クロマグロ漁獲枠25%増の合意 地域経済と水産業の展望 【経営者とっておきニュース】

2026年8月、太平洋クロマグロの資源管理に関する国際会議の再交渉において、中西部太平洋における2027年からの2年間の漁獲枠について、大型魚(30キロ以上)を25%増やし、小型魚を6%減らす案で各国が合意しました。7月の会議ではメキシコの反対により合意が見送られましたが、日本との個別協議を経てメキシコが賛成に転じました。

日本の沿岸では近年、クロマグロの資源量が回復する一方で、漁業現場で「魚はいるのに獲れない」という厳しい制限に直面していた状況があります。沖縄県石垣島では漁獲の上限到達により、わずか2カ月足らずで漁の停止を余儀なくされ、長崎県五島市でも上限に達した一本釣り漁業者がカツオ漁への転向を強いられるなど、地域経済や漁業者への打撃が深刻化していました。

この「クロマグロ漁獲枠25%増」の合意は、地域や関連業界に多角的な影響を与えます。最大のメリットは、休漁期間の縮小による操業機会の確保と、それに応じた漁業者の収入安定および地元経済の活性化です。また、小売・外食業界にとっては、国産マグロの供給増加により安定調達が可能になる点が商機となります。

一方で、課題も懸念されています。市場では供給量の増加に伴い魚価の下落が予想されており、漁獲量が増えても単価安により収益性が上がらないリスクがあります。また、定置網と一本釣りのように漁法によって漁獲能力が異なるため、国内の地域や漁業形態に応じた適切な枠配分が不可欠となります。

今後は、2026年末の全体会合での正式採択を経て、国内における公平で実効性のある枠配分のルール作りが焦点となります。今回のニュースは「外部規制による機会損失を防ぐリスク管理」と「環境変化に対応する事業構造の柔軟性」という重要な教訓を含んでいます。規制緩和という追い風だけに頼るのではなく、加工や直販を通じた高付加価値化や適切なブランディングを行い、価格下落リスクに左右されない強い経営基盤を構築する視点が今まさに求められています。


【ご注意点】この記事は生成AIを活用して作成したものです。文章の正確性は保証されておらず、誤りが含まれる場合があります。詳細については参照URLの情報を必ずご確認ください。
■水産庁「『WCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)北小委員会・IATTC(全米熱帯まぐろ類委員会)の合同作業部会』の結果について」■
https://www.maff.go.jp/j/pr/event/attach/pdf/kaigi.release-2114.pdf
■農林水産省「鈴木農林水産大臣臨時記者会見概要(2026年8月18日)」■
https://www.maff.go.jp/j/press-conf/260818.html

以上(2026年8月作成)

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けがや病気で、経営者が働けなくなるリスクに備える。経営者293人のアンケートから見える実態と具体策

1 企業の存続にも関わる経営者の就業不能リスク

皆さんは「就業不能」リスクについて考えたことがありますか? 就業不能リスクとは働けなくなるリスクであり、

けがや病気によって入院が長期化したり、障害が残ったりして、長い間働けなくなってしまうこと

です。全ての人に関係することですが、特に経営者の場合、会社経営に重要な影響を及ぼすことになります。

【経営者個人の生活に関する影響】

  • 治療などにかかる負担(入院費・治療費・介護費、家族の介護負担)
  • 収入減少による負担(住宅ローンの返済、生活費)
  • 自身・家族の人生設計の見直し(子どもの進学) など

【企業経営に関する影響】

  • 経営業務の停滞(各種決済、経営者がけん引するプロジェクトなどの停滞)
  • 経営計画の見直し(取引先との関係、金融機関からの融資などへの影響)
  • モチベーションが低下した従業員の離職、追加人員の補充のための人件費増加 など

特に高齢の経営者にとって就業不能リスクは他人事ではないわけですが、「自分は大丈夫!」と考えている経営者もいるでしょう。では、世の経営者が就業不能リスクについてどう考えているのでしょうか。全国の経営者293人に対して行った独自アンケート(2026年8月実施)の結果を紹介します。

2 経営者293人に聞いた就業不能リスクへの不安と備え

1)就業不能リスクへの不安

就業不能リスクについては、経営者の約81.2%が「不安を感じている」と答えています。

経営者の就業不能リスクへの不安度

2)就業不能リスクへの備えの状況

就業不能リスクへの備えの状況については、経営者の約36.5%が既に備えを進めており、約38.6%は今後備える予定と答えています。

経営者の就業不能リスクへの備えの状況

3)就業不能リスクへの具体的な備え

図表2で、「既に備えていることがある。もしくは、備え始めている」と答えた経営者の具体的な備えは次の通りです。

就業不能リスクに対して備えている(備え始めている)こと(複数回答)

回答のうち、「その他」は、貯金・貯蓄や不動産活用、そもそも就業不能にならないための健康管理など、経営者によってさまざまです。以降では、労災保険の特別加入や就業不能保険といった民間保険など、主な備えについて解説していきます。

3 労災保険への特別加入(中小事業主等の場合)

原則として、経営者は労災保険には加入できません。しかし、所定の要件を満たす場合は「労災保険への特別加入」が認められます。中小企業の経営者のケースで紹介します(一人親方の場合などがありますが、ここでは割愛します)。

1.中小企業の範囲

  • 金融業・保険業・不動産業・小売業:50人以下
  • 卸売業・サービス業:100人以下
  • 上記以外の業種:300人以下

2.特別加入者の範囲

  • 経営者やその他の役員
  • 経営者の事業に従事する役員や、労働者とみなされていない経営者の家族従事者

3.加入の一般的要件

次の2つの要件を満たし、所轄都道府県労働局長の承認を受ける(労働保険事務組合を通じて所轄労働基準監督署経由で所定の申請書を提出)

  • 雇用する労働者について保険関係が成立していること
  • 労働保険の事務処理を労働保険事務組合に委託していること

特別加入した経営者は、所定の給付を受けることができます。ただし、補償の対象となる範囲(労災保険給付を受けられるケース)や、労災保険給付(一部)の算定基礎となる「給付基礎日額」などについては独自のルールがあるため、詳細は厚生労働省「特別加入制度のしおり(中小事業主等用)」をご確認ください。

■厚生労働省「特別加入制度のしおり(中小事業主等用)」■
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/040324-5.html

4 就業不能保険などの民間保険への加入

就業不能リスクへの備えとして、

最も多くの経営者が実施しているのが「民間保険への加入」

です。具体的には、就業不能状態となった際に一定期間、所得の一部を補償する就業不能保険や、企業の運転資金の一部を補うことができる法人向け医療保険などが該当します。

労災保険の給付は手厚く、労災保険に特別加入すれば安心ですが、これだけで全ての生活費などを補うには難しいケースもあります。私傷病の場合に支給される傷病手当金(健康保険)なども同様です。

こうした理由から就業不能保険などの民間保険に加入する経営者が多いのでしょうが、保険会社によって、給付の対象となる傷病の種類や要件、給付期間などが異なるので注意が必要です。

5 経営陣の補強や後継者の育成

その他の備えとして、経営陣の補強や後継者の育成などがあります。経営者が経営を続けられなくなった場合に、自分の代わりとなる人材を育て、スムーズとはいえなくても、引き継ぎができるような準備は必要かもしれません。

これは、就業不能リスクへの対策であると同時に、事業承継対策でもあります。事業承継対策をいつから始めればよいのか分からないという経営者は少なくありませんが、就業不能リスクへの対策という別の切り口から検討してみることも重要です。

以上(2026年9月更新)

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画像:photo-ac

「DDoS攻撃」の防御策と踏み台にされないための対策とは

1 IoT機器などが乗っ取られて、攻撃の踏み台に!

「DDoS攻撃」(Distributed Denial of Service attack; 分散型サービス妨害攻撃)は、

サーバーやネットワークなどに意図的に過剰な負荷をかけることで、正常なサービスを提供できなくするサイバー攻撃

です。「ディードス」と読みます。

攻撃者は、何らかの方法で乗っ取った複数の機器で構成されるネットワーク(ボットネット)を踏み台として、特定のサーバーやネットワークに対して大量のアクセスを一斉に仕掛けて高負荷状態にさせる、もしくは回線帯域を占有してサービスを利用できなくします。

IPA(情報処理推進機構)の「情報セキュリティ10大脅威2026」では、「DDoS攻撃(分散型サービス妨害攻撃)」が第9位としてランクイン

しました(初選出は2016年で、2年連続7回目)。

「DDoS攻撃」は、ルーターやネットワークカメラなどのIoT機器を狙う「Mirai」と呼ばれるウイルス(IoTマルウェア)や、その亜種に感染したボットネットを踏み台とするのが主流でしたが、足元では「Mirai」とは異なるIoTマルウェアの感染も拡大しているといいます。

大規模な「DDoS攻撃」を受けると、ウェブサイトの停止、業務の中断といった深刻な被害が生じます。中小企業も対策を怠ると攻撃の踏み台にされてしまう恐れがあります。

この記事では、「DDoS攻撃」の防御策と、攻撃の踏み台にされないための対策を紹介します。

2 「DDoS攻撃」の防御策

1)海外に割り当てられたIPアドレスからの通信の遮断

攻撃元となるIPアドレスの多くは、海外に割り当てられたIPアドレスです。例えば、サービス対象者が国内に限られるウェブサイトを運営している場合、海外に割り当てられたIPアドレスからのアクセスを制限(ジオブロック)することで、被害を抑えられます。

2)DDoS攻撃の影響を排除または軽減するための専用の対策装置やサービスの導入

WAF(ウェブアプリケーションファイアウォール)、IDS/IPS(不正侵入検知システム/不正侵入防止システム)、UTM(統合脅威管理)、DDoS攻撃対策専用アプライアンス製品等を導入し、DDoS攻撃を防ぐため必要な設定を行います。

3)コンテンツデリバリーネットワーク(CDN)サービスの利用

CDNは、独自に構築したキャッシュサーバーやそれにひも付くネットワークを利用して、ウェブサイトのコンテンツを配信するサービスです。元々、ウェブサイトのレスポンス向上を目的として利用されてきましたが、「DDoS攻撃」に対しても、CDNが攻撃トラフィックを分散処理することで、オリジンサーバーへの負荷軽減が期待できます。オリジンサーバーへの直接アクセスを防ぐため、オリジンサーバーのIPアドレスを隠蔽する必要があります。

4)その他各種DDoS攻撃対策の利用

インターネットサービスプロバイダーや、WAF/CDNを提供するクラウドサービス事業者が別途提供する、DDoS対策機能を利用することも有用です。

5)サーバー装置、端末及び通信回線装置、通信回線の冗長化

代替のサーバー装置などに切り替える対策です。この場合、DDoS攻撃の検知、代替サーバー装置などへの切り替えが許容される時間内に行えるようにする必要があります。

6)サーバー等の設定の見直し

代替のサーバー装置などについて、パケットフィルタリング機能、3way handshake時のタイムアウト短縮、各種Flood攻撃への防御、アプリケーションゲートウェイ機能がある場合は、有効にしましょう。

3 攻撃の踏み台にされないための対策

1)オープンリゾルバー対策

オープンリゾルバー(Open Resolver)とは、外部の不特定のIPアドレスからの、再帰的な問い合わせを許可しているDNSサーバーのことです。DNSサーバーの設定不備によるものだけでなく、ブロードバンドルーターなどのネットワーク機器に組み込まれているリゾルバーが、意図せずインターネットからアクセス可能になっているケースもあります。

JPCERTコーディネーションセンターが運用する「オープンリゾルバー確認サイト」に、ウェブブラウザでアクセスすると、自身の利用する環境がオープンリゾルバーとして機能していないか、適切な設定や対策が施されているかを確認できます。設定されているDNSサーバーやブロードバンドルーターが、オープンリゾルバーと判定されたときは、設定を見直しましょう。

■JPCERTコーディネーションセンター「オープンリゾルバー確認サイト」■
https://www.openresolver.jp/

2)セキュリティパッチの適用

サーバーやネットワーク機器の脆弱性を放置すると、攻撃者にマルウェアを仕掛けられ、DDoS攻撃の踏み台として悪用される恐れがあります。

OS、ミドルウェア、アプリケーションの定期的なアップデートが欠かせません。ベンダーからセキュリティパッチがリリースされたら、速やかに適用し、脆弱性が含まれるプログラムや設定を更新・修正しましょう。

3)フィルタリングの設定

正常な通信パケットでは、ヘッダー部分にあるIPアドレスは送信者のアドレスになっています。このIPアドレスを書き換えた詐称パケットで相手先に接続を試みるのが、「IPスプーフィング」と呼ばれる手法です。

ルーターやファイアウォールにおいて、送信元IPアドレスが詐称されているパケットをフィルタリングすることが求められます。

4 DDoS攻撃・踏み台化を防ぐチェックリスト

チェック項目
(国内限定のサービス等の場合)海外からの不要なアクセスを遮断している
WAF、IDS/IPS、UTMなどのセキュリティ対策製品やサービスを導入・設定している
CDN(コンテンツデリバリーネットワーク)を活用している
プロバイダーやクラウド事業者のDDoS対策機能を活用している
サーバーや通信回線の冗長化(代替システムへの切替体制)の準備ができている
代替サーバー等の設定の見直しを行っている
自社の環境が「オープンリゾルバー」になっていないことを確認済みである
OSや機器のセキュリティパッチを速やかに適用している
送信元IPアドレス詐称(IPスプーフィング)対策を行っている
DDoS攻撃によるサイト停止や業務中断リスクを想定し、セキュリティ投資や体制整備を検討している
IoT機器(ルーターやカメラ等)も含めた自社のネットワーク機器の管理態勢を把握している

5 参考

■みんなで守る、IoT。NOTICE■
https://notice.go.jp/
■情報通信研究機構 サイバーセキュリティ研究所「NICTER Atlas」■
https://www.nicter.jp/atlas

以上(2026年8月更新)

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画像:日本情報マート

地球上どこでも、大声でさけぶ。 世界中で“さらけ出して”つながりを生み出し続ける真っ直ぐな経営/販路開拓事例集

1 鹿児島そしてサウジアラビアに挑む「大声」の鳥山さん

大手不動産と組み、東京・恵比寿でイベントスペース「VIZZ(ビズ)」を運営し、イベント企画運営、ライブ配信、動画制作などの事業を展開するONDO Inc.代表の鳥山 郷(ごう)さん。それもそうなのですが、鳥山さんといえば、

「集合写真を撮るとき、大声で号令をかけてみんなを笑顔にする人」

です。他の人には真似できない鳥山さんの代名詞「集合写真の大声さけび」は、鳥山さんの販路開拓方法としても大事な特徴です。後ほど改めて紐解いてみます。

ONDO Inc.が掲げるミッションは「世界をもっとエモーショナルに。」です。

一見、感動や衝動をイメージさせる言葉ですが、鳥山さんの定義は少し異なるといいます。

ONDO Inc.コーポレートサイト

(出所:ONDO Inc.のコーポレートサイトより)

鳥山さんは「世界をもっとエモーショナルに。」を次のように教えてくれました。

「人と人が繋がるきっかけを共創する、という意味なんです。そこから、目の前の人や組織に対して『自分も関わりたい』『何かをしたい』と自発的に思える状態。それを僕らはエモーショナルと呼んでいます」

その理念のもと、鳥山さんはいま、二つの最前線に立っています。ひとつは、今年(2026年)支店を出した鹿児島県・錦江町(きんこうちょう)。もうひとつはなんとサウジアラビアです。2025年に初めて現地を訪れ、日本のクリエイターを招いた文化交流イベントの準備を進めており、会場決定や日程調整の段階にまで至っているそうです!

2026年8月にもサウジアラビアへの出張を決行されている鳥山さん。日本全国、そして世界各国に神出鬼没、行動して行動して行動しまくって道を切り拓き、人に会いにいき、関わりや繋がりを生み出し続けている鳥山さんです。

国内の一つの町から中東の新興国まで。華々しく聞こえますが、鳥山さんの足取りは決して順風満帆ではありませんでした。創業期の年商は、月ではなく年間で(!)200数十万円。電気もガスも携帯も何度も止まりました。さらに2021年には、イベント施設をオープンしたまさにその翌月にキャッシュが尽き、30人いた組織が一度ゼロに近い状態になっています。壮絶です。

どん底を経て、今では「お仕事は、ほぼご紹介でいただいています」という鳥山さん。その販路開拓は、特別な才能や潤沢な資金によるものではありませんでした。むしろその逆です。お金もつながりも何もないところからスタートして、「真心込めて、一つひとつ丁寧に」です。

今回は、その販路開拓の勘どころを実際のエピソードとともに語っていただきました。

ちなみに社名の「ONDO」、いまでこそ落ち着いた響きに聞こえますが、もとは違う漢字だったそうです。

「大学時代に勢いで付けたんですけど、はじめは『音』と『動』で『音動(おんどう)』だったんですよ。プロデュース、クリエイティブの業界って結構縦割りなんですよね。音楽をやる人は音楽屋、映像をやる人は映像屋という感じで。それはそれでいいことなんですけど、お客さまは結局、全部を扱うわけじゃないですか。僕らは、枠組みを超えて全部やらせてください、という姿勢を示す。その、気合いで『枠組みを超えていこう』という意味の社名なんです」

その後、社名は「音動」から、いまはアルファベットの「ONDO」に落ち着いています。海外へ活動を広げる中で、パッと見て読める形にしたかったのだそうです。「音頭(盆踊りの)」にも取れるし、むしろ意味が広がってよかったと、鳥山さんは笑います。社名一つ取っても、「壁を作らない」「垣根を越える」という鳥山さんの姿勢が見えます。この根っこの思想が、後述する行動の数々にもつながっているのです。

取材に応じる鳥山郷さん

2 質問「これまで販路開拓やチャンスを切り開く中で一番大変だったことは?」

「一番大変でもどかしかったのは、実は創業期です」

大学生の時に起業した鳥山さんは、人脈もないまま「自分たちでやろうぜ」と走り出しました。しかし厳しい現実が。「イベントや映像制作は一人ではできない仕事なんです」と鳥山さん。外注費を払うと手元には何も残らず、家賃や光熱費さえ払えない自転車操業が続きました。電気もガスも携帯も何度も止まったそうです。やろうとしていることは素晴らしいはずなのに、実績がないと相手にされない。その伝わらなさが一番こたえたといいます。

「だからこそ、この創業初期にお仕事をくださった方々の顔は、今でも全員覚えています。本当にありがたかった」

また、当時は政府系金融機関などの創業者のための融資という仕組みを知らず、お金がない状態で無理を重ねていました。ようやくその存在を知ったときには、3期目か4期目で、自力で業績を作ってしまっていたために、逆に相談に乗ってもらえなかったという経験もあるそうです。「創業者のための融資」という仕組みを知っていれば違ったかもしれない選択肢。こうしたことは、多くの起業家、中小企業の経営者に通じるのではないでしょうか。お金周りの情報は、自ら調べる、取りに行くことが大切です。

苦境を抜けた後も「安請け合いしてしまう」という別の落とし穴が待っていました。

「『鳥山に振ればなんでもやってくれる』というキャラになっていました。明日のお金を稼がなあかん、メンバーみんなで飯を食わなあかん、と。だからどんな安い案件でも数をこなせばいいと取りまくっていました」

これは、共感する経営者の方も多いかもしれません。安い案件も取りまくっていた鳥山さん、結局利益は残らず、キャッシュフローが慢性的に苦しくなっていきます。

そして2021年。施設「VIZZ」をオープンした翌月、ついにキャッシュが尽きます。鳥山さんは従業員全員と個別面談をし、謝罪し、初めてのリストラに踏み切りました。30人の組織が、ゼロに近い状態になったのです。

こうした危機のさなか、鳥山さんはクライアントに正直に状況を打ち明けました。大手不動産、自動車ディーラー、海外アクセラレーターなど案件を任せてくれる相手に、「今まで通り受けられないかもしれません」と。契約解除を覚悟して頭を下げた鳥山さんに取引先から返ってきたのは、

「でも鳥山さんって、逃げないでしょ」

という言葉。値下げ要求でも契約解除でもなかったのだと、鳥山さんは話してくれました。

「『でも鳥山さんって、逃げないでしょ』と皆さんが言ってくれたんです。しかも価格を下げるどころか、それまで以上に仕事をくださるようになった。大手不動産さんなんて、『一緒に頑張りましょうよ』と。普通、オープン直後の倒産危機なんて重大インシデントですよ。きっと、(不動産会社の)社内で庇ってくださったんだと思います」

この痺れる経験が、鳥山さんの販路開拓観を根底から変えました。窮地でこそ問われるのは、テクニックなどではなく、日ごろの姿勢、そして人としての信頼。「一緒に泥水を飲めるか」。きっと、そういうことだと思います。

そしてもう一つ、この危機の時期に鳥山さんは大きな気づきを得ています。

自動車ディーラーの案件を担当していた頃の鳥山さんは、ちょっと「インテリぶっていた」そうです。

「『車を売るためのKPI・KGIは』みたいな話をしていたんですよ。KPIはもちろん今でも大事ですけど、当時は『それを提案できるから仕事が取れている』と思っていた。でも、そうじゃなかった」

なぜお客さまが仕事をくれるのか。鳥山さんは思い切って、直接聞いてみたそうです。返ってきた答えは、意外なものでした。

「『うちと、なんで仕事してくれるんですか?』と皆さんに聞いたら、『ONDOさんとやるのは面白いから』と言われたんですよ。何のためにやるかという対話も大事だけど、それ以上に、ONDOがやるのが面白いからというのが、皆さん共通だったんです。『あ、この世界観が大事なんや』と思いました」

選ばれていた理由は、鳥山さんという人と、ONDO Inc.という会社の「世界観」だったのです。取り繕うのをやめて、素の自分をさらけ出すーーこの気づきが、次に紹介する4つのポイントにもつながっていきます。

取材に応じる鳥山郷さん

3 鳥山さんの販路開拓、4つのポイント

苦い経験を経て、鳥山さんがたどり着いた販路開拓の勘どころは大きく4つに整理できます。鳥山さんの言葉を借りつつ、ご紹介していきます。

1)見せ方を統一する力

創業期、まだ実績がなかった鳥山さんが工夫したのは「見せ方」でした。

「異業種交流会で名刺を配りまくりました。名刺だけじゃない。パンフレットも、 ホームページも、メニューも全部自分たちで作りました。大事にしたのは『見え方の統一感』。バラバラだと信用されない。『トータルで僕らはやりたいんだ』という姿勢を、形で示さないといけないと思ったんです」

実績がなくても、姿勢は見せられます。その姿勢が最初の信用をつくるのです。

2)足を運び“友達になりに行く”力

鳥山さんは、関係構築のための時間を「必要原価」と捉えています。

「あるイベント案件では、本番までの間、うちのメンバーが現場に毎日のように通います。その施設にいる方たちと、まず友達になりに行く。なぜなら、ご依頼の本質が『コミュニティを活性化したい』だから。それを含めてプロデュースします、と」

打ち合わせが増えたから追加料金、ではなく、それを前提に価格を設計し、関わり続ける。時間も手間もかかるかもしれませんが、それでしか生まれない信頼があります。

3)安請け合いをやめる規律

安請け合いで苦しい経営危機になってしまったとき、救ってくれた取引先への感謝が、今の価格規律につながっています。

「あの方たちのことを思うと、安請け合いをしすぎることは、その方たちにとっても失礼だなと。今は、ある程度の融通や小回りは利かせますけど、原価に見合わない設定は絶対にしません」

安く引き受けることは、一見優しいように見えて、実は関係を痩せ細らせてしまいます。かえって相手によくない結果をもたらすこともあります。線を引く勇気もまた、販路を守る力なのです。

4)さらけ出す勇気:集合写真でさけぶ

冒頭でもご紹介した通り、鳥山さんには「名物」があります。イベントなどの集合写真撮影で、とにかく大きな声で「叫ぶ」のです。例えば、「さあ皆さん、二つの目、開(あ)いてーーーーーーー! はいチーズーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」と。

「集合写真って、知らない人の方が多いじゃないですか。そこで黙って仕事していた僕が急に大声で叫ぶと、みんな衝撃を受ける。それによって『僕は全部さらけ出します、駆け引きしません』というスタイルが伝わるんです」

なんともすごい手法です。そしてまた、この大声が思わぬ縁を生みます。あるイベントで“叫んだ”翌日、別会場で出会った大手企業の幹部に「昨日、叫んでたよね(^ ^)!」と言われて、一気に打ち解けたそうです。誰もが知る超大手企業の幹部、社内では雲の上の存在だった人物と、です。しかもコストはゼロ。今日からできる自己開示といえるでしょう(しかし、誰でもできるわけではないと思います)。

この「叫び」、実は国境も越えます。舞台はパリ、日本大使館。

「2年前、パリの日本大使館で大臣も出席される会に携わったとき、神聖な中庭での集合写真で、隣にも聞こえるくらい叫んだら、爆ウケしたんですよ。大爆笑で。その後、偉い方々が一方的に僕を覚えてくださって、今でもヨーロッパに行くとご飯に連れて行ってくれたりします」

そして、鳥山さんの人生観を揺さぶる言葉に出会ったのも、ヨーロッパでの一夜でした。ある事業会社の元役員で、いまはスタートアップ支援や投資をしている大先輩との食事の席。「なぜヨーロッパに来たんだ」「(私が)君に頼む理由は何かあるのか」と問われ、答えに詰まった鳥山さんに、その方はこう告げたそうです。

「君は唯一勝てる手段を一つ持っている。大使館で大声を出せる奴はヨーロッパにはいない。君はそれだけでヨーロッパで勝てる、そう言われたんです。ちょっと涙が出そうでした。『これでいいんか』と。ハートがあって、さらけ出せる強さがあるーーそれが伝わるから、『テクニックはいらない、かっこつけるな、それは絶対ダメだ』と」

「大声・髭面・ピチピチ(スキニーデニム)」。鳥山さん自身がそう表現する見た目の印象に残るキャラクターと、緊張しながらも思い切ってさらけ出す姿勢。この組み合わせが、国境を越えて記憶に残るのです。鳥山さんの大声は、誰にも真似できないものかもしれません。ただ、「かっこつけない」「さらけ出す」「取り繕わない」という原則そのものは、どの人にも学びがあるのではないでしょうか。

取材に応じる鳥山郷さん

4 質問「販路開拓に必要な情報とは? どうやって入手するか?」

「体と頭で理解しに行く。これが一番大事だと思っています」

ネットや採用サイトで企業のことはある程度分かる時代です。それでも鳥山さんは、足で稼ぐ情報の価値を強調します。

「本質的なことは、対話や、何かをご一緒する活動を通じてしか知ることができない。実際に足を運んで、自分の目で見て、体験して、共に過ごす。僕らの仕事にとっては、それが一番重要な情報なんです」

だからこそ、時には顧客の要望そのものを問い直すこともあるといいます。

「『イベントをやりたい』と相談されても、『何のためのイベントでしたっけ?』と聞き返します。イベントをやらない方がいいときもある。一時的に人は集まっても、コストをかけて“消費”で終わってしまうなら、本末転倒ですから」

情報は受け取るものではなく、自ら動いて取りに行くもの。そして、自ら動く人にこそ、紹介もチャンスも集まってきます。ある意味、販路開拓の普遍則といえるでしょう。

そしてもう一つ、鳥山さんが行動で大事にしていることは、とてもシンプルです。「行く」と言ったら必ず行く。ただ、それだけ。

冒頭で触れた鹿児島県・錦江町とサウジアラビア、この二つの拠点に至るまでの経緯を、あらためて振り返っていただきました。

尊敬する方が主宰する勉強会で、鳥山さんは鹿児島から来られていた経営者の方と出会います。ここでも即行動でした。

「『今日は鹿児島から来てくださっている方がいます』と紹介されて、『僕、鹿児島って行ったことないんですよ、一回行かせてください』と言ったら、その経営者の方がスケジュールを送ってくださって。僕が行った日は丸一日、朝から夜中まで、いろんな人を紹介してくれて、自分の会社に連れて行って話を聞かせてくれて、夜は郷土料理のお店に車を出して連れて行ってくれた。全部やってくださったんです」

この経営者の方のご紹介をきっかけに、ご縁が複数つながって錦江町や南大隅町の関係者・役場の方々へ。鹿児島に支店を出すという決断にまでつながっていきました。

サウジアラビアも同じだといいます。取引先主催のツアーで登壇した際、集まっていたサウジアラビアの起業家たちとの会話、そしてその後の行動がすごいです。

「『サウジ行ったことないので行きたい』とみんなの前で言って、『いつが季節的にいい?』と聞いたら12月と言われたので、本当に12月に会いに行ったんです。現地の人たちは『本当に来たの?』とびっくりしていました。僕はこのスタイルで、国内外問わず『行く』と言ったら絶対行くようにしているんです」

笑ってしまうくらい、すごい行動力だと思います。見習いたい方も多いのではないでしょうか。そしてサウジアラビアでも、鳥山さんは売り込みから入りませんでした。

「最初から売りたいものを持っていくんじゃなくて、『関わらせてもらう』ところから始めるのが僕らのスタイルです」

「行く」と言ったら行く。売る前に、まず関わる。この二つを愚直に続けているだけで、点と点が線になり、やがて拠点になる。奇をてらう必要はないのだと、鳥山さんの行動が教えてくれています。

取材に応じる鳥山郷さん

5 最後の質問「販路開拓で一番大事なこととは?」

「案件があるときだけじゃなく、継続的に信頼関係を築くこと。これに尽きます」

鳥山さんは「誰と関わりたいか」を基準に仕事を選んでいます。例えば名古屋に行けば、かつて担当したスタートアップの相手に「(名古屋に)来てますよ、サウナ行きましょう」と連絡するそうです。仕事の話ではありません。人として続く関係を、地道に重ねていくのです。

「その上で、『何かあったら鳥山さんに聞いてみよう』という存在になれることが大事だなと。今は自分以外のメンバーにも、それが起こってきている。先方(クライアント)から夜でも朝でも気軽に連絡が来て、こちらもすぐ応える。そういういい関係です」

販路開拓策と聞くと、どこかテクニックや仕掛けを思い浮かべがちです。ですが、鳥山さんの答えは、どこまでも地に足がついています。正直にさらけ出す姿勢、案件を超えて続ける関係、そして安請け合いしない規律。倒産危機を「逃げないでしょ」、この一言で乗り越えた経験が、その根底にあるのだと思います。

「僕らはプロダクトがあるわけじゃない。人が受ける仕事だからこそ、関係づくりが余計に大事かもしれない。今までは『これって誰でもできることなんじゃないか』と思っていたんですが、逆にそれが自信になってきました」

誰でもできることではないと思います。

その鳥山さんの行動力を支えているのは、会社の仲間です。鳥山さんは、仲間への信頼をこう表現します。

「うちの会社は、僕だけじゃなく仲間、メンバーのおかげでもあって。みんな、『鳥山はもっと外に行かなあかん』『実務はしないでください』と言ってくれるんですよ。僕も分かっているんです、実務はクオリティが低いって(笑)」

代表が自分の弱さを認め、実務を手放す。言うのは簡単ですが、実行するのは容易ではありません。それを助けているのも、頼りにしている仲間の存在だといいます。

「ある仲間が『鳥山さんは0.7です』と言い始めたんですよ。最初は僕が『0.8』と言っていたんですけど、『0.7』と。ネガティブに0.1下がったんじゃなくて、『もっと密度の濃い0.7まではあなたがやれる、0.7から先は僕が引き継ぎます』と。すごく頭のいい表現ですよね」

「0から1」ではなく、「0から0.7」。ここまでは代表がやりきり、そこから先はチームが受け取る。役割を数字で明確に切り分けたことで、鳥山さんは外に出やすくなり、チームも自分の役割に集中しやすくなりました。外を飛び回る代表と、それを支えてくれるチーム。この関係性が、鳥山さんの「行く」と言ったら行く。を持続可能にしているのです。

鳥山さんには、今、温めている構想があります。自分たちのやり方を各地域に伝える、いわば“ONDO学校”です。

「(自分たちのやり方は)難しくないよ、シンプルだよ、と言いたいんです。若くてもベテランでも、誰でもできる。やれば楽しい人生になるし、それが結果的に会社の売上にも繋がっていく。そう信じています」

日本国内も、世界も。鳥山さんの挑戦は、これからも続きます。

 

鳥山さんのお話で特に印象に残った言葉から考察する販路開拓のポイント

・友達になりに行く:関係づくりの時間は“必要原価”。そこにしかない信頼がある

・誰と過ごしたいか:案件ではなく人で。継続的な関係こそが、次の仕事につながる

・枠組みを超える:業界の縦割りにも、国境にも、自分の役割にもとらわれない

・かっこつけない:小手先のテクニックは見抜かれる。素でぶつかれば遠くまで届く

・行くと言ったら行く:まず行動。それが繋がりを生む

鳥山郷さん

世界でさけぶいい笑顔! 鳥山さん、たくさんお話していただき本当に有り難うございました!

■ONDO Inc.■
https://ondo-japan.com/

以上(2026年8月作成)

pj10148
画像:日本情報マート

強権的な相手にも負けない!交渉上手になるための普遍的スキルと実践理論

1 交渉が成立する3つの要素と現代のリアル

交渉とは「相手との話し合いにより、ある取り決めを行うこと」であり、本来は次の3つの要素がなければ成り立ちません。

  • 交渉相手
  • テーマと双方の主張
  • 話し合い

交渉学の教科書的な解釈では、「話し合い」のシーンで「暴力や脅しで屈服させることは有り得ない」とされてきました。しかし、「双方が歩み寄るWin-Win」というのは理想であって、現実のビジネスでは、言葉による威圧や、立場の強さを利用した「脅しに近い強硬な要求」をしてくるハード・ネゴシエーターに押し切られてしまうことも起こり得ます。

そんな時こそ、感情に流されず、体系化された「交渉スキル」を用いて局面を打開していく必要があるのです。

2 ゼロサム型交渉とプラスサム型交渉

交渉には大きく分けて2つの構造があります。

  • ゼロサム型交渉:パイが一定で、その限られたパイの中で両者が取り分を争う(一方が得をすれば一方が損をする)
  • プラスサム型交渉:パイ拡大の可能性があり、双方の利益に結び付く条件を探る

ビジネス上の交渉の多くはゼロサム型です。交渉学のセオリーとしては、これを積極的に「プラスサム型」へ転換を図ることが推奨されます。しかし、強権的な相手は、この転換を拒絶し、あくまで自分の利益の最大化(私の勝ち=あなたの負け)にこだわることが少なくありません。だからこそ、後述する「防御のための準備」が不可欠になります。

3 交渉の成否を分ける事前準備

交渉の目的は、話し合いにより合意点に達することですが、1回で終結することはまれで、実際には次のプロセスを繰り返します。

  • 準備(PLAN):相手の情報を収集し、シナリオを考える段階
  • 交渉(DO):実際に同じテーブルで話し合う段階
  • 評価(SEE):結果を見直して、譲歩する項目などを検討する段階

交渉の全体プロセス

「交渉が苦手」という人の多くは、事前準備が不足しています。交渉に、9回裏2アウトからの逆転サヨナラホームランを期待してはいけません。得点を1点ずつ積み重ねるプロセスの第一歩が「準備(PLAN)」なのです。

4 優位性を保つ事前準備と、最強の盾「BATNA(バトナ)」

相手を知らずして、交渉を有利に進めることはできません。相手の性格、立場や本音、権限の有無といった「ナマの情報」を集めることが第一歩です。交渉前に調べておきたい主な情報として次のようなものが挙げられます。

交渉前に調べておきたい主な情報

そして、強権的な相手にも対応するために重要なのが、交渉学における「BATNA(バトナ:Best Alternative to a Negotiated Agreement)」の準備です。

BATNAとは、「目の前の交渉が合意に至らなかった場合の、自分にとっての最善の代替案」を指します。

  • 「この条件を飲まないなら、他社に頼むぞ」と威圧された際、自社に「別の優良な売り込み先(BATNA)」があれば、毅然とした態度を保てます。
  • 逆にBATNAがないと、「この取引を失うわけにはいかない」と足元を見られ、相手のゴリ押しに屈するしかなくなってしまいます。

交渉のテーブルに着く前に、「最悪、席を立っても大丈夫な別の選択肢」を必ず用意しておくこと。これが交渉における最強の盾となります。

5 パワーバランスの確認と「客観的基準」の活用

ビジネスでは、相手を必要とする「依存度」によって相対的な力関係(パワーバランス)が変わります。問題なのは、相手が優位でゴリ押ししてくる場合です。強気な要求に対して、そのまま「何とか理解を求める」だけでは、押し切られてしまいます。

ここで活用するべきなのが「客観的基準」です。理不尽にも思える要求に対して「市場価格」「業界の慣行」「過去の取引データ」「法的根拠」といった、感情ではない「客観的基準」を交渉のテーブルに乗せます。

「おっしゃることは分かりましたが、業界の平均的なコスト算出基準に照らし合わせると、この価格が限界となります。どの部分を削るべきか、一緒にデータを見ていただけますか?」と返すことで、

「自分と相手の力関係の問題」から、論点を「ルールの問題」へと着地させる

ことが可能になります。

6 流されないための「意図的なタイムアウト」

強権的な相手が使ってくる常套手段として、「今すぐ決めろ」「ここでYESと言え」と、こちらの焦りや恐怖を引き出して判断を誤らせる戦法があります。これに対抗するための有効な技術が「意図的なタイムアウト」です。

高圧的に即決を迫られても、決してその場で合意してはいけません。「大変魅力的な(あるいは厳しい)ご提案ですので、持ち帰って社内で慎重に検討いたします」「私の一存では決めかねるため、上長の承認プロセスを通します」と、

あえて物理的な時間や組織のルールを盾にしてその場を離脱する

のです。冷却期間を置くことで、相手のゴリ押しの勢いを削ぎ、冷静な交渉プロセスを取り戻すことができます。

7 交渉の実践ポイント

部下が上司に提案する場合や、圧倒的な大口顧客が相手の場合、どうしても相手を「怖い」と感じ、交渉が失敗する不安感に襲われます。この恐怖を克服するには、徹底した情報収集と、相手の立場に立ったシミュレーション(ロールプレイング)を繰り返すしかありません。

いざ交渉の場に臨む際は、以下のポイントを徹底します。

1)目的や限界点の設定

「交渉に何を望むのか」。交渉の目的を事前に定めます。そうしないと、相手からの提案に対して明確な回答や逆提案ができず、終始、相手のペースで交渉が進んでしまいます。当然、こちらから交渉を仕掛けていくこともできません。

また、「これ以下の条件では受け入れられない」といった譲歩の限界点を明確に設定します。これは前述のBATNAと連動します。

また、限界点を双方が持っている場合、「自分の限界点」と「相手の限界点」が重なり合う範囲のことをZOPA(ゾーパ:Zone of Possible Agreement=合意可能領域)と呼びます。事前の情報収集をもとに、このZOPAを推測しておくことが、スムーズな交渉の鍵になります。

2)交渉構造図とシナリオの作成

自分と相手に複数の利害関係者が存在するなど、交渉の状況を把握するのが複雑なケースがあります。このような場合は、その交渉に影響を及ぼすことができる関係者を図にまとめると、交渉の構造が理解しやすくなります。

そして、複雑な利害関係者を整理し、「どの段階で譲歩するか」「代償として何を求めるか」をシミュレーションします。

3)時間管理の徹底

ビジネスの交渉において、時間的制約を伴わない交渉はありません。交渉のシナリオを作る際、初回から合意までのタイムスケジュールを策定し、相手のペースに飲まれないようにします。

交渉はプロセスの積み重ねです。力で押し切ろうとする相手には、「BATNAの準備」「客観的基準の活用」「意図的なタイムアウト」というステップで対応することで、強固な交渉力を発揮することができるでしょう。

以上(2026年9月更新)

pj70018
画像:ChatGPT

採用ミスマッチゼロへ! 強いチームを作る「職務記述書」のコツ

1 職務記述書とは

社員を採用する際の方針は、大きく分けて次の2つに分類されます。

  • ジョブ型雇用:あらかじめ特定の職務をこなせる社員を採用
  • メンバーシップ型雇用:自社の理念に共感をしている社員を採用

専門職採用や中途採用の場合、一般的にジョブ型雇用が適しています。そこで活用されるのが、職務内容(担当業務の内容、難易度、必要なスキルなど)を詳細にまとめた「職務記述書(ジョブディスクリプション)」です。募集要項が待遇面の説明を中心にするのに対し、職務記述書は業務そのものの詳細を掘り下げて明記する点に違いがあります。

ジョブ型雇用では、職務記述書に記載された内容を遂行できるかが、採用判断や待遇の決定基準となります。職務記述書を正しく作成・活用することで、次のような効果が得られます。

  • 「採用してみたらスキルなどが期待外れだった」などの採用ミスマッチを解消
  • 「やる気」など感覚的になりがちな基準を排し、評価や配置・賃金を適正化

2 職務記述書の作成プロセス

1)知る:募集ポジションの職務内容や就業環境についてヒアリングする

職務記述書を作成する際は、募集ポジションの業務内容、難易度、求められるスキルなどを精査します。経営者が把握しているイメージと現場の実態に差異がないか確認するため、現職社員やその上司へ丁寧にヒアリングを行いましょう。

【現職の社員への質問例】

  • 定期業務・重要業務
    ・重要度の高い業務内容、発生頻度
     
  • 人間関係
    ・リポートライン(報告・指示系統)
    ・意思決定プロセスと自身の裁量範囲
     
  • 役割・スキル
    ・求められる行動、必要なスキル・知識・資格・経験
     
  • 課題
    ・業務上の難しさや厳しさと、それを乗り越えるための工夫やノウハウ

【上司への質問例】

  • 責任と裁量の範囲、求められる役割・行動
  • 必要なスキル・知識・資格・経験
  • 入社後につまずきやすいポイント(予測)

2)分析する:職務をこなすために必要なスキルなどを掘り下げる

ヒアリングに基づいて、必要なスキル・知識・資格・経験などを洗い出します。会社の求めるスキルなどを全て兼ね備えた求職者にはなかなか出会えないので、次のように優先順位を設定します。

  • そのスキルが不足していても業務の全般または一部が遂行可能か
  • 入社後の研修や教育で習得可能か(必要な期間・コストの検討)

3 職務記述書のサンプルと作成のヒント

次の職務記述書は、アプリ開発会社がシステムエンジニアを募集する場合の例です。

職務記述書:システムエンジニア

「職務内容」や「必要な知識」は、現場へのヒアリング結果を基に、できる限り具体的に記載します。「目標(ノルマなど)」を明記することで、求職者が働くイメージを持ちやすくなります。「期待される特性」には、自社のミッションやビジョンを反映させましょう。

4 厚生労働省「Job Tag(職業情報提供サイト)」の活用

職務記述書の作成や求人要件の整理にあたっては、厚生労働省が提供する公的ポータルサイト「Job Tag(職業情報提供サイト)」の活用が有効です。500以上の職業に関する仕事内容、必要なスキル・知識、資格などがデータ化されています。

サイト内の全ての機能や各種診断ツールは、無料で利用できます。サイト上のアカウント登録ページよりメールアドレスを入力し、届いた案内メールからユーザー情報を入力(本登録)することで登録完了となります。アカウント登録なしでも情報の検索・閲覧や一部ツールの利用は可能ですが、ユーザー登録を行うと「マイリスト」機能の保存期間が無制限となり、分析結果や作成した人材情報をいつでも参照・再利用できるようになります。

また、従来から提供されている厚生労働省の「職業能力評価基準」(仕事をこなすための知識や技術・行動例を業種別に整理したもの)も併せて参照することで、より客観的で精度の高い職務記述書を作成できます。

■厚生労働省「Job Tag(職業情報提供サイト)-企業での利用-」■
https://shigoto.mhlw.go.jp/User/UseInCompanies
■厚生労働省「職業能力評価基準の策定業種一覧」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04653.html

以上(2026年9月更新)

pj00605
画像:ChatGPT

経営のヒントとなる言葉(久坂玄瑞)

「失敬ながら尊藩(土佐)も弊藩(萩)も滅亡しても大義なれば苦しからず」(*)

出所:「史都の息吹 萩まちじゅう博物館 <5> 久坂玄瑞 松陰の遺志 志士に説く(中国新聞 朝刊(2005年12月4日付))」(中国新聞社)

冒頭の言葉は、

ということを表しています。高杉晋作(たかすぎしんさく)と並んで松下村塾の「双璧」と称される玄瑞は、師である松陰からも高く評価され、松陰の妹・文を妻に迎えています。

玄瑞は幼い頃から秀才の誉れ高く、熱心に学問に取り組んでいました。玄瑞が松陰と出会うのは17歳のときで、その交流は手紙のやり取りから始まりました。

手紙の中で、玄瑞は激しい攘夷論を訴えます。すぐに玄瑞の才能を認めた松陰は、わざと玄瑞の持論を厳しく批判し、反応を待ちました。玄瑞は松陰の挑発に乗って返信しますが、玄瑞の持論は次々と松陰に論破されてしまいます。松陰は若い玄瑞に持論のツメの甘さを指摘するため、次のような言葉で戒めています。

「事を論ずるには、當(まさ)に己れの地、己れの身より見を起すべし、故に身将軍の地に居らば、當に将軍より、乞食は乞食より起す」(**)

このとき、松陰は「玄瑞の言葉に従う人がどれくらいいるのか。多言を慎み、誠を蓄えよ」とも付け加えています。松陰はできないことを声高に主張するのではなく、自分のできることから着手し、行動することの重要性を教えたかったのでしょう。こうしたやり取りの後、玄瑞は松陰に師事するようになりました。

安政の大獄で松陰が亡くなった後、玄瑞は各地で松陰の残した志や教えを熱心に説き、攘夷運動を展開しました。その際、玄瑞は同志に松陰の遺墨を見せたり、進呈したりしていました。生前の松陰は、死後も自分の書が残ることを望んでおり、書に強い思い入れを持っていたとされます。玄瑞は松陰の思いのこもった遺墨を使うことで、松陰の志や教えをより印象的に伝えたり、同志との絆を深めようとしたのかもしれません。

やがて、熱心に攘夷運動を展開する玄瑞は藩から帰国を命じられます。そんな折に訪ねてきたのが、若かりし頃の坂本龍馬(さかもとりょうま)でした。龍馬は、土佐勤王党を結成した武市半平太(たけちはんぺいた)の使者として玄瑞の元を訪れ、玄瑞からは半平太宛ての手紙を託されました。冒頭の言葉はその手紙に記されていたものです。龍馬は玄瑞に感化され、土佐に戻ってすぐに脱藩し、その後は一介の志士として倒幕運動に傾斜していきます。

玄瑞自身は禁門の変の後、若くして世を去りますが、龍馬をはじめ、倒幕や明治維新を導く多くのキーパーソンに影響を与えました。玄瑞は松陰の下で学才を磨いただけでなく、人を巻き込む力があったからこそ、リーダーとして慕われたのでしょう。

志やビジョンはメンバーを引き寄せる力になります。その内容が優れていることに加え、リーダーが伝え方を工夫することで、メンバーに浸透します。玄瑞の場合は、松陰の思いがこもった遺墨を使って志や教えを伝える工夫をしました。現代であれば、印象的な標語などが遺墨の代わりとなるでしょう。

リーダーが分かりやすく伝える努力をすることで、メンバーは理解を深め、志やビジョン達成のために力を貸してくれるのです。

【本文脚注】

本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を担保するものではありません。また、本文中では内容に即した肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思われるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。

【経歴】

くさかげんずい(1840~1864)。長門国(現山口県)生まれ。1856年、松下村塾入門。1857年、吉田松陰(よしだしょういん)の妹・文(ふみ)と結婚。1864年、禁門の変で敗れた後、自刃。

【参考文献】

(*)「史都の息吹 萩まちじゅう博物館 <5> 久坂玄瑞 松陰の遺志 志士に説く(中国新聞 朝刊(2005年12月4日付))」(中国新聞社、2005年12月)

(**)「ひとすじの蛍火 吉田松陰 人とことば」(関厚夫、文藝春秋、2007年8月)

「吉田松陰とその家族 兄を信じた妹たち」(一坂太郎、中央公論新社、2014年10月)

以上(2026年8月更新)

pj15237
画像:日本情報マート

【管理会計】現金収支トントンの「キャッシュ・フロー分岐点売上高」で万全の資金繰り

1 現金収支トントンの売上高を意識する

利益はあるのに資金ショートで倒産してしまう「黒字倒産」。経営者なら知っている事象だと思いますが、

資金ショートを防ぐために、適宜、キャッシュ・フロー計算書を確認している経営者はどれほどいるでしょうか?

もし、損益計算書の売上や利益は確認しているものの、キャッシュ・フロー計算書を確認していないのなら、この記事を読んで「キャッシュ・フロー分岐点売上高」を意識してください。損益分岐点売上高が利益とトントン(ゼロ)になる売上高であるのに対し、キャッシュ・フロー分岐点売上高とは、

現金収支がトントンで、資金不足にならないために最低限必要な売上高

です。キャッシュ・フロー分岐点売上高は、

キャッシュ・フロー分岐点売上高=(固定費±費用修正)÷限界利益率

で計算できます。この指標を確認すれば、御社の資金繰りが強化されます。

2 キャッシュ・フローの流出・流入のイメージをつかむ

キャッシュ・フロー計算書は、営業活動・投資活動・財務活動の3つの区分で構成されています。

  • 営業活動によるキャッシュ・フロー(営業CF):本業の営業活動から生じる現金の増減
  • 投資活動によるキャッシュ・フロー(投資CF):有価証券・土地・建物などの売却でプラス、購入でマイナス
  • 財務活動によるキャッシュ・フロー(財務CF):借入・社債発行・株式発行などでプラス、返済・配当支払いなどでマイナス

営業CFがマイナスになった場合、投資CFまたは財務CFをプラスにして全体のバランスを取らなければなりません。しかし、売却できる資産には限りがありますし、融資や出資を受け続けることも難しくなります。

つまり、

営業CFがプラスでないと企業活動の継続は困難になるので、営業CFをプラスに保ち続けることが重要

になります。イメージしやすいように図で示します。営業CFの流入が多い場合と少ない場合では、次のように顕著な違いが生じます。

営業活動によるキャッシュ流入が多い場合と少ない場合の比較

3 キャッシュ・フロー分岐点売上高の計算

営業CFの流入と流出が同額になる売上高が、キャッシュ・フロー分岐点売上高です。その計算は損益分岐点売上高とほぼ同じです。

ここでは話を単純化するために、営業CFの流入と売上高を同額とします。また、費用と支出は同時に発生するものとしますが、減価償却資産の取得と減価償却費の計上のように、キャッシュの動きに大きなズレが生じる部分は修正します。

キャッシュ・フロー分岐点売上高の算出式は次の通りです。なお、限界利益率とは、売上高に占める限界利益(売上高−変動費)の割合です。

キャッシュ・フロー分岐点売上高=(固定費±費用修正)÷限界利益率

費用修正では、支出しない費用をマイナスし、費用ではない支出をプラスします。分かりにくいかもしれませんが、具体的には次のような修正をします。

  • マイナスにする:減価償却費(会計上は費用だが、現金支出を伴わない)
  • プラスにする:借入金元本の返済額(現金支出だが、費用にはならない)

損益分岐点売上高とキャッシュ・フロー分岐点売上高の相違のイメージは次の通りです。利益を余剰キャッシュとしていますし、固定費もキャッシュの動きに合わせて修正している点がポイントです。

損益分岐点売上高とキャッシュ・フロー分岐点売上高(イメージ)

4 実際に計算してみよう

実際にキャッシュ・フロー分岐点売上高を計算してみましょう。条件は次の通りです。

  • 固定費:1億円。このうち減価償却費(支出を伴わない固定費)は3000万円
  • 変動費率:50%

この場合の損益分岐点売上高とキャッシュ・フロー分岐点売上高を計算してみましょう。まず損益分岐点売上高は、

2億円=1億円÷(1-0.5)

となります。

次にキャッシュ・フロー分岐点売上高は、

1億4000万円=(1億円-3000万円)÷(1-0.5)

となります。

計算の結果、損益分岐点売上高は2億円ですが、キャッシュ・フロー分岐点売上高は1億4000万円となりました。1億4000万円の売上高があれば収支トントンですが、この状態では手元のキャッシュは増えません。

なお、キャッシュ・フロー分岐点では、減価償却費3,000万円分だけ費用より現金支出が少ないため、その分のキャッシュは手元に残ります。しかし、この資金は将来の設備更新(減価償却資産の買い替え)に備えて積み立てておく必要があり、自由に使える余剰資金とは言えません。 

再投資や借入金の返済が必要な場合は別途資金調達が必要であり、キャッシュ・フロー分岐点はあくまでも「現金収支がギリギリ回る最低ライン」として活用してください。

以上(2026年9月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

pj35051
画像:photo-ac

中小企業が「標的型攻撃」の踏み台にならないための多層防御とは

1 油断大敵! あなたの会社もサイバー攻撃のターゲットに

「標的型攻撃」は、

特定の企業や組織をターゲットとして、機密情報や知的財産、アカウント情報(ID、パスワード)などを窃取しようとするサイバー攻撃

です。中国や北朝鮮といった国家を背景とする犯行グループの関与が疑われる事案も後を絶ちません。

IPA(情報処理推進機構)の「情報セキュリティ10大脅威2026」では、「機密情報を狙った標的型攻撃」が第5位としてランクイン

しました(初選出の2016年から11年連続11回目)。

「うちは中小企業で、狙われるような機密情報もないし、関係ないだろう」と、仮にあなたがそう考えているのであれば、その認識は甘いと言わざるを得ません。

なぜなら、第1位の「ランサム攻撃による被害」、第2位の「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」などの端緒は、標的型攻撃メールなどによる侵入のことも多く、大企業に対する攻撃の踏み台として、「取引先である中小企業」が標的にされることもあるからです。巧妙な標的型攻撃を100%防ぐことは不可能です。

この記事では、標的型攻撃の主な手法を知った上で、ネットワークに侵入されることを前提とした「多層防御」の考え方について解説します。

2 標的型攻撃の主な手法

1)標的型攻撃メール

標的型攻撃の侵入経路として多く使われるのは、今なお、電子メールです。この「標的型攻撃メール」の手法は、簡単に言うと、

添付ファイル(Word、Excel、PDF、Zipなど)の開封や本文中のURLリンクのクリックを促すことで、マルウェアに感染させるもの

ですが、メール受信者の心理的な隙を突くために、手口が非常に巧妙化しています。

例えば、実在の取引先、上司や同僚、公的機関(税務署・保健所など)になりすましたり、採用応募や問い合わせをかたったりした、不審なメールを受信したことのある人も多いのではないでしょうか。

ここ数年は、AIの技術がすさまじい速度で発展しており、「不自然な日本語に気を付ける」といった、メールを読んだときの違和感による真偽の見極めは、通用しなくなってきています。

2)不正アクセス

攻撃者が何らかの方法でネットワークに不正アクセスし、追加の認証情報の窃取や不正アカウントの作成、バックドアの設置などを行い、「踏み台」として使うものです。

よく見られるのが、テレワークのために設置したVPN機器が初期設定のままだったり、リモートデスクトッププロトコル(RDP)のポートがインターネットに公開されていて、簡単なパスワードだったりするケースです。そうすると、総当たり攻撃(ブルートフォースアタック)によって容易にネットワークに侵入されてしまいます。

3)ウェブサイトの改ざん(水飲み場型攻撃)

ターゲットが信頼している場所(=水飲み場)で待ち伏せする手口です。例えば、業界団体のニュースサイトなど、情報収集の目的でよく閲覧するウェブサイトがあったとします。そのウェブサイトのセキュリティ対策が甘いと、サイトが改ざんされ、マルウェアを仕掛けられて、そのサイトにアクセスするだけで、マルウェアに感染してしまう恐れがあります。

3 多層防御の考え方

情報システムのセキュリティ対策は、旧来、攻撃者による侵入をネットワークの入り口で防ぎ切れるという考えの下で、入り口対策に重きが置かれてきました。しかし、標的型攻撃は、入り口対策だけでは防ぎ切れません。メールフィルタリングやウェブフィルタリング、マルウェア対策ソフトの利用といった基本的な入り口対策に、内部対策、出口対策を重ね、一つの層が破られても別の層で守られるという、「多層防御」の考え方が重要です。

1)入り口対策

自社が管理するネットワーク、システムや端末などと、インターネットなどの外部環境との接続点で、不正な通信が入り込むことを防ぐ対策です。先に述べた基本的なメールフィルタリングやウェブフィルタリング、マルウェア対策ソフトの利用の他に、次のような対策が考えられます。

  • 多要素認証(MFA):VPNやRDP、クラウドサービスへのアクセスには、ID/パスワードだけでなく、MFAを必須とし、不正ログインを防ぎます。
  • パッチ管理:OSやソフトウェア、特にVPN機器などの脆弱性をなくすためのセキュリティパッチを、迅速かつ確実に適用します。

また、「標的型攻撃メール訓練」も有効です。標的型攻撃メールを疑似的に再現したメールを従業員に対して送信し、その開封状況や万が一、引っかかってしまった際の対応策が、会社のルールにのっとってきちんと実施できているか、などを可視化できます。

2)内部対策

入り口対策をすり抜けた不正な通信に対して、内部ネットワーク環境に保存・設置されている機密情報やシステム等に対する、攻撃の予兆などを検知・隔離するものです。次のような対策が考えられます。

  • ふるまい検知:旧来のマルウェア対策ソフトは、パターンファイルにマッチする既知のウイルスを検出するものでした。ふるまい検知は、プログラムの挙動から悪意のあるマルウェアを検出する仕組みで、「不審な動作」をしているかどうかを監視するため、データベースに登録されていない新種のマルウェアにも対応可能です。
  • EDR(Endpoint Detection and Response):PCやサーバーの「エンドポイント」でプログラムの動作などを監視し、その動きによってウイルスの感染を検知し、情報収集・調査や感染PCの遠隔隔離などをすることで、リスクを最小限に抑えるものです。
  • XDR(Extended Detection and Response):EDRの情報に加え、ネットワーク機器やクラウドのログも相関的に分析し、より高度な脅威検知を実現します。

また、アクセス権限の適切な設定も重要です。本来の目的に必要な最低限の権限しか与えない、「最小特権の原則」を守るようにしましょう。

3)出口対策

組織内から重要な情報が外部に送信される段階で、被害を食い止める対策です。次のような対策が考えられます。

  • 社外へのアクセス経路の制限:社内ネットワークとインターネットの間にプロキシサーバーを配置し、通信を仲介することで、有害なコンテンツや不正な宛先への通信を遮断します。
  • WAF(ウェブ Application Firewall)の導入:WAFは、アプリケーションレベルで通信の中身を解析し、特定の条件にマッチする通信を検知・遮断します。

また、万が一、データが流出してしまっても情報にアクセスできないよう「データを暗号化」しておくことや、いつ、何が起きたのか調査し対策を講じるために、サーバーやウェブアプリケーションなどの「ログを記録」しておくことも重要です。

4 標的型攻撃・踏み台化を防ぐ多層防御チェックリスト

チェック項目
メールの添付ファイル開封や本文URLのクリックに慎重になっている
標的型攻撃メール訓練を実施し、万が一の際の社内ルールについて確認している
VPN機器やRDP、クラウドサービスに多要素認証(MFA)を導入している
OS、ソフトウェア、VPN機器などのセキュリティパッチを迅速・確実に適用している
基本的対策として、メールフィルタリング、ウェブフィルタリング、マルウェア対策ソフトを活用している
未知のマルウェアに対応する「ふるまい検知」機能を活用している
端末やネットワークの異常を検知・隔離する仕組み(EDRやXDR)を導入している
アクセス権限は必要最小限に設定されている
プロキシサーバー等を配置し、社外への不審なアクセス経路や通信を制限・遮断している
WAFを導入し、アプリケーションレベルで通信を解析・遮断している
万が一の流出に備えて重要データを暗号化している
事後調査や対策のため、サーバーやウェブアプリ等のログを記録・保存している
自社が「大企業等への攻撃の踏み台」にされるリスクを認識し、対策を講じている
セキュリティ環境の変化に合わせて、定期的に対策の見直しと改善を行っている

中小企業が「標的型攻撃」の踏み台にならないためには、多層的な防御策を講じることが求められます。「入り口」「内部」「出口」の各所で、それぞれの対策が連携して機能することで、初めて効果を発揮します。

そして、セキュリティを取り巻く環境は常に変化します。新たな脅威に対応するため、定期的に対策を見直し、改善していく継続的な取り組みが不可欠です。

5 参考

■国民のためのサイバーセキュリティサイト「標的型攻撃への対策」■
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/cybersecurity/kokumin/security/business/staff/04/
■国民のためのサイバーセキュリティサイト「電子メールとウェブサイトにおける対策」■
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/cybersecurity/kokumin/security/business/admin/05/

以上(2026年7月更新)

pj60382
画像:日本情報マート

2027年度の税制改正議論の大目玉? 「給付付き税額控除」とは

1 中小企業経営者が今から知っておくべき理由

「給付付き税額控除」という言葉を耳にする機会が増えています。「個人の税金や社会保障に関する制度で、会社経営にはあまり関係がない」と思っている経営者も多いかもしれませんが、実はそうとは言い切れません。

給付付き税額控除は、従業員の手取りや働き方に影響する可能性があり、特に人手不足に悩む中小企業にとっては、無視できないテーマ

です。例えば、パートやアルバイトの従業員が、「これ以上働くと税金や社会保険料の負担が増える」「年収を一定範囲に抑えたい」と考え、勤務時間を減らすケースがあります。いわゆる「年収の壁」による働き控えです。

この点、給付付き税額控除が、「一定以上働くと、かえって手取りが増えにくくなる」という問題を和らげる仕組みとして設計されれば、従業員の働き方が変わり、人手不足の解消につながる可能性があります。一方で、制度の内容によっては、給与計算や従業員への説明など、企業側に新たな対応が求められる可能性もあります。

つまり、給付付き税額控除は「従業員が受け取るお金の話」にとどまりません。

人材の確保や働き方、給与・福利厚生のあり方、さらには会社の事務負担にも関係する可能性がある制度

なのです。

制度の具体的な内容はまだ固まっていません。だからこそ、制度が決まってから慌てて対応するのではなく、「自社にどのような影響がありそうか」を今のうちから知っておきましょう。

2 給付付き税額控除の基本的な考え方と導入議論の現況

1)給付付き税額控除の基本的な考え方

給付付き税額控除を一言でいえば、税金を減らす「控除」と、現金を支給する「給付」を組み合わせた仕組みです。

給付付き税額控除の基本的な考え方

従来の控除は、納める税金が多い人ほど恩恵を受けやすい一方、所得が低く、そもそも納税額が少ない人には十分な効果が及ばないという面がありました。そこで、税額から差し引いても控除しきれない分を現金で給付することで、こうした差を埋めようというのが給付付き税額控除の考え方です。

例えば、10万円の税額控除があるとします。所得税を30万円納めている人なら、10万円がそのまま減税され、納税額は20万円になります。

一方、所得税が8万円の人は、まず8万円の税金がゼロになり、残った2万円が現金で給付されることになります。所得税がゼロの人であれば、10万円がそのまま給付されるイメージです。

2)給付付き税額控除制度の導入議論の現況

上記の解説はあくまで「給付付き税額控除」という仕組みの基本的な考え方です。2026年7月時点の政府・与野党協議では、当初想定されていた「税額控除+給付」の組み合わせは当面見送り、まずは所得に応じた「現金給付のみ」でスタートする方向で大筋合意がなされています。

新たな給付制度は、働く中低所得者を主な対象とし、所得が増えるにつれて給付額を段階的に変えることで、「年収の壁」による働き控えを抑え、就労を促すことが狙いです。

2029年度の本格導入を目指し、今後、給付を開始・終了する年収水準や具体的な給付額、恒久的な財源などを詰めていく方針です。なお、税額控除との組み合わせを将来的に見送ると決めたわけではなく、今後も検討を続けるとされています。

3 中小企業経営者にとって、具体的に何が変わるのか

経営者として特に注目したいのが、パートやアルバイトなどの従業員の働き方への影響です。人手不足に悩む中小企業では、「年収を一定範囲に抑えたい」という従業員がいることで、繁忙期に必要な人員を確保できないケースがあります。

もし給付付き税額控除によって、収入が増えた場合の手取りの減少を抑えられるようになれば、「これ以上シフトを増やすと手取りがあまり増えない」という理由で勤務時間を抑えていた従業員が、今より柔軟に働けるようになる可能性があり、人手不足の解消につながるかもしれません。

また、従業員への生活支援を目的として会社が支給している家族手当などについても、今後はその役割を見直す必要が出てくる可能性があります。国による支援が拡充されるのであれば、会社が負担してきた福利厚生の原資を、基本給の引き上げや資格取得支援など、従業員の成長につながる施策に振り向けるという考え方もできます。

4 企業側の事務負担には注意が必要

経営者として見逃せないのが、制度導入に伴う事務負担です。

まだ、制度の詳細は決まっていませんが、給付付き税額控除では、給与だけでなく、副業による所得、不動産所得、株式などから得られる所得まで含めて、個人の所得を正確に把握する必要があります。所得を十分に把握できなければ、本来より多く給付を受ける人や、逆に必要な支援を受けられない人が生じる可能性があるためです。また、制度の設計によっては、企業の給与計算や年末調整などに新たな対応が求められる可能性もあります。

現状、2026年7月の実務者会議では、当面「税額控除」を組み合わせず、所得に応じた現金給付に一本化する方向が示されています。これは、2024年の定額減税で企業や自治体の事務負担が大きくなった反省を踏まえたものとされ、マイナンバーや公金受取口座を活用して国が直接給付する仕組みが想定されています。実現すれば、企業側が給与計算や年末調整で個別に対応する負担は、当初想定より抑えられる可能性があります。

ただし、対象者の判定に必要な所得情報の把握方法や、企業からの情報提供の要否など、実務上の詳細はまだ固まっていません。制度の内容だけでなく、「誰が計算し、誰が手続きをするのか」、確認することが重要です。

5 今から経営者が意識しておきたい4つのポイント

1)給与計算などのデジタル化を進めておく

新たな税制や社会保障制度が導入されるたびに、給与計算や年末調整の方法が変わると、担当者の負担が大きくなります。

クラウド型の給与計算システムなどを活用し、法改正に対応しやすい環境を整えておくことは、給付付き税額控除に限らず、今後の制度変更への備えにもなります。

マイナンバーや公金受取口座を利用して国から直接給付する仕組みが採用されれば、企業側の手続きを抑えられる可能性もあります。制度の詳細が固まった段階で、自社の給与計算システムでどのような対応が必要になるのかを確認しましょう。

2)従業員からの質問に備える

制度が始まれば、「自分はいくら受け取れるのか」「会社で手続きする必要はあるのか」といった質問が従業員から寄せられることも考えられます。

全てを経営者や人事担当者が説明する必要はありませんが、会社が対応する部分と、従業員自身が手続きする部分を整理しておくことは大切です。

制度の内容を正確に把握し、従業員に分かりやすく伝えられるようにしておけば、制度変更に対する不安を抑えることにもつながります。

3)福利厚生や賃金体系を見直すきっかけにする

給付付き税額控除によって、国が従業員の生活を直接支援するようになれば、会社が担ってきた福利厚生の役割も変わる可能性があります。例えば、家族手当などのあり方を見直し、その財源を基本給の引き上げや資格手当、教育研修などに振り向ける方法も考えられます。

単に「会社の負担を減らす」という発想ではなく、限られた人件費をどのように配分すれば、人材の確保・定着につながるのかという視点で考えることが重要です。

4)税理士や社会保険労務士などの専門家と情報を共有する

給付付き税額控除は、税制だけでなく社会保障や給与計算にも関係する可能性があります。制度の内容が決まったら、顧問税理士や社会保険労務士などに、自社への影響を確認しておきましょう。

特に中小企業では、経理や人事を一人の担当者が兼務しているケースも少なくありません。制度変更のたびに担当者だけで対応するのではなく、専門家と早めに情報を共有することで、実務上の混乱を抑えやすくなります。

以上(2026年8月作成)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:日本情報マート