目次
1 経営者が税務調査の全体像を知る必要性とは
多くの会社は数年に一度、税務署などによる税務調査を受けますが、
「いつ、どんな基準で調査対象に選ばれるのか」
「調査では何をされるのか」
「指摘を受けたらどうなるのか」
「指摘に納得できない場合はどうすればよいのか」
「結局、追加でどのくらいの税金がかかるのか」
といった全体像を理解している経営者は多くありません。
しかも近年、税務調査のあり方は変わりつつあります。税務当局では、申告内容やさまざまな資料を分析する際にAIの活用が進んでおり、調査対象の選定や申告内容の確認にもデータ分析が活用されています。さらに、2026年9月には、納税者に関するさまざまな情報を管理する基盤システム「KSK2(次世代国税総合管理システム)」の稼働が開始されます。こうしたデジタル化によって、税務調査もよりデータを重視したものへと変貌しつつあります。
税務調査はどんな経営者であっても多少なりに身構えてしまうものです。しかし、あらかじめ全体像をつかんでおくことで、実際に税務調査の連絡が来たときも、落ち着いて対応できるようになります。
本稿では、税務調査の「入口」(調査対象の選定)から「出口」(修正申告や更正、附帯税の確定)まで、一連の流れに沿って解説します。
2 税務調査は、どのように始まり、進むのか
税務調査は、会社から提出された申告書などに記載されている金額が正確かどうかを、税務署などの職員(以下「調査職員」)が判断するために行う一連の調査です。一般的に「税務調査」という場合、オフィスや工場などに調査職員が出向いて行う「実地調査」を指すことが多いですが、このほかにも、電話や文書での問い合わせ、取引先への「反面調査」など、納税者と直接接触しない形で行われる調査も含まれます。
税務調査は、大きく次の流れで進みます。

1)調査対象法人の選定
課税当局(国税庁・国税局・税務署)は、申告内容や各種資料情報を蓄積した「KSKシステム」と呼ばれるシステムを活用し、その事務年度(7月から翌年6月までの1年間)における重点調査業種に該当しているかどうかや、業種・業態・事業規模といった観点から、調査対象の会社を選定しています。給与所得の源泉徴収票や支払調書など法令上、提出が義務付けられている資料の他、過去の税務調査で把握した情報なども活用されます。
近年は、こうした膨大な申告データや資料情報をAIで分析し、申告内容に不自然な点がないか、同業他社と比べて大きく異なる点がないかなどを分析して、税務調査対象法人を選定する取り組みも進んでいます。
さらに2026年9月には、約25年ぶりに刷新される「KSK2(次世代国税総合管理システム)」の本格稼働が始まります。
KSK2では、法人税・所得税・消費税・相続税など税目ごとにバラバラだった情報が一体的に確認できるようになる他、調査職員が調査先にいながらその場でデータを確認できるようになる
など、調査の精度とスピードが増すとみられています。
なお、KSK2自体はあくまでデータを一元管理する基盤システムであり、「AIが自動で調査を行うシステム」ではありません。調査を行うかどうかの最終判断は、これまでどおり調査職員が行います。納税者側に、特別な対策は不要ですが、日頃からの正確な記帳と証憑の整理・保存が、これまで以上に重要になります。
2)書面添付の有無
税理士に税務申告を依頼していて、申告書に「書面添付」がされている場合は、税務調査の進め方が少し異なります。
書面添付とは、税理士が申告書を作成する際に、どのような資料を確認したのか、どのような計算や税務上の判断をしたのかなどを記載した書面(税理士法第33条の2に規定される書面)を、申告書と一緒に税務署へ提出する制度です。
書面添付がある場合、税務署は、いきなり会社に税務調査を行うのではなく、まず申告を担当した税理士に内容について確認する「意見聴取」を行います。そこで税務署が疑問に思っていた点が解消され、調査の必要がないと判断されれば、会社への実地調査は行われません。
一方、意見聴取を行っても確認が必要と判断された場合は、税理士にその旨が伝えられたうえで、通常の税務調査に進むことになります。
3)事前通知
税務調査が入るときは、原則として、課税当局から納税者(税務代理権限証書を提出している場合は顧問税理士)に対して、実地調査を行う旨や調査開始日時、調査の対象となる税目・期間など、次のような事項があらかじめ通知されます。
- 実地調査を行う旨、調査開始日時、調査を行う場所、調査の目的
- 調査の対象となる税目、期間、帳簿書類その他の物件
- 納税者の氏名・住所、調査を行う調査職員の氏名・所属官署 など
ただし、申告内容や過去の調査結果、営む事業の内容などから、違法・不当な行為の疑いが強く、資料収集や適正な調査が困難と認められる場合に限り、事前通知なく調査が実施されることもあります。
4)実地調査
実地調査では、調査職員が「質問検査権」に基づいて、会社などで質問や検査を行います。質問検査権は「調査について必要があるとき」に認められるものであり、納税者は明らかに必要のない質問に応じる義務はありません。もっとも、必要な帳簿書類等の提出を求められた際に、正当な理由なく答えない、または偽りの答弁をした場合には、
1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科される可能性
があります。
実地調査で確認される帳簿書類には、仕訳帳や総勘定元帳の他、取引先から受け取った注文書・契約書・領収書、棚卸表、貸借対照表・損益計算書などがあります。また、会議の議事録や稟議書、給与データ、電子メールなどのデジタル記録、固定資産台帳も対象となり、必要に応じて工場や営業所での現物確認が行われることもあります。
これらの書類や物品は速やかに提出する必要があり、必要と認められる場合には、調査職員が課税当局の庁舎に持ち帰る「留置き」が行われることもあります(納税者の理解と協力の下で行われ、預かり証が交付されます)。
5)取引先等調査(反面調査)
調査職員は、税務調査において必要と合理的に判断される場合には、取引先や雇用主などに対しても質問・検査を行うことができます。これを「反面調査」(取引先等調査)といいます。
6)調査結果説明、そしてその後の分岐
実地調査や反面調査の結果について、調査職員から納税者に対し、その内容・金額・理由が説明されます(多くの場合、口頭で行われます)。その後の流れは、大きく2つに分かれます。
- 誤り・訂正がない場合:
課税当局は、更正または決定をすべきと認められない旨を「書面」で通知します - 誤り・訂正がある場合:
調査職員は、納税者に対し「修正申告」または「期限後申告」を行うよう勧奨します。課税当局が職権で更正・決定することも可能ですが、納税者が自ら理解して是正することが、申告納税制度の趣旨にかなうと考えられているためです
ここから先、指摘を受けた内容に「納得できる場合」と「納得できない場合」とで、手続きが分かれます。
3 指摘を受けたとき、どう対応するか
もし、税務署の調査官から申告の誤りを指摘された際、納税者がその指摘に納得する場合と、納得できない場合とで、その後の手続きが違ってきます。
1)納得する場合:「修正申告」「期限後申告」
指摘を受けた内容に納得する場合には、次のいずれかの申告書(以下「修正申告書等」)を提出し、追加で納税をすることで、税務調査は終了します。
- 修正申告:当初の申告税額よりも税額を増額する内容の申告書
- 期限後申告:期限内申告書を提出していなかった納税者が、課税当局が決定するまでの間に提出する申告書
修正申告書等を提出した場合には、後述する「再調査の請求」や「審査請求」はできなくなります。ただし、
税額を減額する「更正の請求」を行い、追徴税額の減額を求めることは可能
です。
なお、消費税の申告誤りにより消費税の追徴課税が生じ、他に指摘事項がないときは、損金(消費税の納税額は租税公課として損金に算入できる)が増えることで法人税額が減少することがあります。この場合、消費税は「修正申告書等」を提出し、法人税は「更正の請求」が必要となるようにも思えますが、実務上は、調査職員が法人税について減額の「更正」職権で行ってくれることが多いようです。
2)納得できない場合:不服申立てと税務訴訟
指摘を受けた内容に納得できない場合の手続きの流れは、次の通りです。

1.更正
修正申告等に納得できない場合、調査職員は「更正」を行い、納税者のもとに更正通知書が送られてきます。追徴税額は、確定してから納税すると延滞税等がかかるため、納得できない場合でも、いったん納税しておくことが望ましいとされています。
2.税務署に対する「再調査の請求」
更正通知書の内容に納得できない場合、
通知を受けた日の翌日から3カ月以内
に、所轄の税務署に対して「再調査の請求」をすることができます。税務当局はその内容を再検討し、結果(決定)を通知します。
3.国税不服審判所に対する「審査請求」
「決定」を受けてもなお納得できない場合には、
決定の通知を受けた日の翌日から1カ月以内
に、国税不服審判所に対して「審査請求」をすることができます。「再調査の請求」を経ずに、直接「審査請求」をすることも可能です。国税不服審判所は内容を審査し、結果(裁決)を納税者と税務署長に通知します。
4.税務訴訟
「裁決」を受けてもなお納得できない場合には、
裁決の通知を受けた日の翌日から6カ月以内
に、裁判所に訴訟を起こすことができます。判決によって、指摘内容の有無が確定します。
5.統計に見る、指摘事項を覆せる可能性
税務調査で税務署から指摘を受けた場合でも、「税務署の判断が必ず正しい」とは限りません。申告内容や取引の事実関係について、税務署と会社の認識が異なる場合には、その判断について争うこともできます。
国税庁および国税不服審判所が公表している「国税庁レポート2026」によると、2025年度の状況は次のとおりです。

いずれも、納税者の主張が認められる割合は決して高くありません。とはいえ、審査請求では約14件に1件の割合で、納税者の主張が全部または一部認められています。
税務調査で指摘を受けても、内容に明らかな誤りがある場合や、「その取引は実際にはこうだった」など事実関係について税務署と認識が食い違っている場合には、すぐに受け入れる必要はありません。まずは税理士などの専門家に相談し、指摘の根拠や会社側の主張を整理したうえで、不服申立てを行うかどうかを検討するとよいでしょう。
3)「更正」の期限・「修正申告書」の提出期限
税務当局による「更正」は、次の期間を超えて行うことができません。
- 原則:法定申告期限から5年
- 法人税の欠損金に係るもの:法定申告期限から10年(2018年3月31日以前に開始する事業年度で生じた欠損金は9年)
- 偽りその他の不正の行為等によるもの:法定申告期限から7年
一方、「修正申告書」の提出には期限がないため、税務当局による「更正」を受けるまでは、どの年度分でも提出できます。なお、課税当局による「更正」の期限は上記のとおり定められているため、それより前の事業年度に遡って自ら「修正申告書」を提出する必要は実質的になしということになります。
4 修正申告書等を提出した場合にかかる附帯税(法人税等)
その誤りに対して課される税金(附帯税)も、誤りの種類によってさまざまです。法人税等(国税)に係る附帯金は次の通りです。

1)加算税
1.過少申告加算税
過少申告加算税とは、
本来納めるべき税額より少ない金額で申告していたことが分かった場合に、追加で課される税金
です。税務調査などで申告漏れや計算ミスが見つかり、修正申告などによって追加の税金を納める場合に、その追加税額に対して課されます。
原則として、追加で納める税額(以下「追徴税額」)の10%が課されます。ただし、追徴税額が「当初の申告税額」または「50万円」のいずれか多い金額を超える場合、その超えた部分については15%となります。
一方、税務署から税務調査の通知を受けた後でも、税務調査で申告内容を修正されることを予想していない段階で自主的に修正申告をした場合には、税率が5%(追徴税額が「当初の申告税額」または「50万円」のいずれか多い金額を超える場合、その超えた部分については10%)に軽減されます。また、税務署から調査の通知を受ける前に自主的に修正申告をすれば、原則として過少申告加算税は課されません。
2.無申告加算税
無申告加算税とは、
申告期限までに申告しなかった場合に課される税金
です。期限を過ぎてから申告(期限後申告)した場合や、税務署から申告するよう指摘を受けた場合などが対象になります。
原則として、追徴税額に対して15%が課されます。ただし、追徴税額のうち50万円を超え300万円以下の部分は20%、300万円を超える部分は30%となります。
税務署から調査の通知を受けた後でも、税務調査によって申告漏れを指摘されることを予想していない段階で自主的に申告した場合は、税率が10%(50万円超300万円以下の部分は15%、300万円超の部分は25%)に軽減されます。
なお、過去5年以内に無申告加算税または重加算税を課されたことがある場合には、通常よりも重い税率25%(追徴税額が50万円超300万円以下の部分は30%、300万円を超える部分は40%)が適用されます。
3.不納付加算税
不納付加算税とは、
従業員の給与などから預かった所得税(源泉所得税)を、期限までに納付しなかった場合に課される税金
です。
原則として、期限を過ぎて納付した源泉所得税額の10%が課されます。ただし、税務署から指摘を受ける前に自主的に納付するなど、一定の条件を満たす場合は5%に軽減されます。
4.重加算税
重加算税とは、
単なる計算ミスや申告漏れではなく、税金を少なくするために、事実を隠したり、実際とは違う内容に見せかけたりした場合に課される、特に重いペナルティーとなる税金
です。
たとえば、売上を意図的に帳簿から外したり、実際には存在しない経費を計上したりするなど、意図的な「隠ぺい」や「仮装」があった場合が対象となります。
過少申告加算税や不納付加算税に代わって課される場合は追徴税額の35%、無申告加算税に代わって課される場合は追徴税額の40%です。さらに、過去5年以内に無申告加算税または重加算税を課されたことがある場合には、税率が45%(無申告加算税の場合には50%)に引き上げられます。
2)過怠税
過怠税とは、
印紙税がかかる契約書などに、必要な収入印紙を貼っていなかった場合に課される税金
です。
原則として、本来納めるべきだった印紙税額の3倍に相当する金額が課されます。
3)延滞税
延滞税とは、
税金の納付が期限に遅れた場合に、遅れた日数に応じてかかる利息のような税金
です。税務調査で追加の税金を納めることになった場合だけでなく、本来の納期限までに税金を納めていなかった場合にも発生します。
延滞税の割合は、納付が遅れた期間によって異なります。
- 納期限の翌日から2カ月を経過する日まで
「年7.3%」と「延滞税特例基準割合((銀行の新規の短期貸出約定平均金利を基礎として計算した割合)+年1%」とのいずれか低い割合(2026年は2.8%)
- 上記以降
「年14.6%」と、「延滞税特例基準割合+年7.3%」とのいずれか低い割合(2026年は9.1%)
なお、延滞税特例基準割合は毎年更新され、国税庁のウェブサイトで確認することができます。
5 修正申告書等を提出した場合にかかる附帯金(地方税)
地方税に係る附帯金は次の通りです。地方税についても、法人税等と同様に、「修正申告等」や「更正」の手続きがあります。ただし、住民税には、過少申告加算金・不申告加算金および重加算金は課されません。
なお、各附帯税の意味合いは、法人税等と同じになるため、ここでは税額の算出方法のみを紹介します。

1)加算金
1.過少申告加算金
過少申告加算金は、原則として、追加で納める法人事業税(追徴税額)の10%が加算されます。ただし、追徴税額が当初の申告税額または50万円のいずれか多い金額を超える場合、その超えた部分については15%となります。
なお、税務署などから指摘を受ける前に自主的に申告内容を修正した場合など、一定の条件を満たせば、過少申告加算金は課されません。
2.不申告加算金
不申告加算金は、原則として、追加で納める法人事業税(追徴税額)の15%が加算されます。ただし、追徴税額のうち50万円を超え300万円以下の部分の税率は20%、300万円を超える部分の税率は30%となります。
また、税務当局から指摘を受ける前に自主的に申告するなど、一定の条件を満たす場合は、税率が5%に軽減されます。
なお、過去5年以内に不申告加算金または重加算金を課されたことがある場合は、通常よりも重い税率が適用され、追徴税額の25%(50万円超300万円以下の部分は30%、300万円を超える部分は40%)となります。
3.重加算金
重加算金は、法人事業税の追徴税額に対して35%が加算されます。申告そのものをしていなかった場合は40%となります。
なお、過去5年以内に不申告加算金または重加算金を課されたことがある場合には、通常よりも重い税率が適用され、税率が45%(無申告の場合は50%)に引き上げられます。
2)延滞金
延滞金は、納付が遅れた期間によって異なります。
- 納期限の翌日から1カ月を経過する日まで
「年7.3%」と「延滞税特例基準割合+年1%」とのいずれか低い割合(2026年は2.8%)
- 上記以降
「年14.6%」と「延滞税特例基準割合+年7.3%」とのいずれか低い割合(2026年は9.1%)
6 いわゆる「所得隠し」があった場合
税務調査によって、事実の仮装・隠蔽の行為による申告漏れ(いわゆる「所得隠し」)の指摘を受けた場合には、追徴税額や上記の重加算税などの他、青色申告の取り消し処分も受けます。青色申告の取り消しは、過去の事業年度に遡って行われるため、税額控除などの青色申告の特典を受けていた場合には、適用を受けていない場合との差額について追徴税額が生じます。
また、法人の代表者等が刑事罰の対象ともなり、10年以下の拘禁刑もしくは1000万円以下の罰金が科されることもあります。さらには、こうした事実を報道されることなどによって、法人の社会的信用が下落するなど経営に与える悪影響は計り知れません。
以上(2026年9月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)
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