1 「退職金制度+福利厚生」で社員の資産形成をサポート!
第2回では、複数の退職金制度を比較し手取り額などをシミュレートしました。税金や運用利回りのポイントを押さえれば、中小企業も魅力的な退職金制度を構築できるという内容でした。
ただ、そうしたポイントを押さえてもなお、十分な退職金を用意できない会社もあります。その場合は、退職金制度以外の福利厚生に注目してみましょう。例えば、
退職金制度と、財形貯蓄やiDeCo+(イデコプラス)などの福利厚生を併用することで、社員の資産形成をサポートできる可能性
があります。場合によっては、「退職金制度+福利厚生」の額が「大企業の退職金」の額を上回ることもあり、そうなれば従業員の満足度向上や採用活動でのPRなどにも大いに役立ちます。
第3回(最終回)となるこの記事では、財形貯蓄とiDeCo+、それぞれについて「社員が60歳になるまで運用した場合、どのぐらいの額になるのか」「退職金制度と福利厚生を組み合わせた場合、大企業の退職金を上回ることができるのか」などをシミュレートしていきます。
2 財形貯蓄の運用シミュレーション
財形貯蓄は、毎月またはボーナスの支給時期に、給与天引きで積み立てる制度で、
- 一般財形貯蓄(自由な目的で使用できる)
- 財形年金貯蓄(60歳以降に年金として受け取る目的で使用できる)
- 財形住宅貯蓄(住宅購入、新築、増改築目的で使用できる)
に分けられます。制度ごとの運用益などを比較してみましょう。
財形貯蓄は導入・運用の事務負担が軽く、中小企業でも始めやすいのが利点です。給与天引きで完結し、会社が積立利率を負担するわけではないため、コスト管理がしやすい制度といえます。
ただし、利子非課税枠のある財形年金・財形住宅は、目的外の払い出しで過去5年分の利息が遡及課税されるなどの制約があります。経営者としては「財形は退職金そのものではなく、社員の自助努力を後押しする福利厚生」と位置づけ、退職金制度や次に紹介するiDeCo+と組み合わせて設計するのが現実的です。
【試算条件】
- 22歳、年収400万円の会社員
- 毎月3万円を給与天引きで積み立てる
- 積立期間は38年
- ボーナス・年収アップでの上乗せはないものとする
- 全ての制度で年利は0.3%とする
1)財形貯蓄3種類のシミュレーション

一般財形貯蓄は、運用益(今回は0.3%)に対して20.315%の税金がかかります。一方、財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄は、両制度合算して550万円までの利子に税金がかかりません。目的が明確なら、財形年金貯蓄、財形住宅貯蓄を選択するのがよいでしょう。ただし、目的外の払い出しは課税対象となることがあるので、柔軟に使いたいなら一般財形貯蓄がお勧めです。なお、一般財形貯蓄については、その商品性から散財抑止を目的とした、社員に代わって会社が管理する普通預金のような感覚として社内制度化しているところもあります。
さて、上記の条件で試算した結果、
全ての制度で約1432.6万円以上を用意できる
ことが分かりました。運用益については、一般財形貯蓄は約64.6万円、非課税枠のある財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄は約81.1万円となっています。「運用益が少ないな」と感じる人もいるでしょうが、これらの制度は給与天引きにより堅実に資金を用意できることが特徴です。元本割れのリスクがなく、確実に必要な分だけ用意できます。
2)大企業(財形貯蓄なし)との比較

次は、中小企業(財形貯蓄あり)の「退職金+財形貯蓄」の額と、大企業(財形貯蓄なし)の「退職金」の額とを比較します。中小企業の社員(大学卒)が定年退職時にもらえる退職金は、2024年平均で約1150万円です(東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情」)。一方、大企業の社員(大学卒)の退職金は、2025年平均で約2135万円(中央労働委員会「令和7年賃金事情等総合調査」)。統計データは異なりますが、1000万円近い開きがあります。
ですが、財形貯蓄の制度がある中小企業が、
- 退職金(退職給付額)で1150万円
- 財形貯蓄(積立元本+運用益)で1432.6万円
を用意できた場合、その額は合計2582.6万円になります。これは、
大企業(財形貯蓄なし)の社員(大学卒)の退職金(2135万円)よりも447.6万円多い
計算になります。
3 iDeCo+の運用をシミュレーション
iDeCo(イデコ)とは、社員が自分で掛金を拠出して運用する個人型の確定拠出年金です。
このiDeCoには、拠出限度額の範囲(月額0.5万~2.3万円)で、iDeCoに加入する従業員の掛金に追加して、会社が掛金を拠出できる「iDeCo+(イデコプラス)」という制度
があります(中小企業限定の制度)。会社が掛金を上乗せしてくれるので、iDeCoのみを利用するよりも多くの老後資金を用意できます。
iDeCo+は財形貯蓄制度とは異なり、投資としての側面を兼ね備えています。長期間積み立てるとどのような結果になるのか、シミュレートしていきましょう。
【試算条件】
- 年収400万円
- 事業主拠出は1万円で合意
- 個人拠出は1.3万円
- 30年間年利3.0%で運用
- 受給開始年齢60歳
- 移管資金0円
- 企業型DCやDBの取り扱いはなし
1)iDeCo+(イデコプラス)のシミュレーション

上記の条件で試算したところ、
iDeCoのみで約752.3万円、iDeCo+で約1331万円用意できる
ことが分かりました。年利3.0%で運用した場合、iDeCoでは約284.3万円、iDeCo+では約503万円の運用益を確保できます。しかも、これらの運用益に対しては税金がかかりません。
また、iDeCo+を導入している会社の場合、社員本人の掛金に事業主掛金が上乗せされます。今回の試算では、社員の自己負担は月1.3万円のままでも、会社負担分を含めてより大きな老後資金を準備できる計算になります。
2)大企業(iDeCoなし)との比較

仮に、iDeCo+を導入している中小企業が、
- 退職金(退職給付額)で1150万円
- iDeCo+(積立元本+運用益)で1331万円
を用意できた場合、退職金とiDeCo+の資産を合わせた額は合計2481万円になります。これは、
大企業(iDeCoなし)の社員(大学卒)の退職金(2135万円)よりも346万円多い
計算になります。
なお、iDeCo+で拠出できる金額の上限は年27.6万円(月2.3万円)ですが、
2026年12月1日からは、上限が74.4万円(月6.2万円)に引き上げ
られますので、改正後はさらにフォローがしやすくなります。これは、第2号被保険者(会社員等)のiDeCoの拠出限度額が、企業年金の有無にかかわらず月6.2万円に一本化されることに伴うものです。
iDeCo+は、経営者にとって「低コストで導入できる退職金の上乗せ策」として有効です。事業主掛金は全額損金算入でき、給与ではないため社会保険料の算定基礎に含まれず、賃上げのように会社の法定福利費負担が増えません。
企業型DCのような専用の運営管理機関との重い契約も不要で、中小事業主向けに事務手続きが簡素化されています。賃上げ原資の一部をiDeCo+に振り向ける設計なら、同じ人件費でも社員の手取りと将来資産を厚くでき、採用・定着のアピール材料にもなります。
4 財形貯蓄とiDeCo+のメリット・デメリット
改めてシミュレーションの結果を振り返ってみましょう。中小企業が退職金制度と福利厚生を組み合わせた場合、
- 退職金と財形貯蓄で合計2582.6万円
- 退職金とiDeCo+で合計2481万円
を用意できる計算になりました。どちらも大企業の退職金平均を上回る水準です。
シミュレーション上は、退職金と財形貯蓄を組み合わせた金額のほうが高い一方、利用件数を見ると、財形貯蓄は減少傾向(厚生労働省「財形貯蓄の実施状況」)、iDeCoは増加傾向(企業年金連合会「確定拠出年金統計資料」)にあることが分かります。これは、iDeCoの特性上、シミュレーション以上の運用益が見込める魅力性や最近では国が積極的に加入を推奨している背景等も影響しているものと推測されます。
iDeCoは長期積み立てによる運用益が期待できる、iDeCo+に至っては会社が掛金の一部を負担してくれるなどのメリットがあります。一方で、運用失敗による元本割れのリスクも当然あるので、堅実なほうが好きな社員にとっては、必要な金額を確実に用意できる一般財形貯蓄のほうが魅力的という考えもあるかもしれません。
なお、ここで示した金額はあくまで積立・運用段階での評価額です。iDeCoを一時金で受け取る場合は退職所得として課税され、会社の退職金と受給時期が近いと退職所得控除の枠を重複して使えないことがあります(2026年1月以後に受け取る退職手当等から、控除枠の調整ルールが見直されています)。実際の手取り額は受け取り方や時期によって変わる点に留意が必要です。
メリット・デメリットを確認し、御社に合った方法で退職金の不足分をフォローしてみてください。

以上(2026年7月更新)
(監修 社会保険労務士 柴田充輝)
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