【財務分析】仕入れや販売をしたときに財務諸表の数値はどう変化する?

1 日々の企業活動は財務諸表にどう影響する?

財務諸表(損益計算書、貸借対照表)の読み方に慣れるには、

商品の仕入れや販売などの企業活動が、財務諸表のどのような箇所に影響するか

を実際に確認してみることが大切です。

財務諸表にはさまざまな数字が出てきますし、似通った専門用語も多いため、最初はどこを見ると良いのかがわからないかもしれません。しかし、慣れてくると、ポイントを押さえて読めるようになり、それほど時間をかけずに会社の財務状況を大まかにつかめるようになります。

この記事では、財務諸表の概要を説明した上で、商品の仕入れや販売などの企業活動が財務諸表の数値にどのように影響するかを見ていきます。

2 損益計算書の概要

損益計算書は、

会社が一定期間の営業活動によって、どれだけの利益を上げられたかを示すもの

です。利益は次の5段階となっており、商品・サービスの売り上げから、売上原価や人件費などを差し引いて計算します。

  • 売上総利益:自社の商品やサービスに係る売上から売上原価を差し引いた利益
  • 営業利益:売上総利益から人件費など販管費を差し引いた本業にかかる利益
  • 経常利益:営業利益から受取・支払利息などの本業以外の収益・費用を反映した利益
  • 税引前当期純利益:経常利益から臨時的に生じた特別利益・損失を反映した利益
  • 当期純利益:税引前当期純利益から法人税等の金額を差し引いた最終の利益

損益計算書の様式例

どの利益を重視するかは、損益計算書を読む理由や読み手の立場によって異なります。例えば、次のようなケースが挙げられます。

  • 競合他社:商品そのものの競争力(利益率)を自社と比較し、分析するために、売上総利益を重視。
  • 金融機関の融資担当者:本業で稼ぐ力を見て、返済能力を評価するため、営業利益を重視。
  • 投資家:株主への配当原資がどれほどあるかを確認するため、当期純利益を重視。

3 貸借対照表の概要

貸借対照表は、

決算期末時点における会社の資金調達・運用の状況を示すもの

です。会社は借り入れや株式発行などにより資金調達を行い、調達した資金で商品を仕入れたり、機械装置を購入したりしますが、その資金の状態を示すのが貸借対照表です。貸借対照表を読む際は、次の5つの項目に注目します。

  • 流動資産:現金預金や売掛金など短期間(1年以内)で現金化できる資産
  • 固定資産:1年を超えて現金化されず、長期間保有・使用される資産
  • 流動負債:買掛金や短期借入金など返済期限が短期間(1年以内)の負債
  • 固定負債:返済期限が1年を超える負債
  • 純資産:株主からの出資金や事業活動から得た利益の蓄積額など

資産や負債を流動もしくは固定に分ける基準は、2つの考え方があります。

  • 正常営業循環基準:仕入れ、販売といった通常の営業活動によって生じる資産や負債を、流動資産や流動負債とする考え方です
  • 1年基準:決算日の翌日から起算して1年以内に現金化できるものを流動、1年を超えるものを固定とする考え方

実際に資産や負債を区分するときは、正常営業循環基準に基づいて分類をした後、1年基準を適用して分類する流れになります。

貸借対照表の様式例

4 仕入れや販売で貸借対照表と損益計算書はどう変化する?

1)事業活動の概要(前提条件)

ここでは、小売業A社の仕入れ、販売などの事業活動が貸借対照表と損益計算書にどのような影響を与えるかを解説します。

小売業A社は、この1年間で次の事業活動を行いました。以降は第1事業年度とします。

  • 営業用資金として、金融機関から長期で1000万円を借り入れました。また、自己資金の注入により、株主資本が500万円となりまし
  • 営業店舗として、土地250万円と建物250万円を現金500万円で取得しました(建物の減価償却期間は25年、減価償却費は年間10万円とします)
  • 商品を1つ3000円で2000個、現金で仕入れました
  • 仕入れた商品を1つ5000円で1000個、現金で販売しました
  • 取得した建物は、長期に渡り使用するため、耐用年数の25年に応じて年間10万円を販管費に計上しました。また、会社が支払う法人税等の税金は、支払いが翌事業年度となっても、第1事業年度の正確な当期純利益を出すために、第1事業年度の費用として計上します。そのため、第1事業年度の税金(税引前当期純利益の30%の57万円)を未払計上しました。

上記の事業活動を仕訳(取引を借方と貸方に分けたうえで、取引内容に応じて適切な勘定科目に振り分けること)した結果は次の通りです。

第1事業年度の小売業A社の事業活動の仕訳結果

2)財務諸表の変化

1.小売業A社の貸借対照表

仕訳結果に基づいて、第1事業年度の小売業A社の貸借対照表の変化を見てみましょう。

第1事業年度の小売業A社の貸借対照表の変化

2.小売業A社の損益計算書

次に、第1事業年度の小売業A社の損益計算書を見てみましょう。

第1事業年度の小売業A社の損益計算書

損益計算書の一番下にある当期純利益は、会社の最終的なもうけを表す項目です。来期の初めの貸借対照表では、当期純利益は純資産に利益剰余金として計上され、会社が更なる成長を遂げるための投資や、自己資本の充実により財務基盤を強化するための原資に充てられます。第2事業年度期首の小売業A社の貸借対照表は次の通りです。

第2事業年度期首の小売業A社の貸借対照表

以上(2026年6月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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【財務分析】これだけ覚えて! 財務3表の基本パターン23選

1 まずは決算書の基本的な形を覚えよう

会社の決算書(いわゆる「財務3表」)は、人間でいうところの健康状態や実力を映し出す大切な情報源です。一方で、「数字が並んでいるだけで頭が痛くなる」「どこから見ればいいのか分からない」と苦手意識を持つ人も多いでしょう。ですが、安心してください。

細かな数字が分からなくても、決算書の形を見れば、何となく会社の状態が分かります。

この記事では、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書で「これだけ押さえておけば大丈夫」という基本的な形を全部で23個紹介します。細かなことはさておき、まずはそれぞれの「理想の形」と「危険な形」を覚えてください。

2 損益計算書でよく見る形「7選」

損益計算書とは、会社がもうかったか損をしたかを示す財務諸表です。少し難しく説明すると、会計期間の売上、費用、利益の状況を示した財務諸表となります。英語では「Profit and Loss Statement」と表記されるので、「PL」「P/L」と略すこともあります。

損益計算書の基本的な形は次の通りで、ここから売上や利益(ここでは、売上高、売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益)がどのように変化するのかに注目します。

損益計算書の基本的な形(イメージ)

損益計算書でよく見られる形は次の通りです。説明は一例であるものの、よく表れるパターンです。

損益計算書によく表れるパターン

損益計算書を読むときは、

利益と対になる費用(売上原価など)や収益に注目

しましょう。

その上でさらに深掘りすると、営業利益までは本業について表していますが、経常利益から先は本業以外の活動も加味されます。経常利益や税引前当期純利益が特徴的な動きをしている場合、有価証券や固定資産の売却などをしている可能性があるので、その理由を調べてみましょう。

3 貸借対照表でよく見る形「8選」

貸借対照表とは、会社がどのようにお金を調達し、それを何に使っているかを示す財務諸表です。少し難しく説明すると、ある時点(通常は決算日ですが、企業によって異なります)の会社の「財政状態」を示した財務諸表となります。英語では「Balance Sheet」と表記されるので、「BS」「B/S」と略すこともあります。

貸借対照表の基本的な形は次の通りで、ここから5つの箱(流動資産、固定資産、流動負債、固定負債、純資産)の大きさがどのように変化するのかに注目します。

貸借対照表の基本的な形(イメージ)

貸借対照表でよく見られる形は次の通りです。説明は一例であるものの、よく表れるパターンです。

貸借対照表によく表れるパターン

貸借対照表を読むときは、

流動と固定、資産と負債、負債と純資産のバランスに注目

しましょう。その上でさらに深掘りすると、例えば、次のようなことが分かります。

流動資産が流動負債よりも大きい点は好ましい。でも、売掛金が長期に滞留している一方、買掛金の決済サイト(代金の支払いまでにかかる期間)が短いので、今後、資金繰りに窮する恐れがあるかもしれない……。

4 キャッシュフロー計算書でよく見る形「8選」

キャッシュフロー計算書とは、会社の現金の流れ(キャッシュフロー)を示す財務諸表です。少し難しく説明すると、損益計算書や貸借対照表では表れないキャッシュの流れを、3つの区分で詳細に示した財務諸表となります。英語では「Cash Flow Statement」と表記されるので、「CS」「C/S」と略すこともあります。

キャッシュフロー計算書では、営業活動によるキャッシュフロー、投資活動によるキャッシュフロー、財務活動によるキャッシュフローのプラスとマイナスの組み合わせに注目します。

キャッシュフロー計算書の基本的な形(イメージ)

キャッシュフロー計算書で見られる形は次の通りです。説明は一例であるものの、よく表れるパターンです。

キャッシュフロー計算書によく現れるパターン

繰り返しますが、キャッシュフロー計算書を読むときは、3つのキャッシュフローのプラスとマイナスに注目しましょう。さらに深掘りするなら、

損益計算書や貸借対照表も併せて確認し、プラスとマイナスの理由まで調べてみる

とより専門的な分析になります。

以上(2026年6月更新)
(監修 税理士 石田和也)

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重要なデータ・書類のバックアップ体制を見直そう

1 重要なデータのバックアップ体制の見直しが不可欠

突然ですが、会社のパソコンがランサムウェアに感染し、データが暗号化されてしまったとしたら、元通りに業務を再開できるでしょうか? 「データはバックアップがあるから大丈夫」と思ったとしたら、その考えは少し甘いかもしれません。

警察庁によると、ランサムウェアの被害に遭った企業で、バックアップを取得していたのは過去5年間の有効回答652件のうち582件(89.3%)。しかし、実際にバックアップからデータを復元できたのは、過去5年間の有効回答547件のうち120件(21.9%)にとどまっています。復元できなかった理由の大半は、「バックアップの暗号化・消去」。つまり、バックアップデータごと暗号化されてしまったり、消去されてしまったりするケースが多いのです(警察庁「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」)。

バックアップが不可欠なのは、

それが使えなくなると事業の存続に関わる危機的な影響が及ぶ

からです。会社には、社員や顧客などの様々な情報が、電子データや紙の書類として蓄積されており、これらが滅失したり毀損したりすれば業務に支障を来します。また、漏洩すれば社会的な信用を失うことにもなりかねません。

電子データと書類はどうバックアップすればよいのか、バックアップ体制を整えるに当たって何を考え、日ごろからどのような備えをしておくべきかを見ていきましょう。

2 電子データをバックアップする3つの方法

電子データのバックアップは、主に3つの方法があります。

  • 外部記憶媒体を利用する
  • ネットワークストレージを利用する
  • オンラインストレージを利用する

1)外部記憶媒体を利用する

外付けハードディスク、DVD、USBフラッシュメモリなどに電子データをバックアップする方法です。電子データの容量に応じて適切な記憶媒体を購入し、基本的には、必要な電子データを都度、手作業でバックアップします。

比較的手軽な方法ですが、定期的にバックアップする必要があります。また、外部記憶媒体の紛失や、ウイルス感染に注意しなければなりません。

2)ネットワークストレージを利用する

いわゆる「NAS(Network Attached Storage)」に電子データをバックアップする方法です。NASは、ネットワークを介して複数のパソコンなどから、同時接続できるハードディスクです。

外部記憶媒体よりも高額ですが、数テラバイト以上の大容量のNASを購入すれば、容量をあまり気にせずにバックアップできます。また、設定次第で、深夜帯や休日に自動的にバックアップすることも可能です。

3)オンラインストレージを利用する

クラウドサービスを利用し、インターネット上に電子データをバックアップする方法です。電子データを自社とは離れた遠隔地に保存できるため、大地震や火災などによって社内のパソコンが損傷しても、電子データは無傷で守られます。

サービスの多くは、保存するデータ容量に応じた料金体系になっています。どのくらいの費用がかかるのかを把握するために、バックアップするデータ容量を事前に算出しておきましょう。安全性、速度、運用のしやすさなども、サービスを選ぶ際のポイントになります。

バックアップ方法はどれか1つを選ぶのではなく、複数を組み合わせることで、大切な情報が失われるリスクを低減できます。参考になるのが、情報処理推進機構(IPA)が理想的なバックアップ方法として勧めている「321ルール」です。これは、

  • データを3つ持ち(運用データ1つ、バックアップデータ2つ)、
  • 2種類の異なる媒体でバックアップし、
  • そのうち1つは異なる場所(オフサイト)で保管する

というルールです。

バックアップ方法「321ルール」の一例

図表のように、電子データのコピーを複数作り、保存する媒体を異なるものにするだけでなく、地理的にも離すことで、ウイルス感染に加えて、大地震や火災などにも対応できます。ただし、電子データを社外に持ち出すことにもなるので、漏洩には十分に注意する必要があります。

3 書類をバックアップする2つの方法

紙の書類のバックアップは、主に2つの方法があります。

  • コピーを取る
  • スキャナーなどで電子データ化する

これらについては細かく説明するまでもないでしょう。

大切なのは、原本とそのコピー(もしくは電子データを記録した媒体)を離れた場所で保管する「二元管理体制」を整えることです。大地震や火災などで同時に被災してしまうのを避けるために、なるべく遠隔地に保管するのが理想的です。

ただし、原本のコピーを取ることで情報漏洩の危険性が高まります。機密情報や個人情報などの取り扱いは特に細心の注意を払い、慎重に行わなければなりません。

4 バックアップ体制を整えるときに考えておきたいことは?

バックアップ体制を整えるに当たって、バックアップ方法の選択以外に、どのようなことを考えておくべきでしょうか。重要になってくるのが、次の3つのポイントです。これらは「事業継続計画」(BCP:Business Continuity Plan)のプロセスでもあります。

  • どの情報を優先的に保護するのかを決める
  • 自社が被災する可能性の高い災害を把握する
  • 目標復旧時間内にコンピューターシステムが機能回復できるかを検証する

1)どの情報を優先的に保護するのかを決める

BCPでは、策定の第一歩として、会社の存続に最も重要な「中核事業」を決めます。

災害発生時は、事業を継続するために必要な経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を、平常時と同じように確保することが難しくなります。中核事業を決めるときは、経営資源が平常時の約30%しか利用できないと仮定し、その範囲で継続すべき事業を考えます。

電子データや書類については、中核事業の継続に必要となる情報は保護の優先度が高くなります。経営者や事業部長、現場の業務責任者などを交えたプロジェクトチームを立ち上げ、優先度を検討するとよいでしょう。

2)自社が被災する可能性の高い災害を把握する

BCPでは、中核事業が影響を受けると思われる災害を把握することが肝要です。会社が被災する可能性のある災害は、大地震や津波、火災、水害など様々です。行政機関が公表している地震被害想定や河川氾濫浸水マップ、土砂災害ハザードマップなどをチェックし、自社の周辺で災害が起こると、どの程度の被害となるのかを把握しましょう。

国土交通省「ハザードマップポータルサイト」では、土砂災害や津波などの被害を受けそうな地域を確認できる「重ねるハザードマップ」と、市区町村作成のハザードマップを検索できる「わがまちハザードマップ」を参照できます。

■国土交通省「ハザードマップポータルサイト」■
https://disaportal.gsi.go.jp/

また、国土地理院は、過去に発生した自然災害(洪水、土砂災害、高潮、地震、津波、火山災害等)の様相や被害状況などが記載されている石碑やモニュメントの情報を「自然災害伝承碑」として掲載しています。「自然災害伝承碑」の位置は、地理院地図や、国土交通省「ハザードマップポータルサイト」の「重ねるハザードマップ」で確認できます。

■国土地理院「自然災害伝承碑」■
https://www.gsi.go.jp/bousaichiri/denshouhi.html

3)目標復旧時間内にコンピューターシステムが機能回復できるかを検証する

BCPでは、災害が経営資源に与える影響を考え、中核事業の目標復旧時間を設定します。

中核事業が中断した場合、顧客や市場がいつまで復旧を待ってくれそうか、日ごろの取引で培った経営感覚で予測を立てます。顧客と意見交換や調整をしながら合意を得るのも重要です。

コンピューターシステムが被災により滅失・毀損してしまった場合、バックアップした電子データから復旧を試みることになります。事前に、目標復旧時間内に回復できるかどうかを検証し、それまではどのような手段で代替するのかを決めておきましょう。

5 日ごろから備えておきたいことは?

1)パソコンやサーバー本体は、停電・水没・転倒・ほこりに注意

電子データを保存しているパソコンやサーバー本体の保管にも注意が必要です。例えば、次のような対策をしましょう。

  • 落雷などによる停電に備えて無停電電源装置(UPS)を導入して接続しておく
  • 水害などで水没しないように高い場所に置く(サーバールームは地下に設置しない)
  • 地震などの揺れで転倒しないように、耐震マットや固定器具を使用する
  • トラッキング現象による火災に備え、電源プラグやその周りにほこりがたまらないように定期的に掃除する

2)重要書類の原本は、保管場所と取り出し方法をルール化

災害などの緊急時に備え、重要書類の原本の保管場所と取り出し方法を取り決め、責任者や担当者だけでなく、全ての社員にルールを共有しておくことが重要です。

例えば、経理部門や総務部門には、会計帳簿・契約書・社員台帳などの重要書類が集中していますが、

  • 書類の重要度が分かるように分類する
  • 施錠できるキャビネットに整理・保管する

ようにしておくとよいでしょう。

なお、クリアファイルは書類をまとめるのに便利な半面、保管場所の環境によっては書類にカビが生える恐れがあるため、長期保管には向きません。

3)危機管理意識の高い組織を目指す

いざというときに動ける組織であるためには、BCPのような計画やルールの運用に対して、社員と経営者が前向きである必要があります。そのためにも、BCPでは、防災に関する勉強会を開くこと、定期的に訓練を実施することなどが推奨されています。

重要度を問わず、日ごろから書類の整理整頓を行い、コンピューターシステムの「いつもとはちょっと異なる動き」を無視せずに担当者に報告するなどのルールを、社員に徹底することも重要です。

以上(2026年6月更新)

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4月の交付件数公開! 「自転車の青切符」

1 2026年4月から「青切符」導入、自転車の規制はどうなる?

自転車の交通違反があった場合、指導警告のほか、これまでは

いわゆる「赤切符」の交付などの刑事手続き(有罪となった場合は前科がつく)

により処理されていました。

ただ、赤切符による処理は、反則金を納めれば刑事罰が免除される「交通反則通告制度」(いわゆる「青切符」)が導入されている自動車の交通違反と比べて時間的・手続き的な負担が大きく、検察に送致されても不起訴とされるケースが少なくありませんでした。そこで、悪質・危険な交通違反を迅速かつ適切に処理できるよう、

2026年4月から、自転車の交通違反についても、自動車と同じく「青切符」による取り締まりが行われる

ことになりました。

読売新聞の調査(全都道府県警への取材調査)によると、2026年4月だけで少なくとも842件の青切符が交付されています(集計期間は都道府県ごとに異なります)。また、842件のうち、理由が明かされた781件の内訳については、「一時不停止」が342件(44%)で最も多く、「ながらスマホ」が279件(36%)、「信号無視」が81件(10%)となっているそうです。

2026年4月の青切符の交付件数

現在、全国の警察が交通安全教室の実施や情報発信などの啓発活動を強化している状況であり、青切符のルールについては「知らなかった」では済まされなくなってきます。特に業務や通勤で自転車を使用する社員がいる会社は注意が必要です。

次章で青切符を切られるケースと反則金の一覧を紹介します。また、第3章では自動車を扱う会社向けに、自動車が自転車を横切る場合の注意点についても記載していますので、併せてご確認ください。

2 青切符を切られるケースと反則金の一覧

青切符は2026年4月以降、

  • 16歳以上の全ての自転車利用者(自動車運転免許の有無は問わず)を対象に、比較的軽微な交通違反を犯した場合に交付されます。
  • 違反行為に応じた反則金を納付した場合、刑事罰が免除されます。

「反則行為」という軽微な違反行為(信号無視、一時不停止など)については、交通反則通告制度(青切符)で対応されることになります。一方、「非反則行為」という重大な違反行為(酒酔い運転など)については、これまで通り赤切符での対応になります。

2026年4月以降、自転車で交通違反があった場合の流れ

具体的には、図表3の反則行為が、反則金を支払うことで刑事罰を免除されることになります。

2026年4月以降の反則金一覧

自転車への青切符導入については、警察庁から基本的な交通ルールと警察の交通違反の指導取締りの基本的な考え方についてとりまとめた自転車ルールブックが発表されています。警察庁「自転車ポータルサイト」からダウンロードできますので、こちらも併せてご確認ください。

■警察庁「自転車ポータルサイト」■
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/bicycle/portal/rule.html

3 自動車の運転時にも注意が必要

自動車等が自転車等の右側を通過する場合(追い越す場合を除く)に十分な間隔がないとき、自転車等はできる限り道路の左側端に寄って通行しなければなりません。これに違反した場合、図表3の「被側方通過車義務違反」に当該します。

一方、自動車等は、自転車等との「間隔に応じた安全な速度」で進行しなければなりません。警察庁から、この場合の「間隔に応じた安全な速度」について、

  • できる限り間隔を空ける(少なくとも1m程度間隔を空ける)
  • 自転車と1m程度の間隔を確保できない場合には、時速20kmから30km程度で運転する

という目安が示されています。これに違反した場合、3カ月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金、反則金(普通車7000円)、違反点数2点が課せられる恐れがあります。

具体的な走行状況、道路状況や交通状況により異なりますが、自動車を運転していて、自転車の右側を通過する場合、これまで以上に注意が必要です。

4 参考:自転車事故の予防と備えを忘れずに

1)「自転車指導啓発重点地区・路線」を確認しよう

警察庁によると、自転車関連事故(自転車が第1当事者または第2当事者となった交通事故)の件数は減少傾向にありますが、2024年の事故件数は約6万7531件と、依然として多くの事故が起きている状況にあります。

■警察庁「自転車は車のなかま~自転車はルールを守って安全運転~」■
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/bicycle/info.html

警視庁および各道府県警察は、管内の交通量が多い道路や、生活道路などで自転車が関係する違反や事故が多いエリアを「自転車指導啓発重点地区・路線」として、ウェブサイト上で公表しています。日常生活で自転車をよく利用する社員に、居住地や会社周辺の「自転車指導啓発重点地区・路線」を確認するよう、周知するのも自転車事故防止につながるでしょう。

2)ヘルメット着用を検討しよう

2023年4月1日に施行された改正道路交通法によって、全ての自転車利用者に対し、乗車用ヘルメット着用が努力義務化されました。

自転車乗用中の交通事故で死亡した人の約5割が、頭部に致命傷を負っています(2020年から2024年の合計)。

ヘルメット着用はあくまで努力義務であり、罰則はありませんが、自転車乗用中の交通事故において主に頭部を負傷した死者・重傷者の割合では、

ヘルメットをしていなかった人の割合は、ヘルメットをしていた人と比べ約1.7倍

にも膨れ上がります。社員にヘルメットの着用を勧めることで、「もしものとき」の大きなケガを防ぐことができます。

■警察庁「頭部の保護が重要です~自転車用ヘルメットと頭部保護帽~」■
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/anzen/toubuhogo.html

3)自転車向けの損害保険の加入も検討しよう

自転車で交通事故を起こした場合には、運転者に刑事上の責任も問われます。さらに、重大な過失によって人を死傷させた場合には、「重過失致死傷罪」に問われる恐れもあります。被害者に対しては、民事上の損害賠償責任も発生します。

交通ルールをしっかり守って運転しなければならないことを、いま一度、社員に徹底させましょう。また、自転車向けの損害保険の加入も検討するとよいでしょう。

■日本自動車連盟「[Q]自転車で道交法違反をした場合は?」■
https://jaf.or.jp/common/kuruma-qa/category-accident/subcategory-traffic-violation/faq286
■日本損害保険協会「自転車事故と保険」■
https://www.sonpo.or.jp/about/useful/jitensya/

以上(2026年5月更新)

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画像:日本情報マート

【規程・文例集】「自転車通勤規程」のひな型

1 自転車通勤のルール、整備していますか?

自転車通勤は、企業側と従業員側の双方にメリットがあります。

  • 企業側:自動車や公共交通機関に比べて通勤にかかる費用が少なく、通勤手当の削減につながる
  • 従業員側:適度な距離を自転車で移動することは、健康維持・増進につながる

一方、自転車は自動車と同じく事故が発生するリスクが高いため、企業は自転車通勤に関するルールを「自転車通勤規程」などの形で定めて従業員に守らせる必要があります。自転車通勤規程を定めている企業はまだまだ少数派というのが実情ですが、

2026年4月から、16歳以上の自転車運転者を対象に「青切符(交通反則通告制度)」が導入され、一時不停止や道路の逆走など113種類の違反行為に対して反則金が科される

ようになりました。反則金は個人が負担するもので、自転車通勤を認める場合でも、直接企業側に責任が生じるわけではありません。しかし、自転車通勤中の事故で従業員が加害者となった場合、企業の管理責任がより厳しく問われる恐れもあります。

青切符制度導入は、自転車通勤のルールの策定、見直しの良い機会といえます。この記事では、自転車通勤規程のひな型と、ルールを整備する際のポイントを紹介します。なお、青切符制度の概要については、こちらで紹介していますので、よろしければ併せてご確認ください。

2 自転車通勤規程のひな型

以降で紹介するひな型などは一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、国土交通省「自転車通勤導入に関する手引き(自転車活用推進官民連携協議会が策定)」を参考にしたり、必要に応じて専門家のアドバイスを受けたりすることをお勧めします。

■国土交通省「自転車通勤導入に関する手引き(令和6年7月)」■
https://www.mlit.go.jp/road/bicycle_guidance.html

【自転車通勤規程のひな型】

第1条(総則)

本規程は、従業員が通勤のために自転車を使用する場合の取り扱いについて定める。

第2条(適用範囲)

1)本規程は、従業員が所有者または使用者となっており、専ら通勤のために使用する自転車について適用する。
2)本規程は、会社の許可を得た上で業務に使用する自転車については適用しない。

第3条(許可条件)

1)自転車による通勤を希望する者は、会社に申請して許可を受けなければならない。
2)自転車による通勤は、次の各号を全て満たす従業員に認める。

  • 自宅から会社までの直線距離が10キロメートル未満の者であり、自転車による通勤時間が1時間を超えない者。
  • 安全運転に支障のない者。
  • 自転車損害賠償責任保険等に加入している者。

3)従業員の自宅から会社までの経路については、安全かつ合理的でなければならない。
4)自転車通勤の許可期間は1年以内とし、毎年4月1日に更新する。
5)更新は自動更新とせず、所定の承認手続きを取らなければならない。

第4条(許可)

1)自転車通勤を希望する者で第3条第2項各号の要件を満たした者は、所定の書類を添えて「自転車通勤許可申請書」を提出し、総務部長の承認を得なければならない。
2)「自転車通勤許可申請書」の記載内容に変更があった場合には、速やかに総務部長に報告し、再度、自転車通勤の許可を受けなければならない。

第5条(禁止事項)

1)運転に際しては、次の各号に該当する行為をしてはならない。

  • 自転車を業務に使用すること。
  • 労働時間中に私用で自転車を使用すること。
  • 許可を受けた自転車を他者に使用させること。
  • 飲酒運転をすること。
  • 過度の疲労等、安全運転が困難と予想される状態で運転すること。
  • 整備不良の自転車を使用すること。
  • 安全のための装備(ヘルメット、グローブ)をせずに運転すること。
  • 携帯電話を使用しながら運転すること。
  • 傘を差しながら運転すること。
  • 夜間、無灯火で運転すること。
  • 2人乗りをすること。
  • その他、道路交通法等の各種法令により禁止されている行為や会社が不適と認める行為をすること。

2)第1項各号に該当する行為をした場合には、自転車通勤の許可を取り消すことがある。

第6条(安全教育)

自転車通勤を許可された従業員は、会社が主催する安全教育を年に1回受けなければならない。

第7条(事故等の取り扱い)

1)自転車での通勤途中に事故を起こした場合は、速やかに上長に報告し、その指示に従わなければならない。
2)第1項における事故について、会社は原則として第三者に対する賠償責任を負わない。また、事故に伴う物損についてもその補償を行わない。
3)第1項における事故により会社が損害を受けたとき、会社は当該従業員に対して、賠償請求を行うことがある。
4)駐輪場内での自転車の破損・盗難等について、会社は一切の補償を行わない。

第8条(通勤手当等)

1)自転車による片道の通勤距離が2キロメートル以上の場合には、通勤距離に応じて、1キロメートル当たり400円を通勤手当として支給する。
2)通勤に使用する自転車の修理費その他一切の費用については、従業員の自己負担とする。

第9条(自転車の無断駐輪禁止)

1)自転車通勤をする従業員は、原則として会社の指定する駐輪場に通勤で使用する自転車を駐輪するものとする。
2)会社指定の駐輪場を利用しない特別な理由がある場合には、第4条に定める書類に加え、利用しない理由等を記載した事由書及び代替として利用する駐輪場の利用許可証等を添付した上で総務部長に提出し、許可を得るものとする。
3)会社の指定する駐輪場もしくは事前に許可を得ている駐輪場以外の場所に駐輪してはならない。

第10条(罰則)

従業員等が故意または重大な過失により、本規程に違反した場合、就業規則に照らして処分を決定する。

第11条(改廃)

本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則

本規程は、○年○月○日より実施する。

自転車通勤許可申請書(新規・更新)

誓約書

3 自転車通勤のルールを整備する際のポイント

1)自転車損害賠償責任保険等への加入

交通事故件数が減少傾向にある中、自転車関連事故は年間7万件前後と横ばいで推移しています。全交通事故に占める自転車関連事故の構成比や自転車対歩行者の事故の発生件数は増加傾向にあります。おおよそ8分に1回、自転車関連事故が発生している計算になります(警察庁・自転車ポータルサイト「事故・違反の発生状況」)。

自転車関連事故の加害者側には損害賠償責任が生じますが、被害者側が死亡してしまったり、後遺障害が残ったりした場合には、その賠償額が数千万円と高額になることもあります。

ちなみに、2024年4月1日時点で、全国の34都府県において、条例により自転車損害賠償責任保険等への加入を義務化、10道県において努力義務化する条例が制定されています(国土交通省「自転車損害賠償責任保険等への加入促進について」)。保険への加入が義務付けられていない地域であっても、従業員の自転車通勤を承認する場合、従業員の保険への加入は必須とした方がよいでしょう。その際は、保険の契約期間が通勤許可期間をカバーしているかについても確認します。

2)駐輪場の確保

企業で駐輪場を整備していない場合、従業員が自ら駐輪場を確保している旨を証明する書類を提出してもらうなどして、駐輪場を確保していることを確認する必要があります。

3)合理的な通勤経路

通勤に必要以上に時間を掛けて疲弊し、業務に支障が出るようでは本末転倒です。どの程度の距離まで自転車通勤を認めるかは企業によって異なりますが、疲労によって業務に支障がないよう、距離にして10キロメートル、時間にして1時間程度を目安に、通勤距離・時間の限度を決めるのがよいでしょう。

自転車通勤を許可するかを検討する際は、自宅から会社までの通勤経路を申告してもらいます。従業員の通勤経路を把握しておくと、万一、事故が起こったとき、労働者災害補償保険(以下「労災保険」)の通勤災害として認定されずに、従業員が不利益を被ることを防ぐこともできるでしょう。後述の通勤手当を幾ら支給するか決める際の基準にもなります。

1)から3)の内容を確認するに当たっては、保険証書のコピー、駐輪場の契約書、通勤経路を示した資料を「自転車通勤許可申請書」「誓約書」とともに提出させ、総務部などの担当部署で確認した上で自転車通勤の可否を判断するとよいでしょう。

4)通勤手当の取り扱い

自転車通勤者に対する通勤手当の支給方法の一つとして、通勤距離に応じて一定額を支給する方法があります。通勤手当の計算方法は、1キロメートル当たりの支給額を設定した上で、通勤距離に応じた額を支給する方法や、数キロメートルごとにテーブルを設けて、テーブルごとに支給額を変更する方法などが考えられます。

通勤手当の1カ月当たりの非課税限度額は次の通りです。

通勤手当の1カ月当たりの非課税限度額

通勤距離ごとの非課税限度額を基準に、自動車通勤をする従業員などと公平性が保たれるように自転車通勤の手当の額を決めるとよいでしょう。

以上(2026年5月更新)

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画像:ESB Professional-shutterstock

一般社員も経理担当者も要注意!「ニセ社長詐欺」を見破るには

1 STOP詐欺被害。「ニセ社長詐欺」に要注意!

自社の経営陣や取引先などになりすまして特定の企業や個人にメールを送り、機密情報や金銭をだまし取る「ビジネスメール詐欺」。

IPA(情報処理推進機構)が毎年公表する「情報セキュリティ10大脅威」では、「ビジネスメール詐欺」が、初選出の2018年から9年連続で組織向け脅威として取り上げられており、2026年には第10位にランクインしています。

情報セキュリティ10大脅威2026

特に気をつけたいのが、2025年末ころから急増している「ニセ社長詐欺」です。その手口は、

社長になりすまして一般社員や経理担当者にメールを送り、LINEグループを作らせた上で、業務命令を装って指定した口座に送金させる

というものです。警察庁によると、2026年1月から2月末までの2カ月間だけで、全国で58件、計20億円あまりの被害が発生したといいます。

「ニセ社長詐欺」をはじめとする「ビジネスメール詐欺」は、人の心理的な隙を突くものです。この記事では、怪しいメールを見破る方法、「おかしいな?」と気付いて手を止めるための心構えをお伝えします。

2 怪しいメールを見破る方法

1)類似するドメインが使用されていないか確認

ビジネスメール詐欺では、Gmailなどのフリーメールがよく使われますが、

正規のドメインに類似するドメインが送信元メールアドレスとして使われる

こともあります。例えば、ドメイン名を1文字入れ替える、追加する、削除する、ドメイン名に使われている「m(エム)」を「rn(アールエヌ)」にすり替えるなどがあります。

メールの差出人のメールアドレスが正しいか、必ず確認しましょう。

2)メールのヘッダ情報を確認

メールのヘッダ情報とは、

受信したメールがどこから、どのような経路で送られてきたのかを記録したもの

です。

具体的には次のような内容が記録されています。注目すべきなのは、FromとReturn-Pathです。通常、これらは同じになりますが、Fromが正規のドメインを偽装したものである場合、Return-Pathが本当の送信元である可能性があります。

  • 送信元:From
  • 送信先:To
  • メールが送信された時刻:Date
  • メールが配送されたルート:Received
  • メールの返信先:Reply-To
  • メール配信エラーの際の差し戻し先:Return-Path
  • メールの識別番号:Message-ID
  • 送信元の使用メールソフト:X-Mailer

ヘッダ情報の確認方法については、日本データ通信協会の次のウェブサイトを参照ください。

■日本データ通信協会「Eメールヘッダ情報の確認方法」■
https://www.dekyo.or.jp/soudan/contents/ihan/header.html

また、マイクロソフトが提供する「Message Header Analyzer」では、コピーしたヘッダ情報を貼り付けて、1クリックするだけで解析結果を表形式で確認することができます。

■マイクロソフト「Message Header Analyzer」■
https://mha.azurewebsites.net/

3 「おかしいな?」と気付いて手を止めるためには

1)LINEグループの利用を指示されたら要注意

「新しいプロジェクトのため」などといって、LINEグループの作成や、作成したLINEグループの招待用QRコードの返信を指示されたりしたら、疑ってかかりましょう。

特に、LINEグループに振込権限を持った担当者を含めるよう指示を受けたら、ほぼ間違いなく詐欺です。

もし、LINEグループに誘導されてしまった場合は、LINE内のトーク画面やプロフィール画面などに通報機能がある場合は通報をした後、速やかにLINEグループから退出します。

2)緊急の送金依頼や振込先口座の変更依頼を受けたら必ず指示した本人に確認

メールやLINEで緊急の送金依頼や振込先口座の変更依頼を受けた場合、

必ず指示した本人に確認する

ことを徹底します。その際、メールやLINEに記載された電話番号は偽装されている恐れがあるので、その番号にかけてはいけません。

3)社内で情報共有し、送金ルールを再確認

ビジネスメール詐欺(特に「ニセ社長詐欺」)の被害が全国で発生していることを、社内で情報共有します。その上で、送金ルールを再確認しましょう。

経理担当者だけでなく、一般社員に対しても、定期的にビジネスメール詐欺に関する注意喚起やセキュリティ教育を行うことが大切です。

4 参考

■警察庁「ビジネスメール詐欺に注意!」■
https://www.npa.go.jp/bureau/cyber/countermeasures/bec.html
■警察庁「法人を対象とした詐欺(ニセ社長詐欺)に注意!」■
https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/sos47/new-topics/260213/01.html
■IPA「ビジネスメール詐欺(BEC)対策特設ページ」■
https://www.ipa.go.jp/security/bec/about.html

以上(2026年6月更新)

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画像:pixabay

従業員・元従業員からの情報漏洩を防ぐには?

1 情報漏洩のルートは3つ

企業は取り扱う情報の重要度に応じて防御の要否やその対策を検討・実行していますが、情報漏洩が後を絶ちません。主な情報漏洩のルートは、

  • 第三者からの攻撃による漏洩
  • 従業員・元従業員のミスによる漏洩
  • 従業員・元従業員の故意による漏洩

の 3 つとされるので、それぞれ対策を進めましょう。例えば、

従業員の情報の取り扱いにミスがあっても、第三者からの攻撃を防止する対策を講じていたので難を逃れた

といったこともあります。

2 第三者からの攻撃による漏洩を防止

第三者からの攻撃は、オペレーション・システム(OS)やソフトウェア、ウェブアプリケーションの脆弱性を悪用したものが多いです。そのため、OSやソフトウェアを最新の状態にすることで多くを防止できるとされています。ここでは、IPA(情報処理推進機構)セキュリティセンターが中小企業向けに公表している「情報セキュリティ6か条」を基に対策を紹介します。

1)OSやソフトウェアは常に最新の状態にする

Windows UpdateなどOSのアップデートや、ソフトウェアの修正プログラムを適用するなどして、常に最新の状態にしておきます。古いまま放置していると、セキュリティ上の問題が改善されずに、それを悪用したウイルスに感染する危険性があります。

2)ウイルス対策ソフトを導入する

各PCなどにウイルス対策ソフトを導入し、ウイルス定義ファイルが自動更新されるように設定してあることを確認します。また、次々と新しいウイルスが出現しているため、統合型のセキュリティ対策ソフト(感染前の検知、挙動の監視、フィッシング対策など、多層防御機能を持つもの)の導入を検討するとよいでしょう。

3)パスワードを強化する

パスワードは、10文字以上で「できるだけ長く」、大文字、小文字、数字、記号含めて「複雑に」、名前、電話番号、誕生日、簡単な英単語などは使わず、推測できないようにします。また、ウェブサービスからID・パスワードが流出して悪用されることもあるため、同じパスワードを複数のウェブサービスで使い回さないようにします。

4)共有設定を見直す

データ保管などのウェブサービスやネットワーク接続した複合機・カメラなどの設定を誤り、無関係な人にも情報にアクセスされてしまうトラブルが後を絶ちません。共有範囲を限定するとともに、従業員の異動時・退職時には速やかにアクセス権限を変更・削除しましょう。

5)バックアップを取る

故障や誤操作、ウイルス感染などにより、パソコンやサーバーの中に保存したデータが消えたり、暗号化されたりしてしまうことがあります。重要情報のバックアップは定期的に行いましょう。また、バックアップに使用する装置・媒体は、バックアップ時のみパソコンと接続するようにし、オンラインバックアップの活用など取得方法も決めておきましょう。

6)脅威や攻撃の手口を知る

日々、悪意ある第三者が情報を盗むために、さまざまな攻撃・手口を生み出しているので、最新の情報を知り、対策を実施します。IPAやセキュリティベンダーなどが新しいウイルスや攻撃の手口、その対策などの情報発信をしているので、参考にします。

3 従業員・元従業員のミスによる漏洩を防止

1)情報管理の6つの視点

従業員・元従業員のミスによる情報漏洩は多いものです。ミスの中には、誤操作、紛失・置き忘れ、盗難、管理ミス、設定ミスなどがあります。ミスを防止するためには、次の視点から情報を管理します(IPA「情報漏えい対策のしおり(第7版)から一部抜粋」)。

  • 情報を許可なく、持ち出さない
  • 情報を未対策のまま目の届かない所に放置しない
  • 情報を未対策のまま廃棄しない
  • 私物の機器類やソフトなどのデータを、許可なく持ち込まない
  • 個人に割り当てられた権限を許可なく他の人に貸与または譲渡しない
  • 業務上知り得た情報を、許可なく公言しない

上記はどれも重要な対策であり、「情報を持ち出す際は許可を取る」「誤操作がないように2人1組で作業をする」などの社内ルールを策定している企業も多いと思います。とはいえ、ルールが形骸化している、従業員が十分にルールを認識していないこともあります。上記6つや、それに関連する社内ルールを、いま一度、組織に周知徹底しましょう。

また、上記と併せ、万が一ミスが発生した際は、「自分で判断せず、まず上司などに報告」するよう従業員に徹底させることも大切です。

2)テレワーク下での対策

テレワークをしている企業は、前述の「1.情報を許可なく、持ち出さない」「4.私物の機器類やソフトなどのデータを、許可なく持ち込まない」「5.個人に割り当てられた権限を許可なく他の人に貸与または譲渡しない」の視点に立った管理が重要です。

テレワークでは、ある程度情報にアクセスできなければ仕事になりません。そのため、従来よりも多くの従業員に情報を持ち出す許可や、アクセスする権限を与えているかもしれませんが、社外に漏洩しては困る情報の持ち出しは禁止するなどしましょう。

なお、総務省は「テレワークセキュリティガイドライン」や「中小企業等担当者向けテレワークセキュリティの手引き(チェックリスト)」を公表しています。次のウェブサイトからダウンロードできるので、参考にするとよいでしょう。

■総務省「テレワークにおけるセキュリティ確保」■
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/cybersecurity/telework/

4 従業員・元従業員(内部)の故意による漏洩を防止

従業員・元従業員の故意による漏洩はミスによる漏洩などに比べて少数です。しかし、漏洩するのは顧客情報などで、そうなったときのダメージは大きなものです。

ここまで紹介した、「従業員の異動時・退職時には速やかにアクセス権限を変更・削除する」など、情報へのアクセスを制限する対策の他に、秘密保持・競業避止義務を課すことを検討します。これにより、従業員・元従業員に対する抑止力が働き、漏洩が起こった場合は当該従業員・元従業員の責任を追及できる可能性があります。

1)従業員・元従業員の秘密保持義務

労働契約の存続期間中、従業員(パートなどを含む)は秘密保持義務を負うと考えられています。秘密保持義務とは、

企業の業務上の情報を第三者に開示・漏洩しない義務

です。就業規則などで明確に定めていなくても、労働契約の付随的義務として信義則上負うものと考えられています。

また、労働契約の終了後においても、契約書や誓約書等を作成していない場合であっても、信義則上、一定の範囲で秘密を漏洩しない義務を引き続き負っていると考えられています。もっとも、情報漏洩を防止する観点からは、その秘密の性質・範囲、価値、従業員の退職前の地位などを考慮して、別途、退職時に秘密保持契約を締結するなどの手立てを講じておくことが望ましいでしょう。

2)秘密保持・競業避止義務の範囲

従業員・元従業員が秘密保持義務や競業避止義務を負う場合でも、その範囲は無制限ではありません。職業選択の自由や営業の自由を制約することはできないため、度が過ぎると公序良俗に反するものとして、無効になる場合があります。

例えば、従業員に対して「秘密情報を利用して、在職中、退職後に競合他社に就職するなどの競業行為を行ってはならない」とする競業避止義務を課す場合がありますが、このような規定の有効性については個別具体的な状況によって判断されます。

裁判では次の4つが総合的に考慮され、有効性が判断されるといわれています。ただし、個別の事案によって異なるため、この例と類似するからといって、必ずしも有効性が認められるわけではありません。

競業避止義務の有効性が認められた例

また、退職後の秘密保持義務についても、これを広く容認することは職業選択の自由を制約することになりますので、義務の内容が公序良俗に反して無効となる場合があります。公序良俗に反するかは、その秘密の性質・範囲、価値、労働者の退職前の地位に照らし、合理性が認められるかどうかにより判断します。また、退職後の契約上の秘密保持義務の範囲については、その義務を課すのが合理的であるといえる内容に限定して解釈するのが相当であるとされています。

その他、就業規則に退職後の競業避止義務や秘密保持義務を規定しておくことも可能ですが、競業避止義務や秘密保持義務の内容は、個別に従業員の地位や仕事内容に合わせて設定する必要があるため、個別に誓約書や合意書などを取り付けるのが望ましいでしょう。

3)秘密情報・秘密保持義務などの定義

秘密情報の定義やその管理方法は法的に定められていません。従業員・元従業員に秘密保持義務や競業避止義務を課すためには、従業員・元従業員に秘密情報の対象を明示し、秘密情報として管理されていることが認識できる状態にしていたか否かなどが問われます。

そのため、例えば、従業員・元従業員に秘密情報の対象を示さず、全従業員が容易に秘密情報にアクセスできるような管理状態では、秘密情報だと主張して、従業員・元従業員に秘密保持義務を課すには不十分だということです。

以上から、就業規則や秘密保持に関する誓約書などにおいて、秘密情報の対象と取り扱い範囲を規定することが必要といえるでしょう。これらに違反した場合の処分規定を設けておけば、従業員・元従業員が秘密情報を不当に持ち出すことの抑止力にもなります。

秘密情報の範囲は不明瞭になりがちなので、できるだけ具体的に秘密情報を規定し、新しい情報をその都度、追加していくとよいでしょう。

なお、経済産業省のウェブサイトでは、秘密情報の管理方法や秘密保持契約(誓約書)のひな型などが公開されているため、参考にするとよいでしょう。

■経済産業省「営業秘密~営業秘密を守り活用する~」■
https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/trade-secret.html

4)従業員以外にも及ぶ営業秘密の効力

特に重要な秘密情報については、「営業秘密」として管理することが肝要です。従業員・元従業員が秘密保持義務に違反し、第三者に秘密情報を漏洩させても、企業は当該第三者と契約関係がないため、第三者に対して債務不履行責任を問うことは基本的にできません。しかし、不正競争防止法上の「営業秘密」と認定されれば、その侵害については罰則が設けられているため、刑事・民事の両面で、当該第三者に対する法的措置が取りやすくなります。

また、情報を持ち出された企業が損害賠償を請求する場合、企業が損害の発生や損害額を立証する必要がありますが、営業秘密と認定されることで、不正競争防止法上の損害額の推定規定が適用されます。

営業秘密とは、不正競争防止法の保護・規制を受ける、次のような情報です。

秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの

営業秘密として認定されるためには、

  • 秘密管理性(秘密として管理されていること)
  • 有用性(有用な営業上または技術上の情報であること)
  • 非公知性(公然と知られていないこと)

の3要件を満たす必要があります。この3要件を意識し、情報に接することができる従業員等にとって、秘密だと分かる程度の措置(例えば、紙や電子記録媒体へ「マル秘」「持ち出し禁止」の表示をする、秘密保持契約等によって秘密情報の対象を特定する、データへのアクセス制限する、パスワード設定をするなど)を講じるとよいでしょう。

以上(2026年5月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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画像:show999-Adobe Stock

経営のヒントとなる言葉(坂本龍馬)

「丸くとも 一かどあれや人心 あまりまろきは ころびやすきぞ」

出所:「坂本竜馬関係文書1」(東京大学出版会)

冒頭の言葉は、

「温厚で円満な中にも、決して揺らぐことのない、毅然とした一面を持たなくてはならない」

ということを表しています。

1853年、米国から黒船が来航し、幕府に開国を迫りました。この要求を受けた幕府は1854年に米国と日米和親条約を、さらに1858年には日米修好通商条約を締結しました。この幕府の対応によって国内では攘夷運動(外国人や外国文化を排斥すること)が盛んになり、幕府に対する反発が強まりました。こうした中、龍馬は「世界と対等に向き合うためには、海外との貿易によって国力をつけなくてはならない」ということを悟り、広く世界へ目を向けるようになります。

その後、龍馬は自由な活動を求めて土佐藩を脱藩し、江戸に上りました。そして、幕府の高官勝海舟のもとを訪れ、「これからの日本には、開国と海軍の創設が必要である」という勝の意見に共感しました。その後、古い体制である幕府を倒し、新しい体制を作り上げることを志すようになりました。

やがて幕府の威力が衰えて倒幕の機運が高まると、龍馬は、同じ倒幕という考えを持ちながらも反発し合っていた薩摩藩と長州藩の仲をとりもち、1866年に薩長同盟を成立させました。このことによって倒幕への流れは大きく加速し、やがて幕府が倒され、1868年にはついに明治新政府が成立しました。

地方の低い身分の家に生まれた龍馬が日本を大きく変えるようなことを成し遂げられたのは、柔軟で円満な性格によるところが大きいといわれています。当時、龍馬とともに活動していた同志は、龍馬を「大声で自分の意見を論じるようなこともない、とてもおとなしい人で、何事も温和に事を処する」と評しています。この言葉の通り、龍馬はさまざまな人と交わり、さまざまな立場の人の意見をよく聴き、よいと思った点を素直に吸収する柔軟な考えを持っていました。

しかし、同時に、決して揺らぐことがない毅然とした一面も持っていました。薩摩藩と長州藩との仲をとりもつに当たり、両藩の意見を傾聴しつつも、説くべき点はしっかりと説き、実現不可能と思われていた薩長同盟を成立させています。

1863年、勝とともに海軍操練所の創設に没頭していた当時、龍馬は姉に宛てた手紙で次のように述べています。

「一人の力で天下うごかすべきハ、是又天よりする事なり(自分一人の力で国家を動かすことは、天が自分に与えた使命である)」

丸い形は安定性に欠けますが、そこに「一かど」を加えることで、しっかりと安定します。温厚で円満なだけでは、色々なことに流されてしまいがちです。円さの中にも、決して揺らぐことのない「一かど」を持つことが、大きなことを成す上で最も重要なことだといえるでしょう。

【本文脚注】

本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を担保するものではありません。また、本文中では内容に即した肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思われるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。

【経歴】

さかもとりょうま(1835~1867)。土佐国(現高知県)生まれ。1866年、薩長同盟の周旋。1867年、船中八策の起草。

【参考文献】

「坂本竜馬関係文書1」(日本史籍協会編、東京大学出版会、1988年12月)

「龍馬の手紙 坂本龍馬全書簡集・関係文書・詠草」(坂本龍馬(原著)、宮地佐一郎(著)、講談社、2003年12月)

以上(2026年5月更新)

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画像:日本情報マート

「奨学金の代理返還制度」を活用して若手人材に選ばれる会社へ!

1 ご存じですか? 奨学金の代理返還制度

多くの学生が利用する日本学生支援機構の奨学金制度。返さなくてよい「給付奨学金」と、返さなければいけない「貸与奨学金」がありますが、学生の4人に1人は貸与奨学金を利用しているといいます。

毎月の貸与奨学金の返還(返済)は、若手社員にとって経済的に大きな負担となっており、キャリア形成や、結婚・出産といったライフイベントにも影響を及ぼしています。そうした中、2021年4月に始まったのが、

企業が日本学生支援機構に対し、社員に代わって貸与奨学金の返還分を直接送金する「企業の奨学金返還支援(代理返還)制度」(以下「奨学金の代理返還制度」)

です。

奨学金の代理返還制度は、初任給を増額したり、返還分を給与に上乗せ支給したりする場合と比べて、税金や社会保険料の負担などで社員、企業の双方にメリットがあり、若手人材の採用・定着を目指す福利厚生の一策として注目されています。以降で詳しく見ていきましょう。

2 奨学金の代理返還制度のメリット

1)【社員】所得税や住民税の負担を抑えられる可能性がある

初任給を増額したり、貸与奨学金の返還(返済)に充てる一定金額を社員の給与に上乗せ支給したりした場合、給与所得として課税対象となります。

一方、企業が代理返還する場合、企業が直接、日本学生支援機構に送金するので、社員の通常の給与と返還分は区分されます。奨学金の返還であることも明確です。このため、返還分に係る所得税は非課税となります(貸与奨学金の返還をしなければならないのが役員である場合など、一定の場合には所得税の課税対象となることがあります)。

国税庁「質疑応答事例(所得税)」によると、

「奨学金の返済に充てるための給付は、その奨学金が学資に充てられており、かつ、その給付される金品がその奨学金の返済に充てられる限りにおいては、通常の給与に代えて給付されるなど給与課税を潜脱する目的で給付されるものを除き、これを非課税の学資金と取り扱っても、課税の適正性、公平性を損なうものではないと考えられます」

との見解が示されています。

住民税は前年の所得に基づいて徴収されますが、初任給を増額したり、貸与奨学金の返還(返済)に充てる一定金額を社員の給与に上乗せ支給したりした場合と比べて、企業が代理返還する場合は住民税の負担を抑えられる可能性があります。

2)【社員/企業】健康保険料などの負担を抑えられる可能性がある

企業が代理返還する場合、その返還分は、原則として、標準報酬月額の算定の基となる報酬に含めません(ただし、給与規程などによって、給与に代えて奨学金返還を行う場合には、報酬に含みます)。

このため、標準報酬月額を基に計算する健康保険料、厚生年金保険料の負担を抑えられる可能性があります。なお、介護保険料については、貸与奨学金を返還し終わるであろう40歳以上の社員が対象のため、ここでは考慮していません。

3)【企業】法人税では給与として全額損金算入できる

企業が代理返還する場合、その返還分は、社員(使用人)の奨学金の返済に充てるための給付に当たるので、給与として全額損金算入できます。

4)【企業】支援の取り組みを採用活動でPRできる

奨学金の代理返還制度を導入することは、福利厚生の1つとして求職者(特に若手人材)へのPR材料となります。

また、奨学金の代理返還制度を導入している(導入予定も含む)企業は、掲載依頼をすれば、日本学生支援機構のウェブサイトにある「各企業の返還支援制度」に社名や支援内容を掲載してもらえます。日本学生支援機構から、大学や学生などに対して就職後に支援が受けられる企業として紹介してもらうことも可能です。

3 奨学金の代理返還制度を導入するには?

1)社内制度を整える

奨学金の代理返還制度は、学生時代に日本学生支援機構の貸与奨学金を利用し、その返済をしている社員を優遇するものです。そのため、対象者と対象でない社員との公平性に留意した上で、社内規程を作成することが求められます。検討すべきポイントは次の通りです。

  • 対象者:雇用形態、勤続年数、選考を行うなど
  • 支援金額:返還額の一部または全額、上限金額を設けるなど
  • 施行期日:いつから施行するか

2)対象者を決める

奨学金の代理返還制度の対象者については慎重に検討しましょう。対象者が、返還が終わったらすぐに退職してしまう場合もあり得ます。そうすると、企業側は、いわば「借金を肩代わりしただけ」になってしまいます。

しかし、「一定期間自社に勤務しなければ、自社が代理返還した金額を返さなければならない」といった契約を結ぶことはできません。労働基準法では、労働契約の不履行について違約金を定め、また損害賠償額を予定する契約を禁止しているからです。

職場や仕事内容への不満などが理由で退職に至らないよう、企業としての魅力を高めつつ、対象者を上手にフォローしていくことも大切です。

3)日本学生支援機構に返還支援申請をして、「スカラKI」に登録する

企業から日本学生支援機構への送金は、日本学生支援機構が提供する、企業の返還支援(代理返還)システム「スカラKI(ケーアイ)」を利用して行います。

詳細は、日本学生支援機構のウェブサイトをご確認ください。

■日本学生支援機構「企業の奨学金返還支援(代理返還)制度」■
https://www.jasso.go.jp/shogakukin/kigyoshien/

4 日本学生支援機構の貸与奨学金の利用実態

1)学生の4人に1人が日本学生支援機構の貸与奨学金を利用

令和6年度には、日本の高等教育機関(大学・短大、大学院、高等専門学校、専修学校専門課程)で学ぶ学生(約358万人)のうち、約115万人(約32.2%)が、日本学生支援機構の奨学金を利用しています。給付を受けている学生は約10人に1人(10.5%)、貸与を受けている学生は約4人に1人(26.4%)となっています(日本学生支援機構「奨学金事業に関するデータ集(令和8年1月)」)。

2)第二種奨学金の貸与を受けた大学(学部)生は、平均で336万円を17年かけて返還

日本学生支援機構の貸与奨学金は、利子のつかない第一種奨学金と、利子のつく第二種奨学金があります(両方の貸与を受けることも可能)。2025年3月に貸与を終了した奨学金を見ると、大学(学部)在学中に貸与を受けた学生1人当たりの奨学金の平均貸与総額と平均返還年数は、次の通りです(日本学生支援機構「奨学金事業に関するデータ集(令和8年1月)」)。

  • 第一種奨学金:平均貸与総額208万円(平均返還年数14年)
  • 第二種奨学金:平均貸与総額336万円(平均返還年数17年)

3)第二種奨学金の貸与利率は、貸与が終了した月に決まる

第二種奨学金は、貸与を申し込む際、利率固定方式(貸与終了時に決まった利率が返還完了まで適用)と、利率見直し方式(返還期間中、おおむね5年ごとに見直された利率が適用)のどちらにするかを決める必要があります(貸与終了までの所定の期限内に手続きをすれば利率の算定方法の変更は可能)。一方、実際の貸与利率(年利)は、卒業などで貸与が終了した月の市場金利に基づいて決まります(基本月額に係る利率は年利3%が上限)。

金融政策の見直しなどの影響もあって、貸与利率は急上昇しており、2026年3月に貸与が終了した人の場合、基本月額にかかる利率固定方式の貸与利率は2.423%となっています。奨学金の代理返還制度が始まった翌春2022年3月に貸与が終了した人の場合、基本月額にかかる利率固定方式の貸与利率は0.369%だったので、卒業年次が4年違うだけで貸与利率に6倍以上の差が生じています。同じ金額の貸与を受けたとしても、返済総額は2026年3月に貸与が終了した人の方が、2022年3月に貸与が終了した人よりも大きくなる計算になります。

4)延滞問題

貸与奨学金の返済が滞り、延滞3カ月になると、延滞情報が個人信用情報機関のいわゆる「ブラックリスト」に登録されます。そうすると、一定期間、クレジットカード利用が制限されたり、住宅ローンを組めなくなったりします。

延滞4カ月になると、債権回収業者による回収が行われます。さらに延滞9カ月になると、多くの場合、支払督促という裁判所を利用した手続きに移行します。一括返済するように督促され、支払いができないとき、自己破産に至るケースがあります。親が連帯保証人や保証人となっていた場合、自己破産をすると親に一括請求がなされることになり、破産が連鎖する恐れもあります。

以上(2026年5月更新)

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画像:Jokiewalker-Adobe Stock

自社は優遇措置を受けられる 「中小企業」に該当するのか?

1 法律によって「中小企業」の定義が違うって本当?

税制優遇や補助金、助成金を受けるための要件の1つに、

「中小企業」であること

と示されていることがあります。

一般的に、会社の規模を決める要素には、資本金、従業員数、業種などがありますが、「中小企業」として扱われる基準は法律によって違うことをご存じでしょうか。自社が、ある法律では中小企業としての要件を満たしていても、別の法律では要件を満たさずに、税制優遇や補助金、助成金を受けられないことがあります。

そこで、この記事では、税制優遇や補助金申請において押さえておきたい、下記の5つの法律で示されている中小企業の定義を整理します。

  • 中小企業基本法
  • 産業競争力強化法
  • 法人税法
  • 租税特別措置法
  • 会社法

自社がどの法律なら「中小企業」に該当するのか確認してみましょう。

なお、一言で中小企業といっても、法律ごとに「会社」「法人」「企業」のように用語が異なるため、この記事でもそれぞれの法律に合わせて表記をします。

2 法律ごとの中小企業の定義を確認しよう

1)まずは全体像を把握しよう

まずは、中小企業基本法、産業競争力強化法、法人税法、租税特別措置法、会社法で示されている中小企業の定義の全体像を把握してみましょう。資本金、従業員数、業種等によって中小企業の要件が異なることが分かります。

法律ごとに異なる中小企業のイメージ

2)中小企業基本法

中小企業基本法では、業種によって中小企業の定義が違います。まず、中小企業の要件を満たすかどうかの基準は次の2点です。

  • 資本金の額または出資の総額
  • 常時使用する従業員の数

次に、下記の図表で「資本金の額または出資の総額」「常時使用する従業員の数」のいずれかを満たしていれば、中小企業基本法における中小企業に該当するといえます。

中小企業基本法における中小企業の定義

常時使用する従業員とは、労働基準法第20条の規定に基づく「予め解雇の予告を必要とする者」を従業員と定義しています。そのため、解雇の予告が必要ない日雇い労働者や、4カ月以内の季節的業務の有期雇用者などは常時使用する従業員には含まれません。

なお、同じ企業が「製造業」と「サービス業」のように、業種が異なる事業を複数手掛けている場合は、「主たる事業」が属する業種を基に判断します。主たる事業とは、直近1事業年度の決算書において、売上高などが最も大きい事業を指します。

3)産業競争力強化法

産業競争力強化法では、前述した中小企業基本法と同様の範囲(図表2参照)に含まれる企業を中小企業者として定義しています。

一方で、従業員数が2000人以下で、中小企業基本法に中小企業に該当しない企業は「中堅企業者」と定義しています。例えば、製造業の場合は常時雇用する従業員数が300人以上、2000人以下かつ、資本金が3億円超の企業が中堅企業者と定義されます。

また、中堅企業の中でも、次の要件を満たす企業は特に成長意欲が高い企業として、「特定中堅企業者」と定義しています。

  • 賃金(常時使用する従業員1人当たり給与等支給額)が業種別平均以上
  • 常時使用する従業員数の年平均成長率(3事業年度前比)が業種別平均以上
  • 直近3事業年度のうち、いずれかの事業年度が、中堅企業者の業種別平均以上の売上高成長投資比率であること

4)法人税法

法人税法では、中小企業に該当する法人を中小法人等と規定しています。中小法人等に該当するためには、次のいずれかの要件を満たす必要があります。

  • 普通法人のうち、資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下であること
  • 資本または出資を有しないもの
  • 公益法人等または協同組合等
  • 人格のない社団

ただし、次の要件に該当する法人を除きます。

  • 資本金の額または出資金の額が5億円以上の法人等による完全支配関係(簡単に言うと、100%の支配)があること
  • 複数の大法人(資本金の額または出資金の額が5億円以上の法人等)に発行済株式の全部を直接、もしくは間接的に保有されていること

5)租税特別措置法

租税特別措置法では、中小企業に該当する法人を中小企業者と規定しています。中小企業者に該当するためには、原則、次のいずれかの要件を満たす必要があります。ただし、税制によっては、個別の企業要件(従業員数など)があるため、優遇税制の適用を検討する際には税理士などの専門家に確認するようにしましょう。

  • 資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下であること
  • 資本または出資を有しない法人(公益財団等)については、常時使用する従業員数が1000人以下であること

ただし、次の要件に該当する法人等を除きます。

  • 発行済株式の総数または出資の総額の2分の1以上を同一の大規模法人に所有されていること(発行済株式は、自社の株式または出資を除いた分が対象)
  • 発行済株式の総数または出資の総額の3分の2以上を複数の大規模法人に所有されていること(発行済株式は、自社の株式または出資を除いた分が対象)

また、「適用除外事業者(前3事業年度の平均所得金額が15億円超の中小企業者)」に該当する場合も、優遇措置の対象から除かれます。

なお、大規模法人とは、中小企業者の要件に該当しない法人または大法人(資本金の額または出資金の額が5億円以上の法人)による完全支配関係がある法人等をいいます。

6)会社法

会社法では、中小企業の定義がなく、大会社のみが規定されています。次のいずれかの要件を満たせば大会社に該当します。逆に言えば、次のいずれの要件も満たさない場合は、便宜上、中小企業(大会社以外の会社)といえます。

  • 最終事業年度に係る貸借対照表に資本金として計上した額が5億円以上
  • 最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上

また、会社法における大会社は、決算公告や内部の組織について規定があります。会社法における大会社と非大会社(中小企業)の分類は次の通りです。

会社法における大会社と非大会社の分類

大会社では、取締役会の内部統制義務(注)がある、会計監査人を置かなければならない、決算公告は、貸借対照表と損益計算書の開示が必要といった規定があります。

これに対して、非大会社では、監査役会と会計監査人の設置は任意、決算公告は貸借対照表のみとしていますが、自社が発行する株式の一部または全部を自由に譲渡可能な公開会社(定款で株式の譲渡制限を設けていない会社をいいます)の場合は、3人以上で構成する取締役会を設置する必要があります。

(注)株主から経営を委ねられた取締役会が主体となり、取締役の業務が会社法や自社の定款にのっとり、適切に行われているかどうかチェックするための体制をいいます。大会社かつ取締役会設置会社の要件に該当する場合に内部統制義務があります。

以上(2026年5月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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画像:ChatGPT