事業承継とは、ただでさえ難しい事業の存続を成し遂げた経営者が、成功の果てに遭遇する最後の課題です。また、数代に亘り続く伝統企業においては、その歴史のバトンを未来へつなぐ一大事業(そしてそれは、その伝統企業の経営者にとっての実は最大の事業)でもあります。以下では、そんな「事業承継」について、具体的な論点と対処法とを考えてみることにしましょう。
経歴詐称や犯罪歴の秘匿をした社員が入社してきたらどうする?
目次
1 経歴詐称で入社してきた社員でも簡単には解雇できない
採用ではミスマッチがつきものですが、
「学歴・職歴」「健康状態」「犯罪歴・処分歴」などについて嘘をついたり、都合の悪い事実を隠したりして入社してくる社員
がいたら、さすがに見過ごすわけにはいきませんよね。
とはいえ、ちょっと理不尽に感じるかもしれませんが、いったん採用してしまうと、たとえ経歴を偽って入社した社員であっても、そう簡単には解雇できません。解雇が認められるのは、「解雇されても仕方ない」といえる程度に、客観的で合理的な理由があり、社会通念に照らして相当と判断される場合に限られるからです。
こうした「秘密を抱えた社員」には、次のように段階を踏んで対応していくことになります。
- 面接の段階で見抜き、採用しない
- 試用期間中に見抜き、本採用をしない
- 本採用してしまった後は、配置転換などで雇用継続の道を探る
- それでもダメなら解雇する
この記事では、上の4段階の対応について詳しく説明した後、「学歴・職歴」「健康状態」「犯罪歴・処分歴」といった秘密の内容に応じたポイントを紹介します。
2 秘密を抱えた社員への対応は4段階で考える
1)面接の段階で見抜き、採用しない
採用してから解雇するのはハードルが高いですが、採用する前であれば、会社には「採用の自由(誰を、どのような条件で採用するかの自由)」があります。ですから、面接の時点で求職者の秘密を見抜き、そもそも採用しないというのが、一番確実な対策です。
面接での質問の仕方次第で、「何か秘密を抱えていそうか」をある程度見極められる可能性があります。例えば「はい」「いいえ」で終わってしまう質問ではなく、求職者自身に説明してもらう質問を投げかけてみましょう。「○○の業務を担当することになったら、あなたは何ができますか?」と聞いて、じっくり答えてもらうのです。受け答えに違和感を覚えたら、その部分をさらに深掘りして、考え方や能力レベルを確認していきます。
2)試用期間中に見抜き、本採用をしない
採用の段階で秘密を見抜けなかった場合、次のチャンスは「試用期間」です。試用期間中に業務への適性などをしっかり確認し、社員として必要な能力が備わっていないと判断できれば、本採用を見送るという選択肢があります。
「本採用を見送る=解雇」ということにはなりますが、試用期間はもともと本採用前に適性を判断するための期間なので、本採用後に比べると解雇が認められやすい面があります。例えば実務経験を条件に採用した場合は、面接の時点で担当できる業務とその遂行力を確認した上で、試用期間中に実際にこなせているかをチェックします。その上で、面談時点で想定していた能力等がないと判断すれば、本採用の拒否を検討することになります。
なお、試用期間満了に伴う本採用拒否は「退職に関する定め」に当たるため、就業規則などに「試用期間中に不適当と認めた者は、解雇することがある」といった規定をあらかじめ設けておきましょう。
3)本採用してしまった後は、配置転換などで雇用継続の道を探る
本採用した後に秘密が発覚した場合は、やはり簡単には解雇できません。例えば、ドライバーとして採用した社員に、本採用後、運転に支障が出る病気が見つかり、運転を任せるのが難しいと分かったようなケースでは、まずは別の仕事への配置転換を検討するなど、雇用を継続する方向で対応していくのが基本です。
なお、配置転換をするためには、就業規則などに「業務上の必要がある場合には、配置転換を命ずることができる」といった規定を定めていることが前提になります。
4)それでもダメなら解雇する
配置転換などを試みても社員が力を発揮できない場合、ここでようやく解雇を検討する段階に入ります。解雇には、能力不足などを理由とする「普通解雇」と、詐称や秘匿へのペナルティ(懲戒処分)としての「諭旨解雇・懲戒解雇」があります。
とはいえ、会社は、自由に解雇できるわけではありません。
- 客観的に合理的な理由がある
- 社会通念上相当と認められる
という2つの要件を満たさなければ、解雇は無効になってしまいます。一般的には、実務上、解雇が有効と認められるハードルは高いですが、3)の段階で雇用継続の道をきちんと探っていれば、万が一解雇後に社員とトラブルになっても、会社側が解雇の要件を満たしていると認められる可能性は高まります。
3 学歴・職歴に秘密がある社員の対処
1)会社にどのような影響がある?
学歴・職歴の詐称や秘匿には、例えばこんなケースが当てはまります。
- 最終学歴が高卒なのに、大卒であると嘘をつく
- 資格者でないのに、資格者であると嘘をつく
- 前の会社に在籍していた期間を、実態よりも長く偽る
専門知識が必要な業務に就かせる予定がある、あるいは将来的にそうした業務を任せたいと考えて採用する場合、学歴・職歴は重要な判断材料になります。ですから、そこに詐称や秘匿があると、会社が描いていた計画が狂いかねません。
2)入社前の段階で秘密を見つけ出すには?
求職者に求める能力の水準がはっきりしているなら、知識や教養、技術力を確認できるテストを実施するのも一つの方法です。よく知られているのは、語彙力・読解力・計算力といった基礎的な能力を測る「SPI」です。特定の資格が必要な業務を任せる予定があるなら、その資格試験の過去問を解いてもらうのもいいでしょう。
また、履歴書と他の書類を突き合わせて学歴・職歴を確認する方法もあります。例えば雇用保険被保険者証には前職での被保険者資格取得日が、源泉徴収票には前職の会社名や年収などが記載されているので、詐称や秘匿がないかをチェックする材料になります。
さらに、内定を通知する段階で、提出書類や面接での説明内容に嘘がないことを求職者自身に確認してもらう「誓約書」を取得しておく方法も効果的です。誓約書には、内定から入社までの間に会社が経歴確認(リファレンスチェック)を行うことへの同意も盛り込んでおくと、後で詐称が発覚した際、内定取消しや本採用拒否を含む解雇を裏付ける事実関係を収集しやすくなる可能性もあります。
3)採用してしまったら?
学歴・職歴を詐称した社員を解雇し、会社と社員が争いになった裁判例(大阪地裁平成6年9月16日決定)では、次のような理由から解雇は有効と判断されました。
- 学歴の詐称については、会社が過去に高卒未満の学歴の人も採用していて、学歴重視で採用活動をしていたとまでは言えないため、就業規則にある「重要な経歴を偽り採用された場合」には当たらない
- 職歴の詐称については、採否や適性の判断を誤らせるものなので、就業規則にある「重要な経歴を偽り採用された場合」に当たる
また、労働者派遣事業を営む会社が、「経営コンサルタント業務の経験がある」と職歴を偽って入社した社員を解雇し、争いになった裁判例(東京地裁平成22年11月10日判決)では、
仮に本当のことを話していたら会社が雇用しなかっただろうと認められる場合は、会社に具体的な損害がなくても「重要な経歴を偽り採用された場合」に当たる
として、解雇は有効と判断されました。
さらに、中途採用の選考で、過去にトラブルがあった前職2社での在籍実績や離職の経緯を記載しなかった社員について、会社が内定を取り消した裁判例(東京地裁令和6年7月18日判決)では、
中途採用では、前職でのトラブルや短期離職の事実は、業務遂行能力や従業員としての適格性を評価する上で重要な判断材料であり、会社がその事実を把握していれば採用しなかった可能性が高い
として、解雇は有効と判断されました。
学歴・職歴の詐称や秘匿が解雇の理由になるかどうかは、会社のこれまでの採用実績や、詐称・秘匿が業務や会社の秩序にどれくらい影響を与えるかなどによって判断されるようです。
4 健康状態に秘密がある社員の対処
1)会社にどのような影響があるか?
病気などの詐称や秘匿には、例えばこんなケースが当てはまります。
- 病気にかかっているのにそれを隠す、あるいは「治った」と嘘をつく
- 特定の業務を控えるよう医師に言われているのに、それを隠す
会社は社員の健康状態を踏まえて担当業務を決めるので、病気などについて詐称や秘匿があると、予定通りに人員を配置できなくなる恐れがあります。
2)入社前の段階で秘密を見つけ出すには?
健康状態が業務に大きく影響する場合は、面接で求職者に健康状態を確認しますが、質問できるのはあくまで業務への適性を判断するために真に必要な範囲にとどまります。また、病歴は「要配慮個人情報」という、扱いに特に注意が必要な個人情報なので、取り扱いは慎重に行いましょう。
3)採用してしまったら?
ガソリンスタンドなどを経営する会社が、視力障害を隠して入社し、重機運転手の業務に就いた社員を解雇し、争いになった裁判例(札幌高裁平成18年5月11日判決)では、
視力障害は社員の総合的な健康状態に影響するレベルのものではなく、重機運転手として不適格とまではいえないこと
に照らし、解雇は無効と判断されました。
病気などの詐称や秘匿が解雇の理由になるかどうかは、それが社員の心身の安全や業務にどれくらい影響を与えるかによって判断されるようです。
5 犯罪歴・処分歴に秘密がある社員の対処
1)会社にどのような影響があるか?
犯罪歴・処分歴の詐称や秘匿には、例えばこんなケースが当てはまります。
- 過去に犯罪を行って刑罰を受けたのに、そのような事実はないと嘘をつく
- 前職で不祥事による懲戒解雇を受けたことについて、その事実を秘匿する
過去に犯罪を行っていたとしても、更生していれば業務に支障はないかもしれません。ただ、周りの社員は不安に感じることもあるでしょう。
2)入社前の段階で秘密を見つけ出すには?
犯罪歴の詐称や秘匿を防ぐために、求職者には賞罰欄のある履歴書を提出してもらいましょう。賞罰の「罰」とは「一般に確定した有罪判決(前科)」のことで、会社から特に言及しない限り、起訴猶予事案などの犯罪歴(前歴)は含まれません。賞罰欄のある履歴書を指定すれば、求職者は少なくとも前科について会社に申告する義務が生じます。
ただし、古い前科について申告を求める際は注意が必要です。過去に強盗罪で懲役刑を受けたことなど、前科・前歴を採用時に申告しなかった社員を解雇し、会社と社員が争いになった裁判例(仙台地裁昭和60年9月19日判決)で、次のように判断されているからです。
- 履歴書の中に賞罰欄がある場合、求職者は真実を記載しなければならない
- ただし、刑法第34条の2(注)により刑が消滅した前科については、特段の事情(前科が労働力の評価に重大な影響を及ぼすなど)がない限り、労働者に告知する義務はない
(注)刑法第34条の2では、拘禁刑以上の刑の執行が終わって10年が経過した場合などは、刑の言い渡しは効力を失う(法律上は刑を受けたことがないものとして扱われる)とされています。
この他、犯罪歴・処分歴の詐称や秘匿を見つける方法としては、身元保証書や退職証明書を提出してもらうことも考えられます。
身元保証書は、求職者が入社後に本人の故意や重大な過失で会社に損害を与えた場合、本人と身元保証人が連帯して責任を負うという書類です。犯罪歴・処分歴に限らず、過去に何らかの問題があった求職者は身元保証人を見つけにくいため、提出をためらうこともあります。
退職証明書は、前職を退職したことを証明する書類です。退職理由が記載されているため、懲戒解雇を隠していないかを確認する材料になります。
3)採用してしまったら?
2)の裁判例では、履歴書の賞罰欄に犯罪歴を記載しなかったことが争点となりましたが、
社員の犯罪歴はすでに刑が消滅したもので、こうした前科に会社が言及することは、労働者の更生を妨げかねない
として、解雇は無効と判断されました。
これを踏まえると、会社に求められているのは、犯罪歴・処分歴ではなく、社員の「今の」就業態度や能力によって処遇を決めることだと言えるでしょう。
なお、犯罪の経歴(前科や犯罪行為をした事実)や、本人が被疑者・被告人として刑事事件の手続きを受けたことなどは「要配慮個人情報」に当たります。前述の病歴などと同じく、取り扱いには細心の注意を払いましょう。
以上(2026年8月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田絹助)
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あなたの会社も対象に!? 社会保険適用拡大で変わるパート・アルバイトへの影響
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【税の勘所】押さえておきたい経営者のための税金の境界線(パーセンテージ編)
1 押さえておきたい税金の「パーセンテージ」
税金には、意識すべき数字(パーセンテージ)があります。例えば、
- 55%、45%、15%
- 95%未満
などです。これらは単なる数字ではありません。税金の種類ごとの最高税率や消費税の負担、税制優遇を受ける際の税率を表す重要な境界線です。
この記事では、中小企業経営者が押さえておくべき主な税金(法人税・所得税・消費税・相続税・贈与税)に関する「パーセンテージ」を整理します。

2 95%未満:消費税
95%未満は、消費税の仕入税額控除が一部できなくなる課税売上割合です。
課税売上割合とは、全体の売上高のうち、課税売上高(消費税が課される売上高)が占める割合で、消費税の仕入税額控除の計算などに使用されます。消費税の仕入税額控除の計算方法には、
- 全額控除方式:課税仕入れ等に係る消費税額の全額を控除
- 個別対応方式:課税仕入れ等に係る消費税額の一部を控除
- 一括比例配分方式:課税仕入れ等に係る消費税額の一部を控除
の3つがあります。
全額控除方式を適用することができるのは、課税期間における課税売上割合が95%以上で、かつ課税売上高が5億円以下の事業者に限られます。そのため、課税期間における課税売上割合が95%未満の場合、または課税売上高が5億円超の場合は、個別対応方式か一括比例配分方式のいずれかを利用することになり、課税仕入れ等に係る消費税額が一部控除できなくなります。
3 55%:相続税、贈与税
55%は、相続税と贈与税の最高税率です。
1)【相続税】相続税の最高税率
相続税の税率は、次の通り8段階に区分されており、最高税率は55%です。

2)【贈与税】贈与税の最高税率
2015年以降の贈与税の税率は、次の通り「一般贈与財産」と「特例贈与財産」に区分されましたが、いずれのケースも8段階に区分されており、最高税率は55%です。

4 45%:所得税
45%は、所得税の最高税率です。
所得税の税率は、分離課税(株式等の譲渡で生じた所得などと、他の所得を分離して計算)に対するものなどを除くと、次の通り7段階に区分されており、最高税率は45%です。

5 30.64%:法人税
30.64%は、法人実効税率(外形標準課税適用法人)です。
法人実効税率とは、法人税だけでなく、地方法人税、法人住民税、法人事業税の税率を考慮した、実際に法人が負担する税率です。法人実効税率は次の算式で計算されます。

標準税率を適用した場合の今後の法人実効税率は次の通りとなります。

6 15%(17%または19%):法人税
15%(17%または19%)は、法人税の軽減税率です。
普通法人で資本金が1億円以下の法人(中小法人)の場合、年800万円以下の所得金額部分については、通常よりも低い税率(軽減税率)が適用されます。ただし、資本金が1億円以下でも、資本金が5億円以上の法人と完全支配関係にある場合、軽減税率が適用されません。

以上(2026年8月更新)
(監修 税理士法人アイ・タックス 税理士 山田誠一朗)
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【税の勘所】押さえておきたい経営者のための税金の境界線(金額編)
目次
1 押さえておきたい税金の「金額」
税金には、超えてはいけない、または活用すべき数字(金額)があります。例えば、
- 売上1000万円
- 売上5000万円
- 所得800万円
- 資本金1億円
などです。これらは単なる数字ではありません。消費税の負担や税制優遇の適用可否を左右する重要な境界線です。
この記事では、中小企業経営者が押さえておくべき主な税金(法人税・所得税・消費税・相続税・贈与税)に関する「金額」を整理します。

2 5億円超:消費税
5億円超は、消費税で一部の仕入税額控除が認められなくなる課税売上高です。
消費税の納税額は次のように計算されます(簡易課税制度の場合を除く)。

課税売上げに係る消費税額から、課税仕入れ等に係る消費税額を差し引くことを仕入税額控除といいます。消費税の仕入税額控除の計算方法には、
- 全額控除方式:課税仕入れ等に係る消費税額の全額を控除
- 個別対応方式:課税仕入れ等に係る消費税額の一部を控除
- 一括比例配分方式:課税仕入れ等に係る消費税額の一部を控除
の3つがあり、全額控除方式を利用できるのは、
課税期間における課税売上割合が95%以上で、かつ課税売上高が5億円以下の事業者
に限られます。課税売上割合とは、全体の売上高のうち、課税売上高(消費税が課される売上高)が占める割合です。
そのため、課税期間における課税売上割合が95%未満の場合、または課税売上高が5億円超の場合は、個別対応方式または一括比例配分方式のいずれかを利用することになり、課税仕入れ等に係る消費税額が一部控除できなくなります。
3 1億6000万円:相続税
1億6000万円は、配偶者に相続税がかからない取得財産の金額です。
配偶者が財産を相続する場合、同一世代間における財産の移転の場合が多いことや、配偶者は被相続人の遺産形成に貢献していること、また、被相続人が死亡した後の配偶者の生活水準を保つなどの理由から、相続税を軽減する措置が設けられています。
そのため、配偶者が財産を相続した場合、その財産の額が次のいずれか多い金額までは配偶者に相続税はかかりません。
- 1億6000万円
- 配偶者の法定相続分相当額(相続人が配偶者と子の場合は、遺産の2分の1相当額)
4 1億円以下:法人税
1億円以下は、法人税の優遇措置を利用できる中小企業者等の判定に関する金額です。
法人税には、中小企業者等が利用できるさまざまな優遇措置があります。主な優遇措置は次の通りで、いずれも資本金が1億円以下でなければ利用できません。
- 法人税の軽減税率
- 交際費等の損金不算入制度における定額控除限度額(年800万円)
- 欠損金の繰越控除
- 欠損金の繰戻還付
- 貸倒引当金の法定繰入率
- 特定同族会社における留保金課税の不適用
- 少額減価償却資産の取得価額の損金算入
- 賃上げ促進税制(中小企業向け)の適用
ただし、注意点があります。上記1.~6.は、資本金が1億円以下でも、資本金が5億円以上の法人と完全支配関係にある場合は利用できません。
また、上記7.~8.については、資本金が1億円以下でも、大規模法人に発行済株式の2分の1以上を所有されている場合、または2以上の大規模法人に発行済株式の3分の2以上を所有されている場合などは利用できません。なお、大規模法人とは、資本金が1億円を超える法人、資本もしくは出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員の数が1000人を超える法人、又は大法人(資本金が5億円以上である法人)との間にその大法人による完全支配関係がある普通法人をいいます。
5 5000万円以下:消費税
5000万円以下は、消費税の「簡易課税制度」が選択できる課税売上高です。
簡易課税制度は、事業の種類に応じ、課税売上高に一定割合を乗じて仕入税額控除を計算する方法で、
小規模事業者だけ
が利用できます。原則的な消費税の計算方法は複雑なので、簡易課税制度で小規模事業者の負担を軽減しています。簡易課税制度は、基準期間の課税売上高が5000万円以下で、「消費税簡易課税制度選択届出書」を事前に提出している事業者が利用できます。
6 2000万円超:所得税(確定申告)
2000万円超は、所得税の確定申告をしなければならない給与の年間収入です。
給与所得者は年末調整をするので、ほとんどの人は確定申告をする必要はありません。しかし、当該給与所得以外にも所得がある場合や給与の年間収入金額が2000万円を超える場合は、年末調整の対象外となるので、自身で所得税の確定申告をしなければなりません。
7 2000万円超:所得税(住宅ローン控除)
2000万円超は、住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)が受けられない合計所得金額です。
住宅借入金等特別控除とは、個人が住宅ローンを利用して、マイホームの取得や増改築した場合に、その住宅ローンの年末残高を基に計算した一定額を住み始めた年分以後の各年分の所得税額から控除できる制度です。住宅借入金等特別控除は、適用する年の合計所得金額が2000万円を超える年分については対象外となります。
8 2000万円以下:贈与税
2000万円以下は、住宅取得資金贈与を受けるための受贈者の要件の1つとなる金額です。
投資や賃貸用ではなく、自身の住宅を取得するため、直系尊属である父母や祖父母などから贈与により金銭を取得した場合、一定の金額までは贈与税がかかりません。この特例を受けるには、贈与を受けた年の受贈者(贈与を受ける人)の合計所得金額が原則2000万円以下であるなどの要件を満たす必要があります。
9 1000万円以下:消費税
1000万円以下は、消費税の納税義務が免除される基準期間の課税売上高です。
事業者は、国内において行った資産の譲渡や貸付け、役務の提供について、消費税を納めなければなりません。ただし、基準期間の課税売上高が1000万円以下の場合、一定の場合を除き、消費税の納税義務が免除されます。
10 1000万円未満:消費税
1000万円未満は、基準期間が無い場合に消費税の納税義務が免除される資本金の額です。
新規に設立された法人は基準期間がありません。そのため、その事業年度開始の日における資本金が1000万円未満なら、一定の場合を除き、消費税の納税義務が免除されます。
11 850万円超:所得税
850万円超は、所得税の給与所得控除の上限となる収入金額(195万円控除)です。
給与所得の金額は、給与等の収入金額から給与所得控除額を差し引いて計算し、上限は195万円です。

12 800万円:法人税
800万円は、中小法人における交際費等の損金算入限度額の1つとなる金額です。
原則として交際費等は損金算入できませんが、資本金が1億円以下の法人(中小法人)は、特例として、年800万円(定額控除限度額)まで交際費等を損金算入できます。ただし、資本金が1億円以下でも、資本金が5億円以上の法人と完全支配関係にある場合は対象外です。
なお、交際費等のうち、接待飲食の費用の50%相当額は損金算入できるので、年800万円と比較して有利なほうを選択しましょう。
13 800万円以下:法人税
800万円以下は、中小法人が法人税の軽減税率を受けられる所得金額です。
普通法人の場合、各事業年度に適用される税率は次の通りです。中小法人の場合、年800万円以下の所得金額部分については、通常よりも低い税率(軽減税率)が適用されます。ただし、資本金が1億円以下でも、資本金が5億円以上の法人と完全支配関係にある場合、軽減税率が適用されません。

14 300万円以下:法人税
300万円以下は、中小企業者等が40万円未満の減価償却資産を全額損金算入できる限度額です。
中小企業者等が、取得価額が40万円未満である少額減価償却資産を取得した場合、取得価額の全額を損金算入できます。ただし、1事業年度に損金算入できる限度は300万円以下です。事業年度が1年未満の場合は、月数で按分します。
15 110万円以下:贈与税、相続税
110万円以下は、贈与税(暦年課税)および相続時精算課税の基礎控除額です。
贈与税は個人が個人から財産をもらったときに課される税金ですが、個人がその年の1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計が110万円以下なら贈与税はかかりません。これを「基礎控除」といいます。基礎控除は、贈与をした人ごとではなく、贈与を受けた人ごとに1年間で110万円となります。なお、死亡日以前7年間(2023年12月31日以前の贈与については3年間)の分については、基礎控除分であっても、相続財産に加えることになっており、相続税の対象になります。
また、2024年1月以降は、相続時精算課税(贈与税については2500万円までの特別控除が受けられるが、贈与した財産については相続時にまとめて相続税が課せられる制度)の適用を選択した場合でも、毎年110万円の基礎控除が設けられるようになりました。以前は、相続時に生前贈与した財産の全額が相続税の課税対象となっていましたが、2024年1月以降の贈与については、毎年110万円を控除した残額の合計が相続税の課税対象となります。
16 1万円以下:法人税
1万円以下は、交際費等から除かれる一定の飲食代の1人当たりの金額です。
飲食等の費用のうち、1人1万円以下までなら損金算入できます。1万円の判定は、法人が適用している消費税等の経理処理(税抜経理方式または税込経理方式)に応じて行われます。
なお、経営者や社員、その親族の接待で使った飲食代は、1万円以下でも損金算入できません。
以上(2026年8月更新)
(監修 税理士法人アイ・タックス 税理士 山田誠一朗)
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【ビジネス文書・法令文書】給与計算担当者が知っておきたいフリンジベネフィット
フリンジベネフィットは福利厚生の充実につながる一方で、給与課税や社会保険上の報酬に該当するかの判断を誤ると、税務調査で指摘を受けるおそれがあります。また、令和7年度・8年度税制改正では食事や通勤手当の取扱いも見直されています。
そこで本稿では、税制改正のポイントを踏まえ、代表的なフリンジベネフィットの課税関係や社会保険上の取扱いをわかりやすく解説します。
ビジネス文書・法令文書 今月の特集は、こちらからお読みいただけます。
巷で噂の税金対策は本当に得をする? 中古車、社宅、出張手当
1 経営者の間で噂されるさまざまな税対策
「4年落ちの中古車を買えば税負担が下げられる」「役員社宅にすれば家賃が会社の経費になる」など、中小企業の経営者の間で、さまざまな税対策の話題は尽きません。心当たりのある方も多いのではないでしょうか。
役員報酬の調整や交際費の活用といった『王道』の税対策は、すでに実践されている方も多いはずです。それでも、「もっと節税できるはず」「同業者はもっとうまくやっているのでは」ーーそんな思いから、つい耳を傾けてしまうこともあるのではないでしょうか。ネットや経営者仲間の間で広まっているのは、もう一歩踏み込んだ税対策です。
その一方で、心のどこかにこんな不安を抱えてはいないでしょうか。
「本当に税務調査で指摘されないのか?」
「やりすぎて脱税と見なされないか?」
「節税のつもりが、かえって損をしていないか?」
そうした迷いを抱える経営者の方に向けて、この記事では、巷で語られる税対策の実態を、税務・法律の難しい用語をなるべく使わず、できるだけ分かりやすく解説します。
2 巷でよく聞く税対策の実態は? その仕組みと注意点
1)新車よりも中古車、特に「4年落ちの中古車」は購入費の全額を即経費にできる
車は年々価値が下がる資産であるため、購入費用は通常、一度に経費にするのではなく、数年に分けて計上します。新車であれば、法律で定められている耐用年数は6年なので、6年間に分けて少しずつしか経費に計上できませんが、中古車の耐用年数は、
(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20%
という計算式(簡便法)で求められます。普通自動車の法定耐用年数は6年です。4年落ちの中古車(登録から4年以上経過した普通車)の場合は、「(6-4)+4×0.2=2.8年」、端数を切り捨てて耐用年数は2年になります。つまり、高額な車でも短期間で経費にできるため、購入後の早い時期に多額の経費を計上して税負担を下げる効果が期待できます。
特に注目すべきは、法人では原則として「定率法(耐用年数ごとに定められた一定の率を乗じて減価償却費を計算する方法)」が適用される点です。耐用年数2年の定率法の償却率は1.000となり、購入初年度に取得価額から1円を引いたほぼ全額を経費として計上できます。
例えば500万円の4年落ちの中古車を定率法で処理した場合、初年度に約500万円(厳密には499万9999円)を一気に経費に計上できます。ただし、購入時期が期中であれば月割り計算となるため、期首に購入することで税負担を最も軽減する効果が得られます。

ただし、いくつか注意点があります。
経費として認められるのは事業で使用した割合に限られます。プライベートでも使用する場合は「家事按分」が必要です。税務調査に備えて走行記録(行き先や目的など)を日頃から残しておくことが重要です。
また、減価償却が終了すれば経費計上による利益圧縮効果はなくなります。「税負担を下げるためだけに不要な高級車を購入する」のは本末転倒です。500万円の現金が会社から実際に流出することを忘れてはいけません。加えて、高級車やスポーツカーは事業との関連性が弱いと判断されるケースもあり、経費を否認されるリスクもあります。
中古車は修理リスクも高いため、税負担を下げる効果だけでなく総コストや資金繰りも踏まえて慎重に判断しましょう。
2)役員社宅で家賃を経費にできる
社宅制度を活用した税対策とは、会社が物件を借り上げ、その住まいを役員に「社宅」として貸し出す方法です。会社が支払う家賃は全額を経費にできる一方、役員が会社へ支払う自己負担額は「賃貸料相当額」と呼ばれる計算式に基づいた一定額でよい仕組みです。そのため、その差額分が税負担を下げる効果につながります。なお、賃貸料相当額は、社宅の規模ごとに固定資産税の課税標準額などを基に算定します。多少複雑になりますので、顧問税理士に相談して決めるようにしましょう。
この制度を適切に活用すれば、家賃の50~90%程度を会社の経費にできるケースもあります。役員個人から見れば、住居費の大部分を税引き前のお金で負担できることになり、個人・会社の双方にメリットが期待できます。

ただし、いくつか注意点があります。
まず、役員の自己負担額は「賃貸料相当額」の計算式に従って設定する必要があります。この金額を下回る場合、その差額が給与とみなされ、所得税や社会保険料の負担が増える可能性があります。
また、豪華な物件は「豪華社宅」と判定され、通常の社宅とは異なるルールが適用されます。判定は床面積だけでなく、取得価額や設備の状況なども総合的に考慮されます。豪華社宅と判定される床面積240㎡という数字はあくまでも目安の1つであり、それ以下の物件でも取得価額・設備の状況などを総合的に見て判定されるケースもあるので注意が必要です。豪華社宅に該当すると、役員の自己負担額は「賃貸料相当額」ではなく「通常の市場価格(時価)」が基準になるため、税負担を軽くする効果はほぼ見込めなくなります。
さらに、社宅制度が適用されるのは会社名義で契約した物件に限られます。個人名義で契約したままでは社宅として扱われず、税負担を下げる効果は得られません。
3)決算前に翌1年分のサービス料を支払って、経費を前倒しで計上できる
継続的なサービスに対する費用を前払いした場合、支払った事業年度に全額を経費として計上できる税法上の特例制度(短期前払費用の特例)があります。例えば地代・家賃や損害保険料など、今後1年以内に受けるサービスの費用をまとめて前払いすることで、その期の利益を圧縮できます。決算直前に利益が多く出た場合の税負担を下げる手段として活用できます。もともと支払う予定のある費用であれば、キャッシュアウトのタイミングを前倒しするだけで節税につなげられる点が特徴です。

ただし、いくつか注意点があります。
この特例が認められるには、次の要件をすべて満たさなければなりません。
1.支払日から1年以内に提供を受けるサービスであること
2.毎年継続して同じ処理を行うこと
3.一定の契約に基づき、継続的に提供される「質や量が均一」なサービスであること
特に3.の「質や量が均一」なサービスという点は、見落とされがちな重要な要件です。例えば、コンサルティング料や税理士顧問料は、月ごとに提供内容が異なるため、原則としてこの特例の対象になりません。また、借入金の利息のように収益と対応させる必要がある費用も対象外です。対象になるのは、家賃・地代・損害保険料・サービス利用料など、内容が均一な継続サービスに限られます。
また、この方法は実質的に翌年へ利益を先送りしているだけです。翌年以降はその分の経費がなくなるため、「1年だけ税金の支払いを後ろ倒しにする」効果と正しく理解しておく必要があります。
さらに、決算月になって突然、必要性の乏しい契約を結んで多額の費用を前払いするなど不自然な支出は、税務調査で認められない可能性があります。税負担を下げることありきで無理に支出を増やすのではなく、もともと必要な費用の支払い時期を前倒しする方法として活用することが重要です。
4)出張手当は旅費交通費として経費に計上できる、かつ従業員の所得税が非課税
会社が役員や社員に対して「旅費規程」を定め、出張日当を支給する方法があります。出張手当は通常の役員報酬や給与とは別に支給されるもので、会社側では経費に計上でき、かつ役員や従業員の実質的な手取りを増やせます。合理的な金額で運用すれば、税負担を抑えながら出張に伴う費用を補てんできます。特に大きいのは、従業員が受け取る出張手当には所得税がかからない点です。

ただし、いくつか注意点があります。
所得税の非課税と認められるには、次の要件をすべて満たさなければなりません。
1.出張の業務上の必要性があること
2.支給額が同業種・同規模の他社と比べて相当と認められる水準であること
3.役職などに応じた合理的な基準で全員に公平に適用されていること
日当の金額の実務上の目安(1日当たり。国内出張の場合。)は、
- 一般社員:2000~3000円程度
- 管理職:3000~4000円程度
- 役員:5000~1万円程度
が一般的な相場です。もちろん、会社の規模や出張の頻度によって適正額は異なります。上記以上の金額を設定する際には、その理由を客観的に説明できるようにしておきましょう。
また、旅費規程を整備した上で、出張の日付・行き先・目的などを記録・保存しておくことが必要です。こうした記録がなければ、出張の実態を証明できず、経費として認められない可能性があります。交通機関の控えや宿泊証明、名刺やメール履歴などの資料も併せて保管しておくと、実態を裏付ける証拠として有効です。
5)役員退職金は全額経費に計上できる
経営者(社長や役員など)が退職する際に支払う退職金は、会社にとって経費になります。受け取る側にとっても、退職金は給与と比べて税負担が大きく軽減される仕組みになっています。これは、「退職所得控除(勤続年数に応じて退職金から差し引ける控除額)」を適用した上で、原則としてその残額の2分の1だけが課税対象(2分の1課税)となるためです。

ただし、いくつか注意点があります。
勤続年数5年以下の役員が受け取る退職金については、この「2分の1課税」の優遇が適用されないため、短期間しか役員を務めていない場合は、想定よりも税負担が重くなる可能性がある点に注意が必要です。
長年の功績に対する退職金であれば、会社・個人の双方に多額の税負担を下げる効果が期待できます。特に、経営者が引退するタイミングや後継者への事業承継を行う際に活用しやすい方法です。ただ、金額はいくらでもよいというわけにはいきません。
支給額が、過大な役員退職金と判断された部分は、会社の経費として認められません。税務上の適正額は、次の3要素を総合的に勘案して判断されます。
1.役員が会社の業務に従事した期間
2.退職の事情
3.同業類似会社の支給状況
実務上、最も多く用いられる計算方法が「功績倍率法」です。具体的には、
最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率
で算定します。功績倍率は判例や税務実務上おおむね3倍以内が目安とされており、これを超えると税務調査で否認リスクが高まります。また、退職直前に役員報酬を不自然に引き上げて退職金の計算基礎を増やすケースも、税務調査で厳しく確認されるポイントです。
また、分掌変更(社長から会長・顧問への役職変更)による退職金の支給も一定の要件下で認められています。
- 常勤から非常勤になること
- 分掌変更後の報酬がおおむね50%以上減少すること
などにより、実質的に退職したと同様の事情にあると認められる必要があります。形式的な役職変更にとどまり、退職後も経営に深く関与し続けている場合などには、退職金としての経費として認められません。
なお、退職金を支給する際は、株主総会の議事録や退職金規程など、支給根拠を示す書類を必ず整備しておかなければなりません。
6)小規模企業共済・経営セーフティ共済の掛け金は全額経費にできる
国の制度を活用した積み立て型の税対策として、小規模企業共済と経営セーフティ共済(倒産防止共済)があります。小規模企業共済は経営者個人が掛け金を支払い、その全額を所得控除(課税対象となる税務上の利益である所得から控除)できます。一方、経営セーフティ共済は法人が掛け金を支払い、その全額を経費にできます。いずれも税制上の優遇措置が法令で明確に定められており、税負担を下げる効果を得やすい制度です。
掛け金の上限は、
- 小規模企業共済が月額7万円(年間最大84万円)
- 経営セーフティ共済が月額20万円(年間最大240万円)
です。経営セーフティ共済は累計積立額が800万円に達した時点で掛け金の払い込みが停止されます。将来の退職金準備や事業上のリスクへの備えをしながら現在の税負担を軽減できる点が、両制度共通のメリットです。

ただし、いくつか注意点があります。
受け取るときの課税の仕組みはそれぞれ異なるため、「入口」だけでなく「出口」まで理解して活用することが重要です。
小規模企業共済の場合、受け取り方によって課税区分が変わります。廃業・退任を事由とした一括受け取りは退職所得扱いで税負担が軽くなりますが、任意解約による解約手当金は一時所得扱いとなり、税制上の優遇が小さくなります。さらに、加入から20年(240カ月)未満で任意解約すると元本割れが生じます。12カ月未満での解約は解約手当金がゼロ(全額掛け捨て)になります。「課税の先送りと将来の優遇を組み合わせた制度」である以上、任意解約は極力避け、長期積み立てを前提に加入することが大切です。
経営セーフティ共済の場合、解約手当金は受け取った全額が益金(税務上の収益)として計上されます。解約のタイミングに大きな利益が重なると、かえって税負担が増える可能性があります。また、2024年10月の制度改正以降は、解約後2年以内に再加入しても掛け金を経費にできなくなりました。従来は短期間での解約・再加入を繰り返す節税手法が一部で行われていましたが、この改正によってそうした活用は実質的に封じられています。さらに、経営セーフティ共済も加入から11カ月以内に解約した場合は解約手当金がゼロ(全額掛け捨て)になります。また、40カ月未満の解約では元本割れとなる点にも注意が必要です。
両制度とも、掛け金を継続して支払い続けることが前提となります。税負担を下げる効果だけに注目して加入するのではなく、長期にわたって無理なく支払いを続けられるか、会社や個人のキャッシュフローへの影響も十分に考慮して活用しましょう。
7)絵画・アートの購入費は全額経費にできる
会社で絵画や彫刻、写真作品などの美術品を購入し、社内のエントランスや応接室、会議室などに展示すると、一定の条件のもとで購入費を経費にできます。基本的な仕組みは「減価償却」ですが、購入金額によって処理方法と経費に落とせるタイミングが変わってきます。

特に税負担を下げる効果が大きいのは、要件を満たす中小企業が、少額減価償却資産の特例を利用して40万円未満の作品を購入するケースです。例えば39万円の絵画を購入年度に全額経費にできます。

ただし、いくつか注意点があります。
1点100万円以上の美術品は、原則として減価償却できません。「時の経過によって価値が明らかに減少するもの」として国税庁が認めた場合に限り例外的に減価償却が可能ですが、その要件は厳格です。
展示場所も重要な要件です。会社のエントランスや応接室など、事業に使用するスペースへの展示が必要です。経営者の自宅に飾ったり倉庫に保管したりしている作品は事業用資産として認められません。また、投資目的や転売による利益を狙って購入した作品も、事業使用とは認められない可能性があります。
作品の種類にも注意が必要です。購入価格が100万円未満であっても、歴史的・希少価値のある古美術品や出土品などは減価償却できない場合があります。骨董品の類は価格だけで判断できないため、慎重な確認が必要です。
また、減価償却資産として計上した美術品は、市区町村への償却資産税の申告が必要になる場合があります。10万円未満の消耗品費扱いや、一括償却資産(3年均等償却)として処理したものは申告不要ですが、少額減価償却資産の特例を適用した資産は償却資産税の申告対象となります。申告を怠ると後から追徴される可能性があるため、購入後の税務手続きもあわせて確認してください。
3 本当に意味のある税対策かを見極める3つの問い
1)キャッシュは本当に手元に残るか?
税対策を考えるとき、まず確認したいのは「税金がいくら減るか」ではなく、「最終的に会社の現金がいくら残るか」です。例えば500万円の車を購入して税金が150万円減ったとしても、手元の現金は350万円減っています。税金を減らすために不要な支出を増やせば、資金繰りを悪化させるだけです。もともと必要な設備投資や将来の支出を前倒しするのは有効な方法です。ただし、税負担の軽減額だけで判断せず、購入後のキャッシュ残高や投資効果まで含めて検討しましょう。
2)事業上の実態があるか?
税対策をする際に最も重要なのは、書類上の形式ではなく、実際の事業上の必要性と利用実態です。例えば社宅であれば、会社が契約し、役員が実際に居住しているかが問われます。出張日当であれば、実際に出張し、その記録が残っているかが問われます。契約書や規程を整備していても、実態が伴わなければ税務上の処理を否認される可能性があります。「税対策のために形だけ整える」のではなく、第三者に事業上の必要性を説明できるかを基準に判断することが重要です。
3)税理士に相談した上で実行しているか?
「ネットで見た」「経営者仲間から聞いた」という理由だけで、税対策をそのまま実行するのは危険です。税制は毎年改正があり、また、同じ制度でも会社の規模や取引の実態によって適用要件や税務上の扱いが異なります。
実行前には、顧問税理士に「自社で利用できるか」「税負担の軽減額はいくらか」「将来どのような課税があるか」を確認しましょう。節税は合法的に税負担を減らす行為ですが、実態のない取引や形式だけの処理は脱税とみなされるおそれがあります。目先の税負担の軽減額だけで判断せず、税務リスクや資金繰りも含めて、専門家と慎重に判断することが重要です。
以上(2026年8月作成)
(監修 税理士法人アイ・タックス 税理士 山田誠一朗)
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画像:日本情報マート
【書籍ダイジェスト】『南緯69度のチーム 南極地域観測隊』
本書では、第60次南極地域観測隊で副隊長、第66次隊で隊長を任された原田尚美氏が、日本国内での準備・計画、実際に南極に到着してからの活動の詳細について、リーダーシップやチームビルディングのコツなどを含めて語っている。
南極地域観測隊は、長期プロジェクトでありつつも、隊員が毎年選出され、さまざまな分野のプロフェッショナルが集まり互いに協力して成果をめざすところに特徴がある。