令和8年度の雇用関係助成金の特徴は、一言でいえば、厚生労働省の「労働市場改革分科会」の方向性が色濃く反映されている点にあります。「労働市場改革分科会」は、日本成長戦略会議における労働市場改革の議論を具体化するため、同会議のもとに設けられたものです。今後の成長に向けて、どのような労働市場を目指すのか、その道筋がここで検討されています。
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2026年版「デジタル化・AI導入補助金」の変更点と申請準備のポイント
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「建設業だけの助成金」6選! 支給額は最大1000万円?
目次
1 人材確保やスキルアップに使える「建設業だけの助成金」
建設業では、労働力人口の減少に加え、長年にわたって業界を支えてきた熟練技術者の高齢化と引退が急速に進んでいます。そんな状況にあって企業が持続的に成長し、競争力を維持するには、新たな人材の確保と、既存社員のスキルアップが必須です。
国や地方自治体は、企業の人材投資を後押しするために、様々な助成金を実施していますが、
人材確保やスキルアップに使える「建設業だけの助成金」
があるのをご存じでしょうか? 以降で、建設事業主を対象とする助成金を中心に、主な要件や支給額の目安を紹介します。
なお、制度によっては中小建設事業主に限定されるものや、建設事業主団体・職業訓練法人が対象となるものもあるため、申請前に最新の支給要領を確認しましょう。また、助成金の内容は、2026年4月30日時点のもので、将来変更される可能性があります。申請書の書き方や添付書類などについては、次のURLをご参照ください。
■厚生労働省「建設事業主等に対する助成金」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kensetsu-kouwan/kensetsu-kaizen.html
2 人材開発支援助成金(建設労働者認定訓練コース)(最大1000万円)
1)助成金の概要は?
中小建設事業主が、建設関連の認定訓練を実施した場合に支給される助成金です。建設業界における技能水準の向上と、それを支える訓練体制の強化を目的としています。
2)助成金を受け取るには?
この助成金を受け取るためには、次の要件などを満たす必要があります。
- 雇用管理責任者の選任:建設業の人事労務管理を担当する者を選任する必要があります。
- 訓練の実施:都道府県から支援(認定訓練助成事業費補助金または広域団体認定訓練助成金の交付)を受けて、認定訓練を実施する必要があります。
- 賃金要件の達成(賃金助成または賃金向上助成を受ける場合):支給対象事業終了日の翌日から1年以内に、雇用する全ての建設労働者の毎月決まって支払われる賃金を5%以上増加させる必要があります。また、賃金助成を受けるには、人材開発支援助成金(人材育成支援コース)の支給決定を受ける必要があります。
- 資格等手当要件の達成(資格等手当助成を受ける場合):訓練修了日の翌日から1年以内に、全ての算定対象となる建設労働者に対して資格等手当を就業規則等で規定し、実際に支払い、賃金を3%以上増加させる必要があります。
- 離職者の発生状況:訓練開始6カ月前から支給申請書の提出までの間に、事業主都合による離職者を発生させていないことが要件となります。
3)受け取れる金額はいくら?
この助成金では、訓練の実施した場合に助成が受けられ、さらに賃金要件や資格等手当要件を達成した場合、支給額が増額されます。
- 経費助成:認定訓練を実施した場合、対象経費の1/6が助成されます。
- 賃金助成:人材開発支援助成金(人材育成支援コース)の支給決定を受け、2)の賃金要件を達成した場合、金額がプラスされます。
- 賃金向上助成・資格等手当助成:賃金助成の対象となった上で、2)の賃金要件または資格等手当要件を満たした場合、金額がさらにプラスされます。

要件を満たした場合、最大1000万円を受け取れる計算になります。
4)専門家のワンポイントアドバイス
認定訓練を実施する際、まず都道府県の担当窓口に「認定訓練助成事業費補助金」または「広域団体認定訓練助成金」の交付を受けられるかどうかを確認する必要があります。経費助成と賃金助成はそれぞれ別個に申請できますが、いずれも申請期限があります。申請漏れを防ぐためにも、訓練終了後は速やかに準備を進めることが大切です。
賃金助成は、人材開発支援助成金(人材育成支援コース)の支給決定が前提です。つまり、人材育成支援コースの「計画届提出(訓練開始日の1か月前まで)→訓練実施→支給決定→認定訓練コースの賃金助成申請」という手続きが必要になります。スケジュールを逆算して、6カ月以上前から準備を始めるのが安全です。
また、訓練の内容は一定の建設関連の訓練に限定されます。経理事務・営業販売的な要素を持つものは、助成の対象とはならないなどの制約があるため、支給要領を確認してください。
3 人材開発支援助成金(建設労働者技能実習コース)(最大500万円)
1)助成金の概要は?
中小建設事業主等が、若年者の育成や熟練技能の維持・向上を目的とし、キャリア段階に応じた技能実習を実施した場合に支給される助成金です(女性建設労働者に技能実習を行う場合は、中小建設事業主以外も経費助成の対象となります)。建設業界における技能の継承と向上を包括的に支援することを目的としています。
2)助成金を受け取るには?
この助成金を受け取るためには、次の要件などを満たす必要があります。
- 雇用管理責任者の選任:建設業の人事労務管理を担当する者を選任する必要があります。
- 技能実習の実施:キャリアに応じた技能実習を実施することが必須です。「1日1時間以上であること」「期間を6カ月以内とすること」などの要件を満たす必要があります。
- 賃金要件の達成(賃金助成・賃金向上助成を受ける場合):支給対象事業終了日の翌日から1年以内に、雇用する全ての建設労働者の毎月決まって支払われる賃金を5%以上増加させ、算定対象となる建設労働者に支払う必要があります。
- 資格等手当要件の達成(資格等手当助成を受ける場合):訓練修了日の翌日から1年以内に、全ての算定対象となる建設労働者に対して資格等手当を就業規則等で規定し、実際に支払い、賃金を3%以上増加させる必要があります。
- 離職者の発生状況:訓練開始6カ月前から支給申請書の提出までの間に、事業主都合による離職者を発生させていないことが要件となります。
3)受け取れる金額はいくら?
この助成金では、事業主の規模(雇用保険被保険者数)などに応じた助成が受けられます。さらに賃金要件や資格等手当要件を達成した場合、支給額が増額されます。
- 経費助成:技能実習の実施に要した経費について、雇用保険被保険者数20人以下の中小建設事業主は対象経費の3/4、21人以上の中小建設事業主は対象経費の7/10(35歳未満)または9/20(35歳以上)が助成されます(1つの技能実習について1人当たり10万円が上限)。
- 賃金助成:2)の賃金要件を達成した場合、金額がプラスされます。ただし、1つの技能実習について、1人当たり20日分が上限です。
- 賃金向上助成・資格等手当助成:経費助成または賃金助成の対象となった上で、2)の賃金要件または資格等手当要件を満たした場合、助成率または金額がプラスされます。

要件を満たし、対象経費や対象労働者数などの条件がそろった場合、最大500万円を受け取れる計算になります。
4)専門家のワンポイントアドバイス
本コースは経費助成・賃金助成・賃金向上助成と複数の助成が組み合わさるため、申請漏れや要件の取り違えが起きやすいコースです。特に賃金助成は1日3時間以上のコースのみが対象となる点に注意が必要です。
計画届は、技能実習の開始日の原則3カ月前から1週間前まで(必着)に提出する必要があります。提出遅れがあると不支給となるため、注意してください。
ただし、登録教習機関・登録基幹技能者講習実施機関・職業訓練法人・指定教育訓練実施者が実施する実習に全期間を通して委託する場合は、計画届の提出は不要です。
また、所定労働時間内に受講させ、通常の賃金以上を支払うことが要件です。休日や所定労働時間外に受講させる場合は、割増賃金以上の支払いが必要となります。「賃金を払わず自主参加扱いで休日に受けさせた」というケースでは助成対象とならない点に注意しましょう。
4 人材確保等支援助成金(作業員宿舎等設置助成コース(建設分野))(最大290万円)
1)助成金の概要は?
女性専用の作業員施設や、特定の地域(石川県)での作業員宿舎・施設・賃貸住宅の設置を支援する助成金です。女性の定着を妨げる要因の一つである女性専用施設を充足させること、特定の地域における労働者の住環境を整備することが目的です。
2)助成金を受け取るには?
この助成金を受け取るためには、次の要件などを満たす必要があります。
- 雇用管理責任者の選任:建設業の人事労務管理を担当する者を選任する必要があります。
- 助成対象施設の設置:女性専用の作業員施設を賃借により設置、または石川県内で作業員宿舎、賃貸住宅、作業員施設を賃借により設置する必要があります。
- 賃金要件の達成(賃金向上助成を受ける場合):女性専用施設を設置する場合において、別途定められた賃金要件を満たす必要があります。
3)受け取れる金額はいくら?
この助成金では、設置する施設の種類と所在地によって、支給額または助成率が異なります。

要件を満たす場合、女性専用作業員施設設置経費助成は1事業年度あたり90万円、石川県内の作業員宿舎等経費助成は1事業年度あたり200万円が上限です。両方の要件を満たす場合、最大290万円を受け取れる計算になります。
4)専門家のワンポイントアドバイス
女性専用の作業員施設の助成を受けるためには、設置する施設が更衣室・便所・浴室・シャワー室等の所定の基準(床面積、施錠機能付きドア、女性専用施設である旨の明示等)を満たしている必要があります。また、石川県内の作業員宿舎などについても、入居者数や居住費の負担限度額などについての基準が設けられているため、支給要領をよく確認してください。
女性専用作業員施設の助成については、「自ら施工管理する建設工事現場」が対象です。下請として入る現場ではなく、元請として施工管理する現場で女性専用施設を賃借することが要件であり、対象となる事業主は「中小元方建設事業主」に限られます。
下請専業の事業主は対象外となるため、自社の立ち位置の確認が必要です(石川県内の作業員宿舎等の助成については、中小建設事業主であれば元請・下請を問わず対象となります)。なお、賃借契約締結後の事後申請ではなく、契約前の計画届が原則となるため、物件選定の早い段階で労働局に相談することが重要です。
5 人材確保等支援助成金(若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース(建設分野))(最大200万円)
1)助成金の概要は?
若年者や女性の入職・定着を促すための職場環境改善事業(例:現場見学会、入職者向け研修、労災予防の取り組み、表彰制度)を実施した場合に受け取れる助成金です。
2)助成金を受け取るには?
この助成金を受け取るためには、次の要件などを満たす必要があります。
- 雇用管理責任者の選任:建設業の人事労務管理を担当する者を選任する必要があります。
- 事業計画の策定と実施:若年者や女性の入職・定着を図るための具体的な事業(例:入職者向け研修、労災予防の取り組み、表彰制度)の計画を策定し、その計画に基づいた事業を実施することが求められます。
- 賃金要件の達成(賃金向上助成を受ける場合):支給対象事業終了日の翌日から1年以内に、雇用する全ての建設労働者の毎月決まって支払われる賃金を5%以上増加させ、算定対象となる建設労働者に実際に支払う必要があります。
- 離職者の発生状況:事業の実施6カ月前から支給申請書の提出までの間に、事業主都合による離職者を発生させていないことが要件となります。
3)受け取れる金額はいくら?
この助成金では、企業規模と賃金要件の達成状況に応じて、対象経費に対する助成率が異なります。また、2026年度からは、
若年者や女性の入職・定着を図るための事業を実施し、経費等助成の支給決定を受けた後、対象となる新規入職者が6カ月間離職せずに定着した場合、「定着助成」が受けられる
ようになっています。

要件を満たした場合、最大200万円を受け取れる計算になります。
4)専門家のワンポイントアドバイス
このコースは、単に若年者や女性を「採用する」だけでなく、建設業界で長く働き続けられるような「魅力的な職場環境を創る」ことを目的としています。事業計画の内容と実施記録の整合性が審査のポイントになります。計画書に記載した事業を実際に行ったことを証明できる書類(実施写真、参加者名簿、領収書等)を漏れなく保存しておきましょう。
また、事業計画は「具体的かつ測定可能」に作ることが求められます。「現場見学会を年2回実施」「対象者は地元工業高校生20人」「終了後にアンケート回収」など、誰が・何を・いつ・どれだけ実施するのかを明確にしないと、計画段階で差し戻される可能性があります。労働局の審査では、計画書の記載と実施記録(写真、参加者名簿、アンケート、領収書等)の整合性が厳しく見られるためです。
2026年度新設の「定着助成」は、新規入職者1人当たり42万円(年度3人まで、上限126万円)が上乗せ支給されます。この助成を受けるには、経費等助成の支給決定を受けた事業の対象として採用された新規入職者が6カ月間離職せずに定着することが要件で、6カ月後に別途申請が必要です。採用と定着支援をセットで設計し、助成額を最大化しましょう。
6 人材確保等支援助成金(建設キャリアアップシステム等活用促進コース(雇用管理改善促進事業))(最大160万円)
1)助成金の概要は?
建設キャリアアップシステム(CCUS)を活用して雇用管理を改善する事業主に対し、技能労働者数に応じて支給される助成金です。CCUSは、技能労働者の就業履歴や保有資格などを業界横断的に登録・蓄積する仕組みで、これにより技能の評価や処遇改善、適正な賃金水準の確保につながることが期待されています。
2)助成金を受け取るには?
この助成金を受け取るためには、以下の基本要件を満たす必要があります。
- 雇用管理責任者の選任:建設業の人事労務管理を担当する者を選任する必要があります。
- CCUSの活用と雇用管理改善:CCUSを実際に活用し、雇用管理の改善促進事業を行うことが必須です。事業を行うに当たっては、「雇用する全ての技能者のCCUS技能者登録(詳細型登録)が完了している」「レベル判定で昇格評定を受けた技能者の賃金を5%以上増加させている」必要があります。
- 離職者の発生状況:事業の実施6カ月前から支給申請書の提出までの間に、事業主都合による離職者を発生させていないことが要件となります。
3)受け取れる金額はいくら?
対象となる建設技能者1人当たり16万円が支給されます。

要件を満たした場合、最大160万円を受け取れる計算になります。
4)専門家のワンポイントアドバイス
本コースの最大の特徴は、全ての技能者のCCUS登録完了が助成の前提条件となる点です。「全ての技能者」の範囲は雇用する建設技能者で、事務員や営業職などの非技能者は含まれません。1人でも未登録の技能者がいると要件を満たせないため、まず自社の全技能者の登録状況を棚卸しすることから始めてください。CCUS登録には一定の時間とコストがかかるため、早めに準備を進めることが肝要です。
CCUS技能者登録は「詳細型登録」である必要があります。簡略型登録では本コースの要件を満たしません。すでに簡略型で登録済みの技能者がいる場合は、詳細型への切替えが必要です(追加料金が発生します)。
なお、賃金5%以上増加は「改定前後12カ月間の賃金比較」で判定します。一時金や手当の変動も含めて算定されるため、月例給だけでなく賞与等も含めた賃金設計を意識しましょう。
7 トライアル雇用助成金(若年・女性建設労働者トライアルコース)(最大12万円)
1)助成金の概要は?
中小企業が、若年者(35歳未満)または女性を試行的に雇用する際に、通常のトライアル雇用助成金(一般トライアルコース、障害者トライアルコース)に加えて支給される助成金です。一般的なトライアル雇用助成金とは別に、建設業界における若年者・女性の労働者を対象として試行雇用する場合、追加の助成を受けられます。
2)助成金を受け取るには?
この助成金を受け取るためには、次の要件などを満たす必要があります。
- 雇用管理責任者の選任:建設業の人事労務管理を担当する者を選任する必要があります。
- 労働者の新規雇用:建設現場作業(左官、大工、鉄筋工、配管工など)または施工管理に主として従事する若年者(35歳未満)または女性をトライアル雇用として新規に雇用することが必須です。
- トライアル雇用助成金の要件充足:トライアル雇用助成金のうち、一般トライアルコースまたは障害者トライアルコースの支給決定を受ける必要があります(なお、障害者短時間トライアルコースは支給対象外)。
3)受け取れる金額はいくら?
この助成金では、トライアル雇用した対象労働者1人につき、月額最大4万円が通常のトライアル雇用助成金に加えて3カ月間支給されます。最大額(月額4万円)を受け取るには、実際の就労日数が、予定された就労日数の75%以上である必要があります。

要件を満たした場合、1人当たり最大12万円を受け取れる計算になります。
4)専門家のワンポイントアドバイス
本コースでは、若年者(35歳未満)または女性を建設現場作業または施工管理に「主として」従事させる必要があります。設計・測量・経理・営業などに主として従事する場合は対象外となりますので、採用時の業務内容を明確に整理しておきましょう。
受給に際してはハローワーク等の紹介が必須要件で、自社の知人紹介や求人サイト経由の採用は対象外です。求人申込みの段階で「トライアル雇用求人」として申し込む必要があります。
また、「主として」現場作業または施工管理に従事することが要件で、「実労働時間の半分を超える時間」を当該業務に従事する必要があります。
トライアル雇用後、無期雇用に移行した場合はキャリアアップ助成金(正社員化コース)の対象にもなり得ます。「有期で雇い入れ→トライアル雇用助成金」「無期雇用への転換→キャリアアップ助成金」という流れで複数の助成金を組み合わせれば、1人当たりの受給総額は100万円超となるケースもあります。支給額や併給可否は雇用形態、転換内容、対象労働者、申請時期によって異なるため、採用段階で各制度の支給要領を確認しておくことが重要です。
以上(2026年5月更新)
(監修 社会保険労務士 柴田充輝)
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画像:years-Adobe Stock
「事業承継・M&A補助金」で中小企業のM&Aを実現!
1 事業承継・M&A補助金とは?
中小企業が抱える後継者不足や成長戦略の課題……。事業承継やM&Aは、これらの課題を解決し、経営資源を円滑に移転するための有効な手段となり得ます。ただ、M&Aプロセスには専門的な知識が必要であり、多額の費用が発生することが少なくありません。
そこで利用を検討したいのが、経済産業省の「事業承継・M&A補助金」です。これは、
中小企業・小規模事業者等が、事業承継やM&Aに際して行う設備投資等や、事業承継・事業再編及び事業統合に伴う経営資源の引継ぎ、または引継ぎ後の経営統合に係る経費の一部を補助する補助金
で、事業の移行と活性化の多様な側面に対応するため、4つの枠組みで構成されています。

ここでは、令和7年度補正予算による第14次公募(2026年2月27日~4月3日)の内容を紹介します。詳細については、こちらの公式ページをご確認ください。
■事業承継・M&A補助金(14次公募)■
https://shoukei-mahojokin.go.jp/r7h/
2 事業承継促進枠
1)枠の概要
事業承継促進枠は、親族内承継や従業員承継等の事業承継を契機として経営や事業を引き継ぐ予定の中小企業が、引き継ぐ予定の経営資源を活用した設備投資等に取り組む際の費用を補助する枠です。
2)補助率等

3)補助対象経費
- 設備費(建物工事・ソフトウェア等を含む)、産業財産権等関連経費、謝金、旅費、外注費、委託費などが対象
- 事業承継に際して支払う譲り受け費用(土地・資産購入費等)や被承継者に対して支払う費用は原則補助対象外
- 廃業費は本枠単独では補助対象外で、廃業・再チャレンジ枠との併用申請をした場合のみ補助対象
4)主なポイント
- 補助事業期間を含む5年間の事業承継対象期間内に、親族内承継・従業員承継を完了する必要があります。
- 承継者と被承継者間での実質的な事業承継(経営権・所有権の移転)が客観的に確認できることが条件です。
- 申請前に、認定経営革新等支援機関等から事業承継計画に対する確認書の発行を受ける必要があります。
- 引き継ぐ経営資源を活用した生産性向上等に係る取組であることが必要です。生産性向上要件として、付加価値額または1人当たりの付加価値額の伸び率が3%/年の向上を含む計画が求められます。
- 本枠は専門家活用枠・PMI推進枠との同一公募回での申請はできません。
3 専門家活用枠
1)枠の概要
専門家活用枠は、事業再編・事業統合に伴う経営資源の引継ぎ(M&A)を行う中小企業(買い手・売り手)が、M&Aプロセスにおいて専門家の支援を受ける際に発生する費用を補助する枠で、次の通り、2つの支援類型および特例に細分化されています。
- 買い手支援類型(Ⅰ型):株式・経営資源を「譲り受ける」予定の中小企業が対象
- 売り手支援類型(Ⅱ型):株式・経営資源を「譲り渡す」予定の中小企業が対象
- 買い手支援類型(Ⅰ型)100億企業特例:「売上高100億円」を目標とする「100億宣言」を行う中小企業が対象
2)補助率等

3)補助対象経費
- 謝金、旅費、外注費、委託費、システム利用料、保険料、廃業費(廃業支援費、在庫廃棄費、解体費、原状回復費、リースの解約費、土壌汚染調査費、移転・移設費用)などが対象
- 委託費のうち、M&Aの手続き進行支援に係る手数料はM&A支援機関登録制度に登録されたFA・仲介業者の場合のみ対象
- 保険料は、M&Aの最終合意契約における表明保証に関する保険契約の保険料
- 在庫廃棄費のうち、商品在庫等を売却して対価を得る場合の処分費は対象外
- リースの解約費のうち、ファイナンスリース取引の解約に伴う解約金・違約金、リース資産の売買に係る費用は対象外
4)主なポイント
- 買い手支援類型(Ⅰ型)は、PMI推進枠(PMI専門家活用類型)との同時申請が可能です。
- 補助事業期間内に事業承継(クロージング)が実現しなかった場合は補助上限額が300万円に減額されます。
4 廃業・再チャレンジ枠
1)枠の概要
廃業・再チャレンジ枠は、M&Aによって事業を譲り渡せなかった中小企業が、地域の新たな需要の創造や雇用の創出にも資する新たなチャレンジをするために、既存事業を廃業する場合にかかる経費の一部を補助する枠です。本枠には「再チャレンジ申請(単独申請)」と「併用申請(事業承継促進枠・専門家活用枠・PMI推進枠との同一公募回での同時申請)」の2パターンがあります。
2)補助率等

3)補助対象経費
- 廃業支援費、在庫廃棄費、解体費、原状回復費、リースの解約費、土壌汚染調査費、移転・移設費(併用申請のみ計上可)などが対象
- 廃業支援費についての補助上限額は50万円
- 在庫廃棄費については、商品在庫等を売却して対価を得る場合の処分費は対象外
- リースの解約費については、ファイナンスリース取引の解約に伴う解約金・違約金のうち、リース資産の売買に係る費用は対象外
4)主なポイント
- 単独申請の場合、2020年以降にM&A仲介業者等を通じて売り手として3カ月以上取り組んでいた実績が必要です。
- 他の枠との「併用申請」を活用することで、M&Aプロセスと廃業準備を並行して進めることができます。
5 PMI推進枠
1)枠の概要
PMI推進枠は、経営資源の引継ぎ(M&A)を行った、または行う予定の中小企業が、事業再編・事業統合後の経営統合作業(PMI:Post-Merger Integration)に取り組む際の費用の一部を補助する枠です。PMIの内容に応じて2類型があり、補助対象経費はそれぞれ異なります。
- PMI専門家活用類型:M&A後の経営統合に際してPMI専門家を活用した際の費用(謝金・旅費・委託費)を補助
- PMI事業統合投資類型:経営統合に伴う設備投資費用等を補助(専門家費用は対象外)
2)補助率等

3)補助対象経費
【PMI専門家活用類型】
- 謝金、旅費、委託費(PMI専門家に対する費用)などが対象
- 説明会の開催や個別面談の実施、取引先への対応(M&Aに関する説明、継続的なコミュニケーション)など、信頼関係構築に関わる専門家支援は対象外
【PMI事業統合投資類型】
- 設備費、外注費、委託費などが対象
- 委託費のうち、M&A仲介手数料、DD 費用、M&Aコンサルティング費用、PMI専門家への手数料は対象外
4)主なポイント
- 補助対象となるM&Aの成立前(クロージング前)に、承継者によるデュー・ディリジェンス(DD)が実施されていることが必要です。
- グループ内の事業再編・親族間の事業承継は対象外です。
- PMI事業統合投資類型とPMI専門家活用類型の同時申請はできません。
6 申請手続き
1)GビズIDの取得
本補助金の申請はJグランツを通じた電子申請となるため、GビズID(1つのIDで複数の行政サービスにアクセスできるサービス)のプライムアカウントが必要です。アカウント発行までの期間は通常1~2週間程度(混雑時は3週間程度)です。
取得には、印鑑証明書原本(発行から3カ月以内)、法人代表者の実印または個人事業主の登録印を押印した申請書、法人代表者または個人事業主のメールアドレスおよびSMS受信可能な電話番号が必要です。必要書類をgBizID運用センターへ郵送またはオンライン(マイナンバーカード読み取り可能なスマートフォンおよびGビズIDアプリが必要)で申請します。
■GビズID(gBizID)■
https://gbiz-id.go.jp/top/
2)M&A支援機関(FA・仲介業者)の選定
専門家活用枠で、M&Aに関する業務の一部を第三者に委託する場合、M&Aの手続き進行の支援に関する手数料については、「M&A支援機関登録制度」によりあらかじめM&A支援機関として登録されたFA・仲介業者の場合のみが補助対象となります。そのため、申請前に自社の状況やM&Aの目的に沿って、信頼できるM&A支援機関を選定することが重要です。
■M&A支援機関登録制度「登録支援機関データベース」■
https://ma-shienkikan.go.jp/search
3)公募申請・採択
Jグランツを通じて指定された書類をダウンロードし、必要事項を記入して提出します。主な提出書類には、
- 直近3期分の決算書
- 株主名簿
- 株主代表に係る確認書
- 営業利益率低下に関する計算書(売り手支援類型(Ⅱ型)で補助率2/3以内での申請を希望する場合)
- 審査において加点される事由を証明する賃金引き上げ計画の誓約書
- 賃金引き上げ計画の表明書
などがあります。その他、法人であれば履歴事項全部証明書、個人であれば住民票(3カ月以内に発行されたもの)などが必要になることがあります。
申請後、申請された内容に対して審査委員会および事務局による採択が実施されます。第14次公募の採択予定は2026年5月中旬です。採択・不採択の結果は、Jグランツから通知されます。
4)交付申請・交付決定
補助事業を行うに当たり、使途ごとの必要経費を具体的に算出し、各経費の見積もりを取得します。その後、Jグランツ上の交付申請用フォームに必要事項を記載し、取得した見積書などとともにオンラインで申請します。
申請後、提出された書類が審査され、交付が決定されます。この交付決定日が補助事業の開始日となります(2026年6月上旬以降予定)。
5)各事業の実施・報告
交付決定を受けたら、M&Aの専門家との契約やM&Aの実行、費用の支払いを行います。交付決定前に契約・発注・支払いを行った費用は補助金の対象とならないため、注意が必要です。また、補助対象となる経費を使うときは、必要な証憑(領収書等)を保管する必要があります。
補助対象事業完了後、補助事業者がJグランツを通じて、実際にかかった費用等の事業実績内容を事務局へ報告します。
6)補助金交付
事業実績報告の確定検査が行われると、補助金決定額が確定し、交付請求に基づいて補助金が交付されます。
7 不正行為に関する注意
補助金の申請に当たって
- 虚偽の申請による不正受給
- 補助金の目的外利用
- 補助金受給額を不当につり上げ、関係者へ報酬を配賦する
といった不正な行為が判明した場合は、交付規程に基づき交付決定取り消しとなるだけでなく、補助金交付済みの場合、加算金(年10.95%)を課した上で当該補助金の返還が求められます。
また、交付決定の取り消しを受けた者は、不正内容の公表等を受けることや「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」に基づく、5年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金または両方に処せられる可能性があります。
以上(2026年5月更新)
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脱税と節税の違いを誤ると会社は奈落の底に……その境界線とは?
1 会社にお金を残したくても「脱税」はダメ!
「脱税」という言葉に、どのようなイメージを抱くでしょうか。普段意識している節税の仕方をちょっと間違えたくらいのものと軽く考えているのであれば、考えを改めなければなりません。
脱税は犯罪行為であり、最悪逮捕され、刑事罰をうける恐れがあるものです。
会社にお金を残したいのは当然ですが、税金対策も度を越えると脱税になって取り返しのつかないことになります。経営者は、税務上の善悪(節税と脱税)の線引きをしっかり持ちましょう。また、経営陣が知らないところで、従業員がごまかし程度の感覚で脱税につながる行為をしていたり、社内の手続きミスが脱税とみなされたりするケースもあるので、会社全体として税務上の善悪の意識を持ちましょう。
では、具体的に税務上の善悪の線引きがどこにあるのかについて紹介していきますので、経営者自身が理解することはもちろん、従業員にも周知徹底しましょう。
2 悪質な脱税には1000万円以下の罰金が科されることも
節税と脱税の違いは、
- 節税:税法のルールの範囲内で納税額を低くする行為
- 脱税:売上を隠す(隠蔽)、領収書を偽造する(仮装)など、事実を偽って不当に納税を免れる犯罪行為
といったように明確に違います。節税は経営努力であり、積極的に取り入れることで会社の資金繰りも楽になります。一方、脱税は犯罪であり、脱税と判断された場合は、次の税が追加で課されます(税務署が判断する悪質度合いなどにより課される加算税の種類は変わる)。

より悪質であったり、金額が大きかったりする重大な脱税の場合、経営者個人に対して刑事罰(10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはその両方)の対象となる可能性があります
なお、節税と脱税以外に税務のグレーゾーンと呼ばれる処理があります。これは、節税と脱税の間に位置する処理で、ルールに従って処理しているつもりであるものの、税務調査で認められる可能性もあれば、認められない可能性もあるという曖昧な部分をいいます。税務のグレーゾーンについては、以下の記事で解説しているので参考にしてください。
3 脱税と判断される代表的な10の取引
1)架空経費を計上する
主な例は次の通りです。
- 業務目的でない支払いの領収書などを集めて、会社の経費として計上する
- 人件費を水増しして(実際に支給している金額と異なる金額を)計上する
- 実在しない会社に対する架空の外注費を計上する
- 実際の請求書を偽造・複製するなどして、架空の支払い費用を計上する
2)売り上げを過少に見せかける・除外する
主な例は次の通りです。
- 現金売り上げを計上していない
- 継続しない単発的な取引に関する売り上げを計上していない
- 特定の口座に入金されている売り上げを計上していない
3)在庫を過少に見せかけて、売上原価を過大に計上する
主な例は次の通りです。
- 在庫の紛失など現場担当者が自身のミスを隠すため、実地棚卸の数字を調整する
- 仕掛りの製品などについて、製作に要している材料費・労務費・経費などを在庫として計上していない
- 翌期の売り上げのために決算日にすでに出荷している、いわゆる「トラック在庫」を計上していない
これらの行為は、税務調査により、必ず明らかになります。税務調査では、税務上の取り扱いやお金の流れに不可解な点を見つけるために、その会社に訪問して調査する実地調査だけでなく、取引先や金融機関へ問い合わせを行う反面調査など、様々な調査が行われます。税金を低く抑えることに執着しすぎたり、脱税行為を軽く見すぎたりしないよう、経営者自身だけでなく、従業員に対しても正しい認識を持つよう周知徹底しましょう。
以上(2026年5月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)
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【書籍ダイジェスト】『トリニティ組織』
本書では、膨大なデータの解析から導き出された、生産性も従業員の幸福度も高い組織をつくるためのカギとなる、人的ネットワークの「形」と、その組織や社会への影響について詳細に解説している。
著者の研究チームは、オリジナルの赤外線通信機能とセンサを備えたウエアラブルデバイスで測定した、1兆個を超えるデータの解析により、人間の幸せ・不幸せを決定づける重要な要素「ファクターX」を発見。その論文は2020年、権威ある英国の科学論文誌である「Nature/Scientific Reports」に発表された。ファクターXとは、「V字」と「三角形」の違いである。

勤務間インターバル制度の導入で最大970万円の助成金が!?
1 「勤務間インターバル制度」は助成金の対象
残業削減は既にさまざまな方法で試行錯誤されていると思いますが、やはり社員の過重労働が心配です。この記事では別の視点から、「勤務間インターバル制度」を紹介します。
勤務間インターバル制度とは、社員が終業してから次に始業するまでに、一定時間の休息を取ることを促進することで、社員の生活時間や睡眠時間を確保する制度
です。就業規則等で休息時間数を設定し、終業から次の始業までの間隔が休息時間数に満たなければ、その時間数分、労働したものとみなしたり、翌日の始業時刻を繰り下げたりします。

現在、勤務間インターバル制度の実施は「努力義務」となっていますが、政府内では
原則「休息時間数を11時間」とする制度を想定し、さらに実施を「努力義務→義務」に切り替えることが議論(なお、2026年通常国会での提出は見送り)
されています。例えば、24時に終業し、次の始業が翌日9時の会社の場合、社員は帰宅時間も含めて9時間しか休めません。ですが、勤務間インターバル制度が義務化された場合、「11時間休息を取らせる」ことになるので、社員は図表1のように11時から勤務を開始すればよいわけです。
勤務間インターバル制度は働き方改革を実現するための1つの取り組みですが、いまひとつピンとこないこともあって導入は進んでいません。ただし、一定の要件を満たした場合には、
働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)の対象となり、最大970万円を受給できる可能性がある
ことをご存じでしょうか。助成金の支給を受ける場合、事前に所定の「交付申請書」を事業実施計画書などとともに、所轄都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に提出します。
2026年度の助成金の申請期限は、2026年11月30日まで
です。

厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000150891.html
2 勤務間インターバル制度を導入する際のポイント
1)休息時間数の考え方・導入方法
過重労働を防止する上で、休息時間数が長いに越したことはありません。とはいえ、いきなり長い休息時間数で運用するのは人材不足や時間管理の点から難しいので、最初は短めに休息時間数を設定し、状況を見つつ徐々に延長していくのがよいでしょう。
ただし、休息時間数が9時間未満だと、働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)の対象外になってしまうので注意が必要です。また、前述した通り、政府内では原則「休息時間数を11時間」とする制度の義務化が想定されているので、この点は考慮に入れておいたほうがよいでしょう。
なお、一度設定した休息時間数を安易に短くするのは避けるべきです。とはいえ、取引先との商談や社内の重要な会議などで、休息時間の確保が難しくなるケースもあります。こうした場合は、社員から事前に申請させるようにした上で、社員の体調維持に配慮しましょう。
実際に勤務間インターバル制度を導入する際は、労使での話し合いを土台とし、制度導入の検討、制度の設計、運用、見直しのフェーズに沿ってPDCAサイクルを回しながら進めることが大切です。厚生労働省が運営する「働き方・休み方改善ポータルサイト」では、超過勤務が発生しがちな業界ごとに「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル」や「導入・見直しのためのワークシート」が掲載されており、具体的な方法を確認する際の参考になります。
働き方・休み方改善ポータルサイト「資料ダウンロード」
https://work-holiday.mhlw.go.jp/interval/download.html
2)就業規則の規定例
以下は、休息時間数を11時間とした場合の就業規則の規定例です。なお、休息時間数を確保するため、本来の始業時刻から休息時間の満了時刻までは労働したものとみなし、その時間分の賃金は減額しないものとしています。社員に有利な規定となっていることをご認識ください。
【規定例】
第◯条(勤務間インターバル制度)
1)会社は社員に対し、1日の勤務終了後、次の勤務の開始までに、少なくとも11時間の継続した休息時間を与える。ただし、災害その他やむを得ない事情がある場合はこの限りでなく、会社は社員に対し、休息時間中であっても業務を行わせることができる。
2)前項の休息時間の満了時刻が、次の勤務の所定始業時刻以降に及ぶ場合、当該始業時刻から満了時刻までの時間については労働したものとみなす。
この他に、年末年始や業務の緊急性など特別な事情が生じた場合には、適用を除外する定めを設けるなど、柔軟に対応することも可能ですので、会社の実態に応じて検討しましょう。
3 導入している会社が少ないのはなぜ?
最後に補足として、なぜ勤務間インターバル制度の導入が進んでいないのかを紹介します。興味がある方はご確認ください。

勤務間インターバル制度を「導入している」と回答した会社はわずか6.9%です。そして、勤務間インターバル制度を導入していない理由は次の通りです。

導入しない理由としては、「超過勤務の機会が少なく、当該制度を導入する必要性を感じないため」という会社が多いようです。これは、働き方改革により長時間労働が是正されてきたことによる影響が大きいでしょう。
しかし、特定の業界では、依然として超過勤務が常態化している業界もあります。また、「人員不足や仕事量が多いことから、当該制度を導入すると業務に支障が生じるため」など、今の体制に勤務間インターバル制度が合わない会社もあるようですので、必要性や業務の実態、業界も踏まえた上で導入を検討することが大切です。
以上(2026年5月更新)
(監修 石原法律事務所 弁護士 磯田翔)
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税務のグレーゾーン 経営者が押さえておくべき勘所
目次
1 グレーゾーンを把握して、税務の勘所を高めよう
経営をしていると、税務処理を選択しなければならない機会が結構あります。問題は白黒がはっきりしていない、つまり場合によっては課税リスクが高まるかもしれないケースがあることです。税務処理の選択による課税リスクは、「白・黒・グレー」の3色で表現され、それぞれ次のような意味合いで使われます。

経営者が税務の勘所を高めるために重要なのは、グレーゾーンの考え方を知ることです。グレーゾーンは解釈次第で税務署側の取り扱いが変わることがあるためです。グレーゾーンは「〇〇円未満なら白で、それ以上は黒」といったように、文字通り、金額で白黒はっきりするようなものではなく、法令でも、
「不相当に高額」「通常要する費用」「専ら」
などという言葉で表現されます。これらが具体的にどのようなことを示しているのでしょうか。
税務調査で指摘を受けやすいグレーゾーンとして、
- 「不相当に高額」な役員報酬
- 「不相当に高額」な役員退職金
- 「通常要する費用」としての交際費
- 「専ら」従業員のために行われる福利厚生費
について解説していきます。
2 「不相当に高額」な役員報酬
1)「不相当に高額」と判断される一般的な基準(考え方)とは
役員報酬については、定期同額(毎月一定の額など)で支給されているなどの条件を満たしていれば基本的に損金(税務上の費用)とすることができます。しかし、その支給金額が「不相当に高額」な場合、その高額と判断された部分については損金と認められません。
役員報酬について「不相当に高額かどうか」を判断する基準には、
- 形式基準
- 実質基準
の2つがあります。
形式基準とは、
定款や株主総会の決議で決めた役員報酬の限度額と照らし合わせて判断するもの
です。つまり、あらかじめ決定した限度額を超えて支給した場合は、超過額部分については損金とされないことになります。
実質基準とは、
役員の職務の内容や会社の収益状況、従業員に対する給与の支給状況、あるいは、同業他社との比較などで「不相当に高額かどうか」を判断するもの
です。そのため、
- 実質的に何もしていない役員(名前だけの役員)に役員報酬を支給している場合
- 売上・利益が減少していて、従業員のボーナスなどもカットしているのに、役員報酬だけ増加傾向にある場合
には、税務調査で指摘されることが多いです。
2)現場レベルで注意すべき点は
形式基準は、定款や株主総会の議事録などで確認できます。もし実際の支給額と限度額の金額が近い場合には、次の株主総会で限度額の増額を決定しておくようにしましょう。
また、役員報酬を決定するときには、会社の利益の状況などを踏まえた上で決定することとし、「なぜその金額に決定したの?」という調査官からの問いかけに対して、合理的に説明できる資料を書面で準備しておくことが重要です。特に役員報酬を増額する際にはその理由を明確にしておきましょう。
3 「不相当に高額」な役員退職金
1)「不相当に高額」と判断される一般的な基準(考え方)とは
役員退職金は基本的に損金とすることができるのですが、その支給金額が「不相当に高額」な場合、その高額と判断された部分については損金と認められません。
役員退職金は、職務に従事していた期間や退職の事情や、同業他社の支給状況などを総合的に勘案して判断されます。よく利用される基準に「功績倍率法」というものがあります。これは、次の算式に当てはめて役員退職金の額を決定する方法です。
退職直前の役員報酬の月額 × 勤続期間 × 職責に応じた倍率
必ずしも功績倍率法で計算すれば税務上認められるわけではありませんが、支給額を決定する際の参考にするとよいでしょう。
なお、
- 実質的に何もしていない役員(名前だけの役員)に退職金を支給した場合
- 退職直前に極端に役員報酬を増額し、功績倍率法の計算結果を意図的に増やした場合
には、税務調査で指摘されることが多いので注意しましょう。
3)現場レベルで注意すべき点は
役員報酬と同じで、支給した役員退職金について「なぜその金額に決定したの?」という調査官からの問いかけに対して合理的に説明できる資料を書面で準備しておくことが重要です。
また、功績倍率法を使用する場合は役員退職金規程を整備するとともに、役員報酬については会社の利益の状況などを鑑みつつ、計画的に増額するようにするとよいでしょう。
4 「通常要する費用」としての交際費
1)「通常要する費用」と判断される一般的な基準(考え方)とは
中小企業の場合、損金として認められる交際費は「年間800万円まで」と決まっています。そのため、飲食費だからといってなんでも交際費にしてしまうと、損金として認められない交際費が出てくる可能性があります。
一般的に交際費となりそうな費用であっても、「通常要する費用」の範囲内であれば交際費としなくてもよいケースがあります。
一般的に多く見られる事例としては、
会議に関連して、茶菓、弁当等の飲食物を供与するために通常要する費用
があります。つまり、会議で提供された飲食関連の費用であり、かつ「通常要する費用」の範囲内であれば交際費とせず、会議費(金額基準に関係なく損金とすることができる)として処理することができます。
通常要する費用とは、
- 必要(会議の実態)があって支出したもので、
- 一般的・常識的な範囲内であるもの
ということになります。そのため、会議時に提供されたお弁当の金額が1000円から3000円くらいの範囲内であればさほど問題になるケースは多くないものと考えられますが、フレンチのフルコースなど、会議というより接待が主になると思われるようなものは交際費とされる可能性が高くなります。
また、月に数回程度の会議であれば問題ありませんが、ほぼ毎日会議を行い、お弁当を食べている場合には「必要外のもの」と判断されて交際費とされることもあります。いずれにしても「常識の範囲内」というのが判断基準になります。
2)現場レベルで注意すべき点は
会議費などで飲食を伴った場合には、まず「金額が大きくなりすぎていないか」について敏感になる必要があります。この金額についての判断が現場担当者の間で曖昧になるようであれば、社内規程などを設け、会議飲食費としての金額範囲などを決めてしまうのも一方法です。
また、会議を行った場合は、
「本当に会議が存在したこと」を証明するため、議事録などは必ず作成する
ようにしておきましょう。
5 「専ら」従業員のために行われる福利厚生費
1)「専ら」と判断される一般的な基準(考え方)とは
「専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用」については交際費とせず、福利厚生費(金額基準に関係なく損金とすることができる)として費用処理することができます。
「専ら」とは、
必ずしも100%である必要はないものの、80%から90%は該当するような状態
と言われています。例えば忘年会などの催し事の場合、全従業員を対象として開催しつつも、業務の都合で参加できない人が出てくる可能性がありますが、最終的に80%から90%の人が参加すれば福利厚生費として処理されます。そのため、
- 特定の役職者のみを対象とした飲み会
- 役員のみを対象とした慰安旅行
については、税務調査で交際費に該当すると指摘されたり、給与として源泉徴収すべきと指摘されたりするので注意しましょう。
2)現場レベルで注意すべき点は
福利厚生費として処理すべき年間行事はさほど頻繁に行われるものではありませんので、行事の内容や参加者(人数)、費用の総額などを一覧にし、税務調査で指摘された際には明確な説明できるような書類を準備するようにしておきましょう。
以上(2026年5月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)
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