【書籍ダイジェスト】『サボテンは世界をつくり出す』

本書は、日本で唯一のサボテン学者である著者が、フィールドワークや研究室でのエピソードを交えつつ、サボテンの特殊な生態や能力について詳述している。
サボテンは水を大量に含むことから、家畜の飼料として与えると家畜の飲水量が減り、節水効果があるという。また、サボテンはCO2をシュウ酸カルシウムとして体内に蓄積する能力を持っており、枯死後も100年から100万年という長いスパンでCO2を土壌に固定できる。さらに、重金属による土壌汚染を植物によって浄化する「ファイトレメディエーション」への応用も期待されている。

書籍ダイジェストは、こちらからお読みいただけます。pdf

【朝礼】「土用の丑の日にうなぎを食べる」を文化にした平賀源内のアイデア

【ポイント】

  • 平賀源内は、うなぎの「う」と丑の日を結びつけ、夏のうなぎ商戦の文化を生み出した
  • アイデアとは、ゼロから何かを生み出すことと思われがちだが、そうではない
  • すでにあるものについて、「これとあれは、つながらないか」と模索することが大切

皆さん、おはようございます。突然ですが、今年の7月26日は、土用の丑の日(どようのうしのひ)です。うなぎ、好きな方も多いと思います。「土用の丑の日にうなぎを食べる」というこの習慣、実は、江戸時代の発明家・平賀源内(ひらがげんない)が広めたといわれています。

当時、うなぎは夏に売れない食べ物でした。脂が乗る旬は秋から冬で、夏場は客足が落ちてしまいます。困ったうなぎ屋が、源内に相談を持ちかけたところ、源内が考えたのが「本日は土用の丑、鰻食うべし」と書いた一枚の看板でした。「丑の日には『う』のつく食べ物を食べると夏負けしない」という言い伝えを活用したのです。うなぎの「う」と丑の日を結びつけた、一種のコピーライティングです。これが大当たりし、夏のうなぎ商戦という文化が生まれました。

源内はもともと博物学者であり、発明家でした。エレキテルの復元や、石綿で作った「火浣布(かかんぷ)」の製作など、当時の日本ではまったく前例のない挑戦を次々と行いました。彼の発想の根っこにあったのは、1つの問いです。「これとあれは、つながらないか」。異なる分野の知識を組み合わせ、誰も思いつかなかった答えを出す。それが源内の真骨頂でした。

私たちの仕事でも、同じことが言えると思います。行き詰まったとき、「全く新しいものを生み出さなければ」と考えると、どこから手をつければいいか分からなくなりがちです。でも源内がやったのは、すでにある知識と知識を「結びつける」ことでした。うなぎという食材は変えていない。丑の日という言い伝えも変えていない。ただ、その2つをつないだだけです。

アイデアとは、ゼロから何かを生み出すことと思われがちですが、そうではありません。すでにあるものを、新しい組み合わせで見せることなのです。今日一日、仕事の中で行き詰まりを感じたときは、ぜひ一度立ち止まって考えてみてください。「これと何かをつなげられないか」と。その小さな問いが、思わぬ突破口になるはずです。頑張っていきましょう。

以上(2026年7月作成)

pj17253
画像:Mariko Mitsuda

中小企業の株式に増税? 60年ぶりに改正議論が始まった非上場株の相続税評価

1 非上場株の評価額が上がる可能性も……改正議論が開始

60年ぶりとも言われる非上場株の相続税評価の見直し議論が始まっています。この動向は、中小企業の経営者にとって他人事ではありません。改正後に評価額が上がれば、事業承継時の税負担が増え、後継者が引き継ぎを断念するケースも出てくる可能性があるからです。

2026年4月、国税庁が「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を立ち上がり、2026年6月時点で3回開催されています。

見直しの方向性はまだ確定していませんが、関係者の多くが「評価額が上がる可能性が高い」

と見ています。「改正が決まってから考えよう」では遅いかもしれません。今、何が起きているのかを理解し、早めに備えることが経営者としての責任です。重要なのは「改正が決まってから動く」のではなく、今の評価額を把握し、選択肢を整理しておくことです。

2 そもそも「非上場株の評価」とは何か

株式市場に上場している会社の株は、市場で毎日売買されているので、その日の値段(株価)がすぐに分かります。しかし、中小企業などの非上場株は市場で取引されないため、「この株はいくらか」を計算するルールが必要です。

相続や贈与が起きたとき、非上場株の価格は国税庁が定めた通達(ガイドライン)に沿って計算されます。この評価額をもとに相続税・贈与税が計算されるため、評価額が高くなると税負担も重くなります。現在の主な評価方法は次の2つです。

非上場株式の主な評価方法

実際には、会社の規模に応じていずれかの評価方法、もしくはこの2つを併用する評価方法が使われます。大きな会社ほど1.の「類似業種比準方式」の影響が強く、小さな会社ほど2.の「純資産価額方式」の影響が強くなります。

3 なぜ今、改正議論が始まったのか

きっかけは、2024年に会計検査院(国のお金の使われ方などをチェックする機関)が公表した調査(会計検査院「令和5年度決算検査報告」)です。その報告書で、現在の評価方法には大きな問題があると指摘されました。

最大の問題は、

「類似業種比準方式」による評価額と「純資産価額方式」による評価額の間に、あまりにも大きなギャップが生じているケースがある

という点です。

例えば、ある事例では類似業種比準方式で算出した評価額が、M&A(会社の買収)による実際の売却価格のわずか8%程度にしかなっていなかったことが明らかになっています。これは極端な例ですが、評価額と実態の間に何倍もの差が開いているケースが珍しくないのです。

また、こうしたギャップを悪用した「節税スキーム」の横行も問題視されています。例えば、意図的に利益を圧縮したり、会社を分割して資産を子会社に移したりすることで、評価額を人為的に引き下げ、税負担を極端に減らす行為が増えているのです。

さらに、近年の裁判例でも、通達に基づく評価額と実態があまりにも乖離している場合、税務当局が「通達によらない評価」を行って課税するケースが増えており、納税者との間でトラブルが相次いでいます。

4 想定される改正スケジュール

現時点での見通しは次の通りです。ただし、議論の結果次第で変わる可能性があります。

想定される改正スケジュール

  • 2026年4月~(有識者会議の開始):国税庁により「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」が設置され、2026年4月20日に初会合(第1回)が開催されました。
  • 2026年秋~冬(議論の取りまとめ):これまでの議論(第1回$301C第3回など)を踏まえ、有識者会議としての評価制度の見直し案が策定・公表される予定です。
  • 2026年12月~2027年1月(税制改正大綱へ反映):取りまとめられた見直し方針が、2027年度税制改正大綱に記載される見通しです。
  • 2027年4月頃(パブリックコメントの実施):大綱に示された方針に基づき、具体的な「財産評価基本通達」の改正案について一般からの意見公募(パブリックコメント)が行われます。
  • 2028年1月1日(新たな評価ルールの適用開始(予定)):一部報道や国税庁資料に基づくと、早ければこのタイミングから新しい評価方法による申告が必要になると予測されています。

5 有識者会議ではどんな議論が行われているか

国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」は、2026年4月の第1回を皮切りに、5月・6月と続けて開催されています。法律・会社法・M&A実務・会計学などの専門家や、日本商工会議所・日本税理士会連合会も参加し、さまざまな立場から意見が交わされています。

■国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」■
https://www.nta.go.jp/about/council/kenkyu.htm#nai-hyoka

議論の焦点は大きく4つです。

1)評価額が大きく変わる「評価の崖」をなくす

現在の非上場株式の評価制度では、会社の規模や評価方法の違いによって、株価が大きく変わるケースがあります。このような極端な差は「評価の崖」と呼ばれ、公平性の観点から問題視されています。

実際に、会計検査院が2024年に公表した調査では、「類似業種比準方式」(同業他社の株価を参考にする方法)で計算した株価は、「純資産価額方式」(会社の資産や負債を基に計算する方法)で算出した株価の約4分の1にとどまっていました(会計検査院「令和5年度決算検査報告」)。

また、会社の規模が大きいほど株価が低く評価される傾向も見られます。そのため、事業内容や収益力が似ていても、会社規模の判定基準(従業員数や取引金額など一定の基準)をわずかに超えただけで、適用される評価ルールが変わり、株価が急激に上昇することがあります。今後の見直しでは、このような不自然な段差をなくし、よりなだらかで公平な評価制度にすることが検討されています。

2)評価額の恣意的な操作を防ぐ

現行の評価制度は計算ルールが明確である一方、その仕組みを利用して株価を意図的に低くする対策が行われるケースもあります。

代表的な例が配当金の調整です。株価計算の要素の一つに配当金額が含まれているため、あえて配当を出さないことで株価を下げる手法が利用されています。国税庁の分析では、評価の対象となった企業の8割超が、評価前の2年間に配当を実施していませんでした。

この他にも、

  • 親会社の資産を子会社へ移して親会社の株価を下げる方法
  • 創業者に議決権のない株式を持たせることで、後継者側の評価額を低くする方法
  • 高額な役員退職金を支払い、利益を一時的に減らす方法

など、さまざまな税負担を下げるスキームが指摘されています。

現在は、こうしたケースに対して税務当局が個別に判断する「総則6項」という特別なルールで対応しています。しかし、どのような場合に適用されるのか分かりにくく、予測が難しいという課題があります。そのため、個別対応に頼るのではなく、評価ルール自体を見直すべきだという議論が進められています。

3)実態を反映した評価へ見直す

現在の株価評価では、会社を解散した場合に残る資産価値を重視する「純資産価額方式」が大きな役割を担っています。

しかし、実際の会社の価値は、保有している資産だけで決まるものではありません。将来どれだけ利益を生み出せるかという「収益力」も重要な要素です。

例えば、会社法上の株価評価をめぐる裁判では、将来の利益やキャッシュフロー(事業活動で生み出すお金)を基に企業価値を算定する方法が広く使われています。一方、純資産価額は最低限の価値を示す指標として扱われることが多く、税務上の評価との違いが指摘されています。

また、専門家からは、研究開発力や人材力、ブランド力といった、貸借対照表には表れにくい価値も企業価値に反映すべきだという意見が出ています。

経済団体からも、「事業を継続している会社を、解散を前提とした価値だけで評価するのは実態に合わない」との声が上がっており、今後は収益力をより重視した評価方法が検討される可能性があります。

4)M&A・第三者承継の実態を反映する

近年、中小企業の事業承継では、親族への引き継ぎだけでなく、第三者へのM&A(企業の売却・買収)が急速に増えています。

M&Aの現場では、会社が保有する資産だけでなく、顧客基盤や技術力、ブランド力、将来の収益力なども考慮して企業価値が決まります。そのため、税務上の株価評価と実際の売買価格に大きな差が生じることがあります。

実際の裁判例では、税務上の評価額がM&Aによる買収価格の1割にも満たなかったケースもあり、現行制度が企業の実態を十分に反映していないとの指摘があります。

こうした背景から、今後の制度改正では、M&Aで使われる企業価値評価の考え方を税務評価にどこまで取り入れるかが重要な論点となっています。

ただし、M&Aの価格には買い手ごとの事情や期待される相乗効果(シナジー)が反映されるため、その価格をそのまま相続税や贈与税の評価額に使うべきではないという慎重な意見もあります。そのため、事業承継を妨げないよう配慮しながら、どのような評価方法が適切なのかが議論されています。

6 改正の方向性が固まっていない今、経営者がやるべきこと

1)ステップ1:自社株の現在の評価額を把握する

制度改正への対応を考える上で最初に行うべきことは、自社株が現在どのように評価されているのかを把握することです。

非上場株式の評価方法は会社規模によって異なります。まずは、自社が「大会社」「中会社」「小会社」のどれに該当し、どの評価方法が適用されているのかを確認しましょう。これまでにもあるように、現在は、「類似業種比準方式(上場企業の株価を参考にする方法)」が適用される会社ほど、株価が低く評価される傾向があります。

まずは現状の評価額を把握し、自社がどの程度現行ルールの恩恵を受けているのか確認することが重要です。

2)ステップ2:後継者への株式移転を急ぐかどうか検討する

今回の見直しでは、自社株の評価額が引き上げられる可能性が高いとみられています。評価額が上がれば、贈与税や相続税の負担も増えることになります。

そのため、後継者への株式移転を予定している場合は、現行ルールのうちに実行した方がよいかどうかを検討が必要です。

特に注目されているのが「相続時精算課税制度」です。この制度を利用して株式を贈与した場合、将来相続が発生した際も、原則として贈与時点の評価額を基準に税額を計算します。つまり、制度改正によって将来株価が上昇したとしても、その影響を受けにくくなる可能性があります。

ただし、この制度には一度選択すると原則として元に戻せないなどの注意点もあります。利用するかどうかは、将来の相続税や贈与税を含めた総合的なシミュレーションを行った上で判断することが大切です。

3)ステップ3:事業承継税制の活用を改めて検討する

事業承継税制の活用も改めて確認しましょう。事業承継税制は、一定の条件を満たした場合に、後継者が取得した自社株にかかる贈与税や相続税の納税を猶予できる制度です。

現在、専門家や経済団体の間では、今後の株価評価の見直しに合わせて、この制度をさらに使いやすくするべきだという議論も行われています。

そのため、株価評価の改正だけを見るのではなく、事業承継税制が今後どのように見直されるのかについても継続的に情報収集することが重要です。

4)ステップ4:顧問税理士と定期的に情報共有する

今回の見直しは法律改正ではなく、国税庁が定める評価ルールの見直しとして進められています。そのため、国会での法改正を待たずに制度内容が変更される可能性があります。今後、有識者会議による議論や税制改正大綱などを通じて具体的な方向性が明らかになっていく見込みです。

また近年は、株価を極端に引き下げる対策に対して、税務当局が通常の評価ルールとは異なる方法で課税するケースも増えています。「これまで問題なかった対策だから大丈夫」と考えるのではなく、現在行っている株価対策にリスクがないかを、顧問税理士などの専門家を通して定期的に確認することが重要です。

以上(2026年7月作成)
(監修 税理士 石田和也)

pj80201
画像:日本情報マート

相続から考える事業承継 事業承継で押さえるべき税務ポイント

事業承継では、自社株式や会社への貸付金など、事業の継続に必要な財産をどのように承継するかが重要な課題となります。特に自社株式は評価額が高額となることもあり、相続税や贈与税、事業承継税制の活用などを含めた検討が欠かせません。

この記事は、こちらからお読みいただけます。pdf

なぜ今『取適法』なのか!中小受託事業者等(受注者)の「取適法」の使い方

「取適法」について、改正前の法律である「下請法」から紐解いてその趣旨や目指すところを概観しつつ、その内容を解説し、そのうえで主に中小受託事業者等(受注者)側がどのようにこの「取適法」を活用すべきか、その在り方について考えてみたいと思います。

この記事は、こちらからお読みいただけます。pdf

制度改正に注目! 2026年度地域企業経営人材確保支援事業給付金の最新情報

人手不足が深刻化する中、経営人材や専門人材の確保は、多くの地域企業にとって重要な経営課題となっています。一方で、大企業で経験を積んだ優秀な人材を採用するには、待遇面のコストなどが壁となるケースも少なくありません。地域企業経営人材確保支援事業給付金は、こうした負担を軽減し、地域企業が高度な知識や経験を持つ人材を迎え入れることを後押しする制度です。

この記事は、こちらからお読みいただけます。pdf

相続人を悩ませる資料収集に備える! 16種類の「相続資料」一覧 (チェックリスト付き)

1 今のうちから進めておこう、相続資料の準備

相続は、そう何度も経験することではありません。だからこそ、いざ相続が発生すると、必要な資料や手続きの進め方が分からず、戸惑う方も少なくありません。相続に必要な資料は被相続人(亡くなった人)の生き方や財産状況によって異なります。加えて、近年は預貯金がネットバンキング、証券がネット証券で管理されるケースも増え、デジタル上にしか跡が残っていないことも珍しくありません。

相続財産や債務を最も正確に把握しているのは被相続人ですが、当事者が亡くなってから資料を集めるのは簡単ではなく、想像以上に手間がかかります。だからこそ、生前のうちに、将来の相続人(相続財産などを引き継ぐ人)が基本的な資料を把握しておくことが大切です。

相続資料(自治体や金融機関などに申請や連絡が必要なもの)は多岐にわたりますが、

戸籍関係・相続財産関係・債務関係に分けて考える

と、整理しやすくなります。次のチェックリストを確認しながら必要な資料を確認していきましょう

ダウンロードボタンをクリックすると、エクセル形式の一覧表がダウンロードできます。

こちらからダウンロード

(注)エクセルはMicrosoft365、Excel2024以降に対応しています。チェックボックスは、TRUEとFALSEの値で構成され、チェックボックスの書式設定が行われます。
オフになっているチェックボックスの値はFALSEです。チェックを入れるとチェックボックスの値はTRUEになります。数式でチェックボックスセルを参照すると、TRUEまたはFALSEがその数式に渡されます。

収集資料一覧表

2 主な戸籍関係の相続資料(4種類)

1)被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式

【目的】法定相続人を明らかにする、各種相続財産の名義変更手続きなどのため
【取得】相続人が、最寄りの役所の戸籍窓口で請求・取得

2024年3月1日以降は、戸籍謄本を1つの役所の窓口で一括して申請・取得できます(広域交付制度)。転籍の状況や、市区町村の事情(ネットワーク共有ができていない)などにより異なる場合もありますが、一般的に即日発行されます。

また、戸籍謄本一式を集めたら、法務局の「法定相続情報証明制度」を利用することをおすすめします。これは、戸籍謄本一式の内容に基づき、法定相続人が誰であるかを登記官が確認したうえで証明してくれる書類で、無料で必要な通数を発行してもらえます。交付される一覧図の写しがあれば、不動産の相続登記だけでなく、金融機関での預貯金の名義変更や、税務署、年金事務所での手続きなど、複数の窓口に戸籍謄本一式を何度も出し直す必要がなくなり、相続手続き全体を効率よく進められます。

2)被相続人の住民票の除票

【目的】不動産を相続した場合の相続登記(名義変更)や、各種相続財産の名義変更手続きなどのため
【取得】相続人が、被相続人が最後に住んでいた市区町村の役所の戸籍窓口(上記の広域交付制度には対応していないので注意)、または被相続人が最後に住んでいた市区町村の役所へ郵送のいずれかで請求・取得

一般的に申請から1週間程度で発行されます。届出の処理状況によっては即日発行もできる場合もあるようです。

3)相続人全員の戸籍謄本または戸籍抄本

【目的】自身が被相続人の相続人であることを明らかにするためや、各種相続財産の名義変更手続きなどのため
【取得】相続人が最寄りの役所の戸籍窓口、本籍地の役所へ郵送、または最寄りのコンビニ(コンビニ交付サービスに対応している市区町村に限る)のマルチコピー機のいずれかで請求・取得

郵便で請求した場合を除き、一般的に即日発行されます。郵便の場合は、1週間程度で送付されます。

4)相続人全員の住民票の写し、印鑑証明書

【目的】遺産分割協議書の作成や不動産を相続した場合の相続登記(名義変更)などのため
【取得】相続人が、最寄りの役所の戸籍窓口、本籍地の役所への郵送、または最寄りのコンビニ(コンビニ交付サービスに対応している市区町村に限る)のマルチコピー機のいずれかで請求・取得)

郵便で請求した場合を除き、一般的に即日発行されます。郵便の場合は、1週間程度で送付されます。

3 主な相続財産関係の相続資料(8種類)

1)預貯金口座の残高証明書と取引履歴

【目的】相続財産の把握、生前贈与の有無や預貯金の払戻し手続きなどのため
【取得】相続人が、金融機関に相続発生の連絡をし、指定の必要書類(被相続人の戸籍謄本や相続人の戸籍謄本、本人確認書類など)を窓口または郵送にて提出することで取得

金融機関ごとに詳細な手続きフローは異なりますので、事前にウェブサイトを確認しましょう。なお、個々の状況によって違いますが、手続きには3週間程度かかります。

また、被相続人名義の口座への入金や、公共料金などの引き落としは、原則できなくなりますので、金融機関の連絡に併せて、入金先や引落先への連絡や、入金・引落口座の変更手続きも進めていく必要があります。被相続人が生前に作成した口座一覧表があればそれを基にしますが、ない場合は確定申告書や手元に残された通帳・封筒等から取引先を推測します。

その他の調査手段として、2025年4月より、口座管理法に基づく「相続時口座照会制度」が開始されています。これは、預金保険機構のシステムを通じて、被相続人がマイナンバーを紐づけていた預貯金口座の所在(金融機関名や支店名)を公的に照会できる仕組みです。

ただし、注意点が2つあります。

  • この制度で確認できるのは「どの金融機関に口座があるか(口座の有無・所在)」のみであり、預金残高までわかるわけではありません。所在が判明した後、改めて各金融機関に個別の照会や残高証明書の請求を行う必要があります
  • 対象となるのはマイナンバーが紐づけられている口座のみであるため、登録されていない金融機関の口座については、引き続き個別の調査を行う必要があります

2)金融商品に関する残高証明書、顧客勘定元帳、配当金通知書

【目的】相続財産の把握や相続人の口座への移管手続きなどのため
【取得】相続人が、証券会社等に相続発生の連絡をし、指定の必要書類(被相続人の戸籍謄本や、相続人の戸籍謄本、本人確認書類など)を提出することで取得

金融機関ごとに詳細な手続きフローは異なりますので、事前にウェブサイトを確認しましょう。また、個々の状況によって違いますが、手続きには3週間程度かかります。

金融商品については、上記の手続きの前に、開設している証券口座の把握が必要です。相続人が、生前、証券口座の一覧表を作成していれば、それをたどればよいのですが、もし一覧表などがない場合には、証券保管振替機構リンクに対して、信用情報の開示の申し込みが必要になります。開示申し込みの手続きは、それぞれの機関のウェブサイトをご参照ください。

また、遺産分割協議後に、それぞれの相続人への名義変更が必要になりますが、相続人が証券用の口座を持っていない場合には、被相続人と同様の金融機関で新規口座開設が必要になる点に注意しましょう。

3)不動産の登記簿謄本、公図・地積測量図(土地の場合)

【目的】相続財産の把握や相続人への名義変更手続きなどのため
【取得】相続人が、不動産の所在地を管轄する法務局の窓口、不動産の所在地を管轄する法務局への郵送、登記情報提供サービスを利用してオンライン申請のいずれかで請求・取得

窓口の場合は即日発行、オンライン申請の場合は数日程度で郵送されます。

4)名寄帳または固定資産評価証明書

【目的】相続財産の把握や相続人への名義変更手続きなどのため
【取得】相続人が、不動産のある市区町村の役所の窓口、不動産のある市区町村の役所への郵送のいずれかで請求・取得

窓口の場合は即日発行、郵送の場合は1週間程度を要します。

不動産の相続については、1)と2)のように外部に請求する書類以外にも、被相続人が保管しているさまざまな書類が必要になります。主な資料には、次のものがあります。保管場所などを生前に把握しておくことが大切です。

  • 土地の実測図
  • 土地、建物の固定資産税課税明細書
  • 土地、建物の売買契約書など(取得の場合)
  • 土地、建物の不動産賃貸借契約書(賃貸、借地の場合)

5)生命保険の支払通知書、保険証書、解約返戻金計算書

【目的】相続財産の把握や保険金の支払い請求手続きなどのため
【取得】支払通知書と解約返戻金計算書は、保険金受取人が、契約している保険会社に連絡し、指定の必要書類(支払請求書、被保険者の住民票、保険金受取人の戸籍謄本・印鑑証明書など)を提出することで取得

支払通知書は、保険金の支払い後、郵送等されます。生命保険会社ごとに詳細な手続きフローは異なりますので、事前にウェブサイトを確認しましょう。保険証書は、基本的に被相続人が保管していますので、保管場所などを生前に把握しておくことが大切です。

生命保険については、上記の手続きの前に、契約している生命保険の把握が必要です。相続人が、生前、契約していた生命保険の一覧表を作成していれば、それをたどればよいのですが、もし一覧表などがない場合には、生命保険契約照会制度を利用して調査することができます。この制度は、生命保険協会を通じて、生命保険会社41社へ保険契約の有無を一括で照会できるもので、オンラインや郵送で調査依頼が可能です。

6)死亡退職金の支払明細書(支払調書)

【目的】相続財産の把握などのため
【取得】勤務先の会社などから交付

支払明細書が見当たらない場合には、勤務先の会社などに問い合わせるようにしましょう。

7)自動車の車検証、ゴルフ会員証書、骨董・貴金属などの査定書

【目的】相続財産の把握や名義変更などのため
【取得】基本的に被相続人が保管している(保管場所などを生前に把握しておく)

骨董・貴金属など購入価額が高額なものは、専門家による鑑定により評価額を算定する必要があります。

8)給与やアパート経営に伴う受取家賃などの未収となっている収入関連の各種契約書

【目的】相続財産の把握や名義変更などのため
【取得】基本的に被相続人が保管している(生前にどのような収入があるのか、保管場所などを生前に把握しておく)

相続時点で未収となっているものも、相続税の課税対象となるため、漏れのないよう、早めに情報を整理しておきましょう。

4 主な債務関係の相続資料(4種類)

1)借入金残高証明書・返済予定明細書

【目的】相続財産の把握などのため
【取得】相続人が、金融機関に相続発生の連絡をし、金融機関から指定された必要書類(被相続人の戸籍謄本や相続人の戸籍謄本、本人確認書類など)を窓口または郵送にて提出することで取得

金融機関ごとに詳細な手続きフローは異なりますので、事前にウェブサイトを確認しましょう。また、個々の状況によって違いますが、手続きには3~4週間程度を要します。

借入金については、上記の手続きの前に、借入金契約を把握しておくことが重要です。被相続人が、生前、契約していた借入金の一覧表を作成していれば、それをたどればよいのですが、もし一覧表などがない場合、指定信用情報機関である日本信用情報機構(JICC)、クレジット インフォメーション センター(CIC)、全国銀行協会のいずれかに対して、信用情報の開示の申し込みが必要になります。開示申し込みの手続きは、各機関のウェブサイトをご参照ください。

2)医療費の請求書・領収書

【目的】相続財産の把握や立て替えた相続人の所得税の医療費控除などのため
【取得】治療を受けていた病院から発行

被相続人の医療費については、誰が、いつ支払ったかを明確にしておくようにしましょう。被相続人が死亡した日までに本人が支払ったものは、

その被相続人の準確定申告(亡くなった年の1月1日から、亡くなった日までの所得税の確定申告)における医療費控除の対象

になります。

一方、被相続人が死亡した後に相続人(被相続人と生計が一緒であった場合に限る)が支払ったものは、

負担した相続人の確定申告における医療費控除の対象

になります。また、立て替えた医療費については、相続財産から債務としてマイナスすることができます。

3)葬式費用の請求書・領収書

【目的】相続財産の把握のため
【取得】葬儀会社などから発行

寺院に支払ったお布施・読経料・戒名料などは通常、領収書などの発行がない場合は、支払日、支払先、支払金額などのメモを残しておくようにしましょう。

葬式費用(墓石・墓地の買入費用や香典返しなど一定のものは除く)については、相続財産から債務としてマイナスすることができます。

4)公共料金などの請求書・領収書

【目的】相続財産の把握や契約解除などのため
【取得】被相続人が生前利用していた水道、ガス、電気会社などから発行

公共料金以外にも、スマートフォンや各種定期サービスについても、それぞれ請求書・領収書を保存しておきましょう。

これら公共料金や電話料金については、相続財産から債務としてマイナスすることができます。ただし、支出の内容によっては相続財産からマイナスできないものもあるため、税理士などの専門家にご相談ください。

以上(2026年7月更新)
(監修 税理士 石田和也)

pj30229
画像:Jumpei-Adobe Stock

職場の熱中症対策義務化 身体冷却機器等の導入を支援する補助金の紹介

熱中症対策義務化により、多くの事業者で設備導入や職場環境改善の必要性が高まっています。熱中症対策は従業員の健康を守る重要な取組ですが、設備導入や職場環境改善には費用がかかります。こうした負担を軽減するためにも、エイジフレンドリー補助金や自治体の支援制度を積極的に活用してみてはいかがでしょうか。

この記事は、こちらからお読みいただけます。pdf

2026年7月から、障害者雇用のルールはどう変わった?

1 障害者雇用は義務ではなくチャンス!

「障害者雇用は大切だけど、ウチには頼める仕事がないから無理・・・・・・」。こんなイメージがある障害者雇用ですが、状況は変わってきました。その背景には、

  • 職業能力の開発次第で障害者は十分な戦力になることを体感する会社が増えてきた
  • 働き方のルールが柔軟になる中で障害者の活躍フィールドが広がってきた
  • 障害者に特化した採用支援サービスが充実し、障害者と出会える機会が増えた

などの変化があり、会社で働く障害者の数もこの10年間で1.5倍以上に増えています。

会社における障害者の雇用状況

障害者雇用は、人材採用と社会貢献という2つの課題を同時に解決できる可能性を位めています。以降では、障害者雇用を検討するための第一歩として、障害者雇用促進法とその関係法令に定められている、

  • 会社が雇用する障害者の数を決める「障害者雇用率制度」 (2026年7月から変更あり)
  • 不当な差別を防ぐ「障害者差別の禁止や合理的配慮の提供義務」

について説明します。

2 「障害者雇用率制度」とは?

1)2026年7月からは、社員が37.5人以上になると障害者の雇用義務が発生

障害者雇用率制度とは、

常時雇用する社員数が一定数以上の会社は、社員数に一定の割合 (障害者雇用率(法定雇用率))を掛けた人数以上の障害者を雇用しなければならない

という制度です。「常時雇用する社員」とは、

  • 1週間の所定労働時間が原則20時間以上(例外あり)
  • 1年を超えて雇用される見込みがある、または1年を超えて雇用されている

の両方を満たす社員です。常時雇用する社員は、正社員については1人当たり「1人」、バートタイマー等の短時間社員については1人当たり 「0.5人」とカウントします。

これまでは、社員が40人以上の会社 (民間企業)に対し、社員数の2.5%に相当する人数以上の障害者を常時雇用する義務が課せられていました。2026年7月からは対象範囲が拡大され、社員が37.5人以上の会社に対し、社員数の2.7%に相当する人数以上の障害者を常時雇用する義務が課せられることになりました。

障害者雇用率制度のルール

会社が雇用しなければならない障害者の数は、

常時雇用する社員数× 障害者雇用率(法定雇用率) で計算 (小数点以下の端数が発生する場合、切り捨て)

で計算します。

例えば、常時雇用する社員数が37.5人の会社であれば、

【2026年7月から】 37.5人×2.7%(障害者雇用率)=1人以上

の障害者を常時雇用する義務が発生します。

常時雇用する社員数が75人の会社であれば、

【2026年7月から】 75人×2.7%(障害者雇用率)=2人以上

の障害者を常時雇用する義務が発生します。

また、常時雇用する社員数が37.5人以上の会社は、毎年6月1日時点での障害者の雇用状況を所轄ハローワークに報告する義務があります。実雇用率が法定雇用率を下回っている場合は、

ハローワークから行政指導 (障害者の雇入れ計画の作成命令、実施勧告、特別指導)が入り、指導に従わない場合、厚生労働省ウェブサイトで「会社名を公表」される

可能性がありますので注意が必要です。

2)一部の業種に適用される「除外率制度」とは?

どの会社も基本的には、1)のルールに基づき自社が雇用すべき障害者の人数を算定しますが、業種によっては、法令上、一般的に障害者の就業が困難なため、1)のルールをそのまま適用することになじまないとされているものがあります。こうした業種については「除外率制度」、すなわち、

「常時雇用する社員数」を計算する際、業種ごとに設定される「除外率」に相当する社員数を、算定対象から控除できる制度

が適用されます。

例えば、建設業は一般的に障害者の就業が困難とされる業種で、除外率が「10%」に設定されています。仮に常時雇用する社員を200人とした場合、

200人×10%(除外率)=20人(小数点以下の端数が発生する場合、切り捨て)

を算定対象から控除できます。

したがって、通常の会社と建設業を営む会社とでは、雇用すべき障害者の人数が次のように変わってくることになります(障害者雇用率が2.7%の場合)。

  • 通常の会社:200人×2.7%(障害者雇用率)=5人以上
  • 建設業を営む会社: (200人 20人) ×2.7%(障害者雇用率)=4人以上

(注)小数点以下の端数が発生する場合、切り捨て

業種ごとの除外率は次の通りです。ただし、障害者雇用を促進する観点から、この除外率制度は、段階的に廃止が進められています。

業種ごとの除外率

3)障害者の人数は何人としてカウントする?

障害者雇用率制度の対象となる障害者(常時雇用する社員)は、

  • 身体障害者:原則、身体障害者手帳の1~6級に該当する人
  • 知的障害者:知的障害者判定機関により知的障害があると判定された人
  • 精神障害者:精神障害者保健福祉手帳を所持する人

のいずれかです。そして、障害の内容や週の所定労働時間によって、「何人としてカウントするか」が決まります。

障害者1人を何人としてカウントするか

4)「障害者雇用納付金制度」も併せて活用!

「障害者雇用納付金制度」とは、

  • 常時雇用する社員数が100人超の会社: 実率が法定雇用率を下回ると「納付金」を納めるが、法定雇用率を上回ると「調整金」がもらえる
  • 常時雇用する社員数が100人以下の会社: 常時雇用する障害者が一定数を超えると「報奨金」がもらえる(「納付金」の支払いはない)

という制度です。具体的には次の通りです。

障害者雇用納付金制度

「高齢・障害・求職者雇用支援機構」が管轄しており、会社からの申告・申請に基づいて、納付・支給が行われます。

この他、フリーランスで在宅勤務の障害者などに仕事を発注するともらえる「在宅就業者特例調整金」「在宅就業者特例報奨金」などもあります。詳細はこちらをご確認ください。

高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者雇用納付金制度の概要」
https://www.jeed.go.jp/disability/about_levy_grant_system.html

3 「障害者差別の禁止や合理的配慮の提供義務」とは

1)障害者差別の禁止

募集・採用、賃金、配置、昇進などの雇用に関するあらゆる局面で、

  • 障害者であることを理由に障害者を排除すること
  • 障害者に対してのみ不利な条件を設けること
  • 障害のない人を優先すること

など、「障害者だから」という理由だけで差別することは禁止されています。

障害者差別の具体例は次の通りです。

障害者差別の具体例

2)合理的配慮の提供義務

会社は障害の特性などに応じて、障害者が働く上で必要な配慮(合理的配慮)をしなければなりません。主に、

  • 募集・採用において、障害者にもそうでない人にも均等に機会を与える
  • 採用後、障害者が働く上で支障となる問題を改善し、能力を発揮しやすくする

という観点から配慮が求められます。ただし、会社にとって過重な負担を強いる配慮(職場内に階段昇降機やエレベーターを取り付けるなど)まで求められるものではありません。「今の会社が提供できる最大限の配慮をする」といったイメージです。

合理的配慮の提供義務の具体例

障害者の状態や職場の状況などによって求められる合理的配慮の内容は異なります。そのため、具体的にどのような対応を取るかについては、会社と障害者とでよく話し合って決定する必要があります。

3)苦情処理・紛争解決援助

会社は、前述した「障害者差別の禁止」 「合理的配慮の提供義務」について、障害者から苦情を受けたときは、自主的に解決する努力をしなければなりません。

もし、自主的な解決が難しい場合、

都道府県労働局長による助言・指導・勧告や調停制度の対象

となります。調停制度では、都道府県労働局に設けられた障害者雇用調停会議にて問題の解決を図ります。

以上(2026年7月更新)

pj00696
画像:naka-Adobe Stock

まとめ:人が辞める原因は、ほぼ100%会社側にある?/武田斉紀の『人が辞めない会社、10のヒント』(12)

1 従業員個々の将来の“希望”に答えることは、会社を成長させるチャンス

今シリーズの狙いは、経営者、人事担当者、現場の皆さんのお悩みである「社員を採ってもすぐに辞めてしまう上に、そもそも採れない」という課題を解決することです。『人が辞めない会社、10のヒント』と題して、毎回1つずつご紹介してきました。

『人が辞めない会社』に変わるための課題、その原因と解決策は会社によってさまざまです。

全社共通の原因以外に、部署ごとの固有の原因も存在することでしょう。ご紹介した10のヒントの中から、「これはうちにも当てはまるな」というものを見つけていただけたでしょうか。

さて今回は最終回、シリーズ全体を振り返りながらおさらいをしていきましょう。

全体の前に、まずは前回第11回のヒント10を振り返ります。

前回、皆さんに「あなたの職場にはどんな”希望”がありますか?」と問いかけました。”希望”とはすなわち、”未来(将来)への期待”です。それは従業員一人ひとり異なり、何かのきっかけで変化することもあり得ます。

未来のイメージが既にある人にとっては、「自分はこんな感じで努力していけば、自分が目指すこんな姿になれそうだ」と思えること。ない人にとっては、「自分は将来、こんな感じやこんな感じになれるかもしれない。それは自分にとってきっと幸せに違いない」と思えることです。

そして、上司や会社が、従業員一人ひとり異なり、かつ時として変化する”希望”=”未来(将来)への期待”にできる限り応えていく。そのためには一人ひとりの現在の”希望”を把握しておく必要があり、定期的な1 on 1ミーティングの場を活用することをお薦めしました。

1 on 1ミーティングを未導入のケースや、導入済みでも他の1 on 1の目的との関係性についても触れました。いずれにしても

目指すべきゴールは「部下一人ひとりが、仕事を通して未来の”希望”をイメージできるように支援する」ことです。

一方で、会社や部署、上司から本人に求める期待もあるでしょう。また会社や部署、上司としてできることとできないことはあるでしょうが、できる限り本人の”希望”と一致できるように支援すること。既存の社内制度だけに縛られることなく新たな提案も含めて、どれだけ会社側が頑張ってくれたかを従業員は見ています。

そこで会社側が頑張れば、目の前の従業員の”希望”に応えられるだけでなく、同じような課題を抱える他の従業員も救えるかもしれません。

より多くの“希望”に応えてくれる会社にこそ、より多くの優秀な人材が集まり、長くとどまって活躍してくれるはずです。

従業員個々の将来の“希望”に応えられるよう努力することは、会社を成長させるチャンスでもあります。中小企業だから、予算がないからとすぐに諦めるのではなく、知恵と工夫、一人ひとりへの寄り添い次第で可能であると考えましょう。

2 『人が辞めない会社、10のヒント』ヒント1~4[採用編]を振り返る

ここからは、シリーズ『人が辞めない会社、10のヒント』全体を振り返ってみましょう。最初はヒント1~4 [採用編]です。

★ヒント5以降も含めて、短い行数では各回の全てはまとめられませんので、詳しい解決策や解説、事例などは各回をもう一度読み直してみてください。

■第2回 ヒント1[採用1]:自社を大きく見せていませんか?

〇「普通に募集しても応募がないから」と、自社を必要以上に大きく見せて人材を採用すると、入社後にギャップが生まれて「こんなはずじゃなかった」と辞めてしまいます。

〇「少しくらい大きく見せないと人が集まらない」と嘆く前に、「働き続けている人がいる以上、全ての会社には”他社にない魅力”がある」と信じて、ささいなことでもいいので自社ならではの魅力を本気で探しましょう。

■第3回 ヒント2[採用2]:会社が”目指すこと”、”大切にしたいこと”を明示する

〇採用活動を始める前にやるべきことの1つは「求める人材像」を明示しておくこと。中でも「価値観」は容易に変わらないだけに特別で、あらかじめ会社が目指すことや大切にしたい「価値観」を整理して、応募者が共感できるか否かを採用決定前に互いに確認しましょう。

〇「求める人材像」の他の要素、「興味関心」「将来像」などは情報提供次第で後から高められますし、「スキル」も特に若手の場合は入社後に鍛えることができます。

■第4回 ヒント3[採用3]:「好きな人は好き」を分かりやすい一行で打ち出せ!

〇ヒント1で見つけた「好きな人は好き」と思える”他社にない魅力”を分かりやすい一行で打ち出し、ヒント2の「求める人材像」、特に会社が目指すことや大切にしたい「価値観」を明示して募集。「好きな人は好き」に反応し、かつ会社が目指すことや大切にしたい「価値観」に共感した人材なら、検討している他社(競合先)があっても優先順位は高い。

〇本当に採用したい人材なら、会社としてできる限りのことはしつつ、背伸びした待遇を用意するよりも、「最後は人」と信じてこちらの熱い思いを伝えるほうが成功します。

■第5回 ヒント4[採用4]:入社日までに「入社後のギャップを最小化する」

〇内定者に対して、入社後のギャップが極力ないよう、事前に必要な情報や入社後のイメージを十分に伝えられていますか。入社前に伝えておくべき情報をプラスもマイナスも含めて整理し、タイミングを計って伝えましょう(第5回の「5×3のマトリクス」参照)。

〇内定後、入社までに有償のアルバイトで半日単位でもいいのでお試しで働いてもらうのもいいでしょう。単純かつ単調な仕事ではなく、しっかりフォローのできる先輩を付けた上で入社後に任せる可能性のある仕事を一部でも体験してもらいましょう。

以上、ヒント1~4[採用編]をかいつまんでご説明しました。

「社員を採ってもすぐに辞めてしまう上に、そもそも採れない」という課題解決には、まず入口が重要なのだとお分かりいただけたでしょうか。

「採れない」からといって、数合わせに無理やり採用しても結局は互いに”合わない”ことに気付いて辞めてしまう。双方にとってお金も時間も無駄になり、SNS上でも悪い噂になりかねません。

「好きな人は好き」と思える”他社にない魅力”を見つけて、会社が目指すことや大切にしたい「価値観」とセットで明示し募集する。これはと思う人材には会社側の熱い思いを伝える。内定後は、本人の入社後のギャップを最小化できるように情報提供していく。

以上、皆さんの会社では、実行できているでしょうか?

3 『人が辞めない会社、10のヒント』ヒント5~8[仕事編]を振り返る

 次に[仕事編]です。

■第6回 ヒント5[仕事1]:事前にいくら伝えても、入社後のギャップは必ずある

〇[採用編]の入社日までに「入社後のギャップを最小化する」努力をしても、実際に職場に入り仕事を始めてみると、ギャップは何かしらあるものです。新卒では入社後に配属や職種が決まることが多いのも原因の1つ。中途の場合はたとえ職種は同じでも、前職の企業文化や仕事の進め方とのギャップに戸惑うことでしょう。

〇解決には、会社、人事、上司や職場、メンターなどが一体となって、入社初日から丁寧に、定期的なフォローを続けることです。

■第7回 ヒント6[仕事2]:仕事の意義を共有できれば、人は簡単には辞めない

〇入社して職場や仕事に少しずつ慣れてきたら、前向きで優秀な人ほど「早く戦力になりたい」と考え、次に”仕事の意義=やりがい”を求め始めます。それが求められないと、「こんなはずじゃなかった」と隣の芝生も青く見えてくるのです。

〇本人の適応状況を確認しながら、”仕事の意義”を伝え、それを感じられる小さな成功体験の機会を用意してあげましょう。それらを職場のチームでも共有しましょう。

■第8回 ヒント7[仕事3]:上司は”仕事のやりがいは一人ひとり違う”と知るべき

〇個人が「何に対して”仕事の意義=やりがい”を感じるか」は人によって異なります。同じ成果に対して同じように褒めても、本人の反応が違うのはそのせいです。

〇やりがいの感じ方には、6つのモチベーションタイプ(MT)があり(第6回参照)、多くの人はそのいずれも持っているが優先順位が異なります。メンバー個々のメインMTを知り、それに応じた褒め方やアドバイスをするとモチベーションアップに効果的です。

■第9回 ヒント8[仕事4]:一人ひとりの”存在価値”や”存在意義”を演出する

〇人は「自分は大事な戦力なのだ」と思えれば簡単には辞めないものです。戦力化するための近道は、個々の強みや経験・知識・スキルへの期待を伝えながら徐々に「仕事を任せ」、本人に自律的に考えさせてトライさせる。そして事後に一緒に「振り返る」ことです。

〇メンバー個々のトライはチーム内でも共有し、協力者も得ていければ既存社員も含めて一人ひとりの”存在価値”や”存在意義”を演出できます。

入社前に「入社後のギャップを最小化する」努力をしても入社後のギャップは何かしらあるものという前提で、関係者が一体となって入社初日から丁寧に、定期的なフォローを続ける。

職場や仕事に少しずつ慣れてきたら、”仕事の意義”を伝え、それを感じられる小さな成功体験の機会を用意する。メンバー個々のメインMTに応じた声掛けをしながらモチベーションを高め、一日も早く一人ひとりの”存在価値”や”存在意義”を演出してあげる。

以上、皆さんの会社では、実行できているでしょうか?

4 『人が辞めない会社、10のヒント』ヒント9~10[職場編]を振り返る

 最後に[職場編]です。

■第10回 ヒント9[職場1]:”ウェルカムな職場”は人が辞めない

〇皆さんの会社や職場は「若手やよそ者に冷たい」でしょうか。それとも基本的な価値観さえ共有できれば、個性や違いを広く受け入れ歓迎できる「ウェルカムな」状態でしょうか。

〇「ウェルカム」は「甘い」のではなく、互いが”プロ”を求める関係です。「ウェルカムな会社」では、「一日も早く同じ”プロ”として一緒にいい仕事をしたい」と考え、新たな人材を戦力化までみんなでフォローします。「ウェルカム」を会社の文化にまで育てられれば、簡単に人は辞めないし、自然に人も育ちます。

■第11回 ヒント10[職場2]:あなたの職場にはどんな”希望”がありますか?

〇”ウェルカムな職場”を通して新たな人材が「自分は今の仕事で大事な戦力なのだ」と感じられるための”環境づくり”を進めながら、同時にもっと先の”希望”=”未来(将来)への期待”が持てる状態を目指しましょう。

〇”希望”は一人ひとり異なり、変化もするので、定期的な1 on 1ミーティングの場を活かして個別に把握します。そして会社や上司としての本人への期待との接点を探りながら、個々の”希望”をできるだけ満たせるように尽力していきましょう。

採用を決めた以上、新たな人材を受け入れる側の会社や職場は戦力化を諦めてはいけない。”ウェルカムな職場”を通して彼らが「自分は今の仕事で大事な戦力なのだ」と感じられ、同時にもっと先の”希望”が持てる状態を目指して、個別に支援して続けていく。

以上、皆さんの会社では、実行できているでしょうか?

5 人が辞める原因は、ほぼ100%会社側にある?

ここまでヒント1~4[採用編]、ヒント5~8[仕事編]、ヒント9~10[職場編]を振り返ってきました。各編の最後には、「以上、皆さんの会社では、実行できているでしょうか?」と疑問符を付けてみました。

改めて、『人が辞めない会社』に変わるための解決策は、会社や職場によってさまざまです。一方で社員が辞めない理由、辞める理由も一人ひとり異なります。簡潔に言えば第1回で触れたように、退職する一人ひとりの「辞める理由」を解消し、働いている一人ひとりの「辞めない理由」を高めていくことです。

はたして皆さんの会社では、10のヒントの全てを「辞める理由」ではなく、「辞めない理由」となるように高められているでしょうか。

あるテレビのコメンテーターの方が言っていました、「昔から一緒ですよ、辞めるやつは辞めるんです」と。それは結果を語っているに過ぎません。言葉の裏には「辞める原因は、会社の側ではなくて本人にあるのだから放っておけばいい」との意図を感じます。

「辞めるやつは辞める」、辞める原因は本人にあるとやり過ごしている限り、今回のシリーズのテーマ「採っても辞めてしまう上に、そもそも採れない」という課題は永遠に解決されないだろうと確信します。

もちろん応募する側も自分の人生の話ですから、よりよく事前に研究するべきです。

そして入社を決めた以上は、可能な限り自ら周囲に働きかけながらギャップを解消し、自分で選んだことに責任をもって仕事に集中するべきでしょう。

一方で、会社側は十分な対応ができているでしょうか。

大手から中堅中小、スタートアップまで、あらゆる業種のさまざまな会社を見てきた私にとって、今回提示した『人が辞めない会社、10のヒント』を全て満たしていると感じた会社はほんの一握りです。

あなたの会社や職場では、どうでしょうか?

10のヒントを全て満たせていないとすれば、会社としてまだやれることはあるはずです。本人にも問題があったとしても、「辞めるやつは辞める」は言い訳に過ぎません。原因は、ほぼ100%会社側にあるといえるのではないでしょうか。

近年は「働き方」に対する意識が大きく変わり、とりわけ成長意欲の高い若手社員は入社後すぐにキャリアパスの見極めを行い、「成長機会が十分でない」と判断すると早々に転職を選ぶ傾向があるそうです。

私からすれば、本人が思い描く成長機会をどれだけ用意できるかは、内定前の段階で伝えた上で本人に判断させるのがベストと考えます(その上で会社として採用を決めるかは別として)。

入社前の説明と異なる、あるいは超過労働やハラスメント満載のいわゆるブラック企業は論外です。が、ホワイトすぎて”労働環境は良くても成長ややりがいが感じられない”ブラックとの中間に見える「ゆるブラック(パープルとも)」企業も敬遠される傾向にあります。

会社側が一方的に面接をして採否を決めるという採用はとうの昔に終わっています。現在は「会社側と応募者側の双方が、入社前から入社後まで、互いをよく知り選び合う」時代です。「社員を採ってもすぐに辞めてしまう上に、そもそも採れない」という課題解決のためには会社側は認識を改めつつ、従来以上の幅広い準備や対応が求められているのです。

さらにはAIの浸透による組織や業務見直しの流れもあります。AIの時代に、どんな人材が必要不可欠となり争奪戦となるのか。あるいは既存の人材を社内でいかに育成していかなければならないのか。

人材の採用と育成の課題は尽きませんね。

本シリーズを最後までお読みいただきありがとうございました。「社員を採ってもすぐに辞めてしまう上に、そもそも採れない」という課題解決の一助になれていれば幸いです。

<ご質問を承ります>

ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mailto:brightinfo@brightside.co.jp
https://www.brightside.co.jp/

※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。

『新スペシャリストになろう!』
https://amzn.asia/d/e8GZwTB
『なぜ社長の話はわかりにくいのか』
https://amzn.asia/d/8YUKdlx

以上(2026年6月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)

pj90285
画像:VectorMine-Adobe Stock