【経理業務の効率化】法人クレジットカードを使って経費精算の手間を軽減

1 経費精算の手間は減り、社内の現金も少なくできる

毎月の経費精算が無くなれば…。

会社で働く人であれば、一度は思ったことがあるでしょう。特に外出や出張の多い役員や営業担当者の交通費精算は、多くの手間と時間を要します。また、経理担当者としても、経費精算の提出遅れやミスがあると決算作業が遅れたりして困ります。

そうした中、比較的手ごろに取り組める経費精算の効率化として注目されているのが、

法人クレジットカードを利用

です。主なメリットは次の通りです。

  • 経費申請の時間短縮。ウェブサイト上のカード利用明細から直接会計データを取り込み、経費精算システムが連動できるサービスもある
  • 経費の請求漏れやミスの防止
  • 現金の出し入れ回数の削減
  • 支払いが翌月以降に繰り延べられることで資金繰り改善、ポイント還元される

この他、経営者や経理担当者が気になるのは、

法人クレジットカードを利用したときの会計処理(仕訳)はどうなるのか?

でしょう。そこで、この記事では法人クレジットカードを利用した場合の会計処理を分かりやすく解説しますので、経理業務の効率化を進めるためにご活用ください。なお、以降で紹介する勘定科目は一例なので、貴社の実情に合わせて読み替えてください。

2 会計処理(仕訳)

1)法人クレジットカードの利用時

法人クレジットカードで経費を支払った場合、実際の支払日(会社から出金がある日)と、費用の発生日が異なるため、いったん「未払金」勘定で処理します。

法人クレジットカードの利用時

2)カード利用額が口座からの引き落とし時

カードの利用額が口座から引き落とされたら、「未払金」勘定を解消します。

カード利用額が口座からの引き落とし時

3)誤って個人利用をしてしまった場合

誤って法人クレジットカードを個人利用してしまった場合、カード利用時、返金時、引き落とし時にそれぞれ次のように処理します。

誤って個人利用をしてしまった場合

3 税務上の留意点

法人クレジットカードを使って支払った経費を損金算入するには、請求書や領収書など(以下「請求書等」)の書類を保存しておかなければなりません。法人クレジットカードの利用明細書だけでは十分な証憑(しょうひょう)書類として認められないケースがある(商品やサービス内容や購入者の氏名など、一定の事項が記載されているものを除く)ので、法人クレジットカード利用時に受領する請求書等を保管します。

これは、消費税の控除(以下「仕入税額控除」)も同様で、仕入税額控除を受けるためには、法人クレジットカードの利用明細ではなく、支払った先の店舗やサービス業者から受け取るインボイスの保管が必要になります。

また、電子帳簿保存法により、紙ではなく、データ(PDFやシステム上の請求書ダウンロードなど)で請求書等を受け取る場合には、一定の要件のもと、データでの保存が義務化されています。経理担当者とデータ上でやり取りできる仕組み作りも必要になります。

4 厳格なルールが必要

法人クレジットカードの不正利用を防ぐために、法人クレジットカードの利用ルールや規程(以下「利用ルール」)の整備が必須です。利用ルールを作成したら、その内容と違反した場合の罰則について役員・社員に周知します。

  • 部長以上など、利用対象者や利用人数を限定する
  • 利用用途を限定する(旅費交通費、交際費の支払いに限定するなど)
  • 役職ごとにカードの利用限度額を設定する
  • 不正利用した場合の罰則を定めておく(最悪の場合は刑事告訴するなど)

以上(2026年7月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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画像:karinrin-Adobe Stock

【朝礼】あなたの「お客様目線」は本物ですか、それとも「つもり」ですか?

【ポイント】

  • 旅館のスタッフが、旅館の雰囲気に合わせ、古びた革製のタブレットカバーを使っていた
  • 「これでいいだろうか」と問いを持ち続けることが、じわじわと仕事の質を上げていく
  • 「お客様のことを考えているつもり」と「本当にお客様の目線に立てている」は異なる

先日、家族と旅行に出かけ、古い旅館に泊まりました。黒塗りの柱や床が印象的な、レトロな雰囲気のある宿です。チェックインのとき、スタッフの方がタブレットで予約を確認してくれました。ふと目に入ったのが、そのタブレットのカバーです。使い込まれた、古びた革製のカバーでした。最初は「ずいぶん古いものを使っているな」と思いました。ところが、宿の中を歩きながら、ふと考え直したのです。もしかしてこれは、旅館の雰囲気に合わせて、あえて選んだものではないか、と。

最新のデジタル機器を使いながら、カバー一つにまで宿の世界観を貫く。もしそうだとしたら、なんと細やかな配慮だろうと感心しました。もし、あのタブレットのカバーが真新しいプラスチック製で、鮮やかな色のものだったとしたら、私は「あれ、なんか雰囲気と合わないな」と、どこかひっかかりを覚えたまま過ごしていたかもしれません。一方で、旅館のスタッフ自身はそのカバーを毎日見ていて違和感を抱かないでしょうから、その場合、私のひっかかりはずっと見過ごされたままになっていたでしょう。タブレットカバー一つで大げさかもしれませんが、これは私たちの仕事にもつながる大切なことです。

私たちは普段、「お客様のことを考えて仕事をしている」と思っています。でも、本当にそうでしょうか。例えば、わが社の服装は基本的に自由ですが、皆さんは「この格好でお客様の前に立って、どう思われるだろう」と考えたことはありますか。お客様がそこまで気にしているとは限りませんし、何でも迎合すればいいというわけでもありません。ですが、「これでいいだろうか」と問いを持ち続けることは大切です。その積み重ねが、じわじわと仕事の質を上げていくのだと思います。

「お客様のことを考えているつもり」と「本当にお客様の目線に立てている」の間には、意外と大きな溝があります。その溝は、悪意から生まれるものではありません。毎日同じ仕事を続けるうちに、最初は気になっていたことが当たり前になり、問いを立てる習慣そのものが薄れていく。この溝を埋めていくには、日々の小さな違和感と正直に向き合い、自問自答を繰り返すことが大切です。旅先での小さな気づきが、そんなことを教えてくれました。今日も一日、細部まで目を向けながら仕事に臨んでいきましょう。

以上(2026年8月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

  

【2026年度版 助成金ブック】採用・人材育成・賃上げなど25種類

2026年度の最新情報を基に、「採用」「人材育成」「賃上げ」などの助成金について、支給要件や実務のポイントを印刷できるPDFにまとめました。ぜひご覧ください。


こちらからダウンロード

収録されている助成金は次の通りです。

【採用活動編】

  • 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース):最大240万円
  • 特定求職者雇用開発助成金(中高年層安定雇用支援コース):最大60万円
  • 早期再就職支援等助成金(雇入れ支援コース):最大40万円
  • トライアル雇用助成金(一般トライアルコース):最大15万円

【人材育成編】

  • 人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース):最大1億円
  • 人材開発支援助成金(人への投資促進コース):最大3500万円
  • 人材開発支援助成金(人材育成支援コース):最大1000万円
  • 人材開発支援助成金(教育訓練休暇等付与コース):最大36万円

【育児サポート編】

  • 両立支援等助成金(育休中等業務代替支援コース):最大1342万円
  • 両立支援等助成金(柔軟な働き方選択制度等支援コース):最大197万円
  • 両立支援等助成金(出生時両立支援コース):最大127万円
  • 両立支援等助成金(育児休業等支援コース):最大122万円
  • 両立支援等助成金(不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース):最大90万円

【賃上げ編】

  • キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース):最大740万円
  • 業務改善助成金:最大600万円
  • 人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース):最大325万円

【健康経営編】

  • 働き方改革推進支援助成金(業種別課題対応コース):最大1370万円
  • 働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース):最大1020万円
  • 働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース):最大970万円
  • 働き方改革推進支援助成金(団体推進コース):最大500万円
  • 働き方改革推進支援助成金(取引環境改善コース):最大100万円

【パート雇用編】

  • キャリアアップ助成金(正社員化コース):最大1680万円
  • キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース):最大75万円
  • キャリアアップ助成金(賃金規定等共通化コース):最大60万円
  • キャリアアップ助成金(賞与・退職金制度導入コース):最大56.8万円

以上(2026年7月作成)

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画像:日本情報マート

事業承継・M&A・紛争リスクを見据えた 中小企業の株式実務ハンドブック(2026年8月号)

非上場の中堅・中小企業の株式実務は、日常的に発生しないこともあり、株式管理が見直されないまま放置されてしまいがちです。しかし、場合によっては重大な経営リスクに直結することもあり得ます。

そこで本冊子では、非上場の中堅・中小企業の法務・総務担当者を主な読者として、自社で何を確認し、どの問題を経営陣に共有すべきか、どの場面で専門家に相談すべきかという観点から、株式実務の基本と実務上の留意点を整理します。


「サポート詐欺」に注意! 警告が表示されても電話しないで

1 「サポート詐欺」の手口を知っておこう

「サポート詐欺」をご存じでしょうか? パソコンでウェブサイトを閲覧中、

  • ウイルスに感染したかのような画面を表示させたり、警告音を発生させたりするなどして、不安をあおる
  • 解除するためには画面に記載された電話番号に連絡する必要があると思い込ませ、電話をかけさせる
  • サポート窓口の担当者をかたって遠隔操作ソフトをインストールさせたり、金銭をだまし取ったりする

といった詐欺の手口です。以降、こうした画面のことを「偽画面」と呼ぶことにします。

偽画面は全画面表示され、「閉じる」ボタンがないため、マウス操作では画面を閉じることができません。警告音が鳴りやまず、パニックに陥った状態で、つい偽画面に記載された電話番号に電話をかけてしまう……。そうすると、サポート窓口の担当者をかたった詐欺被害に遭ってしまうわけです。

サポート詐欺の偽画面が表示されるきっかけは、ウェブサイトに表示された広告枠の「次のページに進むためのボタンに見せかけた広告」や「続きが気になる画像」をクリックしたり、検索結果の上位に表示された偽広告をクリックしたりすることです。巧妙につくられているため、この時点で見破るのは難しいですが、

あらかじめ偽画面のイメージと、所定のキーを使った画面の閉じ方を押さえておく

ようにすれば、万が一クリックしてしまっても落ち着いて行動できます。

以降で、サポート詐欺の被害に遭わないための対策を確認していきましょう。

2 実際にどんな状態になるのか、パソコンで体験してみよう

情報処理推進機構(IPA)では、「偽セキュリティ警告(サポート詐欺)対策特集ページ」を設けて注意喚起しています。パソコンで、同ページから「偽セキュリティ警告画面の閉じ方体験サイト」に行くと、実際にどんな状態になるのかを疑似体験できます。

■情報処理推進機構「偽セキュリティ警告(サポート詐欺)対策特集ページ」■
https://www.ipa.go.jp/security/anshin/measures/fakealert.html

(注)体験サイトを起動する前に、説明をよくお読みください。

偽セキュリティ警告画面の閉じ方体験サイト

偽画面を開いてしまったとしても、いきなりウイルスに感染するわけではありません。まずは、落ち着いてパソコンの音量を下げましょう。その後、偽画面を閉じれば問題ありません。大切なのは、

絶対に偽画面に表示された番号に電話をかけないこと

です。偽画面の閉じ方は、

  • キーボードの「Esc」キーを長押しして全画面表示を解除して、ウインドウを閉じる
  • キーボードの「Ctrl」と「Alt」と「Delete」キーを同時に押して強制再起動する

といった方法があります。詳しくは、情報処理推進機構(IPA)の次のウェブサイトをご確認ください。

■パソコンに偽のウイルス感染警告を表示させるサポート詐欺に注意■
https://www.ipa.go.jp/security/anshin/attention/2024/mgdayori20241119.html

3 サポート詐欺で金銭をだまし取られると戻ってこない?

サポート詐欺でだまし取られた金銭を取り戻すことは難しいのが現実です。サポート詐欺の手口は人間の焦燥感・恐怖と安心感の心理的なギャップを巧みに突くもので、(偽画面に)表示された番号に電話をかけると、次のようなかたちで金銭をだまし取られてしまいます。

  • 指示に従って、相手に指定された金融機関口座に自ら振り込んでしまう
  • 指示に従って、コンビニエンスストアで相手に指定された電子マネー(例えば「Amazonギフトカード」など)を購入し、コードを伝えてしまう
  • 指示に従って、遠隔操作ソフトをインストールし、パソコンへのアクセスを許可した結果、相手にインターネットバンキングの口座にアクセスされて不正送金されてしまう

1.のように自ら振り込んでしまった場合、「本人が同意して送金手続きを行った」とみなされてしまうため、金融機関側の制度による救済を受けられないケースがほとんどです。

2.のように電子マネーのコードを伝えた場合、犯人がまだコードを使って(チャージして)いなければ、電子マネーの発行元のサポート窓口に連絡し、アカウントの利用停止や額面の返金に対応してもらえる可能性があります。

3.のように遠隔操作による不正送金の場合、不正アクセスによる被害として、金融機関の補償対象になる可能性があります。

いずれの場合も、泣き寝入りを避けるために、まずは次の3カ所に同時並行で連絡を入れてください。

  • 警察(警察相談専用電話:#9110)
  • 金融機関(振り込みを行った金融機関、振込先の金融機関)
  • 消費者ホットライン(局番なしの188)

4 参考ウェブサイト

情報処理推進機構(IPA)では、次のウェブサイトなどを通じて注意喚起しています。

■サポート詐欺の偽セキュリティ警告はどんなときに出るのか?■
https://www.ipa.go.jp/security/anshin/attention/2023/mgdayori20240227.html
■会社や組織のパソコンにセキュリティ警告が出たら、管理者に連絡!■
https://www.ipa.go.jp/security/anshin/attention/2023/mgdayori20230711.html
■偽のセキュリティ警告に表示された番号に電話をかけないで■
https://www.ipa.go.jp/security/anshin/attention/2021/mgdayori20211116.html
■遠隔操作を他人に安易に許可しないで■
https://www.ipa.go.jp/security/anshin/attention/2020/mgdayori20201125.html

日本サイバー犯罪対策センター(JC3)では、解説動画をYouTubeで公開しています。

■サポート詐欺の手口について(動画解説)■
https://www.jc3.or.jp/threats/examples/article-356.html
■サポート詐欺の電話番号に電話をかけてみた(動画公開)■
https://www.jc3.or.jp/threats/examples/article-570.html

以上(2026年7月更新)

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画像:日本情報マート

仕事はできるが態度が悪い社員は会社に残すべきか?

1 優秀だけど問題が多い社員。残すかどうか?

仕事はできるものの、短気で口が悪い、上司の命令に従わない、遅刻が多いといった社員への対応には、頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。ただの問題社員であれば、場合によっては辞めてもらう(解雇する)という選択肢も考えられますが、相手が会社の中核を担う優秀な社員となると、辞めてしまった後の影響が心配になるものです。とはいえ、優秀だからといって、問題のある言動をそのままにしておくわけにもいきません。

このようなケースにどう対応すればよいのか、次の2つのポイントから考えてみましょう。

  • 誰が相手でも「服務規律違反」には毅然と対処する
  • 辞めさせたくないなら「解雇する前」の段階で手を打つ

2 誰が相手でも「服務規律違反」には毅然と対処する

就業規則には「服務規律(社員が守るべき基本的な行動規範)」が定められています。誰が相手であっても、この「服務規律」をきちんと適用することが基本です。その上で、勤務態度が良くない社員には、次のような流れで対応していくとよいでしょう。

対処の流れ

図表のうち2)については労働条件通知書、雇用契約書や就業規則への定めが、3)から5)については就業規則への定めが必要になります。なお、1)については特に定めがなくても構いません。

また、5)の「普通解雇」とは、

社員としての適性がない(能力、健康状態、勤務態度などに問題がある)ことを理由とする解雇

です。問題社員への対処というと「懲戒解雇」をイメージする方も多いかもしれませんが、懲戒解雇は本来、横領やハラスメントといった重大な問題行為を対象とする処分ですので、単に勤務態度が良くない社員に対して行うと、無効となってしまう可能性が高い点には注意が必要です。

図表のケースでいえば、1)から4)までの行程を経ても社員の勤務態度が改善されない場合は、5)の普通解雇もやむを得ないという考え方です。逆にいえば、

1)から4)までの行程で社員が問題行為を起こさない状況をつくれば、解雇する必要はなくなる

ということになります。次章では、「『解雇する前』の段階で手を打ち、社員に会社に残ってもらう」という観点から、図表の各行程のポイントをご紹介していきます。

3 辞めさせたくないなら「解雇する前」の段階で手を打つ

1)注意:問題行為は必ず注意する。ただし、社員の言い分も聞く

社員の勤務態度に問題があるときは、まずはその上司から「君の言動は間違っている。改めなさい」などと注意してもらいましょう。大切なのは、「問題行為に気づいたら必ず注意する」という姿勢です。対応がその時々でまちまちになると、せっかく注意をしても社員から「今日は、上司の機嫌が悪いから注意されたのかな」などと、軽く受け取られる恐れがあります。

また、注意する際には、社員の言い分にも耳を傾けるようにしましょう。例えば、仕事の進め方について上司の指示に従わない社員は、もしかすると自分のやり方のほうが合理的だと考えているのかもしれません。実際にそうであれば、

「君のやり方のほうが良さそうだ、今回はそれでやってみよう。ただし、次回から自分の考えを試したい場合は事前に相談してくれ」

と社員の意見も取り入れながら、事前に相談しなかった点についてはやんわりと注意します。

それでも繰り返し注意して改善が見られない場合は、

「注意書」「指導書」などの形で、どのような注意をしたかを書面で残しておく

ようにすると、「言った、言わない」というトラブルを防ぐことができます。

2)配置転換など:問題行為を起こしにくく、能力を発揮できる状況をつくる

注意しても社員の勤務態度が改善しなければ、

  • 短気で口が悪い社員は、他の社員と関わらずに1人でできる業務を与える
  • 上司の命令に従わない社員には、思い切って権限を移譲してみる
  • 遅刻が多い社員は、「9時始業、18時終業」などの均一的な労働時間管理が適していない可能性を考え、働く時間を自分で決められる「フレックスタイム制」を適用する

といった具合に、配置転換や労働条件の変更を検討してみましょう。社員の勤務態度を無理に改めさせるというよりも、問題行為が起こりにくい状況を一緒につくっていくイメージです。

ただし、例えば「問題行為は起きにくいものの、単純作業しか行わないポジションに就ける」といった配置転換は、場合によってはパワハラと受け取られる恐れがありますし、優秀な社員を活かし続けたいという会社側の意図にも沿いません。ですから、

社員が「どうすれば問題行為を起こしにくいか」だけでなく、「どうすれば能力を発揮しやすいか」も一緒に考えながら、配置転換などを検討していくことが大切

です。

3)懲戒処分:貢献度に応じて処分を軽減しつつ、警告を忘れない

配置転換などをしても効果が見られなければ、就業規則の懲戒事由に基づいて懲戒処分を検討することになります。懲戒処分は、一般的に次の7種類に分けられます。ただし、社員の問題行為に対して重すぎる懲戒処分や、弁明の機会を与えずに行った懲戒処分は無効になってしまうこともあるため、注意しましょう。

  • 戒告:厳重注意を言い渡す(懲戒処分として行うので、前述した「注意」とは異なる)
  • けん責:始末書を提出させ、将来を戒める
  • 減給:一定期間、賃金額を下げる
  • 出勤停止:数日間、出勤することを禁じ、その間は無給とする
  • 降格:役職の罷免・引き下げ、または資格等級の引き下げを行う
  • 諭旨解雇:退職届の提出を勧告した上で、退職届の提出がなければ解雇とする
  • 懲戒解雇:即時に解雇する

一概にはいえませんが、単に勤務態度が良くない社員に対して懲戒処分を行う場合は、

一般的には「1.戒告」から「3.減給」あたりが妥当(「口が悪い」が行き過ぎてパワハラに当たる指導を繰り返した場合などは、「4.出勤停止」「5.降格」もあり得る)

です。実際には、「当該行為の動機、目的、方法、頻度等の行為態様」「会社に与えた損害や周囲への影響」「社員の過去の処分歴・指導歴や反省態度」「会社側の落ち度」「社員の会社への貢献度」などを考慮しながら、慎重に判断していきましょう。

例えば、社員が過去に新サービスを立ち上げたなど、客観的に評価できる実績を残している場合は、

その貢献度を考慮して、処分を引き下げること

ことも可能です。とはいえ、単に処分を軽くするだけでは社員が増長してしまう恐れもあるので、

「今回は、君のこれまでの会社への貢献度を考えて軽い懲戒処分とする。ただ、今後勤務態度に改善が見られなければ、次はより重い処分を科す用意がある」

といった具合に、社員が反省しない場合に備えて、警告も添えておきましょう。

4)退職勧奨:退職を促しつつ、社員に反省の意思があれば雇用継続を検討する

懲戒処分をしても状況が変わらない場合は、「退職勧奨」の実施を検討することになります。退職勧奨とは、

会社から社員に自主退職を促し、社員が同意した場合に退職させること

のことで、一般的な流れは次のようになります。

  • 「注意」「配置転換など」「懲戒処分」を実施したが状況が改善しなかったため、会社としては社員に自主退職してもらいたいと考えている旨を伝える
  • 退職勧奨に応じる場合の条件(退職金の支払い、年次有給休暇の消化など)について説明する
  • 社員に退職勧奨に応じるかを確認し、応じた場合に退職が成立する

退職勧奨は、会社が一方的に労働契約を解除する解雇とは違い、社員に退職を強制するものではありません。ですから、

仮に社員がこの時点で「退職したくありません、これまでの勤務態度を改めます」などと言ってくるようであれば、反省の様子によっては雇用を継続する

という選択肢もあります。逆に、ここでも社員が反省せず退職勧奨にも応じない場合や、「勤務態度を改める」と言いつつもそれが口だけで、その後も改善が見られないといった場合には、残念ながら解雇せざるを得ないという判断になります。

5)普通解雇:この行程まで来たら雇用継続は諦める

退職勧奨後も改善が見られない場合は、「普通解雇」の行程に移ることになります。労働基準法では、

普通解雇に限らず、解雇はその30日前に解雇予告をして実施しますが(解雇予告手当を支払えば日数を短縮可)、一度解雇予告をしたら会社の意思で撤回することは不可

です。つまり、普通解雇を決定した時点で、社員の雇用を継続する道は残念ながらなくなってしまいます。

繰り返しになりますが、どれだけ優秀であっても、ここまでの行程を経ても勤務態度に改善が見られない社員を雇用し続けることは、企業秩序を危うくしてしまいます。企業秩序と社員の定着、どちらも両立できるのが一番ですが、

いざ両立が難しくなったときは、企業秩序を優先するという姿勢を貫くこと

ことが大切です。

以上(2026年8月更新)

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画像:Stingray_Japan-Adobe Stock

個人データを自ら取り扱う場合に守らなければならないルール【かんたん個人情報保護法(3)】

1 個人データを自ら取り扱う場合のルールは3つ

個人データを個人情報取扱事業者(会社)が自ら取り扱う場合、守らなければならないルールが3つあります。具体的には

  • データ内容の正確性を保ち、必要がなくなったら消去する
  • 安全管理措置を講じる
  • 従業者を監督する

です。以降でポイントを確認していきましょう。

2 データ内容の正確性を保ち、必要がなくなったら消去する

個人データは、正確かつ最新の内容に保つとともに、利用する必要がなくなったときは遅滞なく消去するよう努めなければなりません。

「正確かつ最新の内容に保つ」とはいえ、保有する個人データをすべて、いつも最新化しなければいけないわけではありません。それぞれの利用目的に応じて、その必要な範囲内で正確性・最新性を確保すれば大丈夫です。

また、「遅滞なく消去する」といっても、具体的に「いつまでに」「○日以内に」という期限は特にありません。業務の遂行上の必要性や引き続き個人データを保管した場合の影響等も勘案し、必要以上に長期にわたることのないようにしましょう。ただし、他の法令で保存期間が定められている場合があることに気をつけなければいけません。例えば、賃金台帳は労働基準法に基づき原則5年間保存が義務付けられています。

3 安全管理措置を講じる

取り扱う個人データの漏えい、滅失または毀損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければなりません。

個人データの「漏えい」とは個人データが外部に流出すること、「滅失」とは個人データの内容が失われること、「毀損」とは個人データの内容が意図しない形で変更されることや、内容を保ちつつも利用不能な状態となることをいいます(3つまとめて、「漏えい等」といいます)。

「安全管理のために必要かつ適切な措置」については、「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」に具体例が示されています。この記事の第5章で、参考として、社員数100人以下の「中小規模事業者」が講じるべき安全管理措置について紹介しています。最低限対応しないといけない内容ですので、確認してみてください。

■ガイドライン10 (別添)講ずべき安全管理措置の内容■
https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/#a10

4 従業者を監督する

従業者に個人データを取り扱わせるに当たっては、当該個人データの安全管理が図られるよう、当該従業者に対する必要かつ適切な監督を行わなければなりません。

「従業者」は、雇用関係にある社員(正社員、契約社員、嘱託社員、パート社員、アルバイト社員など)だけではなく、取締役、執行役、理事、監査役、監事、派遣社員なども含まれます。

「必要かつ適切な監督」は、前述した安全管理措置で「やる」と決めたことがしっかり守られているかチェックすることです。

5 (参考)「中小規模事業者」が講じるべき安全管理措置

ガイドラインの10「(別添)講ずべき安全管理措置の内容」で例示されている中小規模事業者における手法を紹介します。

1)基本方針の策定

「事業者の名称」「関係法令・ガイドライン等の遵守」「安全管理措置に関する事項」「質問および苦情処理の窓口」などの項目を策定する

2)個人データの取り扱いに係る規律の整備

個人データの取得、利用、保存等を行う場合の基本的な取り扱い方法を整備する

3)組織的安全管理措置

  • (組織体制の整備)個人データを取り扱う従業者が複数いる場合、責任ある立場の者とその他の者を区分する
  • (個人データの取り扱いに係る規律に従った運用・個人データの取扱状況を確認する手段の整備)あらかじめ整備された基本的な取り扱い方法に従って個人データが取り扱われていることを、責任ある立場の者が確認する
  • (漏えい等事案に対応する体制の整備)漏えい等事案の発生時に備え、従業者から責任ある立場の者に対する報告連絡体制等をあらかじめ確認する
  • (取扱状況の把握および安全管理措置の見直し)責任ある立場の者が、個人データの取扱状況について、定期的に点検を行う

4)人的安全管理措置

  • (従業者の教育①)個人データの取り扱いに関する留意事項について、従業者に定期的な研修等を行う
  • (従業者の教育②)個人データについての秘密保持に関する事項を就業規則等に盛り込む

5)物理的安全管理措置

  • (個人データを取り扱う区域の管理)個人データを取り扱うことのできる従業者および本人以外が容易に個人データを閲覧等できないような措置を講じる
  • (機器および電子媒体等の盗難等の防止①)個人データを取り扱う機器、個人データが記録された電子媒体または個人データが記載された書類等を、施錠できるキャビネット・書庫等に保管する
  • (機器および電子媒体等の盗難等の防止②)個人データを取り扱う情報システムが機器のみで運用されている場合は、当該機器をセキュリティワイヤー等により固定する
  • (電子媒体等を持ち運ぶ場合の漏えい等の防止)個人データが記録された電子媒体または個人データが記載された書類等を持ち運ぶ場合、パスワードの設定、封筒に封入し鞄に入れて搬送する等、紛失・盗難等を防ぐための安全な方策を講じる
  • (個人データの削除および機器、電子媒体等の廃棄)個人データを削除し、または、個人データが記録された機器、電子媒体等を廃棄したことを、責任ある立場の者が確認する

6)技術的安全管理措置

  • (アクセス制御)個人データを取り扱うことのできる機器および当該機器を取り扱う従業者を明確化し、個人データへの不要なアクセスを防止する
  • (アクセス者の識別と認証)機器に標準装備されているユーザー制御機能(ユーザーアカウント制御)により、個人情報データベース等を取り扱う情報システムを使用する従業者を識別・認証する
  • (外部からの不正アクセス等の防止①)個人データを取り扱う機器等のオペレーティングシステムを最新の状態に保持する
  • (外部からの不正アクセス等の防止②)個人データを取り扱う機器等にセキュリティ対策ソフトウェア等を導入し、自動更新機能等の活用により、これを最新状態とする
  • (情報システムの使用に伴う漏えい等の防止)メール等により個人データの含まれるファイルを送信する場合に、当該ファイルへのパスワードを設定する

7)外的環境の把握

外国において個人データを取り扱う場合、当該外国の個人情報の保護に関する制度等を把握した上で、個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じる

以上(2026年7月更新)

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画像:日本情報マート

ファクタリング活用の検討~売掛金の回収、与信管理など資金繰りの改善につながるって本当?

1 資金繰りの改善につながる「ファクタリング」のご提案

ファクタリングとは、

企業が持っている売掛金を、ファクター(ファクタリングのサービス提供企業)が買い取ったり、取引先が代金を支払えなくなった場合に備えて支払いを保証したりするサービス

です。

ファクタリングを活用すると、次のような経営上の悩みを解決できる可能性があります。例えば、

  • 売掛金の入金まで待てず、早く現金化したい
  • 売上の大半を1社との取引に頼っており、その会社が倒産すると大きな影響を受ける
  • 取引先の信用力を十分に判断できず、不安がある
  • 債権管理(売掛金の回収管理)の負担を減らしたい
  • 手形業務に代わる仕組みを導入し、事務負担を軽減したい

といったケースです。

特に、売掛金を買い取ってもらう買取型ファクタリング(詳しくは後ほど解説)は、入金を待たずに資金を受け取れるため、資金繰りの改善に効果があります。原材料費や人件費の上昇など、経営環境の変化が大きい現在では、資金調達の選択肢の一つとして検討する価値があるでしょう。また、紙の約束手形が2027年3月末をもって廃止される予定です。手形取引を利用している企業では、決済方法や資金調達方法の見直しが必要となるため、売掛金を活用できるファクタリングは、有力な選択肢の1つとして注目されています。

資金繰りに問題がない企業でも、ファクタリングは役立ちます。例えば、取引先の信用調査を専門会社に任せることで、新しい取引先との契約を安心かつスムーズに進められるようになります。

この記事では、ファクタリングの利用を検討する際の第一歩として、基本的な仕組みや種類について分かりやすく解説します。なお、ファクタリング会社によって利用できるサービスや仕組み、契約内容は異なるため、利用する際には内容をよく確認するようご留意ください。

2 ファクタリングのメリットと注意点

ファクタリングの種類にはさまざまな分類方法がありますが、引き受け方法という面から見ると、次の2つに分けられます。

  • 買取型:ファクターが、債権者から売上債権(請求書)を買い取るファクタリング
  • 保証型:ファクターが、債務者の代金支払いを保証するファクタリング

買取型・保証型のファクタリングには、それぞれ次のようなメリットがあります。ファクタリングの活用を検討する際に重要な点だと思いますので、ぜひご確認ください。

【買取型】

  • 売上債権を早期に現金化できる
  • 担保、保証人が不要である
  • 原則として、取引先が倒産しても回収する義務を負わない

【保証型】

  • 担保、保証人が不要である
  • ファクターから取引先の信用情報が提供される
  • 新規取引先との取引開始時のリスクヘッジにつながる

ファクタリングは銀行などからお金を借りる「融資」とは違いますので、担保や保証人は必要ありません。また、貸借対照表にも基本的には影響はありません(「借入金」にはなりません)。資金調達の選択肢として、また回収リスクの負担を軽減する保険のような存在として活用できます。

一方、ファクタリングには注意点が2つあります。1つ目は、手数料です。一般的に融資の利率などに比べて手数料は高くなる傾向にあります。2つ目は、取引先への対応です。取引先にファクタリングの活用を知られると、自社の経営状況の悪化を疑われる恐れがあります。

3 ファクタリングの仕組みをざっくりご紹介

買取型・保証型のファクタリングの仕組みは、次の通りです(一般的な流れです)。

ファクタリングの仕組み

図表1で紹介しているのは、債権者・債務者・ファクターの「3社間によるファクタリング」です。

この他に、債権者・ファクターの「2社間によるファクタリング」があります。この場合、基本的には債務者に知られることなくファクタリングを活用できますが、3社間に比べて手数料が高くなることが多いようです。

4 その他のファクタリングの種類

これまで見てきた他、ファクタリングは決済方法、申込み方法、対象となる取引の内容などさまざまな面で分類されます。その他の主な種類の一例は次の通りです。

(図表2)【ファクタリングの主な種類の一例】

種類 引き受け方法 取引形態 特徴
一括ファクタリング 買取型 2社間・3社間 債権者の売掛債権を一括して譲渡。ただし債権者側発信ではなく、債務者(支払企業)側が「支払手段」として支払業務で行うもの。債務者の支払業務を効率化できる
オンラインファクタリング 買取型・保証型 2社間・3社間 オンラインで申込みなどやり取りが完結する。早期にサービスが利用できる
国際ファクタリング 保証型 4社間 海外のファクターが信用調査を行った上で、債務者の信用リスクを保証する。L/Cの手続きなどが不要

(出所:各ファクターのウェブサイトなどを参考に日本情報マート作成)

1)一括ファクタリング

金融機関などのファクターが債務者(支払企業側)の決済を代行するサービスです。債権者が保有する売上債権をファクターに一括して譲渡するため、債務者は支払業務の効率化を図れます。

また、一部のファクターでは、電子記録債権(でんさい)を一括ファクタリングの仕組みに組み込んだサービスを提供しています。電子記録債権は、手形など紙媒体で管理されてきた債権を電子化したものです。

2)オンラインファクタリング

申込みから入金までなど一連の手続きがオンライン上で完結するサービスです。対面での手続きや書類の郵送などは不要です(一部書類の郵送などが必要な場合もあります)。種類として多いのは買取型のファクタリングです。

買取型の場合、オンライン上で決算書や売上債権の請求書などをアップロードし、審査を受けます。中には即日対応をうたっているファクターもあり、早期にサービスを活用することができます。

3)国際ファクタリング

輸出入の貿易にファクタリングを活用するサービスです。国際ファクタリングは、債権者・債務者・ファクターに加えて、ファクターの提携先である海外のファクターの4社間で行われます。海外のファクターが信用調査を行った上で、債務者の信用リスクを保証します。

輸出入を行う際の決済には従来、L/C(Letter of Credit、信用状)が使われてきましたが、国際ファクタリングを活用することで、手間とコストがかかるL/Cの手続きが不要になるなどのメリットがあります。

以上(2026年7月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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画像:MQ-Illustrations-Adobe Stock

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とくぎんサクセスクラブ
香川ニュービジネスクラブ

ご覧いただく中でご関心をお持ちの事項がございましたら、事務局までお問い合わせください。

【連絡先】とくぎんサクセスクラブ(徳島大正銀行 法人推進部内)
TEL:088-656-1125

以上(2026年7月作成)

経営のヒントとなる言葉(徳川家康)

「勝事(かつこと)ばかり知(しり)てまくる事をしらざれば害其身(そのみ)にいたる」(*)

出所:「東照公御遺訓」(久能山東照宮ウェブサイト)

冒頭の言葉は、

「敗北から学び、逆境を乗り越えた者が、最終的に大きな成功をつかむ」

ということを表しています。

織田信長(おだのぶなが)、豊臣秀吉(とよとみひでよし)とともに、戦国の三英傑の1人に数えられる家康。「鳴かぬなら鳴くまで待とう時鳥(ほととぎす)」という言葉でも知られ、三英傑の中でも特に忍耐強い武将というイメージがあるかもしれません。

しかし、生来の家康は、実はとても気が短い人物だったといわれています。家康の気の短さを象徴する戦(いくさ)の1つに、武田信玄(たけだしんげん)と対峙した三方ヶ原(みかたがはら)の戦い(1572年)があります。

この戦で、家康は上洛を目指す信玄が、敵である自分の居城を攻めずに素通りしようとしたことに腹を立て、兵力差があるにもかかわらず、武田軍に攻撃を仕掛けてしまいます。結果は大敗、家康は多くの家臣を失いながら、命からがら城へと逃げ帰ります。自分の短気な性格のせいで大きな敗北を味わった家康は、後年この戦での憔悴(しょうすい)した姿を肖像画として描かせ、自分への戒めとして生涯離さなかったといわれています。

信玄の死後、家康は同盟を結んでいた信長とともに武田氏を滅ぼし、大大名となりますが、本能寺の変(1582年)で信長が討たれると、その家臣である秀吉への臣従を余儀なくされます。しかし、家康はその立場を受け入れ、10年以上もの間、自分が天下を取るチャンスを虎視眈々(たんたん)と待ち続けたのです。

家康の中には、「気の短さを克服しなければ、三方ヶ原の戦いのような敗北を再び味わうことになる」という思いが少なからずあったのでしょう。過去の敗北を決して忘れまいとする家康の姿勢は、次の言葉からもうかがい知ることができます。

「こころに望(のぞみ)おこらば困窮したる時を思ひ出(いだ)すべし」(*)

秀吉の死後、家康は関ヶ原の戦い(1600年)で、秀吉の家臣だった石田三成(いしだみつなり)を倒し、征夷大将軍に任命されます(1603年)。武家としてトップの地位を手に入れた家康でしたが、豊臣家とこれに従う多くの大名が依然として天下取りの障害となっていました。そこで家康は、豊臣家を滅ぼす大坂冬の陣・夏の陣(1614年・1615年)までの間、再び忍耐の時期を過ごすことになります。

家康は征夷大将軍に就任した時点ですでに60歳を超えていました。「人生50年」といわれたこの時代に、高齢の身でチャンスを待ち続けるのは、勇気のいる選択だったかもしれません。しかし、短気な性格のせいで失敗した経験を忘れず、耐え忍んだことが、最終的に家康を天下人に押し上げ、250年以上にわたる江戸時代の礎を築いたのです。

ビジネスでも、競合の動きを見るためなど、あえて「待ち」に徹し、耐え忍ばなければならないときがあります。しかし、経営者にとって「待ち」に徹するというのは、ある意味、行動を起こすよりもつらいことです。

行動を起こせば、それに応じて何らかの結果が返ってきます。結果が良ければ「自分の行動は正しかった」、悪ければ「改めるべきところがあった」と振り返ることができるでしょう。

一方、「待ち」に徹するというのは、競合の動きなどに目を光らせながら、将来の成功のための下準備を進めることです。この下準備は、短期的に結果を出すためのものではないため、経営者は「『待ち』に徹するという選択が本当に正しいのか」について、確信を持つのが難しいのです。これはとても怖いことです。また、経営者が大きな行動を起こさない状態が続けば、「なぜ社長は動かないんだ……本当に大丈夫なのか?」と言い出す社員も出てくるでしょう。

そうしたとき、経営者に試されるのは「自分の直感を信じ抜く勇気」です。経営者がこれまでの人生で培ってきたビジネスの経験値は、並大抵のものではありません。たとえすぐに答えが見えなくても、自分の信じたタイミングが来るのを待つのです。

忍耐はいつか実を結びます。成功をつかんだときは、経営者は社員の手を取って「『待ち』に徹したかいがあった」と喜びを共有しましょう。社員は思うはずです。「この社長についてきてよかった」と。そのときこそ、「ここまで一緒に耐えてくれてありがとう」と、社員に心からの感謝を伝えることを忘れてはなりません。

【本文脚注】

本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を担保するものではありません。また、本文中では内容に即した肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思われるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。

【経歴】

とくがわいえやす(1542〜1616)。三河(みかわ)国(現愛知県)生まれ。豊臣秀吉(とよとみひでよし)没後に関ヶ原の戦いにおいて東軍を率いて、石田三成(いしだみつなり)と対戦し、勝利。征夷大将軍に任じられ、江戸幕府を開く。

【参考文献】

(*)「東照公御遺訓」(久能山東照宮ウェブサイト)

以上(2026年7月更新)

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画像:日本情報マート