【規程・文例集】社員をハラスメントから守る!「ハラスメント防止規程」のひな型

1 どのハラスメントも対応の方針は基本的に同じ

ハラスメントは、放置すると被害を受けた社員の心身を蝕むだけでなく、訴訟などのトラブルにも発展しかねない重大な問題です。特に次のハラスメントは、法令により一定の防止措置を講じることが会社に義務付けられています。

  • パワハラ(パワーハラスメント)
  • セクハラ(セクシュアルハラスメント)
  • マタハラ等(妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント)

一定の防止措置とは次の5つのことですが、根幹となるのは1.のハラスメントの方針です。

  • ハラスメントの方針(ハラスメントを行ってはならない旨など。就業規則等の文書に規定)の明確化、周知・啓発
  • ハラスメントに関する相談窓口の設置・運用
  • 事実確認、被害者に対する配慮のための適正な措置、行為者への適正な措置と再発防止に向けた措置の実施
  • 相談者や行為者のプライバシーを保護、相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨の周知・啓発
  • 業務体制の整備など、マタハラ等の原因や背景となる要因を解消するための措置の実施

ハラスメントの方針は「ハラスメント防止規程」などの形で定めますが、内容に問題があると、事案が発生した際の対応でトラブルが起きます。次章で専門家が監修したハラスメント防止規程のひな型を紹介しますのでご確認ください。

ちなみに、ハラスメントの種類(パワハラ、セクハラなど)ごとに規程を分ける必要はなく、1つにまとめて差し支えありません。ただし、どのようなハラスメントを防止の対象とするのかは明確に定義しておきましょう。また、直近の法改正として、

  • 2024年11月1日からは、フリーランスに対するハラスメント防止措置の義務化(施行済)
  • 2025年6月11日から1年6カ月以内に、「就活セクハラ」の防止措置の義務化(未施行)

があるので、

ハラスメント防止規程に「社外の人間に対するハラスメントも許さない旨」を明記

しておきましょう。

2 「ハラスメント防止規程」のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

なお、前述した「社外の人に対するハラスメントを許さない旨」については、第1条(目的)第3項をご確認ください。

【ハラスメント防止規程のひな型】

第1条(目的)

1)本規程は、職場におけるハラスメントの防止、並びにこれらのハラスメントが発生した後の雇用管理上の対応について定めるものであり、役員および従業員(以下「従業員等」)に適用される。

2)本規程における「職場」とは、会社内に限らず、取引先、出張先など、すべての業務遂行場所をいい、また、就業時間内に限らず、実質的に職場の延長とみなされるものを含むものとする。

3)本規程における「ハラスメント」とは、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント、その他これらに準ずるすべての行為をいい、当社の従業員等に対して行われるものの他、取引先の従業員等、当社から業務を委託するフリーランス、就活生など、当社の従業員等以外に対して行われるものも対象とする。

第2条(パワーハラスメントの定義)

1)パワーハラスメントとは、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超え、相手の就業環境を害することをいう。

2)すべての従業員はパワーハラスメントに該当する以下のような行為を行ってはならない。

  • 殴打、足蹴りするなどの身体的暴力行為。
  • 相手やその親族、友人などの人格や尊厳を傷つける行為。
  • 業務遂行に関係のない要求を相手にしたり、自らの固定観念を相手に押し付けたりするような行為。
  • 業務遂行に関係のない事項について、執拗に相手から説明を求めること。
  • 違法行為を強要すること。
  • 相手を無視することや誹謗中傷すること、その他相手の名誉を傷つける噂を社内外に流布すること。
  • 業務遂行上の指導であっても、相手の人格や尊厳を侵害する言動を繰り返しとること。また、必要以上に叱責を繰り返すこと。
  • 業務遂行上の指導であっても、客観的に実現が不可能な内容を相手に求めて過度の精神的な苦痛を与えること。
  • 故意に情報を与えない、連絡事項を伝えない等の行為を繰り返し、職務遂行を妨害すること。
  • 解雇や降格など相手に雇用不安を与えるような言動をとること。
  • 能力や経験とかけ離れた程度の低い業務を命じる、あるいは業務を与えないこと。
  • 特定の従業員を業務から外す、集団で無視するなど人間関係を切り離すこと。
  • 従業員に不要な商品の購入を強要したり、ノルマを達成できない場合に自腹で契約を結ばせたりすること。
  • その他、相手の人格や尊厳を侵害する言動をとること。

第3条(セクシュアルハラスメントの定義)

1)セクシュアルハラスメントとは、職場における性的な言動に対する従業員等の対応などにより相手の労働条件に関して不利益を与えること、または性的な言動により相手の就業環境を害することをいう。

2)すべての従業員等はセクシュアルハラスメントに該当する以下のような行為を行ってはならない。なお、相手の性別・性的指向・性自認は問わない。

  • 不必要な身体への接触。
  • 性的および身体上の事柄に関する不必要な質問・発言。
  • 性的な内容に関する噂を社内外に流布すること。
  • 交際・性的関係の強要。
  • わいせつ図画の閲覧、配布、掲示。
  • 性的な言動への抗議または拒否などを行った相手に対して、解雇、不当な人事考課、配置転換などの不利益を与える行為。
  • 性的な言動により、相手の就業意欲を低下せしめ、能力の発揮を阻害する行為。
  • その他、相手に不快感を与える性的な言動。

第4条(妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント)

1)妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントとは、従業員等の妊娠または出産、産前産後休業、育児休業(出生時育児休業を含む)、介護休業の請求、その他の妊娠または出産の事由に関する言動により、相手の就業環境が害されることをいう。

2)すべての従業員等は妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントに該当する以下のような行為を行ってはならない。

  • 部下の妊娠・出産、育児・介護に関する制度や措置の利用等に関し、解雇その他不利益な取扱いを示唆する言動。
  • 部下または同僚の妊娠・出産、育児・介護に関する制度や措置の利用を阻害する言動。
  • 部下または同僚が妊娠・出産、育児・介護に関する制度や措置を利用したことによる嫌がらせ等。
  • 部下が妊娠・出産等したことにより、解雇その他の不利益な取扱いを示唆する言動。
  • 部下または同僚が妊娠・出産等したことに対する嫌がらせ等。

第5条(ハラスメントの防止)

1)すべての従業員等は、国籍、信条、性別、性的指向、性自認、職務上の地位・権限・職権、雇用形態に関係なく、職場において相手の人格や尊厳を尊重し、ハラスメントあるいはそれらと疑われる行為をしてはならない。

2)管理者は、他の従業員等がハラスメント(疑い例を含む)を受けていることを知ったときは、それを黙認してはならず、速やかに「ハラスメント相談窓口」(第6条にて定義。以降同様)に通知しなければならない。

3)従業員等は、他の従業員等がハラスメント(疑い例を含む)を受けていることを知ったときは、速やかに上司および「ハラスメント相談窓口」に通知しなければならない。

第6条(「ハラスメント相談窓口」の設置)

1)会社は「ハラスメント相談窓口」を設置する。「ハラスメント相談窓口」は、次の各号に定める業務を行うものとする。

  • ハラスメントに関する従業員等やその親族からの相談の受け付け。
  • 教育指導によるハラスメントの未然防止。
  • ハラスメントの事実関係の確認など早期解決、再発防止。
  • その他、ハラスメントの未然防止、早期解決に資する業務。

2)「ハラスメント相談窓口」の責任者(以下「窓口責任者」)は総務部長とし、「ハラスメント相談窓口」の担当者(以下「窓口担当者」)は会社が個別に指名した従業員等とする。

3)会社は、窓口責任者および窓口担当者に別途定める「ハラスメント相談対応マニュアル」(省略)を配布する。窓口責任者および窓口担当者は当該マニュアルに基づき、ハラスメントの防止および対応に当たらなければならない。また、窓口責任者および窓口担当者は、会社が指定するハラスメント防止教育を受講しなければならない。

4)会社は、窓口責任者および窓口担当者の名前を、人事異動などの変更の都度、周知させる。

第7条(ハラスメントへの対応)

1)ハラスメント(疑い例を含む)の相談や報告があった場合、窓口担当者は、相談者からの事実確認の後、窓口責任者へ報告する。

2)窓口担当者は、相談者の人権に配慮した上で、必要に応じて相談者、ハラスメントの疑いのある言動をした者(以下「行為者」)、被害者、上司並びに他の従業員等から事実関係を聴取し、関係する資料の提出を求める。

3)前項の聴取や関係する資料の提出を求められた従業員等は、正当な理由がない限り、調査に協力すべき義務を負い、事実を隠ぺいせず、真実を述べなければならない。また、聴取の対象となる事実関係や聴取を受けていることについて社内外で口外する等、会社の調査を妨害する行為をしてはならない。

4)窓口担当者は、窓口責任者に事実関係を報告する。

5)ハラスメントの早期解決に困難な状況が生じた場合、窓口責任者は、法令に基づく紛争解決援助および調停など、中立的第三者機関を利用することができる。

6)会社によるハラスメントの調査を適正に進めるため、または被害拡大を避けるために必要と会社が判断する場合には、問題解決のための措置を講ずるまでの間、暫定的に行為者に対し、相談者等に対する接触の禁止、勤務場所の変更、自宅待機等の緊急措置を命じることがある。自宅待機の期間中、会社は労働基準法第26条の「休業手当」を支払うものとする。また、会社が必要と判断する場合には、相談者その他従業員等に対し、勤務場所の変更等を命じることがある。

7)ハラスメントの事実が確定した場合、会社は行為者については就業規則に照らして処分を決定する。また、ハラスメントの被害者および行為者の配置転換など、被害者の労働条件上の不利益の回復等のために必要な措置を講じるものとする。

第8条(不利益な取扱いの禁止)

会社はハラスメントに関する相談や報告を行ったこと、または事実関係の確認に協力したことなどを理由として不利益な取扱いを行ってはならない。

第9条(プライバシーの保護)

1)何人も、ハラスメントに関する相談および聴取などで知り得た情報を、みだりに第三者に漏洩してはならない。

2)窓口責任者および窓口担当者は、ハラスメントへの対応に当たって、被害者および行為者など関係する従業員等のプライバシーの保護に十分に留意しなければならない。

第10条(再発防止の義務)

窓口責任者は、ハラスメント(疑い例を含む)の事案が生じたときは、改めてハラスメント防止を周知徹底すると同時に、研修を実施するなど、適切な再発防止策を講じなければならない。また、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントに関しては、業務体制の整備など、発生の原因や背景となる要因を解消するために必要な措置を講じなければならない。

第11条(改廃)

本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則

本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2025年10月更新)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

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【かんたん消費税(6)】消費税の計算は「原則課税」か「簡易課税」で行う

1 赤字でも納税が必要な消費税

消費税は物を売ったり買ったりした場合などに課税されます。会社が赤字でも納税しなければならないケースもあります。また、一つ一つの取引ごとに課税されるかどうかを判断し、独自に消費税を計算しなければならないので、非常に手間もかかります。

経営者としても、ある程度、消費税の計算方法を理解していないと、決算のときに想像以上の納税が発生して納税資金に困る場合もあります。この記事では消費税の計算方法についての概要を説明します。

2 計算は「原則課税」と「簡易課税」の2つ

1)差額を納税する

消費税の納税額は、預かった消費税から支払った消費税を差し引いて計算します。預かった消費税を「仮受消費税」、支払った消費税を「仮払消費税」と呼びます。

  • 仮受消費税:物を売ったり、サービスを提供したりした場合に預かる消費税
  • 仮払消費税:物を買ったり、サービスの提供を受けたりした場合に支払う消費税

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2)2つの計算方法

納税額の計算方法には、原則課税と簡易課税とがあり、次のように異なります。

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簡易課税の特徴は、実際に支払った仮払消費税の額に関係なく、仮受消費税に一定割合を掛けたものを仮払消費税とみなすことです。仮払消費税の詳細な集計が不要なので簡単ですが、適用を受けるには、

  1. 基準期間の課税売上高が5000万円以下
  2. 期日までに簡易課税を適用する旨の届出書を提出している

といった要件を満たす必要があります。そして、1.の要件を見れば、簡易課税が小規模な会社を対象にしていることがお分かりいただけるでしょう。

3 原則課税による計算の流れ

ここでは、多くの会社で行われている原則課税に注目し、計算の流れをざっくりと解説します。経営者が詳細な計算の流れを知る必要はありませんが、「課税標準とは何か」「仕入税額控除とは何か」といったことは、イメージできるようになると理想です。

1)計算の流れ

原則課税では、仮受消費税から仮払消費税を差し引いて納税額を計算します。ただし、帳簿上の残高を単純に差し引くのではなく、

税法に従って正しく計算し直した上で納税額を計算

します。具体的には、以下の流れで計算されます。

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2)課税標準額に係る消費税額の計算(申告する仮受消費税)

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課税標準額とは、

申告する「仮受消費税」のベースとなる金額

です。消費税の取引は「課税取引」「不課税取引」「非課税取引」「免税取引」の4つに分かれるので、

実際に消費税が発生する「課税取引」の税込金額

を集計します。重要なのは、

取引が課税取引に該当するかどうかの判断

です。商品の売上などだけでなく、建物などの資産(非課税取引となる土地などを除く)を売却したものも含めます。

次に、実際に集計した課税取引の税込金額を税抜金額にします。具体的には、

「課税取引」の税込金額×100/110

と計算します。つまり、税抜にしているということで、これを「課税標準額」と呼びます。課税標準額は、1000円未満は切り捨てです。

ここまできたら、

1000円未満の端数を切り捨てた課税標準額に消費税率を掛ける

ことで、課税標準額に係る消費税額(申告する仮受消費税)が計算できます。なお、消費税率は、原則として10%ですが、軽減税率が適用される取引は8%です(説明の便宜上、税率は国税と地方消費税の合計としています)。

3)仕入控除税額の計算(申告する仮払消費税)

仕入控除税額とは、

申告する「仮払消費税」の金額で、仕入れや支出に係る消費税額

です。具体的には、

(国内の課税取引(仕入)の税込金額×10/110)+輸入消費税

と計算します。なお、消費税率は、原則として10%ですが、軽減税率が適用される取引は8%です(説明の便宜上、税率は国税と地方消費税の合計としています)。

詳細は割愛しますが、実際の仕入控除税額の計算はとても細かく、一定の条件のもとに「仮受消費税からそのまま全額控除できるケース」と「全額控除できないケース」とがあります。

4)返品等や貸倒れがあった場合

取引では返品を受け付けて消費者に返金することがあります。とはいえ、販売時に預かった消費税は国に納付しているのに、返金を消費税込ですると、納税者(つまり自社)は損をします。そのため、

返品等で返金をする場合は、返金に含まれている消費税を仮受消費税から控除

できます。

また、物を販売して売掛金を計上したものの、入金されずに貸倒れとなった場合も返品の際と同じ考え方とします。つまり、

貸倒れた金額に含まれている消費税を仮受消費税から控除

できます。

以上をまとめると、最終的には、

仮受消費税-仮払消費税-(返品・値引・貸倒金額に含まれる消費税)

によって、国に納付すべき金額が計算されることになります。

以上(2025年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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変形労働時間制やフレックスタイム制で働き方改革を実現!

1 3種類の変形労働時間制とフレックスタイム制

「変形労働時間制」とは、

1カ月や1年など一定の期間内において、1日10時間や1日6時間など労働時間を弾力的に設定する制度

です。労働基準法(以下「労基法」)では、3種類の変形労働時間制が定められています。

また、より柔軟な労働時間制度として「フレックスタイム制」があります。これは、

一定の期間内において、始業・終業時刻の決定を社員に委ねることができる制度

です(フレックスタイム制を変形労働時間制の一種とする考え方もあります)。

制度の概要や導入手続きをざっくり一覧にまとめたのが図表1です。

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以降で各制度の詳細を解説していきますが、次の用語は重要になるので、ご確認ください。

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2 1カ月単位の変形労働時間制

1)制度の概要

1カ月単位の変形労働時間制とは、

1カ月以内の一定の期間(「変形期間」といいます)における週の平均労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)以内であれば、法定労働時間を超える所定労働時間を設定できる制度

です。例えば、図表3は法定労働時間が1日8時間、1週40時間の会社が、変形期間を1カ月(31日)に設定した場合のイメージです。

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1日8時間を超えて労働する日、1週40時間を超えて働く週がありますが、週の平均労働時間が40時間以内に収まっていれば、時間外労働は発生しません。具体的には、「法定労働時間の総枠」という基準で判断します。法定労働時間の総枠は、原則として、

法定労働時間の総枠=週の法定労働時間×変形期間内の暦日数÷7日

で計算します。図表3の場合、法定労働時間の総枠は177.1時間(40時間×31日÷7日)で、

法定労働時間の総枠(177.1時間)>1カ月(31日)の所定労働時間の合計(174時間)

となり、週の平均労働時間が40時間以内に収まっているので、時間外労働は発生しません。

ただし、各日、各週の所定労働時間は、一度定めると原則として変更できないので注意してください。図表3のようにシフトを定めても、実際の労働時間が各日、各週の所定労働時間を超えると、この後に紹介するルールに基づいて時間外労働が発生する可能性が出てきます。

2)時間外労働などのルール

1カ月単位の変形労働時間制で時間外労働が発生するのは次のケースです。

  1. (1日単位)所定労働時間が8時間を超える日はその所定労働時間、それ以外の日は8時間を超えて働いた時間
  2. (1週単位)週の所定労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超える週はその所定労働時間、それ以外の週は40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えて働いた時間。ただし、1.で計算した時間を除く
  3. (変形期間全体)法定労働時間の総枠を超えて働いた時間。ただし、1.または2.で計算した時間を除く

なお、これとは別に、法定休日に働いた場合は休日労働が、原則として22時から翌日5時に働いた場合は深夜労働が発生します。

3)導入の手続き

必要な手続きは、労使協定の締結と届け出(就業規則で定める場合は不要)、就業規則の変更と届け出です。

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3 1年単位の変形労働時間制

1)制度の概要

1年単位の変形労働時間制とは、

1カ月超1年以内の一定の期間(「対象期間」といいます)における週の平均労働時間が40時間(特例措置対象事業場の場合も40時間)以内であれば、法定労働時間を超える所定労働時間を設定できる制度

です。基本的なルールは1カ月単位の変形労働時間制と同じですが、1年単位の変形労働時間制の場合、さらに図表5のルールが加わります。

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2)時間外労働などのルール

1年単位の変形労働時間制で時間外労働が発生するのは次のケースです。

  1. (1日単位)所定労働時間が8時間を超える日はその所定労働時間、それ以外の日は8時間を超えて働いた時間
  2. (1週単位)週の所定労働時間が40時間(特例措置対象事業場も40時間)を超える週はその所定労働時間、それ以外の週は40時間(特例措置対象事業場も40時間)を超えて働いた時間。ただし、1.で計算した時間を除く
  3. (対象期間全体)法定労働時間の総枠を超えて働いた時間。ただし、1.または2.で計算した時間を除く

なお、休日労働や深夜労働のルールは、1カ月単位の変形労働時間制と同じです。

3)導入の手続き

必要な手続きは、労使協定の締結と届け出、就業規則の変更と届け出です。

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労使協定の項目にある「d.対象期間における労働日、各日の所定労働時間」について補足します。1年単位の変形労働時間制は長いので、事前に全労働日の所定労働時間を特定するのは難しいです。そのため、対象期間を1カ月以上の期間ごとに区分した場合に限り、

  1. 最初の期間については、労働日と労働日ごとの所定労働時間
  2. それ以外の各期間については、各期間の労働日数と総労働時間のみ

を労使協定に定めればよいとされています。例えば、図表7は対象期間を1カ月ごとに区分した場合のイメージです。

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ただし、この場合も、最初の期間以外の各期間の労働日と労働日ごとの所定労働時間を、各期間の始まる30日前までに過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)の同意を得て、書面で定めなければなりません。

4 1週間単位の非定型的変形労働時間制

1)制度の概要

1週間単位の非定型的変形労働時間制とは、

週の労働時間が40時間(特例措置対象事業場も40時間)以内であれば、法定労働時間を超える所定労働時間を設定できる制度

です。他の制度と違い、常時雇用する社員が30人未満の小売業、旅館・料理店・飲食店だけが導入できます。例えば、図表8は1週間単位の非定型的変形労働時間制を用いて1週間働く場合のイメージです。

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週の労働時間が40時間以内なので、1日8時間を超える所定労働時間を設定しても、時間外労働になりません。ただし、

設定できる所定労働時間は、1日10時間が上限

です。また、各日の所定労働時間は、遅くとも毎週1週間の仕事が始まる前までに、勤務表を張り出すなどして社員に書面で通知しなければなりません。

2)時間外労働などのルール

1週間単位の非定型的変形労働時間制で時間外労働になるのは次のケースです。

  1. (1日単位)所定労働時間が8時間を超える日はその所定労働時間、それ以外の日は8時間を超えて働いた時間
  2. (1週単位)40時間(特例措置対象事業場の場合も40時間)を超えて働いた時間。ただし、1.で計算した時間を除く

なお、休日労働や深夜労働のルールは、1カ月単位の変形労働時間制などと同じです。

3)導入の手続き

必要な手続きは、労使協定の締結と届け出、就業規則の変更と届け出です。

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5 フレックスタイム制

1)制度の概要

フレックスタイム制とは、

3カ月以内の一定期間(「清算期間」といいます)について、あらかじめ定めた総労働時間の範囲内で始業・終業時刻の決定を社員に委ねる制度

です。通常は、必ず働かなければならない「コアタイム」と、社員が自主判断で働く「フレキシブルタイム」を設けます。例えば、図表10はコアタイムを10時から15時、フレキシブルタイムを6時から10時と15時から19時に設定した場合のイメージです。

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働き方の自由度が高い半面、社員の始業と終業がばらつきやすくなります。ただし、フレキシブルタイムを極端に短くしたり、社員にフレキシブルタイムに働くよう強制したりすることはできません(注)。

(注)社員に翌日の始業時刻の目安を確認したり、社員の同意を得て特定の時間に始業させたりする程度であれば問題ないとされています。

2)時間外労働などのルール

フレックスタイム制は、1カ月以内の場合と1カ月超3カ月以内の場合とで時間外労働のルールが変わります。なお、休日労働や深夜労働のルールは、フレックスタイム制の期間にかかわらず、1カ月単位の変形労働時間制などと同じです。

1.フレックスタイム制の期間が1カ月以内の場合

フレックスタイム制の期間の実労働時間が、週平均で40時間(特例措置対象事業場の場合は44時間)を超えると時間外労働になります(法定労働時間の総枠」で判断)。

法定労働時間の総枠=週の法定労働時間×清算期間内の暦日数÷7日

2.フレックスタイム制の期間が1カ月超3カ月以内の場合

フレックスタイム制の期間中の実労働時間が、

  • 週平均で40時間(特例措置対象事業場の場合も40時間)を超えると時間外労働になります(便宜上「40時間ルール」とします)。
  • 同時に、フレックスタイム制の開始の日から1カ月ごとに区分した各期間の労働時間が週平均50時間を超えた場合も時間外労働になります(便宜上「50時間ルール」とします)。

40時間ルールと50時間ルールのいずれかの条件に該当すると、時間外労働が発生します。例えば、図表11は、清算期間が3カ月の場合の、割増賃金の対象となる時間数のイメージです。

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賃金は、まず各月について50時間ルールにのっとって計算した割増賃金を支払い、次に清算期間終了時に、40時間ルールにのっとって法定労働時間の総枠を超えた分の割増賃金を支払います(50時間ルールに基づき既に支払った金額を除く)。図表11の場合、各月で支払うべき割増賃金は次のようになります。

  • 4月(単月):5.8時間(=220時間-214.2時間)分
  • 5月(単月):割増賃金の支払いはなし
  • 6月(単月):5.8時間(=220時間-214.2時間)分
  • 6月(3カ月):88.4時間(=620時間-520時間-5.8時間-5.8時間)分

6月は、6月単月で生じた割増賃金(50時間ルールに基づき計算するもの)と、3カ月の清算期間で生じた割増賃金(40時間ルールに基づき計算するもの。ただし、4月(単月)と6月(単月)で生じた割増賃金を除く)の両方を支払うことになります。

3)導入の手続き

必要な手続きは、労使協定の締結と届け出(清算期間が1カ月以内の場合、届け出は不要)、就業規則の変更と届け出です。

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以上(2025年11月更新)

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横領を隠して退職した不届き者から退職金を取り戻すには?

1 不届きな社員から退職金を取り戻す方法

退職金は長年働いてくれた社員に報いるためのものです。ですが、中にはそんな厚意を踏みにじる不届きな社員もいて、そうした場合には厳しく対応しなければなりません。例えば、

横領を隠したまま転職し、退職金だけしっかり受け取って去っていく社員

がいたらどうですか?

退職するときに、在職中の不祥事を発見できない場合に、こうした問題が生じるのですが、次の3つのポイントを押さえれば、退職した社員に、退職金の返還を適正に請求することができます。以降で詳しく見ていきましょう

  • 民法の「不当利得返還義務」の仕組みを理解する
  • 就業規則の「退職金の支給制限や返還の定め」を確認する
  • 不祥事の重さと長年の功労を照らし合わせる

2 民法の「不当利得返還義務」の仕組みを理解する

不祥事を隠して退職した社員に対し、すでに支払ってしまった退職金の返還を請求できる法的な根拠は、民法の「不当利得返還義務」です。これは、

法律上正当な理由がないのに、他人の損失と引き換えに利益を受けた人(受益者)は、損失を受けた人(損失者)に、その利益を返還しなければならないという義務のこと

です。損失者が「受益者の受けた利益が不当利得であること」を立証して、利益の返還を求めた場合、受益者はこれを拒むことはできません。ただし、返還請求を行えるのは、「不当利得が生じた時点から10年間(損失者が不当利得に気付いた場合は、その時点から5年間)」です。

退職金の場合に当てはめると、

「不祥事を起こした社員には、退職金の全部または一部を支払わない」というルールであれば、本来であれば支給されない(または減額される)はずの退職金を満額受け取った場合、その社員は会社の損失と引き換えに利益を受けている

ことになります。

問題は、「退職金を満額受け取ることに、法律上正当な理由があるか」です。この点については、労働基準法で「退職金制度を設ける場合、退職金の支給対象者、金額の決定・計算・支払いの方法、支給時期を、就業規則で定めなければならない」とされています。つまり、

就業規則の内容が、法律上正当な理由があるかを判断する基準になるということであり、そこで、次に紹介する「退職金の支給制限や返還の定め」が重要になってくる

というわけです。

3 就業規則の「退職金の支給制限や返還の定め」を確認する

退職金の返還請求に関して、就業規則に次の2点を定める必要があります。

  • 退職金の支給制限:懲戒事由に相当する背信行為をした社員には、退職金の全部または一部を支払わない
  • 退職金の返還:懲戒事由に相当する背信行為をした社員に、すでに退職金を支払ってしまっている場合、当該社員に退職金の全部または一部の返還を命じる

過去に、

退職金請求権が雇用契約から生ずる社員の基本的な権利であることに鑑みると、その支払いを拒めるのは、就業規則に定められた不支給事由が存在する場合に限定されると解するべきである

と判断した裁判例(広島地裁平成2年7月27日判決)があるため、必ず定めておきましょう。

【規定例】
第○条(退職金の支給制限)

1)就業規則第○条で定める懲戒規定に基づき懲戒解雇された従業員または懲戒事由に相当する背信行為を行った従業員には、退職金を支給しない。
2)就業規則第〇条で定める懲戒規定に基づき諭旨解雇され自己都合退職した従業員には、退職金を一部支給しないことがある。

第○条(退職金の返還)
退職金支給後において、前条で定める退職金の支給制限に該当した者については、既に支給済の退職金の全額または一部の返還を命じる。この場合、返還を命じられた者は誠実にこれに応じなければならない。

上の規定例では、「退職金の支給制限」「退職金の返還」の対象となるのは、いずれも懲戒解雇または諭旨解雇に相当する不祥事を起こした社員です。

退職金の減額・不支給が有効と判断されるには、それに見合うだけの非違・背信行為が行われたことが必要

であるため、懲戒処分のうち重大なものに限るものとしています。

4 不祥事の内容と長年の功労を照らし合わせる

就業規則に退職金の支給制限や返還の定めがあっても、請求額の全額が回収できるとは限りません。

支給制限の話になりますが、過去の裁判例では、

懲戒解雇であっても、退職金を不支給とすることは、長年の功労を打ち消す重大な背信行為がなければ合理的とはいえないので、減額などにとどめるべき

と判断したもの(東京高裁平成15年12月11日判決)があります。この裁判では、痴漢行為が原因で懲戒解雇された社員の退職金を不支給とすることの可否が争われ、最終的に70%の減額が妥当と判断されました。判決文では、

  • 退職金全額を不支給とするには、当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である
  • 業務上の横領や背任など、会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為がある場合、会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視し得ないような現実的損害を生じさせるなど、横領や背任に匹敵するような強度な背信性を有することが必要である

という旨が示されています。

退職金の返還請求についても同様です。どの程度の額の返還が認められるかは、社員の不祥事の内容と長年の功労を照らし合わせた上で判断されます。

なお、社員の不祥事によって会社が損害を受けた場合、退職金の返還請求とは別に、受けた損害に関する損害賠償請求が認められる可能性があるので、必要に応じて検討しましょう。

5 (参考)同業他社に転職した社員の退職金は?

参考として、社員が退職後、就業規則の競業避止義務に違反して、同業他社に転職した場合の退職金の返還請求について説明します。

競業避止義務違反を理由に退職金の返還請求が認められるかについては、退職した社員側の職業選択の自由の問題などもあって判断が難しいですが、「同業他社に転職した場合、退職金の半額を返還させる」という就業規則の規定の有効性等が争われた過去の裁判例では、

就業規則の競業避止義務に違反することで、勤務中の功労に対する評価が減殺される

として、退職金の一部の返還請求を認めたもの(最高裁第二小法廷昭和52年8月9日判決)があります。

ただ、一般的に、競業避止義務違反は横領や背任等の不祥事よりも悪質性が低いといえるため、仮に返還請求が認められたとしても、回収できる額は退職金の一部にとどまる場合が多いと考えられます。なお、就業規則に競業禁止に関する定めがあっても、これに違反した場合に退職金の返還を命じる旨の定めがなければ、退職金の返還請求は原則として認められません。

以上(2025年11月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)

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【税の勘所】押さえておきたい税金の「期間」

1 押さえておきたい税金の「期間」

この記事では、主な税金(法人税・消費税・相続税・贈与税)に関する「期間」を整理します。

押さえておきたい税金の数字~期間編~

2 20年以上:贈与税

20年以上は、夫婦間で居住用財産を贈与した場合、2000万円まで非課税となる婚姻期間です。

婚姻期間が20年以上の配偶者から居住用財産を贈与された場合(一定の要件を満たす必要があります)、その居住用財産の課税価格から2000万円まで控除できます。そのため、基礎控除(110万円)を合わせた2110万円までは贈与税がかかりません。

3 7年:相続税

7年以内は、生前贈与分を相続税の課税価格に加算しなければならない期間です。

財産を相続した人が、被相続人(亡くなった人)からその相続開始(被相続人が亡くなった日)前7年(2023年12月31日以前は3年)以内に贈与されていた場合、その贈与されていた財産は相続税の課税価格に加算されます。ただし、相続時精算課税を選択している場合には、年間110万円(非課税枠)までの生前贈与については相続財産に含まなくてよいため、相続税の課税価格には加算されません。

なお、相続が発生した年に贈与された財産も、相続税の課税価格に加算しなければなりませんが、2024年1月1日~2030年12月31日までの間の贈与については一定の経過措置が適用されます。

生前贈与に係る経過措置

4 10カ月以内:相続税

10カ月以内は、相続税の申告期限です。

財産を相続した人は、

被相続人から財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格の合計額がその遺産に係る基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合

に、その相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月以内に、所定の事項を記載した申告書を、被相続人の死亡時における住所地を管轄する税務署長に提出しなければなりません。

5 2カ月以内:法人税、消費税

2カ月以内は、法人税および消費税の確定申告期限(原則)です。

法人は、原則として、各事業年度終了の日の翌日から2カ月以内に、管轄する税務署長に対し、確定した決算に基づき、法人税及び消費税の確定申告書を提出しなければなりません。

以上(2025年11月更新)
(監修 税理士法人アイ・タックス 税理士 山田誠一朗)

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拡充された「キャリアアップ助成金」でパート社員の待遇改善!

1 非正規社員の待遇改善に取り組むと助成金が受け取れる!

2025年6月20日に、いわゆる「年金制度改正法」が公布されました。非正規社員の待遇に関する改正では、

社会保険に加入できる短時間労働者の範囲の拡大(社会保険の適用拡大)

などが定められています。国を挙げて正社員と非正規社員の格差の是正が推し進められている中、会社においても非正規社員の待遇の見直しが必要になってきています。

とはいえ、賃上げや就業規則等の変更にはコストがかかるもの。そこでおすすめしたいのが

非正規社員のために一定の取り組みをすると受け取れる「キャリアアップ助成金」

を活用することです。2025年7月から「短時間労働者労働時間延長支援コース」という新しいコースも作られ、内容がこれまで以上に充実してきています。

この記事では、キャリアアップ助成金の6種類のコースを取り上げ、主な要件や支給額などを紹介します。以降で出てくる言葉の定義は次の通りです。

  • 非正規社員:正社員以外の社員
  • 短時間労働者:非正規社員のうち、週の所定労働時間が正社員より短い者
  • 有期雇用労働者:非正規社員のうち、雇用期間の定めがある者
  • 無期雇用労働者:非正規社員のうち、雇用期間の定めがない者

なお、助成金の内容は、2025年10月20日時点のもので、将来変更される可能性があります。申請書の書き方や添付書類などについては、次のURLをご参照ください。

■厚生労働省「キャリアアップ助成金」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html

2 短時間労働者労働時間延長支援コース(2025年7月新設)

1)短時間労働者労働時間延長支援コースとは?

いわゆる「年収の壁」対策を目的とした新しいコースです。社会保険の適用要件を満たすよう、短時間労働者の週所定労働時間を延長し、賃金も増額する等の処遇改善を行う会社を支援します。

2)助成金を受け取るには?

次の要件などを満たす必要があります。

  • コースの実施日の前日までにキャリアアップ計画を作成し、都道府県労働局に提出する。具体的には、社会保険加入日の前日(例:2025年11月1日加入の場合、10月31日)
  • 短時間労働者を6カ月以上雇用した上で、社会保険に加入させる
  • [第1期分の申請]

  • 社会保険加入に当たり、短時間労働者の週所定労働時間を2時間以上延長して基本給を一定以上増額するか、もしくは週所定労働時間を5時間以上延長する
  • 社会保険に加入後、その社員を継続して6カ月以上雇用し、6カ月目の賃金支給日の翌日から2カ月以内に支給申請する
  • 複数年かけての取り組みも可(その場合、社会保険適用後の労働時間延長等は必要なし)

  • [第2期分の申請]

  • 第1期支給対象期における週所定労働時間の延長等の実施後、第2期支給対象期の開始日(社会保険加入日から12カ月経過後)までに、2時間以上の所定労働時間の延長、5%以上の基本給の増額、賞与や退職金制度への適用等の措置を講じる
  • 第2期支給対象期の開始日から起算して6カ月目の賃金支給日の翌日から2カ月以内に支給申請をする

3)受け取れる金額はいくら?

次の額を定額で受け取れます。支給申請人数の上限はありません。

短時間労働者労働時間延長支援コース

4)専門家のワンポイントアドバイス

2)で出てきた「キャリアアップ計画」とは、

非正規社員のキャリアアップを図る上での目標や会社の取り組みに関する計画のこと

で、キャリアアップ助成金ではどのコースでも、この計画書の提出が必須となります。ただし、この短時間労働者労働時間延長支援コースについては、後述の「社会保険適用時処遇改善コース」からの切り替えを行う場合に限り、キャリアアップ計画書の再提出は不要とされています。

本コースは、単年の取り組みによる申請が原則ですが、すぐに支給要件を満たす事が難しい会社については、複数年かけて支給要件を満たした場合による申請が認められています。ただし、その場合、キャリアアップ計画書で定める「キャリアアップ計画期間」(3年以上5年以内の期間で任意で設定)内で取り組みを実施する必要があるため、余裕を持ってキャリアアップ計画書を提出しておく必要があります。

3 社会保険適用時処遇改善コース(2026年3月まで)

1)社会保険適用時処遇改善コースとは?

短時間労働者が社会保険の適用を受けるようになった際に、手当等の支給、賃上げ、労働時間の延長等を実施した場合に助成を受けられるコースです。なお、このコースは2026年3月31日までの時限措置とされています。

2)助成金を受け取るには?

次の要件などを満たす必要があります。

  • コースの実施日の前日までにキャリアアップ計画を作成し、都道府県労働局に提出する
  • 短時間労働者を6カ月以上雇用した上で、社会保険に加入させる
  • [手当等支給メニュー] 社会保険加入に際し、1~2年目に社員負担分の社会保険料相当額(標準報酬月額等の15%以上)の手当支給または賃上げ、3年目に基本給の総支給額を18%以上増額する(賃上げ等、労働時間延長あるいはその両方による増額)
  • [労働時間延長メニュー] 社会保険加入に際し、週の所定労働時間を4時間以上延長するもしくは1時間以上延長して基本給を一定以上増額する等の措置を講じる
  • それぞれのメニューに応じて、支給対象期分の賃金支給日の翌日から2カ月以内に支給申請する

3)受け取れる金額はいくら?

手当等支給メニューまたは労働時間延長メニューについて、次の額を定額で受け取れます。

社会保険適用時処遇改善コース

4)専門家のワンポイントアドバイス

このコースには「手当等支給メニュー」と「労働時間延長メニュー」があります。基本的に受給できるのは1人につき1メニューまでですが、例えば、1年目は「手当等支給メニュー」に取り組み、2年目で「労働時間延長メニュー」へ切り替えて、それぞれの支給を受けることも可能です(併用メニュー)。

取り組みが長期にわたるため、取り組みの過程で前章の「短時間労働者労働時間延長支援コース」を満たすようになった場合、そちらのコースに切り替えることが認められています(「労働時間延長メニュー」または「併用メニュー」の場合に限ります)。

なお、2026年3月31日までに社会保険に加入した標準報酬月額10.4万円以下の短時間労働者に対して、社会保険料の本人負担分の軽減を目的とした「社会保険適用促進手当」を支給した場合(本人負担分の保険料相当額が上限)、本コース「手当等支給メニュー」の助成の要件とされる「一定の手当支給または賃上げ」を実施したものとして扱うことができます。ただし、手当の支給に際し、就業規則等への規定や届け出が必要となります。

4 正社員化コース

1)正社員化コースとは?

就業規則等に基づき、非正規社員(有期雇用労働者または無期雇用労働者)を正社員に転換し、転換後に一定以上賃金を増額した場合、助成金を受け取れるコースです。

2)助成金を受け取るには?

この助成金を受け取るためには、次の要件などを満たす必要があります。

  • コースの実施日の前日までにキャリアアップ計画を作成し、都道府県労働局に提出する(人材開発支援助成金の申請を絡める場合は一部例外あり)
  • 賃金の額または計算方法が正社員と異なる雇用区分の就業規則等を、6カ月以上適用された有期雇用労働者または無期雇用労働者を正社員に転換する
  • 正社員転換後の6カ月間(第1期)の賃金を、転換前6カ月間の賃金と比較して3%以上増額し、支給対象期分の賃金支給日の翌日から2カ月以内に支給申請する
  • 重点支援対象者(後述)である場合、第1期後の6カ月間の賃金を、第1期の賃金と比較して合理的な理由なく引き下げずに支給した上で、支給対象期分の賃金支給日の翌日から2カ月以内に支給申請する

3)受け取れる金額はいくら?

次の額を定額で受け取れます。

正社員化コース

4)専門家のワンポイントアドバイス

2)と3)に出てくる「重点支援対象者」とは、次のa~cのいずれかに該当する人を指します。

a:雇入れから3年以上の有期雇用労働者

b:雇入れから3年未満で、次のいずれにも該当する有期雇用労働者

1.過去5年間に正社員であった期間が合計1年以下

2.過去1年間に正社員として雇用されていない

c:派遣労働者、母子家庭の母等または父子家庭の父、人材開発支援助成金の特定の訓練修了者

重点支援対象者については前述した通り、助成金の支給が手厚くなるので、社内の有期雇用労働者に該当者がいないか確認してみましょう。派遣労働者を正社員化する場合にも使える助成金です。ただし、新規学卒者(4月1日付の雇用者)については、雇入れから起算して1年を経過していない場合は、正社員化した場合であっても支給対象外となります。

5 賃金規定等改定コース

1)賃金規定等改定コースとは?

非正規社員の基本給を3%以上増額するように賃金規定等(就業規則の賃金規定、賃金テーブル、賃金一覧表等のこと)を改定し、その規定を適用させた場合、賃上げをした非正規社員の人数に応じ、助成金を受け取れるコースです。

2)助成金を受け取るには?

会社が次の要件などを満たす必要があります。

  • コースの実施日の前日までにキャリアアップ計画を作成し、都道府県労働局に提出する
  • 非正規社員の基本給を3%以上増額するように賃金規定等を改定する
  • 3カ月以上雇用した非正規社員に対して改定後の規定に基づき増額した賃金を6カ月以上支給し、6カ月目の賃金支給日の翌日から2カ月以内に支給申請する

3)受け取れる金額はいくら?

次の額を定額で受け取れます。

賃金規定等改定コース

4)専門家のワンポイントアドバイス

図表4の「加算額」の項にある「職務評価」とは、

職務の大きさを相対的に比較し、その職務に従事する社員の待遇が職務の大きさに応じたものとなっているかの現状を把握すること(人事評価・能力評価とは異なります)

をいいます。職務評価の方法はさまざまですが、例えば、

職務(役割)評価表を作成し、評価項目ごとにポイントを付けて評価する「要素別点数法」

という手法があります。なお、職務評価を実施する場合、厚生労働省が設置する「働き方改革推進支援センター」のサポートを受けられます。

要素別点数法の詳細についてはこちらをご確認ください。

■厚生労働省・多様な働き方の実現応援サイト「要素別点数法」■
https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/estimation/estimation_02.html

なお、昇給が一部の非正規社員に限定されていても、それが職種別や部門別といった合理的な理由の区分に基づいているのであれば、助成の対象になります。また、昨今の最低賃金の大幅引き上げを踏まえ、本コースの利用を検討するケースも多いと思いますが、その場合、新たな最低賃金の効力が生じた日以降における規定等での増額については、助成の要件とされている3%以上の賃上げ率の算定に、当該最低賃金に達するまでの増額分を含むことができません。

6 賃金規定等共通化コース

1)賃金規定等共通化コースとは?

非正規社員について、正社員と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに作成して適用した場合に助成を受けられるコースです。

2)助成金を受け取るには?

会社が次の要件などを満たす必要があります。

  • コースの実施日の前日までにキャリアアップ計画を作成し、都道府県労働局に提出する
  • 非正規社員を3カ月以上雇用した上で、賃金規定等を正社員と共通化する
  • 改定後の規定に基づき、増額した賃金を6カ月間支給し、6カ月目の賃金支給日の翌日から2カ月以内に支給申請する

3)受け取れる金額はいくら?

次の額を定額で受け取れます。

賃金規定等共通化コース

4)専門家のワンポイントアドバイス

正社員が月給制、非正規社員が時給制の場合、非正規社員の賃金規定等を正社員と共通化するに当たって、「正社員の月給の時給換算額 ≦ 非正規社員の時給」になるように賃金テーブル等を作成する必要があります。時給換算のイメージは次の通りです。

正社員の月給 ÷ 正社員の月の労働時間数(注) ≦ 有期雇用労働者等の時給

(注)正社員の1日の所定労働時間×月平均労働日数(週の所定労働日数×52÷12)

なお、共有化する賃金規定等については、それぞれ3区分(等級)以上を設け、そのうち共通する区分が2区分以上である必要があります。

7 賞与・退職金制度導入コース

1)賞与・退職金制度導入コースとは?

全ての非正規社員を対象とする賞与・退職金制度を導入し、支給または積み立てを実施した場合に助成を受けられるコースです。

2)助成金を受け取るには?

会社が次の要件などを満たす必要があります。

  • コースの実施日の前日までにキャリアアップ計画を作成し、都道府県労働局に提出する
  • 全ての非正規社員を対象とする賞与・退職金制度を新たに設ける
  • 非正規社員を3カ月以上雇用し、制度の新設後、さらに6カ月以上継続雇用する
  • 賞与については、6カ月分相当として対象者1人当たり5万円以上を支給する。退職金については、1カ月分相当として3000円以上を6カ月分または6カ月分相当として1万8000円以上積み立てる
  • 初回の賞与支給日または退職金の積み立て後6カ月目の賃金支給日の翌日から2カ月以内に支給申請する

3)受け取れる金額はいくら?

次の額を定額で受け取れます。

賞与・退職金制度導入コース

4)専門家のワンポイントアドバイス

退職金については制度導入に際して、

積立・拠出費用を事業主(会社)が負担する制度であることを明記

する必要があります。なお、定年の適用を受けない有期雇用労働者については、年齢に関係なく退職金制度の対象とする制度である必要があります(非常に短期間の雇用契約である場合は除きます)。定年の適用を受ける無期雇用労働者については、定年年齢までで構いません。

また、過去に「旧諸手当制度共通化コース」「旧諸手当制度等共通化コース」の助成金の支給を受けている場合は、本コースの支給対象外となります(健康診断制度を新たに設け、実施した場合の助成のみを受けている場合を除きます)。

以上(2025年11月作成)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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【ハラスメント対策】逆パワハラを「上司の能力不足」で片付けてはダメな理由

1 逆パワハラは組織が機能不全を起こす前兆?

いわゆる「逆パワハラ」とは、

部下が上司に行うパワハラ(パワーハラスメント)のこと

です。逆パワハラは経営者が気付きにくい問題です。なぜなら、被害者である上司が、「自身のマネジメント能力を疑われる」と心配して、その事実を明かさないからです。これは、

「上司が部下をマネジメントする」という組織の機能がうまく働かなくなってきている

という状況です。

こうなる理由はさまざまですが、経営者でないとメスを入れにくい問題として、上司の能力不足が挙げられます。実際、上司がビジネスの変化に着いていけず(ITに弱いなど)、部下になめられるというのは、逆パワハラでよくあるケースです。

いずれにしても、社員数が限られた中小企業で逆パワハラが起きると、あっという間に組織体制は崩れます。そうなる前に、

経営者が積極的に関与して、逆パワハラを含むハラスメント防止を進めること

が大切です。

2 こんな事態は末期? 逆パワハラの例

パワハラに該当するか否かの判断は、次の3つの要素を基準にします。

「1.優越的な関係を背景にした言動」は、「上司」から「部下」に対して行われるのが典型ですが、部下が集団で結託している、部下だけが業務遂行に必要な知識や経験を持っているなど、

部下の協力がなければ業務の円滑な遂行が困難な状況では、「部下」から「上司」に対する言動が、「1.優越的な関係を背景にした言動」と判断されること

があります。これが逆パワハラのコアです。

ここでは、令和2年厚生労働省告示第5号の「パワハラの6類型」に当てはめて、逆パワハラに該当する可能性がある言動の例を紹介します。

逆パワハラに該当する可能性がある言動の例

また、どの類型に入るのかが難しいですが、この他に

上司から注意されたり、少し怒られたりしただけで、すぐに「セクハラだ」「パワハラだ」と騒ぎ立てる、いわゆる「ハラハラ(ハラスメントハラスメント)」

も、上司の正当な指導を妨害する言動であり、逆パワハラに該当する可能性があります。

3 逆パワハラへの対応

1)まずは規程や相談窓口をきちんと整備する

まずは就業規則やハラスメント防止規程で、「部下から上司に対して行われる言動もパワハラになり得る」旨を定めて、社員に周知します。また、パワハラに関する相談窓口がある場合、逆パワハラの相談も受け付けていることも知らせます。「担当者が若いと相談しにくい」と考える上司もいるので、相談窓口の担当者を複数人にするのが理想的です。

相談があった場合、担当者は、まずは事情聴取だけをします。ここで「これは逆パワハラとはいえない」などと意見を述べると、トラブルになる恐れがあるからです。逆パワハラに該当するか否かを判断するのは、事情聴取等を含めた事実確認が終わってからです。

2)加害者である部下の処分は慎重に

加害者である部下の処分は、ケース・バイ・ケースの判断になりますが、「逆パワハラに該当する言動」があった場合は懲戒処分とすることも考えられますし、逆パワハラに該当するか否かが明らかではないものの不適切な言動が認められた場合には、厳重注意をする等の処分も考えられます。さらに、場合によっては、上司に対する言動が、業務命令違反や職場秩序を乱したなどの服務規律違反に当たる場合もあるため、その観点からの検討も必要です。

また、明らかな逆パワハラとまではいかなくても、それが疑われるような言動を放置してはいけません。ハラスメントに関する経営方針を定期的に社員に周知したり、外部機関のハラスメント研修を社員に受講させたりして、社員自身の気付きを促しましょう。

4 (参考)逆パワハラの法的な位置付け

逆パワハラについては、令和2年厚生労働省告示第5号で、

と示されています。

また、社内で逆パワハラが発生した場合、加害者である部下が民法第709条(不法行為による損害賠償)に基づき責任を問われる恐れがあります。さらに、会社も民法第415条(債務不履行(安全配慮義務違反)による損害賠償)、民法第715条(使用者等の責任)などに基づき責任を問われる恐れがあります。

以上(2025年11月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田絹助)

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都道府県魅力度ランキング2025【47都道府県・完全版】

毎年注目を集める「都道府県魅力度ランキング」。今年で調査開始から20年を迎え、例年以上に話題を呼びそうだ。そのランキングのベースとなる『地域ブランド調査2025』の調査結果が10月4日に発表され、今年も満を持して「都道府県魅力度ランキング」をお届けすることとなった。

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天才の「1%のひらめき」は誰でもつくれる! 記憶力日本一の達人が教える「アイデア脳」を育てる習慣

仕事や勉強をする上で、「ひらめき」は必要不可欠だが、どうすれば、「ひらめき」を頻繁に起こせるのだろうか。記憶工学研究所所長・池田義博氏は、日本記憶力選手権大会で6回優勝した経験を持つ、記憶術と脳力開発の第一人者だ。本稿では、池田氏の動画「50歳でも記憶力はアップ! 加齢に勝てる脳トレ法」から、脳科学的に裏づけられたアイデア創出のメカニズムと、それを引き出すトレーニング「ノンストップ・ジャーナリング」の核心部分を特別に公開する。

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【もっと早く知りたかった】未来が読めない時代に武器となる“生き方・考え方ベスト3”

不確実性の高い状況に対処する思考様式、「エフェクチュエーション」が話題だ。コロナ禍以降、社会経済環境は大きく変化している。テクノロジーの進化や国際情勢も目まぐるしく、先行きは不透明だ。そんな中で未来を予測するのは不可能に近い。不確実性の高い時代を生きる私たちにとって、「エフェクチュエーション」は大きなヒントとなるだろう。

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