1 2025年度・2026年度の3大ニュース
2025年度は、情報流通プラットフォーム対処法により、インターネット上における誹謗(ひぼう)中傷被害を防止するための規制が強化され、さらに、流通業務総合効率化法・貨物自動車運送事業法の改正により、「物流の効率化と特定事業者への規制強化」が行われました。また、建設業法等の改正により、「建設業の処遇改善・働き方改革・生産性向上」も図られました。
2026年度は、下請法が取適法に改正されて「適用対象となる取引拡大」、事業性融資推進法の実効により「新たな企業価値担保権の創設」、労働施策総合推進法・男女雇用機会均等法の改正により「カスハラ・就活セクハラの防止措置義務化」が行われます。
2025年度・2026年度の法務3大ニュースは次の通りです。
(図表1)【2025年度・2026年度の法務3大ニュース】
●2025年度
| 誹謗中傷防止のための大規模プラットフォーム事業者への規制 | 2025年4月1日より、情報流通プラットフォーム対処法(旧:プロバイダ責任制限法)が施行され、インターネット上における誹謗中傷被害を防止するための規制が強化されました。 |
|---|---|
| 物流効率化と特定事業者への規制強化 | 2025年4月1日より、改正流通業務総合効率化法・改正貨物自動車運送事業法が施行され、「物流の効率化」「商慣行の見直し」「荷主・消費者の行動変容」のための規制が設けられました。 |
| 建設業の処遇改善・働き方改革・生産性向上 | 2025年12月12日より、建設業法等の改正法が施行され、「従業員の処遇改善」「資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止」「働き方改革と生産性向上」のための規制が設けられました。 |
●2026年度
| 下請法が取適法に改正 | 2026年1月1日より、下請法が取適法に改正され、適用対象となる取引が拡大されました。また、委託事業者の禁止事項も追加され、中小受託事業者の保護が強化されました。 |
|---|---|
| 企業価値担保権の創設 | 2026年5月25日より、事業性融資推進法が施行され、無形資産を含む事業全体を担保とする新たな制度として「企業価値担保権」が創設されます。 |
| カスハラ・就活セクハラの防止措置義務化 | 2026年10月1日より、改正労働施策総合推進法や改正男女雇用機会均等法が施行され、カスハラ・就活セクハラの防止措置を講じることが事業主の義務になります。 |
(出所:筆者作成)
2 2025年度の総括
2025年度は、いずれも主に中小企業にとって大きな影響がありました。4月1日には情報流通プラットフォーム対処法が施行され、大規模プラットフォーム事業者に対し、インターネット上の誹謗中傷に対応するため、「削除申出窓口・手続きの整備・公表」「削除申出への対応体制の整備(十分な知識経験を有する者の選任等)」など、5つの義務が課されるようになりました。これにより、誹謗中傷への対応をより迅速に行うことが可能になっています。
また、人材不足が深刻な物流業界では、これを改善するために改正流通業務総合効率化法が施行され、荷待ち・荷役時間の短縮や積載率の向上等のための取り組みを行う努力義務などが課されるようになりました。さらに、改正貨物自動車運送事業法によって、運送契約の締結等の際、所定の事項を記載した書面の交付等を行うことが義務付けられ、運送を担う末端の事業者も適正な報酬が得られる仕組みがつくられました。
その他、建設業界においても、改正建設業法等が施行されたことによって、従業員の処遇改善や働き方改革と生産性向上の見直しなどが図られています。
3 2026年度の主なニュース
1)下請法が取適法に改正
2026年1月1日より、近年の労務費や原材料費などのコスト増加が問題となる中、中小企業をはじめとする事業者が「構造的な価格転嫁」を実現するため、従来の下請法が改正され、取適法(中小受託取引適正化法)として施行されました。
「下請法→取適法」へと法律の名称が変更された背景には、「下請」という言葉が明確な上下関係を連想させかねないからという理由があります。同じ視点から、従来の用語についても、
「親事業者→委託事業者」「下請事業者→中小受託事業者」「下請代金→製造委託等代金」
といった変更が行われています。
主な改正のポイントは次の通りです。すでに施行済みの内容ですが、中小企業にも影響が大きい内容ですので、改めて確認しておきましょう。
- 適用対象の拡大
- 新たな禁止行為の追加
- 面的執行の強化
1.適用対象の拡大
「事業者の基準の見直し」と「対象取引の追加」がなされます。従来の下請法では、適用対象となる事業者は資本金基準によって判断されていましたが、
資本金基準に加え、従業員基準として常時使用する従業員が「300人(製造委託等の場合)」または「100人(役務提供委託等の場合)」
というものが新たに追加されました。
また、対象取引についても、従来の製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託に加え、新たに「特定運送委託」が追加されました。特定運送委託とは、
事業者が販売する物品や、製造や修理を請け負った物品などを、取引の相手方に対して運送する場合に、その運送業務を他の事業者に委託する取引
のことです。

2.新たな禁止行為の追加
従来の下請法では、発注者がやってはいけない禁止行為として受領拒否や代金の支払い遅延、代金の減額、返品、買いたたき等が定められていましたが、取適法ではこれらに加えて、新たに次の禁止行為が追加されました。
- 協議に応じない一方的な代金決定の禁止
- 手形払等の禁止
「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」は、中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりして、一方的に代金を決定する行為のことです。昨今、労務費や原材料費などのコスト増加が問題となる中、中小受託事業者がこれらコスト増加の負担を強いられることがないよう、委託事業者との間で価格交渉を行うことができるようにすることが目的です。
「手形払等の禁止」は、下請取引において、代金の支払い手段として手形(紙の手形)を用いることを禁止するものです。これまでの商慣行で手形を使用していた企業は、約束手形に代わる決済手段として、インターネットバンキング、電子記録債権、クレジットカードなどへの移行が必要になります。なお、下請取引以外であれば、紙の手形は引き続き使用できますが、こちらも2027年3月末までに廃止(全て電子化)される方針が示されています。
3.面的執行の強化
面的執行とは、複数の省庁が連携して違反行為に対応することです。委託事業者による違反行為があった場合、行政による指導や助言等が行われます。従来の下請法では、公正取引委員会や中小企業庁にその権限が与えられていましたが、取適法では、委託事業者を所管する主務大臣にも権限が付与されます。
2)企業価値担保権の創設
2026年5月25日に事業性融資推進法が施行され、「企業価値担保権」が創設されます。
企業価値担保権とは、企業が金融機関から融資を受ける際、有形資産(土地・工場等)だけでなく、ノウハウや顧客基盤等の無形資産を含む「事業全体」を担保にできる制度
のことです。これまでは、有形資産に乏しい企業、経営者保証により事業承継や思い切った事業展開をためらっている企業の場合、資金調達の選択肢が限られてしまうという課題がありましたが、企業価値担保権が創設されることで、事業の実態や将来性に着目した融資を受けやすくなります。
企業価値担保権の主なポイントは次の通りです。
1.担保の対象(担保目的財産)
企業の総財産(将来キャッシュフローを含む事業全体の価値)が対象になります。企業は「借り手」として、これらを担保に融資を受けます。
2.借り手 (債務者・担保権設定者)
「借り手」となれるのは、株式会社・持分会社に限定されます。商業登記簿で企業価値担保権が確認されると、借り手企業は、企業価値担保権を設定した後も通常の事業活動の範囲において、財産の処分を自由に行うことができます。また、粉飾等があった場合を除き、経営者個人の保証提供は求められなくなります。
3.担保権者(企業価値担保権信託会社)
新設される「企業価値担保権信託会社」が「担保権者」となり、債務の弁済が滞った際は、裁判所への申立てにより、担保権の実行手続を開始します(事業は解体せず、事業譲渡などで対応)。
4.貸し手(被担保債権者)
「貸し手」となるのは金融機関で、債務が弁済されない場合、事業譲渡の対価から融資を回収します。金融機関が「担保権者兼貸し手」になることもあります。
この企業価値担保権では、ブランド力や知的財産権、ノウハウ等の無形資産も担保目的財産に含まれるため、前述した通り、有形資産に乏しい企業なども融資を受けられる可能性があります。一方で、金融機関から融資を受けるためには、
事業者が金融機関に対し、「根拠をもって」自社の価値を説明できるようにならなければなりません。そのためには、事業計画の策定方法の見直し、説明資料の整理などが必要
となります。
3)カスハラ・就活セクハラの防止措置義務化
2026年10月1日より、カスハラや就活セクハラを防止するために、これらの防止措置を講じることが義務付けられます。
1.カスハラ (カスタマーハラスメント)
カスハラとは、顧客等から従業員に対する悪質な嫌がらせのことで、近年大きな社会問題になっています。一部の都道府県においては条例による規制が定められるようになったものの、法律レベルでは、刑法に触れるような態様は別として、これまでカスハラに対する規制は設けられていませんでした。
こうした状況から、改正労働施策総合推進法により、「カスハラの定義」が明確化され、「カスハラ防止措置の実施」が企業に義務付けられることになります。
まず、定義については、次の要件を全て満たすものがカスハラになることが定められました。
- 顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行う
- 社会通念上許容される範囲を超えた言動により、
- 従業員の就業環境を害すること
防止措置については、2026年2月26日に公表された指針において、次の措置を講じるべき旨が示されています。
- 事業主の方針等の明確化、その周知・啓発
- 相談 (苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 事後の迅速かつ適切な対応
- カスハラへの対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置
2.就活セクハラ (求職者等に対するセクシュアルハラスメント)
就活セクハラとは、求職者等(就職活動中の学生やインターンシップ生等)に対する性的な嫌がらせのことです(同性に対するもの、LGBTQ+に対するものも含まれます)。
就活セクハラについてもカスハラと同様、改正男女雇用機会均等法により、防止措置を講じることが義務化されます。こちらも、2026年2月26日に指針が公表されていますが、基本的な措置の内容はカスハラと同じです。なお、指針では、就活セクハラが想定している求職活動として、
- 企業の採用面接への参加
- 企業の就職説明会への参加
- 企業の雇用する従業員への訪問
- インターンシップへの参加
- 教育実習、看護実習等の実習の受講
などが例示されています。SNS等のオンラインを介したものやオンライン上の言動も含まれ、従業員が通常就業している場所で行われるものに限定されない旨が明記されているので、「就活セクハラは自社でも起こり得る」ということを十分に認識した上で対策を検討する必要があります。
カスハラ・就活セクハラの防止措置に関する指針やリーフレットについては、こちらをご確認ください。
■厚生労働省「カスタマーハラスメント及び求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が事業主の義務となります!」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
4 今後の対応について
2026年度も、昨年度と同様に、様々な法改正が予定されています。
すでに施行済みの内容ではありますが、1月に下請法が取適法に改正されたことの影響は大きいです。「親事業者」「下請事業者」といった上下関係が解消され、法律が適用される企業や取引の範囲が拡大しています。影響範囲の洗い出しや取引慣行の点検がまだ十分でない企業は、早急に対応する必要があります。
企業価値担保権は新たな担保制度であり、どれだけの事業者が利用するか、金融機関の運用がどうなるかなどは未知数です。とはいえ、資金調達の選択肢に悩んでいる中小企業・スタートアップ企業については、利用を検討する価値のある制度といえるでしょう。
近年、規制が進んでいるハラスメント分野では、カスハラ・就活セクハラの防止措置が義務付けられます。これまではカスハラ対応などを現場に任せていた企業も、意識を改めて組織としての責任を明確にし、防止措置を講じる必要があります。社内規定やマニュアルの作成、体制の整備においては、専門家への相談も欠かせません。
以上(2026年3月作成)
(執筆 石原法律事務所 弁護士 磯田翔)
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画像:Mariko Mitsuda



