デリケートな「生理」の問題。 体調が悪そうな女性社員に、どう声をかけますか?~事例付きで紹介

書いてあること

  • 主な読者:「生理」で体調を崩している女性社員への対応を知りたい男性の経営者や上司
  • 課題:女性特有の問題だけに深入りしにくいし、どう対応すればいいのか分からない
  • 解決策:女性社員が自然に自己対応できる雰囲気を作る。まずは生理の基礎知識を再確認する。また、福利厚生の制度などを取り入れることも効果的

1 「生理の問題はタブー」という意識から脱却しよう

女性にとって深刻な「生理」の問題。女性社員314人に独自アンケート(2024年9月30日から10月1日まで)を実施したところ、62.1%から「生理が原因で不便を感じたことがある」との回答が得られました。

もしも職場に生理で体調を崩している女性社員がいたら、男性の経営者や上司の方は、どう声をかけるでしょうか? 正直なところ、

「助けにはなりたいけど、女性特有の問題だけに声をかけにくい……」

という人が多いかもしれません。とはいえ、「何とかしたいけど、何もできない」という状態が続くのは、お互いにとってストレスになりますし、労務管理上の問題も出てきます。

そこで、この記事では、生理の問題に冷静に対処する上で押さえておきたい内容として、

  • 生理の基礎知識(周期や症状)、女性社員が体調を崩したときのための福利厚生
  • 体調の悪そうな女性社員への声のかけ方(だめな言い方、望ましい言い方の事例付き)

を紹介します。

2 生理の基礎知識と福利厚生

具体的な内容に入る前に、生理について押さえておいてほしいことが2点あります。

  • 症状には個人差があること
  • 体調不良の際に備えて、働き方の選択肢があるのが望ましいこと

生理の症状やその程度は、個人によってかなり大きな差があります。自分の家族などの症状を基準にすると、対応を間違える恐れがあります。

また、生理による体調不良の程度は、女性社員本人にしか分かりません。休むのか出勤するのか、あるいは、テレワークに切り替えるのか会社で稼働を続けるのか。本人に選択肢を与えられることが望ましいです。

以上2点を念頭に置いた上で、まずは生理の基礎知識から見ていきましょう。

1)生理の基礎知識(周期や症状)

生理について、最低限押さえておきたいのが図表1の内容です。

画像1

繰り返しになりますが、全ての項目について「個人差がある」ことに注意が必要です。例えば、腹痛はなく、経血量も少なく、3日で生理が終わる人や、立ち上がれないくらいの体調不良と、気軽に動けない経血量と、7日以上の出血などの症状を抱えている人もいるなど、かなり差があります。

他に知っておくとよい知識として、次のようなことが挙げられます。

  • 経血を排出するタイミングや量を、本人がコントロールすることはできない
  • 生理は必ずしも、毎月決まった日に来るわけではない
  • 病院に行っても、アレルギーや体質、周りの環境によって、症状が改善しない人もいる
  • 生理前にPMS(月経前症候群)で体調が悪くなる人も。何らかの症状がある人は70%~80%、日常生活に支障をきたす人は5.4%ほど(日本産婦人科学会「月経前症候群(Premenstrual syndrome:PMS)」)
  • 生理の症状には個人差があるため、同性である女性同士でも理解し合うことができず、症状が軽い人が症状が重い人に心無い発言をすることも少なくない。「女性のことだから」と他の女性社員に対応を任せるのではなく、会社として対応を考えるのが望ましい

2)女性社員が体調を崩したときのための福利厚生

労働基準法上、生理で就業が困難な女性社員から請求があったら、会社は休暇を与えなくてはなりません。これを一般的に「生理休暇」といいます。とはいえ、ただ生理休暇を与えるだけでは、体調不良の女性社員への対応として不十分なケースもあります。

誰にとっても働きやすい職場を実現するため、生理に関する福利厚生の例を紹介します。 なお、実際に福利厚生を整備する場合、次のポイントが網羅できていると理想的です。

  • 複雑な手続きや直接的な言葉なしで、自己判断で制度を利用できる
  • 本人に行動の選択が委ねられている
  • 「女性だけ」「生理痛だけ」に限定しない

1.「体調不良休暇」を導入しよう

2023年に厚生労働省が公開したデータでは、

女性労働者がいる事業所のうち、2020年度中に生理休暇の請求者がいた事業所はわずか3.3%(出所:厚生労働省「働く女性と生理休暇について」)

です。生理休暇を請求しない理由としては、「(男性上司なので/利用している人が少ないので)申請しにくい」「休んで迷惑をかけたくない」などがあるようです。

こうした問題をクリアしたい場合、理由に関係なく取得できる年次有給休暇(年休)を使ってもらうという方法もありますが、「せっかくの年休が、毎月の生理のためだけに減っていくのは困る……」と不満に思う女性社員もいるかもしれません。

そこで、会社が独自に定める特別休暇の1つとして、

性別に関係なく、生理の症状に限らず、体調不良であれば取得できる「体調不良休暇」

などを導入するのもよいでしょう。なお、性別を問わず腹痛や頭痛がある場合、鎮痛剤や他の薬を飲んでから効果が出るまでは、一定の時間を置く必要があります。こうした場合に備え、

体調不良休暇を「1時間単位」で取得できる仕組みにしておく

こと、さらに鎮痛剤などが効くまでの間、小休憩を取れる場所も確保できるとよいでしょう。

2.テレワーク制度の拡充を検討しよう

テレワークを実施できる業種・職種の場合、

体調不良時に自己判断でテレワークへの切り替えができる制度

を導入するのも効果的です。生理による症状で就業できなくなる理由には、「職場の空調で気分が悪くなる」「人目が気になる」「気を使われたくない」など、勤務場所を自宅に切り替えれば解決する問題も存在します。

3.専門家に相談しやすい環境を導入しよう

婦人科医などの専門家に相談しやすいシステムを導入するのもいいでしょう。生理痛の症状で困っているけど、上司や同僚には相談しにくいという場合、

婦人科のオンライン診療サービスなどを福利厚生に加えることで、本人が自発的に診療を受ければ、症状を和らげられる可能性

があります。職種にもよりますが、通院にかかる時間や病院での待ち時間の問題をクリアできます。なお、当たり前ですが、こうした福利厚生サービスは存在が知られていないと意味がないので、定期的に社内に周知することも忘れないようにしましょう。

4.女性用トイレに生理用品を常備しよう

急に生理が来たときにも対応できるよう、生理用品を女性用トイレに常備しておきます。ただ「置いておく」だけでは防犯上好ましくない場合もありますが、最近は女性用トイレの個室内で、アプリを使って無料で生理用品を取り出せる機器なども開発されています。

5.研修制度を導入しよう

生理用品メーカーなどは、会社向けに生理に関する研修を行っているところがあります。研修では生理の基礎知識や生理用品についての講習の他、相互理解を促すディスカッションなども実施されます。性別や年齢に関係なく、社員全員が研修を受けることで、知識や会話の擦れ違いを緩和することができるでしょう。

3 体調の悪そうな女性社員への声のかけ方

ここでは、体調が悪そうな女性社員に接する際の声のかけ方の事例を、

  • セクハラやパワハラになり得る「問題発言(だめな言い方)」
  • 問題発言を女性社員に寄り添うものに変えた「言い換え事例(望ましい言い方)」

に分けてシチュエーション別に紹介します。なお、問題発言のセリフは、冒頭で紹介した独自アンケートの対象者(女性社員314人)のうち、「生理中、職場で不快に感じる言動をされた(あるいは見聞きした)ことがある」という85人が、「実際に言われて困った言葉」です。

1)女性社員の体調が悪そうに見えるとき

まずは、女性社員の体調が悪そうに見えるときの言い換え事例です。

生理と明言しないこと、周囲に他の社員がいる環境では指摘しないこと

がポイントです。

画像2

2)女性社員から生理痛がつらいと申告されたとき

次に、社員に「生理痛がつらい」と申告されたときの言い換え事例を紹介します。

否定から入らないこと、解決法を決め付けずに本人に選択を委ねること

がポイントです。

例えば、病院に行くかどうかは本人の体調にもよりますし、人によっては生理痛のために病院に行くことを悟られたくない場合もあります。

画像3

3)業務が忙しいとき

業務が忙しいときに体調を崩されると、いつもよりスムーズに業務ができなくなって困ることもあるでしょう。しかし、生理の症状はコントロールできないことも多く、また、生理休暇の取得の拒否は、前述した通り労働基準法違反にもなり得ます。どうしても人員が必要な場合、

時間休や休憩の提案、テレワークへの切り替えを含め、本人に判断を委ねること

がポイントです。

画像4

4)その他

その他、アンケートで挙がってきた問題発言としては、次のようなものがあります。これらのセリフは言い換えが難しく、そもそも発言を控えるべき言葉です。

・生理休暇、前回と同じ日に取らないんだね

生理は毎月決まった日に来るわけではありません。

・今日は生理休暇取れないよ

労働基準法上、生理休暇は女性社員が請求したら必ず取得させなければなりません。

・(冷え込みが辛いという女性社員に対して)せっかく換気しているのに……

生理痛は、冷え込みで症状が悪化します。嫌な顔をせず、どうしても換気が必要な場合はブランケットを貸し出す、事前に許可を得てコートなどを着てもらう、風の当たらない場所に移動してもらうなどの配慮が求められます。

・生理中かどうか、においでわかるときがあるんだよね

女性に明らかに不快感を与える発言は、セクハラになる恐れがあります。

・女はこれだから困るよ

「女だから」「男だから」など性差を強調する発言は、セクハラになる恐れがあります。

・今日はよくトイレ行くね/今忙しいからトイレ行かないで

相手を精神的に追い詰めたり、明らかに不要(または不可能)なことを命じたりする発言は、パワハラになる恐れがあります。

以上(2024年11月作成)

pj00729
画像:nabuKO

企業理念を策定する際の基本ステップ

書いてあること

  • 主な読者:企業理念を通じて、企業の価値観を社員と共有したい経営陣
  • 課題:企業理念を策定、あるいは改定したい。企業理念を日々の活動に役立てたい
  • 解決策:社員を巻き込みつつ企業理念を策定、あるいは改定し、定期的に思いを再確認する場を設ける

1 今こそ求められる企業理念

  • お客さまを起点にすること、創造への情熱、優れた運営へのこだわり、長期的な発想―Amazon.com,Inc.)
  • Paint it RED! 未来を塗り替えろ。―コカ・コーラボトラーズジャパン株式会社
  • 服を変え、常識を変え、世界を変えていく―株式会社ファーストリテイリング(ユニクロ)

これらは全て、誰もが名前を知っている企業の「企業理念」です。

企業理念は、企業としてどうありたいか、大切にしたい価値観はどういうものかを言語化し、社内外に示すものです。経営環境がめまぐるしく変化する今だからこそ、企業理念を策定する、あるいは改定することに大きな意味があるのではないでしょうか。

また、自社が今後も進化し成長していくためには、社員一人ひとりが自分で考え行動できる組織が理想的です。社員が企業の一員としてどう動いていくかを考える際に、企業理念は行動のよりどころとなります。

自社がこの先も成長し、業績を伸ばしていくために、社員全員で企業理念を共有することには一考の価値があります。この記事では、社員を巻き込みながら企業理念を策定、あるいは改定するためのステップを、順を追って紹介します。

2 企業理念を策定、あるいは改定する際の基本ステップ

1)まずは現状分析を行う

企業には、明文化されているか否かにかかわらず、「企業文化(価値基準)」が存在します。

例えば、

  • 商品を作るときに必ず考えるべき視点
  • サービスとして世に出す際に譲れない基準

といったもので、「企業文化」は「その企業らしさ」を表します。この企業らしさは、企業理念と密接に関係してきます。仮に、素晴らしい文章・文言の企業理念を策定したとしても、今ある企業文化とかけ離れていると社員は共感せず、企業理念を策定、あるいは改定することによる効果は期待できなくなるでしょう。

そこで、まずは企業文化となっている価値基準や考え方を明らかにするために、自社の現状分析をしてみましょう。このとき、

必ず社員を巻き込んで行う

ことがポイントです。今の企業文化を醸成し、それに従って実際に行動している社員たちを対象としたアンケートやインタビューを行ったりすると、自社のリアルな現状が見えてきます。

ただし、単に「企業活動において重視していることや価値観を教えてください」と質問しても、社員は回答に困り、有効な回答が得られにくいでしょう。同年代の社員や同じ部課の社員など、

比較的親しい人たちを複数集めて、「仕事をするときに、何を大切にしている?」などのテーマで、雑談風に話を進める

のも一策です。

2)次に共通項を探し出してキーワードを検討する

現状分析から得た結果を基に、多くの社員が共有している価値観や考え方などを抽出していきます。具体的には、社員の口からよく出るキーワードやフレーズなどを探し、羅列していくと、現状の企業文化がだんだんと見えてくるでしょう。

例えば、

「少しくらい時間がかかっても、お客さまのためなら動いちゃうところはあるよね」

「みんなそれを嫌だとも思っていないですよね。むしろ要望を言ってもらったほうがやりがい感じるというか」

「お客さまに喜んでもらえることを大切にしている社員が多いですね」

という会話があったとします。ここからは、「お客さま第一」「やりがい」といったキーワードやフレーズが抽出できます。

次に、抽出したキーワードやフレーズの妥当性を検討します。社員の価値観を尊重することは重要ですが、それだけで企業理念を策定することはできません。企業のかじ取りを行う経営者の思いも反映させつつ、社員の思いとバランスを取ることが重要です。

また、多くの社員の中で共有されているキーワードやフレーズでも、それが企業にとってあまり重要なものでなければ排除します。これらの視点から検討を加え、実際に企業理念に盛り込むべきキーワードやフレーズを絞り込みます。

3)表現のスタイルを検討し、企業理念を具体的に決めていく

最後に、いよいよ企業理念を形にしていきます。策定した企業理念は、社員に広く受け入れられ、親しまれるものにする必要があります。そのためには、表現のスタイルについても、慎重に検討することが大切です。

例えば、表現のスタイルには、以下のようなものが挙げられます。

  • 漢字中心のシンプルなスタイル(「利他の心」「愛他主義」など)
  • 長めの文章スタイル(「私たちは、お客さま第一主義を貫き通します」など)
  • カタカナ・英語スタイル(「クライアント・ファースト」「Just for our clients」など)

どれも意味としてはほとんど同じですが、伝わり方や印象が全く違うことが分かります。社風や年齢層などに見合った表現方法を選ぶことで、社員に浸透しやすい企業理念になります。表現方法一つにしても、企業の「あるべき姿」を表す重要なものと認識しましょう。

3 企業理念を活用して、前向きな企業を目指す

最後に、企業理念を経営に活かしている好事例を紹介します。

今回、企業理念の活用についての取材に応じてくださったのは、タスキーグループ代表の青谷 貴典(あおや たかのり)氏。同グループは仙台とつくばを主な拠点に、バックオフィスの総合支援事業を行っている企業です。

青谷氏は、企業理念についてこう語ります。

「企業理念って、旗のようなイメージなんです。企業としての課題を肌で感じると、自然に旗が立つ。社員も経営者も、同じ旗のもとに集まって、共感して、一緒に働き戦っていく。そして、その旗の下が居場所になっていくような」(青谷氏)

同グループが掲げているのは、以下のようなMVVC(ミッション、ビジョン、バリュー、カルチャー)。企業によってMVVCの定義は異なりますが、一般的にミッションが本記事における「企業理念」、カルチャーが「企業文化」に相当します。

画像1

同グループでは今年の夏初めて、これらを活用した研修を行いました。その目的は「企業理念(ミッション)」と密接に関係している、「企業文化(カルチャー)」の再検討です。

「私自身も、新卒で入社した企業で一社員として働いていた頃は、「企業理念は経営者から与えられるもの」という印象が強かったんです。すると、仕事もやらされている、という感覚になり、自分の仕事に手触り感がなくなって、楽しくなくなっていく。やはり企業理念は、社員全員が「自分事」として感じる必要があると思っています。そのために、若手含めみんなで、企業理念について考える機会が欲しかったんです」(青谷氏)

研修では、インターンも含めた社員全員でグループのMVVCを再確認。グループの価値観や強みについてディスカッションを行った後、企業文化(カルチャー)について再考すべく、意見を出し合いました。

「企業理念を活用した研修で、社員それぞれの視点や価値観を聞くことができて面白かったし、参考になった。これからも定期的にこのような研修を続けていきたいし、若手社員主導で、時代に合わせて企業理念を改定したりすることも考えています。これをやりなさい、と押し付けられるよりも、何でやらなきゃいけないのか、を自分たちで考えて、仕事の価値観を明確にしたほうが、働くことは確実に楽しくなりますから」(青谷氏)

今回の研修で話し合った意見を基に作り上げた、タスキーグループの新たな企業文化は、2025年の年明けにも発表予定です。

トップダウン方式で企業理念を決めるのではなく、社員と共に考え、共有し、一丸となって働いていく。

企業理念という「旗」を全社一体となって描くことは、皆が前向きに働くためのきっかけにもなり得るでしょう。

企業理念は、策定したら終わりというわけではありません。企業理念を企業内部に浸透させ、それを常に尊重して活動できる組織を作り上げることに意味があります。そのためには、

社員に企業理念の周知徹底を図ることはもちろん、経営者自らが率先して企業理念を重視した活動を心掛けること、そして企業理念に込められている思いを社員と共有する場を定期的に設けること

が必要です。定期的に場を設けることは、テレワークなど社員同士が離れて仕事をする機会が多くなっている場合、コミュニケーションの機会創出という面でも有効でしょう。

また、既に企業理念が存在している企業であっても、定期的に企業理念を見直すことを検討してみましょう。その際は、現場で働く社員たちも巻き込み、共に企業理念を練り直すことが重要です。皆で同じ理念を持っている、という感覚を手に入れることで、社員はもっと活き活きと働けるようになるのではないでしょうか。

以上(2024年10月更新)

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画像:pixabay

技能実習制度は廃止へ 「育成就労制度」の創設で外国人雇用はどう変わる?

書いてあること

  • 主な読者:外国人雇用を検討している経営者や人事労務担当者
  • 課題:技能実習制度が廃止され「育成就労制度」が始まるらしいが、内容がよく分からない
  • 解決策:企業が外国人を「特定技能」に育成して戦力化する制度。まずはイメージをつかむ

1 「国際交流」から「人材確保」にシフトした新制度が開始

人手不足が深刻化する中、日本で働く外国人の数は増加を続け、2023年10月末時点で過去最高の204万8675人となりました。このうち41万2501人(20.1%)は「技能実習」の在留資格を持つ外国人、技能実習生です(厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況」)。技能実習制度は、技能実習生が日本企業の下で実習を受け、母国で身に付けにくい技能の習得を図る制度ですが、「企業が技能実習生に、技能の習得に関係ない単純労働をさせる」などの問題が頻発し、

2024年6月21日から3年以内に技能実習制度に代わり、新たに「育成就労制度」が開始

されることになりました。

画像1

育成就労制度は、「育成就労」という在留資格を設け、外国人を原則3年間で一定以上の技能を持つ「特定技能」に育成する制度です。根拠法は、「外国人の育成就労の適正な実施及び育成就労外国人の保護に関する法律(育成就労法)」になります。

技能実習制度と似ていますが、

  • 技能実習制度は、外国人が日本で習得した技能を、将来母国に持ち帰ることを想定した「国際協力」のための制度(特定技能への移行も可能だが、制度上は「帰国」が原則)
  • 育成就労制度は、外国人が技能の習得後も、日本企業の戦力として活躍することを想定した「人材確保」のための制度(帰国せず、日本に「在留」することが原則)

であり、目的が異なります。

育成就労制度は、外国人が日本に残って働くことが前提なので、受け入れ企業は外国人を将来の戦力にすべく、大切に育成するでしょう。前述した、企業が「技能の習得に関係ない単純労働をさせる」という問題の解決につながることも期待されます。

施行はまだ先ですが、時間をかけて外国人を戦力化していく制度なので、人手不足解消の打ち手を外国人に期待している企業は、早めに準備をしておいたほうがよいかもしれません。以降で制度の概要を簡単に紹介するので、今のうちにイメージを押さえておきましょう。

なお、育成就労について詳しく知りたい場合、次のURLも併せてご確認ください。

■e-Gov「外国人の育成就労の適正な実施及び育成就労外国人の保護に関する法律」■
https://laws.e-gov.go.jp/law/428AC0000000089/20270620_506AC0000000060
■出入国在留管理庁「令和6年入管法等改正法について」■
https://www.moj.go.jp/isa/01_00461.html

2 育成就労制度は、特定技能制度の「前段階」

育成就労制度の紹介に入る前に、先ほども軽く触れた「特定技能制度」について説明します。

特定技能制度とは、国内での人材確保が困難な「特定産業分野」において、一定の技能レベルを持つ外国人を受け入れることを目的とした制度

です。在留資格は、業務に必要とされる技能レベルに応じて「特定技能1号」「特定技能2号」の2種類に分けられます。2号のほうが1号よりもレベルの高い技能を必要とします。

  • 特定技能1号:相当程度の知識または経験を要する業務に従事する外国人
  • 特定技能2号:熟練した技能を要する業務に従事する外国人

2024年9月30日時点で、特定技能1号の特定産業分野は、「介護」「ビルクリーニング」「工業製品製造業」「建設」「造船・舶用工業」「自動車整備」「航空」「宿泊」「自動車運送業」「鉄道」「農業」「漁業」「飲食料品製造業」「外食業」「林業」「木材産業」の16分野です。特定技能2号の特定産業分野は、この16分野から「介護」「自動車運送業」「林業」「鉄道」「木材産業」を除いた11分野です。

特定技能の外国人を雇用できれば、企業にとっての「即戦力」になりますが、それだけの人材を確保するのはハードルが高く、この点をクリアするための制度が育成就労制度です。

育成就労の外国人は、在留資格を取得した当初は特別な技能を持っていませんが、

  • 原則3年間の育成就労で技能レベルを高め、特定技能1号の在留資格を取得させる
  • 特定技能1号の在留期間中(上限は5年間)に、よりレベルの高い技能を身に付けさせる
  • 特定技能2号の在留資格を取得させる(「介護」分野は対象外)

という流れで、段階的に戦力化が図れます。なお、特定技能1号には在留期間の上限(5年間)がありますが、特定技能2号には上限がない(在留資格の更新は定期的に必要)ので、2号まで取得させることができれば、長期的に企業の戦力として活躍してもらうことが期待できます。

画像2

3 技能実習制度との違いとは?

1)対象としている産業分野・職種が違う

育成就労制度は、特定技能制度の「前段階」という位置付けなので、対象としている産業も同じく、特定産業分野が基本になります。正確に言うと特定産業分野のうち、

就労を通じて技能を修得させることが相当とされる「育成就労産業分野」

が対象になるのですが、詳細は現段階では明らかにされていません。

一方、技能実習制度では、技能実習2号・技能実習3号については従事させられる職種が省令で定められています(技能実習1号については特に定めなし)。

両者が対象としている産業分野・職種は若干異なっていて、例えば、特定技能1号における分野と技能実習2号移行対象職種を比較してみると、2024年9月30日時点で、

特定産業分野のうち「自動車運送業」「林業」について、対応する技能実習の職種がない

ことが分かります。詳細については、次のURLをご確認ください。

■出入国在留管理庁「制度説明資料 : 外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組(令和6年9月30日更新)」(産業分野・職種の比較については資料P40以降を参照)■
https://www.moj.go.jp/isa/applications/ssw/index.html

仮に育成就労法の施行日(2024年6月21日から3年以内)の時点で、企業が技能実習生を受け入れている場合、受け入れ企業の産業分野が「育成就労産業分野」として設定されていれば、そのまま育成就労制度の下で受け入れを続けることができます。

また、施行日の時点ですでに来日している技能実習生については、技能実習制度の下で受け入れを続けることができます。施行日までに技能実習計画の認定の申請がなされ、施行日から原則3カ月以内に技能実習を開始する場合についても同様です。

2)計画の認定手続きは基本的に同じ(ただし、育成就労制度のほうが手間が少ない)

育成就労制度では、外国人の受け入れ企業が「育成就労計画」を作成し、「監理支援機関」の認定を受ける必要があります。育成就労計画には

外国人に従事させる業務、業務に必要な技能、育成就労の目標(例:日本語能力)など

を定めます。

技能実習制度の場合も、受け入れ企業が技能実習計画を作成して監理団体の認定を受ける必要があり、このあたりの流れはどちらの制度も基本的に同じです。

  • 技能実習制度では「技能実習1号」「技能実習2号」「技能実習3号」のそれぞれの段階で計画の認定を受ける必要がある(最大3回、認定を受ける必要がある)
  • 育成就労制度では、当初から外国人労働者のキャリアアップを視野に入れて、3年間の計画の認定を受ければよい(1回、認定を受ければよい)

という具合に、育成就労制度のほうが認定手続きにかかる手間は少なくなっています。

3)就労開始前の日本語教育がマストに

育成就労制度では、外国人が就労を始める前までに、日本語能力「A1」相当以上の試験(日本語能力試験N5等)に合格すること、またはそれに相当する日本語講習を認定日本語教育機関などで受講することが求められます。

一方、技能実習制度では、日本語能力の要件は原則ありません(「介護」分野を除く)。

育成就労制度で必要とされる「A1」とは、日本語の初歩レベル。日常的な表現や非常に基本的なフレーズを理解・使用でき、相手がゆっくり、はっきりと話し、手助けしてもらえれば、簡単なやりとりができるレベルです。業種によっては、より高度なレベルの指定も可能になる予定です。なお、受け入れ企業が外国人の日本語教育を行う義務を負うのかどうかは、現段階では明らかにされていません。

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4)一定の状況を満たせば転籍も可能に

育成就労制度では、技能実習制度よりも「転籍(企業との労働契約を解消し、別の企業と労働契約を結ぶこと)」の要件が緩和されています。

技能実習制度では技能実習生の失踪が多く、2023年の失踪者数は9753人にも上ります(出入国在留管理庁「技能実習生の失踪者数(速報値)」)。出入国在留管理庁によると、失踪の主な原因としては「賃金の不払いなど、受け入れ企業の不適切な取り扱い」も多いようです。

そして、この問題の温床になっていると指摘されてきたのが、技能実習生に対する「転籍」の制限です。技能実習制度では転籍の制限が厳しく、技能実習生は受け入れ企業の労働条件が悪質でも他社に移ることができず、失踪しか選択肢がない状況に追い込まれやすかったのです。

育成就労制度では、この点が改善され、

  • 人権侵害(パワハラや暴力)を受けたなどの「やむを得ない事情」がある場合
  • 同一業務区分内(転籍前とほぼ同じ業務に従事し)、就労期間・技能等の水準・転籍先の適正性に係る一定の要件を満たす場合(詳細は省令でこれから規定)

については、本人の意向がある場合、転籍が認められることになりました。

以上(2024年10月作成)

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画像:ChatGPT

とくぎんサクセスクラブnavi 操作マニュアル

【朝礼】「目黒のさんま」はなぜ殿様の心を捉えたのか?

【ポイント】

  • 「目黒のさんま」には、主君を気遣いさんまの塩気や油気を抜いてしまう家臣が登場する
  • 「手間をかけて作ったもの」に価値があるとは限らない。相手のニーズをよく考える
  • 相手への思いやりから、あえてニーズに沿わない決断をすることが必要なケースもある

今日は、古典落語の「目黒のさんま」を紹介します。細かい部分は噺家(はなしか)ごとに異なりますが、私の知っている内容でお話しします。

江戸時代、「雲州公」という殿様が目黒に行ったときのこと。小腹が空いた雲州公は、近所の農家が焼いていたさんまを食べることになります。さんまは庶民の食べ物で、雲州公が口にするのは初めてでしたが、彼はその味を気に入りました。

その後、雲州公は、「黒田公」という殿様に「領地を治めるなら、庶民の生活をよく知るべきだ」と、さんまを勧めます。黒田公はその言葉に従い、家臣に命じて房州(ぼうしゅう)という地域の網元から新鮮なさんまを仕入れさせますが、家臣は「焼いたさんまをそのまま出すのは、殿の体に悪い」と考え、塩気や油気を抜いてしまいます。

この味が黒田公には不評でした。黒田公は後日、雲州公に「房州からさんまを取り寄せたが、まずかったぞ」と不満を漏らします。すると、雲州公はこう答えました。「それは房州のさんまだからだ。さんまは目黒に限る」と。

さんまを焼いていた農家に偶然出会っただけなのに、さんまが目黒の特産物だと勘違いしている雲州公が滑稽ですね。ただ、私が注目してほしいのは、房州からさんまを取り寄せて調理した黒田公の家臣です。注目してほしい点は2つ。

1つは、黒田公の家臣が網元から新鮮なさんまを仕入れた上に、塩気や油気を抜いて丁寧に調理をしていること。相当手間をかけたのに、なぜ黒田公には不評だったのか。それは、さんまを初めて食べる黒田公にとって、大切なのは「新鮮さ」や「ヘルシーさ」ではなく、「味」だったからです。私たちは、「手間をかけて作ったもの」に価値があると思いがちですが、実際のビジネスでは、それが本当に相手(顧客など)のニーズを満たしているかを、よく考える必要があります。

もう1つは、黒田公の家臣の対応も、場合によっては正解になり得るということ。仮に黒田公が体調面に問題を抱えていたなら、主君の体を気遣って塩気や油気を抜くのは当然です。相手のニーズを理解した上で、あえてニーズに沿わない決断をすることが必要なケースもあるのです。

以上(2024年11月作成)

pj17197
画像:Mariko Mitsuda

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<公募期間>2024年3月14日(木)~2024年12月6日(金)まで


会社の結束力を高める社史編さん 何から着手したら良い?

書いてあること

  • 主な読者:周年記念などをきっかけに社史の編さんを考えている会社の経営者、担当者
  • 課題:社史を編さんする目的や、編さんした後の活用方法を知りたい
  • 解決策:社外向けに自社の存在意義を示すだけでなく、社内向けに新商品・サービス開発のヒントや、新入社員に自社への理解を深めてもらうための研修資料としても使える

1 なぜ、会社は社史を編さんするのか?

周年記念をきっかけに、編さんする社史は、

会社が生まれた背景や、歴史の節目にある大きな出来事をまとめた冊子

です。

社員が自社の創業から現在に至るまでの苦労や過去の教訓、理念、ビジョンなどを体系的に知ることができる貴重な資料といえるでしょう。

こうした社史には「分厚い書籍」のようなイメージがありますが、最近は読みやすさやデザインを重視したものも増えています。そのため、社史を編さんすると、次のような機能や効果が期待できます。

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社史編さんは、社内で「社史編さん室」などのチームや委員会を結成して、有志のメンバーが進めるケースが一般的です。

一方、社史の編さんに必要な情報を担当者だけで集めるのは難しいため、現役社員やOB・OGへインタビューをしたり、資料提供の協力を仰いだりします。このやり取りを通じて、部署や役職を越えたコミュニケーションが生まれるため、社史編さんは会社の結束力を高めるきっかけになります。

また、完成した社史を社員が読むことで企業理念や過去の教訓などを共有できるため、組織としての一体感が強まり、企業文化を継承していくことにもつながります。

この記事では、最近の社史の形態や編さんの流れ、社史の活用方法などを紹介します。自社の歩みを社内外の関係者と共有し、採用活動にも使える社史の編さんを検討してみてはいかがでしょうか?

2 社史を編さんするために知っておくべきポイント

1)社史の構成

発行形態によって詳細は異なりますが、書籍の社史は、次のような構成が考えられます。

1.前付け

書籍の本文より前に置かれる部分を指します。目次や代表者挨拶、祝辞などが入ります。

2.口絵

書籍の本文が始まる前に入る写真などをいいます。会社の現在の写真、歴史が伝わる写真、サービスや製品の写真などが入ります。

3.本文

社史の中心部分で、発行目的や社史編さん後の活用方法によって重視する内容が変わります。

社史の編さんをサポートする幾つかの会社へのヒアリングによると、

  • 社内向けの資料として社史を編さんする場合は、製品開発、プロジェクトの歴史、会社の利益の変遷など、社外には出しづらいが、自社の足跡が分かる情報があると良い
  • 社外向けの人材募集やブランディングを目的に社史を編さんする場合は、社員インタビューや製品・サービスのPRなど、自社の雰囲気や事業内容が伝わる情報があると良い

とのことです。

4.資料編

社内資料、自社に関連する統計資料・業界資料、変遷図などが入ります。

5.後付け

書籍の本文より後に置かれる部分を指します。編集後記や索引、発行者などが入ります。

2)社史の発行形態

社史と言うと、百科事典のような分厚い書籍を想像するかもしれませんが、昨今では、想定する読み手や活用シーンに応じたさまざまな形態での編さんが可能です。

例えば、より短時間で会社の変遷を伝えたい場合には、書籍に比べて比較的短期間で編さんできる動画型やウェブサイト型の社史を編さんするという方法もあります。また、社歴を詳細に記録した「本格的社史」だけでなく、創業期の苦労話など重要な部分のみを読みやすくリライトした「普及版」を併せて編さんする場合もあります。

社史を誰に読んでもらいたいか、編さんした社史をどのように活用したいのかで適した発行形態が異なるので、次の図表を基に、読み手と活用シーンを検討しましょう。

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なお、発行形態について、社史の編さんをサポートする幾つかの会社へのヒアリングによると、

  • 多くの人が手に取りやすいように、文字だけでなく、イラストや写真を多く盛り込む構成の社史を編さんしたいという依頼が増えている
  • 百科事典型の発行形態にとらわれず、人材採用や自社のブランディングなど、社外向けの活用を見据えて雑誌型や漫画型の社史を編さんしたいという事例もある

とのことです。

3 社史編さんの流れ

1)書籍の社史の例

発行形態によって編さん過程や工程は異なりますが、ここでは書籍の社史を編さんすることを想定して手順の一例を紹介します。

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社史の完成までにかかる期間は、社史の発行形態や求めるレベルによっても異なりますが、最短でも1年程度と長期になる場合が多いため、入念な準備が欠かせません。

2)必要な情報の集め方

一般的に、情報収集は文書としてまとめられた資料やデータに当たるのと、関係者へのインタビューの2通りの方法に分けられます。

1. 資料やデータに当たる

例えば、社内関係では次のような資料があります。

  • 会社設立時の登記簿
  • 各種会議の議事録
  • 会計関係書類
  • 就業規則などの規程
  • 社内報
  • 社員手帳
  • 会社案内

2.関係者にインタビューする

社内、社外を問わず、人は会社の出来事の主役かつ、大きな情報源になります。

インタビューの際には聞きたい内容が分かるよう、あらかじめ関連資料を対象者に渡すなどしてインタビューの目的をはっきりさせておくことが大切です。

例えば、インタビュー対象には次のような人物が挙げられます。

  • 社内:経営陣、管理職、一般社員など
  • 社外:社員の家族、OB・OG、取引先、業界団体、エンドユーザーなど

また、情報を収集するときには

近くの情報から遠くの情報へ、社内から社外に広げていく

ことを意識すると、情報収集がしやすくなるでしょう。

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4 社史編さんのノウハウに関する事例

1)京阪ホールディングス(大阪市中央区)

同社では、2020年に開業110周年を迎えるにあたって、記念誌の編さんに取り組みました。

社内報やニュースリリース、経営に関する会議を資料に基に編さんしていますが、事業展開の背景や意義を書くことで将来的にも立ち返って参照できるような資料にしていることをポイントにしています。また、当時の担当者へのインタビューを通じて情報を掘り下げることも編さんに当たって大切にしているといいます。

2)寺岡製作所(東京都品川区)

同社では、2021年に創業100周年を迎えたことをきっかけに、社史の編さんに取り組みました。

編さんに当たっては、企画が頓挫しないように、企画の立案や紙面の構成に時間をかけて検証することで、インタビューをスムーズに進めることができたといいます。

また、インタビューに当たっては、スケジュールをエクセルの表にまとめて見渡すことができるようにしただけでなく、役員に対して定期的に進捗報告を行い、レビューをうけることで編さん過程を可視化、企画時のイメージと完成品にギャップが出ないように努めたことがポイントとなっています。

3)日本血液製剤機構(東京都港区)

同団体では、2022年10月に事業開始から10周年を迎えることをきっかけに、記念誌の編さんに取り組みました。

世代を超えたコミュニケーションを促進できる媒体をコンセプトとして、若手社員でも理解できる内容かどうかを確認しながら進めたり、社内でインタビューを依頼する際には、部署での代表者を選出し、周年事業のワーキンググループを作って行ったりしたことがポイントです。

また、情報収集を通じて、社史を編さんする担当社員が普段は関わる機会が少ない社員からも話を聞くことができ、人脈の拡大や幅広い意見を聞くことができたのが大きなメリットになったといいます。

5 参考:社史編さんに役立つ情報

1)出版文化社「社史編集室」

企画編集方針、編さん過程、情報収集などに関するノウハウやコラムを紹介しています。

■出版文化社「社史編集室」■

https://www.shashi.co.jp/index.html

2)日本ビジネスアート「社史の教科書」「周年の教科書」

「社史入門」として社史を編さんしていくための基本的なステップや実際に社史を編さんした会社のノウハウを紹介しています。

■日本ビジネスアート「社史の教科書」■

https://shashi-kyokasho.com/

■日本ビジネスアート「周年の教科書」■

https://jba-anniversary.com/

3)神奈川県立川崎図書館「すごい社史」

開館当初から65年以上、さまざまな会社の社史を収集しており、経済団体史などを含む社史およそ2万冊を所蔵しています。特色のあるさまざまな社史をウェブサイト「すごい社史」上で公開しています(随時更新)。

■神奈川県立川崎図書館「すごい社史」■

https://www.klnet.pref.kanagawa.jp/find-books/kawasaki/shashi-shiryo/sugoi-shashi/

以上(2024年10月作成)

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画像:Vector Tradition-Adobe Stock

チーフのCさんから「若手が仕事をしない」とクレーム、どう声をかけますか?/武田斉紀の『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』【実践編】(4)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:コミュニケーションに関わる知識やノウハウは、頭では理解できても、実際の場面で使いこなせるようになるまでには高いハードルがあるものです。
  • 解決策:前回シリーズ『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』での知識やノウハウを聞いただけではまだ一歩を踏み出せない、あるいはトライしてみたがうまくいかないという方のために、新シリーズでは【実践編】として社内の“あるある”場面を想定した質問に対して一緒に考えながら、実践イメージを膨らませていただきます。またリーダー側の視点とは別に、若手社員側の視点による上司世代との上手な付き合い方のヒントも紹介していきます。リーダー世代と若手社員とのコミュニケーションギャップを埋めることは、世界を舞台にスピーディな成長をめざす日本企業にとっても喫緊の課題だからです。

1 チーフのCさんから「若手が仕事をしない」とクレーム、どう声をかけますか?

今シリーズは、前シリーズの『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』の実践編です。

知識やノウハウは分かったけれど、「現場で実践するにはまだハードルが高い」「うまく一歩を踏み出せない」という方のために、毎回実際にありそうなさまざまなシチュエーションを想定して、どんなコミュニケーションを取るのが望ましいかを一緒に考えていきます。

第3回の事例解説はいかがだったでしょうか。今回は課題[事例3]です。以下に再掲しますので、考えた解答を思い出してみてください。まだ考えていなかったという方もぜひ考えてみてください。繰り返しますが、解説だけを読んでいても実行や応用はままなりませんよ。

—————————

Q. 部下のベテランCさんに対して、あなたはこの後、最初にどんな声をかけますか? また、それを考える際に注意するべきポイントを3つほど挙げてください。書かれているさまざまな要素を考慮してみましょう。

[事例3]

〇部下でチーフとして若手2人を任せているベテランのCさんから、悲痛な形相で上司のあなたにクレームのような相談がありました。「若手2人に毎日指示を出して仕事をやらせようとしているんですが、反発や口答えばかりして、ちゃんとやらないんですよ。上司から直接注意してください。私にはもう無理です」。

〇実は最近別のチーフから、Cさんのところの若手2人が会社を辞めたがっているようだとうわさを聞いたばかりです。若手とはいえ大事な戦力、今後への期待も含めて採用した以上、会社としても課としても辞められては困ります。

—————————

ヒントとしては、事例1、2と同様に最初に起こっている事象を整理し、根本的な問題を洗い出してみてください。

2 起こっている事象から可能性を整理した上で、Cさんと直接話す

今回も事例を読み返して、起こっていることの事象を整理から始めてみましょう。

現実世界の上司としてはCさんに対するふだんからの不満や、若手2人に対して感じていた世代間ギャップから、心の中では「どっちもどっちなんだろうけど……」とため息をついているかもしれませんね。

上司も人間ですから、日ごろからためている感情が反射的に浮かんでしまうこともあるでしょう。ですがここは一旦心の中で止めて、事象の整理から始める練習をしてみましょう。

若手2人のマネジメントや教育を任せているCさんからは、2人がちゃんとやらないので「上司から直接注意してください。私にはもう無理です」という訴えがありました。一方で最近別のチーフから若手2人が会社を辞めたがっているようだとのうわさを聞きました。

現場で起こっていることの可能性を整理しましょう。Cさんについては大きく分けて「a.適切なマネジメントや教育ができている」「b.取り組んでいるが十分でない」「c.取り組めていない」の3つ。若手2人の方は同じく、「ア. Cさんのマネジメントや教育が適切だと思って受け入れている」「イ.適切だと思ってはいるが不満もある」「ウ.適切だと思っていない」です。

a.×ア.であれば、あなたの上司と相談してCさんを昇進させ、もっと多くの人数を任せることを検討すればいいでしょう。会社が成長するためには必要なことです。Cさんが昇進することで、あなたとあなたの上司にとっても、それぞれにさらに上のポジションが見えてくるかもしれません。

しかしながら起こっている事象から、a.×ア.ではなさそうです。Cさんの側にも、若手2人の側にもそれぞれ問題や不満があるのでしょう。

そこで、まずCさんにはb.やc.を想定して、1対1で直接ヒアリングしてみましょう。あなたに訴えている口調から、本人はa.だと信じ込んでいるはず。そこで『新たな3つのコミュニケーション習慣』の「傾聴」と「褒める」の発動です。

あなたが「若手2人を任せるよ」と託してからこれまでに、Cさんがどんなことに取り組んできたのかをじっくり聞いてみましょう。ほとんど何もしていなければc.に当たりますが、恐らくb.の「取り組んでいるが十分でない」可能性が高いのです。

「傾聴」した上で、あなたとしてはb.の「十分ではない」だと思っても、Cさんなりの取り組みを「褒める」ことから始めましょう。意欲を持って取り組んでくれたのであれば、それが十分でなくとも、たとえ間違った方向だったとしても、これまでの取り組みの努力を一旦認めてあげることが肝要です。それでこそ人は素直に自身を振り返り、「よし、次はもっと頑張ろう」と前に進むことができるのです。

この一連のプロセスこそが、あなたがCさんに対して行うべきマネジメントであり教育なのですから。Cさんに最初にかける一言はこんな感じでどうでしょう。

「Cさんなりに一生懸命考えて、若手2人に毎日接してきてくれたのですね、ありがとう」

3 若手2人へのヒアリングは誰がするべきか

Cさんの取り組みが不十分だったり、方向性が間違っていたようだと分かれば、あなたのコーチング力の出番です。Cさんがダメなのではなく、あなたのCさんへのマネジメントや教育が足りなかったのです。

Cさんを次のステップに導く上では、できるだけあなたから指示命令するのではなく、Cさん自身に「どうするべきか」を考えてもらいましょう。

まずはCさん自らこれまでの若手2人とのやり取りを振り返り、気付いた点があれば今後はどうしていきたいかを整理しもらいましょう。

ただ具体的に何が不十分で、あるいは間違っていたかを知るには、若手2人の側へのヒアリングが欠かせません。誰がするべきでしょうか。

上司のあなたが若手2人を呼んでヒアリングするという方法もありますが、いつまでもあなたが間に入っていては、今後もCさんと若手2人はあなたを介することを期待し続けてしまうでしょう。それではいつまでたってもCさんの成長はありません。

少しチャレンジではありますが、あなたが学んだ『新たな3つのコミュニケーション習慣』をCさんに伝授した上で、Cさんから若手2人にヒアリングさせてみてはどうでしょう。不安であればあなたも同じ部屋にいて、双方のやりとりを聞いていましょう。理想は最後まで口を挟まないことです。

『新たな3つのコミュニケーション習慣』の伝授ですが、「傾聴」と「褒める」については今まさに、Cさんに対してあなたが実践したことをつまびらかにすればいいのです。やらせではなく、相手を尊重するからこその『新たな3つのコミュニケーション習慣』であると分かれば、相手は嫌な気持ちにならないものです。

自分の思い込みや決めつけ、感情論から入らずに、若手2人の話を“ひたすら”「傾聴」することから始めること。彼らがCさんとのやり取りの中で、どう感じてどのように行動していたのかを確認して、大なり小なり関係なく彼らなりの努力を「褒める」こと。

その上で、Cさん自身と若手2人が今後どうなっていきたいかを話し合い、「前向き発想」でこれまでのやりかたで見直すべき点があれば、具体的に挙げて互いに確認し合うこと。

最初からうまくできないのは、あなたと同じです。あなたが若手2人を想定した相手役となって、Cさんに『新たな3つのコミュニケーション習慣』の練習を何度か繰り返してみてください。相手役になることで、あなた自身の習慣への理解も深まっていくはずです。

Cさん自身が、若手2人に対して『新たな3つのコミュニケーション習慣』を意識したヒアリングが何とかできそうなイメージが湧いたら、あなたからこう声をかけてあげましょう。

「私は若手2人に辞めてほしくないし、Cさんだって本当はそうでしょう。人間ですから合う合わないはあるだろうけれど、2人とも数ある会社の中からこの会社で頑張りたいと入社してくれたのだから、やる気はあると信じてあげてください。今回のことをCさん自身が成長するチャンスだと思って取り組んでほしい。期待していますよ!」

【今回の3つのポイント】

  1. 起こっている事象から可能性を整理する
  2. Cさんと直接話して「傾聴」し、これまでの取り組みを「褒める」
  3. Cさんに『新たな3つのコミュニケーション習慣』を伝授した上で、若手2人へのヒアリングを託す

3つ目の習慣「前向き発想」の伝授については、Cさんと若手2人が話し合う場にいればその場で最後に、いなければ話し合いの様子を聞いて相互理解が進んだことを確認した上で個別にアドバイスをしてみましょう。そして最後にはこう添えてはどうでしょう。

「Cさんも若手の2人も、私にとっては同じ大切な仕事仲間です。1人だって欠けてほしくないし、共に頑張っていい仕事をしたい。そのためにどうすればいいかを一緒に考えていきましょう。これからもよろしくお願いしますね!」

4 部下のDさんがしょっちゅう会議に遅れてきます、どう声をかけますか?

次回に向けた [事例4]を紹介します。

—————————

Q. 部下のDさんに対して、あなたはこの後、最初にどんな声をかけますか? また、それを考える際に注意するべきポイントを3つほど挙げてください。書かれているさまざまな要素を考慮してみましょう。

[事例4]

〇あなたの課(部)では、メンバーも入れ替わった今期から新たに毎週月曜夕方に定例ミーティングを設けており、メンバーは基本的に参加が必須となっています。しかし最近、Dさんの欠席率が高いように感じています。

〇始めた当初は全員が開始時間の少し前にはそろっていたのですが、1カ月くらいたった頃から、欠席や大幅な遅刻をするメンバーが毎回のように1人や2人いることも、上司であるあなたは気になっています。

—————————

テーマは「会議」です。これまでの事例と同様に起こっている事象を整理することから始め、現場で起こっていることの可能性を整理してみましょう。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。事例を使ってのシミュレーションがイメージできるようになられたでしょうか。もし日常で近いシーンに出会うことがあれば、ご自身で考えて『新たな3つのコミュニケーション習慣』の実践にトライしてみてください。

次回もお楽しみに。

<ご質問を承ります>

ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mail to: brightinfo@brightside.co.jp

※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。

『新スペシャリストになろう!』 https://amzn.asia/d/e8GZwTB

『なぜ社長の話はわかりにくいのか』 https://amzn.asia/d/8YUKdlx

以上(2024年10月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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