昭和ビジネス用語vs若者言葉 「手弁当」「ノンデリ」って何?

1 「手弁当」って一体なんですか?

筆者が勤める会社で、社長が上司との会話でこんなセリフを口にしました。

「でもさあ、毎回手弁当ってわけにもいかないよな~」

社長がそうぼやいたとき、平成生まれの筆者の頭には、自分でお弁当を作って持っていく姿が思い浮かんでいました。

ただ、何をどう考えたってそんなはずはないので、単に私が聞き間違えたのかと思い、「そうですね~」と相槌を打ったものの、「手弁当」なるワードはその後の会話でも何度も登場してきます。さすがに気になり、 検索をしてみると……

手弁当とは?

なるほど、自腹を切ることを指すらしい。

言われれば納得できるような、それにしても伝わらないような……。その他にも、「全員野球」「一丁目一番地」「エイヤで」などなど、いわゆる「昭和ビジネス用語」を見聞きするたびに、インターネットで検索をしたり、しなかったり……。

一方、逆の立場で考えると、「エモい」「チルい」「ノンデリ」などなど、私たち若者世代が普段、感覚的に使っている言葉も、社長や上司の世代には伝わっていないのかもしれません。

皆さんの職場にも、こうした「言葉のジェネレーションギャップ」があるのではないでしょうか。そこで今回、18歳から34歳までの若者世代221人と、35歳以上の昭和世代221人(平成1ケタ生まれも多少含まれますが……)、計442人の会社員を対象に「職場における昭和ビジネス用語と若者言葉」についてのアンケートを行いました(実施日は2026年5月26日~5月28日)。

以降で、結果を詳しく紹介していきます。ぜひお楽しみください!

2 【昭和ビジネス用語編】「リャンメン」は9割に伝わらない

今回のアンケートでは、次の15個のワードを「昭和ビジネス用語」として取り上げました。

昭和ビジネス用語

ちなみに筆者は、テレコ・ガッチャンコ・ペライチ・リャンメンしか知りませんでした。

1)「伝わっている・伝わっていない」でも世代間ギャップが!

まずは、昭和世代に「若者世代に『昭和ビジネス用語』を使用し、伝わらなかった経験はありますか?」という質問をぶつけてみました!

伝わらなかった経験はありますか?

結果は、

「伝わらなかった経験がある」と答えた人は全体の26.2%

でした! 意外に低いですね。

次は、若者世代に、「上の年代の社員に『昭和ビジネス用語』を使用され、意味が伝わってこなかった経験はありますか?」という質問をぶつけてみると……

伝わらなかった経験はありますか?

結果は、

「理解できなかった経験がある」人が52.5%

でした。世代間で、「伝わっているか・いないか」に認識の違いがありますが、これはおそらく、若者世代が分からないな~と思いながらも相槌で流し、その後に自ら意味を調べて適応したことの表れだと思われます。

2)どんな昭和ビジネス用語が「伝わっていない」の?

今回、若者世代に冒頭の昭和ビジネス用語15語を、「知っているか・知らないか」のアンケートを取ってみました。そしてその結果をもとにして、【伝わらない「昭和ビジネス用語」ランキング】を作成しました。

伝わらない「昭和ビジネス用語」ランキング

「伝わらない昭和ビジネス用語」の第1位は、「ポテンヒット」でした! ただ、「ポテンヒット」自体は、昭和世代でも知っている割合が約30%と低めではありますが、若手になると更に認知度が下がってしまうようです。

そして、最も世代間で認知度の差が出たのは「全員野球」。昭和世代の認知度は50.3%でしたが、若者世代の認知度は15.4%でした。

ちなみに、「知っているものがまったくない」と答えた若者も24.6%いました。そう考えると、

昭和ビジネス用語は約1/4の若者には伝わっていない

とも言えるかもしれません。

こちらが「昭和ビジネス用語」認知度の一覧です!

「昭和ビジネス用語」認知度の一覧

3 【若者言葉編】「顔ない」ってどんな状況?

今回のアンケートでは、次の15個のワードを「若者言葉」として取り上げました。

若者言葉

ちなみに、筆者が勤める会社の社長(昭和世代)は、ノンデリ、顔ない、横転、メンブレを知りませんでした。

1)昭和世代は若者言葉を理解している?

次は、若者世代に「上の年代の社員に若者言葉を使用し、伝わらなかった経験はありますか?」という質問をぶつけてみました。

伝わらなかった経験はありますか?

結果は、

「伝わらなかった経験がある」と答えた人は全体の44.8%

でした! 伝わっていないな、と察している若手は多いです。あるいは、その場で「それ何?」と聞いてくれる昭和世代が多いのかも知れません。

「昭和ビジネス用語」のアンケートと同じように、昭和世代に、「若者世代に『若者言葉』を使用され、意味が伝わってこなかった経験はありますか?」という質問をぶつけてみると……

伝わらなかった経験はありますか?

結果は、

「理解できなかった経験がある」人が29.0%

でした!

そもそも、若者言葉をビジネスの場で使うことが少ない、ということが、若手における「昭和ビジネス用語」への反応との違いとして結果に出ているのかもしれません。

2)どんな若者言葉が「伝わっていない」の?

今回、昭和世代に冒頭の若者言葉15語を、「知っているか・知らないか」のアンケートを取ってみました。そしてその結果をもとにして、【伝わらない「若者言葉」ランキング】を作成しました。気になる結果はこちら!

伝わらない「若者言葉」

「伝わらない若者言葉」の第1位は、「顔ない」でした!

「顔ない」は、若者世代の中でも特に10代、20代前半の人が積極的に使っている印象があります。若者世代全体での知名度は18.1%と、さほど高くありませんでした。

ちなみに、4位にランクインしている「ノンデリ」は、弊社内の年上社員の中でも「知らない」という反応が特に多かったですが、筆者の肌感では、若者世代たちの間でかなり日常的な語彙として使われています。

こちらが「若者言葉」認知度の一覧です!

「若者言葉」認知度の一覧

4 「昭和ビジネス用語」「若者言葉」両世代のホンネを紹介

最後に、両世代に「昭和ビジネス用語」「若者言葉」について思うところがあるか聞いてみました! 良いものから悪いものまで、忌憚ない意見をそのまま掲載します。

【昭和世代】

  • 「『やばい』のようにシチュエーションや流れで意味が真逆になる言葉はビジネスでは使うべきではない。トラブルに繋がりかねないので」
  • 「ビジネスの場で、世代間で伝わりにくいような言葉を避けるべきだと思う」
  • 「使用規制せず双方寛容であればよいと思う」
  • 「昭和もよいものがあるので覚えて欲しい」
  • 「世代それぞれの言い方がある。おじさん、おばさんの言い方はバカにされ、若者だけが正しいような風潮がある」
  • 「ある程度浸透している言葉は分かるが、すぐ消えてしまうような言葉は使うのを控えてもらいたい」
  • 「(若者言葉は)できるだけ控えてほしい」
  • 「最近の言葉は難しい」

【若者世代】

  • 「両者の言葉をお互いが完全に理解して使うのは難しいと思う」
  • 「コミュニケーションを取るために若者言葉を覚えてほしい」
  • 「流行語ではなくいつでも通じる言葉で互いに喋りたい」
  • 「お互いのコミュニケーションの為にも、分からない言葉は調べたりもしつつ、伝わらなければその場で説明をすればいいと思う」
  • 「お互い歩み寄りたい」
  • 「昭和ビジネス用語は嫌いです」
  • 「若者用語もあると尚良い」
  • 「若い世代の価値観や考えを受け入れる努力をして欲しい」

以上(2026年6月作成)

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画像:日本情報マート

「現状維持」思考が最大のリスク 2026年版 中小企業白書のポイント

1 「人手不足」や「賃上げの負担」をどう乗り越える?

今、日本の中小企業の多くは、物価上昇や深刻化する人手不足のために、高水準の賃上げを続けざるを得ないという状況にあります。2026年版中小企業白書(以下「白書」)では、こうした状況を踏まえ、

  • 経営環境の転換期にある中で、現状維持は最大のリスク
  • 短期的な損益を追うのではなく、長期的な視点で事業構造・組織構造を再構築していく「戦略」を持った経営に転換し、「稼ぐ力」を高め、「強い中小企業」へと成長することが重要

と強調し、次のような内容について解説しています。

中小企業白書の内容

「稼ぐ力」の強化に関して、白書では、生産性向上・デジタル化などを含め幅広い課題を取り上げていますが、この記事では、

中小企業の切実な悩みである「人手不足」に焦点を当て、その解決策として「人材確保の方向性の見直し」「価格交渉(賃上げの原資づくり)」のポイントを紹介

します。なお、白書の詳細な内容を確認したい場合は、下記URLをご覧ください。

■中小企業庁「2026年版『中小企業白書』全文」■
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2026/PDF/chusho.html

2 もはや「待っていれば人が来る」という時代ではない

1)人材確保は経営者が特に重視する経営課題

白書によると、帝国データバンクが2025年11月から12月にかけて実施したウェブアンケート調査で明らかになった「最も重視する経営課題(企業規模別)」は次の通りです。

人材確保

中規模企業、小規模事業者ともに「人材確保」を経営課題として重視していることが分かります。実際、「求人を出しても、さっぱり応募がない」という悩みを抱える社長は少なくありません。一方、いまだに「待っていれば人が来る」という淡い期待を抱いたまま、具体的な対策を検討していない中小企業も多く見受けられます。まずは、待ちの姿勢を脱却することから始めましょう。

日本の生産年齢人口(15~64歳人口)は減少傾向にあり、今後、人手不足は更に深刻化する見込みです。中小企業(従業員99人以下)における雇用者数は、2040年には2018年比で84.1%(15.9%減)にまで落ち込む可能性があります。つまり、これまでと同じやり方では、いずれ立ち行かなくなる恐れがあるわけです。

日本の生産年齢人口

2)採用活動や就業環境への向き合い方を見直してみる

それではどうするか? 白書が示すヒントは、「闇雲に求人を出す」のではなく、

採用したい人材像を明確にする

ことです。実際、白書のアンケート調査では、

年齢・経験・スキル・価値観といった「求める人材像」を明確化できている企業ほど、採用実績(予定人数を確保できた割合)も、採用後の定着率も高い

という結果が出ています。「とりあえず人手が欲しい」ではなく、「どんな人に、どんな業務を任せたいか」を先に固めることが、ミスマッチによる早期離職を防ぎ最初の第一歩になります。

また、「採れる企業」「辞めない企業」になるための環境整備も欠かせません。白書では、人材の定着率が高い企業が実際に取り組んでいることとして、「賃上げ」の他、

  • 休暇の取得推進
  • 時間外労働の削減
  • 柔軟な働き方の導入

を挙げています。さらに、自社の社員だけで人手不足を乗り切るのが難しい場合は、

  • 副業・兼業人材
  • 外国人材
  • スポットワーク人材(単発・短時間の求人プラットフォーム経由の人材)

といった、社外の多様な人材を活用する選択肢もあります。特に副業・兼業人材については、人手不足の解消だけでなく、「自社にない技術やノウハウの獲得」「従業員のスキルアップ」につながったと回答する企業も多く、単なる労働力の補充以上の効果が報告されています。

3)「脱どんぶり勘定」で、良い人が集まり始めている

中小企業では、社長自らが陣頭指揮を取りながら現場を飛び回るケースが多いものです。そのため、ついつい社長の頭の中だけで様々な処理が行われ、「どんぶり勘定」になりがちです。

しかし、人手不足の中でも「不思議と人が辞めない企業」「新しい人が採れる企業」には共通点があります。それは、社長の勘に頼る経営を卒業し、財務や労務管理、業務プロセスなどの「仕組み化」に取り組んでいる点です。

「うちの企業は、この仕事でいくら儲かっているのか」「従業員の労働時間や有給の消化状況は適正か」これらを数値として「見える化」することで、無駄なコストや作業が浮き彫りになり、結果として企業に残る利益(営業純益)を増やすことができます。増えた利益は、賃上げや休暇制度の充実など、ここまで見てきた「採れる企業」「辞めない企業」になるための原資にもなります。

社長の役割は、現場で誰よりも働くことではなく、「少ない人数でも、しっかり利益が出て、社員に還元できる仕組み」を整えることにあります。

3 「原材料分」も「社員の給料分」も値上げ交渉して構わない

1)賃上げの原資確保に苦戦しながらも、賃上げせざるを得ない現実

人材確保に付いて回るのが「賃上げ」です。政府や世間から「賃上げ」を強く求められ、中小企業でも、2024年に「4.45%」、2025年に「4.65%」という高い賃上げ率が記録されました。

賃上げ率の推移

しかし、社長の本音は「そんな原資、うちのどこにあるんだ」というところでしょう。白書によると、中小企業の労働分配率(付加価値額に占める人件費の割合)は中規模企業が約7割、小規模企業が約8割と非常に高く、賃上げ余力は大企業と比べて小さいのが実情です。

にもかかわらず、多くの企業は既存社員の転職を防ぎ、新しい人材を採用するために賃上げする、いわゆる「防衛的な賃上げ」をせざるを得ず、実際、業績の改善が見られないにもかかわらず、賃上げに踏み切っている企業が4割を超えています。

2)取適法などに基づく価格交渉で原資の確保を

この問題に対し、白書が解決策として示しているものの1つが、「自社の製品・サービス価格への適切な転嫁(値上げ交渉)」です。これまで原材料や燃料費の高騰ばかりが注目されがちでしたが、これからは「社員の給料を上げるための人件費(労務費)の引き上げ」についても、堂々と発注元(取引先)に価格交渉をしようという考え方です。

2026年1月、長年の中小企業取引のルールだった下請法は、新しく「取適法(中小受託取引適正化法)」として生まれ変わりました。取適法では、適用対象となる取引の範囲を、「取引の内容」と「資本金基準」(資本金の額あるいは出資の総額)または「従業員基準」(常時使用する従業員の数)によって定めています。

今回の法改正で新たに追加された「従業員基準」は、

従業員数が多く事業規模が大きいのに、減資等により資本金額が少額となっていた事業者を適用対象に含める

ことで、より多くの取引関係における不公正な慣行を是正しようという狙いがあります。

取適法の適用対象

黒字が「資本金基準」、赤字が「従業員基準」で、適用対象となる取引の発注者がどちらか1つでも該当する場合、取適法の適用を受けます。相手の資本金が小さくても、一定以上の従業員がいる企業からの発注であれば、受注者側の企業は法律で保護されます。

また、建設工事の取引には、さらに厳しい「建設業法」が適用されます。発注者が受注者に対して「労務費の引き上げ分(賃上げ分)を無視して、一方的に低い単価を押し付けること(買いたたき)」を明確に禁止しており、これも価格交渉をする上での重要な規定になります。

4 「何から始めればよい?」社長を助ける3つの強力な公的支援

人材を確保するための仕組みづくりや、賃上げ原資を確保するための価格交渉……色々とやらなければならないことはありますが、「資金もノウハウもないし、何から始めればよい?」と悩む社長は少なくないでしょう。そんな社長のための公的支援をいくつか紹介します。

1)機械の導入や新製品の開発時に使える「中小企業省力化投資補助金」「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」

少ない人数で現場を回すための「機械の導入」や「ITツールの活用」には補助金が使えます。例えば、「中小企業省力化投資補助金」は、付加価値額向上や生産性向上に効果的な自動化機器などをカタログから選択することで、比較的手軽に申請ができる補助金です。

また、2026年6月から始まった「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」も、新製品・新サービスの開発や新市場・高付加価値事業への進出を検討する場合に活用できる補助金です。

■中小企業省力化投資補助金■
https://shoryokuka.smrj.go.jp/
■中小機構 補助金活用ナビ「 新事業進出・ものづくり補助金のご案内」■
https://seisansei.smrj.go.jp/subsidy_info/business_manufacturing_subsidy.html

2)賃上げ時に活用できる「業務改善助成金」

事業場内で最も低い時給(事業場内最低賃金)を50円以上引き上げる計画を立て、同時に「業務を効率化するための設備(POSレジや専用什器など)」を購入した場合、その設備投資費用の一部が国から助成される「業務改善助成金」が活用できます。賃上げと職場の効率化を同時に進められる制度です。

■厚生労働省「業務改善助成金」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03.html

3)何から話せばいいか分からないときの駆け込み寺「よろず支援拠点」

補助金の種類が多すぎて選べないときや、価格交渉の進め方に悩んだ時は、各都道府県にある無料の相談窓口「よろず支援拠点」を頼りましょう。経営の専門家が、無料で社長のアドバイスに乗ってくれます。

■よろず支援拠点全国本部■
https://yorozu.smrj.go.jp/

現状維持は最大のリスクですが、裏を返せば「小さな第一歩」を踏み出した企業が、競合他社の一歩前に抜け出せるチャンスの時代でもあります。取引金融機関や、地元の商工会・商工会議所、よろず支援拠点などの専門家は、補助金活用から法改正への対応まで、社長の強力な味方になってくれます。

以上(2026年7月作成)

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画像:日本情報マート

2026年上半期 よく読まれた人気コンテンツランキング

早いもので、2026年も半年が過ぎました。上半期は、第2次高市内閣が発足、2月のミラノ・コルティナ2026では「りくりゅう」ペアが大逆転の金メダルを獲得するなど、さまざまなできごとがありました。また、税務や労務の面で、多岐にわたる制度改正が行われ、多くの経営者が情報収集に追われたことと思います。

どのような情報に多くの関心が集まったのか——2026年1月から6月までのアクセスをもとに、当サイトの「よく読まれた人気コンテンツ」をランキング形式でご紹介します!

どんなテーマに注目が集まったのかを振り返りながら、まだご覧になっていない記事がありましたら、この機会にぜひチェックしてみてください。

第1位

第2位

第3位

第4位

第5位

第6位

第7位

第8位

第9位

第10位

第11位

第12位

第13位

第14位

第15位

第16位

第17位

第18位

第19位

第20位

下半期も引き続き、少しでも皆さまの経営や業務に役立つ情報をお届けできるよう努めてまいります。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

以上(2026年7月作成)

pj10106
画像:日本情報マート

経営のヒントとなる言葉(石田三成)

「犬猫にも虎の斑(ふ)あり、然れども人、宝とせざるは、虎にあらざればなり。知恵ありて粉飾する故、犬猫にも虎になる紛(まぎ)れものあり、これ人の見違ふるところなり」(*)

出所:「名将名君に学ぶ 上司の心得」(PHP研究所)

冒頭の言葉は、

「部下の能力や資質を見極めることがリーダーの務めである」

ということを表しています。

三成といえば、小姓(こしょう)から奉行へと取り立てられるなど、秀吉にその才能を認められていたことは有名です。

秀吉が三成に目をかけるきっかけとして知られるのが、三杯の茶のエピソードです。領内で鷹狩りをしていた秀吉が、喉の渇きを覚えて、ある寺に立ち寄って茶を所望したところ、これに対応したのが三成でした。喉が渇いていた秀吉のことを思い、三成は最初に大ぶりの茶わんにぬるめの茶をいっぱいに入れて出しました。秀吉は一気にその茶を飲み干して、もう一杯頼みました。次に三成は、やや小さめの茶わんに、やや熱めにした茶を出しました。二杯目の茶を飲んだ後に秀吉が試しにもう一杯所望したところ、三成は小ぶりの茶わんに熱くたてた茶を出したというものです。三成の心配りに感動した秀吉は、三成を小姓として取り立てたといわれています。

秀吉には目をかけられていた三成ですが、同じく秀吉の子飼いの武将であった福島正則(ふくしままさのり)や加藤清正(かとうきよまさ)とは折り合いが悪かったようです。それは、三成のおごった態度が原因ともいわれています。

結局、三成は秀吉亡き後、関ヶ原の合戦において家康と対立し、敗北を喫したことによってその生涯を閉じました。

ちなみに、明治時代に陸軍大学校で教鞭を執ったプロシア(ドイツ)軍少佐のメッケルが関ヶ原の地を訪れた際、関ヶ原の合戦当時の布陣図を見て、「勝利したのは西軍だろう」と言ったというエピソードがあります。三成が率いた西軍の兵力や布陣においては、家康が率いた東軍よりも有利だったのです。

しかし、秀吉に仕えてきた多くの武将の支持を得られず、三成が敗れてしまったのは、三成をリーダーとしては認められない、家康のほうがリーダーとしてはふさわしいと考えた武将が多かったからだといえるでしょう。

三成と親しい間柄にあった大谷吉継(おおたによしつぐ)は、三成の挙兵を知った際に、「普段の横柄な態度では誰も三成に従わない」と言い、三成に挙兵を諦めさせようとしたとされます。また、吉継は次のような忠言も三成に呈したといわれています。

「貴殿才覚余れども、一大事の所不足なり」(**)

この言葉から、吉継は三成の才能を認めてはいたものの、リーダーの器ではないと考えていたとみることができるでしょう。

リーダーとして認められるためには、さまざまな資質が求められます。三成は執務能力の高さにおいては申し分ないといえる一方で、リーダーシップを十分に発揮することはできませんでした。

三成は周囲から執務能力が認められ、その点に自信を持っていたことによって、横柄な態度で接してしまったのかもしれません。また、「知恵ありて粉飾する故、犬猫にも虎になる紛れものあり」と冒頭の言葉にあるように、三成は人に警戒心を持って接し、全幅の信頼を置くことができなかったのかもしれません。

現代においても、リーダーにとって部下とは、自分に比べて至らない点が多く、頼りない存在に思えて、全面的に仕事を任せられないと思うことがあるかもしれません。

しかし、リーダーとは部下に支持されてこそのリーダーであり、部下から「この人についていこう」というふうに思ってもらう信頼関係を構築することが求められます。

そのためには、日ごろから横柄な態度を取ることなく自分を律して、部下の信頼に足るリーダーであるかをチェックしてみることが欠かせません。例えば、「部下の優れた資質、能力を認め、その点を伸ばそうとサポートしているか」「優柔不断ではなく、はっきりと決断を下す頼りがいのあるリーダーであるか」などです。

こうしたリーダーの姿勢が部下との信頼関係を構築する礎となります。また、リーダーの姿勢は組織に伝搬するものです。リーダーが求める理想の組織とは、リーダーの日ごろの行動の一つ一つによって形作られるものなのです。

【本文脚注】

本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を担保するものではありません。また、本文中では内容に即した肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思われるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。

【経歴】

いしだみつなり(1560~1600)。近江(おうみ)国(現在の滋賀県)生まれ。豊臣秀吉の家臣として、太閤検地や刀狩りなどに貢献。秀吉が亡くなった後、徳川家康と対立し、関ヶ原の合戦に敗れて処刑。

【参考文献】

(*)「名将名君に学ぶ 上司の心得」(童門冬二、PHP研究所、2007年5月)

(**)「河北新報 夕刊(1998年4月27日付)」(河北新報社、1998年4月)

「産経新聞 東京朝刊(2012年12月28日)」(産経新聞、2012年12月)

以上(2026年5月更新)

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画像:日本情報マート

【2026年7月号】ちょっと未来のニュース~制度改正、予定イベント&統計情報

少しだけ未来を見る、経営者のための月次ニュースレターです。7月、経営者が押さえておきたい法令・イベント・統計・政策の動きなどを紹介します。

1 制度改正編

7月に予定されている制度改正のうち、中小企業経営者が特に注意すべき2本を紹介します。

1)障害者雇用率の引き上げ(2026年7月1日~)

障害者雇用促進法では、常時雇用している社員数が一定以上の会社に対し、社員のうち身体障害者・知的障害者・精神障害者が占める割合を、一定の割合(障害雇用率)以上にするよう義務付けています。

障害雇用率は段階的に引き上げられています。これまでは、社員が40人以上の会社に対し、社員数の2.5%に相当する人数以上の障害者を常時雇用する義務が課せられていましたが、2026年7月1日からは、社員が37.5人以上の会社に対し、社員数の2.7%に相当する人数以上の障害者を常時雇用する義務が課せられます。

▶ 経営者のTo Do

  • 自社が障害者雇用促進法の「法定雇用率」義務付けの対象となるかどうか確認する
  • 障害者の労務管理を見直す(「障害者だから」という理由だけで差別をしていないか、障害者が働く上で必要な配慮(合理的配慮)ができているか など)
■高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者雇用率制度」■
https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/q2k4vk000003mbma.html

2)旅券(パスポート)の申請手数料引き下げ(2026年7月1日〜)

旅券法、旅券法施行令の改正により、2026年7月1日以降の申請分から旅券(パスポート)の申請手数料が引き下げられます。これに伴って、2026年7月1日以降の申請分は、申請が受理された日から交付までに通常(約2週間)よりも時間を要することが想定されます。

旅券(パスポート)の申請手数料

▶ 経営者のTo Do

  • 旅券(パスポート)の有効期間を確認する
  • 海外渡航を予定しているが、旅券(パスポート)を取得していない、または有効期間が過ぎている場合、十分な余裕をもって申請する
■外務省「旅券手数料改定 関連情報」■
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ca/pss/pagew_000001_02493.html

2 イベント編

1)ワールドカップ2026 決勝トーナメント

4年に1度のサッカーの祭典、ワールドカップ2026。グループステージを突破した32チームによる決勝トーナメントが6月29日に始まり、7月20日には決勝戦を迎えます(いずれも日本時間)。日本代表チームは決勝トーナメント1回戦の対ブラジル戦で敗退しましたが、どの国が優勝するのか、誰が得点王になるのか、最後まで注目です。

2)富士山 山開き

富士山の開山期間は例年7月上旬~9月10日。この約2カ月間で、バスターミナルがある五合目には200万人以上、通行料の徴収など入山規制が行われるようになった今でも、山頂には20万人を超える登山客が訪れるといいます。

誰でも登って降りてこれると思うかもしれませんが、気温の変化や風の影響が非常に大きいため、十分な装備と準備が不可欠です。なお、2026年の開山予定は、吉田口・須走口が7月1日、富士宮口・御殿場口・山頂(お鉢めぐり)が7月10日です(6月25日時点)。

■富士山における適正利用推進協議会「富士登山オフィシャルサイト」■
https://www.fujisan-climb.jp/

3)メジャーリーグベースボール(MLB)オールスターゲーム2026

毎年7月に開催されるMLBオールスターゲーム。アメリカンリーグ、ナショナルリーグからファン投票や監督推薦などで選抜された名選手たちによる1試合限りの夢の競演です。

米国建国から250周年の節目に当たる今年のMLBオールスターゲームは、独立宣言採択の地フィラデルフィアのシチズンズ・バンク・パークで7月15日(日本時間)に開催されます。大谷翔平選手(ドジャース)ら、日本人メジャーリーガーの活躍も期待されます。

■MLB All-Star Game 2026■
https://www.mlb.com/all-star

4)第38回 ものづくり ワールド [東京]

7月1日〜3日にかけて、東京ビッグサイトにて開催される日本最大級の製造業の展示会です(主催:RX Japan)。IT、DX製品、部品、設備、装置、計測製品などを扱う企業(約2000社)が世界中から出展します。

■ものづくり ワールド [東京] 公式サイト■
https://www.manufacturing-world.jp/tokyo/ja-jp.html

5)メンテナンス・レジリエンス2026

7月15日〜17日にかけて、東京ビッグサイトにて開催される「製造業」「土木・建設業」のメンテナンスと設備の維持管理・保全に特化した専門展示会です(主催:日本能率協会)。インフラ老朽化対策や激甚化する自然災害への備え、深刻な人手不足といった社会課題の解決を目指し、建設・土木業界、製造業、自治体などの関係者が一堂に会する大型展示会で、計11の専門展示会によって構成されています。

■メンテナンス・レジリエンス2026■
https://mente.jma.or.jp/

3 統計・政策情報編

7月は日銀短観(四半期ごと)の公表が行われる他、春闘(春季生活闘争)の妥結結果が固まる時期でもあります。図表2に、本章で取り上げる統計・政策文書の一覧を示します。

2026年7月公表予定の主な統計・政策文書

1)日銀短観(全国企業短期経済観測調査)6月調査

日本銀行が全国の企業などに直接アンケートを行い、景気が「良い」と答えた割合から「悪い」を引いた景況感(業況判断DI)を算出します。

2月末から数カ月にわたり長期化しているホルムズ海峡封鎖に伴うナフサショックや、円安などの影響が、経済活動にどの程度ダメージ(仕入価格の上昇・収益の圧迫)を与えているかが初めて明確なデータとして表れます。特に注目すべきは、中小企業の「仕入価格判断DI」と「販売価格判断DI」の乖離幅です。他の中小企業が原材料などの高騰分をどれくらい価格転嫁できているかを紐解くヒントとなります。

■日本銀行「短観(調査全容)一覧 2026年~」■
https://www.boj.or.jp/statistics/tk/zenyo/2026/index.htm

2)2026年春闘 第7回(最終)回答集計

連合(日本労働組合総連合会)から、2026年春闘の第7回(最終)回答集計が公表されます。賃上げ率・賃上げ額の最終的な「相場」が分かる他、組合員数300人未満の「中小組合」の賃上げ状況も別掲されるため、大手と中小の賃上げ格差を確認できます。

ここ数年、約30年ぶりともいわれる高水準の賃上げが続いており、2026年春闘では「こだわろう! くらしの向上 ひろげよう! 仲間の輪」をスローガンに、全体で賃上げ分3%以上、定昇相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め5%以上の実現が目標として掲げられています。

3)情報通信白書(令和8年版)

情報通信白書は、総務省が公表する、国内外のICT(インターネット・スマホ・通信インフラ・デジタル経済など)の動向や課題、国の情報通信政策の方向性をまとめた白書です。

近年は、爆発的な進化を遂げるAIの技術開発や導入の状況なども掲載されており、会社における今後のAI活用を考える際の参考にもなります。

■総務省「情報通信白書」■
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/index.html

4)中小企業実態基本調査(令和7年確報・令和6年度決算実績)

中小企業実態基本調査は、中小企業庁が、全国の約11万社の中小企業を対象に毎年実施する業種横断的な実態調査です。中小企業の従業者数、資産・負債・純資産、売上高・営業費用、設備投資とリースの状況など幅広い内容が分かります。

社長(個人事業主を含む)の年齢構成、就任経緯(創業者か親族内承継かなど)、事業承継の意向など、社長個人に踏み込んだ項目も記載されており、事業承継を検討する際の参考にもなります。

■中小企業庁「中小企業実態基本調査」■
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/kihon/index.html

4 話題のタネ

訪問時の雑談のきっかけに。7月ならではのトピックを集めました。

1)七夕は、天気が良くない?

毎年7月7日の「七夕」は、願いごとを書いた短冊を笹竹に飾り、星に祈りを捧げる日本の伝統的なイベントです。織姫と彦星が一年に一度、天の川を渡って会えるロマンチックな日とも言われていますが、梅雨まっただ中のこの時期、晴れる年は少ないようです。

気象庁の基準では、「1日の降水量が1.0mm未満」かつ「日平均雲量が8.5未満」の日を「晴れ」と定義していますが、過去の気象データを基に天気出現率(1991年〜2020年の30年間統計)を計算すると、例えば、東京の7月7日の晴天率は30.0%となります。

■気象庁「過去の気象データ検索」■
https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/index.php

2)「海の日」のルーツは?

毎年7月の第3月曜日は国民の祝日「海の日」。海の恩恵に感謝し、海洋国日本の繁栄を願う日です。

1876年に明治天皇が灯台巡視船「明治丸」で横浜港に帰着した7月20日が「海の日」のルーツで、今年は150年目の節目にも当たります。

■政府広報オンライン「2026年の祝日は?知ってそうで知らない『国民の祝日』とその趣旨や経緯」■
https://www.gov-online.go.jp/article/202112/entry-9910.html

3)土曜の丑の日、「完全養殖ウナギ」が食べられる日も近い?

2026年の「土用の丑の日」は7月26日。季節の変わり目である「土用」の期間に巡ってくる「丑の日」に、無病息災を願って「う」のつく食べ物を食べる風習は古くからあり、江戸時代、発明家として知られる平賀源内が土用の丑の日に「ウナギ」を食べる習慣を広めた説もあります。

今年は、水産庁の委託事業で生産された人工種苗のシラスウナギを成鰻まで養殖した「完全養殖ウナギ」の蒲焼きが試験販売され、話題となりました。なお、当初の販売期間は7月20日までの予定でしたが、既に完売状態となっています。

■水産研究・教育機構「完全養殖ウナギ蒲焼の試験販売」■
https://www.fra.go.jp/home/kenkyushokai/press/pr2026/20260520_press_unagi.html

以上(2026年6月作成)

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画像:日本情報マート

車の死角と左折時の巻き込み事故防止(2026/7号)【交通安全ニュース】

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活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

令和8年4月から導入された「青切符(反則金制度)」により、正しく車道の左側を走行する自転車が今後増えることが予想されます。

左折時における自転車との巻き込み事故を防止するために、今回は車の「死角」を再確認するとともに、左サイドミラーでの見え方や具体的な安全対策についてお伝えします。

左折時の巻き込み事故防止

1 車の死角と危険性

車種によって多少の違いはありますが、車には必ず、以下のような「死角」が存在します。

<車の直前・直後>

車高の高い車ほど死角が広く、小さな子どもや低い障害物などを見落としやすい。

車の死角と危険性

<窓枠の柱(ピラー)>

角度によっては、横断歩道を渡る歩行者や右折時の対向車などが、ピラーにすっぽりと隠れてしまうことがある。

<ミラーに映らない左右の斜め後ろ>

・右斜め後ろ
車線変更の際に、右斜め後ろを並走する車の発見が遅れ、接触するおそれがある。

・左斜め後ろ
左折の際に、左斜め後ろを並走する二輪車や自転車の発見が遅れ、巻き込むおそれがある。

車の死角と危険性

2 左サイドミラーに映らない「死角」

車の左側に自転車が存在していますが、左サイドミラーには自転車が映っていません。

車を運転中、左側の死角にいる自転車に気づかず左折した場合は、重大な事故につながるおそれがあります。

左サイドミラーに映らない「死角」

3 左折時の巻き込み事故防止ポイント

左折時の巻き込み事故を防ぐためには、以下の点に注意して運転する必要があります。

  • ➢ 早めの合図と左寄せ
    交差点の30m手前で左折の合図を出し、できる限り車を車道の左側端に寄せて、二輪車や自転車などによる左後方からの割り込みを防ぐ。
  • ➢ 目視による安全確認
    ミラーによる安全確認に加え、顔を左後方に向けて目視による安全確認を行う。
    ドライバーは、「見えない=誰もいない」と思い込まず、「見えていない範囲に二輪車や自転車などがいるかもしれない」と常に意識し、確実な安全確認を行う。
  • ➢ いつでも停止できる速度(徐行)での進行
    左側の死角から二輪車や自転車などが不意に現れても対応できるよう、いつでも停止できる速度(徐行)で進行する。

以上(2026年7月)

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画像:amanaimages

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【新任役員、新任管理職】感覚だけではなく、数字の裏付けをもって良い取引と悪い取引を判断しよう

1 良い取引と悪い取引の判断

一般に、取引先の良しあしは売上高の大小で判断されがちであり、売上高が大きい取引先ほど「良い取引先」と評価される傾向があります。確かに、大きな取引ができているという意味では良い取引先ですが、売上の大きさがそのまま利益の大きさになるわけではありません。極端な例をいえば、売上が大きくても利益が出ておらず、場合によっては赤字となっている取引先も存在します。取引上の特別な目的がないのであれば、そのような取引先を「良い取引先」と評価することは適切ではありません。

とりわけ新任役員や新任管理職は、着任後、すぐに現状を分析して既存取引先の方針決定(取引規模の拡大、現状維持、縮小)を判断すると同時に、新規取引先の獲得も戦略的に行う必要があります。その際、「取引規模が大きい」「$2FA7年の付き合いがある」「相手が大企業である」といった印象や関係性だけで判断してしまうと、結果として本来得られるはずの利益を失ってしまう恐れがあります。

この記事では、「管理会計」の観点から取引の中身に目を向け、定量的な分析に基づいて、良い取引と悪い取引の判断基準について説明します。

2 費用を分類してみよう

利益は売上から費用を引いて求めるわけですから、まずは管理会計の視点で費用を分類してみましょう。具体的には、次のように「変動費」と「固定費」に分けます。

  • 変動費:売上高に比例して発生する費用
  • 固定費:売上高に関係なく発生する費用

費用の分類手法には、「勘定科目法」と「統計的方法」があります。詳細の説明は省略しますが、勘定科目法は、自社の費用を勘定科目ごとに精査し、それぞれを変動費と固定費に分ける方法です。一方、統計的方法は、売上高と総費用の関係データを用いて、最小二乗などにより変動費と固定費を算定する方法です。

また、費用を次のように「直接費」と「間接費」に分けると、さらに詳細に把握できます。

  • 直接費:特定の製品の製造や販売のために発生する費用
  • 間接費:上記に付随して発生する費用

例えば、複数の取引先を担当する営業担当者の人件費は、売上高の増減に関わらず一定額が発生するという点で「固定費」であると同時に、特定の取引先に紐付けて把握しない限り「間接費」にも該当します。もっとも、営業担当者の活動を「事前準備」と「商談」とした場合、それぞれに要する時間を把握すれば、取引先別の人件費を算出することが可能です。

具体例は次の通りです。

  • 1回の訪問にかかる時間:事前準備30分、商談1時間(合計1.5時間)
  • 営業担当者の1時間当たりの人件費:4000円
  • A社(月3回訪問)の場合:1.5時間×4000円×3回=1万8000円

このように、本来は固定費や間接費とされる費用であっても、活動単位で細分化し、時間などの客観的データに基づいて配分することで、取引先別の採算管理に活用することができます。

3 取引先ごとの収益状況を比較してみよう

費用の分類をしたら、取引先ごとの収益を一覧にまとめてみましょう。その際、限界利益(率)も計算すると後の分析に役立ちます。

  • 限界利益:売上高から変動費を差し引いた利益
  • 限界利益率:売上高に占める限界利益の割合

取引先ごとの収益

さて、ここで問題です。

A社とB社から5000万円分の増産依頼がありました。うれしい依頼ですが、生産設備の関係で、対応できるのはいずれか1社だけです。

皆さんは、A社とB社のどちらを選択しますか?

どちらを選択しますか?

一見すると、売上高や営業利益の規模が大きいA社の方が魅力的に見えるかもしれません。しかし、管理会計の視点に立てば、B社を選択すべきです。その理由は、限界利益率が高く、効率的に利益を生み出せるからです。利益率を基に算定して両社の限界利益の増加額で比べると、次のようになります。

A社限界利益の増加額3230万円<B社限界利益の増加額3315万円

今回のような「追加の依頼をどちらか受ける」という未来の判断においては、1円売るごとにいくら手元に利益が残るかという「限界利益率」が、有用な指標になります。

数字が際立って良かったり、悪かったりすれば判断は容易ですが、A社とB社のような似通った取引先については、複数の数字の裏付けをもって判断するようにしましょう。

4 単価と数量だけでなく、限界利益はいくらか?

今度は、W社とX社から新規取引を求められたとしましょう。条件は以下の通りです。

【自社の製造条件】

  • 変動費:6万円/製品1個当たり
  • 固定費(本取引で新たに発生するもの):2000万円

【W社とX社の希望】

  • W社:販売単価は11万円で、1000個購入したい
  • X社:販売単価は10万円で、1100個購入したい

どちらを選択しますか?

設例のように、販売数量や販売単価が異なる案件を比較する場合は、限界利益に着目します。今回のケースでは、販売数量に応じて変動費も変わってくるため、売上高は同額でも、販売数量の多いX社のほうが変動費は高くなり、その結果、限界利益が低くなります。したがって、この場合はW社を選ぶ方が有利であると判断できます。また、この結果は、単価を引き下げた場合も同じです。参考として、次の条件のY社とZ社を比較した結果を紹介します。

【Y社とZ社の希望】※ここでは、追加の売上を考慮しません。

  • Y社:販売単価は9万円で、1000個購入したい
  • Z社:販売単価は10万円で、900個購入したい

どちらを選択しますか?

やはり販売数量に応じて変動費が変わるため、売上高は同額でも、販売数量の多いY社のほうが限界利益は低くなり、Z社のほうが良い条件となっています。

5 将来有望でも安易な値下げにはご用心

先のY社とZ社では、Z社のほうが自社にとって条件が良いことが分かりました。しかし、Y社は将来有望で、9万円に値下げした条件でも「取引実績を作りたい」と考えています。この何となく取引しておきたいという感覚を、W社、X社、Y社、Z社を比較すると次のようになります。なお、以降ではY社を比較の主体として、他社と比べていきます。

W社、X社、Y社、Z社を比較

Y社への販売単価である9万円と、限界利益率である33.3…%を変えない場合、Y社との取引で、他社との取引による利益に追いつくために必要な販売数量は次の通りです。

  • W社の利益3000万円に追いつくための販売個数は、1666.7個
  • X社の利益2400万円に追いつくための販売個数は、1466.7個
  • Z社の利益1600万円に追いつくための販売個数は、1200.0個

当初、Y社への販売数量は1000個の想定でしたが、上記の販売数量を達成できれば、他社と同水準の利益を確保できることになります。例えば、1666.7個販売すれば、利益は3000万円に届きます。このように検討することで、

「将来有望である」という抽象的な判断が、「1666.7個を販売できるか」

といった具合に定量化されました。

「利益を増加させる」ことを目的として値下げを検討する場合には、値下げにより販売数量がどの程度増加する見込みがあるのか、事前にこの関係を十分に検討することが重要です。

なお、目標利益を達成するための販売個数は、次の算式によって求められます。

(目標利益+固定費)÷限界利益率÷単価

以上(2026年4月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 伏見健一)

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画像:Keyglad-Adobe Stock

【中級者向け】決算書から読み解く 自社の危険信号

1 決算書などが示す危険信号を見逃さない

経営を取り巻く環境が急速に変化する昨今では、ともすれば事業が停滞し足元の資金繰りが苦しくなることもあります。そのようなときは、「とにかく行動する」ことも一つの正解ですが、判断のよりどころとして、きちっと自社の状態を分析したいものです。

そうした意味で、皆さんの会社の状態はどうでしょうか。この記事では、

決算書や月次試算表から読み解くことができる危険信号

を専門家が解説しますので、皆さんの会社の状態を確認し、必要に応じた対策を講じてください。

なお、この記事の対象は、会計監査人の設置義務がない(直近の期末時点で資本金5億円未満かつ負債総額200億円未満の会社)中小企業です。中小企業の会計に関する指針の適用対象外とされる「1.金融商品取引法の適用を受ける会社並びにその子会社及び関連会社」「2.会計監査人を設置する会社及びその子会社」を前提としていないことをあらかじめご了承ください。

2 自社の危険信号をつかむ6つのポイント

早速、自社の危険信号を確認するポイントを具体的にみていきましょう。決算書(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書)は過去3期分を準備して動きを把握し、月次試算表も直近から1~2年程度を確認することで、正確な判断ができます。

1)売上と仕入のタイミング:損益計算書とキャッシュフロー計算書

黒字倒産は、損益計算書(以下「PL」)では売上が増加していても、それに見合うキャッシュの回収が遅れ、売上に対する仕入支出も併せて増加することで残高がショートすることです。収入と支出のタイミング、金額(原価率)は資金計画表などを用いて丁寧に追う必要があります。収入と支出のタイミングを確認する指標に、売上債権回転期間と仕入債務回転期間があります。下記計算式では、売上債権回転日数と仕入債務回転日数について説明します。

  • 売上債権回転日数=期末売上債権÷(年間売上高÷365日)…【売】
  • 仕入債務回転日数=期末仕入債務÷(年間仕入高÷365日)…【仕】

過去と現在の【売】と【仕】の変化および原価率を確認し、次のいずれかのケースに該当する場合は、未来の残高について丁寧に確認しましょう。

  • 【売】の短期化以上に【仕】の短期化が進んだ
  • 【売】の長期化より【仕】の長期化が進まなかった
  • 【売】と【仕】の変化に差はなかったが、原価率が上がった

また、収入が支出よりも先にくる企業は、キャッシュが先に厚くなります。そのため、売上が伸びているときは、キャッシュフロー計算書(以下「CF」)の営業キャッシュフローが大きくプラスになります。一方、業績の悪化などで急激に赤字に落ち込む場合、逆に営業キャッシュフローが大きく赤字になりやすく、収入後に適切にキャッシュを厚くしておかないと、支出時にショートしてしまう恐れがあるので要注意です。PLとキャッシュフローは異なるため、原価率だけで考えるのは非常に危険です。

なお、急激に赤字となった場合のPLとキャッシュフローの関係性(例)は次のようになります。

画像1

2)減収時の固定費:PLと月次試算表

売上の多い少ないにかかわらず常に発生する費用が固定費であり、主なものに正社員の給与や地代家賃などがあります。売上に対する固定費比率は売上減少時に高まり、資金繰りを圧迫します。地代オーナーに対する減免や繰り延べ交渉をはじめ、家賃に関する補助金や雇用に関する助成金等の利用も含めて、総合的に賄えているのかを丁寧に確認する必要があります。助成金関連は給付申請や入金タイミングがイレギュラーのため、月次試算表に反映して判断することが難しいケースが多いと考えられますが、会計入力とは別で試算して把握することが大切です。

3)純資産の部:貸借対照表(以下「BS」)

将来の営業収支と併せて、純資産の部の数字は資金調達においてとても重要です。債務超過(純資産の部がマイナスになること)になってしまうと、融資条件が極端に悪くなるばかりか、既存の借り入れの契約条項にも抵触する恐れがあります。

また、税務会計(税金を正しく計算することを目的とした会計)の上ではプラスでも、財務会計(企業の財政状態と経営成績を利害関係者に報告することを目的とした会計)に引き直すと、固定資産や有価証券の減損評価(著しく価値が減少した資産について時価で計上し、一度に多額の損失を計上すること)によって、マイナスになることもあるため注意が必要です。

ここで検討すべき手段の一つとして、政府系金融機関が用意している資本性劣後ローン(メザニンローン)があります。通常の融資評価上では、負債ではなく純資産とみなされるため、利用することで純資産の部の改善が図れます。

4)製造から入金までの期間:BSとPL

キャッシュ・コンバージョン・サイクル(以下「CCC」:サービス開始日や製造日から、出荷日・入金日までの期間)が長い場合は、資金繰りへの影響が大きいので優先的に考える必要があります。特に、自然災害などで製造が一時的に停止するような場合、工場の再稼働から入金までの期間がもともと長いことと併せて、入金が本来見込んでいるスケジュールよりも遅延することが考えられます。CCCが普段よりも長期化していないかは丁寧に確認するべきでしょう。

なお、CCCは以下の算式で計算されます。

CCC=売上債権回転日数+棚卸資産回転日数-仕入債務回転日数

  • 売上債権回転日数:商品やサービスの販売から、入金があるまでの日数
  • 棚卸資産回転日数:仕入れた商品を販売するまでの日数
  • ※計算式は棚卸資産回転日数=期末棚卸資産÷(年間売上原価÷365)です。

  • 仕入債務回転日数:商品の仕入から、代金を支払うまでの日数

5)固定資産・減価償却費:BSとPL

ビジネスにおいて用いる固定資産の割合が大きい会社(例:不動産業や製造業など)は、固定資産の増減の詳細を踏まえ、再投資の必要性や、投資支出から回収までの期間の見積もりを細かく検討する必要があります。

また、減損評価や過去に支出した投資の費用化である減価償却費は、費用計上時に支出が伴いませんが、純資産がマイナスとなるため注意が必要です。固定資産の中に急激に価値が下がりそうなものはないか、さらに、工場の建設など巨額の投資をした後の減価償却費の金額の推移には留意しておきましょう。

6)未払税金・未払社会保険:BS

自然災害などの影響で、過去に無利子の納税猶予を受けた会社もあると思います。特に社会保険については、従業員から預かった分の納付を猶予することで負債は増えるものの、キャッシュフローを一時的に改善した会社もあるでしょう。

ただし、未払をやみくもに延長することは、融資条件を悪化させる影響もあり得るため得策ではないと思います。可能な限り資金を工面して、税金の未払を早い段階で解消すべきです。

3 経営者が決算書を読む際に重要な2つの視点

以上、注意したい6つのポイントを紹介しました。さらに理解を深める上で重要な視点を2つ説明します。

1)未来のキャッシュについて

企業の存在意義は、経営理念や社是・社訓、ミッション・ビジョン・バリューなど、さまざまな形でその意義と具体的な方針が設計されていると思います。目指すべき方向性は千差万別ですが、キャッシュが途切れたら事業は継続できません。キャッシュは次の2つの視点で考えましょう。

1.キャッシュを不足させない

企業の血液とも呼べるキャッシュが尽きることは、事業活動を継続できないことを意味します。それは、たとえ決算が黒字でも、キャッシュが支払えずに倒産してしまうケース(黒字倒産)があるので、正しい資金調達手段を適切なタイミングで実行することが必要です。

2.未来の支出よりも、未来の収入のほうが大きいかどうか

黒字倒産の裏を返せば、赤字決算が続いても、キャッシュが尽きなければ事業活動を継続できます。ただ、未来に稼ぐと考えられる収入よりも支出が明らかに多いと判断される場合は、企業の価値が今より減衰していきます。株主の立場では、企業価値が減衰した時点で企業運営を終了させることが合理的といえます。もちろん現実的には、ステークホルダーである取引先や従業員、その家族の生活保障であったり、企業が生み出してきた価値の継承であったりと、考えなければならない事項が多くあることを忘れてはいけません。

2)決算書や試算表の作成根拠について

決算書は、企業活動を映し出した一覧表です。この決算書に記載された会計のルールは実は単一ではなく、企業によって異なります。このため、自社の決算書における会計が、どのようなルールで作成されているかを適切に把握しないと、誤った判断をしてしまう恐れがあります。

決算書で考える基本的な会計は、上記2-3)純資産の部で前述した通り、税務会計と財務会計の2種類です。大企業ではこれらを明確に分離して、それぞれの決算を組まなければなりません。中小企業では税務会計を基本とし、必要に応じて一部に財務会計を適用するような形式が取られています。そこで、自社の会計がどのようなルールで作成されているかを判断するために、「『中小企業の会計に関する指針』の適用に関するチェックリスト」が決算書の中にあればこちらを確認するとともに、顧問税理士にも確かめて現況を把握しましょう。

税務会計と財務会計で差が生じるものには、固定資産の減損、ソフトウエアの処理、引当金(資産除去債務)の計上、税効果会計の適用などが挙げられます。自社の会計が税務会計を基準としている場合、財務会計に照らすとこれらがどのように変わり得るのかを意識できると、より良い判断ができます。

また、附属明細書が作成されているかも確認しましょう。例えば、固定資産を確認する際は、附属明細書の固定資産増減明細が必要になります。もし作成されていない場合は、固定資産台帳で増減の総括を確認しましょう。

月次試算表については、決算書とは異なり決算整理仕訳が簡便になっているケースがほとんどです。売上原価の算出や減価償却費、未収未払は月次で入力されていないケースもあるので、月次試算表の締めがどの辺りまでされているかを顧問税理士に確認しましょう。

以上(2026年6月更新)
(執筆 KOSOパートナーズ合同会社 代表社員CEO 公認会計士 朝倉厳太郎)

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画像:Rummy & Rummy-Adobe Stock

新任役員が就任直後に行うべきリスク管理

1 就任早々に確認する組織の”ブレーキ性能”

役員の職務は会社を成長させることです。そのためにリスクも取ることもあり、その判断によって会社の命運が決まることさえあります。重要な職務を執行する役員には、いわば高性能な「アクセルとブレーキ」が必要です。

  • 役員のアクセル:収益向上を目指す攻めの販売施策など
  • 役員ブレーキ: “事故”のない組織運営を目指すリスク管理など

どちらも大切ですが、ブレーキがしっかり利くからこそ、アクセルを踏み込むことができるともいえます。常日ごろからリスク管理は重要ですが、サイバー攻撃による事業停止など、想定を超えるリスクも出てきます。被害の範囲や程度を事前に見通すことが難しいケースも多く、リスク管理の重要性はますます高まっています。

2 あなたが重視するリスクは何ですか?

1)新任役員が考えるべきリスク

リスク管理は企業の永遠のテーマです。役員会や幹部会などでは、企業が重視し、重点的に対策を講じるべきリスクについて議論を深めていることでしょう。新任役員は、企業の方針を分かりやすい言葉に置き換えて、現場に伝える必要があります。

しかし、新任役員の場合、各事業部への理解が浅く、「リスクはそう簡単には顕在化しない」と楽観していることもあり、業界全体や企業全体のリスクをざっくりと把握するにとどまってしまうことがあります。前任者の方針を踏襲するだけの”思考停止”に陥っていることもあります。

もし、皆さんに心当たりがあるならば、変革が必要です。まずは、図表1を見てください。これはリスクを検討するレイヤーを示したものです。最終的には、新任役員が独自に収集した情報に基づくリスクについても、必要に応じて検討しなければなりません。

リスク管理

新任役員は所管する事業部について、リスク対応の方針を決めなければなりません。例えば、成熟後期にあるA事業を所管する新任役員が、少しでも長く現状を維持する(コストを掛けずに延命する)方針であれば、リスクは「既存の大口顧客の値下げ・解約」「内部コストの増大(仕入れや労務費)」となります。

一方、同じA事業の所管でも、新任役員の考えがA事業を活かした新規事業の開発であれば、リスクは「新規事業の不発」「社内調整の失敗(役員会での否決など)」ということになります。このように、リスクの内容は新任役員の方針によって変わってきます。

2)一般的にいわれる経営リスク

対策が必要となるリスクを検討する際は、幅広い情報を収集・分析し、リスクを絞り込む必要があります。ここでは、その参考となるデータとして、上場企業が「優先して着手が必要」と考えているリスクを紹介します。

■デロイト トーマツ グループ「企業のリスクマネジメントおよびクライシスマネジメント実態調査2025年版」■
https://www.deloitte.com/content/dam/assets-zone1/jp/ja/docs/about/2026/risk-and-crisis-managment-survey-2025.pdf

リスク管理

3)2026年現在、特に意識すべきリスク

上場企業のデータに加え、実際に倒産の引き金となっているリスクも押さえておきましょう。帝国データバンクの調査によると、従業員の離職や採用難などを原因とする「人手不足倒産」は2025年度に441件発生し、前年度(350件)の約1.3倍に増加して3年連続で過去最多を更新しました。このうち、従業員や経営幹部の退職が直接の原因となった「従業員退職型」の倒産は118件で、これも過去最多です(帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2025年度)」)。業種を問わず「現場を支える数人が同時期に退職すると事業が継続できなくなる」というリスクは、中小企業に共通する構造的な課題といえます。

■帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2025年度)」
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260409-laborshortage-br25fy/

また、原材料費やエネルギーコストの上昇を販売価格に十分転嫁できないことによる「物価高倒産」も増勢が続いており、2026年4月には単月108件と、集計を開始した2018年以降で最多を記録しました(帝国データバンク「『物価高倒産』の動向(2026年4月)」)。賃上げの原資を確保できないまま人件費だけが上昇する「防衛的な賃上げ」が中小企業の収益を圧迫している側面もあります。

■帝国データバンク「『物価高倒産』の動向(2026年4月)」■
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260513-inflationbankruptcy2604/

4)さらに網羅的なリスク一覧

もう一つの例として、網羅的にまとめたさまざまなリスクを紹介します。リスクは油断したとき、あるいは意識していなかった分野から生じがちであるからこそ被害が大きくなります。さまざまなリスクの存在を認識することが欠かせません。

リスク管理

3 リスク管理の進め方

1)フレームワークの活用

リスクを分類する際、図表4のようなフレームワークを使ってみましょう。リスクを「発生確率と被害規模」で整理するフレームワークは広く知られていますが、その他にもあります。状況に合わせてフレームワークを自社で作成することもできるでしょう。

リスク管理

新任役員は、ある程度主観的にリスクをマッピングする権限を持っています。大切なのは、重視すべきリスクの”重さ”を、誰でも理解できる統一された基準で組織に認識させることです。

2)定量化する(点数を付ける)

絞り込んだリスクに点数を付けます。例えば、発生確率と被害規模、対策状況について「5点、3点、1点、0点」と点数を付けます。配点ルールが複雑だと運用が立ち行かなくなるので、シンプルにしま
しょう。

リスク管理

発生確率と被害規模、対策状況の全てに5点を付けたら最高の15点となり、最も重視すべきリスクになります。点数化した一覧表を示せば、社員もどのリスクを重視すべきなのか考えやすくなります。また、以前にそのリスクが顕在化した経験があるか否かも把握します。以前に発生したことがあるということは、組織内に原因があるかもしれないので調査してみます。

3)四半期ごとのチェック

リスクの状況を定期的に把握します。特に、対策がされていないリスクについては四半期ごとに対策の進捗を確認し、必要な措置を講じます。同時に、四半期のうちに顕在化したリスクがあるのかを確認します。しかし業界全体や企業全体のリスクの議論に終始し、各事業部のリスクまで落とし込み切れないという問題があります。

通常、四半期ごとのチェックは全社的に開催される「リスク会議」(仮称)などの場で行われます。他事業部のリスクは理解しにくいので、こうした機会を利用し、新任役員は自身が想定している重点リスクについて、周囲の理解を得る努力をしましょう。

4)独自の情報網を持つ

リスクは、一般化していない情報によって低減できる場合があります。新任役員の場合、他社の役員などはとても良い情報源となるので、積極的に交流会などの会合に参加して、人脈を広げていきましょう。

こうした会合やその後の飲み会では、同業他社の投資や営業の動向、人事や社内の雰囲気等に関する情報を得られることがあります。これらの情報は、自社のリスク低減につながるものが少なくありません。

4 経営判断の原則

役員はいわゆる「経営判断原則」に基づいた意思決定が求められます。役員は「善管注意義務」「忠実義務」などを負っており(2つの義務は実質的には同様と考えられている(最大判昭和45年6月24日民集24巻6号625頁))、これに違反した役員には株主代表訴訟などのリスクが生じます。

善管注意義務とは、端的にいえば、「役員という会社経営の専門家たる地位にある者として、一般に要求される程度の注意を払って業務を遂行する義務」ということですが、一方で、役員は会社の成長のために一定のリスクを取るものでもあります。

役員が取る一定のリスクが適正なものであるか否かを測る上で、一つの要素となり得るのが日ごろのリスク管理です。「なぜ、そのリスクを取るのか?」が、取り組みの中である程度明らかになっているはずだからです。

このように、リスク管理は企業を守るブレーキになるだけではなく、役員の取り組みが誠実であることの裏付けにもなります。改めて自社を取り巻く環境を整理しましょう。重視するリスクの洗い出し、管理を行うことの意義はとても大きいといえます。

以上(2026年6月更新)

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画像:78art-Adobe Stock

SNS投稿に関する社内ルール

従業員が社内の様子や資料などを撮影してSNSに投稿し、問題となるケースが相次いでいます。悪意はなく、軽い気持ちで発信してしまうケースが多いようですが、社内情報が漏洩し、企業に重大な影響を与えかねません。本稿では、帝国データバンクが行ったSNS投稿に関する社内ルールの整備状況アンケートをもとに、具体的な対策についてお伝えします。

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