特に注意したいポイントはここ! 算定・月変の実務

社会保険の定時決定・随時改定は、保険料や保険給付の計算のもとになる重要な手続きです。2025年の主な改正点としては、現物給与(食事)の価額改定や、育児・産前産後休業終了時の報酬月額変更届の様式変更などが挙げられます。
本稿では、算定基礎届・月額変更届の記載上の留意点、パート・短時間労働者への対応など、実務に即した詳細な事例を交えながら、2025年の社会保険の実務について解説します。

ビジネス文書・法令文書 今月の特集は、こちらからお読みいただけます。pdf

このタイミングで年休取るかね…… 取得日の変更はどこまで可能?

1 年休は社員の権利だけど、繁忙期はちょっと……

労働基準法で定められている「年休(年次有給休暇)」は本来、

社員が希望する時季に、自由に取得することができる

とされています。いわゆる「年5日の年休取得」が法律で義務付けられているのもあり、どの経営者も年休の取得自体に異議を唱えることはないでしょう。ただ、繁忙期の年休取得という話になってくると、人手不足に悩まされているのもあって、内心「それはちょっと勘弁してよ……」と思っている人が少なくないかもしれません。

労働基準法上は、「時季変更権」といって、一定の場合に、会社が社員の年休の取得時季を変更できるルールがあるのですが、

時季変更権が認められる範囲は限定的で、不用意に行使すると労働基準法違反になりかねない(罰則は6カ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)

という点に注意が必要です。以降で時季変更権の正しいルールを押さえていきましょう。

2 繁忙期というだけでは「時季変更権」は使えない?

まず、時季変更権とは、

社員が申請した時季に年休を与えると、「事業の正常な運営に支障が出る具体的な事情」がある場合に限り、会社が年休の取得時季を変更することができるというルール

のことです。あくまで変更を認めるだけで、年休の取得自体を拒否することはできません。

ただ、この「事業の正常な運営に支障が出る具体的な事情」というのがくせもので、単に会社が繁忙期というだけでは認められません。次のように、時季変更権が認められるケースと、そうでないケースがあります。

次に、各裁判例などをもとにした判断基準を、ざっくりまとめた図表を紹介します。

各裁判例などをもとにした判断基準

また、時季変更権を行使する場合は、年休の申請があった時点で速やかに行い、その理由を具体的に、かつ明確に伝える必要があります。漠然とした理由や、休暇直前の通知は違法と判断されるリスクが高いです。

トラブルを避けるため、書面での通知なども検討しましょう。そして、可能な限り、社員の希望に沿った代替日を複数提示するなど、誠実な対応を心掛けることが望ましいでしょう。

3 時季変更権が「認められる」ケース

1)代替人員の確保が困難な場合

申請された時季に代替要員を確保するための合理的な努力を尽くしても、それが不可能である場合が該当します。

2)同時期の取得希望者が重なる場合

特定の時期に複数の社員から年休の申請が集中し、全員に取得を認めると業務が回らなくなる場合です。例えば、夏季繁忙期に年休取得者が重なり、予備人員で対応できなかったために、時季変更権を行使したことが適法と認められた裁判例があります(前橋地裁高崎支部平成11年3月11日判決)。

3)業務の遂行上、本人の参加が不可欠な場合

特定の社員でなければ遂行できない業務や、重要な研修・会議など、本人の出勤が必須である場合がこれに当たります。例えば、職場全体の業務改善のための研修期間中に年休を請求したことについて、研修目的の達成が困難になるとして、時季変更権の行使が適法と認められた裁判例があります(最高裁平成12年3月31日判決)。

4)年休が長期間にわたる場合

1カ月など連続した長期の年休申請で、代替人員確保が困難な場合も、時季変更権の行使が認められる可能性があります。

5)年休取得の申請が休暇の直前だった場合

就業規則で定められた申請期限を著しく過ぎて直前に申請された場合も、時季変更権の行使が認められる可能性があります。

4 時季変更権の行使が「認められない」ケース

1)「繁忙期のため」など漠然とした理由

単に「繁忙期だから」「仕事が多くなりそうだから」といった抽象的な理由では認められません。具体的な事業運営への支障が出ることを説明する必要があります。例えば、抽象的に繁忙期であるといっても、年休を認めることによる具体的な支障が明らかでない場合、時季変更権は認められないと判断した裁判例があります(名古屋地裁平成5年7月7日判決)。

2)慢性的な人手不足

常に人手不足である状態は、会社が人員配置を見直すなどして解消すべき問題であり、時季変更権行使の正当な理由とは認められません。例えば、人員不足が9カ月以上に及び常態化したまま行使された時季変更権は認められないと判断した裁判例があります(西日本ジェイアールバス事件(名古屋高裁金沢支部平成10年3月16日判決))。

3)退職直前の年休申請

社員は退職日以降に年休を取得できないため、退職直前の年休申請に対して時季変更権を行使することは、事実上年休の取得を妨害する行為とみなされ、原則として認められません。

4)年休の取得理由に基づく時季変更権の行使

年休の利用目的は労働基準法の関知するところではないため、利用目的を理由に時季変更権を行使することは許されません。例えば、社員がデモ参加のために年休を申請し、会社がデモ参加を理由に時季変更権を行使したことが違法とされた裁判例があります(最高裁昭和62年7月10日判決)。

5)代替要員の確保努力を怠った場合

合理的な努力をすれば代替要員を確保できたにもかかわらず、その努力を怠った場合も、時季変更権の行使は認められません。

6)計画的付与制度で指定された日

労使協定で定められた計画的付与日に対しては、時季変更権を行使できません。

5 結局は計画が大事! 計画的付与でトラブルなく年休消化を

繁忙期における年休の課題を解決し、時季変更権の行使に頼る頻度を減らすためには、事前の「計画」が非常に重要になります。そこで導入を検討したいのが、

計画的付与(労使協定で定められた日に年休を与えられる制度)

です。会社全体で一斉に付与することも、チームや個人単位での交代制にすることもできます。導入するには「労使協定」(事業場の過半数労働組合、それがない場合は労働者の過半数代表との書面による協定)の締結が必要になります。

計画的付与の対象は、付与日数のうち5日以上の部分です。例えば、年休の付与日数が10日の社員の場合は5日まで、20日の社員の場合は15日までです。これにより、特定の時期に年休申請が集中するのを防ぐことで、繁忙期の業務運営への影響を軽減できます。

計画的付与には主に3つの方式があります。

1)一斉付与方式

会社全体または事業場全体で休業日を設け、一斉に年休を付与する方式です。夏季休暇や年末年始と組み合わせることで、大型連休にすることも可能です。

2)班・グループ別の交代制付与方式

流通・サービス業など一斉休業が難しい業態で、班やグループ別に交代で付与する方式です。

3)個人別付与方式

社員個人ごとに計画表を作成し、誕生日などをメモリアル休暇として推奨するなど、個人の希望も踏まえて計画する方式です。

時季変更権の行使が「事後的な対応」であるのに対し、計画的付与は「事前のリスク分散」であるという点が、根本的に異なります。特に中小企業では、人員の柔軟性が低い傾向にあるため、計画的付与は、時季変更権の行使に頼る頻度を減らすための有効な手段となります。

以上(2025年8月作成)
(監修 弁護士 田島直明

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画像:ChatGPT

【賃金データ集】役員報酬・退職慰労金のモデル支給額

【賃金データ集】シリーズとは?

【賃金データ集】シリーズは、基本給や諸手当など賃金の主要な構成要素ごとの近年のトレンドを、モデル支給額を中心とした関連データとともに紹介します。経営者や実務家の方々が賃金支給水準の決定や改定を行う際の参考としてご活用ください。なお、モデル支給額などのデータを紹介する際は、基本的に出所に記載されている用語を使用するものとします。また、データは公表後に修正されることがあります。

この記事で取り上げるのは「役員報酬・退職慰労金」です。

なお、以降で紹介する図表データのExcelファイルは、全てこちらからダウンロードできます。

こちらからダウンロード

1 役員報酬・退職慰労金の概要

企業と従業員が「労働契約」を交わしているのに対し、企業と取締役(以下「役員」)は「委任契約」を交わしています。労働契約と委任契約ではその性質が大きく異なるため、それぞれに支給される金銭の意味合いも違ったものになります。

従業員に支給される賃金は労働の対償であり、就業規則(賃金規程)で計算方法や支給額を定めますが、役員に支給される「報酬等」(役員報酬、役員賞与、役員退職慰労金等)は職務執行の対価であり、定款または株主総会の決議により、報酬等の額が確定しているものについてはその額、報酬等の額が確定していないものについては、その算定方法などを定めます。

定款または株主総会の決議によって、報酬等の額やその計算方法を定めるのは、いわゆる「お手盛り」を防ぐためですが、実際は株主総会において幅を持たせた枠を決め、具体的な支給額などについては取締役会に一任している企業が少なくありません。しかし、特に上場企業の場合、役員報酬が高額になると、その分企業の利益が減少し株主配当が低くなる恐れがあるため、報酬額の決定については慎重な判断が求められます。なお、企業は役員ごとに、提出会社と連結子会社の役員としての報酬等(連結報酬等)の総額・連結報酬等の種類別の額等を、有価証券報告書に開示しなければなりません(報酬の総額が1億円以上の役員に限ることができる)。

2 国税庁の統計資料によるモデル支給額

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3 人事院の統計資料による役位別に見た年間報酬額

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4 総務省の統計資料による役員退職慰労金の支給状況

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5 情報インデックス(この記事で紹介したデータの出所)

この記事で紹介した統計資料は次の通りです。調査内容は個別のURLからご確認ください。なお、内容はここ数年の公表実績に基づくものであり、調査年(度)によって異なることがあります。

■民間給与実態統計調査■
https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan/top.htm

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■民間企業における役員報酬(給与)調査■
https://www.jinji.go.jp/toukei/0321_yakuinhousyu/0321_yakuinhousyu_ichiran.html

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■民間企業における退職給付制度の実態に関する調査■
http://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/minkan_taisyokukyufu.html

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以上(2025年7月更新)

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画像:ChatGPT

【債権回収】もう一度チェック! 「危ない手形」の見分け方

1 後を絶たない手形による被害

約束手形については、手形交換所が2022年11月に廃止され、政府は2026年をめどに全ての紙の手形や小切手を電子化する方針を示しています。とはいえ、足元ではまだまだ使われていて、不渡りなどの問題も生じています。

そこで、この記事では「危ない手形」の典型である、

「1.借用書代わりの手形」「2.回り手形」「3.融通手形」「4.偽造手形」

の特徴を紹介した後、万一の備えとしてすべき債権保全の策を紹介します。なお、手形を利用していない経営者は読む必要性の乏しい記事です。

2 「危ない手形」の4つのタイプ

1)借用書代わりの手形

借用書代わりの手形とは、

資金不足を補おうと、安易に振り出される手形

で、「危ない手形」の典型です。振出人の経営者は、支払期日が近づくと資金集めに奔走しますが、資金が集まらなければ倒産し、手形は不渡りとなります。

借用書代わりの手形を振り出す会社には、次のような傾向があるので注意しましょう。

  • 「台風手形」といわれる、決済期間が210日もしくはそれ以上に長い1年といった長期の手形を振り出すことが多い
  • 手形用紙が誰でも持ち出せる場所に置かれている。またいつでも振り出せるように、金額や支払期日を記載していない未使用の手形用紙に会社印などが押印されている
  • 手形の控えに金額、振出日、支払期日、受取人を書き入れていない
  • 社長、経理担当者が支払期日に不在の場合が多い

2)回り手形

回り手形とは、

取引先自らが振り出した手形ではなく、裏書譲渡された手形

です。裏書譲渡された手形は、振出人だけでなく、裏書人にも支払いを請求できるので、この点については安全といえるかもしれません。

ただし、特に裏書人が多い場合は注意しましょう。振出人や裏書人に信用があれば、自社に回ってくる前に銀行や手形割引専門業者が手形を割り引いてくれるはずで、次から次へと裏書されることは少ないと考えられるからです。従って、裏書人の多い手形は「危ない手形」の恐れがあります。もし、回り手形が振り出されたら、裏書人が正しく連続しているかについても確実にチェックしましょう。

なお、割引手形と似ているところがありますが、回り手形が支払目的である一方で、割引手形は支払期日よりも前に現金化することを目的とするという違いがあります。

3)融通手形

融通手形とは、

実際の商取引が伴わず、単に資金を調達する目的で振り出される手形

です。手形の受取人は、この手形を銀行などで割り引く(手形割引)ことで当面の資金を調達します。資金繰りに窮した会社同士が、相互に発行しあうこともあります。

融通手形を振り出せば、手形振出人は手元に現金がなくても資金に困った人の面倒を見ることができますが、手形の受取人は返済資金を工面できず、結果として手形の振出人にその請求がくるケースが多いです。そのため、

取引先から融通手形振り出しの依頼があっても、断るのが賢明な判断

です。一般的に、「振出会社の名義が、手形を持ち込んできた会社の通常の取引先とは考えにくい場合」「取引関係からみて手形金額が大き過ぎる場合」などは、融通手形の可能性があります。また、融通手形が回り手形として回ってくる恐れもあるので注意しましょう。

4)偽造手形

偽造手形とは、

振出人の署名を偽ったり、手形用紙や印鑑を盗用したりする、文字通り、偽造の手形

です。偽造手形は、受取人側が「振出人本人が手形用紙の振出人欄に署名したこと」を立証できない場合、手形の受取人は現金化することができない場合があるので注意が必要です。

3 「危ない手形」のチェックポイント

1)約束手形の絶対的記載事項

約束手形には、必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」があります。これらが間違いなく記入されているかを確認しましょう。

「約束手形」という文字、金額(チェックライターまたは漢数字で記載されているか確認)、支払い約束の文言、支払期日、受取人、支払地、振出日、振出地、振出人の署名

もし、以下に該当する手形があれば、それは「危ない手形」である恐れがあります。

  • 振出日と支払期日の間が通常より長い
  • 支払日を訂正している(資金繰りが厳しくなっている可能性がある)
  • 手形の金額が振出人の規模からみて大き過ぎる
  • 振出人のメーンバンク以外から振り出されている(融通手形の可能性がある)
  • 裏書人の数が多い(回り手形)

また、手形の記載に誤りや有害的な文言がある場合、手形そのものの効力が無効になるので注意しましょう。例えば、

支払期日:令和7年1月1日、振出日:令和7年3月1日

など、支払期日よりも振出日が後の場合、手形は無効になります(最高裁平成9年2月27日判決)。

2)振出人の経営状態の確認

「手形が危ない」とは、手形を振り出した会社の倒産が近いことを意味します。従って、その手形を振り出した会社や裏書をしている会社がどのような経営状態にあるかについて調べれば、手形の危険度が判断できます。会社の経営状態を調べる際、留意すべき事項は次の通りです。

1.「割止め情報」があるか

「割止め情報」(市中金融機関が手形の割引を拒否したという情報)を入手したからといって、その会社が倒産するとは限りませんが、その会社が危険な経営状態である可能性は高いと考えられます。また、振出人の所在地の登記事項証明書を取り、「不動産があるかどうか、もしある場合、担保が付いているかどうか」などを調査しておくのも万一の備えとして有効です。

2.同業者の間で悪い噂が立っているか

「債務超過に陥っているらしい」「銀行から融資を断られたらしい」など信用不安に関する情報を同業者からキャッチしたときには、その会社は危ないと判断したほうが賢明かもしれません。ただし、当然ながら噂の出所や真偽のほどについては十分に確認する必要があります。

3.過去に手形ジャンプの要請があったか

手形ジャンプとは、手形の支払期日を先の日付に延長することです。手形ジャンプの要請は、その会社の資金繰りが逼迫していることを示します。手形ジャンプの要請があったことは、すぐに同業者や市中金融機関などに知れ渡り、結果としてビジネスに支障を来したり、融資を受けられなくなったりする恐れもあります。従って、手形ジャンプの要請は倒産の兆候と判断すべきかもしれません。

4.大口の焦げ付きが発生しているか

手形振出人の得意先が倒産し、振出人に大口の焦げ付きが発生した場合は注意が必要です。資金繰りに支障を来し、振出人まで連鎖倒産する恐れがあります。

4 手形による被害に遭わないための債権保全

どれほど注意しても、受け取った手形が不渡りになる可能性は否定できません。たとえ不渡りになったとしても、確実に債権が回収できるよう事前に対策を取っておく必要があります。

1)人的担保

一番簡単な対策は、資力のある人に手形の支払いを保証してもらうことです。手形上に保証人として署名してもらう方法の他に、手形の原因となった債務について振出人の社長、専務、常務などの役員に個人保証してもらうのが一般的です。ただし、個人企業や中小企業の場合、多くの債務に役員の個人保証が付いていて、振出人の破産とともに役員個人も同時に破産することもあるため、個人保証をしてもらったからといっても必ずしも十分ではありません。

なお、改正民法により、役員などではない個人が、事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約を締結する場合、その締結日の前1カ月以内に作成された公正証書(保証意思宣明公正証書)を作成し、保証人になる個人が、保証債務を履行する意思を表示していなければなりません。

2)物的担保

営業所や社長の自宅などに根抵当権、もしくは金額を確定した抵当権を設定するのも効果的な対策です。

また、倉庫などに特定の商品を一定量常に保持しておく等の義務を相手方に負わせ、不渡りの場合、その商品を引き揚げる契約(集合動産譲渡担保契約)を交わす方法もあります。この契約書には、公証人の確定日付を押印してもらうとよいでしょう。

ただし、確定日付は「遡及(バックデイト)」していない証拠にはなりますが(日付によっては管財人から否認されないというメリットがある)、集合動産譲渡担保を破産管財人など第三者に対抗するには対抗要件が必要です。

5 不渡りとなった場合の対処

1)債権保全をしていない場合

振出人に対して「手形訴訟」(もしくは通常の訴訟)を提起すると同時に、商品、銀行預金など相手の資産の仮差押えを行います。仮差押えは、将来の強制執行に備えて振出人の処分権を奪っておくために行うものです。

なお、手形訴訟は通常訴訟よりも簡易迅速に債務名義(判決)を取得することを目的とする特別の訴訟手続です。そのため、通常訴訟と異なり、証拠調べの方法が原則として書証に限られ、原則として控訴が認められないなど簡略化された訴訟手続きです。

2)債権保全をしている場合

物的担保を取得している場合、担保権の行使によって債権の保全を図ります。人的担保を取得している場合、振出人と手形上の保証人を債務者として手形訴訟(もしくは通常の訴訟)を提起するか、簡易裁判所を通じて行う支払督促の申し立てをします。判決や支払督促などの債務名義を取得しているのに、それでも支払に応じない場合は、強制執行を行うことになります。

なお、担保権を行使しても、相手方が不渡り金額の返還に応じられそうにないときは、相手の扱う商品、原材料などを譲り受け、対価で相殺するのも選択肢の一つです。

以上(2025年7月)
(監修 弁護士 田島直明)

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画像:Mariko Mitsuda

【ビジネスマッチング冊子発刊のご案内】 この一冊が、新たな出会いの扉に!


↑こちらから内容をご閲覧いただけます!↑

このたび、とくぎんサクセスクラブと香川ニュービジネスクラブ(香川銀行)と合同で、企業間の新たなビジネス機会創出を目的としたビジネスマッチング冊子「TOMONY BUSINESS INFORMATION 2025.7」を発刊いたしました。

本冊子には、各地域で活躍する多様な業種の会員さまの事業内容、マッチング希望情報などを掲載しており、新たな取引先や提携先の開拓に向けたヒントやきっかけを見つけていただける構成となっております。

本冊子が、会員さまの更なる発展ならびに有益なビジネスパートナーとのご縁を築く一助となれば幸いです。是非ご一読いただき、有効にご活用くださいますようお願い申し上げます。

ご覧いただく中でご関心をお持ちの事項がございましたら、事務局までお問合せください。

【連絡先】とくぎんサクセスクラブ事務局(徳島大正銀行 法人推進部内)
TEL:088-656-1125

以上(2025年7月作成)

「2025〈夏季〉みどり会優待販売会(大阪会場)」が開催されました!

令和7年6月7日(土)、8日(日)にインテックス大阪6号館C・Dゾーンで、「2025〈夏季〉みどり会優待販売会(大阪会場)」が開催されました。
当優待販売会は昭和47年から開催のみどり会のメンバー企業従業員・家族を対象とした販売会です。現在東京・大阪でそれぞれ夏・冬の年2回、合計年4回開催しています。
メンバー企業の当行は、香川銀行と『トモニうまいもん市』を大阪会場で設置し、四国産品の紹介と販売に協力しています。これからも四国~大阪の橋渡しに努めて参ります。

みどり会について
昭和45年に開催された日本万国博覧会に「みどり館」を共同で出展した三和銀行(現三菱UFJ銀行)とそのお取引先31社の出資を受け、同年12月に設立されました。その後参画企業も増加し、現在メンバー会社は174社になります。
みどり会の活動は、メンバー企業のビジネスサポートを目的とした会員事業に加え、人材サービス業務、保険代理店業務など幅広い事業を展開しています。

会場の様子

食品、衣料品、日用品、美容品など様々なジャンルの約230社が出店。
2日間で約14,000人が訪れ、大いににぎわいました。

開場待機列に並びお買い物を楽しみにされるお客さま

ベリゴムも会場に登場

トモニうまいもん市にたくさんのお客さまが訪れました

食品の試食はもちろん、衣料品の試着や、健康器具や美容アイテムなども実際に試してもらえるため、多くの来場者に商品の魅力を直接伝えることができるのも、優待販売会の大きな魅力のひとつです。

また、出店者同士の交流もあり、
「トモニうまいもん市でご一緒してから毎シーズン注文をもらっている」
「原材料の農家を紹介してもらい契約に繋がった」
などの嬉しいお声も頂戴しております。

次回、「2025〈冬季〉みどり会優待販売会(大阪会場)」は12月12日(金)13日(土)を予定しています。

みどり会優待販売会出店についてのご相談は、お取引のある営業店にお問合せください。または、とくぎんサクセスクラブnaviのお問合せフォームからご連絡ください。

以上(2025年6月作成)

課題と成長のリアル! 2025年版 中小企業白書のポイント

1 円安・物価高など課題は山積み、中小企業の次の打ち手は?

2025年版中小企業白書(以下「白書」)によると、日本の中小企業は、新型コロナウイルス感染症の5類移行後、業況の回復は見られるものの、依然として多くの課題に直面しています。例えば、円安・物価高の継続、「金利のある世界」の到来、構造的な人手不足の深刻化、過去最高水準の賃上げ圧力への対応などがそうです。

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このような状況下で、白書が重要な要素として繰り返し強調しているのが「経営力」の強化、

経営力とは、「経営戦略の策定力」「経営資源のマネジメント力」「経営者の成長的志向」「従業員にとって健全な環境や待遇を整備する能力」等のこと

です。この記事では、主にこの経営力強化の内容を紹介します。なお、白書の詳細な内容を確認したい場合は、下記URLをご覧ください。

■中小企業庁「中小企業白書」■
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/

2 強い中小企業になるための3つの視点

白書では次のように、経営力を個人特性面、戦略策定面、組織人材面の3つの視点で捉え、これら3つの側面をバランスよく強化することが大切であるとしています。

経営力を強化する3つの視点

1)個人特性面

経営者の成長意欲の高さ、特に異業種や広域ネットワークでの交流、学び直しへの積極的な取り組みが、業績の向上につながるとされています。実際、経営者を年代別に見ると、若い経営者ほどリスキリングに意欲的に取り組んでいることが示されています。成長している企業の経営者は、「変化への対応力」と「継続的な学習姿勢」が高い傾向にあるようです。

2)戦略策定面

経営計画の策定・実行、市場環境を意識した適切な価格設定、そして差別化を行う戦略的経営が、業績向上や賃上げ、投資を促進するとされています。差別化の方向性としては、特定分野に特化する「専門性の深化」、個別のニーズに柔軟に対応する「カスタマイズ力」、小回りが利く中小企業ならではの「スピードと機動性」などが有効です。

3)組織人材面

経営理念や業績・経営情報の共有を重視するオープンな経営が、業績向上に寄与するとされています。また、賃上げ、社内コミュニケーションの円滑化、働き方・職場環境の改善など、従業員を大切にする人材経営が、従業員の確保と維持に貢献すると強調されています。

3 成長段階に応じた「成長の壁」の打破

中小企業は、規模ごとに異なる「成長の壁」に直面しています。具体的には次の通りで、それぞれの段階に応じた打開策が必要です。

成長の壁と有効な打開策

1)小規模事業者

事業規模や商圏が限られるため、差別化による独自の強みの創出が重要です。地域密着型のサービスやニッチ市場への特化が有効な戦略となり得ます。また、経営計画策定等を通じ、経営者のリテラシーを高め、経営の振り返りと改善のサイクルを通じた「経営の自走化」を目指すことも重要です。地域の社会課題解決を担うビジネスの推進も期待されています。

2)中小企業(成長段階)

この段階では、経営者自身にないスキルを持つ「補完型人材」の確保や、経営者の職務権限を分散させることで、「一人経営体制」を克服することが重要です。また、業務効率化とデータ分析による経営判断の高度化も推進されるべきです。

3)売上高100億円以上の企業

組織が拡大するこの段階では、経営者と共に組織を支える「経営人材」や「DX人材」の確保が特に重要となります。また、企業規模拡大には、積極的なM&Aやイノベーション、海外展開の推進が有効な手段です

4 具体的な成長・発展への取り組み

1)適切な価格設定と価格転嫁の推進

コストカット戦略が限界を迎えている現状において、収益を確保するためには、原材料費や人件費などの上昇分を適切に価格へ転嫁することが、不可避であるとされています。しかし、価格転嫁には取引先との交渉力が求められるため、その強化も重要な課題となります。

2)積極的な設備投資・デジタル化によるプロセス改善と業務効率化

付加価値や労働生産性を高めるためには、積極的な設備投資とデジタル化が不可欠です。デジタル化は、プロセスの改善や業務効率化を実現するための重要な解決策であり、その推進には、次の基本的なステップを踏むことが大切です。

  • 明確なビジョン・目標の設定
  • 業務の棚卸し、デジタル化すべき領域の特定
  • 費用対効果の検討
  • デジタル人材の育成・確保
  • デジタル化のための予算確保

3)人材確保と定着のための施策

人手不足が深刻化する中、高賃金の提示、働き方改革、福利厚生の充実なども検討しましょう。テレワークやフレックスタイム制など、柔軟な働き方の導入も、従業員の定着率向上に大きく貢献します。また、単に労働力の「量」を追求するのではなく、従業員の「質」を高め、一人ひとりの生産性を最大化するという発想の転換が求められています。

以上(2025年8月作成)

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画像:ChatGPT

取引先が無茶ぶりしてきたら? “ブンブン丸”への対応術

1 無邪気な“無茶ぶり”! ブンブン丸とは何者か?

「とりあえず、ざっくりでいいので見積もりを松竹梅の3パターン出して」

「今日のうちに資料作成お願いしたいです」

状況にもよりますが、こうした無茶ぶりともいえる依頼に心当たりはありませんか?

思いついたら即行動。フットワークは軽い反面、受け手の都合を考えていない? 無邪気にこうした無茶ぶりをしてくる取引先を、この記事ではビジネス界隈の【ブンブン丸】と呼びます。

ブンブン丸は無邪気に悪気なく動いているため、こちらも断りにくいのが実情です。結果として振り回されてしまうことが多く、対応に疲弊している人も多いのではないでしょうか。

ただし、視点を変えれば、ブンブン丸には「強い推進力がある」ともいえます。この力を建設的な方向に向けられれば、ビジネスを一緒に加速させていいけるかもしれません。

この記事では、ブンブン丸にどう対応したらいいか、ケーススタディでお伝えしていきます。

2 「ざっくり」な依頼には要注意

1)よくある状況の例

「とりあえず、ざっくりでいいので見積もりを松竹梅の3パターン出して」

「ざっくりとした内容の提案書をもらえますか? 細かいところはよしなに」

「ざっくり」と言われると気軽な感じでいいのかなと思いますが、実は要件が固まっていない状態で数字や形を求める、困った依頼の典型例です。

曖昧なまま見積もりやアウトプットを提示すると、手戻りが多くなって何度もやり取りすることになったり、後で大幅な修正や追加費用が発生したりしかねません。

2)対応法は、「ざっくり」を「しっかり」に変える

「ざっくり」の正体は、“目的・前提・期待値”が言語化されていない状態。言語化、共有していくことが重要です。そうした答え方の例をご紹介します。

1.ゴール、アウトプットのイメージを一緒に描く

「目的に応じて、必要なアウトプットが変わります。お手数ですが、何に使う見積もり(資料)かだけでも教えていただけますか?」

2.精度とスピードのバランスを示す

「急ぎであれば、まず1パターンだけを簡易的にお出しして、後ほどブラッシュアップすることもできます」

3.【3パターン見積もり】には前提条件と幅を明示

「現時点では要件が見えないところが多いので、お見積もりが難しいところがあります。30分ほどでいいですので、詳細をヒアリングさせてもらえませんか?」

4.粗い依頼をできるだけ明確にするテンプレートを用意

「ご要望のイメージをお伺いするための簡易入力シートをご用意しています。ご記入いただければ、内容を整理してご提案可能です」

対応のポイント

ざっくりした依頼にそのまま乗らず、「一緒に整える」姿勢を見せることが大切。「ざっくり」と言われても、こちらが主導権を握って「しっかり」にしてしまうのがポイント。実は相手も「しっかり」を求めています。

3 「フェイク緊急」連絡を上手にさばく

1)よくある状況の例

「明日の会議で使いたいので、今日のうちに資料作成お願いしたいです」

「急ぎ知りたいことがあって、とりあえず電話してみたんだけど」

本当に緊急の場合は別ですが、一見、緊急性が高いように見える依頼でも、実際には「今日じゃなくても大丈夫」「単なる思いつきの共有だった」というケースも少なくありません。

相手の勢いに押され、常に言われた通りに対応していると、業務が圧迫され、慢性的な疲労やストレスが溜まってしまうこともあります。とはいえ、頭ごなしに断ると関係性が悪くなりかねません。

2)対応法は、「フェイク緊急」を仕組みで落ち着かせる

「フェイク緊急」にも真摯に応じつつ、本当の緊急との違いを明確にする仕組みを持つことが大切です。そうした答え方の例をご紹介します。

1.受信確認+対応予告でまず安心感を持ってもらう

「メールを拝見しました。◯月◯日10:00までに一次回答いたします。緊急の場合はお電話をください」

2.緊急度の判定ルールを共有する

「本当に緊急の場合」を事前に決めておくことも有効です。例えば下記などです。

  • サービス停止でユーザーに重大影響
  • 法的締切が24時間以内
  • セキュリティインシデント

3.ルールを【愛されキャラ】で周知し、行動ガイドを徹底

相手との関係性や連絡の内容にもよりますが、メール署名やチャットの固定メッセージで「営業時間」「緊急連絡先」を柔らかいトーンで共有する方法もあります。

メール文面例

いつもありがとうございます。

私たちはより良い対応のために、通常のご連絡は平日9:00~18:00の間にお願いしております。お急ぎの場合に限り、○○までお電話ください!

4.チーム内で“緊急連絡の扱い方”を共有しておく

外部との対応だけでなく、社内でも「こういうときはすぐ対応する」「この程度なら翌営業日でOK」といった共通認識をつくっておくことが重要です。対応が属人的にならず、誰が対応してもブレのない対応が可能になります。

対応のポイント

単に断るのではなく「より良い対応ができる方法」を示すこと。相手も「いつでも対応してもらえる」より「確実に対応してもらえる」方を望んでいるかもしれません。

4 「無茶ぶりスケジュール」を現実的プランに変換する

1)よくある状況の例

(金曜18:00過ぎに)「月曜10:00までには企画案を出してください」

「遅れていた役員承認が下りました! 納品は当初予定どおり○日で」

突然のスケジュール変更や、現実的に対応が難しい短納期の依頼に戸惑うことはありませんか? 相手に悪気はなくとも、こちらの準備時間が足りないままで対応すると、ミスやクオリティ低下につながる恐れがあります。断りにくい気持ちもありますが、納得感を持って調整するための工夫が必要です。

2)対応法は、「できる範囲」を見せて共に調整する

無茶ぶりにそのまま応じるのではなく、冷静に「できる範囲」を提示し、相手と一緒に調整の落としどころを探る姿勢が重要です。そうした答え方の例をご紹介します。

1.必要工数を見える化して交渉

作業の内訳と所要時間を丁寧に伝えることで、相手も「それは無理だったか」と納得しやすくなります。

「企画案3パターン作成には以下が必要です。

  • 市場調査:8時間
  • 企画立案:12時間
  • 資料作成:6時間
  • 合計 26 時間

このため、週明け月曜朝までの対応は、現実的にかなり厳しいスケジュールです。例えば、一次案を火曜午前、ブラッシュアップ版を木曜正午にご提出するスケジュールであればできると思いますが、いかがでしょうか?」

2.優先順位を相手に選んでもらう

「どちらを優先しますか? 月曜朝に1案のみ(精度は高い)でしょうか、それとも水曜午後に3案すべて(通常の精度)でしょうか」

3.現実的代替案を提示

「今回、役員さまのご承認に○日要したため、品質を保つには □月□日が最短です。ただし段階納品なら可能です。一次納品は◎日、最終納品△日という形ではいかがでしょうか?」

4.合意内容を文書で確認

お互いに確認し合えるよう、書面でスケジュールの変更をお願いし、合意することも有効です。

書面例

変更後スケジュール

○月○日:一次案提出

△月△日:最終案提出

※品質基準は従来どおり維持

以上でご了承いただけますでしょうか?

対応のポイント

「できません」ではなく「こうすればできます」で提案。ブンブン丸は現実的な代替案を待っています。

5 「振り回される」から、「一緒に加速する」へ

これまで、ブンブン丸に「振り回されないようにする」対応法を紹介してきましたが、実はブンブン丸との関係を攻めの視点で捉えることもできます。

ブンブン丸に「振り回される」状況を、こちら側のチーム全体の“スピードアップ”や“対応力を鍛える機会”に変えてしまうことです。

例えば、仕事のフローをシンプル化する、定型フォーマットを用意する、AIをうまく活用するなどの取り組みで、スピードアップを図るのも一策です。

ブンブン丸への対応力を磨くと、次のような成果も期待できます。

  • スピード感のある対応体制が整う 急な依頼にも冷静に、素早く対応できるようになる
  • 対応パターンの資産化 汎用テンプレートや定型フローが増え、業務効率がアップする
  • メンバーの対応力向上 臨機応変な動き方が身につき、一人ひとりのスキルアップにつながる
  • 信頼の積み上げ 急ぎの要望にも“的確に対応できる存在”として評価が高まる

ブンブン丸の行動に一喜一憂するのではなく、それに対応できるチームへと進化することで、結果的に組織全体の推進力が上がっていきます。

振り回されるだけの関係から、一緒に加速し、成長し合える関係へ。ブンブン丸への対応を、そう前向きに捉えることもできるでしょう。

ブンブン丸は「困った取引先」ではありません。「可能性を秘めたパートナー」です。

みんなで良い方向に進化していきましょう!

以上(2025年6月作成)

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画像:日本情報マート

居眠り運転なのに労災? 小さな運送業が社員に訴えられた理由

1 小さな運送業は労災が多い

運送業の現場では、トラックや配送車の長時間運転、荷物の積み降ろし作業、倉庫や配送センターでの重機(フォークリフト等)操作など、日常的に労災リスクが潜んでいます。大手運送会社や大規模物流センターでは安全管理の担当者が常駐し、健康管理や事故防止策が徹底されているケースが多いですが、小規模の会社の場合、人的リソースや設備投資が限られ、「対策不十分」「悪気のない労災かくし」などの問題が起こりやすいのが実情です。

労災発生件数

さらに近年、2024年問題(注)と呼ばれるドライバーの時間外労働規制強化により、長時間労働の是正や運行管理体制の見直しが一層求められています。納期圧迫や人手不足などの課題が重なり、「事故が起きても忙しくて労災手続きを後回しにしてしまう」「ドライバー本人に自己責任で処理させてしまう」といった状況が懸念されます。

「ウチくらいの規模なら何とかなる」「大した事故じゃないから健康保険でいいだろう」などと安易に判断すると、後々大きなペナルティーやトラブルを招く恐れがあります。以下の事例を参考に、正しい労災対応をいま一度確認していきましょう。

(注)2024年問題:働き方改革関連法の施行により、運送業のドライバーにも時間外労働の上限規制(年960時間)が適用されるようになる問題。業界全体で人手不足や長時間労働が常態化している中、対応が急務となっています。

2 小さな運送業で起きた労災の落とし穴「6選」

次のリンクから、現役社労士が直面した小さな運送業で起きた労災の事例をベースに、労災に対するよくある誤解を取り上げた記事をご覧いただけます(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。

以上(2025年7月作成)

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画像:ChatGPT

ライト兄弟のイノベーションは「リスペクト」から生まれた

僕たちはたゆまず進み、自分たちの手ですべてを見つけなくてはならなかった

オーヴィル・ライトは、18世紀の発明家。兄ウィルバーとともに、世界初の有人飛行(諸説あり)を成し遂げた英雄です。日本では「ライト兄弟」の名で広く知られています。

冒頭の言葉は、ウィルバーの病没後にオーヴィルが少年誌に寄せたコラム「How I learned to Fly」の中の一言です。ライト兄弟は、幼い頃に父親が土産に買ってきたヘリコプターの玩具をきっかけに機械いじりに興味を持ち、やがて成人すると自転車屋を営みながら、本格的に飛行機の開発に乗り出します。しかし、空という未知の領域への挑戦は困難を極め、2人は何度もぶつかります。2人は仲の良い兄弟でしたが、「飛行」に対するアプローチの仕方がまるで違ったのです。

兄のウィルバーは、「理論派・戦略家タイプ」。膨大な文献を読みこなし、鳥やグライダーの飛行を徹底的に研究しながら、機械を空に飛ばす方法を論理的に突き詰めていく人でした。弟のオーヴィルは、「実践派・技術者タイプ」。手先が器用で機械の組み立てなどを得意とし、自ら飛行機を操縦しながら足りないものを探っていく人でした。

性質が異なる人間がそろってものづくりを行うとなれば、言い争いが起きないはずもありません。例えば、飛行機のプロペラを開発していた際には、2人はお互いの意見の食い違いから、昼夜問わず激論を交わし、けんかに発展することもしばしばでした。しかし、彼らはけんかの翌朝になれば、「自分が間違っていた、やるならウィルバーの方法だ」「どうやらオーヴィルのほうが正しいようだ」とお互いの考えを認め、また2人で同じ部屋に入って研究を始めたといいます。

これは、兄弟がお互いに違う分野の“スペシャリスト”だったからかもしれません。ウィルバーは理論に精通しつつも、「弟のように機械をうまく操れない」という自覚があり、オーヴィルは機械に精通しつつも、「兄のように緻密に理論を組み立てられない」という自覚があったのでしょう。自分の得意分野にプライドを持っているからこそ激しく衝突しますが、相手が自分にないものを持っているからこそ、お互いに認め合って「たゆまず」進み続けることができたのです。

ビジネス環境が複雑化した現在では、経営者がワンマンで会社を引っ張るやり方は限界に来つつあります。社員一人ひとりが、特定の分野の“スペシャリスト”になり、「自分の得意分野へのプライド」「相手の得意分野へのリスペクト」の両方を持ち合わせてこそ、新たなイノベーションへとつながっていくのではないでしょうか。

後年オーヴィルは、「私たちにとって最大の恩恵は家族に恵まれたこと」と言いました。「会社は家族」という考えは古いという人もいますが、社員同士が兄弟のようにたゆまず切磋琢磨する会社は、着実な進歩を続け、いつかは大空に羽ばたくでしょう。

出典:「ライト兄弟 イノベーション・マインドの力」(デヴィット・マカルー著 秋山勝訳 草思社、2017年5月)

以上(2024年7月作成)

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画像:Gerald Zaffuts-Adobe Stock