目次
1 ギャンブル依存症の定義と日本国内における実態
昨今、メディア等でも大きく取り上げられ関心が高まっている「ギャンブル依存症」。ギャンブルにのめり込み、自らの意思では行動をコントロールできなくなってしまう精神疾患の1つで、国際機関や法律により次のように定義されています。
(図表1)【ギャンブル依存症の定義】
| 機関・法律 | 名称・定義 |
|---|---|
| 世界保健機関(WHO) | 「病的賭博」として国際疾病分類等で認定 |
| 米国精神医学会 | 「ギャンブル障害」として診断基準を提示 |
| ギャンブル等依存症対策基本法 (日本) |
「ギャンブル等依存症」と定義。 公営競技(競馬・競輪・競艇・オートレース)やパチンコ・パチスロ等の射幸行為にのめり込み、日常生活・社会生活に支障が生じている状態を指す。 |
(出所:日本情報マート作成)
広義には、法律上の射幸行為だけでなく、金銭などを賭けて、より価値あるものを得ようとする行為全般が「ギャンブル」に当てはまります。
- 金融取引関連:FX(外国為替証拠金取引)、商品先物取引など
- 身近な娯楽・ゲーム:宝くじ、スポーツくじ、スマホゲームの「ガチャ」など
- 違法賭博:オンラインカジノ、友人・同僚間の賭け麻雀など
ギャンブル依存症と聞くと、一部の特殊な人だけの問題と思うかもしれませんが、実はそうではありません。「ギャンブル等依存症対策基本法」に基づき行われた調査(国立病院機構久里浜医療センター、2021年)によると、過去1年間の経験から「ギャンブル等依存が疑われる者」の割合は成人の2.2%と推計されています。
これは、単純計算で従業員50人規模の会社であれば、1人程度は依存が疑われる社員が存在してもおかしくない確率です。つまり、ギャンブル依存症は決して他人事ではないというわけです。
2 ギャンブル依存が疑われる社員へのアプローチ
社員のギャンブル問題にどう対応すべきか。大前提として、プライベートな時間に健全な範囲で行うギャンブルを会社が規制・禁止することはできません。私生活の自由が保障されているためです。
しかし、一定の境界線を越えた場合には会社としてしかるべき措置(介入や懲戒処分)が必要となります。以下、代表的な3つのケースを解説します。
(注)就業規則に明確な懲戒事由が定められていなければ、いかなる場合も懲戒処分はできません。厚生労働省の「モデル就業規則」などを参考に、自社の就業規則に不足がないか確認し、必要に応じて改定・届出を行ってください。
1)ケース1:社員が「違法賭博」を行っている場合
違法賭博(刑法上の単純賭博罪や常習賭博罪)は犯罪行為です。多くの企業では服務規律に「会社の名誉や信用を損なう行為の禁止」を定めており、違法賭博を行うこと自体が服務規律違反(懲戒事由)になり得ます。
状況別に適切な対応・注意点をまとめると次のようになります。
(図表2)【違法賭博への対応】
| 状況 | 適切な対応・注意点 |
|---|---|
| 社員が逮捕・報道されたとき | 現行犯逮捕=即解雇は基本的にNG。逮捕時点では有罪が確定していないため、慎重な事実確認が必要です。事案の重大性や社会的影響を踏まえて処分(懲戒解雇、出勤停止、減給など)を検討します。 |
| 社員から退職届の提出があったとき | 逮捕後、本人や家族・弁護人から「会社に迷惑をかけたくない」と退職の申し出がある場合があります。安易に即日受理せず、捜査状況や事案の重大性を見極めて慎重に判断します。 |
| 社員が身柄を拘束されたとき | 勾留等により長期間(最長23日間等)出勤できない状態が発生します。欠勤の扱いや業務フォロー体制の構築を速やかに行う必要があります。 |
(出所:日本情報マート作成)
2)ケース2:社員が就業時間中または職場内でギャンブルを行っている場合
就業時間中は「職務専念義務」が存在します。勤務中に正当な理由なくパチンコ店などへ行く行為は、明らかな職務専念義務違反・勤務場所離脱(懲戒事由)です。
一方で、現実に即したルール整備と実効性のある防止策が必要です。
- オンライン投票の抑止:現実問題として、勤務場所を離れなくてもパソコン・スマートフォンから公営競技にオンライン投票が可能です。オンライン投票を抑止するため、服務規律に「勤務中の私用通信機器の私的利用禁止」を明記しましょう。
- 休憩時間中の扱い:休憩時間は原則自由ですが、秩序維持の観点から「休憩時間中のギャンブル禁止」を定めることも検討しましょう。
- 公営競技・ギャンブル関連サイトへのアクセス制限:ウェブフィルタリングによって、社内ネットワークや会社支給端末から公営競技・ギャンブル関連サイトへのアクセスを制限します。
3)ケース3:社員がギャンブルに起因する借金問題を抱えている場合
社員が個人的な借金を抱えていても、職務遂行に影響がない限り、会社が介入することは原則できません。しかし、消費者金融からの会社への督促電話や、裁判所からの「給与差し押さえ命令」によって社員の借金問題が発覚することがあります。
そうした事態に備えて、次のような対応を検討・実行しましょう。
- 配置転換(リスク回避):経理、レジ、金庫管理など「直接金銭を扱う職種」に就いている場合は、不正防止および本人の精神的負担軽減のため、速やかに金銭を扱わない部署へ配置転換を行います。
- 社員間トラブルの防止:同僚から借金を重ねて返済が滞るケースが多発します。あらかじめ服務規律に「社内における社員同士の金銭貸借の禁止」を明確に規定しておくことが極めて有効です。
3 ギャンブル依存症を生まない・悪化させない職場づくり
1)依存症のメカニズムを理解する
依存症は「本人の意志の弱さ」や「性格」の問題ではなく、脳内の「報酬系」の機能異常による病気です。ギャンブルで勝った際に快楽物質「ドーパミン」が放出されます。それを繰り返すことで脳が刺激に慣れてしまい(耐性)、より強い刺激を求めるようになって行動をコントロールできなくなってしまうと考えられています。
2)職場でみられる予兆と早期アプローチ
最初は興味本位で始めたギャンブルが、次第に「やめられない、とまらない」状態になっていきます。職場で以下のような言動が見られる場合は注意が必要です。
- 職場で「パチスロで◯万円勝った」「万馬券が出た」などと頻繁に自慢・公言している
- 勤務時間中や休憩中にギャンブルや配当の話ばかりしている
度が過ぎている場合は、放置せずに管理者から口頭で注意指導を行います。再三の注意に従わず、職場環境を著しく害する場合は、懲戒処分(けん責等)の対象とすることも検討します。
4 自己診断ツール「LOST」と相談窓口
1)ギャンブル依存症の自己診断ツール「LOST」
「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子氏らが開発したセルフスクリーニングテストです。病的ギャンブラーとギャンブル愛好家を峻別する4つの頭文字から名付けられています。
- Limitless:ギャンブルをするときには予算や時間の制限を決めない、決めても守れない
- Once again:ギャンブルに勝ったとき「次のギャンブルに使おう」と考える
- Secret:ギャンブルをしたことを誰かに隠す
- Take money back:ギャンブルに負けたときすぐに取り返したいと思う
直近1年間の行動で、上記4項目のうち2項目以上で「はい」に該当する場合、ギャンブル依存症の危険度が高いと判断されます。
■ギャンブル依存症問題を考える会■
https://www.scga.jp/
2)ギャンブル等依存症対策推進本部
首相官邸に設けられたギャンブル等依存症対策推進本部では、ギャンブル等依存症を克服した人やその家族などからの体験談を公開しています。また、「ギャンブル依存症問題を考える会」をはじめとする、相談先などを紹介しています。
■ギャンブル等依存症対策推進本部「ギャンブル等依存症を克服された方の体験談」■
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gamble/
3)依存症対策全国センター
国立病院機構久里浜医療センターは、アルコール健康障害、薬物依存症、ギャンブル等依存症、ゲーム依存症の全国拠点機関(依存症対策全国センター)に指定され、依存症の治療や回復支援に携わる専門家の育成、依存症相談事業の拡充、依存に関する情報発信の向上など各種事業を実施しています。
ギャンブル依存症を含む依存症に関する基礎的な知識を紹介しているほか、全国の依存症専門相談窓口と医療機関が検索できます。
■依存症対策全国センター■
https://www.ncasa-japan.jp/
以上(2026年9月更新)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)
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画像:ChatGPT