1 上司の「枠」は絶対的な評価基準ではない
「自社では成果を出せず『仕事ができない』と評価していた部下が、転職先で目覚ましい活躍を見せている」――こうした事例は、マネジメントの現場において決して珍しいものではありません。
転職先で成長・活躍を果たした本人へヒアリングを行うと、環境や業務内容の変化もさることながら、「転職先の上司との相性が良かったこと」を理由に挙げるケースが多く見られます。上司との相性がビジネスパーソンのパフォーマンスや成長スピードに大きな影響を与える点に疑問の余地はありません。
ここで考えるべき本質的な課題は、
なぜ自社では能力を発揮できず、転職先で成果を出せたのか
という点です。相性の問題は、突き詰めると「好き嫌い」の問題に行き着きます。この「好き嫌い」は、大きく次の2つに分解して整理できます。
- 人としての好き嫌い
- 仕事の進め方の好き嫌い
人間である以上、「人としての好き嫌い」を完全にゼロにすることは難しいかもしれません。しかし、多様性(ダイバーシティ)の受容が不可欠となった現代の組織において、上司には多様な背景や価値観を持つ部下を受け入れる寛容さが求められます。
一方、より注意すべきは「仕事の進め方の好き嫌い」です。これは、部下の行動や手法が「上司自身のやり方(枠)」に適合しているかどうかという問題に置き換えられます。
かつては、経験豊富な上司のやり方が絶対的な正解であり、部下の育成目標は「上司と同じ手順で仕事を進められるようになること」でした。しかし、変化が激しく複雑化した現代のビジネス環境においては、上司と異なる視点や手法を持つ「異質な人材」を束ね、成果に繋げる能力こそが上司に求められています。
上司が「自分の枠や手法にはまらない」という理由だけで部下を低く評価しているとすれば、その部下が別の評価軸を持つ転職先で活躍するのは当然の帰結と言えます。なぜなら、その部下は普遍的に能力が不足していたのではなく、単に旧来の上司のやり方と合わなかっただけだからです。
評価基準が「上司個人のやり方」に偏っていないか、マネジメントのあり方を今一度見直す必要があります。以下では、部下をフラットかつ客観的に評価・指導するために有効な2つの視点を紹介します。
2 「虫の目・鳥の目・魚の目」をバランス良く活用する
ビジネスにおいて多角的に状況を捉えるためのフレームワークとして、次の「3つの目」がよく知られています。
- 虫の目:目の前にある具体的な業務や細部を、注意深く観察する視点
- 鳥の目:高い位置から見下ろすように、組織や事業の全体像を俯瞰する視点
- 魚の目:潮流を感じ取るように、市場やビジネスの将来的な動向・変化を予測する視点
自分のやり方に強いこだわりを持つ上司は、指示や評価が過度に「虫の目」(作業の具体的な手順や細かな手法)に偏る傾向があります。しかし、業務の達成手段は一つではありません。
例えば、ITツールの活用や新しいツールの操作においては、上司よりも部下のほうが高いリテラシーや効率的な手法を知っている場合もあります。経験に勝る上司の知見と、新しい発想やスキルを持つ部下の提案を掛け合わせ、双方でより良い方法を模索する姿勢が不可欠です。
ただし、これは「部下の主張にすべて迎合する」ことではありません。部下の考えや手順に明確な誤りやリスクがある場合は、妥協せず論理的に指導を行う必要があります。
3 「部下の状況把握シート」による客観的な状況分析
部下は業務経験を重ねる中で日々変化しており、こなせる業務の難易度や処理スピードも変動します。上司が部下の現在の状態を正確に把握し、それに応じた適切な指示・支援を行うことが、部下の着実なステップアップに繋がります。
主観や感情を排除し、部下の状態を客観的に把握するために役立つツールが、次の「部下の状況把握シート」です。

1)縦軸:部下の「行動レベル」に応じた指導
シートの縦軸は、対象業務における部下の「行動レベル」を表しています。レベル段階に応じたアプローチを行うことが重要です。
「知っている」から「理解している」へ
単なる知識の暗記にとどまらず、全体像における位置づけや業務の一連の流れを意識させ、構造的な理解を深めるインプットを行います。
「理解している」から「実践している」へ
知識を活用するアウトプットの機会を増やします。例えば営業職であれば、実際の顧客訪問へ同行させるなどの実践の場を提供します。
「実践している」から「応用している」へ
業務の成果(成功体験・失敗体験)について上司と部下で振り返りを行い、要因を整理・分析させた上で、次の新しい課題や展開へ応用させます。
2)横軸:部下の「背景・状態」に応じたコミュニケーションの最適化
シートの横軸は、部下の「経験・得意不得意・意欲・性格」といった背景・状態を示しています。
経験の有無、得手・不得手
該当業務の経験があり得意な部下は、抽象度の高い指示でも迅速に理解・吸収できます。一方、未経験や不得意な部下に対しては、ステップを細分化し、より丁寧かつ具体的に伝える必要があります。
モチベーション
部下の挑戦意欲が高まっているタイミングは、新しい知識の習得や、1ランク上の行動レベル(例:理解から実践へ)へ引き上げるための最適な機会となります。
基本的な性格
個人の性格を完璧に把握することは困難ですが、「緻密な作業が得意」「大枠の捉え方が得意」といった傾向を把握することは可能です。部下のタイプに合わせて、コミュニケーションの頻度や指示の出し方を微調整することが求められます。
4 おわりに
「仕事ができない」という評価の裏には、上司側の評価軸の偏りや、部下の状況に合わない指導が潜んでいる可能性があります。自身の「枠」にとらわれず、客観的な視点とツールを用いて部下に向き合うことが、埋もれた才能を開花させ、組織全体のパフォーマンス向上へと繋がります。
以上(2026年9月更新)
pj00266
画像:ChatGPT
