営業ノルマを達成させるため、従業員に自社商品を買わせていないでしょうか?「自爆営業」とも呼ばれ、従業員の経済的損失や精神的苦痛につながるだけでなく、法令上も問題があるため、厚生労働省が注意を呼び掛けています。本稿では、法令に触れる自社商品の買取り強要の例を紹介します。
1 民法、労働法令に抵触
自社商品の買取り強要は、民法や労働基準法、労働契約法に抵触しかねません。事例ごとに、どの法令に違反する可能性があるのか説明します。
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事例の内容 |
違反の可能性がある法令 |
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1 |
従業員ごとに売上高のノルマを設定。ノルマ未達成の場合、就業規則や口頭等で自社商品購入を求める |
・民法第90条(公序良俗) |
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2 |
従業員に自社商品の購入を求めたが、従業員が断ったため、懲戒処分や解雇を行った |
・労働契約法第15条(懲戒権の濫用) |
1の事例では、自社商品の売買契約が公序良俗に反して無効となるほか、不法行為による損害賠償責任が認められる可能性もあります。賃金控除に関する労使協定を締結せずに購入代金を従業員の賃金から控除した場合には、賃金の一部を控除して支払うことを禁じた労働基準法第24条に違反します。
購入代金を本人が直接支払う場合でも、従業員が断ることができない状況で自社商品を購入させられているため、労働者保護の観点から不適切です。
このケースに関連した裁判例(東京地裁 平成20年11月11日判決)もあります。営業社員が、会社から「商品を理解しなければ仕事はできない、そのためには商品を買う必要がある」と強く言われたが、購入を拒否したところ、重ねて「商品を理解しない者には仕事をさせるわけにはいかない」と言われたため、やむを得ず自社商品を購入した事案です。
判決では、使用者としての立場を利用し、仕事にからめて従業員に不要な商品を買わせたことが、「公序良俗に違反する商法」で「不法行為を構成する」と判断されました。商品代金相当額の損害賠償請求も認められました。
2の事例は、懲戒権や解雇権の濫用にあたり、懲戒処分や解雇が無効になると考えられます。
2 達成困難なノルマ
厚生労働省は、次のようなケースも「注意が必要」としています。
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事例の内容 |
違反の可能性がある法令 |
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3 |
従業員ごとに売上高のノルマを設定。ノルマ未達成の場合、人事上の不利益取扱いを受けることを明示。従業員がノルマ達成のため自身の判断で自社商品を購入 |
・民法第90条(公序良俗) |
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4 |
現実的に達成困難なノルマを設定。ノルマ未達成の場合、人事上の不利益処分を行う |
・労働契約法第3条第5項(権利濫用の禁止の原則) |
3の事例では、会社は自社商品購入を強要していません。しかし、従業員が高額の商品を繰り返し買っている状況を知りながら放置しているような場合は、従業員との売買契約が公序良俗に反して無効となりえます。不法行為による損害賠償責任が認められる可能性もあります。
また、単純にノルマ未達成だけを理由に懲戒処分を行うことは、懲戒権の 濫用として無効となる場合があります。
4の事例では、達成困難なノルマ設定が、業務命令権の濫用として無効になりかねません。無効になった場合には、ノルマを前提とした不利益処分も無効となります。また、このようなノルマの達成を指示すること自体について、不法行為として損害賠償責任が認められる場合があります。
4の事例に関連した裁判例(大阪地裁 平成27年4月24日判決)もあります。飛び込みで新規顧客開拓を1日100件行うよう指示された営業職の事案です。裁判所は、会社の指示は相当ハードルが高く、合理的な理由があるとは認められず、その他の事情をあわせて考慮した上で、指示は「労働者に対する嫌がらせであり、不法行為を構成する」と判断。慰謝料請求も認めました。
3 さいごに
自社商品の買取り強要は、場合によっては法令違反に当たり、刑事処分や損害賠償など企業に多大な悪影響を及ぼします。自社商品の買取りを強要する就業規則や職場風土は、すぐに見直さなければなりません。
また、厚生労働省は、職場のパワーハラスメントが、自社商品の買取り強要の背景にあるとみて、パワハラの防止措置を適切に講じるよう企業に呼び掛けています。
※表はすべて、厚生労働省のリーフレット「労働者に対する商品の買取り強要等の労働関係法令上の問題点」を参考に作成
※本内容は2026年3月10日時点での内容です。
(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)
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