1 労働基準監督署は会社の何をチェックする?
会社が労働基準関係法令に違反していないかをチェックする
労働基準監督署(以下「労基署」)の臨検監督(以下「臨検」)
は、年に17万9240件実施されています(厚生労働省「令和7年監督業務実施状況(速報値)」)。
臨検では、労働基準監督官(以下「監督官」)が会社を訪問するなどして、36協定、出勤簿、賃金台帳、就業規則などさまざまな書類をチェックします。できれば、臨検が入る前にセルフチェックをしておきたいところですが、
監督官が書類のどこを見るか分からないので、対応ができない
という会社がほとんどでしょう。そこで、この記事では社会保険労務士監修のもと、労基署の臨検で指摘を受けやすい書類と、そのチェックポイントを紹介します
2 労基署の臨検で指摘を受けやすい書類は?
2025年に実施された臨検では、定期監督等と申告監督について、主に次のような違反が指摘されています。


これらの違反は、主に監督官が次のような書類をチェックする過程で見つかります。
- 36協定(社員に時間外・休日労働を命じる場合に必要な労使協定)
- 労働条件通知書(社員と労働契約を締結する際、労働条件を明示するための書類)
- 就業規則(社員数10人以上の場合、作成が義務付けられている職場のルールブック)
- 法定三帳簿(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿)、年次有給休暇管理簿、健康診断関連の書類(健康診断結果、医師の意見書など)
3 36協定のチェックポイントは?
36協定は、会社と社員側の代表(過半数労働組合や過半数代表者)が締結し、労基署に届け出ることで初めて効力を生じます。この社員側の代表についてですが、労基署の臨検では
監督官が一般の社員に対し、「誰が社員側の代表ですか?」「どうやって代表を選出しましたか?(例:多数決)」などと、抜き打ちで質問をするケース
があります。ですから、自社の36協定について正しい情報を社内に周知徹底しておきましょう。また、協定の有効期間は1年間ですので、更新を忘れていないかも要チェックです。この他、1年間の変形労働時間制を導入している会社の場合は労働時間のカレンダーなどについて、運送業の会社の場合は改善基準告示に係る労使協定(拘束時間などについて定めたもの)などについても提出を求められることがあります。
また、2024年4月からは建設業などにも時間外労働の上限規制が適用されています。上限規制に違反する36協定の締結や残業命令は認められないので注意が必要です(図表2)。

なお、上限規制は、単に協定上の時間数を守っていればよいというものではありません。厚生労働省によると、監督指導を実施した2万6512事業場のうち、1万1230事業場(42.4%)で違法な時間外労働が確認され、そのうち約半数(48.7%)は時間外・休日労働が月80時間を超えていました。特別条項付きの36協定を締結していても、実際の運用がそれを超えていれば摘発の対象になるわけです。
一方、2026年9月からは、労基署の指導方法の運用そのものが見直されています。これまでのように、時間外・休日労働といった労働時間のみに着目して一律「月45時間以内」に削減させる画一的な指導は改め、各事業場が36協定で定めた「健康・福祉確保措置」(医師の面接指導など)がきちんと機能しているかを重点的に確認し、状況に応じた指導を行う方針に転換されました。ただし、過重労働による健康障害の恐れがある事業場には、引き続き厳正な指導が行われます。
4 労働条件通知書のチェックポイントは?
労働条件通知書は、社員を雇い入れる際などに必ず書面で交付する必要があります(ただし、社員が希望した場合はメールも可)。また、2024年4月からは、次の内容を明示することが義務付けられています。施行から2年以上が経過した今も、労働基準法第15条(労働条件の明示)違反は定期監督における違反の上位に位置しており(図表1)、周知が行き届いていない会社が少なくないのが実情です。
- 「契約更新に関する事項」を記載する際、「更新上限」についても明示する
- 「無期転換に関する事項(新設)」を記載する際、無期転換の「申込機会」「転換後の労働条件」について明示する(通算契約期間が5年超のパート等が対象)
- 「就業場所」「業務内容」を記載する際、契約締結時の内容だけでなく、配置転換等の際の「変更範囲」も明示する
古い労働条件通知書のフォーマットを使い回している場合、早期に修正が必要です。なお、フォーマットを見直す際は、念のため次のような内容についても確認しておきましょう。
- 時間外労働が1カ月60時間を超える場合の割増賃金率が正しいか(2023年4月から、中小企業も「25%以上」から「50%以上」に引き上げられている)
- パート等の場合、「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」「相談窓口」も明示しているか(労働基準法ではなく、パートタイム・有期雇用労働法に基づく明示。なお、2026年10月からは「待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる旨」を明示することが新たに義務付けられる)
5 就業規則のチェックポイントは?
まず、社員が10人以上の会社なのに、就業規則がない(または作成しているが、労基署に届け出ていない)のは違法です。また、就業規則は社内に周知して初めて効力を生じるので、
テレワークの社員がいるのに、就業規則はオフィスに紙の状態でしか置いておらず、実際にアクセスできる状態で周知されていない
というのもNGです。
加えて、労基署の臨検では、
法改正があったタイミングで、就業規則の変更と届け出がちゃんと行われているか
が厳しくチェックされます。法改正への対応が届け出も含めてなされているかを確認しておきましょう。
なお、就業規則を変更する際は、「就業規則本体」に加えて、「変更届」「社員側の代表(過半数労働組合や過半数代表者)の意見書」を労基署に届け出ます。これらについても労基署が受理の押印をした会社控えがあるか、確認しておきましょう。
6 法定三帳簿等のチェックポイントは?
労働者名簿、賃金台帳、出勤簿の3つは「法定三帳簿」と呼ばれており、最近はこれに年次有給休暇管理簿を加え、「法定四帳簿」と呼ぶことがあります。いずれも、法令で定められた項目を記載の上、5年間保存することが義務付けられています(当面の間は3年間)。労基署の臨検では、
ほぼ必ず提出を求められる重要書類で、法令上必須の項目が記載されていないと、是正勧告の対象になる可能性が高い
ので注意が必要です。提出する帳簿間での整合性も確認しておきましょう

加えて、賃金台帳と出勤簿については、次のような点にも要注意です。
(賃金台帳)
- 長時間労働が続いているのに、「固定残業代だから」と残業代を一律支給にしているなど、違和感がある賃金台帳が提出されると、監督官から指摘が入ることがある
- 賃金から「積立金」「社宅料」などを控除している場合、労使協定の締結について指摘が入ることがある
- パート等を含め、時給が最低賃金を下回る社員がいないか確認されることがある(都道府県ごとの「地域別最低賃金」は毎年引き上げられている。基本給や固定残業代の時間単価が、知らないうちに最低賃金を下回っていないかは要注意)
- 固定残業代を導入している場合、実際の残業時間が見合い時間を超えているのに差額を精算していない、または割増賃金の算定基礎から役付手当等を不当に除外しているケースでは、是正勧告の上、報告を求められることがある(最終的には書類送検されることもある)
(出勤簿)
- 「始業・終業時刻や休憩時間が一律」など、違和感がある出勤簿が提出されると、監督官から指摘が入ることがある(パソコンのログとの照合を求められることも)
- 始業前などに「清掃」や「制服への着替え」が必要な場合、その時間が労働時間に含まれているか確認されることがある
7 健康診断関連の書類のチェックポイントは?
会社は、社員を雇用した際の雇入時健康診断や、年1回の定期健康診断などを実施しなければなりません。労基署の臨検では、
- 各社員の健康診断結果を作成し、一定期間保存しているか(原則5年間)
- 「異常の所見」があった場合、健康診断をしてから3カ月以内に、就業上必要な措置(時間外労働の制限など)について医師等の意見を聴取しているか
- 社員数が50人以上の場合、定期健康診断結果報告書を提出しているか
などをチェックされる可能性があります。また、深夜業に常時従事する社員がいる会社の場合などは、労働安全衛生法に基づき、年2回(6カ月ごとに1回)の健康診断をしているかもチェックされます。
ちなみに、これまで社員数50人以上の事業場にのみ義務付けられ、50人未満は努力義務にとどまっていた「ストレスチェックの実施」について、すべての事業場に義務化する労働安全衛生法の改正がすでに成立しており、2028年4月1日から施行される予定です。少し先の話ではありますが、50人未満の中小企業では実施体制が整っていないケースも多いため、早めに準備を始めておくと安心です。加えて「産業医や衛生管理者の選任」「衛生委員会の設置」など、社員数50人以上で必要になる安全衛生関連の実務も、引き続きチェック対象になり得ます。社員数10人以上50人未満の場合も、「衛生推進者の選任」義務があります。
また、2026年4月からは、高年齢労働者の労働災害を防止するための作業環境の改善(照度の確保、段差の解消等)や作業管理の実施が、事業主の努力義務として新たに定められています。高齢の社員を雇用している会社は、こちらも念頭に置いておきましょう。
8 書類以外も何かチェックされる?
ここまで、労基署の臨検でチェックされる可能性のある書類についてお話ししてきましたが、実際の臨検では、書類以外についても監督官のチェックが入る可能性があります。
例えば、建設業や製造業などの場合、工事現場や工場などの現場確認が行われることがあります。現場確認では、重機や手すりといった各種設備が労働安全衛生法の基準にのっとったものであるかなどについて確認されます。
また、サービス業のようなホワイトカラーでも、申告監督などの場合は、会社の提出した書類と従業員の実態に乖離(かいり)がないかを確かめるため、監督官から社員に対してヒアリングが行われるケースもあるようです。例えば、「1カ月のうち時間外労働がどの程度あるか?」「最近、労働災害に遭った人はいないか?」といった質問が考えられます。
なお、2026年4月からは、同じ作業場所で働くフリーランスや一人親方などの個人事業者に対しても、元方事業者が安全衛生上の措置を講じることが義務付けられています。自社の直接雇用の社員だけでなく、同じ現場にいる請負・委託先の作業者を含めた安全管理体制になっているか、確認しておきましょう。
以上(2026年10月更新)
(監修 社会保険労務士事務所デバイスアニュー代表 山中隆史)
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画像:ChatGPT