「この会社、ゆるいな」ストイックな若手が去る職場の落とし穴

1 「優しすぎる会社」は、ストイックな若手からすると不安?

若手にはたくさん経験を積ませ、いずれは会社の中核を担ってほしい。なのに、成長する前に若手が辞めてしまう……。こうした問題に頭を悩ませる経営者は少なくないでしょう。若手が辞めてしまう理由はさまざまですが、今どきのケースとして押さえておきたいのが、

会社が優しすぎるために、「この会社、ゆるいな……」と感じて転職してしまう

というものです。

昨今は、若手にあまり残業をさせない、ミスがあっても叱らないなど、良くも悪くも「優しい会社」が増えました。一方で、若手のほうは、終身雇用などかつての日本的な雇用が当たり前でなくなりつつある中で、経営者や上司が考えている以上に「早くどこでも通用する人材に成長しなければ……」と焦っています。

ですから、会社の優しさが行きすぎると、若手はかえって「このまま今の会社で働いていても、自分は成長できないんじゃないか……」と不安に感じ、転職してしまうのです。実際、

20代の正社員197人に、「今の会社で成長を実感できているか」などをアンケートで聞いたところ、27.9%が「成長を実感できない」でいて、うち34.5%が「転職を考えている」

ということが分かりました(アンケート結果の詳細は後述)。

自分で何の努力もせず、会社が成長させてくれるのを待っているだけの若手ならともかく、勉強をしたり、社外の人に会ったりと本人なりに努力をしている「ストイックな若手」が、その努力を活かせないまま辞めてしまうのはもったいないことです。これを防ぐには、

  • 若手がなぜ「この会社はゆるい(成長できない)」と感じるのかを分析すること
  • 分析を基に、若手が成長を実感できる機会を与えること(挑戦できる環境を整えるなど)

が肝心です。まずは、前述したアンケート結果の詳細から見ていきましょう。

2 今の会社はゆるい? 20代の正社員197人に聞きました

20代の正社員197人に対し、「今の会社と自分の成長」に関するアンケート調査を実施しました(実施日は2026年5月12日)。その結果を紹介します。

1)あなたは、今の会社に勤めていて「成長している」と実感できますか?

まず、197人全員に「今の会社での成長の実感」について聞きました。「全く実感できない」が7.1%、「あまり実感できない」が20.8%、計27.9%が成長を実感できずにいるようです。

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さらに、成長を「全く(あまり)実感できない」と回答した55人に、「転職の意向」について聞きました。「既に転職活動をしている」が10.9%、「1年以内に転職活動を始めようとしている」が23.6%、計34.5%が転職を考えているようです。

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2)今の会社で成長を実感できない(できる)と回答した理由は何ですか?

図表1で成長を「全く(あまり)実感できない」と回答した55人、「少し(大いに)実感できる」と回答した129人に、それぞれ理由を聞きました。結果を上位順に並べたのが図表3です。

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成長を実感できない理由の1位は「やりがいのない仕事ばかりさせられている(単純作業など)」「放任主義で何も教えてくれない」が同率で20.0%、3位は「『事業を大きくしよう、新しくしよう』という気概が感じられない」の16.4%でした。

成長を実感できる理由の1位は「『事業を大きくしよう、新しくしよう』という気概が感じられる」の43.4%、2位は「成長に応じて新しい仕事を任せてくれる」の34.9%、3位は「やりがいのある仕事を任されている(創意工夫が必要など)」の27.1%でした。

アンケート結果を見る限り、「事業の意義」「若手に任せる仕事の内容」「上司の接し方」に、若手が成長を実感できるか否かのカギがあるようです。これを踏まえた上で、若手を成長させるために会社は何ができるのかを考えていきましょう。

3 若手に「ゆるい」と思われないために会社は何ができるか?

1)事業の将来ビジョンは、経営者自ら若手に伝えよう(経営者)

アンケート結果からは、「『事業を大きくしよう、新しくしよう』という気概が感じられるかどうか」が、若手の成長実感を左右することが分かりました。

事業のレベルについては、もちろん会社の状況によって現時点で実現できること、できないことがありますが、少なくとも現状を変えていこうという気概が感じられないと、若手は離れていきます。特にもったいないのは、

経営者の頭の中には事業の将来ビジョンがあるのに、それが若手に伝わっていないケース

です。例えば、経営者は、3年から5年先の「会社のあるべき姿」、それを実現するための課題ややるべきことを中期経営計画に落とし込みますが、その計画も社内に周知されていなければ、若手に伝わりません。仮にイントラネットなどで計画を閲覧できる状態にしていたとしても、経営者が事業に懸ける思いというのは、文字だけではなかなか伝わらないものです。

ですから、

会社のこれからの事業の在り方などについて、経営者が自ら若手にプレゼンする

など、若手に事業の将来ビジョンを語る機会を設けるようにしましょう。まだビジネスの知識や経験が少ない若手でも、経営者が「今から10年後の203X年に、我が社は○○のような姿になっている」などの理想を語れば胸をおどらせるでしょうし、経営者の話に突っ込んだ質問をしてくることもあるはずです。

2)あえて新しい仕事にチャレンジさせてみよう(経営者、上司)

「やりがいのない仕事ばかりさせられている(単純作業など)」会社では若手が成長を実感しにくく、逆の場合は成長を実感しやすいという結果も出ていました。

若手の仕事を管理するのは上司の役目です。上司は、若手の成長に合わせて任せる仕事の内容を調整しますが、例えば、

  • 上司は「若手が成長してきた、もう少ししたら別の仕事を任せてみよう」と考えている
  • 若手は「上司は自分の成長を認めてくれていない、だから、いつまでたっても同じ仕事しか任せてもらえないんだ」と考えている

など、仕事について両者の認識がかみ合っていないケースがあります。

ですから、まずは1on1ミーティングなどで両者の認識のすり合わせをすることが大切です。上司は、今の仕事をあとどのぐらいの期間若手に任せるつもりなのか、次に何の仕事を任せる用意があるのかなどを明らかにしつつ、若手にも今の仕事に対する不満などを聞いてみます。

若手が「新しい仕事に挑戦したい」と考えているなら、その仕事について何を勉強しているのか、今任せている仕事に支障が出ないかなどを確認した上で挑戦させてみる

のも1つの手です。

また、別のアプローチとして、

経営者から若手に働きかけて、新しい事業などを提案させてみる

という方法もあります。例えば、会社が新しいツール(AIなど)を導入した際に、それを使ってどんな事業ができそうかを幅広く募集します。事業にできそうな提案を若手が上げてきたら、そのプロジェクトに参画させて事業の立ち上げを経験させてみるのもよいですし、事業にならない場合でも、考えが足りない部分をフィードバックすることで若手の成長に役立つでしょう。

なお、若手に仕事を任せる際はできる限り「最後までやり切らせる」ことも意識してください。仕事を途中で取り上げてしまうと、若手は『信頼されていない』と感じるだけでなく、やり遂げた経験も積めません。若手の進め方が気になる場面もあるかと思いますが、適宜状況を確認しつつ、基本的には本人に任せ切る姿勢を大切にしましょう。

3)日常的に教え、間違いはきちんと指摘しよう(上司)

「放任主義で何も教えてくれない」が成長を実感できない理由の同率1位(20.0%)に挙がっている一方、成長を実感できる理由には「間違いがあったら、どこが悪いのかを指摘してくれる」(20.2%)が入っています。若手にとって、上司から日常的に教わること、間違いをきちんと指摘してもらえることは、成長を実感できるかどうかに直結します。

冒頭で触れたように、昨今は「ミスがあっても叱らない」優しい会社が増えています。若手を傷つけまいとする配慮は理解できますが、行きすぎると「何をやっても何も言われない=成長できない環境」と受け取られてしまいます。

上司に意識してほしいのは、次の2点です。

まず、意図的に「教える時間」を確保することです。忙しい日常業務の中では、若手への指導が後回しになりがちです。1on1ミーティングや業務終わりの短い振り返りなど、定期的に教える場を仕組みとして設けるようにしましょう。

次に、間違いを指摘する際は「責める」のではなく「どこが悪かったのかを伝える」ことを意識することです。「なぜこうなったのか」「次はどうすればよいか」を一緒に考えるフィードバックであれば、若手も素直に受け取りやすくなります。若手が「きちんと見てもらえている」と感じられる関わり方が、この会社で成長できるという確信につながります。

以上(2026年6月更新)

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【財務分析】 PL やBSの「見える化」で業種ごとの特徴を分析しよう

1 損益計算書(PL)と貸借対照表(BS)を「見える化」してみよう

損益計算書(以下「PL」)や貸借対照表(以下「BS」)を使って財務分析をしようとしても、細かな数字が多く、どこをみると良いのか判断に困った経験はないでしょうか。

こうしたときには、図表に落とし込んで視覚的に増減が分かるようにすると、読みやすくなります。

この記事では、財務総合政策研究所「法人企業統計調査 時系列データ」を基に、業種ごとの営業利益率などを「見える化」します。これで、業種ごとのコスト構造が一目瞭然になります。

2 PLを「見える化」して業種ごとの利益率を確認しよう

PLは、一定期間の業績を表す財務諸表の一つです。

日本の会計基準の根幹である企業会計原則に基づくと、一番上の「売上高」から費用を引いていき、「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前当期純利益」「当期純利益」の5つの利益を求める構造になっているため、

それぞれの利益を売上高で割り、段階的に利益率を出すことで収益性が分析できる

ことが特徴です。

早速、業種ごとの利益率と特徴を確認してみましょう。

業種ごとの利益率など

図表から分かる、業種ごとの主な特徴は次の通りです。

  • 売上原価率が高くなる業種:農業・林業、漁業、建設業、製造業、電気業、運輸業・郵便業、卸売業・小売業
    材料や販売用商品の仕入れや製造等に係る労務費、燃料の調達などのコスト比率が高いことに加えて、商品やサービスに付加価値をつけにくく、売上原価率が高くなる傾向にあります。
  • 販管費が高くなる業種:宿泊業・飲食サービス業、教育・学習支援業、医療・福祉業
    店舗・施設の運営費用として、人件費・減価償却費・光熱費・広告宣伝費などが高くなる傾向にあります。また、サービス業では、接客スタッフや管理スタッフの給料は売上原価ではなく販管費として処理されるケースが通常のため、これらスタッフの人員比率が高いサービス業では結果として販管費の比率が膨らんで見えます。

3 BSを「見える化」して企業の「体力」を確認しよう

PLから企業の「もうける力」が分かりますが、これだけでは判断が不十分です。例えば、「もうける力」が大きかったとしても、借金があまりに多く、返済が追い付いていないなどの場合もあるためです。また、PLで売り上げが計上されていても、売上代金が支払われるまでにはタイムラグがあります。これを「売掛金」といいますが、売掛金が膨らみ売上代金の回収が遅れるようでは、そのうち営業できなくなるかもしれません。

また、資産をどのくらい自己資本で賄っているか、いざというときに、お金に換えられる資産がどのくらいあるかといった企業の「体力」も確認する必要があります。これを安全性分析といい、財務諸表のうち、主にBSの項目を使います。BSは、企業の体力を「資産」と「負債」に分け、そのバランスを見ていくことになります。

BSの科目の例

一般的に、安全性分析では流動資産と流動負債を比較して短期的な支払い能力を見る「流動比率」、負債を含めた総資本に対する自己資本の割合を見る「自己資本比率」などの指標を見ていきます。

例えば、流動比率は1年以内に返済しなければならない流動負債に対して、1年以内に現金化できる流動資産がどのくらいあるかを見るものです。卸売業や小売業などは短い期間で仕入れと販売を繰り返すため、流動資産と流動負債が大きくなります。こうした業種の場合、短期的な支払い能力を見る流動比率は重要な指標といえます。一方、そもそも流動負債が小さい電気業(電力会社など)は、流動比率だけでは企業の「体力」を知ることは難しいので、自己資本比率を見ることになります。

なお、厳密にはキャッシュ・フロー計算書なども併せて安全性分析をする必要がありますが、ここでは分かりやすくするために自己資本比率で「体力」を見ることとしています。

前述したPLと同様に、BSも業種によってさまざまな特徴があります。

業種別の資産と負債の例

ここでは建設業(2024年度)を例に、図表に見える主な特徴と業界特有の事情を付け合せてみます。

  • 建設業は、工事の着手から代金回収までの期間が長いため、流動資産(65.5%)の割合が高いのが特徴です。特に未成工事支出金(注)として多額の資金が固定される(他の投資や消費に資金を回せない状況)ため、不測の事態に備えて高い流動比率を維持し、資金繰りの安全性を確保する傾向にあります。
    流動負債(38.0%)には、下請業者への支払手形や未成工事受入金(注)が含まれます。この「受入金」をうまく活用することで、先行する工事費用を賄うという、建設業特有の資金調達構造が見て取れます。
    純資産比率が2024年度は43.8%と高く、固定資産(34.2%)を自己資本の範囲内で十分に賄えていることから、長期的な財務健全性は極めて高いといえます。これは、工期遅延や資材高騰といった外部環境の変化(地政学リスクや経済変動)に対する抵抗力が強いことを示しています。

(注)未成工事支出金は、現在進行中の工事にかかっている材料費、労務費、外注費などのコストを、完成・引き渡し時まで一時的に資産(棚卸資産)に計上する勘定科目です。未成工事受入金は、工事完成・引渡し前に顧客から預かっている手付金や中間金(前受金)を計上する勘定科目です。

4 成長企業を見極めるには、この指標もポイント!

1)キャッシュ・フロー計算書(CF)も併せて確認しよう

企業の「もうける力」や「体力」を見極めるためには、PLやBSに加え、現金の流れが分かるキャッシュ・フロー計算書(以下「CF」)も見なければなりません。

前述した通り、いくら売り上げが立っていても、資金がなければ営業を続けられず倒産してしまいます。その逆もあります。例えば電気業(電力会社など)のBSを見ると自己資本比率(純資産÷総資産×100)が高くありません。一見すると「体力」がなく、支払い能力が乏しいように感じます。しかし、電気業の場合、電気料金という必ず支払われる膨大なキャッシュがあり、そうした意味では支払い能力の高い業種といえます。

CFは、「営業キャッシュ・フロー」「投資キャッシュ・フロー」「財務キャッシュ・フロー」に分かれます。一般的に、順番にプラス・マイナス・マイナスになっているのが良い状態です。営業活動で得た資金を投資活動に回して企業を大きくしつつ、銀行などへの返済や株主への配当などを増やすため、財務活動上はマイナスになる。これが成長企業のキャッシュ・フローの理想型といえます。ただし、単年度に限らず、数年間この状況が続くことが大切です。

2)利益と資産の関係で見るROAとROE

利益と資産の関係から、どのくらい効率的に利益を上げているかという観点で収益性を見ることもできます。例えば、総資産に対してどれだけ利益を上げているかを見る指標にROA(総資産利益率)があります。一般的に、IT関連など大きな固定資産を持たない業種ではROAは高くなり、製造業などの装置産業の場合は低くなる傾向にあります。

また、ROE(株主資本利益率)は、株主から預かった資本に対して、どのくらい効率的に利益を出しているかを見るものです。なお、計算上は自己資本比率が下がるとROEは上がることになるため、この指標で企業を見るときには借入金の急激な増加や自社株式の購入等がある場合には注意が必要です。

以上(2026年6月更新)
(監修 KOSOパートナーズ合同会社 代表社員CEO 公認会計士 朝倉厳太郎)

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画像:photo-ac

経営のヒントとなる言葉(ウォルト・ディズニー)

「ディズニーランドの目標は、常にゲストの期待以上のものを与えることだ。驚かせ続ける限り、ゲストはまたやって来る。だが、いったん来なくなってしまったら、それを取り戻すのに十倍以上の経費がかかるのさ」(*)

出所:「ウォルト・ディズニーに学ぶ七転び八起き経営」(ネコ・パブリッシング)

冒頭の言葉は、

「自社のファンを獲得する秘訣は、常に顧客の期待を超えることにある。それができずに、いったん離れた顧客の心を自社に向けるためには、ファンを獲得する以上の努力が必要になる」

ということを表しています。

幼い頃から漫画を描くことが大好きだったディズニー氏は、やがてアニメーターを志すようになります。1928年に制作した短編作品「蒸気船ウィリー」でデビューしたミッキーマウスは爆発的な人気を呼び、これをきっかけにして「ウォルト・ディズニー」の名前が世界中に広く知られることになりました。

ミッキーマウスが有名になった後も、ディズニー氏は現状に甘んじることなく、長編のアニメーションの制作など、次々と新しいことに挑戦しました。そして、ついにはアニメーションだけにとどまらず、ディズニーの世界観をイメージした遊園地を建設したいと考えるようになりました。

とはいえ、建設には莫大な資金が必要で、自社だけでそれを負担するのは難しい状況でした。そこで、ディズニー氏は豊富な資金力を持つ大手放送局に着目し、ディズニーのテレビ番組の提供と遊園地の共同所有権を与える代わりに、投資してもらうことを思いつきました。こうして、ディズニー氏は資金調達に成功し、遊園地の建設が始まったのです。

1955年、ディズニー氏が思い描いた遊園地「ディズニーランド」が開園しました。ディズニーランドは開園時から大盛況でしたが、ディズニー氏は慢心することなく、顧客の心をつかむための努力を続けました。例えば、開園して間もない年のクリスマスに、ディズニー氏はパレードを企画しました。しかし、パレードを行うには多額の費用がかかります。この話を聞いた会計士は、「来園者は大勢来ているし、誰もパレード目当てでディズニーランドに来ているわけではないから、わざわざ多額の費用をかけてまでパレードをする必要はない」とディズニー氏に進言しました。その話を聞いたディズニー氏は、「誰も期待していないからこそ、パレードをして来園者を驚かせるんだ」と答えたといわれています。

このほかにも、ディズニー氏は自ら食べ物を片手に園内を歩き回り、食べ終わった後の包装紙を捨てるゴミ箱が見当たらないと、翌日にはその場所にゴミ箱を設置するなど細かな改善を繰り返しては、顧客がどのような不満を持っているのかを深く探りました。

ディズニー氏が身をもって示した挑戦と改善は以下の言葉にも表れています。

「ディズニーランドは粘土みたいなものなんだ。気に入らないことがあったら、それでおしまいじゃない。また形を変えて、進化させていける」(**)

常に顧客の期待を超えるのは簡単なことではありません。しかし、一度でも顧客の期待を裏切れば、顧客の心は簡単に離れていってしまいます。ディズニー氏はこうした顧客の心離れの怖さをよく知っていたため、自ら先頭に立ち、ささいなことであっても改善を怠らず、顧客の期待を超えるための努力を続けたのでしょう。

こうしたディズニー氏の姿勢は従業員の心に届き、組織の隅々まで染み渡っていきました。これがディズニーランドの変わらないホスピタリティにつながっています。ディズニー氏は2011年12月に生誕110年を迎え、2011年から2012年にかけて多くの記念事業が行われています。これほどまでに長く人々から愛され続けるディズニーの神髄とは、ディズニー氏が常に心がけていた顧客の期待を超えること、つまり溢れんばかりのホスピタリティの心にあるのかもしれません。

ディズニー氏の言葉は、経営者として顧客に向き合う基本的な姿勢、組織を率いるために従業員に示さなければならない姿勢を教えてくれます。

【本文脚注】

本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を担保するものではありません。また、本文中では内容に即した肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思われるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。

【経歴】

ウォルト・ディズニー(1901~1966)。米国生まれ。1917年、マッキンリー高校中退。1920年、アニメーション映画の制作を開始。

【参考文献】

(*)「ウォルト・ディズニーに学ぶ七転び八起き経営」(パット・ウイリアムズ(著)、寺尾まち子(訳)、ネコ・パブリッシング、2006年8月)
(**)「ウォルト・ディズニーの言葉 今、我々は夢がかなえられる世界に生きている」(ウォルト・ディズニー(述)、ぴあ、2012年3月)
「ウォルト・ディズニー-創造と冒険の生涯-」(ボブ・トマス(著)、玉置悦子、能登路雅子(訳)、講談社、1983年1月)

以上(2026年6月更新)

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画像:日本情報マート

管理職の5割が「上司の急な指示変更」 に困惑?~管理職200人アンケート

1 管理職としてのその悩み、あなただけではありません!

上司も部下も言いたいことを言うだけで、一番つらいのは管理職である自分だ!

マネジメントで悩んでいる管理職の皆さん。その悩みは、あなただけのものではないかもしれません。もし次の3つのうち、1つでも経験のある方は、ぜひこの記事をご覧ください。

  • 上司からの指示が急に変わり、部下への説明に困った
  • 部下が自分を飛び越えて自分の上司と連絡を取り合っていた
  • 部下同士の仲が悪くて必要な連携さえ取れていないと感じた

この記事では、184人の管理職経験者に対し、上記の3つの経験があるかどうかのアンケート調査を実施しました(実施日は2026年5月12日から5月17日まで)。経験が「ある」と答えた人には、そのときにどのように対応したかも聞いていますので、皆さんがマネジメントの能力をもう一段高めるための参考にしてください。

2 上司からの指示が急に変わり、部下への説明に困った

1)47.8%が経験あり

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上司からの指示が急に変わり、部下への説明に困ったという経験が「ある」と答えたのは、管理職経験者184人のうち47.8%(88人)、「ない」も47.8%(88人)でした。

2)対応は「会社・上司の方針として説明した」が最多

上司からの指示が急に変わり、部下への説明に困ったときの対応を、82人に自由回答で答えてもらいました。最も多かったのは、「会社・上司の方針として説明した」の29人でした。

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自由回答の内容としては、例えば次のようなものがありました。

1.会社・上司の方針として説明した

  • 企業内の指示内容がそれまでと変化することはしばしば起こり得ると平素から話しており、こうしたコメントをつけて部下に説明した
  • 経緯を含めて丁寧に実情を説明して、方向転換への理解を得た
  • その内容については、上司とよく話し合った結果やむを得ないと判断したと伝えた
  • 分かる範囲で経緯を説明しつつそのまま伝えた
  • 会社の方針だと割り切って説明する
  • 会社の方針だから仕方ないといって説明した
  • 組織論として、こんこんと説明した
  • 会社の決定事項ということで変更した背景については分かったら説明する

2.そのまま伝えた

  • できるだけそのまま雰囲気が伝わるように伝達した
  • そのまんま「方針が変わった、ごめんなさい」と言う
  • 愚痴りながら方針が変わったことを説明した
  • 上長からの指示をそのまま伝える、理由は聞かれれば答える
  • そのまま事実を伝えた
  • 急な方針転換で申し訳ないが飲み込んで対応してほしい
  • 上司の指示なので、自分の中にわだかまりはあったがそのまま指示をした
  • 部下にそのまま説明した結果、会社を辞めた
  • 上司への愚痴を言いながらの説明をした
  • 事務的に伝えた

3.自分の考えも併せて伝えた

  • 会社の方針であって自分の方針とは異なることを併せて伝えた
  • 自分の思いと上司の思いを同時に伝えた
  • 自分の考えを部下に話して、上司の方針だからまずその方向で動くように説明した
  • 上司の指示でやるしかないと言いつつ、正しいのはこの考え方だと自分の考えを告げた
  • ありのまま話した後に自分の考えを伝える

4.上司に確認・交渉した

  • 自分が納得するまで上司に説明を求める
  • 「上司を説得するからしばらく待ってくれ」と言って当面の対応を依頼した
  • 変わった理由を再度上司に確認をして、自身が理解してから説明する
  • そういう上司が個人プレイをしたときには上司の上司に解決を求める
  • 正確には上司ではなく、国が方針を変えたためだったので、部下のみならず上司とともに、対応を検討した

3 部下が自分を飛び越えて自分の上司と連絡を取り合っていた

1)41.8%が経験あり

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部下が自分を飛び越えて自分の上司と連絡を取り合っていたという経験が「ある」と答えたのは、管理職経験者184人のうち41.8%(77人)、「ない」は48.9%(90人)でした。

2)対応は「特に何もしない・黙認」が最多

部下が自分を飛び越えて自分の上司と連絡を取り合っていたときの対応を、71人に自由回答で答えてもらいました。最も多かったのは、「特に何もしない・黙認」の41人でした。

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自由回答の内容としては、例えば次のようなものがありました。

1.特に何もしない・黙認

  • ケースバイケースだが、必要な事例ならば納得して何もアクションは起こさなかった
  • そのまま放置、自分の至らなさを考えた
  • 上司が要求したことなので、どうしようもなかった
  • 上司または部下から、連絡を取った内容について報告があったので特に何もしなかった
  • 必要性があって連絡を取ったのだと思い、何もしなかった
  • 立場をわきまえられる人材ではないので、気の毒な人物として捉えている
  • そういう人(自分を飛び越える人)は、注意しても繰り返すので、特に何もしなかった
  • 何もしていない。印象が悪くなっただけ
  • 苛立ったが見てみないふりをした

2.確認・共有を求めた

  • 三者(自分、自分の上司、自分の部下)で話し合いをした
  • 「案件内容が直ぐに処理する緊急性を感じて、私の留守中に部長に話した」旨の報告があったので、むしろ融通性のある行動だと伝えた
  • 事後報告でいいから教えて欲しいと伝えた
  • 必要に応じてそのような対応を取ることは仕方がないか、自分にも情報を共有するよう指示した
  • 理由を確かめる意味で、本人から事情を聴く

3.注意・指導した

  • 分かった時点で、愚かな行動だったことや、個人プレイの危うさを説き、周りにもわかる方法で個人的な点数稼ぎだったことを知らしめた
  • それを繰り返すと、必ず自分の身に返ってくる災いがあると指摘する
  • 内容によりけり、職制の重要性を伝える
  • 自分がされたらどう思うかを告げて諭した
  • 組織で動いているから順番を間違わないようにと注意した

4 部下同士の仲が悪くて必要な連携さえ取れていないと感じた

1)40.2%が経験あり

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部下同士の仲が悪くて必要な連携さえ取れていないと感じたことが「ある」と答えたのは、管理職経験者184人のうち40.2%(74人)、「ない」は51.1%(94人)でした。

2)対応は「個別に話を聞いた・面談した」が最多

部下同士の仲が悪くて必要な連携さえ取れていないと感じたときの対応を、69人に自由回答で答えてもらいました。最も多かったのは、「個別に話を聞いた・面談した」の24人でした。

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自由回答の内容としては、例えば次のようなものがありました。

1.個別に話を聞いた・面談した

  • 個別の話し合いと、双方の部下と仲の良い別の部下に間に入ってもらい修復を試みた
  • 個別に話し合って、必要な結果をまとめることに努める
  • 個別に話し合う。互いに関わりのない業務を担当させる
  • しばらくの間様子見、状況が険悪なら双方から言い分を聴取
  • 個別およびチームとして話し合いをもった
  • 個別に話した後三人で話す機会を設けた
  • 自然にフォローした

2.特に何もしなかった

  • ハラハラしながら見守った
  • 特に何もせずにやる気のある人材とのコミュニケーションを大事にする

3.複数・全体で話し合った/業務上の対処

  • 本人同士で対策を考えさせる
  • 割り切って連絡取るように伝えてしばらく注意して見守った
  • 仕事は仕事と割り切ってやるように指示する
  • 個々にチームとしての必要性を説明した
  • 全員の前で、よく説明をして、協力をしてもらう
  • ミーティングを行い、妥協点を見つけた

4.異動・業務分離など構造的に対処した

  • 担当業務を分けて、一緒に仕事をさせない。最終的にはどちらかを異動させる
  • 特に何もしていない。片方の異動

以上(2026年6月更新)

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画像:ニワトコ-Adobe Stock

【分かりやすい原価計算(4)】固定費の配賦と直接原価計算~固定費を製品に割り当てるのは難しい~

1 変動費は製品に紐づけできるけど、固定費は紐づけできない

今回は、

固定費の配賦:製品との紐づきが明らかではない費用を、何らかの基準で割り当てること

における実務の難しさを見ていきます。なお、本シリーズでは「変動費と直接費」「固定費と間接費」を、それぞれ同じものとして扱います。

変動費/固定費、直接費/間接費の分け方については、次の記事をご確認ください。

原価計算の演習

このケースのPLを作成すると、前回紹介した財務会計PLと管理会計PLになります。

管理会計の損益計算書(5000箱を製造・販売した場合)

ここで、1箱当たりの製造原価を考えてみましょう。

1箱当たりの変動費は、製品に紐づけできます。直接材料費が1500円、外注費が500円となり、変動製造原価は2000円となります。

次に固定費を考えてみます。工場の従業員の給料、工場の地代家賃や機械の減価償却費などの固定製造原価が年間1200万円かかります。これらは、製品との関係が明らかではなく、紐づきが間接的にしか分からないような費用です。このため、利用度に応じた配賦基準が必要となります。ここでは、

製造数量を配賦基準

に考えてみましょう。5000箱を製造したので、

1200万円÷5000箱=2400円

となります。1箱当たりの製造原価は、変動製造原価+固定製造原価なので、

2000円+2400円=4400円

となります。

2 1箱当たりの製造固定費は製造数量で変わる

次に、8000箱を製造して販売した場合を考えてみましょう。損益計算書はこのようになります。

管理会計の損益計算書(8000箱を製造・販売した場合)

そして、1箱当たりの変動費は5000箱を製造して販売した場合と同じで、変動製造原価は2000円となります。

次に固定費です。先ほどと同様、製造数量を基準に配賦すると、

1200万円÷8000箱=1500円

となります。1箱当たりの製造原価は、変動製造原価+固定製造原価なので、

2000円+1500円=3500円

となります。

このように固定費を製造数量で割り当てると、製造数量が増えるほどに1箱に割り当てられる固定費が減って、原価が安くなります。これが、経済学の「規模の経済」につながります。

図にすると、このようになります。数量が増えれば1箱に割り当てられる固定費の金額が下がるのをイメージしてください。

費用の配賦

増産すれば「規模の経済」が働くというのは、感覚的に分かりやすいかなと思います。ただ、1箱当たりの製造原価が、製造数量によってころころ変わってしまうと困るのではないかと考えられた方もいるかもしれません。

その通りで、1箱当たりの製造原価から販売価格を決めようとする場合には、使い物にならない、また、使っても毎年変わってしまうのではないか心配になってしまいます。そんな状況では、価格なんか決められないですよね。

ここで、製品の販売価格の決め方について見ておきます。販売価格の決め方には、マーケット・アプローチとコスト・アプローチとがあります。マーケット・アプローチは、顧客が自社製品に対してどれだけの価値を認めて、どれだけの金銭を払ってくれるかという視点から価格を決める方法です。

一方、コスト・アプローチは、経費を積み上げて製造原価を計算して、そこに儲けたい利益を上乗せして価格を決める方法です。いずれの方法もどちらか一方というわけではなく、両方の視点から考えるのが経営者の見方ではないでしょうか。

具体的には、マーケット・アプローチによって価格を決めたとしても、そこで出てきた価格が自社の製造原価で適正な利益を出せるかどうか検討する必要があります。利益が出ないのであれば、製造・販売するわけにはいきません。このため、製造原価が製造数量によって変わってしまうことは、やはり問題となります。

それではどうすればいいのでしょうか。経営では、

目標となる製造数量をイメージしておく

必要があります。そこで、会社としての通常の製造数量で固定費を配賦したケースを考えながら、価格を決めていくなどの工夫をするのが実務といえます。

製造原価を正しく計算することの難しさを感じていただけたでしょうか。

そして、右肩上がりの時代であれば、増産により「規模の経済」が働き製造原価が下がるため、固定費はあまり意識する必要なく過ごせます。しかし、これからの人口減少時代や、新たな関税による輸出減などのように、製造数量が減少する局面で利益を見誤ったり、価格設定を間違えたりしないためにも、固定費の配賦が大事ということを押さえておいてください。

3 固定費の配賦をしない原価計算「直接原価計算」

このように固定費を製品に配賦することには難しさがあります。そこで、固定費の配賦をやめてしまおうと考えたのが「直接原価計算」と呼ばれるものです。ここでは、直接原価計算の概念を見ていきましょう。

今まで見てきた

変動費だけでなく固定費も製品に配賦し、全ての製造原価を集計して、製品の原価を計算する方法を「全部原価計算」

と呼びます。一方、

製造原価のうちの変動費だけを集計して、製品の原価を計算する方法を直接原価計算

と呼びます。

全部原価計算による損益計算書と直接原価計算による損益計算書を見てみましょう。

全部原価計算と直接原価計算による損益計算書の比較

そうです。全部原価計算による損益計算書は財務会計の損益計算書、直接原価計算の損益計算書は管理会計の損益計算書と同じになります。

先ほどの例で考えると、5000箱製造しても、8000箱製造しても変動製造原価は、直接材料費が1500円、外注費が500円の2000円です。これを製品の原価とするということです。製品と紐づけができない固定費は計算に含めないため、とてもシンプルな計算になります。

ただ、税務申告や外部報告のために決算書を作成する場合には、全部原価計算が前提とされています。このため、直接原価計算で計算をした場合は、製品の原価が少なく計算され、その金額をそのまま使うわけにはいきません。

また、前回も説明したように、変動費と固定費の分け方に100点満点はあり得ません。このため、人によって変動費と固定費の区分が違ったり、準変動費と準固定費といったものが含まれたりすることによって、結局1箱当たりの製造原価には恣意的な部分が残ってしまいます。

このように原価計算には絶対的な正解がないということを理解しつつ、経営者の経営判断に役立つという大事な目的を第一に置いて、まずはやってみるという考えで取り組んでいただけたらと思います。

以上(2026年5月更新)

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【ビジネス文書・法令文書】10月から義務化!就活等セクハラ対策 従業員教育と社外周知~実務文例&相談チェックシート~

令和8年10月1日から、改正男女雇用機会均等法により、求職者やインターンシップ参加者等に対する「就活等セクハラ」防止措置が企業に義務付けられます。採用面接やOB・OG訪問、インターンシップ、SNS上のやり取りなど、採用活動の多様化に伴い、企業には従業員教育や相談体制の整備、ルール策定が求められています。
そこで本稿では、就活等セクハラの特徴や法改正の内容を踏まえ、企業が講ずべき実務対応について、方針・指針例や就業規則の例、社内ルールの例などを交えながら解説します。

ビジネス文書・法令文書 今月の特集は、こちらからお読みいただけます。pdf



【2026年6月】今月の制度改正、予定イベント&統計情報

少しだけ未来を見る、経営者のための月次ニュースレターです。来月、経営者が押さえておきたい法令・イベント・統計・政策の動きなどを紹介します。

1 制度改正編

6月に施行が予定されている法律のうち、中小企業経営者が特に注意すべき2本を紹介します。

1)資金決済法改正(2026年6月1日~)

2025年6月13日に公布された改正資金決済法が、2026年6月1日に施行されます。主な改正内容は次の3点です。

  • (暗号資産・ステーブルコイン(電子決済手段)に関する規制の整備)暗号資産交換業者等に対する国内保有命令の導入、信託型ステーブルコインの裏付け資産の運用方法の柔軟化など
  • (電子決済手段・暗号資産サービス仲介業の創設)利用者の資産を預からない「仲介業者」が登録制で参入できる新たな枠組みが設けられる
  • (クロスボーダー収納代行への規制適用)自身が関与しない取引の決済のために国際送金を行う収納代行業者の一部に、資金移動業の規制が適用される

直接影響を受けるのは金融・フィンテック事業者が中心ですが、ECサイトを運営している中小企業や海外向けのオンライン決済サービスを利用している企業は、利用中の決済サービスの仕様・規約が変更される可能性があります。

▶ 経営者のTo Do

  • 自社がECサイトを運営している、または海外向けの決済サービスを利用している場合、利用中の決済事業者から施行に関する案内が届いていないか確認する
  • 利用中の決済サービスの利用規約・仕様変更の通知を見落とさないよう、担当者を決めて定期的にチェックする体制を整える
■金融庁「令和7年資金決済法改正に係る政令の公布及びパブリックコメントの結果等について」■
https://www.fsa.go.jp/news/r7/sonota/20260522/20260522.html

2)特定在留カード等交付申請 運用開始(2026年6月14日〜)

2026年6月14日から、在留カードとマイナンバーカードの2枚を一体化した「特定在留カード」の運用が開始されます。外国人を雇用している経営者に最も影響するのはカードの様式が変わることです。

現行の在留カードの券面に記載されていた「在留期間(◯年)」「許可の種類」「許可年月日」「交付年月日」の項目が、6月14日以降に発行されるカードではICチップ内にのみ記録され、券面からは削除されます。一方、「在留期間の満了の日」「就労制限の有無」は引き続き券面で確認できます(図表1)。なお、手元にある旧様式の在留カードは有効期限まで使用可能です。

特定在留カードと旧様式の在留カードの比較

▶ 経営者のTo Do

  • 出入国在留管理庁の「在留カード等読取アプリケーション」が使えるように現場担当者に指示する
  • 全外国人従業員の在留期間の満了日を再確認し、更新時期が近い従業員を把握する
■出入国在留管理庁「【※2026年6月14日運用開始※】特定在留カード等交付申請について」■
https://www.moj.go.jp/isa/tokutei.html

2 イベント編

1)FIFAワールドカップ2026 開幕——日本の対戦相手は?

4年に1度のサッカーの祭典が6月11日に開幕します(カナダ、メキシコ、アメリカの3カ国共催・48カ国参加)。日本代表のグループステージ日程は図表2の通りです(日本時間)。

日本代表のグループステージ日程

早朝・深夜帯のキックオフが多くなります。フレックスタイム制や時差出勤、特別休暇などを導入している会社であれば、社員に利用を推奨してみるのもよいかもしれません。

■JFA「FIFA ワールドカップ 2026」■
https://www.jfa.jp/samuraiblue/worldcup_2026/canadamexicousa2026/

2)G7エヴィアン・サミット——ホルムズ・関税・AIが同時に議論される

フランス・エヴィアンで第52回G7サミットが開催されます(6月15日〜17日、2003年以来23年ぶり)。今年のサミットは中小企業経営者の実体経済と直結した3つの議題が並びます。

  • (エネルギー安全保障)ホルムズ封鎖の長期化を受けG7各国が共同でのエネルギー備蓄・代替ルート確保策を協議。日本の補助金・産業支援策に直結する。
  • (貿易・関税問題)日米間の関税交渉の行方は部品・原材料を輸入に頼る中小製造業に直接影響する
  • (AI政策)国際ルールが固まれば連動した日本国内の規制・助成制度も動き出す
■外務省「G7サミット」■
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/summit/

3)FOOMA JAPAN 2026(国際食品工業展)

6月2日〜5日にかけて、東京ビッグサイトにて開催される、日本食品機械工業会主催、世界最大級の食品製造総合展示会です。食品機械・包装機械・衛生管理・食品素材など食品製造に関わる最新技術が一堂に集まります。

■FOOMA JAPAN 2026 公式サイト■
https://www.foomajapan.jp/

4)コンテンツ東京2026

6月17日〜19日にかけて、東京ビッグサイト西展示棟にて開催される、映像・CG・アニメーション・デジタルマーケティングなど、コンテンツビジネスに関する国内最大規模の総合展示会です。マーケティング・ブランディング・販促・Web戦略に関わるサービスや最新ソリューションが集まります。

■出所:コンテンツ東京2026 公式サイト■
https://www.content-tokyo.jp/hub/ja-jp.html

3 統計・政策情報編

6月は年次・四半期の重要な統計・政策文書が集中して公表される時期です。図表3に、本章で取り上げる統計・政策文書の一覧を示します。

2026年6月公表予定の主な統計・政策文書

1)骨太の方針2026(経済財政運営と改革の基本方針)

毎年6月下旬に閣議決定される「骨太の方針」は、翌年度の国の予算・施策の方向性を示す最重要の政策文書です。補助金・助成金の新設・拡充、税制優遇措置の延長・強化など、中小企業の経営に直結する施策の多くがここを起点に動き出します。

2026年版では「責任ある積極財政」を旗印に、官民投資の促進・賃上げの継続支援・エネルギー・防衛・DXへの戦略的投資が柱になると見込まれています。閣議決定後は「自社に関係する支援策が盛り込まれていないか」という視点で速やかに目を通しておきましょう。

■出所:内閣府「経済財政諮問会議」■
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/

2)中小企業白書2026——「稼ぐ力」と経営リテラシーが今年のテーマ

2026年版中小企業白書・小規模企業白書は4月24日に閣議決定され、中小企業庁のウェブサイトで全文PDFが無料公開されています。今年のテーマは「稼ぐ力」の強化と「経営リテラシー」の強化・実践です。

6月末には市販の冊子版が発売予定で、全国の官報販売所・政府刊行物サービスセンター等で購入できます。業種別・規模別の生産性データや先進的な経営改善事例は、自社の課題を客観視するヒントになります。

■出所:中小企業庁「中小企業白書・小規模企業白書」■
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/index.html

3)四半期別GDP速報(2026年1〜3月期・2次速報)

5月19日公表の1次速報では実質GDP成長率が前期比年率+2.1%と2四半期連続のプラス成長でした。今回の2次速報では、2026年2月末のホルムズ封鎖の影響が3月に入り始めており、「1次速報では限定的に見えた影響が確報データでより大きく確認されるか、軽微と再確認されるか」が判明します。個人消費・設備投資の修正幅と、GDPデフレーター(物価の実態)の動向に注目してください。

■内閣府「四半期別GDP速報」■
https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/

4)法人企業景気予測調査(2026年6月期)

財務省と内閣府が共同で実施する四半期調査で、全国の法人企業の業況判断・売上・設備投資・雇用などの見通しを集計します。特に中小企業の業況判断指数(BSI)は仕入れコスト上昇・人手不足・価格転嫁の難しさを反映しやすく、「自社の感覚は業界全体と一致しているか」を確かめる客観的な数字として活用できます。

■財務省「法人企業景気予測調査」■
https://www.mof.go.jp/pri/reference/bos/index.htm

5)中小企業景況調査(2026年4〜6月期)

中小企業・小規模事業者の景況感を直接把握するための四半期調査です。売上高・採算・資金繰り・人手不足感などを指数化して公表します。「中小企業だけの肌感覚」が数字に表れる点が特徴で、金融機関との対話や経営計画の見直しにあたって説得力ある根拠となります。特に資金繰りDIと人手不足DIは、自社の状況と照らし合わせて活用しましょう。

■中小企業庁「中小企業景況調査」■
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/keikyo/index.htm

4 話題のタネ

訪問時の雑談のきっかけに。6月ならではのトピックを集めました。

1)熱中症警戒——6月から対策を始めるのが正解

「熱中症は真夏のもの」というイメージがありますが、体が暑さに慣れていない6月が最も危険な時期のひとつです。救急搬送は6月から急増し、梅雨明け直後に件数が跳ね上がる傾向があります。屋外作業・工場・厨房など高温環境で働く社員を抱える企業では、①こまめな水分・塩分補給、②WBGT(暑さ指数)の確認と作業調整、③体調不良者の早期発見ルールの整備を今月中に見直しておきましょう。

■環境省「熱中症予防情報サイト」■
https://www.wbgt.env.go.jp/

2)梅雨入り——大雨に備えて「新たな防災気象情報」の確認を

梅雨入りは例年6月上旬ごろです。梅雨期は大雨による災害が発生しやすいので、注意しましょう。また、気象庁は2026年5月29日より、防災気象情報の体系を大幅に刷新しました。河川氾濫・大雨・土砂災害・高潮の防災気象情報について、警報・注意報の情報名に「レベル」が追加される(例:レベル3大雨警報など)になっています。梅雨入り前に、何がどう変わるのかを確認しておきましょう。

■気象庁「新たな防災気象情報について(令和8年~)」■
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/keiho-update2026/index.html

2)6月21日は「父の日」——社員への配慮も忘れずに

2026年の父の日は6月21日(日)。小売業・飲食業・贈答品業界にとっては重要な需要期のひとつです。また、子育て中の男性社員が多い職場では、父の日前後に有給休暇を取りやすいよう、配慮してみましょう。「うちの会社は家族を大事にする」というメッセージは言葉より行動で伝わるものです。

以上(2026年6月作成)

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画像:日本情報マート

相続税負担が大幅増加!?  賃貸用不動産の相続税評価方法の改正

1 賃貸用不動産の相続税評価方法が改正されます

これまで「相続税対策の王道」とされてきた賃貸用不動産ですが、令和8年度税制改正により、その節税効果に大きな制限がかかることになりました。内容によっては、これまで想定していたよりも相続税が大幅に増える可能性があります。

今回の改正で特に重要なのは、

相続・贈与の直前5年以内に購入または新築した賃貸用不動産について、従来のような評価の引き下げがほぼ認められなくなる点

です。この改正は、

2027年1月1日以降(以下「2027年以降」)の相続・贈与から適用

されます。施行は2027年ですが、判定は5年前まで遡るため、現在すでに購入している賃貸用不動産も、2027年以降に相続・贈与が起きれば新ルールの対象となるので注意が必要です。

2年前のタワマン節税の引き締めに続く今回の改正。これにより、従来の「不動産を買えば相続税が下がる」という前提は通用しなくなりつつあります。早めに改正の影響を把握し、贈与や売却を含めた資産の持ち方を見直すなど、具体的な対策を検討していくことが求められます。

2 これまで「不動産が節税になっていた」のはなぜ?

これまで賃貸用不動産が相続税対策として有効だった理由は、「相続税の計算をする際、実際の価値より低く評価される仕組み」があったからです。

例えば、現金や預金はその金額通り100%で評価されますが、

不動産は路線価(道路ごとに定められた土地の評価額)や固定資産税評価額(固定資産税を計算するための評価額)を基準にするため、一般的に時価の70~80%で評価

されてきました。さらに賃貸の場合には、

借地権(他人に土地を貸していて自由に使えない状態)や借家権(入居者がいて制約がある状態)の影響を受け、評価額はさらに下がり、実際の価格の50%以下まで圧縮

されることも珍しくありませんでした。こうした仕組みにより、賃貸用不動産は長年にわたり有効な相続税対策として活用されてきたのです。

3 改正のポイント(最も重要な部分)

2027年以降は、

相続・贈与の直前5年以内に取得したかどうか

で次のように評価方法が大きく分かれます。

  • 取得から5年以内の不動産については、これまでのような低い評価は使えず、原則として購入価格や建築費といった実際に支払った金額をベースに評価される
  • 一方で、5年を超えて保有している不動産については、これまでと同じ評価方法が引き続き使われる

なお、一定の配慮として、

取得後すぐに価格が大きく変動した場合などに備えて、購入価格の80%程度で評価することが認められる可能性

があります。ただし、これまでのように評価額が大きく下がる仕組みと比べると、その効果はかなり小さくなると考えられます。

(図表1)【改正前と改正後(原則・例外)の制度比較】

評価の対象区分 現行(改正前)
の評価方法
改正後の
評価方法(原則)
改正後の評価方法
(例外/安全性)
5年以内取得の
土地
路線価方式(自用地評価 × 補正) 通常の取引価額(取得価額等) 取得価格 × 地価変動等考慮の80%
5年以内取得の
建物
固定資産税評価額 ×(1-借家権割合×賃貸割合) 通常の取引価額(建築費等) 取得・建築価額 × 80%
5年超所有の不
動産
同上 従来の評価手法を維持(現行通り) 変更なし

(出所:日本情報マート作成)

さらに注意が必要なのが、これまで節税の大きなポイントであった借家権(入居者がいることで自由に使えない状態)や借地権(他人に土地を貸していることで制約がある状態)による評価の引き下げです。これらが、新しいルールのもとでどの程度認められるのかは、現時点でははっきりしていません。もし十分に考慮されない場合には、これまでと比べて相続税の負担が大きく増える可能性もあります。

4 改正後の評価方法が適用されるタイミングを正確に把握する

新しい評価方法は、2027年以降に発生する相続や贈与から適用されます。つまり、それ以前に発生した相続や贈与については、これまでのルールが使われます。

ここで重要なのは、

「いつ相続が発生するか」と「いつ不動産を取得したか」の組み合わせによって、適用されるルールが変わる点

です。

例えば、2021年以前に取得した不動産のように、すでに5年以上保有しているものについては、2027年以降に相続が発生したとしても、従来どおりの評価方法(路線価などによる評価)が使われます。

一方で、2022年から2026年の間に取得した不動産については注意が必要です。この期間に取得した不動産は、取得時点では改正の影響を受けませんが、2027年以降に相続が発生した場合には、新しいルールが適用されます。

なお、2027年以降に新たに取得する不動産については、原則としてすべて新しいルールの対象となります。

改正後の評価方法が適用されるタイミング

すでに保有している不動産については、「まだ新しいルールは関係ない」と思われがちですが、実は相続のタイミング次第で後から新ルールが適用される仕組みになっています。つまり、

「取得から5年経つ前に相続が発生した場合」のリスクが、すでに持っている不動産にも及んでいる

ということです。この点を見落とすと、想定していたよりも大きな税負担が発生する可能性があります。

6 併せて改正される「不動産小口化商品」

不動産関連の今回の改正で、さらに厳しい見直しが行われたのが「不動産小口化商品」です。 これは、都心のビルなどを小口に分けて投資できる商品のことで、これまで相続税対策として活用されてきました。

従来は、実物不動産と同じように、路線価(道路ごとに定められた土地の評価額)などを基準に評価されていたため、実際の価格(時価)より低く評価されるケースが多く、相続税を抑える効果が期待できました。

しかし、2027年以降の相続・贈与からは、一定の不動産小口化商品について、原則として

時価に近い金額で評価

されます。特に厳しい改正ポイントは、通常の賃貸用不動産は、取得から5年を超えて保有すれば従来の評価方法が使える一方で、不動産小口化商品は、

取得時期に関係なく時価評価が適用される

という点です。

7 今から取り組むべき現実的な対応は?

1)保有不動産の棚卸し(現状把握)

まず取り組むべきなのは、現在保有している賃貸用不動産や、不動産小口化商品の整理です。特に2022年以降に取得した不動産については注意が必要です。2027年以降に相続が発生した場合、これまでの低い評価ではなく、購入価格に近い水準で評価される可能性があるためです。

現在の評価額と、新ルールでの評価額を比較し、「どれくらい相続税が増えるのか」を具体的に試算

しておく必要があります。その上で、

増える可能性がある相続税を、預貯金や生命保険などで本当に支払えるのかも確認

しておくべきです。不動産はあっても現金が不足し、納税資金に困るケースは少なくありません。特に不動産小口化商品については、取得時期に関係なく時価(実際の市場価格)で評価される方向が示されているため、今後も保有を続けるべきか、売却や資産の組み換えを検討すべきかを慎重に判断する必要があります。

2)2026年末までの贈与の検討

2026年末までに贈与(無償で財産を渡すこと)を行うかも、大きな検討ポイントになります。

新しいルールは2027年以降の相続・贈与から適用されるため、それ以前に贈与を完了できれば、現在の低い評価額で資産を移転できる可能性

があります。つまり、将来評価額が上がる前に、今の評価額で次世代へ引き継ぐことができるということです。

ただし、注意点もあります。現在は、生前贈与をしても、贈与から7年以内に相続が発生した場合には、その財産を相続財産に戻して計算する仕組みになっています。そのため、

単純に急いで贈与すればよいという話ではなく、年齢や健康状態、家族構成なども踏まえた慎重な判断が必要

です。さらに、不動産を移転する際には、不動産取得税や登録免許税(名義変更時にかかる税金)などのコストも発生します。

3)「節税目的の投資」からの転換

今後は、税金面における不動産投資の考え方自体を変える必要があります。これまでは、「相続税を下げられるから買う」という判断が一定程度成り立っていました。しかし、改正後はその効果が薄れるため、「実際にどれだけ収益を生むか」がより重要になります。つまり、

見かけ上の節税効果ではなく、家賃収入などによって納税資金を生み出せるかどうか

が問われる時代になるということです。

また、相続発生時に売却しやすいかどうかも重要になります。広大な地方土地のように売却に時間がかかる資産よりも、都市部のマンションや流動性(売りやすさ)の高い物件の方が、今後は重視される可能性があります。

4)小規模宅地等の特例の活用

改正後も重要な制度として残るのが、「小規模宅地等の特例」です。これは、一定の条件を満たす貸付事業用の土地について、相続税の評価額を最大50%減額できる制度です。ただし、この制度には細かな条件があり、相続直前に貸付を始めた場合には使えないなどの制限があります。そのため、自社や個人の不動産が対象になるのかを、事前に税理士と確認しておく必要があります。

以上(2026年6月作成)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 富永慎也)

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画像:solom-Adobe Stock

ハラスメントをするけど仕事ができる社員の処遇はどうする?

1 教科書通りにいかないのがハラスメント対応

ハラスメントへの対応については、今やインターネットや生成AIに聞けば、基本的なことは大抵分かります。ただ、「ヒアリングをする」「記録を残す」「再発防止策を講じる」——どれも大事ですが、

実際の現場は、こうした教科書的な対応だけでは解決しないケースがほとんど

です。また、教科書的な対応の多くは、会社にハラスメントに対応するための組織や専任担当者がいることを前提に述べられています。そのため、社員数が少なく、異動させる部署もなければ、懲戒委員会を開く余裕もない——そんな会社では、必ずしも参考にならないのです。

この記事では、そんな中小企業での実際の相談事例をベースに、弁護士が「どこで判断を誤ると炎上してしまうのか」「現実的にどのあたりが目指すべき着地点なのか」という観点から、ハラスメント対応のポイントを整理します。

2 売上エースを温存して事態が悪化した

1)事例

売上トップの営業社員が、部下に対して「辞めろ」「使えない」といった発言を繰り返していました。人事に相談があったものの、「彼がいないと売上が立たない」として強い対応を取ることができませんでした。その結果、被害者は退職し、さらに労基署に駆け込む事態に発展してしまいました。

売上エースを温存して事態が悪化した

2)どこで判断を誤るか

このケースの問題点は、「会社として誰を守るのか、何を守るのかの判断を誤った」点にあります。短期的には売上を守ったつもりでも、その結果として、人が辞め、紛争になり、「あの会社はハラスメントを放置する」という評判が広がるといった形で、結果的に会社全体の損失が拡大してしまいます。

3)会社が取れる対応

会社として売上トップのエースを即座に処分することは難しい場合が多いのが現実でしょうが、せめて

被害者とエースを物理的に切り離せないかを考える

必要があります。ただ、その際に考えなければならないのが、「誰をどのように動かすか」です。ここで、被害者を異動の対象にするのはリスキーです。相談したことを理由に不利益取扱いを受けたとして、被害者が訴訟に及ぶ恐れがあるからです。一方、エースを動かせるかといえば、「売上への影響を考えるとそれも難しい」というのが多くの会社の本音でしょう。

こうした状況で有効なのは、

「異動」という目に見える形での分離ではなく、日常業務の流れの中で自然に接点を減らしていくアプローチ

です。担当案件を少しずつ分ける、報告・連絡に第三者を介在させる、会議の座席や進行を工夫する。こういった積み重ねにより、直接顔を合わせる機会や一対一のやり取りが自然と減っていきます。大きな変化ではないように見えても、毎日の小さなストレスが減ることは、被害者にとって想像以上に大きな意味を持ちます。

また、もう一つ重要なのが、

被害者本人の意向をできるかぎりヒアリングする

ことです。つまり、「会社としてはこういった方法で改善を図りたいと考えているが、あなた自身はどういった形を希望するか」と確認します。もちろん、全ての希望に応えられるわけではありません。しかし、

「会社として考えたうえで、できる限りのことをしようとしている」という姿勢を示す

こと自体に大きな意味があります。被害者1人の問題にとどまらず、そうした会社の姿勢は職場全体に伝わるものです。ハラスメントへの対応を通じて、「この会社は社員を守ろうとしている」と社員に感じてもらえるかどうかが、長期的な信頼と離職防止にもつながります。

3 厳重注意で済ませたら、火種が残った

1)事例

営業課長が、会議中に部下に対し、「バカ」「クズ」などの人格否定的な発言を繰り返し、業務時間外にもチャットで叱責をしていました。部下は「辞めるほどではないが、このままはつらい」と社長に相談。社長は営業課長に口頭注意を行い、様子を見ることにしました。しかし、その後も状況は大きく改善せず、部下は「会社は何もしてくれない」と不信感を募らせることになりました。

厳重注意で済ませたら、火種が残った

2)どこで判断を誤るか

「ヒアリングをして、注意もした。だから大丈夫」と安易に片付けてしまい、その後も問題が深刻化する——これはよくあるパターンです。

しかも、注意の仕方によっては逆効果になります。「部下から告げ口された」と受け取った上司が、その後、逆によそよそしい態度をとるようになった、あるいは露骨ではないものの、以前より部下への当たりが強くなった。こうした事態は、現場では珍しくありません。

また、注意した数カ月後には同じような状況に戻ってしまい、社員は「結局会社は何も変わらない」と感じ、退職します。そして、その会社への不信感は、ある日突然、労基署(労働基準監督署)への申告という形で爆発するのです。会社が「対応した」と思っていたものの、被害者はすでに見切りをつけていたということが、この種のケースでよくある形になります。

3)会社が取れる対応

まず最初に検討すべきは、

2人の直接のやり取りをなくすのではなく、「少し」減らすこと

です。例えば、言動に問題のある上司を経由しなくても業務が進むよう、報告・連絡のルートを調整します。とはいえ、特定の上司への対応だけを変えると、社内から「あの人が処分された」と見られてしまい、かえって反発を招きます。「組織体制を見直す」「報告・連絡のフローを整理する」といった会社全体の取り組みとして位置づけ、特定のケースへの対処であることが表面化しないよう進めるのがよいでしょう。

上司への指導も、本人を呼んで「言い方には気をつけるように」と伝えるだけでは意味がありません。それでは本人に「自分だけ標的にされた」という反発を生み、さらには部下にも悪い点があるなどと反論され、収拾がつかなくなる恐れがあります。

有効なのは、全上司を対象に、

  • 部下とのコミュニケーションに関するセルフチェックを実施する
  • 部下からの匿名アンケートで自分の言動を振り返る機会を設ける

といった形で、会社全体の取り組みとして落とし込むことです。そうすると、特定の問題事案として表面化させずに、当事者が自然な形で自分の言動を見直すように持っていけます。

また、見落とされがちなのが、被害者への説明です。「会社として何をどう変えたか」を本人に伝えなければ、どれだけ内部で動いていても被害者には何も見えません。「話は聞きました」「注意しました」といった言葉だけでは、被害者の不信感は解消されないどころか、むしろ「結局、会社は自分より上司を守った」という諦めに変わっていきます。大事なのは、会社が状況を変えるために動いていることを、被害者自身が実感できる形で示すことです。

4 被害者の「大事にしたくない」に甘えてしまった

1)事例

飲み会での上司の発言をセクハラと感じた女性社員が相談。本人は「謝罪してもらえればそれでいい、大事にしたくない」と明言。会社は上司に謝罪させて、対応を終了しました。しかしその後、別の社員から全く同じ案件で相談が寄せられました。その結果、「会社はハラスメントに対応する気がないのか!」と、社員の不満が全社に拡大してしまったのです。

被害者の「大事にしたくない」に甘えてしまった

2)どこで判断を誤るか

「本人がそれでいいと言っていたら、それで終わり」というのは、多くの会社が陥りやすい誤った判断です。もちろん、被害者本人が大ごとにしたくないと言っている以上、それ以上動くのはむしろ余計なことかもしれません。

ですが、法律上はそういきません。本人が納得していても、会社にはハラスメントの再発防止策を講じる義務があるのです。なぜなら、ハラスメントは「被害者と加害者の二人の問題」ではなく、「職場環境の問題」だからです。

今回は本人が穏便に済ませることを望んでいても、同じ上司が同じことを別の社員にしていたら、あるいは今後、別の社員が同様の被害を受けてしまったらどうでしょうか。「あのとき会社は何も対応しなかった」という事実が、後になって問題になってきます。

3)会社が取れる対応

では実際にどう動けばいいでしょうか。ここは、被害者への対応と、職場環境を改善するための社内対応に分けて考えると整理しやすくなります。

まず、被害者本人への対応は、本人の意向を尊重することを基本にします。大ごとにしたくないという気持ちを汲んで、あまり事を大きくしない。本人が望む以上に事を荒立てないことで、被害者と上司や会社との信頼関係を保ちます。

一方、社内対応は別に行う必要があります。具体的には、次の3点を検討してください。

1.上司の過去の言動を確認する

上司本人にセルフチェックの機会を設けることから始めるのが現実的です。「飲み会の場でいつも同じような話をしていないか」「特定の部下に対して踏み込んだ発言をしていないか」といった観点で、自分の言動を振り返ってもらいます。周囲への聞き取りは、ことが大きくなるリスクがあるため慎重に判断してください。職場環境の改善のために必要と判断した場合のみ実施し、把握した内容は記録に残しておきます。

2.上司への指導内容は、言葉にして伝える

「気をつける」といった曖昧な指示ではなく、「飲み会の場で部下の外見や私生活に関する発言はできるかぎり控える」など、具体的にどの行為が問題だったかを明示した上で指導します。

3.再発防止の仕組みをつくる

「ハラスメント防止規程を制定する」といった堅苦しいアプローチは、中小企業では形骸化しがちです。それよりも、「飲み会を楽しく過ごすために気を付けるべきこと」といったカジュアルな形で、場の雰囲気を壊さないための簡単なルールを共有する方が機能しやすいでしょう。お酒の席での会話の心得、参加を強制しない、外見や私生活に踏み込んだ話題は避ける——そういった当たり前のことを言語化しておくだけで、「会社はそういう場の空気を大切にしている」というメッセージにもなります。

なお、今回のケースとは異なりますが、被害者が「上司を処分してほしい」と強く求めてくることもあります。ただ、被害者の要望は真摯に受け止める必要がありますが、処分の判断はあくまで会社が行うものである点は忘れてはいけません。

その場合に最低限行うべきことは、判断のプロセスを丁寧に説明することです。「何を調査したのか」「どういう事実を確認したのか」「その上で会社としてどう判断したのか」などを、必要であれば弁護士など外部の専門家の意見を踏まえたことも含め、きちんと言葉にして伝えます。要望に応えられない場合でも、「なぜその判断に至ったか」を説明することが、後々の不満やトラブルを防ぐことにつながります。被害者の声を受け止めながらも、最終的な判断は会社が責任を持って行い、そのプロセスと結果を丁寧に伝えましょう。

5 「中小企業だから配置転換はできない」と対応を怠った

1)事例

現場リーダーが若手に対して怒鳴る指導を繰り返していました。しかし、部署は1つしかなく、異動や配置換えは物理的に不可能です。相談を受けた経営者は、「ウチでは仕方ない」として実質的に放置してしまっていました。

「中小企業だから配置転換はできない」と対応を怠った

2)どこで判断を誤るか

「ウチは部署が1つしかないから仕方ない」という考えが、改善を図らずに見て見ぬふりをしてしまうのが典型的な失敗です。確かに異動や配置転換はできない。しかしそれは、「何もできない」とイコールではありません。

  • 現場リーダーから直接指示を受けなくてもいい仕組みは作れないか
  • 若手が相談できる別のルートは確保できないか
  • 現場リーダーだけに権限が集中しない体制にできないか

と、こういった視点で職場を考えてみるとできることがあるかもしれません。「異動させられないから手が打てない」という思考停止が、小さなトラブルを大きな紛争の火種にしてしまう原因になるでしょう。

3)会社が取れる対応

大切なのは、「人を変える」のではなく「仕組みで解決する」発想に切り替えることです。現場リーダーの性格や意識が変わることを期待しても、あまりうまくいきません。問題が起きにくい組織を構築していくほうが、現実的です。例えば、

  • 若手への業務指示の一部を社長直轄にしてしまう
  • 現場リーダーだけが判断するのではなく、複数人でレビューする体制にする

など、このように現場リーダーが若手と2人きりになる場面を減らすだけでも、状況は改善する可能性があります。

なお、第三者の目を入れて改善を試みるのも有効ですが、外部の研修会社やコンサルタントに依頼するとなると、費用等の面でハードルが高くなります。ですから、

  • 社長や管理職を集めて「最近の職場環境について話し合う場」を定期的に設ける
  • 管理職同士で部下への接し方を振り返る
  • 簡単なチェックシートを作って共有する

など、できることから始めてみましょう。その際、特定の人物や問題を狙い撃ちにした対応だと受け取られないよう、会社全体の取り組みとして位置づけることが重要です。「なぜ今これをやるのか」という不信感を生まずに当事者の意識を変えるきっかけを作るためにも、この点は意識しておく必要があります。加害者本人の自覚や反省に期待しすぎず、できる範囲で構造を変えていくことが大切です。

6 創業役員がハラスメントの加害者になってしまった

1)事例

創業役員が、会議の場で新入社員に対して「そんなことも分からないのか」「向いていないんじゃないか」といった発言を繰り返していました。社長は創業時からのパートナーであり、面と向かって強く言える関係ではありません。結果、「まあ、あの人のスタイルだから」と口頭で軽く注意するだけで、実質的には放置が続いていました。

創業役員がハラスメントの加害者になってしまった

2)どこで判断を誤るか

創業時からのパートナーに対しては、社長も正面から注意をしにくいものですが、とはいえ周囲の社員はしっかり見ています。「会社はあの役員の問題行動を知っていながら何もしない」と受け取られれば、優秀な社員から先に会社を離れていきます。気付けば、「あの会社はそういう会社だ」という評判が社外にまで広がってしまい、採用活動などにも影響が出てきます。

また、法律上は放置した側の役員にも安全配慮義務違反が問われる可能性があり、「自分は関係ない」では済まなくなるケースもあります。

3)会社が取れる対応

まず取り組むべきことは、事実の把握と記録です。具体的には、

  • 被害を受けた社員から「いつ・どこで・どんな発言があったか」を丁寧に聞き取り、内容を文書として残す(本人に書き留めてもらう、会社が聞き取りメモとして整理するなど)
  • 1.の内容をもとに社長が役員と面談し、何を伝えたか、役員がどう反応したかを面談後に記録として残す

という2段階で対応します。この2段階の記録が、その後の対応の根拠になります。

それでも改善が見られない場合は、役員報酬や処遇の見直しという手段も視野に入れる必要があります。最終的には社長自身が判断し、本人に直接伝えなければなりません。創業時からのパートナーに対してそれができるかどうかが、このケースの重要なポイントです。

「このままでは処遇に影響が出る」ということを社長が自らの言葉で伝えれば、それは役員に対する「会社は本気だ」というメッセージになります。実際に処遇を変更するか以上に、社長が正面からその話をしたという事実が重要です。役員だけでなく、周囲の社員にとっても、「この会社は問題から目を背けない」という信頼につながっていきます。

対応が難しいケースであることは間違いありません。しかし、だからこそきちんと記録を残し、多少の軋轢が生じるとしても、社長が正面から向き合う姿勢を示す必要があります。

7 フリーランス相手へのハラスメントに気づかなかった

1)事例

あるウェブ制作会社が、フリーランスのデザイナーに継続的に仕事を発注していました。しかし、担当者の指示出しの方法には少し問題があり、納期直前に大量の修正を求める、深夜にメッセージを送る、返答が少し遅れると催促が重なるといったことが繰り返されていました。デザイナーは次第に心身の不調を訴えるようになり、ある日突然、仕事を続けられないと申し出てきました。しかし、会社側は「フリーランスへの発注なのだからハラスメントには当たらない」と考えており、社内でもそもそも問題として認識されていませんでした。

フリーランス相手へのハラスメントに気づかなかった

2)どこで判断を誤るか

フリーランスは外注先だから、社内のハラスメント規制は関係がないと考える経営者は少なくありません。しかし、フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス新法)により、

雇用関係にない相手であっても、ハラスメントに該当する言動や対応は規制の対象

になります。

「辞めるなら次の発注はない」といった圧力や、一方的な発注取消し、理由のない報酬の減額なども問題になり得ます。発注する側とされる側という取引関係においても相手への接し方には同じように配慮が求められる時代になっています。

3)会社が取れる対応

まず意識しておきたいことは、修正指示の「内容・回数・トーン」です。修正を求めること自体は業務上あり得ることですが、

  • 「こんな基本的なこともわからないのか」といった言い回し
  • 深夜や休日を問わない連絡、短期間での大量修正依頼

などは、受け取る側にとって大きな負担になります。立場の弱いフリーランス側からすれば、断りにくい状況での強制に映ることがあります。

こうしたトラブルを防ぐためには、フリーランスとの契約書に修正の回数や対応時間のルールを明記しておくことが有効です。また、やり取りはできる限りメールやチャットなど記録が残る形で行い、口頭での高圧的な指示が積み重ならないようにする工夫も大切です。

社内向けには、外注先への対応に関するガイドラインを簡単にまとめておくとよいでしょう。「フリーランスだから多少強く言っても大丈夫」という感覚が社内に残っているようであれば、それ自体がリスクの芽です。雇用関係がない相手だからこそ、対応の記録と社内ルールの整備が会社を守ることにつながります。

併せて知っておきたいのが、公益通報制度との関係です。通報の対象が広がり、フリーランスであっても一定の条件のもとで通報者として保護される可能性があります。つまり、フリーランスへの不当な扱いが続いた場合、相手が労基署や行政機関に通報するという選択肢を持っているということです。「外注先だから表に出ない」という認識は、もはや通用しません。社内の問題と同じ感覚で、外注先との関係にも目を向けておく必要があります。

8 最後に:問われているのは「姿勢」と「設計」

この記事で紹介したケースは、いずれも「まさかウチの会社では」と思っていた経営者が直面した現実です。中小企業では、教科書通りの対応が取れない場面がほとんどです。しかし、法律は会社の規模に関係なく適用されます。労働契約法上の安全配慮義務も、労働施策総合推進法上のパワハラ防止義務も、社員が一人でもいれば会社に課せられる義務です。

だからこそ、大切なのは完璧な対応を目指すことではなく、できることを着実に行うことです。次の4つを意識するだけでも、会社の姿勢や評価は大きく変わります。

  • 事実関係を確認するプロセスを踏むこと
  • 確認した記録を残すこと
  • 小さなことでもよいので改善策を検討して実行すること
  • 相談者が不利益や心身不調を抱えないよう配慮すること

「何をしたか」という結果はもちろん重要です。しかし最も大事なのは、「状況をどのように判断して、どのように変えようとしたか」という姿勢です。限られた選択肢の中で、現実的に状況を改善しようとする意思と行動の積み重ねが、結果として「火消し」にも「予防」にもつながっていきます。

以上(2026年6月作成)

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画像:ChatGPT

【規程・文例集】「生成AI利用規程」のひな型

1 ルールを定めてますか? 生成AIの業務利用

生成AIとは、

プロンプト(実行してほしいタスク、質問、依頼内容を伝える命令文や指示文)を与えることで、テキスト・画像・動画・音声など多様な形式のコンテンツを新たにつくり出す人工知能の一種

です。

OpenAIのChatGPT、MicrosoftのCopilot、GoogleのGeminiなど、大規模言語モデル(LLM)を基盤とする自然言語対話型生成AIが身近になり、日常的に活用する人も増えています。さらに、AnthropicのClaudeをはじめ、生成AIは単にプロンプトに回答するだけの域を超え、問題解決や目標達成に向けて自律的に動作する「AIエージェント」として進化を遂げつつあります。

生成AIやAIエージェントをうまく活用すれば、これまでの業務・作業を劇的に変革し、圧倒的に効率化できます。一方で、

  • 情報漏洩や回答の不正確性
  • アンコンシャスバイアス(自分自身では気づかない「物事の捉え方の歪みや思い込み」)
  • AIによる生成物が既存の著作物に類似し、意図せず著作権を侵害してしまうリスクや、著作物として保護されないリスク

など、様々な問題も指摘されており、AIが生成した回答の根拠や裏付けの確認など、適切な対応が求められます。

会社として、AI活用に向けた検討や取り組みを進めていく上で必要となるのが、組織としてのルールです。この記事では、社員にAIを適切に利用させていくために、専門家が監修した「生成AI利用規程」のひな型を紹介します。

2 生成AI利用規程のひな型

以降で紹介するひな型などは一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【生成AI利用規程】

第1章 総則

第1条(目的)

本規程は、〇〇株式会社(以下「会社」という)における生成AI(人工知能)ツールの業務利用に関する安全基準および利用ルールを定める。これにより、業務の効率化を図るとともに、情報漏洩、権利侵害、不当な差別やバイアスの発生等のAI固有のリスクを防止することを目的とする。

第2条(定義)

本規程において「生成AI」とは、文章、画像、プログラムコード、音声等を自動的に生成するAI技術およびそのサービス(ChatGPT、Copilot、Gemini、Claudeなど)をいう。

第3条(適用範囲)

本規程は、会社のすべての役員、正社員、契約社員、パート・アルバイト、および会社の指示に基づき業務に従事する者(以下「従業員等」という)に適用する。

第2章 利用体制および遵守事項

第4条(利用可能なツールと導入手続き)

1)従業員等は、会社が事前に承認し、指定した生成AIツール(以下「指定ツール」という)のみを業務に利用できる。個人契約のアカウントや未承認のツールを業務に利用してはならない。

2)新たな生成AIツールを業務に導入しようとする場合は、事前に「AIシステム影響評価」およびリスクアセスメントを行い、経営層または情報セキュリティ責任者の承認を得なければならない。

第5条(入力データの制限)

従業員等は、生成AIにプロンプト(指示文)を入力する際、次の情報を入力してはならない。

  • 顧客、取引先、および自社の個人情報
  • 会社の営業秘密、財務情報、未公開の技術情報、インサイダー情報、その他の機密情報
  • 取引先との間で秘密保持義務を負っている情報

第6条(設定の義務)

指定ツールの利用にあたっては、入力したデータがAIの追加学習に利用されないよう、データ不保持(オプトアウト)の設定を必須とする。

第3章 成果物の検証と責任

第7条(権利侵害および不当なバイアスの防止)

1)従業員等は、生成AIの出力物(以下「成果物」という)を業務に利用する場合、第三者の著作権、商標権、意匠権等の知的財産権、および肖像権・プライバシー権を侵害していないことを確認しなければならない。

2)従業員等は、生成AIの出力結果に偏見や不公平な評価(アルゴリズムによるバイアス)が含まれていないかを確認し、特定の個人や集団を不当に差別・排除することのないよう配慮しなければならない。

第8条(ファクトチェックおよび説明可能性の確保)

1)生成AIは誤った情報を出力する可能性がある(ハルシネーション)ことを理解し、従業員等は成果物の内容について、必ず公的情報や信頼できるデータ等に基づき事実確認(ファクトチェック)を行わなければならない。

2)顧客や取引先から、AIを用いた判断や成果物について根拠の提示を求められた場合、その作成・出力プロセスについて合理的な説明ができる状態(説明可能性の確保)を維持するよう努めなければならない。

第9条(業務責任)

成果物を実際の業務(提案書、プログラム、外部公開記事等)に採用した場合、その内容に関する最終的な責任は当該業務を担当した従業員等およびその管理職が負う。生成AIが誤出力をしたことを理由に責任を免れることはできない。

第4章 禁止事項、外部委託、および運用

第10条(禁止される業務)

次の業務に関し、生成AIの単独、または主たる利用を禁止する。

  • 法的効力を持つ契約書、規程類の最終確定
  • 人事評価、採用合否の最終決定
  • 安全性や人命に関わる重要システムのコード実装(人間のレビューがない場合)

第11条(外部ベンダーおよび第三者管理)

業務を外部に委託する際、委託先が生成AIを利用する場合は、本規程と同等のセキュリティ基準および倫理基準を満たしていることを契約等で明確に義務付け、必要に応じて管理・監査を行わなければならない。

第12条(教育・研修)

会社は、従業員等に対し、生成AIの安全な利用に関する教育や情報セキュリティ研修を定期的に実施する。従業員等はこれを受講しなければならない。

第13条(違反時の措置)

本規程に違反し、会社に損害を与えた場合、または情報漏洩等を引き起こした場合は、就業規則に基づき懲戒処分の対象とする。

附則

本規程は、2026年〇月〇日より施行する。

以上(2026年6月作成)
(監修 石原法律事務所 弁護士 磯田翔)

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画像:ESB Professional-shutterstock