目次
1 教育担当者の負担はますます重くなる
今の時代、教育担当者は会社にとって非常に大切な存在です。少子化で採用が難しくなる中、せっかく採った人材をいかに定着・戦力化できるかが、中小企業の競争力を左右するからです。問題は、その教育担当者の多くが、新人や若手の指導で壁にぶつかっていることです。
かつての「見て盗んで覚えろ」式の指導は通用しなくなり、価値観の異なるZ世代への接し方に悩む担当者も増えています。さらに、自分の業務をこなしながら後輩も育てるという二重の負担が、教育担当者を疲弊させています。
そんなときこそ、教育担当者に対する社長のフォローが必要です。やる気というのは、闇雲に応援されたり、一方的にアドバイスを与えられたりしても湧いてきません。社長がまず心掛けるべきは、
教育担当者の気持ちに寄り添い、何に悩んでいるのかをよく聞くこと
です。
その上で、教育担当者の悩みに応じて、具体的なアプローチの仕方を考えます。以降では、7つのパターンを例に社長が教育担当者に働き掛ける例を紹介します。
2 部下が生意気?
1)社長と呆田(あきれた)さんの会話
教育担当者の呆田さんに、社長が話し掛けました。話をしているうちに、どうやら呆田さんは、「仕事ができないのに生意気な部下にあきれてしまい、お手上げの状態になっている」ことが分かりました。
社長:呆田君、いつもご苦労様。
部下の教育は大変だね。
呆田君の部下は、特に難しいと人事部も言っているからね。
呆田:本当ですよ。社長、なぜ、あのような社員を採用したのですか?
何度言っても仕事を覚えないのに、自分の意見ばかり主張してきます。
しかも、その主張が的外れなのですから、もうお手上げです……。
社長:まぁまぁ。気持ちは分かるが、まだ君の部下になって1カ月だ。根気強く頼むよ。
今は色々な社員がいるから、社員の良い面を引き出す教育投資は欠かせないよ。
呆田:それは分かりますが、あまりにもレベルが低いですよ。
もう私にできることは全部やりました。
私以外に、もっと教育担当として適任の社員がいるのでは?
2)呆田さんへのアプローチ
今どき、呆田さんのような教育担当者は少なくないでしょう。簡単な仕事でさえ満足にできないのに自己主張が激しく、場合によっては上司の教え方が悪いと不満を漏らす部下がいます。教育担当者が「お手上げ」になってしまうのも分かります。
このケースでは、部下に問題があるのは明らかです。しかし、呆田さんも、部下の仕事のできなさ加減や生意気な物言いばかりに気を取られていて、視野が狭いようにも見受けられます。
人材不足の折、「ピカピカの新人」は期待しにくいです。となると、今どきの人材育成は、教育担当者が視野を広く持ち、それなりの時間をかけて部下の良いところを見つけ、伸ばしていかなければなりません。
呆田さんに対して、社長はどのようにアプローチするべきでしょうか。効果的なのは、
小さくてもよいので社長と一緒にできる仕事を与えること
です。社長の考えに触れることで、呆田さんの視野は広がるでしょう。
社長との仕事で、呆田さんはミスをするはずです。その際、頭ごなしに叱らず、呆田さんの話を聞き、ミスを取り返す方法を一緒に教え、ある程度任せます。これは、日ごろ呆田さんが行っている指導と同じはずなので、呆田さんは自分の教え方を再確認できます。
教育担当者としての経験が浅いと、短期的な成果、つまり部下の”成長の証し”をすぐに求めてしまいがちですが、人はゆっくりとしか育ちません。そのことを呆田さん自身が体験できる環境を社長がつくることが大切です。
3 部下が自分についてこない?
1)社長と寂椎(さみしい)さんの会話
教育担当者の寂椎さんに、社長が話し掛けました。話をしているうちに、どうやら寂椎さんは、「一生懸命に部下を指導しているのに、部下が自分を慕ってくれなくてさびしがっている」ことが分かりました。
社長:寂椎君、いつもご苦労様。
ん? 君、ちょっと元気がないんじゃないか?
寂椎:いや、なんというか……。
私、部下に好かれる上司になろうと頑張ってるんですけど……。
部下が私でなく、私の同僚の○○さんにばかり話を聞くらしくて、寂しくて……。
社長:なるほど、その気持ちは分からなくもないが、部下は寂椎君を慕っているはずだよ。
寂椎君のように一生懸命な教育担当者はそうそういない。自信を持って!
寂椎:はぁ~。それなら、もう少し態度で示してくれてもいいと思います。
最近はオンラインも多く、部下がさらによそよそしい気もします……。
私ではなく、私の同僚のほうが教育担当として適任なのでは?
2)寂椎さんへのアプローチ
真面目な教育担当者ほど、寂椎さんのような感情になりがちです。寂椎さんには、自分の頑張りを部下に押し付けるつもりはありません。しかし、頑張った分だけ感謝してもらいたいのが人間というものです。
一方、このケースでは部下にも特に悪気はないのでしょう。部下としても、日ごろ、自分の面倒を見てくれる教育担当者に感謝をしているはずです。ただ、他の人の意見も聞いてみたいという思いがあるのも当然です。
一生懸命に教えているからこそ、教育担当者にはある意味、”自分色に染めたい”という感情があります。しかし、部下の成長を願うなら、さまざまな人の意見を聞いたほうがよいのは明らかで、ここに教育担当者のジレンマがあります。
寂椎さんに対して、社長はどのようにアプローチするべきでしょうか。まず行いたいのは、
社長が寂椎さんとその部下をオンラインの異業種交流会などに招待すること
です。
教育担当者と部下がセットで参加している状況であれば、社員教育などをテーマに部下に話を振ってみることで、寂椎さんが知りたがっている「自分の指導に対する部下の考え」を聞き出せるかもしれません。そこに日ごろの指導への感謝などがあれば、寂椎さんも自分の教え方を肯定できます。同時に、社長はこうした場で、寂椎さん自身がさまざまな人から意見を聞けるよう配慮します。そして、寂椎さんは教育担当者として優れているが、寂椎さん自身がもっと成長するためには、さまざまな人の話を聞くことが大切だということを理解させるのです。
教育担当者である自分の言うことを聞いてほしいのは当然です。しかし、どんなに一生懸命で、優れた教育担当者であっても、やはり考え方には偏りがあります。それを埋めるべく、たくさんの人と話をする大切さを体験させることが必要です。
4 自分は人に教えられる器ではない?
1)社長と能不(のうぶ)さんの会話
教育担当者の能不さんに、社長が話し掛けました。話をしているうちに、どうやら能不さんは、「自分には能力が不足していて、部下を育てることには向いていないと思い自信を失っている」ことが分かりました。
社長:能不君、いつもご苦労様。
ん、どうした? 少し顔色が良くないよ。
能不:実は社長に相談しようと思っていたことがあります。
言いにくいのですが、私を教育担当から外してください。
社長:なぜ、そういうことになるんだい?
能不君は一生懸命に頑張っているじゃないか。私も認めている。
それなのに、一体、どうしたんだ?
能不:私には、うまく教えることができません。
他の教育担当者に指導されている新人や若手はどんどん成長しています。
このままでは部下に申し訳なくて……。
2)能不さんへのアプローチ
責任感の強い教育担当者ほど、能不さんのような感情になりがちです。責任感が強い分、部下に高いハードルを課し、また他の教育担当者やその部下と自分たちを比べてしまいます。
自分の部下に一番になってほしい気持ちはどの教育担当者にもあるでしょう。しかし、無理をし過ぎると部下への態度が厳しくなったり、自分自身が自信を失ったりしてしまいます。場合によっては、「自分は役立たずだ」とふさぎ込んでしまうかもしれません。
能不さんに対して、社長はどのようにアプローチするべきでしょうか。
まず、社長が、引き続き能不さんに教育担当を任せるか否かを判断
しなければなりません。能不さんの思いがエスカレートすると、自分の能力不足に悩み、離職を考えかねないからです。
引き続き能不さんに教育担当を任せる場合、
- 「教育担当者の能力の高さだけで、部下を成長させることはできない」こと
- 「自分の能力の高低よりも、部下の性格とそれに合わせた教え方」を考えるほうが大事であること
を伝えます。
自分自身の教育担当者としての資質を疑うのは当然です。しかし、それは自分側の分析にすぎません。教育担当者と部下は、人間同士のぶつかり合いです。教育担当者は、自分のことよりも、部下のことを少しでも多く考えることが大切なのです。
5 何でも教えすぎてしまう?
1)社長と世話焼さんの会話
教育担当者の世話焼さんに、社長が話し掛けました。話をしているうちに、どうやら世話焼さんは、「部下に丁寧に教えているつもりなのに、部下がいつまでも自分で動けるようにならず、行き詰まりを感じている」ことが分かりました。
社長:世話焼君、いつもご苦労様。
最近、少し疲れた顔をしているけど、どうかしたかい?
世話焼:社長……私、部下には丁寧に教えているつもりなんです。
分からないと言われたら隣でやって見せるし、ミスしたら一緒に直して……。
なのに、いつまで経っても一人でできるようにならないんです。
社長:それは大変だったね。でも、世話焼君は本当によく面倒を見ているよ。
部下も助かっているはずだ。
世話焼:そうだといいんですが……。
正直、私がいないと何もできない部下になってしまっている気がして。
私の教え方が間違っているのでしょうか。
2)世話焼さんへのアプローチ
世話焼さんのような教育担当者は、面倒見がよく、部下思いです。しかし、「親切心」と「過干渉」は紙一重です。手取り足取り教え続けることで、部下が「自分で考える」機会を奪ってしまっているかもしれません。
ポイントは、
世話焼さんに「あえて教えない」経験をさせること
です。例えば、世話焼さんが担当している業務の一部を部下に任せ、世話焼さんには「答えを教えず、ヒントだけ出す」というルールを設けてもらいます。
部下が自力で答えを出したとき、世話焼さんはその達成感を一緒に感じられるでしょう。大切なのは、「手を出さないことが、部下への信頼の表れである」と、体験を通じて理解させることです。教育担当者の本当の役割は、部下の代わりにやってあげることではなく、部下が自ら動けるようになる環境を整えることなのです。
6 自分のやり方を押し付けてしまう?
1)社長と押付(おしつけ)さんの会話
教育担当者の押付さんに、社長が話し掛けました。話をしているうちに、どうやら押付さんは、「自分が経験してきたやり方を部下に教えているのに、部下が素直に従わず、関係がぎこちなくなっている」ことが分かりました。
社長:押付君、いつもご苦労様。
最近、部下とのやり取りはどうだい?
押付:いやあ、参りましたよ。
私が長年やってきた方法を丁寧に教えているのに、部下がなかなか従わなくて。
「もっと効率的なやり方がある」なんて言い出すんです。
社長:ほう、部下はどんな方法を提案しているんだい?
押付:それが、ツールを使うとか、手順を変えるとか……。
でも私のやり方は長年の経験で培ったもので、確かな実績があります。
それを軽んじられているようで、正直、面白くないんです。
2)押付さんへのアプローチ
押付さんの経験や実績は、確かに価値あるものです。しかし、時代や環境が変わる中で、かつて最善だったやり方が、今も最善とは限りません。また、部下が新しいやり方を提案しているとすれば、それは「仕事を良くしたい」という意欲の表れとも言えます。
ポイントは、
押付さんの経験を「肯定しながら」、視野を広げる機会を設けること
です。例えば、部下が提案したやり方を一度試す場を設け、押付さんにその結果を評価してもらいます。これなら、押付さんも冷静な目で部下を見られるかもしれません。
大切なのは、経験を否定することなく、「経験を土台に、さらに良い方法を一緒に探す」姿勢を押付さんに持ってもらうことです。自分のコピーを作ることではなく、部下が自分を超えていけるよう導くことこそが、教育担当者の役割であると理解させましょう。
7 教育に時間が取れない?
1)社長と忙殺(ぼうさつ)さんの会話
教育担当者の忙殺さんに、社長が話し掛けました。話をしているうちに、どうやら忙殺さんは、「自分の業務が忙しすぎて、部下の指導に十分な時間を割けず、焦りと罪悪感をかかえている」ことが分かりました。
社長:忙殺君、いつもご苦労様。
最近、ずいぶんバタバタしているようだけど、大丈夫かい?
忙殺:社長、正直に申し上げると、厳しい状況です。
自分の担当業務だけでも手いっぱいで……。
部下に「教えてください」と言われても、「後でね」と答えることが続いていて。
社長:そうか。それは忙殺君も大変だね。
忙殺:部下には申し訳ないと思っているんですが、どうにも時間が……。
このままでは部下の成長を妨げてしまっている気がして、
私が教育担当のままでよいのか不安です。
2)忙殺さんへのアプローチ
忙殺さんのケースは、本人の意欲や能力の問題ではなく、業務量と役割設計の問題です。教育担当者に過度な負荷がかかっている場合、いくら本人が頑張ろうとしても限界があります。
このケースで社長がまず取り組むべきは、
忙殺さんの業務量を見直し、教育担当としての時間を確保すること
です。「教育担当者」という役割は、時間があればやるものではなく、時間を確保してやるべきものです。社長が率先して、忙殺さんの業務の一部を他に移すか、優先順位を整理することが求められます。
「まとまった時間がなくてもできる指導」を忙殺さんと一緒に考えることも大切です。例えば、短時間のフィードバックを習慣化したり、チェックリストを使って部下が自己確認できる仕組みを整えたりすると、教育の質を落とさずに時間の負担を減らせます。「教育環境を整えるのも教育担当者の仕事だ!」と安易に突き放してしまうと、問題はいつまでも解決しません。
8 世代間のギャップに悩んでいる?
1)社長と隔世(かくせい)さんの会話
教育担当者の隔世さんに、社長が話し掛けました。話をしているうちに、どうやら隔世さんは、「若い世代の価値観や仕事への向き合い方が自分とはまるで違い、どう接してよいか分からずとまどっている」ことが分かりました。
社長:隔世君、いつもご苦労様。
最近、若い部下たちとはうまくやれているかい?
隔世:それが、正直よく分からなくて……。
仕事よりプライベートを優先したがるし、
「なぜそうするのか」をいちいち説明しないと動かないし。
私が若い頃は、見て盗んで覚えるのが当たり前だったんですが。
社長:なるほど、確かに今どきの若者は違うよね。
隔世:ええ。否定したいわけじゃないんです。
ただ、どう接したらいいのか、何を言えば伝わるのか……。
教育担当者としての自信がなくなってきました……。
2)隔世さんへのアプローチ
隔世さんの戸惑いは、多くのベテラン社員が感じているものです。世代間のギャップは確かに存在しますが、それは「どちらが正しいか」の問題ではありません。「自分の常識が通じない」と感じるのは、隔世さんが時代の変化に正直に向き合っている証拠です。
このケースで求められるのは、
世代の違いを「壁」ではなく「学びの機会」として捉え直すこと
です。例えば、社長は隔世さんに「若い部下が大切にしていることを一つ聞いてみよう」と促してみましょう。相手を理解しようという小さな一歩が、部下との関係性を変えるきっかけになるかもしれません。
また、「なぜそうするのか」を、きちんと部下に説明するよう、隔世さんに働きかけることも大切です。理由を丁寧に伝えることで、部下は納得して動けるようになり、自分で考える力も育ちます。隔世さん自身が若い世代の価値観を理解しようとする姿勢を持つことで、部下との信頼関係が深まり、指導の質も高まるでしょう。
以上(2026年7月更新)
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画像:metamorworks-Adobe Stock

























