【期間限定公開】ブロック別セミナー講演動画の特別配信!

この夏、とくぎんサクセスクラブでは、会員さまのビジネスに貢献できる情報提供や交流の場として、10地区でブロック別セミナーを開催しました。

今回、松山地区と県南地区の2地区のセミナーについて、講師のご厚意により【期間限定・1週間】で講演動画を公開することが決定しました。ぜひこの機会にご視聴ください。

◆視聴方法・注意点

視聴期間:10月20日(月)09:30~10月27日(月)18:00

視聴方法:下記のリンクをクリックし、Youtubeにアクセスしてください
※動画の録画・転載はご遠慮ください

■松山地区ブロック別セミナー
「どうなる今後の日本経済 ~日本で、そして世界で起きている本当のこと~」
経済ジャーナリスト 須田 慎一郎 氏

ご視聴はこちらから!

※本動画は、録画機器の不具合により映像が途中で終了しております。何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。

■県南地区ブロック別セミナー
「世界の未来が見えてくる~今こそ知りたい地政学~」
地政学者・戦略学者 奥山 真司 氏

ご視聴はこちらから!

以上(2025年10月作成)

画像:徳島大正銀行

【書籍ダイジェスト】『未来エコ実践テクノロジー 図解でわかるエネルギーDX』

本書では、日本と世界の、石油や天然ガスといったエネルギー供給システムの現状を踏まえ、DX(デジタルトランスフォーメーション)を取り入れながら、効率的で効果的な制御システムをどう行うか、各国の事例を紹介しながら詳しく解説する。
カーボンニュートラルを実現するためにも、再生可能エネルギーの流通を増やすことが重要だが、それを推進するために、欧米から世界に広がりつつあるのが、再エネ電力供給での、「エネルギー価値」と「再エネ価値(環境価値)」の分離だ。今後はCO2量を取引するうえでも「グリーン電力証書」を発行し、運用する形となる。

書籍ダイジェストは、こちらからお読みいただけます。pdf

【朝礼】確かな情報への第一歩は「疑うこと」から

【ポイント】

  • 情報の話題性だけにとらわれて、信ぴょう性を確認しないのは危険
  • 最初は疑い、必ず真偽のほどを確認することが大切
  • 人に伝えるのなら、確かに正しい情報と確認できてからでも遅くはない

情報はインターネットを介して一瞬にして広がっていきます。皆さんもインターネットで興味深い情報を発見し、FacebookやXなどで「こんな速報があった!」「あの人がこんなこと言ったんだって!」などというように、他人に広めたことがあるかもしれません。しかし、情報の話題性だけにとらわれて、その信ぴょう性を確認しないのは危険です。

この点について、私には苦い経験があります。かつて、私の担当顧客にカメラ好きの方がいました。私はカメラに詳しい友人から未公表情報として、あるカメラの新製品情報を教えてもらったので、そのことを話題にしたのです。しかし、後になってその情報は間違いで、結果として私の友人の勘違いであったことが分かりました。お客様は私の情報を信じて喜んでいたため、それが間違いだと分かるとたいそう残念がってしまいました。私は、友人の話を確かめもせずにそのまま信じてしまった自身の軽率さを深く反省しました。

それ以後、私は他人の話、雑誌やニュースの記事、小耳にはさんだ話でも最初は疑い、必ず真偽のほどを確認することを心がけています。これは当たり前のことに感じられるかもしれません。しかし、これがなかなかできないことなのです。確認の手間を面倒に思って「きっと間違いないだろう」と考えたり、「あの人が言っているのだから」と信じてしまったりすることは少なくないのです。

私の場合は趣味の話でしたので、深刻なトラブルにはなりませんでしたが、これがビジネスでお金にまつわる話題であったなら、大変なことです。皆さんも、根拠のない悪評のせいで大企業の株価が下がったり、商品の売れ行きが悪くなったりするのをみたことがあるでしょう。

幅広い情報を迅速に収集することは大切ですが、正しいものでなければ意味がありません。また、情報というものは、第三者に伝えた時点で自分に情報発信の責任が生じます。「人から聞いた話なので、それが間違っていても自分には責任はない」というのは通用しないのです。皆さんも、特に人に情報を伝えるときにはこのことをよく心にとどめておいてほしいと思います。人にそれを伝えるのであれば、確かに正しい情報だと確認できてからでも遅くはないのです。

以上(2025年10月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

再雇用後の賃下げは違法? 賃金設計のシミュレーションを紹介!

1 「この人の仕事の価値はいくら?」という視点が大切

日本の会社では、社員の定年退職時に退職金を支払った後、「嘱託」などとして再雇用する「定年再雇用」が広く浸透しています。ただ、定年再雇用は再雇用時に労働契約を締結し直す働き方なので、定年後の労働条件をめぐって会社と社員の間でトラブルが起きるケースが少なくありません。

トラブルの争点になりがちなのは「賃金」です。2023年7月に、定年再雇用で嘱託になった職員の基本給を、正職員の頃の60%未満まで引き下げたことでトラブルが起き、最高裁判決までもつれこんだ事案がありました。詳細は後述しますが、その際、

高裁が「60%を下回るのは違法」と判断したのに対し、最高裁が「単純な額の問題ではなく、基本給の性質や支給目的を精査すべき」として、高裁に判決を差し戻した

ことが話題になりました(最高裁第一小法廷令和5年7月20日判決)。

この判決はいわゆる「同一労働同一賃金」、簡単に言うと「同じ働き方をしている人には、同じ賃金を支払いなさい」というルールを、最高裁が改めて明確に示したものです。「生涯現役社会」ともいわれる時代、定年再雇用はもはや当たり前の働き方になりつつありますが、

会社が再雇用後の賃金を決める際は、「いくらまでなら減額してよい?」ではなく「この人の仕事の価値はいくら?」という視点を持つ

ようにしないとトラブルになりかねません。

そこで、この記事では最高裁判決の内容に触れつつ同一労働同一賃金の基本をおさらいした後に、社員の働き方に応じた再雇用後の賃金設定のシミュレーション(社会保険労務士監修)を紹介します。

「同一労働同一賃金については大体分かっているから大丈夫」という人は、先に第3章(定年前後の働き方と賃金をシミュレートしてみよう)をご確認ください。

2 同一労働同一賃金の視点で、最高裁判決をひもといてみよう

同一労働同一賃金は、パートタイム・有期雇用労働法などを根拠とするルールで、その根幹にあるのは「均等待遇」「均衡待遇」という考え方です。

  • 仕事の内容などが同じなのに、非正規雇用であるという理由だけで正社員よりも低い労働条件にすることはできない(均等待遇)
  • ただし、能力や成果に基づく待遇格差は、合理的なものであれば問題ない(均衡待遇)

具体的には、図表1の3つの考慮要素をもとに判断します。「1.職務の内容」「2.職務の内容・配置の変更範囲」が同じなのに待遇格差を設けることはできません。ですが、「3.その他の事情」に該当する、個人の能力や成果に基づく格差は、合理的なものであれば認められます。

3つの考慮要素

さて、前述した最高裁判決の事案は、嘱託として再雇用された自動車学校の教習指導員2名が、

定年前後で「1.職務の内容」「2.職務の内容・配置の変更範囲」が同じなのに、再雇用後の基本給が定年前の40%台(月額7~8万円台)まで引き下げられたのは不合理だ

と訴え、これが同一労働同一賃金に違反しないか争われたものです。高裁と最高裁は、それぞれ図表2のように判断しました(基本給以外にも争点はありましたが、ここでは割愛します)。

高裁と最高裁の判断

同一労働同一賃金の考え方に照らせば、本来「1.職務の内容」「2.職務の内容・配置の変更範囲」が同じなのに基本給を引き下げるのは不合理といえますが、最高裁の判断に基づくと、

能力や貢献度、健康状態、将来的なポテンシャルなどを考慮して、あえて定年前後で支給基準を変えているのなら、「3.その他の事情」に照らして必ずしも不合理とはいえない

と考えることができます。

以上、最高裁判決の内容に触れつつ同一労働同一賃金の基本をおさらいしましたが、そうは言っても、いざ再雇用後の賃金を決めるとなると、「本当にこの賃金設計で大丈夫か?」と不安になってしまう経営者もいるはずです。次章からは、社員の働き方に応じた定年再雇用の賃金設定のシミュレーションを紹介します。

3 定年前後の働き方と賃金をシミュレートしてみよう

冒頭で「この人の仕事の価値はいくら?」という視点で賃金設計をすることが大切とお話ししましたが、当然ながら「何となくこのぐらいの額」というような曖昧な決め方ではトラブルになるので、次のようなことを考慮しながら明確な基準に基づいて額を定める必要があります。

  • 仕事内容や役職は定年前から変わるか
  • 労働時間や、社会保険・雇用保険の適用(労働時間に応じる)は変わるか
  • 責任はどうなるか(仕事のノルマはあるか) など

図表3は、正社員(役職者、転勤あり、1日8時間×週5日勤務、社会保険あり、雇用保険あり、仕事のノルマあり、賞与支給あり)が定年後に再雇用される場合の働き方を、A~Dの4種類にパターン分けしたものです。赤字は、正社員時と働き方が変わる部分です。

定年前後の働き方

パターンA

能力も意欲も十分で、定年後も会社の戦力となる社員を想定しています。仕事の内容や労働時間に変更はありませんが、定年後なので今まで以上にプライベートも大事にしてほしいという意図から、役職、転勤、残業、ノルマはなしとしています。一方、仕事へのモチベーションはある程度維持したいので、「嘱託用評価制度」により正社員時の最大50%の賞与を支給します。

パターンB

パターンAと同じく能力も意欲も十分ではあるものの、自身の体調や家族の介護などの関係で、フルタイムでの勤務は難しい社員を想定しています。基本的な労働条件はパターンAと同じですが、労働時間(労働日数)を減らしています。

パターンC

能力はそれなりですが、意欲については「定年後なのでゆったり働きたい」というレベルの社員を想定しています。労働時間は1日6時間×週5日、社会保険と雇用保険の適用はありますが、仕事内容は正社員時よりも簡易な業務に変え、賞与の支給はなしとしています。

パターンD

副業や起業など新しいキャリアを模索しており、他の人ほど長く働けない社員を想定しています。労働時間は1日6時間×週4日、雇用保険の適用はありますが、社会保険の適用はなくなります。仕事内容は正社員時よりも簡易な業務に変え、賞与の支給はなしとしています。

これをベースに、パターンA~Dの月例賃金の賃金設計をシミュレートしたものが図表4です。

賃金設計のシミュレート

図表4の中で押さえておきたい主なポイントは次の通りです。

1.正社員時を100%とした場合の総支給額の比率

パターンDは、賃金の総支給額が正社員時の60%を下回っています。この「60%」というのは前述した最高裁判決の事案で、高裁が「生活保障の観点から看過し難い水準」と判断したパーセンテージでした。ただ、最高裁が判断している通り、賃金は「その性質や支給目的に照らして合理的といえるか」が重要なので、2.以降で紹介するように、まずは再雇用後の賃金支給について、明確な基準があるかどうかを確認しましょう。

なお、賃金が60歳到達時の75%未満に低下する社員については、一定の要件を満たすことで、雇用保険から「高年齢雇用継続給付」が支給されるので、制度を利用できる場合はその旨を社員に伝えておくとよいでしょう(ただし、支給できる期間は65歳までの最長5年間で、加えて2025年4月1日から最大支給率が15%から10%に引き下げられているので注意が必要です)。

2.基本給

基本給は、パターンA~Dの労働時間(図表3を参照)をベースにした額になっています。パターンAについては、労働時間の変更はないため基本給は変えていませんが、パターンB~Dについては、定年前(正社員時)に比べて労働時間が減った分だけ、基本給を減額させる内容としているため、ある程度合理的な賃金設計といえるでしょう。もしも、更に基本給に変動を持たせたい場合などは、「職務の内容、職務の内容・配置の変更範囲」など(図表1を参照)や会社の財務状況など、複数の要因を考慮して合理的に決定する必要があります。

3.諸手当

図表4に記載している諸手当の概要は次の通りです。

  • 役職手当:正社員の中から指定された役職者に対して支給
  • 資格手当:職務遂行に特定の資格が必要で、その資格を有している場合に支給
  • 精皆勤手当:欠勤せずに出勤することの奨励として支給
  • 交代勤務手当:交代制勤務がある場合に支給
  • 住宅手当:住宅費の負担を補助するために支給
  • 通勤手当:通勤費の負担を補助するために支給

今回、パターンA~Dの全てのケースで支給しているのは、精皆勤手当と通勤手当です。通勤したり、欠勤せずに出勤したりすることは、雇用形態や働き方の違いには直接関係がないので、再雇用後の社員にも支給すべきものです。

その他の手当については、支給対象としませんでした。役職手当などは役職者にのみ支給するものですし、その他の手当も、再雇用後の働き方が手当の支給要件にマッチしないのであれば支給は不要という考えを前提にシミュレートを行っています。

やや判断が難しいのが住宅手当ですが、今回は「正社員は転勤があるのに対し、再雇用後は転勤がなく、正社員に比べ住宅費の負担が抑えられる」という理由から、支給しない設計にしてみました。

4.賞与

パターンAとBの社員には、前述した通り、賞与が支給されます。これはモチベーション維持のためでもありますし、同一労働同一賃金のルールに照らした際、「仕事内容が正社員時と変わらないのに、賞与は支給しないのは不合理」という考え方ができるためです。

一方、額については前述した通り、正社員時の最大50%としています。これは、パターンAとBがともに、役職任用がなく仕事の責任についても正社員よりも軽い(ノルマがない)ことを考慮したものです。50%は上限ですので、実際は評価制度に基づき、社員の成果と貢献を公正に評価して支給額を決めることになります。

以上(2025年10月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:VectorMine-Adobe Stock

【高齢者雇用】 70歳雇用のポイント 賃金や契約更新に要注意!

1 努力義務の70歳雇用……自社でもできる?

生涯現役社会。高齢社員の活用はどの会社にとっても重要なテーマです。定年や定年後の働き方に関するルールは高年齢者雇用安定法に定められていて、会社は、

  • 定年を設定する場合は60歳以上とする義務
  • 65歳まで雇用するための措置を講じる義務(65歳までの雇用確保)
  • 70歳まで働ける機会を確保する努力義務(70歳までの就業機会確保)

を負っています。

3.の「70歳までの就業機会確保」は、2021年4月1日から始まったルールで、2.の「65歳までの雇用確保」を拡充したものです。実施は努力義務ですが、中小企業の30.3%はすでに措置を講じています(厚生労働省「令和5年高年齢者雇用状況等報告」)。

「会社の雇用負担が増えるのでは?」「70歳まで業務に耐えられない社員もいるのでは?」と不安かもしれませんが、ご安心ください。

会社と社員の負担が少ない継続雇用制度(定年後も社員を引き続き雇用しつつ、1年ごとなどに雇用継続が可能かを判断した上で、契約を更新する)を導入

することなどによって、そのリスクを減らせる可能性があります。では、70歳までの就業機会確保の全体像、継続雇用制度のポイントなどを紹介するので確認していきましょう。

2 70歳までの就業機会確保の全体像

70歳までの就業機会確保には、「3つの雇用確保措置」「2つの創業支援等措置」があります。

70歳までの就業機会確保

1)「65歳まで」と「70歳まで」とで何が変わる?

「雇用確保措置」は、定年延長など、従来からの65歳までの雇用確保を踏襲したものです。70歳までの就業機会確保では、ここに「創業支援等措置」が新たに追加され、社員がフリーランスとして働くことを支援するなど、自社で雇用しない選択肢が増えます。いずれも努力義務です。

2)措置の内容はどうやって決めればいい?

70歳までの就業機会確保の5つの措置のうち、どれを選択するかは、会社と社員が十分に協議し、社員のニーズに応じて決定するのが望ましいとされています。ちなみに、

複数の措置を導入し、どの措置を適用するかは社員ごとに決定する

こともできます。例えば、原則として雇用確保措置で対応するけど、健康状態などの関係で自社での雇用が難しい社員については創業支援等措置を検討するといった具合です。

3)対象者を限定することはできる?

65歳までの雇用確保については、原則として対象者を限定することができません。唯一、継続雇用制度(65歳まで)については、

以前は労使協定(2012年度以前に締結されたものに限る)により、一部の社員を対象から除外することができましたが、2025年4月1日以降は不可(=定年に達した全社員が対象)

となっています。

一方、70歳までの就業機会確保については、

定年廃止と定年延長を除き、対象者を限定する基準を設けることが可能

です。ただし、基準を設ける場合、過半数労働組合等の同意を得るのが望ましいとされています。また、過半数労働組合等との協議の上で設けた基準であっても「上司の推薦がある者に限る」「男性に限る」など、法の趣旨や労働関係法令・公序良俗に反するものは認められません。

4)他に注意点は?

ここまで紹介した内容は、就業規則に定めなければ実施できないので、

就業規則の変更手続き(過半数労働組合等への意見聴取、所轄労働基準監督署への届け出、変更後の就業規則の周知)

を忘れないようにしてください。

ちなみに、すでに70歳までの就業機会確保に取り組んでいる中小企業のうち78.2%は、「70歳までの継続雇用制度の導入」で対応しています(厚生労働省「令和5年高年齢者雇用状況等報告」)。そこで、次章では雇用確保措置のうち、継続雇用制度に焦点を当てて、制度の概要や実務の留意点を紹介していきます。

3 継続雇用制度の概要と実務上の留意点

1)継続雇用制度の概要は?

70歳までの継続雇用制度を導入する場合、

定年を60歳などに据え置きつつ、引き続き70歳まで雇用する

ことになります。継続雇用制度は、

  • 勤務延長制度(定年後も雇用契約関係を終了させず、引き続き雇用する)
  • 再雇用制度(定年時に一度雇用契約関係を終了させ、再び雇用する)

の2種類に大別されますが、一般的に浸透しているのは再雇用制度です。

制度のイメージをつかむため、定年延長(定年を70歳まで引き上げる)と再雇用制度の違いを比較してみましょう。

制度の比較

大きな違いは契約期間です。定年延長では70歳まで契約期間の定めがありません。一方、

再雇用制度では、1年ごとなどに再雇用するか否かを決められるので、会社と社員の状況に応じて更新の可否やさまざまな条件を話し合うことが可能

となります。

また、賃金が60歳到達時の75%未満に引き下げられたなど所定の要件に該当した場合、雇用保険から「高年齢雇用継続給付金」を受給することができるため、人件費の引き下げを目的として、再雇用制度を導入する会社も多いです。ただ、高年齢者雇用継続給付金については、

2025年4月から、最大給付率が「15%→10%」に引き下げ

られており、再雇用時の賃金設計については慎重に検討する必要があります。

2)再雇用制度の場合、契約更新の有無を会社が自由に決められるか?

社員が契約更新を期待する合理的な理由があり、会社が更新の申込みを拒絶する合理的な理由がない場合、会社は原則として契約更新をする必要があるとされています。

再雇用制度では、社員が定年に達した後に嘱託社員(呼び方はさまざま)として有期労働契約を締結し直します。この時点で、会社は社員に対して、契約更新の有無と契約更新の可能性がある場合はその基準を明示します。なお、

契約更新に上限(通算契約期間や更新回数の上限)がある場合は、その内容の明示が必須

です。

契約を更新しない場合、その社員が、

  • 契約が3回以上更新されている
  • 1年以下の契約の更新によって、通算契約期間が1年を超える
  • 1年を超える契約期間の労働契約を締結している

のいずれかに該当するときは、契約期間満了の30日前までにその旨を予告しなければなりません。また、社員が請求したときは契約を更新しない理由を明示する必要があります。

なお、労働契約法には、通算契約期間が5年を超える社員が申し出た場合、無期契約に転換する「無期転換ルール」があります。ただし、定年後に会社に継続雇用される社員については、

会社が適切な雇用管理に関する計画を作成し、所轄都道府県労働局長の認定を受けている場合、定年後に引き続き雇用されている期間については、無期転換申込権が発生しない

という制度(継続雇用の高齢者の特例)があります。

3)継続雇用時に賃金の支給額を下げるのは同一労働同一賃金違反?

パートタイム・有期雇用労働法により、会社は基本給や賞与などについて、非正規社員(嘱託社員など)と正社員との間に不合理な待遇格差をつけることができません(同一労働同一賃金)。継続雇用している嘱託社員と、正社員との待遇差を設ける場合は次の3つに注意してください。

  • 職務内容(業務内容、責任の程度)
  • 職務内容・配置の変更範囲(人材活用の仕組み・活用等)
  • その他の事情(成果、能力、経験等が該当)

2023年7月には、定年再雇用で嘱託になった職員の基本給を、正職員の頃の60%未満まで引き下げたことでトラブルが起き、最高裁判決までもつれ込んだ事案がありました。その際、

高裁が「60%を下回るのは違法」と判断したのに対し、最高裁が「単純な額の問題ではなく、基本給や賞与の性質や支給目的を精査すべき」として、高裁に判決を差し戻した

ことが話題になりました(最高裁第一小法廷令和5年7月20日判決)。

継続雇用の際は、社員の賃金が正社員時より下がるイメージが強いですが、実際は、

  • 仕事内容や役職は定年前から変わるか
  • 労働時間や、社会保険・雇用保険の適用(労働時間に応じる)は変わるか
  • 責任はどうなるか(仕事のノルマはあるか)

などを総合的に判断して金額を決める必要があります。

また、専門性の高い業務に従事するなど優秀な社員の場合、高い賃金を支払ってでも会社にとどまってほしいケースもあるでしょう。こうした場合、基本給などを下げる代わりに、職務内容や技能に応じた手当などを特別に支給したり、賞与などで功績を都度評価したりするというのも1つの方法です。

4)継続雇用した社員にも定期健康診断は実施すべき?

定期健康診断の実施義務があるのは、

無期契約または1年以上雇用される見込みがあり、週の所定労働時間が正社員の4分の3以上の社員

です。継続雇用によって嘱託社員などに雇用形態が変わっても、この条件に該当する場合は定期健康診断を実施しなければなりません。

ただし、一般的に加齢によって健康状態に不安を感じる社員は増えるので、長期雇用を検討するのであれば、上の条件に該当しない社員も定期健康診断の対象にするとよいでしょう。がんなどのリスクを考慮し、法定外の人間ドックなどを受けさせるのも1つの方法です。

一方、「自分はまだ若い」と考えて、無理な働き方をして体調を崩したり、労働災害に遭ってしまったりする社員もいます。そのため、高齢社員に今の健康状態を正しく把握してもらうために、体力チェックテストなどを実施している会社もあります。

社員の体調面などを考慮してこれらの制度を積極的に取り入れることで、会社の福利厚生の拡充を図り、企業価値の向上に繋げられる可能性があります。

以上(2025年10月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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【ハラスメント対策】 相談窓口の設置は会社の義務! 社内と社外、どちらに設ける?

1 相談のハードルをいかに下げるかがポイント

労働施策総合推進法などにより設置が義務付けられている「ハラスメント相談窓口」(以下「相談窓口」)には、ハラスメントに関する相談や苦情を受け付け、被害を最小限に食い止める役割があります。相談窓口がうまく機能していれば、深刻なハラスメント問題に至る前に事態を収めることができます。そして、うまく機能させるには、

社員から「相談しにくい」と思われそうな要素をできるだけなくすこと

が大切です。

例えば、相談窓口には、

  1. 内部相談窓口:社内の人材を相談窓口の担当とする
  2. 外部相談窓口:弁護士事務所やコンサルタントなどに委託する
  3. 併設:内部相談窓口と外部相談窓口を併設する

の3種類があります。中小企業では内部相談窓口が一般的ですが、「内部だと相談しにくい」という社員のケアや、複雑な事案への対応も考えるのであれば、外部相談窓口も併設するのが理想です。

また、相談窓口の存在は必ず社員に周知しなければなりませんが、その際は、次の事項などを分かりやすく伝え、相談のハードルを下げる必要があります。なお、これらの事項は、相談窓口を設置したときだけでなく、定期的に周知することが大切です。

  • 相談者のプライバシーを守ること
  • 相談しても不利益はないこと
  • 実際に起きていなくても、ハラスメントが起こりそうな状態の相談も受け付けること
  • 面談、電話、メール、ウェブ上のフォーム、郵送など相談方法を選べること
  • 相談担当者として男女それぞれを設置していること

相談窓口が使いやすいかどうかは、傍目からは分かりにくいので、「相談しにくい雰囲気がないか」などを、社内アンケートなどで実態を調査することも大切です。逆にちゃんと運用されていて、その上でハラスメントの問題が起きていないのであれば、それは相談窓口がうまく機能している証拠ですから、基本的には評価してよいと思われます。

2 「相談しにくい……」と思わせない担当者を選ぶ

内部相談窓口の担当者には、次のような人たちがいます。

  1. 経営者や役員
  2. 管理職
  3. 人事労務担当部門や法務部門の社員
  4. 社内の診察機関、産業医、カウンセラー
  5. 労働組合

経営者や役員が担当者になると、相談を受けた後の事実確認や行為者の処分の検討などをスピーディーに行えます。ただ、「経営者には相談しにくい」という社員もいますし、万が一、経営者や役員が行為者の場合、周囲が忖度(そんたく)してしまうこともあります。

こうしたデメリットを考慮するのであれば、経営者や役員だけでなく管理職も担当者に加えるようにしましょう。とはいえ、相手が直属の上司だと、やはり相談しにくいケースもあるので、その場合は複数の管理職を担当者にするなどの配慮が必要です。

また、セクハラの場合は羞恥心の問題もあるので、同性の担当者が相談を受け付けるのが望ましいです。そうした意味では、男女両方の担当者を置くことも大切です。

3 相談担当者の教育や研修を実施する

信頼できる相談窓口を作るためには、ハラスメントの基本知識や相談への対応方法等に関するマニュアルを作成したり、相談担当者に対する研修を実施したりするようにしましょう。相談担当者がうまく対応できないと、二次被害(相談窓口の担当者の言動によって、相談者がさらなる被害を受けること)が発生してしまう恐れがあります。こうした事態は防がなければなりません。

また、相談窓口には、内部告発(内容はハラスメントに限らない)の声が寄せられることもあります。こうした声は公益通報として、公益通報者保護法の保護下に置かれます。公益通報保護法では、社員数が常時300人超の会社に対し、「内部通報窓口」の設置などが義務付けられています。要件に該当する会社は、

相談窓口と内部通報窓口を一体的に運用すること

を検討してみるのもよいでしょう。

近年、ハラスメント事案が年々増加する傾向にある中、これからの相談担当者は最新の法律知識・社会的動向などを踏まえた対応を求められることになります。

4 社外にも相談窓口の存在を明確に伝える

2024年11月1日から、フリーランス(注)に対しても、社員と同様のハラスメント防止措置を講じることが義務付けられます。相談窓口についても、基本的に社員と同じ窓口をフリーランスにも適用するという対応で差し支えありませんが、注意しなければならないのは、

あらかじめ相談窓口の存在を明確に伝えておかないと、ハラスメント事案が発生した際、フリーランスが外部のユニオンなどに駆け込んで、問題が大きくなる恐れ

があることです。フリーランスと契約を締結する際に、相談窓口の担当者や連絡先を、書面などで明らかにしましょう。

(注)ここでいうフリーランスとは、業務委託先の事業者であり従業員を使用していない者(いわゆる個人事業主等)を指します(フリーランス・事業者間取引適正化等法)。

就活生に対しても同様です。2025年6月11日公布の改正男女雇用機会均等法により、就活生に対する「就活セクハラ」についても、社員と同じようにハラスメント防止措置を講じることが義務付けられました(公布日から1年6カ月以内に施行予定)。相談窓口についても

自社のウェブサイトや採用ページなどで、相談窓口の担当者や連絡先を明示

しておきましょう。

以上(2025年10月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 栗原功佑)

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【規程・文例集】吸収分割契約書のひな型

1 吸収分割契約書に定めるべき内容

中小企業のM&Aのほとんどは、株式譲渡か事業譲渡です。ただし、

  • 優良事業を切り出して事業再生を図る
  • 許認可が必要な事業だけを切り出してM&Aを実行する

といった場合に会社分割が利用されることがあります。事業譲渡と会社分割には似たような機能がありますが、事業譲渡が個別承継となるのに対し、会社分割は組織法上の行為で包括承継となるという大きな違いがあります。また、手続上の違いとして、会社分割は、債権者異議手続、反対株主の株式買取請求等の法律で定められた手続きを履践しなければなりません。

吸収分割を行うときには、分割会社と承継会社との間で分割契約を締結し、次の事項(法定記載事項)を定めなければなりません(会社法第757条、第758条)。なお、新株予約権を発行している場合などには別途追加で定めるべき事項がありますが、この記事では省略します。

  • 分割会社及び承継会社の商号及び住所(第2条)
  • 承継会社が承継する資産・負債等の権利義務に関する事項(第3条)
  • 承継会社が分割会社に対して交付する金銭等に関する事項(第4条)
  • 効力発生日(第6条)

2 吸収分割契約書のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際に就業規則を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【吸収分割契約書のひな型】

株式会社○○(以下「甲」という)と○○株式会社(以下「乙」という)とは、甲の営む事業につき、次のとおり、吸収分割契約(以下「本件契約」という)を締結する。

第1条(吸収分割)

1)甲及び乙は、甲が営む○○事業(以下「本件事業」という)に関して有する権利義務の全部を吸収分割により乙に承継させ、乙はこれを承継する(以下、「本件吸収分割」という)。

2)甲及び乙は、信義に従い誠実に、本件吸収分割等の取組みを実施し、互いにとってより良い結果となるよう努めると共に、当該取組みによって何らかの問題・支障が生じた場合には、解決に向けて相互に協力して対応にあたることを確認する。

第2条(商号及び住所)

甲及び乙の商号及び住所は、以下のとおりである。

甲:吸収分割会社

(商号)株式会社○○

(住所)東京都○○区○○

乙:吸収分割承継会社

(商号)○○株式会社

(住所)東京都○○区○○

第3条(権利義務の承継)

1)乙が本件吸収分割により甲から承継する資産、債務、契約その他の権利義務(以下「承継対象権利義務」という。)は、別紙のとおりとする。

2)本件吸収分割による甲から乙に対する債務の承継は、免責的債務引受の方法による。甲は、承継対象権利義務に含まれる債務について履行をしたとき(会社法第759条第2項に基づき履行をしたときを含む。)は、乙に対してその全額について求償することができる。

3)乙は、承継対象権利義務に含まれる債務以外の甲の債務について履行をしたとき(会社 法第759条第3項又は第4項に基づき履行をしたときを含む。)は、甲に対してその全額について求償することができる。

第4条(本吸収分割に際して発行する株式の割当)

乙は、本件吸収分割に際して発行する普通株式○○株を、甲に対して交付する。

第5条(増加すべき乙の資本金及び準備金)

本件吸収分割により増加すべき乙の資本金、資本準備金及び利益準備金は、以下の額とする。

資本金 ○○円。分割後の乙の資本金は○○円とする。

資本準備金 ○○円

利益準備金 ○○円

第6条(本件吸収分割の効力発生日)

本件吸収分割の効力発生日は、○年○月○日とする。ただし、吸収分割手続の進行上必要がある場合、甲乙が協議の上、これを変更することができる。

第7条(株主総会決議)

甲及び乙は、それぞれ○年○月○日に株主総会を開催し、本件契約の承認及び本件吸収分割に必要な事項の決議を求める。ただし、分割手続きの進行上の必要性その他の事情により、甲乙協議の上、開催期日を変更できるものとする。

第8条(競業避止義務)

甲は、効力発生日から○年○月○日までの間、本件事業と実質的に同一の事業を行わないものとする。ただし、甲乙間で別途合意した場合はこの限りではない。

第9条(業務運営)

甲及び乙は、本件契約締結後効力発生日に至るまで、善良なる管理者の注意をもってその業務の執行及び財産の管理、運営を行い、その重要な財産又は権利義務に重大な影響を及ぼす行為については、あらかじめ甲乙協議の上、これを行うものとする。

第10条(条件の変更、解除)

本件契約締結日後効力発生日に至るまで、本件事業又は承継対象権利義務に重大な変動が生じた場合、本件吸収分割の実行に重大な支障となる事態が生じた場合、その他本件契約の目的の達成が困難となった場合には、協議の上、合意により、本件契約を変更し又はこれを解除することができる。

第11条(準拠法及び管轄裁判所)

1)本契約は、日本法を準拠法とし、日本法に従って解釈される。

2)本契約に関し紛争が生じたときは、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

第12条(協議事項)

本件契約に定める事項のほか、本件吸収分割に必要な事項は、本件契約の趣旨に従い、甲及び乙が協議し合意の上、これを定める。

本件契約締結の証として、本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ、各1通を保有する。

○年○月○日

(甲)

東京都○○区○○

株式会社○○

代表取締役 ○○

(乙)

東京都○○区○○

○○株式会社

代表取締役 ○○

別紙 承継対象権利義務

1)資産

1.流動資産

2.固定資産

2)債務

本件事業に関する債務は承継されないものとする。

3)契約

効力発生日において甲が締結している契約のうち、以下に定める本件事業に関連する契約に係る契約上の地位及び当該契約に基づく権利義務

契約

4)労働契約上の権利義務

以下に定める従業員に関する雇用契約

雇用契約

以上(2025年9月作成)
(執筆 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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【外国人雇用】留学生を募集できる5つのルートと雇用に関するトラブル防止のポイント

1 初めての外国人雇用、まずは留学生から当たってみよう

「日本人でなくてもいいから、優秀な人材が欲しい」「海外進出したいから、現地の言葉が話せる外国人を雇いたい」などと言いつつ、日本との言語や文化のギャップが不安で、なかなか外国人雇用に踏み切れない……。こうした経営者は少なくないかもしれません。

そんな場合に検討したいのが「留学生の雇用」です。コンビニや飲食店での働きぶりを見ていると気付くかもしれませんが、彼らは日本に来てからある程度の期間が経過しているため、日本語や日本の文化に精通している人も多いです。つまり、

留学生を雇用すると、海外に居住している外国人を日本に呼ぶよりも、会社に早くなじめる可能性がある

というわけです。

一方で、「どこに求人を出せばいいのか分からない」「言語の違いや在留資格などでトラブルにならないか不安」などの理由から、留学生の募集に踏み切れない人もいるでしょう。まずは、

  • 大学への求人情報など、留学生を募集するためのルートを知ること
  • 在留資格など、雇用に関するトラブル防止のポイントを押さえること

が大切です。以降で詳しく見ていきましょう。

2 留学生を募集するための5つのルート

1)大学への求人情報の提供

留学生を募集する一番シンプルな方法は、彼らが通っている大学と連絡を取ることです。具体的には、学内のキャリア支援課や留学生支援室に、求人案内を出します。まずは会社のことをよく知ってもらいたいということであれば、インターンシップの募集や学内説明会への参加から始めてみるのもよいでしょう。

ちなみに、日本学生支援機構が運営する日本留学情報サイト「Study in JAPAN」では、留学生の受け入れ・就職支援に力を入れている大学の情報、求人案内やインターンシップの受け付け状況が分かります。

■日本学生支援機構「Study in JAPAN」■
https://www.studyinjapan.go.jp/ja/

2)留学生を対象とした合同会社説明会や交流イベントへの参加

人材紹介会社や地方自治体、地元の商工会議所などが主催する合同会社説明会や交流イベントに参加すると、一度に多くの留学生と接点をつくることができます。会社が求める人材像やスキルなど具体的な話もしやすいです。

例えば、東京外国人材採用ナビセンターでは、都内の中小企業と外国人のマッチングなどを目的とした合同会社説明会を開催しています。

■東京外国人材採用ナビセンター■
https://tir-navicenter.metro.tokyo.lg.jp/

3)人材紹介会社からのあっせん

1.大手人材紹介会社

大手人材紹介会社では、留学生を紹介するエージェントサービスを提供しています。人材紹介会社ごとに詳細は異なりますが、多数の登録者の中から人材紹介会社がスクリーニングを行い、顧客である会社のニーズに適した人材を紹介するというサービスが一般的です。

例えば、マイナビの「グローバル人材紹介(Global Agent)」では、「理系を専攻している」「特定言語が話せる」といった外国人留学生に対する会社側のニーズに沿って留学生を探すことが可能です。また、サイト内で留学生のための特集ページや留学生を採用する会社の検索機能を設ける取り組みもしています。

■マイナビ「グローバル人材紹介(Global Agent)」■
https://ag.global.mynavi.jp/

2.特定の国や業種に強い人材紹介会社

海外進出する地域が決まっていたり、自社の業種が特殊だったりする場合は、特定の国や分野の留学生の紹介に強みを持つ人材紹介会社を頼るのも一策です。

例えば、ASIA Link(アジアリンク)は、東アジア、ASEAN諸国の留学生の紹介を強みとしています。同社では、経営者と留学生の合同会社面談会だけでなく、会社の採用ニーズに合わせて留学生を1人ずつピンポイントで紹介する個別紹介サービスも手掛けています。

他にも、Funtoco(ファントコ)では、介護・宿泊・外食といったサービス業での外国人人材の紹介に強みがあります。

■ASIA Link(アジアリンク)■
https://www.asialink.jp/
■Funtoco(ファントコ)■
https://funtoco-inc.com/

4)公的機関からのあっせん

厚生労働省管轄の外国人雇用サービスセンターでは、留学生の就職支援、会社向けの情報提供、留学生との面接会、インターンシップなどを行っています。いわば「外国人専門のハローワーク」で、東京、名古屋、大阪、福岡にそれぞれ設置されています。

また、厚生労働省が運営する「外国人雇用管理アドバイザー制度」では、ハローワークを窓口として、外国人の採用や労働条件に関する課題、生活上の悩みなど、外国人雇用に関する幅広い事項について無料で相談を受け付けています。

■厚生労働省「外国人雇用サービスセンター」一覧■
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_12638.html
■厚生労働省「外国人雇用管理アドバイザー制度」■
https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/anteikyoku/koyoukanri/index.htm

5)SNS・アプリを使ったダイレクトリクルーティング

会社がFacebookやLinkedInなどのSNSに自社アカウントで求人情報を投稿すれば、大学や人材紹介会社を介さずに、留学生と直接やり取りができます。いわゆる「ダイレクトリクルーティング」です。求人情報以外にも、実際に社員が働いている様子や社内で開催しているイベントの様子などを投稿すれば、会社の雰囲気をよりリアルに留学生に伝えられるでしょう。

「WORK JAPAN」や「ギフコネ」など、外国人専用の職業仲介アプリを使う方法もあります。アプリであれば、求人票の掲載から面接調整、結果通知がオンラインで完結するので、スピーディーに採用活動を進められます。

3 言語の違いや在留資格などに注意する

1)言語の違いに配慮した募集・選考

留学生が日本での生活に慣れているとはいえ、日本語能力のレベルは人によってまちまちです。「当然、日本語は分かるだろう」という先入観にとらわれると、募集の際、留学生との意思疎通がうまくいかず、トラブルになりかねません。ですから、日本語能力にハンディを抱える留学生にも自社の情報が伝わるよう、募集方法を工夫しましょう。

例えば、採用サイトで情報発信をする場合、日本語版の採用ページにひらがなをつける、英語版の採用情報ページを設けるなどの工夫をします。また、すでに外国人を雇用している会社であれば、採用面接の際にその社員に同席してもらうなどの配慮もあるとよいでしょう。

なお、募集・選考に先立って、留学生にどの程度の日本語能力を期待するかの方針を決めておきましょう。日本語が堪能なのに越したことはないですが、例えば、

  • コンサルティング業務などは、日本人の顧客と接する機会が多い場合、高い日本語能力が求められる
  • 研究開発職などは、英語や技術用語を使うことが多い場合、日常のコミュニケーションが図れる程度の日本語能力があればよい

など、入社後の業務内容によって必要とされるレベルは異なります。

また、雇用の際に交付する「労働条件通知書」にも注意しましょう。会社と留学生との間で、労働条件について認識のギャップがあると、後々トラブルになる恐れがあります。厚生労働省では、英語、中国語、韓国語、ポルトガル語など13カ国語に対応した「外国人労働者向けモデル労働条件通知書」を公表しているので、留学生の出身国に合わせて活用するとよいでしょう。

■厚生労働省「外国人労働者向けモデル労働条件通知書」(下記URL中段)■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000056460.html

2)在留資格の確認・変更

留学生を卒業後に正社員として雇用する場合、在留資格を「留学」から、業務内容に応じたものに変更しないと、日本で働かせることができません。在留資格と対応する職業は、例えば次のようなものが挙げられます。

  • 「技術・人文知識・国際業務」:機械工学等の技術者、通訳、デザイナー、私会社の語学教師、マーケティング業務従事者等
  • 「介護」:介護福祉士
  • 「技能」:外国料理の調理師,スポーツ指導者、航空機の操縦者、貴金属等の加工職人等
  • 「特定技能(1号・2号)」:特定産業分野で一定の技能を必要とする業務の従事者

ちなみに、「特定技能(1号・2号)」の特定産業分野とは、

  • 特定技能1号(16分野):介護、ビルクリーニング、工業製品製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、自動車運送業、鉄道、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業、林業、木材産業
  • 特定技能2号(11分野):ビルクリーニング、工業製品製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業

を指します。

在留資格の変更は、外国人の住所地を管轄する地方出入国在留管理局(出入国在留管理庁の地方支分部局、以下「入管」)に申請しますが、

申請してから新しい在留資格が許可されるまでは一定の期間があるので、場合によっては入社日の延期などが必要

になります。なお、トラブルにならないよう、求人案内や労働条件通知書には「在留資格が許可されていること」が雇用の条件である旨を明記しておきましょう。

在留資格が許可されると、入管から在留資格と在留期間(満了日)が記載された在留カードが発行されます。在留期間が満了すると国内で働けなくなるので、会社のほうでも在留期間を把握しておき、更新の手続きが滞らないようにしましょう。

この他にも、留学生の採用・雇用については、出入国管理及び難民認定法(入管法)をはじめとした法令上の留意点があるため、詳細については、外国人の雇用に詳しい行政書士や社会保険労務士などの専門家、入管などに確認・相談するようにしましょう。

4 留学生採用の現状

1)日本国内の留学生数の推移

日本学生支援機構「外国人留学生在籍状況調査」によると、日本国内の留学生数の推移は次の通りです。

日本国内の留学生数

2020年から2022年にかけてはコロナ禍の入国制限により留学生が減少していましたが、コロナ禍の規制解除とともに再び増加し、2024年5月1日時点の留学生数は過去最高の33万6708人となっています。また、2024年5月1日時点の出身国別の留学生数は、1位が中国(12万3485人)、2位がネパール(6万4816人)、3位がベトナム(4万323人)となっています。

2)留学生の国籍・地域別に見た採用者数の推移

出入国在留管理庁「留学生の日本企業等への就職状況について」によると、留学生の国籍・地域別に見た採用者数の推移は次の通りです。

留学生の国籍・地域別に見た採用者数

 採用者数はアジア諸国が上位5位を占めています。

3)国は留学生の就職を後押し

文部科学省では、関係省庁等と協力し、留学生の就職支援に係るプラットフォームの構築など、留学生の受け入れ環境支援を進めています。また、留学生の採用に不慣れな会社向けに、「外国人留学生の採用や入社後の活躍に向けたハンドブック」を公表しています。このハンドブックには、留学生の採用などにおける課題を整理できるチェックリストや、採用・活躍に向けた成功事例などが掲載されています。

■文部科学省「外国人留学生の採用や入社後の活躍に向けたハンドブック」■
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/mext_00001.html

参考:採用に当たって利用できる機関・相談先

1)相談

■厚生労働省「外国人雇用管理アドバイザー制度」■
https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/anteikyoku/koyoukanri/

2)情報提供

■出入国在留管理庁「在留支援」■
https://www.moj.go.jp/isa/support/index.html
■厚生労働省「外国人雇用対策」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/
■文部科学省「外国人留学生の受入れについて」■
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/1306886.htm

以上(2025年10月更新)

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【かんたん消費税(4)】消費税が課税される取引と、課税されない取引の違い

1 消費税を知るための4つの取引

消費税の取引は、

課税される「課税取引」と、「課税されない取引」

に分かれます。さらに、課税されない取引は、

課税対象外取引(以下「不課税取引」)、非課税取引、免税取引

の3つに分かれます。つまり、消費税の取引は全部で4つに分類されます。

取引の区分

消費税が課税されない取引が細かく分類されているので複雑ですが、ここをしっかり押さえないと、消費税の納税額が変わって損をすることがあります。この記事では、消費税の仕組みを知る上でとても大切な4つの取引の概要とともに、分類を間違えた場合に、どのような影響があるのかを説明していきます。

2 取引ごとに異なる消費税の納税額

売上・仕入ともに不課税取引、非課税取引、免税取引は消費税が課されませんが、この3つの取引を一くくりにして会計処理をしてはいけません。なぜなら、

売上が4つの取引のどれに該当するかによって、仕入税額控除の金額が変わる

からです。仕入税額控除とは、

預かった消費税(仮受消費税)から支払った消費税(仮払消費税)を差し引くこと

です。

仕入税額控除

仕入を行った際に支払う消費税は、どんなときでも仕入税額控除できるわけではなく、売上取引区分ごとに次のようにまとめられます。

  • 課税売上に対応する支払った消費税:仕入税額控除できる
  • 不課税売上に対応する支払った消費税:仕入税額控除できない
  • 非課税売上に対応する支払った消費税:仕入税額控除できない
  • 免税売上に対応する支払った消費税:仕入税額控除できる

なお、免税売上は「消費税はかかっているが、税率は免除されている(0%=免税)」と考えるため、これに対応する支払った消費税は仕入税額控除できます。

経営者の方は、それぞれの取引の細かいところまで知る必要はありませんが、この取引区分を誤ると、消費税の納税額に大きな影響を与えることを理解し、経理担当者や税務担当者に適切な指示を出すようにしましょう。

3 それぞれの取引の解説

1)「課税取引」と「不課税取引」

どのような取引が課税の対象(課税取引)になるのかは、消費税法で決まっています。具体的には、

  1. 日本国内において行う取引であること
  2. 会社や個人事業主など、事業者が行う取引であること
  3. 対価を得て行われるものであること
  4. 物の売買や貸し借り、あるいはサービスの提供であること

の4つの要件を全て満たす取引をいいます。もし、1つでも満たさなければ、消費税はかからない不課税取引となります。

1.日本国内において行う取引であること

消費税法は日本の法律なので、課税の対象となるのは日本国内で発生する取引だけです。外国で物を売っても日本の消費税はかかりません。

2.会社や個人事業主など、事業者が行う取引であること

消費税は、事業として行われる取引だけが課税の対象です。そのため、自家用車をディーラーに売却したり、友人同士でたまたま物を売買したりした場合は消費税がかかりません。

3.対価を得て行われるものであること

消費税は、対価がある取引だけが課税の対象です。そのため、試供品やサンプルの配布など、商品をタダであげたりした場合には消費税がかかりません。

4.物の売買や貸し借り、あるいはサービスの提供であること

消費税は、商品の売買や資産の貸し借り、コンサルティングなどのサービスの提供といった取引だけが課税の対象です。そのため、これらに該当しない配当金の支払いや、労働の対価として支払われる給料などには消費税がかかりません。

2)「課税取引」と「非課税取引」

上記4つの要件を満たす取引は消費税の課税対象となりますが、

実際に消費税を課すのにはなじまないもの、あるいは政策的な配慮から消費税をかけないこととしているもの

があり、これを「非課税取引」といいます。つまり、4つの要件は満たすものの、種々の理由から「例外的に課税しない」こととしている取引です。主な非課税取引には次のようなものがあります。

非課税取引

3)「課税取引」と「免税取引」

消費税は日本国内の消費について課税されるものなので、同じ商品の売買であっても、海外で消費されるもの(輸出されるもの)は消費税が免除されます。例えば、皆さんが海外旅行に行く際に、羽田空港の免税店でお菓子(商品)を購入したとします。通常、お菓子の購入には消費税が課税されますが、実際にお菓子を食べるのは出国した後(=海外)ということが前提となるため、消費税が免除されるわけです。また、通常の商品の輸出の他、国際電話や国際郵便、国際線の航空料金なども免税取引になります。

なお、「非課税」と「免税」は両方とも消費税がかからないという点では共通しているため、2つの違いが分かりにくいかもしれませんが、

「非課税」は、本来は課税対象だけど、例外的に課税しないこととしているもの

であるのに対し、

「免税」は、消費税は課税されているが、税率が0%(=免除)になっている

と考えると分かりやすいかもしれません。

以上(2025年10月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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定年後も働く場合、社会保険料の負担はどのぐらい?

1 定年後の働き方によって社会保険料が変わる?

「人生100年時代」や「生涯現役社会」といわれる昨今、定年後も自分のペースで仕事を続ける人は少なくありません。定年などのルールは高年齢者雇用安定法に定められていて、会社は、

  • 60歳以上に定年を設定する義務
  • 65歳まで雇用するための措置を講じる義務(再雇用制度など)
  • 70歳まで働ける機会を確保する努力義務(2.と同様の措置の他、フリーランス契約など)

を負っています。

社員(この記事では正社員を想定しています)が、定年後も会社に雇用されて働くことやフリーランスとして一緒に仕事をすることを希望する場合、会社は社員と相談しながら、定年後の労働条件や取引条件を決めることになります。ただ、その際、注意したいのが「社会保険(健康保険と厚生年金保険)」の扱いです。

定年後は社会保険に加入するパターンが4つあり、パターンごとに保険料負担が異なる

からです。詳細は後述しますが、イメージは図表1の通りです。

保険料負担

定年後の賃金・報酬ばかりに気を取られて、社会保険料の負担を失念すると、社員の手取り収入が大きく減ってしまう恐れがあります。逆に社会保険のルールを理解していれば、会社も社員も定年後の働き方をイメージしやすくなり、労働条件や取引条件に関する相談もスムーズに進むでしょう。

以降で、定年後に社会保険に加入する4つのパターンの概要と、定年後の働き方に応じたシミュレーションを紹介していきます。

2 定年後の社会保険加入の4パターン

定年後に社会保険に加入するパターンは、「健康保険」に注目すると次の4つに分けられます。

1)「会社の健康保険」に加入する

社員が定年後も会社に雇用されて働く場合、図表2の1.から3.のいずれかに該当するのであれば、定年前と同じく会社の健康保険に加入します(厚生年金保険にも同時に加入)。

会社の健康保険

社会保険料(健康保険料と厚生年金保険料)は、それぞれ、

標準報酬月額(月例賃金を一定の金額幅で区分したもの)×保険料率

で計算した額を、会社と社員が折半して負担します。例えば、健康保険の保険者が全国健康保険協会(協会けんぽ)東京支部の場合、2025年度の保険料率は次のようになっています。

  • 健康保険料率:9.91%(40歳未満の場合)、11.5%(40歳以上65歳未満の場合、介護保険料を含む)
  • 厚生年金保険料率:18.3%

2)「任意継続」の制度を利用する

1)に該当しないパート等や、定年後フリーランスになった社員は、会社の健康保険に原則加入できません(定年となる日の翌日に被保険者資格を喪失)が、例外として、

会社の健康保険に2年間だけ継続加入できる「任意継続」の制度を利用する

ことで、健康保険の給付を受けられるようになります(けがや病気の際、原則3割負担で治療を受けられるなど)。ただし、定年前に健康保険の被保険者期間が連続して2カ月以上必要です。

任意継続で加入するのは健康保険だけで、厚生年金保険は非加入となるので、社員は健康保険料のみ負担します。健康保険料は、

退職時の標準報酬月額×保険料率

で計算します。ただし、任意継続の場合、

  • 社員が健康保険料を全額負担する(会社負担はなし)
  • 標準報酬月額の上限が32万円に設定されている(協会けんぽ(2025年度)の場合)

という点が、1)と異なります。例えば、退職時の標準報酬月額が40万円であった場合、任意継続では上限額の32万円として保険料が算定されます。

3)「家族の扶養」に入る

社員に家族がいて、その家族が勤務先等で健康保険の被保険者になっている場合、

「家族の扶養」に入る(被扶養者となる)

ことで、健康保険の給付を受けられるようになります。社員が家族の扶養に入るには、社員が家族と三親等内の関係にあり、なおかつ家族の収入によって生計を維持されている必要があります。社員が60歳以上のときは、

  • 家族(被保険者)と同一世帯の場合:社員の年間収入が180万円未満で、家族(被保険者)の年間収入の2分の1未満
  • 家族(被保険者)と世帯が異なる場合:社員の年間収入が180万円未満で、家族(被保険者)からの援助による収入額より少ない

というのが、収入面で被扶養者と認定されるための要件になります。

社員が家族の扶養に入る場合、社員本人が健康保険料を負担することはありません。厚生年金保険も非加入となるので、社員本人の保険料負担は一切発生しないことになります。

ただし、年間収入が180万円未満であることが扶養の要件となるため、定年後の働き方に一定の影響を及ぼします。

4)「国民健康保険」に加入する

社員が会社の健康保険にも、家族の扶養にも入れない場合、

社員の住所を管轄する自治体が保険者になっている「国民健康保険」に加入する

ことになります。一部の外国人や生活保護受給者は対象外ですが、その他は前述の1)から3)に該当しない社員であれば、加入することになります。

国民健康保険に加入する場合、社員が国民健康保険料を全額負担します(厚生年金保険は非加入)。なお、保険料負担の計算方法は自治体によって異なります。国民年金保険料は、原則として前年の収入額に基づいて算定されるため、退職初年度の保険料は高くなる傾向があります。詳しくは、各自治体の担当窓口にて確認をすることができます(社員本人が確認)。

3 定年後の社会保険料をシミュレートしてみよう

ここでは、間もなく60歳で定年を迎える社員Aさんが、定年後、社会保険に加入することを想定し、社会保険料をシミュレートしてみます。会社の健康保険の保険者は「協会けんぽ(東京支部)」とし、社会保険料は同協会の「令和7年度保険料額表(東京都)」を用いて算定します。

Aさんの条件は次の通りです。

  • 退職前の賃金(月額):48万円(注)
  • 退職前の標準報酬月額:47万円
  • 住所:東京都江戸川区
  • 家族構成:妻(専業主婦、60歳)

(注)厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」における、一般労働者(55~59歳、男性、調査産業計)の「きまって支給する現金給与額」を基に算定しました。

これを基に、社会保険に加入するパターンごとのAさんの社会保険料(本人負担)と、手取り収入(賃金・報酬から社会保険料を差し引いたもの)を算定したシミュレーションが図表3です。

シミュレーション

1.と4.と6.の赤字に注目してください。これらは定年前後で賃金・報酬が48万円から変わらなかったケースを想定していますが、「会社の健康保険」「任意継続」「国民健康保険」のどれを選択するかによって、社会保険料と手取り収入の額が変わってきます。なお、4.の「任意継続」の社会保険料が低い理由は、

  • 1.の「会社の健康保険」のケースと異なり、厚生年金保険料の負担がないから
  • 本来は賃金額に基づく標準報酬月額(47万円)で社会保険料を算定するが、任意継続の場合、標準報酬月額の上限が32万円とされているから

です。

また、もう1つ注目したいのが、5.の「家族の扶養」に入るケースです。5.では報酬を他のパターンよりも明らかに低い14万円に設定していますが、これは、

社員の年間収入が180万円(月換算15万円)以上になると、被扶養者要件を満たさなくなるので、そもそも低い金額しか設定できないから

です。

4 在職老齢年金にも注意しよう

定年後も働く場合、もう1つ注意しておきたいのが「在職老齢年金」の問題です。

在職老齢年金とは、60歳以降も働きながら老齢年金をもらう場合、給与や賞与額等に応じて年金額が減額調整されてしまう制度のこと

です。対象となるのは、厚生年金保険の被保険者、つまり、この記事でいうところの、

定年後も「会社の健康保険」に加入する社員(厚生年金保険にも同時に加入)

です。

在職老齢年金では、2026年4月1日から

「基本月額」と「総報酬月額相当額」の合計が62万円を超えると老齢年金が減額される

ことになっています(現在は51万円を超えると減額)。「基本月額」は老齢厚生年金の報酬比例部分の月額、「総報酬月額相当額」は「その月の標準報酬月額」に「その月以前1年間の標準賞与額の合計÷12」を足したものです。

  • 60歳以降の賃金が下がれば、その分「基本月額と総報酬月額相当額の合計」も下がり、老齢年金は減りにくくなる
  • 逆に賃金が維持されれば、老齢年金は減りやすくなる

ことになります。社員と定年後の賃金について相談する場合、このあたりも考慮に入れておくとよいかもしれません。

■日本年金機構「在職中の年金」■
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/zaishoku/index.html

以上(2025年10月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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