目次
1 非居住者オーナーへの賃料。源泉徴収の基本
ある日、税務署から一本の電話が入りました。
「海外に住むテナント・オーナーに支払っているオフィス賃料について、源泉徴収分の納税がされていません」
―そんな指摘を受けて、初めて問題に気づく経営者は少なくありません。
「え? テナントを借りている側が源泉徴収するの?」
と思われるかもしれませんが、実は、
海外に拠点を持つオーナー (個人だけでなく外国法人を含み、国内に住所を持たない、または、1年以上居所を持たない者。以下「非居住者オーナー」)に賃料を支払う場合、その源泉徴収義務は「借主側」にある
のです。
この点を知らずに賃料を払い続けていると、後になって、
- 源泉徴収すべき税額
- 不納付加算税 (源泉徴収すべき税額の10%(原則)、自主納付なら5%)
- 延滞税(源泉徴収すべき税額の年2.8~9.1% (2026年の場合)。なお、利率は年によって変動します)
を、まとめて請求されることになります。累積された金額によっては、資金繰りにも影響を与えるケースも考えられます。
2 なぜ、借主に義務があるのか
日本国内にある不動産から生じる所得は、オーナーが海外に住んでいても、日本の税法上、
「国内源泉所得」として課税対象
になります。理由は単純です。不動産が日本にあり、経済活動も日本で行われている以上、その収益に対して日本が課税権を持つ、という考え方に基づいているからです。
とはいえ、海外在住のオーナーに「自分で日本に納税してください」と言っても、実務上はなかなか徹底できません。そこで、
賃料を支払う側が、あらかじめ税金を差し引いて国に納める
仕組みになっているのです。
ここで重要なのは、
義務を負うのは貸主ではなく、支払う側(借主)
だという点です。なお、法人の場合は、用途に関わらず常にこの義務が発生します。個人の場合は、事業用(オフィスや店舗など)として借りる場合にこの義務が発生し、自分の住居として借りる場合は不要になります。
3 対象となる賃料と税率は? いつまでに、どこへ納めるのか
源泉徴収の対象は、単なる土地や建物の賃料だけではありません。日本国内にある不動産や、その上に存する権利 (借地権など)の貸し付けによる対価も含まれます。
税率は一律20.42% (内訳は所得稅20%+復興特別所得稅0.42%)です。例えば、月額賃料が50万円の場合、
50万円×20.42%=10万2100円
を源泉徴収し、残りの39万7900円を本来は非居住者オーナーに支払うことになります。
そして、源泉徴収した税金は、原則として、
賃料を支払った月の翌月10日まで
に税務署へ納付します。もし、従業員の給与等で納期の特例を受けている場合でも、この賃料の源泉徴収については特例の対象外です。必ず毎月、翌月10日までに納付する必要があります。なお、たとえ海外送金で支払った場合でも、支払う側(借主)が日本に事務所や住所を持っていれば、国内で支払ったものとして扱われるので、源泉徴収義務は免れません。
納付には、「非居住者・外国法人の所得についての所得税徴収高計算書」という専用の納付書を使います。この点で、「通常の源泉徴収とは別物」であることがお分かりいただけるでしょう。
4 グロスアップ計算という借り手側負担の痛手
すでに賃料を全額支払ってしまっていた場合、
その支払い済みの金額が源泉徴収した後の金額として扱われ、そこから逆算して税額が計算(支払い済みの金額を基準に税額が計算)される
ことがあります。これをグロスアップ計算方式といいます。
例えば、50万円をオフィス賃料として源泉徴収せずに支払っていた場合、本来の賃料は約62万8000円(50万円÷ (100%-20.42%))という計算が行われ、そこから源泉徴収すべき税金として、約12万8000円 (62万8000円×20.42%) を計算することになります。つまり、
本来の金額以上の支払い負担が発生する可能性
があるのです。非居住者オーナーから後で税金分を回収するのは、現実的にはかなり困難なケースが多く、この余分な税負担を会社が自ら負担することになりかねません。
5 源泉徴収が不要になるケース
1)個人の居住用として借りる場合
土地や建物を、自己または親族の居住用として借りる個人が支払う賃料については、源泉徴収は不要とされています。これは、一般の個人にまで源泉徴収義務を課すと、事務負担が過大になることを考慮した例外です。
ただし、
会社が社宅として非居住者オーナーの物件を借りる場合、「従業員が住むから居住用だ」とは扱われず、原則通り源泉徴収義務が発生する
点には注意しましょう。
2)租税条約がある場合
日本はたくさんの国と租税条約(国同士で税金のかけ方を調整する取り決め) を結んでいますが、不動産の賃料については、多くの条約で「不動産の所在地国(=日本)でも課税できる」とされています。ただし、「条約があるから源泉徴収しなくていい」と安易に判断するのは危険です。
仮に条約で免除や軽減の対象になる場合でも、自動的に適用されるわけではありません。事前に「租税条約に関する届出書」を税務署へ提出する必要があります。この手続きを怠ると、後からまとめて課税されるリスクがあります。
3)源泉徴収の免除証明書がある場合
非居住者オーナーが日本に事業所などを持ち、一定の要件を満たすと、「源泉徴収の免除証明書」が交付されることがあります。この証明書を提示された場合、源泉徴収は不要になります。ただし、
- 有効期限が切れていないか
- 適正な証明書か
を借主側が確認する責任があります。
確認を怠ると、後から源泉徴収義務があるものとして、ペナルティーの対象になる可能性があります。
6 トラブルを防ぐための対策とは
オフィスの賃貸借契約を結ぶ際は、
まずオーナーが非居住者かどうかを必ず確認する
ようにしましょう。仲介業者が入っている場合でも、この点が曖昧なまま契約が進むこともあります。契約前に一度確認しておくだけで、トラブルは防ぐことができます。もし、非居住者オーナーと賃貸借契約を結ぶ場合には、契約内容や相手国との租税条約によって扱いが変わることがあるため、少しでも判断に迷うときは自己判断せず、早めに税理士へ相談しましょう。
また、
管理会社が契約の当事者となるタイプの契約 (サブリース契約)を選ぶ
こともリスク回避の方法の一つです。このタイプの契約であれば、源泉徴収の義務は管理会社が担うことになり、実務の手間や税務リスクを外部に委ねることができます。ただし、単に管理会社が「集金を代行しているだけ」の場合は、源泉徴収義務は依然として借主側にあります。契約書の貸主欄が「管理会社」になっているかを必ず確認するようにしてください。
以上(2026年3月作成)
(監修 税理士 石田和也)
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