経営のヒントとなる言葉(津田梅子)

「高い志と熱意を持ち、少数だけでなく、より多くの人々との共感を持てれば、どんなに弱い者でも事を成し遂げることができるでしょう」(*)

出所:「英語で味わう名言集 心に響く古今東西200の言葉 NHKギフト~E名言の世界~」(NHK出版)

冒頭の言葉は、

「たとえどんなに困難なことであっても、高い志と熱意を持ち続け、周囲の協力を得ることができれば成し遂げられる」

ということを表しています。

明治維新(1868年)から間もない1871年、明治新政府は、不平等条約の改正に向けた予備交渉と、欧米各国の国家制度や産業技術などの視察を目的として、岩倉具視(いわくらともみ)氏、木戸孝允(きどたかよし)氏、大久保利通(おおくぼとしみち)氏、伊藤博文(いとうひろぶみ)氏など、政府の要人から結成された岩倉使節団を米国および欧州へ派遣しました。

この一団の中に、わずか6歳の津田氏も留学生として含まれていました。これは、当時、明治新政府の重職を務めていた黒田清隆(くろだきよたか)氏の提案によるものです。黒田氏は、日本における女性の教育を充実させるべく、人材を育成することを目的として津田氏をはじめとする5名の女性を海外に留学させたのです。

米国に渡った津田氏は、ワシントンで11年間におよぶ教育を受けました。そして、1882年、自身が学んだ学問を日本で生かそうと希望に燃えて帰国の途に就きました。

ところが、帰国後、津田氏は日本における女性の地位の低さを知り、大きな衝撃を受けました。当時、日本の社会は男性が中心であり、女性が活躍する場はごく一部に限られていたのです。

1885年、華族女学校(現学習院女子中・高等科)が設立されると、津田氏は教師として同校に招かれます。その後、再び米国に留学することを決意し、華族女学校に在官のまま米国のブリンマー大学に留学し、生物学を専攻して優秀な成績を収めました。そのかたわら、津田氏は知人を手伝って日本の女性についての研究に取り組むこととなりますが、このことがきっかけで女性の教育に大きな関心を持ち、女性のための教育機関の設立を志すようになりました。

その後、津田氏は女子高等師範学校(現お茶の水女子大学)の教授も兼任することとなりますが、1898年には米国で開催された万国婦人連合大会で、日本代表として女性の地位向上における教育の重要性についての演説を行うなど、女性の地位向上と自立の実現に向けた強い思いを抱き続けていました。

そして、1900年、志を同じくする人々の協力を得て、女子英学塾を設立しました。同塾で、津田氏は女性の自立の手段として英語と英文学の学習に力を入れると同時に、専門知識のみにとらわれない広い視野を持つ女性である「all-round women」の精神を説きました。当初はわずか10名の生徒でスタートした女子英学塾は、高い理想による教育が人々の評価を得て次第に規模が大きくなり、後に日本を代表する女子大学となって多くの人材を輩出することとなります。

津田氏が女子英学塾の設立を決意して教職を辞した際、無謀であるとして心配する人もいました。しかし、津田氏は自身の理想を実現するべく、熱意を持って学校設立に向けた一歩を踏み出しました。女子英学塾設立の式辞の中で、教育に必要なものとして次のものを挙げています。

「それは一口に申せば、教師の資格と熱心とそれに学生の研究心であります」(**)

明治時代、女性の地位は男性に比べて低く、「女性が高等教育を受ける必要はない」とされていました。こうした中、津田氏は高い理想を持ち、日本における女性の地位向上と自立の実現を果たすべく、女性のための学校設立を決断しました。そしてその理想と熱意は多くの人々に伝わり、女子英学塾の設立となって結実しました。

目標への道しるべとなる高い理想と、そこにたどりつくエネルギーとなる強い熱意、そして多くの人々の協力。これらがそろうことで、大事を成し遂げることができるのです。

【本文脚注】

注)本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を担保するものではありません。また、本文中では内容に即した肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思われるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。

【経歴】

津田梅子(1864~1929)。東京生まれ。1871年、岩倉使節団に同行し米国へ留学。1900年、女子英学塾(現津田塾大学)を創設。

【参考文献】

(*)「英語で味わう名言集 心に響く古今東西200の言葉 NHKギフト~E名言の世界~」(ロジャー・パルバース、NHK出版、2011年3月)

(**)「津田塾大学ウェブサイト」(津田塾大学)

「津田梅子」(山崎孝子、吉川弘文館、1988年6月)

「津田梅子 六歳でアメリカに留学した女子教育のパイオニア」(津田塾大学津田梅子資料室(監修)、みやぞえ郁雄(まんが)、菅谷淳夫(シナリオ)、小学館、1997年11月)

以上(2026年6月更新)

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ヒント10[職場2]:あなたの職場にはどんな“希望”がありますか?/武田斉紀の『人が辞めない会社、10のヒント』(11)

1 ”ウェルカムな職場”とは、新しい人材への期待を伝える環境づくり

今シリーズの狙いは、経営者、人事担当者、現場の皆さんのお悩みである「社員を採ってもすぐに辞めてしまう上に、そもそも採れない」という課題を解決することです。『人が辞めない会社、10のヒント』と題して、毎回1つずつご紹介してきました。

『人が辞めない会社』に変わるための課題、その原因と解決策は会社によってさまざまです。

今回ご提示するヒントが皆さんの抱える原因に明らかに当てはまらない場合は、読み飛ばしてくださって結構です。ですが、ヒントの1~9までが該当しなくても、10が当てはまるかもしれません。

全社共通の原因もあれば、部署ごとの固有の原因も存在することでしょう。原因が1つだけというケースは少ないので、何回分か読んでいただければ「これはうちにも当てはまるな」というものを見つけていただけるのではと思います。

『人が辞めない会社』に変わるために、前回の第10回では、「”ウェルカムな職場”は人が辞めない」、というお話をしました。

前々回の第9回では、

人は「自分は今の仕事で大事な戦力なのだ」と思えれば簡単には辞めない、というお話をしました。

本人が仕事を通して十分な「仕事の手応え」や「仕事を通した貢献や成長」を感じられている間は、もっとここで頑張りたい、もっとここで役に立ちたいと思えるということでした。

“ウェルカムな職場”とは、働く人が「自分は今の仕事で大事な戦力なのだ」と感じられるための”環境づくり”です。

新たに入社した人材を戦力化していくためには、上司と部下、教育係の先輩との関係といった1対1が基本ですが、仕事はそれらの人とだけ進めるものでもありません。

同僚もそうですし、本部スタッフや関連する部署の人、上司の上司、幹部や社長、同期やメンターも含めて社内だけでもさまざまな人との接点があります。

さらには人と人との関係だけでなく、会社の用意する職場環境、設備や教育制度、待遇、福利厚生等の制度なども含めた全てが”働く環境”といえるでしょう。

新たな人材は、それらの中でさまざまな影響を受けながら新たな仕事を覚え、戦力となっていくのです。

その際に、「自分は今の仕事で大事な戦力なのだ」と思えるかどうか。それを左右するカギが、本人が”ウェルカムな職場”と感じられるかどうかなのです。

中小企業の皆さんの中には、「うちは新しい人材に対して社長から現場まで”ウェルカムな職場”であることには自信があるけれど、職場環境や教育、待遇や福利厚生制度までと言われたら、大手に比べて予算もないし自信がないなあ」という方もいるかもしれません。

確かに各種待遇や制度など、人以外の環境の影響は小さくないので、予算は投資と考えて上限を目指していただきたい。とはいえ大手に比べれば限りはあるでしょう。その中で工夫していくしかありません。

現場の声をよく聞いた上で、限られた予算の中でアイデアを活かしたユニークな制度を作る。要望に合わせて制度を常に見直し、一人ひとりの要望に対して細やかに対応する。組織が小さい分、人と人との関係をより重視したサポート体制を作る。これらは中小だからこそできる強みといえます。

新しい人材も、入社時点で会社の規模から予算の限界もある程度は理解しているはずです。その予想を上回って、人材への期待をさまざまな工夫や努力で、”ウェルカムな職場”を体現できているかどうかが大事なのです。

もう一つ。前回触れましたが、「ウェルカム」は「甘い」のではない、互いが”プロ”を求めるという点も忘れてはいけません。

「期待する」ことと「甘やかす」ことは、全く異なります。互いの成長と会社の発展のためにも、「一日も早く戦力になってもらい、同じ”プロ”として一緒にいい仕事をする」ことを、諦めることなく目指していきましょう。

2 ”希望”=”未来(将来)への期待”は、一人ひとり異なり、変化もする

さて、『人が辞めない会社、10のヒント』の最後の1つも前回同様、[組織]についてのヒントです。今回は、「あなたの職場にはどんな”希望”がありますか?」というお話です。

“希望”は、”未来(将来)への期待”とも言い換えられるでしょう。それは従業員一人ひとり異なります。また、何かのきっかけで変化することもあるものです。

未来のイメージが既にある人にとっては、「自分はこんな感じで努力していけば、自分が目指すこんな姿になれそうだ」と思えることが”希望”です。

未来のイメージが具体的になっていない人にとっては、「自分は将来、こんな感じやこんな感じになれるかもしれない。それは自分にとってきっと幸せに違いない」と思えることが”希望”です。

しかも、未来のイメージは、一人の中でも何かのきっかけで変化することがあります。何らかの刺激を受けて、興味関心の方向性が変わる。プライベートな事情、例えば結婚・出産・育児、親の介護や本人の体調などの変化によって、なりたい未来のイメージが変わる。あるいは見えなくなる。

読者の皆さん自身も想像がつくでしょう。人生は長い。そして仕事は、寝ている時間を除けば一日の半分くらいを占める存在です。

「現在の職場における”希望”=”未来(将来)への期待”は一人ひとり異なり、変化もする」という前提で、”希望”が感じられなくなれば、人は辞めたくなる」。とすれば、会社として、職場として、上司としてどんな対策を打てばいいでしょうか。

3 定期的な1on1ミーティングの場を活かして、一人ひとりの”希望”を把握する

何度も触れているように、”希望” は従業員一人ひとり異なります。かなり個人的な思いであり、他のメンバーもいるミーティングや飲み会の場で、大っぴらに話せる人はほとんどいません。

サシ飲みのほうが話しやすいメンバーもいるでしょうが、しょっちゅう設定できるわけでもありません。それに酩酊した状態での話がどこまで本当か分かりません。飲み会が前提というのも時代にそぐわないでしょう。人数にもよりますが、時間も費用もかかりますし、上司の負担も大きすぎます。

最もメンバーが話しやすく定期的に機会を持ちやすいのは、やはり1on1ミーティングの場ではないでしょうか。予め目的などを明確にして共有し、互いに準備さえしていれば、1人当たり30分あれば十分です。

1on1ミーティングは、英語にするとお堅い制度のようにも聞こえますが、要は上司と部下が1対1で話し合うことです。既に導入されている会社も増えているでしょう。まだやったことがないという会社でも、上司がやると決めれば部署単位で実施できる気軽さがあります。

気軽さの反面、ただ定期的に「1対1で話そう」というのでは、ただの井戸端会議に過ぎません。近況を共有するというメリットがないわけではありませんが、部下の側は、話して何かが解決できたといった手応えがないと、次第に形骸化していきます。忙しい人ほど、1on1の時間が苦痛にさえ感じるようになります。

有効な1on1ミーティングの実施方法について、ここでは詳細は割愛します。

ポイントを2つだけ申し上げると、1つ目は、「話し合う目的とゴール(目標)」をあらかじめ共有しておくことです。

1on1ミーティングで話し合うべき目的には、いくつかあります。大きく分けると次の4つでしょうか。

1)短期:モチベーション支援 …日常の悩み解決・環境づくり

2)中期:目標設定/達成支援/振り返り(評価フィードバック含む)

3)長期:キャリアプランに基づく部下の育成

4)上記を通した退職防止、エンゲージメント向上

今回お話ししている目的は、3)と4)に当たります。本人がなりたい”希望”=”未来(将来)への期待”に対して、具体的なキャリアプランを一緒に考え、その実現を支援していくのです。

実施タイミングとしては、3)単独であれば、「半年あるいは1年に1度くらい、後は本人からの自己申告」でいいでしょう。長期的なテーマだけに、そうコロコロと中身が変わるものでもないからです。

1)や2)を前提に実施するのであれば、予め目的の一つに3)も入れておいて最後に確認するでもいいでしょう。そこで変化がありそうであれば、別途3)単独の1on1の場を設ければいいのです。

4 1on1の目的を共有するとともに、互いに事前準備を怠らない

ポイントの2つ目は、「互いに事前準備を怠らない」ことです。

メンバー本人が準備することは言うまでもありません。自身のこの会社での”希望”=”未来(将来)への期待”を具体的にしておくこと。具体的なキャリアプランにまで落とし込めていれば、申し分ありません。

しかしながら、人によっては”希望”がまだ漠然としている人もいます。また自社にはどんなキャリアプランや教育制度、資格取得支援制度などがあるのか知らない人もいます。

上司としては、3)を目的に1on1をやろうとメンバーに伝えた時点で、次のような要望を出しておきましょう。

〇この会社での、「自身の今後に向けた”希望”=”未来(将来)への期待”」を具体的に描いてみてください。

〇それを実現するために自社に「どんなキャリアプランや制度があるか」自分で調べてみてください。 ※どこに情報があるか知らなければそれを伝える。

〇「自身の”希望”を実現するために、どんなキャリアプランや制度を利用すれば可能そうか」をシミュレーションしてみてください。

もしも本人が「そんなこと今までちゃんと考えたこともないし、考えられるか自信がない」といった反応であれば、こう伝えましょう。

「将来のことはまだ十分にイメージできないかもしれませんね。でもこれはあなた自身の問題であなたがどうなりたいかなので、私には分かりません。イメージだけでもいいので教えてください。私はそれを実現できるように全力で応援しますので。まずは良い機会と思って考えてみてください」

さて、一方で上司の準備も怠りなく。上司としては予めどんな準備をしておけばいいでしょうか。

5 会社と上司は、部下が未来の”希望”をイメージできるように支援する

そのメンバーの”希望”=”未来(将来)への期待”を事前に何となくでも知っていれば、この会社で実現可能な方法を考えておきましょう。

過去に実績のある、あるいは実績はなくとも可能性のあるキャリアプランをシミュレーションしてみる。実現可能性を高める最新の教育制度、資格取得支援制度などを熟知しておく。あるいは、関連部署の人員状況を把握して異動の可能性を調べておく。その場合に、自部署のその後の体制と準備(後輩の育成など)をイメージしておくなど。

本人のイメージに近い良いロールモデル(お手本となるような先輩の事例)があればベストですが、なければ今回を新たなロールモデルづくりのチャンスと考えて支援しましょう。後に続く人たちにも道が開けます。

個人のキャリアプランと同時に、会社の成長のための最適な人員配置も重要です。しかしながら、会社の都合を優先ばかりしていると、個々の従業員は”希望”を失い退職してしまうかもしれません。それではWin-Winどころか全てが台無しになってしまいます。

会社の成長のための人員配置も見据えながら、いかに個々のキャリアプランを実現して成長させていけるかが上司の腕の見せ所と心得ましょう。

例えば、本人に能力に見合った強い異動希望があれば止められません。会社都合で止めてしまったら、”希望”を失い転職してしまうでしょう。ならば、上司としては異動実現に向けて奔走しながら、同時にその後の自部署の体制作りに取り掛かるべきでしょう。

社内のさまざまなキャリアプランの実績や可能性、教育制度、資格取得支援制度などを熟知しておくことは、未来のイメージが具体的になっていないメンバーにとっても有効です。

最初の1on1の場で、各メンバーからどんな “希望”=”未来(将来)への期待”が出てくるか分かりません。もちろんその場で答えられなければ、宿題としてもう一度1on1を持って本人に何ができそうか、上司として何ができそうかを伝えてもいいですが、あらゆる可能性に対して話せる準備はしておくべきです。

中には本人がイメージしていても、未だ実績がない、実現できそうな制度が現時点ではないというケースもあるでしょう。でもその人材を万が一失うくらいなら、新たな実績を作るなり、新たな制度を人事や経営に働きかけて新設することも考えられます。

いくら過去の常識を見直してみても、現状ではメンバーの全ての希望を実現できないこともあるでしょう。大切なのは、会社や上司がその人材を失いたくない、この会社で成長してほしいと本気で願うのであれば、できる限り寄り添い、尽力する姿を見せることです。

今の職場で、未来に向けた個々の”希望”が実現できるイメージがあれば、人は辞めない。従業員一人ひとりが、「自分は将来、こんな感じやこんな感じになれるかもしれない。それは自分にとってきっと幸せなことに違いない」と思えているでしょうか。

あなたの職場にはどんな”希望”がありますか?

第11回を最後までお読みいただきありがとうございました。

今シリーズでは『人が辞めない会社、10のヒント』をご紹介してきました。10のヒントの中に、みなさんの会社や職場にとっての『人が辞めない会社』に変わるための課題、その原因と解決策は見つかったでしょうか。

次回の最終回は、10のヒントを振り返り整理しながら、改めて皆さんのお悩みである「社員を採ってもすぐに辞めてしまう上に、そもそも採れない」という課題の解決について考えてみたいと思います。

<ご質問を承ります>

ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mailto:brightinfo@brightside.co.jp
https://www.brightside.co.jp/

※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。

『新スペシャリストになろう!』
https://amzn.asia/d/e8GZwTB
『なぜ社長の話はわかりにくいのか』
https://amzn.asia/d/8YUKdlx

以上(2026年5月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)

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画像:VectorMine-Adobe Stock

【事業承継】「事業承継計画書」を作成して計画的に進める

1 「事業承継計画書」とは?

事業承継計画書とは、

文字通り、事業承継をどのように進めていくのかをまとめた計画

です。事業承継は中長期の取り組みで、今の経営者が事業承継を意識してから後継者の承諾を得るまで3年以上、そこから事業承継完了までに3年以上の時間を費やす会社が多いようです。

事業承継を意識してから後継者の承諾を得るまでの時間

後継者の承諾を得てから事業承継完了までに必要な時間

事業承継を円滑に進めるためには、関係者の共通認識となる計画書があったほうがよいわけで、実際に後継者や従業員、銀行に事業承継計画を共有することが珍しくありません。また、「事業承継税制」や「事業承継特別保証」を利用する際も事業承継計画書が必要です。

この記事では、中小機構(中小企業基盤整備機構)のウェブサイトで紹介されているものを基本に、事業承継計画書に記載するとよい内容をまとめます。

2 ガイドラインにある「事業承継計画書」の様式

記入例付きで、「事業承継計画書」の様式を紹介します。空欄の様式は、中小機構のウェブサイトからエクセル形式のファイルをダウンロードすることができます。

■中小機構「中小企業経営者のための事業承継対策」■
https://www.smrj.go.jp/tool/supporter/succession1/

事業承継計画書の例

これを基本として、不足している情報は各社の実情に応じて追加していきます。追加したほうがよい情報の例を次章で紹介します。

3 「事業承継計画書」に追加したほうがよい情報

1)経営ストーリー

経営者がどのような思いで、何を最も大事にして会社を経営してきたのかを言語化し、テキストにまとめたり、動画を撮ったりします。事業内容は事業承継を機に変わるかもしれませんが、経営に対する思いの根本は受け継がれなければならないからです。

事業承継に当たり、現経営者と後継者はこうした話を何度もすることになりますが、後に後継者が振り返れるようにしておきます。

2)社内の関係者

事業承継に関わる関係者をまとめます。例えば、2人兄弟で長男を後継者とする場合、次男をどのようなポジションにする予定なのかについても明記します。平等にしようと兄弟の持株比率を同じにするのは好ましくなく、長男を後継者にするのであれば、長男に集中させます。

また、古参社員についてもリスト化します。事業承継に賛成の者も反対の者もいるはずであり、事業承継後の体制を安定させる上で重要な情報となります。

3)社外の関係者

社内の関係者と同様に、社外の関係者もまとめます。取引先、顧客、顧問契約をしている士業(税理士など)、銀行の担当者などとなります。また、現経営者が参加している交流会などに後継者も参加させるつもりなら、その主要メンバーもリスト化しましょう。

4)自社の経営環境

現経営者が分析する経営環境をまとめます。具体的には、自社が成長する機会や強み、逆に成長を阻む脅威や弱み、業界自体のライフサイクルなどとなります。事業承継後は後継者の見立てでビジネスを進めることになりますが、後継者としても現経営者がどのように考えていたのかは知りたいはずです。

5)社内の有資格者、許認可

会社経営に必要な社内の有資格者や許認可の状況も整理しておきましょう。後継者が自社の強みを把握するきっかけになりますし、資格更新などの抜け漏れを防ぐためでもあります。

4 中期経営計画との整合性

事業承継計画書は作ったら終わりというわけではありません。事業承継計画書は中期経営計画の一部として遂行されるものなので、収益計画などと整合性が取れていなければなりません。そうでなければ、事業承継計画書の関係者も納得できないでしょう。

また、中期経営計画は実績に応じて見直すこともあります。そうした際は事業承継計画書も確認し、必要に応じてこちらも見直さなければなりません。仮に自社株の評価が変わるような大きな業績の変化があったとすれば、それによって「資産の承継」の方針が変わってくることもあるからです。

以上(2026年7月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

事業承継で見落とされる“人”の問題~人と制度の引き継ぎ実務~

日本企業の 99%は中小企業といわれていますが、経営者の高齢化と後継者不足が課題となっており、円滑な事業承継が求められます。企業を支えるのは「人」であり、「人」の承継は極めて重要となります。いったん問題が生じると、労働者の退職、コンプライアンス問題の顕在化によるレピュテーションリスクが生じるなど、事業価値を毀損し、回復が困難なケースもあります。

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熱中症による労働災害と企業の法的責任~改正労働安全衛生規則を踏まえた実務対応~

年々、平均気温が上昇し、夏の猛暑が常態化して、誰もが熱中症になるリスクを抱えるようになっています。企業にとって、死傷者をださずに良好な就労環境を確保することは責務であり、死傷者の発生はリスクになります。現在の気候状況等を踏まえると、今後、ますます職場における熱中症対策は重要になることでしょう。

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離職のピークは 8 月! なぜ優秀な社員が突然辞めるのか? 離職のサインとは

「令和5年雇用動向調査結果の概況」で、転職入職者が前職を辞めた具体的な理由をみると、自身の頑張りや熱意が会社に正しく伝わっていないことが退職者を生む要因と考えられます。人間関係や労働条件など、職場の現状を振り返って、従業員が定着する組織について考えてみましょう。

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中東情勢・原油高の影響に対応 特別相談窓口・融資・価格転嫁支援等の紹介

昨今の中東情勢の不安定化や原油価格の高騰などにより、多くの中小企業や小規模事業者等に影響が広がっています。こうした状況を受け、政府は、経営や資金繰りに不安を抱える事業者に向けて支援措置を実施しています。

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優秀な人材が集まる企業になるための 「選択制DC」活用術【いよぎんジャーナルオリジナルコラム】

1 毎月の給料と退職金、どちらを充実させるべきか?

古くから多くの日本企業が導入してきた退職金制度が変化してきています。若年層に限らず「転職」前提の働き方が広まる中で、定年まで勤めなければ満額がもらえない従来からの退職金の魅力が薄れてきたからです。

とはいえ、退職金制度を廃止すればいいという単純な問題でもありません。それは、定年退職を控えているベテランの従業員の反発を招く恐れがあるからです。公的年金の支給額が減少し続けている中、ベテランの従業員は、老後の生活資金として少なからず退職金を当てにしています。

退職金の原資を毎月の給料に回して賃上げすれば、もしかしたら採用応募も増えるかもしれない。でも、退職金を当てにしている人たちを無下にはできない。そのような悩みを抱えている企業の方に紹介したいのが、

「選択制DC」という、今の給料を増やすか、将来の退職金を多くもらうかを従業員が選択できる制度です。

この記事では、選択制DCのイメージを分かりやすくお伝えするため、制度の概要と、伊予銀行のサポートにより、実際に選択制DCを導入した事例を紹介します。

2 給料と退職金の配分を従業員が決められる「選択制DC」

選択制DCは、企業型DC(企業型確定拠出年金)の一形態です。企業型DCでは、企業が毎月決まった掛金を拠出し、従業員自身が運用しますが、

選択制DCの場合、給料の一部について、引き続き給料(手当など)として受け取るか、企業型DCの掛金にするかを従業員が選択することが可能です。

選択制DCのイメージ

給料(手当など)として受け取れば手取りは増え、今の消費や貯蓄に回すことができます。一方、掛金として拠出する場合、運用方法によっては元本割れのリスクはあるものの、掛金の拠出時・運用時・受取時に税制優遇を受けながら、将来の退職金を増やせる可能性があります。給与か掛金か、従業員に選択肢を与える自由度の高い制度設計にすることで、

求職者へのアピールと、既存の従業員への福利厚生を同時に実現する

というのが、選択制DCの狙いです。

とはいえ、皆さまの中には

  • 若い人とベテラン、どちらにも納得感のある退職金制度なんて本当に実現できるのか?
  • ずっとシンプルな退職一時金でやってきたし、今さら複雑な制度にしても、従業員が理解できないかもしれない……

といった具合に、自社で選択制DCを導入するイメージを持てずにいる人も少なくないかもしれません。

そこで、以降では少しでもイメージをつかんでいただけるよう、伊予銀行のサポートにより選択制DCを導入した事例を紹介します。

3 伊予銀行によるサポート事例の紹介

1)相談内容と伊予銀行のご提案

愛媛県では、他県の例に漏れず就労人口が減少していて、思うように採用できない企業があります。そうした悩みを抱えているA社から、こんな相談が寄せられました。

  • 当社(A社)では、人材採用がうまくいかない。その原因は、退職金が手厚い一方で、給与水準が同業他社と比較して低いからだと考えている。
  • 「給与」と「退職金」のバランスを見直したい(退職金を減らした分、給与を増やしたい)が、具体的な事務手続きや社員への説明に不安を感じるためサポートしてほしい。

伊予銀行では、A社の状況をヒアリングし、内部で議論した結果、

退職金の一部を給料に回したいというA社のニーズを満たしつつ、福利厚生の一環として従業員や求職者へのアピールが可能になる

という理由から、選択制DCを提案することになりました。

2)提案過程で生じた課題

とはいえ、選択制DCを形にする上では、次のような課題も生じました。

1.給料や退職金の受け取り方に対するニーズの違い

給料や退職金の受け取り方については、「給料で欲しい派」「退職金で欲しい派」がそれぞれいて、多くの従業員に納得感のある制度にするのが大変でした。また、給料で欲しい派に寄り添いすぎると、企業の法定福利費が上がってしまう(社会保険料は労使折半なので)ため、その点も考慮する必要がありました。

給料や退職金の受け取り方に対するニーズの違い

2.法令上の制約(DC加入期間と支給開始年齢の関係)

企業型DCの場合、原則60歳から退職金を受け取ることができますが、

加入期間が10年に満たない場合、支給開始年齢が60歳よりも先延ばしになってしまう

というルールがあります。

DC加入期間と支給開始年齢の関係

そのため、新たに企業型DCを始めるとなると、

従業員の年齢によっては、加入期間が足りず、定年を過ぎても退職金を受け取れない

という問題が発生してしまいます。この点をどのようにクリアするかも大きな課題でした。

3)課題への対応

課題を考慮した結果、A社のご提案では、選択制DCを

従業員の年齢に応じて、退職金の支給パターンを分ける制度設計

にしました。「50歳」という年齢を区切りにして

  • (50歳以上)選択制DCには移行せず、従来の退職一時金で支給する
  • (50歳未満)選択制DCに移行し、「給料として受け取る金額」「退職金の掛金として積み立てる金額」の設定を従業員本人に委ねる

という運用です。

なお、50歳未満の従業員については、制度移行日までに積み立てた退職金については「過去分」として退職一時金で支給し、選択制DCの対象とするのは制度移行日より後の「将来分」のみとしました。

過去分と将来分の考え方

4)制度に対する理解を得るために

企業型DCや選択制DCは、退職一時金などに比べると馴染みが薄く、制度のイメージがつかめない従業員も少なくありません。そのため、従業員の制度に対する理解を得るための説明会も、伊予銀行が複数回行いました。

自分のライフプランに照らした場合、給料や掛金をいくらに設定すればいいか分からない

という疑問についても、説明会で補完していきました。また、すでに個人でiDeCo(イデコ)を実施していて、選択制DCが始まったら、iDeCoで積み立てた資産を選択制DCに移したいという方もいましたので、その点についても説明をしました。

5)最後に

今回のA社の事例は、伊予銀行の他、給料体系など人事制度の設計のコンサルティングを行う「いよぎん地域経済研究センター(IRC)」、実際に企業型DCを提供している「東京海上日動」がチームとなって、選択制DCをご提案したものです。

退職金制度の形は企業ごとに異なりますが、どのようなケースでも、関係機関と連携して、制度の設計から従業員への説明まで、運用を隅々までサポートしますので、退職金制度の設計・変更をお考えの方は、お気軽に伊予銀行までご相談ください。

以上(2026年4月作成)

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【書籍ダイジェスト】『共感の論理』

本書は、近代化の矛盾や問題を指摘するとともに、それらを解決する「ポスト近代」の価値観を示す。
ポスト近代には、経済、政治、法技術、社会の四つの領域のうち、近代に主だった経済領域ではなく、社会領域の原理が主になる必要があるという。そして、ポスト近代に求められる価値観は、日本の学校で教えられてきた「共感」の論理によって育てることができるとする。さらに、社会原理に基づく「共感的利他主義」が、脱近代化の鍵になると説く。

書籍ダイジェストは、こちらからお読みいただけます。pdf

【中堅社員のスピーチ例】心の余裕は「15分の空白」から生まれる

【ポイント】

  • 意図的に空白を作ることで、判断の精度を保ったり、周囲の変化に気づいたりできる
  • 空白を作ることは、単なる怠慢や無責任な引き伸ばしではない
  • カレンダーツールなどを活用し、物理的に空白を作る工夫も大切

皆さん、おはようございます。6月に入り、1年の折り返しに差し掛かりました。本日は、私たちが日々の業務の中でつい疎かにしてしまいがちな「心の余裕」について、具体的な提案を交えてお話ししたいと思います。

私たちは今、非常に多忙な時期にいます。気がつくと、1日のスケジュールが会議や作業の予定で隙間なく埋まり、息をつく暇もないと感じる日も少なくありません。しかし、こうした余白のない状態は、実は自分自身だけでなく、チーム全体にとっても好ましくありません。そこで提案したいのが、1日のスケジュールの中に、意図的に「15分の空白」を作るという習慣です。なぜ、あえて「空白」が必要なのでしょうか。理由は2つあります。

1つは、判断の精度を保つためです。スケジュールに追われ、次から次へとタスクをこなしている状態では、脳は常にフル回転で疲弊していきます。余裕がない状態での判断は、どうしても短絡的になったり、重要な見落としをしてしまったりしがちです。たった15分でも、PCから目を離し、脳を休めることで、その後の作業効率を高め、ミスを防ぐ防波堤になります。

もう1つは、後輩や周囲の変化に気づくためです。私たちが眉間にシワを寄せて忙しそうにしていると、後輩たちは「今、相談しても大丈夫かな」「忙しそうだから後にしよう」と遠慮してしまいます。そうして情報が入ってこなくなると、報告の遅れやトラブルの火種を見逃してしまいます。

いかがでしょうか。余白を作ることは、単なる怠慢や無責任な引き伸ばしではありません。手が空いたら休もうでは、一生空白は生まれません。物理的に空白を確保する心がけも必要です。例えば、カレンダーツールに「午後の会議の前に15分、あえて予定を入れない時間を予約しておく」。そんな小さな工夫から始めてみませんか。

「忙しい」という漢字は「心を亡くす」と書きます。常に質の高いパフォーマンスを出し続けるために。そして、後輩や周囲から頼られる人となるために。あえて「何もしない15分」を確保する勇気を持って、今日も一日、元気に業務に取り組んでいきましょう。

以上(2026年6月作成)

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画像:Mariko Mitsuda