【事業承継】後継者を信じて教育し、見込みがなければ厳しくても引導を渡す

1 信じて教育する

事業承継で大切なのは後継者選びですが、その教育は大変です。なぜなら、後継者教育には、

  • 長い取り組みとなる(3年以上かかるケースが多く、10年以上を要する会社もある)
  • 後継者の覚えが悪くても、信じて教育し続けなければならない
  • それでも見込みがなければ、後継者候補を変えなければならない
  • 自身の経営哲学を押し付けるわけにはいかない

といった特徴があるからです。長期の取り組みの中で経営者と後継者が衝突することは避けられないでしょうし、後継者が経営者には不向きであることが分かれば、そのことを後継者に伝えて引導を渡さなければなりません。相手が自身の子供であっても例外はありません。

後継者教育は覚悟を決めた経営者でなければできない最後の人材育成です。それも、

後継者は「もう私には無理です」と辞退することができます。しかし、経営者に代わりはおらず、逃げることができない

ということです。実際、半数近い会社では経営者(社長)が直接教育をしています。

後継者教育の実施

教育方針は経営者の考え方次第であり、それが尊重されるべきです。この記事では、後継者教育をする経営者のお手伝いとして、重要となるポイントを紹介しています。「それはやめたほうがいいですよ」と、経営者には耳の痛いこともあるかもしれませんがお付き合いください。

2 経営者は、まずこの3つを理解する

1)経営感覚は少しずつ養われる

経営者の皆さんが若手だった頃は、「石にかじりついてでも3年」と、どんなにつらくても自分のためになると踏ん張ってきたことでしょう。今でこそ「あのときの経験があるから今がある」と迷わずに言えるでしょうが、若かった頃は「何でこんなに苦労しなければならないんだ」と思っていませんでしたか。経営者が長い時間をかけて培ってきた考え方は、やはり一定の時間をかけてゆっくりと伝えていかないと後継者がついてこられません。

2)主役は後継者である

後継者教育の主役はあくまでも後継者です。よく指摘されるポイントですが、多くの経営者は「取引先に後継者を連れて行ったときは、後継者にしゃべらせているから大丈夫」などと言います。これはこれでよいのですが、もっと大切なのは、目に見える言動というよりも、後継者の「考え方」を尊重することなのです。日ごろ「君の考えは甘い」と後継者を認めていないのに、訪問先に行ったときだけ引き立てられたら、後継者は余計に嫌になります。

3)つらさよりも楽しさを

経営者は幾多の困難を乗り越えてきており、そうした話をすることが後継者のためになると考えます。しかし、経営の厳しさやリスク、そして経営者の孤独などつらさばかり伝えられたらどうでしょうか。もともと「経営者になりたい!」と志していた後継者ならいざ知らず、迷いがある後継者にとっては、「やっぱり自分には無理かも……」となってしまいます。経営の楽しさや、やりがいを伝えなければなりません。

3 経営者にしかできない地ならし

1)事業承継の告知と反対者への対応

前章の3つをご理解いただいた上で後継者教育を進めていくのですが、まずは社内の地ならしをしましょう。事業承継や後継者のことを理解してもらうには長い時間がかかります。そのため、経営者は後継者と事業承継の時期を早い段階で告知したほうがよいでしょう。できれば、事業承継の2年ほど前に告知するのがよいと考えられます。

そうすると、残念なことに「退職する社員」が出てきます。また、特に幹部社員の中には、「若い後継者を下に見る者」「自分が後継者になれなかったことを妬む者」がいるかもしれません。そうした幹部社員は経営者が直接説得しますが、改善しないようなら処遇を考えざるを得ません。事業承継後に後継者に反旗を翻すようなことがあっては困るからです。ただし、処遇をする際は、その幹部社員がそれまで会社を支えてくれたことを忘れてはなりません。

2)社外の関係者に後継者をアピール

社内と同様に、社外の地ならしもします。金融機関などについては、事業承継計画書を提出しながら説明します。また、取引先や顧客については、できれば訪問して挨拶したいところですが、時節柄、オンラインでもよいでしょう。

こちらも残念なことに、相手から見ると、事業承継は取引終了や値下げを申し入れる絶好のタイミングになります。これを防ぐためには、挨拶などの際に後継者が頑張らなければなりません。経営者の横に置物のように座っているだけでは駄目で、後継者にきちんと自己主張をさせましょう。

3)後継者のための経営チームを組成

後継者と同年代などの社員も交えた経営チームを組成します。最初、後継者は自分だけで物事を決めることが難しいので、経営チームで議論し、最後は後継者が決めるようにして訓練していきます。経営チームの人選は後継者に一任しますが、経営者もサポートします。また、後継者を十分にサポートできる人材がいない状況はつらいので、後継者と同年代の社員の教育も行う必要があります。

また、経営者も経営チームに参加しますが、あくまでも主役は後継者です。後継者が筋の悪い意見を言うこともあるでしょうが、その場できつく指摘せず、肯定的に接します。そして、会議が終わった後に1on1で意見を擦り合わせるようにします。後継者が自分の子供であれば、一緒にお酒でも飲みながら話をすることも大事な教育です。

4 どこで育成・修業させるか

具体的な後継者教育の方法には、

  • 他社に勤務させる(社外教育)
  • 自社内の最前線で「現場の仕事」を経験させる(社内教育)
  • 各部門の管理職や新規部門の立ち上げなどを経験させる(社内教育)
  • 経営者の側近として傍らに置き、経営者としての「帝王学」を学ばせる(社内教育)
  • 経営大学院や研修機関など外部の機関で学ばせる(社外教育)

があります。社外教育については、「他社で修業する機会」を提供するサービスが数多くあるので、そうしたものを利用するのもよいでしょう。社内ではどうしても甘やかされてしまうので、先に外に出て、ビジネスの厳しさを知った上で自社に戻ってくれば、後継者の姿勢も違ってくるはずです。

また、国内外の大学院で学ばせ、経営の知識を一通り身に付けさせることも有効です。一定期間、業務と離れて勉強すれば集中できますし、通常の業務では得られない人脈も築けます。それに経営の知識を身に付ければ、幹部社員と同じ言語で話せるようになります。

5 アウトプットは中期経営計画の策定と実行

後継者教育の方法はさまざまあるわけですが、より実践的な方法は、

中期経営計画の策定と実行

です。中期経営計画には、「収益、予算、人員」などさまざまな要素が含まれます。当然、事業承継計画もその中に含まれるわけで、そうした計画を経営者と後継者が一緒に策定し、実行していくことほど、現場に根付いたアウトプットはありません。

後継者が社外で修業した経験があるのであれば、自社と他社の違いを踏まえつつ考え抜いた中期経営計画になりますし、自身が考えた新規事業を実行することで、経験しなければ分からない事業推進から多くを学ぶことができます。

以上(2025年8月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

「会社の飲み会は労働時間ですよね?」と社員に聞かれたらどう返す?

1 社員が自由に行動するか、会社から指示を受けて行動するか

会社が業務終了後に新人歓迎会や忘年会を開く際、時折「会社の飲み会は労働時間だから、残業代は出ますよね?」と尋ねてくる社員がいます。「そんなわけがないだろう!」と反論したくなるかもしれませんが、実は注意が必要です。

労働時間の基本ルールは、

  • 社員が自由に利用できる時間は、労働時間にならない
  • 会社から指示(黙示の指示も含む)を受けて行動する時間は、労働時間になる

なので、飲み会が「自由参加か、強制参加か」などによって結論が変わってくるのです。「労働時間なのに賃金を支払わない」のは違法ですし、逆に「労働時間でない時間にまで賃金を支払う」のではコストがかさみます。

そして、会社の飲み会以外にも、育児や介護のための中抜け、セミナー、健康診断など、日常の中で労働時間かどうか判断に迷うケースはさまざまあります。判断が複雑なものもあるので、事例別にイメージをつかんだほうが無難です。以降でいくつかの事例について、法令や裁判例に基づく解釈を紹介するので参考にしてください。

2 会社の飲み会

会社の飲み会が労働時間に当たるかは、参加が自由かどうかで決まります。

  • 「飲み会が自由参加」の場合、参加するかは社員次第なので、労働時間にならない
  • 「飲み会が強制参加」の場合、会社から指示を受けて参加するので、労働時間になる

という判断になります。なお、明確に「強制参加」としていなくても、「欠席する社員にその理由を執拗に尋ねる」「参加しない場合に評価を下げる」など、

  • 「暗に参加を指示している(黙示の指示)」と受け取れる場合、労働時間になる

と考えられます。

営業担当の社員が、上司から言われて取引先との飲み会に参加する場合も、基本的な考え方は同じです。取引上必要な接待で、上司の命令で飲み会に参加するなら労働時間になりますが、上司から「せっかく先方が誘ってくれているし、行ってみないか?」と誘われ、自分の意思で参加するレベルなら、労働時間にはならないでしょう。

3 中抜け

「子どもの保育園への送迎」「家族の介護」など、社員が私用で業務を中断することがあります。こうした中抜けの時間は、

会社から指示を受けず、社員が自由に利用できる場合、労働時間として扱わなくてもよい

とされています。労働時間を計算する場合、社員から1日の始業・終業時刻と一緒に中抜けの時間を報告してもらうなどして対応しましょう。

中抜けの時間は、「休憩時間(無給)」にすることも、社員の求めに応じて「時間単位年休(1時間単位で取得できる年次有給休暇)」とすることも可能です。ただし、どちらの場合も就業規則等で定め、事前に社員に周知しなければなりません。また、時間単位年休を導入するには労使協定の締結が別途必要です。

ちなみに、時間単位年休の時間は、社員の自由な行動が保障されていれば、労働時間になりません。例えば、就業時間が9時から18時までの会社(所定労働時間:8時間)で、社員が

  • 9時から11時まで、2時間の時間単位年休を取得
  • 11時から20時まで、8時間勤務(1時間休憩)

した場合、実際の労働時間は11時から20時までの8時間なので、法定労働時間内(原則として1日8時間、1週40時間)ということで残業は発生せず、割増賃金を支払う必要はありません。

4 テレワークや出張での移動時間

テレワークは、就業場所(自宅やサテライトオフィスなど)を、就業規則や雇用契約書で明示(限定)した上で実施します。とはいえ、社員が「より集中しやすい場所で作業したい」など、自分の都合でカフェや図書館に移動して作業することもあります。このように

社員自身の都合で就業場所を移動し、その間自由に利用できる時間は、労働時間として扱わなくてもよい

とされています。ただし、移動時間中に会社から指示を受けてノートPCなどで業務を行う場合や、会社がテレワークをやめて急遽出社するよう命じるなど、会社都合で就業場所を指定した場合は、会社の指揮命令下にあるとみなされ、労働時間になります。

出張の場合も基本的な考え方は同じです。自宅から出張先までの移動時間は、通常は労働時間になりませんが、上司と打ち合わせをしながら出張先に向かったり、会社から移動手段を指定されたり、会社から指示を受けてお金や製品を管理したりなど、会社の指揮命令下にあるとみなされる状況では、労働時間になります。

この他、建設業などの場合、一旦会社に集合してから現場に向かうことがありますが、この移動時間が労働時間に当たるのかも、移動の態様によって判断が分かれます。例えば、

  • 「会社に集合し、資材を積み込んでから現場に向かうよう、会社から命令されている」など、移動時間が自由時間とはいえないので、労働時間になる
  • 「現場に直行したい人は直行する」「会社に集合したい人は、集合してから向かう(車両運転者や集合時刻については各自が任意で決定)」など、移動の仕方を社員が自由に決められる場合、労働時間にならない

といった具合です。

5 始業時刻前の朝礼や着替え

会社の中には、始業時刻前の朝礼や着替えについて「始業時刻は9時だが、朝礼は8時50分から行う」「始業時刻前に作業着への着替えを完了させ、始業時刻とともに業務を始める」といったルールを設けているところがあります。

始業時刻に仕事を始められるよう準備をしておくのは、社員としてのマナーですが、

始業前の準備行為を「マナーでなく社内ルール」としている場合、労働時間になる

とされています。具体的には、

  • 朝礼への参加や始業時刻前の着替えがルール化され、それが常態化している場合
  • 朝礼に参加しない社員や、始業時刻前に着替えを完了しない社員への罰則がある場合
  • 朝礼に参加しないと、その日の業務を行うために必要な情報が得られない場合
  • 着替えを完了しないと業務を行えず、会社の更衣室でなければ着替えが困難な場合

などがそうです。

判断が難しいですが、始業前の準備行為については、「義務」ではなく「任意」であることを周知しておくのがよいかもしれません。義務付ける場合、就業規則等を改定して、朝礼や着替えにかかる時間分、始業時刻を前倒しする(または始業後に実施する)などの対応が必要になります。

6 仮眠

宿直など、1つの就業場所に長時間拘束される業務では、社員が現場で仮眠を取ることがあります。この仮眠については、

仮眠中、社員が会社の指揮命令下にあったかを基準に、労働時間になるかどうかを判断

します。例えば、ビルの管理会社の社員が、仮眠中でも、警報が鳴った際にすぐ対応するよう命じられている場合などは、

仮眠中も業務から完全には解放されているとはいえない(会社の指揮命令下にある)ので、労働時間になる

と考えられます。

ちなみに、一部の業種では、仮眠が労働時間として扱われないケースもあります。例えば、トラックの運転手は、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」という告示により、

拘束時間(始業から終業までの時間)が「労働時間(作業時間+手待ち時間)」と「休憩時間(仮眠時間を含む)」に明確に区分されているので、仮眠は労働時間に当たらない

と考えられています。ただし、仮眠中であっても会社の指揮命令下に置かれているものと判断される場合(待機状態など)は労働時間となりますので、運用には注意が必要です。

病院勤務の医師・看護師や、社会福祉施設勤務の職員は、常態としてほとんど労働する必要のない勤務に従事するなどの要件を満たす場合、

所轄労働基準監督署長の許可を得ることで、労働基準法の労働時間、休憩、休日に関する規定が適用されなくなる(深夜労働の規定は適用される)

というルールがあります。ちなみに、医師・看護師などのように24時間対応が求められる職種では、「オンコール対応」といって緊急時に備えて自宅などで待機することが求められますが、

  • オンコール対応の待機時間は、原則として労働時間には含まれない
  • ただし、呼び出しの頻度や、呼び出された場合にどの程度迅速に病院に到着することが義務付けられているか、待機中の活動がどの程度制限されているかなどを踏まえ、労働時間とみなされることがある

という考え方になるようです。

7 セミナー・研修・勉強会

セミナー・研修・勉強会(以下「セミナー等」)は、受講内容などによって労働時間になるかの判断が異なります。例えば、

  • 会社から参加が義務付けられている場合
  • 業務を遂行する上で必須とされている内容を学ぶ場合(資格取得講座など)
  • 参加しない場合に人事評価上の不利益があるなど、事実上参加が強制されている場合

などは労働時間になります。一方、社員が自己啓発やキャリアアップを目的に自分の意思で参加する場合、通常は労働時間になりません。

8 健康診断

健康診断はその種類によって、労働時間になるかの判断が異なります。例えば、

一般健康診断(定期健康診断など)は、職種に関係なく実施され、業務と直接の関連がないので、労働時間に含めなくてもよい(ただし、円滑な受診のため、受診時間分の賃金は支払うのが望ましい)

とされています。一方、特定の有害な業務に従事する社員に対して行う特殊健康診断(有機溶剤健康診断など)は、業務を遂行する上で実施が不可欠なので、労働時間になります。

以上(2025年10月更新)
(監修 弁護士 八幡優里)

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画像:design-Adobe Stock、ChatGPT

とくぎんDX応援コンテンツ 公開中!

徳島大正銀行では、「とくぎんDX・ICTサポート」として、お客さまの業務効率化を応援しています!


また、「とくぎんDXコンサルティング」では、

  • ビジョン策定、ITリテラシー恒常など、お客さまのニーズに応じたコンサルティングの実践「DXコンサルティング」
  • トランスフォーメーションのための課題解決の「気づき」を提供する「DXワークショップ」

など、幅広い支援を行っております。

とくさくnaviでは、実際に「とくぎんDX・ICTサポート」をご利用されたお客さまや、本サービスのパートナー企業についてのコンテンツを公開中!



本件にご興味をお持ちになりましたら、ぜひお気兼ねなくご連絡くださいませ。


本件に係るお問合わせについて
とくぎんサクセスクラブでは、DX担当者と連携し、会員さまのお役に立てるよう尽力してまいります。ご興味のある方は、下記の電話番号またはサイト内のお問い合わせフォームよりご連絡ください。
お電話:088-656-1125(担当:安友)

以上(2025年8月作成)

ITで「心」を変える――企業変革に挑むDXコンサルタントの哲学

デジタルでしがらみを断ち、企業を次のステージへ

DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が広く知られるようになった今、その本質を丁寧に紐解きながら、現場で静かに革命を起こしている人がいます。今回は、

「ITを使って、新しい会社の”幕開け”を支援すること。それが私たちの事業です。」

と語る、企業のDX化を支援するコンサルティング企業「株式会社i-SHIn(アイシン)ビジネス」の代表 関戸 紀仁氏にインタビューを行いました。

関戸社長01

■株式会社i-SHInビジネス■
「とくぎんDX・ICTサポート(※)」の提携パートナー企業。関戸 紀仁が代表取締役を勤める。中小企業を中心としたDXコンサルティング、経営改革、生産性向上支援等を行っている。
【株式会社i-SHInビジネスの想い】
・維新:様々なことを改めて、会社の幕開けを支援します。
・i-SHIn:愛情を持って最後までお客様と接する意味の「i」と、「IT」の「i」で新たな(SHIn)ビジネスを支援します。
・SHI:「士」をもって「志」を遂げます。
(※)地域の中小企業のみなさまのDX・ICT化を支援するため2023年6月にスタートした、当行のサービス。お客さまの課題解決や企業価値向上をご支援するとともに、地域のDX推進にさまざまな取り組みを積極的に行っている。

■DXとはズバリ言うとなんですか?

DXとは「デジタルを使って、しがらみを切ること」です。ちょっとわかりづらいので言い換えると、「デジタルを使って、新しいビジネスをやっていきましょう」ということです。しがらみを切るというのは、例えばAIを使って皆さんの業務を変えていきましょうとなった時、「仕事を奪われる」と感じる人がいます。その心理的抵抗が会社から見るとしがらみなんです。

このしがらみをどう切って、次のステージに行くかっていうのを、その仕事を取られる人が「嫌な気持ちなくやっていく」という活動を行っています。その人の仕事を否定するのではなく、時間的余裕を生み出し、その人がより価値ある仕事を担えるような「場づくり」が不可欠です。AIが無駄を取ってくれて、その分で人間がもっとクリエイティブなことに挑戦できる。そういう考え方なら、誰も傷つけずにDXが進められます。

■例えば銀行業も、スマホで全ての手続きが出来るなら、物理的な店舗は必要なくなるかもしれませんね。しかしそれでは、既存の役割が否定されるように感じる方も複数いらっしゃるかもしれません。「DX=ポジションの喪失」と捉えられかねない気がします。

それにこそ、しがらみがあります。役割の再定義、評価指標の見直し、人材の活用設計。DXとは、技術だけでなく、人間の価値を見直す作業でもあります。

人口減少が進む日本において、人材は貴重な資産です。DXは”人を減らす”手段ではなく、”人の力を最大化する”手段であるべきです。傷つけずに乗り越えるには、会社がその意義を丁寧に伝え、共に設計することが求められます。

僕自身も、「関戸さんの仕事、AIでもできますよね」なんて言われたら傷つきます。でも、僕もその一部はAIに任せています。それで空いた時間を、次の価値づくりに使うことが出来ます。変革とは”過去を否定”することではなく、”未来の可能性を信じる”ことです。iSHInのDX支援は、企業の中の一人一人の心に寄り添いながら、次のステージへ導いていきます!

■DX化を進めていくと、どのようなことが起こりますか?

DX化を進めていくことは人口減少に向けた“未来への準備”だと考えています。

人口減少により、10人必要な職場に6人しか集まらない時代が確実に来る。その未来に備えるには、今の社員で”2倍の生産性”を目指すしかない。構造DXとは、そのための布石でもあります。

今ならまだ間に合います。ITやデータに慣れていないと、将来の人出不足に対応できない。中小企業でもやれる仕組みを今のうちに整えていただきたいです。

あらゆる日常がログとして蓄積され、それが次のビジネスへとつながっていく。DXとは、デジタルによって”人間の行動を見える化”し、”未来を予測できる状態”へと進化させる挑戦なのです。

■2023年から当行と連携し、日々活動をしてくださっていますが、具体的にどのような活動をされていますか?

例えば、ものすごく危機感を感じている人はどんどんDX化を進めていて、ものすごく差が開いています。銀行の担当者、安友さんと「この技術で、今皆さんがやられている業務を電子化するとこうなります。」という話とともに、「組織のフラット化をし、ワークショップを開いたりして、役職に関係なくお互いの意見をぶつけ合える環境を作りましょう。」という活動をしています。

■先日の「DXワークショップ」でも、実務担当の方だけでなく、役員の方も参加されていましたね。

あの環境がいいんです。様々な部署の担当者の人が来られていて、すごく若い人からベテランの人もいらっしゃった。みなさんたくさん意見をしていたのが役員の方に直接届いていました。あのように、若い人や今まで喋ったことのない人からアイデアを集めるっていうのが今大事なんです。世の中の変化が激しいってよく言われるじゃないですか。激しすぎちゃって、自分が得意な分野しか追い付かないんですよ。得意な分野と仕事を合わせるために、いろんなアイデアを出すための場をつくるという活動を行っています。

関戸社長02

■この記事を読んでくださっている、とくぎんサクセスクラブ会員さまへメッセージをお願いいたします。

DX・ICTサポートと一緒に新しい一歩を踏み出しましょう!

■関戸さんとともに活動している、安友 義人さんにコメントをもらいました!

安友さんコメント

以上(2025年8月作成)

画像:徳島大正銀行

【DXワークショップ受講】サヌキ畜産フーズ株式会社 増田社長にインタビュー

事業ビジョンテーマ:すべては「本物のおいしさ」がもたらす、「人々の笑顔」を創造するために ~笑顔創造業~


「本物のおいしさで笑顔をつくる。」

香川県三豊市に本社を構えているサヌキ畜産フーズ株式会社は、冷凍トンカツをはじめとする食肉加工品の製造を通じて、”日本一のトンカツ工場”を目指していらっしゃいます。

事業ビジョンとして掲げる「笑顔創造業」という思いを軸に、OEM事業を中心に全国へと展開されています。

今回は、代表取締役社長 増田 浩氏にお話を伺い、食への情熱や企業としての哲学を感じる言葉の数々に触れることが出来ました。

増田社長01

■「トンカツで日本一へ」38歳の社長が導かれた15年間の挑戦と成長

「トンカツをつくっています」

そう語る増田社長の背後には、日本一のトンカツメーカーを目指した15年の奮闘と戦略がございます。

社長に就任されたのは2010年。当時38歳でいらっしゃった増田社長は、売上高40数億円規模の会社において「グループで100億円を目指す」という目標を掲げられ、周囲の懐疑的な声にも屈することなく、ビジョンを形にしてこられました。実際、2025年6月期には109億円を達成され、全国トップクラスの実績を誇る企業へと成長されました。

工場の新設や改修を経て、現在の冷凍トンカツ類の生産力は月間600トン(工場全体で月間1200トン)。競合他社の700トンに迫る水準となっており、今秋以降には720トンの達成を目指しておられます。驚くべきことに、この挑戦は「残業時間の削減」という制約の中で計画されております。

■雇用と賃金へのご対応

採用に対しては多額の予算を投じてこられましたが、成果はハローワーク経由の採用に軍配が上がっております。「求人広告は広告ではなく、採用ブランディングであるべき」とお話になり、最低賃金引上げの議論にも積極的な姿勢を示していらっしゃいます。

「利益を出した分だけ社員に還元する」という方針のもと、経常利益の一定割合を賞与として分配されており、賃上げについても継続的な取り組みを続けておられ、社員の定着率向上やブランド力強化を目指されております。

■業界を牽引する存在へ

近隣のトンカツメーカーを加えた冷凍トンカツ類の製造数は全国の約3割となり、地域とともに成長されながら業界全体の活性化を使命として取り組まれています。「自分たちがリードしなければ業界は動かない。だからこそ挑戦し続けたい」と語られるその姿勢からは、確固たる信念と責任感がうかがえます。


変化の時代を生き抜くために ――地方からのDX挑戦

■「任せる」経営と熱意が導くデジタル改革の現場

「怖いからといって避ける時代ではない。やることがあるって、実は会社にとっては”いいこと”なんですよ。」

増田社長が熱く語られるのは、デジタルの可能性と現場への信頼です。ご自身で最先端の情報を取り入れられ、DXワークショップを開催された背景には、会社を”次の段階”へ進めたいという明確な意志が感じられました。

「経営は”任せる”ことが重要」と語られる社長は、現場に自由度を与え、自律的な取り組みを支援することで、無理なくデジタル化を推進されています。

その一方で、「放任ではなく、信頼して任せること」への葛藤や工夫も感じられます。「やることが立派なら、黙って応援する。部下にも任せているし、細かく言わなくてもわかってくれる」とのお言葉からは、現場との信頼関係がDX推進の土台であるとお考えであることがわかります。

「メールの書き方ひとつでも、必要かどうか考えることがある。社外の方へメールで”お世話になります”や社内へのメールでの”お疲れさまです”という挨拶言葉はメールの冒頭には必要かもしれないが、それを簡素化できないか?しかし、その反面挨拶はきっかけとして重要である。そういう意味では挨拶を通じた関係づくりというのは、DXにもつながっているんじゃないかな」(増田社長)

社長のお言葉には、人と人との関係性をデジタルと融合させようとされる姿勢が感じられました。

増田社長02

「AIやロボットで資格や仕事が変わって、様々なことが便利になっても、トンカツのおいしさは変わらない。味覚や食感など人が感じるおいしさはずっとアナログであり、10年後も美味しいトンカツは、きっとおいしいまんまなんです。」(増田社長)

最先端技術と普遍的な価値を融合させながら、食品業界の未来に挑んでおられるお姿に、多くの企業が共感されつつあります。

以上(2025年8月作成)

画像:徳島大正銀行

現場で感じた変革の芽――DXワークショップ開催レポート

会員企業さまの課題に寄り添う、実践型の取り組み

7月23日、弊行のDX推進チームが、サヌキ畜産フーズ株式会社(香川県三豊市)さまを訪問し、現場密着型のワークショップを開催しました。

今回は、サクセスクラブ事務局も同行し、撮影を行わせていただきました。

今回のテーマは「日常業務の中のセキュリティリスク気づきワークショップ」。

単なる意見交換にとどまらず、参加者それぞれの視点が交差し、新たな気づきや可能性を引き出す対話が生まれました。今回のワークショップが、会員企業さまのさらなる飛躍につながることを心より願っております。

ワークショップの概要

2つの事例をとおして行われたワークショップは、日常業務に潜むリスクへの気づきから、その対策の立案、継続的な改善のポイントまで、包括的に学べるスケジュールで構成されました。


■ケースごとのグループディスカッションを通じて、多角的な視点が交わり、新たなリスクが把握することが出来ました。

ワークショップの様子1

■見学に来ていた社長もディスカッションに参加され、部署の垣根を越えたメンバーと真剣に意見交換を行われました。

ワークショップの様子2

ワークショップの様子3


■本件の担当者 安友 義人さんにコメントをもらいました!

安友さんコメント


本件に係るお問合わせについて
とくぎんサクセスクラブでは、DX担当者と連携し、会員さまのお役に立てるよう尽力してまいります。ご興味のある方は、下記の電話番号またはサイト内のお問い合わせフォームよりご連絡ください。
お電話:088-656-1125(担当:安友)

以上(2025年8月作成)

画像:徳島大正銀行

細かな管理を止めたら「隠れ残業」が減るって本当?

1 管理、管理の「北風政策」では隠れ残業は減らない?

「隠れ残業」とは、

定時で退勤打刻し仕事を終えたように見せかけて、実はその後も仕事を続けること

です。いわゆる「サービス残業」ですが、隠れ残業には「会社に隠れてこっそり残業する」といったニュアンスがあります。

隠れ残業をする社員の言い分は、おそらく図表のようなイメージでしょう。

隠れ残業をする社員の言い分

一方、会社は社員の労働時間を管理する義務を負っていて、だからこそ多くの会社が残業を許可制にしているわけです。残業削減は社員の健康のためでもありますから、経営者は、

社員が残業のルールを守らないなら、もっと厳しく管理するしかない!

と考えます。これは至極当然の考え方ですが、長年、このアプローチを続けてもなかなか隠れ残業がなくならないのも事実です。

そこで、この記事では、

厳しく管理するという「北風政策」ではなく、「許可制を廃止し、ある程度社員の自主性に任せて残業を認めるという、いわば『太陽政策』で隠れ残業をなくす」考え方

をご提案します。ただし、「そもそも仕事が多すぎ! 『残業はダメ!』なんて言われても無理だよ……」といったケースは、業務効率化や人材採用の問題なので、この記事で提案する方法では事態が悪化する恐れがあります。

2 隠れ残業で会社に生じるリスクを確認

まずは、隠れ残業がなぜ問題になるのかを簡単におさらいしましょう。

会社は、36協定(労働基準法第36条に基づく労使協定)を締結し、労働基準監督署に届け出ることで、36協定に定めた範囲内で社員に残業を命じることができます。残業を許可制にしている場合、社員が残業を申請し、上司がそれを承認します。

明確な申請と承認がなければ残業は発生しないように思えますが、実は「黙示の指示」があれば残業を命じたとみなされることがあります。黙示の指示とは、

  • 残業しないと終わらない量の業務を社員に命じている場合
  • 社員が残業をしていることを知りながら放置している場合

などのことです。隠れ残業が法的に労働時間と判断されると、会社が把握していない残業が出てきます。その影響で社員の残業時間が36協定の時間数を超えると労働基準法違反となります。もちろん、残業手当の支払いも必要です。

また、隠れ残業によって過重労働となれば、

社員が心身の健康を害してしまう

恐れがあります。そうなると、会社が安全配慮義務(社員が心身の安全を確保しつつ働けるような配慮する義務)違反を問われることにもなります。

3 許可制を廃止しつつ、残業を必要最小限にとどめる!

1)残業時間の上限を社員ごとに設定する

隠れ残業が引き起こすリスクを回避するために、会社は残業の許可制を導入するなどして管理しようとするのですが、なかなかうまくいきません。であれば、いっそ許可制をやめてしまうというのがこの記事の提案です。

具体的には、残業の許可制を廃止する代わりに

ことにします。その際、残業時間の上限(1日○時間、1カ月□時間など)を社員ごとに設定し、月初などに本人と上司に通知します。上限は業務量や経験、職種などに応じて判断します。

例えば、明らかに業務量が多い社員や、新商品の開発など重要かつ時間が読みにくい業務に従事する社員は、36協定の範囲内で残業を認めます。一方、他の社員のサポートが主な業務である社員などは、実績に応じた時間を設定します。新入社員など残業をするほどの業務がなければ、残業を禁止します。

なお、36協定自体が法律に違反していないかもチェックが必要です。36協定で定める残業時間には、「原則1カ月45時間、1年360時間まで」などの上限があります。労働基準法の「時間外労働の上限規制」といわれるものです。

2)残業時間と社員の健康状態は常にチェックする

上限設定後も、社員がその枠内で安全に働いているかは定期的に確認します。上司は部下の日々の残業時間を把握し、残業が多い人がいたら、声をかけ状況を聞きます。必要な残業であれば認めますし、臨機応変にフォローもします。また、状況確認の結果に応じて設定する残業時間の上限を見直すようにします。

残業の許可制を廃止する際、特に注意が必要なのは社員の健康管理です。許可制なら体調不良の社員が残業を申請してきても、上司がストップすることができます。しかし、許可制を廃止すると社員の健康状態が分からないため、日ごろのコミュニケーションが大切になります。上司が相談しやすい雰囲気を作り、仕事の遅れや体調不良を早めに共有できるような仕組みを整える必要があるでしょう。

4 社員を尊重し、信じる「太陽政策」を進める

この記事で提案しているのは、残業の仕方について社員の自主性を尊重し、申告(勤怠管理システムの打刻など)を信じる仕組みです。社員が申告した時間に基づいて残業手当を支払うため、いわゆる「固定残業代」とは違います。

一定期間内の残業時間の上限を決めますが、それは個々の社員と向き合い、その仕事の状況を把握した結果です。全体を管理するための「申請制度」よりも、一歩も二歩も社員と向き合うことになるため、会社の負担は増えるかもしれません。しかし、会社と社員の双方がルールを守ることによって新しい残業制度となるでしょう。

5 許可制を廃止しても法的な問題はないのか?

最後に補足すると、残業の許可制を廃止すること自体に法令上の問題はありません。ただし、

  • 36協定の締結・届け出をし、その範囲内で残業を認める
  • 労働時間を適切に把握する
  • 設定した枠よりも長い残業をした場合は、その分の残業手当をきちんと支払う
  • 設定した枠内であっても、休日や深夜の残業には法定以上の割増率で残業手当を支払う

ことには注意が必要です。

また、実態を正確に把握したいならば、パソコンの使用時間のログを出力し、勤怠管理システムなどの打刻内容と乖離(かいり)がないか定期的に調査する方法もあります。

以上(2025年9月更新)

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画像:Elnur-Adobe Stock

地域とともに舞うー『とくぎん連』阿波おどりレポート

夏の夜、鳴り物の音に誘われて街がひとつになる瞬間、それが阿波おどりです。

8月13日、今年も当行は『とくぎん連』として参加者110名に、『はなしか連』さま20名が加わり阿波おどりに参加しました。行員有志による連は、日頃の業務とは一味違う熱気と笑顔に包まれ、お客さまや地域の皆さまと心を通わせる貴重なひとときとなりました。

その様子をとくぎんサクセスクラブ事務局よりレポートとしてご紹介します!

阿波おどりの様子01

踊りの練習は7月初旬からスタートしました。

練習は業務終了後に行われ、「とくぎん阿波おどりクラブ」(※)に所属している行員の主導による練習が続きました。踊り手は、入行1年目の行員から、支店長、役員まで幅広く参加しており、部署・支店・年齢を越えた交流が生まれました。互いに励まし合い、少しずつ息の合った連へと成長していく過程は、まさにチームワークの結晶でした。

(※)とくぎん阿波おどりクラブ
当行に勤務しているメンバーで構成されており、今年で結成7年を迎えます。阿波おどりを通じた地域貢献や活性化に繋がる活動を行っており、取引先の慰問や各種イベント等に参加して阿波おどりを披露しています。

阿波おどりの様子02

いよいよ阿波おどり当日、本店ホールに『とくぎん連』、『はなしか連』が集結。

板東頭取の挨拶とともに出陣の熱が高まり、演舞への期待が膨らんでいきました。

阿波おどりの様子03

その後、会場を本店東側駐車場へと移し、演舞がスタート。阿波おどりの衣装に身を包んだ行員たちが「ヤットサー!」の掛け声とともに、笑顔で踊りの輪を広げました。時間が経つにつれて、踊り手たちの足取りは力強さを増していきます。ひとりひとりの動きが次第にひとつの“連”としてまとまっていく様子が見られました。

阿波おどりの動画は、こちらからご覧いただけます!
(下の画像をクリックしていただくと、YouTubeに遷移します)


本店東側駐車場での演舞を皮切りに、紺屋町演舞場、南内町演舞場、そして両国本町演舞場へと舞台を移し、それぞれの会場にて心を込めた踊りを披露しました。

各演舞場では、桟敷席、沿道の皆さまから温かい拍手と声援をいただき、大きな励みとなりました。

阿波おどりの様子05

阿波おどりの様子06

阿波おどりの様子07

今回の阿波おどりを通じて、地域の皆さまと心を通わせる貴重な機会をいただきました。

来年もまた、あの熱気の中で皆さまとお会いできることを楽しみにしています。

引き続き、温かいご支援を賜りますようお願い申し上げます。

【今回とくぎん連に参加した、とくぎんサクセスクラブ事務局の杉綾香さん、泉はる香さん、法人推進部の宮本波太郎さんに感想を聞いてみました!】

阿波おどりの様子08

【関連コンテンツ】

以上(2025年8月作成)

動画:ST企画 提供

画像:徳島大正銀行 谷本真二 提供

「ワーケーション」の労務管理は業務とプライベートの線引きが重要!

1 旅行先でテレワークをする「ワーケーション」

ワーケーション(Workation)とは、「ワーク(Work)=仕事」と「バケーション(Vacation)=休暇」を組み合わせた造語です。例えば、

旅行先でテレワークを行いながら、空いた時間に休暇を楽しむという柔軟な働き方

を指します。働き方改革や地域おこしにつながるという理由から、各自治体もワーケーションの普及・啓発に取り組んでいます。

ただ、旅行先で「仕事も遊びも両方する」という働き方なので、

業務とプライベートの境界をしっかり分けて労務管理

をしないと、「労働時間管理」「労災(労働災害)の判断」「ワーケーションの費用負担」などで思わぬトラブルに遭遇します。以降でポイントを確認していきましょう。

2 「始業・中断・終業」のタイミングはこまめに把握する

業務とプライベートの境界が曖昧だと、労働時間を正確に算定できないだけでなく、労災の判断や、ワーケーションに掛かる費用負担の判断なども難しくなります。

問題は、ワーケーションでは次の図表のように、1日の中で業務と観光が交互に発生したり、日によって労働時間が変わったりすることです。

ワーケーション

こうした問題を解決するには、

業務の「始業・中断・終業」のタイミングをこまめに把握すること

が大切です。社員から都度チャットツールで連絡を入れてもらう、あるいは1日に複数回の打刻ができる勤怠管理システムを使う方法があります。また、業務時間が長くなりすぎると社員が休暇を楽しめないので、「1日当たりの業務時間の上限」を事前に決めておくとよいでしょう。

次の問題は、賃金の取り扱いです。上の図表の場合、所定労働時間中に、1日目は5時間(8時間-3時間)、2日目は3時間(8時間-5時間)の不就労時間(働かなかった時間)があります。完全月給制の場合などを除き、不就労時間の賃金は控除できますが、ワーケーションを強く推進したいのであれば、

「半日単位」や「時間単位」の年休(年次有給休暇)の活用

を促すのが望ましいです。ちなみに、

  • 半日単位年休:導入する場合、就業規則への定めが必要
  • 時間単位年休(年5日まで):導入する場合、就業規則への定め、労使協定の締結が必要

です。なお、半日単位年休も時間単位年休も、計画的付与(会社が年休の取得日の計画を立て、日にちを指定すること)の対象にはならないので、取得はあくまで社員の意思に委ねられます。

この他、ワーケーションの開始前に、期間中の行動計画、予定表などを作成し、社員と共有しておくのも有効です。

3 業務中と自宅・ホテル間の移動中の被災は労災になり得る

労災には、業務上の事由による「業務災害」、通勤上の事由による「通勤災害」があります。

1)業務災害の考え方

業務災害は、

  • 業務遂行性(社員が会社の支配下にあるときに被災したこと)
  • 業務起因性(業務と被災との間に因果関係があること)

の両方を満たすと労災として認定されます。業務に従事しているときや、業務に付随する行為をしているときに被災すると、「業務遂行性」が認められます。

2)通勤災害の考え方

通勤災害は、

  • 自宅と就業場所
  • 就業場所と他の就業場所
  • 帰省先と赴任先と就業場所の三者間(やむを得ない事情がある場合)

のいずれかを、合理的な経路・方法で移動していて被災した場合に労災として認定されます。ただし、合理的な経路を逸脱(不要な遠回りなどをした場合)した場合や、移動を中断した場合(通勤と関係ない行為をした場合。ただし日用品の購入などは可)は、労災になりません。

3)具体的には?

ワーケーションで想定される事故と労災の判断の例は次の通りです。ただし、細かい判断は個別の案件ごとに異なるので、必ず所轄労働基準監督署などに確認をしてください。

【自宅と就業先であるホテルの往復中に負傷した場合】

→自宅と就業場所の間を移動しているので、労災になる可能性が高い

【就業先のホテルや、ホテルへ移動する機内等で業務をしていて負傷した場合】

→業務中の負傷なので、労災になる可能性が高い

【就業先のホテルで、業務の準備や休憩(トイレに行くなど)をしていて負傷した場合】

→業務に付随する行為なので、労災になる可能性が高い

【業務終了後、就業先のホテルから飲食店に移動していて負傷した場合】

→飲食は業務(出張)に付随する行為なので、労災になる可能性が高い

【業務終了後、飲食店で飲酒をして酔っ払い、ホテルに戻る際に負傷した場合】

→酔っ払うのは業務(出張)に付随する行為とはいえず、労災にならない可能性が高い

【観光施設に行った後、ホテルに戻ろうとして負傷した場合】

→自分の意思で観光施設に行っている場合、業務(出張)に付随する行為とはいえないので、労災にならない可能性が高い

4 業務に関する費用以外は個人負担としても差し支えない

ワーケーションで発生する費用としては、自宅とホテル間の交通費や宿泊費、通信費などが考えられます。結論から言うと、

通信費など業務に関する費用は会社が負担し、それ以外の旅行費用は本人負担とする

のが一般的です。

自宅とホテル間の交通費や宿泊費は、出張や社内研修のように会社命令に基づくものであれば、会社負担とするのが妥当です。ただ、会社命令ではなく社員自身の意思で就業場所を選択している場合は、個人負担としても差し支えないでしょう。

通信費については、会社がパソコンなどを貸与する場合、会社負担とします。社員が私物のパソコンなどを使って業務を行う場合も、業務に要した分については会社負担とするのが妥当でしょう。

この他、最近は、社員がホテルなどでワーケーションを行いながら、人間ドックや保健指導、運動指導などを受けられるサービスも登場しています。社員がこうしたサービスを受ける可能性がある場合、福利厚生として会社負担にするのか、社員の意思に任せて個人負担にするのかも決めておきましょう。

なお、会社の命令によらないプライベートの旅行の途中で一部業務を行う場合、

旅行に係る交通費を会社が負担すると、その費用が従業員への給与として課税される可能性がある

と観光庁のQ&Aで指摘されています。旅費や宿泊費をどのように扱うかは、税務上の取扱いも踏まえて検討しましょう。

■観光庁「労災や税務処理に関するQ&A」■
https://www.mlit.go.jp/kankocho/workation-bleisure/corporate/qa/

5 必要に応じて就業場所や対象者、使用機器などを制限する

ワーケーションの就業場所は、

原則として社員が自由に選択できるようにしつつ、「集中できなかったり、セキュリティーに問題があったりする場所は認めない」というのが基本

です。例えば、不特定多数が出入りし、パソコンの画面を見られる恐れがある場所は不適切です。どこまでやるかは会社次第ですが、参考として紹介すると、

始業前に就業場所の状況を映せるコミュニケーションツールを使用して、上司の承認を得ている会社

もあります。

また、ワーケーションの対象となるのは、

ある程度自立して業務を遂行できる社員

です。このあたりも会社次第になりますが、例えば、就業規則で「能力や勤務態度を考慮して、所属長が承認した者を対象とする」などと定めておき、事前にワーケーションの就業場所や期間を申請してもらう形にすると、管理がしやすくなります。

ワーケーション中に使用する機器については、会社が貸与するパソコンやWi-Fi端末を利用させるのが基本です。私物のパソコンなどの利用を認める場合は、

  • 会社指定のセキュリティーソフトをインストールさせる
  • フリーのWi-Fiには接続させないようにする

などの対策を取りましょう。Wi-Fi環境を整備しているホテルなどは多くありますが、セキュリティーの強度が異なるので、社員には会社から貸与したモバイルルーターなどを使用させるのが無難です。対策の詳細については、総務省の資料などが参考になります。

総務省「テレワークセキュリティガイドライン(第5版)(令和3年5月)」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/cybersecurity/telework/

以上(2025年9月更新)
(監修 監修 弁護士 田島直明)

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画像:pixabay

改正が見込まれる 暗号資産に関する税金の取り扱い

1 改正議論が本格化。暗号資産に係る税制の改正

資産形成の選択肢の1つ、暗号資産(ビットコインなどの仮想通貨)。ただ、興味はあるものの、「税金の取り扱いが難しそう」「他の金融商品に比べて税率が高い」といった理由で、なかなか投資に踏み出せない方も多いのではないでしょうか。

確かに、現状の暗号資産は、税金の取り扱いが株や債券といった通常の金融商品と異なり、課税のタイミングなどについて誤解が生じやすかったり、税率が高かったりします。しかし、近年は暗号資産を金融商品として位置付けるための税制の改正や、税務上の取り扱いについて見直しの議論が進んでいます。

  • 金融庁が暗号資産に関連する制度の在り方等の検証資料を2025年4月と6月に公開
  • 令和7年度税制改正大綱において、見直しの検討が明記される

この記事では、現状の暗号資産に関する所得税のルールから、今後、改正がされた場合に想定される取り扱いまでを解説します。

2 暗号資産に関する所得税の現状ルール

1)暗号資産は利益が大きくなるほど税率が高くなる(最大55%)

現状、暗号資産の利益は原則として、

「雑所得」に分類

され、給与所得や事業所得など他の所得と合算される、

「総合課税」の対象

となります。これにより、利益が大きくなるほど税率も高くなる累進課税が適用され、

最大で55%(所得税45%+住民税10%)

の税金がかかる可能性があります。株式投資の利益が通常20.315%の申告分離課税(他の所得と合算しないで税額計算する課税方式)であることを考えると、これは非常に高い税率であり、特に高所得者にとっては大きな負担となります。

累進課税の税率

2)5パターンもある課税されるタイミング

暗号資産に係る課税のタイミングは、日本円に換金したときだけでなく、様々な取引で発生します。なお、下記2.~5.の課税については、現金が手元に入らないにもかかわらず税金が発生するため、特に注意が必要です。

1.暗号資産を売却(日本円に換金)したとき

保有する暗号資産を日本円に換金し、売却益が出た場合、課税対象となります。

2.暗号資産で商品やサービスを購入したとみなされたとき

暗号資産を支払い手段として利用した場合、その暗号資産を一度売却し、商品やサービスを購入したとみなされ、利益が出ていれば課税対象となります。

3.暗号資産同士を交換したとき

例えば、ビットコインでイーサリアムを購入するなど、異なる暗号資産同士を交換した場合も、売却した暗号資産に利益が出ていれば課税対象となります。日本円に換金していなくても税金がかかる点に注意が必要です。

4.マイニング、ステーキング、レンディングなどで暗号資産を取得したとき

これらの活動によって新たに暗号資産を取得した場合、その取得時点での時価が所得として課税対象となります。

5.暗号資産を寄附したとき

寄附時点の時価と取得価額との差額が利益とみなされ、課税対象となります。

3 今後はどうなる? 税制改正議論の動向

現時点(2025年7月)では、暗号資産について、具体的な税制改正の内容が明示されているわけではありません。ただし、暗号資産の法律上の位置付けの改正については、具体的な議論が進んでいます。

【現状】は支払い手段として資金決済法の下に位置付けられていますが、【改正案】では投資対象として金融商品取引法の下

に位置付けられ、決済手段の1つとしての取り扱いから、金融商品としての取り扱いに変わると見込まれています。この改正が実現した場合、税務上最も大きな影響があるのは、課税方式と税率です。

暗号資産に係る税金の取り扱い

現状の総合課税かつ累進課税(所得が大きくなるにつれ税率が高くなる)の下では、合算する他の所得のバランスを取りながら、暗号資産の売却を考えなければならないなど、税金が投資の足かせ要因の1つともいわれています。そのため、今後の改正により、他の所得とは区別して課税される申告分離課税、かつ一律20.315%となれば、

売却時の懸案事項が減り投資の促進にもつながる

とみられています。

以上(2025年8月作成)
(監修 税理士 石田和也)

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