ルール違反ではないが態度が悪い社員のマネジメント

1 社員のための取り組みがかえってマイナスに……?

デジタル技術の進歩による市場環境の変化、少子高齢化に伴う労働力不足など、日本国内のビジネス環境は大きく変わってきています。そして、多くの経営者が「このままではマズい。社員がもっと力を発揮できる会社にしなければ」と、働き方改革などに取り組んできました。

テレワークやフレックスタイム制で働く場所・時間を柔軟にし、若手にチャンスを与えるために仕事の権限を委譲し、なるべく本音で話せるようコミュニケーションにも気を配る……。ところが残念なことに、そんな経営者の苦労も知らず、むしろこうした取り組みをきっかけに態度が悪くなる社員が時折出てきます。例えば、次のような社員です。

  • 働き方が自由になったら、勤務態度までルーズに。服装もマナーも悪化している
  • テレワークに慣れ、周囲に無関心に。他の人の仕事は手伝わない。挨拶もしない
  • 権限委譲した途端、自分勝手に。誰にも相談せずに仕事を進めてトラブルを起こす
  • 上司は優しくて当たり前だと勘違い。少しでも注意されると機嫌が悪くなる
  • 今以上の働きやすさをさらに会社に要求。要求が聞き入れられないとやる気を失う

経営者としては、働きやすい環境を整えた以上、社員にもそれに見合う働きをしてほしいところです。しかし実際には、その優しさに甘えるだけで期待に応えてくれない社員もいるのが現実です。就業規則の懲戒事由(無断欠勤・命令違反など)に当たる行動があれば懲戒処分も選択肢になりますが、「態度が悪い」というだけでは、それも難しいのが実情です。

腹が立つことこの上ないですが、もしかしたら社員が生意気になった原因は、経営者が

「何を実施するか」にとらわれ、「なぜ実施するか」をおざなりにしてしまったこと

にあるかもしれません。「なぜ働き方改革に取り組むのか」「社員に何を期待しているのか」といった経営者の思いを十分に伝えないまま、取り組みだけが先行してしまった結果、社員は会社の施策を表面的にしか捉えられなくなります。いわば「仏作って魂入れず」の状態です。

この状況を打開するには、今一度、経営者の思いを社員にきちんと届ける必要があります。以降では、働き方改革などをきっかけに態度が悪くなってしまった社員への、効果的な思いの伝え方をご紹介します。

2 社員が生意気になるパターンは2つある

対処法をお伝えする前に、まず押さえておいてほしいことがあります。社員が態度を悪化させるパターンには、大きく次の2つがあるという点です。

【パターン1:「線引きの誤解」タイプ】

本人なりに働き方改革などに適応しようとしているが、「ここまでなら許される」という線引きが間違っていて、結果として生意気に見えてしまっているタイプです。

【パターン2:「性格の顕在化」タイプ】

働き方改革など環境の変化を機に、隠れていた性格などが顕在化して、本当に生意気になってしまっているタイプです。

この違いを「働き方が自由になったら、勤務態度までルーズに。服装もマナーも悪化している」というケースで考えてみましょう。

1)パターン1:「線引きの誤解」タイプ

パターン1の社員の場合、服装やマナーが悪化しているのは、「ここまでならフランクにいっても大丈夫だろう」という線引きが誤っているだけの可能性があります。もともと働き方改革などに適応しようという気はあるので、「自分は間違っていたんだ」と気付けば考えを改めてくれることが期待できます。ですから、経営者が考えるべきは、

パターン1の社員に焦点を当てて、働き方改革などに関する自身の思いを積極的に発信すること

です(こちらは第3章で具体的な方法を紹介します)。

2)パターン2:「性格の顕在化」タイプ

パターン2の社員の場合、働き方の自由化や上司の監視が緩まったことで、もともと持っていた自分勝手な性格や怠惰な面が顕在化してしまった可能性があります。誰しも多少はそういった部分を持っているものですが、根本的な性格はそう簡単には変えられません。

ただし、「最初から諦める」のは早計です。まずはパターン1と同様に思いをしっかり伝え、行動基準(第4章で後述するジョブディスクリプションなど)を明示した上で改善を求める指導を行いましょう(なお、指導の内容は必ず記録に残すことがポイントです)。

それでも改善が見られない場合は、「最悪、分かり合えなくても仕方がない」とある程度割り切りながら、仕事に支障が出ない環境を整えること(上司の目の届くオフィスで業務させるなど)や、配置転換・業務範囲の見直しなども選択肢として検討しましょう。

3 大きなメッセージと小さなつぶやきを組み合わせる

経営者が自身の思いを社員に伝えようとするとき、まず思い浮かぶのは「朝礼」でしょう。社員が一堂に会するタイミングで、例えば次のようなメッセージを届けるイメージです。

「これまで働き方改革のため、さまざまな取り組みを実施してきました。ただ、それは『皆さんを甘やかすため』ではなく、『皆さんがもっと力を発揮できるようにするため』です。皆さんは今、本当に力を発揮できているといえますか? 会社が働きやすさを提供する代わりに、皆さんは何をしてくれますか?」

こうした問いかけをするだけでも、多くの社員は一旦、自分の言動を振り返ろうとするでしょう。ただ、このような「大きなメッセージ」はその場では心に響いても、時間がたつにつれて印象が薄れていくものです。

そこでお勧めしたいのが、全体への発信と並行して行う「小さなつぶやき」の活用です。具体的には、

社員全員が閲覧できるSNSに「社長チャンネル」などを設け、経営者がうれしかったこと・疑問に感じたことなどを日々こまめにつぶやく

というアプローチです。例えば、

  • 「クライアントを訪問した際、受付の方の対応がとても心地よかった。やっぱり笑顔って大事!」
  • 「プライベートは大事! でも、仮に3人で20分残業すれば終わる業務を、1人でやろうとしている人がいたら、自然とその人に手を差し伸べられる社員が私の理想です」

といった、日々の業務に関連した等身大のつぶやきは、社員も情景を思い浮かべやすく、納得感が生まれやすいものです。

ただし、全体への発信は効果的ですが、問題が見られる社員が「自分のことだ」と気づかないケースも少なくありません。態度の悪化が顕著な社員とは、個別に1on1の面談を設定し、具体的な行動の事実をもとに「こういう場面でこう感じた」「こう動いてほしい」と直接伝えることが重要です。抽象的な「態度が悪い」という指摘では伝わりにくいため、事実ベースで丁寧に話すよう心がけましょう。

4 職務記述書(ジョブディスクリプション)も活用する

職務記述書(ジョブディスクリプション)とは、

社員が担当する業務内容・その難易度・必要なスキルなど、職務内容をまとめた書類

のことです。専門職採用や中途採用の場面でよく使われますが、すでに在籍している社員の職務内容が配置転換や雇用形態の変更などで変わった際にも活用できます。

職務記述書は、あらかじめ特定の職務をこなせる人材を採用する「ジョブ型雇用」の考え方に基づいており、

職務記述書に記載された職務をこなせることが、社員としての最低条件

になります。このことを社員に丁寧に説明した上で、「経営者が社員に何を期待しているのか」をジョブディスクリプションに明文化すると、社員を経営者の理想とする方向へ自然と引っ張ることができます。

ただし、職務記述書は「経営者が一方的に作成して渡す」だけでは、社員の反発を招くことがあります。作成後は必ず社員本人と内容を確認する場を設け、

双方が合意した上で運用を開始する

ことが大切です。話し合いのプロセスを経ることで、社員に納得感が生まれ、行動変容につながりやすくなります。

具体的には職務記述書に「期待される特性」などの欄を設けることが考えられます。次の職務記述書は、アプリ開発を行う会社がシステムエンジニアを募集する場合の例です。

職務記述書:システムエンジニア

以上(2026年5月更新)

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画像: metamorworks-shutterstock

経営のヒントとなる言葉(黒田官兵衛)

「意見ではなく異見せよ」(*)

出所:「日経おとなのOFF(134)」(日経BP社)

冒頭の言葉は、

「トップは、たとえ自身の考えと異なる意見であってもそれに耳を傾け、常に客観的に自身を把握しなくてはならない」

ということを表しています。

官兵衛の生家である黒田家は、播磨国の大名・小寺家の家老でした。しかし、後に織田信長が畿内に勢力を伸ばしてくると、官兵衛はその将来性を確信し、信長に仕えるようになります。そこで豊臣秀吉と出会った官兵衛は、秀吉の参謀的な存在となり活躍します。

やがて、本能寺の変によって信長が明智光秀に討たれると、官兵衛は、秀吉に「信長の仇を討つことで織田政権の後継者となり、天下統一を果たす」ことを進言するなど、秀吉の天下取りを支えました。

官兵衛は知将として知られ、秀吉が天下統一を実現できたことも官兵衛の存在によるところが大きかったと言われていました。このことは、官兵衛も自覚しており、自身の知謀を誇ったこともありました。しかし、あるとき中国地方の武将・小早川隆景から、官兵衛は鋭い頭脳を持つが故、独善的な決断を下してしまう恐れがあると忠告されたのです。

これ以降、官兵衛は周囲の意見に耳を傾けるよう努めたといわれます。周囲の意見に耳を傾け、独善的にならず、多面的な視点から問題を捉えることができたからこそ、官兵衛は軍師として、多数の家臣を率いる武将として、後世に名を残すことができたのでしょう。

周囲の意見に耳を傾ける姿勢は、官兵衛の息子である黒田長政にも受け継がれています。長政は、秀吉の没後、徳川家康と石田三成が衝突した関ヶ原の合戦において、家康が率いる東軍の武将として参戦し、活躍しました。合戦での功績が大きく評価された長政は、家康から筑前国(現福岡県)を与えられて福岡藩初代藩主となります。

藩主となった長政は、さまざまな身分の家臣を城内に集めて意見交換をする「異見会(いけんかい)」を開催しました。異見会では、「身分の上下に関係なく誰もが平等に意見を述べることができる」「出席者は遠慮なく意見を述べなくてはならない」「摩擦を恐れて上役の意見に追従する者は二度と異見会に出席させない」などの決まりがあり、活発に意見が述べられたと伝えられています。

明確な身分制度が存在し、武将の大半は強い威厳をもって家臣を従わせていた時代にあって、官兵衛や長政はあくまでも上下一体となった家中の融和を心掛けました。こうした二人の姿勢は、官兵衛が子孫に訓戒として残している、次の言葉からも窺い知ることができます。

「大将たる人は、威厳というものがなくては、万人を押さえることができぬ。さりながら、悪く心得て、威張ってみせ、下を押さえ込もうとするのは、かえって大きな害である」(**)

家臣を率いる武将にとって、もちろん威厳は必要です。しかし、力ずくで押さえつけると家臣は畏縮し、自身の意見を言わなくなっていきます。

企業においても、社員はトップである経営者に対しては、遠慮したり気を使ったりして意見を言いにくいものです。経営者が社員の意見に耳を傾けずに独断で物事を決めてしまうと、社員はなおさら意見を言わなくなるでしょう。

経営者の役割とは、社員を一つにまとめて経営に当たることです。そのためには、自身の地位におごることなく、謙虚な姿勢で社員のさまざまな意見を尊重することが大事なのです。

【本文脚注】

本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を担保するものではありません。また、本文中では内容に即した肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思われるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。

【経歴】

黒田官兵衛(1546~1604)。播磨国姫路(現兵庫県姫路市)生まれ。豊臣秀吉の参謀。黒田家初代当主。黒田長政の父。

黒田長政(1568~1623)。豊前国中津(現大分県中津市)生まれ。黒田家2代目当主。福岡藩初代藩主。

【参考文献】

(*)「日経おとなのOFF(134)」(日経BP社、2012年4月)
「図説 黒田官兵衛伝」(加来耕三、河出書房新社、2013年11月)

以上(2026年5月更新)

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画像:日本情報マート

【中級者向け】決算書から読み解く 自社の危険信号

1 決算書などが示す危険信号を見逃さない

経営を取り巻く環境が急速に変化する昨今では、ともすれば事業が停滞し足元の資金繰りが苦しくなることもあります。そのようなときは、「とにかく行動する」ことも一つの正解ですが、判断のよりどころとして、きちっと自社の状態を分析したいものです。

そうした意味で、皆さんの会社の状態はどうでしょうか。この記事では、

決算書や月次試算表から読み解くことができる危険信号

を専門家が解説しますので、皆さんの会社の状態を確認し、必要に応じた対策を講じてください。

なお、この記事の対象は、会計監査人の設置義務がない(直近の期末時点で資本金5億円未満かつ負債総額200億円未満の会社)中小企業です。中小企業の会計に関する指針の適用対象外とされる「1.金融商品取引法の適用を受ける会社並びにその子会社及び関連会社」「2.会計監査人を設置する会社及びその子会社」を前提としていないことをあらかじめご了承ください。

2 自社の危険信号をつかむ6つのポイント

早速、自社の危険信号を確認するポイントを具体的にみていきましょう。決算書(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書)は過去3期分を準備して動きを把握し、月次試算表も直近から1~2年程度を確認することで、正確な判断ができます。

1)売上と仕入のタイミング:損益計算書とキャッシュフロー計算書

黒字倒産は、損益計算書(以下「PL」)では売上が増加していても、それに見合うキャッシュの回収が遅れ、売上に対する仕入支出も併せて増加することで残高がショートすることです。収入と支出のタイミング、金額(原価率)は資金計画表などを用いて丁寧に追う必要があります。収入と支出のタイミングを確認する指標に、売上債権回転期間と仕入債務回転期間があります。下記計算式では、売上債権回転日数と仕入債務回転日数について説明します。

  • 売上債権回転日数=期末売上債権÷(年間売上高÷365日)…【売】
  • 仕入債務回転日数=期末仕入債務÷(年間仕入高÷365日)…【仕】

過去と現在の【売】と【仕】の変化および原価率を確認し、次のいずれかのケースに該当する場合は、未来の残高について丁寧に確認しましょう。

  • 【売】の短期化以上に【仕】の短期化が進んだ
  • 【売】の長期化より【仕】の長期化が進まなかった
  • 【売】と【仕】の変化に差はなかったが、原価率が上がった

また、収入が支出よりも先にくる企業は、キャッシュが先に厚くなります。そのため、売上が伸びているときは、キャッシュフロー計算書(以下「CF」)の営業キャッシュフローが大きくプラスになります。一方、業績の悪化などで急激に赤字に落ち込む場合、逆に営業キャッシュフローが大きく赤字になりやすく、収入後に適切にキャッシュを厚くしておかないと、支出時にショートしてしまう恐れがあるので要注意です。PLとキャッシュフローは異なるため、原価率だけで考えるのは非常に危険です。

なお、急激に赤字となった場合のPLとキャッシュフローの関係性(例)は次のようになります。

急激に赤字となった場合のPLとキャッシュフローの関係性

2)減収時の固定費:PLと月次試算表

売上の多い少ないにかかわらず常に発生する費用が固定費であり、主なものに正社員の給与や地代家賃などがあります。売上に対する固定費比率は売上減少時に高まり、資金繰りを圧迫します。地代オーナーに対する減免や繰り延べ交渉をはじめ、家賃に関する補助金や雇用に関する助成金等の利用も含めて、総合的に賄えているのかを丁寧に確認する必要があります。助成金関連は給付申請や入金タイミングがイレギュラーのため、月次試算表に反映して判断することが難しいケースが多いと考えられますが、会計入力とは別で試算して把握することが大切です。

3)純資産の部:貸借対照表(以下「BS」)

将来の営業収支と併せて、純資産の部の数字は資金調達においてとても重要です。債務超過(純資産の部がマイナスになること)になってしまうと、融資条件が極端に悪くなるばかりか、既存の借り入れの契約条項にも抵触する恐れがあります。

また、税務会計(税金を正しく計算することを目的とした会計)の上ではプラスでも、財務会計(企業の財政状態と経営成績を利害関係者に報告することを目的とした会計)に引き直すと、固定資産や有価証券の減損評価(著しく価値が減少した資産について時価で計上し、一度に多額の損失を計上すること)によって、マイナスになることもあるため注意が必要です。

ここで検討すべき手段の一つとして、政府系金融機関が用意している資本性劣後ローン(メザニンローン)があります。通常の融資評価上では、負債ではなく純資産とみなされるため、利用することで純資産の部の改善が図れます。

4)製造から入金までの期間:BSとPL

キャッシュ・コンバージョン・サイクル(以下「CCC」:サービス開始日や製造日から、出荷日・入金日までの期間)が長い場合は、資金繰りへの影響が大きいので優先的に考える必要があります。特に、自然災害などで製造が一時的に停止するような場合、工場の再稼働から入金までの期間がもともと長いことと併せて、入金が本来見込んでいるスケジュールよりも遅延することが考えられます。CCCが普段よりも長期化していないかは丁寧に確認するべきでしょう。

なお、CCCは以下の算式で計算されます。

CCC=売上債権回転日数+棚卸資産回転日数-仕入債務回転日数

  • 売上債権回転日数:商品やサービスの販売から、入金があるまでの日数
  • 棚卸資産回転日数:仕入れた商品を販売するまでの日数
    ※計算式は棚卸資産回転日数=期末棚卸資産÷(年間売上原価÷365)です。
  • 仕入債務回転日数:商品の仕入から、代金を支払うまでの日数

5)固定資産・減価償却費:BSとPL

ビジネスにおいて用いる固定資産の割合が大きい会社(例:不動産業や製造業など)は、固定資産の増減の詳細を踏まえ、再投資の必要性や、投資支出から回収までの期間の見積もりを細かく検討する必要があります。

また、減損評価や過去に支出した投資の費用化である減価償却費は、費用計上時に支出が伴いませんが、純資産がマイナスとなるため注意が必要です。固定資産の中に急激に価値が下がりそうなものはないか、さらに、工場の建設など巨額の投資をした後の減価償却費の金額の推移には留意しておきましょう。

6)未払税金・未払社会保険:BS

自然災害などの影響で、過去に無利子の納税猶予を受けた会社もあると思います。特に社会保険については、従業員から預かった分の納付を猶予することで負債は増えるものの、キャッシュフローを一時的に改善した会社もあるでしょう。

ただし、未払をやみくもに延長することは、融資条件を悪化させる影響もあり得るため得策ではないと思います。可能な限り資金を工面して、税金の未払を早い段階で解消すべきです。

3 経営者が決算書を読む際に重要な2つの視点

以上、注意したい6つのポイントを紹介しました。さらに理解を深める上で重要な視点を2つ説明します。

1)未来のキャッシュについて

企業の存在意義は、経営理念や社是・社訓、ミッション・ビジョン・バリューなど、さまざまな形でその意義と具体的な方針が設計されていると思います。目指すべき方向性は千差万別ですが、キャッシュが途切れたら事業は継続できません。キャッシュは次の2つの視点で考えましょう。

1.キャッシュを不足させない

企業の血液とも呼べるキャッシュが尽きることは、事業活動を継続できないことを意味します。それは、たとえ決算が黒字でも、キャッシュが支払えずに倒産してしまうケース(黒字倒産)があるので、正しい資金調達手段を適切なタイミングで実行することが必要です。

2.未来の支出よりも、未来の収入のほうが大きいかどうか

黒字倒産の裏を返せば、赤字決算が続いても、キャッシュが尽きなければ事業活動を継続できます。ただ、未来に稼ぐと考えられる収入よりも支出が明らかに多いと判断される場合は、企業の価値が今より減衰していきます。株主の立場では、企業価値が減衰した時点で企業運営を終了させることが合理的といえます。もちろん現実的には、ステークホルダーである取引先や従業員、その家族の生活保障であったり、企業が生み出してきた価値の継承であったりと、考えなければならない事項が多くあることを忘れてはいけません。

2)決算書や試算表の作成根拠について

決算書は、企業活動を映し出した一覧表です。この決算書に記載された会計のルールは実は単一ではなく、企業によって異なります。このため、自社の決算書における会計が、どのようなルールで作成されているかを適切に把握しないと、誤った判断をしてしまう恐れがあります。

決算書で考える基本的な会計は、上記2-3)純資産の部で前述した通り、税務会計と財務会計の2種類です。大企業ではこれらを明確に分離して、それぞれの決算を組まなければなりません。中小企業では税務会計を基本とし、必要に応じて一部に財務会計を適用するような形式が取られています。そこで、自社の会計がどのようなルールで作成されているかを判断するために、「『中小企業の会計に関する指針』の適用に関するチェックリスト」が決算書の中にあればこちらを確認するとともに、顧問税理士にも確かめて現況を把握しましょう。

税務会計と財務会計で差が生じるものには、固定資産の減損、ソフトウエアの処理、引当金(資産除去債務)の計上、税効果会計の適用などが挙げられます。自社の会計が税務会計を基準としている場合、財務会計に照らすとこれらがどのように変わり得るのかを意識できると、より良い判断ができます。

また、附属明細書が作成されているかも確認しましょう。例えば、固定資産を確認する際は、附属明細書の固定資産増減明細が必要になります。もし作成されていない場合は、固定資産台帳で増減の総括を確認しましょう。

月次試算表については、決算書とは異なり決算整理仕訳が簡便になっているケースがほとんどです。売上原価の算出や減価償却費、未収未払は月次で入力されていないケースもあるので、月次試算表の締めがどの辺りまでされているかを顧問税理士に確認しましょう。

以上(2026年6月更新)
(執筆 KOSOパートナーズ合同会社 代表社員CEO 公認会計士 朝倉厳太郎)

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画像:Fariz Alikishibayov-shutterstock

【熱中症対策】今年は早めの「暑熱順化」がオススメ!詳しい方法を解説します

1 6月の熱中症が増加中!? 早めの「暑熱順化」に取り組んでみませんか?

2025年に熱中症で救急搬送された人数は10万510人(消防庁「令和7年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況」)にのぼりました。2026年も引き続き、注意が必要です。

熱中症のピークは7月下旬から8月上旬ごろですが、2025年6月単月で見ても、搬送者数が1万7229人と、前年(2024年)の7275人から1万人近くも増加しています。熱中症対策をはじめる時期も、年々早まっているといえます。

一般的に、体が暑さに慣れるには数日から2週間程度が必要とされています(個人差あり)。そのため、暑くなってから急に水分・塩分の補給をするだけでは、対策として十分ではありません。

そこで、この記事でご提案するのが、

暑熱順化

です。暑熱順化とは、時間をかけながら暑さへの耐性を身に付けていくアプローチで、厚生労働省や環境省も推奨しています。具体的にはジョギングやウォーキングなどによって汗をかき、体を暑さに慣れさせていく、というものです。ぜひ今年から、夏の熱中症対策として取り入れてみてください。

暑熱順化のスタートは、本格的に暑くなるより少し前からが最適です。早速、ポイントを確認していきましょう!

2 なぜ、暑熱順化が熱中症予防になるのか?

熱中症を引き起こす要素は、図表1のように、環境・体・行動の3つに分類されます。

熱中症を引き起こす主な3要素

暑熱順化の仕組みを理解するにあたり特に注目したいのは、

「体」に分類される「暑さに慣れていない」状態

です。

体温が上がると、ヒトの体は

  • 皮膚への血流を増やして体の表面から熱を逃がす(熱放散)
  • 汗が蒸発することで熱を逃がす(気化熱)

ことによって体温を調節します。

しかし、体が暑さに慣れていない状態で気温が上昇すると、この体温調節がうまくできず、結果的に熱中症につながることがあります。具体的には、

  • 暑熱順化ができていないせいで、熱放散が機能しにくくなる
  • 汗をたくさんかくため気化熱による体温調節は機能するが、今度は水分・塩分が多く失われ、血液の流れが悪くなる
  • その結果、体内に熱が急速にたまり、熱中症になってしまう

という構造になっています。

暑熱順化による体の変化

一方で、早いうちから暑熱順化に取り組んでいると、皮膚の血流量が増加しやすくなり、汗に含まれる塩分量も減るので、血液の流れが悪くなるリスクを低減できます。つまり、

暑熱順化を行うと、夏本番を迎えて気温が上昇しても、熱を逃がしやすくなり、体温調節がうまく機能する

のです。

3 暑熱順化のポイントと具体的な方法

1)暑熱順化のポイント3つ

暑熱順化のポイントは、次の3つです。

  • 本格的に暑くなりそうな時期の2週間前から始める
  • トレーニングを持続する
  • 無理はしない

体が暑さに慣れるまでには時間がかかるので、気象庁の「2週間気温予報」などを確認しながら、本格的に暑くなりそうな時期の少し前からトレーニングを開始しましょう。

■気象庁「2週間気温予報」■
https://www.data.jma.go.jp/cpd/twoweek/

また、暑熱順化の効果はあまり続かないことにも注意しましょう。個人差はありますが、トレーニングを中断すると、数日で元の状態に戻ってしまいます。特に注意が必要なのが、梅雨寒の日が続いたり、夏休み中に涼しいところで過ごしたりして、運動を休んだとき。暑さへの耐性が弱まっているタイミングで一気に気温が上昇すると、熱中症になるリスクが高まります。

2)暑熱順化の具体的なやり方4選

暑熱順化において大切なのは、「脳と体を夏モードに切り替えること」。そして、暑さに備えた体をつくるためには、夏の暑さを再現して汗をかくことが肝要。ポイントは、

「やや暑い環境」で「ややきついと感じるくらいの運動」をすること

です。

厚生労働省「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」では、暑熱順化に有効な対策として次の4つの取り組みが推奨されています。なお、時間や頻度は全て目安なので、自身の年齢や体力、気温や室内の環境を考慮しながら取り組んでみましょう。

暑熱順化に有効な対策

図表3の内容を、もう少し詳しく説明します。

1.歩く・走る

ウォーキングであれば30分、ジョギングであれば15分の運動を、週5回行うことが望ましいです。通勤でバスや電車を使っている人は1つ手前の駅から歩いたり、移動の際にできるだけ階段を利用したりするのも、汗をかくのに効果的です。

2.自転車

サイクリングであれば、30分の運動を週3回行うことが望ましいです。例えば、時速20キロメートルで走ると、10キロメートルほどの距離です。

3.適度な運動(筋トレ・ストレッチなど適度に汗をかくもの)

室内でできる取り組みとしては、筋トレやストレッチなどがあります。この場合、30分の運動を週5回から毎日実施することが望ましいです。

4.入浴・サウナ(お風呂はシャワーだけでなく、湯船につかる)

入浴であれば、2日に1回以上はしっかりと湯船に入ることが望ましいです。なお、サウナが暑熱順化に有効という意見もありますが、水分補給の状況によっては脱水症状を引き起こしたり、心臓に負担がかかったりする恐れがあるので注意が必要です。暑熱順化の基本は「やや暑い環境」で「ややきついと感じるくらいの運動」をすることです。あくまで暑さに慣れることが目的ですから、無理をしすぎて熱中症になっては本末転倒なので注意しましょう。

3)(補足)栄養補給で相乗効果を狙う

暑熱順化の効果を高めるには、栄養補給も大切です。例えば、

運動を行った後、30分~1時間以内に牛乳などの乳製品を摂取すること

などが推奨されています。

  • 運動中には血中のグルコース(ブドウ糖)がエネルギーとして使われること
  • 運動時に損傷した筋繊維を修復する際、アミノ酸を運ぶために糖質・たんぱく質が必要になること

などから、それらの栄養素を含む牛乳などの乳製品を運動後に摂取することは効果的なのです。

以上(2026年6月更新)

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画像:Something in my head-Adobe Stock

【分かりやすい原価計算(1)】原価の範囲~赤字覚悟!? どこまでが原価に含まれているの?

1 原価計算は何のためにするもの?

原価計算は、モノやサービスを作るのにいったいどれだけ費用がかかったかを知る手法で、会計などの分野にも必要な考え方です。会計は目的ごとに、

  • 税務会計:納税額を計算
  • 財務会計:株主などに向けて会社の状態や業績などを報告
  • 管理会計:自社の将来の意思決定のための資料

の3つに分かれ、いずれも原価計算が関わってきます。

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税務会計と財務会計では、決算期末の仕掛品などの在庫を決算書に計上するために必要となります。この在庫を基に売上原価が計算され、その後の利益計算が行われていきます。

一方、将来を予測し、将来を変える会計といわれる管理会計でも、原価計算の考え方は重要です。例えば、経営者は「物価高による解約で売上が2割落ちる見込みだが、利益はいったいいくらになるのか」「資金繰りは大丈夫なのか」といったことが心配になります。これらの疑問に答えるのに、自社のモノやサービスにいったいどれくらいお金がかかっているのかが全く分からないというのでは話になりません。原価計算の考え方を通して、将来の活動の方向性を示していくことができるように、会社の体質を把握していかなければなりません。

この会社の体質を、経営者、経理や財務だけでなく、あまり全体の数字には携わっていない営業担当者や製造担当者とも共有しておくことが大事です。各現場で全社として正しい判断ができるようになるでしょう。

書店に行くと、原価計算の体系化された書籍や新しい知識が盛り込まれた書籍が数多くあります。しかし、その中には中小企業の現場では使わない論点も数多くあるように感じます。本シリーズでは、このような膨大な情報の中から、中小企業の経営者や従業員が現場に落とし込むのに必要な情報を抜き出し、紹介していきます。

2 本当に赤字覚悟か? 原価で見るモノやサービスの値段

街中の飲食店で「赤字覚悟!」とうたい、スペシャルメニューの大盛りラーメン、ステーキやお寿司などを提供しているのを見たことがあると思います。お店が赤字になるぐらいギリギリの値段で、お客さんにはとてもお得というような宣伝文句として使われます。

この場合の赤字(その反対は黒字)には、どのような意味があるでしょうか。赤字・黒字というのは、利益のあるなしを示す言葉です。経営では、まず会社のもうけを増やすことを考えます。このもうけ、つまり利益は、

売上−費用=利益

の計算式で表すことができます。この費用の中に、

モノやサービスを作るための「原価」が含まれているのです。

少し身近な例(回転寿司店)で原価の範囲を考えてみましょう。回転寿司のお寿司の原価には何が含まれるかイメージしてみてください。ざっくり次のようなものがイメージできるのではないでしょうか。なお、次章の解説につなげるため、グループ分けしています。

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赤字覚悟と言われると、売上からネタやシャリなど材料費だけを引いたものが赤字スレスレとなっていると感じるかもしれませんが、実際は違います。なぜなら、材料費だけではなく料理人の給料や店舗家賃、電気代などの水道光熱費もかかっているからです。数字の仕事をされている方は、ちょっと立ち止まって、

どこまでの原価を費用に入れて赤字覚悟なのだろうか

と考えてみるのもよいでしょう。

3 決算書から読める原価はどれ?

原価のイメージができたところで、さっそく決算書(損益計算書と製造原価報告書)を見ていきましょう。

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損益計算書の「売上原価」に含まれている項目(製造原価報告書の当期製品製造原価)が、モノやサービスを作るための原価です。なお、製造原価報告書とは、原価を集計し、当期に完成した製品の原価(製造原価)を計算する決算書をいいます。売上原価には、材料費、労務費、外注費、経費といったモノやサービスを作るためにかかった費用が含まれます。図表2でいえば、1から6までが売上原価になります。

また、これ以外に本社の人件費や広告宣伝費といった販売や管理をするための費用として販売費及び一般管理費(以下「販管費」)があります。図表2でいえば、7から10までが販管費になります。

原価計算では、狭い意味での原価としてモノやサービスを作るためにかかった「売上原価」、広い意味での原価として、さらに販売や管理にかかった費用を加えた「売上原価+販管費」と表現します。

損益計算書の営業外収益・営業外費用、特別利益・特別損失は、原価計算の対象にはなりません。これらは、モノやサービスを作るためや販売・管理をするための費用、つまり営業活動にかかる費用ではないからです。

以降では、モノやサービスを作るための直接的な費用である「売上原価」を原価(狭い意味での原価)として説明していきます。

4 原価は3つ+αで構成される

原価は、何のために使った費用かということで、まず材料費、労務費、経費の3つに分類されます。

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さらに、経費の中に含まれる外注費は別枠で把握していきます。外注費というのは、自分の会社ではできないことを、他の会社や人に依頼してやってもらう場合に発生する費用です。自分の会社ではできないというのは、技術がなくてできないケースもあれば、まさに自社の本業だけれども、仕事の依頼が多すぎて人が足りないためできないというケースもあります。

自社のみで仕事を回すほうが、一般的に利益率は高くなります。このため、損益予測をしたり、決算分析で前期比較や予算比較をしたりする場合も、外注費がどれくらいかかっているかというのは重要になってきます。

例えば、建設業で前期よりも売上は20%上がったが、利益率が落ちているというケースで考えてみましょう。経営者は、仕事の効率が落ちてしまっているのかと心配になるかもしれません。そのときに見てもらいたいのは、外注費が多くなっていないかということです。仕事が会社のキャパ(許容範囲)よりも多くなってしまうと、どうしても外注に回す必要があります。外注する場合、自社だけで仕事を回すよりも一般的には利益率は落ちてしまいます。なので、自社で仕事をした分の効率が落ちていなければ、外注に回した仕事が増えたことによって全体の利益率が落ちることは問題ありません。

このように外注費は個別に把握すべき費目といえるので、

原価は材料費、労務費、外注費、経費という区分で考える

ことが大切なのです。

以上(2026年5月更新)

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画像:Shutter z-shutterstock

【PDFで印刷可能】中小企業の株主総会の全て

株式会社には、毎年必ず「株主総会」を開催する義務があります。法令で定められた手続きを踏まずに議事録だけを作成していたり、そもそも開催していなかったりするケースは、中小企業では珍しくありませんが、これは会社法違反です。

とはいえ、リソースが限られる中小企業では、日々の業務に追われ、株主総会の手続きを正しく把握・運用する余裕がないのが実情でしょう。

そこで、株主総会の開催義務から、決議の種類(普通・特別・特殊)、招集から当日の進行・開催後の手続き、株主名簿・株式譲渡の実務、オンライン開催の注意点までを「中小企業の株主総会ガイド」として、印刷できるPDFにまとめました。招集通知・議決権行使書・議事録・決議通知書・株主名簿などのひな型も収録していますので、ぜひご活用ください。


こちらからダウンロード

なお、このPDFは次のコンテンツを再編したものです。株主総会について、興味のある項目だけを知りたい場合、こちらをご確認ください。

以上(2026年5月作成)

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画像:日本情報マート

【書籍ダイジェスト】『蓄電所ビジネス』

本書では、将来に向けて大きく伸長する可能性の高い、蓄電池をはじめとするエネルギー貯蔵のビジネスや技術について、その現状と将来展望をわかりやすく解説。
特に市場拡大が期待されるものとして、系統用蓄電池と長期エネルギー貯蔵システム(LDES)を取り上げ、それぞれについて基本的な仕組みや、ビジネスとしての収益構造、市場規模などを含め、事例とともに紹介している。

書籍ダイジェストは、こちらからお読みいただけます。pdf

中途採用者が戦力にならない理由 前職のやり方にこだわりすぎ?

1 経験豊富な中途採用者が戦力にならない!

せっかく経験豊富な人材を中途採用できたのに、いざ働かせてみたら戦力にならない……。こうしたミスマッチは採用活動にはつきものです。しかし、仮に

前職と自社の「ギャップ」に戸惑っているだけで実は能力が高いのに、会社が中途採用者を「戦力外」と思い込んでしまっているとしたら、それは両者にとって残念なこと

です。この前職と自社のギャップというのが何なのか、もう少し掘り下げてみましょう。

例えば、インターネット記事の制作会社が、特定の人に取材をして記事を書く「取材ライター」を募集し、経験豊富な人材を採用できたとします。会社は即戦力だと思って中途採用者に期待しますが、同じ取材ライターでも仕事の進め方は会社や人によってさまざまです。

そして、前職での仕事の進め方(以下「本人流」)と自社での仕事の進め方(以下「自社流」)が違うと、その差に戸惑い能力を発揮できない中途採用者が出てきます。イメージは図表1です。

本人流と自社流

こうした場合、多くの経営者は「中途採用者をいかに早く自社に慣れさせるか」を考えるでしょう。もともと即戦力のつもりで採用しており、賃金なども前職の経験を踏まえてそれなりの条件にしているわけですから、早く自社流を身に付けてもらわないと困ります。一方で、

「自社流を身に付けさせることが、本当に会社のためになるのか?」という視点も重要

です。自社流は勝手が分かっていて安心感がありますが、環境がめまぐるしく変化する昨今、今後のビジネスでも通用するとは限りません。中途採用は自社に新しい風を吹かせる良い機会であり、そう考えると、中途採用者の本人流を一概に否定するのはもったいない面もあります。

中途採用者が前職と自社とのギャップに悩んでいる場合、経営者に求められることは1つ、

ギャップの内容を明らかにした上で、「あえて本人流でやらせて会社に新しい風を吹かせるのか」「自社流を身に付けさせて確実な戦力とするのか」を判断すること

です。

2 本人流でやらせるのか、自社流を身に付けさせるのか

中途採用者が仕事で成果を上げられない場合、冒頭の図表1のように、

仕事の進め方をいくつかのカテゴリーに分けて、本人流と自社流を比較する

と、どこにギャップがあるのかが分かります。中途採用者と面談する際などに、実際に本人に書かせてみるとよいでしょう。

カテゴリーの分け方に迷ったら、

その仕事のプロセスを順番に書き出してみる

ことをお勧めします。取材ライターであれば「取材先を見付ける→取材する→記事を書く→確認してもらう」という流れになります。この各ステップをカテゴリーにすることで、どの段階にギャップがあるのかが見えやすくなります。業種や職種によって異なりますが、まずは3〜5項目程度に整理できれば十分です。

問題はギャップの内容が分かった後、本人流でやらせるのか、自社流を身に付けさせるのかですが、これを判断するには

今の自社流の仕事にどのような課題があるのかを整理する必要

があります。取材ライターのケースの場合、イメージは図表2(課題は赤字部分)です。

自社流の課題

図表2の場合、記事の内容のマンネリ化や取材先の熱量の確保などが課題として挙げられます。そして、自社流の課題が抽出できたら、次はその課題を本人流で解決できるかを検討します。イメージは図表3です。

自社流の課題を解決できるか

図表3の場合、独自のネットワークで取材先を確保したり、取材先に自由に話してもらったりするタイプの本人流は、自社流の課題を解決できる可能性があります。こうした場合であれば、

実験のつもりで、あえて本人流で仕事をやらせてみるのも1つの手

です。ただし、会社として不安がある場合、本人流は部分的に認めるにとどめます。

例えば、図表3の「1人で記事を作成し、その後取材先が原稿を確認する」は、中途採用者の実力が分からないうちから全面的に認めるのはリスキーなので、上司がこまめに進捗を確認するなどします。

もし、本人流で自社流の課題を解決するのが難しく、他に本人流を認めるメリットもないようであれば、ひとまずは自社流を身に付けさせます。前職での経験があるので、新卒の社員のように知識や技術を一から教える必要はありませんが、それ以外の部分については、上司や先輩が付くなどして丁寧に教えましょう。ただし、

どの程度の期間で自社流を身に付けさせるのかは、明確に基準を決めておく必要

があります。前述したように、前職の経験を踏まえて中途採用する場合、賃金などについてそれなりのコストがかかってきます。新しい環境に適応するのも仕事のうちであることを中途採用者に伝えつつ、お互いに納得感のある目標を共有しておきましょう。

3 既存社員の自社流をブラッシュアップする

中途採用者に本人流で仕事をやらせてみて、それが成果につながるようであれば、その中途採用者には引き続き本人流で仕事をしてもらってもよいでしょう。また、

中途採用者の本人流が、既存社員にも再現可能なものであれば、社内に周知して全社的に仕事の進め方をブラッシュアップしていくことを検討

します。自社流の長所はそのまま活かしつつ、課題となっている部分に中途採用者の本人流を当てはめて良いとこ取りをしていくイメージです。

なお、自社流に慣れている既存社員の中には、何かと理由を付けて仕事の進め方を変えたがらない困った人もいます。こうした社員にも変化を促していくためには、

経営者や管理職が、日ごろから新しい仕事の進め方を模索する姿勢でいる

ことが大切です。

例えば、自社流に改善点がないかを常に考える、前例踏襲だけで仕事をする「思考停止」の社員には厳しく接するといった具合です。ケース・バイ・ケースですが、「会社がより良い方向に向かうのなら、朝令暮改もやむを得ない」という気構えでいるぐらいがちょうどよいのです。

以上(2026年5月更新)

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画像:ChatGPT

【朝礼】嵐に負けない強い草「勁草」になる2つのポイント

【ポイント】

  • 激しい嵐が吹き荒れても、茎が強く、簡単には折れない強い草「勁草」が存在する
  • ビジネス環境も嵐が吹き荒れている、一人ひとりが勁草になる必要がある
  • 自分の役割に対する「誠実さ」と、仲間への「信頼」を忘れないことが大切

皆さん、おはようございます。5月に入り、街の木々も青々と茂り、生命力の強さを感じる季節になりました。しかし、この時期の天気は変わりやすく、時には予想もしない激しい嵐が吹き荒れることもあります。今日は、そんな季節の移ろいにちなんで、皆さんに紹介したい言葉があります。「疾風(しっぷう)に勁草(けいそう)を知る」ということわざです。

「疾風」とは、激しく吹き荒れる強風のこと。そして「勁草」とは、茎が強く、簡単には折れない強い草のことを指します。普段、穏やかな風が吹いているときには、どの草が強くて、どの草がもろいのかは分かりません。しかし、いざ激しい嵐が吹き荒れたとき、周囲の草がなぎ倒される中で、最後まで根を張り、真っ直ぐに立っている草がどれなのかが初めて分かります。

私たちの仕事に置き換えて考えてみましょう。今、社会全体を見渡せば、まさに「疾風」が吹いているような状況です。デジタル化の加速、法制度の大きな変化、そして予測のつかない市場の動き。中小企業である私たちにとって、こうした変化の風は時に厳しく、足元をすくわれそうになることもあるかもしれません。

私たちが、疾風に負けない「勁草」になるためのポイントを2つお伝えします。1つは、自分の役割に対する「誠実さ」です。 誰も見ていないような細かな業務、地道な準備。こうした「根」の部分をどれだけ深く土に張っているかが、いざというときの支えになります。もう1つは、仲間への「信頼」です。一本の草では倒れてしまうような強風でも、密集して生える草はお互いが支えとなり、風を逃がすことができます。組織も同じです。

皆さんが仕事の中で「今は少し風が強いな、大変だな」と感じたなら、ぜひこの言葉を思い出してください。「今、自分は勁草として試されている」「ここを乗り越えたとき、自分は一回り大きな信頼を得られるんだ」と。そう捉えることができれば、目の前の困難は自身が成長するためのチャンスに変わります。今日という日が、皆さんにとって実りある一日になることを願っています。共に力強く進んでいきましょう。

              

以上(2026年5月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

使い回しは絶対ダメ! 安全なパスワード管理とは?

1 パスワードのポリシー、古いままになっていませんか?

ウェブサービスやアプリのログイン認証で使うパスワード。かつて決めたポリシーが、ずっと見直されることもなく、今でも

  • 文字数は8文字
  • 英大文字・英小文字・数字を組み合わせなければならない
  • 90日ごとにパスワードを変更しなければならない

などとなっていませんか?

実は、こうしたポリシーは、もはや時代遅れ。セキュリティ対策とならないばかりか、かえってリスクを高める結果になっているかもしれません。なぜなら、人間の記憶力には限界があり、複雑なパスワードをいくつも覚えておくことは実質不可能だからです。

そして実際に問題となっているのが、

  • パスワードをメモした付箋をデスクに貼り付けておく
  • 同じパスワードを、複数のサービスで使い回す

といった横着な行為です。

パスワードは、自分しか知らない秘密の合言葉のようなもの。誰でも見えるところに貼り付けてあったら意味がありません。また、「使い回し」をすると、万が一、パスワードが破られたとき、他のウェブサービスやアプリにも不正アクセスされて、芋づる式にアカウントを乗っ取られる危険があります。

この記事では、安全なパスワード管理のために注意しておきたいポイントを整理した上で、すぐに破られてしまう危険なパスワードの例、パスワードが漏えいしていないかチェックできるサービスを紹介します。

2 安全なパスワード管理のために注意しておきたいポイント

1)米国立標準技術研究所(NIST)のガイドライン

米国立標準技術研究所(NIST)が2025年8月に公開した「デジタル アイデンティティ ガイドライン(NIST SP 800-63 Revision 4 Final)」では、

  • 単一要素認証として使用されるパスワードは最低15文字、多要素認証(MFA:MultiFactor Authentication)と併用する場合は最低8文字
  • 数字、大文字、記号などの異なる文字タイプを組み合わせることを強制するようなパスワードの構成ルールは禁止
  • 定期的なパスワード変更(リセット含む)は不要(漏洩した場合のみ変更すればよい)

など、これまで推奨されてきたものとは内容が相当変わっています。また、パスワードだけでは十分に防御できないケースが増えていることから、多要素認証やフィッシング耐性のある認証方式の重要性がより強調されています。原文(英語)になりますが、興味のある方は、次のウェブサイトをご確認ください。

■NIST SP 800-63B Appendix A.Strength of Passwords■
https://pages.nist.gov/800-63-4/sp800-63b.html#appA

2)内閣官房 国家サイバー統括室「インターネットの安全・安心ハンドブック」

内閣官房 国家サイバー統括室が2025年3月11日に公開した「インターネットの安全・安心ハンドブック」(Ver.5.10)では、「第5章 パスワードの大切さを知り、通信の安全性を支える暗号化について学ぼう」の中で、パスワード管理の重要性について解説しています。

パスワード管理方法の例として、

  • 紙のノート(一見内容が分からないようにできる専用のパスワードノート)に記入
  • スマホのパスワード管理アプリを使って、パソコン経由で暗号化した記憶装置にバックアップ

などが紹介されています。

特にパスワード管理アプリは、単にパスワードを保管してくれるだけではなく、条件を設定するとそれに合わせた長くて複雑なパスワードを自動的に生成してくれる他、ウェブブラウザでのサービスログイン時に、自動的に起動してIDとパスワードを入力したり、アプリ起動時にもIDとパスワードを入力してくれたりするものもあり、便利です。

なお、「ウェブブラウザにはパスワードを保存しない」のも大切です。席を離れた隙や、デバイスを紛失してしまったときに比較的簡単な操作で破られてしまう危険があるからです。

■内閣官房 国家サイバー統括室「インターネットの安全・安心ハンドブック」■
https://security-portal.cyber.go.jp/guidance/handbook.html

3 自身のパスワードをチェックしてみよう

1)すぐに破られてしまう危険なパスワードの例

プライバシーとデジタルセキュリティに関するソリューションを提供する大手プロバイダーであるNord Securityが公表する「Top 200 Most Common Passwords」によると、日本では、「admin」「123456」「password」「Freemima123」「12345678」「yamamoto2580」「Chan8899」「rosycash」「102030Abcd」「mokariku」「tootoo」「1qaz2wsx」「Kanazawa2」「123456789」「mirror2009」「never4getyou」「2020Sank」「p@assword123456」「apple555」「aabbccdd1234」が最も一般的なパスワードとなっています(上位20位)。これらは、2024年9月から2025年9月までの間に発生した実際のデータ漏洩事件やダークウェブのリポジトリを分析した結果に基づく分析で、実際に漏えいしたパスワードです。

「yamamoto2580」「Kanazawa2」のように、日本語をローマ字表記にした人名・地名と数字の組み合わせもすぐに破られてしまう恐れがあると考えられます。

■Nord Security「Top 200 Most Common Passwords」■
https://nordpass.com/most-common-passwords-list/

2)「Have I Been Pwned?」(私、漏えいしてる?)

長年の実績があり、セキュリティ業界において評価されている民間のウェブサービスに「Have I Been Pwned?」が挙げられます。次のURLから、メールアドレスやパスワードが漏えいしていないか、確認することができます。

■Have I Been Pwned?■
https://haveibeenpwned.com/
■Pwned Passwords■
https://haveibeenpwned.com/Passwords/

以上(2026年6月更新)

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画像:Aurielaki-Adobe Stock