1 業務中や通勤中の事故などに対応する保険給付は?
会社は日ごろから、社員が労働災害(業務上の事由または通勤途上により発生した事故など)に遭わないよう、目を光らせる必要があります。それでもけがや病気のリスクをゼロにすることはできませんから、「万が一」に備え、社員が働けなくなった場合の生活保障や、亡くなってしまった場合の遺族に対する保障などについて、事前にしっかりと考えておく必要があります。
会社の制度(見舞金や弔慰金)や民間の保険などの「備え」をする会社もありますが、その前に押さえておきたいのが、法律で定められた保険給付(社会・労働保険の給付)です。
この記事では、労働災害(業務上の事由または通勤途上により発生した事故など)が起きた場合に支給されるものとして、
労災保険と国民年金・厚生年金保険の給付(傷病、障害、死亡に対するもの)
を紹介します。「療養が必要か」「休業が必要か」など、給付の特徴に注目したチャート図も載せているので、「保険給付って何だか種類が多くて苦手……」という人もぜひご一読ください。
なお、この記事の社員は、65歳未満で国民年金・厚生年金保険の加入要件を満たしていて(保険料の未納もなし)、労災保険の適用事業の会社に勤務しているものとします。
また、プライベートで起こした事故など(労災認定されなかった業務中の事由や通勤途上により発生した事故など)による傷病、障害、死亡に対する給付については、次の記事をご確認ください。
(注)以降で紹介する給付の内容は2025年10月時点のもので、将来変更される可能性があります。
2 傷病に対する主な給付(労働災害編)
1)給付の種類を整理しよう
社員が労働災害により傷病を負った場合、労災保険の給付を受けられます。社員が受けられる主な給付は図表1の通りです。なお、傷病がもとで障害を負った場合の給付については第3章を、亡くなった場合の給付については第4章をご参照ください。

なお、労災保険の給付は、業務災害(業務上の事由によって発生した事故など)の場合と通勤災害(通勤途上に発生した事故など)の場合とで名称が変わります。
- 業務災害:療養補償給付、傷病補償年金、介護補償給付(名称に「補償」がつきます)
- 通勤災害:療養給付、傷病年金、介護給付
また、以降では「治癒」という言葉が頻繁に出てきますが、
- 「治癒」という言葉には、「傷病が完治した」という意味の他に、「症状が固定された(症状の回復・改善が期待できなくなった)」という意味もあります
ので、ご注意ください。
2)給付の支給要件、支給額、支給期間を知ろう
1.療養(補償)給付
社員が診察、薬剤等の支給、治療などを受けた場合に支給されます。
通常は現物給付なので、支給額という考え方はありません。社員は労災病院や労災保険指定医療機関・薬局等(以下「指定医療機関等」)にて、
療養の給付(無料の診察、薬剤等の支給、治療など)
を受けられます。ただし、やむを得ない事情により指定医療機関等以外で療養を受けた場合は、
療養費(療養にかかった費用)
が支給されます。その場合、一旦窓口で全額払いをし、後日、還付される流れとなります。
支給期間という考え方はなく、傷病が治癒するまで、診察、薬剤等の支給、治療などを受けるたびに支給されます。
2.休業(補償)給付
社員が療養のために働けず、3日以上(連続しなくても可。公休日等を含む)休んだ場合、4日目以降から支給されます。なお、業務災害の場合、最初の3日間については、会社が補償しなければなりません(副業中の業務災害や通勤災害の場合については、補償義務はありません)。
休業(補償)給付をはじめ、労災保険の給付の多くは、支給額の算定に「給付基礎日額」を用います。給付基礎日額は、原則として次のように算定されます(実際は、賃金水準の変動などによって金額が調整されることがあります)。なお、副業により、複数の事業場で就業する社員の場合は、原則として各事業場の賃金額を基に給付基礎日額が算出されます。
給付基礎日額=算定事由発生日(注)以前の直近3カ月間の賃金総額(賞与等を除く)÷算定事由発生日以前の直近3カ月間の総日数 ※最低保障額は4250円
(注)算定事由発生日とは、事故が発生した日や診断によって疾病の発生が確定した日のことです。賃金締切日が定められている場合は、その直前の賃金締切日を起算日とします。
支給額は、休業(補償)給付の場合、次のように算定されます。
支給額(日額)=給付基礎日額×0.6
なお、実際は休業(補償)給付だけでなく、これに係る特別支給金として、
休業特別支給金(日額):給付基礎日額×0.2
が上乗せ支給されます。
支給期間の制限はありません。傷病が治癒するなど、支給要件を満たさなくなるまで支給されます。ただし、社員が療養を開始してから1年6カ月が経過し、後述の傷病(補償)年金の支給を受けるようになった場合は支給が停止されます。
3.傷病(補償)年金
社員が療養を開始してから1年6カ月が経過し、傷病が治癒しておらず、障害の程度が労災保険の傷病等級1~3級に該当する場合に支給されます。
支給額(1年当たりの額)は、労災保険の傷病等級に応じて、給付基礎日額を基に、次のように算定されます。
(1級)支給額(年額)=給付基礎日額×313日分
(2級)支給額(年額)=給付基礎日額×277日分
(3級)支給額(年額)=給付基礎日額×245日分
なお、実際は傷病(補償)年金だけでなく、これに係る特別支給金として、傷病等級に応じた
傷病特別支給金(一時金):(1級)114万円、(2級)107万円、(3級)100万円
傷病特別年金(年金、算定基礎日額×右の日数分):(1級)313日分、(2級)277日分、(3級)245日分
が上乗せ支給されます。「算定基礎日額」は給付基礎日額と似ていますが、こちらは算定事由発生日以前の1年間に支払われた特別給与(ボーナスなど)をベースに算定するものになります。なお、副業により複数の事業場で就業する社員の場合については、給付基礎日額の算定方法と同じく各事業場の特別給与額を基に算出されます。
支給期間の制限はありません。支給開始日から傷病が治癒する、あるいは社員の傷病の程度が労災保険の傷病等級3級に満たなくなるなど、支給要件を満たさなくなるまで支給されます。
4.介護(補償)給付
社員が前項の傷病(補償)年金または後述の「障害(補償)年金」の受給権者で、一定程度の障害に該当し、常時または随時介護が必要な場合に支給されます。ただし、病院や障害者支援施設などに入院・入所している場合は支給されません。
支給額は、親族等に介護を受けているか、介護サービスを利用しているかなどによって、次のように算定されます。
【親族等による介護なし、介護サービスの利用あり】
常時介護が必要)支給額(月額)=介護サービスの費用 ※上限は18万6050円
(随時介護が必要)支給額(月額)=介護サービスの費用 ※上限は9万2980円
【親族等による介護あり、介護サービスの利用なし】
(常時介護が必要)支給額(月額)=8万5490円
(随時介護が必要)支給額(月額)=4万2700円
【親族等による介護あり、介護サービスの利用あり】
(常時介護が必要)支給額(月額)=8万5940円(注)
(随時介護が必要)支給額(月額)=4万2700円(注)
(注)介護サービスの費用が8万5940円(4万2700円)を超える場合は、その費用が支給されます。ただし、常時介護を要する場合は18万6050円、随時介護を要する場合は9万2980円が上限です。
支給期間の制限はありません。ただし、社員が傷病(補償)年金または障害(補償)年金の受給権者でなくなった場合や、常時または随時介護が必要な状態でなくなった場合、病院や障害者支援施設に入院・入所した場合は、支給されません。
3 障害に対する主な給付(労働災害編)
1)給付の種類を整理しよう
社員が労働災害により障害を負った場合、労災保険、国民年金・厚生年金保険の給付を受けられます。主な給付は図表2の通りです。

なお、労災保険の給付は、業務災害の場合と通勤災害の場合とで名称が変わります。
- 業務災害:障害補償年金、障害補償一時金、介護補償給付(名称に「補償」がつきます)
- 通勤災害:障害年金、障害一時金、介護給付
また、同一の事由により、労災保険給付と障害厚生年金や障害基礎年金を受給できる場合、併給調整により、労災保険給付が一部減額となります(一時金は減額の対象外とされています)。詳しくは、お近くの労働基準監督署にお問い合わせ下さい。
2)給付の支給要件、支給額、支給期間を知ろう
1.障害(補償)年金
社員の傷病が治癒し、労災保険の障害等級1~7級に該当する場合に支給されます。
支給額は、労災保険の障害等級に応じて、給付基礎日額を基に、次のように算定されます。
(1級)支給額(年額)=給付基礎日額×313日分
(2級)支給額(年額)=給付基礎日額×277日分
(3級)支給額(年額)=給付基礎日額×245日分
(4級)支給額(年額)=給付基礎日額×213日分
(5級)支給額(年額)=給付基礎日額×184日分
(6級)支給額(年額)=給付基礎日額×156日分
(7級)支給額(年額)=給付基礎日額×131日分
なお、実際は障害(補償)年金だけでなく、これに係る特別支給金として障害等級に応じた
- 障害特別支給金(一時金):(1級)342万円、(2級)320万円、(3級)300万円、(4級)264万円、(5級)225万円、(6級)192万円、(7級)159万円
- 障害特別年金(年金、算定基礎日額×右の日数分):(1級)313日分、(2級)277日分、(3級)245日分、(4級)213日分、(5級)184日分、(6級)156日分、(7級)131日分
が上乗せ支給されます。
支給期間の制限はありません。ただし、社員が労災保険の障害等級7級に満たなくなった場合は支給が停止されます。
2.障害(補償)一時金
社員の傷病が治癒し、労災保険の障害等級8~14級に該当する場合に支給されます。
支給額は、労災保険の障害等級に応じて、給付基礎日額を基に、次のように算定されます。
- (8級)支給額(一時金)=給付基礎日額×503日分
- (9級)支給額(一時金)=給付基礎日額×391日分
- (10級)支給額(一時金)=給付基礎日額×302日分
- (11級)支給額(一時金)=給付基礎日額×223日分
- (12級)支給額(一時金)=給付基礎日額×156日分
- (13級)支給額(一時金)=給付基礎日額×101日分
- (14級)支給額(一時金)=給付基礎日額×56日分
なお、実際は障害(補償)年金だけでなく、これに係る特別支給金として障害等級に応じた
- 障害特別支給金(一時金):(8級)65万円、(9級)50万円、(10級)39万円、(11級)29万円、(12級)20万円、(13級)14万円、(14級)8万円
- 障害特別一時金(一時金、算定基礎日額×右の日数分):(8級)503日分、(9級)日391日分、(10級)302日分、(11級)223日分、(12級)156日分、(13級)101日分、(14級)56日分
が上乗せ支給されます。
支給期間という考え方はなく、1回のみ支給されます。
3.介護(補償)給付
第2章をご参照ください。
4.障害厚生年金
5.障害基礎年金
6.障害手当金
障害厚生年金、障害基礎年金、障害手当金は、国民年金・厚生年金保険の給付で、労災の場合もプライベートの事故などの場合もどちらでも利用できます。ただし、障害手当金については、労災保険から障害(補償)年金や障害(補償)一時金を受給できる場合、支給されません。
給付の内容については、こちらの記事の「3 障害に対する主な給付(プライベート編)」をご確認ください。
4 死亡に対する主な給付(労働災害編)
1)給付の種類を整理しよう
社員が労働災害により亡くなった場合、労災保険・国民年金・厚生年金保険の給付を受けられます。社員が受けられる主な給付は図表3の通りです。

なお、労災保険の給付は、業務災害の場合と通勤災害の場合とで名称が変わります。
- 業務災害:葬祭料、遺族補償年金、遺族補償一時金
- 通勤災害:葬祭給付、遺族年金、遺族一時金
また、同一の事由により、労災保険給付と遺族厚生年金(遺族基礎年金)を受給できる場合、併給調整により、労災保険給付が一部減額となります。詳しくは、お近くの労働基準監督署にお問い合わせ下さい。
2)給付の支給要件、支給額、支給期間を知ろう
1.葬祭料(葬祭給付)
社員が亡くなった際、葬儀を執り行う者に支給されます。一般的には、葬儀を執り行う遺族に支給されますが、遺族がなく会社が社葬を行った場合には会社に支給されることもあります。
支給額は、亡くなった社員の給付基礎日額を基に、次の2つの方法で算定され、高いほうの額が支給されます。
- 支給額(一時金)=給付基礎日額×30日分+31万5000円
- 支給額(一時金)=給付基礎日額×60日分
支給期間という考え方はなく、1回のみ支給されます。
2.遺族(補償)年金
社員が亡くなった際、社員により生計を維持されていた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹に支給されます。妻以外については、原則として次の要件を満たす必要があります。
- 子・孫:18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していないこと、または一定の障害の状態にあること
- 夫・父母・祖父母:60歳以上であること、または一定の障害の状態にあること
- 兄弟姉妹:18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していないか、60歳以上であること、または一定の障害の状態にあること
上記に該当する遺族がいない場合でも、夫・父母・祖父母・兄弟姉妹が55歳以上60歳未満であれば受給権者になることができます。
なお、該当する遺族が複数いる場合、受給権者となる順位が決められており、上の要件を満たす遺族同士の場合、妻の優先順位が最も高くなります。
支給額は、支給を受ける遺族と、その遺族と生計を同じくする遺族(上の要件を満たす者)の合計人数に応じて、次のように算定されます。
- (1人)支給額(年額)=給付基礎日額×153日分(注)
- (2人)支給額(年額)=給付基礎日額×201日分
- (3人)支給額(年額)=給付基礎日額×223日分
- (4人以上)支給額(年額)=給付基礎日額×245日分
(注)遺族が、55歳以上の妻または一定の障害の状態にある妻の場合は175日分となります。後述の遺族特別年金も同じです。
なお、実際は遺族(補償)年金だけでなく、これに係る特別支給金として遺族数などに応じた
- 遺族特別支給金(一時金):300万円
- 遺族特別年金(年金、算定基礎日額×右の日数分):(遺族が1人)153日または175日分、(遺族が2人)201日分、(遺族が3人)223日分、(遺族が4人以上)245日分
が上乗せ支給されます。
支給期間の制限はありません。支給を受ける遺族が亡くなった場合や、一定の年齢または一定の障害の状態に該当しなくなった場合など、受給権者に該当しなくなったときは、その者に対する支給はされなくなりますが、次順位の受給資格者が受給権者となります(これを「転給」といいます)。
3.遺族(補償)一時金
社員の死亡当時、遺族(補償)年金を受ける遺族がいない場合、配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹に対して支給されます。
該当する遺族が複数いる場合、優先順位が決められており、配偶者の優先順位が最も高くなります。
支給額は、社員の給付基礎日額を基に、次のように算定されます。
支給額(一時金)=給付基礎日額×1000日分
なお、実際は遺族(補償)年金だけでなく、これに係る特別支給金として遺族数などに応じた
- 遺族特別支給金(一時金):300万円
- 遺族特別一時金(一時金):算定基礎日額×1000日分
が上乗せされます。支給期間という考え方はなく、1回のみ支給されます。
また、なかには次のようなケースもあります。社員の死亡当時、遺族(補償)年金の支給を受ける遺族がいたが、その遺族が遺族(補償)年金の受給権を失い(亡くなった場合など)、結果として支給を受ける遺族がいなくなった場合、次のように算定し支給されます。
支給額(一時金)=給付基礎日額×1000日分-すでに支給された遺族(補償)年金の総額
- 遺族特別支給金(一時金):なし
- 遺族特別一時金(一時金):算定基礎日額×1000日分-すでに支給された遺族特別年金額
4.遺族厚生年金
5.遺族基礎年金
遺族厚生年金、遺族基礎年金は、国民年金・厚生年金保険の給付で、労災の場合もプライベートの事故などの場合もどちらでも利用できます。
給付の内容については、こちらの記事の「4 死亡に対する主な給付(プライベート編)」をご確認ください。
以上(2025年10月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)
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画像:ChatGPT