目次
1 部下を褒めて甘やかすためではない、一人ひとりを“活かす”ために
今シリーズの狙いは、経営者、人事担当者、現場の皆さんのお悩みである「社員を採ってもすぐに辞めてしまう上に、そもそも採れない」という課題を解決することです。「人が辞めない会社、10のヒント』と題して、毎回1つずつご紹介していきます。
『人が辞めない会社』に変わるための課題、その原因と解決策は会社によってさまざまです。
今回ご提示するヒントが皆さんの抱える原因に明らかに当てはまらない場合は、読み飛ばしてくださって結構です。ですが、ヒントの1~9までが該当しなくても、10が当てはまるかもしれません。
全社共通の原因もあれば、部署ごとの固有の原因も存在することでしょう。原因が1つだけというケースは少ないので、何回分か読んでいただければ「これはうちにも当てはまるな」というものを見つけていただけるのではと思います。
『人が辞めない会社』に変わるために、前回の第8回では、“仕事の意義やりがい”をどれくらい実感するかは、一人ひとりのモチベーションタイプ (MT) によるという話をしました。
MTには「組織」「職場」「顧客」「仕事」「社会」「生活」の6つがあり、1)6つのMTはいずれも多くの人が大なり小なりもっていて、2)但し、6つの内どれがメインとなるかや、他との優先順位やバランスは人によって異なると紹介しました。
上司や先輩が、部下や後輩一人ひとりのメインのMTや優先順位の高いMTを把握して、それに応じて声をかけてあげられれば、より活力のある職場が実現し、人は簡単に辞めなくなるという話でした。
部下のMTを把握するには、まず部下は誰一人として同じではなく、MTのあり方も一人ひとり異なるのだという認識を持つこと。その上で、常日頃から部下への声かけを実践し、反応を見ながら確認していく方法をお薦めしました。
相手のモチベーションタイプ (MT) を把握できれば、上司も部下もお互いが気持ち良く日々働けるようになり、自ずと退職防止にもつながっていくのです。
2 「自分は大事な戦力なのだ」と思えれば簡単には辞めない
さて、第9回は [仕事] についての最後のヒントです。それは、
人は「自分は今の仕事で大事な戦力なのだ」と思えれば簡単には辞めないということです。
今シリーズではテーマに沿って、「人が採れない、採ってもすぐに辞めてしまう」という話をしていますが、皆さんの組織にも人はすでにいるはずです。
採用した彼らの最初のゴールは何かというと「戦力に育てる (戦力化する)」ことですよね。
たとえ“中途で経験やスキルがぴったりの即戦力人材”を採用できたとしても、職場になじめなければ、入社後すぐに辞めてしまうかもしれません。
そうならないよう、会社側と本人とのギャップは入社前に確認して、できる限り埋めておきます(埋まらない場合は、互いのためにあえて採用しない判断も必要)。それでも入社後のギャップはあるもので、双方の努力でできるだけ早く埋めていくことが肝要です。
ここまでの話は、第5回『入社日までに「入社後のギャップを最小化する」』、第6回『事前にいくら伝えても、入社後のギャップは必ずある』を中心にご紹介してきました。
“中途で経験やスキルがぴったりの即戦力の人材”ならば、これらのプロセスを経ることで、十分に「戦力に育てる」ことができるでしょう。ですが、そんなにぴったりの人材が採用できるケースはまれなのが現実です。
即戦力とまでは言えない若手の中途人材や、まして新卒人材となれば入社前、入社後のギャップを埋めるだけでは足りません。職場になじんだところで、自分が描くような、また会社や上司、職場の仲間から期待されるような仕事ができなければ、仕事自体への手応えが得られないからです。
第8回でご紹介した部下一人ひとりのモチベーションタイプ (MT) に合ったほめる言葉、励ます言葉をかけても、本人に実感がない限りこの問題は解消されません。
前向きに入社を決めた人ほど、本人にとって十分な「仕事の手応え」や「仕事を通した貢献や成長」が感じられなければ、モチベーションが維持できずにどんどん気持ちが辛くなっていくでしょう。
それは、本人が「自分は今の仕事で大事な戦力なのだ」と感じられていないということです。すなわち、職場に自分がいようがいまいが関係ない (あるいは逆に迷惑をかけてしまっている)と感じる。自身の”存在価値”や“存在意義”が見えない状態です。
3 徐々に「仕事を任せ」、自分で自律的に考えさせてみる
こうした自身の”存在価値”や“存在意義”が見えないためにモチベーションが満たされない状態を、皆さんも新人時代に経験していませんか。「はたして自分は、この会社や職場にとって本当に必要なのだろうか」と悩んでしまう。
中途入社の人の場合、これまでの経験やスキルを引っ提げて入社しただけに、余計に今後の希望を見失うかもしれません。
そんなとき、迎える側の上司がやるべきこと。それは彼らに徐々に「仕事を任せ」、一緒に「振り返る」ことです。
社会人が初めてだから、社外から来て分からないだろうからといって、上司や先輩がいちいち指示命令ばかりしていては良い解決策になりません。入社してすぐの新入社員ならまだしも、中途入社の人にとっては指示命令された通りに完遂できたところで、さほど達成感はないでしょう。
とはいえ、これまでの社内のやり方を覚えてもらうことも必要です。ならば次のように声をかけてみてはどうでしょう。
「今回○○さんにはこの仕事をお願いしたいと思います。最初は従来うちでやってきた手順を教えますので、まずその方法でやってみてください。同時にやりながら○○さんなりに、どこをどう変えればもっとよくなるといったアイデアを考えて提案してください。期待していますよ」
中途入社や、新卒でも近しいアルバイト経験のある人であれば、「○○さんが経験した□□□での知識やスキルからの提案もぜひ聞かせてください。期待していますよ」と添えれば期待度がより伝わります。近しい経験がなかったとしても、商品やサービスによっては顧客目線での提案は可能です。
ポイントは、本人の経験、知識、スキル、アイデア、何を活用してもいいので、自分で自律的に考えてもらうという点です。「新戦力としての期待」や「本人ならではの経験、知識、スキル、アイデアを期待していること」が伝われば、誰もが少なからず“存在価値”や“存在意義”を感じられるはずです。
4 提案をクローズにせずチームで共有し、トライして「振り返る」
本人からの提案は、上司が前向きにサポートしながら、2人の間だけで閉じるのではなく、定例会議の場面などでチームの他のメンバーにも聞いてもらいましょう。
2人だけで勝手に進めては、それを見た他のメンバーが混乱し、疑心暗鬼につながりかねません。
人は変化に対して面倒くさいと感じがちです。長年やってきて大きな問題を感じていなければ、新たな提案などは否定したくなるのが人情。「今までのやり方で何が問題なの」「そんなのうまくいくはずがない」 「前にやったけれどうまくいかなかった」と。
前にやってうまくいかなかったからといって、今回もうまくいかないとは限りません。世の中も顧客も常に変化し、技術は進化しています。改善の可能性がゼロでない限りは、「せっかくの提案だし、一度やってみようよ」と上司から提案してほしいのです。
そうして回数や期間(○日、1週間、1か月、半年など)を決めて部署のみんなで、あるいは本人だけでもいいのでトライしてみましょう。その結果をみんなで「振り返る」のです。
たとえ結果が出なくても提案自体はチームを思ってのこと、提案したこと自体は賞賛してあげてください。それでこそまた新たな提案が生まれます。
もう少しやってみようとなれば期間を延ばせばいいし、改善点が見つかればそれを反映してまたトライすればいいでしょう。
繰り返すうちに周囲は少しずつ新メンバーを理解し、協力してくれたり、新たなアイデアをくれたりするかもしれません。ほどなくチームのメンバーも新メンバーを受け入れ、本人は「みんなに存在を認められた」 「自分はここにいていいんだ」と感じ始めているはずです。
新しい組織の一員になることは、誰にとっても不安なもの。経験やスキルに乏しい新卒や若手社員は、「自分などいてもいなくても変わらない」とあきらめがちです。
後ろ盾のありそうな中堅以上の中途入社者であっても、不安なのは同じです。一日も早く戦力にならなければと焦っています。結果、経験やスキルを活かそうといきなり「前職ではこうしていた、このほうが効率的だ」などと主張して、かえって反発を招くことも少なくありません。
上司だけでなく周囲のメンバーは、新たに加わるメンバーが新卒や若手だろうと、ベテランだろうと、「自分はここで存在を認めてもらえるだろうか」と、誰もが不安を抱えているのだと知りましょう。
外部からの採用だけでなく、社内異動でも同じです。人材不足が叫ばれる中、新メンバーを「戦力に育てる」 気持ちがあるのなら、上司や周囲のメンバーのほうから先に受け入れる姿勢を示しましょう。受け入れる側が理解しようと努めてください。
5 一人ひとりの“存在価値”や“存在意義”を演出する
ここまでチームに新たに加わるメンバーを「戦力に育てる」ために必要なことをお話ししてきました。けれども、「自分は大事な戦力なのだと思えれば、簡単には辞めない」というのは、新たなメンバーだけに限りません。
メンバー一人ひとりが「自分は大事な戦力なのだ」と確信でき、自身の”存在価値”や“存在意義”を感じられる状態を演出することで、組織は活性化し、退職防止にもつながります。
上司やチームはメンバー一人ひとりの”存在価値”や“存在意義”を、しっかりと認識できているでしょうか。もし自信がなければ、それぞれの“得意なこと・強み”にフォーカスしてみてください。
いつも仕事の質が高い、仕事が早い、チャレンジ精神があるといった仕事のレベルそのものだけでなくて構いません。
字がきれい、仕事が丁寧、いつも冷静、返事がいい、挨拶がいい、笑顔がいい、何でもいいのです。各人ならではの“得意なこと・強み”を認めて、何度も褒めてあげてください。
「○○さんは字がきれいですね」は、何度言ってあげてもいいのです。相手が「またですか。前にも褒めてくれましたよ」と言って来たら、「だって毎回思うんだよ、素敵だなって」と返せばいいのです。表向きはどうあれ、内心は褒められて嫌な人はいません。
「○○さんは字がきれいですね」と言われた本人はどうすると思いますか? 「これは自分の“得意なこと・強み”なんだ」と強く認識して、さらに腕を磨くことでしょう。恐らく手書きの仕事があれば、社内の誰もがその人を頼ってくるに違いありません。本人は組織における自身の“存在価値”や“存在意義”を感じ、他の仕事にも前向きに取り組めるのです。
本人のモチベーションタイプ (MT) がもし「職場型」であったなら、「○○さんがいなかったら、きれいな手書きが必要な時にみんな困っちゃうね」という一言を添えることで、さらに“存在価値”や“存在意義”が増幅するでしょう。
字がきれいな○○さんには、他にも“得意なこと・強み”を見つけて認めてあげることで、さらに高いレベルの「戦力に育てる」ことを目指しましょう。その演出は上司にこそできる仕事です。
部下のメンバー一人ひとりが「自分は大事な戦力なのだ」と思って仕事に取り組めているかどうか。上司の皆さんはぜひ、毎日チェックしてみてください。
第9回を最後までお読みいただきありがとうございました。次回は個々の仕事ではなく、職場環境としての[組織] についてのヒントをご紹介します。毎回ご紹介するヒントを参考にしながら、自社を退職する一人ひとりの「辞める理由」と、働いている一人ひとりの「辞めない理由」を丁寧に拾ってみましょう。見えてきた自社ならではの“課題”を解消し“強み”を活かせれば、「人が辞めない会社」へと変われるはずです。
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※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。
『新スペシャリストになろう!』
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『なぜ社長の話はわかりにくいのか』
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以上(2026年3月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
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