1 いわゆる「就活セクハラ」への対策が義務化!
「就活ハラスメント」とは、
- インターンシップやOB・OG訪問などの後、食事やデートに執拗に誘う
- 「内定を出すから」と言って、他社の選考を辞退するよう要求する
などの就活生に対するセクハラ(セクシュアルハラスメント)やパワハラ(パワーハラスメント)のことです。
会社は、職場におけるハラスメントについて一定の防止措置を講じる義務を負っていますが、就活ハラスメントについてはこれまで、「(ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化等をする際に)同様の方針を合わせて示すのが望ましい」というレベルにとどまっており、各社の対応にバラツキがありました。
しかし、2025年6月11日公布の改正男女雇用機会均等法により
いわゆる「就活セクハラ(後述)」について、セクハラを防止するために必要な措置を講じることが義務化
されることになりました(公布日から1年6カ月以内に施行予定)。就活生を対象とするハラスメント規制も強化されつつあるのです。
また、就活生は応募する会社について知人と情報交換したり、SNSのグループに参加したりしています。「自社が就活ハラスメントをしている」との情報が出回ったら、そのような会社に応募しようとする学生はいなくなってしまうかもしれません。
ハラスメントにもいろいろありますが、今、経営者が注目すべきものの1つに就活ハラスメントがあるのです。改めてリスクや防止策を紹介します。
■厚生労働省「今すぐ始めるべき就活ハラスメント対策!」■
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/syukatsu_hara/enterprise/
2 就活ハラスメントの4つの種類
1)就活セクハラ(就活生に対するセクシュアルハラスメント)
就活生に対する身体的な接触や言葉による性的な嫌がらせです。
- 不必要に体に触る
- 「内定を出すから」と言って性的な関係を要求する
- 性的な冗談を言う、恋愛経験などを尋ねる
- オンラインの採用面接で、体全体や部屋の様子などを見せるよう要求する
- インターンシップやOB・OG訪問などの後、食事やデートに執拗に誘う
2)オワハラ(就活終われハラスメント)
就活生の内定辞退を回避するための嫌がらせです。
- 「内定を出すから」と言って、他社の選考を辞退するよう強要する
- 他社の選考と日程が重なることを知りながら、内定者懇親会に連れ出すなど、他社での就活を妨害する
- 内定を辞退しようとした場合、「ふざけるな」「嘘つきだ」と罵る。または「訴える」「内定を辞退するやつだと他の会社に言いふらす」などの発言をする
3)圧迫面接
就活生のストレス耐性や状況判断能力を試すため、採用面接で必要以上に否定的な発言をしたり、嫌な態度を取ったりする嫌がらせです。
- 採用担当者の質問に就活生が回答した際、正当な回答かどうかに関係なく否定する
- 「それで?」「理由は?」といった発言を必要以上に繰り返し、回答をできなくさせる
- 就活生の適性に関係なく、「ウチの会社には向いていない、通用しない」と言う
- 就活生の発言中にため息をつく、携帯電話を触るなど、あからさまに嫌な態度を取る
4)その他
1)から3)以外の就活ハラスメントとしては、パワハラを含め、次のようなものがあります。
- 「男のくせに覇気がない」「女はすぐ辞めるから困る」などと、差別的な発言をする
- 結婚したり妊娠したりした場合に、会社を辞めるかどうかを聞く
- 内定した学生に、内定者でつくるSNS交流サイトに毎日の書き込みを強要する。書き込みをしないと「やる自信がないなら辞退しろ」など、威圧的な態度を取る
- インターンシップに参加した学生に対し、人格を否定するような暴言を吐く
3 就活ハラスメントのリスク
1)就活ハラスメントは民法の「不法行為」になり得る
就活ハラスメントによって、就活生が精神的な苦痛を受けた場合、
民法の「不法行為」(故意・過失によって他人の権利や法律上の利益を侵害する行為)
が成立する可能性があります。ハラスメントを行った社員は損害賠償を請求される恐れがあり、会社も就活生から使用者責任を問われ損害賠償を請求される恐れがあります。
また、言動によっては刑法が適用される可能性もあります。
- 不必要に体に触る(不同意わいせつ罪)
- 内定を辞退しようとした就活生に「訴える」「内定を辞退するやつだと他の会社に言いふらす」などと発言する(脅迫罪)
- 人格否定や差別的な発言をする(侮辱罪)
2)会社のイメージが低下し、採用ができなくなる?
就活生がSNSに「就活ハラスメントを受けた!」と書き込んで、それが拡散されれば、ハラスメントが横行している会社だと見られ、会社のイメージは低下します。また、大学のキャリアセンターなどでは、就活ハラスメントに関する就活生からの相談を受け付けているので、大学に定期的に求人を出している会社の場合、今後の大学との関係にも影響が出るかもしれません。
就活ハラスメントに関する就活生からの相談は、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)でも受け付けていて、就活ハラスメントをした会社には、助言や指導が入る可能性もあります。
4 就活ハラスメントの防止のポイント
1)「会社と就活生は対等」という意識を持つ
就活ハラスメントが起きやすい会社は、就活生に対して「雇ってやる」「試してやる」といった上から目線の態度を取っているケースが少なくありません。雇用が懸かっている就活生は、こうした会社の態度を拒否することができず、それが就活ハラスメントの問題を深刻化させるのです。
会社として就活生に適性があるかを見極めることは大切ですが、入社した場合は、会社も労力を提供してもらう立場になるわけですから、常に「会社と就活生は対等」という意識を持って採用活動に臨むことが大切です。
2)「業務上必要ない対応」「行き過ぎた対応」を洗い出して排除する
就活ハラスメントが違法になる(民法上の不法行為などに当たる)場合、次の1.か2.に該当している可能性が高いです。
- 1.会社の対応(採用面接での質問など)が、業務上必要ない
- 2.業務上必要があったとしても、行き過ぎている
就活セクハラなどは1.に当てはまります。オワハラや圧迫面接などは、1.に当てはまるケースもあると思いますが、仮に「内定辞退を防ぎたい」「就活生のストレス耐性や状況判断能力を試したい」という会社の思惑があったとしても、2.に該当する可能性が高いです。
就活生に対する不法行為や不適切な言動が行われないように、2章で紹介したような言動を排除していった上で、就活生への対応の仕方を模索していきましょう。例えば、
- 就活生を内定者懇親会に連れていきたいのであれば、オワハラにならないよう本人のスケジュールを考慮する。就活セクハラ(個人的な食事やデートの誘い)にならないよう時間を区切り、2人以上の社員で参加し、個室はできるだけ避ける
- 場の雰囲気を和ませたいのであれば、就活セクハラ(性的な冗談など)や差別的な発言(「男は○○だから、女は○○だから」など)に該当しないジョークを織り交ぜる
- 就活生のストレス耐性や状況判断能力を試したいのであれば、圧迫面接という形ではなく課題などを与えてみる
といった具合です。
3)社内のハラスメントの防止措置を、就活ハラスメントにも適用する
第2章の1)で紹介した「就活セクハラ」については、冒頭で紹介した通り、2025年6月11日から1年6カ月以内に、防止措置を講じることが会社に義務付けられます。改正男女雇用機会均等法では、
- 就活生からの相談に応じ、対応するための体制の整備などが求められること
- 防止措置を講じない場合、厚生労働大臣による勧告が行われ、それにも従わなければ「企業名公表」の対象になること
などが定められています。
オワハラなど他の就活ハラスメントについては、特に防止措置は義務付けられていませんが、
若者雇用促進法に基づく事業主等指針に、会社は就活ハラスメントに対して「必要な注意を払うよう配慮する」取組を行うのが望ましい
という記載があり、前述したリスクの観点からもやはり防止措置を講じたほうがよいでしょう。
就活セクハラの防止措置の詳細は今後厚生労働省の指針で定められる予定ですが、現時点でも、職場におけるハラスメント(社員に対するハラスメント)については、労働施策総合推進法などにより、次の4つの防止措置が義務付けられています。現状は、この防止措置の対象範囲を、就活ハラスメントにも拡大するというのが無難な対応です。
- ハラスメントに対する対応方針(ハラスメントを許さない旨など。就業規則等の文書に規定)の策定、周知徹底
- ハラスメントに関する相談窓口の設置、運用
- ハラスメントに関する相談があった場合の事実確認、行為者の処分、再発防止策の検討
- プライバシーの保護、相談者などに不利益な取扱いをしない旨の周知徹底など
1.については、「会社として就活ハラスメントを許さない」旨と就活ハラスメントの具体的な言動の内容を、ハラスメントの方針に書き加え、社員に周知徹底します。加えて、外部の専門家(弁護士など)に依頼して、採用活動や面接、OB・OG訪問、インターンシップを担当する社員向けにマニュアルを作成したり、就活ハラスメントに関する研修を実施したりするのもよいでしょう。
2.については、選考に先立って、ハラスメントに関する相談窓口の連絡先を、就活生と共有します。万が一、就活ハラスメントが発生しても、相談を受けた後で迅速に対応すれば、大きなトラブルに発展するのを防げるかもしれません。社内の相談窓口で就活ハラスメントに対処できるかが不安な場合、外部の相談窓口を利用するとよいでしょう。
3.と4.については、基本的に社内のハラスメントでの対応と同じです。
以上(2025年11月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田絹助)
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