災害時の労務管理!社員の賃金が振り込めなくなったら?

1 災害時でも労務管理は万全に

災害時は会社の事業継続が重要で、「労務管理」もその一環です。例えば、家族の治療や家屋の修理などでお金が必要なときに、賃金の支払いが滞ったら大変です。

この記事では、賃金支払い、労働時間管理などに区分けして「災害時の労務管理」の基本ルールを紹介します。労働基準法(以下「労基法」)などの定めが基準になりますが、

  • 災害時も平常時も変わらず適用されるルール(例:賃金は毎月1回以上、一定の期日に支払わなければならない)
  • 災害時のみ適用される特殊なルール(例:36協定によらずに社員に残業を命じられる)

があるので、その点に注意しながら確認してみてください。

2 賃金支払いのルール

1)口座振込ができなくなったらどうする?

労基法上、賃金は毎月1回以上、一定の期日に支払わなければなりません。これは災害時でも変わりません。また、社員が災害による治療などのために賃金の前払いを請求してきた場合、支払期日前でも、すでに働いた時間分については支払わなければなりません。

災害時は金融機関の機能停止などで、賃金を通常通りに支払えないこともありますが、

  • 支払い方法を一時的に「口座振込」から「手渡し」に切り替える
  • 手渡しも難しければ、金融機関の機能が回復したタイミングで、即座に賃金を支払う

などの対応をします。

また、社員本人と連絡が取れない間に、その家族が賃金の支払いを請求してくることもあります。本来、賃金は社員本人に支払わなければなりませんが、使者(本人に支払うのと同一の効果を生じさせる者)に対して賃金を支払うことは差し支えないとされています。ただ、緊急時に支払いの請求をしてきた者が使者かどうかを判別するのは困難な場合もあるので、まずは家族の身分や事情等を確認し、受領書を取得することを条件として支払うなど慎重に対応します。

大災害の場合には、社員が行方不明となる場合もあるかもしれません。その場合に、家族から支払額が高額になる退職金などの請求がされた場合は、社員が「失踪宣告」(生死不明の者を、法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度)を受けているのかを確認した上で支払うなど、慎重に対応します。

2)災害時も休業手当を支払う?

労基法上、「使用者の責に帰すべき事由」により休業する場合、会社は休業期間中、社員に平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければなりません。

使用者の責に帰すべき事由とは、簡単に言えば「会社都合」です。会社側に故意・過失があるケースよりも広く、不可抗力によるものは含まれない

とされています。休業が不可抗力によるものと認められれば、休業手当の支払いは不要ですが、そのためには次の2つの要件を満たす必要があります。

  • 休業の原因が外部により発生した事故である
  • 会社が通常の事業主として最大の注意を尽くしても、避けられないといえる事故である

例えば、建物が損壊して事業を行えない、計画停電により事業が行えないなどの理由で休業する場合、休業手当の支払いは不要になる可能性が高いです。

一方、オフィスに直接的な被害はないものの、道路が損壊し資材が届かないなどの理由で操業できずに休業する場合、判断が分かれます。日ごろの備蓄管理の状況、他の調達手段の可能性、災害発生からの期間などによって、休業手当の支払いが必要になる可能性があります。所轄の労働基準監督署に相談するなどして対応を検討してください。

3)賃金や休業手当の支払いが難しい場合は?

災害によって資金繰りが悪化し、賃金や休業手当の支払いが負担となる場合、「雇用調整助成金」を利用するとよいでしょう。

復旧に長い時間がかかる、交通インフラの問題で資材が手に入らないなど「経済的な理由」により休業せざるを得ない場合、会社が雇用保険の適用事業所であれば、雇用調整助成金が支給される可能性があります。使用者の責に帰すべき事由による休業でも、助成金の扱いは変わりません(助成を受けるためには所定の要件を満たす必要があります)。

中小企業の場合、原則として

  • 支給額は、休業手当負担額の3分の2(上限額あり)
  • 支給限度日数は、1年の間に最大100日、3年の間に最大150日

ですが、災害時は支給額や支給限度日数について特例措置が講じられることがあります。例えば、令和6年能登半島地震で事業活動の縮小を余儀なくされた中小企業については、

  • 支給額は、休業手当負担額の5分の4(上限額あり)
  • 支給限度日数は、1年の間に最大300日(「3年の間に最大150日」のルールは適用しない)

という措置が講じられています。詳細については、厚生労働省ウェブサイトをご確認ください。

■厚生労働省「雇用調整助成金」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07_20200515.html

3 労働時間管理のルール

1)災害時は36協定に関係なく残業を命じられる?

会社が社員に時間外労働等を命じるには、労基法第36条に基づく労使協定(通称「36協定」)の締結・届け出が必要です。

しかし、災害などの緊急事態で臨時に社員を働かせる必要がある場合、36協定の締結・届出とは関係なく必要の限度で残業(時間外労働や休日労働)を命じることができます。これを「災害時の時間外労働等」といいます。ただし、通常の残業と同様、休日・時間外・深夜の割増賃金の支払いは必要です。

災害時の時間外労働等の場合、会社は事前に所轄労働基準監督署に申請して、社員に残業を命じる許可をもらう必要があります。認められる基準は次の通りです。

  • 単に仕事が忙しいなど、経営上の理由だけでは認められない
  • 地震や津波、風水害、雪害、爆発、火災などの災害への対応、または急な病気への対応など、人の命や公共の利益を守るために必要な場合は認められる
  • 機械や設備が突然壊れて、それが修理されないと事業が運営できなくなるような場合や、システムがダウンしてそれを直さないと事業の運営が不可能であるような場合は認められる。ただし、平常時でも発生し得る部分的な修理や、定期的な保守点検の場合は認められない
  • 上の2.と3.の基準は、他の会社からの協力を求められた場合でも適用される。つまり、人の命や公共の利益を守るために協力が必要な場合や、協力しないと会社の運営ができなくなる場合は認められる

申請の際は、

  • (事前申請の場合)非常災害等の理由による労働時間延長・休日労働許可申請書
  • (事前申請ができない場合)非常災害等の理由による労働時間延長・休日労働届

に残業を命じる理由や社員数などを記入し、所轄労働基準監督署に提出します。原則は事前申請ですが、事態が逼迫している場合は事後に遅滞なく届け出ます。どちらの書類も厚生労働省ウェブサイト(下記URL中段)からダウンロードできます。

■厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudoukijunkankei.html

2)災害時は年少者や派遣社員にも残業を命じられる?

災害時の時間外労働等の場合、通常の残業の対象とならない、18歳未満の年少者や派遣元で36協定を締結していない派遣社員にも残業を命じられます。ただし、妊産婦については、本人が請求した場合、残業命令は出せません。

なお、派遣社員を残業させる場合、前述した所轄労働基準監督署への申請手続きは派遣先の会社が行います。その場合、前述した「非常災害等の理由による労働時間延長・休日労働許可申請書」などには、派遣社員を含む社員数を記入して提出します。

3)災害時の時間外労働等の時間数に上限はある?

災害時の時間外労働等には、労基法の「時間外労働の上限規制(時間外労働は月45時間以内、年360時間以内を原則とするなど)」は適用されません。ただし、厚生労働省は、過重労働などを防止する上で、「時間外労働を月45時間以内にすること」などの計らいが重要としています。

そもそも災害時は、家族が負傷したり家屋が損壊したりして、社員が強いストレスを抱えた状態で働くことが予想されます。残業を社員に命じる場合、社員の疲労の状態、生活の現状などにも配慮する必要があるでしょう。

4)災害時に社員が年休を申請してきたらどうする?

年休(年次有給休暇)は原則として、社員が指定した時季に与えなければなりません。ただし、指定した時季に年休を与えて事業の運営に支障が出る場合については、会社はその時季を変更することができます。これを「時季変更権の行使」といいます。

災害時は、復旧作業などで人手が必要なときに年休を取得されると、事業の運営に支障が出る恐れがあります。ですから、時季変更権の行使は比較的認められやすいと考えられます。

ただし、「災害により負傷した家族の看護」など、やむを得ない理由による年休取得の場合は慎重に判断したほうがよいでしょう。また、例えば、退職が近い社員で退職日までに有休を別の時季に変更できない場合は、時季変更権は行使できません。

どうしても災害時の復旧作業などで出勤してもらいたい場合は社員とよく話し合う必要があるでしょう。

4 労働災害や解雇のルール

1)災害による負傷は労働災害に当たる?

労働災害(以下「労災」)とは、業務上の事由による「業務災害」と、通勤による「通勤災害」のことです。震災や豪雨などの災害(自然災害)は、業務や通勤とは関係なく発生するので、これらによる負傷が労災に当たるのか、疑問に思うかもしれません。

結論から言うと、業務中や通勤途中の災害による負傷は、労災として認定されやすい傾向にあります。オフィスや通勤経路に被災しやすい事情(建物や道路の構造上の脆弱性など)があって、その危険が災害によって現実化したものと考えられるからです。

災害による負傷は労働災害に当たる?

2)災害を理由に解雇は可能?

災害によって経営環境が著しく悪化した場合、人員削減のために社員を解雇せざるを得なくなることがあります。こうした解雇はいわゆる「整理解雇」に当たります。

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は無効とされています。なかでも整理解雇は、社員に明確な落ち度がなくても行うことがあるため、特に厳しい判断がなされます。

「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である」かどうかを判断するに当たっては、次の整理解雇の4要素が重要な考慮要素となります。

  • 人員削減の必要性:人員削減措置が経営上の十分な必要性に基づいていること
  • 解雇回避努力義務の履行:配置転換・出向、希望退職者の募集等の手段によって、整理解雇を回避する努力を尽くしていること
  • 人選の合理性:被解雇者の選定にあたり、客観的で合理的な基準を設定し、公正に適用していること
  • 手続きの妥当性:対象社員や労働組合に対して整理解雇の必要性と時期、規模、方法等について説明、協議を行ったこと

過去には、これらを「4要件」として「どれか1つでも欠ければ整理解雇は無効である」と判断した裁判例がありますが、最近は「4要素」としてそれぞれの要素を総合的に考慮して、整理解雇の有効性を判断する傾向にあります。ただし、1つでも欠けると、その整理解雇は無効と判断されることが少なくありません。実務では、整理解雇は最後の選択肢として、まずは前述の雇用調整助成金などを活用して事業や雇用の継続を図る努力をするのが一般的と考えられています。

以上(2025年7月)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田絹助)

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画像:metamorworks-Adobe Stock

【朝礼】レトロゲームは「手作り感」満載だからこそホッとする

【ポイント】

  • レトロゲームは最近のゲームほど洗練されていないが、その「手作り感」にホッとする
  • AIの進化はすさまじいが、人間にしかできない仕事もまた存在する
  • 「便利なものは使いつつ、人にしかできないことも大切にしていくバランス感覚」が大切

おはようございます。今日は「コンピュータゲーム」をテーマに話をします。今や日本では毎月のように、新しいゲームソフトが発売され、今年の9月には東京でゲームの祭典「東京ゲームショウ2025」が開催されるなど、大きな盛り上がりを見せています。私は最近のゲームにはあまり詳しくありませんが、それでもテレビCMなどで、美しいグラフィックの世界を、3Dのキャラクターが縦横無尽に動き回る映像を見せられると、「ゲームの進化ってすごい!」と感じます。

一方、ここ数年ちょっとしたブームになっていたのが、昭和の時代に流行した、いわゆる「レトロゲーム」です。グラフィックのビットは粗く、奥行きのない平面の世界で、2Dのキャラクターを操作する。最近のゲームに比べると物足りないかもしれませんが、そんなレトロゲームに、昭和世代の大人だけでなく、若い人たちまでもが熱中するそうです。

考えてみれば、今はスマートフォンで何でもできるし、AIも出てきて、便利すぎるくらい便利な世の中になってきました。そんな世の中にあって、良い意味でそこまで洗練されていない、「人の手」を感じるものが存在することで、人々はその「手作り感」にホッとするのかもしれません。

最近はAIを使えば、文章も書けるし、絵も描けるし、計算も一瞬でやってくれます。「このままじゃ、いつか人の仕事はなくなるのでは……」と心配になるくらいの勢いです。しかし、AIにはできないこともあります。例えば、「この人、今日はちょっと元気ないな」「なんか空気がピリッとしているな」という場面に出くわした際、相手に合わせて言い回しを変える、気を利かせてフォローするなど、そういう細やかな温かみを見せるのは、やはり人間の仕事なのかなと思います。

私たちに必要なのは、「便利なものは使いつつ、人にしかできないことも大切にしていくバランス感覚」です。「レトロな温かさ」と「最新の便利さ」、両方をうまく使いこなせたら、もっとスムーズに、そして気持ち良く仕事ができるはずです。

今日も、ちょっとした気配りや丁寧さ、そんな、AIとはまた違う“あなたらしい仕事”を一つでも増やしていきましょう!

以上(2025年6月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

【管理会計】現金収支トントンの「キャッシュ・フロー分岐点売上高」で万全の資金繰り

1 現金収支トントンの売上高を意識する

利益はあるのに資金ショートで倒産してしまう「黒字倒産」。経営者なら知っている事象だと思いますが、

資金ショートを防ぐために、適宜、キャッシュ・フロー計算書を確認している経営者はどれほどいるでしょうか?

もし、損益計算書の売上や利益は確認しているものの、キャッシュ・フロー計算書を確認していないのなら、この記事を読んで「キャッシュ・フロー分岐点売上高」を意識してください。損益分岐点売上高が利益とトントン(ゼロ)になる売上高であるのに対し、キャッシュ・フロー分岐点売上高とは、

現金収支がトントンで、資金不足にならないために最低限必要な売上高

です。キャッシュ・フロー分岐点売上高は、

キャッシュ・フロー分岐点売上高=(固定費±費用修正)/限界利益率

で計算できます。この指標を確認すれば、御社の資金繰りが強化されます。

2 キャッシュ・フローの流出・流入のイメージをつかむ

営業活動によるキャッシュ・フロー(以下「営業CF」)がマイナスになったら、投資活動によるキャッシュ・フロー(以下「投資CF」)、または財務活動によるキャッシュ・フロー(以下「財務CF」)をプラスにして、全体のバランスを取らなければなりません。

  • 投資CF:有価証券や土地・建物などを売却すればプラス
  • 財務CF:借入、社債発行、株式発行などをすればプラス

とはいえ、売却できる資産には限りがありますし、融資や出資を受け続けることも難しいです。つまり、

営業CFがプラスでないと企業活動の継続は困難になるので、営業CFをプラスに保ち続けることが重要

になります。イメージしやすいように図で示します。営業CFの流入が多い場合と少ない場合では、次のように顕著な違いが生じます。

営業CFの流入が多い場合と少ない場合

3 キャッシュ・フロー分岐点売上高の計算

営業CFの流入と流出が同額になる売上高が、キャッシュ・フロー分岐点売上高です。その計算は損益分岐点売上高とほぼ同じです。

ここでは話を単純化するために、営業CFの流入と売上高を同額とします。また、費用と支出は同時に発生するものとしますが、減価償却資産の取得と減価償却費の計上のように、キャッシュの動きに大きなズレが生じる部分は修正します。

キャッシュ・フロー分岐点売上高の算出式は次の通りです。なお、限界利益率とは、売上高に占める限界利益(売上高−変動費)の割合です。

キャッシュ・フロー分岐点売上高=(固定費±費用修正)/限界利益率

費用修正では、支出しない費用をマイナスし、費用ではない支出をプラスします。分かりにくいかもしれませんが、具体的には次のような修正をします。

  • マイナスにする:減価償却費(支出しない費用)
  • プラスにする:借入金元本の返済額(費用ではない支出)

損益分岐点売上高とキャッシュ・フロー分岐点売上高の相違のイメージは次の通りです。利益を余剰キャッシュとしていますし、固定費もキャッシュの動きに合わせて修正している点がポイントです。

損益分岐点売上高とキャッシュ・フロー分岐点売上高の相違のイメージ

4 実際に計算してみよう

実際にキャッシュ・フロー分岐点売上高を計算してみましょう。条件は次の通りです。

  • 固定費:1億円。このうち減価償却費(支出を伴わない固定費)は3000万円
  • 変動費率:50%

この場合の損益分岐点売上高とキャッシュ・フロー分岐点売上高を計算してみましょう。まず損益分岐点売上高は、

2億円=1億円/(1-0.5)

となります。次にキャッシュ・フロー分岐点売上高は、

1億4000万円=(1億円-3000万円)/(1-0.5)

となります。計算の結果、損益分岐点売上高は2億円ですが、キャッシュ・フロー分岐点売上高は1億4000万円となりました。1億4000万円の売上高があれば収支トントンですが、これでは手元のキャッシュは0円のままです。そのため、再投資が必要な場合などは別途資金調達が必要です。

以上(2025年6月)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:photo-ac

自社に必要な「安全衛生管理体制」を一覧表で確認しよう!

1 あなたの会社に必要な担当者・委員会は?

労働安全衛生法により、会社には安全と衛生に関する施策を効果的に実施するための、「安全衛生管理体制」の構築が義務付けられています。選任すべき安全衛生の担当者(責任者・管理者)や安全衛生を審議する委員会は図表の通りです。なお、社員数は支店など事業場単位で常時雇用する人数です。

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以降で、各担当者・委員会の役割、選任・設置に必要な手続きなどを紹介します。なお、建設業については、図表の内容以外に特有の安全衛生管理体制のルールがありますので、次の記事でご確認ください。

2 安全衛生管理体制に関する担当者など

1)総括安全衛生管理者

1.主な職務安全管理者、衛生管理者などを指揮し、次の7つの事項を統括管理します。

  • 社員の危険・健康障害を防止するための措置に関すること
  • 社員の安全衛生教育の実施に関すること
  • 健康診断の実施等、健康の保持増進のための措置に関すること
  • 労働災害の原因の調査、再発防止対策に関すること
  • 安全衛生に関する方針の表明に関すること
  • 一定の業務または対象物の危険性・有害性等の調査、その結果に基づき講ずる措置に関すること
  • 安全衛生に関する計画の作成、実施、評価、改善に関すること

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

工場長や作業所長など、事業を実質的に統括管理する者が担当します。選任が必要な事由が発生(第1章の図表の要件に該当した場合、以下同じ)してから14日以内に選任し、遅滞なく所轄労働基準監督署長に報告します。

2)安全管理者

1.主な職務

総括安全衛生管理者が統括管理する事項のうち、安全に関する部分の管理を担当します。また、作業場等を巡視し、設備、作業方法等に問題があるときは、危険を防止するために必要な措置を講じます。

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

法が定める要件に該当する者で安全管理者選任時研修の修了者または労働安全コンサルタントのいずれかが担当します。選任が必要な事由が発生してから14日以内に選任し、遅滞なく所轄労働基準監督署長に報告します。

3)衛生管理者

1.主な職務

総括安全衛生管理者が統括管理する事項のうち、衛生に関する部分の管理を担当します。また、少なくとも毎週1回作業場等を巡視し、設備、作業方法、衛生状態に問題があるときは、社員の健康障害を防止するために必要な措置を講じます。

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

第一種衛生管理者免許、第二種衛生管理者免許、衛生工学衛生管理者免許の保有者、医師、歯科医師、労働衛生コンサルタントなどが担当します。選任が必要な事由が発生してから14日以内に選任し、遅滞なく所轄労働基準監督署長に報告します。

4)安全衛生推進者(衛生推進者)

1.主な職務

安全管理者・衛生管理者の選任義務がない事業場において、主に次の4つの職務を担当します。

  • 社員の危険・健康障害を防止するための措置に関すること
  • 社員の安全衛生教育の実施に関すること
  • 健康診断の実施等、健康の保持増進のための措置に関すること
  • 労働災害の原因の調査、再発防止対策に関すること
  • 安全衛生に関する方針の表明に関すること
  • 一定の業務又は対象物の危険性・有害性等の調査、その結果に基づき講ずる措置に関すること
  • 安全衛生に関する計画の作成、実施、評価、改善に関すること

次の業種に該当する会社は「安全衛生推進者」を、該当しない会社は「衛生推進者」を選任します。衛生推進者は、上の1.から7.のうち衛生に関する事項を担当します。

林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業、製造業(物の加工業を含む)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、自動車整備業、機械修理業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

安全衛生推進者(衛生推進者)養成講習の修了者、大学または高等専門学校卒業後に1年以上安全衛生の実務に従事している者などが担当します。選任が必要な事由が発生してから14日以内に選任しますが、所轄労働基準監督署長への報告は不要です。ただし、安全衛生推進者(衛生推進者)の氏名を、事業場の掲示板等に掲示して社員に周知する必要があります。

5)産業医

1.主な職務

社員の健康管理等について、主に次の4つの職務を担当します。

  • 社員の健康管理(健康診断、面接指導等の実施、その結果に基づく社員の健康保持のための措置、作業環境の維持管理、作業の管理等)に関すること
  • 社員の健康の保持増進(健康教育、健康相談等)に関すること
  • 労働衛生教育に関すること
  • 社員の健康障害の原因の調査および再発防止のための措置に関すること

また、作業場等を巡視し(原則として毎月1回以上(注))、作業方法または衛生状態に問題があるときは、社員の健康障害を防止するために必要な措置を講じます。この他、会社に対し、社員の健康管理等について必要なことがあれば勧告等を行います。

(注)事業者から産業医に所定の情報が毎月提供される場合に限り、2カ月に1回以上実施します。ただし、巡視の頻度を変更する場合は事業者の同意が必要となります。

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

医師であって、日本医師会の産業医学基礎研修や産業医科大学等の正規課程の修了者である者などが担当します。選任が必要な事由が発生してから14日以内に選任し、遅滞なく所轄労働基準監督署長に報告します。

6)作業主任者

1.主な職務

高圧室内作業など、労働災害を防止するための管理を必要とする危険・有害な作業に従事する社員を指揮等します。作業は31種類あり、下記URLから確認できます。

■厚生労働省「職場のあんぜんサイト(安全衛生キーワード(作業主任者))」■
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo34_1.html

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

対象となる作業ごとに、担当者になるために必要な免許や修了すべき講習などが決まっています。例えば、高圧室内作業の場合、高圧室内作業主任者免許の保有者が担当します。選任の時期については特に定めはありませんが、上記の作業をする場合には選任する必要があります。所轄労働基準監督署長への方向も不要です。ただし、作業主任者の氏名と職務の内容を、事業場の掲示板等に掲示して社員に周知する必要があります。

7)化学物質管理者

1.主な職務

リスクアセスメント対象物の製造、取り扱い、譲渡提供を行う事業場(社員数、業種を問わない)において、事業場の化学物質の管理を行います。

リスクアセスメント対象物とは、危険または健康障害が生ずるおそれのあるものとして労働安全衛生法において指定された物質こと

で、化学物質管理者はこれを管理するために次の職務を担当します。

  • ラベル・SDS等の確認
  • 化学物質に関わるリスクアセスメントの実施管理
  • リスクアセスメント結果に基づくばく露防止措置の選択、実施の管理
  • 化学物質の自律的な管理に関わる各種記録の作成・保存
  • 化学物質の自律的な管理に関わる労働者への周知、教育
  • ラベル・SDSの作成(リスクアセスメント対象物の製造を行う事業場の場合)
  • リスクアセスメント対象物による労働災害が発生した場合の対応
  • リスクアセスメントの結果の記録の作成および保存並びにその周知

なお、リスクアセスメント対象物の一覧は下記URLから確認できます。

■厚生労働省「職場のあんぜんサイト(表示・通知対象物質の一覧・検索)」■
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/gmsds640.html

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

リスクアセスメント対象物の製造を行う事業場の場合、化学物質管理者講習の修了者が担当します。製造を行わない事業場の場合、上記の職務を担当するために必要な能力を有する者であればよく、特に資格要件はありません。選任の時期については、選任すべき事由が発生した日から14日以内ですが、所轄労働基準監督署長への報告は不要です。ただし、化学物質管理者の氏名を事業場等に掲示して社員に周知する必要があります。

8)保護具着用管理責任者

1.主な職務

リスクアセスメント対象物の製造、取り扱い、譲渡提供を行う事業場(社員数、業種を問わない)において、社員に保護具(保護眼鏡、防じんマスク、手袋など)を使用させる場合、有効な保護具の選択、社員の使用状況の管理その他保護具の管理に関わる業務を担当します。

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

保護具に関する知識及び経験を有すると認められる者が担当します。選任の時期については、選任すべき事由が発生した日から14日以内ですが、所轄労働基準監督署長への報告は不要です。ただし、保護具着用管理責任者の氏名を事業場等に掲示して社員に周知する必要があります。

3 安全衛生管理体制に関する委員会

1)安全委員会

1.主な役割

次の事項について調査審議し、会社に対して意見を述べます。

  • 社員の危険防止のための基本対策に関すること
  • 労働災害の原因・再発防止対策で、安全に関すること
  • 安全に関する規程の作成に関すること
  • 一定の業務または対象物の危険性・有害性等の調査、その結果に基づき講ずる措置で、安全に関すること
  • 安全衛生に関する計画(安全に関する部分)の作成、実施、評価、改善に関すること
  • 安全教育の実施計画の作成に関すること
  • 行政から受けた命令、指示、勧告、指導のうち、社員の危険防止に関すること

委員会は毎月1回以上開催し、開催の都度、委員会における議事の概要を社員に周知します。なお、委員会の開催や社員への通知は、オンラインで実施することも可能です。

2.委員になれる者、選任時に必要な手続き

委員会は、次の1.から3.に該当する委員で構成し、1.の委員が議長を務めます。なお、委員の合計人数については特に定めがなく、会社が任意に決定できます。

  • 総括安全衛生管理者、事業の実施を統括管理する者等(1名)
  • 安全管理者
  • 安全に関し経験を有する社員

また、1.以外の委員については会社が選任しますが、そのうち半数については過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)の推薦に基づいて選任しなければなりません。なお、委員の選任に当たり、所轄労働基準監督署などへの届け出は不要です。

2)衛生委員会

1.主な役割

次の事項について調査審議し、会社に対して意見を述べます。なお、委員会の開催、社員への周知に関するルールは、安全委員会の場合と同じです。

  • 社員の健康障害防止のための基本対策に関すること
  • 社員の健康の保持増進のための基本対策に関すること
  • 労働災害の原因・再発防止対策で、衛生に関すること
  • 衛生に関する規程の作成に関すること
  • 危険性・有害性等の調査、その結果に基づき講ずる措置で、衛生に関すること
  • 安全衛生に関する計画(衛生に関する部分)の作成、実施、評価、改善に関すること
  • 衛生教育の実施計画の作成に関すること
  • 化学物質の有害性の調査、その結果に対する対策の樹立に関すること
  • 作業環境測定の結果、その結果の評価に基づく対策の樹立に関すること
  • 定期健康診断等の結果、その結果に対する対策の樹立に関すること
  • 社員の健康の保持増進を図るために必要な措置の実施計画の作成に関すること
  • 長時間労働による社員の健康障害の防止を図るための対策の樹立に関すること
  • 社員の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立に関すること
  • リスクアセスメント対象物のばく露の程度を低減するための措置に関すること
  • リスクアセスメント対象物のうち濃度基準値設定物質に当たる物質について、社員がばく露される程度を濃度基準値以下とするために講ずる措置に関すること
  • リスクアセスメント対象物について、リスクアセスメントの結果に基づき実施する健康診断の結果と、結果に基づく就業上の措置に関すること
  • 濃度基準値設定物質について、濃度基準値設定物質が濃度基準値を超え、社員がばく露した恐れがある場合に実施する健康診断の結果と、結果に基づく就業上の措置に関すること
  • 行政から受けた命令、指示、勧告、指導のうち、社員の健康障害防止に関すること
  • と17.に出てくる

濃度基準値設定物質とは、リスクアセスメント対象物のうち、ばく露量が濃度基準値(厚生労働省が定める濃度の基準値)以下なら健康障害を生じないとされている物質のこと
です。濃度基準値設定物質の基本的な考え方については、下記URLから確認できます。

■厚生労働省「労働者の健康障害を防止するため化学物質の濃度基準値とその適用方法などを定めました」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32871.html

2.委員になれる者、選任時に必要な手続き

委員会は、次の1.から4.に該当する委員で構成し、1.の委員が議長を務めます。なお、委員の合計人数については特に定めがなく、会社が任意に決定できます。なお、委員の選任に関するルールは、安全委員会の場合と同じです。また、安全委員会と衛生委員会の両方の設置義務がある会社は、2つの委員会をまとめて「安全衛生委員会」として設置することも可能です。

  • 総括安全衛生管理者、事業の実施を統括管理する者等(1名)
  • 衛生管理者
  • 産業医
  • 衛生に関し経験を有する社員

以上(2025年6月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田絹助)

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画像:boonchok-Adobe Stock

徳島から日本を変える起業家たち ― TIBリレーインタビュー ― Vol.1 尾崎大氏(価値基準.ヒト株式会社 代表取締役)

1 アントレプレナーシップを持つ徳島県人よ 徳島から日本を変えてやろう!世界を驚かそう!

このキャッチコピーを掲げ、様々なコンテンツを通して“起業家支援”を行う
徳島イノベーションベース、通称「TIB」。
TIBの大きな特徴は、

徳島新聞、四国放送、阿波銀行、徳島大正銀行、メディアドゥ(敬称略)の理事各社をはじめとする、地域の主要機関(行政・金融機関・メディア・教育)と連携して“地域一体型”で起業家支援を行っている

ということ。

TIBの会員

2020年の設立から5年を経て、総会員数は350名超。(2025年3月現在)
これまで、理事各社や主要機関による協力体制のもと様々な支援を行い、起業家の成長に繋げてきました。
TIBが、その“起業家の成長”の先に見据えているのは、徳島からイノベーションを起こし、日本を変えていくということ。
一見すると途方もないような目標にも思えますが、

この取り組みは、徳島だけに留まらず「〇〇イノベーションベース(xIB)」という形でTIBと同様の団体が全国各地に次々と発足。「IB」の数は今や全国20府県にも上り(立ち上げ準備中含)、その会員数は合計で1,300名規模

にまで広がっています。
そして、TIBはその起点として、全国各IBから模範とされる存在であり、「徳島から日本を変える」を現実のものとしてきています。

そんな唯一無二の“起業家支援団体”であるTIB。
その挑戦を支えるのは、ここに集う熱い志を持つ起業家たちです。

彼らはどのようなビジョンを描き、TIBを通じてどんな成長を遂げているのか?
本連載では、TIB会員の起業家たちにスポットを当て、彼らの事業はもちろん、TIBがもたらす影響、さらには彼らが抱く未来への想いに迫ります。
さらに、取材された会員が次のインタビュー相手を紹介する“リレー形式”を採用。これにより、TIB会員同士の繋がりや、絆の深さもお伝えしていきます。

記念すべき第1回でお話を伺ったのは、

第5期TIB運営委員長を務める 尾崎大氏(価値基準.ヒト株式会社 代表取締役)。

TIBのビジョンと同じ志を持つ彼が見つめる、組織の変遷と未来とは? そして、TIBが彼にもたらしたものとは…?
ここから始まる、徳島発・日本を変える起業家たちのストーリー。
ぜひ、ご一読ください!

2 事業について

私は、価値基準.ヒト株式会社という会社を経営しており、人事コンサルティング、HRの事業をしています。

価値基準.ヒト株式会社のメンバー

人事コンサルティングとは、企業の採用や人材育成、人事評価などをサポートするもので、弊社では、中でも「人材育成」に重きを置いています。
この人材育成の支援において、弊社では「強み診断」を活用しており、
「価値ヒト強み診断システム」という独自の個性分析システムを開発しました。
「強み診断」とは、さまざまな質問に答えることで、その人の強みや才能がわかる、というものなのですが、「価値ヒト強み診断システム」では、“スキル的な意味合いでの才能”というよりも、その人の思考特性にフォーカスしています。
人材育成、特に幹部育成においては、他者を育成する能力が求められますが、それには自己認識はもちろん他者認識や相互理解が必要なんですね。
例えば、

  • 『新規挑戦力』という「なんでもまずはやってみよう!」という思考特性のある上司
  • 『準備力』という、何かを始める時にまずはリスクを予測し、準備してから動く、という思考特性のある部下

 

がいたとして、上司が自分の考え方をそのまま部下に伝えても、思考特性が真逆であるためどうしても反発や衝突が起きやすいと思います。

そこで、それぞれの思考特性による衝突を避けるために、この「価値ヒト強み診断システム」を活用します。
いわば“仲間の取扱説明書”のようなもので、それを理解することで、円滑な組織運営、人材育成に繋げていく、というイメージですね。
こういった取り組みを評価していただき、2024年のニュービジネス支援賞にて、この「価値ヒト強み診断システム」が『ヒューマンリソース賞』を受賞することができました。

3 経歴や事業を始めるきっかけ

私が初めて起業したのは2004年、25歳の時でした。
当時から「徳島をもっと盛り上げたい」という想いがあり、地域に役立つ仕事として、高齢者向けの配食事業「ニコニコキッチン」を設立しました。30歳の頃に事業譲渡しましたが、別オーナーのもとで現在も営業を継続しています。

ニコニコキッチンのメンバー

そして、次に起業したのは、2012年。
29歳の時に、祖父、父が立て続けに亡くなり、家業がゴルフ場ということもあって遺産相続でとても苦労したのですが、1年がかりでなんとか10人の相続人をまとめ、無事解決に至りました。
この経験から、「自分のように相続で苦労する人を作りたくない」と思うようになり、相続のワンストップサービス「徳島相続相談プラザ」を設立。その後、2015年に『税理士法人徳島』に編入し、年間300人以上の相続相談を受けていました。

2016年には、税理士法人ひとざいの瀬嶋税理士と共に『株式会社ひとざい』を共同設立。さらに士業を中心とした有志のグループ『チームひとざい』を組成し、金融機関とも連携しながら、中小企業経営者のお困りごとの解決と、徳島相続相談プラザの運営を行っています。

チームひとざい

ひとざいビル外観

その後、2021年に税理士法人徳島内の社内ベンチャーとして、価値基準.ヒト株式会社を設立し、前述の人事コンサルティングの事業を行うようになりました。

4 なぜ「徳島をもっと盛り上げたい」?

起業からの経歴を話すと「なぜ昔から“徳島をもっと盛り上げたい”と思っていたのか」と聞かれることが多いのですが、実は「これ」という理由がないんです。
この「徳島をもっと盛り上げたい」という想いは、いわば鮭が本能で生まれた川に戻るようなもので、私にとってごく当たり前というか、あって当然のものなので…
これまでに4回起業をして、今と昔では違う事業を行っていますが、根底にあるこの想いはずっと変わっていません。
TIBに入会したのも、そういう想いがずっとあるからです。

5 “相続”から“人事”へ転身した理由

「相続でもめない世界」の実現のためには、ファイナンシャルプランナーとしての知識はもちろん必要ですが、結局そこに関わるのは“ヒト”なので、根本的な解決のために心理学や脳科学を学ぶようになりました。
その中で、ヒトに関わる仕事に強く惹かれ、人事コンサルティング業を主とするようになりました。

6 TIB入会のきっかけ

第4期TIB運営委員長である、松永好史さんの紹介がきっかけです。

松永好史さん

TIBの取り組みやビジョンを聞いた時「これはとんでもないことになる!!」と直感的に思ったのを今でも覚えています。
その衝撃からすぐに入会、そして運営にも携わるようになりました。
私にとって、TIB創設者である藤田恭嗣さん(株式会社メディアドゥ 代表取締役社長 CEO)の存在や影響は本当に大きく「徳島を懸けるなら藤田さんしかいない」と思っています。

藤田恭嗣さん(左)

私自身、もともと「徳島でいろんな人を巻き込んで熱量を高めていく」ような取り組みがしたいと考えていたのですが、TIBはまさにそれを体現できる場所ですね。

7 TIBの活動で印象に残っていること

たくさんありますが、中でも特に印象に残っているのは、2023年に木頭で開催された第38回月例会です。
会場となった木頭は、藤田さんの故郷でもあるのですが、藤田さんがどれだけこの木頭に想いを馳せているか、というのを肌で感じることができましたし、木頭の方々とも触れ合うことができました。
TIBの原点とも言える場所だと思うので、ここで感じたこと、触れたことは、私個人としても、TIBの運営委員としても、非常に大きなものとして心に残っています。

あとは、徳島の経営団体「四究会」と連携して2021年に開催した「地方経済未来会議LEC (Local Entrepreneur’s Creation)」。徳島から始まり、現在は全国各IBの持ち回りで毎年秋頃に開催されています。
地方の事業者と上場企業経営者が一同に介するイベントで、地方経済と上場の可能性を議論し、地方の事業者に上場を身近に感じる機会を提供、上場企業経営者には地方との繋がりを深める、という趣旨のものなのですが、

第1回LECでは、本会翌日にクローズドツアーとして「木頭ツアー」も開催されました。私も参加させていただき、BBQや川遊び、サウナなど、上場企業を経営する方々と、まさに“裸の付き合い”をすることができました。

学びや刺激も勿論大きかったのですが、それ以上に打ちのめされたといいますか…
上場企業経営者の方々と接する中で「目も鼻もついてない、何者でもない自分」であることを痛感し、自分の存在意義とは何なのだろう、と考えさせられました。

8 “ホンモノ”に触れられる環境だからこそ、成長できる

LECでの出来事は、今でも強く印象に残っているんですけど

なぜ「何者でもない自分」であることを痛感したかって、“ホンモノ”と触れることができたから

なんですね。

LECに限らず、“ホンモノ”と触れることは本当に重要だと思っていて、TIBはそれができる環境です。
例えば、

野球で甲子園に行きたくて、強豪校に入学したとして、強豪校の本気の練習ってやっぱりすごくキツイし辛いと思うんですけど、それでも成長したいから、死に物狂いでついていくわけじゃないですか。

そのイメージというか、

私がLECで自分の未熟さを痛感したように、やっぱり“ホンモノ”と触れることって、ある意味「キツイ」部分ではあるけど、だからこそ成長できるし、その環境に慣れて自分自身が成長していければキツさも少しずつ緩和されてくると思います。

ただ、こういった環境って、ほしくてもなかなかありませんよね。
上場企業やEO(年商一億円以上の経営者が所属する世界規模の起業家団体「Entrepreneurs’ Organization/起業家機構」)の経営者が、毎月徳島で講演を行ったり、一同に介して地域の事業者と交流したり、なんてTIB以外にはないと思います。
“ホンモノ”に触れ、唯一無二の異次元的な成長ができる場所、それがTIBです。

9 TIBの変化と成長

LECでの出来事は、今でも強く印象に残っているんですけど、

TIBは、私たち起業家が大きく成長できる唯一無二の場所であり、
その成長をもたらすために、TIB自体もまた常に成長し続けています。

私は、TIB会員として、そして運営委員としても約4年間携わってきたのですが、TIBはまるで生きもののように大きく成長し、変容してきました。

TIB第5期運営委員会メンバー

今でこそ“自分自身の成長”を目的として入会されているメンバーが多いのですが、以前は“徳島に貢献したい”という想いで入会する方が多く、
そのため、毎月全国の著名な経営者をお招きして講演していただいている月例会では、社会性のあるテーマが多かったですね。
それに対して現在の月例会は、どちらかというと実践的というか、より成長に直結するような設計になっています。

TIB第5期運営委員長就任後、初めて司会を行った月例会

特に、私が委員長に就任した第5期からは「TAV (Take Away Value)」といって、月例会で学んだこと、得たことを、グループ毎に発表する、という場を設けたのですが、

これにより、“ただインプットして帰る”のではなく、その場でアウトプットし、成長に繋げていけるような設計になりました。

このように、ずっと同じ形態を続けていくのではなく、成長し、進化し、そしてさらにその成長・進化に合わせて変化を重ねていく…
だからこそ、TIBは他にはない唯一無二の起業家支援が行えるのではないでしょうか。

10 TIBに成長をもたらしたもの

TIBは、地域の主要機関だけでなくEOとも密な連携を図っています。『フォーラム(IBF)』や『メンタリング』など、TIBが提供するコンテンツはEOのプログラムやメソッドをベースとしてはいますが、
実は設立初期、運営委員にEOメンバーは藤田さん以外にはいませんでした。

徳島から日本を変える団体を、徳島の小規模事業者が集まって作り上げる…
まさにゼロイチで、何もないところから皆で作ってきたものです。

最初はルールも何もなくて手探り状態でしたが、少しずつ形ができていき、そこから変化し、成長し続けているTIB。

この背景には、様々なものがありますが
『フォーラム』というコンテンツの存在が大きいのではないかと思っています。

『フォーラム』とは、経営者8名を1チームとし、毎月、経験や悩み、葛藤をシェアする場を設け、各々の成⻑の糧とする、というもので、
仕事に関することだけではなく、家庭や個人、と多面的に自分自身と向き合う機会でもあり、またそれをアウトプット、仲間と共有することで、 それぞれが自分自身の新たな側面や伸び代に気づくことができる、というコンテンツです。

このフォーラムで重要なのは「ピア・トゥ・ピア」というルール。

年齢はもちろん事業歴、売上や規模の大小などは関係なく全員が対等な関係であり、それを守るために“アドバイス”行為は禁止されています。

この「ピア・トゥ・ピア」の考え方は、運営においても非常に重要で、この文化があるからこそ、TIBはこれまで進化し続けられてきたのだと思います。

前述の、月例会にTAVを導入したこともそのひとつで

フォーラムで「ピア・トゥ・ピア」を学んだメンバーがたくさんいるからこそ、月例会というたくさんの人が参加する場でも、全員が対等に学びをシェアできる環境が構築できたのだと思います。

11 TIBの今までと、これから

2020年にスタートしたTIB。
月例会のテーマも、メンバーの目的も、運営の在り方も、大きく変化、成長してきました。

その変化や成長は、これまで築いてきた歴史や文化があったからこそのもので、TIBや私たち個々のメンバーが成長し続けるために、これからも引き継いでいかなければならないものだと強く感じています。

歴史や文化を継承し、それを基盤に成長し続けた先に

“徳島から日本を変える”

というTIBの目指す未来が存在するのだと思います。

TIBに携わる中で「この未来は必ず実現する」という確信は、どんどん強くなっています。
運営委員長としての役目は、2025年3月で一旦幕を下ろしますが、これからもTIBメンバーとして、そして徳島に生まれ育ち、愛するものとして、今後も“徳島から日本を変える”ために邁進していきたいですね。

12 今後の展望

「徳島のために」という想いのもとで、TIBも自身の事業も“起業家”として続けてきているわけですが、今後はそれだけではなく、徳島の政策にも関わっていきたいんです。
人事や経営の専門家として、自身の事業だけではなく、様々な支援機関を通してこれからの徳島の産業を支えていけたら、と考えています。
そういった活動を通して、聖火リレーのように、TIBからもらった熱い炎をもっとたくさんの人に繋いでいきたいですね。

13 読者へのメッセージ

この記事を読んでくださった方は、なんとなくTIBがどういうものかをイメージしていただけたのではないかと思いますが、実際のTIBは、今あなたが想像している何十倍、何百倍も熱い場所です。

TIBに興味を持ってくださった方も、そうじゃない方も、まずは一度月例会に来てみてください!

百聞は一見に如かず、“ホンモノ”に触れることがどれだけ成長に繋がるか、これは体感していただくのが1番だと思います。
TIBは必ず徳島から日本を変えていきます。ですが、それにはもっともっと仲間が必要です。

今これを読んでくれているあなたも、私たちと共に成長し、徳島を、そして日本を変えていきませんか?

14 次回のインタビューは…

私からバトンタッチするのは、

ひとざい投資104株式会社・代表取締役の岡本昌幸さん。

岡本昌幸さん

彼もまたTIB運営委員のメンバーで、誰よりも動き、汗をかいて、私を支えてくれている方で、心から信頼しています。
岡本さん、よろしくお願いします!!

PROFILE
尾崎 大(価値基準.ヒト株式会社 代表取締役)
人と組織の“らしさ”を活かす 人事・育成戦略パートナー。
採用・定着・マネジメント人材育成など、「人と組織の課題」を、仕組みとコミュニケーションの両面から支援。強み診断で“らしさ”を見える化し、組織の個性に合わせた人材戦略を構築。制度設計や現場浸透まで、実行力ある伴走支援を行っている。

『徳島から日本を変える起業家たち〜TIBリレーインタビュー〜vol.2』ひとざい投資104株式会社・代表取締役の岡本昌幸氏へのインタビューの更新もお楽しみに!
TIBのWEBサイト、SNSより更新のお知らせをご覧いただけます。
〈リンク〉
・WEBサイト:https://tibase.jp/

・Facebook:https://www.facebook.com/TokushimaInnovationBase

・Instagram:https://www.instagram.com/tib_tokushima/

以上(2025年6月作成)

画像:TIB

令和7年ブロック別セミナーのご案内

平素より格別のご愛顧を賜り、誠にありがとうございます。日頃のご支援に感謝の意を表すべく、とくぎんサクセスクラブ 令和7年ブロック別セミナーを以下のとおり開催いたします。
皆さまのビジネスに貢献できる情報提供や交流の場もご用意しております。ぜひこの機会にご参加いただき、さらなる発展への一助となれば幸いです。
各地区の詳細確認やお申し込みは、リンク先で行っていただけます。
※現時点での予定であり、変更となる可能性がございます

7月4日(金) 県西地区会員様交流会

県西地区会員様交流会

  • 時間:午後3時30分~午後7時(開場 午後3時)
  • 会場:セントラルホテル鴨島
  • 住所:吉野川市鴨島町鴨島471-2

お申し込みはこちらから!

7月9日(水) 県北地区会員様交流会

県北地区会員様交流会

  • 時間:午後3時30分~午後7時(開場 午後3時)
  • 会場:アオアヲナルトリゾート
  • 住所:鳴門市鳴門町土佐泊浦大毛16-45

お申し込みはこちらから!

7月15日(火) 今治地区会員様交流会

今治地区会員様交流会

  • 時間:午後3時30分~午後7時(開場 午後3時)
  • 会場:今治国際ホテル
  • 住所:今治市旭町2丁目3-4

お申し込みはこちらから!

7月25日(金) 徳島市内地区会員様交流会

徳島市内地区会員様交流会

  • 時間:午後3時30分~午後7時(開場 午後3時)
  • 会場:徳島グランヴィリオホテル
  • 住所:徳島市万代町3-5-1

お申し込みはこちらから!

8月22日(金) 淡路法人会第二回勉強会

淡路法人会第二回勉強会

  • 時間:午後3時30分~午後7時(開場 午後3時)
  • 会場:淡路インターナショナルホテル ザ・サンプラザ
  • 住所:兵庫県洲本市小路谷1279-13

お申し込みはこちらから!

8月29日(金) 関西地区会員様交流会

関西地区会員様交流会

  • 時間:午後3時30分~午後7時(開場 午後3時)
  • 会場:シェラトン都ホテル大阪
  • 住所:大阪市天王寺区上本町6-1-55

お申し込みはこちらから!

9月10日(水) 県南地区会員様交流会

県南地区会員様交流会

  • 時間:午後3時30分~午後7時(開場 午後3時)
  • 会場:ロイヤルガーデンホテル
  • 住所:阿南市富岡町あ王谷52-2

お申し込みはこちらから!

9月12日(金)高松地区会員様交流会

高松地区会員様交流会

  • 時間:午後3時30分~午後7時(開場 午後3時)
  • 会場:高松国際ホテル
  • 住所:高松市木太町2191-1

お申し込みはこちらから!

9月26日(金) 東京地区会員様交流会

高松地区会員様交流会

  • 時間:午後3時30分~午後7時(開場 午後3時)
  • 会場:明治記念館
  • 住所:東京都港区元赤坂2-2-23

お申し込みはこちらから!

【問合せ】
徳島大正銀行とくぎんサクセスクラブ事務局
088-656-1125

【財務会計】決算書から読み解く 自社の危険信号~初心者には難しい中級者向け

1 決算書などが示す危険信号を見逃さない

経営を取り巻く環境が急速に変化する中では、ともすれば事業が停滞し足元の資金繰りが苦しくなることもあります。そのようなときは、「とにかく行動する」ことも一つの正解ですが、判断のよりどころとして、きちっと自社の状態を分析したいものです。

そうした意味で、皆さんの会社の状態はどうでしょうか。この記事では、

決算書や月次試算表から読み解くことができる危険信号

を専門家が解説しますので、皆さんの会社の状態を確認し、必要に応じた対策を講じてください。

なお、この記事の対象は、会計監査人の設置義務がない(直近の期末時点で資本金5億円未満かつ負債総額200億円未満の会社)中小企業です。中小企業の会計に関する指針の適用対象外とされる「1.金融商品取引法の適用を受ける会社並びにその子会社及び関連会社」「2.会計監査人を設置する会社及びその子会社」を前提としていないことをあらかじめご了承ください。

2 自社の危険信号をつかむ6つのポイント

早速、自社の危険信号を確認するポイントを具体的にみていきましょう。決算書は過去3期分を準備して動きを把握し、月次試算表も直近から1~2年程度を確認することで、正確な判断ができます。

1)売上と仕入のタイミング

黒字倒産は、損益計算書(以下「PL」)では売上が増加していても、それに見合うキャッシュの回収が遅れ、売上に対する仕入支出も併せて増加することで残高がショートすることです。収入と支出のタイミング、金額(原価率)は資金計画表などを用いて丁寧に追う必要があります。収入と支出のタイミングを確認する指標に、売上債権回転期間と仕入債務回転期間があります。

  • 売上債権回転期間(日)=期末売上債権÷(年間売上高÷365日)…【売】
  • 仕入債務回転期間(日)=期末仕入債務÷(年間仕入高÷365日)…【仕】

過去と現在の【売】と【仕】の変化および原価率を確認し、次のいずれかのケースに該当する場合は、未来の残高について丁寧に確認しましょう。

  1. 【売】の短期化以上に【仕】の短期化が進んだ
  2. 【売】の長期化より【仕】の長期化が進まなかった
  3. 【売】と【仕】の変化に差はなかったが、原価率が上がった

また、収入が支出よりも先にくる企業は、キャッシュが先に厚くなります。そのため、売上が伸びているときは、キャッシュフロー計算書(以下「CF」)の営業キャッシュフローが大きくプラスになります。一方、業績の悪化などで急激に赤字に落ち込む場合、逆に営業キャッシュフローが大きく赤字になりやすく、収入後に適切にキャッシュを厚くしておかないと、支出時にショートしてしまう恐れがあるので要注意です。PLとキャッシュフローは異なるため、原価率だけで考えるのは非常に危険です。

なお、急激に赤字となった場合のPLとキャッシュフローの関係性(例)は次のようになります。

急激に赤字となった場合のPLとキャッシュフローの関係性(例)

2)減収時の固定費

売上の多い少ないにかかわらず常に発生する費用が固定費であり、主なものに正社員の給与や地代家賃などがあります。売上に対する固定費比率は売上減少時に高まり、資金繰りを圧迫します。地代オーナーに対する減免や繰り延べ交渉をはじめ、家賃に関する補助金や雇用に関する助成金等の利用も含めて、総合的に賄えているのかを丁寧に確認する必要があります。助成金関連は給付申請や入金タイミングがイレギュラーのため、月次試算表に反映して判断することが難しいケースが多いと考えられますが、会計入力とは別で試算して把握することが大切です。

3)純資産の部

将来の営業収支と併せて、純資産の部の数字は資金調達においてとても重要です。債務超過(純資産の部がマイナスになること)になってしまうと、融資条件が極端に悪くなるばかりか、既存の借り入れの契約条項にも抵触する恐れがあります。

また、税務会計(税金を正しく計算することを目的とした会計)の上ではプラスでも、財務会計(企業の財政状態と経営成績を利害関係者に報告することを目的とした会計)に引き直すと、固定資産や有価証券の減損評価(著しく価値が減少した資産について時価で計上し、一度に多額の損失を計上すること)によって、マイナスになることもあるため注意が必要です。

ここで検討すべき手段の一つとして、政府系金融機関が用意している資本性劣後ローン(メザニンローン)があります。通常の融資評価上では、負債ではなく純資産とみなされるため、利用することで純資産の部の改善が図れます。

4)製造から入金までの期間

キャッシュ・コンバージョン・サイクル(以下「CCC」:サービス開始日や製造日から、出荷日・入金日までの期間)が長い場合は、資金繰りへの影響が大きいので優先的に考える必要があります。特に、自然災害などで製造が一時的に停止するような場合、工場の再稼働から入金までの期間がもともと長いことと併せて、入金が本来見込んでいるスケジュールよりも遅延することが考えられます。CCCが普段よりも長期化していないかは丁寧に確認するべきでしょう。

なお、CCCは以下の算式で計算されます。

CCC=売上債権回転日数+棚卸資産回転日数-仕入債務回転日数

 ※売上債権回転日数:商品やサービスの販売から、入金があるまでの日数

 ※棚卸資産回転日数:仕入れた商品を販売するまでの日数

  計算式は期末棚卸資産÷(年間売上高÷365)です。

 ※仕入債務回転日数:商品の仕入から、代金を支払うまでの日数

5)固定資産・減価償却費

ビジネスにおいて用いる固定資産の割合が大きい会社(例:不動産業や製造業など)は、固定資産の増減の詳細を踏まえ、再投資の必要性や、投資支出から回収までの期間の見積もりを細かく検討する必要があります。

また、減損評価や過去に支出した投資の費用化である減価償却費は、費用計上時に支出が伴いませんが、純資産がマイナスとなるため注意が必要です。固定資産の中に急激に価値が下がりそうなものはないか、さらに、工場の建設など巨額の投資をした後の減価償却費の金額の推移には留意しておきましょう。

6)未払税金・未払社会保険

自然災害などの影響で、過去に無利子の納税猶予を受けた会社もあると思います。特に社会保険については、従業員から預かった分の納付を猶予することで負債は増えるものの、キャッシュフローを一時的に改善した会社もあるでしょう。

ただし、未払の延長は得策ではないと思います。可能な限り資金を工面して、税金の未払を早い段階で解消すべきです。

3 経営者が決算書を読む際に重要な2つの視点

以上、注意したい6つのポイントを紹介しました。さらに理解を深める上で重要な視点を2つ説明します。

1)未来のキャッシュについて

企業の存在意義は、経営理念や社是・社訓、ミッション・ビジョン・バリューなど、さまざまな形でその意義と具体的な方針が設計されていると思います。目指すべき方向性は千差万別ですが、キャッシュが途切れたら事業は継続できません。キャッシュは次の2つの視点で考えましょう。

1.キャッシュを不足させない

企業の血液とも呼べるキャッシュが尽きることは、事業活動を継続できないことを意味します。それは、たとえ決算が黒字でも、キャッシュが支払えずに倒産してしまうケース(黒字倒産)があるので、正しい資金調達手段を適切なタイミングで実行することが必要です。

2.未来の支出よりも、未来の収入のほうが大きいかどうか

黒字倒産の裏を返せば、赤字決算が続いても、キャッシュが尽きなければ事業活動を継続できます。ただ、未来に稼ぐと考えられる収入よりも支出が明らかに多いと判断される場合は、企業の価値が今より減衰していきます。株主の立場では、企業価値が減衰した時点で企業運営を終了させることが合理的といえます。もちろん現実的には、ステークホルダーである取引先や従業員、その家族の生活保障であったり、企業が生み出してきた価値の継承であったりと、考えなければならない事項が多くあることを忘れてはいけません。

2)決算書や試算表の作成根拠について

決算書は、企業活動を映し出した一覧表です。この決算書に記載された会計のルールは実は単一ではなく、企業によって異なります。このため、自社の決算書における会計が、どのようなルールで作成されているかを適切に把握しないと、誤った判断をしてしまう恐れがあります。

決算書で考える基本的な会計は、上記2-3)純資産の部で前述した通り、税務会計と財務会計の2種類です。大企業ではこれらを明確に分離して、それぞれの決算を組まなければなりません。中小企業では税務会計を基本とし、必要に応じて一部に財務会計を適用するような形式が取られています。そこで、自社の会計がどのようなルールで作成されているかを判断するために、「『中小企業の会計に関する指針』の適用に関するチェックリスト」が決算書の中にあればこちらを確認するとともに、顧問税理士にも確かめて現況を把握しましょう。

税務会計と財務会計で差が生じるものには、固定資産の減損、ソフトウエアの処理、引当金(資産除去債務)の計上、税効果会計の適用などが挙げられます。自社の会計が税務会計を基準としている場合、財務会計に照らすとこれらがどのように変わり得るのかを意識できると、より良い判断ができます。

また、附属明細書が作成されているかも確認しましょう。例えば、固定資産を確認する際は、附属明細書の固定資産増減明細が必要になります。もし作成されていない場合は、固定資産台帳で増減の総括を確認しましょう。

月次試算表については、決算書とは異なり決算整理仕訳が簡便になっているケースがほとんどです。売上原価の算出や減価償却費、未収未払は月次で入力されていないケースもあるので、月次試算表の締めがどの辺りまでされているかを顧問税理士に確認しましょう。

以上(2025年6月更新)
(執筆 KOSOパートナーズ合同会社 代表社員CEO 公認会計士 朝倉厳太郎)

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画像:Fariz Alikishibayov-shutterstock

【管理会計】戦略ごとに見る損益分岐点の活かし方

1 質問:ラーメン店はいくらの売り上げが必要か?

突然ですが、友人のAさんが独立して念願の夢であるラーメン店を開業することになりました。自己資金1000万円と銀行借入350万円で開業するとのこと。その他の条件は次の通りです(ここでは借入金の使途は考慮しません)。

  • 年間固定費:600万円(借入金の支払利息を含む)
  • 年間の元本返済額:70万円
  • 限界利益率:30%

Aさんからの質問は、

いくらの売上を上げれば利益がでるか?

ということです。単純に固定費の600万円と返済額の70万円だけに注目し、「670万円(600万円+70万円)を超えれば大丈夫」とアドバイスしたら大問題で、限界利益率(限界利益/売上高)に注目する必要があります。

まず、元本返済額は、キャッシュ・フローとして捉えます。例えば、税引前利益が100万円で法人税等の税率を30%とした場合、税引後利益は70万円(100万円-100万円×30%)となり、元本はこの70万円を含む手元にある資金から返済します。

従って、Aさんが銀行に返済する70万円を確保するには、税引後利益として70万円以上が必要です。そこでAさんに必要な売上高は次の通りです。

Aさんに必要な売上高

 ={固定費600万円+税引後利益70万円/(1-0.3)}/限界利益率30%

 =2334万円

ラーメン店の年間売上高が2334万円以上になれば、Aさんは借入金の元本返済に充てる資金を事業から得ることができます。

この利益を上げるのに必要な売上高を「損益分岐点売上高」といいます。損益分岐点売上高は、損益がトントンの売上高であり、これにとどまっているのでは不十分です。企業としては利益アップを図っていかなければなりません。以降で、基本的な利益アップ戦略や、応用的な事例を用いて管理会計的にどのように考えていけばよいのかを紹介します。

2 利益アップ戦略の管理会計的考え方

1)利益の仕組みから考えられる利益アップ戦略とは

早速ですが、利益(もうけ)とは、

限界利益(売上高-変動費)が固定費を上回ること

です。変動費と固定費とは、

  • 変動費:販売数量などに応じて増える材料費など
  • 固定費:販売数量に関係なく生じる人件費など

といったものです。

利益アップの戦略

利益アップのためには、限界利益アップ、固定費ダウンの2つの戦略が考えられます。限界利益アップ戦略は、さらに売上単価アップ戦略、売上数量アップ戦略、限界利益率アップ戦略の3つに分けられます。

2)限界利益アップ戦略

1.売上単価アップ戦略

Aさんの例で、売上単価アップ戦略について考えます。初年度の売上高は次の通りで、目標売上高には達しませんでした。

Aさんの初年度の売上高

そこで、平均単価を1割アップする売上単価アップ戦略を採用したとします。変動費率(70%)、売上数量(1万9500杯)に変化なしとして、売上高は次の通りとなります。売上単価1割アップにより、利益はマイナス15万円から43万5000円に増えます。

売上単価アップ戦略による売上高

2.売上数量アップ戦略

次に売上数量アップ戦略を採用して、売上数量が約15%アップの2万2425杯になった場合の売上高は次の通りとなり、借入金の元本が返済可能な利益72万7000円が確保できます。なお、ここでは法人税等を考慮しません。

売上数量アップ戦略による売上高

3.限界利益率アップ戦略

限界利益率アップ戦略を採用したら、売上高はどのようになるでしょうか。限界利益率アップは変動単価ダウン(低価格の原材料へ変更など)に他なりません。変動単価1割ダウンの場合は次の通りとなり、利益はマイナス15万円から121万5000円にアップします。

限界利益率アップ戦略による売上高

3)固定費ダウン戦略

固定費ダウン戦略(人件費や減価償却費、賃借料などの削減)を採用して、固定費が1割ダウンした場合、売上高は次の通りとなり、利益はマイナス15万円から45万円にアップします。

固定費ダウン戦略による売上高

3 応用事例1:どの商品がもうかるか

B社では、X、Y、Zの3種類の商品を販売しており、前年度の実績は次の通りです。どの商品が最ももうかり、重点を置いて販売したらよいかを考えてみましょう。

B社の前年度の実績

多品種の商品を仕入れ、あるいは製造している会社では、どれが最ももうかる商品であり、重点を置いて販売すべきであるかを決定する場合、それぞれの商品に固定費を何らかの基準で配賦した後の、利益の大きさを基準にしていることが多いようです。

図表を見てみると、利益はX商品が60万円、Y商品がマイナス10万円、Z商品が30万円となり、これらの商品のうち最も利益がある商品はX商品ということになります。

しかし、固定費は期間に対応して発生するもので、商品をどれだけ販売しても変わらないものです。従って、売上高から変動費を差し引いた限界利益の大きいY商品がもうかるということになります。

次に限界利益率に注目して、限界利益が同じならば限界利益率の大きい商品に力を入れます。B社では、X商品にまず重点を置き、次にY商品に力を入れて販売することになります。

4 応用事例2:赤字商品は中止すべきか

C社では、Y、Zの2種類の商品を製造販売しています。Y商品は常に赤字で、今後も現状のように推移すると予想されています。そこでC社の社長は、Y商品の製造を中止すべきか検討中です。中止すべきか否かを考えてみましょう。

C社の現状

Y商品の製造を中止した場合の採算は次の通りで、利益がマイナス160万円と悪化しています。

Y商品の製造を中止した場合の採算

これはY商品が負担していた固定費320万円が、Y商品の製造を中止しても発生するからです。Y商品の製造を中止しても固定費は変わらないのに、Y商品の限界利益300万円がなくなったため、300万円の利益減になります。従って、限界利益がプラスならば、製造を中止すべきではありません。

5 応用事例3:赤字受注をするかどうか

D社は、次の原価資料にある通り、すでにY、Z商品を1台ずつ販売しているとき、新たにZ商品について1台190万円で注文がありました。

Z商品の原価は210万円(変動費175万円+固定費35万円)なので、追加のZ商品のみ精算する場合、赤字となります。しかし、自社の人員・設備に余力があります。これを受注しても値崩れの心配がない場合、受注すべきか否かを考えてみましょう。

D社の原価資料

Z商品を1個追加受注しても会社全体の固定費の合計は85万円で同じです。Z商品1個を190万円で追加受注しても、増加する費用は変動費の175万円だけです。そのため、会社全体では利益が15万円増加します。従って、受注したほうが有利となります。

Z商品を追加受注した場合の原価資料

赤字受注に対する考え方は一様ではありません。赤字受注はその商品単体で製造の継続か中止かを判断するのではなく、会社全体の損益を考慮して決定すべきでしょう。

また、赤字商品でも生産量が増加すれば黒字転換できるものもあります。ただし、見込み通りに受注が伸びない場合には、生産を継続すれば赤字を生むだけなので、生産を中止しなければなりません。大切なのは生産を中止する時期の見極めです。

以上(2025年6月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:tiquitaca-Adobe Stock

増税時代に突入? 退職金課税制度の行方を追う

1 再燃した退職金制度の見直し議論

2025年の年末に一旦先送りとなった退職所得課税の見直しですが、年明け早々に2026年度の税制改正での議論が再燃する可能性が示唆され、今後の動向には一層の注意が必要です。

どのような見直しになるかはまだ決まっていませんが、報道などによると、

勤続年数が20年を超えると増加する退職所得控除が減額され、社員の退職金の手取りが少なくなる

といった見直しの可能性がありそうです。

現状の退職金課税制度は、

  1. 退職所得控除
  2. 2分の1課税
  3. 分離課税

という3つの税負担を軽くする要素が組み込まれています。このうち、いずれかの要素(特に退職所得控除)に改正が入ると見込まれています。夏に行われる参議院選挙や、年末の2026年度の税制改正の時期には退職金制度に関する情報が耳に入ってくると思います。

退職金は、自社の資金繰りのみならず、社員の人生設計など影響は多岐にわたります。

退職金課税制度の現状を知り、その先を見越して退職金制度の見直しを検討する

ことも必要になるかもしれません。

2 税金的に優遇されている退職金課税

1)退職所得控除

退職所得控除は、

入社後、勤続20年までは40万円が控除額として1年ごとに積み上がり、21年目以降について1年ごとの控除額が70万円になる

というものです。なお、退職金の支払形態は、退職金を一括で支払う「退職一時金」、年金形式で支払う「退職年金(企業年金)」に分けられますが、退職所得控除は退職一時金に適用されます。

退職所得控除のイメージ図

計算式は、次の通りです。

  • 勤続20年まで:40万円×勤続年数
  • 勤続21年目以降:40万円×20年+70万円×(勤続年数-20年)

例えば、勤続20年で退職した場合は800万円(40万円×20年)が非課税となり、勤続22年の場合には940万円(40万円×20年+70万円×2年)が非課税となります。

現時点では具体的な方針は決まっていませんが、報道などでは

  • 21年目以降に控除額を70万円(図表内の青い部分)に拡大する仕組みを改める
  • 勤続1年ごとの控除額を、勤続年数に関係なく一律とすることで、21年目以降拡大される控除額(70万円)を引き下げる
  • 見直しが決まった場合には、すぐに実施されるわけではなく、10~15年程度の経過措置の期間を設ける

などの改正が入るのではないかとされています。

2)2分の1課税

2分の1課税は、

受け取った退職金(退職一時金)のうち、退職所得控除を超えた金額の2分の1に対してだけ課税がされる

というものです。なお、勤続年数が5年以下の社員ついては、退職所得控除を超えた金額の300万円までは2分の1課税となるものの、300万円を超える部分については、2分の1課税は適用されません。また、役員としての勤続年数が5年以下の役員が受け取る役員退職金については、退職所得控除を超えた金額の全額が2分の1課税の対象外となります。

2分の1課税のイメージ図

計算式は、次の通りです。

課税される退職金の額=(受け取った退職金-上記の退職所得控除額)÷2分の1

例えば、勤続20年で退職し退職金が1000万円の場合は、(1000万-退職所得金額800万円)×2分の1=100万円が課税対象の退職所得となります。

3)分離課税

分離課税は、

役員報酬や給与など他の所得とは合算せずに所得税を計算する

というものです。つまり、退職金(退職一時金)を支払った場合、その額だけを基に所得税が計算されます。

所得税は「累進課税」といって、金額が大きくなればなるほど税率が高くなる仕組みなので、他の所得と合算して金額が大きくなると、その分高い税率が適用されてしまいます。そのため、高額になりやすい退職金については、他の所得と分離することで、退職した年に税率が急激に上がらないようになっています。

3 自社に合った退職金制度の見直しの検討を始めておこう

長年自社のために働いていてくれた勤続年数の長い社員に不利な改正があった場合、どのような対応が考えられるのでしょうか。

主な退職金制度の見直しとして、

  1. 退職金制度を廃止して賃金に上乗せする方法
  2. 支払形態を退職一時金から退職年金に変更する方法

があります。「改正が決まったとしても、10年から15年程度の経過措置の期間を設ける」との報道もあるので、焦って対応を決める必要はないと思われますが、もしもの場合に備えてさまざまなカードを用意しておくことは大切です。自社の資金状況や社員の生活環境などを把握した上で、自社に合った対応を検討しておきましょう。

1)退職金制度を廃止して賃金に上乗せする方法

退職金制度を廃止し、退職一時金として支払うはずだった分の額を毎月の賃金に上乗せすれば、退職所得控除に関する改正の影響を回避できる可能性があります。ただし、賃金が増えると、標準報酬月額が変動して毎月の社会保険料が増加することがあるので注意が必要です。

退職金制度を廃止して賃金に上乗せする場合、

各社員から合意を得た上で就業規則を変更し、退職金制度を廃止して、現時点の退職金相当額を支給(打切支給)

します。就業規則は本来、変更内容が合理的であれば各社員から合意を得なくても変更できます(社員の代表からの意見聴取は必要)が、退職金は社員の生活に関わる重要な問題なので、個別の合意を得るのが望ましいです。なお、どちらの方法を取る場合も、就業規則の変更内容(退職金制度の廃止時期、打切支給の内容、賃上げでの補填など)については、事前にしっかり社員に説明し、トラブルにならないよう注意する必要があります。

さらに、打ち切り支給に伴う資金繰りへの影響の度合いもしっかり認識しなければなりません。退職金制度の廃止後には、退職給付にかかる費用(引当金繰入額や掛け金)を現金給与額に回すことで賃上げを行います。なお、現時点で退職が近い社員などがいる場合、廃止時期については慎重な判断が求められます。

2)支払形態を退職一時金から退職年金に変更する方法

退職一時金には退職所得控除が適用されますが、退職年金として年金形式で支払う場合、雑所得となり公的年金等控除が適用されます。

支払形態を退職一時金から退職年金に変更する場合、

各社員から合意を得た上で就業規則を変更し、現時点の退職金相当額を確定拠出年金などの退職年金制度に移行

します。就業規則の変更のポイントは、1)と同じです。なお、退職年金については、例えば「退職一時金は退職時に受け取れるが、確定拠出年金は原則60歳にならないと受け取れない」など、社員にとってのデメリットもあるので、制度の違いは事前に説明しておく必要があります。

この場合も、社員の理解に加え、移行に伴う現時点の退職金相当額の支払いがもたらす資金繰りへの影響度合いもしっかり認識しなければなりません。また、退職年金は年金形式で支払うのが一般的ですが、例えば確定拠出年金制度では規約の規定により、社員自身が資産の運用先を決めるとともに、受け取り方を次の3つから選択できます。

  1. 年金
  2. 一時金
  3. 年金と一時金の組み合わせ

一時金として受け取る場合には退職所得とみなされるため、退職所得控除の対象になります。制度移行の場合は、今回の改正動向も含めた投資・運用教育が必要になります。

以上(2025年6月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:ELUTAS-Adobe Stock

メンタルヘルス対策は万全? 中小企業におけるメンタルヘルス対策の重要性

社員がメンタルヘルス不調に陥ると、離職や生産性の低下につながりかねず、企業の法的責任が問われる事態に発展する可能性もあります。また、社員個人にとっても、治療が長期化しやすく、再発率が高いことから社会復帰の難しさにつながる等、労使ともに深刻な影響が考えられることから、メンタルヘルス対策は企業の喫緊の課題として重要性を増しています。

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