若手・中堅社員が最も上司にしたい/したくない戦国武将は?

1 若手・中堅社員が抱く理想の上司像を知る

「あの社員は上からの評価は高いが、上司として若手・中堅社員に慕われているのだろうか?」

経営者の皆さんは、こんなことを考えたことがあるかもしれません。一社員として優秀なことと、上司として優秀なことは別の話ともいえます。

そこで、20代、30代の社員441人に「最も上司にしたい戦国武将」「最も上司にしたくない戦国武将」をアンケートで聞いてみました(実施日は2026年5月12日から5月18日まで)。以降で戦国武将のランキングと、社員がその武将を選んだ理由を紹介しますので、上司に部下指導のアドバイスをする際や、ご自身が若手・中堅社員と接する際の参考にしてください。

2 最も上司にしたい戦国武将は、徳川家康

▲ 最も上司にしたい武将 TOP10

1

徳川家康

53人(12.0%)

2

豊臣秀吉

44人(10.0%)

3

織田信長

39人(8.8%)

4

上杉謙信

23人(5.2%)

5

黒田官兵衛

21人(4.8%)

6

武田信玄

20人(4.5%)

7

伊達政宗

19人(4.3%)

8

明智光秀

12人(2.7%)

9

武田勝頼

8人(1.8%)

10

毛利元就

7人(1.6%)

1)安心感のある環境で気持ちよく働きたい(徳川家康、明智光秀)

最も上司にしたい戦国武将で1位となったのは、徳川家康です。その我慢強さからくる温厚なイメージや安心感を評価する声、実際に天下を取り、数百年にわたる江戸幕府の礎を築いた実績を評価する声が多く聞かれました。

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徳川家康を最も上司にしたい理由


気分が安定していそう
穏健なイメージがあるから
優しそうだし、分からないことを聞きやすい環境にしてくれそう
人が進んで行動するようにするのがうまそうで気持ちよく仕事ができそうだから
落ち着きがあり、理想の采配をしてくれそうだと感じたため
我慢強いので、何ごとにも対処できるから
天下統一しているため
(江戸幕府は)長い間栄えたから

また、8位の明智光秀についても、「優しそう」「話をちゃんと聞いてくれそう」という声が寄せられました。

明智光秀を最も上司にしたい理由


めちゃくちゃ優しい人物だったと有名だから
しっかり上の話を聞いて下にシェアしてくれそうだから
頼りがいがある

2)賢い上司からの良きアドバイスが欲しい(豊臣秀吉、黒田官兵衛)

2位の豊臣秀吉や5位の黒田官兵衛を支持する人からは、その賢さを評価する声が多く聞かれました。また、「人たらし」で有名な秀吉については、その気配りの巧さを評価する声も寄せられました。

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豊臣秀吉を最も上司にしたい理由


頭の回転が早くて、頼りになるから
頭が切れて常に効率を求めてくれそうで、実力があればお給料も駆け引きしてあげてくれそう
優秀だから
気配りができそう、周りをよく見ていそうだと思ったから
雰囲気を良くしてくれそうだから

黒田官兵衛を最も上司にしたい理由


軍師で戦略家であり、とてもキレもので自分が好きだから
策士だから
冷静沈着なイメージだから

3)上司にはリーダーシップを発揮してほしい(織田信長、伊達政宗)

3位の織田信長については、そのリーダーシップを評価する声が多く寄せられました。

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織田信長を最も上司にしたい理由


カリスマ性があるから
決断力があるから
指揮力が高そう
引っ張って行ってくれそう
きちんと自分のことは自分でやる上司がいい!
実力主義ゆえの分かりやすさ
身分に関係なく実力がある者、結果を出した者を評価し厚遇してくれそうだから

7位の伊達政宗についても、上司にしたい理由にリーダーシップを挙げる人が多く見られました。

伊達政宗を最も上司にしたい理由


信頼感が高く、先陣を切って走り抜けていくイメージがあるから
決断力があり、部下に慕われているイメージなので
部下の扱いがうまそうだから
落ち着いていて、なおかつ強い感じがするので

4)誠実で信じられる上司がいい(上杉謙信)

戦国時代の3英傑に続く4位には、上杉謙信がランクインしました。謙信の誠実で廉直な人間性が評価されている他、「トップに立って引っ張ってくれそう」「指導が上手そう」といったリーダーシップを評価する声も見られました。

上杉謙信を最も上司にしたい理由


面倒見がよい、義理人情を大事にする人だから
戦いに強く、敵に塩を送るなどの逸話があるから
トップに立って引っ張ってくれそう
指導が上手そう

3 最も上司にしたくない戦国武将は、ダントツで織田信長

▼ 最も上司にしたくない武将 TOP10

1

織田信長

90人(20.4%)

2

豊臣秀吉

30人(6.8%)

3

徳川家康

23人(5.2%)

4

明智光秀

22人(5.0%)

5

武田信玄

20人(4.5%)

6

上杉謙信

14人(3.2%)

7

毛利元就

10人(2.3%)

8

北条氏政

9人(2.0%)

9

黒田官兵衛

7人(1.6%)

10

伊達政宗ほか

各6人(1.4%)

1)怖い上司、厳しすぎる上司は嫌だ(織田信長、武田信玄)

最も上司にしたい戦国武将は意見が分かれましたが、最も上司にしたくない戦国武将については、全体の5分の1以上の人が織田信長と回答しました。圧倒的な理由が、「怖い」というもので、「すぐに怒りそう」「パワハラしてきそう」といった印象が強いようです。また、最も上司にしたい戦国武将のほうでは「実力主義ゆえの分かりやすさ」を評価する声がありましたが、こちらでは逆に「実力主義が行き過ぎていて厳しそう」という意見も見られました。

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織田信長を最も上司にしたくない理由


カリスマだが、怖すぎる
すぐに怒ったり怒鳴ったりしそう
ミスに対する叱責が強そうだから
怖いから。パワハラしてきそうだから
理不尽なことで切れられそう。沸点が低そうだから
力ずくな感じがするから
常に命を握られてる感覚になりそう
気分にむらがありそう
実力主義で厳しそう
とても厳しいイメージがあるから。結果が悪いと簡単に切られそうな印象もある
常人が理解するには難しい感性と性格の持ち主なので、ついていくとしても絶対苦労するから

なお、5位の武田信玄についても、似たような意見が見られました。

武田信玄を最も上司にしたくない理由


怖そう
休む間もなく戦いに使われて、得るものがあまりなさそうだから

2)偉いのに”小物感”がある(秀吉)

2位の豊臣秀吉に対しては、”小物感”を嫌がる回答がありました。「人たらし」の能力で、日本史上、最大の出世を果たしたものの、それだけに上司に媚(こ)びたという印象もあるようです。上司には堂々としていてもらいたいということでしょうか。

ちなみに秀吉については、晩年に茶人の千利休や甥の豊臣秀次を切腹させたことなどから、「残酷そう」「厳しそう」というイメージを持つ人も少なからずいました。

豊臣秀吉を最も上司にしたくない理由


自身の出世に執着してそう
ねちっこいから
残酷そう
厳しそう

3)現状維持の上司はちょっと……(徳川家康)

3位の徳川家康は戦国の最終勝利者となって天下を手に入れましたが、カリスマだった信長や農民から天下人に成り上がった秀吉に比べると、やや地味なイメージが定着しています。天下を取るチャンスをじっと待ち続けた家康を、「現状維持で変化がない」という捉え方をする人もいるようです。部下は上司に、変化を分かりやすい形で示してもらいたいのかもしれません。

また、「安定はしていても個人を見てくれなさそう」という声もありました。個人として認めてほしいという現代の若手・中堅社員ならではの価値観を映しているといえるでしょう。

徳川家康を最も上司にしたくない理由


現状維持から発展がなさそう
安定はしていても個人を見てくれなさそう

4)裏切る上司、卑怯な上司はNG(明智光秀)

4位に入った明智光秀には、どうしても「裏切り者」「謀反人」という経歴がついて回ってしまいます。光秀を最も上司にしたくない若手・中堅社員の心情は、「上司は信頼したい」「上司には自分を守ってほしい」という気持ちが強いということの裏返しでしょう。また少数ながら「生真面目そう」という声もあり、融通が利かなそうな上司を敬遠する声も見られました。

明智光秀を最も上司にしたくない理由


仕えた人を裏切るから
行動がせこいので上司にしたくない
生真面目そう

以上(2026年6月更新)

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画像:illustAC そげ

【コスト削減】社会保険料のコントロール 労働時間や賃金の工夫で負担が減る?

1 【提案】社会保険料をコントロールしましょう

社会保険料は、社員だけでなく、会社にとって明確かつ予測可能なコストです。これをコントロールしようとする取り組みに対しては、「公的保険の趣旨に反するのではないか」「社員の将来の給付を損なうのではないか」といった批判的な声が向けられることも事実です。

しかし、社会保険料は労使合計では賃金の約3割に相当し、会社負担だけでも大きなコストになります。この仕組みを正確に理解し、合法的な範囲で最適化を検討することは、会社の財務基盤を健全に保つ上で重要です。

そこで、労働時間や賃金のルールを工夫して、社会保険料の負担を減らす方法をご提案します。この記事で紹介するのは、社員1人当たりの社会保険料を労使合計で

  • フレックスタイム制を導入し、「1年間で10万2168円」削減する
  • 賃金の一部を賞与として支給し、「1年間で1万7028円」削減する

というシミュレーションです。会社負担分だけを見れば、削減額はおおむねその半分になります。第2章で前提となる社会保険料の基本ルールをおさらいし、第3章からシミュレーションの紹介に入ります。実際にどの程度の社会保険料を削減できるかは会社の状況などにもよりますが、人件費見直しにご活用ください。

ただし、注意すべきは、この記事で紹介する方法を採用した場合、傷病手当金や老齢年金などの保険給付が減少するケースがあることです。足元ではコストを削減できますが、将来的な保険給付で社員が損をする恐れがあります。この点は民間の保険に入る場合と同じ考え方です(支払い保険料を抑えた分、万一の際の保険給付は低くなります)。

賃金の一部を賞与として支給する場合、特に次の給付に影響が生じます。

  • 失業給付(基本手当)
  • 育児休業給付金
  • 老齢厚生年金
  • 傷病手当金

2 社会保険料の基本ルール

1)社会保険料の計算方法

社会保険料は、

標準報酬月額(または標準賞与額)×保険料率

で計算した額を、会社と社員が折半して負担します。保険者が協会けんぽ(全国健康保険協会)の場合、健康保険料率は9.85%(介護保険の適用がない場合)、厚生年金保険料率は18.3%です。さらに2026年度からは子ども・子育て支援金の0.23%が加わり、合計28.38%となかなかの負担です(協会けんぽ「令和8年度保険料額表(東京都)」)。なお、40歳以上65歳未満の方(介護保険第2号被保険者)は、これに介護保険料率1.62%が加算され、合計30.00%となります。

2)標準報酬月額

標準報酬月額とは、

報酬(正確には所定の方法で計算した報酬月額)を一定の金額幅で等級別に区分したもの

です。報酬には、基本給、役付手当、勤務地手当、家族手当、通勤手当、住宅手当、残業代などが含まれます(名称を問わず、また金銭に限らず、労働の対償となるものが原則として算定対象)。ただし、臨時に支給されるもの、支給回数が年3回以下の賞与や退職金は含まれません。

標準報酬月額の主な決定方法は次の3つです。

1.資格取得時決定

雇用したときなど(被保険者資格取得時)の報酬月額に基づいて標準報酬月額が決定され、その月から適用されます。報酬月額は次の式で計算します。

【月、週その他一定期間によって報酬が定められる場合】

被保険者資格取得時の報酬(労働条件通知書などで定める額)÷月の暦日数×30日

2.定時決定

毎年4月、5月、6月(いずれの月も支払基礎日数が原則17日以上。ただし、特定適用事業所に勤務する短時間労働者の場合は11日以上)の報酬月額に基づいて標準報酬月額が決定され、その年の9月から適用されます。報酬月額は次の式で計算します。

4月、5月、6月に支払われた報酬の総額÷3カ月

(注)支払基礎日数が17日未満の月は除外して算定します(特定適用事業所に勤務する短時間労働者の場合は、11日未満の月は除外)。また、パート等の短時間労働者については、別に定める算定方法を用いて算出します。

9月以降、1年間の社会保険料を決める4・5・6月に、残業や臨時手当が集中すると、保険料が上がります。決算賞与など年1回支給の臨時手当は、可能であれば3月以前または7月以降の支給にすることで標準報酬月額への影響を回避できます。

昇給は4月実施が一般的ですが、昇給時期をずらすと定時決定の平均額に影響する場合があります。ただし、固定的賃金の変動後3カ月平均で2等級以上変動すれば随時改定の対象になるため、翌年まで必ず反映を持ち越せるわけではありません。

3.随時改定

昇給・降給などにより、当該変動月を含めた3カ月平均値が今の標準報酬月額より2等級以上変動した場合、変動月の3カ月後から新しい標準報酬月額が適用されます。新しい標準報酬月額は、次の式で計算した報酬月額に基づいて決まります。

報酬の変動月、その翌月、翌々月に支払われた報酬の総額÷3カ月

(注)いずれも支払基礎日数が17日以上である必要があります(特定適用事業所に勤務する短時間労働者の場合は11日以上)。

3)標準賞与額

標準賞与額とは、

被保険者期間中に支給される賞与総額から1000円未満を切り捨てた額

です。標準賞与額の対象となる賞与は、労働の対償として支払われる支給回数が年3回以下のものです。夏季と年末に賞与を支給している場合、標準賞与額も年2回計算します。

なお、健康保険・介護保険・子ども・子育て支援金の標準賞与額には年間累計573万円(4月1日~翌年3月31日)の上限があり、これを超えた部分には保険料がかかりません。厚生年金保険についても、1回あたり150万円が上限となっています。

つまり、健康保険は年度累計の標準賞与額573万円、厚生年金保険は同一月の標準賞与額150万円が上限です。上限を超える部分には、それぞれの保険料がかからない仕組みです。そのため、高額な報酬を受け取る役員や高給社員の賞与設計においては、この上限を意識することで実質的な保険料負担率を引き下げられる可能性があります。

3 フレックスタイム制で社会保険料を削減

1)フレックスタイム制特有の残業の計算方法を利用する

定時決定の対象月の残業を減らせば社会保険料は下げられます。定時決定の対象は毎年4月、5月、6月ですから、「月末締め、翌月払い」の会社の場合、

3月、4月、5月の残業(時間外労働)を減らせばよい

ことになります。とはいえ、年度をまたぐ繁忙な時期でもあり、常に人手不足の会社などでは、残業削減に取り組んではいるものの、なかなかすぐに効果が出ないこともあります。

こうした場合、業務実態に合った柔軟な働き方として「フレックスタイム制」を導入することで、結果的に残業時間や残業代を抑えられる場合があります。フレックスタイム制とは、「清算期間」と呼ばれる単位期間内(3カ月以内)で始業・終業時刻の決定を社員に委ねる労働時間制度です。

清算期間が1カ月以内のフレックスタイム制の場合、残業は次のように計算します(法定労働時間の総枠を清算期間における総労働時間(所定労働時間)とした場合)。

清算期間内の実労働時間-(週の法定労働時間×清算期間の暦日数÷7日)

所定労働日数や休日などによって異なりますが、この計算方法によりフレックスタイム制では、通常よりも残業が減ることがあります。次の図表は、法定労働時間が1日8時間、1週40時間で、土・日・祝日が休日の会社で、社員が2026年3月、4月、5月に残業した場合のイメージです。

フレックスタイム制で社会保険料を削減

各月の総労働時間が同じでも、残業はフレックスタイム制のほうが45.6時間(120時間-74.4時間)も少なくなっています。これを社会保険料の計算に反映してみましょう。

ここでは、社員の残業代を除く賃金を

  • 月給32万円
  • 所定労働時間:1日8時間
  • 所定労働日数:年間240日(日曜日を法定休日、土曜日・祝日のほか夏季休業・年末年始休業などを所定休日として年間休日125日)
  • 所定内賃金を時給に換算した額:時給2000円(月額32万円÷(240日×8時間÷12)

と仮定し、「月給+残業代」で報酬月額を求めて、標準報酬月額を算定します。残業代の割増賃金率は、残業が月60時間以内の場合は25%、月60時間超の場合は50%です。

また、保険料率は、健康保険料率9.85%(介護保険の適用がない場合)、厚生年金保険料率18.3%、子ども・子育て支援金0.23%で、合計28.38%とします(協会けんぽ「令和8年度保険料額表(東京都)」)。

1.通常の労働時間制度の場合

  • 報酬月額:42万円(32万円+2000円×1.25×120時間÷3カ月)
  • 標準報酬月額:41万円
  • 社会保険料:11万6358円(41万円×28.38%)

2.清算期間が1カ月のフレックスタイム制の場合

  • 報酬月額:38万2000円(32万円+2000円×1.25×74.4時間÷3カ月)
  • 標準報酬月額:38万円
  • 社会保険料:10万7844円(38万円×28.38%)

このようにフレックスタイム制を導入することで報酬月額が下がる場合、社会保険料を社員1人当たり

  • 1カ月間で8514円(11万6358円-10万7844円)削減
  • 1年間で10万2168円(8514円×12カ月)削減

できることになります。

2)フレックスタイム制を導入する際の注意点

フレックスタイム制は「始業・終業時刻の決定を社員に委ねる」ことを前提とした制度です。そのため、導入後は会社が社員に対して始業・終業時刻を一方的に指定するような運用はしにくくなります。

社員に柔軟な働き方を求める経営方針であったり、フレックスタイム制という働き方が適した業種などであったりすればよいですが、単に残業を減らすためだけにフレックスタイム制を導入するといった運用は適切ではありません。

また、フレックスタイム制の導入によって、所定労働時間が増加したりする場合には「労働条件の不利益変更」となることがあります。労働条件の不利益変更は、社員の合意を得るか、変更内容が合理的なものでないと認められません。

なお、フレックスタイム制の導入には、

  • 就業規則の変更(常時10人以上の事業所は労基署への届出義務)
  • 労使協定の締結(対象労働者、清算期間、総労働時間、標準となる1日の労働時間、コアタイム・フレキシブルタイム等を規定)

が必要です。手続きの不備は制度自体が無効と判断され、過去に遡って残業代が発生するリスクがある点にも注意しましょう。

4 賞与のコントロールで社会保険料を削減

1)標準報酬月額と標準賞与額の計算方法の違いを利用する

標準報酬月額と標準賞与額の計算方法の違いを利用して、社会保険料を削減します。厚生労働省「毎月勤労統計調査」によると、2025年の賞与支給平均額は調査産業計で

  • 夏季賞与:42万6337円
  • 年末賞与:42万4889円

となっているので、ここでは、月給、夏季賞与、年末賞与を次のように仮定します。

  • 月給:32万円
  • 夏季賞与:43万円
  • 年末賞与:42万円

月給32万円を報酬月額とした場合、標準報酬月額は32万円です(協会けんぽ「令和8年度保険料額表(東京都)」)。

標準報酬月額が32万円になる報酬月額は31万~33万円なので、

月給を31万円未満に引き下げ、その分を賞与として支給する場合、標準報酬月額は30万円

になります。月間現金給与額から1万5000円(年間18万円)を夏季賞与と年末賞与に9万円ずつ振り替えた場合の社会保険料は次の通りです。

賞与のコントロールで社会保険料を削減

賃金の一部を賞与として支給することで、社会保険料を社員1人当たり

1年間で1万7028円(133万1022円-131万3994円)削減

できることになります。

2)効果が見込める「選択制確定拠出年金(選択制DC)」

さらに社会保険料の削減効果が見込める制度として、選択制DCがあります。社員が給与の一部をDC掛金として拠出することを選択できる制度で、拠出額は標準報酬月額・標準賞与額の双方から除外されます。

社会保険料の労使負担削減に加え、社員側も所得税・住民税が軽減され、老後資金の積立にもなる仕組みです。拠出額や標準報酬月額の等級によっては、一定の社会保険料削減効果が見込めます。ただし、効果額は社員ごとに異なるため、制度導入前に具体的なシミュレーションを行うことが重要です。

3)賃金の一部を賞与として支給する場合の注意点

「業績の状況等によって賞与を支給することがある」など、賞与の支給が不確実な制度設計になっている場合、注意が必要です。賃金の一部を賞与として支給する設計にしても、業績悪化などで賞与が支給されない場合、社員にとっては収入減となる可能性があります。制度設計によっては労働条件の不利益変更になる恐れがあり、慎重な検討が必要です。

もしも賃金を賞与に回すことを考えるのであれば、まずは存在意義の薄い手当がないかチェックしましょう。例えば、無遅刻・無欠勤の社員に支給する皆勤手当は、遅刻や欠勤が少ない会社では意外に喜ばれにくいものです。手当で社会保険料の負担が重くなるくらいなら、賞与に回したほうが社員も喜ぶでしょう。

こうした仕組みを利用することで、現状の賃金制度と向き合い、賃金設計の再構築を図るきっかけとするのもよいかもしれません。ただし、昨今の物価高により賃金が生活給になっているケースも多く、目先の事だけにとらわれて結果として社員の日常の生活を圧迫させてしまっては本末転倒です。充分に検討して対応しましょう。

以上(2026年6月更新)
(監修 社会保険労務士 柴田充輝)

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画像:Sumet-Adobe Stock

「企業価値担保権」スタート! 担保がなくても融資が受けられる?

1 2026年5月25日からスタート! 企業価値担保権

新事業を始めたいけれど、土地や建物がなくて融資が受けられない。かといって経営者保証に頼ると思い切った投資はしにくいし、事業承継にも差し支えるかも・・・・・・。多くの中小企業が抱える悩みです。そんな中小企業の経営者に紹介したいのが、2026年5月25日から始まった「企業価値担保権」です。企業価値担保権とは、

企業が金融機関から融資を受ける際に、信託という仕組みを通じて、有形資産(土地や建物)だけでなく、無形資産(ノウハウや顧客基盤) も含む 「企業の総財産」を担保にできる制度

です(根拠法は「事業性融資の推進等に関する法律」)。

企業価値担保権

これまでの融資は、決算書の数値と不動産の担保価値が審査の中心で、有形資産に乏しい企業、経営者保証が課されることにより事業承継や思い切った事業展開をためらっている企業は、資金調達の選択肢が限られてしまうのが課題でした。しかし、企業価値担保権が開始されることで、

事業の実態や将来性に着目した融資 (事業性評価に基づく融資)を受けやすくなる

のです。一方、その特性故に、融資を利用する経営者には、

金融機関に対し、自社の事業の継続性や収益性、事業計画などを説明するプレゼン力

が一層求められることになります。

そこで、この記事では、

  • 企業価値担保権のポイント
  • 自社の事業を金融機関に説明するポイント

を紹介します。新年度、さらなる事業展開を検討している経営者の方はぜひご一読ください。

なお、企業価値担保権についてより詳しく知りたい方は、こちらをご確認ください。

金融庁「企業価値担保権(旧:事業成長担保権)について」
https://www.fsa.go.jp/policy/kigyoukachi-tanpo/index.html

2 企業価値担保権をざっくり解説!

1)従来の担保権との違い

従来の担保権と企業価値担保権の違いを比較表としてまとめました。

従来の担保権と企業価値担保権の違い

前述した通り、

企業価値担保権の担保対象は「企業の総財産」

です。現在保有している財産だけでなく、将来取得する財産も含まれますし、現預金や設備だけでなく、

  • 独自の技術やノウハウ
  • 顧客基盤・取引先との関係
  • ブランドカ

といった、貸借対照表に載らない無形資産も評価の対象です。

また、従来の担保権とのもう1つの大きな違いが「評価の視点」です。従来の担保権は、万が一返済できなくなった場合に「担保物を売っていくらで回収できるか」という処分価格で評価されていましたが、企業価値担保権では、「この事業が将来どれだけのキャッシュフローを生み出せるか」という事業継続価値を重視します。つまり、

過去の実績や現在の資産だけでなく、これからの成長の可能性が評価の対象

になるのです。

2)「企業」「金融機関」「企業価値担保権信託会社」の三者で運営する

企業価値担保権は、企業(借り手)と金融機関(貸し手)の間に、法律に基づき新設される「企業価値担保権信託会社(担保権者)」が入る仕組みになっています。

おおまかなスキームのイメージは図表3の通りです。

「企業」「金融機関」「企業価値担保権信託会社」の三者で運営

1.企業(借り手)

企業は企業価値担保権信託会社(担保権者)と信託契約を結び、企業価値(自社の総財産)を担保目的財産として提供します。企業価値担保権は商業登記簿への登記によって設定されますが、設定後も企業は通常の事業活動の範囲において、財産の処分を自由に行うことができるので、取引が制限されることはありません。

なお、企業価値担保権のルールでは、借り手となれるのは株式会社・持分会社だけです。

2.金融機関(貸し手)

企業価値を担保として融資を実行します。企業からの返済が滞る場合、企業価値担保権信託会社を通じて債権回収を行います。

なお、金融機関は金融庁の免許を取得した場合、企業価値担保権信託会社を兼任することが可能です。

3.企業価値担保権信託会社(担保権者)

企業から金融機関に対する債務の弁済が滞った場合、裁判所に申立てを行います。裁判所は事業の経営等を担う「管財人」を選定し、管財人は事業の経営等をしながら、スポンサーへの事業譲渡などを行い、その対価が金融機関への弁済に充てられることになります。

「事業を解体」して資産を売るのではなく、事業全体を維持したまま次の担い手に引き継ぐ「事業譲渡」などで対応するため、取引関係や従業員の雇用は維持される

というのが特徴です。

3)経営者保証は原則不要になる

企業価値担保権を設定する場合、

経営者個人の連帯保証は原則として制限

されます。事業全体の価値を担保として評価するため、経営者個人の資産に頼る必要がなくなるという考え方です。これにより、経営者は個人資産を失うリスクを恐れず、より積極的な事業展開に踏み切れるようになると期待されています。

ただし、経営者が意図的に粉飾決算を行った場合や、企業の資産を不正に流用した場合は例外です。

3 自社の事業をきちんと金融機関に説明するには?

前述した通り、企業価値担保権を活用した融資を利用する場合、経営者には「金融機関に対し、自社の事業の継続性や収益性、事業計画などを説明するプレゼン力」が一層求められます。ここでは、金融機関の元融資担当者にヒアリングした、経営者がプレゼン力を身に付けるために押さえておきたいポイントを紹介します。

1)経営者がハマりやすい3つの落とし穴

新事業などやりたいことが明確にあるのに、融資を断られてしまう・・・・・・。そうした経営者の多くには、陥りがちな落とし穴が3つあります。

1.自社を客観視できていない

自社の技術や商品に対する自信は大切ですが、経営者が「ウチには立派な技術や商品がある!」と力説するだけでは、融資の許可は下りません。融資担当者が重視するのは「客観的な根拠」です。市場ニーズや競合との比較分析が欠けていると、業績悪化時の立て直し能力にも疑問を持たれかねません。

2.根拠のない計画を立てる

売上や利益が常に右肩上がりになっているものの、「なぜその数字が達成できるのか」という裏付けがないケースも多いです。融資の担当者は、計画の数字の整合性を必ず検証します。「どの施策が売上につながるのか」「根拠となるデータは何か」まで、事業計画書に落とし込むことが大切です。

3.計画を言語化して説明できない

外部の専門家や財務担当者に事業計画書の作成を任せきりにし、経営者自身が計画の中身を説明できないケースも少なくありません。作成を専門家などに任せること自体は問題ありませんが、肝心の経営者自身が中身を説明できなければ、事業への理解が低いと判断され、計画の実現可能性そのものを疑われます。

2)伝わらないNGな説明を知る

融資担当者との面談は、書面だけでは伝え切れない熱意を補足できる絶好の機会です。以下のNGパターンを避け、担当者に確実に伝わる説明を心がけましょう。

1.具体性のない言葉に頼る

「革新的」「先進的」といった抽象的な表現では、担当者に事業の魅力が伝わりません。担当者はあらゆる業界の専門家ではないため、自社のビジネスモデルを具体的にイメージできる説明が不可欠です。

2. リスクや課題に触れていない

自社の強みだけをアピールし、競合参入やコスト高騰などのリスクに触れない説明は、「リスクを考慮していない」または「都合の悪い情報を隠している」という不信感を招きます。リスクと対策をセットで提示することが危機管理能力の証明になり、信頼感も高まります。

3.競合との違いが説明できない

自社と競合の違いを、単に「(ウチのほうが)品質が高い、サービスが丁寧」と力説しても、そうした曖昧な表現では融資担当者は納得しません。金融機関が求めているのは、自社の強みがどのような競争優位性を生み、事業の持続につながるのか、というつながりです。現時点で直接の競合がいない場合でも、今後の参入可能性を想定した見通しは必須です。競合調査が不十分だと、「市場のニーズ自体を把握できていない」と見なされかねません。

3)融資担当者が納得する説明のポイント

融資担当者は経営者の説明を基に、社内で融資の稟議(りんぎ)を通さなければならない立場です。上位者を納得させる稟議書を書けるよう、

担当者に「武器」を渡す意識を持つ

ことがポイントだそうです。

1.計画にデータを添える

事業計画の目標には、実績データに基づく根拠を添えましょう。担当者は「なぜその数字が達成できるのか」を上位者に説明する必要があるため、エビデンスのある資料は担当者の武器になります。例えば、

  • 売上目標であれば、直近の平均月商や前年度対比での推移
  • 顧客満足度であれば、アンケート結果や実際のリピート率

などの資料を添えるとよいでしょう。

融資担当者も、上位者への報告で活用できるレベルのデータがそろっている案件は、自信を持って説明ができますし、完成度の高い計画を提出してもらったなら、期待に応えたいという気持ちが高まるそうです。

2.収支計画はリスクも織り込む

収支計画は、売上・費用・利益の各項目が論理的につながり、「この前提なら達成可能」と担当者が納得できる水準に仕上げることが大切です。希望的観測より、堅実な根拠に基づく計画のほうが信頼を得られます。

審査では計画未達時のリスクシナリオも検証されます。返済を続けられる財務基盤や、経費削減などの経営判断ができることを計画に織り込んでおくことで、担当者からの信頼がより高まります。

以上(2026年4月作成)
(監修 石原法律事務所 弁護士 磯田翔)

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画像:日本情報マート

経営にも通じるサッカー選手の名言―クリスティアーノ・ロナウドはなぜストイックであり続ける?

「プロで生きる選手は、サッカーが上手くて当たり前」

クリスティアーノ・ロナウド氏は、言わずと知れた世界最高峰のサッカー選手です。レアルマドリードやマンチェスターユナイテッドなどのチームのスターとして、またポルトガル代表として数々の栄光を手にし、ファンを熱狂させました。

冒頭の言葉は、ロナウド氏がマンチェスターユナイテッド時代の恩師から学んだこととして語ったもので、この言葉の後には「サッカーを生業とするならば、サッカー界がどんなものか? どんな人たちに支えられているのか? プロのサッカー選手に何が求められているのか? これらのことを理解してこそ、エリート選手と呼ばれるんだ」という続きがあります。彼の徹底的なストイックさがうかがい知れますね。

そう、ロナウド氏と言えば「ストイック」。例えば、彼はチームメイトとの酒席や遊びにほとんど参加しません。ロナウド氏をよく知る選手は、「彼は酒を飲まない。彼にはわかっていた。彼を暴露したり、写真を撮ったり、なりふりかまわずそんなことをしてくる人がいることをね」と語ります。

また別の選手は、ロナウド氏にランチに誘われた際、「サラダと鶏のササミしか出てこなかったし、食べ終わったらすぐに練習に誘われた。彼はマシーンだからトレーニングを止めたくないんだ。」とからかいます。記者から「本当に1日に3000回も腹筋をしているのか」と問われれば、彼は事もなげに「本当にやっている。強く美しくあるために必要なことだから」と答えたことさえあります。

なぜ、そこまでストイックに……と疑問を禁じえませんが、冒頭の言葉と合わせて考えると、ロナウド氏は「世界中が期待する、プロのサッカー選手としての自分」を体現し続けるために、自分を律し、鍛え続けているように思えます。そして、それがロナウド氏にとっての「自分のありたい姿」でもあるからこそ、徹底してストイックになれるのです。ありたい姿が明確だからこそ、日々の鍛錬に迷いがない。逆に言えば、ストイックでいられるかどうかは、その人が「なりたい自分」をどれだけ鮮明に描けているかにかかっています。これは、経営者にとっても同じはずです。

では、皆さんにとって「経営者としてのありたい姿」とは何でしょうか。顧客に信頼される会社をつくりたい、地域になくてはならない存在でいたい、社員が誇りを持って働ける職場を育てたい。その答えは、経営者それぞれの胸の中にあるはずです。大切なのは、その姿を自分自身の言葉で描き、日々の判断や行動の拠りどころにすること。ありたい姿が定まっていれば、迷ったときの判断軸ができ、小さな積み重ねにも意味が生まれます。

「経営者として生きるならば、経営ができて当たり前」。その当たり前の水準を自ら高め続け、ありたい姿に向かってストイックに歩み続けること。それこそが、ロナウド氏の言葉が経営者に伝えてくれる、最も大切なことではないでしょうか。

出典:「Number735号」(文藝春秋社、2009年8月)

以上(2026年6月作成)

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画像:Eli-Adobe Stock

2026年度版 税制改正早わかりハンドブック(2026年6月号)

ことしの3月31日、2026年度税制改正関連法案が参院本会議で可決・成立しました。政府は「物価高への対応」「強い経済の実現」「税負担の公平性確保」「グローバル・ミニマム課税の見直し」「防衛財源の確保」を基本軸とし、法人税制に関しては、大胆な設備投資の促進に向けた税制措置の創設、研究開発税制の拡充、賃上げ促進税制の見直し等を、所得税制に関しては、年収の壁の引上げ、NISAの拡充、極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置の見直し等を打ち出しています。

本冊子では、中小企業に影響を及ぼす内容を中心に、2026年度の税制改正について解説します。

※本冊子は、2026年4月30日時点の情報に基づいています。


【分かりやすい原価計算(2)】原価の区分~原価計算特有の費用の分け方

1 原価を分解すると見えてくる利益のカタチ

それでは前回と同様に、回転寿司店で利益や1皿当たりの原価を考えてみましょう。まず、月の利益がトントンになる売上高・販売数量(皿)はどれくらいでしょうか。考える際の前提条件は以下の通りです。

  • 販売単価(皿当たり):100円
  • 材料費(皿当たり):ネタは65円、シャリは5円
  • その他、料理人の人件費(1カ月当たり):21万円
  • 寿司ロボットのリース代(1カ月当たり):24万円

1皿食べてくれる(売れる)と、材料費を引いて、いくらもうかるでしょうか?

販売単価100円-材料費(65円+5円)=30円

何皿食べてくれると、人件費・家賃が賄えるでしょうか?

(人件費21万円+リース代24万円)÷1皿当たりの利益30円=15000皿

15000皿×100円=150万円

この150万円が月の利益がトントンになる売上高、いわゆる「損益分岐点売上高」です。仮に、1家族4人で、1人が10皿ずつ食べてくれるとすると、1家族40皿となり、

15000皿÷40皿=375家族

と計算できます。つまり、1日で、12家族(≒375家族÷31日)が来店してくれると利益がトントンになるということになります。

2 販売数で変わる1皿当たりの原価

1)15000皿売れた場合の、1皿当たりの原価

ネタやシャリの材料費は、1皿当たり(70円=ネタ65円+シャリ5円)がはっきり分かります。しかし、人件費やリース代はそう簡単にはいきません。人件費は1カ月当たり21万円、リース代は1カ月24万円かかります。これらの費用は、お寿司の売れ行きに関係なく、つまり何皿売れたかにかかわらず決まった額が発生します。このため、1皿当たりどれだけの費用がかかったかは正確には分かりません。

では、どうするかというと、ここでは1カ月15000皿売れれば利益がトントンになるということなので、この販売数で1カ月の人件費とリース代を割って、1皿当たりの費用を出すことにします。

  • 人件費(1皿当たり)は、21万円÷15000皿=14円
  • リース代(1皿当たり)は、24万円÷15000皿=16円

これで全ての原価について、1皿当たりの計算ができました。このように、原価計算や管理会計では、もともとある数値を目的に合わせて基準を設定し、加工することが必要になります。1カ月15000皿売れた場合の1皿当たりの原価は、

材料費70円+人件費14円+リース代16円=100円

となります。

2)30000皿売れた場合の、1皿当たりの原価

ネタやシャリの材料費(1皿当たり)は、30000皿のときも同じで、65円+5円=70円です。人件費とリース代は、それぞれ、

  • 人件費(1皿当たり)は、21万円÷30000皿=7円
  • リース代(1皿当たり)は、24万円÷30000皿=8円

となります。

販売数と原価の関係

このように、販売数によって1皿当たりの原価は変わってきます。そして、販売数が増えるほどに、1皿に割り当てられる費用が減って、原価が安くなります。これが、経済学の「規模の経済」につながる話です。

3 原価計算で使う費用の分け方1:直接費と間接費

上記を見ていただいて気付かれた方もいらっしゃるかもしれません。費用によって1皿当たりへの割り当て方が違ってきます。実は、原価計算を行うため、また、管理会計の手法を活用していくための準備として、それぞれの費用を大きく2つに分ける必要があります。

まず、製品との関係が直接紐づく費用です。これを、「直接費」と呼びます。もう1つは製品との関係が分かりづらく、紐づきが間接的にしか分からないような費用があります。これを「間接費」と呼びます。

直接費と間接費

原価を計算する場合、直接費は製品に直接割り当てることができます。これを、直課と呼びます。回転寿司の原価でいえば、ネタ、シャリが直接費に当たります。これらは、1皿ごとに費用を割り当てることができます。

一方で、間接費は製品との紐づきが明らかではないので、何かしらの基準で割り当てるしかありません。これを配賦と呼びます。回転寿司の原価でいえば、人件費やリース代がこれに当たります。先ほどは、販売皿数で1皿ごとに割り当てていきました。

人件費やリース代のいずれも、販売皿数には連動しないで決まった額が費用としてかかっています。このため、販売皿数によって1皿ごとの費用が変わってくるのです。

4 原価計算で使う費用の分け方2:変動費と固定費

もう1つ原価計算、管理会計に特有の費用の分け方があります。具体的には、費用について「売上と連動するかどうか」という点に注目します。

変動費と固定費の違い

まず、売上が増えたり減ったりすれば、それに連動して同じように増えたり減ったりする費用を「変動費」と呼びます。もう一つは、売上に連動しない費用です。つまり、売上が増えても減っても関係なく、決まった額だけかかってしまうような費用を「固定費」と呼びます。実務でも比較的使われる言葉ですので、皆さんも一度は聞いたことがあるかもしれません。

また、先ほどの直接費と間接費と似たような感じをうけられた方もいるかもしれません。このシリーズでは学問的な正確性は置いておいて、中小企業の原価計算・管理会計において、直接費と変動費、間接費と固定費は、同じと考えていきましょう。

5 変動費と固定費を分けるのは手間がかかる?

それでは、会社の損益計算書から費用を変動費と固定費に分ける方法を見ていきましょう。これには主に2つの方法があり、「勘定科目法」と呼ばれる方法と、「最小二乗法」と呼ばれる統計的な方法とがあります。

ここでは、基本であり、手間が少ない勘定科目法を見ていきます。なお、もう1つの統計的な方法は、エクセルで簡単にできて実務での使い勝手も良いものです。すでに勘定科目法に取り組んでいる方は、トライしてみるのもお勧めです。

変動費と固定費を分ける方法

勘定科目法は、試算表の中で、勘定科目によって、これは変動費、あれは固定費かなというふうに分けていく方法です。なかには同じ科目の中に売上に連動する項目と、連動しないで決まった額が発生するものの両方が含まれていることもあります。その場合は、さらに細かく、総勘定元帳まで遡って見ていくこととなります。

6 業種別の勘定科目の情報がとても参考になる

勘定科目法を使うにあたって、事業内容が理解できているベテランの方であれば、比較的簡単に変動費と固定費を分けていけるのではないでしょうか。ただ、経理経験の浅い方や事業内容の理解がまだまだであると、判断に迷ってなかなか作業が進まないことにもなりかねません。

そのようなときには、中小企業庁が出している変動費と固定費の分解の情報が参考になります。

業種別の変動費と固定費の分類

製造業、卸・小売業、建設業という3つの業種別に、勘定科目ごとに変動費と固定費に分けられています。

例えば、卸・小売業の場合に、売上原価は変動費、販売員給料手当は固定費となっています。また、卸売業では車両燃料費は50%が変動費で、残り50%が固定費というように、勘定科目の中に変動費と固定費が混在しているものにも対応しています。

さらに、これを見ると同業種の勘定科目ごとの変動費・固定費の傾向が分かるので、比較することで自分の会社の特徴が理解できるようになります。

7 100点満点はあり得ない。悩まずにやってみる!

ここで1つ大事なのが、変動費と固定費の分解はあまり悩みすぎないということです。

そもそも変動費と固定費というのは、100点満点の正解があるわけではないからです。例えば、工場の電気代や水道代なんかも、普通、製造量が拡大すれば増えていくはずです。しかし、実際は基本料金のようなものも含まれていて、決まった額発生する部分と、売上や製造活動と連動する部分に分かれています。これを準変動費と呼びます。

また、固定費の中にも、ある一定水準までは定額だけれど、それを超えると、もう1ランク上の金額で定額になるというような準固定費と呼ばれるものがあります。

準変動費と準固定費のグラフ

「まずはあまり悩まないでやってみる」というのが、中小企業の実務を知る立場からのアドバイスです。まずは分けてみて、実際に使ってみて、役に立つかどうか。活用した後で、調整していく進め方で十分といえます。

以上(2026年5月更新)

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【財務分析】会社の良し悪しを判断する基本の指標20選

1 財務分析は「仮説→検証」の繰り返し

財務分析は、会社の状況について「仮説」を立て、それを検証するために行うものです。例えば、次のようなイメージです。

  • 「老朽化した設備があり、有形固定資産の効率性が落ちている?」と仮説を立てたら、有形固定資産回転率が低くないかを確認してみる
  • 「借入金が増加し、短期安全性が低下している?」と仮説を立てたら、流動比率や当座比率を比較してみる

この記事では、財務分析に使う代表的な20の分析指標を紹介します。ただし、上から順番に計算していく必要はありません。会社の状況で「収益性」「安全性」「生産性」のうち、どの要素を判断したいかによって、必要な指標を使いわけてみてください。

2 収益性に関する指標10選

1)総資本経常利益率

総資本経常利益率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど収益性は高くなります。

総資本経常利益率=経常利益÷総資本

また、総資本経常利益率の計算式は次のように分解することができ、収益性に影響を与える要因をより詳細に分析できます。

総資本経常利益率
=(経常利益÷売上高)×(売上高÷総資本)
=売上高経常利益率×総資本回転率

2)売上高総利益率

売上高総利益率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど収益性は高くなります。

売上高総利益率=売上総利益÷売上高

売上総利益は次の式で計算できます。

売上総利益=売上高-売上原価

売上原価とは、販売した商品の仕入れや製造にかかった費用です。例えば、小売業は販売した商品の仕入代金が該当します。また、製造業は製品の製造費用などが該当します。

3)売上高営業利益率

売上高営業利益率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど収益性は高くなります。

売上高営業利益率=営業利益÷売上高

営業利益は次の式で計算できます。

営業利益=売上総利益-販売費及び一般管理費

販売費及び一般管理費とは、販売部門や総務・経理といった管理部門などで発生する費用です。人件費・事務用品費・旅費交通費・広告宣伝費・支払家賃・減価償却費などが該当します。

4)売上高経常利益率

売上高経常利益率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど収益性は高くなります。

売上高経常利益率=経常利益÷売上高

経常利益は次の式で計算できます。

経常利益=営業利益+営業外収益-営業外費用

営業外収益とは、財務活動や投資活動など、本業以外で得た収益です。受取利息・受取配当金・有価証券売却益などが該当します。また、営業外費用とは、本業以外で発生した費用のことです。支払利息・為替差損・有価証券売却損・社債利息などが該当します。

5)ROE(Return On Equity、自己資本利益率)

ROEの計算式は次の通りです。この比率が高いほど効率性は高くなります。

ROE=税引後当期純利益÷自己資本

6)ROA(Return On Assets、総資本利益率)

ROAの計算式は次の通りです。この比率が高いほど効率性は高くなります。

ROA=税引後当期純利益÷総資本

7)総資本回転率

総資本回転率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど効率性は高くなります。

総資本回転率(回)=売上高÷総資本

なお、総資本回転率が悪化する例として、保養所などの売上獲得に直接貢献しない資産を多く所有していることなどが挙げられます。

8)売上債権回転率

売上債権回転率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど効率性は高くなります。

売上債権回転率(回)=売上高÷売上債権

売上債権は次の式で計算できます。

売上債権=受取手形+売掛金など

9)棚卸資産回転率

棚卸資産回転率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど効率性は高くなります。

棚卸資産回転率(回)=売上高÷棚卸資産

棚卸資産とは、販売されずに在庫として会社に残っている資産です。商品・製品の他に原材料・仕掛品なども含みます。棚卸資産回転率が低い場合、在庫過多や不良在庫の恐れがあります。

10)有形固定資産回転率

有形固定資産回転率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど効率性は高くなります。

有形固定資産回転率(回)=売上高÷有形固定資産

3 安全性に関する指標7選

1)流動比率

流動比率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど安全性は高くなります。

流動比率=流動資産÷流動負債

流動資産とは、現金預金・受取手形・売掛金・棚卸資産など1年以内に現金化が見込める資産です。また、流動負債とは、支払手形や買掛金など1年以内に支払う必要のある負債です。

流動比率は、短期的な支出を短期的な収入でどの程度補うことができるかが把握できる指標です。1年以内という基準で資産と負債の比率を見るわけですが、「1年以内に回収できるか、また、支払いが可能かどうか」までは考慮されていません。そのため、資産と負債が同一の状態である100%では安全とは言い切れず、200%以上が望まれます。

2)当座比率

当座比率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど安全性は高くなります。

当座比率=当座資産÷流動負債

当座資産は、流動資産から棚卸資産を除いた換金性の高い資産です。

当座資産=現金預金+受取手形+売掛金+有価証券など

受取手形・売掛金は、貸倒引当金を控除した後の値を用います。貸倒引当金とは、取引先の倒産などにより回収ができなくなる可能性がある金額を見積もった値です。

当座比率は流動比率よりも資産の回収可能性を考慮した指標であり、100%以上が望まれます。もし当座比率が低い場合、支払原資に対する短期借入金などの比率が大きいことが分かります。また、当座比率についても回収や支払いのタイミングは考慮されていません。流動比率が高いのに当座比率が低い場合、棚卸資産(在庫)が過剰となっている恐れがあります。

3)手元流動性比率

手元流動性比率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど安全性は高くなります。

手元流動性比率(カ月)=(現金預金+有価証券)÷月商

手元流動性比率は、短期的な安全性を見る際に信頼できる指標です。なぜなら、手元流動性は、現金預金とすぐに現金化できる有価証券だけで安全性を評価するからです。一概にはいえませんが、中小企業の場合は1.7カ月以上が望まれます。

4)固定比率

固定比率の計算式は次の通りです。この比率が低いほど安全性は高くなります。

固定比率=固定資産÷自己資本

固定資産とは、建物や土地など1年超にわたって使用される資産です。固定比率は、短期では回収の難しい固定資産が返済する必要のない自己資本によってどれくらい賄われているか、企業の長期的な安全性を見るための指標で、100%以下となることが望まれます。

5)固定長期適合率

固定長期適合率の計算式は次の通りです。この比率が低いほど安全性は高くなります。

固定長期適合率=固定資産÷(自己資本+固定負債)

固定負債とは、社債や長期借入金など1年以内に支払う必要がない負債です。固定長期適合率は、長期的な安全性を見るための指標ですが、自己資本に加えて固定負債も考慮していることが特徴です。固定長期適合率は、100%以下となることが望まれます。

6)自己資本比率

自己資本比率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど安全性は高くなります。

自己資本比率=自己資本÷総資本

自己資本比率は、総資本のうち、返済する必要がない自己資本が占める割合です。安全性の観点から見ると、自己資本比率は高ければ高いほど好ましくなります。ただし、負債で事業投資をして負債コスト以上の利益を上げている場合、自己資本比率が低くても問題はありません。そのため、収益性の観点から見ると、自己資本比率が高ければ良いというわけでもありません。

7)負債比率

負債比率の計算式は次の通りです。この比率が低いほど安全性は高くなります。

負債比率=負債÷自己資本

負債比率は、負債と自己資本を比較する指標です。負債比率は、自己資本比率を補完するものですが、安全性分析としては、自己資本比率もしくは負債比率のどちらか一方を分析すれば良いといえます。

4 生産性に関する指標3選

1)労働生産性

労働生産性の計算式は次の通りです。この比率が高いほど従業員1人当たりの生産性は高くなります。

労働生産性(円)=付加価値÷従業員数

労働生産性の計算式を次のように分解すると、生産性に影響を与える要因の詳細が見えてきます。

労働生産性(円)
=(売上高÷従業員数)×(付加価値÷売上高)
=1人当たり売上高×付加価値率

2)設備生産性

設備生産性の計算式は次の通りです。この比率が高いほど資産当たりの生産性は高くなります。

設備生産性=付加価値÷有形固定資産

設備生産性の計算式を次のように分解すると、生産性に影響を与える要因の詳細が見えてきます。

設備生産性
=(売上高÷有形固定資産)×(付加価値÷売上高)
=有形固定資産回転率×付加価値率

3)労働分配率

労働分配率の計算式は次の通りです。この比率が低いほど生産性は高くなります。

労働分配率=人件費÷付加価値

労働分配率が高ければ、労働生産性が低いか、余剰人員を抱えている可能性があります。

以上(2026年6月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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ルール違反ではないが態度が悪い社員のマネジメント

1 社員のための取り組みがかえってマイナスに……?

デジタル技術の進歩による市場環境の変化、少子高齢化に伴う労働力不足など、日本国内のビジネス環境は大きく変わってきています。そして、多くの経営者が「このままではマズい。社員がもっと力を発揮できる会社にしなければ」と、働き方改革などに取り組んできました。

テレワークやフレックスタイム制で働く場所・時間を柔軟にし、若手にチャンスを与えるために仕事の権限を委譲し、なるべく本音で話せるようコミュニケーションにも気を配る……。ところが残念なことに、そんな経営者の苦労も知らず、むしろこうした取り組みをきっかけに態度が悪くなる社員が時折出てきます。例えば、次のような社員です。

  • 働き方が自由になったら、勤務態度までルーズに。服装もマナーも悪化している
  • テレワークに慣れ、周囲に無関心に。他の人の仕事は手伝わない。挨拶もしない
  • 権限委譲した途端、自分勝手に。誰にも相談せずに仕事を進めてトラブルを起こす
  • 上司は優しくて当たり前だと勘違い。少しでも注意されると機嫌が悪くなる
  • 今以上の働きやすさをさらに会社に要求。要求が聞き入れられないとやる気を失う

経営者としては、働きやすい環境を整えた以上、社員にもそれに見合う働きをしてほしいところです。しかし実際には、その優しさに甘えるだけで期待に応えてくれない社員もいるのが現実です。就業規則の懲戒事由(無断欠勤・命令違反など)に当たる行動があれば懲戒処分も選択肢になりますが、「態度が悪い」というだけでは、それも難しいのが実情です。

腹が立つことこの上ないですが、もしかしたら社員が生意気になった原因は、経営者が

「何を実施するか」にとらわれ、「なぜ実施するか」をおざなりにしてしまったこと

にあるかもしれません。「なぜ働き方改革に取り組むのか」「社員に何を期待しているのか」といった経営者の思いを十分に伝えないまま、取り組みだけが先行してしまった結果、社員は会社の施策を表面的にしか捉えられなくなります。いわば「仏作って魂入れず」の状態です。

この状況を打開するには、今一度、経営者の思いを社員にきちんと届ける必要があります。以降では、働き方改革などをきっかけに態度が悪くなってしまった社員への、効果的な思いの伝え方をご紹介します。

2 社員が生意気になるパターンは2つある

対処法をお伝えする前に、まず押さえておいてほしいことがあります。社員が態度を悪化させるパターンには、大きく次の2つがあるという点です。

【パターン1:「線引きの誤解」タイプ】

本人なりに働き方改革などに適応しようとしているが、「ここまでなら許される」という線引きが間違っていて、結果として生意気に見えてしまっているタイプです。

【パターン2:「性格の顕在化」タイプ】

働き方改革など環境の変化を機に、隠れていた性格などが顕在化して、本当に生意気になってしまっているタイプです。

この違いを「働き方が自由になったら、勤務態度までルーズに。服装もマナーも悪化している」というケースで考えてみましょう。

1)パターン1:「線引きの誤解」タイプ

パターン1の社員の場合、服装やマナーが悪化しているのは、「ここまでならフランクにいっても大丈夫だろう」という線引きが誤っているだけの可能性があります。もともと働き方改革などに適応しようという気はあるので、「自分は間違っていたんだ」と気付けば考えを改めてくれることが期待できます。ですから、経営者が考えるべきは、

パターン1の社員に焦点を当てて、働き方改革などに関する自身の思いを積極的に発信すること

です(こちらは第3章で具体的な方法を紹介します)。

2)パターン2:「性格の顕在化」タイプ

パターン2の社員の場合、働き方の自由化や上司の監視が緩まったことで、もともと持っていた自分勝手な性格や怠惰な面が顕在化してしまった可能性があります。誰しも多少はそういった部分を持っているものですが、根本的な性格はそう簡単には変えられません。

ただし、「最初から諦める」のは早計です。まずはパターン1と同様に思いをしっかり伝え、行動基準(第4章で後述するジョブディスクリプションなど)を明示した上で改善を求める指導を行いましょう(なお、指導の内容は必ず記録に残すことがポイントです)。

それでも改善が見られない場合は、「最悪、分かり合えなくても仕方がない」とある程度割り切りながら、仕事に支障が出ない環境を整えること(上司の目の届くオフィスで業務させるなど)や、配置転換・業務範囲の見直しなども選択肢として検討しましょう。

3 大きなメッセージと小さなつぶやきを組み合わせる

経営者が自身の思いを社員に伝えようとするとき、まず思い浮かぶのは「朝礼」でしょう。社員が一堂に会するタイミングで、例えば次のようなメッセージを届けるイメージです。

「これまで働き方改革のため、さまざまな取り組みを実施してきました。ただ、それは『皆さんを甘やかすため』ではなく、『皆さんがもっと力を発揮できるようにするため』です。皆さんは今、本当に力を発揮できているといえますか? 会社が働きやすさを提供する代わりに、皆さんは何をしてくれますか?」

こうした問いかけをするだけでも、多くの社員は一旦、自分の言動を振り返ろうとするでしょう。ただ、このような「大きなメッセージ」はその場では心に響いても、時間がたつにつれて印象が薄れていくものです。

そこでお勧めしたいのが、全体への発信と並行して行う「小さなつぶやき」の活用です。具体的には、

社員全員が閲覧できるSNSに「社長チャンネル」などを設け、経営者がうれしかったこと・疑問に感じたことなどを日々こまめにつぶやく

というアプローチです。例えば、

  • 「クライアントを訪問した際、受付の方の対応がとても心地よかった。やっぱり笑顔って大事!」
  • 「プライベートは大事! でも、仮に3人で20分残業すれば終わる業務を、1人でやろうとしている人がいたら、自然とその人に手を差し伸べられる社員が私の理想です」

といった、日々の業務に関連した等身大のつぶやきは、社員も情景を思い浮かべやすく、納得感が生まれやすいものです。

ただし、全体への発信は効果的ですが、問題が見られる社員が「自分のことだ」と気づかないケースも少なくありません。態度の悪化が顕著な社員とは、個別に1on1の面談を設定し、具体的な行動の事実をもとに「こういう場面でこう感じた」「こう動いてほしい」と直接伝えることが重要です。抽象的な「態度が悪い」という指摘では伝わりにくいため、事実ベースで丁寧に話すよう心がけましょう。

4 職務記述書(ジョブディスクリプション)も活用する

職務記述書(ジョブディスクリプション)とは、

社員が担当する業務内容・その難易度・必要なスキルなど、職務内容をまとめた書類

のことです。専門職採用や中途採用の場面でよく使われますが、すでに在籍している社員の職務内容が配置転換や雇用形態の変更などで変わった際にも活用できます。

職務記述書は、あらかじめ特定の職務をこなせる人材を採用する「ジョブ型雇用」の考え方に基づいており、

職務記述書に記載された職務をこなせることが、社員としての最低条件

になります。このことを社員に丁寧に説明した上で、「経営者が社員に何を期待しているのか」をジョブディスクリプションに明文化すると、社員を経営者の理想とする方向へ自然と引っ張ることができます。

ただし、職務記述書は「経営者が一方的に作成して渡す」だけでは、社員の反発を招くことがあります。作成後は必ず社員本人と内容を確認する場を設け、

双方が合意した上で運用を開始する

ことが大切です。話し合いのプロセスを経ることで、社員に納得感が生まれ、行動変容につながりやすくなります。

具体的には職務記述書に「期待される特性」などの欄を設けることが考えられます。次の職務記述書は、アプリ開発を行う会社がシステムエンジニアを募集する場合の例です。

職務記述書:システムエンジニア

以上(2026年5月更新)

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画像: metamorworks-shutterstock

経営のヒントとなる言葉(黒田官兵衛)

「意見ではなく異見せよ」(*)

出所:「日経おとなのOFF(134)」(日経BP社)

冒頭の言葉は、

「トップは、たとえ自身の考えと異なる意見であってもそれに耳を傾け、常に客観的に自身を把握しなくてはならない」

ということを表しています。

官兵衛の生家である黒田家は、播磨国の大名・小寺家の家老でした。しかし、後に織田信長が畿内に勢力を伸ばしてくると、官兵衛はその将来性を確信し、信長に仕えるようになります。そこで豊臣秀吉と出会った官兵衛は、秀吉の参謀的な存在となり活躍します。

やがて、本能寺の変によって信長が明智光秀に討たれると、官兵衛は、秀吉に「信長の仇を討つことで織田政権の後継者となり、天下統一を果たす」ことを進言するなど、秀吉の天下取りを支えました。

官兵衛は知将として知られ、秀吉が天下統一を実現できたことも官兵衛の存在によるところが大きかったと言われていました。このことは、官兵衛も自覚しており、自身の知謀を誇ったこともありました。しかし、あるとき中国地方の武将・小早川隆景から、官兵衛は鋭い頭脳を持つが故、独善的な決断を下してしまう恐れがあると忠告されたのです。

これ以降、官兵衛は周囲の意見に耳を傾けるよう努めたといわれます。周囲の意見に耳を傾け、独善的にならず、多面的な視点から問題を捉えることができたからこそ、官兵衛は軍師として、多数の家臣を率いる武将として、後世に名を残すことができたのでしょう。

周囲の意見に耳を傾ける姿勢は、官兵衛の息子である黒田長政にも受け継がれています。長政は、秀吉の没後、徳川家康と石田三成が衝突した関ヶ原の合戦において、家康が率いる東軍の武将として参戦し、活躍しました。合戦での功績が大きく評価された長政は、家康から筑前国(現福岡県)を与えられて福岡藩初代藩主となります。

藩主となった長政は、さまざまな身分の家臣を城内に集めて意見交換をする「異見会(いけんかい)」を開催しました。異見会では、「身分の上下に関係なく誰もが平等に意見を述べることができる」「出席者は遠慮なく意見を述べなくてはならない」「摩擦を恐れて上役の意見に追従する者は二度と異見会に出席させない」などの決まりがあり、活発に意見が述べられたと伝えられています。

明確な身分制度が存在し、武将の大半は強い威厳をもって家臣を従わせていた時代にあって、官兵衛や長政はあくまでも上下一体となった家中の融和を心掛けました。こうした二人の姿勢は、官兵衛が子孫に訓戒として残している、次の言葉からも窺い知ることができます。

「大将たる人は、威厳というものがなくては、万人を押さえることができぬ。さりながら、悪く心得て、威張ってみせ、下を押さえ込もうとするのは、かえって大きな害である」(**)

家臣を率いる武将にとって、もちろん威厳は必要です。しかし、力ずくで押さえつけると家臣は畏縮し、自身の意見を言わなくなっていきます。

企業においても、社員はトップである経営者に対しては、遠慮したり気を使ったりして意見を言いにくいものです。経営者が社員の意見に耳を傾けずに独断で物事を決めてしまうと、社員はなおさら意見を言わなくなるでしょう。

経営者の役割とは、社員を一つにまとめて経営に当たることです。そのためには、自身の地位におごることなく、謙虚な姿勢で社員のさまざまな意見を尊重することが大事なのです。

【本文脚注】

本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を担保するものではありません。また、本文中では内容に即した肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思われるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。

【経歴】

黒田官兵衛(1546~1604)。播磨国姫路(現兵庫県姫路市)生まれ。豊臣秀吉の参謀。黒田家初代当主。黒田長政の父。

黒田長政(1568~1623)。豊前国中津(現大分県中津市)生まれ。黒田家2代目当主。福岡藩初代藩主。

【参考文献】

(*)「日経おとなのOFF(134)」(日経BP社、2012年4月)
「図説 黒田官兵衛伝」(加来耕三、河出書房新社、2013年11月)

以上(2026年5月更新)

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画像:日本情報マート

【中級者向け】決算書から読み解く 自社の危険信号

1 決算書などが示す危険信号を見逃さない

経営を取り巻く環境が急速に変化する昨今では、ともすれば事業が停滞し足元の資金繰りが苦しくなることもあります。そのようなときは、「とにかく行動する」ことも一つの正解ですが、判断のよりどころとして、きちっと自社の状態を分析したいものです。

そうした意味で、皆さんの会社の状態はどうでしょうか。この記事では、

決算書や月次試算表から読み解くことができる危険信号

を専門家が解説しますので、皆さんの会社の状態を確認し、必要に応じた対策を講じてください。

なお、この記事の対象は、会計監査人の設置義務がない(直近の期末時点で資本金5億円未満かつ負債総額200億円未満の会社)中小企業です。中小企業の会計に関する指針の適用対象外とされる「1.金融商品取引法の適用を受ける会社並びにその子会社及び関連会社」「2.会計監査人を設置する会社及びその子会社」を前提としていないことをあらかじめご了承ください。

2 自社の危険信号をつかむ6つのポイント

早速、自社の危険信号を確認するポイントを具体的にみていきましょう。決算書(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書)は過去3期分を準備して動きを把握し、月次試算表も直近から1~2年程度を確認することで、正確な判断ができます。

1)売上と仕入のタイミング:損益計算書とキャッシュフロー計算書

黒字倒産は、損益計算書(以下「PL」)では売上が増加していても、それに見合うキャッシュの回収が遅れ、売上に対する仕入支出も併せて増加することで残高がショートすることです。収入と支出のタイミング、金額(原価率)は資金計画表などを用いて丁寧に追う必要があります。収入と支出のタイミングを確認する指標に、売上債権回転期間と仕入債務回転期間があります。下記計算式では、売上債権回転日数と仕入債務回転日数について説明します。

  • 売上債権回転日数=期末売上債権÷(年間売上高÷365日)…【売】
  • 仕入債務回転日数=期末仕入債務÷(年間仕入高÷365日)…【仕】

過去と現在の【売】と【仕】の変化および原価率を確認し、次のいずれかのケースに該当する場合は、未来の残高について丁寧に確認しましょう。

  • 【売】の短期化以上に【仕】の短期化が進んだ
  • 【売】の長期化より【仕】の長期化が進まなかった
  • 【売】と【仕】の変化に差はなかったが、原価率が上がった

また、収入が支出よりも先にくる企業は、キャッシュが先に厚くなります。そのため、売上が伸びているときは、キャッシュフロー計算書(以下「CF」)の営業キャッシュフローが大きくプラスになります。一方、業績の悪化などで急激に赤字に落ち込む場合、逆に営業キャッシュフローが大きく赤字になりやすく、収入後に適切にキャッシュを厚くしておかないと、支出時にショートしてしまう恐れがあるので要注意です。PLとキャッシュフローは異なるため、原価率だけで考えるのは非常に危険です。

なお、急激に赤字となった場合のPLとキャッシュフローの関係性(例)は次のようになります。

急激に赤字となった場合のPLとキャッシュフローの関係性

2)減収時の固定費:PLと月次試算表

売上の多い少ないにかかわらず常に発生する費用が固定費であり、主なものに正社員の給与や地代家賃などがあります。売上に対する固定費比率は売上減少時に高まり、資金繰りを圧迫します。地代オーナーに対する減免や繰り延べ交渉をはじめ、家賃に関する補助金や雇用に関する助成金等の利用も含めて、総合的に賄えているのかを丁寧に確認する必要があります。助成金関連は給付申請や入金タイミングがイレギュラーのため、月次試算表に反映して判断することが難しいケースが多いと考えられますが、会計入力とは別で試算して把握することが大切です。

3)純資産の部:貸借対照表(以下「BS」)

将来の営業収支と併せて、純資産の部の数字は資金調達においてとても重要です。債務超過(純資産の部がマイナスになること)になってしまうと、融資条件が極端に悪くなるばかりか、既存の借り入れの契約条項にも抵触する恐れがあります。

また、税務会計(税金を正しく計算することを目的とした会計)の上ではプラスでも、財務会計(企業の財政状態と経営成績を利害関係者に報告することを目的とした会計)に引き直すと、固定資産や有価証券の減損評価(著しく価値が減少した資産について時価で計上し、一度に多額の損失を計上すること)によって、マイナスになることもあるため注意が必要です。

ここで検討すべき手段の一つとして、政府系金融機関が用意している資本性劣後ローン(メザニンローン)があります。通常の融資評価上では、負債ではなく純資産とみなされるため、利用することで純資産の部の改善が図れます。

4)製造から入金までの期間:BSとPL

キャッシュ・コンバージョン・サイクル(以下「CCC」:サービス開始日や製造日から、出荷日・入金日までの期間)が長い場合は、資金繰りへの影響が大きいので優先的に考える必要があります。特に、自然災害などで製造が一時的に停止するような場合、工場の再稼働から入金までの期間がもともと長いことと併せて、入金が本来見込んでいるスケジュールよりも遅延することが考えられます。CCCが普段よりも長期化していないかは丁寧に確認するべきでしょう。

なお、CCCは以下の算式で計算されます。

CCC=売上債権回転日数+棚卸資産回転日数-仕入債務回転日数

  • 売上債権回転日数:商品やサービスの販売から、入金があるまでの日数
  • 棚卸資産回転日数:仕入れた商品を販売するまでの日数
    ※計算式は棚卸資産回転日数=期末棚卸資産÷(年間売上原価÷365)です。
  • 仕入債務回転日数:商品の仕入から、代金を支払うまでの日数

5)固定資産・減価償却費:BSとPL

ビジネスにおいて用いる固定資産の割合が大きい会社(例:不動産業や製造業など)は、固定資産の増減の詳細を踏まえ、再投資の必要性や、投資支出から回収までの期間の見積もりを細かく検討する必要があります。

また、減損評価や過去に支出した投資の費用化である減価償却費は、費用計上時に支出が伴いませんが、純資産がマイナスとなるため注意が必要です。固定資産の中に急激に価値が下がりそうなものはないか、さらに、工場の建設など巨額の投資をした後の減価償却費の金額の推移には留意しておきましょう。

6)未払税金・未払社会保険:BS

自然災害などの影響で、過去に無利子の納税猶予を受けた会社もあると思います。特に社会保険については、従業員から預かった分の納付を猶予することで負債は増えるものの、キャッシュフローを一時的に改善した会社もあるでしょう。

ただし、未払をやみくもに延長することは、融資条件を悪化させる影響もあり得るため得策ではないと思います。可能な限り資金を工面して、税金の未払を早い段階で解消すべきです。

3 経営者が決算書を読む際に重要な2つの視点

以上、注意したい6つのポイントを紹介しました。さらに理解を深める上で重要な視点を2つ説明します。

1)未来のキャッシュについて

企業の存在意義は、経営理念や社是・社訓、ミッション・ビジョン・バリューなど、さまざまな形でその意義と具体的な方針が設計されていると思います。目指すべき方向性は千差万別ですが、キャッシュが途切れたら事業は継続できません。キャッシュは次の2つの視点で考えましょう。

1.キャッシュを不足させない

企業の血液とも呼べるキャッシュが尽きることは、事業活動を継続できないことを意味します。それは、たとえ決算が黒字でも、キャッシュが支払えずに倒産してしまうケース(黒字倒産)があるので、正しい資金調達手段を適切なタイミングで実行することが必要です。

2.未来の支出よりも、未来の収入のほうが大きいかどうか

黒字倒産の裏を返せば、赤字決算が続いても、キャッシュが尽きなければ事業活動を継続できます。ただ、未来に稼ぐと考えられる収入よりも支出が明らかに多いと判断される場合は、企業の価値が今より減衰していきます。株主の立場では、企業価値が減衰した時点で企業運営を終了させることが合理的といえます。もちろん現実的には、ステークホルダーである取引先や従業員、その家族の生活保障であったり、企業が生み出してきた価値の継承であったりと、考えなければならない事項が多くあることを忘れてはいけません。

2)決算書や試算表の作成根拠について

決算書は、企業活動を映し出した一覧表です。この決算書に記載された会計のルールは実は単一ではなく、企業によって異なります。このため、自社の決算書における会計が、どのようなルールで作成されているかを適切に把握しないと、誤った判断をしてしまう恐れがあります。

決算書で考える基本的な会計は、上記2-3)純資産の部で前述した通り、税務会計と財務会計の2種類です。大企業ではこれらを明確に分離して、それぞれの決算を組まなければなりません。中小企業では税務会計を基本とし、必要に応じて一部に財務会計を適用するような形式が取られています。そこで、自社の会計がどのようなルールで作成されているかを判断するために、「『中小企業の会計に関する指針』の適用に関するチェックリスト」が決算書の中にあればこちらを確認するとともに、顧問税理士にも確かめて現況を把握しましょう。

税務会計と財務会計で差が生じるものには、固定資産の減損、ソフトウエアの処理、引当金(資産除去債務)の計上、税効果会計の適用などが挙げられます。自社の会計が税務会計を基準としている場合、財務会計に照らすとこれらがどのように変わり得るのかを意識できると、より良い判断ができます。

また、附属明細書が作成されているかも確認しましょう。例えば、固定資産を確認する際は、附属明細書の固定資産増減明細が必要になります。もし作成されていない場合は、固定資産台帳で増減の総括を確認しましょう。

月次試算表については、決算書とは異なり決算整理仕訳が簡便になっているケースがほとんどです。売上原価の算出や減価償却費、未収未払は月次で入力されていないケースもあるので、月次試算表の締めがどの辺りまでされているかを顧問税理士に確認しましょう。

以上(2026年6月更新)
(執筆 KOSOパートナーズ合同会社 代表社員CEO 公認会計士 朝倉厳太郎)

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