【朝礼】20周年のAKB48! 成功のカギは「ファンが参加する物語」

【ポイント】

  • AKB48は「選抜総選挙」など、「ファンが物語に参加できる仕組み」で人気を博した
  • 「製品やサービスを買ってもらったら終わり!」では、お客さまとの関係はそこで終わる
  • 「お客さまを巻き込んで、長い時間をかけ、一緒に物語を創っていく」という意識が大切

皆さん、おはようございます。皆さんは、アイドルグループの「AKB48」をご存じですよね。彼女たちが活動を開始したのが2005年、2025年12月でなんと結成20周年を迎えます。1つのエンターテインメントが、これほど長く多くの人々を魅了し続けるのは、驚異的なことです。では、その秘密は何でしょうか? 歌が上手いから? ダンスが特別だから? もちろん、それらも要素の1つでしょう。ですが、本質はそこにはないと私は考えています。

AKB48が実施した最も画期的なことは、「ファンが物語に参加できる仕組み」をつくり上げたことです。彼女たちのコンセプトは「会いに行けるアイドル」でした。その象徴が「選抜総選挙」。ファンは、CDに付いている投票券で、自分の応援するメンバー、いわゆる「推し」に投票する。遠くから応援するだけでなく、自分の一票がメンバーの未来を左右する。その仕組みがファンを強く引きつけたのです。

この仕組みづくりには、私たちも大きく学ぶべきところがあります。私たちは、お客さまを単なる「消費者」として見ていないでしょうか? 「製品やサービスを買ってもらったら終わり!」では、お客さまとの関係はそこで終わりです。そうではなく、お客さまを巻き込んで物語を作っていくにはどうすればよいかを考えることが大切です。

何も選抜総選挙のようなイベントをやれ、というのではありません。日々のお客さまとのコミュニケーションの中で、「製品やサービスについて思っていることを聞いてみる」「その声を製品やサービスに少しでも反映してみる」「その結果をお客さまにフィードバックする」、そんなシンプルな取り組みでいいのです。「お客さまの声を聞いたら、こんなことが実現できました!」と言われて、嫌な気持ちのする人はいないでしょう。

そうしたやり取りの中で、お客さまが「この会社をずっと応援したい」とファンになってくれたら、これほど心強いことはありません。「お客さまを巻き込んで、長い時間をかけ、一緒に物語を創っていく」という意識で、日々の仕事に取り組んでみてください。

以上(2025年12月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

名言・迷言で振り返る2025年のできごと

早いもので、2025年もいよいよ終わりが近付いています。1月はドナルド・トランプ氏が米国大統領に再就任し、10月は高市早苗氏が日本初の女性首相に就任するなど、さまざまなニュースがありました。2025年に何が起きたのか。名言・迷言とともに振り返ってみましょう!

(1月)トランプ大統領再就任! 日米関係の今後は?

1)ドナルド・トランプ氏が第47代米大統領として再就任

「アメリカの黄金時代が今から始まる(the golden age of America begins right now)」(ドナルド・トランプ)(*)

(*)The White House「Inaugural Address」(2025年1月20日)

米国の第47代大統領に、共和党のドナルド・トランプ氏(以下「トランプ大統領」)が就任しました。就任演説で、トランプ大統領は「アメリカの黄金時代がいまから始まる」と述べ、バイデン前大統領の路線から、大幅な転換を図りました。

何かと話題のトランプ大統領。関税措置をめぐる日米交渉(7月に合意が成立)、2019年以来5年ぶりの来日(10月)なども世間を賑わせました。

2)石破茂氏が施政方針演説

「楽しい日本」(石破茂)(*)

(*)首相官邸「第217回国会における石破内閣総理大臣施政方針演説」(2025年1月24日)

当時、日本の内閣総理大臣だった石破茂氏が施政方針演説を行い、その中で、故・堺屋太一氏の「楽しい日本」という言葉を引用しました。楽しい日本とは、「今日より明日はよくなる」と実感できる国家とされています。

トランプ大統領と同様に何かと話題の石破氏でしたが、7月投開票の参議院議員選挙において、自由民主党は歴史的な大敗を喫し、10月に石破内閣は総辞職することとなりました。

(2月)OpenAIとソフトバンクが提携。AIは次のステージへ!

1)OpenAIとソフトバンクが、最先端AIの開発・販売について合意

「AGI革命は企業から始まる」(孫正義)(*)

(*)ソフトバンクニュース「OpenAIとソフトバンクグループが提携。企業向け最先端AI『クリスタル・インテリジェンス』を世界に先駆け日本で提供へ」(2025年2月5日)

ChatGPTで知られる米国のOpenAIとソフトバンクが、最先端AI「クリスタル・インテリジェンス(Crystal intelligence)」の開発・販売に関するパートナーシップを発表しました。クリスタル・インテリジェンスには、AIが学習したデータがその企業専用に最適化され、他社に利用されないという特徴があります。

ソフトバンクの孫正義氏は、近い将来訪れるAGI(汎用人工知能)やASI(人工超知能)の世界に向けて、一気に開発を進めていきたいと強調しました。驚くべきスピードで進化するAIの動向から目が離せません。

2)新宿アルタ、45年の歴史に幕

「新宿東口にまた来てくれるかな?」「いいとも~!」(末広泰之)(*)

(*)各種ニュースサイトなど

1980年の開業以来、新宿の待ち合わせスポットとして多くの人々に親しまれてきた商業施設「新宿アルタ」が2月末で閉館となり、45年の歴史に幕を閉じました。

フジテレビ系の人気番組「森田一義アワー 笑っていいとも!」の公開収録が行われていたことでも有名で、閉店セレモニーでは番組のおなじみのやり取りになぞらえて、店長の末広泰之氏が「新宿東口にまた来てくれるかな?」と呼びかけ、集まった人々が「いいとも~!」と声を上げました。

(3月)東日本大震災から14年……被災地の人々の思いは?

1)東日本大震災から14年

「自然の脅威に備えることや、安全神話は絶対ではないことを伝え続けなければなりません」(内堀雅雄)(*)

(*)福島県「福島県知事メッセージ『2025年3月11日のメッセージ』」

日本国内で観測史上最大規模、世界でも4番目の規模の地震とされる東日本大震災(2011年3月11日)から14年が経ちました。福島県知事の内堀雅雄氏は、犠牲者や遺族の人々に哀悼の意を示すとともに、福島県が2026年に150周年を迎えることに言及し、「未来図に彩りを加えながら、明るく豊かな福島県を築いていく」と述べました。

7月には、ロシア極東のカムチャツカ半島の沖合で発生した巨大地震に伴って津波注意報・警報が発表され、広範囲にわたり、多くの人が猛暑の中で避難を余儀なくされました。いざというとき、家族や従業員を守れるよう、日ごろからの備えを欠かさずにおきましょう。

2)SAMURAI BLUE(日本代表)、8大会連続でのFIFAワールドカップ出場が決定!

「厳しい戦いを乗り越えた選手たちはヒーローです」(森保一)(*)

(*)日本サッカー協会「【Match Report】SAMURAI BLUE、バーレーン代表に2-0勝利で8大会連続ワールドカップ出場決定」(2025年3月20日)

SAMURAI BLUE(日本代表)が、FIFAワールドカップ26アジア最終予選でバーレーン代表と対戦。2-0で勝利し、日本は8大会連続、8度目となるワールドカップ出場を勝ち取りました。試合後にピッチ上で開催された突破決定セレモニーでは、森保一監督が選手たちを労い、応援してくれた人たちへの感謝の言葉を述べました。

2026年北中米大会の組み合わせ抽選会は2025年12月に行われ、大会は2026年6月11日に開幕します。

(4月)大阪・関西万博が開幕! 日本での万博開催は20年ぶり

1)大阪・関西万博が開幕!

「未来社会の実験場(People’s Living Lab)」(*)

(*)大阪・関西万博ウェブサイト「EXPO PLL Talks」

大阪・関西万博(EXPO2025大阪・関西万博)が開幕しました。「未来社会の実験場(People’s Living Lab、PLL)」は、万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」を実現するためのコンセプトです。

日本で万博が開かれるのは2005年の愛知万博(愛・地球博)以来、20年ぶり。最新モビリティの「空飛ぶクルマ」、新しい外食のあり方を探る「ORA外食パビリオン」など見どころ盛りだくさんのイベントとなりました。

2)フランシスコ教皇が脳卒中・心不全で死去

「核兵器のない世界が可能であり必要である(Convinced as I am that a world without nuclear weapons is possible and necessary)」(フランシスコ・ローマ教皇)(*)

(*)カトリック中央協議会「教皇の日本司牧訪問 教皇のスピーチ 核兵器についてのメッセージ 長崎・爆心地公園、11月24日」

2025年4月21日、フランシスコ・ローマ教皇が脳卒中・心不全のため亡くなりました(享年88歳)。教皇は長年平和のための活動に尽力され、2019年には来日して被爆地の広島や長崎でスピーチを行い、上記の通り核兵器の廃絶を訴える言葉を述べています。

新教皇には、米国出身のロバート・フランシス・プレボスト枢機卿が選ばれ、レオ14世と名乗ることになりました。米国出身の教皇が誕生するのは初めてのことです。時を同じくして公開されていた映画「教皇選挙」も話題となりました。

(5月)コメをめぐり、2人の大臣の迷言(?)が話題に

1)元農林水産相の庶民からは理解できない感覚?

「コメは買ったことがありません」(江藤拓)(*)

(*)各種ニュースサイトなど

当時、農林水産相だった江藤拓氏が佐賀市内で行われた政治資金パーティーにおいて「コメは買ったことがない」「売るほどある」などの発言をして物議を醸しました。

江藤氏は「消費者に(備蓄米を)玄米でも手にとってほしいと強調したかった」という旨の釈明をし、発言を撤回しましたが、批判は収まらず、農林水産相を更迭されることとなりました。米価が高騰して庶民の家計を圧迫する中での迷言(?)でした。

2)前農林水産相、やる気は伝わるけれど……

「コメはもちろん買ったことがあります」(小泉進次郎)(*)

(*)各種ニュースサイトなど

江藤氏の後任で農林水産相となったのは、小泉進次郎氏。江藤氏の失言に絡めた質問をされ、上の発言が飛び出しました。小泉氏は後任として、国民の信頼を取り戻すために言ったのですが、やる気は伝わるもののどこかズレた迷言(?)となりました。

ただ、政策面では随意契約による政府備蓄米の放出などの対策を加速させ、一時的に米価を押し下げるなど、一定の成果を示しました。10月からは、防衛相として活躍している小泉氏。防衛相としてのこれからの政策にも発言内容にも注目が集まります。

(6月)巨星墜つ ミスタープロ野球 長嶋茂雄氏

1)長嶋茂雄氏が肺炎で死去

「我が巨人軍は永久に不滅です」(長嶋茂雄)(*)

(*)読売ジャイアンツ公式ウェブサイト「長嶋茂雄終身名誉監督が死去」(2025年6月3日)

野球界の枠を超え、戦後、日本の象徴の一人として国民的な敬愛を集めた「ミスタープロ野球」こと長嶋茂雄氏が、肺炎のため亡くなりました(享年89歳)。

1974年の現役引退セレモニーの際の「我が巨人軍は永久に不滅です」は、今でも語り継がれる名言と言えるでしょう。この言葉には、読売ジャイアンツへの深い愛情、自身がその一員であったことへの誇り、そして、ファンへの感謝の念が凝縮されています。

2)日本製鉄が米国の鉄鋼大手であるUSスチールの買収を完了

「当社が世界一に復帰するためには必要かつ有効な戦略」(橋本英二)(*)

(*)各種ニュースサイトなど

日本製鉄によるUSスチールの買収がトランプ大統領によって承認され、USスチールは日本製鉄の完全子会社となりました。その記者会見で、日本製鉄の橋本英二会長兼最高経営責任者(CEO)は、今回の買収の効果を改めて強調しました。

政治問題化した同事案ですが、双方にもたらす価値を丁寧に確認していった結果、合意に至ったとされます。その後、橋本氏は各種メディアからのインタビューで、USスチールなどにおける生産を拡充し、世界での生産量を「1億トンに増やす」と話しています。

(7月)劇場版「鬼滅の刃」が公開、お前も鬼にならないか?

1)劇場版「鬼滅の刃」が公開

「お前も鬼にならないか?」(猗窩座)(*)

(*)鬼滅の刃公式サイト「アニメで聞けるかも!? 『鬼滅の刃』セリフ人気投票結果発表!」

劇場版「『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来」の公開が7月から始まりました。鬼になってしまった妹を人間に戻すために、主人公・炭治郎が鬼と戦う漫画を原作としたアニメ映画です。魅力的なキャラクターやクオリティーの高いアニメーションが大人気で、11月には日本映画で初めて世界興行収入が1000億円を突破しました。

「お前も鬼にならないか?」は、劇中に登場する不老不死の鬼・猗窩座(あかざ)が、強くてもやがて老いていく人間に対して言う台詞です。SNSなどではこれをもじって、長生きしてほしい人に「鬼になろう」と投げかける「鬼になろう構文」がちょっとした人気になっています。

2)イチロー氏、米野球殿堂入り表彰式典でスピーチ

「今日は、もう味わうことはないと思っていた感情を抱いています。私は3度目のルーキーになりました」(イチロー)(*)

(*)各種ニュースサイトなど

現在、MLBのシアトル・マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクターを務めるイチロー(本名:鈴木一朗)氏が、アジア人選手として初めて米野球殿堂入りを果たし、ニューヨーク州クーパーズタウンでその表彰式典が行われました。

イチロー氏は英語でスピーチを行い、1992年のオリックス入団、2001年のシアトル・マリナーズ入団に続き、今回の殿堂入りで「3度目のルーキー」になったと謙虚な気持ちを表しました。同じ日本人としてMLBを切り開いた先輩・野茂英雄氏にも言及し、「野茂さん、ありがとう」と日本語で感謝を口にしたことも話題になりました。

(8月)戦後80年、広島市長が語る平和への思い

1)広島市長の松井一實氏による「平和宣言」

「決してあきらめない『ネバーギブアップ』の精神を若い世代へ伝え続けた被爆者。こうした被爆者の体験に基づく貴重な平和への思いを伝えていくことが、ますます大切になっています」(松井一實)(*)

(*)広島市「令和7年(2025年)平和宣言」

広島市では毎年8月6日に、平和記念式典を行い、広島市長が「平和宣言」を世界に向けて発表します。今年は市長の松井一實氏が、被爆者の1人で日本原水爆被害者団体協議会の代表委員だった坪井直氏の「ネバーギブアップ」という言葉を引用したことが注目を集めました。

2025年は戦後80年の節目に当たります。世界では今なお多くの人々が戦争や紛争で苦しんでおり、平和とは何なのかを改めて考えてみる必要があるかもしれません。

2)AIの将来に言及したエヌビディア代表の発言が話題に

「新たな産業革命が始まった。AI競争は始まっている」(ジェンスン・フアン)(*)

(*)各種ニュースサイトなど

米国半導体大手エヌビディアの代表ジェンスン・フアン氏が、AIチップへの投資ブームが5年間で数兆ドル規模の市場に拡大する見通しであることを示し、上記の発言をしました。7月には株価が時価総額4兆ドルの壁を超えたエヌビディア、AIの最先端を行く代表の発言には重いものがあります。

もっとも、最近はGoogleが開発した「TPU」の台頭や、メタによるアルファベット製AI半導体の購入なども報道されており、今後のAI業界はエヌビディア一強体制ではなくなっていくのではないかという意見もあります。

(9月)アルテミス計画、前進! 人類は再び月へ

1)アルテミス計画に基づき、2026年に月を周回することが決定

「私たちは、50年以上ぶりの月への帰還という歴史的瞬間を、最前列から目撃しようとしています(We together have a front-row seat to history. We’re returning to the moon after over 50 years.)」(ラキーシャ・ホーキンス)(*)

(*)各種ニュースサイトなど

月面への有人着陸・長期滞在を通して持続的な月探査を行う「アルテミス計画」。これに基づき、米国などの宇宙飛行士が宇宙船「オリオン」で、2026年2月にも月を周回することが正式に決まりました。

宇宙飛行士による持続的な月探査は1960年代から70年代にかけて行われたアポロ計画以来で、米航空宇宙局(NASA)探査システム開発ミッション本部のラキーシャ・ホーキンス氏は、「私たちは歴史的な出来事を最前列から目撃しようとしている」と述べました。

2)NHK連続テレビ小説「あんぱん」が完結

「絶望の隣はにゃ、希望じゃ」(柳井寛)(*)

(*)各種ニュースサイトなど

3月から放送が開始されたNHK連続テレビ小説「あんぱん」が最終回を迎えました。漫画家のやなせたかし(本名:柳瀬嵩)氏をモデルにした柳井嵩が、主人公である妻「のぶ」らに支えられ、戦争や貧困を乗り越えながら「アンパンマン」にたどり着く物語です。

「絶望の隣はにゃ、希望じゃ」は嵩の伯父・寛の台詞。やなせ氏自身が2011年に「絶望の隣は希望です!」というエッセイを出しており、主人公が逆境に立ち向かう作品を象徴する言葉、やなせ氏自身の人生観の表れとして話題になりました。

(10月)日本初の女性首相、高市早苗氏! 就任時の挨拶が流行語大賞に!

1)高市早苗氏が、第104代内閣総理大臣に就任

「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」(高市早苗)(*)

(*)各種ニュースサイトなど

高市早苗氏が第29代自由民主党総裁、さらに第104代内閣総理大臣に選出されました。自由民主党総裁と内閣総理大臣、どちらも女性が就任するのは日本で初めてのこと。国内だけでなく、海外からも注目が集まりました。

総裁就任時の挨拶では、「全世代総力結集で、全員参加で頑張らなきゃ(日本は)立て直せない」として、「私自身もワークライフバランスという言葉を捨てます。働いて働いて働いて働いて働いてまいります」と発言したことが話題に。高市氏の覚悟を評価する声、時代に逆行しているという声、さまざまな意見が飛び交い、「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」は2025年の流行語大賞になりました。

2)京都大学の北川進氏、大阪大学の坂口志文氏にノーベル賞

「ノーベル賞の発表をされると、“ただのおじさん”の扱いが急に変わるんです」(北川進)(*)

(*)各種ニュースサイトなど

京都大学特別教授の北川進氏が、金属イオンと有機化合物とを結合させた「多孔性金属錯体(MOF)」の開発により、ノーベル化学賞を受賞しました。北川氏は記者会見で、「“ただのおじさん”の扱いが急に変わる」と、今回の受賞についてユーモアを交えて語りつつ、研究者を志す人たちに「ますますチャレンジ精神でやっていただきたい」とエールを送りました。

もう1人、大阪大学免疫学フロンティア研究センター特任教授の坂口志文氏もノーベル生理学・医学賞を受賞しました。坂口氏は、自己に対する異常な免疫反応やアレルギーなどの過剰な免疫反応を抑えるのに必要な「制御性T細胞」の発見・研究が認められ、受賞に至りました。

(11月)将棋の藤井聡太氏、史上最年少で「永世三冠」を達成!

1)藤井聡太氏が永世棋聖、永世王位に続き、「永世竜王」の資格を獲得

「苦しい状況でも、あきらめずに指したのが実を結んだというところも、少しはあったのかなと感じています」(藤井聡太)(*)

(*)各種ニュースサイトなど

将棋の第38期竜王戦七番勝負で藤井聡太氏(竜王)が佐々木勇気氏(八段)を下し、5連覇を達成しました。これにより、藤井氏は永世棋聖、永世王位に続き、3つ目の永世称号「永世竜王」の資格を獲得しました。

史上最年少(23歳)にして、史上3人目の「永世三冠」を達成した藤井氏。これからの活躍にますます注目が集まります。

2)ドジャースの山本由伸氏がワールドシリーズの最優秀選手(MVP)に

「もう無心で、野球少年に戻ったような、そんな気持ちでした」(山本由伸)(*)

(*)各種ニュースサイトなど

野球のMLB・ワールドシリーズで、ドジャースがブルージェイズを延長の末に5-4で下し、2連覇を達成しました。最終第7戦で投手として登板した山本由伸氏は、第6戦からの連投となる中、ブルージェイズ打線を封じ、勝利に貢献。試合後のインタビューで「野球少年に戻ったような気持ち」と発言したことが話題になりました。

山本氏は今回の功績により、日本人では松井秀喜氏以来2人目となる、ワールドシリーズの最優秀選手(MVP)に選ばれました。

以上(2025年12月更新)

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画像:日本情報マート

2026年は午年~干支のエトセトラ(午編)

1 午(うま)に関する話

1)午年に起きた出来事

2026年の干支(えと)は、「午(うま)」です。前回の午年は、2014年(平成26年)の甲午(きのえうま)でした。2014年は、消費税が5%から8%へ引き上げられた年。また、青色発光ダイオード(LED)の開発で、赤﨑勇氏、天野浩氏、中村修二氏の3人がノーベル物理学賞を受賞したことも注目を集めました。

過去5回の午年に起きた主な出来事や流行語は次の通りです。

主な出来事や流行語

2)午年生まれの有名人

午年生まれの日本の有名人には、次のような人がいます(既に亡くなられた方も含みます)。

午年生まれの有名人

3)うまの話

日本において馬は、農耕や交通、そして戦の場でも欠かせない存在でした。力強く田畑を耕し、人や物を運び、戦場では武将の誇りと共に駆け抜けました。戦国時代には、織田信長の愛馬「白石鹿毛(しろいしかげ)」や上杉謙信の「放生月毛(ほうしょうつきげ)」など、名馬とともに戦った逸話が数多く残されています。戦国武将たちにとって馬は、単なる乗り物ではなく、共に命を預ける“戦友”だったのです。

時代が進むにつれ、馬は人々の暮らしから離れていきましたが、その存在は今なお日本文化の中に息づいています。例えば、正月の神社には、願い事を書いた「絵馬」がずらりと並びます。古来より神々の乗り物とされてきた馬に願いを乗せて届ける。そうした信仰から、今でも多くの人が、初詣で絵馬を奉納しているのです。

近年では、馬と触れ合うことで心を整える「ホースセラピー」も注目されています。馬は感情に敏感な優しい動物であるため、人の緊張を解きほぐし、安らぎをもたらすからです。力と優しさを併せ持つ馬は、今もなお、人と共に生きるパートナーとして活躍しているのです。

2 午(うま)にちなんだスピーチ事例

1)スピーチ事例1

午(うま)にまつわる話として、古代マケドニアの英雄・アレクサンドロス大王と愛馬ブケパロスの逸話があります。ブケパロスは非常に気性の荒い暴れ馬として有名でした。しかし、大王は、ブケパロスに臆病な一面があることを見抜きます。実はブケパロスは、他の馬より感覚が鋭く、自分自身の影におびえて暴れていたのです。そこで、大王はブケパロスの顔を太陽に向けさせ、影を見ないようにすることで、この暴れ馬を落ち着かせ、見事に乗りこなしたのです。

この逸話が教えてくれるのは、「先入観を捨てて、相手を理解すること」の大切さです。皆さんも、部下や同僚が仕事で困っているとき、サポートに入りたいのに的はずれな助言をしてしまった経験はないですか? それは、自分の経験や相手の普段の言動などから、「相手は、〇〇に困っているんだ」と決めつけているからかもしれません。

大切なのは、そうした先入観を捨て、相手が何につまずいているのかを注意深く観察し、聞き取り、理解すること。原因が分かれば、自然と解決策も見えてきます。自分の問題に向き合う場合も同じです。「自分は、〇〇に困っているんだ」というのは、実は思い込みかもしれません。今、置かれている状況を冷静に分析しながら、解決策を探りましょう。

馬たちが蹄の音高らかに駆けていくように、今年は一丸となって前へと進む年にしましょう。そのために、自他問わず抱えている困難や不安としっかり向き合って、理解する姿勢を大切にしていきましょう。それは必ず、チームや組織が前へ進んでいくための一助になります。

2)スピーチ事例2

馬の視野は非常に広く、およそ350度もあるといわれています。これは草食動物として、天敵である肉食獣の接近をいち早く察知するために進化した能力です。また、左右の目で異なるものを見る「単眼視」であるため、草を食べながらでも周囲の変化や危険を常に確認できます。馬は動くものに敏感で、わずかな風や音にも反応します。こうした能力のおかげで、馬は広大な草原でも安全に生活できるのです。

仕事の場でも、同じことが言えます。広い視野を持つことで、変化やリスクを早めに察知でき、柔軟に対応する力が養われます。新入社員や若手社員の皆さんは、まだ視野を広く持つことが苦手かもしれませんが、これは訓練で身につきます。例えば、「自分の仕事には誰が関わっっているのか?」「自分の工程が終わったら、次は誰が何をするのか?」「この仕事の成功・失敗はお客さまにどのような影響を与えるのか?」。そういったことを一つずつ考えながら仕事をすると、視野は広がっていきます。

全体像を見ながらも、細かい見落としを拾うことができる「馬の視野」は、働く上でぜひとも理想としたい姿です。今年は干支にあやかって、馬のような視野を持って仕事をすることを心がけていきましょう。

しかし、実は馬にも、真後ろの約10度に死角があるそうです。同じように、たったひとりで全てを見渡すことはできません。弱点は仲間と補い合い、チームでカバーし、一丸となって前進していきましょう。

3 干支の起源・豆知識

1)干支の起源

ところで、「干支とは何か?」と聞かれたら、どう答えますか? 一般的に、干支とは、巳(へび)年や申(さる)年など、12種類の動物を、年ごとに当てはめたものと認識されています。しかし、実は干支(えと=かんし)とは、古代中国に起源を持つ、年月日や時刻、方位などを表す呼称で、10種類の「干」と12種類の「支」を組み合わせた60通りがあるのです。本章では、意外と知られていない干支の起源についてご紹介します。

干支の「干(え)」は10種類あり、十干(じっかん)といいます。

十干

これに陰陽五行思想(木・火・土・金・水)を結び付けて、次のようにも読みます。

陰陽五行思想

一方、干支の「支」は古代中国の天文学で、木星の位置を示すために天を十二分した呼称を起源にしており、十二支といいます。

十二支

さらに、十二支を動物に当てはめて、次のように呼ばれるようになったのです。

動物に当てはめ

中国では、古く殷(いん)の時代(紀元前16世紀~紀元前11世紀ごろ)から、この十干十二支の組み合わせで年月日が数えられたといいます。これが干支の起源です。

2)干支と十二支

現在の日本では、干支は十二支を指すように使われていますが、このように、厳密には干支と十二支とは異なります。本来の干支(十干十二支)の組み合わせは全部で60通りあり、日本で使われている12通りの十二支とは違うのです。干支は年月日や時刻に当てられますが、日本では一般的に年に当てて使われています。満60歳を還暦(かんれき、もしくは生まれ年の干支を「本卦(ほんけ)」と呼ぶことから本卦還(がえ)りともいう)というのは、干支が1周して生まれ年の干支に還(かえ)るところからきています。

ちなみに、2025年の干支は乙巳(きのとみ)、2026年の干支は丙午(ひのえうま)です。自分の生まれ年の干支が何かを、下表で確認してみましょう。

干支と十二支

3)干支が表す歴史年代

干支は年月日などの時間を表す呼称として、古くから使われており、具体的な年がすぐ分かるため、歴史上の事件の呼称としても多く用いられています。

有名な例としては、以下のようなものがあります。

  • 672年  みずのえさる 壬申(じんしん)の乱
  • 1592年 みずのえたつ 壬辰(じんしん)倭乱(わらん)(注)
  • 1868年 つちのえたつ 戊辰(ぼしん)戦争
  • 1911年 かのとい   辛亥(しんがい)革命

(注)日本でいう「文禄(ぶんろく)の役」です。

ちなみに、阪神甲子園球場は、「甲子(きのえね)」年の1924年に完成したことから名付けられています。

以上(2025年12月更新)

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画像:Brian-Adobe Stock

アルコール依存症予備軍と運転リスク(2025/12号)【交通安全ニュース】

※ボタンを押すとSOMPOリスクマネジメント(株)のサイトへ移動します。

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

「一日の終わりに飲むお酒が、何よりの楽しみだ」

その習慣、本当に「楽しみ」の範囲で収まっていますか?

近年、本格的なアルコール依存症に至る手前の「アルコール依存症予備軍」と呼ばれる状態にある人が、ハンドルを握るケースが問題視されています。

アルコール依存症予備軍と運転リスク

アルコール依存の兆候と割合

アルコール依存症は、ある日突然なるものではありません。徐々に進行する病気です。

次のようなサインは、お酒に「コントロールされる」ようになっている危険な兆候です。

[兆候の例]

  • ストレス解消や気分転換のために、お酒を飲むことが習慣になっている。
  • 以前よりもお酒の量が増えないと、満足できなくなってきた。
  • 「今日は飲まないぞ」と決めても、つい飲んでしまうことがある。
  • お酒を飲まないと寝付けない、または夜中に目が覚めてしまう。
  • 飲んだ翌日に「何を話したか」「どうやって帰ったか」を思い出せないことがある。
  • 家族や周囲の人から、飲酒について心配されたり、注意されたりしたことがある。

男性におけるアルコール依存症と予備軍の割合

男性におけるアルコール依存症と予備軍の割合

厚生労働省の統計※1によると、依存傾向は男性が高く、男性における「アルコール依存疑い」「潜在的依存者(予備軍)」の割合が6%以上と推計されています。飲酒習慣がある人は他人事と言えない割合です。女性は1%以下と少ないですが、アルコール依存症になりやすい※2と言われています。

※1.出典:厚生労働省「わが国の成人の飲酒行動に関する全国調査2013年」参照
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2013/133061/201315050A/201315050A0002.pdf(2025.11.4閲覧)

※2.出典:厚生労働省「健康日本21アクション支援システム ~健康づくりサポートネット~」参照
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/alcohol/a-04-003 (2025.11.4閲覧)

「予備軍」の運転に潜む3つの具体的なリスク

「アルコール依存症予備軍」でも運転に深刻な影響を及ぼします。

「予備軍」の運転に潜む3つの具体的なリスク

①常態的な「酒気残り」

毎日の多量飲酒により、肝臓のアルコール分解が追いつかなくなります。「酔いが覚めた」と感じていても「二日酔い運転」のリスクが高くなります。

②離脱症状による集中力の欠如

体からアルコールが抜け始めると、イライラ、手の震え、発汗、不安感といった軽い離脱症状が現れます。

この状態で運転すると、注意力が散漫になり、危険への反応が遅れたり、攻撃的な運転になったりします。

③脳機能の低下による判断ミス

習慣的な飲酒は、判断や理性を司る脳の前頭葉を萎縮させることが知られています。

通常時でも、速度超過や無理な追い越しなど、危険な判断を下しやすくなる傾向があります

アルコールの負の連鎖を断ち切るために

飲酒について見つめ直すことは、ご自身と周囲の大切な人たちを守るための勇気ある行動です。

【個人としてできること】

  • ・現状把握: 飲酒習慣を記録し、どれだけ飲んでいるか把握する。
  • ・休肝日 :「週に2日は必ず飲まない日を作る」など休肝日を設ける。
  • ・専門機関: 飲みすぎなど不安を感じる場合は専門の医療機関などに相談する。

【事業者としてできること】

  • ・アルコールチェック
    乗車前、乗車後のアルコールチェックを対面により厳格に運用する。
  • ・相談しやすい環境づくり
    アルコール依存症が「病気」であることを理解する風土を作り、安全運転管理者や上司が、プライバシーを守った上で相談に乗れる体制を整える。
  • ・健康診断との連携
    定期健康診断での問診・結果で問題がある場合には、必要に応じて産業医や専門医への受診を勧奨する。

以上(2025年12月)

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悩ましいハラスメントの境界線

業務時間外にLINEで連絡する、肩を叩いて励ますなどの行為は、職場のハラスメントに当たるのでしょうか。ハラスメントになるかどうかの境界線について、悩む企業も多いと思います。本稿では、最新の調査結果を参考に、ハラスメントの代表格であるパワーハラスメント(パワハラ)とセクシュアルハラスメント(セクハラ)について、基本的な考え方やハラスメント回避のヒントをお伝えします。

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悩ましいハラスメントの境界線

業務時間外にLINEで連絡する、肩を叩いて励ますなどの行為は、職場のハラスメントに当たるのでしょうか。ハラスメントになるかどうかの境界線について、悩む企業も多いと思います。本稿では、最新の調査結果を参考に、ハラスメントの代表格であるパワーハラスメント(パワハラ)とセクシュアルハラスメント(セクハラ)について、基本的な考え方やハラスメント回避のヒントをお伝えします。

1 グレーゾーン行為に注意

先端機器によるストレスの可視化に取り組むMENTAGRAPH株式会社(本社:東京都中央区)は今年9月、「ハラスメントの基準」に関する調査結果を公表しました。

調査は昨年12月、全国の22~65歳の管理職と非管理職各900人、計1,800人を対象に実施。「ハラスメントの基準に関して当てはまるものを選択してください」という質問では、次のような回答が出ました。

MENTAGRAPH株式会社 「ハラスメントの基準」に関する調査結果

※MENTAGRAPH株式会社 「ハラスメントの基準」に関する調査結果より

同社では、「身体的接触や属性・外見への言及、私的時間への侵入といった“グレーになりやすい行為”」が並んでいると指摘しています。これらの行為については、ハラスメントと感じる人が一定程度いる以上、慎むべきでしょう。

「肩を叩く」「『若いから体力がある』という発言」「髪型・服装への指摘」「業務時間外のLINEでの連絡」「下の名前での呼び捨て」については、非管理職のほうが管理職よりも「ハラスメントに当てはまる」と答えた割合が7.3~3.9ポイントも高く、大きなギャップがありました。同社は「現場(非管理職)はリスクとして敏感に捉える一方、管理職は『コミュニケーションの一形態』『指導の一環』と捉えがちで線引きが甘くなりやすい可能性が示唆されています」と注意を促しています。

2 ハラスメントの基準

これらの行為について従業員が「ハラスメントだ」と被害を訴えた場合に、会社は調査をして、ハラスメントに当たるかどうかの判断をしなくてはなりません。厚生労働省が示している判断の基準について、改めて確認しておきましょう。

まずパワハラは、①優越的な関係を背景とした言動で、②業務上必要かつ相当な範囲を超え、③労働者の就業環境が害されるもので、3つの要素をすべて満たすケースです。例えば、次のような行為がパワハラになります。

ハラスメントの行為類型

※厚生労働省サイト「あかるい職場応援団」より

例えば、「ハラスメントの基準」に関する調査結果のうち、「休暇取得の理由を尋ねる」は、過度に繰り返し行うと「個の侵害」に当たる可能性があります。一方、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、パワハラには当たりません。

セクハラは、「労働者の意に反する性的な言動」で、性的な関係の強要はもちろん、性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗な誘いなども含まれます。受け手が不快に感じればセクハラになり得ますが、セクハラかどうかの判断にあたっては、個人の受け止め方の違いもあるので、受け手の主観を重視しつつも一定の客観性が必要です。一般的には、被害者が女性の場合には「平均的な女性労働者の感じ方」を、被害者が男性の場合には「平均的な男性労働者の感じ方」を基準として、ケースバイケースで判断します。

また、性的関係を要求され、拒んだら解雇されたといったケースを「対価型セクハラ」、上司が女性社員の腰、胸などに度々触ったため、女性社員が苦痛を感じ就業意欲が低下したといったケースを「環境型セクハラ」といいます。

「ハラスメントの基準」に関する調査結果のうち、「肩を叩く」「髪型や服装への指摘」などは、例えば男性上司が女性の部下に対して行う場合、セクハラに該当しかねない行為と言えます。

3 さいごに

ハラスメントへの対応が遅れると、最悪の場合、訴訟に発展し企業に大きな負担がかかります。訴訟の結果、使用者責任、債務不履行責任が問われ、適切な措置を怠ったことに対する損害賠償、社会的信用の失墜、従業員のモチベーション低下なども生じかねません。また、ご対応を進められる場合は、厚生労働省の特設サイト「あかるい職場応援団」も大変参考になるので、目を通すことをお勧めします。

※本内容は2025年11月10日時点での内容です。

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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画像:photo-ac

白書の「白書」! 働き方、産業、環境など日本の“今”が丸分かり

1 2025年もたくさんの白書が!

白書とは、特定の分野について国が現状と課題、これからの方針を公式にまとめたレポートです。「中小企業白書」「エネルギー白書」「環境白書」、耳にはするけれど中身まではなかなか目を通せていないという人は多いでしょう。ですが、最新の統計データや業界動向、政策の方向性が整理されている白書は、経営者にとって重要な「情報の宝庫」です。

2025年もたくさんの白書が公表されました!この記事では、数ある白書の中から20種類を取り上げ、直近の内容を紹介します。世の中でどのような動きがあったのか、さまざまな分野の白書を通して見ていきましょう。

2 中小企業白書(中小企業庁)

中小企業白書は、中小企業の実態や課題、国の中小企業政策の現状と今後の方向性をまとめた白書です。直近の2025年版には、次のような内容が記載されています。

■中小企業庁「2025年版『中小企業白書』」■
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/

1)中小企業・小規模事業者の動向

中小企業・小規模事業者の課題として、円安・物価高の継続、「金利のある世界」の到来、構造的な人手不足の深刻化、過去最高水準の賃上げ圧力への対応などが挙げられています。経営者年齢も依然高い水準で推移しており、事業承継に向けた取り組みが必要とされています。

2)会社の成長・持続的発展に向けて有効な取り組み

経営力を個人特性面・戦略策定面・組織人材面の3つの視点で捉え、バランスよく強化すること、規模ごとに異なる「成長の壁(例:中小企業(成長段階)なら、経営者の一人体制の限界、スキル不足など)」の打破が求められています。

2025年版の内容については、こちらのコンテンツでも紹介しています。

3 経済財政白書(内閣府)

経済財政白書は、日本の景気や物価、雇用などの経済動向と、国の財政状況・財政運営の課題、今後の経済財政政策の方向性をまとめた白書です。直近の2025年度版には、次のような内容が記載されています。

■内閣府「令和7年度経済財政白書」■
https://www5.cao.go.jp/keizai3/whitepaper.html

1)日本経済の動向と課題

2025年半ばまでの経済の動向が記載されています。名目GDPが600兆円を超え、国内民間最終需要は1年にわたり増加を続ける一方、米国の関税措置による世界経済の下押しを通じた輸出への影響等が懸念されています。設備投資は持ち直しの動きが続いていますが、不確実性の高まりによる影響には留意が必要とされています。

2)賃金上昇の持続性と個人消費の回復に向けて

2024年度の賃金は、33年ぶりの賃上げ率となった春季労使交渉や、過去最大の上げ幅となった最低賃金の引上げ等の効果もあって、1994年以来最高の賃上げ率となりました。しかし、物価上昇との関係もあり、賃金が上昇したという実感を持つ人は、さほど増加しているわけではないようです。個人消費については、高齢層を中心に物価上昇における節約意識が働いており、消費の回復には給与所得の増加が特に重要とされています。

3)変化するグローバル経済と企業部門の課題

過去30年程度における日本の経常収支の変遷や企業行動の変化などが記載されています。また、中小企業の課題として、現預金比率が高い一方で、生産能力を高めるような前向きな設備投資が抑制されていることなどが挙げられています。

4 ものづくり白書(経済産業省)

ものづくり白書は、日本の製造業の現状や課題、生産性向上・DXなどを含む国の「ものづくり政策」の方向性をまとめた白書です。直近の2025年版には、次のような内容が記載されています。

■経済産業省「2025年版ものづくり白書」■
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2025/index.html

1)製造業の競争力強化に向けたDX

個社単位のデジタル化・効率化は一定の成果が挙がっている一方で、「稼ぐ力」につながるだけの成果を創出できている製造事業者は少ないようです。企業間連携で産業単位の事業効率を向上させることや、ロボット・AIの開発・活用の重要性が示唆されています。

2)経済安全保障を踏まえた製造事業者の持続的成長

約6割の製造事業者が経済安全保障の取り組みを実施していないとされています。政府は、取り組みの好事例の発信等を通じて、経済安全保障の推進を後押ししていくとしています。

3)人材育成の取り組みとデジタル技術の活用

正社員以外の社員の能力開発がコロナ禍前の水準まで回復していないことなどが示唆されています。政府は、人材開発支援助成金や生産性向上支援センター、デジタル技術を含む多様な職業訓練の提供などを通じて、能力開発を支援していくとしています。

4)ものづくりを通じて社会課題の解決に貢献する人材の育成

政府は、デジタル等成長分野の人材育成(半導体人材の育成、産学協働リカレント教育モデルの確立など)、ものづくり人材を育む教育・文化芸術(学校等でのものづくり教育、技術者や伝承者の育成など)、Society5.0(注)を実現する研究開発(ものづくりに関する基盤技術の研究開発、産学官連携など)を推進していくとしています。

(注)Society 5.0:サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会のことで、情報社会(Society 4.0)に続く社会として提唱されています。

5 情報通信白書(総務省)

情報通信白書は、日本のICT(インターネット・スマホ・通信インフラ・デジタル経済など)の動向や課題、国の情報通信政策の方向性をまとめた白書です。直近の2025年版には、次のような内容が記載されています。

■総務省「情報通信白書令和7年版」■
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/index.html

1)「社会基盤」としてのデジタルの浸透・拡大と動向

社会生活、企業活動において、スマートフォン・SNS・クラウド等が浸透・拡大しています。AIについては、世界的な開発競争が激化し、日本においても大規模言語モデル(LLM)の開発が盛んに行われています。一方で、日本のAI活力ランキング(2023年)は世界総合9位と低めで、企業における生成AIの活用方針策定なども海外に比べて遅れがちです。

2)進展するデジタルがもたらす課題

デジタル分野の主要な課題として、「信頼性のあるデジタル基盤の確保」「AIによるイノベーション促進とリスク対応」「サイバーセキュリティ」などが挙げられています。

3)進展するデジタルによる社会課題解決に向けて

少子高齢化が進む地方において、デジタル技術が地方創生のカギを握ることが示唆されています。また、災害が激甚化、頻発化する中、さらなるデジタルインフラの強靱化が引き続き求められていることなどが記載されています。

6 科学技術・イノベーション白書(文部科学省)

科学技術・イノベーション白書は、日本の研究開発や技術革新(AI・宇宙・バイオなど)の動向と課題、国の科学技術・イノベーション政策の方向性をまとめた白書です。直近の2025年版には、次のような内容が記載されています。

■文部科学省「令和7年版科学技術・イノベーション白書」■
https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpaa202501/1421221_00015.html

1)科学技術基本法制定から30年とこれからの科学技術・イノベーション

2025年が科学技術基本法制定から30年の節目に当たることから、同法制定の経緯や制定後30年の歴史などが紹介されています。制定後30年間の日本の科学技術・イノベーションの振り返りとして、「基礎研究力の低下」「人材」「研究インフラ」といった重要課題も掘り下げられています。

2)科学技術・イノベーション創出の振興に関して講じた施策

ものづくり白書の章でも紹介した「Society 5.0」を具体化し、国民の安全と安心を確保しつつ、ウェルビーイングを実現するための取り組みなどが紹介されています。

7 エネルギー白書(資源エネルギー庁)

エネルギー白書は、日本のエネルギー(電気・ガス・石油など)の現状や課題、政府の今後の方針をまとめた白書です。直近の2025年版には、次のような内容が記載されています。

■資源エネルギー庁「エネルギー白書2025」■
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/

1)福島復興の進捗

福島復興の現状として、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に向けた取り組み(燃料デブリの試験的取り出し成功など)、帰還困難区域の避難指示解除に向けた取り組み(大熊町等での復興再生計画の認定など)、新たな産業の創出に向けた取り組み(福島イノベーション・コースト構想)が紹介されています。

2)GX・2050年カーボンニュートラルの実現に向けた取り組み

日本のエネルギーを取り巻く環境変化を踏まえた上で、電力インフラ・データセンター立地・通信インフラの適正な整備(ワット・ビット連携)、2050年カーボンニュートラルに向けた次世代エネルギー革新技術(光電融合、ペロブスカイトなど)に関する取り組みなどが紹介されています。

8 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書(環境省)

環境白書は、日本や世界の環境問題の現状と施策をまとめた白書です。循環型社会白書は、ゴミ削減・リサイクルなどを通じ、資源をムダなく循環させる社会づくりの現状と施策をまとめた白書です。生物多様性白書は、絶滅危惧種や森林・海などの生き物と生態系の保護に関する現状と施策をまとめた白書です。直近の2025年版には、次のような内容が記載されています。

■環境省「令和7年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」■
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/

1)地球温暖化対策の目指す方向

2050年炭素中立(ネット・ゼロ)の実現に向け、温室効果ガスの排出量を2013年度と比べて、2035年度には60%、2045年度には73%削減する目標が設定されています。

2)循環経済(サーキュラーエコノミー)

サーキュラーエコノミーは、資源を効率的に循環させ、持続可能な社会をつくるとともに経済成長も実現するというものです。基本計画や法整備の状況、地域の特性を活かした循環資源や再生可能資源の活用事例などが記載されています。

3)自然再興(ネイチャーポジティブ)

ネイチャーポジティブは、生物多様性を維持するだけでなく、回復させるというものです。「30by30目標(2030年までに、陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全する)」の実現に向けた取り組みとして、保護地域における取り組み(国立公園の指定など)や自然共生サイト(生物多様性が保全されている区域)の認定状況などが記載されています。

4)東日本大震災からの復興に係る取り組み

帰還困難区域における取り組み(避難指示の解除など)、未来志向の取り組み(「脱炭素×復興まちづくり」推進事業の実施など)、ALPS処理水(注)の海洋放出に係るモニタリングの状況などが記載されています。

(注)ALPS処理水:東京電力福島第一原子力発電所の建屋内にある放射性物質を含む水について、トリチウム以外の放射性物質を、安全基準を満たすまで浄化した水のことです。

9 食料・農業・農村白書(農林水産省)

食料・農業・農村白書は、日本の食料供給・農業・農村の今の姿と課題、そして国の今後の方向性をまとめた白書です。直近の2024年度版には、次のような内容が記載されています。

■農林水産省「令和6年度 食料・農業・農村白書 全文」■
https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r6/zenbun.html

1)新たな食料・農業・農村基本計画の策定

2024年に改正された食料・農業・農村基本法に基づき、食料自給率の他、食料安全保障の確保に関する目標を設定し、初動5年間で農業の構造転換を集中的に推し進めるための計画が策定されています。

2)合理的な価格形成と付加価値向上

コスト高騰に伴う農産物・食品への価格転嫁が業界全体の課題であることを踏まえ、合理的な価格の形成に向けた仕組みづくりに取り組んでいることや、消費者からコストの実態への理解・支持を得るための「フェアプライスプロジェクト」を継続していることなどが記載されています。

3)スマート農業と環境戦略

ドローンやAIによる農業の生産性向上や、「みどりの食料システム戦略」に基づく環境負荷低減の取り組みを推進していることなどが記載されています。

10 森林・林業白書(林野庁)

森林・林業白書は、日本の森林や林業(木材利用や山村を含む)の現状と課題、国の森林政策の方向性をまとめた白書です。直近の2024年度版には、次のような内容が記載されています。

■林野庁「令和6年度 森林・林業白書 全文」■
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/r6hakusyo/zenbun.html

1)生物多様性の重要性と関心の高まり

「環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」の章で紹介した内容とも重なりますが、生物多様性に関する国際的な動きとしてネイチャーポジティブの進展、国内の動きとして自然共生サイトの認定状況などが記載されています。

2)日本の森林における生物多様性とこれまでの保全の取り組み

日本の植物種数は5565種と、同じ島国かつ面積も同程度の英国などを上回る生物多様性が確保されています。さまざまな生育段階や樹種から構成される森林が、モザイク状に配置されている状態を目指して、多様な森林整備が推進されています。

3)生物多様性を高める林業経営と木材利用に向けて

林野庁が2024年に「森林の生物多様性を高めるための林業経営の指針」や「建築物への木材利用に係る評価ガイダンス」を公表したことなどが記載されています。

11 水産白書(水産庁)

水産白書は、日本の水産業・漁業や水産資源の現状と課題、今後の水産政策の方向性をまとめた白書です。直近の2024年度版には、次のような内容が記載されています。

■水産庁「令和6年度 水産白書 全文」■
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/R6/250606_1.html

1)海洋環境の変化の状況

2024年の日本近海の平均海面水温が、統計開始以降、最も高い値となっています。また、黒潮大蛇行が2017年から継続し、過去に例のない長さで発生しており、黒潮が接岸する関東沖・東海沖では海水温が上昇する傾向にあります。

2)海洋環境の変化による水産資源・水産業への影響

海水温の上昇や海流の変化が、水揚量の減少、漁場まで遠出することに伴う燃油等の費用増加、出漁の見合わせなど漁業経営に大きな影響を与えています。特に、サンマ、スルメイカ、サケの漁獲量が近年大きく減少しています。

3)海洋環境の変化に対応するための取り組み

漁業・養殖業における取り組みとして「いか釣り漁船によるスルメイカ不漁に伴うアカイカ操業の実施」などが、加工・流通・消費に向けた取り組みとして「サワラの漁獲量が増加した地域におけるブランド化の取り組み」などが、漁港・漁場における取り組みとして「藻場再生」などが紹介されています。

4)今後の海洋環境の変化への対策

気候変動への緩和策として、水産分野では、漁船の電化・水素化等に関する技術の確立により、CO2の排出削減を図ること、CO2吸収源としてのブルーカーボンを推進することなどが記載されています。

12 国土交通白書(国土交通省)

国土交通白書は、日本の国土・インフラ・交通(道路・鉄道・空港・港湾など)の現状と課題、国土づくり・交通政策の方向性をまとめた白書です。直近の2025年版には、次のような内容が記載されています。

■国土交通省「令和7年版国土交通白書」■
https://www.mlit.go.jp/statistics/file000004.html

1)国土交通分野における担い手不足等によるサービスの供給制約の現状と課題

建設業や運輸業の課題として、いわゆる「2024年問題」への対応や、就業者の高齢化・若年者の入職の減少、中長期的な担い手の確保・育成などが挙げられています。担い手不足等によるサービスの供給制約(メンテナンス不足で、水道の断水・漏水が発生するなど)についても記載されています。

2)国土交通分野における取り組みと今後の展望

業界内の人材の確保・定着に向け、「賃上げを含む処遇改善」「適切な価格転嫁」などに関する施策の状況が掲載されています。ICTスキル等により建設技術者の一部業務を代行する新職種「建設ディレクター」の活用や、人に代わり自動で鉄筋結束作業を行うロボットの導入などの事例も紹介されています。

13 観光白書(観光庁)

観光白書は、日本の観光(インバウンド・国内旅行・地域観光など)の動向や課題、国の観光政策の方向性をまとめた白書です。直近の2025年版には、次のような内容が記載されています。

■観光庁「『令和6年度観光の状況 令和7年度観光施策』(観光白書)について」■
https://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_00041.html

1)世界の観光の動向

2023年の「外国人旅行者受入数ランキング」において、日本(2510万人)が世界15位(アジアで2位)となりました。また、2024年の国際観光客数は14億4500万人(前年比10.7%増、2019年比1.3%減、世界観光機関(UN Tourism)の統計)と、コロナ前の2019年水準まで回復しています。

2)日本の観光の動向

2024年の訪日外国人旅行者数が3687万人(2019年比15.6%増)と過去最高を記録し、2024年の日本人の国内延べ旅行者数は5.4億人(2019年比8.2%減)とコロナ前の9割程度に回復しています。

3)日本人の国内旅行の活性化に向けて

仕事より余暇を重視する割合が増加傾向にある中で、一人当たり旅行回数の増加や滞在長期化を図る必要があるとされています。地域の取り組み事例として、「何度も地域に通う旅、帰る旅等の推進」「ワーケーション・ブレジャー等の普及促進」などが記載されています。

14 厚生労働白書(厚生労働省)

厚生労働白書は、日本の暮らし(医療・年金・福祉など)と働き方(雇用・労働政策など)の現状と課題、そして厚生労働行政の今後の方向性をまとめた白書です。直近の2025年版には、次のような内容が記載されています。

■厚生労働省「令和7年版厚生労働白書」■
https://www.mhlw.go.jp/toukei_hakusho/hakusho/index.html

1)変化する社会における社会保障・労働施策の役割を知る

次世代の主役となる若者向けに、社会保障・労働施策の歴史や機能、ヤングケアラー支援の取り組みなどが紹介されています。

2)現下の政策課題への対応

本格的な「少子高齢化・人口減少時代」を迎える中で、賃上げ、非正規雇用労働者の処遇改善、女性・若者・高齢者・就職氷河期世代等の活躍促進等、医療DX等の推進といった政策課題の現状や取り組みが紹介されています。

15 男女共同参画白書(内閣府)

男女共同参画白書は、日本社会における男女平等や女性活躍、男性の家事・育児参画などの現状と課題、国の男女共同参画政策の方向性をまとめた白書です。直近の2025年版には、次のような内容が記載されています。

■内閣府「令和7年版男女共同参画白書」■
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/index.html

1)人の流れと地域における現状と課題

全ての都道府県で、家事関連時間は妻のほうが210分以上、仕事関連時間は夫のほうが180分以上長く、「男性は仕事、女性は家庭」という性別による固定的な役割分担が依然として残っていることなどが示唆されています。

2)若い世代の視点から見た地域への意識

東京圏に住んでいる人は、現在も東京圏以外に住んでいる人よりも、出身地域に「家事・育児・介護は女性の仕事」「食事の準備やお茶出しは女性の仕事」等といった固定的な性別役割分担意識が「あった」と感じている割合が顕著に高いとされています。

3)魅力ある地域づくりに向けて

個性と能力を発揮できる環境整備や魅力的な地域づくりに向け、「固定的な性別役割分担意識等を解消する」「全ての人にとって働きやすい環境をつくる」「地域における女性リーダーを増やす」「地域で学ぶ」の4つの取り組みが重要であるとされています。

16 こども白書(こども家庭庁)

こども白書は、日本のこどもや若者を取り巻く状況と、政府が進めている「こども政策」の取り組み状況を毎年まとめた白書です。直近の2025年版には、次のような内容が記載されています。

■こども家庭庁「令和7年版こども白書」■
https://www.cfa.go.jp/resources/white-paper/r07

1)全てのこども・若者が安全・安心な居場所を見つけられる社会を目指して

自殺対策や孤独・孤立対策等の観点から、全てのこども・若者が居場所を見つけることができるよう、こども家庭庁が「こどもの居場所づくりコーディネーター配置等支援事業」「こどもの居場所づくり支援体制強化事業」などを実施しています。

2)若い世代の描くライフデザインや出会いのサポート

若い世代が結婚・子育ての将来展望を描けない状況に対応するため、「若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ(WG)」が開催されています。WGに基づき、各自治体の「地域少子化対策重点推進交付金」において、若い世代の描くライフデザイン支援や官民連携の結婚支援の取り組みを重点メニューとして支援する旨などが記載されています。

3)保育政策の新たな方向性

2025年度から2028年度末を見据えた保育政策の在り方を示した「保育政策の新たな方向性」が取りまとめられています。「1.地域のニーズに対応した質の高い保育の確保・充実(職員配置基準の改善など)」「2.全てのこどもの育ちと子育て家庭を支援する取り組みの推進(こども誰でも通園制度の推進など)」「3.保育人材の確保・テクノロジーの活用等による業務改善(保育士・幼稚園教諭等の処遇改善など)」の3つが柱となっています。

4)こどもの悩みに寄り添える社会に向けて

こども・若者にとっての利益を考え、そのための取り組み・政策を社会の中心に据える「こどもまんなか社会」の実現に向けて、「こどもの悩みを受け止める場に関するプロジェクトチーム」が発足しています。

17 食育白書(農林水産省)

食育白書は、日本人の食生活や「食に関する学び(食育)」の現状と課題、国の食育推進の取り組みをまとめた白書です。直近の2024年度版には、次のような内容が記載されています。

■農林水産省「令和6年度 食育白書(令和7年6月10日公表)」■
https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/wpaper/r6_index.html

1)食卓と農の現場の距離を縮める取り組みと今後の展望

食育に関心を持たない国民が増える中で、持続可能な食料システムを実現していくためには、国民が食生活を通じて農林水産業を意識する機会を作ることが大切であるとされています。食育の事例として「スポーツ選手と子どもたちによる田植えや稲刈り等の農業体験」などが記載されています。

2)消費者の行動変容を促す「大人の食育」の推進

若い世代(20~30歳代)や高齢者世代も、食に関する課題を多く抱えており、健康に生活するための「大人の食育」が大切であるとされています。食育の事例として「会社の従業員が野菜の知識を学ぶプログラム『食育マルシェ』」などが記載されています。

18 防災白書(内閣府)

防災白書は、日本で起きた地震・豪雨などの災害の状況と教訓、国や自治体の防災・減災の取り組みや今後の方針をまとめた白書です。直近の2025年版には、次のような内容が記載されています。

■内閣府「令和7年版防災白書」■
https://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/r7.html

1)令和6年能登半島地震等の概要

被災者の生活と生業(なりわい)支援のためのパッケージの実施、避難生活支援コーディネーター等の育成など、支援体制の強化が進められています。「被災者による朝市の復興(出張輪島朝市)」などのコラム記事も紹介されています。

2)令和6年能登半島地震を踏まえた防災対応の見直し

デジタル技術を活用した防災情報システムの整備や、地域防災力の強化に向けた取り組みが明記され、頻発・激甚化する災害に備える体制強化が進められています。

19 交通安全白書(内閣府)

交通安全白書は、日本の交通事故の実態や原因、歩行者・自転車・自動車などへの安全対策、国の交通安全政策の方向性をまとめた白書です。直近の2025年版には、次のような内容が記載されています。

■内閣府「令和7年版交通安全白書」■
https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/index-t.html

1)交通事故の状況

2024年の交通事故の死者・重症者数は2万9948人で、2015年の4万3076人から10年間で約30.5%減少しています。特に小学生は、2015年が1185人、2024年が686人と約42.1%減少しています。一方で、小学生の飛び出しによる事故が多く発生しており、効果的な交通安全教育等の実施、自動車等の運転者に対する教育の実施の必要性などが示唆されています。

2)通学路における交通安全の確保に向けた取り組み

通学路点検や歩道整備、スクールバスの運行、地域による見守り活動が推進されています。また、最高速度30キロメートル毎時の区域規制等を実施する「ゾーン30」の整備などが進められています。

20 警察白書(警察庁)

警察白書は、日本の犯罪などの治安情勢と警察の取り組み、今後の警察行政の方向性をまとめた白書です。直近の2025年版には、次のような内容が記載されています。

■警察庁「令和7年版警察白書」■
https://www.npa.go.jp/hakusyo/r07/index.html

1)SNSを取り巻く犯罪の情勢

SNSを通じて対面することなく、恋愛感情や親近感を抱かせたりして金銭をだまし取るSNS型投資・ロマンス詐欺の被害が著しく増加しています。匿名・流動型犯罪グループが、仕事の内容を明らかにせず、「高額」「ホワイト案件」等の表現を用いるなどして実行者を募集し、こうした犯罪に及ぶケースが確認されています。

2)SNSを取り巻く犯罪に対処するための警察の取り組み

SNSを取り巻く犯罪に対処するため、デジタル・フォレンジック(犯罪の立証のための電磁的記録の解析技術・手続き)を活用した捜査、匿名・流動型犯罪グループに「雇われたふり」をして検挙するための仮装身分捜査などが進められています。

21 防衛白書(防衛省)

防衛白書は、日本や周辺地域の安全保障環境と自衛隊の活動状況、そして日本の防衛政策の考え方・方向性をまとめた白書です。直近の2025年版には、次のような内容が記載されています。

■防衛省「令和7年版防衛白書」■
https://www.mod.go.jp/j/press/wp/index.html

1)統合作戦司令部と統合作戦

2025年3月に新設された「統合作戦司令部」について記載されています。海・空自の主要部隊や、宇宙やサイバー領域などで活動する部隊の指揮が、平素から統合作戦司令部官に一元化され、各種事態に迅速に対応できる体制になっています。

2)自衛官の処遇・勤務環境の改善、新たな生涯設計の確立

2024年度に取りまとめられた、「自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立に関する基本方針」の一例が紹介されています。自衛官の処遇改善(30を超える手当の新設・金額引き上げなど)、生活・勤務環境の改善(営内隊舎の居室の個室化など)、新たな生涯設計の確立(再就職先の拡充等)といった内容が記載されています。

3)防衛この一年

災害派遣や対領空侵犯措置、在外邦人等輸送任務など、2024年度に国内外で活躍した隊員の声が紹介されています。

以上(2025年12月作成)

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画像:各白書より作成

【営業最強フレーズ集】年末に効く“来年が動くひと言”

年明け、『混じりっけなしの理想』をお聞かせください。実現方法を徹底的に考えます

「年末の挨拶」はお客さまとリアルに会話する絶好のチャンス

年末の挨拶を、「本年も大変お世話になりました。ありがとうございました」という言葉だけで終わらせるのはもったいないかもしれません。

デジタル化が進み、お客さまとの温度感ある接点が少なくなりがちな今、対面や電話で交わす「生の声」は貴重です。特に年末の挨拶は、リアルに言葉を交わす絶好のチャンスです。

短時間で相手の印象に残るよう、そして、年明け早々にスタートダッシュを切り物事を動かしていけるよう、冒頭で紹介したこのフレーズなどを活用してみましょう。

「年明け、『混じりっけなしの理想』をお聞かせください。実現方法を徹底的に考えます」

「混じりっけなし」という言葉はなぜいいか

年末から年明けは、多くの企業で来期の計画を立てる重要な時期です。

ただ、お客さまの頭の中には、どうしても「予算」や「今の体制」といった現実的な制約があります。この状態で普通に「来年はどうしたいですか?」「何がご希望ですか?」と聞いても、制約を考慮した無難な話に終始する、あるいは「制約があるから何もできない」といったことになりがちです。

そこで効くのが、「混じりっけなし」という強い、しかも通常のビジネスではあまり使わない言葉です。 この一言で相手に、「難しいさまざまな条件を横に置くとすると、自分は(自社は)本当はどうしたいのか」を考えるきっかけを与えられるかもしれません。

また、単に「理想は?」と尋ねるよりも「混じりっけなし」という、いわば最大級に強い表現をすることで、視座を一気に引き上げる、突き抜ける感も共有できるでしょう。

そして、大事なのは、少し間を置いて「実現方法を徹底的に考えます」と続けることです。安請け合いをするのではなく、「語っていただいた理想を、現実に落とし込むプランや手段は私も一生懸命考えます。一緒に実現しましょう。実現したいです」という、営業担当者としての等身大の誠実さや責任感を込めるようにします。

実現しようと動く泥臭さや、地に足がついた安心感を持ってもらえるのがベストです。

相手との距離感に合わせてニュアンスを変える

この「混じりっけなし」フレーズは、相手との関係性(距離感)に応じてニュアンスを調整すれば、より自然に相手に届くようになります。

例えば、既存のお客さまで、ある程度信頼関係を構築している場合は、よりパートナーとしての気持ちを込めるのがいいでしょう。

「年明け、予算や今の体制といった制約を一旦忘れて、○○さんの『混じりっけなしの理想』をお聞かせいただけませんか? それを今の状況でどう実現するか、私が徹底的に考えて具体的な計画を立てます。それを基に、一緒に議論してみましょう!」

ポイントは、「夢物語で終わらせない」という意思を、「具体的な計画」と添えて伝えることです。「あなたの理想を実現するために、私は一緒に汗をかきます」という姿勢が、共創、パートナー感を高めます。来期のアップセルを実現したい場合なども効くかもしれません。

一方、これから関係を深めていきたい新規営業先の場合は、少しトーンダウンが必要です。まだ関係が浅い相手に対して、「混じりっけなし」の「理想を語れ」と迫ると、相手が重いと負担に感じることもあり得ます。そこで、「壁打ち相手(相談役)」に立候補することでハードルを下げ、寄り添う姿勢を示します。

「来年は、△△さん(もしくは御社)の『混じりっけなしの理想』を一番近くで共有できる存在になりたいです。まずは一度、『壁打ち相手』として私に話だけしてみませんか? もし必要であれば、理想を実現する方法を私が徹底的に考えてみますので」

ポイントは、売り込みではなく、「あなたの思考を整理するお手伝いがしたい」というスタンスです。これなら相手も負担に感じず、「年明けに、話だけならしてみてもいいか」と考えてくれるかもしれません。

本心からの「未来への期待」を伝える

年末は誰もが忙しく、これまでの振り返りや事務処理などに追われます。年末の挨拶として連絡を入れて来る人も多いでしょう。だからこそ、定型文ではない、未来への意志がこもった温度感ある言葉が、相手の印象に残ります。相手との関係性にもよりますが、最後は、

「来年も御社と一緒に、新しい価値をつくっていけるよう努めます」

このように締めくくる。そして、会話を終えた後、お客さまがふと顔を上げ、「来年は今年より面白いことができそうだ」と少しだけワクワクした気持ちになる。それがお互いにとって一番嬉しいことではないでしょうか。

これまでの感謝に加え、未来への期待を共有して一年を締めくくる。一番大事なのは、営業担当者が心の底から、未来への期待と「一緒に実現したい」という気持ちを込めて伝えることです。それこそが、営業担当者が果たすべき年末最後の仕事であり、次の素晴らしい一年を始めるための、最高の準備といえるでしょう。

以上(2025年12月作成)

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画像:Gemini

【年金制度改正法】 社会保険の適用拡大にiDeCO拡充! 2026年度から始まる5つの改正

1 改正ポイントは5つ、施行日順に紹介!

物価上昇や人手不足が続く中、国の年金制度も「時代に合わせた形」へと変わろうとしています。2025年6月20日公布の年金制度改正法では、在職老齢年金の見直し、社会保険の適用拡大、iDeCo(イデコ)の拡充など、働き方の多様化に対応する仕組みが盛り込まれました。

中小企業が押さえておきたい改正ポイントは次の5つで、2026年4月から順次スタートします。次章以降で、改正のポイントや中小企業で想定される問題、今のうちからやっておいたほうがいいことを社会保険労務士が分かりやすく解説します。ぜひご確認ください。

1)在職老齢年金の見直し

2026年4月から、在職老齢年金の支給停止調整額が「51万円→62万円」に引き上げられます。

2)標準報酬月額の上限引き上げ

2027年9月から2029年9月にかけて、厚生年金保険料については、標準報酬月額の上限(現在65万円)が75万円に段階的に引き上げられます。

3)社会保険の適用拡大

2027年10月から2035年10月にかけて、社会保険に加入する短時間労働者の範囲が段階的に拡大されます。対象は「厚生年金保険の被保険者数」「賃金」の要件です。

4)遺族年金制度の見直し

2028年4月から、子のない配偶者が遺族厚生年金を受け取る場合のルール、子が遺族基礎年金を受け取る場合のルールや加算額などが改正されます。

5)私的年金の見直し

2025年6月20日から3年以内に、iDeCoの加入可能年齢が引き上げられ、さらに企業型DCの拠出限度額が拡充されます。

2 在職老齢年金の見直し

午前中の配送を終えたある運送会社。休憩室で、こんな会話が交わされていました。内容は「在職老齢年金」に関することのようです。

社長:佐藤さん、来月から少し出勤日を増やせない? 若いドライバーが体調崩しちゃってね。

佐藤:社長、ありがたいお話ですけど……これ以上働くと、年金が減っちゃうんですよ。

社長:ああ、在職老齢年金ってヤツだな。

佐藤:はい。月の給料と年金を合わせて51万円を超えると、超えた分に応じて年金が減るんです。だから、出勤日を増やすのは……まあ、基準額が51万円よりも上がったら考えますけど。

1)在職老齢年金の見直しとは?

在職老齢年金とは、

働きながら老齢年金をもらうと、年金額がカットされることがあるという制度

です。厚生年金保険に加入しながら老齢年金をもらう60歳以上の従業員が対象で、賃金と年金の合計額が「支給停止調整額」というボーダーラインを超えると、十分な収入があるとみなされ、老齢年金の一部または全額が支給停止となる仕組みです。

今回の改正では、2026年4月からこの支給停止調整額が「月51万円→62万円」に引き上げられることになりました。簡単に言うと、

  • 賃金(ボーナスを含む年収の1/12)と、老齢厚生年金の合計額が月62万円以下の場合、年金は全額支給される
  • 合計額が月62万円を超える場合、超えた分の1/2の額が年金から差し引かれる

という仕組みになります。これにより、年金を減らされずに働ける範囲が広がり、約20万人が新たに年金を全額受給できる見込みです。具体的には次のようなイメージです(図表の「50万円」は2024年度の金額です)。

在職老齢年金の見直し

2)60歳以降の働き方を見直そう、賃金だけでなく健康・安全対策にも注意!

在職老齢年金の引き上げにより、シニア層は年金額を減らさずに働けることになりますが、次のような問題が起きることも想定されます。

  • 60歳以降も働く従業員が増えることで、人件費が上昇する
  • シニア層が増えることで、健康・安全面での配慮がより重要になる
  • 在職老齢年金に関する従業員からの問い合わせが増える

会社が今のうちにやっておいたほうがいいこととしては、次のようなものが挙げられます。

1.対象者の確認(賃金設計や再雇用契約と照合)

在職老齢年金の対象となるのは、「厚生年金保険に加入しながら老齢年金をもらう従業員」、基本的には正社員です。定年を60歳よりも上に設定している場合、在職老齢年金の適用を受ける従業員が出てくる可能性があるため、賃金設計と照合しながら対象者を確認しましょう。短時間労働者(嘱託など)の場合も、一定の要件を満たせば厚生年金保険の被保険者になるので、再雇用契約の内容にも注意が必要です。

2.年金額と働き方の関係の説明 + 労働条件の見直し(必要に応じて)

在職老齢年金の対象者本人に、「賃金と年金の合計が一定額を超えると支給が調整される」仕組みを説明しましょう。説明が難しい場合は、本人から年金事務所に問い合わせてもらうのも手です。場合によっては、

  • 正社員のまま、在職老齢年金の適用下で働くのか(賃金は変わらないが、年金が減る)
  • 嘱託などに雇用形態を変えて働くのか(賃金は減るが、年金は変わらない)

などについて、従業員の希望を聞きつつ、労働条件を見直します。前者の場合、シニア層の賃金テーブルを見直して、在職老齢年金の適用を受けない設計にすることも考えられますが、賃金額を引き下げることが「労働条件の不利益変更」に該当するケースもあるので、このあたりは専門家に相談しながら慎重に進めましょう。

3.健康・安全対策の強化

シニア層の健康管理、労災防止も大切です。軽作業への転換や朝方シフトへの変更などを検討しましょう。シニア人材が安心して働けるようになれば、企業にとっても熟練の技術や経験を活かすチャンスが増えます。一方、加齢による身体機能の低下は誰しも避けられないので、例えば、1年ごとに再雇用契約を更新するのであれば、更新前に健康診断や体力テストを実施し、更新の可否を検討するのも手です。

3 標準報酬月額の上限引き上げ

とある週末。取引先とのゴルフコンペに参加した管理職たちの間で、昼休憩の雑談が始まりました。内容は「標準報酬月額」に関することのようです。

課長:いや~、昇進で給料上がったのはいいけど、その分社会保険料も上がっちゃいました。

部長:世知辛いよね~。でも、標準報酬月額の上限を超えると、保険料が頭打ちになるから、少し余裕が出てくると思うよ。

課長:でも、この前「保険料の上限が引き上げられる」ってニュースで見ましたよ。あれ、うちの管理職はモロに対象じゃないですか?

部長:まあ、制度を安定させるためだから仕方ないけど、管理職の手取りは確実に減るね……。

1)標準報酬月額の上限引き上げとは?

標準報酬月額とは、

報酬(正確には所定の方法で計算した報酬月額)を一定の金額幅で等級別に区分したもの

で、社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料)を決める基準です。これまで厚生年金保険料については、標準報酬月額の上限が65万円に設定されており、それを超えても保険料は増えませんでした。しかし、近年の賃金上昇により、高収入層の保険料負担が実際の収入に見合わない状態となってきたため、厚生年金保険料の標準報酬月額の上限が、

68万円(2027年9月~)→71万円(2028年9月~)→75万円(2029年9月~)

と段階的に引き上げられることになりました。

標準報酬月額の上限引き上げ

例えば、賃金が月75万円以上の方は、保険料が月9100円上がり、代わりに将来受け取れる年金は月約5100円増える見込みです。

2)昇給スケジュールの調整や労働条件の見直しを検討!

標準報酬月額の上限引き上げにより、高収入層の従業員は将来受け取れる年金が増えることになりますが、一方、会社においては次のような問題が想定されます。

  • 高収入層の従業員の社会保険料(会社負担分)が上昇し、人件費を圧迫する
  • すでに標準報酬月額が65万円を超えている従業員は、社会保険料(本人負担分)が上昇することで、手取りが減る可能性がある

会社が今のうちにやっておいたほうがいいこととしては、次のようなものが挙げられます。

1.高収入層の賃金データを確認 + 昇給スケジュールの調整(必要に応じて)

まずは、上限引き上げの対象となる標準報酬月額が68万円(2027年9月~)、71万円(2028年9月~)、75万円(2029年9月~)の従業員を洗い出し、会社の人件費にどの程度の影響が出るのかを試算しましょう。昇給時期がある程度柔軟な賃金設計になっている場合、対象となる従業員の数、人件費への影響を考慮しながら、昇給スケジュールを調整するのもよいでしょう。

2.従業員への説明 + 労働条件の見直し(必要に応じて)

すでに標準報酬月額が65万円を超えている従業員については、法改正によって社会保険料の本人負担が増えること、同時に将来の年金が増える可能性があることを説明しましょう。手取りの減少が従業員に与える影響が大きいのであれば、手当などを別途支給するのも一つの手です。

4 社会保険の適用拡大

ある日の昼下がり。金属金型の町工場で、こんな会話が交わされていました。内容は「社会保険の適用拡大」に関することのようです。

社長:田中さん、いよいよ社会保険に入ってもらうことになるかもしれないよ。

田中:え? うちは人数少ないから、社会保険には入らなくてもいいって……。

社長:そう……うちは従業員が36人だから、いわゆる「106万円の壁」の対象外だったんだ。でも、その規模要件がだんだん小さくなるらしい。

田中:つまり、私のようなパートでも、週20時間働いたら、社会保険に入らないといけないってことですか? 夫の扶養から外れるのはちょっと困ります……。

1)社会保険の適用拡大とは?

社会保険の適用拡大とは、

社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入する短時間労働者の範囲が拡大されること

です。現行の制度では、次の5つの条件を全て満たす短時間労働者が、社会保険に加入します。

  • 従業員51人以上の企業に勤めている
  • 所定内賃金が月額8.8万円以上(年収約106万円以上)
  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 学生でない
  • 2カ月を超えて雇用される見込みがある

このうち1.の企業規模要件(従業員51人以上)が、10年かけて段階的に縮小・撤廃されることになりました。直近では、2027年10月から、企業規模要件が「従業員51人以上→従業員36人以上」に変わり、2035年10月には要件自体が撤廃されます。

社会保険の適用拡大

さらに、2.の賃金要件(月額8.8万円以上)、いわゆる「106万円の壁」についても、最低賃金の動向などを踏まえ、2025年6月20日から3年以内に撤廃されることが決定しました。

社会保険の適用拡大

つまり、2035年10月以降は、一部の個人事業所(注)を除く「全ての会社」において、

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 学生でない
  • 2カ月を超えて雇用される見込みがある

を満たす短時間労働者が全員、社会保険に加入することになるわけです。

(注)個人事業所についても、これまで社会保険の適用対象外だった、従業員が常時5人以上の農業・林業・漁業、宿泊・飲食サービス業などについては、2029年10月以降、適用対象となります(既存の個人事業所、5人未満の個人事業所は引き続き対象外)。

2)まずは現状の把握、助成金や保険料支援制度も活用しよう!

社会保険の適用拡大によって、今まで以上に多くの従業員が社会保険に加入できるようになりますが、同時に次のような問題が起きることも想定されます。

  • 被保険者の増加により、会社負担分の保険料が上昇する
  • 扶養から外れることを避けたいパート・アルバイトが、勤務時間を減らす「働き控え」を起こす
  • 労務担当者が「加入義務があるかどうか」を判断しにくくなる

会社が今のうちにやっておいたほうがいいこととしては、次のようなものが挙げられます。

1.対象者の洗い出し + 人件費のシミュレーション

所定内賃金・勤務時間を一覧化し、社会保険に加入する見込みのパート・アルバイトを把握しましょう。対象者を洗い出したら、社会保険料(会社負担分+本人負担分)がどれだけ増えるかを試算してみましょう。

2.従業員への説明強化 + 労働条件の見直し(必要に応じて)

社会保険に加入すると、保険料負担が発生する代わりに、「将来の年金額が増える」「傷病手当金や出産手当金が受け取れる」などのメリットがあります。パート・アルバイトにメリットを具体的に伝えた上で、「それでも扶養から外れたくない」という従業員については、個別に相談をし、必要に応じて労働条件を見直しましょう(労働時間を短くするなど)。

3.キャリアアップ助成金などの活用を検討

新たに社会保険に加入するパート・アルバイトの中には「社会保険料が天引きされるなら、労働時間を延ばすなどして賃金を増やしたい」という人もいるでしょう。こうなると会社における人件費負担の増加は避けられませんが、厚生労働省の「キャリアアップ助成金」を活用することで、こうした負担を軽減できる場合があります。具体的には、

  • 短時間労働者を正社員化すると助成が受けられる「正社員化コース」
  • 社会保険加入時に手当支給・賃上げ・労働時間延長を行うと助成が受けられる「社会保険適用時処理改善コース」

などがあります。社内の労務体制を見直すことは、採用や人材定着にもプラスに働きますから、こうした助成金の活用もぜひ検討してみてください。

■厚生労働省「キャリアアップ助成金」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html

5 遺族年金制度の見直し

ある日の午後。総務部では、年末調整に向けた扶養の範囲確認が進められていました。新人の中村さんが、ふと気になったことを先輩の渡辺さんに尋ねます。内容は「遺族年金制度」に関することのようです。

中村:渡辺さんのお母さんって、今も遺族厚生年金をもらってるんですよね?

渡辺:うん。父が亡くなってからずっとだよ。もう5年以上になるかな。

中村:遺族厚生年金って、たしか「妻のほうが亡くなった場合、夫はもらえない」って聞いたことあるんですけど……何か不公平ですよね?

渡辺:今まではそうだったけど、今度の制度改正で変わるらしいよ。男女関係なく支給されるようになるみたい。

1)遺族年金制度の見直しとは?

従業員が亡くなると、従業員により生計を維持されていた家族には、厚生年金保険の「遺族厚生年金」が支給されます。優先順位は、

子のある配偶者・子 > 子のない配偶者 > 父母 > 孫 > 祖父母

で、最も優先順位の高い家族が受け取れます。

これまでの遺族厚生年金は、夫に先立たれた妻を主な対象としており、子のない配偶者が遺族厚生年金を受け取る場合、

  • 妻:配偶者の死亡時、30歳未満である場合は5年間の有期給付、30歳以上は無期給付
  • 夫:配偶者の死亡時、55歳未満である場合は給付なし、55歳以上は原則60歳から無期給付

というように、性別によって給付内容が異なりました。今回はこの点が改正され、

どちらも60歳未満は5年間の有期給付(配慮が必要な場合は継続給付。最長65歳まで)、60歳以上は無期給付

という運用に変わります。また、有期給付については収入要件の撤廃により、年収850万円以上の方も受け取れるようになります。

夫の場合は改正法の2028年4月から、妻の場合はまず40歳未満までを2028年4月から有期給付の対象とし、以後20年かけて段階的に年齢の引き上げを行います。

遺族年金制度の見直し

遺族厚生年金の他に、国民年金の「遺族基礎年金」についても改正があります。現行の制度では、子どもと生計を同じくする父または母がいる場合、子どもには遺族基礎年金が支給されませんが、2028年4月からは、一定の要件に該当した場合は、年金を受け取れるようになります。

遺族年金制度の見直し

また、遺族基礎年金では、18歳到達年度の末日までの子どもの数を基に「83万1700円+子の加算額」を受け取れますが、「子の加算額」も年間23万9300円(3人目以降は7万9800円)から28万1700円(一律)に増額されます。

2)会社の遺族補償制度との関係が複雑に……状況確認とマニュアル整備が不可欠!

遺族年金制度の見直しにより、保険給付を受けられる対象者の範囲が広がる半面、次のような問題が起きることも想定されます。

  • 遺族厚生年金を受け取っている家族が、扶養に入れなくなることがある
  • 「誰が対象で、誰が対象外か」が複雑化し、誤った説明をするリスクが高まる

会社が今のうちにやっておいたほうがいいこととしては、次のようなものが挙げられます。

1.従業員の被扶養者の状況確認

遺族年金(遺族厚生年金・遺族基礎年金)は、税法上は非課税所得ですが、社会保険上の被扶養者の判断においては収入とみなされます。今回の法改正によって、遺族年金の支給対象が広がるわけですが、結果として「これまで遺族年金をもらえなかった家族が、もらえるようになることで社会保険の扶養から外れる」というケースも考えられます。年末調整などにも影響しますので、従業員の被扶養者の状況は定期的に確認するようにしましょう。

2.社内制度との照合+従業員向け説明資料の見直し

多くの会社は遺族年金とは別に、弔慰金・死亡退職金等の社内制度を独自に設けています。その場合、遺族年金と社内制度とで、支給対象となる遺族の範囲や優先順位が異なるケースがあり、それが従業員の死亡時に混乱を招く恐れがあります。社内制度については、「誰が・いつ・どんな条件で支給対象になるか」を簡潔にまとめた説明資料を用意するなどして、「もしものとき」に適切な対応が取れるようにしておきましょう。

6 iDeCoの加入年齢引き上げ・企業型DCの拠出枠拡大

ある学習塾の職員室。来年度も再任用が決まったベテラン講師・高橋さんが、若手講師の相談を受けながら笑っています。内容は「iDeCo(イデコ)」に関することのようです。

若手:高橋先生、まだ現役なんですね! いつまで働く予定なんですか?

高橋:体が動くうちはね。最近は「年金 + 少し仕事」が一番いいと思ってるよ。iDeCoの掛金を増やそうと思ってるんだ。

若手:でも、iDeCoって60歳までしか入れないんですよね?

高橋:ああ、そうなんだけど、来年から変わるらしい。70歳近くまで入れるようになるとか。

1)iDeCoの加入年齢引き上げ・企業型DCの拠出枠拡大とは?

iDeCoは、従業員が自分で掛金を拠出して運用する、個人型の確定拠出年金です。現行の制度では、会社員(国民年金の第2号被保険者)の場合、iDeCoに加入できるのは65歳までですが、

2025年6月20日から3年以内に、加入可能年齢が70歳に引き上げ

られることになりました。

企業型DCは、会社が掛金を拠出するものの、運用は従業員が自分の責任で行うという確定拠出年金です。企業型DCには、会社が拠出している掛金に、従業員自身が掛金を上乗せすることができる「マッチング拠出」という仕組みがあります。現行の制度では、従業員の掛金が会社の掛金を超えられないという制限がありますが、

2025年6月20日から3年以内に、この掛金に関する制限が撤廃

されることになりました。

さらに、企業年金制度全体の透明性を高めるため、運用状況や残高をオンラインで確認できる「見える化」も進む予定です。これらの改正は、長く働く人の老後資金づくりを後押しするのが目的となっています。

iDeCoの加入年齢引き上げ

2)必要に応じて退職金制度や福利厚生の見直しを!

iDeCoや企業型DCの制度拡充によって、これらの利用が進むことが期待されますが、同時に会社においては、次のような問題が起きることも想定されます。

  • 従業員から「自分はiDeCoや企業型DCを利用できるのか」「他の会社は導入しているのに、なぜうちの会社では企業型DCを導入しないのか」などの問い合わせが増える
  • 投資未経験者には「損をするのでは?」という心理的ハードルがあり、制度を導入しても、社内で理解・利用が進まない可能性がある

会社が今のうちにやっておいたほうがいいこととしては、次のようなものが挙げられます。

1.退職金制度の見直し(必要に応じて)

現在、多くの会社が導入している退職金制度は、退職時に一括で支払う「退職一時金」ですが、企業型DCを導入した場合、退職金は年金で支払われるため、会社側の支払い負担は平準化されます。従業員アンケートなどで退職金制度に対する従業員のニーズを拾いつつ、会社側の人件費負担も考慮しながら、必要に応じて退職金制度の見直しを行いましょう。

2.従業員への説明 + 福利厚生の見直し(必要に応じて)

iDeCoや企業型DCについて、「投資は難しそう……」「運用に失敗したらどうしよう……」と不安を抱く従業員もいるでしょう。いきなり難しい投資の話をするのではなく、まずは「老後資金を国の制度で積み立てられる制度」である旨を伝え、苦手意識を取り払いましょう。最近は、iDeCoや企業型DCの将来的な受取額を試算できるシミュレーションシステムも多いので、こうしたものを従業員に勧めてみるのもよいでしょう。また、iDeCoについては、

拠出限度額の範囲(月額0.5万~2.3万円)で、iDeCoに加入する従業員の掛金に追加して、会社が掛金を拠出できる「iDeCo+(イデコプラス)」という制度

があるので、こうした制度を導入し、従業員の不安を軽減するのもよいでしょう。

以上(2025年12月作成)

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画像:beeboys-Adobe Stock

【ハラスメント対策】法改正で対策義務化! 就活ハラスメントにどう立ち向かう?

1 いわゆる「就活セクハラ」への対策が義務化!

「就活ハラスメント」とは、

  • インターンシップやOB・OG訪問などの後、食事やデートに執拗に誘う
  • 「内定を出すから」と言って、他社の選考を辞退するよう要求する

などの就活生に対するセクハラ(セクシュアルハラスメント)やパワハラ(パワーハラスメント)のことです。

会社は、職場におけるハラスメントについて一定の防止措置を講じる義務を負っていますが、就活ハラスメントについてはこれまで、「(ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化等をする際に)同様の方針を合わせて示すのが望ましい」というレベルにとどまっており、各社の対応にバラツキがありました。

しかし、2025年6月11日公布の改正男女雇用機会均等法により

いわゆる「就活セクハラ(後述)」について、セクハラを防止するために必要な措置を講じることが義務化

されることになりました(公布日から1年6カ月以内に施行予定)。就活生を対象とするハラスメント規制も強化されつつあるのです。

また、就活生は応募する会社について知人と情報交換したり、SNSのグループに参加したりしています。「自社が就活ハラスメントをしている」との情報が出回ったら、そのような会社に応募しようとする学生はいなくなってしまうかもしれません。

ハラスメントにもいろいろありますが、今、経営者が注目すべきものの1つに就活ハラスメントがあるのです。改めてリスクや防止策を紹介します。

■厚生労働省「今すぐ始めるべき就活ハラスメント対策!」■
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/syukatsu_hara/enterprise/

2 就活ハラスメントの4つの種類

1)就活セクハラ(就活生に対するセクシュアルハラスメント)

就活生に対する身体的な接触や言葉による性的な嫌がらせです。

  • 不必要に体に触る
  • 「内定を出すから」と言って性的な関係を要求する
  • 性的な冗談を言う、恋愛経験などを尋ねる
  • オンラインの採用面接で、体全体や部屋の様子などを見せるよう要求する
  • インターンシップやOB・OG訪問などの後、食事やデートに執拗に誘う

2)オワハラ(就活終われハラスメント)

就活生の内定辞退を回避するための嫌がらせです。

  • 「内定を出すから」と言って、他社の選考を辞退するよう強要する
  • 他社の選考と日程が重なることを知りながら、内定者懇親会に連れ出すなど、他社での就活を妨害する
  • 内定を辞退しようとした場合、「ふざけるな」「嘘つきだ」と罵る。または「訴える」「内定を辞退するやつだと他の会社に言いふらす」などの発言をする

3)圧迫面接

就活生のストレス耐性や状況判断能力を試すため、採用面接で必要以上に否定的な発言をしたり、嫌な態度を取ったりする嫌がらせです。

  • 採用担当者の質問に就活生が回答した際、正当な回答かどうかに関係なく否定する
  • 「それで?」「理由は?」といった発言を必要以上に繰り返し、回答をできなくさせる
  • 就活生の適性に関係なく、「ウチの会社には向いていない、通用しない」と言う
  • 就活生の発言中にため息をつく、携帯電話を触るなど、あからさまに嫌な態度を取る

4)その他

1)から3)以外の就活ハラスメントとしては、パワハラを含め、次のようなものがあります。

  • 「男のくせに覇気がない」「女はすぐ辞めるから困る」などと、差別的な発言をする
  • 結婚したり妊娠したりした場合に、会社を辞めるかどうかを聞く
  • 内定した学生に、内定者でつくるSNS交流サイトに毎日の書き込みを強要する。書き込みをしないと「やる自信がないなら辞退しろ」など、威圧的な態度を取る
  • インターンシップに参加した学生に対し、人格を否定するような暴言を吐く

3 就活ハラスメントのリスク

1)就活ハラスメントは民法の「不法行為」になり得る

就活ハラスメントによって、就活生が精神的な苦痛を受けた場合、

民法の「不法行為」(故意・過失によって他人の権利や法律上の利益を侵害する行為)

が成立する可能性があります。ハラスメントを行った社員は損害賠償を請求される恐れがあり、会社も就活生から使用者責任を問われ損害賠償を請求される恐れがあります。

また、言動によっては刑法が適用される可能性もあります。

  • 不必要に体に触る(不同意わいせつ罪)
  • 内定を辞退しようとした就活生に「訴える」「内定を辞退するやつだと他の会社に言いふらす」などと発言する(脅迫罪)
  • 人格否定や差別的な発言をする(侮辱罪)

2)会社のイメージが低下し、採用ができなくなる?

就活生がSNSに「就活ハラスメントを受けた!」と書き込んで、それが拡散されれば、ハラスメントが横行している会社だと見られ、会社のイメージは低下します。また、大学のキャリアセンターなどでは、就活ハラスメントに関する就活生からの相談を受け付けているので、大学に定期的に求人を出している会社の場合、今後の大学との関係にも影響が出るかもしれません。

就活ハラスメントに関する就活生からの相談は、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)でも受け付けていて、就活ハラスメントをした会社には、助言や指導が入る可能性もあります。

4 就活ハラスメントの防止のポイント

1)「会社と就活生は対等」という意識を持つ

就活ハラスメントが起きやすい会社は、就活生に対して「雇ってやる」「試してやる」といった上から目線の態度を取っているケースが少なくありません。雇用が懸かっている就活生は、こうした会社の態度を拒否することができず、それが就活ハラスメントの問題を深刻化させるのです。

会社として就活生に適性があるかを見極めることは大切ですが、入社した場合は、会社も労力を提供してもらう立場になるわけですから、常に「会社と就活生は対等」という意識を持って採用活動に臨むことが大切です。

2)「業務上必要ない対応」「行き過ぎた対応」を洗い出して排除する

就活ハラスメントが違法になる(民法上の不法行為などに当たる)場合、次の1.か2.に該当している可能性が高いです。

  • 1.会社の対応(採用面接での質問など)が、業務上必要ない
  • 2.業務上必要があったとしても、行き過ぎている

就活セクハラなどは1.に当てはまります。オワハラや圧迫面接などは、1.に当てはまるケースもあると思いますが、仮に「内定辞退を防ぎたい」「就活生のストレス耐性や状況判断能力を試したい」という会社の思惑があったとしても、2.に該当する可能性が高いです。

就活生に対する不法行為や不適切な言動が行われないように、2章で紹介したような言動を排除していった上で、就活生への対応の仕方を模索していきましょう。例えば、

  • 就活生を内定者懇親会に連れていきたいのであれば、オワハラにならないよう本人のスケジュールを考慮する。就活セクハラ(個人的な食事やデートの誘い)にならないよう時間を区切り、2人以上の社員で参加し、個室はできるだけ避ける
  • 場の雰囲気を和ませたいのであれば、就活セクハラ(性的な冗談など)や差別的な発言(「男は○○だから、女は○○だから」など)に該当しないジョークを織り交ぜる
  • 就活生のストレス耐性や状況判断能力を試したいのであれば、圧迫面接という形ではなく課題などを与えてみる

といった具合です。

3)社内のハラスメントの防止措置を、就活ハラスメントにも適用する

第2章の1)で紹介した「就活セクハラ」については、冒頭で紹介した通り、2025年6月11日から1年6カ月以内に、防止措置を講じることが会社に義務付けられます。改正男女雇用機会均等法では、

  • 就活生からの相談に応じ、対応するための体制の整備などが求められること
  • 防止措置を講じない場合、厚生労働大臣による勧告が行われ、それにも従わなければ「企業名公表」の対象になること

などが定められています。

オワハラなど他の就活ハラスメントについては、特に防止措置は義務付けられていませんが、

若者雇用促進法に基づく事業主等指針に、会社は就活ハラスメントに対して「必要な注意を払うよう配慮する」取組を行うのが望ましい

という記載があり、前述したリスクの観点からもやはり防止措置を講じたほうがよいでしょう。

就活セクハラの防止措置の詳細は今後厚生労働省の指針で定められる予定ですが、現時点でも、職場におけるハラスメント(社員に対するハラスメント)については、労働施策総合推進法などにより、次の4つの防止措置が義務付けられています。現状は、この防止措置の対象範囲を、就活ハラスメントにも拡大するというのが無難な対応です。

  • ハラスメントに対する対応方針(ハラスメントを許さない旨など。就業規則等の文書に規定)の策定、周知徹底
  • ハラスメントに関する相談窓口の設置、運用
  • ハラスメントに関する相談があった場合の事実確認、行為者の処分、再発防止策の検討
  • プライバシーの保護、相談者などに不利益な取扱いをしない旨の周知徹底など

1.については、「会社として就活ハラスメントを許さない」旨と就活ハラスメントの具体的な言動の内容を、ハラスメントの方針に書き加え、社員に周知徹底します。加えて、外部の専門家(弁護士など)に依頼して、採用活動や面接、OB・OG訪問、インターンシップを担当する社員向けにマニュアルを作成したり、就活ハラスメントに関する研修を実施したりするのもよいでしょう。

2.については、選考に先立って、ハラスメントに関する相談窓口の連絡先を、就活生と共有します。万が一、就活ハラスメントが発生しても、相談を受けた後で迅速に対応すれば、大きなトラブルに発展するのを防げるかもしれません。社内の相談窓口で就活ハラスメントに対処できるかが不安な場合、外部の相談窓口を利用するとよいでしょう。

3.と4.については、基本的に社内のハラスメントでの対応と同じです。

以上(2025年11月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田絹助)

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