1 社長と幹部社員は異なる世界線にいる
【幹部社員】の活躍なくして企業の成長はあり得ません。そのため社長は、幹部社員と対話を通じてその成長を図ります。しかし、幹部社員と「企業の将来」など抽象度が高い話をしたときは特に「どうも噛み合わない」と、モヤモヤすることはありませんか?
残念ながら、社長の話は「社長の考えと同じレベル」で幹部社員に伝わっていないことが多いです。例えば、社長が「何としても会社を成長させたい!」と話せば、幹部社員も「いいですね!」と賛同します。一見、噛み合っていそうですが、それぞれの内心は、
- 社長:企業の未来や新規事業について自由に議論したい
- 幹部社員:企業の成長ってどれくらい? 今の業務で手一杯で新規事業は手が回らない
といったように違っています。この状態で会話を続ければ、社長が「あれ、伝わっていないかも?」とモヤモヤするのは当然です。社長と幹部社員は同じテーブルに座りつつも、異なる世界線にいるようなものですから。
2 中小企業の幹部社員とは何者か?
こうした違いが生じる背景には、幹部社員が歩んできたキャリアも関係しています。多くの場合、中小企業の幹部社員は、
自社の事業に精通し、人材を育成しながらその事業を拡大できる社員であり、役職としては「部長」以上(場合によっては上位の課長も含まれる)
です。勤続年数も長く、「企業内・既存事業の範囲内・部下に対して」という枠の中では十分に力を発揮できます。しかし、その枠を一歩でも飛び出すと、たちまち仕事のイメージができなくなってしまいます。枠から飛び出して修行しなかった幹部社員が悪い。そう言うのは簡単ですが、今いる場所の居心地がよく、変化を好まないのは人間の性です。それに、その状況を放置してきた社長にも責任があります。
ビジネスを取り巻く環境は、生成AIの登場や人材不足など、かつてないほど変化しています。ここを乗り越えていくには、やはり幹部社員の力が必要です。ですから社長は、改めて幹部社員の育成に力を注がなければならず、その際は
「幹部社員が社長の視座や考え方に近づける」ように対話をすること
が重要になってきます。
この記事では、社長が幹部社員を育成するために適した対話の「型」を紹介します。なお、「型」を使った社長の語りかけの例は次のコンテンツで紹介しています。
3 幹部社員の視座を高める対話の「型」
基本的な対話の進め方は次の通りです(相手、状況によって異なります)。
- 抽象的な「夢(あるべき姿)」を掲げ、具体化していく
- 解釈次第で景色が変わることを理解してもらう
- 自分や仲間を信じるマインドを持ってもらう
1)抽象的な「夢(あるべき姿)」を掲げ、具体化していく
まず幹部社員の思考をストレッチしましょう。
真面目な幹部社員ほど、自身が担当する業務に一生懸命です。有難いことですが、一方で視野が狭くなり、業務効率化といったレベルでしかビジネスを考えられなくなってしまいます。
こうした幹部社員の思考をストレッチするために、幹部社員が
担当業務から飛び出して、自由な発想でビジネスの「夢(あるべき姿)」を描ける
ように対話をします。ただ、いきなりの「Aさん(幹部社員)が描くビジネスの夢(あるべき姿)は何ですか?」を聞いても、幹部社員はポカンとして黙り込んでしまうか、「何か答えないとまずい」と考えて取り繕った発言をするかになってしまうので、意味がありません。
そこで、社長のほうが幹部社員の思考に寄り添って質問をしてみます。例えば、
- Aさん(幹部社員)が担当している業務は、どうなったら理想的?
- その理想が達成されたら、Aさんの部下やお客様には、どんな「いいこと」がある?
- その「いいこと」が達成できたら、Aさんはワクワクする(うれしい)?
- 今の業務に縛られず、Aさんが仕事上で「実はこうなったらいいな」と考えていることはある?
といったように質問をして、少しずつ抽象度を上げたり、それを具体的にしたりといったことを繰り返すのです。
2)解釈次第で景色が変わることを理解してもらう
「夢(あるべき姿)」を実現するには、幹部社員は居心地のよい現在地から一歩踏み出さなければなりません。その手助けとして、社長は幹部社員が重い一歩を踏み出せるよう、背中を押してあげましょう。
幹部社員の背中を押す際は、
「夢(あるべき姿)」が実現された世界の具体的なイメージを持ち、そこに向かう気持ちを高めてもらう
ことが大切です。例えば、
- 「夢(あるべき姿)」が実現された状況をイメージしてみて。そこには誰がいて、どんな話をしている? そこにいるAさんは楽しそう?
- 「夢(あるべき姿)」を実現したいという気持ちは、100点満点で何点くらい? 何ができたら100点に近づきそう?
といった質問をします。
居心地のよい現在地から一歩踏み出すには、「夢(あるべき姿)」が実現された世界のほうが現在地よりも魅力的であることを具体的にイメージできる必要があります。そのために「夢(あるべき姿)」が実現された世界について質問を重ね、具体的にしていくのです。
同時に、幹部社員が一歩踏み出すことができない理由(障壁)を明確にし、それを解決していきます。幹部社員にとっては難しい課題でも、社長ならその場で解決できること(人員の配置や予算など)も多いです。「できない理由はないのだから、やるより他はないでしょ!」と逃げ道を塞ぐのではなく、あくまでも、
一緒に課題を解決しながら進めていこう
という姿勢で対話をしましょう。
3)自分や仲間を信じるマインドを持ってもらう
最後に、幹部社員が
「自分なら(この会社なら)、夢(あるべき姿)を実現できる!」と自信を持ける
ようにします。社長が「Aさんならできる! 大丈夫!!」と声をかけることも大切ですが、こうした言葉は、一晩たつと「社長はあのように言ってくれたけれど、やはり自信がない」と萎んでしまいがちです。
重要なのは、具体的な行動が伴う形で幹部社員の自信を高めていくことです。そのために社長は、
- 「夢(あるべき姿)」を実現したいという確信度合いは、100点満点で何点?
- その点数を上げるために、最も効果的な取り組みは何だろう?
- その取り組みを、いつから始める?
といったように質問します。確信度合いは、無理に100点にする必要はなく、あくまでも今、最も効果的な取り組みを考え、行動するタイミングを決め、実際に行動することが大切です。こうして動き始めると、
「行動の積み重ね」が自信につながるだけではなく、ここまで自分は頑張ってきた。諦めてしまうのはもったいない
という感情が働き、取り組みが継続されやすくなります。
4 幹部社員と話すタイミングを図る
幹部社員と話すタイミングも重要です。社長は幹部社員にしっかりと考えてもらいたい場合、金曜日や大型連休(ゴールデンウィークや年末年始休暇など)の前に伝えることがあります。これは「休み中にしっかりと考えてください」という意図があってのことです。
確かに社長に近いマインドを持っている上位の幹部社員でならば、休み前に伝えるのが良いでしょう。こうした幹部社員は、日ごろなかなか時間が取れないので、休み中のまとまった時間で集中して考えようとします。
ただ、このような幹部社員は少ないものです。そうではない幹部社員に休み前に話をすると、
休みの日まで仕事のことを考えなければいけないのか……今どきっぽくないな
と不満を持ちます。であれば、休み明けで心身ともにリフレッシュしたタイミングのほうが社長のメッセージが届きやすく、前向きに捉えてもらいやすくなります。これは心理学でいう「気分一致効果」というもので、そのときの気分と一致した情報を受け入れやすいというものです。つまり、
リフレッシュして気分が前向きになっていれば、会社の将来や自身が置かれている環境についても前向きに捉えやすくなる
ということです。
以上(2026年5月作成)
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画像:日本情報マート













