【資金調達】「資産、負債、純資産」ごとの資金調達法〜バランスシートに注目

1 貸借対照表の勘定で区分した資金調達

資金は会社の血液であり、事業の存続のために資金を絶やさないことが不可欠です。経営の先行きはいつも不透明だからこそ、適切な資金調達によって憂いのない資金繰りを実現することは経営者の重要な責務の1つです。

資金調達の方法はさまざまですが、この記事では、貸借対照表(バランスシート)の「資産」「負債」「純資産」の3つに分けて整理していきます。

2 「資産」に注目した資金調達

貸借対照表の「資産」に計上されている項目に関する資金調達には、ファクタリング、動産担保融資、リース、不要な資産の売却があり、アセットファイナンスと呼ばれます。それぞれ保有資産を現金化したり、資産購入時の支払いを先延ばししたりすることで行われます。

1)ファクタリング

ファクタリングは、会社がファクターと呼ばれる事業者に対して、回収期日前の売掛債権を譲渡することで現金化する資金調達方法です。利用に際しては、ファクターへの手数料が必要になることや、基本的には売掛先の同意を取り付けなければならないので注意が必要です。

2)動産担保融資(ABL_Asset Based Lending)

動産担保融資は、原材料・在庫・売掛金などを担保に金融機関から融資を受ける資金調達方法です。企業の事業性などを考慮した上で動産の担保価値を評価するため、「経営能力は高いものの、不動産など一般的な担保が乏しい」ケースでも、相応の金額の資金を調達できる可能性があります。

3)リース

リースはリース会社を通して設備を導入する方法であり、契約で定めるリース期間にわたって、リース料を支払います。そのため、購入すると多額の資金が必要になるような設備もリース期間にわたって分割払いすることで、少額の手元資金で設備の導入ができます。

リースの利用は、直接的な資金調達方法ではありませんが、資金調達と同じような効果を得ることができるため、高額な設備購入の際には検討しましょう。

4)不要な固定資産の売却

不要だけれど、会社が保有し続けている固定資産を売却し現金化する資金調達方法です。例えば、活用されていない建物や土地、現在取引がなくなった得意先の有価証券などがあります。

また、テレワークの広がりにより、以前はオフィスにあることが当たり前だったものも、不要になっている可能性があります。例えば、オフィス機器や家具類など(備品)は、全社員がオフィスにいることが前提の分量が用意されていましたが、在宅勤務によりオフィスに通勤する社員の数が激減し、使用していないものが相当数出てきます。現状にあった見直しにより資金調達とまではいかないまでも、コスト削減による資金確保ができるかもしれません。

3 「負債」に注目した資金調達

貸借対照表の負債に計上される資金調達には、金融機関(銀行や保険会社など)からの借入や社債の発行などがあり、デットファイナンスと呼ばれます。この方法により資金調達した場合には、調達した金額(元本)と利息の返済・支払いが必要になります。

1)金融機関からの借入(融資)

金融機関からの借入(融資)は、資金調達時の交渉相手が金融機関だけであり、比較的手間のかからない資金調達の方法で、主なものに証書借入、当座借越、手形借入、手形(電子記録債権)割引などがあります。

1.証書借入(オンラインレンディング含む)

証書借入は、金額、利率、借入期間、返済条件などを記載した金銭消費貸借契約証書を金融機関に差し入れる資金調達方法で、主に比較的大きな額の設備資金など、中長期資金の調達に利用されます。

この証書借入の一部で、オンライン上で申し込みから審査、入金までが完結するのがオンラインレンディング(オンライン融資)と呼ばれる借入方法です。会計データなどを基にAIが審査を行うため、手続き全てがオンライン上で済み、スピーディーに借入できるのが大きな特徴です。

2.当座借越(ビジネスローン含む)

当座借越は、当座預金の残高を超えて融資を受ける資金調達方法で、機動的に資金調達できるため、主に短期の運転資金の調達に利用されます。金融機関と当座勘定借越契約を結ぶことで、契約の限度内で何度でも借り入れることができ、ビジネスローンなども該当します。

3.手形借入

手形借入は、自社が金融機関を受取人とした手形を振り出して融資を受ける資金調達方法で、3カ月程度の短期の運転資金の調達に利用することが一般的です。なお、2027年3月31日の手形の廃止に伴い、2027年4月1日以降を期日とする紙の手形借入の新規受付は停止されています。取り扱いの詳細については各金融機関で異なりますので、取引のある金融機関のウェブサイトをご参照ください。

4.手形または電子記録債権割引

手形または電子記録債権割引は、支払期日前の手形や電子記録債権を金融機関に譲渡して融資を受ける資金調達方法です。資金調達できる金額は、手形の場合は額面金額から割引料(金利+手数料相当額)を差し引いた金額、電子記録債権の場合は金融機関に譲渡した金額から割引料を差し引いた金額となります。なお、2027年3月31日の手形の廃止に伴い、2027年4月1日以降を期日とする紙の手形割引の新規受付は停止されています。取り扱いの詳細については各金融機関で異なりますので、取引のある金融機関のウェブサイトをご参照ください。

2)社債発行

社債の発行は、社債(会社が発行する債券)を、投資家などに引き受けて(購入して)もらい資金を調達する方法です。社債を発行する方法として、私募債と公募債があり、私募債は投資家を限定する方法で、公募債は不特定多数の投資家などに対して発行する方法です。また、企業が発行する社債には、次のような種類があります。

社債発行

4 「純資産」に注目した資金調達

貸借対照表の純資産に計上される資金調達には、株式の発行やクラウドファンディングなどがあり、エクイティファイナンスと呼ばれます。資金調達した金額(出資額など)の返済は必要ありません。ただし、配当により出資者に対する支払いが必要であったり、発行する株式の種類によっては投資家による経営介入のリスクが高まったりする可能性があります。

1)株式の発行

株式の発行の方法は、「公募」「株主割当」「第三者割当」の3つに分けられます。

公募は、不特定多数の者に対して募集を行う形態です。証券取引所(金融商品取引所)への上場時や、上場後に行うのが一般的です。

株主割当は、既存株主に株式の割当を受ける権利を与えた上で、これらの者に株式を発行する形態をいいます。

第三者割当は、特定の者のみを相手に募集を行い、その者だけに株式を発行する形態です。例えば、ベンチャーキャピタルや役員・従業員などの自社の関係者に対して、新たに引き受けてもらいます。

また、企業が発行できる株式には、次のような種類があります。

株式の発行

2)クラウドファンディングの利用

クラウドファンディングは、ウェブサイト上で企業と出資者を仲介して資金調達する方法です。

出資者は、リターン(返礼)を受け取るなどができます。このリターンの内容によって、さまざまな種類に分けられます。一般的に利用されるのは、株式型、ファンド型、融資(貸付)型、購入型、寄付型などです。なお、株式型とファンド型以外は、純資産に計上される資金調達ではありませんが、まとめてここで紹介しています。

1.株式型

株式型は、未公開株式を提供して事業資金を募集する方法です。企業の調達可能額が年間で1億円未満、出資者の投資可能額は同一の企業につき年間で50万円以下といった制限があります。

2.ファンド型

ファンド型は、ファンドを組成した上で、事業資金を募集する方法です。融資(貸付)型と似ていますが、利息ではなく事業の配当を支払います。配当だけでなく、事業で作られた商品やサービスの割引券などを提供する場合もあります。

3.融資(貸付)型

融資(貸付)型は、ソーシャルレンディングともいわれる方法で、事業資金への融資を募集します。融資してくれる人には元金を返済し、利払いをします。なお、受け取ったお金は、通常の融資と同様貸借対照表の負債(借入金)として計上されます。

4.購入型

購入型は、リターンは支援金額に応じた金銭以外の商品やサービスになります。例えば、新製品の開発・生産コストを募集するプロジェクトであれば、商品を一般販売よりも先行して手に入れられるといった特典が付いている場合があります。なお、受け取ったお金は一旦貸借対照表の資産(前受金)として計上し、商品などを引き渡した時に損益計算書の収益(売上)に計上されます。

5.寄付型

寄付型は、被災地支援や途上国の支援など社会的意義が大きい一方で、収益が見込めないプロジェクトで多く採用されることが多く、リターンがないものをいいます(活動報告書など無償の成果物が提供される場合があります)。なお、受け取ったお金は損益計算書に収益(受贈益などの勘定)として計上されます。

5 上記以外の資金調達(助成金・補助金)

国(各省庁)や地方自治体などでは、創業間もない会社に対する助成金・補助金事業を行っています。助成金・補助金は、原則、返済の必要がありませんが、一定の要件に該当する場合しか利用できなかったり、該当していても応募者数が多い場合などは受給できなかったりすることがあります。

また、提出する書類が多く手続きが煩雑であったり、多くの助成金・補助金は受け取った資金用途が決められたりするので、内容をしっかり確認するようにしましょう。

以上(2026年7月更新)

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画像:Rummy & Rummy-Adobe Stock

【会社の見える化】グラフを使えば会社の状況が驚くほど見えてくる

1 グラフ化することの効果

経営者の皆さんは、決算書や月次試算表などを見て自社の状態をチェックしていることでしょう。しかし、売上高や利益額、これらの対前期比の増減額や増減率、さらに原価率や人件費額など、たくさんの数値を全て記憶している人はどれだけいるでしょうか。

また、当然ですが、会社は動いています。この動きをコントロールするのが経営ですから、自社の動きを正確に捉えることが非常に重要です。ただし、こうした数値は、ある一時点のもの、すなわち“点の情報”にすぎません。こうした断片的な数値を記憶することよりも、トレンドを正確に認識するほうが、経営においては重要です。そして、そのための最善の方法が、

数値を時系列でグラフ化し、会社の「見える化」を図ること

なのです。別の言い方をすれば、数値をグラフに変換し、状況を可視化して、トレンドに対する正確なイメージを持つことが大切なのです。

両者の違いは明確です。例えば、「100」と「1000」の2つの数値で比較してみましょう。

数値で「100」と「1000」を表した場合

「1000」は「100」の10倍であることは理屈では誰でも理解しています。しかし、これを数値で表すと、見た目の違いは、わずか「0」1つだけです。一体どれほどの人が、「1000」が「100」の10倍であることを、正しくイメージして心に残せるでしょうか。

ところが、グラフを使って表現すると、「1000」は「100」の10倍の面積になります。

グラフで「100」と「1000」を表した場合

グラフであれば、直感的かつ正確に量の違いを認識でき、また、記憶にも残りやすくなります。違う言い方をすれば、両者の違いを認識せざるを得なくなります。ここに、会社の見える化をグラフで表すことの大きな意義があるわけです。

2 認識の共有化を促進する

グラフ化すると、関係者間における認識の共有も促進できます。部下の中に「自分は数字が苦手だから」と公言している人はいませんか。そういう人でも、数値ではなく、グラフで状況を見せることで、そうした“言い訳めいた発言”は聞かないで済む可能性が高まります。

もう1つ例を挙げてみましょう。例えば、会議における業績報告の場面を思い出してみてください。「ビジネスでは数値が大切」とはいうものの、「○○部門の12月の業績は売上高450万円、対前月比10%減。営業利益は……」などと口頭での報告や、文章による説明だけだったらどうでしょうか。たとえ、数字が苦手な人ではなくとも、その数字を全て記憶することは容易ではありません。また、「対前月比10%減」という重要な情報が抜け落ちてしまい、「売上高450万円」だけが記憶に残る人もいるでしょう。

大きな問題は、同じことを聞いたり見たりしても、記憶に残る内容は人それぞれだということです。そのため、「売上高450万円」だけが記憶にある人は、「まあまあだな」といった漠然とした印象だけが残ったり、逆に「対前月比10%減」だけが記憶にある人は、「とにかくまずい!」といった焦りだけが印象に残るなど、同じ情報を見聞きしても、人によって認識が異なってしまうことがあります。

一方、これをグラフで表した場合はどうでしょう。

月次売上高の推移

このグラフは、あえて各月の具体的な数値は表示していません。しかし、具体的な数値を把握できなくても、グラフを見れば「12月になって急に売上高が減少している」という状況を誰もが認識することができるでしょう。

会社の見える化をする意義は、数値をグラフ化すること自体にあるのではありません。会社の見える化を進める意義は、数値をグラフ化することで、経営者が会社のトレンドを把握できるようになると同時に、関係者間で正しい認識を共有することによって、

的確な打ち手を検討し、会社全体が1つの方向に向かって行動することができる

ようになることにあります。

以上(2026年7月更新)
(監修 公認会計士 益子宣夫)

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画像:taka-Adobe Stock

経営のヒントとなる言葉(渋沢栄一)

「順逆は人自ら造る境遇なり」(*)

出所:「渋沢百訓 論語・人生・経営」(角川学芸出版)

冒頭の言葉は、

「『順境』『逆境』という境遇は、自身の心掛けと努力によって作られる」

ということを表しています。

1867年、渋沢氏はパリ万国博覧会使節団の随員として欧州を視察し、西洋文化に触れて大きな感銘を受けました。帰国後は明治新政府に入り、大蔵省(現財務省)勤務を経て実業界へ転じ、数々の企業の創設を手がけ、生涯を通じて実に約500社もの企業の育成に関わったといわれています。

こうした足跡から、渋沢氏は運に恵まれ、常に順境にあったと思われがちです。しかし、渋沢氏自身は、「順境や逆境というものは与えられるものではない。順境や逆境は、基本的には人間が自ら作り出すものである」ととらえていました。すなわち、順境にあるようにみえる人は、常に前向きな志を持ち、絶えず真面目な努力を重ね、その結果として自分自身で順境をつかみとっているのです。逆に、もし日ごろから不平不満が多く、真面目な努力を怠っているならば、その人は自ら逆境に陥ってしまうことでしょう。このように、渋沢氏は「順境と逆境は、その人の心掛けと努力の結果によって作られる」と考えていたのです。

ただし、現実には「人の力が及ばない逆境」も存在します。渋沢氏はこの逆境を、先に述べた人為的な逆境に対して「自然的逆境」と名付けました。そして、ほかならぬ渋沢氏自身も、この自然的な逆境を経験した一人なのです。

農家に生まれた渋沢氏は、幕末に攘夷(外国人や外国文化を排斥すること)思想の影響を受けて江戸で一橋家に仕え、ついには幕臣にまで立身しました。しかし、その後、明治維新によって江戸幕府は消滅し、旧幕府側の多くの人々が不遇な生活を余儀なくされることとなりました。

このように、環境があまりに目まぐるしく変化する中では、いくら個人が努力しても、その変化に抗うことはできません。このため、渋沢氏は「こうした状況の中で焦っても仕方がない」と覚悟を決め、悲観的になることなく黙々と努力を続けました。そして、やがて大きな時代の変動が静まると、このときの努力が実を結び、渋沢氏はようやく逆境から脱して順境に転じることができたのです。

渋沢氏は、逆境への対処について次のように述べています。

「己より生じて、遂に逆境に立たねばならぬ運命を、余儀なくされたという場合なら、まず自分についてその悪い点を直す、また天命と自覚したら、その事を処して完全の道理を尽くすというよりほか、逆境に対する道はあるまいと思う」(*)

逆境にあると感じたときは、まずその理由を考える必要があります。そして、それが人為的逆境であれば、自らが発奮して努力することで逆境を順境に変えなくてはなりません。また、それが自然的逆境であっても、焦ることなくたゆまぬ努力を続けることで、いつの日か逆境から抜け出すことができます。いずれにしても、自身の努力こそが順境を作り、そして逆境を順境に変えるのです。

【本文脚注】

(注)本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を担保するものではありません。また、本文中では内容に即した肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思われるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。

【経歴】

しぶさわえいいち(1840~1931)。埼玉県生まれ。1867年、パリ万国博覧会使節団随員として欧州へ渡航。帰国後、明治新政府大蔵省に勤務。1873年、第一国立銀行(現みずほ銀行)を設立。

【参考文献】

(*)「渋沢百訓 論語・人生・経営」(渋沢栄一ほか(著)、角川学芸出版、2007年2月)

「渋沢栄一語録」(日本経済新聞社、2011年6月)

以上(2026年5月更新)

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画像:日本情報マート

老後が安泰な「退職金」はいくら?/人生100年時代の退職金制度(1)

1 なぜ今、退職金制度が必要なのか?

最近では「もう社員が定年まで働く時代じゃないから……」と、退職金制度を廃止する会社が少なくありません。ですが、社員の退職金制度に対するニーズは、もしかしたら今後高まっていくかもしれません。「人生100年時代」といわれるほどの高齢化の陰で、

公的年金の支給額が減少し続けていて、老後の生活資金が足りなくなる恐れがある

からです。仮に御社に充実した退職金制度があれば、今働いている社員は安心ですし、新たに社員を採用する際のPRなどにも使えるでしょう。

この記事では、退職金制度を導入したり、見直したりする予定のある会社が、退職金の支給額などを検討する材料として、まず老後の生活にどのぐらいの資金が必要なのかを紹介します。

2 年金の支給額は10年間で減少

2025年3月末時点の公的年金(老齢基礎年金+老齢厚生年金)の平均支給額は、年約177.0万円です。10年前は約181.4万円で、10年間で約4.4万円減少していることが分かります(厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況」)。1度の食事にかかる費用が1000円(1日3食で3000円)だと仮定すると、約15日分の食事代がなくなってしまう計算です。

年金の支給額は10年間で減少

年金支給額が減少している理由の1つは、少子高齢化により現役世代1人で支えなければならない高齢者の数が増加しているからで、この傾向は今後も変わらない可能性が高いです。ですから、仮に年金の支給額減少を退職金でカバーできるなら、社員にとっては非常に魅力的です。

とはいえ、退職金制度を充実させるには、そもそも老後の生活にどのぐらいの費用がかかるのかを知っておく必要があります。早速、シミュレートしてみましょう。

3 一体いくら必要? 老後資金のシミュレーション

ここでは社員が65歳で退職した後の老後資金についてシミュレートしてみます。なお、シミュレーションは統計データを参考にした一例です。実際の内容は、社員の生活水準や希望するライフスタイルによって大きく変わることをご理解ください。

1)夫婦2人暮らしのケース

2024年における65歳以上の夫婦のみの無職世帯の実収入は月約25.3万円です。一方、同じ世帯にかかる生活費(消費支出+非消費支出)は月約28.7万円です(総務省統計局「令和6年家計調査年報」)。

実収入(約25.3万円)から生活費(約28.7万円)を引くと、毎月約3.4万円の赤字

になります。

夫婦2人暮らしのケース

2024年における平均寿命は、男性が81.09歳、女性が87.13歳ですから、退職してから20年以上赤字続きになる可能性があります(厚生労働省「令和6年簡易生命表」)。65歳で退職したとして、85歳までの生活を想定した場合、

  • 実収入:約25.3万円×12カ月×20年=約6072万円
  • 生活費:約28.7万円×12カ月×20年=約6888万円
  • 実収入-生活費:約6072万円-約6888万円=-約816万円

となります。816万円分の老後資金を何らかの方法で補填しないといけません。「貯金で何とかなる」という人もいるでしょうが、前述したように公的年金の支給額は減少し続けていますし、仮にこの先90歳、95歳と平均寿命が延びていけば、補填すべき額はさらに大きくなります。

2)独身のケース

2024年における65歳以上の単身無職世帯の実収入は月約13.4万円です。一方、同じ世帯にかかる生活費(消費支出+非消費支出)は月約16.2万円です(総務省統計局「令和6年家計調査年報」)。

実収入(約13.4万円)から、生活費(約16.2万円)を引くと、毎月約2.8万円の赤字

になります。

独身のケース

夫婦2人暮らしのケースと同じく、65歳で退職後、85歳までの生活を想定した場合、

  • 実収入:約13.4万円×12カ月×20年=約3216万円
  • 生活費:約16.2万円×12カ月×20年=約3888万円
  • 実収入-生活費:約3216万円-約3888万円=-約672万円

ですから、672万円分の老後資金を何らかの方法で補填しないといけません。

4 どんな退職金制度なら老後資金を賄える?

前章のシミュレーションで、年金などの実収入だけでは老後資金を賄いきれないことが分かりました。退職金制度の内容を検討する際の1つのポイントは、

老後資金の赤字(「実収入-生活費」のマイナス分)を退職金で補えるかどうか

です。前章のシミュレーションの数字を参考にするなら、夫婦2人暮らしの場合はあと816万円、独身の場合はあと672万円を、退職金で補う必要があります。また、前述した通り、家計の赤字は今後広がっていく可能性があり、補填すべき額はさらに大きくなります。

ちなみに、中小企業の社員(大学卒の場合)が定年退職時にもらえる退職金は、2024年平均で約1150万円です。また、退職金制度の導入率は減少傾向にあるものの、それでも2024年時点で64.2%の中小企業が導入しています(東京都産業労働局「令和6年中小企業の賃金・退職金事情」)。多くの会社が既に導入しているからこそ、自社の制度を差別化する工夫が必要です。

社員にとって魅力的な退職金制度の選択肢としては、

  • 同業他社よりも多くの退職金を払う
  • 運用次第で退職金を増やせる制度を導入する
  • 退職金が多く支払えないなら、老後資金を補う他の福利厚生を導入する

などがあります。制度の例をいくつか紹介しましょう。

制度の例

こうした退職金制度をうまく活用すると、社員は老後資金の赤字を補うだけでなく、逆に黒字に転じさせて自分の趣味や大切な人のために使うお金を作れる可能性も出てきます。

ただ、退職金制度にはメリットと同時にデメリットもあります。ここでは詳細を割愛しますが、例えば企業型DCのように社員が自分で運用する制度の場合、運用成績に応じて退職金を増やせる可能性がある反面、運用に失敗すると元本割れしてしまう恐れがあるのです。

次回は、退職金制度ごとのメリット・デメリットや、実際に運用する場合のアクションプランについて紹介します。

以上(2026年7月更新)

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画像:ChatGPT

「一時金と年金」「DBとDC」、どっちが魅力的?/人生100年時代の退職金制度(2)

1 退職金をいかに魅力的な制度にするか?

中小企業に勤める大卒の社員が定年退職したときにもらえる退職金は、2024年時点で約1150万円(大学卒モデル)です。図表1の通り、退職金額は2022年から2024年で見ると回復してきていますが、2014年(約1384万円)からの10年間で見ると減少傾向にあります。高専・短大卒、高校卒の場合も傾向は同じです(東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情」)。

退職金額の推移

退職金が減っている主な理由は、昔に比べ定年まで働く社員が減り、退職金制度の在り方を見直す会社が増えてきたからだといわれています。そんな状況なので、逆に今、退職金の額を増やそうとしている会社は、社員にとって魅力的に見えるかもしれません。

「ウチの会社の規模ではそんなに退職金を払えない……」という経営者もいるでしょうが、

  • 税金の負担が少なく、控除後の手取りが多くなる退職金制度
  • 会社の負担は一定で、社員が運用に成功すれば手取りを増やせる退職金制度

などもあるので、諦めるのはまだ早いです。

第1回では、「人生100年時代」の中で、社員が老後を過ごすのにどのぐらいの費用が必要で、いくら退職金があれば生活費を賄えるかをシミュレートしました。

今回は、「社員の手取りが多くなる退職金制度は何か」に注目し、「退職一時金 vs 企業年金」「DB vs 企業型DC」を比較し、どの制度が退職金の手取りがより多くなるのかをシミュレートします。なお、シミュレーションは、統計データを参考にした一例であり、実際の内容は会社の制度や社員の働き方、運用結果などによって異なります。

2 退職一時金 vs 企業年金

退職金の受け取り方には「退職一時金」「企業年金(退職年金)」の2つがあります(両者の併用も可能)。

退職一時金は、退職金を一括で受け取る方法です。退職所得控除(課税計算をする際、退職金の収入額から差し引くことのできる非課税枠)が利用でき、退職金が一定金額以内であれば所得税や住民税はかかりません。

企業年金は、退職金を年金形式で受け取る方法です。退職金を受け取り切るまでは勤めていた会社が運用してくれるので、一時金で受け取るより年金額が多くなることがあります。ただし、退職所得控除は受けられず、代わりに公的年金等控除(課税計算をする際、公的年金と企業年金の合算額から差し引くことのできる非課税枠)が適用されます。

両者のどちらが有利かは、退職金額や公的年金額、他の所得、資金管理のしやすさによって変わります。ただし、退職金が退職所得控除の範囲内に収まる場合、税負担だけを見ると退職一時金のほうが有利になりやすい傾向です。その理由を、以下のシミュレーションで解説します。

【試算条件】

  • 65歳男性で、配偶者はなし
  • 勤続43年で、再雇用はなし
  • 退職金額は1000万円
  • 一時金で受け取る場合と、年利1.0%の10年確定年金(年間101万円)で受け取る場合で試算
  • 公的年金は年180万円(月15万円×12カ月)を65歳から75歳まで受け取るものとする
  • iDeCoや企業型DCは未加入とする
  • 社会保険料は考慮しない

退職一時金 vs 企業年金

退職金が退職所得控除の範囲内に収まるのであれば、税金が1円も発生しないため、退職一時金で受け取ったほうが手取りは多くなります。額面上多く見える企業年金を選びたくなりますが、退職一時金で受け取ったほうが支払う税金がゼロ、あるいは少なくなるのです。その理由は、退職所得控除と公的年金等控除の非課税枠の違いにあります。

退職所得控除は、勤続年数が20年超の場合、「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」で算定します。勤続年数が長いほど、非課税枠を大きく利用できる仕組みです。勤続43年なら、

退職一時金の非課税枠=2410万円(800万円+70万円×(43年-20年))

となります。

一方、公的年金等控除は、社員の年齢と「公的年金+企業年金」の額をベースに算定されます。社員が65歳以上で「年110万円<公的年金+企業年金<年330万円」(その他所得を考慮しない)の場合、公的年金等控除は年110万円です。今回のケースでは「公的年金(年180万円)+企業年金(年101万円)=年281万円」なので、10年間で見ると、

企業年金の非課税枠(10年間)=1100万円(110万円×10年間)

となるのです。額面上は企業年金のほうが多くても、税負担を考慮すると退職一時金のほうが有利になる場合が少なくありません。改めて、退職一時金と企業年金のメリット・デメリットを確認してみましょう。

退職一時金 vs 企業年金

手取りの観点では、シミュレーションでも紹介した通り、退職一時金に軍配が上がることが多いようです。ただ、一度に大金が手元に入るため、計画性がなかったり浪費癖があったりする社員の場合などは、使い込んでしまうリスクを考えて、企業年金のほうがよいという考え方もできるでしょう。ただし、年金形式には資金を計画的に受け取りやすいという利点もあるため、税金だけでなく老後資金の管理方法も含めて判断することが大切です。

ここで見落とされがちなのが「他の所得との合算」です。公的年金等控除は、公的年金と企業年金の合計額で枠が決まります。本シミュレーションでは65歳以降に給与がない前提ですが、再雇用やパートで働き続ける場合、給与所得が加わって課税対象が膨らみ、企業年金の手取りがさらに目減りすることがあります。

逆に、退職一時金は受取時に課税が完結するため、その後の働き方に左右されません。「いつまで・どのくらい働くか」によって有利・不利が変わるため、受け取り方を決める前に、退職後の収入計画とセットで試算することをおすすめします。

3 DB vs 企業型DC

DB(確定給付企業年金)は、受け取る年金額があらかじめ決まっている企業年金です。労使間の規約に基づいて運用する「規約型」と、会社とは別法人の基金を設立して行う「基金型」に分けられます。想定通りの運用ができない場合、原則として会社側が追加拠出などにより給付水準を維持する仕組みです。そのため、社員にとっては将来の受給額を見通しやすい制度といえます。

一方、企業型DC(企業型確定拠出年金)は、会社が掛け金を拠出するものの、運用は社員が自分の責任で行う企業年金です。運用に成功すれば退職金を本来の額よりも増やすことができますが、運用に失敗した場合は、元本割れで退職金が減ることもあります。

結論から言うと、両者のどちらが魅力的かは、ケース・バイ・ケースです。具体的に、以下のシミュレーションで解説します。

【試算条件】

  • 65歳男性で、配偶者はなし
  • 年収400万円で試算
  • 勤続43年で、再雇用はなし
  • DB・企業型DCともに、65歳になったときから10年間、年金形式でもらうと仮定
  • DBは年100万円で試算
  • 企業型DCは、22歳で加入とし、運用失敗(元本割れ)した場合と、運用成功(月2万円を年利2.0%で運用)した場合の両方を想定
  • 公的年金は年180万円を65歳から75歳まで受け取るものとする
  • 社会保険料は考慮しない

DB vs 企業型DC

計算結果を確認すると、手取り合計は、

企業型DC(運用成功)>DB>企業型DC(運用失敗)

となっています。上記のシミュレーションの場合、運用成功した企業型DCの金額は魅力的ですが、運用に失敗した場合のリスクもなかなかです。確実に退職金を用意したい社員にとっては、DBを選択したほうが無難かもしれません。

企業型DCの「運用成功・失敗」は二者択一で語られがちですが、実際の成否を大きく左右するのは商品選びと運用期間です。本試算は22歳加入・43年運用という長期前提で、これだけの期間があれば、値動きの振れは平準化されやすくなります。

逆に加入が遅いほど時間を味方にしにくく、元本割れのリスクは高まります。また、企業型DCには掛金が所得控除になり運用益も非課税という、本記事の手取り比較に表れない税メリットもあります。「運用が不安だからDB」と決める前に、加入年齢や商品ラインナップも含めて検討するとよいでしょう。

DBの受け取り方や企業型DCの積立金額・利率によって試算結果は異なるので、実際の額のイメージについては、専門家などに確認してみましょう。また、企業型DCは最大で5.5万円までの掛け金を設定できるため、上記の試算結果よりも多くの退職金を用意できる可能性があります。

■厚生労働省「確定給付企業年金制度の主な改正(令和6年12月1日施行)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/newpage_00041.html

なお、企業型DCの拠出限度額(月額5.5万円)は、2026年12月1日施行の制度改正により月額6.2万円に引き上げられる予定です(2027年1月拠出分から適用)。これにより、企業型DCで用意できる退職金をさらに増やせる可能性があります。

■厚生労働省「iDeCo・企業型DC・国民年金基金の拠出限度額の引き上げ(2026年12月1日施行予定)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kyoshutsu/2025kaisei.html

改めて、DBと企業型DCのメリット・デメリットを確認してみましょう。

DB vs 企業型DC

シミュレーションでも紹介した通り、DBと企業型DCは性質が大きく異なる制度です。将来の受給額を見通しやすくしたい社員にはDBが向きやすく、運用次第で退職金を増やしたい社員には企業型DCが選択肢になります。ただし、企業型DCは運用成績によって元本割れする可能性もあるため、社員の投資経験やリスク許容度に応じた制度設計・投資教育が欠かせません。

4 「制度の併用」も視野に入れる

退職金制度は、必ずしも1つに絞る必要はありません。複数の退職金制度を組み合わせる「制度の併用」も可能です。例えば、DBと企業型DCの併用がそうです。

前述した通り、DBは将来の受給額が決まっていて安心な半面、会社にとっては追加拠出のリスクがあり、企業型DCは会社が運用成績について責任を負わない半面、社員にとっては元本割れのリスクがあります。この点、両制度を併用すると、それぞれの制度の長所を活かしつつ、リスクを低減できる可能性があります。

なお、DBと企業型DCを併用する場合、

企業型DCの掛け金は「月額5.5万円-DBの掛け金相当額」が上限

になります。なお、前述した拠出限度額の引上げ(2026年12月1日施行)に伴い、併用時の上限も「月額6.2万円-DBの掛け金相当額」に変わります。

制度の併用を考える上で重要なのが、受け取り「時期」の調整です。企業型DCやiDeCoの一時金と、会社の退職一時金を近い時期に受け取ると、退職所得控除を十分に使い切れず税負担が増えることがあります。

2026年1月の受け取りからは、退職所得控除を再びフルに使えるまでの期間が従来の5年から10年に延びています。複数の制度から一時金を受け取る予定がある方は、受け取り時期をずらすだけで手取りが変わる可能性があります。制度設計の段階から、社員がいつ・どの順番で受け取るかまで見据えて整えておくと安心です。

次回は、「退職金制度を見直してみたが、それでも十分な退職金を用意できそうにない……」という経営者向けに、財形貯蓄やiDeCo+(イデコプラス)などの福利厚生と退職金制度を併用して、社員の資産形成をサポートする方法を紹介します。

以上(2026年7月更新)
(監修 社会保険労務士 柴田充輝)

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退職金が少なければ財形貯蓄やiDeCo+でカバー!/人生100年時代の退職金制度(3)

1 「退職金制度+福利厚生」で社員の資産形成をサポート!

第2回では、複数の退職金制度を比較し手取り額などをシミュレートしました。税金や運用利回りのポイントを押さえれば、中小企業も魅力的な退職金制度を構築できるという内容でした。

ただ、そうしたポイントを押さえてもなお、十分な退職金を用意できない会社もあります。その場合は、退職金制度以外の福利厚生に注目してみましょう。例えば、

退職金制度と、財形貯蓄やiDeCo+(イデコプラス)などの福利厚生を併用することで、社員の資産形成をサポートできる可能性

があります。場合によっては、「退職金制度+福利厚生」の額が「大企業の退職金」の額を上回ることもあり、そうなれば従業員の満足度向上や採用活動でのPRなどにも大いに役立ちます。

第3回(最終回)となるこの記事では、財形貯蓄とiDeCo+、それぞれについて「社員が60歳になるまで運用した場合、どのぐらいの額になるのか」「退職金制度と福利厚生を組み合わせた場合、大企業の退職金を上回ることができるのか」などをシミュレートしていきます。

2 財形貯蓄の運用シミュレーション

財形貯蓄は、毎月またはボーナスの支給時期に、給与天引きで積み立てる制度で、

  • 一般財形貯蓄(自由な目的で使用できる)
  • 財形年金貯蓄(60歳以降に年金として受け取る目的で使用できる)
  • 財形住宅貯蓄(住宅購入、新築、増改築目的で使用できる)

に分けられます。制度ごとの運用益などを比較してみましょう。

財形貯蓄は導入・運用の事務負担が軽く、中小企業でも始めやすいのが利点です。給与天引きで完結し、会社が積立利率を負担するわけではないため、コスト管理がしやすい制度といえます。

ただし、利子非課税枠のある財形年金・財形住宅は、目的外の払い出しで過去5年分の利息が遡及課税されるなどの制約があります。経営者としては「財形は退職金そのものではなく、社員の自助努力を後押しする福利厚生」と位置づけ、退職金制度や次に紹介するiDeCo+と組み合わせて設計するのが現実的です。

【試算条件】

  • 22歳、年収400万円の会社員
  • 毎月3万円を給与天引きで積み立てる
  • 積立期間は38年
  • ボーナス・年収アップでの上乗せはないものとする
  • 全ての制度で年利は0.3%とする

1)財形貯蓄3種類のシミュレーション

財形貯蓄3種類のシミュレーション

一般財形貯蓄は、運用益(今回は0.3%)に対して20.315%の税金がかかります。一方、財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄は、両制度合算して550万円までの利子に税金がかかりません。目的が明確なら、財形年金貯蓄、財形住宅貯蓄を選択するのがよいでしょう。ただし、目的外の払い出しは課税対象となることがあるので、柔軟に使いたいなら一般財形貯蓄がお勧めです。なお、一般財形貯蓄については、その商品性から散財抑止を目的とした、社員に代わって会社が管理する普通預金のような感覚として社内制度化しているところもあります。

さて、上記の条件で試算した結果、

全ての制度で約1432.6万円以上を用意できる

ことが分かりました。運用益については、一般財形貯蓄は約64.6万円、非課税枠のある財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄は約81.1万円となっています。「運用益が少ないな」と感じる人もいるでしょうが、これらの制度は給与天引きにより堅実に資金を用意できることが特徴です。元本割れのリスクがなく、確実に必要な分だけ用意できます。

2)大企業(財形貯蓄なし)との比較

大企業(財形貯蓄なし)との比較

次は、中小企業(財形貯蓄あり)の「退職金+財形貯蓄」の額と、大企業(財形貯蓄なし)の「退職金」の額とを比較します。中小企業の社員(大学卒)が定年退職時にもらえる退職金は、2024年平均で約1150万円です(東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情」)。一方、大企業の社員(大学卒)の退職金は、2025年平均で約2135万円(中央労働委員会「令和7年賃金事情等総合調査」)。統計データは異なりますが、1000万円近い開きがあります。

ですが、財形貯蓄の制度がある中小企業が、

  • 退職金(退職給付額)で1150万円
  • 財形貯蓄(積立元本+運用益)で1432.6万円

を用意できた場合、その額は合計2582.6万円になります。これは、

大企業(財形貯蓄なし)の社員(大学卒)の退職金(2135万円)よりも447.6万円多い

計算になります。

3 iDeCo+の運用をシミュレーション

iDeCo(イデコ)とは、社員が自分で掛金を拠出して運用する個人型の確定拠出年金です。

このiDeCoには、拠出限度額の範囲(月額0.5万~2.3万円)で、iDeCoに加入する従業員の掛金に追加して、会社が掛金を拠出できる「iDeCo+(イデコプラス)」という制度

があります(中小企業限定の制度)。会社が掛金を上乗せしてくれるので、iDeCoのみを利用するよりも多くの老後資金を用意できます。

iDeCo+は財形貯蓄制度とは異なり、投資としての側面を兼ね備えています。長期間積み立てるとどのような結果になるのか、シミュレートしていきましょう。

【試算条件】

  • 年収400万円
  • 事業主拠出は1万円で合意
  • 個人拠出は1.3万円
  • 30年間年利3.0%で運用
  • 受給開始年齢60歳
  • 移管資金0円
  • 企業型DCやDBの取り扱いはなし

1)iDeCo+(イデコプラス)のシミュレーション

iDeCo+(イデコプラス)のシミュレーション

上記の条件で試算したところ、

iDeCoのみで約752.3万円、iDeCo+で約1331万円用意できる

ことが分かりました。年利3.0%で運用した場合、iDeCoでは約284.3万円、iDeCo+では約503万円の運用益を確保できます。しかも、これらの運用益に対しては税金がかかりません。

また、iDeCo+を導入している会社の場合、社員本人の掛金に事業主掛金が上乗せされます。今回の試算では、社員の自己負担は月1.3万円のままでも、会社負担分を含めてより大きな老後資金を準備できる計算になります。

2)大企業(iDeCoなし)との比較

大企業(iDeCoなし)との比較

仮に、iDeCo+を導入している中小企業が、

  • 退職金(退職給付額)で1150万円
  • iDeCo+(積立元本+運用益)で1331万円

を用意できた場合、退職金とiDeCo+の資産を合わせた額は合計2481万円になります。これは、

大企業(iDeCoなし)の社員(大学卒)の退職金(2135万円)よりも346万円多い

計算になります。

なお、iDeCo+で拠出できる金額の上限は年27.6万円(月2.3万円)ですが、

2026年12月1日からは、上限が74.4万円(月6.2万円)に引き上げ

られますので、改正後はさらにフォローがしやすくなります。これは、第2号被保険者(会社員等)のiDeCoの拠出限度額が、企業年金の有無にかかわらず月6.2万円に一本化されることに伴うものです。

iDeCo+は、経営者にとって「低コストで導入できる退職金の上乗せ策」として有効です。事業主掛金は全額損金算入でき、給与ではないため社会保険料の算定基礎に含まれず、賃上げのように会社の法定福利費負担が増えません。

企業型DCのような専用の運営管理機関との重い契約も不要で、中小事業主向けに事務手続きが簡素化されています。賃上げ原資の一部をiDeCo+に振り向ける設計なら、同じ人件費でも社員の手取りと将来資産を厚くでき、採用・定着のアピール材料にもなります。

4 財形貯蓄とiDeCo+のメリット・デメリット

改めてシミュレーションの結果を振り返ってみましょう。中小企業が退職金制度と福利厚生を組み合わせた場合、

  • 退職金と財形貯蓄で合計2582.6万円
  • 退職金とiDeCo+で合計2481万円

を用意できる計算になりました。どちらも大企業の退職金平均を上回る水準です。

シミュレーション上は、退職金と財形貯蓄を組み合わせた金額のほうが高い一方、利用件数を見ると、財形貯蓄は減少傾向(厚生労働省「財形貯蓄の実施状況」)、iDeCoは増加傾向(企業年金連合会「確定拠出年金統計資料」)にあることが分かります。これは、iDeCoの特性上、シミュレーション以上の運用益が見込める魅力性や最近では国が積極的に加入を推奨している背景等も影響しているものと推測されます。

iDeCoは長期積み立てによる運用益が期待できる、iDeCo+に至っては会社が掛金の一部を負担してくれるなどのメリットがあります。一方で、運用失敗による元本割れのリスクも当然あるので、堅実なほうが好きな社員にとっては、必要な金額を確実に用意できる一般財形貯蓄のほうが魅力的という考えもあるかもしれません。

なお、ここで示した金額はあくまで積立・運用段階での評価額です。iDeCoを一時金で受け取る場合は退職所得として課税され、会社の退職金と受給時期が近いと退職所得控除の枠を重複して使えないことがあります(2026年1月以後に受け取る退職手当等から、控除枠の調整ルールが見直されています)。実際の手取り額は受け取り方や時期によって変わる点に留意が必要です。

メリット・デメリットを確認し、御社に合った方法で退職金の不足分をフォローしてみてください。

財形貯蓄 vs iDeCo+(メリット・デメリット)

以上(2026年7月更新)
(監修 社会保険労務士 柴田充輝)

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【アンケート】先輩社員の本音「いまどきの新入社員、ここが困った……」

1 Z世代の新入社員とのコミュニケーションに悩む人たちへ

現在、10~20代の新入社員は、いわゆる「Z世代」(1990年代半ば~2010年代初頭生まれ)と呼ばれる人たちです。先輩社員は「せっかくわが社を選んで入社してくれたのだから、しっかり育てよう」とはりきりますが、ジェネレーションギャップは世の常。新入社員の行動や態度に悩まされることも多いのではないでしょうか。

例えば、SNSなど特定のコミュニティ内での会話やスマホなどの扱いに慣れているために、

  • 対面でのコミュニケーションが苦手で、挨拶がちゃんとできない
  • 友達感覚の話し方が抜けきらず、敬語が正しく使えない
  • 大学の講義の黒板も写メで撮るのが当たり前だったので、メモを取る習慣がない

といった話などはよく聞きます。「ビジネスパーソンとして非常識だし、ちゃんと注意したほうがいいのかな……」「それとも、これも時代だと思って、新入社員に合わせたほうがいいのかな……」と、先輩社員の心境は複雑です。

そこで、この記事では

直近3年間で10~20代の新入社員を採用した会社に勤める「30代以上の先輩社員310人」に「新入社員の気になった行動・態度」や「新入社員への注意の仕方」をアンケート

した結果をまとめました(実施期間:2026年6月6日~6月12日)。ぜひ、自分と同年代の社員がどう考えているのかをご確認ください。

2 新入社員の行動や態度について、思うところがあるか

まずは、新入社員の行動や態度に、困惑したり違和感を覚えたりしたことはあるかを聞きました。先輩社員の回答は次の通りでした。

新入社員の行動や態度について、思うところがあるか

先輩社員の46.2%は、新入社員の行動や態度について、思うところがあるようです。

3 具体的にどのような行動や態度が気になったか

新入社員の行動や態度について、困惑したり違和感を覚えたりしたことが「ある」と回答した先輩社員に、具体的にどのような行動や態度が気になったかを聞きました。

具体的にどのような行動や態度が気になったか

「挨拶をしない」という回答が38.5%と最も多く、次いで「声が小さい」「愛想がない」の34.1%が続きます。

4 実際に新入社員を注意したことがあるか

同じく、新入社員の行動や態度について、困惑したり違和感を覚えたりしたことがある先輩社員に、実際に新入社員を注意したことがあるかを聞きました。

実際に新入社員を注意したことがあるか

「たくさん注意した」「まあまあ注意した」が合計51.7%となりました。問題があったら注意するスタンスの先輩社員、注意するのが苦手な先輩社員が、大体半々ずついるようです。

5 注意した/しなかった理由は何か

前章で新入社員を「たくさん注意した」「まあまあ注意した」と回答した先輩社員に「注意した理由」を、「あまり注意しなかった」「一度も注意したことがない」と回答した先輩社員に「注意しなかった理由」を聞きました。

注意した/しなかった理由は何か

「注意した理由」は、「仕事に支障を来すから」が38.3%と最も多く、次いで「新入社員に成長してほしいから」の31.9%が続きます。「仕事を進める上で必要だと思ったら注意する」というスタンスの先輩社員が多いようです。

「注意しなかった理由」は、「下手に注意してハラスメントと言われたくないから」が50.0%と最も多く、次いで「多様性の時代、無理に会社の常識に当てはめる必要はないから」の25.0%が続きます。ハラスメントになるのを恐れて新入社員を注意できない先輩社員が多いようです。また、「仕事をちゃんとやってくれるなら、あとは本人に任せよう」というスタンスの人も一定数いるようです。

6 具体的に何を注意したか

新入社員を注意したことがある(図表3で「一度も注意したことがない」以外の回答をした)先輩社員に、具体的に何を注意したのかを聞きました。

具体的に何を注意したか

「言葉遣い(独特の表現、敬語が正しく使えない、タメ口など)」という回答が21.1%と最も多く、次いで「メモを取らない」「指示されたことをやらない」「指示されたことしかやらない」「始業時刻(定時)ギリギリに出社する」の19.7%が続きます。

7 新入社員の行動や態度は改善したか

同じく、新入社員を注意したことがある先輩社員に、注意した結果、新入社員の行動や態度が改善したかを聞きました。複数の新入社員を注意した経験がある先輩社員には、1人でも改善した新入社員がいるかを回答してもらいました。

新入社員の行動や態度は改善したか

45.1%の先輩社員が「改善した」と回答しています。

8 改善につながった/つながらなかった理由は何か

新入社員の行動や態度が「改善した」「改善しなかった」と回答した先輩社員に、それぞれそう思う理由を聞きました。

改善につながった/つながらなかった理由は何か

注目したいのは赤字の部分です。「改善につながった理由」「改善につながらなかった理由」の上位5つのうち3つが同じ内容になっています。これはもしかしたら「注意の仕方」の問題かもしれません。

例えば、「『それは正しいかな?』など、やんわりとした言い方をした」は、「改善につながった理由」の3位(25.0%)、「改善につながらなかった理由」の1位(29.6%)になっていますが、改善につながらなかったという先輩社員は、

優しく諭すことを意識しすぎて、「新入社員のやり方は間違っている」ということをちゃんと伝えられなかった

のかもしれません。改善につながらなかった理由の2位(22.2%)に「優しめのトーンで叱った」が入っているのも、このあたりが関係している可能性があります。一方で、「改善につながらなかった理由」には「厳しめのトーンで叱った」(14.8%)も挙がっており、トーンの強弱だけが改善を左右するとは言い切れません。タイミングや場所の選び方、新入社員側の受け止め方なども影響している可能性があります。いずれにしても、暴言などハラスメントに当たるような指導はダメですが、

「何が間違っているか」「なぜ間違っているのか」を丁寧に説明した上で、先輩として毅然と指導する

という意識は大切かもしれません。

9 いわゆる「ゆるブラック企業」についてどう思うか

労働環境はしっかりしているが、優しすぎて社員が仕事にやりがいを感じられない「ゆるブラック企業」が最近話題になっています。先輩社員全員に、ゆるブラック企業についてどう思うかを聞いてみました。

「ゆるブラック企業」についてどう思うか

先輩社員の43.7%は自社もゆるブラック企業かもしれないと思っている一方、38.6%はやりがいをちゃんと伝えられている自信があるようです。

前述の図表4では、問題があると感じても「ハラスメントと言われたくない」という理由から新入社員を注意できない先輩社員が多かったですが、こうした状況が続けば、職場全体がなんとなく「注意しない・されない」雰囲気になり、意図せずゆるブラック企業化が進むリスクもあります。

新入社員が成長できる環境をつくるためには、ハラスメントにならない適切な指導の仕方を会社として整理し、先輩社員が安心して指導できる土台を整えることが重要といえるでしょう。

以上(2026年7月更新)

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【賃金データ集】 退職金のモデル支給額

【賃金データ集】シリーズとは?

【賃金データ集】シリーズは、基本給や諸手当など賃金の主要な構成要素ごとの近年のトレンドを、モデル支給額を中心とした関連データとともに紹介します。経営者や実務家の方々が賃金支給水準の決定や改定を行う際の参考としてご活用ください。なお、モデル支給額などのデータを紹介する際は、基本的に出所に記載されている用語を使用するものとします。また、データは公表後に修正されることがあります。

この記事で取り上げるのは「退職金」(退職給付等の費用)です。

退職給付等の費用

なお、以降で紹介する図表データのExcelファイルは、全てこちらからダウンロードできます。

こちらからダウンロード

1 退職金の位置付けと退職金制度の概要

1)退職金の位置付け

退職金とは、在職中の従業員の功労に対する報償や賃金の後払いといった意味合いで、企業が退職した従業員に支払う金銭です。退職金制度は、支払い形態、算定の考え方、掛け金の積立形態などによって幾つかの種類に分類されます。退職金制度の導入は企業の義務ではないものの、多くの企業が実施しています。

2)退職金制度の概要

主な退職金制度の種類は次の通りです。

退職金の位置付け

1.支払い形態

支払い形態は、次のように大別されます。

  • 退職一時金:退職金を一括で支給
  • 退職年金:退職金を年金として支給(「企業年金」とも呼ばれる)

2.算定の考え方

退職一時金の算定の考え方は、次のように大別されます。

  • 基本給連動型:算定基礎額(退職金を計算する基礎となるもの)を基本給とする制度で、一般的には、「退職時の基本給×勤続年数別係数×退職事由別係数(会社都合退職と自己都合退職)」によって退職金を算定するもの
  • 基本給非連動型:算定基礎額を基本給以外とする制度で、代表的なものは「ポイント制退職金制度」や「別テーブル方式(第二基本給)」など

 退職年金の算定の考え方は、「確定給付型:あらかじめ将来の年金支払額が決まっている制度」と、「確定拠出型:あらかじめ掛け金の額が決まっている制度」に大別されます。

3.積立形態

積立形態はさまざまで、それぞれ特徴があります。

積立形態

2 退職金制度の潮流

1)退職金制度の3つの機能

退職金制度は功労に対する報奨や賃金の後払いといった機能を持ちながら、終身雇用・年功序列の人事制度に組み入れられ、定着してきました。

現在有力とされている退職金制度の機能を整理すると次の3つになります。

  • 功労報奨:従業員の長年の勤務を慰労する
  • 賃金後払い:若年時の低い賃金を補償する
  • 生活保障:退職後の労働者の生活を援助する

2)これからの退職金制度

かつての退職金制度は、年功主義の下で賃金の後払い機能を持ち、従業員の定着率向上に寄与しました。しかし、定年まで1社に勤め続ける従業員が減った昨今では、こうした考え方は必ずしも実情に合わなくなってきており、実際、退職金制度の見直し(廃止も含む)を実施・検討している企業が少なくありません。

例えば、企業の負担軽減という視点で、前述の確定給付企業年金と確定拠出年金について考えてみましょう。確定給付企業年金は企業(基金)が将来の給付額を加入者に約束するという仕組みです。仮に予定通りの運用ができなかった場合、企業は追加拠出をして加入者を保護する必要があります。一方、確定拠出年金ではあらかじめ掛け金は決まっていますが、将来の年金給付額は運用期間中の従業員の運用成績によって決まるため、運用成績に対する企業の責任が軽くなります。退職金に係る企業の負担を軽減したいと考えている企業にとっては、確定拠出年金のほうが適しているといえるかもしれません。

また、従業員の多くは、「退職後の生活のために、ある程度の資産が欲しい」と少なからず考えています。退職後の生活を考えるためには、退職金の具体的な支給額を知りたいところですが、実際の退職金制度は、退職時まで支給額の実態が分からないなど、制度内容がブラックボックス化しているケースが少なくありません。こうした場合は、確定拠出年金のように、従業員が在職中に自らの裁量で利用して、資産を運用できる退職金制度にするのも1つの方法です。

ちなみに、退職金制度ではありませんが、従業員が自分で掛け金を決めて運用する「個人型確定拠出年金」(通称「iDeCo(イデコ)」)には、従業員の掛け金に追加して、企業が掛け金を拠出することができる「中小事業主掛金納付制度」(通称「iDeCo+(イデコプラス)」)という制度があります。退職金に充てる原資の一部を企業が拠出する掛け金に充てることなどで、従業員の資産形成のサポートが可能になります。

3 厚生労働省の統計資料によるモデル支給額

厚生労働省の統計資料によるモデル支給額

厚生労働省の統計資料によるモデル支給額

厚生労働省の統計資料によるモデル支給額

厚生労働省の統計資料によるモデル支給額

厚生労働省の統計資料によるモデル支給額

厚生労働省の統計資料によるモデル支給額

4 中央労働委員会の統計資料によるモデル支給額

中央労働委員会の統計資料によるモデル支給額

中央労働委員会の統計資料によるモデル支給額

5 日本経済団体連合会等の統計資料によるモデル支給額

日本経済団体連合会等の統計資料によるモデル支給額

6 東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

6 情報インデックス(この記事で紹介したデータの出所)

この記事で紹介した統計資料は以下の通りです。調査内容は個別のURLからご確認ください。なお、内容はここ数年の公表実績に基づくものであり、調査年(度)によって異なることがあります。

■就労条件総合調査■
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/11-23.html

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■賃金事情等総合調査■
https://www.mhlw.go.jp/churoi/chingin/

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■退職金・年金に関する実態調査結果■
https://www.keidanren.or.jp/policy/index09.html

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■中小企業の賃金・退職金事情■
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/data/koyou/chingin

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以上(2026年7月更新)

pj17911
画像:ChatGPT

【外国人雇用】 在留資格の一覧! 自社が雇用できる外国人は?

1 押さえるべきは「在留資格」

日本で働く外国人の数は、2025年10月末日時点で、過去最多の257万1037人になりました(厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況」)。外国人雇用を検討する会社は今後ますます増えると思われますが、その際、注意が必要なのが「在留資格」です。

在留資格とは、

外国人が日本で行うことができる活動等を類型化したもので、法務省(出入国在留管理庁)が外国人に対する上陸審査・許可の際に付与する資格

のことをいいます。在留資格ごとに就労できる職種や在留期間が異なるため、正しく把握しておかなければ、不法就労などのトラブルを招きかねません。

大切なのは、

  • 職種の制限:制限があるかないか
  • 在留期間の期限:制限があるかないか(一部は無期限)
  • 労働時間の上限:日本人と同じか否か

を確認することです。

まずは、日本で就労する外国人の区分を見てみましょう。

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上記の図表1を踏まえると、一般的に、多くの外国人は、

  • 職種の制限:あり
  • 在留期間の期限:あり
  • 労働時間の上限:日本人と同じ

となりますが、就労できる職種や在留期間の細かいルールは在留資格ごとに異なります。以降で図表1の区分ごとに、在留資格の概要を紹介します。

2 身分に基づき在留する者

活動内容に関係なく日本に滞在する外国人が該当します。

画像2

就労に関する特徴は次の通りです。

  • 職種の制限:なし。単純労働なども可
  • 在留期間の期限:永住者は無期限。その他の在留資格は期限あり
  • 労働時間の上限:日本人と同じ

どの在留資格についても職種の制限は特になく、労働時間の上限も日本人と同様ですが、在留期間について注意する必要があります。

ただし、永住者の場合は在留期間も無期限ですので、基本的に日本人と同じように雇用することができます。

3 就労目的で在留が認められる者

特定の知識・スキルを活かした職業に就く外国人が該当します。

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就労に関する特徴は次の通りです。

  • 職種の制限:それぞれの在留資格で認められた範囲内でしか活動できない
  • 在留期間の期限:高度専門職2号は無期限。その他の在留資格は期限あり
  • 労働時間の上限:日本人と同じ

「高度専門職2号」を除き、どの在留資格も在留期間に期限があります。

「高度専門職1号」の在留資格は、日本の学術研究や経済の発展に寄与することが見込まれる高度の専門的な能力を持つ外国人の受入れをより一層促進するため、他の一般的な就労資格よりも活動制限を緩和した在留資格として設けられたものです。高度人材ポイント制において、学歴・職歴・年収等の項目ごとにポイントを付け、その合計が一定点数以上に達した人に許可されます。

「高度専門職2号」の在留資格は、日本の学術研究や経済の発展に寄与することが見込まれる高度の専門的な能力を持つ外国人の受入れをより一層促進するため、「高度専門職1号」の在留資格をもって一定期間在留した者を対象に、在留期限を無期限とし、活動制限を大きく緩和した在留資格として設けられたものです。これらの外国人の中で、高度人材ポイント制において、学歴・職歴・年収等の項目ごとにポイントを付け、その合計が一定点数以上に達した人に許可されます。

4 技能実習

外国人技能実習制度における技能実習生が該当します。

外国人技能実習制度とは、技能実習生が日本で実習を行う会社(実習実施者)の下で働き、母国では得がたい技能の修得などを図るための制度です。

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就労に関する特徴は次の通りです。

  • 職種の制限:技能実習2号、3号に移行が可能な職種・作業は省令で定められている
  • 在留期間の期限:あり
  • 労働時間の上限:日本人と同じ

外国人技能実習制度は、まず技能実習1号からスタートし、所定の試験を受けることで技能実習2号、3号へと移行していく仕組みになっています。ただし、技能実習2号、3号に移行が可能な「職種」と各職種にひもづく「作業」が、省令で細かく定められています。

例えば、

「耕種農業」という職種には、「施設園芸」「畑作・野菜」「果樹」という作業がひもづくといった具合に、2026年4月10日時点で94の職種と171の作業(下記URL参照)

が定められています。

技能実習1号には職種・作業の制限はありませんが、技能の修得などに関係ない業務(単純労働など)に従事させることはできません。

■厚生労働省「技能実習計画審査基準・技能実習実施計画書モデル例・技能実習評価試験試験基準」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/global_cooperation/002.html

なお、外国人技能実習制度については、技能の習得という本来の制度趣旨に反して、「会社が技能実習生に、技能の習得に関係ない単純労働をさせる」などの問題が頻発していることに加え、日本の労働環境においても、団塊世代の大量離職などによる将来的な人材不足が深刻さを増している状況に鑑み、

2027年4月1日より、外国人技能実習制度に代わり、新たに「育成就労制度」が開始されることになっています。

育成就労制度は、「育成就労」という在留資格を設け、外国人を原則3年間で一定以上の技能を持つ「特定技能」に育成する制度です。外国人技能実習制度と似ていますが、

  • 外国人技能実習制度は、外国人が日本で習得した技能を、将来母国に持ち帰ることを想定した「国際協力」のための制度(特定技能への移行も可能だが、制度上は「帰国」が原則)
  • 育成就労制度は、外国人が技能の習得後も、日本企業の戦力として活躍することを想定した「人材確保」のための制度(帰国せず、日本に「在留」することが原則)

であり、目的が異なります。

また、その他にも、外国人技能実習制度とは、対象としている産業分野・職種が異なる、就労開始前の日本語教育が必須といった特徴があります。

■出入国在留管理庁「育成就労制度」■
https://www.moj.go.jp/isa/applications/index_00005.html

5 資格外活動

就労するための在留資格を持っていないものの、法務大臣から資格外活動(在留資格の範囲外の活動)の許可を与えられた外国人が該当します。

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就労に関する特徴は次の通りです。

  • 職種の制限:資格外活動の許可を受けた場合には、本来の在留資格に属する活動を阻害しない範囲であれば、基本的になし(ただし、風俗営業等への就労は不可)
  • 在留期間の期限:あり
  • 労働時間の上限:日本人より短い(原則1週28時間まで)

労働時間については、日本人の場合、原則1日8時間、1週40時間が上限ですが、資格外活動を行う外国人の場合、原則1週28時間までとされています。

1日当たりの上限は特に定められていませんが、どの曜日から起算しても1週28時間以内になるようにしなければならない

ため、注意が必要です。

ただし、

例外として、在留資格の本来の活動に影響がない期間に限り、労働時間の上限が1日8時間、1週40時間まで延長

することができます。留学生のアルバイトを例にすると、勉強の妨げになりにくい大学の夏休み期間などがそれに該当します。

6 特定活動

特定活動(法務大臣が個々の外国人について特に指定する活動)を行う外国人が該当します。

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就労に関する特徴は次の通りです。

  • 職種の制限:在留資格に該当しない活動を行う場合、法務大臣から個々の指定を受ける必要がある(ただし、ワーキング・ホリデーの場合は、風俗営業等以外であれば制限なし)。
  • 在留期間の期限:あり
  • 労働時間の上限:日本人と同じ

特定活動の場合、外国人のパスポートに添付される「指定書」という書類に、「活動類型」(ワーキング・ホリデー、EPAなど)が記載されており、その内容に応じて就労できる職種が変わってきます。

以上(2026年7月更新)
(監修 のぞみ総合法律事務所 弁護士 曽田駿希)

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【書籍ダイジェスト】『サボテンは世界をつくり出す』

本書は、日本で唯一のサボテン学者である著者が、フィールドワークや研究室でのエピソードを交えつつ、サボテンの特殊な生態や能力について詳述している。
サボテンは水を大量に含むことから、家畜の飼料として与えると家畜の飲水量が減り、節水効果があるという。また、サボテンはCO2をシュウ酸カルシウムとして体内に蓄積する能力を持っており、枯死後も100年から100万年という長いスパンでCO2を土壌に固定できる。さらに、重金属による土壌汚染を植物によって浄化する「ファイトレメディエーション」への応用も期待されている。

書籍ダイジェストは、こちらからお読みいただけます。pdf