契約でもめる前にチェック! 「信義則」「権利の濫用」規定

1 実は重要な「信義則」と「権利の濫用」

ビジネスでトラブルが生じた場合、当事者が話し合って解決を目指しますが、それができなければ民事訴訟等により法律に基づいて解決します。ただし、全てのケースで法律が万能に機能するわけではありません。そこで、裁判所が妥当な解決の道筋を立てるための法理である、

信義誠実の原則(以下「信義則」)、権利の濫用の禁止

を適用して解決を図ることがあります。

まず、信義則とは、

「当事者は、相互に相手から期待される合理的な行動を取るべきであり、相手方の信頼を不当に害さないようにしましょう」といった行動準則

です。また、権利の濫用とは、

外見上は権利の行使のように見えても、実際は権利の行使として認めることが社会的に妥当とはいえないため、権利の行使を認めるべきではないといった行動準則

です。決まり文句のようなものと考えられ、ともすれば軽視されがちな信義則や権利の濫用ですが、万一の際に皆さんを救ってくれるかもしれない大切な法理です。この記事では、信義則と権利の濫用のポイントを事例とともに解説していきます。

2 信義則が問題となる場面

1)権利者が不誠実な態度であった場合

権利者の態度が不誠実なため、信義則の適用を認めた裁判例(大審院大正9年12月18日判決)があります。古いものですが、今でも妥当だと考えられているので紹介します。

ある不動産の売買について買戻特約付売買契約をした売主(買戻権者)が、当該契約に基づいて買戻権を行使し、代金と契約費用を買主に支払いました。ただ、売主は金額を勘違いしていて、契約費用が2円ほど不足していました。これに対して、買主は契約費用が足りないことを理由に不動産の買戻しを認めませんでした。これを不当として、売主が裁判で不動産の返還を求めました。

判決では、契約費用が2円ほど不足していたことを買主が売主にきちんと告げていれば、売主は不足する2円ほどを支払って、買戻権を行使できたはずなので、買主が不足金額を告げずに買戻権の行使を拒絶することは、信義則に反すると判示しました。

2)契約準備段階において先行行為が存在する場合

契約締結を前提に当事者間で交渉をして、既に相手方が契約締結を見込んで費用まで支出した後に契約交渉を白紙撤回した事案で、信義則の適用を認めた裁判例(東京地裁平成8年12月26日判決)があります。

不動産会社のX社は、自己が所有する土地にリゾートマンションを建築して、Y社に分譲することで基本協定を締結しました。この協定には、X社とY社がマンションの建築請負と売買契約を締結する条件として、X社が契約締結前に、(1)土地を更地にする、(2)マンションの開発許可に必要な手続きを完了させるという先行行為の履行がありました。また、この基本協定には、マンションの建築請負に係る代金、売買代金についても明記されていました。

しかし、Y社は、X社が先行行為の履行を完了してもX社と売買契約を締結しませんでした。その理由は、X社の先行行為の履行が大幅に遅れたこと、マンションの市況が悪化して銀行借入が難しくなったことでした。

このような状況で、X社は、Y社には信義則上の義務違反があるとして、損害賠償を求めて訴訟を提起しました。裁判所は、以下の通り判示しました。

  • 基本協定の成立により、X社とY社との間には緊密な関係が生じた。先行行為の履行も完了している以上、特段の事情のない限り、契約成立の合理的な期待がある
  • その合理的な期待を裏切り、特に正当な理由もないのに契約に向けた行為を一方的に拒否することは信義則に反する
  • Y社はX社に損害賠償責任を負う

3)継続的な取引により解約権の制限を受ける場合

長期にわたって継続的に取引してきた場合、信義則上、解約が制限される場合があります。いわゆる「信頼関係破壊の法理」です。

例えば、A社はB社の下請けとして自動車部品の製造を受託しています。B社とは10年近い付き合いで、売上全体の6割程度を占めています。A社は、B社との関係を会社存続のために重要視しており、最近、A社の2年分の売上総利益に相当する金額を投じて製造機械を導入しました。ところが、B社から「今後は中国製の部品を仕入れるので、本年中で取引を停止したい」と言われました。この場合、A社はB社に対して何かしらの損害賠償請求ができるのでしょうか。

原則として、当事者間の契約は自由で、締結することも解約することもできます。しかし、契約が長期にわたる場合、その後も継続するであろうと期待して新しい機械を導入したり、人材を採用したりすることがあります。こうした場合、裁判所によっては、

契約自由の原則を修正して、取引関係を終了する場合に、「やむを得ない事由」が必要

と判断される可能性があります。この「やむを得ない事由」が認められない場合、解約は正当なものとはならず、損害賠償請求が認められる可能性があります。

3 権利の濫用が問題となる場面

本来、権利者が権利を行使することは自由です。しかし、裁判では客観的要因と主観的要因を勘案し、権利の濫用だと判断されるケースがあります。

客観的要因では、権利者は権利を主張してどのような利益を得るのか、一方で、第三者がどのような不利益を被るのかといった点を考慮します。こうしたことを利益衡量し、後者がより重視されるべき要素である場合、権利の濫用が認められる傾向にあります。

主観的要因では、権利の行使は相手を害する目的でなされたのか、自らの利益を実現するためになされたのかといった点を考慮して、判断されます。

権利の濫用は、さまざまな場面で認められています。例えば、貸主の承諾の下、借主が長期にわたって建物の外壁に無償で看板を設置していた場合、貸主が代わって、新しい貸主が、前の貸主と借主との合意を白紙撤回して看板の撤去を求めたとしても、権利の濫用として撤去は認められないとした判決があります(最高裁平成25年4月9日判決)。

4 ビジネスを進める上での心構え

信義則や権利の濫用は、法律では十分に具体化されていない点を補うための法理として有用です。ただ、その判断基準が法律で明確になっているわけではないため、説得力に欠け、場合によっては恣意的に法律と異なる結論を導く便法になります。そのため、これらの法理が果たすべき機能を適正な範囲に限定すべきであると考えられており、裁判等で信義則や権利の濫用を主張したとしても、認められる場合は必ずしも多くありません。

とはいえ、社会の変化が目まぐるしい現在において、このような法理の有用性は否定できませんので、知識としては押さえておきましょう。

以上(2026年1月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 栗原功佑)

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登壇者

  • 東京エクセル法律事務所 弁護士 日本ハラスメントカウンセラー協会顧問
    弁護士 坂東 利国 氏

【坂東先生のセミナー実績】

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  • カスタマーハラスメント対策研修
  • ハラスメント防止のための管理職のあるべき姿
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主催

  • 株式会社日本情報マート(サクセスネット運営サポート会社)

プログラム 13:00~14:15

  • カスハラとは何か(定義、判断基準)
  • カスハラに関する法改正の状況
  • 実際にあったカスハラ事例(裁判例) など
  • 従業員を守るために必要な事前の準備(相談窓口の設置等)
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サクセスネットでは、カスハラ対策に役立つコンテンツも公開しています。ぜひご覧ください!

激動の時代を共に乗り切る社長と幹部社員の付き合い方

1 明日から幹部社員がいなくなってしまったら・・・・・・

幹部社員の離職は経営危機に直結します。中小企業の場合は特にそうです。人材不足の日本では中高年の転職も活発化しており、もはや幹部社員の流出は身近な問題です。

今やどのような会社でも幹部社員の流出リスクはあります。そこで社長がやるべきことは、

「幹部社員はいつまでもついてくる」という勘違いを改め、いま一度、幹部社員と信頼関係を築くこと

です。具体的にどういうことなのか確認していきましょう。

2 社長が幹部社員に抱く勘違い

1)社長は絶対的な存在ではない

一般社員と幹部社員とでは、社長に対して抱く印象が異なります。一般社員は社長と接する機会が少ないため、「社長はすごい人」という印象を抱きます。一方、幹部社員は社長に近い存在なので、社長の言動をよく見ています。ビジネスパーソンとしての実力はもちろん、人間性に至るまで冷静に社長を評価しています。

社長は、「幹部社員は自分をよく理解していて、いつまでも自分についてくる」と思い込んでいるかもしれませんが、実際は違います。社長をよく知っている分、逆に愛想を尽かすことがあります。幹部社員が離職する理由として、「社長への不信感」は結構多いのです。

2)幹部社員も一社員である

社長は幹部社員を頼りにしています。その前提は、「幹部社員は、自分のことを理解してくれている」と信じているからです。これは間違っていませんが、幹部社員が理解しているのは社長の能力や人間性であって、社長という立場の重さではありません。社長と幹部社員の間でしばしば起こる感覚のズレは、社長と社員という圧倒的な立場の違いから生まれます。

社長は、幹部社員なら自分と同じ感覚を持っていると考えるからこそ相談し、意見を求めます。しかし、幹部社員から見れば、「それは社長しか分からない。答えようがない」といった相談も少なくありません。幹部社員は「幹部であっても一社員」なのです。

3)幹部社員の焼きもちは激しい

社長は、幹部社員に相応の権限を与えており、その範囲の中でビジネスを自由に進めて、会社に貢献してほしいと願っています。そのため、幹部社員を管理するつもりはなく、特別な事情がなければフォローもしません。

これは社長ならではの信頼の示し方ですが、幹部社員によっては、「もう自分は期待されていない」と、大きな勘違いをすることがあります。また、社長は次世代の幹部社員を育て、今の幹部社員がもう一段上に行ける体制を整えようとします。しかし、こうした社長の意図が正しく伝わらず、幹部社員は次世代の幹部社員候補に焼きもちを焼くこともあります。

4)放っておけば幹部社員の気持ちは離れていく?

以上から分かるように、社長は幹部社員のことを正しく理解できていない面があります。幹部社員は、社長と違う価値観を持っています。これは、話し方や服装にも及びます。例えば、社長が幹部社員に対し、「もっとおしゃれになれ」と思っている一方で、幹部社員は社長に対し、「若作りするな」と思っています(あくまで一例です)。

社長と幹部社員にはこうした擦れ違いがあります。また、互いに心が強いため、言葉を選ばずに言うと「一度こじれると厄介」です。社長の考え方にもよりますが、幹部社員を失わないためにも、社長は他の社員以上に幹部社員に配慮をしなければなりません。

3 見直そう、幹部社員との付き合い方

1)必要なら、労働条件はすぐに改善すべき

特に技術系の社長は、自分の役職などに無頓着なことが多いもので、幹部社員の労働条件にもあまり気を使わないことがあります。しかし、労働条件に関する理由で転職する30~50代(幹部社員)は少なくありません。

労働条件に対する幹部社員の不満は、比較的容易に解決できる問題です。幹部社員の労働条件を確認し、世間の相場と大きく乖離 (かいり) しているようなら、あるいは幹部社員が不満を持っていそうなら、早急に改善を検討しましょう。

2)仕事を集中させ過ぎない

中小企業の幹部社員は、社長から依頼された仕事や、部下を含めた同僚のサポートの他、自分の仕事もこなさなければならず、かなり多忙です。「幹部社員は多忙が当たり前」というのも一理ありますが、仕事の質と量によります。

例えば、低レベルの仕事に時間を取られるようでは、幹部社員の成長機会が失われます。また、忙しさの度が過ぎれば、転職の動機になります。こうならないように、社長は幹部社員の仕事量をコントロールしなければなりません。

3)重要事項は必ず相談する

社長は、会社の重要事項については必ず幹部社員に相談しましょう。幹部社員にとって、「社長は、重要なことは必ず自分に相談してくれる」ことが、高いモチベーションになります。

中には、社長に遠慮して意見を言わない幹部社員もいて、社長は物足りなさを感じます。しかし、それでも社長は重要事項を幹部社員に相談するべきです。他の社員よりも先に社長と課題を共有することで、幹部社員は自分のポジションを確認できるからです。

4)定期的な1on1 ミーティングで対話の場を設ける

重要事項の相談だけでなく、定期的に幹部社員との個別対話の時間を設けることが重要です。月1回程度、30分から1時間のlonlミーティングを実施し、業務の進捗だけでなく、キャリアの展望、個人的な悩み、会社への期待なども率直に話し合える場を作りましょう。

この対話は評価の場ではなく、相互理解を深める場です。幹部社員が「社長は自分のことを気にかけてくれている」と実感できることが、信頼関係の基盤になります。

5)意思を尊重し、成長意欲を促す

タイプによって表現の仕方は異なりますが、幹部社員が社長や周囲に認められる存在になったのは、常に自分を高める勤勉さと、それを継続する情熱、そして、もちろん仕事そのものへの使命感や喜びを持っているからに他なりません。

社長は、こうした幹部社員の長所と呼べる点を尊重し、さらに伸ばしていく努力をしなければなりません。そのためには、幹部社員を型にはめず、自由に動けるフィールドを確保しておくことが大切です。

6)キャリアパスを明確に示す

幹部社員にとって、「この会社で、自分はこれからどこに向かうのか」という展望が見えないことは、大きな不安材料です。役員への登用、専門職としての深化、新規事業の責任者など、複数のキャリアパスを具体的に示しましょう。

特に40代後半以降の幹部社員は、「この会社で最後まで働けるのか」という不安を抱えています。定年後の働き方も含めた長期的なキャリアビジョンを一緒に考えることで、安心して力を発揮してもらえます。

7)不在時のリーダーシップをたたえる

普段はあまりリーダーシップを発揮しないものの、社長が不在のときは先頭に立って組織を切り盛りしてくれる幹部社員がいます。しかし、当の社長はその場にいないので、幹部社員の頑張りに気付くことができません。

こうした擦れ違いを避けるために、社長は自分が不在のときの幹部社員の働きぶりを、別の社員に確認しましょう。自分が不在のときに幹部社員が組織をまとめてくれていたら、これほど頼りになる存在はいません。心からたたえましょう。

8)心理的安全性に配慮し、率直な意見交換を促す

幹部社員が忌憚のない意見や懸念を伝えられる環境づくりが重要です。特に、失敗を許容し、チャレンジを奨励する文化がなければ、優秀な幹部ほど「ここでは自分の力を発揮できない」と感じて離職します。

社長は、幹部社員の意見に耳を傾け、自分と異なる見解でも尊重する姿勢を示しましょう。「社長に対して率直に意見を言っても大丈夫だ」という安心感が、組織を活性化させます。

9)特別なお店で食事をする

会社の中で、社長が一緒に食事をする機会が最も多いのは幹部社員でなければなりません。同じ空間で、同じものを食べながら、会社のことを話し合うのは有意義です。また、特別感があればなおさら効果的です。

毎回というわけにはいきませんが、社長が接待などで使うお店に幹部社員を連れて行くのもよいでしょう。幹部社員にふさわしいグレードのお店ということです。幹部社員にとっても、普段、あまり行かないお店で食事をすることは良い経験になります。

10)「大人の合宿」に出掛ける

幹部社員は、「社長は何を考え、どこに進もうとしているのか」を気に掛けています。日々の仕事の多くは過去の延長線上にありますが、そればかりをしていても、厳しい競争に勝ち抜くことはできないことを分かっているからです。

社長と幹部社員は、事あるごとに会社の展望について話し合いますが、たまには会社とは全く違う場所に出掛け、時間を気にせず議論できる「大人の合宿」をしてみるのもよいでしょう。

11)家族に対しても感謝の気持ちを示す

幹部社員に家族がいる場合、その家族にもきちんと感謝の気持ちを示しましょう。例えば、幹部社員がお正月の休みに帰省する場合、お酒の1本でも贈るくらいの気遣いがあってもよいでしょう。

また、幹部社員が40~50代の場合、その親は相応の年齢です。幹部社員の実家が会社と離れている地域にある場合、将来のことを考え始める時期でもあります。社長は、そうした相談にも乗り、テレワークの実現など、働き続けられる環境を一緒に考えていく必要があります。

12)ウェルビーイングへの配慮を怠らない

単なる労働条件の改善だけでなく、心身の健康、ワークライフバランス、生きがいといった総合的な幸福度(ウェルビーイング)に目を向けることが重要です。特にメンタルヘルスのケアは、幹部社員といえども必要です。

過度なストレスを抱えていないか、プライベートの時間を確保できているか、健康診断の結果に問題はないかなど、幹部社員の健康状態にも気を配りましょう。健康で幸福な幹部社員こそが、組織に最大の価値をもたらします。

4 社長と幹部の2.0

ここまでは「幹部社員に長くついてきてもらうために、どのように付き合うべきか」を見てきました。一方、急速な環境の変化の影響で、旧来のビジネスだけでは勝ち残ることが難しくなっている現在、次のような考え方もあり得ます。

  • そもそも、幹部社員とはどのような社員か? 社歴が長いからうちの業務には慣れているが、それだけで幹部社員といえるのだろうか?
  • 「幹部社員が流出することは本当に損失か? 社員という形でなくとも、一緒にプロジェクトを良い方向に進められる関係なら、幹部社員の独立や転職はむしろアリでは?

幹部社員が大切な存在だからこそ、社長は「自社にとって幹部社員とは?」を考え、必要に応じてバージョンアップしていかなければなりません。

以上(2026年3月更新)

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2026年版 帳票・書類の法定保存年限と電子保存の実務(2026年3月号)

情報化社会の進展によって、企業が扱う帳票・書類(文書)の量は飛躍的に増大しています。企業としては、必要な文書を取捨選択しながら、保管スペースや事務処理コストを考え、漏れなく効率的に管理・保存していかなければなりません。

その際、紙による保存か、電磁的記録による保存(電子保存)かの選択は重要なポイントとなります。それぞれにメリット・デメリットがあるので、慎重な判断が必要でしょう。

また、個人情報保護法、社会保障・税番号(マイナンバー)制度はもとより、近年頻繁に改正されている国税に係るいわゆる電子帳簿保存法への適切な対応が求められています。

そこで、文書の管理・保存にご活用いただくために、本冊子では、文書保存の基礎知識を押さえ、実務担当者が把握しておくべき法定保存年限をまとめるとともに、電子文書保存のポイント、個人情報保護法や社会保障・税番号制度への対応についても解説しています。

(本冊子の内容は、2026年2月1日現在の法令等に基づいています)


女性活躍推進法に基づく情報公表

女性活躍推進法が改正され、今年4月から、従業員101人以上の企業に「男女間賃金差異」と「女性管理職比率」の公表が義務づけられます。情報の公表によって企業の女性活躍を促すとともに、求職者が企業を選ぶ際の参考にする狙いがあります。本稿では、「男女間賃金差異」と「女性管理職比率」の計算方法や公表手順などについて説明します。

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女性活躍推進法に基づく情報公表

女性活躍推進法が改正され、今年4月から、従業員101人以上の企業に「男女間賃金差異」と「女性管理職比率」の公表が義務づけられます。情報の公表によって企業の女性活躍を促すとともに、求職者が企業を選ぶ際の参考にする狙いがあります。本稿では、「男女間賃金差異」と「女性管理職比率」の計算方法や公表手順などについて説明します。

1 男女間賃金差異

「男女間賃金差異」「女性管理職比率」は、事業年度ごとに計算します。改正法の施行(今年4月1日)後、最初に終了する事業年度の実績を、事業年度終了後おおむね3か月以内に公表します。例えば、令和8年4月末に事業年度が終わる企業は、令和8年7月末までに公表することになります。その後も、毎年同じ時期に公表します。

公表の場は、厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」が最適です。自社のホームページなどで公表してもかまいません。

「男女間賃金差異」の公表は、301人以上の企業はすでに義務となっており、今年4月からは101~300人の企業にも拡大されます。算出方法は次の通りです。

  • 「全労働者」「正社員」「パート・有期社員」の3区分を設定
  • 区分ごとに、男女別の平均年間賃金(総賃金÷従業員数)を計算
  • 区分ごとに、「女性の平均年間賃金」÷「男性の平均年間賃金」×100で「男女間賃金差異」を計算

「男女間賃金差異」の情報公表のイメージ

2 女性管理職比率

「女性管理職比率」の公表は、301人以上の企業、101~300人の企業の両方に、今年4月から新たに義務づけられます。女性管理職数÷全管理職数×100で算出します。

管理職とは、「課長級」と「課長級より上位の役職(役員を除く)」の合計です。また、「課長級」とは、次のいずれかにあてはまる人です。

  • 事業所で通常「課長」と呼ばれている者であって、その組織が2係以上からなり、もしくは、その構成員が10人以上(課長を含む)のものの長
  • 同一事業所において、課長のほかに、呼称、構成員に関係なく、その職務の内容及び責任の程度が「課長級」に相当する者(ただし、一番下の職階ではないこと)

一般的に「課長代理」や「課長補佐」は、「課長級」に該当しません。

また、301人以上の企業は、「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」と「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備」の実績について、現在でも公表が義務となっています。下の2つの表から、それぞれ1項目以上を選んで公表する必要があります。101~300人の企業は、下の表の計14項目のうち1項目以上を公表しなければなりません。

「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供に関する実績」と「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績」

3 さいごに

女性活躍推進法に基づく情報公表の義務については、怠っても罰則がありません。ただ、必要がある場合には、労働局が企業に助言、指導、勧告を行うことができます。この機会にきちんと公表し、女性が活躍しやすい環境づくりのきっかけにしてはいかがでしょうか。企業イメージの向上や、男女問わず優秀な人材の確保にもプラスになると思います。

また、女性活躍推進法では、101人以上の企業に一般事業主行動計画の策定・届出を義務づけています。こちらも忘れないよう気をつけてください。

※表はすべて、厚生労働省リーフレット「女性活躍推進法が改正されました!」より抜粋
※本内容は2026年2月10日時点での内容です。

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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2026年度の制度改正! 税務・労務・法務のプロは何に注目する?

中小企業を取り巻くビジネス環境は日々変化しています。特に税務・労務・法務の分野では毎年のように制度改正が行われ、キャッチアップも大変です。そこで、税理士、社労士、弁護士が厳選した、中小企業の経営者が押さえておくべき2026年度の制度改正のニュースを3つずつ紹介します。

1 税理士が注目する税務3大ニュース

2026年度、税理士が注目する制度改正のニュースは次の3つです。

  • 中小企業者等に対する少額減価償却資産の損金算入特例について、取得価額基準が引き上げられます
  • インボイス制度の8割控除特例について、適用期限が延長、控除割合も見直されます
  • 事業承継税制について、特例承継計画等の提出期限が延長されます

本編では、2026年度の制度改正の内容を詳しく解説している他、前年度(2025年度)の振り返りもしています。

2 社労士が注目する労務3大ニュース

2026年度、社労士が注目する制度改正のニュースは次の3つです。

  • 2026年4月1日より、年金制度改革(在職老齢年金の見直しなど)が順次スタートします
  • 2026年4月1日より、子ども・子育て支援金制度が始まります
  • 施行時期は未定ですが、政府内で労働基準法の大改正(約40年ぶり)が議論されています

本編では、2026年度の制度改正の内容を詳しく解説している他、前年度(2025年度)の振り返りもしています。

3 弁護士が注目する法務3大ニュース

2026年度、弁護士が注目する制度改正のニュースは次の3つです(一部は施行済)。

  • 2026年1月1日より、下請法が「取適法」に改正されました(施行済)
  • 2026年5月25日より、企業価値担保権が創設され、土地・工場等だけでなく「事業全体」を担保にできるようになります
  • 2026年10月1日より、カスハラや就活セクハラの防止措置の実施が義務付けられる予定です

本編では、2026年度の制度改正の内容を詳しく解説している他、前年度(2025年度)の振り返りもしています。

以上(2026年3月作成)

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画像:日本情報マート

税理士が注目する2026年度の税務3大ニュース

1 2025年度・2026年度の3大ニュース

2025年度は、中小企業の800万円までの所得に対して適用される軽減税率について、賃上げや物価高への対応に直面している中小企業の状況を踏まえ、適用期限が2年延長されました(所得の大きい中小企業に対する軽減税率については見直し)。また、防衛力の抜本的強化を図るための安定的な財源確保の観点から、従来の法人税の付加税として新たに「防衛特別法人税」が創設されました。さらに、中小企業の事業承継を円滑に実行させることを趣旨とした事業承継税制についても、一昨年度に引き続き所定の見直しがなされました。

2026年度は、従来の「中小企業者等に対する少額減価償却資産の損金算入特例」について、昨今指摘されている物価高による影響に対応するため、取得価額基準が「30万円未満」から「40万円未満」に引き上げられます。また、消費税関連として、免税事業者等からの課税仕入れについて認められている 「8割控除特例」は、適用期限が2年延長されるとともに、控除割合の見直しも行われます。その他としては、中小企業等の経営者の円滑な世代交代を通じた生産性向上といった課題を解決するため、事業承継税制について、特例承継計画等の提出期限が延長されることとなります。

2025年度と2026年度の税務3大ニュースは次の通りです。

(図表1)【2025年度・2026年度の税務3大ニュース】

●2025年度

一定の中小企業に対する法人税率(軽減税率)の適用期限の延長 一定の中小企業に適用される法人税の軽減税率(15%)の適用期限が2年(2027年3月31日までに開始する事業年度まで)延長されました。なお、所得の大きい法人については、軽減税率が従来の15%ではなく、17%にアップします。
防衛特別法人税の創設 法人税の付加税として、新たに防衛特別法人税が創設されました。2026年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。
事業承継税制の特例措置に係る役員就任要件の見直し 中小企業の事業承継を一層後押しし、生産性向上・成長への支援を強化する観点から、役員就任要件の見直しがなされました。2025年1月1日以後の贈与から適用されています。

●2026年度

中小企業者等に対する少額減価償却資産の損金算入特例見直し 中小企業者等に対する少額減価償却資産の損金算入特例の適用期限が3年延長され(2029年3月31日まで)、取得価額の基準が「30万円未満」から「40万円未満」に引き上げられます。
インボイス制度の8割控除見直し 免税事業者等へ支払う課税仕入れに係る仕入税額控除の特例が2年延長され(2031年9月30日まで)、控除割合の見直しが行われます。
事業承継税制の承継計画の提出期限の延長 事業承継税制の適用を受けるために必要な特例承継計画の提出期限が、法人版の場合は1年6カ月延長され(2027年9月30日まで)、個人版の場合は2年6カ月(2028年9月30日まで)それぞれ延長されます。

(出所:税理士法人AKJパートナーズ作成)

2 2025年度の総括

2025年度は、リーマン・ショックの際の経済対策として講じられた「中小企業に対する法人税率(軽減税率)」についての適用期限の延長が決定された一方、新たな税目として「防衛特別法人税」が創設されました。つまり、税負担が減る形となる軽減税率は維持されたものの、新たな税目の創設によって、税負担が増加する方向での改正も行われたわけです。

防衛特別法人税は、2026年4月1日以後に開始する法人に適用されるものであり、中小企業に対する具体的な影響を現段階で見通すことは難しいですが、近年の物価上昇も相まって国民生活への影響が懸念される中、「力強い経済成長」を実現する政策が、今後も継続して打ち出されることに期待したいところです。

3 2026年度の主なニュース

1)中小企業者等に対する少額減価償却資産の損金算入特例見直し

中小企業者等が器具備品 (PCなど)といった減価償却資産を取得した場合、その取得価額が30万円未満であれば、「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」を適用し、資産計上せずに全額を損金算入することができます。

この特例は中小企業者等の事務負担の軽減を図ることを目的として設けられたもので、適用期限は2026年3月31日まで、取得価額の基準は「30万円未満」とされていましたが、

  • 適用期限が3年延長 (2029年3月31日まで)される
  • 取得価額の基準が「40万円未満」に引き上げられる

こととなります。

なお、この特例が適用できるのは、

  • 少額減価償却資産の取得価額の合計額が300万円まで(従来通り)
  • 常時使用する従業員の数が400人 (改正前は500人) を超える法人は適用除外

となる点に注意しましょう。また、この特例を適用した場合においても、取得価額が10万円以上のものについては「償却資産申告」の対象となる点にも併せて注意しましょう。

(図表2)【少額減価償却資産の特例と償却資産申告】

取得価額 10万円未満 10万円以上20万円未満 20万円以上40万円未満
法人税 全額損金算入可 一括(注1)と特例(注2)の選択可 特例の選択可
償却資産税 申告不要 一括を選択した場合は申告不要
(特例を選択した場合は要申告)
要申告

(出所:税理士法人AKJパートナーズ作成)

(注1)「一括」一括償却資産の損金算入制度

(注2)「特例」少額減価償却資産の特例制度

2)インボイス制度の8割控除見直し

2023年10月1日から、消費税のインボイス制度が導入されて以降、免税事業者等への支払いは、原則として仕入税額控除の対象にはならなくなっています。ただ、制度導入直後の急激な税負担の増加などの影響を避けるため、制度開始後6年間は、免税事業者等からの課税仕入れについても、一定割合まで仕入税額控除を認める経過措置が設けられていました。

しかし、小規模な国内事業者については、さらなる緩和を図る必要があることから、

  • 経過措置の適用期限を2年延長(2031年9月30日まで)
  • 控除割合についても見直しが行われる

することとなりました。具体的には次の通りです。

インボイス制度の8割控除見直し

なお、

一の免税事業者等からの課税仕入れの額の合計額が年間で1億円を超える場合

には、その超える部分の課税仕入れについては経過措置の適用が認められません。改正前の上限は10億円でしたので、大幅な引き下げとなる点に注意が必要です。

3)事業承継税制の特例承継計画の提出期限の延長

法人版事業承継税制(特例措置)の措置の適用を受けるためには、認定経営革新等支援機関の所見を記載した特例承継計画を、2026年3月31日までに都道府県知事へ提出する必要がありますが、この提出期限が、

1年6ヵ月延長(2027年9月30日まで)

されます。

また、個人版事業承継税制についても、その適用を受けるためには、認定経営革新等支援機関の所見を記載した個人事業承継計画を、2026年3月31日までに都道府県知事へ提出する必要がありますが、この提出期限は、

2年6ヵ月延長(2028年9月30日まで)

されます。

これらの規定は、中小企業等の経営者の円滑な世代交代を通じた生産性の向上といった課題を解決するための時限措置です。中小企業の経営者や個人事業主の方は、提出期限の到来を見据え、早めに事業承継に取り組むことが重要といえるでしょう。

4 今後の対応について

2026年度においても、今回ご紹介した制度の他、足元の物価高への対応として、物価上昇に連動して所得税の基礎控除の引き上げが行われるなど、多くの税制改正が予定されています。

今回ご紹介した「中小企業者等に対する少額減価償却資産の損金算入特例」など、減税方向の改正については積極的に活用すべきと考えますが、税務上の優遇措置を適用するにあたっては、要件が厳格に定められていたり、所定の書類の保存が必要であったりするケースがほとんどです。

税務調査において要件を満たしていない点を指摘されると、思わぬ税負担を強いられることになりますので、特に改正された規定については早めに準備し、判断に迷う場合には、税理士などの専門家に相談し、適切に手続きを進めましょう。

以上(2026年3月作成)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:Mariko Mitsuda

社労士が注目する2026年度の労務3大ニュース

1 2025年度・2026年度の3大ニュース

2025年度は、育児・介護休業法の改正により、仕事と育児・介護の両立支援制度が大幅に拡充されました。また、65歳までの継続雇用についても、一部の従業員を対象から除外する経過措置が終了し、原則として希望者全員が対象となることになりました。いずれも、子育て世代や高年齢者が働きやすい環境を整備し、労働力の消失を防ぐことを目的とした改正内容になっています。

2026年度は、年金制度改正法による年金制度見直しや労働基準法の約40年ぶりの大改正(時期未定)など、人々の働き方や企業運営に大きな変化をもたらす制度変更が予定されています。

2025年度 2026年度の労務3大ニュースは次の通りです。

(図表1)【2025年度・2026年度の労務3大ニュース】

●2025年度

育児・介護に関する支援制度の拡充 2025年4月1日(一部は10月1日)より、育児・介護に関する支援制度が拡充されました。また、育児関連の雇用保険給付「出生後休業支援給付金」「育児時短就業給付金」が新設されました。
高年齢者の働き方に関する改正 2025年4月1日より、希望者全員を65歳まで継続雇用することが義務化されました(労使協定による除外が不可に)。また、60歳に達した従業員に対する高年齢雇用継続給付が縮小されました。
パワーハラスメント防止指針の改正案に「自爆営業」が追加 2026年1月20日の労働政策審議会雇用環境・均等分科会で、自爆営業(従業員に不要な商品の購入を強要するなど)がパワハラに当たり得る旨などを記載した指針の改正案が「妥当」と答申されました。

●2026年度

年金制度改革のスタート(在職老齢年金の見直しなど) 2026年4月1日より順次、在職老齢年金の見直し、社会保険の適用拡大、私的年金の見直し、標準報酬月額の上限引き上げ、遺族年金制度の見直しなどが行われます。
子ども・子育て支援金の徴収開始 2026年4月1日より、子育て支援施策全体に係る恒久的な財源を、社会全体で負担するための「子ども・子育て支援金制度」が始まります。従業員負担分を給与天引きにより徴収する実務が発生します。
労働基準法の大改正(時期未定) 労働基準法の約40年ぶりの大改正に向け、政府内で活発な議論が行われています。内容は「連続勤務の上限規制」「法定休日の特定義務化」など多岐にわたります。

(出所:社会保険労務士法人AKJパートナーズ作成)

2 2025年度の総括

2025年度は、4月1日と10月1日の2度にわたり、改正育児・介護休業法が施行されました。これにより、3歳以上小学校就学前の子を育てる従業員に対し、「柔軟な働き方を実現するための措置等(短時間勤務やテレワーク)」を講じること、家族を介護する従業員に対し、支援制度の内容の個別周知・利用意向の確認を行うことなどが義務化されました。併せて育児関連の雇用保険給付も拡充されています。

また、「労使協定により、継続雇用の対象者を限定できる」という経過措置が終了し、2025年4月1日より、原則として希望者は全員、65歳までの継続雇用の対象になることとなりました。

上記の改正の根底にあるのは、少子高齢化が浸透する中で、いかに従業員が安心して働ける環境を整備し、労働力を確保するかという視点です。育児・介護支援制度の拡充などについては、企業から「制度が複雑化し、手続きが大変になった」といった声も上がっていますが、従業員に今まで以上に戦力として活躍してもらうには、経営者や労務担当者が制度への理解を深め、就業環境を整備していく必要があるでしょう。

3 2026年度の主なニュース

1)年金制度改革のスタート (在職老齢年金の見直しなど)

年金制度改正法により、社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化を図るための制度改革がスタートします。押さえておきたいのは次の5つの改正です。施行日順に紹介します (2027年度以降も含む)。

(図表2)【年金制度改革5つの改正】

1.在職老齢年金の見直し 2026年4月1日より、在職老齢年金の支給停止調整額が「51万円→65万円」に引き上げられます。
2.私的年金の見直し 2026年4月1日より、企業型DCの拠出限度額に係る制限が一部撤廃され、12月1日より、iDeCo(イデコ)の加入可能年齢が引き上げられます。
3.社会保険の適用拡大 2026年10月1日より、社会保険に加入するパート等(短時間労働者)の範囲が段階的に拡大されます。
4.標準報酬月額の上限引き上げ 2027年9月1日より、厚生年金保険料の算定に関して、標準報酬月額の上限(現行65万円)が段階的に引き上げられます。
5.遺族年金制度の見直し 2028年4月1日より、子のない配偶者が遺族厚生年金を受け取る場合のルールなどが改正されます。

(出所:社会保険労務士法人AKJパートナーズ作成)

1.在職老齢年金の見直し

2026年4月1日より、

在職老齢年金の支給停止調整額が「51万円→65万円」に引き上げ

られます。在職老齢年金とは、60歳以上の従業員が老齢厚生年金を受け取りながら働く場合、

賃金(総報酬月額相当額(注))+老齢厚生年金(基本月額) >支給停止調整額

となると、年金額の一部または全部が支給停止される制度です。

(注)総報酬月額相当額=(当該月の標準報酬月額+その月以前1年間の標準賞与額の合計) ÷ 12

現行の制度では、賃金と老齢厚生年金の合計が、支給停止調整額である51万円を超えると、超えた分の半額が減額されるのですが、2026年4月1日より、この金額が65万円に引き上げられます。例えば、賃金が月46万円、老齢厚生年金が月10万円の場合、現行の制度では、

(46万円+10万円-51万円) ÷2=2.5万円

が減額されてしまいますが、支給停止調整額が65万円に引き上げられると、

(46万円+10万円) <65万円

となるため、年金は減額されず、全額受け取れるようになります。

2.私的年金の見直し

2026年4月1日より、

企業型DCの「マッチング拠出(企業が拠出する掛金に、従業員が掛金を上乗せできる制度)」について、「従業員の掛金が企業の掛金を超えられないという制限」が撤廃

されます。

また、2026年12月1日より、

iDeCoについて、会社員(国民年金の第2号被保険者)の加入可能年齢が「65歳→70歳」に引き上げ

られます。

この他、2025年6月20日(年金制度改正法の公布日)から5年以内に、厚生労働省による企業年金の運用の見える化 (情報開示) も始まります。

3.社会保険の適用拡大

2026年10月1日より、

社会保険に加入するパート等(短時間労働者)の範囲が段階的に拡大

されます。

現行の制度では、次の条件を全て満たすパート等が社会保険に加入しますが、赤字の要件について改正が行われます。

  • 従業員51人以上の企業に勤めている (2027年10月1日より「従業員36人以上」に変わり、2035年10月1日には要件自体が撤廃)
  • 所定内賃金が月額8.8万円以上 (いわゆる「106万円の壁」。2026年10月1日より撤廃の予定)
  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 学生でない
  • 2ヵ月を超えて雇用される見込みがある

4.標準報酬月額の上限引き上げ

2027年9月1日より、

厚生年金保険料の算定に関して、標準報酬月額の上限が引き上げ

られます。

現行の制度では、厚生年金保険料の標準報酬月額の上限が65万円に設定されていますが、

68万円(2027年9月~) →71万円(2028年9月~) →75万円(2029年9月~)

と、段階的に引き上げられます。

5.遺族年金制度の見直し

2028年4月1日より、

子のない配偶者が遺族厚生年金を受け取る場合のルール、子が遺族基礎年金を受け取る場合のルールや加算額などが改正

されます。

現行の制度では、子のない配偶者が遺族厚生年金を受け取る場合、給付内容について男女(妻か夫か)で取扱いに差がありましたが、2028年4月1日から20年間で段階的に男女差を解消し、

どちらも60歳未満は5年間の有期給付(配慮が必要な場合は継続給付。最長65歳まで)、60歳以上は無期給付

となります。また、子の遺族基礎年金に関する要件が緩和され、

生計を同じくする父または母がいても、一定の条件下で子が遺族基礎年金を受給できる

ようになります。

2) 子ども・子育て支援金の徴収開始

2026年4月1日より、

「子ども・子育て支援金制度」がスタートし、企業では従業員の社会保険料と併せて支援金を徴収する実務が発生

します。子ども・子育て支援金は、出生後休業支援給付金や育児時短就業給付金、国民年金の第1号被保険者(自営業者やフリーランス)の育児期間中の保険料免除などの財源に充てられます。

被用者保険制度の場合、月額報酬・標準賞与額に対し、一般保険料率に国が一律で定める「子ども・子育て支援金率」を加えた率で支援金が徴収されます。

支援金率は、2026年度は0.23%ですが、段階的に引き上げ

られることになっています。被用者保険は労使折半であるため、企業側も同額を負担することとなります。なお、産前産後休業中や育児休業中は医療保険料や厚生年金保険料と同じように、子ども・子育て支援金も免除されます。

3) 労働基準法の大改正 (時期未定)

現在(2026年2月16日時点)、政府内において労働基準法の大幅改正に向けた議論が本格化しています。いずれも現時点では検討段階ではあるものの、法改正が実現した場合、企業実務に与える影響は小さくありません。主な改正点は7つです。

(図表3)【労働基準法7つの改正(検討段階)】

1.連続勤務の上限規制 13日を超える連続勤務を禁止することが検討されています。
2.法定休日の特定義務化 どの日、どの曜日を法定休日にするのかを、事前に特定するよう義務付けることが検討されています。
3.勤務間インターバル制度の実施義務化 実施を義務化(休息時間数は原則11時間を想定)することが検討されています。
4.年次有給休暇の賃金算定方式の一本化 賃金算定方式を「通常の賃金」に一本化することが検討されています。
5.つながらない権利に関するガイドラインの策定 各企業における社内ルールの検討を促していくために、「ガイドライン」を策定することが検討されています。
6.副業・兼業における労働時間の通算ルールの見直し 割増賃金を計算する際、本業先と副業・兼業先の労働時間を通算しないという運用にすることが検討されています。
7.法定労働時間の特例措置の撤廃 法定労働時間について、週44時間の特例措置を撤廃することが検討されています。

(出所:社会保険労務士法人AKJパートナーズ作成)

1.連続勤務の上限規制

従業員の就業日数について、

13日を超える連続勤務を禁止する

ことが検討されています。

現行の制度では、企業は従業員に対し、「毎週1日または4週間を通じ4日以上の休日(法定休日)」を与える義務を負っていますが、休日の配置によっては理論上48日の連続勤務が可能になるため、健康確保の観点からこれを是正しようというものです。

2.法定休日の特定義務化

法定休日について、

どの日、どの曜日を法定休日にするのかを、事前に特定するよう義務付ける

ことが検討されています。

現行の制度では、法定休日を特定する義務はなく、特にシフト制の職場などでは、法定休日が週ごとに変わり、生活リズムが安定しにくくなるなどの問題が発生し得るため、健康確保の観点から見直しが検討されています。

3.勤務間インターバル制度の実施義務化

勤務間インターバル制度 (従業員が終業してから次に始業するまでに、一定時間の休息を取らせる制度)について、

実施を義務化する (休息時間数は原則11時間を想定)

ことが検討されています。

現行の制度では、実施は努力義務となっていますが、2024年1月時点の導入企業割合が5.7% (厚生労働省「令和6年就労条件総合調査」)と低水準であることなどから、義務化に踏み切る見通しです。一方で、実効性を高めるため、制度の適用除外とする職種等の設定や、実際に11時間の勤務間インターバルが確保できなかった場合の代替措置等も検討されています。

4.年次有給休暇の賃金算定方式の一本化

年次有給休暇(以下「年休」)について、

賃金算定方式を「通常の賃金」に一本化する

ことが検討されています。

現行の制度では、年休を取得した場合の賃金算定方式は、

  • 通常の賃金(1日働いた場合の通常の賃金)
  • 平均賃金(直近3ヵ月間の賃金総額(賞与等を除く) ÷ 直近3カ月間の総日数)
  • 標準報酬日額(標準報酬月額÷30日)

のいずれかから企業が選択できますが、雇用形態や勤務状況によっては、年休取得時の賃金が大きく下がるケースがあるため、「通常の賃金」を基本とすべきとの方向性が示されています。

5.つながらない権利に関するガイドラインの策定

つながらない権利(従業員が、勤務時間外(平日の終業後や休日)の仕事に関する連絡への対応を断れる権利)について、

各企業における社内ルールの検討を促していくために「ガイドライン」を策定

することが検討されています。

現行の制度では、つながらない権利に関する法規制はありませんが、一方で、急なトラブルや取引先からの連絡で、勤務時間外の対応を余儀なくされ、私生活と仕事の境界が曖昧になっている人も少なくありません。場合によっては、過重労働や残業代未払いなどにもつながり得るため、政府はこの問題を解決する第一歩として、ガイドラインの策定に取り組もうとしています。

6.副業・兼業における労働時間の通算ルールの見直し

副業・兼業について、

割増賃金を計算する際、本業先と副業・兼業先の労働時間を通算しない

という運用にすることが検討されています。

現行の制度では、本業と副業・兼業の労働時間を通算して割増賃金を計算する必要があり、企業にとって大きな負担となっています。企業側の実務が煩雑だと、社会全体に副業・兼業が浸透していかないため、この問題を解消するために通算ルールの見直しが検討されています。

7.法定労働時間の特例措置の撤廃

法定労働時間について、

週44時間の特例措置を撤廃する

ことが検討されています。

法定労働時間は原則 「1日8時間、週40時間」ですが、現行の制度では、小売業・旅館業・娯楽業の一部などに「1日8時間、週44時間」という特例が認められています。ただ、実態として、対象事業場の87.2%はこの特例を利用しておらず (厚生労働省「労働基準関係法制研究会報告書(2025年1月8日)」)、制度としての役割は小さくなっています。このため、今後は実態を精査した上で、特例措置の撤廃が検討されています。

4 今後の対応について

2026年度のトピックスには、年金制度改革と労働基準法の大改正という2つの大きなものが含まれています。

年金制度改革では「社会保険の適用拡大」により、多くの企業のパート等が社会保険に加入することになります。被保険者が増えることによる人件費負担の増加は避けて通れないでしょう。「年収の壁」の問題がニュースを騒がせるようになっていますが、一方で、「社会保険料が引かれるのならもっと働きたい」と、より長い時間勤務を希望するパート等も増えるかもしれません。パート等を含む人材活用の仕組みについても、改めて考えなくてはなりません。

労働基準法の大改正については、まだ未知数な部分も多いですが、実施された場合、各企業における労働の在り方に大きな影響を与えます。「規制を加えるもの」「労働の自由度を与えるもの」の2つに分かれますが、経営体制を抜本的に見直さなければ対応が難しいケースもあるでしょう。

ここで取り上げた事項については、今のうちから対応策を検討しておき、改正法施行後もスムーズに移行できるよう準備をしておくことが望ましいです。

以上(2026年3月作成)
(監修 社会保険労務士法人AKJパートナーズ)

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画像:Mariko Mitsuda

弁護士が注目する2026年度の法務3大ニュース

1 2025年度・2026年度の3大ニュース

2025年度は、情報流通プラットフォーム対処法により、インターネット上における誹謗(ひぼう)中傷被害を防止するための規制が強化され、さらに、流通業務総合効率化法・貨物自動車運送事業法の改正により、「物流の効率化と特定事業者への規制強化」が行われました。また、建設業法等の改正により、「建設業の処遇改善・働き方改革・生産性向上」も図られました。

2026年度は、下請法が取適法に改正されて「適用対象となる取引拡大」、事業性融資推進法の実効により「新たな企業価値担保権の創設」、労働施策総合推進法・男女雇用機会均等法の改正により「カスハラ・就活セクハラの防止措置義務化」が行われます。

2025年度・2026年度の法務3大ニュースは次の通りです。

(図表1)【2025年度・2026年度の法務3大ニュース】

●2025年度

誹謗中傷防止のための大規模プラットフォーム事業者への規制 2025年4月1日より、情報流通プラットフォーム対処法(旧:プロバイダ責任制限法)が施行され、インターネット上における誹謗中傷被害を防止するための規制が強化されました。
物流効率化と特定事業者への規制強化 2025年4月1日より、改正流通業務総合効率化法・改正貨物自動車運送事業法が施行され、「物流の効率化」「商慣行の見直し」「荷主・消費者の行動変容」のための規制が設けられました。
建設業の処遇改善・働き方改革・生産性向上 2025年12月12日より、建設業法等の改正法が施行され、「従業員の処遇改善」「資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止」「働き方改革と生産性向上」のための規制が設けられました。

●2026年度

下請法が取適法に改正 2026年1月1日より、下請法が取適法に改正され、適用対象となる取引が拡大されました。また、委託事業者の禁止事項も追加され、中小受託事業者の保護が強化されました。
企業価値担保権の創設 2026年5月25日より、事業性融資推進法が施行され、無形資産を含む事業全体を担保とする新たな制度として「企業価値担保権」が創設されます。
カスハラ・就活セクハラの防止措置義務化 2026年10月1日より、改正労働施策総合推進法や改正男女雇用機会均等法が施行され、カスハラ・就活セクハラの防止措置を講じることが事業主の義務になります。

(出所:筆者作成)

2 2025年度の総括

2025年度は、いずれも主に中小企業にとって大きな影響がありました。4月1日には情報流通プラットフォーム対処法が施行され、大規模プラットフォーム事業者に対し、インターネット上の誹謗中傷に対応するため、「削除申出窓口・手続きの整備・公表」「削除申出への対応体制の整備(十分な知識経験を有する者の選任等)」など、5つの義務が課されるようになりました。これにより、誹謗中傷への対応をより迅速に行うことが可能になっています。

また、人材不足が深刻な物流業界では、これを改善するために改正流通業務総合効率化法が施行され、荷待ち・荷役時間の短縮や積載率の向上等のための取り組みを行う努力義務などが課されるようになりました。さらに、改正貨物自動車運送事業法によって、運送契約の締結等の際、所定の事項を記載した書面の交付等を行うことが義務付けられ、運送を担う末端の事業者も適正な報酬が得られる仕組みがつくられました。

その他、建設業界においても、改正建設業法等が施行されたことによって、従業員の処遇改善や働き方改革と生産性向上の見直しなどが図られています。

3 2026年度の主なニュース

1)下請法が取適法に改正

2026年1月1日より、近年の労務費や原材料費などのコスト増加が問題となる中、中小企業をはじめとする事業者が「構造的な価格転嫁」を実現するため、従来の下請法が改正され、取適法(中小受託取引適正化法)として施行されました。

「下請法→取適法」へと法律の名称が変更された背景には、「下請」という言葉が明確な上下関係を連想させかねないからという理由があります。同じ視点から、従来の用語についても、

「親事業者→委託事業者」「下請事業者→中小受託事業者」「下請代金→製造委託等代金」

といった変更が行われています。

主な改正のポイントは次の通りです。すでに施行済みの内容ですが、中小企業にも影響が大きい内容ですので、改めて確認しておきましょう。

  • 適用対象の拡大
  • 新たな禁止行為の追加
  • 面的執行の強化

1.適用対象の拡大

「事業者の基準の見直し」と「対象取引の追加」がなされます。従来の下請法では、適用対象となる事業者は資本金基準によって判断されていましたが、

資本金基準に加え、従業員基準として常時使用する従業員が「300人(製造委託等の場合)」または「100人(役務提供委託等の場合)」

というものが新たに追加されました。

また、対象取引についても、従来の製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託に加え、新たに「特定運送委託」が追加されました。特定運送委託とは、

事業者が販売する物品や、製造や修理を請け負った物品などを、取引の相手方に対して運送する場合に、その運送業務を他の事業者に委託する取引

のことです。

取適法の適用対象

2.新たな禁止行為の追加

従来の下請法では、発注者がやってはいけない禁止行為として受領拒否や代金の支払い遅延、代金の減額、返品、買いたたき等が定められていましたが、取適法ではこれらに加えて、新たに次の禁止行為が追加されました。

  • 協議に応じない一方的な代金決定の禁止
  • 手形払等の禁止

「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」は、中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりして、一方的に代金を決定する行為のことです。昨今、労務費や原材料費などのコスト増加が問題となる中、中小受託事業者がこれらコスト増加の負担を強いられることがないよう、委託事業者との間で価格交渉を行うことができるようにすることが目的です。

「手形払等の禁止」は、下請取引において、代金の支払い手段として手形(紙の手形)を用いることを禁止するものです。これまでの商慣行で手形を使用していた企業は、約束手形に代わる決済手段として、インターネットバンキング、電子記録債権、クレジットカードなどへの移行が必要になります。なお、下請取引以外であれば、紙の手形は引き続き使用できますが、こちらも2027年3月末までに廃止(全て電子化)される方針が示されています。

3.面的執行の強化

面的執行とは、複数の省庁が連携して違反行為に対応することです。委託事業者による違反行為があった場合、行政による指導や助言等が行われます。従来の下請法では、公正取引委員会や中小企業庁にその権限が与えられていましたが、取適法では、委託事業者を所管する主務大臣にも権限が付与されます。

2)企業価値担保権の創設

2026年5月25日に事業性融資推進法が施行され、「企業価値担保権」が創設されます。

企業価値担保権とは、企業が金融機関から融資を受ける際、有形資産(土地・工場等)だけでなく、ノウハウや顧客基盤等の無形資産を含む「事業全体」を担保にできる制度

のことです。これまでは、有形資産に乏しい企業、経営者保証により事業承継や思い切った事業展開をためらっている企業の場合、資金調達の選択肢が限られてしまうという課題がありましたが、企業価値担保権が創設されることで、事業の実態や将来性に着目した融資を受けやすくなります。

企業価値担保権の主なポイントは次の通りです。

1.担保の対象(担保目的財産)

企業の総財産(将来キャッシュフローを含む事業全体の価値)が対象になります。企業は「借り手」として、これらを担保に融資を受けます。

2.借り手 (債務者・担保権設定者)

「借り手」となれるのは、株式会社・持分会社に限定されます。商業登記簿で企業価値担保権が確認されると、借り手企業は、企業価値担保権を設定した後も通常の事業活動の範囲において、財産の処分を自由に行うことができます。また、粉飾等があった場合を除き、経営者個人の保証提供は求められなくなります。

3.担保権者(企業価値担保権信託会社)

新設される「企業価値担保権信託会社」が「担保権者」となり、債務の弁済が滞った際は、裁判所への申立てにより、担保権の実行手続を開始します(事業は解体せず、事業譲渡などで対応)。

4.貸し手(被担保債権者)

「貸し手」となるのは金融機関で、債務が弁済されない場合、事業譲渡の対価から融資を回収します。金融機関が「担保権者兼貸し手」になることもあります。

この企業価値担保権では、ブランド力や知的財産権、ノウハウ等の無形資産も担保目的財産に含まれるため、前述した通り、有形資産に乏しい企業なども融資を受けられる可能性があります。一方で、金融機関から融資を受けるためには、

事業者が金融機関に対し、「根拠をもって」自社の価値を説明できるようにならなければなりません。そのためには、事業計画の策定方法の見直し、説明資料の整理などが必要

となります。

3)カスハラ・就活セクハラの防止措置義務化

2026年10月1日より、カスハラや就活セクハラを防止するために、これらの防止措置を講じることが義務付けられます。

1.カスハラ (カスタマーハラスメント)

カスハラとは、顧客等から従業員に対する悪質な嫌がらせのことで、近年大きな社会問題になっています。一部の都道府県においては条例による規制が定められるようになったものの、法律レベルでは、刑法に触れるような態様は別として、これまでカスハラに対する規制は設けられていませんでした。

こうした状況から、改正労働施策総合推進法により、「カスハラの定義」が明確化され、「カスハラ防止措置の実施」が企業に義務付けられることになります。

まず、定義については、次の要件を全て満たすものがカスハラになることが定められました。

  • 顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行う
  • 社会通念上許容される範囲を超えた言動により、
  • 従業員の就業環境を害すること

防止措置については、2026年2月26日に公表された指針において、次の措置を講じるべき旨が示されています。

  • 事業主の方針等の明確化、その周知・啓発
  • 相談 (苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  • 事後の迅速かつ適切な対応
  • カスハラへの対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置

2.就活セクハラ (求職者等に対するセクシュアルハラスメント)

就活セクハラとは、求職者等(就職活動中の学生やインターンシップ生等)に対する性的な嫌がらせのことです(同性に対するもの、LGBTQ+に対するものも含まれます)。

就活セクハラについてもカスハラと同様、改正男女雇用機会均等法により、防止措置を講じることが義務化されます。こちらも、2026年2月26日に指針が公表されていますが、基本的な措置の内容はカスハラと同じです。なお、指針では、就活セクハラが想定している求職活動として、

  • 企業の採用面接への参加
  • 企業の就職説明会への参加
  • 企業の雇用する従業員への訪問
  • インターンシップへの参加
  • 教育実習、看護実習等の実習の受講

などが例示されています。SNS等のオンラインを介したものやオンライン上の言動も含まれ、従業員が通常就業している場所で行われるものに限定されない旨が明記されているので、「就活セクハラは自社でも起こり得る」ということを十分に認識した上で対策を検討する必要があります。

カスハラ・就活セクハラの防止措置に関する指針やリーフレットについては、こちらをご確認ください。

■厚生労働省「カスタマーハラスメント及び求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が事業主の義務となります!」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html

4 今後の対応について

2026年度も、昨年度と同様に、様々な法改正が予定されています。

すでに施行済みの内容ではありますが、1月に下請法が取適法に改正されたことの影響は大きいです。「親事業者」「下請事業者」といった上下関係が解消され、法律が適用される企業や取引の範囲が拡大しています。影響範囲の洗い出しや取引慣行の点検がまだ十分でない企業は、早急に対応する必要があります。

企業価値担保権は新たな担保制度であり、どれだけの事業者が利用するか、金融機関の運用がどうなるかなどは未知数です。とはいえ、資金調達の選択肢に悩んでいる中小企業・スタートアップ企業については、利用を検討する価値のある制度といえるでしょう。

近年、規制が進んでいるハラスメント分野では、カスハラ・就活セクハラの防止措置が義務付けられます。これまではカスハラ対応などを現場に任せていた企業も、意識を改めて組織としての責任を明確にし、防止措置を講じる必要があります。社内規定やマニュアルの作成、体制の整備においては、専門家への相談も欠かせません。

以上(2026年3月作成)
(執筆 石原法律事務所 弁護士 磯田翔)

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画像:Mariko Mitsuda