【働き方改革推進支援助成金】 年休の促進で最大920万円!?

1 「年5日の年休取得」に向けた取り組みは助成金の対象

労働基準法には、会社の「年休の時季指定義務」が定められています。これは、

年10日以上の年次有給休暇(以下「年休」)が付与されている社員には、社員の意見を聴取した上で、会社が時季を指定して年5日の年休を取得させる

という義務で、違反すると30万円以下の罰金の対象となります。

仕事ばかりで休もうとしない社員や、周囲に遠慮して休みたいと言えない社員もいます。しかし、年休の取得は、社員の心身のリフレッシュや仕事の効率に繋がることから、この義務に真摯に向き合って確実に年休を取らせていくことは大切です。

それに、社員の年休取得を促進する取組は、助成金の対象にもなります。具体的には、

「働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)」で、最大730万円を受給できる可能性がある

のです。助成金を受給するには、所定の「交付申請書」を事業実施計画書などとともに、所轄都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に提出します。

2025年度の申請期限は、2025年11月28日まで

ですので、詳細を確認してみてください。助成金の概要は次の通りで、赤字の部分が年休に関連する内容です。

画像1

2 何をしたら年5日の年休取得が達成できるのか?

1)就業規則等の整備

働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)を受給するには、年5日の年休取得について就業規則等を整備する必要があります。定めるべきポイントは次の通りです。

  • 年休の付与日数が年10日以上の社員に、年5日の年休を取得させる
  • 5日の年休は、年休の付与日から1年以内に取得させる
  • 5日の年休は、社員の意見を聴取し、尊重するよう努めた上で、会社が時季を指定して取得させる

就業規則等の規定例は次の通りです。

【規定例】

第○条(年次有給休暇の時季指定)

会社は年次有給休暇を年10日以上付与する社員に対して、付与日から1年以内に、付与日数のうち5日について、会社が社員の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。ただし、社員が本人による時季指定または第○条で定める計画的付与により年次有給休暇を取得した場合、取得した日数分を5日から控除する。

なお、就業規則等を整備するだけでなく、運用面においても注意が必要です。具体的には、

社員ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存する

ことが義務付けられています。また、社員数が常時10人未満の会社(事業場)が働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)を受給する場合、就業規則に代えてこの年次有給休暇管理簿の添付で代替可能とされています。社員数が常時10人以上の場合も、万が一提出を求められた際にきちんと対応できるよう、準備をしておきましょう。

2)計画的付与を導入する

年休をなかなか取ろうとしない社員がいる場合は、計画的付与が有効です。計画的付与とは、

労使協定で定めた日に年休を与えられる制度

です。年休の時季指定義務との大きな違いは、

年休を与えるに当たって、社員の意見を聴取しなくてもよい

という点です。計画的付与では、会社全体で一斉に付与することも、チームや個人単位での交代制にすることもできます。導入するには「労使協定」(事業場の過半数労働組合、それがない場合は労働者の過半数代表との書面による協定)の締結が必要になります。

計画的付与の対象は、付与日数のうち5日を超える部分です。例えば、年休の付与日数が10日の社員の場合は5日まで、20日の社員の場合は15日までです。逆に言うと、年休の付与日数が5日以下の社員には、計画的付与を適用できません。また、計画年休に充てるべき休暇日数が不足する社員を含めて計画的に付与する場合には、年休の付与日数を増やす等の措置が必要となります。

図表2が年休の付与日数の一覧で、赤字が年休の時季指定義務の対象になる社員、網掛けにしているのが計画的付与を適用できない社員です。

画像2

3)半日単位年休や時間単位年休の導入

半日単位年休や時間単位年休を導入すると、

  • 仕事の引き継ぎなどにかかる手間が減る
  • 病院や役所に行くなど、ちょっとした私用に活用できる

といったメリットにより、社員が年休を取得しやすくなることが期待できます。社員が出張先で仕事をした後、空いた時間で観光を楽しむ「ブリージャー(出張休暇)」なども取りやすくなるかもしれません。

なお、半日単位年休と時間単位年休は似ていますが、実は次のように大きな違いがあります。

画像3

注意していただきたいのは図表3の赤字部分、「5.年休の時季指定義務との関係」「6.働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)との関係」です。

  • 半日単位年休では助成金はもらえないが、年休の時季指定義務には含まれる
  • 時間単位年休では助成金がもらえる可能性があるが、年休の時季指定義務とは無関係なので、別で年5日の年休を取得させる必要がある

以上(2025年5月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田絹助)

pj00435
画像:pixabay

【かんたん法人税(5)】交際費・会議費・福利厚生費などに係る税務

1 主な販管費に係る税務上の重要なポイント

シリーズ第5回では、主な販売費および一般管理費(以下「販管費」)に係る税務上の取り扱いに注目します。法人税の課税所得を計算する上で、販管費は損金算入できるものが多いです。しかし、

科目によっては一定金額、または全額損金に算入できないものもある

ため、税務担当者は科目ごとの基本を理解する必要があります。

また、中小企業のうち、とりわけ同族会社においては、

業務上の費用と私的な費用の区別が曖昧となりがちで、税務調査で指摘される

ことも多いです。こうした区別をきちんとすることはもちろん、業務上の費用でも私的な費用と誤解を受けることがないように、所定の書類などをそろえておきましょう。

販管費に係る税務上の重要ポイントは次の通りです。

  • 交際費の損金算入限度額
  • 10000円以下の接待飲食費
  • 交際費と会議費の区別
  • 業務上の交際費と私的交際費の区別
  • 福利厚生費の範囲
  • 寄附金の損金算入限度額とその範囲
  • 租税公課
  • 業務委託費(グループ会社などに対するもの)の取り扱い

2 販管費に係る税務上の取り扱いと留意点

1)交際費・会議費

1.交際費の損金算入限度額の算定方法

原則として、交際費は全額が損金算入できません。しかし、取引先との接待飲食費(社外飲食費)の50%相当額については、損金算入できます。また、中小法人については、特例として年800万円まで損金算入が認められています(「定額控除限度額」といいます)。

つまり、中小法人は社外飲食費の50%相当額と定額控除限度額とを比較し、いずれか多い方を損金算入限度額として選択することができます。

画像1

上記の「社外飲食費」については、帳簿書類に次の項目を記載しておく必要があります。税務調査においては、この記載事項についてチェックされるので注意しましょう。

  • 飲食等を行った年月日
  • 飲食等に参加した得意先や仕入先等の氏名または名称およびその関係
  • 飲食費の額ならびに飲食店の名称および所在地
  • その他飲食費であることを明らかにするために必要な事項

2.10000円以下の接待飲食費の取り扱い

取引先との接待飲食費のうち、1人当たり10000円以下のものは交際費の範囲から除かれます(以下「少額交際費」)。従って、少額交際費は上記1.の損金算入限度額に含めることなく損金算入できます。ただし、少額交際費として取り扱うためには、帳簿書類に上記の記載事項の他に、

  • 飲食等に参加した者の人数

も追加で記載する必要があります。

3.交際費と会議費の区別

会議や打ち合わせで提供されるお茶やお菓子、昼食代といった飲食費は、通常は会議費として損金に算入できます。ただし、昼食代であっても、通常の金額を超えるようなものについては交際費とされます。

どの程度までが会議費として認められるかについて、税務上では明らかにされていません。しかし、例えば居酒屋や高級飲食店などにおける飲食費など、一般的な会議では利用されなそうな場所での飲食費などは、税務調査において交際費と指摘される可能性が高いです。

4.業務上の交際費と私的交際費の区別

お酒を共にする接待などは、取引先と懇親を深めることができるでしょう。中小企業においては、一定限度額まで損金算入することが認められています。

一方、経営者1人での飲食など私的なものについては、税務上の交際費とはされずに「役員給与」とされ、損金算入できません。なお、役員給与の詳細な取り扱いについては、下記のリポートをご参照ください。

また、取引先との接待費用であっても、帳簿書類でそれが証明できない場合や領収証が無い場合などは、税務調査において私的費用として疑われる可能性もあるので注意しましょう。

2)福利厚生費

役員や従業員(以下「従業員等」)の慰安のために行われる旅行や新年会・忘年会などに通常要する費用で、おおむね従業員等の全員を対象とする場合は福利厚生費とされ、損金算入できます。また、従業員等またはその親族等のお祝いやご不幸などに際して、一定の基準に従って支給される金品(例えば、結婚祝いや香典など)も福利厚生費として損金算入できます。

一方、特定の従業員等のみを対象とした旅行費用や、特定の人だけ基準を超える高額な香典などは福利厚生費とされず、税務上は「給与」として取り扱われます。「給与」と認定されると、所得税の源泉徴収が必要ですし、役員の場合は費用そのものが損金算入できません。

税務調査においては、例えば社員旅行の場合は対象者が誰であるか、香典などについては、一定の基準(社内規程など)通りに支払われているかなどをチェックされるので注意しましょう。

3)寄附金

1.寄附金の種類と損金算入限度額の算定方法

法人税法において寄附金は次の4種類に区分され、それぞれ損金に算入できる金額(損金算入限度額)が定められています。

画像2

2.税務上の寄附金の範囲

国・地方公共団体や一定の公益法人等(以下「国等」)に対する寄附金は会社が意図して行うものであり、領収証も発行されるため、他勘定で処理するといった誤りは少ないでしょう。

しかし、税務上の寄附金はこういった国等に対する意図した寄附金よりも非常に範囲が広く定義されています。例えば、

資産を時価より低く譲渡した場合、「譲渡した相手方に利益供与を行った」として、税務上は時価と譲渡価額との差額が寄附金として取り扱われる

ことがあります。

また、

返済能力のある取引先に対する売掛金を債権放棄した場合なども、「取引先に対して利益供与を行った」として、債権放棄額が寄附金として取り扱われる

こともあります。このように税務上の寄附金は、一般的な用語で使われるものより非常に範囲が広いため注意しましょう。もし判断に困るケースが出てきた場合には、税理士などの専門家に相談することが重要です。

4)租税公課

租税公課にはさまざまな種類がありますが、税務上、その種類によって損金に算入できるものとできないものとがあります。また、損金に算入できるものであっても、その損金に算入する時期が決まっています。主な租税公課の取り扱いは次の通りです。

画像3

5)業務委託費

自社で作業が不可能な業務などを外部に業務委託した際に支払う業務委託費については「役務提供を受けた日」において損金に算入されますが、業務委託先がグループ会社や親族の経営する会社の場合には、業務委託費の金額を意図的に操作することも可能なため、税務調査においては重点的に調べられます。

従って、グループ会社などに対する業務委託費については、

金額の決定過程を税務調査時に詳細に説明できるよう、関係書類などを事前に準備する

ことが重要です。

以上(2025年4月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 富永慎也)

pj30096
画像:buritora-Adobe Stock

育児休業の悩み解消。助成金(最大1342万円)で代替要員を確保!

1 両立支援等助成金で社員の子育てをサポート!

2025年4月1日に改正育児・介護休業法が施行され、子育てをする社員の支援制度がさらに手厚くなりました。人手不足の中小企業にとっては、「育児休業(以下「育休」)等を取得する社員が増えたら、仕事が回らなくなる……」と不安かもしれませんが、

休業する社員の業務をカバーする他の社員に手当等を支給したり、代替要員を新たに雇ったりすると、最大で1342万円が支給

されます。紹介するのは両立支援等助成金です。今どきの社員は、会社に「子育てなどと仕事の両立」を求めており、これに応える上で、この助成金はとても重要です。以降では、制度概要と併せて専門家のポイントを紹介するので、参考にしてください。

なお、助成金の内容は2025年4月14日時点のもので、将来変更される可能性があります。また、申請書の書き方や添付書類については、全コースまとめてこちらに記載されていますので、ご確認ください。

■厚生労働省「事業主の方への給付金のご案内」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/ryouritsu01/index.html

2 育休中等業務代替支援コース(最大1342万円)

1)育休中等業務代替支援コースとは?

社員が育休を取得したり、短時間勤務制度を利用したりしている間、その社員の業務をカバーする他の社員に手当等を支給したり、代替要員を新たに雇ったりした場合に助成金を受け取れるコースです。

2)助成金を受け取るには?

このコースは「手当支給等(育児休業)」「手当支給等(短時間勤務)」「新規雇用(育児休業)」に分かれていて、次の要件などを満たす必要があります。

1.手当支給等(育児休業)※社員数300人以下の会社が対象

社員が7日以上の育休(産後パパ育休を含む)を取得し、その業務をカバーする他の社員に対し、会社が手当等を支給する必要があります。手当等の内容は事前に就業規則等で定めなければなりません。

2.手当支給等(短時間勤務)※社員数300人以下の会社が対象

社員が短時間勤務制度(3歳未満の子を養育する社員を対象とするもの)の措置を受けられる制度を1カ月以上利用し、その業務をカバーする他の社員に対し、会社が手当等を支給する必要があります。手当等の内容は事前に就業規則等で定めなければなりません。

3.新規雇用(育児休業)※中小企業が対象

社員が7日以上の育休(産後パパ育休を含む)を取得し、その業務をカバーする他の社員を、会社が新たに雇用し(または派遣で受け入れ)、実際に業務を代替させる必要があります。

3)受け取れる金額はいくら?

手当支給等(育児休業)・手当支給等(短時間勤務)・新規雇用(育児休業)それぞれについて、図表1の額を受け取れます。その他、

  • 育休取得者(または短時間勤務利用者)が有期雇用の場合、業務代替期間が1カ月以上であれば「有期雇用労働者加算」
  • プラチナくるみん認定を受けている場合、「プラチナくるみん認定事業主への加算」
  • 育休の取得状況を厚生労働省が運営するウェブサイト「両立支援のひろば」で公表した場合、「育休等に関する情報公表加算」

を受けられます。

■厚生労働省「両立支援のひろば」■
https://ryouritsu.mhlw.go.jp/

画像1

支給額の計算がややこしいですが、仮に手当支給等(育児休業)を1年度10人まで申請した場合、加算も含めると最大1342万円を受け取れる計算になります。

4)専門家のワンポイントアドバイス

子育てをする社員へのサポートに注力するあまり、その業務をカバーする他の社員へのフォローが手薄になって、職場から不満が上がるケースは珍しくありません。助成金額と照らし合わせつつ、手当等がカバーに回る社員の負担を考慮した額になるよう制度を設計しましょう。

また、このコースは1年度につき10人までが支給対象になるという手厚い内容ではありますが、「手当支給等(育児休業)」「手当支給等(短時間勤務)」「新規雇用(育児休業)」を合わせて10人なので、どの方法で社員の負担を軽減していくのかを計画的に決めましょう。

なお、コース共通の条件として、次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を策定し、都道府県労働局に届け出ていることが必要となります。申請日が行動計画期間内である事も条件となっていますので、ギリギリで動くのではなく余裕を持った対応が求められます。(プラチナくるみん認定を受けている場合、行動計画の策定・届出がなくても支給対象)。

3 出生時両立支援コース(最大127万円)

1)出生時両立支援コースとは?

会社(実際は支店等の事業場単位)が、「男性社員」が育休を取得するための雇用環境や業務体制を整備し、男性社員が実際に育休を取得した場合、助成金を受け取れるコースです。

2)助成金を受け取るには?

このコースは「第1種」「第2種」に分かれていて、次の要件などを満たす中小企業が対象となります。

第1種

一定の「雇用環境整備措置」を講じた上で、就業規則等に基づいて引き継ぎなどの業務体制を整備し、男性社員が産後8週間以内に連続5日以上の育休(産後パパ育休を含む)を取得する必要があります(2人目の取得者は10日以上、3人目の取得者は14日以上)。この他、休業期間中に含まれる所定労働日数に関する日数条件もあります。

雇用環境整備措置とは次の5つのことで、育休取得者の数などに応じて、2~5つの措置を講じる必要があります。

  • 育休に係る研修の実施
  • 育休に関する相談体制の整備
  • 育休の取得に関する事例の収集・提供
  • 育休に関する制度・育休の取得の促進に関する方針の周知
  • 育休の取得が円滑に行われるようにするための業務配分や人員配置の見直し

第2種

男性社員の育休取得率が一定の要件を満たす必要があります。また、第1種と同じく雇用環境や業務体制の整備に関する要件もあります。

3)受け取れる金額はいくら?

第1種・第2種それぞれについて、図表2の額を受け取れます。また、育休中等業務代替支援コースと同じく、「プラチナくるみん認定事業主への加算(第2種申請時のみ)」「育休等に関する情報公表加算」も受けられます。

画像2

第1種(3人分)と第2種、さらに加算を含めると、最大127万円を受け取れる計算になります。ただし、第1種と第2種を、同一年度内に申請することはできません。

4)専門家のワンポイントアドバイス

第2種については、2024年度までは「第1種の申請から、3年度以内に一定の取得要件を満たさないと受給できない」というルールがありましたが、現在は第1種の申請がなくても、受給できるようになっています。このコースも、受給の条件として、次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を策定し、都道府県労働局に届け出ていることが必要となります。

4 育児休業等支援コース(最大122万円)

1)育児休業等支援コースとは?

社員(男性・女性を問わない)の育休の取得・職場復帰が円滑に進むよう、会社が一定の取り組みをした場合、助成金を受け取れるコースです。

2)助成金を受け取るには?

このコースは「育休取得時」「職場復帰時」に分かれていて、次の要件などを満たす中小企業が対象となります。

1.育休取得時

「育休復帰支援プラン」という、育休(産後パパ育休を含む)の取得・職場復帰をサポートするための計画書を策定する必要があります。まず、育休復帰支援プランを使って、育休の取得・職場復帰をサポートする旨を社内に周知し、育休取得者のプランを本人との面談を通して作成します。その上で、本人に連続3カ月以上の育休を取得させる必要があります。

2.職場復帰時

1.の育休取得者の休業終了時に、本人と面談をして原職等に復帰させ、6カ月以上継続雇用する必要があります。「育休取得時」の助成金を受給していないと申請できません。また、育休取得者を継続雇用する際は、本人が雇用保険の被保険者である必要があります。

3)受け取れる金額はいくら?

育休取得時・職場復帰時それぞれについて、図表2の額を受け取れます。どちらも社員2人(無期雇用1人、有期雇用1人)まで受給可能です。また、「育休等に関する情報公表加算」も受けられます。

画像3

育休取得時(2人分)と職場復帰時(2人分)、さらに加算を含めると、最大122万円を受け取れる計算になります。

4)専門家のワンポイントアドバイス

支給要領では、育休復帰支援プランを策定する場合、少なくとも育休取得者の、

  • 業務の整理、引き継ぎに関する措置
  • 休業中の業務内容等に関する情報提供に関する措置

について定めなければならないとされています。厚生労働省ウェブサイトでは、プランの様式や、職場の状況(代替要員の確保が難しい、残業が多いなど)に応じたモデルプランを記載したマニュアルが公表されているので、参考にしながら策定を進めてください。

■厚生労働省「育休復帰支援プラン策定のご案内」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000067027.html

このコースも、受給の条件として、次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を策定し、都道府県労働局に届け出ていることが必要となります。

5 柔軟な働き方選択制度等支援コース(最大127万円)

1)柔軟な働き方選択制度等支援コースとは?

3歳以上小学校就学前の子を養育する社員のために、短時間勤務などの柔軟な働き方に関する制度等を複数導入した上で、実際に対象者に利用させた場合に助成金を受け取れるコースです。

2)助成金を受け取るには?

このコースでは、「柔軟な働き方選択制度等」という図表4の制度等を、最低でも2つ以上導入する必要があります(就業規則等への規定も必須です)。制度等を導入した上で、「育児に係る柔軟な働き方支援プラン」という、社員の柔軟な働き方をサポートするための計画を策定し、その計画に基づいて社員が利用開始から6カ月間のうちに、制度等を一定基準以上利用すると、助成金を受け取れます。助成対象は中小企業のみです。

画像4

3)受け取れる金額はいくら?

柔軟な働き方選択制度等を2つ以上導入し、対象者(3歳以上小学校就学前の子を養育する社員)が一定基準以上利用した場合、図表5の額を受け取れます。また、「育休等に関する情報公表加算」も受けられます。

画像5

制度等を3つ以上導入し、1年度に社員5人が利用した場合、加算も含めると最大127万円を受け取れる計算になります。

4)専門家からのワンポイントアドバイス

このコースは、改正育児・介護休業法の「柔軟な働き方を実現するための措置等」との関連性が深いです。会社は2025年10月1日から、図表4で紹介した「始業時刻の変更」など5つの制度から2つ以上を選択して実施する義務を負います。法改正への対応は必須なので、制度を見直す過程で、助成金の申請も併せて検討するとよいでしょう。

このコースも、受給の条件として、次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を策定し、都道府県労働局に届け出ていることが必要となります。

6 不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース(最大90万円)

1)不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コースとは?

女性社員が不妊治療と仕事を両立したり、健康課題(月経や更年期)に対応したりするため、休暇制度などを導入し、実際に対象者に利用させた場合に助成金を受け取れるコースです。

2)助成金を受け取るには?

このコースは「不妊治療」「女性の健康課題対応(月経)」「女性の健康課題対応(更年期)」に分かれていますが、大まかな要件は共通しています。次の制度のいずれかを導入し、1年間に5日以上、対象者に利用させる必要があります。助成の対象は中小企業のみです。

  • 休暇制度(不妊治療や女性の健康課題に対応するための特別休暇。多様な目的で利用できるものも可)
  • 短時間勤務制度(1日の所定労働時間を1時間以上短縮する制度。ただし、利用しても1時間当たりの基本給等の水準の引き下げや雇用形態の変更がされないことが条件)
  • 所定外労働制限(残業免除)、時差出勤制度、フレックスタイム制度、在宅勤務等

3)受け取れる金額はいくら?

不妊治療・女性の健康課題対応(月経)・女性の健康課題対応(更年期)それぞれについて、図表6の額を受け取れます。加算は特にありません。

画像6

それぞれについて支給要件を満たした場合、最大90万円を受け取れる計算になります。

4)専門家のワンポイントアドバイス

このコースでは、休暇制度や短時間勤務制度を1年に5日以上対象者に利用させる必要がありますが、不妊治療や女性の健康課題対応が目的であることが明確でない場合、利用しても日数にカウントされません。

例えば、休暇制度を設ける場合、女性社員が利用しやすいよう「ファミリーサポート休暇」などの名称にすることがありますが、助成金の受給を考えるのであれば、「休暇申請書などの際に利用目的を記載する欄を作ること」などを検討する必要があるかもしれません。ただ、その場合、労務担当者が男性だと申請しにくい女性社員もいるでしょうから、女性の担当者を配置するなどの配慮は必須です。

以上(2025年4月作成)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

pj00739
画像:ChatGPT

【健康経営】ストレスチェック制度の実務チェックリスト47項目

1 特有のルールがあり、実務も多いストレスチェック制度

ストレスチェック制度とは、

社員が所定の質問に答えて自身のストレス状態を把握する「ストレスチェック」や、高ストレス者に対する「医師による面接指導」などの一連の施策のこと

です。社員数が常時50人以上の会社は、年1回以上、ストレスチェック制度を実施する義務があります。現状、社員数が常時50人未満の会社は努力義務ですが、政府は近年のメンタルヘルス不調の増加などを考慮し、これらの会社も義務化の対象に加える方針のようです。

そんな状況なので、今後中小企業においてもストレスチェック制度の実施に取り組む会社が増えてくることが予想されますが、注意しなければならないのは、

ストレスチェック制度には、「健康診断と違って社員に受検を強制できない上に、受検結果も社員の同意がないと取得は不可」など特有のルール

があり、場当たり的に取り組むと法令違反や実務の抜け漏れが起きかねないという点です。

そこで、この記事では、

ストレスチェック制度で最低限押さえるべき47項目の実務チェックリスト

を紹介します。ストレスチェック制度を実施する前に、この記事の実務チェックリストを確認してみてください。なお、ストレスチェック制度の実施に当たって疑問や悩みがある場合は、労働者健康安全機構の「ストレスチェック制度サポートダイヤル」などをご利用ください。

■労働者健康安全機構「ストレスチェック制度サポートダイヤル」■

https://www.johas.go.jp/sangyouhoken/helpline/tabid/1008/Default.aspx

2 これだけは押さえる! 実務チェックリスト47項目

ストレスチェック制度を実施する際は、次のチェックリストを実務の抜け漏れ防止にご活用ください。

画像1

なお、最後(その他)の「心理的な負担の程度を把握するための検査等報告書」については、

2025年1月1日から「電子政府の総合窓口(e-Gov)」によるオンラインでの提出(電子申請)が義務化

されているのでご注意ください。

■厚生労働省「労働局・労働基準監督署への申請・届出はオンラインをご活用ください」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/denshishinsei.html

以上(2025年4月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 渡邉和也)

pj00337
画像:pixabay

【中堅社員のスピーチ例】お客さまから頼られるための3つのポイント

【ポイント】

  • お客さまと接する際は、会社としてだけでなく自分個人を信頼してもらう必要がある
  • それには「お客さまへの理解」「自社の商品・サービスの知識」「人間性」が不可欠
  • 上司が責任を取ってくれるのは、自分がお客さまの信頼を得るために努力した先の話

新年度が始まり、このたび私はある取引先のメイン担当になりました。昨年度までは上司がメイン担当で、私はサポート役に徹していました。そのため、お客さまとの会議でも、「上司の邪魔にならないように」と発言しないことがほとんどでしたが、これからは自ら前に出て、積極的にコミュニケーションを取らなければなりません。だから、今年度は「会社ではなく、私という個人をお客さまに信頼してもらう」ことを目標に掲げます。そのための第一歩として、まずは以前上司から教わった「お客さまから頼られる人が持つ3つのポイント」を実践してみたいと思います。

1つ目は「お客さまへの理解」です。お客さまが抱えている課題は何か、ニーズを理解しないと、自社の商品やサービスをどのように勧めればよいのか分かりません。まずは、お客さま自身のことだけでなく、お客さまがいる地域の特性など、周辺情報も含めて頭にたたき込みます。

2つ目は「自社の商品・サービスの知識」です。自社の商品・サービスは、競合他社と比べて何が優れているのか、お客さまが抱えている課題をどのように解決できるのか、その良さを提供する側として正確に理解しておかなければなりません。だから、実際に商品・サービスを使ってみて良い点・悪い点を分析して、もし、お客さまの要望に合わないときも代替策を提案できるようにします。

3つ目は「人間性」です。具体的には、「礼儀正しく約束を破らないこと」「相手の立場に立って、必要な物事をよく考えられること」だといえるでしょう。ただ、「人間性」は一朝一夕では身につかないので、まずはお客さまから「常に自分たちを気にかけてくれている、何か困ったときには話を聞いてもらえそうだ」と思ってもらえるよう、「マメな連絡を欠かさないこと」を徹底します。

これまでの私には「何かあっても上司が何とかしてくれる」という甘えがありました。もちろん、私がメイン担当になった後も、上司は「自分が責任を取るから安心していい」と言ってくれますが、それは私がお客さまの信頼を得るために努力を重ねた先にある話だと思っています。先ほど口にした「会社ではなく、私という個人をお客さまに信頼してもらう」という目標を口だけで終わらせないよう、教わった3つのポイントを実践し、成果を上げ、皆さんにたくさんの良い報告ができるよう、頑張っていきます。

以上(2025年4月作成)

pj17213
画像:Mariko Mitsuda

【かんたん法人税(4)】人材(従業員)に係る税務

1 従業員に係る税務上の重要なポイント

シリーズ第4回では、従業員に係る税務の取り扱いに注目します。従業員に支給する給料や賞与、退職金などは、法人税の課税所得を計算する上では、原則として支給額の全額が損金算入されますが、重要なのは損金算入のタイミングです。

税務調査において、従業員に関する税務で重要視されるポイントは、

  1. 従業員に対する給料等の損金算入のタイミングが適切であるか否か
  2. 損金算入をする上での書類が適切に保管されているか

といった点です。損金に算入するタイミングを誤った場合、一時的に想定外の税金を追加納税しなければならないケースもあり得るので注意しましょう。

また、同族会社においては、従業員に対する給料であっても、場合によっては支給額の全額が損金算入されないケースもあるので、併せて注意する必要があります。

従業員に係る税務上の重要ポイントは次の通りです。

  • 決算賞与の未払計上の損金算入
  • 従業員の退職金関連(一時金、各種年金制度の拠出金、退職給付引当金)の取り扱い
  • ストック・オプションの取り扱い
  • 過大な使用人給与の損金不算入

2 従業員に係る税務上の取り扱いと留意点

1)決算賞与の未払計上の損金算入

1.従業員に対する賞与の損金算入時期の原則

従業員に対する賞与の損金算入時期の原則的取り扱いは次の通りです。

画像1

図表1の通り、あらかじめ定められている支給予定日(支給予定日が定められていない場合は実際に支給された日)に損金算入されることとなり、支給予定日前に未払計上して損金に算入することは、原則として認められていません。

2.決算賞与の未払計上の損金算入の特例

1.の原則的な取り扱いに対し、決算賞与(夏季・冬季賞与のように定期的に支払われる賞与ではなく、決算上の利益に基づき支払われる賞与)については、未払計上し、支給予定日前に損金算入できる特例があります。この特例を適用するには、次の要件の全てを満たす必要があります。

画像2

(要件1)の通知については、書面か口頭かについてまでの規定はありません。しかし、税務調査においては適正に通知を行っていることを証明するためにも、書面にて作成し、かつ、各従業員に署名してもらうのが賢明です。

また、(要件2)については、通知をした従業員の全員に対して決算賞与を支払う必要があります。例えば、通知をした日から支給日までの間に退職した人について支給しないケースは、この要件を満たさないこととなるため注意が必要です。

この特例を適用することで、未払計上した分、課税を繰り延べること(本来なら当事業年度に係る法人税を、翌事業年度以降に持ち越すこと)ができます。ただし、要件を1つでも満たさない場合は、原則通り、「支給した日」に損金算入されます。この点は税務調査でも重点的にチェックされる可能性が高いので、注意しましょう。

2)従業員の退職金関連の取り扱い

1.退職一時金の取り扱い

従業員に支給する退職一時金については、「退職日」「退職金支給日」「就業規則に明記されている支給日(退職日から〇カ月以内など)」のいずれかのタイミングを選択して損金算入できます。

例えば3月決算法人で、従業員が3月末日に退職し、かつ退職金を4月末に支給した場合、3月末日あるいは4月末日のいずれでも損金算入が可能となるため、当事業年度の損益状況に応じて選択できます。

2.各種年金制度の拠出金

中小企業が従業員の退職金を積み立てることを目的として、中小企業退職金共済などの制度に加入し、掛金を支払うケースがあります。この掛金については「実際に払い込みをした日」に損金算入されます。

従って、期末において当月分を未払計上したとしても、実際の払い込みがなされていないことから、未払計上分については損金に算入されません。税務調査においては、特に決算前後に計上された掛金の払込時期についてチェックされるので注意しましょう。

3.退職給付引当金

従業員の退職に伴う退職金の支給に備えて退職給付引当金を設定し、退職金相当額を社内に留保するケースがあると思います。ただし、税務上、この退職給付引当金の繰入額についての損金算入は認められていません。

従って、従業員の退職金に係る費用については、実際に従業員が退職し、退職金を支給した場合において、上記1.の退職一時金支給に係る損金算入時期に従って損金算入されることになります。

3)ストック・オプションの取り扱い

ストック・オプション制度とは、法人が従業員の労働の見返りとして、一定の期間(権利行使期間)中に、あらかじめ定められた価額(権利行使価額)で自社の株式を取得できる権利を、従業員に付与する制度です。

ストック・オプションを付与された従業員は、自社株式の株価が上昇した場合でも、権利行使価額にて株式を取得することができるため、その値上がり分について利益が得られます(その従業員が得た利益は、原則として権利行使をした際に「給与所得」になるので所得税が課されます)。

一方、会社側では、ストック・オプションを従業員に対する給与(ストック・オプション費用)として費用計上します。ストック・オプション費用については、従業員が付与されたストック・オプションにつき、権利行使をして株式を取得し、従業員に対し所得税が課されるとき(給与等課税事由が生じたときといいます)に損金算入されます。従って、ストック・オプションを従業員に付与した時点では、このストック・オプション費用は損金算入できません。

なお、ストック・オプションについては、権利行使価額や権利行使期間において一定の要件を満たす「税制適格ストック・オプション」があります。詳細な説明は省略しますが、税制適格ストック・オプションである場合、従業員が権利行使したときに、従業員に対して所得税(給与所得として)が課されません。

会社でストック・オプション費用を損金算入するのは、給与等課税事由が生じたときと決められているため、税制適格ストック・オプションの場合、ストック・オプション費用を損金に算入できない点に留意しましょう。

4)過大な使用人給与の損金不算入

従業員に対する給与は、原則として全額損金に算入されます。ただし、同族会社の場合、法人の役員と特殊関係にある従業員(以下「特殊関係使用人」)に対する給与については、支給された給与のうち、不相当に高額と判断される部分の金額については損金不算入として取り扱われます。

これは、一般の従業員については雇用契約に基づき、双方の合意のもとで給与が決定されるのに対し、特殊関係使用人に対しては手続きが不透明で、かつ不相当に高額な給与となる可能性があるからです。給与額を調整して、法人税を不当に減少させることを防ぐため、このような取り扱いとなっています。特殊関係使用人とは次の者をいいます。

画像3

支給した給与が不相当に高額か否かの判断は難しいですが、通常は特殊関係使用人の職務内容や、一般の従業員に対する給与の支給状況等を考慮して判断されます。

例えば、一般の従業員と同年齢・同職務にもかかわらず、特殊関係使用人の給与が著しく高い場合には、差額部分について損金不算入とされる可能性があります。特殊関係使用人に対する給与の決定過程については、税務調査時に詳細に説明できるよう、関係書類などを事前に準備しておくことが重要です。

以上(2025年4月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 富永慎也)

pj30009
画像:pixabay

令和7年度の新入行員研修が行われました!

令和7年4月11日(金)、徳島大正銀行では、新入行員59人を対象に「四国八十八箇所巡り」のお遍路体験研修を実施しました。

【研修の目的】

・各自が目標にチャレンジし最後まで諦めない強い意思を持たせること
・同期との連帯感を醸成し、高い目標に対する達成感や充実感を経験させること
・四国八十八か所の歴史・文化を勉強し体感させること

【お遍路とは】

弘法大師・空海が修行した八十八箇所の霊場を回る巡礼の旅のことです。
霊場は徳島の霊山寺から始まり、高知、愛媛、そして弘法大師生誕の地である香川までの4県にわたって続き、総距離1,400kmにも及びます。

画像1

1番札所「霊山寺」で板東頭取があいさつし、「目標を達成する力や同期との連帯感を育んでほしい」と述べて激励しました。

画像1

出発前の新入行員に、本日の意気込みを聞いてみました!

天野さん

【天野さん】祖父が徳島出身で小さい時にお遍路を歩いたことがあり、その時の記憶が蘇ればと思っています!

山本さん

【山本さん】すごく楽しみにしていたので、みんなと一緒にがんばりたいと思います!

2番札所「極楽寺」ではご住職から参拝の作法を学び、社会人生活に向けありがたいお言葉をいただきました。

画像1

この後、最長で11番札所「藤井寺」まで、約37kmを歩いて巡りました。
新入行員研修は最長5月2日まで続きます。
今後も新しい挑戦を共に乗り越え成長していくことと思います。皆さまにはあたたかく見守りいただけますと幸いでございます。

以上

目標未達の部下Iさんから思いつきのような企画提案が、どう声をかけますか?/ 武田斉紀の『次世代リーダーに必須の コミュニケーション習慣』【実践編】(10)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:コミュニケーションに関わる知識やノウハウは、頭では理解できても、実際の場面で使いこなせるようになるまでには高いハードルがあるものです。
  • 解決策:前回シリーズ『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』での知識やノウハウを聞いただけではまだ一歩を踏み出せない、あるいはトライしてみたがうまくいかないという方のために、新シリーズでは【実践編】として社内の“あるある”場面を想定した質問に対して一緒に考えながら、実践イメージを膨らませていただきます。またリーダー側の視点とは別に、若手社員側の視点による上司世代との上手な付き合い方のヒントも紹介していきます。リーダー世代と若手社員とのコミュニケーションギャップを埋めることは、世界を舞台にスピーディな成長をめざす日本企業にとっても喫緊の課題だからです。

1 目標未達の部下Iさんから、ある日思いつきのような企画提案が、どう声をかけますか?

今シリーズは、前シリーズ『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』の実践編としてお送りしています。毎回実際にありそうなさまざまなシチュエーションを想定して、その際にどんなコミュニケーションを取るのが望ましいかを一緒に考えていきます。

前回第9回のテーマは「部下のプライベートの問題」でした。職場でのさえない表情が気になっている部下から一時的な早退希望を相談された際のコミュニケーションのあり方について、上司、部下、それぞれの立場から考えてみました。いかがだったでしょうか。

今回は課題[事例9]です。以下に再掲しますので、前回皆さんが考えてみた解答を思い出してみてください。まだ考えていなかった方もぜひ考えてみてください。自ら考えないで、解説だけを読んでいても身に付きませんよ。

—————————

Q.部下のIさんに対して、あなたはこの後、最初にどんな声をかけますか? また、それを考える際に注意するべきポイントを3つほど挙げてください。書かれているさまざまな要素を考慮してみましょう。

[事例9]

〇部下のIさんが、ある日の朝突然、「新しい企画を考えたんですけど、ぜひ聞いてください」と興奮気味に話しかけてきました。

〇課の目標達成の期限が間近に迫っていました。課の多くのメンバーは、すでに目標を達成したりほぼ確実にしたりしていますが、Iさんを含めた数人の達成がもう少しのところで見通せないため、課としての目標達成が不確実な状況です。

—————————

テーマは「モチベーションの育て方」です。これまで同様、起こっている事象を整理することから始め、現場で起こっていることの可能性を探ってみましょう。皆さんの職場でも似たようなケースはありませんか。

2 期初に、上司として部下にどんな要望をし、評価の基準を示したか

日々の会話において、部下との間でこんなやりとりをしていませんか。

Iさん「新しい企画を考えたんですけど、ぜひ聞いてください」

上司「Iさん、いい加減にして! うちの課が今どういう状況か分かってる? 目標達成の期限目前なのに、あなたと何人かが目標未達のせいでみんなが困ってるんだよ!」

私自身もかつて現場の上司としての経験があり、当時今回と同じようなシチュエーションに遭遇していたら、感情に任せてキレそうになっていたかもしれません。

部署の目標達成の結果いかんで、報奨金や賞与なども変わるとなればなおさらです。頑張って既に目標を達成している他のメンバーの気持ちを思えば、個人の目標達成に集中していない、手を抜いているように見える部下に対して厳しく当たってしまう気持ちは分かります。

けれども一度立ち返っていただきたいのは、「上司であるあなたは、メンバーに対して何を求めてきたか」という点です。目標を定めた期の初めにおいて、課を率いる立場として部下にどんな要望をし、どんな評価の基準を示したでしょうか。

「個人や組織の取り組みによって何かを成し遂げていく」のが「仕事」です。したがって、目的や目標のない業務は仕事とはいえません。皆さんの部署ではどうですか。期初にどんな目標とその評価基準が示されたでしょうか。

組織を率いる立場の上司は、一定期間(1年というスパンもあれば、それを3カ月や1カ月に区切っている場合もあるでしょう)に組織全体と所属する個人がなすべきこと[=目標]、およびその評価方法[=評価基準]を、あらかじめ示さなければなりません。

「うちは毎日が接客のルーティン業務だから、目標も評価基準も明確に定めていません」というのでは、組織や会社の未来が心配です。

どんな組織にも、現状の課題は常に存在します。毎日のルーティンの質や生産性をさらに向上させ改善していってこそ、競合の中で生き残り成長できるのです。漫然と日々の業務をこなしているだけでは後退していくばかり、数年後には部署も会社もなくなっているかもしれません。

仕事を始める前に目標や評価基準を提示しないのは、ゲームでいえばルールがないのと同じです。目指すゴールも、達成したときのごほうびや勝ち負けの基準(評価の基準)も見えないようなゲームに、誰も真剣に取り組もうとはしないでしょう。

まして、「仕事」は楽しいだけの遊びではなく、個人の生活や人生のかかった「報酬を前提とした契約」なのですから。

3 期初に示したゲームのルールで部下に目標達成を要望し、支援する

期初に「今期、課と個人に求めることは目標に掲げた数値が100%(全て)であって、評価も100%その結果次第です」と決めて示していたのであれば、感情的な言い方は良くないとしても、先ほどのIさんへの上司の一言も分からないではありません。

とはいえ、せっかくの提案ですから「その新しい企画、今聞いたほうがいい内容ですか。目標の締め切り後でも遅くなければ、そこで聞かせてもらいますよ」と確認した上で、「提案はありがたいが、今は個人の目標数値の達成に100%集中してほしい」と働きかければよいでしょう。

そこで、部署と個人の目標数値達成の評価基準に占める割合が100%ではなく、仮に70%だとしたらどうでしょう。評価基準の残りの30%は、?業務改善や新たな取り組みへの新しい提案”で決まるとしたら?

もしかしたら、Iさんは「自分の目標がまだ未達で部署に申し訳ない。目標達成は諦めないが、残り30%のほうで結果を出せないか考えてみよう」と発想して、知恵を絞ったのかもしれません。新しい提案であれば、70%のほうの目標達成を進めながら、例えば移動時間にでも考えることができるでしょう。

そんな状況で、上司が先ほどの一言を言ってしまったら、Iさんはどう感じるでしょうか。私がIさんなら、上司に頭ごなしに否定されて「だって期初に目標と評価基準の30%は“業務改善や新たな取り組みの新しい提案”で決まるって言ったじゃないですか」と怒りたくなります。Iさんの仕事へのモチベーションがどうなるか心配です。

上司が期の途中で、特段の理由なく勝手に、期初に示したルールを途中で無視したり変更したりしてはいけません。Iさんに限らず、他のメンバーもモチベーションが下がる可能性があります。その結果、課の70%のほうの目標達成ももっと難しくなるかもしれません。

繰り返しますが、上司としては期初に示したゲームのルール(目標と評価基準)で部下に目標達成を要望し、支援していきましょう。

ちなみに途中でのルール変更が一切だめだと言っているのではありません。何らかの会社としての方針転換などによって、期中に見直すべきケースもあるでしょう。その際は課の全員を集めて、背景を説明しながら新たな目標と評価基準を示し、共有し直せばいいのです。

4 上司が最初にかけるべき言葉とは?

部下のIさんに最初にかける言葉は次のようなイメージです。

「新しい企画について聞かせてもらうのは楽しみですが、それは今期中に取り組んだほうがいい企画ですか」

Iさんから緊急性が高いとか、今期の目標達成にも関わる内容だと話があれば、

「分かりました。ではすぐに時間を取るので、詳しく聞かせてください」

と言って、忙しかろうと時間を取ってじっくりと「傾聴」してください。

もし、そこまでではないという反応であれば……

「では新しい企画については、締め切り後に時間を取るのでぜひ聞かせてください。今はIさん自身も課も今期の仕事の評価基準の〇%を占めるメインの数値目標の達成が厳しい状況です。Iさんが〇〇や〇〇で頑張っているのは知っていますが、現状は厳しい。目標達成に向けて諦めずに一緒に頑張っていきましょう!」

Iさんが明らかにサボっているのであれば話は別ですが、目標未達とはいえ本人なりに頑張っているのであれば、先にその頑張りを認めて(=承認して)、「褒めて」あげましょう。

人は、他人からいきなり欠点や改善すべき点を指摘されると、自己否定されたような気持ちになり、プライドも傷ついて素直に聞けないものです。しかしながら、先に良い所を認めて「褒めて」もらえると、改善点は割と素直に受け入れられ、行動にも移せるものです。

皆さんにも経験があるのではないですか。特にベテランや年配者になればなるほど、誰かに指摘されることはなくなるものです。年上部下を抱えている上司であれば、先に良い所をしっかりと認めた上で要望することで、相手の自主的な行動を促しやすくなります。

もちろん、最後の一言に挙げた「目標達成に向けて頑張っていきましょう!」という声かけだけで終わってはいけません。

現状と本人の計画や取り組みを確認した上で、期限までに確実に目標達成できるようにマネジメントするのが上司の仕事です。必要なら既に目標達成済みの他のメンバーの力も借りればいいでしょう。彼らだって課全体の目標を達成したいはずです。

5 上司は本人の希望そのままだけでなく、幅広い選択肢を用意しベストを探る

ポイントを整理しましょう。

【今回の3つのポイント】

1 感情的にならずに、期初に課と個人に対してどんな目標と評価基準を示して共有したのかを思い出す

2 新しい企画提案の緊急性や今期への寄与度をIさんに確認した上で、提案を今「傾聴」するべきか否かを判断する

3 Iさん個人のメイン目標の達成に向けて、現状と本人の計画や取り組みを確認し、頑張りを「褒めた」上で、確実に目標達成できるように「前向き発想」でマネジメントする

はたしてIさんは、個人と部署の目標達成の現状をどのように捉えて、新しい企画をあなたに提案しようとしているのでしょうか。可能性の選択肢はいろいろと考えられますね。となれば、取りあえず冷静になってIさんに質問し、「傾聴」してみましょう。

上司が感情的になって勝手な判断をしてしまうと、Iさん本人だけでなく、その状況を見たり、あるいは間接的に話を聞いたりした他のメンバーのモチベーションもが下がり、あなたへの信頼まで失いかねません。

片や、上記の【今回の3つのポイント】の点を踏まえて対応すれば、Iさん本人をはじめ、他のメンバーのモチベーション、あなたへの信頼も高めていけるはずです。そのためにも、まず冷静な「傾聴」が鍵になるのです。

最後に、逆に皆さんがIさんの立場だとして、できることを考えてみましょう。

できれば上司から質問される前に、こちらから個人と課の目標達成の現状をどのように捉えているのかを話してみたらどうでしょう。現状をちゃんと理解した上での提案と分かれば、上司の聞く耳も変わるというものです。

上司からの質問は、企画の提案の話だけにとどまらないことは容易に想像できます。メイン目標の達成についても、計画や取り組みを説明できるように準備しておくべきです。その上で期限までに確実に目標達成できるためのアドバイスを求めましょう。

6 若手部下のJさんが部署の業務に「タイパ悪くないですか?」、どう声をかけますか?

次回に向けた課題[事例10]が今シリーズ最後の事例です。【実践編】の総仕上げのつもりで、あなたなりに考えてみてください。

—————————

Q.若手部下のJさんに対して、あなたはこの後、最初にどんな声をかけますか? また、それを考える際に注意するべきポイントを3つほど挙げてください。書かれているさまざまな要素を考慮してみましょう。

[事例10]

〇若手部下のJさんは、配属から間もないこともあって、部署全体の業務の流れはもとより、自身の業務にさえ精通できていません。そんなある日、Jさんは上司のあなたに「この業務ってタイパ悪くないですか?」と問いかけてきました。

〇そればかりか「先に先輩に話してみたんですが、“つべこべ言わずに自分の仕事を早く覚えろ”と怒られました。納得いかないです」と不満そうです。

—————————

テーマは「仕事の任せ方」です。「タイパ」はご存じかと思いますが、「タイムパフォーマンス」のことです。起こっている事象を整理することから始め、現場で起こっていることの可能性を探ってみましょう。皆さんの職場でも似たようなケースはありませんか。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。日常で事例と近いシーンがあれば、ぜひ『新たな3つのコミュニケーション習慣』の実践にトライしてみてください。

次回もお楽しみに。

<ご質問を承ります>

ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mail to: brightinfo@brightside.co.jp

※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。

『新スペシャリストになろう!』 https://amzn.asia/d/e8GZwTB

『なぜ社長の話はわかりにくいのか』 https://amzn.asia/d/8YUKdlx

以上(2025年4月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

pj90271
画像:PureSolution-Adobe Stock

【健康経営】健康診断で「異常」の所見があったらどうする?

1 健康診断は「異常」が発見されてからが本番!

会社は労働安全衛生法などに基づき、法定の健康診断(定期健康診断など)を実施する義務があります。ただ、これで終わりではなく、「異常」の所見があった社員について、

医師等(医師または歯科医師)の意見を聴き、必要に応じて労働時間の短縮や配置転換などをしなければならない

ことをご存知でしょうか。この義務には罰則がなく、「健康診断の後は社員の責任」という勘違いもあってか、

  • 健康診断の結果を確認していない
  • 「異常」の所見があった社員に、病院に行くよう忠告するだけで終わっている

など、健康診断がやりっ放しになりがちです。

健康診断は社員の健康を守るために実施するものであり、

「異常」が発見されてからが本番!

といっても過言ではありません。ちなみに、定期健康診断で「異常」の所見があった社員の割合は2023年時点で58.9%に上ります。会社が何もしなければ、6割近い社員の健康が危ぶまれると思って、以降で紹介する「異常」の所見があった社員への対応をご確認ください。

画像1

2 「異常なし」以外は「異常」の所見あり

健康診断結果には、社員の健康状態が「判定区分」として記載されています。判定区分の設定は医療機関ごとに異なりますが、例えば次のようなイメージです。

  1. 異常なし:健康状態に特に問題はない
  2. 軽度異常:数値上は異常を認めるが、日常生活に差し支えない
  3. 経過観察:治療や精密検査は不要だが、生活習慣を改善しつつ経過を見る必要がある
  4. 要治療:病気と考えられるので、治療や保健指導を受ける必要がある
  5. 要精密検査:さらに詳しく検査を行い、病気の有無を確認する必要がある

上の5つの場合、「1.異常なし」以外は「異常」の所見があるものとなります。医療機関がこれ以外の判定区分を設定している場合も、

「所見を認めない」など、明らかに問題ないと判断できるもの以外は、基本的に「異常」の所見があるものと考えて差し支えない

でしょう。

3 医師等の意見聴取はどうやって進める?

「異常」の所見があった社員については、

健康診断をしてから3カ月以内に、就業上必要な措置について医師等の意見を聴取

しなければなりません。意見を聴取する相手は、

  • 会社の産業医(社員数が常時50人以上の場合、選任は義務)
  • 地域産業保健センター(労働者健康安全機構が運営)の健康相談窓口
  • 社員の主治医(社員が主治医の意見を会社に伝える)

などがあります。通常、社員の健康診断結果を医師等に渡した上で意見を聴取します。これは法令で認められた行為ですが、健康診断結果は「要配慮個人情報」なので、その取り扱いには注意しましょう。

さて、厚生労働省の指針では、医師等から主に聴取すべき意見として次の2つが示されています(厚生労働省「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」)。

  1. 就業区分(通常勤務でよいか、就業制限や休業が必要か)と必要な措置(労働時間の短縮、作業の転換など)に関する意見
  2. 作業環境管理(施設や設備の状況など)や作業管理(作業方法など)に関する意見

意見聴取は、口頭と書面(意見書など)のどちらで行っても構いませんが、

聴取した意見は、健康診断結果の個人票に記載しなければならない

ので注意してください。

4 就業上必要な措置って具体的に何?

就業上必要な措置の内容は、おおまかに次のように区分できます。

画像2

多くの場合は「通常の勤務でよい」ということになりますが、そうでなければ医師等の意見を勘案して措置を実施します。その際、

措置の対象となる社員の意見も聴き、内容について了解を得た上で実施するのが望ましい

とされています(厚生労働省「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」)。

なお、措置を講じるために社員の上司などの協力を求める場合、社員の病気などに関する情報は提供せず、措置の目的や内容を中心に伝えるのが基本です。健康管理業務に従事しない上司に要配慮個人情報を提供すると、個人情報保護法に違反する恐れがあります。

5 社員に治療や精密検査を受けるよう命令できる?

ここまで会社の義務について紹介してきましたが、社員も自らの健康維持のために努力しなければなりません。例えば、

通常の勤務でよい(就業上必要な措置はない)が、治療や精密検査は必要

というのはよくあるケースですが、社員が治療や精密検査を受けないまま健康状態を悪化させたら、健康診断を実施した意味がありません。

こうした場合、就業規則に、

健康診断で「異常」の所見があるなど、会社が必要と認めた場合、治療や精密検査を受けなければならない

といったことを定めるとよいでしょう。また、命令する以上は、会社による費用負担、就業時間中の受診、受診している間の給与の支払いなどについても検討する必要があるでしょう。

6 「異常」の所見があった場合に役立つ制度はある?

健康診断の結果、次の4つの検査項目全てで「異常」の所見があった社員(例外あり)は、労災保険の「二次健康診断等給付」を受けられます。

  1. 血圧検査
  2. 血中脂質検査
  3. 血糖検査
  4. 腹囲の検査またはBMI(肥満度)の測定

二次健康診断等給付の内容は、

  1. 二次健康診断:脳血管と心臓の状態を把握するために必要な検査
  2. 特定保健指導:脳・心臓疾患の発症の予防を図るための保健指導

の2種類で、どちらも無料です(どちらも年度内に1回まで)。実施義務はありませんが、該当する社員がいる場合、積極的に受診を奨めるとよいでしょう。

画像3

以上(2025年4月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)

pj00624
画像:Marina Zlochin-Adobe Stock

【かんたん法人税(3)】固定資産に係る税務

1 固定資産に係る税務上の重要ポイント

シリーズ第3回では、固定資産のうち有形減価償却資産に係る税務上の取り扱いに注目します。固定資産とは、

長期に保有する資産の総称で、有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産に区分

されます。「長期に保有」は、ワンイヤールール(1年以内の売却や処分を予定していない)で判断します。また、有形固定資産および無形固定資産のうち、減価償却の対象となる資産は、減価償却資産と呼ばれます。固定資産の分類は次の通りです。

画像1

固定資産に係る税務上の取り扱いは、取得時の処理、減価償却、修繕をした場合など、詳細に定められています。固定資産に係る税務上の重要ポイントは次の通りです。

  • 取得価額の判定
  • 減価償却費を損金算入するための要件
  • 一括償却資産と中小企業者における減価償却の特例
  • 特別償却制度
  • 資本的支出と修繕費
  • 評価損・耐用年数の短縮
  • 売却時・除却時の税務

2 減価償却の概要と減価償却資産の分類

1)基本的な考え方

建物や機械などの有形固定資産、鉱業権や特許権などの無形固定資産は、取得後、使用することで時間の経過とともに経済価値が消耗・損耗していきます。この資産の経済価値の消耗・損耗分を減価(価値の減少)と見なし、その金額を一定の方法により、資産の使用可能期間にわたって、各期の費用として配分する会計処理を「減価償却」といいます。

前述の通り、減価償却の対象となる資産は減価償却資産として区分され、次のように分類されます。なお、減価償却資産には、建物、車両、器具備品、機械装置、ソフトウエア、営業権などの他、家畜や果樹などの生物も含まれます。

画像2

固定資産の分類は、税務調査で指摘されやすいポイントなので、資産取得の際に適切に区分しておく必要があります。

2)減価償却方法

減価償却の方法にはいくつかがありますが、一般的なものは定額法と定率法です。

  • 定額法:耐用年数にわたり、毎期均等の金額を減価償却費として計上
  • 定率法:耐用年数にわたり、未償却残高を毎期同じ割合を減価償却費として計上

耐用年数とは、固定資産を事業に利用できる年数のことで、税法上、業種や資産ごとに決められています。会計上は、企業が任意に合理的な耐用年数を決めて償却することができますが、その場合は税法基準での処理との二重管理が生じ煩雑になるため、多くの中小企業では税法基準で償却計算が行われています。

耐用年数も税務調査で指摘されやすいポイントです。税務調査では、資産の耐用年数が法定耐用年数にのっとったものかどうか確認されます。また、その資産が実際に事業で使用されているかも確認されます。原則として、使用されていない資産の減価償却は損金算入が認められません。

定額法と定率法の仕組みは次の通りです(取得価額100万円、耐用年数5年の資産を例示)。なお、この記事では、旧定額法・旧定率法についての説明を省略します。

画像3

定額法、定率法ともに、償却終了時に備忘価額(保有していることを忘れないように財務諸表に表示する価額)として帳簿価額1円を計上します(図表3-定額法および定率法の「5年目の期末帳簿価額」)。

また、現行の定率法において、償却当初の償却率(0.4)は定額法の償却率(0.2)の2倍となっています。ただし、当初の償却率(0.4)のままでは耐用年数内に、備忘価額1円まで減価償却することができません。そこで、帳簿価額が取得価額に一定の率を乗じた金額(改定取得価額、図表3-定率法の「3年目の期末帳簿価額」)まで到達した後は、新たな償却率(0.5。改定償却率)により償却を行うこととなります。

なお、改定取得価額とは、当初の償却率による償却額が初めて償却保証額(資産の取得価額に当該資産の耐用年数に応じた保証率を乗じて計算した金額)に満たないこととなる年の期首における未償却残高のことをいいます。また、改定償却率とは、改定取得価額に対しその償却費の額が、その後毎期均等になるように当該資産の耐用年数に応じた償却率をいいます。

3)固定資産を処分した場合の会計処理

ここでは、図表3の事例を使って、固定資産を処分するときの会計処理を説明します。

例えば、定額法により償却していた資産が、3年間使用した時点で壊れてしまったため処分したとします。この場合、処分時(3年経過時)のこの資産の帳簿価額40万円(=取得価額100万円-減価償却累計額60万円)を、会計上、固定資産(資産科目)から費用科目に一度に振り替える必要があります。本ケースでは、40万円の固定資産除却損を損益計算書に計上し、固定資産の帳簿価額をゼロにします(税務上の詳細な取り扱いは後述)。このように、固定資産を処分した場合には、期中に予定していなかった費用が発生し、利益に大きく影響するため注意が必要です。

3 固定資産に係る税務上の取り扱いと留意点

1)取得価額の判定

固定資産の取得価額の判定は、通常その単位ごとに行います。単位といっても、全ての資産が1個の資産で成り立つわけではありません。例えば、「応接セット」として資産計上することがあります。この場合は、一式そろって初めて機能するものなので、取得価額も一式分(テーブル、椅子、ソファなどの合計)の価額となります。また、資産の取得に際し、付随して生じる費用(設置費用など)も、取得価額に含めなければなりません。取得価額とすべき付随費用が費用(支払手数料など)として処理されていないかどうかは、税務調査でも指摘の多いポイントの1つです。

また、税務上は取得価額が10万円未満のもの(または使用可能期間が1年未満のもの)については、固定資産として資産に計上せず、消耗品費などとして一括で費用にすることができます(詳細は後述)。

2)減価償却費を損金算入するための要件

有形減価償却資産については耐用年数経過時に1円まで償却することが可能ですが、減価償却費を損金算入するためには、次の要件を満たす必要があります。

  • 法人税法施行令で定められている償却限度額以内であること
  • 損金経理を行っていること
  • 別表明細書(別表16)を確定申告書に添付すること

3)一括償却資産と中小企業者における減価償却の特例

税務上、10万円以上の固定資産を購入した場合には、減価償却資産として資産に計上するのが原則ですが、取得価額が30万円未満のものについては、次のような処理方法が認められています。

画像4

取得価額が10万円未満(または使用可能期間が1年未満のもの)のものについては前述した通り、固定資産とせず費用に計上できます。

取得価額が10万円以上20万円未満のものについては、一括償却資産として資産計上し、3年間で償却することが認められています。固定資産の多くは、耐用年数が3年を超えるものが多いため、通常より早期に償却(費用計上)することができます。

また、中小企業者等(資本金の額等が1億円以下の一定の法人)においては、「少額減価償却資産の特例」という、30万円未満の固定資産を費用に計上できる制度(年間の総額が300万円に達するまで)が利用できます。適用を受ける場合には、適用額明細書を法人税の確定申告書に添付する必要があります。

4)特別償却制度

特定産業の保護・育成や特定の投資の促進などを目的として、租税特別措置法に規定されているのが、特別償却制度です。この制度を利用することで、償却限度額が増加し、税負担を減少させられます。税法上の早期償却の方法には、初年度特別償却と割増償却とがあります。

  • 特別償却:資産を取得した最初の期のみ、償却限度額を増加させるため特別償却率を乗じることを認める制度
  • 割増償却:数年間にわたり普通償却限度額(通常の減価償却に係る償却限度額)とは別に、特別償却限度額を認める制度

特別償却は、対象資産ごとに対象事業者が設定されており、ほとんどの場合、青色申告法人であることが要件になります。また、申告時には特別償却についての付表の添付が求められます。これらの適用要件を満たしているかどうかも、税務調査で指摘の多いポイントの1つです。また、租税特別措置法の適用を受ける場合には、適用額明細書を法人税の確定申告書に添付する必要があります。

5)資本的支出と修繕費

資本的支出と修繕費の取り扱いは、現場担当者の判断にミスが生じやすい項目の1つです。資本的支出とは、すでに保有している固定資産の修理、改良などのために支出した金額のうち、その固定資産を使うことのできる期間(使用可能期間)を延長させる部分または価値を増大させる部分をいいます。資本的支出に該当する場合は、費用ではなく、新たな固定資産を購入したものとして資産計上し、耐用年数にわたり減価償却を行っていかなければなりません。

一方、修繕費とは、固定資産の維持管理または原状回復のための支出をいいます。修繕費に該当する場合は、費用として処理されます。

資本的支出か修繕費かを判断するためのフロー図は次の通りです。

画像5

修繕費と減価償却資産が適切に区分されているかどうかは、税務調査において指摘の多いポイントですので、留意する必要があります。

6)評価損、耐用年数の短縮

1.固定資産の評価損について

固定資産の価格の下落による損失は、会計上で評価損として費用計上することがありますが、税務上は原則として評価損の損金算入は認められません。ただし、例外として、固定資産について、一定の事実があった場合には、損金経理により帳簿価額を減額することを条件に、評価損の損金算入が認められています。税務上、固定資産の評価損を計上できるケースとできないケースは次の通りです。

画像6

2.固定資産の耐用年数の短縮について

固定資産の耐用年数は、耐用年数表により画一的に定められています(法定耐用年数)。ただし、一定の理由により、使用可能期間が法定耐用年数と比較しておよそ10%以上短くなったと判断される場合には、所轄税務署長の承認を受けることで、法定耐用年数を使用可能期間に短縮できます。

7)売却時・除却時の税務

有形固定資産を売却した場合、売却時点の帳簿価額と売却価額との差額を固定資産売却損益として処理します。固定資産売却損益は、臨時的に発生した損益として特別損益に表示されます。また、売却に際して手数料などの付随費用が生じた場合は、売却損益に反映します。

なお、固定資産を除却する場合、税務においては固定資産を実際に廃棄するまでは除却損を損金に算入できません。従って、実務上は廃棄を証明する資料、例えば産業廃棄物管理票(マニフェスト)などを適切に保存・管理する必要があります。

ただし、次のような場合には、実際に廃棄せずとも、帳簿価額から処分見込額を控除した金額の損金に算入できます。これを有姿除却(有姿=姿を残したままの意)といいます。

画像7

図表7の(1)は、税務調査で指摘の多いポイントの1つです。固定資産を再使用しないことを明らかにするため、当該固定資産の現況、使用中止に至った経緯、転用等の再使用の可能性を検討した資料を残しておく必要があります。

4 リース取引

リースとは、企業が設備を導入する場合に、自社で購入(所有)するのではなく、リース会社が購入した物件を賃借し使用する取引のことです。リース取引は、中途解約ができず、その資産の購入代金のほぼ全額をリース料という形で支払う賃貸借取引である「ファイナンス・リース」と、それ以外のリース取引である「オペレーティング・リース」とに分類されます。

税務上では、ファイナンス・リースのみが「リース取引」に該当し、原則として売買したものとして取り扱われます。従って、固定資産を購入した場合と同じく、リース期間にわたり減価償却をしていかなければなりません。

一方、オペレーティング・リースは、税務上は賃貸借取引とされるため、賃借料、レンタル料などの費目で処理されることになります。

画像8

また、ファイナンス・リース取引(税務上の「リース取引」)は、リース期間の中途または終了後に所有権が移転するかしないかという観点で、さらに「所有権移転ファイナンス・リース」と「所有権移転外ファイナンス・リース」とに分類することができます。ファイナンス・リースでは減価償却費を費用計上することとなりますが、取引内容により減価償却方法が変わりますのでご留意ください(詳細は図表9の通りです)。

画像9

なお、2027年4月1日以降に開始する事業年度から、リースに関する会計基準が変更されます。監査法人の監査が必要な上場企業などに対しては強制適用となりますが、中小企業については任意の適用となります。新しい基準(新リース会計基準)では、これまでオペレーティング・リースとして、賃借料を費用計上するだけで良かったものも、会計上はファイナンス・リースと同様、貸借対照表上に資産・負債として計上し、減価償却費により費用計上することになります。ただし、

税務上は、新しい基準適用したとしても、オペレーティング・リースについては、現行の処理(賃借料などを損金とする処理)を継続

するとして、特段の変更はありません。

そのため、新リース会計基準を適用した場合のオペレーティング・リース取引については、会計上の処理(減価償却と利息費用を費用処理)と、税務上の処理(賃借料などを損金処理)で差異が生じるので、確定申告において税務調整が必要になります。

以上(2025年4月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 富永慎也)

pj30073
画像:pixabay