2023WBC監督・栗山氏がキャプテンを指名しなかった理由

日本代表チームの一員なのではなく、あなたが日本代表チーム、要するに自分のチームだと思ってほしい

栗山英樹(くりやま ひでき)氏は、元プロ野球選手であり、北海道日本ハムファイターズ、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)日本代表の監督を務めた人物です。日本ハム監督時代は若手育成とチーム再建を両立させながらチームを日本一に押し上げ、また、2023年にはWBC日本代表監督としてチーム「侍ジャパン」を14年ぶりの世界一に導きました。

冒頭の言葉は、WBC開幕を前に、栗山氏が代表選手全員に宛てた手紙に書いたものです。侍ジャパンは短期間で編成され、価値観も立場も異なる選手が集まります。その中で栗山氏が共有した一文には、チームづくりに対する思いと覚悟が凝縮されています。

栗山氏は、WBC優勝を振り返って、「勝運を呼び込んだのは無私だった」と語っています。代表に選ばれた選手たちは、誰もが球界を代表する存在であり、「活躍したい」「自分の力を証明したい」という強い思いを持っています。トップレベルの選手であれば、そうした欲求を抱くのは当然のことですが、選手が「自分の成果」のことしか考えなくなったら、チームはバラバラになってしまう。栗山氏が重視したのは、個々の欲求を否定することではなく、それを「チームを勝たせるための力」へと昇華させることでした。

この考えは、栗山氏が監督を務めた2023年WBCの侍ジャパンのチーム編成にも表れました。このチームには、「キャプテン」という役割がなかったのです。責任を一人に背負わせるのではなく、全員が等しくチームの当事者になる。その覚悟を、栗山氏は手書きのメッセージという形で丁寧に伝えたのです。

「試合に出場する選手だけでなく、ベンチにいる選手、裏方の役割を担う選手も含め、全員がチームを『自分ごと』として捉えていたからこそ、それぞれが勝利のために何をすべきかを理解し、自然と行動できた。だから、最後は運までも引き寄せることができた」と栗山氏は語っています。

栗山氏の語る「無私」とは、自己を消すことや我慢を強いることではありません。会社や組織を「誰かのもの」として眺めるのではなく、「自分が背負うもの」として引き受けるということです。会社においても、「従業員全員が会社の代表である」という意識が育ったとき、組織は単なる労働の場から、目的を共有するチームへと変わっていきます。指示された仕事をただこなすのではなく、一人ひとりが自ら考え、判断し、動く組織へと進化するのです。

その意識を育てる際、まず問われるのは経営者自身の姿勢でしょう。社員を「雇用している人間」として一方的に指揮をとるのではなく、共に勝利を目指す同志として、心の底から迎え入れる勇気を持てるかどうか。その覚悟こそが、組織が優勝を掴もうとしたときに、「運」を引き寄せる分岐点になるのではないでしょうか。

「運を味方にする人の生き方」(栗山英樹、横田南嶺・共著、致知出版社、2025年1月)

以上(2026年3月作成)

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【書籍ダイジェスト】『食って、出して、死ぬ』

本書は、海鳥、クジラ、サケ、ヌー、ユスリカなどさまざまな生物を対象とした調査や研究をもとに、それらの「食べて、排泄して、死ぬ」という行動が、生態系に及ぼす影響を解き明かしている。
栄養素は、重力や風や水流によって運ばれ、深海にたどり着くことになるが、クジラが深海で食事をし、海面に上がって栄養素を豊富に含む糞をすることで、海底にとどまることなくプランクトンに消費され、地球を循環する。またユスリカは、湖の中で藻を食べて育ち、成虫となって飛び立つが、その大量の死骸が周辺の植物を育てる栄養になるという。

書籍ダイジェストは、こちらからお読みいただけます。pdf

「社員に伝わるメッセージ」を実現するための4原則

1 効果的にメッセージを伝えるための4原則

仕事に対する価値観、働き方の変化は昨今著しく、組織をまとめることはますます大変になっています。経営環境が変われば社員も不安になります。そのようなときに必要なのは経営者のメッセージです。

経営者の中には「うちは人数が少ないし、特別なことをしなくても、私(経営者)の考えは社員に伝わっている」と思っている人もいるかもしれません。しかし、残念ながらそれは勘違いです。他人同士が互いの考えを共有するまでには想像以上に長い時間と、伝える努力、そして聞く努力が必要なのです。

全員が目指すべきゴールを共有した一体感のある組織。これを実現するために、経営者自身が、今何を考え、どのような方向に企業を導こうとしているのかを社員に伝えるのです。そして、このメッセージをより効果的に伝えるためにぜひ知っておきたいのが、次の4原則です。

  • 直接性の原則:社員に直接語りかける
  • 公開性の原則:伝えるべきかどうか迷ったら、原則伝える
  • 定期性の原則:定期的にメッセージを伝える機会を設ける
  • 複合性の原則:多様なツールを組み合わせて伝える

2 直接性の原則:社員に直接語りかける

メッセージは、経営者が自分の言葉で、直接社員に語りかけます。ここでいう「直接」には、対面のコミュニケーションだけではなく、チャットや社内報などのツールも含みます。

直接伝えることが大切な理由は、メッセージが省略されたり、経営者以外の人の独自の解釈が加わったりするのを防ぐためです。「経営者→経営幹部→一般社員」といった伝言ゲームでは、正しくメッセージが伝わらない場合があるので、直接経営者の言葉で語りかけましょう。

【実践のポイント】

  • 短くても構わないので、経営者自身の言葉で語る
  • 「なぜそう考えたのか」という背景や理由も添える
  • 対面が難しい場合は、動画メッセージや音声メッセージも効果的

3 公開性の原則:伝えるべきかどうか迷ったら、原則伝える

メッセージの内容によっては、「これは、全ての社員に伝えるべきか・・・・・・」と迷うこともあるでしょう。そのような場合は、基本的な内容を伝え、さらに詳しい情報を求めてくる社員には必要に応じて追加情報を伝えるようにしましょう。

例えば、経営者と経営幹部が新規事業について話しているのを聞いたら、もっと詳しく聞きたいという社員が出てくるでしょう。内容にもよりますが、「物事をより深く知りたい」という社員は見所がありますから、詳しい情報を求めてきたら、公開できる情報はできるだけ迅速に伝えるようにしましょう。

【実践のポイント】

  • 「今は言えない」場合も、「なぜ今は言えないのか」を説明する
  • 後から情報を追加する場合は、そのタイミングも伝えておく
  • 機密情報や個人情報は当然慎重に扱う

4 定期性の原則:定期的にメッセージを伝える機会を設ける

社員の中には、「経営者のメッセージは、上司などが出す細かな指示と違い、抽象的で目の前の仕事に関係ない」と思っている人も少なくありません。「たまにメッセージを投げかけて、後は放置」というような状態だと、そのうち社員から関心を向けられなくなります。

これを防ぐためには、「毎週金曜日の朝礼は全員参加・経営者からメッセージを伝える日」のように、メッセージを伝える機会を定期的に設けて、メッセージに対する関心を高めることが肝心です。

【実践のポイント】

  • 「短いメッセージ(日常的な気づきや感謝)は週1回程度」「中期的な方向性(月次の振り返りや来月の重点など)は月1回程度」など、内容に応じて頻度を決めておく
  • 一方通行のメッセージだけでは、社員の本音や疑問が見えないため、「質問タイムを設ける」「匿名で質問を受け付ける」など、双方向のコミュニケーションを意識する

5 複合性の原則:多様なツールを組み合わせて伝える

メッセージを対面で伝えられたらよいのですが、テレワークをしている場合、そうした機会は限られています。そこで、さまざまなツールを補完的に活用しながら、適切なタイミングでメッセージを伝えていきましょう。

例えば、経営者のメッセージをチャットやオンラインの常設ルームで、全社員に伝えるといったような方法も有効です。ただ、ここぞというときは「生の音声」で語ったほうが、社員に経営者の思いが伝わりやすいです。

【実践のポイント】

  • 「緊急・重要な発表」は対面推奨(動画でも可)。表情や声のトーンで本気度が伝わる
  • 「日常的な気づき」はチャットなど、気軽に発信でき、社員も読みやすいツールを使う
  • 詳細な説明が必要な内容は、後日文書で詳細を共有するなどの配慮を忘れない

以上(2026年3月更新)

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過去と未来どっちに行きたい? 経営者に「もしも」を聞いてみた

1 もしも、タイムスリップできるとしたら……

もしも、現代を離れて未来か過去にタイムスリップできるとしたら……?

未来の景色を先取りしたいか、あるいは過去の歴史を追体験したいか。時代を選ぶ視点・発想はまさに人それぞれ。

今回は、中小企業の経営者214人に、そんな「もしもの話」についてアンケートを実施し、

  • もし、過去と未来のどちらかに行けるなら、どちらに行ってみたいですか?(「どちらも行きたくない」も回答可)
  • 行ってみたい・行きたくない理由を教えて下さい

という2つの質問をしました。経営者の素顔や価値観が垣間見える結果が集まりましたので、この記事で個性豊かな回答をご紹介します。

アンケートは2025年8月に、インターネットを通じて行いました。回答の中で、明らかに誤字と思われる表記などは修正しています。

2 もしも過去と未来、どちらかに行けるとしたら?

アンケートの結果

アンケートの結果、

  • 「過去に行ってみたい」と答えた人は、51.9%
  • 「未来に行ってみたい」と答えた人は、29.9%
  • 「どちらも行きたくない」と答えた人は、14.0%

でした。

次章では、「過去に行ってみたい」派、「未来に行ってみたい」派、そして「どちらも行きたくない」派のそれぞれの意見を紹介していきます。

3 過去に行ってみたい経営者たち

過去に行ってみたい経営者たち

過去に行ってみたい経営者たちの、「行ってみたい理由」は次の通りです。

見てみたいもの・体験したいことがある

「文化がなかった頃の世界を堪能したい」「原始時代に行って恐竜を見てみたい」「エジプトのピラミッドを作っている現場を見てみたい」「熊本城などの石垣を人力で積み重ねている所を見てみたい。織田信長の建てた安土城を見てみたい」「戦国時代に行ってみたい」「徳川家康の死亡の真相を究明したい」「江戸時代の庶民の暮らしを体験したい」「幕末を見てみたい」「自分の子供の頃を覗きたい」

会ってみたい人がいる

「聖徳太子と話をしてみたい」「織田信長に会いたい」「織田信長の行動を見てみたい」「父に会ってみたい」「あの時の自分や両親に会いたい」「昔の彼女のその後が知りたい」「好きな人ともう一度巡り合いたい」

人生でやり直したいことがある

「過去の自分の考え方を直したい」「人生の転機として間違えた年に行って修正したい」「後悔していることを当時に戻ってやり直してみたい」「後悔の多い人生だったので、やり直したい」「勉強を初めからやり直したい」「自分の人生の選択ミスを取り戻したい」

現代の知識を役立てたい

「現在の記憶や知識をもって、過去へ繰り出せたらどのくらいの範囲に影響を与えられるのか試してみたい」「先を知っているので何かと有利に働きそう」「知識を活かしておカネを儲ける」「明治の黎明期に、思い切り役立つ事をしたい」「現代の知識を駆使して時代を発展させてみたい」「三億円強奪事件の現場にいて犯人を強請るか、ド田舎だった渋谷村の大地主になってセレブになりたい」

4 未来に行ってみたい経営者たち

未来に行ってみたい経営者たち

未来に行ってみたい経営者たちの、「行ってみたい理由」は次の通りです。

科学技術の進歩を見たい

「30年後のスマホとパソコン、自動車が見てみたい」「文明の進化を見たい」「技術の進歩を見てみたい」「テクノロジーの進展で世の中がどのようになっているか」「どのように進歩しているか関心がある」

人類の行く末が気になる

「未来の株価や流行を知って、現代に戻って大儲けしたい」「未来のヒット商品を見て、今のビジネスのヒントにしたい」

知り得ないことを知りたい

「昔のことは知ってるけど、未来のことは知らない」「未来のほうに夢を感じるから」「未来は未知だから」「知ることのできない未来がどのようになっているのか見てみたい」「おそらく全く状況に対応できないと思うが、それがまた楽しみでもある」「嬉々として知識を得たい」「知らない未来について興味がある」

5 どちらも行きたくない経営者たち

どちらも行きたくない

どちらも行きたくない経営者たちの意見は次の通りです。

自分らしく生きたい

「今を精一杯生きたい」「今が楽しい」「本当の事は知らずに想像してるほうが楽しい」「自分の人生がそれによって変わるかどうか分からないし、自分の人生を、今の自分の考え方で決めて行きたいから」

過去や未来に行くメリットがない、またはデメリットがある

「過去に行っても未来に行っても現在が変わらないのであれば行く意味を感じない」「過去を振り返っても意味は無いし、未来を知ったら失望するかやる気をなくすかしそうだから」「過去を見るともう戻れないと悲しくなるし、未来は自分がもういなければ、それまでに消えていると現在に戻ってきても未来に希望が持てなくなるから」

以上(2026年2月作成)

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2026年法改正で中小企業の 「内部通報窓口」はどう変わる?

1 内部通報とハラスメントの対策はセットで!

公益通報者保護法により、

社員301人以上の企業には、内部通報窓口の設置など内部通報の体制を整備することなど

が義務付けられています。一方、社員300人以下の企業は努力義務となっています。

にもかかわらず、内部通報窓口を設置している社員300人以下の企業の割合は、2016年度(26.3%)から2023年度(46.9%)にかけて、20.6ポイントも上昇しています。これは、

どの中小企業にも、「ハラスメント防止窓口」を設置するなどの義務があり、どうせハラスメント相談窓口を設置するなら、そこに内部通報窓口の機能も持たせたほうが、社員の声を幅広く拾いやすい

という理由からだと思われます。

この記事では、

公益通報者保護法の概要と、内部通報とハラスメント相談の窓口の一元化

について解説します。また、

2026年12月1日からは公益通報者保護法が改正され、「公益通報者の範囲拡大(フリーランスが追加)」など、いくつかの変更点がある

ため、併せて紹介します。

2 公益通報者保護法の概要

1)公益通報者保護法とは

そもそも公益通報とは、

一定の要件を満たす者が会社の「通報対象事実」 (一定の法令違反行為)について通報すること等

を指します。通報対象事実とは、公益通報者保護法に定められた一定の法律に違反する行為のうち、犯罪行為や最終的に刑罰に繋がる行為などをいい、例えば、横領や食品偽装などが含まれます。

また、通報先には次のような種類があります。

  • 内部通報:社内の窓口に通報
  • 外部通報(行政通報・事業者外部への通報):行政機関・報道機関・消費者団体などに通報

公益通報者保護法は、法律の要件を満たした公益通報を行った人を保護するためのもので、図表1のように対象者と保護の内容が定められています。

公益通報者保護法の対象者と保護の内容

2026年12月1日からは公益通報者保護法改正により、対象者と保護の内容について次の改正が行われます。

1.フリーランス(特定受託業務従事者)の追加

従来の社員、派遣社員、役員に加え、新たにフリーランスも保護の対象に含まれます。

2.不利益取扱いの「推定」規定の新設

公益通報(または事業者が通報を知った日)から1年以内に行われた解雇または懲戒は、公益通報を理由としたものと「推定」されるようになります。これにより、裁判等で企業側が「通報とは無関係である」ことを立証する必要があります。

3.役員の解任に対する損害賠償

役員が通報を理由に解雇(解任)された場合、事業者に対して解任によって生じた損害の賠償を請求できるようになります。

2)求められる体制の整備

公益通報者保護法では、

内部通報に適切に対応するために必要な体制を整備すること

が求められています。具体的に必要な対応は次の2つです。

  • 内部通報の担当者(以下「公益通報対応従事者」)を定める
  • 「部門横断的な公益通報対応業務を行う体制」 「通報者を保護する体制」 「内部通報の対応を実効的に機能させる体制」を整備する

1.公益通報対応従事者

公益通報対応従事者とは、内部通報の受付、通報を受けての調査、是正措置に関する業務などを行う者のことです。この公益通報対応従事者には、罰則付きの守秘義務が課されます。公益通報対応従事者に課される守秘義務とは、

正当な理由なく、通報対応で知り得た事項であって通報者を特定する情報を漏らさないこと

です。故意に情報を漏洩した場合、公益通報対応従事者本人に30万円以下の罰金が科されます。

企業には次のような対応が求められます。

  • 公益通報対応従事者を定める際に、本人に守秘義務が課されていることを十分に説明する
  • 公益通報対応従事者を対象に、教育や研修を充実させる

2.体制の整備

体制の整備に当たって必要な措置としては、図表2のようなものがあります。

体制の整備に当たって必要な措置に含まれるもの

3.罰則

ここまで紹介した体制の整備義務等に違反した場合、行政による報告徴収、助言、指導、勧告を受けることになります。勧告を受けても従わないと、企業名公表の対象になるので注意が必要です。報告をしない場合や行政に虚偽の報告をした場合、20万円以下の過料が科されます。

なお、2026年12月1日からは、罰則のルールは次のように変わります。

  • 通報を理由に解雇や不利益な取扱いを行った場合、6ヵ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金という刑事罰が新たに科されます。また、両罰規定として企業にも3000万円以下の罰金が科されます。
  • 体制の整備義務等に違反した場合、これまでの勧告に従わない場合に加え、是正を命じることができる「命令」が出せるようになります。
  • 行政からの命令に違反した場合や、虚偽の報告をした場合、立ち入り検査を拒否した場合には、30万円以下の罰金が科されます。
  • 必要に応じて、行政による事務所への立ち入り検査が行われるようになります。

3 内部通報とハラスメントの窓口を一元化

冒頭で紹介した通り、

内部通報窓口とハラスメント相談窓口を一元化して、幅広いリスク情報を受け付ける

ことができるかもしれません。ただ、このような窓口の一元化は、上記のようなメリットがある一方、根拠となる法律が違うため、通報対象範囲や保護の範囲などが異なります。一元化するときは、特に図表3の赤字部分に注意してください。

内部通報窓口とハラスメント相談窓口の比較

以上(2026年3月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田絹助)

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2026年法改正! 男女の賃金差異、 どこからが違法な「男女差別」?

1 常時101人以上の会社では、男女の賃金差異の公表が義務化

2026年4月1日から、女性活躍推進法が改正され、

社員数が常時101人以上の会社では、自社が雇用する「男女の賃金差異」を、事業年度ごとに公表することが義務化(社員数が常時100人以下の場合、公表は任意)

されます。具体的には、新年度の開始からおおむね3カ月以内に、図表の赤字の内容(前年度の実績)を、厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」などで公表する必要があります。

【男女の賃金差異の算出方法】

  • まず、雇用形態別に「女性の平均年間賃金(円)」「男性の平均年間賃金(円)」を算出する
    平均年間賃金(円)=前年度に支払った賃金の総額÷社員数(各月の在籍者数の平均など)
  • 雇用形態別に「男女の賃金差異(%)」を算出し、公表する
    男女の賃金差異(%)=女性の平均賃金(円)÷男性の平均年間賃金(円)

男女の賃金差異の算出方法

男女の賃金差異が生じる理由はさまざまで、「男女の平均年齢の違いから、年功給の平均額に差異が出る」など、やむを得ないケースもあります。一方で、確実に対処しなければならないのが、違法な「男女差別」による賃金差異です。主なものは、次の3つです。

  • 性別の違いだけを理由に賃金に差を付ける(労働基準法)
  • 性別の違いだけを理由に職務に差を付ける(男女雇用機会均等法)
  • 産休などを取った女性の賃金を極端に下げる(男女雇用機会均等法、育児・介護休業法)

これらに該当すると、社員とのトラブルに発展し、民法の損害賠償請求を受ける可能性があります。特に1.については、労働基準法違反の罰則(6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金)もあります。

「令和の時代に、こんな露骨なことをする会社があるのか」と思うかもしれませんが、まだ法整備が進んでいない頃に作られた社内規程が見直されないまま、知らず知らずのうちに「男女差別」に当たる運用をしてしまうケースなどもあります。次章以降でポイントを紹介しますので、念のため確認しておきましょう。

なお、この記事のテーマからは逸れますが、2026年4月1日からは男女の賃金差異と併せて

「女性管理職比率(管理職に占める女性の割合)」を公表することも義務化/strong>

されます。ここでいう管理職とは、「課長級」と「課長級より上位の役職(役員を除く)」の合計です。なお、「課長級」とは、

  • 事業所で通常「課長」と呼ばれている者であって、その組織が二係以上からなり、若しくは、その構成員が10人以上(課長を含む)のものの長
  • 同一事業所において、課長の他に、呼称、構成員に関係なく、その職務の内容及び責任の程度が「課長級」に相当する者(ただし、一番下の職階ではないこと)

のいずれかに該当する者をいいます。

(注)一般的に「課長代理」や「課長補佐」については、「課長級」に該当しません。

2 ケース1:性別の違いだけを理由に賃金に差を付ける

労働基準法には、「性別の違いだけを理由に賃金に差を付けてはならない」というルールがあります。「賃金に差を付ける」ケースに当たるのは、例えば、

  • 男女で基本給の額が異なる
  • 特定の手当を男性にだけ支給し、女性に支給しない
  • 男女別の賃金表を設けており、勤続年数に応じて昇給額が異なる

などです。

労働基準法では、「性別の違いだけを理由に賃金に差を付けている」の具体的な判断基準が明示されていませんが、過去の裁判(東京地裁平成4年8月27日判決)では、

男女の「職務内容・責任・能力が同じ」で「勤続年数や年齢も比較的近い」場合、賃金に差を付けるのは違法(性別の違いだけを理由に差を付けていると判断できる)

という考えが示されています。つまり、「男女の働き方が同じなら、賃金も男女平等にしなければならない」ということです。

なお、労働基準法では、

賃金について、女性を男性よりも「不利に扱う」だけでなく「有利に扱う」のもNG

です。例えば、「育休期間のうち、最初の○日間は有給とする」という制度を設ける場合、「女性の育休は有給とするが、男性の育休は無給とする」といった運用はできません。女性が働きやすい環境づくりは大切ですが、制度設計は男女平等に行う必要があります。

3 ケース2:性別の違いだけを理由に職務に差を付ける

男女雇用機会均等法には、「性別の違いだけを理由に、次の内容について差を付けてはならない」というルールがあります。

  • 配置転換(業務の配分、権限の付与を含む)、昇進、降格、教育訓練
  • 住宅資金の貸付けなどの福利厚生の措置
  • 職種、雇用形態の変更
  • 退職勧奨、定年、解雇、労働契約の更新

第2章の労働基準法のルールだけを見ると、「男女で職務が違う場合、賃金差異があっても違法ではない」と考えてしまいそうですが、この男女雇用機会均等法のルールがあるため、

合理的な理由もなく、男女で就くことのできる職務に差を付け、その結果、男女の賃金差異が生じる場合は違法

になります。

過去の裁判(東京地裁平成14年2月20日判決)では、「総合職」「一般職」のコース別人事を設けていた会社が、賃金の高い総合職には男性ばかりを、賃金の低い一般職には女性ばかりを当てはめていて違法と判断されたことがあります。社内規程上は男女双方に開かれたポストであっても、実際にそのポストに就いている社員(過去に就いていた社員を含む)の性別が極端に偏っている場合、配置の見直しが必要かもしれません。

なお、個人の経験や能力の違いによって職務に差を付けることは問題ありませんが、その裏で「会社として、職務に就くために必要な能力を身に付ける教育訓練を実施しているが、教育訓練の対象を男性に限定している」といった運用がされている場合は、違法になります。

4 ケース3:産休などを取った女性の賃金を極端に下げる

男女雇用機会均等法と育児・介護休業法には、「妊娠や出産をしたり、産休や育休を取ったりしたことを理由に、不利益な取扱いをしてはならない」というルールがあります。賃金に関する不利益な取扱いの例としては、

  • 基本給を引き下げる
  • 賞与支給額や昇給額の一部または全部をカットする

などが挙げられます。不利益な取扱いが禁止されているのは、産休や育休などの制度の利用を妨げないためです。

ただし、賞与支給額や昇給額のカットについては、少し判断が複雑です。例えば、賞与の査定期間中に産休を取った女性がいる場合、

その女性は、休業しなかった他の社員よりも査定期間中の仕事量が少なくなるため、その点を賞与支給額に反映しないと、他の社員にとって不公平になる

という問題があります。

過去の裁判(最高裁第一小法廷平成15年12月4日判決)では、ある学校が「賞与の査定期間の90%以上を勤務しない場合、賞与は支給しない」というルールに基づき、査定期間中に産休を取った女性の職員に賞与を支給せず、トラブルになったケースがあります。裁判では、

  • 賞与の査定期間の出勤すべき日数に、産休の日数を算入することは、法令で認められた休業制度の意義を失わせるので違法である
  • 賞与支給額を、産休による欠勤日数の分だけ減額すること自体は違法でない

という判断がされています。つまり、

女性が査定期間中に産休や育休を取っていても、出勤した分の仕事については評価して賞与を支給しなければならない

ということです。

5 (補足)違法ではないものの、見直しが必要なケース

ここまで「賃金差異が違法なケース」を紹介してきましたが、これ以外に「違法ではないものの、見直しが必要なケース」というものもあります。

例えば、第1章で紹介した「男女の平均年齢の違いから、年功給の平均額に差異が出る」というケースは、賃金制度の運用と直接関係がなく違法とはいえません。しかし、その裏に「男性に比べて女性の平均勤続年数が明らかに短い」という事情がある場合、見直しが必要です。

女性が定着しない会社によく見られるケースとしては、次のようなものがあります。

  • 産休や育休などの制度は整備されているものの、「職場が常に忙しく、妊娠や出産を歓迎する雰囲気がない」などの理由で、制度を利用しにくい
  • 女性の管理職が少なく、キャリアアップが見込めない雰囲気がある

対策としては、

  • 会社として女性の活躍推進に積極的に取り組みたい旨を、経営者が進んでPRする
  • 産休や育休などの制度の存在を、定期的に社内に周知する
  • 産休や育休を取る社員には、出産・育児の妨げにならない範囲で、職場の状況などを共有する機会を設け、休業終了後にスムーズに職場復帰できるようにする
  • 社員とキャリア形成に関する面談を定期的に実施し、キャリアアップの希望を聞く

などが挙げられます。なお、一番最後の「キャリア形成に関する面談」については、女性自身がキャリアアップを希望しないケースもありますが、それが本人の生活事情や価値観によるものなのか、あるいは「女性は○○職に就けない」などの誤解をしているからなのかは、慎重に確認する必要があります。

上のようなケースは、「賃金差異が違法なケース」に比べると対処の優先度は低く、また是正にもそれなりの時間を要しますが、冒頭でも触れた通り、世間全体が男女の賃金差異に注目している状況ですので、やはり計画的に是正に取り組む必要があります。

以上(2026年3月更新)

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【2026年度版】 社員に関する法定義務の一覧表

1 まずは全企業共通の法定義務から押さえる

「人」に関するルールは複雑で、10人以上で就業規則の作成義務、50人以上でストレスチェックの実施義務などのように決まっています。抜け漏れなく行うために一覧表で確認しましょう。この記事では各種労働法に基づく人事労務の法定義務の内容を、

  • 全企業共通のもの
  • 業種や事業形態(法人、個人)などによって変わるもの

に分けて一覧表で紹介します。

2 人事労務の主な法定義務など(2026年4月1日時点)

早速ですが、人事労務の主な法定義務など (2026年4月1日時点) は次の通りです。一覧表は社員数または該当者数の昇順となっており、社員数で見る項目には「●」印を、該当者数で見る項目には「○」印を付けています。また、2026年度に施行される項目は「赤字」にしています。

法定義務などの具体的な内容は、( )内の法令を参照してください。また、安衛法(労働安全衛生法)の「安全衛生管理体制」に係る法定義務については、対象業種を一部省略して記載しています。詳しくは、厚生労働省「職場のあんぜんサイト」などをご確認ください。

厚生労働省「職場のあんぜんサイト (安全衛生キーワード)」
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo_index01.html

(図表)【人事労務の主な法定義務など(2026年4月1日時点)】

社員数または該当者数 1.全企業共通のもの 2.業種や事業形態(法人、個人)などによって変わるもの
1人以上 ●労災保険、雇用保険の強制適用事業(労災法、雇用保険法)
●労働者名簿・賃金台帳・出勤簿の調製(労基法)
●36協定の締結・届け出(労基法。時間外労働などを命じることがある場合)
●派遣元・派遣先責任者の選任(派遣法。派遣社員1人以上)(注3)
●ハラスメント防止措置の実施(男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、労働施策総合推進法、フリーランス・事業者間取引適正化等法。2026年10月からはカスハラ・就活セクハラについても防止措置が義務化
●健康保険、厚生年金保険の強制適用事業所(健保法、厚年法。法人)
●作業主任者の選任(安衛法。法定の危険・有害業務に従事する業種)
●化学物質管理者の選任(安衛法。リスクアセスメント対象物の製造・取扱い・譲渡提供をする場合)
●保護具着用管理責任者の選任(安衛法。リスクアセスメントに基づく措置として労働者に保護具を使用させる場合)
4人以下 ●労災保険の暫定任意適用事業(労災法。個人の農業・水産業)
●雇用保険の暫定任意適用事業(雇用保険法。個人の農業・林業・水産業)
●健康保険、厚生年金保険の任意適用事業所(健保法、厚年法。個人)(注4)
5人以上 ●多数離職届(高年法。1カ月以内に45歳以上70歳未満の者を5人以上解雇等する場合)
●障害者職業生活相談員の選任(障害者雇用促進法。障害者を5人以上雇用する場合)
9人以下 ●法定労働時間が1日8時間、1週44時間になる特例(労基法。商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業)
10人以下 ●男女別の便所設置 適用除外(安衛法)
10人以上 ●就業規則の作成・届け出(労基法)
●安全衛生推進者(衛生推進者)の選任(安衛法)
●外国人労働者雇用労務責任者の選任(雇対法。外国人を10人以上雇用する場合)
20人以上 ●店社安全衛生管理者の選任(安衛法。ずい道等の工事などを行う建設業(元請))
29人以下 ●1週間単位の非定型的変形労働時間制(労基法。小売業、旅館・料理店・飲食店)
30人以上 ●休養室の設置(安衛法。女性社員30人以上)
○再就職援助計画の提出(雇対法。事業規模縮小で、1カ月で常用雇用の社員が30人以上離職する場合)
○大量雇用変動届の提出(雇対法。自己都合退職以外で、1カ月で常用雇用の社員が30人以上離職する場合)
●統括安全衛生責任者、元方安全衛生管理者の選任(安衛法。ずい道等の工事などを行う建設業(元請))
●安全衛生責任者の選任(安衛法。ずい道等の工事などを行う建設業(下請))
40人以上 ●障害者雇用率制度の対象(障害者雇用促進法。2026年7月からは37.5人以上
50人以上 ●休養室の設置(安衛法)
●ストレスチェックの実施(安衛法)
●定期健康診断などの結果報告(安衛法)
●衛生管理者1人以上の選任(安衛法)
●産業医の選任(安衛法)
●衛生委員会の設置(安衛法)
●サイレンなど非常時の警報器具の設置(安衛法。屋内作業場)
●安全管理者の選任(安衛法。屋外産業、屋内工業)
●統括安全衛生責任者、元方安全衛生管理者の選任(安衛法。鉄骨造りなどを行う建設業(元請))
●安全衛生責任者の選任(安衛法。鉄骨造りなどを行う建設業(下請))
●安全委員会の設置(安衛法。屋外産業)
51人以上 ●パート等(一定の要件を満たす者)に関する健康保険、厚生年金保険の加入手続き(健保法、厚年法)
100人以下 ●障害者雇用報奨金の対象(障害者雇用促進法)
100人以上 ●総括安全衛生管理者の選任(安衛法。屋外産業)
●安全委員会の設置(安衛法。屋内工業)
101人以上 ●男性社員と女性社員の賃金差異の公表(女性活躍推進法。2026年4月から)
●女性活躍のための一般事業主行動計画の作成(女性活躍推進法)
●仕事と子育ての両立などに関する一般事業主行動計画の作成(次世代法)
●障害者雇用納付金の対象(障害者雇用促進法)
●障害者雇用調整金の対象(障害者雇用促進法)
201人以上 ●衛生管理者2人以上の選任(安衛法)
299人以下 ●労災保険の暫定任意適用事業(労災法。個人の林業。常時雇用はなく、かつ年間延べ労働者数が300人未満)
300人以上 ●総括安全衛生管理者の選任(安衛法。屋内工業)
●専任の安全管理者の選任(安衛法。有機化学工業製品製造業など)
301人以上 ●公益通報対応業務従事者の選任、内部通報の体制整備(公益通報者保護法。2026年12月からは行政命令に従わない場合、刑事罰の対象
●正規雇用労働者の中途採用比率の公表(労働施策総合推進法)
●男性社員の育児休業等の取得状況の公表(育児・介護休業法)
500人以上 ●専任の安全管理者の選任(安衛法。無機化学工業製品製造業など)
●専属の産業医の選任(安衛法。有害業務に常時500人以上が従事する業種)
501人以上 ●衛生管理者3人以上の選任(安衛法) ●専任の衛生管理者の選任(安衛法。有害業務に常時30人以上が従事する業種)
1000人以上 ●専属の産業医の選任(安衛法) ●総括安全衛生管理者の選任(安衛法。屋内非工業)
●専任の安全管理者の選任(安衛法。紙・パルプ製造業など)
1001人以上 ●衛生管理者4人以上の選任(安衛法)
●専任の衛生管理者の選任(安衛法)
2000人以上 ●専任の安全管理者の選任(安衛法。過去3年間に休業1日以上の死傷者数の合計が100人を超える林業など)

(出所:日本情報マート作成)
(注1)法令名は略称であり、正式名称ではありません。
(注2)社員数または該当者数2000人までを示していますが、これよりも大規模な企業を対象とした決まりもあります。
(注3)派遣元・派遣先責任者の選任義務は、派遣社員100人ごとに1人ずつ増えていきます。
(注4)個人経営である一部の業種は人数要件に関係なく任意適用事業所になります。

以上(2026年3月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:-Adobe Stock

【ビジネス文書・法令文書】労基署の指導も積極化! 36協定の実務~基本からよくあるミスまで徹底解説~

36協定は、届出さえしていれば問題ないと考える企業が多いですが、実際には締結方法や理解不足により無効や法違反となるケースも少なくありません。
そこで本稿では、36協定の本質的な意味や誤解しやすいポイント、正しい締結手続きや実務上の注意点について、基礎から分かりやすく解説します。

ビジネス文書・法令文書 今月の特集は、こちらからお読みいただけます。pdf



デザインセンスなしでもOK! 資料が見やすくなる3つのポイント (生成AI のプロンプト例付き)

1 3つのポイントで資料をアップデート!

皆さんはプレゼン資料などを作っていて、上司から「見づらい」 「伝わりにくい」と言われた経験はないでしょうか? 書いている内容自体は正しいのに、「デザイン」に問題があるせいで突っ返される。何とも歯がゆいですよね。

ただ、そこで「自分にはセンスがないんだ・・・・・・」 と諦めないでください。デザインには、

  • 情報が整理されて見えるか
  • 色や文字が見やすいか
  • 無意識に不快感をあおっていないか

という、基本となる3つポイントがあり、この3点を意識するだけでも、資料の印象は大きく変わるのです。

この記事では、パワーポイントで資料を作ることを前提に、上の3つのポイントについて詳しく解説します。また、第5章では、

生成AIで「見やすい資料」を作るためのプロンプト例

も紹介します。

2 (ポイント1)情報が整理されて見えるか

書いてある内容は正しくても、その内容が整理されていなかったら相手には伝わりません。デザインには、「デザイン4原則」と呼ばれる基本的な考え方があり、次の順番で情報を整理していくのが正攻法です。

  • Proximity(近接): 関連する情報同士を、近くにまとめて配置すること
  • Alignment(整列) : 文字や図の位置をそろえること
  • Repetition(反復):色、フォント、見出しの体裁などを繰り返し使うこと
  • Contrast (コントラスト): 重要なところと、そうでないところに差をつけること

専門的に聞こえますが、内容はとてもシンプルです。例えば、図表1はTシャツの今期売上目標を表すポスターの例です。「良い例」(右)は 【デザイン4原則】を守っていますが、「良くない例」(左) は守っていません。

情報が整理されて見えるか

情報量は同じですが、伝わりやすさが段違いです。「良くない例」は、関連する情報(価格・今期売上枚数・今期売上目標)の配置が離れすぎていますし、文字や図の位置も、フォントの大きさも色もバラバラ、どこが重要なポイントなのか分かりません。一方、「良い例」の中には、図表2の通り、デザイン4原則が使用されています。

デザイン4原則の解説

3 (ポイント2)色や文字が見やすいか

色は資料の印象を大きく左右します。本章では、「色の組み合わせ」と「色の印象」の2つにポイントを絞って解説していきます。

1)色の組み合わせ (明度と彩度)

まず意識したいのが、

  • 明度:色の明るさ
  • 彩度:色の鮮やかさ

です。図表3は文字とテキストボックスの色の組み合わせによって、

視認性(文字の読みやすさ)

がどのように変わるかを表したものです。

視認性

「良くない例」のように、明度の差が少ない色同士を組み合わせたり、文字と同色の浮き出しエフェクトをつけたりすると、文字が読みにくくなります(=視認性が低い)。一方、「良い例」のように、明度や彩度に差をつけたり、明度の高い色(白、黄色など)を文字色として使う際に、黒い浮き出しエフェクトをつけたりすると、文字が読みやすくなります(=視認性が高い)。

また、彩度が高すぎる色同士を組み合わせるのは避けましょう。

画面がチカチカする 「ハレーション」

が起きやすくなるからです。図表4はハレーションの一例です。

ハレーション

ハレーションが起こると、「良くない例」のように、目が疲れる色の組み合わせになってしまいます。一方、文字かテキストボックスのいずれか(または両方)の彩度を落とすと、「良い例」のように読みやすくなります。

色を組み合わせて資料を作ったり、色でアクセントをつけたりする際は、明度と彩度に気を配ることを習慣つけましょう。

2)色の印象

また、色にはそれぞれ印象もあります。上手に使いこなすことで、より効果的な伝え方をマスターできるでしょう。主な色の印象は図表5の通りです。

主な色の印象

例えば、食品に関連するサービスの資料は、オレンジや赤など食欲を刺激する色でまとめるほうが、資料の内容がより効果的に伝わります。

3)色の組み合わせ

また、

資料に使用する色はなるべく少なくする

こともポイントです。

特別な意図がなく色を多用すると、図表6のように、強調したいポイントがいま一つ伝わらず、落ち着かない印象になってしまいます。

配色の悪例

社内資料では、文字の色の他にはベースカラーを1色、サブカラーを1色、強調用に1色程度に色数を絞ると失敗しにくいでしょう。特に失敗しづらいのは、図表7のように、黒、白、グレーなどの無彩色+目立たせたいポイントに、もう1色を使用する組み合わせです。

配色の良例

さらにステップアップして、彩度のある色を2色以上使用した資料を作成する場合、図表8のような「色相環」を意識するとよいでしょう。色相環とは色相を環状に配置し、体系化したものを指します。

色相環

色相環で、対角に位置する色同士のことを「補色」と呼びます。例えば、ネイビーを基調とした資料にする場合、図表9のように対角にある黄色寄りのオレンジを差し色として使用すると、目立たせたい部分が強調されます。

補色の例

また、色相環で隣り合っている色のことを「同系色」と呼びます。例えば、オレンジを基調とした資料にする場合、図表10のように隣り合っている黄色寄りのオレンジと赤色寄りのオレンジを使用すると、資料に統一感が生まれ見やすくなります。

同系色の例1

さらに、グラフを多用したい場合などは、図表11のように色を1つ指定して彩度の濃淡でアクセントをつけると、まとまりがある資料になります。

同系色の例2

4 (ポイント3)無意識に不快感をあおっていないか

見た人の不快感をあおるような資料は、当然避けたほうがよいでしょう。不快感を煽ってしまう原因は様々ですが、まず確認したいのが、「知らず知らずのうちにデザイン上のタブーを侵していないか」です。見た人に不快感を与える、あるいはトラブルを引き起こしがちなNGポイントについて解説していきます。

1)人物配置のタブー

図表12の「良くない例」には、タブーが4つも隠れています。どこが「ダメ」なのか、一度探してみてください。

人物の配置比較

では、答えを見ていきましょう。「良くない例」に含まれているタブーは図表13の通りです。

人物の配置タブー

人物の写真や人物を含むデザインなどでは、こうした要素は全て

人間の潜在的な恐怖をあおるもの

としてタブー視されています。見る人に不快感を与えることがありますので、ポイントに注意しながらトリミングをするか、きちんと全体を入れるかを意識しましょう。

2)記号、モチーフのタブー

記号やモチーフにも注意が必要です。特に、

  • 赤十字
  • 赤い集中線
  • 六芒(ろくぼう)星
  • 卍字(まんじ)
  • 十字架

などは、宗教、医療、政治的な意味合いを連想させる場合があります。意図せず誤解を招く恐れがあるため、資料では使用を避けるのが無難です。特に、

「赤十字」やそれに類似したマークをデザインに使用することは、法律で禁止

されているので注意してください。

3)素材使用のタブー

1)や2)とは意味合いが異なりますが、

素材(画像、映像、図表、フォントなど)の入手や使用

にも注意が必要です。インターネットで見つけた素材を無断で使用すると、著作権の侵害になる恐れがあります。著作権とは、

画像・写真・動画・文章・音楽などを創作した人に与えられる権利のこと

です。著作権には、自分の作品であることを表示する権利、無断で作品を使用されない権利など、様々な権利が含まれます。プロが創作したものに限らず、個人がSNSで公開している画像などにも著作権はあるので、基本的に、

自分以外の人が創作した画像などを利用する場合、許可を得る必要がある

と覚えておきましょう。

なお、素材を有料で提供しているサイト(会社が契約しているもの)や、フリー素材を提供していることを明言しているサイトであれば、基本的には逐一許可を得なくても、資料に掲載することができます。

ただし、サイトによっては「使用時は『画像提供:○○』など著作権の表示が必要」「印刷物で利用する場合は、1万部以下までとする」「加工や改変の不可、範囲制限」など、一定の使用条件が設けられていることが多いので、条件は必ず確認しましょう。

5 生成AIで「見やすい資料」を作るためのプロンプト例

最近は、生成AIを使って資料のたたき案を作成できるようになってきました。例えばGensparkなどは、難しい操作を覚えなくても、文章で指示を出すだけで、スライド構成や文章案を考えてくれる便利なツールです。

ただし、生成AIは「何を、どんな条件で作るのか」をきちんと伝えないと、社内資料としては使いにくい内容になってしまうことがあります。そこで重要になるのが、

生成AIを動かすための「プロンプト(指示文)」

です。

ここでは、想定読者や枚数、使う色、資料で伝えたいポイントなどを項目ごとに整理した、超初心者向けのプロンプト例を紹介します。@の部分を埋めるだけで使えるので、生成AIに不慣れな人でも安心です。まずは完成版を作ろうとせず、たたき案のつもりで試してみてください。

■プロンプト例

あなたは、社内資料作成をサポートするデザイナー兼編集者です。以下の条件を必ず守り、見やすく・分かりやすい社内向け資料を作成してください。

【①テーマ】:@@@@@ [例:新商品(オレンジ味のグミ、若年層向け)の企画提案資料]

【②想定読者】:@@@@@ [例:直属の上司、チームメンバー]

【③枚数】:@@@@@ [例:3枚以内(表紙込み)]

【④用途】:@@@@@ [例:社内提案/PDF印刷/ミーティングでの配布]

【⑤1枚当たりの情報量】:@@@@@ [例:要点のみ簡潔に]

【⑥文字配置】:@@@@@ [例:本文は左寄せ、タイトルは中央または左寄せ]

【⑦使う色】:@@@@@ [例:オレンジ・黄色を基調に、無彩色は文字などに適宜使用]

【⑧強調色】:@@@@@ [例:赤]

【⑨フォント】:@@@@@ [例:ゴシック体]

【⑩デザインルール】:近接・整列・反復・コントラストを意識する

【⑪NG事項】:誇大表現、根拠のない数値、宗教的・政治的モチーフ、過度に派手なデザイン

【⑫資料で伝えたいポイント】:@@@@@[例:商品コンセプトを一言で明確にする/ターゲットと提供価値を具体化する/他商品との差別化ポイントを3点以内で示す]

【⑬参考資料】:@@@@@ [例:市場データ/社内方針資料]

【⑭備考】:@@@@@ [例:A4横組、後から人が修正・加筆する前提のたたき案として作成する]

例えば、このプロンプトの例部分を基にGensparkにスライド作成を任せると、5分程度でこのような資料を生成してくれます。なお、同じプロンプトを使用しても、同じ資料が生成されるわけではありませんので、ご留意ください。

生成AIが作成したスライド

生成された資料で守られている主要なデザインルールは、図表15の通りです。

スライドの解説

しかし、やはり最後は人の目で確認することが大切です。

スライドの修正例

例えば、今回AIが生成した資料では、デザイン4原則のうち「反復」の考え方を用いて図表16のような修正を行うのがよいでしょう。

生成AIが作った資料を、この記事で紹介したポイントに沿って一度チェックしてみてください。少し人の手を加えるだけで、資料はぐっと見やすく、レベルアップします。

以上(2026年2月作成)

pj00808
画像:日本情報マート

辞める看護師、残る問題職員……生々しい医療現場の労務トラブル

1 医療現場をむしばむ「目に見えない」 労務の危機

医療業界の労務管理は、今、かつてないほど困難な局面を迎えています。人手不足が常態化する中で、現場のスタッフ一人ひとりに重い負担がかかり、それがさらなる離職を招くという負の連鎖が各地で起きています。

しかし、現場で起きている本当の危機は、数字に表れる「人手不足」だけではありません。筆者は統合医療クリニックの事務局長として、現場の最前線で院長をはじめとする多くの管理者の苦悩を見てきました。どれほど情熱を持って診療に当たっていても、

「組織の綻び」という理屈では割り切れない問題により、現場は一瞬にして崩壊していく

のです。例えば、

  • 看護師の突然の離職で機能不全に陥る職場
  • 特定のスタッフが実権を握り、誰も意見が言えなくなる閉塞感
  • いつの間にか漏れ伝わっている給与情報

などがそうです。こうした問題は、どれだけ法律や制度を学んでも、解決の糸口は見えてきません。

医療機関という場所は、専門職が集まる特殊なコミュニティーです。だからこそ、一般企業の理屈が通用しない「現場特有の力学」を理解し、先手を打つ必要があります。

この記事では、制度論や理想論は一旦脇に置き、筆者が現場で実際に直面し、格闘してきた「5つの具体的なトラブル」に焦点を当てます。それらがなぜ起きるのか、そして今日から何ができるのか。現場を動かし、スタッフを守り、そして院長自身の平穏を取り戻すための「現実的な処方箋」を提示していきます。

2 突然、「辞めます」と言われる(または言われすらしない)

1)最もダメージが大きい「辞めます問題」

医療現場の労務において、管理者が最も精神的・実務的にダメージを受けるのがこの問題です。看護師からある日突然、「辞めます」と告げられ、しかも引き継ぎ期間がほとんどないというケースは珍しくありません。

さらに深刻なのは、「辞めます」という言葉すら聞けないケースです。ある医師は、深刻な面持ちでこう話していました。

「辞めると言ってくれるだけ、まだ良心的です。突然来なくなって、電話やLINEをブロックされることも珍しくありません」

この場合、経営サイドは「本当に辞めたのか」の判断すらつかず、欠員補充の手配もできないまま、残されたスタッフに一気に負担がかかります。結果として現場は回らなくなり、空気も一気に重くなってしまいます。

2)なぜ「突然」が起きてしまうのか?

この極端な行動の背景には、看護師という職業特有の市場環境があります。慢性的な人手不足の中では転職先に困ることがないため、「多少強引な辞め方をしても次がある」という前提が成り立ってしまうのです。

ただし、ここで注意したいのは、

辞め方が突然だからといって、理由まで突然とは限らない

という点です。多くの場合、不満や違和感は、かなり前から蓄積しています。

  • 忙しすぎて余裕がない
  • 相談しても状況が変わらない
  • 自分のしんどさが軽く扱われている

こうした思いが積み重なり、「もう説明する気力すらなくなった」状態にまで追い込まれた結果が、突然の離職という形になって現れているのです。

3)辞め方が極端にならない構造をつくろう

この問題に対して、無理な「引き止め策」を講じる必要はありません。重要なのは、

辞め方が極端にならない構造をつくること

です。

まず一つは、日常的なコミュニケーションです。業務連絡だけでなく、短時間でもいいので、「最近どう?」「無理してない?」と声をかける機会を意識的につくりましょう。不満のガス抜きを小まめに行うことで、感情の爆発を防ぎます。

もう一つ大切なのは、制度面での備えです。就業規則や労働契約書に、申し出の期限や無断欠勤が続いた場合の扱いなど、退職時のルールを明記しておきます。最低限のルールをあらかじめ決めておくことで、問題が発生した際にも「これは個人の問題ではなく、運用の話だ」と冷静に切り替え、受け止めやすくする余地が生まれます。

3 嫌なやつほど、辞めてくれない

1)真面目な人から去っていく皮肉

先日、何人かのクリニックの経営者や院長と話をする機会がありました。そのとき、彼らは口をそろえてこう言いました。

「辞めさせたい人ほど、辞めてくれない」

「雇うのは簡単だが、辞めさせるのはとんでもなく大変」

日本の労働法下では、横領や経歴詐称などよほどのことがない限り、解雇は困難です。その結果、「ハラスメントで現場の空気を悪くする」「周囲と頻繁に衝突する」「患者からクレームを受ける」といった問題職員が辞めずに、居座り続けることになります。経営者がいくら注意しても、本人は辞める気配がなく、むしろ居心地が良さそうにさえ見えるのです。

一方で、真面目で我慢強い人ほどその状況を見切り、何も言わずに去っていくという逆転現象が起きます。現場には問題職員と同調者だけが残り、組織が荒廃して管理者側が疲弊するという悪循環に陥ります。

2)雇い方の設計に原因あり

問題職員ばかりが組織に残る。この現象は、本人の性格だけの問題ではなく、多くの場合、

雇い方の設計に原因

があります。

人手不足の現場ほど、「とにかく人を入れたい」と焦り、現場に合うかどうかを見極める前に、いきなり正社員として雇ってしまう。結果、雇用関係が結ばれた後で「自分たちと合わない」と分かっても、辞めさせることができなくなってしまうのです。合わない人を抱え続けるコストは、採用を急ぐリスクよりもはるかに高くつきます。

3)「入り口」の設計変更がカギ

現場でできる最大の対策は、採用の「入り口」を変えることです。最初から正社員にせず、3~6ヵ月の有期雇用やアルバイトとして迎え、実際の働きぶりや周囲との関係性をしっかり見極める。その上で本採用を判断する。この一手間をかけるだけで、「辞めてほしい人が残り続ける」リスクは劇的に下げられます。

「嫌なやつほど辞めてくれない」と嘆く前に、

最初の一手が適切だったかを振り返る

ようにしてください。制度は現場を助けるためにあります。今日からできることを少しずつやっていくことが、結果的に医療の質と経営の両方を守る道につながるのです。

4 仕事のできる看護師に、現場を牛耳られる

1)回っているようで、実は非常に危ない状態

小さなクリニックで静かに進行しやすいのが、「仕事のできる看護師」への権力集中です。業務を把握し、判断が速く、医師の意図もくんで動ける優秀な人は、忙しい現場ほど「あの人がいなければ回らない」と高く評価されます。

ところが次第に、物事はその人を通さなければ進まなくなり、他の看護師や事務スタッフは顔色をうかがうようになります。医師ですら、無意識のうちに判断を預けてしまう。こうして、情報・判断・人間関係が1人に集中する構造が出来上がります。

周囲には、「あの人に近い人」 「そうでない人」という見えない線が引かれ、現場は少しずつ内輪化

していきます。

2)責任感の裏にある支配構造

厄介なのは、本人に悪意はなく、むしろ「責任感」や「現場を守っているつもり」であることも少なくない点です。しかし、実態は「私がいないと回らない」という前提で現場が動く支配構造です。

短期的には現場が安定しているように見えますが、水面下では他のスタッフは思考を停止させ、「どうせ言っても変わらない」 という諦めが広がっています。結果として、

不満を抱えた人ほど孤立し、静かに辞めていく

ことになります。

最終的に残るのは、その看護師に従う人だけの閉じた現場です。そのため、その看護師が欠けた瞬間に、マニュアルも引き継ぎもない現場は止まってしまいます。「優秀な人が1人で回している現場」は、実は「最ももろい現場」なのです。

3)属人化を解く 「構造の分解」が大切

対策の軸は、人をどうするかではなく、「構造をどう分解するか」にあります。その人しか把握していない業務を洗い出し、判断権限と裁量の範囲を言語化しましょう。

業務を複数人で担えるように再設計し、「その人を通さなくても進む動線」をつくる

のです。

場合によっては、仕事や権限をあえて減らす判断も必要です。本人の不満や影響力が弱まることへの抵抗は避けられませんが、それは現場全体にとっての正解とは別次元の話です。この問題は、特定の人への個人攻撃ではありません。属人化を許し、権限を曖昧にした「設計の問題」なのです。設計を変えない限り、同じ構造は何度でも生じます。

5 情報が筒抜けになっている

1)なぜ、あなたが別のスタッフの給与額を知っているの?

小規模な医療機関で頻繁に起きているのが、「給与や評価に関する情報がいつの間にか現場に広まっている」問題です。ある院長は、スタッフにこう聞かれて返答に困ったと言います。

「○○さんはボーナスが△△万円だったって聞きました。なんで私は、この金額なんですか?」

本来個別に扱うべき情報が「共有事項」となってしまっている現状・・・・・・管理者は背筋が寒くなります。情報が筒抜けの現場では、「誰がいくらもらっているか」「誰が評価されているか」「誰が院長に近いか」といった話が、公然の事実としてまかり通ってしまいます。

2)不透明な評価が生む不満

給与や評価に関する情報は、

特定の人の周囲で先に共有され、そこから波紋のように広がっていく

ことが少なくありません。結果として、スタッフの関心は人事評価そのものではなく、「人と比べてどうか」という一点に集中します。その時点で、評価制度はもはや機能していないと言わざるを得ません。

3)説明できる「評価の土台」づくりを

対策の要点は、情報を単に「秘密にする」ことではなく、人事評価制度を整えて「説明できる状態」をつくることです。ここで重要なのは、立派な制度ではありません。

「何を評価しているのか」 「なぜその評価なのか」を、管理者の一貫した言葉で説明できること。これだけで十分

です。

評価の軸が見えない現場では、「気に入られているかどうか」という曖昧な物差しが事実上の基準となり、それが情報の横流しや比較による不満を生みます。評価制度は、不満が感情論に暴走するのを防ぐための「最低限の土台」として機能させるべきなのです。

6 長時間労働がなくならない

1)時間外労働の上限規制が始まって2年たつけれど・・・・・・

2024年4月から医師にも時間外労働の上限規制が適用されましたが、「これで一気に時短が進んだ」という医療機関は決して多くありません。

実際の現場では、記録・書類業務のずれ込みや急患対応、そして「患者を断れない文化」によって、依然として長時間労働が温存されています。

2)可視化されない「見えない業務」

問題が解決されない最大の原因は、時間が取られている業務の正体が可視化されていないことです。現場では「診療=仕事」と捉えられがちですが、実際には、

  • カルテの記載
  • 検査結果の整理
  • 説明資料の作成
  • 薬剤の管理
  • 予約調整・問い合わせ対応
  • ミーティングやカンファレンス

など、診療を取り巻く業務が膨大に存在します。これらが「誰の」「どの時間」を奪っているのか整理されないまま、診療後の時間にしわ寄せがきているのが実情です。

3)業務の分解とITの積極活用で乗り切ろう

まず取り組むべきは、業務の分解と再配分です。具体的には、医師の業務を「診療」 「準診療」「事務」に分け、診療以外の仕事をスタッフへ振り分けたり、ツールで代用したりすることを検討します。

近年は、AI・ITを使った省力化も、現実的な選択肢になっています。例えば、

AIボイスレコーダー 「Plaud」は、録音した音声を自動で書き起こし、AIが内容を要約

してくれます。15年以上ライターをしてきた筆者の目から見てもその精度は高く、議事録作成や診療録への内容要約において確実な時短につながります。また、

資料作成が多い場合は、生成AI 「Gemini」 と、パーソナルな情報の整理に特化した「NotebookLM」の組み合わせ

が有効です。あらかじめクリニック独自の資料をNotebookLMに登録しておけば、Geminiを使って「自院に特化した説明資料」 や 「スタッフ向けの簡易マニュアル」を短時間で作成できます。こうしたツールを活用し、現場から残業を減らしていきましょう。

以上(2026年3月作成)

pj00809
画像:Gemini