【入社1年目の教科書】ネット上に公開されている無料画像でも無断で利用してはいけません

書いてあること

  • 主な読者:画像などの利用で注意すべきルールを知りたい新入社員
  • 課題:ネット上に公開されている画像をプレゼン資料で使いたいけど、ダメなの?
  • 解決策:画像などを利用する場合は創作者の許可が必要。無料でも無断利用は違法

先輩からプレゼン資料に使う画像の検索を頼まれた。先輩が頑張って資料を作ってたから、格好いい画像を選ばないとな〜。どれどれ、この画像なんて無料だし、いいんじゃないかな! んっ? 「商用利用の場合は、著作権表示をしていただくようお願い申し上げます」だって。画像は無料で利用できるんだよね、これってどういう意味なの!?

1 他人のものを使うときは著作権に注意する

プレゼン資料やチラシを作るとき、「お、イメージ通り!」という画像がネット上に公開されていたら、使いたくなりますよね。でも注意してください。たとえネット上に公開されている画像でも、無断で利用すると著作権の侵害になることがあります。著作権とは、

画像・動画・文章・音楽などを創作した人に与えられる権利のこと

です。著作権には、自分の作品であることを表示する権利、無断で作品を利用されない権利など、さまざまな権利が含まれます。プロが創作したものに限らず、個人がSNSで公開している画像などにも著作権はあるので、基本的に、

自分以外の人が創作した画像などを利用する場合、許可を得る必要がある

と覚えておきましょう。通常は、創作した人が著作権を持っているので、創作した人に許可を得なければなりません。あるいは、創作した人が出版社など他者に著作権の一部を譲渡している場合もあります。

2 画像サイトなどの利用は「利用条件」を確認してから

画像や動画などの素材を提供しているサイトは、有料サイトと無料サイトがあります。有料サイトの場合は、通常、ビジネスでも使えます。つまり、プレゼン資料に掲載しても問題ありません。これは、有料サイトの運営者が事前に画像を撮った人や、画像に映っている人などから許可を得ているので、皆さんはお金を支払う代わりに、個別に許可を得る必要はないということです。

ただし、サイトによっては「利用時は『画像提供:○○』など著作権の表示が必要」「印刷物で利用する場合は、1万部以下までとする」などが設けられていることもあるので、各サイトの利用条件を必ず確認しましょう。

3 相手の許可が不要な「引用」と「私的利用」

著作権には、創作した人の許可を得なくてもよいケースがあります。とはいえ、ビジネスではトラブルを避けるためにも許可を得るのが基本なので、参考程度に知っておいてください。まずは「引用」です。引用とは、

自分の主張などを補強するために、他人の画像などを利用すること

です。引用には、「かぎかっこをつけるなど、自分の著作物と引用部分とが区別されていること」「出所が記載されていること」など幾つかのルールがあります。次は「私的利用」です。私的利用とは、

個人または家族内で動画観賞を楽しむこと

です。ただ、基本的にビジネスは私的利用には該当しません。

以上(2025年1月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

2025年4月法令改正で、障害者雇用のルールはどう変わる?

1 障害者雇用は義務ではなくチャンス!

「障害者雇用は大切だけど、ウチには頼める仕事がないから無理……」。こんなイメージがある障害者雇用ですが、状況は変わってきました。その背景には、

  • 職業能力の開発次第で障害者は十分な戦力になることを体感する会社が増えてきた
  • 働き方のルールが柔軟になる中で障害者の活躍フィールドが広がってきた
  • 障害者に特化した採用支援サービスが充実し、障害者と出会える機会が増えた

などの変化があり、会社で働く障害者の数もこの10年間で1.5倍以上に増えています。

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障害者雇用は、人材採用と社会貢献という2つの課題を同時に解決できる可能性を秘めています。もし、興味をもっていただけたなら、この記事を読み進めてください。以降で、障害者雇用を検討するための第一歩として、「障害者雇用促進法」とその関係法令に定められている、

  • 会社が雇用する障害者の数を決める「障害者雇用率制度」(2025年4月法令改正あり)
  • 不当な差別を防ぐ「障害者差別の禁止や合理的配慮の提供義務」

について分かりやすく説明します。

2 「障害者雇用率制度」とは?

1)社員が40人以上になると障害者の雇用義務が発生

障害者雇用率制度とは、

常時雇用する社員数が一定数以上の会社は、社員数に一定の割合(障害者雇用率)を掛けた人数以上の障害者を雇用しなければならない

というルールです。この制度の「常時雇用する社員」とは、

  • 1週間の所定労働時間が原則20時間以上(例外あり。詳細は後述)
  • 1年を超えて雇用される見込みがある、または1年を超えて雇用されている

の両方を満たす社員です。常時雇用する障害者でない社員は、正社員は1人当たり「1人」、パート等の短時間労働者は1人当たり「0.5人」とカウントします(雇用率の算定における障害者のカウント方法は後述)。

2024年4月以降、社員が40人以上の会社(民間企業)には、社員数の2.5%に相当する人数以上の障害者を常時雇用する義務が課せられています。2026年7月からは、社員が37.5人以上の会社に対し、社員数の2.7%に相当する人数以上の障害者を常時雇用する義務が課せられます。

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例えば、現時点で常時雇用する社員数が40人の会社は、

40人×2.5%(障害者雇用率)=1人以上(小数点以下の端数が発生する場合、切り捨て)

の障害者を常時雇用する義務があります。

また、常時雇用する社員数が40人以上の会社は、毎年6月1日時点での障害者の雇用状況を所轄ハローワークに報告する義務があります。その際、自社の障害者雇用率が法定基準を下回っていると、

ハローワークから行政指導(障害者の雇入れ計画の作成命令、実施勧告、特別指導)が入り、指導に従わない場合、厚生労働省ウェブサイトで「会社名を公表」される

というペナルティーが課せられることがあるので注意が必要です。

2)一部の業種に適用される「除外率制度」とは?(2025年4月法令改正あり)

どの会社も基本的には、1)のルールに基づき自社が雇用すべき障害者の人数を算定しますが、実は法令上、一般的に障害者の就業が困難なため、1)のルールをそのまま適用することになじまないとされている業種があります。こうした業種については「除外率制度」といって

「常時雇用する社員数」を計算する際、業種ごとに設定される「除外率」に相当する社員数を、算定対象から控除できる制度

が適用されます。

例えば、建設業は一般的に障害者の就業が困難とされる業種で、2025年3月までは除外率が「20%」に設定されています。仮に常時雇用する社員を200人とした場合、

200人×20%(除外率)=40人(小数点以下の端数が発生する場合、切り捨て)

を算定対象から控除できます。すると、通常の会社と建設業とでは、雇用すべき障害者の人数が次のように変わってくるわけです

  • 通常の会社:200人×2.5%(障害者雇用率)=5人以上
  • 建設業:(200人-40人)×2.5%(障害者雇用率)=4人以上

もっとも、障害者雇用を促進する観点から、この除外率制度は2002年の法改正以降、段階的に廃止が進められています。直近では、

2025年4月から業種ごとの除外率が10%ずつ引き下げられます(例:建設業は「20%→10%」に引き下げ)。また、除外率が10%以下の業種は除外率制度の適用対象外

となります。

業種ごとの除外率の新旧対照表は次の通りです。なお、赤字の業種は2025年4月から追記されるものです。

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3)障害者の人数は雇用率算定上、何人としてカウントする?

障害者雇用率制度の対象となる障害者(常時雇用する社員)は、

  • 身体障害者:原則、身体障害者手帳の1~6級に該当する人
  • 知的障害者:知的障害者判定機関により知的障害があると判定された人
  • 精神障害者:精神障害者保健福祉手帳を所持する人

のいずれかです。そして、障害の内容や週の所定労働時間によって、「何人としてカウントするか」が決まります。

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4)「障害者雇用納付金制度」も併せて活用!

「障害者雇用納付金制度」とは、

  • 常時雇用する社員数が100人超:障害者雇用率が法定基準を下回ると「納付金」を納めるが、法定基準を上回ると「調整金」がもらえる
  • 常時雇用する社員数が100人以下:常時雇用する障害者が一定数を超えると「報奨金」がもらえる(「納付金」の支払いはない)

という制度です。「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構」が管轄しており、会社からの申告・申請に基づいて、納付・支給が行われます。

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この他、フリーランスで在宅勤務の障害者などに仕事を発注するともらえる「在宅就業者特例調整金」「在宅就業者特例報奨金」などもあります。詳細はこちらをご確認ください。

■高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者雇用納付金制度の概要」■

https://www.jeed.go.jp/disability/about_levy_grant_system.html

3 「障害者差別の禁止や合理的配慮の提供義務」とは

1)障害者差別の禁止

募集・採用、賃金、配置、昇進などの雇用に関するあらゆる局面で、

  • 障害者であることを理由に障害者を排除すること
  • 障害者に対してのみ不利な条件を設けること
  • 障害のない人を優先すること

など、「障害者だから」という理由だけで差別することは禁止されています。

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2)合理的配慮の提供義務

会社は障害の特性などに応じて、障害者が働く上で必要な配慮(合理的配慮)をしなければなりません。主に、

  • 募集・採用において、障害者にもそうでない人にも均等に機会を与える
  • 採用後、障害者が働く上で支障となる問題を改善し、能力を発揮しやすくする

という観点から配慮が求められます。ただし、会社にとって過重な負担を強いる配慮(職場内に階段昇降機やエレベーターを取り付けるなど)までは求められません。イメージは「今の会社が提供できる最大限の配慮をする」です。

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障害者の状態や職場の状況などによって求められる合理的配慮の内容は異なります。ですから、具体的にどのような対応をとるかについては、会社と障害者とでよく話し合って決定する必要があります。

3)苦情処理・紛争解決援助

会社は、前述した「障害者差別の禁止」「合理的配慮の提供義務」について、障害者から苦情を受けたときは、自主的に解決する努力をしなければなりません。もし、自主的な解決が難しい場合、

都道府県労働局長による助言・指導・勧告や調停制度の対象

となります。調停制度では、都道府県労働局に設けられた障害者雇用調停会議にて問題の解決を図ります。

以上(2025年3月更新)
(監修 弁護士 八幡優里)

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画像:Bro Vector-Adobe Stock

相続3つの入口~単純承認・限定承認・相続放棄~

1 借金を相続しないための選択肢

「相続=税金(相続税)」と考えられがちですが、実際は「相続財産をどのように引き継ぐのか(または引き継がないのか)」を決めることからスタートします。当然のことですが、

相続の対象には、現金や不動産などのプラスの財産(資産や権利など。以下「資産」)だけでなく、借金(保証人である場合も)などの負債も含まれる

ことになりますが、世間的に資産家とされる人でも、多額の借金を抱えている可能性があるわけです。オーナー会社の経営者であれば、会社名義の借入に経営者自身の個人保証が付いているケースも珍しくありません。仮に、

資産以上の借金などがあったら、あなたは相続と同時にその借金を背負う

ことになってしまいます。そのため、相続人(相続により資産・負債を引き継ぐ親族など)は、

  • 単純承認:相続財産のすべて(資産も負債もすべて)を受け継ぐ
  • 限定承認:負債は受け継いだ資産の範囲内で支払い、資産を超える負債は負担しない
  • 相続放棄:相続財産のすべてを受け継がない

の3つの対応から、いずれか1つを慎重に決めなければなりません。では、その選択をどのようにすればよいのか、そのポイントをご紹介します。

2 猶予はたったの“3カ月”

父や母が亡くなったとき、その財産や負債を相続するか否かを判断する機会が与えられています。具体的には、

自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に、相続を承認するか放棄するかを決定することができます。この3カ月の期間を「熟慮期間」

と呼びます。

仮に熟慮期間中に、相続財産が債務超過である(資産よりも負債のほうが大きくなる)ことが分かった場合、その相続を放棄すれば、父や母の資産を相続しない代わりに、負債を引き継ぐ義務もなくなります。逆に、引き継ぐべき負債があっても資産を相続したいという場合は、この熟慮期間中に相続放棄をしなければ、相続を承認したこととなり資産を相続することになります。

ちなみに、「自己のために相続の開始があったことを知った」とは、

  • 相続開始の原因たる事実が生じ
  • それによって自分が相続人になったことを知った

という意味で、相続財産の内容を知ったかどうかは関係ありません。ですから、親族が死亡したことによってご自身が相続人となったことを知った場合には、その遺産の内容が分からなくても、熟慮期間中に何もしなければ相続を承認したことになります。

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3 単純承認とは

単純承認とは、

相続人が被相続人(亡くなった人)の権利および義務の全てを受け継ぐこと

です。つまり、相続財産が債務超過になる場合、相続人は被相続人の負債を、自身の財産から弁済しなければならないことになります。単純承認は、

  • 法律上自動的に単純承認したとみなされる場合(法定単純承認)
  • 被相続人の意思表示による場合

に分けられます。実際は、ほとんどの単純承認が法定単純承認で、被相続人が意思表示をするケースはまずありません。例えば、次の場合には法定単純承認が生じた(相続人は単純承認をした)ものとみなされます。

  • 相続財産の全部または一部を処分した場合
  • 熟慮期間が経過した場合
  • 背信行為(債権者をだましたり、裏切る行為)があった場合

1)相続財産の全部または一部を処分した場合

限定承認や相続放棄をするか検討している期間(熟慮期間中)であっても、相続人が相続財産を処分した場合には、単純承認したものとみなされます。例えば、

  • 被相続人の預金を引き出して使用した場合
  • 相続財産に該当する家や土地を売却・取り壊した場合
  • 遺品を売却・廃棄した場合

などがそうです。なお、単純承認したものとみなされる処分行為は、

  • 相続人が相続開始の事実および自身が相続人であることを知った後に行ったもの
  • 被相続人の死亡が間近であると予測して行ったもの

です。もし、相続を知らず(死亡を予測せず)に処分してしまった場合で相続放棄をする場合には、財産を処分した時点で相続を知らなかったことなどを客観的に証明できなければなりません。

2)熟慮期間が経過した場合

相続人が限定承認や相続放棄をしないまま熟慮期間が経過したときは、単純承認したものとみなされます。

3)背信行為(債権者をだましたり、裏切る行為)があった場合

限定承認や相続放棄をした後でも、相続人が、相続財産の全部または一部を、

  • 債権者に見つからないように隠したり、こっそり使ったりした場合
  • 債権者をだます目的で、相続財産の目録に記載しなかった場合

には、単純承認したものとみなされます。

4)法定単純承認の取り消しはできない

もし、相続財産を処分したこと自体が、「間違っていた」「だまされた」ことを理由に取り消される場合でも、債権者の権利を保護するため、法定単純承認の効果を取り消すことはできないとするのが裁判所の立場です。

ですから、相続直後(相続財産の資産と負債のバランスが確定していない段階)に相続財産の処分は行わないほうがよいでしょう。もし、どうしても処分が必要な場合には、弁護士などの専門家に相談した上で行うようにしましょう。

4 限定承認とは

限定承認とは、

負債については、相続財産の中で資産の限度においてのみ弁済する責任を負う相続のこと

です。限定承認は、相続財産が債務超過になるかどうかが分からず、単純承認をするか相続放棄をするか決めかねる場合に有利な選択肢となります。限定承認をするには、熟慮期間内に、

  • 限定承認の申述書と相続財産の目録を作成し
  • 家庭裁判所に提出

して申し出ます。家庭裁判所が申し出を受理すれば、限定承認が成立します。また、限定承認は、相続人全員が共同で行わなければならず、一部の相続人だけではできません。

限定承認が認められると、まず、相続財産の中の資産から相続した債務の弁済を行い、その後、残った財産の清算手続き(処分や換金化など)を行います。もし残った資産があれば、その資産を相続人は引き継ぐことができます。

このように限定承認は、相続財産の清算手続きとなりますので、相続人は清算手続きが完了するまで、財産を得ることができないことに注意しなければなりません。

5 相続放棄とは

相続放棄とは、

相続人が被相続人(亡くなった人)の権利および義務のすべてを受け継がないこと

です。相続放棄は、相続財産が債務超過である場合によく行われます。例えば、父が会社の借入について連帯保証をしており、多額の連帯保証債務を承継してしまうケースです。それ以外には、亡くなった父や母と、生前から疎遠になっていたケースなどがあります。

相続放棄するには、熟慮期間内に

  • 相続放棄申述書を作成し、
  • 家庭裁判所に提出

して申し出ます。家庭裁判所が申し出を受理すれば、相続放棄が成立します。

相続放棄をした人は、その相続に関してはじめから相続人ではなかったものとみなされるため、もちろん、相続を放棄した人の子も相続(代襲相続)することができません。また、相続を放棄すると、他の相続人の相続分が増加することになります。

例えば、子3人が相続人である場合、子1人当たりの相続分は全体の3分の1ですが、1人が相続放棄をすると、相続分は全体の2分の1に増加します。前述した通り、相続放棄は相続財産が債務超過である場合が多いので、相続分の増加は、受け継ぐ債務負担が増えることにつながるため、事前に他の相続人への意思表示は明確にしておくようにしましょう。

6 相続放棄をしても、生命保険金と死亡退職金は受け取れる

相続放棄をした場合でも、

  • 生命保険金(受取人が相続人である場合)
  • 死亡退職金

は相続人固有の財産とみなされるため、受け取ることができます。ただし、相続放棄をすると、税法で認められている生命保険金の非課税(500万円×法定相続人の数)の適用を受けられない点には注意しましょう。

父や母に多額の負債がある場合には、生命保険契約を締結して一定額を受け取りつつ、一方で相続放棄をすることによって、負債の受け継ぎを免れることができます。

以上(2025年3月作成)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 福崎剛志)

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画像:TarikVision-Adobe Stock

取引先との契約で欠かせない 「反社チェック」

1 サプライチェーン全体に求められるコンプライアンス遵守

今や毎日のように耳にする「コンプライアンス」。この言葉には、単に法令を守るだけでなく、社会的規範や企業倫理に従い、公正・公平に業務を行うという意味が込められています。そして、この言葉が市民権を得るようになった現在では、

自社だけでなく、取引先、取引先の取引先、さらにその先まで、サプライチェーン全体でコンプライアンスを遵守していくことが求められる

ようになりました。その一環として、特に、新規取引先との契約時に行われることが多いのが「反社チェック」です。

全ての都道府県で暴力団排除条例が施行されたのが2011年10月。時を経て、契約書に「反社会的勢力の排除に関する条項」を盛り込むことは、当然のこととなっています。しかし、

本当に取引を開始して問題がないのか、事前にきちんとチェックできているでしょうか?

取引開始後も、取引先の情報や契約情報に変更がないか定期的に確認することが大切です。最近は、効率的かつ誰がやっても同じ結果を導き出せる、

反社チェックに特化したツールやサービスもが登場

しています。こうしたツールなども活用して、業務効率化を図ってみてはいかがでしょうか?

2 反社チェックに便利なツールやサービス

反社チェックには、「新聞・雑誌・インターネットなどの記事検索」「業界団体への問い合わせ」「警察や暴力追放運動推進センターへの相談」「調査会社や興信所への依頼」など、相当な手間や費用がかかるため、

  • 契約書に「反社会的勢力の排除に関する条項」が盛り込んであるから大丈夫なはずだ
  • 「反社会的勢力でないことに関する表明・確約書」も取りつけているから安心だ

という判断をしている会社も少なくありませんが、これでは十分とは言い切れません。「反社会的勢力の排除に関する条項」がある場合、取引先が反社会的勢力と関係していたことが発覚した際には契約が解除できるものの、あくまで事後対応となるからです。

取引が始まる前にできる限りリスクを排除する意味で、反社チェックをしておくに越したことはありません。

反社チェックに特化したツールやサービスは、簡単に言うと「新聞・雑誌・インターネットなどの記事検索」「登記情報の確認」を自動化したもので、チェックしたい取引先の会社名や代表者、役員などの氏名を入力すると結果が出てきます。

また、これらのツールでは、反社会的勢力との関係だけではなく、逮捕報道の有無や過去の破産情報、行政処分の有無などが判明することもあり、取引の開始を検討する情報となります。

例えば、次のようなツールやサービスがあります。導入を検討する際は料金(従量課金制、月額定額制の違い)や情報量を確認した上で、自社に合ったツールなどを選ぶとよいでしょう。無料で試すことができるものもあります。

■Sansan「リスクチェック」■
https://jp.sansan.com/function/compliance/
■ソーシャルワイヤー「RISK EYES」■
https://www.riskeyes.jp/
■オープン「RoboRoboコンプライアンスチェック」■
https://roborobo.co.jp/lp/risk-check/
■KYCコンサルティング「Risk Analyze」■
https://riskanalyze.jp/
■エス・ピー・ネットワーク「SP RISK SEARCHR」■
https://info.sp-network.co.jp/service/anti-social/sp-risk-search
■ジー・サーチ「Gチェッカー」■
https://db.g-search.or.jp/compliance/gchecker/
■日本経済新聞社「日経リスク&コンプライアンス」■
https://nkbb.nikkei.co.jp/rc/
■東京商工リサーチ「ネガティブ情報チェックオンラインサービス」■
https://www.tsr-net.co.jp/service/detail/negative-check.html

3 コンプライアンス違反で、最悪の場合、会社の倒産も

例えば、九州地方のある設備工事会社は、社長が付き合いで会食を重ねていた相手が暴力団関係者だったことが発覚。その後、行政処分(排除措置、社名の公表)を受け、それから、わずか2週間足らずで倒産してしまいました。

指名停止で公共工事の受注ができなくなるだけでなく、対外的な信用が失墜し、手形が不渡りとなり、銀行が同社の口座を凍結したという真偽不明の情報が流れるなどしたそうです。また、同社の社員は、突然仕事を失い、再就職しようにも「反社会的勢力と関係のあった会社に所属していた」ということで、辛酸をなめることになったそうです。

その他、経営コンサルタントと称して、会社の資金を吸い上げられ、破綻してしまうといったこともあります。こうした事態に陥らないようにするためにも、反社チェックは重要です。

4 参考

行政機関や業界団体などが会社のネガティブ情報を公表しています(反社会的勢力との関係に限りません)。無料の範囲で反社チェックを行う際に、参考にしてください。

■国土交通省「ネガティブ情報等検索サイト」■
https://www.mlit.go.jp/nega-inf/
■金融庁「行政処分事例集」■
https://www.fsa.go.jp/status/s_jirei/kouhyou.html
■金融庁「課徴金納付命令等一覧」■
https://www.fsa.go.jp/policy/kachoukin/05.html
■産業廃棄物処理事業振興財団「産業廃棄物処理業・処理施設 許可取消処分情報」■
https://www2.sanpainet.or.jp/shobun/
■日本貸金業協会「ヤミ金(悪質業者)の実例検索」■
https://www.j-fsa.or.jp/personal/bad_contractor/search/
■安全衛生優良企業マーク推進機構「優ジロウ ホワイト・ブラック企業検索」■
https://shem.or.jp/yujiro_serch

以上(2025年3月作成)
(監修 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

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画像:robu_s-Adobe Stock

【朝礼】指輪物語に学べ! 「小さな勇気の声」に耳を傾けよう

【ポイント】

  • 指輪物語の主人公フロドは、小さく非力な種族でありながら、勇気を示した
  • 部下の中にも、経験が少ないなりに何かにチャレンジをしようとしている人がいる
  • 一見頼りなさそうでも、チャレンジする部下の言葉に耳を傾ける管理職であってほしい

今日は、管理職の皆さんに集まっていただきました。私は時折、皆さんから「部下があまり主張をせず、物足りない」という声を聞きます。確かにおとなしい若手は多いですが、一方で、部下が主張をしているのに、皆さんがそれを聞き逃しているというケースもあるかもしれません。今日はそんなテーマで、J.R.R.トールキン氏のファンタジー小説「指輪物語」の話をしたいと思います。

指輪物語は、人間、エルフ、ドワーフなど、さまざまな種族が暮らす「中つ国(なかつくに)」を舞台に、巨悪サウロンの指輪を手にした主人公フロドが、その指輪を破壊するため旅をする物語です。この話には武器や魔法の使い手が多く登場しますが、フロドはホビットという平和を愛する種族で、背丈も人間の子どもぐらいしかありません。しかし、そんな彼が実は誰よりも勇敢なのです。

私が好きなのが、故郷を旅立ったフロドがエルフの暮らす「裂け谷(さけだに)」にたどり着き、指輪の今後を話し合う会議に出席するシーンです。会議にはさまざまな種族が集まり、指輪を「滅びの山」と呼ばれる火山の中に投げ込めば、サウロンを滅ぼせることが明らかになります。しかし、滅びの山はサウロンの軍の本拠地にあり、誰がそこに指輪を持っていくかという話になると、皆が黙ってしまいます。それでも、誰かがやらなければならない。そこで、フロドはこう言うのです。

「わたしが指輪を持って行きます。でも、わたしは道を知りませんが……」(*)

小さく非力なホビットの、自信なさげで頼りない言葉です。しかし、これを聞いたさまざまな種族がフロドの勇気に感銘を受け、彼を含む9人により、指輪を運ぶ「旅の仲間」が結成されるのです。

管理職の皆さん、経験豊富な皆さんからすると、部下の言葉は自信なさげで頼りないものに聞こえるかもしれません。ですが、そんなときこそ、部下の話を聞くようにしてください。もしかしたら、彼らは経験が少ないなりに勇気を出して、何かにチャレンジしようとしているのかもしれません。部下から聞こえてくる「小さな勇気の声」に、注意深く耳を傾けてください。

【参考文献】(*)「新版 指輪物語〈2〉/旅の仲間〈下〉」(J.R.R.トールキン(著)、瀬田貞二(翻訳)、田中明子(翻訳)、評論社、1992年5月)

以上(2025年3月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

【規程・文例集】「役員退職慰労金規程」のひな型

1 役員退職慰労金とは

役員退職慰労金とは、勇退した役員の在任中の功労に報いることを目的に支給される退職金です。役員退職慰労金を支給するためには、定款に定めるか、株主総会の決議が必要です(会社法第361条の「報酬等」に含まれます)。

ただし、実務上、定款で役員退職慰労金の具体的な金額を明示することはほとんどなく、株主総会において「取締役会に一任する」旨の決議がなされます。その上で、内規や取締役会で承認された「役員退職慰労金規程」に基づいて役員退職慰労金の金額が決められることが一般的です。

2 役員退職慰労金規程のひな型

以下で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【役員退職慰労金規程のひな型】

第1条(目的)

本規程は、当社の取締役または監査役(以下「役員」という)が退任した場合に、当該役員またはその遺族に対して退職慰労金を支給し、役員在任期間中の功労に報いることを目的とする。

第2条(適用範囲等)

1)本規程は役員の全員に適用する。

2)本規程に定める退任の時期は以下の通りとする。

  1. 任期が満了したとき
  2. 定時または臨時株主総会で解任されたとき
  3. 取締役会で辞任が承認されたとき
  4. 会社法第331条第1項または定款に定める欠格事由に該当し資格を喪失したとき
  5. 死亡したとき

第3条(非常勤役員の取り扱い)

非常勤役員については、その功労実績に基づき本規程以外の取り扱いをすることができる。

第4条(支給算定基準)

退職慰労金の支給算定基準は、退任時の最終報酬月額に役員在任期間(年数)および役位別功績倍率を乗じて得られた額の累計額とする。ただし、この額に1000円未満の端数が生じたときは1000円に切り上げるものとする。

退職慰労金の支給額=退任時の最終報酬月額×役員在任期間(年数)×役位別功績倍率

第5条(在任期間の計算)

1)在任期間は就任の日から起算し、退任の日までとする。

2)在任期間の計算において1年未満は月割り計算とする。

3)在任期間の計算において1カ月未満の端数は1カ月とする。

第6条(役位別功績倍率)

第4条における役位別功績倍率は以下の通りとする。

  • 会長:○
  • 社長:○
  • 副社長:〇
  • 専務取締役:○
  • 常務取締役:○
  • 取締役:○
  • 監査役:○

第7条(特別功労金)

1)在任中、特に功労のあった役員に対しては、退職慰労金の他に、その支給額の○%の範囲において、特別功労金を支給することがある。

2)特別功労金の支給は、取締役会において決定する。

第8条(特別減額・不支給)

役員が次の各号に該当する場合は、退職慰労金を減額し、または支給しないことができる。

  1. 在任中または退職に当たり、所定の手続きおよび事務処理等をせず、会社の業務運営に重大な支障を来したと取締役会が認めたとき。
  2. 在任中または退職に当たり、会社の社会的信用を傷つけ、または在職中に知り得た機密を漏らして会社に損害を与えたと取締役会が認めたとき。
  3. 定款に基づき、役員を解任されたとき。
  4. その他会社に重大な損害を与える等の事由により、取締役会が減額または不支給が適当と認めたとき。

第9条(使用人兼務役員の取り扱い)

役員が従業員を兼務している場合、この者に対して支給する役員の退職慰労金には、従業員としての退職金は含まないものとする。

第10条(支給時期)

退職慰労金は、役員が業務の引き継ぎを完全に終了させ、かつ、会社に対して返済すべき債務があるときは、その債務を返済した日から○カ月以内に一時金として支給する。

第11条(退職慰労金の支給一時差し止めおよび返納)

役員が次の各号に該当する場合は、退職慰労金の支給を一時差し止め、および支給した退職慰労金を返納させることができる。

  1. 退職慰労金の支給前に公訴を提起された場合。
  2. 在任期間中の業務に関し禁錮以上の刑に処せられたとき。

第12条(遺族の範囲)

1)役員が死亡したときは、退職慰労金はその遺族に支給する。

2)前項に規定する遺族は、配偶者を第1順位とし、配偶者がいない場合には、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順位とする。該当者が複数いる場合は、全員から委任を受けた代表者に対して支給する。

第13条(相談役・顧問)

本規程は、退職した役員を相談役・顧問として任用し、相当額の報酬を支給することを妨げるものではない。

第14条(改廃)

本規程の改廃は、取締役会決議において行うものとする。

附則

本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2025年2月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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画像:ESB Professional-shutterstock

山形県中小企業まるっとサポート補助金のご案内

山形県では、県産業の持続的発展のため、「中小企業まるっとサポート補助金」により、新技術・新サービスの開発から設備投資、販路開拓まで切れ目なく一貫して支援します。
県内の中小企業・小規模事業者等が経営革新計画などの各種計画に基づいて実施する設備投資や、事業継続力強化計画、またはBCPに基づく防災設備の導入などに対して補助金を交付します。

補助対象事業や申請受付期間などの詳細な内容は、こちらのページからご確認ください。

山形県中小企業まるっとサポート補助金

「転勤制度」続ける? 続けない? 経営者108人アンケート

1 サラリーマンの悲哀「転勤」に見直しの動きが?

「転勤」は嫌だけど、会社の命令だから仕方ない……。昔からあるサラリーマンの悲哀です。マイナビが、2025年3月卒業見込みの大学3年生・大学院1年生(計3万9190人)に実施した調査でも、「行きたくない会社」の上位3項目は、

1位:ノルマのきつそうな会社(38.9%)
2位:転勤の多い会社(30.3%)
3位:暗い雰囲気の会社(24.8%)

となっていて(マイナビ「2025年卒大学生就職意識調査」)、今の若い世代にとっても、転勤は可能な限り避けたいもののようです。

ただ、昨今はこうした世相を意識してか、企業のほうでも社員の負担になる「不本意な転勤」を見直すところが少なくありません。具体的には、

  • 社員が望まない転勤を廃止する
  • 転勤手当を引き上げる
  • 転勤がないことを採用時のアピールポイントにする

などの動きがあります。テレワークの浸透などによって社員が働く場所にとらわれなくなってきたことなども、こうした動きを後押ししているようです。

もちろん、転勤には「さまざまな地域・職場で経験を積むことができる」という良い面がありますし、そもそも現地でないとできない仕事もあるわけですが、このあたりを経営者はどのように考えているのでしょうか。

独自アンケートから見えてきたのは、

転勤を維持する意向の企業は多いが、社員から転勤を拒まれた経験のある企業が過半数であり、今後、何らかの対応が必要になるだろう

という結果でした。詳しくは以下をご確認ください。

2 【経営者アンケート】転勤制度を見直しますか?

ここでは、転勤制度がある企業の経営者108人に対して、転勤制度の見直し予定や、社員から転勤を拒まれたときの対応などについて聞いたアンケートの結果を紹介します(実施期間は2023年12月6日から12月12日まで)。

1)転勤制度の有無について

転勤制度について、「就業規則」などに定めている企業が全体の85.2%と大多数になっています。転勤命令は就業規則に基づくことが通常であり、定めていないのは問題といえます。

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2)転勤制度を維持する企業が約9割

転勤制度の「見直しをする予定はない」企業が68.5%と最も多く、「縮小を検討している」企業と合わせると、95.4%に達します。転勤制度を廃止するところまで踏み込む企業はほとんどいません。

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3)転勤制度を維持する理由について

転勤制度を維持する理由としては、「適材適所な人材配置ができるから」の50.0%、「現地でないとできない業務があるから」の47.3%、「社員が様々な経験を積み、成長につながるから」の44.6%が拮抗しています。1つ目の適材適所と3つ目の社員の成長は人材登用や社員教育に関する企業の方針です。一方、2つ目の現地でないとできない業務については、現地採用などを進めなければ、転勤が避けがたい状況を示しています。

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4)転勤制度を縮小、もしくは廃止する理由について

対して、転勤制度を縮小、もしくは廃止する理由としては、「転勤制度で人材採用が不利になっている、あるいは今後不利になる懸念があるから」が64.7%、「育児、介護などの家庭の事情で、転勤が難しい社員が増えているから」が47.1%と多数になっています。これらの問題は、今後ますます深刻化するかもしれません。

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5)単身赴任のある企業が多く、支援の中心は家賃補助など

「単身赴任がある」企業は全体の76.9%と、高い割合を占めています。

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単身赴任者への支援としては、「家賃を補助している」の65.1%、「引っ越し費用や、新たに購入する生活用品の購入代金を補助している」の61.4%が上位となっています。単身赴任は何かと費用がかかるので、金銭的な支援が中心になっているのでしょう。また、一部の企業では今後、単身赴任者への支援を拡充する方針もあるようです。

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6)社員から転勤を拒まれた経験と対策

社員から「転勤を拒まれたことがある」企業が全体の54.6%と、過半数となっています。

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では、社員に転勤を拒まれたときに、どのように対応しているのでしょうか?

最も多いのは「他の候補者を探した」の39.0%、次いで「業務命令なので、そのまま転勤を受け入れてもらった」と「昇給、昇進や手当の支給など社員のメリットになる条件を付けて受け入れてもらった」が同率の30.5%となっています。他の候補者を選べる状況であればよいですが、これができない場合、業務命令として押し切るか、条件面で譲歩する対応が取られているようです。

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3 今後、転勤制度の見直しは必須になる?

いかがでしたでしょうか。就業規則で定めていれば転勤命令は正式な業務命令となり、基本的に社員はそれを拒むことはできません。にもかかわらず、企業が譲歩しなければならないという実態から、転勤制度の難しさが分かります。今回のアンケートでは転勤制度を現状維持するという企業が大半でしたが、今後は何らかの見直しが進むかもしれません。

また、2024年4月からは、

社員が就職する時点で、転勤の有無や、転勤がある場合は異動する可能性のある勤務地を示すことが義務化

されていますので、この点への対応も忘れずに済ませましょう。

以上(2025年3月更新)

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画像:ChatGPT

ちゃんと伝えたはずなのに、なぜ入社後に「この賃金、約束と違う!」なんて話が出てくるの?

1 会社に悪意がなくても、労働条件の勘違いは起きる

せっかく入社した社員と、労働条件をめぐってトラブルになることがあります。例えば、

  • 賃金の金額が、募集時に聞いていた条件よりも低い
  • 業務内容に魅力を感じて応募したのに、その業務をほとんどやらせてもらえない
  • 休暇制度自体は充実しているのに、申請しても取得を認めてもらえない

などです。

しかも、こうしたすれ違いは、「会社側の説明不足で、求職者が労働条件を自分に都合よく解釈してしまう」「福利厚生などの情報は正しいが、実際は業務が忙しくてほとんど利用できない」など、会社に悪意がない状況で起きるケースがあります。

この記事では、こうした社員とのすれ違いを防ぐためのポイントとして次の3つを紹介します。

  1. 法律で決められた労働条件は必ず明示する
  2. 労働条件の解像度を今よりもう1段階上げる
  3. ネガティブな情報も正直に伝える

2 (ポイント1)法律で決められた労働条件は必ず明示する

通常、会社が求職者に労働条件を明示するタイミングは2回、

  1. 社員を募集する際(職業安定法)
  2. 社員として採用する際(労働基準法、パートタイム・有期雇用労働法)

です。それぞれ明示すべき労働条件が決まっており、必ず求職者に伝えなければなりません。

具体的に明示すべき内容をまとめたのが、図表1です。グレー部分が「社員を募集する際と、社員として採用する際とで内容が異なる事項」、赤字部分が「2024年4月1日から明示が義務付けられるようになった事項」です。労働基準法施行規則の改正により、2024年4月1日からは

  • (募集・採用する際)就業場所、業務内容の「変更範囲」
  • (募集・採用する際)契約更新の「更新上限」
  • (採用する際のみ)パート等の「無期転換申込機会」「無期転換後の労働条件」

の明示が義務付けられているので注意が必要です。

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もしも募集時から労働条件が変わったら、そのときは速やかに変更内容を求職者に明示しなければなりません。社員として採用する前に書面で新しい労働条件を明示するのが原則ですが、求職者が希望した場合はメールなどでの明示も可能です。

3 (ポイント2)労働条件の解像度を今よりもう1段階上げる

労働条件の内容が曖昧だと、求職者に誤解を与えてしまいます。例えば、求人票に「基本給は月30万円」と記載していて、求職者が「賃金が高い」と思って応募したら、その中に手当や固定残業代が含まれていた、というのはよくあるケースです。

細かく書きすぎると文字数が増えて逆に伝わりにくくなりますが、「労働条件の解像度を今よりもう1段階上げる」という意識を持つことは大切です。例えば、「社員を募集する際に明示する労働条件」であれば、次のような点をチェックしてみてください。なお、赤字部分は、前述した労働基準法施行規則の改正により、2024年4月1日から注意が必要になった事項です。

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4 (ポイント3)ネガティブな情報も正直に伝える

条件と実態に乖離(かいり)があるような場合でも、それをしっかり伝えましょう。例えば、

  • 休暇制度が就業規則で定められ、求人情報でも正しく明示されている
  • しかし、実際は業務が忙しく、なかなか休暇を取得できない

といったケースです。

こうしたネガティブな情報は、「嘘はついていないから、まぁいいだろう」と積極的に伝えないケースが多いですが、求職者が入社後に実態を知ったら幻滅して退職してしまうかもしれませんし、「あの会社はブラック企業だ」などとSNSに書き込まれる恐れもあります。

また、入社前に会社のネガティブなことも含めて情報を開示しておくことで、入社後の現実とのギャップを抑えることができ、早期退職の回避や定着率の向上の効果が期待できます。

ですから、ネガティブな情報も正直に求職者に伝えましょう。もしも面接などで求職者から「年次有給休暇の取得状況」について質問されたら、

「今の取得日数は1人当たり平均で年5日だけど、来年度には年7日に引き上げられるよう、計画的付与制度(注)を導入する予定なんだ」

といった具合に、自社の現状と改善に向けた方針を正しく伝え、その上で納得して入社してくれる人を採用するようにするのです。

(注)年次有給休暇の付与日数のうち5日を超える部分について、会社が取得時季を決めて計画的に割り振る制度です(労使協定の締結が必要)。

以上(2025年2月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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【入社1年目の教科書】取引はこちらが有利な立場のときほど慎重に進める

書いてあること

  • 主な読者:取引先とのビジネスで注意すべきルールを知りたい新入社員
  • 課題:自社のために、取引先に多少の無理をお願いしてもよいのか分からない
  • 解決策:自社が有利な立場にあるときほど慎重に進め、相手と良い関係を構築する

今日の商談は違和感があったな〜。こちらが発注する側で有利なんだし、金額とか納期とか、もっと良い条件で進められたはずなのに、なんか先輩は妙に低姿勢だったんだよな……。交渉なんだから、有利に進めば会社の利益につながるはず……うん、やっぱり先輩が相手に気を使いすぎなんだ! 次に私が訪問したときは、もっと攻めていくぞ!

1 取引先に無理なお願いをするのは問題です

仕事ですから、皆さんは取引の際に、自分の会社の利益を優先しなければなりません。ただし、だからといって相手の利益を全く考えないようでは、相手と良い関係を築くことはできません。それに、こちらが有利な立場にあるときほど取引内容に注意しないと、「下請法」という法律に違反してしまうことがあります。

例えば、こちらが仕事を発注する側の場合、下請法では、

  • 仕事を発注する側を「親事業者」
  • 仕事を受注する側を「下請事業者」

と定義しています。そして、親事業者が下請事業者に無理を強いることがないように、さまざまな義務や禁止事項が設けています。違反すると、公正取引委員会から勧告を受けることがあります。そうなると、会社名が公表されるので、自社の社会的な信用を傷つけてしまいます。

下請法の対象となる取引は、「親事業者・下請事業者の資本金規模」と「取引内容」によって定義されます。例えば、自社が資本金6000万円の機械メーカーだとします。商品の原材料製造を発注する場合、資本金1000万円以下の企業や個人事業主などとの取引が下請法の対象になります。

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ちなみに仕事を発注する相手が、個人で事業を行う「フリーランス」の場合は、下請法の他に「フリーランス・事業者間取引適正化等法」という法律が適用されることがありますが、この記事では割愛します。

2 守らなければならない義務と禁止事項

親事業者には、次の4つの義務があります。

  • 発注に際して書面を交付する
  • 支払期日を定める(受領日から60日以内)
  • 業務を委託した場合にその内容などを記載した書類を作成・保存する
  • 支払いが遅延した場合は遅延利息を支払う

例えば、「原材料Aについて、来月5日に100個納品してください」と電話のみで発注することは、書面の交付がないので発注に際して書面を交付する義務に反します。また、親事業者には、次の11項目の禁止事項があります。

  • 発注した商品の受領拒否
  • 下請代金の支払遅延
  • 下請代金の減額
  • 不当返品(下請事業者に責任がないにもかかわらず返品)
  • 買いたたき
  • 親事業者が指定する商品の購入強制・利用強制
  • 報復措置
  • 有償で親事業者が支給する原材料などの早期決済
  • 割引困難な手形の交付
  • 不当な経済上の利益の提供要請
  • 不当な給付内容の変更及び不当なやり直し

例えば、「思ったよりも売れ行きがよくないので、発注時に決めた単価よりも、安く納品してほしい」などは下請代金の減額、「セール時に販売スタッフが足りないので、(無償で)応援に来てください。無理な場合は取引を中止します」などは、不当な経済上の利益の提供要請に該当します。

3 インボイス制度にもご用心!

「インボイス制度」にもご用心。非常に簡単に説明すると、次のような制度です。

  • 消費税は、預かった消費税から支払った消費税を差し引いて納税額を計算します。この支払った消費税を差し引くことを仕入税額控除という
  • インボイスに対応していない相手に支払う消費税は仕入税額控除の対象にならない

例えば、預かった消費税が100万円、支払った消費税が90万円であれば、10万円の消費税を納付することになります。

納税額は10万円:100万円−90万円

ところが、支払った消費税90万円のうち、インボイスに対応していない取引先に支払ったものが50万円だとすると、次のようになります。

納税額は60万円:100万円−40万円

相手がインボイスに対応していないと、これまでよりも消費税の負担が大きくなります。こうした仕組みを知っていれば、インボイスに対応していない相手に、

  • 皆さんの会社の負担増になる消費税分の値下げ要請をする
  • インボイスに対応するように強く依頼する

といったことをしたくなりますが、これは下請法などに違反する恐れがある行為です。ビジネスを有利に進めたいのは当然なのですが、いろいろと難しい問題があるので、皆さん、ご注意ください!

以上(2025年1月更新)

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画像:Mariko Mitsuda