【損益の見える化】グラフを使った月次経営管理の基本的な流れ

1 損益が劇的に把握しやすくなる「グラフ化」

数字が羅列された表だと見落としてしまうことも、グラフだと発見しやすくなります。日々の経営では、月次試算表に基づく経営成績のチェックが不可欠ですが、実際に次のような月次試算表が手元に届いたとしましょう。この会社は12月決算で、13期7月(以下「最新月」)時点の月次試算表になります。

月次試算表(13期7月時点) align=

経営者は次の視点から検討することでしょう。

  • 最新月の売上高の確認
  • 最新月の売上高の、対前期や対前月での増減額および増減率の確認
  • 最新月は黒字か、赤字か、またその額の確認
  • 最新月の原価率(または売上総利益率)の確認
  • 人件費の額、構成比の確認
  • 個々の会社において、特に注意を要すべき費目(例えば、広告宣伝費など)の額の確認

また、累計月次試算表に基づいて、期首からの累計値で同様の検討を行い、異常な増減などがあれば、その原因を把握し、必要に応じて対策を検討・実施します。これで最新月の検討が終わり、翌月の月次試算表が届いたら、対策の効果などに目を配りつつ、再度同様のことを行う、この繰り返しではないでしょうか。

2 月次損益を把握する流れ

ここでは、月次の経営管理に活用する基本的なグラフについて見ていきます。

月次損益の推移(単月)

図表2の月次損益の推移のグラフから、売上高、売上総利益、利益の月別状況が分かります。ただし、年度ごとの状況が分かりにくいので、年次累計グラフが必要です。

月次損益の推移(年次累計)

図表3は図表2を年次累計(12カ月サイクル)グラフにしたものです。年度を通じて、黒字なのか、赤字なのか、また、その幅(金額)など年度の状況を確認できます。ただし、対前期同月比の推移が分かりにくいので、対前期同月比グラフが必要です。

対前期同月比の推移

図表4は図表3を対前期同月比グラフにしたものです。設例では11期からのデータを使用しているため、図表4はその翌期である12期からのグラフになっています。

対前期同月比グラフにして、増減金額のみをグラフ化すると、増減トレンドがはっきりと分かります。このグラフが一方的にマイナスサイドに伸びている場合は、減収減益トレンドが止まらないことを表し、一方的にプラスサイドにグラフが伸びている場合は、増収増益トレンドが継続していることを表します。また、売上高と利益のグラフ方向が逆に伸びる場合がありますが、これは増収減益、減収増益といった状況を示します。損益の増減を、部門別(店舗別)に分解してみると、より多くのことが分かります(図表5)。

対前期同月比(店舗別)

図表5は図表4の最新月(13期7月)を、部門別(店舗別)グラフにしたものです。ここでは、部門を店舗として設定していますが、実際には、事業部門、顧客、地域など自社の実情に応じて部門を設定することになります。

なお、この図表5の場合、L店が相対的に減収減益幅が大きいため、次は、L店の時系列グラフ(図表2~4)を作成し、この減収減益が一時的なものなのか、トレンドとして続いているのかを検討していくことになります。

以上(2026年7月更新)
(監修 公認会計士 益子宣夫)

pj35089
画像:Logmotion-Adobe Stock

「従業員定着・採用力強化セミナー」開催レポート 

2026年5月27日、きらやか銀行は、

「従業員定着・採用力強化セミナー」を開催

しました!

画像1

本セミナーは、リクルート、インディードリクルートパートナーズとの共催で行われたもので、オンライン(Zoom)から80名近くの多くの参加者が集まり、地方中小企業の経営者や人事担当者の「人手不足」に対する関心の高さが表れていました。

セミナーの主題は、

「離職のメカニズムと採用・定着の工夫について」

です。

画像2

第1部では、きらやか銀行 総務部 副部長 戸津 智也が登壇し、人的資本経営の実践として、当行における取り組みを紹介しました。

主な取り組みとしてご紹介したのは、以下の3つです。

1.定着率向上

離職者分析から、「人間関係の悩み」「成長への不安」が、離職の主因と判明。上司・人事・新入行員向けの多層的な面談制度を整備するとともに、地域貢献プロジェクトや行内インターンシップ、キャリアチャレンジ制度で「やりがい」を創出しています。

2.制度の拡充

育児・介護・健康の3分野で、柔軟な制度を整備。育児短時間勤務の延長や介護休暇の倍増、不妊・がん治療向けの休暇新設など、ライフステージに応じたサポートをハンドブックで全行に周知しています。

3.採用の多様化

新卒一括採用に加え、スカウト型・リファラル採用など「攻め」の手法を導入。応募者の関心(社風・条件・成長機会)に合わせたPRで、中途採用も本格化しています。

画像3

第2部では、株式会社インディードリクルートパートナーズ 武田 梨那 氏が、

地方都市における採用の生存戦略

についての講演を行いました!

採用支援のプロフェッショナルによって示された、地方都市における採用の最優先課題は、

今いる社員を辞めさせない「離職防止」

です。

一方で、採用活動そのものの見直しも欠かせません。「離職防止」「採用の見直し」のために、中小企業はどのような具体策を講じることができるのでしょうか? 

講演では、以下のアプローチが紹介されました。

1.【離職防止に向けて】「びっくり退職」の早期察知

退職者のコンディションは、実際の離職の約3カ月前から低下しているというデータがあります。

具体策として、

毎月1分で答えられる簡単なアンケート(睡眠・人間関係など)を導入するだけで、退職者を大幅に減らした企業の事例

が紹介されました。

2.【採用の見直し】採用要件を広げる

「同業種経験者」へのこだわりは、母集団を狭めます。

業界を超えて活きる「ポータブルスキル(関係構築力・ニーズを汲み取る力など)」に着目する

ことで、間口を広げて採用を行うことが提案されました。

具体策として、保険営業出身者を食品会社の品質管理に、美容師を不動産管理に採用した事例が紹介されました。

3.【採用の見直し】リアルなエピソードで伝える

採用を行う際、「アットホームな職場」のような抽象的な言葉を使っても、求職者には響きません。

「17時になるとタイムカードの前に列ができる」「現場の声で倉庫に空調服を導入した」など、具体的なエピソードこそが求職者の心を動かす

という事例が紹介されました。

従業員の定着や採用力の強化は、「制度を一つ変えれば解決する」ものではありません。

日々の小さなコミュニケーションを積み重ねること、自社の「当たり前」の中に眠っている魅力を丁寧に掘り起こすことなど、各企業の地道な歩みの先に、安定した人材確保が待っている

のではないでしょうか。

「人手不足」という課題を他人事にせず、まずは自社に合った小さなアクションから一歩を踏み出してみる。そのきっかけを与えてくれる、非常に有意義なセミナーでした。

以上(2026年6月作成)

【外国人雇用】外国人雇用Q&A~雇用の手順や住居の手続き

1 在留資格を押さえれば、他は基本的に日本人雇用と同じ

外国人雇用を検討する会社は多いですが、一方で「日本人と同じように雇用して大丈夫なの?」と不安に思っている経営者も多いはずです。そこで、外国人雇用と日本人雇用の違いを簡単にまとめてみました。

画像1

「日本人雇用と異なる点が多い」と思うかもしれませんが、これらの違いは

外国人が日本に滞在し、活動するための資格「在留資格」に関するもの

です。在留資格とは、

外国人が日本に在留して行うことができる活動、または日本に在留できる身分・地位を示す資格

です。在留資格ごとに、行うことができる活動や在留期間が定められています。在留資格で認められていない仕事に就いたり、在留期間を超えて働いたりするのは違法です(ただし、在留期間が無期限のものもある)。逆に言えば、

在留資格にさえ注意しておけば、外国人雇用と日本人雇用は基本的に同じ

ということになります。

以降では、ここまでの内容をもう少し掘り下げ、外国人を雇用する際の手続きや、在留資格の確認のポイント、雇用した後の注意点などを紹介していきます。なお、在留資格の種類や在留期間については、出入国在留管理庁のウェブサイトなどをご確認ください。

■出入国在留管理庁「在留資格一覧表」■
https://www.moj.go.jp/isa/applications/guide/qaq5.html

2 外国人を雇用する際はどんな手続きが必要?

1)海外から国内に外国人を呼び寄せて雇用する場合

外国人を国内に呼び寄せる場合、「在留資格認定証明書」という書類の交付を申請します。これは、外国人の国内での活動内容が、在留資格の条件に適合していることを証明する書類です。

会社は入管に交付を申請後、交付された証明書を海外にいる外国人本人に送付します。外国人が在外日本大使館や領事館での査証(ビザ)申請を行う際や、入国審査官による上陸審査を受ける際に、この証明書を提出すると審査がスムーズに行われます。

画像2

2)海外から技能実習生を受け入れて雇用する場合

技能実習制度は、外国人の技能実習生が、日本で実習を行う会社(実習実施者)の下で働き、母国では得がたい技能の修得などを図るための制度です。実習実施者になるには、

技能実習生ごとの「技能実習計画」を作成し、外国人技能実習機構の認定を受ける

必要があります。

なお、技能実習制度については廃止が予定されており、

2027年4月1日より、新たに「育成就労制度」が開始

される予定です。

■出入国在留管理庁「育成就労制度」■
https://www.moj.go.jp/isa/applications/index_00005.html

3)現在日本に住んでいる外国人を雇用する場合

外国人の在留資格が、雇用後の業務内容に適合していれば、雇用できる可能性があります。ちなみに、外国人の在留資格や就労制限の有無は、在留カード等で確認します。

2026年6月14日からは、マイナンバーカードとしての機能を付加した「特定在留カード」

の制度も開始されています。ただし、特定在留カードの取得は任意であり、従来型の在留カードとマイナンバーカードを別々に所持することも可能です。そのため、実務上は、在留カードまたは特定在留カードの券面等を確認します。

■出入国在留管理庁「【※2026年6月14日運用開始※】特定在留カード等交付申請について」■
https://www.moj.go.jp/isa/tokutei.html

在留カードの券面に記載されていた「在留期間(◯年)」「許可の種類」「許可年月日」「交付年月日」の項目が、6月14日以降に発行されるカードではICチップ内にのみ記録され、券面からは削除されます。一方、「在留期間の満了の日」「就労制限の有無」は引き続き券面で確認できます。なお、手元にある旧様式の在留カードは有効期限まで使用可能です。

画像3

在留資格を確認し、

現在の在留資格では働けない場合、入管に在留資格の変更を申請

する必要があります。一方で、「永住者」や「日本人の配偶者等」といった就労制限がない在留資格もあります。

4)現在日本に住んでいる留学生を雇用する場合

日本の大学や専門学校、日本語学校などに「留学」の在留資格で在留している外国人をアルバイトとして雇用する場合、外国人が「資格外活動」の許可を受けていれば、雇用できます。卒業と同時に正社員などとして雇用する場合、入管に申請し、在留資格を「留学」から業務内容に適合したものに変更します。

ここまで紹介した4つは許可手続きの主なケースです。外国人の滞在場所などによって手続きの詳細が異なる場合があるため、実務では申請取次行政書士などの専門家に相談してください。

3 在留資格の確認など採用時の注意点は?

1)在留資格を確認する際は何に注意すればいい?

在留資格と査証(ビザ)は混同されがちですが、

  • 査証(ビザ)は、上陸審査時に必要となるもの
  • 在留資格は、日本での滞在・活動時に必要となるもの

といったように全く違うものです。そのため、

報道などで使われる「就労ビザ」という言葉も、本来は「就労可能な在留資格」のことを指します。査証(ビザ)だけ持っていても日本では働けないので、必ず在留資格を確認

しなければなりません。外国人の在留資格を確認する際は、在留資格と雇用後の業務内容に齟齬(そご)がないか、在留期間が終了していないかなどをチェックします。

2)在留資格の判断に迷ったら?

外国人の在留資格が有効か判断しにくい場合、入管に「就労資格証明書」を申請すると、外国人が行える活動について法務大臣の証明が受けられます。また、現在の在留資格では働けないものの、どの在留資格に変更すればよいか分からない場合、入管や厚生労働省の機関である外国人雇用サービスセンターに問い合わせると、アドバイスを受けられます。

在留資格の確認は非常に重要です。この対応をショートカットして後で在留資格と業務内容とが適合していない事が発覚した場合、違法性を問われる事になりますので、注意して対応する必要があります。

3)在留資格の確認以外に、採用での注意点は?

求人募集では、外国人のみを対象としたり、外国人が応募できないという条件を出したりすることはできません。

選考では、言語の違いから面接などでの意思疎通がうまくいかないケースがあります。能力等を正確に知りたい場合は、実技を行わせたり、同じ分野の専門家を外国人と面談させて専門分野に関する質問を行ったりして、適性や能力を判断してみるとよいでしょう。

採用が決まったら、労働条件通知書などで労働条件を明示します。労働基準法では昇給、退職金、賞与など、口頭で明示してもよい労働条件がありますが、トラブルを回避するなら書面で明示したほうが無難です。

なお、厚生労働省では、英語、中国語、韓国語、ポルトガル語など13カ国語に対応した「外国人労働者向けモデル労働条件通知書」を公表しています。

■厚生労働省「外国人労働者向けモデル労働条件通知書」(下記URL中段)■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000056460.html

4 外国人を雇用した後の主な注意点は?

1)外国人を雇用した後に必要な手続きは?

1.外国人雇用状況の届け出

外国人を雇用した場合、所轄の公共職業安定所(ハローワーク)に外国人雇用状況の届け出を行います。届け出の方法は、外国人が雇用保険の被保険者になるかどうかで変わります。

  • 被保険者になる:「雇用保険被保険者資格取得届」を入社月の翌月10日までに届け出
  • 被保険者にならない:「外国人雇用状況届出書」を入社月の翌月末日までに届け出

なお、雇用保険の資格取得を行う場合、雇用保険被保険者資格取得届の提出をもって外国人雇用状況届出書を提出したものとみなされます。

2.健康保険・厚生年金保険の届け出

外国人が健康保険・厚生年金保険の被保険者になる場合、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を、入社日から5日以内に所轄の年金事務所に届け出ます。

被扶養者がいる場合、「健康保険被扶養者(異動)届」なども併せて提出します。なお、被扶養者になれるのは、原則「国内居住者」だけです。国内居住者かどうかは、住民票があるか否かで判断します。この他は基本的に日本人雇用と同じです。

なお、マイナンバーと基礎年金番号が結びついていない場合や個人番号制度の対象外である場合については、「ローマ字氏名届」の提出も必要となります。

2)在留資格の管理は会社がするべきか?

在留資格は永住者など一部の例外を除き、在留期間が決まっており、在留期間を1日でも超えたら「不法滞在」となってしまいます。ですから、

外国人の「氏名」「国籍」「在留資格」「在留期限」などは、会社側で管理しておく

のが望ましいでしょう。在留期間の期限が近づいてきたら、満了前に入管に更新を申請する必要があります。6カ月以上の在留期間を有する場合、期限満了の約3カ月前から申請できます。

なお、在留資格の更新・変更にかかる手数料については、2026年度中(2027年3月31日までの間において政令で定める日)に、次の通り上限額の大幅な引き上げが予定されています(2026年5月29日に参院本会議で可決・成立)。手数料は原則として外国人本人の負担ですが、金額が大幅に増えることから、会社として一部を負担することも検討に値するかもしれません。

  • 在留資格の変更許可:(現行)6000円→(改正後)上限10万円
  • 在留期間の更新許可:(現行)6000円→(改正後)上限10万円
  • 永住許可:(現行)1万円→(改正後)上限30万円

3)住居をどうするか?

在留資格の取得などを済ませて日本に入国した中長期在留者は、住居地を定めた日から14日以内に、市区町村で住居地の届出等を行う必要があります。必要な手続きは日本人と同じ(転入届・転出届など)で、手続き後に住民票が作成されます。

住所を定めるには住居を確保する必要がありますが、言語の違いから不動産オーナーとうまくコミュニケーションが取れないケースもあるようです。この辺りは、外国人賃貸専門の不動産会社を利用するなどして対応しましょう。

なお、出入国在留管理庁では、英語、中国語、韓国語、ポルトガル語など19カ国語に対応した「外国人生活支援ポータルサイト」を運営していて、住居の他、日本での生活に必要な知識などを確認できます。

■出入国在留管理庁「外国人生活支援ポータルサイト」■
https://www.moj.go.jp/isa/support/portal/index.html

4)外国人に効果的な教育法は?

外国人を教育する際も、言語の違いから意思疎通がうまくいかないケースがあります。特に安全衛生に関する意思疎通がうまくいかないと、外国人が作業現場などでけがをする恐れがあるので、絵や動画など視覚に訴える方法でポイントを伝えるようにしましょう。

なお、厚生労働省では、外国人の安全衛生管理の手引きや、働く人の安全と健康について学べる教材(漫画)などを公表しています。

■厚生労働省「外国人労働者の安全衛生対策について」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000186714.html

5)宗教・文化の違いはどう配慮すべきか?

宗教や文化の違いにもある程度の配慮が必要です。例えば、宗教上決められた時間に礼拝を行う必要がある外国人には就業時間中の礼拝を認めたり、中国の旧正月(毎年2月ごろ)のように、外国人が本国独特の文化で長期にわたって帰国するときは、スムーズに帰国できるよう配慮したりします。

6)外国人に子どもが生まれたときは?

外国人が雇用後に結婚し、子どもが生まれた場合、子どもが日本国籍を持つ場合と持たない場合があります。例えば、父親(労働者)が外国人、母親が日本人の場合、子どもは日本国籍を持ちます。この場合、子どもの在留資格の取得手続きは原則として必要ありません。一方、

父親(労働者)と母親の両方が外国人の場合、子どもは日本国籍を持ちません。この場合、子どもが日本に在留するには、出生日から30日以内に在留資格取得許可の申請が必要

です。

以上(2026年7月更新)
(監修 弁護士 坂東利国)

pj00375
画像:ChatGPT

【2026年度版】 社員に関する法定義務の一覧表

1 まずは全企業共通の法定義務から押さえる

「人」に関するルールは複雑で、10人以上で就業規則の作成義務、50人以上でストレスチェックの実施義務などのように決まっています。抜け漏れなく行うために一覧表で確認しましょう。この記事では各種労働法に基づく人事労務の法定義務の内容を、

  • 全企業共通のもの
  • 業種や事業形態(法人、個人)などによって変わるもの

に分けて一覧表で紹介します。

2 人事労務の主な法定義務など(2026年7月1日時点)

早速ですが、人事労務の主な法定義務など(2026年7月1日時点)は次の通りです。一覧表は社員数または該当者数の昇順となっており、社員数で見る項目には「●」印を、該当者数で見る項目には「○」印を付けています。また、2026年度に施行される項目(既に施行済のものを含む)は「赤字」にしています。赤字部分に法改正に関する関連記事へのリンクも貼ってありますので、併せてご確認ください。

法定義務などの具体的な内容は、( )内の法令を参照してください。また、安衛法(労働安全衛生法)の「安全衛生管理体制」に係る法定義務については、対象業種を一部省略して記載しています。詳しくは、厚生労働省「職場のあんぜんサイト」などをご確認ください。

■厚生労働省「職場のあんぜんサイト(安全衛生キーワード)」■
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo_index01.html

(図表)【人事労務の主な法定義務など(2026年7月1日時点)】

社員数または該当者数 1.全企業共通のもの 2.業種や事業形態(法人、個人)などによって変わるもの
1人以上 ●労災保険、雇用保険の強制適用事業(労災法、雇用保険法)
●労働者名簿・賃金台帳・出勤簿の調製(労基法)
●36協定の締結・届け出(労基法。時間外労働などを命じることがある場合)
●派遣元・派遣先責任者の選任(派遣法。派遣社員1人以上)(注3)
●ハラスメント防止措置の実施(男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、労働施策総合推進法、フリーランス・事業者間取引適正化等法。2026年10月からは「カスハラ」「就活セクハラ」についても防止措置が義務化)

●健康保険、厚生年金保険の強制適用事業所(健保法、厚年法。法人)
●作業主任者の選任(安衛法。法定の危険・有害業務に従事する業種)
●化学物質管理者の選任(安衛法。リスクアセスメント対象物の製造・取扱い・譲渡提供をする場合)
●保護具着用管理責任者の選任(安衛法。リスクアセスメントに基づく措置として労働者に保護具を使用させる場合)
4人以下 ●労災保険の暫定任意適用事業(労災法。個人の農業・水産業)
●雇用保険の暫定任意適用事業(雇用保険法。個人の農業・林業・水産業)
●健康保険、厚生年金保険の任意適用事業所(健保法、厚年法。個人)(注4)
5人以上 ●多数離職届(高年法。1カ月以内に45歳以上70歳未満の者を5人以上解雇等する場合)
●障害者職業生活相談員の選任(障害者雇用促進法。障害者を5人以上雇用する場合)
9人以下 ●法定労働時間が1日8時間、1週44時間になる特例(労基法。商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業)
10人以上 ●就業規則の作成・届け出(労基法)
●安全衛生推進者(衛生推進者)の選任(安衛法)
●外国人労働者雇用労務責任者の選任(雇対法。外国人を10人以上雇用する場合)
11人以上 ●男女別の便所の設置義務(安衛法。10人以下の会社は、男女別の便所の設置が困難な場合、独立個室型の便所を設けることで足りる)
20人以上 ●店社安全衛生管理者の選任(安衛法。ずい道等の工事などを行う建設業(元請))
29人以下 ●1週間単位の非定型的変形労働時間制(労基法。小売業、旅館・料理店・飲食店)
30人以上 ●休養室の設置(安衛法。女性社員30人以上)
○再就職援助計画の提出(雇対法。事業規模縮小で、1カ月で常用雇用の社員が30人以上離職する場合)
○大量雇用変動届の提出(雇対法。自己都合退職以外で、1カ月で常用雇用の社員が30人以上離職する場合)
●統括安全衛生責任者、元方安全衛生管理者の選任(安衛法。ずい道等の工事などを行う建設業(元請))
●安全衛生責任者の選任(安衛法。ずい道等の工事などを行う建設業(下請))
37.5人以上 ●障害者雇用率制度の対象(障害者雇用促進法。2026年7月から「40人以上→37.5人以上」に
50人以上 ●休養室の設置(安衛法)
●ストレスチェックの実施(安衛法)
●定期健康診断などの結果報告(安衛法)
●衛生管理者1人以上の選任(安衛法)
●産業医の選任(安衛法)
●衛生委員会の設置(安衛法)
●サイレンなど非常時の警報器具の設置(安衛法。屋内作業場)
●安全管理者の選任(安衛法。屋外産業、屋内工業)
●統括安全衛生責任者、元方安全衛生管理者の選任(安衛法。鉄骨造りなどを行う建設業(元請))
●安全衛生責任者の選任(安衛法。鉄骨造りなどを行う建設業(下請))
●安全委員会の設置(安衛法。屋外産業)
51人以上 ●パート等(一定の要件を満たす者)に関する健康保険、厚生年金保険の加入手続き(健保法、厚年法)
100人以下 ●障害者雇用報奨金の対象(障害者雇用促進法)
100人以上 ●総括安全衛生管理者の選任(安衛法。屋外産業)
●安全委員会の設置(安衛法。屋内工業)
101人以上 ●男性社員と女性社員の「賃金差異」の公表(女性活躍推進法。2026年4月から)
●女性活躍のための一般事業主行動計画の作成(女性活躍推進法)
●仕事と子育ての両立などに関する一般事業主行動計画の作成(次世代法)
●障害者雇用納付金の対象(障害者雇用促進法)
●障害者雇用調整金の対象(障害者雇用促進法)
201人以上 ●衛生管理者2人以上の選任(安衛法)
299人以下 ●労災保険の暫定任意適用事業(労災法。個人の林業。常時雇用はなく、かつ年間延べ労働者数が300人未満)
300人以上 ●総括安全衛生管理者の選任(安衛法。屋内工業)
●専任の安全管理者の選任(安衛法。有機化学工業製品製造業など)
301人以上 ●公益通報対応業務従事者の選任、内部通報の体制整備(公益通報者保護法。2026年12月からは行政命令に従わない場合、「刑事罰の対象
●正規雇用労働者の中途採用比率の公表(労働施策総合推進法)
●男性社員の育児休業等の取得状況の公表(育児・介護休業法)
500人以上 ●専任の安全管理者の選任(安衛法。無機化学工業製品製造業など)
●専属の産業医の選任(安衛法。有害業務に常時500人以上が従事する業種)
501人以上 ●衛生管理者3人以上の選任(安衛法) ●専任の衛生管理者の選任(安衛法。有害業務に常時30人以上が従事する業種)
1000人以上 ●専属の産業医の選任(安衛法) ●総括安全衛生管理者の選任(安衛法。屋内非工業)
●専任の安全管理者の選任(安衛法。紙・パルプ製造業など)
1001人以上 ●衛生管理者4人以上の選任(安衛法)
●専任の衛生管理者の選任(安衛法)
2000人以上 ●専任の安全管理者の選任(安衛法。過去3年間に休業1日以上の死傷者数の合計が100人を超える林業など)

(出所:日本情報マート作成)

(注1)法令名は略称であり、正式名称ではありません。
(注2)社員数または該当者数2000人までを示していますが、これよりも大規模な企業を対象とした決まりもあります。
(注3)派遣元・派遣先責任者の選任義務は、派遣社員100人ごとに1人ずつ増えていきます。
(注4)個人経営である一部の業種は人数要件に関係なく任意適用事業所になります。

以上(2026年7月更新)

pj00246
画像:ChatGPT

【資金調達】「資産、負債、純資産」ごとの資金調達法〜バランスシートに注目

1 貸借対照表の勘定で区分した資金調達

資金は会社の血液であり、事業の存続のために資金を絶やさないことが不可欠です。経営の先行きはいつも不透明だからこそ、適切な資金調達によって憂いのない資金繰りを実現することは経営者の重要な責務の1つです。

資金調達の方法はさまざまですが、この記事では、貸借対照表(バランスシート)の「資産」「負債」「純資産」の3つに分けて整理していきます。

2 「資産」に注目した資金調達

貸借対照表の「資産」に計上されている項目に関する資金調達には、ファクタリング、動産担保融資、リース、不要な資産の売却があり、アセットファイナンスと呼ばれます。それぞれ保有資産を現金化したり、資産購入時の支払いを先延ばししたりすることで行われます。

1)ファクタリング

ファクタリングは、会社がファクターと呼ばれる事業者に対して、回収期日前の売掛債権を譲渡することで現金化する資金調達方法です。利用に際しては、ファクターへの手数料が必要になることや、基本的には売掛先の同意を取り付けなければならないので注意が必要です。

2)動産担保融資(ABL_Asset Based Lending)

動産担保融資は、原材料・在庫・売掛金などを担保に金融機関から融資を受ける資金調達方法です。企業の事業性などを考慮した上で動産の担保価値を評価するため、「経営能力は高いものの、不動産など一般的な担保が乏しい」ケースでも、相応の金額の資金を調達できる可能性があります。

3)リース

リースはリース会社を通して設備を導入する方法であり、契約で定めるリース期間にわたって、リース料を支払います。そのため、購入すると多額の資金が必要になるような設備もリース期間にわたって分割払いすることで、少額の手元資金で設備の導入ができます。

リースの利用は、直接的な資金調達方法ではありませんが、資金調達と同じような効果を得ることができるため、高額な設備購入の際には検討しましょう。

4)不要な固定資産の売却

不要だけれど、会社が保有し続けている固定資産を売却し現金化する資金調達方法です。例えば、活用されていない建物や土地、現在取引がなくなった得意先の有価証券などがあります。

また、テレワークの広がりにより、以前はオフィスにあることが当たり前だったものも、不要になっている可能性があります。例えば、オフィス機器や家具類など(備品)は、全社員がオフィスにいることが前提の分量が用意されていましたが、在宅勤務によりオフィスに通勤する社員の数が激減し、使用していないものが相当数出てきます。現状にあった見直しにより資金調達とまではいかないまでも、コスト削減による資金確保ができるかもしれません。

3 「負債」に注目した資金調達

貸借対照表の負債に計上される資金調達には、金融機関(銀行や保険会社など)からの借入や社債の発行などがあり、デットファイナンスと呼ばれます。この方法により資金調達した場合には、調達した金額(元本)と利息の返済・支払いが必要になります。

1)金融機関からの借入(融資)

金融機関からの借入(融資)は、資金調達時の交渉相手が金融機関だけであり、比較的手間のかからない資金調達の方法で、主なものに証書借入、当座借越、手形借入、手形(電子記録債権)割引などがあります。

1.証書借入(オンラインレンディング含む)

証書借入は、金額、利率、借入期間、返済条件などを記載した金銭消費貸借契約証書を金融機関に差し入れる資金調達方法で、主に比較的大きな額の設備資金など、中長期資金の調達に利用されます。

この証書借入の一部で、オンライン上で申し込みから審査、入金までが完結するのがオンラインレンディング(オンライン融資)と呼ばれる借入方法です。会計データなどを基にAIが審査を行うため、手続き全てがオンライン上で済み、スピーディーに借入できるのが大きな特徴です。

2.当座借越(ビジネスローン含む)

当座借越は、当座預金の残高を超えて融資を受ける資金調達方法で、機動的に資金調達できるため、主に短期の運転資金の調達に利用されます。金融機関と当座勘定借越契約を結ぶことで、契約の限度内で何度でも借り入れることができ、ビジネスローンなども該当します。

3.手形借入

手形借入は、自社が金融機関を受取人とした手形を振り出して融資を受ける資金調達方法で、3カ月程度の短期の運転資金の調達に利用することが一般的です。なお、2027年3月31日の手形の廃止に伴い、2027年4月1日以降を期日とする紙の手形借入の新規受付は停止されています。取り扱いの詳細については各金融機関で異なりますので、取引のある金融機関のウェブサイトをご参照ください。

4.手形または電子記録債権割引

手形または電子記録債権割引は、支払期日前の手形や電子記録債権を金融機関に譲渡して融資を受ける資金調達方法です。資金調達できる金額は、手形の場合は額面金額から割引料(金利+手数料相当額)を差し引いた金額、電子記録債権の場合は金融機関に譲渡した金額から割引料を差し引いた金額となります。なお、2027年3月31日の手形の廃止に伴い、2027年4月1日以降を期日とする紙の手形割引の新規受付は停止されています。取り扱いの詳細については各金融機関で異なりますので、取引のある金融機関のウェブサイトをご参照ください。

2)社債発行

社債の発行は、社債(会社が発行する債券)を、投資家などに引き受けて(購入して)もらい資金を調達する方法です。社債を発行する方法として、私募債と公募債があり、私募債は投資家を限定する方法で、公募債は不特定多数の投資家などに対して発行する方法です。また、企業が発行する社債には、次のような種類があります。

社債発行

4 「純資産」に注目した資金調達

貸借対照表の純資産に計上される資金調達には、株式の発行やクラウドファンディングなどがあり、エクイティファイナンスと呼ばれます。資金調達した金額(出資額など)の返済は必要ありません。ただし、配当により出資者に対する支払いが必要であったり、発行する株式の種類によっては投資家による経営介入のリスクが高まったりする可能性があります。

1)株式の発行

株式の発行の方法は、「公募」「株主割当」「第三者割当」の3つに分けられます。

公募は、不特定多数の者に対して募集を行う形態です。証券取引所(金融商品取引所)への上場時や、上場後に行うのが一般的です。

株主割当は、既存株主に株式の割当を受ける権利を与えた上で、これらの者に株式を発行する形態をいいます。

第三者割当は、特定の者のみを相手に募集を行い、その者だけに株式を発行する形態です。例えば、ベンチャーキャピタルや役員・従業員などの自社の関係者に対して、新たに引き受けてもらいます。

また、企業が発行できる株式には、次のような種類があります。

株式の発行

2)クラウドファンディングの利用

クラウドファンディングは、ウェブサイト上で企業と出資者を仲介して資金調達する方法です。

出資者は、リターン(返礼)を受け取るなどができます。このリターンの内容によって、さまざまな種類に分けられます。一般的に利用されるのは、株式型、ファンド型、融資(貸付)型、購入型、寄付型などです。なお、株式型とファンド型以外は、純資産に計上される資金調達ではありませんが、まとめてここで紹介しています。

1.株式型

株式型は、未公開株式を提供して事業資金を募集する方法です。企業の調達可能額が年間で1億円未満、出資者の投資可能額は同一の企業につき年間で50万円以下といった制限があります。

2.ファンド型

ファンド型は、ファンドを組成した上で、事業資金を募集する方法です。融資(貸付)型と似ていますが、利息ではなく事業の配当を支払います。配当だけでなく、事業で作られた商品やサービスの割引券などを提供する場合もあります。

3.融資(貸付)型

融資(貸付)型は、ソーシャルレンディングともいわれる方法で、事業資金への融資を募集します。融資してくれる人には元金を返済し、利払いをします。なお、受け取ったお金は、通常の融資と同様貸借対照表の負債(借入金)として計上されます。

4.購入型

購入型は、リターンは支援金額に応じた金銭以外の商品やサービスになります。例えば、新製品の開発・生産コストを募集するプロジェクトであれば、商品を一般販売よりも先行して手に入れられるといった特典が付いている場合があります。なお、受け取ったお金は一旦貸借対照表の資産(前受金)として計上し、商品などを引き渡した時に損益計算書の収益(売上)に計上されます。

5.寄付型

寄付型は、被災地支援や途上国の支援など社会的意義が大きい一方で、収益が見込めないプロジェクトで多く採用されることが多く、リターンがないものをいいます(活動報告書など無償の成果物が提供される場合があります)。なお、受け取ったお金は損益計算書に収益(受贈益などの勘定)として計上されます。

5 上記以外の資金調達(助成金・補助金)

国(各省庁)や地方自治体などでは、創業間もない会社に対する助成金・補助金事業を行っています。助成金・補助金は、原則、返済の必要がありませんが、一定の要件に該当する場合しか利用できなかったり、該当していても応募者数が多い場合などは受給できなかったりすることがあります。

また、提出する書類が多く手続きが煩雑であったり、多くの助成金・補助金は受け取った資金用途が決められたりするので、内容をしっかり確認するようにしましょう。

以上(2026年7月更新)

pj35181
画像:Rummy & Rummy-Adobe Stock

【会社の見える化】グラフを使えば会社の状況が驚くほど見えてくる

1 グラフ化することの効果

経営者の皆さんは、決算書や月次試算表などを見て自社の状態をチェックしていることでしょう。しかし、売上高や利益額、これらの対前期比の増減額や増減率、さらに原価率や人件費額など、たくさんの数値を全て記憶している人はどれだけいるでしょうか。

また、当然ですが、会社は動いています。この動きをコントロールするのが経営ですから、自社の動きを正確に捉えることが非常に重要です。ただし、こうした数値は、ある一時点のもの、すなわち“点の情報”にすぎません。こうした断片的な数値を記憶することよりも、トレンドを正確に認識するほうが、経営においては重要です。そして、そのための最善の方法が、

数値を時系列でグラフ化し、会社の「見える化」を図ること

なのです。別の言い方をすれば、数値をグラフに変換し、状況を可視化して、トレンドに対する正確なイメージを持つことが大切なのです。

両者の違いは明確です。例えば、「100」と「1000」の2つの数値で比較してみましょう。

数値で「100」と「1000」を表した場合

「1000」は「100」の10倍であることは理屈では誰でも理解しています。しかし、これを数値で表すと、見た目の違いは、わずか「0」1つだけです。一体どれほどの人が、「1000」が「100」の10倍であることを、正しくイメージして心に残せるでしょうか。

ところが、グラフを使って表現すると、「1000」は「100」の10倍の面積になります。

グラフで「100」と「1000」を表した場合

グラフであれば、直感的かつ正確に量の違いを認識でき、また、記憶にも残りやすくなります。違う言い方をすれば、両者の違いを認識せざるを得なくなります。ここに、会社の見える化をグラフで表すことの大きな意義があるわけです。

2 認識の共有化を促進する

グラフ化すると、関係者間における認識の共有も促進できます。部下の中に「自分は数字が苦手だから」と公言している人はいませんか。そういう人でも、数値ではなく、グラフで状況を見せることで、そうした“言い訳めいた発言”は聞かないで済む可能性が高まります。

もう1つ例を挙げてみましょう。例えば、会議における業績報告の場面を思い出してみてください。「ビジネスでは数値が大切」とはいうものの、「○○部門の12月の業績は売上高450万円、対前月比10%減。営業利益は……」などと口頭での報告や、文章による説明だけだったらどうでしょうか。たとえ、数字が苦手な人ではなくとも、その数字を全て記憶することは容易ではありません。また、「対前月比10%減」という重要な情報が抜け落ちてしまい、「売上高450万円」だけが記憶に残る人もいるでしょう。

大きな問題は、同じことを聞いたり見たりしても、記憶に残る内容は人それぞれだということです。そのため、「売上高450万円」だけが記憶にある人は、「まあまあだな」といった漠然とした印象だけが残ったり、逆に「対前月比10%減」だけが記憶にある人は、「とにかくまずい!」といった焦りだけが印象に残るなど、同じ情報を見聞きしても、人によって認識が異なってしまうことがあります。

一方、これをグラフで表した場合はどうでしょう。

月次売上高の推移

このグラフは、あえて各月の具体的な数値は表示していません。しかし、具体的な数値を把握できなくても、グラフを見れば「12月になって急に売上高が減少している」という状況を誰もが認識することができるでしょう。

会社の見える化をする意義は、数値をグラフ化すること自体にあるのではありません。会社の見える化を進める意義は、数値をグラフ化することで、経営者が会社のトレンドを把握できるようになると同時に、関係者間で正しい認識を共有することによって、

的確な打ち手を検討し、会社全体が1つの方向に向かって行動することができる

ようになることにあります。

以上(2026年7月更新)
(監修 公認会計士 益子宣夫)

pj35088
画像:taka-Adobe Stock

経営のヒントとなる言葉(渋沢栄一)

「順逆は人自ら造る境遇なり」(*)

出所:「渋沢百訓 論語・人生・経営」(角川学芸出版)

冒頭の言葉は、

「『順境』『逆境』という境遇は、自身の心掛けと努力によって作られる」

ということを表しています。

1867年、渋沢氏はパリ万国博覧会使節団の随員として欧州を視察し、西洋文化に触れて大きな感銘を受けました。帰国後は明治新政府に入り、大蔵省(現財務省)勤務を経て実業界へ転じ、数々の企業の創設を手がけ、生涯を通じて実に約500社もの企業の育成に関わったといわれています。

こうした足跡から、渋沢氏は運に恵まれ、常に順境にあったと思われがちです。しかし、渋沢氏自身は、「順境や逆境というものは与えられるものではない。順境や逆境は、基本的には人間が自ら作り出すものである」ととらえていました。すなわち、順境にあるようにみえる人は、常に前向きな志を持ち、絶えず真面目な努力を重ね、その結果として自分自身で順境をつかみとっているのです。逆に、もし日ごろから不平不満が多く、真面目な努力を怠っているならば、その人は自ら逆境に陥ってしまうことでしょう。このように、渋沢氏は「順境と逆境は、その人の心掛けと努力の結果によって作られる」と考えていたのです。

ただし、現実には「人の力が及ばない逆境」も存在します。渋沢氏はこの逆境を、先に述べた人為的な逆境に対して「自然的逆境」と名付けました。そして、ほかならぬ渋沢氏自身も、この自然的な逆境を経験した一人なのです。

農家に生まれた渋沢氏は、幕末に攘夷(外国人や外国文化を排斥すること)思想の影響を受けて江戸で一橋家に仕え、ついには幕臣にまで立身しました。しかし、その後、明治維新によって江戸幕府は消滅し、旧幕府側の多くの人々が不遇な生活を余儀なくされることとなりました。

このように、環境があまりに目まぐるしく変化する中では、いくら個人が努力しても、その変化に抗うことはできません。このため、渋沢氏は「こうした状況の中で焦っても仕方がない」と覚悟を決め、悲観的になることなく黙々と努力を続けました。そして、やがて大きな時代の変動が静まると、このときの努力が実を結び、渋沢氏はようやく逆境から脱して順境に転じることができたのです。

渋沢氏は、逆境への対処について次のように述べています。

「己より生じて、遂に逆境に立たねばならぬ運命を、余儀なくされたという場合なら、まず自分についてその悪い点を直す、また天命と自覚したら、その事を処して完全の道理を尽くすというよりほか、逆境に対する道はあるまいと思う」(*)

逆境にあると感じたときは、まずその理由を考える必要があります。そして、それが人為的逆境であれば、自らが発奮して努力することで逆境を順境に変えなくてはなりません。また、それが自然的逆境であっても、焦ることなくたゆまぬ努力を続けることで、いつの日か逆境から抜け出すことができます。いずれにしても、自身の努力こそが順境を作り、そして逆境を順境に変えるのです。

【本文脚注】

(注)本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を担保するものではありません。また、本文中では内容に即した肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思われるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。

【経歴】

しぶさわえいいち(1840~1931)。埼玉県生まれ。1867年、パリ万国博覧会使節団随員として欧州へ渡航。帰国後、明治新政府大蔵省に勤務。1873年、第一国立銀行(現みずほ銀行)を設立。

【参考文献】

(*)「渋沢百訓 論語・人生・経営」(渋沢栄一ほか(著)、角川学芸出版、2007年2月)

「渋沢栄一語録」(日本経済新聞社、2011年6月)

以上(2026年5月更新)

pj​15077
画像:日本情報マート

老後が安泰な「退職金」はいくら?/人生100年時代の退職金制度(1)

1 なぜ今、退職金制度が必要なのか?

最近では「もう社員が定年まで働く時代じゃないから……」と、退職金制度を廃止する会社が少なくありません。ですが、社員の退職金制度に対するニーズは、もしかしたら今後高まっていくかもしれません。「人生100年時代」といわれるほどの高齢化の陰で、

公的年金の支給額が減少し続けていて、老後の生活資金が足りなくなる恐れがある

からです。仮に御社に充実した退職金制度があれば、今働いている社員は安心ですし、新たに社員を採用する際のPRなどにも使えるでしょう。

この記事では、退職金制度を導入したり、見直したりする予定のある会社が、退職金の支給額などを検討する材料として、まず老後の生活にどのぐらいの資金が必要なのかを紹介します。

2 年金の支給額は10年間で減少

2025年3月末時点の公的年金(老齢基礎年金+老齢厚生年金)の平均支給額は、年約177.0万円です。10年前は約181.4万円で、10年間で約4.4万円減少していることが分かります(厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況」)。1度の食事にかかる費用が1000円(1日3食で3000円)だと仮定すると、約15日分の食事代がなくなってしまう計算です。

年金の支給額は10年間で減少

年金支給額が減少している理由の1つは、少子高齢化により現役世代1人で支えなければならない高齢者の数が増加しているからで、この傾向は今後も変わらない可能性が高いです。ですから、仮に年金の支給額減少を退職金でカバーできるなら、社員にとっては非常に魅力的です。

とはいえ、退職金制度を充実させるには、そもそも老後の生活にどのぐらいの費用がかかるのかを知っておく必要があります。早速、シミュレートしてみましょう。

3 一体いくら必要? 老後資金のシミュレーション

ここでは社員が65歳で退職した後の老後資金についてシミュレートしてみます。なお、シミュレーションは統計データを参考にした一例です。実際の内容は、社員の生活水準や希望するライフスタイルによって大きく変わることをご理解ください。

1)夫婦2人暮らしのケース

2024年における65歳以上の夫婦のみの無職世帯の実収入は月約25.3万円です。一方、同じ世帯にかかる生活費(消費支出+非消費支出)は月約28.7万円です(総務省統計局「令和6年家計調査年報」)。

実収入(約25.3万円)から生活費(約28.7万円)を引くと、毎月約3.4万円の赤字

になります。

夫婦2人暮らしのケース

2024年における平均寿命は、男性が81.09歳、女性が87.13歳ですから、退職してから20年以上赤字続きになる可能性があります(厚生労働省「令和6年簡易生命表」)。65歳で退職したとして、85歳までの生活を想定した場合、

  • 実収入:約25.3万円×12カ月×20年=約6072万円
  • 生活費:約28.7万円×12カ月×20年=約6888万円
  • 実収入-生活費:約6072万円-約6888万円=-約816万円

となります。816万円分の老後資金を何らかの方法で補填しないといけません。「貯金で何とかなる」という人もいるでしょうが、前述したように公的年金の支給額は減少し続けていますし、仮にこの先90歳、95歳と平均寿命が延びていけば、補填すべき額はさらに大きくなります。

2)独身のケース

2024年における65歳以上の単身無職世帯の実収入は月約13.4万円です。一方、同じ世帯にかかる生活費(消費支出+非消費支出)は月約16.2万円です(総務省統計局「令和6年家計調査年報」)。

実収入(約13.4万円)から、生活費(約16.2万円)を引くと、毎月約2.8万円の赤字

になります。

独身のケース

夫婦2人暮らしのケースと同じく、65歳で退職後、85歳までの生活を想定した場合、

  • 実収入:約13.4万円×12カ月×20年=約3216万円
  • 生活費:約16.2万円×12カ月×20年=約3888万円
  • 実収入-生活費:約3216万円-約3888万円=-約672万円

ですから、672万円分の老後資金を何らかの方法で補填しないといけません。

4 どんな退職金制度なら老後資金を賄える?

前章のシミュレーションで、年金などの実収入だけでは老後資金を賄いきれないことが分かりました。退職金制度の内容を検討する際の1つのポイントは、

老後資金の赤字(「実収入-生活費」のマイナス分)を退職金で補えるかどうか

です。前章のシミュレーションの数字を参考にするなら、夫婦2人暮らしの場合はあと816万円、独身の場合はあと672万円を、退職金で補う必要があります。また、前述した通り、家計の赤字は今後広がっていく可能性があり、補填すべき額はさらに大きくなります。

ちなみに、中小企業の社員(大学卒の場合)が定年退職時にもらえる退職金は、2024年平均で約1150万円です。また、退職金制度の導入率は減少傾向にあるものの、それでも2024年時点で64.2%の中小企業が導入しています(東京都産業労働局「令和6年中小企業の賃金・退職金事情」)。多くの会社が既に導入しているからこそ、自社の制度を差別化する工夫が必要です。

社員にとって魅力的な退職金制度の選択肢としては、

  • 同業他社よりも多くの退職金を払う
  • 運用次第で退職金を増やせる制度を導入する
  • 退職金が多く支払えないなら、老後資金を補う他の福利厚生を導入する

などがあります。制度の例をいくつか紹介しましょう。

制度の例

こうした退職金制度をうまく活用すると、社員は老後資金の赤字を補うだけでなく、逆に黒字に転じさせて自分の趣味や大切な人のために使うお金を作れる可能性も出てきます。

ただ、退職金制度にはメリットと同時にデメリットもあります。ここでは詳細を割愛しますが、例えば企業型DCのように社員が自分で運用する制度の場合、運用成績に応じて退職金を増やせる可能性がある反面、運用に失敗すると元本割れしてしまう恐れがあるのです。

次回は、退職金制度ごとのメリット・デメリットや、実際に運用する場合のアクションプランについて紹介します。

以上(2026年7月更新)

pj00725
画像:ChatGPT

「一時金と年金」「DBとDC」、どっちが魅力的?/人生100年時代の退職金制度(2)

1 退職金をいかに魅力的な制度にするか?

中小企業に勤める大卒の社員が定年退職したときにもらえる退職金は、2024年時点で約1150万円(大学卒モデル)です。図表1の通り、退職金額は2022年から2024年で見ると回復してきていますが、2014年(約1384万円)からの10年間で見ると減少傾向にあります。高専・短大卒、高校卒の場合も傾向は同じです(東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情」)。

退職金額の推移

退職金が減っている主な理由は、昔に比べ定年まで働く社員が減り、退職金制度の在り方を見直す会社が増えてきたからだといわれています。そんな状況なので、逆に今、退職金の額を増やそうとしている会社は、社員にとって魅力的に見えるかもしれません。

「ウチの会社の規模ではそんなに退職金を払えない……」という経営者もいるでしょうが、

  • 税金の負担が少なく、控除後の手取りが多くなる退職金制度
  • 会社の負担は一定で、社員が運用に成功すれば手取りを増やせる退職金制度

などもあるので、諦めるのはまだ早いです。

第1回では、「人生100年時代」の中で、社員が老後を過ごすのにどのぐらいの費用が必要で、いくら退職金があれば生活費を賄えるかをシミュレートしました。

今回は、「社員の手取りが多くなる退職金制度は何か」に注目し、「退職一時金 vs 企業年金」「DB vs 企業型DC」を比較し、どの制度が退職金の手取りがより多くなるのかをシミュレートします。なお、シミュレーションは、統計データを参考にした一例であり、実際の内容は会社の制度や社員の働き方、運用結果などによって異なります。

2 退職一時金 vs 企業年金

退職金の受け取り方には「退職一時金」「企業年金(退職年金)」の2つがあります(両者の併用も可能)。

退職一時金は、退職金を一括で受け取る方法です。退職所得控除(課税計算をする際、退職金の収入額から差し引くことのできる非課税枠)が利用でき、退職金が一定金額以内であれば所得税や住民税はかかりません。

企業年金は、退職金を年金形式で受け取る方法です。退職金を受け取り切るまでは勤めていた会社が運用してくれるので、一時金で受け取るより年金額が多くなることがあります。ただし、退職所得控除は受けられず、代わりに公的年金等控除(課税計算をする際、公的年金と企業年金の合算額から差し引くことのできる非課税枠)が適用されます。

両者のどちらが有利かは、退職金額や公的年金額、他の所得、資金管理のしやすさによって変わります。ただし、退職金が退職所得控除の範囲内に収まる場合、税負担だけを見ると退職一時金のほうが有利になりやすい傾向です。その理由を、以下のシミュレーションで解説します。

【試算条件】

  • 65歳男性で、配偶者はなし
  • 勤続43年で、再雇用はなし
  • 退職金額は1000万円
  • 一時金で受け取る場合と、年利1.0%の10年確定年金(年間101万円)で受け取る場合で試算
  • 公的年金は年180万円(月15万円×12カ月)を65歳から75歳まで受け取るものとする
  • iDeCoや企業型DCは未加入とする
  • 社会保険料は考慮しない

退職一時金 vs 企業年金

退職金が退職所得控除の範囲内に収まるのであれば、税金が1円も発生しないため、退職一時金で受け取ったほうが手取りは多くなります。額面上多く見える企業年金を選びたくなりますが、退職一時金で受け取ったほうが支払う税金がゼロ、あるいは少なくなるのです。その理由は、退職所得控除と公的年金等控除の非課税枠の違いにあります。

退職所得控除は、勤続年数が20年超の場合、「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」で算定します。勤続年数が長いほど、非課税枠を大きく利用できる仕組みです。勤続43年なら、

退職一時金の非課税枠=2410万円(800万円+70万円×(43年-20年))

となります。

一方、公的年金等控除は、社員の年齢と「公的年金+企業年金」の額をベースに算定されます。社員が65歳以上で「年110万円<公的年金+企業年金<年330万円」(その他所得を考慮しない)の場合、公的年金等控除は年110万円です。今回のケースでは「公的年金(年180万円)+企業年金(年101万円)=年281万円」なので、10年間で見ると、

企業年金の非課税枠(10年間)=1100万円(110万円×10年間)

となるのです。額面上は企業年金のほうが多くても、税負担を考慮すると退職一時金のほうが有利になる場合が少なくありません。改めて、退職一時金と企業年金のメリット・デメリットを確認してみましょう。

退職一時金 vs 企業年金

手取りの観点では、シミュレーションでも紹介した通り、退職一時金に軍配が上がることが多いようです。ただ、一度に大金が手元に入るため、計画性がなかったり浪費癖があったりする社員の場合などは、使い込んでしまうリスクを考えて、企業年金のほうがよいという考え方もできるでしょう。ただし、年金形式には資金を計画的に受け取りやすいという利点もあるため、税金だけでなく老後資金の管理方法も含めて判断することが大切です。

ここで見落とされがちなのが「他の所得との合算」です。公的年金等控除は、公的年金と企業年金の合計額で枠が決まります。本シミュレーションでは65歳以降に給与がない前提ですが、再雇用やパートで働き続ける場合、給与所得が加わって課税対象が膨らみ、企業年金の手取りがさらに目減りすることがあります。

逆に、退職一時金は受取時に課税が完結するため、その後の働き方に左右されません。「いつまで・どのくらい働くか」によって有利・不利が変わるため、受け取り方を決める前に、退職後の収入計画とセットで試算することをおすすめします。

3 DB vs 企業型DC

DB(確定給付企業年金)は、受け取る年金額があらかじめ決まっている企業年金です。労使間の規約に基づいて運用する「規約型」と、会社とは別法人の基金を設立して行う「基金型」に分けられます。想定通りの運用ができない場合、原則として会社側が追加拠出などにより給付水準を維持する仕組みです。そのため、社員にとっては将来の受給額を見通しやすい制度といえます。

一方、企業型DC(企業型確定拠出年金)は、会社が掛け金を拠出するものの、運用は社員が自分の責任で行う企業年金です。運用に成功すれば退職金を本来の額よりも増やすことができますが、運用に失敗した場合は、元本割れで退職金が減ることもあります。

結論から言うと、両者のどちらが魅力的かは、ケース・バイ・ケースです。具体的に、以下のシミュレーションで解説します。

【試算条件】

  • 65歳男性で、配偶者はなし
  • 年収400万円で試算
  • 勤続43年で、再雇用はなし
  • DB・企業型DCともに、65歳になったときから10年間、年金形式でもらうと仮定
  • DBは年100万円で試算
  • 企業型DCは、22歳で加入とし、運用失敗(元本割れ)した場合と、運用成功(月2万円を年利2.0%で運用)した場合の両方を想定
  • 公的年金は年180万円を65歳から75歳まで受け取るものとする
  • 社会保険料は考慮しない

DB vs 企業型DC

計算結果を確認すると、手取り合計は、

企業型DC(運用成功)>DB>企業型DC(運用失敗)

となっています。上記のシミュレーションの場合、運用成功した企業型DCの金額は魅力的ですが、運用に失敗した場合のリスクもなかなかです。確実に退職金を用意したい社員にとっては、DBを選択したほうが無難かもしれません。

企業型DCの「運用成功・失敗」は二者択一で語られがちですが、実際の成否を大きく左右するのは商品選びと運用期間です。本試算は22歳加入・43年運用という長期前提で、これだけの期間があれば、値動きの振れは平準化されやすくなります。

逆に加入が遅いほど時間を味方にしにくく、元本割れのリスクは高まります。また、企業型DCには掛金が所得控除になり運用益も非課税という、本記事の手取り比較に表れない税メリットもあります。「運用が不安だからDB」と決める前に、加入年齢や商品ラインナップも含めて検討するとよいでしょう。

DBの受け取り方や企業型DCの積立金額・利率によって試算結果は異なるので、実際の額のイメージについては、専門家などに確認してみましょう。また、企業型DCは最大で5.5万円までの掛け金を設定できるため、上記の試算結果よりも多くの退職金を用意できる可能性があります。

■厚生労働省「確定給付企業年金制度の主な改正(令和6年12月1日施行)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/newpage_00041.html

なお、企業型DCの拠出限度額(月額5.5万円)は、2026年12月1日施行の制度改正により月額6.2万円に引き上げられる予定です(2027年1月拠出分から適用)。これにより、企業型DCで用意できる退職金をさらに増やせる可能性があります。

■厚生労働省「iDeCo・企業型DC・国民年金基金の拠出限度額の引き上げ(2026年12月1日施行予定)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kyoshutsu/2025kaisei.html

改めて、DBと企業型DCのメリット・デメリットを確認してみましょう。

DB vs 企業型DC

シミュレーションでも紹介した通り、DBと企業型DCは性質が大きく異なる制度です。将来の受給額を見通しやすくしたい社員にはDBが向きやすく、運用次第で退職金を増やしたい社員には企業型DCが選択肢になります。ただし、企業型DCは運用成績によって元本割れする可能性もあるため、社員の投資経験やリスク許容度に応じた制度設計・投資教育が欠かせません。

4 「制度の併用」も視野に入れる

退職金制度は、必ずしも1つに絞る必要はありません。複数の退職金制度を組み合わせる「制度の併用」も可能です。例えば、DBと企業型DCの併用がそうです。

前述した通り、DBは将来の受給額が決まっていて安心な半面、会社にとっては追加拠出のリスクがあり、企業型DCは会社が運用成績について責任を負わない半面、社員にとっては元本割れのリスクがあります。この点、両制度を併用すると、それぞれの制度の長所を活かしつつ、リスクを低減できる可能性があります。

なお、DBと企業型DCを併用する場合、

企業型DCの掛け金は「月額5.5万円-DBの掛け金相当額」が上限

になります。なお、前述した拠出限度額の引上げ(2026年12月1日施行)に伴い、併用時の上限も「月額6.2万円-DBの掛け金相当額」に変わります。

制度の併用を考える上で重要なのが、受け取り「時期」の調整です。企業型DCやiDeCoの一時金と、会社の退職一時金を近い時期に受け取ると、退職所得控除を十分に使い切れず税負担が増えることがあります。

2026年1月の受け取りからは、退職所得控除を再びフルに使えるまでの期間が従来の5年から10年に延びています。複数の制度から一時金を受け取る予定がある方は、受け取り時期をずらすだけで手取りが変わる可能性があります。制度設計の段階から、社員がいつ・どの順番で受け取るかまで見据えて整えておくと安心です。

次回は、「退職金制度を見直してみたが、それでも十分な退職金を用意できそうにない……」という経営者向けに、財形貯蓄やiDeCo+(イデコプラス)などの福利厚生と退職金制度を併用して、社員の資産形成をサポートする方法を紹介します。

以上(2026年7月更新)
(監修 社会保険労務士 柴田充輝)

pj00726
画像:pek-Adobe Stock

退職金が少なければ財形貯蓄やiDeCo+でカバー!/人生100年時代の退職金制度(3)

1 「退職金制度+福利厚生」で社員の資産形成をサポート!

第2回では、複数の退職金制度を比較し手取り額などをシミュレートしました。税金や運用利回りのポイントを押さえれば、中小企業も魅力的な退職金制度を構築できるという内容でした。

ただ、そうしたポイントを押さえてもなお、十分な退職金を用意できない会社もあります。その場合は、退職金制度以外の福利厚生に注目してみましょう。例えば、

退職金制度と、財形貯蓄やiDeCo+(イデコプラス)などの福利厚生を併用することで、社員の資産形成をサポートできる可能性

があります。場合によっては、「退職金制度+福利厚生」の額が「大企業の退職金」の額を上回ることもあり、そうなれば従業員の満足度向上や採用活動でのPRなどにも大いに役立ちます。

第3回(最終回)となるこの記事では、財形貯蓄とiDeCo+、それぞれについて「社員が60歳になるまで運用した場合、どのぐらいの額になるのか」「退職金制度と福利厚生を組み合わせた場合、大企業の退職金を上回ることができるのか」などをシミュレートしていきます。

2 財形貯蓄の運用シミュレーション

財形貯蓄は、毎月またはボーナスの支給時期に、給与天引きで積み立てる制度で、

  • 一般財形貯蓄(自由な目的で使用できる)
  • 財形年金貯蓄(60歳以降に年金として受け取る目的で使用できる)
  • 財形住宅貯蓄(住宅購入、新築、増改築目的で使用できる)

に分けられます。制度ごとの運用益などを比較してみましょう。

財形貯蓄は導入・運用の事務負担が軽く、中小企業でも始めやすいのが利点です。給与天引きで完結し、会社が積立利率を負担するわけではないため、コスト管理がしやすい制度といえます。

ただし、利子非課税枠のある財形年金・財形住宅は、目的外の払い出しで過去5年分の利息が遡及課税されるなどの制約があります。経営者としては「財形は退職金そのものではなく、社員の自助努力を後押しする福利厚生」と位置づけ、退職金制度や次に紹介するiDeCo+と組み合わせて設計するのが現実的です。

【試算条件】

  • 22歳、年収400万円の会社員
  • 毎月3万円を給与天引きで積み立てる
  • 積立期間は38年
  • ボーナス・年収アップでの上乗せはないものとする
  • 全ての制度で年利は0.3%とする

1)財形貯蓄3種類のシミュレーション

財形貯蓄3種類のシミュレーション

一般財形貯蓄は、運用益(今回は0.3%)に対して20.315%の税金がかかります。一方、財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄は、両制度合算して550万円までの利子に税金がかかりません。目的が明確なら、財形年金貯蓄、財形住宅貯蓄を選択するのがよいでしょう。ただし、目的外の払い出しは課税対象となることがあるので、柔軟に使いたいなら一般財形貯蓄がお勧めです。なお、一般財形貯蓄については、その商品性から散財抑止を目的とした、社員に代わって会社が管理する普通預金のような感覚として社内制度化しているところもあります。

さて、上記の条件で試算した結果、

全ての制度で約1432.6万円以上を用意できる

ことが分かりました。運用益については、一般財形貯蓄は約64.6万円、非課税枠のある財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄は約81.1万円となっています。「運用益が少ないな」と感じる人もいるでしょうが、これらの制度は給与天引きにより堅実に資金を用意できることが特徴です。元本割れのリスクがなく、確実に必要な分だけ用意できます。

2)大企業(財形貯蓄なし)との比較

大企業(財形貯蓄なし)との比較

次は、中小企業(財形貯蓄あり)の「退職金+財形貯蓄」の額と、大企業(財形貯蓄なし)の「退職金」の額とを比較します。中小企業の社員(大学卒)が定年退職時にもらえる退職金は、2024年平均で約1150万円です(東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情」)。一方、大企業の社員(大学卒)の退職金は、2025年平均で約2135万円(中央労働委員会「令和7年賃金事情等総合調査」)。統計データは異なりますが、1000万円近い開きがあります。

ですが、財形貯蓄の制度がある中小企業が、

  • 退職金(退職給付額)で1150万円
  • 財形貯蓄(積立元本+運用益)で1432.6万円

を用意できた場合、その額は合計2582.6万円になります。これは、

大企業(財形貯蓄なし)の社員(大学卒)の退職金(2135万円)よりも447.6万円多い

計算になります。

3 iDeCo+の運用をシミュレーション

iDeCo(イデコ)とは、社員が自分で掛金を拠出して運用する個人型の確定拠出年金です。

このiDeCoには、拠出限度額の範囲(月額0.5万~2.3万円)で、iDeCoに加入する従業員の掛金に追加して、会社が掛金を拠出できる「iDeCo+(イデコプラス)」という制度

があります(中小企業限定の制度)。会社が掛金を上乗せしてくれるので、iDeCoのみを利用するよりも多くの老後資金を用意できます。

iDeCo+は財形貯蓄制度とは異なり、投資としての側面を兼ね備えています。長期間積み立てるとどのような結果になるのか、シミュレートしていきましょう。

【試算条件】

  • 年収400万円
  • 事業主拠出は1万円で合意
  • 個人拠出は1.3万円
  • 30年間年利3.0%で運用
  • 受給開始年齢60歳
  • 移管資金0円
  • 企業型DCやDBの取り扱いはなし

1)iDeCo+(イデコプラス)のシミュレーション

iDeCo+(イデコプラス)のシミュレーション

上記の条件で試算したところ、

iDeCoのみで約752.3万円、iDeCo+で約1331万円用意できる

ことが分かりました。年利3.0%で運用した場合、iDeCoでは約284.3万円、iDeCo+では約503万円の運用益を確保できます。しかも、これらの運用益に対しては税金がかかりません。

また、iDeCo+を導入している会社の場合、社員本人の掛金に事業主掛金が上乗せされます。今回の試算では、社員の自己負担は月1.3万円のままでも、会社負担分を含めてより大きな老後資金を準備できる計算になります。

2)大企業(iDeCoなし)との比較

大企業(iDeCoなし)との比較

仮に、iDeCo+を導入している中小企業が、

  • 退職金(退職給付額)で1150万円
  • iDeCo+(積立元本+運用益)で1331万円

を用意できた場合、退職金とiDeCo+の資産を合わせた額は合計2481万円になります。これは、

大企業(iDeCoなし)の社員(大学卒)の退職金(2135万円)よりも346万円多い

計算になります。

なお、iDeCo+で拠出できる金額の上限は年27.6万円(月2.3万円)ですが、

2026年12月1日からは、上限が74.4万円(月6.2万円)に引き上げ

られますので、改正後はさらにフォローがしやすくなります。これは、第2号被保険者(会社員等)のiDeCoの拠出限度額が、企業年金の有無にかかわらず月6.2万円に一本化されることに伴うものです。

iDeCo+は、経営者にとって「低コストで導入できる退職金の上乗せ策」として有効です。事業主掛金は全額損金算入でき、給与ではないため社会保険料の算定基礎に含まれず、賃上げのように会社の法定福利費負担が増えません。

企業型DCのような専用の運営管理機関との重い契約も不要で、中小事業主向けに事務手続きが簡素化されています。賃上げ原資の一部をiDeCo+に振り向ける設計なら、同じ人件費でも社員の手取りと将来資産を厚くでき、採用・定着のアピール材料にもなります。

4 財形貯蓄とiDeCo+のメリット・デメリット

改めてシミュレーションの結果を振り返ってみましょう。中小企業が退職金制度と福利厚生を組み合わせた場合、

  • 退職金と財形貯蓄で合計2582.6万円
  • 退職金とiDeCo+で合計2481万円

を用意できる計算になりました。どちらも大企業の退職金平均を上回る水準です。

シミュレーション上は、退職金と財形貯蓄を組み合わせた金額のほうが高い一方、利用件数を見ると、財形貯蓄は減少傾向(厚生労働省「財形貯蓄の実施状況」)、iDeCoは増加傾向(企業年金連合会「確定拠出年金統計資料」)にあることが分かります。これは、iDeCoの特性上、シミュレーション以上の運用益が見込める魅力性や最近では国が積極的に加入を推奨している背景等も影響しているものと推測されます。

iDeCoは長期積み立てによる運用益が期待できる、iDeCo+に至っては会社が掛金の一部を負担してくれるなどのメリットがあります。一方で、運用失敗による元本割れのリスクも当然あるので、堅実なほうが好きな社員にとっては、必要な金額を確実に用意できる一般財形貯蓄のほうが魅力的という考えもあるかもしれません。

なお、ここで示した金額はあくまで積立・運用段階での評価額です。iDeCoを一時金で受け取る場合は退職所得として課税され、会社の退職金と受給時期が近いと退職所得控除の枠を重複して使えないことがあります(2026年1月以後に受け取る退職手当等から、控除枠の調整ルールが見直されています)。実際の手取り額は受け取り方や時期によって変わる点に留意が必要です。

メリット・デメリットを確認し、御社に合った方法で退職金の不足分をフォローしてみてください。

財形貯蓄 vs iDeCo+(メリット・デメリット)

以上(2026年7月更新)
(監修 社会保険労務士 柴田充輝)

pj00727
画像:pek-Adobe Stock