせず、真実を述べなければならない。また、聴取の対象となる事実関係や聴取を受けていることについて社内外で口外する等、会社の調査を妨害する行為をしてはならない。

4)窓口担当者は、窓口責任者に事実関係を報告する。

5)ハラスメントの早期解決に困難な状況が生じた場合、窓口責任者は、法令に基づく紛争解決援助および調停など、中立的第三者機関を利用することができる。

6)会社によるハラスメントの調査を適正に進めるため、または被害拡大を避けるために必要と会社が判断する場合には、問題解決のための措置を講ずるまでの間、暫定的に行為者に対し、相談者等に対する接触の禁止、勤務場所の変更、自宅待機等の緊急措置を命じることがある。自宅待機の期間中、会社は労働基準法第26条の「休業手当」を支払うものとする。また、会社が必要と判断する場合には、相談者その他従業員等に対し、勤務場所の変更等を命じることがある。

7)ハラスメントの事実が確定した場合、会社は行為者については就業規則に照らして処分を決定する。また、ハラスメントの被害者および行為者の配置転換など、被害者の労働条件上の不利益の回復等のために必要な措置を講じるものとする。

第8条(不利益な取扱いの禁止)

会社はハラスメントに関する相談や報告を行ったこと、または事実関係の確認に協力したことなどを理由として不利益な取扱いを行ってはならない。

第9条(プライバシーの保護)

1)何人も、ハラスメントに関する相談および聴取などで知り得た情報を、みだりに第三者に漏洩してはならない。

2)窓口責任者および窓口担当者は、ハラスメントへの対応に当たって、被害者および行為者など関係する従業員等のプライバシーの保護に十分に留意しなければならない。

第10条(再発防止の義務)

窓口責任者は、ハラスメント(疑い例を含む)の事案が生じたときは、改めてハラスメント防止を周知徹底すると同時に、研修を実施するなど、適切な再発防止策を講じなければならない。また、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントに関しては、業務体制の整備など、発生の原因や背景となる要因を解消するために必要な措置を講じなければならない。

第11条(改廃)

本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則

本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2025年10月更新)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

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【かんたん消費税(6)】消費税の計算は「原則課税」か「簡易課税」で行う

1 赤字でも納税が必要な消費税

消費税は物を売ったり買ったりした場合などに課税されます。会社が赤字でも納税しなければならないケースもあります。また、一つ一つの取引ごとに課税されるかどうかを判断し、独自に消費税を計算しなければならないので、非常に手間もかかります。

経営者としても、ある程度、消費税の計算方法を理解していないと、決算のときに想像以上の納税が発生して納税資金に困る場合もあります。この記事では消費税の計算方法についての概要を説明します。

2 計算は「原則課税」と「簡易課税」の2つ

1)差額を納税する

消費税の納税額は、預かった消費税から支払った消費税を差し引いて計算します。預かった消費税を「仮受消費税」、支払った消費税を「仮払消費税」と呼びます。

  • 仮受消費税:物を売ったり、サービスを提供したりした場合に預かる消費税
  • 仮払消費税:物を買ったり、サービスの提供を受けたりした場合に支払う消費税

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2)2つの計算方法

納税額の計算方法には、原則課税と簡易課税とがあり、次のように異なります。

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簡易課税の特徴は、実際に支払った仮払消費税の額に関係なく、仮受消費税に一定割合を掛けたものを仮払消費税とみなすことです。仮払消費税の詳細な集計が不要なので簡単ですが、適用を受けるには、

  1. 基準期間の課税売上高が5000万円以下
  2. 期日までに簡易課税を適用する旨の届出書を提出している

といった要件を満たす必要があります。そして、1.の要件を見れば、簡易課税が小規模な会社を対象にしていることがお分かりいただけるでしょう。

3 原則課税による計算の流れ

ここでは、多くの会社で行われている原則課税に注目し、計算の流れをざっくりと解説します。経営者が詳細な計算の流れを知る必要はありませんが、「課税標準とは何か」「仕入税額控除とは何か」といったことは、イメージできるようになると理想です。

1)計算の流れ

原則課税では、仮受消費税から仮払消費税を差し引いて納税額を計算します。ただし、帳簿上の残高を単純に差し引くのではなく、

税法に従って正しく計算し直した上で納税額を計算

します。具体的には、以下の流れで計算されます。

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2)課税標準額に係る消費税額の計算(申告する仮受消費税)

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課税標準額とは、

申告する「仮受消費税」のベースとなる金額

です。消費税の取引は「課税取引」「不課税取引」「非課税取引」「免税取引」の4つに分かれるので、

実際に消費税が発生する「課税取引」の税込金額

を集計します。重要なのは、

取引が課税取引に該当するかどうかの判断

です。商品の売上などだけでなく、建物などの資産(非課税取引となる土地などを除く)を売却したものも含めます。

次に、実際に集計した課税取引の税込金額を税抜金額にします。具体的には、

「課税取引」の税込金額×100/110

と計算します。つまり、税抜にしているということで、これを「課税標準額」と呼びます。課税標準額は、1000円未満は切り捨てです。

ここまできたら、

1000円未満の端数を切り捨てた課税標準額に消費税率を掛ける

ことで、課税標準額に係る消費税額(申告する仮受消費税)が計算できます。なお、消費税率は、原則として10%ですが、軽減税率が適用される取引は8%です(説明の便宜上、税率は国税と地方消費税の合計としています)。

3)仕入控除税額の計算(申告する仮払消費税)

仕入控除税額とは、

申告する「仮払消費税」の金額で、仕入れや支出に係る消費税額

です。具体的には、

(国内の課税取引(仕入)の税込金額×10/110)+輸入消費税

と計算します。なお、消費税率は、原則として10%ですが、軽減税率が適用される取引は8%です(説明の便宜上、税率は国税と地方消費税の合計としています)。

詳細は割愛しますが、実際の仕入控除税額の計算はとても細かく、一定の条件のもとに「仮受消費税からそのまま全額控除できるケース」と「全額控除できないケース」とがあります。

4)返品等や貸倒れがあった場合

取引では返品を受け付けて消費者に返金することがあります。とはいえ、販売時に預かった消費税は国に納付しているのに、返金を消費税込ですると、納税者(つまり自社)は損をします。そのため、

返品等で返金をする場合は、返金に含まれている消費税を仮受消費税から控除

できます。

また、物を販売して売掛金を計上したものの、入金されずに貸倒れとなった場合も返品の際と同じ考え方とします。つまり、

貸倒れた金額に含まれている消費税を仮受消費税から控除

できます。

以上をまとめると、最終的には、

仮受消費税-仮払消費税-(返品・値引・貸倒金額に含まれる消費税)

によって、国に納付すべき金額が計算されることになります。

以上(2025年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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