【書籍ダイジェスト】『トリニティ組織』

本書では、膨大なデータの解析から導き出された、生産性も従業員の幸福度も高い組織をつくるためのカギとなる、人的ネットワークの「形」と、その組織や社会への影響について詳細に解説している。
著者の研究チームは、オリジナルの赤外線通信機能とセンサを備えたウエアラブルデバイスで測定した、1兆個を超えるデータの解析により、人間の幸せ・不幸せを決定づける重要な要素「ファクターX」を発見。その論文は2020年、権威ある英国の科学論文誌である「Nature/Scientific Reports」に発表された。ファクターXとは、「V字」と「三角形」の違いである。

書籍ダイジェストは、こちらからお読みいただけます。pdf

勤務間インターバル制度の導入で最大970万円の助成金が!?

1 「勤務間インターバル制度」は助成金の対象

残業削減は既にさまざまな方法で試行錯誤されていると思いますが、やはり社員の過重労働が心配です。この記事では別の視点から、「勤務間インターバル制度」を紹介します。

勤務間インターバル制度とは、社員が終業してから次に始業するまでに、一定時間の休息を取ることを促進することで、社員の生活時間や睡眠時間を確保する制度

です。就業規則等で休息時間数を設定し、終業から次の始業までの間隔が休息時間数に満たなければ、その時間数分、労働したものとみなしたり、翌日の始業時刻を繰り下げたりします。

休息時間数が11時間の勤務間インターバル制度のイメージ

現在、勤務間インターバル制度の実施は「努力義務」となっていますが、政府内では

原則「休息時間数を11時間」とする制度を想定し、さらに実施を「努力義務→義務」に切り替えることが議論(なお、2026年通常国会での提出は見送り)

されています。例えば、24時に終業し、次の始業が翌日9時の会社の場合、社員は帰宅時間も含めて9時間しか休めません。ですが、勤務間インターバル制度が義務化された場合、「11時間休息を取らせる」ことになるので、社員は図表1のように11時から勤務を開始すればよいわけです。

勤務間インターバル制度は働き方改革を実現するための1つの取り組みですが、いまひとつピンとこないこともあって導入は進んでいません。ただし、一定の要件を満たした場合には、

働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)の対象となり、最大970万円を受給できる可能性がある

ことをご存じでしょうか。助成金の支給を受ける場合、事前に所定の「交付申請書」を事業実施計画書などとともに、所轄都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に提出します。

2026年度の助成金の申請期限は、2026年11月30日まで

です。

働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)

厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000150891.html

2 勤務間インターバル制度を導入する際のポイント

1)休息時間数の考え方・導入方法

過重労働を防止する上で、休息時間数が長いに越したことはありません。とはいえ、いきなり長い休息時間数で運用するのは人材不足や時間管理の点から難しいので、最初は短めに休息時間数を設定し、状況を見つつ徐々に延長していくのがよいでしょう。

ただし、休息時間数が9時間未満だと、働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)の対象外になってしまうので注意が必要です。また、前述した通り、政府内では原則「休息時間数を11時間」とする制度の義務化が想定されているので、この点は考慮に入れておいたほうがよいでしょう。

なお、一度設定した休息時間数を安易に短くするのは避けるべきです。とはいえ、取引先との商談や社内の重要な会議などで、休息時間の確保が難しくなるケースもあります。こうした場合は、社員から事前に申請させるようにした上で、社員の体調維持に配慮しましょう。

実際に勤務間インターバル制度を導入する際は、労使での話し合いを土台とし、制度導入の検討、制度の設計、運用、見直しのフェーズに沿ってPDCAサイクルを回しながら進めることが大切です。厚生労働省が運営する「働き方・休み方改善ポータルサイト」では、超過勤務が発生しがちな業界ごとに「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル」や「導入・見直しのためのワークシート」が掲載されており、具体的な方法を確認する際の参考になります。

働き方・休み方改善ポータルサイト「資料ダウンロード」
https://work-holiday.mhlw.go.jp/interval/download.html

2)就業規則の規定例

以下は、休息時間数を11時間とした場合の就業規則の規定例です。なお、休息時間数を確保するため、本来の始業時刻から休息時間の満了時刻までは労働したものとみなし、その時間分の賃金は減額しないものとしています。社員に有利な規定となっていることをご認識ください。

【規定例】

第◯条(勤務間インターバル制度)

1)会社は社員に対し、1日の勤務終了後、次の勤務の開始までに、少なくとも11時間の継続した休息時間を与える。ただし、災害その他やむを得ない事情がある場合はこの限りでなく、会社は社員に対し、休息時間中であっても業務を行わせることができる。
2)前項の休息時間の満了時刻が、次の勤務の所定始業時刻以降に及ぶ場合、当該始業時刻から満了時刻までの時間については労働したものとみなす。

この他に、年末年始や業務の緊急性など特別な事情が生じた場合には、適用を除外する定めを設けるなど、柔軟に対応することも可能ですので、会社の実態に応じて検討しましょう。

3 導入している会社が少ないのはなぜ?

最後に補足として、なぜ勤務間インターバル制度の導入が進んでいないのかを紹介します。興味がある方はご確認ください。

【勤務間インターバル制度の導入状況】

勤務間インターバル制度を「導入している」と回答した会社はわずか6.9%です。そして、勤務間インターバル制度を導入していない理由は次の通りです。

【勤務間インターバル制度を導入していない理由】

導入しない理由としては、「超過勤務の機会が少なく、当該制度を導入する必要性を感じないため」という会社が多いようです。これは、働き方改革により長時間労働が是正されてきたことによる影響が大きいでしょう。

しかし、特定の業界では、依然として超過勤務が常態化している業界もあります。また、「人員不足や仕事量が多いことから、当該制度を導入すると業務に支障が生じるため」など、今の体制に勤務間インターバル制度が合わない会社もあるようですので、必要性や業務の実態、業界も踏まえた上で導入を検討することが大切です。

以上(2026年5月更新)
(監修 石原法律事務所 弁護士 磯田翔)

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税務のグレーゾーン 経営者が押さえておくべき勘所

1 グレーゾーンを把握して、税務の勘所を高めよう

経営をしていると、税務処理を選択しなければならない機会が結構あります。問題は白黒がはっきりしていない、つまり場合によっては課税リスクが高まるかもしれないケースがあることです。税務処理の選択による課税リスクは、「白・黒・グレー」の3色で表現され、それぞれ次のような意味合いで使われます。

【3色で表現される税務上の処理方法】

経営者が税務の勘所を高めるために重要なのは、グレーゾーンの考え方を知ることです。グレーゾーンは解釈次第で税務署側の取り扱いが変わることがあるためです。グレーゾーンは「〇〇円未満なら白で、それ以上は黒」といったように、文字通り、金額で白黒はっきりするようなものではなく、法令でも、

「不相当に高額」「通常要する費用」「専ら」

などという言葉で表現されます。これらが具体的にどのようなことを示しているのでしょうか。

税務調査で指摘を受けやすいグレーゾーンとして、

  • 「不相当に高額」な役員報酬
  • 「不相当に高額」な役員退職金
  • 「通常要する費用」としての交際費
  • 「専ら」従業員のために行われる福利厚生費

について解説していきます。

2 「不相当に高額」な役員報酬

1)「不相当に高額」と判断される一般的な基準(考え方)とは

役員報酬については、定期同額(毎月一定の額など)で支給されているなどの条件を満たしていれば基本的に損金(税務上の費用)とすることができます。しかし、その支給金額が「不相当に高額」な場合、その高額と判断された部分については損金と認められません。

役員報酬について「不相当に高額かどうか」を判断する基準には、

  • 形式基準
  • 実質基準

の2つがあります。

形式基準とは、

定款や株主総会の決議で決めた役員報酬の限度額と照らし合わせて判断するもの

です。つまり、あらかじめ決定した限度額を超えて支給した場合は、超過額部分については損金とされないことになります。

実質基準とは、

役員の職務の内容や会社の収益状況、従業員に対する給与の支給状況、あるいは、同業他社との比較などで「不相当に高額かどうか」を判断するもの

です。そのため、

  • 実質的に何もしていない役員(名前だけの役員)に役員報酬を支給している場合
  • 売上・利益が減少していて、従業員のボーナスなどもカットしているのに、役員報酬だけ増加傾向にある場合

には、税務調査で指摘されることが多いです。

2)現場レベルで注意すべき点は

形式基準は、定款や株主総会の議事録などで確認できます。もし実際の支給額と限度額の金額が近い場合には、次の株主総会で限度額の増額を決定しておくようにしましょう。

また、役員報酬を決定するときには、会社の利益の状況などを踏まえた上で決定することとし、「なぜその金額に決定したの?」という調査官からの問いかけに対して、合理的に説明できる資料を書面で準備しておくことが重要です。特に役員報酬を増額する際にはその理由を明確にしておきましょう。

3 「不相当に高額」な役員退職金

1)「不相当に高額」と判断される一般的な基準(考え方)とは

役員退職金は基本的に損金とすることができるのですが、その支給金額が「不相当に高額」な場合、その高額と判断された部分については損金と認められません。

役員退職金は、職務に従事していた期間や退職の事情や、同業他社の支給状況などを総合的に勘案して判断されます。よく利用される基準に「功績倍率法」というものがあります。これは、次の算式に当てはめて役員退職金の額を決定する方法です。

退職直前の役員報酬の月額 × 勤続期間 × 職責に応じた倍率

必ずしも功績倍率法で計算すれば税務上認められるわけではありませんが、支給額を決定する際の参考にするとよいでしょう。

なお、

  • 実質的に何もしていない役員(名前だけの役員)に退職金を支給した場合
  • 退職直前に極端に役員報酬を増額し、功績倍率法の計算結果を意図的に増やした場合

には、税務調査で指摘されることが多いので注意しましょう。

3)現場レベルで注意すべき点は

役員報酬と同じで、支給した役員退職金について「なぜその金額に決定したの?」という調査官からの問いかけに対して合理的に説明できる資料を書面で準備しておくことが重要です。

また、功績倍率法を使用する場合は役員退職金規程を整備するとともに、役員報酬については会社の利益の状況などを鑑みつつ、計画的に増額するようにするとよいでしょう。

4 「通常要する費用」としての交際費

1)「通常要する費用」と判断される一般的な基準(考え方)とは

中小企業の場合、損金として認められる交際費は「年間800万円まで」と決まっています。そのため、飲食費だからといってなんでも交際費にしてしまうと、損金として認められない交際費が出てくる可能性があります。

一般的に交際費となりそうな費用であっても、「通常要する費用」の範囲内であれば交際費としなくてもよいケースがあります。

一般的に多く見られる事例としては、

会議に関連して、茶菓、弁当等の飲食物を供与するために通常要する費用

があります。つまり、会議で提供された飲食関連の費用であり、かつ「通常要する費用」の範囲内であれば交際費とせず、会議費(金額基準に関係なく損金とすることができる)として処理することができます。

通常要する費用とは、

  • 必要(会議の実態)があって支出したもので、
  • 一般的・常識的な範囲内であるもの

ということになります。そのため、会議時に提供されたお弁当の金額が1000円から3000円くらいの範囲内であればさほど問題になるケースは多くないものと考えられますが、フレンチのフルコースなど、会議というより接待が主になると思われるようなものは交際費とされる可能性が高くなります。

また、月に数回程度の会議であれば問題ありませんが、ほぼ毎日会議を行い、お弁当を食べている場合には「必要外のもの」と判断されて交際費とされることもあります。いずれにしても「常識の範囲内」というのが判断基準になります。

2)現場レベルで注意すべき点は

会議費などで飲食を伴った場合には、まず「金額が大きくなりすぎていないか」について敏感になる必要があります。この金額についての判断が現場担当者の間で曖昧になるようであれば、社内規程などを設け、会議飲食費としての金額範囲などを決めてしまうのも一方法です。

また、会議を行った場合は、

「本当に会議が存在したこと」を証明するため、議事録などは必ず作成する

ようにしておきましょう。

5 「専ら」従業員のために行われる福利厚生費

1)「専ら」と判断される一般的な基準(考え方)とは

「専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用」については交際費とせず、福利厚生費(金額基準に関係なく損金とすることができる)として費用処理することができます。

「専ら」とは、

必ずしも100%である必要はないものの、80%から90%は該当するような状態

と言われています。例えば忘年会などの催し事の場合、全従業員を対象として開催しつつも、業務の都合で参加できない人が出てくる可能性がありますが、最終的に80%から90%の人が参加すれば福利厚生費として処理されます。そのため、

  • 特定の役職者のみを対象とした飲み会
  • 役員のみを対象とした慰安旅行

については、税務調査で交際費に該当すると指摘されたり、給与として源泉徴収すべきと指摘されたりするので注意しましょう。

2)現場レベルで注意すべき点は

福利厚生費として処理すべき年間行事はさほど頻繁に行われるものではありませんので、行事の内容や参加者(人数)、費用の総額などを一覧にし、税務調査で指摘された際には明確な説明できるような書類を準備するようにしておきましょう。

以上(2026年5月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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幹部の成長は企業の成長! 幹部が育つ社長の対話メソッド

1 社長と幹部社員は異なる世界線にいる

【幹部社員】の活躍なくして企業の成長はあり得ません。そのため社長は、幹部社員と対話を通じてその成長を図ります。しかし、幹部社員と「企業の将来」など抽象度が高い話をしたときは特に「どうも噛み合わない」と、モヤモヤすることはありませんか?

残念ながら、社長の話は「社長の考えと同じレベル」で幹部社員に伝わっていないことが多いです。例えば、社長が「何としても会社を成長させたい!」と話せば、幹部社員も「いいですね!」と賛同します。一見、噛み合っていそうですが、それぞれの内心は、

  • 社長:企業の未来や新規事業について自由に議論したい
  • 幹部社員:企業の成長ってどれくらい? 今の業務で手一杯で新規事業は手が回らない

といったように違っています。この状態で会話を続ければ、社長が「あれ、伝わっていないかも?」とモヤモヤするのは当然です。社長と幹部社員は同じテーブルに座りつつも、異なる世界線にいるようなものですから。

2 中小企業の幹部社員とは何者か?

こうした違いが生じる背景には、幹部社員が歩んできたキャリアも関係しています。多くの場合、中小企業の幹部社員は、

自社の事業に精通し、人材を育成しながらその事業を拡大できる社員であり、役職としては「部長」以上(場合によっては上位の課長も含まれる)

です。勤続年数も長く、「企業内・既存事業の範囲内・部下に対して」という枠の中では十分に力を発揮できます。しかし、その枠を一歩でも飛び出すと、たちまち仕事のイメージができなくなってしまいます。枠から飛び出して修行しなかった幹部社員が悪い。そう言うのは簡単ですが、今いる場所の居心地がよく、変化を好まないのは人間の性です。それに、その状況を放置してきた社長にも責任があります。

ビジネスを取り巻く環境は、生成AIの登場や人材不足など、かつてないほど変化しています。ここを乗り越えていくには、やはり幹部社員の力が必要です。ですから社長は、改めて幹部社員の育成に力を注がなければならず、その際は

「幹部社員が社長の視座や考え方に近づける」ように対話をすること

が重要になってきます。

この記事では、社長が幹部社員を育成するために適した対話の「型」を紹介します。なお、「型」を使った社長の語りかけの例は次のコンテンツで紹介しています。

3 幹部社員の視座を高める対話の「型」

基本的な対話の進め方は次の通りです(相手、状況によって異なります)。

  • 抽象的な「夢(あるべき姿)」を掲げ、具体化していく
  • 解釈次第で景色が変わることを理解してもらう
  • 自分や仲間を信じるマインドを持ってもらう

1)抽象的な「夢(あるべき姿)」を掲げ、具体化していく

まず幹部社員の思考をストレッチしましょう。

真面目な幹部社員ほど、自身が担当する業務に一生懸命です。有難いことですが、一方で視野が狭くなり、業務効率化といったレベルでしかビジネスを考えられなくなってしまいます。

こうした幹部社員の思考をストレッチするために、幹部社員が

担当業務から飛び出して、自由な発想でビジネスの「夢(あるべき姿)」を描ける

ように対話をします。ただ、いきなりの「Aさん(幹部社員)が描くビジネスの夢(あるべき姿)は何ですか?」を聞いても、幹部社員はポカンとして黙り込んでしまうか、「何か答えないとまずい」と考えて取り繕った発言をするかになってしまうので、意味がありません。

そこで、社長のほうが幹部社員の思考に寄り添って質問をしてみます。例えば、

  • Aさん(幹部社員)が担当している業務は、どうなったら理想的?
  • その理想が達成されたら、Aさんの部下やお客様には、どんな「いいこと」がある?
  • その「いいこと」が達成できたら、Aさんはワクワクする(うれしい)?
  • 今の業務に縛られず、Aさんが仕事上で「実はこうなったらいいな」と考えていることはある?

といったように質問をして、少しずつ抽象度を上げたり、それを具体的にしたりといったことを繰り返すのです。

2)解釈次第で景色が変わることを理解してもらう

「夢(あるべき姿)」を実現するには、幹部社員は居心地のよい現在地から一歩踏み出さなければなりません。その手助けとして、社長は幹部社員が重い一歩を踏み出せるよう、背中を押してあげましょう。

幹部社員の背中を押す際は、

「夢(あるべき姿)」が実現された世界の具体的なイメージを持ち、そこに向かう気持ちを高めてもらう

ことが大切です。例えば、

  • 「夢(あるべき姿)」が実現された状況をイメージしてみて。そこには誰がいて、どんな話をしている? そこにいるAさんは楽しそう?
  • 「夢(あるべき姿)」を実現したいという気持ちは、100点満点で何点くらい? 何ができたら100点に近づきそう?

といった質問をします。

居心地のよい現在地から一歩踏み出すには、「夢(あるべき姿)」が実現された世界のほうが現在地よりも魅力的であることを具体的にイメージできる必要があります。そのために「夢(あるべき姿)」が実現された世界について質問を重ね、具体的にしていくのです。

同時に、幹部社員が一歩踏み出すことができない理由(障壁)を明確にし、それを解決していきます。幹部社員にとっては難しい課題でも、社長ならその場で解決できること(人員の配置や予算など)も多いです。「できない理由はないのだから、やるより他はないでしょ!」と逃げ道を塞ぐのではなく、あくまでも、

一緒に課題を解決しながら進めていこう

という姿勢で対話をしましょう。

3)自分や仲間を信じるマインドを持ってもらう

最後に、幹部社員が

「自分なら(この会社なら)、夢(あるべき姿)を実現できる!」と自信を持ける

ようにします。社長が「Aさんならできる! 大丈夫!!」と声をかけることも大切ですが、こうした言葉は、一晩たつと「社長はあのように言ってくれたけれど、やはり自信がない」と萎んでしまいがちです。

重要なのは、具体的な行動が伴う形で幹部社員の自信を高めていくことです。そのために社長は、

  • 「夢(あるべき姿)」を実現したいという確信度合いは、100点満点で何点?
  • その点数を上げるために、最も効果的な取り組みは何だろう?
  • その取り組みを、いつから始める?

といったように質問します。確信度合いは、無理に100点にする必要はなく、あくまでも今、最も効果的な取り組みを考え、行動するタイミングを決め、実際に行動することが大切です。こうして動き始めると、

「行動の積み重ね」が自信につながるだけではなく、ここまで自分は頑張ってきた。諦めてしまうのはもったいない

という感情が働き、取り組みが継続されやすくなります。

4 幹部社員と話すタイミングを図る

幹部社員と話すタイミングも重要です。社長は幹部社員にしっかりと考えてもらいたい場合、金曜日や大型連休(ゴールデンウィークや年末年始休暇など)の前に伝えることがあります。これは「休み中にしっかりと考えてください」という意図があってのことです。

確かに社長に近いマインドを持っている上位の幹部社員でならば、休み前に伝えるのが良いでしょう。こうした幹部社員は、日ごろなかなか時間が取れないので、休み中のまとまった時間で集中して考えようとします。

ただ、このような幹部社員は少ないものです。そうではない幹部社員に休み前に話をすると、

休みの日まで仕事のことを考えなければいけないのか……今どきっぽくないな

と不満を持ちます。であれば、休み明けで心身ともにリフレッシュしたタイミングのほうが社長のメッセージが届きやすく、前向きに捉えてもらいやすくなります。これは心理学でいう「気分一致効果」というもので、そのときの気分と一致した情報を受け入れやすいというものです。つまり、

リフレッシュして気分が前向きになっていれば、会社の将来や自身が置かれている環境についても前向きに捉えやすくなる

ということです。

以上(2026年5月作成)

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画像:日本情報マート

社長から幹部に伝えたい! 名言を使ったメッセージ

社長が、特に「企業の未来」のような型にはまらない話を幹部社員とする場合、「どうも噛み合わない」とモヤモヤします。その理由は、社長の話は抽象度の幅が広く、瞬時にいろいろなレベルを行き来できるのに対し、幹部社員は基本的に抽象度の低い具体的な話に終始するからです。この問題を解決できる対話の「型」は、

  • 抽象的な「夢(あるべき姿)」を掲げ、具体化していく
  • 解釈次第で景色が変わることを理解してもらう
  • 自分や仲間を信じるマインドを持ってもらう

であり、詳しくは次のコンテンツで紹介しています。

この記事では、実際に「型」を使った社長からの投げかけの例を紹介します。幹部社員との対話の参考にしてください。

1 「我々は月に行くことを選択する」

【狙い】

Aさん(幹部社員)の思考をストレッチしながら、ビジネスにおけるAさんの「夢(あるべき姿)」を明らかにする。

【社長からの語りかけの例】

Aさん、日頃から会社のために尽力してくれて本当にありがとう。Aさんの働きがなければ、今の会社の成長はなかったと断言できますし、心から感謝しています。

今日は、Aさんにとっても会社にとって、非常に重要な話があって、この時間を設けました。Aさんが担当している事業は、現時点では安定しています。しかし一方で、生成AIの進化や人材の枯渇といった大きな環境変化により、これから先の事業環境は決して楽観視できるものではありません。むしろ、不確実性の高い時代に入っています。

こうした状況を乗り越えていくためには、既存事業をこれまでの延長線で捉えるのではなく、新しい発想で見直していく必要があります。そして同時に、新規事業の開発にも踏み出していかなければなりません。

Aさんはこれまで、自身の担当事業について「もっとこうしたい」という理想を持ち、改善を積み重ねてきたはずです。その積み重ねがあるからこそ、お客様からの評価も高く、チームの雰囲気も良いのだと思います。

ビジネスにおいて「理想」を持つことは極めて重要です。理想があるからこそ、やるべきことが明確になり、困難に直面しても前に進む力が湧いてきます。だからこそ私は、Aさんと一緒に、今の事業の枠にとらわれず、会社の未来に向けた理想の姿を描いていきたいと考えています。

これまであえて深く聞いてこなかったのですが、Aさんがこの会社で本当に成し遂げたい「夢(あるべき姿)」は何でしょうか。ぜひ、率直に聞かせてください。私がこの問いを投げかけるとき、いつも思い浮かべる言葉があります。

「我々は月に行くことを選択する」(*)

これは、1962年に米国大統領ジョン・F・ケネディがライス大学で行った演説の一節です。当時、米国は宇宙開発でソ連(当時)に遅れを取っており、その状況を打破するためにこの言葉を掲げました。

結果として、この壮大な目標は約7年後、アポロ11号によって実現されました。ただし、この演説当時においては、その実現性に懐疑的な声も多く、決して確実な未来ではなかったはずです。それでも「月に行く」という明確で大きな目標を掲げ、一つひとつ課題を分解し、解決し続けたからこそ実現できたのです。

ビジネスも同じです。最初は「月に行く」くらい大胆なテーマで構いません。Aさんの描く「夢(あるべき姿)」を、まずは大きく掲げてほしいのです。そして、それを具体化しながら、一緒に会社の未来をつくっていきましょう。

2 「事実というものは存在しない。存在するのは解釈だけである」

【狙い】

「夢(あるべき姿)」を実現するには、居心地のよい現在地から一歩飛び出す必要がある。変化を拒むか、受け入れるか。解釈によって世界が変わることを知ってもらう。

【社長からの語りかけの例】

Aさんの「夢(あるべき姿)」、とてもいいですね。その夢が実現した世界を、少し具体的に想像してみてください。そこには誰がいて、どんな表情をしていて、どんな会話が交わされているでしょうか。きっと、メンバーは前向きに仕事に取り組み、笑顔があふれているはずです。会社も確実に成長していますよね。

では、その「夢」が実現したいという気持ちをどれだけ強く持てているだろうか。100点満点で表すと、何点くらいになる?

私は無理に「100点」と言ってほしいわけではありません。むしろ大事なのは、その点数を下げている要因、つまりストッパーになっているものを明らかにすることです。それを一つひとつ解消していくことが、夢の実現につながります。

ここで1つ、重要な考え方を共有したいと思います。ドイツの哲学者であるフリードリッヒ・ニーチェの言葉です。

「事実というものは存在しない。存在するのは解釈だけである」(**)

これは、ビジネスにおいて非常に示唆に富んだ言葉です。例えば、「今の環境は安定していて居心地がいい」と捉える人もいれば、「同じことの繰り返しで成長が止まっている」と捉える人もいます。どちらが正しいという話ではなく、すべては【解釈】なのです。

Aさんが感じている不安や課題も、見方を変えれば意味が変わります。これまで「できていないこと」「足りないこと」と捉えていた部分は、別の見方をすれば、「これから成長するための具体的なテーマが見えている状態」とも言えます。つまり、未来へのチケットのようなものなのです。

変化を避けるか、それとも受け入れて前に進むか。その分かれ道は、事実ではなく【解釈】によって決まります。

3 「この道より、我を生かす道はなし。この道を歩く」

【狙い】

一歩を踏み出すときは、「自分ならできる!」という勇気と自信を持ちたい。幹部社員の背中を最後に一押しして、自信を持って具体的な行動につなげてもらう。

【社長からの語りかけの例】

Aさんの「夢」と、それを実現したいという強い思いはしっかり伝わってきました。その夢が実現すれば、Aさん自身の成長にも、会社の成長にも確実につながります。だからこそ、自信を持って取り組んでほしい。

改めて聞きますが、その夢が実現できる確信度を100点満点で表すと、今は何点でしょうか。そして、その点数を引き上げるために、最も効果的な行動は何でしょうか。その行動を、これから一緒に取り組んでいきましょう。実際に動きながら、確信度を高めていけばいいのです。

もちろん、不安や迷いが出ることもあるでしょう。そんなときに思い出してほしい言葉があります。

「この道より、我を生かす道はなし。この道を歩く」(***)

これは、武者小路実篤の言葉です。かつては「石の上にも三年」や「量質転化」といった言葉に励まされながら、苦しい下積みの時代を乗り越えてきました。それができたのは、「今歩んでいる道こそが自分を成長させる」と信じていたからです。

私がAさんに期待しているのは、既存の枠にとらわれず、外から新しい視点を持ち込み、ときには私と衝突することも恐れずに進んでいくことです。そして、「PDCA」を回すのではなく、「pDDDDDca」というくらいのスピード感で、圧倒的な行動量を積み重ねてほしいのです。

それをやり遂げる胆力がAさんにはあると信じています。

さあ、一緒に新しい会社の未来を切り拓いていきましょう!

【参考文献】

(*)「Address at Rice University on the Nation’s Space Effort」(ジョン・F・ケネディ、1962年9月12日)

(**)「権力への意志(上・下)」(フリードリッヒ・ニーチェ著、原佑訳、ちくま学芸文庫、1993年12月)

(***)「武者小路実篤――理想に向かい歩み続けた人生に学ぶ」(伊藤陽子、致知出版社、2024年10月)

以上(2026年5月作成)

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経営のヒントとなる言葉(本田宗一郎)

「人生は『得手に帆あげて』生きるのが最上だと信じている」

出所:「得手に帆あげて 本田宗一郎の人生哲学」(三笠書房)

冒頭の言葉は、

「最も得意な分野で働くことが、その人の価値を最大限に発揮できる」

ということを表しています。

本田氏は、生涯「得手(得意なこと)」にこだわり、機会があるごとに若い社員に対して「一刻も早く自分の『得手』を発見しなくてはならない」と言い続けました。「好きこそものの上手なれ」の言葉にもあるように、好きなことを一生懸命にやることで、それが「得手」になります。そして、そのことは自信につながり、さらに大きな「得手」となるのです。

幼少のころから機械いじりが好きであった本田氏は、経営者になってからも研究所で若手のエンジニアたちと一緒に機械いじりに熱中していました。しかし、もちろん、経営者が不得手なことを一切やらないということは、実際には不可能です。本田氏は次のように述べています。

「会社の上役は、下の連中が何が得意であるかを見極めて、人の配置を考えるのが経営上手というものだ」

本田技研の場合、副社長の藤沢武夫氏が本田氏のパートナーとして財務・販売など、経営に関する一切を担当しました。藤沢氏は、経営に関する非凡な手腕を買われて本田技研に入社して以来、長きにわたり本田氏のよきパートナーとして本田技研の経営全般を担当しました。当時広くいわれていた「技術の本田、経営の藤沢」という言葉は、この2人の協力体制をうまく表しています。

あくまでも一技術者であろうとした本田氏は、藤沢氏が経営に「得手」であることを見極め、深い信頼を寄せてすべてを任せたのです。

企業にはさまざまな「得手」と「不得手」を持った社員がいます。自身の「得手」と部下の「得手」を正しく把握し、人材を最大限に生かすことが、経営者や上司にとっての重要な役割だといえるでしょう。

【本文脚注】

本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を担保するものではありません。また、本文中では内容に即した肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思われるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。

【経歴】

ほんだそういちろう(1906~1991)。静岡県生まれ。二俣尋常高等小学校卒。1946年、本田技術研究所(現本田技研工業株式会社。本稿では「本田技研」)設立。

【参考文献】

「得手に帆あげて 本田宗一郎の人生哲学」(本田宗一郎、三笠書房、1992年4月)

「本田宗一郎 夢を力に 私の履歴書」(本田宗一郎、日経ビジネス人文庫、2001年7月)

以上(2026年5月更新)

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【ビジネス文書・法令文書】指針を踏まえたカスハラ対策 事前の体制構築とトラブル発生時の対応

近年、カスタマーハラスメントを巡る法制度は国・自治体レベルで整備が進み、企業には従業員保護を前提とした対応が求められています。しかし、従来のクレーム対応との違いや実務対応の整理が十分でない企業も少なくありません。
そこで本稿では、指針の内容を踏まえ、事前の体制構築からトラブル発生時の具体的対応までを実務的に解説します。

ビジネス文書・法令文書 今月の特集は、こちらからお読みいただけます。pdf



【2026年度最新】知って得する助成金 採用・育成・育児サポートまで!

2026年度に入り、厚生労働省からさまざまな助成金の情報が公表されています。ここ数年は助成金の制度拡充が続いていて、中小企業にとっては魅力的ですが、数が多くて分かりにくいという声も……。そこで、助成金を採用・育成・育児サポートなど6つにカテゴリ分けし、活用方法と「最大でいくらもらえるのか」をまとめました。

1 採用活動編(最大240万円)

この記事で紹介している助成金は次の通りです。

  • 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース):最大240万円
  • 特定求職者雇用開発助成金(中高年層安定雇用支援コース):最大60万円
  • 早期再就職支援等助成金(雇入れ支援コース):最大40万円
  • トライアル雇用助成金(一般トライアルコース):最大15万円

本編で、2026年度の支給内容や専門家のワンポイントアドバイスを紹介しています。

2 人材育成編(最大1億円)

この記事で紹介している助成金は次の通りです。

  • 人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース):最大1億円
  • 人材開発支援助成金(人への投資促進コース):最大3500万円
  • 人材開発支援助成金(人材育成支援コース):最大1000万円
  • 人材開発支援助成金(教育訓練休暇等付与コース):最大36万円

本編で、2026年度の支給内容や専門家のワンポイントアドバイスを紹介しています。

3 育児サポート編(最大1342万円)

この記事で紹介している助成金は次の通りです。

  • 両立支援等助成金(育休中等業務代替支援コース):最大1342万円
  • 両立支援等助成金(柔軟な働き方選択制度等支援コース):最大197万円
  • 両立支援等助成金(出生時両立支援コース):最大127万円
  • 両立支援等助成金(育児休業等支援コース):最大122万円
  • 両立支援等助成金(不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース):最大90万円

本編で、2026年度の支給内容や専門家のワンポイントアドバイスを紹介しています。

4 賃上げ編(最大740万円)

この記事で紹介している助成金は次の通りです。

  • キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース):最大740万円
  • 業務改善助成金:最大600万円
  • 人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース):最大325万円

本編で、2026年度の支給内容や専門家のワンポイントアドバイスを紹介しています。

5 健康経営編(最大1370万円)

この記事で紹介している助成金は次の通りです。

  • 働き方改革推進支援助成金(業種別課題対応コース):最大1370万円
  • 働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース):最大1020万円
  • 働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース):最大970万円
  • 働き方改革推進支援助成金(団体推進コース):最大500万円
  • 働き方改革推進支援助成金(取引環境改善コース):最大100万円

本編で、2026年度の支給内容や専門家のワンポイントアドバイスを紹介しています。

6 パート雇用編(最大1680万円)

この記事で紹介している助成金は次の通りです。

  • キャリアアップ助成金(正社員化コース):最大1680万円
  • キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース):最大740万円
  • キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース):最大75万円
  • キャリアアップ助成金(賃金規定等共通化コース):最大60万円
  • キャリアアップ助成金(賞与・退職金制度導入コース):最大56.8万円

本編で、2026年度の支給内容や専門家のワンポイントアドバイスを紹介しています。

以上(2026年5月作成)

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社長の「最強スピーチ術」〜経験から学んだAIも知らない伝わる条件

1 伝わるスピーチの絶対的な条件とは?

「人に伝えて、動いてもらう」ことは社長の重要な仕事です。その手段の1つがスピーチなので、社長はスピーチの腕を磨こうとします。交流会や講演会などで上手なスピーチを聞くと、「すごい! 自分もあのように話したい」とエッセンスを学びますし、下手なスピーチを聞いたときも、自分のスピーチと比較して顧みます。

しかし、こうした努力をしていてもスピーチは簡単ではなく、

自分の話が社員に全く伝わらない

と感じてしまうことが多いです。筆者もその一人で、スピーチのテクニック本を読んでは実践しますが、やはり手応えがありません。ただ、そうした経験を重ねていくと、

伝わるスピーチの条件

がぼんやりと見えてくることもあります。この記事では、筆者の泥臭い経験から分かってきた「伝わるスピーチの条件」をご説明していきます。少しでも皆さまのヒントになれば幸いです。

2 スピーチの自己評価は当てにならない

筆者はセミナーやプレゼンテーション(プレゼン)のような「説明系」スピーチは得意ですが、組織を鼓舞し、人を動かすような「伝導系」スピーチには苦手意識があります。

以前、中期経営計画を社員に熱く説明したときのことです。説明の自己評価は上出来で、組織が向かうべき方向をしっかりと共有できたと思いました。しかし、社員の反応は薄く、1つも質問が出ませんでした。そのことを社長仲間に話すと、「それだけ【説明】が上手だったということじゃない?」と半ば冗談交じりに言われ、落ち込んだものです。

スピーチの自己評価は当てにならない

ところが、後日、伝わるべき社員にはしっかり伝わっていたことが分かりました。明らかにやる気を出している社員がいるのです。声をかけてみると、「社長が説明してくれた中期経営計画を達成するために、営業活動を進めています」と話してくれました。

別の経験もあります。グループの親会社に予算の承認を得るためのプレゼンをしたときのことでした。説明はたどたどしく、言葉がうまく出てこないところもあり、我ながら「ひどい内容だ」と落胆していました。

大失敗と思っていたのですが、反対にその会の参加者の中で私のことが良い意味で噂になっていました。「経営者としての覚悟がひしひしと伝わってきた」というもので、私の株が上がったようなのです。

これら2つの経験から分かったのは、

スピーチが伝わったかどうかの自己評価は、意外と当てにならない

ということです。自己評価が外れてしまうのは、

自身が考える「上手なスピーチの基準に当てはめて採点しているから」

に他なりません。スピーチをするのは自分ですから、自分が思う「上手なスピーチ」をしなければ相手に伝わらないと考えるのは当然です。しかし、スピーチは聞き手ありきですから、そこも意識しなければなりません。次章で別の事例を挙げながらさらに深掘りしていきます。

3 相手に聞く「器」があるか

唐突ですが、幼稚園児など小さな子どもが運動会で開会の挨拶をするシーンを想像してみてください。子どもは、「先生、お父さん、お母さん、ありがとう!」「けがをしないように頑張ります!」といったシンプルなメッセージを伝えてきます。途中でつかえたり、内容を忘れて先生に助けてもらったりすることもあります。

「上手なスピーチ(挨拶)」の一般的な基準で評価すれば、こうした子どもの挨拶の点数は低いです。それなのに、聞いている保護者が涙ぐむほど心の琴線に触れています。知らない子どもの挨拶でさえ心を打たれます。このような状態になるのは、

聞き手側の「聞く準備」がしっかりと整っているから

です。

宗教の話をしたいわけではなく1つの例として挙げるのですが、仏教には「対機説法(たいきせっぽう)」という考え方があります。これは、

相手の理解力・経験・心の状態・置かれている状況に合わせて、伝える内容や伝え方を変える

というものです。「仏教の教えはそれを求めている人にしか伝わらない」とも言われ、そのことは対機説法と関連していて、

言葉そのもの(「音」としての言葉)は誰にでも届くが、その意味が「自分ごと」として心に染み入るのは、本人に内容を受け取る準備や必要性があるときだけ

ということになります。

先ほどの小さな子どもの例で言えば、保護者は、

  • 運動会に参加し、子どもの挨拶を「受け取る準備」がある
  • 自分の子どもを愛し、その健やかな成長を願っているので、聞く「必要性」がある
  • だから、挨拶する子どもを知らなくても、同じ幼稚園に通う子どもなら応援したい

ということになります。聞き手である保護者に、小さな子どもの挨拶を受け取る準備と必要性は十分にあるということです。

冒頭で紹介した中期経営計画の例についても同様です。

  • 全体会合に参加し、私のスピーチを「受け取る準備」がある
  • 会社が好きで、その成長を強く望んでいるので、聞く「必要性」がある
  • だから、社長が「説明系」スピーチをしても、自身の思いが乗って自分ごととなる

といった状況です。

次章では、「受け取る準備」についてもう少し詳しくご説明します。

4 相手に「器」をつくるのも話し手の仕事

筆者には、お師匠さまと呼べる方が3人います。もとの上司、人としての生きざまを示してくれる社外上司、私に社長たる者の在り方を教えてくれた社長仲間です。これらお師匠さまの言葉は、いつ何時でも、私の心に響きます。表現を変えると、

私には常に、お師匠さまの言葉を受け取る準備と必要性が十分にある

ということです。とはいえ、この3人は最初からお師匠さまだったわけではありません。それなりに長いお付き合いの中で、「この人はすごい。いつも私に真摯に向き合ってくれて、道を示してくれる」と何度も感じたからこそ、お師匠さまになったのです。

社員とこうした関係を作ることができれば、伝わるスピーチがしやすくなります。社員にお師匠さまとまで尊敬される必要はないでしょうが、仕事はもちろん人間性においても「社長はすごい!」と感じてもらえたら理想的です。

相手に「器」をつくるのも話し手の仕事

先ほど、私は「説明系」スピーチは得意ですが、「伝導系」スピーチが苦手であるとお伝えしました。このことを2人の社員に打ち明けたことがありますが、反応は全く違いました。1人は「そうですか? しっかり伝わっていますよ」と笑顔を見せてくれました。もう1人は「そうですね。確かにそうかも」と納得していました。私はどちらの社員にも「伝導系」スピーチをしてきましたが、前者の社員のほうが良い関係を作れていたのかもしれません。もちろん、私を慮ってのこともあると思いますが。

伝わる社員には伝わるし、伝わらない社員には伝わりません。ですから、「伝わりやすい関係を社員と築くこと」が大切なのです。

5 一瞬で嫌われることもある

注意したいのは、聞き手に受け取る準備や必要性があっても、それが一瞬で失われることがあるということです。

以前、社員を連れてある講演会に参加したときのことです。登壇者は、いわゆる昭和的なノリで話し始めました。冒頭のつかみも、今の時代では「不適切」と受け取られかねない内容でした。ただ、話を聞き続けていると話し手には情熱があり、響くものもあります。しかし、同行した社員は、冒頭数秒の不適切なつかみで「この人は違う」「嫌いだ」と感じてしまい、その後の話を一切受け入れられなくなっていました。

ここで学ぶべきことは、せっかく相手に受け取る準備や必要性があっても、話し手のちょっとしたミスで一瞬にして嫌われ、心を閉ざされてしまうこともあるという事実です。今回のミスは「不適切なつかみ」でしたが、その他にも「話し方、声、ジェスチャー、服装」など、相手が聞く気を失ってしまうことはたくさんあります。一般的な内容でありますが、スピーチで注意したほうがよいことを巻末に一覧表でまとめているのでご確認ください。

最後に、最も大切なことをお伝えします。それは、

受け取る準備と必要性が大きければ大きいほど、伝わり方は強くなるし、伝わらないときの落胆度合いも大きくなる

ということです。

筆者は、このことで大切な社員を失った経験があります。相手は人生をかけて、私に今後の会社の方針を尋ねてきました。その社員は幹部で、受け取る準備と必要性は十分過ぎるものでした。私も真摯に向き合わなければと思い、会社の成長性と戦略について数字を交えて説明しました。しかし、その幹部社員には全く響かず、結局、離職してしまいました。

今にして思えば、その幹部社員は「自分の存在意義」を確認したかったのだと思います。当時、その幹部社員はナンバー2でしたが、ナンバー3が台頭してきたこともあり、寂しさと、やりにくさを感じていたはずです。そのひっかかりさえ解消できれば、その幹部社員はたとえ会社の状態がどれだけ厳しくなっても私を支えてくれたことでしょう。私はその幹部社員に、「あなたは会社にとってなくてはならない存在である」ことをもっとダイレクトに伝えるべきだったです。

相手に伝えるときの基本として、

相手が求めていることを話して期待を裏切らない

ということも忘れてはならないのです。

6 伝わるスピーチをするためのチェック事項

最後に、一般的なスピーチのチェックポイントを紹介するので、参考にしてください。

(図表)【「上手なスピーチの基準」の例】

要素 定義 主なチェックポイント 熱量への影響 改善のポイント
1 話し方 どのように伝えるか 声量、スピード、抑揚、間、視線、表情、身振り 第一印象と感情伝達を大きく左右する 重要箇所の前に間を置く、抑揚をつける、視線を配る
2 話す内容 何を伝えるか 主張、目的、背景、結論、行動喚起 話の軸がぶれると熱量が伝わりにくい 結論→理由→具体例→行動の順で整理する
3 話す言葉 どの言葉を選ぶか 具体語、感情語、断定表現、短いフレーズ 言葉選びで温度感と説得力が決まる 抽象語を減らし、短く強い言葉を使う
4 話す場所 どこで話すか 会議室、ホール、現場、オンライン 場の空気が言葉の重みを増幅する テーマに合う場所を選ぶ
5 話すタイミング いつ話すか 危機時、節目、成功直後、朝礼、キックオフ 同じ内容でも刺さり方が変わる 相手の感情が高まる瞬間に合わせる
6 話す人の見た目 誰がどう見えるか 服装、姿勢、清潔感、表情、立ち方 信頼感と覚悟が伝わる 場に合わせた服装、姿勢を整える
7 聞き手との関係性 誰に向けて話すか 社員、顧客、経営層、取引先 言葉の距離感と共感度に影響する 相手の立場に合わせて言葉を変える

(出所:日本情報マート作成)

これらはスピーチにおいて大切な基本です。これらを踏まえることは言うまでもないですが、その前段として、

日頃から社員と真摯に向き合い、「社長の話を聞きたい」と思ってもらえること

が重要です。こうした関係性さえ築けていれば、相手に十分に伝わります。つまり、スピーチの成否は「実は話し始める前から決まっている」ともいえるのです。

以上(2026年5月作成)

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画像:日本情報マート

ヤバいお客を「出禁」にしたい! リアル事例で分かる出禁の効果

1 迷惑なお客を「出禁」にしていい?

接客の仕事に従事していれば、誰しも一度は「迷惑なお客」に出会ったことがあるでしょう。ある程度は我慢するとしても限度はあり、なかには

「出禁」(迷惑行為をしたお客に対して、今後の入店を断る対応)にしたい相手

もいるかもしれません。

「出禁ってそもそも法的にどういう扱いなの?」と疑問に思う人もいると思いますが、結論から言うと、実は出禁のルールは、法律で明確に定められているわけではありません。民法には「契約自由の原則」というものがあって、

「どの程度の迷惑を被ったら出禁にするのか」は、基本的にはお店側の裁量で決めてしまって問題ない

とされているのです。もちろん、性別や国籍などを理由とする不当な差別は問題になりますし、医療やインフラ関係など公共性が極めて高い分野では、正当な理由なく応対を拒否することが法律で禁じられていますが、そうした例外を除くと、出禁にする(しない)は、基本的にお店の自由なのです。

とはいえ、お店側に裁量が認められるとしても、「そうは言っても、お客はお客だし……」「逆恨みされたら面倒だなあ」と、気がとがめる部分もあるはずです。となると、やはり気になってくるのは、

実際に出禁を行ったお店のリアルな声

でしょう。

今回は、実際にお客を出禁にしたことのある飲食店や美容院に、

  • 出禁にした理由は?
  • どうやって出禁にした?
  • 出禁にした影響は?

という項目で、聞き取り調査を行いました。「出禁」の事例としてご紹介しますので、参考にしてください。また、第3章では最近の出禁措置ツールとしてどんなものが存在するのかについても、併せてご紹介します。

2 無断キャンセル、ツケの滞納……「出禁」のリアル事例

ここでは、3つの聞き取り調査の結果を紹介します。出禁にした理由も方法も、店にとってさまざまですので、ぜひ参考にしてみてください。

1)飲食店A(電話か来店での予約のみ、接待利用中心のレストラン)

1.出禁にした理由は?

「当店では、会社さまの接待交際費の上限を考えて、コース+ドリンクの料金を設定しているのですが、あるお客さまが、酒類をたくさん飲み、予算をオーバーしました。そのお客さまは、会計の際に『これじゃあ、接待交際費に収まらない。次も来てあげるから、今日は1万5000円以内に負けてくれ』と言い、何度断っても引き下がりませんでした。言い合いが白熱してきたので、その場は他のお客さまへの影響も考え、接待交際費の範囲内で領収書を切りましたが、同じことを繰り返されては困るので、出禁にさせていただきました」

2.どうやって出禁にした?

「会計の際に名刺をいただき、『このお客さまから電話がかかってきたら断るように』と従業員に共有しました。その後も、同じお客さまから予約の打診が続きました。断るたびに怒ってきたため、最終的には角が立たないよう、『会社さんごとお断りしています』と告げました」

3.出禁にした影響は?

「『会社さんごとお断りしています』と告げて以降、そのお客さまは店に現れていません。言い合いなどに時間を取られることがなくなり、他のお客さまも安心して過ごせるようになったので、そこは良かったです。ただ、『会社ごとお断りしている』と告げたことついては、相手が大きな会社ということもあって、今後同じ会社のお客さまの予約が減るかもしれないと、少し気にしています。」

2)飲食店B(予約なしの常連客が多いオーセンティックバー)

1.出禁にした理由は?

「当店では、常連のお客さまに限り、ツケ(その場で支払いせず、後々まとめて支払うこと)を認めています。しかし、あるお客さまの中に、ツケを繰り返すも、一向に料金を支払ってくれない方がいらっしゃいました。その方は出禁にさせていただきました」

2.どうやって出禁にした?

「そのお客さまが来店した際、『(ツケを支払っていないので)お帰りください』と告げ、退店していただきました」

3.出禁にした影響は?

「その後、ツケの回収には成功しました。その常連さまとは疎遠になり、連絡も取らなくなりました。たまに安否が気になりますね」

3)美容院A(ネット・電話予約または来店時に予約可能、個人経営で小規模)

1.出禁にした理由は?

「⾧時間かかる施術メニューで予約をしていたにもかかわらず、当日に無断で予約をキャンセルするお客さまがいました。無断キャンセルでない場合も、『今月はお金がないのでキャンセルしてください』とドタキャンされることが多く、困っていました」

2.どうやって出禁にした?

「当日に無断キャンセルをされた際、キャンセル料をいただきました。すると、その後は予約の連絡が来なくなりました。今後、仮に同じお客さまから予約の電話があったとしても、お断りする方針でいます」

3.出禁にした影響は?

「スタッフのストレスが軽減され、無断キャンセルなどによる機会損失(時間やコストが無駄になる)がなくなりました」

4)番外編:美容院B(ネット・電話予約または来店時に予約可能、個人経営で小規模)

最後に、出禁にはしていないものの、困っているという美容院の事例を紹介します。

1.何に困っている?

「⾧年の常連さんが認知症になってしまい、予約したのを忘れてしまい当日に来店しなかったり、逆に予約をしていないのにふらっと現れて『髪を切って欲しい』と言ったりして、困っています」

2.どうして出禁にしない?

「常連さんなので、できれば出禁にはしたくないです。来店された際に席と時間の空きがあれば対応するくらいしかできませんが、『今後の予約の受付については対応を考えなければいけないな』とは思っています」

3 今どきは「出禁」もDX化

ここまで紹介した事例からも分かるように、出禁の判断や実行は、現場スタッフにとって少なからず精神的な負担を伴いますが、最近ではテクノロジーを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)の手法で、よりスマートに出禁の管理を行えるようになっています。

特に飲食店などは、昔ながらの予約台帳や店主の裁量で顧客の管理を行っていることも多いですが、出禁の管理をDX化することで属人的な判断によるトラブルを防ぎ、現場の負担も減らすことができます。システム導入を検討してみるのも一手でしょう。

例えば、次のような対応が考えられます。

1.AIカメラや顔認証システムによる不審者・迷惑客の自動検知

過去にトラブルを起こした人物をデータベースに登録しておくことで、当該人物が入店した際にスタッフの端末へ通知が飛びます。

2.顧客管理システムでのブラックリスト共有

系列店舗やツールの利用店舗全体でトラブル情報をリアルタイム共有し、予約段階でブロックします。

3.オンライン予約時の「利用規約」への同意

迷惑行為時の出禁措置を明文化し、チェックを入れることで法的な合意形成を行います。

4.迷惑行為のクラウド録画

音声付きの鮮明な映像をクラウドに保存し、警察や弁護士への証拠提出を迅速化します。

以上(2026年5月作成)

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