部下のHさんが「金曜日だけ1時間早く退勤したい」、どう声をかけますか?/ 武田斉紀の『次世代リーダーに必須の コミュニケーション習慣』【実践編】(9)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:コミュニケーションに関わる知識やノウハウは、頭では理解できても、実際の場面で使いこなせるようになるまでには高いハードルがあるものです。
  • 解決策:前回シリーズ『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』での知識やノウハウを聞いただけではまだ一歩を踏み出せない、あるいはトライしてみたがうまくいかないという方のために、新シリーズでは【実践編】として社内の“あるある”場面を想定した質問に対して一緒に考えながら、実践イメージを膨らませていただきます。またリーダー側の視点とは別に、若手社員側の視点による上司世代との上手な付き合い方のヒントも紹介していきます。リーダー世代と若手社員とのコミュニケーションギャップを埋めることは、世界を舞台にスピーディな成長をめざす日本企業にとっても喫緊の課題だからです。

1 部下のHさんが「金曜日だけ1時間早く退勤したい」、どう声をかけますか?

今シリーズは、前シリーズ『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』の実践編としてお送りしています。毎回実際にありそうなさまざまなシチュエーションを想定して、その際にどんなコミュニケーションを取るのが望ましいかを一緒に考えていきます。

前回第8回では、任された仕事に不満を覚えている部下とのコミュニケーションのあり方について、上司、部下、それぞれの立場から考えてみました。いかがだったでしょうか。

今回は課題[事例8]です。以下に再掲しますので、前回皆さんが考えてみた解答を思い出してみてください。まだ考えていなかった方もぜひ考えてみてください。自ら考えないで、解説だけを読んでいても身に付きませんよ。

—————————

Q.部下のHさんに対して、あなたはこの後、最初にどんな声をかけますか? また、それを考える際に注意するべきポイントを3つほど挙げてください。書かれているさまざまな要素を考慮してみましょう。

[事例8]

〇あなたの部下のHさんの職場での表情がさえないのが気になっています。昼休みになるとため息をつきながら、肩を揉むような姿を何度も見かけます。

〇ある日、Hさんが「ちょっといいですか?」とあなたに声をかけ「大変申し訳ないのですが、プライベートのことでしばらく金曜日だけ1時間早く退勤させていただくことは可能でしょうか。その分、朝1時間早く出社するようにしますので……」と相談がありました。

—————————

テーマは「部下のプライベートの問題」です。これまで同様、起こっている事象を整理することから始め、現場で起こっていることの可能性を探ってみましょう。

2 部署がどんなに忙しい状態でも、部下からの相談を面倒くさがらない

あなたの部署が人手不足で、かつ最も忙しい状態だったらどうでしょう。あなたは上司としてろくに話も聞かずに、「Hさん、今うちの部署がどういう状態なのか分かっていますよね。1人だけわがままを言わないでください」と、迷惑そうにぴしゃりと跳ね返すでしょうか。

いくら人手不足で多忙を極めていたとしても、さすがにそんな対応はしませんよね。

事例を使っての『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』の実践編も今回で8回目です。皆さんもそろそろ慣れてこられたのではないでしょうか。

最終的にHさんの希望をそのまま受け入れられるかどうかは別として、

部下から相談があった場合は“まず「傾聴」してみる”こと。

どんな状態にあろうと、あからさまに「面倒くさいな」という顔をしてはいけません。

Hさんは「その分、朝1時間早く出社するようにしますので」と添えています。職場の状況を理解し、申し訳ない気持ちで相談してきたのでしょう。

「傾聴」のための面談の10分や20分なら互いに確保できるはずです。本人が許せば休憩時間を利用してもいいでしょう。

冷静になって相談相手の話を「傾聴」してから対処を考えたほうが、すっきりと解決して近道となることが多いものです。

長い目で見ても、会社や部署、あなたとHさんとの関係構築においてもプラスに作用します。

Hさんの相談は退勤時間に関わること、つまり働き方です。

「働き方改革」が叫ばれて久しいですが、その趣旨は社員が日々健康に業務に集中できて成果を発揮できる環境を用意すること、会社としては人材を活かし結果として生産性と付加価値を高めることです。

社員が働く上でのプラスになるのであれば、会社や部署としてはできる限り善処するというのがあるべき基本スタンスといえるでしょう。

後はHさんの希望と背景を詳しく聞いた上で、部署の状況も勘案しながら上司としてどんな対応方法が用意できるかを考え、Hさんと話し合って判断するといいでしょう。

3 改めて、「傾聴」に当たって注意するべき点

いざHさんから話を聞くに当たって、先に伝えておきたいのは今挙げた基本方針、「社員が働く上でのプラスになるのであれば、会社や部署としてはできる限り善処する」という点です。

なるべく希望に沿うように善処したい旨を告げて、詳しい話を聞くための時間をHさんに取ってもらいましょう。本人が「プライベートのことで」と断っている以上、周囲に聞かれない環境を用意してあげるのが前提ですね。

本来、プライベートは仕事とは別と考えるべきですが、1人の人間が関わる以上、切り離せない状況は発生します。Hさんもそのはざまで悩んでいるのでしょう。上司としてはこれらの点にも配慮して、「傾聴」の前に一言、声をかけてあげたいところです。詳しくは、後ほど紹介します。

「傾聴」に当たっては、事前に予想や仮説を立ててみてもよいですが、本番では予断を持たずに臨みましょう。「傾聴」の基本は繰り返すまでもありませんが、「相手の話をよく聴き、共感を示す」ことです。

相手のほうに体を向けて適度に視線を合わせ、「うなずきや相槌(あいづち)」「承認(なるほど、そうですかなど)」「共感(それは大変でしたね、すごいですねなど)」といった言葉や表情、動きを交えながら行いましょう。「反応しているつもり」ではなく、少し大げさなくらいでいいのです。それでようやく他人に伝わります。

また「相手の話は最後まで聞く」こと。1)予め答えを用意したり誘導したりしない。2)途中でさえぎったり、決めつけたりしない。3)まとめたがらない、結論を急がない。普段、部下の話を聞く際に、当てはまる点はありませんか? メモを取りながら聞くと相手は安心できます。

より相手の状況を理解し、共感を示すためには、相槌をうちながら質問を挟んでみましょう。例えば、「それは大変ですね。あなたはどんな気持ちでしたか?」「それは良かったですね。あなたもうれしかったのではないですか?」といったように。

相手の話を受け止めて、その時の気持ちを聞いてあげるだけで、相手は心を開きやすくなります。相談の背景もより立体的に捉えられて、後で「これも話しておくべきだった(聞いておくべきだった)」と悔やむこともなくなり、より正しい判断ができるようになるでしょう。

4 上司が最初にかけるべき言葉とは?

部下のHさんに最初にかける言葉は次のようなイメージです。

「“しばらく金曜日だけ1時間早く退勤したい”という相談ですね。部署としても会社としても、Hさんが業務に集中できるよう、できる限り働きやすい環境を用意したいと考えていますので、詳しい話を聞かせてもらえますか? 時間を取って話しましょう」

“部署としても~考えていますので”までは、会社や部署としての基本方針を伝える大事なポイントです。社員が業務に集中できるようになるのであれば、できる限り善処したいという意向を示し安心してもらいましょう。

同時に今回、本人が「プライベートのことで」と断っているので、次の一言を添えたいところです。

「プライベートのこととはいえ、今回の希望に関わる部分についてはできれば詳しく聞かせてほしいし、そのほうが判断もしやすくなると思います。秘密にしておきたい部分は他言しませんので、可能な範囲で正直に教えてください」

他のメンバーに聞かれることのない、本人の話しやすい環境を用意してあげましょう。

ちなみに、私はあえてこの時点では、Hさんの「職場での表情がさえない、ため息をつきながら肩を揉んでいる」姿には触れません。今回早退を希望する理由とつながっているかもしれないし、つながっていないかもしれないからです。予断は禁物です。

「傾聴」した後に、つながっていればそこで触れればいいし、つながっていなければ本人の話とは別に、こちらから「実は最近少し気になっているのですが……」と話しかけてみるといいでしょう。

本人からは言い出しにくいけれど、早退理由より重大な話が隠れていることもあります。例えば、早退は一時的な家族に関わる問題で、それとは別に自身が大病を抱えていたといったケースです。

重大な体調の変化から来る表情や動作に本人さえ気付いていない場合もあります。上司は日ごろから部下の様子をよく観察しておくことが大切ですね。

5 上司は本人の希望そのままだけでなく、幅広い選択肢を用意しベストを探る

ポイントを整理しましょう。

【今回の3つのポイント】

1 部署としても会社としても、社員が業務に集中できるよう、できる限り働きやすい環境を用意したいと考えている旨の基本方針を伝え、詳しい話を聞ける時間を設定する(プライベートの理由であることに配慮しつつ、今回の希望に関わる部分については可能な範囲で詳しく聞かせてもらえるように依頼し、安心して話せる環境を用意する)

2 予断を持たず、「傾聴」して相談相手の詳しい現状や背景と、希望内容を確認する

3 他に気になっている点があれば触れて、総合的に本人にとってより良い選択肢を幅広く考えた上で、話し合って対処方法を決める

1、2、についてはすでに詳説しましたので、3について補足します。

Hさんの詳しい現状や背景と、希望内容を確認できたら、なるべく希望をかなえられるような方法を一緒に考えていきましょう。たとえ全ての希望をかなえるのが困難な場合でも、可能な範囲で最善の方法をぎりぎりまで考えてあげることは、本人のモチベーションや互いの信頼関係にもつながります。

ここで上司であるあなたには、本人からの申し出に限定せずにより良い方法を考えて選択肢として提示してあげてほしいのです。どこまで選択肢を用意できるかが、上司の腕の見せ所です。

例えば、“しばらく金曜日だけ1時間早く退勤したい”と本人が言っているものの、事案を客観的に判断すれば1時間では足りない、金曜日だけでは足りないのではと感じたらどうでしょうか。もう少し踏み込んだ働き方の見直しを、あえて上司から提案するのです。

一方で早退は家族の送迎や介護のためで、「職場での表情がさえない、ため息をつきながら肩を揉んでいる」姿の裏で、本人がもっと重大な健康上の問題を抱えていることが分かったとしましょう。この場合、まとまった期間の休業をあなたから提案することも必要です。

その間の給与が心配なのであれば有休の消化や、社内や公的な制度の活用なども探りましょう。休業による業務の遅延が心配なら、他部署からの応援や外部ソースを一時的に活用するなど、いかようにも考えられます。その発想ができるのが上司の裁量です。

また、上司としては重大な問題と感じながら本人に自覚がないようなら、客観的な事実を伝えてすぐに専門家に相談するよう積極的に促すことも必要でしょう。

「傾聴」によって総合的な視点を持ち、本人と組織の双方にとってより良い選択肢を幅広く用意できる人こそが、優秀で部下も信頼できる上司になれるのです。

少なくとも今回のような“しばらく金曜日だけ1時間早く退勤したい”程度の条件が不可能などということはないですよね。問題は他の選択肢も含めて、忙しくしている職場の他のメンバーの理解を得られるかどうかでしょう。

たとえ1時間でも「どうしてHさんだけ特別扱いなのか」となれば、職場の士気や一体感が失われるかもしれません。Hさんもつらいでしょうし、本来目指すべきはずだった「社員が働きやすい環境」からは程遠くなってしまいます。

同じ職場で働く仲間として、可能な範囲でHさんからもメンバーに対して説明してもらいながら、上司としてはHさんと話し合った方向性でまとまるように全力で支援していきましょう。

できればHさん、そして職場のメンバーにも、「前向き発想」の言葉を添えるのを忘れずに。

例えば「皆さんも個人的なことで相談があれば、遠慮なく相談してくださいね。部署としても会社としても、皆さんが業務に集中できるよう、できる限り働きやすい環境を用意したいと考えていますので。困ったときはお互い様、全員で力を合わせてがんばっていきましょう!」

最後に、逆に皆さんがHさんの立場だとして、できることを考えてみましょう。

“しばらく金曜日だけ1時間早く退勤したい”程度のこととはいえ、イレギュラーな働き方をお願いする立場です。上司との日ごろの関係性もあるでしょうし、プライベートは仕事とは別という気持ちがあったとしても、できる限り詳しい説明をした上で相談するべきでしょう。

そのほうが上司だけでなく、メンバーからの理解も得やすいはずです。必要以上に気兼ねすることなく退勤できるでしょうし、むしろ応援してくれるかもしれません。また、優秀な上司であればあるほど、あなたの提示を超えるより良い提案を用意してくれるはずです。

6 目標未達の部下Iさんから、ある日思いつきのような企画提案が、どう声をかけますか?

次回に向けた課題[事例9]を紹介します。

—————————

Q.部下のIさんに対して、あなたはこの後、最初にどんな声をかけますか? また、それを考える際に注意するべきポイントを3つほど挙げてください。書かれているさまざまな要素を考慮してみましょう。

[事例9]

〇部下のIさんが、ある日の朝突然、「新しい企画を考えたんですけど、ぜひ聞いてください」と興奮気味に話しかけてきました。

〇課の目標達成の期限が間近に迫っていました。課の多くのメンバーは、すでに目標を達成したりほぼ確実にしたりしていますが、Iさんを含めた数人の達成がもう少しのところで見通せないため、課としての目標達成が不確実な状況です。

—————————

テーマは「モチベーションの育て方」です。これまで同様、起こっている事象を整理することから始め、現場で起こっていることの可能性を探ってみましょう。皆さんの職場でも似たようなケースはありませんか。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

すでにシリーズもあと数回を数えるところまできています。日常で事例と近いシーンがあれば、ぜひ『新たな3つのコミュニケーション習慣』の実践にトライしてみてください。

次回もお楽しみに。

<ご質問を承ります>

ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mail to: brightinfo@brightside.co.jp

※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。

『新スペシャリストになろう!』 https://amzn.asia/d/e8GZwTB

『なぜ社長の話はわかりにくいのか』 https://amzn.asia/d/8YUKdlx

以上(2025年3月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

pj90270
画像:PureSolution-Adobe Stock

2月19日(水)アーカイブ配信「経営者も知っておきたい 中小企業の設備投資等の判断・ファイナンス基礎セミナー」

令和7年2月19日(水)に開催いたしました「経営者も知っておきたい 中小企業の設備投資等の判断・ファイナンス基礎セミナー」のアーカイブ配信をいたします。

ご視聴はこちらから!

配信期間:令和7年3月4日(火)~3月10日(月)

なお、本視聴はとくぎんサクセスクラブ会員さま限定とさせていただいておりますので、動画の共有等はご遠慮ください。

【講演内容】

  • 初期(設備)投資の判断方法
  • ファイナンス思考の実践例
  • 予算と予測のキホン

【開催概要】

  • 開催日:令和7年2月19日(水)
  • 時間:13:30~14:30

【講師】
税理士法人ベルダ 公認会計士/四国大学 特認教授
林 健太郎(はやし けんたろう)氏

【入社1年目の教科書】ビジネス文書は誠実さの証し。何が必要か、ビジネスの流れで考えてみよう

書いてあること

  • 主な読者:ビジネス文書の種類が多すぎて混乱している新入社員
  • 課題:そもそもビジネス文書がなぜ必要なのか分からない
  • 解決策:ビジネス文書は、「なぜ、必要なのか?」を理解する

取引先との商談は順調で、何だかうまくいきそうだぞ。商談は先輩がやってくれているけど、私もオンラインミーティングの設定とか、議事録の作成とかで貢献している。ところで、今回のビジネスではうちも設備投資が必要で、「稟議(りんぎ)書」を書かないといけないそうだ。初めて聞く書類の名前だけど、何を書けばいいのかな……。

1 (質問)ビジネス文書の「並べ替え」ができますか?

ビジネスでは、さまざまな文書が登場します。ビジネス文書を作成したり、保管したりするのは面倒ですが、

ビジネス文書は、誠実にトラブルなくビジネスを進めるために必要なもの

です。例えば、「請求書」は法律で保管が義務付けられていますし、会社が架空請求などルール違反をしていないことを示します。また、設備投資などの場合は「稟議書」を作成して決裁者の承認を得ます。会社のお金を使う以上、しっかりと関係者の承認を得ないといけないわけで、それを稟議書で行っているのです。

となると、皆さんは代表的なビジネス文書を覚えなければなりません。以下は代表的なビジネス文書ですが、これらをビジネスの流れに沿って並べ替えることができるでしょうか? ビジネス文書が何のために必要なのかを意識していれば、すぐに並べ替えられるようになります(答えは最終章にあります)。

納品書、提案書、検収書、注文書(発注書)、支払通知書、注文請書(受注書)、領収書、請求書、見積書、契約書

2 何のために必要なのかを考える

ビジネス文書が面倒に感じるのは、フォーマットが分かりにくく、独特の言い回しがあるからでしょう。また、稟議書などは、「毎月、◯日が締め切りで、それまでに提出しなければ来月にならないと承認されない」といった不自由さもあります。

ただ、フォーマットや表現は慣れの問題ですし、スケジュールも先輩に質問すればよいだけです。それよりも皆さんは、

そのビジネス文書は、何のために作成されるのか?

を把握するようにしましょう。ビジネス文書がなぜ必要なのかが理解できれば、訳も分からず作成することはなくなります。一般的なビジネス文書は次の通りです。会社によって名称などは異なりますが、まずは「何のために」をざっくりと把握しておけば十分です。

画像1

3 紙からデータへ、フォーマットから平文へ

今どきは、ビジネスを支援するさまざまなツールが登場していて、契約書や領収書などのビジネス文書もデータでやりとりされるようになってきています。紙の場合と勝手が違うところもあるので、先輩に教えてもらいながら、きちんとツールを使えるようになりましょう。

また、リモートワークをしている会社の場合や注文金額が小さい場合などは、正式なフォーマットではなくメールの平文で発注をもらい、その返信で受注の意思表示をすることもあります。後々トラブルにならないように、形の残る方法でやりとりすることが不可欠です。

4 (答え)ビジネスの流れと必要なビジネス文書

冒頭で示した質問の答えは次の通りです。もうお分かりですよね。

画像2

以上(2025年1月更新)

pj00508
画像:Mariko Mitsuda

採用活動で応募者のSNS調査を行うことは是か非か?

1 SNS調査をこっそりと行うのはNG

社員がSNSに投稿した不適切な内容で「炎上」や「情報漏洩」が起きてしまったら、会社にもダメージが及ぶかもしれません。採用内定を会社都合で取り消したり、社員を解雇したりするのは容易ではないため、リスクをなるべく減らす目的で行われるのが

SNS調査やリファレンスチェック(以下「SNS調査など」)

です。

  • SNS調査
    履歴書や面接の情報を基に、応募者のSNSの実名アカウントを調べて、投稿内容を確認すること。そこから出身地や誕生日などが一致する匿名アカウントを探し、プロフィール情報やフォローしている友人などから応募者本人かどうかを判別し、投稿内容を確認することを「裏アカ調査」という

  • リファレンスチェック
    履歴書や面接の情報を基に、応募者の前職の勤務状況や人物像について関係者に問い合わせること(中途採用の場合)

SNS調査などをすれば、履歴書や面接からは分からない応募者の「素の人柄」を知ることができるかもしれません。とはいえ、SNSは私生活の投稿です。勝手にSNS調査などを行っていいのかという疑問も残ります。

実際のところは、

SNS調査などは非常にグレーであり、こっそりと行うのはまずNG

です。この記事では、その理由を紹介します。

2 SNS調査などがグレーな理由

1)「SNS調査などに利用します」と通知する?

履歴書や面接を通じて得られる応募者の情報は「個人情報」です。個人情報の取得には、利用目的を特定の上、その目的の通知または公表しなければなりません。本人から直接書面で取得するなら、あらかじめ利用目的を明示します。

ですから、応募者の個人情報をSNS調査などのために利用するのであれば、その旨を、通知または公表する必要があります。ただし、個人情報をSNS調査などのために利用することを通知または公表すると、応募者の反感を買う恐れがあるので、あまり現実的とはいえません。

2)実名アカウントの閲覧まではOK。でもそれ以上はNG

厚生労働省職業安定局「募集・求人業務取扱要領(令和6年10月)」では、会社や会社から委託を受けた採用募集代行業者が応募者の個人情報を収集する場合、次のような適法かつ公正な手段を取らなければならないとされています。

  • 本人から直接収集する
  • 本人の同意の下で本人以外の者から収集する
  • 本人により公開されている個人情報を収集する など

応募者が実名アカウントで、公開範囲を限定せずにSNSに投稿している内容を確認することは問題ないでしょう。ただし、それ以上進めて、「裏アカ調査」やリファレンスチェックをするには、応募者の同意を得る必要があると考えられます。

3)採用活動で利用するなら、利用目的の通知または公表が必要

個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」では、

個人情報を含む情報がインターネット等に公開されている場合、単にこれを閲覧するだけで、転記等を行わないのであれば、個人情報を取得しているとはいえない

とされています。

SNSの投稿は、不特定多数の人に見られることを前提としているので、応募者が公開アカウントでSNSに投稿している内容を確認するだけなら、個人情報の取得には当たりません。しかし、採用の検討材料にするなら、個人情報の取得に当たると考えられ、利用目的を特定の上、その目的を通知または公表することが必要です。

例えば、ディー・エヌ・エーグループの採用活動におけるプライバシーポリシーでは、利用目的の1つとして、

当社グループの採用選考に際し、候補者の適格性を評価するため(これには、バックグラウンドチェック、リファレンスチェック、その他の確認手続を含みます)

と記されています。「バックグラウンドチェック」と表記するなどの工夫もされています。

4)収集してはならない情報がある?

職業安定法では、事業主が求職者から情報を取得する場合につき、取得目的を制限しています。また、職業安定法に基づく指針(平成11年労働省告示第141号、最終改正令和6年厚生労働省告示第318号)では、以下の情報を、原則として収集してはならない情報として定めています。

  1. 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となる恐れのある事項(家族の職業、収入、本人の資産などの情報、容姿、スリーサイズなど)
  2. 思想および信条(人生観、生活信条、支持政党、購読新聞・雑誌、愛読書など)
  3. 労働組合への加入状況

例外的に、これらの情報であっても収集目的を示した上で本人から収集することができるケースもありますが、特別な職業上の必要性がある場合などに限定されています。不用意に収集すると職業安定法に基づく改善命令が発出される場合があり、この命令に違反すると、罰則(6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金)の対象になります。

なお、これらの情報は、個人情報保護法の「要配慮個人情報」と一部重複しますが、

要配慮個人情報は本人の同意があれば収集できるのに対し、職業安定法に基づく指針の「収集してはならない情報」は、文字通り、原則として収集不可

となっている点に注意が必要です。

SNSには個人の考えなどを投稿することもあり、そこに「収集してはならない情報」が含まれる可能性は十分にあります。

5)調査代行業者への依頼やリファレンスチェックは個人情報の「第三者提供」

SNS調査などを代行する専門業者(以下「調査代行業者」)もいますが、調査代行業者への依頼は個人情報の「第三者提供」に当たると考えられます。調査代行業者が独自に調査した結果と、応募者の個人情報の突合は、企業の「委託」では不可能だからです。同様に、調査代行業者が依頼元の企業に個人情報を含む調査結果を渡すことも第三者提供に当たると考えられます。

個人情報の第三者提供を行う場合、あらかじめ本人の同意を得る必要があります。2022年4月に改正個人情報保護法が施行されたため、第三者提供に係る記録の開示請求手続に対応する必要があります。

同様に、リファレンスチェックも、履歴書や面接の個人情報を前職の企業に渡すことになるため、第三者提供に当たると考えられます。

3 SNS調査などがはらむリスク

このように、利用目的を明らかにして本人の同意を得られれば、SNS調査などを実施できることになりますが、懸念は残ります。例えば、「バックグラウンドチェックをします」と説明されても、応募者は「裏アカ調査」をされると認識できないでしょう。また、志望先の企業からSNS調査などの同意を求められたとき、それを拒否するのは難しいかもしれません。

この他、同姓同名の他人の情報との取り違いや、悪意の第三者によるなりすましが起こらないかといったことも危惧されます。

日本労働組合総連合会「就職差別に関する調査2023」によると、採用試験を3年以内に受けた15~29歳の男女計1000人のうち、

  • 「採用選考過程において、企業からSNSアカウントを調査する旨の通知を受けたことがある」という回答が11.7%
  • 「採用選考過程において、企業からSNSアカウントを調査されたことがある」という回答が10.7%

となりました。また、それぞれ「わからない」という回答が25.0%、29.3%を占めており、 さらに多くの調査が行われている可能性もあるといいます。

さらに、SNS調査などは「身元調査」にもなり得ます。このような調査の結果、目にしてしまった情報をもとに無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)が生じ、新たな就職差別につながる恐れもありますので、注意が必要です。

以上(2025年2月更新)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)

pj60325
画像:wei-Adobe Stock

無信号交差点での注意点(2025/3号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

 先月号「交通信号の意味を再確認!」では信号の各色の点灯状態・点滅状態の意味や、信号機のない、または作動していない交差点における優先道路のルールについても改めて確認しました。
 今月号では、特に信号のない交差点=無信号交差点での事故について、その原因と対策を具体的な事例を基に考えます。

無信号交差点での注意点

比較的小さい交差点で発生する事故が多い

 警察庁が公開している「交通事故統計情報のオープンデータ」※1では、過去5年分の全国の交通事故発生地点や事故類型などがわかります。

 このオープンデータを分析した朝日新聞社の記事※2によると、2019~2020年に発生した人身事故のうち28万件超が交差点付近で発生し、うち6割が無信号交差点(信号機が設置されていない、または機能していない交差点)での事故であることがわかりました。

交通事故統計情報のオープンデータ

 歩行者、自転車が関連する事故の発生した無信号交差点の特徴を、車道幅や速度規制別に分類し集計したところ、「車道の幅が13メートル未満の小、中規模、かつ規制速度が時速20から40キロ以下の交差点で事故が集中していた。」とのことです。事故が「指定の速度規制なし等」の条件に分類されるケースでも、車道の幅が狭いなど小さい交差点で発生する事故が多いことが示されています。

無信号交差点の特徴

※1 警察庁, 交通事故統計情報のオープンデータ https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/opendata/index_opendata.html(2025.2.10閲覧)

※2 (株)朝日新聞社, みえない交差点 分析編 https://www.asahi.com/special/jiko-kosaten/analysis/?iref=mienaikosaten_map(2025.2.10閲覧)

※3 道幅が13m以上の道を「大」、5.5m以上13m未満を「中」、5.5m未満を「小」と分類。「大‐小」とは幅13m以上の道と5.5m未満の道が接続する交差点、の意味。

事故が多発する無信号交差点の特徴

 最近の5年間で10件以上の事故が起きた全国の無信号交差点を詳しく調べると、以下のような特徴がみられました。

■見通しが悪く左右確認しにくい

 死角をつくるもの(建物、地形、橋脚など)により左右確認が難しい交差点が目立ちます。このような場所ではカーブミラーが重要ですが、右図の例では①ミラーが遠くにあるため鏡像が見にくくなっています。また②前方道路と鋭角で交差するため、停止線を越えて交差点に進入しないと左方の直視が困難で、リスク増加の一因となりえます。

見通しが悪く左右確認しにくい

■直線が続き走行中の道路の見通しが良い

 非優先道路(交差点では一時停止)でも③遠くまで見通せるような直線の道路で事故が起こりやすいようです。その背景には「ついスピードが出やすい」「朝日・西日が眩しい」等が考えられるほか、元は直線単路だった場所に④新たに道路が整備され、新しく交差点ができたケースもあり、慣れない車が単路だったときと同様の走り方をしてしまうかも知れません。

直線が続き走行中の道路の見通しが良い

 その他、五差路など複雑な形状のため危険予測が難しい交差点や、高速道・幹線道路から分岐した直後の交差点(速度感覚が速いまま差し掛かる)において事故多発の傾向があるようです。

無信号交差点での事故防止ポイント

  • 死角が多い、鋭角で交差している、複雑な形状をしている、などの特徴のある交差点では車・人・自転車の接近が分かりづらい場合があります。交差点形状を十分把握し、カーブミラーに映る限られた情報を見極め、死角に気を配りながら慎重に通過しましょう。「見切り発車」は禁物です。
  • 見通しが良い、一見安全そうな交差点でも危険予知を怠らないようにしましょう。自分が走行中の道路の優先/非優先の区別を意識しましょう。特に非優先道路側にいる場合、左右から接近する車の有無を必ず確認し、その車を妨げないよう徐行・一時停止を心がけましょう。

以上(2025年3月)

sj09142
画像:amanaimages

【役員退職金】役員退職金を損金算入するために重要な3つのポイント

1 役員退職金の決定過程を明確にすることが基本

中小企業(特に同族企業)の経営者は、自分で自身や他の役員の役員退職金の支給額を決められます。自身はもちろん、経営に貢献してくれた役員に多くの役員退職金を支給したいものですが、その支給額の決定基準が曖昧だと税務調査で問題が指摘されることがあります。そうならないために、

ことが必要です。

この記事では、税務の視点から役員退職金を解説します。補足として、役員退職金の支給を受けた役員の所得税についても触れます。

2 役員退職金が損金に算入できるタイミングを知る

役員退職金が損金に算入できるタイミングは次の2つです。

  1. 株主総会において役員退職金の支給を決議し、金額が確定した事業年度
  2. 実際に役員退職金を支給した事業年度

このタイミングさえ守っていれば、

利益が大きく出そうな事業年度に役員退職金を支給して、損金に算入すること

ができます。一方、株主総会の決議がされる事業年度より前の事業年度に、役員退職金の支給額を内定しておき、未払金として計上しても損金に算入できません。

3 役員退職金の決定過程を明確にして規程で定める

会社法上、役員退職金はいくら支払っても問題ありません。しかし、税務上はそうはいきません。高額過ぎる役員退職金は過大な退職給与となり、過大とされる部分は損金算入できません。気になるのは「高額」の基準ですが、この点は、

などから総合的に判断されます。ただ、「総合的に判断」というのは曖昧で、実際は「功績倍率法」を採用するのが一般的です。功績倍率法とは、

役員退職金を「退任時月額報酬×役員勤続年数×功績倍率」によって算出し、それを税務上の上限とみなす方法

です。例えば、退任時月額報酬が100万円、役員勤続年数が20年、功績倍率が3倍の場合は「6000万円(100万円×20年×3)」となります。なお、この金額はあくまでも税務上の上限であり、満額を支給する必要はありません。

一般的な功績倍率は1.5〜3倍ですが、税務上の明確な決まりはありません。功績倍率を明確にするためにも、役員退職金規程を作成しましょう。

4 役員退職金を支給された役員は職務から完全に離れる

役員退職金を支給された役員は、役員としての職務から完全に離れるのが原則です。

例外は、職務分掌の変更で役割が著しく変わったために支給される役員退職金です。例えば、常勤役員が代表権のない非常勤役員になる、取締役が監査役になるなどのケースであり、そこで支給される役員退職金は損金に算入できます。

いずれにしても「退職」の実態が必要です。逆に、形式上は役員を退任しているが、実質は変わっていない(代表取締役から顧問になったが、常勤し実質的に経営に関与し続けているなど)と判断されたら、役員退職金は「役員に対する臨時的な給与」として損金に算入できません。当然、役員退職金を受領した役員の所得税等も高くなります。

5 役員退職金を支給された役員の所得税

役員退職金は高額になりやすいので、支給された役員の所得税についても考えなければなりません。役員退職金が支給されたら、所得税及び復興特別所得税、住民税(以下「所得税等」)が源泉徴収されます。所得税等は、原則として、次の算式で計算した「課税退職所得」の金額に、税率を掛けて計算します。

(役員退職金の額-退職所得控除額)×2分の1

この計算式で示す退職所得控除額は次の通りです(2カ所以上で受給するなど一定の場合を除く)。

所得税等の面で役員退職金は優遇されています。ただし、

役員の勤続年数が5年以下の場合、先の計算式の「2分の1」の措置は適用されないので、退職所得が2倍となって所得税等の負担も重くなる

ことになります。この勤続年数の考慮についてはミスが多い論点ですので留意しましょう。

また、

勤続年数5年以下の一般社員についても退職所得が300万円を超える部分は同様の取り扱い

になっています。

以上(2025年2月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

pj10046
画像:pixabay

【役員退職金】これだけ押さえれば大丈夫。役員退職金の基本ルールを簡単解説

1 役員退職金とは

役員退職金とは、

退任した役員に対し、在任中の会社への功労に報いることや、勤続に対する報奨として支給されるもの

です。役員退職金の基本的なルールを法務、会計、税務に分けて整理します。大切なポイントは次の通りです。

2 役員退職金の法務

1)基本的な考え方

一定の権限を持つ役員が自身の役員退職金を自由に決めると、いわゆる「お手盛り」の懸念があります。そこで役員退職金の支給については、

役員退職金を含む役員報酬等について定款に定めるか、株主総会の決議が必要

です。ただし、定款に定めると金額を変更する際などの手続きが煩雑になるのでこうする会社は少なく、多くは株主総会の決議で役員退職金を支給しています。その際、株主総会では

支給対象者だけを開示し、支給額などは取締役会に一任する旨を決議

するのが一般的です。この決議を受け、取締役会で役員退職金規程に基づいて金額、支給の方法、時期などを決定します。こうした方法を「内規一任型」などと呼びます。

当然ですが、株主総会で否決されれば、役員退職金は支給されません。株主にとっては、役員退職金も役員報酬の一部であり、株主の利益と相反する部分があるのです。

株主総会の招集通知の記載例や、その後の取締役会での決議は以下の通りです。

2)「定時株主総会招集通知」の記載例

決議事項

第○号議案 退任取締役に対し退職慰労金贈呈の件

3)「議決権の行使についての参考書類」への記載例

第○号議案 退任取締役に対し退職慰労金贈呈の件

本総会終結の時をもって退任されます取締役 日本太郎氏に対し、その在任中の功労に報いるため、当社所定の内規に従い、相当額の範囲内で退職慰労金を贈呈することとし、その具体的金額、支給の方法、時期などは取締役会にご一任願いたいと存じます。

退任取締役の略歴は、次の通りです。

画像1

4)取締役会決議

役員退職金規程に基づき、役員退職金の金額、支給の方法、時期などを決定します。

3 役員退職金の会計と税務

まず会計についてです。役員退職金は支給時に一括して費用処理する場合もありますが、

役員退職金規程があり、支給実績がある場合、役員退職金引当金として有税積立(いわゆる「一時差異」で、後に損金となる)をしておき、支給時に充当するのが通常

です。

次に税務についてです。役員退職金は損金に算入できます。そのタイミングは次の2つです。

  1. 株主総会において役員退職金の支給を決議し、金額が確定した事業年度
  2. 実際に役員退職金を支給した事業年度

役員退職金を年金として支給する場合もありますが、その場合も支給した事業年度に支給した額を損金算入します。

なお、役員退職金の全額が無条件で損金に算入できるわけではありません。「役員退職金が高額過ぎる!」と判断されてしまうと、高額とされた部分(適正額を超える部分の金額)は損金に算入できません。

そこで、多くの会社は「功績倍率法」を採用しています。功績倍率法とは、

役員退職金を「退任時月額報酬×在任年数×功績倍率」によって算出し、それを税務上の上限とみなす方法

です。功績倍率によって金額が大きく変わりますが、この点については、

代表取締役の功績倍率は「3倍」が一般的で、これを超えると過大となる恐れがある

ことを覚えておいてください。

4 役員退職金の問題点

役員退職金は株主の利益と相反する部分があります。「退任時月額報酬×在任年数×功績倍率」で役員退職金を算出する場合、

勤続年数が長い役員の役員退職金は高額ですが、その者が本当に会社に貢献したかは疑問

です。さらに、その役員が会社に貢献して業績が良くなったとしても、その時期と役員が退任する時期にはズレが生じることもあります。現在の業績が低迷しているのに、過去の栄光で多額の役員退職金を支給することについて、意見が分かれるわけです。

このような理由から、株主総会における「退職慰労金贈呈の議案」に反対票を投じる株主もいますし、役員退職金を廃止する会社も少なくありません。

以上(2025年2月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

pj30117
画像:photo-ac

【朝礼】仕事の優先順位、皆さんは何を基準に決めますか?

【ポイント】

  • 依頼された仕事にどのぐらいの数の人が関わっているのか、影響範囲を知ることが大切
  • 今エネルギーを注げる仕事を見極め、成果を上げるタイミングを逃さないことも大切
  • いくつかの要素を天秤にかけた上で、仕事の優先順位を決め、その選択に責任を持つ

皆さんは日々、会社で多くの仕事をしてくれています。ウチは小さな会社ですから、一人一人が担当する業務の幅も広く、上手に「優先順位」を付けないと仕事が回りません。この優先順位、皆さんは何を基準に決めていますか? 今日は私が若い頃、2人の上司に言われた言葉をお伝えします。

まずは、私が新入社員の頃にお世話になった、1人目の上司の話です。あるとき、その方からこんな質問を受けました。「お客さまからの依頼と、同僚からの依頼、君だったらどっちを優先する?」。私は「お客さまからの依頼です」と答えました。同僚は社内の人間なので依頼を後回しにしても支障がなさそうですが、お客さまだとそうはいかないと思ったからです。ですが、上司は言いました。

「相手が社外の人間か、社内の人間かは関係ない。仕事の優先順位は、その仕事に関わる人の数で決めるんだ」。仮に同僚から依頼された仕事が重大なプロジェクトの一端だった場合、お客さまを優先して同僚の仕事を後回しにすれば、同僚の次工程に控える多くの社員の仕事がストップして損失が出るかもしれない。だから、仕事に関わる人がどのぐらいいるのかを見極める必要がある。これが1人目の上司から教わったことでした。

次は、そこから数年後にお世話になった、2人目の上司の話です。その方は、1人目の上司のかつての部下でもありました。あるとき、先ほどのエピソードをその方に話したら、こんな言葉が返ってきました。

「確かに、あの人の考え方は理にかなっている。ただ、私はその考え方が全てだとは思わないな。例えば、自分が今一番エネルギーを注げる仕事を後回しにして、他の仕事を優先したために、得られたはずの成果を逃してしまったとしたらどうだろう? これも一つの損失かもしれないね」。成果を上げられるタイミングを逃してはいけない。これが2人目の上司から教わったことでした。

いかがでしたか。仕事に関わる人の数も、成果を上げられるタイミングも、仕事の優先順位を決める重要な要素です。そして、それらを天秤(てんびん)にかけた上で、自分がベストだと思う仕事を選択し、その選択に責任を持つ。これが皆さんに求める、仕事の優先順位の付け方です。

以上(2025年3月作成)

pj17209
画像:Mariko Mitsuda

【2025年度版】社員に関する法定義務の一覧表

1 まずは全企業共通の法定義務から押さえる

「人」に関するルールは複雑で、10人以上で就業規則の作成義務、50人以上でストレスチェックの実施義務などのように決まっています。抜け漏れなく行うために一覧表で確認しましょう。この記事では各種労働法に基づく人事労務の法定義務の内容を、

  1. 全企業共通のもの
  2. 業種や事業形態(法人、個人)などによって変わるもの

に分けて一覧表で紹介します。

2 人事労務の主な法定義務など(2025年4月1日時点)

早速ですが、人事労務の主な法定義務など(2025年4月1日時点)は次の通りです。一覧表は社員数または該当者数の昇順となっており、社員数で見る項目には「●」印を、該当者数で見る項目には「○」印を付けています。また、2025年4月1日施行の項目は「赤字」にしています。

法定義務などの具体的な内容は、( )内の法令を参照してください。また、安衛法(労働安全衛生法)の「安全衛生管理体制」に係る法定義務については、対象業種を一部省略して記載しています。詳しくは、厚生労働省「職場のあんぜんサイト」などをご確認ください。

■厚生労働省「職場のあんぜんサイト(安全衛生キーワード)」

https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo_index01.html

画像1

以上(2025年3月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

pj00246
画像:unsplash

【規程・文例集】役員退職金規程で必ず確認すべき3つの条項

1 役員退職金規程を整備する際の留意点

役員退職金の支給にはさまざまなルールがありますが、「役員退職金規程」を整備することで、客観的に計算方法などを示すことができます。とはいえ、インターネットで公開されているひな型をそのまま使うと、自社の実情に合わず、思わぬ問題が生じることがあります。

そこで、この記事では、ひな型でよく出てくる条文をどう見直せばトラブルになりにくいのかについて、弁護士が解説します。紹介するのは、特に重要な定めである、

適用範囲、支給算定基準、支給時期

の3つです。各条文の赤字部分に注目してください。

2 適用範囲

1)ひな型でよく見る条文

第●条(適用範囲)

本規程は役員の全員に適用する。

第●条(非常勤役員の取り扱い)

非常勤役員については、その功労実績に基づき本規程以外の取り扱いをすることができる。

2)見直しのご提案

第●条(適用範囲)

本規程は常勤役員(職員に準じて勤務する役員および1週間のうち決まった曜日に勤務する役員をいう)に適用する。

第●条(削除)

3)弁護士からのワンポイントアドバイス

全ての役員(取締役または監査役)が対象であることを前提とするひな型がありますが、実際は社外役員に対する役員退職金などの取り扱いを、別途定めることが必要になるケースが多いです。そのような事態に対応するため、退職金規程の適用範囲を常勤役員(非常勤役員)に限定した方がよいでしょう。

3 支給算定基準

1)ひな型でよく見る条文

第●条(支給算定基準)

退職金の支給は、退任時の最終報酬月額を基準として、退任する役員が歴任した役位ごとに次の計算式により得られる額を累計し、その総額とする。ただし、総支給額に1000円未満の端数が生じたときは1000円に切り上げるものとする。

退任時の最終報酬月額×役員在任期間(年数)×各役位別の功績倍率

2)見直しのご提案

第●条(支給算定基準)

退職金の支給算定基準は、歴任した役位ごとに次の計算式により得られる額を累計し、その総額を基準とする。同一の役位に在任中、報酬月額に変動がある場合は、そのうちの最高報酬月額を基準とする。ただし、役位ごとの支給基準額に1000円未満の端数が生じたときは1000円に切り上げるものとする。

役位別の報酬月額×各役位の役員在任期間(年数)×各役位別の功績倍率

3)弁護士からのワンポイントアドバイス

条文例は退任時の最終報酬月額を基準に退職金を計算していますが、役位ごとの報酬月額を基準とするように修正しています。役位ごとに基準額を算出しているので透明性が高まっています。また、役位在任中に報酬月額の変動がある場合は、各役位に係る最高額または最終額を用いる例が多いです。

4 支給時期

1)ひな型でよく見る条文

第●条(支給時期)

退職金は、役員が業務の引き継ぎを完全に終了させ、かつ、会社に対して返済すべき債務があるときは、その債務を返済した日から○カ月以内に一時金として支給する。

2)見直しのご提案

第●条(支給時期)

退職金は、役員が業務の引き継ぎを完全に終了させ、かつ、会社に対して返済すべき債務があるときは、その債務を返済した日から○カ月以内に一時金として支給する。ただし、経済界の景況、会社の業績いかん等により、当該役員またはその遺族と協議の上、支給の時期、回数、方法について別に定めることができる。

3)弁護士からのワンポイントアドバイス

ひな型でよく見る条文では、一時金として支給時期が記載されています。しかし、会社の状況によっては、一時金として支払うことが難しい場合もあるので、支払時期について協議の余地を残しておくと無難です。

以上(2025年2月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)

pj60243
画像:ESB Professional-shutterstock