目次
1 社員のための取り組みがかえってマイナスに……?
デジタル技術の進歩による市場環境の変化、少子高齢化に伴う労働力不足など、日本国内のビジネス環境は大きく変わってきています。そして、多くの経営者が「このままではマズい。社員がもっと力を発揮できる会社にしなければ」と、働き方改革などに取り組んできました。
テレワークやフレックスタイム制で働く場所・時間を柔軟にし、若手にチャンスを与えるために仕事の権限を委譲し、なるべく本音で話せるようコミュニケーションにも気を配る……。ところが残念なことに、そんな経営者の苦労も知らず、むしろこうした取り組みをきっかけに態度が悪くなる社員が時折出てきます。例えば、次のような社員です。
- 働き方が自由になったら、勤務態度までルーズに。服装もマナーも悪化している
- テレワークに慣れ、周囲に無関心に。他の人の仕事は手伝わない。挨拶もしない
- 権限委譲した途端、自分勝手に。誰にも相談せずに仕事を進めてトラブルを起こす
- 上司は優しくて当たり前だと勘違い。少しでも注意されると機嫌が悪くなる
- 今以上の働きやすさをさらに会社に要求。要求が聞き入れられないとやる気を失う
経営者としては、働きやすい環境を整えた以上、社員にもそれに見合う働きをしてほしいところです。しかし実際には、その優しさに甘えるだけで期待に応えてくれない社員もいるのが現実です。就業規則の懲戒事由(無断欠勤・命令違反など)に当たる行動があれば懲戒処分も選択肢になりますが、「態度が悪い」というだけでは、それも難しいのが実情です。
腹が立つことこの上ないですが、もしかしたら社員が生意気になった原因は、経営者が
「何を実施するか」にとらわれ、「なぜ実施するか」をおざなりにしてしまったこと
にあるかもしれません。「なぜ働き方改革に取り組むのか」「社員に何を期待しているのか」といった経営者の思いを十分に伝えないまま、取り組みだけが先行してしまった結果、社員は会社の施策を表面的にしか捉えられなくなります。いわば「仏作って魂入れず」の状態です。
この状況を打開するには、今一度、経営者の思いを社員にきちんと届ける必要があります。以降では、働き方改革などをきっかけに態度が悪くなってしまった社員への、効果的な思いの伝え方をご紹介します。
2 社員が生意気になるパターンは2つある
対処法をお伝えする前に、まず押さえておいてほしいことがあります。社員が態度を悪化させるパターンには、大きく次の2つがあるという点です。
【パターン1:「線引きの誤解」タイプ】
本人なりに働き方改革などに適応しようとしているが、「ここまでなら許される」という線引きが間違っていて、結果として生意気に見えてしまっているタイプです。
【パターン2:「性格の顕在化」タイプ】
働き方改革など環境の変化を機に、隠れていた性格などが顕在化して、本当に生意気になってしまっているタイプです。
この違いを「働き方が自由になったら、勤務態度までルーズに。服装もマナーも悪化している」というケースで考えてみましょう。
1)パターン1:「線引きの誤解」タイプ
パターン1の社員の場合、服装やマナーが悪化しているのは、「ここまでならフランクにいっても大丈夫だろう」という線引きが誤っているだけの可能性があります。もともと働き方改革などに適応しようという気はあるので、「自分は間違っていたんだ」と気付けば考えを改めてくれることが期待できます。ですから、経営者が考えるべきは、
パターン1の社員に焦点を当てて、働き方改革などに関する自身の思いを積極的に発信すること
です(こちらは第3章で具体的な方法を紹介します)。
2)パターン2:「性格の顕在化」タイプ
パターン2の社員の場合、働き方の自由化や上司の監視が緩まったことで、もともと持っていた自分勝手な性格や怠惰な面が顕在化してしまった可能性があります。誰しも多少はそういった部分を持っているものですが、根本的な性格はそう簡単には変えられません。
ただし、「最初から諦める」のは早計です。まずはパターン1と同様に思いをしっかり伝え、行動基準(第4章で後述するジョブディスクリプションなど)を明示した上で改善を求める指導を行いましょう(なお、指導の内容は必ず記録に残すことがポイントです)。
それでも改善が見られない場合は、「最悪、分かり合えなくても仕方がない」とある程度割り切りながら、仕事に支障が出ない環境を整えること(上司の目の届くオフィスで業務させるなど)や、配置転換・業務範囲の見直しなども選択肢として検討しましょう。
3 大きなメッセージと小さなつぶやきを組み合わせる
経営者が自身の思いを社員に伝えようとするとき、まず思い浮かぶのは「朝礼」でしょう。社員が一堂に会するタイミングで、例えば次のようなメッセージを届けるイメージです。
「これまで働き方改革のため、さまざまな取り組みを実施してきました。ただ、それは『皆さんを甘やかすため』ではなく、『皆さんがもっと力を発揮できるようにするため』です。皆さんは今、本当に力を発揮できているといえますか? 会社が働きやすさを提供する代わりに、皆さんは何をしてくれますか?」
こうした問いかけをするだけでも、多くの社員は一旦、自分の言動を振り返ろうとするでしょう。ただ、このような「大きなメッセージ」はその場では心に響いても、時間がたつにつれて印象が薄れていくものです。
そこでお勧めしたいのが、全体への発信と並行して行う「小さなつぶやき」の活用です。具体的には、
社員全員が閲覧できるSNSに「社長チャンネル」などを設け、経営者がうれしかったこと・疑問に感じたことなどを日々こまめにつぶやく
というアプローチです。例えば、
- 「クライアントを訪問した際、受付の方の対応がとても心地よかった。やっぱり笑顔って大事!」
- 「プライベートは大事! でも、仮に3人で20分残業すれば終わる業務を、1人でやろうとしている人がいたら、自然とその人に手を差し伸べられる社員が私の理想です」
といった、日々の業務に関連した等身大のつぶやきは、社員も情景を思い浮かべやすく、納得感が生まれやすいものです。
ただし、全体への発信は効果的ですが、問題が見られる社員が「自分のことだ」と気づかないケースも少なくありません。態度の悪化が顕著な社員とは、個別に1on1の面談を設定し、具体的な行動の事実をもとに「こういう場面でこう感じた」「こう動いてほしい」と直接伝えることが重要です。抽象的な「態度が悪い」という指摘では伝わりにくいため、事実ベースで丁寧に話すよう心がけましょう。
4 職務記述書(ジョブディスクリプション)も活用する
職務記述書(ジョブディスクリプション)とは、
社員が担当する業務内容・その難易度・必要なスキルなど、職務内容をまとめた書類
のことです。専門職採用や中途採用の場面でよく使われますが、すでに在籍している社員の職務内容が配置転換や雇用形態の変更などで変わった際にも活用できます。
職務記述書は、あらかじめ特定の職務をこなせる人材を採用する「ジョブ型雇用」の考え方に基づいており、
職務記述書に記載された職務をこなせることが、社員としての最低条件
になります。このことを社員に丁寧に説明した上で、「経営者が社員に何を期待しているのか」をジョブディスクリプションに明文化すると、社員を経営者の理想とする方向へ自然と引っ張ることができます。
ただし、職務記述書は「経営者が一方的に作成して渡す」だけでは、社員の反発を招くことがあります。作成後は必ず社員本人と内容を確認する場を設け、
双方が合意した上で運用を開始する
ことが大切です。話し合いのプロセスを経ることで、社員に納得感が生まれ、行動変容につながりやすくなります。
具体的には職務記述書に「期待される特性」などの欄を設けることが考えられます。次の職務記述書は、アプリ開発を行う会社がシステムエンジニアを募集する場合の例です。

以上(2026年5月更新)
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画像: metamorworks-shutterstock











