【2026年9月最新】プライベートで事故に遭った場合の健康保険などの給付一覧!

1 プライベートでの事故などに対応する保険給付は?

社員がけがや病気をすると、医療費や仕事を休んでいる間の生活費など、さまざまな出費がかさみます。けがや病気が重くて障害が残った場合は、より手厚い生活保障が求められますし、亡くなった場合は、社員の遺族に対する保障も必要になってきます。

会社の制度(見舞金や弔慰金)や民間の保険などの「備え」をする会社もありますが、まず押さえておきたいのが、法律で定められた保険給付(社会・労働保険の給付)です。

この記事では、プライベートでの事故など(労災認定されなかった業務中や通勤中の事故などを含む)が起きた場合に支給されるものとして、

健康保険と国民年金・厚生年金保険の給付(傷病、障害、死亡に対するもの)

を紹介します。「療養が必要か」「休業が必要か」など、給付の特徴に注目したチャート図も載せているので、「保険給付って何だか種類が多くて苦手……」という人もぜひご一読ください。

なお、この記事の社員は、65歳未満で健康保険、国民年金・厚生年金保険の加入要件を満たしている人です(保険料の未納もなし)。健康保険の保険者は、全国健康保険協会(以下「協会けんぽ」)とします。

また、労働災害(業務上の事由または通勤途上により発生した事故など)による傷病、障害、死亡に対する給付については、こちらをご確認ください。

(注)以降で紹介する給付の内容は2026年9月時点のもので、将来変更される可能性があります。

2 傷病に対する主な給付(プライベート編)

1)給付の種類を整理しよう

社員がプライベートの事故などで傷病を負った場合、健康保険の給付を受けられます。主な給付は図表1の通りです。なお、傷病がもとで障害を負った場合の給付については第3章を、亡くなった場合の給付については第4章をご参照ください。

傷病に対する主な給付(プライベート編)

2)給付の支給要件、支給額、支給期間を知ろう

各給付の支給要件、支給額、支給期間は次の通りです。

1. 療養の給付
支給条件 診察・薬剤の支給・治療などを受けた場合に支給
支給内容 通常は現物給付。社員は保険医療機関等に一部負担金(原則として費用の3割)を支払う。やむを得ず自費受診した場合は療養費(基準額から一部負担金を引いた額)を後日還付
支給期間 診察・薬剤等の支給・治療などを受けるたびに支給(期間制限なし)
2. 傷病手当金
支給条件 療養のため連続3日以上休んだ場合、4日目以降から支給(公休日・有給休暇取得日等を含む)
支給額 日額 = 支給開始日以前直近12カ月間の各月の標準報酬月額の平均 ÷ 30日 × 2/3
支給期間 支給開始日から通算最大1年6カ月
※出勤等で不支給となる期間を除いて通算1年6カ月。1年6カ月を超えると支給停止
※障害厚生年金・障害手当金の支給を受けるようになった場合、全部または一部が支給停止
3. 入院時食事療養費
支給条件 保険医療機関に入院した場合、入院中の食費について支給
支給額 (1食につき)厚生労働大臣の算出基準による食事療養費-標準負担額
※標準負担額:原則550円/食。社員は標準負担額のみを入院先に支払う(給付は入院先の医療機関に直接支給)
支給期間 入院して食事の提供を受ける期間
4. 入院時生活療養費
支給条件 65歳以上の社員が医療療養病床(長期療養が必要な患者のための病床)に入院した場合、食費・居住費について支給
支給額 (1食または1日につき) 厚生労働大臣の算出基準による生活療養費-標準負担額
※標準負担額:食費は原則550円/食(管理栄養士等がいない病院では510円/食)、居住費は原則430円/日。社員は標準負担額のみ支払う
支給期間 入院して食事の提供などを受ける期間
5. 保険外併用療養費
支給条件 「評価療養」(先進医療など)または「選定療養」(特別の療養環境など)を受けた場合、通常の治療と共通する部分の医療費について支給
支給額 通常の治療と共通する部分の医療費-その部分の一部負担金(原則として3割)
※通常の治療と共通しない部分(先進医療費用等)は全額自己負担。
支給期間 評価療養または選定療養を受けるたびに支給(期間制限なし)
6. 高額療養費
支給条件 同じ月(1日~月末)に支払った医療費の自己負担額が自己負担限度額を超えた場合に支給
※自己負担額は世帯で合算可(70歳未満は21,000円以上のものに限る)
支給額 月額= 同じ月に支払った医療費の自己負担額-自己負担限度額
※自己負担限度額は年齢・所得に応じて細かく区分
※3カ月以上高額療養費の支給を受けた場合、4カ月目から「多数回該当」で限度額が軽減
※【2026年8月改正】月ごとの自己負担額が積み上がっても、年間上限額(新設)に達した場合、それ以上の医療費については、保険者から還付を受けられる
※【2026年8月改正】70歳未満の自己負担限度額(月額)、年間上限額(新設)、2026年8月~2027年7月まで(2027年8月にも別途改正あり)

区分ア(標準報酬月額83万円以上):
・自己負担限度額(月額):270,300円+(総医療費-901,000円)×1%(多数回該当:140,100円)
・年間上限額:1,680,000円

区分イ(標準報酬月額53万~79万円):
・自己負担限度額(月額):179,100円+(総医療費-597,000円)×1%(多数回該当:93,000円)
・年間上限額:1,110,000円

区分ウ(標準報酬月額28万~50万円):
・自己負担限度額(月額):85,800円+(総医療費-286,000円)×1%(多数回該当:44,400円)
・年間上限額:530,000円

区分エ(標準報酬月額26万円以下):
・自己負担限度額(月額):61,500円(多数回該当:44,400円)
・年間上限額:530,000円(標準報酬月額15万円以下の場合は410,000円)

区分オ(住民税非課税):
・自己負担限度額(月額):36,900円(多数回該当:24,600円)
・年間上限額:290,000円

支給期間 同一月に支払った自己負担額が自己負担限度額を超えるたびに支給(期間制限なし)

高額療養費については、2026年8月1日以降、大きな手術や入院をした場合に1カ月に支払う医療費の上限額(自己負担限度額)が引き上げられています。また、新たに「年間上限額」が設けられ、月ごとの自己負担額が積み上がっていっても、年間上限額に達した場合、それ以上の医療費については、保険者から還付を受けられるようになっています。

高額療養費制度の見直しは2段階で行われる予定で、2027年8月1日からは住民税非課税世帯を除く年収区分がさらに細分化されます。

3 障害に対する主な給付(プライベート編)

1)給付の種類を整理しよう

社員がプライベートで起こした事故などで障害を負った場合、国民年金・厚生年金保険の給付を受けられます。主な給付は図表2の通りです。

障害に対する主な給付(プライベート編)

なお、以降では「治癒」という言葉が頻繁に出てきますが、

「治癒」という言葉には、「傷病が完治した」という意味の他に、「症状が固定された(症状の回復・改善が期待できなくなった)」という意味もあります

ので、ご注意ください。

2)給付の支給要件、支給額、支給期間を知ろう

各給付の支給要件、支給額、支給期間は次の通りです。

1. 障害厚生年金
支給条件 初診日から1年6カ月が経過した日(それまでに治癒した場合はその日)の時点で、厚生年金保険の障害等級1~3級に該当する場合
※初診日時点で厚生年金保険に加入し、保険料納付要件を満たしていること
支給額 等級 年金額(年額)
1級 報酬比例部分の年金額 × 1.25 + 配偶者加給年金額(243,800円)
2級 報酬比例部分の年金額 + 配偶者加給年金額(243,800円)
3級 報酬比例部分の年金額 
※最低保障額:635,500円
(※)配偶者加給年金は、配偶者が老齢厚生年金等の受給権を持つ場合や障害年金受給中は支給停止になることがあります
支給期間 支給要件を満たす間、継続(期間制限なし)
※障害等級3級に満たなくなった場合は支給停止
※社員が「老齢厚生年金」など他の年金の支給も受けられるようになった場合は、どちらの年金を受け取るかを選択しなければならないケースがある
2. 障害基礎年金
支給条件 初診日から1年6カ月が経過した日(それまでに治癒した場合はその日)の時点で、国民年金の障害等級1~2級に該当する場合
※初診日時点で国民年金に加入し、保険料納付要件を満たしていること
支給額 等級 年金額(年額)
1級 1,059,125円 + 子の加算
2級 847,300円 + 子の加算
※子の加算は、第2子までは子1人につき243,800円、第3子以降は子1人につき81,300円が加算されます。子は18歳到達年度末日以前、または20歳未満で障害等級1~2級に該当する子に限ります
支給期間 支給要件を満たす間、継続(期間制限なし)
※障害等級2級未満になった場合は支給停止
※社員が「老齢厚生年金」など他の年金の支給も受けられるようになった場合は、どちらの年金を受け取るかを選択しなければならないケースがある
3. 障害手当金
支給条件 初診日から5年以内に傷病が治癒し、障害等級3級よりやや軽い障害が残った場合
※初診日時点で厚生年金保険に加入し、保険料納付要件を満たしていること
支給額 支給額(一時金)= 報酬比例部分の年金額 × 2
※最低保障額 1,271,000円
支給期間 1回のみ支給

4 死亡に対する主な給付(プライベート編)

1)給付の種類を整理しよう

社員がプライベートで起こした事故などで亡くなった場合、健康保険、国民年金・厚生年金保険の給付を受けられます。主な給付は図表3の通りです。

死亡に対する主な給付(プライベート編)

2)給付の支給要件、支給額、支給期間を知ろう

各給付の支給要件、支給額、支給期間は次の通りです。

1. 埋葬料(埋葬費)
支給対象 社員により生計を維持されていた人で埋葬を行う者
上記に該当する人がいない場合、埋葬を行った者
支給額 社員により生計を維持されていた人で埋葬を行う者 → 埋葬料(5万円)
上記に該当する人がいない場合、埋葬を行った者 → 埋葬費(埋葬に要した費用、上限5万円)
支給期間 1回のみ支給
2. 遺族厚生年金
支給条件 社員により生計を維持されていた配偶者・子 ・父母・ 孫・ 祖父母に支給(受給権者となる順位は次の通り)
①子のある配偶者
②18歳到達年度末日以前、または20歳未満で障害等級1~2級の子
③子のない配偶者(夫の場合は55歳以上)
④55歳以上の父母
⑤18歳到達年度末日以前、または20歳未満で障害等級1~2級の孫
⑥55歳以上の祖父母
支給額 支給額(年額)= 報酬比例部分の年金額 × 3/4 + 中高齢寡婦加算額635,500円(妻のみ)
※中高齢寡婦加算は要件を満たす妻に40歳~65歳の間加算
支給期間 受給権者に該当する間、継続(原則として期間制限なし)
※子のない30歳未満の妻は5年間のみ。夫・父母・祖父母の受給開始は60歳から
※【2028年4月改正】60歳未満は原則5年間の有期給付、60歳以上は無期給付(男女共通)に変更(20年かけて段階的に引き上げ)
3. 遺族基礎年金
支給条件 亡くなった社員の収入によって生計を維持していた「子のある配偶者」または「子」に支給
※子:18歳到達年度末日以前、または20歳未満で国民年金の障害等級1~2級に該当する子
支給額 支給額(年額)= 847,300円 + 子の加算
※第1・2子は子1人につき243,800円、第3子以降は子1人につき81,300円が加算
※子が受給する場合は第2子以降が加算対象
支給期間 受給権者に該当する間、継続(原則として期間制限なし)
※配偶者または子が死亡した場合、子が18歳到達年度末日を迎えた場合などは支給停止
※【2028年4月改正】子に生計を同じくする父または母がいる場合でも、要件に該当すれば受け取れるようになる

遺族厚生年金については、少し先の話にはなりますが、2028年4月以降に支給ルールの改正があります。上記の通り、現行のルールでは、子のない配偶者が遺族厚生年金を受け取る場合、

  • 妻:配偶者の死亡時、30歳未満である場合は5年間の有期給付、30歳以上は無期給付
  • 夫:配偶者の死亡時、55歳未満である場合は給付なし、55歳以上は原則60歳から無期給付

というルールがありますが、女性の就業率向上など社会的変化に加え、男女差をなくすために

どちらも60歳未満は原則5年間の有期給付、60歳以上は無期給付

という運用に変わります。夫の場合は改正法の2028年4月から、妻の場合はまず40歳未満までを2028年4月から有期給付の対象とし、以後20年かけて段階的に年齢の引き上げを行います。

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また、子の遺族基礎年金に関する要件が緩和され、

生計を同じくする父または母がいても、一定の条件下で子が遺族基礎年金を受給できる

ようになります。

以上(2026年9月更新)

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画像:ChatGPT

【2026年9月最新】仕事中に事故に遭った場合の労災保険などの給付一覧!

1 業務中や通勤中の事故などに対応する保険給付は?

会社は日頃から、社員が労働災害(業務上の事由または通勤途上により発生した事故など)に遭わないように細心の注意を払っていますが、万一の備えとなるのが労災保険と国民年金・厚生年金保険の給付です。給付の種類は多岐にわたりますが、この記事では、労働災害(業務上の事由または通勤途上により発生した事故など)が起きた場合に支給されるものとして、

労災保険と国民年金・厚生年金保険の給付(傷病、障害、死亡に対するもの)

について紹介します。なお、この記事で対象とする社員は、65歳未満で国民年金・厚生年金保険の加入要件を満たしていて(保険料の未納もなし)、労災保険の適用事業の会社に勤務しているものとします。

また、プライベートで起こした事故など(労災認定されなかった業務上の事由や通勤途上により発生した事故など)による傷病、障害、死亡に対する給付については、次の記事をご確認ください。

(注)以降で紹介する給付の内容は2026年9月時点のもので、将来変更される可能性があります。

2 傷病に対する主な給付(労働災害編)

1)給付の種類を整理しよう

社員が労働災害により傷病を負った場合、社員が受けられる労災保険の主な給付は図表1の通りです。なお、傷病がもとで障害を負った場合の給付については第3章を、亡くなった場合の給付については第4章をご参照ください。

傷病に対する主な給付(労働災害編)

なお、労災保険の給付は、業務災害(業務上の事由によって発生した事故など)の場合と通勤災害(通勤途上に発生した事故など)の場合とで名称が変わります。

  • 業務災害:療養補償給付、傷病補償年金、介護補償給付(名称に「補償」がつきます)
  • 通勤災害:療養給付、傷病年金、介護給付

また、以降では「治癒」という言葉が頻繁に出てきますが、

「治癒」という言葉には、「傷病が完治した」という意味の他に、「症状が固定された(症状の回復・改善が期待できなくなった)」という意味もあります

ので、ご注意ください。

2)給付の支給要件、支給額、支給期間を知ろう

各給付の支給要件、支給額、支給期間は次の通りです。

1. 療養(補償)給付
支給条件 診察・薬剤の支給・治療などを受けた場合に支給
支給内容 通常は現物給付(無料の診察・薬剤等・治療)。指定外医療機関を利用した場合は療養費(実費)を後日還付
※労災病院または労災保険指定医療機関・薬局等での受診が原則
支給期間 傷病が治癒するまで、受診のたびに支給(期間制限なし)
2. 休業(補償)給付
支給条件 療養のため3日以上休んだ場合、4日目以降から支給(連続不要・公休日含む)
※業務災害の最初の3日間は会社が補償義務。副業中の業務災害・通勤災害は補償義務なし
支給額 給付基礎日額 = 直近3カ月の賃金総額(賞与除く) ÷ 直近3カ月の総日数
  ↓
休業(補償)給付(日額) = 給付基礎日額 × 0.6
  ↓
+ 休業特別支給金(日額) = 給付基礎日額 × 0.2
  ↓
【合計(日額)= 給付基礎日額 × 0.8】 ※手取りの目安
※給付基礎日額の最低保障額:4,350円。副業等の場合は各事業場の賃金額を合算して算定します
支給期間 支給要件を満たす間、継続(期間制限なし)
※療養開始から1年6カ月経過後に傷病(補償)年金を受け始めた場合は支給停止
3. 傷病(補償)年金
支給条件 療養開始から1年6カ月経過後も傷病が治癒せず、傷病等級1~3級に該当する場合
支給額 等級 年金額(年額) 傷病特別支給金(一時金)
1級 給付基礎日額 × 313日分 114万円
2級 給付基礎日額 × 277日分 107万円
3級 給付基礎日額 × 245日分 100万円
※上記に加え、傷病特別年金(算定基礎日額×各等級の日数分)も上乗せ支給されます
算定基礎日額 = 事故発生日(または疾病確定日)以前1年間の特別給与総額÷ 365日
支給期間 支給要件を満たす間、継続(期間制限なし)
※傷病が治癒した場合、傷病等級3級に満たなくなった場合などは支給停止
4. 介護(補償)給付
支給条件 傷病(補償)年金または障害(補償)年金の受給権者で、常時または随時介護が必要な場合
※病院・障害者支援施設等に入院・入所中は不支給
支給額 介護の状況 常時介護(月額) 随時介護(月額)
サービス利用あり・親族介護なし 実費(上限 186,050円) 実費(上限 92,980円)
親族介護あり・サービス利用なし 90,790円 45,400円
親族介護あり・サービス利用あり 90,790円(※) 45,400円(※)
※サービス費用がこの額を超える場合はその費用が支給(上限:常時186,050円・随時92,980円)
支給期間 支給要件を満たす間、継続(期間制限なし)

3 障害に対する主な給付(労働災害編)

1)給付の種類を整理しよう

社員が労働災害により障害を負った場合、労災保険、国民年金・厚生年金保険の給付を受けられます。主な給付は図表2の通りです。

障害に対する主な給付(労働災害編)

なお、労災保険の給付は、業務災害の場合と通勤災害の場合とで名称が変わります。

  • 業務災害:障害補償年金、障害補償一時金、介護補償給付(名称に「補償」がつきます)
  • 通勤災害:障害年金、障害一時金、介護給付

また、同一の事由により、労災保険給付と障害厚生年金や障害基礎年金を受給できる場合、併給調整により、労災保険給付が一部減額となります(一時金は減額の対象外とされています)。詳しくは、お近くの労働基準監督署にお問い合わせ下さい。

2)給付の支給要件、支給額、支給期間を知ろう

各給付の支給要件、支給額、支給期間は次の通りです。

1. 障害(補償)年金
支給条件 傷病が治癒し、障害等級1~7級に該当する場合
支給額 等級 年金額(年額) 障害特別支給金(一時金)
1級 給付基礎日額 × 313日分 342万円
2級 給付基礎日額 × 277日分 320万円
3級 給付基礎日額 × 245日分 300万円
4級 給付基礎日額 × 213日分 264万円
5級 給付基礎日額 × 184日分 225万円
6級 給付基礎日額 × 156日分 192万円
7級 給付基礎日額 × 131日分 159万円
※上記に加え、障害特別年金(算定基礎日額×各等級の日数分)も上乗せ支給されます
支給期間 支給要件を満たす間、継続(期間制限なし)
※障害等級7級に満たなくなった場合は支給停止
2. 障害(補償)一時金
支給条件 傷病が治癒し、障害等級8~14級に該当する場合
支給額 等級 一時金 障害特別支給金(一時金)
8級 給付基礎日額 × 503日分 65万円
9級 給付基礎日額 × 391日分 50万円
10級 給付基礎日額 × 302日分 39万円
11級 給付基礎日額 × 223日分 29万円
12級 給付基礎日額 × 156日分 20万円
13級 給付基礎日額 × 101日分 14万円
14級 給付基礎日額 × 56日分 8万円
※上記に加え、障害特別一時金(算定基礎日額×各等級の日数分)も上乗せ支給されます
支給期間 1回のみ支給

4 死亡に対する主な給付(労働災害編)

1)給付の種類を整理しよう

社員が労働災害により亡くなった場合、労災保険・国民年金・厚生年金保険の給付を受けられます。社員の遺族等が受けられる主な給付は図表3の通りです。

死亡に対する主な給付(労働災害編)

なお、労災保険の給付は、業務災害の場合と通勤災害の場合とで名称が変わります。

  • 業務災害:葬祭料、遺族補償年金、遺族補償一時金
  • 通勤災害:葬祭給付、遺族年金、遺族一時金

また、同一の事由により、労災保険給付と遺族厚生年金(遺族基礎年金)を受給できる場合、併給調整により、労災保険給付が一部減額となります。詳しくは、お近くの労働基準監督署にお問い合わせ下さい。

2)給付の支給要件、支給額、支給期間を知ろう

各給付の支給要件、支給額、支給期間は次の通りです。

1. 葬祭料(葬祭給付)
支給対象 葬儀を執り行う者(通常は遺族。遺族がおらず、会社が社葬を行った場合は会社も対象)
支給額 ① 給付基礎日額 × 30日分 + 330,000円
② 給付基礎日額 × 60日分
※①と②のいずれか高いほうを支給
支給期間 1回のみ支給
2. 遺族(補償)年金
支給条件 社員により生計を維持されていた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹(受給権者となる順位は次の通り)
①妻または60歳以上か一定の障害状態にある夫
②18歳到達年度末日以前または一定の障害状態にある子
③60歳以上か一定障害の父母
④18歳到達年度末日以前または一定の障害状態にある孫
⑤60歳以上か一定障害の祖父母
⑥18歳到達年度末日以前または一定の障害状態にある兄弟姉妹
⑦55歳以上60歳未満の夫
⑧55歳以上60歳未満の父母
⑨55歳以上60歳未満の祖父母
⑩55歳以上60歳未満の兄弟姉妹
支給額 受給遺族の人数 年金額(年額)
1人 給付基礎日額 × 153日分(※)
2人 給付基礎日額 × 201日分
3人 給付基礎日額 × 223日分
4人以上 給付基礎日額 × 245日分
※55歳以上または一定の障害状態にある妻の場合は175日分。上記に加え、遺族特別支給金300万円(一時金)と遺族特別年金(算定基礎日額×各人数分)が上乗せ支給
支給期間 受給権者に該当する間、継続(期間制限なし)
※受給権者が亡くなった場合等は次順位者へ「転給」されます
3. 遺族(補償)一時金
支給条件 死亡当時、遺族(補償)年金を受ける遺族がいない場合に配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹に支給(受給権者となる順位は次の通り)
①配偶者
②死亡当時、社員により生計を維持されていた子・父母・孫・祖父母
③その他の子・父母・孫・祖父母
④兄弟姉妹
支給額 遺族(補償)一時金 = 給付基礎日額 × 1,000日分
  ↓
+遺族特別支給金300万円(一時金) + 遺族特別一時金(算定基礎日額×1,000日分)
すでに遺族(補償)年金が支給されていた後に受給権者が途絶えた場合:
・遺族(補償)一時金:給付基礎日額×1,000日分-すでに支給された遺族(補償)年金の総額
・遺族特別支給金(一時金):なし
・遺族特別一時金(一時金):算定基礎日額×1000日分-すでに支給された遺族特別年金額
支給期間 1回のみ支給

遺族厚生年金、遺族基礎年金は、国民年金・厚生年金保険の給付で、労災の場合もプライベートの事故などの場合もどちらでも利用できます。

給付の内容については、こちらの記事の「4 死亡に対する主な給付(プライベート編)」をご確認ください。

以上(2026年9月更新)

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画像:ChatGPT

「経費」「費用」「損金」とは? 似ているけど決定的に違う意味

1 理解していますか? 「経費」で落とすことの大切な意味

「この支払いは経費で落ちる?」

経営者や社員が経理・会計担当者によく聞く内容ですが、この質問の意図は立場によって大きく違います。

社員がこの質問をするのは、「会社のお金で経費を精算できるか」、つまり自腹を切らずに済むかを確かめたいからでしょう。一方、経営者の場合は、社員と同じように経費精算できるかを聞く意味合いもありますが、それ以上に「1円でも多くのお金を設備投資や人材採用に使いたい」という思いがあります。

では、なぜ支払いが経費で落ちると事業のために使える資金が増えるのでしょう?

経費で落ちるということは、会社のお金で支払うということですから、逆に事業で使えるお金は減りそうなものです。

このカラクリは会計制度の違いからきていて、経営者は「税務会計」を意識して質問をしています。

一体、どういうことなのか。詳しく見ていきましょう。

2 中小企業の会計は税務会計が基準

会計には「財務会計」「税務会計」「管理会計」の3つがあり、目的や作成される書類などが違います。

3つの会計の比較表

3つの会計の関係性を示すと、次のようになります。

3つの会計の目的や関係(イメージ図)

一般的な中小企業には、上場会社のように財務諸表を広く外部に公表する義務がありません。一方、納税の義務は会社の規模に関係なく生じます。そのため、

中小企業の会計は税務会計が中心になる

ことになります。

なお、管理会計は社内の意思決定のために行うものなので、実施するか否かは任意ですし、納税額の計算にも直接的な影響はありません。

会計の種類とそれぞれの役割がお分かりいただけたと思います。ここからは、財務会計と税務会計という、2つの制度会計を中心に説明していきます。

3 「経費」「費用」「損金」の正しい定義とは?

早速、財務会計と税務会計でもうけを計算する仕組みを確認してみましょう。

財務会計と税務会計で儲けを計算する仕組み

財務会計では「利益」「収益」「費用」、税務会計では「所得」「益金」「損金」の関係になります。これは言葉の違いだけではありません。多くの項目はほぼ同じ取り扱いではあるものの、一部、取り扱いが違うものがあり、それこそが「税務調整」の対象となります。

具体的には、税務計算では財務会計上の収益・費用に一定の調整(税務調整)を加えて、益金・損金とし、所得を計算する流れになります。

このあたりの詳細は、以下の記事で紹介しているので、ご確認ください。

ところで、皆さんは疑問に感じませんか?

財務会計にも税務会計にも「経費」という言葉が出てきません。実は、

経費とは、財務会計上の費用の一部を指す会計用語

なので、先のもうけの計算では登場しなかったのです。ただし、個人の場合は所得税法上の用語として経費という言葉が使われます。確定申告をしたことがある方にはなじみが深いでしょう。

経費と費用と損金の関係を示すと、次のようになります。

経費と費用と損金の関係(イメージ図)

まとめると、次のようになります。

「経費」「費用」「損金」の違い

経費とは、一般的に財務会計上の費用の一部を指す会計用語で、費用のうち販売や管理目的で支払われる支出を指すことが多い。

費用とは、財務会計上の利益を計算する上で、マイナス項目となる支出のこと。

損金とは、税務会計上の所得を計算する上で、マイナス項目となる支出のこと。

ここで冒頭の質問に戻ります。経営者は税務会計を意識して、「この支払いは経費で落ちる?」と聞いているわけですが、その真意は次の通りです。

税務会計を意識した経営者の意図

経費が増えると費用が大きくなる。その中で損金に算入できるものがあれば、税務会計上の損金も大きくなって所得が小さくなり、税金負担が軽減される。その分、会社により多くのお金が残るので事業に使える。

法人税は、前述した「所得」に税率を乗じて計算するので、所得が小さければ税額は減少するのです。ただし、経費が増えれば「必ず」税負担が減少するわけではなく、損金になるものは限られています。

次章で、損金に算入できるか否かの判断に迷いやすい代表的な費用として、福利厚生費、交際費、備品などの購入費、減価償却を取り上げます。

4 福利厚生費、交際費、備品などの購入費、減価償却の損金算入

1)福利厚生費

福利厚生費とは、社内のコミュニケーションの円滑化や社員のモチベーション向上のために行われるイベント開催費や物品購入費などです。

基本的に、福利厚生費は全額を損金に算入できます。ただし、支出の目的が曖昧だったり、金額が一般的に見て高額すぎたりする場合には、福利厚生費として損金に算入できません。福利厚生費の詳細は、次の記事を参照ください。


2)交際費

交際費とは、取引先など社外の人との飲食費や、贈り物をした場合の物品購入代などです。

交際費は、原則として損金に算入できません。ただし、飲食費については、参加者1人当たりの代金が1万円以下(2024年3月31日以前のものは5000円以下)であれば、交際費ではなく、会議費などとして損金に算入できます。

また、資本金が1億円以下である中小企業の場合、社外の人との飲食費の50%までの金額(飲食費の金額を問わない。社内飲食費は除く)、もしくは飲食費に限らず年間800万円までの交際費のどちらか一方を選択し、損金に算入できる特例があります。交際費と会議費の詳細は、次の記事を参照ください。

3)備品などの購入費

備品などの購入費は、金額の大小や、どのくらいの期間使い続けられるものかなどによって考え方が変わってきます。

例えば、使用可能期間が1年未満、または取得価額が10万円未満のものであれば、消耗品費として、全額をその物品を使い始めた日に損金に算入できます。この他にもさまざまなルールがあるので、備品などの購入費の詳細については、次の記事を参照ください。

4)減価償却

減価償却とは、資産計上される備品など(以下「固定資産」)の損金処理の方法です。

会社の成長・発展のためには設備投資が欠かせず、数千万や数億円を使うこともあります。このように高額な固定資産については、使用の実態に合わせて、少しずつ損金処理していくルールがあり、それが減価償却です。

固定資産の減価償却は、種類・仕様・用途など、さまざまな要素ごとに細かく減価償却方法や償却期間(耐用年数)が決まっていて、その通りに計算しなければなりません。

ややこしいのは、財務会計では認められるが、税務会計では認められない方法などがあるため、税務会計の限度額を超えて減価償却費を計上してしまうことがあります。しかし、税務会計の限度額を超えた部分については損金に算入できないので注意が必要です。減価償却の詳細については、次の記事を参照ください(備品などの購入費のところで紹介しているのと同じ記事です)。

5 「経費・費用」と「損金」と経営者に必要な視点

いかがでしたか。普段何気なく使っている「経費」「費用」「損金」という言葉には、明確な違いがあることをお分かりいただけたと思います。

そして、「この支払いは経費で落ちる?」という質問には、単に会社から経費分のお金が戻ってくるということだけではなく、「それが損金に算入できたら税務会計上の所得が減り、税負担の減少につながる」という意味もありました。

一方、税負担を減らすという点だけに重きを置きすぎことは危険です。確かに損金に算入できれば税負担は減少します。しかし、そもそも備品などを購入するために支払った費用が会社に戻ってくるわけではないので、当たり前のことですが、会社の成長に効果のないお金の使い方、つまり無駄遣いはしてはいけません。

事業に必要な費用は使わなければなりませんが、何が必要で、何が不要なのかを判断するのは経営者です。しかも、その基準は会社の経営ステージによって変わります。経営者の計数感覚が試されるところです。

以上(2026年8月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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画像:ChatGPT

損金の計算で重要な「減価償却」の肝は取得価額と使用可能期間

1 固定資産を取得などした場合に有利な選択をする

企業の成長過程では、さまざまな設備投資が必要です。例えば、取引が大きくなると製造機械や装置の刷新・増設、人材が増えるとオフィスの拡大、さらにオフィス機能を充実化するための備品調達などです。

設備投資に要した支出は、損金(税務上の費用)に算入できますが、そのルールは複雑で次のような分岐があります。

固定資産を取得した場合の基本的な処理の流れ

また、固定資産は取得だけではなく、修理・改良や廃棄・売却をした際の取り扱いにも注意が必要です。さらに、一定の設備投資をした際は、投資額の一部について税額控除などの優遇を受けられる優遇税制もあるので、検討したいところです。

この記事では、有形固定資産を「取得、修理・改良や廃棄・売却」した場合の損金算入に関する基本的なルールと、中小企業の設備投資に係る主な優遇税制を紹介します。

2 「少額減価償却資産」は支出した年に全額を損金に算入できる

1)「少額減価償却資産」とは

「10万円までなら一括で落とせるよね?」。経営者同士でこんな会話がされることがあります。これは「少額減価償却資産」の話題です。

少額減価償却資産とは、「使用可能期間が1年未満」または「取得価額が10万円未満」のいずれかに該当する固定資産です。そして、少額減価償却資産の取得価額は、事業のために使い始めた年に全額を損金に算入できるので、「一括で消耗品費などの経費として落とせる」ということです。

この場合、固定資産として計上しないので減価償却は不要です。また、少額減価償却資産は、取得価額の全額を損金として処理しなければならず、一部だけを資産計上することはできません。

2)1事業年度で総額300万円まで使える「少額減価償却資産の特例」とは

少額減価償却資産は取得価額が10万円未満までですが、青色申告を行う中小企業者等(資本金の額などが1億円以下で一定の法人)には特例があります。少額減価償却資産の特例と呼ばれるもので、「取得価額が40万円未満(2026年3月31日以前取得分は30万円未満)」の固定資産を少額減価償却資産として処理し、事業のために使い始めた年に、全額を損金に算入できます。これにより、その事業年度の課税所得を減らすことができるのがメリットです。

少額減価償却資産の特例の限度は、1事業年度で総額300万円までです。総額ですから、例えば、30万円のパソコンを10台調達した場合(300万円=30万円×10台)に全額を損金の額に算入することができます。

3 取得後、数年間にわたって損金に算入する減価償却

1)通常の減価償却資産

少額減価償却資産に該当しない固定資産については、減価償却が必要です。減価償却とは、取得価額を耐用年数にわたって適正に配分(減価償却費として計上)することであり、これにより正しく期間損益計算を行うことが会計上の目的です。ただし、土地のように使用や時間の経過で価値が減少しないと考えられているものは、減価償却の対象にはなりません。

経営者から見ると、減価償却費はキャッシュアウトを伴わない費用であり、タックスプランニングを含めた損益計算において無視できない重要な制度です。前述した「少額減価償却資産の特例」を使うことで、その事業年度の法人税の支払いを抑えることができるでしょう。

では、具体的に減価償却はいつから、どれくらいの期間行うのでしょうか。

まず、減価償却は事業のために使い始めた日から計算するため、基本的には取得時に減価償却方法や耐用年数を判断しなければなりません。この耐用年数が減価償却の期間であり、税務上の耐用年数は法令で定められています。固定資産の種類・仕様・用途などさまざまな要素ごとに細かく規定されており、それぞれの固定資産の特徴を踏まえて決定します。実務上は、国税庁のホームページなどで確認し、対応する耐用年数を決定することになります。

■国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」■
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/pdf/2100_01.pdf

2)定額法と定率法の違い

主な減価償却方法には定額法、定率法、生産高比例法がありますが、生産高比例法は対象資産が限定されているため、説明を省略します。

定額法と定率法の比較は次の通りです。

定額法と定率法の比較

なお、定額法と定率法のどちらを選択した場合でも、耐用年数を通して見れば減価償却費の合計額は同じです。例として、期首に車両(500万円、耐用年数5年)を取得した場合の定額法と定率法の減価償却費の推移を紹介します。

定額法と定率法の減価償却費の推移(車両500万円、耐用年数5年の場合)

3)一括償却資産

一括償却資産とは、取得価額が20万円未満の減価償却資産のことで、3年間の均等償却ができます。つまり、

機械装置や工具器具備品などについて、個々の耐用年数を把握し、固定資産として計上して通常の減価償却をするのではなく、一括償却資産として計上し、3年間の均等償却をする

という選択肢があるわけです。通常の減価償却の耐用年数は3年を超えるものが多く、一括償却資産を選択すれば短期間で損金に算入できます。

4 まとめ:固定資産を取得した場合の取り扱い

ここまで、固定資産の取り扱いとして「少額減価償却資産」「少額減価償却資産の特例」「通常の減価償却資産」「一括償却資産」について説明してきました。改めてそれぞれの特徴を整理すると次のようになります。

固定資産を取得した場合の取り扱い(中小企業のケース)

5 固定資産を修理・改良した際の支出は損金に算入できるか?

長年使用してきた固定資産が故障してしまった場合、修理・改良(以下「修理等」)が必要です。この場合の選択は、修理等のための支出を、

修繕費などとして損金に算入するか、新たな固定資産の取得とみなして資産計上するか

となります。固定資産として計上しなければならない修繕費を、税務上「資本的支出」と呼びます。

まとめると、固定資産の修理等のうち、「通常の維持管理または原状回復のための支出」は修繕費、「固定資産の価値や耐久性を高めたと認められる支出」は資本的支出として処理することになり、資本的支出の場合は減価償却が必要となります。

例えば、資本的支出に該当するのは、次のようなものです。

  • 建物の避難階段の取り付けなど、物理的に付加した部分に係る費用の額
  • 用途変更のための模様替えなど、改造または改装に直接要した費用の額
  • 機械の部品を特に品質または性能の高いものに取り替えた場合のその取り替えに要した費用の額のうち、通常の取り替えの場合にその取り替えに要すると認められる費用の額を超える部分の金額

ただし、これだけでは判断できないことがほとんどなので、実際は図表5で示した修繕費と資本的支出の判定フローチャートを参考にしながら検討することになります。

修繕費と資本的支出の判定フローチャート

6 固定資産を廃棄や売却したら損金に算入できるか?

長年使用して老朽化したり、新モデルが開発されて陳腐化したりした固定資産を廃棄・売却した場合、その時点における固定資産の帳簿価額と売却価額の差額を、固定資産除却(売却)損益として損金(または益金)に算入します。

このあたりは簿記の話となりますが、要するに売却価額が帳簿価額を下回れば損金、上回れば益金となります。なお、廃棄・売却の際に、運送費や廃棄手数料などの付随費用が生じたときは、その金額は固定資産除却(売却)損益に含めて処理します。

以上が基本ですが、一括償却資産の場合は異なります。

3年間の償却期間中に一括償却資産を廃棄(売却)した場合、その除却(売却)損に相当する額は損金に算入できない

というルールがあります。そのため、廃棄(売却)した年も、引き続き3年均等償却をしなければなりません。実務上は、一度、固定資産除却(売却)損を計上し、税務申告書上で調整をするという、少々面倒な手続きをすることになります。

また、廃棄せずに保有している固定資産であっても、次の場合は固定資産除却損として損金に算入できます。

  • その使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められる固定資産
  • 特定の製品の生産のために専用されていた金型等で、当該製品の生産を中止したことにより将来使用される可能性のほとんどないことがその後の状況等から見て明らかなもの

7 中小企業が設備投資で使える有利な優遇税制

ここまで、固定資産について取得、修理・改良、廃棄・売却した場合の取り扱いについて紹介してきました。いずれも中小企業が有利な選択をするための一助となる情報です。最後に紹介する優遇税制も、大切な内容ですので、ぜひ、ご確認ください。

1)中小企業投資促進税制

中小企業投資促進税制とは、生産性の向上を目的に一定の設備投資やソフトウエアを購入した場合に、その投資額の一部を税額控除か、特別償却(通常の減価償却費のかさ増し)のいずれかを選択して適用(資本金3000万円超の中小企業については特別償却のみ)できる制度です。

中小企業投資促進税制の概要

例えば、生産性向上を目的に300万円の機械装置を購入して、税額控除を選択した場合、21万円(300万円×7%)を法人税額から控除できます(法人税額の20%限度内である場合)。

なお、購入する設備ごとに購入金額や重量などに下限が決められているため、注意が必要です。また、一部の業種(電気業、水道業、鉄道業、航空運輸業、銀行業、映画業を除く娯楽業など)は対象外とされているため、自社の業種が指定事業に含まれているか確認するようにしましょう。

この税制を受けるためには、事前の申請などは必要なく、法人税の申告の際に、確定申告書に一定の書類を添付することで適用を受けることができます。

中小企業投資促進税制を利用する際に必要な書類

2)中小企業経営強化税制

中小企業経営強化税制とは、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づいて新たな設備投資をした場合に、税額控除か即時償却(購入時に全額を損金に算入)のいずれかを選択して適用できる制度です。

要件は4つのタイプ(A・B・D・E類型)に分かれており、それぞれに定められた要件を満たす必要があります。また、法人税の申告の際に、確定申告書に一定の書類(別表や適用額明細書)を添付することで適用を受けられます。

なお、以前は「デジタル化設備(C類型)」もありましたが、2025年4月1日をもって廃止され、代わりに売上高100億円超を目指す中小企業向けの「経営規模拡大設備(E類型)」が新設されています。

中小企業経営強化税制の概要

中小企業経営強化税制の税制措置の内容

例えば、100万円のシステム投資を行って税額控除を選択した場合、7万円(100万円×7%、資本金3000万円以下の場合は10万円)を法人税額から控除できます(法人税額の20%限度内である場合)。

なお、中小企業投資促進税制と同様、購入した設備ごとに購入金額の下限が決められているため、注意が必要です。また、一部の業種(電気業、水道業、鉄道業、航空運輸業、銀行業、映画業を除く娯楽業など)は、対象外とされているため、自社の業種が指定事業に含まれているか確認するようにしましょう。

この税制を受けるためには、事前に経営力向上計画を作成し、国から認定を受けなければなりません。申請準備から認定までおおよそ3カ月はかかるといわれているので、早めの相談が必要です。また、法人税の申告の際に、確定申告書に一定の書類(認定計画の申請書および認定書の写しや、別表、適用額明細書)を添付しなければなりません。なお、この制度の適用期限は2027年3月31日までです。

以上(2026年8月更新)
(監修 税理士 石田和也)

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6枚の「年収の壁」、税金や社会保険料の負担はどこから変わる?

1 年収によって生じる6枚の壁

年収の壁とは、

税金や社会保険料の負担が変わる境目の年収

です。2025年および2026年の相次ぐ制度改正により、年収の壁の金額が大幅に変わっています。2026年8月時点の年収の壁は次の通りです。

年収によって生じる6枚の壁(2026年8月時点)

年収の壁についてざっくりとしたイメージはあったかもしれませんが、このように表にすると、複数の制度にわたっていて複雑であることが分かります。

年収の壁は、

  • 従業員個人にとっては、本人、配偶者、子供の働き方次第で手取りが変わってくる要因
  • 会社にとっては、パート等のシフト調整や勤怠管理をする際に考慮すべき一定の基準

になりますので、きちんと理解をしましょう。この記事を従業員に読んでもらうのも、有益な情報提供になるでしょう。

2 税制上の壁:110万円、169万円、178万円、207万円

1)110万円の壁

110万円の壁は、住民税が課税されるか、されないかの境目となる壁です。年収が110万円を超えると、住民税が課税されます。住民税は前年の所得を基に計算されるので、実際に納税(給与を受け取っている人は給与から徴収)するのは、110万円を超えた翌年6月以降です。

住民税は、都道府県民税と市町村民税に分かれ、それぞれ「均等割(均等に一定額が課される)」と「所得割(その人の所得を基に課される)」によって計算されます(東京23区内の法人都民税は、法人市町村民税分を分けず、合わせて計算されます)。標準税率は、

  • 均等割:都道府県民税が1000円、市区町村民税が3000円の合計4000円(2024年度より森林環境税が1000円課税されます)
  • 所得割:都道府県民税が4%、市町村民税が6%の合計10%

です。標準税率とは、地方税法で定められた税率のことです。各自治体が一定の範囲内で標準税率と異なる税率(制限税率)を定めることができるため、お住まいの自治体によって税率が異なる場合があります。

2)178万円の壁

178万円の壁は、所得税が課税されるか、されないかの境目となる壁です。年収が178万円を超えると、所得税が課税されます。実際は、月給が10万5000円以上だと、支給される給与から所得税が差し引かれます。もし、年収が178万円以下の年に、たまたま月給10万5000円以上の月があるときは、年末調整(年末時点の年収から正確な所得税を計算し、精算する処理)または確定申告をすることで、差し引かれる必要のない所得税を返してもらえます。また、178万円の壁を基準とした源泉徴収の反映は2027年1月以後の給与支払いからとなるため、2026年の年末調整または確定申告で精算が必要です。

所得税の税率は所得額に応じて異なり、所得額(年収から控除額を控除した金額)の区分別に5~45%で、所得額が高くなるにつれて税率が上がります。最小の税率(5%)は、所得1000円~194万9000円までの区分に適用されます。

178万円という金額は給与を支給される人(一定の人を除く)が受けられる控除である、

  • 基礎控除の104万円
  • 給与所得控除の74万円(給与所得が220万円以下の場合受けられる控除の最低額)

の2つの控除の合計額(178万円=104万円+74万円)です。控除額の合計額が178万円以内の年収であれば、所得は0円扱いとなり所得税が掛からないというわけです。

年収 178万円-給与所得控除額 74万円-基礎控除額 104万円=所得額 0円

3)169万円の壁と207万円の壁

169万円の壁は、配偶者特別控除の満額である38万円を受けられるか、受けられないかの境目となる壁です。配偶者特別控除は、一定の所得範囲の配偶者がいる納税者が受けられる控除です。

納税者本人(扶養者)をA、その配偶者をBとします。配偶者Bの年収が169万円を超えると、控除額は段階的に減少し、納税者Aの税負担が増えていきます。また、納税者Aの収入金額によっても控除額が異なり、原則1195万円(所得金額が1000万円)を超えると、配偶者Bの所得に関係なく、配偶者特別控除は受けられません。

配偶者と控除を受ける納税者の収入で変わる配偶者特別控除額(令和8年分)

207万円の壁は、配偶者特別控除が受けられるか、受けられないかの境目となる壁です。配偶者Bの収入金額が207万円を超えると、配偶者特別控除が受けられず、納税者Aの税負担が増えます。

3 社会保険上の壁:106万円、130万円

1)106万円の壁(2026年10月に撤廃)

106万円の壁は、一定の規模以上の会社における社会保険(健康保険、厚生年金保険)への加入義務が発生するか、しないかの境目となる壁です。2026年8月時点では、パート等は「週の所定労働時間または月の所定労働日数が、正社員の4分の3未満」であれば社会保険には加入しませんが、次の1.から5.を全て満たす場合については、被保険者(社会保険の加入者)になります。

1.会社規模:勤務先の従業員数(厚生年金保険の被保険者数)が常時51人以上(注)

2.給与収入:所定内賃金が月額8万8000円以上(8万8000円×12カ月≒106万円)

3.労働時間:週の所定労働時間が20時間以上

4.雇用期間:継続して2カ月を超えて使用される見込み

5.適用除外:学生でない

(注)1年のうち6カ月間以上、厚生年金保険の被保険者の総数が基準を超えることが 見込まれる場合を指します。

これらの要件のうち、2.の給与収入が「106万円の壁」ですが、

年金制度改正法により、2026年10月に「106万円の壁(賃金要件)」が撤廃

されます。

なお、1.の会社規模についても、2027年10月より「常時51人以上」の部分が「常時36人以上」に引き下げられ、以後段階的に縮小、2035年10月には、一部の個人事業所を除く「全ての会社」が対象となります。つまり、最終的には、3.の労働時間、4.の雇用期間、5.の適用除外の要件を満たすパート等が全員、社会保険に加入することになります。

2)130万円の壁

130万円の壁は、社会保険の扶養に入れるか、入れないかの境目となる壁です。被扶養者である方の年収が130万円(60歳以上または障害者の場合は180万円、19歳以上23歳未満(配偶者を除く)の場合は150万円)以上となると、原則として配偶者等の扶養から外れ、勤務先の社会保険の加入要件を満たす場合は加入し、満たさない場合は国民健康保険および国民年金に加入することとなります。

なお、近年、壁を越えないように働く時間を調整する人が多く、これが人材不足に拍車をかけていると指摘されています。そこで、130万円の壁への対応として、2026年4月より被扶養者認定において次の要件を両方満たす場合には、原則として被扶養者に該当するものとして取り扱われることになっています。

  • 労働条件通知書や労働契約書に基づく年収が130万円未満
  • 他の収入が見込まれず、主として被保険者の収入によって生計を維持していると認められる

以上(2026年9月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ)
(監修 社会保険労務士法人AKJパートナーズ)

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画像:ChatGPT

【管理会計】赤字の注文でも変動費が低ければ利益が出る~「限界利益」を覚える

1 質問:製造原価よりも安い注文はお断りするべきか?

自社の商品(自社工場で製造)が百貨店バイヤーの目に留まり、新規で10万個の注文がありました! 現在、その商品は取引先20社に提供していて、すべて販売単価は700円、製造原価は550円です。

ところが、百貨店の条件は厳しく、

販売単価を500円に値下げしてほしい

と値引きを要請してきました。自社工場の生産能力には余力があって10万個の追加製造は引き受けられそうですが、販売単価が安い。

さて、ここで問題です。単純に、

原価割れで、赤字だ!

と考えるのは正しいのでしょうか。こうしたシーンに直面することはよくあるので、判断の基準をご紹介します。

2 「限界利益」という感覚を持つ

前述した百貨店の案件は、数字だけ見ると原価割れです。しかし、原価の内訳を確認すると評価が変わるかもしれません。仮に、その商品の原価は次の通りとしましょう(話を単純化するため、ここでは、材料費と人件費以外を考慮しないものとします)。

  • 変動費:450円。販売個数に応じて増える材料費など
  • 固定費:100円。販売個数に関係なく生じる人件費など

例えば、すでに別で生産している売上で固定費が賄われている状態にあり、現在の生産能力で10万個の増産に耐えられるなら(固定費が増えないなら)、商品を1個販売するごとに増える原価は材料費の450円だけです。つまり、百貨店提示の販売単価でも、1個販売するごとに50円(500円-450円)もうかります。これを管理会計の分野では「限界利益」と呼びます。

限界利益=売上高-変動費

この限界利益で固定費を賄うことができれば収支トントンであり、これを「損益分岐点」と呼びます。

3 「損益分岐点」をマスターする

改めて整理すると、

商品の売上高から変動費を引いたものが限界利益で、この限界利益が固定費を上回れば利益が出る

ということです。そして、限界利益と固定費がイコールになるポイントが損益分岐点です。図で確認すると分かりやすいでしょう。

損益分岐点のイメージ

固定費を限界利益率(売上高に占める限界利益の割合)で割れば、損益分岐点になる売上高が分かります。

損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率

=固定費÷(1-変動比率)

=固定費÷(1-(変動費÷売上高))

これにより、「この商品が、どのくらいもうけを出しているか」が分かるので、百貨店の注文を受けるか否かについて根拠を持って決められるようになります。念のため補足をすると、販売価格が同じであれば、限界利益率の高いほうが利益を出しやすくなります。

4 練習問題

(問題1)

販売単価が1000円(変動費400円、固定費400円)の商品を、合計で5000個販売しました。この場合の限界利益はいくらですか? また、限界利益率はどのくらいですか?

(問題1の回答)

答え:限界利益300万円、限界利益率60%

販売単価の1000円から変動費400円を引くと、1個当たりの限界利益は600円です。その商品を合計で5000個販売しており、商品全体の限界利益は600円×5000個で、300万円となります。また、限界利益率は売上高に占める限界利益の割合なので、60%となります。

(問題2)

販売単価が1000円、製造単価が800円の商品があります。製造を外注した場合、外注単価は570円です。この商品を外注するか否かを検討する際に、どのような情報が必要ですか? また、どのような条件の場合に外注しようと思いますか? なお、外注費は全て変動費として取り扱います。

(問題2の回答)

答え:必要な情報は製造単価の変動費と固定費の内訳。外注を検討するのは、自社の変動費が570円超の場合。

製造単価800円は変動費と固定費を合算したものであるため、単純に「外注570円<製造単価800円だから外注が有利」とは言えません。判断の核心は、「自社の変動費が外注費570円より高いかどうか」です。

以上(2026年9月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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経営のヒントとなる言葉(丹下健三)

「前やったものと同じものをつくろうとは決して思いませんからね。前のものを踏み台にして、常に新しい試みをしていく」(*)

出所:「丹下健三 時代を映した“多面体の巨人”日経アーキテクチュア\r\n     1975―2005」(日経BP社)

冒頭の言葉は、

「自分の仕事に満足することなく、過去に培った経験を生かしながら、新たな挑戦をし続ける」

ということを表しています。

丹下氏は広島平和記念資料館、東京オリンピックの会場として使用された国立屋内総合競技場(現国立代々木競技場)など、後世に残る多くの仕事を手掛けたその華々しいキャリアから、「天才」と称されることがあります。しかし、その仕事ぶりは天才の呼び声とはかけ離れたものでした。

丹下氏は1枚の図面を何度も描き直したり、模型の細部にこだわるなど妥協を許さない仕事ぶりで知られました。そこには、過去に手掛けた作品で得た経験を生かし、それに更なる修正を加えて、より良いものを生み出していこうという丹下氏の考えが反映されていました。この、丹下氏の妥協なき仕事ぶりは、晩年になっても変わることはなかったといいます。

例えば、1986年、丹下氏が73歳のとき、東京都の新都庁舎を建設するためのコンペが開催されました。コンペには丹下氏のほかにも、槇文彦氏や黒川紀章氏などの日本の著名な建築家が参加し、世間からは「他の参加者に比べて丹下氏が有利だろう」との見方を占めていました。

一方、丹下氏は並々ならぬ決意でこのコンペに臨んでいました。丹下氏の子息で、丹下氏とともにこのコンペに臨んだ建築家の丹下憲孝(たんげのりたか)氏は、このときの様子について、「丸の内の旧都庁舎を建てたのも父である。時代に合う形で、新しくつくりたいという思いが父にはあった。また、日本の首都に、シンボリックな建物がないというのが、父のかねてよりの不満だった」と述べています。

そのため、丹下氏はスタッフ全員を新都庁舎のコンペに集中させ、一時は100体近い模型が事務所内に並ぶほど、全員が力を入れて多くのアイデアを出し合いました。その中から、最終的な候補となったのは丹下氏が考案した、先端が2つに割れたタワーのデザインでした。このとき、他のスタッフはそのデザインを見て、素直に負けを認めたといいます。そして、丹下氏の案を基に事務所を挙げてコンペ直前まで模型や資料作りなどにいそしみました。丹下氏は高齢であったにもかかわらず、コンペの2、3日前は徹夜を続け、自ら先頭に立って細かなチェックを重ね、本番に挑みました。

そして、丹下氏は世間からの勝って当然というプレッシャーや、強力なライバルを退けて見事コンペに勝ち、新都庁舎の設計を手掛けることになりました。

こうした丹下氏の妥協なき姿勢は次の言葉にも表れています。

「人間は、一つのことを七十二時間考え続けられなければだめだ」(**)

この言葉通り、丹下氏は物事を長時間にわたって多面的に考え抜かなければ、良いものはできないという信念のもと、妥協なき姿勢を貫きました。

建築家は、高い専門性と同時に広い視野を求められる職業です。そうした中にあって、丹下氏は常に第一線に立ち、活躍し続けました。その活躍の裏には、過去のものよりも、さらに良いものを作るために、あらゆる角度から多面的に物事を考え抜くという行動の繰り返しがありました。

時間やコスト、経営資源など、ビジネスにはさまざまな制約があります。このような中、妥協を許さない姿勢を貫くことは容易ではありません。しかし、だからといって初めから安易な妥協に甘んじてしまうなら、それ以上の成長は望めないでしょう。

数々の制約の中にあっても妥協を許さず、試行錯誤を重ねてベストの答えを出す。こうした挑戦を続けていくことが、自身を大きく成長させるのです。

【本文脚注】

本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を担保するものではありません。また、本文中では内容に即した肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思われるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。

【経歴】

たんげけんぞう(1913~2005)。大阪府生まれ。東京大学工学部建築学科卒。広島平和記念資料館(1955年)、東京カテドラル聖マリア大聖堂(1964年)、東京都庁舎(1991年)などを設計。

【参考文献】

(*)「丹下健三 時代を映した“多面体の巨人”日経アーキテクチュア 1975―2005」(日経BP社、2005年9月)

(**)「七十二時間、集中しなさい。父・丹下健三から教わったこと」(丹下憲孝、講談社、2011年2月)
「一本の鉛筆から」(丹下健三、日本経済新聞社、1985年8月)

以上(2026年8月更新)

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画像:日本情報マート

【ビジネス文書・法令文書】改正個人情報保護法と企業が押さえておくべき論点

令和8年7月に成立・公布された改正個人情報保護法について、企業の総務・労務担当者が押さえておきたいポイントを解説します。本人同意の例外や「統計作成等」の特例、顔認証などの特定生体個人情報、16歳未満の者の保護、漏えい時の本人通知、委託先の規律など、実務への影響が大きい改正事項を取り上げます。
さらに、不正取得罪の新設や罰則強化、課徴金制度の導入を踏まえ、施行前に確認すべき契約・規程・運用や、企業として整備しておきたいデータガバナンスについても紹介します。

ビジネス文書・法令文書 今月の特集は、こちらからお読みいただけます。pdf



あなたの「ハラスメント対応力」が分かる50問 現場対応力を高めよ

2026年10月から、改正労働施策総合推進法等の施行により、

  • 顧客等によるカスタマーハラスメント(カスハラ)
  • 就職活動中の学生やインターンシップ参加者に対するハラスメント(就活セクハラなど)

の防止措置が、中小企業を含むすべての事業主に義務付けられます。すでに全企業へ適用されているパワーハラスメント(パワハラ)、セクシュアルハラスメント(セクハラ)、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの防止措置義務に新法令が加わることで、ハラスメント相談窓口が担う実務範囲と対応責任は飛躍的に拡大します。

この記事では、ハラスメント相談窓口の担当者が現場で直面する具体的な場面や、相談者からの問いかけに対する適切な対応方法を、Q&A形式で整理します。Q&Aは全部で50問です。

1 2026年10月法改正対応と相談窓口の統合運用

Q1:改めて「ハラスメント相談窓口」とは?

相談窓口は、ハラスメントに関する相談や苦情を受け止め、被害が広がるのを防ぐための窓口です。単に話を聞くだけでなく、その後の事実確認や事後対応まで含めて担う、一連の流れの入り口にあたります。

担当者には、人事労務や法務の社員、管理職などが選ばれることが多いです。相談者が性別によって話しにくさを感じることもあるため、できれば男女それぞれの担当者を置いておきたいところです。また、社内の人材だけで対応する「内部相談窓口」に加えて、弁護士事務所やコンサルタントに委託する「外部相談窓口」を併設している会社もあります。

Q2:相談の対象となるハラスメントは?

相談の対象になるのは、法令で防止措置が義務付けられている主要なハラスメント(パワハラ、セクハラ、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント)です。いずれも会社の防止措置が義務付けられており、相談窓口はその中核を担います。2026年10月1日からは、これにカスタマーハラスメント(カスハラ)と就活生等へのハラスメントも加わり、相談窓口が扱う範囲はさらに広がります。

相談者から「これって完全にパワハラですよね?」と同意を求められることもありますが、窓口担当者が受付の時点でどのハラスメントに当たるか、そもそも該当するかどうかを決めつける必要はありません。「お話を伺った限り、大変つらい思いをされたのだとよく分かりました。ハラスメントに当たるかどうかは、この後しっかり事実関係を確認した上で判断させてください」といった形で、まずは受け止めることを優先します。

Q3:相談窓口に相談が寄せられた場合の対応の全体像は?

相談が寄せられたら、「相談者→第三者(目撃者等)→行為者」の順に話を聞き、ハラスメントの事実があったかどうかを確認していきます(これを事実確認と呼びます)。早く白黒つけようと焦らず、じっくり進めることが大切です。相談者の話だけでなく、証拠や目撃者の有無、行為者の言い分も含めて、多角的に事実を積み上げていきます。

事実確認の結果ハラスメントがあったと判断されれば、行為者の処分の検討、被害者と行為者を引き離すなどのケア、そして再発防止策の実施へと進みます。事実が確認できなかった場合も、そこで対応を打ち切らず、相談者・行為者双方に丁寧に説明することが求められます。窓口担当者は、特に、受付・ヒアリング・事実確認の部分を中心的に担います。

Q4:社員以外への相談対応はどうなる?

ハラスメント防止措置の対象は、自社の社員からの相談だけではありません。会社が取引するフリーランス(従業員を使わない個人事業主等)に対しても、社員と同じようにハラスメント防止措置を講じる義務があります(2024年11月1日から義務化)。また、2026年10月1日からは、就職活動中の学生やインターンシップ参加者からの「就活セクハラ」の相談にも、社員と同じように対応することが義務付けられます。

対応の基本的な流れ(受付、ヒアリング、事実確認)は社員への対応と変わりません。行為者が自社の社員であれば懲戒処分を検討し、相手側(フリーランスや学生)に対しては、選考上の不利益がないことを保証したり、心身のケアを行ったりすることが中心になります。

Q5:派遣社員からの相談は、自社(派遣先)と派遣元、どちらが受け付ければよい?

派遣社員に対しては、派遣先・派遣元の両方にハラスメント防止措置義務があります。ですから、「うちは派遣先だから」「うちは派遣元だから」と相談を断ることはできません。相談を受けた側が、まず窓口としてしっかり受け止めるのが原則です。

自社が派遣先として相談を受けたときは、本人の同意を得た上で派遣元にも連絡し、双方で協力しながら事実関係を調べていきます。自社が派遣元として相談を受けたときも同様に、派遣先のハラスメント相談窓口や人事担当者と連携します。事実が確認できたら、行為者が所属する側の会社が中心となって、行為者への措置や、派遣社員の就労環境の改善(配置の見直し等)を進めます。

2 相談受付・初期ヒアリングの実務テクニック

Q6:相談を受ける際に、必ず守るべき基本姿勢は?

担当者は一貫して中立的な立場を保ち、相談者・行為者のどちらにも肩入れしないことが大前提です。話を聞く中で「あなたにも隙があったのでは?」といった詮索や、「それはハラスメントに当たると思います」というその場での評価は避けます。相談者が安心して話せるよう、まずはしっかり受け止める姿勢を大切にしてください。

セクハラの相談では羞恥心を伴うことも多いため、できれば相談者と同性の担当者が話を聞くようにします。また、相談者は「行為者に仕返しされるのでは」と不安を抱いていることが多いので、「相談したことで不利益を受けることはありません」「行為者には勝手に接触しないよう伝えます」とはっきり伝えておくと安心してもらいやすくなります。

Q7:相談者が興奮して感情的になり、「今すぐ加害者をクビにして処分してください!」と要求してきた場合、どう切り返せばよい?

まずは相談者の怒りや苦しさに共感しつつ、処分を決めるには公平な事実確認が必要であることを、落ち着いて伝えます。

「つらい思いをされて、強い憤りを感じられるのは当然だと思います。いただいたお気持ちはしっかり受け止めます」と気持ちを受け止めた上で、「会社としては、就業規則に基づいて双方から客観的に事実確認を行い、その上で公平に処分や措置を決めることになっています。まずは詳しくお話を聞かせてください」と説明し、その場で約束するのは避けながらヒアリングへとつなげます。

Q8:相談者が「相談したことを上司や同僚、加害者には絶対秘密にしてほしい。調査もしないでほしい」と言ってきた場合、どう対応すればよい?

相談者の気持ちを尊重しつつ、調査をしない場合のリスクや、安全確保のためには最低限の情報共有が必要になることを伝えます。中小企業では担当者が1人で抱え込んでしまいがちですが、「経営陣の誰まで共有するか」を事前にルール化しておくことも大切です。

「お気持ちはよく分かります。ご本人の同意なく、勝手にお相手へ聞き取りを行うことはありません」と安心してもらった上で、「ただ、事実確認をしないとお相手への指導や環境の改善が難しくなってしまいます。どの範囲なら共有してよいか、一緒に考えさせてください」と話し合い、段階的な共有(まずは窓口と責任者のみで共有する、名前を伏せて注意するなど)について合意を目指します。

Q9:相談記録を作成する際、「客観的事実」と「相談者の主観・感情」をどのように書き分ければよい?

相談記録(ヒアリングシート)は、後で第三者が読んでもすぐに区別できるよう、見出しや書き方を分けて記録します。

客観的事実は「誰が、いつ、どこで、どのような発言・行動をしたか」を、なるべくそのまま(かぎかっこを使うなどして)記載します。相談者の主観・感情は、「相談者の受け止め・感情」として別に書き分けます。

相談記録の例

Q10:相談者が「録音データを持っています」と言ってきた場合、窓口担当者はどのように確認・取り扱えばよい?

録音データは客観的な証拠としてとても貴重なので、提示は歓迎し、取り扱いや秘密保持について説明した上で受け取ります。

「貴重な資料をありがとうございます。事実を正確に確認するのにとても役立ちます。このデータは厳重に保管し、調査以外の目的には使いません」と伝えた上で、該当箇所のタイムスタンプ(何分何秒あたりの発言か)や前後の会話の流れを確認します。データは、アクセスを制限したフォルダで保管します。

Q11:相談者が「メモやメールなどの証拠は何もありません。私の話だけです」と言った場合、ヒアリングはどう進めればよい?

物的な証拠がなくても、そこで相談を打ち切らず、相談者の記憶をもとに具体的な状況(周りの様子や第三者の存在など)を丁寧に掘り下げていきます。

「証拠がないからといって、調査ができないわけではありません」と伝えた上で、いつ・どこで何があったか、周囲に同僚や目撃者はいなかったか、直後に誰かに相談していないか(LINEの履歴や日記、通院歴なども含め)、言動の頻度や様子はどうだったかを、具体的に聞いていきます。こうした間接的な状況証拠の積み重ねだけでも、事実認定につながることがあります。

Q12:面談の終盤で、相談者に対して「今後の進め方」を説明する際、必ず伝えるべきポイントは?

必ず伝えたいのは、「秘密保持と共有範囲」「不利益取扱いの禁止」「今後のスケジュール」、そして「当面の接触回避策」です。

「本日伺った内容は厳重に管理し、調査に必要な最小限の担当者以外には開示しません。相談されたことで不利益を受けることも一切ありません。調査が終わり次第、方針を検討してご連絡します」と伝えます。中小企業ですぐの配置転換が難しい場合でも、「一時的な席の移動やテレワーク、業務連絡をチャット経由にするなど、無理なく働ける環境を一緒に考えましょう」と添えると安心感につながります。

3 事実調査・ヒアリング・事実認定・証拠精査の実務

Q13:事実確認を行う際に、まず心がけるべき大原則は?

早く白黒つけようと焦らないことです。調査不足はそのまま事実誤認につながり、後々の対応(処分など)を誤る原因になります。「相談者→第三者→行為者」の順で、じっくり時間をかけて事実を積み上げていく姿勢を大切にしてください。

また、担当者は一貫して中立的な立場を保ち、相談者・行為者のどちらにも肩入れしないことが欠かせません。興味本位の質問や、「あなたにも隙があったのでは」といった発言、その場での評価は避けます。ヒアリング事項はあらかじめリスト化しておき、聞き漏れを防ぎましょう。また、中小企業では関係者が近いため、担当者が1人で悩まず、面談担当者の人数・人選の検討や秘密を守れる相談役(外部専門家等)をあらかじめ確保しておくことも大切です。

Q14:加害者(行為者とされる者)へヒアリングを行う際、最初に伝えるべき冒頭の法的・手続的注意事項は?

「決めつけて調査しているわけではない」という中立性をまず伝え、その上で弁明の機会があること、内容の秘密は守られること、報復行為は禁止であることを伝えます。

「今日お越しいただいたのは、〇〇さんを犯人扱いするためではありません。相談が寄せられたので、会社として中立な立場で事実関係を確認し、〇〇さんの言い分もしっかりお聞きしたいと思っています。この内容が外に漏れることはありません。なお、相談者や関係者に接触したり、問いただしたりすることは禁止されていて、それ自体が懲戒の対象になりますのでご注意ください」と伝えます。

Q15:相談者と行為者の主張が真っ向から対立している場合、第三者(同僚・目撃者)へのヒアリングはどう進めればよい?

少人数の職場では、周囲に聞き取りをしただけで誰が相談したか特定されやすいため、事前に相談者へ「周囲に確認すると特定される恐れがあるが調査を進めてよいか」を必ず確認・合意します。

実施する際は、「〇〇さんから相談があった」とは言わず、「〇月頃の会議の雰囲気や発言で覚えていることがあれば教えてほしい」と客観的な状況確認の形で聞きます。

Q16:行為者が「弁護士を同席させたい」「面談を録音したい」と主張してきた場合、窓口担当者の判断は?

弁護士の同席は、本人の生の供述を直接確認する社内の事実確認手続きであるため、原則として断って差し支えありません。一方、面談の録音については、そもそも面談担当者としては、言った・言わないの争いを防ぐため、録音を行うことが通常です。そのため、行為者が録音したいと申し出た場合には、双方が録音することで問題ありません。

「事実関係を直接お聞きする社内調査ですので、ご本人から伺います」と説明し、録音を認める場合は「記録の正確性を担保するため、双方合意のもと全体を録音しデータを保管する」旨を伝えて実施します。

Q17:メールやLINEのスクリーンショット、録音データなどを証拠として採用する際の「証拠能力の精査基準」は?

「作成・送信日時が特定できるか(加工されていないか)」「前後の文脈が省かれていないか」「言動の内容そのもの」の3点を確認します。

実際の発言部分のスクリーンショットだけでは前後の文脈が分からないことも多いため、前後のやり取り・文脈も含めたスクリーンショットやまとまったテキストデータの提示をお願いします。録音データについても、前後の会話まで含めて確認し、相談者側が相手を誘導・挑発して言わせた発言ではないかも、客観的に見ていきます。

Q18:行為者がヒアリングで「記憶にない」「そんなことは言っていない」と全面否定した場合の追及手法は?

「言った・言わない」の水掛け論を避け、周辺の客観的な事実(日時、場所、同席者、その後のメールのやり取りなど)を1つずつ確認していきます。

「〇月〇日15時からの打ち合わせ自体はありましたか?」「そのとき、〇〇さんの進捗について話しましたか?」「その直後に相談者から〇〇というメールが届いていますが、心当たりはありますか?」というように、具体的な事実を積み重ねていくと、「言ったかもしれない」「そういうつもりではなかった」と話が変わってくることも少なくありません。

また、明らかに客観的証拠と異なる弁解をする場合には、一通り弁解を聞いたうえで、客観的証拠を提示することも考えられます。

Q19:ハラスメントの事実認定において「グレーゾーン(ハラスメントと断定も否定もできない状態)」となった場合の判断基準は?

「ハラスメントと断定するだけの証拠はないが、業務指導や配慮の面で行き過ぎた点があった」という形で結論をまとめ、懲戒には至らない範囲での指導や環境改善を行います。

白黒つかない場合でも、そのまま放置してはいけません。行為者には「ハラスメントとまでは認定していませんが、相手に誤解や苦痛を与えてしまった以上、今後は言動に気をつけてください」と伝え、相談者には「はっきりした認定には至りませんでしたが、つらい思いをされたことは受け止めていますので、職場の環境は調整していきます」と伝えます。

4 事後措置・処分・二次被害防止・データ管理・窓口運用

Q20:行為者の処分と被害者のケアを行う際の基本方針は?

行為者の処分については、行為の内容と処分の重さが釣り合っているかを意識します。重すぎる処分は無効と判断される恐れもあるため、悪質性や過去の指導歴を踏まえて慎重に決めます。

被害者ケアでは接触を避ける環境調整が基本です。配置転換は被害者に不利益感を抱かせないよう「行為者側を動かす」のが原則ですが、被害者本人が強く希望する場合は本人の意向を尊重します。中小企業で部署異動が難しい場合は、席の配置変更、パーテーションの設置、テレワークの導入、業務連絡をチャット・メールに限定するといった現実的な接触回避策を講じます。

Q21:調査の結果「ハラスメントの事実が確認できなかった(不認定)」場合、相談者と行為者双方にどう説明・フォローすればよい?

相談者を責めるようなことはせず、不安を解消できるよう配慮しつつ、行為者にも疑いが晴れたことを伝えながら、今後の言動への配慮を促します。

相談者には、「慎重に調査を行いましたが、ハラスメントと客観的に認定するだけの証拠は得られませんでした。ただ、つらいお気持ちで相談してくださったこと自体は真摯に受け止めています。今後も職場の環境には気を配ります」と伝えます。行為者には、「ハラスメントの事実は認められませんでしたが、相手が誤解やストレスを感じた背景も踏まえて、今後の言動には配慮してください」と伝えます。

Q22:相談後に、職場で「〇〇さんがハラスメントの通報をした」と噂が広まる「二次被害(セカンドハラスメント)」を防ぐ具体的手段は?

事実確認の段階から、情報を伝える範囲を最小限に絞り、関わる人全員に「情報を漏らした場合は処分の対象になる」ことをはっきり伝えておきます。

調査に関わる関係者や同僚、行為者に対しては、「この調査の内容を第三者に話したり、噂として広めたりする行為は、それ自体が新たなハラスメントや就業規則違反に当たり、厳しい処分の対象になります」という説明をし、誓約してもらいます。万が一噂を広めた人が分かった場合は、すぐに注意・処分を行います。

5 職場内のパワハラ・セクハラ・マタハラ等に関する対応

Q23:上司は「通常の業務指導だ」と主張し、部下は「精神的に追い詰められたパワハラだ」と主張している場合、窓口担当者はどこで境界線を判断すればよい?

厚生労働省の指針にあるパワハラの3つの要素、「優越的な関係を背景にした言動か」「業務上必要かつ相当な範囲を超えているか」「就業環境を害しているか」に照らして、特に2つ目の「必要性と相当性」を客観的に見ていきます。

指導の内容に業務上の合理的な目的があるか、そのやり方(大声で怒鳴る、長時間拘束する、大勢の前で叱る、人格を否定する言葉を使うなど)が行き過ぎていないかを確認します。目的が正しくても、やり方が著しく行き過ぎていれば、パワハラと判断されます。

Q24:セクハラの要件は?

セクハラは、①相手の意に反する性的な言動への対応(拒否など)を理由に、解雇や配置転換などの不利益な取扱いをする「対価型」と、②性的な言動によって職場の環境が不快になり、能力の発揮が妨げられる「環境型」の2つに分けられます。性別や性的指向・性自認は問わず、上司から部下だけでなく、同僚・部下から上司、同性同士でも成立します。

窓口としては、相手が「拒否していない=許容している」と考えるのは禁物です。人間関係の悪化を恐れて何も言えないだけ、というケースも多いため、明確な拒否がなかったことをもって「セクハラではない」と判断しないよう注意してください。

Q25:マタハラ・パタハラ・ケアハラの要件は?

マタハラ(妊娠・出産・育児に関するもの)、パタハラ(男性の育児に関するもの)、ケアハラ(介護に関するもの)は、あわせて「職場における妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント」と呼ばれます。①育児・介護休業などの制度を利用したことを理由に不利益な取扱いをする「制度等の利用への嫌がらせ型」と、②妊娠・出産したこと自体に関する言動で就業環境を害する「状態への嫌がらせ型」の2つに分かれます。

なお、会社が安全配慮義務に基づいて妊娠中の社員に休憩や負担軽減を提案したり、制度利用の予定を業務上の必要性から確認したりすること自体は、マタハラ・パタハラ・ケアハラには当たりません。悪意のある言い方や、業務上の必要性を欠いた確認の仕方をした場合に、該当する可能性が出てきます。

Q26:妊娠中の女性社員から「上司から『妊婦は使い物にならないから降格させる』と言われた」とマタハラ相談があった場合の初期対応は?

男女雇用機会均等法(妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止・マタハラ防止措置)や育児・介護休業法に明白に違反する、極めて重大なハラスメントとして直ちに対応します。

まず人事責任者等と連携し、降格などの不利益な対応が実行されないよう止めます。相談者の体調(母体保護)を最優先にし、必要に応じて通院時間の確保や負担の軽い業務への変更を手配します。その上で、上司への事実確認と処分の検討を進めます。

Q27:育児休業から復帰した社員から「短時間勤務(時短)を選択したら、雑用ばかり命じられやりがいのある仕事を外された」と相談があった場合は?

育児休業などの制度利用を理由にした不利益な取扱い(いわゆるパタハラ・マタハラ)の疑いとして受け止めます。

業務内容の変更に、時短勤務による時間的な制約など合理的な理由があるのか、それとも単なる嫌がらせなのかを確認します。合理的な理由がないまま雑用ばかり命じているようであれば、上司に対して業務の割り振りを見直すよう指導します。

Q28:管理職から「部下のミスを注意したら『パワハラで訴えます』と言われ指導ができない」と相談があった場合のアドバイスは?

業務上必要な範囲で、事実に基づいて冷静に指導するのであれば、パワハラには当たらないことを伝え、指導そのものを怖がりすぎないよう背中を押します。

「パワハラだと言われるのが怖くて、必要な指導までためらってしまうのは、それはそれで組織にとって困った状態です」と伝えた上で、不安があれば部下との面談に同席する、指導内容を事前に確認するなど、窓口や人事としてサポートできることを案内します。

Q29:相談者が「ハラスメントの被害で眠れなくなり、うつ病と診断された」と診断書を持参した場合の緊急手続は?

すぐに人事労務部門や産業医と連携し、安全配慮義務に基づいた休職・療養の手続きと、行為者との引き離しを最優先で進めます。

診断書を受け取ったら、医師の指示に沿って休職手続きや勤務時間の短縮を手配します。診断書の内容が「勤務可能」とあったとしても、行為者との接触を避けるための措置を講じます。同時に、本人の体調に無理のない範囲で調査への協力(代理人や書面での確認も含む)をお願いし、事実確認と行為者への対応を並行して進めます。

Q30:行為者が「そんなつもりで言ったのではない。軽口(冗談)のつもりだった」と釈明した場合、どう納得させればよい?

ハラスメントに当たるかどうかは、行為者の意図ではなく、言動そのものの客観的な内容と、受け手がどう感じたか(平均的な受け止め方)で判断されることを伝えます。

「冗談のつもりだった、悪気はなかった、という気持ちは分かりますが、実際にその言動が相手に精神的な苦痛を与え、働きにくくしてしまったという事実で判断することになります」と説明し、自分の言動が与える影響について、改めて振り返ってもらいます。

6 カスハラ現場相談と組織対応実務

Q31:窓口担当者と現場監督者の役割はどう違う?

カスハラが起きているその場で、対応の判断や指示を行うのは、基本的には現場監督者(店長や係長など)の役割です。相談窓口担当者は、その後の相談受付や事実確認、社内の体制づくり、外部との連携といった部分を担うのが本来の位置づけです。

とはいえ、中小企業では窓口担当者と現場監督者を同じ人が兼ねていることも珍しくありません。その場合は、この章の内容をそのまま自分自身の初動対応として使っていただいて構いません。一方、窓口と現場が分かれている会社では、まず現場監督者に判断や対応を委ね、窓口はその後の相談受付やフォロー、マニュアル整備を中心に動く、という役割分担を意識しておくと、いざというときに動きやすくなります。

Q32:カスハラかどうかを判断する基準は?

改正後の労働施策総合推進法では、カスハラは「顧客等の言動が、業務の性質などに照らして社会通念上許容される範囲を超えており、労働者の就業環境を害すること」と定義されています。この2つの要素(範囲を超えているか、就業環境を害しているか)を、業務の性質、言動の目的や態様、頻度、経緯などと合わせて総合的に見て判断します。

現場で迷わないよう、あらかじめ「同じ主張を〇回以上繰り返す」「電話が〇分以上続く」など、自社なりの目安を決めておくと判断しやすくなります。窓口担当者としては、こうした判断基準や対応マニュアルを事前に整えておくことも大切な役割です。

Q33:相手が「取引先の担当者個人」「重要取引先」だった場合、判断や対応は変わる?

カスハラの定義自体は変わりませんが、BtoBの取引先が相手の場合は、取適法やフリーランス法、優越的地位の濫用など法的な論点も絡んでくるため、対応の慎重さは変わってきます。

一般消費者が相手であれば、現場で対応を打ち切る、出入り禁止にするといった迅速な対応が中心になります。一方、重要な取引先の場合は、現場の担当者一人に対応させず、「会社対会社」の窓口に一本化します。自社だけで突っぱねるのが難しい力関係であっても、記録をしっかり残した上で、役員や顧問弁護士、「取引かけこみ寺」などの外部相談機関も活用しながら、組織として冷静に対処していきます。

Q34:現場から「お客様に土下座や長時間の謝罪を要求されている」と相談が入った。窓口担当者として、まず何を伝えるべき?

その場でカスハラかどうかを判断して対応を指揮するのは、本来は現場監督者の役割です。窓口担当者に直接連絡が来た場合は、まず現場監督者への引き継ぎを促します(もちろん、中小企業で兼務している場合は、そのまま対応して差し支えありません)。

その上で、「一人で対応させず複数名や管理職に引き継ぐこと」「土下座や長時間の拘束のような不当な要求には絶対に応じないこと」を伝えます。土下座の強要は強要罪(刑法223条)、長時間の居座りは不退去罪(刑法130条)に当たり得る犯罪行為です。「これ以上のご要求にはお応えできません。お引き取りください」と毅然と伝え、応じてもらえなければ警察に通報する、という初動の流れを現場と共有しておくことが大切です。

Q35:取引先から「納期を無理に短縮しないと出入禁止にする」「契約を打ち切る」と不当に脅されている社員からの相談への対応は?

取引上の立場を利用した不当な要求であり、典型的なBtoBのカスハラ(取適法等の違反の疑い)として組織で受け止めます。

相談してきた社員には、「あなたが悪者になることはありません。個人で抱え込まず、会社として対応します」と伝えて安心してもらい、これまでのメールややり取りの経緯を提出してもらいます。重要な発注元であっても、現場に無理を押し付けず、法務・役員・顧問弁護士が連携し、必要に応じて公的な相談窓口(取引かけこみ寺等)の知見も借りながら、相手企業のコンプライアンス窓口等へ事実を示して是正を求めていきます。

Q36:「悪質なクレーム対応の連続で精神的に限界です」と訴える社員に対し、窓口として提供できる法的・保健的措置は?

会社には安全配慮義務(労働契約法第5条)があるため、まずはその顧客対応から一時的に離れてもらい、メンタルヘルスへの配慮を行います。

具体的には、対応を別の管理職や組織対応チームに引き継ぐ、産業医や保健師との面談、必要に応じて特別休暇や配置転換の検討などを行います。本人一人に抱え込ませず、会社が前面に出て対応を引き受けることが大切です。

Q37:顧客から電話で「名前を言え、言わないならSNSで拡散してやる」と脅された、という相談が入った。どのような対応方針を用意しておくとよい?

現場対応者がとっさに困らないよう、フルネームは伝えず、苗字や担当番号にとどめる、というルールをあらかじめ決めておきます。「防犯および従業員保護のため、フルネームはお伝えしていません。担当の〇〇が承ります」といった言い方を、想定問答として共有しておくとよいでしょう。

SNSへの投稿をちらつかせた脅しに対しても、現場でその場の交渉に応じさせず、「誹謗中傷や虚偽情報の拡散があれば法的措置を検討します」という会社としての方針を、あらかじめ現場に周知しておきます。実際に投稿された場合は、窓口や法務が中心となって、発信者情報の開示請求など専門的な対応を検討します。

Q38:相談者である現場社員が「自分がミスをしたから顧客を怒らせてしまった。自分が悪い」と自分を責めている場合、心理的フォローはどのように行えばよい?

仕事上のミスと、ハラスメントに当たる言動は切り離して考え、「どんな理由があっても、暴言やハラスメントをしてよい理由にはならない」ことをしっかり伝えます。

「ミスや行き違いがあったとしても、お客様があなたに暴言を吐いたり、怖い思いをさせたりしてよい理由には一切なりません。会社はあなたを守る立場にあります」と寄り添い、必要以上の罪悪感を取り除きます。その上で、仕事のミス自体は組織全体でフォローしていく姿勢を見せます。

Q39:取引先の担当者から、食事やデートにしつこく誘われる、という相談があったら?

重要な取引先からの誘いであっても、断っているのにしつこく誘われるようであれば、カスハラ(またはセクハラに近い行為)に当たり得ます。まずは「断ることに問題はありません」と伝えて安心してもらい、誘われた日時や回数、断った経緯などを確認します。

その上で、上司や営業責任者と連携し、必要に応じて取引先の担当窓口へ、会社としてやんわりと申し入れることを検討します。「重要な取引先だから」という理由で、ハラスメントを我慢させることのないよう、社内で共通の姿勢を持っておくことが大切です。

Q40:現場の対応者が、その場で「できます」「できません」と即答してよい範囲は?

法令や契約内容、社内のルール、他のお客様との公平性など、判断の根拠をその場で示せる内容であれば、現場の対応者が即答して構いません。

一方、根拠を示せない要求や、個人的な判断・約束を求められるような場面では、その場で答えず、「担当だけでは判断しかねますので、会社として確認のうえ改めてご連絡します」と一度持ち帰るよう伝えます。この線引きをあらかじめ現場に周知しておくことも、窓口担当者の役割の一つです。

7 就活セクハラ・求職者インターンハラスメント特有の対応

Q41:就活セクハラ・求職者ハラスメント対応で、社員間のハラスメントと違う点は?

対応の基本的な流れ(受付、ヒアリング、事実確認)は社員間のハラスメントと変わりません。大きく異なるのは、相手が「これから選考を受ける、あるいは選考中の学生・求職者」であるという点です。相談してきたこと自体が選考に影響するのではないかという不安が特に強いため、「相談したことで不利益な扱いは一切ありません」と、通常以上にはっきり伝える必要があります。

また、行為者が自社の社員であれば就業規則に基づく懲戒処分を検討します。他方で、被害者である学生・求職者に対しては、選考機会を守ること、心身のケアを行うことが、対応の中心になります。

Q42:就活セクハラは、通常のセクハラとどう違う?

行為の内容自体は通常のセクハラと同じで、性的な言動によって不利益な取扱いをしたり、就業(この場合は選考)環境を害したりすることを指します。違いは「保護される対象」で、これまでは自社の社員が対象でしたが、2026年10月1日からは、就職活動中の学生やインターンシップ参加者も同じように保護の対象になります。

たとえば、面接官が学生に食事や交際を迫る、選考を材料にして個人的な関係を求める、といった行為は、社員間のセクハラと同じ考え方で就活セクハラに当たります。企業の採用担当者や面接官は「社外の人だから大丈夫」ではなく、社員に対するのと同じ基準で接する必要があります。

Q43:行為者が現場の面接官(社員)だった場合、社員への処分はどう進めればよい?

被害を訴えた学生への配慮と選考機会の確保を進めながら、社内調査と就業規則に基づく懲戒手続きを段階的に進めます。

まず、相談を受けた時点で、その面接官を選考や学生対応から外します。次に、面接官へのヒアリングや選考記録の確認を通じて事実関係を調べます。事実が確認できたら、就業規則のハラスメント規定等に照らし、然るべき手続きを経て処分(戒告、減給、出勤停止等)を決めます。最後に、学生には不利益が生じていないことを説明し、希望があれば別の面接官による再面接など、選考をやり直す機会を用意します。

Q44:Web面接中に面接官が学生に対し「部屋の様子をカメラで見せて」「全身が映るように離れて立って」と要求し、学生から不快感の相談があった場合は?

面接に直接関係のないプライベート空間への立ち入りや、身体的特徴の過剰な確認であり、就活ハラスメントとして受け止めて対応します。

面接官には、「業務上・選考上の必要性や相当性を欠く、不適切な言動だった」ことを伝えて指導します。相談してきた学生には、不快な思いをさせたことを丁寧にお詫びし、「この件が選考結果に影響することは一切ありません」と伝えた上で、希望があれば別の面接官による再選考など、やり直しの機会を用意します。

Q45:就活セクハラ被害を訴える学生から「所属している大学のキャリアセンターにも相談しています」と言われた場合、窓口はどう連携すればよい?

学生の同意を得た上で、大学のキャリアセンターと積極的に情報連携を行い、真摯に対応する姿勢を示します。

厚生労働省の指針でも、大学等の相談窓口との連携は望ましい取り組みとされています。大学側から問い合わせがあれば、「現在、社内で調査を進めており、分かり次第ご報告します」と誠実に伝えることで、企業としての信頼を保つことにもつながります。

Q46:被害を訴えた求職者(学生)に対して、「選考上の不利益取扱いをしない」ことを具体的に担保・証明する実務手段は?

相談を受けた時点で不利益取扱いをしない旨の書面を発行し、選考プロセスからその面接官を外した上で、別の面接官や人事が客観的な基準で選考を行います。

「窓口への相談と選考評価は完全に切り離されています」という趣旨を書面やメールで伝えます。また、選考結果の判断理由(評価シート等)を人事部内できちんと記録・保存しておけば、万が一不採用になった場合でも、相談が原因ではなく選考基準に基づく判断だったことを説明できます。

Q47:インターンシップ参加中の学生から「社員から肩を叩かれたり、腰に手を回されたりした」とセクハラ相談があった場合の初期対応は?

身体的な接触を伴うセクハラであり、まずはその社員をインターン指導から外し、学生の安全と気持ちのケアを最優先します。

「不快で怖い思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした」とお詫びし、体調や気持ちに配慮します。インターンシップを続けたいか、辞退や別日程への変更を希望するか意向を確認し、それに応じた対応をとります。その上で、行為者とされる社員への聞き取りと処分の手続きを進めます。

Q48:面接官(社員)へのヒアリングで、相手が「場を和ませるためのアイスブレイクの雑談(彼女いるの?等)だった」と主張した場合の指導法は?

面接官の意図がどうであれ、相手(求職者)がどう受け止めたか、そして選考の場でふさわしい質問だったかどうかという観点で指導します。

「性別や恋愛観、結婚の予定、家族構成などは、厚生労働省の指針でも配慮すべき事項とされていて、選考で聞くこと自体が不適切とされます。和ませるためだったとしても、理由にはなりません」と伝え、面接官向けマニュアルの見直しも合わせて行います。

Q49:就活生から「SNS(XやInstagram等)の個人アカウントに、採用担当者から個人的なDMで飲み会に誘われた」と相談があった場合の対応は?

採用の権限を背景にした、不適切な就活ハラスメントとして受け止め、まずは行為者である採用担当者を学生対応から外します。

DMの画面を証拠として提出してもらい、就業規則に基づいて懲戒処分を検討します。相談してきた学生には選考への影響がないことを伝えます。なお、中小企業で採用担当者が社長や役員自身である場合は、窓口担当者だけで抱え込まず、顧問弁護士や社外相談窓口等に速やかに相談して組織として対処します。

Q50:内定者から「内定辞退を伝えたら、人事担当役員から『うちを蹴ったら業界で生きていけないようにしてやる』と怒鳴られた」と相談があった場合は?

職業選択の自由を侵害する、悪質なハラスメント(いわゆるオワハラ)として受け止めます。

相談してきた内定者には丁寧にお詫びし、辞退の手続きを速やかに受け付けます。行為者が経営陣・役員の場合は社内での注意が難しいため、顧問弁護士や監査役などへ事実を報告し、「会社の法的リスクや信用失墜に直結する重大な問題である」として外部の力も借りながら厳重に是正を促します。

以上(2026年9月作成)
(監修 石原法律事務所 弁護士 磯田翔)

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画像:ChatGPT

2026年10月、「106万円の壁」は撤廃! 会社の保険料負担はいくらに?

1 社会保険の適用拡大……いよいよ全ての会社が対象に?

「社会保険の適用拡大」とは、社会保険(健康保険と厚生年金保険)の被保険者となるパート等の範囲が拡大されることです。ここでいう「パート等」とは、

週の所定労働時間または月の所定労働日数が、正社員の4分の3未満の短時間労働者

のことです。本来、パート等は社会保険の適用対象外ですが、会社が厚生年金の被保険者数について一定の要件を満たし、さらにパート等が労働時間や賃金について一定の要件を満たすと、社会保険に強制加入となります。

具体的には、会社とパート等が図表の1.から5.までの要件を全て満たすと、パート等が社会保険に加入するルールになっています。

パート等の被保険者要件

2026年10月からは、「3.賃金」について

月額8万8000円以上(いわゆる「106万円の壁」)という要件が撤廃

されます。

賃金に係る改正

また、2027年10月からは、「1.厚生年金保険の被保険者数」について、

被保険者数が常時35人超の会社が対象になり、以後段階的に縮小・撤廃され、2035年10月以降は全ての会社が対象

になります。

厚生年金被保険者の数に係る改正

経営者が気になっているのは、パート等が社会保険の被保険者になることで、

  • 社会保険料の負担(法定福利費)はいくら増えるのか?
  • 実務上、会社がすべきことは何か?

だと思います。以降でそれぞれ解説するので、確認していきましょう。

2 (2026年10月)「106万円の壁」が撤廃された後の社会保険料負担は?

1)まずは条件を設定しよう

2026年10月からは、社会保険の適用対象となる要件のうち「3.賃金」(月額8万8000円以上、いわゆる「106万円の壁」)が撤廃されます。この影響が特に大きいのが、最低賃金の低い地域です。ここでは、全国的に最低賃金が低い水準にある沖縄県の会社を例に、条件を次のように設定してみましょう。社会保険料は、協会けんぽの「令和8年度保険料額表(沖縄県)」を用いて計算します。

1.厚生年金保険の被保険者数:51人

2.週の所定労働時間:20時間(1日4時間×週5日勤務)

3.1カ月当たりの賃金:8万6400円(時給1080円×週20時間×4週)

4.勤務期間の見込み:継続して2カ月を超えて使用される見込み

5.適用除外:学生でない

なお、時給については、沖縄県の地域別最低賃金(2026年10~12月に発効予定)が1079円となる見込みであること(厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」)から、1080円で設定しています。

2)会社の毎月の負担は、パート等1人につき最低でも1万2307円増える

社会保険料は、健康保険料と厚生年金保険料に分かれていて、それぞれ、

標準報酬月額(月例賃金を一定の金額幅で等級別に区分したもの)×保険料率

で計算した額を、会社とパート等が折半して負担します。なお、健康保険料率はパート等が40歳未満の場合と、40歳以上65歳未満の場合とで異なります。1)の条件の場合、

  • 標準報酬月額:8万8000円
  • 健康保険料率:9.44%(40歳未満の場合)、11.06%(40歳以上65歳未満の場合)
  • 子ども・子育て支援金:0.23%
  • 厚生年金保険料率:18.3%

となり、会社とパート等の社会保険料の負担は次のようになります。

「106万円の壁」が撤廃された後の社会保険料負担

図表4の場合、パート等が社会保険に加入することで、会社の負担はパート等1人につき

月額1万2307円(1万3019円)、年額に換算すると14万7684円(15万6228円)増える

ことになります。

資格取得時の標準報酬月額は、基本給や時給分だけでなく、通勤手当や毎月ほぼ確実に発生する残業代の見込み額なども含めて算定します。「時給×所定労働時間では8万8000円未満だから等級が低いはず」と思っていても、通勤手当を加えると1つ上の等級になり、会社負担が想定より増えるケースがあります。試算の際は、賃金台帳ベースの支給総額で確認しましょう。

なお、家族の扶養に入れるかどうかを判定する被扶養者認定の基準(年収130万円未満、いわゆる「130万円の壁」)は別の制度で、こちらは残ります。適用拡大の対象外の会社で働くパート等には引き続き130万円の壁が関係するため、パート等への説明時に2つの「壁」を混同しないよう注意しましょう。

3 (2027年10月)常時36人以上の会社が適用対象となった場合の社会保険料負担は?

1)まずは条件を設定しよう

2027年10月からは、社会保険の適用対象となる要件のうち「1.厚生年金保険の被保険者数」について、被保険者数が常時36人以上の会社が新たに対象になります。ここでは、これまで対象外だった被保険者数36人の東京都内の会社を例に、条件を次のように設定してみましょう。社会保険料は、協会けんぽの「令和8年度保険料額表(東京都)」を用いて計算します。

1.厚生年金保険の被保険者数:36人

2.週の所定労働時間:20時間(1日4時間×週5日勤務)

3.1カ月当たりの賃金:10万2400円(時給1280円×週20時間×4週)

4.勤務期間の見込み:継続して2カ月を超えて使用される見込み

5.適用除外:学生でない

なお、時給については、東京都の地域別最低賃金(2026年10~12月に発効予定)が1280円となる見込みであること(厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」)から、1280円で設定しています。

2)会社の毎月の負担は、パート等1人につき最低でも1万4758円増える

1)の条件の場合、

  • 標準報酬月額:10万4000円
  • 健康保険料率:9.85%(40歳未満の場合)、11.47%(40歳以上65歳未満の場合)
  • 子ども・子育て支援金:0.23%
  • 厚生年金保険料率:18.3%

となり、会社とパート等の社会保険料の負担は次のようになります。

常時36人以上の会社が適用対象となった場合の社会保険料負担

図表5の場合、パート等が社会保険に加入することで、会社の負担はパート等1人につき

月額1万4758円(1万5600円)、年額に換算すると17万7096円(18万7200円)増える

ことになります。

4 実務上、会社がすべきことは何か?

1)対象となるパート等に、社会保険料の天引きが発生する旨を説明する

パート等の中には現状、配偶者などの家族(被保険者)の扶養に入っている人(被扶養者)がいます。社会保険の適用拡大によって、被扶養者であるパート等が被保険者になると、

家族の扶養から外れ、これまで負担義務のなかった社会保険料が賃金から天引きされる

ようになります。「社会保険料の負担義務がない」という理由で、パート等での勤務を希望している社員もいるかもしれません。新たに被保険者要件を満たすパート等には、社会保険の適用拡大が開始される前に、社会保険料の天引きが発生する旨を説明しましょう。

なお、パート等の中には現状、家族の扶養に入っておらず、国民健康保険と国民年金に加入して自分で保険料を払っている人もいます。こちらのパート等についても社会保険料の天引きは当然発生しますが、保険料の負担については、

社会保険料<国民健康保険料+国民年金保険料

と、社会保険への加入によって軽くなるケースが多いようです(国民健康保険料の計算方法が自治体によって異なり、賃金額などによっては負担が重くなることもあるので注意)。

また、社会保険への加入により厚生年金と健康保険にも同時加入する事になります。自身が将来受け取る年金額が増えること、傷病手当金や出産手当金などの対象になり、働けなくなるリスクへの備えが厚くなる点を説明に加えるのもよいかもしれません。

なお、2026年10月1日からは、社員50人以下で任意特定適用事業所となった会社や、2027年10月以降の適用拡大で新たに対象となる会社を対象に、パート等本人の社会保険料負担を通算3年間軽減できる「保険料調整制度」が始まります。軽減分は会社がいったん追加負担しますが、後日納付する保険料から全額控除されるため、最終的な会社の負担は増えません。対象となる会社は、社会保険料の天引きを説明する際、負担軽減策として併せて案内するとよいでしょう。

2)社会保険料の天引きと併せて、保険給付の変更についても説明する

パート等が社会保険の被保険者になると、社会保険料の負担が発生する代わりに、今まで受けられなかった保険給付を受けられるようになります。

パート等の状況に応じた主な保険給付の比較

ざっくりイメージを説明すると、

社会保険に加入することで、私傷病や出産で休業する期間の生活保障が受けられるようになり、年金については、国民年金に加えて厚生年金保険の給付も受けられる

ようになります。社会保険料の天引きの件と併せて、具体的なメリットをパート等に伝えてあげると親切です。

なお、厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」には、パート等への説明に使えるガイドブックやチラシなどの資料が用意されているので、活用するとよいでしょう。

■厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」■
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/

3)パート等が希望する場合、労働条件の見直しを検討する

パート等が被扶養者の場合、社会保険が適用されると聞いて「扶養から外れたくないから、もう少し労働時間を短くしたい」などと、会社に相談してくる可能性があります。この点、

会社がパート等と合意して労働条件を変更した結果、パート等が被保険者要件を満たさなくなるのであれば、社会保険に加入させる必要はない

ということになります。

一方、パート等の中には「これ以上労働時間を短くすると、賃金が減って生活が苦しいから社会保険には加入する。むしろ社会保険料が天引きされるなら、もっと労働時間を長くして賃金を増やしたい」と考える人もいるかもしれません。基本的な考え方は労働時間を短くする場合と同じですが、パート等に配偶者がいると、

労働時間を長くしてパート等の給与収入(賃金など)が増えると、パート等の配偶者が所得税の配偶者特別控除を受けられなくなるケースがある

ので注意が必要です。労働条件の見直しについては慎重に検討しましょう。

所定労働時間を週20時間未満に見直しても、実際の労働時間が恒常的に週20時間以上となっている場合、実態に基づいて被保険者と判断されることがあります。目安として、実労働時間が2カ月連続で週20時間以上となり、その後も同様の状態が続く見込みであれば、加入手続きが必要になると考えましょう。契約書上の時間を短くするだけの「形式的な回避」は、後述の遡及加入リスクにつながるため厳禁です。

4)社会保険に加入するパート等については、適正に加入手続きを行う

社会保険の適用拡大が施行される前に、パート等の労働条件を見直すのは問題ありませんが、施行後は被保険者要件を満たすパート等を全員、社会保険に加入させなければなりません。

直近では、2026年10月1日から、「106万円の壁」撤廃により被保険者要件を満たすようになるパート等が出てくることが想定されますが、その場合、

被保険者要件を満たすようになった日から5日以内(この場合、2026年10月6日まで)に、各パート等の「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を所轄年金事務所に提出

しなければなりません。なお、届出は事務センターへの郵送や電子申請でも行えます。

加入手続きを怠ったまま年金事務所の調査(定時決定時の調査や事業所調査)で未加入が発覚すると、最大2年遡って保険料を徴収されます。この場合、本人負担分も会社がいったん立て替えて納付することになりますが、すでに退職したパート等から本人負担分を回収するのは事実上困難です。「気付かなかった」では済まされない金額になり得るため、施行日前に対象者リストを作成し、漏れなく手続きしましょう。

5)新しいパート等の採用に向けて、求人案内や労働条件通知書も見直す

社会保険の適用拡大が開始された以降も、新しいパート等を採用することがあると思います。求人案内や労働条件通知書についても忘れずに見直しておきましょう。

求人案内については、職業安定法上、

募集するパート等に社会保険が適用されるかどうかを、必ず明示しなければならない

ので注意が必要です。社会保険の被保険者要件を満たすのにもかかわらず、「社会保険の適用なし」と記載しているのであれば、内容を修正しましょう。

労働条件通知書については、労働基準法上、社会保険の適用について明示する義務まではありません。ただし、現状の書式に項目があるのであれば、求人案内と同じように内容を修正します。

なお、社会保険の適用について確認するだけでなく、その他の労働条件が妥当かどうかについても、改めて検討してみましょう。例えば、

  • 現状、パート等の所定労働時間を週20時間に設定しているが、本当に週20時間も働く必要があるのか?
  • 現状、パート等1人につき担当業務を2つ設定しているが、担当業務を1つにする代わりにパート等を2人雇用することで、賃金や労働時間をコントロールできないか?

などを考えてみます。ただし、賃金に変更を加える場合は、最低賃金や同一労働同一賃金などの問題に注意が必要です。

また、社会保険だけでなく雇用保険についても、2028年10月1日から適用対象が週の所定労働時間10時間以上の労働者に拡大される予定です(現行は20時間以上)。週20時間未満で働くパート等の労務管理にも影響するため、こちらの法改正も併せて確認しておきましょう。

以上(2026年9月更新)
(監修 社会保険労務士 柴田充輝)

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