【残業代の計算問題】 “日またぎ勤務”や振替休日の場合はどう計算する?

1 知らないうちに発生している? 残業代の未払いや過払い

残業代の計算は意外と複雑で、計算ミスによる未払いや過払いが珍しくありません。計算ミスに気付けば後から過不足を訂正できますが、あまりミスが頻発するようでは社員も不安です。

そこで、この記事では間違えやすい残業代の計算ルールを問題形式で3つ紹介します。次の用語は重要なので、問題に取り組む前に押さえておきましょう。

基本的な用語

なお、残業代には明確な定義がないので、この記事では

所定外労働(時間外労働、休日労働、深夜労働、所定外の法定内労働)に対する賃金

を残業代として扱います。

2 “日またぎ勤務”があった場合の残業代はどう計算する?

1)問題

Aさんの労働条件は次の通りです。

  • 法定労働時間:1日8時間、1週40時間
  • 所定労働時間:9~18時までの8時間(休憩1時間)
  • 法定休日:日曜日
  • 賃金体系:日給月給制(1カ月単位で賃金を計算し、その後不就労分の賃金を控除)
  • 1時間当たりの賃金額:2000円(便宜上、これを残業代の算定基礎額とします)
  • 割増賃金率:時間外労働が25%、休日労働が35%、深夜労働が25%

ある月に、Aさんは次の勤怠管理表の通り働きました。この月のAさんの残業代はいくらになるでしょうか? 赤字の部分に注目しながら考えてみてください。

Aさんの残業代はいくら?

2)答え:13万1200円

労働時間を計算する際の「1日」「1週」の考え方は、原則として次のようになります。

  • 0~24時までの暦日を「1日」として扱う
  • 日曜日から土曜日までの暦週を「1週」(1週間の起算日について特に定めがない場合)として扱う

なお、1日の労働が24時を超え翌日に及ぶ、いわゆる“日またぎ勤務”をする場合、原則として始業時刻が属する日の労働として扱います。ただし、次のルールがあるので注意が必要です。

  • 1日の労働が24時を超え法定休日に及ぶ場合、24時以降の労働は休日労働になる
  • 法定休日の労働が24時を超え平日に及ぶ場合、24時以降の労働は休日労働にならない

これを基に考えると、この月のAさんの所定外労働は次のようになります。

Aさんの所定外労働

5日(木)と13日(金)

どちらも9~26時を、1日の労働として扱います。したがって、18~26時(8時間)は時間外労働となります。また、22~26時(4時間)が深夜労働となります。

21日(土)

休憩1時間を除くと、21日(土)の9~24時(14時間)は、時間外労働になります。20日(金)の時点で、第3週の実労働時間(時間外労働・休日労働を除く)が40時間(8時間×5日)で法定労働時間に達するからです。

22日(日)

21日(土)の24~26時は、22日(日)の0~2時までの労働として扱います。22日(日)は法定休日なので、0~2時(2時間)は休日労働になります。

29日(日)

29日(日)は法定休日なので、休憩1時間を除くと、9~24時(14時間)は休日労働になります。

30日(月)

29日(日)の24~26時は、30日(月)の0~2時の労働として扱います。0~2時と9~18時の実労働時間の合計が10時間(休憩1時間を除く)なので、2時間(10時間-8時間)の時間外労働が発生します。

以上から、この月のAさんの残業代は

13万1200円=2000円×(32時間×1.25+16時間×1.35+16時間×0.25)

となります。

3 振替休日や代休を取得した場合の残業代はどう計算する?

1)問題

Bさんの労働条件は次の通りです。

  • 法定労働時間:1日8時間、1週40時間
  • 所定労働時間:9~18時までの8時間(休憩1時間)
  • 法定休日:日曜日
  • 賃金体系:日給月給制(1カ月単位で賃金を計算し、その後不就労分の賃金を控除する)
  • 1時間当たりの賃金額:2000円(便宜上、これを残業代の算定基礎額とする)
  • 割増賃金率:時間外労働が25%、休日労働が35%、深夜労働が25%

ある月に、Bさんは次の勤怠管理表の通り働きました。この月のBさんの残業代はいくらになるでしょうか? 赤字の部分に注目しながら考えてみてください。

Bさんの残業代はいくら?

2)答え:5万9200円

今回の問題で注意すべきは、「振替休日」と「代休」です。

振替休日

あらかじめ法定休日として定められていた日を労働日とし、他の労働日に法定休日を振り替えることです。例えば、日曜日が法定休日の場合、振替休日を行うと、日曜日の労働は休日労働でなくなります。

代休

法定休日に働いた後で、他の労働日を休日に代えることです。例えば、日曜日に働いた後で代休を取得しても、日曜日の労働は休日労働のままです。

これを基に考えると、この月のBさんの所外労働は次のようになります。

Bさんの所外労働

1日(日)と5日(木)、8日(日)と13日(金)

振替休日により法定休日が入れ替わります。つまり、1日(日)と8日(日)の労働は、休日労働にならないということです。したがって、8日(日)の18~24時(6時間)は時間外労働になります。また、22~24時(2時間)は深夜労働になります。

15日(日)と18日(水)

こちらも、振替休日により法定休日が入れ替わります。ただし、Bさんは一度18日(水)に休日を振り替えたものの、当日急な仕事が入り出勤しています。既に18日(水)に法定休日が入れ替わっているので、休憩1時間を除くと、この日の9~18時(8時間)は休日労働になります。

22日(日)と25日(水)

25日(水)が代休のため、法定休日は入れ替わりません。したがって、休憩1時間を除くと、22日(日)の9~18時(8時間)は休日労働になります。

以上から、この月のBさんの残業代は

5万9200円=2000円×(6時間×1.25+16時間×1.35+2時間×0.25)

となります。ただし、Bさんの会社は日給月給制を導入しているので、代休を取得した25日(水)の賃金は、不就労分として控除できます。ですから、実質的な支払額は

4万3200円=5万9200円-2000円×8時間

となります。

4 働いていない時間があった場合の残業代はどう計算する?

1)問題

Cさんの労働条件は次の通りです。

  • 法定労働時間:1日8時間、1週40時間
  • 所定労働時間:9~18時までの8時間(休憩1時間)
  • 法定休日:日曜日
  • 賃金体系:日給月給制(1カ月単位で賃金を計算し、その後不就労分の賃金を控除する)
  • 1時間当たりの賃金額:2000円(便宜上、これを残業代の算定基礎額とする)
  • 割増賃金率:時間外労働が25%、休日労働が35%、深夜労働が25%

ある月に、Cさんは次の勤怠管理表の通り働きました。この月のCさんの残業代はいくらになるでしょうか? 赤字の部分に注目しながら考えてみてください。

Cさんの残業代はいくら?

2)答え:1万9000円

始業時刻(終業時刻)が定時より前(後)だからといって、必ず時間外労働が発生するわけではありません。例えば、年次有給休暇の取得中は、そもそも労働義務が免除されているので、労働時間にはなりません。そして、これらを除外して計算した労働時間が法定労働時間の範囲内であれば、時間外労働は発生しないことになります。

これを基に考えると、この月のCさんの所定外労働は次のようになります。

Cさんの所定外労働

2日(月)

13~15時は、時間単位の年次有給休暇を取得しているので、労働時間になりません。18~21時(3時間)のうち、1時間(3-2時間)が時間外労働、2時間が法定内労働となります。

18日(水)

18~21時(3時間)は時間外労働です。この日は13~14時と15~16時の計2時間、自社と取引先を往復していますが、この移動時間は労働時間です。移動時間中は、直接業務を行っていなくても、業務から離脱して自由に行動することができず、会社の指揮命令下にあるからです。

26日(木)

18~20時(2時間)は時間外労働です。この日は18~20時で外部のセミナー(業務命令)に参加していますが、これは労働時間です。「参加義務のある研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間は、原則として労働時間になる」とされているからです。

以上から、この月のCさんの残業代は

1万9000円=2000円×(6時間×1.25+2時間×1)

となります。

以上(2026年10月更新)

pj60160
画像:unsplash

知らないと恥ずかしいレベルの「労働時間」

1 自由な労働時間制度は会社の魅力

9時に出社して18時に退社する。変わりつつあるものの、未だにこれが労働時間の基本です。ところで、法定労働時間、所定労働時間、時間外労働など、労働時間にはさまざま取り決めがありますが、皆さんはどれだけ基本を押さえていますか?

この記事では、労務担当者でなくてもこれくらいは知っておきたいというレベルで、労働基準法(以下「労基法」)で定められている労働時間の基本を、分かりやすく説明します

2 法定労働時間:法律で定める労働時間の基本

法定労働時間とは、

労基法で定められている労働時間の上限で、原則として1日8時間、1週40時間(休憩時間を除く)

です。ただし、特例措置対象事業場(社員が常時10人未満の商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業)は、1日8時間、1週44時間(休憩時間を除く)です。

ちなみに、休憩時間とは、

社員が自由に利用できる時間(単なる手待ち時間などは含まれない)のことで、1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は60分以上

与えなければなりません。

3 所定労働時間:会社が決める労働時間

所定労働時間とは、

会社が就業規則等で定める労働時間(ただし、法定労働時間を超えてはいけない)

です。例えば、所定労働時間が1日7時間なら問題ないですが、1日10時間だと違法です。つまり、

原則として、会社は法定労働時間を超えて社員を働かせることができない

ということです。

ただし、通称「36協定(さぶろく協定)」と呼ばれる労使協定を締結して所轄労働基準監督署に届け出ると、この後に紹介する時間外労働や休日労働を、社員に命じることができます。ちなみに、労使協定とは、

過半数労働組合(社員の過半数で組織する労働組合)、過半数労働組合がない場合は過半数代表者(社員の過半数を代表する者)との書面による協定

です。

4 時間外労働:いわゆる「残業」

時間外労働とは、

法定労働時間を超える労働(いわゆる「残業」)

のことです。例えば、9時始業で18時終業(休憩時間が1時間)の会社で、社員が9時から21時まで働いた場合、時間外労働は3時間(11時間-8時間)です。

時間外労働のイメージその1

また、法定労働時間は1週40時間ですから、通常、出勤は週5日になります。つまり、

8時間×5日=40時間

ということですから、社員が土曜日に出勤して8時間働くと、それは時間外労働となります。

時間外労働のイメージその2

会社は、時間外労働に対して割増賃金を支払わないといけません。また、1カ月当たりの割増率は時間外労働の長さによって次のように変わります。

  • 60時間以下:25%以上の割増
  • 60時間超:50%以上の割増

5 休日労働:土曜日と日曜日で違う?

休日労働とは、

法定休日(就業規則等で定める、毎週1日または4週間を通じ4日以上の休日)の労働

のことです。例えば、日曜日を法定休日とした場合、日曜日の労働は労働時間に関係なく全て休日労働になります。

会社は、休日労働に対して割増賃金を支払わないといけません。

  • 休日労働:35%以上の割増

なお、法定外休日(法定休日以外の休日)に働いても、休日労働にはなりません。例えば、土曜日と日曜日が休日の会社が、日曜日を法定休日とした場合、土曜日は法定外休日です。法定外休日の労働は、第4章で紹介した通り、法定労働時間を超える部分が時間外労働になります。その場合、会社は法定外休日の労働に対して割増賃金を支払わないといけません。

  • 法定外休日の労働(時間外労働になる場合):25%以上の割増

6 深夜労働:深夜というわりに早い?

深夜労働とは、

原則として22時から翌日5時までの労働

です。

会社は、深夜労働に対して割増賃金を支払わないといけません。

  • 深夜労働:25%以上の割増

7 割増率:要素のコンボで高くなる

時間外労働、休日労働、深夜労働の賃金は割増されますが、これは足し算されます。

  • 時間外労働が深夜に及んだ場合:50%(25%+25%)
  • 時間外労働が深夜に及び、1カ月60時間を超えた場合:75%(50%+25%)
  • 休日労働が深夜に及んだ場合:60%(35%+25%)

なお、「休日労働の時間外労働」という概念はありません。

8 時間外労働の上限規制

社員に時間外労働を命じる場合、会社は第3章で紹介した36協定に具体的な時間数を定めます。36協定の時間数の範囲内までなら、時間外労働を命じても違法にはなりません。ただし、

36協定に定められる時間数には上限があり、これを超える時間外労働は違法

になります。このルールを「時間外労働の上限規制」といいます。

時間外労働の上限規制のルールは、2024年4月1日から、適用が猶予されていた4つの業種・業務が対象に加わり、図表3のようになっています。どの業種・業務も、時間外労働は原則として「1カ月45時間まで、1年360時間まで」とされていますが、臨時的な特別な事情があり、かつ労使の合意がある場合については、それぞれ上限のルールが異なります。

時間外労働の上限規制

2024年4月1日からは、ほぼ全ての業種・業務が時間外労働の上限規制の適用を受けることになりましたが、唯一「新技術・新商品等の研究開発業務」は、適用除外とされています。

9 時差出勤:最も手軽な働き方改革

ここまで労働時間の基本をお話ししてきましたが、近年は柔軟な働き方を実現しようと、労働時間のルールを工夫している会社が増えてきています。ここでは、比較的少ない手間で取り組める「時差出勤」を紹介します。

時差出勤とは、

所定労働時間を変更せず、始業・終業時刻を変更する制度

です。9時始業で18時終業の会社が時差出勤を導入すると、例えば、10時始業で19時終業にすることができます。

時差出勤のイメージ

時間外労働などについて時差出勤特有のルールはないので、この記事の内容を守っていれば問題ありません。必要な手続きは、就業規則の変更と届け出です。具体的には次の通りです。

導入の手続き:時差出勤

以上(2026年10月更新)

pj00462
画像:Dhammarat Nunart-shutterstock

細かな管理を止めたら「隠れ残業」が減るって本当?

1 管理、管理の「北風政策」では隠れ残業は減らない?

「隠れ残業」とは、

定時で退勤打刻し仕事を終えたように見せかけて、実はその後も仕事を続けること

です。いわゆる「サービス残業」ですが、隠れ残業には「会社に隠れてこっそり残業する」といったニュアンスがあります。

隠れ残業をする社員の言い分は、おそらく図表のようなイメージでしょう。

隠れ残業をする社員の言い分

一方、会社は社員の労働時間を管理する義務を負っていて、だからこそ多くの会社が残業を許可制にしているわけです。残業削減は社員の健康のためでもありますから、経営者は、

社員が残業のルールを守らないなら、もっと厳しく管理するしかない!

と考えます。これは至極当然の考え方ですが、長年、このアプローチを続けてもなかなか隠れ残業がなくならないのも事実です。

そこで、この記事では、

厳しく管理するという「北風政策」ではなく、「許可制を廃止し、ある程度社員の自主性に任せて残業を認めるという、いわば『太陽政策』で隠れ残業をなくす」考え方

をご提案します。ただし、「そもそも仕事が多すぎ! 『残業はダメ!』なんて言われても無理だよ……」といったケースは、業務効率化や人材採用の問題なので、この記事で提案する方法では事態が悪化する恐れがあります。

2 隠れ残業で会社に生じるリスクを確認

まずは、隠れ残業がなぜ問題になるのかを簡単におさらいしましょう。

会社は、36協定(労働基準法第36条に基づく労使協定)を締結し、労働基準監督署に届け出ることで、36協定に定めた範囲内で社員に残業を命じることができます。残業を許可制にしている場合、社員が残業を申請し、上司がそれを承認します。

明確な申請と承認がなければ残業は発生しないように思えますが、実は「黙示の指示」があれば残業を命じたとみなされることがあります。黙示の指示とは、

  • 残業しないと終わらない量の業務を社員に命じている場合
  • 社員が残業をしていることを知りながら放置している場合

などのことです。隠れ残業が法的に労働時間と判断されると、会社が把握していない残業が出てきます。その影響で社員の残業時間が36協定の時間数を超えると労働基準法違反となります。もちろん、残業手当の支払いも必要です。

また、隠れ残業によって過重労働となれば、

社員が心身の健康を害してしまう

恐れがあります。そうなると、会社が安全配慮義務(社員が心身の安全を確保しつつ働けるような配慮する義務)違反を問われることにもなります。

3 許可制を廃止しつつ、残業を必要最小限にとどめる!

1)残業時間の上限を社員ごとに設定する

隠れ残業が引き起こすリスクを回避するために、会社は残業の許可制を導入するなどして管理しようとするのですが、なかなかうまくいきません。であれば、いっそ許可制をやめてしまうというのがこの記事の提案です。

具体的には、残業の許可制を廃止する代わりに

ことにします。その際、残業時間の上限(1日○時間、1カ月□時間など)を社員ごとに設定し、月初などに本人と上司に通知します。上限は業務量や経験、職種などに応じて判断します。

例えば、明らかに業務量が多い社員や、新商品の開発など重要かつ時間が読みにくい業務に従事する社員は、36協定の範囲内で残業を認めます。一方、他の社員のサポートが主な業務である社員などは、実績に応じた時間を設定します。新入社員など残業をするほどの業務がなければ、残業を禁止します。

なお、36協定自体が法律に違反していないかもチェックが必要です。36協定で定める残業時間には、「原則1カ月45時間、1年360時間まで」などの上限があります。労働基準法の「時間外労働の上限規制」といわれるものです。

2)残業時間と社員の健康状態は常にチェックする

上限設定後も、社員がその枠内で安全に働いているかは定期的に確認します。上司は部下の日々の残業時間を把握し、残業が多い人がいたら、声をかけ状況を聞きます。必要な残業であれば認めますし、臨機応変にフォローもします。また、状況確認の結果に応じて設定する残業時間の上限を見直すようにします。

残業の許可制を廃止する際、特に注意が必要なのは社員の健康管理です。許可制なら体調不良の社員が残業を申請してきても、上司がストップすることができます。しかし、許可制を廃止すると社員の健康状態が分からないため、日ごろのコミュニケーションが大切になります。上司が相談しやすい雰囲気を作り、仕事の遅れや体調不良を早めに共有できるような仕組みを整える必要があるでしょう。

4 社員を尊重し、信じる「太陽政策」を進める

この記事で提案しているのは、残業の仕方について社員の自主性を尊重し、申告(勤怠管理システムの打刻など)を信じる仕組みです。社員が申告した時間に基づいて残業手当を支払うため、いわゆる「固定残業代」とは違います。

一定期間内の残業時間の上限を決めますが、それは個々の社員と向き合い、その仕事の状況を把握した結果です。全体を管理するための「申請制度」よりも、一歩も二歩も社員と向き合うことになるため、会社の負担は増えるかもしれません。しかし、会社と社員の双方がルールを守ることによって新しい残業制度となるでしょう。

5 許可制を廃止しても法的な問題はないのか?

最後に補足すると、残業の許可制を廃止すること自体に法令上の問題はありません。ただし、

  • 36協定の締結・届け出をし、その範囲内で残業を認める
  • 労働時間を適切に把握する
  • 設定した枠よりも長い残業をした場合は、その分の残業手当をきちんと支払う
  • 設定した枠内であっても、休日や深夜の残業には法定以上の割増率で残業手当を支払う

ことには注意が必要です。

また、実態を正確に把握したいならば、パソコンの使用時間のログを出力し、勤怠管理システムなどの打刻内容と乖離(かいり)がないか定期的に調査する方法もあります。

以上(2026年10月更新)

pj00600
画像:Elnur-Adobe Stock

機能性表示食品の新ルールと事業者の実務対応

1 機能性表示食品制度とは?

機能性表示食品制度は、国の定めるルールに基づき、

事業者が、販売しようとする食品の安全性と機能性に関する科学的根拠などを消費者庁長官に届け出れば、国の個別の審査を受けることなく、健康保持増進効果(例えば「脂肪の吸収を抑える」「睡眠の質を高める」などの機能性)を表示できる

仕組みです。

民間調査会社・富士経済の調査によると、機能性表示食品の2025年の国内市場規模は7735億円(前年比約4%増)に達する見込みです。新規届出のペース自体は落ち着きを見せているものの、日常的に消費される脂肪対策の茶系飲料やドリンクヨーグルトなどが市場を下支えしており、健康志向の高まりを背景に巨大な市場として定着しています。

過去を振り返ると、機能性表示食品制度は2015年4月、政府の経済成長戦略に基づく規制緩和の一環として、それまでの「特定保健用食品(トクホ)」や「栄養機能食品」に続く、第3の保健機能食品としてスタートしました。開発コストや申請期間を大幅に圧縮できることから、大手メーカーをはじめとする多くの食品事業者に活用されてきました。

しかし、2024年3月、機能性表示食品制度の信頼性を根底から揺るがす重大な事案が発覚しました。小林製薬が製造・販売していた「紅麹(べにこうじ)」成分を含む機能性表示食品(サプリメント)を摂取した消費者から、腎疾患などの深刻な健康被害が相次いで発生し、関連性の調査が行われる中で複数の死亡事例も報告される事態となったのです。

この事案を受け、消費者庁は流通しているすべての機能性表示食品を対象とした緊急点検を速やかに実施。並行して有識者による「機能性表示食品を巡る検討会」が開催され、報告書が取りまとめられました。さらに政府は「紅麹関連製品への対応に関する関係閣僚会合」を立ち上げ、制度の構造的な課題を解決するための抜本的な見直し方針を提示するに至りました。

「事業者の自己責任に頼った規制緩和」のフェーズを終え、現在、機能性表示食品制度は、「行政の適切な関与と、明確な法的ルールの下での運用」というステージへ移行しています。

2 従来の機能性表示食品制度が抱えていた構造的課題

2015年4月の制度導入以降、消費者団体などからは「届出された製品の中には、安全性や機能性の科学的根拠が十分とはいえないものが含まれているのではないか」という懸念がたびたび指摘されてきました。

事業者が遵守すべき「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」では、多くの運用判断が「事業者の自己責任」に委ねられていたためです。例えば、次のような点が挙げられます。

1.安全性評価の主体的委任

食経験の評価や医薬品との相互作用といった安全性に関する検証は届出事業者の責任で行うこととされていましたが、具体的な確認レベルや検証体制の統一的な基準はありませんでした。

2.製造・品質管理体制の義務不在

衛生管理や品質管理に関する情報の届出は求められていたものの、サプリメント特有の品質管理基準である「GMP(Good Manufacturing Practice:適正製造規範)」の導入は推奨にとどまり、体制構築自体は法的義務ではありませんでした。

3.健康被害情報の報告基準の曖昧さ

事業者には健康被害情報を収集・報告する体制の整備が「適当である」とされていましたが、行政へ報告すべき時期や具体的な基準は明確に定められておらず、最終的な報告判断は事業者側に委ねられていました。

4.研究レビュー(SR)による機能性評価

機能性の根拠は「最終製品によるヒト試験」または「研究レビュー(既存論文の網羅的評価)」のいずれかで実証します。しかし研究レビューにおいては、否定的なデータも含めて総合評価を行うプロセス自体が事業者の自己評価に頼る構造となっていました。

こうした「事業者の自主性」に重きを置いた規制緩和政策の隙間が、重大事案の未然防止や早期対応を遅らせた要因として浮き彫りとなったのです。

3 制度改正により法制化・強化された主なポイント

政府の「紅麹関連製品への対応に関する関係閣僚会合」が示した方針に基づき、制度の運用ルールは大幅に厳格化されました。従来の自主的なガイドラインから、法令に基づく明確な遵守事項へと昇格した主なポイントは次の3点です。

1.健康被害情報の報告義務化

2.サプリメント製品のGMP基準適合の要件化

3.パッケージ等の表示ルール改定と確認体制の厳格化

1)健康被害情報の報告義務化

日常的に反復・継続して摂取される機能性表示食品について、製品との関連が疑われる健康被害(医師による診断があったもの)を把握した場合、因果関係が確定していなくても速やかに消費者庁長官および都道府県知事等(都道府県知事、保健所を設置する市の市長または特別区の区長)へ情報提供することが義務化されました。

症例の重篤度に応じた具体的な報告期限ルールが設けられ、義務に違反した事業者(届出者)は、食品表示法に基づく指示・命令を受けて機能性表示ができなくなるほか、食品衛生法に基づく営業の禁止や停止といった重い行政処分の対象となります。

2)サプリメント製品のGMP基準適合の要件化

錠剤やカプセルなど、成分が濃縮・抽出されたサプリメント形状の機能性表示食品について、GMPに基づく製品管理が「食品表示基準」上の必須要件(遵守事項)となりました。

原材料の受け入れから製造、製品出荷に至る全工程で、均一かつ安全な品質を確保する管理体制が求められます。また、届出者による自主点検の実施に加え、消費者庁などによる食品表示法に基づく立入検査が実施される体制へと移行しました。

(注)第三者機関である日本健康・栄養食品協会(JHNFA)などで、GMP適合認定や機能性表示食品の届出支援・相談業務を行っています。

3)パッケージの表示ルールの強化

消費者の誤認を防ぎ、適切な商品選択を助けるため、パッケージの表示ルールが見直されました。

  • 表記形式:主要面上部に「機能性表示食品」の文字を枠囲みで明記する。
  • 届出表示の抜き書き禁止:一部のフレーズだけを都合よく切り取って表示してはならず、届出された機能性を正しく表示する。
  • 注意喚起の具体化:「国による評価を受けたものではない旨」「疾病の診断・治療・予防を目的としたものではない旨」に加え、医薬品との相互作用や過剰摂取防止の注意喚起を明確に記載する。

4 食品事業者が実施すべき実務チェックリスト

制度の厳格化に伴い、機能性表示食品を展開しようとする事業者には、自社の品質保証・コンプライアンス体制を再点検し、消費者に安全で信頼される製品を提供し続けることが強く求められています。まずは次の点をチェックしましょう。

チェック項目 済
お客様相談室や品質保証部に届いた「体調不良」に関する申し出のうち、「医師の診断があるもの」を即座に判別できるスクリーニング体制があるか。 □
因果関係が確定していない段階であっても、規定の期限内に消費者庁および管轄保健所へ第一報を提出する社内エスカレーションルート(規程・マニュアル)が整備されているか。 □
サプリメント形状の製品を委託製造している場合、製造工場がGMP基準(JHNFA適合認定等)を充たしているか確認できているか。 □
定期的な現地監査や品質保証協定の締結により、製造管理工程のトレーサビリティが担保されているか。 □
パッケージ上の「機能性表示食品」枠囲み表記や、注意事項・医薬品との相互作用に関する警告文言が最新基準を満たしているか。 □
ウェブサイトや広告において、届出表示から都合のよい部分のみを抜粋した過大な効能表現を行って(行おうとして)いないか。 □
消費者庁における届出確認プロセスの厳格化を踏まえ、商品企画・事前届出から発売開始までのリードタイムに十分な余裕を組み込んでいるか。 □

体制整備や管理コストの増加は一見すると事業者の負担に思えるかもしれません。しかし、科学的根拠に基づいた安全性と品質管理の徹底は、消費者の信頼を勝ち取り、健康食品市場全体の持続的な成長を実現するために不可欠なプロセスなのです。

以上(2026年9月更新)

pj50544
画像:pat_hastings-Adobe Stock

【債権回収】支払督促制度の利用

1 支払督促制度を利用する意義

内容証明郵便などで催促をしても相手が債務を弁済してくれない場合、「支払督促制度」を利用する方法もあります。支払督促制度とは、

簡易裁判所の裁判所書記官から、債務者に対して「金銭等の支払いを命じる督促状(支払督促)」を送ってもらう制度

です。内容証明郵便とは違い、裁判所からの督促となるので、相手に相当のプレッシャーをかけることができます。また、

支払督促制度で発付される「仮執行宣言付支払督促」は「債務名義」の1つ

です。債務名義とは、「強制執行」をする根拠となる文書であり、「債権債務の存在を公に認めるもの」です。また、強制執行とは、「判決等によって債務の履行が決まっているのに相手がそれに応じない場合、国家の強制力によって判決等で定められた内容を実現する」ことです。

支払督促制度のメリットとデメリットは次の通りです。

【支払督促のメリット】

  • 債権者(申立人)は裁判所に出頭しなくてよい
  • 対象は金銭、有価証券など金銭債権が中心で、請求金額の制限がない
  • 債務者からの異議がなければ早くて1カ月程度で強制執行手続ができる
  • 費用は通常の裁判の半額程度

【支払督促のデメリット】

  • 債務者の住所が不明の場合、支払督促制度は利用できない
  • 債務者は容易に異議を申立てることができ、その場合、債務者の住所地、本店所在地を管轄する裁判所にて通常訴訟に移行する

2 支払督促の流れ

支払督促制度の流れは次の通りです。

支払督促制度の流れ

1)支払督促の申立書の提出

通常の訴訟の場合、債務履行地が債権者の主たる事務所等であることが多いです。その場合、債権者の本店所在地を管轄する裁判所に訴えを提起することができますが、支払督促の申立ては、債務者の普通裁判籍(債務者の住所、主たる事務所等)の所在地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に対して行う必要があります。支払督促制度の対象は、金銭その他の代替物、または有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求に限られます。

2)支払督促の発付

債権者が支払督促を申立てると、裁判所書記官がその内容を審査し、支払督促を発付します。支払督促は、債務者を審尋(意見や主張を聞くこと)しないで発付します。

支払督促の効力は債務者に送達されたときに生じます。債務者は支払督促に対し、これを発した裁判所書記官の所属する簡易裁判所に異議の申立てをすることができます。債務者が異議を申立てた場合、事件は通常の訴訟手続で審理され、支払督促は失効します。なお、異議の内容は、

  • 請求は認めるが分割払いにしたい
  • 理由が何も記載されていない請求には納得がいかない

など、請求をそのまま認めないということであれば、どのような内容でも構いません。

そのため、債務者が支払督促に対してどのような対応に出てくるかを想定し、何も反応しない可能性が高い場合に、訴訟提起ではなく、支払督促の申立てを考えることがよいでしょう。

3)仮執行宣言の発付

債務者が支払督促の送達を受けた日から2週間以内に異議の申立てをしないとき、裁判所書記官は、債権者の申立てにより、支払督促に手続きの費用額を付記して仮執行の宣言をしなければなりません。仮執行宣言の付された支払督促の発付です。

なお、債権者が仮執行の宣言の申立てをすることができる時から、30日以内にその申立てをしないときは、支払督促はその効力を失います。

債務者が仮執行宣言の付された支払督促に異議を申立てた場合、通常の訴訟手続で審理されます。ただし、仮執行宣言の効力は当然には失効しません。債務者は支払督促への異議申立てとともに、強制執行の停止や取消しを求める必要があります。仮執行宣言の付された支払督促に対し、債務者が異議を申立てることのできる期間は、仮執行宣言付支払督促を受け取った日の翌日から数えて2週間です。

4)支払督促の効力

仮執行の宣言に対して債務者が異議を申立てないとき、または異議の申立てを却下する決定が確定したときは、支払督促は確定判決と同一の効力を有します。従って、支払督促に基づき強制執行を行うことが可能となります。

5)支払督促に要する費用

支払督促の申立ての手数料は、請求の目的の価額に応じ、民事訴訟費用等に関する法律別表第1第1項により算出した額の2分の1の額となります。その他、督促状を債務者に送付するための切手代を要します。

  • 100万円までの部分:その価額10万円までごとに1000円の2分の1
  • 100万円を超え500万円までの部分:その価額20万円までごとに1000円の2分の1
  • 500万円を超え1000万円までの部分:その価額50万円までごとに2000円の2分の1
  • 1000万円を超え10億円までの部分:その価額100万円までごとに3000円の2分の1
  • 10億円を超え50億円までの部分:その価額500万円までごとに1万円の2分の1
  • 50億円を超える部分:その価額1000万円までごとに1万円の2分の1

以上(2025年7月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田賢生)

pj60219
画像:Mariko Mitsuda

【書籍ダイジェスト】『会話の0.2秒を言語学する』

本書では、会話における発話と発話の間の0.2秒のプロセスに着目し、語用論、統語論、形式意味論、認知意味論といった言語学の理論を散りばめながら、コミュニケーションのメカニズムを、わかりやすい例を豊富に挙げ解説する。
0.2秒のプロセスの第一歩は、相手の話の「解釈」だが、我々は相手の意図を正しく復元するのではなく、「推論」を行っているのだという。

書籍ダイジェストは、こちらからお読みいただけます。pdf

あなたの会社にも起こり得る不正会計~その検知と対策

身近にある? 不正会計

不正会計と聞くと、ニュースをにぎわすような巨額な不正をイメージし、自社には関係ないと思っていませんか?

しかし、それは間違いかもしれません。なぜなら、経営者自身の何気ない一言が不正会計につながったり、思いもよらない従業員の不正が生じたりすることがあるなど、想像できない

不正会計は意外と身近にある

からなのです。また、コロナ禍や国際情勢の不安定化など、経済環境が悪化する時期は、不正会計が起こりやすくなる傾向があります。さらに、昨今のテレワークの普及によって、社内でのチェックや監視が十分に行えず、内部統制が脆弱化している会社も少なくないと思われます。

では、経営者が不正会計の兆しを早期に発見し、未然に防止するためには、どのような知識が必要なのか、実際に現場を知る公認会計士に不正会計の実態やその防止策などを聞きました。

Q1 代表的な不正会計とは?

不正会計とは、

決算書(貸借対照表や損益計算書など)に事実とは異なる内容を意図的に記載すること

です。代表的なものとして、売上高の過大計上や費用・負債の過少計上などによる「粉飾決算」があります。また、会社の資産を不正に取得・使用する「資産の流用」も、広義の不正(会計不正)として扱われることがあります。

このうち、粉飾決算とは、

決算書(貸借対照表や損益計算書など)を意図的に操作して、会社の財務状況や損益状況を実際よりも良く見せること

です。詳細はQ2で解説しますが、例えば「売上の水増し計上」や「売上の前倒し計上」による方法があります。なかには、粉飾決算によって赤字を黒字に見せる極端なケースもあります。

資産の流用とは、

会社が保有する資産を不正に持ち出したり、私的に利用したりすること

です。詳細はQ3で解説しますが、例えば、現金預金を不正に持ち出す「横領」や物的資産を持ち去る「窃盗」などが挙げられます。多くは従業員の犯行で、この場合の被害は比較的少額となる傾向があります。しかし、資産の流用を容易に偽装できる経営者層が関与すると、被害が多額になることもあります。

Q2 粉飾決算の具体的な方法とは?

売上の水増し計上とは、

本来の取引金額に架空の取引金額を水増しして、売上を計上すること

です。売上の水増し計上では、その計上した売上の相手勘定として「売掛金」を用いることが一般的です。そのため、貸借対照表には、実際には存在しない取引に基づく「架空の売掛金」も計上されることになります。

「売上の前倒し計上」とは、

本来は決算日後(将来)に計上されるべき売上を、決算日前(現在)に計上すること

です。売上の前倒し計上では、決算日をまたいで売上の計上が前後するだけであるため、全体(年度で区切らず全ての期間)としては損益計算や代金の入金額は変わりません。しかし、本来は翌年度に計上すべき売上を当年度に計上してしまうため、当年度の決算書だけでなく、翌年度の決算書も実際とは異なる内容になります。

売上の水増し計上と売上の前倒し計上は、いずれも会社の利益を実際よりもよく見せることを目的とした不正会計です。例えば、決算時点ですでに赤字になることが分かっている場合、実際の売上金額よりも多く売上を計上することで、利益を増やして見せることができ、売上の水増しによって増えた利益が赤字額を上回れば、赤字決算を黒字決算に変えてしまうことができてしまいます。

中小企業の場合、融資元の金融機関や、入札審査を受ける際の官公庁に対して、会社の業績を少しでも良く見せようとして、粉飾決算に手を染めるケースがあります。

Q3 資産の流用(横領や窃盗)の具体的な方法とは?

横領とは、

自分の立場や権限を悪用して、会社の資産を不正に持ち出したり、私的に使ったりすること

です。例えば、出納業務と記帳業務を兼務する経理担当者が、会社に無断で預金を解約してそれを盗み取るなどの行為が挙げられます。業務によっては、同一人物が担当することで横領の発生リスクが高まります。

このように、一人の担当者が複数の業務を兼務すると、不正をチェックする仕組みが働きにくくなり、横領のリスクが高まることがあります。

窃盗とは、会社の保有する物品を不正に持ち出すことです。例えば、会社の収入印紙や切手などを盗み取る行為が挙げられます。なお、総務部の鍵のないロッカーに収入印紙や切手を保管している状況の中で、誰でも自由に取り出せるような場合には、窃盗の発生リスクが高まります。

これらの動機はさまざまで、個人的な事情(多額の借金を抱えている、遊ぶお金が不足しているなど)から実行されることが多いようです。

Q4 不正会計の基本的な防止策とは?

不正会計の防止策を考える上で重要な概念は「不正のトライアングル」です。不正のトライアングルとは、

不正を引き起こす3つの要素(動機・機会・正当化)のこと

です。不正を防ぐためには、この3つの要因をできるだけ減らすことが重要です。それぞれの要因を踏まえて、不正が起こりにくい仕組みをつくることが有効です。

1.動機

「従業員が行動を起こす、または行動を方向付ける」ことです。不正の防止策として、例えば従業員個人や部署に対して過度な目標が課されている場合、この目標が過大なプレッシャーになっていないかを見直します。

2.機会

「不正会計を起こせる立場にあり、それを実行できる能力がある」ことです。不正の防止策として、例えば職務分掌を明確にして、重要な決定についてはチェック・承認制度を社内ルール化することや業務相互チェックを掛けるなどのけん制機能を設けるようにします。

3.正当化

「不正会計をすることは悪くない≒仕方がない」と思うことです。不正の防止策として、例えば従業員に対して定期的に社内研修などを行い、不正会計の影響(個人・会社のダメージ)を啓蒙するようにします。

Q5 経営者が粉飾決算を防止するためにすべきことは?

売上の水増し計上は、

貸借対照表の「売掛金」に発見の糸口

があります。なぜなら、

その売掛金は架空のものであるため、通常の取引であれば行われるはずの入金がなく、放置すると、その売掛金がいつまでも貸借対照表に残り続けることになるから

です。仮に、本来の回収期間が過ぎて長期間滞留しているような売掛金が存在する場合には、売上の水増し計上が疑われます。また、

「売上の前倒し計上」を行った場合にも、上記同様「売掛金」がポイント

です。売上を前倒し計上すると、その分の売掛金残高が増えます。しかし、この増加は、当年度及び前年度の各月末の売掛金残高と比べることで異常な増加として発見することができます。

Q6 経営者が資産の流用を防止するためにすべきことは?

横領では、やはり、

担当者間のチェック体制が重要なポイント

です。例えば、経理担当者が出納業務と記帳業務の双方を兼務しているような場合、お金を取り扱う担当者(出納係)と、帳簿をつける担当者(記帳係)を分ける職務分掌が有効です。なお、人員が不足し、どうしても兼務しなければ業務が回らないような場合は、他者が定期的にチェック・照合することによって代替することもできます。

窃盗は、

適切な現物(切手や収入印紙など)の管理を行うことが最も重要

です。具体的には、現物を鍵の掛かる場所に保管し、現物を取り出した者が都度、日付・数量・氏名などを管理簿に記入し、総務担当者などが日々管理簿の記録と実際の在庫数量を確認する体制を整えることが重要です。

加えて、担当者以外の人が定期的に管理簿を確認し、不自然な記録や異常がないかチェックすることも、不正の早期発見につながります。

Q7 不正会計の疑いがある場合、経営者がとるべき対処は?

「社内に不正会計の疑いがあるかもしれない」という情報を耳にしたら、経営者は、まずこの情報が正しいものであるかどうかを確かめましょう。相手の言うことをうのみにしてしまったり、逆に聞き流してしまったりしては後々大きな問題になりかねません。また、場合によっては刑事事件に発展する可能性もあるため、早めに顧問弁護士などに相談することが賢明です。

不正が事実だった場合は、被害が大きくならないうちに早めの対処が必要です(初動が大切)。また、不正は意図的に仕組まれ、見つからないように巧妙かつ複雑な手口で隠されていることがあるため、外部の専門家を交えてその対処方法(対象者へのヒアリング方法や被害額の算定方法など)を検討するのが望ましいでしょう。

Q8 専門家の立場から、中小企業の経営者にアドバイスを!

コンプライアンスとは、法令遵守を意味し、会社が法令やルールを守って適切に事業を行うための基本的な考え方であり、コーポレートガバナンス(企業統治)を支える重要な要素の1つになります。

会社が企業活動を続けていくためには、会社の業績を維持・拡大していくことが必要で、しかし、利益を追求することを優先しすぎると、法令を守ることよりも目先の利益を重視してしまい、法令すれすれの行動や、いわゆる「グレーゾーン」の行為につながることがあります。

さらに、目先の利益を優先するあまり、倫理観を失った行動を取れば、社会的な信用を大きく損ねてしまい、極端なケースでは会社の存続が危うくなることもあります。そうならないために、経営者が先頭に立ってコンプライアンスの重要性を社内に認識させることが求められます。

また、コンプライアンスの強化に励むことは、会社の存続を脅かすような重大問題の発展を事前に防止することのみならず、対外的にも社会的信用の認知度を高める積極的な取り組みと考えることもできます。

このように、コンプライアンスへの取り組みは、リスクを防ぐだけでなく、会社の信頼や評価を高めるための積極的な取り組みと捉えることができます。

以上(2026年10月更新)

pj60130
画像:polkadot-Adobe Stock

【人事はつらいよ】病気の社員をサポートしたいのに、社内での情報共有が違法?

1 社員の体調を思えばこそ、情報共有したいのに……

最近、元気がないAさん。上司のB課長が心配して理由を聞いてみました。最初は「大丈夫です」としか言いませんでしたが、B課長が「でも体調が悪そうだよ?」と聞くと、Aさんはしばらく沈黙した後、小さな声で答えました。「実は○○という病気なんです。でも重い病気じゃないので大丈夫です。放っておいてください」

ある日、出張に出ることになったB課長は、Aさんの先輩であるCさんに伝えました。

「ここだけの話だけど、Aさんが○○という病気らしい。Cさん、私が出張に出ている間、Aさんのことを気遣ってあげてくれ。具合が悪そうだったら早めに帰すようにね」

数日後、B課長が出張から帰ると、Aさんが詰め寄ってきました。どうやらB課長の出張中、Cさんが、体調の優れないAさんを帰そうとした際に、「B課長から病気については聞いているから」と口を滑らせてしまったようです。

「なんで病気のことを勝手にCさんに話したんですか? 知られたくなかったのに……。個人情報を勝手に話すなんて非常識です!」

B課長はAさんの気持ちも分かる一方で、どこか釈然としません。

「病気が機微な情報なのも、知られたくないのも分かる。でも、私が出張中、Aさんに万が一のことがあったら困るから、Cさんにだけ伝えてフォローをお願いしたんだ。それもダメなのか? 個人情報は社員の健康よりも大事なの?」

2 個人情報と社員の健康、結局どちらが優先?

個人情報保護法では、

「要配慮個人情報」という取り扱いに注意を要する極めて機微な個人情報については、原則として本人の許可を得ずに、第三者に提供してはならない

とされています。社員の身体・精神に関する情報であれば、次のようなものが要配慮個人情報に該当します。

社員の健康に関する情報で要配慮個人情報に該当するもの

一方、労働契約法には、

「安全配慮義務」といって、社員が安全で健康に働けるよう配慮すべきという会社の義務

が定められています。体調の優れない社員を早く帰らせたり、軽い業務に転換させたりするのもこの義務の一環で、当たり前ですが、見て見ぬふりをするといった対応は許されません。

冒頭のAさんの事例は、詰まるところ「要配慮個人情報の保護と安全配慮義務はどちらが優先されるのか」という問題なのですが、ざっくり言うと、

どちらも同じくらい重要で、原則、両立させなければならない

ということになります。

なお、要配慮個人情報の取り扱いに関するルールは、2026年に成立した改正個人情報保護法により、数年内に一部見直される予定です(要配慮個人情報の取得や第三者提供について「本人の意思に反しないため本人の権利利益を害しないことが明らかである場合」に本人同意を不要とする例外規定の新設など)。

3 社員の許可を得て、必要最小限の情報のみを共有する

社員の病気について本人の許可なく、第三者に提供していいのは、例えば、

社員が病気で倒れ、医師に病名を告げないと生命の危険がある

など、緊急性の高いケースに限定されます。逆にこうしたケースでなければ、本人の許可なく、第三者に話すべきではありません。ですから、冒頭の「B課長がAさんの許可なく、病名をCさんに伝える」という対応は、たとえAさんのためであっても法令違反になる可能性があります。

では、要配慮個人情報の問題をクリアしつつ、安全配慮義務を果たすにはどうすればよいのでしょうか。ポイントは、

社員本人の許可を得て、業務をサポートする上で必要最小限の情報のみを共有すること

です。細かい説明は一旦置いておいて、まずは図表2を見てください。冒頭のB課長が、Aさんからサポートに必要な情報をヒアリングする際の会話の例です。

サポートに必要な情報をヒアリングする際の会話の例

図表2の会話の赤字部分に注目してください。重要なのは次の3点です。

  • どんな病気かではなく、労務を提供できる状況か、業務上の配慮が必要かを確認することを意識する
  • 会社には安全配慮義務、社員には自己保健義務があることを伝える

3.必要最小限の情報を、必要最小限の社員にのみ共有する

1.どんな病気かではなく、労務を提供できる状況か、業務上の配慮が必要かを確認することを意識する

図表2では、B課長がAさんの病気の話を聞いて、まず「仕事をするのに支障がないか」を確認しています。前述した通り、要配慮個人情報は極めて機微な情報です。「どんな病気か」という視点で情報を収集しようとすると、不要な情報まで詮索してしまう恐れがあるので、「労務を提供できる状況かを確認する」「業務上の配慮が必要になるかを確認する」という意識で、必要最小限の情報のみを収集します。

2.会社には安全配慮義務、社員にも自己保健義務があることを伝える

図表2では、仕事への支障について話したがらないAさんに対し、B課長が安全配慮義務と自己保健義務の存在を伝えています。要配慮個人情報は、本人の許可なく収集できないので、自発的に話してもらう必要がありますが、「話したくないなら話さなくていい」というスタンスだと情報を得られないので、「社員の健康を守る」ことに対する会社の本気度を伝えます。

3.必要最小限の情報を、必要最小限の社員にのみ共有する

図表2では、B課長が「Cさんには病気のことを話さず、Aさんをフォローする上で必要な措置だけを話す」と言っています。社員のサポートに支障がなければ、病気に関する情報は話しません。必要な措置について共有する相手も、社員のフォローに関わる人だけに限定することを説明し、理解を得ます。共有する情報量や相手が増えてしまうと、社員の病気に対する臆測が飛び交ったり、腫れ物に触るような雰囲気が広がったりする恐れがあるからです。

今回は少し難しい問題を取り上げました。社員の健康を守ることは会社の義務ですが、そのために知られたくない個人情報が周囲に伝わり、会社に居づらくなってしまうようなことは避けなければなりません。逆もまたしかりです。

以上(2026年10月更新)
(監修 石原法律事務所 弁護士 磯田翔)

pj00642
画像:metamorworks-shutterstock

経営のヒントとなる言葉(高杉晋作)

「男子といふものは、困つたといふ事は、決していふものぢやない」(*)

出所:「維新風雲回顧録」(大日本雄弁会講談社)

冒頭の言葉は、

「リーダーは常に前向きに物事を考える必要がある」

ということを表しています。

時代が大きく動いた幕末や明治維新に活躍した人物には、高い志の下、大胆な行動に出た人が少なくありません。中でも高杉は“革命家”と称されます。

高杉は名家の生まれで、松下村塾で師事した松陰からも「頭の良さは抜きんでている」と評されていました。一方で、頑固なところがあり、素行もあまり良くなかったとされています。高杉の将来を心配した松陰は、無理にその性格を矯正するのではなく、玄瑞という好敵手と切磋琢磨(せっさたくま)させることで、高杉の才能を伸ばしました。

高杉は江戸での遊学を経て、中国・上海に渡ります。そこで目にしたのは、ヨーロッパ諸国の植民地と化した現地の様子でした。この時、高杉は日本も同様の状態に陥るのではないかと強い危機感を抱いたようです。

上海から帰国した高杉は、古い体制である幕府を倒して新しい体制をつくり上げることを目指し、武士だけではなく、庶民の入隊をも認めた奇兵隊を組織し、幕府軍と戦いました。

その後、1864年、長州藩は京都の禁門の変(蛤御門の変)で敗北して朝敵となり、第一次長州征討を受けて幕府に降伏しました。これに際し、高杉はわずかな人数で下関において挙兵しました。この挙兵は“無謀な賭け”ともいえました。

しかし、高杉を支持する奇兵隊などが敵陣営を奇襲し、藩内の保守勢力を一掃して倒幕を目指す政権を立ち上げました。その後、長州藩は、坂本龍馬(さかもとりょうま)や中岡慎太郎(なかおかしんたろう)の仲介を受けて薩摩藩と薩長同盟を結び、これによって倒幕の機運が大きく高まりました。

この下関の挙兵について、高杉は当初から勝利を見込んでいたとする説と、たとえ敗れることがあっても、藩内に倒幕の機運を高めることを目的に挙兵したとする説があるようです。いずれにせよ、高杉の決死の行動が同志のモチベーションに火を付けることになりました。

親交のあった中岡慎太郎は、行動の人である高杉について、次のように評しています。

「機を見て動き、奇を以て人に勝つ。洛西の一奇才」(**)

高杉の下関における挙兵は、高い志があったとはいえ、チームのメンバーの将来を危険にさらすものです。

現代のリーダーが高杉のように勝算を度外視し、チームの命運を危うくする判断を下すことは基本的にはあり得ません。常にいちかばちかの勝負に出る必要はないのです。

しかし、時には困難な道をあえて選択しなければならないこともあります。厳しい競争を制し、自社が生き残っていくためには、これまでに手掛けていない領域や、他社が挑戦していない領域に踏み込む必要があるからです。

そうしたとき、社内外から激しい反発があったとしても、リーダーはひるむことなく、前進していかなければなりません。一見、こうした強いリーダーシップはメンバーを顧みない“ワンマン”に映ります。

しかし、困難な道を選択することはリーダーにしかできないことであり、逐一メンバーの意見を聞いていては時機を逸してしまいます。メンバーの意見を採り入れるのは、方向性を示し、個別の戦略を検討する際に話し合えばよいでしょう。

また、リーダーは困難な状況に置かれ、迷いや不安を抱えているとき、メンバーに対して虚勢を張る必要はありません。たまに弱音を見せることによって、メンバーは「いつも前向きなリーダーも、迷いや不安を抱えることがある」と親近感を持って受け入れてくれるでしょう。

強い覚悟とともに、同志であるメンバーに心を許す、硬軟を併せ持った人物こそ、リーダーとして支持されるのです。

【本文脚注】

本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を担保するものではありません。また、本文中では内容に即した肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思われるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。

【経歴】

たかすぎしんさく(1839~1867)。長州藩士(現山口県萩市)。吉田松陰に師事し、後に奇兵隊を結成し総督を務める。

【参考文献】

(*)「維新風雲回顧録」(大日本雄弁会講談社)
(**)「【紅と白 高杉晋作伝】新連載小説 来月スタート 筆者・関厚夫編集委員((産経新聞 大阪朝刊(2012年9月28日付))」(産経新聞社、2012年9月)
「ひとすじの蛍火 吉田松陰 人とことば」(関厚夫、文藝春秋、2007年8月)

以上(2026年9月更新)

pj15194
画像:日本情報マート

中小企業に潜む「不正経費」の起こりやすい状況とその対策

1 不正経費が起こりやすい中小企業の特徴は?

経費を不正に使った役員が解任される……私たちはこうしたニュースをしばしば目や耳にします。経費の扱いをめぐる不正は、どこでも起こり得る問題であり、万が一発生すると、時に会社そのものの信頼を揺るがしかねない危険性を秘めています。

特に中小企業は、大企業ほど管理体制や内部統制が整っていないので、不正が入り込みやすい環境になりがちです。例えば、

  • 社内規程で経費のことを「業務上必要なもの」などと曖昧に定義していたり、申請・承認のチェックが形式的になっていたりするため、判断基準が人によってバラバラ
  • 経理担当者の人数が限られ、1人が申請内容の確認から承認、支払い処理まで幅広く関与している

といった状況では、けん制機能が働きにくく、不正に対するハードルが低くなってしまいます。

この記事では、不正経費の目的、主な手口と不正経費がもたらすリスク、不正経費を防ぐためにどのような対策が必要かを解説します。

2 不正経費の目的

不正経費の目的は、大きく

  • 着服(横領)
  • 利益操作のための不正

に分けられます。

着服(横領)は、役員や従業員が、会社のお金を自分のために使うケースです。個人の借金の返済に充てたり、遊びや高価な買い物などをしたりする目的で行われます。

利益操作のための不正は、会社の利益を意図的に少なく見せて税金負担を軽くしようとするケースです。利益を基に課される法人税などの税金は、利益が少ないほど納税額が低くなります。本来は発生していない費用を不正経費により計上して、利益を下げる目的で行われます。

3 不正経費の手口

不正経費の手口は、大きく「架空請求・カラ出張」「経費の水増し・改ざん」「多重請求」「経費の私的利用」に分けられます。

1)架空請求・カラ出張

実際には存在しない取引先に「コンサル料」や「外注費」を支払ったように見せかける、ペーパーカンパニー(法人登記はされているが、事業の実態がない会社)をつくるといったケースが典型例です。出張に行っていないのに、旅費や宿泊費を請求するカラ出張もあります。

コンサル・調査・サポートといった成果が目に見えにくい費用は、内容の妥当性がチェックされにくいので、不正が紛れ込みやすいです。また、支払申請と承認を同じ人が行っている場合や、長年同じ担当者に外注先の選定や請求処理を任せきりにしているような体制では、不正が発覚しにくくなります。

2)経費の水増し・改ざん

白紙の領収書に自分で金額を書き込む、既存の領収書の金額や日付を修正液で塗り替える、同じ店のレシートを複数枚集めて、「まとめて接待したように見せる」といったケースが典型例です。さらに悪質な例では、仕入れ先と示し合わせて価格をわざと高くし、後で差額をキックバックとして受け取るケースもあります。

こうした行為は、帳簿上は通常の取引に見えるため、外からは不正だと分かりにくいのが特徴です。そのため、発覚したときには長期間にわたって被害が広がっていることも少なくありません。

3)多重請求

同じ領収書をコピーして、別の日付の経費として再提出する、「会議費」と「接待費」など用途を変えて二重に請求するといったケースが典型例です。

特に、紙の領収書を中心に管理している会社では、過去の申請履歴を即座に確認できず、承認者が見逃してしまうこともあります。少額な請求ほど確認が甘くなりやすく、不正が繰り返される温床になりがちです。

4)経費の私的利用

私生活で使った飲食費を「取引先との会食だった」として提出する、個人のための家電やガジェットを「業務用備品」として購入するケースなどが典型例です。例えば、家族との外食を商談の名目で申請する、自宅のインターネット料金を会社の通信費に含めるなど、身近なところから発生する不正も少なくありません。

業務とプライベートの線引きが曖昧な社内環境や、経費の使い方などのルールが従業員に周知されていない会社で起こりがちです。

4 不正経費がもたらすリスク

不正経費がもたらすリスクは、大きく「税務上の重いペナルティー」「税務署や取引先からの信用失墜」に分けられます。

1)税務上の重いペナルティー

税務署の調査により、計上した経費が「事業に関係のない支出」や「架空の支出」であると認定された場合、当然ですが、その費用は会社の経費(税務上の損金)として認められません。

その結果、本来支払うべきだった法人税(本税)との差額が追加で発生するだけでなく、次の「重い罰金税」が会社に課されます。

  • 延滞税:納税期限を過ぎたことに対する利息
  • (重)加算税:本来納付する税金に追加(加算)して納付する罰金税で、架空の領収書による請求や証拠の偽装・意図的な隠蔽といった、特に「悪質な行為」と認定された場合には、重加算税と呼ばれる重い罰金税が発生する

重加算税は、本来納めるべきだった税額の35%から40%(一定の場合は最大50%)が追加で課される、通常の罰則よりも重い罰金税です。

また、悪質な不正が認められた場合、税務署は最大7年間(通常は最大5年間)まで遡って調査を行うことができます。7年間にわたる本来の税額に加え、重加算税と延滞税が合算され、その全てを税務署に原則一括で納付しなければなりません。そのため、資金繰りへの影響は大きいものがあります。

2)税務署や取引先からの信用失墜

「重加算税が賦課された」という事実は、税務署からの信用を失うだけでなく、金融機関や取引先との関係においても大きなマイナス要因となります。不正発覚は、会社の将来に対しても深刻な影響を与えるのです。

また、不正対応のため、外部専門家による調査費用や監査費用の増加など、本来不必要なコストが発生します。

5 3つの視点で講じる不正防止のための対策

不正を防止するためには、「制度・ルール」「人への教育」「経費精算システム導入」の3つの視点から対策を講じることが大切です。

1)制度・ルールによる対策

1.役割分担をはっきりさせる

不正を防ぐ上で大切なのは、

1人で全部できてしまう状態をつくらないこと

です。例えば、経費を使った本人が申請し、そのまま自分で承認し、さらに支払い処理まで行えるような体制では、チェック機能が働きません。理想は、

  • 1.経費を使った人が申請する
  • 2.別の人が内容を確認して承認する
  • 3.経理や事務担当が支払いを行う

というように、役割を分けることです。

人手に余裕がない中小企業でも、最終的な承認だけは経営者や役員が目を通す、あるいは顧問税理士に一覧を確認してもらうなど、もう一つの目を入れるだけでも、不正はだいぶ起こりにくくなります。

2.書類をそろえて確認する習慣をつくる

請求書が届いたときは、

それだけを見て処理するのではなく、「本当に頼んだ仕事なのか」「きちんと納品されているのか」を確認すること

が重要です。具体的には、

  • 1.注文した内容が分かる発注書
  • 2.実際に納品・完了したことが分かる納品書
  • 3.金額が記載された請求書

の3点がそろっているかを確認します。「こんな作業、本当に頼んだのだろうか」「この金額は、事前に合意した内容と合っているか」と、一度立ち止まって思い返してみるだけでも、架空請求や水増し請求を防ぐ効果があります。

3.経費のルールを具体的に決める

経費については、「業務に必要なもの」という曖昧な表現のままだと、人によって解釈が分かれてしまいます。どこまでが会社負担で、どこからが私費なのかを、できるだけ具体的に決めておくことが重要です。例えば、接待交際費であれば、

  • 誰と会ったのか
  • どんな話をしたのか
  • 今後の取引とどう関係するのか

といった点を簡単に書いてもらうだけでも、「なんとなくの飲み会」が経費として通りにくくなります。

ルールを細かくするのは、従業員を疑っているわけではなく、「これは経費でいいのかどうか」を迷わず判断できる環境を整えるためです。また、従業員に対し、業務のお金とプライベートのお金の境目をしっかり意識させることにもつながります。

2)人への教育による対策

1.不正やルールを正しく知ってもらう場を設ける

社内研修などを通じて、経費の不正が発覚した場合に、本人だけでなく、会社全体にどのような影響が及ぶのかを具体的に伝えることが大切です。例えば、「経費を少し多めに申請しただけ」のつもりでも本人が懲戒の対象になりうること、場合によっては、会社が追加の罰金税を支払わなければならなくなることなどその行為がもたらす影響の大きさを伝えましょう。

こうした実例を交えて説明することで、従業員の「バレなければ大丈夫」「これくらいなら問題ない」といった“ゆるい”認識を改めさせる効果があります。

2.声を上げやすい相談・通報の窓口を用意する

不正は、現場の実務担当者が真っ先に気付くケースが少なくありません。そのため、「自分が指摘していいのだろうか」や「面倒なことに巻き込まれたくない」といった考えから、不正発見のタイミングを逃す可能性もあります。例えば、

  • 同じような経費申請が何度も続いている
  • 内容が曖昧な外注費が毎月計上されている

といった小さな気付きが報告されずに見過ごされてしまうと、それが積み重なって問題が深刻化してしまう恐れがあります。

このようなことが起きないよう、名前を出さなくても相談できる窓口を用意し、「気になることがあれば、まず相談していい」という雰囲気をつくることが大切です。通報しやすい環境が整えば、不正が見つけやすくなるだけでなく、従業員の間に「見られている」という意識を生み、不正の予防効果にもなります。

3)経費精算システム導入による対策

中小企業では、「誰かがちゃんと見ていれば大丈夫」という認識で、経費精算を回しているケースも少なくありません。ただ、実際には経理担当者が少人数だったり、月末に処理が集中したりして、全てを丁寧に確認するのは難しいであろう現場も多く見られます。

経費精算システムは、こうした人手によるチェックの限界を補い、ミスや不正が起こりにくい流れをつくるためのツールです。

例えば、紙の領収書をスマートフォンで撮影して、データとして一元管理できる経費精算システムがありますが、こうしたシステムでは、過去に提出された領収書と照らし合わせて、同じ内容の申請がないかを自動チェックする機能などもあるようです。

その他にも、クレジットカード情報を連携できる経費精算システムでは、支払いと同時に利用履歴が自動で取り込まれるため、後から金額を入力し直す手間がなくなります。その結果、入力ミスや申請漏れを防ぎながら、経費申請そのものを簡単に行えるようになります。

以上(2026年10月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

pj35178
画像:takasu-Adobe Stock