目次
1 「残業当たり前」のブラック企業も大きく変われる
「2015年に私が会社を継いだときは、完全に今でいうブラック企業でした。ただ、当時は日本中でたくさん残業して働くことが美徳で、ブラック企業という言葉も考え方もほとんどなくて。それが当たり前の時代だったんです」
さらりと穏やかにそう語るのは、福島県福島市に本社を置くケーエフエスグループ代表取締役、小島清一郎氏(以下「小島代表」もしくは「代表」)です。

写真:会報誌「ひとと、まちと。」をご紹介くださる小島代表。
「人」「地域」を大事にしていることが伝わってくる
ケーエフエスグループは、会計事務所を母体としながら、現在は企業の「未来会計(管理会計)」や「経営計画策定」支援、経理などの「バックオフィス支援」、補助金申請や事業承継、M&Aなどコンサルティングまでを幅広く手掛けるプロフェッショナル集団です。
創業から事業承継まで、企業のライフステージごとにサポートしてもらえるサービスがあり、中小企業が丸ごとお世話になることができるイメージです。
■ケーエフエスグループのコーポレートサイト■
https://kfs-group.jp/

■グループ会社・株式会社トトノエのバックオフィスアウトソーシングサービス「トトノエ」■
https://kfs-fukushima.com/totonoe/

現在はこうしたさまざまな中小企業支援で知られるケーエフエスグループですが、時計の針を10年前に戻すと、今の姿からは想像もつかない実態がありました。
深夜残業は当たり前、有給取得は“怠け者”とみなされ、勤怠管理さえ存在しない。さらに、当時は東日本大震災から数年後で、特に福島県では風評被害の影響も出ていました。
そんな矢先に降りかかったのが「労基署(労働基準監督署)の立ち入り調査」だったのです。
そこからの10年間で、小島代表は会社を大きく変貌させます。
残業はほぼゼロへ。
社員数は約3倍、そしてなんと、売上は4倍に。
厳しい状況から、ケーエフエスグループがいかにして高生産性企業へと生まれ変わったのか。小島代表はどのようなことを仕掛けてきたのか。以降ではその改革を紐解いていきます。
実は、同社の変革は単に残業削減、業務効率化だけの話ではありません。肝となるのは
「高付加価値化」
です。
「高付加価値化も実現し、同時に売上も上げていく、真の生産性向上の話」
です。結果的に、10年経って、売上は4倍にもなっています。小島代表が惜しみなく教えてくれた方法は、多くの中小企業に当てはまりますし、活用できる具体的なポイントもあると思います。業務効率化と高付加価値化は同時に実現できる、むしろ、同時に実現すべきだ、ということがよく分かります。ご参考になれば幸いです。
2 雨の日、突然の「労基署」
2015年当時、代表に就任したばかりのころは、時代的に「長時間労働こそが正義」という空気が蔓延していました。
「当時10年前は、社員も皆、ブラック企業という言葉もほとんど意識していなかったし、”有給を取るのは怠け者”みたいな感覚があったり。うちの会社だけではなくて、日本全体がそういう雰囲気でした」
こう振り返る小島代表です。実際に、ケーエフエスグループの社員たちも、残業が多くても疲弊しているという感覚もなく、深夜1時2時まで働くことが「普通」になっていたある日、衝撃的な出来事が起こります。
雨が降る日のことでした。
「その日が雨だったことを、私は覚えています。車が横付けで順番に来て、4人くらいのスーツを着た人が降りて、事務所にいきなり来て『労基署です』と。そんな状態だったんです」
労基署が入ったのは、おそらく、退職したナンバーツーの社員が労基署に訴えたと思われるそうです。
当時の先代社長は昭和気質な経営者だったこともあり、小島代表は、この労基署立ち入りのタイミングで、36歳にして経営のバトンを受け取りました。相手に対してファイティングポーズをとらない常に穏やかで優しい人柄、それでいて、強い芯と覚悟を持って仕事に向き合う姿勢、物事の本質を素早くとらえ疑問点に鋭く突っ込む視点も併せ持つのが小島代表です。
小島代表が会社を継いだのは、言葉を選ばずに言えば最悪のときでした。しかしだからこそ、「会社を潰してはならない」と腹を括ります。
「お客さまを守る、地域を守る。そのためには会社を潰してはならない。やるしかない」
その覚悟で、小島代表は労基署の是正勧告に向き合い、組織の大改革へと踏み出したのです。
継いで最初の大仕事が労基署への対応。これはかなり壮絶な日々だったと思います。
3 職人集団に「製造業」の仕組みを持ち込む
残業を減らすために小島代表が着手したのは、会計事務所によくみられる「属人化」にメスを入れることでした。
一般的に会計業務は、「このお客さまのことは、この担当者しか分からない」という状況になりがちです。すべてを担当者一人が抱え込むため仕事の中身がブラックボックス化し、手伝うことも管理することも難しい状態です。まさしく属人化です。
そこで小島代表は、このある意味「職人的な現場」に、
製造業の「工程管理(製販分離)」の考え方
を持ち込みました。分かりやすくいうと、
属人化している仕事の中にある、「誰がやっても同じ結果になる業務」を、切り離して見える化する
という方法です。「うちの会社の業務は属人化しているものが多いから、効率化は難しい」という中小企業は多いかもしれませんが、この工程管理の考え方であれば取り組めるかもしれません。具体的な方法について、次のように小島代表は教えてくれました。
「まず、『属人化の定義』ってめちゃくちゃ大事だと思っています。業務全部が属人化、つまり、その人しかできない特殊な業務なわけじゃないんですよね。
例えば、どんなお客さまに対してもお見積もりを出しますよね。同じように、どのお客さまにも請求書を発行します。お見積もり提出、請求書発行、これは誰がやっても同じ結果になります。仕事を分解していくと、こういう誰がやっても同じ結果になる業務が、4割くらいあることに気づきます。こういう業務は引き剥がせるんです。
まずは仕事を分解してフローをつくって、そのフローの中で引き剥がせるものを具体的に切り出していくことが大事です」
これは、実に分かりやすい話です。このほか、決算書などの資料を回収する、回収した資料のデータを入力するなども、誰がやっても同じ結果になる業務です。
こうした誰がやっても同じ結果になる業務を切り出した上で、そこにルールを定めました。例えば次のような具合です。
- お客さまから2日以内に資料を回収する
- 回収したら3日以内にデータ入力を終える
- データ入力が終わったら次工程へ回す
これを「ラインシート」と呼ばれる工程表で管理し、製造ラインのように、「仕事がどこで止まっているか」を全員が見えるようにしたのです。とても分かりやすい、公平な見える化、透明化です。そして、小島代表は、
このルールを守ることを全員に徹底し、今も継続して徹底し続けている
のです。これがとても重要です。ルールの徹底は非常に難しいことですが、やり続けています。
こうした業務の透明化は、自分のやり方に誇りを持つベテラン社員たちの反発を招きました。
「やはり、できる人ほど自分の仕事を管理されたくないものです。2日以内に出してとか、3日以内に終わらせてと言われるのは、いい気持ちはしないでしょう。できる人ほど自分のやり方やペースに自信があり、慣れていますから、自分の手法でやりたいという感じがありました」
と続ける小島代表。「管理されたくない」「自分のペースでやらせてほしい」。この製造業の工程管理を取り入れてすぐの時期は、そう言って去っていく社員もいたそうです。
全員の業務の見える化を行うと、ある意味、残酷なほど進捗状況はつまびらかになります。例えば、ベテラン社員が資料の回収納期を1件も守れていない一方で、新入社員は全件クリアしているなど。しかもその状況は、全員に知れ渡ります。全員でルールを守ることを考えると、年次や役職にかかわらずこうして皆の進捗状況が明らかになるのは正しいことです。しかし、心情的には納得がいかない社員もいたかもしれません。
それでも小島代表は、「期限を守る」「進捗を見える化する」というルールを10年間徹底し続けて来たのです。結果、社員数は減るどころか約3倍になりました。特に経営者の方は、このすごさが分かるのではないでしょうか。
「誰がやっても同じ結果になる業務」について工程管理し、納期などルールを徹底し、効率化を図る。しかも進捗状況は全員で共有する。この方法は、ともすれば社員にとって厳しいだけのものになりかねません。しかし、小島代表が取り組んだ改革は、そうではないのが大きな特徴です。なぜなら、次のことも行っているからです。
- 効率化だけでなく、「高付加価値化」も同時に実現する
- 社員一人ひとりへの声かけも実践し続ける
以降では、改革の「肝」ともいえるこの2点についてみていきます。
4 「高付加価値化」で社員はワクワクできる
多くの企業が「時短」「効率化」だけを追い求めますが、小島代表はそれだけでは不十分だと語ります。
「生産性は、計算式で見ると『かけた時間や人』で『付加価値』を割る割り算なんです。時間や人の効率化だけ実施しても、生産性は上がらない。同時に付加価値を上げていく必要があります。そして結局、その生産性を上げることで賃上げが実現できるんです」
時間を減らすだけでは売上は上がりません。効率化して空いた時間で何をするか。どのようにして価値を高め売上を上げていくか。そこがとても重要だと小島代表は強調します。
例えばケーエフエスグループは、お客さまである法人の過去の数字をまとめるだけでなく、お客さまと共に未来を描く「未来会計(管理会計)」も提供し、現状とのギャップを埋めるよう伴走していく。そうしてお客さまに対する付加価値を高めてきました。
「高付加価値化」という言葉だけだと具体的に何をしていいか分からない社員が出てきそうですが、小島代表が社員に伝え、実際に浸透している考え方は次の通り、とても分かりやすいものです。
「1時間の中で、自分の付加価値を最大化するために何をすべきか」
例えば、1時間の中で、お客さまに合ったソリューションを提案してアップセルを図る、未来会計の取り組み事例を事例集にまとめ新規・既存のお客さまに配信する準備をする、などいろいろと考えられるでしょう。
「1時間の中で自分はお客さまのためにどのような付加価値を出せるか」、もっと直接的に「1時間の中でどのように売上に貢献できるか」というのは、社員にとってとても考えやすいですし、ワクワクして意欲的にもなってきます。
AIやアウトソーシングに任せられる業務は切り出し、社員は人間にしかできない付加価値を高めるコンサルティング業務などに注力し、売上に貢献できる仕組み。ケーエフエスグループは、これをやり続けて、労働時間を減らしながら、売上4倍という数字を実現してきたのです。
5 厳しいルールを支える「声かけ」「伴走」
ルール厳守を徹底することと同じくらい、いや、もしかしたらそれ以上に小島代表が大事にしてきたのが、「声かけ」による「伴走」です。代表は、「声かけは本当に重要です」と強調します。
「うちの会社は、今は残業がほとんどありません。1日8時間。それでも社員は皆、『忙しい』って言うんです。これってどういうことかと考えた時に私が思ったのは、やはり心の問題の『余裕』とスキルの問題の『余力』。これがすごく影響してきます」
気持ちがいっぱいいっぱいになってしまうと心に余裕がなくなり、仕事に追われている感覚になったり、困りごとを一人で抱え込んでしまったりしがちです。そこで小島代表は、社員が孤独に陥らないよう、組織全体に「声かけの連鎖」を作るよう率先して実践してきました。
代表自身が幹部に声をかけます。「困っていることはない?」「大丈夫か?」と、常に気にかける姿勢を示す。
すると、それを受けた幹部やマネージャーは、その接し方を真似て、自分の部下に同じように声をかけるようになります。
「進捗詰まってるところある?」
「いつでも隣にいるから、ちょっとしたことでもいいので相談してね」
そうして上司が部下に寄り添い、一緒に走る。そうして社員に心の余裕が出るようにします。
それと同時に、「スキルアップ」も大事です。社員のスキルを高めるよう、業務について、会計についてなどを教育していきスキルアップが実現できれば、「余力」が生まれます。
小島代表は、社員一人ひとりの「余裕」と「余力」を重視しており、「2割くらいは余裕、余力がある状態になるのがいいと思います。そのほうが社員も意欲的になりますし、幸せではないでしょうか」と語っています。
例えば、ケーエフエスグループの福島本部では、もし残業したい場合は、朝「残業申請」を出し、上司がOKを出さなければ残業することができません。これも単なる管理ではなく、「その仕事、本当に今日やる必要がある?」「今のスキルで本当に2時間で終わる?」とユニットリーダーが問いかけ、社員が自分の仕事に対してタイムマネジメントができるようになるまで指導する仕組みです。
もう一つ大事な仕組みがあります。同社では、毎月1日には、全社的に手を止めて全体会議をします。「今月のラインシート」を発行して「今月何をするか」が分かるようにします。そうすると、社員一人ひとりが今月何をしなければならないかが明確になり、マインドセットすることもできます。これも心の余裕につながっていきますし、難しそうなところはあらかじめ上司に相談することもできます。
できない人がいれば、切り捨てたりルールで縛ったりするのではなく、寄り添う。伴走する。スキルが足りないのであれば、その事実を認識させた上でスキルアップできるように指導し、とことん付き合います。
「一番は社員がやりがいを感じ、意欲があることが大事だと思っています。スキルは与えることができる。社員には、とことんつきあう。誰でも伸びるところはあります」
厳しさの中で、支援する姿勢を示し、実践しています。
この「徹底した声掛け」「伴走」があるからこそ、社員たちも改革という高い壁に挑むことができたのではないでしょうか。時間も労力もかかりますが、とても大事な点だと思います。
6 そして、改革後にかかってきた一本の電話
改革の道のりは決して平坦ではなく、大変なことも多々ありましたが無我夢中でやり続けてきた小島代表。着手から3年が過ぎたころには、社内もだいぶ改善され、売上も伸びてきていました。
そんなある時、思いがけない人物から、代表宛に一本の電話が入ります。
それは、かつて厳しい指導を行った労基署の担当者からの電話でした。
当時、是正勧告の最中にその担当者は、小島代表にこう声をかけていたといいます。
「労基署が入りましたが、これを機にしっかり対応して改善に取り組めば、きっといい会社になりますよ」
その言葉は、予言のように現実となりました。
数年後、小島代表が自らの改革の軌跡を綴った書籍『残業だらけで倒産寸前だった会社の経営者になった私が、3年間で売上を3倍にできた理由』を出版した際、その労基署の担当者がわざわざ電話をかけてきてくれたのです。そしてこう言ったそうです。
「書籍を出したのを見ましたよ。本当によかったですね」
この労基署の担当者もまた、会社の更生と成長を願っていた一人でした。
小島代表の「やるしかない」という覚悟と思い、必死でやり抜いてきたことが、社員たちにも、そして労基署の担当者にも届いたということなのかもしれません。小島代表が教えてくれたこのエピソードは、とても印象的です。

写真:労基署担当者からの電話の
きっかけとなった小島代表の著書
7 経営者は何を大切にして、どこを目指すのがいいか
雨の日の労基署立ち入りから始まった10年。
改革を成し遂げ、そして今もやり続けている小島代表。効率化と高付加価値化を同時に実現し、生産性を上げて、残業なし&賃上げで社員に還元したいと語ります。
最後に、小島代表に、同じように残業が多いことで悩む中小企業の経営者にメッセージをお願いしました。
- 経営者自身が、「社員の豊かな生活」「理念の達成」といった「なんのために経営をしているか」ということを起点にして、どうすればいいかを自ら考え実践することが大事。働き方改革や法改正など外部環境の変化があるから、ということではなく。
- 社員が残業がなくて働いているほうが、皆笑顔で明るくて。そういう状況のほうが、豊かでいいと思う。
- 日本をよくするために、社員一人ひとりが豊かになること、こういうことを多くの経営者の方とともに実現できたらいいなと考えている。
こうした趣旨のことをメッセージとしてお話しくださいました。最後は、小島代表ご自身の言葉を、動画でそのままお伝えしたいと思います。ぜひ次の動画を見ていただければ幸いです。
小島代表が10年かけて証明し続けているのは、どんな状況からでも組織は変われること、そして「人を大切にする経営」こそが、結果として最強の成長戦略になり得るという事実でした。
■小島代表がメッセージとしてお話されている動画■
https://youtu.be/k7ROBZDpYEA
以上(2026年7月作成)
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画像:日本情報マート















