あなたの「ハラスメント対応力」が分かる50問 現場対応力を高めよ

2026年10月から、改正労働施策総合推進法等の施行により、

  • 顧客等によるカスタマーハラスメント(カスハラ)
  • 就職活動中の学生やインターンシップ参加者に対するハラスメント(就活セクハラなど)

の防止措置が、中小企業を含むすべての事業主に義務付けられます。すでに全企業へ適用されているパワーハラスメント(パワハラ)、セクシュアルハラスメント(セクハラ)、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの防止措置義務に新法令が加わることで、ハラスメント相談窓口が担う実務範囲と対応責任は飛躍的に拡大します。

この記事では、ハラスメント相談窓口の担当者が現場で直面する具体的な場面や、相談者からの問いかけに対する適切な対応方法を、Q&A形式で整理します。Q&Aは全部で50問です。

1 2026年10月法改正対応と相談窓口の統合運用

Q1:改めて「ハラスメント相談窓口」とは?

相談窓口は、ハラスメントに関する相談や苦情を受け止め、被害が広がるのを防ぐための窓口です。単に話を聞くだけでなく、その後の事実確認や事後対応まで含めて担う、一連の流れの入り口にあたります。

担当者には、人事労務や法務の社員、管理職などが選ばれることが多いです。相談者が性別によって話しにくさを感じることもあるため、できれば男女それぞれの担当者を置いておきたいところです。また、社内の人材だけで対応する「内部相談窓口」に加えて、弁護士事務所やコンサルタントに委託する「外部相談窓口」を併設している会社もあります。

Q2:相談の対象となるハラスメントは?

相談の対象になるのは、法令で防止措置が義務付けられている主要なハラスメント(パワハラ、セクハラ、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント)です。いずれも会社の防止措置が義務付けられており、相談窓口はその中核を担います。2026年10月1日からは、これにカスタマーハラスメント(カスハラ)と就活生等へのハラスメントも加わり、相談窓口が扱う範囲はさらに広がります。

相談者から「これって完全にパワハラですよね?」と同意を求められることもありますが、窓口担当者が受付の時点でどのハラスメントに当たるか、そもそも該当するかどうかを決めつける必要はありません。「お話を伺った限り、大変つらい思いをされたのだとよく分かりました。ハラスメントに当たるかどうかは、この後しっかり事実関係を確認した上で判断させてください」といった形で、まずは受け止めることを優先します。

Q3:相談窓口に相談が寄せられた場合の対応の全体像は?

相談が寄せられたら、「相談者→第三者(目撃者等)→行為者」の順に話を聞き、ハラスメントの事実があったかどうかを確認していきます(これを事実確認と呼びます)。早く白黒つけようと焦らず、じっくり進めることが大切です。相談者の話だけでなく、証拠や目撃者の有無、行為者の言い分も含めて、多角的に事実を積み上げていきます。

事実確認の結果ハラスメントがあったと判断されれば、行為者の処分の検討、被害者と行為者を引き離すなどのケア、そして再発防止策の実施へと進みます。事実が確認できなかった場合も、そこで対応を打ち切らず、相談者・行為者双方に丁寧に説明することが求められます。窓口担当者は、特に、受付・ヒアリング・事実確認の部分を中心的に担います。

Q4:社員以外への相談対応はどうなる?

ハラスメント防止措置の対象は、自社の社員からの相談だけではありません。会社が取引するフリーランス(従業員を使わない個人事業主等)に対しても、社員と同じようにハラスメント防止措置を講じる義務があります(2024年11月1日から義務化)。また、2026年10月1日からは、就職活動中の学生やインターンシップ参加者からの「就活セクハラ」の相談にも、社員と同じように対応することが義務付けられます。

対応の基本的な流れ(受付、ヒアリング、事実確認)は社員への対応と変わりません。行為者が自社の社員であれば懲戒処分を検討し、相手側(フリーランスや学生)に対しては、選考上の不利益がないことを保証したり、心身のケアを行ったりすることが中心になります。

Q5:派遣社員からの相談は、自社(派遣先)と派遣元、どちらが受け付ければよい?

派遣社員に対しては、派遣先・派遣元の両方にハラスメント防止措置義務があります。ですから、「うちは派遣先だから」「うちは派遣元だから」と相談を断ることはできません。相談を受けた側が、まず窓口としてしっかり受け止めるのが原則です。

自社が派遣先として相談を受けたときは、本人の同意を得た上で派遣元にも連絡し、双方で協力しながら事実関係を調べていきます。自社が派遣元として相談を受けたときも同様に、派遣先のハラスメント相談窓口や人事担当者と連携します。事実が確認できたら、行為者が所属する側の会社が中心となって、行為者への措置や、派遣社員の就労環境の改善(配置の見直し等)を進めます。

2 相談受付・初期ヒアリングの実務テクニック

Q6:相談を受ける際に、必ず守るべき基本姿勢は?

担当者は一貫して中立的な立場を保ち、相談者・行為者のどちらにも肩入れしないことが大前提です。話を聞く中で「あなたにも隙があったのでは?」といった詮索や、「それはハラスメントに当たると思います」というその場での評価は避けます。相談者が安心して話せるよう、まずはしっかり受け止める姿勢を大切にしてください。

セクハラの相談では羞恥心を伴うことも多いため、できれば相談者と同性の担当者が話を聞くようにします。また、相談者は「行為者に仕返しされるのでは」と不安を抱いていることが多いので、「相談したことで不利益を受けることはありません」「行為者には勝手に接触しないよう伝えます」とはっきり伝えておくと安心してもらいやすくなります。

Q7:相談者が興奮して感情的になり、「今すぐ加害者をクビにして処分してください!」と要求してきた場合、どう切り返せばよい?

まずは相談者の怒りや苦しさに共感しつつ、処分を決めるには公平な事実確認が必要であることを、落ち着いて伝えます。

「つらい思いをされて、強い憤りを感じられるのは当然だと思います。いただいたお気持ちはしっかり受け止めます」と気持ちを受け止めた上で、「会社としては、就業規則に基づいて双方から客観的に事実確認を行い、その上で公平に処分や措置を決めることになっています。まずは詳しくお話を聞かせてください」と説明し、その場で約束するのは避けながらヒアリングへとつなげます。

Q8:相談者が「相談したことを上司や同僚、加害者には絶対秘密にしてほしい。調査もしないでほしい」と言ってきた場合、どう対応すればよい?

相談者の気持ちを尊重しつつ、調査をしない場合のリスクや、安全確保のためには最低限の情報共有が必要になることを伝えます。中小企業では担当者が1人で抱え込んでしまいがちですが、「経営陣の誰まで共有するか」を事前にルール化しておくことも大切です。

「お気持ちはよく分かります。ご本人の同意なく、勝手にお相手へ聞き取りを行うことはありません」と安心してもらった上で、「ただ、事実確認をしないとお相手への指導や環境の改善が難しくなってしまいます。どの範囲なら共有してよいか、一緒に考えさせてください」と話し合い、段階的な共有(まずは窓口と責任者のみで共有する、名前を伏せて注意するなど)について合意を目指します。

Q9:相談記録を作成する際、「客観的事実」と「相談者の主観・感情」をどのように書き分ければよい?

相談記録(ヒアリングシート)は、後で第三者が読んでもすぐに区別できるよう、見出しや書き方を分けて記録します。

客観的事実は「誰が、いつ、どこで、どのような発言・行動をしたか」を、なるべくそのまま(かぎかっこを使うなどして)記載します。相談者の主観・感情は、「相談者の受け止め・感情」として別に書き分けます。

相談記録の例

Q10:相談者が「録音データを持っています」と言ってきた場合、窓口担当者はどのように確認・取り扱えばよい?

録音データは客観的な証拠としてとても貴重なので、提示は歓迎し、取り扱いや秘密保持について説明した上で受け取ります。

「貴重な資料をありがとうございます。事実を正確に確認するのにとても役立ちます。このデータは厳重に保管し、調査以外の目的には使いません」と伝えた上で、該当箇所のタイムスタンプ(何分何秒あたりの発言か)や前後の会話の流れを確認します。データは、アクセスを制限したフォルダで保管します。

Q11:相談者が「メモやメールなどの証拠は何もありません。私の話だけです」と言った場合、ヒアリングはどう進めればよい?

物的な証拠がなくても、そこで相談を打ち切らず、相談者の記憶をもとに具体的な状況(周りの様子や第三者の存在など)を丁寧に掘り下げていきます。

「証拠がないからといって、調査ができないわけではありません」と伝えた上で、いつ・どこで何があったか、周囲に同僚や目撃者はいなかったか、直後に誰かに相談していないか(LINEの履歴や日記、通院歴なども含め)、言動の頻度や様子はどうだったかを、具体的に聞いていきます。こうした間接的な状況証拠の積み重ねだけでも、事実認定につながることがあります。

Q12:面談の終盤で、相談者に対して「今後の進め方」を説明する際、必ず伝えるべきポイントは?

必ず伝えたいのは、「秘密保持と共有範囲」「不利益取扱いの禁止」「今後のスケジュール」、そして「当面の接触回避策」です。

「本日伺った内容は厳重に管理し、調査に必要な最小限の担当者以外には開示しません。相談されたことで不利益を受けることも一切ありません。調査が終わり次第、方針を検討してご連絡します」と伝えます。中小企業ですぐの配置転換が難しい場合でも、「一時的な席の移動やテレワーク、業務連絡をチャット経由にするなど、無理なく働ける環境を一緒に考えましょう」と添えると安心感につながります。

3 事実調査・ヒアリング・事実認定・証拠精査の実務

Q13:事実確認を行う際に、まず心がけるべき大原則は?

早く白黒つけようと焦らないことです。調査不足はそのまま事実誤認につながり、後々の対応(処分など)を誤る原因になります。「相談者→第三者→行為者」の順で、じっくり時間をかけて事実を積み上げていく姿勢を大切にしてください。

また、担当者は一貫して中立的な立場を保ち、相談者・行為者のどちらにも肩入れしないことが欠かせません。興味本位の質問や、「あなたにも隙があったのでは」といった発言、その場での評価は避けます。ヒアリング事項はあらかじめリスト化しておき、聞き漏れを防ぎましょう。また、中小企業では関係者が近いため、担当者が1人で悩まず、面談担当者の人数・人選の検討や秘密を守れる相談役(外部専門家等)をあらかじめ確保しておくことも大切です。

Q14:加害者(行為者とされる者)へヒアリングを行う際、最初に伝えるべき冒頭の法的・手続的注意事項は?

「決めつけて調査しているわけではない」という中立性をまず伝え、その上で弁明の機会があること、内容の秘密は守られること、報復行為は禁止であることを伝えます。

「今日お越しいただいたのは、〇〇さんを犯人扱いするためではありません。相談が寄せられたので、会社として中立な立場で事実関係を確認し、〇〇さんの言い分もしっかりお聞きしたいと思っています。この内容が外に漏れることはありません。なお、相談者や関係者に接触したり、問いただしたりすることは禁止されていて、それ自体が懲戒の対象になりますのでご注意ください」と伝えます。

Q15:相談者と行為者の主張が真っ向から対立している場合、第三者(同僚・目撃者)へのヒアリングはどう進めればよい?

少人数の職場では、周囲に聞き取りをしただけで誰が相談したか特定されやすいため、事前に相談者へ「周囲に確認すると特定される恐れがあるが調査を進めてよいか」を必ず確認・合意します。

実施する際は、「〇〇さんから相談があった」とは言わず、「〇月頃の会議の雰囲気や発言で覚えていることがあれば教えてほしい」と客観的な状況確認の形で聞きます。

Q16:行為者が「弁護士を同席させたい」「面談を録音したい」と主張してきた場合、窓口担当者の判断は?

弁護士の同席は、本人の生の供述を直接確認する社内の事実確認手続きであるため、原則として断って差し支えありません。一方、面談の録音については、そもそも面談担当者としては、言った・言わないの争いを防ぐため、録音を行うことが通常です。そのため、行為者が録音したいと申し出た場合には、双方が録音することで問題ありません。

「事実関係を直接お聞きする社内調査ですので、ご本人から伺います」と説明し、録音を認める場合は「記録の正確性を担保するため、双方合意のもと全体を録音しデータを保管する」旨を伝えて実施します。

Q17:メールやLINEのスクリーンショット、録音データなどを証拠として採用する際の「証拠能力の精査基準」は?

「作成・送信日時が特定できるか(加工されていないか)」「前後の文脈が省かれていないか」「言動の内容そのもの」の3点を確認します。

実際の発言部分のスクリーンショットだけでは前後の文脈が分からないことも多いため、前後のやり取り・文脈も含めたスクリーンショットやまとまったテキストデータの提示をお願いします。録音データについても、前後の会話まで含めて確認し、相談者側が相手を誘導・挑発して言わせた発言ではないかも、客観的に見ていきます。

Q18:行為者がヒアリングで「記憶にない」「そんなことは言っていない」と全面否定した場合の追及手法は?

「言った・言わない」の水掛け論を避け、周辺の客観的な事実(日時、場所、同席者、その後のメールのやり取りなど)を1つずつ確認していきます。

「〇月〇日15時からの打ち合わせ自体はありましたか?」「そのとき、〇〇さんの進捗について話しましたか?」「その直後に相談者から〇〇というメールが届いていますが、心当たりはありますか?」というように、具体的な事実を積み重ねていくと、「言ったかもしれない」「そういうつもりではなかった」と話が変わってくることも少なくありません。

また、明らかに客観的証拠と異なる弁解をする場合には、一通り弁解を聞いたうえで、客観的証拠を提示することも考えられます。

Q19:ハラスメントの事実認定において「グレーゾーン(ハラスメントと断定も否定もできない状態)」となった場合の判断基準は?

「ハラスメントと断定するだけの証拠はないが、業務指導や配慮の面で行き過ぎた点があった」という形で結論をまとめ、懲戒には至らない範囲での指導や環境改善を行います。

白黒つかない場合でも、そのまま放置してはいけません。行為者には「ハラスメントとまでは認定していませんが、相手に誤解や苦痛を与えてしまった以上、今後は言動に気をつけてください」と伝え、相談者には「はっきりした認定には至りませんでしたが、つらい思いをされたことは受け止めていますので、職場の環境は調整していきます」と伝えます。

4 事後措置・処分・二次被害防止・データ管理・窓口運用

Q20:行為者の処分と被害者のケアを行う際の基本方針は?

行為者の処分については、行為の内容と処分の重さが釣り合っているかを意識します。重すぎる処分は無効と判断される恐れもあるため、悪質性や過去の指導歴を踏まえて慎重に決めます。

被害者ケアでは接触を避ける環境調整が基本です。配置転換は被害者に不利益感を抱かせないよう「行為者側を動かす」のが原則ですが、被害者本人が強く希望する場合は本人の意向を尊重します。中小企業で部署異動が難しい場合は、席の配置変更、パーテーションの設置、テレワークの導入、業務連絡をチャット・メールに限定するといった現実的な接触回避策を講じます。

Q21:調査の結果「ハラスメントの事実が確認できなかった(不認定)」場合、相談者と行為者双方にどう説明・フォローすればよい?

相談者を責めるようなことはせず、不安を解消できるよう配慮しつつ、行為者にも疑いが晴れたことを伝えながら、今後の言動への配慮を促します。

相談者には、「慎重に調査を行いましたが、ハラスメントと客観的に認定するだけの証拠は得られませんでした。ただ、つらいお気持ちで相談してくださったこと自体は真摯に受け止めています。今後も職場の環境には気を配ります」と伝えます。行為者には、「ハラスメントの事実は認められませんでしたが、相手が誤解やストレスを感じた背景も踏まえて、今後の言動には配慮してください」と伝えます。

Q22:相談後に、職場で「〇〇さんがハラスメントの通報をした」と噂が広まる「二次被害(セカンドハラスメント)」を防ぐ具体的手段は?

事実確認の段階から、情報を伝える範囲を最小限に絞り、関わる人全員に「情報を漏らした場合は処分の対象になる」ことをはっきり伝えておきます。

調査に関わる関係者や同僚、行為者に対しては、「この調査の内容を第三者に話したり、噂として広めたりする行為は、それ自体が新たなハラスメントや就業規則違反に当たり、厳しい処分の対象になります」という説明をし、誓約してもらいます。万が一噂を広めた人が分かった場合は、すぐに注意・処分を行います。

5 職場内のパワハラ・セクハラ・マタハラ等に関する対応

Q23:上司は「通常の業務指導だ」と主張し、部下は「精神的に追い詰められたパワハラだ」と主張している場合、窓口担当者はどこで境界線を判断すればよい?

厚生労働省の指針にあるパワハラの3つの要素、「優越的な関係を背景にした言動か」「業務上必要かつ相当な範囲を超えているか」「就業環境を害しているか」に照らして、特に2つ目の「必要性と相当性」を客観的に見ていきます。

指導の内容に業務上の合理的な目的があるか、そのやり方(大声で怒鳴る、長時間拘束する、大勢の前で叱る、人格を否定する言葉を使うなど)が行き過ぎていないかを確認します。目的が正しくても、やり方が著しく行き過ぎていれば、パワハラと判断されます。

Q24:セクハラの要件は?

セクハラは、①相手の意に反する性的な言動への対応(拒否など)を理由に、解雇や配置転換などの不利益な取扱いをする「対価型」と、②性的な言動によって職場の環境が不快になり、能力の発揮が妨げられる「環境型」の2つに分けられます。性別や性的指向・性自認は問わず、上司から部下だけでなく、同僚・部下から上司、同性同士でも成立します。

窓口としては、相手が「拒否していない=許容している」と考えるのは禁物です。人間関係の悪化を恐れて何も言えないだけ、というケースも多いため、明確な拒否がなかったことをもって「セクハラではない」と判断しないよう注意してください。

Q25:マタハラ・パタハラ・ケアハラの要件は?

マタハラ(妊娠・出産・育児に関するもの)、パタハラ(男性の育児に関するもの)、ケアハラ(介護に関するもの)は、あわせて「職場における妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント」と呼ばれます。①育児・介護休業などの制度を利用したことを理由に不利益な取扱いをする「制度等の利用への嫌がらせ型」と、②妊娠・出産したこと自体に関する言動で就業環境を害する「状態への嫌がらせ型」の2つに分かれます。

なお、会社が安全配慮義務に基づいて妊娠中の社員に休憩や負担軽減を提案したり、制度利用の予定を業務上の必要性から確認したりすること自体は、マタハラ・パタハラ・ケアハラには当たりません。悪意のある言い方や、業務上の必要性を欠いた確認の仕方をした場合に、該当する可能性が出てきます。

Q26:妊娠中の女性社員から「上司から『妊婦は使い物にならないから降格させる』と言われた」とマタハラ相談があった場合の初期対応は?

男女雇用機会均等法(妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止・マタハラ防止措置)や育児・介護休業法に明白に違反する、極めて重大なハラスメントとして直ちに対応します。

まず人事責任者等と連携し、降格などの不利益な対応が実行されないよう止めます。相談者の体調(母体保護)を最優先にし、必要に応じて通院時間の確保や負担の軽い業務への変更を手配します。その上で、上司への事実確認と処分の検討を進めます。

Q27:育児休業から復帰した社員から「短時間勤務(時短)を選択したら、雑用ばかり命じられやりがいのある仕事を外された」と相談があった場合は?

育児休業などの制度利用を理由にした不利益な取扱い(いわゆるパタハラ・マタハラ)の疑いとして受け止めます。

業務内容の変更に、時短勤務による時間的な制約など合理的な理由があるのか、それとも単なる嫌がらせなのかを確認します。合理的な理由がないまま雑用ばかり命じているようであれば、上司に対して業務の割り振りを見直すよう指導します。

Q28:管理職から「部下のミスを注意したら『パワハラで訴えます』と言われ指導ができない」と相談があった場合のアドバイスは?

業務上必要な範囲で、事実に基づいて冷静に指導するのであれば、パワハラには当たらないことを伝え、指導そのものを怖がりすぎないよう背中を押します。

「パワハラだと言われるのが怖くて、必要な指導までためらってしまうのは、それはそれで組織にとって困った状態です」と伝えた上で、不安があれば部下との面談に同席する、指導内容を事前に確認するなど、窓口や人事としてサポートできることを案内します。

Q29:相談者が「ハラスメントの被害で眠れなくなり、うつ病と診断された」と診断書を持参した場合の緊急手続は?

すぐに人事労務部門や産業医と連携し、安全配慮義務に基づいた休職・療養の手続きと、行為者との引き離しを最優先で進めます。

診断書を受け取ったら、医師の指示に沿って休職手続きや勤務時間の短縮を手配します。診断書の内容が「勤務可能」とあったとしても、行為者との接触を避けるための措置を講じます。同時に、本人の体調に無理のない範囲で調査への協力(代理人や書面での確認も含む)をお願いし、事実確認と行為者への対応を並行して進めます。

Q30:行為者が「そんなつもりで言ったのではない。軽口(冗談)のつもりだった」と釈明した場合、どう納得させればよい?

ハラスメントに当たるかどうかは、行為者の意図ではなく、言動そのものの客観的な内容と、受け手がどう感じたか(平均的な受け止め方)で判断されることを伝えます。

「冗談のつもりだった、悪気はなかった、という気持ちは分かりますが、実際にその言動が相手に精神的な苦痛を与え、働きにくくしてしまったという事実で判断することになります」と説明し、自分の言動が与える影響について、改めて振り返ってもらいます。

6 カスハラ現場相談と組織対応実務

Q31:窓口担当者と現場監督者の役割はどう違う?

カスハラが起きているその場で、対応の判断や指示を行うのは、基本的には現場監督者(店長や係長など)の役割です。相談窓口担当者は、その後の相談受付や事実確認、社内の体制づくり、外部との連携といった部分を担うのが本来の位置づけです。

とはいえ、中小企業では窓口担当者と現場監督者を同じ人が兼ねていることも珍しくありません。その場合は、この章の内容をそのまま自分自身の初動対応として使っていただいて構いません。一方、窓口と現場が分かれている会社では、まず現場監督者に判断や対応を委ね、窓口はその後の相談受付やフォロー、マニュアル整備を中心に動く、という役割分担を意識しておくと、いざというときに動きやすくなります。

Q32:カスハラかどうかを判断する基準は?

改正後の労働施策総合推進法では、カスハラは「顧客等の言動が、業務の性質などに照らして社会通念上許容される範囲を超えており、労働者の就業環境を害すること」と定義されています。この2つの要素(範囲を超えているか、就業環境を害しているか)を、業務の性質、言動の目的や態様、頻度、経緯などと合わせて総合的に見て判断します。

現場で迷わないよう、あらかじめ「同じ主張を〇回以上繰り返す」「電話が〇分以上続く」など、自社なりの目安を決めておくと判断しやすくなります。窓口担当者としては、こうした判断基準や対応マニュアルを事前に整えておくことも大切な役割です。

Q33:相手が「取引先の担当者個人」「重要取引先」だった場合、判断や対応は変わる?

カスハラの定義自体は変わりませんが、BtoBの取引先が相手の場合は、取適法やフリーランス法、優越的地位の濫用など法的な論点も絡んでくるため、対応の慎重さは変わってきます。

一般消費者が相手であれば、現場で対応を打ち切る、出入り禁止にするといった迅速な対応が中心になります。一方、重要な取引先の場合は、現場の担当者一人に対応させず、「会社対会社」の窓口に一本化します。自社だけで突っぱねるのが難しい力関係であっても、記録をしっかり残した上で、役員や顧問弁護士、「取引かけこみ寺」などの外部相談機関も活用しながら、組織として冷静に対処していきます。

Q34:現場から「お客様に土下座や長時間の謝罪を要求されている」と相談が入った。窓口担当者として、まず何を伝えるべき?

その場でカスハラかどうかを判断して対応を指揮するのは、本来は現場監督者の役割です。窓口担当者に直接連絡が来た場合は、まず現場監督者への引き継ぎを促します(もちろん、中小企業で兼務している場合は、そのまま対応して差し支えありません)。

その上で、「一人で対応させず複数名や管理職に引き継ぐこと」「土下座や長時間の拘束のような不当な要求には絶対に応じないこと」を伝えます。土下座の強要は強要罪(刑法223条)、長時間の居座りは不退去罪(刑法130条)に当たり得る犯罪行為です。「これ以上のご要求にはお応えできません。お引き取りください」と毅然と伝え、応じてもらえなければ警察に通報する、という初動の流れを現場と共有しておくことが大切です。

Q35:取引先から「納期を無理に短縮しないと出入禁止にする」「契約を打ち切る」と不当に脅されている社員からの相談への対応は?

取引上の立場を利用した不当な要求であり、典型的なBtoBのカスハラ(取適法等の違反の疑い)として組織で受け止めます。

相談してきた社員には、「あなたが悪者になることはありません。個人で抱え込まず、会社として対応します」と伝えて安心してもらい、これまでのメールややり取りの経緯を提出してもらいます。重要な発注元であっても、現場に無理を押し付けず、法務・役員・顧問弁護士が連携し、必要に応じて公的な相談窓口(取引かけこみ寺等)の知見も借りながら、相手企業のコンプライアンス窓口等へ事実を示して是正を求めていきます。

Q36:「悪質なクレーム対応の連続で精神的に限界です」と訴える社員に対し、窓口として提供できる法的・保健的措置は?

会社には安全配慮義務(労働契約法第5条)があるため、まずはその顧客対応から一時的に離れてもらい、メンタルヘルスへの配慮を行います。

具体的には、対応を別の管理職や組織対応チームに引き継ぐ、産業医や保健師との面談、必要に応じて特別休暇や配置転換の検討などを行います。本人一人に抱え込ませず、会社が前面に出て対応を引き受けることが大切です。

Q37:顧客から電話で「名前を言え、言わないならSNSで拡散してやる」と脅された、という相談が入った。どのような対応方針を用意しておくとよい?

現場対応者がとっさに困らないよう、フルネームは伝えず、苗字や担当番号にとどめる、というルールをあらかじめ決めておきます。「防犯および従業員保護のため、フルネームはお伝えしていません。担当の〇〇が承ります」といった言い方を、想定問答として共有しておくとよいでしょう。

SNSへの投稿をちらつかせた脅しに対しても、現場でその場の交渉に応じさせず、「誹謗中傷や虚偽情報の拡散があれば法的措置を検討します」という会社としての方針を、あらかじめ現場に周知しておきます。実際に投稿された場合は、窓口や法務が中心となって、発信者情報の開示請求など専門的な対応を検討します。

Q38:相談者である現場社員が「自分がミスをしたから顧客を怒らせてしまった。自分が悪い」と自分を責めている場合、心理的フォローはどのように行えばよい?

仕事上のミスと、ハラスメントに当たる言動は切り離して考え、「どんな理由があっても、暴言やハラスメントをしてよい理由にはならない」ことをしっかり伝えます。

「ミスや行き違いがあったとしても、お客様があなたに暴言を吐いたり、怖い思いをさせたりしてよい理由には一切なりません。会社はあなたを守る立場にあります」と寄り添い、必要以上の罪悪感を取り除きます。その上で、仕事のミス自体は組織全体でフォローしていく姿勢を見せます。

Q39:取引先の担当者から、食事やデートにしつこく誘われる、という相談があったら?

重要な取引先からの誘いであっても、断っているのにしつこく誘われるようであれば、カスハラ(またはセクハラに近い行為)に当たり得ます。まずは「断ることに問題はありません」と伝えて安心してもらい、誘われた日時や回数、断った経緯などを確認します。

その上で、上司や営業責任者と連携し、必要に応じて取引先の担当窓口へ、会社としてやんわりと申し入れることを検討します。「重要な取引先だから」という理由で、ハラスメントを我慢させることのないよう、社内で共通の姿勢を持っておくことが大切です。

Q40:現場の対応者が、その場で「できます」「できません」と即答してよい範囲は?

法令や契約内容、社内のルール、他のお客様との公平性など、判断の根拠をその場で示せる内容であれば、現場の対応者が即答して構いません。

一方、根拠を示せない要求や、個人的な判断・約束を求められるような場面では、その場で答えず、「担当だけでは判断しかねますので、会社として確認のうえ改めてご連絡します」と一度持ち帰るよう伝えます。この線引きをあらかじめ現場に周知しておくことも、窓口担当者の役割の一つです。

7 就活セクハラ・求職者インターンハラスメント特有の対応

Q41:就活セクハラ・求職者ハラスメント対応で、社員間のハラスメントと違う点は?

対応の基本的な流れ(受付、ヒアリング、事実確認)は社員間のハラスメントと変わりません。大きく異なるのは、相手が「これから選考を受ける、あるいは選考中の学生・求職者」であるという点です。相談してきたこと自体が選考に影響するのではないかという不安が特に強いため、「相談したことで不利益な扱いは一切ありません」と、通常以上にはっきり伝える必要があります。

また、行為者が自社の社員であれば就業規則に基づく懲戒処分を検討します。他方で、被害者である学生・求職者に対しては、選考機会を守ること、心身のケアを行うことが、対応の中心になります。

Q42:就活セクハラは、通常のセクハラとどう違う?

行為の内容自体は通常のセクハラと同じで、性的な言動によって不利益な取扱いをしたり、就業(この場合は選考)環境を害したりすることを指します。違いは「保護される対象」で、これまでは自社の社員が対象でしたが、2026年10月1日からは、就職活動中の学生やインターンシップ参加者も同じように保護の対象になります。

たとえば、面接官が学生に食事や交際を迫る、選考を材料にして個人的な関係を求める、といった行為は、社員間のセクハラと同じ考え方で就活セクハラに当たります。企業の採用担当者や面接官は「社外の人だから大丈夫」ではなく、社員に対するのと同じ基準で接する必要があります。

Q43:行為者が現場の面接官(社員)だった場合、社員への処分はどう進めればよい?

被害を訴えた学生への配慮と選考機会の確保を進めながら、社内調査と就業規則に基づく懲戒手続きを段階的に進めます。

まず、相談を受けた時点で、その面接官を選考や学生対応から外します。次に、面接官へのヒアリングや選考記録の確認を通じて事実関係を調べます。事実が確認できたら、就業規則のハラスメント規定等に照らし、然るべき手続きを経て処分(戒告、減給、出勤停止等)を決めます。最後に、学生には不利益が生じていないことを説明し、希望があれば別の面接官による再面接など、選考をやり直す機会を用意します。

Q44:Web面接中に面接官が学生に対し「部屋の様子をカメラで見せて」「全身が映るように離れて立って」と要求し、学生から不快感の相談があった場合は?

面接に直接関係のないプライベート空間への立ち入りや、身体的特徴の過剰な確認であり、就活ハラスメントとして受け止めて対応します。

面接官には、「業務上・選考上の必要性や相当性を欠く、不適切な言動だった」ことを伝えて指導します。相談してきた学生には、不快な思いをさせたことを丁寧にお詫びし、「この件が選考結果に影響することは一切ありません」と伝えた上で、希望があれば別の面接官による再選考など、やり直しの機会を用意します。

Q45:就活セクハラ被害を訴える学生から「所属している大学のキャリアセンターにも相談しています」と言われた場合、窓口はどう連携すればよい?

学生の同意を得た上で、大学のキャリアセンターと積極的に情報連携を行い、真摯に対応する姿勢を示します。

厚生労働省の指針でも、大学等の相談窓口との連携は望ましい取り組みとされています。大学側から問い合わせがあれば、「現在、社内で調査を進めており、分かり次第ご報告します」と誠実に伝えることで、企業としての信頼を保つことにもつながります。

Q46:被害を訴えた求職者(学生)に対して、「選考上の不利益取扱いをしない」ことを具体的に担保・証明する実務手段は?

相談を受けた時点で不利益取扱いをしない旨の書面を発行し、選考プロセスからその面接官を外した上で、別の面接官や人事が客観的な基準で選考を行います。

「窓口への相談と選考評価は完全に切り離されています」という趣旨を書面やメールで伝えます。また、選考結果の判断理由(評価シート等)を人事部内できちんと記録・保存しておけば、万が一不採用になった場合でも、相談が原因ではなく選考基準に基づく判断だったことを説明できます。

Q47:インターンシップ参加中の学生から「社員から肩を叩かれたり、腰に手を回されたりした」とセクハラ相談があった場合の初期対応は?

身体的な接触を伴うセクハラであり、まずはその社員をインターン指導から外し、学生の安全と気持ちのケアを最優先します。

「不快で怖い思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした」とお詫びし、体調や気持ちに配慮します。インターンシップを続けたいか、辞退や別日程への変更を希望するか意向を確認し、それに応じた対応をとります。その上で、行為者とされる社員への聞き取りと処分の手続きを進めます。

Q48:面接官(社員)へのヒアリングで、相手が「場を和ませるためのアイスブレイクの雑談(彼女いるの?等)だった」と主張した場合の指導法は?

面接官の意図がどうであれ、相手(求職者)がどう受け止めたか、そして選考の場でふさわしい質問だったかどうかという観点で指導します。

「性別や恋愛観、結婚の予定、家族構成などは、厚生労働省の指針でも配慮すべき事項とされていて、選考で聞くこと自体が不適切とされます。和ませるためだったとしても、理由にはなりません」と伝え、面接官向けマニュアルの見直しも合わせて行います。

Q49:就活生から「SNS(XやInstagram等)の個人アカウントに、採用担当者から個人的なDMで飲み会に誘われた」と相談があった場合の対応は?

採用の権限を背景にした、不適切な就活ハラスメントとして受け止め、まずは行為者である採用担当者を学生対応から外します。

DMの画面を証拠として提出してもらい、就業規則に基づいて懲戒処分を検討します。相談してきた学生には選考への影響がないことを伝えます。なお、中小企業で採用担当者が社長や役員自身である場合は、窓口担当者だけで抱え込まず、顧問弁護士や社外相談窓口等に速やかに相談して組織として対処します。

Q50:内定者から「内定辞退を伝えたら、人事担当役員から『うちを蹴ったら業界で生きていけないようにしてやる』と怒鳴られた」と相談があった場合は?

職業選択の自由を侵害する、悪質なハラスメント(いわゆるオワハラ)として受け止めます。

相談してきた内定者には丁寧にお詫びし、辞退の手続きを速やかに受け付けます。行為者が経営陣・役員の場合は社内での注意が難しいため、顧問弁護士や監査役などへ事実を報告し、「会社の法的リスクや信用失墜に直結する重大な問題である」として外部の力も借りながら厳重に是正を促します。

以上(2026年9月作成)
(監修 石原法律事務所 弁護士 磯田翔)

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2026年10月、「106万円の壁」は撤廃! 会社の保険料負担はいくらに?

1 社会保険の適用拡大……いよいよ全ての会社が対象に?

「社会保険の適用拡大」とは、社会保険(健康保険と厚生年金保険)の被保険者となるパート等の範囲が拡大されることです。ここでいう「パート等」とは、

週の所定労働時間または月の所定労働日数が、正社員の4分の3未満の短時間労働者

のことです。本来、パート等は社会保険の適用対象外ですが、会社が厚生年金の被保険者数について一定の要件を満たし、さらにパート等が労働時間や賃金について一定の要件を満たすと、社会保険に強制加入となります。

具体的には、会社とパート等が図表の1.から5.までの要件を全て満たすと、パート等が社会保険に加入するルールになっています。

パート等の被保険者要件

2026年10月からは、「3.賃金」について

月額8万8000円以上(いわゆる「106万円の壁」)という要件が撤廃

されます。

賃金に係る改正

また、2027年10月からは、「1.厚生年金保険の被保険者数」について、

被保険者数が常時35人超の会社が対象になり、以後段階的に縮小・撤廃され、2035年10月以降は全ての会社が対象

になります。

厚生年金被保険者の数に係る改正

経営者が気になっているのは、パート等が社会保険の被保険者になることで、

  • 社会保険料の負担(法定福利費)はいくら増えるのか?
  • 実務上、会社がすべきことは何か?

だと思います。以降でそれぞれ解説するので、確認していきましょう。

2 (2026年10月)「106万円の壁」が撤廃された後の社会保険料負担は?

1)まずは条件を設定しよう

2026年10月からは、社会保険の適用対象となる要件のうち「3.賃金」(月額8万8000円以上、いわゆる「106万円の壁」)が撤廃されます。この影響が特に大きいのが、最低賃金の低い地域です。ここでは、全国的に最低賃金が低い水準にある沖縄県の会社を例に、条件を次のように設定してみましょう。社会保険料は、協会けんぽの「令和8年度保険料額表(沖縄県)」を用いて計算します。

1.厚生年金保険の被保険者数:51人

2.週の所定労働時間:20時間(1日4時間×週5日勤務)

3.1カ月当たりの賃金:8万6400円(時給1080円×週20時間×4週)

4.勤務期間の見込み:継続して2カ月を超えて使用される見込み

5.適用除外:学生でない

なお、時給については、沖縄県の地域別最低賃金(2026年10~12月に発効予定)が1079円となる見込みであること(厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」)から、1080円で設定しています。

2)会社の毎月の負担は、パート等1人につき最低でも1万2307円増える

社会保険料は、健康保険料と厚生年金保険料に分かれていて、それぞれ、

標準報酬月額(月例賃金を一定の金額幅で等級別に区分したもの)×保険料率

で計算した額を、会社とパート等が折半して負担します。なお、健康保険料率はパート等が40歳未満の場合と、40歳以上65歳未満の場合とで異なります。1)の条件の場合、

  • 標準報酬月額:8万8000円
  • 健康保険料率:9.44%(40歳未満の場合)、11.06%(40歳以上65歳未満の場合)
  • 子ども・子育て支援金:0.23%
  • 厚生年金保険料率:18.3%

となり、会社とパート等の社会保険料の負担は次のようになります。

「106万円の壁」が撤廃された後の社会保険料負担

図表4の場合、パート等が社会保険に加入することで、会社の負担はパート等1人につき

月額1万2307円(1万3019円)、年額に換算すると14万7684円(15万6228円)増える

ことになります。

資格取得時の標準報酬月額は、基本給や時給分だけでなく、通勤手当や毎月ほぼ確実に発生する残業代の見込み額なども含めて算定します。「時給×所定労働時間では8万8000円未満だから等級が低いはず」と思っていても、通勤手当を加えると1つ上の等級になり、会社負担が想定より増えるケースがあります。試算の際は、賃金台帳ベースの支給総額で確認しましょう。

なお、家族の扶養に入れるかどうかを判定する被扶養者認定の基準(年収130万円未満、いわゆる「130万円の壁」)は別の制度で、こちらは残ります。適用拡大の対象外の会社で働くパート等には引き続き130万円の壁が関係するため、パート等への説明時に2つの「壁」を混同しないよう注意しましょう。

3 (2027年10月)常時36人以上の会社が適用対象となった場合の社会保険料負担は?

1)まずは条件を設定しよう

2027年10月からは、社会保険の適用対象となる要件のうち「1.厚生年金保険の被保険者数」について、被保険者数が常時36人以上の会社が新たに対象になります。ここでは、これまで対象外だった被保険者数36人の東京都内の会社を例に、条件を次のように設定してみましょう。社会保険料は、協会けんぽの「令和8年度保険料額表(東京都)」を用いて計算します。

1.厚生年金保険の被保険者数:36人

2.週の所定労働時間:20時間(1日4時間×週5日勤務)

3.1カ月当たりの賃金:10万2400円(時給1280円×週20時間×4週)

4.勤務期間の見込み:継続して2カ月を超えて使用される見込み

5.適用除外:学生でない

なお、時給については、東京都の地域別最低賃金(2026年10~12月に発効予定)が1280円となる見込みであること(厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」)から、1280円で設定しています。

2)会社の毎月の負担は、パート等1人につき最低でも1万4758円増える

1)の条件の場合、

  • 標準報酬月額:10万4000円
  • 健康保険料率:9.85%(40歳未満の場合)、11.47%(40歳以上65歳未満の場合)
  • 子ども・子育て支援金:0.23%
  • 厚生年金保険料率:18.3%

となり、会社とパート等の社会保険料の負担は次のようになります。

常時36人以上の会社が適用対象となった場合の社会保険料負担

図表5の場合、パート等が社会保険に加入することで、会社の負担はパート等1人につき

月額1万4758円(1万5600円)、年額に換算すると17万7096円(18万7200円)増える

ことになります。

4 実務上、会社がすべきことは何か?

1)対象となるパート等に、社会保険料の天引きが発生する旨を説明する

パート等の中には現状、配偶者などの家族(被保険者)の扶養に入っている人(被扶養者)がいます。社会保険の適用拡大によって、被扶養者であるパート等が被保険者になると、

家族の扶養から外れ、これまで負担義務のなかった社会保険料が賃金から天引きされる

ようになります。「社会保険料の負担義務がない」という理由で、パート等での勤務を希望している社員もいるかもしれません。新たに被保険者要件を満たすパート等には、社会保険の適用拡大が開始される前に、社会保険料の天引きが発生する旨を説明しましょう。

なお、パート等の中には現状、家族の扶養に入っておらず、国民健康保険と国民年金に加入して自分で保険料を払っている人もいます。こちらのパート等についても社会保険料の天引きは当然発生しますが、保険料の負担については、

社会保険料<国民健康保険料+国民年金保険料

と、社会保険への加入によって軽くなるケースが多いようです(国民健康保険料の計算方法が自治体によって異なり、賃金額などによっては負担が重くなることもあるので注意)。

また、社会保険への加入により厚生年金と健康保険にも同時加入する事になります。自身が将来受け取る年金額が増えること、傷病手当金や出産手当金などの対象になり、働けなくなるリスクへの備えが厚くなる点を説明に加えるのもよいかもしれません。

なお、2026年10月1日からは、社員50人以下で任意特定適用事業所となった会社や、2027年10月以降の適用拡大で新たに対象となる会社を対象に、パート等本人の社会保険料負担を通算3年間軽減できる「保険料調整制度」が始まります。軽減分は会社がいったん追加負担しますが、後日納付する保険料から全額控除されるため、最終的な会社の負担は増えません。対象となる会社は、社会保険料の天引きを説明する際、負担軽減策として併せて案内するとよいでしょう。

2)社会保険料の天引きと併せて、保険給付の変更についても説明する

パート等が社会保険の被保険者になると、社会保険料の負担が発生する代わりに、今まで受けられなかった保険給付を受けられるようになります。

パート等の状況に応じた主な保険給付の比較

ざっくりイメージを説明すると、

社会保険に加入することで、私傷病や出産で休業する期間の生活保障が受けられるようになり、年金については、国民年金に加えて厚生年金保険の給付も受けられる

ようになります。社会保険料の天引きの件と併せて、具体的なメリットをパート等に伝えてあげると親切です。

なお、厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」には、パート等への説明に使えるガイドブックやチラシなどの資料が用意されているので、活用するとよいでしょう。

■厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」■
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/

3)パート等が希望する場合、労働条件の見直しを検討する

パート等が被扶養者の場合、社会保険が適用されると聞いて「扶養から外れたくないから、もう少し労働時間を短くしたい」などと、会社に相談してくる可能性があります。この点、

会社がパート等と合意して労働条件を変更した結果、パート等が被保険者要件を満たさなくなるのであれば、社会保険に加入させる必要はない

ということになります。

一方、パート等の中には「これ以上労働時間を短くすると、賃金が減って生活が苦しいから社会保険には加入する。むしろ社会保険料が天引きされるなら、もっと労働時間を長くして賃金を増やしたい」と考える人もいるかもしれません。基本的な考え方は労働時間を短くする場合と同じですが、パート等に配偶者がいると、

労働時間を長くしてパート等の給与収入(賃金など)が増えると、パート等の配偶者が所得税の配偶者特別控除を受けられなくなるケースがある

ので注意が必要です。労働条件の見直しについては慎重に検討しましょう。

所定労働時間を週20時間未満に見直しても、実際の労働時間が恒常的に週20時間以上となっている場合、実態に基づいて被保険者と判断されることがあります。目安として、実労働時間が2カ月連続で週20時間以上となり、その後も同様の状態が続く見込みであれば、加入手続きが必要になると考えましょう。契約書上の時間を短くするだけの「形式的な回避」は、後述の遡及加入リスクにつながるため厳禁です。

4)社会保険に加入するパート等については、適正に加入手続きを行う

社会保険の適用拡大が施行される前に、パート等の労働条件を見直すのは問題ありませんが、施行後は被保険者要件を満たすパート等を全員、社会保険に加入させなければなりません。

直近では、2026年10月1日から、「106万円の壁」撤廃により被保険者要件を満たすようになるパート等が出てくることが想定されますが、その場合、

被保険者要件を満たすようになった日から5日以内(この場合、2026年10月6日まで)に、各パート等の「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を所轄年金事務所に提出

しなければなりません。なお、届出は事務センターへの郵送や電子申請でも行えます。

加入手続きを怠ったまま年金事務所の調査(定時決定時の調査や事業所調査)で未加入が発覚すると、最大2年遡って保険料を徴収されます。この場合、本人負担分も会社がいったん立て替えて納付することになりますが、すでに退職したパート等から本人負担分を回収するのは事実上困難です。「気付かなかった」では済まされない金額になり得るため、施行日前に対象者リストを作成し、漏れなく手続きしましょう。

5)新しいパート等の採用に向けて、求人案内や労働条件通知書も見直す

社会保険の適用拡大が開始された以降も、新しいパート等を採用することがあると思います。求人案内や労働条件通知書についても忘れずに見直しておきましょう。

求人案内については、職業安定法上、

募集するパート等に社会保険が適用されるかどうかを、必ず明示しなければならない

ので注意が必要です。社会保険の被保険者要件を満たすのにもかかわらず、「社会保険の適用なし」と記載しているのであれば、内容を修正しましょう。

労働条件通知書については、労働基準法上、社会保険の適用について明示する義務まではありません。ただし、現状の書式に項目があるのであれば、求人案内と同じように内容を修正します。

なお、社会保険の適用について確認するだけでなく、その他の労働条件が妥当かどうかについても、改めて検討してみましょう。例えば、

  • 現状、パート等の所定労働時間を週20時間に設定しているが、本当に週20時間も働く必要があるのか?
  • 現状、パート等1人につき担当業務を2つ設定しているが、担当業務を1つにする代わりにパート等を2人雇用することで、賃金や労働時間をコントロールできないか?

などを考えてみます。ただし、賃金に変更を加える場合は、最低賃金や同一労働同一賃金などの問題に注意が必要です。

また、社会保険だけでなく雇用保険についても、2028年10月1日から適用対象が週の所定労働時間10時間以上の労働者に拡大される予定です(現行は20時間以上)。週20時間未満で働くパート等の労務管理にも影響するため、こちらの法改正も併せて確認しておきましょう。

以上(2026年9月更新)
(監修 社会保険労務士 柴田充輝)

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役員報酬を損金に算入するための基本ルールと役員住宅を使った税金対策

1 役員報酬を損金に算入できなければ資金繰りに影響が出る?

役員報酬は、従業員給与と違い、税務上のさまざまな取り決めがあります。例えば、従業員給与は基本的に全額を損金に算入できますが、役員報酬は毎月同額でなければならないなど、一定の方法で支払われたものでなければ損金に算入できません。

役員報酬は金額が大きいので、取り扱いを間違えて損金に算入できないと想定外に税負担が重くなり、資金繰りにも影響します。このような事態を避けるためにも、役員報酬に関する税務上の取り扱いを正確に把握しましょう。

また、役員関連で活用できる税金対策に「役員が居住用に借りている自宅の社宅化」があります。一般的には社宅家賃の5割程度が損金に算入できるといわれています。ただし、一定の取り決めなどが必要になりますので、決められた取り決め通り正確に実施することが大切です。

この記事では役員報酬の基本的なルールと、役員社宅に関する税金対策について分かりやすく紹介していきます。

2 損金に算入できる3つの役員報酬

税務上、損金算入できる役員報酬は、以下のいずれかに限られています。なお、業績連動給与を損金に算入できるのは有価証券報告書の提出企業(いわゆる上場企業)などに限られるので、中小企業は、定期同額給与か事前確定届出給与で支給するのが通常です。

1.定期同額給与

2.事前確定届出給与

3.業績連動給与

仮に、いずれにも該当しない役員報酬を損金に算入して確定申告をしてしまった場合、税務調査などで指摘を受け、役員報酬分に係る法人税を支払うことになります。役員個人には支給時に所得税が課税されているので、損金に算入できないこの役員報酬には法人税と所得税が二重に課されることになります。

3 定期同額給与とは?

定期同額給与とは、毎月同額を給与として支給するものです。例えば、3月決算の会社の場合、4月から翌年3月までの12カ月の支給時期における支給額が同額でなければなりません。

定期同額給与のイメージ(3月決算の会社の場合)

定期同額給与の金額を変更できるのは、原則として事業年度の開始から3カ月以内に限られます。例えば、3月決算の会社であれば、6月30日までに改定されて支給される役員報酬が該当します。役員報酬の支給金額変更には株主総会での普通決議が必要です。

定期同額給与(その他これに準ずるもの)のイメージ(3月決算の会社の場合)

なお、役員の職制上の地位の変更など一定の理由(臨時改定事由や業績悪化改定事由)がある場合は、期中でも役員報酬の減額が認められ、毎月同額でなくなった場合も全額損金として認められます。とはいえ、損金に算入するためには、定められた期間内の支給額を同じ額にする必要があります。

では、事業年度の開始から3カ月が過ぎ、期中に増額・減額をした場合(臨時改定事由や業績悪化改定事由がない場合に限る)はどうなるのでしょうか。答えは次の通りです。

  • 3月決算の会社が、12月以降の役員報酬を月20万円「増額」した場合、「20万円×4カ月間(12月~3月)=80万円」を損金に算入できない
  • 3月決算の会社が、12月以降の役員報酬を月20万円「減額」した場合、「20万円×8カ月間(4月~11月)=160万円」を損金に算入できない

役員報酬を増額または減額する場合(イメージ)

また、役員報酬は給与所得であるため、法人税のルールにかかわらず所得税の対象になります。つまり、損金とすることができない役員報酬額の部分には、法人税と所得税が二重に課されることになります。

4 事前確定届出給与

事前確定届出給与とは、いわゆる役員賞与に当たり、支給するためには原則として一定の届出が必要です。

具体的には、株主総会等の決議をした日から1カ月以内など、定められた期限内に税務署へ届出書を提出し、その届出書に記載した対象者・支給日・支給金額の内容通りに支給します。手続きは煩雑ですが、支給額や支給時期を自由に決めることができます。ただし、届出書に記載した対象者・支給日・支給金額の内容通りに支給しなければ、その全額が損金に算入できなくなってしまうので注意が必要です。

事前確定届出給与のイメージ(四半期支給の場合)は次の通りです。

事前確定届出給与のイメージ(四半期支給の場合)

また、事前確定届出給与を前述した定期同額給与と組み合わせて、役員賞与を設定する場合があります。

定期同額給与+事前確定届出給与のイメージ

5 役員報酬を変更する場合のスケジュール

ここまで触れてきたように、定期同額給与と事前確定届出給与を変更する際は、その期限を守らなければなりません。3月決算の会社を例にとると、役員報酬を変更するスケジュールは次のようになります。

役員報酬の変更スケジュール(3月決算の会社の場合)

3月決算の場合、定時株主総会は6月末までに開催することになっています。定期同額給与の変更は、原則として事業年度開始の日から3カ月以内なので、6月末が期限です。

事前確定届出給与は、定時株主総会による決議から1カ月以内、または事業年度開始の日から4カ月以内のいずれか早い日が届出期限です。例えば、6月20日に株主総会が開催された場合、7月20日と7月31日を比較し、早い日である7月20日が届出期限となります。

6 ルールを守っていても高額すぎるとみなされた部分は損金に算入できない

ここまで紹介してきたルールにのっとって役員報酬を支給していても、役員の職務内容や会社の業績などと照らし、高額すぎるとみなされた場合、その高額とみなされた部分の金額は損金に算入できません。

支給額が高額かどうかの判断は、金額のみで判断されるわけではなく、実質基準と形式基準の2つの基準に従って総合的に判断されます。

  • 実質基準:役員の職務内容、会社の収益状況、従業員に対する給与の支給状況、類似する会社の役員給与の支給状況などから判断する
  • 形式基準:定款の定めまたは株主総会の決議によって決定した役員報酬の金額の限度額に照らす

役員報酬の支給額を変更する際には、その検討過程を詳細に説明できるよう、議事録などの関係書類を作成しておくようにしましょう。

7 損金に算入できる役員社宅の賃借料

役員が居住用に借りている自宅については、通常、役員個人が賃貸借契約をしています。これを会社の賃貸借契約に変更すると、会社が借りた住居を社宅として役員に貸し付けるかたちとなり、会社が支払う家賃と役員から受け取る家賃の差額を損金に算入できます。このメリットは大きく、

一般的に、社宅家賃の5割程度が損金に算入できる

といわれます。

役員社宅の仕組み(イメージ)

ただし、役員の家賃負担額には一定の基準があります。役員は、国税庁が定めた「一定額の家賃」以上の額を会社に支払うことで、税務署に社宅であると認めてもらえます。この定められた額より少ないと、上記の損金に算入できる部分は損金に算入できない役員報酬とみなされ、課税対象になります。

具体的には、役員が支払う家賃については、床面積などから次の3つの住宅に区別して計算されることになっています。

1.小規模な住宅

2.小規模な住宅に該当しない住宅

3.豪華社宅

1)小規模な住宅

小規模な住宅とは、建物の法定耐用年数が30年を超える場合は床面積が99平方メートル以下、30年以下の場合には、132平方メートル以下の住宅のことです。次の1~3の合計額が、役員が支払う家賃になります。

1.(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%

2.12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/(3.3平方メートル))

3.(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%

2)小規模な住宅に該当しない住宅

小規模な住宅に該当しない場合、次の2種類に分けて役員の家賃を計算します。

1.自社所有の社宅の場合

次のa.とb.の合計額の12分の1

a.(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12%(建物の法定耐用年数が30年を超える場合は10%)

b.(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6%

2.他から借りた住宅を社宅にする場合

会社が支払う家賃の50%の金額と1.で算出した金額の、いずれか多い金額

3)豪華社宅

豪華社宅は家賃の全額が役員の負担となるので、税金対策ができません。豪華社宅に該当するか否かは、

床面積が240平方メートルを超える場合で、かつ物件価格・家賃・内装や外装の設備の状況などを考慮した総合的判断

となります。また、床面積が240平方メートル以下でも、プールなど役員の個人的な嗜好が反映されている設備があると豪華社宅とみなされます。

なお、家賃負担額以外にも、光熱費、駐車場代などは、役員本人の負担となり、もし会社が負担すると役員報酬として課税対象になります。

留意点も多少ありますが、居住用の自宅を社宅化することで役員報酬を減額すれば、会社が負担する社会保険料を抑えることができます。また、役員個人としての家賃負担が軽減されるので、結果として手取り額が増えるのと同じ効果を得られます。

以上(2026年8月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:nopparat-Adobe Stock

なぜ、「損金」を知れば決算対策の方向性が見えてくるのか?

1 決算対策の第一歩は税金計算の仕組みを知ること

創業して間もないなど、まだもうけ(利益)が出ていないときは気にならない税金(法人税)。しかし、もうけが出てくると一転して経営者は税金を意識し、いわゆる「税金対策」を講じることもあります。

対策の対象は「法人税」ですが、これは益金から損金を差し引いた所得に対して課されます。そのため、税金対策の基本は、いかにして所得を減らすか、つまり益金から差し引ける損金の取り扱いがとても重要になってくるのです。

詳細は「「経費」「費用」「損金」とは? 似ているけど決定的に違う意味」で説明しているので、ここでは簡単に示しますが、財務会計と税務会計で儲けを計算する仕組みは次のように違います。

財務会計と税務会計で儲けを計算する仕組み

肝となるのは、ずばり「税務調整」ですので、以降でその基本を紹介します。

2 4種類の税務調整

税務調整には次の4種類があります。

4種類の税務調整

税金計算の基本的な流れは次の通りです。税務調整によって、所得が増えることも減ることもあるわけですが、ここがとても重要になるわけです。

  • 財務会計の収益・費用に、税務調整を加減算して、税務会計の益金・損金とし、所得を算出する
  • 上で算出した所得に税率を乗じて、税額を算出する

3 決算対策の基本的な考え方

税金計算の仕組みが分かれば、「税金対策とは何か?」が分かってきます。そう、決算対策の基本は損金を増やして、所得を減らすことなのです。

  • 所得が低ければ低いほど、税額は少なくなる
  • 所得を減らすために、損金を増やす

利益を増やすことが会社経営の基本ですが、決算対策など納税額を減らすためには、所得(利益)を減らすという逆の考え方が必要です。なお、所得を減らすために、益金を減らすという考え方もできますが、税務上、益金を減らす対策(売上の計上基準を変更するなど)は一般的には行われません。

それでは、税金対策のために重要な「損金」について、詳しく確認していきましょう。

4 損金とは?

損金とは、法人税を計算する際に益金から差し引くことを税法で認められているもので、「1.売上原価」「2.販売費及び一般管理費その他の費用」「3.損失」の3つに分類されます。なお、税法上で取り扱いが定められている項目以外は、財務上の費用と同じ取り扱いになります。

1)売上原価

売上原価とは、その事業年度の売上に対応する売上原価、完成工事原価その他の原価です。損金に算入できるのは、その事業年度に計上された売上に直接対応しているものです。この考え方は財務会計でも同じです。

また、「売上原価=仕入高」とはならないことを覚えておきましょう。仕入高は、商品の仕入れ時には費用として計上されますが、事業年度末に棚卸しを行い、その事業年度の売上に対応する部分(売上原価)と在庫となる部分(資産)に区分されるからです。そして、事業年度末の在庫に係る仕入高は、費用(財務会計)にも損金(税務会計)にもなりません。

2)販売費及び一般管理費その他の費用

販売費及び一般管理費その他の費用(以下「販管費等」)とは、減価償却費以外の費用で、その事業年度末までに債務が確定しているものです。具体的には、次の3つの要件を満たしている費用です。

  • 事業年度末までに債務が成立していること
  • 事業年度末までに支払い原因となる事実が発生していること
  • 事業年度末までにその金額が合理的に算定できること

また、役員報酬や交際費など一部の販管費等については、上記の3つの要件とは別のルールが定められているものもあります。

販管費等や交際費、役員報酬については、次の記事で詳しく説明しています。



3)損失

損失には棚卸資産の評価損や、災害等により生じた損失、金銭債権などの貸倒損失などがあり、それらの事実が生じた事業年度に損金に算入されます。そのため、損失に基づく事実の発生の有無やその発生時期の判断が重要になります。税法上では、損金に算入できる主な損失については、個別に通達が設けられています。

5 専門家に相談する

損金に算入できるか否かによって納税額が変わるため、会社のキャッシュフローに影響を及ぼします。また、損金を気にするということは、所得が出ている(利益が出ている)ということです。

経営者は、攻めの経営で設備投資や人材採用を加速させるのか、はたまた守りの経営で内部留保を厚くするのかなど、所得(利益)をどのように使うのかを考えなければなりません。その一環として、経営者は決算対策の正しい知識を持っておく必要があります。

なお、実際に税金対策に取り組む際は、資金繰りや会社の資産状況などの幅広い視点が必要なので、税理士などの専門家と相談しながら進めるのがよいでしょう。

以上(2026年8月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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ハラスメントに対する認識ギャップ/現場を壊す「主観判断」の罠【経営者とっておきニュース】

2026年8月、日本情報マートは経営者(277人)、管理職(290人)、社員(314人)を対象に、ハラスメントに関する意識調査を実施しました。調査結果から、立場によってハラスメントへの対応や意識にギャップがあることが明らかになりました。

「社員からハラスメントを指摘されたことがある」という経営者(48人)と管理職(62人)に「指摘を受けてどう対応したか」を聞いたところ、経営者は「話し合いの場を設けた(39.6%)」が最多だったのに対し、管理職は「特に何もしなかった(35.5%)」が最多でした。また、「指摘を受けたときの本音」については、経営者の89.6%、管理職の83.8%が「大げさだ」「言いがかりだ」と感じており、指摘を額面通りには受け止めていないことも分かりました。

一方、「ハラスメントだと感じる言動を受けたことがある」という社員(162人)に、「言動を受けてどう対応したか」を聞いたところ、「我慢した(58.0%)」という回答が最多でした。現場での不満や悩みが十分に解消されていない現状が浮き彫りとなっています。

さらに「言動がハラスメントに当たるかを判断する際、何を参考するか」という問いについては、経営者・管理職・社員のいずれも「自分の感覚で判断している」または「特に何も参考にしていない」という回答が上位を占めていました。明確な共通基準がないため、立場による解釈のズレが生じています。

このギャップを放置することは、特にリソースの限られた中小企業にとって深刻なリスクとなります。社員が問題を抱え込み離職に繋がれば、人手不足のさらなる深刻化や生産性の低下を招きます。

今後は、個人の主観に依存したハラスメント対策からの脱却が強く求められます。曖昧な感覚ではなく、全社で共有できる「客観的な判断基準」を整備し、全社員が共通の物差しを持つことが不可欠です。

意識すべき視点は、「自分と他者ではハラスメントの境界線が異なる」という前提に立ち、客観的なルールに基づく対話を定着させることです。主観の差を認識し、明確な基準の下で健全な職場環境を構築することが、組織の持続的成長の鍵となります。


【ご注意点】この記事は生成AIを活用して作成したものです。文章の正確性は保証されておらず、誤りが含まれる場合があります。詳細については参照URLの情報を必ずご確認ください。
■日本情報マート note「ハラスメント意識調査、経営者9割・管理職8割『指摘は大げさ』、社員6割は『我慢』―経営者・管理職・社員881人に独自アンケート」■
https://note.com/note_jim/n/nd7a128c3d1e3

以上(2026年8月作成)

pj10150
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「接客なし」でも古着が売れる? 無人古着店の運営戦略に迫る

1 拡大する古着市場で無人店舗が選ばれる理由

日本のリユース市場は現在、かつてないほどの盛り上がりを見せています。リユース業界の専門紙「リユース経済新聞(旧リサイクル通信)」の調査によると、2024年の国内リユース市場規模は前年比4.5%増の3兆2628億円に達し、集計開始以降15年連続での拡大を記録しました。

中でも、市場の成長を力強く牽引しているのが「衣料・服飾品」です。これはバッグや靴などの「ブランド品」を除くいわゆる「古着」を中心とするカテゴリーで、直近5カ年の推移を見ると、2020年時点では約4010億円であった「衣料・服飾品」の市場規模は、2021年に4587億円(前年比14.4%増)、2022年に5119億円(同11.6%増)、2023年に5913億円(同15.5%増)と毎年成長を記録。最新の2024年推計では6392億円(同8.1%増)にまで拡大し、リユース市場の中核を担う存在となっています。

長引く物価上昇に伴う生活防衛意識の高まりから、新品よりも割安な古着へ注目が集まっていることが、この継続的な成長の追い風です。このような成長市場において、新たな出店モデルとして注目を集めているのが「無人店舗」です。

スタッフが店舗に常駐せず、利用客が24時間365日自由に買い物を楽しむことができる無人古着店は、省力化による人材不足の解決や、有人店舗では心理的なハードルを感じていた新規顧客層を取り込む場として機能し始めています。実際に無人古着店を運営する事業者へのヒアリングでも

  • 古着に興味はあるものの、有人店舗に対して「何となく敷居が高い」「接客が鬱陶しい」と感じるライトな客層を取り込める
  • 24時間365日営業によって、深夜帯や早朝など有人店舗では実現できなかった需要を掘り起こせている

といったコメントが挙げられています。

参考:無人古着店「STOPY」の店内。スタッフの姿はないが、商品はきれいに陳列されている(提供:JAM TRADING)

さらに、無人古着店は、無人ならではの店舗管理の手軽さや、古着という商品の扱いやすさから、既に古着事業を手掛ける事業者が多角化として参入するだけでなく、異業種からの新規参入もあります(詳細な事例は後述)。

この記事では、無人での店舗出店を検討する事業者への参考となるように、無人古着店を題材に、有人店舗との比較や事例を取り上げていきます。

2 無人古着店、その特徴とは?

1)有人店舗との違い―「接客なし」が武器になる

有人店舗と無人店舗を比較すると、次の通りです。立地や顧客層、接客の有無で有人店舗と大きく異なります。

有人店舗との違い―「接客なし」が武器になる

2)価格を分かりやすく伝えるハンガーの色分け

無人古着店では、来店客自身で会計して商品を購入してもらうため、価格帯をハンガーの色分けで、ひと目で分かるようにしていることが特徴です。販売から日数が経過して価格を見直す際には、ハンガーを差し替えるだけで済みますし、顧客にとっては、「少し待てば安くなるかもしれないが、今買わないと売り切れるかもしれない」という購買意欲を刺激するきっかけにもなります。

3)来店客の声を取り込む「顧客ノート」

無人店舗では、接客がない分、顧客対応の限界が課題です。そこで、店舗によっては、「顧客ノート」を置いて、品ぞろえのリクエストや店舗への要望を来店客に書いてもらい、都度改善を図るといったところもあります。

4)必要不可欠な万引き対策

無人店舗運営における大きな課題に、万引き対策があります。無人古着屋では、スタッフが常駐せずに人の目がない分、商品が万引きされてしまう報道も後を絶ちません。

一般的には、次のような対策が挙げられます。

  • 防犯カメラの設置
  • ICタグ(RFID)導入による商品管理と不正決済防止
  • 顔認証による会員制入退店システム
  • LINE・QRコードを使った入店管理

また、防犯カメラの録画映像を来店客からも見えるように掲示したりすることも抑止力になるといいます。

5)買い負け=機会損失

古着の一般的な仕入れルートには、「古着卸業者(1点ずつ選べるが最低購入金額の制限あり)」「国内リサイクルショップ・フリマアプリ(手軽だが目利きが必要)」「海外買い付け(珍しい古着を探せるが総コストが高くなりがち)」などがありますが、これらは有人店舗でも無人店舗でも共通のプロセスです。

問題となるのは、競合他社との仕入れ競争で買い負けてしまうと、店舗の売場に魅力的な商品が並ばず、そのまま機会損失につながってしまう点です。安定的な仕入れルートをいかに確保し続けるかが、運営上の大きな壁となります。

3 無人古着店の参入事例

無人古着店は、既に有人の古着店やアパレル事業を手掛ける企業が、販売機会の拡大や顧客の間口を広げるために参入するケースがありますが、それだけではなく、異業種参入の動きもあります。接客ノウハウの蓄積や販売スタッフの教育・シフト管理などが不要な手軽さが、他業種にとっては参入障壁の低さにつながっているようです。

図表3は、以降で紹介する事例を「無人古着店専業での参入」「異業種からの参入」「特定地域での出店」「広域で出店」で整理したものです。

無人古着店参入の方向性

1)JAM TRADING(大阪府大阪市)

海外古着専門店「古着屋JAM VINTAGE&SELECT」などの店舗名で有人の古着屋を手掛けている企業で、無人古着店の「STOPY(ストッピー)」を運営しています。

STOPYは、

「これまで古着店を利用したことのない方にも、より気軽に海外古着を楽しんでいただける場所をつくりたい」

という想いがきっかけで始めた店舗だといいます。有人店舗と無人店舗では、出店エリアや店舗としての役割を分けているのも大きな特徴です。

有人店舗はアメリカ村や原宿、下北沢などのいわゆる古着の街エリアかつ、広いエリアからの集客を想定した出店が中心です。スタッフが来店客との会話を通じて商品の魅力や背景を伝えたり、コーディネートを提案したりすることで、単価の高い商品でも価値を伝えて売ることができるのが強みで、古着の魅力やブランドの世界観を伝える場所と位置づけています。

一方で、STOPYは駅前、住宅地や商店街など、日常生活により近い場所での出店が中心となっています。近隣住民が、スーパーやコンビニに立ち寄るような感覚で古着を探す、というコンセプトです。海外古着をより身近に感じてもらうための入口と位置づけ、購入しやすい価格帯と気軽に立ち寄れる立地を生かし、一定量の商品を効率よく販売することを特徴としています。

また、同社へのヒアリングによると、無人店舗の運営には次のような点に注意が必要といいます。

無人店舗はスタッフが常駐しないため、人件費を抑えながら長時間営業できることがメリットです。ただし、無人だからコストがかからないわけではありません。家賃や光熱費、防犯設備、キャッシュレス決済の手数料はかかりますし、商品の補充や整理、清掃などの日常的な業務は必要です。加えて、スタッフの目が届かない分、売場の乱れや万引きへの対策、商品の見せ方など、無人店舗ならではの課題に対応する必要もあります。

■JAM TRADING■
https://jamtrading.jp/

2)AVEND(東京都新宿区)

フランチャイズで無人古着店の「SELFURUGI」と「NOTIME」を全国展開する企業です。

  • 商品の価格帯は1000円~5000円が中心
  • 人件費を削減することで、ブランド品を低価格で販売することを実現できている
  • 一部、時間帯によってスタッフがいる店舗があり、接客を受けることもできる

同社のフランチャイズの加盟では、本部が商品の仕入れを代行したり、SNSを用いた集客をサポートしたりしているため、古着事業の経験者ではないオーナーでも、販売だけに集中できる体制が整っている点が強みとなっています。

時間帯によって有人、無人の両方で営業する「NOTIME 下北沢店」で店舗の特徴などをヒアリングした結果は次の通りです。

時間帯によって有人、無人の両方で営業する「NOTIME 下北沢店」(出所:筆者撮影)

店内は常時2000着程度の古着を揃えています。店舗は2階建てで、2階は高額商品もあるので、20時ごろのスタッフの退勤に合わせて閉めていますが、1階は24時間営業をしています。深夜の時間帯でも来店があり、お客さんが1~3人でふらっと立ち寄ってくれている印象です。

インバウンドの来店もあり、特に、アニメのTシャツを探しに来るお客さんも最近は増えています。

■AVEND■
https://avend.co.jp/
■SELFURUGI「FCについて」■
https://avend.co.jp/selfurugi/fc/

3)ザ・カンパニー(東京都渋谷区)

ブランディングやデザインを本業とする企業で、東京都杉並区で「古着屋ジャンボデンキ」を手掛けています。

開業のきっかけは、1970年から約50年に渡って営業し、2020年に閉業した家電小売店「ジャンボデンキ」との出会いで、2023年3月にデジタルとリアルの横断を模索する「実験店」としてオープンしました。

地域に愛された店名と内外装をほぼそのまま引き継ぎ、無人の古着屋として生まれ変わらせることで、「町の記憶を残しながら新しい体験をつくる」ことに挑戦したい

想いがあったといいます。

「ジャンボデンキ」の看板や内外装をそのまま引き継いだ店舗外観(提供:ザ・カンパニー)

その上で、開業に当たって注意した点が主に2つあるといいます。一つは無人運営に伴う防犯と現金管理の設計(会計ボックス・両替機の設置、見守りの仕組みづくり)。もう一つが、地域・商店会との関係づくりです。地域に愛された屋号を借りる以上は、地域に開かれた店であることを最優先にしているといいます。

地域密着の商店街に立地しているため、客層は地元住民が中心です。また、メディアやSNSをきっかけに遠方から来る古着ファンの方もいるそうです。

通勤・通学の行き帰りやお買い物の途中にふらりと立ち寄るだけでなく、金・土曜は24時間営業としており、深夜・早朝の時間帯の来店や購入もあります。特に夜間の売れ行きは好調で、有人店舗では対応が難しい深夜・早朝の需要を取り込めることは、無人×24時間営業ならではの強みといえます。

また、接客には、

ChatGPTと音声対話システムを組み合わせた独自開発のAI接客キャラクター「ジャンボくん」を用いています。

入荷商品の紹介に限らず、商店街の最新情報、季節イベントなどの情報も来店客に提供しています。

生成AIの「ジャンボくん」(提供:ザ・カンパニー)

同社へのヒアリングによると、無人古着店の運営で本業につながったのが次の点です。

ジャンボくんの開発・運用を通じて、生成AIの実装・プロンプト設計・運用改善のノウハウを社内に蓄積してきました。このノウハウが本業のデザイン・コンサルティング事業にも直結しています。

例えば、打ち合わせから提案書作成までをAIで高速化するワークフローの構築や、業種特化型のDX支援サービスの事業化につながっています。また、店舗のSNS運用で得た知見も、クライアントのSNS・プロモーション支援に還元しています。

■ザ・カンパニー■
https://the-company.co.jp/

4)テン・カラーズ(岐阜県大垣市)

放課後等デイサービスや児童発達支援などの障害福祉事業を本業とする企業で、岐阜県岐阜市と大垣市で無人古着店の「コノハナアーツ」を手掛けています。

経営者が古着好きだったことが新規参入のきっかけといいます。品揃えを海外仕入れのスポーツ系古着に特化しており、この分野を専門にする店舗が周りに少ないことを意識しているそうです。

お客さんは30~40代のバイク乗りが中心で、女性でも着られるようなぴったり目のサイズ感で品揃えをしています。1日当たり、多い時で30~40着の古着が売れています。

運営の特徴が

古着のメンテナンス作業を系列の生活介護事業所や就労支援事業所のスタッフが担っている

点です。

同社へのヒアリングによると、

  • メンテナンス作業を通じて一般就労や自立に向けたスキル獲得を目指してもらいたい
  • 古着特有の時代背景や文化に関心を持ってもらうことで外出意欲を高め、社会参加の幅を広げてほしい

という想いがあるといいます。

■テン・カラーズ■
https://lashika.com/

5)UPBEAR(大阪府大阪市)

アパレル、美容サロン、飲食、結婚相談所を手掛ける企業で、大阪府を中心に無人古着店の「RELOOP STORE」を運営しています。

物価高騰で洋服が贅沢品になりつつある中、「お手頃な価格で気軽におしゃれを楽しんでほしい」という想いが開業のきっかけといいます。無人化によって人件費などの運営コストを極限まで抑え、その分を商品価格の手ごろさという形で還元する発想が特徴です。

客層は近隣のファミリー層から学生、社会人まで幅広く、年代は20~30代が中心。無人店舗ならではの「店員の目を気にせず自分のペースでじっくり選べる」利点を生かし、仕事終わりや買い物のついで、休日の散歩など、日常のすき間時間に気軽に立ち寄れることを強みとしています。

また、店舗はFC展開をしており、同社にヒアリングした開業のポイントは次の通りです。

  • 物件選定では、家賃10万円前後・7坪以上という、小商圏でも十分に成立する物件基準を設定しています。低コスト開業を売りにしている以上、内装費用の見積もりにも細心の注意を払っています。
  • 運営体制では、日常的な作業を1日10分ほどの清掃・簡単な整頓・補充で済む仕組みを構築しており、1店舗につき実質1名(オーナー自身、またはアルバイト・パート1名)でまかなえる体制となっています。

RELOOP STOREの外観と店内。(提供:UPBEAR)

■UPBEAR■
https://www.up-bear.com/

4 まとめ:無人古着店への新規参入のポイントは?

ここまでの事例から見えてきたのは、無人古着店が単なる「省人化ビジネス」ではないということです。スタッフの採用・教育が要らない分、参入しやすい業態である一方、有人店舗とは異なる戦略が欠かせません。整理すると、次の通りです。

  • 出店戦略として、古着の街ではなく住宅街・商店街という「日常の動線」を狙う
  • 有人店舗を既に運営している場合は、有人と無人とで役割を分け、高単価の有人店舗に対して、無人店舗が「たくさん売る」入口として機能する
  • 初期投資は、居抜き物件の確保、防犯カメラ・センサー・会計ボックスなどのセキュリティ設計、キャッシュレス決済端末の導入
  • 主な運営コストは家賃・光熱費に加え、キャッシュレス決済手数料、商品の補充・整理・清掃にかかる人件費や業務委託費など
  • 無人特有の店舗設計には、万引き対策、売場の乱れへの対応、スタッフの説明なしでも価格・サイズ・買い方が伝わる売場づくりが必要

加えて、市場環境という視点で見ても、無人古着店には追い風が吹いていると言えそうです。サステナブル消費への関心の高まりや、キャッシュレス決済・防犯カメラ・AI接客といった技術の進歩が、無人でも安心して運営できる土台を後押ししています。一方で、スタッフ教育が不要な分、参入障壁が低いということは、裏を返せば競合も増えやすいということ。品揃えや立地、ブランドの世界観といった「無人でも伝わる差別化」が、これから一段と問われることになりそうです。

以上(2026年8月作成)

pj50573
画像:日本情報マート

【朝礼】上司の皆さん、あなたの当たり前は部下の当たり前ではありません

【ポイント】

  • 普段から身についている癖・習慣・考え方といったものは他人と異なることがある
  • 自らの当たり前だけを判断基準にすると、大きく誤ってしまう恐れがある
  • 「大切だ」と思うことは相手に繰り返し話すことで、互いの理解が深まる

普段から身についている癖・習慣・考え方といったものは他人と異なることがあります。例えば、虹の色です。皆さんに、「虹は何色ですか」と尋ねると、「7色」という答えが返ってきます。小学生のときに理科の授業で、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫と習っているため、虹の色はこの7色だということが、日本では常識となっています。一方で、この虹の色の数は世界共通ではなく、国や文化によって違います。例えば、韓国では、虹の色は一般的に7色といわれていますが、アメリカやフランスなど、一般的に6色もしくは7色といわれている国もあるそうです。理由は、「日本と色を表す語彙(ごい)が異なる」「色を細かく区別する習慣がない」などの言語や文化の影響があるからです。

このように、自分では当たり前と思っていることが、他人には全く当たり前ではないかもしれないのです。従って、自らの当たり前だけを判断基準にすると、大きく誤ってしまう恐れがあります。私自身も公私ともに何度も苦い経験をしています。「こんなことは分かっているだろう」「こんなことは常識だ」と思って相手と接してしまい、その結果、言葉足らずで自分の考えが相手にうまく伝わらず何度も失敗しました。私や皆さんが虹は7色であることを共通の認識としているのは、小学校で教えられ、その後、何度も何度も虹は7色と聞かされてきたからです。つまり、ポイントは何度も何度も繰り返し聞いてきたことにあります。私が皆さんに同じ話をするのは、決して前に話したことを忘れているからではありません。私が「大切だ」と思っていることを、皆さんに理解してほしくて、何度も話しているのです。

自分とは癖・習慣・考え方などが異なる他人でもっとも多く日常で接するのは、家族を除けば上司と部下です。上司は部下と何度も話し合ってください。そして、大切なことは繰り返し話してください。部下の方は、上司から同じ話を繰り返されたら「自分は上司の意図を理解していないのではないか」あるいは「自分の理解が浅いのではないか」と自らを疑ってください。その上で、上司に自分の意見をぶつけてください。こうしたコミュニケーションを繰り返すことで、互いの理解はより深まるのです。

以上(2026年8月更新)

pj16486
画像:Mariko Mitsuda

棚卸資産や固定資産の評価損は損金に算入できるのか?

1 評価損に関する財務と税務の違い

会社にはさまざまな資産があります。例えば、販売目的の棚卸資産、商品を製造するための機械装置、オフィス家具やパソコンなどの器具備品などです。これらの資産(棚卸資産を除く)は、通常1年以上の長期間にわたって使用し続けます。また、棚卸資産についても、売れ残った場合は在庫として、長期間保有し続けることがあります。

長い間、固定資産を使ったり、棚卸資産を保有したりすると、経年劣化はもちろん、新製品の発売や新技術の開発などによって価値が陳腐化することもあります。会計上、これらの価値の減少は「評価損」として財務諸表上に反映します。

一方、税務上は、原則として評価損は損金(税務上の費用)に算入できませんが、特定の事情がある場合は例外として、損金に算入できます。それは「もう売れそうにないから」「技術が古くなってしまったから」といった経営者の感覚で決めるものではなく、明確なルールがあるので、確認していきましょう。

2 棚卸資産の評価損は損金に算入できるのか?

1)棚卸資産の評価損を判断するルール

棚卸資産の評価損は、次のいずれかの事実によって価値が減少した場合に限り、損金に算入できます。

評価損の損金算入が認められる事由(棚卸資産)

このチャートを見ると、「著しく損傷した」や「著しく陳腐化した」という曖昧な表現になっていて判断に迷います。特に「陳腐化」の判断は難しいところですが、

資産そのものに欠陥が生じたわけではないが、経済的な環境の変化に伴ってその価値が著しく減少し、今後回復しないと認められる状態にあること

をいいます。

2)棚卸資産の評価損を損金に計上できるケース

「著しく陳腐化したこと」の例として、

流行がある季節商品で、これまでの実績などから、今後、通常の価額では販売することができないことが明らかな場合

があります。

例えば、はやり廃りが激しいアパレル商品や、モデルチェンジが早いパソコンなどが売れ残ってしまった場合、

「今後、通常の価額では販売することができない」という過去の実績

が必要となります。そのため、バーゲンセールで割引販売しても売れ残ってしまった事実を正確に記録しておくとよいでしょう。

なお、あくまでも「著しく陳腐化したこと」が要件なので、物価変動、過剰生産などを理由にバーゲンセールをしても、評価損は損金に算入できません。

3)必ず損金経理の処理をする(評価損として会計処理を行う)

棚卸資産の評価損を損金に算入するには、損金経理が要件となっています。損金経理とは、費用・損失として会計処理をすることをいいます。つまり、

評価損は損失(売上原価ではない)として財務諸表上に計上

しなければなりません。

この要件が問題となるのは、経営者や現場担当者が陳腐化して売れないと判断した商品を、誤って売上原価として計算してしまった場合です。会計上、この商品は、評価損として売上原価とは別に処理しなければなりませんが、売上原価に含まれてしまうことになります。

売上原価は、あくまで販売に対応した商品などの原価であり、評価損を含めて処理してはいけません。そのため、期末の在庫にカウントして、売上原価には含めず、評価損として別の項目で損益計算書に記載しなければなりません。最終的な利益(所得)に与える影響は同じであっても、会計上の処理を正確に行うようにしましょう。

3 固定資産の評価損は損金に算入できるのか?

1)固定資産の評価損を判断するルール

固定資産の評価損は、次のいずれかの事実によって価値が減少した場合に限り、損金に算入できます。なお、固定資産には、機械装置や器具備品のような有形固定資産だけでなく、ソフトウエアのような無形固定資産も含みます。

評価損の損金算入が認められる事由(固定資産)

棚卸資産と同様、固定資産も「著しい損傷」や「著しい変化」という曖昧な表現がなされているので、実務上の判断が難しくなります。

なお、「所在場所が著しく変化したこと」とは、地盤沈下や土壌汚染などが生じたことで地価が下落した場合などをいい、バブル崩壊やリーマンショックのような経済環境の悪化による地価変動などは含まれません。

また、会社が意図的に評価損の計上や、その金額を調整することを防ぐために、次のような事情に基づく評価損は損金に算入できません。

  • 過度の使用又は修理の不十分等により当該固定資産が著しく損耗していること
  • 当該固定資産について償却を行わなかったため償却不足額が生じていること
  • 当該固定資産の取得価額がその取得の時における事情等により同種の資産の価額に比して高いこと
  • 機械及び装置が製造方法の急速な進歩等により旧式化していること

2)固定資産に係る評価損の留意点

1.写真など価値が低下したことを客観的に証明できる資料を保存する

固定資産の評価損については、その固定資産の状態や使用状況などによって評価損を損金に算入できるか否かを判断します。税務調査などで、評価損の正当性を証明するためには、評価損を計上した時点の状況を正確に、かつ客観的に説明できなければいけません。固定資産がどのような状態にあるのか、写真や詳細な稼働記録など、価値が低下したことを客観的に証明できる資料を保存しておくことが大切です。

2.経済的な環境変化などを理由に評価損を計上しない

電化製品の新モデルが発売された場合など、既存の製造用機械装置の価値が著しく低下した場合(陳腐化)、その機械装置に係る評価損は損金に算入できません。

棚卸資産とは違い、固定資産は減価償却によって毎期費用計上されており、価値の低下は減価償却の範囲内で行うことになっています。

固定資産の価値が著しく低下した場合(陳腐化)には、評価損としてではなく、耐用年数の短縮(税務署長の承認が必要)により、その事業年度に損金算入できる減価償却費の額を増やす方法があります。

以上(2026年8月更新)
(監修 税理士 石田和也)

pj30245
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物価高懸念が9割超!消費者心理から探る中小企業の生き残り策 【経営者とっておきニュース】

内閣府は2026年8月24日、「消費者マインドアンケート調査(試行)」の令和8年8月分の集計結果を公表しました。本調査は7月21日から8月20日にかけて実施され、80名から回答を得たものです。

結果によると、1年後の物価見通しについて「上昇する」(61.3%)と「やや上昇する」(35.0%)の合計が96.3%と9割を超えました。一方、今後半年間の暮らし向きは「やや悪くなる」(32.5%)と「悪くなる」(20.0%)の合計が52.5%と約5割を占めており、生活者の厳しい心理状態が浮き彫りとなっています。あくまで試行とはいえ、今回のアンケート調査結果からは、生活者の間で「物価上昇が当たり前になる」という意識が定着している可能性が読み取れます。

今後も物価の上がりが続くとの見通しに対し、暮らし向きに明るい兆しを見出しにくい状況が、消費者の慎重な姿勢に拍車をかけています。こうした消費者心理の変化は、地域経済や中小企業に多面的な影響を与えます。

消費者目線では生活防衛の意識が一層強まり、物品やサービスの購入に当たって「本当に必要なものか」を厳格に見極めようとする動きが進みます。これにより、仕入価格高騰分を販売価格へ反映したい企業は「価格引き上げに伴う客離れ」に直面するリスクがあります。

価格転嫁が進まなければサプライチェーン全体でも利益率が悪化します。地域密着の中小企業は、大手企業との単純な価格競争に巻き込まれた場合、顧客の流出を防ぎきれなくなってしまう恐れがあります。消費者が価格に一層敏感になる中で、提示する価格に対する納得感が厳しく問われる局面を迎えています。

今後も消費者の物価高への懸念は拭えず、購買行動における慎重な姿勢は長引くことが予想されます。こうした環境下で中小企業が勝ち残るために意識すべき視点は、「単なるコスト転嫁の値上げではなく、顧客が実感できる付加価値の再定義」です。消費者が支出を厳選する今こそ、価格以上の価値や満足感を提供できているかを見直し、自社ならではの強みを顧客視点で磨き上げることが重要となります。


【ご注意点】この記事は生成AIを活用して作成したものです。文章の正確性は保証されておらず、誤りが含まれる場合があります。詳細については参照URLの情報を必ずご確認ください。
■内閣府 経済社会総合研究所「消費者マインドについてのアンケート調査(試行)」■
https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/open_chosa/open_chosa.html

以上(2026年8月作成)

pj10155
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未払い賃金指導が2万件超! 中小企業が直視すべき労務管理の課題 【経営者とっておきニュース】

厚生労働省が公表した令和7年の「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果」によると、全国の労働基準監督署が取り扱った不払い事案は2万2605件、対象労働者数は17万3016人、不払い金額は128億5782万円に上りました。

労働基準監督署の指導によって、全体の96.1%に当たる2万1731件(約110億円)が支払い解決に至っています。業種別の監督指導状況については、件数では商業や製造業が多く、対象労働者数や不払い金額では保健衛生業や製造業が多くなっています。

賃金不払いが発生する背景には、経営難や悪質なケースだけでなく、労働時間の集計ルールや制度に対する「社内慣習や知識不足による誤認」が存在します。

実際の是正事例では、「始業・終業前後15分間の一律切り捨て処理」を行っていた製造業者や、「固定残業代(20時間分)を超過した労働時間や深夜労働の割増賃金を支払っていなかった」卸売業者が指導を受けました。いずれも過去に遡って実態調査を行い、差額の割増賃金を支払う対応を行っています。なお、是正勧告に従わなかった結果、書類送検に至った悪質事例も発生しています。

適切な労働時間管理を怠るリスクは、企業経営にとって非常に甚大です。不払いが判明した場合、過去に遡った未払い賃金の再計算と追加支払いが必要となり、企業の資金繰りを大きく圧迫します。また、書類送検などで企業の社会的信用が失われれば、深刻な人材離れや採用難を引き起こし、ビジネスにおける継続性を脅かす要因となります。

今後も労働基準監督署による監督指導の徹底や、未払賃金立替払制度の適正運用が継続される見込みです。労働者のコンプライアンス意識の高まりを受け、これまで見過ごされてきた勤怠管理の「穴」が表面化するリスクは一段と高まっています。

意識すべき視点は、「自社の勤怠ルールが、法令ではなく“独自の慣行や思い込み”になっていないか」という点です。15分単位の切り捨てや固定残業代の放置といった「うっかりミス」を防ぐため、客観的なデータに基づく適正な労働時間の把握と運用の定期的な点検が不可欠です。


【ご注意点】この記事は生成AIを活用して作成したものです。文章の正確性は保証されておらず、誤りが含まれる場合があります。詳細については参照URLの情報を必ずご確認ください。
■厚生労働省「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和7年)を公表します」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75588.html

以上(2026年8月作成)

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