支援強化でさらに活用しやすく! IT導入補助金2025のご紹介

「IT導入補助金」とは、中小企業・小規模事業者等の労働生産性の向上を目的として、業務効率化やDX等に向けたITツール(ソフトウェア、サービス等)の導入を支援する補助金です。補助対象となるITツールは、IT導入支援事業者(事務局に登録申請を行い、事務局の審査を経て採択された事業者)が提供し、かつ事務局に登録されたソフトウェア・オプション・役務・ハードウェアです。
補助金を利用するには、ITツールを導入する中小企業・小規模事業者等とIT導入支援事業者が共同で事務局へ申請を行います。

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高年齢雇用継続給付の縮小

令和7年4月1日から、雇用保険の「高年齢雇用継続給付」が縮小され、最大15%の支給率が10%に下がります。高年齢雇用継続給付は、企業で働く高齢者を給与面で支援するための給付金です。中小・零細企業でも、受給者がいると思います。本稿では、高年齢雇用継続給付の支給率縮小について、概要をお伝えします。

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変形労働時間制やフレックスタイム制で働き方改革を実現!

1 3種類の変形労働時間制とフレックスタイム制

「変形労働時間制」とは、

1カ月や1年など一定の期間内において、1日10時間や1日6時間など労働時間を弾力的に設定する制度

です。労働基準法(以下「労基法」)では、3種類の変形労働時間制が定められています。

また、より柔軟な労働時間制度として「フレックスタイム制」があります。これは、

一定の期間内において、始業・終業時刻の決定を社員に委ねることができる制度

です(フレックスタイム制を変形労働時間制の一種とする考え方もあります)。

制度の概要や導入手続きをざっくり一覧にまとめたのが図表1です。

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以降でそれぞれの制度の詳細を解説していくのですが、次の用語は重要になるので、ご確認ください。

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2 1カ月単位の変形労働時間制

1)制度の概要

1カ月単位の変形労働時間制とは、

1カ月以内の一定の期間(「変形期間」といいます)における週の平均労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)以内であれば、法定労働時間を超える所定労働時間を設定できる制度

です。例えば、図表3は法定労働時間が1日8時間、1週40時間の会社が、変形期間を1カ月(31日)に設定した場合のイメージです。

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1日8時間を超えて労働する日、1週40時間を超えて働く週がありますが、週の平均労働時間が40時間以内に収まっていれば、時間外労働は発生しません。具体的には、「法定労働時間の総枠」という基準で判断します。法定労働時間の総枠は、原則として、

法定労働時間の総枠=週の法定労働時間×変形期間内の暦日数÷7日

で計算します。図表3の場合、法定労働時間の総枠は177.1時間(40時間×31日÷7日)で、

法定労働時間の総枠(177.1時間)>1カ月(31日)の所定労働時間の合計(174時間)

となります。この場合、週の平均労働時間が40時間以内に収まっていることになり、時間外労働は発生しません。

ただし、各日、各週の所定労働時間は、一度定めると原則として変更できないので注意してください。図表3のようにシフトを定めても、実際の労働時間が各日、各週の所定労働時間を超えると、この後に紹介するルールに基づいて時間外労働が発生する可能性が出てきます。

2)時間外労働などのルール

1カ月単位の変形労働時間制で時間外労働が発生するのは次のケースです。

  1. (1日単位)所定労働時間が8時間を超える日はその所定労働時間、それ以外の日は8時間を超えて働いた時間
  2. (1週単位)週の所定労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超える週はその所定労働時間、それ以外の週は40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えて働いた時間。ただし、1.で計算した時間を除く
  3. (変形期間全体)法定労働時間の総枠を超えて働いた時間。ただし、1.または2.で計算した時間を除く

なお、これとは別に、法定休日に働いた場合は休日労働が、原則として22時から翌日5時に働いた場合は深夜労働が発生します。

3)導入の手続き

必要な手続きは、労使協定の締結と届け出(就業規則で定める場合は不要)、就業規則の変更と届け出です。

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3 1年単位の変形労働時間制

1)制度の概要

1年単位の変形労働時間制とは、

1カ月超1年以内の一定の期間(「対象期間」といいます)における週の平均労働時間が40時間(特例措置対象事業場の場合も40時間)以内であれば、法定労働時間を超える所定労働時間を設定できる制度

です。基本的なルールは1カ月単位の変形労働時間制と同じですが、1年単位の変形労働時間制の場合、さらに図表5のルールが加わります。

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2)時間外労働などのルール

1年単位の変形労働時間制で時間外労働が発生するのは次のケースです。

  1. (1日単位)所定労働時間が8時間を超える日はその所定労働時間、それ以外の日は8時間を超えて働いた時間
  2. (1週単位)週の所定労働時間が40時間(特例措置対象事業場も40時間)を超える週はその所定労働時間、それ以外の週は40時間(特例措置対象事業場も40時間)を超えて働いた時間。ただし、1.で計算した時間を除く
  3. (対象期間全体)法定労働時間の総枠を超えて働いた時間。ただし、1.または2.で計算した時間を除く

なお、休日労働や深夜労働のルールは、1カ月単位の変形労働時間制と同じです。

3)導入の手続き

必要な手続きは、労使協定の締結と届け出、就業規則の変更と届け出です。

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労使協定の項目にある「d.対象期間における労働日、各日の所定労働時間」について補足します。1年単位の変形労働時間制は長いので、事前に全労働日の所定労働時間を特定するのは難しいです。そのため、対象期間を1カ月以上の期間ごとに区分した場合に限り、

  1. 最初の期間については、労働日と労働日ごとの所定労働時間
  2. それ以外の各期間については、各期間の労働日数と総労働時間のみ

を労使協定に定めればよいとされています。例えば、図表7は対象期間を1カ月ごとに区分した場合のイメージです。

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ただし、この場合も、最初の期間以外の各期間の労働日と労働日ごとの所定労働時間を、各期間の始まる30日前までに過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)の同意を得て、書面で定めなければなりません。

4 1週間単位の非定型的変形労働時間制

1)制度の概要

1週間単位の非定型的変形労働時間制とは、

1週の労働時間が40時間(特例措置対象事業場の場合も40時間)以内であれば、法定労働時間を超える所定労働時間を設定できる制度

です。他の制度と違い、常時雇用する社員が30人未満の小売業、旅館・料理店・飲食店だけが導入できます。例えば、図表8は1週間単位の非定型的変形労働時間制を用いて1週間働く場合のイメージです。

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1週の労働時間が40時間以内なので、1日8時間を超える所定労働時間を設定しても、時間外労働になりません。ただし、設定できる所定労働時間は、1日10時間が上限です。また、1週間単位の非定型的変形労働時間制の場合、各日の所定労働時間は、遅くとも毎週1週間の仕事が始まる前までに、勤務表を張り出すなどして社員に書面で通知します。

2)時間外労働などのルール

1週間単位の非定型的変形労働時間制で時間外労働になるのは次のケースです。

  1. (1日単位)所定労働時間が8時間を超える日はその所定労働時間、それ以外の日は8時間を超えて働いた時間
  2. (1週単位)40時間(特例措置対象事業場の場合も40時間)を超えて働いた時間。ただし、1.で計算した時間を除く

なお、休日労働や深夜労働のルールは、1カ月単位の変形労働時間制などと同じです。

3)導入の手続き

必要な手続きは、労使協定の締結と届け出、就業規則の変更と届け出です。

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5 フレックスタイム制

1)制度の概要

フレックスタイム制とは、

3カ月以内の一定期間(「清算期間」といいます)についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で始業・終業時刻の決定を社員に委ねる労働時間制度

です。通常は、必ず働かなければならない「コアタイム」と、社員が自主判断で働く「フレキシブルタイム」を設けます。例えば、図表10はコアタイムを10時から15時、フレキシブルタイムを6時から10時と15時から19時に設定した場合のイメージです。

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働き方の自由度が高い半面、社員の始業と終業がばらつきやすくなります。かといってフレキシブルタイムを極端に短くしたり、社員にフレキシブルタイムに働くよう強制したりすることはできないのですが、社員に翌日の始業時刻の目安を確認したり、社員の同意を得て特定の時間に始業させたりする程度であれば問題ないとされています。

2)時間外労働などのルール

フレックスタイム制は、1カ月以内の場合と1カ月超3カ月以内の場合とで時間外労働のルールが変わります。なお、休日労働や深夜労働のルールは、フレックスタイム制の期間にかかわらず、1カ月単位の変形労働時間制などと同じです。

1.フレックスタイム制の期間が1カ月以内の場合

フレックスタイム制の期間の実労働時間が、週平均で40時間(特例措置対象事業場の場合は44時間)を超えると時間外労働になります。具体的には、前述した「法定労働時間の総枠」で判断します。

法定労働時間の総枠=週の法定労働時間×清算期間内の暦日数÷7日

2.フレックスタイム制の期間が1カ月超3カ月以内の場合

フレックスタイム制の期間中の実労働時間が、週平均で40時間(特例措置対象事業場の場合も40時間)を超えると時間外労働になります。便宜上、このルールを「40時間ルール」とします。同時に、フレックスタイム制の開始の日から1カ月ごとに区分した各期間の労働時間が週平均50時間を超えた場合も時間外労働になります。こちらも便宜上「50時間ルール」とします。

フレックスタイム制の期間を1カ月超3カ月以内に設定した場合、40時間ルールと50時間ルールのいずれかの条件に該当すると、時間外労働が発生します。例えば、図表11は、清算期間が3カ月の場合の、割増賃金の対象となる時間数のイメージです。

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賃金は、まず各月について50時間ルールにのっとって計算した割増賃金を支払い、次に清算期間終了時に、40時間ルールにのっとって法定労働時間の総枠を超えた分の割増賃金を支払います(50時間ルールに基づき既に支払った金額を除く)。図表11の場合、各月で支払うべき割増賃金は次のようになります。

  • 4月(単月):5.8時間(=220時間-214.2時間)分
  • 5月(単月):割増賃金の支払いはなし
  • 6月(単月):5.8時間(=220時間-214.2時間)分
  • 6月(3カ月):88.4時間(=620時間-520時間-5.8時間-5.8時間)分

6月は、6月単月で生じた割増賃金(50時間ルールに基づき計算するもの)と、3カ月の清算期間で生じた割増賃金(40時間ルールに基づき計算するもの。ただし、4月(単月)と6月(単月)で生じた割増賃金を除く)の両方を支払うことになります。

3)導入の手続き

必要な手続きは、労使協定の締結と届け出(清算期間が1カ月以内の場合、届け出は不要)、就業規則の変更と届け出です。

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以上(2025年4月更新)
(監修 弁護士 坂東利国)

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画像:WinWin-Adobe Stock

みなし労働時間制と高度プロフェッショナル制度で働き方改革!

1 3種類のみなし労働時間制と高度プロフェッショナル制度

みなし労働時間制とは、

労働時間が把握しにくかったり、仕事が専門的で会社が具体的な指示を出しにくかったりする場合に、実際の労働時間ではなく労使協定などで定めた特定の時間(みなし労働時間)を働いたとみなす制度

です。労働基準法(以下「労基法」)では、3種類のみなし労働時間制が定められています。また、みなし労働時間制ではないですが、これに近い制度として高度プロフェッショナル制度があります。

制度の概要や導入手続きをざっくり一覧にまとめたのが図表1です。

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以降でそれぞれの制度を解説しますが、次の用語は重要になるので、ご確認ください。

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2 事業場外労働に関するみなし労働時間制

1)制度の概要

事業場外労働に関するみなし労働時間制とは、

社員が事業場外で働き、労働時間の算定が困難な場合に、所定労働時間または業務に通常必要な時間を働いたものとみなす制度

です。なお、

常態的に所定労働時間を超えて働く必要がある場合

には、所定労働時間でなく「業務に通常必要な時間」を働いたものとみなされます。

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なお、社員が事業場内と事業場外の両方で働くときは注意してください。

  • 事業場内の実労働時間と事業場外の労働に通常必要とされる時間の合計が所定労働時間を超えなければ、所定労働時間が1日の労働時間となる
  • 事業場内の実労働時間と事業場外の労働に業務に通常必要とされる時間の合計が所定労働時間を超える場合には、その合計時間が1日の労働時間となる

というルールがあるからです。

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2)時間外労働などのルール

「みなし労働時間制」は、労働時間制度の適用を除外するものではなく、あくまで一定時間働いたと「みなす」制度です。そのため、所定労働時間をみなし労働時間となる場合は時間外労働が発生しませんが、業務に通常必要な時間をみなし労働時間となる場合は次のケースで時間外労働が発生します。

  1. みなし労働時間が法定労働時間を超える場合
  2. 事業場内の実労働時間とみなし労働時間の合計が法定労働時間を超える場合

なお、これとは別に、法定休日に働いた場合は休日労働、原則として22時から翌日5時に働いた場合は深夜労働が発生します。これらは、社員からの自己申告などによって把握します。また、通常の労働時間制度と同様に、休憩も付与する必要があります。

3)導入の手続き

まずは、自社の社員が制度の対象になるかを確認しましょう。法律上の要件は、

労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いとき

です。

社員が事業場外で労働するケースとしては、営業などの外回りやリモートワークが考えられます。ただし、次のように会社が社員に指揮命令できる場合などについては、労働時間の把握が困難でないため、制度を適用できません。

  • 何人かのグループで事業場外労働に従事し、その中に労働時間管理をする者がいる
  • 電話やチャットツールなどで、随時業務の指示を受けながら事業場外で労働する
  • 事前に業務の具体的指示を受けた後、事業場外で指示通りに働き、事業場に戻る

また、テレワークガイドラインでは、リモートワークの場合に事業場外みなし労度時間制を適用するには、次の要件を全て満たす必要があるとしています。

  • 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていない
  • 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていない

裁判例上は、具体的な業務指示の有無・程度や業務状況の報告の有無・程度等を総合的に勘案し、労働時間を算定し難いか否かを判断することによって、制度の適用の可否を判断しています。

これらの要件を満たす場合、導入の手続きに移ります。必要な手続きは、労使協定の締結と届け出(場合によっては不要)、就業規則の変更と届け出です。

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なお、実際は「所定労働時間をみなし労働時間とする場合」と「業務に通常必要な時間をみなし労働時間とする場合」とで、若干手続きが異なります。

1.所定労働時間をみなし労働時間とする場合

労使協定の締結は特に必要ありません。就業規則に所定労働時間をみなし労働時間とする旨の定めを行い、所轄労働基準監督署に届け出ます(図表5)。なお、常態的に所定労働時間を超えて労働することが生じる場合などは適用できません。

2.業務に通常必要な時間をみなし労働時間とする場合

労使協定の締結は必須ではありませんが、締結する場合は対象となる業務やみなし労働時間を定めます(図表5)。労使協定を締結した場合、当該協定で定める時間が「業務に通常必要な時間」として判断されます。協定したみなし労働時間が法定労働時間を超える場合については、所轄労働基準監督署に届け出る必要があります。

3 専門業務型裁量労働制

1)制度の概要

専門業務型裁量労働制とは、

会社が具体的な指示をすることが困難または適切でない20種類の業務に従事する社員について、労使協定で定めた時間をみなし労働時間として扱う制度

です。

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実際の労働時間に関係なく一定時間働いたとみなす点は、事業場外労働に関するみなし労働時間制と同じですが、

  • 事業場外労働に関するみなし労働時間制は、原則として労働時間の把握が不要(労働時間の算定が困難であることが前提のため)
  • 専門業務型裁量労働制は、健康・福祉確保措置(後述)を実施する観点から労働時間の把握が必要

という違いがあります。労使協定で定めた時間と労働時間の実態が大きく乖離している場合、みなし労働時間の設定を見直すのが適切です。

2)時間外労働などのルール

労使協定で定めたみなし時間が法定労働時間を超えると、時間外労働が発生します。休日労働や深夜労働のルールが適用されるのは、事業場外労働に関するみなし労働時間制と同じです。通常の労働時間制度と同様に、休憩も付与する必要があります。

3)導入の手続き

まずは、自社の社員が制度の対象になるかを確認しましょう。専門業務型裁量労働制が適用できる20種類の業務は次の通りです。ただし、該当する資格などを有していても、実際にその業務に従事していなければ、制度は適用されません。例えば、税理士資格を有していても、実際に「税理士の業務」に従事していなければ、制度は適用されないということです。

  1. 新商品・新技術の研究開発業務または人文科学・自然科学に関する研究の業務
  2. 情報処理システムの分析・設計業務
  3. 新聞・出版・放送番組制作に関する取材もしくは編集の業務
  4. 衣服等の新たなデザインの考察業務
  5. 放送番組等のプロデューサー等の業務
  6. 広告宣伝等の文章の案の考案業務
  7. 情報処理システムの考案・助言業務
  8. 照明器具等の配置の考案、助言等の業務
  9. ゲーム用ソフトウエア創作業務
  10. 有価証券市場等の分析・投資に関する助言業務
  11. 金融商品の開発業務
  12. 学校教育法における教授研究業務
  13. 銀行・証券会社における顧客の合併、買収に関する調査または分析、これに基づく合併・買収に関する考案・助言の業務
  14. 公認会計士の業務
  15. 弁護士の業務
  16. 建築士の業務
  17. 不動産鑑定士の業務
  18. 弁理士の業務
  19. 税理士の業務
  20. 中小企業診断士の業務

これらの要件を満たす場合、導入の手続きに移ります。必要な手続きは、労使協定の締結と届け出、就業規則の変更と届け出です。

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注意すべきは、労使協定の項目の「d.健康・福祉確保措置」「e.苦情処理の措置」「f.~h.制度の適用の同意に関する事項」です。

まず、「d.健康・福祉確保措置」ですが、これは

対象となる社員の労働時間の状況(特に基準はなく、会社の裁量で判断)に応じて、過重労働を防止するための措置

です。措置の内容は会社が自由に決められますが、

  1. 代休または特別休暇の付与
  2. 臨時の健康診断の実施
  3. 年次有給休暇の取得(連続日数での取得を含む)の促進
  4. 心とからだの健康問題についての相談窓口の設置
  5. 適切な部署への配置転換
  6. 産業医等による助言指導または保健指導

のいずれかを実施するのが望ましいとされています。

「e.苦情処理の措置」とは、

「実際の労働時間に対してみなし労働時間が短い」などの苦情に対応するための措置

です。苦情の窓口、担当者、取り扱う苦情の範囲、処理の手順・方法などを定めるのが望ましいとされています。

「f.~h.制度の適用の同意に関する事項」は、2024年4月1日から記入が義務付けられた項目で、会社が社員に専門業務型裁量労働制を強要することがないよう、

  • 会社は制度の運用に当たって社員から同意を取得しなければならない
  • 同意しなくても不利益な取扱いをしない
  • 同意した場合もそれを撤回できる手続きを決めておく

という定めをするものです。

また、会社は社員ごとに、健康・福祉確保措置の実施状況、苦情処理措置の実施状況、専門業務型裁量労働制に関する同意、同意を撤回した場合はその記録を、労使協定の有効期間中とその後3年間保存する義務を負います。

4 企画業務型裁量労働制

1)制度の概要

企画業務型裁量労働制とは、

会社が具体的な指示をしないこととする事業運営の企画、立案、調査、分析の業務に従事する社員について、労使委員会で決議した時間を労働したとみなす制度

です。基本的なルールは専門業務型裁量労働制と同じですが、

  • 専門業務型裁量労働制は、一定の専門業務に従事している社員が対象
  • 企画業務型裁量労働制は、経営企画や営業戦略などの部門で働く社員が対象

という違いがあります。

2)時間外労働などのルール

時間外労働などのルールは、専門業務型裁量労働制と同じです。通常の労働時間制度と同様に、休憩も付与する必要があります。

3)導入の手続き

まずは、自社の社員が制度の対象になるかを確認しましょう。企画業務型裁量労働制は、会社の具体的な指示がなくても業務を行える社員が対象です。ですから、社員は次の要件を全て満たす必要があります。

  • 事業運営の企画、立案、調査、分析の業務に従事している
  • 業務の性質上、これを適切に遂行するための方法を大幅に社員の裁量に委ねる必要があり、遂行手段や時間配分の決定等について、使用者が具体的な指示をしないこととする業務に従事している
  • 対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する(告示では新卒の社員の場合、3年ないし5年程度の職務経験を要するとされている)

これらの要件を満たしたら、次に自社に労使委員会があるかを確認します。労使委員会がない場合、次の手続きで労使委員会を設置します。

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労使委員会がある場合、導入の手続きに移ります。必要な手続きは、労使委員会の決議や社員の個別同意などと、就業規則の変更と届け出です。

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ポイントは専門業務型裁量労働制と基本的に同じですが、手続きの多くに労使委員会が絡んでいる関係で、

社員に適用される賃金・評価制度を変更する場合、労使委員会に変更内容の説明を行わなければならない

というルールがあります。

5 高度プロフェッショナル制度

1)制度の概要

高度プロフェッショナル制度とは、

高度の専門的知識等を有し、職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす社員について、所定の手続きを行うことで、労基法の労働時間、休憩、休日労働、深夜労働の割増賃金に関する規定が適用されなくなる制度

です。みなし労働時間制ではなく労働時間制度の適用を除外するものですが、稼働した時間によって賃金が変動しなくなるという意味では、みなし労働時間制に似た性質を持っています。

2)時間外労働などのルール

高度プロフェッショナル制度では、労働時間制度の適用がないため、時間外労働、休日労働、深夜労働の割増賃金が発生することはありません。また、休憩の適用もありません。

ただし、労働時間の代わりに、タイムカードや勤怠管理システムなどで「健康管理時間」を把握しなければなりません。健康管理時間とは、

社員が事業場内にいた時間と事業場外で稼働した時間の合計

です。労働時間制度の適用がないため、あくまで「健康」を管理するための時間把握を求めるという趣旨です。

3)導入の手続き

自社の社員が制度の対象になるかを確認しましょう。高度プロフェッショナル制度の要件として、社員が一定の年収要件を満たす必要があります。年収要件は「基準年間平均給与額の3倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること」で、現状は1075万円以上(勤務成績や成果等に応じて支払われる賞与等は原則として含まれないが、年俸制などあらかじめ支給額が確定されている場合などは含まれる)とされています。

社員が年収要件を満たす場合、次に高度プロフェッショナル制度の対象となる業務に従事しているかを確認します。対象となる業務は次の5つです。

  1. 金融商品の開発業務
  2. 金融商品のディーリング業務
  3. アナリストの業務(会社・市場等の高度な分析業務)
  4. コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案または助言の業務)
  5. 新商品・新技術の研究開発業務

社員はこれらの業務に常に従事していて、なおかつ会社からの具体的な指示がなくても業務を行える者である必要があります。また、会社は、次の内容について定めた書面を作成し、社員の署名により個別の同意を得る必要があります。

  1. 業務の内容
  2. 責任の程度
  3. 職務において求められる成果その他の職務を遂行するに当たって求められる水準

これらの要件を満たしたら、次に自社に労使委員会があるかを確認します。ない場合の設置手続きは、企画業務型裁量労働制の場合と同じです。

労使委員会の設置が完了したら、導入の手続きに移ります。必要な手続きは、労使委員会の決議や社員の個別同意などと、就業規則の変更と届け出です。

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注意すべきは、労使委員会の決議の項目の「e.選択的措置」「f.健康・福祉確保措置」「g.同意の撤回に関する手続き」です。

選択的措置とは、社員の過重労働を防止するため、次のいずれかから選択して実施する措置です。

  1. 勤務間インターバルの確保(11時間以上)+深夜業の回数制限(1カ月4回以内)
  2. 健康管理時間の上限措置(1週40時間を超える場合、その超過時間を1カ月100時間以内または3カ月240時間以内とすること)
  3. 1年1回以上の連続2週間の休日の付与(本人が請求した場合は連続1週間×2回以上)
  4. 臨時の健康診断の実施(1週40時間を超える健康管理時間が1カ月80時間を超えた社員または申し出があった社員が対象)

健康・福祉確保措置は、専門業務型裁量労働制などのものとおおむね同じですが、高度プロフェッショナル制度の場合は、次のいずれかから措置を選択することとされています。

  1. 前述した4つの選択的措置のうちいずれか1つ(選択的措置として採用したものを除く)
  2. 医師による面接指導(注)
  3. 代休または特別休暇の付与
  4. 心とからだの健康問題についての相談窓口の設置
  5. 適切な部署への配置転換
  6. 産業医等による助言指導または保健指導

(注)健康・福祉確保措置として実施するものの他、健康管理時間が1週40時間を超え、その超過時間が1カ月100時間を超えた場合にも医師の面接指導を実施しなければなりません。

最後に、同意の撤回に関する手続きとは、

社員が高度プロフェッショナル制度の適用に同意した後で、その同意を撤回する手続き

です。高度プロフェッショナル制度は、企画業務型裁量労働制と同じように、対象となる社員から書面などで個別の同意を得なければ制度を適用できません。さらに社員は、制度の適用に同意をした場合も、労使委員会の決議で定めた手続き(撤回申出書を人事部門に提出するなど)に基づいて同意を撤回できます。社員が撤回を申し出た時点で、その社員は高度プロフェッショナル制度の適用を受けなくなります。

以上(2025年4月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田絹助)

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画像:pixabay

2025年から始まる! 変わる! 注目制度13選(4月施行内容を追記)

1 2025年の法改正を一覧表でチェック!

2025年は、行政手続きの電子化や、育児・介護支援、高齢者・障害者雇用など、さまざまな分野で法改正が行われます。内容をキャッチアップしきれず困っているという人向けに、2025年の主な法改正を一覧にまとめました。なお、この一覧に税制改正は含めません。

この記事の作成時点(2024年12月30日時点)では施行日が明らかでなかった改正内容についても、2025年4月1日時点の状況を記載し直していますので、改めて確認してみてください。

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2 2025年の主な法改正(13件)

1)安全衛生関連の一部の手続きは、電子申請が義務になります!(1月1日)

安全衛生関連の一部の手続きについて、「電子政府の総合窓口(e-Gov)」によるオンラインでの提出(電子申請)が義務化されます。労働災害による死亡や休業の際に提出する「労働者死傷病報告」、社員数が常時50人以上の会社の「定期健康診断結果報告」などがそうです。義務化されていない手続きでも電子申請が可能なものもあります。チェックしてみましょう。

■厚生労働省「労働局・労働基準監督署への申請・届出はオンラインをご活用ください」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/denshishinsei.html

2)マイナンバーカードに運転免許証が一体化できるようになります!(3月24日)

希望者はマイナンバーカードのICチップに、運転免許証の情報を記録できるようになります。これを利用することで、住所や氏名の変更手続きが市区町村役場で完結できます。また、免許証の区分によっては、マイナポータルと連携させれば、免許証更新時の運転者講習をオンラインで受講できるようになり、その分更新料が安くなるなどのメリットもあります。

■警視庁「マイナンバーカードと運転免許証の一体化について」■
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/menkyo/oshirase/individual_number.html

3)育児・介護支援が強化! 対象者の拡大や制度の周知義務など(4月1日、10月1日)

育児関連では、子の看護休暇(改正後は「子の看護等休暇」)について、対象者が「小学校就学前の子を育てる社員」から「小学3年生修了までの子を育てる社員」に拡大され、子の看護以外に入園(入学)式などでも取得可能になるなどの改正があります。介護関連では、仕事と介護の両立支援制度について、会社から社員への個別の周知や意向確認が義務付けられるなどの改正があります。一部、10月1日に施行される改正内容もあります。

■厚生労働省「育児・介護休業法について」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html

4)高年齢雇用継続給付の最大給付率が引き下げられます(4月1日)

高年齢雇用継続給付とは、賃金が「60歳時点の75%未満」に低下した状態で働く場合に支給される雇用保険給付です。雇用保険の被保険者であった期間が5年以上ある、60歳以上65歳未満の社員が対象ですが、この給付の最大給付率が「15%→10%」に引き下げられます(1965年4月1日以前生まれの人は原則15%のまま)。高齢社員の賃金の見直しが必要かもしれません。

■厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000160564_00043.html

5)障害者雇用促進へ! 「除外率」が引き下げられます(4月1日)

社員数が常時40人以上の会社は、「社員数×2.5%(障害者雇用率)」を掛けた人数以上の障害者を雇用する義務があります。障害者の雇用が難しいとされる一部の業種(建設業、運送業など)については、社員数を計算する際、一定の「除外率」に相当する人数を社員数から除外できる制度があるのですが、その設定率が一律10ポイント引き下げられます。障害者がより多くの業種で働けるようにするための改正です。

■厚生労働省「事業主の方へ」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page10.html
■厚生労働省「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」■
https://www.mhlw.go.jp/content/001064502.pdf

6)SNS上の誹謗中傷などの削除申請手続きが迅速化されます!(4月1日)

近年、大きな問題になっているインターネット上での誹謗中傷について、SNSの運営事業者に対し、被害を受けた人への「対応の迅速化」と「運営状況の透明化」が義務付けられます。誹謗中傷などがあった場合に投稿の削除の申し出を受け付ける窓口を整備するほか、削除の申し出があった場合に速やかに調査し7日以内に判断して被害者に通知することを求めています。

■総務省「インターネット上の違法・有害情報に対する対応(情報流通プラットフォーム対処法)」■
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/ihoyugai.html

7)車検は有効期間満了日の2カ月前から受けられるようになります!(4月1日)

自動車の継続審査(車検)が、車検証の有効期間満了日の「2カ月前」から受けられるようになります。改正前、車検を受けられるのは車検証の有効期間満了日の「1カ月前」からで、年度末の3月に整備作業や車検の予約が集中しがちでした。今回の改正で一定の解消が見込まれます。

■国土交通省「来年4月より、車検を受けられる期間が延びます」■
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha02_hh_000645.html

8)新たに着工する建築物について、省エネ基準への適合が義務になります!(4月1日)

2025年4月以降に着工する全ての建築物に「省エネ基準」への適合が義務付けられます(改正前は中・大規模(300平方メートル以上)の非住宅の新築、増改築だけが対象)。改正に伴い、行政庁などによる「省エネ適合性判定」と建築主事などによる「確認審査」を受ける手続きが追加されます。手続きの不備で着工などに遅れが生じないよう、注意が必要です。

■国土交通省「令和4年度改正建築物省エネ法の概要」■
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/shouenehou_r4.html
■国土交通省「【建築物省エネ法第10条】省エネ基準適合義務の対象拡大について」■
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/01.html

9)違法伐採防止に向けて、木材等の合法性確認が義務になります!(4月1日)

木材等の原木市場、製材工場等、輸入事業者に対して、「合法性確認(法令に適合して伐採された木材等か否かを確認すること)」が義務付けられます。素材生産販売事業者(立木の伐採、販売等)や木材の輸出事業者には求めに応じて伐採届等による情報提供が義務付けられ、他の木材関連事業者(家具工場、製紙工場、建築業者等)や小売事業者にも合法性確認が取れた木材の利用に努めることがこれまで以上に求められます。

■林野庁「クリーンウッド法の制度について」■
https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/goho/summary/summary.html#kaisei
■林野庁「クリーンウッド法に関する情報提供『クリーンウッド・ナビ』」■
https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/goho/

10)物流業界で荷主・物流事業者に対する規制などが強化されます!(4月1日から順次)

いわゆる2024年問題への対策として、「荷主・物流事業者に対する規制」「トラック事業者の取引に対する規制」「軽トラック事業者に対する規制」が設けられます(一部は努力義務)。2025年4月から順次施行されており、4月からは荷主から運送を委託された元請事業者に対し、「実運送体制管理簿」の作成が義務付けられるなどしています。

■国土交通省「物流効率化法について(物流改正法)」■
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/seisakutokatsu_freight_mn1_000029.html

11)産業廃棄物処理分野で再資源化の報告制度が創設されます!(11月28日までに)

特に処分量が多い産業廃棄物処分業者に対し、産業廃棄物の種類・処分方法ごとに、処分数量・再資源化した数量を環境大臣に報告することが義務けられます。この取り組みが不十分であると判断された場合、国は勧告・措置命令を出せるようになります。また、資源循環のための事業計画を提出し、環境大臣の認定を受けることで、廃棄物処理法上の許可を受けなくても、廃棄物処理施設を設置できるようになるなどの特例が設けられています。

■環境省「資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律案の閣議決定について」■
https://www.env.go.jp/press/press_02916.html

12)建設業の安すぎる見積もりや短すぎる工期が禁止されます!(12月13日までに)

建設業の2024年問題などを受け、材料費などを著しく下回る見積もりや短すぎる工期設定に対する規制が強化されます。材料費の見積もりについては、受注者が安すぎる見積もりを作成することに加え、注文者側が通常必要と認められる以上の変更を要求することが禁止されます。工期設定については、今回の改正で受注者となる建設業者が著しく短い工期の請負契約を締結することなどが新たに禁止の対象になりました。

■国土交通省「建設業の担い手確保を推進するため、改正建設業法の一部を施行します」■
https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo13_hh_000001_00250.html

13)危険な海外製品や子供用製品の規制が強化されます!(12月25日までに)

消費者が海外事業者から直接購入する機会が増えたことを受けて、製品の安全性に関わる規制が強化されます。内容は「海外事業者に対し、国内管理人の専任を求める」「ネットモール事業者に対し、国は違反品の出品削除要請とその公表ができるようになる」「届出事業者の公表」「法令等違反行為者の公表」です。また、危険な子供用製品に関する規制も盛り込まれています。

■経済産業省「消費生活用製品安全法の一部改正について」■
https://www.meti.go.jp/policy/consumer/seian/shouan/shouan_ichibu_kaisei.html

以上(2025年4月更新)

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2025年4月から新法施行! ネットで誹謗中傷されたらどうする?

1 誹謗中傷や虚偽の書き込みには冷静かつ毅然とした対応を

SNSや口コミサイトを通じた誹謗中傷や虚偽の書き込み(以下「誹謗中傷等」)が、深刻な社会問題となっています。もし、御社が誹謗中傷等のターゲットになってしまったら、どうしますか?

誹謗中傷等は、いつ、何をきっかけに書き込まれ、拡散されるか分かりませんし、風評被害も不安ですから、放っておくわけにはいきません。かといって、怒りに任せて感情的な対応をしてしまうと、逆に会社のほうが「炎上」してしまう恐れがあります。

誹謗中傷等には冷静かつ毅然とした対応を取りましょう。そのために重要なのは、

  • 事実関係の確認と情報開示
  • 書き込みの削除請求と法的措置の検討

のポイントを押さえることです。幸い、誹謗中傷等への迅速な対応などを目的として、

2025年4月1日から「情報流通プラットフォーム対処法」(旧:プロバイダ責任制限法)が施行

されましたので、対策を進めたい会社にとっては追い風となります。

この記事では、法改正の内容を押さえた上で、誹謗中傷等への対応のポイントなどを紹介します。

2 2025年4月施行の「情報流通プラットフォーム対処法」とは?

以前は「プロバイダ責任制限法」により、インターネット接続サービスを提供する事業者(アクセスプロバイダ)や、SNSや口コミサイトなどのプラットフォームを提供する事業者(コンテンツプロバイダ)の責任等について、次の内容が定められていました。

【損害賠償責任の制限】

SNSやサイト上で誰かの権利が侵害された場合、関係するプロバイダ等は一定の範囲内で、被害者に対する損害賠償責任を負わない

【発信者情報の開示請求等】

SNSやサイト上で権利を侵害された場合、その被害者は関係するプロバイダ等に、発信者(投稿者)の特定につながる情報の開示を請求できる

【発信者情報開示命令事件に関する裁判手続き】

発信者の特定につながる情報の開示を請求する際は、裁判手続きにより行う(2022年10月以降、それまで複数回の手続きが必要だったのが、一体的に行えるようになった)

ただ、プロバイダ責任制限法には「情報の削除を求める権利」についての定めがないため、この問題を解消すべく、2025年4月1日から「情報流通プラットフォーム対処法」と名称を改めた新法が施行されました。そして、総務大臣の指定を受けた「大規模プラットフォーム事業者」というプロバイダ等に対し、次の措置が義務付けられることとなりました。

【対応の迅速化】

情報の削除を求めるための「削除申出窓口」と、窓口からの削除申出の手続きを整備・公表する。削除申出に対応するための体制を整備し、申出に対する判断・通知を行う

【運用状況の透明化】

情報を削除する際の「削除基準」を策定・公表する。情報を削除した場合、発信者への通知を行う

この改正により、例えば次のような問題を解消することが期待されています。

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今後、必要な政省令が定められ、ガイドラインの見直しなどが行われます。情報流通プラットフォーム対処法ガイドライン等検討協議会(旧:プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会)のウェブサイト内で公表される予定です。

■情報流通プラットフォーム対処法ガイドライン等検討協議会■
https://www.isplaw.jp/

法改正の内容を踏まえた上で、誹謗中傷等への対応のポイントを見ていきます。

3 誹謗中傷等への対応のポイント

1)事実関係の確認と情報開示

誹謗中傷等を認識したとき、まずは事実関係を正確に把握することが大切です。書かれている内容に対して「根拠のないデマだ!」と頭から否定してかかって、後から事実だったことが判明すると、そのときに受けるダメージは、より深刻なものになります。

まずは、実際に誹謗中傷等の内容が掲載されているページを確認し、SNSや口コミサイトの名称、URL、発信者、書き込み日時、内容等を記録します(裁判等で証拠として必要になります)。その上で、書き込まれた内容が事実なのか、どうかを確認します。

そして、できるだけ速やかに自社のウェブサイトを通じて情報開示することが望ましいと考えられます。まだ真偽不明の状況であれば「事実関係を調査中」ということを掲載し、調査結果が判明次第、あらためて情報を開示します。なお、

SNSや口コミサイト上で直接反論はしないほうが無難

です。一部が切り取られるなどして曲解されたり、誤った情報がさらに拡散されたりする恐れがあるからです。

2)書き込みの削除請求と法的措置の検討

情報流通プラットフォーム対処法にのっとると、前述した通り、大規模プラットフォーム事業者(プロバイダ等)の削除申出窓口から、書き込みの削除を請求することになりますが、後々の法的措置のことも検討するとなると、

書き込みの削除請求を行うに当たっては、まず弁護士に相談

するのがよいでしょう。

また、総務省委託事業として、「違法・有害情報相談センター」も相談窓口を開設しています。誹謗中傷等について、削除するにはどうすれば良いのか、書き込んだ相手を特定するにはどうしたらよいのかなど、同センターのウェブサイトを通じて利用登録をすると、無料で相談できるようになります(ウェブフォームからの相談のみ受け付けています)。

■違法・有害情報相談センター■
https://ihaho.jp/

4 誹謗中傷等が後を絶たない背景

令和5年版情報通信白書において「インターネット上での偽・誤情報の拡散等」の背景として指摘されているのが、「アテンション・エコノミー」「フィルターバブル」「エコーチェンバー」です。それぞれ押さえておきたい用語です。簡単に見ていきましょう。

1)アテンション・エコノミー

インターネット上には膨大な情報が流通していますが、興味や関心、注目をひくような情報によって、クリックを促し、より多くの広告を見たり、サービスを使ってもらおうとしたりする仕組み(経済モデル)を「アテンション・エコノミー」といいます。

閲覧者数、クリック数を増やすことが経済的価値を持つようになっている中、過激なタイトルや内容、憶測だけで作成された事実に基づかない記事が次々と生み出されています。

2)フィルターバブル

インターネットで目にする情報は、その人の思考に合わせて表示されるようになっています。アルゴリズムによって検索履歴やクリック履歴が分析、学習され、見たい情報が優先的に表示されるからです。このように自身の考え方や価値観の「バブル(泡)」の中に孤立するという情報環境を「フィルターバブル」といいます。

自身が見たい(とされる)情報しか見えなくなり、そうなっていることすら意識しない状態になってしまっているかもしれません。

3)エコーチェンバー

SNSでは、自身と似たような興味・関心を持つ人をフォローする結果、自身の考えと同調する記事や意見ばかり目にすることになります。こうした状況を、閉じた小部屋で音が反響する物理現象にたとえて「エコーチェンバー」といいます。

何度も同じような意見を聞くことで、自身の考えは正しい、間違いないと、より強く信じ込んでしまいます。

5 参考:サジェスト汚染の対処法(Googleの場合)

「○○(自社の社名や商品・サービス名)」をキーワード検索(エゴサーチ)し、自社の評判やイメージを確認しているところも多いのではないでしょうか?

そうしたとき、サジェストとしてネガティブなキーワードが表示されることがあります。こうした現象は「サジェスト汚染」と呼ばれます。

検索エンジンの仕組み上、仕方のないこととはいえ、悪意のある事実無根のネガティブワードをそのままにしておくのは気分の悪いものです。

Googleの場合、検索窓にキーワードを入れると表示されるサジェスト一覧の右下に小さく「不適切な検索候補の報告」があり、そこから簡易に削除申請をすることができます。

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また、GoogleのLegalヘルプのフォームを経由して削除申請をすることもできますが、こちらの方法は入力項目も多く、削除申請の根拠を提示するなど、やや専門的な対応が必要です。

■Google「Legalヘルプ 法的削除に関連する問題を報告する」■
https://support.google.com/legal/contact/lr_legalother?product=searchfeature

※画面最下部で表示言語を日本語に変更できます

以上(2025年4月作成)
(監修 弁護士 坂東利国)

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どこで差が付く? 「報連相」が得意な人、苦手な人

1 相手が求める情報を「報連相」する

報連相(ほうれんそう)は「報告・連絡・相談」の頭の漢字を取った造語です。業務をスムーズに進めるために、社会人の基本として必ず身に付けるべきことです。

部下が適切な報連相をしていれば、上司は状況を正しく理解し、適宜、指示を出すことができます。たとえ問題やトラブルが発生しそうになったときでも、事態が悪化する前に、上司がフォローをすることでトラブルを未然に防ぐことができるでしょう。顧客や取引先との関係を良好に保つことへもつながります。

では、適切な報連相の条件とは何でしょうか? それは、以下の3つの条件を満たすものです。

  1. 業務が「望ましい状況か」「悪い状況か」、またその内容が具体的に伝わる
  2. 目的や意図が、相手に伝わる
  3. 相手がそれに基づいて判断し行動できる

適切な報連相をするには、

相手が知りたいことを過不足なく手短に伝え、相手の判断材料となるよう工夫すること

が必要です。

2 報連相が苦手な人と上手な人は何が違う?

1)あるメーカーで起きたトラブルの報連相。2つの事例

あるメーカーの営業課の社員が、取引先のX社から商品Yを受注しました。しかし、納品前日になって、自社の工場から「生産ラインのトラブルで、納品が納期より2日遅れる」と連絡が入りました。社員は、工場にどうにかできないか掛け合ったものの、工場は「申し訳ありません。どうしても2日遅れてしまいます」の一点張りでらちが明きません。社員は状況を営業課長に報告し、指示を仰ごうとしました。

ここで、営業課長(以下「課長」)へ報告した社員、2人の報連相の事例を挙げます。あなたが課長だったら、どちらの報告をしてほしいですか? 両者を比べてみてください。

1.Aさんの報連相事例

「課長、X社に納品予定の商品Yですが、ラインのトラブルがあった関係で、納品が2日遅れになってしまうと工場が言ってきています。どうにかできないか掛け合ったのですが、工場の担当者は、『申し訳ない』の一点張りでらちが明かず、しかもX社の納期は明日なのですが……」

2.Bさんの報連相事例

「課長、私が担当しているX社に明日納品予定の商品Yについて、トラブルが発生しており、報告とご相談です。先ほど工場から商品Yの納品が2日遅れると連絡がありました。生産ラインでのトラブルが原因とのことです。

商品Yは、X社に10ロット、明日の17時までに納品する予定です。他の取引先にも商品Yの納品予定がないか、各担当者へ確認しており、あと1時間後には全員に確認できる見込みです。

現在、商品Yの在庫は、○○支社に25ロット、××支社に15ロットあります。こちらに回してもらえるか確認します。

工場からは、このトラブルは、他の商品には影響ないとの報告を受けています。まだ対応が決まっていないため、X社にこの件は伝えていません」

 

さて、いかがでしょうか?

Bさんの報連相を聞いた課長は「分かった。各担当者に確認ができ次第、もう一度報告してほしい。○○支社と××支社には、私から連絡する。その結果次第では、X社に私から連絡する」と指示することができます。

一方、Aさんの報連相を聞いた課長は「X社には何ロット納品予定なのか?」「君の担当以外も含めて、X社以外で商品Yの納品予定はないのか?」「他の支社に、こちらに回せる在庫はないのか?」「X社の担当者には連絡しているのか?」と、トラブル解決に必要な質問をすることになります。しかし、Aさんはそれらを確認せずに、課長へ慌てて報告しに行ってしまっていたため、しどろもどろになってしまいました。

2)AさんとBさん、2人の報連相は何が違うのか?

2人とも、取引先に迷惑を掛けたくない気持ちは同じです。そのために、状況を課長に報告して、指示を仰ぐことが報連相の目的です。

しかし、2人の報連相には、次のような違いがあります。

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課長にとって、Aさんの報告は、次の行動を決める上でほとんど役に立ちませんでした。一方、Bさんの報告は、次の行動を絞り込むことができる適切なものでした。

その差を生んだのは、報連相を行ったAさんとBさんの視野や思考、行動の違いです。

1.(視野)目先のトラブルだけにとらわれず、広い視野で見る

Aさんは、自分の担当であるX社のことだけで頭がいっぱいです。また、事態を打開するためのアイデアもありません。

Bさんは、X社だけでなく他の取引先や商品にも視野が行き届いています。目先のトラブルを解決することが第一ですが、連鎖してトラブルが起きないようにすることも大切です。Bさんは、この点についても考えることができていました。

2.(思考、行動)相手の立場になって、他に何を知りたいか仮説を立てて対応する

Aさんは、工場から連絡を受けたときに「とにかく課長に報告しなければ!」と、自分の考えを持たないまま、課長に指示を求めに行っています。

Bさんは「課長はきっとX社以外の取引先への影響も気になるはずだ。それに、工場からの納品は間に合わないとしても、他の支社に在庫があれば、それを手配できないかと考えるはずだ」と仮説を立てて、他の担当者への確認、支社への在庫の問い合わせを行いました。

3 適切な報連相をするために必要なこと

相手にとって、必要な情報を伝えるためには、このように

  • 目先のことにとらわれず、トラブルの及ぼす影響へ、視野を広げること
  • 相手の立場になって、仮説を立てて考えること

が大切です。

普段から、自分が責任者だという意識を持って仕事に取り組むことで、「上司の立場だとしたら、その情報がないと判断に困る」、もしくは「その情報があれば、判断がしやすい」という情報がイメージできるようになります。

その上で、自分が上司に必要だろうとイメージした情報と、実際に報連相をして上司が必要としていた情報の差を埋めていくことが、適切な報連相をするための1つの方法です。

4 適切な報連相のために押さえたい3つのポイント

1)要点を整理し、結論第一で具体的に伝える

報連相をする前に、必ず自分が持っている情報を整理しましょう。重要な情報の抜け漏れを防ぎ、支離滅裂な報連相を避けることができます。

まずは、結論を第一に伝えることが原則です。その後に結論に至った理由や背景、今後の展望などを伝えましょう。新聞記事がそのような構成で書かれていますので、参考にするとよいでしょう。

また、抽象的な表現は使わないようにしましょう。「とても」「少し」「かなり」といった副詞ではなく、数字で説明できる情報は「1万個」というように伝えます。数字は「いつ(納期)」「いくつ(ロット)」「いくら(価格)」といったように、判断に直結するものが多いので注意して伝えましょう。

特に、期限に関しては「今日中」「朝イチ」「お昼頃」など、人によって解釈の分かれる表現を使わず、はっきりと「○日の○時」と明言しましょう。「いくつ」や「いくら」といったビジネスにおいて大事な情報を「1万個くらい」「10万円ほど」のように曖昧に表すのも御法度です。

2)良い報告か悪い報告か、事実と意見・推測を区別し、上司に伝えることを明確に

ビジネスでは、商談が成立したという良い報告もあれば、トラブルが起きたという悪い報告もあるでしょう。「Z社との商談で、当社にとって避けたい状況に陥っており、ご相談です」といったように、良い報告か悪い報告かを示した上で話し始めるとよいでしょう。

特に、ミスやトラブルなど悪い情報について報連相をしなければならないときは気がめいるでしょう。しかし、放っておいては事態が悪化するため、悪い情報こそ早く伝えることが肝要です。自分だけで悩んだり、勝手な判断をしたりすれば、取り返しのつかないことにもなりかねません。

また、話の中で、事実と意見・推測が混在していると、上司は「部下の意見」を「事実」と捉えてしまいかねません。もし、事実に対する意見や推測を加えたい場合は「これは私見ですが」と断ることで、事実と意見・推測が区別できます。

3)伝えるタイミングと方法を、相手に合わせて考慮する

忙しい上司へ報連相を行うに当たっては、タイミングや方法にも配慮が必要です。

口頭で伝える場合には、情報の緊急性・重要性を考えながら、タイミングを見計らって「○○について報告があります。お時間を頂戴してもよろしいですか?」と、相手の都合を確認しましょう。報連相は原則、相手の時間を割いて行うものです。

急を要する報告でなければ、メールやチャットツールなど、上司が都合の良いときに確認できる方法で伝えるのも配慮の1つです。

テレワークを導入している会社だと、面と向かって口頭で伝える機会が減っている所もあるかもしれません。しかし、情報の緊急性・重要性に応じて、メールやチャットツールなどの文面と口頭、どちらが良いのか使い分けをしましょう。口頭での伝達であっても、要点をまとめた文書を添えることで、情報の抜け漏れや、解釈の行き違いを防ぐことができます。

以上(2025年4月更新)

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知らないと恥ずかしいレベルの「労働時間」

1 自由な労働時間制度は会社の魅力

9時に出社して18時に退社する。変わりつつあるものの、未だにこれが労働時間の基本です。ところで、法定労働時間、所定労働時間、時間外労働など、労働時間にはさまざま取り決めがありますが、皆さんはどれだけ基本を押さえていますか?

この記事では、労務管理をする上で、人事担当者でなくてもこれくらいは知っておきたいというレベルで、労働基準法(以下「労基法」)で定められている労働時間の基本を、分かりやすく説明します。

2 法定労働時間:法律で定める労働時間の基本

法定労働時間とは、

労基法で定められている労働時間の上限で、原則として1日8時間、1週40時間(休憩時間を除く)

です。ただし、特例措置対象事業場(社員が常時10人未満の商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業)は、1日8時間、1週44時間(休憩時間を除く)です。

なお、休憩時間は、

1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は60分以上

です。

3 所定労働時間:会社が決める労働時間

所定労働時間とは、

法定労働時間の範囲内で、会社が就業規則等で定める労働時間

です。例えば、所定労働時間が1日7時間なら問題ないですが、1日10時間だと違法です。つまり、

原則として、会社は法定労働時間を超えて社員を働かせることができない

ということです。

ただし、通称「36協定(さぶろく協定)」と呼ばれる労使協定を締結して所轄労働基準監督署に届け出ると、この後に紹介する時間外労働や休日労働を、社員に命じることができます。なお、労使協定とは、

過半数労働組合(社員の過半数で組織する労働組合)、過半数労働組合がない場合は過半数代表者(社員の過半数を代表する者)との書面による協定

です。

4 時間外労働:いわゆる「残業」

時間外労働とは、

いわゆる「残業」ですが、より正確には法定労働時間を超える労働

です。例えば、9時始業で18時終業(休憩時間が1時間)の会社で、社員が9時から21時まで働いた場合、時間外労働は3時間(11時間-8時間)です。

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また、法定労働時間は1週40時間ですから、通常、出勤は週5日になります。つまり、

8時間×5日=40時間

ということですから、社員が土曜日に出勤して8時間働くと、それは時間外労働となります。

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会社は、時間外労働に対して割増賃金を支払わないといけません。また、1カ月当たりの割増率は時間外労働の長さによって次のように変わります。

  • 60時間以下:25%以上の割増
  • 60時間超:50%以上の割増

5 休日労働:土曜日と日曜日で違う?

休日労働とは、

法定休日(就業規則等で定める、毎週1日または4週間を通じ4日以上の休日)の労働

のことです。例えば、日曜日を法定休日とした場合、日曜日の労働は労働時間に関係なく全て休日労働になります。

会社は、休日労働に対して割増賃金を支払わないといけません。

  • 休日労働:35%以上の割増

なお、法定外休日(法定休日以外の休日)に働いても、休日労働にはなりません。例えば、土曜日と日曜日が休日の会社が、日曜日を法定休日とした場合、土曜日は法定外休日です。法定外休日の労働は、第4章で紹介した通り、法定労働時間を超える部分が時間外労働になります。その場合、会社は法定外休日の労働に対して割増賃金を支払わないといけません。

  • 法定外休日の労働(時間外労働になる場合):25%以上の割増

6 深夜労働:深夜というわりに早い?

深夜労働とは、

原則として22時から翌日5時までの労働

です。

会社は、深夜労働に対して割増賃金を支払わないといけません。

  • 深夜労働:25%以上の割増

7 割増率:要素のコンボで高くなる

時間外労働、休日労働、深夜労働の賃金は割増されますが、これは足し算されます。

  • 時間外労働が深夜に及んだ場合:50%(25%+25%)
  • 時間外労働が深夜に及び、1カ月60時間を超えた場合:75%(50%+25%)
  • 休日労働が深夜に及んだ場合:60%(35%+25%)

なお、「休日労働の時間外労働」という概念はありません。

8 時間外労働の上限規制

社員に時間外労働を命じる場合、会社は第3章で紹介した36協定に具体的な時間数を定めます。36協定の時間数の範囲内までなら、時間外労働を命じても違法にはなりません。ただし、

36協定に定められる時間数には上限があり、これを超える時間外労働は違法

になります。このルールを「時間外労働の上限規制」といいます。

時間外労働の上限規制は、2019年4月1日から(中小企業は2020年4月1日)から適用が開始され、さらに2024年4月1日から、適用が猶予されていた4つの業種・業務が対象に加わりました。どの業種・業務も、時間外労働は原則として「1カ月45時間まで、1年360時間まで」とされていますが、臨時的な特別な事情があり、かつ労使の合意がある場合については、それぞれ上限のルールが異なります。

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2024年4月1日からは、ほぼ全ての業種・業務が時間外労働の上限規制の適用を受けることになりましたが、唯一「新技術・新商品等の研究開発業務」は、適用除外とされています。

9 時差出勤:最も手軽な働き方改革

ここまで労働時間の基本をお話ししてきましたが、近年は柔軟な働き方を実現しようと、労働時間のルールを工夫している会社が増えてきています。ここでは、比較的少ない手間で取り組める「時差出勤」を紹介します。

時差出勤とは、

所定労働時間を変更せず、始業・終業時刻を変更する制度

です。9時始業で18時終業の会社が時差出勤を導入すると、例えば、10時始業で19時終業にすることができます。

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時間外労働などについて時差出勤特有のルールはないので、この記事の内容を守っていれば問題ありません。必要な手続きは、就業規則の変更と届け出です。具体的には次の通りです。

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以上(2025年4月更新)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

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画像:Dhammarat Nunart-shutterstock

印刷して新入社員に配れる〜入社1年目の教科書のPDF版

「入社1年目の教科書」シリーズは、新入社員の皆さんに今のうちから身に付けてほしい社会人の基礎を分かりやすくまとめたものです。服装・挨拶のマナーや電話の出方など初歩的な内容から、契約のルールなど少し専門的な内容まで、幅広く紹介しています。

今回は、4月に入社した新入社員の研修などで、「入社1年目の教科書」シリーズを印刷してご利用いただける、PDFファイルをご用意しました。

各シリーズの画像をクリックすると、コンテンツのPDFファイルをダウンロードできますので、この機会にぜひご活用ください!

1 社会人の常識・マナー編


まずはここをおさえよう! 会社の一員としてはたらくための基礎知識、あいさつ、服装など、新社会人になったらまずは目を通しておきたいリポート3本を収録しています。

2 電話・メールの作法編


社会人になったら避けては通れない! けれど苦手意識を持つ人が多い、電話やメールなどの作法を解説したリポート3本を収録しています。

3 会議・訪問の準備編


会議や取引先への訪問は緊張しますが、事前準備をしっかりしておけば大丈夫! 基本的なルールやマナー、「上座」問題や議事録の取り方についてのリポート3本を収録しています。

4 お金との付き合い方編


社会人なら知っておきたい「お金」との向き合い方。給与明細や源泉徴収票の見かたから資産形成の基本などのリポート4本を収録しています。

5 財務3表マスター編


会社が年度末に作成する決算報告書の中でも、特に重要視される「財務3表」。基本的な読みかたや記載のルールなどを分かりやすく解説したリポート3本を収録しています。

6 文書・データの取り扱い編


社会人として仕事をするうえで、誠実さが何よりも現れるのはビジネス文書や情報・データの取り扱い。基本のルールをおさえて解説したリポート3本を収録しています。

7 取引先への対応編


失敗したくない取引先への対応。契約書の内容から営業・取引のいろはまで、取引先に対応する上でおさえておきたいルールを解説したリポート3本を収録しています。

8 働き方と健康編


何と言っても「体が資本」。働き方の基本をまとめた服務規律から残業のルール、有給休暇、健康診断など、働きかたについてのリポート4本を収録しています。

【かんたん法人税(1)】会計と税務の違いを理解しよう

1 経営者にとって最も身近な「法人税」

法人税は中期経営計画と関係性が深く、いわゆる「決算対策」の対象にもります。そこで、このシリーズで、経営者が押さえておきたい法人税のポイントをまとめていきます。

シリーズ第1回では、法人税の課税対象や計算に関する全体像などをご説明します。経営者が特に押さえておきたいのは、

  • 会計:収益-費用=利益
  • 税務:益金-損金=所得

の違いです。決算対策で自社に有利な取り組みをするのも、税務調査で指摘を受けるのも、基本的にはこの違いから生じますので、しっかりと確認していきましょう。

2 法人税の概要

1)納税義務者は法人

法人税の納税義務者(税金を納める義務がある者)は「法人」です。法人には株式会社や合同会社の他、一般社団法人や医療法人など多くの形態があります。

法人税法上では、これらの法人を、

  • 内国法人:国内に本店または主たる事務所等を有する法人
  • 外国法人:内国法人以外の法人

の2つに区分しています。一般的な法人の多くは「内国法人」の、「1.普通法人」に該当します。

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2)課税対象は所得

法人税の課税対象は、

事業活動を通じて得た「所得の金額」

です。「所得」は会計上の「利益」に近い概念ですが、会社法と法人税法という法律の違いにより、

  • 会計上は収益となるが、法人税法上は収益とならないもの
  • 会計上は費用となるが、法人税法上は費用とならないもの

などが存在するため、必ずしも「利益=所得」とはなりません。この点の詳細は後述します。

3)税率は原則として23.2%

法人税の税率は、

原則として23.2%

です。ただし、中小法人の場合、

所得が年800万円以下の部分は15.0%(適用除外事業者については19.0%)に軽減

されます。例えば、所得が1000万円の中小法人の場合、800万円までは15.0%(適用除外事業者は19%)が適用され、800万円を超える部分(1000万円-800万円=200万円)には23.2%が適用されます。

なお、適用除外事業者とは、前3事業年度の平均所得金額が15億円超の中小企業者のことです。また、2025年4月1日以後に開始する事業年度からは、所得金額が年10億円超の中小法人については、所得のうち800万円以下の部分に適用される軽減税率が、17.0%となります。

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4)申告期限

1.確定申告

法人税は、

原則として、事業年度終了の日の翌日から2カ月以内に確定申告をして法人税を納付

します。ただし、災害その他やむを得ない事情がある場合などは上記申告期限を延長することも可能です。

2.中間申告

事業年度が6カ月を超える法人は、事業年度開始の日以後6カ月を経過した日から2カ月以内に中間申告書を提出して中間法人税を納付します。一般的な1年決算法人の場合、前事業年度の法人税の12分の6相当額を中間法人税として納付するのが基本です。

3 「利益」と「所得」の違いと税務調整

1)「利益」と「所得」の違い

会計上の利益は「収益-費用=利益」として計算されますが、法人税法上の所得は「益金-損金=所得」として計算されます。益金は収益、損金は費用に近い概念ですが、会社法と法人税法という法律の違いにより、

会計上は収益(費用)となるが、法人税法上は益金(損金)とならないものがあるなど、両者は必ずしも一致しない

ことになります。

益金の場合、会計上の収益に「会計上は収益とならない(していない)が、法人税法上は益金となるもの」を加算し、「会計上は収益となるが、法人税法上は益金とならないもの」を減算することによって、法人税法上の益金が計算されることになり、損金についても同様です。この加減算調整のことを「税務調整」といいます。これを図解すると次の通りとなります。

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2)税務調整の種類

税務調整項目として代表的なものは次の通りです。

1.益金算入項目:会計上は収益ではない、税務上は益金

2.益金不算入項目:会計上は収益、税務上は益金ではない

3.損金算入項目:会計上は費用ではない、税務上は損金

4.損金不算入項目:会計上は費用、税務上は損金とならない

4 法人税の具体的な計算過程と実務

1)所得金額の算定

収益と益金、費用と損金に違いがあるため、利益と所得は必ずしも一致しません。そこで税務調整が必要となりますが、実際の確定申告書を作成する上では、益金と損金について別々に税務調整を行うのではなく、「会計上の利益をスタート」として、この会計上の利益に直接所定の税務調整を行うことによって所得金額を算出します。

図表4において会計上のP/Lと税務上のP/Lの違いをイメージした上で、実際の確定申告書を作成すると図表5のようになります。

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2)法人税額(特別控除等考慮前)の計算

法人税額(特別控除等考慮前)は、上で計算した税務上の所得金額(課税所得金額)に法人税率を乗じて求めます。

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3)法人税額(特別控除等考慮後)の計算

法人税法においては、従業員の賃上げを行ったり、試験研究費の支出をしている法人に対しては、計算した法人税を減額する制度(税額控除制度)などがあったりします。また、法人税額の他、一定の同族会社に対して所定の追加税額を課する制度(特別税額制度)などがあります。

従って、上記2)で計算した法人税額に、税額控除制度や特別税額制度によって計算した金額を加減算して1事業年度の法人税の総額を求めます。

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4)納付すべき法人税額の計算

上記3)で計算した法人税額は1事業年度の法人税の総額ですので、最後にその事業年度中に納付した中間納付額を控除することで「確定申告により納付すべき法人税額」が計算されます。

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5)実務上の留意点

法人税の課税対象となる所得の金額は「会計上の利益」をスタートにして所定の税務調整を加減算して計算されます。従って、まずは期中における会計処理を正確に行い、正しい「会計上の利益」を計算することが大前提となります。

また、税務調整を行う上で必要な資料の保存には注意しましょう。「税金計算用ファイル」をあらかじめ用意しておくなど、税金計算作業にスムーズに入れるように普段から準備しておくことが重要です。確定申告時期に慌てて収集しようとしても資料が見つからなかったり、あるいは収集漏れが見つかったりすることがあります。その場合、本来は受けられる税額控除などが受けられない可能性もあります。

なお、この記事で紹介した税務調整項目はほんの一部であり、実務上は多岐にわたります。不明点などがある場合には、税理士と綿密にコミュニケーションを取って作業を進めることなども非常に有用です。

以上(2025年4月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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