目次
1 非上場株の評価額が上がる可能性も……改正議論が開始
60年ぶりとも言われる非上場株の相続税評価の見直し議論が始まっています。この動向は、中小企業の経営者にとって他人事ではありません。改正後に評価額が上がれば、事業承継時の税負担が増え、後継者が引き継ぎを断念するケースも出てくる可能性があるからです。
2026年4月、国税庁が「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を立ち上がり、2026年6月時点で3回開催されています。
見直しの方向性はまだ確定していませんが、関係者の多くが「評価額が上がる可能性が高い」
と見ています。「改正が決まってから考えよう」では遅いかもしれません。今、何が起きているのかを理解し、早めに備えることが経営者としての責任です。重要なのは「改正が決まってから動く」のではなく、今の評価額を把握し、選択肢を整理しておくことです。
2 そもそも「非上場株の評価」とは何か
株式市場に上場している会社の株は、市場で毎日売買されているので、その日の値段(株価)がすぐに分かります。しかし、中小企業などの非上場株は市場で取引されないため、「この株はいくらか」を計算するルールが必要です。
相続や贈与が起きたとき、非上場株の価格は国税庁が定めた通達(ガイドライン)に沿って計算されます。この評価額をもとに相続税・贈与税が計算されるため、評価額が高くなると税負担も重くなります。現在の主な評価方法は次の2つです。

実際には、会社の規模に応じていずれかの評価方法、もしくはこの2つを併用する評価方法が使われます。大きな会社ほど1.の「類似業種比準方式」の影響が強く、小さな会社ほど2.の「純資産価額方式」の影響が強くなります。
3 なぜ今、改正議論が始まったのか
きっかけは、2024年に会計検査院(国のお金の使われ方などをチェックする機関)が公表した調査(会計検査院「令和5年度決算検査報告」)です。その報告書で、現在の評価方法には大きな問題があると指摘されました。
最大の問題は、
「類似業種比準方式」による評価額と「純資産価額方式」による評価額の間に、あまりにも大きなギャップが生じているケースがある
という点です。
例えば、ある事例では類似業種比準方式で算出した評価額が、M&A(会社の買収)による実際の売却価格のわずか8%程度にしかなっていなかったことが明らかになっています。これは極端な例ですが、評価額と実態の間に何倍もの差が開いているケースが珍しくないのです。
また、こうしたギャップを悪用した「節税スキーム」の横行も問題視されています。例えば、意図的に利益を圧縮したり、会社を分割して資産を子会社に移したりすることで、評価額を人為的に引き下げ、税負担を極端に減らす行為が増えているのです。
さらに、近年の裁判例でも、通達に基づく評価額と実態があまりにも乖離している場合、税務当局が「通達によらない評価」を行って課税するケースが増えており、納税者との間でトラブルが相次いでいます。
4 想定される改正スケジュール
現時点での見通しは次の通りです。ただし、議論の結果次第で変わる可能性があります。

- 2026年4月~(有識者会議の開始):国税庁により「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」が設置され、2026年4月20日に初会合(第1回)が開催されました。
- 2026年秋~冬(議論の取りまとめ):これまでの議論(第1回$301C第3回など)を踏まえ、有識者会議としての評価制度の見直し案が策定・公表される予定です。
- 2026年12月~2027年1月(税制改正大綱へ反映):取りまとめられた見直し方針が、2027年度税制改正大綱に記載される見通しです。
- 2027年4月頃(パブリックコメントの実施):大綱に示された方針に基づき、具体的な「財産評価基本通達」の改正案について一般からの意見公募(パブリックコメント)が行われます。
- 2028年1月1日(新たな評価ルールの適用開始(予定)):一部報道や国税庁資料に基づくと、早ければこのタイミングから新しい評価方法による申告が必要になると予測されています。
5 有識者会議ではどんな議論が行われているか
国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」は、2026年4月の第1回を皮切りに、5月・6月と続けて開催されています。法律・会社法・M&A実務・会計学などの専門家や、日本商工会議所・日本税理士会連合会も参加し、さまざまな立場から意見が交わされています。
■国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」■
https://www.nta.go.jp/about/council/kenkyu.htm#nai-hyoka
議論の焦点は大きく4つです。
1)評価額が大きく変わる「評価の崖」をなくす
現在の非上場株式の評価制度では、会社の規模や評価方法の違いによって、株価が大きく変わるケースがあります。このような極端な差は「評価の崖」と呼ばれ、公平性の観点から問題視されています。
実際に、会計検査院が2024年に公表した調査では、「類似業種比準方式」(同業他社の株価を参考にする方法)で計算した株価は、「純資産価額方式」(会社の資産や負債を基に計算する方法)で算出した株価の約4分の1にとどまっていました(会計検査院「令和5年度決算検査報告」)。
また、会社の規模が大きいほど株価が低く評価される傾向も見られます。そのため、事業内容や収益力が似ていても、会社規模の判定基準(従業員数や取引金額など一定の基準)をわずかに超えただけで、適用される評価ルールが変わり、株価が急激に上昇することがあります。今後の見直しでは、このような不自然な段差をなくし、よりなだらかで公平な評価制度にすることが検討されています。
2)評価額の恣意的な操作を防ぐ
現行の評価制度は計算ルールが明確である一方、その仕組みを利用して株価を意図的に低くする対策が行われるケースもあります。
代表的な例が配当金の調整です。株価計算の要素の一つに配当金額が含まれているため、あえて配当を出さないことで株価を下げる手法が利用されています。国税庁の分析では、評価の対象となった企業の8割超が、評価前の2年間に配当を実施していませんでした。
この他にも、
- 親会社の資産を子会社へ移して親会社の株価を下げる方法
- 創業者に議決権のない株式を持たせることで、後継者側の評価額を低くする方法
- 高額な役員退職金を支払い、利益を一時的に減らす方法
など、さまざまな税負担を下げるスキームが指摘されています。
現在は、こうしたケースに対して税務当局が個別に判断する「総則6項」という特別なルールで対応しています。しかし、どのような場合に適用されるのか分かりにくく、予測が難しいという課題があります。そのため、個別対応に頼るのではなく、評価ルール自体を見直すべきだという議論が進められています。
3)実態を反映した評価へ見直す
現在の株価評価では、会社を解散した場合に残る資産価値を重視する「純資産価額方式」が大きな役割を担っています。
しかし、実際の会社の価値は、保有している資産だけで決まるものではありません。将来どれだけ利益を生み出せるかという「収益力」も重要な要素です。
例えば、会社法上の株価評価をめぐる裁判では、将来の利益やキャッシュフロー(事業活動で生み出すお金)を基に企業価値を算定する方法が広く使われています。一方、純資産価額は最低限の価値を示す指標として扱われることが多く、税務上の評価との違いが指摘されています。
また、専門家からは、研究開発力や人材力、ブランド力といった、貸借対照表には表れにくい価値も企業価値に反映すべきだという意見が出ています。
経済団体からも、「事業を継続している会社を、解散を前提とした価値だけで評価するのは実態に合わない」との声が上がっており、今後は収益力をより重視した評価方法が検討される可能性があります。
4)M&A・第三者承継の実態を反映する
近年、中小企業の事業承継では、親族への引き継ぎだけでなく、第三者へのM&A(企業の売却・買収)が急速に増えています。
M&Aの現場では、会社が保有する資産だけでなく、顧客基盤や技術力、ブランド力、将来の収益力なども考慮して企業価値が決まります。そのため、税務上の株価評価と実際の売買価格に大きな差が生じることがあります。
実際の裁判例では、税務上の評価額がM&Aによる買収価格の1割にも満たなかったケースもあり、現行制度が企業の実態を十分に反映していないとの指摘があります。
こうした背景から、今後の制度改正では、M&Aで使われる企業価値評価の考え方を税務評価にどこまで取り入れるかが重要な論点となっています。
ただし、M&Aの価格には買い手ごとの事情や期待される相乗効果(シナジー)が反映されるため、その価格をそのまま相続税や贈与税の評価額に使うべきではないという慎重な意見もあります。そのため、事業承継を妨げないよう配慮しながら、どのような評価方法が適切なのかが議論されています。
6 改正の方向性が固まっていない今、経営者がやるべきこと
1)ステップ1:自社株の現在の評価額を把握する
制度改正への対応を考える上で最初に行うべきことは、自社株が現在どのように評価されているのかを把握することです。
非上場株式の評価方法は会社規模によって異なります。まずは、自社が「大会社」「中会社」「小会社」のどれに該当し、どの評価方法が適用されているのかを確認しましょう。これまでにもあるように、現在は、「類似業種比準方式(上場企業の株価を参考にする方法)」が適用される会社ほど、株価が低く評価される傾向があります。
まずは現状の評価額を把握し、自社がどの程度現行ルールの恩恵を受けているのか確認することが重要です。
2)ステップ2:後継者への株式移転を急ぐかどうか検討する
今回の見直しでは、自社株の評価額が引き上げられる可能性が高いとみられています。評価額が上がれば、贈与税や相続税の負担も増えることになります。
そのため、後継者への株式移転を予定している場合は、現行ルールのうちに実行した方がよいかどうかを検討が必要です。
特に注目されているのが「相続時精算課税制度」です。この制度を利用して株式を贈与した場合、将来相続が発生した際も、原則として贈与時点の評価額を基準に税額を計算します。つまり、制度改正によって将来株価が上昇したとしても、その影響を受けにくくなる可能性があります。
ただし、この制度には一度選択すると原則として元に戻せないなどの注意点もあります。利用するかどうかは、将来の相続税や贈与税を含めた総合的なシミュレーションを行った上で判断することが大切です。
3)ステップ3:事業承継税制の活用を改めて検討する
事業承継税制の活用も改めて確認しましょう。事業承継税制は、一定の条件を満たした場合に、後継者が取得した自社株にかかる贈与税や相続税の納税を猶予できる制度です。
現在、専門家や経済団体の間では、今後の株価評価の見直しに合わせて、この制度をさらに使いやすくするべきだという議論も行われています。
そのため、株価評価の改正だけを見るのではなく、事業承継税制が今後どのように見直されるのかについても継続的に情報収集することが重要です。
4)ステップ4:顧問税理士と定期的に情報共有する
今回の見直しは法律改正ではなく、国税庁が定める評価ルールの見直しとして進められています。そのため、国会での法改正を待たずに制度内容が変更される可能性があります。今後、有識者会議による議論や税制改正大綱などを通じて具体的な方向性が明らかになっていく見込みです。
また近年は、株価を極端に引き下げる対策に対して、税務当局が通常の評価ルールとは異なる方法で課税するケースも増えています。「これまで問題なかった対策だから大丈夫」と考えるのではなく、現在行っている株価対策にリスクがないかを、顧問税理士などの専門家を通して定期的に確認することが重要です。
以上(2026年7月作成)
(監修 税理士 石田和也)
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画像:日本情報マート







