ビジネスケアラーに対する支援

高齢化や生産年齢人口(15歳~64歳)の減少が続く中で、ビジネスケアラー(仕事をしながら家族等の介護に従事する者)の数は増加傾向にあり、介護に起因した労働総量や生産性の減少が懸念されております。

介護と仕事の両立実現に向けては、職場・上司の理解が不足していることや、両立体制構築に当たっての初動支援が手薄いこと、介護保険サービス単体ではカバー範囲が限定的であること等が課題として挙がり、従業員個人のみでは十分な対応が困難な状況です。

本稿では、日本でのビジネスケアラーの人数推移を解説するとともに、企業が行える仕事と介護の両立支援について、ご紹介してまいります。

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ビジネスケアラーに対する支援

高齢化や生産年齢人口(15歳~64歳)の減少が続く中で、ビジネスケアラー(仕事をしながら家族等の介護に従事する者)の数は増加傾向にあり、介護に起因した労働総量や生産性の減少が懸念されております。

介護と仕事の両立実現に向けては、職場・上司の理解が不足していることや、両立体制構築に当たっての初動支援が手薄いこと、介護保険サービス単体ではカバー範囲が限定的であること等が課題として挙がり、従業員個人のみでは十分な対応が困難な状況です。

本稿では、日本でのビジネスケアラーの人数推移を解説するとともに、企業が行える仕事と介護の両立支援について、ご紹介してまいります。

1 ビジネスケアラーなどの推移

2030年には家族介護者833万人に対して、その約4割(約318万人)がビジネスケアラーになるとされています。また、ビジネスケアラー発生の労働生産性損失や離職に伴う経済損失額は、約9兆円に上ると推計されています。

家族介護者・ビジネスケアラー・介護離職者の人数の推移

(経済産業省「家族介護者・ビジネスケアラー・介護離職者の人数の推移」)

政府は2016年に「介護離職者数ゼロ」を掲げ、「介護離職の防止」に対する取り組みが進められてきました。しかしながら、2020年時点でビジネスケアラーは介護離職者に対して37倍超の人数がおり、深刻な問題となっていることが見て取れます。

2 仕事と介護の両立支援

2017年の法改正で、介護休業制度の見直しなどが行われ、介護離職者数は大きく増加することなく推移しています。一方で、在職しているがゆえ問題が見えづらいビジネスケアラーに対し、フォローが行き届いていない状況が生まれているのではないでしょうか。

企業としては、従業員にヒアリングなどを行いながら、以下のような法定の介護支援策の推奨や、必要に応じて法定外の支援策を検討すること、職場内での理解と助け合いを促していくことが肝要です。

《育児介護休業法に基づく介護支援》

介護休業

対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として分割で休業を取得できる。

介護休暇

介護や世話をするために、年5日(対象家族が2人以上の場合は、年10日)まで、1日または時間単位で休暇を取得できる。

所定外労働の制限
(残業免除)

介護をするために申請した場合、所定外労働を免除しなければならない。

時間外労働の制限

介護をするために申請した場合、1か月について24時間、1年について150時間を超える時間外労働をさせてはいけない。

深夜業の制限

介護をするために申請した場合、深夜に働かせてはいけない。

短時間勤務等の措置

短時間勤務制度、フレックスタイム制度、時差出勤の制度、介護費用の助成などの措置を講じる

3 さいごに

前述の通り、今後ますますビジネスケアラーが増加することが想定されており、看過しては生産性の低下、ひいては介護離職に至る可能性もあります。これは企業にとっても労働者にとっても不幸でしかありません。

高齢化が進展するこれからの時代を見据え、皆が介護を行う当事者になり得るという可能性について認識を共有しながら、ビジネスケアラー対策への準備を進めてみてはいかがでしょうか。

※本内容は2023年9月11日時点での内容です

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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【債権回収(16)】支払督促制度の利用

書いてあること

  • 主な読者:裁判所の関与で相手にプレッシャーをかけ、強制的に債権回収したい経営者
  • 課題:通常の訴訟のような時間、費用を掛けたくない
  • 解決策:債務者の所在地が分かっている金銭債権などの回収に有効。相手が異議を申し立てると通常の訴訟手続に移行する

1 支払督促制度を利用する意義

内容証明郵便などで催促をしても相手が債務を弁済してくれない場合、「支払督促制度」を利用する方法もあります。支払督促制度とは、

簡易裁判所の裁判所書記官から、債務者に対して「金銭等の支払いを命じる督促状(支払督促)」を送ってもらう制度

です。内容証明郵便とは違い、裁判所からの督促となるので、相手に相当のプレッシャーをかけることができます。また、

支払督促制度で発付される「仮執行宣言付支払督促」は「債務名義」の1つ

です。債務名義とは、「強制執行」をする根拠となる文書であり、「債権債務の存在を公に認めるもの」です。また、強制執行とは、「判決等によって債務の履行が決まっているのに相手がそれに応じない場合、国家の強制力によって判決等で定められた内容を実現する」ことです。

支払督促制度のメリットとデメリットは次の通りです。

【支払督促のメリット】

  • 債権者(申立人)は裁判所に出頭しなくてよい
  • 対象は金銭、有価証券など金銭債権が中心で、請求金額の制限がない
  • 債務者からの異議がなければ早くて1カ月程度で強制執行手続ができる
  • 費用は通常の裁判の半額程度

【支払督促のデメリット】

  • 債務者の住所が不明の場合、支払督促制度は利用できない
  • 債務者は容易に異議を申立てることができ、その場合、債務者の住所地、本店所在地を管轄する裁判所にて通常訴訟に移行する

2 支払督促の流れ

支払督促制度の流れは次の通りです。

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1)支払督促の申立書の提出

通常の訴訟の場合、債務履行地が債権者の主たる事務所等であることが多いです。その場合、債権者の本店所在地を管轄する裁判所に訴えを提起することができますが、支払督促の申立ては、債務者の普通裁判籍(債務者の住所、主たる事務所等)の所在地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に対して行う必要があります。支払督促制度の対象は、金銭その他の代替物、または有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求に限られます。

2)支払督促の発付

債権者が支払督促を申立てると、裁判所書記官がその内容を審査し、支払督促を発付します。支払督促は、債務者を審尋(意見や主張を聞くこと)しないで発付します。

支払督促の効力は債務者に送達されたときに生じます。債務者は支払督促に対し、これを発した裁判所書記官の所属する簡易裁判所に異議の申立てをすることができます。債務者が異議を申立てた場合、事件は通常の訴訟手続で審理され、支払督促は失効します。なお、異議の内容は、

  • 請求は認めるが分割払いにしたい
  • 理由が何も記載されていない請求には納得がいかない

など、請求をそのまま認めないということであれば、どのような内容でも構いません。

そのため、債務者が支払督促に対してどのような対応に出てくるかを想定し、何も反応しない可能性が高い場合に、訴訟提起ではなく、支払督促の申立てを考えることがよいでしょう。

3)仮執行宣言の発付

債務者が支払督促の送達を受けた日から2週間以内に異議の申立てをしないとき、裁判所書記官は、債権者の申立てにより、支払督促に手続きの費用額を付記して仮執行の宣言をしなければなりません。仮執行宣言の付された支払督促の発付です。

なお、債権者が仮執行の宣言の申立てをすることができる時から、30日以内にその申立てをしないときは、支払督促はその効力を失います。

債務者が仮執行宣言の付された支払督促に異議を申立てた場合、通常の訴訟手続で審理されます。ただし、仮執行宣言の効力は当然には失効しません。債務者は支払督促への異議申立てとともに、強制執行の停止や取消しを求める必要があります。仮執行宣言の付された支払督促に対し、債務者が異議を申立てることのできる期間は、仮執行宣言付支払督促を受け取った日の翌日から数えて2週間です。

4)支払督促の効力

仮執行の宣言に対して債務者が異議を申立てないとき、または異議の申立てを却下する決定が確定したときは、支払督促は確定判決と同一の効力を有します。従って、支払督促に基づき強制執行を行うことが可能となります。

5)支払督促に要する費用

支払督促の申立ての手数料は、請求の目的の価額に応じ、民事訴訟費用等に関する法律別表第1第1項により算出した額の2分の1の額となります。その他、督促状を債務者に送付するための切手代を要します。

  • 100万円までの部分:その価額10万円までごとに1000円の2分の1
  • 100万円を超え500万円までの部分:その価額20万円までごとに1000円の2分の1
  • 500万円を超え1000万円までの部分:その価額50万円までごとに2000円の2分の1
  • 1000万円を超え10億円までの部分:その価額100万円までごとに3000円の2分の1
  • 10億円を超え50億円までの部分:その価額500万円までごとに1万円の2分の1
  • 50億円を超える部分:その価額1000万円までごとに1万円の2分の1

以上(2023年9月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)

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画像:Mariko Mitsuda

【債権回収(15)】経営者個人から債権回収できる4つのケースとは?

書いてあること

  • 主な読者:取引先に債務不履行があり、相手の経営者個人から債権回収をしたい経営者
  • 課題:法的に債権回収が可能なのか分からない
  • 解決策:経営者が「連帯保証人」の場合、「法人格の形骸化」や「法人格の濫用」が認められる場合、相手が合名会社の社員(出資者)である場合は可能

1 経営者からの債権回収は可能か?

取引先に債務不履行があったとき、

会社が払えないなら、経営者から回収をしたい

と考えます。特に相手が中小企業だと、経営者と会社が一体と感じられるので、なおさらです。しかし、原則として会社と経営者は別の法人格であり、会社の債務を経営者個人が負うことはありません。

ただし、経営者が連帯保証人になっている、実質的に株式会社と経営者が一体とみなされるなどのケースでは経営者から債権回収ができます。この記事では、

「経営者個人」から債権回収が可能となる4つのケース

について紹介します。

2 経営者が連帯保証人である場合

1)連帯保証とは

経営者が連帯保証人になっている場合、経営者に弁済を求めることができます。連帯保証人は「催告の抗弁権」と「検索の抗弁権」を持っていません。

催告の抗弁権とは、

債権者が主債務者に請求せずに保証人に請求してきた際、まず主債務者に請求するよう求める権利

です。

また、検索の抗弁権とは、

債権者が主債務者に対して請求しても弁済しないので、保証人に請求を求めてきたときに、主債務者に弁済の資力があり、かつ執行が容易であることを証明して、まずは主債務者の財産から執行するよう求める権利

です。

以上から、債務者である会社が債務不履行を起こしたら、すぐに連帯保証人である経営者に弁済を求めることができます。

なお、保証にはいくつかの種類があり、いわゆる「普通保証(単純保証)」でも経営者に弁済を求めることができます。ただ、普通保証の保証人は催告の抗弁権と検索の抗弁権を持っているため、担保というには難があります。

2)支払能力の確認

連帯保証人であっても、その経営者に支払能力がなければどうすることもできません。そこで、経営者が所有していると思われる不動産(自宅、本籍地、別荘など)を不動産登記簿で調査し、次の点を明確にしましょう。そして、保有資産の規模から、支払能力を推測します。

  • どのような土地・建物を所有しているか
  • 抵当権等の担保権が設定されているか
  • 他の債権者による差押がなされていないか

会社が倒産する前後で、連帯保証人が所有不動産について、

  • 所有権を妻子の名義に移転する
  • 所有権移転の仮登記を付する
  • 他の債権者の担保権を設定する

などをして、回収から逃れようとするケースがあります。このような行為があった場合は、「詐害行為取消権」を行使して法的手段に訴えることができます。詐害行為取消権とは、

債権がその行為の前から存在することなどを要件に、債権者が債務者の行為を取り消す権利

です。

不動産以外にも、連帯保証人が「貴金属、書画・骨董、家具などの動産」「株券、債券などの有価証券」「現金、預貯金、ゴルフ会員権」などの資産を所有していることがあるかもしれません。しかし、これらの資産は簡単に隠せるので、正確に把握するのは困難です。

また、連帯保証人である経営者が他の会社の役員などを兼務している場合、その会社が連鎖倒産していなければ、他の会社から受ける報酬なども回収の対象にできることがあります。

3)交渉開始

連帯保証人との交渉では、正面から弁済を求めてもうまくいかないことが多いです。また、前述した通り、連帯保証人が資産を第三者に移転する恐れもあるため、

まずは連帯保証人の資産を仮差押した上で接触するのが好ましい

かもしれません。

仮差押とは、

売掛金債権などの金銭債権を保全するために、取引先の保有している財産を暫定的に差し押さえる制度

です。仮差押をすると交渉が進めやすくなりますが、仮差押をするには、裁判所に担保金を供託したり、必要に応じて弁護士に仮差押手続の申立てを依頼したりする必要があります。一時的にコストがかかるので、慎重に検討しましょう。

4)回収の実際

交渉が進んだとしても、連帯保証人の支払能力には限界があります。税金の滞納があるような場合、一般債権よりも優先されます。そのため、連帯保証人の資産状況によっては、債務の「一部弁済」や「分割弁済」で対応しなければならないケースもあります。分割弁済の場合、口約束でなく契約書を作成することが大切です。

3 実質的に株式会社と経営者個人が同一と認められる場合

相手が株式会社や合同会社の場合、経営者個人は債権者に対して直接の責任は負いません。しかし、「法人格の形骸化」や「法人格の濫用」が認められる場合、「法人格否認の法理」によって責任を追及できることがあります。

法人格の形骸化とは、

法人とは名ばかりであって経営者個人が営業している状態で、株主総会や取締役会を開催していなかったり、財産を混同していたりするなどの場合

です。また、法人格の濫用とは、

法人が株主により意のままに道具として支配されていることに加えて、株主に違法または不当な目的がある場合

です。ただし、経営者は法人格の形骸化や法人格の濫用を認めないことがほとんどで、結局、訴訟などで決着をつけなければならないことが多いです。

なお、法人格否認の法理とは、簡単に言うと、

法人と個人の独立性を確保すると、正義・衡平に反することがある場合に、生じている問題を解決する範囲で、法的に別個の法人格を有する法人と個人とを一体として取り扱う

という考え方です。

4 違法な職務執行により損害を受けた場合

相手の株式会社や合同会社とした取引により損害を被ってしまった場合、その取引を行うに際して、相手の経営者に悪意や重過失が認められる場合には、経営者個人に対して損害賠償責任を追及できることがあります。例えば、

経営者個人の違法な職務執行(粉飾決算、支払い見込みのない調達など)により損害を受けた場合

です。

もう少し具体的にいうと、取引先が組織的に粉飾決算をしていることを知らずに取引してしまい、その結果、債権回収ができずに損害を被ったケースでは、粉飾決算を行った取締役のみならず、粉飾決算を黙認した取締役、監視義務を怠った取締役や、監査上の責任を負う監査役にも個人責任を追及できる場合があります。

粉飾決算までしていた場合、かなりの確信犯なので、経営者は用意周到に夜逃げをするケースもあるでしょう。こうした場合は夜逃げをした経営者を捜すより、他の取締役、監査役の責任追及を検討したほうが早道かもしれません。

5 債務者が合名会社や合資会社である場合

合名会社の社員(出資者)や合資会社の無限責任社員は、会社の債権者に対して無限責任を負います。経営者がこれらに該当する場合は責任を追及できます。

以上(2023年9月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 渡邉和也)

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画像:Mariko Mitsuda

「水素基本戦略」改定 中小企業に参入チャンスがある分野はココだ!

書いてあること

  • 主な読者:水素ビジネスや脱炭素、クリーンエネルギーに関心のある経営者
  • 課題:中小企業が水素ビジネスに参入できるのか、できるならどの分野が有力なのかを知りたい
  • 解決策:水素ビジネスは、「つくる」「はこぶ」「ためる」「つかう」の4分野に分かれる。これらの分野のうち、「ためる」「つかう」分野に期待できそう

1 なぜ今、水素なのか?

2023年6月6日、政府の関係閣僚会議が、

今後15年で官民合わせて15兆円を超える投資を行うという「水素基本戦略」

を公表しました。これは、水素社会を実現するため、2017年に世界に先駆けて策定した国家戦略の改定版です。

なぜ今、水素なのか? 大きな理由は、気候変動対策とエネルギー安全保障です。

水素は燃料として燃やしてもCO2を出さないので「脱炭素」につながります。また、水を電気分解することで水素と酸素をつくり(水電解)、酸素と水素の化学反応で電気エネルギーを生み出すことができます。太陽光発電や風力発電などで生み出した電気を使って水を分解し、水素として貯蔵し、電力が足りないときは水素で発電することも可能なのです。

ロシアによるウクライナ侵攻に伴うエネルギー安全保障の面でも、水素の重要性が増しています。産出する地域が限られる原油・天然ガス・石炭などの化石燃料と違い、水素は、水と電気があればどの国でも生産できるため、世界的にも水素への期待が高まっているのです。

この記事では、水素基本戦略(改定版)のポイントを押さえた上で、

  • 中小企業の参入が期待できる分野
  • 自治体の補助金

について紹介していきます。

■水素基本戦略■

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/saisei_energy/pdf/hydrogen_basic_strategy_kaitei.pdf

2 押さえておきたい水素基本戦略(改定版)のポイント

1)今後15年で15兆円を超える投資を行う9分野

改定版では、「水素産業戦略」と「産業安保戦略」が新しく策定され、

国内外のあらゆる水素ビジネスで、我が国の水素コア技術(燃料電池・水電解・発電・輸送・部素材等)が活用される世界を目指す

という目標を掲げました。そして、「市場規模」「日本企業の技術的優位性」の2つの観点から次の9分野を重点的に支援するとしています。

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2)将来目標

改定版では、新たに次の取り組みが将来目標として設定されました。

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3 中小企業の参入が期待できる分野

1)今は水素ビジネスの情報収集とパートナーづくりをする段階

近畿経済産業局は、2022年から「水素産業ニーズ・ウォンツ発表会~中小企業の参入に向けたマッチング~」を開催しています。同局のカーボンニュートラル推進室へのヒアリングによると、水素ビジネスに中小企業が参入しているケースはまだ少ないそうです。

「水素関連ですでに事業化しているものもありますが、産業としては未成熟な状況であると言えます。国のロードマップでは、2030年ごろには水素サプライチェーンが構築され需要が拡大するとしていますが、今、中小企業はその未来に向けての情報収集や、大手企業の事業化が進んだ際のパートナーとして、スムーズにビジネス参入ができるよう準備をする時期だと思っています」

と言います。2030年は前述した水素基本戦略の将来目標としても掲げられている時期であり、2019年に発表された「水素・燃料電池戦略ロードマップ」でも2030年前後に多くの目標が設定されています。

例えば、燃料電池車は2030年までに80万台程度(7735台/23年4月末現在)、バスは1200台程度(134台/23年4月末現在)、水素ステーションの設置数は2030年度までに900か所(170基181か所/23年5月末現在)にするなどです。近畿経済産業局へのヒアリングによると、規模の大きい分野として、

「モビリティ分野では、燃料電池トラックやバスなどが水素利用のボリュームゾーンとして期待できるかもしれません。中小企業がこれらの分野にビジネス参入するためには、各車両や水素ステーションの部品製造等に必要な高度な生産・加工技術などを身につける必要があります。また、利活用側として水素モビリティを自社で導入するといった動きも進んでいくでしょう」

とのことです。

2)水素ビジネスの4分野

水素ビジネスは、「つくる」「はこぶ」「ためる」「つかう」の4分野に分けられます。それぞれの分野における日本の取り組みや課題、すでに参入している中小企業の事例などを紹介します。

1.「つくる」分野の取り組みや課題

水素を製造するには、水を電気分解したり、天然ガスから取り出したりするなど、さまざまな方法があります。日本は10メガワット級の水電解装置の実証を世界に先駆けて行うなど、次世代水電解装置の開発などを行っていますが、国内外の大規模プロジェクトは海外に比べて遅れているとされています。

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参入企業としては、現在のところ、旭化成、岩谷産業、川崎重工業、東芝、東洋エンジニアリング、三菱重工業などの大手企業が目立っています。

2.「はこぶ」分野の取り組みや課題

水素は常温圧では気体で1キロ当たり約11立方メートルと非常にかさばります。運搬や貯蔵を効率化するには、極低温で液化させる、超高圧で圧縮させる必要があります。また、メチルシクロヘキサンやアンモニアなどの物質との化学反応により液化させる方法もあります。水素と化学反応し液化する物質は「水素キャリア」と呼ばれ、極低温や高圧縮をかけるより安全に圧縮できるとされています。

可燃性の水素を運搬するには安全面の技術課題が多くあります。課題解決に向けて、川崎重工業が世界初の液化水素の運搬船を就航させるなどの成果を上げていますが、今後は海上輸送供給網の整備や運搬船の国内生産設備の増強が課題とされています。

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参入企業としては、現在のところ、ENEOS、川崎重工業、昭和電工などの大手企業が目立っています。

3.「ためる」分野の取り組みや課題

政府は水素ステーションの設置を2030年度までに1000基程度の整備目標の確実な実現を目指す目標を立て、1か所当たり3億~4億円とされる建設費を2億円まで引き下げる方針です。水素ステーションの設置には、自治体の補助金などもありますが、燃料電池車の普及が少ないため、水素を充?する利用者も少なく、開店休業状態のところもあるそうです。

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参入企業としては、現在のところ、ENEOS、岩谷産業などがほとんどの水素ステーションの運営をしています。

一方で、その他部品では中小企業の参入もあり、

髙石工業(大阪府茨木市)の水素ステーション用Oリングはマイナス40度の環境でも使用できる緊急離脱カップリングとして多くの水素ステーションで利用されている

そうです。また、

矢部川電気工業(福岡県大牟田市)は、水素燃料中の一酸化炭素濃度をリアルタイムで連続計測する水素燃料ガス検査システムを販売し、大手都市ガスが水素ガスを販売する際の品質管理装置として活用されている

そうです。

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4.「つかう」分野の取り組みや課題

燃料電池車(FCV)については、どの国でも目標台数に大きく届かないのが現状です。政府はバスやトラックなどの商用車の普及を支援する方針です。普及に当たり、業務・産業用燃料電池の性能向上や低コスト化、メンテナンス体制の構築が課題となっています。

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参入企業としては、現在のところ、国産FCVではトヨタ自動車の乗用車MIRAIとバスSORAが販売されています。燃料電池では家庭用にパナソニック、産業用にAGC、東レ、旭化成などの大手化学メーカーが参入しています。水素交通については、試作機の開発や実証運行が行われている段階です。

一方、FCVを使ったモビリティサービスは自治体を中心に徐々に広がっています。民間では自治体の補助金を活用して、

神姫バス(兵庫県姫路市)がFCバスの定期路線運行を西日本で初めて開始(2021年4月)

徳島バス(徳島県徳島市)がFCバスの定期路線運行を中四国で初めて開始(2021年12月)

するなど路線バスの運行に利用されるようになってきています。また、

日の丸交通(東京都文京区)や仙台タクシー(宮城県仙台市)、神戸エムケイ(兵庫県神戸市)を始めとして、タクシー業界ではFCVのタクシー利用

も始まっています。他に、

バリオスター(香川県高松市)はメタノール燃料電池・移動電源車を開発し停電時や野外イベントの電源用として販売

を行っています。メタノールは高圧水素に比べて取り扱いが易しく、劣化しないため、一斗缶やドラム缶などの標準的な容器で長期保管が可能だそうです。同社では、車体を除いたメタノール燃料電池と小型蓄電池システムのセットだけの販売も行っています。

4 行政による支援例 東京都の補助金・助成金

1)環境省の事業化支援ツール

環境省は水素関連事業に関するお役立ち情報をウェブサイト「脱炭素化にむけた水素サプライチェーン・プラットフォーム」で提供しています。同サイトには水素の基礎知識や官公庁の取り組み、事業化支援ツールなどがまとめられているので、参考にしてください。

■脱炭素化にむけた水素サプライチェーン・プラットフォームについて■

https://www.env.go.jp/seisaku/list/ondanka_saisei/lowcarbon-h2-sc/

2)東京都の補助金・助成金

都道府県などの自治体では、水素の導入や利用に関わる補助を行っている地域もあります。多くが燃料電池車や水素ステーションの整備などです。ここでは一例として、メニューが豊富な東京都を見てみましょう。

東京都による水素ビジネスに対する支援は省エネに関する各種の補助金や助成金に含まれています。また、大企業よりも中小企業への補助額が高く設定されているものもあります。

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再生エネルギーに関わる東京都の補助金・助成金はクール・ネット東京のウェブサイトで確認できます。

■クール・ネット東京 補助金・助成金■

https://www.tokyo-co2down.jp/subsidy

以上(2023年9月作成)

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画像:Deemerwha studio-Adobe Stock

【債権回収(14)】担保権の実行など訴訟ではない方法で債権を回収する

書いてあること

  • 主な読者:訴訟ではない方法による債権回収を検討している経営者
  • 課題:「担保権の実行」「仮差押え・仮処分」「保証人からの回収」で迷っている
  • 解決策:コストや時間はかからないが、事前に契約が必要であることなどに注意

1 訴訟によらない債権回収

債権回収の1つの分かれ目は法的手段を取るか否かですが、この判断をする際は、

スピード回収、コスト、回収可能性

の3つを考慮してください。訴訟には時間とコストがかかりますが、通常、時間がたつほど債権回収は難しくなります。また、取引先に資産がなければ、コストをかけたわりに多くを回収できません。

このような場合は、訴訟によらない債権回収を検討することになります。具体的には、担保権の実行、仮差押えや仮処分のような民事保全などとなります。それぞれのメリットとデメリットを確認していきましょう。

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2 担保権の実行の概要

担保権とは、

債権者が債務者に対して有する債権を担保するために、債務者または第三者の財産に対して、その財産から強制的に弁済を受けることができる権利

です。取引先が約束通りに支払わない場合、契約で担保権の設定を受けているときは、それを実行して債権回収をします。メリットは次の通りです。

  • 確定判決などの「債務名義」が不要である
  • 強制執行に比べて迅速かつ低コストで行うことができる
  • 倒産手続においても優先されるものがある
  • 法律上当然に発生するものがある

担保権には、契約締結によって成立する担保権(約定担保権)だけではなく、法律上当然に発生する担保権(法定担保権)があります。そのため、契約で担保権を設定していなくても成立している可能性があります。

また、担保権の実行には債務名義が不要です。債務名義とは、簡単に言うと、

強制執行をする根拠となる文書であり、債権債務の存在を公に認めるもの

です。そのため、訴訟や支払督促などの手続を経ることなく、低コストかつスピーディーに債権回収を行うことができます。

ただし、約定担保権を実行するには、事前に取引先と契約を交わしておく必要があります。また、法定担保権については、知らないと見逃してしまう恐れがあるため、日ごろの債権管理で確認しなければなりません。

3 担保権の実行の流れ

1)抵当権・根抵当権を実行

不動産は財産の中でも安定性があり、登記制度による対抗力があるため、担保としてよく用いられています。不動産に設定されるのは、抵当権(根抵当権を含む)が多いです。取引先が支払いを遅延した場合、債権者は抵当権を実行して不動産を競売にかけ、その売却代金を債権に充当することができます。これを、担保不動産競売といいます。主な流れは次の通りです。

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競売手続は順調に進んだとしても、申立てから配当までに半年以上かかります。また、物件にもよりますが、競売手続で売却される金額は市場価格の7?8割程度になることが多いとされています。そのため、直ちに競売を申し立てるのではなく、取引先に対して不動産の任意売却を促すことも検討しましょう。

この他、抵当権の実行方法として「担保不動産収益執行」があります。担保不動産収益執行とは、簡単に言うと、

当該不動産から生じる賃料などを債権者に配当すること

です。そのため、担保不動産収益執行は、目的となる不動産が賃貸物件で、毎月賃料収入があるような場合に限られます。

2)動産売買先取特権を実行

商品などの動産を売買した場合、当該動産の代金が未払いであれば、売却した動産の上に「動産売買先取特権」が成立します。これは、取引先と担保に関する契約を交わしていなくても発生する法定担保権です。

売却した動産が取引先の手元にある場合、動産競売の申立てができます。動産競売の申立ては、

裁判所の執行官が債務者の住居や占有する場所に立ち入って目的物を差押え、当該目的物を売却して、配当を行う

という流れになります。債権者は、売却代金から配当を受けて債権に充当することができます。

しかし、取引先が既に当該動産を第三者に転売していた場合、動産競売の申立てはできないのですが、第三者から取引先への支払いが未了であれば、取引先が第三者に対して有する転売代金債権を差し押さえて、債権を回収することが可能です。

3)留保所有権を実行

売買契約において、

売買代金が支払われるまでの間、目的物の所有権を売主のもとにとどめておく

という条件を付すことがあります(所有権留保)。この場合、取引先が代金の支払いを怠ったときは、債権者は所有権に基づいて売買目的物を取り戻し、売買代金に充当することができます。

ただし、取引先が倒産手続に入った場合、あらかじめ取引先から「占有改定」などの方法により、対抗要件を備えておく必要があります。占有改定とは、

民法が定める引渡し方法の一つであり、現実の所持は買主のまま、目的物の買主と売主の合意によって、売主が占有を取得する

というものです。

4)譲渡担保権を実行

取引先の商品や機械などの動産に譲渡担保権を設定している場合、裁判所を介することなく、実行手続を進めることができます。債権者は取引先に譲渡担保権を実行する旨を通知した上で、担保の目的となっている動産を引き揚げ、自ら換価して回収することもできます。

ただし、取引先に無断で倉庫に立ち入って商品や機械を引き揚げることは、建造物侵入や窃盗に該当するため、引き揚げに当たっては、取引先の同意を得る必要があります。また、担保権が実行される前に取引先が担保目的物を処分してしまう恐れがある場合、動産の処分禁止の仮処分を申し立てることも考えられます。

4 仮差押え・仮処分の概要と流れ

1)仮差押え・仮処分の概要

仮差押えと仮処分は「民事保全」と呼ばれます。まず、仮差押えとは、

売上債権などの金銭債権を保全するために、取引先の保有している財産を暫定的に差押える制度

です。仮差押えは金銭債権を対象としています。一方、仮処分とは、

仮差押えと異なり、取引先に対して有する金銭債権以外の権利を保全する制度

です。例えば、譲渡担保権を設定している取引先の物件が第三者に譲渡される恐れがある場合、それを阻止するために利用されます。

民事保全による債権回収には、次のようなメリットがあります。

  • 判決が出るまでの間、取引先の財産や自身の権利を保全することができる
  • 取引先にプレッシャーをかけて、任意の支払いを促すことができる

民事保全では、判決が出るまでの間、取引先の財産や行動に制限をかけることになります。そのため、

申立てをする債権者は担保金を供託

しなければなりません。担保金は、

一般的に被保全権利の2割から3割程度の金額となることが多い

ようです。また、担保金は、勝訴するまで供託したままですし、敗訴した場合は相手への損害賠償に充てられてしまう可能性もあります。

注意が必要なのは、仮差押えや仮処分には、

取引先が破産などの法的倒産手続を開始した場合は効力を失う

というデメリットがあることです。そのため、破産の恐れがある取引先に対して、費用をかけて民事保全手続を行うのは得策ではありません。取引先に資産があり、処分や隠匿の恐れがないようならば、仮差押えなどを申し立てず、訴訟を提起したほうがよいかもしれません。

2)仮差押え・仮処分の流れ

仮差押えの申立人は、

自らが取引先に対して有する売掛金請求権などの金銭債権(被保全権利)の存在と、判決を待っていたのでは強制執行をすることができなくなる恐れ(保全の必要性)を主張して、仮差押命令の申立て

を行います。裁判所は、申立人の主張と提出する証拠書類だけを見て、取引先の主張を聞かずに判断します。

仮差押えの対象となる財産に制限はないため、取引先が所有している不動産、動産、債権その他の財産に対して仮差押えを行うことができます。また、仮差押えの申立てに当たり、裁判所から担保金の供託を命じられたら、すぐに供託できるように事前に準備しておく必要があります。

仮処分の流れも仮差押えと同様です。やはり、裁判所から担保金の供託が命じられますので、事前に担保金を準備しておかなければなりません。

5 保証人からの回収の概要と流れ

1)保証人からの回収の概要

保証人からの回収とは、

取引先との契約において、代表取締役その他第三者との間で保証契約を交わしている場合、保証人から債権を回収すること

です。

保証には、普通保証(単純保証)、連帯保証、根保証などがあり、それぞれ保証人の権利や負担する義務が異なります。また、いずれも保証人との間であらかじめ保証契約を交わす必要があります。資力のある保証人と保証契約を交わしておくことで、取引先に代わって債権回収ができます。

なお、保証人が個人である場合、事業性のある貸金等債務を保証するときは、公正証書を作成する必要があります。また、保証契約締結前に、公正証書により保証債務を履行する意思を確認しなければ、保証契約は無効です。なお、この公正証書は、契約締結の日前1か月以内に作成する必要があります。

ただし、次の者が保証をするときは、公正証書を作成する必要はありません。

  • 主債務者が法人である場合の理事、取締役、執行役等
  • 主債務者が法人である場合の総株主の議決権の過半数を有する者等
  • 主債務者が個人である場合の共同事業者又は主債務者が行う事業に現に従事している主債務者の配偶者

2)保証人からの回収の流れ

まずは保証人に対して、請求書を内容証明郵便等で送付します。これに対して、保証人が任意に支払いに応じない場合は、取引先に対する債権回収と同様に、訴訟や民事保全などの法的手続を検討することになります。

以上(2023年9月更新)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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画像:Mariko Mitsuda

久しぶりに話題のストライキ これから労働組合の活動が活発になるかもしれない?

書いてあること

  • 主な読者:自社や外部の労働組合の動きが気になっている経営者や労務担当者
  • 課題:労働組合についてよく知らない。中小企業は関係ある? 何に注意すればいい?
  • 解決策:まずは労働組合の立ち位置や種類を知る。中小企業も関わる可能性が高いのはユニオン(合同労働組合)。会社がやってはいけない「不当労働行為」に注意する

1 大手百貨店などのニュースで労働組合の動きが活発になる?

2023年8月、そごう・西武の労働組合が、親会社のセブン&アイ・ホールディングスが進めていた同百貨店の売却に対して、ストライキを起こしました。大手百貨店によるストライキは、約60年ぶりのことです。また、2023年9月には、東京ユニオン・アマゾン配達員組合長崎支部の組合員など33人が、報酬の一部未払いを理由に配達業務をボイコットする事案が発生しました。

こうしたストライキなどをきっかけに、鳴りを潜めていた労働組合の動きが活発になる可能性があります。労働者が自分たちの権利を主張・行使するための方法に「労働組合」があることを強く認識したはずだからです。

そうした事態に備え、経営者は労働組合について、ある程度の知識を持っておく必要があるでしょう。なお、自社で労働組合を持っていない場合も、外部の労働組合であるユニオン(合同労働組合)と関わることがあるので注意が必要です。

この記事では、労働組合について次のポイントをまとめます。

  • 労働組合と「労働三権」の関係
  • 3種類の労働組合、中小企業は特に「ユニオン」に注意
  • 団体交渉やストライキのおおまかな流れ
  • 会社がやってはいけない「不当労働行為」

2 労働組合と「労働三権」の関係

労働組合は「労働条件の改善などを目的とした労働者の団体」ですが、より正確に言うなら

日本国憲法の「労働三権」を守るために、労働組合法に基づいて結成される団体

です。労働三権とは、憲法第28条で労働者の権利として定められている

  1. 団結権:労働組合を結成したり、労働組合に加入したりする権利
  2. 団体交渉権:会社と労働条件などについて交渉し、文書などで約束を交わす権利
  3. 団体行動権:労働条件改善のため、仕事をしないで、団体で抗議する権利

のことです。例えば、労働組合が会社と賃上げなどについて交渉できるのは団体交渉権が保障されているからですし、ストライキを起こせるのは団体行動権が保障されているからです。

労働組合の結成は、労働組合法に基づいて行われます。労働組合を結成するのに行政への届け出などは必要ないものの、労働組合法の定める手続きに参与したり、法による救済を受けたりするためには、労働委員会の「資格審査」を通らなければなりません。また、審査を受ける際、次のような団体は労働組合として認められません。

  • 役員や人事権を持つ管理職などが組合員になっている
  • 会社が経済的な援助をしている(労働時間中の組合活動を有給にしたり、レクリエーションなどのために寄付をしたり、最小限の広さの事業所を供与したりする程度ならOK)
  • 共済活動その他の福利事業のみを目的としている
  • 政治運動、社会運動を主目的としている

3 3種類の労働組合、中小企業は特に「ユニオン」に注意

労働組合のタイプ分けの仕方はさまざまですが、一般的には次の3種類に分けられます。

  1. 企業別労働組合:同じ会社の労働者のみで結成された労働組合
  2. 産業別労働組合:同じ業種の企業別労働組合が結びついた、より大きな労働組合
  3. ユニオン(合同労働組合):一定の地域ごとに結成され、誰でも加入できる労働組合

1.の企業別労働組合は、多くの人がイメージする労働組合の形でしょう。ただ、企業別労働組合がある会社は少数です。2022年の企業別労働組合の推定組織率は、規模計で15.8%、社員数が99人以下の会社に至っては0.8%です(厚生労働省「令和4年労働組合基礎調査」)。

2.の産業別労働組合は、複数の企業別労働組合が結びついたものなので、対象はさらに限られます。ちなみに、産業別労働組合を統括する、その国の労働組合を代表する組織を「ナショナル・センター」といい、日本では日本労働組合総連合会(連合)がこれに当たります。

3.のユニオン(合同労働組合)は、企業別労働組合を持たない会社の労働者であっても、個人単位で加入できる労働組合です。中小企業も関わる可能性が高く、社内で労働トラブル(解雇や賃金未払い)が発生すると、労働者がユニオンに駆け込み、そのユニオンが会社に団体交渉という形で、解雇の撤回や未払い賃金の支払いなどを求めてくることがあります。

4 団体交渉やストライキのおおまかな流れ

団体交渉やストライキの細かい対応は、会社や労働組合、事案の内容などによって変わってきますが、おおまかな流れは、労働組合法などによってある程度決まっています。図表1は、労働組合が労働条件の改善を求め、会社に団体交渉を申し入れたものの、その後交渉が決裂し、ストライキに移行する場合のイメージです(あくまで一例です)。

画像1

団体交渉は、労働組合が会社に「団体交渉申入書」という書面で申し入れてから始まるのが通常です。労働組合の要求内容(賃上げ、解雇の撤回など)も、申入れのタイミングで伝えられます。その後、「日時、場所、出席者」などを決めてから団体交渉に入りますが、1回で終了しないことも多く、通常は何回か交渉を重ねて落としどころを見つけます。

交渉が決裂すると、労働組合がストライキを起こすことがありますが、その場合は事前に「批准投票(組合員や組合員代表の無記名投票)」で過半数の同意を得なければなりません。また、ストライキを実施した場合、労働組合は速やかに労働委員会または都道府県知事に「争議行為発生届」を届け出る必要があります。会社が労働組合の要求をのむか、団体交渉に戻って労働組合と再び話し合うことになれば、ストライキは終了します。

なお、労働組合がユニオンの場合、団体交渉が決裂してもストライキに移行するケースは多くはありません。ストライキの目的は、事業をストップさせ、会社に労働組合の要求をのませやすくすることにあります。同じ会社の労働者が集団で仕事をしなくなるからこそ、こうした効果が見込めるわけですが、ユニオンは基本的に違う会社に勤める労働者の集まりなので、ストライキを実施しても、特定の会社にプレッシャーをかけにくいのです。

こうした場合、会社と労働者の労働トラブルについては、団体交渉が決裂した後、最終的には労働審判や訴訟で決着をつけることになります。ただ、労働審判や訴訟に移行すると、ユニオンは労働トラブルに介入できなくなるので、できる限り団体交渉を継続しようとするケースも少なくありません。

5 会社がやってはいけない「不当労働行為」

労働組合法では、労働三権を守るために、会社が労働組合や労働者(組合員)に対し、図表2の行為に及ぶことを禁止しています。これらの行為を「不当労働行為」といいます。

会社がやってはいけない不当労働行為

悪意なくやってしまいがちなのが、3.の団体交渉拒否です。これは、労働組合との団体交渉を正当な理由なく拒否することで、例えば、

団体交渉申入書が届いていることを知りながら放置するケース

がそうです。「忙しくて労働組合に対応している時間がない」という場合もあるでしょうが、全く対応しないのは違法です。団体交渉申入書には申入れに対する回答の期限が記載されているので、まずはそれを確認し、必要に応じて労働組合に期限の延長を依頼するなどします。

なお、不当労働行為自体には罰則がありません。ですが、不当労働行為を受けた労働組合や労働者が、労働委員会に「不当労働行為かどうかを確認してほしい」という申立て(救済申立て)をすると、労働委員会から会社に対し、その行為を中止するよう命令が出されることがあります。これを「救済命令」といい、会社が労働委員会の出した救済命令に違反した場合には、次のような罰則があります。

  • 会社が労働委員会の救済命令に不服を申し立てず、救済命令が確定したがその後も命令に従わない場合、50万円以下の過料
  • 会社が労働委員会の救済命令に対して裁判所に不服を申し立てたが認められず、救済命令が確定したがその後も命令に従わない場合、1年以下の禁固もしくは100万円以下の罰金

以上(2023年10月)
(監修 弁護士 田島直明)

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事業承継・引継ぎ補助金のご紹介

中小企業等を支援する国や自治体の補助金・助成金事業では、雇用・人材開発・IT補助・コロナ支援など幅広いジャンルの支援があります。本レポートでは、おすすめの補助金・助成金について支援の内容や対象条件、申請方法等についてわかりやすく紹介します。

この記事は、こちらからお読みいただけます。pdf


『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』その1は「傾聴」/ 武田斉紀の『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』(3)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:最近話題のZ世代(1990年代後半以降生まれで会社においては20代前半くらいまで)だけでなく、それ以前の平成生まれ(30代前半くらいまで)の世代と、現在経営や管理職を担っている昭和世代との世代間ギャップが注目されています。それは価値観の違いやコミュニケーションの違いとして表れ、変化や多様性が求められる昨今、日本企業において深刻な経営の足かせとなりつつあるようです。
  • 解決策:まず会社においてZ世代を含む平成生まれと昭和生まれの世代背景を整理しながら、ギャップを埋めるための「価値観の変化」を明らかにします。その上で、筆者が多くの講演や企業研修で紹介してきた『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』を実践的に指南します。

1 昭和世代と「Z世代」とのギャップは、すなわち「世界とのギャップ」

前回までを簡単におさらいしておきましょう。皆さんの会社の新入社員から20代後半くらいまでの世代=「Z世代」が注目されています。理由が3つありました。

生涯価値(LTV=ライフ・タイム・バリュー)を秘めていて、他世代への影響力も含めて「主要購買層の1つ」であること。会社の次代を担う「中心的な働き手」であること。そして「昭和世代とはかなり異なる価値観を持っている」ことです。

特に最後が重要で、その価値観はここ10年ほどで“真逆”と言えるほどに変化しているようです。管理職であろう30代後半~50代の昭和生まれ世代と、現場を任されている平成生まれ、

とりわけ「Z世代」との間にはかつてないほどの価値観のギャップが生まれています。

具体的には、

「Z世代」の新入社員が理想とする上司像のキーワードは「丁寧な指導/褒める/傾聴」、同じく理想とする職場像は「個性の尊重/助け合い」など。

昭和世代の上司が育ってきた時代の「情熱/引っ張る/厳しい」「活気/鍛え合う/目標の共有」といった価値観による従来の管理・指導方法では育てられなくなっているのです。

彼らの価値観が特殊なのではありません。それらは世界の価値観の変化にも通じていて、昭和世代と「Z世代」とのギャップは、すなわち「世界とのギャップ」と言える状態です。

となれば上司たちのほうがアンラーン(既存の知識や価値観を一旦捨てて、ゼロから学び直すこと)して、新しい価値観を理解し寄り添っていくしかありません。

50代後半以降で「自分はあと数年で定年だし、何とかやり過ごせばいい」と考えている方も、いずれ自身が動けなくなった際に面倒を見てくれるのは「Z世代」以降の人だということを忘れてはいけません。

介護してくれるスタッフや、子どもやお孫さんたちに愛されながら穏やかな最後を迎えたいのであれば、やはり若い世代、「Z世代」の価値観を理解する必要がありそうです。

2 『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』その1は「傾聴」、ひたすら聴く

さて前回、若手社員とまだ十分な関係が築けていないという方は、彼らの話を「傾聴」することから始めてみてくださいと申し上げました。

「傾聴」とは文字のごとく、耳を傾けて集中してひたすら“聴く”こと、英語ではアクティブ・リスニングと呼ばれています。そしてこの「傾聴」が、今回のシリーズテーマである『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』の1つ目となります。

「傾聴」の効果を実感いただくために、私は講演や研修などでは参加者に2人ずつのペアを作ってもらい、次のようなミニワークを実施します。最近あったできごとでテーマを決めて、AさんからBさんに同じように2回話してくれるようにお願いします。一方Bさんには次のようにお願いします。

1回目はAさんが話してかけてもAさんのほうを見ないで横を向いてパソコン画面に向かったままのような姿勢で、せいぜい「ふうん」程度で一切反応しないでください。2回目はAさんのほうに体を向けてなるべく目を見て、話の内容に合わせて声や態度で大きく反応しながら「傾聴」してください。

1回目、2回目とも私がスタート、ストップと言って開始、終了してもらうのですが、本人たちには内緒で1回目より、2回目の時間を長めにして指示を出します。Aさんが2回終わったら、そのまま今度は役割を交代して、BさんからAさんに対して同じように2回、Bさんの最近あったできごとの話をしてもらいます。

1回目は当然ですが、話し手の声だけが聞こえてきます。聞き手の反応がほぼないわけですから。しかし2回目に入ると聞き手の声や互いの笑い声も聞こえてきて、会場全体が一気ににぎやかになります。

2回ずつ終えたところで、私が「実は1回目のほうが2回目より短い時間でした」と告げると、一瞬会場がざわつきますが、納得したかのように誰もがうなずいているのが分かります。

終わったところで皆さんの感想を聞くと、1回目は「壁に向かって話しているようで苦痛だった」「途中からなぜか悲しくなってきた」「ものすごく長い時間に感じた」といった声がほとんどです。

一方で2回目は「一生懸命聞いてくれているのが分かってうれしかった」「思わず、話すつもりじゃなかったことまでいっぱいしゃべってしまった」「1回目より長かったのにあっという間で、時間が足りないくらいだった」。

そして2回目を終えると一様に「いっぱい聞いてくれたので、以前よりも話しやすくなった気がした」という感想が聞かれたのです。

つまり相手が「傾聴」してくれただけで、相互の関係性が以前より近くなっていると実感できたのです。

私はまた全員に問いかけます。「皆さんはふだん忙しいことを言い訳に、1回目のような態度で部下の話を聞いたことがありませんか?」

3 「傾聴」はコーチングの基本でもある

「傾聴」はコーチングの基本でもあります。

コーチングとはティーチングのように一方的に教えたり、指示命令を出したりしません。適切な質問を投げかけることで、本人に考えてもらい、本人の中に既にある気付きを浮かび上がらせていく手法です。

変化の激しい時代を迎えて、会社組織の中で一人ひとりの社員が自律的に判断し行動できるようになるには、コーチングは有効です。

そしてコーチングで適切で効果的な質問を投げかけるためには、まず相手をよく知ることが必要で、その前提として「傾聴」が欠かせません。質の高い「傾聴」ができれば、質問を投げかけなくてもコーチングが実現することさえあります。

よく聞く買い物場面での夫婦の会話を想定してみましょう。

妻:ねえ、聞いて。洋服だけどAにしようかBにしようか迷っているのよ。Aは色が大好きだけど値段が気になるし、Bは値段がお手頃だけど、色がねえ。デザインは結構気に入っているんだけど…でもなあこっちも…

夫:(イライラしながら)で、僕に何が聞きたいの?

妻:だからね、どっちがいいのかなあって…迷っているのよ。どっちかなあ…

夫:Aでいいんじゃない?

妻:どうして?

夫:ボーナスが出たところだから、お金の心配はいいよ。だってAが気に入っているんでしょ!

妻:お金の問題じゃないのよねえ。私はどちらかといえばBがいいと思うのよねえ。

夫:なんだ、自分でもう決めているんならそっちにすればいいだろう。わざわざ僕に聞く必要ないじゃないか!

皆さんも似たような経験がないでしょうか。

4 相手の話を「傾聴」するだけで解決することも多い

先ほどの場面、妻は夫に「傾聴」してほしかっただけなのかもしれません。例えばこんな感じです。

妻:ねえ、聞いて。洋服だけどAにしようかBにしようか迷っているのよ。Aは色が大好きだけど値段が気になるし、Bは値段がお手頃だけど、色がねえ。デザインは結構気に入っているんだけど…でもなあこっちも…

夫:そっかー、迷っているんだね。AもBもそれぞれ良いところもあるし、気になるところもあるんだね。だとすると確かに迷うよね。

妻:そう、そう、そうなのよ。どっちがいいのかなあって…迷っているのよ。どっちかなあ…

夫:ところで、君自身はどう思っているの?

妻:そうねえ。どちらかといえばBかなあとは思っているんだけど…

夫:それはなぜ?

妻:デザインが気に入っているの。私はデザインにはこだわりたいから。ね、昔からそうでしょ。色はむしろ新しい色にチャレンジすればいいのかなって…

夫:なるほど。確かに昔からデザインにこだわっているよね。じゃあBなのかもね。Bの色も君に似合うと思うよ!

妻:ありがとう。やっぱりBよね。Bにするわ。あなたに相談してよかったわ。

—————————————-

いかがでしょう。できればもう一度、前者と後者の夫側の会話だけを比較しながら追ってみてください。また夫側の会話が変わったことによって、妻側の反応がどのように変化していったでしょうか。

後者の夫は、ひたすら妻の話を「傾聴」しながら、時々質問を投げかけています。

例えば「そっかー、迷っているんだね」「確かに迷うよね」「なるほど。確かに昔からデザインにこだわっているよね」などは、「傾聴」における【承認】や【共感】の手法です。

同じく後者の夫の「君自身はどう思っているの?」や「それはなぜ?」はコーチングにおける【質問】の手法の一部です。

とりあげた事例は夫婦のプライベートでの会話でしたが、同じようなことは男女にかかわらず、皆さんの職場でも日々起きているのではないでしょうか。

次回は、「傾聴」の具体的な手法やノウハウについて、より実践的にお話ししていきたいと思います。今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

<ご質問を承ります>

ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mail to: brightinfo@brightside.co.jp

以上(2023年9月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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【債権回収(12)】内容証明郵便でプレッシャーをかけつつ、時効の完成を猶予する

書いてあること

  • 主な読者:売掛金などを支払わない相手をけん制しつつ、時効の完成を猶予したい経営者
  • 課題:まだ法的手段を講じる段階ではないが、その準備もしておきたい
  • 解決策:「内容証明郵便」でこちらの姿勢を示し、法的手段に至った場合の証拠を得る

1 内容証明郵便が果たす役割

期日が過ぎているのに売掛金を支払ってくれない取引先がいる場合、状況にもよりますが、

「内容証明郵便」を送り、法的手段を見据えつつプレッシャーをかけること

が効果的です。内容証明郵便とは、

郵便認証司によって郵便物の内容を証明された郵便物

です。内容証明郵便を出すことで何か法的な効力が発生するわけではありませんが、後に裁判になった場合に、債権について「契約の名称、契約日、品名、残金、期限などについて文書を出した」という有力な証拠となります。それに、

万一、支払いに応じていただけない場合は、訴訟等の法的措置を検討せざるを得ません

と記載することで、「こちらは訴訟も辞さないですよ!」という姿勢を示すことができます。

また、その債権の時効が迫っている場合、債務者に内容証明郵便で「催告」することで、

時効の完成を催告日(内容証明郵便の到達日)から6カ月間猶予すること

ができます。催告とは、

相手に自発的な支払いを促すこと

です。内容証明郵便を送付することが時効の完成猶予の要件ではありませんが、催告の証拠としての価値が高いため、通常、この方法が用いられます。

債権回収の話題の中で、内容証明郵便が登場するのは以上の理由によります。この記事では、もう少し詳しく内容証明郵便の基本を紹介します。

2 時効に関する補足

時効について、少し補足をしておきます。例えば、商品の売掛債権の時効は、弁済日の翌日、弁済日の定めがない場合は売り掛けた日の翌日から5年間(2020年3月以前に発生した売掛金については2年)です。しかし、

催告を行うことで時効の完成を6カ月間猶予すること

ができます。ただし、自動的に時効が猶予されるわけではなく、この6カ月間に、裁判所に対して訴訟の提起・和解の申立てなどの手続きをしなければなりません。なお、内容証明郵便の送付による時効の完成猶予は一度だけ認められるもので、複数回利用できる制度ではない点は注意が必要です。

いずれにしても、催告がスタートとなるわけで、その「催告状」を内容証明郵便で送るのです。そこに、契約書、注文書、注文請書、請求書など、取引に関係する書類も併せることで、売掛金の存在がより明確になります。催告状を受け取った取引先から、

「支払いが遅延していることの弁解」などの連絡

があった場合、それも重要な証拠となります。書面であっても、メールであっても、大切に保管してください。

なお、取引先からの連絡内容が、債務が存在することを前提とした内容と評価できる場合には、当該取引先の行為は「債務の承認」に該当するため、時効が更新され、その時から新たな時効期間の進行が開始することになります。

3 内容証明郵便を送る前に確認すべき5つのこと

内容証明郵便に法的強制力はありませんが、相手に心理的プレッシャーをかけることができます。そのため、次のような場合はふさわしくないかもしれません。

  1. 今後も相手と取引を続けたいとき
  2. 取引先が誠意を見せているとき
  3. 相手の経営が危ないとき(財産を隠し、また、夜逃げをされる恐れがある)
  4. 相手が不渡りを出したとき(任意交渉よりも法的手段を検討したほうがよい)
  5. こちらに何らかの落ち度があるとき

また、内容証明郵便を送った後の取引先の対応には、「すぐに送金する」「弁解を申し出る」「無視する」などがあります。これによって、以後のこちらの方針も変わってきます。

4 内容証明郵便の書き方など

内容証明郵便の書き方などは日本郵便のウェブサイトで紹介されています。ここでは、内容証明郵便の書き方などを簡単に紹介します。

1)内容証明郵便に書くべき内容

内容証明郵便には、「契約の名称」「契約日」「品名」「残金」「期限」など、こちらが有する請求権を具体的に特定した内容を記述しましょう。ただし、郵便認証司が証明するのは文書の「存在」であって、文書内容の真実性ではありません。例えば、

「お金を貸したから返済せよ」という内容の文書を送った場合、そのような内容の文書を送ったことは証明できますが、「お金を貸した」という事実が証明されるわけではない

ことを誤解しないでください。

2)電子内容証明

日本郵便は、電子内容証明サービス「e内容証明」を行っています。「e内容証明」は現行の内容証明郵便を電子化し、インターネットを通じて24時間受け付けを行うサービスです。利用する場合は利用者登録が必要で、日本郵便が指定するひな型を使用して作成しなければなりません。ひな型は日本郵便のウェブサイトからダウンロードできます。

利用者が送信した電子内容証明文書は、次のような流れで処理されます。

  • 郵便局の電子内容証明システムで受け付ける
  • 電子内容証明の証明文、日付印を文書内に挿入する
  • 差出人宛て謄本、受取人宛て原本を自動印刷する

受取人に対しては、自動封入封かんを行って郵便物として発送します。「e内容証明」は手書きの内容証明郵便に比べて、次のようなメリットがあります。

  • 郵便局に行く必要がない
  • 24時間受け付けなので、時間を気にする必要がない
  • 料金が安い(内容証明文書が3枚(約1500文字)の場合の料金:郵便局で差し出す場合1479円、e内容証明の場合1220円)
  • 宛名や封筒は自動作成されるので事前に準備する必要がない
  • 差込差出し機能を使うことで、受取人ごとに内容(氏名・住所・金額など)が異なる文書を100通までまとめて発送できる

料金やひな型のダウンロード、作成規定などについては、以下のウェブサイトを参考にしてください。

■日本郵便「e内容証明」■

https://www.post.japanpost.jp/service/enaiyo/

3)内容証明郵便の書き方

内容証明郵便の書き方は内国郵便約款等によって定められています。内容証明郵便の決まりは次の通りです。なお、内容証明を取り扱う郵便局は限られるので、日本郵政のウェブサイトなどで事前に確認しておきましょう。

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以上(2023年9月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 栗原功佑)

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