令和7年分の税制改正では、基礎控除や給与所得控除の引上げ、特定親族特別控除の創設などの改正が行われました。この改正により新たに控除の対象となる者については、令和7年分の年末調整において摘要を受けることになります。
そこで本稿では、特定親族特別控除の適用を受けるために、新たに申告書の提出を求めたり確認すべき事項が増えるため、改正の内容や手続きの注意点について解説しています。
ビジネス文書・法令文書 今月の特集は、こちらからお読みいただけます。
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令和7年分の税制改正では、基礎控除や給与所得控除の引上げ、特定親族特別控除の創設などの改正が行われました。この改正により新たに控除の対象となる者については、令和7年分の年末調整において摘要を受けることになります。
そこで本稿では、特定親族特別控除の適用を受けるために、新たに申告書の提出を求めたり確認すべき事項が増えるため、改正の内容や手続きの注意点について解説しています。
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2026年の干支(えと)は、「午(うま)」です。前回の午年は、2014年(平成26年)の甲午(きのえうま)でした。2014年は、消費税が5%から8%へ引き上げられた年。また、青色発光ダイオード(LED)の開発で、赤﨑勇氏、天野浩氏、中村修二氏の3人がノーベル物理学賞を受賞したことも注目を集めました。
過去5回の午年に起きた主な出来事や流行語は次の通りです。

午年生まれの日本の有名人には、次のような人がいます(既に亡くなられた方も含みます)。

日本において馬は、農耕や交通、そして戦の場でも欠かせない存在でした。力強く田畑を耕し、人や物を運び、戦場では武将の誇りと共に駆け抜けました。戦国時代には、織田信長の愛馬「白石鹿毛(しろいしかげ)」や上杉謙信の「放生月毛(ほうしょうつきげ)」など、名馬とともに戦った逸話が数多く残されています。戦国武将たちにとって馬は、単なる乗り物ではなく、共に命を預ける“戦友”だったのです。
時代が進むにつれ、馬は人々の暮らしから離れていきましたが、その存在は今なお日本文化の中に息づいています。例えば、正月の神社には、願い事を書いた「絵馬」がずらりと並びます。古来より神々の乗り物とされてきた馬に願いを乗せて届ける。そうした信仰から、今でも多くの人が、初詣で絵馬を奉納しているのです。
近年では、馬と触れ合うことで心を整える「ホースセラピー」も注目されています。馬は感情に敏感な優しい動物であるため、人の緊張を解きほぐし、安らぎをもたらすからです。力と優しさを併せ持つ馬は、今もなお、人と共に生きるパートナーとして活躍しているのです。
午(うま)にまつわる話として、古代マケドニアの英雄・アレクサンドロス大王と愛馬ブケパロスの逸話があります。ブケパロスは非常に気性の荒い暴れ馬として有名でした。しかし、大王は、ブケパロスに臆病な一面があることを見抜きます。実はブケパロスは、他の馬より感覚が鋭く、自分自身の影におびえて暴れていたのです。そこで、大王はブケパロスの顔を太陽に向けさせ、影を見ないようにすることで、この暴れ馬を落ち着かせ、見事に乗りこなしたのです。
この逸話が教えてくれるのは、「先入観を捨てて、相手を理解すること」の大切さです。皆さんも、部下や同僚が仕事で困っているとき、サポートに入りたいのに的はずれな助言をしてしまった経験はないですか? それは、自分の経験や相手の普段の言動などから、「相手は、〇〇に困っているんだ」と決めつけているからかもしれません。
大切なのは、そうした先入観を捨て、相手が何につまずいているのかを注意深く観察し、聞き取り、理解すること。原因が分かれば、自然と解決策も見えてきます。自分の問題に向き合う場合も同じです。「自分は、〇〇に困っているんだ」というのは、実は思い込みかもしれません。今、置かれている状況を冷静に分析しながら、解決策を探りましょう。
馬たちが蹄の音高らかに駆けていくように、今年は一丸となって前へと進む年にしましょう。そのために、自他問わず抱えている困難や不安としっかり向き合って、理解する姿勢を大切にしていきましょう。それは必ず、チームや組織が前へ進んでいくための一助になります。
馬の視野は非常に広く、およそ350度もあるといわれています。これは草食動物として、天敵である肉食獣の接近をいち早く察知するために進化した能力です。また、左右の目で異なるものを見る「単眼視」であるため、草を食べながらでも周囲の変化や危険を常に確認できます。馬は動くものに敏感で、わずかな風や音にも反応します。こうした能力のおかげで、馬は広大な草原でも安全に生活できるのです。
仕事の場でも、同じことが言えます。広い視野を持つことで、変化やリスクを早めに察知でき、柔軟に対応する力が養われます。新入社員や若手社員の皆さんは、まだ視野を広く持つことが苦手かもしれませんが、これは訓練で身につきます。例えば、「自分の仕事には誰が関わっっているのか?」「自分の工程が終わったら、次は誰が何をするのか?」「この仕事の成功・失敗はお客さまにどのような影響を与えるのか?」。そういったことを一つずつ考えながら仕事をすると、視野は広がっていきます。
全体像を見ながらも、細かい見落としを拾うことができる「馬の視野」は、働く上でぜひとも理想としたい姿です。今年は干支にあやかって、馬のような視野を持って仕事をすることを心がけていきましょう。
しかし、実は馬にも、真後ろの約10度に死角があるそうです。同じように、たったひとりで全てを見渡すことはできません。弱点は仲間と補い合い、チームでカバーし、一丸となって前進していきましょう。
ところで、「干支とは何か?」と聞かれたら、どう答えますか? 一般的に、干支とは、巳(へび)年や申(さる)年など、12種類の動物を、年ごとに当てはめたものと認識されています。しかし、実は干支(えと=かんし)とは、古代中国に起源を持つ、年月日や時刻、方位などを表す呼称で、10種類の「干」と12種類の「支」を組み合わせた60通りがあるのです。本章では、意外と知られていない干支の起源についてご紹介します。
干支の「干(え)」は10種類あり、十干(じっかん)といいます。

これに陰陽五行思想(木・火・土・金・水)を結び付けて、次のようにも読みます。

一方、干支の「支」は古代中国の天文学で、木星の位置を示すために天を十二分した呼称を起源にしており、十二支といいます。

さらに、十二支を動物に当てはめて、次のように呼ばれるようになったのです。

中国では、古く殷(いん)の時代(紀元前16世紀~紀元前11世紀ごろ)から、この十干十二支の組み合わせで年月日が数えられたといいます。これが干支の起源です。
現在の日本では、干支は十二支を指すように使われていますが、このように、厳密には干支と十二支とは異なります。本来の干支(十干十二支)の組み合わせは全部で60通りあり、日本で使われている12通りの十二支とは違うのです。干支は年月日や時刻に当てられますが、日本では一般的に年に当てて使われています。満60歳を還暦(かんれき、もしくは生まれ年の干支を「本卦(ほんけ)」と呼ぶことから本卦還(がえ)りともいう)というのは、干支が1周して生まれ年の干支に還(かえ)るところからきています。
ちなみに、2025年の干支は乙巳(きのとみ)、2026年の干支は丙午(ひのえうま)です。自分の生まれ年の干支が何かを、下表で確認してみましょう。

干支は年月日などの時間を表す呼称として、古くから使われており、具体的な年がすぐ分かるため、歴史上の事件の呼称としても多く用いられています。
有名な例としては、以下のようなものがあります。
(注)日本でいう「文禄(ぶんろく)の役」です。
ちなみに、阪神甲子園球場は、「甲子(きのえね)」年の1924年に完成したことから名付けられています。
以上(2025年12月更新)
pj90006
画像:Brian-Adobe Stock
皆さん、おはようございます。11月に入り、冬の兆しが見えてきましたね。今日は、川端康成氏の小説「雪国」をテーマに話をします。雪に閉ざされた温泉町を舞台に、都会から来た男性・島村と、雪国の芸者・駒子の関わりを、澄んだ空気と静けさの中に描いた物語です。
島村は冬の温泉町で駒子と出会い、季節をまたいで通いながら、互いに近づいたり離れたりを繰り返します。町にはもう1人、葉子という女性もいて、それぞれの思いが交錯する中、最後は冬の闇を裂くような火事の場面へ。雪の白さ、夜の暗さ、炎の赤さが対照的に描かれ、島村はただ見上げることしかできない。結末の多くは語りませんが、ざっくりお伝えするとこんなストーリーです。
「雪国」は、例えば「2人はこうなった」「こう思っていた」など、出来事や登場人物の心情をあまり直接的に書きません。その代わり、何が起きたのかを読者に想像させる仕掛けが至る所にちりばめられています。例えば、「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」で有名な冒頭のシーン。列車の窓の反射、雪明かり、ガラス越しの視線など、情景の描写がとても丁寧です。登場人物の所作も、衣(きぬ)擦れの音、楽器の稽古、身の回りの整え方に至るまで、細かく描写されています。
出来事や登場人物の心情をぼかした文章は、人によっては「分かりにくい」と敬遠したくなるかもしれませんが、そう思う人こそ、ぜひ一度、「雪国」を読んでみてください。内容は決して派手ではありませんが、雪の光、息づかい、指先の所作までを丁寧に“観(み)る”ことで、人の心の揺れや距離が浮かび上がってきます。月並みな言い方ですが、“温度”が感じられるのです。
ビジネスでは「分かりやすく」「簡潔に」という点ばかりが重視されがちですが、「分かりにくい」ものに目を向けることもとても大切です。例えば、お客さまの表情、同僚の疲れのサイン、機械のかすかな違和感――小さな兆しを“観る”ことのできる人は、事故やクレームを未然に防ぐことができます。
冬は雑音が少ないぶん、本質がよく見える季節です。「雪国」に学び、私たちも観る力と丁寧さで、年末の仕事の質を一段上げていきましょう。
以上(2025年11月作成)
pj17233
画像:Mariko Mitsuda
目次
投資の判断を誤る原因の1つに、
「お金を集め、利用することにかかるコスト(以下「資金調達コスト)」を意識せずに計画を立ててしまう
ことがあります。同じ1000万円の設備投資であっても、その資金をどのように調達したかによって、実際の採算性は大きく変わります。銀行から借りた資金であれば利息が発生し、株主からの出資であれば配当が必要になるように、資金を調達する方法によってコストの内容が変わってくるからです。
投資評価は、「この設備を導入すれば売上が増えるか」という一面的な判断ではありません。
資金調達コストを正しく把握し、その分を差し引いても利益を生むかどうかを見極める
ことが大切です。
今回は、投資評価の判断において欠かせない「資金調達コスト」の考え方やその具体的な計算方法と、資金調達コスト以外に投資評価やファイナンスで使う独特のコストである「機会コスト」「埋没コスト」を解説します。
投資案件の採算性を評価する際、問題となるのが、
とで、時点(将来と現時点)が異なる点です。なぜなら、現在の100万円は、利息や配当が発生することで、1年後に受け取る100万円に比べ、その価値が高くなるからです。
この問題を解消するために、「将来その投資から得られるキャッシュ・フロー」を「現時点の価値」に換算する必要があります。この「将来のお金の価値を現時点の価値に換算すること」を「現在価値に割り引く」といいます。
資金調達コストは、将来のキャッシュ・フローを現在価値に調整する際に用いる率(割引率)として使われます。また、それ以外にも投資利益率、内部収益率を使った具体的な投資の評価方法で投資案件を採択するかどうかの判断基準として使われます。
事例として、
とした場合で、投資案件にかかる5年間のキャッシュ・フローの推移を見てみましょう。

この投資案件を選ぶ際に、B案は選ぶことはまずありません。なぜなら、投資するための資金を集めてくる資金調達コスト(10%)よりも利益率(8%)が低いので、予定通りいったとしてもマイナス2%(=8%-10%)になってしまい、やらないほうがマシだからです。
では、その他の案はどうでしょうか。A案、C案については、どちらも利益率が資金調達コスト(10%)を上回っており、どちらを選ぶかは会社の経営状況次第です。この事例では、A案のように「投資後初期(1~3年目)からある程度リターンが見込めるのがよいのか」、C案のように「最初は少ないリターンで耐える期間は長いものの5年目の総額が大きいキャッシュ・フローを得られるほうがよいのか」といった判断になります。
それでは、資金調達コストの中身を見てみましょう。資金調達コストは、資金調達の方法により異なるため、貸借対照表に注目します。

貸借対照表は、企業の財政状態を表しています。左側(借方)が、資金の利用状況を、右側(貸方)は利用している資金の調達方法を表しています。資金調達コストは、貸方の資金の調達方法ごとに決まっています。
買掛金などの営業活動にかかる項目は、企業間の信用で得られた資金なので資金調達コストはかかりません。そのため、計算でも考慮しません。
次に、金融機関からの借入金は、支払う利息が資金調達コストです。例えば、年利2.0%なら、借入金の資金調達コストは2.0%になります(詳細な解説は後述)。昨今、この金利は上がっていく傾向にあるので、今後借入金に係る資金調達コストは高くなっていくというのが、現在の一般的な見方ではないでしょうか。
ただし、支払利息は税金計算上の費用(損金)になるため、節約効果があります。そのため、実際の資金調達コストは、
支払利息-税金の節約効果(利息×税率)
で考えます。ただし、税金の節約効果を考慮しなければならないのは、利益が出て税金を払っている会社だけです。
一方、資本(株主の出資に内部留保を加え、株主資本と呼ぶ)は、支払う配当金が資金調達コストです。配当金は損金にならないため、配当金の全額が資金調達コストになります。
それでは、実際に計算例を使って資金調達コストを算出してみましょう。投資評価では、会社全体で資金の調達方法を加重平均した資金調達コストを用います。これを「加重平均資本コスト」といいます。英語ではweighted average cost of capital、頭文字をとってWACC(ワック)と世間では呼ばれ、次の算式で計算されます。
WACC=借入利率×(1-実効税率)×負債シェア+資本金配当率×株主資本シェア
例えば、借入金4000万円、資本6000万円、借入利率5%、資本金配当金10%、実効税率30%の場合は次のようになります。
7.4%=5%×(1-30%)×0.4(注1)+10%×0.6(注2)
(注1)負債シェア0.4=4000万円/(4000万円+6000万円)
(注2)株主資本シェア0.6=6000万円/(4000万円+6000万円)
中小企業の場合、配当を支払うことは稀です。なぜなら、経営者と株主が同じであることが多いため、株主の資本に対して資金調達コストを要求されないケースが多いからです。このような場合に、筆者は、
借入金による資金調達コストをベースに考えるのがよい
と考えています。中小企業では、会社に資金を残すか、経営者兼株主に還元していくかは比較的自由であり、その状況に応じて資金調達コストを変えていくのは現実的ではないためです。
無借金経営の場合はどうでしょうか。この場合も、
一般的な借入金の利息、または、安全な運用利回りとして定期預金などの利息を参考に資金調達コストを考える
ようにしましょう。資金は資本金、内部留保を使えばよいだけですが、少なくとも預金で置いておくよりも利益率は高くないと事業をする意味がないからです。
もちろん、資金調達コストは判断をする上での最低限の基準なので、定期預金などの利息をそのまま資金調達コストとして設定するのではなく、一定の+α(上乗せ幅)を乗せて目指すべき目標とすることになります。
投資評価の場面では、機会コストと埋没コストという考え方も大切です。
まず、機会コストとは、
ある案を選択した場合に「他の選択肢を選べば得られたはずの利益や収益」のこと
です。例えば、新しい製造ラインに1000万円の投資をすることを決めたとします。しかし、その同じ1000万円で不動産投資に回していれば年間で5%の利益が見込めたかもしれません。この場合、新しい製造ラインへの設備投資の機会コストは、不動産投資をしなかったために得ることのできなかった5%の利益です。このように、得られなかったメリットをコストと考えます。
機会コストは、実際には支出をすることがないイメージ上のコストであり、何かの意思決定、選択をすると必ず何かを失っているということを強く意識するためのコストといえます。ぜひ、皆さんの判断の際には気にしてみましょう。
次に、埋没コストとは、
投資によって、どの案を選んだとしても「変わらない費用」のこと
です。例えば、新店舗を出店するかどうかを検討する際に、本社の管理部門の費用(本社の人件費や賃料など)は出店してもしなくても発生するため、埋没コストに該当します。
また、「ここまで資金を使ってしまったのだから、途中でやめるのはもったいない」と考えてしまう心理も、埋没コストに関係します。途中まで進めた段階で、そこまでに払った資金は戻ってきません。大切なのは、その案件を継続するかどうかは、これからの収入と費用を冷静に比較して考えることです。例えば、ギャンブルで、こんなに時間とお金をかけたのだから、当たるまでやらないともったいないと考え続けてしまうケースがあるようです。この“こんなにかけた時間とお金”が埋没コストです。続けても、やめても変わらないコストです。経営判断でも同じで、過去の支出に引きずられないという考え方が、正しい意思決定を行う上で非常に重要です。
以上(2025年11月作成)
pj35172
画像:apinan-Adobe Stock
2026年1月1日、下請代金支払遅延等防止法(下請法)が改正され、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(中小受託取引適正化法=取適法(とりてきほう))になります。この法改正は、発注者と受注者の対等な関係づくりを促し、人件費や原材料費、エネルギーコストの上昇を反映できる適正な価格交渉につなげる狙いがあります。
まず、注目されるのが法律名と内容から「下請け」という用語がなくなることです。これは、「下請け」という用語自体が取引の実態にそぐわなくなってきていることもありますが、発注者が上で受注者が下という従属的なイメージを払拭するという意味合いがあります。
今回の法改正の内容は多岐にわたりますが、まず押さえておきたいのは、
ということです。以降で詳しく見ていきましょう。
(注)この記事では便宜上、下請法(取適法)の用語である親事業者(委託事業者)を「発注者」、下請事業者(中小受託事業者)を「受注者」、下請代金(製造委託等代金)を「代金」と呼びます。
取適法では、下請法でも禁止されてきた発注者による「受領拒否」「代金の支払い遅延」「代金の減額」「返品」「買いたたき」などに加え、
という、新たな禁止行為が定められています。
受注者の了解を得ていても、発注者に悪意がなくても、禁止行為に及べば法令違反
です。これまでの取引慣行が違法とみなされるリスクもあり、早期の対応が不可欠といえるでしょう。
発注者が一方的に代金を決定し、受注者の利益を不当に害する行為は禁止されます。例えば、次のようなものが禁止行為に該当します。
発注者にとって重要なのは、
です。「これまでそうだったから」という屁理屈は通用しませんし、代金の決定プロセスが不透明な場合、優良な受注者は取引に応じず離れていってしまう恐れがあります。
代金の支払い手段として手形を用いることで、受注者に資金繰りの負担を強いる商習慣が続くことが問題視され、取適法では、
となります。
これまで、代金の支払い手段として手形を用いてきた発注者は、
振込などによる支払いの増加に備えて、資金を確保しておかなければならない
ことになります。発注者は、物品等の受領後、60日以内で定められている支払い期日までに、代金を支払わなければ支払い遅延となるからです。なお、紙の手形は2026年度末(2027年3月末)までに廃止される予定であり、代替の支払い手段への移行が必要です。
取適法では、適用対象となる取引の範囲を、「取引の内容」と「資本金基準」(資本金の額あるいは出資の総額)または「従業員基準」(常時使用する従業員の数)によって定めています。
「法律の対象取引」=「取引の内容」+「資本金基準」または「従業員基準」
「取引の内容」については、下請法の「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」の他に、「特定運送委託」が新たに追加されました。特定運送委託とは、
販売する物品、製造を請け負った物品、修理を請け負った物品、作成を請け負った情報成果物(例:作成を請け負ったデザインに基づいて製造されたペットボトル)が記載されるなどした物品の引き渡しに必要な運送を、他の事業者に委託すること
です。
「従業員基準」は、今回の法改正で新たに追加されたもので、
従業員数が多く事業規模が大きいものの、減資等により資本金額が少額となっていた事業者を適用対象とする
ことで、より多くの取引関係における不公正な慣行を是正しようという目的があります。
具体的な考え方は図表の通りです。黒字が「資本金基準」、赤字が「従業員基準」で、適用対象となる取引の発注者がどちらか1つでも該当する場合、取適法の適用を受けます。

基準を満たす事業者を「優先的地位にある」ものとして取り扱うことで、取引に係る発注者の不当な行為を、より迅速かつ効果的に規制することが狙いです。
なお、詳しくは触れませんが、取適法とフリーランス・事業者間取引適正化等法のいずれにも違反する行為については、原則としてフリーランス・事業者間取引適正化等法を優先して適用することとされています。
公正取引委員会・中小企業庁は、2026年1月1日の改正法施行までに広く十分な周知を行うため、適用対象となる事業者をはじめとする関係者を対象に説明会を開催しています(一部地域では既に開催が終了しています)。
また、中小企業庁は、「適正取引支援サイト」を通じて、基本的な知識とともに、法改正のポイントを重点的に学ぶ無料のオンライン講習会を開催しています(受講には参加申し込みが必要です)。
上記のオンライン講習会に加え、中小企業庁は、「みんなのパブリックレッスン」を通じて、下請法・取適法の内容や価格交渉についての無料のeラーニングも提供しています(利用規約に同意の上、新規利用登録が必要です)。
以上(2025年11月作成)
(監修 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)
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画像:ChatGPT
約束手形とは、
手形の「振出人」が、約束の期日までに定められた金額を支払うことを「受取人」に約束する有価証券
です。手形自体は江戸時代から続く決済手段で、卸売業などでも利用が多くなっています。
ただ、この約束手形について、2027年3月末をめどに紙を廃止し、全て電子化する方針が示されています(注)。「ペーパーレス化」が社会的に進む中で、紙の手形や小切手もデジタル化して、作業負担の軽減や効率化を図ることが求められるようになったためです。
(注)内閣官房「成長戦略実行計画(2021年6月18日)」において「5年後の約束手形の利用の廃止に向けた取組を促進する」旨が、全銀協(全国銀行協会)ウェブサイトにおいて「政府方針をもとに、2027年3月末までに紙の手形・小切手の交換が廃止となる」旨が明記されています。
さらに廃止に先んじて、2026年1月からは下請法改め取適法(中小受託取引適正化法)により、
下請取引において、代金の支払い手段として手形(紙の手形)を用いることが全面禁止
されるため、各社における支払い業務の見直しは急務となっています。

以降で次の内容を紹介するので、支払い業務の見直しの参考にしてください。
また、2026年1月施行の取適法の内容については、次のコンテンツをご確認ください。
約束手形を廃止すると、振出側・受取側ともに事務負担やコストが減る一方、資金繰りでは振出側にはマイナスの、受取側にはプラスの影響が出ます。
手形帳や印紙の購入コストがなくなります。また、手形の作成や発送事務などの実務負担がなくなります。
2024年11月以降、約束手形の支払期日は「交付日から60日以内」と決められていますが、約束手形を廃止した場合、それよりも短い期日での支払いを求められる可能性があります。例えば、少し古いデータになりますが、2020年度の中小企業庁の調査によると、銀行振込の平均支払期日は約50日とされています(中小企業庁「約束手形をはじめとする支払条件の改善に向けた検討会報告書(2021年3月)」)。
支払期日が短くなるということは、資金繰りに影響が出やすくなるということです。ですから、手元資金を確保する計画をしっかり立てておく必要があります。
振出側から受け取った約束手形は、受取側が支払期日まで管理する必要があります。その管理や支払期日になってから行う取立などの事務負担、取立手数料や領収書の印紙代などのコストが低減されます。また、約束手形を管理している間の紛失や盗難のリスクもなくなります。
支払期日が短縮されれば、資金繰りが改善されます。また、支払期日前に割り引いて手形を買い取ってもらう「手形割引」や、手数料を支払うことで、期日前に債権を買い取ってもらうなどの「ファクタリング」を利用せずに済みます。
約束手形に代わる決済手段として代表的なものは、銀行決済(インターネットバンキング)、電子記録債権、クレジットカードなどです。
インターネットバンキングは、銀行決済をインターネットで行うものです。パソコンやスマートフォンを使い、銀行窓口やATMに行かなくても振込手続きが行えます。法人口座を開設すれば、複数の振込先に一括で振込手続きができるので、事務負担を軽減できます。また、振込手数料が発生する場合もありますが、同一金融機関内での振込であれば無料、もしくは低コストで済むケースもあります。
代表的な支払期日は「月末締め翌月末払い」で、締め日から30日前後の入金となります。
電子記録債権は、例えば、手形の作成・保管などのコストの低減や売掛債権の二重譲渡リスクなどの回避を可能とする新たな金銭債権で、電子債権記録機関で記録(振出)、譲渡(支払)ができます。
国内最大規模の電子債権記録機関が、でんさいネット(全銀電子債権ネットワーク)で、都市銀行、地方銀行、信用金庫、信用組合、JAなど国内490の金融機関が参加しています(2025年10月23日時点)。でんさいネットが取り扱う電子記録債権を「でんさい」といいます。
でんさいは、取引金融機関のインターネットバンキングなどを通じて、でんさいネットに「発生記録請求」を行うことで振出となり、支払期日になると受取側の決済口座に振り込まれます。
ただし、振出・受取の双方がでんさいネットを利用している必要があります。支払期日は、発生日(銀行営業日)から起算して3〜7銀行営業日を経過した日以降、最長で10年後までです。
なお、前述した取適法により、2026年1月からは
電子記録債権や一括請求方式(ファクタリング等)についても、支払い期日までに、代金に相当する金銭(手数料等を含む満額)を得ることが困難なものは使用禁止
となりますので、注意が必要です。
多数の取引先に対して、少額のサービスや商品を提供する会社にとって便利です。代金はクレジット会社が立て替え、後から支払請求が来る決済手段です。クレジット会社によって引き落としや入金の時期が異なります。
振出側・受取側で手形決済のメリット・デメリットが異なるため、双方での調整が必要です。双方がやるべきことの流れを紹介します。

約束手形は業界の取引慣行として長年利用されてきたため、「やめにくい事情」があります。万が一、振出側が難色を示したら、いったん引き下がり、公正取引委員会「相談・申告等の窓口」や、中小企業庁「下請かけこみ寺」などに相談するのも一策です。
以上(2025年11月更新)
(監修 弁護士 田島直明)
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画像:BBuilder-Adobe Stock
目次
日本の65歳以上人口は、1950年には総人口の5%にも満たなかったものの、その後はどんどん増加し、2024年10月時点では29.3%に達しています。一方で総人口は減少局面に入り、2056年には1億人を下回ると予測されています(内閣府「令和7年版高齢社会白書」)。
こうした少子高齢化の進行により、多くの会社が深刻な人手不足に直面しています。実際、製造業や建設業、運輸業などではその傾向が顕著で、長年の経験や技術を持つベテラン人材は、単なる「戦力の穴埋め」ではなく、若手の育成や品質の安定に欠かせない存在になっています。
会社にとって「高齢社員をどのように雇用し続けるか」は、今や避けて通れない経営課題。特に2025年・2026年は高年齢者雇用・給付制度において重要な節目を迎えています。すでに施行済の内容も含め、押さえておきたいものは次の3つです。
これらの制度改正は相互に影響し合うため、就業規則・処遇制度の見直しや社員への説明を怠ると、誤解や不満がトラブルに直結するリスクがあります。まずは3つの改正点について、詳しく見ていきましょう。
会社は高年齢者雇用安定法により、社員を65歳まで雇用するために
のいずれかの措置を実施する義務があります。このうち、継続雇用制度(65歳まで)については、以前は労使協定(2012年度以前に締結されたものに限る)により、例えば、「希望者のうち62歳以上のみを継続雇用の対象とする」といった基準を設けることが認められていました。
しかし、2025年3月31日をもってこの経過措置は終了し、
定年後も働くことを希望する社員は全員、継続雇用(65歳まで)の対象
になりました

高年齢雇用継続給付とは、
賃金が「60歳時点の75%未満」に低下した状態で働く場合に支給される雇用保険給付
です。雇用保険の被保険者であった期間が5年以上ある、60歳以上65歳未満の社員が対象です。
社員を定年後に再雇用すると、定年前と比べ賃金がガクッと下がることがあります。こうした場合に、社員の仕事へのモチベーションが下がらないよう、高年齢雇用継続給付が減った分の賃金を補填するわけです。
この高年齢雇用継続給付は、以前は賃金低下率に応じて最大15%が支給されていましたが、
2025年4月1日以降に60歳になった新規受給者からは、最大給付率が「10%」に引き下げ
られています(2025年3月31日以前に60歳になった人の給付率は最大15%のまま)。

例えば、60歳時点の賃金が月額40万円、再雇用後が月額24万円(60歳時点の60%)の場合、
となり、月額1.2万円、年額14.4万円もの差が出てしまいます。
高年齢雇用継続給付の縮小により、60歳以降の社員は従来よりも実質収入が下がる可能性があります。社員のモチベーション低下を防ぐためには、会社としては「給付ありき」の賃金設計を避け、職務給・役割給の導入や評価制度の見直しなどを検討する必要があります。
在職老齢年金とは、
年金を受け取りながら働くと、賃金が一定以上の場合、年金の一部がカットされる制度
です。厚生年金保険に加入しながら年金をもらう60歳以上の社員が対象で、賃金(ボーナスを含む)と年金の合計額が「支給停止調整額」というボーダーラインを超えると、十分な収入があるとみなされ、老齢年金の一部または全額が支給停止となる仕組みです。
ただ、「せっかく働いても年金が減ってしまうのは困る」という声が多く寄せられているのに加え、近年の賃金上昇の影響もあって、支給停止調整額は段階的に引き上げられています。
2026年4月1日からは、支給停止調整額は「51万円→62万円」になる予定
です。簡単に言うと、
という仕組みになります。なお、支給停止を受けるのは年金のうち老齢厚生年金(厚生年金保険)だけで、老齢基礎年金(国民年金)は対象になりません。具体的には次のようなイメージです(図表3の「50万円」は2024年度の金額です)。

制度改正の内容を踏まえた上で、企業は「高齢社員をどのような形で雇い続けるか」という方針を検討する必要があります。代表的な視点をいくつか紹介します。
高年齢者雇用安定法では、65歳までの雇用確保は義務ですが、70歳までは「努力義務」とされています。とはいえ、単なる「努力」ではなく、実際に具体的な措置を検討・導入することが求められています。例えば、
などの方法が考えられます。70歳までの就業機会をどう設計するかは、今後の人材戦略に直結する大きなテーマです。
高齢者雇用の基本的な考え方については、次の記事をご確認ください。
定年後の社員を再雇用する場合、賃金は定年前よりも下がるのが一般的ですが、
「パートや嘱託だから」というだけで賃金を下げるのは、同一労働同一賃金違反
です。仕事内容や役職、労働時間、責任、ノルマなどが定年前とどう変わるのかを考慮した上で、待遇を決めるようにしないといけません。
特に、2025年4月1日以降は高年齢雇用継続給付が新規受給者から縮小されているため、「給付で差額を補う」従来型の設計では社員の不満が残りやすくなります。今後は、職務や責任に応じた合理的な賃金制度へ移行し、処遇に納得感を持たせる人事制度を整えることが重要です。
在職老齢年金にも注意しましょう。法改正でボーダーライン(支給停止調整額)が段階的に引き上げられているとはいえ、高所得であればあるほど老齢年金のカット幅が大きくなるのは変わりません。カットされた分の年金は退職後も戻ってきませんから、賃金設計を考える際は確認が必要です。
高齢社員の待遇については、次の記事をご確認ください。
厚生労働省「令和6年 労働災害発生状況について」によると、労働災害による休業4日以上の死傷者のうち、60歳以上の割合は30.0%に上ります。いわゆる「シニア労災」が深刻化しており、とくに転倒や骨折といった事故が増加傾向にあります。

高齢社員の多くは、「自分はまだ若い」と思っているケースが少なくないので、健康診断や体力テストで自分の体の状態を正しく理解してもらうことが大切です。また、時短勤務やフレックスタイム制、在宅勤務制度、あるいは労働時間の枠にとらわれないフリーランスなど、加齢に合わせて自分のペースで稼働できる働き方を提案してみるのもよいでしょう。
高齢社員の健康を考慮した働き方については、次の記事をご確認ください。
以上(2025年10月更新)
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画像:folyphoto-Adobe Stock
もしも、自分が〇〇(憧れのキャラクターや尊敬する歴史上の人物)になって会社を経営するとしたら? キャラクターや人物を選ぶ視点・発想はまさに人それぞれ。それは、経営者1人1人の理想とするリーダー像の表れかもしれません。
今回は、中小企業の経営者214人に「なってみたいキャラクター・歴史上の人物」についてアンケートを実施し、
という3つの質問をしました。経営者の素顔や価値観が垣間見える結果が集まりましたので、この記事で個性豊かな回答をご紹介します。
アンケートは2025年8月に、インターネットを通じて行いました。回答の中で、明らかに誤字と思われる表記などは修正しています。

アンケートの結果、
「誰かになって経営をしてみたい」と答えた人は、計44.9%
でした!
また、
「なってみたいキャラクター/歴史上の人物が思いつく」と答えた人は、21.5%
でした。次章からは、実際に経営者がどんな人物になって経営を行ってみたいのか、その理由を紹介していきます!

歴史上の人物で、経営者に一番人気だったのは、
誰もが知る戦国武将で三英傑の1人、織田信長
でした! ちなみに次に票が多かったのは、同じく三英傑の1人で、戦国の世の最終勝利者となった徳川家康です。
織田信長、徳川家康になってみたい経営者たちの、「なってみたい理由」は次の通りです。
「奇抜な発想・行動がどこまで実現可能か試してみたい」「豪胆さ」「自分にはない個性の持ち主」「決断力」「天才的な経営者になれるから」
「戦略家としての思想を学びたいから」「数百年先を見越した治世」「忍耐力がすごいから」「長期ビジョン」
その他の人物を挙げた経営者たちの回答は次の通りです。
「死してなお影響力を持つ」
「我国の伝統護持」
「農民から武士として出世する能力が素晴らしい」「天下統一」
「日本を立て直したい」「藩の財政等を再建したから」
「革新的な考え方と人を巻き込む力」
「非常に行動力もあるが冷静で適応力が高い」
「敬天愛人」
「変化の時代を感じたい」
「複数の会社の起業に取り組みたい」
「知力、胆力が素晴らしい」

また、歴史上の人物と比べると少数派ですが、漫画やドラマのキャラクターになってみたい経営者たちも。回答は次の通りです。
「頭が良さそう」
「憧れ」
「商いをうまくやりたい」
以上(2025年10月作成)
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画像:日本情報マート
今年の夏に行われた取り組みで、とても盛況だったものがありますのでご紹介します。
2025年7月4日(金)、東京都立産業貿易センター浜松町館で『食の魅力』発見商談会2025が開催されました。
全国から集まった食に関する出展社156社(初出展58社)、来場者2526名と大盛況で、2フロア(上の階と下の階)ともに熱気、活気あふれるイベントでした!(出展社数、来場者数は商談会公式ページより)
この『食の魅力』発見商談会の特徴は、大きく下記の2点です。
このため、出展社にとっては、純粋に、新規開拓やビジネスチャンスにつながる貴重な商談会となります。
また、主催銀行(地方銀行)や事務局のサポートが厚いこともポイントです。出展社は原則として主催銀行のお客さまであり、銀行の担当者が出展ブースに入って、出展社と一緒になって動いている姿も、あちこちで見られました。
朝10時からスタートした商談会は時間が経つにつれ、来場する食品バイヤーもどんどん増えていき、会場内もますます活況に!
「内容の濃い商談ができた」という出展社、来場者もいたようです。
「食」と分野を絞った、そして、「食品バイヤーのみ」と来場者も絞った商談会は、ビジネスの話になりやすいのかもしれません。大盛況のうちに幕を閉じました。
きらやか銀行のお客さまは下記の5社が出展されました(五十音順)。
株式会社アイオイ(初出展):ブランド鶏肉

三和漬物食品株式会社:漬物、酢の物など

株式会社タスクフーズ:いも煮、牛すじなど

有限会社達商:和菓子、洋菓子

有限会社ティーズファクトリー:クラフトコーラなど

きらやか銀行のお客さま5社に、それぞれ、おすすめ商品などをインタビューしてご紹介いただきました! 出展中のお忙しいところ、インタビューにご対応いただき有り難うございます。
5社へのインタビュー動画はこちらです。
『食の魅力』発見商談会2025の開催報告は、こちらの商談会公式ページからもご確認いただけます。
https://rickie-bs.com/news_20250708/
以上(2025年8月)
目次
カスハラ(カスタマーハラスメント)とは、
顧客などが、社員に悪質な嫌がらせ(土下座の強要など)をすること
です。「お客様は神様です」などというように、日本の会社は昔から、顧客を大切にする傾向がありますか、「土下座などを強要されそれに応じることが、本当に顧客を大切にすることなの?」という当然の疑問があり、実際にカスハラが社会問題化する中、
2025年6月11日公布の改正労働施策総合推進法において、「1.カスハラの定義」を明確化する旨、「2.一定のカスハラ防止措置の実施」を会社に義務付ける旨
が定められました(公布日から1年6カ月以内に施行)。
次の3つを全て満たす場合、カスハラになることが定められました。
通常のパワハラやセクハラと同様に、カスハラについても次のような防止措置が義務付けられることになりました。
国が法律による規制に踏み切ったことで、会社においてもこれまで以上のカスハラ対策が求められることになるでしょう。大切なのは、
正当なクレームには真摯に、理不尽なカスハラには毅然と対応すること
です。とはいえ、上記のカスハラ防止措置などについては、これから指針で詳細が定められるという段階なので、現状では厚生労働省が公表している「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」などを参考にしながら、会社としての対応方針を決めておくのが妥当です。
この記事では同マニュアルをもとに、カスハラ対応のポイントとして、次の4つを紹介します。
また、これとは別に厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、
顧客などからのクレームのうち、要求の内容が妥当でない、または要求の実現方法が社会通念上相当でない言動で、就業の妨げになるものがカスハラになり得る
とされています。
同マニュアルによると、カスハラになる可能性がある言動の例は次の通りです。

法的には、カスハラは
民法の「不法行為」(故意・過失によって他人の権利や法律上の利益を侵害する行為)
に該当する可能性があります。また、言動の内容によっては、刑法(傷害罪、脅迫罪、強要罪、名誉毀損罪、不退去罪など)や軽犯罪法が適用されることもあります。逆に図表1のような言動に当たらない(要求の内容・実現方法に問題がない)場合、カスハラではなく正当なクレームということになります。より詳細なカスハラの具体例を知りたい場合、こちらもご参照ください。
正当なクレームならば誠実に対応を検討する必要がありますが、カスハラの場合、要求には応じず、法的措置なども含めて厳正に対処します。前述した通り、カスハラは幾つかの類型に分類できるので、大まかな対応方針は事前に決めておくことができます。
カスハラの類型に応じた対応方針の例は次の通りです。

これらは大枠の方針なので、実際にどのように対応すべきかは、
なども考慮して慎重に判断します。そのためには、カスハラ対応における社内の役割分担を明確にする必要があります。次章以降で見ていきましょう。
顧客などから電話や対面などで会社に対してクレームがあった場合、まずは窓口の社員が初期対応に当たります。ここで社員に求められるのは、
顧客などを不用意に刺激しないよう注意しつつ、会社が顧客などへの対応を検討するために必要な情報を集めること
です。ポイントは次の2つです。
1.では、顧客などに対し、「このたびは不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ありません」など、不快感を与えたことだけを謝ります。正確に状況が把握できていない段階では、不用意に会社の非を認めたり、相手の要求に応じたりするべきではありません。
2.では、顧客などの住所・名前・連絡先などを確認した上で、話を一通り聞き、要求の内容や問題が発生した経緯を確認します。事実を正確に把握するため、必要に応じて会話を録音するなどして証拠に残します。また、現場対応は1人で行わず、可能な限り複数名で対応するのがよいでしょう。
1.と2.が完了したら、社員は顧客などから確認した情報を上司に報告し、今後の対応について相談します。ただし、身体的な攻撃や性的な言動を受けたなど緊急性が高いときは、1.と2.の状況に関係なく、即座に上司に報告します。
カスハラに関する社内対応の流れは次の通りです。

上司は社員から、顧客などの要求の内容や問題が発生した経緯について話を聞き、
カスハラであれば、その内容に基づいて顧客などへの具体的な対応を決定
します。ただし、
などといった場合は、必要に応じて経営者が判断します。詳細が決まったら、状況に応じて適切な人が対応します。顧客などが取引先(会社)の場合は、社内にハラスメント相談窓口があるでしょうから、必要に応じて窓口担当者とも連携しましょう。
なお、社員がすでにカスハラによって精神的ショックを受けている場合、顧客などから引き離す、医師による面談を実施するといった措置も併せて検討します。
この他、上司または経営者が具体的な対応を決定したり、社員が前述の初期対応を行ったりする上で支障がないよう、定期的に社内で対応ルールの教育・研修を実施するとよいでしょう。
以上(2025年11月更新)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)
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