町中華の経済学 多品種、丼勘定は本当か?

1 丼勘定は本当か?

「安い・うまい・早い」の三拍子そろった町中華。どこの街にでもありますが、長く続く秘訣は何でしょうか? 低価格で、客数はさほど多くもなさそう。でも潰れない。

町中華探検隊として町中華を食べ歩くライターの北尾トロ氏は、町中華を「昭和以前から営業し、1000円以内で満腹になれる庶民的な中華店。単品料理主体や、ラーメンなどに特化した専門店と異なり、麺類、飯類、定食など多彩な味を提供する。カレーやカツ丼、オムライスを備える店も。大規模チェーン店と違ってマニュアルは存在せず、店主の人柄や味の傾向もはっきりあらわれる」と定義づけています(「町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう」北尾トロ、下関マグロ、竜超著、KADOKAWA、2018年9月)。

丼勘定のイメージがありますが、本当にそうでしょうか? 以降では、公認会計士・税理士で、自身も青森県八戸市でラーメン店を経営し、『会計の基本と儲け方はラーメン屋が教えてくれる』(日本実業出版社)の著書もある石動龍氏へのインタビュー内容を交え、町中華がいかにして生き残っているのか、他の飲食店や小売業などの経営者が、管理会計で押さえるべきポイントは何かを紹介します。

なお、インタビュー内容や本文内に登場する価格相場などは2022年9月当時のものとなります。あらかじめご了承ください。

2 町中華が強い3つの秘訣

1)多品種に対応できる使い回しが利く仕入れ

町中華の特徴は豊富なメニューです。しかし、原材料となる食材は実は共通の食材が多いのです。町中華によくあるメニューと食材の例を挙げました。

(図表) 【町中華のメニュー例と主な原材料】

(調味料は除く)

八宝菜 回鍋肉 青菜の塩炒め 酢豚
豚バラ肉
白菜
玉ねぎ
人参
きくらげ
たけのこ
うずらの卵
豚バラ肉
キャベツ
人参
長ネギ
豚バラ肉
チンゲンサイ
きくらげ
ニンニク
豚バラ肉
人参
ピーマン
玉ねぎ
ラーメン 麻婆豆腐 麻婆茄子 カニ玉
鶏ガラ
チャーシュー
長ネギ
豚ひき肉
豆腐
長ネギ
豚ひき肉
茄子
春雨
長ネギ

カニのほぐし身
長ネギ
きくらげの卵炒め トマトの卵炒め 餃子 春巻き
豚バラ肉

きくらげ
豚バラ肉

トマト
豚ひき肉
キャベツ
ニラ
長ネギ
ニンニク
豚ひき肉
長ネギ
春雨
たけのこ

(出所:日本情報マート作成)

こうして見ると、豚バラ肉など汎用性の高い食材が多く使われていることが分かります。仕入れや在庫管理の工夫はあるのでしょうか。冒頭で紹介した石動氏は次のように教えてくれました。

「お客さんへ魅力を感じてもらえるよう、豊富なメニューを用意するとしても、食材のロスのないよう、メニュー構成や、原材料の仕入れ、管理を工夫する必要があります。例えばレバニラ炒めにしか使わないレバーを大量に仕入れるわけにはいかないでしょう。共通の食材で、いかに幅広いメニューを用意するか。食材のロスがないように仕入れ、管理するか。品質を保ちながら冷凍保存するのも一案でしょう」

2)適正な利益を確保できる価格設定

価格帯が異なるメニューが共存できるのも町中華の強みであると、石動氏は指摘します。中華料理には、北京ダックやフカヒレスープ、つばめの巣といった高級メニューがあります。町中華でもエビチリくらいはラインアップとしてあるところも少なくないでしょう。町中華でチャーハンが750円でエビチリが1500円で販売されていても違和感はありませんよね。一方、よほどのマーケティング的な狙いがない限り、価格帯の大きく異なるメニューを並べるのは、ラーメン屋やファストフード店では難しいでしょう。1杯750円が相場のラーメン屋に、1500円のラーメンがあったら違和感を覚えますよね。つまり、

町中華は適正な利益を確保できる価格設定がしやすい業態

ともいえるわけです。

3)居心地の良さが利益を生む

町中華に行くと、おつまみを数品頼んでお酒を飲んでいるお客さんを見かけます。この点も町中華の強みであると、石動氏は自著で述べています。つまり

長居をしてもらって、原価率が低いおつまみやお酒を頼んでもらうことで利益を確保

しているのです。例えば800円の炒め物が原価率30%だとして(粗利560円)、加えておつまみとお酒を2000円分オーダーし、その原価率が10%だったとします(粗利1800円)。そうすると、客1人当たりの限界利益は2360円になります。

町中華の店主がそのように狙っているかは分かりませんが、町中華には手軽な「居酒屋」という側面もあります。ファストフード店などが努力して取り込もうとしている居酒屋需要が町中華にはあるのです。

3 ココだけは押さえたい管理会計のポイント

1)FLR比率に注目する

本当に丼勘定でやっていると、自分の店が苦戦している理由として、固定費が高いのか、原材料費が高いのかすら分からなくなります。一般的に、飲食店経営で大切な指標といえばFLRコストです。それぞれ、

  • F(Food):食材費
  • L(Labor):人件費
  • R(Rent):賃料

を指しています。店の状況によってさまざまですが、一般的に、

F比率は30%程度、FL比率は60%程度、FLR比率は70%程度

に抑えるのが理想とされています。

FLR比率=(食材費+人件費+賃料)÷売上

とはいえ、R(Rent/賃料)は、都市部と地方とで大きな差があります。都市部の好立地では、賃料は高くなりますが、それに見合う人通りもあります。ちなみに、昔ながらの商店街で数十年と続いている町中華がありますが、

「そのような店の多くは、持ち物件で営まれているのかもしれませんね。さらにもし家族経営だったとすれば、それだけで固定費の大半がカットできます。コストはほぼ食材のみとなり、あとは利益となるのです」(石動氏)

2)固定費と変動費に分ける

コストには、売上高に関係なく発生する固定費と、売上高に応じて発生する変動費があります。FLRコストに注目すると、

  • 固定費:人件費、賃料
  • 変動費:食材費

となります。これを軸に考えると、

月の売上高から食材費を引いたものを「限界利益」と呼び、この限界利益で人件費や賃料を賄えるか否か

が重要となります。これは、一般的な損益分岐点の考え方です。

3)利益構造を把握する

石動氏によると、押さえておきたいポイントは、

  • 客単価
  • 来客人数
  • コスト:固定費(主に人件費、賃料)
  • コスト:変動費(主に食材費)

です。客単価をベースとして、何人の来客数があれば、コストがどれくらいかかり、どれくらいの利益が残るのかという利益構造を把握していれば、食材費などが高騰したときも、どこに影響が出て、どこをやりくりすれば賄えるのかという打ち手がイメージできるようになります。

例えば、麺の仕入れ価格が、1玉当たり5円値上がりしたとすると、

5円×月の来客数=月の原材料コストがいくら上がるか

がすぐに分かり、ダメージの小さいうちに対処することができるのです。町中華の店主は、このあたりの計数感覚を自然と身に付けているのかもしれません。

以上のようなポイントを押さえ、管理会計を経営に活かしましょう。

以上(2022年10月)

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画像:和久 澤田-Adobe Stock

その場で迷わない! 現場で使う「カスハラ対応」マニュアル(2026年9月号)

ことし10月から、すべての会社に「カスタマーハラスメント(カスハラ)対策」が義務化されます。それを見据え、現場担当者が「その場で判断できる」ことを最優先に、本冊子ではカスハラ対策を解説します。カスハラの定義や法的整理にとどまらず、実際にカスハラが起こり得る場面・NG対応・推奨対応・エスカレーション基準を例示しています。加えて、カスハラ発生時の証拠保全やカスハラに対応するための社内マニュアルの作成方法など、会社としてのリスク管理に直結する実務も整理し、全社員への配布・教育ツールとして活用できる内容としています。


従業員・元従業員からの情報漏洩を防ぐには?

1 内部不正による情報漏えい等に注意

どれだけセキュリティ対策を強化しても後を絶たない情報漏えい。外部からのサイバー攻撃が巧妙化していることもさることながら、情報漏えいの多くは、人間の不注意や操作ミス、リテラシー不足によるものです。

そして、数は少ないとはいえ、深刻な問題となるのが、従業員・元従業員が会社の機密情報、顧客の個人情報などを法令や社内ルールに違反して持ち出す「内部不正」です。

IPA(情報処理推進機構)の「情報セキュリティ10大脅威2026」では、「内部不正による情報漏えい等」が第7位としてランクイン

しました(初選出の2016年以来、11年連続11回目)。

不正が起きるのは、米国の犯罪学者ドナルド・クレッシーが提唱した「不正のトライアングル」と呼ばれる3つの要素「動機」「機会」「正当化」がそろったときとされています。

この記事では、中小企業の経営者やマネジメント層の方に向けて、「不正のトライアングル」の3つの要素のうち、「機会」をなくし、「正当化」させないためのアプローチ方法について解説していきます。

2 不正の「機会」をなくすためのアプローチ

1)情報(データ)への「アクセス権限の管理」

最も基本的な対策は、

従業員の異動時・退職時には速やかにアクセス権限を変更・削除する

など、情報(データ)へのアクセス権限をしっかり管理することです。

とはいえ、権限のある人が、魔が差して不正を行うケースを防ぐには、それ以外の「機会(不正ができる環境、隙)」も排除していく必要があります。

2)抑止力としての「ログの記録・監視」

重要なデータへのアクセスログが記録されるようにするのはもちろん、そのログが改ざんされない状態で長期保管できるようにしましょう。

また、大量のデータアクセスなど、通常と違う動きを検知して管理者にアラートを飛ばす仕組みや、ファイルのダウンロードやコピーなどの操作ログを取得する仕組みを導入することも検討するとよいでしょう。

「不正を行ったら、後からでも必ず追跡され発覚する」という環境は、内部不正を思いとどまらせる抑止力になり得ます。

3)単独での不正を防ぐ「相互監視・牽制体制」

重要なデータの持ち出しや印刷には必ず上長や別部門の承認を必須にする「承認制」の導入や、データの「管理責任者」と「利用者」を明確に分け、同一人物が両方の権限を持たないように職務分掌を徹底することを検討しましょう。

可能であれば、定期的なジョブローテーションによって、同じ業務が特定の人物に長期間固定し不正の温床になることを防ぐとよいでしょう。

1人だけの判断で重要なデータに触れられる環境をなくすことが大切です。

4)データの「持ち出し手段の遮断」

重要なデータを外部に持ち出す手段を、物理的・技術的に遮断することを検討しましょう。例えば、USBメモリなどの外部記録媒体の接続をPC側のOSやソフトの設定で無効化することや、社内ネットワーク経由で個人のクラウドストレージやウェブメール、SNSへのアクセスを許可しないといった対策です。

USBメモリなどの外部記録媒体の接続は、物理的に挿せないようにポートを塞いでしまう方法もあり得ます。

重要なデータを持ち出そうとしたときに、簡単にはできない環境であることが求められます。

3 不正を「正当化」させないためのアプローチ

従業員・元従業員に対して秘密保持・競業避止義務を課すことにより、抑止力が働き、情報漏えいが起こった場合は当該従業員・元従業員の責任を追及できる可能性があります。

1)従業員・元従業員の秘密保持義務

労働契約の存続期間中、従業員(パートなどを含む)は秘密保持義務を負うと考えられています。秘密保持義務とは、

企業の業務上の情報を第三者に開示・漏えいしない義務

です。就業規則などで明確に定めていなくても、労働契約の付随的義務として信義則上負うものと考えられています。

また、労働契約の終了後においても、契約書や誓約書等を作成していない場合であっても、信義則上、一定の範囲で秘密を漏えいしない義務を引き続き負っていると考えられています。もっとも、情報漏えいを防止する観点からは、その秘密の性質・範囲、価値、従業員の退職前の地位などを考慮して、別途、退職時に秘密保持契約を締結するなどの手立てを講じておくことが望ましいでしょう。

2)秘密保持・競業避止義務の範囲

従業員・元従業員が秘密保持義務や競業避止義務を負う場合でも、その範囲は無制限ではありません。職業選択の自由や営業の自由を制約することはできないため、度が過ぎると公序良俗に反するものとして、無効になる場合があります。

例えば、従業員に対して「秘密情報を利用して、在職中、退職後に競合他社に就職するなどの競業行為を行ってはならない」とする競業避止義務を課す場合がありますが、このような規定の有効性については個別具体的な状況によって判断されます。

また、退職後の秘密保持義務についても、これを広く容認することは職業選択の自由を制約することになるので、義務の内容が公序良俗に反して無効となる場合があります。公序良俗に反するかは、その秘密の性質・範囲、価値、労働者の退職前の地位に照らし、合理性が認められるかどうかにより判断します。また、退職後の契約上の秘密保持義務の範囲については、その義務を課すのが合理的であるといえる内容に限定して解釈するのが相当であるとされています。

その他、就業規則に退職後の競業避止義務や秘密保持義務を規定しておくことも可能ですが、競業避止義務や秘密保持義務の内容は、個別に従業員の地位や仕事内容に合わせて設定する必要があるため、個別に誓約書や合意書などを取り付けるのが望ましいでしょう。

3)秘密情報・秘密保持義務などの定義

秘密情報の定義やその管理方法は法的に定められていません。従業員・元従業員に秘密保持義務や競業避止義務を課すためには、従業員・元従業員に秘密情報の対象を明示し、秘密情報として管理されていることが認識できる状態にしていたか否かなどが問われます。

そのため、例えば、従業員・元従業員に秘密情報の対象を示さず、全従業員が容易に秘密情報にアクセスできるような管理状態では、秘密情報だと主張して、従業員・元従業員に秘密保持義務を課すには不十分だということです。

以上から、就業規則や秘密保持に関する誓約書などにおいて、秘密情報の対象と取り扱い範囲を規定することが必要といえるでしょう。これらに違反した場合の処分規定を設けておけば、従業員・元従業員が秘密情報を不当に持ち出すことの抑止力にもなります。

秘密情報の範囲は不明瞭になりがちなので、できるだけ具体的に秘密情報を規定し、新しい情報をその都度、追加していくとよいでしょう。

なお、経済産業省のウェブサイトでは、秘密情報の管理方法や秘密保持契約(誓約書)のひな型などが公開されているため、参考にするとよいでしょう。

■経済産業省「営業秘密~営業秘密を守り活用する~」■
https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/trade-secret.html

4)従業員以外にも及ぶ営業秘密の効力

特に重要な秘密情報については、「営業秘密」として管理することが肝要です。従業員・元従業員が秘密保持義務に違反し、第三者に秘密情報を漏えいさせても、企業は当該第三者と契約関係がないため、第三者に対して債務不履行責任を問うことは基本的にできません。しかし、不正競争防止法上の「営業秘密」と認定されれば、その侵害については罰則が設けられているため、刑事・民事の両面で、当該第三者に対する法的措置が取りやすくなります。

また、情報を持ち出された企業が損害賠償を請求する場合、企業が損害の発生や損害額を立証する必要がありますが、営業秘密と認定されることで、不正競争防止法上の損害額の推定規定が適用されます。

営業秘密とは、不正競争防止法の保護・規制を受ける、次のような情報です。

秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの

営業秘密として認定されるためには、

1.秘密管理性(秘密として管理されていること)

2.有用性(有用な営業上または技術上の情報であること)

3.非公知性(公然と知られていないこと)

の3要件を満たす必要があります。この3要件を意識し、情報に接することができる従業員等にとって、秘密だと分かる程度の措置(例えば、紙や電子記録媒体へ「マル秘」「持ち出し禁止」の表示をする、秘密保持契約等によって秘密情報の対象を特定する、データへのアクセス制限をする、パスワード設定をするなど)を講じるとよいでしょう。

4 内部不正対策チェックリスト

1)不正の「機会」をなくすために

チェック項目
従業員の異動や退職時に、アクセス権限を速やかに変更・削除する手順が決まっている
業務上、本当にそのデータが必要な人だけに限定して権限を付与している
重要なデータへのアクセスログは、改ざんされない状態で長期保管できている
ファイルのダウンロード・コピーの操作ログを自動記録している
大量のデータアクセスなど、通常と違う動きがあった際に管理者に通知が飛ぶ仕組みがある
重要データの持ち出しや印刷には、上長や別部門の承認を必須にしている
データの「管理責任者」と「利用者」を分け、同一人物が両方の権限を持たないようにしている
特定の業務が1人の担当者に長期間固定化しないよう、定期的なジョブローテーションを検討または実施している
PC側の設定で、USBメモリなどの外部記録媒体の接続を無効化している(またはポートを物理的に塞いでいる)
社内ネットワークから、個人のクラウドストレージ、ウェブメール、SNSへのアクセスを禁止している

2)不正を「正当化」させないために

チェック項目
在職中の従業員(パートを含む)に対して、会社の情報を漏えいしない秘密保持義務を定めている
退職時に、別途「退職後の秘密保持契約(誓約書)」を取り付ける手続きを踏んでいる
就業規則や誓約書において、何が秘密情報の対象になるのか範囲を具体的に規定している
従業員が容易にアクセスできる状態を避け、従業員が「これは秘密情報だ」と明確に認識できる状態を作っている
秘密保持や規則に違反した場合の懲戒処分などの規定をあらかじめ設けている
重要なデータや書類に「マル秘」「持ち出し禁止」の表示をし、秘密管理性を持たせている
扱う情報が、会社の事業活動に役立つもの(有用性)であり、かつ一般には知られていない情報(非公知性)であることを意識して管理している
万が一の漏えい時に、第三者に対しても刑事・民事の法的措置(損害賠償請求など)が取りやすい体制を整えている

以上(2026年7月更新)

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画像:日本情報マート

経営のヒントとなる言葉(石ノ森章太郎)

「壁を越えるのはちょっと苦しいけれど、越えればそこには必ず新しい世界がある」(*)

出所:「絆 不肖の息子から不肖の息子たちへ」(NTT出版)

冒頭の言葉は、

「困難を乗り越える強い意志が、新しい世界をもたらす」

ということを表しています。

少年時代から漫画雑誌への投稿で注目を集めていた石ノ森氏は、高校卒業後に上京し、後に有名になる藤子不二雄(藤本弘(ふじもとひろし)氏と安孫子素雄(あびこもとお)氏の合作ペンネーム)氏、赤塚不二夫(あかつかふじお)氏など、多くの若手漫画家が住むアパート「トキワ荘」で本格的な作家生活を始めました。

当時の日本は高度経済成長期にあり、急速に経済発展を遂げていました。同時に漫画の人気は次第に高まっていき、石ノ森氏の元にも次々と仕事の依頼が舞い込むようになりました。日々漫画を描くことに追われて忙しく過ごす中で、石ノ森氏はふと「このまま漫画家として生活していっていいのだろうか」という疑問を抱くようになりました。仕事の依頼に応じて漫画を描き続ける日々を送っているうちに、石ノ森氏は「自分は漫画に引きずられているのではないか」と感じるようになり、将来に対する漠然とした不安が芽生えてきたのです。

悩み続けた石ノ森氏は、ふと思い立ち、自身を見つめ直すために世界一周旅行に出かけることにしました。当時の日本では海外旅行は自由化されておらず、個人での観光はほとんど不可能でした。しかし、石ノ森氏は出版社による取材という形で多額の借金をし、海外へ旅立ったのです。海外でさまざまな体験を経た石ノ森氏は、帰国後、借金を返済するために再び漫画を描き始めました。そのとき、自身の中に変化が起こっていることに気付きました。以前は漫画を描くだけで頭が一杯だったのに対し、旅から帰ってきた後は、自身を客観的に見ながら漫画を描けるようになっていたのです。

かつて、石ノ森氏は、自分では満足がいく作品を描いても読者からの評判が芳しくないことにいら立ちを感じていました。また、「自分は漫画家には向いていないのではないか」と思い悩み、小説家や映画監督を目指そうと考えたこともありました。

しかし、一時的に漫画から離れたことにより、石ノ森氏は改めて自分がプロの漫画家であることを自覚し、そして自分の作品を読んでくれる読者のことを意識するようになりました。それ以来、「漫画家としてこうあるべき」という固定観念を捨て去り、「面白い漫画を描こう」という前向きな気持ちを抱くようになったのです。

後に、石ノ森氏は、漫画を「無限の可能性を持つメディア」という意味の「萬画」と呼び、漫画の表現力によって無限の可能性を追求しました。石ノ森氏は、著書の中で若者に向けたメッセージとして次の言葉を残しています。

「人生で一番大切なことは、何かを成し遂げるために、自分自身を乗り越えることだ」(**)

石ノ森氏は、漫画を心から愛し、漫画に対する強い情熱を持っていたからこそ、壁を乗り越えることができました。そして、さらにさまざまな方向に枝を張り巡らせ、漫画の可能性を追求しました。

経営環境が日々めまぐるしく変化する昨今、ビジネスにおいてはさまざまな壁が存在し得ます。時として、それらを乗り越えるのは容易ではないかもしれません。しかし、その壁の向こうには、きっと素晴らしい景色があります。そして、さらに枝をあちこちに張れば、その景色はより一層広がりを持ちます。困難を乗り越える強い意志と、そこから生まれる好奇心が、経営者の目前に更なる新しい世界をもたらすのです。

【本文脚注】

本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を担保するものではありません。また、本文中では内容に即した肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思われるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。

【経歴】

石ノ森章太郎(1938~1998)。宮城県生まれ。1954年、投稿作「二級天使」が『漫画少年』に掲載される。1964年、「サイボーグ009」の連載を開始。1971年、「仮面ライダー」の連載を開始。

【参考文献】

(*)「絆 不肖の息子から不肖の息子たちへ」(NTT出版、2004年12月)
(**)「心に響く名経営者の言葉 決断力と先見力を高める」(PHP研究所、2014年8月)
「心を揺さぶる名経営者の言葉 人を動かし、時代を変えた」(PHP研究所、2014年8月)

以上(2026年8月更新)

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画像:日本情報マート

全額が損金算入できる福利厚生費。押さえておきたいルールとは?

1 福利厚生費は一石二鳥。社員は喜び、税負担も減る!

福利厚生費は、社員のモチベーション向上やコミュニケーションの円滑化のために必要な費用です。この支出には、「働きやすい会社にしたい!」という経営者の思いや、社員への感謝の気持ちが込められています。

税金計算においても、福利厚生費は全額を損金に算入できます。つまり、

福利厚生費を使えば社員が喜び、所得を減少させることもできて一石二鳥になる

のです。

ただし、経営者は福利厚生の目的で支出したつもりでも、全てが損金に算入できるわけではなく、あくまでも税法のルールにのっとって福利厚生費として認められるかが決まります。例えば、社員の昼食代を負担した場合、会社の飲み会で2次会や3次会に行った場合などはどうなのでしょうか。

この記事では、迷いやすい福利厚生費の判断基準や、シーン別の留意点を紹介していきます。

2 損金に算入できる福利厚生費とは?

福利厚生費について、税法上の明確な定義はありません。しかし、税金の計算上、福利厚生費を損金に算入するには、次の要件を全て満たす必要があります。

損金に算入できる福利厚生費の要件

1.会社の全社員(役員を含む。以下「社員等」)を対象とするものであること

2.支出する金額がおおむね一律で費用が社会通念上(常識的に)高額ではなく、通常要する費用として一般的な範囲内であること

3.原則、現金支給ではないこと

明確な金額の基準がなく、「社会通念上」や「通常要する費用として一般的な範囲内」など曖昧な面がありますが、とにかく上記の全ての要件を満たさないと、原則、福利厚生費として損金に算入できません。

なお、福利厚生費にならない費用は、支出の背景や用途などをもとに他の費用に振り分けられます。例えば、社内の特定の人だけに弁当を支給した場合や、豪華過ぎる懇親会などは、税務上の交際費として処理します。交際費の取り扱いは福利厚生費とは大きく異なり、一部しか損金に算入できません。

また、懇親会の費用などを、直接、社員等に現金で支給している場合、それは給与の一部支給となり、給与課税(源泉所得税として徴収)されます。福利厚生費と給与課税の関係については、次の記事でも紹介しています。

3 新年会や忘年会の飲み代は損金に算入できるか?

1)飲み会の費用に関する税務上の取り扱い

新年会、忘年会、歓迎会、送別会など、会社ではさまざまな飲み会が開かれます。いずれも社内の親睦を目的としたイベントですが、その費用を損金に算入するためには、前述した「損金に算入できる福利厚生費の要件」を全て満たす必要があります。

そのため、特定の社員等だけを対象にした懇親会や、残業で会社に残っている社員等を連れて飲みに行った場合(全員が残業している場合を除く)などは、社内の飲み会とはいえ、福利厚生費ではなく交際費となり、損金に算入できません。

2)2次会、3次会が実施された場合

そのときの流れで、飲み会が2次会、3次会と続くこともあります。この場合、福利厚生費として損金に算入できるかどうかの判断基準のポイントは、

前述した「損金に算入できる福利厚生費の要件」に加えて、お店の業態などの状況が会社のイベントとして社会通念上一般的であるか

です。

ただ、3次会まで行くと福利厚生費か交際費かという以前に、会社の経費として認められないケースが少なくありません。

3)参加人数が少ない場合

会社のイベントには参加したがらない社員もいます。実際、飲み会の連絡は全員にしたものの、参加した社員は少数だったということもあるでしょう。このようなケースでも、その飲み会費用は福利厚生費として損金に算入できます。

重要なのは参加人数ではなく、全員に飲み会があることを通知しているか否かにあるからです。なお、飲み会の告知は、口頭ではなくメールやチャットなど後から確認できる方法で行いましょう。

4 社員等の昼食代などを会社が負担するケース

次に、同じ飲食でも飲み会とは取り扱いが違うケースとして、社員等の昼食代(食事価額)などを会社が負担するケースを紹介します。昼食代などが損金に算入できるか否かについては、国税庁のタックスアンサーで明確な基準が示されています。

■国税庁タックスアンサー「No.2594 食事を支給したとき」■
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2594.htm

1)食事価額を損金に算入するための要件

会社が社員食堂を運営する場合や、まとめて弁当を注文して社員等の昼食代を負担する場合があります。社員等のための支出とはいえ、全額を無条件で損金に算入できるわけではありません。会社が負担した食事代を福利厚生費として損金に算入するためには、次の要件を満たす必要があります。

食事価額を損金に算入するための要件

1.社員等が食事価額(以下「食事代」)の半分以上を負担していること

2.次の算式により計算した金額が1カ月当たり7500円以下(税抜き)であること(令和8年度税制改正により、2026年4月1日以後の支給から、従来の3500円以下から引き上げられました)

食事代-役員または社員が負担している金額

なお、食事価額とは、例えば弁当支給の場合における仕出し弁当業者に支払う価額、社員食堂にて食事を提供している場合には、食事の材料費や調味料などの食事を作るために直接かかった費用の合計額になります。

例えば、1カ月当たりの食事代が5000円で社員等の負担が1000円の場合、上記の1つ目の要件(社員等が食事代の半分以上を負担していること)を満たしていません。この場合、食事代と社員等の負担の差額である4000円(5000円-1000円)は給与課税の対象となり、会社は源泉所得税を徴収しなければなりません。

2)休日出勤や深夜残業の際の食事代を負担した場合

休日出勤や残業をしている社員等に夜食を提供した場合、原則として福利厚生費として損金に算入できます。

なお、現物ではなく、夜食に代えて金銭を支給する場合には、1食あたり一定額以下であれば非課税として扱われます。この非課税限度額は、令和8年度税制改正により、2026年4月1日以後に支給する分から、従来の300円以下から650円以下に引き上げられています。

ただし、食事が豪華過ぎる場合などは、現物給与と見なされかねません。そのため、社内規定等により食事を提供する際の価額(通常の飲食としての範囲内)などをあらかじめ定めて社員等に通知しましょう。

3)社員食堂で社員等に無料で食事を提供した場合

無料の社員食堂を設置している会社があります。人材の確保やコミュニケーションの円滑化、健康経営の実践などが目的ですが、前述した「食事価額を損金に算入するための要件」を満たしていなければ給与課税されます。

そのため、「無料」をうたっている場合でも、実際は給与課税されているケースがあります。それでも会社と社員等の双方が望むのであれば、給与課税されるとしても、会社の経費(追加の給与)として検討する価値があるでしょう。

5 社員等の冠婚葬祭時に慶弔金を支給した場合

1)慶弔金に関する基本的な税務上の取り扱い

結婚祝い、出産祝い、香典、病気見舞いなど、社員等の冠婚葬祭時に会社が慶弔金を出す場合があります。あらかじめ「慶弔見舞金規程」に定められた慶弔金は現金支給であっても、福利厚生費として損金の額に算入することができます。

注意点は以下の通りです。

  • 社員等の間で不公平がないこと
  • 支給額は「慶弔見舞金規程」の範囲内で、役位別または勤続年数別、支給する親族の範囲別などにより世間相場からかけ離れていないこと

2)領収書等がない場合

慶弔金の支給については領収書がないケースが多いと思います。実務上、領収書がなくても支払いの事実が分かるメモ書きなどがあれば問題ありませんが、慶弔に関する案内状など、支給の事実が分かるものと一緒に保存しておくのが無難です。

以上(2026年8月更新)

(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:pixabay

知っていますか? 社会保険の未加入などを指摘する年金事務所の「社会保険調査」

1 パート等が多い会社は要注意? 社会保険調査が入るかも

年金事務所の「社会保険調査」なるものをご存じでしょうか? これは、

年金事務所が、会社の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の手続きに誤りや不正がないかをチェックする調査

で、主に次の2点を確認されます(社会保険に加入している場合)。

1.資格得喪関係(社会保険に加入すべき社員を、適正に加入させているか)

2.報酬関係(賃金や賞与に係る社会保険料を、適正に算定・届け出をしているか)

パート等(短時間労働者)を多く雇用する会社などが調査の対象になりやすいのが特徴で、罰則もあります。2026年10月からは「社会保険の適用拡大」により、

いわゆる「106万円の壁」が撤廃され、社会保険に加入するパート等の対象範囲が広がる

ことになります。

この記事では、社会保険調査の対象になる会社やチェックされる書類などを紹介するので、事前準備にお役立てください。

なお、社会保険調査には、

  • 総合調査(年金事務所が都度、時期を決め、資格得喪関係、報酬関係を総合的に調査)
  • 定時決定時調査(定時決定の手続きを行う6~7月ごろに、算定基礎届を中心に調査)

などがありますが、現在実施されているものは、基本的に全て「総合調査」です。次章以降に出てくる「社会保険調査」というワードも、特に断りがなければ年金事務所が実施する総合調査のことを指します。健康保険組合に加入している場合、健保組合独自の調査を受ける可能性もあるかと思いますが、健保組合によって内容や対応方法が異なりますので、本リポートでは触れません。

2 社会保険調査の流れは?

社会保険調査の流れは次の通りです。

社会保険調査の流れ

まず、年金事務所から「社会保険調査のご案内」などの名目で通知(書面)が届きます。通知が届くのは、年金事務所が「調査が必要」と判断したタイミングで、具体的には次のようなケースがあります。

  • 年金事務所が社員(被保険者)から通報を受けたとき
  • 社会保険関連の法改正があるとき
  • 前回の社会保険調査から一定の期間が経過したとき(数年に一度など)

一般的に、総合調査は3~5年の頻度で実施されると言われています。ただ、これには地域差があり、地方で法人数が少ない地域ではもっと短いスパンで実施される場合もあります。

一方で大都市圏のような膨大な法人数がある地域では、10年以上総合調査を受けていないというケースも少なくありません。

通知が届いたら、会社は通知に記載された書類を、郵送または対面で年金事務所に提出します。年金事務所が提出書類をチェックし、問題がない場合は調査終了、問題がある場合は年金事務所の指示に従い、問題点を是正すれば終了となります。

社会保険調査の通知を無視したり、是正の指示に従わなかったりすることは許されず、

悪質な場合、罰則(6カ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)を受ける

こともあります。

3 社会保険調査の最近の動向は?

年金事務所を統括する日本年金機構によると、

  • 調査事業所数(社会保険調査が行われた事業所の数、今回は総合調査を対象とする)
  • 指摘事業所数(社会保険調査により、指摘を受けた事業所の数)

の推移は次の通りです。

調査事業所数と指摘事業所数

調査事業所数は、2021年度(24万2793事業所)から2025年度(11万543事業所)にかけて54.5%減っているのに対し、指摘事業所数は、2021年度(9万5922事業所)から2025年度(8万8237事業所)にかけて8.0%しか減っていないので、

社会保険調査で指摘を受ける確率は、相対的に上がっている

といえます。

4 社会保険調査が入りやすい会社は?

日本年金機構は、2025年度に社会保険調査が実施された11万543事業所のうち、調査の優先度が高かった事業所として、次の10万3330事業所を挙げています。

社会保険調査の優先度が高かった事業所(2025年度)

赤字の項目は、対調査事業所数(%)が10%を超えているものです。「雇用保険には加入しているが、社会保険には加入していない社員がいる」「社会保険の適用拡大の対象になる社員がいる」「一定期間、社会保険調査が実施されていない」「定時決定に必要な算定基礎届を提出していない」といった場合、社会保険調査が入りやすく、さらに、そこで指摘を受けると、以降も社会保険調査の対象になる可能性が高まります。

5 どのような書類をチェックされるのか?

社会保険調査で年金事務所から提出を求められるのは、次のような書類です。

1.原則として必ず提出する書類(注):賃金台帳、出勤簿、源泉所得税領収書

2.必要に応じて提出する書類:就業規則、雇用契約書

(注)年金事務所によって異なりますが、過去2年分程度の提出を求められるケースが多いです。

例えば、賃金台帳には、社員の「賃金計算期間」「労働日数」「労働時間数」「賃金額」「支給項目」「控除項目」などが記載されています。仮に、

  • 社員が被保険者要件を満たすのに、社会保険に加入していない
  • 日本年金機構に届けている標準報酬月額と実際の給与額とに差が生じている(いわゆる月額変更の届け出忘れなど)
  • 月例給与の中に賞与に該当する支給があったにもかかわらず、届け出ていない

といった問題が見つかると、年金事務所から是正を指示されます。例えば、社員が被保険者要件を満たすのに、社会保険に加入していなかった場合、

  • 速やかに資格取得手続きを行う(被保険者資格取得届の提出)
  • 社員が被保険者要件を満たすようになった時期まで遡って、未払いの社会保険料を納付する(最大で過去2年分)
  • 未払いの社会保険料のうち、社員負担分を社員から徴収する(賃金から控除する場合、原則として社員の同意が必要)

などの手続きをします。

是正が完了しても、その旨を年金事務所に報告する必要はありません。社員の資格得喪や、社会保険料の納付が適正に行われれば、年金事務所内で把握できるからです。また、資格得喪の手続き漏れや社会保険料の未払いには、本来「6カ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」という罰則がありますが、これは悪質なケースの場合であり、実際は、

年金事務所の指示通りに速やかに手続きを行えば、罰則を受けずに済むケースが多い

ようです。

6 これで安心。事前に確認したい10項目

最後に、社会保険調査に備えて事前に確認したい10項目を紹介します。特に5.と10.は要注意です。

事前に確認したい10項目

5.については、取り急ぎ2026年10月からの「社会保険の適用拡大」で、被保険者要件を満たすようになるパート等がいないか確認しましょう。そして、該当者がいる場合は速やかに資格取得手続きを行います。

パート等の被保険者要件

10.は、本来、賞与として支給すべき金銭が、「○○手当」などとして月例賃金に組み込まれているケースの指摘です。法令上、

労働の対償として支給する金銭のうち、支給期間が3カ月を超えるものは全て「賞与」

に当たり、該当する場合、

「賞与」以外の名目で支給していたとしても、「賞与支払届」を年金事務所に提出して、社会保険料(賞与保険料)を納付

しなければなりません。たとえ社員1人にしか支給していなかったとしても、それが賞与に該当する場合、賞与支払届の提出が必要です。自社の就業規則(賃金規程など)をいま一度見直して、該当するものがないかチェックしておきましょう。

5.と10.以外は、資格得喪や定時決定などの決まった手続きを適正に行っていれば、基本的に問題ありません。手続きに不安がある場合は、日本年金機構のウェブサイトなどで確認しておきましょう。また、社会保険のうち健康保険の保険料率は定期的に改定されるので、こちらも保険者(全国健康保険協会など)のウェブサイトなどで確認するとよいでしょう。

■日本年金機構「健康保険・厚生年金保険の保険料関係」■
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/index.html
■全国健康保険協会「保険料率」■
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g7/cat330/

以上(2026年9月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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【かんたん法人税(1)】会計と税務の違いを理解しよう

1 経営者にとって最も身近な「法人税」

法人税は中期経営計画と関係性が深く、いわゆる「決算対策」の対象にもなります。そこで、このシリーズで、経営者が押さえておきたい法人税のポイントをまとめていきます。

この回では、法人税の課税対象や計算に関する全体像などをご説明します。経営者が特に押さえておきたいのは、

  • 会計:収益-費用=利益
  • 税務:益金-損金=所得

の違いです。決算対策で自社に有利な取り組みをするのも、税務調査で指摘を受けるのも、基本的にはこの違いから生じますので、しっかりと確認していきましょう。

2 法人税の概要

1)納税義務者は法人

法人税の納税義務者(税金を納める義務がある者)は「法人」です。法人には株式会社や合同会社の他、一般社団法人や医療法人など多くの形態があります。

法人税法上では、これらの法人を、

  • 内国法人:国内に本店または主たる事務所等を有する法人
  • 外国法人:内国法人以外の法人

の2つに区分しています。一般的な法人の多くは「内国法人」の、「1.普通法人」に該当します。

法人税法上における法人

2)課税対象は所得

法人税の課税対象は、

事業活動を通じて得た「所得の金額」

です。「所得」は会計上の「利益」に近い概念ですが、会社法と法人税法という法律の違いにより、

  • 会計上は収益となるが、法人税法上は収益とならないもの
  • 会計上は費用となるが、法人税法上は費用とならないもの

などが存在するため、必ずしも「利益=所得」とはなりません。この点の詳細は後述します。

3)税率は原則として23.2%

法人税の税率は、

原則として23.2%

です。ただし、中小法人の場合、

所得が年800万円以下の部分は15.0%(一定以上の所得金額がある場合には、17%または19%)に軽減

されます。例えば、所得が1000万円の中小法人(適用除外事業者には該当しない)の場合、800万円までは15.0%が適用され、800万円を超える部分(1000万円-800万円=200万円)には23.2%が適用されます。

なお、適用除外事業者とは、前3事業年度の平均所得金額が15億円超の中小企業者のことです。また、所得金額が年10億円超の中小法人については、所得のうち800万円以下の部分に適用される軽減税率が、17.0%となっています。

法人税の税率

4)申告期限

1.確定申告

法人税は、

原則として、事業年度終了の日の翌日から2カ月以内に確定申告をして法人税を納付

します。ただし、災害その他やむを得ない事情がある場合などは上記申告期限を延長することも可能です。

2.中間申告

事業年度が6カ月を超える法人は、事業年度開始の日以後6カ月を経過した日から2カ月以内に中間申告書を提出して中間法人税を納付します。一般的な1年決算法人の場合、前事業年度の法人税の12分の6相当額を中間法人税として納付するのが基本です。

3 「利益」と「所得」の違いと税務調整

1)「利益」と「所得」の違い

会計上の利益は「収益-費用=利益」として計算されますが、法人税法上の所得は「益金-損金=所得」として計算されます。益金は収益、損金は費用に近い概念ですが、会社法と法人税法という法律の違いにより、

会計上は収益(費用)となるが、法人税法上は益金(損金)とならないものがあるなど、両者は必ずしも一致しない

ことになります。

益金の場合、会計上の収益に「会計上は収益とならない(していない)が、法人税法上は益金となるもの」を加算し、「会計上は収益となるが、法人税法上は益金とならないもの」を減算することによって、法人税法上の益金が計算されることになり、損金についても同様です。この加減算調整のことを「税務調整」といいます。これを図解すると次の通りとなります。

「利益」と「所得」の違い

2)税務調整の種類

税務調整項目として代表的なものは次の通りです。

1.益金算入項目:会計上は収益ではない、税務上は益金

  • 会計上と法人税法上の認識基準(どのタイミングで売上に計上するか)の違いによる売上の計上漏れなど

2.益金不算入項目:会計上は収益、税務上は益金ではない

  • 受取配当金(種類によって受取配当金の全額が益金にならないケースと、一部が益金にならないケースがある)
  • 法人税や住民税などの還付金
  • 資産の評価益(民事再生法の適用など税務上の所定の要件を満たす場合には益金となるケースもある)

3.損金算入項目:会計上は費用ではない、税務上は損金

  • 会計上と法人税法上の計上基準の違いによる売上原価の計上漏れ

4.損金不算入項目:会計上は費用、税務上は損金とならない

  • 法人税や住民税の本税
  • 延滞税や加算税などの附帯税
  • 賞与引当金や退職給付引当金の繰入額
  • 役員賞与
  • 減価償却超過額(税務上認められる限度額を超えて費用計上したもの)
  • 資産の評価損(災害や陳腐化など税務上の所定の要件を満たす場合には、損金となるケースもある)

4 法人税の具体的な計算過程と実務

1)所得金額の算定

収益と益金、費用と損金に違いがあるため、利益と所得は必ずしも一致しません。そこで税務調整が必要となりますが、実際の確定申告書を作成する上では、益金と損金について別々に税務調整を行うのではなく、「会計上の利益をスタート」として、この会計上の利益に直接所定の税務調整を行うことによって所得金額を算出します。

図表4において会計上のP/Lと税務上のP/Lの違いをイメージした上で、実際の確定申告書を作成すると図表5のようになります。

会計上のP/Lと税務上のP/L

確定申告書のイメージ

2)法人税額(特別控除等考慮前)の計算

法人税額(特別控除等考慮前)は、上で計算した税務上の所得金額(課税所得金額)に法人税率を乗じて求めます。

法人税額(特別控除等考慮前)

3)法人税額(特別控除等考慮後)の計算

法人税法においては、従業員の賃上げを行ったり、試験研究費の支出をしている法人に対しては、計算した法人税を減額する制度(税額控除制度)などがあったりします。また、法人税額の他、一定の同族会社に対して所定の追加税額を課する制度(特別税額制度)などがあります。

従って、上記2)で計算した法人税額に、税額控除制度や特別税額制度によって計算した金額を加減算して1事業年度の法人税の総額を求めます。

法人税額(特別控除等考慮後)の計算

4)納付すべき法人税額の計算

上記3)で計算した法人税額は1事業年度の法人税の総額ですので、最後にその事業年度中に納付した中間納付額を控除することで「確定申告により納付すべき法人税額」が計算されます。

納付すべき法人税額の計算

5)実務上の留意点

法人税の課税対象となる所得の金額は「会計上の利益」をスタートにして所定の税務調整を加減算して計算されます。従って、まずは期中における会計処理を正確に行い、正しい「会計上の利益」を計算することが大前提となります。

また、税務調整を行う上で必要な資料の保存には注意しましょう。「税金計算用ファイル」をあらかじめ用意しておくなど、税金計算作業にスムーズに入れるように普段から準備しておくことが重要です。確定申告時期に慌てて収集しようとしても資料が見つからなかったり、あるいは収集漏れが見つかったりすることがあります。その場合、本来は受けられる税額控除などが受けられない可能性もあります。

なお、この記事で紹介した税務調整項目はほんの一部であり、実務上は多岐にわたります。不明点などがある場合には、税理士と綿密にコミュニケーションを取って作業を進めることなども非常に有用です。

以上(2026年8月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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上司の「評価バイアス」が人事評価の妨げに。古くて新しい問題にどう対処する?

1 評価者バイアスは「昔からある問題」だけど……

人事評価における「評価バイアス」は、昔から知られてきた課題です。例えば「上司の評価が甘くなりすぎる」「無難な中間に寄せてしまう」「直近の出来事に引っ張られる」など、こうした偏りは、今も昔も多くの職場で起きています。

ただし、問題の中身は少し変わってきました。オンライン化や働き方の多様化、そして上司自身の余裕のなさ。評価バイアスは、昔と同じ理由だけでは説明できないほど強まっています。本記事では、バイアスが強まる「いまどきの理由」を3つ挙げ、それぞれについて上司が明日からできる行動を紹介します。最後に、この問題を放置できない理由にも触れます。

2 評価者バイアスの典型例は?

評価者バイアスとは、評価する上司の心理的なクセや思い込みが、部下の実際の成果や行動よりも強く評価に影響してしまう現象です。

典型例としては、全体的に甘い点をつけてしまう「寛大化傾向」、極端な評価を避けて全員を中間に寄せる「中心化傾向」、評価直前の出来事だけが強く印象に残る「直近バイアス」などが挙げられます。

代表的な評価バイアス

こうした偏りは、評価制度の欠陥というより、評価する人間の認知の限界として昔から指摘されてきました。産業心理学の分野では、寛大化や、ある一面の印象が評価全体に波及する「ハロー効果」などの評価エラーが、20世紀を通じて研究されてきています。

評価バイアスは特別な失敗ではなく、誰にでも起こる人間のクセです。だからこそ、個人の注意力に頼るのではなく、仕組みと行動の両方で対処する必要があります。以降では、バイアスが強まる「いまどきの理由」と、明日からできる行動を順に見ていきます。

3 いまどきの理由1:判断材料が複雑になった

評価が難しくなっている理由の一つは、判断材料が複雑になったことです。オンライン会議やチャット、非同期のやり取りが増えると、上司は部下の仕事ぶりを断片的にしか見られなくなります。すると、チャットの発言量や会議での目立ち方が評価に影響しやすくなり、黙々と成果を出す社員を見落とすリスクが高まります。

ここで役立つのが、厚生労働省の「職業能力評価基準」です。仕事に必要な知識・技術と、成果につながる具体的な行動例を、職種別・レベル別に整理した公的資料で、こうした「見えにくい成果」を言葉にして評価に反映させる手がかりになります。

明日からできる行動としては、評価前に部下ごとに「印象→具体行動→成果」の3段階で書き出し、自分の印象を客観的な事実で裏付けられるか確認する方法が有効です。さらに、週1回でも短い評価メモを残しておけば、直近の印象に引っ張られにくくなります。

【社労士の実務メモ】

社労士として相談を受ける中で感じるのは、オンライン化が進んだ職場で「部下の仕事ぶりが見えない」と悩む会社ほど、日々の記録が残っていないことです。働く場所や働き方が多様になっても、会社には労働時間や業務内容を適切に把握・管理する責任が残ります。評価メモは、バイアス対策であると同時に、労務管理や後述する評価トラブルの予防にも役立つ一石二鳥の記録です。後から人事評価の資料として使うことを想定し、「いつ・何を・どう行ったか」という事実を中心に書き、感情的な表現は避けてください。

4 いまどきの理由2:上司自身に余裕がなくなっている

今の評価バイアスを強めている背景には、上司自身の余裕のなさがあります。管理職はプレイヤー業務も抱えやすく、部下管理や時間管理の負担も増えています。その結果、じっくり比較検討する時間が取りにくくなり、思い出しやすい出来事や目立つ行動に判断が寄りやすくなっています。

これは、2章で挙げた「直近バイアス」がさらに強まるほか、目立つ行動を過大に評価してしまう「顕著性バイアス」、そのときの感情が採点に混ざる「感情バイアス」といった形で現れます。評価制度の問題というより、考える余裕の不足が招く評価の偏りといえます。

対処はシンプルです。評価メモを続けること、評価直前に評価期間全体を均等に振り返るチェックリストを使うこと、忙しいときほど即断しないルールを決めること。この3つだけでも、評価のぶれはかなり抑えられます。

【社労士の実務メモ】

上司の「余裕のなさ」は、本人の頑張りの問題ではなく、会社の労務管理の問題でもあります。見落とされがちですが、会社は「管理監督者を含む全ての労働者」について、労働時間の状況を把握する義務を負っています。プレイングマネジャーの長時間労働を放置すれば、評価の質が下がるだけでなく、健康障害が生じた際に安全配慮義務違反を問われかねません。実務としては、評価作業を「空き時間にやる仕事」にせず、評価期間中に評価のための時間を業務として確保することをおすすめします。評価者に余裕を持たせる体制づくりは、評価の精度と管理職の健康、その両方を守る施策です。

5 いまどきの理由3:評価基準が言語化されていない

もう一つ見落とされがちなのが、評価基準の言語化不足です。何をもって高評価とするのかが曖昧だと、上司ごとの「自分基準」が前面に出てしまいます。結果として、同じ成果でも上司によって評価がばらつき、部下は「何を頑張ればいいのか」が分からなくなります。

明日からできる行動としては、評価前に「成果・行動・再現性」の3軸で自分の評価基準を書き出し、部下に事前共有することです。さらに、同じ部門の上司同士で5分だけでも評価のすり合わせを行うと、基準の属人化をかなり防げます。

【社労士の実務メモ】

評価そのものには会社の広い裁量が認められますが、評価結果を降給・降格に反映させる場合は別問題です。実務でよくあるのが、就業規則に降給・降格の根拠規定がないまま賃金を引き下げてしまうケースで、労働条件の不利益変更として無効と判断されるリスクがあります(労働契約法上、不利益変更には原則として本人の合意が必要です。同法第8条・第9条参照)。また、基準が不明確なまま特定の社員だけを低く評価すると、「人事権の濫用」と判断されるおそれもあります。評価基準の明文化と評価記録の保存は、バイアス対策であると同時に、法的リスクへの備えです。評価と賃金の連動が就業規則に明記されているか、いま一度確認してください。

6 評価ミスが離職に直結する時代になった

ここまで、評価バイアスが強まる3つの理由を見てきました。最後に、なぜ今すぐ対処すべきなのかを押さえておきましょう。答えは、評価ミスの代償が大きくなったからです。

転職市場が活発な今、不公平な評価を受けたと感じた社員は、我慢するより先に転職を考えます。評価への不満は、単なるモヤモヤではなく、離職につながる現実的な問題になっているのです。

明日からできる行動としては、1on1や評価面談を通して「次にどうすれば評価が上がるか」を具体的に共有することです。制度の説明を尽くすより、次の行動が明確になるほうが、不公平感は大きく下がります。

【社労士の実務メモ】

評価への不満は、退職だけでなく労務トラブルにも発展します。社労士として紛争対応の場面で痛感するのは、「不当な低評価だ」「評価を口実にした嫌がらせだ」といった主張に対し、会社側が評価の根拠を説明できないと非常に不利になることです。日々の評価メモと面談記録は、評価の合理性を示す説明材料そのものです。記録は評価が確定してもすぐに破棄せず、少なくとも次の評価期間が終わるまでは保存しておいてください。

7 評価前チェックシート:評価をつける前に25項目を確認する

ここまで紹介した対策を、評価をつける直前に一枚で点検できるようにまとめたのが、次のチェックシートです。部下一人あたり5分もかかりません。すべてに✔がつく必要はなく、✔がつかなかった項目こそ、バイアスが入り込んでいるサインです。その項目だけ記録や事実に立ち返ってから、評価を確定してください。

評価前チェックシート(25項目)

8 評価を変える最初の一歩

評価バイアスは昔からある問題ですが、いまの働き方の中でむしろ強く出やすくなっています。だからこそ、個人の注意力だけに頼らず、評価メモ、基準の言語化、面談でのフィードバック、上司同士のすり合わせを組み合わせることが重要です。評価の精度は、上司の「勘」ではなく、日々の記録と基準の共有で上げていく時代です。

以上(2026年9月作成)
(執筆 社会保険労務士 三原明日香)

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【規程・文例集】カスハラ対策にもなる「苦情対応マニュアル」のひな型

1 重要なのは、苦情対応の方針を共有しておくこと

会社が商品・サービスを提供する上で、お客様からの不平・不満(以下「苦情」)は避けられないものですが、苦情の内容は様々であり、その対応に絶対の正解はありません。とはいえ、

臨機応変な対応は大切ですが、まずは会社としての対応方針や対応例を定めておく

ことが望ましいです。そこで必要になるのが「苦情対応マニュアル」です。

昨今は、暴力、暴言、土下座の要求など、いわゆる「カスハラ(カスタマーハラスメント、お客様による著しい迷惑行為)」が問題になっています。直近では、

カスハラの定義が明確化され、防止措置についても実施が義務化(2026年10月1日施行)

されることになりました。苦情はお客様からの貴重な意見であり、尊重すべきものですが、

カスハラは決して許容せず、会社として毅然とした対応をし、従業員を守る姿勢を示す

ことも必要です。

カスハラに対する姿勢も含め、会社としての苦情対応の方針をマニュアルに示しておくことは、苦情対応に当たる従業員にとって安心材料になります。

2 苦情対応マニュアルのひな型

以下で紹介するひな型は、苦情対応に関する一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業の業務内容や形態、対応方針などによって定めるべき内容は異なってきます。実際にこうした規程を作成する際には、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【苦情対応マニュアルのひな型】

第1章(はじめに)

第1条(目的)

本マニュアルは、当社が提供する商品・サービスなどへの苦情に対する対応手順および留意点について定め、苦情への適切な対応および円滑かつ円満な解決を図ることを目的とする。

第2条(定義)

1)苦情とは、当社が提供する商品・サービスやそれらの提供に伴う諸活動などに対してお客様から寄せられる不平・不満の表明のことをいう。

2)カスタマーハラスメントとは、1)の苦情のうち、次のいずれかに該当する言動であって、従業員の就業環境を害するものをいう。

  1. 要求の内容が妥当性を欠く言動(当社が提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない要求、当社が提供する商品・サービスの内容とは無関係の要求など)
  2. 要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動(暴力、脅迫、誹謗中傷、暴言、土下座の要求、セクシュアルハラスメントなど)

第3条(苦情対応の基本方針)

1)苦情は、お客様からの貴重な意見であり、前向きに捉え、尊重する。

2)苦情を受領した際には、公正・真摯な態度で、丁寧に話を聞く。

3)苦情がカスタマーハラスメントに当たる場合には、毅然とした態度で対応する。当社は、カスタマーハラスメントを許容せず、従業員の安全確保および心身の健康への配慮のため、次の通り対応する。

  1. カスタマーハラスメントの発生時には、対応した従業員の安全確保および心身の健康への配慮を最優先に行動する。
  2. カスタマーハラスメントへの対応を現場任せにすることなく、会社全体の問題として組織的に対応する。責任者は、カスタマーハラスメントの報告を受けた場合、対応した従業員を一人にせず、必要に応じてその従業員を一時的に顧客対応業務から外すなどの措置を講じる。
  3. 当社は、対応した従業員にメンタル不調の兆候がある場合、産業医やカウンセラーとの面談機会を提供するなど、精神的ケアのための支援を行う。
  4. 従業員の身体に危害が加えられる、またはその危険性が高いと判断される場合には、躊躇なく警察に通報する。

4)プライバシーや人権の尊重に努め、知り得た情報(個人情報等)の管理を徹底する。

第2章(苦情対応の手順)

苦情対応は次の手順で行う。

苦情対応の手順

第3章(担当者等の職務)

苦情の受付を担当する従業員(以下「担当者」)、苦情解決に責任を有する従業員(以下「責任者」)をあらかじめ定め、担当者以外の従業員に苦情があった場合には、速やかに担当者に引き継ぐ。担当者・責任者が行う職務は、次のとおりとする。

1)苦情の受理

  1. 苦情受理時、担当者は、お客様の話を十分に聞き、苦情内容とお客様の要求の把握に努める。その際、お客様の話を否定するような発言はしない。
  2. 担当者は、お客様に不愉快な思いをさせたこと、手間を取らせたことについて謝罪する。ただし、問題の発生原因など、責任の所在が不明なことについては、不用意に謝罪することは避ける。
  3. 担当者は、お客様のプライバシーや名誉に配慮し、別室で話を聞くことができる。その際は、責任者などを交え、必ず複数名で話を聞くこととする。また、必要に応じてお客様との会話を録音する。
  4. 担当者は、苦情の内容を責任者に報告する。
  5. 苦情の申出が、電子メールや手紙など、直接の対話を伴わない手段で行われた場合には、担当者は受理した旨をお客様に通知し、責任者に報告する。
  6. 担当者は、苦情の受理に当たってカスタマーハラスメントやそれに類似する言動があった場合、本章第6項の「苦情対応の中断および終了」に従う。

2)苦情内容の評価・調査

  1. 責任者は、受理した苦情について、妥当性、重大性、複雑性、即時処置の必要性などの点から評価する。
  2. 責任者は、必要に応じて担当者などに事情聴取を行い、苦情の内容、原因およびお客様の状況などの客観的な事実の調査を行う。

3)苦情対応方法の検討

  1. 責任者は、必要に応じて担当者などを交え、適切な苦情対応方法(解決策)の検討を行う。
  2. 当社のみで対応することが困難な場合には、関係機関や専門家などへ苦情内容を報告し、協力を求めることができる。
  3. 検討や対応に時間がかかる場合には、お客様に回答期日の目安を伝える。

4)苦情対応の実施

  1. 担当者または責任者は、検討された苦情対応方法をお客様に提案する。
  2. 上記対応でお客様の了承を得られれば、迅速かつ確実にその対応を行う。お客様の了承を得られない場合には、必要に応じてお客様と話し合いながら、再度対応方法の検討を行う。
  3. 問題の発生原因などに関するお客様への報告は、文書を用いて行う。

5)苦情情報の記録

  1. 担当者は、苦情の内容、対応経過などを別途定める「苦情対応報告書」にまとめ、責任者に提出する。
  2. 責任者は、苦情対応報告書を受領し、保管する。
  3. 責任者は、苦情対応についてお客様に改善を約束した事項がある場合には、その実施状況について記録するとともに、必要に応じて当社の商品・サービスなどにも反映し、再発防止に努める。

6)苦情対応の中断および終了

  1. 担当者は、お客様の言動がカスタマーハラスメントに該当すると判断し、中止を求めたにもかかわらず、改善がなされない場合には、お客様にその旨を伝えた上で、対応を中断または終了することができる。
  2. 対応を終了した後もお客様が退去しない場合、または電話を繰り返し行う場合には、速やかに責任者に報告し、警察への通報を含めた対応を検討する。

第4章(マニュアルの見直し)

本マニュアルは、当社への苦情の状況や社会の情勢などに応じ、定期的に見直しを行う。

■苦情対応報告書■

苦情対応報告書

以上(2026年9月更新)

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画像:ESB Professional-shutterstock

【朝礼】感謝も不満も心の持ち方次第で決まる

【ポイント】

  • 最近、「ありがとう」や「すみません」を言うハードルがますます高くなっている
  • 心の持ちようによって、どのようなことにも感謝することができる
  • 相手の態度に惑わされて、これらの言葉を伝えるハードルを上げてはいけない

最近、「ありがとうございます!」を聞く機会が減ってきたように感じます。私が、何かのきっかけになればと人を紹介したり、新たなサービスを付加してあげたりした際、相手は感謝こそするものの、「ありがとうございます!」と分かりやすい言葉で伝えてくることがあまりありません。

「すみません」という言葉についても同じです。先日、取引先が納期ギリギリで、しかも完成度の低い仕事をしたため、当社がフォローをしなければなりませんでした。にもかかわらず、その取引先が「申し訳ございませんでした」と潔く謝罪することはありませんでした。

私は幼い頃から、「『ありがとう』と『すみません』は人間の基本である」と教えられてきたので、なおさら今のような状況には違和感を覚えます。また、相手が「ありがとう」や「すみません」を言ってくれないことへの不満が募ると、こちらも「ありがとう」などと言うのをやめようという、ちょっと意地悪な気持ちになってしまいます。そうなると、「ありがとう」や「すみません」を言うハードルがますます高くなっていき、何となくギスギスとした関係になってしまうのです。

ですが、先日、ある人が私にこんな言葉をかけてくれました。その言葉とは、「どのようなことでも、心の持ちようで捉え方は変わるものである。義理を欠いた言動があったとしても、それはあなたに『これをしてはいけないよ』と教えてくれているのだと考えれば、相手に感謝することができる。そして、心の中で『ありがとう』と言えばよい」というものでした。

心の持ちようによって、どのようなことにも感謝することができます。たとえ相手の態度が礼を欠くものだったとしても、そこから学ぶことができるのです。私たちは、意識して気持ちをフラットにしていないと、自分の固定観念によって、偏ったものの見方しかできなくなってしまいます。

皆さん、相手に何かをしてもらったら気持ちよく「ありがとうございます!」、こちらがミスをしてしまったら潔く「申し訳ございませんでした」と伝えてください。相手の態度に惑わされて、これらの言葉を伝えるハードルを上げてはいけません。

以上(2026年8月更新)

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画像:Mariko Mitsuda