【ハラスメント対策】ハラスメントの事実確認 順番は「相談者、第三者、行為者」

書いてあること

  • 主な読者:ハラスメントの事実確認の進め方、留意点を知りたい人
  • 課題:いきなり「行為者」を問い詰めてしまいそうだが、それは正しくなさそう……
  • 解決策:結論を急がない。相談者にしか分からない事実を引き出すことがポイント

1 事実確認は「焦らず、じっくりと」

ハラスメントに関する相談が相談窓口に寄せられた場合、会社はすぐにハラスメントの事実があったか否かを確認します。これを「事実確認」といいます。具体的には、

相談者(被害者など)、第三者(目撃者など)、行為者の順番で事情聴取をする

ことになります。

経営者としては、早く白黒をつけたいので、ついつい事実確認を行う担当者をせかしがちですが、調査不足は事実誤認のもとです。後々の対応(社内処分など)を誤らないためにも、「焦らず、じっくりと事実確認を行うこと」を心がけましょう。

以降では、相談者、第三者、行為者に事実確認をする際の留意点を紹介します。なお、2024年11月1日から、フリーランスに対してもハラスメント防止措置を講じることが義務付けられていますが、事実確認の基本的な流れは、社員もフリーランスも同じです。

2 相談者に事実確認する際の留意点

1)中立的な立場を貫く

相談者に確認する内容は次の通りです。相談者がメールや録音、SNSなどの客観的証拠を持っているようなら、相談者の同意を得てデータをコピーさせてもらいます。

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担当者は中立的な立場で臨み、相談者や行為者に変に肩入れをしないよう注意します。また、必要なのは事実確認と、ハラスメントがあった場合の処分に必要な情報ですから、興味本位の質問や「あなたにも隙があったのではないですか?」などの発言、「それはハラスメントに当たると思います」などの評価をしてはいけません。

2)行為者の言動を具体的に聞き取る

ハラスメントは客観的証拠がないことが多く、「言った、言わない」の問題になりがちです。相談者の話が信じられるかを判断するための1つの基準は、

相談者の話が、実際に体験した者でなければ語ることのできない、具体的で迫真性に富んだ内容か否か

です。そして、これを確認するには、

行為者の実際の言動を、できる限り具体的に、実際の発言の通りに話してもらうこと

が大切です。ハラスメントを受けた相談者が、精神的なショックなどからうまく話せない場合もありますので、辛抱強く聞き取るようにしましょう。相談を受けたり、事情聴取を行ったりする人数や場所、時間なども、相談者が安心して話ができるよう配慮する必要があります。

また、セクハラの場合は羞恥心の問題もあるので、相談者と同性の担当者が事情聴取を行うようにしましょう。

3)相談者を安心させる

相談者は「行為者に報復されるかも……」と心配しているケースが多いので、その場合は

「相談したことで不利益を受けることはないし、行為者には勝手に相談者に接触しないよう強く警告する」

とはっきり伝えます。相談者の精神状態によっては、カウンセリングの実施も検討します。

また、相談者から行為者の処分について質問されることがあります。社内処分は最後に決まるものなので、この段階では「社内処分のことはまだ話せない」と回答しましょう。

相談者によっては、「事を大きくしたくない」「とりあえず報告したかった」と考えているケースもあります。ですから、必ず相談者に対して、第三者への事実確認を行うか、どのように事後対応を進めていくかの確認を取る必要があります。

3 第三者に事実確認する際の留意点

メールや録音、SNSなどの客観的証拠が残っているのであれば、必ずしも第三者に事実確認をしなくてもよいでしょう。逆に客観的証拠がなければ、第三者に事実確認する必要性が高くなってきます。第三者に事実確認する際は、相談者や行為者のプライバシーを守るために、

  • 事実確認する第三者は最小限とし、外部に情報が漏れることを防止する
  • 第三者が事実確認の内容などを他者に漏らさないように「誓約書」を取る

などの対応が必要になってきます。

4 行為者に事実確認する際の留意点

行為者に事実確認する際も中立的な立場で臨みます。事実確認の際は、「虚偽や言い逃れは許さない」という毅然とした態度で臨むことが大切ですが、最初から行為者を犯人扱いしたり、無理に自白を取ろうとしたり、語気を荒らげたりしてはいけません。

また、相談者から相談があったことを行為者に伝えるときは、勝手に相談者に接触しないよう強く警告します。そうしないと、行為者が相談者に「そんなことあった? あのとき、君も笑っていたよね?」などと言って、相談の取り下げを迫ることがあるからです。

なお、ハラスメントの事実が認定できた場合には、行為者には必ず「弁明の機会」を与えます。弁明の機会を与えるのは、

弁明の機会を与えないと、手続きが不適切として行為者を処分できなくなる恐れがある

からです。

5 その他の留意点

事実確認の際は、あらかじめヒアリングする事項をリストにしておき、聞き漏れがないようにしましょう。また、あらかじめ録音することを伝えたうえで、聴取の様子を録音しておくと、「言った、言わない」の問題を回避できます。

なお、相談者と行為者の言い分が食い違うケースはよくあります。また、行為者が経営者や役員など会社内で地位の高い人物であるケースも多いです。このような場合には、社内だけで事情確認を行うのが難しくなるので、専門家である弁護士に相談しましょう。

以上(2024年11月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)

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【かんたん消費税(3)】インボイス制度のデメリットを理解する上で欠かせない「免税事業者」のこと

書いてあること

  • 主な読者:消費税の「免税事業者」について詳しく知りたい経営者
  • 課題:インボイス制度下では取引先に免税事業者がいる場合、自社の消費税の納税負担が増えるかもしれない
  • 解決策:免税事業者の基本は課税売上高が1000万円以下。ただし、例外もある

1 インボイス制度下では、免税事業者は不利な立場に?

「インボイス制度」が始まった後(2023年10月1日以後)は、

免税事業者との取引については「仕入税額控除」が受けられず、自社の消費税負担が重くなって損をする

ことになります。仕入税額控除とは、

預かった消費税(仮受消費税)から支払った消費税(仮払消費税)を差し引く

ことです。これが免税事業者との取引ではできないので、国に納める消費税が増えることになるのです。

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これは自社が免税事業者の場合も影響します。なぜなら、

自社が免税事業者の場合、反対に相手が仕入税額控除ができない

ことになり、取引の縮小や停止を要請されてしまうかもしれません。

そのため、自社や取引先が免税事業者か否かを確認することが、非常に重要になりました。そこで、この記事では、どのようなときに免税事業者になるのかについて解説します。

なお、インボイス制度に向けた事前準備については、以下のコンテンツで詳しく紹介しているので参考にしてください。

2 免税事業者とは? 

1)どんなときに免税事業者となるのか

事業者は、消費税を負担する人(=消費者)から消費税を預かり、消費者に代わって申告し、納付します。つまり、

物を売ったり、サービスを提供したりしている事業者は、消費税の納税義務者になる

のです。

しかし、消費税の申告作業は非常に煩雑で、その事務負担は重いです。そのため、消費税の納税義務者の考え方について特例が設けられ、

小規模の会社については、消費税の納税義務が免除

されます。

では、小規模の会社かどうかはどうやって判断するのでしょうか。それは、原則、

基準期間の課税売上高が1000万円以下かどうか

で考えます。課税売上高とは、消費税が課税される取引金額の合計のことです。また、基準期間とは、一般的な1年決算法人の場合は、

申告しようとする事業年度の前々事業年度

のことです。

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つまり、前々事業年度における課税売上高が1000万円以下の会社は小規模事業者になると判断され、納税義務が免除されるのです。この納税義務が免除される会社を「免税事業者」と呼びます。ちなみに、免税事業者以外は「課税事業者」と呼びます。

2)取引先は免税事業者なのか?

自社が免税事業者か否かは、過去に申告書を提出しているか否かなどを確認すれば、すぐに分かるでしょう。一方、取引先が免税事業者か否かについては、

得意先に「確認状」を送付するなどして、免税事業者かどうかを教えてもらう

ことになります。課税事業者であれば、通常は「適格請求書発行事業者の登録申請」を行っているはずですので、登録番号も併せて教えてもらうようにしましょう。なお、登録番号が分かれば、国税局が公表している「国税庁インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト」で検索することもできます。

第4章に、取引先に送付する「確認状」の文例を掲載しているので参考にしてください。

3 さまざまな納税義務の判定パターン

基準期間の課税売上高が1000万円以下なら、基本的に免税事業者になります。ただし、例外もあります。

1)設立したばかりの会社

設立したばかりの会社には基準期間(=前々事業年度)がありません。基準期間がなければ課税売上高もないため、基本的には免税事業者になります。ただし、

基準期間がなくても期首の資本金が1000万円以上だと免税事業者にはならない

ので注意してください。つまり、資本金が1000万円以上の会社は課税事業者になります。この例外のポイントは次の2つになります。

  1. 資本金で判断するのは「基準期間がないとき」だけ
  2. 判定のタイミングは、申告しようとする事業年度の期首。期中に増資して資本金が1000万円以上になっても、期首が1000万円未満なら免税事業者

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2)設立時の親会社にも要注意

設立したばかりの会社で期首の資本金が1000万円未満でも、親会社などが大規模な会社だと、免税事業者にならない場合があります。具体的には、

持株割合が50%を超えている株主(個人含む)の課税売上高が5億円を超える場合は、課税事業者になる

ということです。なお、課税売上高が5億円を超えるかどうかは、

設立した法人の基準期間に相当する期間における株主側の課税売上高

で判定します。ただし、この特例も「基準期間がない事業年度」についてのみ適用されます。

3)売上が急拡大した会社の場合

消費税の納税義務は前々事業年度(=基準期間)の課税売上高で判断するのが基本のため、当事業年度の課税売上高がどんなに大きくても、基準期間の課税売上高が1000万円以下なら納税義務はありません。しかし、売上が急拡大している場合は要注意です。なぜなら、

特定期間の課税売上高と給与支払総額のそれぞれが1000万円を超える場合は免税事業者にならない

ためです。特定期間とは、一般的な1年決算法人であれば、

前事業年度の上半期(6カ月間)

のことです。このため、前々事業年度の課税売上高が1000万円以下でも、前事業年度の売上が急拡大し、上半期だけで1000万円を超え、かつ、給与の支払総額も1000万円を超えるときは課税事業者になるのです。

なお、この特例のポイントは、

上半期の課税売上高と給与支払総額の両方が1000万円を超えるときに課税事業者になる

という点です。つまり、どちらか1つが1000万円以下であれば免税事業者になります。

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4)課税事業者を選択した場合

本来は免税事業者に該当する会社でも、「消費税課税事業者選択届出書」を税務署に提出することで、自ら課税事業者になることができます。例えば、免税事業者でも申告書を提出することによって還付を受けられるような会社がこの選択をします。ただし、この選択をした場合には最低でも2事業年度は強制的に課税事業者になります。

4 確認状の文例

20××年××月××日

〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇御中

会社名 部署

適格請求書発行事業者登録番号のご通知とご依頼について

拝啓 貴社ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。平素より格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。

さて、2023年10月1日に導入された適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)上、税務署長に申請して登録を受けた課税事業者である「適格請求書発行事業者」が交付する「適格請求書」等の保存が仕入税額控除の要件となっております。

そこで、弊社の適格請求書発行事業者登録番号をご通知するとともに、貴社の登録番号等について、弊社までご連絡をお願い申し上げます。何卒ご主旨をご理解賜り、宜しくお願い申し上げます。

敬具

1. 弊社登録番号

T×××××× ××××××

2. 課税事業者のご確認及び登録番号に関するご依頼

課税事業者の場合、貴社の適格請求書発行事業者登録番号を以下の問合せ先まで、ご連絡願います。

また、課税事業者以外(免税事業者等)の場合は、その旨、ご連絡をお願い致します。

まだ、適格請求書発行事業者の登録がお済みでない場合には、登録のご検討をお願い申し上げます。

3. 問合せ先

部署 氏名

住所

電話番号

メールアドレス

以上

以上(2024年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:kai-Adobe Stock

社員に“モヤモヤ”しているアイデアを出してもらう5つの仕掛け

書いてあること

  • 主な読者:社員に新しいアイデアを積極的に出してもらいたい経営者や管理職
  • 課題:ミーティングの場で社員がなかなか意見を出さない
  • 解決策:ちょっとしたきっかけで社員のアイデアは活性化するもの。ブレストやシックス・ハット法といった、社員が意見を出しやすい「仕掛け」を実践してみよう

1 組織の進化にオススメな“モヤモヤ”ミーティング

今までと同じことをやっているだけでは、会社は成長できません。新しいことに取り組んでいくために、社員にアイデアを出してもらいたいところですが、募集してもなかなか出てきません。社員はアイデア出しに慣れていなかったり、アイデアはあっても、「練っていないので、人に話すことができない」と思い込んでいたりするからです。

そこで、経営者や管理職の方々にご提案したいのが、

社員を巻き込んだ“モヤモヤ”ミーティングの開催

です。これは、社員が日ごろ、なんとなく「これがいいな」と“モヤモヤ”思っているアイデアを自由に披露する場をつくるというもので、オンライン・オフラインのどちらでもできます。“モヤモヤ”ミーティングを活性化する5つの仕掛けを紹介しますので、ぜひ実践してみてください。

  • 苦手そうな社員には課題を出してみる
  • ブレーンストーミングで場を活性化する
  • シックス・ハット法で掘り下げる
  • 明るく楽しくテンポ良く
  • 経営者や管理職は大いに語ろう

2 苦手そうな社員には課題を出してみる

“モヤモヤ”ミーティングは自由な意見を出せるのがいいところです。ただ、日ごろ、あまり問題意識を持っていない社員は苦手に感じます。そうした社員には、まず、取り組みやすそうな課題を出して考えさせることから始めてみましょう。

課題の例としては、「今、一番不便だと思っていることは何か。それを解消するにはどうすればよいか」「今までの人生で一番熱中したことは何か。それを他の人にどのように勧めるか」「好きに時間を使っていいと言われたら一日何をしたいか」などが挙げられます。具体的に既存商品やサービスについて、「『もっとこうしたほうがいい』と思っていることは何か」を課題にしてもいいかもしれません。

3 ブレーンストーミングで場を活性化する

“モヤモヤ”ミーティングでは、参加している社員に、活発に意見を出してもらうことが大切です。「批判をしない」「自由奔放に考える」「質より量を重視する」「便乗する」といった約束事のあるブレーンストーミング(ブレスト)で進めるのがよいでしょう。

ブレストに慣れていない社員は、つい、他の人のアイデアを批判しがちです。こうした社員には、「『でも、しかし』ではなく『そして、それから』」を徹底し、他の人のアイデアに「便乗する」ことで、アイデアをさらに膨らませるよう指導しましょう。

ビジネスのアイデアを出し合う前に、「動画で商品をPRする新しい企画とは?」「誰もが楽しい社員旅行の企画とは?」といった身近なテーマでブレストを行い、アイデアを出し合う訓練をしてみるのもいいでしょう。

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ブレストの良いところは、1つのアイデアに皆が便乗し、さらに膨らませるため、一体感が生まれることです。最初にそのアイデアを言い出したのは誰かということは重要ではなくなり、参加者全員で力を合わせて1つのアイデアを考えることができます。

4 シックス・ハット法で掘り下げる

ブレストで膨らんだアイデアを深掘りするために、「シックス・ハット法」を使います。これは、視点の違う6色の帽子(他のアイテムでもよい)のうち、全員が同じ1色を身に着け、その色の視点に立って考えていくという方法です。オンラインの場合は、6色の背景画像を用意し、全員が同じ1色を背景色にするなど工夫してみましょう。

シックス・ハット法で用いられる6色は、「青=冷静・管理的、黄=楽観・積極的、黒=警戒・否定的、緑=創造・革新的、白=中立・客観的、赤=情熱・感情的」となります。全員で同じ色を身に着けるので、思考をそろえて議論を深めることができます。

例えば「白」にしたときは、データや数字といった客観的な情報・事実だけを話します。このとき、自分の意見は言いません。一方、「赤」の場合は、「可能性を感じる」「面白い」など自分の感想や気持ちを話します。

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色の順番は決まっていませんが、他の色を統制し、分析したり管理したりする要素を持つ「青」で始めて進め方やゴールを決め、全ての色が終わった後、再度「青」にして、結論や次回への課題を確認して終わることが多いともいわれています。

慣れないと「今の色」と違う視点で意見を言う社員が出てくるので、ファシリテーターが「その発言は黒い帽子ですね。今は白ですよ」と軌道修正します。状況によっては「議論が停滞してきたので、緑の帽子で解決策を出しましょう!」と全員の視点を切り替えることもあります。

シックス・ハット法の良いところの1つは、視点を切り替えて考えられることです。さまざまな視点から捉えることで、“モヤモヤ”していたアイデアのメリットや課題、さらに進化した姿などが分かるため、形が見えるようになってきます。

5 明るく楽しくテンポ良く

ブレストでもシックス・ハット法でも、“モヤモヤ”ミーティングは、社員が楽しみながらテンポ良く進めることが大切です。シーンと静かになってばかりだったり、特定の社員が長々と発言したりしないよう、「発言は1分間」などのルールを決めましょう。特に1人しか発言できない(みんなでワイワイしにくい)オンラインの場合、ファシリテーターが重要です。参加者が満遍なく発言できるように回しましょう。

また、「立場にこだわらずフラットに発言する」というルールにしたとしても、社員は経営者や管理職の発言に影響を受けたり遠慮したりしがちです。社員が慣れるまでは、経営者や管理職はなるべく社員の後に発言するように心掛けるとよいでしょう。

社員がリラックスした気持ちで自由に意見を言えるよう、会社の外に出るのも一策です。オープンカフェや公園など屋外で行えば、いつもと違った雰囲気の中で、社員の視野が広がるかもしれません。

6 経営者や管理職は大いに語ろう

社員が“モヤモヤ”と思い、その“モヤモヤ”をアイデアとして議論し合えるようになるには、社員に会社や仕事を好きになってもらうこと、会社の今後を自分事のように考えてもらうことが必要かもしれません。

それには、経営者や管理職の日ごろの働き掛けがとても重要です。経営者や管理職は、思い描いている夢や「あるべき理想の姿」、どれだけ会社と社員(部下)を誇りに思っているか、たとえ足元の仕事が大変でもその先にどれだけ大きな喜びがあるか、などを大いに語りましょう。経営者や管理職は、未来をつくるのは“モヤモヤ”思ってくれる社員たちであることを忘れてはなりません。

7 社員に、「アイデア脳」になってもらうために

最後に補足として、「社員に、アイデアを出しやすい思考になってもらう」方法をお伝えします。“モヤモヤ”ミーティングの開催と並行して、日ごろから次のことを実践してみるとよいでしょう。

  • 社員にセミナーや勉強会、スタートアップピッチ、アイデアソンなどに参加してもらい、社外の人と積極的に交流する機会をつくる。
  • 経営者や管理職が「○○について人と話をしたが、うちの会社でもこう活かせる」と話して、「身の回りの全ての出来事がアイデアにつながる」と社員に意識させる。

以上(2024年12月更新)

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活発な議論をするために知っておくべき心理学のアプローチ

書いてあること

  • 主な読者:議論を通してチームのパフォーマンスを高めたい経営者
  • 課題:無駄な会議が多い。優秀な人材を参加させているのにチームの成果が上がらない
  • 解決策:集団心理は良くも悪くも働くものであることを認識し、良いほうへ活用する

1 「3人寄れば文殊の知恵」とはならない不思議

企業では会議やブレインストーミング(ブレスト)など、チームのメンバーがアイデアを出し合って物事を決めたり仕事を進めたりすることが多いものです。しかしチームでの仕事が、常に個人プレーより優れているとは限りません。実際に会議をしてみて、

  • 優秀な人材を集めたのに、期待していたような成果が上がらない
  • 長い時間をかけて会議をしたが、なかなか良い案が出ない

という問題に頭を悩ませている経営者も多いのではないでしょうか。

その背景には、「責任の分散」「同調」「集団分極化」といった、集団心理が働いていることがあります。集団心理は良くも悪くも働くもの、いわば諸刃の剣です。集団で議論するメリットを享受するためには、まず集団心理のメリット・デメリットと、その対策を念頭に置いたマネジメントが重要です。対策は次の3つです。

  • チームをグループに分けてディスカッションをする
  • 反対意見や異なる意見を歓迎する企業風土を醸成し、組織の風通しをよくする
  • 議論後に、個人で振り返りの時間を持つ

なぜ、これらの3つが重要になるのか。以降で明らかにしていきます。

2 1人当たりの責任感の分量が減る「責任の分散」

1)責任の分散とは

責任の分散とは、

多くの人が関わることで1人当たりの責任が小さくなり、「自分がやらなくても、誰かがやるだろう」という心理に陥る

という現象です。

責任の分散を考察するに当たり、象徴的なキティ・ジェノバーズ事件というものがあります。1964年に米国のニューヨークで、午前3時に帰宅途中の女性が暴漢に襲われ殺害されました。悲鳴が上がってから殺されるまで30分余りがありました。後の警察の捜査によると、近隣のアパートの住民38人が悲鳴を聞いたり、窓から顔を出して女性が襲われている現場を見たりしていました。にもかかわらず、誰ひとりとして助けたり、警察へ通報したりといった援助行動を取らなかったのです。

この原因はさまざまな考察がなされていますが、そのうちの1つが、「責任の分散」という集団心理が働いたことです。

後の実験で、このような援助行動は、その場に複数人いるときよりも、1人しかいないときのほうが、迷いなく援助行動を取ることが分かっています。さらに援助の対象が、見知らぬ人よりも顔見知りがほうが、より素早く援助行動を取ることも判明しています。

キティ・ジェノバーズ事件の被害者は、「目撃者が38人もいて、なぜ誰も助けなかったのか」ではなく、「38人もいたからこそ」助けられなかったのです。

2)責任の分散を防ぐには

責任の分散を防ぐには、

チームをグループに分けてディスカッションをし、各グループの意見を発表する

とよいでしょう。20人が参加する会議でも、4人ずつの5グループに分けると、各自の責任の重さは「20分の1」から「4分の1」に増えます。

なお、グループは凝集性(集団がその中の個人を引きつける度合い)が過度に高くなったり、パワーバランスが生じたり、マンネリ化したりしないよう、ランダムに組むことが望ましいです。

3 周りに合わせて、白も黒と言ってしまう「同調」

1)同調とは

同調とは、

集団のメンバーが、集団の規範や、他のメンバーの意見に沿った行動を取る

という現象です。

社会心理学者のソロモン・アッシュが1951年に発表した論文では、次のような実験について著されています。

被験者1人を含む7人(被験者以外は事情を知っている協力者)に次のような図を見せ、左の図と同じ長さの線分を右の図から選ばせます。被験者以外の6人が全員一致して誤った回答をした場合、被験者はどんな回答をするでしょうか?

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正しい回答は、見ての通り「b」です。

しかし、被験者以外の全員が誤った回答(例えば皆がそろって「a」と回答)をした場合、被験者の誤答率は37%にも上ったのです。正解が明白であるにもかかわらず、他者の意見に同調して3分の1以上の人が誤った回答をしました。正解が明白な問題でもこのような結果になるのですから、会社で議論されるような正解がないテーマでは、なおさら同調は強くなりがちです。

同調が起きる理由として、主に2つが挙げられます。

  • 情報的影響:「正しくありたい」「間違えたくない」ため、「みんなが正しいと言うのだから正しいのだろう」と、他者の回答を判断材料にしたため
  • 規範的影響:「他者に受け入れられたい」集団から孤立したり拒絶されたりすることを恐れ、周囲に合わせたため

日本人は「同調圧力」が強いと言われますが、集団内に働く、多数派の意見に合わせざるを得ないような力のことをいいます。

2)同調を防ぐには

同調を防ぐためには、

反対意見を歓迎する。大多数とは異なる意見を言いやすくする

とよいでしょう。あえて会議の場に、「異論を述べる」役割を置くのもお勧めです。

また、経営者や管理職といったリーダーやファシリテーター役となった人は、中立の立場を示すことも重要です。

なお、社会心理学者のリチャード・クラッチフィールドは、アッシュの行ったような同調の実験を、事情を知っている人を使わずに、パネルを用いて行いました。被験者には、他者が選んで回答した結果がパネルに示されていると説明されています。すると、アッシュの実験のような対面状況よりも、はるかに同調量が減少したといいます。

対面状況のほうが、同調は起こりやすい

のです。

オンラインやリモートで仕事を進める機会が増え、他者の意見を見聞きするかたちも多様化しました。対面で他者の発言を見聞きするばかりでなく、チャットツールや、ビデオ会議と連動したアンケートなどを用いることもあるでしょう。対面と非対面の心理的な違いは意識しておくとよいでしょう。

4 リスキー・シフトを起こす「集団分極化」

1)集団分極化とは

集団分極化とは、

集団で議論すると、議論を行う前の個々の意見が、より極端かつ大胆なものになる

という現象です。議論中、優勢な意見に沿って現状よりさらに踏み込んだ意見を出すことで、集団内の他者より抜きんでようとすることで発生します。集団分極化には2つの方向性があります。

  • リスキー・シフト:意見が極端に大胆になるケース。これまでの歴史や政治においても、大きな過ちにつながった事例がある
  • コーシャス・シフト:極端に慎重になるケース。保守的になってしまい、議論したのに何も決まらず、物事が進まないという現象

いずれにせよ、集団分極化が起こると当初の計画を逸脱してしまったり、現実的ではない結論に至ったりすることがあります。

2)集団分極化を防ぐには

集団分極化、中でもリスキー・シフトを起こしがちな集団には特徴があります。

  • 凝集性(集団がメンバーを引きつける度合い)が高い、良く言えば結束が固い集団
  • 閉鎖的な集団
  • 高いストレス
  • 支配的・指示的なリーダーの率いる集団

よって、集団分極化を防ぐには、他部署や他社、異業種とオープンな交流をしたり、会議に限らず、普段から積極的に意見を交わしやすい企業風土を醸成したりと、

組織の風通しを良くする工夫が必要

です。また、

議論後、個々に振り返りの時間を持ち、集団思考から離れて考えてみること

も大切です。

5 補足・少数派の意見が大きな力を持つとき

集団で議論をしていると、時として、少数派の意見が大きな影響力を持つことがあります。マイノリティ・インフルエンスと呼ばれますが、2種類があります。

  • ホランダーの方略:過去に集団へ大きく貢献した人が、その実績と信頼から支持を得ていく。少数派でも「あの人が言うなら」と賛同する者が増えていく。上の立場からの変革
  • モスコビッチの方略:実績のない下の立場の者でも、一貫して主張し続けることで、多数派が納得していく場合がある。「そこまで言うのなら」「もしかして(多数派の)自分たちが間違っているのではないか」と考えさせる効果がある。下の立場からの変革

出るくいは打たれるのか、涓滴(けんてき)岩をうがつのか。少数派だからといって、意見を飲み込んでしまうのではなく、積極的に表明していきましょう。それが議論を活性化させる起爆剤になることもあり得ます。活発な議論を行い、組織の新陳代謝を促すために、この記事でご紹介した心理学の知識をご活用ください。

以上(2024年12月更新)

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【ハラスメント対策】相談窓口を設置。ポイントは「相談しにくい」と思わせないこと

書いてあること

  • 主な読者:ハラスメント相談窓口の設置方法などについて知りたい人
  • 課題:ハラスメントのことを周囲に知られたくない社員などが、相談をためらってしまう
  • 解決策:内部相談窓口と外部相談窓口を併設し、相談方法や担当者を複数設ける

1 相談のハードルをいかに下げるかがポイント

労働施策総合推進法などにより設置が義務付けられている「ハラスメント相談窓口」(以下「相談窓口」)には、ハラスメントに関する相談や苦情を受け付け、被害を最小限に食い止める役割があります。相談窓口がうまく機能していれば、深刻なハラスメント問題に至る前に事態を収めることができます。そして、うまく機能させるには、

社員から「相談しにくい」と思われそうな要素をできるだけなくすこと

が大切です。

例えば、相談窓口には、

  1. 内部相談窓口:社内の人材を相談窓口の担当とする
  2. 外部相談窓口:弁護士事務所やコンサルタントなどに委託する
  3. 併設:内部相談窓口と外部相談窓口を併設する

の3種類があります。中小企業では内部相談窓口が一般的ですが、「内部だと相談しにくい」という社員のケアや、複雑な事案への対応も考えるのであれば、外部相談窓口も併設するのが理想です。

また、相談窓口の存在は必ず社員に周知しなければなりませんが、その際は、次の事項などを分かりやすく伝え、相談のハードルを下げる必要があります。なお、これらの事項は、相談窓口を設置したときだけでなく、定期的に周知することが大切です。

  • 相談者のプライバシーを守ること
  • 相談しても不利益はないこと
  • 実際に起きていなくても、ハラスメントが起こりそうな状態の相談も受け付けること
  • 面談、電話、メール、ウェブ上のフォーム、郵送など相談方法を選べること
  • 相談担当者として男女それぞれを設置していること

また、相談窓口が使いやすいかどうかは、傍目からは分かりにくいので、「相談しにくい雰囲気がないか」などを、社内アンケートなどで実態を調査することも大切です。逆にちゃんと運用されていて、その上でハラスメントの問題が起きていないのであれば、それは相談窓口がうまく機能している証拠ですから、評価しないといけません。

2 「相談しにくい……」と思わせない担当者を選ぶ

内部相談窓口の担当者には、次のような人たちがいます。

  1. 経営者や役員
  2. 管理職
  3. 人事労務担当部門や法務部門の社員
  4. 社内の診察機関、産業医、カウンセラー
  5. 労働組合

経営者や役員が担当者になると、相談を受けた後の事実確認や行為者の処分の検討などをスピーディーに行えます。ただ、「経営者には相談しにくい」という社員もいますし、万が一、経営者や役員が行為者の場合、周囲が忖度(そんたく)してしまうこともあります。

こうしたデメリットを考慮するのであれば、経営者や役員だけでなく管理職も担当者に加えるようにしましょう。とはいえ、相手が直属の上司だと、やはり相談しにくいケースもあるので、その場合は複数の管理職を担当者にするなどの配慮が必要です。

また、セクハラの場合は羞恥心の問題もあるので、同性の担当者が相談を受け付けるのが望ましいです。そうした意味では、男女両方の担当者を置くことも大切です。

3 相談担当者の教育や研修を実施する

信頼できる相談窓口を作るためには、ハラスメントの基本知識や相談への対応方法等に関するマニュアルを作成したり、相談担当者に対する研修を実施したりするようにしましょう。相談担当者がうまく対応できないと、二次被害(相談窓口の担当者の言動によって、相談者がさらなる被害を受けること)が発生してしまう恐れがあります。こうした事態は防がなければなりません。

また、相談窓口には、内部告発(内容はハラスメントに限らない)の声が寄せられることもあります。こうした声は公益通報として、公益通報者保護法の保護下に置かれます。公益通報保護法では、社員数が常時300人超の会社に対し、「内部通報窓口」の設置などが義務付けられています。要件に該当する会社は、

相談窓口と内部通報窓口を一体的に運用すること

を検討してみるのもよいでしょう。

近年、ハラスメント事案が年々増加する傾向にある中、これからの相談担当者は最新の法律知識・社会的動向などを踏まえた対応を求められることになります。

4 フリーランスにも相談窓口の存在を明確に伝える

2024年11月1日から、フリーランス(注)に対しても、社員と同様のハラスメント防止措置を講じることが義務付けられます。相談窓口についても、基本的に社員と同じ窓口をフリーランスにも適用するという対応で差し支えありませんが、注意しなければならないのは、

あらかじめ相談窓口の存在を明確に伝えておかないと、ハラスメント事案が発生した際、フリーランスが外部のユニオンなどに駆け込んで、問題が大きくなる恐れ

があることです。フリーランスと契約を締結する際に、相談窓口の担当者や連絡先を、書面などで明らかにしましょう。

(注)ここでいうフリーランスとは、業務委託先の事業者であり従業員を使用していない者(いわゆる個人事業主等)を指します(フリーランス・事業者間取引適正化等法)。

以上(2024年11月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:pexels

目的で異なる3つの会計。財務会計・税務会計・管理会計はどのように違うのか?

書いてあること

  • 主な読者:財務会計・税務会計・管理会計の違いを正しく理解していない経営者
  • 課題:中小企業の会計は顧問税理士に任せきりで、意識せずに税務会計に偏っている
  • 解決策:外部への説明のために財務会計、経営のかじ取りのために管理会計を知る

1 経営者が意識する3つの会計

会計は、法令に基づく「制度会計」と「管理会計」とに大別され、さらに制度会計は「財務会計」と「税務会計」とに分かれます。それぞれを簡単に説明すると、

  • 財務会計:制度会計の1つ。株主など社外の関係者に経営状況を説明するための会計
  • 税務会計:制度会計の1つ。税金を正しく計算、納税するための会計
  • 管理会計:投資判断やコスト管理など、経営者などが経営判断をするための会計

といった具合になります。また、気になるこれらの関係性は次の通りです。

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中小企業には、上場企業のように財務諸表を外部に開示する義務がありません。一方、納税義務はあるので、財務諸表は財務会計(会社法や企業会計原則など)ではなく、税務会計(法人税法など)に基づいて作成されるなど、税務会計に偏りがちです。

しかし、金融機関などに業績を説明する際、税務会計に基づく財務諸表だけだと内容が不十分なことがあります。それに、管理会計によって、定量的な指標から意思決定をすることも大切です。大切なのは、それぞれの会計の使い分けなので、この記事でそれぞれの特徴を分かりやすく説明していきます。

2 財務会計とは

財務会計は、

会社法・金融商品取引法(上場会社のみ)・会計基準などの法律や規則に基づいて実施

されます。そのため、財務会計に基づいて作成された財務諸表は他社と比較することができ、株主にとっては投資の参考資料、取引先などにとっては取引の判断材料になります。

財務会計では、会社の活動を「資産」「負債」「純資産」「収益」「費用」に区分して財務諸表を作成します。このうち資産・負債・純資産は「貸借対照表」に集計され、ある時点の会社の財産の状態を表します。また、収益・費用は「損益計算書」に集計され(収益と費用の差額が利益(または損失))、一定期間の業績を表します。

貸借対照表と損益計算書以外にも、会社のキャッシュの流れを表す「キャッシュフロー計算書」や、純資産の増減内容を表す「株主資本等変動計算書」などが作成されます。

3 税務会計とは

税務会計は、

法人税法・地方税法などに基づいて実施

されます。正しく納税額を計算して、申告期限までに確定申告書を税務署などに提出します。

税務会計では、財務会計で計算された当期純利益に一定の調整を加え、納税額を計算するための基礎となる所得を導きます。なお、財務会計の「収益・費用・利益」は、税務会計の「益金・損金・所得」と言い換えられますが、一部で取り扱いが異なります。そのため、税務会計の所得を計算する際は、次の4つの調整をします。

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なお、中小企業の制度会計は、上述の通り税務に偏っているのが実情であり、多くの中小企業では、税務上の益金・損金の基準に合わせて決算書を作成しています。例えば、財務会計上は認識すべき退職給付引当金について、税務上は損金不算入となるため費用計上しないといったことが生じます。その結果、貸借対照表、損益計算書に会社の財務状況が正しく反映されていないケースが多いことに留意が必要です。

4 管理会計とは

管理会計は、

法令上の決まりなどはなく、会社の考えに従って実施

されます。社内で利用するために管理会計の代表的な分析方法にCVP分析(損益分岐点分析)があります。CVP分析では、まず、財務会計上の費用(製造などに係るもの)を、

  • 変動費:売上の増減に比例して発生する費用。材料費、外注費など
  • 固定費:売上の増減に関係なく発生する費用。地代家賃、水道光熱費、交際費など

に分けます。そして、損益分岐点を計算するのですが、損益分岐点とは、

売上高から変動費を引いた「限界利益」と固定費が同額になる状態

であり、限界利益が固定費を上回ったら黒字です。損益分岐点の計算式は次の通りです。

損益分岐点=固定費/(1-(変動費/売上高))

5 それぞれの会計の処理と利益の違い

それぞれの会計の処理の違いを比べてみましょう。分かりやすく示すために、交際費を年間1000万円とします。

  • 収益:10億円
  • 費用:9億8000万円(材料費5億8000万円、労務費3億円、経費1億円(交際費1000万円))
  • 資産:3億円
  • 負債:2億5000万円
  • 純資産:5000万円
  • 1年決算法人

1)財務会計における取り扱い

財務会計では、交際費は損益計算書の費用になります。この場合の貸借対照表と損益計算書は次の通りです。

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2)税務会計における取り扱い

税務会計では、原則として、交際費は全額が損金不算入とされます。ただし、会社規模に応じた一定の措置が設けられています。期末の資本金の額または出資金の額が1億円以下であるなどの場合、損金不算入額は次のいずれかの金額を選択できます。

  • 交際費(全額接待飲食費に該当する場合)の50%相当を超える部分の金額
  • 年間800万円に事業年度の月数を乗じ、これを12で除して計算した金額(定額控除限度額)を超える部分の金額

交際費が年間1000万円の場合の損金不算入額および所得は、次のようになります。

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3)管理会計における取り扱い

管理会計でCVP分析を行う場合、交際費は固定費に分類します。前提要件に基づいて作成する管理会計(CVP分析)上の損益計算書は次の通りです。

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限界利益は4億2000万円で、固定費の4億円を上回っているので2000万円の利益が出ています。

ここで、CVP分析により、翌期に3000万円の利益を出すために必要な売上高を考えてみましょう。変動費率は今期と同じ58%(5億8000万円/10億円)、固定費は今期より2000万円増えて、4億2000万円になる予定です。この場合、来期に必要な売上高は次のように計算することができます。

(固定費+必要利益)/(1-変動費率)

=(4億2000万円+3000万円)/(1-0.58)

≒10億7143万円

以上(2024年11月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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【かんたん消費税(2)】対応しないと取引先が損をする「インボイス制度」を今一度確認しよう

書いてあること

  • 主な読者:インボイス制度を単なる手続きだと勘違いしている経営者
  • 課題:対応しないと取引先が仕入税額控除を受けられず損をするかもしれない
  • 解決策:自社の申請、請求書のひな型変更、免税事業者との取引確認を行う

1 インボイス制度の影響

「インボイス(正式名称は「適格請求書」)制度」とは、

適用される税率や消費税額を請求書にきちんと記載し、適切に相手に知らせる

というものです。経営者が知っておくべきポイントは、

こちらがインボイス制度に対応しないと、取引相手で仕入税額控除が受けられず、取引先の消費税負担が重くなってしまうことです。これとは反対に、取引相手がインボイス制度に対応しないと、自社が損をする

ことになります。

インボイスには「適格請求書発行事業者の登録番号」を記載しますが、登録番号は自動的に発行されるものではなく、

適格請求書発行事業者の登録申請が必要

です。登録には、申請書を税務署に提出し、通知を受けます。登録番号の通知が来るまでに2週間~1カ月程度の時間がかかります。申請書を1枚提出すればよいだけの簡単な手続きなので、必要な場合には今すぐ申請しておきましょう。

2 インボイスが発行できるのは「課税事業者」のみ

適格請求書発行事業者の登録申請は、消費税の「課税事業者(納税義務がある事業者)」しかできません。もし貴社が「免税事業者(納税義務がない事業者)」であれば、

課税事業者になり、登録申請するか否かを検討

しなければなりません。免税事業者が課税事業者になると、確定申告の手間が増えます。また、納税額が増えることもあるので、税理士などに相談して慎重に判断しましょう。

3 経理の業務を売手側と仕入側で整理

1)売手側の場合

商品等を販売した相手先から求められた際は、

消費税法で決まっている項目を記載したインボイスを交付すると同時に、その写しを保存

しなければなりません。

インボイスにはどの請求書にも記載されている事項(貴社の社名や取引日、取引金額など)に加え、

  • 税率ごとの対価の合計額(税込または税抜)
  • 税率ごとの消費税額および適用税率
  • 適格請求書発行事業者の登録番号

などを記載しなければなりません。つまり、

インボイス制度に対応したフォーマットを作成する

必要があります。例えば、次のようなフォーマットです。

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2)仕入側の場合

売手から請求書を受領したら、

適格請求書として必要な事項が全て記載されているか

を確認し、抜け漏れがあれば再発行を依頼します。

大事なことなので繰り返しますが、

インボイス制度が導入された後の取引(2023年10月1日以後の取引)については、仕入税額控除は適格請求書に「記載」されている仮払消費税しか控除できない

ことになります。つまり、適正な適格請求書を入手していない場合や、インボイスを発行できない取引先(免税事業者や適格請求書発行事業者の登録申請を行っていない取引先)からの仕入れについては、原則、仕入税額控除が認められません。

4 インボイス制度の特例

1)一部省略できる「適格簡易請求書」

インボイスには、取引相手の氏名や名称を記載します。しかし、例えばスーパーなどの場合、レジで消費者に名前を聞いて記入することは非現実的です。このように、業種によっては適格請求書に必要事項の全てを記載することが難しいこともあるため、以下に示す特定の業種については、記載事項を一部省略した「適格簡易請求書」が発行できます。

小売店業、飲食店業、写真業、旅行業、タクシー業、駐車場業(不特定かつ多数の者に対するものに限る)、これらの事業に準ずる事業で、不特定かつ多数の者と取引をする事業

2)インボイスを発行しなくてよい取引

例えば電車に乗る際は切符を購入しますが、都度、公共交通機関が利用者にインボイスを発行するのは非現実的なので、インボイスの発行が免除されます。この他に、以下に示す一定の取引についても、インボイスの発行が免除されます。

  • 3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送
  • 出荷者等が卸売市場において行う生鮮食料品等の販売
  • 生産者が農業協同組合、漁業協同組合又は森林組合等に委託して行う農林水産物の販売
  • 3万円未満の自動販売機及び自動サービス機により行われる商品の販売等
  • 郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス

3)免税事業者との取引について認められている経過措置

インボイス制度を導入したことによる影響の緩和措置として、インボイスが発行できない免税事業者(あるいは適格請求書発行事業者の登録をしていない事業者)との取引でも、一定期間は仕入税額控除を認める経過措置(移行期間)があります。ただし、経過措置期間中でも消費税の全額について仕入税額控除が認められるわけではなく、期間ごとに控除できる範囲が変わります。

経過措置期間中に認められる仕入税額控除の金額は次の通りです。

  • 2023年10月1日〜2026年9月30日:消費税額の80%まで控除可
  • 2026年10月1日〜2029年9月30日:消費税額の50%まで控除可
  • 2029年10月1日以降:控除不可

4)免税事業者が課税事業者を選択した場合の2割特例

免税事業者が、インボイス制度導入に伴って課税事業者を選択した場合、

納税額を、売上に係る消費税(仮受消費税)の2割とする制度

が導入されます。制度の適用にあたって、事前の届け出は必要ありません。

なお、この制度の趣旨は「インボイス発行事業者の登録によって課税事業者になってしまう小規模事業者の負担を軽減するもの」となるため、適用できるのは、「インボイス制度のせいで仕方なく課税事業者になってしまった人」ということになります。そのため、たとえ小規模事業者であっても、以前から課税事業者を選択していた事業者などについては適用されません。

また、この制度は、2023年10月1日から2026年9月30日までの日の属する課税期間について期間限定で適用されます。

以上(2024年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:kai-Adobe Stock

昭和世代vs Z世代 ~出張は「タイパ」が悪いと言う若手の部下に、どう対応する?

書いてあること

  • 主な読者:「Z世代」の部下とのコミュニケーションに悩んでいる「昭和世代」の上司
  • 課題:Z世代はタイパ(タイムパフォーマンス)が大事らしいが、自分にはいまいちピンと来ない。本当に分かり合うことができるのか?
  • 解決策:実は今も昔も、大事なことに時間を割きたいことは変わらない。「今、この仕事に時間を使う理由」を伝え合い、考え方をすり合わせる

1 「昭和世代」も「Z世代」も、実はそんなに違わない?

ジェネレーションギャップは世の常……。今どきであれば、部下を持つ「昭和世代」の上司が、若手の部下である「Z世代(1990年代半ば~2010年代初頭生まれを中心とした世代)」との価値観のギャップに戸惑うケースが多いかもしれません。例えば、「タイパ」がそうです。

タイパ(タイムパフォーマンス)とは、「かけた時間に対してどれくらいの効果を得られるか」という尺度のことで、Z世代が重要視する言葉の1つ

として知られています。例えば、食材の値段がほんの少し安いからと、長時間をかけて遠くのスーパーまで買いに行くことを、「タイパが悪い」などと言ったりします。

さて、仮に昭和世代の皆さんが、Z世代の部下を連れて遠方の取引先を訪問するとします。もしも部下から、「オンラインでできるのに、タイパ悪くないですか?」と言われたら、どうしますか? 「イライラする」とかそういった感情はいったん抜きにして、まず押さえてほしいのは、

昭和世代もZ世代も「根本の部分で大事にしている価値観は基本的に同じ」で、実は両者が思っているほど大きなギャップはない

ということです。以降で、「出張とタイパ」をテーマに、昭和世代のAさんとZ世代のBさんの“すれ違い会話”を紹介します。両者のすれ違いを解消するためのポイントを見ていきましょう。

2 出張は「タイパ」が悪い?

東京の会社で営業職として働いているAさん(昭和世代)とBさん(Z世代)。定期的にミーティングを行っている大阪の取引先を、久しぶりに訪問することになったようです。

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Bくん! 来週の水曜日に、一緒に大阪のお得意先のところに訪問することになったからね、よろしく。

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分かりました……。ただ、Aさん。今月に入ってから、もう2回目の大阪出張ですよね。「タイパ」、悪くないですか? オンラインに切り替えるなどして、出張の回数を減らすのはどうでしょうか?

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え? タイパ? タイパって何?

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タイムパフォーマンス、時間対効果のことです。……今回の出張って、要はごあいさつですよね? 初対面なら分かりますが、今回はそうじゃないので、わざわざ時間をかけて足を運ぶ必要があるのかなと思ってしまって……。

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何を言っているんだ、必要に決まってるだろう! タイパだか何だか知らんが、何でもかんでも効率良くやればいいってわけじゃないぞ!

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東京から大阪まで、往復の移動時間だけで6時間はかかっています。Web会議なら移動時間を、もっと違う仕事に費やせるのに。現に、出張の翌日は大きなプロジェクトの会議があって……直前で資料の訂正などもあるので、万全な状態で望みたいんです。

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だから、直接会ってごあいさつするのも同じくらい大事な仕事じゃないか!

AさんとBさんは、日ごろから何かと意見の衝突が多いのですが、今日は「タイパ」で意見が対立してしまいました……。この2人のすれ違い、解決する手段はあるのでしょうか?

3 大事にしたいものは今も昔も同じ

Bさん(Z世代)の発言は、昭和世代からすれば「今どきの若いモンは……」と言いたくなる内容かもしれませんし、逆にAさん(昭和世代)の発言は、Z世代からすれば「今どき時代遅れ なんだよ……」と言いたくなる内容かもしれません。ただ、はたして昭和世代とZ世代、そこまで相いれないものでしょうか? もしかしたら、根本的に考え方がずれているわけではなく、

単に

昭和世代は「タイパ」、Z世代は「訪問」というワードに引っ張られすぎているだけ

なのかもしれません。

そもそも、AさんとBさんはそれぞれ、なぜ先ほどのような主張をしたのでしょう? 2人の心の声を聞いてみましょう。

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(お客さまのところに出向いて直接ごあいさつするのは「大事な仕事」だから、そこに時間を割いてほしいのに……)

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(年に何回もあいさつに行くとなると、取られる時間が多すぎる……その時間をもっと「大事な仕事」に使いたいのに……)

赤字の部分がキーポイントです。そう、それぞれ主張していることは違いますが、

AさんもBさんも「大事な仕事」に時間を費やしたいと考えている点は同じ

なのです。相いれないのかと思いきや、実は同じ価値観に基づいて仕事をしているわけです。

では、なぜ先ほどのようにすれ違ってしまうのか。それは、

「大事な仕事とは何か」が、AさんとBさんの間で共有されていないから

です。どのように話をすれば、2人のすれ違いが解消されるのか、引き続き2人の会話を見ていきましょう。

4 どう話をすれば伝わる?

Aさんは、もう少し落ち着いてBさんと話してみることにしました。赤字の部分に注目してください。

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Bくん、君は基本的に「出張よりもオンラインのほうがいい」という考えなのかい?

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Aさん、僕は「全ての出張に行きたくない!」と言っているわけではないんです。きちんと理由があるのであれば、喜んでついていきますよ。お客さまにもお会いしたいですし。

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そうだな……例えば、今回の訪問の理由は「あいさつ」だ。でも、ただのあいさつじゃない。わが社がとてもお世話になったCさんが、異動になったから行くんだ。君が入社する前のことだったけれど、本当に助けていただいたからね。顔を合わせてお礼を言いたいんだよ。

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……そうだったんですね。

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こちらの感謝を伝える上で、今回の訪問はとても「大事な仕事」なんだ。改めて、君はどう思う? お世話になった方に、直接お礼を言いに行くのは「タイパが悪い」かな?

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いいえ、お世話になった方であれば、直接会って気持ちを伝えるべきだと思います。オンラインだと伝わらないことがあるのも、普段の仕事で実感しています。すみませんでした、何も知らずに勝手なことを言ってしまって……。

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いや、私も理由をきちんと伝えていなかったし、過去を振り返ってみると、正直あまり意味のない訪問をしていたこともあったかもしれない……。その辺は君の言う通り、他に大事なことがあるならオンラインに切り替えるのもありかもしれないよね。

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経費削減にもなりますしね。……でも、直接ごあいさつに伺うことも大事ですね。来週の出張で、Cさんにお会いできるのが楽しみになってきました。

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なんだか、大事なことに時間を割きたい、という気持ちは、私も君も同じみたいだね。

AさんとBさんが「大事な仕事」について、お互いに自分の考えを吐き出したことで、2人のすれ違いは解消されたようです。

今回はタイパがテーマでしたが、他のテーマであっても、昭和世代とZ世代のすれ違いを解消するポイントは同じ。

「あの人は昭和世代だから(Z世代だから)」という色眼鏡を取り外して、お互いの考えを聞きながら、「実は相いれる部分があるんじゃないか」と探っていくこと

です。お互い、頭ごなしに否定したりせずにきちんと理由を言語化して、まずは相手の考えを知ってみることが、すれ違い解消の道へとつながっていくでしょう。

以上(2024年12月作成)

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画像:ChatGPT

【書籍ダイジェスト】『危機を乗り越える力 ホンダF1を世界一に導いた技術者のどん底からの挑戦』

本書は、1981年にホンダに入社した浅木泰昭氏が、自身の技術者人生を振り返り、人材育成やリーダーの在り方について語っている。上司に文句を言う生意気な若造だった20代、変わり者の活躍で危機を乗り越えた経験、F1で世界一を達成した知見などから、F1参戦によって「危機に役に立つ人材」を育てられるという持論を展開する。
扱いにくい変わり者や、「俺ならできるかもしれない」という変な自信をつかんだ人間を育てておくことが、危機に備えることにつながるという。

書籍ダイジェストは、こちらからお読みいただけます。pdf

【朝礼】あなたの部下も、きっと変わる

【ポイント】

  • 頼りなかった部下が、短い期間で別人のように成長することがある
  • 部下を成長させる1つのポイントは、「1人でやってみるしかない環境」をつくること
  • 「どうすればよいか」を自分で考えさせることが、部下の成長につながる

先日、取引先であるプロジェクトの打ち合わせに参加したときのことです。しばらくぶりで会った先方の若手社員の姿に、私は非常に感動しました。なぜなら、彼の成長が目覚ましく感じられたからです。半年前にプロジェクトに参加することになった彼は、最初の頃、まさしく「右も左も分からない」様子でおどおどとしており、発言もままならない状況でした。

しかし、今の彼は、上司など周りの意見に流されることなく、自分の意見を堂々と発言します。しかも言い方が丁寧で内容が前向きなので、反対意見でも反論されたほうは嫌な気持ちになりません。時々冗談を言って、場を沸かせるほどの余裕も身に付けていました。話を聞くと、彼は難易度が高くスピード感も要求されるさまざまな仕事を任され、多くの人と調整や交渉を重ねる中でたくましく成長したようです。彼自身の頑張りもありますが、彼を育てた上司の力も大きかったのでしょう。

上司の皆さんの中には、「部下が成長してくれない」と悩んでいる人も少なくないでしょう。そんなときは、あえて難しいことを部下に任せて一生懸命考えさせ、汗をかかせてください。まずは部下が「1人でやってみるしかない環境」をつくってみること。上司の指示や確認のもとで仕事を進めている部下は、心のどこかで上司に頼る癖がついています。それができない環境をつくるのです。

例えば、今まで上司と一緒に訪問していた先に部下を1人で行かせてみるのもよいでしょう。実際に自分1人で事前準備をし、出かけて行き、相手と話をするという経験は必ず部下を成長させてくれます。訪問先で部下は、聞かれたことに答えられず、自分自身の至らなさを悔しく感じるかもしれません。相手とうまく会話することができず、恥ずかしい思いをすることもあるでしょう。そうした経験をして初めて部下は、「どうすればよいか」を自分で考えるようになり、変わっていきます。

悔しさや恥ずかしさを感じて帰ってきた部下を、上司は大いに褒めたたえてください。部下がたくましいビジネスパーソンへと変化する第一歩を踏み出したことは間違いないのですから。人は簡単には変われませんが、変わるときには大きく変わります。部下がたくましく変貌を遂げることができるか否かは、上司の皆さん次第です。

以上(2024年11月更新)

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画像:Mariko Mitsuda