賃金の悪平等をなくす「調整給」はどこまで自由に支給できるか?

1 調整給(調整手当)とは?

一般的に、調整給(調整手当)とは、

賃金規程の通りに賃金を支払うことが妥当でない場合に支給する手当

です。例えば、

  • 社員の能力が想定より高く(低く)、ルール通りの賃金だと世間相場とかけ離れる
  • 前職や定年前などに比べて賃金が下がり過ぎてしまう

などのケースです。図で表すと次のようなイメージになります。

「経営者から見て妥当な賃金額」と「ルール通りの賃金額」のズレ

調整給を支給すれば、このズレを解消できるので、経営者にとってはまさに「魔法の杖」のような賃金です。一方、調整給はルールが曖昧になりがちで、悪平等を解消するつもりが、かえって不平等になってしまうことがあります。

そこで、この記事ではトラブルにならない調整給の運用ポイントを紹介します。

2 調整給を支給するケースを想定しておく

調整給も賃金なので、支給に関するルールを就業規則等に定める必要があります。あまり詳細に定めると運用しにくくなるため、

「調整給は、会社が必要と判断した社員に対し、一定期間支給する」

など、シンプルな記載にとどめるのが一般的です。

とはいえ、「困ったら何でも調整給で対応すればいい」と安直に考えてはいけません。就業規則等で詳細を定めないということは、

調整給の金額や決定方法を個別に社員に説明し、同意を得て支給しなければならない

ということです。場当たり的な運用では、社員に納得のいく説明ができないでしょうから、

  • 社員の能力が想定より高い(低い)場合
  • 前職や定年前などに比べて賃金額が下がる場合
  • 賃金体系の変更で賃金額が下がる場合

など、経営者の中で「どのようなケースに調整給を支給するのか」をあらかじめ想定し、ケースごとの支給ルールを決めておく必要があります。

3 いつまで調整給を支給するのかも重要

調整給には、

支給事由が消滅したら、支給を停止したほうがよいケース

があります。具体的には、次のような場合です。

  • 社員の能力が想定より高いため、調整給を支給していたが、定期昇給によって本来の賃金額(調整給を除く金額)が上がった場合
  • 定年再雇用で賃金が下がったため、調整給を支給していたが、老齢年金をもらえる年齢になって生活が安定してきた場合

こうしたケースで調整給を支給し続けると、対象の社員は「賃金をもらいすぎている」状態、つまり他の社員にとって不公平な状態になります。ですから、調整給を支給する場合、

いつまで調整給を支給するのかとその理由を、個別に社員に説明し、同意を得る

ようにしましょう。また、いきなり調整給の支給を停止すると、支給額によっては社員の生活などに影響することもあるので、その場合、

昇給額などに応じて段階的に調整給を引き下げていく

といった対応も検討しましょう。

4 調整給を支給する代表的な3つのケース

1)社員の能力が想定より高い(低い)場合

基本給には「下方硬直性」といって、一度高い金額を設定すると減額がしにくい性質があります。この点を考慮して、社員を採用する際の賃金は、

実際に仕事をしてもらわないと能力が分からないので、基本給を高く設定しにくい

というケースがほとんどです。そこで登場するのが調整給です。具体的には、

  • 基本給を低めに設定し、調整しやすい調整給で上乗せする

という方法がとられます。例えば、入社時は「低めの基本給+調整給」を支給しておき、試用期間の終了とともに調整給を打ち切って社員の能力に応じた金額を基本給に振り替えるといった運用が考えられます。

入社後の能力に応じて調整給を基本給に振り替える

同様に、既存社員についても能力を賃金に反映しきれない場合などに、調整給を用いることがあります。例えば、賃金額全体に占める勤続給の割合が高い会社では、若手社員は能力が高くても賃金額が低くなってしまうため、調整をかける必要があります。この場合、

調整給は人事考課のタイミングで都度、支給額を見直し、継続的に支給する

といった運用が考えられます。

2)前職や定年前などに比べて賃金額が下がる場合

中途採用者の賃金額が前職よりも下がってしまう場合、調整給をプラスして低下分を補填します。社員の生活水準を維持することが目的なので、他の社員との公平性を考慮して、

調整給は社員の定期昇給時に徐々に減額していき、調整給を除く賃金額が前職の賃金額に追い付いたら支給を停止する

といった運用も可能です。ただし、その場合、実質的な賃金額が入社時から変化しないことになるので、入社時に社員に説明して同意を得ておく必要があります。

社員が定年後に嘱託などとして再雇用され賃金額が下がる場合、社員の生活を考慮して調整給を支給するケースもあります。この場合、原則65歳になると、老齢年金が支給されるので、そうなったら調整給の支給を停止することなどを検討します。

3)賃金体系の変更で賃金額が下がる場合

「年功給重視から職務給重視の制度に変わった」「等級制度を見直した」などのように、賃金体系に変更があった場合、それによって社員の賃金額も変動します。ただ、会社側のルール変更を理由に、いきなり社員の賃金額を変動させると生活などに影響します。この場合、

一定期間、賃金額が下がる社員については調整給をプラスする

といった運用が考えられます。

注意すべきは、調整給の支給期間です。影響範囲が全社員なので、いつまで調整給を支給するのか、慎重に考える必要があります。もともと実力重視の会社で成績などの評価がシビアなら、調整給の支給期間は1年など短くてよいかもしれませんが、そうでない場合は数年など長めの支給期間を設けます。自社の風土や社員の声などを検討して決めましょう。

もう1つ重要なのが、経営者のメッセージです。調整給に支給期間を設けるのは、

  • 一定期間賃金を保証する代わりに、新しい賃金体系に対応した社員になってもらうため

です。社員が制度の上にあぐらをかかないよう、支給期間を設ける意味と、どんな社員に成長してほしいかを、経営者が積極的に発信するようにしましょう。

以上(2026年10月更新)

pj00620
画像:ChatGPT

労務の都市伝説「課長には残業代を払わなくてよい」は是か非か?

1 残業代が不要なのは「管理監督者」だけ

「管理職には残業代を支払う必要がない」。これは半分正解で、半分不正解です。労働基準法(以下「労基法」)上、残業代が不要な管理職と、そうでない管理職がいるからです。

1.残業代が不要:監督もしくは管理の地位にある「管理監督者」

  • 2.残業代が必要:課長などの役付きだが、管理監督者には当たらない「名ばかり管理職」

労基法上、管理監督者には労働時間・休憩・休日の規定が適用されないので、そもそも残業という考え方がなく、残業代を支払わなくてもよいとされています(深夜労働の残業代を除く)。

「それなら、うちの管理職に残業代を支払う必要はない」と考える経営者の方もいそうですが、そう簡単ではありません。なぜなら、管理監督者と認められる要件が非常に厳しいからです。まずは図表1を見て、具体的な社員をイメージしながら◯×を付けてみてください。

あなたの会社の管理職は管理監督者ですか?

いかがでしょうか。1つでも「×」が付く項目がある場合、管理監督者と認められなくなるリスクがあります(総合的に判断して経営者と一体的な立場にあると言えるかが厳しく問われます)。そして、管理監督者でないと判断された場合、その社員には残業代を支払わなければなりません。

働き方改革などで、社員の労働に対する権利意識は高まってきています。不要な労務トラブルを避けるためにも、改めて管理監督者の要件を確認してみましょう。

2 管理監督者と名ばかり管理職の違い

管理監督者には、労基法の次の規定が適用されません。

  • (労働時間)原則として、休憩時間を除いて1日8時間、1週40時間
  • (休憩)労働時間が6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は1時間
  • (休日)1週間につき1日あるいは4週間当たり4日

つまり、管理監督者は

就業時間(始業から終業まで)と休憩時間、労働日と休日などの区別がない状態で働き、時間外・休日労働といった考え方がない

ということです。

ただし、深夜労働の規定は適用されるので、22時から翌日5時までの間に残業した場合は深夜労働部分(25%以上)の残業代を支払う必要があります。勤続年数に応じた年次有給休暇の付与については、管理監督者も対象となります。

また、労働安全衛生法の「労働時間の把握義務」は管理監督者にも適用されるので、

あくまで時間外・休日労働などの規制から外れるだけで、労働時間管理自体は必須

である点に注意が必要です。

一方、肩書きはあるが管理職の権限や実態がなく、残業代が支払われないなど待遇が不十分という社員は、名ばかり管理職です。このような社員は、管理監督者とは認められないので、時間外・休日労働、深夜労働全ての残業代を支払わないといけません。また、いわゆる「時間外労働の上限規制」(原則として月45時間、年360時間など)も適用されます。

3 管理監督者に該当するか否かが決まる3つの要素

法令上、管理監督者とは、

労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にある人

のことです。具体的には次の3つの要素を基に、管理職が経営者と一体的な立場にあるか(管理監督者性)を判断します。実態で判断するので、課長などの役付者であるかは関係ありません。

管理監督者性を判断する3つの要素

それぞれの要素について、重要なポイントを見ていきましょう。

1)職務内容と責任・権限

管理職が、経営者が主催する幹部会などへの参加、社員の採用、労働時間管理、人事考課など、経営上重要な職務に携わっている必要があります。ただし、経営者から指示を受けて職務を遂行するだけでは不十分で、次のように一定の責任・権限を与えなければなりません。

  • (経営者が主催する幹部会などへの参加)重要事項の決定に携わっている
  • (社員の採用)採用面接に参加後、採用の決定にも携わっている
  • (労働時間管理)部下の労働時間管理などについて、一定の権限を持っている
  • (人事考課)考課後の処遇の決定について、一定の権限を持っている

中小企業の場合、管理職の多くは現場の職務とマネジメントを兼務する「プレイングマネジャー」です。マネジメントの比重が小さいと、管理監督者として認められにくくなるので、その場合はマネジメントの比重を上げる必要があります。

2)勤務態様

時間帯や休日に関係なく経営上の判断や対応を求められるなど、イレギュラーな働き方をしている必要があります。ただし、イレギュラーな働き方をさせる以上、労働時間については管理職が自由に決められるようにしなければなりません。

具体的には、出退勤はもちろん、中抜けの自由も認め、遅刻、早退、中抜けなどによる減給がないようにします。ただし、管理監督者だからといって過重労働は認められません。健康管理や深夜労働の管理のためにも、出退勤時刻の把握は必須です。

3)待遇

賃金について、管理職と一般社員との間に相応の待遇格差を付ける必要があります。管理職の場合、基本給が高く、役職手当なども支払われるので、通常の賃金は、

管理職の基本給や手当>一般社員の基本給や手当

となります。しかし、一般社員に残業代などが支払われると、

  • 管理職の基本給や手当<一般社員の基本給や手当+残業代など

といった逆転現象が起きることがあります。

そのため、管理職の賃金については、各社員の労働時間や残業代などを考慮した上で、一般社員と比較して高い水準を確保できるよう配慮しなければなりません。

4 小売業や飲食業などはより厳しくチェックされる

ここまでが、管理監督者の要件に関する基本的な考え方です。

多店舗展開する小売業や飲食業の店長などの場合、特に注意が必要です。名ばかり管理職の問題が起きやすいため、管理監督者の要件を本当に満たしているか、より厳しくチェックされる傾向があります。

厚生労働省からも、これらの業種について、前述した3つの要素「1.職務内容と責任・権限」「2.勤務態様」「3.待遇」それぞれについて、「管理監督者性を否定する要素」を示す通達が出されています(平成20年9月9日基発第0909001号)。簡単に言うと、管理職として取り扱っていたとしても、これらの要素に該当する場合、管理監督者ではないと判断されてしまう恐れがあるということです。第3章で紹介した内容と一部重なる部分もありますが、確認していきましょう。

管理監督者性を否定する要素(多店舗展開する小売業、飲食業等)

以上(2026年10月更新)

pj00217
画像:ChatGPT

【2026年版】年末調整の改正点と書き方の解説

1 2026年末の年末調整の作業に係る改正は4点

年末調整は、役員、従業員・パート社員(以下「従業員」)の源泉所得税の最終調整を行うものです。年に1度の作業である上、改正も頻繁に行われるため、毎年よく分からず、前年と同じような作業を繰り返すだけという方も多いのではないでしょうか。

しかし、確定申告を自分でしない場合、自身が源泉所得税の還付を受けられる唯一の作業になるため、改正点を踏まえた上で、正確な書類を作成するようにしましょう。

今回(2026年末)の年末調整の作業に係る改正は、次の4点です。

1.基礎控除の再引き上げ(2026・2027年分の特例)

合計所得金額に応じた基礎控除額が、昨年からさらに引き上げられ、2026・2027年分については16万~104万円(改正前は16万~95万円)となります。

2.給与所得控除の引き上げ

給与所得控除の最低保障額が74万円(改正前は65万円)に引き上げられます。あわせて、給与等の収入金額が69万1000円以上220万円未満の場合の給与所得の金額が、次の通り定められました。

【給与等の収入金額が220万円未満の場合(2026年分)】

給与等の収入金額 69万1000円以上
74万1000円未満
74万1000円以上
219万1000円未満
219万1000円以上
219万3000円未満
219万3000円以上
219万6000円未満
219万6000円以上
220万円未満
その給与等に係る
給与所得の金額
なし その収入金額
-74万円
145万1000円 145万3000円 145万6000円

(出所:国税庁「年末調整のしおり」)

3.扶養親族控除・配偶者控除・勤労学生控除等の所得要件のさらなる緩和

基礎控除額の引き上げに伴い、扶養親族等の所得要件がさらに緩和されます。それぞれ所得要件が、

  • 扶養親族控除(同一生計配偶者を含む)は62万円以下(改正前は58万円以下)
  • 配偶者特別控除の対象となる配偶者は62万円超133万円以下(改正前は58万円超133万円以下)
  • 特定親族特別控除の対象となる特定親族は62万円超123万円以下(改正前は58万円超123万円以下)
  • 勤労学生控除は89万円以下(改正前は85万円以下)

にそれぞれ緩和されます。

4.年齢23歳未満の扶養親族を有する場合の生命保険料控除の特例の新設

令和8年分・9年分について、新生命保険料(2012年1月1日以後に契約した一般の生命保険料)に係る一般の生命保険料控除の計算方法が新設され、年齢23歳未満の扶養親族がいる場合には、控除限度額が6万円(通常は4万円)に引き上げられます。子育て世帯の教育費・保険料負担の増加に配慮した措置です。

これらの改正は、原則として2026年12月1日に施行され、2026年分以後の所得税について適用されます。このため今年(2026年)12月に行う年末調整などの源泉徴収事務に変更が生じます。

以降では、2026年の年末調整でほとんどの従業員が記入しなければならない主な申告書である、

  • 令和8年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 給与所得者の特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書 
  • 令和8年分 給与所得者の保険料控除申告書
  • 令和9年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(扶養控除等申告書)

の書き方について、項目ごとに詳しく解説していきます。

また、各章では次のような形で、経理担当者向けに「年末調整について、従業員から聞かれる可能性のある質問とそれに対する答え方」を紹介しているので、併せてご確認ください。

【従業員からこんなことを聞かれたら?】
Q.今年の改正で従業員への影響が一番大きいのはどれですか?
A.「3.扶養親族等の所得要件の緩和」と「4.生命保険料控除の特例」です。特にパート・アルバイトで働く配偶者や学生の子どもがいる従業員は、いわゆる「年収の壁」の金額が変わるため、扶養控除等申告書や特定親族特別控除申告書の記載内容を見直す必要があるケースが多くなります。

2 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 給与所得者の特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書

給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 給与所得者の特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書

1)給与所得者の基礎控除申告書【対象:従業員全員】

「あなたの本年中の合計所得金額の見積額の計算」の欄には、給与明細書などを参考に、2026年中の給与所得の「収入金額」を記載します。所得金額については、申告書の裏面に掲載されている「各申告書の合計所得金額について」で紹介されている国税庁のウェブサイトを参考に計算します。また、給与所得以外に所得がある場合は、2026年中の合計所得金額の見積額を記載します。

次に、控除額の計算の判定欄のA~Cのいずれかを「区分Ⅰ」に転記し(合計所得金額の見積額が1000万円超の人は空欄)、かつ合計所得金額の見積額を、左の「控除額の計算」の表に当てはめ、該当する控除額を「基礎控除の額」に転記します。

昨年から変更された主な箇所は、下記の点です。

  • 基礎控除額が、合計所得金額に応じて16万~104万円(昨年は16万~95万円)に引き上げられている(2026・2027年分限定の時限措置)
【従業員からこんなことを聞かれたら?】
Q.基礎控除の金額はどうやって確認すればいいですか?
A.申告書の「控除額の計算」の表に、本人の合計所得金額の見積額を当てはめれば分かります。給与収入のみの方であれば、給与収入の金額から目安の合計所得金額を確認し、表と照らし合わせるとスムーズです。正確な金額の計算方法は、国税庁ホームページの「合計所得金額の計算について」を確認してください。

Q.副業をしている場合、基礎控除額の計算に副業収入は関係しますか?
A.関係します。「あなたの本年中の合計所得金額の見積額」には、給与所得だけでなく、副業(雑所得・事業所得など)を含めた本年中のすべての所得の合計見積額を記載する必要があります。副業収入を含めずに記載すると、年末調整のやり直しや確定申告が必要になる場合があるため、必ず含めるようにしてください。

2)給与所得者の配偶者控除等申告書【対象:年間合計所得が133万円以下の配偶者がいる人】

配偶者に関する事項を記載し、「配偶者の本年中の合計所得金額の見積額の計算」の欄には、上記1)と同様に配偶者の給与明細書などを参考に、2026年中の給与所得の「収入金額」を記載します。所得金額については、申告書の裏面に掲載されている「各申告書の合計所得金額について」で紹介されている国税庁のウェブサイトを参考に計算します。また、給与所得以外に所得がある場合は、2026年中の合計所得金額の見積額を記載します。

次に、「配偶者の本年中の合計所得金額の見積額の計算」の判定欄の①~④のいずれかを区分Ⅱに転記します。区分Ⅰ・Ⅱに記載したアルファベットと数字を下の「控除額の計算」の表に当てはめ、該当する控除額を配偶者控除の額または配偶者特別控除の額の欄にそれぞれ転記します。

なお、区分Ⅱの欄が①または②の場合は配偶者控除の額の欄に、③または④の場合は配偶者特別控除の額の欄に金額を転記します。

昨年から変更された主な箇所は、下記の点です。

  • 区分Ⅱの判定欄における所得要件の下限金額が、58万円超から62万円超に変更されている
【従業員からこんなことを聞かれたら?】
Q.いわゆる「年収の壁」が変わったと聞きました。今年はいくらまで働けますか?
A.配偶者控除・配偶者特別控除に関しては、合計所得133万円(給与収入のみの場合207万円)が上限である点は変わっていません。ただし、控除額の判定に使う所得要件の下限が62万円(給与収入136万円)に引き上げられたため、判定区分の境目が例年より上がっています。個別の金額判断は本人の状況によるため、正確な見積額は配偶者の給与明細等で確認しましょう。

Q.配偶者控除等申告書は配偶者の所得が増えたら都度出し直す必要がありますか?
A.年の途中で配偶者の所得の見積りが大きく変わった場合は、扶養控除等(異動)申告書と同様に、異動申告(訂正)をしてもらう必要があります。訂正する部分を二重線で消し、余白に正しい内容を記載して下さい。

3)給与所得者の特定親族特別控除申告書【対象:合計所得が62万円超123万円以下の19歳以上23歳未満の子供がいる人】

特定親族に関する事項を記載し、「特定親族の本年中の合計所得金額の見積額」の欄には、特定親族の給与所得のみだけでなく、全ての所得の合計金額を記載します。それぞれの所得金額については、申告書の裏面に掲載されている「各申告書の合計所得金額について」で紹介されている国税庁のウェブサイトを参考に計算します。

次に、合計所得金額の見積額を下の「控除額の計算」の表に当てはめ、該当する控除額を「特定親族特別控除の額」に転記します。

この項目は2025年分から新設された項目で、2026年分についても引き続き適用されます。

昨年から変更された主な箇所は、下記の点です。

  • 特定親族の所得要件の下限金額が、58万円超から62万円超に変更されている
【従業員からこんなことを聞かれたら?】
Q.「特定親族」と「特定扶養親族」はどう違うのですか?
A.「特定扶養親族」は19歳以上23歳未満の子で合計所得62万円以下の人(扶養控除の対象)、「特定親族」は同じ年齢層で合計所得が62万円超123万円以下の人(特定親族特別控除の対象)です。子どものアルバイト収入の増減によって、年の途中でどちらに該当するかが変わることがあるため、扶養控除等申告書の「特定親族」チェック欄と、この特定親族特別控除申告書のどちらに記載すべきか、都度確認してください。

4)所得金額調整控除申告書【対象:給与等の収入金額が850万円を超える人】

給与等の収入金額が850万円を超え、かつ扶養親族が特別障害者であること、または23歳未満(2004年1月2日以後生まれ)などに該当する場合は、要件欄のいずれか該当する項目にチェックを付けます。要件欄の指示に沿って「☆扶養親族等」の欄に該当する扶養親族等に関する事項と、「★特別障害者」の欄に障害の状態や交付を受けている手帳の種類などを記載します。

3 給与所得者の保険料控除申告書

給与所得者の保険料控除申告書

1)生命保険料控除【対象:生命保険に加入している人】

生命保険料控除の欄には、2026年中に支払った一般の生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料に関する事項を記載します。

それぞれの区分ごとに、保険会社から郵送される「保険料控除証明書」の内容を転記します。なお、保険料控除証明書をインターネット上で電子発行できるサービスもあるため、各社のウェブサイトなどから電子発行を受けることもできます(ID取得のため、証券番号などの登録が必要)。

一般の生命保険料と個人年金保険料については、保険の契約時により、取り扱い(所得控除額)が異なります。2011年12月31日以前に契約したものは旧保険契約として、2012年1月1日以後に契約したものは新保険契約として取り扱われます。

それぞれ旧保険契約に係る所得控除額は最高5万円、新保険契約に係る所得控除額は最高4万円となります。ただし、2026・2027年分については、23歳未満の扶養親族がいる場合、新保険契約のうち一般の生命保険料に係る控除限度額が最高6万円に引き上げられる特例が新設されました。23歳未満の扶養親族のマイナンバーや生年月日などを記入する欄も追加されているので、適用を受ける場合には、記入忘れがないように注意しましょう。

実務上は、保険会社から郵送される「保険料控除証明書」に記載されている内容を、申告書に転記してもらうことになります。月払いにより保険料を払い込んでいる場合は、控除証明書の発行日までの保険料の他、年間(12月31日まで)の見積払込保険料が記載されていることが多くあります。12月31日まで保険を継続しているのであれば、年間払込保険料を申告書に転記すれば問題はありません(後述の地震保険・社会保険・小規模企業共済も同様)。

もし、発行日から12月31日までの間に解約し、実際の年間払込保険料と、保険料控除証明書に記載してある見積払込保険料に相違がある場合は、実際の年間払込保険料を申告するようにしましょう。

昨年から変更された主な箇所は、下記の点です。 

  • 年齢23歳未満の扶養親族がいる場合、新保険契約のうち一般の生命保険料に係る控除限度額が最高6万円に引き上げられる特例が新設されている
【従業員からこんなことを聞かれたら?】
Q.子どもが2026年中に23歳になったら、この特例は使えなくなりますか?
A.判定は年末調整を行う年の末日(12月31日)時点の年齢で行います。年の途中で23歳になった場合は、その時点で「23歳未満の扶養親族」に該当しなくなるため、原則として特例の対象外となります。

Q.契約者は自分(従業員)だが、保険の被保険者は子どもという保険がある場合、この特例の対象になりますか?
A.この特例は「支払った保険料の区分(新生命保険料かどうか)」と「23歳未満の扶養親族の有無」で判定するものであり、保険の被保険者が誰であるかは直接の要件ではありません。ただし、生命保険料控除の対象となるためには保険金等の受取人が本人・配偶者・親族である必要があるため、通常の生命保険料控除の要件と合わせて確認してください。

2)地震保険料控除【対象:地震保険に加入している人】

地震保険料控除の欄には、2026年中に支払った地震保険料に関する事項を記載します。地震保険料と一緒に支払いをしている火災保険料は対象になりません。ただし、2006年12月31日以前に契約した長期損害保険契約等については、一定の金額が控除の対象になります。

3)社会保険料控除【対象:国民健康保険など一定の保険に加入している人】

社会保険料控除の欄には、2026年中に支払った従業員本人または従業員本人と生計を一にしている親族分の、次の保険料に関する事項を記載します。

  • 国民健康保険の保険料や国民健康保険税
  • 健康保険、厚生年金保険や船員保険の保険料
  • 介護保険法の規定による介護保険の保険料
  • 国民年金の保険料や国民年金基金の加入員として負担する掛金
  • 農業年金の保険料や雇用保険の労働保険料など

4)小規模企業共済等掛金控除【対象:小規模企業共済やiDeCoに加入している人】

小規模企業共済等掛金控除の欄には、2026年中に支払った小規模企業共済と確定拠出年金の掛金の金額を記載します。なお、個人型確定拠出年金(iDeCo)の掛金は、この欄の「個人型」に記載することになります。

4 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(扶養控除等申告書)

給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(扶養控除等申告書)

1)氏名・個人番号(マイナンバー)・生年月日等【対象:従業員全員】

従業員の氏名、個人番号(マイナンバー)、住所又は居所、生年月日、世帯主の氏名と続柄、配偶者の有無を記載します。マイナンバーについては記述を省略する会社もあります。

2)源泉控除対象配偶者【対象:翌年の合計所得金額(見積額)が95万円以下の配偶者がいる人】

源泉控除対象配偶者の欄には、次の要件を満たした配偶者がいる場合に記載します。

  • 従業員(合計所得金額の見積額が900万円以下の人に限る)と生計を一にする配偶者
  • その配偶者が青色事業専従者として給与の支払いを受ける人及び白色事業専従者でないこと
  • その配偶者の2027年中の合計所得金額(見積額)が95万円以下であること

なお、非居住者である親族(国外に住んでいる親族)の項目については、該当する親族がいる場合に、該当チェック欄にチェックマークを記入し、チェック欄の区分に応じた添付書類(パスポートやビザなど)も併せて提出することになります(下記「3)源泉控除対象親族(16歳以上)」の欄についても同様)。

昨年から変更された主な箇所は、下記の1点です。

  • 給与所得のみの場合の収入換算額が160万円から169万円に変更されている(合計所得95万円という基準自体は変更なし)
【従業員からこんなことを聞かれたら?】
Q.「配偶者の年収の壁」が変わったと聞きましたが、扶養控除等申告書に書く配偶者の収入の目安はいくらですか?
A.扶養控除等申告書の「源泉控除対象配偶者」欄に記載できるのは、配偶者の合計所得95万円以下(給与収入のみの場合は169万円以下)の場合です。この基準は月々の源泉徴収税額の計算に使われるもので、年末調整で最終的に受けられる配偶者控除・配偶者特別控除の上限(合計所得133万円、給与収入207万円)とは別の基準である点に注意してください。

3)源泉控除対象親族(16歳以上)【対象:16歳以上の扶養親族がいる人】

源泉控除対象親族(16歳以上)の欄には、扶養控除の対象である次の親族がいる場合に記載します。

  • 16歳以上(2012年1月1日以前生まれ)の親族
  • 上記の親族が従業員と生計を一にしていること
  • 上記の親族の年間の合計所得金額が62万円以下であること

なお、19歳以上23歳未満(2005年1月2日~2009年1月1日生まれ)の親族を「特定扶養親族」といい、70歳以上(1958年1月1日以前生まれ)の親族を「老人扶養親族」といいます。これらに加えて、冒頭で解説した「特定親族」に該当する親族がいる場合は、チェックマークを付す箇所があるので忘れないようにしましょう。

また、非居住扶養親族がいる場合は、生計を一にする事実として、1年間に実際に送金した金額を記載する欄があります。この欄には、2026年末に見積額ではなく実際の送金額を追加で記載すると同時に、送金関係書類を提出しなければならない点に注意しましょう。

昨年から変更された主な箇所は、下記の1点です。

  • 所得要件が58万円以下(給与収入123万円以下)から62万円以下(給与収入136万円以下)に緩和されている
【従業員からこんなことを聞かれたら?】
Q.子ども(大学生)のアルバイト収入が増えて、扶養から外れそうです。何を確認すればいいですか?
A.まず、子どもの2026年中の合計所得金額の見積額を計算してもらいましょう。給与収入のみの場合、
・62万円以下(収入136万円以下):扶養親族(19歳以上23歳未満なら特定扶養親族)になる
・62万円超123万円以下(収入136万円超197万円以下):特定親族特別控除の対象となる「特定親族」に切り替わる
・123万円(収入197万円)超:いずれの控除も受けられなくなる
というルールになっています。年の途中で見積りが変わった場合は、扶養控除等(異動)申告書の異動申告(二重線での訂正)が必要になります。

4)障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生【対象:左のいずれかに該当する人】

障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生の欄には、従業員本人が障害者である場合(生計を一にする配偶者や扶養親族が障害者の場合を含む)や、寡婦、ひとり親である場合、学校に通いながら働いている場合に記載します。

障害者とは、身体障害者手帳に身体上の障害がある者として記載されている人など、一定の障害者をいいます。なお、特定親族は障害者控除の対象外となります。

寡婦とは、合計所得金額の見積額が500万円以下で、夫と死別または離婚した後に再婚をしていない人などをいいます。

ひとり親とは、合計所得金額の見積額が500万円以下で、現在婚姻しておらず(未婚や配偶者の生死が明らかでない場合で、かつ事実上婚姻関係にあるパートナーなどがいない状況)、生計を一にする子供がいる人をいいます。なお、2019年までの年末調整項目であった「寡夫」はひとり親に含まれます。

勤労学生とは、合計所得金額の見積額が89万円以下で、大学などの学生や一定の要件を備えた専修学校の生徒などをいいます。ただし、給与所得等以外の所得が10万円を超える人を除きます。

昨年から変更された箇所は、次の1点です。

  • 勤労学生の所得要件が85万円以下から89万円以下に緩和されている
【従業員からこんなことを聞かれたら?】
Q.「学生アルバイトの年収の壁」も変わったのですか?
A.勤労学生控除の所得要件が89万円以下(給与収入163万円以下)に緩和されました。ただし、これは勤労学生控除(本人の控除)の話であり、学生本人が「扶養親族」として親の扶養控除等の対象になるかどうかの基準(合計所得62万円以下、給与収入136万円以下)とは別の基準です。両方に該当するケースもあれば、片方だけに該当するケースもあるため、混同しないよう注意しましょう。

5)他の所得者が控除を受ける扶養親族等【対象:夫または妻が、子供の扶養控除の適用を受けている人】

他の所得者が控除を受ける扶養親族等の欄には、夫婦が共働きなど、この申告書を提出する人以外の人が、家族を扶養親族としている場合に記載します。例えば、子供(控除対象親族)がいる共働きの夫婦のうち、夫が扶養控除を受ける場合に、その妻はこの欄に夫と子供の氏名等を記載します。

6)16歳未満の扶養親族【対象:16歳未満の扶養親族がいる人】

16歳未満の扶養親族の欄には、16歳未満(2012年1月2日以後生まれ)の扶養親族がいる場合に記載します。

7)退職手当等を有する配偶者・扶養親族・特定親族【対象:2027年中に左に該当する配偶者・扶養親族・特定親族がいる人】

退職手当等を有する配偶者・扶養親族・特定親族の欄には、2027年中に退職所得をもらう予定のある配偶者・扶養親族・特定親族がいる場合に記載します。この欄については、2027年末に記載してもらう欄となりますので、2026年末においては空欄で提出することになります。

なお、扶養控除等(異動)申告書は、その年、最初に給与をもらう日の前日(中途採用の場合は、就職後最初の給与の支払いを受ける日の前日)までに提出してもらいます。そのため、実務上は、年末調整の際に配布される申告書は翌年分(令和8年分の場合は令和9年分)であるのが一般的です。

もし、年の中途で扶養親族の状況などに変化があった場合には、その都度、異動申告をしてもらう必要があります(2026年中のものは、2025年末に提出してもらった令和8年分を修正)。この場合、年末調整の対象となる年分の扶養控除等(異動)申告書に訂正する部分を二重線で消し、余白に新しい情報を記載し、「異動月日及び事由」の欄にもその旨を記載します。

以上(2026年10月作成)
(監修 税理士 石田和也)

pj30231
画像:ChatGPT

【文例付き】2026年10月改正、 労働条件通知書の書式は大丈夫?

1 正社員との待遇の相違等に関する明示が新たに必要に!

会社は社員(正社員、パート等)と労働契約を締結する際、労働条件を「労働条件通知書」などで明示しなければなりません。明示すべき労働条件は労働基準法などで決まっているのですが、2026年10月1日からは、明示すべき労働条件が、図表1の赤字部分の通り変わっています。

労働契約の締結時に明示すべき労働条件(グレー部分は口頭も可)

2026年10月1日以降、パート等と労働契約を締結する場合、

正社員との待遇の相違の内容・理由等について、会社に説明を求めることができる旨

を明示することが義務付けられています(違反は10万円以下の過料)。

これは「同一労働同一賃金」(簡単に言うと、正社員でもパート等でも「同じ働き方をしているなら、同じ待遇にしなければならない」という考え方)に基づく改正です。元々、会社には

パート等から求められたら、会社は正社員との待遇の相違の内容・理由等について説明しなければならない

というルールがあるのですが、そもそもパート等の側が「自分たちには説明を求める権利がある」ということを知らず、疑問をぶつけられないケースが少なくないことなどから、今回の改正により、労働条件通知書への明示が求められるようになりました。

待遇の相違等に関する説明を求めることができる旨については、例えば次のように明示します。

待遇の相違等に関する説明を求めることができる旨の記載例

2026年10月の改正内容は上記の通りです。次章以降では、社員の入れ替わりが少なく、労働条件通知書を見直す機会がこれまであまりなかったという人向けに、2024年4月の改正内容を文例付きで紹介します。不安な場合は改めて確認しておきましょう。

2 就業場所、業務内容は「変更範囲」も明示

就業場所、業務内容については、かつては「契約締結時」の条件だけを明示すればよかったのですが、2024年4月1日からは「変更範囲」も明示しなければならなくなっています。

変更範囲といっても、想定される就業場所や業務内容を1つずつ記載する必要はなく、

  • 会社の定める場所
  • 会社の指示する業務

といった書き方もできます。ただ、記載内容があまりに漠然としているといけません。特に就業場所や業務内容がある程度限定される「限定正社員」の場合は、

  • 就業場所の一覧を別紙で交付する(地図や組織図など)
  • 業務内容をおおまかなカテゴリーで分けつつ、簡単な概要を記載する

とよいでしょう。

なお、「労働条件通知書に記載漏れがあった」「他の社員の業務を代替してもらう必要が出てきた」「傷病や育児・介護などで予定通りに働けなくなった」といった事情で、労働条件通知書に記載していない条件での勤務を社員にさせたい場合、

社員に変更理由を説明して同意を得た上で、新しい労働条件通知書を交付

する必要があります。

就業場所、業務内容については、例えば次のように明示します。

就業場所、業務内容の記載例

なお、記載例では触れていませんが、社員にテレワークを命じる可能性がある場合は就業場所に「社員の自宅など」を加えておく、在籍出向をさせる可能性がある場合は、就業場所に「出向先の事業所」、業務内容に「出向先の命じる業務」を加えておくようにします。

3 契約更新の「更新上限」の明示

会社は有期パート等を雇用する場合、契約締結時に「契約更新の基準」を明示する義務があります。かつては「更新の有無」「更新の判断基準」「その他留意すべき事項」を明示すれば足りましたが、2024年4月1日からは、これに加えて

更新上限の有無とその内容(通算契約期間または更新回数について)

を明示しなければならなくなっています。

通算契約期間は「契約更新を繰り返した場合、通算で最大何年働けるか」、更新回数は「最大何回まで契約を更新できるか」という意味です。労働条件通知書には、これらの上限があるかないか、上限がある場合はその内容(◯年、◯回など)を記載する必要があります。

なお、更新上限の定めがない労働契約を締結していたが、次の契約から上限を「新設」する場合、あるいは更新上限を次の契約から「短縮」する場合、

その理由をパート等にあらかじめ(新設・短縮をする前のタイミングで)説明

しなければなりません。

契約更新の「更新上限」については、例えば次のように明示します。

契約更新の「更新上限」の明示

「更新上限の有無」の記載欄には、通算契約期間または更新回数に上限があるかないか、上限がある場合は具体的な内容を記載します。更新回数は、会社と有期パート等との認識さえ一致していれば、「最初の契約から数えた回数」でも「残りの更新回数」でも構いません。

なお、通算契約期間の上限を定める場合、「無期転換」に注意しましょう。無期転換とは、

有期パート等の通算契約期間(同じ会社でのもの)が5年を超えた場合、その有期パート等が会社に申し込むことで、契約期間の定めのない「無期契約」に転換できるという制度

です。会社は無期転換の申込みがあると、それを承諾したものとみなされるため、拒否することはできません。そのため、そもそも有期パート等の長期雇用を想定していない場合、通算契約期間の上限は5年未満に設定しておいたほうが無難です。

また、記載内容ではありませんが、実際に有期パート等に労働条件通知書を交付する際は、

「必ず更新上限まで契約を更新するわけではない」旨を確実に伝える

ようにしましょう。契約を更新しない場合に有期パート等とトラブルになるのを防ぐためです。

4 無期転換の「申込機会」「転換後の労働条件」の明示

前述した通り、有期パート等は通算契約期間が5年を超えると、会社に無期転換の申込みをする権利(無期転換申込権)を得ます。2024年4月1日からは、無期転換申込権が発生する契約更新のタイミングごとに、有期パート等に無期転換の「申込機会」「転換後の労働条件」を明示しなければならなくなっています。

  • 申込機会:無期転換の申込みができること
  • 転換後の労働条件:労働条件の変更の有無、転換後の労働条件の一覧または変更箇所

「無期転換申込権が発生する契約更新のタイミング」は、契約期間の長さによって異なります。図表5は1年ごとの契約更新の場合と、3年ごとの契約更新の場合を比較したものです。どちらも、グレー部分の有期契約が開始するタイミングから、無期転換の申込みが可能になります。

無期転換申込権が発生する契約更新のタイミング

グレー部分の契約期間中に申込みをした場合、その有期契約が満了するタイミングで無期契約に転換します。

無期転換の「申込機会」「転換後の労働条件」については、例えば次のように明示します。

無期転換の「申込機会」「転換後の労働条件」の明示

2024年4月1日以降は、新たに「無期転換に関する事項」の記載欄が必要になっていますので、自社の書式にこの欄があるか、確認しておきましょう(有期パート等が無期転換申込権を得ていなければ不要)。また、「更新上限の有無」を記載する際などに「契約更新の状況(現在○年目など)」も併せて記載しておくと丁寧です。

無期転換申込機会については、無期転換の申込みをした場合、いつから無期契約に変わるかを、具体的な日付(◯年◯月◯日)を明らかにして記載しましょう。

転換後の労働条件については、労働条件の変更があるかないかを明らかにした上で、転換後の労働条件の一覧や変更箇所を「別紙」で明示するとよいでしょう。「契約期間」以外の労働条件を変更しない場合、「無期転換後の労働条件は本契約と同じ」などと記載します。

以上(2026年11月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

pj00689
画像:ChatGPT

【朝礼】努力を語れ。努力を見せろ

【ポイント】

  • 人は周囲の冷ややかな評価を恐れ、努力を隠しがちである
  • 実社会に努力する人を笑う人はいない。努力なしでは何も起こらない
  • 自分の努力を堂々と語り、努力する姿を見せることで、周りを熱くさせる

先日、知人のご子息がある資格試験に合格しました。「相当勉強したのだろう。頑張ったね」と声を掛けたところ、彼は「そんなにたいしたことはやってません」と答えました。努力について褒められると、謙遜して隠そうとする人は少なくありません。皆さんの学生時代にも、いつも試験で良い成績を取るのに、人前ではさほど勉強しているふうに見せない人がいたでしょう。

人が努力を隠す理由は二つあります。一つは、結果が出なかったときに「あれだけやっていたのに、ダメだな」と冷ややかな目で見られるのを避けたいから。もう一つは、結果が出ても「あれだけ準備すれば、当たり前だ」と言われ、評価が下がってしまうからです。

確かに思春期の頃は、勉強やスポーツ、芸術に懸命に取り組む者を冷やかす人がいたかもしれません。しかし、実社会には努力する人を笑う人はいません。成功を収めるには努力するより方法がないことを、成功した人は知っているからです。努力が必ず報われるとは限りませんが、努力なしでは何も起こらないのです。

努力はもちろん自分のためです。しかし、私は、個人の努力がもっと大きな力になると思っています。努力を語ったり、努力する姿を見せたりすることで、周りを動かせるのです。それを聞いた人や見た人は、「よーし、私もやるか」と前向きになります。ですから皆さんには、自分の努力を堂々と語り、一生懸命に努力する姿を見せてほしいのです。

実社会はそうではありません。努力する君やあなたのことを、周りは敬うのです。努力とは「目標実現のために心身を労して努めること」です。実社会には、努力する人を笑う人はいません。成功を収めるには、努力するより方法がないことを成功した人は知っているからです。

冒頭のご子息も、実は仕事をしながら1年間毎日3時間勉強し、休日には専門学校に通っていました。やはり相当の努力をしていたのです。ちなみに私は子供の頃、「努力」と揮(き)ごうされた巨人軍の王貞治選手の色紙を部屋に飾っていました。王選手ほどの偉大な選手でも、努力に勝るものはないと考えていたのです。そして、自身の努力がチームメイトを熱くさせ、チームを盛り上げる力になると分かっていたからこそ、色紙に「努力」という分かりやすい言葉を記したのでしょう。皆さんにも、努力で周りを熱くさせる人になって欲しいと思います。

以上(2026年10月更新)

pj16480
画像:Mariko Mitsuda

【書籍ダイジェスト】『広報で一番大切なこと』

本書では、企業広報歴40年のプロフェッショナルが、平時の「攻め」の広報と、有事の「守り」の広報の両面に共通する、広報の仕事の本質的な「あるべき姿」を、事例をまじえながらわかりやすく解説。
強調すべき広報の要諦は、会社と社会、すなわち「内」と「外」の両方にまたがって立ち、常にどちらの立場からもものごとを見ることだという。

書籍ダイジェストは、こちらからお読みいただけます。pdf

従業員に周知徹底したいトラブルを防ぐ「取適法」ガイドブック(2026年11月号)

ことし1月、下請法は「中小受託取引適正化法(取適法)」として新たに施行されました。

取適法では、適用対象の拡大、一方的な代金決定の禁止、手形払いの禁止など、現場の取引実務に直結する変更が多く行なわれています。これは、委託事業者にとって「知らなかった」では済まされないリスクが高まっているともいえます。

本冊子では、特に重要と考えられる義務・禁止事項について、その概要と自己点検のポイントをまとめています。中小企業の現場担当者が取適法の概要を確認するガイドブックとして、また、法令違反がないことを確認する自己点検ツールとして活用してください。


戦国武将・偉人に学ぶ部下育成術

1 武田信玄に学ぶ「部下を思いやり、その本質を見抜く」術

1)武田信玄のエピソード

武田信玄(たけだしんげん。本名は武田晴信(たけだはるのぶ))は、甲斐国(現山梨県)の武将です。

信玄が生まれた当時、甲斐国ではさまざまな勢力が争いを続けていましたが、信玄の父・武田信虎(たけだのぶとら)がこれらの勢力を破り、甲斐国を統一しました。しかし信虎は、家臣の言葉に耳を貸さずに専制的な政治を行ったり、戦費を集めるために領民に重い税を課したりしたため、家臣や領民の不満が高まっていきます。そこで1541年(天文10年)、信玄(当時は晴信)は家臣たちと相談した上で信虎を駿河国(現静岡県)へ追放し、武田家を継ぎました。

信虎の跡を継いだ信玄は、父とは対照的に、生涯を通じて家臣や領民を大切にしたといわれます。信玄の言葉として伝わるものに、「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、あだは敵なり」があります。

「どんなに城や石垣、堀で守りを固めても、家臣や領民の心が離れてしまえば戦には勝てない。勝敗を決めるのは結局は人であり、人は用い方次第で城や石垣、堀のように頼もしい存在になる」という意味です。

信玄は日ごろから家臣を大切にし、正しく評価することに努めました。そして、行政や軍事がうまく回るように組織を整え、合議制によって家臣の意見を積極的に取り入れました。

また、信玄は一軍の将でありながら、家臣たちとくつろいだ雰囲気で座談をすることを好んだといいます。その場で信玄は、自身の経験から学んだ知恵を家臣に説いたり、逆に家臣の意見に耳を傾けたりしました。こうした場で信玄の生の声に触れることで、家臣たちは武田家への帰属意識をいっそう高めていったのです。

戦国時代、武田家の家臣は、その高い戦闘力と強い団結力から「武田軍団」として他国の武将たちから恐れられました。信玄の巧みな手腕が、武田家の家臣を強力にまとめ上げ、最強集団としての武田軍団をつくり上げたといえるでしょう。

2)部下のやる気を引き出す術、気持ちを引き付ける術

信玄は、家臣を見た目や口先ではなく、その人の本質で評価しました。例えば、何事にも遠慮がちな家臣は、合戦では「臆病者」と見られがちですが、信玄はこうした家臣を「思慮深い」と判断しました。「思慮深い者は何事にも慎重なので、万全の態勢を整えて事に臨むだろう」と考えたのです。

家臣たちは「信玄様の下にいれば、うわべではなく本質を見て判断してもらえる」と奮い立ち、組織はますます活気づきました。信玄には「人を使うのではなく、業(わざ:才能の意味)を使う」という趣旨の言葉も伝わっています。

部下の持つ長所を見抜いてそれを活用することで、部下の自発的なやる気を促し、組織のパフォーマンスを最大限に高めることができるのです。

2 織田信長に学ぶ「正当な評価によって部下のモチベーションを高める」術

1)織田信長のエピソード

織田信長(おだのぶなが)は、尾張国(現愛知県)の武将です。

織田家にはいくつかの流れがあり、信長が生まれた織田家は主流ではありませんでした。しかし、信長の父親である織田信秀(おだのぶひで)の代に大きく勢力を伸ばして織田家の主流となりました。

信秀の跡を継いだ信長は、尾張国を統一し、さらに強大な力を誇っていた駿河国・遠江国(ともに現静岡県)の今川義元(いまがわよしもと)を破り、東海道の勢力図を大きく塗り替えました。

信長が跡を継いでから織田家は急速に勢力を広げたため、優れた人材の確保が急務となりました。そこで信長は、家柄や過去の実績にこだわらず、優秀だと見込んだ人物をどんどん登用しました。家柄や実績が重んじられていた当時としては、画期的なやり方です。

その代表が豊臣秀吉(とよとみひでよし)です。信長は、人の心をつかむのに長けた秀吉の才能を見抜き、次々と重要な役目を任せました。

秀吉は、その才能を存分に発揮して織田家の勢力拡大に大きく貢献し、信長亡き後は天下統一を果たします。

貧しい身分の出身とされる秀吉が天下人にまで上り詰めた背景には、信長の大胆で柔軟な人材登用があったといえるでしょう。

2)部下のやる気を引き出す術、気持ちを引き付ける術

信長は、徹底した能力主義者であったといいます。このため、たとえ長年仕えてきた功臣であっても、能力がないと判断すれば、ためらわずにその任を解いたとされます。

例えば、若い頃から信長に仕え、数々の武勲を挙げてきた佐久間信盛(さくまのぶもり)は、石山本願寺攻めで目立った戦果を挙げられなかったことなどを問われ、1580年(天正8年)に追放されています。信長に「苛烈で家臣に厳しい」という印象があるのは、こうしたエピソードがあるからかもしれません。

一方で、家柄や過去の実績などにとらわれず、家臣の能力を正しく評価しようとする信長の姿勢は見習うべきところがあります。家臣は信長の期待に応えようと努力し、努力が正しく評価されることで、さらにモチベーションが高まり、より一層仕事に励むことになるからです。

上司による正当な評価こそが、部下の、ひいては組織全体のモチベーションを高めるといえるでしょう。

3 黒田官兵衛に学ぶ「部下の意見を尊重する」術

1)黒田官兵衛のエピソード

黒田官兵衛(くろだかんべえ。本名は黒田孝高(くろだよしたか))は、播磨国(現兵庫県)の武将です。

官兵衛の生家である黒田家は、播磨国の大名・小寺家の家老でした。しかし、後に織田信長が畿内に勢力を拡大してくると、官兵衛はその将来性を確信し、信長に仕えるようになります。そこで秀吉と出会った官兵衛は、秀吉の参謀的な存在となり活躍します。

やがて、本能寺の変によって信長が明智光秀(あけちみつひで)に討たれると、官兵衛は、秀吉に「信長のあだを討つことで織田政権の後継者となり、天下統一を果たす」ことを進言するなど、秀吉の天下取りを支えました。

官兵衛は知将として知られ、自らの知恵にも自信を持っていました。しかし、あるとき中国地方の武将・小早川隆景(こばやかわたかかげ)から、「頭が切れるあまり、独りよがりな決断をしてしまう恐れがある」と忠告されたという逸話があります。

これ以降、官兵衛は周囲の意見に耳を傾けるよう努めたといいます。周囲の意見に耳を傾け、多面的な視点から問題を捉えることができたからこそ、官兵衛は軍師として、多数の家臣を率いる武将として、後世に名を残す功績を収めることができたのでしょう。

2)部下のやる気を引き出す術、気持ちを引き付ける術

官兵衛は、家臣の意見を尊重しただけでなく、各家臣の性格を把握し、それらをうまく組み合わせることで家中をまとめました。それは、官兵衛が「組織においては、各人が協力し合うことで、より大きな力が発揮できる」ということを理解していたからです。

このため、家臣の交遊関係を調べ「誰と誰とは性格的に合う」「誰と誰とは性格的に合わない」といったことまで勘案し、性格の合う家臣同士を組み合わせて仕事に当たらせたといいます。

このように、官兵衛は家臣に細やかな配慮を欠かさず、それぞれの意見を尊重しました。自由に意見を交わせる場があったことで、家臣たちは身分や役職に関係なく活発に意見を出し合い、自分の頭で物事を考えるようになりました。

ただし、最終的な決断は官兵衛自身が下しました。「決断はトップの仕事である」と考え、家臣の意見は尊重しつつも、決断とその責任は自ら引き受ける覚悟を持っていたのです。

さまざまな意見を受け入れる柔軟性、そして決断の責任に対する上司の自覚が部下を大きく育てるのです。

4 上杉鷹山に学ぶ「自らが部下の手本となる」術

1)上杉鷹山のエピソード

上杉鷹山(うえすぎようざん。本名は上杉治憲(うえすぎはるのり))は、出羽国米沢(現山形県米沢市)の大名です。

上杉謙信(うえすぎけんしん)の活躍で有名な上杉家は、秀吉の時代には陸奥国会津(現福島県会津地方)を中心に120万石を治める大大名でした。しかし、徳川家康(とくがわいえやす)と敵対したことで1601年(慶長6年)に米沢30万石に移され、さらに1664年(寛文4年)には15万石にまで減らされます。それでも大藩だった頃とほぼ同じ数の家臣を抱え続けたため、藩は膨大な借金を背負っていました。

こうした中、九州の高鍋藩(現宮崎県)から養子として迎えられ、1767年(明和4年)に米沢藩主となった鷹山は、藩の財政を立て直すため、自身の食事を質素にし、年中行事の中止や贈答の禁止を行うなど倹約に努めました。また、自ら鍬(くわ)を取り、家臣にも田畑の開墾に当たらせました。鷹山は、自分が率先して取り組むことで、藩全体に改革の精神を広げようとしたのです。

しかし、保守的な重臣たちの反発や天明の飢饉による損害などもあって、改革は思うように進みませんでした。1785年(天明5年)、鷹山は35歳で家督を治広(はるひろ)に譲って隠居します。その後も米沢藩の財政は悪化の一途をたどり、家臣が農民から不正に多くの年貢を取り立てる、厳しい生活に耐えられなくなった農民が他国へ逃げ出す、といった問題が起きました。

こうした状況を憂えた鷹山は、隠居の身でありながら、藩主の後見役として再び改革に乗り出します。そして、かつて改革を急ぎすぎて挫折したことを反省し、まずは家臣に藩の財政状況を公開して、危機を実感してもらうことから始めました。

その後、武士だけでなく、農民や町人からも財政再建に関する意見を広く求め、集まった意見について検討を重ねた結果、産業の振興に力を入れるべく、藩全体で養蚕による生糸の生産に取り組むことを決定しました。さらに、藩内で以前から栽培されていた紅花で生糸を染めて織物を織り、藩外に販売することを考案しました。

これらの織物は「米沢織」と呼ばれる米沢藩の名産品となり、家臣の暮らしを支えるようになります。その後、米沢藩の財政は少しずつ回復に向かい、鷹山が亡くなる頃には、藩の借金をほとんど返し終えていたといいます。現実を直視して打開策を探り、自ら率先して実行する鷹山の姿勢が、家臣や領民を引き付けたといえるでしょう。

2)部下のやる気を引き出す術、気持ちを引き付ける術

厳しい状況に陥った藩の財政を立て直すに当たり、鷹山は、藩主の地位にありながら、自身が率先して質素な暮らしを心掛けました。家臣や領民に苦しい倹約を依頼するに当たり、まず自身が模範になろうとしたのです。

かつては120万石という大藩であった上杉家の家臣の中には、九州の小藩から養子に入った若い鷹山が進める改革を不満に思う者も少なくありませんでした。

こうした反発の中でも、鷹山は改革の必要性を粘り強く説き、先頭に立って厳しい改革に取り組みました。そうした姿を見て、当初は協力的でなかった家臣たちも次第に心を開き、家臣や領民が一丸となって再建に取り組むようになりました。鷹山の言葉として、「してみせて、いってきかせて、させてみる」が伝わっています。

何かに取り組む際には、まず自身が身をもって部下に示し、指導した後に実際に挑戦させてみるという、上司の真摯かつ愛情に満ちた姿勢が、部下の心に火をともすといえるでしょう。

5 二宮尊徳に学ぶ「小さな積み重ねを大切にする」術

1)二宮尊徳のエピソード

二宮尊徳(にのみやそんとく。通称は二宮金次郎(にのみやきんじろう))は、相模国(現神奈川県)出身の農政家です。

1787年(天明7年)、現在の小田原市に生まれた尊徳は、若い頃に没落した生家を立て直し、さらに小田原藩の家老・服部家の家計の立て直しにも成功しました。また、生活に苦しむ藩士のために、利子を付けずにお金を貸す「五常講(ごじょうこう)」という仕組みもつくっています。

こうした手腕を小田原藩主・大久保忠真(おおくぼただざね)に認められた尊徳は、1822年(文政5年)、大久保家の分家である宇津家の領地・下野国桜町領(現栃木県真岡市)の復興を命じられます。翌1823年(文政6年)、尊徳は自分の田畑や家財をすべて売り払い、一家で桜町に移り住みました。

桜町で尊徳は、自ら先頭に立って用水路や堰(せき)、橋の改修に取り組みます。しかし、復興は順調には進みませんでした。1827年(文政10年)には村役人の辞表が相次ぎ、新たに赴任してきた役人・豊田正作(とよだしょうさく)とのあつれきもあって、事業は行き詰まります。尊徳自身も辞表を出しましたが、聞き入れられませんでした。

復興の行き詰まりに悩んだ尊徳は1829年(文政12年)の正月、行き先を誰にも告げずに桜町を離れます。そして、成田山新勝寺(現千葉県成田市)にこもり、21日間の断食を行いました。尊徳がいなくなった桜町では、農民たちが慌てて行方を捜し、驚いた藩も事実関係を調べた上で、尊徳の事業を支援する方針を改めて確認しました。成田山で尊徳を見つけた農民たちの頼みを受けて尊徳が桜町に戻ると、もう事業に異を唱える者はいなかったといいます。

その後、事業は順調に進むようになり、1831年(天保2年)に第一期の復興事業が完了。尊徳は忠真から「以徳報徳(徳を以て徳に報いる)」とたたえられました。尊徳はその後も「報徳仕法」と呼ばれる独自の方法で、北関東の各地で農村の復興に取り組んでいます。

2)部下のやる気を引き出す術、気持ちを引き付ける術

尊徳は、復興の土台として「至誠(しせい)」「勤労」「分度(ぶんど)」「推譲(すいじょう)」という4つの教えを村人に広めました。誠実であること、よく働くこと、収入に見合った範囲で暮らすこと、そして余った分を将来や他人のために譲ること、という考え方です。

尊徳は、教えを口で説くだけでなく、自ら田畑や家財を手放して桜町に移り住み、工事の先頭に立ちました。村役人が次々と辞めていくほどの逆風の中でも復興を投げ出さず、行き詰まったときには成田山での断食を通じて自分自身と向き合い、覚悟を新たにしています。こうした尊徳の本気の姿勢が、少しずつ村人の心を動かしていったのでしょう。部下が思うように動いてくれないときも、相手を責める前に、まず自分のやり方や姿勢を振り返ってみることが大切です。

また、尊徳の言葉を弟子の福住正兄(ふくずみまさえ)が書き留めた『二宮翁夜話』には、次のような言葉があります。

「大事をなさんと欲せば、小さなる事を怠らず勤むべし。小積もりて大となればなり」

大きなことを成し遂げたいなら、小さなことを怠らずに積み重ねるべきだ。小さなことが積み重なって大きくなるのだから、という意味です。

部下を育てる際も、いきなり大きな成果を求めるのではなく、日々の小さな仕事を丁寧に積み重ねさせ、その成長をきちんと認めていくことが大切です。上司が誠実な姿勢で向き合い続けることが、部下のやる気と信頼を育てるといえるでしょう。

6 部下を1人の人間として尊重することの大切さ

戦国武将・偉人の家臣や周囲の人々に対する姿勢には、いくつかの型が見られます。しかし、そのいずれにも共通しているのは、「相手を1人の人間として尊重していること」でしょう。

上司は、リーダーであると同時に、部下と同じ組織の一員でもあります。同じチームのメンバーとして、部下に対して真摯に向き合い、部下を導く姿勢こそが部下を大きく育て、強い組織づくりにつながるのです。

以上(2026年10月更新)

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画像:ChatGPT

社員のギャンブル依存症 会社が介入すべき 3つの境界線

1 ギャンブル依存症の定義と日本国内における実態

昨今、メディア等でも大きく取り上げられ関心が高まっている「ギャンブル依存症」。ギャンブルにのめり込み、自らの意思では行動をコントロールできなくなってしまう精神疾患の1つで、国際機関や法律により次のように定義されています。

(図表1)【ギャンブル依存症の定義】

機関・法律 名称・定義
世界保健機関(WHO) 「病的賭博」として国際疾病分類等で認定
米国精神医学会 「ギャンブル障害」として診断基準を提示
ギャンブル等依存症対策基本法
(日本)
「ギャンブル等依存症」と定義。
公営競技(競馬・競輪・競艇・オートレース)やパチンコ・パチスロ等の射幸行為にのめり込み、日常生活・社会生活に支障が生じている状態を指す。

(出所:日本情報マート作成)

広義には、法律上の射幸行為だけでなく、金銭などを賭けて、より価値あるものを得ようとする行為全般が「ギャンブル」に当てはまります。

  • 金融取引関連:FX(外国為替証拠金取引)、商品先物取引など
  • 身近な娯楽・ゲーム:宝くじ、スポーツくじ、スマホゲームの「ガチャ」など
  • 違法賭博:オンラインカジノ、友人・同僚間の賭け麻雀など

ギャンブル依存症と聞くと、一部の特殊な人だけの問題と思うかもしれませんが、実はそうではありません。「ギャンブル等依存症対策基本法」に基づき行われた調査(国立病院機構久里浜医療センター、2021年)によると、過去1年間の経験から「ギャンブル等依存が疑われる者」の割合は成人の2.2%と推計されています。

これは、単純計算で従業員50人規模の会社であれば、1人程度は依存が疑われる社員が存在してもおかしくない確率です。つまり、ギャンブル依存症は決して他人事ではないというわけです。

2 ギャンブル依存が疑われる社員へのアプローチ

社員のギャンブル問題にどう対応すべきか。大前提として、プライベートな時間に健全な範囲で行うギャンブルを会社が規制・禁止することはできません。私生活の自由が保障されているためです。

しかし、一定の境界線を越えた場合には会社としてしかるべき措置(介入や懲戒処分)が必要となります。以下、代表的な3つのケースを解説します。

(注)就業規則に明確な懲戒事由が定められていなければ、いかなる場合も懲戒処分はできません。厚生労働省の「モデル就業規則」などを参考に、自社の就業規則に不足がないか確認し、必要に応じて改定・届出を行ってください。

1)ケース1:社員が「違法賭博」を行っている場合

違法賭博(刑法上の単純賭博罪や常習賭博罪)は犯罪行為です。多くの企業では服務規律に「会社の名誉や信用を損なう行為の禁止」を定めており、違法賭博を行うこと自体が服務規律違反(懲戒事由)になり得ます。

状況別に適切な対応・注意点をまとめると次のようになります。

(図表2)【違法賭博への対応】

状況 適切な対応・注意点
社員が逮捕・報道されたとき 現行犯逮捕=即解雇は基本的にNG。逮捕時点では有罪が確定していないため、慎重な事実確認が必要です。事案の重大性や社会的影響を踏まえて処分(懲戒解雇、出勤停止、減給など)を検討します。
社員から退職届の提出があったとき 逮捕後、本人や家族・弁護人から「会社に迷惑をかけたくない」と退職の申し出がある場合があります。安易に即日受理せず、捜査状況や事案の重大性を見極めて慎重に判断します。
社員が身柄を拘束されたとき 勾留等により長期間(最長23日間等)出勤できない状態が発生します。欠勤の扱いや業務フォロー体制の構築を速やかに行う必要があります。

(出所:日本情報マート作成)

2)ケース2:社員が就業時間中または職場内でギャンブルを行っている場合

就業時間中は「職務専念義務」が存在します。勤務中に正当な理由なくパチンコ店などへ行く行為は、明らかな職務専念義務違反・勤務場所離脱(懲戒事由)です。

一方で、現実に即したルール整備と実効性のある防止策が必要です。

  • オンライン投票の抑止:現実問題として、勤務場所を離れなくてもパソコン・スマートフォンから公営競技にオンライン投票が可能です。オンライン投票を抑止するため、服務規律に「勤務中の私用通信機器の私的利用禁止」を明記しましょう。
  • 休憩時間中の扱い:休憩時間は原則自由ですが、秩序維持の観点から「休憩時間中のギャンブル禁止」を定めることも検討しましょう。
  • 公営競技・ギャンブル関連サイトへのアクセス制限:ウェブフィルタリングによって、社内ネットワークや会社支給端末から公営競技・ギャンブル関連サイトへのアクセスを制限します。

3)ケース3:社員がギャンブルに起因する借金問題を抱えている場合

社員が個人的な借金を抱えていても、職務遂行に影響がない限り、会社が介入することは原則できません。しかし、消費者金融からの会社への督促電話や、裁判所からの「給与差し押さえ命令」によって社員の借金問題が発覚することがあります。

そうした事態に備えて、次のような対応を検討・実行しましょう。

  • 配置転換(リスク回避):経理、レジ、金庫管理など「直接金銭を扱う職種」に就いている場合は、不正防止および本人の精神的負担軽減のため、速やかに金銭を扱わない部署へ配置転換を行います。
  • 社員間トラブルの防止:同僚から借金を重ねて返済が滞るケースが多発します。あらかじめ服務規律に「社内における社員同士の金銭貸借の禁止」を明確に規定しておくことが極めて有効です。

3 ギャンブル依存症を生まない・悪化させない職場づくり

1)依存症のメカニズムを理解する

依存症は「本人の意志の弱さ」や「性格」の問題ではなく、脳内の「報酬系」の機能異常による病気です。ギャンブルで勝った際に快楽物質「ドーパミン」が放出されます。それを繰り返すことで脳が刺激に慣れてしまい(耐性)、より強い刺激を求めるようになって行動をコントロールできなくなってしまうと考えられています。

2)職場でみられる予兆と早期アプローチ

最初は興味本位で始めたギャンブルが、次第に「やめられない、とまらない」状態になっていきます。職場で以下のような言動が見られる場合は注意が必要です。

  • 職場で「パチスロで◯万円勝った」「万馬券が出た」などと頻繁に自慢・公言している
  • 勤務時間中や休憩中にギャンブルや配当の話ばかりしている

度が過ぎている場合は、放置せずに管理者から口頭で注意指導を行います。再三の注意に従わず、職場環境を著しく害する場合は、懲戒処分(けん責等)の対象とすることも検討します。

4 自己診断ツール「LOST」と相談窓口

1)ギャンブル依存症の自己診断ツール「LOST」

「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子氏らが開発したセルフスクリーニングテストです。病的ギャンブラーとギャンブル愛好家を峻別する4つの頭文字から名付けられています。

  • Limitless:ギャンブルをするときには予算や時間の制限を決めない、決めても守れない
  • Once again:ギャンブルに勝ったとき「次のギャンブルに使おう」と考える
  • Secret:ギャンブルをしたことを誰かに隠す
  • Take money back:ギャンブルに負けたときすぐに取り返したいと思う

直近1年間の行動で、上記4項目のうち2項目以上で「はい」に該当する場合、ギャンブル依存症の危険度が高いと判断されます。

■ギャンブル依存症問題を考える会■
https://www.scga.jp/

2)ギャンブル等依存症対策推進本部

首相官邸に設けられたギャンブル等依存症対策推進本部では、ギャンブル等依存症を克服した人やその家族などからの体験談を公開しています。また、「ギャンブル依存症問題を考える会」をはじめとする、相談先などを紹介しています。

■ギャンブル等依存症対策推進本部「ギャンブル等依存症を克服された方の体験談」■
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gamble/

3)依存症対策全国センター

国立病院機構久里浜医療センターは、アルコール健康障害、薬物依存症、ギャンブル等依存症、ゲーム依存症の全国拠点機関(依存症対策全国センター)に指定され、依存症の治療や回復支援に携わる専門家の育成、依存症相談事業の拡充、依存に関する情報発信の向上など各種事業を実施しています。

ギャンブル依存症を含む依存症に関する基礎的な知識を紹介しているほか、全国の依存症専門相談窓口と医療機関が検索できます。

■依存症対策全国センター■
https://www.ncasa-japan.jp/

以上(2026年9月更新)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)

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令和8年賃上げ実態調査:引上げ企業割合92.0%へ【経営者とっておきニュース】

厚生労働省は2026年10月21日、同年7月から8月にかけて実施した「賃金引上げ等の実態に関する調査」の結果を公表しました。本調査は、全国の常用労働者100人以上を雇用する会社組織の民営企業3668社を対象に抽出調査を行い、1862社から有効回答を得たものです。

結果によると、同年中に「1人平均賃金を引き上げた・引き上げる」と回答した企業の割合は92.0%となり、前年の91.5%から微増しました。また、1人平均賃金の改定額は1万3926円(前年1万3601円)、改定率は4.4%(前年同率)で推移しています。定期昇給制度がある企業におけるベースアップの実施割合は57.9%となっており、堅調な賃上げ傾向が継続しています。

この持続的な賃上げの背景には、エネルギー価格の高騰や原材料費の上昇に伴うインフレ圧力に加え、深刻化する人手不足への対応があります。調査によれば、賃金改定に当たり最も重視した要素として「企業の業績」を挙げる企業が46.0%と最多です。

業況感や資金力における企業間格差は小さくありません。大企業や一部の製造業、情報通信業では高い改定額が維持される一方、価格転嫁が十分に追いついていない中小・小規模の現場や一部のサービス業、運輸業などでは、原材料費高騰の直撃を受けながら人材流出を防ぐための賃上げを強いられるという構造的な負担も生じています。サプライチェーン全体での適正な価格転嫁が進まなければ、中小企業の財務基盤を圧迫しかねないリスクを孕んでいます。

今後の市場や地域経済においては、単発的な賃上げの波が一巡し、企業の収益力と連動した持続可能なモデルへと移行できるかどうかが分水嶺となります。過去のトレンドに安易に追随するのではなく、自社の生産性向上や付加価値の創造と一体となった給与体系の見直しが不可欠です。

とはいえ、過熱する賃上げの報道や世間相場に対し、中小企業が過度に飛びつく必要はありません。自社のビジネスモデルやキャッシュフローへの影響を冷静に分析し、自社の適正水準を見極めましょう。


【ご注意】本記事は公的資料等を基に生成AIを活用して作成し、編集部で事実確認を行っています。技術の特性上、記述の正確性を完全に保証するのは難しいところがありますので、正確な最新情報については、必ず参照URLの一次情報をご確認ください。
■厚生労働省「令和8年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」■
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/jittai/26/

以上(2026年10月作成)

pj10227
画像:terovesalainen-Adobe Stock