【健康経営】健康診断の対象者や診断項目はどうやって決まる?

1 ルールを押さえた上で工夫する

働き方が自由になる中で、健康診断についても、

  • 社員の自宅近くの病院で健康診断を受けられるようにした
  • テレワークで社員の健康が気になるので、会社の裁量で診断項目を増やした

といった見直しを検討する会社が増えています。このように社員のために工夫を凝らすのはよいですが、健康診断については労働安全衛生法と関係法令でさまざまなルールが定められていて、知らず知らずのうちに法令に違反してしまうケースがあります。違反となれば罰則(50万円以下の罰金)が科せられることもあります。

そうならないためには、会社はどのようなことに注意すればよいのでしょうか。この記事では、健康診断のルールを次の3つにまとめて紹介します。

  1. 対象者のルール:従事する業務によっては特殊な健康診断もある
  2. 診断項目のルール:法定項目は必ず、法定外項目は会社の裁量で実施
  3. 診断結果のルール:異常の所見がないかを確認。データの取り扱いに細心の注意を払う

2 対象者のルール

1)法定の健康診断の種類

法定の健康診断には、一般健康診断と特殊健康診断等とがあります。

  • 一般健康診断:社員の職種に関係なく行うもので、5種類ある
  • 特殊健康診断等:特定の有害な業務に常時従事する社員に行うもので、3種類ある

それぞれの内容は次の通りです。

画像1

健康診断の実施場所については細かい制限がないので、「医師が健康診断を行う医療機関」であれば、対象者ごとに実施場所が違っても問題ありません。ただし、

健康保険の保険者(全国健康保険協会など)から健康診断の費用補助を受ける場合、保険者が指定する医療機関

で行う必要があります。

なお、この他、図表1に含まれない(一般健康診断でも特殊健康診断等でもない)イレギュラーな健康診断として、

  • リスクアセスメント対象物に関する健康診断
  • 濃度基準値設定物質に関する健康診断

があります。

リスクアセスメント対象物とは、「ラベル表示、SDS等による通知」「職場における危険性・有害性の特定・リスク低減等」が義務付けられている危険・有害物質のことで、これを取り扱う事業場では、リスクアセスメント(有害性のリスク診断)の結果に基づいて社員の意見を聴き、必要に応じて健康診断を実施し、就業上必要な措置を講じる義務があります。

濃度基準値設定物質とは、リスクアセスメント対象物のうち、ばく露量が濃度基準値(厚生労働大臣が定める濃度の基準値)以下なら健康障害を生ずる恐れがない物質として厚生労働大臣が定める物質のことで、濃度基準値設定物質について、社員が濃度基準値を超えてばく露した恐れがある場合、速やかに健康診断を実施し、就業上必要な措置を講じる義務があります。

2)役員も現場で働いていれば対象

健康診断の対象は、原則として社員だけですが、

兼務役員(経営業務以外の業務にも携わり賃金が支払われる)は対象

になります。

3)パート等(パートタイマー、嘱託社員など)、派遣社員の場合

パート等については、一般健康診断の場合は図表2で「○」が付く社員、特殊健康診断等の場合は特定の有害業務に常時従事する社員が、健康診断の対象になります。

画像2

派遣社員の場合も、考え方はパート等(図表2)と同じですが、

  • 一般健康診断は「派遣元」に実施義務がある
  • 特殊健康診断等は「派遣先」に実施義務がある

といった違いがあるので注意が必要です。

3 診断項目のルール

1)法定項目と法定外項目

健康診断の項目には、

  • 法定項目:法令で受診が義務付けられており、原則として、社員に受診させる
  • 法定外項目:会社が裁量で決める「がん検診」などで、受診するか否かは社員の自由

があります。

例えば、雇入時健康診断と定期健康診断の法定項目は次の通りです。

画像3

費用は原則として全額会社負担ですが、35歳以上で健康保険の被保険者である社員については、「生活習慣病予防健診」として保険者から費用の補助を受けられます(全国健康保険協会の場合。健保組合によっては、健保組合独自の給付制度が用意されている場合があります)。

2)就業規則等の規定に注意

法定項目は法令に基づくため、無条件で社員に受診を命じられます。社員がこれを拒んでも、会社が健康診断の準備を整えていれば罰則(50万円以下の罰金)は受けません。一方、法定外項目は法令に基づかないので、

就業規則等に「診断項目の内容」「社員に受診を義務付ける旨」を定めるか、社員の同意を得ないと受診を命じることはできない

といった違いがあります。

また、法定項目と法定外項目とを問わず社員が受診を拒んだ場合、就業規則等の懲戒事由に定めがあれば、その社員を懲戒処分の対象とすることができます。とはいえ、違反内容に対して重すぎる懲戒処分は過剰制裁となるため、基本的には戒告・けん責など軽めのものとすべきでしょう。

4 診断結果のルール

1)診断結果の取得

診断結果は、個人情報保護法の「要配慮個人情報」に該当するため取り扱いに注意が必要で、法定項目と法定外項目とで次のような違いがあります。

  • 法定項目:社員の同意を得なくても取得可能
  • 法定外項目:「健康管理のため」など情報の利用目的を示し、社員の同意を得て取得

実務上、診断結果は会社に直接送られてくることが多いので、遅滞なく社員本人に通知する必要があります。

2)診断結果の保存

法定項目の診断結果は、

  • 一般健康診断の場合、5年間の保存
  • 特殊健康診断等の場合、5年間から40年間の保存(健康診断の種類により異なる)

が義務付けられています。なお、派遣社員の場合は少し特殊で、一般健康診断の診断結果は原則として派遣元のみが保存、特殊健康診断等の診断結果は派遣先が原本、派遣元が写しを保存します。

診断結果は、紙の他、データ(PDFなど)でも保存できます。なお、医師等の押印・電子署名は不要です。

3)診断結果を提供できる範囲

健康診断で異常の所見があった社員については、配置転換など就業上必要な措置について医師などの意見を聴きます。その際、医師などから過去の診断結果などの情報を求められた場合は、提供することが認められています。

この他にも、就業上の措置を実施する上で必要最小限な範囲、例えば、社員の健康管理業務に従事する産業医、保健師、衛生管理者などには過去の診断結果などの情報を提供できます。ただし、「上司」などは社員との関係は深いものの、健康管理業務に従事しないため、原則として情報は提供すべきではありません。

4)「健康診断結果報告書」の届け出

社員数50人以上で定期健康診断を実施した会社、特殊健康診断等を実施した全ての会社は、健康診断の実施後、遅滞なく所定の「健康診断結果報告書」を作成して所轄労働基準監督署に届け出なければなりません。なお、健康診断結果報告書については

2025年1月1日から「電子政府の総合窓口(e-Gov)」によるオンラインでの提出(電子申請)が義務化

されているのでご注意ください。

■厚生労働省「各種健康診断結果報告書」■

https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei36/18.html

■電子政府の総合窓口(e-Gov)■

https://www.e-gov.go.jp/

■厚生労働省「労働局・労働基準監督署への申請・届出はオンラインをご活用ください」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/denshishinsei.html

以上(2025年4月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 栗原功佑)

pj00291
画像:unsplash

「時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)」のひな型

1 36協定の更新忘れにご注意を!

会社は本来、労働基準法(以下「労基法」)の法定労働時間(休憩時間を除き、原則1日8時間、1週40時間)を超えて社員を働かせることができません。これは、違反すると6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられるという罰則付きのルールですが、

会社が社員の代表と「時間外労働・休日労働に関する協定(通称「36協定」)」を締結し、会社の住所を管轄する労働基準監督署に届け出る

と罰則が適用されなくなり(免罰的効果)、時間外労働(法定労働時間を超える労働)や休日労働(法定休日の労働)を社員に命じられるようになります。なお、36協定と呼ばれる理由は、この協定が労基法第36条に基づく労使協定(過半数労働組合または過半数代表者との書面による協定)だからです。

ちなみに、

36協定の有効期間は「最長1年」で、毎年更新が必要

です。36協定を更新せずに時間外労働や休日労働を命じるのは違法ですから、有効期間は必ず確認しておきましょう。また、同じ内容の36協定を毎年使い回せばそれでいいというわけではありません。例えば、2024年4月1日からは「時間外労働の上限規制」の適用を猶予されていた、

建設事業、自動車運転業務、医師、砂糖製造業(鹿児島県・沖縄県)が上限規制の対象

に追加されました(いわゆる「2024年問題」)が、こうした法改正への対応ができているかも都度チェックする必要があります。

以降で、36協定のポイントやひな型を紹介するので、確認していきましょう。

2 時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)のポイント

1)時間外労働・休日労働の時間数の上限は決まっている

会社は、社員に時間外労働や休日労働を命じる場合、次の内容を守らなければなりません。これを「時間外労働の上限規制」といい、これに違反する36協定は無効となります。

2024年4月1日からは、時間外労働の上限規制の適用範囲が拡大され、「新技術・新商品等の研究開発業務」を除くほぼ全ての業種・業務が対象となっています。

画像1

通常、36協定に定められる時間外労働の時間数は、どの業種・業務も原則「1カ月45時間まで、1年360時間まで」です。これを「限度時間」といい、限度時間の範囲内で時間数を定めたものを「一般条項」といいます。

ただし、臨時的な特別な事情がある場合に限り、36協定に「特別条項」を設けることで、限度時間を超える時間外労働を社員に命じることが認められます。

特別条項とは、「納期が著しく逼迫して限度を超える時間外労働をしなければ対応できない」など、特別で臨時的な事態を想定した定め

です。特別条項を設けた場合、会社は限度時間を超える時間外労働を定められますが、1カ月の限度時間(原則45時間まで)を超えられるのは、1年に6回までです(自動車運転業務、医師を除く)。また、限度時間を超える場合も、図表の「臨時的な特別な事情がある場合」の時間数を遵守しなければなりません。これに違反すると、労基法の罰則の対象になります。

2)特別条項を設ける場合、「健康確保措置」を定める必要がある

特別条項を設ける会社は、社員の健康・福祉を確保するための措置(健康確保措置)を36協定に定める必要があります。次のいずれかから措置を選択するのが望ましいとされています。

  1. 医師による面接指導
  2. 深夜業(原則として午後10時から午前5時までの労働)の回数制限
  3. 終業から始業までの休息時間の確保(勤務間インターバル)
  4. 代償休日・特別な休暇の付与
  5. 健康診断
  6. 連続休暇の取得
  7. 心とからだの相談窓口の設置
  8. 配置転換
  9. 産業医等による助言・指導や保健指導

なお、医師の場合は上記の健康確保措置に加え、医療法等に基づく「追加的健康確保措置」を定める必要があります。追加的健康確保措置の内容についてはこちらをご確認ください。

■厚生労働省「長時間労働の医師への健康確保措置に関するマニュアル」■

https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000677260.pdf

3)厚生労働省ウェブサイトの「36協定届」に追記して「36協定」とする

36協定は定められた様式で届け出る必要があります。限度時間の範囲内で時間外労働を命じる場合は一般条項の36協定届、限度時間を超える時間外労働を命じる場合は、特別条項付きの36協定届を使用します。次のURLからダウンロードできます。

■厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudoukijunkankei.html

また、実務上はこれらの様式に必要な事項を書き加えて、36協定にするのが一般的です。次章では、必要な事項を書き加えた36協定のひな型を紹介します。

なお、36協定はあくまでも労基法上の免罰的効果があるだけなので、実際に社員に時間外労働や休日労働を命じるには、就業規則等にもその旨を定めておく必要があります。

3 時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の会社によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした協定を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

 

【時間外労働・休日労働に関する労使協定(36協定)のひな型】

 

株式会社○○○○(以下「甲」)と従業員の過半数代表者△△△△(以下「乙」)は、労働基準法第36条第1項に基づき、法定労働時間を超える勤務(以下「時間外労働」)および法定休日における勤務(以下「休日労働」)に関して下記の通り協定する。なお、甲は時間外労働および休日労働が従業員の健康状態や家庭生活に与える影響に配慮し、時間外労働および休日労働が最小限のものとなるように努めるものとする。

第1条(具体的事由)

甲が従業員に就業規則第○条の規定に基づき時間外労働および休日労働を命じることができる具体的な事由は次の通りとする。

  1. 需要の増大・納期集中により、緊急増産が必要なとき。
  2. 急激な販売量増加により、営業業務並びに発送業務が必要なとき。
  3. 機械など製造設備が故障したとき。

第2条(時間外労働または休日労働を必要とする業務の種類および従業員数)

時間外労働および休日労働を必要とする業務の種類および従業員数は次の通りとする。

  1. 製品の組み立て、検査、梱包。従業員数(  名)。
  2. 販売。従業員数(  名)。
  3. 製造・販売のサポート業務。従業員数(  名)。
  4. 業務遂行のための企画・立案業務。従業員数(  名)。

第3条(延長することができる時間および起算日)

1)時間外労働時間の限度は次の通りとする。

  1. 1日につき8時間以内。
  2. 1カ月間につき45時間以内(起算日:毎月1日)。
  3. 1年間につき360時間以内(起算日:4月1日)。

2)所定休日(時間外労働)および法定休日(休日労働)の労働時間の範囲は次の通りとする。ただし、業務の都合によりやむを得ない場合は午後10時00分まで延長することができる。

  1. 午前8時00分から午後5時00分までの間で実働8時間以内。

3)前2項の延長時間は、時間外労働時間数の上限を示すものであり、常に当該時間まで時間外労働を命じるものではない。

第4条(休日労働の日数)

休日労働は1カ月につき4日以内とし、事前に甲および乙の協議を経た上で実施するものとする。

第5条(特別条項)

1)第3条にかかわらず、予測不能な機械等の故障、納期の著しい逼迫など臨時の必要がある場合は、甲および乙の協議を経た上で、1年につき6回を限度に時間外労働時間の限度を1カ月につき80時間(休日労働を含む)、1年につき720時間(休日労働を含まない)まで延長することができる。

2)前項において時間外労働および休日労働を必要とする業務の種類および従業員数は次の通りとする。

  1. 製品の組み立て、検査、梱包。従業員数(  名)。
  2. 販売。従業員数(  名)。
  3. 製造・販売のサポート業務。従業員数(  名)。
  4. 業務遂行のための企画・立案業務。従業員数(  名)。

3)第1項の延長時間は、特別な事情がある場合における時間外労働時間数の上限を示すものであり、常に当該時間まで時間外労働を命じるものではない。

4)会社および従業員は、常に業務遂行に要する時間に注意を払い、1カ月当たり60時間を超える時間外労働(休日労働を含む)が生じないよう配慮する。

第6条(従業員に対する健康および福祉を確保するための措置)

前条により時間外労働の範囲を延長する場合において、甲は従業員に対する健康および福祉を確保するために次の措置を実施する。

  1. 対象従業員に対する医師による面接指導。
  2. 対象従業員に対する11時間の勤務間インターバルの設定。

第7条(割増賃金率)

1)時間外労働における割増賃金率は、次の各号の率とする。

  1. 1カ月45時間以内の時間外労働:25%。
  2. 1カ月45時間を超える時間外労働:25%。
  3. 1カ月60時間を超える時間外労働:50%

2)休日労働における割増賃金率は、一律35%とする。

第8条(有効期間)

本協定の有効期間は○年○月○日から1年間とする。

 

締結日 ○年○月○日

                 甲 株式会社○○○○

                   代表取締役 ○○○○

 

                 乙 株式会社○○○○

                   従業員代表 △△△△

以上(2025年4月更新)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

pj00252
画像:ESB Professional-shutterstock

残業削減の3ステップ「ターゲット決め・実態調査・目標設定」

1 足元で増加中の残業時間

厚生労働省によると、残業(所定外労働時間)の月平均は、直近5年間では10時間前後で推移しています。

画像1

人材不足の問題もありますが、残業削減は変わらぬ経営の重要課題です。大切なのは、

現在の残業削減は、働き方改革やSDGsとも関係していますし、無理な定時退社命令がパワーハラスメントになる

ということです。会社は、これを踏まえて社員が健康で働きやすい環境を整えなければなりません。

これまで以上に重要になった残業削減を成功させるステップは次の3つですので、この記事で紹介します。

  1. (ターゲット決め)誰の残業を削減するかを決める:定量的な実績に基づいて決める
  2. (実態調査)本当に残業するほど業務が多いのかを探る:ヒアリングして理由を聞く
  3. (目標設定)目標を設定してやりきる:中間目標と最終目標を決めフォローアップする

2 (ターゲット決め)誰の残業を削減するかを決める

優先的に残業を削減すべき社員は、

  • 36協定の上限時間に抵触しそうな社員
  • 業務内容の割に残業が多い社員

です。

36協定の上限時間は、労働基準法の「時間外労働の上限規制」の範囲内で設定しなければなりません。時間外労働の上限規制とは、社員に時間外・休日労働を命じる際、会社が守らなければならないルールで、違反した場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金となります。

2024年4月1日からは、時間外労働の上限規制の適用範囲が拡大され、「新技術・新商品等の研究開発業務」を除くほぼ全ての業種・業務が対象となっています。

画像2

例えば、図表2の「通常」の会社に勤める社員の場合、図表3のような働き方をしていると、時間外労働の上限規制に抵触します。

画像3

3 (実態調査)本当に残業するほど業務が多いのかを探る

優先的に残業を削減すべき社員を決めたら、その社員に残業する理由を聞いてみます。最初、多くの社員は「業務量が多いから」と答えるでしょうが、その背景には、

  • 非効率な進め方をしているが、自分で気付いていない
  • 実は残業代を当てにしている

といった問題があります。

この辺りを明らかにするために、事前に業務内容の詳細を報告してもらい、ある程度、会社側で当たりをつけた上で、

  • やらなくてよい業務はあるか?
  • アウトソーシングできないか?
  • やめられないが、改善できそうな業務はあるか?

と質問してみましょう。その際、対象となる社員を批判するのではなく、冷静に状況を分析・改善する姿勢を崩してはいけません。そうして場を和ませつつ、残業代を当てにしていそうな社員にはその背景を聞いてみます。

こうして質問を繰り返していくと、残業削減の方向性が見えてきます。

画像4

4 (目標設定)目標を設定してやりきる

残業削減の方法が決まったら、目標設定をしましょう。例えば、

  • 現時点の状況(○年○月○日):時間外・休日労働が月○時間
  • 中間目標1(○年○月○日):時間外・休日労働が月○時間(○時間削減)
  • 中間目標2(○年○月○日):時間外・休日労働が月○時間(○時間削減)
  • 最終目標(○年○月○日):時間外・休日労働が月○時間(○時間削減)

といった具合に、中間目標、最終目標を設定します。中間目標を設定するのは、思ったより残業削減の効果が上がらない場合に、軌道修正を図りやすくするためです。

目標設定の後は、中間目標の達成期限ごとに残業削減の実績(何時間削減できたか)を確認し、中間目標に届いていない場合、社員にその理由をヒアリングします。考えられる理由としては次のようなものがあります。

  • 業務配分の見直しや各部署(部門)の配置の検討が十分ではなかった
  • 社員が真剣に取り組まなかった
  • 残業削減の方法が現実的でなかった
  • 中間目標の設定後に新しい業務が割り振られた

このサイクルを繰り返しても、残業削減が想定通りに進まなければ、社員個人のレベルでは、残業削減を進めるのが難しい可能性があります。その場合、

  • 事業の一部のアウトソーシング
  • 定時以降の取引が必要なクライアントとの取引縮小
  • 新たな人員の補充

など、会社レベルでの施策の実施を検討する必要も出てくるでしょう。

以上(2025年4月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

pj00374
画像:pixabay

勤務間インターバル制度の導入で最大840万円の助成金が!?

1 「勤務間インターバル制度」は助成金の対象

残業削減は既にさまざまな方法で試行錯誤されていると思いますが、やはり社員の過重労働が心配です。この記事では別の視点から、「勤務間インターバル制度」を紹介します。勤務間インターバル制度とは、労働時間等設定改善法で定められている

社員が終業してから次に始業するまでに、一定時間の休息を取ることを促進することで、社員の生活時間や睡眠時間を確保する制度(実施は努力義務)

です。就業規則等で休息時間数を設定し、終業から次の始業までの間隔が休息時間数に満たなければ、その時間数分、労働したものとみなしたり、翌日の始業時刻を繰り下げたりします。

図表1は、休息時間数が13時間の勤務間インターバル制度のイメージです。

画像1

本来の始業時刻は9時ですが、前日に21時まで働いたので、翌日の勤務は10時(前日の終業時刻から13時間後)からとしています。また、本来の始業時刻である9時から10時までの1時間については労働したものとみなしています(単に始業時刻を後ろ倒しにするパターンもあります)。

勤務間インターバル制度は働き方改革を実現するための1つの取り組みですが、いまひとつピンとこないこともあって導入は進んでいません。ただし、一定の要件を満たした場合には、

働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)の対象となり、最大840万円を受給できる可能性がある

ことをご存じでしょうか。助成金の支給を受ける場合、事前に所定の「交付申請書」を事業実施計画書などとともに、所轄都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に提出します。

2025年度の助成金の申請期限は、2025年11月28日まで

です。

画像2

■厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000150891.html

2 勤務間インターバル制度を導入する際のポイント

1)休息時間数の考え方・導入方法

過重労働を防止する上で、休息時間数が長いに越したことはありません。とはいえ、いきなり長い休息時間数で運用するのは難しいので、最初は短めに休息時間数を設定し、状況を見つつ徐々に延長していくのがよいでしょう。ただし、休息時間数が9時間未満だと、働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)の対象外になってしまうので注意が必要です。

なお、一度設定した休息時間数を安易に短くするのは避けるべきです。とはいえ、取引先との商談や社内の重要な会議などで、休息時間の確保が難しくなるケースもあります。こうした場合は、社員から事前に申請させるようにした上で、社員の体調維持に配慮しましょう。

実際に勤務間インターバル制度を導入する際は、労使での話し合いを土台とし、制度導入の検討、制度の設計、運用、見直しのフェーズに沿ってPDCAサイクルを回しながら進めることが大切です。厚生労働省が運営する「働き方・休み方改善ポータルサイト」では、超過勤務が発生しがちな業界ごとに「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル」や「導入・見直しのためのワークシート」が掲載されており、具体的な方法を確認する際の参考になります。

■働き方・休み方改善ポータルサイト「資料ダウンロード」■
https://work-holiday.mhlw.go.jp/interval/download.html

2)就業規則の規定例

以下は、休息時間数を9時間とした場合の就業規則の規定例です。なお、休息時間数を確保するため、本来の始業時刻から休息時間の満了時刻までは労働したものとみなし、その時間分の賃金は減額しないものとしています。社員に有利な規定となっていることをご認識ください。

【規定例】

第◯条(勤務間インターバル制度)

1)会社は社員に対し、1日の勤務終了後、次の勤務の開始までに、少なくとも9時間の継続した休息時間を与える。ただし、災害その他やむを得ない事情がある場合はこの限りでなく、会社は社員に対し、休息時間中であっても業務を行わせることができる。

2)前項の休息時間の満了時刻が、次の勤務の所定始業時刻以降に及ぶ場合、当該始業時刻から満了時刻までの時間については労働したものとみなす。

この他に、年末年始や業務の緊急性など特別な事情が生じた場合には、適用を除外する定めを設けるなど、柔軟に対応することも可能ですので、会社の実態に応じて検討しましょう。

3 導入している会社が少ないのはなぜ?

最後に補足として、なぜ勤務間インターバル制度の導入が進んでいないのかを紹介します。興味がある方はご確認ください。

画像3

勤務間インターバル制度を「導入している」と回答した会社はわずか5.7%です。そして、勤務間インターバル制度を導入していない理由は次の通りです。

画像4

導入しない理由としては、「超過勤務の機会が少なく、当該制度を導入する必要性を感じないため」という会社が多いようです。これは、働き方改革により長時間労働が是正されてきたことによる影響が大きいでしょう。

しかし、特定の業界では、依然として超過勤務が常態化している業界もあります。また、「人員不足や仕事量が多いことから、当該制度を導入すると業務に支障が生じるため」など、今の体制に勤務間インターバル制度が合わない会社もあるようですので、必要性や業務の実態、業界も踏まえた上で導入を検討することが大切です。

以上(2025年5月)
(監修 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

pj00325
画像:Ollyy-shutterstock

始動 とくぎんトモニリンクアップ! 徳島をつなぐ・結びつける。~メンバーが躍動する徳島の未来

2025年2月4日、徳島大正銀行の100%子会社として「とくぎんトモニリンクアップ」が設立されました。

経営を取り巻く環境がますます変化する中、とくぎんトモニリンクアップは徳島県に、具体的にどのようなつながりをもたらしてくれるのでしょうか。今回、「とくぎんサクセスクラブnavi」(とくさくnavi)では、とくぎんトモニリンクアップで躍動する若手メンバーに単独インタビューを行い、同社の具体的な活動や、徳島県の可能性についてお話をお伺いしました。

お話をしてくださったのは、とくぎんトモニリンクアップの役職員である、以下5人です。
5人のフレッシュな「ひとこと動画」をぜひご覧ください!
(それぞれの画像をクリックしていただくと、YouTubeに遷移します)


取締役 GX事業部担当役員 三木さん


GX事業部 部長 岸さん


事業サポート部 部長 補助金・助成金コンサルタント 河野さん


事業サポート部 補助金・助成金担当 太皷地(たいこぢ)さん


事業サポート部 森長さん

―とくぎんトモニリンクアップの事業内容を教えてください

とくぎんトモニリンクアップは、主に4つの事業を展開していく予定です。

1)GX(グリーントランスフォーメーション)事業

GX事業については、とくぎんトモニリンクアップが自ら太陽光発電などの発電事業者となって、地域に再生可能エネルギーを供給していきます。また、GXコンサルティングや、Jクレジットの創出・販売も進めることで、地域内の中小企業の脱炭素経営の支援を行い、地域のカーボンニュートラルを推進していきます。

2)一次産業活性化事業

一次産業活性化事業については、一次産業のプロである生産者や自治体などと連携しながら、新たな就業者を創出していくための仕組みづくり等を検討していきます。もちろん、魅力的な徳島の県産品もアピールしていきます。

3)持続可能なまちづくり事業

持続可能なまちづくり事業については、とくぎんトモニリンクアップがハブやコーディネーターとなって地域の事業者や自治体と連携し、地域資源や自然資本を活かした地域の課題解決に繋がるビジネスモデルの設計等を進めていきます。

4)補助金申請サポート事業

補助金申請サポート事業については、前述した3つの事業に付随する補助金の申請サポートを行います。既に徳島大正銀行で行っている補助金申請サポートを進化させ、GX関連の補助金申請にも力を注ぎます。

画像1

取締役 GX事業部担当役員 三木さん

―とくぎんトモニリンクアップの「強み」を教えてください

銀行は、銀行法によって行うことができる事業範囲が決まっています。しかし、近年は銀行法や関連規則などの改正によって規制緩和が進み、いわゆる「銀行業高度化等会社」として取り組むことができる事業の範囲が広がっています。

人口減少に歯止めをかけたり、県産品を広めていったりする上で、銀行本体で認められている事業だけでは限界があります。そこで、銀行業高度化等会社を設立し、私たちも事業主体となって、リスクを取りながら活動することにしました。

他の金融機関も銀行業高度化等会社を設立していますが、そうした事例も研究しました。先行する銀行業高度化等会社は、発電事業や地域商社など単独の事業を展開するケースが多いです。しかし、私たちは「GX、一次産業、まちづくり、補助金」を柱にして、多面的な事業展開を進めていきます。これらの事業の親和性を高め、相乗効果を生み出していきたいと考えています。

画像2

GX事業部 部長 岸さん

―設立日に小松島市と連携協定を結ばれましたね

2025年2月4日の設立と同時に、徳島県小松島市、サーキュレーション、イノベーションパートナーズ、徳島大正銀行、そしてとくぎんトモニリンクアップで「『地域経済の好循環に向けた共創推進』を目的とした連携協定」を締結しました。関係者で連携を密にしながら、小松島市の地域産業の振興、産業を支える担い手及び事業者等の創出・育成を推進していきます。

設立日に締結した連携協定ということで、メンバーの思い入れも大きいです。連携協定の参画者が小松島市の解決したい課題を理解し、各団体の有する環境や資源、特徴を活かしながら、新しい施策を共創していきたいと思っております。

画像3

事業サポート部 部長 補助金・助成金コンサルタント 河野さん

―小松島市のような連携は今後も増えていきそうですか?

はい。まずは徳島県内を中心に広げていきたいと考えています。

自治体によって抱えている課題は違いますので、プロダクトアウトではなく、マーケットインで、自治体が求める役務を提供できるようにします。もちろん、当社単独でのサポートには限界がありますから、連携先も増やしていきます。

地域に根差した銀行の一員である私たちが、地域の課題を解決するためのハブ機能・コーディネート機能を果たす。これが、とくぎんトモニリンクアップの真骨頂です。

画像4

事業サポート部 補助金・助成金担当 太皷地さん

―とくぎんトモニリンクアップが行うサポートのイメージを教えてください

例えばGX事業については、まずは徳島県内を中心に、中小企業が脱炭素経営を行うためのサポートをします。GXコンサルティングを行う会社は数多くありますが、私たちの強みは、徳島大正銀行の情報力・機動力を活かした豊富なネットワークにあります。様々な連携先と協力することで、「ワンストップ」サポートが可能になります。例えば、温室効果ガスの排出量の可視化から削減計画の策定までのサポートはもちろんですが、工場建設を検討される先には、その分野の専門家をお引き合わせしたり、検討の場に私たちも立ち会ってアイデアを出したりすることができます。

補助金申請サポート事業についても同様です。常時30件程度の申請をご支援しておりますが、先ほどの例でいうと、工場建設を検討される先に対して、申請可能な補助金をご提案したり、実際にその申請サポートをしたりもします。現在は経済産業省管轄の補助金が中心ですが、今後は環境省管轄の補助金にもサポート範囲を広げていきます。

画像5

事業サポート部 森長さん

―とくぎんトモニリンクアップの今後の展望をお聞かせください

まずは足場固めをして、安定的に事業を展開できるようにしていきます。

そして、とくぎんトモニリンクアップが活動することでご縁が広がり、結果として徳島大正銀行のお取引先が増えれば、私たちにとってもとてもうれしいことです。徳島大正銀行には古い歴史を誇る「とくぎんサクセスクラブ」もありますので、こちらからも様々なサービスをご提供できたらよいと思います。

とくぎんトモニリンクアップの一つ一つの活動は「点」ですが、それを有機的に結びつけて「面」とし、大きな渦を生み出していきます。

今後も、とくぎんトモニリンクアップの情報を、「とくさくnavi」を通じて発信していきたいと思っていますので、ご期待ください。

(聞き手 日本情報マート 代表取締役 松田泰敏)

ts20250408

昭和世代vsZ世代~「自分で考えてみて」と「教えてほしい」

1 「自分で考えてみて」と「教えてほしい」の線引きは?

ジェネレーションギャップは世の常……。今どきであれば、部下を持つ「昭和世代」の上司が、若手の部下である「Z世代(1990年代半ば~2010年代初頭生まれを中心とした世代)」との価値観のギャップに、戸惑うケースが多いかもしれません。例えば、仕事で昭和世代がZ世代に指導を出す際、

「自分で考えてみて」と「教えてほしい」のラインの見分け方で擦れ違いが生じる

ことがあります。

昭和世代の皆さんからすれば「少し考えれば分かる」ような質問を、部下がしてきたらどうしますか? 思わず「自分で考えなさい! 全く、若い世代はすぐに答えを聞きたがる!」と言ってしまうかもしれません。

ただ、Z世代は本当に楽をしたいから質問をしてきたのでしょうか? もし、本当に困っているのだとしたら……。こうしたときは、

お互いに自分がやるべき仕事を理解し、本当に相手に任せるべき仕事か(本当に自分ではどうにもならないのか)を見極める

ことが大切です。以降で、「自分で考えてほしい」と思っている昭和世代のAさんと、「教えてほしい」と思っているZ世代のBさんの“擦れ違い会話”を紹介します。両者の擦れ違いを解消するためのポイントを見ていきましょう。

2 その「自分で考えてみて」、本当に合っていますか?

営業職として働いている上司のAさん(昭和世代)と、部下のBさん(Z世代)。ある日、Aさんは、Bさんと定期面談をした人事部のCさんから報告を受けました。どうやら、Bさんは「Aさんに、もう少し指導してほしい、一緒に仕事をしてみたい」と思っているようです。

パワハラやモラハラ、ロジハラなど、とにかくハラスメントの問題で部下を指導しにくい時代……。自ら「指導されたい!」と申し出てくるとは見どころがあります。Aさんは「よし!」と気合を入れて、Bさんへの指導を始めました!

画像1

Bさん、クライアントに提出する、この資料のことだけれど……これはまだ、先方に提出できるレベルじゃないかもな。

画像2

見ていただいてありがとうございます! Aさんから見て、その資料のどんなところを修正したら、「提出できるレベル」になるのでしょうか?

画像3

どんなところって……それを考えるのも仕事だぞ? 自分で考えてやってみてくれ。

画像4

ええっと……そこを、具体的に指導していただきたいんですけど……。

画像5

だから、自分で考えてやってみてって! 自分で何が悪いか分からないようじゃ駄目だよ!

画像4

(そんなこと言われたって、参考資料もろくにないのに分かるはずがないよ……! 自分で考えてミスしたら、どうせまた怒るじゃないか……!)

画像3

(自分で考えるのも仕事だろ。自分で何が悪いのか分かっていないようじゃ駄目じゃないか。全く、最近の若いモンは……)

画像4

……。

画像6

(あれ……? 思った以上にへこんじゃっているぞ……? 仕事の手も止まっている……)

画像3

(……そういえば私もついこの前、知らない専門用語ばかり使ってくる人に出会って困ったことがあったな……。何が分からないのかさえ分からないから、ぼうぜんとしちゃうんだよな。Bさんも同じ状況なのかもしれない)

画像7

(そうか……何も分からないまま厳しく指導されても、余計に困ってしまうよね。今度指導をするときは、話しながらBさんの業務がどんな状況にあるのか、一緒に整理してみよう。もっと良い指導ができるかもしれない)

Aさんは自分の経験を思い出したことで、Bさんが「何が分からないのかさえ分からない」状況に陥っていることを理解し、指導のための糸口を無事、つかんだようです。

3 その「教えてほしい」、本当に合っていますか?

Aさんは自分の指導方法を反省し、次からは、「Bさんが分からないことをきちんと聞き出そう!」と決意しました。

ただ、「教えてほしい」と頼む前に、Bさんが「自分で考えなければならない」ケースもあります。例えば、仕事に必要な情報がそろっていて、ちょっと頭をひねれば答えを導き出せそうなときです。

画像2

Aさん、クライアントに提出する資料ですが……事例はどのようなものを載せればいいでしょうか。

画像7

なるほど。何を使えばいいか、見当もつかないって感じかな?

画像4

はい……どうすれば、うちのサービスを気に入ってもらえるのか、想像ができなくて。

画像7

この前の打ち合わせの感じだと、クライアントは商品の販売先を拡大したいという課題を持っている。だから、うちのサービスでそれをサポートする流れだね。Bさんならどうする? 合っていなくてもいいから、自分で考えて何個か挙げてごらん。

画像4

その正解が分からないから、Aさんにお聞きしているのですが……。

画像6

ええっ!?

画像8

(私が教えた事例をそのまま資料にしても成長なんてできないぞ……? でも、この間、Bさんに同じようなことを言ったら落ち込んでいたしなぁ……)

Aさんは、今度こそ本当に困ってしまいました。ここで押さえておきたいのは、Z世代は「デジタルネイティブ」であることです。物心ついた頃から当たり前にインターネットを使い、

「調べれば答えがすぐに分かる」環境で育ってきた世代

です。ですから、Bさんがすぐに答えを求めるのはある意味、自然なことですが、

仕事は、明確な「正解」があることのほうが少ない

のです。Z世代の成長のカギは、そこを理解できるかどうかにあるのかもしれません。

画像4

(何が正解なのか読めないし、的を射た質問ができないのが怖くて発言しにくい……! 分からないから聞いているんだし、教えてくれたっていいじゃないか……!)

画像4

(社会は厳しいなあ……。怖いけど、取りあえず自分でやるしかないのか。ええと、クライアントの悩みはこれ、弊社がお薦めしたいサービスはこれ、過去の事例は……あのファイルにまとめてあるんだよな……?)

画像2

(あれ……? よく考えたら今、分からないことって、そんなにないのでは……?

4 それぞれの「やるべき仕事」を理解し、共有しましょう

Bさんは、困ってしまったAさんと、もう一度話してみることにしました。

画像2

Aさん、さっきはすみません……。取りあえず自分でやってみます!

画像1

えっ!? 急にどうしたの!?

画像2

冷静になって考えてみれば、Aさんがおっしゃっていたように、「誰の、どのような悩みを解決したいのか」が分かっていれば、自分でも考えられるのではないかと思いまして……。それが私の「やるべき仕事」ですよね。すみません、甘えていました。

画像1

そうか、やってみてくれるならよかった……! 私も、この間は突き放すような言い方をしてしまって悪かったね。本当に分からないことなのであれば、これからは具体的に指導するよ。それが指導役としての「やるべき仕事」だもんな。

画像1

これからは、私もまず自分で考えて、頭の中を整理してから、Aさんに質問をするようにします!

AさんとBさんが、お互いの「やるべき仕事」を理解し、共有することで、2人の擦れ違いは解消されたようです。今回は、「自分で考えてみて」と「教えてほしい」の壁をテーマにしましたが、他のテーマであっても、

自分の役割を理解した上で、「自力でできることはやる」「人に任せられることは任せる」

ようにすれば、擦れ違いは解消され、お互いの良さが引き出されていくはずです。

以上(2025年4月作成)

pj00743
画像:ChatGPT

農業法人の設立~農事組合法人の場合~

目次

1 農事組合法人になることのメリット
2 法人形態を検討するときに考えるべきこと
3 設立の流れと、農地を所有・賃借するときの要件

1 農事組合法人になることのメリット

農業法人は、大別すると、会社法に基づく「会社法人」と、農業共同組合法に基づく「農業組合法人」があり、さらに細かくは次の図表のように分かれています。

画像1

この記事では農事組合法人について扱います。近年、農家の高齢化や引退に伴って、任意組織である集落営農全体の数は減っていますが、農事組合法人は増えています。農業経営の法人化をする上で、農事組合法人を選択するメリットには次のようなものがあります。

以降では、設立時に検討すべきことや設立の流れについて詳しく紹介します。なお、法人化そのもののメリットや、農事組合法人のポイントについて知りたい場合、次のコンテンツをご確認ください。

▶ 59021 個人経営はもう限界? 農業法人化で未来を切り拓く!
▶ 59022 農業法人の設立~会社法人の場合~

2 法人形態を検討するときに考えるべきこと

農事組合法人は「農業生産の協業によって、組合員の共同の利益を増進すること」が目的であり、事業内容は農業に関連するものに限られています。組合員も原則として「農民」(注)でなければならず、設立には3人以上の農民が必要で、雇用においては、組合員以外の常時従事者がその総数の2/3以下になるように調整しなければなりません。

(注)農業協同組合法において、農民とは「自ら農業を営み、または農業に従事する個人」です。

このような特徴から、農事組合法人は次のような場合に適しています。

なお、設立後に、会社法人に組織変更できるため、後々、事業を多角化したい場合でも、法人化する時は農事組合法人を選択することが可能です。また、農事組合法人には2つの区分があり、農業経営を行うか行わないかで分けられていることも押さえておきましょう。

1号法人:共同利用施設の設置や農作業の共同化を行う(農業経営を行わない)

2号法人:1号法人の事業に加え、農作物の生産や加工品の製造、販売なども行う(農業経営を行う)

画像2

3 設立の流れと、農地を所有・賃借するときの要件

農事組合法人の組織形態を取る場合、農業協同組合法の規程にのっとって設立手続きを進める必要があります。ここでは、農事組合法人を設立するときのおおまかな流れについて紹介します。なお、実際に農事組合法人を設立するときは、弁護士や税理士、行政書士、社会保険労務士などの専門家と相談しながら手続きを進めてください。

画像3

ただし、会社法人は設立しただけでは、農地を取得・賃借することはできず、その農地を所轄する農業委員会の許可を得るか、農地中間管理機構(農地バンク)を利用する必要があります。また、所有する場合には、一定の要件を満たした上で、農業委員会に届け出をして審査を受け、「農地所有適格法人」として認可を得なければなりません。なお、1号法人は農業経営を行わないという前提のため、農地の取得・賃借ができません。これら農地制度や農事組合法人の設立手順について詳しくは、以下のウェブサイトをご確認ください。

■農林水産省「農地制度」■
https://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/soudan/index.html
■農林水産省「農事組合法人とは(設立方法も含む)」■
https://www.maff.go.jp/j/keiei/sosiki/kyosoka/k_sido/kumiai/

以上(2025年4月更新)

pj59023
画像:pixabay

農業法人の設立~会社法人の場合~

目次

1 個人農家が会社法人になることのメリット
2 法人形態を検討するときに考えるべきこと
3 設立の流れと、農地を所有・賃借するときの要件

1 個人農家が会社法人になることのメリット

農業法人は、大別すると、会社法に基づく「会社法人」と、農業共同組合法に基づく「農業組合法人」があり、さらに細かくは次の図表のように分かれています。

画像1

この記事では会社法人について扱います。農業経営の法人化をする上で、会社法人を選択するメリットには次のようなものがあります。

以降で、設立時に検討すべきことや設立の流れについて詳しく紹介します。なお、法人化そのもののメリットや、農事組合法人のポイントについて知りたい場合、次のコンテンツをご確認ください。

▶ 59021 個人経営はもう限界? 農業法人化で未来を切り拓く!
▶ 59023 農業法人の設立~農事組合法人の場合~

2 法人形態を検討するときに考えるべきこと

会社法人は営利行為が目的であり、事業内容は農業に限りません。また、構成員1人で設立でき、雇用においても制限がありません。経営者に権限を集中させることや、他の農家あるいは農家以外から出資を受けることが可能です。

これらの条件から、会社法人は次のような場合に適しています。

会社法人には5つの区分があります。しかし、有限会社は新たに設立できないため、会社法人を設立する場合、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社から選択することになります。これら4つの法人形態は、それぞれの位置づけを図表2のように表せます。

画像2

合名会社と合資会社は、構成員のうち1名以上もしくは全員が無限責任を負うことになります。つまり、ある農業法人が多額の負債を抱えて破産した場合、その無限責任を負う構成員は、私財を投げ売ってでも負債を弁済しなくてはなりません。

よって、農業法人を設立するときは、おおむね株式会社か合同会社から選択されます。これらの違いは、図表3の通りです。

画像3

なお、農業法人で最も多いのは株式会社です。ただし、株式の全部において譲渡制限のある非公開会社に限られるという点に注意しなければなりません。

3 設立の流れと、農地を所有・賃借するときの要件

会社法人の組織形態を取る場合、会社法の規程にのっとって設立手続きを進める必要があります。ここでは一例として、株式会社を発起により設立するときの流れについて紹介します。なお、実際に会社法人を設立するときは、弁護士や税理士、行政書士、社会保険労務士などの専門家と相談しながら手続きを進めてください。

画像4

ただし、会社法人を設立しただけでは、農地を取得・賃借することはできず、その農地を所轄する農業委員会の許可を得るか、農地中間管理機構(農地バンク)を利用する必要があります。また、所有する場合には、一定の要件を満たした上で、農業委員会に届け出をして審査を受け、「農地所有適格法人」として認可を得なければなりません。これら農地制度や会社法人の設立手順について詳しくは、以下のウェブサイトをご確認ください。

■農林水産省「農地制度」■
https://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/soudan/index.html
■農林水産省「農業法人について『法人の設立手続』」■
https://www.maff.go.jp/j/kobetu_ninaite/n_seido/seturitu_tetuzuki.html

以上(2025年4月更新)

pj59022
画像:amosfal-Adobe Stock

個人経営はもう限界? 農業法人化で未来を切り開く!

目次

1 経営基盤を強化する農業経営の法人化
2 農業経営を法人化するメリット
3 農業経営を法人化する方法
4 農地を取得もしくは借りるときの規制

1 経営基盤を強化する農業経営の法人化

高齢化・引退などによる農業従事者の減少や担い手不足、耕作放棄地の増加……日本の農業を取り巻く環境は年々厳しくなっています。国際情勢の混迷による肥料・ガソリンなどの高騰や、気候変動による大雨・台風・日照りなどの被害を受けるリスクも高まっています。

こうした中、農林水産省は人材確保や農地集積、スマート農業推進などによる安定性・効率性・競争力の向上を図るべく、農業経営の法人化を推進しています。なぜ、個人でなく法人なのかというと、法人化することで次のようなメリットがあるからです。

以降で、これらのメリットを掘り下げていきます。

についても紹介しますので、ポイントを押さえた上で農業経営の法人化を検討しましょう。

2 農業経営を法人化するメリット

1)経営管理能力と対外信用力が向上する

個人農家は、事業資金と生活費の区別が曖昧になっている場合が多くあります。

法人化すると、これらを明確に区別することになるため、経営状況を把握しやすくなります。また、複式簿記による記帳や財務諸表の作成などの事務負担は増えますが、コスト削減を意識するようになるなど、経営責任に対する自覚を持つ機会が得られます。

さらに、財務状況が明らかになることで、取引先や金融機関への対外信用力が向上し、新規の販路開拓や、商品開発などのパートナーの獲得、資金調達の拡大において有利になります。

2)社会保険制度の整備で人材を確保しやすくなる

個人農家の従業員は、各自で国民健康保険と国民年金に加入することになります。また、従業員数が5人未満であれば、原則として事業主が従業員を労災保険と雇用保険に加入させる義務はありません。そのため、これらの社会保険制度が未整備になっている場合が多くあります。

法人化(会社法人または確定給与支払い制の農事組合法人)すると、従業員を健康保険・厚生年金保険・労災保険・雇用保険に加入させることになります。社会保険料の負担は増えますが、求職者に病気・けが・失業などのリスクに対して備えがあるという安心感を与え、人材を確保しやすくなるという大きなメリットが得られます。なお、従事分量配当制の農事組合法人化の場合は、組合員は事業主と同様に国民健康保険・国民年金に加入することになり雇用保険は適用されませんが、組合員以外の従業員はやはり健康保険・厚生年金保険・労災保険・雇用保険に加入させなければなりません。

3)経営の継承手続きが円滑になる

個人農家は、取引や契約の締結を個人名義で行うため、代表者の交代時に資産や契約に関する継承手続きが煩雑になります。

法人化すると、取引や契約の締結を法人名義で行うようになるため、代表者が交代しても資産の帰属や体外的な契約関係が継続します。

また、個人農家では、後継者は親族を中心に選びがちで、場合によっては候補者がいないという状況になりかねません。法人化すると、役員や従業員から後継者を選んだり他社と合併したりと、経営継承の選択肢が広がります。

4)所得が一定よりも多い場合、税負担を軽減できる

個人農家は、所得が多いほど税率が高くなる所得税が適用されています。

法人化すると、定率課税の法人税が適用され、所得が一定よりも高い場合、個人農家に比べて所得税の税率は低くなります。ただし、利益がなくても、法人住民税(都道府県民税・市町村民税)の均等割が課税されることに注意しなければなりません。

他にも、役員報酬は一定の要件を満たすことで損金算入できるため、そのぶん税負担が軽くなることや、欠損金の9年間(2018年4月1日以降に開始される事業年度において生じる欠損金は10年間)の繰り越し控除が認められる(個人農家は3年間)などの税制上のメリットがあります。

5)充実した公的支援策を受けられる

法人化すると、次の制度資金の融資限度額が拡大されます。

画像1

それぞれの制度融資の詳細は、以下のウェブサイトをご確認ください。

■日本政策金融公庫「スーパーL資金」■
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/a_30.html
■日本政策金融公庫「経営体育成強化資金」■
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/keieitaiikusei.html
■農林水産省「農業近代化資金」■
https://www.maff.go.jp/j/g_biki/yusi/06/1_0603.html

3 農業経営を法人化する方法

1)農業法人の区分

農業法人とは、稲作や畑作、施設園芸、畜産などの農業を営む法人の総称です。大別すると、会社法に基づく「会社法人」と、農業共同組合法に基づく「農事組合法人」があり、さらに細かくは次の図表2のようになります。

画像2

農事組合法人は、農業経営を行うか否かで区分されます。

2)農業法人の設立手続き

農業法人を株式会社や合同会社などの会社法人として設立する場合、その手続きは一般的な会社と同じです。農業組合法人の設立手続きについては、以下の記事をご確認ください。

▶ 59022 農業法人の設立~会社法人の場合~
▶ 59023 農業法人の設立~農事組合法人の場合~

4 農地を取得もしくは借りるときの規制

個人農家が法人化するに当たって、所有している農地の権利を農業法人に移行させたいとき、一定の要件を満たした上で許可を得る必要があります。

1)農地の取得や賃借を行うときの要件

農地の取得・賃借などを行う場合、その農地を所轄する農業委員会の許可を得るか、農地中間管理機構(農地バンク)を利用する必要があります。このとき農業法人は、次の要件を満たさなければなりません。

また、農業法人が農地を賃借する場合、次の要件も満たす必要があります。

2)農業法人が農地を取得するための認可「農地所有適格法人」

農業法人が農地を取得する場合、1)の許可とは別に、農地法に定められた要件を満たした上で、その農地を所轄する農業委員会に届け出て審査を受けなければなりません。ここで認可された法人を「農地所有適格法人」といいます。なお、農林水産省によると、2023年1月1日時点の農地所有適格法人は2万1213法人、認可を受けていない一般法人(リース方式)は4121法人となっています。

農地所有適格法人の要件は次の通りです。

画像3

3)農地所有適格法人の要件適合を確保するための規制・制度

農地所有適格法人は、農業委員会に届け出て認められた後も、その要件を満たし続けなければなりません。これを確認するために、次の措置が設けられています。

1. 毎事業年度ごとに農業委員会に報告する義務

農地所有適格法人は、毎事業年度の終了後3カ月以内に、農地所有適格法人報告書を提出し、事業の状況などを農業委員会に報告しなければなりません。報告をしない、もしくは虚偽の報告をした場合、30万円以下の過料が課せられます。なお、農地所有適格法人以外の農業法人でも、農地を借りている場合は、毎事業年度の終了後3カ月以内に農業委員会に報告することが義務付けられています。

2.農業委員会の勧告およびあっせん

農業委員会は、農地所有適格法人が要件を満たさなくなる恐れがあると認められるときは、その農業法人に対して必要な措置を取るべきことを勧告できます。このとき、農業法人から農地の所有権を譲渡したいと申し出があった場合、農業委員会はあっせんに努めます。

4)農地所有適格法人が要件を満たさなくなった場合

農地所有適格法人は、その要件を満たさなくなれば、農地所有適格法人ではなくなります。ただし、要件を満たさない状態が一時的なものであると認められた場合は、農地所有適格法人ではなくなったとは判断されません。

要件を満たすことが難しいと判断された場合、一定の猶予期間を経て、農業法人は所有している農地を譲渡し、貸し付けられている農地は所有者に返還しなければなりません。これを過ぎても所有している農地や貸し付けられている農地などは、最終的に国に買収されることになります。

以上(2025年4月更新)

pj59021
画像:Alexander Raths-Adobe Stock

今こそ「オール徳島」で渦巻き戦略! 地域商社トップ 横石知二さんに聞いてみた【とくさくnavi単独インタビュー】

2024年11月11日、公益社団法人徳島県物産協会を発展的に改組して、「公益社団法人徳島県産業国際化支援機構」(以下「機構」)を立ち上げ、12月16日から本格稼働を始めました。機構はいわゆる「地域商社」で、会長には、葉っぱビジネスで知られる株式会社いろどりの横石知二さんが就任しています。その他のメンバーも市場の代表、県庁や金融機関からの出向者、モデルなどそうそうたる顔ぶれです。

機構は徳島県庁にオフィスを構え、「オール徳島」を旗印に、県産品を、県外はもちろん、海外にも売り出すための仕掛けづくり、場面づくりを行っています。

今回、「とくぎんサクセスクラブnavi(とくさくnavi)」では、横石さんへの単独インタビューを行い、ワクワクが止まらないこれからの徳島について、お話を伺いました。

後半には、徳島大正銀行から機構に出向している市川諭さんのインタビューも掲載しています。

お二人のインタビューの内容をまとめた動画は、こちらからご覧いただけます!
(下の画像をクリックしていただくと、YouTubeに遷移します)



―機構の概要や狙いについてお聞かせください。

これまでの組織は、縦割りになってしまいがちで、一体的・組織的に活動できていないこともありました。縦割りだと連携が難しく、徳島県内の限られた生産品を取り合ってしまうことになります。しかも、これだけ人口が減っている中、このままでは立ちいかなくなってしまいます。

ですから、県外や海外に打って出る必要があるのです。これを個人ごと、あるいは機能ごとに縦割りで進めるのは難しいですから、今回、「地域商社」という枠組みをつくり、県産品の企画やプロモーションを一体的に行うことにしました。

まさに「オール徳島」での取り組みです!

徳島県産業国際化支援機構

―「オール徳島」とはすてきなフレーズですね

全国に地域商社は多数ありますが、私たち機構の特徴は、「民間と行政が一体となったプロモーションを強力に展開する」ことです。バイヤー同士の連携も進めています。

今、北海道などの地域に対しても県産品をアピールしているのですが、そのときに、例えば青果など単品を売り込むだけでなく、鮮魚や肉、加工品なども幅広く売っていくことが必要です。ただ、これまではそうした事例はありませんでした。青果のバイヤー、鮮魚のバイヤーといったように担当が違うので、自分が取り扱っていない商品の販売には積極的ではないのです。そこを改善し、「オール徳島」として、青果、鮮魚、肉、加工品などの垣根なく、紹介し合えるようにしています。うまくいけば、【億単位の売上】も狙えるわけで、こうした動きは既に始まっています。

加えて、機構では文化や観光も巻き込んで、さらに徳島を盛り上げていくことが戦略の柱になっています。官民が一体となって取り組む、“「オール徳島」の渦巻き戦略”です。

―「今こそチャンス」とおっしゃっていますね。

最近、「徳島の県産品が欲しい」という問い合わせが増えていて、「潮目が変わってきた」と感じます。先日も東京の大手スーパーの方が徳島に来て、「徳島に、こんなに魅力的な商品がたくさんあるとは知りませんでした」と言っていました。問い合わせは日本だけではなく海外からも来ており、今、追い風が吹いています。

魅力的な徳島の県産品

徳島には個性的な人が多く、そうした人にはこだわりがあるので、他人とは違う素晴らしいものを作ってくれるのです。ただ、売ることは苦手です。「個性的でまとまりにくいが、ものはいい。だけど売るのは苦手」というのが徳島の特徴です。

このような状況を機構が取りまとめていきます。「オール徳島」として魅力的な県産品を集約、発信していくことで、大いに可能性が広がっていきます。生産の現場に、「いよいよ、あなたの出番が来ましたよ!」と巻き込んでいくことで、活気も出てきています。

ですから、まさに「今こそ、世界に打って(売って)出なければならない」ということなのです。

これまで、徳島は観光が弱く、外の目から見て商品をブラッシュアップする機会がありませんでした。そこで、文化や観光も巻き込んで徳島ブランドをブラッシュアップして、付加価値を高めていきます。これこそが売るための「舞台」になると考えています。

―「オール徳島」をまとめる人材が重要になってきますね

はい、まさに人材が大切です。かつて、いろどりの事業で知り合ったとても有名な料理人が、「商品を作ることよりも、人を磨きなさい」と教えてくれましたが、機構にも通じるところがあります。

今、いろどりでやってきたような、「気を育てる」ことも始めています。気を育てるというのは、メンバーとの間に信頼関係を築き、「やる気を育てる」ということです。相手と接し、「この人ならこういうことができる」と一緒に取り組み、それができたら「もっと、ここまでできる」と、また一緒に取り組む。こうして丁寧に経験を積み重ねながら一緒に成長していくことが、私は好きです。できることが増え、他人から認めてもらえたら誰だってうれしいことです。自分に役割があるということは幸せなのだと思います。

ただ、少し迷っています。

私のこのやり方は時間がかかります。タイミングによっては、各分野のプロフェッショナルを集め、戦略を立てて一気呵成(かせい)に取り組んだほうがスピーディーで良いこともあります。

今は、しっかりと状況を見極めながら、一つ一つ積み上げていくことと、一気に組織をつくってアクセルを踏むことのバランスを取っています。

こうして人が育ち、取り組みが大きくなって盛り上がっていく中で、若者が「面白そうだ! 自分もやってみよう!!」と、当事者になってチャレンジしてくれたらうれしいです。

―具体的な取り組みでは、「動物的なひらめき」を大切にしていると伺いました。

用意周到に段取りをしても、想定通りにはいかないことはよくあります。ですから、私の場合、どちらかというと動物的なひらめきを大切にしています。

横石知二さん

例えば、東京でマルシェに出展した後、徳島に帰る深夜バスの中でもいろいろと考えています。「どれくらいの人数が乗っているのか、どの年代の人が多いのか、そもそもなぜこのバスに乗っているのか?」といったことを考えながら、世の中の動きを捉え、ビジネスのヒントを探しています。

いろどりの始まりも、たまたま立ち寄った大阪・難波の『がんこ寿司』で、あるお客さんがつまもののモミジを大切そうに、きれいなハンカチの上に置いて眺めている姿を見た瞬間でした。「葉っぱが売れる!」とは、まさに動物的なひらめきで、そのアイデアにとても興奮しました。『がんこ寿司』には、1000万人のお客さまが来たそうですが、その中で葉っぱを売ろうと思ったのは私だけかもしれないですから、1000万分の1のひらめきだったわけです。

きちんと戦略を立て、しかも動物的なひらめきは逃さずに、県産品を販売する舞台を整えていきます。

―他の組織と連携する計画はありますか?

そうですね。それぞれの組織には良さがあって、その良さがどのように相乗効果を発揮するかということでしょうね。成功する連携というのは、それぞれの組織が「成長していくぞ!」と上を向いていないとダメで、一方が上を目指して成長していても、もう一方がそれについてこなかったり、マイナスだったりすると、いい連携にはなりません。

どのような組織と連携するかはこれからの課題の1つですが、成長を目指していく中で、お互いにとって良い連携先と巡り合えたらよいと思います。

―機構の目指す姿についてお聞かせください

まず売上をしっかり伸ばすことです。数字が全く上がらないのは問題ですから。

同時に「人」です。想いのある人をどれだけ集められるかということですが、そのためには、機構に関わる仕事を楽しいな、面白いなと思ってもらえるようにしなければなりません。「良かった、楽しかった、面白かった、うれしかった」。こんな言葉が次々と生まれてくるようにしたいですね。

いわゆる大手商社と違って、私たちは地域商社ですから、売上はもちろんですが、やはり徳島県の皆さまや、そこに関わってくださる方の幸せや喜びを追求していく存在でなければならないと思っています。

その結果、売上が5億円、10億円、20億円、100億円となっていけたらよいです。今は、それが実現可能なタイミングだと思います!

——–

横石さん、単独インタビューにご対応いただき、誠にありがとうございました。機構を中心に動き出す徳島の未来がとても楽しみになりました。

さて、このような横石さんを支える、頼れる機構のメンバーの1人が、徳島大正銀行から出向してきた市川さんです。機構の現状について、メンバーの立場からお話をお伺いしました。ここからは、市川さんへのインタビューをご紹介します。

―日々、どのような活動をされているのですか?

機構は2024年12月16日から本格稼働したばかりですが、改組前の徳島県物産協会から引き継いだ案件をこなしつつ、どのように“「オール徳島」の渦巻き戦略”として展開していくかを試行錯誤しています。

市川諭さん

打ち出しやすいのは、ストーリー性がある商品です。例えば、「農薬を使っていない」などのこだわりのある商品は打ち出しやすいです。海外視察で発見した魅力的な商品が、徳島県にあるかを探すというアプローチもします。とにかく、「これは売れるかもしれない」という商品を、日々探しています。

―新しい発見はありましたか?

頻繁に現場を訪れて生産者の話を聞いたり、各市町村の役場に行ったりして情報収集をしていますが、「徳島に住んでいるからこそ気付かないことがある」と感じます。

例えば、「藍(あい)」です。徳島の人から見ると「藍」は身近な工芸品なのですが、移住してきた方は、私たちが気付かない付加価値を付けてくれていて、美術品っぽくしたり、企業ロゴを藍染めで作ったりしています。

この他にも、阿南の竹など可能性のある商材を発見しています。阿南の竹は、住民の高齢化で竹が放置されている状況なので、何とか商品化できないかアイデアを検討しています。

―今後の意気込みをお聞かせください

いわゆる地域商社には、「企画、生産、流通、販売」などの機能がありますが、機構ではこれらを一貫してサポートしていきたいと考えています。そのために、他の機関との連携もしていく必要があると思います。

横石会長はものすごい行動力のある人で、様々な情報が集まってきます。その背中を見て刺激を受け、自分の背中を押してもらいつつ活動しています。

これまでの銀行員として養ってきたノウハウも活かしつつ、「オール徳島」で徳島の魅力を広く伝えていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

横石知二さん・市川諭さん

(聞き手 日本情報マート 代表取締役 松田泰敏)

ts20250407