【資金繰り】資金ショートしない支払いと入金のベストタイミングの求め方

書いてあること

  • 主な読者:資金繰り改善に一策を講じたい中小企業の経営者・経理担当者
  • 課題:利益が出ているのに、資金繰りが悪化する原因を突き止めたい
  • 解決策:入金サイトと支払いサイトを把握し、理想は入金サイトをできる限り短く、支払いサイトをできる限り長くする

1 黒字でも、資金繰り悪化のからくり

会社の利益は売上から費用を差し引いて計算しますが、

売上と費用が、現金の動きと必ずしも一致しない

ことに注意が必要です。なぜ一致しないのかというと、売上債権(売掛金など)や仕入債務(買掛金など)は取引を行った月末などを締め日とし、そこから数カ月後に決済されるケースが多いからです。これは、

利益に相当する現金が売上と同時に獲得できるわけではない

ことを意味しています。

利益と現金収支の関係を次の事例で確認してみましょう。

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売上のペースに合わせて利益も毎月2倍のペースで増加しており、一見、非常に優良な会社に見えますが、現金収支は毎月マイナスとなっており、利益が増えるほど収支のマイナスが増加していることが分かります。

売上債権は2カ月後決済のため、この会社の場合、損益計算書に計上した売上が4月以降にならないと入金されません。同じく仕入債務は1カ月後決済のため、売上が発生した2月から支払期限が到来することになります。

このように、常に支出が先行する状態にあります。加えて、売上増加に伴い仕入も増加するため、資金不足が拡大していきます。このまま資金不足を解消できない場合、

黒字であっても支払いができずに会社は倒産してしまう、いわゆる、「黒字倒産」

に陥る恐れがあるわけです。

2 入金サイトと支払サイト

大切なのは、損益計算書の利益だけでなく、現金収支も適切に管理することです。営業の現場で入金や支払いのタイミングを決めるシーンがありますが、経理部から指示される時期を伝えるだけでなく、資金繰りの視点から、なぜ、○日締めの○日払いなのかであるとか、請求書を発行した後○日以内の入金をお願いしているのかを考えてみることが大切です。

これはつまり、入金サイトと支払サイトの関係です。

  • 入金サイトは売上を計上してから売上債権が入金されるまでの期間、
  • 支払サイトは仕入を行ってから仕入債務を支払うまでの期間

を指します。

3 入金サイトと支払サイトを把握してみよう

入金サイトと支払サイトは、取引先ごとに個別に決定されます。詳細は契約内容で確認できるはずですが、決算書の情報からもおおむねの数値を把握することができます。入金サイトおよび支払サイトと決算書の関係を次の事例で確認してみましょう。

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合計欄の計上額から回転期間を算定すると、売上債権の回転期間は2.0カ月、仕入債務の回転期間は1.0カ月となります。これは、事例2の前提条件に記載している売上債権の入金サイトおよび仕入債務の支払サイトと一致しており、決算書の情報から入金サイトと支払サイトを把握できることが理解できると思います。

取引先の決算書が入手できる場合、取引先のおおむねの入金サイトと支払サイトを把握することができるため、条件交渉に当たっての参考情報として活用できます。

4 資金繰りの改善方法を考える

仕入債務の支払期限到来前に売上債権が入金されていると資金繰りは楽になるので、自社の都合だけで考えれば、

入金サイトはできる限り短く、支払サイトはできる限り長く

というのが理想です。ただし、売上債務と仕入債務は表裏の関係であり、こちらの資金繰りが楽になれば、相手の資金繰りが苦しくなることもあるので配慮が必要です。

そこで、販売先に対しては入金サイトの短縮を交渉する場合、早期入金に対して一定の割引を実施するなど、販売先にとってもメリットがある方策を提案するのも一策です。また、取引開始に当たって保証金を事前に受け取ることで、当初の支払期限までの資金不足に対応することも考えられます。

一方、仕入先に対しては可能な限り支払いまでの期間を長くする他、販売による代金回収まで支払いを留保するなどの交渉が考えられます。ただし、繰り返しますがこれは仕入先にとっては資金繰りの悪化要因となるので慎重な交渉が必要となります。

また、預けている取引保証金の減額や返還を求めることで資金不足に対応することも考えられます。

なお、大企業に比べ信用力に劣ることが多い中小企業では、現金ビジネスを除き入金サイトのほうが支払サイトより若干長いことが一般的なため、入金サイトと支払サイトのタイムラグ期間の資金不足(いわゆる「運転資本」)は、金融機関からの借入金などを活用することが欠かせません。

5 取引先との良い関係が大切

資金繰りについて、自社に有利な条件を整えるには、取引先との良好な取引関係の維持により一定の信用を得ることが不可欠です。これは、販売先および仕入先のみならず、運転資本の調達先となる金融機関との関係においても同様です。

当初の契約条件の遵守はもちろんのこと、特に金融機関との関係においては、自社の財務状況を積極的に開示することも大切だと考えられます。

以上(2023年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 米山泰弘)

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画像:ururu-Adobe Stock

「電子帳簿保存法」対応。スキャナ保存は本当に業務効率化につながるのか?

書いてあること

  • 主な読者:DXの一環として、ペーパーレス化など経理の電子化を進めたい経営者
  • 課題:電子帳簿保存法の改正でペーパーレス化が進めやすくなったと聞くが、本当?
  • 解決策:細かな要件が多く、体制整備も必要。費用対効果をしっかり検討する

1 電子帳簿保存法?

DX(デジタル・トランスフォーメーション)が大いに注目を集めていますが、多くの会社は手始めに「ペーパーレス化」に取り組んでいるようです。まずはイメージしやすいペーパーレス化から、ということでしょう。

こうした中で注目されているのが「電子帳簿保存法」(以下「電帳法」)の改正です。電帳法では決算書や請求書などを電子データで保存するためのルールが定められています。例えば、クラウド会計システムの導入など一定の要件を満たした場合、キャッシュレス決済の利用明細データが領収書の代わりにできることなどが、電帳法で定められています。

まずは、2022年1月に施行された改正電帳法の全体像を見てみましょう。

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ポイントを紹介します。国税関係帳簿・国税関係書類の電子保存と国税関係書類(決算関係書類を除く)のスキャナ保存は、任意で実施できます(2021年12月31日以前は税務署長の承認が必要でした)。一方、電子取引に係る取引情報の保存は義務化されるので、電子取引を行う会社は守らなければなりません。電子取引の場合、

注文書や領収書などの原始記録が保存されていない恐れがある

ため、厳しくなっているのです。

改正電帳法には便利なイメージがあります。それは事実ですが、一方で多くの要件が事細かく決められてもいます。改正電帳法を利用してペーパーレス化を進めたい経営者は、改正電帳法の「面倒な部分」をきちんと押さえておく必要があります。詳細を確認されたい方は、このまま読み進めてください。

2 改正電帳法で定められている3つの事項

1)国税関係帳簿・国税関係書類の電子保存(最初から一貫して電子データ)

国税関係帳簿・国税関係書類とは、

国税に関する法律により備え付けおよび保存をしなければならないこととされている帳簿と書類

です。具体的には、

  • 国税関係帳簿:仕訳帳、総勘定元帳、経費帳、売上帳、仕入帳など
  • 国税関係書類:損益計算書、貸借対照表、見積書、請求書、納品書、領収書の控えなど

となります。

国税関係帳簿・国税関係書類の電子保存とは、

国税関係帳簿・国税関係書類を最初から一貫してパソコンなどで作成したものを保存すること

をいいます。

2)国税関係書類のスキャナ保存(紙から電子データへ)

国税関係書類とは、前述した損益計算書、貸借対照表、見積書、請求書、納品書、領収書の控えなどです。

そして、国税関係書類のスキャナ保存とは、

取引の相手先から紙(書面)で受け取った請求書や自己が作成した請求書などのコピーを、スキャナで読み取って保存すること

をいいます。

3)電子取引に関する取引情報の保存

電子取引に関する取引情報とは、ウェブサイト上や電子メールなどで行われる電子取引でやり取りされる契約書や見積書、請求書などのことです。

そして、電子取引に関する取引情報の保存とは、

文字通り、電子取引でやり取りされる取引情報を保存すること

をいいます。

2024年1月1日から、電子取引に関する取引情報は印刷をして紙で保存することは認められず、電子データによる保存が義務付けらます。電子データによる保存は、システムの導入などの対応が必要です。まだ準備に取り掛かっていない場合は、税理士などの専門家に相談するようにしましょう。

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3 業務効率化につながりやすいスキャナ保存制度

1)電子保存とスキャナ保存の対象の違い

まず、混同しがちな国税関係帳簿・国税関係書類の電子保存とスキャナ保存の違いを整理しておきましょう。

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両者にはこのような違いがあるのですが、経費精算など経理業務の効率化につながりやすいのは、国税関係書類のスキャナ保存(以下「スキャナ保存制度」)だといえるので、注目していきます。

2)国税関係書類のスキャナ保存制度の概要

国税関係書類のうち、

契約書や領収書など決算関係書類以外の書類については、スキャナで読み取って作成した電子データで保存することが可能

です。とても便利ですが、電子データは簡単に加工できるので、紙であったときと同程度の証拠(「真実性と可視性」という)を電子データで確保することが求められています。具体的には、領収書などをスマートフォンで撮影したら、2カ月と7営業日以内(改正前は3営業日以内)にタイムスタンプを付与します。タイムスタンプとは、

デジタル上の時刻認証で、外部の認定事業者が発行するもの

です(改正前のものは自書署名が必要)。なお、2022年1月1日以降は、訂正や削除履歴が確認できるシステム上に保存する場合はタイムスタンプが不要です。

その他、システムの検索機能などさまざまな要件があります。詳細については、下記のURLをご参照ください。

■国税庁「はじめませんか、書類のスキャナ保存!」■

https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/08.htm

4 スキャナ保存制度を導入するための体制

1)システムの費用

スキャナ保存制度を導入する場合、真実性と可視性を確保するための要件を満たしたシステムや設備を整える必要があります。また、タイムスタンプにかかる費用なども考慮しなければなりません。これらの要件を満たした経費精算システムを導入する場合、初期費用(10万円程度)と、会社規模(社員数など)に応じた月額費用(数万円~)が必要です。

2)社内規程などの整備

スキャナ保存制度を導入する会社は、必ず作業責任者、作業の過程、順序および入力方法などの手続きを明記した規程を整備しなければなりません。

また、スキャナによる入力方式について、その業務の処理にかかる通常の期間(最長2カ月)を経過した後、おおむね7営業日以内に入力する方法(業務処理サイクル方式)を採用した場合、作業責任者、処理基準および判断基準などを含めた業務サイクル(書類の作成または受領からスキャナで読み取り可能となるまでの作業の流れ)におけるワークフローなど、企業の方針を社内規程に定めなければなりません。

ただし、スキャナによる入力方式について、書類の作成または受領後、おおむね7営業日以内に入力する方法(早期入力方式)を採用する場合、上記のような業務サイクルにおける規程を整備する必要はありません。

5 実務家からのアドバイス

スキャナ保存制度の導入・運用するには相応の体制整備とコストが必要です。スキャナ保存制度を導入することで、こうしたデメリットを上回るだけのメリット(帳簿書類の保存コスト削減など)を得られるのかについて、慎重に検討しましょう。

スキャナ保存制度を導入する際は、併せて国税関係帳簿・国税関係書類の電子保存制度の導入を検討するとよいでしょう。国税関係帳簿、決算関係書類、自己発行の重要書類は電子保存し、相手が発行した重要書類のみスキャナ保存することにすれば、自己発行の重要書類をスキャナ保存する手間が省けます。また、国税関係帳簿・国税関係書類の電子保存制度ではタイムスタンプの付与の必要がありませんので、コスト面でも有利です。

スキャナ保存制度の導入を検討する際には、税理士やスキャナ保存制度に関するサービスを提供している企業などに相談してみるようにしましょう。

以上(2023年11月更新)
(監修 税理士法人アイ・タックス 税理士 山田誠一朗)

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画像:pixabay

【経理人材の育成(7)】外部のツール(セミナー、書籍)を使った人材育成

書いてあること

  • 主な読者:経理人材の育成や、経理部全体の効率化に悩む中小企業のマネジメント職
  • 課題:人材育成に外部のツール(セミナーや書籍)を使っているが、成果が出る使い方を知りたい
  • 解決策:セミナーは講師のプロフィール、目次、対象者に着目し、レベルのあったものを選び、事前の準備や事後の共有方法を明確にする。書籍は実際の業務への関連性が高い部分を指定してあげる

1 外部のツールを活用して管理職本来の業務に集中しよう

今回は、

外部のツールを活用した人材育成

についてお話しします。人材育成というと、管理職の皆さんにとっては、膨大な時間と労力がかかり、負担に感じがちです。しかし、外部のツールを使うことで、皆さんの負担は軽減されますし、より有用な知識を身につけてもらうことができます。分かることをすべて自分で教える必要はなく、一般的な内容であれば外部のツールを、社内特有の内容であれば他のメンバーをというように、内容に応じた伝達方法を適切に設計することの方が、管理職には求められます。

そこで、今回は外部のツールの中でもよく利用されているセミナーと書籍について、人材育成につながる使い方を紹介します。

2 いいセミナーの見分け方

多くの場合、知識を習得するためにセミナーを受講すると思います。セミナーの効果を上げるために大事なのは、自社や受講される方に合ったセミナーを選ぶことです。

例えば、「この先生は有名だから」といった理由でセミナーを選ぶ方がいますが、実際に受講される方のニーズや習熟レベル次第では無意味になってしまう場合があるのです。私自身もセミナー講師をしているため、受講者と講義内容のミスマッチが生じるケースを目にして、時間と費用がもったいないと感じることもしばしばです。

セミナー受講を決める際には、パンフレットを見るはずです。書かれている内容を見て、受講者に合ったものかどうかを確認しましょう。具体的には、次の3点を確認することで、セミナーの成果は大きく上がります。講師の立場からすると、セミナー内容に適した方に来ていただくために、工夫して書くことが多いのもこの3点といえます。

  • プロフィール
  • 目次
  • 対象者

プロフィールを通じて、その講師がその内容を語るにふさわしいかどうかが分かります。公認会計士や税理士だからといってすべての分野に精通しているわけではなく、得意分野は人それぞれです。また、得意分野というからには、これまでの経歴の中でその分野の経験を積んでおり、その旨がプロフィールに書かれているはずです。つまり、プロフィールを通じて、そのセミナーのテーマを解説する資格があるのかどうかを判断できるのです。

また、なぜ得意分野とする講師のほうがいいかといえば、そうでない講師に比べて、分かりやすい説明や実務のコツなどを聞くことができるからです。特に、詳しく理解したい場合にはこだわった方がいい点といえます。

さらに、目次に目を向けて、自分が知りたい内容がそのセミナーに含まれていることを確認することも大事です。例えば、インボイスをテーマにしたセミナーといっても、制度や仕組みの概要、会社での取り組み方とスケジュール、システムでの対応など人により聞きたいことはさまざまです。セミナーの限られた時間の中ですべてを網羅するのは現実的ではないため、セミナーの中で特に力を入れている項目を見つけることができます。

また、セミナーによっては対象者を明示してくれる場合もあります。同じ経理職といっても、経験や知識はさまざまです。多くの場合、講師は受講者の経験や知識に関して、特定のレベルを想定して話すため、あまりにレベルが合わないと、講師が使う用語が分からないという場合もあるでしょう。パンフレットに表示されている対象者に合致しない場合は参加を見送る方がいいかもしれません。習熟レベルは、メンバー自身よりも、経験豊富な管理職の皆さんの方が客観的に判断できると思いますので、助言するのもよいでしょう。

3 セミナーは、事前事後こそが大事

メンバーと相談の上、受講してもらうセミナーが決まったら、事前の準備も重要です。セミナーに誰かを参加させるのは、会社に不足している知識を得ることが目的の1つです。たとえ、新任経理向けの基礎研修だったとしてもそうです。むしろ、基礎的な知識ほどベテランの皆さんにとってはどこからどう説明したらいいのか分からないという面もあります。

加えて、セミナー参加には人材育成の側面もあります。1つのセミナーには、会社から1名だけが参加するケースが多いものです。ですから、

セミナーの前後を通じて、会社にとって必要な情報は何なのかを理解し、セミナーで得た情報を会社に持ち帰って共有する

という、この一連の過程を自分の力で達成することができれば、セミナーで紹介された知識に加えて、「知識を習得する」スキルを同時に身につけることができるのです。

このスキルを身につけるには、人によっては管理職の皆さんの助けが要るでしょう。例えば、経験が浅いメンバーには、解決したい具体的な事項を事前に言葉にして3つほど伝えてみるのもいいでしょう。セミナー参加後には、部門の会議で、セミナーで新たに得た情報を共有してもらうのもおすすめです。本人にはプレゼンテーションの練習になりますし、残りのメンバーも知識を吸収できて、一石二鳥です。必要に応じて管理職の皆さんが説明をサポートしてももちろん構いません。

このように、事前と事後の取り組みを行うことで、メンバーはセミナー中も集中して聞くことができるはずです。

4 セミナー中のメモは最小限に、講師への質問は積極的に

セミナー中によく講師の発言を熱心にメモする方を見かけますが、議事録を作るようにメモしながら、頭の中で情報を咀嚼(そしゃく)するのはなかなか大変です。そこでおすすめなのは、自社あるいは自分でやってみたいと感じた情報だけを中心にメモをとるというやり方です。そうすることで、セミナーが終わったあとには、自社オリジナルのアクションリストが出来上がります。

また、あらかじめ知りたいと思っていたことが講義内で触れられなかった場合には、遠慮なく質問しましょう。多くの講師は、熱心に聞いてもらったからこそ質問が出ると感じ、歓迎します。セミナーは会社の問題解決手段の1つなのですから、専門家から直接助言を受けられる機会を有効活用しましょう。同時に、専門家との対話スキルを身につけるきっかけにもなるはずです。経理の世界では、皆さんご存じのように、専門家に支援をしてもらう機会が多くありますので、そのスキルの練習にもなります。

5 書籍の選び方と活かし方

経理の仕事は、簿記に始まり、会計基準や税法など理論を理解することが必要なので、勉強は不可欠です。管理職の皆さんがすべて説明しようとすると、時間がいくらあっても足りません。助けとなるツールを使うのが現実的でしょう。

セミナーに比べて書籍特有のメリットもいくつかあります。

  • セミナー以上に体系立って理解ができること
  • いつでも再確認できること

です。特に、経理の現場で作業をしながら、どういうことだったかなとすぐに書籍を確認できるのは、書籍ならではです。ちなみに、調べるという点では、ネット検索が楽ですが、その情報が正しいかどうかの確認をしなければならず、結局手間がかかってしまうケースも多いです。

新しい業務を割り当てた場合に、ぜひ参考になる書籍も合わせて提供するのもいいと思います。私も管理職時代には、メンバーには、読むべき章を指定して書籍を渡すようにしていました。書籍1冊丸ごとだと、初めてその業務を担当する人には負担が大きいものです。そこで、実際の業務への関連性が高い部分を中心に、一、二章だけ指定すれば、積極的に読んでくれました。

さらに、書籍の中から適切な章を選ぶのも大事ですが、それ以前に適切な書籍を選ぶことはもっと大事です。これもセミナー選びと共通しますが、自分に合った書籍を選ぶには、自分の知識レベルを客観的に把握する必要があるため、結構難しいものなのです。そこで、メンバーには、なぜこの本を選んだかという理由を丁寧に説明しつつ、適切な書籍を紹介するといいでしょう。

なお、経理分野の書籍は種類によって使い方が異なることも、メンバーには注意を促したほうがいいかもしれません。例えば、税法や会計基準を網羅的に載せた辞書のような本もありますが、これらは前から読むのはお勧めしません。何か調べものがあるときに、まさしく辞書のように「引く」本といえます。経験を積んだ皆さんであれば、当たり前のことかもしれませんが、メンバーにとってはまだ気がつかない場合もあります。

業務自体を身につけてもらうものもちろん大事なことですが、業務を身につけるための学び方をスキルとして身につけることは、さらに大事です。とくに、経理の分野は、新制度や改正などの動きも多く、常に勉強が必要です。学ぶスキルの重要性は他の職種に比べても高く、業務の成否に直結するといっても過言ではありません。管理職の皆さんにとって、メンバーが学ぶスキルを身につける支援をすることは、経理人材としての大きな成長につながります。まずは、書籍やセミナーといった身近な手段から、うまく活用いただけたら幸いです。

以上(2023年11月作成)

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画像:Kittiphan-Adobe Stock

約260年続いた江戸幕府の初代将軍・徳川家康。彼が後継者に告げた一言の真意とは?

水よく船を浮かべ、水よく船を覆す。ただこのことを、よく心得られよ

徳川家康は、織田信長、豊臣秀吉とともに、戦国の三英傑の一人に数えられる人物です。最初は小国の三河(現在の愛知県東部)を治める一大名に過ぎませんでしたが、数々の戦いに勝利して勢力を伸ばし、やがて江戸幕府の初代将軍となり、長く続いた戦国の世を終わらせました。

冒頭の言葉は、家康が2代将軍である息子の秀忠(ひでただ)に度々言い聞かせたとされる教訓で、「水(領民)は船(幕府)を浮かべもするが、転覆させもする。だから領民の心が離れないよう、行いには重々注意しなければならない」という意味があります。1600年、天下分け目の決戦といわれる「関ヶ原の戦い」に勝利した家康は、1603年に江戸幕府を開きますが、2年後には将軍の座を秀忠に譲ります。これは、将軍職が徳川家によって代々引き継がれていくことを世に知らしめるためでしたが、一方で家康には、秀忠に将軍職を譲るに当たって懸念していることがありました。

それは「人生経験の差」です。家康は戦国の世を生き抜いてきた人物です。若い頃から三河を囲む敵国の脅威にさらされ、時には一向宗という教えの信徒になった領民に一揆を起こされるなど、領国の内外に自分を脅かしかねない存在を抱えながら、苦労の果てに将軍の座を手に入れました。

一方、息子の秀忠は、家康からすれば戦国の世の苦労をほとんど知らない人物です。家康が秀忠に将軍職を譲った頃には、徳川家の力はすでに揺るぎないものになっており、秀忠にとって敵といえるような存在はほとんどいませんでした。

家康はこの状況を、「秀忠は苦労せずに将軍になったから、下手をすればおごって世を乱すかもしれない」と危惧していました。だからこそ、「徳川家が盤石に思えても油断するな。領民は常に見ているぞ」と度々くぎを刺したのです。そのかいあってか、秀忠はおごることなく諸法度の制定や貿易の統制に取り組み、家康から引き継いだ江戸幕府をより強固な組織へと進化させました。

会社の経営者も、どこかで後継者に後を託すときがやってきます。家康の言葉を借りるなら、水は「社員」、船は「会社」であり、社員の心が経営者から離れれば、会社は立ち行かなくなります。このことは後継者にしっかり教えておく必要があるでしょう。ですが、社員の心が離れないようにするのと、社員の顔色をうかがうのは違います。船は水に浮かべて終わりではなく、針路を決めて前進しなければなりません。時には社員からの反対を押し切って、経営者自身が正しいと信じた道を前に進まなければならないこともあります。

大切なのは「後継者にトップとしての緊張感を持たせつつ、信じて後を託すこと」です。秀忠は、武将としての才にはあまり恵まれなかったようですが、家康は「これからの平和な時代には秀忠が必要だ」と考え、彼に後を託しました。将軍職が代々そうして継承されていったから、江戸幕府は260年余りも続いたのかもしれません。

出典:「明良洪範続編」(浜松・浜名湖ツーリズムビューローウェブサイト 家康公「伝」)

以上(2023年11月作成)

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画像:亮 山本-Adobe Stock

【文例付き】相手を不快にさせない催促メールへの返信マナー

電話やメールに加え、メッセンジャーアプリ(メッセージツール)やチャットでも連絡を取るようになった現在。相手との関係性などによって連絡手段を使い分けるようになりました。例えば、親しい相手に送るとき、内容が軽いとき、返信がすぐに欲しいときなどはメッセージツールやチャットで連絡を取るといった具合です。

一方、連絡手段が増えたことで確認漏れや返信忘れが多くなりました。特にメールは、メッセンジャーアプリやチャットのように即時性がないため、後で返信するつもりだったのに忘れてしまい、しばらくして相手から「返信が来ません……」と催促を受けてしまうことがあります。リモートワーク(テレワーク)中の場合、メール数が増える、オフィスとPC環境が異なるなどの理由から確認漏れなどが余計に増えているかもしれません。

そこで本記事では、催促を受けたとき、相手を不快にさせない返信の書き方を文例付きで紹介します。ChatGPTなどAIでメールの返信を作成する人も増えてきているかもしれませんが、その場合も、この記事の内容がChatGPTへのプロンプト(指示)の参考にしていただけるかと思います。

なお、相手にやんわりと催促したい、メールの再送をお願いしたいなど、こちらが相手に失礼のないように催促メールを送る場合は、次の記事を参考にしてください。

1 催促メールへの返信で注意すべきこと

1)相手からの催促メールに気付く

大切なのは、相手の催促に気付くことです。相手も催促メールを送ることに申し訳ないと感じているので、ストレートな表現を避け、“やんわり”とした内容の文面を送ってきます。中には遠回し過ぎて、結局、何が言いたいのかがよく分からないメールもあります。

このようなメールに遭遇したとき、実は「早く返信をください」という催促メールをもらっている可能性があります。分かりにくいメールを送ってきた相手にもある程度の責任がありますが、こちらが間違えた対応をすると、事態がさらに悪化してしまうので注意しましょう。

メールに次のようなフレーズが含まれている場合は、「催促メールかもしれない」というセンサーを働かせて、対応しましょう。

先日ご依頼した資料の件で、急ぎ確認したいことがあり、ご連絡致しました。
本日13時までに頂戴する予定のメールがまだ届いていないようです。
ご多用中に恐縮ですが、ご対応のほど、何卒宜しくお願い致します。
何らかのご事情で遅れているようでしたら、その旨、ご連絡いただきたく存じます。

2)返信前に「送信済みトレイ」などを確認する

催促されているということが分かっても、こちらとしては「その件は、すでに返信したのに!」と思うことがあります。しかし、送信済みだと勘違いしていて、実は「下書きトレイ」に入ったままだったり、システム障害などで相手に到着していなかったりする恐れがあります。

「返信してますよ!」と伝えたいところですが、その前に次のような問題がないかを確認しましょう。

  • メールボックスの「送信済みトレイ」を確認
    ⇒こちらから相手へ返信したメールが残っていないか、返信先の宛先や締め切りの期日を間違えていないかを確認します。
  • システム障害がないかを確認
    ⇒相手に返信していても、自社や相手にシステム障害が発生していて、メールが相手に到着していない可能性もあります。まずは自社にシステム障害がないかを確認してみましょう。

3)「未返信」の場合は簡潔に理由を説明する

何らかの理由ですぐに返信ができていなかった場合は、すぐに謝罪すべきです。とはいえ、こちらのミスで迷惑を掛けたことを悪く思うあまり、謝罪の言葉を書き連ねないように注意しましょう。

相手が一番に求めているのは、返信(こちらのアクション)です。長い謝罪文は言い訳がましい上に、それを読む相手の負担にもなります。謝罪は簡潔にまとめ、いつまでに、何ができるのかを相手に伝えましょう。

2 催促メールへの返信の書き方と便利なフレーズ

催促メールへの返信の基本的な構成は、通常のメールと同様に「挨拶」「前置き・本題」「フォロー・結び」となります。この構成に沿って、返信する際に使えるフレーズを紹介します。

1)挨拶

基本は、丁寧に接することと、相手の催促メールの要件を理解していることを明確にすることです。

いつもお世話になっております。株式会社○○の△△(氏名)です。
ご連絡いただいた件、お待たせしてしまい申し訳ございません。

2)前置き・本題

前置き・本題では、こちらから返信している場合と、こちらのミスで返信していない場合によって書き分けます。

こちらから返信している場合、前置きでは「自分のミスや勘違いである可能性を認識しています」というニュアンスを含め、低姿勢を崩さないようにします。

本題は、前置きに続けるかたちで、「いつ返信をしたか」を伝えて、相手に確認を促します。具体的には次の通りです。

  • 本メールと行き違いで、すでにご確認いただいていたら恐縮ですが、本日13時に▽▽(相手の氏名)さまにいただいたメールに返信するかたちで、お返事をお送りしております。
    念のため再送致しますので、ご確認いただけましたら、その旨をご返信いただければ幸いです。
  • 本日13時に▽▽(相手の氏名)さまに返信メールをお送りしております。念のため弊社のメールシステムの障害などを確認したところ、不具合などは発生していないようでございます。
    同様のメールを再送致しますので、大変お手数ですが、ご確認いただけますでしょうか。

こちらのミスで返信していない場合、前置きで謝罪します。謝罪のトーンは、相手に掛けた迷惑の度合いによって使い分けます。程度が軽いほうから順に、「失礼致しました」「申し訳ございません」「陳謝致します」などとなります。

また、本題はこちらからどのようなアクションを取るのかを記載します。なお、相手からの提案を断る場合などは、その旨をしっかりと伝えながらも、今後の関係性を考慮し、丁寧な回答をするように心掛けます。具体的には次の通りです。

  • お返事が遅くなり、大変失礼致しました。
    いただいたご提案の件ですが、社内で最終確認をしている最中でございます。
    明日5日の12時までに最終的なお返事をお送り致します。
  • お返事が遅くなり、大変失礼致しました。
    いただいたご提案の件ですが、社内で検討した結果、残念ながら条件が合わないため、このたびの採用を見送らせていただきたいと存じます。

3)フォロー・結び

フォロー・結びでは、相手に確認を促す場合は、「確認の手間を取ってもらって申し訳ないが、対応をお願いします」というニュアンスを伝えます。具体的には次の通りです。

  • ご多用中に恐縮ですが、ご確認のほど、何卒宜しくお願い致します。
  • もし、認識の相違がある場合は、その旨、ご連絡いただきたく存じます。

また、こちらから再度返信する場合や断る場合は、「もう少し時間をください」「今回は見送ります」というニュアンスを伝えます。いずれの場合も、丁寧な表現とし、かつ後ろ向きな言葉は避けるようにします。具体的には次の通りです。

  • お待たせして恐縮ではございますが、今しばらくお時間をいただければ幸いです。
  • 事情をご賢察の上、ご了承賜りますようお願い致します。

3 返信を催促されないように、日ごろから対策をしておこう

催促されてしまったときは、慌てず冷静に対応します。相手との関係性などを考慮して、電話で一報を入れて、状況の確認や謝罪をしたほうがよい場合もあります。

また、日ごろから心掛けておきたいのが、「催促されないように対策をしておくこと」です。「CCに自分以外の同僚を含めておく」「毎日就業前に、送信済みトレイをさっと見て、大切なメールの送り忘れがないかを確認する」などが考えられます。

この他に「すぐに回答できない場合は、メールを受領した旨と、いつまでに回答するかを記載して返信する」などを徹底しておけば、相手やCCに含めている同僚が、いつもと違って返信がないことに気付き、期日を過ぎてから催促されるといったことを防げるかもしれません。
 リモートワーク中などの場合は、相手にその旨を伝えておくことや、急ぎの場合は携帯電話に連絡をもらうよう、メールの署名欄に携帯電話の連絡先を追記しておくなどしてもよいでしょう。

自分なりに工夫して、「勘違いで返信が送れていない」「うっかり返信を忘れていた」といったことがないよう、日ごろから対策をしておきましょう。

また、こちらが催促をする場合は、【文例付き】上から目線にならない催促メールのマナーを参考にしてください。

4 (参考)メール送受信の仕組みを押さえておこう

普段どうやってメールが送られているのか意識することはありませんが、メール送受信の基本的な仕組みが分かっていれば、「送ったはずのメールが届いていないかもしれない」ときにも慌てふためいたり、何がどうなっているのか分からず悩んだりすることなく対応できます。実際には瞬時に行われていますが、メールは次の①~④の順で送信されます。

メール送受信の仕組み

①送信者がメールソフトなどでメールを送信すると、送信側のメールサーバに届く
②送信側のメールサーバはDNSサーバに宛先を照会し、DNSサーバが当該宛先のIPアドレスを返す
③送信側のメールサーバが受信側のメールサーバへメールを送信する
④受信側のメールサーバから、受信者がメールソフトでメールを受信する

メールサーバには、送信の役割を果たすSMTPサーバと、受信の役割を果たすPOPサーバまたはIMAPサーバがあります。POPサーバの場合、受信したメールはサーバ上には残らず端末にダウンロードされ、受信者はそのメールを読みます。IMAPサーバの場合、受信したメールはサーバ上に保存され、受信者はインターネットに接続してそのメールを読み込みます。

DNSサーバはドメイン名とIPアドレスを変換する仕組みを提供するサーバです。

送ったはずのメールが届かない原因はいろいろありますが、次のような事例もあるのは頭の片隅にとどめておくとよいかもしれません。

1.送信側のシステムで、メールを送信するのに上長の承認が要るのに、上長が承認するのを失念していた
⇒上長に連絡して承認してもらいましょう

2.受信側のシステムで、受信容量に上限があるのを知らずに、大容量のファイルを添付して送信した
⇒エラーメッセージが返ってきているか確認の上、ファイルを圧縮する、分割するなどデリバリー方法を相手に相談しましょう

3. SPAMメール送信元をリスト化し公開している団体(SPAMHAUSやSPAMCOP)のリストに何らかの原因でメールサーバのIPアドレスが登録されてしまった
⇒リストから除外してもらうように申請しましょう

なお、受信側のセキュリティ設定やメールソフトのフィルタ設定によってもメールが届かない恐れがあります。催促メールを送るときには想定できませんが、例えば「Bcc:」のみにメールアドレスを書いて一斉送信するのはSPAMメールや詐欺メールと誤認されても仕方ありません。気を付けましょう。

以上(2023年11月更新)

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中小企業が成長するために役立つ 「増資」の意味と方法

書いてあること

  • 主な読者:資本金を増やすべきかどうか悩んでいる中小企業の経営者
  • 課題:利益や資産・負債に比べ、開業後に資本金へ意識が向きにくく、資本金を増やすことで会社に何がもたらされるかがイメージしづらい
  • 解決策:増資は返済不要の資金調達で、資金回収が長期にわたる投資(設備投資など)に適している。また、社外からの信用度を高められる

1 開業時以外で、資本金を気にしたことはありますか?

「資本金をいくらにするか?」。開業時はいろいろと考えますが、開業後は利益や資産・負債に比べ、それほど気にする経営者は多くはないのではないでしょうか。実際に資本金を増やすと会社に何が得られるのかがイメージしづらい人も多いと思います。

開業後に、会社が資本金を増加させることを増資といい、一般的には、

資金調達のため

に株式を発行して行われます。資金調達以外にも、

金融機関や取引先といった社外からの信用度を高めるため

に資本金の額を大きくしたいというニーズもあります。

中小企業の経営者が増資を検討するきっかけはさまざまですが、最も多いのは事業拡大のための資金調達です。中小企業の資金調達手段には、金融機関からの借入が多いですが、資金需要の性質によっては借入より増資の方が適しているケースもあります。

この記事を読んで、増資にはどのような特徴があるのかメリット、デメリットを把握し、かつ増資の方法についても整理していきましょう。

2 増資のメリットとは

1)返済不要な資金が得られる

増資による調達資金は、借入金と違い返済義務がありません。返済期限を考えなくてもよいため、設備投資や研究開発など、資金回収まで時間のかかる投資のための資金調達手段としては、特に適しています。

2)財務体質強化による社外信用度の向上

増資により貸借対照表の自己資本(なお、借入金は他人資本という)が増えることで、財務体質が強化され、会社が安定して経営できているということを示すことができます。一般的には自己資本比率(総資産のうち自己資本が占める割合)が高いほど、財務体質が強い会社と判断されます。そのため、社外信用度の向上にもつながります。

3)株主による経営や事業運営のサポート

増資により新規に株主となる法人・個人から、会社の経営や事業運営のサポートを受けられることも多いです。株主は会社の経営上のリスクを共有しているので、基本的には会社のサポートに関し協力的です。

3 増資のデメリットとは

1)オーナーの持株の希薄化

オーナー以外の出資を受け入れることで、オーナーの株式保有割合は低下することになります(後述の株主割当増資による場合は、除きます)。オーナーの持株比率の低下により、オーナー以外の株主の意向も経営に反映する必要が生じるなど、経営の自由度が下がる可能性があります。

2)配当金の支払い

借入金のように金利負担がない代わりに、株主から配当の支払いを要求されることもあります。配当金を支払う場合、その資金負担が生じます。

3)税金増加の可能性

増資によって資本金が増加すると、税金が増加する可能性があります。資本金が1000万円未満の場合、設立から2年間は原則として消費税が免税となる他、その後も課税売上高が1000万円未満の場合、免税事業者となることを選択できます。また、法人住民税の均等割りに関する優遇もあります。

しかし、

増資によって資本金が1000万円以上となった場合、これらの優遇措置の対象外

となります。

さらに、資本金が1億円以下の会社には中小法人または中小事業者として法人税におけるさまざまな優遇措置がありますが、

増資によって資本金が1億円を超えた場合、この優遇措置の対象外

となります。

4)手続きにかかる金銭

増資を行うと登記が必要になりますが、

増加した資本金の額に応じて登録免許税(増加資本金の1000分の7、最低3万円)

がかかります。登記を専門家に依頼するのであればその報酬の支払いも生じます。

5)株主増加による負担の増加

株主が増加すると、株主対応に係る負担も増加します。たとえば、株主総会を開催するにも、会場の確保や招集通知の送付など、負担が生じます。

4 増資をする方法と手続き

1)第三者割当増資

第三者割当増資とは、

特定の出資者に株式を発行して増資すること

をいいます。出資者の候補としては、金融機関(投資ファンド含む)や取引先(仕入先・販売先)などが挙げられます。

後述の株主割当増資と違い、あらかじめ出資の意向がある相手を特定できることから、資金を集めやすいというメリットがあります。一方で、オーナー含め既存株主の保有割合が低下するというデメリットがあります。

手続きの主なものとしては、

  • 発行決議前に出資条件の協議
  • 原則として株主総会の発行決議(特別決議)
  • 発行決議後に出資者の募集・申し込み
  • 出資者確定のための決議(割当決議)
  • 増資後に発行済株式数と資本金額の変更登記

などが必要です。なお、必要な事項は会社によって変わることもあります。実際に増資する場合には、手続きに不備が生じないよう弁護士・司法書士など専門家のサポートを受けることをお勧めします。

2)株主割当増資

株主割当増資とは、

既存株主の保有割合と同じ割合で株式を発行して増資すること

をいいます。増資に応じるかどうかは各既存株主の判断となります。増資しても株主の保有割合が変わらないというメリットがありますが、他方で既存株主の資金余力・出資意欲によって調達金額が左右されるというデメリットがあります。

主な手続きとして、

  • 原則として株主総会の発行決議(特別決議)
  • 発行決議後に出資者の募集・申し込み
  • 出資者確定のための決議(割当決議)
  • 増資後の変更登記

が必要です。

3)公募増資

公募増資とは、

既存株主や特定の第三者に限らず、広く一般の投資家を対象に株式を発行して増資すること

をいいます。公募増資は原則として上場企業であることが前提となります。一般的な中小企業の増資方法は第三者割当増資か株主割当増資になるため、手続きの解説は省略します。

4)利益剰余金の資本組み入れ

新株を発行せず、会社の貸借対照表に計上されている利益剰余金を資本金に振り替えることで資本金を増やすことも可能です。主な手続きとしては、

  • 株主総会の普通決議
  • 資本金の増加についての変更登記

が必要です。

以上(2023年11月作成)
(執筆 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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画像:buravleva_stock-Adobe Stock

コミュニケーション活性化の場として社内勉強会を継続するためのポイント

書いてあること

  • 主な読者:社員同士のコミュニケーションの場として、社内勉強会を続けていきたい経営者
  • 課題:社内勉強会が一度や二度の開催で終わってしまって続かない
  • 解決策:社内の自主性に任せすぎず、ルールを決める(プレゼンテーマ、開催日のスケジュール、資料の事前準備)

1 なぜ社内勉強会が続かないのか?

有志の社員が集まって、特定のテーマについて知識の共有や議論を図る「社内勉強会」。社員の知識の底上げやコミュニケーションの活性化だけでなく、経営者や上司にとっても「参加する社員の人となり」「興味・関心のあるテーマ」「プレゼンの資料作りや話し方の傾向」などが分かるので、開催するメリットは大きいです。ただ、問題は

社内勉強会が一度や二度の開催で終わってしまって続かない

というケースが多いことです。

社内勉強会が続かない理由としては、次のようなものが挙げられます。

  • 業務に直結するテーマを続けると、講師を担当する社員のプレッシャーが高くなる
  • 開催日が場当たり的に決まるので、スケジュールが合わない社員が多い
  • 当日に資料が配られるので、参加者が事前に準備できず、意見交換が盛り上がらない
  • 次回の担当者やテーマが決まらず、どこか「なあなあ」になってしまう

社内勉強会が続かないからと、経営者がテーマを決めたり、運営に関与したりと口を出しすぎると、社員の姿勢が受け身になったり、やらされ感が出たりすることになりかねません。それでせっかくの社内勉強会が頓挫してしまっては本末転倒です。

まずは

社内勉強会が長続きするよう、一定のルールを決める

ようにしましょう。

決めたルールに基づいて、社内勉強会がある程度続いて軌道に乗ったら、社員の自主性に任せていけると理想的です。

そこで、この記事では、社内勉強会を軌道に乗せる手助けとして、社内勉強会を続けていくためのルール作りのポイントを提案します。

併せて、社内勉強会が長続きしている企業はどのような取り組みをしているのか、事例も紹介しますので、社内勉強会を長続きさせるためのヒントとして、ご活用ください。

2 社内勉強会を続けていくためのルール作りのポイント

1)「業務関係」以外にも、「趣味」「IT」など幅広いテーマを認める

社内勉強会のテーマを業務関係のものに絞る必要はありません。むしろ業務関係に絞ってしまうと、講師を担当する社員が「前回よりも質の高い発表をしなければいけない」とプレッシャーを感じたり、毎回内容が似通ってマンネリ化してきたりします。

勉強会は社員が知識を付ける以外に、社員同士のコミュニケーションを通して、その人となりが分かるといったメリットもあります。そうした意味では、

テーマの範囲をある程度自由にし、社員の趣味の分野についてプレゼンしてもらう

というのも1つの手です。あるいは、

若手の社員が業務・プライベートを問わず普段使っている便利なITツール

をテーマにし、よいツールがあれば、正式に社内で使ってみることもできます。

2)開催を不定期にしない

「思い立ったが吉日」とばかりにその都度社内勉強会の予定を組もうとすると、スケジュールが合わず参加者が集まりませんし、プレゼン担当者も資料などを準備する余裕がなくなります。また、開催が不定期で勉強会の間隔が空きすぎると、前回の内容を思い出しにくくなりますし、モチベーションも長続きしません。

社内勉強会をやると決めたなら、

「毎月第◯曜日の◯時から1時間」といった形で定期的に開催する体制を整え、社員のスケジュールに組み込んでもらう

ようにしましょう。開催日の1週間前など、日にちが近くなったタイミングでリマインドをするなどの小さな配慮もあるとよいでしょう。

なお、開催日のルールを決めるのは大切ですが、有志の集まりである以上、「あくまで自由参加である」という点は強調しておく必要があります。社内勉強会が自由参加の場合、その時間は原則労働時間になりませんが、開催日のルールを厳格にすると、社員の中には「参加が強制である」と誤解する人も出てくるでしょう。仮に会社が強制参加と社員に受け取られても無理のない対応をしていた場合、社内勉強会の時間が労働時間とみなされ、賃金を支払わなければならなくなるケースもあります。

3)資料を事前に共有、記録を残す

社内勉強会のテーマについて、資料がある場合にはあらかじめ参加する予定の社員で共有しておくようにしましょう。特にある程度専門的な内容を扱う場合、開催日当日に資料を渡されても内容が頭に入ってきません。逆に資料が事前にあると、参加者も事前に勉強した上で臨むことができ、意見交換も活発化します。

また、内容を頭に入れるという点では、ウェブ会議システムのレコーディング機能を活用して、社内勉強会の記録を残しておくのもよいでしょう(リモートで開催する場合)。そうすれば、次の社内勉強会まで日にちが空いたとしても前回の内容がすぐ思い出せますし、次回以降に講師役を担当する社員にとっても、資料作りや話し方などの参考になります。

4)次回の講師役を必ず決める

次回のプレゼン担当者やテーマの候補があらかじめ決まっていないと、勉強会が続かず自然消滅してしまう可能性があります。

勉強会の終わりのタイミングだと時間が足りず次回の講師役を決められなくなる場合は、勉強会の始めのタイミングで決めたり、スケジュールを決める段階でプレゼンを持ち回りで担当できるように指名したりしておくのもよいでしょう。

3 社内勉強会が長く続く会社の取り組み事例

ここでは、各社のリリースを基に、社内勉強会が長く続く会社はどのような取り組みをしているかの一例を紹介します。

1)プレゼンのハードルを下げて「ゆるく」続ける:NTTコミュニケーションズ

同社(東京都千代田区)では、昼休憩の時間を利用した社内ランチ技術勉強会「TechLunch」を9年にわたって開催しています。

元々はITに関する最新の技術や話題の技術に関するプレゼンをメインとしていたため、プレゼンを聞く社員にとっては刺激的でしたが、こうした状況が続くと、次の担当者にも技術的な内容が求められ、プレゼンのハードルが高くなるという課題がありました。

そこで、ラグビー経験者や、個人の趣味で日本酒やカメラをたしなむ人に経験や知識をプレゼンしてもらうなど、IT技術とは離れたテーマをプレゼン内容にすることで、発表に対するハードルを下げています。

また、「プレゼンをオフィスではなくリモートで行う」「時間帯は固定だが、プレゼン担当者が準備などをしやすいように、開催する曜日は任意に変更できる」などの柔軟な対応ができることも、社内勉強会を長く続けていくための大切な要素のようです。

2)運営のノウハウを残して負担を軽減する:HENNGE

同社(東京都渋谷区)では、エンジニアが技術的なテーマについてプレゼンしあう社内勉強会「MTS(Monthly Technical Session)」を100回以上開催しています。

毎回事前にプレゼン担当者を募集する形式で、業務の中で得た技術的な知見の共有や最新テクノロジーに関する話題、個人的な学習の成果などをテーマに情報交換をしています。

社内勉強会の運営は月替わりでプロジェクトチームが担当しています。プレゼン担当者の選定、設営準備、MTSの後に行う懇親会の準備などの運営に関するノウハウや手順を文書として書き起こしてあり、共有されるようになっています。こうした運営の仕組みを整えることで、社内勉強会が長く続いているといいます。

3)全社的に社内勉強会の内容を共有:モバイルファクトリー

同社(東京都品川区)では、社員のスキル向上を目的に1日1時間、業務時間内で社内勉強会を開催しており、10年以上継続しているといいます。

プレゼン内容は社員の主体性を尊重しているため、業務のノウハウの共有だけでなく、読書会や動画の視聴など多岐にわたります。

また、オンライン形式で開催することで、別の作業をしながらでも気軽に参加できるようになったため、社員が社内勉強会に参加するハードルが下がったとしています。

勉強会の資料はチャットツールのSlackで公開をしており、社員全員が閲覧できる状態になっています。公開資料に「いいね」や「コメント」などのリアクションがつくことでプレゼン担当者の達成感にもつながり、モチベーションを保つ要素になっているようです。また、社内勉強会を評価する仕組みとして、社員投票などによって良いアウトプットの事例を選出し、対象となった社員を表彰する制度もあります。

以上(2023年11月作成)

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【朝礼】「推しつ推されつ」の関係がビジネスを加速させる

おはようございます。今朝はビジネスにおける「推し活」についてお話しします。推しというのは、一言で表すなら「応援」です。もし、誰かと「推しつ推されつ」の関係になれたのなら、ビジネスの可能性は大きく広がります。なぜなら、推す力は、時として企業規模やブランドを超え、長く強く継続するものだからです。

私には、ビジネスにおいて推しつ推されつの関係になっている人が数人います。そのうちの一人は、仙台の取引先に勤める人で、東日本大震災をきっかけに親交を深めました。

その取引先には、当社の冊子を販売する予定でしたが、納品も終わり請求書を送ろうとしたところで、東日本大震災が発生しました。震災発生から数週間後、ようやく連絡が取れたときは相手の無事を心から喜び、冊子を販売ではなく寄付することにしました。取引先は、当社の冊子をお客さまに配る予定だったので、私は冊子を読んだ人々が少しでも元気になればと願ったのです。

その思いが相手に伝わって距離感が一気に縮まり、相手も自分の志などを話してくれるようになりました。やがて、部下たちも巻き込んだチームでの付き合いとなりました。仙台と当社がある東京は離れていますが、定期的に互いを訪問しては近況を報告し、刺激し合っています。

こうした関係はかれこれ10年以上も続いていますが、その間、取引先は当社が冊子を出せば、必ず購入してくれています。

他社からの営業も受けているとのことですが、当社を一番に採用してくれます。過去に理由を聞いたことがありますが、その取引先は、「単に付き合いが長いからという惰性ではなく、御社の志に共感しているからです」と話してくれました。

私は推すことと引き換えに何かを求めるわけではないので、取引先が冊子を購入してくれなくなっても関係は変わりません。もし、関係が途絶えるとすれば、当社と取引先のどちらかに、相手から推してもらえる理由がなくなったときです。

ここが重要なポイントです。企業規模、ブランド、一瞬の共感だけでは、長く強く推してはもらえません。「推してもらえるに足る努力を続けている」からこそ、まっすぐ推してもらえるのです。

ビジネスは人と人との関係であり、だからこそ「好き嫌い」もあります。この好き嫌いが進化したいまどきの形が推しなのだと思っています。人となりや志など、相手の内面を見て、共感し、応援していくということです。

そして、私たちが推してもらえるようになるために必要なのは、「発信と対話」です。「私たちは何者で、何を成し遂げようとしているのか。足元ではどのような活動をしたのか」をしっかりと発信し、相手と対話をして理解を深めてもらわなければなりません。皆さんには、ビジネスで推しつ推されつの関係になっている人がいますか。その人数は皆さんの発信力や活動量を測る物差しともいえるのです。

以上(2023年11月)

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画像:Mariko Mitsuda

建物や家具だけじゃない 木材活用の意外な現在地

書いてあること

  • 主な読者:木材卸、製材加工を手掛ける企業
  • 課題:間伐材の利用を促進するため、販路開拓や新たな商品開発のヒントがほしい
  • 解決策:建物や家具に限らない活用例を知り、自社で取り組めそうなものを検討する

1 なぜ、木材の活用が重要なのか?

日本は国土の3分の2(67%)が森林に覆われており、世界的に見ても有数の「森林大国」といえます。森林を健全な状態に保つために必要なのが、密集した木を間引く「間伐」です。間伐によって、太陽光がまんべんなく木々に行き届き、成長が促進されるようになります。

国産材と、間伐によって切り出された間伐材の積極的な利用は、SDGsの目標達成(気候変動対策、陸の豊かさを守る)にもつながります。

一方で、間伐材の利用はまだまだ少ないのが実状です。林野庁の調査によると、2021年度の段階で間伐材の利用率は約35%となっています。間伐材は、太さや長さの兼ね合いから、建物や家具には不向きなため、そのまま森林に放置され、市場に流通していないといった課題があります。

この記事では、販路開拓や新たな商品開発のヒントとして、間伐材を中心に、木材の意外な活用事例を紹介します。

2 糸から人工衛星まで 木材の意外な活用事例

この章で紹介する事例は、ポジショニングマップで次の2軸に分けられます。

  • 一般消費者向けに提供する/企業・団体向けに提供する
  • 木材単体を加工して原材料にする/他の原材料と組み合わせて新しい材料にする

製品展開する際の方向性を決めるためにご活用ください。

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1)間伐材と紙資源をアップサイクル:アップサイクル(大阪府大阪市)

食品、印刷会社や染織工房など合わせて27の企業・団体や自治体が参画する同法人では、使用後の紙資源と間伐材をアップサイクル(資源に付加価値を与えて作り変えること)した紙糸の「TSUMUGI」を用いたプロジェクトを手掛けています。

この糸は参画企業である備後撚糸(広島県福山市)で製造されています。菓子のパッケージや牛乳パックなど使用後の紙資源と、神戸市の六甲山から出た間伐材が材料となっていて、軽く、吸湿性が高いのが特徴です。糸は子ども服に用いられ、製造した子ども服を神戸市内にある児童養護施設に寄贈した実績があります。

2)牛用飼料を製造:エース・クリーン(北海道北見市)

同社では、木質蒸煮(じょうしゃ)飼料の「キャトルエース」を製造・販売しています。北海道産のシラカンバを高温高圧の水蒸気で処理することで製造された製品で、廃棄物の回収や中間処理を手掛ける同社が、自社の蒸煮装置を別の用途で利用できないかを模索したことが製品開発のきっかけといいます。牛の嗜好性が高く、適度な硬さがあるので消化を促進し、軟便や下痢を抑えて健康を保てるメリットがあります。

また、地域資源を原料にしているため、輸入飼料のように国際情勢に左右されたり、牧草のように天候に左右されたりすることがなく、安定して供給ができることもメリットとしています。

3)組み換え自在の木質ユニットを製造:三進金属工業(大阪府忠岡町)

同社では、イベントやポップアップショップ、医療ブースなどに使える木質ユニット製品の「つな木」を製造・販売しています。日建設計(東京都千代田区)が企画・プロデュースをしており、フレームとなる角材、天井・目張り用のシート、フレームを固定する留め具、移動用の車輪がセットになった製品です。

利用者の用途に合わせてフレームを自由に組み替えることができるため、普段はベンチとして使用しているものを非常時の際には組み替え、医療ブースや避難スペースなどとして使うことができます。

4)木造の人工衛星実現に向けた研究:住友林業・京都大学

住友林業と京都大学は、宇宙での木材活用の研究を進めており、2024年2月以降に木造の人工衛星を打ち上げる計画です。

これに先立ち、2022年3月~12月の期間でヤマザクラ、ホオノキ、ダケカンバの3種類の木材を宇宙空間に晒して耐久性を図る実験を行った結果、いずれも劣化が少なく、木材の耐久性が優れていることが確認されています。

人工衛星の材料に木材を用いることで、次のようなメリットがあるとしています。

  • 人工衛星を製造する際の二酸化炭素の排出量を削減できる
  • 役割を終え、大気圏に突入して燃えるときに有害物質を出さず、宇宙ごみの発生も抑えられる
  • 金属製の人工衛星と異なり、電磁波を通すため、アンテナなどの部品を内部に収めることで小型化ができる

5)杉の木から糸を製造:すぎとやま(徳島県上勝町)

同社では、杉の木を材料に用いた糸の「KEETO(キート)」を製造・販売しています。材料となる杉の木は国内で切り出された間伐材で、材木として使うには太さが足りないものが用いられています。杉の木を製糸用のチップに加工した上で紙にして、その紙を細くカットしてよることで糸を製造しています。

杉の木を材料に用いることで、通常の糸よりも抗菌性が高く、乾きやすいというメリットがあります。そのため、織物メーカーなどと提携し、靴下やストール、タオルに使われている実績があります。また、自社ウェブサイトでは糸単品でも販売しています。

6)木質バイオマス発電事業に参入:曽我産業(青森県八戸市)

同社では、社有地のある青森県南部町で新たに木質バイオマス発電事業を始めるため、子会社の立ち上げや発電所の建設などを進めています。同社は木材を伐採、木質チップとして加工した上で発電所向けに販売する事業に取り組んでいます。新たに木質バイオマス発電事業を始めることで、木くずなどの廃材や使われずに放置されてきた間伐材の有効活用や林業の振興などの地域活性化につなげたいとしています。発電所の商業運転開始は2024年12月を予定しています。

7)おがくずを酵素浴に活用:テーブルカンパニー(東京都新宿区)

同社が運営を手掛ける温浴施設の「発酵温浴nifu」では、酵素浴の原材料となるおがくずに間伐材、林地残材(間伐で発生し、そのまま山に放置された木材)を使う取り組みを進めています。

2022年に奈良県の吉野町で廃業予定だった製材所を同社が引き継ぎ、間伐材の回収・加工などを手掛けています。

また、発酵温浴で使用済みとなったおがくずもたい肥や土壌改良材として提携している農場に提供することで、資源の無駄が出ないように取り組んでいます。

8)卓上ミニ織り機キットを販売:チーム・オースリー(東京都世田谷区)

同社では、オーガニックコットンを展開する「メイド・イン・アース」のブランド名で、一枚板から簡単に組み立てられる「ミニ織り機キット」を販売しています。

東京・奥多摩の間伐材をはじめとする国産ひのき材を材料にした1枚の板から織り機を組み立て、組み立てた織り機を使って糸紡ぎや手織りを体験できるキットです。

この製品は一般消費者向けに限らず、学校の教材用としても販売されています。同社では学校への出前授業も手掛けており、生徒が自分で織り機を組み立て、布を織ることで、SDGsやエシカル消費、サステナブルについて学ぶきっかけとして活用されています。

9)間伐材を自動車部品向けの素材に応用:トヨタ車体(愛知県刈谷市)

同社では、杉の間伐材と熱可塑性樹脂(加熱することで柔らかくなる樹脂)を組み合わせた自動車部品向け素材の「TABWDR®(タブウッド)」を製造しています。従来の自動車部品向けの素材には、熱可塑性樹脂の強度や耐熱性を高める方法としてタルク(滑石)やガラス繊維を加えていましたが、これらを杉の間伐材に置き換えることで、強度や耐熱性が従来の素材よりも高くなり、軽量化が実現できたとしています。

TABWDR®は一部車種のフォグランプブラケットやワイヤーハーネスカバーなどの部品や内外装に使用されています。また、TABWDR®の技術を基にした素材も開発され、食器に採用されるといった実績もあります。

3 関連団体・参考資料

1)全国森林組合連合会 間伐材マーク事務局(東京都千代田区)

間伐材マークを使い、間伐推進の普及啓発や間伐材利用促進を目的としている団体です。事業者は同団体に申請・認証を受けた上で、間伐材を原材料にした製品に間伐材マークを付けることができます。このマークを付けることで、間伐の重要性や、脱プラスチックなどの取り組みを推進していることを対外的にアピールできます。

ウェブサイトでは、間伐材マーク認定製品や間伐材マークを取得している企業の事例も紹介しています。

■全国森林組合連合会 間伐材マーク事務局■

http://www.zenmori.org/kanbatsu/

2)新未来(東京都港区):木材プラットホーム「eTREE」

設計者・デザイナー・建設事業者向けに、木材製品や材料を探すことができるウェブサイトです。会員登録することで金額やサイズ、生産地から木材を検索できるだけでなく、業界レポートや補助金情報なども掲載しています。

ウェブサイトでは、商品情報・加工技術を提供できる企業の募集も受け付けています。

■木材プラットホーム「eTREE」■

https://www.etree.jp/

以上(2023年11月作成)

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年間25兆円の入札市場! 大手に勝てる狙い目の案件とは?

書いてあること

  • 主な読者:官公庁や地方自治体、外郭団体などが公告している入札案件に興味がある経営者
  • 課題:そもそも入札のルールがよく分かっていない、大手企業との競争に勝てるか不安
  • 解決策:「入札参加資格」を取得すれば、どの企業も入札に参加できるが、細かいルールは発注機関により異なる。「競争率の低い案件を探す」などのポイントを押さえる

1 案件の50%超を中小企業が落札! 入札市場とは

「新規顧客の開拓が難しい」「安定的な収益が欲しい」――今、その解決策として注目されているのが「入札」市場への参入です。入札とは、

官公庁や地方自治体、外郭団体など(以下「官公庁など」)が公開した案件について、各企業が見積金額や企画を提示し、一番条件の良い企業に官公庁などが案件を発注すること

です。

全国約8000の行政・公的機関から年間180万件以上の案件が公表され、その総額は25兆円以上、1案件当たり1000万円以上にもなる大きな市場です。「入札なんて出来レース」「受注するのは大手だけ」と思っている人もいるかもしれませんが、実は

2021年度の時点で、入札案件の50.1%を落札しているのは中小企業

で、中には個人事業主でも参加できる案件もあるなど、広く開かれた市場でもあります(中小企業庁「官公需法に基づく『令和5年度中小企業者に関する国等の契約の基本方針』について」)。

入札は「入札参加資格」という資格さえ取得すれば、実績のない企業などでも参加できます。つまり、

入札の流れを理解し、「競争率の低い案件を探す」など勝つためのポイントを押さえる

ようにすれば、御社にもチャンスがあるかもしれません。

この記事では、「中小企業が入札市場に参入すべき理由」「入札の基本的な流れ」「入札で勝つためのポイント」を紹介します。

2 なぜ、中小企業こそ入札市場に参入すべきなのか?

1)国が精力的に後押ししている

国は今、「中小企業向けの入札案件を増やす」という方針を定め、精力的に中小企業の参入を後押ししています。企業規模や入札経験にかかわらない公平な制度で競争できる環境整備が進められており、入札実績のない企業にもチャンスが広がってきているのです。

中小企業庁「中小企業者に関する国等の契約の基本方針」では、案件全体に対する中小企業・小規模事業者の契約比率、金額を年々引き上げており、直近では次のようになっています。

  • 2021年度実績:50.1%、4兆6535億円
  • 2022年度目標:61%、5兆2738億円
  • 2023年度目標:61%、5兆6598億円

2)手間がかからず、手続きがスムーズに進む

入札は、公開された案件に企業が応募するスタイルなので、通常のビジネスのように、見込み客を獲得したり、商談のアポイントを取ったりする手間がかかりません。

また、公告された案件は、オンラインで入札に参加できる「電子入札システム」などで簡単に検索できますし、入札の締切、開札(企業が入札した内容の確認)の日時なども案件ごとに決まっているので、手続きがスムーズに進みます。

3)与信上のリスクが低く、案件次第では短期間での収益化も期待できる

入札は、官公庁などの公的機関が発注者なので、通常のビジネスでありがちな支払い遅延・滞納などのリスクがほとんどありません。契約後の値引き交渉なども基本的にないですし、落札(受注)後も仕様書に基づき作業を行うので、後から追加作業が発生するリスクも比較的低いといえます。

落札・作業完了後の入金についても、時期が明確になっているので安心です。また、例えば、物品調達などの単発的な入札案件の中には、取引代金の締め日から支払日までの期間が「物品検査後30日程度」などと短く設定されているものもあり、短期間での収益化が期待できます。

4)官公庁などとの取引実績がブランディングにつながる

入札の大きな魅力は、官公庁などとの取引実績を獲得できることです。仮に大規模なプロジェクトの案件を落札できれば、企業の信頼度は増し、ブランディングにもつながります。案件を落札すると金融機関からの信用を得られるケースもあるようです。

3 入札の基本的な流れを理解する

入札に参加するメリットが分かったら、次は基本的な流れを押さえましょう。主なプロセスは「1.入札参加資格を取得する」「2.案件を探す」「3.仕様書を確認し、入札する」です。

1)入札参加資格を取得する

入札に参加するためには、発注機関(官公庁など)や事業内容によって異なる「入札参加資格」を取得する必要があります。入札参加資格は、大きく次の4つに分けられます。

  1. 全省庁統一資格(全省庁の「物品・役務系案件」に参加できる資格、全国共通)
  2. 地方自治体の「物品・役務案件」に参加できる資格(原則、地方自治体ごとに異なる)
  3. 「建築・建設・土木系案件」に参加できる資格(官公庁や地方自治体ごとに異なる)
  4. 外郭団体(独立行政法人など)の案件に参加できる資格(団体ごとに異なる)

この4つの資格は、さらにいくつかのランクに分かれます。例えば、全省庁統一資格は、資格取得申請の際に提出する財務諸表などをベースに、売り上げや資本金、営業年数などの合計ポイントからA~Dの4つのランクに分かれます。

自社が参加したい入札の案件によって必要な入札参加資格は異なるので、不安な場合は、参加可能な案件数が多い1.の全省庁統一資格を最初に取得するとよいでしょう。

資格取得の細かいルールも発注機関などによって異なりますが、基本的に試験などはなく、必要書類を提出し、審査を通れば資格を取得するという流れになります。ただし、資格によっては取得期間が限定されている場合もあるため注意が必要です。

例えば、全省庁統一資格は随時取得が可能ですが、地方自治体の資格は取得期間が短い傾向があります。また、地方自治体は「〇〇県内・〇〇市内の業者限定」などと、参加条件を限定しているケースもあるので、資格要件の内容はしっかり確認しておきましょう。

2)案件を探す

前述した通り、入札の案件は全国約8000の行政・公的機関から、年間180万件以上公表されています。その中から自社に合ったものや、狙い目の案件を探していくことになります。

なお、入札というと建設工事のイメージが強いかもしれませんが、実は「物品・役務の提供」に関するものが数多くあります(例:衣服、紙製品、図書、車両、電子機器、清掃、管理、派遣など)。

入札情報は公開される時期やサイト、仕様書なども発注機関によって異なりますが、例えば、民間の入札情報サービス「NJSS(エヌジェス)」を活用すると、全国の入札情報と入札結果を一括で検索できます。なお、NJSSでは、自社の業種や業務内容、所在地などから適した入札案件があるか、そもそも入札に向いているかどうかを無料で診断するサービスも展開しています。

■NJSS■

https://www2.njss.info/

3)仕様書を確認し、入札する

入札したい案件を決めたら、その仕様書を取得します。仕様書には、入札方式や参加資格要件、見積もりを出すために必要な情報などが掲載されています。基本的にはネット上で取得が可能ですが、案件によっては、説明会への参加が必要なケースもあるので注意が必要です。

仕様書をもとに、見積もりや企画書などを作成し、入札に臨みます。入札方法は「電子入札」「会場での入札」「郵便入札」があり、近年は「電子入札」を利用する企業が増えています。

見事落札した場合、その結果は、発注機関のウェブサイトに掲載されます。その際は同時に入札に参加した企業の入札金額も公表されるので、相場感や競合他社の動向を把握するのにも役立ちます。晴れて自社が落札できたら、発注機関との契約に進みます。

4 入札で勝つためのポイントを押さえる

1)競争率の低い案件を探そう

落札の可能性を高めるには、いかに競合他社が少ない案件を見つけるかが重要です。

例えば、第3章の入札参加資格の項では、全省庁統一資格よりも地方自治体の資格のほうが取得のハードルが高い場合があるとお伝えしましたが、これは逆に考えると、

地方自治体の「物品・役務案件」のほうが、競争率は低くなりやすい

ということでもあります。また、東京などの主要都市の入札案件は多くの企業がターゲットにしやすいため、その点でも地方自治体のほうが狙い目といえます。

なお、地方自治体よりさらに競争率が低くなる可能性があるのが、外郭団体です。

  • 特殊法人・会社(日本年金機構、日本たばこ産業株式会社など)
  • 財団法人(全日本交通安全協会、日本生産性本部など)
  • 独立行政法人(日本貿易振興機構、国際協力機構など)
  • 国立大学法人(東京大学、一橋大学など)
  • 都道府県や市区町村の外郭団体(〇〇県スポーツ協会、〇〇市信用保証協会など)

などが該当しますが、これらの外郭団体の中には、

省庁が所管する法人の他、都道府県や市区町村の出資によって運営されているものなど一般に知名度の高くない機関もあり、そうした案件は比較的狙い目

です。

また、官公庁の案件の場合、データのやり取りについてセキュリティの観点からチャットツールやクラウドツールを活用していないケースがあります。一方で、外郭団体は民間企業に感覚が近く、最新のツールを導入している場合が多いため、民間企業を相手にしているような感覚でスムーズにやり取りを進めることができます。

こうした狙い目の外郭団体をリスト化し、常に案件情報などにアンテナを張っておくことが重要です。

2)案件ごとの相場感をつかむ

入札案件の中で多くを占める一般競争入札方式の場合、納品物の品質保証を前提としつつ、見積価格での競争になることが少なくありません。このとき重要になってくるのが、案件ごとの相場感をつかむことです。

前述したNJSSなどの入札情報サービスでは、案件の過去の落札金額を検索できます。

過去の落札金額が分かれば、今年度についてもある程度予想がつき、それより少し低い見積金額を提示すれば、落札できる可能性は高くなる

といえます。自社の利益を確保できる金額であることが条件ですが、確保できるなら入札に参加してみる価値はあるでしょう。

ただし、過去数年にわたって同一企業が落札しており、しかも落札金額が年々下がっている場合などは、その企業の中で業務効率化が進み低コストで業務を遂行できるようになっていると推察できるため、他社が参加するのはハードルが高いといえます。

一方で、落札企業や落札金額が一定でない場合は、落札の判断基準が明確でなかったり、要件が変化したりしている可能性が高いため、新規参入でも落札のチャンスがあるといえます。

3)落札できなくても、タダでは転ばない

入札に参加する目的は、あくまで安定的な収入源の確保や新規顧客の開拓です。その意味では、自社に合った案件を大手企業が落札している場合、

落札した企業に営業をかける

という戦略も有効かもしれません。

大手企業の場合、落札した業務を下請け企業に発注するケースも少なくありません。そこで大手企業に営業をかけることで、結果的にその案件を請け負うことができる場合があるのです。

こうした可能性もふまえ、自社に合った案件を多く落札している企業に対して、事前に営業をかけておくのも一策でしょう。

以上(2023年11月作成)

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