法改正で対策義務化! 就活ハラスメントにどう立ち向かう?(施行日を追記)

1 2026年10月1日から「就活セクハラ」の防止措置が義務化!

「就活ハラスメント」とは、

  • インターンシップやOB・OG訪問などの後、食事やデートに執拗に誘う
  • 「内定を出すから」と言って、他社の選考を辞退するよう要求する

などの就活生に対するセクハラ(セクシュアルハラスメント)やパワハラ(パワーハラスメント)のことです。

会社は、職場におけるハラスメントについて一定の防止措置を講じる義務を負っていますが、就活ハラスメントについてはこれまで、「(ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化等をする際に)同様の方針を合わせて示すのが望ましい」というレベルにとどまっており、各社の対応にバラツキがありました。

しかし、改正男女雇用機会均等法により

2026年10月1日から、いわゆる「就活セクハラ(後述)」について、セクハラを防止するために必要な措置を講じることが義務化

されることになりました。就活生を対象とするハラスメント規制も強化されつつあるのです。

また、就活生は応募する会社について知人と情報交換したり、SNSのグループに参加したりしています。「自社が就活ハラスメントをしている」との情報が出回ったら、そのような会社に応募しようとする学生はいなくなってしまうかもしれません。

ハラスメントにもいろいろありますが、今、経営者が注目すべきものの1つに就活ハラスメントがあるのです。改めてリスクや防止策を紹介します。

■厚生労働省「カスタマーハラスメント及び求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が事業主の義務となります!」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
■厚生労働省「今すぐ始めるべき就活ハラスメント対策!」■
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/syukatsu_hara/enterprise/

2 就活ハラスメントの4つの種類

1)就活セクハラ(就活生に対するセクシュアルハラスメント)

就活生に対する身体的な接触や言葉による性的な嫌がらせです。

  • 不必要に体に触る
  • 「内定を出すから」と言って性的な関係を要求する
  • 性的な冗談を言う、恋愛経験などを尋ねる
  • オンラインの採用面接で、体全体や部屋の様子などを見せるよう要求する
  • インターンシップやOB・OG訪問などの後、食事やデートに執拗に誘う

2)オワハラ(就活終われハラスメント)

就活生の内定辞退を回避するための嫌がらせです。

  • 「内定を出すから」と言って、他社の選考を辞退するよう強要する
  • 他社の選考と日程が重なることを知りながら、内定者懇親会に連れ出すなど、他社での就活を妨害する
  • 内定を辞退しようとした場合、「ふざけるな」「嘘つきだ」と罵る。または「訴える」「内定を辞退するやつだと他の会社に言いふらす」などの発言をする

3)圧迫面接

就活生のストレス耐性や状況判断能力を試すため、採用面接で必要以上に否定的な発言をしたり、嫌な態度を取ったりする嫌がらせです。

  • 採用担当者の質問に就活生が回答した際、正当な回答かどうかに関係なく否定する
  • 「それで?」「理由は?」といった発言を必要以上に繰り返し、回答をできなくさせる
  • 就活生の適性に関係なく、「ウチの会社には向いていない、通用しない」と言う
  • 就活生の発言中にため息をつく、携帯電話を触るなど、あからさまに嫌な態度を取る

4)その他

1)から3)以外の就活ハラスメントとしては、パワハラを含め、次のようなものがあります。

  • 「男のくせに覇気がない」「女はすぐ辞めるから困る」などと、差別的な発言をする
  • 結婚したり妊娠したりした場合に、会社を辞めるかどうかを聞く
  • 内定した学生に、内定者でつくるSNS交流サイトに毎日の書き込みを強要する。書き込みをしないと「やる自信がないなら辞退しろ」など、威圧的な態度を取る
  • インターンシップに参加した学生に対し、人格を否定するような暴言を吐く

3 就活ハラスメントのリスク

1)就活ハラスメントは民法の「不法行為」になり得る

就活ハラスメントによって、就活生が精神的な苦痛を受けた場合、

民法の「不法行為」(故意・過失によって他人の権利や法律上の利益を侵害する行為)

が成立する可能性があります。ハラスメントを行った社員は損害賠償を請求される恐れがあり、会社も就活生から使用者責任を問われ損害賠償を請求される恐れがあります。

また、言動によっては刑法が適用される可能性もあります。

  • 不必要に体に触る(不同意わいせつ罪)
  • 内定を辞退しようとした就活生に「訴える」「内定を辞退するやつだと他の会社に言いふらす」などと発言する(脅迫罪)
  • 人格否定や差別的な発言をする(侮辱罪)

2)会社のイメージが低下し、採用ができなくなる?

就活生がSNSに「就活ハラスメントを受けた!」と書き込んで、それが拡散されれば、ハラスメントが横行している会社だと見られ、会社のイメージは低下します。また、大学のキャリアセンターなどでは、就活ハラスメントに関する就活生からの相談を受け付けているので、大学に定期的に求人を出している会社の場合、今後の大学との関係にも影響が出るかもしれません。

就活ハラスメントに関する就活生からの相談は、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)でも受け付けていて、就活ハラスメントをした会社には、助言や指導が入る可能性もあります。

4 就活ハラスメントの防止のポイント

1)「会社と就活生は対等」という意識を持つ

就活ハラスメントが起きやすい会社は、就活生に対して「雇ってやる」「試してやる」といった上から目線の態度を取っているケースが少なくありません。雇用が懸かっている就活生は、こうした会社の態度を拒否することができず、それが就活ハラスメントの問題を深刻化させるのです。

会社として就活生に適性があるかを見極めることは大切ですが、入社した場合は、会社も労力を提供してもらう立場になるわけですから、常に「会社と就活生は対等」という意識を持って採用活動に臨むことが大切です。

2)「業務上必要ない対応」「行き過ぎた対応」を洗い出して排除する

就活ハラスメントが違法になる(民法上の不法行為などに当たる)場合、次の1.か2.に該当している可能性が高いです。

  • 会社の対応(採用面接での質問など)が、業務上必要ない
  • 業務上必要があったとしても、行き過ぎている

就活セクハラなどは1.に当てはまります。オワハラや圧迫面接などは、1.に当てはまるケースもあると思いますが、仮に「内定辞退を防ぎたい」「就活生のストレス耐性や状況判断能力を試したい」という会社の思惑があったとしても、2.に該当する可能性が高いです。

就活生に対する不法行為や不適切な言動が行われないように、2章で紹介したような言動を排除していった上で、就活生への対応の仕方を模索していきましょう。例えば、

  • 就活生を内定者懇親会に連れていきたいのであれば、オワハラにならないよう本人のスケジュールを考慮する。就活セクハラ(個人的な食事やデートの誘い)にならないよう時間を区切り、2人以上の社員で参加し、個室はできるだけ避ける
  • 場の雰囲気を和ませたいのであれば、就活セクハラ(性的な冗談など)や差別的な発言(「男は○○だから、女は○○だから」など)に該当しないジョークを織り交ぜる
  • 就活生のストレス耐性や状況判断能力を試したいのであれば、圧迫面接という形ではなく課題などを与えてみる

といった具合です。

3)社内のハラスメントの防止措置を、就活ハラスメントにも適用する

第2章の1)で紹介した「就活セクハラ」については、冒頭で紹介した通り、2026年10月1日から、防止措置を講じることが会社に義務付けられます。改正男女雇用機会均等法では、

  • 就活生からの相談に応じ、対応するための体制の整備などが求められること
  • 防止措置を講じない場合、厚生労働大臣による勧告が行われ、それにも従わなければ「企業名公表」の対象になること

などが定められています。オワハラなど他の就活ハラスメントについては、特に防止措置は義務付けられていませんが、

若者雇用促進法に基づく事業主等指針に、会社は就活ハラスメントに対して「必要な注意を払うよう配慮する」取組を行うのが望ましい

という記載があり、前述したリスクの観点からもやはり防止措置を講じたほうがよいでしょう。

就活セクハラについては、2026年2月26日に公表された厚生労働省の指針により、

  • ハラスメントに対する対応方針(ハラスメントを許さない旨など。就業規則等の文書に規定)の策定、周知徹底
  • ハラスメントに関する相談窓口の設置、運用
  • ハラスメントに関する相談があった場合の事実確認、行為者の処分、再発防止策の検討
  • プライバシーの保護、相談者などに不利益な取扱いをしない旨の周知徹底など

の4つの措置を講じることが会社に求められており、これを就活ハラスメント全般に適用するのが望ましいです。

基本的なポイントは、既に法制化されている職場のハラスメント(社員に対するハラスメント)の防止措置と同じですが、例えば、

  • 指針が想定している求職活動の範囲が幅広く(採用面接、就職説明会、従業員訪問、インターンシップ、教育実習など)、従業員が通常就業している場所でハラスメントが行われるとは限らない
  • 就活生に対し、あらかじめ会社のパンフレットやウェブサイトを通じて、相談窓口の存在を周知する必要がある

など、就活ハラスメント特有の注意点もあるので気をつけましょう。

指針の詳細については、こちらをご確認ください。

■厚生労働省「事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第52号)■■
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662589.pdf

以上(2026年2月更新)

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なぜ、会ったこともない「第三者」が自社の取引を邪魔するの?  

1 取引に影響を与える「第三者」の存在

ビジネスは、売主と買主、貸主と借主といったように二者間で行われるのが基本です。しかし、もう少し視野を広げてみると、二者以外にも関係者が存在する場合があります。例えば、売主から売買代金債権を譲渡された第三者のように、直接の取引関係はないものの、取引について何らかの利害を有している者がいます。

そして、

こうした第三者が法律関係の発生、消滅、効力に影響を及ぼす

ことがあります。経営者の皆さんは、取引上のリスクを避けるために第三者の存在を意識しておくことが重要です。自身がどの立場になるかによって異なりますが、押さえておきたいのは、

  • 第三者が善意か悪意か(知らないか、知っているか)
  • 対抗要件は具備されているか
  • 第三者が悪意であり、かつ、信義則違反があるか否か(背信的悪意者)

となります。この記事で分かりやすく説明していきます。

2 第三者の正体と、善意と悪意の違いとは

法律上、第三者の定義は必ずしも一律ではありませんが、一般的には、

当事者およびその「包括承継人(ある者の法律上の地位を一括して引き継ぐ者(例:相続人や合併後の会社))」ではない者

となります。この第三者が法律上保護されるか否かの判断では、

「善意の第三者」なのか「悪意の第三者」なのかが問題

になることがあります。法律上の善意と悪意は、正義と悪というような倫理的な意味ではなく、対象となる取引や法的効果について、

善意は「知らない」、悪意は「知っている」

といったように、その人の主観的事情を指しています。そして、当該主観的事情は、法律関係につき第三者が利害関係を有するに至った時期を基準として判断されます(最判昭和55年9月11日)。

3 事例1:他社に所有権がある商品を販売した第三者

A社は、B社に継続的に同一商品(動産)を販売する契約を交わしました。代金は後払いです。ただ、A社にとってB社との取引は初めてであり、代金回収に不安がありました。そこで、代金の支払いを受けるまでは、自社(A社)に商品の所有権を留保する契約内容としました。

ところが、B社は、A社に所有権が留保されている商品をC社に売却して引き渡してしまいました。この場合、C社は当該商品の所有権を取得できるのでしょうか?

A社・B社・C社(第三者)の関係図

C社がA社とB社の取引内容(所有権が留保されていること)について知らなければ善意の第三者、知っていれば悪意の第三者とみなされます。

C社が善意の第三者である場合、上記事例で問題となるのは「動産」の所有権なので、

取引の安全が重視され、真の権利者(A社)よりも無権利者(B社)を真の権利者と誤信して取引をした第三者(C社)が保護され、C社が動産の所有権を取得できる

ことになります(即時取得・民法第192条)。ただし、C社の不注意(過失)で、A社とB社の取引内容について知ることができなかった場合、C社は動産の所有権を取得できません。

また、C社が悪意の第三者である場合、

取引の安全よりも真の権利者が保護され、C社は所有権を取得できない

ことになります。

4 事例2:対抗要件を具備した第三者とそうでない第三者

甲社は乙社に対して売買代金債権を有しています。ただ、すぐに現金化したかったので、当該債権を丙社に譲渡して現金化しました。

ところがその後、甲社は資金難に陥り、同じ債権を丁社に二重で譲渡してしまいました。その際、丁社は甲社を代理して「確定日付のある証書」で債務者(乙社)に通知しました。この場合、丙社と丁社のいずれが債権を取得できるのでしょうか?

甲社・乙社・丙社・丁社の関係図

丙社と丁社とは同一の権利について争う関係にあり、法律上は「対抗関係」と呼びます。丁社が甲社と丙社の債権譲渡について知らなければ善意の第三者、知っていれば悪意의 第三者とみなされます。

前述した「事例1:他社に所有権がある商品を販売した第三者」と決定的に異なるのは、

丙社も丁社も、真の権利者(債権者)である甲社から債権を譲り受けている

ことです。このようなケースを債権の二重譲渡といい、先に債権を譲り受けた丙社に権利がありそうですが、法的には逆で、

丁社が善意か悪意かにかかわらず、権利を有する

ことになります。なぜかと言うと、丁社は甲社を代理して「確定日付のある証書」で債務者(乙社)に通知することで、第三者への対抗要件を具備しているからです。

対抗要件とは、

第三者に自分が権利者であることを主張するために必要な要件

のことです。皆さんにここで押さえていただきたい重要なポイントは、

対抗関係が問題になる場合、原則として、当事者の善意と悪意は優劣に関係せず、先に対抗要件を具備したほうが権利を主張できる

ということです(なお、不動産の権利変動に関しては、後述する背信的悪意者である場合は除きます)。

対抗要件にはさまざまな種類があるので次章で確認しましょう。

5 さまざまな取引の対抗要件

取引の内容によって対抗要件が異なるので整理しましょう。2020年4月1日施行の改正民法で、対抗要件を登記に一元化することも議論されましたが、これは実現しませんでした。

1)不動産の対抗要件

不動産の場合は、登記が対抗要件になります。

2)動産の対抗要件

動産の場合は、引渡しが対抗要件になります。引渡しには4つの方法があり、それぞれの特徴は次の通りです。

(図表3)【動産の引渡し方法】

方法 概要
1.現実の引渡し 譲渡人が目的物を物理的に譲受人に引き渡すこと
例:AがBに目的物を手渡す
2.簡易の引渡し 既に移転している目的物を譲渡人と譲受人の合意によって引き渡すこと
例:AがBに貸していた目的物を、AがBに贈与する
3.占有改定 目的物を譲渡人が引き続き保有しながら、譲渡人と譲受人の合意によって引き渡すこと
例:AがBに目的物を売却したものの、当面は当該目的物をBから借りる
4.指図による占有移転 第三者が占有し、その者に引き続き保有させる場合において、譲渡人と譲受人の合意によって引き渡すこと
例:AがCに保管させている目的物をBに売却し、売却後も引き続きCに保管させる

(出所:民法第182条第1項、第2項、第183条、第184条を基に作成)

この他に「動産譲渡登記制度」というものがあります。これは、企業が保有する在庫商品、機械設備、家畜(牛や豚等)などの動産を活用した資金調達の円滑化を図るために法人が行う動産譲渡について、登記によって対抗要件を具備できる制度です。

3)債権の対抗要件

債権の場合は、債務者への「確定日付のある証書」による通知または「債務者の承諾」が対抗要件となります。動産と同じで債権譲渡にも登記制度があり、債権譲渡登記ファイルに記録することで、「確定日付のある証書」による通知があったものとみなされます。

6 事例3:背信的悪意者である第三者

対抗要件が重要であることを説明してきましたが、

不動産の権利変動に関しては、背信的悪意者の場合は対抗要件を優先的に具備しても保護されない

ことになります。事例で確認しましょう。

A社は、所有する土地を資材置き場として利用したいというB社に売却することにしました。土地はB社に引き渡されましたが、B社はすぐに所有権移転登記をしませんでした。この状況を知ったC社が、B社に高く売りつける目的で、A社を強引に説得してこの土地を譲り受けて登記しました。

その後、C社はB社に対し、土地の買取りを要求しましたが、B社は、自らが所有者であると主張して応じなかったため、C社はB社に対し、土地の明け渡しを求める訴えを提起しました。この場合、C社の主張は認められるのでしょうか?

背信的悪意者の関係図

譲受人が形式的に対抗要件を具備しても、

その者の権利取得を認めることが取引上の信義に反する場合、例外的に対抗要件具備の先後で権利の取得が決まらない

ことがあります。これを「背信的悪意者排除の法理」といい、C社を「背信的悪意者」といいます。取引上の信義に反するか否かの明確な基準はありませんが、次のような場合などに認められるといえるでしょう。

  • 詐欺や強迫によって登記の申請を妨げるなど
  • 不当に利益を上げようとする意図、他人の利益を害そうとする意図がある場合

問題は、このような背信的悪意者からの転得者は、対抗要件を具備すれば権利を取得できるのかということです。例えば、

C社からD社が土地を譲り受けた場合、D社は権利を取得できるのか

ということです。詳細は割愛しますが、D社が権利を取得できる可能性はあります。背信的悪意者であることを理由に権利を主張できないのはC社にだけ該当する主観的事情であり、D社が背信的悪意者でない限り権利を取得できることになります。

以上(2026年1月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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契約でもめる前にチェック! 「信義則」「権利の濫用」規定

1 実は重要な「信義則」と「権利の濫用」

ビジネスでトラブルが生じた場合、当事者が話し合って解決を目指しますが、それができなければ民事訴訟等により法律に基づいて解決します。ただし、全てのケースで法律が万能に機能するわけではありません。そこで、裁判所が妥当な解決の道筋を立てるための法理である、

信義誠実の原則(以下「信義則」)、権利の濫用の禁止

を適用して解決を図ることがあります。

まず、信義則とは、

「当事者は、相互に相手から期待される合理的な行動を取るべきであり、相手方の信頼を不当に害さないようにしましょう」といった行動準則

です。また、権利の濫用とは、

外見上は権利の行使のように見えても、実際は権利の行使として認めることが社会的に妥当とはいえないため、権利の行使を認めるべきではないといった行動準則

です。決まり文句のようなものと考えられ、ともすれば軽視されがちな信義則や権利の濫用ですが、万一の際に皆さんを救ってくれるかもしれない大切な法理です。この記事では、信義則と権利の濫用のポイントを事例とともに解説していきます。

2 信義則が問題となる場面

1)権利者が不誠実な態度であった場合

権利者の態度が不誠実なため、信義則の適用を認めた裁判例(大審院大正9年12月18日判決)があります。古いものですが、今でも妥当だと考えられているので紹介します。

ある不動産の売買について買戻特約付売買契約をした売主(買戻権者)が、当該契約に基づいて買戻権を行使し、代金と契約費用を買主に支払いました。ただ、売主は金額を勘違いしていて、契約費用が2円ほど不足していました。これに対して、買主は契約費用が足りないことを理由に不動産の買戻しを認めませんでした。これを不当として、売主が裁判で不動産の返還を求めました。

判決では、契約費用が2円ほど不足していたことを買主が売主にきちんと告げていれば、売主は不足する2円ほどを支払って、買戻権を行使できたはずなので、買主が不足金額を告げずに買戻権の行使を拒絶することは、信義則に反すると判示しました。

2)契約準備段階において先行行為が存在する場合

契約締結を前提に当事者間で交渉をして、既に相手方が契約締結を見込んで費用まで支出した後に契約交渉を白紙撤回した事案で、信義則の適用を認めた裁判例(東京地裁平成8年12月26日判決)があります。

不動産会社のX社は、自己が所有する土地にリゾートマンションを建築して、Y社に分譲することで基本協定を締結しました。この協定には、X社とY社がマンションの建築請負と売買契約を締結する条件として、X社が契約締結前に、(1)土地を更地にする、(2)マンションの開発許可に必要な手続きを完了させるという先行行為の履行がありました。また、この基本協定には、マンションの建築請負に係る代金、売買代金についても明記されていました。

しかし、Y社は、X社が先行行為の履行を完了してもX社と売買契約を締結しませんでした。その理由は、X社の先行行為の履行が大幅に遅れたこと、マンションの市況が悪化して銀行借入が難しくなったことでした。

このような状況で、X社は、Y社には信義則上の義務違反があるとして、損害賠償を求めて訴訟を提起しました。裁判所は、以下の通り判示しました。

  • 基本協定の成立により、X社とY社との間には緊密な関係が生じた。先行行為の履行も完了している以上、特段の事情のない限り、契約成立の合理的な期待がある
  • その合理的な期待を裏切り、特に正当な理由もないのに契約に向けた行為を一方的に拒否することは信義則に反する
  • Y社はX社に損害賠償責任を負う

3)継続的な取引により解約権の制限を受ける場合

長期にわたって継続的に取引してきた場合、信義則上、解約が制限される場合があります。いわゆる「信頼関係破壊の法理」です。

例えば、A社はB社の下請けとして自動車部品の製造を受託しています。B社とは10年近い付き合いで、売上全体の6割程度を占めています。A社は、B社との関係を会社存続のために重要視しており、最近、A社の2年分の売上総利益に相当する金額を投じて製造機械を導入しました。ところが、B社から「今後は中国製の部品を仕入れるので、本年中で取引を停止したい」と言われました。この場合、A社はB社に対して何かしらの損害賠償請求ができるのでしょうか。

原則として、当事者間の契約は自由で、締結することも解約することもできます。しかし、契約が長期にわたる場合、その後も継続するであろうと期待して新しい機械を導入したり、人材を採用したりすることがあります。こうした場合、裁判所によっては、

契約自由の原則を修正して、取引関係を終了する場合に、「やむを得ない事由」が必要

と判断される可能性があります。この「やむを得ない事由」が認められない場合、解約は正当なものとはならず、損害賠償請求が認められる可能性があります。

3 権利の濫用が問題となる場面

本来、権利者が権利を行使することは自由です。しかし、裁判では客観的要因と主観的要因を勘案し、権利の濫用だと判断されるケースがあります。

客観的要因では、権利者は権利を主張してどのような利益を得るのか、一方で、第三者がどのような不利益を被るのかといった点を考慮します。こうしたことを利益衡量し、後者がより重視されるべき要素である場合、権利の濫用が認められる傾向にあります。

主観的要因では、権利の行使は相手を害する目的でなされたのか、自らの利益を実現するためになされたのかといった点を考慮して、判断されます。

権利の濫用は、さまざまな場面で認められています。例えば、貸主の承諾の下、借主が長期にわたって建物の外壁に無償で看板を設置していた場合、貸主が代わって、新しい貸主が、前の貸主と借主との合意を白紙撤回して看板の撤去を求めたとしても、権利の濫用として撤去は認められないとした判決があります(最高裁平成25年4月9日判決)。

4 ビジネスを進める上での心構え

信義則や権利の濫用は、法律では十分に具体化されていない点を補うための法理として有用です。ただ、その判断基準が法律で明確になっているわけではないため、説得力に欠け、場合によっては恣意的に法律と異なる結論を導く便法になります。そのため、これらの法理が果たすべき機能を適正な範囲に限定すべきであると考えられており、裁判等で信義則や権利の濫用を主張したとしても、認められる場合は必ずしも多くありません。

とはいえ、社会の変化が目まぐるしい現在において、このような法理の有用性は否定できませんので、知識としては押さえておきましょう。

以上(2026年1月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 栗原功佑)

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【参加無料】3/10(火)カスタマーハラスメント対策のオンラインセミナーを開催します。

2026年3月10日13:00から【無料】カスハラ(カスタマーハラスメント)対策オンラインセミナーを開催します。

2026年10月から、カスハラの防止措置を講じることが企業に義務付けられます。
それに向けて、このセミナーでは、日本ハラスメントカウンセラー協会の顧問として数々の企業のハラスメント対策に向き合ってきた弁護士が、事例を交えて、「企業はカスハラからどのように従業員を守ればいいのか」などを、分かりやすく解説します。
期間限定(1カ月間など)でアーカイブ配信も予定しています。

お申し込みフォームはこちら(外部サイトへリンク)(先着順)
※ご参加の方に資料をプレゼントさせていただく予定です。


↑クリックで拡大表示↑

お申し込みフォームはこちら(外部サイトへリンク)(先着順)
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お申し込み締め切りは2026年3月6日(金)18:00です。
※定員100名になりましたら、締切日前でも申し込み終了となります。

登壇者

  • 東京エクセル法律事務所 弁護士 日本ハラスメントカウンセラー協会顧問
    弁護士 坂東 利国 氏

【坂東先生のセミナー実績】

  • カスタマーハラスメントのリスクマネジメントと裁判例
  • カスタマーハラスメント対策研修
  • ハラスメント防止のための管理職のあるべき姿
  • ハラスメントの事実確認・和解調整担当者のための研修
  • メンタルヘルスの法律問題・裁判例を踏まえた企業対応
  • など多数。セミナーのほか、実践的な管理職研修なども実施

主催

  • 株式会社日本情報マート(サクセスネット運営サポート会社)

プログラム 13:00~14:15

  • カスハラとは何か(定義、判断基準)
  • カスハラに関する法改正の状況
  • 実際にあったカスハラ事例(裁判例) など
  • 従業員を守るために必要な事前の準備(相談窓口の設置等)
  • 従業員がカスハラに遭った場合の対応(事実確認、再発防止等)
  • 14:00から15分間・質疑応答(事前に質問を受け付けることも可能)

サクセスネットでは、カスハラ対策に役立つコンテンツも公開しています。ぜひご覧ください!

激動の時代を共に乗り切る社長と幹部社員の付き合い方

1 明日から幹部社員がいなくなってしまったら・・・・・・

幹部社員の離職は経営危機に直結します。中小企業の場合は特にそうです。人材不足の日本では中高年の転職も活発化しており、もはや幹部社員の流出は身近な問題です。

今やどのような会社でも幹部社員の流出リスクはあります。そこで社長がやるべきことは、

「幹部社員はいつまでもついてくる」という勘違いを改め、いま一度、幹部社員と信頼関係を築くこと

です。具体的にどういうことなのか確認していきましょう。

2 社長が幹部社員に抱く勘違い

1)社長は絶対的な存在ではない

一般社員と幹部社員とでは、社長に対して抱く印象が異なります。一般社員は社長と接する機会が少ないため、「社長はすごい人」という印象を抱きます。一方、幹部社員は社長に近い存在なので、社長の言動をよく見ています。ビジネスパーソンとしての実力はもちろん、人間性に至るまで冷静に社長を評価しています。

社長は、「幹部社員は自分をよく理解していて、いつまでも自分についてくる」と思い込んでいるかもしれませんが、実際は違います。社長をよく知っている分、逆に愛想を尽かすことがあります。幹部社員が離職する理由として、「社長への不信感」は結構多いのです。

2)幹部社員も一社員である

社長は幹部社員を頼りにしています。その前提は、「幹部社員は、自分のことを理解してくれている」と信じているからです。これは間違っていませんが、幹部社員が理解しているのは社長の能力や人間性であって、社長という立場の重さではありません。社長と幹部社員の間でしばしば起こる感覚のズレは、社長と社員という圧倒的な立場の違いから生まれます。

社長は、幹部社員なら自分と同じ感覚を持っていると考えるからこそ相談し、意見を求めます。しかし、幹部社員から見れば、「それは社長しか分からない。答えようがない」といった相談も少なくありません。幹部社員は「幹部であっても一社員」なのです。

3)幹部社員の焼きもちは激しい

社長は、幹部社員に相応の権限を与えており、その範囲の中でビジネスを自由に進めて、会社に貢献してほしいと願っています。そのため、幹部社員を管理するつもりはなく、特別な事情がなければフォローもしません。

これは社長ならではの信頼の示し方ですが、幹部社員によっては、「もう自分は期待されていない」と、大きな勘違いをすることがあります。また、社長は次世代の幹部社員を育て、今の幹部社員がもう一段上に行ける体制を整えようとします。しかし、こうした社長の意図が正しく伝わらず、幹部社員は次世代の幹部社員候補に焼きもちを焼くこともあります。

4)放っておけば幹部社員の気持ちは離れていく?

以上から分かるように、社長は幹部社員のことを正しく理解できていない面があります。幹部社員は、社長と違う価値観を持っています。これは、話し方や服装にも及びます。例えば、社長が幹部社員に対し、「もっとおしゃれになれ」と思っている一方で、幹部社員は社長に対し、「若作りするな」と思っています(あくまで一例です)。

社長と幹部社員にはこうした擦れ違いがあります。また、互いに心が強いため、言葉を選ばずに言うと「一度こじれると厄介」です。社長の考え方にもよりますが、幹部社員を失わないためにも、社長は他の社員以上に幹部社員に配慮をしなければなりません。

3 見直そう、幹部社員との付き合い方

1)必要なら、労働条件はすぐに改善すべき

特に技術系の社長は、自分の役職などに無頓着なことが多いもので、幹部社員の労働条件にもあまり気を使わないことがあります。しかし、労働条件に関する理由で転職する30~50代(幹部社員)は少なくありません。

労働条件に対する幹部社員の不満は、比較的容易に解決できる問題です。幹部社員の労働条件を確認し、世間の相場と大きく乖離 (かいり) しているようなら、あるいは幹部社員が不満を持っていそうなら、早急に改善を検討しましょう。

2)仕事を集中させ過ぎない

中小企業の幹部社員は、社長から依頼された仕事や、部下を含めた同僚のサポートの他、自分の仕事もこなさなければならず、かなり多忙です。「幹部社員は多忙が当たり前」というのも一理ありますが、仕事の質と量によります。

例えば、低レベルの仕事に時間を取られるようでは、幹部社員の成長機会が失われます。また、忙しさの度が過ぎれば、転職の動機になります。こうならないように、社長は幹部社員の仕事量をコントロールしなければなりません。

3)重要事項は必ず相談する

社長は、会社の重要事項については必ず幹部社員に相談しましょう。幹部社員にとって、「社長は、重要なことは必ず自分に相談してくれる」ことが、高いモチベーションになります。

中には、社長に遠慮して意見を言わない幹部社員もいて、社長は物足りなさを感じます。しかし、それでも社長は重要事項を幹部社員に相談するべきです。他の社員よりも先に社長と課題を共有することで、幹部社員は自分のポジションを確認できるからです。

4)定期的な1on1 ミーティングで対話の場を設ける

重要事項の相談だけでなく、定期的に幹部社員との個別対話の時間を設けることが重要です。月1回程度、30分から1時間のlonlミーティングを実施し、業務の進捗だけでなく、キャリアの展望、個人的な悩み、会社への期待なども率直に話し合える場を作りましょう。

この対話は評価の場ではなく、相互理解を深める場です。幹部社員が「社長は自分のことを気にかけてくれている」と実感できることが、信頼関係の基盤になります。

5)意思を尊重し、成長意欲を促す

タイプによって表現の仕方は異なりますが、幹部社員が社長や周囲に認められる存在になったのは、常に自分を高める勤勉さと、それを継続する情熱、そして、もちろん仕事そのものへの使命感や喜びを持っているからに他なりません。

社長は、こうした幹部社員の長所と呼べる点を尊重し、さらに伸ばしていく努力をしなければなりません。そのためには、幹部社員を型にはめず、自由に動けるフィールドを確保しておくことが大切です。

6)キャリアパスを明確に示す

幹部社員にとって、「この会社で、自分はこれからどこに向かうのか」という展望が見えないことは、大きな不安材料です。役員への登用、専門職としての深化、新規事業の責任者など、複数のキャリアパスを具体的に示しましょう。

特に40代後半以降の幹部社員は、「この会社で最後まで働けるのか」という不安を抱えています。定年後の働き方も含めた長期的なキャリアビジョンを一緒に考えることで、安心して力を発揮してもらえます。

7)不在時のリーダーシップをたたえる

普段はあまりリーダーシップを発揮しないものの、社長が不在のときは先頭に立って組織を切り盛りしてくれる幹部社員がいます。しかし、当の社長はその場にいないので、幹部社員の頑張りに気付くことができません。

こうした擦れ違いを避けるために、社長は自分が不在のときの幹部社員の働きぶりを、別の社員に確認しましょう。自分が不在のときに幹部社員が組織をまとめてくれていたら、これほど頼りになる存在はいません。心からたたえましょう。

8)心理的安全性に配慮し、率直な意見交換を促す

幹部社員が忌憚のない意見や懸念を伝えられる環境づくりが重要です。特に、失敗を許容し、チャレンジを奨励する文化がなければ、優秀な幹部ほど「ここでは自分の力を発揮できない」と感じて離職します。

社長は、幹部社員の意見に耳を傾け、自分と異なる見解でも尊重する姿勢を示しましょう。「社長に対して率直に意見を言っても大丈夫だ」という安心感が、組織を活性化させます。

9)特別なお店で食事をする

会社の中で、社長が一緒に食事をする機会が最も多いのは幹部社員でなければなりません。同じ空間で、同じものを食べながら、会社のことを話し合うのは有意義です。また、特別感があればなおさら効果的です。

毎回というわけにはいきませんが、社長が接待などで使うお店に幹部社員を連れて行くのもよいでしょう。幹部社員にふさわしいグレードのお店ということです。幹部社員にとっても、普段、あまり行かないお店で食事をすることは良い経験になります。

10)「大人の合宿」に出掛ける

幹部社員は、「社長は何を考え、どこに進もうとしているのか」を気に掛けています。日々の仕事の多くは過去の延長線上にありますが、そればかりをしていても、厳しい競争に勝ち抜くことはできないことを分かっているからです。

社長と幹部社員は、事あるごとに会社の展望について話し合いますが、たまには会社とは全く違う場所に出掛け、時間を気にせず議論できる「大人の合宿」をしてみるのもよいでしょう。

11)家族に対しても感謝の気持ちを示す

幹部社員に家族がいる場合、その家族にもきちんと感謝の気持ちを示しましょう。例えば、幹部社員がお正月の休みに帰省する場合、お酒の1本でも贈るくらいの気遣いがあってもよいでしょう。

また、幹部社員が40~50代の場合、その親は相応の年齢です。幹部社員の実家が会社と離れている地域にある場合、将来のことを考え始める時期でもあります。社長は、そうした相談にも乗り、テレワークの実現など、働き続けられる環境を一緒に考えていく必要があります。

12)ウェルビーイングへの配慮を怠らない

単なる労働条件の改善だけでなく、心身の健康、ワークライフバランス、生きがいといった総合的な幸福度(ウェルビーイング)に目を向けることが重要です。特にメンタルヘルスのケアは、幹部社員といえども必要です。

過度なストレスを抱えていないか、プライベートの時間を確保できているか、健康診断の結果に問題はないかなど、幹部社員の健康状態にも気を配りましょう。健康で幸福な幹部社員こそが、組織に最大の価値をもたらします。

4 社長と幹部の2.0

ここまでは「幹部社員に長くついてきてもらうために、どのように付き合うべきか」を見てきました。一方、急速な環境の変化の影響で、旧来のビジネスだけでは勝ち残ることが難しくなっている現在、次のような考え方もあり得ます。

  • そもそも、幹部社員とはどのような社員か? 社歴が長いからうちの業務には慣れているが、それだけで幹部社員といえるのだろうか?
  • 「幹部社員が流出することは本当に損失か? 社員という形でなくとも、一緒にプロジェクトを良い方向に進められる関係なら、幹部社員の独立や転職はむしろアリでは?

幹部社員が大切な存在だからこそ、社長は「自社にとって幹部社員とは?」を考え、必要に応じてバージョンアップしていかなければなりません。

以上(2026年3月更新)

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画像:西部リノ-Adobe Stock

2026年版 帳票・書類の法定保存年限と電子保存の実務(2026年3月号)

情報化社会の進展によって、企業が扱う帳票・書類(文書)の量は飛躍的に増大しています。企業としては、必要な文書を取捨選択しながら、保管スペースや事務処理コストを考え、漏れなく効率的に管理・保存していかなければなりません。

その際、紙による保存か、電磁的記録による保存(電子保存)かの選択は重要なポイントとなります。それぞれにメリット・デメリットがあるので、慎重な判断が必要でしょう。

また、個人情報保護法、社会保障・税番号(マイナンバー)制度はもとより、近年頻繁に改正されている国税に係るいわゆる電子帳簿保存法への適切な対応が求められています。

そこで、文書の管理・保存にご活用いただくために、本冊子では、文書保存の基礎知識を押さえ、実務担当者が把握しておくべき法定保存年限をまとめるとともに、電子文書保存のポイント、個人情報保護法や社会保障・税番号制度への対応についても解説しています。

(本冊子の内容は、2026年2月1日現在の法令等に基づいています)


女性活躍推進法に基づく情報公表

女性活躍推進法が改正され、今年4月から、従業員101人以上の企業に「男女間賃金差異」と「女性管理職比率」の公表が義務づけられます。情報の公表によって企業の女性活躍を促すとともに、求職者が企業を選ぶ際の参考にする狙いがあります。本稿では、「男女間賃金差異」と「女性管理職比率」の計算方法や公表手順などについて説明します。

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女性活躍推進法に基づく情報公表

女性活躍推進法が改正され、今年4月から、従業員101人以上の企業に「男女間賃金差異」と「女性管理職比率」の公表が義務づけられます。情報の公表によって企業の女性活躍を促すとともに、求職者が企業を選ぶ際の参考にする狙いがあります。本稿では、「男女間賃金差異」と「女性管理職比率」の計算方法や公表手順などについて説明します。

1 男女間賃金差異

「男女間賃金差異」「女性管理職比率」は、事業年度ごとに計算します。改正法の施行(今年4月1日)後、最初に終了する事業年度の実績を、事業年度終了後おおむね3か月以内に公表します。例えば、令和8年4月末に事業年度が終わる企業は、令和8年7月末までに公表することになります。その後も、毎年同じ時期に公表します。

公表の場は、厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」が最適です。自社のホームページなどで公表してもかまいません。

「男女間賃金差異」の公表は、301人以上の企業はすでに義務となっており、今年4月からは101~300人の企業にも拡大されます。算出方法は次の通りです。

  • 「全労働者」「正社員」「パート・有期社員」の3区分を設定
  • 区分ごとに、男女別の平均年間賃金(総賃金÷従業員数)を計算
  • 区分ごとに、「女性の平均年間賃金」÷「男性の平均年間賃金」×100で「男女間賃金差異」を計算

「男女間賃金差異」の情報公表のイメージ

2 女性管理職比率

「女性管理職比率」の公表は、301人以上の企業、101~300人の企業の両方に、今年4月から新たに義務づけられます。女性管理職数÷全管理職数×100で算出します。

管理職とは、「課長級」と「課長級より上位の役職(役員を除く)」の合計です。また、「課長級」とは、次のいずれかにあてはまる人です。

  • 事業所で通常「課長」と呼ばれている者であって、その組織が2係以上からなり、もしくは、その構成員が10人以上(課長を含む)のものの長
  • 同一事業所において、課長のほかに、呼称、構成員に関係なく、その職務の内容及び責任の程度が「課長級」に相当する者(ただし、一番下の職階ではないこと)

一般的に「課長代理」や「課長補佐」は、「課長級」に該当しません。

また、301人以上の企業は、「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」と「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備」の実績について、現在でも公表が義務となっています。下の2つの表から、それぞれ1項目以上を選んで公表する必要があります。101~300人の企業は、下の表の計14項目のうち1項目以上を公表しなければなりません。

「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供に関する実績」と「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績」

3 さいごに

女性活躍推進法に基づく情報公表の義務については、怠っても罰則がありません。ただ、必要がある場合には、労働局が企業に助言、指導、勧告を行うことができます。この機会にきちんと公表し、女性が活躍しやすい環境づくりのきっかけにしてはいかがでしょうか。企業イメージの向上や、男女問わず優秀な人材の確保にもプラスになると思います。

また、女性活躍推進法では、101人以上の企業に一般事業主行動計画の策定・届出を義務づけています。こちらも忘れないよう気をつけてください。

※表はすべて、厚生労働省リーフレット「女性活躍推進法が改正されました!」より抜粋
※本内容は2026年2月10日時点での内容です。

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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画像:photo-ac

2026年度の制度改正! 税務・労務・法務のプロは何に注目する?

中小企業を取り巻くビジネス環境は日々変化しています。特に税務・労務・法務の分野では毎年のように制度改正が行われ、キャッチアップも大変です。そこで、税理士、社労士、弁護士が厳選した、中小企業の経営者が押さえておくべき2026年度の制度改正のニュースを3つずつ紹介します。

1 税理士が注目する税務3大ニュース

2026年度、税理士が注目する制度改正のニュースは次の3つです。

  • 中小企業者等に対する少額減価償却資産の損金算入特例について、取得価額基準が引き上げられます
  • インボイス制度の8割控除特例について、適用期限が延長、控除割合も見直されます
  • 事業承継税制について、特例承継計画等の提出期限が延長されます

本編では、2026年度の制度改正の内容を詳しく解説している他、前年度(2025年度)の振り返りもしています。

2 社労士が注目する労務3大ニュース

2026年度、社労士が注目する制度改正のニュースは次の3つです。

  • 2026年4月1日より、年金制度改革(在職老齢年金の見直しなど)が順次スタートします
  • 2026年4月1日より、子ども・子育て支援金制度が始まります
  • 施行時期は未定ですが、政府内で労働基準法の大改正(約40年ぶり)が議論されています

本編では、2026年度の制度改正の内容を詳しく解説している他、前年度(2025年度)の振り返りもしています。

3 弁護士が注目する法務3大ニュース

2026年度、弁護士が注目する制度改正のニュースは次の3つです(一部は施行済)。

  • 2026年1月1日より、下請法が「取適法」に改正されました(施行済)
  • 2026年5月25日より、企業価値担保権が創設され、土地・工場等だけでなく「事業全体」を担保にできるようになります
  • 2026年10月1日より、カスハラや就活セクハラの防止措置の実施が義務付けられる予定です

本編では、2026年度の制度改正の内容を詳しく解説している他、前年度(2025年度)の振り返りもしています。

以上(2026年3月作成)

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画像:日本情報マート

税理士が注目する2026年度の税務3大ニュース

1 2025年度・2026年度の3大ニュース

2025年度は、中小企業の800万円までの所得に対して適用される軽減税率について、賃上げや物価高への対応に直面している中小企業の状況を踏まえ、適用期限が2年延長されました(所得の大きい中小企業に対する軽減税率については見直し)。また、防衛力の抜本的強化を図るための安定的な財源確保の観点から、従来の法人税の付加税として新たに「防衛特別法人税」が創設されました。さらに、中小企業の事業承継を円滑に実行させることを趣旨とした事業承継税制についても、一昨年度に引き続き所定の見直しがなされました。

2026年度は、従来の「中小企業者等に対する少額減価償却資産の損金算入特例」について、昨今指摘されている物価高による影響に対応するため、取得価額基準が「30万円未満」から「40万円未満」に引き上げられます。また、消費税関連として、免税事業者等からの課税仕入れについて認められている 「8割控除特例」は、適用期限が2年延長されるとともに、控除割合の見直しも行われます。その他としては、中小企業等の経営者の円滑な世代交代を通じた生産性向上といった課題を解決するため、事業承継税制について、特例承継計画等の提出期限が延長されることとなります。

2025年度と2026年度の税務3大ニュースは次の通りです。

(図表1)【2025年度・2026年度の税務3大ニュース】

●2025年度

一定の中小企業に対する法人税率(軽減税率)の適用期限の延長 一定の中小企業に適用される法人税の軽減税率(15%)の適用期限が2年(2027年3月31日までに開始する事業年度まで)延長されました。なお、所得の大きい法人については、軽減税率が従来の15%ではなく、17%にアップします。
防衛特別法人税の創設 法人税の付加税として、新たに防衛特別法人税が創設されました。2026年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。
事業承継税制の特例措置に係る役員就任要件の見直し 中小企業の事業承継を一層後押しし、生産性向上・成長への支援を強化する観点から、役員就任要件の見直しがなされました。2025年1月1日以後の贈与から適用されています。

●2026年度

中小企業者等に対する少額減価償却資産の損金算入特例見直し 中小企業者等に対する少額減価償却資産の損金算入特例の適用期限が3年延長され(2029年3月31日まで)、取得価額の基準が「30万円未満」から「40万円未満」に引き上げられます。
インボイス制度の8割控除見直し 免税事業者等へ支払う課税仕入れに係る仕入税額控除の特例が2年延長され(2031年9月30日まで)、控除割合の見直しが行われます。
事業承継税制の承継計画の提出期限の延長 事業承継税制の適用を受けるために必要な特例承継計画の提出期限が、法人版の場合は1年6カ月延長され(2027年9月30日まで)、個人版の場合は2年6カ月(2028年9月30日まで)それぞれ延長されます。

(出所:税理士法人AKJパートナーズ作成)

2 2025年度の総括

2025年度は、リーマン・ショックの際の経済対策として講じられた「中小企業に対する法人税率(軽減税率)」についての適用期限の延長が決定された一方、新たな税目として「防衛特別法人税」が創設されました。つまり、税負担が減る形となる軽減税率は維持されたものの、新たな税目の創設によって、税負担が増加する方向での改正も行われたわけです。

防衛特別法人税は、2026年4月1日以後に開始する法人に適用されるものであり、中小企業に対する具体的な影響を現段階で見通すことは難しいですが、近年の物価上昇も相まって国民生活への影響が懸念される中、「力強い経済成長」を実現する政策が、今後も継続して打ち出されることに期待したいところです。

3 2026年度の主なニュース

1)中小企業者等に対する少額減価償却資産の損金算入特例見直し

中小企業者等が器具備品 (PCなど)といった減価償却資産を取得した場合、その取得価額が30万円未満であれば、「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」を適用し、資産計上せずに全額を損金算入することができます。

この特例は中小企業者等の事務負担の軽減を図ることを目的として設けられたもので、適用期限は2026年3月31日まで、取得価額の基準は「30万円未満」とされていましたが、

  • 適用期限が3年延長 (2029年3月31日まで)される
  • 取得価額の基準が「40万円未満」に引き上げられる

こととなります。

なお、この特例が適用できるのは、

  • 少額減価償却資産の取得価額の合計額が300万円まで(従来通り)
  • 常時使用する従業員の数が400人 (改正前は500人) を超える法人は適用除外

となる点に注意しましょう。また、この特例を適用した場合においても、取得価額が10万円以上のものについては「償却資産申告」の対象となる点にも併せて注意しましょう。

(図表2)【少額減価償却資産の特例と償却資産申告】

取得価額 10万円未満 10万円以上20万円未満 20万円以上40万円未満
法人税 全額損金算入可 一括(注1)と特例(注2)の選択可 特例の選択可
償却資産税 申告不要 一括を選択した場合は申告不要
(特例を選択した場合は要申告)
要申告

(出所:税理士法人AKJパートナーズ作成)

(注1)「一括」一括償却資産の損金算入制度

(注2)「特例」少額減価償却資産の特例制度

2)インボイス制度の8割控除見直し

2023年10月1日から、消費税のインボイス制度が導入されて以降、免税事業者等への支払いは、原則として仕入税額控除の対象にはならなくなっています。ただ、制度導入直後の急激な税負担の増加などの影響を避けるため、制度開始後6年間は、免税事業者等からの課税仕入れについても、一定割合まで仕入税額控除を認める経過措置が設けられていました。

しかし、小規模な国内事業者については、さらなる緩和を図る必要があることから、

  • 経過措置の適用期限を2年延長(2031年9月30日まで)
  • 控除割合についても見直しが行われる

することとなりました。具体的には次の通りです。

インボイス制度の8割控除見直し

なお、

一の免税事業者等からの課税仕入れの額の合計額が年間で1億円を超える場合

には、その超える部分の課税仕入れについては経過措置の適用が認められません。改正前の上限は10億円でしたので、大幅な引き下げとなる点に注意が必要です。

3)事業承継税制の特例承継計画の提出期限の延長

法人版事業承継税制(特例措置)の措置の適用を受けるためには、認定経営革新等支援機関の所見を記載した特例承継計画を、2026年3月31日までに都道府県知事へ提出する必要がありますが、この提出期限が、

1年6ヵ月延長(2027年9月30日まで)

されます。

また、個人版事業承継税制についても、その適用を受けるためには、認定経営革新等支援機関の所見を記載した個人事業承継計画を、2026年3月31日までに都道府県知事へ提出する必要がありますが、この提出期限は、

2年6ヵ月延長(2028年9月30日まで)

されます。

これらの規定は、中小企業等の経営者の円滑な世代交代を通じた生産性の向上といった課題を解決するための時限措置です。中小企業の経営者や個人事業主の方は、提出期限の到来を見据え、早めに事業承継に取り組むことが重要といえるでしょう。

4 今後の対応について

2026年度においても、今回ご紹介した制度の他、足元の物価高への対応として、物価上昇に連動して所得税の基礎控除の引き上げが行われるなど、多くの税制改正が予定されています。

今回ご紹介した「中小企業者等に対する少額減価償却資産の損金算入特例」など、減税方向の改正については積極的に活用すべきと考えますが、税務上の優遇措置を適用するにあたっては、要件が厳格に定められていたり、所定の書類の保存が必要であったりするケースがほとんどです。

税務調査において要件を満たしていない点を指摘されると、思わぬ税負担を強いられることになりますので、特に改正された規定については早めに準備し、判断に迷う場合には、税理士などの専門家に相談し、適切に手続きを進めましょう。

以上(2026年3月作成)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:Mariko Mitsuda