「背中を見て覚えろ」が嫌で退職? 製造現場の切実な労務トラブル

1 製造現場の労務トラブルは組織の「設計上のミス」が原因

製造業は、数値と精度の世界です。歩留まり、納期、品質……。それらは客観的な指標で管理され、わずかなズレでもラインを止め、原因を究明します。そこに感情が入り込む余地はありません。一方で、製造業の現場では様々な労務トラブルが発生します。例えば、

  • 「背中を見て覚えろ」が通じず、若手が辞めていく
  • 即戦力だと思った社員が、現場をかき乱す

などがそうです。

なぜ、「人」の問題になると合理性は失われてしまうのでしょうか。トラブルが起きるたび「あいつが悪い」「最近の若い者は根性がない」と個人の資質に原因を求めている社長は少なくありません。ですが、現場で繰り返される労務トラブルの多くは、

個人の問題ではなく、必ず組織の「設計上のミス」が潜んでいる

のです。機械の故障に構造的な理由があるように、人の問題にも「設計上のミス」があります。

この記事では、数多くの製造現場を見てきた社会保険労務士が、その構造的欠陥を、実際によくあるストーリーとともに解き明かします。

2 「背中を見て覚えろ」が通じず、若手が辞めていく

1)若手の離職が続き、技術はブラックボックス化する

ある社長から、こんな相談が寄せられました。

「先生、うちのベテラン職人の背中を見せて育てようとしているのに、若手がどんどん辞めていくんです……」

社長が指さす先には、黙々と旋盤に向かうベテランの姿がありました。技術は一流で、精度も速さも申し分ありません。しかし若手が質問に行けば、「見て覚えろ」「今は忙しい」と取り合わない。社長が指導を依頼しても、「自分がやったほうが速い」と言われてしまうのです。

その結果、特定の工程は彼にしかできない状態となり、若手は成長の実感を持てないまま離職していきます。残されたのは、キーパーソンが不在になれば止まってしまう、極めて脆弱なラインでした。

2)今こそ指導体制を見直すとき

「職人は背中を見て覚えるもの」という価値観は、製造業の文化の一部です。しかし、現代の組織運営においては、それだけでは持続しません。技術を言語化せず、個人の経験に依存したままでは、属人化が進む一方です。

問題の根本は、「教えること」よりも「自分で成果を出すこと」が高く評価される体制にあります。後継者育成が評価対象に含まれていなければ、技術を共有しないことが暗黙のうちに許容されてしまいます。

3)評価の軸を「個人の成果」から「組織への技術継承」へ

技術は個人の資産ではなく、会社の共有財産です。「背中を見て覚えろ」という指導スタイルのベテランに対しては、敬意を払いながらも、次のことを伝える必要があります。

「高い技術を持っていても、それが職場に共有されなければ、会社に未来はない。後継者を育て、手順を標準化することがベテランの役割である」

役割の変化を意識させるには、評価の軸を「個人のアウトプット (成果)」から「組織への技術継承」にシフトさせることが不可欠です。具体的には、次のような体制変更が有効です。

  • 育成実績を査定に反映させる
  • 作業工程のマニュアル化を昇格要件に含める

「感覚を言語化できない」という場合には、動画を活用した手順記録の仕組みを取り入れることも効果的です。「スキルマップ」 によって「誰が、どの工程を担当できるか」を可視化し、特定の工程を複数人でカバーできる多能工化の体制を構築することも、併せて検討してください。仕組みが変われば、現場の行動も変わります。

3 即戦力だと思った社員が、現場をかき乱す

1)経歴は申し分ないのに、いざ採用してみたら「協調性ゼロ」

顧問先を訪問すると、見慣れない社員が作業服姿で働いていました。社長に尋ねると、「素晴らしい経歴の人が入ってくれたんだ」と誇らしげに語ります。有名大学卒、大手自動車メーカーの生産管理部門で10年の経験。履歴書を見た瞬間、「即戦力」という言葉が浮かび、その場で採用を決めたといいます。

しかし、3ヵ月後、現場からは戸惑いの声が上がりました。

「理屈は立派だが、現場の段取りに合わせようとしない」

「前職のやり方を基準に、うちのやり方を否定する」

期待された人材は、いつの間にか組織に摩擦を生む存在になってしまっていたのです……。

2)「履歴書という過去」に依存する採用の落とし穴

製造現場において、過去の肩書は「再現性」を保証しません。例えば、大手企業に勤めていた人が転職して自社に応募してきたら、確かに「おお!」となります。ですが、大手企業の実績は、潤沢な人員や分業体制の下で成立している場合が多く、その前提が異なる中小企業では、同じ成果が再現できないこともあるのです。「何でもやる」現場に前職の成功モデルをそのまま持ち込めば、摩擦が生じるのは自然なことです。

根本的な問題は、面接が「経歴の確認」に終始し、自社の文化や現場との適合性を評価する設計になっていないことにあります。過去の実績を重視するあまり、価値観や行動特性の確認が不十分になりがちです。

3)「能力の高さ」だけでなく、「組織との相性」も見よう

経歴の華やかさに期待を寄せること自体は自然なことです。しかし、採用で本当に見るべきなのは「能力の高さ」だけでなく、「組織との相性」です。可能であれば、次のような取り組みを設計してください。

  • 既存社員と一定時間作業を行う実技選考を設ける
  • 具体的な行動事例を掘り下げる面接を行う

「質問できる姿勢があるか」「現場の工夫を尊重できるか」といった視点を評価項目として言語化し、試用期間中の面談記録を「指導記録」として残すフローと併せて整備することで、採用は偶然任せの判断から再現性のある経営判断へと変わります。

なお、「能力不足」や「協調性不足」を理由に本採用を見送る場合、法的なハードルは依然として高い状況です。実技選考を導入する際は、単に実技を課すだけでなく、入社時に「どのような状態になれば本採用とするか」の客観的な評価基準 (ジョブディスクリプションなど)を、あらかじめ提示することが理想的です。

4 元請からコストダウンを求められ、賃上げができない

1)「価格転嫁できない」 という労務問題の根源

顧問先を訪問し、改定された最低賃金をお伝えした瞬間、社長は静かにこうつぶやきました。

「これ以上どうやって賃金を上げろと言うんだ……」

原材料費や電気代は上昇を続けています。しかし、元請からはコストダウンを求められ、加工賃は長年据え置きのまま。

「賃金を上げなければ人は集まらない。上げれば利益が削られる。結局、自分が現場に入るしかないのか……」

社長の言葉には、深い疲労がにじんでいました。

2)なぜ、賃金が上げられないのか?

最低賃金の改定は、個人の努力とは無関係にやってくる法的な前提条件です。それに対応できない場合、問題は労務そのものではなく、「利益構造の設計」にあります。

具体的には、下請け構造への過度な依存、原価の見える化不足、人件費を「変動費」ではなく、単なる「コスト増」として捉えていること、そして、価格交渉の準備や根拠資料が整っていないことが、主な要因として挙げられます。

3)「払える構造にしていない」という視点を持つ

まずは原価構造を正確に把握し、採算の合わない案件を見直すことが先決です。価格交渉の場には原価計算書を持参し、人件費や付加価値を具体的に説明してください。内閣官房・公正取引委員会の「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」に、価格交渉のポイントや交渉の申し込み書式の例などが記載されているので、参考にするとよいでしょう。

加えて、一定の賃上げに取り組むことで受給できる「キャリアアップ助成金」「業務改善助成金」などの助成金も、積極的に活用していきましょう。

会社の利益構造を設計できるのは社長だけです。「払えない」のではなく、「払える構造にしていない」という視点を持つことが、次の一手につながります。

■内閣官房・公正取引委員会 「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」■
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/romuhitenka.html
■厚生労働省「キャリアアップ助成金」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html
■厚生労働省「業務改善助成金」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03.html

5 労務管理の穴を突いて、社員が会社に攻撃を仕掛けてくる

1)勝手な残業に突然の欠勤……それでも責められない

これは、ある社長から聞いた労務トラブルの事例です。試用期間が明けた途端、中途社員の態度が一変しました。頼んでもいない残業を重ね、注意をすれば「それはパワハラではありませんか」という応酬が始まるのです。

さらに突然の欠勤が続き、「適応障害」とする診断書だけが会社に届きます。SNSでは元気そうな様子も見受けられ、社長は対応に苦慮しました。話し合いの中で契約終了の可能性に触れると、金銭解決を示唆する発言もあったといいます。

心身ともに疲弊した社長が同業者に相談したところ、「制度の運用が甘い会社を選んで紛争に持ち込む人もいる」という話を聞かされ、自社の準備不足を痛感したそうです。

2)制度運用の曖昧さが招くトラブル

「家族経営だから」 「信頼関係で成り立っているから」という価値観そのものは、否定されるべきものではありません。しかし、制度が曖昧なまま運用していると、その隙がトラブルを招きます。労働法規に詳しい人材は、会社のルールの曖昧さを的確に見抜きます。

例えば、次のような状態は、全てトラブルの火種になり得ます。

  • 社員が10人未満なので、就業規則を整備していない
  • 作成後に運用を形骸化させている
  • 試用期間の判定基準が曖昧
  • 残業が許可制になっていない
  • 休職や診断書提出のルールが具体化されていない

また、今回の事例のように「適応障害」と診断された社員がSNS上で元気な様子を見せていることに社長が困惑するケースもありますが、

SNSの投稿を根拠に安易に「疑い」 をぶつけると、プライバシー侵害や、さらなるハラスメント主張を招くリスク

があります。会社側が感情的に行動しないためにも、労務管理のルールを明確に定めておくことが不可欠です。

3)社内規程の整備、これに尽きる!

これは特殊な人物に起因する問題ではなく、会社の防御設計の問題です。例えば、次のような制度を運用していれば、今回のようなトラブルは未然に防げたかもしれません。

  • 試用期間は評価基準と指導記録を残すことを前提として運用し、残業は事前許可制を徹底する
  • 休職や診断書の取り扱いについても、提出期限や復職判定の手順まで規定に明記し、例外を設けない(「必要に応じて会社が指定する医師の受診を命じることができる」という条項を盛り込むと、疑わしい欠勤への抑止力にもなる)

就業規則は社員を縛るためのものではなく、誠実な社員と会社を守るための境界線です。信頼関係を維持するためにこそ、最初から疑わなくて済む仕組みを整えておく。それが、社長自身を守る最も現実的な備えになります。

6 社長が後継者に仕事を任せられず、事業承継が進まない

1)「社長のアイデンティティー」が事業承継を阻む

ある会社の社長は、なかなか息子に経営を譲れないことを気にしていました。

「息子を専務にして5年。代表を譲る時期だとは思っています。でも、任せ切るとなると不安で……」

そう語る社長は、毎朝誰よりも早く出社し、全ての決裁書に目を通しています。息子が提案する新しい生産管理システムには「まだ早い」と判断し、主要顧客との商談には必ず同席する。結果として、専務である息子の裁量は限定的になり、幹部たちも最終判断を社長に求めるようになります。

会社は表向き「承継済み」でも、実質的な変化は進まない。やがて組織全体に停滞の空気が漂い始めます。

2)なぜ、バトンを渡せないのか?

事業承継が進まないのは、後継者の能力だけの問題ではありません。社長にとって、会社と自分の人生が強く重なっているほど、権限を手放すことは「役割の喪失」に近い感覚を伴います。また、代替わりを機に古参社員が離反する「集団離職」のリスクを懸念して、バトンを渡せないという人も少なくありません。

しかし、「そのうち任せよう」と先延ばしを続けると、「責任範囲・決裁権・予算権限の整理」 も「権限委譲の行程表作成」も進まず、事業承継はいつまでも果たされません。

3)事業承継は「3つのステップ」で進める

事業承継の進め方に絶対の正解はありませんが、まずは次の3つのステップを意識することから始めてみましょう。

(ステップ1)業務執行権の委譲

「失敗しても会社全体に影響が及ばない範囲」で、特定部門や新規事業の裁量を後継者に完全に委ねます。社長は「報告を受ける」 立場に徹し、判断を覆すことはしません。失敗も「再起可能な範囲」で許容します。

(ステップ2)管理権限の委譲

人事評価・採用・給与決定など、「人の管理」に関する権限を後継者に任せます。これにより、幹部や社員が社長ではなく、後継者の顔を見て動く組織構造へとシフトさせます。

(ステップ3)代表権・理念の承継

最後に、最終的な資金繰りや経営責任を譲渡します。社長は「決定権を持つ経営者」から「助言を行う相談役」へと役割を再設計します。引退後の役割や居場所をあらかじめ設計しておくことは、承継を円滑に進める上で重要な要素です。

以上(2026年3月作成)

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画像:日本情報マート

織田信長(武将)/経営のヒントとなる言葉

「器用というのは、他人の思惑の逆に出ることだ」(*)

出所:「歴史を動かした名言」(筑摩書房)

冒頭の言葉は、

「激動の時期を生き抜くには、他の誰もが考えつかないような、独創的な視点を持つことが重要だ」

ということを表しています。

信長が生まれた織田家にはいくつかの流れがありますが、信長の生家は主流ではありませんでした。しかし、信長の父・信秀の代に大きく勢力を伸ばして織田家の主流となり、その跡を信長が継ぐこととなりました。

やがて、信長は尾張国を統一し、強大な力を誇っていた駿河国・遠江国(ともに現静岡県)の今川義元を破り、東海道の勢力図を大きく塗り替えました。さらに、室町幕府の将軍・足利義昭を追放して室町幕府を滅ぼしました。その後、信長は数々の合戦に勝利して天下統一を目指します。

信長が織田家を継いだ後、織田家は急速に勢力を拡大していったため、優れた人材の確保が急務となりました。こうした中、信長が行ったのが、「徹底した実力主義に基づく独創的かつ柔軟な人材登用」です。

従来、武将が部下を用いる際には、家柄や過去の功績が重視されていました。しかし、信長はこれらの点ではなく、才能のみを登用の判断材料としました。信長は、たとえ長年仕えてきた功臣であっても、能力がないと判断すれば、ためらうことなくその任を解いたとされています。例えば、若い頃から信長に仕え、数々の武勲を挙げてきた佐久間信盛は、後年、合戦における消極的な働きを叱責されて信長の下から追放されています。

その半面、信長は、部下が優秀であると思った際には、まず実際に登用してみて才能を判断しました。その代表的な存在が豊臣秀吉でしょう。信長は、秀吉の「人心掌握に非常に長けている」という才能を見抜き、次々と重要な役職に抜てきしていきました。そして、秀吉も信長の期待に応えようと着実に仕事をこなしていきました。その結果、秀吉は累進し、信長の亡き後、最終的には天下統一を実現することとなりました。

また、信長は人材の登用のみならず、さまざまな面において古いしきたりや考え方にとらわれない、独創的な視点を持っていました。例えば、当時、異端視されていたキリスト教に対しても理解を示し、新たに伝えられた西洋文化にも強い関心を持っていました。また、騎馬による戦いが主流であった当時、いち早く鉄砲の威力に目を付けて合戦に取り入れ、長篠の合戦では日本最強との評判が高かった武田勝頼率いる武田騎馬軍団を相手に大勝しました。こうした、部下の才能を正しく評価する柔軟な視点と旺盛な好奇心が家臣を育て、織田家を大きく成長させたといえるでしょう。

このように、信長は独創的な視点を持ち、強力なリーダーシップを発揮し、織田家をまとめ上げていきました。信長は、自身の信念を、合戦になぞらえて次のように述べています。

「人、城を頼らば、城、人を捨せん」(*)

出所:「歴史を動かした名言」(筑摩書房)

この言葉の意味は、「戦いにおいて、将兵が城の防御力に頼りきってしまうならば、いつか当てが外れて敗北してしまうだろう」ということです。すなわち、「重要なことは決して人に頼らず、自らの力で行わなくてはならない」ということを逆説的に表しています。

信長は、「自らの運命は自らが切り開く」という強い意志を持ち、類まれなる独創性を発揮することで、群雄割拠の戦国時代に天下統一という大志を実現させようとしました。夢を実現させるための強い意志と、物事にとらわれない新しい視点を持つことが、激動の時期にあって組織をまとめる上で重要となるのです。

【本文脚注】

本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を担保するものではありません。また、本文中では内容に即した肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思われるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。

【経歴】

おだのぶなが(1534~1582)。戦国時代の武将。尾張国(現愛知県)の守護代の家に生まれる。1560年、桶狭間の戦いで今川義元を破り、全国に名を馳せる。1573年、室町幕府を滅ぼす。1582年、本能寺の変で家臣明智光秀に謀反を起こされ、自刃。

【参考文献】

(*)「歴史を動かした名言」(武光誠、筑摩書房、2005年7月)
 
「戦国武将の名言に学ぶ」(武田鏡村、創元社、2005年8月)
「戦国武将のマネジメント術 乱世を生き抜く」(童門冬二、ダイヤモンド社、2011年3月)
「織田信長と岐阜」(財団法人岐阜観光コンベンション協会)

以上(2026年3月更新)

pj15049
画像:日本情報マート

「モデル就業規則」の落とし穴(後編) 副業規定がトラブルに?

1 「モデル就業規則」は自社の実情に合わせて変更すべし

インターネット上にある「モデル就業規則」をそのまま使うと、自社の実情に合わず、トラブルのもとになることがあります。前編に引き続き、最新のモデル就業規則 (令和7年12月)を基に、弁護士の視点から危ない部分を解説します。

後編では、「第49条(昇給)」「第52条(退職)」「第67条(懲戒の種類)」 「第70条(副業・兼業)」を取り上げます。記事内の赤字は、モデル就業規則の中で修正が必要な箇所、追記・修正案における追記・修正箇所です。前編については、次の記事をご確認ください。

なお、モデル就業規則 (令和7年12月) の全文を読みたい人は、次のURLをご確認ください。

厚生労働省「モデル就業規則(令和7年12月)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html

2 「第49条(昇給)」: 降給や昇降格などについて追記する

1)モデル就業規則

第49条(昇給)

1)昇給は、勤務成績その他が良好な労働者について、毎年○月○日をもって行うものとする。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合は、行わないことがある。

2)顕著な業績が認められた労働者については、前項の規定にかかわらず昇給を行うことがある。

3)昇給額は、労働者の勤務成績等を考慮して各人ごとに決定する。

2)追記・修正案

第49条(昇降給・昇降格)

1)昇給・降給は、勤務成績その他別に定める基準に基づく人事考課により、毎年○月○日をもって行うものとする。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合は、昇給を行わないことがある。

2)顕著な業績が認められた労働者については、前項の規定にかかわらず特別昇給を行うことがある。

3)昇給額・降給額は、労働者の勤務成績等を考慮して別表○に定める基準に基づき人事考課により決定する。

4)昇格・降格は、別表○に定める基準に基づき人事考課により決定する。この場合、昇格・降格後の役職と職務等級に基づき賃金を決定する。

5)懲戒処分による降格及び勤務成績不良等、職務不適格事由による人事権の行使としての降格の場合も、降格後の役職と職務等級に基づき賃金を決定する。

3)解説

モデル就業規則には、降給や昇降格に関する定めがありません。役職や職務等級に基づく人事制度があっても就業規則に定めがないと、社員とトラブルになる恐れがあります。ですから、

降給・降格について定めた上で、昇降給・昇降格の具体的な仕組み (役職や職務等級に基づく賃金の基準表を作成し、人事考課の結果に応じて賃金に反映するなど)を明記

する必要があります。

また、人事考課以外の事由による降給・降格がある場合、

懲戒処分や勤務成績不良など、具体的な事由を明記

しておかないと、降級・降格が認められないので注意が必要です。

3 「第52条(退職)」:長期の無断欠勤などについて追記する

1)モデル就業規則

第52条(退職)

1)前条に定めるもの(注)のほか、労働者が次のいずれかに該当するときは、退職とする。

  • 退職を願い出て会社が承認したとき、又は退職願を提出して○日を経過したとき
  • 期間を定めて雇用されている場合、その期間を満了したとき
  • 第9条に定める休職期間が満了し、なお休職事由が消滅しないとき
  • 死亡したとき

2)労働者が退職し、又は解雇された場合、その請求に基づき、使用期間、業務の種類、地位、賃金又は退職の事由を記載した証明書を遅滞なく交付する。

(注)「前条に定めるもの」とは、モデル就業規則第51条に定める「定年や継続雇用の上限年齢などに達したことによる退職」を指します。

2)追記・修正案

第52条(退職)

1)前条に定めるもののほか、労働者が次のいずれかに該当するときは、退職とする。

1.退職を願い出て会社が承認したとき、又は退職願を提出して○日を経過したとき

(中略)

5.届出及び連絡なく欠勤を続け、その欠勤期間が30日を超え、連絡がつかないとき

2)労働者が退職し、又は解雇された場合、その請求に基づき、使用期間、業務の種類、地位、賃金又は退職の事由を記載した証明書を遅滞なく交付する。

3)労働者は、退職し、又は解雇された場合、会社の指示に従い速やかに業務を引き継がなければならない。

4)労働者は、退職し、又は解雇された場合、身分証明書、電子機器その他会社から貸与された物品を速やかに会社に返納しなければならない。

5)労働者は退職後であっても、その在職中に行った自己の職務に関する責任は免れない。

6)労働者は、退職または解雇された後も、在職中に知り得た情報を第三者に漏洩、開示してはならない。

7)労働者は、退職後○年間は、会社の許可なく同業他社に就職し、または自ら会社の業務と競争関係になる競業行為を行ってはならない。

3)解説

モデル就業規則には、「社員が無断で長期欠勤した場合」の退職に関する定めがありません。社員が自宅におらず、親族等も行方を知らない、連絡が付かないといった場合、無断の長期欠勤を理由に解雇が認められる可能性があります。ただ、原則として解雇する日の30日前までに解雇予告をする必要があり、社員が行方不明や音信不通の場合、本人にその通知ができないのが難点です。この点、

欠勤期間が30日を超えても社員と連絡がつかない場合、退職の意思表示があったものと解釈して、退職扱いとする旨を明記

しておくと、本人に解雇予告の通知をしなくても自動退職とすることができます。

また、退職後や解雇後の職場の混乱を避けるため、

業務の引き継ぎ、会社が貸与した物品の返納、守秘義務や競業避止義務など

についても追記しておく必要があるでしょう。なお、追記・修正案の第5項では、

退職後であっても、在職中に行った自己の職務に関する責任を免れない

という定めをしていますが、これは社員の退職後に重大な不祥事などが発覚した際、その責任を追及できるようにするためです。このような定めがなくとも責任追及を行うことは可能ですが、近年では、企業の一社員による不祥事が大きく取り沙汰されることも多く、社員への注意喚起としての意味合いもあります。

4 「第67条(懲戒の種類)」: 降格などについて追記する

1)モデル就業規則

第67条(懲戒の種類)

会社は、労働者が次条のいずれかに該当する場合は、その情状に応じ、次の区分により懲戒を行う。

  • 1.けん責

    始末書を提出させて将来を戒める。
  • 2.減給

    始末書を提出させて減給する。ただし、減給は1回の額が平均賃金の1日分の5割を超えることはなく、また、総額が1賃金支払期における賃金総額の1割を超えることはない。
  • 3.出勤停止

    始末書を提出させるほか、○日間を限度として出勤を停止し、その間の賃金は支給しない。
  • 4.懲戒解雇

    予告期間を設けることなく即時に解雇する。この場合において、所轄の労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当(平均賃金の30日分)を支給しない。
  • 死亡したとき

2)追記・修正案

第67条(懲戒の種類)

会社は、労働者が次条のいずれかに該当する場合は、その情状に応じ、次の区分により懲戒を行う。

  • 1.けん責

    始末書を提出させて将来を戒める。
  • 4.降格

    始末書を提出させるほか、役職の罷免・引き下げ、及び資格等級の引き下げのいずれか、又は双方を行う。
  • 5.諭旨退職

    退職願を出すように勧告する。ただし、所定期間内に勧告に従わないときは懲戒解雇とする。諭旨退職となる者には、情状を勘案して退職金の一部を支給しないことがある。
  • 6.懲戒解雇

    予告期間を設けることなく即時に解雇する。この場合において、所轄の労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当(平均賃金の30日分)を支給しない。また、懲戒解雇となる者には、退職金を支給しない。

3)解説

モデル就業規則で定められている処分の他にも、

「降格」「諭旨退職」などについても追記

しておくと、懲戒事案に応じて適切な処分をしやすくなります。就業規則で定められていない懲戒処分は認められないため、選択肢を広げておく必要があるのです。この他、

退職金の支給の有無・減額の有無についても明記

しておくとよいでしょう。

5 「第70条(副業・兼業)」:禁止・制限の事由を明確にする

1)モデル就業規則

第70条(副業・兼業)

1)労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。

2)会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。

  • 労務提供上の支障がある場合
  • 企業秘密が漏洩する場合
  • 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
  • 競業により、企業の利益を害する場合

2)追記・修正案

第70条(副業・兼業)

1)労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。

2)会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。

  • 副業・兼業が原因で会社の業務が十分に行えない恐れがある場合、または現に行えていない場合
  • 長時間労働や深夜労働などによって健康を害する恐れがある場合、または現に健康を害している場合
  • 企業秘密が漏洩する場合
  • 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
  • 競業により、企業の利益を害する場合
  • 当社が別途定める副業・兼業に関する手続に違反した場合

3)労働者は、他の会社等の業務に従事する場合、会社が別途定める「副業・兼業取扱規程」に従わなければならない。

3)解説

かつてのモデル就業規則では、「副業・兼業は原則禁止としつつ、一定の条件下で認める」という旨の規定が設けられていましたが、現在は「副業・兼業は原則容認としつつ、一定の条件下で禁止・制限する」というスタンスに変わっています。「原則容認」なので、

副業・兼業を禁止・制限する場合は、その事由を明記

しておく必要があります。

モデル就業規則の第1項の「労務提供上の支障がある場合」というのは、一般的には副業・兼業が原因で自社の業務が十分に行えないことや、仕事の掛け持ちで過重労働に陥ることなどを指しますが、若干抽象的なので、

長時間労働や深夜労働などの文言を使って、社員に分かりやすい表現

にしましょう。また、副業・兼業を認める場合には、労働時間の管理や健康状態の確認が必要になりますので、副業・兼業に関する届出手続・フローを整備する必要があります。これらの管理の観点から、

会社が定める副業・兼業に関する手続に従わない場合、副業・兼業を制限することがある旨を明記

しておくとよいでしょう。

なお、副業・兼業については厚生労働省からガイドラインも出されており、労働時間の管理や通算が必要になります。これらの手続について別途「副業・兼業取扱規程」を設けておくとよいでしょう。

以上、モデル就業規則を例に、トラブルになりやすい条項を解説しました。なお、この記事で解説したのは一部の条項のみであり、修正案もあくまでも一例です。実務では専門家などに相談の上、会社の実情に合わせて個別に内容を検討してください。

以上(2026年3月更新)
(執筆 石原法律事務所 弁護士 磯田翔)

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画像:ESB Professional-shutterstock

「モデル就業規則」の落とし穴(前編) 休職規定がトラブルに?

1 「モデル就業規則」は、汎用性は高いが万能ではない

就業規則は、労働時間や賃金などの労働条件についてまとめた「職場のルールブック」です。中小企業の場合、人員数などの関係で人事労務に割けるリソースが限られているので、インターネットや書籍に出ているひな型をベースに、就業規則を作成することが珍しくありません。

例えば、厚生労働省ウェブサイトで公開されている「モデル就業規則」は、政府お墨付きのひな型ということで安心感があり、参考に使用する会社も多くあると思います。ただ、

汎用性を重視して一般的な定めやシンプルな表現になっているため、そのまま就業規則として使うと、内容が自社の実情に合わず、社員とトラブルになる恐れ

があります。

そこで、この記事では、最新のモデル就業規則(令和7年12月)を基に、

  • モデル就業規則をそのまま使った場合、トラブルになりやすい条項は何か
  • 条項をどのように追記・修正すればトラブルを防げるのか

を、弁護士の視点から2回に分けて解説します

前編では、「第2条(適用範囲)」「第7条(労働条件の明示)」「第9条(休職)」「第11条(遵守事項)」「第32条(裁判員等のための休暇等)」を取り上げます。記事内の赤字は、モデル就業規則の中で修正が必要な箇所、追記・修正案における追記・修正箇所です。後編については、次の記事をご確認ください。

なお、モデル就業規則(令和7年12月)の全文を読みたい人は、次のURLをご確認ください。

■厚生労働省「モデル就業規則(令和7年12月)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html

2 「第2条(適用範囲)」:自社の雇用形態に合わせて修正する

1)モデル就業規則

第2条(適用範囲)

1)この規則は、〇〇株式会社の労働者に適用する。

2)パートタイム労働者の就業に関する事項については、別に定めるところによる。

13)前項については、別に定める規則に定めのない事項は、この規則を適用する。

2)追記・修正案

第2条(適用範囲)

1)この規則は、〇〇株式会社の正社員に適用する。

2)この規則でいう正社員とは、第○章(採用)に定める手続を経て採用され、期間の定めのない労働契約を締結した者をいい、試用期間中の者を含む。正社員以外の者(会社で雇用される契約社員、パートタイマー、嘱託、労働契約法第18条により無期労働契約に転換した者など)の就業に関する事項については、この規則を適用せず、別に定める。

3)解説

モデル就業規則では、通常の労働者以外に「パートタイム労働者」という雇用形態を設けていますが、会社によっては、正社員以外の社員(いわゆる非正規社員)のことを「パートタイマー」「契約社員」「嘱託」などの名称で呼ぶことがあります。法令上、非正規社員は、

  • パートタイム労働者(短時間労働者):1週間の所定労働時間が正社員よりも短い社員
  • 有期雇用労働者:労働契約の期間の定めがある社員

のいずれかに分類されますが、この1.と2のいずれか、または両方に該当する社員を、会社が独自に「パートタイマー」などの名称で呼んでいるわけです。

会社によって非正規社員の名称が異なる上に、雇用形態を複数設けているケースもあるので、社員とのトラブルを避けるためには、

自社の「正社員」「非正規社員」の定義、就業規則の適用範囲を明記

しておく必要があります。

また、有期雇用労働者の場合、契約期間が通算5年を超えると期間の定めのない労働契約に転換される「無期転換」というルールがあるので、社員とトラブルにならないよう、

無期転換された場合、就業規則が適用されるか否かについても定めておく

ようにしましょう。会社は無期転換の申込権を持つ有期雇用労働者に対し、契約の更新時などに「無期転換の申込機会」「無期転換後の労働条件」を明示する義務があります。その際、「無期転換された場合、正社員向けの就業規則が適用されるか否か」がとても重要になってきます。

なお、就業規則の適用範囲から除外される社員については、その社員のための就業規則や雇用契約書を別途設ける必要があります。

3 「第7条(労働条件の明示)」: 変更範囲について追記する

1)モデル就業規則

第7条(労働条件の明示)

会社は、労働者を採用するとき、採用時の賃金、就業場所、従事する業務、労働時間、休日、その他の労働条件を記した労働条件通知書及びこの規則を交付して労働条件を明示するものとする。

2)追記・修正案

第7条(労働条件の明示)

会社は、労働者を採用するとき、採用時の賃金、就業場所、従事する業務、労働時間、休日、その他の労働条件を記した労働条件通知書及びこの規則、その他会社が必要と認める書類を交付して労働条件を明示するものとする。なお、就業場所及び従事する業務については、採用時の労働条件に加え、その変更範囲を明示する。

3)解説

モデル就業規則では、社員を採用するとき、「労働条件通知書」「就業規則」を交付して労働条件を明示するとしています。ただ、いざ社員が入社すると、「採用時に明示された労働条件と、実際の労働条件が違う」という理由でトラブルになるケースが少なくないため、

労働条件通知書と就業規則の他、会社が必要と認める書類も交付する旨を規定

し、必要な書類を用意しておくとよいでしょう。例えば、「就業場所(事業所)の一覧表」「部署とおおまかな業務内容の一覧表」などがそうです。

また、モデル就業規則では、社員を採用するとき、「採用時の賃金、就業場所、従事する業務、労働時間、休日、その他の労働条件」を明示するとしています。ただ、

「就業場所」「従事する業務」の2点については、採用時の労働条件に加え、その変更範囲も明示しなければならない点

に注意が必要です。実際に労働条件通知書等や雇用契約書で明示する場合、

  • 就業場所:会社が定める場所、東京都内事業所(別紙)
  • 従事する業務:会社が指示する業務、会社の各部署(別紙)における業務

といった具合に、ある程度包括的な記載の仕方が認められています。なお、テレワークを行うことが想定されている場合には、「労働者の自宅」といった記載も併記する必要があります。

4 「第9条(休職)」: 復職などについて追記する

1)モデル就業規則

第9条(休職)

1)労働者が、次のいずれかに該当するときは、所定の期間休職とする。

  • 業務外の傷病による欠勤が○か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき

    ○年以内
  • 前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき

    必要な期間

2)休職期間中に休職事由が消滅したときは、原則として元の職務に復帰させる。ただし、元の職務に復帰させることが困難又は不適当な場合には、他の職務に就かせることがある。

3)第1項第1号により休職し、休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合は、休職期間の満了をもって退職とする。

2)追記・修正案

第9条(休職・復職)

1)労働者(試用期間中の者及び入社1年未満の者を除く)が、次のいずれかに該当するときは、休職を命ずることがある。

  • 継続的・断続的を問わず業務外の傷病による欠勤が○か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき。なお、「傷病」とは、私生活においても療養を必要とする傷病をいう。
  • ○年以内

  • 前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき

    必要な期間

2)休職者が、前項の休職事由が消滅したと復職を申し出る場合には、休職期間が満了する前の会社が指定する日までに、復職願を提出しなければならない。この場合、休職者は、受診している医師による診断書を添付しなければならない。また、受診している医師による証明書が提出された場合でも、会社は休職者に対して、会社が指定する医療機関での受診を命じることがある。
3)会社は、休職期間満了時までに休職事由が消滅したものと認めた場合は、原則として元の職務に復帰させる。ただし、元の職務に復帰させることが困難又は不適当な場合には、他の職務に就かせることがある。
4)第1項第1号により休職し、休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合は、休職期間の満了をもって退職とする。

3)解説

モデル就業規則には復職に関する定めがなく、復職の可否などをめぐって社員とトラブルになる恐れがあります。通常は、休職者から主治医の診断書を提出してもらい、復職の可否を判断しますが、うつ病などのメンタル疾患は、症状が一進一退を繰り返す場合もあって判断が難しくなりがちです。ですから、

社員が復職を希望する場合の手続の詳細を規定した上で、必要に応じて会社が指定する医療機関での受診を求めるなど、正確かつ慎重な判断ができるように規定

する必要があります。なお、出勤時間や業務時間中にはうつ症状が見られる一方で、私生活の面では健康であるといった、いわゆる「新型うつ病」の症状の社員が休職を求めてくることがあります。こうした社員の休職を容易に認めないよう、私生活においても療養を要する「傷病」に限定することが考えられます。

また、モデル就業規則には「休職期間中に休職事由が消滅したときは、原則として元の職務に復帰させる」とありますが、こちらも社員とトラブルにならないよう、

休職事由が消滅したかどうかは、会社が最終的に判断する旨を明記

しておくようにしましょう。

この他、記事では割愛していますが、

会社が医師から意見聴取を求める規定、私傷病休職の利用回数、休職期間の通算規定など

についても定めておくとよいでしょう。

5 「第11条(遵守事項)」:必要に応じて遵守事項を追記する

1)モデル就業規則

第11条(遵守事項)

労働者は、以下の事項を守らなければならない。

  • 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用しないこと。
  • 職務に関連して自己の利益を図り、又は他より不当に金品を借用し、若しくは贈与を受ける等不正な行為を行わないこと。
  • 勤務中は職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れないこと。
  • 会社の名誉や信用を損なう行為をしないこと。
  • 在職中及び退職後においても、業務上知り得た会社、取引先等の機密を漏洩しないこと。
  • 酒気を帯びて就業しないこと。
  • その他労働者としてふさわしくない行為をしないこと。

2)追記・修正案

第11条(遵守事項)

労働者は、以下の事項を守らなければならない。

1.許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用しないこと。

(中略)

8.パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント、その他のあらゆるハラスメントにより就業環境を害するようなことをしないこと。

9.他の者の業務を妨げないこと。

10.業務上の都合により、担当業務の変更又は他の部署への応援を命ぜられた場合は、正当な理由なく拒まないこと。

11.正当な理由なく無断欠勤及び遅刻、早退、私用外出等をしないこと。

12.会社の許可なく、会社の施設内において組合活動、政治活動、宗教活動など、業務に関係のない活動は行わないこと。

13.暴力団員や暴力団関係者その他反社会的勢力と関係を持たないこと

14.会社の許可なく、会社の施設内において集会、演説、貼り紙、文書配布、募金、署名活動など業務に関係のない行為を行わないこと。

15.会社の許可なく、会社の文書類又は物品を社外の者に交付、提示しないこと。

16.会社の許可なく、会社の施設内において、業務以外の目的で写真撮影、録音又は録画を行わないこと。

17.従業員間で金銭の貸し借りをしないこと。

18.その他、職場の風紀・秩序を乱す行為をしてはならないこと。

3)解説

モデル就業規則では、服務規律の一般的な遵守事項が7つ定められています。ただ、就業規則では、一般的に遵守事項に違反することを「懲戒事由」として定めるため、遵守事項を明確かつ具体的に定めておかないと懲戒処分を行うことが難しくなるという問題があります。ですから、

会社として「これをされたら困る」という行為がある場合、それを遵守事項に追記

する必要があります。

なお、追記・修正案の第8号では「ハラスメントの禁止」について記載しています。

労働施策推進法や男女雇用機会均等法、育児・介護休業法などにより、会社にハラスメント防止措置が義務付けられているため、具体的なハラスメントの種類も明記することで、社員に注意喚起を促す

という趣旨です。このあたりは就業規則の他、自社のハラスメント防止方針などと併せて、社員に周知徹底しておく必要があります。

また、追記・修正案の第13号では「反社条項」を記載しています。これを定めておくと、社員が反社会的勢力(暴力団など)と関わりを持っていたことが判明した場合に解雇しやすくなります。入社時に

反社会的勢力と関わりがないことを誓約させる誓約書

を取得することも考えられます。

6 「第32条(裁判員等のための休暇等)」:特別休暇は有給か無給かを明らかにする

1)モデル就業規則

第32条(裁判員等のための休暇等)

1)労働者が裁判員若しくは補充裁判員となった場合又は裁判員候補者となった場合には、次のとおり休暇を与える。

  • 裁判員又は補充裁判員となった場合

    必要な日数
  • 裁判員候補者となった場合

    必要な時間

2)労働者が国又は地方公共団体の議会の議員の選挙において候補者となった場合には、選挙運動の期間につき、選挙運動のために必要な日数の休暇を与える。

2)追記・修正案

第32条(裁判員等のための休暇等)

1)労働者が裁判員若しくは補充裁判員となった場合又は裁判員候補者となった場合には、次のとおり休暇を与える。

  • 裁判員又は補充裁判員となった場合
    必要な日数
  • 裁判員候補者となった場合
    必要な時間

2)労働者が国又は地方公共団体の議会の議員の選挙において候補者となった場合には、選挙運動の期間につき、選挙運動のために必要な日数の休暇を与える。

3)労働者は、前2項の休暇の請求に当たっては、呼出状、出頭証明書、届出書その他資料を添付して事前に申請する。

4)会社は、本条に定める休暇に対して、所定労働時間を労働した場合に支払われる通常の賃金を支払う。

5)会社は、本条における権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、休暇の取得時季を変更することがある。

3)解説

労働基準法では、

社員が労働時間中に、公民としての権利(選挙権など)を行使したり、公の職務を執行したりするために必要な時間を会社に請求した場合、拒んではならない

とされており、「裁判員等のための休暇等」はこのルールに対応するための休暇となります。年次有給休暇のような法定休暇(法律で定められた休暇)ではなく、特別休暇(会社が独自に就業規則で定める休暇)という位置付けになります。

モデル就業規則では、裁判員等のための休暇等の「賃金」についての定めがありません。

特別休暇を「有給とするか、無給とするか」は会社の自由ですが、明確に定めをしておかないと、社員とトラブルになりかねない

ので、追記・修正案の第4項では「有給」とする旨の定めをしています。有給としたのは、第1項の裁判員等の職務を遂行するための休暇に関して、法務省が有給とすることを推奨しているためです。なお、モデル就業規則では裁判員等のための休暇等の他にも、不妊治療休暇(第29条)、慶弔休暇(第30条)、病気休暇(第31条)といった特別休暇が定められていますが、いずれも賃金についての定めがありませんのでご注意ください。

この他、追記・修正案の第5項では、裁判員等のための休暇等の「取得時季の変更」について定めています。労働基準法上、公民としての権利(選挙権など)の行使や、公の職務を執行に必要な時間については、権利の行使や職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更できるとされているからです。

以上、モデル就業規則を例に、トラブルになりやすい条項を解説しました。なお、この記事で解説したのは一部の条項のみであり、修正案もあくまでも一例です。実務では専門家などに相談の上、会社の実情に合わせて個別に内容を検討してください。

以上(2026年3月更新)
(執筆 石原法律事務所 弁護士 磯田翔)

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画像:ESB Professional-shutterstock

【カスハラ対策セミナー開催レポート】130名以上が参加。弁護士による“寸劇あり”の「従業員を守るカスハラ対策」

1 参加者は130名以上、約90%が「満足」以上!

3月10日、「カスタマーハラスメント(カスハラ)対策」のオンラインセミナーを開催しました。2026年10月から、企業にはカスハラ防止措置を講じることが法律で義務付けられます。それに向けて日本ハラスメントカウンセラー協会顧問も務められる、東京エクセル法律事務所の坂東 利国先生を講師にお招きして開催しました。

結果は大盛況! 当日は130名以上の方々にご参加いただき、アンケートでは「とても満足」「満足」が約90%となりました(アンケート回答数78件)。下記でご紹介するアンケートは日本情報マートがZoomを活用してアンケートを取得したものです。

満足度

2 カスハラ対策セミナー第2弾への参加意向

参加意向

カスハラセミナー第2弾への参加意欲も高く、78%が参加したいと回答。残りは分からない、であり、いいえと回答した方はいませんでした!

3 カスハラ対策に関する参加者の取り組み状況

カスハラ対策の取り組み状況(単一回答)

1 情報収集を開始したばかり 31%
2 対策の検討・準備を進めている段階 28%
3 既に具体的な対策を実施している 23%
4 特に何も実施していない 15%
5 その他 3%
6 具体的に相談したいこと、困っていることがある 0%

参加者の企業内では、「情報収集をしたばかり」の他に「対策の検討・準備を進めている段階」「既に具体的な対策を実施している」も23%〜28%と割と多い印象です。第2弾で、マニュアル作成や業種別の対応例などより具体的な内容を企画してもいいかもしれません。

4 ハラスメント対策ができる従業員を育成するプログラムがあった場合の受講意欲

受講意欲

カスハラだけじゃなく、ハラスメント全体の対策としてそのプログラムを受けるとハラスメント対策を実行できるようになる「ハラスメント対応育成プログラム」を受けたい人は45%と半分くらいでした。

5 カスハラ対策セミナーの感想

参加者から寄せられた感想の一例です。「法律の話=難しい」という先入観を覆す坂東先生の、面白くてあっという間の寸劇講義スタイルで、参加者からは次のような感想がたくさん寄せられました。ありがとうございます! 一部をご紹介します。

  • 時間がすごく短く感じるくらい、集中して受講できる内容だった
  • 実例が豊富でわかりやすかった
  • 大変ためになりました。また、機会がありましたら受講させていただきます
  • ハラスメント委員会とは別にカスハラ対応をすることがベストという点でも納得
  • 各ハラスメントに該当する要件は知っているが、そこから一歩踏み込んだ部分(グレーゾーンなど)が聞けた
  • 短時間でありながらも、先生の説明(寸劇)、資料がよかった
  • 専門的(例:旅館・ホテル向け)な話だともっと良かったかなと思った
  • 1時間だけでは足りない、もったいないと感じましたので、第二弾など続きもあればぜひ参加したいです
  • やはり時間が足りなく少し駆け足になってしまったのが残念。もう少し各社で起きている事例が聞きたかった
  • 非常に実務的で、明日からの業務に活かせるヒントを多くいただけました。特に、カスハラ対応が単なるトラブル処理ではなく、企業の『安全配慮義務』に関わる重要事項であるという視点は目から鱗でした

6 そのほかのセミナーへの参加意欲

今後、カスハラ以外のテーマでもオンラインセミナーは企画・実施してまいります。下記のようなテーマを考えております。アンケートの最後で、参加したいセミナーを選んでいただきました。

今後のセミナー企画例と参加意欲(複数回答)

1 超強力!ハラスメントの番人を社内で育てる研修プログラム 41%
2 必見 求人費ゼロでも応募が止まらない、給料に頼らない採用戦略のすべて 37%
3 手を動かす生成AIセミナー!実際に使って、作って超体感! 34%
4 熱血会計士が教える「分かったつもり」を超える財務会計 29%
5 労基署が入った超ブラック企業の反撃!社員数3倍、売上4倍の舞台裏 28%
6 成長する社長が実践する現状を打破して成長を続けるマインドのつくり方 22%
7 日本で唯一の「渋沢栄一」学〜論語と算盤だけではない深い学び 18%
8 経営者とワイン雑学の切っても切れない関係 13%
9 給料振込はやめなさい!常識破りが正解の人事制度 13%
10 この中にはない 12%
11 ブログでポルシェを300台売った経営者が教える「会社のストーリーの見せ方」 12%
12 昼下がりのウェルビーイング 呼吸とストレッチでみんな健康! 12%
13 社長の知名度が上がるTikTokメディア「社長の名は」 映えなくても跳ねる理由とは? 4%

今回のセミナーを通じて、簡単ではないものの従業員と顧客のためにカスハラ対策は進めなければならないこと、誰でも理解できる客観的なルール(20分対応したら、何回対応したら、など)を決めるといった具体的な策を一つひとつ積み重ねていく必要があることなどが分かりました。

第2弾も企画してまいります! ご参加いただいた130名を超える皆さま、そして臨場感あふれる講義を届けてくださった坂東先生、本当にありがとうございました!

以上(2026年3月12日時点)

pj10095
画像:日本情報マート

【カスハラ対策セミナー開催レポート】130名以上が参加。弁護士による“寸劇あり”の「従業員を守るカスハラ対策」

1 参加者は130名以上、約90%が「満足」以上!

3月10日、「カスタマーハラスメント(カスハラ)対策」のオンラインセミナーを開催しました。2026年10月から、企業にはカスハラ防止措置を講じることが法律で義務付けられます。それに向けて日本ハラスメントカウンセラー協会顧問も務められる、東京エクセル法律事務所の坂東 利国先生を講師にお招きして開催しました。

結果は大盛況! 当日は130名以上の方々にご参加いただき、アンケートでは「とても満足」「満足」が約90%となりました(アンケート回答数78件)。下記でご紹介するアンケートは日本情報マートがZoomを活用してアンケートを取得したものです。

満足度

2 カスハラ対策セミナー第2弾への参加意向

参加意向

カスハラセミナー第2弾への参加意欲も高く、78%が参加したいと回答。残りは分からない、であり、いいえと回答した方はいませんでした!

3 カスハラ対策に関する参加者の取り組み状況

カスハラ対策の取り組み状況(単一回答)

1 情報収集を開始したばかり 31%
2 対策の検討・準備を進めている段階 28%
3 既に具体的な対策を実施している 23%
4 特に何も実施していない 15%
5 その他 3%
6 具体的に相談したいこと、困っていることがある 0%

参加者の企業内では、「情報収集をしたばかり」の他に「対策の検討・準備を進めている段階」「既に具体的な対策を実施している」も23%〜28%と割と多い印象です。第2弾で、マニュアル作成や業種別の対応例などより具体的な内容を企画してもいいかもしれません。

4 ハラスメント対策ができる従業員を育成するプログラムがあった場合の受講意欲

受講意欲

カスハラだけじゃなく、ハラスメント全体の対策としてそのプログラムを受けるとハラスメント対策を実行できるようになる「ハラスメント対応育成プログラム」を受けたい人は45%と半分くらいでした。

5 カスハラ対策セミナーの感想

参加者から寄せられた感想の一例です。「法律の話=難しい」という先入観を覆す坂東先生の、面白くてあっという間の寸劇講義スタイルで、参加者からは次のような感想がたくさん寄せられました。ありがとうございます! 一部をご紹介します。

  • 時間がすごく短く感じるくらい、集中して受講できる内容だった
  • 実例が豊富でわかりやすかった
  • 大変ためになりました。また、機会がありましたら受講させていただきます
  • ハラスメント委員会とは別にカスハラ対応をすることがベストという点でも納得
  • 各ハラスメントに該当する要件は知っているが、そこから一歩踏み込んだ部分(グレーゾーンなど)が聞けた
  • 短時間でありながらも、先生の説明(寸劇)、資料がよかった
  • 専門的(例:旅館・ホテル向け)な話だともっと良かったかなと思った
  • 1時間だけでは足りない、もったいないと感じましたので、第二弾など続きもあればぜひ参加したいです
  • やはり時間が足りなく少し駆け足になってしまったのが残念。もう少し各社で起きている事例が聞きたかった
  • 非常に実務的で、明日からの業務に活かせるヒントを多くいただけました。特に、カスハラ対応が単なるトラブル処理ではなく、企業の『安全配慮義務』に関わる重要事項であるという視点は目から鱗でした

6 そのほかのセミナーへの参加意欲

今後、カスハラ以外のテーマでもオンラインセミナーは企画・実施してまいります。下記のようなテーマを考えております。アンケートの最後で、参加したいセミナーを選んでいただきました。

今後のセミナー企画例と参加意欲(複数回答)

1 超強力!ハラスメントの番人を社内で育てる研修プログラム 41%
2 必見 求人費ゼロでも応募が止まらない、給料に頼らない採用戦略のすべて 37%
3 手を動かす生成AIセミナー!実際に使って、作って超体感! 34%
4 熱血会計士が教える「分かったつもり」を超える財務会計 29%
5 労基署が入った超ブラック企業の反撃!社員数3倍、売上4倍の舞台裏 28%
6 成長する社長が実践する現状を打破して成長を続けるマインドのつくり方 22%
7 日本で唯一の「渋沢栄一」学〜論語と算盤だけではない深い学び 18%
8 経営者とワイン雑学の切っても切れない関係 13%
9 給料振込はやめなさい!常識破りが正解の人事制度 13%
10 この中にはない 12%
11 ブログでポルシェを300台売った経営者が教える「会社のストーリーの見せ方」 12%
12 昼下がりのウェルビーイング 呼吸とストレッチでみんな健康! 12%
13 社長の知名度が上がるTikTokメディア「社長の名は」 映えなくても跳ねる理由とは? 4%

今回のセミナーを通じて、簡単ではないものの従業員と顧客のためにカスハラ対策は進めなければならないこと、誰でも理解できる客観的なルール(20分対応したら、何回対応したら、など)を決めるといった具体的な策を一つひとつ積み重ねていく必要があることなどが分かりました。

第2弾も企画してまいります! ご参加いただいた130名を超える皆さま、そして臨場感あふれる講義を届けてくださった坂東先生、本当にありがとうございました!

※今回のセミナーアーカイブ動画(下記URL)は期間限定で5月末までご覧いただけます。(画像をクリックしていただくと、YouTubeに遷移します)


以上(2026年3月12日時点)

pj10095
画像:日本情報マート

【中堅社員のスピーチ例】丁寧な引き継ぎが強い組織を作る

【ポイント】

  • 引き継ぎは「後任者の立場」になって行おう。自分にとって当たり前でも後任者は違う
  • 引き継ぎは「実演」してみせよう。担当者独自の進め方は、見せなければ伝わらない
  • 引き継ぎは「後任者以外」も巻き込もう。引き継ぎに抜け漏れがあってもカバーできる

皆さん、おはようございます。年度末のこの時期につきものなのが「業務の引き継ぎ」です。いくら忙しくても、こればかりは手を抜けません。一方で、文書やマニュアルまで用意をしていたのに、引き継ぎがうまくいかず、後になって苦労した経験がある人もいるのではないでしょうか。そこで今日は、業務を引き継ぐ側として、私なりに意識しているポイントを3つ話してみます。

1つ目は、「後任者の立場になって引き継ぐ」ことです。前任者にとっては当たり前になっている情報は、文書やマニュアルに落とし込まれないことが多いですが、その中には当然、後任者が知らない情報もあるはずです。たとえ定型的な業務であったとしても、業務の全体像や過去の経緯も含め、余すことなく伝えましょう。そうすれば、後任者は急なトラブルにも対処しやすくなるはずです。

2つ目は、「実演してみる」ことです。特に、長い期間同じ担当者がやっていた業務では、その担当者独自の進め方ができており、属人化しがちです。こうした場合、文書やマニュアルだけで後任者が前任者の進め方を再現するのは難しいため、実演をしながら伝えることが大切です。ただし、前任者の仕事の進め方に問題がある場合は、アップデートをしましょう。担当者が1人だと周囲から指摘を受けにくく、古い仕事の進め方などがいつまでもまかり通ってしまうケースがよくあります。

3つ目は、「後任者以外も巻き込む」ことです。前任者から後任者への引き継ぎにヌケモレがあると、何か問題が起きた際、「結局、どう対応するのが正しいの?」が分からなくなります。これを防ぐために、例えば、直属の上司も引き継ぎに参加してもらい、内容ややり取りを確認できるようにするとよいでしょう。こうすることで、前任者と後任者しかその業務について分からないという状況を防げます。

後任者が「迷わず、すぐ走り出せる状態」でバトンを渡す。この「引き継ぎの丁寧さ」が、組織としての本当の強さを作るのだと感じています。忙しいときこそ、資料やメモの残し方一つに「未来の担当者への思いやり」を込めて丁寧な引き継ぎを実現させましょう。私自身も、背中を見せられるような締めくくりをします。全員で、最高の状態で新年度を迎えましょう!

以上(2026年3月作成)

pj17245
画像:Mariko Mitsuda

【賃金データ集】諸手当のモデル支給額

【賃金データ集】シリーズとは?

【賃金データ集】シリーズは、基本給や諸手当など賃金の主要な構成要素ごとの近年のトレンドを、モデル支給額を中心とした関連データとともに紹介します。経営者や実務家の方々が賃金支給水準の決定や改定を行う際の参考としてご活用ください。なお、モデル支給額などのデータを紹介する際は、基本的に出所に記載されている用語を使用するものとします。また、データは公表後に修正されることがあります。

この記事で取り上げるのは雇用形態別の「諸手当」です。

雇用形態別の「諸手当」

なお、以降で紹介する図表データのExcelファイルは、全てこちらからダウンロードできます。

こちらからダウンロード

1 諸手当の位置付けと概要

1)諸手当の費用の位置付け

諸手当は、基本給ではカバーしきれない従業員の個別の事情(住居形態、家族の有無、担当職務など)を賃金支給額に反映する機能を果たしています。また、近年は人材採用難の対策としてユニークな手当を整備する企業が出てきています。

2)諸手当の概要

諸手当にはさまざまな種類がありますが、

  • 業績関連:従業員の業績達成に対する意欲を喚起するための手当
  • 職務関連:従業員が担当する業務に関連する手当
  • 勤務関連:従業員の通勤や勤務実績に関連する手当
  • 生活関連:従業員の生活を補助するための手当
  • その他:上記に分類されない手当

に大別することができます。

諸手当の位置付けと概要

2 諸手当の潮流

諸手当には、基本給ではカバーしきれない従業員の個別の事情を、賃金支給額に反映する機能があります。基本給そのものを改定せずに諸手当で調整するのは、「賃金管理が煩雑になるのを防ぐ」「基本給の引き上げに応じて、自動的に賞与(一時金)や退職金の算定基礎額が上昇するのを防ぐ」といった理由からです。

こうした事情は現在も大きく変わっていないものの、最近は手当を統廃合する動きが活発になっています。企業には、「業績に応じて賃金支給額を変動させたい」という思いがあるため、生活関連の手当のように、企業業績に関係のない属人的な手当を縮小・廃止するケースがあるのです。

ただし、職務関連の手当については、手当による調整ではなく、基本給に組み入れたり、賞与に上乗せしたりするケースがあります。これは、従業員の担当業務の難易度をきちんと評価し、処遇に反映する企業の姿勢を示すためです。

3 厚生労働省、中央労働委員会の統計資料によるモデル支給額

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4 東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

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5 情報インデックス(この記事で紹介したデータの出所)

この記事で紹介した統計資料は以下の通りです。調査内容は個別のURLからご確認ください。なお、内容はここ数年の公表実績に基づくものであり、調査年(度)によって異なることがあります。

■就労条件総合調査■
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/11-23.html

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■賃金事情等総合調査■
https://www.mhlw.go.jp/churoi/chingin/

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■中小企業の賃金・退職金事情■
http://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp/toukei/koyou/chingin/

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以上(2025年3月更新)

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画像:ChatGPT

損害賠償トラブル発生! そのとき経営者は何をすべきか?

1 なぜ、損害賠償の知識が経営者に必要なのか

事業を続けていると、

  • 納期が少し遅れた
  • 製品に不具合が出た
  • システムが止まった
  • 契約内容をめぐって認識が食い違った

など、様々な損害賠償トラブルに出くわすことがあります。どこか人ごとのようなイメージを持っている人もいるかもしれませんが、経営者にとって損害賠償の知識は不可欠です。

なぜなら、こうした出来事はどれも日常業務の延長線上にあり、ある日突然、「問題」として表面化するからです。そして、万が一、

第三者に損害を与えてしまった場合、たとえ意図していなくても、法的な責任を問われる
(場合によっては、まとまった金額の支払いを求められる)

恐れがあります。「知らなかった」 「悪気はなかった」は通用しません。また、基本的な仕組みを理解しないまま対応すると、本来払う必要のないお金まで支払ってしまったり、冷静に対処すれば小さく済んだはずのトラブルを、かえって大きくしてしまったりすることもあります。

もう一つ重要なのは、会社の信用力における意味合いです。法的リスクに対して一定の知識と対応力を持っている会社ほど、取引先からの信頼を得やすく、実際にトラブルが起きたとしても、早期に収束しやすい傾向にあります。損害賠償の知識を身に付けることが、会社の信用力を高めることにつながるわけです。

さらに、見落とされがちですが、

損害賠償は経営者個人にも波及するリスク

があります。会社が賠償金を支払っても、その原因が経営者本人の重大なミスや法令違反にある場合、会社は「立て替えた分を返してほしい」と経営者個人に請求することができます。ですが、会社がその請求をせず、「もういいよ」と回収を諦めてしまうと、税務当局から「それは経営者への給料と同じでは?」とみなされる恐れがあります。そうなると、会社側は経費にできず、経営者側には所得税がかかり、結果として、会社と個人の両方に税負担が生じかねません。

損害賠償の知識は、単にトラブル対応だけのものではありません。会社の資金繰りを守るため、そして、経営者自身の資産を守るための、実務的な経営スキルの一つでもあるのです。

2 【請求する側】取引上の損害を被ったときの実践ガイド

1)損害が発生した直後にやるべきこと

取引先のミスで自社に損害が出たら、誰でも怒りや不安に駆られるでしょう。ですが、まずは事実関係や損害状況を正確に把握し、記録として残すことが重要です。ポイントは、

  • 何が原因で
  • どのような損害が生じ
  • 結果として、いくらの損失になっているのか

です。この3点を整理するだけでも、その後の交渉や法的手続きが格段にやりやすくなります。写真、動画、メールのやり取り、作業ログ、会議の議事録などは、後から集めようとしても、「すでに失われてしまっていて手遅れ」となるケースが少なくありません。トラブルが起きた直後ほど、意識して証拠を確保しておく必要があります。

次に行うべきは、契約書や覚書の確認です。「損害賠償条項があるか」「賠償額の上限が定められているか」 「違約金規定があるか」など、書面の内容がそのまま交渉の土台になります。逆に、口約束や曖昧な合意に頼っていると、後になって「そんな話はしていない」と、水掛け論になるリスクが高まります。

2)交渉フェーズでの現実的な進め方

多くのケースで、最もコストがかからず早く終わるのは、「話し合いによる解決」です。いきなり裁判に持ち込まず、まずは正式な意思表示として内容証明郵便を送るのが定石です。

内容証明の書面には、

損害が発生した事実、賠償を求める意思、請求金額、支払期限など

を事実に即して淡々と記載します。感情的な表現や脅し文句は逆効果になるので避けましょう。

本人名義と弁護士名義の内容証明では効力に違いはありませんが、弁護士名義で送付すると、相手に「これは本気だな」というメッセージが伝わり相手方から反応が得やすく、交渉が円滑に進みやすい傾向にあります。もっとも、本人名義でも弁護士名義でも、相手方によっては受領拒否や無視される可能性もあります。

交渉の結果、一定の合意に至った場合は、必ず示談書 (合意書)を作成してください。口頭合意で済ませると、「そんな条件じゃなかった」と後から蒸し返されることがあります。示談書(合意書)には、

当事者、トラブルの内容、賠償金額、支払い方法と期限、これ以上請求しないこと(清算条項)などを

明記しておくのが安全です。

3)話し合いで解決しない場合の選択肢

交渉が決裂した場合、法的手続きを検討することになります。比較的ハードルが低いのは民事調停です。裁判官と調停委員が間に入り、話し合いによる解決を目指す手続きで、訴訟よりも時間と費用の負担が軽い傾向にあります。

それでも折り合いがつかなければ、最終手段は訴訟です。この場合、損害の発生と金額を客観的な証拠で立証する必要があります。

ここまでくると、弁護士の関与はほぼ必須です。証拠の整理や主張の組み立てを誤ると、「損は出ているのに負ける」という事態も現実に起こります。

3 【請求される側】損害賠償を求められたときの実践ガイド

1)通知書が届いた直後の初動対応

損害賠償の通知書が届くと、多くの経営者は焦ります。しかし、この段階での行動が、その後 の結果を大きく左右します。まず確認すべきなのは、

  • なぜ請求されているのか
  • いくら請求されているのか
  • その根拠は何か

の3点です。

内容を精査しないまま、慌てて支払ったり、全面的に謝罪したりするのは非常に危険です。謝罪の言葉が「責任を認めた証拠」として使われる恐れもあります。請求内容が正当なものかどうかを冷静に見極める前に、何かを確約してしまうのは避けるべきです。

2)請求内容の法的な妥当性をチェックする

法律上、損害賠償が認められるためには、いくつかの要件がそろっている必要があります。相手にミス(債務不履行や不法行為など)があるのか、そのミスと損害との間に因果関係があるのか、損害額は妥当な水準かです。これらの要件が欠けている場合、請求に応じる義務はありません。

また請求金額が不自然に高額な場合や、相手方の請求根拠が曖昧な場合や当方が認識している事実関係と相違している場合などには、そのまま受け入れる必要はありません。状況によっては、「そもそも支払う義務がないこと」を裁判所に確認してもらう手続き (債務不存在確認訴訟)を検討する場合もあります。

3)弁護士への早期相談が最大の防御策

損害賠償を請求された場合、交渉に入る前に弁護士に相談することが、結果的にコストを抑えられるケースは少なくありません。

経営者が一人で判断すると、相場より高い金額で合意してしまったり、交渉の進め方を誤って長期化させたり、泥沼化させてしまうことがあります。

弁護士が窓口に立つことで、法的に通らない主張は整理され、妥当なラインでの着地が見えやすくなります。また、最近では裁判所を装った詐欺的な請求も増えています。少しでも違和感を覚えたら、自己判断せず専門家に見てもらうのが安全です。

4 経営者が押さえておくべき税務の勘所

1)損害賠償金を受け取る側の場合

会社が損害賠償金を受け取る場合は、原則として収益になります。会計上は「雑収入」として処理され、法人税の課税対象になります。

個人事業主の場合でも、事業用資産の損害に対する補填であれば、事業所得として課税されます。ただし、ケガや精神的苦痛に対する慰謝料など、純粋な「心身の損害」に対する賠償金は非課税です。

なお、損害賠償金は、原則、消費税の対象外です。なぜなら、モノやサービスの対価ではないからです。ただし、実質的に売買代金や賃料の性質を持つものなどは、例外的に消費税がかかる場合もある点には注意しましょう。

2)損害賠償金を支払う側の場合

会社が損害賠償金を支払う場合は、その原因が業務に関連していれば、原則、損金(経費)になります。会計上は「雑損失」として処理されるのが一般的です。

ただし、経営者や従業員個人の重大なミスや不正が原因の場合は、会社にはその人に対して、支払った賠償金の返還を求める権利 (求償権)が生じます。そのため、会社の経費にはできず、本人に請求すべき立替金として処理する必要があります。

もし、その求償権の相手が経営者であった場合に会社がその権利を行使せず、立替金回収を免除してしまうと、税務当局からその金額が経営者へ役員報酬とみなされる恐れがあります。その場合、役員報酬とみなされた金額は損金として処理できません。さらに、経営者個人側には放棄された金額が所得とみなされ、所得税の課税対象になり、会社と個人で二重に課税されることになるリスクをはらんでいます。

5 トラブルを未然に防ぐために経営者ができること

損害賠償トラブルは起きてから対応するより、起きないように備える方が圧倒的にコストは安く済みます。

契約書の段階で、損害賠償の範囲や上限、違約金の有無を明確にしておくだけでも、将来の紛争リスクは大きく下がります。その他、取引先の信用調査を事前に行って、無理な条件での契約を避けることも重要です。

また、社内で「ヒヤリ・ハット事例」を記録し、小さなトラブルを放置しない体制をつくることで、大きな事故を未然に防げます。

法律の専門家である弁護士を顧問として迎えることも、有効な投資です。弁護士はトラブル解決役であると同時に、経営判断の相談役でもあります。

契約書のリーガルチェックや事前相談を習慣化することで、「何か起きたら考える会社」から「起きないように設計する会社」へと体質を変えていくことができます。

以上(2026年3月作成)
(監修 弁護士 田島直明)

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画像:Mono-Adobe Stock

2026年7月から、障害者雇用のルールはどう変わる?

1 障害者雇用は義務ではなくチャンス!

「障害者雇用は大切だけど、ウチには頼める仕事がないから無理・・・・・・」。こんなイメージがある障害者雇用ですが、状況は変わってきました。その背景には、

  • 職業能力の開発次第で障害者は十分な戦力になることを体感する会社が増えてきた
  • 働き方のルールが柔軟になる中で障害者の活躍フィールドが広がってきた
  • 障害者に特化した採用支援サービスが充実し、障害者と出会える機会が増えた

などの変化があり、会社で働く障害者の数もこの10年間で1.5倍以上に増えています。

会社における障害者の雇用状況

障害者雇用は、人材採用と社会貢献という2つの課題を同時に解決できる可能性を位めています。以降では、障害者雇用を検討するための第一歩として、障害者雇用促進法とその関係法令に定められている、

  • 会社が雇用する障害者の数を決める「障害者雇用率制度」 (2026年7月から変更あり)
  • 不当な差別を防ぐ「障害者差別の禁止や合理的配慮の提供義務」

について説明します。

2 「障害者雇用率制度」とは?

1)社員が40人以上(2026年7月からは37.5人以上)になると障害者の雇用義務が発生

障害者雇用率制度とは、

常時雇用する社員数が一定数以上の会社は、社員数に一定の割合 (障害者雇用率(法定雇用率))を掛けた人数以上の障害者を雇用しなければならない

という制度です。「常時雇用する社員」とは、

  • 1週間の所定労働時間が原則20時間以上(例外あり)
  • 1年を超えて雇用される見込みがある、または1年を超えて雇用されている

の両方を満たす社員です。常時雇用する社員は、正社員については1人当たり「1人」、バートタイマー等の短時間社員については1人当たり 「0.5人」とカウントします。

現在、社員が40人以上の会社 (民間企業)には、社員数の2.5%に相当する人数以上の障害者を常時雇用する義務が課せられています。2026年7月からは、社員が37.5人以上の会社に対し、社員数の2.7%に相当する人数以上の障害者を常時雇用する義務が課せられることになります。

障害者雇用率制度のルール

会社が雇用しなければならない障害者の数は、

常時雇用する社員数× 障害者雇用率(法定雇用率) で計算 (小数点以下の端数が発生する場合、切り捨て)

で計算します。

例えば、常時雇用する社員数が40人の会社であれば、

【2026年6月まで】 40人×2.5% (障害者雇用率)=1人以上

【2026年7月から】 40人×2.7%(障害者雇用率)=1人以上

の障害者を常時雇用する義務が発生します。

常時雇用する社員数が75人の会社であれば、

【2026年6月まで】 75人×2.5%(障害者雇用率)=1人以上

【2026年7月から】 75人×2.7%(障害者雇用率)=2人以上

の障害者を常時雇用する義務が発生します。

また、常時雇用する社員数が40人以上 (2026年7月からは37.5人以上)の会社は、毎年6月1日時点での障害者の雇用状況を所轄ハローワークに報告する義務があります。実雇用率が法定雇用率を下回っている場合は、

ハローワークから行政指導 (障害者の雇入れ計画の作成命令、実施勧告、特別指導)が入り、指導に従わない場合、厚生労働省ウェブサイトで「会社名を公表」される

可能性がありますので注意が必要です。

2)一部の業種に適用される「除外率制度」とは?

どの会社も基本的には、1)のルールに基づき自社が雇用すべき障害者の人数を算定しますが、業種によっては、法令上、一般的に障害者の就業が困難なため、1)のルールをそのまま適用することになじまないとされているものがあります。こうした業種については「除外率制度」、すなわち、

「常時雇用する社員数」を計算する際、業種ごとに設定される「除外率」に相当する社員数を、算定対象から控除できる制度

が適用されます。

例えば、建設業は一般的に障害者の就業が困難とされる業種で、除外率が「10%」に設定されています。仮に常時雇用する社員を200人とした場合、

200人×10%(除外率)=20人(小数点以下の端数が発生する場合、切り捨て)

を算定対象から控除できます。

したがって、通常の会社と建設業を営む会社とでは、雇用すべき障害者の人数が次のように変わってくることになります(障害者雇用率が2.7%の場合)。

  • 通常の会社:200人×2.7%(障害者雇用率)=5人以上
  • 建設業を営む会社: (200人 20人) ×2.7%(障害者雇用率)=4人以上

(注)小数点以下の端数が発生する場合、切り捨て

業種ごとの除外率は次の通りです。ただし、障害者雇用を促進する観点から、この除外率制度は、段階的に廃止が進められています。

業種ごとの除外率

3)障害者の人数は何人としてカウントする?

障害者雇用率制度の対象となる障害者(常時雇用する社員)は、

  • 身体障害者:原則、身体障害者手帳の1~6級に該当する人
  • 知的障害者:知的障害者判定機関により知的障害があると判定された人
  • 精神障害者:精神障害者保健福祉手帳を所持する人

のいずれかです。そして、障害の内容や週の所定労働時間によって、「何人としてカウントするか」が決まります。

障害者1人を何人としてカウントするか

4)「障害者雇用納付金制度」も併せて活用!

「障害者雇用納付金制度」とは、

  • 常時雇用する社員数が100人超の会社: 実率が法定雇用率を下回ると「納付金」を納めるが、法定雇用率を上回ると「調整金」がもらえる
  • 常時雇用する社員数が100人以下の会社: 常時雇用する障害者が一定数を超えると「報奨金」がもらえる(「納付金」の支払いはない)

という制度です。具体的には次の通りです。

障害者雇用納付金制度

「高齢・障害・求職者雇用支援機構」が管轄しており、会社からの申告・申請に基づいて、納付・支給が行われます。

この他、フリーランスで在宅勤務の障害者などに仕事を発注するともらえる「在宅就業者特例調整金」「在宅就業者特例報奨金」などもあります。詳細はこちらをご確認ください。

高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者雇用納付金制度の概要」
https://www.jeed.go.jp/disability/about_levy_grant_system.html

3 「障害者差別の禁止や合理的配慮の提供義務」とは

1)障害者差別の禁止

募集・採用、賃金、配置、昇進などの雇用に関するあらゆる局面で、

  • 障害者であることを理由に障害者を排除すること
  • 障害者に対してのみ不利な条件を設けること
  • 障害のない人を優先すること

など、「障害者だから」という理由だけで差別することは禁止されています。

障害者差別の具体例は次の通りです。

障害者差別の具体例

2)合理的配慮の提供義務

会社は障害の特性などに応じて、障害者が働く上で必要な配慮(合理的配慮)をしなければなりません。主に、

  • 募集・採用において、障害者にもそうでない人にも均等に機会を与える
  • 採用後、障害者が働く上で支障となる問題を改善し、能力を発揮しやすくする

という観点から配慮が求められます。ただし、会社にとって過重な負担を強いる配慮(職場内に階段昇降機やエレベーターを取り付けるなど)まで求められるものではありません。「今の会社が提供できる最大限の配慮をする」といったイメージです。

合理的配慮の提供義務の具体例

障害者の状態や職場の状況などによって求められる合理的配慮の内容は異なります。そのため、具体的にどのような対応を取るかについては、会社と障害者とでよく話し合って決定する必要があります。

3)苦情処理・紛争解決援助

会社は、前述した「障害者差別の禁止」 「合理的配慮의提供義務」について、障害者から苦情を受けたときは、自主的に解決する努力をしなければなりません。

もし、自主的な解決が難しい場合、

都道府県労働局長による助言・指導・勧告や調停制度の対象

となります。調停制度では、都道府県労働局に設けられた障害者雇用調停会議にて問題の解決を図ります。

以上(2026年3月更新)
(監修 のぞみ総合法律事務所 弁護士 曽田駿希)

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