目次
2026年10月から、改正労働施策総合推進法等の施行により、
- 顧客等によるカスタマーハラスメント(カスハラ)
- 就職活動中の学生やインターンシップ参加者に対するハラスメント(就活セクハラなど)
の防止措置が、中小企業を含むすべての事業主に義務付けられます。すでに全企業へ適用されているパワーハラスメント(パワハラ)、セクシュアルハラスメント(セクハラ)、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの防止措置義務に新法令が加わることで、ハラスメント相談窓口が担う実務範囲と対応責任は飛躍的に拡大します。
この記事では、ハラスメント相談窓口の担当者が現場で直面する具体的な場面や、相談者からの問いかけに対する適切な対応方法を、Q&A形式で整理します。Q&Aは全部で50問です。
1 2026年10月法改正対応と相談窓口の統合運用
Q1:改めて「ハラスメント相談窓口」とは?
相談窓口は、ハラスメントに関する相談や苦情を受け止め、被害が広がるのを防ぐための窓口です。単に話を聞くだけでなく、その後の事実確認や事後対応まで含めて担う、一連の流れの入り口にあたります。
担当者には、人事労務や法務の社員、管理職などが選ばれることが多いです。相談者が性別によって話しにくさを感じることもあるため、できれば男女それぞれの担当者を置いておきたいところです。また、社内の人材だけで対応する「内部相談窓口」に加えて、弁護士事務所やコンサルタントに委託する「外部相談窓口」を併設している会社もあります。
Q2:相談の対象となるハラスメントは?
相談の対象になるのは、法令で防止措置が義務付けられている主要なハラスメント(パワハラ、セクハラ、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント)です。いずれも会社の防止措置が義務付けられており、相談窓口はその中核を担います。2026年10月1日からは、これにカスタマーハラスメント(カスハラ)と就活生等へのハラスメントも加わり、相談窓口が扱う範囲はさらに広がります。
相談者から「これって完全にパワハラですよね?」と同意を求められることもありますが、窓口担当者が受付の時点でどのハラスメントに当たるか、そもそも該当するかどうかを決めつける必要はありません。「お話を伺った限り、大変つらい思いをされたのだとよく分かりました。ハラスメントに当たるかどうかは、この後しっかり事実関係を確認した上で判断させてください」といった形で、まずは受け止めることを優先します。
Q3:相談窓口に相談が寄せられた場合の対応の全体像は?
相談が寄せられたら、「相談者→第三者(目撃者等)→行為者」の順に話を聞き、ハラスメントの事実があったかどうかを確認していきます(これを事実確認と呼びます)。早く白黒つけようと焦らず、じっくり進めることが大切です。相談者の話だけでなく、証拠や目撃者の有無、行為者の言い分も含めて、多角的に事実を積み上げていきます。
事実確認の結果ハラスメントがあったと判断されれば、行為者の処分の検討、被害者と行為者を引き離すなどのケア、そして再発防止策の実施へと進みます。事実が確認できなかった場合も、そこで対応を打ち切らず、相談者・行為者双方に丁寧に説明することが求められます。窓口担当者は、特に、受付・ヒアリング・事実確認の部分を中心的に担います。
Q4:社員以外への相談対応はどうなる?
ハラスメント防止措置の対象は、自社の社員からの相談だけではありません。会社が取引するフリーランス(従業員を使わない個人事業主等)に対しても、社員と同じようにハラスメント防止措置を講じる義務があります(2024年11月1日から義務化)。また、2026年10月1日からは、就職活動中の学生やインターンシップ参加者からの「就活セクハラ」の相談にも、社員と同じように対応することが義務付けられます。
対応の基本的な流れ(受付、ヒアリング、事実確認)は社員への対応と変わりません。行為者が自社の社員であれば懲戒処分を検討し、相手側(フリーランスや学生)に対しては、選考上の不利益がないことを保証したり、心身のケアを行ったりすることが中心になります。
Q5:派遣社員からの相談は、自社(派遣先)と派遣元、どちらが受け付ければよい?
派遣社員に対しては、派遣先・派遣元の両方にハラスメント防止措置義務があります。ですから、「うちは派遣先だから」「うちは派遣元だから」と相談を断ることはできません。相談を受けた側が、まず窓口としてしっかり受け止めるのが原則です。
自社が派遣先として相談を受けたときは、本人の同意を得た上で派遣元にも連絡し、双方で協力しながら事実関係を調べていきます。自社が派遣元として相談を受けたときも同様に、派遣先のハラスメント相談窓口や人事担当者と連携します。事実が確認できたら、行為者が所属する側の会社が中心となって、行為者への措置や、派遣社員の就労環境の改善(配置の見直し等)を進めます。
2 相談受付・初期ヒアリングの実務テクニック
Q6:相談を受ける際に、必ず守るべき基本姿勢は?
担当者は一貫して中立的な立場を保ち、相談者・行為者のどちらにも肩入れしないことが大前提です。話を聞く中で「あなたにも隙があったのでは?」といった詮索や、「それはハラスメントに当たると思います」というその場での評価は避けます。相談者が安心して話せるよう、まずはしっかり受け止める姿勢を大切にしてください。
セクハラの相談では羞恥心を伴うことも多いため、できれば相談者と同性の担当者が話を聞くようにします。また、相談者は「行為者に仕返しされるのでは」と不安を抱いていることが多いので、「相談したことで不利益を受けることはありません」「行為者には勝手に接触しないよう伝えます」とはっきり伝えておくと安心してもらいやすくなります。
Q7:相談者が興奮して感情的になり、「今すぐ加害者をクビにして処分してください!」と要求してきた場合、どう切り返せばよい?
まずは相談者の怒りや苦しさに共感しつつ、処分を決めるには公平な事実確認が必要であることを、落ち着いて伝えます。
「つらい思いをされて、強い憤りを感じられるのは当然だと思います。いただいたお気持ちはしっかり受け止めます」と気持ちを受け止めた上で、「会社としては、就業規則に基づいて双方から客観的に事実確認を行い、その上で公平に処分や措置を決めることになっています。まずは詳しくお話を聞かせてください」と説明し、その場で約束するのは避けながらヒアリングへとつなげます。
Q8:相談者が「相談したことを上司や同僚、加害者には絶対秘密にしてほしい。調査もしないでほしい」と言ってきた場合、どう対応すればよい?
相談者の気持ちを尊重しつつ、調査をしない場合のリスクや、安全確保のためには最低限の情報共有が必要になることを伝えます。中小企業では担当者が1人で抱え込んでしまいがちですが、「経営陣の誰まで共有するか」を事前にルール化しておくことも大切です。
「お気持ちはよく分かります。ご本人の同意なく、勝手にお相手へ聞き取りを行うことはありません」と安心してもらった上で、「ただ、事実確認をしないとお相手への指導や環境の改善が難しくなってしまいます。どの範囲なら共有してよいか、一緒に考えさせてください」と話し合い、段階的な共有(まずは窓口と責任者のみで共有する、名前を伏せて注意するなど)について合意を目指します。
Q9:相談記録を作成する際、「客観的事実」と「相談者の主観・感情」をどのように書き分ければよい?
相談記録(ヒアリングシート)は、後で第三者が読んでもすぐに区別できるよう、見出しや書き方を分けて記録します。
客観的事実は「誰が、いつ、どこで、どのような発言・行動をしたか」を、なるべくそのまま(かぎかっこを使うなどして)記載します。相談者の主観・感情は、「相談者の受け止め・感情」として別に書き分けます。

Q10:相談者が「録音データを持っています」と言ってきた場合、窓口担当者はどのように確認・取り扱えばよい?
録音データは客観的な証拠としてとても貴重なので、提示は歓迎し、取り扱いや秘密保持について説明した上で受け取ります。
「貴重な資料をありがとうございます。事実を正確に確認するのにとても役立ちます。このデータは厳重に保管し、調査以外の目的には使いません」と伝えた上で、該当箇所のタイムスタンプ(何分何秒あたりの発言か)や前後の会話の流れを確認します。データは、アクセスを制限したフォルダで保管します。
Q11:相談者が「メモやメールなどの証拠は何もありません。私の話だけです」と言った場合、ヒアリングはどう進めればよい?
物的な証拠がなくても、そこで相談を打ち切らず、相談者の記憶をもとに具体的な状況(周りの様子や第三者の存在など)を丁寧に掘り下げていきます。
「証拠がないからといって、調査ができないわけではありません」と伝えた上で、いつ・どこで何があったか、周囲に同僚や目撃者はいなかったか、直後に誰かに相談していないか(LINEの履歴や日記、通院歴なども含め)、言動の頻度や様子はどうだったかを、具体的に聞いていきます。こうした間接的な状況証拠の積み重ねだけでも、事実認定につながることがあります。
Q12:面談の終盤で、相談者に対して「今後の進め方」を説明する際、必ず伝えるべきポイントは?
必ず伝えたいのは、「秘密保持と共有範囲」「不利益取扱いの禁止」「今後のスケジュール」、そして「当面の接触回避策」です。
「本日伺った内容は厳重に管理し、調査に必要な最小限の担当者以外には開示しません。相談されたことで不利益を受けることも一切ありません。調査が終わり次第、方針を検討してご連絡します」と伝えます。中小企業ですぐの配置転換が難しい場合でも、「一時的な席の移動やテレワーク、業務連絡をチャット経由にするなど、無理なく働ける環境を一緒に考えましょう」と添えると安心感につながります。
3 事実調査・ヒアリング・事実認定・証拠精査の実務
Q13:事実確認を行う際に、まず心がけるべき大原則は?
早く白黒つけようと焦らないことです。調査不足はそのまま事実誤認につながり、後々の対応(処分など)を誤る原因になります。「相談者→第三者→行為者」の順で、じっくり時間をかけて事実を積み上げていく姿勢を大切にしてください。
また、担当者は一貫して中立的な立場を保ち、相談者・行為者のどちらにも肩入れしないことが欠かせません。興味本位の質問や、「あなたにも隙があったのでは」といった発言、その場での評価は避けます。ヒアリング事項はあらかじめリスト化しておき、聞き漏れを防ぎましょう。また、中小企業では関係者が近いため、担当者が1人で悩まず、面談担当者の人数・人選の検討や秘密を守れる相談役(外部専門家等)をあらかじめ確保しておくことも大切です。
Q14:加害者(行為者とされる者)へヒアリングを行う際、最初に伝えるべき冒頭の法的・手続的注意事項は?
「決めつけて調査しているわけではない」という中立性をまず伝え、その上で弁明の機会があること、内容の秘密は守られること、報復行為は禁止であることを伝えます。
「今日お越しいただいたのは、〇〇さんを犯人扱いするためではありません。相談が寄せられたので、会社として中立な立場で事実関係を確認し、〇〇さんの言い分もしっかりお聞きしたいと思っています。この内容が外に漏れることはありません。なお、相談者や関係者に接触したり、問いただしたりすることは禁止されていて、それ自体が懲戒の対象になりますのでご注意ください」と伝えます。
Q15:相談者と行為者の主張が真っ向から対立している場合、第三者(同僚・目撃者)へのヒアリングはどう進めればよい?
少人数の職場では、周囲に聞き取りをしただけで誰が相談したか特定されやすいため、事前に相談者へ「周囲に確認すると特定される恐れがあるが調査を進めてよいか」を必ず確認・合意します。
実施する際は、「〇〇さんから相談があった」とは言わず、「〇月頃の会議の雰囲気や発言で覚えていることがあれば教えてほしい」と客観的な状況確認の形で聞きます。
Q16:行為者が「弁護士を同席させたい」「面談を録音したい」と主張してきた場合、窓口担当者の判断は?
弁護士の同席は、本人の生の供述を直接確認する社内の事実確認手続きであるため、原則として断って差し支えありません。一方、面談の録音については、そもそも面談担当者としては、言った・言わないの争いを防ぐため、録音を行うことが通常です。そのため、行為者が録音したいと申し出た場合には、双方が録音することで問題ありません。
「事実関係を直接お聞きする社内調査ですので、ご本人から伺います」と説明し、録音を認める場合は「記録の正確性を担保するため、双方合意のもと全体を録音しデータを保管する」旨を伝えて実施します。
Q17:メールやLINEのスクリーンショット、録音データなどを証拠として採用する際の「証拠能力の精査基準」は?
「作成・送信日時が特定できるか(加工されていないか)」「前後の文脈が省かれていないか」「言動の内容そのもの」の3点を確認します。
実際の発言部分のスクリーンショットだけでは前後の文脈が分からないことも多いため、前後のやり取り・文脈も含めたスクリーンショットやまとまったテキストデータの提示をお願いします。録音データについても、前後の会話まで含めて確認し、相談者側が相手を誘導・挑発して言わせた発言ではないかも、客観的に見ていきます。
Q18:行為者がヒアリングで「記憶にない」「そんなことは言っていない」と全面否定した場合の追及手法は?
「言った・言わない」の水掛け論を避け、周辺の客観的な事実(日時、場所、同席者、その後のメールのやり取りなど)を1つずつ確認していきます。
「〇月〇日15時からの打ち合わせ自体はありましたか?」「そのとき、〇〇さんの進捗について話しましたか?」「その直後に相談者から〇〇というメールが届いていますが、心当たりはありますか?」というように、具体的な事実を積み重ねていくと、「言ったかもしれない」「そういうつもりではなかった」と話が変わってくることも少なくありません。
また、明らかに客観的証拠と異なる弁解をする場合には、一通り弁解を聞いたうえで、客観的証拠を提示することも考えられます。
Q19:ハラスメントの事実認定において「グレーゾーン(ハラスメントと断定も否定もできない状態)」となった場合の判断基準は?
「ハラスメントと断定するだけの証拠はないが、業務指導や配慮の面で行き過ぎた点があった」という形で結論をまとめ、懲戒には至らない範囲での指導や環境改善を行います。
白黒つかない場合でも、そのまま放置してはいけません。行為者には「ハラスメントとまでは認定していませんが、相手に誤解や苦痛を与えてしまった以上、今後は言動に気をつけてください」と伝え、相談者には「はっきりした認定には至りませんでしたが、つらい思いをされたことは受け止めていますので、職場の環境は調整していきます」と伝えます。
4 事後措置・処分・二次被害防止・データ管理・窓口運用
Q20:行為者の処分と被害者のケアを行う際の基本方針は?
行為者の処分については、行為の内容と処分の重さが釣り合っているかを意識します。重すぎる処分は無効と判断される恐れもあるため、悪質性や過去の指導歴を踏まえて慎重に決めます。
被害者ケアでは接触を避ける環境調整が基本です。配置転換は被害者に不利益感を抱かせないよう「行為者側を動かす」のが原則ですが、被害者本人が強く希望する場合は本人の意向を尊重します。中小企業で部署異動が難しい場合は、席の配置変更、パーテーションの設置、テレワークの導入、業務連絡をチャット・メールに限定するといった現実的な接触回避策を講じます。
Q21:調査の結果「ハラスメントの事実が確認できなかった(不認定)」場合、相談者と行為者双方にどう説明・フォローすればよい?
相談者を責めるようなことはせず、不安を解消できるよう配慮しつつ、行為者にも疑いが晴れたことを伝えながら、今後の言動への配慮を促します。
相談者には、「慎重に調査を行いましたが、ハラスメントと客観的に認定するだけの証拠は得られませんでした。ただ、つらいお気持ちで相談してくださったこと自体は真摯に受け止めています。今後も職場の環境には気を配ります」と伝えます。行為者には、「ハラスメントの事実は認められませんでしたが、相手が誤解やストレスを感じた背景も踏まえて、今後の言動には配慮してください」と伝えます。
Q22:相談後に、職場で「〇〇さんがハラスメントの通報をした」と噂が広まる「二次被害(セカンドハラスメント)」を防ぐ具体的手段は?
事実確認の段階から、情報を伝える範囲を最小限に絞り、関わる人全員に「情報を漏らした場合は処分の対象になる」ことをはっきり伝えておきます。
調査に関わる関係者や同僚、行為者に対しては、「この調査の内容を第三者に話したり、噂として広めたりする行為は、それ自体が新たなハラスメントや就業規則違反に当たり、厳しい処分の対象になります」という説明をし、誓約してもらいます。万が一噂を広めた人が分かった場合は、すぐに注意・処分を行います。
5 職場内のパワハラ・セクハラ・マタハラ等に関する対応
Q23:上司は「通常の業務指導だ」と主張し、部下は「精神的に追い詰められたパワハラだ」と主張している場合、窓口担当者はどこで境界線を判断すればよい?
厚生労働省の指針にあるパワハラの3つの要素、「優越的な関係を背景にした言動か」「業務上必要かつ相当な範囲を超えているか」「就業環境を害しているか」に照らして、特に2つ目の「必要性と相当性」を客観的に見ていきます。
指導の内容に業務上の合理的な目的があるか、そのやり方(大声で怒鳴る、長時間拘束する、大勢の前で叱る、人格を否定する言葉を使うなど)が行き過ぎていないかを確認します。目的が正しくても、やり方が著しく行き過ぎていれば、パワハラと判断されます。
Q24:セクハラの要件は?
セクハラは、①相手の意に反する性的な言動への対応(拒否など)を理由に、解雇や配置転換などの不利益な取扱いをする「対価型」と、②性的な言動によって職場の環境が不快になり、能力の発揮が妨げられる「環境型」の2つに分けられます。性別や性的指向・性自認は問わず、上司から部下だけでなく、同僚・部下から上司、同性同士でも成立します。
窓口としては、相手が「拒否していない=許容している」と考えるのは禁物です。人間関係の悪化を恐れて何も言えないだけ、というケースも多いため、明確な拒否がなかったことをもって「セクハラではない」と判断しないよう注意してください。
Q25:マタハラ・パタハラ・ケアハラの要件は?
マタハラ(妊娠・出産・育児に関するもの)、パタハラ(男性の育児に関するもの)、ケアハラ(介護に関するもの)は、あわせて「職場における妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント」と呼ばれます。①育児・介護休業などの制度を利用したことを理由に不利益な取扱いをする「制度等の利用への嫌がらせ型」と、②妊娠・出産したこと自体に関する言動で就業環境を害する「状態への嫌がらせ型」の2つに分かれます。
なお、会社が安全配慮義務に基づいて妊娠中の社員に休憩や負担軽減を提案したり、制度利用の予定を業務上の必要性から確認したりすること自体は、マタハラ・パタハラ・ケアハラには当たりません。悪意のある言い方や、業務上の必要性を欠いた確認の仕方をした場合に、該当する可能性が出てきます。
Q26:妊娠中の女性社員から「上司から『妊婦は使い物にならないから降格させる』と言われた」とマタハラ相談があった場合の初期対応は?
男女雇用機会均等法(妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止・マタハラ防止措置)や育児・介護休業法に明白に違反する、極めて重大なハラスメントとして直ちに対応します。
まず人事責任者等と連携し、降格などの不利益な対応が実行されないよう止めます。相談者の体調(母体保護)を最優先にし、必要に応じて通院時間の確保や負担の軽い業務への変更を手配します。その上で、上司への事実確認と処分の検討を進めます。
Q27:育児休業から復帰した社員から「短時間勤務(時短)を選択したら、雑用ばかり命じられやりがいのある仕事を外された」と相談があった場合は?
育児休業などの制度利用を理由にした不利益な取扱い(いわゆるパタハラ・マタハラ)の疑いとして受け止めます。
業務内容の変更に、時短勤務による時間的な制約など合理的な理由があるのか、それとも単なる嫌がらせなのかを確認します。合理的な理由がないまま雑用ばかり命じているようであれば、上司に対して業務の割り振りを見直すよう指導します。
Q28:管理職から「部下のミスを注意したら『パワハラで訴えます』と言われ指導ができない」と相談があった場合のアドバイスは?
業務上必要な範囲で、事実に基づいて冷静に指導するのであれば、パワハラには当たらないことを伝え、指導そのものを怖がりすぎないよう背中を押します。
「パワハラだと言われるのが怖くて、必要な指導までためらってしまうのは、それはそれで組織にとって困った状態です」と伝えた上で、不安があれば部下との面談に同席する、指導内容を事前に確認するなど、窓口や人事としてサポートできることを案内します。
Q29:相談者が「ハラスメントの被害で眠れなくなり、うつ病と診断された」と診断書を持参した場合の緊急手続は?
すぐに人事労務部門や産業医と連携し、安全配慮義務に基づいた休職・療養の手続きと、行為者との引き離しを最優先で進めます。
診断書を受け取ったら、医師の指示に沿って休職手続きや勤務時間の短縮を手配します。診断書の内容が「勤務可能」とあったとしても、行為者との接触を避けるための措置を講じます。同時に、本人の体調に無理のない範囲で調査への協力(代理人や書面での確認も含む)をお願いし、事実確認と行為者への対応を並行して進めます。
Q30:行為者が「そんなつもりで言ったのではない。軽口(冗談)のつもりだった」と釈明した場合、どう納得させればよい?
ハラスメントに当たるかどうかは、行為者の意図ではなく、言動そのものの客観的な内容と、受け手がどう感じたか(平均的な受け止め方)で判断されることを伝えます。
「冗談のつもりだった、悪気はなかった、という気持ちは分かりますが、実際にその言動が相手に精神的な苦痛を与え、働きにくくしてしまったという事実で判断することになります」と説明し、自分の言動が与える影響について、改めて振り返ってもらいます。
6 カスハラ現場相談と組織対応実務
Q31:窓口担当者と現場監督者の役割はどう違う?
カスハラが起きているその場で、対応の判断や指示を行うのは、基本的には現場監督者(店長や係長など)の役割です。相談窓口担当者は、その後の相談受付や事実確認、社内の体制づくり、外部との連携といった部分を担うのが本来の位置づけです。
とはいえ、中小企業では窓口担当者と現場監督者を同じ人が兼ねていることも珍しくありません。その場合は、この章の内容をそのまま自分自身の初動対応として使っていただいて構いません。一方、窓口と現場が分かれている会社では、まず現場監督者に判断や対応を委ね、窓口はその後の相談受付やフォロー、マニュアル整備を中心に動く、という役割分担を意識しておくと、いざというときに動きやすくなります。
Q32:カスハラかどうかを判断する基準は?
改正後の労働施策総合推進法では、カスハラは「顧客等の言動が、業務の性質などに照らして社会通念上許容される範囲を超えており、労働者の就業環境を害すること」と定義されています。この2つの要素(範囲を超えているか、就業環境を害しているか)を、業務の性質、言動の目的や態様、頻度、経緯などと合わせて総合的に見て判断します。
現場で迷わないよう、あらかじめ「同じ主張を〇回以上繰り返す」「電話が〇分以上続く」など、自社なりの目安を決めておくと判断しやすくなります。窓口担当者としては、こうした判断基準や対応マニュアルを事前に整えておくことも大切な役割です。
Q33:相手が「取引先の担当者個人」「重要取引先」だった場合、判断や対応は変わる?
カスハラの定義自体は変わりませんが、BtoBの取引先が相手の場合は、取適法やフリーランス法、優越的地位の濫用など法的な論点も絡んでくるため、対応の慎重さは変わってきます。
一般消費者が相手であれば、現場で対応を打ち切る、出入り禁止にするといった迅速な対応が中心になります。一方、重要な取引先の場合は、現場の担当者一人に対応させず、「会社対会社」の窓口に一本化します。自社だけで突っぱねるのが難しい力関係であっても、記録をしっかり残した上で、役員や顧問弁護士、「取引かけこみ寺」などの外部相談機関も活用しながら、組織として冷静に対処していきます。
Q34:現場から「お客様に土下座や長時間の謝罪を要求されている」と相談が入った。窓口担当者として、まず何を伝えるべき?
その場でカスハラかどうかを判断して対応を指揮するのは、本来は現場監督者の役割です。窓口担当者に直接連絡が来た場合は、まず現場監督者への引き継ぎを促します(もちろん、中小企業で兼務している場合は、そのまま対応して差し支えありません)。
その上で、「一人で対応させず複数名や管理職に引き継ぐこと」「土下座や長時間の拘束のような不当な要求には絶対に応じないこと」を伝えます。土下座の強要は強要罪(刑法223条)、長時間の居座りは不退去罪(刑法130条)に当たり得る犯罪行為です。「これ以上のご要求にはお応えできません。お引き取りください」と毅然と伝え、応じてもらえなければ警察に通報する、という初動の流れを現場と共有しておくことが大切です。
Q35:取引先から「納期を無理に短縮しないと出入禁止にする」「契約を打ち切る」と不当に脅されている社員からの相談への対応は?
取引上の立場を利用した不当な要求であり、典型的なBtoBのカスハラ(取適法等の違反の疑い)として組織で受け止めます。
相談してきた社員には、「あなたが悪者になることはありません。個人で抱え込まず、会社として対応します」と伝えて安心してもらい、これまでのメールややり取りの経緯を提出してもらいます。重要な発注元であっても、現場に無理を押し付けず、法務・役員・顧問弁護士が連携し、必要に応じて公的な相談窓口(取引かけこみ寺等)の知見も借りながら、相手企業のコンプライアンス窓口等へ事実を示して是正を求めていきます。
Q36:「悪質なクレーム対応の連続で精神的に限界です」と訴える社員に対し、窓口として提供できる法的・保健的措置は?
会社には安全配慮義務(労働契約法第5条)があるため、まずはその顧客対応から一時的に離れてもらい、メンタルヘルスへの配慮を行います。
具体的には、対応を別の管理職や組織対応チームに引き継ぐ、産業医や保健師との面談、必要に応じて特別休暇や配置転換の検討などを行います。本人一人に抱え込ませず、会社が前面に出て対応を引き受けることが大切です。
Q37:顧客から電話で「名前を言え、言わないならSNSで拡散してやる」と脅された、という相談が入った。どのような対応方針を用意しておくとよい?
現場対応者がとっさに困らないよう、フルネームは伝えず、苗字や担当番号にとどめる、というルールをあらかじめ決めておきます。「防犯および従業員保護のため、フルネームはお伝えしていません。担当の〇〇が承ります」といった言い方を、想定問答として共有しておくとよいでしょう。
SNSへの投稿をちらつかせた脅しに対しても、現場でその場の交渉に応じさせず、「誹謗中傷や虚偽情報の拡散があれば法的措置を検討します」という会社としての方針を、あらかじめ現場に周知しておきます。実際に投稿された場合は、窓口や法務が中心となって、発信者情報の開示請求など専門的な対応を検討します。
Q38:相談者である現場社員が「自分がミスをしたから顧客を怒らせてしまった。自分が悪い」と自分を責めている場合、心理的フォローはどのように行えばよい?
仕事上のミスと、ハラスメントに当たる言動は切り離して考え、「どんな理由があっても、暴言やハラスメントをしてよい理由にはならない」ことをしっかり伝えます。
「ミスや行き違いがあったとしても、お客様があなたに暴言を吐いたり、怖い思いをさせたりしてよい理由には一切なりません。会社はあなたを守る立場にあります」と寄り添い、必要以上の罪悪感を取り除きます。その上で、仕事のミス自体は組織全体でフォローしていく姿勢を見せます。
Q39:取引先の担当者から、食事やデートにしつこく誘われる、という相談があったら?
重要な取引先からの誘いであっても、断っているのにしつこく誘われるようであれば、カスハラ(またはセクハラに近い行為)に当たり得ます。まずは「断ることに問題はありません」と伝えて安心してもらい、誘われた日時や回数、断った経緯などを確認します。
その上で、上司や営業責任者と連携し、必要に応じて取引先の担当窓口へ、会社としてやんわりと申し入れることを検討します。「重要な取引先だから」という理由で、ハラスメントを我慢させることのないよう、社内で共通の姿勢を持っておくことが大切です。
Q40:現場の対応者が、その場で「できます」「できません」と即答してよい範囲は?
法令や契約内容、社内のルール、他のお客様との公平性など、判断の根拠をその場で示せる内容であれば、現場の対応者が即答して構いません。
一方、根拠を示せない要求や、個人的な判断・約束を求められるような場面では、その場で答えず、「担当だけでは判断しかねますので、会社として確認のうえ改めてご連絡します」と一度持ち帰るよう伝えます。この線引きをあらかじめ現場に周知しておくことも、窓口担当者の役割の一つです。
7 就活セクハラ・求職者インターンハラスメント特有の対応
Q41:就活セクハラ・求職者ハラスメント対応で、社員間のハラスメントと違う点は?
対応の基本的な流れ(受付、ヒアリング、事実確認)は社員間のハラスメントと変わりません。大きく異なるのは、相手が「これから選考を受ける、あるいは選考中の学生・求職者」であるという点です。相談してきたこと自体が選考に影響するのではないかという不安が特に強いため、「相談したことで不利益な扱いは一切ありません」と、通常以上にはっきり伝える必要があります。
また、行為者が自社の社員であれば就業規則に基づく懲戒処分を検討します。他方で、被害者である学生・求職者に対しては、選考機会を守ること、心身のケアを行うことが、対応の中心になります。
Q42:就活セクハラは、通常のセクハラとどう違う?
行為の内容自体は通常のセクハラと同じで、性的な言動によって不利益な取扱いをしたり、就業(この場合は選考)環境を害したりすることを指します。違いは「保護される対象」で、これまでは自社の社員が対象でしたが、2026年10月1日からは、就職活動中の学生やインターンシップ参加者も同じように保護の対象になります。
たとえば、面接官が学生に食事や交際を迫る、選考を材料にして個人的な関係を求める、といった行為は、社員間のセクハラと同じ考え方で就活セクハラに当たります。企業の採用担当者や面接官は「社外の人だから大丈夫」ではなく、社員に対するのと同じ基準で接する必要があります。
Q43:行為者が現場の面接官(社員)だった場合、社員への処分はどう進めればよい?
被害を訴えた学生への配慮と選考機会の確保を進めながら、社内調査と就業規則に基づく懲戒手続きを段階的に進めます。
まず、相談を受けた時点で、その面接官を選考や学生対応から外します。次に、面接官へのヒアリングや選考記録の確認を通じて事実関係を調べます。事実が確認できたら、就業規則のハラスメント規定等に照らし、然るべき手続きを経て処分(戒告、減給、出勤停止等)を決めます。最後に、学生には不利益が生じていないことを説明し、希望があれば別の面接官による再面接など、選考をやり直す機会を用意します。
Q44:Web面接中に面接官が学生に対し「部屋の様子をカメラで見せて」「全身が映るように離れて立って」と要求し、学生から不快感の相談があった場合は?
面接に直接関係のないプライベート空間への立ち入りや、身体的特徴の過剰な確認であり、就活ハラスメントとして受け止めて対応します。
面接官には、「業務上・選考上の必要性や相当性を欠く、不適切な言動だった」ことを伝えて指導します。相談してきた学生には、不快な思いをさせたことを丁寧にお詫びし、「この件が選考結果に影響することは一切ありません」と伝えた上で、希望があれば別の面接官による再選考など、やり直しの機会を用意します。
Q45:就活セクハラ被害を訴える学生から「所属している大学のキャリアセンターにも相談しています」と言われた場合、窓口はどう連携すればよい?
学生の同意を得た上で、大学のキャリアセンターと積極的に情報連携を行い、真摯に対応する姿勢を示します。
厚生労働省の指針でも、大学等の相談窓口との連携は望ましい取り組みとされています。大学側から問い合わせがあれば、「現在、社内で調査を進めており、分かり次第ご報告します」と誠実に伝えることで、企業としての信頼を保つことにもつながります。
Q46:被害を訴えた求職者(学生)に対して、「選考上の不利益取扱いをしない」ことを具体的に担保・証明する実務手段は?
相談を受けた時点で不利益取扱いをしない旨の書面を発行し、選考プロセスからその面接官を外した上で、別の面接官や人事が客観的な基準で選考を行います。
「窓口への相談と選考評価は完全に切り離されています」という趣旨を書面やメールで伝えます。また、選考結果の判断理由(評価シート等)を人事部内できちんと記録・保存しておけば、万が一不採用になった場合でも、相談が原因ではなく選考基準に基づく判断だったことを説明できます。
Q47:インターンシップ参加中の学生から「社員から肩を叩かれたり、腰に手を回されたりした」とセクハラ相談があった場合の初期対応は?
身体的な接触を伴うセクハラであり、まずはその社員をインターン指導から外し、学生の安全と気持ちのケアを最優先します。
「不快で怖い思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした」とお詫びし、体調や気持ちに配慮します。インターンシップを続けたいか、辞退や別日程への変更を希望するか意向を確認し、それに応じた対応をとります。その上で、行為者とされる社員への聞き取りと処分の手続きを進めます。
Q48:面接官(社員)へのヒアリングで、相手が「場を和ませるためのアイスブレイクの雑談(彼女いるの?等)だった」と主張した場合の指導法は?
面接官の意図がどうであれ、相手(求職者)がどう受け止めたか、そして選考の場でふさわしい質問だったかどうかという観点で指導します。
「性別や恋愛観、結婚の予定、家族構成などは、厚生労働省の指針でも配慮すべき事項とされていて、選考で聞くこと自体が不適切とされます。和ませるためだったとしても、理由にはなりません」と伝え、面接官向けマニュアルの見直しも合わせて行います。
Q49:就活生から「SNS(XやInstagram等)の個人アカウントに、採用担当者から個人的なDMで飲み会に誘われた」と相談があった場合の対応は?
採用の権限を背景にした、不適切な就活ハラスメントとして受け止め、まずは行為者である採用担当者を学生対応から外します。
DMの画面を証拠として提出してもらい、就業規則に基づいて懲戒処分を検討します。相談してきた学生には選考への影響がないことを伝えます。なお、中小企業で採用担当者が社長や役員自身である場合は、窓口担当者だけで抱え込まず、顧問弁護士や社外相談窓口等に速やかに相談して組織として対処します。
Q50:内定者から「内定辞退を伝えたら、人事担当役員から『うちを蹴ったら業界で生きていけないようにしてやる』と怒鳴られた」と相談があった場合は?
職業選択の自由を侵害する、悪質なハラスメント(いわゆるオワハラ)として受け止めます。
相談してきた内定者には丁寧にお詫びし、辞退の手続きを速やかに受け付けます。行為者が経営陣・役員の場合は社内での注意が難しいため、顧問弁護士や監査役などへ事実を報告し、「会社の法的リスクや信用失墜に直結する重大な問題である」として外部の力も借りながら厳重に是正を促します。
以上(2026年9月作成)
(監修 石原法律事務所 弁護士 磯田翔)
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画像:ChatGPT























