目次
1 副業社員の労働保険はどうなる?
副業にはさまざまな労務管理のルールがあります。労働保険(雇用保険・労災保険)の場合、
雇用保険については、65歳以上など一定の要件を満たす社員に限り、複数の会社での加入を認める「雇用保険マルチジョブホルダー制度」
というのがありますし、労災保険についても押さえておきたい特有のルールがあります。
この記事では、副業特有の労働保険のルールを取り上げます。ポイントは、次の5点です。
- 雇用保険は原則として1社で加入する
- 65歳以上の社員は一部、複数の会社で雇用保険に加入できる
- 雇用継続中でも離職証明書の作成が必要になるケースがある
- 労災保険給付の申請には自社と副業先の両方が携わる
- 疾病による労災は自社と副業先の両方の負荷で判断することがある
2 雇用保険は原則として1社で加入する
学生などの例外を除き、次の2つのいずれにも該当する社員は、必ず雇用保険に加入します。
- 週の所定労働時間が20時間以上(注)であること
- 雇用見込みが31日以上あること
(注)2028年(令和10年)10月1日より、週の所定労働時間が「10時間以上」の労働者にも雇用保険が適用されるようになります。
役員は、原則として雇用保険に加入できません。しかし、経営業務以外の業務にも携わり賃金が支払われる「兼務役員」については、所轄ハローワークの認定を受ければ加入できます。
社員や役員(以下「社員等」)が副業する場合、雇用保険は原則として「主たる賃金が支払われる会社(一般的には、賃金が最も多い会社)」で加入します。つまり、
原則として複数の会社で同時に雇用保険に加入することはできず、1社で加入する
ということです。
3 65歳以上の社員は一部、複数の会社で雇用保険に加入できる
原則として、雇用保険は1社で加入します。しかし、例外として雇用保険マルチジョブホルダー制度があります。これは、高齢社員の就業機会を増やすための制度で、次の3つのいずれにも該当する社員に限り、複数の会社で雇用保険に加入できます(兼務役員への制度適用については特に定めがないため、所轄ハローワークなどに要相談)。
- 1.複数の会社で雇用され、年齢が65歳以上であること
- 2.複数の会社のうち2つの会社(どちらも週の所定労働時間が5時間以上20時間未満)について、週の所定労働時間の合計が20時間以上であること
- 3.複数の会社のうち2つの会社について、それぞれ雇用見込みが31日以上あること
図表1は、3つの会社で雇用される65歳の社員への制度適用のイメージです。

社員が3つの会社の中から、制度の対象となる会社を2つ選択します。C社は雇用見込みが31日以上ないので対象外ですが、A社とB社が週の所定労働時間と雇用見込みの要件を満たします。そのため、社員はA社とB社、2つの会社で雇用保険に加入できます。
なお、雇用保険は通常、強制加入(加入要件を満たす社員は必ず加入しなければならない)ですが、マルチジョブホルダー制度の場合は任意加入(社員が加入するかどうかを自分で決められる)です。加入を希望する場合、
社員本人が「マルチジョブホルダー雇入・資格取得届」などの必要書類を、自分の住所を管轄するハローワークに提出(提出期限はなし)
します。この際、
社員が制度の対象として選択した2つの会社は、それぞれ社員からの依頼に基づいて、書類の事業主記載事項(賃金や週の所定労働時間など)を記入する必要があります。また、手続き時には賃金台帳や出勤簿、雇用契約書などの確認資料(コピー可)の添付も必要となりますので、それらの書類を社員本人に交付
します。
雇用保険料については、雇用保険の資格取得日から発生し、2つの会社がそれぞれ納付義務を負います。社員からの保険料徴収(給与天引き)、保険料納付(年度更新)などの実務は、通常の社員と変わりません。
被保険者となった社員は、通常の社員と同様、雇用保険給付を受けられます。ただし、給付を受けるには2つの会社で同時に支給要件を満たさなければなりません。例えば、介護休業給付(介護休業中、賃金が支払われない場合に支給)の場合、2つの会社で原則として「直近2年間に被保険者期間が12カ月以上あること」などの要件を満たし、かつ同時に介護休業を取得する必要があります。
なお、マルチジョブホルダー制度の書類に提出期限はないものの、資格取得日は届出日となります。届出前に遡って加入はできないため、社員に対して早めに届け出ることを伝えるのが望ましいでしょう。
4 雇用継続中でも離職証明書が必要になるケースがある
社員が副業先を退職するなどして、雇用保険マルチジョブホルダー制度の対象から外れる場合、雇用保険の被保険者資格も失われます。その場合、
社員本人が「マルチジョブホルダー喪失・資格喪失届」などの必要書類を、自分の住所を管轄するハローワークに提出(被保険者でなくなった日の翌日から10日以内)
します。この際、
社員が雇用保険加入時に制度의対象として選択した2つの会社は、それぞれ社員からの依頼に基づいて、書類の事業主記載事項(退職日や退職理由)を記入
します。また、
社員から依頼があった場合、2つの会社でそれぞれ「離職証明書」を作成
する必要があります。雇用が継続しているほうの会社も、社員に退職日などを確認して離職証明書を作成しなければなりません。
なお、マルチジョブホルダー喪失・資格喪失届や離職証明書は、社員が退職したほうの会社と、雇用が継続しているほうの会社とで記入方法が異なります。詳細は次の申請パンフレットをご確認ください。
厚生労働省「雇⽤保険マルチジョブホルダー制度の申請パンフレット」
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000838543.pdf
5 労災保険給付の申請には自社と副業先の両方が携わる
労災保険は、適用事業に雇用されている全ての社員に適用されます。事業場単位で保険に加入し、賃金を受け取るすべての労働者が自動的に対象となるため、被保険者という概念はありません。
原則として、役員は労災保険に加入できませんが、中小事業主等に該当する経営者などは、所轄都道府県労働局長の承認を受ければ特別加入できます。また、兼務役員の場合、経営業務以外の業務中に発生した業務災害と通勤災害について、労災保険が適用されます。
また、副業する社員等が本業先から副業先へ移動する場合(事業場間の移動)も、労災保険法上の「通勤」です。この区間で事故に遭った場合、移動先(副業先)の労災保険により通勤災害として保護されます。
副業している社員等が労災により傷病を負った場合、通常の社員等と同様、労災保険給付を受けられます。ただし、一部の給付を除き、
自社と副業先の賃金額の合計を基に支給額が算定される
という点が通常と異なります(特別加入の経営者などは、厚生労働大臣が具体的な額を定めるため対象外)。

社員等が労災保険給付(一部を除く)を申請する場合、労災が発生したほうの会社は、申請に当たって傷病の発生状況、賃金の支払い状況、休業状況などを申請書に記入します。ただし、社員等が副業している場合、支給額を正確に算定するため、
労災が発生していないほうの会社も、賃金の支払い状況などを、申請書の別紙に記入しなければならないケース
があります。具体的には、次の保険給付の場合です。
- 休業(補償)等給付:療養のために働けず、休業が通算3日以上となった場合に支給
- 障害(補償)等給付:社員等の傷病が治癒し(症状固定を含む)、一定の障害が残った場合に支給
- 遺族(補償)等給付:社員等が亡くなった場合、遺族に対して支給
- 葬祭料等(葬祭給付):社員等が亡くなった場合、葬儀を執り行う者に支給
6 疾病による労災は自社と副業先の両方の負荷で判断することがある
脳出血やうつ病などの疾病は、負傷の場合と違って労災の発生状況が分かりにくいため、自社と副業先の両方について社員等の負荷を評価し、労災に当たるかを判断します。具体的には、
まずそれぞれの会社で社員等の負荷がどの程度あったかを評価し、1つの会社の負荷だけでは労災に当たると認定できない場合、複数の会社での負荷を総合的に評価して判断
します。社員等が泣き寝入りになってしまうことを防ぐためです。

なお、労災保険料率を上下させる「メリット制」については、あくまで業務災害が発生した事業場のみが影響を受けます。
以上(2026年3月更新)
(監修 社会保険労務士 柴田充輝)
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画像:takasu-Adobe Stock























