Kalep,中小企業事例集は、読者の皆さまの経営にお役立ていただけるような中小企業の事例をご紹介するシリーズです。経営者へのインタビューを通して、AIに聞いても分からない中小企業の取り組みや、人物の魅力に迫っていきます。
今回は、「宇宙をASOBIBA(遊び場)に」をモットーに、日本の宇宙開発を長年牽引されている、株式会社minsora(以下「ミンソラ」)代表取締役 高山 久信(たかやま ひさのぶ)さんにお話を伺いました!
1 「三菱電機大学」から宇宙スタートアップへ
――長年、大手企業で宇宙開発を牽引されてきた高山さんが、なぜスタートアップとして挑戦されているのでしょうか?
私が約40年勤めた三菱電機は、技術はもちろん、人間関係のあり方やネットワーク作りまでの全てを丁寧に教えてくれた「大学」のような場所でした。約40年にわたって「宇宙」関連の仕事に携わり、国際協力や世界初のプロジェクトも手掛けました。最初は右も左も分からなかった私を丁寧に指導してくれた方との出会いもあり、本当に良い経験をしました。
定年を迎え、そのまま嘱託として残ることもできたのですが、かねてから、
さまざまな課題のある「地域」にフォーカスして、それを解決するために宇宙を「利用」して事業化するべき
との思いがありました。それを実現するために設立したのがミンソラなのです。

(出所:株式会社minsora)
――安定が約束された生活から飛び出すことに、迷いはなかったですか?
全くなく、むしろワクワクしていました。2019年3月に仲間と議論し、4月1日には登記を完了させていたほどです。
大手企業で新しいことをやろうとすると、分厚い企画書を作成し、エビデンスを集めてといった具合に大変な時間と労力がかかります。しかし、新しいことにエビデンスは存在しません。
必要なのは「可能性と熱意と意志」だけです。失敗するかどうかは自分の判断次第。うまくいかなければやめればいい、そういうシンプルな気持ちで始めました。
私は「好奇心の塊」のような性格で、チャレンジをし続けたいと思っていましたし、「三菱電機大学」とも言える貴重な環境で得た宇宙技術の知識、具体的なプロジェクトを通した知見や研究機関・大学を含め産官学金の広範囲なネットワーク等を、ミンソラを通じて次の世代につなげていきたいという強い思いもありました。

三菱電機時代の高山さん
2 「ミンソラ」の由来
――みんなの宇宙(ソラ)で、「minsora(ミンソラ)」とは素敵な社名ですね!
「minsora(ミンソラ)」という社名は、一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構で取り組んでいた新たな事業創出活動である『みんなの宇宙(ソラ)プロジェクト』(みんソラプロジェクト)に由来しています。このプロジェクトは、「みんなの宇宙(ソラ)を遊び場のように楽しく新しいことに挑戦しよう」というコンセプトで始まったものです。この取り組みは、芸能事務所のオスカープロモーションやチタンめがねフレームを製作している会社など、あえて宇宙とは直接関係のない多様なメンバーが集まって行っていたものです。宇宙業界の内輪だけで議論するよりも、多様な意見を取り入れたほうが「みんなが使う」という視点には辿り着きやすいと考えられたからです。
様々な職種のメンバーが手弁当で夜ごと集まり、握り飯を食べながら膝詰めで議論をしました。その結果、
ワンストップで情報提供、データ提供、ビジネスサポートまでできるプラットフォームがなければ宇宙は使われない
という結論に至りました。こうなると話は早い。企画力や実行力を兼ね備えたメンバーがいるので、「じゃ、作りましょう!」となり、2017年春に「宇宙ビジネスコート」という当時、宇宙業界では初となるビジネスプラットフォームを立ち上げました。ただ、参加者には研究機関の出身者も多かったので、一歩踏み出すことへの躊躇(ちゅうちょ)もありました。実は、そこを乗り越えることが一番の苦労でした。このプラットフォームは、ICTを活用したイノベーション創出への取り組みが高く評価され、「MM総研大賞2017」において話題賞を受賞しました。
このときの発想や経験は現在のミンソラにも引き継がれています。
宇宙は憧れるものではありません。遊ぶように自由に、楽しく【使う】ものだと思うのです。
3 宇宙を産業にするために
――宇宙を産業にするためには、何が必要でしょうか?
日本の宇宙産業に携わってきた方々は、長らく宇宙データを「作る側」にいました。国の予算で基盤技術を開発し、プロジェクト化していくというのがこれまでの宇宙開発の常でした。「まずは研究開発目的の人工衛星を作る」という発想になり、「衛星からのデータを使う側からの視点」が弱かったと思います。
しかし、宇宙データは、
使って初めてビジネス(産業)になるし、そのためには「使う側」の発想
が必要です。マーケットインということです。そのためには、国のインフラを活かしつつ、民間企業がアプリケーションやサービスを生み出してお金を還流させなければなりません。
ミンソラはまさにそれを体現するハブとなり、「宇宙を使ってもらう」ための仕掛けをしています。私たちは「宇宙技術を使ってください」とは言いません。まず「どんな課題がありますか」「何を実現したいですか」「どんなリソースをお持ちですか」と質問をします。
そこに宇宙のデータや技術が加わることで課題解決ができたり、付加価値が生まれたりする可能性を地域と一緒に考え、実行していきます。
こうしたアプローチをしているからこそ、宇宙を使って地域課題を根本的に解決できるのだと信じていますし、実際、比較的に短時間で事業化できました。

(出所:株式会社minsora)
――宇宙に対する世間の意識はどうですか?
最近は宇宙に関する興味が高まっていると感じます。私も小学校、金融機関主催のセミナーやビジネス協議会などで年間20〜30くらいの宇宙教室や講演に登壇し、子どもたちやビジネスパーソンや一般の方々に宇宙に対して興味を持って頂きたいとの思いで活動しています。

児童養護施設での宇宙教室風景
また、ここ数年は、金融機関が主催するセミナーや研修会、企業経営者の方々の会合でお話しする機会が増えてきました。特に若手経営者は、新しいビジネスの検討に積極的で、宇宙を絡めてできることを本気で考えてくれています。金融機関としても、新しい融資先として宇宙を考えているのかもしれませんね。
金融機関といえば、大分県信用組合の𠮷野理事長(2026年4月時点)は、ミンソラを設立したのと同時期から地域創生で宇宙を活用することを考えておられました。実際、2022年に「けんしん宇宙定期」という、大分県の「宇宙港(スペースポート)」構想の実現に向けた機運醸成を目的とした懸賞付き・優遇金利の定期預金を募集し、20億円を超す額を達成しました(※この募集は2023年3月末をもって終了)。現在、各地で「地域創生×宇宙」の取り組みが芽吹いてきており、先見の明があったのだと思います。𠮷野理事長とは今でも親交がありますが、変わらず好奇心が旺盛で、チャレンジ精神をお持ちです。
4 私たちの生活の中にある身近な宇宙
――とはいえ、やはり宇宙は遠い存在だと感じます。
確かに、多くの人が「宇宙を遠い存在」だと考えています。しかし実際は、私たちは日々、宇宙から届く衛星データを使って生活しています。最も身近な例は天気予報と携帯電話の位置情報です。
天気予報を例にすると、気象衛星「ひまわり」がなければ、天気予報も今の精度を保てなくなります。「え、ひまわりは日本だけじゃないの?」と思われる方も多いと思いますが、実は気象データは日本、EU、米国、中国、インドが連携して世界中で共有しています。最近の天気予報の精度が高いのは、この国際協力にあると思います。
ちなみに、ひまわりは常に運用機と待機機の2機が軌道上にいて、運用機にトラブルがあれば、直ぐにバックアップできるようになっています。さらにもう1機を次期気象衛星として、地上で開発するという、いわば3機体制のインフラとなっています。静止軌道の寿命がきたら「衛星の墓場」と呼ばれる軌道へ移動させ、新しい機体を補充するローテーションを大体10年ごとに繰り返しています。
こういう話をすると、宇宙ゴミ(使われなくなった人工衛星など)の話が誇張されがちですが、宇宙ゴミは地上のゴミとは全く違います。例えば、気象衛星の大きさは、小型バスくらいの大きさで、静止軌道と呼ばれる地球の高度3万6000キロメートルの彼方にあります。静止軌道上での人工衛星の密度は、「東京ドームの円周上に一円玉が1~2枚あるくらい」のイメージです。しかも、地上のチリのようにフラフラと動いているわけではなく、決まった「軌道の上」を飛行しています。軌道とは電車の線路のようなものです。線路に立ち入らなければ電車とぶつかることがないように、衛星軌道に入らなければ宇宙ゴミと衝突することはありません。逆にいえば、その軌道を把握しているからこそ、「東京ドームの円周上にある1枚の一円玉」程度の宇宙ゴミを回収できるのです。
もちろん、宇宙ゴミは大変な問題であり、衝突するリスクはあります。ただ、この点については、北米航空宇宙防衛司令部(North American Aerospace Defense Command、略称:NORAD(ノーラッド))および米宇宙軍が、地球を周回する数万個の人工衛星やロケット本体、デブリの軌道を常時監視し、把握して、世界中で共有されています。
どうでしょう。毎朝見る天気予報は衛星データがなければ、皆さんに届けることはできません。ひまわりが、軌道上に2機体制で地球を見守っていることや宇宙ゴミが決まった軌道をF1のように回っていたりすることを知ると宇宙への興味が湧いてきませんか?
宇宙に対する正しい情報を広く発信していることも、宇宙を産業にするための第一歩になると考えています。
5 地域課題を解決した事例:お米からイルカとの共生まで
――宇宙データを利用している具体的な事例を教えてください。
農業では、大分県の「くす天空の輝き」というお米の事例があります。衛星が撮影した画像を分析すると、緑の中に茶色い部分が広がっていないかを確認して、稲の生育状態や虫食い被害が把握できます。食害については1本1本の虫まで見えるわけではありませんが、食害が生じているエリアの「分布」はつかめます。
衛星の最大の強みは「広域を同時に把握できる」ことです。広域で全体の状態をざっくり把握してから、ドローンでピンポイントに確認する。つまり、宇宙から地上へのリレーすることで、宇宙データをより効果的に使うことができます。

(出所:株式会社minsora)
――「宇宙データ×一次産業」は相性が良さそうです。
農業・漁業・林業といった一次産業は、宇宙データとの親和性が特に高い分野です。熊本県天草市では、「イルカと人との共生」プロジェクトに取り組んでいます。天草の海域には、イルカは縄文時代から住み着いていると言われますが、それがなぜなのかは解明されていません。
これを宇宙データを使って、イルカがどう動いているのか、海水の温度や栄養状態の変化を経年で把握し、海の環境をデータ化する取り組みを開始しました。これからもイルカと人が共生できるような環境を維持するにはどうすればいいかを考えていきます。この取り組みで、例えば周辺のゴミや汚濁汚染水の状態を数値化できれば、「海を汚さないでください」といった漠然としたメッセージではなく、「あなたは10の汚れを出しているので、それを5に低減してください」と、数値の基準を持って具体的に話せるようになるわけです。
また、この取り組みには、三菱UFJ銀行が「自然資本の保全」の観点から関心を寄せ、天草市に対して企業版ふるさと納税により資金を提供しています。天草市の「イルカと人との共生」プロジェクトの取り組みから、海のデータ化が成功すれば、世界の共通目的である「ネイチャーポジティブ」に貢献できると考えます。

天草みつばちラジオ出演
6 宇宙を産業にするための障壁と、10年後の未来像
――改めて、日本の宇宙産業は世界的に見てどのような位置にあるのでしょうか?
産業という意味では、日本はまだまだであると言わざるを得ません。政府レベルでの利活用促進への取り組みは広がっていますが、産業レベルでの宇宙利用がなかなか進んでいないからです。
例えば、EUは宇宙の利用に積極的で、全地球航法衛星システム「ガリレオ」や地球観測衛星群「センチネル」を継続的に運用することを国際的に約束しています。公共インフラとして継続性が担保されているからこそ民間は事業投資ができます。日本にはこうした民間での事業投資に繋がる枠組みが足りていません。
――そもそも宇宙を産業にするというイメージが湧きにくいかもしれません。
確かに「認識」の問題もあります。みんな宇宙には夢を持っています。しかし、具体的な就職先としての選択は限られています。自動車に憧れる人は自動車メーカー、レーサー、メカニックやデザイナーなど多くの選択肢がありますが、宇宙にはそうした選択肢がない(非常に少ない)のです。
ですが、5年後・10年後には、宇宙インフラが整備され、農業・物流・建設・防災・金融などさまざまな分野で宇宙データが当たり前のように利用されていて、宇宙関連の仕事が増え、具体的な就職先が増えていると信じています。それに、宇宙を利用するビジネスの70%〜80%は地上の仕事なのです。ロケットだって地上でつくるわけですしね。
7 次世代へのメッセージ
――最後に、高山さん自身の宇宙への思いを教えてください。
繰り返しになりますが、宇宙は決して特別な場所ではありません。既に天気予報、待ち合わせや位置情報を利用したゲームなどいろんな場面で使われています。そして、とても面白い。
宇宙からは日々、膨大なデータが届きます。そうしたものが自分たちの生活や仕事の中に組み込まれ、じわじわと広まっていけば宇宙が気づいた時には使われている存在になります。例えば、宇宙データを使うと、土砂崩れなどで田畑の被害が発生してしまった翌日には、保険金が支払われ、また、被災地への物流ルートをあらかじめシミュレーションしておくこともできます。これが当たり前になったとき、宇宙は産業になったといえるかもしれません。
ただ、宇宙の産業化というと、どこか上から目線のような気もします。もう少し正しく私の考えをお伝えすると、【産業の宇宙化】だと思うのです。つまり、いまある産業に宇宙データや宇宙技術を活用していき、様々な事業領域を宇宙に広げていく、ということです。
例えば、前述した大分県の「くす天空の輝き」というお米の例は、農業の宇宙化です。また、トヨタ自動車が作った月面用のルナクルーザーは、自動車産業の宇宙化なわけです。
最近は、ベトナムなど海外からも「宇宙のことを知りたい」という問い合わせがくるようになりました。子供たちには、宇宙はロマンだけでなく「お金(仕事)になる分野」だということも伝えていきたいですね。
宇宙利用が当たり前になるころに、私は80歳になりますが、まだまだ走り続けます!
【編集後記】
「おじいちゃんスタートアップ」。最初はそのような印象でお会いしました。しかし、インタビューを進めるうちに、本当に楽しそうに熱く語ってくださる高山さんに魅了されました。「へぇ〜、知りませんでした」を連発しながら、私自身の宇宙に対する興味がどんどん膨らんでいきました。
高山さんの原体験には、ミンソラを設立する前に参加したEUの「スペーステックエクスポ ヨーロッパ(Space Tech Expo Europe)」があるそうです。そこでは、「スペースキャラバン」という、サーカスのテントのようなイベントスペースが設置され、大人はビールを飲みながら宇宙ビジネスのピッチや企画について議論をします。
人々が宇宙を身近に感じ、その利用を考える仕組み。まさにミンソラが実現したい世界があったのだと思います。ミンソラが手がける事例がいくつも誕生しているとのこと。まずは、地域の課題をミンソラに相談してみるのも良いと思いました。「どんな課題がありますか」と前のめりで話を聞いてくれるはずです。

ミンソラ本社にて。右が高山さん
以上(2026年5月作成)
(聞き手 日本情報マート 代表取締役 松田泰敏)
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画像:日本情報マート