1 会社と社員の関係が変わってきた
「褒める」という行為が、改めて注目されています。もはや「厳しい指導も社員のため」という感覚は、多くの職場で通用しなくなりました。パワハラ相談が表面化するだけならまだしも、今、経営者にとってより厄介なのは、
反発すらせず、静かに心を離していく社員
の存在です。“静かな離職”と呼ばれるこの現象では、社員は不満を口にすることも、会社を辞めることもしません。しかし、必要最低限の仕事だけをこなし、それ以上の工夫や提案をしようとはしなくなります。不満をぶつけてくれるならまだ対処のしようがありますが、何も言わずに熱意だけが失われていく状態は、経営者にとって気付きにくく、それだけに深刻です。
こうした状態が進むと、現場で起きている小さな異常や改善のヒントが、経営層に上がってこなくなります。
言いたいことを言えない組織は、変化に気付けない組織になる
のです。売り上げや業績の数字にはまだ表れていなくても、水面下で組織の対応力は静かに失われていきます。
厳しい経営環境を勝ち抜くためには、社員を萎縮させるのではなく、伸び伸びと意見を言い、働いてもらうことが必要です。そして、そのきっかけとなるのが「褒める」という行為です。それも、
「具体的に、タイミングよく、全力で」褒める!
というのが大切です。ただし、褒めることは、社員に甘くする、何でも受け入れる、ということではありません。基準を曖昧にしたまま褒めるだけでは、単なる馴れ合いになってしまいます。褒めると同時に、評価の基準を明確にしておくこと。これこそが、社員が安心して意見を言える職場をつくる土台になります。以降で、褒めることについて少し掘り下げて考えていきましょう。
2 具体的に褒める
まず、経営者は
社員がいなければ会社は成り立たない
ことを認識し、感謝の気持ちを社員に伝えましょう。「よく頑張っているね」「いつもありがとう」といった声掛けをするのです。会社の規模にもよりますが、社員にとって経営者は遠い存在です。経営者が思っているよりもずっとです。そのような経営者から肯定的な言葉を掛けられれば、うれしくなり、声掛けの内容が漠然としたものであっても、「褒められた、認められた」と感じるはずです。
ここから一歩進んで全力で褒めるために、自社の管理職をお手本にしてみましょう。管理職は現場で部下を指導し、細かなことも把握しています。そして、管理職は部下が自分の教えた通りに、あるいは期待を超える成果を上げたときに褒め、逆の場合は叱ります。つまり、管理職が褒めたり叱ったりすることは、社員の仕事と連動した具体的な内容になっています。
例えば、社員がプロジェクトに成功した場合、
- 経営者は「よくやった!」と声掛けします。
- 管理職は「君がお客様から『○○があればいいな』という一言を引き出し、それに真剣に向き合ったからだ。よくやった!」といったように具体的に褒めます。
大切なポイントは、「相手が褒めてほしい、認めてほしい」と思っている部分を的確に捉えていることなのです。
3 基準を明確にし、タイミングよく褒める
社員とのコミュニケーションを深めたとしても、経営者が全社員の仕事を細かく把握することはできません。それに、経営者が社員とのコミュニケーションばかりに時間をかけることもできません。そこで、経営者は褒める基準と叱る基準を明確にしておきましょう。
例えば、
「イエスマンは評価しません。意見や、“異見”を言ってくれる社員を評価します」
と宣言し、実際にそのようにします。こうすることで、経営者の“ご機嫌取り”をして、褒められようとする社員のムダな行動を排除することもできます。
また、褒めるタイミングも大事です。1年前の成功でも褒められればうれしいものですが、成功直後ほどの効果はありません。
仕事に成功した社員を褒めるなら、社員の気分が高揚しているときが一番よい
のです。
4 褒める組織をつくる
社員をよく褒める経営者が率いる会社では、管理職も同じように部下のことをよく褒めるようになります。また、社員は経営者の人柄をよく見ています。いくら経営者が全力で褒めたとしても、そもそも社員に尊敬されていなければ、社員の心の琴線に触れることはできません。
そのため経営者は、仕事はもちろん、公私ともに“全力”で率先垂範し、ちょっとした声掛けであっても、社員が「尊敬する経営者に声を掛けてもらえた!」と思えるほどの存在になれるよう努力しなければなりません。
以上(2026年11月更新)
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