(四国経済産業局)「採る」から「育てる・活かす」へ。人財共創の新戦略【経営者とっておきニュース】

四国経済産業局は、中小企業における深刻な人手不足の解消と持続的な成長を支援するため、2026年11月6日に香川県高松市にて「四国人財共創フォーラム」を開催すると発表しました。

対象は四国地域の中小企業、経営支援機関、自治体、教育機関などで、参加費は無料です。本フォーラムの最大の特徴は、これまでの「人材をただ採用する」という枠組みから脱却し、地域全体で人材を育み活かす「人財共創」へ舵を切る点にあります。当日は、「地域の人事部」による採用・育成支援、外部の副業・兼業人材の活用、そして若者との新たな接点となる地域連携型インターンシップの推進に関する実践事例が紹介される予定です。

少子高齢化が進む現在、地方の中小企業における人材確保の難易度は年々高まっています。大手企業のような十分な採用予算や知名度を持たない中小企業にとって、従来の求人広告を出して待つだけの「採る」手法には限界が訪れています。こうした背景から、自社単体での努力にとどまらず、地域社会や教育機関、他社と連携して人材を呼び込み、定着させる仕組みづくりが急務となっています。

一社の力では解決できない採用や育成の課題を、地域全体で補完し合う「地域の人事部」のような取り組みが浸透すれば、個社を超えたノウハウの共有や雇用の流動化が促進されます。また、都市部の優秀なプロ人材を副業・兼業として呼び込むことは、自社に不足しがちな新規事業開発や組織変革のノウハウをもたらし、中小企業の経営基盤を強固にする起爆剤となります。一方で、自社の魅力を言語化し、オープンに発信する姿勢を持たない企業は、ますます人材獲得競争から取り残されるという二極化のリスクも孕んでいます。

今後、地域経済や中小企業を取り巻く労働環境は、単なる「人手不足の深刻化」というフェーズから、「自社の存在意義(パーパス)や、いかに多様な人材とつながるか」が問われる選別の時代へとシフトしていくことが予想されます。

限られた経営資源の中で持続的な成長を遂げるためには、自前主義にこだわり続けるのではなく、外部の知見や地域のリソースを柔軟に受け入れるオープンな組織体制への変革が欠かせません。こうした先進的な取り組みや他社の成功事例に触れ、自社の採用・育成戦略をアップデートしていくための今後の動向に、引き続き高い注目が集まります。


【ご注意】本記事は公的資料等を基に生成AIを活用して作成し、編集部で事実確認を行っています。技術の特性上、記述の正確性を完全に保証するのは難しいところがありますので、正確な最新情報については、必ず参照URLの一次情報をご確認ください。
■四国経済産業局「四国人財共創フォーラム『人が集まる企業には、理由がある“採る”から“つながる・育てる・活かす”へ』を開催します」■
https://www.shikoku.meti.go.jp/01_releases/2026/09/20260924a/20260924a.html

以上(2026年10月作成)

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画像:terovesalainen-Adobe Stock

採用や評価の判断、どこまでAIに任せる? 海外事例に学ぶAI人事

1 事例をなぞる前に決めておきたい「線引き」の話

「有給休暇の残日数は?」「申請書の置き場所は?」「慶弔休暇は何日取れる?」など、人事にはこうした質問が毎日届きます。どれも規程に書いてあるのに、質問は人のところへ来ます。制度の見直しや就業規則の整備に手が回らない理由の多くは、こうした問い合わせ対応に時間を取られていることにあります。

現在、こうした定型的な問い合わせ対応を含め、人事に関する業務を「AI(人工知能)」に任せる取り組み(以下「AI人事」)が進んでいます。特に海外の大企業の取り組みは先進的で、例えばIBMが人事への問い合わせをAIへ集約したり、Workdayが社員のスキルをAIで可視化したりしています。

一方、日本の中小企業の状況はどうでしょうか。中小機構(中小企業基盤整備機構)の調査で、すでにAIを導入している企業について業務分野別にみると、導入が最も進んでいるのは「総務・管理部門」(68.3%)です。人事を含む管理業務がAIを取り入れやすい分野である点は、海外と共通しているようです。

ただ、そもそもAIを導入している企業の割合が、企業全体の20.4%と低く、導入予定・検討中の企業を含めても39.0%にとどまっています。「成功事例や活用事例などの情報」を十分に入手できていない企業が83.3%に上っており、情報不足が導入の壁の一つになっているようです。

■中小機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査 (2026年3月)」■
https://www.smrj.go.jp/research_case/questionnaire/fbrion0000002pjw-att/202603_AI_point.pdf

そこで、この記事ではまず、先進的な海外企業で何が起きているのか、どのような経緯で今の形になったのかを紹介し、その事例から見えてくるAIと人の役割分担、さらに中小企業が何から取り組むべきかを掘り下げていきます。

また、AI活用を急ぐあまり壁にぶつかった例や、採用へのAI活用をめぐって訴訟に発展した例もあります。だからこそ重要になるのが、何をAIに任せ、どこから人が判断するのかという「線引き」です。

2 海外ではAI人事がどこまで進んでいるのか

1)IBM――繰り返される問い合わせをAIへ集約

海外AI人事の代表例の一つが、IBMの社内人事エージェント「AskHR」です。

AskHRは、給与、福利厚生、休暇、異動、証明書の発行、キャリア、スキル開発など、人事への問い合わせや手続きを一つの窓口へ集約しています。

■IBM「Transforming HR support with agentic AI」■
https://www.ibm.com/case-studies/ibm-askhr

IBMの公表によると、AskHRは2024年に従業員との1150万件以上のやり取りを処理し、よくある質問の94%をAskHRだけで解決しました。人事の専門担当者へ引き継がれたのは6%です。AskHRを含むAI活用は、過去4年間で人事チームの運用コストの40%削減に貢献しました。また、2022年から2024年にかけて、一部の人事業務では生産性が最大75%向上したとしています。休暇申請や給与明細の閲覧など、約80のタスクについて自動化が組み込まれています。

ただし、最初からこの形だったわけではありません。出発点は、社内に複数の人事向けボットや問い合わせ窓口が存在し、従業員が「結局どこに聞けばいいのか分からない」状態でした。そこでIBMは、バラバラだったボットをAskHRという一つの窓口へ統合します。さらに2018年には、全従業員向けの人事電話・メール窓口を停止し、管理職に対する人事パートナーの直接支援も見直しました。多くの管理職にとってAskHRが人事支援の中心的な窓口となり、従来の個別対応からセルフサービス型へ大きく転換したのです。

AskHRのポイントは、AIが人事判断を代行したことではありません。

答えの決まっている問い合わせをAIに任せ、人事担当者が制度設計や複雑な個別対応へ時間を使える状態をつくった

ことにあります。そして、もう一つ重要なのが前提条件です。IBMでは、規程や人事情報がデジタル化され、決まった形式で整理・管理されていました。

就業規則が最新版か分からない、規程が複数のファイルに散らばっている状態では、検索させる材料自体が存在しないため、AIが十分に機能しないのです。

2)Workday――社員を「所属」ではなく「スキル」で見る

もう一つの方向性が、社員の能力をAIで可視化する使い方です。ある部署でデータ分析のできる人材が必要になったとき、多くの会社はまず「経験者を採用しよう」と考えます。しかし、その採用、本当に必要でしょうか? もしかしたら、営業や企画、経理、研究開発など別の部門に、関連する経験やスキルを持つ社員がいるかもしれません。

そこに気づければ、社内異動、兼務、短期プロジェクトへの参加、追加研修など、採用以外の選択肢が生まれます。

人材管理プラットフォーム大手のWorkdayは、社員を所属部署や役職だけでなく「何ができるか」で捉える仕組みとして「Skills Cloud」を展開しています。

■Workday「Workday Skills Cloud」■
https://www.workday.com/ja-jp/products/human-capital-management/skills-cloud.html

Workday Skills Cloudでは、社員の経験や学習履歴、保有スキルを一元的に整理します。AIがそれらの関連性を分析することで、「社内にどんなスキルを持つ人がいるのか」「どのスキルが不足しているのか」「誰を育成・配置すればよいのか」といった情報を見える化します。

ここでもポイントはAIそのものではありません。

AIに分析をさせるためには、資格や研修履歴、過去に担当した業務、社内で身につけた技能など、社員の情報が蓄積されている必要があるため、AIを入れる前に、「自社ではどんなスキルが必要で、それを誰が持っているのか」を会社側が把握できる状態にしておかなければならないのです。

3)Meta――「AIを入れた分だけ人を減らす」は成立しなかった

一方、AI活用を一気に組織再編まで広げようとして、壁にぶつかった企業もあります。Metaです。

2026年8月のロイター報道によると、Metaでは「Project OT(Organization Transformation)」と呼ばれる組織改革が検討され、AIエージェントを前提にチームを小規模化する構想が進められていました。大幅な人員削減を前提とした案も含まれていたとされます。しかし報道によると、AIが期待通りの生産性を発揮しなかったことに加え、急激な組織変更への社員の反発などもあり、当初構想されていた追加の大規模削減は見送られたそうです。

■Reuters「Mark Zuckerberg had a bold plan to replace Meta staff with AI. Here’s how it imploded.」■
https://www.reuters.com/investigations/mark-zuckerberg-had-bold-plan-replace-meta-staff-with-ai-heres-how-it-imploded-2026-08-26/

報道で紹介された社内の数字では、コードの変更量は前年比220%増と大きく伸びた一方、ユーザーが実際に使える新機能や改善につながった変更は36%増にとどまっていました。AIによってコード生成や変更は大きく増えたものの、ユーザーに届く成果は同じペースでは増えなかったということです。

AIの技術と資金を潤沢に持つ企業でも、「AIを入れた分だけ人を減らせる」という単純な計算は成立しませんでした。ここから学ぶべきは、

AI導入の目的を「何人減らせるか」に置くべきではないということです。考えるべきは、人がやらなくてよい仕事は何か、そこで生まれた時間を何に使うのかという業務設計

です。

3 3社から見えてくる「AIに任せる仕事」と「人が決める仕事」

IBM、Workday、Metaの事例はそれぞれ違いますが、共通して見えてくることがあります。

AIは「情報を検索する」「整理する」「集計する」「候補を示す」といった仕事は得意ですが、人の生活やキャリアを左右する判断までAIに委ねると、リスクが急激に高まる

のです。人事へのAI活用を、大きく4つの領域に分けて考えてみましょう。

1)問い合わせ対応

規程の検索、休暇や福利厚生の案内、申請方法の説明、定型文書の作成などは、AIと相性がよい業務です。一方、制度の個別解釈、例外的な運用、労務トラブルやハラスメント相談は、人が対応する必要があります。

2)採用

求人票の下書き、応募者からの定型質問への回答、面接日程の調整、書類の不備確認、候補者情報の要約などはAIが支援しやすい業務です。ただし、採否の最終判断、面接、採用基準の設計は人が中心となります。

3)配置・育成

スキルの抽出、研修の推薦、社内公募候補の提示、キャリア情報の整理はAIが支援できます。しかし異動、昇進、処遇の最終決定や本人との面談は、人が担うべき領域です。

4)人事分析

勤怠、従業員サーベイ、離職傾向の集計や組織課題の可視化はAIの得意分野ですが、「この社員を異動させる」「評価を下げる」「懲戒を行う」といった個人への介入を、分析結果だけで決めるべきではありません。

目安はシンプルです。「AIの判断だけで、その人の働き方や待遇が変わるか」。変わるのであれば、自動決定にはせず、人による確認と最終判断を残します。

【社労士の実務メモ】
「AIで人事を効率化したい」という相談を受けたときは、まず業務を一覧にしてもらいます。すると、AIに任せやすい定型業務と、人が判断すべき業務が混ざったまま処理されているケースが少なくありません。特に採否、評価、昇進、異動、休職対応、懲戒、退職勧奨などは、AIに最終判断を委ねない運用をあらかじめ決めておくことが重要です。

4 AIが選んでも、責任は会社に残る

AIに判断を任せすぎたとき、どんな問題が起きるのでしょうか。その象徴的な事例が、Workdayをめぐる訴訟です。

Workdayは現在、米国でAIを使った採用スクリーニングをめぐる訴訟の被告となっています。いわゆる「Mobley v. Workday」です。

■SHRM「The Workday AI Lawsuit Is a Wake-Up Call for HR」■
https://www.shrm.org/topics-tools/news/technology/workday-ai-lawsuit-wake-up-call-hr

原告のデレク・モブリー氏は、自身が黒人であり、40歳以上で、障害があると述べています。同氏はWorkdayのシステムを利用する企業の求人に100件を超えて応募しましたが、全て不採用でした。なかには、応募から数時間、場合によっては数分後に自動の不採用通知が届いたものもあり、同氏は「人種、年齢、障害を理由とする差別に当たる」として訴訟を起こしています。ただし、現時点では原告側の主張であり、裁判で差別が認定されたわけではありません。

それでもこの訴訟が注目されているのは、AIツールを導入した企業だけでなく、AIを提供するベンダーの責任まで争点になっているからです。

2024年7月、裁判所はWorkday側の主張を一部認める一方で、原告の請求の一部については審理の継続を認めました。具体的には、Workdayを職業紹介事業者とみる原告の主張は退けました。しかし、応募者の選別や不採用の判断といった採用の中核的な機能をWorkdayが顧客企業に代わって担っているのであれば、雇用主の「代理人(agent)」として差別禁止法上の責任を負う可能性があるとしました。2026年6月22日にも、カリフォルニア州法などに基づく差別請求について審理継続を認める判断が示されています。

ここから読み取れることはシンプルです。

AIを活用した採用ツールを導入しても、選考の責任が会社から離れるわけではなく、「AIがそう判定した」「ベンダーのシステムが落とした」は通用しない

ということです。

日本でも、採用選考は応募者の基本的人権を尊重し、本人の適性や能力に基づいて行うことが基本とされています。職業安定法第5条の5は、求職者の個人情報について、業務の目的の達成に必要な範囲で収集・使用することを求めています。

人種、信条、社会的身分、病歴、障害などに関する情報は、個人情報保護法上の要配慮個人情報に当たり、特に慎重な取り扱いが必要です。

さらに、AIは過去のデータをもとに判断するため、過去の採用に偏りがあれば、その傾向を再現する可能性があります。担当者一人の偏りとは違い、AIは偏った基準を大量の応募者へ一度に、しかも即時に当てはめてしまう点にも注意が必要です。

【社労士の実務メモ】
採用ツールは、機能の多さだけで選ばないことが重要です。会社側で判定の根拠を確認できるか、問題が起きたときに検証できるかまで見ておきましょう。

5 では、中小企業はどこから始めるか

ここまで海外の事例を見てきましたが、中小企業がIBMやWorkdayと同じ仕組みをそのまま導入する必要はありません。まず必要なのは、AIを導入することではなく、AIを使える状態をつくることです。

1)繰り返される問い合わせを洗い出す

最初に、人事へどのような問い合わせが集中しているのかを確認します。直近3カ月に寄せられた質問を書き出し、「規程を見れば答えられる」「毎回ほぼ同じ説明をしている」ものを分けてみてください。

有給休暇、各種申請、福利厚生、社内制度など、繰り返し寄せられる問い合わせが、最初にAIに任せる候補になります。ただし、その前に就業規則や社内規程が最新版になっているか、情報が1箇所に整理されているかも確認しておく必要があります。

2)「誰が何をできるか」を整理する

次に、人事データを見直します。まず自社の主要な仕事を挙げ、それぞれに必要な知識、経験、資格、技能を書き出します。その上で社員ごとに、

  • 保有資格
  • 受講した研修
  • これまで経験した業務
  • 現在担当できる仕事
  • 今後身につけてほしいスキル

を整理します。最初から精密なスキルデータベースをつくる必要はありません。まずは「どの仕事を、誰ができるのか」が一覧で分かる状態を目指します。

この整理は、AI活用のためだけのものではありません。社員の経験やスキルが記録されていれば、人が替わっても情報が失われにくくなり、配置転換や育成を考える材料にもなります。

3)AIに任せる範囲を決める

次に、人事業務を「AIに任せやすい仕事」と「人が判断する仕事」に分けます。規程検索、日程調整、書類の要約などはAIに任せやすい業務です。一方、採否、評価、昇進、異動、懲戒など、本人の処遇を左右する判断では、人による最終判断を残します。

誰が最終確認をするのかも、あらかじめ決めておきましょう。

4)AIツールの契約内容を確認する

すでに採用管理システムやAIを活用した採用支援ツールを使っている場合は、契約書や利用規約も確認してください。特に確認したいのは、

  • バイアス検証をどのように行っているか
  • AI機能を停止・変更できるか
  • 入力データの保存・二次利用・学習条件はどうなっているか
  • 問題が起きたときの責任分担はどう定められているか

の4点です。

6 AI導入より先に「利用ルール」が必要な会社もある

そして、中小企業にとっては、AI導入の方法を考えるより先に対応した方がよい問題があります。それは、社員がすでに生成AIを使い始めているケースです。

商工中金が2026年1月に実施した調査では、生成AIについて「会社での導入はなく、使用は個人の判断に任せている」と答えた中小企業が64.9%で最も多くなりました。多くの中小企業では、会社主導で生成AIを導入するより先に、社員個人の判断による利用が広がっていることがうかがえます。

■商工中金「中小企業の生成AIの利用にかかる調査(2026年1月調査)」■
https://www.shokochukin.co.jp/report/data/assets/pdf/futai202603.pdf

特に人事部門には、履歴書、職務経歴書、面接メモ、人事評価、給与情報、休職情報、健康情報など、外部へ出すべきではない情報が集まっているため、生成AIの利用にはくれぐれも注意が必要です。

個人情報保護委員会も、生成AIサービスへ個人情報を入力する際には、利用目的の達成に必要な範囲かを確認するとともに、入力した情報がAI提供事業者の機械学習などに利用されないかを十分に確認するよう注意を促しています。

■個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2023年6月2日)■
https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/230602_AI_utilize_alert/

例えば、

「文章を要約してほしい」「休職者へのメールを考えてほしい」

と軽い気持ちで、実名や具体的な事情を一般向け生成AIへ貼り付ける運用は避けるべきです。

こうしたリスクを回避するには、「AI利用規程」など、AIの使い方に関する社内ルールを定めておくことが有効です。といっても、最初から何ページものAI利用規程をつくる必要はありません。まずはA4用紙1枚でも構いませんので、

  • 入力してよい情報
  • 入力してはいけない情報
  • 利用目的
  • 確認者

の4項目を決めてください。

【社労士の実務メモ】
健康に関する情報は、病歴など内容によっては要配慮個人情報に当たり、漏えいや不適切な利用が起きたときの影響が大きくなります。AIツールの性能比較を始める前に、「何を入力してよくて、何を入力してはいけないのか」という最低限のルールを決めておくことが重要です。

7 AI人事の成否を分けるのは「線引き」

海外事例から見えてくるのは、最新のAIを導入すれば人事が変わる、という単純な話ではありません。IBMでは、AIに問い合わせを任せる前に、情報と窓口を整理していました。Workdayのようなスキル活用も、社員の経験や能力に関するデータがなければ始まりません。Metaの事例からは、AI導入をそのまま人員削減へ結びつける難しさが見えてきます。

中小企業も同じです。まず業務と情報を整理する。その上で、検索や整理、分析といったAIが得意な仕事はAIに任せ、人の処遇に関わる判断は人が担う。そして、個人情報の扱いや責任の所在を決めておく。

AIによって生まれた時間を、社員との対話や組織の改善にどう使うのかまで設計できて、初めて人事のAI化が意味を持ちます。

何をAIに任せ、どこから人が判断するのか。その線を引くのは、AIではありません。経営者と管理職の仕事です。

以上(2026年11月作成)

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画像:ChatGPT

内部積立の退職一時金、もうやめたい場合はどうすれば?

創業期から会社を支えてきた従業員が、来年2人続けて定年を迎える。退職金規程に沿って支給額を計算してみたら、想像していたより大きな額になった。決算書には引当金が載っているけれど、その分の現金が手元にあるわけではない……。

退職金を社内で積み立ててきた中小企業では、こうした場面をきっかけに「今の退職金制度のままでいいのか」と制度の見直しを考え始めるケースが少なくありません。

この記事では、内部積立の退職一時金が抱える問題を整理した上で、移行先の制度、自社の課題に合わせた選び方、移行で失敗しないための注意点を解説します。

1 内部積立の退職一時金は、何が問題なのか

厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」によると、従業員30~99人の企業で退職給付制度があるのは70.1%で、そのうち77.2%が「退職一時金制度のみ」です。また、この規模で退職一時金制度がある企業が退職金の資金をどう準備しているかを見ると、「社内準備」が49.6%と約半数を占めています。

このように多くの企業が導入している内部積立の退職一時金制度ですが、実は次のような懸念点もあります。

1)資金繰りと見えない債務

従業員が辞めたときに企業がまとめて現金で払うため、定年退職が重なる年には大きな支出が一度に発生します。退職給付引当金を計上して会計上は費用にしても、その繰入額は税務上の損金になりません。また、引当金を計上するだけでは、支払いに必要な現金は確保されません。将来払う退職金は見えにくい債務でもあり、事業承継やM&A、融資審査で評価を下げる要因になります。

2)従業員のニーズとのずれ

勤続年数が長いほど退職金が増える仕組みの企業は多いですが、転職を前提にキャリアを考える若手には、必ずしも魅力的に映りません。また、物価上昇を反映する仕組みがなければ、退職金の実質的な価値が目減りする可能性があります。資産運用への関心も高まっており、「退職金も自分で運用できないのか」という声も出てくるかもしれません。

試しに自社の退職金規程をもとに、

「今、全員が自己都合で退職したら合計でいくら払うか」を試算

してみてください。今後10年間に定年を迎える従業員の人数と時期も一覧にすると、支出が集中する年が見えてきます。

なお、この試算は現状を把握するための目安です。退職一時金から別の退職金制度に移行を検討する場合、定年まで勤めた場合の支給額や将来の増加分も含めて、移行前後を比べる必要があります。

【社労士の実務メモ】
見直しの出発点としてまず確認していただきたいのが、退職金の総額です。決算書に引当金が載っていても、規程どおりの要支給額と一致しているとは限りません。見直しの前に、要支給額を従業員ごとに算出し、決算書の数字と突き合わせてください。

2 移行先にはどんな制度があるのか

中小企業の主な移行先は、中退共と企業型確定拠出年金(企業型DC)です。

1)中退共(中小企業退職金共済制度)

中退共は国の退職金共済制度です。企業が毎月掛金を払い、退職金は中退共から本人に直接支払われます。掛金は法人なら全額損金です。加入できるのは中小企業に限られ、従業員数または資本金が次の条件を満たす必要があります。

  • 一般業種(製造業、建設業等):300人以下または3億円以下
  • 卸売業:100人以下または1億円以下
  • サービス業:100人以下または5千万円以下
  • 小売業:50人以下または5千万円以下

なお、新規加入時には、掛金月額の2分の1(1人当たり上限5000円)を、加入後4カ月目から1年間、国が助成します。

2)企業型DCと選択制DC

企業型DCは、企業が掛金を出し、従業員が自分で運用商品を選ぶ制度です。運用で損失が出ても、企業に補填する義務は原則としてありません。ただし、継続的な投資教育など、制度を運営する責任は企業が負います。資産は従業員ごとに管理され、転職時には転職先の企業型DCやiDeCo(イデコ)に移せます。なお、

拠出限度額は、2026年12月から月額5.5万円から6.2万円に引き上げ(他の企業年金と併用していない場合)

となります。

企業型DCには、

給与の一部を掛金にするか給与で受け取るかを従業員が選べる「選択制DC」

という制度もあります。企業の追加負担を抑えられる一方、掛金にした分は社会保険料の算定対象から外れるため、将来の厚生年金などの給付が減る可能性があります。また、企業負担の退職金をやめて給与からの選択拠出だけに置き換えると、それまで企業が負担していた分がなくなり、従業員の不利益が大きくなります。社会保険給付への影響に加えて、企業の負担額がどう変わるかも比べる必要があります。

3)iDeCo+(イデコプラス)と制度の組み合わせ

この他、企業年金を実施しておらず、厚生年金被保険者が300人以下の企業の場合、「iDeCo+」という選択肢もあります。これは、従業員が自ら掛金を拠出するiDeCoに、企業が掛金を上乗せするというものです(中退共との併用も可能)。制度は1つに絞る必要はなく、中退共で最低限の退職金を確保し、選択制DCを上乗せするといった組み合わせもできます。主な制度の違いは次の通りです。

主な制度の違い

4)企業が取り組むべきこと

自社が中退共の加入範囲に入っているかを、業種と従業員数・資本金から確認してください。数年以内に範囲を超えそうな場合は、その点も判断材料にしてください。なお、中小企業の範囲を超えた場合でも、一定の要件を満たせば確定給付企業年金や企業型DCへ資産を引き継げます。

【社労士の実務メモ】
社労士として相談を受ける中で、特に慎重に検討していただきたいのが選択制DCです。「企業の負担なしで導入できる」という面だけで判断すると、社会保険の給付が減る可能性という従業員側の不利益を見落としがちです。検討の段階で、年収別に手取りと将来の給付への影響を試算した資料を用意してください。

3 自社の課題から、どの制度を選べばよいのか

制度選びの決め手は「どれがいちばん得か」ではなく、「自社のどの課題を解決したいか」です。

1)資金繰りの負担と見えない債務を減らしたい場合

将来の一括支出を毎月の掛金に置き換えたいなら、中退共か企業型DCが基本です。どちらも、将来の支払いに備える費用を、毎月一定額で計画できるようになります。ただし、移行前の分の支払義務が残る場合があります。また、社内規程で約束した額が中退共などの支給額を上回る場合、その差額も企業が負担することがあります。

手続きの負担を抑えたい小規模な企業には中退共が向いています。ただし中退共は、掛金納付が11カ月以下だと原則として退職金が支給されず、12~23カ月では掛金総額を下回るため、早期離職が多い職場では従業員から不利に見えることがあります。

難しいのは、これまでに積み上がった過去分の扱いです。主な方法は次の4つです。

これまでに積み上がった過去分の扱い

中退共の「過去勤務期間通算制度」を使えるのは新規加入時だけで、対象は加入時点で1年以上勤務している従業員、通算できるのは最長10年です。企業型DCへの移換は4~8年度にわたり、年度ごとに均等に分けて行うのが原則で、一括移換は認められていません。

そのため、M&Aや事業承継を控えている企業は、承継の時期から逆算して着手してください。打切支給を退職所得として扱うには、中退共や企業型DCへの移行など相当の理由による規程改正に伴う支給であり、その後の退職金の計算で打ち切った期間を一切加味しないことが条件です(所得税基本通達30-2)。要件を満たすかは、顧問税理士と事前に確認してください。

2)採用に活かし、運用ニーズに応えたい場合

若手へのアピールと資産運用ニーズの両方に応えるなら、企業型DCが適しています。持ち運べる資産であることは、退職一時金にはない強みです。選択制DCを軸にする場合も、全員に月数千円でも企業拠出を上乗せすると、企業が資産形成を後押ししているというメッセージが伝わります。

ただし、DCの資産は原則60歳まで引き出せず、60歳から受け取るには通算加入者等期間が10年以上必要です。「持ち運べる」と「すぐに使える」は別物であることを、説明会で明確に伝えてください。運用結果は従業員本人が負うため、企業は継続的な投資教育に取り組む必要があります。商品を選ばない人への対応として、「指定運用方法」の設定も検討してください。

3)税と手取りへの不満に応えたい場合

企業型DCは、拠出・運用・受取の各段階で税制上の優遇があります。拠出時は事業主掛金が損金になり、従業員の給与所得にもなりません。運用益は非課税で、受け取るときは一時金なら退職所得控除、年金なら公的年金等控除の対象です。制度を比較するときは、受取時だけでなく、拠出時・運用時を含めた税務上の扱いを確認することが大切です。

一方で、DCの一時金と勤務先の退職金の両方を受け取る場合のルールは変わりました。DCの一時金を先に受け取り、その後に勤務先の退職金を受け取る場合、勤続期間の重複を調整する判定期間が「前年以前4年内」から「前年以前9年内」に延びました。

この9年の調整ルールは、先に受け取るDCの老齢一時金が2026年1月1日以後の支払いである場合に適用されます(国税庁「源泉徴収のあらまし」令和8年版)。

勤務先の退職金を先に受け取り、その後にDCの一時金を受け取る場合の判定期間は「前年以前19年内」で、今回は変わっていません。DCと退職一時金を併用する企業は、受け取りの順序と時期によって税額が変わることを従業員に案内する必要があります。

4)移行の流れ

移行は、退職金債務の算定、過去分の扱いの決定、制度設計と運営機関の選定、従業員への説明と労使協議、規程改定、個別通知、制度開始の順で進みます。説明と協議を重ねてから規程改定に進むのが基本です。

常時10人以上の労働者を使用する事業場では、退職金規程を含む就業規則を変更した場合、過半数労働組合または過半数代表者の意見書を添えて、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。

企業型DCの場合は、就業規則の「意見聴取」とは異なり、対象となる厚生年金被保険者の過半数で組織する労働組合(ない場合は過半数代表者)の「同意」を得て規約を作成し、地方厚生(支)局長の承認を受けます。過去分の扱いも含めると、年単位の計画が必要です。

5)企業が取り組むべきこと

第1章で試算した「今、全員が自己都合で退職したら合計でいくら払うか」の額をもとに、過去分を図表2の4つの方法のどれで扱えば資金繰りが回るかを比べてください。その上で解決したい課題を1つに絞ると、制度選びの軸が定まります。

【社労士の実務メモ】
社労士として相談を受ける中で、制度選びと並行して必ず進めていただきたいのが、過去分の扱いの検討です。制度を決めても、過去分の扱いが決まらなければ移行は進みません。従業員がいちばん気にするのも「これまでの分が減らないか」です。移行日時点の要支給額を一人ひとりに書面で示せる準備を、制度設計と同時に進めてください。

4 移行で失敗しないために気をつけること

1)不利益変更のルールを外さない

退職金は賃金の後払いとしての性格を持つ重要な労働条件で、企業が一方的に廃止・減額しても原則として効力は認められません。就業規則の変更で不利益に変えるには、労働契約法第10条に基づき、変更が合理的で周知されている必要があります。

企業側の必要性が高いだけでも、減額への署名があるだけでも、変更が有効になるとは限りません。最高裁は、退職金など重要な労働条件に実質的な不利益を及ぼす変更には、高度の必要性に基づいた合理的な内容であることを求めています(最高裁第三小法廷昭和63年2月16日判決)。

また、減額に同意する書面に署名押印があっても、その同意が本当に従業員の自由な意思によるものか、客観的に見て合理的な理由があるかが問われます。判断に当たっては、不利益の内容や程度をどこまで説明したかが重視されます(最高裁第二小法廷平成28年2月19日判決)。

減る部分があるなら代償措置を設計し、定年退職時の支給額や将来の増加分、受取時期を含めた移行前後の比較を書面で示し、検討期間を確保した上で同意を得てください。

2)引当金と手元資金は別物

引当金は会計上の負債であって、お金を取り分けておく仕組みではありません。過去分を一括清算しようとして初めて資金不足に気づくケースもあります。凍結を選ぶ場合も、凍結額に利息相当を付けるか、倒産時にどう保全するかを事前に詰めておく必要があります。

3)説明会を形だけで終わらせない

説明会を1回開いてその場で同意書を回収する進め方は、法的リスクを高めるうえ、不信感も生みます。受け取りが近い従業員は「もらえる額が減らないか」、まだ先の従業員は「自分で運用できるか」「持ち運べるか」と、立場によって気にする点が異なります。

説明会を対象者に応じて分け、個別シミュレーションを渡し、受け取りが近い従業員には旧制度を継続できる経過措置も検討してください。質問と回答はQ&Aにまとめて全員に配ると、後の「聞いていない」を防げます。

4)企業が取り組むべきこと

従業員の年齢構成を確認し、移行の影響が特に大きい層を特定してください。その層に必要な説明資料と経過措置を書き出しておくと、労使協議の準備が具体的になります。

【社労士の実務メモ】
社労士として相談を受ける中で、特にお伝えしておきたいのが、同意書に署名があるだけでは、同意が有効とは限らないということです。後から「説明が不十分だった」と争いになったとき、企業の説明を裏付けるのは記録です。説明会の資料、個別面談の記録、質問への回答を、すべて日付入りで保管してください。

移行前のチェックリスト

□ 規程に基づく要支給額を従業員ごとに算出し、決算書の引当金と突き合わせた

□ 今後10年間の定年退職者の人数と時期を把握した

□ 解決したい課題を1つに絞った

□ 過去分の扱いと、それぞれの資金計画を比べた

□ 定年時の支給額や将来の増加分を含めた、移行前後の比較を用意した

□ 代償措置と経過措置の内容を決めた

□ 説明会・個別面談の記録を残す体制を整えた

5 退職金制度の見直しは「未来への投資」

内部積立の退職金を社外の制度へ移すことは、退職時にまとめて支払う負担を軽減し、退職金を毎月の費用として計画しやすくする取り組みです。従業員にとっても、社外に積み立てた分は企業の業績や手元資金に左右されずに確保されるという安心につながります。

ただし、その効果は制度の選び方以上に、現状の正確な把握、過去分への配慮、丁寧な合意形成という移行の進め方で決まります。本稿の内容は2026年10月時点の制度に基づく一般的な解説です。制度設計や税務・会計処理は企業ごとに条件が異なるため、着手の前に、社会保険労務士や税理士、運営管理機関に相談しながら進めることをおすすめします。

以上(2026年11月作成)

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画像:ChatGPT

経営のヒントとなる言葉(松平春嶽)

「我に才略なく我に奇無し。常に衆言を聴きて宜しきところに従ふ」(*)

出所:「福井市立郷土歴史博物館ウェブサイト」(福井市立郷土歴史博物館)

冒頭の言葉は、

  • 「自分には特別な才能はない。従って、常に周囲の意見に耳を傾け、よいと思った点を取り入れる」

ということを表しています。

1838年、養父の松平斉善(まつだいらなりさわ)の急逝により、春嶽は若くして福井藩藩主の座に就きました。当時、福井藩は財政面で困窮し、領民の生活も貧窮していたことを背景に、春嶽は藩内の人事改革に取り組み、橋本左内(はしもとさない)や横井小楠(よこいしょうなん)などの有能かつ革新的な人材を積極的に登用し、家臣の意見も取り入れて教育改革や財政改革、軍事改革に力を注ぎました。

そうした中、1853年にペリーが黒船を率いて来航します。当初、春嶽は攘夷(じょうい)(外国人や外国文化を排斥すること)を主張していましたが、周囲の意見を受け入れて開国派に転じました。同年には将軍徳川家慶(とくがわいえよし)が逝去し、健康面で問題を抱えていた徳川家定(とくがわいえさだ)が跡を継ぐこととなりました。そこで、春嶽をはじめとする有力大名は、黒船来航という緊急時に対応できる将軍として一橋慶喜(ひとつばしよしのぶ。後の徳川慶喜)の擁立運動に取り組みました。しかし、この動きに反対する保守派に敗れ、春嶽は保守派の大老井伊直弼(いいなおすけ)による粛清(安政の大獄)を受け、隠居を強いられてしまいました。しかし、1860年に桜田門外の変で直弼が倒れると、春嶽は幕政への参加を許されることとなります。

その後、政事総裁職に就任した春嶽は、一橋慶喜とともに幕政改革に取り組み、幕末から明治にかけての激動の時期に臨機応変に対応しました。

春嶽は、生涯を通じ、身分や立場にこだわることなく幅広い人材を登用したことで知られています。例えば、熊本藩に生まれた横井小楠は、藩の要職に就くこともなく私塾を開いていましたが、春嶽に政治顧問として招かれ、その後は福井藩の藩政改革、そして政事総裁職である春嶽の助言者として活躍しました。

また、坂本龍馬(さかもとりょうま)との出会いも春嶽の気質をよく表しています。当時は、春嶽のような身分の高い者が、土佐藩の脱藩浪士であった龍馬に会うことなど考えられない厳しい封建制度の時代だったのです。しかし、春嶽は龍馬に会い、その話に熱心に耳を傾け、さらには幕府の軍艦奉行並であった勝海舟(かつかいしゅう)への紹介状を渡します。これがきっかけとなって龍馬と海舟が出会い、以降、明治維新への道が大きく開けたといわれています。

中国古典「孟子」の一節である次の言葉は、春嶽の座右の銘とされ、直筆の墨書としても残されています。

「自ら反(かえり)みて縮(なお)からずんば、褐寛博(かつかんぱく)と雖(いえど)も、吾(われ)惴(おそ)れざらんや。自ら反(かえり)みて縮(なお)くんば、千万人と雖(いえど)も、吾(われ)往(い)かん」(**)

この言葉は、「自らを省みて、やましい点があれば、たとえ相手が自分よりも地位の低い者であっても、私は恐れる。しかし、自らを省みて、正しいと確信できるのであれば、私は千万人の敵であろうと恐れることはない」といった意味があります。

一人の人間の思考には限度があり、狭い世界しか見ることができません。しかし、多くの人の意見に耳を傾ける柔軟性を持つことで、見える世界は大きく広がります。それと同時に、人の意見に流されるままではなく、確固たる基準をもって、それに基づいた決断を下すことができれば、リーダーとしての信頼を得て、春嶽のように多くの優れた人材を引き寄せることができます。春嶽のリーダーとしての姿勢は、現代の経営者にとっても見習うべきものだといえるでしょう。

【本文脚注】

本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を担保するものではありません。また、本文中では内容に即した肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思われるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。

【経歴】

まつだいらしゅんがく(本名:松平慶永(まつだいらよしなが))(1828~1890)。江戸(現東京都)生まれ。1838年、福井藩(現福井県)第16代藩主。

【参考文献】

(*)「福井市立郷土歴史博物館ウェブサイト」(福井市立郷土歴史博物館)
(**)「孟子 新訳 『孔子の正統な後継者』が唱えた理想的なリーダーの心得」(守屋洋(訳)、PHP研究所、2012年12月)
「松平春嶽のすべて」(三上一夫、舟澤茂樹(編)、新人物往来社、1999年12月)

以上(2026年10月更新)

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画像:日本情報マート

「睡眠不足」の経済損失は18兆円!? 心地よく眠れる8つのポイント

1 社員の健康なくして生産性の向上なし

近年、企業の持続的な成長を支える戦略として、従業員の健康管理やウェルビーイングへの関心が急速に高まっています。その中で、特に重要視されている分野の一つが従業員の「睡眠」です。人間にとって睡眠は、日中に疲労が蓄積した脳や体をしっかりと休ませ、心身のバランスを整えるために欠かせない生命活動です。また、成長ホルモンの分泌を促して体の成長を支えたり、免疫力を高めたり、精神を安定させたりする重要な役割も担っています。

現代の日本では成人の5人に1人が睡眠に関する悩みを抱えており、睡眠不足による生産性の低下などにより、年間18兆~20兆円の経済損失との試算もあります。企業経営において労働生産性の向上は喫緊の課題ですが、その根底にある睡眠の課題は見過ごせません。

この記事では、睡眠不足がビジネス環境にもたらすリスクに加え、最新の睡眠科学、高機能枕やリカバリーウェア、機能性表示食品といった最新アイテムの活用法について、分かりやすく解説します。

2 睡眠不足が企業とビジネスパーソンにもたらす深刻なリスク

1)睡眠不足が企業活動に与える多大な悪影響

睡眠不足は脳の働きを鈍らせ、身体能力を低下させることが分かっています。パフォーマンスが悪くなったり、作業ミスをしがちになったりするのは典型例です。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」のベースとなった研究などでは、人間が十分に覚醒して作業を行うことができるのは起床後12~13時間が限界であり、起床後15時間以上では酒気帯び運転と同じ程度の作業能率まで低下するとしています。また、睡眠不足が6~7日間続いた場合、その後3日間十分な睡眠を取っても日中の作業能率は元に戻りません。毎日十分な睡眠を取ることが重要です。

2)ストレスチェック制度の義務化と睡眠

従業員50人以上の事業所にはストレスチェックの実施が義務付けられており(50人未満の事業所の場合、2028年3月末までは努力義務)、メンタルヘルス不調の未然防止を図ることが求められます。標準の57の質問には「よく眠れない」という項目が含まれています。不眠症状とうつ病は密接に関連しているため、従業員の睡眠にも気を配ることは重要です。

3 注目される「オレキシン」と睡眠の科学

近年、睡眠研究の分野において世界的な注目を集めているのが、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の柳澤正史教授らの研究チームによる「オレキシン」の発見です。オレキシンは、脳の視床下部で作られる神経伝達物質であり、私たちが「起きていようとする覚醒状態」を安定して維持するために極めて重要な役割を果たす物質です。

人間の脳内には、「起きていようとする覚醒システム」と「眠ろうとする睡眠システム」が存在し、互いにバランスを取り合っています。柳澤教授らは1998年に、この覚醒を保つためのスイッチとして働くオレキシンを世界で初めて発見しました。このオレキシンの働きが先天的に欠乏してしまうと、日中に突然耐え難い強い眠気に襲われる睡眠障害「ナルコレプシー」を発症することが明らかになりました。

さらに、この基礎研究の成果は実際の臨床現場や創薬にも大きな変革をもたらしました。従来の睡眠薬の多くは脳全体を強制的に鎮静させるアプローチが主流でしたが、オレキシン研究の進展によって「脳の覚醒スイッチであるオレキシンの働きを一時的にブロックし、自然な睡眠への移行を促す」という受容体拮抗薬が開発されました。この功績により、柳澤教授は世界最高峰の賞である「アルバート・ラスカー基礎医学研究賞」を受賞し、将来のノーベル賞の有力候補として期待されています。最先端の睡眠科学の知見は、生活習慣を見直す大きな羅針盤となります。

4 押さえておきたい「快眠のための8つのポイント」

日々の睡眠の質を高めるための8つのポイントを確認していきましょう。人によって効果は異なるため、自分に合った方法を見つけましょう。

1)規則正しい生活習慣を維持する

毎日同じ時刻に眠り決まった時間に起きることで体内に睡眠のリズムがつくられ、休日もリズムを崩さないことが大切です。睡眠のリズムが狂っている場合は、太陽の光を浴びるとよいでしょう。

2)朝食をしっかりと摂取する

朝食は覚醒後のエネルギーとして利用され、抜くと体に負担がかかります。食事を3度きちんと取ると睡眠リズムが回復します。

3)寝る前にはぬるめのお風呂にゆっくりと浸かる

20~30分ほどぬるめのお湯にゆっくり浸かることで心臓に負担をかけず心身をリラックスさせられます。入浴剤や音楽の活用も効果的です。

4)適度な運動を日課にする

適度な運動は熟睡を促しますが、寝る前の過剰な運動は心身を活発にするため控えましょう。

5)日中に適切な昼寝を取り入れる

13~15時の間に15~20分程度の昼寝をすることで午後の活動が活性化し夜の熟睡につながります。1時間以上寝ると逆効果です。

6)カフェインの量を減らす

寝る前のカフェイン摂取は不眠の原因になり、過剰摂取は頭痛やめまいなどを引き起こすため注意が必要です。

7)睡眠環境を改善する

枕の高さや硬さ、ベッド、間接照明、リラックスできる音楽など、自分の体に合う睡眠環境を工夫しましょう。

8)「眠らなければならない」と意識し過ぎない

「眠らなければならない」と強く意識し過ぎると、自己暗示となり、かえって眠れなくなるため、横になったら音楽を聴くなどしてリラックスすることが大切です。

5 睡眠環境とコンディションを底上げする

日々の生活習慣の改善に加えて、近年は睡眠の質や日中のコンディションを物理的・生理的に高める高機能アイテム(枕やマットレスなどの寝具、リカバリーウェア)や機能性表示食品の活用が大きな注目を集めています。

例えば、「ブレインスリープ」などの高機能枕は抜群の通気性と高い放熱性を備えており、睡眠中の頭部の温度上昇や蒸れを防ぎます。人間は脳や頭部の温度が下がることでスムーズに入眠初期の深い睡眠に入りやすくなるため、熱をこもらせない枕は有効なアプローチです。

また、「BAKUNE」などのリカバリーウェアは、特殊繊維が身体から発せられる遠赤外線を輻射し、血行を促進することで筋肉のコリを和らげ、疲労回復をサポートします。

さらに、多忙なビジネスパーソンの間で広く活用されているのが、「ヤクルト1000」などの機能性表示食品です。一部の乳酸菌やGABAなどの成分には、一時的な精神的ストレスがかかる状況におけるストレス緩和や、睡眠の質(眠りの深さ、すっきりとした目覚め)を高める機能があることが報告されています。そうした成分を含む製品が多く販売されており、日々のプレッシャーにさらされがちなビジネスパーソンにとって、手軽なセルフケア手段として大きな支持を集めています。

6 従業員の健康管理と生産性向上に向けて

従業員の睡眠の質的向上は、個人の健康を守るだけでなく企業全体の生産性を高める重要な基盤です。

睡眠不足が続くと生産性や判断力が鈍るため睡眠薬を使用するビジネスパーソンもいますが、使用法を誤ると心臓や血管への負担や依存症のリスクがあります。使用の際は必ず医師に相談し、自己判断で量を増やしたりアルコールと一緒に服用したりしないよう注意しましょう。

また、良かれと思ってやりがちな「寝酒」も要注意です。アルコールの作用で寝付きは良くなりますが、眠りが浅くなってしまいます。浅い睡眠は睡眠の質の低下を意味し、二日酔いの朝に早く目が覚めてしまうのもアルコールによる覚醒作用のためです。「寝付けないから寝酒」という行為は実は逆効果です。

最先端の睡眠科学の知見や、高機能アイテム・機能性表示食品の活用、そして日々の生活習慣の改善を通じて、組織全体のパフォーマンス向上に向けた取り組みを一歩前進させてみてはいかがでしょうか。

以上(2026年10月更新)

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画像:ChatGPT

その指導、パワハラかも……? 弁護士が教える、危うい上司4タイプ!

1 上司に悪気がないからこそ厄介なパワハラ

パワハラ(職場におけるパワーハラスメント)とは、

職場の優越的な関係を背景とした、業務上必要かつ相当な範囲を超えた(行き過ぎた)言動により、就業環境が害される(就業する上で看過できない程度の支障が生じる)こと

です。「職場の優越的な関係」の典型的なパターンは「上司と部下」で、一般的な行為類型は次の6つです(通称:パワハラの6類型)。

パワハラの6類型

ただ、実は上司が明確な悪意を持ってパワハラをするケースはあまり多くありません。むしろ、部下のほうに問題(指示したことができない、同じミスを繰り返すなど)があって、

上司が「良かれと思って」指導をした結果、そのやり方が行き過ぎてパワハラになる

というケースが多いのです(指導中、感情がヒートアップして暴言を吐いてしまうなど)。

部下の指導は上司の役目であり、そこに臆病になる必要はありません。ただ、

指導が「業務上必要かつ相当な範囲」を超えないよう、自己分析をすることは大切

です。この記事では、日本ハラスメントカウンセラー協会の顧問として数々の会社のハラスメント対策に向き合ってきた弁護士(筆者)が、「パワハラ予備軍」とでも呼ぶべき上司のタイプを次のように分け、その指導をどう改善していけばよいかを解説します。

  • 部下を精神的に追い込む「価値観押し付けタイプ」
  • 論理的だが話を聞かない「正論押し付けタイプ」
  • 部下にかまいすぎる「過干渉タイプ」
  • 部下に任せきりで指導をしない「丸投げタイプ」

2 部下を精神的に追い込む「価値観押し付けタイプ」

価値観押し付けタイプ

1)どういうタイプ?

「価値観押し付けタイプ」の上司は、

「〇〇すべき」「仕事はこういうもの」といった昔ながらの価値観を、部下にも強制してしまうタイプ

です。上司自身も若い頃、自分の上司からその価値観を押し付けられ、時には暴言にさらされるような環境で過ごしてきたため、今の部下に対して同じような態度で接してしまいます。

具体的には、

  • 部下に対する言葉がキツくなり、「お前はばかだ」「新入社員以下だ」など暴言を吐いてしまう
  • 部下のことを「常識がない」などと決めつけ、その部下に異様に冷たく接してしまう。ミーティングに参加させなかったり、仕事を取り上げたりする

といった特徴が見られます。

2)どういう指導がパワハラになる?

上司側は“愛の鞭”のつもりでも、部下に対して「お前はばかだ」「新入社員以下だ」など、

名誉や人格を著しく傷付ける言動を繰り返すと、指導する業務上の必要性があったとしても、その態様が社会通念上相当な範囲を超えた言動(「精神的な攻撃」型のパワハラ)

と評価される可能性があります。部下が暴言により精神を病み、休職や退職に追い込まれるケースは少なくなく、裁判で高額の損害賠償(自殺事案だと数千万円以上、自殺事案でなくても100万円以上)が認められたパワハラ判決の多くは、このタイプの上司による事案です。

価値観の合わない部下に異様に冷たく接する、ミーティングに参加させないといったように、

個人を疎外する行為は、業務上の必要性に照らして社会通念上相当な範囲を超えたものであれば、パワハラ(「人間関係からの切り離し」型のパワハラ)

と評価される可能性があります。期待通りの働きができない部下に単純作業だけを命じるなど、

仕事を取り上げる行為は、業務上の合理性を欠いた言動(「過小な要求」型のパワハラ)

になります。

なお、パワハラ全般に言えることですが、上司の言動がパワハラと認定されるのは、

原則として問題のある言動が「何度も、継続的」に行われた場合です。ただ、頻度や継続性に関係なく、1回の言動でパワハラ(一発アウト)になるケースも存在

します。例えば、他の社員のいる状況で「お前の働きぶりをご両親に報告してやろうか」など、家族に言及しさらし者にする行為は、侮辱的な言動として一発アウトになる可能性が高いです。カッとなってゴミ箱を投げ付けるなどの「身体的な攻撃」も、原則として一発アウトです。

3)指導の改善のポイントは?

次章以降で紹介するタイプにも言えることですが、筆者の経験上、

パワハラの加害者は、人格価値と関連のない属性(職務上の上下関係、男性・女性、勤務成績、年齢、容姿など)に基づいて、相手を軽く扱う傾向がある

と感じます。当たり前のことですが、職務上の上下関係はあくまで組織の指揮系統であって、上司だから部下を軽んじていいなんてことは決してありません。ですから、

まず大切なのは、部下を個人として尊重した振る舞いをすること

です。例えば、自分よりも上位の役職者や同僚には到底使えないような言葉を部下にぶつけていないか、取引先などが相手なら絶対しないような態度で部下に接していないかを確認します。

ジェネレーションギャップへの対応、つまり、

昭和・平成時代は良しとされた(黙認された)価値観や言動が、令和の時代では必ずしも通じないと自覚すること

も大切です。「若い頃に厳しく鍛えられたから今の自分がある」「今さら自分を変えるなんて難しい」という上司もいるでしょうが、社会の変化を感じ取って指導の仕方を修正しないと、パワハラで糾弾されるリスクからは逃れられません。

部下の指導は上司の役目ですから、指摘すべき点は毅然と指摘すべきですが、

指導する際は業務上の問題点に焦点を絞り、人格に踏み込まないこと

が大切です。「〇〇の部分ができていない」と事実ベースで問題点を指摘するなどしましょう。人格に踏み込む発言はパワハラになりやすいだけでなく、部下のほうも「自分を否定された」という印象ばかりが残り、肝心の指導内容が頭に入っていきにくいです。

部下を指導する際、つい感情的になってしまうという人は、

自分の感情を意識しながら指導すること(アンガーマネジメント)を心掛ける

ようにしましょう。例えば、不手際に接してイラッとした場合に、「ああ、自分はいらついているんだな」と、自分の感情を客観的に見つめる癖を付けると、意外と冷静になれるものです。

3 論理的だが話を聞かない「正論押し付けタイプ」

正論押し付けタイプ

1)どういうタイプ?

「正論押し付けタイプ」の上司は、

感情に左右されず、論理的に指導をするが、その論理から外れた行動をする部下に異常に厳しいタイプ

です。なお、「論理的に指導をしている」というのはあくまで上司自身の認識で、実際は部下の力量や経験、他の業務の状況などを正しく把握できておらず、的外れな指導をしてしまうケースも多いです。自分に自信がある分、意外と周りが見えていないタイプともいえるでしょう。

具体的には、

  • 「私の言うこと、間違っている?」「この通りにやれば成果が出るはずなのに、なぜやらない?」などの言い方で、部下を追い詰めて萎縮させる
  • 「私の言うやり方ならできるはずだ」と、部下の力量や経験、他の業務の状況などを考えず、キャパオーバーの業務を振り、部下が難色を示しても取り合わない

といった特徴が見られます。

2)どういう指導がパワハラになる?

部下のミスに対して、指導する時と場所を選べるにもかかわらず、

周囲に他の社員がいる状況で長時間の叱責をすると、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動(「精神的な攻撃」型のパワハラ)

と評価される可能性があります。

キャパオーバーの業務を振り、部下が難色を示しても取り合わないのは、

明らかに遂行不可能な業務を振るなど業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであれば、パワハラ(「過大な要求」型のパワハラ)

になります。部下の言い分を聞いて軌道修正を図るならよいですが、「言い訳する暇があったら先に進もうよ」などと言って、取り合わないのはNGです。

正論押し付けタイプの上司に接すると、部下は逃げ場がなくなってしまい、ストレスの蓄積により精神を病んでしまうことがあります。パワハラによるストレスだけで精神を病んだとはいえなくても、他のストレス(困難な業務による精神的負担や長時間の勤務などによるストレス)が合わさって、メンタルヘルス不調になったと判断されることがあるので注意が必要です。

3)指導の改善のポイントは?

正論押し付けタイプは、部下が相談を持ちかけても、上司側の正論で一刀両断してしまうため、部下にとっては「取り付く島もない」状態になることもあります。上司にとっては「相談するまでもないこと」でも、部下にとってはそうではありません。

まずは上司が部下の話によく耳を傾けること、つまり「傾聴」

が大切です。上司が話を聞いてくれれば、部下は言葉に出しながら自らの問題点や課題を整理でき、解決の糸口を見つけられます。部下の発言が、上司側の正論から外れたものであったとしても、まずは「部下には部下の言い分があるのだろう」と肯定的に受け止めましょう。

また、価値観押し付けタイプの上司にも言えることですが、正論押し付けタイプの上司には、自身の誤りを認めることが得意でない人がいます。部下の納得を得るためにも、

上司の指示や指導に落ち度があれば、素直に認めること

が大切です。これは「謝るべきは謝り、過大な謝罪要求は毅然とお断りする」という、カスタマーハラスメントなどと同様の対応です。

4 部下にかまいすぎる「過干渉タイプ」

過干渉タイプ

1)どういうタイプ?

「過干渉タイプ」の上司は、

部下がちゃんと働いているかが気になって、過剰に干渉してしまうタイプ

です。業務の進捗を管理するのは上司の役目ですが、その管理が行き過ぎることで、かえって仕事に支障を来してしまうのです。

具体的には、

  • 必要以上に連絡を取ろうとし、ある程度経験がある部下が相手でも、細かく仕事の進め方を決めないと気が済まない
  • 部下が期待通りの働きをしていない場合、「普段の生活態度が仕事に影響してくるんだ」などと、部下の私生活にまで言及してしまう
  • 「部下が大変そうだから」「定時で帰らせたいから」と、任せた仕事を引き取ってしまう

といった特徴が見られます。

2)どういう指導がパワハラになる?

部下の業務の進捗管理については、

休日や深夜などの時間帯にまで連絡を入れて報告を求めると、連絡する業務上の必要性があったとしても、その態様が社会通念上相当な範囲を超えたものとして、パワハラ(「過大な要求」型のパワハラ)

と評価される可能性があります。テレワークをしている部下に、勤務時間中はオンライン会議システムのカメラを常にオンにしておくように命じたり、頻繁に点呼を取ったりするのも、業務上の必要性に照らして社会通念上相当な範囲を超えたものであれば、パワハラ(過大な要求)と評価される可能性があります。

期待通りの働きをしていない部下に、「普段の生活態度が仕事に影響してくるんだ」などと、

私生活にまで言及して叱責するのは、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動(「精神的な攻撃」型または「個の侵害」型のパワハラ)

と評価される可能性があります。毎日定時で帰る部下に「そういう甘い考え方だから仕事も中途半端になるんだ。考えを改めよう」と叱責したりするケースなども同様です。一方、

育児や介護をしている部下について、業務量を調節するために家族の事情について質問する場合などは、業務上の必要性や相当性が認められ、基本的にパワハラにはならない

と考えられます。とはいえ、根掘り葉掘り質問をして、部下が「個人的なことですから」と、話したくない態度を示したのにしつこく質問すると、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動(「個の侵害」型のパワハラ)と評価される可能性があります。

「部下が大変そうだから」「定時で帰らせたいから」と、

部下に任せた仕事を引き取るのは、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動(「過小な要求」型のパワハラ)

と評価される可能性があります。業務負担の偏りや納期などの事情に配慮して、部下の仕事を引き取ることは業務上必要なことなので、本来パワハラにはなりませんが、簡単な仕事しか与えない状況が常態化している場合などは話が変わってきます。

3)指導の改善のポイントは?

目の届かない所で仕事をしている部下が心配なのは分かりますが、上司の目の前で仕事をしている社員が成果を上げているとは限りませんし、その逆もしかりです。まずは、

上司として、ある程度部下を信頼して任せる態度を取ること

が大切です。監視・干渉しなくても、業務管理できるシステムの導入などを検討しましょう。

また、上司と部下の間で、

1日の中で業務の定期連絡をするタイミングを決めておき、メールやチャットの場合、上司が勤務時間外に送信しても、部下は勤務時間中の返信可能なときに返信すればよい

という具合に、連絡に関するルールを共有しておくのもよいでしょう。ただ、勤務時間外に繰り返し上司からメールやチャットが送信されるようだと、部下が「自分も早く返信しなければ」と圧を感じることがありますから、勤務時間外の送信は最低限にしておきましょう。

一度部下に任せた仕事を引き取るのは、業務負担の偏りや納期などを考慮して、

どうしても必要な場合だけにとどめ、上司が仕事を引き取る状況を当たり前にしない

ように注意しましょう。「一度仕事を任せた以上は、部下にやらせる」という意識を持たないと、部下はいつまでたっても成長しませんし、上司の負担も増えます。なお、仕事を引き取る際は、上司の意図が部下に正しく伝わらないと、部下は「経験を積みたいのに、自分は嫌われているのだろうか」などと不安に感じますから、引き取る理由を明確に伝えましょう。

5 部下に任せきりで指導をしない「丸投げタイプ」

丸投げタイプ

1)どういうタイプ?

「丸投げタイプ」の上司は、

ハラスメントと言われるのが怖かったり、管理職になりたてで指導に自信がなかったりして、部下とコミュニケーションをあまり取らないタイプ

です。言葉を選ばずに言うと、部下を指導する上司の役目を放棄している人たちです。

具体的には、

  • 指導を嫌がる。部下に「分からないことがあったら聞いて」と言っておきながら、いざ相談されたら「少しは自分で考えろ」と言って突き放す
  • 「プレーヤー」としての自分の仕事以外の「マネジャー」的な仕事をしたがらない

といった特徴が見られます。

2)どういう指導がパワハラになる?

部下が新入社員だったり、異動直後だったりと、

明らかにサポートを必要としている状況にもかかわらず、指導や相談対応をしない場合、部下の負担の大きさによっては、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動(「過大な要求」型のパワハラ)

になります。また、私傷病休職から復帰した直後の部下なども、心身が十分に回復しておらずケアが必要な場合がありますが、こうしたケースで部下に配慮をせず、

休職前と変わらない業務を担当させ、「パフォーマンスが悪い」などと叱責すると、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動(「精神的な攻撃」または「過大な要求」型のパワハラ)

と評価される可能性があります。

3)指導の改善のポイントは?

丸投げタイプの上司の場合、まずは自身がマネジャーであることを意識すること、つまり、

「部下を指導するのは上司の役目」という自覚を持つこと

が大切です。とはいえ、ハラスメントと言われるのが怖い、新任管理職なので指導に自信がないという上司の心情も理解できます。このあたりは、経営者などが「指導そのものはハラスメントにはならない」ということを明確に伝えたり、上司の上位者(部長クラスなど)が、必要に応じて指導の相談に乗ったりすることも大切です。

なお、上司がマネジメント業務を怠ると、

それが上司と部下だけでなく、会社全体の問題に発展してしまうケースがあることも認識

しておきましょう。実際にあったケースで、社内で発生したハラスメント問題(部下が被害者)について、上司が「見て見ぬふり」をしてしまい、ハラスメントがエスカレートしてしまった事案があります。会社は社員に対して「安全配慮義務」(労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務)を負っています。実際の裁判でも、

上司は会社の安全配慮義務の「履行補助者」である

として、上司が部下の安全が害されていると知りながら放置した場合、会社の安全配慮義務違反を認定するケースがありますから、マネジメント業務をおろそかにしてはいけません。

以上(2026年11月更新)
(執筆 東京エクセル法律事務所 弁護士 坂東利国)

pj00728
画像:ChatGPT

現場の業務をDXで効率化!「ブルーカラー」の働き方改革を促す現場改善テック

1 「現場」にこそDXによる業務効率化が必要

御社の現場では、次のような課題を抱えてはいないでしょうか?

  • 紙によるアナログな管理で、情報の閲覧や検索が困難になっている
  • 社員各々の経験に業務を頼っていて、ノウハウが共有されていない
  • 社員が現場に1人で出ており、情報共有や社員間の連携がうまくいかない

こうした課題を解決できるのが、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。例えば、紙による資料管理をデジタル化するだけでも記録ミスの削減や社員の作業負担が軽減され、残業時間の削減が期待できます。一方で、DXを進めるために市販の外部システムを使おうとすると、中小企業の規模では必要のない機能が含まれていたり、コスト面の負担が大きかったりして、一歩を踏み出せないケースもあります。

そこで、この記事では、これからDXを進めようとしている企業の参考になるよう、システムを自社開発することでDXを実現した企業の事例や、具体的にDXを進めていく際の参考情報を紹介します。

2 自社開発による「現場改善テック」事例

1)作業日報をアプリで見える化:サンコー技研(大阪府東大阪市)

1.取り組み内容

プリント基板や光学部品、フィルム部材製作などを手掛ける同社では、日報・生産管理アプリの「スマファク!」を自社開発・外販しています。利用者は、個人別に作成されたQRコードをスマートフォンのアプリで撮影することで、その日の作業記録を入力できるだけでなく、1日ごとや案件ごとにグラフ形式で作業時間を確認できます。

2.取り組みのきっかけ

これまで同社では、生産実績やトラブルなどの記録を手書きの日報で作成しており、その作業自体に負担がかかることや、過去の情報を見直しづらいことを課題としていました。そのため、作業日報のデジタル化を検討したものの、既存のシステムでは必要のない機能も含まれている上、ライセンスコストの負担が大きかったことから自社開発に至ったといいます。開発に当たっては、大阪府IoT推進ラボが運営する「IoTマッチング」を使ってサン・エンジニアリング(大阪府大阪市)と協働し、アプリ開発に取り組みました。

3.取り組みの成果など

日報が手書きからモバイル端末での入力に変わったことで、記録業務の手間や記録ミスの削減、工程ごとの正確な時間管理ができるようになったといいます。

また、スマファク!は中小の町工場に限らず、大手企業からの引き合いもあるといいます。

■スマファク!■
https://sankogiken.com/smafac/

2)納期管理や進捗管理を見える化:日本ツクリダス(大阪府堺市)

1.取り組み内容

町工場向けの生産管理システムの開発・提供、印刷物・ウェブサイトなどのデザイン制作を手掛ける同社では、納期管理・進捗管理システムの「エムネットくらうど」を自社開発・外販しています。仕事の優先順位や進み具合を知るための納期管理・進捗管理を重視したシステムで、紙の図面の情報をシステムに入力し、発行したバーコードを貼り付けて管理する仕組みです。

「エムネットくらうど」メニュー画面のイメージ図

2.取り組みのきっかけ

町工場での納期管理・進捗管理はホワイトボードや経営者の頭の中だけで把握していることが多く、情報共有が難しいという課題がありました。

また、既存の製造業向けの生産管理システムは、町工場で使うには複雑で必要のない機能も入っており、導入コストも高いことから、必要な機能だけをそろえたシステムを自社開発することに至ったといいます。

3.取り組みの成果など

工程の進捗状況が誰でも見られるようになったことで、クライアントからの進捗確認の問い合わせに対して、作業現場まで聞きに行かずとも素早く回答できるようになり、クライアントからの信頼度が向上したそうです。また、作業効率が上がったことで完全週休2日制も実現できたといいます。

また、「エムネットくらうど」を導入したユーザーでは、売上高の向上や人件費削減を実現したケースもあるといいます。

■エムネットくらうど■
https://mnet.netkojo.biz/

3)顧客管理ツール開発でDX化を実現:三和鍍金(群馬県高崎市)

1.取り組み内容

メッキ、塗装、研磨などの金属表面処理を手掛ける同社では、顧客管理ツールの「見積り案件管理表」を自社開発し、運用しています。

見積り案件管理表のイメージ図

2.取り組みのきっかけ

紙ベースでの管理方法では、必要なデータをすぐに引き出せない、資料を保管するスペースが圧迫される、火災などが起きたときに紛失する危険があるなどの課題がありました。

一度は有料の販売管理システムを導入したものの、社員数などの会社全体の規模感が見合わなかったり、管理項目が難解だったりすることを理由に数カ月で利用を取りやめ、自社開発に至ったといいます。

3.取り組みの成果など

同社代表の武藤篤氏は、「身の丈に合った丁度いいシステムになっているので、何よりも継続的に使用するにあたってストレスが限りなくゼロに近いというメリットがある。自社開発だからこそ実現できたと考えている」と語ります。

また、システムを導入することで、1カ月あたりおよそ40~50件の新規お問い合わせに対して、営業2人で管理ができる体制が構築されました。案件の共有も即座にでき、また過去データ(図面・処理内容・見積り単価等)を確認することも容易であるため、営業と事務間のコミュニケーションが円滑化され、生産管理の効率が飛躍的に上昇したといいます。

■三和鍍金■
https://sanwamekki.com/

4)社内向けポータルサイトでDXを実現:NISSYO(東京都羽村市)

1.取り組み内容

業務用トランス・リアクトル・制御盤の設計・製造などを手掛ける同社では、自社制作したクラウド型のポータルサイトの「アスヨクDX」を用いたデータドリブン経営(データを活用してビジネス上の意思決定を行う経営手法)に取り組んでいます。全社員にiPadを配布し、残業時間の確認、社内規定、Q&Aなどのデータを集め、Looker Studio(GoogleのBIサービス)でデータの見える化を図っています。

2.取り組みのきっかけ

2017年に発表した経営計画の社長コメントで、バックヤードをデジタル化で簡素化していくことを宣言したこと、売り上げの増加に伴い、業務量が増えたことで慢性的な人材不足になっていたことをきっかけに、iPadを正社員全員に配布し、ペーパーレス化やクラウド上に社内のデータを集める取り組みを始めました。

3.取り組みの成果など

クラウド上に図面データをアップロードし、各自が持っているiPadで見るという取り組みによって、年間約60万枚のペーパーレスを実現しているといいます。

また、同社はDX推進の準備が整っていることを国が認定する「DX認定事業者」に認定されている他、日本の中小企業の規範となるDX推進態勢を構築したとして、2022年のITコーディネータ協会表彰で優秀賞(独立行政法人情報処理推進機構理事長賞)を受賞しています。

■NISSYO■
https://www.nissyo.tokyo/

5)トレーサビリティで製造工程を管理:三行合成樹脂(新潟県見附市)

1.取り組み内容

プラスチック射出成形を手掛ける同社では、金型や製品の情報をすべてデジタルで管理しています。二次元コードを活用したトレーサビリティ管理を導入し、成形機の稼働状況をリアルタイムで監視して、異常を早期に発見できる体制を整えました。

2.取り組みのきっかけ

人手不足が社会的な課題となる中、属人的な技能や経験に頼らない経営基盤を築くことを目指し、町工場からスマートファクトリーへの変革に取り組んだといいます。

3.取り組みの成果など

社員の有給取得率の向上やクレーム件数の減少などの働き方改革を実現しています。また、全工程のデジタル管理や製造工程のリアルタイム監視が評価され、「DXセレクション2026」で新潟県の企業として初めて準グランプリを受賞しています。

■三行合成樹脂■
https://sanko-pla.jp/

6)AIとの対話で業務アプリを内製し、現場を楽に:岡田研磨(石川県金沢市)

1.取り組み内容

建設機械などの部品を製造する同社では、現場社員全員へのタブレット配布や全工作機械の稼働状況を把握するシステムの導入に加え、AIを用いて業務アプリを内製しています。

図面はPDF化してタブレットで検索できるようにし、生産管理や在庫管理、クレーム管理などの情報を一元化した「OKADA Board」として、全社員が閲覧できる体制を整えています。

2.取り組みのきっかけ

同社専務の岡田雄太氏によると「あらゆるものが紙で管理され、業務の無駄の多い現場を目の当たりにした」ことがきっかけといいます。DX推進に当たっては、管理する側の都合ではなく「現場が楽になること」を軸に据えて進めたとしています。

3.取り組みの成果など

月400~500時間程度の作業時間の削減、クライアントへの価格改定資料の作成時間の90%短縮、月間約6000枚の紙の使用量の削減などを実現しています。また、仮に、同様のシステムを外部ベンダーに開発・運用を委託した場合は1億円規模になると試算されています。

■岡田研磨■
https://www.okadakenma.com/

7)塗装工程をデジタルで見える化し、熟練技能を伝承:ヒバラコーポレーション(茨城県東海村)

1.取り組み内容

重電機器や車両制御システムなどの金属塗装を手掛ける同社は、生産状況や工程の進捗を可視化する生産管理システム「HIPAX」を自社開発しました。入荷時に1品ごとの塗装仕様やサイズ、写真をスマートフォンで入力し、作業者が工程ごとに開始・終了時間を記録することで、進捗をリアルタイムで確認できる仕組みです。この進捗は顧客にも開示しています。

2.取り組みのきっかけ

工業塗装業界が抱える、熟練技能者の高齢化や若手人材の確保難、それに伴う品質の不安定化という課題に対して、社内のシステム開発部門の強みを活かした取り組みをしたいことがきっかけといいます。

3.取り組みの成果など

HIPAXの導入により、同じ人員体制で生産能力を25~30%伸ばせるようになったとしています。進捗を顧客に開示する仕組みは、問い合わせ対応の負担軽減や顧客からの信頼向上にもつながったとしています。また、「DXセレクション2025」では準グランプリを受賞しています。

■ヒバラコーポレーション■
https://kougyoutosou.com/

3 参考:DX導入に役立つ情報

1)独立行政法人情報処理推進機構(IPA):DX SQUARE

DXに関する情報を発信するウェブサイトです。DXの基礎知識や用語集をはじめ、自社のDXレベルを測るための指標、業種ごとのDX推進事例などを紹介しています。

■DX SQUARE■
https://dx.ipa.go.jp/

2)IPA:マナビDX

デジタルスキルに関する学習コンテンツを紹介するウェブサイトです。DXの基礎的な講座をはじめ、社員のキャリアアップや企業研修に活用できる講座の情報をまとめています。

■マナビDX■
https://manabi-dx.ipa.go.jp/

3)中小企業基盤整備機構:ここからアプリ

中小企業がDX推進に関して、導入しやすい業務用アプリを紹介するウェブサイトです。アプリの概要だけでなく、実際の企業による導入事例なども紹介しています。

■ここからアプリ■
https://digiwith.smrj.go.jp/cocoapp/

4)経済産業省:DXセレクション

中堅・中小企業などのモデルケースとなるような優良事例を「DXセレクション」として紹介する取り組みです。優良事例を選定・公表することで、地域内や業種内での横展開をはじめ、中堅・中小企業などにおけるDXの推進や取り組みの活性化につなげていくことを目的としています。

■DXセレクション■
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-selection/dx-selection.html

以上(2026年11月更新)

pj40069
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AI活用で進化する税務調査。5種類の「税務調査」の調査方法と新たな基幹システム「KSK2」

1 会社で行われるだけじゃない、様々な税務調査の調査方法

税務調査は、税務署の調査官が実際に会社に来て調べるだけではなく、

取引先や金融機関への問い合わせなど様々な方法

で行われます。これは、帳簿や書類だけではなく、様々な視点から取引の実態や会社の税務管理体制を把握するためです。

日々の記帳や経費の処理、売上の計上など正確に行っていても、「何かあるかもしれない」と不安を覚えるのが税務調査です。自分の会社に税務調査が入るとなった場合、税務署はどのような情報を持っているのか。税務調査時に適切な対応を取るためにも、税務調査の調査方法を押さえておきましょう。以降では、次の5つの税務調査と、2026年秋に導入されるKSK2(AIを活用した国税庁の基幹システム)の動向について紹介していきます。

  • 机上調査
  • 内観・外観調査
  • 実地調査
  • 反面調査
  • 金融機関調査
  • AI・データ活用の基幹システム「KSK2」に基づく調査

2 税務署内で確認する「机上調査」

机上調査とは、

会社が提出した申告書や帳簿資料を税務署内で確認する

調査方法です。調査官が現場に訪問する前段階の調査として行われ、書類の整合性や不備をチェックすることが主な目的です。

この机上調査を通じて、申告内容に矛盾や不自然な点がないかを確認します。もし疑問点が見つかった場合、軽微なものに関しては、この段階で税務署からの問い合わせや追加資料の提出依頼の連絡がくることもあります。問い合わせなどだけでは、足りないような不明点がある場合には、後述する実地調査へと進展します。

3 店舗などの営業状況や外観を調べる「内観・外観調査」

内観調査とは、

税務署の調査官が店舗などを直接訪れ、実際の客として通常の運営状況を観察する

調査方法です。この調査も、一般的に調査官が現場に訪問する前段階の調査として行われ、例えば、

  • 店内での顧客数や客単価はいくらか
  • 注文の処理方法やレジ打ちが適切に行われているか

などを観察し、申告内容との整合性を確認します。主に、現金取引の多い飲食店などに対して行われることが多いといわれます。

外観調査とは、

オフィスや店舗などの外観を観察し、立地や事業規模、客の入り具合などを確認する

調査方法です。この調査は、事前に行われる場合もあれば、現地に訪問して実地調査をする際に行われる場合もあり、例えば、

  • 店舗の外から観察した客の出入りと、申告された売上高が釣り合っているか
  • 会社の工場や倉庫の規模と、申告された売上高や在庫の規模と釣り合っているか

など、申告内容との整合性を確認します。また、社長の自宅の外観を観察して、申告された役員報酬の金額に違和感はないか(かなり豪華な自宅や複数の高級車所有にもかかわらず、役員報酬が極端に低いなど)を、確認するためにも行われることがあります。

また、近年では、ネット上の情報チェックも重要視されており、企業のホームページやソーシャルメディアの投稿を確認することも行われています。

4 対象会社のオフィスなどで行われる「実地調査」

実地調査とは、

税務署の調査官が対象会社のオフィスや工場、倉庫などを直接訪問し、帳簿や証憑(しょうひょう)書類(契約書や請求書など)や実物を見ながら、取引の実態を確認する

調査方法です。これは税務調査の中でも最も一般的な調査方法で、通常は事前に通知されます。顧問税理士がいる場合には、税理士に連絡があります。

基本的に、

  • 会社の財務担当者や経営者に対して質問
  • 申告書には添付されていない書類で確認が必要な書類の請求
  • オフィスの状況(出社人数や会社、工場などの固定資産の状況など)の確認
  • 調査結果の報告

などが行われます。

実地調査は数日から1週間程度かかることが多く、机上調査などで矛盾や不自然な点のあった箇所を重点的に調べたり、ミスの多い一般的な論点(会議費・福利厚生費・交際費の混同や役員報酬、減価償却費など)をまんべんなく調べたりと、調査ごとに異なります。

5 取引先などに出向いて調べる「反面調査」

反面調査とは、

調査対象である会社ではなく、取引先など関係先への文書や電話での問い合わせや、場合によっては直接出向いて契約書、請求書、受注書、発注書などを確認する

調査方法です。主に実地調査後に行われ、具体的には、

  • 必要な書類をなくしたり、廃棄したりしており、データがそろっていない場合
  • 嘘偽りを疑わせる応答があった場合
  • 重要な書類の提出を拒否したり、調査に対し協力的でなかったりした場合
  • 取引先や関連会社との取引に不明点がある場合
  • 受け答えの内容に不明確な部分があり、その裏付けが必要な場合
  • 所得隠しや不正な取引(架空取引など)が疑われる場合

に、実施される可能性があります。

反面調査は、通常の税務調査のような事前通知を行うことを定めた法令上の規定はありません。国税庁のFAQ等においても、運用上、原則としてあらかじめ対象者へ連絡することとされています。しかし、実際には調査対象の会社と取引先の間での口裏合わせや証拠隠滅などを防ぐ観点から、調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると判断され、事前連絡なしに突然行われるケースも少なくありません。反面調査があった時点で、税務署から疑われているというマイナスの印象を持たれかねず、自社に対する信用低下にもつながります。このことからも、実地調査は誠実に対応するよう心掛けましょう。

6 金融機関に直接連絡する「金融機関調査」

金融機関調査は、

税務署の調査官が金融機関に直接問い合わせて、銀行口座や証券口座の取引内容を確認する

調査方法です。金融機関調査は、前述した反面調査の一部で、その会社が口座を通じて、

  • 異常な金銭の動きがないか、
  • 送金先と入金先はまっとうか

などを確認し、申告内容と実際の取引内容に不一致がないかを検証するために行われます。また、会社名義の口座だけでなく、役員や親族名義の個人口座も対象に行われ、申告された役員報酬との整合性や、親族への不自然な送金や入金の有無などを調べることもあります。

7 AI・データ活用の基幹システム「KSK2」に基づく調査

ここまで紹介してきた5つの調査方法に加え、最近では、調査対象の選定にAI(人工知能)が活用されるようになっています。2026年9月24日には、国税庁の基幹システムが約25年ぶりに刷新され、「KSK2(次世代国税総合管理システム)」が本格稼働する予定です。KSK2とは、

全国の国税局・税務署をネットワークで結び、申告や納税に関するデータを一元管理する、国税庁の基幹システム

です。現行のシステム(KSK)から刷新されることで、主に次の3点が変わるといわれています。

  • 法人税・所得税・消費税・相続税など、これまで税目ごとにバラバラに管理されていた情報が、一体的に確認できるようになる(例えば、会社が申告した役員報酬の額と、社長個人の所得税申告の内容に食い違いがないかなどが確認しやすくなる)
  • 調査官が、調査先の会社にいながら、その場でシステムのデータを確認できるようになる
  • 金融機関への照会や地方税当局とのデータ連携など、外部の情報も取り込みやすくなる

誤解されやすいのですが、KSK2自体は「AIが自動で調査を行うシステム」ではなく、あくまでデータを一元管理するための基盤システムのようです。AIによる異常値の分析や絞り込みが行われるとしても、実際に調査を行うかどうかの最終判断は、これまでどおり調査官が行います。

とはいえ、税目をまたいだ情報の食い違いや日々の取引の不自然な点が、見つかりやすくなることは間違いありません。特別な対策をする必要はありませんが、日頃から正確な記帳を行い、請求書や領収書などの証憑をきちんと整理・保存しておくこと、そして役員報酬や経費の処理などについて公私の区別を明確にしておくことが、これまで以上に求められます。

以上(2026年9月更新)
(監修 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)

pj30217
画像:ChatGPT

【朝礼】本当に相手の気持ちが分かっていますか

【ポイント】

  • お客さまを頻繁に訪問したことで、判断を急かすだけでなく、時間も奪ってしまった
  • 営業の「足」は、直接訪問することではなく、お客様との接点を増やすことを意味する
  • 相手と仲良くなろうと思ったら、自分と相手との違いがどこにあるのか意識してみる

みなさんはよく、「相手の気持ちになって考えなさい」とか、「相手の立場に立って考えれば、相手が何を必要としているか分かる」という言葉を聞きませんか? 今日は、相手の気持ちを考えるということがどういうことなのかをお話ししたいと思います。

「営業は足で稼ぐ」という言葉があります。私は入社したてのころ、その言葉通りに、とにかくお客様を足しげく訪問することが大切だと考えていました。お客様と初めての商談が始まることになり、私は毎日のようにお客様を訪問しました。それが熱心さの表れだと思っていたのです。しかし、しばらくしてお客様から「他社製品に決めたので、この話はなかったことにしてほしい」と言われてしまいました。そこで、思い切って私の何が悪かったのかを聞いてみました。返ってきた答えは、「急かされているように感じ、時間をかけて検討できないと思ったから」でした。他社の営業は私よりも頻繁ではなく、必要なときにだけお客様を訪問していたようです。私はここで初めて、お客様の気持ちを分かっていないことに気付いたのです。頻繁に訪問したことで、お客様を気分的に急かしただけではなく、相手の時間も奪っていたのだと分かりました。

電話やメールなら数分で済む用事も、訪問すれば倍の時間がかかります。ですから、普段は電話やメールで情報提供をした上で、本当に必要なときにだけ訪問して、お客様からいただく時間を最小限にするべきだったのです。当時の私は、営業の「足」は直接訪問することではなく、お客様との接点を増やすのだということが分からず、独りよがりにお客様の気持ちに踏み込んでしまっていたのです。私のような失敗をしないためには、まず「他人の気持ちは簡単には分からない」と思う気持ちが大切ではないでしょうか。生まれも育ちも違う人であり、社風も違う組織なのですから、時には自分の常識が他人の非常識となることもあるでしょう。相手と仲良くなろうと思ったら、まずは自分と相手との違いがどこにあるのか意識を払ってみましょう。立場や考え方の違いが分かれば、相手が何を考え、何を求めているかのヒントとなるはずです。私は、相手の気持ちになって考えるということは、自分との違いを理解し、それを受け入れることから始まるのだと思います。

以上

pj16521
画像:Mariko Mitsuda

AI分析×新システム(KSK2)稼働! 変わる「税務調査」の始まりから、終わりまでを徹底解説!

1 経営者が税務調査の全体像を知る必要性とは

多くの会社は数年に一度、税務署などによる税務調査を受けますが、

「いつ、どんな基準で調査対象に選ばれるのか」

「調査では何をされるのか」

「指摘を受けたらどうなるのか」

「指摘に納得できない場合はどうすればよいのか」

「結局、追加でどのくらいの税金がかかるのか」

といった全体像を理解している経営者は多くありません。

しかも近年、税務調査のあり方は変わりつつあります。税務当局では、申告内容やさまざまな資料を分析する際にAIの活用が進んでおり、調査対象の選定や申告内容の確認にもデータ分析が活用されています。さらに、2026年9月には、納税者に関するさまざまな情報を管理する基盤システム「KSK2(次世代国税総合管理システム)」の稼働が開始されます。こうしたデジタル化によって、税務調査もよりデータを重視したものへと変貌しつつあります。

税務調査はどんな経営者であっても多少なりに身構えてしまうものです。しかし、あらかじめ全体像をつかんでおくことで、実際に税務調査の連絡が来たときも、落ち着いて対応できるようになります。

本稿では、税務調査の「入口」(調査対象の選定)から「出口」(修正申告や更正、附帯税の確定)まで、一連の流れに沿って解説します。

2 税務調査は、どのように始まり、進むのか

税務調査は、会社から提出された申告書などに記載されている金額が正確かどうかを、税務署などの職員(以下「調査職員」)が判断するために行う一連の調査です。一般的に「税務調査」という場合、オフィスや工場などに調査職員が出向いて行う「実地調査」を指すことが多いですが、このほかにも、電話や文書での問い合わせ、取引先への「反面調査」など、納税者と直接接触しない形で行われる調査も含まれます。

税務調査は、大きく次の流れで進みます。

税務調査手続きの流れ

1)調査対象法人の選定

課税当局(国税庁・国税局・税務署)は、申告内容や各種資料情報を蓄積した「KSKシステム」と呼ばれるシステムを活用し、その事務年度(7月から翌年6月までの1年間)における重点調査業種に該当しているかどうかや、業種・業態・事業規模といった観点から、調査対象の会社を選定しています。給与所得の源泉徴収票や支払調書など法令上、提出が義務付けられている資料の他、過去の税務調査で把握した情報なども活用されます。

近年は、こうした膨大な申告データや資料情報をAIで分析し、申告内容に不自然な点がないか、同業他社と比べて大きく異なる点がないかなどを分析して、税務調査対象法人を選定する取り組みも進んでいます。

さらに2026年9月には、約25年ぶりに刷新される「KSK2(次世代国税総合管理システム)」の本格稼働が始まります。

KSK2では、法人税・所得税・消費税・相続税など税目ごとにバラバラだった情報が一体的に確認できるようになる他、調査職員が調査先にいながらその場でデータを確認できるようになる

など、調査の精度とスピードが増すとみられています。

なお、KSK2自体はあくまでデータを一元管理する基盤システムであり、「AIが自動で調査を行うシステム」ではありません。調査を行うかどうかの最終判断は、これまでどおり調査職員が行います。納税者側に、特別な対策は不要ですが、日頃からの正確な記帳と証憑の整理・保存が、これまで以上に重要になります。

2)書面添付の有無

税理士に税務申告を依頼していて、申告書に「書面添付」がされている場合は、税務調査の進め方が少し異なります。

書面添付とは、税理士が申告書を作成する際に、どのような資料を確認したのか、どのような計算や税務上の判断をしたのかなどを記載した書面(税理士法第33条の2に規定される書面)を、申告書と一緒に税務署へ提出する制度です。

書面添付がある場合、税務署は、いきなり会社に税務調査を行うのではなく、まず申告を担当した税理士に内容について確認する「意見聴取」を行います。そこで税務署が疑問に思っていた点が解消され、調査の必要がないと判断されれば、会社への実地調査は行われません。

一方、意見聴取を行っても確認が必要と判断された場合は、税理士にその旨が伝えられたうえで、通常の税務調査に進むことになります。

3)事前通知

税務調査が入るときは、原則として、課税当局から納税者(税務代理権限証書を提出している場合は顧問税理士)に対して、実地調査を行う旨や調査開始日時、調査の対象となる税目・期間など、次のような事項があらかじめ通知されます。

  • 実地調査を行う旨、調査開始日時、調査を行う場所、調査の目的
  • 調査の対象となる税目、期間、帳簿書類その他の物件
  • 納税者の氏名・住所、調査を行う調査職員の氏名・所属官署 など

ただし、申告内容や過去の調査結果、営む事業の内容などから、違法・不当な行為の疑いが強く、資料収集や適正な調査が困難と認められる場合に限り、事前通知なく調査が実施されることもあります。

4)実地調査

実地調査では、調査職員が「質問検査権」に基づいて、会社などで質問や検査を行います。質問検査権は「調査について必要があるとき」に認められるものであり、納税者は明らかに必要のない質問に応じる義務はありません。もっとも、必要な帳簿書類等の提出を求められた際に、正当な理由なく答えない、または偽りの答弁をした場合には、

1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科される可能性

があります。

実地調査で確認される帳簿書類には、仕訳帳や総勘定元帳の他、取引先から受け取った注文書・契約書・領収書、棚卸表、貸借対照表・損益計算書などがあります。また、会議の議事録や稟議書、給与データ、電子メールなどのデジタル記録、固定資産台帳も対象となり、必要に応じて工場や営業所での現物確認が行われることもあります。

これらの書類や物品は速やかに提出する必要があり、必要と認められる場合には、調査職員が課税当局の庁舎に持ち帰る「留置き」が行われることもあります(納税者の理解と協力の下で行われ、預かり証が交付されます)。

5)取引先等調査(反面調査)

調査職員は、税務調査において必要と合理的に判断される場合には、取引先や雇用主などに対しても質問・検査を行うことができます。これを「反面調査」(取引先等調査)といいます。

6)調査結果説明、そしてその後の分岐

実地調査や反面調査の結果について、調査職員から納税者に対し、その内容・金額・理由が説明されます(多くの場合、口頭で行われます)。その後の流れは、大きく2つに分かれます。

  • 誤り・訂正がない場合:
    課税当局は、更正または決定をすべきと認められない旨を「書面」で通知します
  • 誤り・訂正がある場合:
    調査職員は、納税者に対し「修正申告」または「期限後申告」を行うよう勧奨します。課税当局が職権で更正・決定することも可能ですが、納税者が自ら理解して是正することが、申告納税制度の趣旨にかなうと考えられているためです

ここから先、指摘を受けた内容に「納得できる場合」と「納得できない場合」とで、手続きが分かれます。

3 指摘を受けたとき、どう対応するか

もし、税務署の調査官から申告の誤りを指摘された際、納税者がその指摘に納得する場合と、納得できない場合とで、その後の手続きが違ってきます。

1)納得する場合:「修正申告」「期限後申告」

指摘を受けた内容に納得する場合には、次のいずれかの申告書(以下「修正申告書等」)を提出し、追加で納税をすることで、税務調査は終了します。

  • 修正申告:当初の申告税額よりも税額を増額する内容の申告書
  • 期限後申告:期限内申告書を提出していなかった納税者が、課税当局が決定するまでの間に提出する申告書

修正申告書等を提出した場合には、後述する「再調査の請求」や「審査請求」はできなくなります。ただし、

税額を減額する「更正の請求」を行い、追徴税額の減額を求めることは可能

です。

なお、消費税の申告誤りにより消費税の追徴課税が生じ、他に指摘事項がないときは、損金(消費税の納税額は租税公課として損金に算入できる)が増えることで法人税額が減少することがあります。この場合、消費税は「修正申告書等」を提出し、法人税は「更正の請求」が必要となるようにも思えますが、実務上は、調査職員が法人税について減額の「更正」職権で行ってくれることが多いようです。

2)納得できない場合:不服申立てと税務訴訟

指摘を受けた内容に納得できない場合の手続きの流れは、次の通りです。

法人税の申告の誤りを指摘された場合の手続きの流れ(納得できない場合)

1.更正

修正申告等に納得できない場合、調査職員は「更正」を行い、納税者のもとに更正通知書が送られてきます。追徴税額は、確定してから納税すると延滞税等がかかるため、納得できない場合でも、いったん納税しておくことが望ましいとされています。

2.税務署に対する「再調査の請求」

更正通知書の内容に納得できない場合、

通知を受けた日の翌日から3カ月以内

に、所轄の税務署に対して「再調査の請求」をすることができます。税務当局はその内容を再検討し、結果(決定)を通知します。

3.国税不服審判所に対する「審査請求」

「決定」を受けてもなお納得できない場合には、

決定の通知を受けた日の翌日から1カ月以内

に、国税不服審判所に対して「審査請求」をすることができます。「再調査の請求」を経ずに、直接「審査請求」をすることも可能です。国税不服審判所は内容を審査し、結果(裁決)を納税者と税務署長に通知します。

4.税務訴訟

「裁決」を受けてもなお納得できない場合には、

裁決の通知を受けた日の翌日から6カ月以内

に、裁判所に訴訟を起こすことができます。判決によって、指摘内容の有無が確定します。

5.統計に見る、指摘事項を覆せる可能性

税務調査で税務署から指摘を受けた場合でも、「税務署の判断が必ず正しい」とは限りません。申告内容や取引の事実関係について、税務署と会社の認識が異なる場合には、その判断について争うこともできます。

国税庁および国税不服審判所が公表している「国税庁レポート2026」によると、2025年度の状況は次のとおりです。

指摘事項を覆せる可能性

いずれも、納税者の主張が認められる割合は決して高くありません。とはいえ、審査請求では約14件に1件の割合で、納税者の主張が全部または一部認められています。

税務調査で指摘を受けても、内容に明らかな誤りがある場合や、「その取引は実際にはこうだった」など事実関係について税務署と認識が食い違っている場合には、すぐに受け入れる必要はありません。まずは税理士などの専門家に相談し、指摘の根拠や会社側の主張を整理したうえで、不服申立てを行うかどうかを検討するとよいでしょう。

3)「更正」の期限・「修正申告書」の提出期限

税務当局による「更正」は、次の期間を超えて行うことができません。

  • 原則:法定申告期限から5年
  • 法人税の欠損金に係るもの:法定申告期限から10年(2018年3月31日以前に開始する事業年度で生じた欠損金は9年)
  • 偽りその他の不正の行為等によるもの:法定申告期限から7年

一方、「修正申告書」の提出には期限がないため、税務当局による「更正」を受けるまでは、どの年度分でも提出できます。なお、課税当局による「更正」の期限は上記のとおり定められているため、それより前の事業年度に遡って自ら「修正申告書」を提出する必要は実質的になしということになります。

4 修正申告書等を提出した場合にかかる附帯税(法人税等)

その誤りに対して課される税金(附帯税)も、誤りの種類によってさまざまです。法人税等(国税)に係る附帯金は次の通りです。

附帯税(法人税等)

1)加算税

1.過少申告加算税

過少申告加算税とは、

本来納めるべき税額より少ない金額で申告していたことが分かった場合に、追加で課される税金

です。税務調査などで申告漏れや計算ミスが見つかり、修正申告などによって追加の税金を納める場合に、その追加税額に対して課されます。

原則として、追加で納める税額(以下「追徴税額」)の10%が課されます。ただし、追徴税額が「当初の申告税額」または「50万円」のいずれか多い金額を超える場合、その超えた部分については15%となります。

一方、税務署から税務調査の通知を受けた後でも、税務調査で申告内容を修正されることを予想していない段階で自主的に修正申告をした場合には、税率が5%(追徴税額が「当初の申告税額」または「50万円」のいずれか多い金額を超える場合、その超えた部分については10%)に軽減されます。また、税務署から調査の通知を受ける前に自主的に修正申告をすれば、原則として過少申告加算税は課されません。

2.無申告加算税

無申告加算税とは、

申告期限までに申告しなかった場合に課される税金

です。期限を過ぎてから申告(期限後申告)した場合や、税務署から申告するよう指摘を受けた場合などが対象になります。

原則として、追徴税額に対して15%が課されます。ただし、追徴税額のうち50万円を超え300万円以下の部分は20%、300万円を超える部分は30%となります。

税務署から調査の通知を受けた後でも、税務調査によって申告漏れを指摘されることを予想していない段階で自主的に申告した場合は、税率が10%(50万円超300万円以下の部分は15%、300万円超の部分は25%)に軽減されます。

なお、過去5年以内に無申告加算税または重加算税を課されたことがある場合には、通常よりも重い税率25%(追徴税額が50万円超300万円以下の部分は30%、300万円を超える部分は40%)が適用されます。

3.不納付加算税

不納付加算税とは、

従業員の給与などから預かった所得税(源泉所得税)を、期限までに納付しなかった場合に課される税金

です。

原則として、期限を過ぎて納付した源泉所得税額の10%が課されます。ただし、税務署から指摘を受ける前に自主的に納付するなど、一定の条件を満たす場合は5%に軽減されます。

4.重加算税

重加算税とは、

単なる計算ミスや申告漏れではなく、税金を少なくするために、事実を隠したり、実際とは違う内容に見せかけたりした場合に課される、特に重いペナルティーとなる税金

です。

たとえば、売上を意図的に帳簿から外したり、実際には存在しない経費を計上したりするなど、意図的な「隠ぺい」や「仮装」があった場合が対象となります。

過少申告加算税や不納付加算税に代わって課される場合は追徴税額の35%、無申告加算税に代わって課される場合は追徴税額の40%です。さらに、過去5年以内に無申告加算税または重加算税を課されたことがある場合には、税率が45%(無申告加算税の場合には50%)に引き上げられます。

2)過怠税

過怠税とは、

印紙税がかかる契約書などに、必要な収入印紙を貼っていなかった場合に課される税金

です。

原則として、本来納めるべきだった印紙税額の3倍に相当する金額が課されます。

3)延滞税

延滞税とは、

税金の納付が期限に遅れた場合に、遅れた日数に応じてかかる利息のような税金

です。税務調査で追加の税金を納めることになった場合だけでなく、本来の納期限までに税金を納めていなかった場合にも発生します。

延滞税の割合は、納付が遅れた期間によって異なります。

  • 納期限の翌日から2カ月を経過する日まで

「年7.3%」と「延滞税特例基準割合((銀行の新規の短期貸出約定平均金利を基礎として計算した割合)+年1%」とのいずれか低い割合(2026年は2.8%)

  • 上記以降

「年14.6%」と、「延滞税特例基準割合+年7.3%」とのいずれか低い割合(2026年は9.1%)

なお、延滞税特例基準割合は毎年更新され、国税庁のウェブサイトで確認することができます。

5 修正申告書等を提出した場合にかかる附帯金(地方税)

地方税に係る附帯金は次の通りです。地方税についても、法人税等と同様に、「修正申告等」や「更正」の手続きがあります。ただし、住民税には、過少申告加算金・不申告加算金および重加算金は課されません。

なお、各附帯税の意味合いは、法人税等と同じになるため、ここでは税額の算出方法のみを紹介します。

附帯税(地方税)

1)加算金

1.過少申告加算金

過少申告加算金は、原則として、追加で納める法人事業税(追徴税額)の10%が加算されます。ただし、追徴税額が当初の申告税額または50万円のいずれか多い金額を超える場合、その超えた部分については15%となります。

なお、税務署などから指摘を受ける前に自主的に申告内容を修正した場合など、一定の条件を満たせば、過少申告加算金は課されません。

2.不申告加算金

不申告加算金は、原則として、追加で納める法人事業税(追徴税額)の15%が加算されます。ただし、追徴税額のうち50万円を超え300万円以下の部分の税率は20%、300万円を超える部分の税率は30%となります。

また、税務当局から指摘を受ける前に自主的に申告するなど、一定の条件を満たす場合は、税率が5%に軽減されます。

なお、過去5年以内に不申告加算金または重加算金を課されたことがある場合は、通常よりも重い税率が適用され、追徴税額の25%(50万円超300万円以下の部分は30%、300万円を超える部分は40%)となります。

3.重加算金

重加算金は、法人事業税の追徴税額に対して35%が加算されます。申告そのものをしていなかった場合は40%となります。

なお、過去5年以内に不申告加算金または重加算金を課されたことがある場合には、通常よりも重い税率が適用され、税率が45%(無申告の場合は50%)に引き上げられます。

2)延滞金

延滞金は、納付が遅れた期間によって異なります。

  • 納期限の翌日から1カ月を経過する日まで

「年7.3%」と「延滞税特例基準割合+年1%」とのいずれか低い割合(2026年は2.8%)

  • 上記以降

「年14.6%」と「延滞税特例基準割合+年7.3%」とのいずれか低い割合(2026年は9.1%)

6 いわゆる「所得隠し」があった場合

税務調査によって、事実の仮装・隠蔽の行為による申告漏れ(いわゆる「所得隠し」)の指摘を受けた場合には、追徴税額や上記の重加算税などの他、青色申告の取り消し処分も受けます。青色申告の取り消しは、過去の事業年度に遡って行われるため、税額控除などの青色申告の特典を受けていた場合には、適用を受けていない場合との差額について追徴税額が生じます。

また、法人の代表者等が刑事罰の対象ともなり、10年以下の拘禁刑もしくは1000万円以下の罰金が科されることもあります。さらには、こうした事実を報道されることなどによって、法人の社会的信用が下落するなど経営に与える悪影響は計り知れません。

以上(2026年9月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:ChatGPT